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提督「あけぼのちゃんはツンドラ」【前編】
提督「あけぼのちゃんはツンドラ」【中編】

412 : ◆1VwSTfn.DM - 2015/12/14 06:12:32.30 TkYmA7AVO 197/334


執務室・昼過ぎ——


「…………」ムスッ

「ねーぼのやーん機嫌直してよー」

陸奥「そーよ、せっかくのお顔がどんぐり詰め込み過ぎたリスみたい」

「…………」

「クソッ、真面目に仕事しやがって……」

陸奥「困ったわね……真面目に仕事されるとこっちも真面目にしないといけないじゃない」

「ご主人様は意外と真面目なぼのやんを前にしてよくもまあふざけてられるよね、ある意味才能だぜ」

「……アンタ達もやることは何かしらあるでしょうが。 特に陸奥、アンタは代行でしょ」

「お、口利いてくれた」

陸奥「そうは言うけれど、普段やってるようなことは午前中に済ませちゃったわよ? 貴方が寝てる間に」

「くっ、無駄に敏腕なんだから」

陸奥「事務時代も短くはなかったからね」

413 : ◆1VwSTfn.DM - 2015/12/14 06:27:03.47 TkYmA7AVO 198/334


「さてぼのやんは機嫌直してくれましたかね」

「……別に機嫌が悪かったわけじゃ、ない」

「あ〜いいよその表情! 氷属性が付与されたレイピアで突き刺すようなその目付き! 今年度のアブソリュート・ゼロ・ガールグランプリもいただきですね!」

陸奥「そんなのあるの?」

「ねーです」

「寧ろたった今機嫌が悪くなったわ」

「コンソメパンチあげるから許して」

「……私のり塩派」

「OK、ピザポテトもつけよう」

「のり塩」

「じゃがりこもオマケしてやるよ……!」

「のり塩」

「今ならなんと! キャラメルコーンもオマケして」

「のり塩」

「何この頑なにのり塩ガール」

陸奥「のり塩ガールグランプリでも優勝しそうね」

「優勝しても嬉しくないタイトル」

414 : ◆1VwSTfn.DM - 2015/12/14 07:31:37.19 fRku1k160 199/334


「まあ怒ってないなら怒ってないでいいとして、どーかしたの? ぷんむくれガールさん」

「別に、さっきのが尾を引いてるだけよ」

「さっきの?」

陸奥「ああ、食堂では好奇の視線が降り注いでいたものね。 秘書艦になってると仕事じゃない限り意外に顔も見なくなるし、それも後押ししてたかもね」

「それもあるけど……まあいいや」

「いやはや、ここまで早く話が広まるとは思わなんだよ」

「アンタが原因って聞いたけど。 どう始末してくれようかしら」

「えっ、漣ちゃんなにもしてないデースよ……」

「どーせアンタがそこらへんで誰彼構わずぺちゃくちゃくっちゃべってたんでしょーよ」

「マジでなんもしてねんですけど! ぬれぎぬー! びしょ濡れ鬼怒ー!」

陸奥「まあ確かに、このままだと曙も居心地が悪いでしょうね」

「悪いなんてもんじゃなかったわよ、正直甘く見てた」

「ねえツッコミ待ちなんですけど。 ウチに鬼怒いねーよとか色々待ってるんですけど。 放置いくないよ? ボケ殺しだよ?」

陸奥「どうせなら本当に提督とデートしちゃったら?」

「アホか、事実無根なところに本当に根を植えてどうすんのよ」

陸奥「既に無根ではないと思うけど?」

「うぐ」

「漣ちゃんへの風当たりキツくないスかお二人様、ウサギは寂しくても死なないけど漣ちゃんは死ぬんだよ? 構えよ」

415 : ◆1VwSTfn.DM - 2015/12/14 08:11:38.97 fRku1k160 200/334


陸奥「いっそのこと、この機に乗じてくっついちゃえば?」

「寝言は寝て言いなさいよポンコツビッグセブン」

陸奥「そう? 結構お似合いだと思うけど。 しょっちゅう夫婦漫才してるじゃない」

「あのバカのノリに合わせといた方が疲れないのよ、そうじゃなかったらあんなん側溝にでも突き落としてるわ。 誰が夫婦漫才か」

陸奥「受け入れているようで受け入れていないようで。 難儀な子ねぇ」

「ぼのやんはそういう子ですので」

陸奥「曙さえ本気出せばイチコロでしょうに、提督も苦労するわけよ」

「そりゃ主砲で撃てばイチコロでしょ」

「あ、むっちゃんさんもそう思う?」

「あ?」

陸奥「私がいつから見てると思ってるの? あんなに分かりやすい人はいないわよ」

「でもねー、当人が自分のこと理解してないんスよこれが」

陸奥「え? どういうこと?」

「直接訊いたんだけどそんなんじゃないとか言ってた、自分自身の気持ちに気付いてないパッティーンすよアレ。 ハーレム漫画の主人公ばりの鈍感っぷり」

陸奥「うわあ、面倒ねそれ」

「でも、向こうからの攻略は期待できないけど、本心に気付かせるなりぼのやん自身に攻略させればチョロいと思う。 この頑固者からね」

陸奥「そうよねぇ、こっちも脈はあると思うんだけど」

「ちょっと、何アンタらだけで分かる話してんのよ? 私も関係あるんだったら私にも分かるように話しなさいよ」

陸奥「あら、分からない? 彼、提督が貴方に惚れてるって話よ」

「」

「はあ?」

416 : ◆1VwSTfn.DM - 2015/12/14 09:03:39.28 fRku1k160 201/334


「あや、言っちゃうのん?」

陸奥「ホントは見守っていても良かったんだけどね、放っといたらずっと進展がないと思うとまどろっこしくなっちゃって」

「あー確かに。 強引にでも進めないと絶対進まないよね、この2人」

「」ポカーン

「いやいやいやいや、ない、それはない絶対ない」

陸奥「ホラね?」

「ん、こりゃ武力介入しないとダメな奴だ」

「クソ提督が私に惚れてるって、どの次元の話をしてんのよアンタら」

「3次元」

「じゃなくて」

陸奥「よくもここまで気付かないものよね、貴方の鈍感具合も相当よ」

「そう言われたって、思い当たる節なんて……」

陸奥「貴方が着任してからずっと、ずっとずっと、彼は貴方のことを気にかけていたけれど、それも無いと?」

「いやそれは分かるけど……」

陸奥「率直に言うけど、当時の貴方は見放されてもおかしくはなかった。 即解体なんてことにならなかったのが不思議なくらいにね」

陸奥「そんなだった貴方を責めもせず受け入れるなんてこと、並大抵の思考で出来るとでも?」

「結構ぶっちゃけるね、むっちゃんさん……」

「…………」

418 : ◆1VwSTfn.DM - 2015/12/14 10:59:00.14 fRku1k160 202/334


「……そうは言うけどさ、クソ提督が私に惚れてるっていうのはやっぱり無いと思う」

陸奥「強情ね、はたから見れば気付いてしまうくらいなのに」

「じゃなくて、誰かに惚れてる男が半裸で腰ミノ巻いて眼前に現れたりする?」

陸奥「それは…………」

「Oh…………」

「アンタ達の言うように物事を考えるとアイツのしてることはズレ過ぎてるのよ」

「私はそんな風に見られちゃいないし、私も見るつもり無いから」

「まあ……ご主人様が時々変なのは今に始まったことじゃないけど」

「それに、惚れてるなら惚れてるで、なんかこう……ほら、あるんじゃないの? なんか優しくするとか、贈り物だとかなんかこう……」

「漫画か。 ってか意外に乙女か。 そしてボキャ貧」

陸奥「お手本のような恋愛初心者ね」

422 : ◆1VwSTfn.DM - 2015/12/16 06:45:16.53 bsq36szlO 203/334


「……もうさ、放っといてよ。 私とアイツはそんなんありもしないって何度言ったか分からないくらいなんだけど。 外野が勝手に騒いで事を面倒にしないでくれない?」

陸奥「騒ぎが大きくなったのは私じゃないけどね」

「漣ちゃんでもないよ……ホンマやで……ああもうそんな氷属性たっぷりの目線で見ないでよう」

陸奥「でも本当にいいの? 漣ちゃんの話を聞く限り、このままだとずっと平行線なのは間違いないわよ?」

「しつこいわね本当、久々にアンタのこと嫌いになりそう」

陸奥「ドンと来いってね。 私も昔とは違うわよ」

「……ハイハイ! この話はもうやめ! ハイ! 結論を導くのも出すのも全部ぼのやんの仕事なんだから外野は噂話に翻弄されるだけにしとこ! ね!」

「広めた張本人が何を言うか」

「だから身に覚えが全くないとまでは言わないけど漣ちゃんはピーチクパーチク喋っちゃいねーぜお姉様……!」

「鳥肌立ったからやめて、その呼び方」

「ひどいや」

424 : ◆1VwSTfn.DM - 2015/12/17 02:49:50.27 tSxFeOlO0 204/334


「元凶はもうどうでもいいわ、終わりなら終わりでとっとと散った散った」

陸奥「解散って言ったって、私が提督代行なんだけど」

「私が預かるわよ、今日はもう夕方や夜間の定期哨戒とか遠征任務云々くらいで充分でしょ。 明日のことは明日のクソ提督に押し付ければいい」

陸奥「いいのかしら、それ」

「ご主人様なら、あーはいはいわーったわーったそゆことねーで流しそう」

陸奥「うーん、でも貴方をここに縛り付けちゃうことになっちゃうけど」

「今この状況で出回る方が危険なのはさっき知ったから」

「危険ってーか、注目の的ってーか。 今ならよっぽどのヘマ踏んでも話題の強さ的に見逃されそうだよね」

「そういうことだから、今日1日残りは執務室に引きこもる。 何も問題ないわ」

陸奥「そういうことならまあ……でも、誰かしら押し掛けて来ると思うわよ?」

「そん時はそん時よ、大多数の面前に晒されるよりなんとかなる」

陸奥「大多数で押し掛けてきたら?」

「1人ずつ蹴倒す」

陸奥「粗暴ねぇ」

「1人ずつ並べてドミノにしようぜ!」

425 : ◆1VwSTfn.DM - 2015/12/17 03:08:51.32 tSxFeOlO0 205/334


陸奥「じゃあ、私は上がるけど……少しは考えてあげたら? 彼のこと」

「しつこい」

陸奥「ふふ、お節介は今に始まったことじゃないのよ」ドアガチャ

「ったくもう……前提条件が噛み合ってないってのは本当面倒ね」

「当事者しか真意は知りようがねーけど、ぼのやんのが圧倒的マイノリティってことなんじゃん?」

「多数派こそが真だなんて、ふざけた風潮だわ」

「まあむっちゃんさんの場合、自分には手が届かないけどいつまでもぶら下がってる餌を放っとかれてる気分なんじゃないかね?」

「どういうことよ、それ」

「それでもどうするか決めるのはぼのやんってこと」

「アンタの言うことは難解だわ」

「分かって貰えなくてもOK、分かって貰えればなおOK! それが漣ちゃん流エンターテイナー道よ!」

「アンタのネタキャラ路線はどうでもいいとして、昼の近海定期哨戒はアンタが行ってきて。 アンタなら単騎でも平気でしょ」

「だから色々とスルーするーのはボケ殺しだってゆってるじゃないですかァーッ! てゆーかめんどっちいからヤダ!」

「帰ってきたら間宮奢ってあげるから」

「行って参りますわ、お姉様! 哨戒任務完徹の報を貴方の元に届けることをお約束しましょう!」

「ほんとやだその呼ばれ方、背筋が冷える」

「それでもなおツッコむのは呼び方だけなんじゃね……」

426 : ◆1VwSTfn.DM - 2015/12/17 06:40:58.75 tSxFeOlO0 206/334


————
——


<コンコン

「勝手にどうぞー」

時雨「やっ」ドアガチャ

「アンタか。 何か?」

時雨「たいした用は無いさ、何をしてるのかな……って、随分くつろいでいるんだね、ソファに横になって何を見ているの?」

「良くある愛憎入り乱れる昼ドラ。 三角関係っておっかないわよねぇ」

時雨「へえ……僕も一緒してもいいかな?」

「どういう根性してんのよアンタ。 というか、もう終わるわよ」

時雨「別にいいさ、隣失礼するよ」

「まあいいけどさ、どうでも」

427 : ◆1VwSTfn.DM - 2015/12/17 06:53:59.32 tSxFeOlO0 207/334


時雨「あ、死んだ」

「死んだわね」

時雨「そしてそのままエンドクレジットか……今の女性が主人公なんだよね?」

「そーよ、でも主人公のくせに男を寝取る側だし、この男の前にも1人寝取ってるのよね」

時雨「前の人はどうなったの?」

「事故に遭って死んでる。 主人公は表面上は悲しんでたけど実際のとこはそこまで愛していなかったから、保険金のおかげで棚から金塊が降ってきて超ラッキーって感じだったわね」

時雨「主人公が一番闇が深いってどうなのさそれ」

「自分が原因でカップルが台無しに見る様を見るのが1番の快楽だって言ってたでしょ? 正直殺されてもそりゃそうなるわって感じよね」

時雨「殺されて清々する主人公ってことなのかな、ここまで持っていくのを見るために何人が神経をすり減らすか、苛立ちを溜め込んでいたんだろう」

「前の男が死んだ時にも男の元サヤに1度殺されかけてたけどね。 その時に自分の命がかかるのも悪く無いとかって歪んでたし」

時雨「修羅場ジャンキーかな」

「ああ、なんか凄いしっくりくるそれ」

428 : ◆1VwSTfn.DM - 2015/12/17 07:14:30.00 tSxFeOlO0 208/334


時雨「修羅場と言えば僕も修羅場を見たことあるよ。 ほら、あのイケメン大佐いたでしょ?」

「あーあのイケメンアイドルみたいな? アイツ絶対就く職業間違えてんでしょ」

時雨「先月なんだけど、彼の司令部にいる僕に用事があってね。 そこで見ちゃったんだ」

「自分に用があるって字面も普通じゃあり得ないわよね」

時雨「云十人もの艦娘がイケメン大佐を取り合って殴り合いをしているのを……」

「主砲でドッカンドッカンパラダイスとかではないのね、流石に。 昼ドラ見た後だと微笑ましいレベル」

時雨「でも壮絶だったよ、罵詈雑言のバーゲンセールも同時開催されていたし。 艦娘じゃない地が出てるんじゃないかってくらいのキャラ崩壊もしていたからね」

「キャラとか言わないの」

時雨「で、争いの原因となったイケメン大佐はその争いを前にしてオロオロしていたね。 その時偶然通りがかっていた僕にすがるような救いの目線を送ってきたけれど、自分のことなんだし自分でなんとかしなよってエールを返してあげたよ」

「わーひどーい……って、今月頭の鎮守府通信に載ってた乱闘騒ぎってもしかしてそれのことかしら」

時雨「もしかしなくても、そうだろうね」

429 : ◆1VwSTfn.DM - 2015/12/17 08:13:24.27 tSxFeOlO0 209/334


「で? 雑談で様子見しながらアンタは何の用なわけ? 大方、今ウチで出回ってる噂話のことだろうけど」

時雨「察しが良くて助かるよ。 それなら初めからストレートに訊けばよかったかな」

「先に言っといてあげるけど、デートなんかじゃないから。 アイツが私を連れ出して逆に私が振り回しただけ。 そーいう意識も関係もありゃしないから」

時雨「当人がどう言い繕っても、デートはデートであることには変わりはないさ」

「当人の意見が聞き入れられないなんて、司法だったら腐り切ってるわよ」

時雨「僕個人は真偽を確かめたかっただけでね、事実に関しては然程思うことはないよ。 意外だなってくらいかな」

「皆アンタみたいだったら良かったのに」

時雨「皆一人称が僕になるのかな?」

「いっそ黒髪にして犬耳も生やす?」

時雨「耳じゃないよ、これ」

430 : ◆1VwSTfn.DM - 2015/12/17 08:40:06.12 tSxFeOlO0 210/334


時雨「それじゃあ、訊こうと思っていたことは訊けたからここらでお暇しようかな」

「……ああそうだ、時雨。 ちょっとくだらないこと訊いてもいい?」

時雨「ん、何かな?」

「アンタはアイツのこと……クソ提督のことどう思ってる?」

時雨「くだらないというか、意外にも意外な質問だね。 案外噂は事実無根でもなかったりするのかな?」

「そうじゃない、好き嫌いとかじゃなくてさ」

時雨「聞かんとすることは分かるよ。 なんというか、身近だよね」

「身近?」

時雨「提督っていう立場の人はさ、上官だからと高圧的だったり、所詮職場での関係って感じだったり、何かしら艦娘と提督を二分する一線があるのが殆どだと思うんだ」

時雨「だけど僕達の提督にはその一線が無いように思える。 親戚のお兄さんみたいなものなのかな? 僕にはいないけどね」

時雨「ちょっと変わってるけど、いい人だと思うよ」

「ちょっとどころかしら」

時雨「はは、楽したいからって出世を蹴るのはちょっとではないかもね」

「そういう変じゃ……まあいいわ、変なこと訊いて悪かったわね」

時雨「構わないさ。 それじゃあね、また今度模擬戦をしよう」ドアガチャ

「うん、また今度」

431 : ◆1VwSTfn.DM - 2015/12/17 10:19:30.96 tSxFeOlO0 211/334


————
——


<ダダダダダダダダ

金剛「ボノエッティィー! 午後3時! ティータイムのじかっ」ドアガチャァアア

「…………」

金剛「ヘッ、ヘッドホン……!」

金剛(テートクの椅子でリラックスし、目まで閉じて、これは完全にMy worldに没入してマスネ……)

金剛「……ボノエッティー?」フリフリ

「…………」

金剛(ダメデス、周囲を完全にshutoutしていマース……)

金剛(こーなったら根比べデス、負けないからネー!)

432 : ◆1VwSTfn.DM - 2015/12/17 10:32:29.54 tSxFeOlO0 212/334


1時間後——


「……んぁ」カクッ

「ふあ……寝てたか……いつの間に寝てたんだろ、最初の曲は聴いた記憶あるけど……」ヘッドホンハズシーノ

金剛「あ、ヨーヤク起きました? good afternoon!」

「」

「」キョロキョロ

金剛「ンー? どーかしまシタ?」

「ここどこ」

金剛「執務室デスよ?」

「ティーパーティー仕様になってんだけど」

金剛「いやー、まさかMy worldではなくdream worldに旅立ってるとは思ってなかったネー、だのでその間に模様替えさせてもらいまシタ!」

霧島「この私の計算があれば人1人起こさずに模様替えをすることなんて造作も無いことよ」

「いたんだ眼鏡」

霧島「その呼び方は如何なものかと」

433 : ◆1VwSTfn.DM - 2015/12/17 10:50:15.40 tSxFeOlO0 213/334


「にしてもアンタの侵入を許しちゃったか……鍵かけとけば良かった」

金剛「ワタシの扱いは深海棲艦かinvaderか何かデス?」

「だってウzうるさいし」

金剛「今何か言葉を飲み込んだよーな」

「気のせいよ」

霧島「まあまあ、話はお茶でも飲みながら。 丁度出来ましたから」

金剛「Oh! NICEね霧島! ボノエッティには積もる話が沢山アリマスからネ!

