《1つ前》
第13話<港へ続く道>
《最初から》
第1話<呪い>
《全話リンク》
少女勇者「エッチな事をしないとレベルがあがらない呪い…?」
第14話<アリスの館>
【ダイニングルーム】
少女「さぁ召し上がれ。」
勇者「わぁいただきます!」
僧侶「これ全てアリスさんがご用意されたのですか?」
少女「えぇ。料理には自信がありまして」
僧侶「私とそう変わらない歳で…すごいです」
魔女「このシチューおいしい」
勇者「おにくおいひい」ハムハム
少女「うふふ。たくさんありますのでゆっくり召し上がってくださいね」
傭兵「へぇあんたらもバザから」
旅人A「あぁ。おいらたちは商人じゃなくてただの買い物目当ての観光客でな」
旅人A「この時期になると必ずバザに立ち寄っているんだ。これ、あそこで買った舶来品の時計だぜへへ」
旅人B「おたくらは? 表にたいそうな荷馬車がとめてあるけどありゃおたくらのかい?」
傭兵「まぁな。俺たちも商人じゃない。ただの旅人だ」
旅人A「若い子連れ回して羨ましいねぇ。あっちのテーブルは華があっていい」
旅人B「館の主人のアリスさんも美人だし言うことねぇな!」
傭兵「主人? あの子が主人なのか」
旅人A「みてーだぜ。おいらたちはここにもう2日泊まってるが他の従業員は見かけてねぇな」
旅人B「あんな小さい子がたったひとりでこんなデカイ宿を経営してるなんて偉いよなぁ」
旅人A「心打たれた俺達は昨日一日御礼にと館内の掃除を手伝ったってわけさ!」
傭兵「へぇ。どうりで」
旅人A「そういやバザと言やあ、ドラゴン騒ぎもちろんは知ってるよな?」
傭兵「あぁ」
旅人A「街中に魔物なんておっかねぇ。ただすぐに街の守備隊に撃退されたみたいだ」
旅人B「あの街にもたいした用心棒がいたもんだな。へっぴり腰の素人兵ばかりだとおもっていたが…」
傭兵「…」
旅人A「ひとつツラを拝んでみたかったね」
旅人B「いやぁ被害でおおきくなくてよかったよかった。来年中止になるとたまったもんじゃねぇからなぁ」
旅人B「感謝感謝だよ」
傭兵「そうだな」
旅人A「バザは楽しかったかい。何しに行った」
傭兵「旅の補給と情報収集だ。ほかにもいろいろ珍しいことがあって、まぁ楽しかったよ」
旅人A「そうかい。んでこの後はどこへ?」
旅人A「いや言いたくねぇならいいんだ! さすらいの旅人に旅路の果てを聞くのは野暮ってもんだ」
傭兵「…なぁ。闇の神殿って知っているか」
旅人A「闇の神殿?」
旅人B「…?」
傭兵「知らないならいい。忘れてくれ」
旅人A「いやまてよどこかで聞いたことがあるな…」
傭兵「本当か」
旅人A「大昔、まだ大魔王といわれる存在が生きていたころに使われていた魔物の総本山じゃねぇか?」
傭兵「それはそうなんだが。どこにあるのか探している」
旅人A「うーんしらねぇなぁ」
旅人B「魔物なんておっかねぇもんには近づきたくもねぇ」
旅人A「そこに何しにいくんだい。もうとうの昔に遺棄されて廃墟になってるんでねぇか?」
傭兵「…その可能性はあるが」
旅人A「もしかして盗掘でもしようってのか? おたくら実はこの辺りに出る盗賊団の一味だったりして?」
傭兵「違う。もっと東からきた武芸者だ」
旅人A「腕には自信ありってとこか。だがやめときな。魔物なんて相手にしてると命がいくつあっても足りゃしねぇ」
旅人B「そうだぜ。君子危うきに近寄らず。住む場所選べば平和な時代だ。のんびりやろうぜ」
傭兵「忠告感謝するよ」
旅人A「あぁ。食おう食おう」
旅人B「旅の出会いにもう一度乾杯!」
傭兵「おう」
コツン
傭兵(旅慣れてそうな奴らでもやっぱり噂程度にしか知らないか…)
傭兵(魔剣士の仮面野郎を叩きのめして直接吐かせれば訳もないんだがな)
傭兵(とにかく今は港へ急ぐか)
<夜>
勇者「おっふろ♪ おっふろ♪」
傭兵「おい廊下は走るな」
勇者「は~い! やっぱり広いお風呂がいいよねぇ。ヒーラもマナも早く早く!」
