60 : スーパー(でアルバイトしている)麦のん奮闘記1/8 - 2010/08/24 16:21:15.52 ungDuxk0 1/9


麦野のスーパーでのアルバイトは、夕方五時からはじまる。

自動ドアをくぐり入店して来たお客さんに、今日も今日とて彼女は「いらっしゃいませーっ」と満面の営業スマイルを向ける。
彼女の可憐な(営業)スマイルにズキュンと心を射ぬかれた男性たちが大量発生して、バイトをはじめてたばかりだというのに、日に日に増えていく麦野目当ての買い物客。

また、ピンポンパーン……と自動ドアが開いた音が聞こえた。


「いらっしゃいませーっ」


音が聞こえたら瞬時に挨拶をする姿も、我ながら板についてきたものだと麦野は自負する。
一人、また一人、と客が入って来るたびに麦野は笑顔を振りまく。
笑顔の大安売り状態だ。

客達は頬を染めてにやけているが、彼女は内心で―――、


(この店に来る男の客、マジで豚みてぇなやつしかいねーのな)


―――と、悪態をつきつつ日々のレジ打ちに励んていたりすることを、彼らは知る由もない。

元スレ
▽ 【禁書目録】「とあるシリーズSS総合スレ」-13冊目-【超電磁砲】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1282585289/

61 : スーパー(でアルバイトしている)麦のん奮闘記2/8 - 2010/08/24 16:25:36.88 ungDuxk0 2/9


アルバイトをしていると、時々、知り合いに会うことがある。

暗部の人間として好きなだけ暴れまくった自分が、真面目にスーパーでのアルバイトしている。
「らしくないことをしている」という自覚は少なからず麦野も感じている訳で。
知り合いに会うたびに、気恥ずかしいよう、な照れくさい様な、微妙な気持ち陥ることも多々。

先々週はメルヘン第二位がご来店。
先週はツンツン頭の少年がご来店。


「お会計、超お願いします」


今週ご来店した知り合いは、麦野もよく知っている外見が小学生くらいの女の子。


「……なにしに来たのよ?」


十数点程の商品が乱雑に入っている買い物カゴをレジの前へと置いた絹旗に、麦野は不機嫌そうに問いただした。


「もちろん、冷やかしにきた訳よ……ぷぷっ!」

「むぎの、緑似合うね」


絹旗の後ろには、彼女の変わりに麦野の問いに答えたフレンダと、麦野が身につけているスーパーの緑色のエプロンをじーっと見つめる滝壺までもがソコに居た。
声を殺して笑うフレンダと、麦野が身につけているスーパーのエプロンを褒める滝壺。

色々不満だらけだが、ここはスーパーで、麦野はアルバイト店員で、彼女たちはお客様だ。

62 : スーパー(でアルバイトしている)麦のん奮闘記3/8 - 2010/08/24 16:27:25.36 ungDuxk0 3/9


にかっと口角をあげて(多少、引きつっているようにも見える)、麦野が一言。


「……かしこまりました」

「アッハハ、麦野ってば、似合わないぃ!!」


瞬時にフレンダの腹筋が崩壊した。


(ブ・チ・コ・ロ・シ・か・く・て・い・ね)


フレンダを黙殺すべく即座に行動に移したい麦野であったが、粒機波形高速砲で金髪少女の土手っ腹に風穴をあけるのはアルバイトが終わった後だ、と粗ぶる感情を寸でのところで自制する。



「100円のサバ缶が十二点、380円の雑誌が一点」

(相変わらず。この面子で買いだしをするとサバ缶の占める量が異常なことになるわね……)


なんて、あきれながら仕事をこなしていく麦野。
雑誌の次に、ヨーグルトのバーコードを読み取ってレジを通そうとした、その時。

ビー! ビー! ビーッ!! 

と、たたましい警告音が辺りに鳴り響いた。

音の発生源は目の前のレジ。
アルバイトを初めてから今まで、こんな事態に陥ったことはなかった。
麦野は訳が分からないまま、すっとんきょうな声をあげる。


「えっ? な、なにこれぇ!?」

63 : スーパー(でアルバイトしている)麦のん奮闘記4/8 - 2010/08/24 16:29:37.95 ungDuxk0 4/9


操作を誤ったか、と最初からやり直すが警告音は消えない。
何度も何度もやり直すが、鳴り止まない。


(え、え、どうなってるのよっ!?)


ビー!


「むぎの、大丈夫?」

「す、すみません! もう少々お待ちくださいっ!」


ビー!


(こ、こうかしら)


ビー!


(これも違うのぉぉっ!!)