「……何か違和感あると思ったら比叡と榛名がいないんだ、2人はどうかしたの?」

霧島「ああ、2人共先程までいたのだけど、長門さんが来るなり修行を手伝ってくれ、なんて言って2人を連行していったわ」

「修行て……」

金剛「艤装はつけてませんでしたけどネー、ナガエモンは時々よく分からないデース……」

霧島「確か、自分磨きだとかなんだとかって言ってませんでした?」

「一体何をするつもりなのやら」

434 : ◆1VwSTfn.DM - 2015/12/17 19:11:03.19 tSxFeOlO0 214/334


霧島「長門さんに攫われた2人のことはおいといて、冷めないうちに紅茶をお飲みになってくださいな」

金剛「そうしましょーカ、2人の犠牲は決して忘れないデース……」

「いや死んじゃいないでしょ、多分」

金剛「ホーラ、ボノエッティもcome here!」

「はあ、せっかくだしいただこうかな」

霧島「あ、ミルクティーにします? それともそのまま?」

「ミルクティーで」

霧島「了解。 お姉様はストレートですよね」

金剛「Yes、お願いするネ」

「そういや、淹れるの金剛じゃないんだ。 いつもティータイムティータイムうるさいのに」

霧島「私が目下勉強中でね。 だから味の批評については大目に見てもらえればと」

「私はそんなに美食舌じゃないけどね」

435 : ◆1VwSTfn.DM - 2015/12/17 21:35:53.73 R5usexqtO 215/334


金剛「フッフフ、席に着きましたネボノエッティ……もう逃げ場はありませんヨー!」

「拘束されてないから逃げ放題なんだけど」

金剛「気分の問題ネ。 さあ! テートクとのデートについて有る事無い事洗いざらい喋って貰いマース!」

「話すようなことは特にない。 以上」

金剛「NO! 絶対にNO! 質問は特盛り山盛りてんこ盛りヨ!」

「私の口から言うことは何もない、以上」

霧島「これは思っていた以上に取り付く島がありませんね、お姉様」

金剛「ぬぬぬ、これではワタシの計画がtrash行き待ったなしデース」

「計画?」

金剛「エエ、テートクがいつになっても誘ってくれないのならワタシの方から誘おうと思ってネー。 で、Planを建てようにもワタシは誰かとデートなんてしたことありませんから……」

霧島「それで、誰か経験者に相談したらどうだろうということになりまして」

「それで私か。 じゃあこないだ来たのって」

金剛「あ、アレは突発的に動いてしまっただけで」

「僅かでも感心しなければよかった」

446 : ◆1VwSTfn.DM - 2015/12/20 16:01:41.63 sPPkTcOmO 216/334


「……アンタはさ、なんだってアイツにそんなご執心なワケ? 金剛ってのはどいつもこいつも惚れっぽいの?」

金剛「中々にシビアなことを言ってくれマスネ……他のワタシについてはnot understandデスが、ワタシだって何も無しというワケではありませんヨ? そう、それはワタシがこの司令部に着任して間も無い頃でシタ……」

霧島「ああ、始まっちゃいましたか」

「長くなるなら100文字以内でまとめてくれる?」

金剛「What's!? It's very shortネ!?」

「えーと、ホワッツで5、6文字でイッツベリーショートでえーと?」

金剛「ノーカン! 今のは絶対no countよ!」

「ああ大変、今のであと70文字切ったわよ」

金剛「オニー! アクマー! ボノエッティの血の色は何色デスかー!?」

「赤」

金剛「そりゃそうでしょーケド!」

447 : ◆1VwSTfn.DM - 2015/12/20 16:36:31.25 sPPkTcOmO 217/334


金剛「着任した当時、ワタシは英国から戻ったバカリで親しい知人もなく右も左もサッパリで正直心細かったのデス……」

「ホントに帰国子女だったんだ」

霧島「話の腰を折るようなこと言わないの」

金剛「ま、憂う間も無く比叡達sistersも着任したんデスが。 その短い間にワタシは提督に心奪われたのヨ……」

「ああ、そう言えば芋づる式に着任して来たわよねアンタ達」

霧島「だから貴方ね」

「ハイハイわかったわかった」

金剛「ある日の海戦の時デス、丁度ワタシはドップリnegativeに満ちていマシタ」

金剛「敵はそれを知ってか知らずか集中砲火をワタシに浴びせ、ワタシは大破してしまい出撃して間も無いにもかかわらず艦隊の撤退を余儀なくされマシテ」

金剛「戦艦としての本懐も果たセズ、相談出来るほどのfriendsもいまセンで情けなくて寂しくて泣きそーになりマシタよ。 っていうか泣きました、布団にこもって」

「アンタも布団になったのね……」

金剛「What?」

「あ、気にしないで」

448 : ◆1VwSTfn.DM - 2015/12/20 21:48:14.54 1ubrvuLQ0 218/334


金剛「大破した艤装の修理中、丸1日部屋の布団にこもっていたワケデスが、心配したテートクが部屋を訪れたんデス」

「あ、思い出した。 アンタその日の翌日から別人て程でもないけど憑き物が落ちたかのように戦果を挙げ始めたのよね」

金剛「Yes、訪れたテートクに同じよーなコトを言ったんデスよ、戦艦として情け無くてしょーがない、friendもいない、ここでどう振る舞えばいいか分からないとかmany、沢山吐き出しちゃいマシタね」

金剛「テートクは呆れもセズ聞いていてくれマシタ。 で、ワタシが全部全部思いをburstし終えた後にこう言ったんデス」

金剛「それならオレが友達になろうか、って! キャー!」

(今のに赤面する要素ある?)

霧島(お姉様は他者からの気持ちに対してノーガードだから)

金剛「イヤまあ最初は断りマシタよ? テートクはテートクですからーって? アンマリ艦娘と密接になるとテートクとしてのCharismaとかがbreakingしてしまうでしょーし」

金剛「だけどテートクは、ワタシには笑顔でいて欲しいから、って……ワー! いつ思い出してもフットーしそうデース!!」ドタバタ

「ん? うーん……その話はクソ提督から聞いたことあるの思い出したんだけど……なんか違うような」

霧島「お姉様の司令関連の話は大体勘違いで出来てるから」

449 : ◆1VwSTfn.DM - 2015/12/20 23:03:34.79 1ubrvuLQ0 219/334


「ふう……ご馳走様。 アンタがアイツのことどう思ってるのかは知ってたけど一応納得したってことにしておく」

金剛「ん? What do you mean?」

「こっちの話。 さてと用件も済んだしさっさと部屋を片付けて退散してもらおうかしら」

金剛「ちょっ、ワタシの用件は済んでないんだケド!?」

「やかましい、人が寝てる間に勝手に模様替えしといて。 片付けるのだって楽じゃないでしょうが、全部アンタ達がやってよね」

金剛「そんなー! 慈悲はないのデスか!?」

霧島「お姉様、自業自得かつ因果応報です」

「模様替えに乗っかったのはアンタもでしょうが眼鏡。 蚊帳の外に逃れようったってそうはいかないんだから」

霧島「ですよねぇ」

金剛「霧島、逃げるつもりだったの?」

霧島「この後装備のメンテナンスをしようかなぁと思ってましたので。 最近良く主砲の軌道が思ったより右寄りな気がしてて」

「あー、それは一大事ね。 じゃあ金剛だけで後片付け頑張って」

金剛「ちょっとー!? いくらなんでも1人で片付けするのは、ハッ! ボノエッティが代わりにhelpして」

「1人で頑張ってねー、私その間に間宮にでも行ってるから」

金剛「ノォォォォォォウ!!」

456 : ◆1VwSTfn.DM - 2015/12/23 06:06:33.54 A2ZJL8Az0 220/334


甘味処「間宮」——


「れ、ぼのやんだ」

「漣? アンタ帰ってたんだ、いつ?」

「4時前くらいかなー、ぼのやんは寝てるし金剛シスターズがごちゃがちゃなんかしてるし? だから報告書だけ置いてスタコラサッサと」

「なんかしてるってなら止めなさいよ」

「その方が面白そうだったからしゃーない」

間宮「あら、曙ちゃんいらっしゃい。 ご注文は?」

「間宮パフェ一航戦スペシャルで」

間宮「……聞き間違えたかしら、もう一度言ってもらえます?」

「間宮パフェ一航戦スペシャル」

「せ、攻めるねぼのやん……胃袋爆発するぜ……?」

「今執務室を金剛に元に戻させてるからね、それまでゆっくり食べるつもり」

「人使い荒いねえ」

457 : ◆1VwSTfn.DM - 2015/12/23 06:29:31.17 A2ZJL8Az0 221/334


「ところで金剛さん以外に誰か執務室にやってきた?」

「入ってきたのは時雨くらいね。 扉の外に気配を何度か感じたんだけど、入って来ずじまいよ」

「気配て」

「私が出歩いてると遠巻きに見るくせに、突撃してくる度胸はないんだなーって。 私は動物園の猛獣か何かかっつうの」

「下手すっと逆鱗に触れそうだからじゃね?」

「そうなんだろうけど。 でもこの距離感が1番イライラする」

「この曙大明神様がなんでも質問に答えてあげるわ! って言えば皆遠慮なしにがっつきにくるよ」

「気が狂ってもそんな愉快な真似はするわけないでしょ」

「とうとう頭のネジが吹き飛んだか、って同情されそう」

「自分で言っておいて」

458 : ◆1VwSTfn.DM - 2015/12/23 06:40:54.08 A2ZJL8Az0 222/334


間宮「えーと、お待たせしましたー、間宮パフェ一航戦スペシャルです」ズダンッ

「効果音がパフェじゃねーぜ」

「うわあ」

「いや自分で頼んどいてうわあってあーた」

「ところで間宮さん、一航戦スペシャルと一航戦盛りとミッドウェー越えってあるけど、この3つてどう違うの?」

間宮「量だけの話になるけど、1番多いのがミッドウェー越えで1番小さいのが一航戦盛りよ」

「なるほど、まるでわけがわからんぞ!」

間宮「加賀さん達がどうしてもって言うから……」

「コレでさえ人の頭一つ分はあるのに、どうなってんのよミッドウェー越え」

間宮「知りたい?」

「聞いただけで胃もたれしそうだからやめとく」

「スペシャルも充分胃もたれの素質あると思うの」

「食べ切れなかったら宿直室にある冷蔵庫にぶち込んどくから、まあ……なんならアンタにお裾分けしても」

「お断りします」

459 : ◆1VwSTfn.DM - 2015/12/23 07:01:12.73 A2ZJL8Az0 223/334


間宮「ところで曙ちゃん、貴方も大変ねぇ」

「ん? それはどういう」

間宮「色んな子が来るでしょう? ここ。 それでつい話が耳に入ってしまうんだけど、昨日からずっと殆どの子が貴方と提督がどうのって話ばかりしてて」

「マジで?」

「もう消しようがないね、この大騒ぎ、HAHAHA」

「黙れ元凶」

「ちゃうっちゅうねん」

間宮「でも、本当のところはどうなの? 貴方と提督がデートしたっていう話は」

「こんなところに伏兵が」

間宮「ああ違うの、曙ちゃんさえ良ければここに来た子達に本当はそうじゃないって風に流布して話題を沈静化させようかと思って」

間宮「あまり注目されてるとどこにも居づらいでしょう? それで、その……」

「女神か……」

間宮「へっ?」

「慈母よ……後光を携えた慈母……」

「メシアは身近なところにいるんだね……」

間宮「そんな、大袈裟ですって」

460 : ◆1VwSTfn.DM - 2015/12/23 07:58:28.53 A2ZJL8Az0 224/334


「そういうことなら話そうかな、だんまり決め込んでるから憶測で適当なこと語られるのよね」

「憶測ってーかまあ憶測なんだろうけど仕方ないってーか」

「まず始めにクソ提督が買い出しだとか言って私を連れ出した。 デートのデの字の欠片も無く」

「で、その時に気付いたんだけど、この鎮守府に来てから私は1度も鎮守府の外に出た覚えが無くって」

「財布もいるしどうせなら買い出しだけめ終わらせずに利用してやろうと思ったわけよ。 ここまではOK?」

間宮「え、ええ」

「最後のだけ聞くとぼのやんすっげぇクソ女だよね」

「あんな奴、ずさんに扱うくらいが丁度いいのよ」

461 : ◆1VwSTfn.DM - 2015/12/23 08:37:08.49 A2ZJL8Az0 225/334


「で、いざ連れ出されてみたら摩天楼に囲まれてた。 ビルすごい都会すごい人おおい変なオブジェもあるしでっかいテレビもあるし何あれ」

「おぼのりさん……いや、ってーか何なん、ぼのやん田舎暮らしガールだったの?」

「ん、違うけど。 艦娘になる以前からあんまり家から出歩いたこともなかったの。 だからあんなの初めてで」

「お、おう……? まあ今はおいておこうか、それで?」

「私の思うまま好きなように街を歩き回ってね。 城みたいのはあるしなんたらタワーには登ったしその辺でクレープ買い食いしたり、お昼はクソ提督の金でファミレスだったけど」

(あー、前例ってそーいうこと)

「昼ご飯食べ終わった後は動物園が近いって言うからそこに行くことになって」

間宮「……あら?」

「おう……?」

462 : ◆1VwSTfn.DM - 2015/12/23 08:54:56.70 A2ZJL8Az0 226/334


「色んな動物を見て回ったなあ。 お土産も買ったし大満足よ」

「で、最後にクソ提督が私にぎゃふんと言わせてやるとか言うから、どうするつもりかって思ってたらなんか縁が無いほど高そうなレストランに連行されたりね。 アレには勝てないわ」

「ぼのやんだけずっこい……というかというか」

間宮「ええと……」

「当初の目的の買い出しは忘れてたけど、まあそんな感じで好き勝手して堪能したけどさ、デートなんて言えるようなことは何もしてないのよ。 漣を筆頭にどいつもこいつも好き勝手言ってくれちゃって困ったもんよ」

「……ぼのやん、漣もさ話が広まったことに関してはまあ、責任の一端は感じていたんだけどさ、そんなん全部吹き飛んだ」

「へ?」

間宮「あの、ごめんなさい、それはどう言い繕っても……」

「え? 何?」

「ぼのやん、当人がどう言い足掻いてもやってることが150%デートやで、諦めんさい」

「……いやアレのどこが」

「ぼのやんがどう感じたのかまでは分からんけれど、もう言い訳しようがないくらいにデートです。 諦メロン」

間宮「ええ……話だけ聞くとこれは、ね」

「ついでに言うとご主人様からぼのやんに楽しんでもらうために連れ出したって言質も取ってるんだよね、もう逃げ場無くね?」

「ぐ、アイツめ、漣にまで言いふらして」

463 : ◆1VwSTfn.DM - 2015/12/23 09:15:31.22 A2ZJL8Az0 227/334


「はー、ニブチン山脈だわ片方はゆけゆけ頑固ちゃんだわでてめーらめん独裁政権でもやってんのかっつーの、漣ちゃんも呆れますよ」

「何言ってんのか訳分かんないけど、私らはそんなんじゃ」

「あんね、流石にもう無理でしょ。 シマウマを10人に見せて9人がシマウマって答えてぼのやんだけブラジルって答えてるようなもんだよ」

間宮「または杏仁豆腐を食べて、1人だけ葛餅だって言い張っているような」

「……そんなになの?」

「いや、ってーかそもそもハナっからぼのやんも認めてんじゃん。 こないだ帰ってきた時にそれデートじゃね?って言ったら顔面トランザムして部屋出てったじゃん」

「あっ……でもその、うぐぅ」

間宮「だ、大丈夫よ、デートしたからって今日明日に地球が爆発するわけでもないんだから、ね?」

「……でも認めたら認めたで余計に口うるさく突っ込んでくる連中が出て来る……たぶん」

「そんな時こそツンドラの本領発揮でしょうがおバカ! それ以上は特に何もないからピーチクパーチク突っ込んでくんじゃないわよ下世話なミーハー共めとかって冷たく突き放しゃーそれで良かろーね! っつーかホントにツンドラか! ぼのやんここ数日で氷解し過ぎやん! やん!」

「で、でもその」

「乙女か!! 奥手か!!いつもの威勢はどこ行ったん!! ブラジルか!!」

間宮「漣ちゃん落ち着いて?」

「漣ちゃんにツッコミやらせんなってそれ縄文時代から言われてるからぁー!!」

464 : ◆1VwSTfn.DM - 2015/12/23 09:35:22.52 A2ZJL8Az0 228/334


「もなかうめえ」モグモグ

間宮「落ち着いた?」

「スンマセン女神様」

「はー…………」ツクエニフセーノ

「ぼのやんはぼのやんでまた愉快なことに」

「どうしたらいいんだろう……」

「何がだよ……何もどうすることないじゃん……ご主人様だってそんな気にしてないっぽいんだからぼのやんも気にしなきゃいーじゃん」

「それが出来ないからこうなんだけど」

「なんでやねん……この話題で真剣になってんのぼのやんくらいなもんよ? でもまあ丁度いいかもね」

「……何が?」

「ウチらってこの司令部ではむっちゃんと並んで最古参でしょ? 数年だけども世話になってるわけだから流石にご主人様に何かしら思うことあるかもだし、ご主人様についてなんか考えてみたらーって」