僧侶「そうですね。ドラム缶風呂は…正直無いよりマシというか」
僧侶「あっ、ごめんなさいせっかく取付けていただいたのに!」
僧侶「思ったより…その、恥ずかしくて」
傭兵「だよな。あれは女の子の入る物じゃない」
傭兵(入る時と出る時に周りに誰かいたら丸見えだしな…)
傭兵「断じて俺はみてないけど…」ブツブツ
僧侶「あの…?」
傭兵「せっかく宿に泊まったんだからお風呂を満喫してきな」
僧侶「はい!」
魔女「ねぇ」クイ
傭兵「ん?」
魔女「あっちの部屋何」
傭兵「あぁあそこは人形が飾ってある部屋だ」
魔女「人形…見たい!」
傭兵「興味あるのか? アリスさんに一言断ったほうが…っておいマナ」
カチャ
魔女「…」
傭兵「まぁあとで言っておけばいいか」
魔女「…」
傭兵「どうした。お前ぬいぐるみや人形が好きなのか」
傭兵「やっぱり女の子なんだな」
傭兵「あとでゆっくり見ないか。ユッカとヒーラちゃん先に風呂行ったぞ」
魔女「これ」
傭兵「この人形たちがどうした。この2体おそろいだな。一つもらえたりしないだろうか」
魔女「……別にいらない」ツカツカ
傭兵「…? どうしたんだ」
魔女「お風呂行く」ツカツカ
傭兵「お、おう…変な奴」
傭兵「…」ジィ
傭兵「そういやさっきこの部屋きたときこんな人形あったっけな」
・ ・ ・
傭兵「あぁいい湯だったなぁ」
傭兵「やっぱ広い浴槽につかるとスッキリするぜ」
勇者「ふぁ~~そうだね」
僧侶「zzz」
傭兵「あれ。ヒーラちゃんもう寝てるのか」
勇者「今日はお疲れみたい」
傭兵「キングサイズのベッドなら蹴飛ばされる心配もなく眠れるな」
勇者「むーなんでボクの顔みて言うの」
傭兵「それにずっと狭苦しい場所ばっかりだったからな。マオの家でもベッドはシェアだったし…」
勇者「ソルもここで寝ない? おっきいいベッド2つあるからさ…」
傭兵「俺は上に部屋がある。お前もたまにはゆっくり寝ろ」
勇者「う、うん…じゃあそうする」
魔女「おやすみ」
傭兵「おうお休み」
【男部屋】
コンコン
カチャ…
傭兵「? マナか」
魔女「…」
傭兵「どうした?」
魔女「今日は、なんだか眠られなくって」
傭兵「お前夜になってから落ち着きがないな。なにかあったのか」
魔女「外を見て」
傭兵「外? 何もないけど。俺たちの馬車が泊まってあるな」
魔女「そうじゃなくて。上」
傭兵「上? …満月、だな。いい夜だ。明朝出発じゃなきゃ酒でも飲みたくなってくる」
魔女「あの大きな目が私のことを見てる」
傭兵(何を言ってるんだ…)
魔女「満月の夜は、嫌い」
傭兵「マナ?」
魔女「満月の夜は、魔力に満ちて力が……呪われたこの力が強くなる気がする」
魔女「ユッカとヒーラの側にあまりいたくない」
傭兵「……そうか。俺にはわからない話だが」
魔女「あなたの側なら、なにも心配はない」
魔女「私は唯一あなただけを傷つけることができないから」
魔女「今夜はここで寝させて」のそ
傭兵「あ、あぁ…好きにしろ」
傭兵(じいさんが深い森の中に隠れ住むことを選んだのはこういう理由があったのかもな…)
魔女「普通の人は、満月が怖くないの?」
傭兵「怖くはないと思う…魔力が満ちる感覚は人によってはあるみたいだ」
傭兵「高等な黒魔術の類なんかは満月の夜に行われることがおおいらしい」
傭兵「伝聞ばっかりで悪いな。俺はあまり詳しくない」
魔女「…そう」
魔女「魔物も、満月の夜に強くなる」
魔女「私は…何だろう」
傭兵「…。マナは俺にとってユッカやヒーラちゃんとなにもかわらない普通の女の子だよ」
魔女「…そう」
俺は側で背中を丸めて眠る少女の頭を小さく撫でた。
絹糸のような美しい銀色の髪が窓の隙間から吹き込むそよ風にまくられ、少し哀しそうに揺れていた。
【女部屋】
勇者「うう~…あついよぉ…あついぃぃ」
勇者「ヒーラぁ…」
僧侶「…~♪ …zzz」
勇者(どうしていつもこうなの! マナは知らないうちにどっか行っちゃったし! 絶対ソルのとこだ!)