ビー! ビー! ビーッ!!
焦る麦野を警告音がさらに追い立てる。


「……もう、なにがどうなってるのよぉっ……」

64 : スーパー(でアルバイトしている)麦のん奮闘記5/8 - 2010/08/24 16:31:03.40 ungDuxk0 5/9


「……」


グスッと涙目になりながらもがんばる麦野を気まずそうに見ていた滝壺が、何かに気付いたように「あっ」と口を開いた。


「ねぇ、フレンダ」

「ん? 何、滝壺」


滝壺はフレンダに、ある事の確認をとる。















「そのヨーグルト、違うお店のやつじゃない?」

65 : スーパー(でアルバイトしている)麦のん奮闘記6/8 - 2010/08/24 16:32:30.52 ungDuxk0 6/9


要はこういうことらしい。


『金髪少女が今朝よったコンビニで買ったパンとヨーグルト。

 結局、食べずにカバンの中にしまい込んでいたままだった。

 で、何かの拍子でスーパーの買い物カゴにまぎりこんでしまいましたとさ☆ 完』


他店の商品の会計が出来るわけがない、と麦野は頭を抱えた。
様々な商品の流通・管理体制がしっかり整備されている学園都市では、チェーンごとで使われているコードが異なるのだから。


「ふ・れ・ん・だァァァァアアア!!??」

「――――てへっ☆」


『てへっ☆』の言葉とともに舌をちょっと出して可愛らしく誤魔化するフレンダを、麦野は今すぐにでも真っ二つにしたくなった。

しかし、今はアルバイト中である。
本当に悔しいが、アルバイト中なのである。


(今はアルバイト中アルバイト中アルバイト中…)


こめかみに血管をうかべながら何度も何度も自分を言い聞かせる麦野は「では、ヨーグルトはお客さまにお返しして、会計を再開させますね?」と言いながら、凄んだ目でフレンダにヨーグルトを突っ返した。

66 : スーパー(でアルバイトしている)麦のん奮闘記7/8 - 2010/08/24 16:34:34.07 ungDuxk0 7/9


警戒音が鳴り止み、ようやく合計が出揃う。


「全部で37564円でございます」

「ひぃっ!!!」


語尾にハートマークがつきそうなくらい可愛い死刑宣告を告げた麦野に恐れをなして、フレンダが絹旗の後ろに隠れた。


「き、絹旗も笑ってた訳よっ」

「ちょっ……!? 悪いのは超フレンダだけです! 一人で殺されてきてください!!」

「愛しの麦野からの施しだからって言ったって、結局、殺されるのだけは遠慮する訳よ!!」

「だからって、人を超道連れにしようとしないでくださいぃい!!」


巻き込まれるのは御免だと、笑いそうになっていた自分のことを棚に上げる絹旗の横で、滝壺が明らかに九割近くかさましされている会計を済まそうと財布を開いていた。
シンプルな白の財布から、諭吉さんを四人分差し出す。


「お願いします」

「四万円お預かりします」


それはもう完璧な営業スマイルで釣りを返した麦野に、おつりを財布にしまいながら滝壺が話し掛けてきた。


「むぎの、アルバイトすごいがんばってるんだね」


男性客の心をわしづかみする麦野の天使(のような)笑みが、そのままの状態で固まる。


「四苦八苦してたけど、一生懸命働くむぎのの姿、すごくかっこよかったよ」


滝壺は会計を済ませた買い物カゴを「よっこいしょ」と持ちあげる。
「大丈夫。そんなむぎのを私は応援してる」と言ってわずかに微笑んだ滝壺は、残り二人に声をかけてレジから離れていった。

67 : スーパー(でアルバイトしている)麦のん奮闘記8/8 - 2010/08/24 16:36:30.25 ungDuxk0 8/9


(…………)


しばし呆然としていた麦野を尻目に知り合いの少女達が買い物袋を手に店から出ていこうする。

アルバイト中に知り合いに会うと、「らしくないことをしている」という自覚がある分、気恥ずかしいし、照れくさい。
その上、心の内をぽっと温めるくすぐったい気持ちが上乗せされる。
戸惑いを隠しきれない麦野であったが、仕事は最後まできちんとこなさないといけない。


「あ、あの!」


かける言葉は決まっている。



「ご来店ありがとうございました! またのお越しをお待ちしています!!」



頬を赤く染めてしろい歯をみせて笑った彼女の笑顔はまるで、大輪の花の如く。


そこには、


いつもの完璧な営業スマイルなんかなくて、麦野の自然な微笑みがあった。





――――後日。

エラーの原因をつくったり大爆笑したりしたフレンダは、ブチコロシは避けられたが、麦野にたっぷりお仕置きされたらしい。

68 : VIPに... - 2010/08/24 16:39:35.84 ungDuxk0 9/9

以上です。
四苦八苦しながらレジ打ちする麦のんを妄想したらこうなった。
お邪魔しましたー。

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