「……ちょっと違うけど考えてんのよ、ずっと」

「およ?」

「アイツがどう思ってるのか、私はどう感じているのか、とか寝る前から」

「おおう……今朝の妖怪フートンとその目のクマはそーいうことかいね……」

465 : ◆1VwSTfn.DM - 2015/12/23 09:54:21.72 A2ZJL8Az0 229/334


「まあ、今の今まで忘れていたんだけど、忘れたままでいたかったわ」

「ドンマイ」

間宮「最古参って言ってたけど、一応私もいるのよ?」

「あ、そいやそだった。 許してヒヤシンス」

「で、考えてるってなら漣ちゃんはそれに関してどうこう言わないよ。 どんなでも答えを出すのはぼのやんだし」

「だけど考えに詰まったりなんかしたりしたら相談に乗るよ? 友達だかんな! ズッ友やかんな!」

「しないと思うけど……ありがと」

金剛「う〜……ボノエッティ、模様替え終わったデース……」

「あ、ご苦労さん。 思ったより早かったわね、これあげる」

金剛「What……一航戦Special……鬼デスか貴方は」

「頼んだけど、結局殆ど入らなかったから。 肉体労働の後だし丁度いいんじゃない?」

金剛「一航戦Specialはそういう問題じゃないscaleなんデスけど……」

「ドンマイ」

472 : ◆1VwSTfn.DM - 2015/12/27 07:25:26.34 xLLraHD10 230/334


執務室・夕方——


「紅茶セット出しっぱなしじゃない」

「まあ紅茶セットもそうだけど、執務室を何だと思ってるのかって家具多いわよね……大体倉庫の肥やしになってるけど」

「……テレビとソファは来客対応に必要だし出しててもいいよね」

<コンコン

「言ったそばから。 宗教勧誘以外だったらどーぞ」

浦風「や。 調子はどう?」

浜風「どうも」

「…………」ムググ

浜風「苦虫を噛み潰したような顔を……」

浦風「よりにもよって、って感じやねぇ」

「別にいいんだけどさ……何か用?」

浦風「たいした用じゃないんよ、ただ皆あちこちで騒いどるから当の本人はどうしとうかなって、たまたま通りがかったからね」

「別にどうも。 こうして引きこもってれば誰も来ないわよ、アンタ達みたいな物好き以外はね」

浦風「へえ、意外と平気そうにしとるんね?」

「平気だったら引きこもったりしないでしょうが」

浜風「……私のせいですね、ごめんなさい」

「はあ? どうしてアンタが謝るのよ」

浜風「こうなったのはおそらく、私が色々な人に話をしたから……その、貴方と提督の話を」

「思ってもない奴が伏兵だった」

473 : ◆1VwSTfn.DM - 2015/12/27 08:17:29.95 xLLraHD10 231/334


浜風「人と話すのが上手くいかない、という話をしたら潮から何か話題があればいい、とその話を教えてもらって……それで」

浦風「そしたらビックリするくらい広まっとったもんねぇ。 頑張りすぎとも言えるくらいじゃ」

「怒っていいものなのやらどうなのやら」

浜風「すいません……ここまで大事になるとは」

「悪意がないだけに責めたら私が悪者みたいね……別にいいわよ、そんなに気にしなくていいから」

浜風「でも……」

「言い訳しない。 私がいいって言ってるんだからそれで終わり。 目には目をってつもりもないから」

浜風「……そう、言うのでしたら」

「あ、コイツ絶対納得してないわね」

浦風「頭でっかち気味やけんねぇ」

474 : ◆1VwSTfn.DM - 2015/12/27 09:02:09.01 xLLraHD10 232/334


「それだったら罪滅ぼしとして、アンタはクソ提督のことどう思ってるのかでも訊こうかな」

浦風「こぉら曙、まだそんな呼び方して」

「はいはい蒸し返さない蒸し返さない」

浜風「……? そんなことで罪滅ぼしになるのでしょうか」

「どいつもこいつもが私にどう思ってる?どう思ってる? って空気出してるからね、趣向返しみたいなもんよ」

浜風「そうですか……でしたら、ふむ……」

浜風「…………」

「時間かかりそうね、アンタでもいいわよ浦風」

浦風「ウチ? そうじゃのう、やる時はやれるんやから、もう少しシャキッとして欲しいかのう」

「ふーん? アイツがシャキッとしてた試しなんてないけどね」

浦風「何言いよるん、幾つも大きな作戦に参加して戦果を挙げとうのを間近で見とるくせに」

「それを差し引いてでもってことよ、基本アンポンタンなんだから」

浦風「もう、だからシャキッとしぃって思うんよ。 そうしたら曙も提督を見直して呼び方や態度も改めるやろうに」

「どう足掻いたってクソ提督はクソ提督だけどねー」

浦風「はー……筋金入りじゃねぇ」

476 : ◆1VwSTfn.DM - 2015/12/27 10:07:36.83 xLLraHD10 233/334


浜風「……むう」

「まだ悩んでたんだ」

浜風「いえ、その、誰にでも分け隔てなく接する方だと思うのですが、人生の伴侶として連れ添う方と考えるともう少し熟慮が必要で」

「何言ってんのアンタ? 伴侶?」

浦風「あのね浜風、そこまで深く考えなくてええんよ? 曙もそういうつもりやなかろうし」

浜風「そうですか? しかし、どう思うのかと……」

「別に男女仲とかそういう意味で訊いてないわよ、単に印象くらいでいいの。 まあ、印象は聞けたけどさ」

浜風「……もう少し修行が必要ですね」

「今日は修行だとか稽古だとかってよく聞く気がするなあ」

477 : ◆1VwSTfn.DM - 2015/12/27 12:20:33.68 DjlJDlBwO 234/334


————
——


「…………」ジー

那珂「…………」ジー

「……最近アイドルをテレビでよく見るようになったわよね」

那珂「そうだねー」

「今みたいに番組のお天気コーナーとかにまで出てるし」

那珂「この子友達なんだ……」

「そうなんだ……」

那珂「うん……」

「……アンタもそのうち同じ場所に立てるんじゃないの」

那珂「もちろん、狙うはトップアイドルだもん」

「うん、知ってる」

那珂「そっか……」

478 : ◆1VwSTfn.DM - 2015/12/27 12:30:10.98 xLLraHD10 235/334


「……てかなんでアンタ来たんだっけ」

那珂「んー、シフトの確認」

「シフト? 遠征とか哨戒とかって、アイツ大体その日その場で決めてるでしょ」

那珂「うん、だからアイドルの方のシフトと照らし合わせて今週この日のこの時間は出られないよーっていう報告をね」

「あー、なるほど……教えてくれれば伝えておくわ」

那珂「ありがとー」

「ん」

那珂「……明日は1日中お天気だって」

「みたいね」

479 : ◆1VwSTfn.DM - 2015/12/27 12:44:59.04 xLLraHD10 236/334


「…………」

那珂「…………」

「ところでさ」

那珂「何?」

「何この空気、というかなんで静かなのアンタ」

那珂「いや……元気良く入ったのに曙ちゃん生返事だったから静かにした方がいいのかなあって」

「アンタでも空気読むんだ……ただテレビ見てただけだから気にしなくてもよかったのに」

那珂「曙ちゃん、怒ると怖いから……」

「そうかな……」

那珂「そうだよ……最近はそんなドカーンって感じじゃないけど」

「ドカーンて」

480 : ◆1VwSTfn.DM - 2015/12/27 13:18:18.39 xLLraHD10 237/334


「……ねえ、アンタはクソ提督のことどう思ってる?」

那珂「何? 恋バナ?」

「違うわよ……単に何か思うことはあるか、ってだけ」

那珂「なぁんだ、そうだねー……たくさんあるなあ」

「そんなに?」

那珂「……那珂ちゃんはさ、艦娘とアイドルどっちもやってるでしょ? だからって甘えるつもりはないし、どっちも頑張らなきゃいけないけれど、それでも迷惑かけちゃうこともあって」

那珂「それなのにそのことで責めることはなくって、時々ライブにも来てくれて……たぶん、他の人のところにいたら今こんなに楽しくないと思うんだ」

那珂「トップアイドルも目指したいし、艦娘としても頑張りたいのが、私の目標だから」

那珂「うん……いつかちゃんと、お礼したいな……」

「お礼、か……」

那珂「そういう曙ちゃんはどうなの?」

「うっ」

那珂「ほらぁデートしたんでしょ? 皆その話で持ちきりだし? どうなのどうなの? やっぱり好きなの?」

「はい! 無駄話は終わり! アンタも用があるんだったらさっさと済まして戻る!」

那珂「えー? 那珂ちゃんにだけ話させてそれはズルくなーい? テレビ見るくらい暇があるならいいじゃーん?」

「これから忙しくなるの! たぶん!」

那珂「曙ちゃんのけちんぼー!」

485 : ◆1VwSTfn.DM - 2015/12/27 21:54:58.57 xLLraHD10 238/334


宿直室・夜——


「…………」トン トン

<コンコン

「ん、誰?」

「こっちにいたんだ、曙ちゃん。 隣の部屋にいなかったから」ドアガチャ

「哨戒終わったから、その報告」

「ああ。 そう、分かったわ、後で見とく」

「……もしかしてお料理作ってるところ?」

「もしかしなくても見れば分かるでしょ」

「と、とうとう曙ちゃんが自主的に提督にお料理を……!」

「いや、提督は今日1日いないんじゃなかった? それに自分の分だけかもしれないし」

「何を作ってるのかな曙ちゃん!」

「聞いてないね?」

「カレー。 簡単だし」

「カレー! カレーだって! やっぱりそうなんだ!」ピョンピョン

「とりあえず潮は落ち着こうか」

486 : ◆1VwSTfn.DM - 2015/12/27 22:47:11.81 xLLraHD10 239/334


「ああ、愛の伝道師になった甲斐があったなあ……」

「それは関係ないと思うけど。 というか、潮は曙に何か伝道した? してないよね?」

「……そう思うんなら別にそれでもいいけど」

「なんだかさっぱりしてるね」

「無駄に考える時間が多かったせいか周りが騒ごうがどうでも良くなっちゃってね、どれだけ騒がれても私は私だって」

「達観してるなあ、でもそれとカレーは繋がりがあるの?」

「どうだろう。 何か思うことはあると思うんだけど、それが分からなくて、何か思いついたことでもやってみようって、それで」

「ふうん……? よく分からないけど曙がそれでいいならいいんじゃない?」

「どうかしら、カレーで分かるほど甘くはなかったりね」

「作ってるカレー、甘口なの?」

「辛口」

487 : ◆1VwSTfn.DM - 2015/12/28 00:17:17.21 1ghwrIRN0 240/334


執務室——


「カレーは出来たけど」

「……眠いなあ」

「…………」

(何人かに同じことを訊いて、そして帰ってきた答えもそれぞれで)

(皆、アイツに対して大小問わず何かしら思うことはあるみたい)

(そういう理屈で私も何か、って決めたい訳じゃないけれど)

(本当に何もないのは、少しだけ——)

<ガチャッ

提督「おう、1日お疲れさん」

「クソ提督……? アンタ、今日は1日中外にって、まだ8時前——」

提督「ちょっとだけ早く終わってな。 でもこれから本部の方で反省会みてーな会議するっぽいからこっちにゃちょっと寄っただけだよ」

「はあ、そうなの……」

488 : ◆1VwSTfn.DM - 2015/12/28 01:15:53.99 1ghwrIRN0 241/334


「ていうか本部って?」

提督「今更かよぼのやん……鎮守府敷地内で1番でっかい建物がそれな、お偉方のクソジジイ共があそこでふんぞりがえってて、そこでまあ今日の報告とか色々する訳ですよ」

提督「まあ、艦娘からしたらあんまり立ち寄らない場所だしなー、学校で言う用務員室か校長室みたいなもん?」

「よく分からない例えね」

提督「あー、中学行ってねんだったな……ところで良い匂いするけど、カレーか? これ」

「……うん、一応」

提督「へえ、そっか。 ぼのやんはもう食べた?」

「食べたけど」

提督「そうか、じゃあ先にあがっといていいぜ、俺はまだ時間かかるしな。 お疲れさーん」ドアガチャ-

「……忙しい奴」

提督「ああそうだ、お土産のケーキ宿直室の冷蔵庫に入れとくから食べたければご自由にどうぞ」ャチガアド

「あ、うん」

<ッタク、ホーコクナンテテキトーデヨカローガジジードモメ

「……先に、ね。 でも」

「あんなこと言っていたから……待っといて……ふあ……」

500 : ◆1VwSTfn.DM - 2016/01/06 12:00:28.64 R6O+bVHy0 242/334


 誰も彼もが敵だった。

 生前の艦としての記憶があるというだけで否定されては拒絶され、髪色のせいで隠す事も出来ず、かつて味わった理不尽にも劣らない理不尽を子供ながらに感じていた。

 親の都合で転校を繰り返して、行く先々で同じ対応をされ続けて。 次はきっと、という期待などした事がない。

 それでも両親は励ましてくれたりしたが、自分達のせいで不憫な目にという思いを感じて心が痛んだ。

 学校にも味方がいない訳ではなかった。 でも、私を庇うせいでその子まで傷付けられる事の方が辛かったから、自分から拒絶した。 いっそのこと、全員敵の方が気が楽だった。

 生まれを呪った事はない。 どんな形であれ生まれていなければ私はいないのだからと。 諦めていただけかもしれないけど。

 髪を染めて隠す、学校に行かない、とか色々やりようはあったと思うけど、甘えたやり方を覚えたら駄目になってしまう気がして。 生前の記憶がそうさせたのかと思うけど、今では知りようがない。

 悲劇のヒロイン気取りではないけど茨の道を歩み、それでいて解決策は探さない。 なんて不器用な生き方をしていたのやら。

 でも、楽しかった時期はあった。 ほんの数ヶ月とまるで一瞬だったけどかけがえの無い時間。 だけど、それだけでは救われなかった。

 敵だらけの赤い世界を生きる中、限界を感じた私は1つの逃げ道に辿り着いた。

501 : ◆1VwSTfn.DM - 2016/01/06 12:03:27.71 R6O+bVHy0 243/334


幾年前——


「——だから、艦娘になるって言ってるの」

「今なら近くに鎮守府っていう私みたいなのと同じのが集まるところがあるし、丁度いいでしょ?」

「……分かってるよ、艦娘になったら化け物と戦わなくちゃいけないって事くらい」

「国の為にとか、誰かの為にってつもりもないけど」

「だったら——って? また引越しするんでしょ、こないだ話してるの聞こえちゃって」

「そうして引越した先の学校でまた同じ事になって、また心配させて……そういうのはもう嫌」

「だからここで終わりにするの、お母さん達に心配ばかりさせる生活を」

「違う、お父さんのせいじゃない、学校で上手くやれない私のせい、不器用な私のせいだから気にしないで」

「でももう大丈夫だよ、艦娘なんて私みたいのばっかりだろうからイジめる様な奴なんていないよ、多分」

「前向きに考えようよ、鎮守府ってとこでも勉強は教えてくれるみたいだし、任期っていうのが終わる頃なら私が学校に行っても突っかかってくる奴なんていないと思う」

「それにまだ小学生なのにお小遣い——じゃない、お給料貰えるんだから! お父さんのよりおおいかもね、そうだったら焼肉屋さんとか回転寿司とかに私が連れて行っちゃうんだから!」

「……何年かの間だけだから、そうしたら、また一緒に……うん……ちゃんと帰ってくるから……」

「……その名前で呼ばれるのも後ちょっとだけか。 少し変わった名前ともお別れだなあ、こっちも変わってるけど」

「本当に平気かって……平気よ、何とかなるわよ」

「私は駆逐艦の艦娘、曙だから」

502 : ◆1VwSTfn.DM - 2016/01/06 12:05:29.63 R6O+bVHy0 244/334


——————
————
——

執務室前——


(……あ、ここかな)

(しつ務室……ドアの上の札に読み仮名は書いてないけど多分合ってる、はず)

(テートクってのはどんな奴なんだろ……どんな奴でもいいや、私にはそんなの関係無いし)

(上から物を言うだけの奴はクソッタレな奴だって散々夢で見てるから)

「あっ、あああのっ」

「……?」ジロリ

「ひっ」

「……そっちから声かけといて、何」

「あああごこめんなさいそういうつもりじゃそうじゃなくて」アワアワワタタ

「うるさいうざいうっとーしい」

「あぐう……で、でも諦めないから……」

(ほっといて入ろ)ドアガチャ

「ああん! 無視しないでー!」

503 : ◆1VwSTfn.DM - 2016/01/06 12:30:06.96 Z73IwKycO 245/335


執務室——

「ははは、時間ピッタリに元気なのがやって来たな」

「本当ね、ウフフ、初々しいわね」

「……うるさいのはこっちのピンク」

「な、何その呼び方ー! ちゃんと名前あるのにー!」

「知らないし」

「はっ! そう言えばそうだったーって勢いで入っちゃったしあわわわ自己紹介自己紹介あれ? 自己紹介するの? するんだよね?」

「そうだな、それじゃあ先に自己紹介して貰えるかな」

「あハイ! えと、も——じゃない、私はー! えーと! 綾波型漣駆逐艦特型駆逐艦の7番艦です! はい! 噛まないで言えた!」

(どこが)

「えーと書類にはーっと、特Ⅱ型駆逐艦は綾波型駆逐艦9番艦の漣、と。 よろしくな、漣」

「……めっちゃ間違ってた!」ガ-ン

「次は藤色の髪の君だな」

「……その持ってる紙に私の事も書いてあるんでしょ、だったら私から言わなくても」

「それだと紙にある事しか分からないだろう? 俺達は紙にある情報の集合体じゃなくて、ちゃんと肉の身体と心と魂を持った人間だからな」

「……チッ」

(感じ悪いわねぇ)

「化け物の間違いだっつうの」ボソッ

「……特型駆逐艦、曙、以上」

「曙か、確か漣と同じ綾波型だったけな」

「ほんと!? お仲間!」パアッ

「馴れ馴れしくしないで」

「えっ、うん……」シュン

(無愛想で年甲斐もなく可愛げもなくて……)

「……何」ギロリ

「あら、何かしら」

「言いたい事があるなら言ったらどう」

「別に? アクの強い子達が来たなーってだけよ」

(この子と仲良くなる未来は到底見えないわね)

504 : ◆1VwSTfn.DM - 2016/01/06 14:08:41.12 R6O+bVHy0 245/334


「今度はこっちの番だな、俺がこの司令部を預かる提督……? 司令官?」

「どっちでもいいんじゃない?」

提督「かな、まあそういう奴だよ。 名前はまあ……別にいいか」

「えー? 教えてくれないのー?」

提督「どーせ名前で呼ばれずに提督ーとかしれいかーんとかって呼ばれるだけだろうしな! 提督なんてのは記号みたいなもんだぜ」

「あまり卑下しないの」

「……ところでさっきから気になってたんですけど、そっちの人って」

「あら私? そうよね、キチンと説明してあげる」

「私は長門型戦艦の陸奥よ。 よろしくね」

「やっぱり勘違いじゃなかった! 陸奥さんだー! 噂のびっくりセブン! 数多くの艦娘の中でも大和や武蔵などについで数少ないとされる陸奥さんだー! どんな敵もイチコロー!」

陸奥「びっくりじゃなくてビッグよ……そうやって目を輝かせてくれているところ悪いけど、私はまだ期待には答えられないわ」

「え? それってどういう」

提督「あー、とだな、ウチの陸奥……さんは事務員兼受付兼秘書兼色々……みたいな感じで出撃はまだ、出来ないんだ……」

「えーなんでー? どーしてー?」

陸奥「それがね……私の艤装、まだ無いの」

「えっ」

提督「この部屋に来るまでにあちこち立ち入り禁止とか見ただろうけど、この建物はまだ未完成で、司令部自体も発足したばかりでな」

提督「で、本来は新設されたばかりの司令部については大淀って艦娘がついて当面の間は雑務とか色々やってくれるらしいんだけど……人手不足らしくて」

陸奥「そんな時にね、私はこの鎮守府に艦娘として志願を出していたのだけど、そういう訳だからなんて勝手に話を纏められちゃってね。 艤装はそっち持ちでその内開発してくれればいいだなんて、失礼にも程があるわ」

提督「出来立てホヤホヤ司令部にそんな資源の余裕も無い上、配給される資源の割り当てもさして多くもないってのにな……はーあ」

「なんか……どうなんですかソレ色々と」

505 : ◆1VwSTfn.DM - 2016/01/06 15:10:41.97 R6O+bVHy0 246/334


提督「まあそんな訳で、君達は現状のウチの大事な戦力って状態だな。 これからよろしく頼むよ」

「おお……陸奥さんが残念なのは残念だけど、ツートップみたいな感じ! いい!」

陸奥「残念残念って言われるとお姉さん悲しくなっちゃうぞ?」

「わわ、ごめんなさい……えっとじゃあ、これから頑張ろうね! 曙ちゃん!」

「私の部屋はどこにあるの」ズイッ

「……あのう」

提督「……出て曲がって、いや、鍵渡すよ。 渡そうと思って置いといたんだけど、どこやったかな」ガサゴソ

陸奥「ねえ貴方、これから一緒に過ごす子に対してそれはないんじゃない?」

「くだらない話を聞かされた身にもなってよ、アンタ達の身の上話なんか私からすればどうでもいいんだから」

提督「ははは……ごもっともだ」

陸奥「ごもっとも、じゃないでしょ? 貴方もその態度、流石に目に余るわよ」

「余るなりなんなり勝手にして。 仕事はする、でも用が無い限り話しかけないで。 他人と馴れ合う気なんて無いから」

「…………」

陸奥「……貴方ねえ!」

提督「まあまあ、抑えてくれよ陸奥さん。 ほら、部屋の鍵だ」チャリッ

陸奥「抑えろって、貴方も人の上に立つ立場ならもう少しはらしくしてよ!」

提督「してるさ、俺なりにな」

「……ヘラヘラして貫禄の欠片も無い」パシッ

陸奥「次から次へと……!」

提督「貫禄が無いのは事実だ、なんせ辛うじて酒が飲めない年齢だからな」

「わっか!? 提督、ってそんな簡単になれるの……?」

提督「近年はハードルが下がってるらしいけどな、これでも昔は神童だのと持て囃されてまして」

「……くだんない」ドアガチャ

バタン

507 : ◆1VwSTfn.DM - 2016/01/06 15:39:55.09 R6O+bVHy0 247/334


「…………行っちゃった」

陸奥「何よあの子! 曙の艦娘の特徴は聞いていたけど、漣ちゃんにまで辛辣に当たる必要ないでしょ!?」

「あ、えっと、漣は……そんなに気にしてませんから」

提督「いやあ、キレッキレだったな。 いっそ清々しいくらいだ」

陸奥「何をふざけた事を言ってるのよ、貴方提督でしょ!? ビシッと叱ってやってよ! それとも甘やかすつもり!?」

提督「甘やかすつもりなんてないよ。 何でああまで辛辣なのかは分からんが、まだ顔を合わせたばかりだ。 長い目で見てやってくれないかな」

陸奥「……よくあんな子供に生意気な口を利かれて平気でいられるのね、貴方の方が年上なんじゃ」

提督「平気だと思う?」

陸奥「え……」

提督「それよりもだ、悪いな漣。 曙はあんな調子だけど……仲良くしてやってくれるか?」カガミーノ

陸奥「提督……?」

「……同じ艦娘だったら仲良くなれるって、友達になれるかもってそう思ってたの……ん、です」

「だから、あんな風に言われても諦めない、ません! わた、漣はしつこいから!」ピシッ

提督「そっか……敬礼はこうだな」ビシッ

「あわわ」ビシ-

提督「漣にも部屋の鍵、渡しとくよ。 曙の事頼んだぜ」

「うん!」

提督「返事ははい、だな」

「はい!」

508 : ◆1VwSTfn.DM - 2016/01/06 15:46:23.49 R6O+bVHy0 248/334


一旦中断すでのな

そんな訳で過去編入ってます。口調違い過ぎて別人だらけです。主に漣

それにしても作中で語り切れてない設定の多いこと。作中では鎮守府というのは複数の司令部の集まりの一単位だとか。本名についてだとか。

それとなくは言ってますが分かりにくかったら申し訳ないです。話に直ちに影響を及ぼすものではありませんけど

511 : ◆1VwSTfn.DM - 2016/01/06 22:58:20.62 R6O+bVHy0 249/334


————


(……ここかな、鍵に付いてる棒の番号と同じ番号がドアに書いてあるし)ドアガチャ

(流石に出来立てなんて言うだけはある、壁はシミひとつ無いしフローリングも近付ければ顔が反射して映りそう)