勇者「一緒に寝て被害を被ってるのはキミじゃなくてボクのほうだよ…」
僧侶「ユッカしゃま…れべるあげ…うふふふ…zzz」
勇者(怖い…)
カチャ…キィ…
勇者「…? マナ?」
コツコツ
勇者「違う。誰」
少女「お休みの所申し訳ありません」
勇者「あっ、なんだアリスさんか」
少女「…」キョロキョロ
勇者「どうしたの?」
少女「お二人だけですか?」
勇者「う、うん…そうだけど」
少女「そうですか…うふふ」
勇者「…? あの、何か用ですか?」
少女「…。満月の夜は私に力を与えてくれる…」
勇者「えっ」
少女「さぁ踊りましょう。私の2つの秘術で」
少女「あなた達を素敵なコレクションに加えてあげる」
第14話<アリスの館>つづく
第14話<アリスの館>つづき
勇者「ボクたちを…コレクション…?」
少女「うふふ…」
勇者「な、なにを言ってるの…?」
少女「逃さないわ。秘術【マリオネット】」
薄暗闇の中で目の前に立つアリスさんの目が妖しく光った。
その直後、指先から光るロープのようなものがビュンと飛び出してきてあっという間にボクとヒーラの額に張り付いた。
がくんと体から力がぬける。
勇者「うあっ!?」
勇者(どうしたんだ…魔力がなくなっていく…!)
僧侶「むにゃ…?」
少女「あらあら。お二人ともたくさんの魔力をお持ちなのですね」
少女「吸い尽くすのに時間がかかりそう…うふふ。ご馳走のお返しにたっぷりいただきますね」
勇者「な…んだこれは…っ」
少女「これはとりつけた相手の魔力に絡みつき吸い取り、身体を意のままに操る魔法の糸」
少女「あなたたちはもう私のお人形になったのですよ」
少女「ですが、カラダはもっと可愛い物を用意してあげますね…うふふ」
勇者「なにをいってるの…? わけがわからないよ」
勇者「うっく、体が…うごか――」
勇者(まずい…ぴくりとも動けない)
勇者(ヒーラっ、起きてっ!)
勇者(あれ!? 声がだせない!? どうして! 優しいアリスさんがどうしてこんなことを!)
少女「まだわからないのですね。おまぬけさん」
少女「他人を信じ過ぎると痛い目にあうってお母様に教わりませんでしたか?」
少女「あの殿方は私のことを少し疑っていたようですけど…」
少女「先日手に入れた旅人達が役に立ちました」
勇者(嘘だ…まさかアリスさんは魔物!? いやちがうっ、魔物の感覚じゃない)
少女「そう。お察しの通り私は人間ですよ?」
少女「ふふ…敏感な魔覚をお持ちなのですね。うらやましいです。しかしこの力ももうすぐ私のものに…うふふ」
勇者(ボクたち…どうなっちゃうの…。ソル! 助けてソル!)
少女「すごい…すごい魔力! まるで洪水のごとく流れこんできます! あぁっ、もうぞくぞくしちゃうっ」
勇者(うぐ…魔力が、吸われてるっ!)