(しばらく過ごすには充分かな……でも気になることがある)

(私の荷物が届いてるのはともかく、見慣れない荷物の山)

(それと2つある机と椅子のセットに2段ベッド、少し考えたら気付く1人用の部屋としては広い感じ)

(これって、もしかして)

ガチャッ

(鍵の閉まる音……)クルッ

「ふ、ふふ、ふふふふふ、つ、つーかまーえたー……なんて」

「…………」ジトリ

(ひいっ、やっぱり怖い目が怖いっ)

512 : ◆1VwSTfn.DM - 2016/01/06 23:19:06.73 R6O+bVHy0 250/334


「……なんでアンタが」

「いやっそのなんでも何もその……この鍵の番号に従っただけとゆーか……その……」チャリッ

(同じ棒のついた鍵……)

「で、でもさっきは逃げられらけど! 今はこのわたー漣様がドアの守護神だから! 逃がさないから! うん! じゃないはい!」

「…………」

「とゆーわけで、諦めてー……漣とお友達に……」

「」ズイ

「ひうっ」ズサッ

「」ズイッ

「あ、あのう……話聞いてる……」ドアビターン

「」ズイッ

「あうう……」オメメグルグル

「のいて」

「ひゃい……」ペトン

「……あのクソテートク」ガチャッ

「ふええ……なんであんなにおっかないの……」

「——じゃなくて! 逃しちゃったし! 待ってよー!」

513 : ◆1VwSTfn.DM - 2016/01/06 23:58:03.77 R6O+bVHy0 251/334


執務室——


ドアガチャ

提督「ん、用がなんたらと言う割にはお早い対面で」

陸奥「ノックぐらいしたらどうなの?」

「アイツと部屋が同じだなんて聞いてないんだけど」

提督「そりゃ言ってないし、訊かれなかったからな」

「チッ……大人が小学生みたいな屁理屈を」

陸奥「……態度もさることながら、その言い方。 思っていたのと違うから部屋を変えろと言っている風に聞こえるのだけど」

「言う手間が省けたわ」

陸奥「いい加減にしなさいよ!!」

「ひっ」ビクッ

提督「お、漣も来たか。 こっち来いこっち」テマネキシーノ

「な、な、なぬ、何が何……?」ビクビク

提督「聞いてりゃ分かるさ、にしても陸奥さんて沸点低いのかな」

(なんでこの人は全く平然としてるの……?)

520 : ◆1VwSTfn.DM - 2016/01/08 12:12:05.58 gR5KvVRw0 252/334


陸奥「ワガママで横暴で冷徹で自分勝手で、10分もしないでよくもまあこれだけの悪印象を残せるわね、目に余るなんて言葉じゃ済まないわ!」

「余るなら勝手に余らせとけば」

陸奥「半人前の癖に悪態だけは一人前ね、ボイスレコーダーに録音してタコが出来るくらい聞かせてやりたいわ!」

「そんな長い時間黙って聞いてる訳ないでしょ、馬鹿じゃないの?」

陸奥「っ、次から次へと減らない口ね」

「余ってる分は減らさないと溢れるから仕方ないんじゃない」

陸奥「ホント、どんな育ち方したらこうも可愛げもなくのかしらね!」

「……アンタに何が分かんの」

陸奥「教えて貰わなくても分かるわよ、大層大事に甘やかされて育ったんでしょうよ! 何を言っても許される環境でワガママも言いたい放題、他人の迷惑をかけようが気にも留めないような!」

「て、提督さん……」

提督(流石に不味いかな)

「……黙んなさいよ、何も知らない癖に」

陸奥「知らなくたって分かるって言ったでしょ、昨日今日までそうだったとしてもいつまでも小学生気分でいられるとこっちが迷惑なのよ!」

「っとにうっざい、叫ぶしか出来ないならホントに黙って」

陸奥「チッ、良いわよ、よく分かった、曙ってのはやたらと手がかかる艦娘だって噂は聞いてたけど本当みたいね! アンタなんて何処行っても同じよ!!」

提督「おい陸奥……」

(何処に行っても——)ギリッ

「私の事何一つ知らない癖して勝手に決め付けて喋ってんじゃねーよ乳デカ露出女っ!!」

陸奥「なっ、が、誰が、こんな格好好きでする訳がっ!!」ブンッ

「!!」

バシンッ

521 : ◆1VwSTfn.DM - 2016/01/08 12:17:22.18 gR5KvVRw0 253/334


「……っ」

(……痛くな——)チラッ

提督「ぐっふぅ!」ドタッ

「なっ」

陸奥「提督!?」

提督「おーいってえ……陸奥さんの全力ビンタ半端ねえな……こりゃしばらく痕が、いだだ」

陸奥「ちょっと、どうして……」

提督「……手を上げちまったらもう戻れない、そう思っただけ」

陸奥「っ、でも」

提督「でももだっても無し。 子供相手にマジギレすんなよ、その上買い言葉に売り言葉じゃあアンタも同罪だぜ?」

陸奥「…………」

「……何よ、庇って恩でも着せるつもり?」

陸奥「またそうやって……!」

提督「この程度で恩を感じてくれる様ならさっさと庇ってるに決まってるだろ?」

「それは……」

提督「でもまあ、見過ごせなかったのはこれだけじゃない、いつつ……流石に行き過ぎたワガママを看過出来る程俺も寛容ではないよ、曙」

「……でも、私は独りの方が」

陸奥「此の期に及んでまだ——」

提督「そこで妥協案だ」

「……妥協?」

提督「曙のワガママを通すのであれば、本来同室の漣のワガママも通るべきだと思うな、俺は」

「漣の……?」

「そんな理屈が……」

提督「道理の通らないワガママを通そうとしていたお前さんにゃ言われたくないな?」

「……チッ」

522 : ◆1VwSTfn.DM - 2016/01/08 12:29:59.16 gR5KvVRw0 254/334


「えーと……?」

提督「さあ漣よ、何でもワガママ言ってみな。 この絶対零度ガールのワガママを成り立たせるには君にも何か好きにさせてやんないと釣り合いが取れないからな」

「何、その言い方」

「わた、漣は……、……何でもいいの?」

提督「俺の財布の許す限りで頼む、まだ給料貰ってないから……」

「……離れたくない」

「曙ちゃんは独りがいいって言うし、ちょっと怖いし、何考えてるのかよく分かんないけど……それなのに離れ離れになったらお話も出来なくて、友達にもなれないから……」

提督「ええ子や……」

陸奥「提督、余計な茶々入れないで」

提督「あ、はい」

「余計なお世話よ」

提督「」

「……曙ちゃん」

「馴れ合う気は無いって言ったでしょ、これだと1人部屋になってもコイツに付きまとわれるって事じゃない、私が一方的に不利な決め事じゃん」

陸奥「……アンタはどうしてそんなにも頑なに——」

提督「よーしわかった! じゃあ俺もこの件については話を一切受け付けん、強行採決な!」

陸奥「えっ」

「へ」

「は?」

提督「だってしょーがないだろ? 曙のワガママをただで通す訳にもいかないし、その曙は妥協案も受け入れる素振り無しと来たからもう俺が決める、異議申し立ては一切受け付けないからよろしく!」

「そんな勝手な——」

提督「勝手も横暴も百も承知ってな! なー陸奥さん、家具とかの倉庫って何処だっけ」

陸奥「え? 部屋を出て左……宿直室の隣だけど」

提督「おっけサンキューさん、さて目当ての物はあるかなっと」ドアガチャ

陸奥「…………」

「…………」

「……行っちゃった」

523 : ◆1VwSTfn.DM - 2016/01/08 12:50:50.94 gR5KvVRw0 255/334


「…………」

陸奥「…………」

「……ど、どうしたら」

陸奥「どうしたらって……どうするの」

「え、何で私」

陸奥「アンタが原因みたいな、というか原因じゃない……」

「……知らないわよ、アイツが何をするつもりなのか分かんないのに」

「でも、目当ての物が何かって……目当ての物ってなんだろ」

「……さあ、首吊り用の縄とか」

陸奥「そんな縁起でもない事言うんじゃないわよ」

「……でもあれ、怒ってんの? 怒ってないの?」

「……分かんない」

「……アンタは何か」

陸奥「彼と顔を合わせたのは昨日が初めてなのよ、そんなんで人となりが分かる訳ないじゃない……」

<ゴトン

「ひっ」

陸奥「な、何?」

<アークッソオモテェナ、ミタメイジョウダナコリャ…

「……探し物は見つかったみたいね」

「部屋、通り過ぎてっちゃった……」

陸奥「そうね……」

「…………」

陸奥「…………」

「……追わなくても……?」

陸奥「良い予感はしないわね、行きましょう」タッ

「もう、何だってのよ、訳分かんない」タッ

524 : ◆1VwSTfn.DM - 2016/01/08 13:35:51.23 gR5KvVRw0 256/334


廊下——


「ところで、提督さんはどっちに……」

陸奥「どっちも何も、さっきの音からして倉庫とは反対の方なのは確かでしょ、それにさっきまでの話の流れからすれば」

「……部屋か」

「部屋? あ、いた、見えた! けど、部屋に入って……あそこは私達の?」

陸奥「ここまでは予想通りだけど……何をするつもりなの?」

「まさか爆発でもするんじゃないでしょうね」


陸奥「提督!」ドアガチャ

「アンタ一体何を——」タタッ

提督「せ、えぇのっ!!」ブォンッ

ドバンッ!

陸奥「」

「」

「」

提督「ぬぉっとと、思いの外硬いというか力不足と言うか……」ヨロヨロッ

提督「……ん、どしたの皆? 危ないから離れてな」

「は、はんまー……?」

提督「お、いいだろコレ。 倉庫に壁壊すのに丁度いいのないかなーって駄目元で探してみたらあってさー。 でも流石に重いのなコレ」

「えっ」

陸奥「ちょっと待って、サラッと言ったけど今なんて?」

提督「だから壊すんだよ、壁」

525 : ◆1VwSTfn.DM - 2016/01/08 14:06:09.41 gR5KvVRw0 257/334


陸奥「壊、って何を馬鹿な事言ってるの!?」

提督「確かに馬鹿げてるけど、俺はいたって大真面目だぞ? 壁壊して隣の部屋と繋げて、部屋が広くなれば曙も干渉されない程度のパーソナルスペースは確保出来るし、逆に漣も曙に必要な時に構う程度の事は出来るだろうし。 やー、我ながら見事な折衷案」

「だからって壊すなんて馬鹿よ! 馬鹿じゃないの! 大馬鹿よ! だったら私が隣の部屋に行けばいいだけじゃん!」

提督「他にもメリットはあるんだよなー、いずれ他の艦娘が着任するかもしれないし、そんな時に同じ綾波型の子が来たら広くなったこの部屋に入れてやれる。 同型の艦娘なら初対面でもそこまで緊張せずに済むんじゃないか?」

「……なるほど?」

陸奥「納得しちゃ駄目よ」

「だからって他にやりようが……こんな当てつけみたいなやり方やめてよ……」

提督「当てつけ? 何言ってんだ、俺がやってみたいからやってるだけだっての」

提督「障子を破いてみたり、高そーなツボを割ってみたりとか、やっちゃいけない事への忌避感を気にせずに何かを思っきしやってみたかったんだよなー」

陸奥「それにしたって飛躍し過ぎだから! 修繕費とか諸々どうするのよ!」

提督「色々テキトーに騙くらかしてぶん取る!」

陸奥「それだったら普通にリフォーム代請求すれば良いじゃない! と言うかこの建物一部が未完成って言うならそれに乗じて!」

提督「……なるほどな? でも壁壊したいなー」チラッ

陸奥「スイカでも叩いてて……」

提督「まだシーズンじゃないやん……」

527 : ◆1VwSTfn.DM - 2016/01/08 14:48:10.56 gR5KvVRw0 258/334


提督「ま、しゃーなしって事で。 とりあえずその内業者呼ぶから、そういう事でいいかな、漣」

「えっ、うん……はい」

提督「曙も、それでいいか?」

「…………」コクン

提督「よしっ、とどうしようか? 訓練でもと思ってたが、来たばかりで気疲れしてるだろ? 司令部敷地内でも旅行するか? 旅行ってーか下見? 散歩?」

「あ……荷物の整理とかが……」

提督「ん、おおう、凄え量だな……ならまた後でだな、何かあったら部屋に来てくれなー……ハンマーを倉庫に戻さなきゃじゃん、あーだる」ドアガチャ

陸奥「…………」チラッ

「…………」

陸奥「……じゃあ、またね」ガチャ-

「はーい……」

「…………」

「……叩いた跡凄いね、へこんでる」

「…………」

「……ハンマーって思ってたより小さいんだね、初めて見たけど」

「…………」

「……曙ちゃん、大丈夫……?」

「……今はちょっとほっといて」スタスタ ゴロン

「……お昼からベッドに転がってると妖怪フートンがやって来るよ」

「何よそれ……」

539 : ◆1VwSTfn.DM - 2016/01/11 10:44:35.98 JlDmZiwDO 259/334


執務室——


提督「あ゛ーあ助かったーあ……」ダラーン

陸奥「ど、どうしたの急に? と言うか、何が……」

提督「どーにかキレずに済んだって話……いやー危なかった危なかった」

陸奥「え」

提督「まあ陸奥さんのお陰だけどな? 目の前で感情爆発させてる人がいるとかえって冷静になるもんだな」

陸奥「ちょっと待って、貴方内心では怒ってたの? いや、壁をハンマーで壊そうなんて人が怒っていないはずないと思うけど……」

提督「そら小生意気なガキンチョ見てたら苛立ちくらい溜まりますよ、ぷんすこ! 俺は聖人君子じゃないんだゾ!」

陸奥「急に説得力が灰塵と化した気がするわ」

提督「ま、マジな話年上っつーか大人が子供を寄ってたかってガミガミ言うのはよろしくないと思ってるからな。 俺はまだガキみてーなもんだけどアイツらからしたら大人だし、一応さ」

陸奥「……考えてるんだ」

提督「人様の娘を預かる身分ですから。 でも陸奥さんはキレ過ぎだな」

陸奥「うっ」

提督「慣れない環境、予定外で想定外の事務役、小生意気な子供、その他諸々豪華絢爛ストレスのフルコースみたいなもんだけどさ。 もう少しテキトーでもバチは当たらないぜ?」

陸奥「……年下に人生観を説かれるのは何かシャクに触るわね」

提督「1つ違いなら誤差って事で。 アンタも俺も大人の余裕を持つのはこれからよ」

提督「それまでは精々見栄張ってそれっぽくしないとな。 あー、胃が痛くなりそう」

540 : ◆1VwSTfn.DM - 2016/01/11 11:20:56.91 7P4cIQZt0 260/334


陸奥「こっちはこっちとしても、まだ問題はあるわよね」

提督「曙だろ? まあなんとか仲良くしてやってくれよ」

陸奥「…………」ガチャ

提督「ドア開けて何しとんの」

陸奥「いや、この手の話をしてたら実は外で聞いてました的な……あるじゃない?」

提督「聞いてました的な話をするつもりだったのか……」

陸奥「正直に言わせてもらうけど、ここに置いておかない方がいいわよ、あの子」

提督「ほう? そらまたなんで」

陸奥「これから先、貴方も言っていたようにここもいずれ人が、艦娘が増えていくでしょう」

陸奥「その度に誰彼構わず喧嘩を売って、場を乱しては空気も険悪にして、司令部の士気や風紀にも影響が出ないとは限らない」

陸奥「そうならなかったらならなかったで、あの子の居場所は無くなる。 そういう空気に飲まれなかった子達に疎まれ、排斥されて、何処にも居られなくなるわ」

陸奥「恩着せがましいけれど、ここにいない方があの子の為だと思うの。 集団生活には向いてなさすぎるし、曙の艦娘だからって理由を通すのも無理と限度が……」

提督「まるでアイツの全部を知ってるみたいな物言いだな?」

陸奥「知らないけれど……さっきまでのやり取りで概ね把握出来るでしょ?」

提督「時期尚早、決め付けるには早過ぎるな。 アイツにはまだまだ時間をかけてみるよ」

541 : ◆1VwSTfn.DM - 2016/01/11 12:01:25.94 7P4cIQZt0 261/334


陸奥「……あ、そうだ湿布……」ガサゴソ

提督「湿布?」

陸奥「さっき叩いちゃったでしょ? 痛くないの?」

提督「……意識したら痛くなってきた」

陸奥「ごめんなさいね、今思い返すと凄くみっともない……はい、顔出して」ペター

提督「いつつ、まあそんな事もあるって」

陸奥「……でも、どうしてあんなにあの子のことを庇う、いや、庇えるの? 比べて大人だからってだけじゃ理由に欠けるんじゃない?」

提督「んー? んー……似てるから?」

陸奥「似てる? 誰に?」

提督「俺に」

陸奥「貴方に?」

提督「っても今より前の、だけどな」

542 : ◆1VwSTfn.DM - 2016/01/11 13:02:06.37 7P4cIQZt0 262/334


提督「まあざっくり言うとな、ガキの頃周りより少し出来る子程度でチヤホヤされてた俺は他の連中を俺より出来ない雑魚みたいに思っててな、調子に乗ってたのよ。 雑魚が擦り寄って来んなってな」

提督「思うだけならまだしも、それが言動や態度にも表れてたからさあ大変。 周りは見事に敵だらけになりました」

提督「大人にだけ都合良くしとけばどうにでもなったのを理解してたし、それが余計にぼっちを加速してたなあ……これが小学生時代ね」

提督「中学に上がっても変わらねえな、人間関係もそのまま繰り上がるだけだしわざわざ寄って来る奴もいないわな」

提督「でもなー、所詮小学生レベルで多少頭抜けていたところで意味ない訳よ、馬脚を現すとでも言うのかな? 小学校では神童でも、中学校では上から数えた方が早いだけの性格悪いクソガキでしかなかった」