勇者(まだ大した量じゃないけど…こんなのが続けばいつかすっからかんに)
少女「にしても時間がかかりますね。あなたには糸をあと2本、糸を追加しておきましょう」
つぷ…
今度はボクの胸元とおへそのあたりに魔法のロープが突き刺さる。
突き刺さるといっても痛みは一切なく、ボクの身体を巡る魔力の流れをせき止めてそこから吸い出しているようだった。
勇者(こんな魔術が…っ)
少女「そっちの小娘はもうじきに終わりそうですね」
勇者(!)
僧侶「 …う…ぁ」
勇者(ヒーラ! くそぅ!)
少女「金髪のあなたの魔力は聖性に満ちていて…心が洗われるようです」
少女「あぁでもこれは私の生きがいですから。改心なんていたしません…たっぷりといただきます」
僧侶「…っ、ぁ」
少女「うふふ」
勇者(どうしてこんなことをするんだ!)
少女「どうして?」
少女「それは私が…永遠の少女でいるため♥」
少女「お父様の残したこの館を、未来永劫守りぬくためです」
少女「さぁ。タフなあなた方といえど、いい加減弱ってきましたね」
少女「魔力を完全に失った肉体はどうなるかご存知ですか?」
少女「魔力とは生命の源」
少女「失えば、慢性的な肉体の疲労感や倦怠感、筋力の低下」
少女「精神力や回復力も弱まり、さながら老衰したご老体にようにやがて朽ち果ててしまいます」
少女「もう歩くことすら困難でしょう」
少女「かわいそうですね…」
勇者(くそぅ…なんとかしなきゃっ!)
少女「本当に可愛そう…まだ若くてこんな美しいのに」
僧侶「……ぅ」
勇者(ヒーラにさわるなっ…!)
少女「でも安心してください。あなたたちは死にはしませんよ」
勇者(なんだって)
少女「肉体を失っても、気高き魂だけは生き続けるのです」
アリスの手には2体の小さな人形があった。
それは手のひらサイズの3頭身ほどで、まるでボクとヒーラを模したような見た目をしている。
少女「うふふ。かわいいでしょう」
少女「私は美しいものよりかわいいもののほうが好きなんです」
勇者(それは…一体)
少女「まもなくです。3…2…1♪ はい♪」
僧侶「ぅ…――」
少女「おしまい。ヒーラさん、ごちそうさまでした」
勇者(まさか…っ)
少女「この子の体はこのさき緩やかな死へと向かいます」
少女「だから助けてあげるのですよ」
少女「この小さな新しい体にあなたたちの魂を移して、ね?」
不敵な笑みを浮かべる目の前の少女から恐ろしい言葉がなげかけられた。
勇者(ヒーラが死ぬ…?ボクも…?)
勇者(魂だけ…その小さな人形に…?)
少女「はい」
少女「先にどうなるか見せてあげますね」
少女「秘術【ワンダーランド】」
ヒーラの体が輝きだし、にゅるりと大きな光の塊が抜けヒーラをかたどった人形の中へと入っていく。
そしてヒーラの肉体はピクリとも動かなくなった。
目を閉じたまま、やすらかに眠っているようにみえた。
だけど、呼吸の音一つ聞こえてこない。
少女「うふふ…また私のコレクションが増えちゃった」
勇者「そん…な…」
勇者「ヒー…ラ」
少女「…! へぇ。まだ抵抗できるのですか。動きは封じてあるのですが…」
少女「本当にタフな子。ふんふんなるほど、あなたには魔性の者の力が宿っているのですね」
少女「だけど残念。なーんの役にもたたないみたいですね?」
勇者(サキュ…いないの…? こんなこと頼みたくないけど、助けて…)
勇者(サキュ! どうしてなにも言ってくれないの!)
少女「…なるほど、サキュバス。うふふ」
少女「まだ現存していたのですね。珍しい力が手に入りそう♪」
勇者(サキュ…ヒーラが死んじゃう! 助けてよ!!お願いだよ!!)
少女「無駄ですよ。あなたは淫魔の特性をご存じないようですね」
少女「彼女たちは常闇の生き物」
少女「このような光り輝く月夜に姿を現すことはありません」
少女「さぁあなたもこの子の中にお入りなさい」
少女「あなたのかわいい顔を思い浮かべながら、つくったお人形ですよ」
少女「きっと最高の住み心地だとおもいます」
少女「ですよねー? ヒーラちゃん」きゅっ
人形「…」
勇者(うわああああああ!!!)
少女「あらら、魔力が漏れてますよ…もったいない」
【男部屋】
魔女「……」むくり
魔女「…」キョロキョロ
傭兵「ん……どうしたこんな時間に。眠れないのか」
傭兵「あーもしかしておしっこか?」
魔女「はぁ……」
傭兵「わ、わるい。行って来い」
魔女「…ねぇ」
傭兵「ん」
魔女「あなたはなにも感じない?」
傭兵「は? いや、殺気なんてなにも…」
魔女「…おばけかも」
傭兵「怖いのか。ついていってやろうか」
魔女「いらない」
傭兵「トイレわかるか?」
傭兵「階段で下の階に降りて廊下をまっすぐ進んで、えっと確か」
傭兵「この館広すぎるよな」
魔女「平気。あなたはここで待ってて」
【廊下】
トボトボ
魔女(ここにはたくさんの未練が渦巻いている)
魔女(落ち着かない)
魔女「…暗い」
魔女「火の玉、でておいで」ボゥッ
▼魔女は蒼い火の玉を呼び出した。
魔女「あなたも感じるでしょ」
火の玉「…」ふよふよ
魔女「いやな気配。まるで私と同じだね」
少女「うふふ…それは私の事?」
魔女「!」
少女「こんな時間に、お手洗いですか?」
魔女「その手の人形は…」
少女「マナさんは上の階でお休みだったのですね」
魔女「人形、何? 質問に答えて」
少女「私の新しいコレクションをお部屋に飾りに行こうとしたところなんです」
魔女「どうしてあなたからユッカとヒーラの気配がするの」
少女「…うふふ」
少女「先に三体目をつくっちゃいましょうか」
魔女「…そう」
魔女「術式…アイスビュレット」
▼魔女は無数の氷の弾丸を放った。
少女「!」
少女「魔を防げ…術式:結界」
▼氷の弾丸は見えない壁によって弾き飛ばされた。
魔女「それはヒーラの…」
少女「便利な力ですね。やはり冒険者を吸うのは最高です」
少女「それにしてもなんて遠慮のない子。仲間のおまぬけさんのようには行かないみたいですね」
魔女「ヒーラとユッカは?」
少女「あぁ。死にますよ。まもなく肉体はね」
少女「でも魂は…こ・こ♪」きゅっ
人形「…」
魔女「そう」
魔女「術式…フレイムキャノン」
▼魔女は巨大な炎の弾丸を放った。
少女「術式:聖守護結界!」
▼炎の弾丸は光の壁によって消滅した。
少女「はぁーあぶない」
少女「ちょっと! そんな危ないもの家の中でつかわないでください! 大切なお屋敷なんですよ」
魔女「その技…見たことない」
少女「まだあの子たちは本来の力を引き出せていないようですが。私のレベルならそれら十分に扱うことができます」
少女「それ以外にも私はいままでにたくさんの人間から力を奪ってきました」
少女「勝ち目があるとでも?」
魔女「それがあなたの能力? くだらない」
少女「くだらないですって…我が家に伝わる最高の秘術を…くだらないですって」
少女「ならばその恐ろしさ、その身に刻んであげましょう。秘術【マリオネット】」
▼少女は光る魔法の糸を魔女の体に突き刺した。
魔女「!」
少女「うふふふ…これであなたの体も私の意のまま…!」
少女「さぁあなたの魔力をあじあ……!?」
少女「なっ、なんで…」ガクン
魔女「…」
少女「どうして私の魔力が…抜けていくの…」
魔女「…」
少女「あなた…一体なに!?」
魔女「くだらない。返してもらう、私の仲間の魔力も力も全て」
少女「まさか…あなたが吸っているの…? 私のマリオネット以上の速度で…!?」
少女「か、解除を…! ありえないわ」
魔女「この糸、絶対に離さない」ぎゅっ
少女「い、いやっ! やめてくださいっ…! 離せ!!」
少女「吸われていく……ッ! くぁ…離して」
魔女「…」
少女「こ、こんなことがぁ…!」
少女(なんとかしなくては)
少女(こいつを魔法で叩きのめせば…ってまともな攻撃魔法は持ってないし)
少女(ううう…)
魔女「…かわいそうな人」
少女(このままでは…)
コツ…コツ…
< おーいマナー。迷子かー
少女「…! しめた!」
魔女「…! 来ちゃダメ」
傭兵「お、おい。どうしたマナにアリスさん」
少女「新しい操り人形になりなさい! 秘術【マリオネット】!!」
▼少女は光る魔法の糸を傭兵の体に突き刺した。
少女「うふふ…形勢逆転ね」
魔女「…」
少女「厄介はあなたはその男の手にかかって死になさい!」
少女「さぁソルさん! わたしの意のままにその生意気な小娘を絞め殺すのよ!!」
▼が、攻撃はうまくきまらなかった。
傭兵「……」
少女「…え?」
少女「魔力を…絡め取れない…? ウソ…なんで」
傭兵「アリスさん、あんたいま何て」
魔女「…ソル。その人を拘束して」
傭兵「……おう」
ガシッ
少女「い、いたっ…」
少女(この男…魔力を持っていない!?)