提督「いやー、流石に堪えたなあ……事の問題にはすぐ気付いたけど当時の俺ではどうしようもなかった」

提督「だから逃げる事にした、救いようのない人間関係から。 っても中学辞めた訳じゃなくて、卒業まで耐え抜いてその間勉強して逃げる為の選択肢を増やそうってな」

提督「そしたらまあ……この道を選んでたよ。 選んでたってーけどハードルも相応に高かったしギリッギリだったけどな?」

提督「けどまー、リセットされた人間関係は気楽だったなー。 人付き合いなんてまともにした事なかったけど貶さず驕らずありのままでいればそれでいいんだもんよ。 やーホント周りに恵まれたなあ」

提督「でまあ、その頃にようやく昔の俺は自分から敵を作ってたって気付いた。 おせーよっての」

提督「それで……あ、陸奥さん外確認してもらってもいい? いや、実は聞いてましたなんてされてたら恥ずかしゅーて敵わんわ、こんな話」

543 : ◆1VwSTfn.DM - 2016/01/11 14:06:54.77 7P4cIQZt0 263/334


提督「——で、そんな経験をしたからか、曙がガキの頃の俺と被って見えたんだよな。 初対面なのに」

陸奥「それって、あの子も驕り高ぶってるってこと?」

提督「や、敵を作る目をしてた。 初対面なのに仇でも見るかのよーな視線だったし。 それも俺に限らず漣と陸奥に対してもだ」

陸奥「よく見てるのね……でもどうして」

提督「おかしいよな、こっちゃまだ何もしてないんだし。 いや、ガキの俺みたく周りは雑魚思想してるならまだしも別にそういう訳じゃなさそうだし」

提督「……馴れ合う気はないとか言ってたけどね? うん」

提督「曙の過去は知らん、理由も分からんが敵を作る生き方をしていたのは分かる。 それも多分俺以上に」

提督「だからかな、この子の敵にはなっちゃダメだ、って。 味方でなくとも、敵になったらガキの頃の俺と同じになっちまうんじゃないのかってな」

提督「艦娘だろうと何だろうと、子供がそんな荒れ果てた人生を少しの間だとしても過ごす必要はないだろ?」

陸奥「……凄いのね、会って間もないのにそんなに考えていただなんて」

提督「だってこれ今考えた後付けだし」

陸奥「えっ」

提督「俺のしてた行動に今理由を当てはめただけだよ、アニメや漫画じゃねんだからそんな一瞬で過去なんて振り返られないって」

陸奥「……なんか、台無しね」

提督「でも嘘ではないさ」

544 : ◆1VwSTfn.DM - 2016/01/11 14:39:51.86 7P4cIQZt0 264/334


提督「ま、そんな訳だ。 仲良くしてやってくれよ」

陸奥「……私はもうあの子に敵認定されていてもおかしくないんだけど」

提督「昨日の敵は今日の憎たらしい隣人ってことで」

陸奥「それ、解決してないわよね?」

提督「まあまあ、多少は思いの丈ぶつけ合った方がいいんじゃん? 物理攻撃はNGだけどな」

提督「喧嘩はしても相手は貶さない。 これでいいんだよ」

陸奥「簡単に言ってくれるわね……そうだ、1つ訊きたいんだけど」

提督「なんじゃらほい」

陸奥「さっきのアレ、貴方、本気で壁壊すつもりだった?」

提督「まさか。 話が面倒臭くなりそうだったから暴走したフリしただけだよ。 陸奥さんが止めて有耶無耶にしてくれんだろって沸騰寸前の投げやりな思考だったけどな。 でも助かったよ」

陸奥「はあ……どういたしまして」

545 : ◆1VwSTfn.DM - 2016/01/11 15:38:08.78 7P4cIQZt0 265/334


————
——

曙と漣の部屋・夕方——


「ん……」パチ

(どこ、ここ)ムクリ

「あ、起きた……? おはよう曙ちゃん……」

「……? あー、そっか、家じゃないんだ……」

「……て言うかアンタ、何その、数」

(漫画やらノートやら、絵本やらが床を埋め尽くしてる……その犯人はノートパソコンでなんかしてるし)

「え、あ、わわゴメン、整理しようと思ったらその……つい、へへ」

「…………」ジトー

「ひええ……で、でも本棚もないし机の上も限度があるしぃい……」

「……勝手にすれば、片付けるのはアンタだからどうでもいい」フイッ

「う、うん……」

(……漫画とかは分かるけど、なんで絵本……)

(いや、どうせいつか離れ離れになる奴の事なんか深く考えなくていい、よっぽどじゃなきゃ離れ離れになっても続きやしないんだから……)

546 : ◆1VwSTfn.DM - 2016/01/11 17:03:30.71 7P4cIQZt0 266/334


<コンコン

「ん」

「はーいぃってよくないぃい!?」ドタバタバタン

提督「スマン、もう遅い」ドアガチャ

提督「って、あらまあ、凄い散らかりっぷりだな」

「ううう、これはそのぅ……」

提督「はーん、漫画や絵本ねえ……必要なら本棚買ってやろうか?」

「えっ」パアッ

「ふん、甘やかしちゃって」

提督「まあそう言うない。 ところでどうだ? ちょっと早いけど夕飯にでも」

「夕飯……?」

「そう言えば食堂があったような……」

提督「あー、食堂な、あるにはあるけど炊事係がいなくて……ってか君ら以外にいないからな、艦娘」

「何、じゃあ私達に作らせるわけ?」

提督「いずれはそういうこともあるかもな。 今日は、てかしばらくは君らが作ることはないさ」

提督「それに今は4人しかいないんだ、どうせなら執務室で一緒に食おう」

552 : ◆1VwSTfn.DM - 2016/01/13 06:40:13.98 lP1NbTtnO 267/334


執務室——


「…………」

提督「おう、どーしたそんな目をして。 親の仇でも見るように」

「……アンタ、常識って知ってる?」

提督「知ってるか? 常識というのはそいつがそれまでの人生経験によって培われた偏見であると昔の偉い人が——」

「そーゆー事が言いたいんじゃなくて」

「」

「コイツなんて気まずさで凍り付いてんじゃん」

提督「気まずさ、と言うなら原因は分かってる訳だろ? つまりはそういう事ですよ」

「……だからってさっきの今なんてのはないでしょ」

陸奥「私だって反対したわよ、いくらなんでもって。 ハイお待たせ」ゴトッ ゴトッ

提督「やったーカレーだー!」

「……子供か」

陸奥「残念ながら子供にはまだ早い辛口です」

「あっそ、お生憎だけど私は辛口でイケる口なの。 残念ね」

陸奥「当然の様に愛嬌ないのねー、子供じゃなかったらクソガキかしら?」

「そっちも反省してないんじゃん、乳でかヒステリーさん」

提督「ホントでかいよなあ」マジマジ

陸奥「…………」パシーン

提督「いったい! 何で俺!? ってかそのハリセン何処から出したの!?」

陸奥「ゴメン、今叩くなら貴方だと思って」

「ドスケベクソテートク」

553 : ◆1VwSTfn.DM - 2016/01/13 07:04:26.74 yws22JCn0 268/334


提督「やーまあ、いつまでも喧嘩されてる方がうぜーからとっとと同じ釜の飯食って仲直りしたらどーよ? って魂胆でな」

「直る仲がないのに」

提督「ないなら作れば良いのです」

「馴れ合いはしないって言ったでしょ」

陸奥「ホンット可愛くないわねーこの子。 こっちは一応でも和解するつもりはあるって言うのに」

「愛嬌ないとか言っておいてどの口が」

提督「はっはっは、喧嘩するほど仲が良いってな!」

「アンタが1番ウッザイ」

提督「褒め言葉として受け取っておこう」

「」

陸奥「おーい漣ちゃーん、起きてー。 息してー。 この場何とかしてー」

「荷が重過ぎる」

「はっ、えーえんとうさぎの数を数えさせられる地獄に落ちる夢を……うさぎがいっぴきうさぎがにひき……」

提督「安心しろ、まだ地獄だから」

「分かってんならその地獄を作り出す真似してんじゃないわよ、馬鹿なの?」

陸奥「貴女、少しは提督に敬意を払ったらどうなの? 一応上官なのよ? 一応」

提督「ねーねー、陸奥さんからの評価下がったの俺? 一応連呼はやめようね?」

「こんな奴に敬意を払う前に誠意を見せてもらいたいもんだわ、敬意の前払いなんかまっぴらゴメンよ」

「」ギョルン

提督「まーた白目向いちゃってまあ」

554 : ◆1VwSTfn.DM - 2016/01/13 07:18:38.43 yws22JCn0 269/334


提督「まあんなこったどーでもいーからカレー食べようぜ、カレーを熱い内に食べるって諺があるだろ」

「無いし」

陸奥「寧ろ貴方は多少冷えてもらった方が丁度いいと思うの」

提督「俺寒いの嫌いなんだけど」

陸奥「物理的にじゃなくて」

「」

「アンタはいつまで固まってんの」クチニツッコミーノ

「」パクッ

「」ダラダラ

提督「お、戻った」

陸奥「でもスゴイ顔してるんだけど……大丈夫?」

「からい……」ウルウル

陸奥「もしかして辛いのダメだった!? ゴメンね! えーと今から作り直すと時間かかるでもえーと」ガタドタバタアタフタ

「らいじょぶれふ……おとなのかいらんってやつ……」

提督「辛口カレーと作り方見ないで鶴を折るのは大人の階段の代表だよな……」

「低過ぎる大人の階段」

555 : ◆1VwSTfn.DM - 2016/01/13 08:01:38.05 yws22JCn0 270/334


提督「漣には大人の階段を登ってもらうとして、いただきまーす」

陸奥「いただきます」

「さきにいたらいてまふ……」

「……いただきます」

陸奥「意外に素直に食べるのね、アンタの作ったのなんかいらないって言うのかと」

「余計なお世話よ……食べ物に罪は無いし」パクー

提督「おっ、いい言葉。 食事時にまで乱痴気騒ぎ起こされてたら流石の俺様も堪忍袋の緒がバーニングしてたぜ」パクー

「さっきも充分気が触れてた様に思えるけど……ッ!?」ゲホッエフッゲフン

提督「おおう、どーしたいきなり」

「の、喉が、焼け……げほっ」

陸奥「あーら? やっぱりお子様には早かったみたいね?」

「これ、そんなレベ、るじゃ……」

提督「どーやら曙はまだ大人の階段を登り切っゴッホォゥ!!?」

陸奥「えっ」ビクッ

提督「き、気管にダイレクトアタックはズルい……」

「こんな大人の階段なら登らなくていい……」

「」

提督「ああ! 漣があまりの辛さに階段の道中で気絶している!」

陸奥「ええ……? そんなに辛いかしら……」パクー

陸奥「…………」

提督「……無理すんな陸奥さん」

陸奥「…………大人の階段なんて無くなればいいのよ」

「こんな階段脇道に決まってる」

提督「よく見たら結構赤色してるな……」

陸奥「一味唐辛子振り入れてる時にクシャミしちゃったんだけど……もしかしてその拍子に」

提督「ドバッとしてゾバーって流れ出たか……」

陸奥「……あと8人前はあるから数日間頑張りましょう」

「1人で処理しなさいよ……」

「うさぎがにじゅうきゅうひきうさぎがさんじゅっぴき」

提督「またうさぎ地獄に堕ちてらあ……」

557 : これから寝るのでしばらくまた後で ◆1VwSTfn.DM - 2016/01/13 09:10:14.25 yws22JCn0 271/334


————


「うさぎがひゃくいっぴきわんちゃんうさぎがひゃくにひきうさぎが」

提督「おーい、蘇れー」ホッペブニー

「はっ、うさぎをえーえんと」

提督「それはもういいから」

「……カレー食べるたびに今夜の事思い出しそう、苦いどころか辛い思い出ってね」

陸奥「返す言葉も無いわ……」

提督「カレーだけに辛え思い出ってな!」

「…………」

陸奥「提督、今日だけでいいからもう喋らないで貰える?」

提督「辛辣ぅ……」

「……食べ終わったからもう用は無いわ」ガタ

提督「ん、そーだ。 風呂、ってか大浴場だけど沸いてるはずだからいつでも入っていいぞ」

「大浴場?」

提督「大浴場。 昼過ぎに掃除してたがでっかいぞー、東京ドームくらい」

「そんなに!? 見に行こ曙ちゃん!!」ガタッ

「いや私は……」

提督「ん、もう日も暮れる頃か。 君らは風呂入って少ししたら歯磨きして寝る時間だろうかね、ならばおやすみと言っておこうか」

陸奥「……おやすみ、また明日」

「おやすみなし!」ドアガチャ-

「…………ふん」ツイッ

564 : ◆1VwSTfn.DM - 2016/01/21 07:24:50.11 nPSjsoug0 272/334


提督「……さて、一緒に机を囲んで親睦を深めよう作戦の結果ですが」

陸奥「芳しいとは言えないわね、曙に話を振るたびに気まずいくらいだったし」

提督「いやあ、反抗期ってな怖いもんだなあ……」

陸奥「そういう問題かしら」

提督「だけどこの程度じゃへこたれんよ! 時間はたっぷりとっぷりあるんだからな、あのぶきっちょガールをどうにかしてでも攻略してやるぜ!」

陸奥「……アレを不器用って言うの?」

提督「敵を作る云々って言ったじゃん? ここに来る以前はそれでも良かったろうけど、ここに来てまで同じスタイルを通そうってのは他に人との接し方を知らないぶきっちょだとしか言いようがないだろ」

提督「人間関係がリセットされてるはずなのに、またそこで敵を作る必要なんてないにもかかわらず、だ」

陸奥「ふうん、そういう見方もあるのね」

提督「生意気なクソガキ、で思考を止めてたらそう考える事も出来んよ」

陸奥「あ、やっぱりそう思ってる部分もあるんだ?」

提督「まあ……俺も寛容さを鍛えないとな、うん」

565 : ◆1VwSTfn.DM - 2016/01/21 07:53:34.31 nPSjsoug0 273/334


提督「最悪、俺への態度はあのままでもいいとしてだ、漣とは仲良くやって欲しいよなあ……」

陸奥「そうよねぇ……漣ちゃん、あのままじゃ針のむしろも同然よね」

提督「何か都合のいい切っ掛けでもあれば進展するかね……あ、出撃させればいいんじゃん、艦娘なんだし」

陸奥「出撃? ……連携とか大丈夫なの? あのつっけんどんな曙とで」

提督「……そこまで子供じゃないことを願う……いや、あのくらいの歳だとそこまでの子供だろうしなあ……」

陸奥「……せめて演習にしといたらどう?」

提督「……鎮守府近海の哨戒くらいなら大丈夫だろ、うん。 比較的安全な海域だし、重巡クラス以上が顔を出す事のない程の近場であれば特に」

陸奥「想定外の事が起きないとは限らないわよ? 空母が鎮守府を急襲したりとか」

提督「不安を煽るなよう……とにかく、一緒に出撃させて親睦が深まったらいいなってか深めろ大作戦だ! 明日から数日間パパッと色々叩き込んで、華々しく大海デビューして貰おうか!」

陸奥「そう上手く行くといいわねー」

提督「凄い投げやり」

566 : ◆1VwSTfn.DM - 2016/01/21 08:27:49.84 nPSjsoug0 274/334


数日後・出撃ドック——


提督「うむ、壮観壮観」

「壮観って言葉の意味、広辞苑で調べたら? 駆逐艦の艤装なんかじゃちっぽけだってのに」

提督「こういうのは気分の問題ってな」

陸奥「……見てると私もムズムズして来たわ、私も早く艤装欲しいなぁ」ツンツン

提督「それはまたの機会にって事で……」

「……バカップル」

提督「ん゛っ、まあ出撃って言ってもここから1,2kmくらいのエリアを見回ってもらうだけでいいから、そんな大変じゃないよ」

「さっきも聞いたわよ……子供のお使いレベルじゃん、こんなの」

提督「海上初心者にはこれくらいが妥当って訳よ。 いくら生前の記憶があるからって練度が伴っていない以上不用意に危険なところに行かせられるかってんだ」

「……ま、仕事は仕事だしちゃんとやるけど、こいつはどうなの」チラ

「なまむぎなまごめなまたまごなまうになまにくなまなまこ」ガタガタガタガタ

提督「分かりやすく緊張してんなあ」

陸奥「大丈夫よ漣ちゃん、軽くだけど訓練もしたでしょう? おんなじようにやればいいの」

「あああ、頭では分かっていてももも」

「先が思いやられる……」

提督「万が一敵に出くわしてもまあ、大丈夫だろ。 余程テンパってない限り、艦娘には生前の艦としての戦闘勘が宿ってるって聞くし、戦えない事はないはずだ」

「…………」チラ

「となりのきゃたつはよくきゃききゅうきゃきゅきょ」ガタガタ

提督「……まあ、よろしく頼む」

「別にいいわ、1人でだって。 曙、出撃する」ドッ

「あかまんとあおまんとってあわわわ
曙ちゃん待ってぇ! 行ってきまー!」ドッ

提督「…………」

陸奥「…………」

陸奥「……本当に大丈夫なの?」

提督「……執務室に通信機器あったろ、一応そこで待機してようか」

567 : ◆1VwSTfn.DM - 2016/01/21 11:00:38.98 nPSjsoug0 275/334


鎮守府近海——


(……そろそろ1kmくらい、のはず)

(振り返れば陸がなんとか見えるような見えないような……この辺りから先を適当に見回ればいいのかな)

「ちょっと待ってよー……曙ちゃん、陣形ー!」

「あ? 陣形なんてあってないようなもんでしょ、2人だけなのに」

「それはそうだけど……せっかく習ったんだし……」

「……じゃあ単横陣」

「えっうん」スイーッ

「……単縦陣」

「はーい」スイーッ

「複縦陣」

「えーっと」スイーッ

「最後に輪形陣」

「輪……」グルーリ

「……私の周りを回ってどうすんの」

「だってえ……」

「他のも後ろか横に着いただけだし、だから2人じゃ陣形なんて意味がないってのよ」

「おっしゃるとおりです……」

568 : ◆1VwSTfn.DM - 2016/01/21 13:51:40.53 nPSjsoug0 276/334


「じゃあもう、陣形なんてどうでもいいから見回り始めるわよ。 見回りだし両舷原速で」

「うええそんな急に、えっと原速原速……」

ザァーッ…


「……何にもいないねー」

「どーせなら1匹や2匹くらい出てきて欲しいもんね、コレでもぶっ放したらストレス解消になりそうなのに」チャキッ

「主砲……? ストレス?」

「アンタ達しつっこいのよ、構うなってのに事あるごとに何あるごとに声掛けて話振って近寄ってきて。 この数日間ずっと。 学習能力ないワケ?」

「そ、そんなこと言われても漣は……」

「ハン、こんな奴を友達にしようだなんて見る目がないのね。 友達なんてたくさんよ、よっぽどでもないとその程度の繋がりなんて簡単にちぎれるってのに」

「そんなことないよー、たぶん……離れてても繋がってるのが友達だと思うし……」

「……チッ、知ったような事を」

「曙ちゃん……」

「……ん? あれ、曙ちゃん、あっち!」

「あ? どっちよ」

「あ、えーと2時?の方! なんかいる!」

「ん……確かに、双眼鏡っと……あれはー……駆逐イ級、だっけ。 1匹だけか」

「ど、どうしよう……どうすれば」

「どうもこうもないわ、気付かれてないみたいだし気付かれるまで接近して、先制攻撃して潰すわよ」

「ええ!? た、戦うの!? 戦い方なんてちょっとしか習って——」

「あのね、私達は艦娘でしょ。 戦わないでどーすんのよ」

「それに、戦い方は確かにロクに教えてもらってないけどなんとかなるってクソテートクが言ってたじゃん」

「悔しいけどその通りだと思う。 訓練の時に初めて水の上に立った時、動いた時もなんとなくで動けたし、バランスも取れたから」

「所詮、私達艦娘は戦うための化け物ってことよ。 化け物の相手をするのには化け物がうってつけってこと」

「曙ちゃん……?」

「気ぃ引き締めなさい! ストレスごとあの化け物をぶっ飛ばしてやるんだから!」

569 : ◆1VwSTfn.DM - 2016/01/21 14:46:09.66 nPSjsoug0 277/334


「第一戦速まで上げて、奴がこっち向いてないうちに近付くわよ!」ズアッ

「え、えーここから砲撃すると言うのはー」ズアッ

「バカね、有効射程外でしょーが! 第一そこまで狙える程上手くないし!」

「それはそうだけどー! 見れば見るほどおっかないー!」

「知るか! このままアイツの後ろを斜めに突っ切る軌道で! 気付かれ次第に左舷魚雷発射、主砲で追撃!」

「気付かれって、それ魚雷当たらないと思うんだけどー!」

「動きを封じる様に撃つの! メインは主砲!」

「それ威力的に駆逐艦のやり方じゃない気がするんだけどー!」

「知ったこっちゃないわ! 目標との距離50切った!」

「センチー!? メートルー!?」

「メートル!」

イ級「——!」

「あ、気付かれ——」

「魚雷発射!」ガシュッ

「ぎょは、発射!」バシュッ

(——狙い通り、魚雷を躱そうと魚雷の軌道に対してなるべく平行に動き始めた! 進行方向を制限した今が!)

(あ、この距離と、動く方向さえ分かっていれば漣でも!)

「——ってぇ!」ドンッ

「当たれぇ!」ドッドンッ

570 : ◆1VwSTfn.DM - 2016/01/21 15:13:29.31 nPSjsoug0 278/334


ザバッ ドパンッ ギャドンッ

イ級「オオオ……!」

「外した……! けど1発命中! やるじゃんアンタ!」

「イ級、た、大破炎上! でもまだ生きてる!」

「チ、取り舵一杯……もう!急速旋回とか出来ないのこれ!?」

「そんな無茶なことしたら主機とかが壊れちゃうよ!」

「——だったら! ん゛っ!」ピョンッ

「えっ」

(跳ねっ——)

「ぐうっ、これでどおよ!」ザッバシュッ

(跳ねてる間に身体ごと方向転換!? えっでも艤装重いよね!? え!?)

「……漣にも出来るかな」ピョンッ

「ぴゃー!?」スッテンコロリーン

「うう……慣性がー、反動がー……」ビショヌレーノ


「さて、と。 動きながらならともかく、こっちも足を止めていれば外す心配はないわね」

イ級「……!」

「……未練がましそうにしてんじゃないわよ、そんな思考があるか分からないけど、そんな姿で生まれたことを呪うのね」ドンッ

571 : ◆1VwSTfn.DM - 2016/01/21 15:53:47.48 nPSjsoug0 279/334


「あ、曙ちゃーん」ザバー

「ん……アンタなんでそんなびしょ濡れなの」

「盛大にコケて……ところであれ、倒したの?」

「多分死んでるんじゃない? さっきまでは目みたいなのが鈍く光ってたけど、今は消えてるし」

「……見れば見るほどなんというか、ちっさいクジラだよね」

「何言ってんだか……さて、どうする? まだ見回りをしたと言うには見回ってないけれど、1匹処理した訳だし」

「うーん……提督さんに倒したこと報告しない? で、どうするかも相談して」

「それもそーね、それなら充分だからもう帰って来てもいいって言いそうながするけど」

ゴボポボボ…

「……? 何の音——」

ザバァッ ギュドッ

「ごふっ——!?」ズシャァアアア

「曙ちゃん!?」

「うう……痛っ……」

(何、何を受けたの、攻撃? 砲撃じゃない、突撃……体当たり的な)

ゴドンッ

(あ、マズ——)

ドガァッ

577 : ◆1VwSTfn.DM - 2016/01/24 11:02:44.82 mOV7YQTU0 280/334


「曙ちゃんっ!?」

イ級「オオオ——……」

「ひっ……! ま、さか、増援……」

(しかも、今倒したのとは違う、なんか赤いし、なんというか、なんというか……!)

イ級「——……」ジィ……

(さっきのより、絶対、強そう……!)

イ級「…………」スゥ……

「え、私、無視され……」

(って違う! 水煙で見えないけど、曙ちゃんの方に向かってる!)

「まさか、食べたり、とか、するの……?」ゾッ

「やだ、やだ、そんなのやだ! 絶対やだ!」ドッ

580 : ◆1VwSTfn.DM - 2016/01/24 23:05:44.17 rA0xJWxbO 281/334


イ級「——……」ザァーッ

「それ以上先は、ダメっ!」ドッドンッ

イ級「オオ……」ザバッ ドギンッ

(当たったけど、あんまり効いてない! 主砲がダメなら、)

「魚雷一斉射、行けえっ!」ドシュッ ドドバシュッ

イ級「——……!」スッ

(やっぱり魚雷は避けられる、ってことは当たればあの赤いのでもタダじゃ済まないってこと! だったら——)

「直撃じゃなくても、誘爆させれば!」ドンッ

ドパァッ ザパァンッ

イ級「オオオ——!」

「や、やたっ上手くいった! って水飛沫すごっ」

イ級「オオオ……」グルリ

「ひっ、こっち向いた」

イ級「ゴアアアア——!!」グバァアアッ

「飛び掛かって——」

(——あ、口の中が見える。 そう言えば昨日、提督さんが——)


提督『敵駆逐艦の弱点? そうだな……口の中までは流石に装甲で固められてないんじゃないか?』

提督『それに、近海に現れるような奴らは脆弱だしな。 同じようにまだ脆弱な君らの装備で敵わないような奴なんて滅多に出やしないはずだ』

提督『所詮駆逐艦だ、適度な威力があれば砲撃でも雷撃でも装甲は貫けるし、口の中を狙える機会自体滅多にないだろうから忘れてもいいぞ?』

581 : ◆1VwSTfn.DM - 2016/01/25 00:09:48.87 1WBCt92j0 282/334


「——ッ!」チャキッ ドンッ

ドギャンッ

「危っ」サッ

イ級「ゴガアアア!!」ザッパァアアアン

「……ホントに、弱点っぽい……のかな? まだ生きてるみたいだけど……」

イ級「ウゴゴ……」ギシッ

「……そんなんじゃもう戦えないでしょ、さっさとどっか行って! じゃないともっかいおんなじことするよ!」

イ級「…………」ギギッ ザァーッ…

「……行っちゃった。 言葉通じるのかな……はっ」

「あ、あけ、曙ちゃん!大変、大変だった!きゅーきゅーしゃ、じゃなくて!どこ!?えっと、どっち!?赤いのに突き飛ばされてー、あっち!」アタフタ

582 : ◆1VwSTfn.DM - 2016/01/25 01:17:55.66 1WBCt92j0 283/334


「……ぐ、う……」

「曙ちゃん!大丈、うっ……!?」ザバザバ

(酷いヤケド……艤装も主に機関部がかなりひしゃげて壊れてるし、服もボロボロ……治せるの、これ……)

「はぁっ……敵、は……」

「あ、大丈夫! 追い払ったから! 全部追っ払ったから! だから、ええと休んで、休んでて! ね! うん!」

「…………ない……」

「え?」

「髪の……ヘアゴ、ぐう……!」

「曙ちゃん! えっと、ヘ、ヘアゴム? 吹き飛んじゃったんじゃ……」

「……あ、あった! ゴムはちぎれてるけど、一緒に付いてたアクセとか鈴とかは無事だよ!」

「……から貰った、大、事な……」ガクッ

「曙ちゃん? え、ちょっと、ねえ? ウソだよね?」

590 : ◆1VwSTfn.DM - 2016/01/27 23:26:58.67 kTxyG/Qp0 284/334


執務室——


提督「…………」プルプル

陸奥「…………」

提督「…………」プルプル

トン

提督「はあ……」

陸奥「……さっきから何をしているの?」

提督「や、見りゃ分かるでしょうよ」

陸奥「分かるけれど、分かるからこそ聞いているんだけど」

提督「……トランプタワー作り以外の何があると?」

陸奥「2個も3個も、それも2段までのものばかり……」

提督「これで6つ目ですー、俺は2段までが精一杯なんですー」

陸奥「……心配して仕事どころじゃないのは分かるけれど、でもまだ2人が出発して30分も経ってないのよ?そんなんじゃこれから先、心臓がいくらあっても足りないわよ」

提督「な、なーに言ってんだい心配なんてしてませんともしてませんともええ」

陸奥「強がっちゃって……あら、そう言ってたら入電みたいよ」

提督「あー出ます出ます。 ところで見た目だけレトロな最新機器ってなんかグッと来ない?」

陸奥「はあ、ちょっと分からないわね」

提督「残念。 さてと、はーい提督さんでーす何のごよ」ガチャッ

『あげぼのぢゃんがじんじゃっだあああああ』

提督「」ガチャーン

591 : ◆1VwSTfn.DM - 2016/01/28 00:09:32.54 +2hiQ2IM0 285/334


陸奥「提督?」

提督「」スーハースーハー

提督「ふー……きっと明日も良い天気、私は元気です」

陸奥「どうかしたの? と言うか、どうかしちゃったの?」

提督「はい、こちらコールセンターでござい」ガチャ

『でーどぐざああああああん!!!』

提督「Oh……話にならねえ……」

陸奥「叫び声が……何かあったの?」

提督「や、気にしない気にしない、任せて。 とりあえず落ち着いてくれ漣」

『こんなのっであんまりだよおおお』

提督「落ち着けないかもしれないけど落ち着け漣」

『どーしでこんなごどに』

提督「さーざーなーみ」

『・う……ぐじゅ』

提督「落ち着いた? て言うか落ち着け。 曙なら大丈夫だから、多分」

『で、でも起きないし返事もないしそれに』

提督「物理的に沈んだ訳ではなく気絶しただけか……緊急の装置がちゃんと仕事したか」

『うぇ?』

提督「昨日説明したろ……まあ戻って来たらまた言ってやるけど。 曙はちゃんと息してるだろ?」

『いき……あ、してる……生きてるの……?」

提督「生きてる生きてる息してる。 さて、落ち着いたところで仕事してもらわんとな。 曳航のやり方も教えただろ? まずワイヤーを取り出してだな——」

592 : ◆1VwSTfn.DM - 2016/01/28 01:39:44.64 +2hiQ2IM0 286/334


病棟・曙の病室——


「…………」スー

「きんきゅーぼうぎょそーち?」

提督「なんかこう、艤装についてる電磁バリアみたいなん展開装置の緊急版みたいな奴よ、不意を突かれた時なんかに咄嗟にバリアを展開、反応させて爆発させて身体への直撃を防ぐとか……なんとか? で、合ってる?」

陸奥「……と思うけど、仕様書見ても変なカタカナばっかりね、読みにくいったらありゃしない」

提督「て言うかバリアとかガンダムかよSFかよってーの……艤装も見た目はかつての軍艦を模してるくせに最新技術を放り込んじゃって、流石にここまでくると情緒もへったくれもねーな」

陸奥「最後のはともかく、お陰でこの子も五体満足で戻れた訳だし良かったんじゃない?」

提督「……まあ、生身の身体に砲弾なんて直撃してちゃ普通に即死だもんな。 艦娘っても鋼で出来た肉体って訳じゃないし」

「だけどヤケドが……治っても痕が残っちゃうんじゃ……」

提督「ああ、それなら大丈夫、痕も残らないしキチンと治るってよ。 2、3日もしたら元通りだ、意識もそのうち戻るだろ」

「ホント?」

提督「ホントホント。 やー、一般には解放されてない医療技術ってのもロマン感じるよなあ」

陸奥「貴方の感性はよく分からないわね」

提督「まあそんな訳だ、戻ってきてからロクに休んでないだろ? 風呂で汗流すなりして休んできなよ」

「ん……だけど……」

陸奥「そう言えば私、小腹すいちゃったのよねぇ。 漣ちゃん、お昼頃だけど良かったら軽く何か食べない? 間宮、まだ行ってないでしょ」

「まみや?」

陸奥「いいわよね提督?」

提督「ん? ああ、いいけど」

陸奥「ふふ、それじゃ行きましょ」

「はーい」ガララ

593 : ◆1VwSTfn.DM - 2016/01/28 02:20:03.48 +2hiQ2IM0 287/334


提督「……なんちゅうか急だな? うーん」

提督「…………」チラ

「…………」ス-

提督「……ああ、独りにさせないようにか。 いい大人してんじゃん……こっちゃ見た目取り繕うのだけで精一杯よ」

「…………」ス-

提督「しかしまるでミイラだな……未出の医療技術、ねえ」

提督「体良く言っちゃいるが、要はモルモットじゃねーか。 恩恵を受けてはいるが、ふざけんなっての」

提督「……つーか連中との戦いもいつまで続けんだよってな。 日常になり過ぎて感覚が麻痺してんじゃねーのかこの国」

提督「お陰で戦闘関連の技術の進歩が著しいってな……人間がバリアて、笑えてくるわ」

「…………」ス-

提督「終わらせられねえこっちもクソ野郎って訳だけど……なーるほど、クソテートクって言われても反論しようがねえ」

提督「かと言って俺個人の力で終わらせられるとも思ってねえけど……そんな事しでかしたら人類史に残る英雄の爆誕よ」

提督「だったらせめて手に届く範囲での平穏のために、なんて」

「…………」ス-

提督「……敵を作り続けたってつまらない、敵が攻撃してきたら逃げることになる」

提督「逃げるために頑張らなくちゃいけなくなる。 逃げるために頑張ることに費やす時間は、不毛だ。 逃げて逃げてようやく辿り着くのがスタートラインだ」

提督「そんな凍り付いた時間、過ごさせたくないよなあ……」

「…………」ス-

提督「お前がどう思うか、どう思ってるかは知らんけど、俺はお前の敵になんかなってやるもんか」

提督「漣だってそうだろうな、陸奥さんはー……まあ、なんとかしようか、なんとかなるだろ」

提督「何日でも何ヶ月でもしつこく敵じゃねえってこと刷り込んでやる。 直接言うのは小っ恥ずかしいからナシな!」

提督「……どうせなら笑顔の一つでも拝んでみたいもんだな、女の子ってのは誰でも笑顔が一番よ」

「…………」ス-

提督「ったく、急に1人になると独り言が弾んでしょうがねえな」

提督「…………曙、起きてないよな? 実は聞いてましたってパターンはなしでお願いしますよ」

594 : ◆1VwSTfn.DM - 2016/01/28 02:48:42.06 +2hiQ2IM0 288/334


翌日——


「…………」パチッ

「…………?」

(ここどこ……?)ムクリ

「いっ、つつ……何か腕に刺さってる……病院のドラマとかで見た奴?」

「じゃあここは病院かどこか……て言うか生きてるんだ」

(……鏡ないから分かんないけど、腕や顔の肌の感触からして、包帯まみれな気がする)

(目も当てられないことになってたりしてね……)

<ガララッ

(うわ誰か来た)ボフン

「……まだ目、覚まさないんだ」テクテク

提督「遅くとも1週間以内には目ぇ覚ますって言ってたろ? あんまり急かしてやりなさんな」

(漣と、クソテートクかな……お見舞いのつもりか何かなの)

595 : ◆1VwSTfn.DM - 2016/01/28 03:23:02.35 +2hiQ2IM0 289/334


「そうだ、提督さん、手伝ってもらってありがとございます」

提督「いや、別にいいんだけどさ……いいんだけどさあ……」

(何よ)

提督「君ここに住む気かっちゅーねん、こんなに漫画持ち込んで」

(は?)

「曙ちゃんが入院してる間だけ……いや住まないですけど!」

「いっぱいあれば曙ちゃん目覚ましても退屈しないで済むかなーって、漣も空いた時間はここで」

(今すぐ持って帰りなさいよ……)

提督「……寝袋まで用意しなければいいか」

(良くないし)

提督「あ、ダメだ漣。 私物の多数持ち込み厳禁だってさ。 ほら張り紙」

「がーん……そしたら漣はどうしたら……」

提督「いやまあ1人が嫌なら執務室に来てもいいぞ……? 応接セットとかあるし、四六時中ではないけど俺か陸奥さんいるし」

(そうして)

「そしたら曙ちゃんがひとりぼっちで寂しくて死んじゃう……」

(うさぎ扱いか)

提督「野生のうさぎって案外1匹でいるもんらしいぞ? たぶん」

(うさぎから離れたらどうなの)

596 : ◆1VwSTfn.DM - 2016/01/28 03:56:21.22 +2hiQ2IM0 290/334


「ところで提督さんも曙ちゃんに用事があるって言ってたけど、どんな?」

(クソテートクが私に? 戦力外通告でも出しに来たの?)