少女(あ、ありえない…そんな人間がいるなんて)
少女「吸われていく……私の力がぁ…」
少女「あ…あ゛ぁ…っ」
傭兵「お、おいアリスさんが…マナ」
魔女「あなたはユッカたちの部屋に急いで」
傭兵「…! わかった」
少女「あ゛…ああ…あ゛」
魔女「くだらない」
少女「私の…ち、か…ら」
少女「返して…私の若さ…美貌…魔力……」」
魔女「これはあなたの物じゃない。人から奪ったもの」
少女「いやよ…老けたく…な」
魔女「そうして何年生きてきたのかはしらない。あるべき姿に戻りなさい」
少女「あ゛ああああ…」
▼金髪の美しい少女の肌からみるみるうちに生気がうしなわれ、やがて少女は皺の深いやせ細った醜悪な老婆へと変貌した。
魔女「それが本当のあなたなのね」
少女「そん…な…」
【スイートルーム】
カチャ…
傭兵「……マナ、か」
魔女「おわったわ」
傭兵「ユッカたちが、目を覚まさない…」
傭兵「俺は…また」
傭兵「くっ、う…ぅ」
魔女「…平気。まだ2人の肉体は死んでいない」
魔女「ただ魔力がなくなって緩やかな死を辿っているだけ」
傭兵「…なんとか、なるのか…?」
魔女「そう。これから先はあの淫魔のおかげ」
傭兵「…?」
魔女「私はあの人からユッカのちからを奪い返して、この身に宿している」
魔女「だからユッカの魔法が一時的に使える」
魔女「いま返すね」
魔女「術式、魔力貸与」
▼魔女は魔力貸与を使った。
▼勇者と僧侶の顔色に生気が戻ってゆく。
傭兵「…!」
傭兵「あぁ…ユッカ…ヒーラちゃんっ」ゆさゆさ
傭兵「おいっ、起きてくれ! たのむ!!」
魔女「まだダメ」
傭兵「どうして…顔色は戻ったのに」
魔女「2人の魂が肉体から離れてしまっている」
傭兵「なんだって」
魔女「これ」
傭兵「人形…?」
魔女「アリスは人形に、人の魂を閉じ込めていた」
魔女「それが私があの部屋で感じた違和感、憎悪や未練の念の真相」
魔女「ユッカとヒーラの魂はいまこの中にある」
傭兵「魂だと…一体どうすれば」
魔女「うまくいくかわからないけど、やってみる」
傭兵「何を…」
魔女「いますぐあの部屋の人形を集めてきて」
・ ・ ・
傭兵「持ってきたぞ」
傭兵「すごい数だな…本当にこれ1体1体全てに魂が…?」
魔女「…ずいぶんと古いお人形もいるね」なでなで
傭兵「マナ…」
魔女「すべての魂達よ。元の場所に帰りなさい。あなたたちを永遠の牢獄から解き放ちます」
魔女「秘術【ワンダーランド】」
傭兵「!!」
カタカタカタ…
傭兵「人形たちが光って――――」
――
―
勇者「う、う…ーん」
傭兵「ユッカ!」がばっ
勇者「わっ、ソル!」
傭兵「よかった…ほんとうによかった…」
僧侶「ふぁ…ぁぁ…やな夢をみました」
傭兵「ヒーラちゃん!」ぎゅ
僧侶「ひゃうっ!? なんですか!?」
魔女(うまくいって良かった)
勇者「マナ…ありがとう」
魔女「私に出来ることをしただけ」
勇者「ううんほんとうにありがとう。マナはすごいよ…」ぎゅ
魔女「せっかくもどしたのにまた吸ってしまう。離れて」