提督「ああ、手紙だよ。 曙宛に2通来ててな」

「曙ちゃんに?」

(手紙)

提督「っても片方の手紙はもう片方のに添付されてきた物だけど。 今時手紙とはノスタルジックと言うか、いいもんじゃないか」

「誰から? 中身は? 手紙には何が書いて?」ワクワク

提督「読んでないし、差出人もちゃんと見ちゃないっての。 プライバシーは守るもんよ」

「曙ちゃんのこともっと知りたいし! お願いします! なんでも島風がしますから!」

提督「ウチに島風いねーし……そもそも島風の艦娘は数が少ないって噂だし……まあでも、俺も少しは気になっちゃうし?」

()

提督「添付されてきた方は筆跡的に同年代くらいかな……と言うか学校のクラスメイトとかか? 本名で来てるし」

「曙ちゃんの友達!? というか本名! 本名気になる!」

「」ガバッ

提督「食い付くのそっちかよ……あーなるほど、ウチ宛の住所になってないけど、そういうことか」

「」ヒュバッ

「? どういうこと?」

提督「添付元の手紙は曙の親なんだがそっち、つまり曙の実家の方にこの添付されたのが届いて実家越しにこっちにーって、あれ、手紙どこ行った」

「あっ」

「…………」ジトー

提督「おう、おはようさん、ってか寝起きなのに素早いのね……」

「人の手紙を勝手に見るとかいい度胸してんのね」

598 : ◆1VwSTfn.DM - 2016/01/28 08:22:16.21 +2hiQ2IM0 291/334


「曙ちゃん起きたあ! 良かったー!」ダキツキー

「いだだだだ! うざいうるさいうっとーしい抱きつくなバカ!」

「だってぇ……」グスン

「ったく……ケガ人に対して何してくれんのよホント」

「ところでお手紙は誰から来たの?」

(てんで堪えてないし)

「アンタには関係ない」

「か、関係あるもん! 友達のことを知るのは友達の義務だし! 責務だし!」

「いつ誰がアンタと友達になったって……アンタは何笑ってんのよ」

提督「んー? いやあ、友達なんてくだらねーぜみたいな事言ってたりそんな雰囲気出してたりするのに友達がちゃんといるんだなってな?」

「なっ」

提督「手紙まで出してくれるなんて甲斐甲斐しいじゃねーの?」

「ぐうう……あ、あんな奴のなんか!」バッ

「え、友達からの手紙破いちゃうの?」

「〜〜〜〜〜っ!」

「アンタらなんかとは違うのよ! とっとと出てけー!」

提督「へーへー、寝起きで気性も荒いみたいだし退散しましょうか。 また後で来ればいーしな」

「はーい、それじゃ曙ちゃんまた後でねー!」

「2度と来んな!!」

601 : ◆1VwSTfn.DM - 2016/01/28 14:30:08.53 +2hiQ2IM0 292/334


数時間後——


「…………」ムッスー

提督「いやー、昼飯をカップ麺とかで雑に済ますのもいいよなあ」コポポ

陸奥「良くはないでしょ、高血圧になっても知らないわよ?」

提督「1食や2食程度じゃイエローカードすら貰わんから平気だろ」

「あと何分? あと何分?」

提督「漣のはあと2分ちょいだな」

「むふー、カップ麺はこうして待ってる時間が1番楽しい……」

「……アンタら何やってんの、2度と来んなって言ったでしょ」

陸奥「私は聞いてないから問題ないわね」

「ぐ、大人のくせに小学生みたいな事を……」

提督「何ってそりゃお前、昼ご飯の準備だけど? 病室にこうしてテーブルと椅子が用意されてるんだから、有効活用しないとなあ?」

「自分らのところで食べればいいでしょうが……なんでわざわざこっち来んのよ、脳みそにボウフラでも湧いてんの?」

「だって曙ちゃんが寂しくて死んじゃうし……」

「うさぎじゃないしそもそも独りは慣れっこだってのにそれ以前に何度も私に構うなって言っふぇ」

陸奥「はいはい、病人は黙ってリンゴでも食べてなさい」グイー

「むぐ…………」シャクシャク

提督(食べるんだ)

(リスみたい)

「んぐ、いきなり何すんのよバカ乳女!」

陸奥「説得力がないわね」

602 : ◆1VwSTfn.DM - 2016/01/28 14:55:59.87 +2hiQ2IM0 293/334


提督「まあまあ、陸奥さんのおっぱいがビッグセブンだとか曙が小動物みたいだとかはおいといて飯にしよう飯。 そろそろ出来上がる頃合いだろ」

陸奥「ナチュラルにセクハラ発言していくのね」

「出てけってんのよ分からず屋共ー!」

提督「そっちも食事届いてるし丁度いいんじゃん? それにベッドの上からじゃ何も出来るまい! 悔しかったら早く身体を治すことだな、はっはっは!」

「言われずとも今すぐ息の根ごと止めてやう」

陸奥「はいはい、病人は黙って安静にしときなさいね」グイー

「ぐむ…………」シャクシャク

提督(やっぱ小動物だわ)

(かわいい)

「って、2度も同じことさせんなっつーの!」

陸奥「お約束って奴よ」

提督「2度あることはサンドイッチ……今思うと3度なのに1ってすげー名前だよな、サンドイッチ伯爵」

「そういう名前じゃないと思うのです」

提督「だろーな、まあいいや、食べよう食べよう。 いただきまーす」

「いただきまーす!」

陸奥「はーい、いただきます」

「何当たり前のように食べ始めてんのよ!! 帰れ!!」

604 : ◆1VwSTfn.DM - 2016/01/28 16:30:08.78 +2hiQ2IM0 294/334


提督「ところで皆ラーメンは何派? 俺は豚骨だけど」ズルズル

「醤油かなぁ」

陸奥「私も醤油ね、1番ラーメンって感じがするし」

提督「うーむ、マイノリティ。 曙は?」

「…………」モグモグ

提督「へーい曙さーん?」

「……………」モグモグ ゴクン

提督「何味がお好きー?」

「……ほんっとうっざい」ギロッ

提督「ほうとう派だってさ」

「」

「ほうとう?」

陸奥「確か、どこかの郷土料理だったかしら」

提督「給食で食ったことあるよーな気がするけどな……郷土料理だってんなら気のせいかね」

「……アンタ、わざとやってんの?」

提督「なんのことやら」

「どこまでも人をバカにして——」

提督「まあまあ、メンマどうぞ」ヒョイ

「…………」パク

陸奥(食べるんだ)

(食べるんだ)

提督(食べんのかよ)

606 : ◆1VwSTfn.DM - 2016/01/28 16:53:45.78 +2hiQ2IM0 295/334


————


提督「さて、腹も膨れたところで」

「とっとと出てって」

提督「じゃーん、ただのトランプー」

「ひみつ道具みたい」

陸奥「貴方、仕事しなくていいの?」

提督「明日の事は明日の俺に任せる、今日の事もきっと明日の俺がなんとかしてくれるでしょう」

陸奥「夏休みの宿題、期日までに終わらせたことないでしょ?」

提督「なんで分かるんだよ、エスパーかよ陸奥さん」バサー

「当たり前の様に広げてんじゃないわよ」

提督「4人だったら大富豪かねえ……いや、ローカルルールめんどくさいし神経衰弱にするか」ヒョイ ヒョイ

「私を頭数に入れないで」

提督「不戦敗かな? ちなみにビリには本人の覚えてる限りでの恥ずかしい記憶を吐露してもらうつもりだけど」

「……とろ、って何」

提督「簡単に言うと全部ぶっちゃけてもらうってこと」

「……さっさと並べなさいよ」

提督(チョロい)

陸奥(さりげなくこっちまで被害受けそうなんだけど)

607 : ◆1VwSTfn.DM - 2016/01/28 17:31:19.10 +2hiQ2IM0 296/334


「——あ、外れた。 次、陸奥さん」

提督「……どうでもいいんだけどさ」

陸奥「どうかしたの?」

提督「"陸奥さん"って、なんか呼びにくくない? いやよく分からんけど、なんか、なんかさ」

陸奥「うん、ホントによく分からないわね。 はい次」

「ホントにどうでもいい」

「ああでも、なんとなくだけど……ちょっとだけ分かる気が」

提督「だろー? でも陸奥ーって呼び捨てるのもなんか違う気がするんだよな……」

陸奥「そう言われてもねぇ……艦名を変える訳にはいかないし、本名で呼ぶのも先を考えると人が増えるたびに説明しなきゃだし?」

「……あだ名をつける、とかどうでしょ」

陸奥「あ、あだ名? 別に構わないけど……あんまり突飛なのは」

提督「じゃあ"むっちゃん"だな、シンプルイズベスト」

陸奥「……なんだか諸々削ぎ落とされた気がするわね、主に威厳とかそういうのが」

「あったっけそんなの」

提督「ところで俺の番が回ってこないんですけど曙さん、神経衰弱ガチになり過ぎじゃね」

608 : ◆1VwSTfn.DM - 2016/01/28 18:16:19.47 +2hiQ2IM0 297/334


「む、むっちゃん……さん!」

陸奥「いや、ちゃんの後にさんを付けるのってどうなの?」

提督「いやあ……むっさんよりはいいんじゃないのか?」

陸奥「えぇー……?」

「じゃ、じゃあ次は漣にあだ名をですね」wktk

提督「漣……うーん、ザナミン……ザナムィン……?」

陸奥「どうして私と違って変化球気味なのかしらね」

「なんか攻撃魔法みたい……」

提督「サザーリン……さっちゃん……サザンクロス……なんかどれもしっくり来ないな」

「最後だけ明らかにおかしいんですけど」

提督「インスピレーションが舞い降りて来ないな……これは漣は漣のままでっていう天啓かね……」

陸奥「私はむっちゃんなのにね」

「そんなー……むっちゃんさんも考えてくださいよう」

陸奥「その呼び方は変えないのね……提督の言うのがインパクト強いせいで私も何も思いつかないわ、ゴメンなさいね」

「ふん、あだ名の1つや2つ程度で一喜一憂しちゃって、バカみたい」

609 : ◆1VwSTfn.DM - 2016/01/28 19:36:14.09 +2hiQ2IM0 298/334


「うう、漣はまたの機会を待つとしますです、次は提督さんの番!」

提督「あー? 俺?」

「こんな奴クソテートクで充分よ、クソテートク」

提督「いやまあ、別にどうとでも呼べばいいと思うけどさ……俺にあだ名なんて付けようがないと思うんだけど」

陸奥「貴方も本名で呼ばれないものねぇ、何故かしら? 最近遅れて来た事務の方達からも一貫して提督で通ってるものね」

提督「司令部を一歩出ればそうでもないんだけどな……」

「……ご主人様?とか?」

提督「ぶふっ」

陸奥「くふっ」

「大真面目な顔して何言ってんのアンタ」

「おお……? なんだか想像以上にしっくり来ますよ! これがインスピレーションって奴ですねご主人様!」

提督「どうとでも呼べばいいったのは俺だけど! 俺なんだけど! ご主人様ってどうなのさ! あらぬ疑いかけられそうなんだけど!?」

陸奥「普通に考えたらそう呼ばせてる神経を疑われるわよね」

提督「て言うかそもそもどこで聞いたんだよそんな言葉って話な?」

「漫画とかで……なんなら旦那様にします?」

提督「天秤がどう揺れても大差なさそうだからもう勝手にしてけれ」

621 : ◆1VwSTfn.DM - 2016/01/30 07:11:39.26 X4KV72Gf0 299/334


陸奥「それじゃあ、最後は曙かしら?」

「やめて、そういうのウザいだけだし」

提督「曙なあ……?」カオオサエ

「曙ちゃん……?」クビヒネリ

「やめろってんのに」

「ぼのりん……」

提督「ボノリンティウス……」

陸奥「身代わりにされそうね」

「ぼのえもん……」

「道具の代わりにドロップキックお見舞いしてやるわよ」

提督「あけみ……?」

「誰よそれ」

「あけみ……みっちゃん……」

「そっちから派生すんな」

提督「ボノワール……」

陸奥「貴方の変化球ってどうにも変化し過ぎてるわよね」

「ぼのたん……」

「1番やだそれ」

提督「ぼのえもんやボノリンティウスよりもかよ」

「首筋が凍りそうになったし」

提督「基準が分からねえな」

「アンタのは訳分かんないだけだし」

623 : ◆1VwSTfn.DM - 2016/01/30 23:30:59.14 X4KV72Gf0 300/334


「うー、インスピレーションが閃かない……ご主人様はー?」

提督「さっぱりだな、インスピレーションの神が舞い降りて来ない……ていうかホントにそれで行くんだな。 もうどうにでもなーれって気分になれそう」

陸奥「変化球をいくらでも投げれておいてインスピレーションがどうのって言うのも変な気がするわね」

提督「こういうのはフィット感が重要なんだよ……目玉焼きを卵焼きって呼ばない様なもんなんだよ……目玉焼きは目玉焼きなんだよ……」

陸奥「余計分からなくなったわ」

「目玉焼きとか卵焼きとかどうでもいいけど、やる事ないんならとっとと出てけば? 神経衰弱だってアンタで止まってるし」

提督「バカ野郎! 入院イベントとかいう親交を深めるチャンスを棒に振る奴がどこにいるってんだ!」

「曙ちゃんが逃げられないこの機にお友達ポイントを高める大作戦……!」

「全力でウザい……治るまでコレが続くの? もう辞めようかな……」

提督「まあ数日もしたら全快するって言ってたけどな」

「早っ、自分で言うのもなんだけどかなりの大怪我したと思うんだけど……ていうか火傷」

提督「ドラゴンボール使ったからなんとかなる」

「そんな冗談……あるの? ホントに?」

陸奥「そんな冗談を信じそうにならないの」

624 : ◆1VwSTfn.DM - 2016/01/31 00:27:36.10 Gb4dO6OWO 301/334


提督「まあ正直ぶっちゃけますと、ここ数日間程度の付き合いとは言え取りつく島がないどころか荒天なんて言葉が生ぬるいレベルの海域じゃねーかとすら思ってました。 天は裂け海は割れ、空からは雨ではなく雷が降り注いでんの」

「ここまで言われるのは初めてね」

提督「でも手紙を送ってくる様な友達がいるってゆーじゃん? 一筋の光明が確実に存在してる訳じゃん? こりゃ付け入るしかないよなあ!ってなる訳よ」

陸奥「どうにかならなかったのかしら、その言い方」

「……いるのは認めるけど、だからってアンタらなんかともヨロシクするつもりなんてないし」

提督「へっ! ウチの司令部が4,50人を超える大所帯になっても同じ事が言えるかな!」

陸奥「言っちゃうの、それ?」

「全員がかりで私になんかするってわけ? 随分と陰険で陰湿なのね、上等よ、たかが数が2倍ちょっとになったくらいで」

提督「全員がかりで曙に構わせます」

「思ってたのより酷かった」

提督「むしろ50対1の鬼ごっことかするよね?」

「49対2にして欲しいなあ」

「混ざってくんな」

提督「いっそ49対3にするか……」

「アンタも入って来るなっての」

陸奥「じゃあ48対3で私はレフェリーね」

「審判が必要な鬼ごっこって何よ」

625 : ◆1VwSTfn.DM - 2016/01/31 00:55:12.70 Qe1EYfJ+0 302/334


「ていうかホントに、くだんない雑談しかしないんなら帰ってって何度も言ってんだけど」

提督「クックック……ここで俺が帰ったところで第2、第3の俺が貴様の元を訪れるだろう……」

「そういうアンタみたいのがついてけないのよ、面倒くさいったらありやしない」

「でも、まだあだ名決まってないし……」

「いらないし、ってかまだ考えてたの」

「……ぼのちゃん」

「省略しただけじゃん」

陸奥「それ私にも同じ事言える?」

提督「ぼのちゃん……ぼのやん?」

「は」

提督「あ、しっくり来た。 ぼのやんにしよう」

「アンタのしっくりの基準が分からないんだけど」

提督「そんなもん決まってる、完全無欠に純粋天然物100%フィーリングオンリーよ!」

陸奥「要はなんとなくでしょ?」

提督「そうとも言う」

「でもちょっとダサい感じがあだ名っぽくていいかも!」

提督「よっしゃ! ぼのやんで決定な!」

「なんで私に拒否権がないわけ?」

提督「俺にもないからおあいこよ」

「試合にすらなってないんだけど」

626 : ◆1VwSTfn.DM - 2016/01/31 01:42:49.62 Qe1EYfJ+0 303/334


「つーかアンタらホント何なの? こんだけこっちが拒否ってんのにグイグイ構いに来てさ、何が目的?」

陸奥「主にこっちの2人が、だけどね。 私も1人でだったら貴女みたいな反抗期真っ盛りなガキンチョなんて相手してないわよ?」

「初日と違って平然と言ってくれるのね、清々しいくらい」

提督「何が目的ってもなー、ガキンチョ相手に求めるものがあると思ってるのが凄いぜぼのやん」

「こっちもこっちで」

提督「まああるんですけどね? 皆と仲良くしよーぜ?ってくらいのが」

「そんなこと……別に、誰と繋がらなくたって仕事は出来るし、それに、何年かしたら終わるような縁でしょうが。 切れることが分かってる縁なんか結ぶつもりなんてないわ」

「そんなー……」

提督「うーん、艦娘が合理的な判断だけで動くような機械、または兵器だって言うなら別にそれでもいいんだけどさ」

「何よ」

提督「不条理で不合理的なのが人間だろうよ? 理屈とか正しさなんてのを抑えるのが感情だしなあ」

「……知った様なことを、人生経験も薄そうな奴なんかに人間についてを説かれたくなんか」

提督「知らなきゃ言わねえっつうのこんな事。 俺のは自業自得だけど」

「えっ」

提督「ま、俺に出来るのは同じ轍を踏ませない様にしつこく食いさがるくらいのもんよ。 友達が無理でも知人くらいまでならいけるだろ?」

「……アンタがどうだったとか知ったこっちゃないんだけど、私には関係ないし」

提督「まーな、昔の事なんてこれから先の事には何も関係ないわな。 それは曙とっても同じ事だと思うがね」スッ

「……この手は何」

提督「んもー、説明なんて野暮な事させんなよー。 曙がつっけんどんで他者と交流する気がないとしてもだ、それでもこれからもよろしくってな」

627 : ◆1VwSTfn.DM - 2016/01/31 01:56:20.09 Qe1EYfJ+0 304/334


「……卑怯者」

提督「卑怯? 何が?」

「ここでアンタの手を振り払ったら最低じゃない、私」

陸奥「この期に及んでまだ心象とか気にしてたの? 初めっから最低だったじゃないの貴女」

「うぐっ」

陸奥「それにね、1度や2度振り払ったところでこの人がすんなり諦めるとでも思っているの? 貴女の根が折れるまで3度も4度もやってくるわよ、なんなら試しに今回は振り払ってみたら?」

提督「陸奥さん、俺だってそんなにメンタル強くないんですけど」

陸奥「それに、振り払ったところで壊れるような信頼関係もまだ築いていないってのにね? そんなに自分をヒロイックにしてんじゃないわよガ・キ・ン・チョ」

「……少なくともアンタとは築ける気がしないわ」

提督「アレだな、喧嘩するほど仲が良いって奴」

陸奥「しかしてない、の間違いね」

「それじゃ、はい」ヒョイ

「あ? 何よ手をとって」

「お友達条約の完成ー」グイ-

「あっコラ! まだ考え中! ってか誰が友達よこんな奴と!」

陸奥「あらいいじゃない、私も混ぜてもらおうかな」

「もちろん漣も仲間入りしてるからね!」

「こら離せ! 絶交! 絶交してやる!」

提督「なー漣ー、これ新人が来るたびにやんのか?」

「楽しそうですねそれ、もちろんあけぼ、じゃないぼのやんも巻き込んで!」

「勝手に巻き込むな! こんな条約すぐに破棄してやるー!」

628 : ◆1VwSTfn.DM - 2016/01/31 02:07:19.74 Qe1EYfJ+0 305/334


現代——

鎮守府本部・会議室・深夜——



提督「んがっ」ガタッ

提督「あー……? 夢……昔のことを夢で見るなんてことあるんだな……」

提督(てゆーか部屋暗っ。 あのクソジジイ共、年甲斐もなくガキみてーな嫌がらせしてきやがって)

提督(大体話が長えんだよ、校長の話かっつーの。 んなもん退屈過ぎて子守唄だっつーの馬鹿め)

提督(鍵も閉まってらーな。 生意気な若輩者はお嫌いですかそーですか)ガチャガチャ

提督(それじゃ生意気らしく窓から抜け出しましょうかね、開けっ放しになるけどこんな事も予測しなかったお硬い脳みそが悪いって事で。 鎮守府内に不審者が出る事もないだろうしいーだろ別に)ガチャ

提督(2階とか3階とかじゃなくて助かったぜ……っと)スタッ

提督(さーてと、確かぼのやんがカレー作ってたよな、あっためて食べてそのまま寝るとしよう。 待っててくれよマイカレー、なんて)

630 : ◆1VwSTfn.DM - 2016/01/31 03:07:19.85 Qe1EYfJ+0 306/334


執務室——


提督(——で、廊下さみーなとか思いながら辿り着いたら扉の隙間から光が漏れてまして? ぼのやん電気消し忘れたのかなーって思ったら)