勇者「マナに吸われるのはきもちいいもん…」すりすり
魔女「そう」
僧侶「ひ、ひぃっおばけ! ソル様うしろ!!」
傭兵「ん?」
勇者「どうしたの? うわっ、火の玉がいっぱい!」
傭兵「これは…人形から出てきた魂か?」
魔女「…」
魔女「帰る場所を失った子たちがたくさん」
魔女「ごめんなさい。あなたたちの体はもうないの」
魔女「おいで。みんな私の中で生きていい」
くるくる くるくる
魔女「入ってきていいよ」
くるくる くるくる スゥー……――
傭兵「…」
傭兵(森でマナに出会った時に従えていたあの火の玉は火球ではなくやはり人魂だったのか…・)
<翌朝>
旅人A「いやぁおっかねぇ目にあった。いまでも夢じゃねぇかと思ってしまう」
旅人B「まさかアリスさんの正体が100年生きる魔女だったとは。おたくらには感謝してもしきれないね」
傭兵「無事でよかった」
魔女「もう少し遅ければ肉体に戻れなくなっていたかも…」
旅人A「ひぃっ、おどかさねぇでくれよ」
旅人B「お嬢ちゃんありがとうよ。あんたは命の恩人だ」
魔女「…そ、そう」
旅人A「んじゃあな! お達者で」
傭兵「あぁ!」
勇者「まさかアリスさんが数百年生きるおばあさんだったなんて」
僧侶「たくさんの人達の命をうばって生き長らえるなんて許せないです」
勇者「懲らしめなきゃいけないのは…魔物だけじゃないんだね」
傭兵「あぁ。人間も魔力をもっている。中には魔物に加担したりする奴もでてくる」
傭兵「あの女の場合は私利私欲だったが…あの力を広く悪用されたら厄介だったな」
勇者「だね…全く抵抗できないままにやられちゃったもん」
傭兵「ちゃんと見極めねぇとな…はぁ」
勇者「どしたの。ため息なんてついて」
傭兵(やっぱ俺ってこういうことになると役にたたねーな…)
魔女「…」
傭兵(マナがいて助かった)
魔女「…」チラ
傭兵「あの女のことが気になるのか。もうなにも悪さできやしないさ」
傭兵「逝くのも…時間の問題だ」
魔女「ううん、気にしてない」
魔女「ただ、私もいつか…ああなってしまうかもしれない」
魔女「魔力の味をおぼえるというのはそういうこと」
魔女「あの女と…根っこの部分はかわらない。むしろそれよりたちが悪い」
魔女「私は意識せずとも人から力を奪っていく」
傭兵「…。お前は人のために正しく力を使うことができる優しい子だよ。あの婆さんとは違う」
僧侶「そうですよ。マナちゃんがいなかったら私達死んでいたんですから」
勇者「マナはボクの自慢の仲間だよ!」
魔女「……べ、別に。ほめてもなにもでない」
傭兵「マナ、ありがとうな」なでなで
魔女「なでてもなにもでない」
勇者「ちょっと笑顔が出てるよ」
魔女「そんなことない!」むすっ
魔女(邪魔者だった私も、やっと役に立てたのかな)
魔女(おじいちゃん…私も居場所を見つけた気がするよ)
傭兵「よぅし! 気を取り直して港へ向かうぞ!」
勇者「おー!」
魔女(ずっとあなたたちと一緒に…)クス
第14話<アリスの館>おわり
《次話》
第15話<山脈温泉紀行>