「すー……」

提督「寝てやんの。 無防備か」

提督「ぼのやんがカレーを食べた痕跡もなし……何でここで寝てんの? ってか何で残ってんの?」

提督「寝顔でも堪能してやろうか、滅多にない機会だぜ」

「ん……」

提督「……夢で見た後だと色っぽく、じゃなくて大人っぽくなっ、じゃなくてね?」

提督「へいぼのやん、こんな所で寝てないで起きようか?」ユサユサ

「んぅー……? あれ、クソ提督だ……むっちゃんとサザンクロスは……?」

提督「どっちもいないけどサザンクロスとはまた懐かしいものを」

632 : ◆1VwSTfn.DM - 2016/01/31 03:35:56.74 Qe1EYfJ+0 307/334


「……夢かー、ここに来たばっかりの時の事、思い出してたつもりだったけど」

提督「なんだい2人揃って同じ夢見ちゃってさ。 僕らはいつも以心伝心とかって?」

「寝起き早々ウザいのブッ込んでくるわねー、あんまりウザくてどうでもよくなるわ」

提督「そこはテレパシーで会話しようぜ……じゃなくて、先に上がっといていいって言った気がするんだけど、何で残ってんだ? しかもグッスリ」

「なんでだっけ……夢が思い出せるくらい濃すぎて寝る前の記憶があやふやだわ」

「……ああ、思い出した。 アンタ言ってたでしょ、ご飯は誰かと食べた方が美味しいとかって。 だから」

提督「……え、それだけ? 何か一言物申すとか果たし状とかじゃなくて?」

「それだけ。 今更アンタに言うことなんか……うーん」

提督「何スかそのうーん、は」

「いや、何をいくら言っても物足りないんだけどね。 そうじゃなくて何か別のさ……アンタに私が感じていること、言いたいことがイマイチ形にならないから、それを考えてる状態」

「アンタと真っ向向き合ってみたら分かるかなーって思って待ってたけどさ……ふわ、今日は眠いし、明日にする」

提督「お、おう……それを今言われると明日まで俺は消化不良な気分を味あわされる訳だが……」

「別にいいでしょそれくらい。 それじゃあねクソ提督、また明日」ドアガチャ

633 : ◆1VwSTfn.DM - 2016/01/31 03:52:57.26 Qe1EYfJ+0 308/334


提督「……また明日か。 あんな夢見た後だとまるっきり別人だよな」

提督「まるっきりでもないか……カレー、あっためよ」


提督(実際、あの日を境に関係が変わった訳じゃない。 態度も性格も、極端に変わったと感じたことなんて瞬間すらない)

提督(いつの間にかって表現が正しいんかな。 氷の溶け始めは気付かないけど、気付いたら溶けるのが進行している)

提督(そしていつかは溶け切って水になるっていうか、氷で覆われてたものが露わになるっていうか。 今の曙はどの段階なんだろうなあ)


提督(まあこれも大体、漣のおかげだろうかね……四六時中付きまとっては突き放され、それでもなお引っ付いて……ってまあ一歩間違えれば粘着質というかストーカーみたいなもんだったけど)

提督(諦めようともしない漣がいたから俺もしつこく行動を起こし続けていられた訳で……ヘドロゾウリムシなんて呼ばれたこともあったなー、あれは堪えた)

提督「……バカ野郎、これからカレーを食べるのにヘドロはないだろ。 でも食う、いただきます」パチン

提督「ん、美味い」

提督(……漣はいつから今みたいになったんだっけ……まあいいや、人は変わるってことで)モグモグ

640 : ◆1VwSTfn.DM - 2016/02/03 09:39:02.34 aCeJTJvl0 309/334


第七駆逐隊の部屋・朝——


<ナカチャンダヨーナカチ

「」バシッ

<ャンッ

「ぉぁょぅ……」ムクリ

「うわっ、いたんだ」

「のっけからご挨拶ね……そりゃあいるでしょうよ、自室なんだから」

「だって私達が寝る頃になっても帰ってこなかったし……昨日、いつ帰ってきたの?」

「さあ……ついさっきな気もするし、そうじゃない気もする。 私も執務室で居眠りして、クソ提督に起こされてそのまま帰ってきて寝たから、細かいことは分かんない」

「おはちょりーす……あ、ぼのやんがいる」

「ふああ……みんなおはよー」ネボケ

「んー、おはよー」

「ぼのやん、昨日はお楽しみでしたか」

「は?」

「……いや、だって帰ってこなかったし? ね? 訊くのはお約束だよね?」

「はあ……よく分かんないけど、あの頃のサザンクロスはどこに行ったのかしらね」

「お前はもう死んでいる……」

「それ北だしクロスじゃないし」

「ていうかサザンクロスとかいう謎の無茶振りに応えた漣ちゃんを褒めろよ」

「えらいえらい」ナデナデ

「わぁい」

641 : ◆1VwSTfn.DM - 2016/02/03 09:40:52.87 aCeJTJvl0 310/334


「いや、てゆーかですね、漣ちゃん的に言わして貰えばなしてぼのやんは執務室でぐーすかぴーちゃんしとったん?って話なんですやん」

「ついうっかりね」

「ついうっかりかー、それなら仕方ないかー」

「分かればいいのよ」

「分かるかいこのスカポンタンぼのやんやん!」

「そんなことよりもさ、曙は仕事しに行かなくていいの?」

「そんなこっちゃねーぜ! 重要案件だぜ!」

「んー、アイツも帰ってきたのは遅かったろうし、別に急がなくてもいんじゃない? 律儀に早起きするような奴じゃないでしょ」

「昨日帰り遅かったから今日もその分始業遅くするかー、なんて確かに言いそうだね」

「曙ちゃん、こういう時こそ優しく起こしてあげれば新妻度がUPするよ」

「誰が新妻か」

「更に胃に優しいお料理も作っておけば効果倍増!」

「二日酔い相手じゃないの、それ」

「どーせなら裸エプロンでもしてやればいーんでないの?」

「クソ提督の裸エプロンなんか見たくないんだけど」

「なんでこの流れでそうなるねん!! 着してやれっちゅーわけちゃうっちゅーねん!!」

「だって私がそんな羞恥心を捨てた権化のような真似をする訳ないじゃない」

「いくらなんでもご主人様だってしねーと思うぜ……って言い切れないぜ……」

「腰ミノ姿なんか披露されちゃったらもう何も言えないよね」

642 : ◆1VwSTfn.DM - 2016/02/03 09:42:42.94 aCeJTJvl0 311/334


「それじゃ、今日は曙ちゃんの朝ご飯どうするの? 食堂で一緒に食べる?」

「いや……昨日の昼みたいなことになるかもしんないし、執務室でひっそり食べる」

「秘書当番終わったら執務室に逃げるのも出来なくなるけどにー」

「げ、それもそうね」

「その頃にはほとぼりも冷めてると思うけどね。 噂なんて燃料がなければ続きやしないから」

「ぶっちゃけぼのやんそのものが燃料みたいなもんだけど」

「立てばガソリン、座ればハイオク、歩く姿は原子力……」

「その言い回しどこで覚えたんだぜ潮ちゃん……」

「え? ことわざを弄っただけだよ」

「mjd」

「そんなトリビアはともかく、人が形だけでもデートしたくらいでギャーギャー騒がないで欲しいもんよ」

「ギャーギャーじゃなくてキャーキャーな気もする」

「てーか認めたら負けみたいなことゆーときながらデート認めよったよこの頑固ちゃん」

「否定し続けるのを考えたら面倒になった」

「面倒がプライドを上回っちゃったかー」

643 : ◆1VwSTfn.DM - 2016/02/03 09:45:15.22 aCeJTJvl0 312/334


「でも騒ぐなってもの無理くね? 新参が来て邂逅一番ケッ! て言い放ってたぼのやんがデートしたとかいう生えてた棘どこに忘れてきたんじゃワレ! ってレベルのお話やで?」

「私をそこまで鋭くしてんじゃないわよ」

「初日でむっちゃんさんと大喧嘩しといてよくもまあ」

「私が初見で抱いたイメージは少し冷たそうだな、くらいだったんだけど」

「私は、仲良くなれるか不安だったなあ……」

「漣ちゃん的にはコイツとは一生かけても終わらない戦いを続けることになりそうだ……! って思いましたね」

「今すぐ息の根を止めて戦いを終わらせてやろうかなー」

「怖いぞぼのやん、笑顔になれよ☆」

「冗談だろうのにあながち間違ってなさそうだよね」

「こんなんと一生付き合ってたらツッコミが追い付かないからどっかで縁切ってやるわ」

「マジで? ぼのやん円月斬り使えんの?」

「今練習中だから、アンタ試しに斬られてくれる?」

「マジで」

「なんだかんだで仲良いよね、2人共」

「うん、息ピッタリのコンビの芸人さんみたい」

「ズッ友ですから」

「それも今日で終わりよ」スチャッ

「ちょい待てぼのやん軍刀なんてどっから取り出した」

「クローゼットに入ってたわ」

「取り寄せクローゼットか何かなのかなー!」

「喰らえ! えーと先月殺法!」ブンッ

「グワーッ!」ベシッ

「痛そう」

「鞘から抜いてないにしても痛いだろうね」

644 : ◆1VwSTfn.DM - 2016/02/03 09:48:27.53 aCeJTJvl0 313/334


執務室前——


(寝起きから疲れるやりとりをするとはね)

(飽きないと言えば飽きないんだけど、言うと絶対増長するからなあ、アイツ)

(ま、それはさておいて自分の分ついでに寝てるであろうクソ提督の朝食でも作ってやろうかしらね、甲斐甲斐しく)

「入るわよー、クソ提督ー寝てるー?」ドアガチャ

提督「起きてますよ、斬新な入り方だな」

「うわ、起きてる」

提督「そりゃ起きてますって」

「まだ寝てるかと思ったんだけど。 昨日遅かったし、まだ7時過ぎだし」

提督「早起きが習慣付いてるからな、3時間も寝れば充分よ」

「え、そんなに遅かったの」

提督「いや、昨日は1時くらいに帰ってきて2時前に寝た」

「なんだ、ビックリした……って、結局アンタはそんなに寝てないじゃん。 そんなで大丈夫なわけ?」

提督「眠くなったら昼寝すればいーの」

「職務中に堂々と寝る宣言とかしちゃうんだ」

提督「提督権限っていいよね」

「いつ寝てもいいみたいな都合のいい権限は無いでしょうが」

645 : 午前は書溜めだけ投下、以降の更新は午後に ◆1VwSTfn.DM - 2016/02/03 09:50:59.71 aCeJTJvl0 314/334


<ム゙-ッ ム゙-ッ

提督「ん」

「電話?」

提督「俺だな、朝からなんじゃらほい」ヒョイ

提督「Oh……」ム゙-ッ ム゙-ッ

「誰から?」

提督「ママンよママン、おっかさん。 いやマジで朝からなんだっつーの」ピッ

提督「はいもっしー? 朝から何用ですかねお母様……あー? はいはい久し振り久し振り久し振りでございますはい、で、何の用よお袋さん」

「呼び方統一しなさいよ……にしても、アンタにも母親っているのね」

提督「そりゃいるってえの、俺をなんだと……ああいやこっちの話。 いや話戻さなくていいって……そりゃ悪かったって。 でも俺の連絡無精は今に始まったこっちゃないでしょうに……うん……」

「……そういえば長いこと声すら聞いてないなあ。 手紙は来るけど……元気にしてるのかな」

<ム゙-ッ ム゙-ッ

「と、噂をしたらって奴かしら」ヒョイ

提督「業務中の私用電話は厳禁ですぅー」

「その言葉、そっくりそのまま打ち返してやるわ」

提督「こりゃ耳が痛え、あーこっちの話こっちの話。 いや急に電話かけてくる方が悪いだろが、そりゃ確かにまだ仕事始まっちゃないけどさー」

「じゃ、私は部屋の外で電話に出ようかしらね」ドアガチャ

652 : 筆のノリが悪かったら明日までもつれ込むとかありそうな悪寒 ◆1VwSTfn.DM - 2016/02/03 22:09:53.85 aCeJTJvl0 315/334


バタン

「——さて。 何年ぶりだっけ……改まるとなんか緊張するわね」 ム゙-ッ ム゙-ッ

「ええい、どうにでもなれ、よ」ピッ

「……………………うわー、凄い久し振りに本名で呼ばれた」

「あ、ゴメン。 ちょっと謎の感動を味わってて。 うん、久し振り、お母さん」

「ああ、それなら大丈夫、まだ業務始まってないし、クソ提督も電話に出てる最中だし」

「え? あー、上官よ上官。 上司。 部長だか係長みたいな」

「いいのよ別に、当人にも別に何も言われてないし。 クソ提督ーなんてのはあだ名みたいなもんなの、嫌ってる訳でもないし、そう言うほど悪い奴って訳でもないの。 変な奴だけど」

「いや、あんなのを上司らしく扱えってのが無理な話なんだけど……アイツ自体そういう上司らしさ無いし? 確かに年上だけどさ……」

「えー。 やだよ今更接し方変えるなんて。 え? うん、ずっとこんな感じだけど」

「そりゃあまあ、クソ提督にじゃないけど、怒られたりもしたけど。 なんて言えばいんだろ、年上でも同僚って言うのかな……まあ、別の艦娘? 年上の同僚? にね?」

「あー、大丈夫大丈夫。 今は別にソイツと仲違いしてないし、他の奴らとも。 小学生の頃の二の舞みたいなことにはなってないよ、安心して」

653 : ◆1VwSTfn.DM - 2016/02/04 14:53:12.40 hzhACPtt0 316/334


「……アイツからの手紙? まだ来てるよ、つい先月来たし。 お母さん以上に顔を合わせてないのに律儀というかなんというか」

「そう言えばなんで電話かけてきたの? なんか良くないことでもあった?」

「……なんとなくて。 いやダメじゃないけどさ、数年間手紙のやり取りだけだったのに急に電話だから」

「まあ、自分でも思うけど先行き不安な離れ方したもんね。 さっきも言ったけど大丈夫よ、普通な奴か変な奴くらいしかいないもん」

「……この歳になって友達出来たの? なんて訊かれるのってどうなんだろうね。 小学生じゃあるまいし」

「いやまあいるよ、何人か。 嘘じゃないって、騙されてないし騙してないし誤魔化してないし気遣ってなんかないし」

「そりゃあ……いつまでも小学生の時と同じままって訳にはいかないしさ。 うん、自分でも変わったって思う」

「自分から変わったって言うか、変えられたって言うか……クソ提督とかその他がしつこかったせいかな」

「あっれー、ぼのやん何してんの?」

「げっ、漣」

654 : ◆1VwSTfn.DM - 2016/02/04 15:09:44.93 hzhACPtt0 317/334


「ア、アンタこそ何しに来たのよ」

「んー、ご飯さっさと食べ終わっちゃってさー、せっかくだしぼのやん冷やかしに行ってくんねーって来たわけですが、そしたら部屋の外にいるぼのやんを見つけた訳で」

「冷やかしなんてお断りだっつう……あ、ゴメン、ちょっとその、同僚が」

「電話……?」

「いや、別にただの冷やかしって言ってるし相手なんてしなくていいの、ホントだって」シッシッ

「…………」

「多少ぞんざいに扱ったって大丈夫な奴だし……アンタも、用がないならさっさとどっか行きなさいよ」

「」ニッコリ

「」ゾワッ

「トランザム!!」シュバッ

「わっ」バッ

「はーいお電話変わりましたーぞんざいに扱っても大丈夫な同僚でぼのやんのお友達の漣でございまーす」シュタッ

「……え? えっ、あっ、あー! こら何してんのバカ電話返せ!」

655 : ◆1VwSTfn.DM - 2016/02/04 15:59:21.63 hzhACPtt0 318/334


「えーえーはいそーです、お友達ですよ! やーこちらこそお世話になってますってかお世話してますよお義母さん」

「何をしれっと言ってんのよてゆーか返せ」

「ええ、ちゃんと仕事はしてますよー。 迷惑らしい迷惑なんて最近は滅多にかけてないですしどこに出しても恥ずかしくない娘ですぜ奥様」

「アンタも呼び方統一しない民族かい」

「……ほう、やーでも鎮守府に来たばっかの頃ならまだしも今のぼのやんならだいじょぶっすよ、ご主——提督さんとか、他の友達とか色んなのに囲まれてますからねー」

「ああもう、いい加減返せ!」バッ

「あー、けちんぼー」

「何がけちんぼよ勝手に奪っといて! お母さんも相手しなくていいし!」

「ふぇっふぇっふぇ、紫音ちゃんは可愛いのう」

「本名で呼ぶなバカ! 忘れろ! ……え? あー、楽しいって言うか迷惑よ迷惑。 年中年柄同じ日がないし四六時中何かしらあるしで気力が保たないわ」

「マグロみたいな生き方って最高だと思わんかね」

「だったら市場で転がってなさいよ……え、任期? まあ、最低限の任期はとっくに終わってるけれど……んー……」

「……まだもうちょっと、気が済むまでは。 うん……いやだから迷惑、あーもう、楽しいけどさ……」

「ぼのやんがデレた、ボイレコ持ってりゃよかったぜ」

「後でシメる」

「生きたままシメられるマグロの身にもなれよ!」

「……感謝? 誰に……あー……そうか、そうだよね、色々まとまった気がする」

「お?」

「ありがとう。 ん、じゃあまた」ピッ

「何々ー? 感謝とか聞こえましたけど漣ちゃんに日頃の恩を返しなさいよ的なー?」

「むしろアンタからは普段から迷惑かけられてる借りを返してもらいたいくらいなんだけど」

「やっべえ、高くつきそう」

「今はそれよりも」

656 : ◆1VwSTfn.DM - 2016/02/04 17:40:40.12 hzhACPtt0 319/334


「クソ提督ー、電話終わったー?」ドアガチャ

提督「終わってる終わってる。 しかしそっちは随分賑やかだったな」

「そりゃあ賑やかし担当がいましたから」ヒョコッ

提督「なるほど」

「アンタのとこのは何の用事だったの?」

提督「くだらない用事だよ、田舎からリンゴが届いたけど食べ切れないからそっちで食べてくれってさ」

「田舎から届くものと言ったらみかんかリンゴだよね」

提督「こっちに送られたら送られたらで、ウチの人数的にビミョーな数だろうけどなあ。 どーするかは届いてから考えますかね」

「そうね。 それで、アンタはいつまでいるわけ?」

「いやいつまでも何も執務室にゃ入ったばっかしだぜボーニィ」

「知ってるけど。 朝の哨戒行ってきなさいよ」

「いやいや今朝の当番はしらちゅんと小川じゃ」

「やかましい、アンタが行け」

「おーぼー! 職権濫用! ってーか昨日も昼にソロ哨戒したんですけど!」

「言い訳は後で聞き流してあげるから」ドアガチャ

「ぼのやんのファッションツンドラー!」バタン

提督「ところでしらちゅんと小川って誰だっけ」

「白露と江風でしょ」

657 : ◆1VwSTfn.DM - 2016/02/04 19:03:39.68 hzhACPtt0 320/334


提督「しかしなあ、難癖つけてまで追い出さなくても良かったんでないの?」

「漣がいると真面目な話なんかしようがないからね、形だけでもこの場からいなくなって欲しかったのよ」

提督「真面目な話?」

「まあね。 どうせ扉の外にいるんでしょうけど」

提督「案外素直に行ってたりするんじゃないか?」

「この場にいなければどっちだっていいわ」

663 : ◆1VwSTfn.DM - 2016/02/05 21:59:38.40 WwxoWdsi0 321/334


提督「しかし真面目な話ってなんだい、愛の告白でもされちゃうの?」

「アンタも大概だったわね、この際どうでもいいんだけどさ」

「アンタさ、ここに来たばっかりの頃の私の事、どう思ってた? どんな風に見えてた?」

提督「思ってたより真面目な話っぽいな? でも、どうって言われてもなあ」

「別にどう言われたって思われたって怒ったり八つ当たりなんかしないわよ、昔の事だし」

提督「うーん? まあ、多少小生意気な感じの子だなあとは」

「小生意気どころじゃないでしょ?」

提督「はい」

「正直でよろしい」ボスボス

提督「腹パンはやめい」

664 : ◆1VwSTfn.DM - 2016/02/06 14:57:31.51 hoKU7Ms10 322/334


「でもさ、自分で言うのはどうかと思うけど、大分変わったと思う」

提督「劇的ビフォーアフターぼのやん編」

「幾人もの匠の手によりあら不思議、剣山の様に刺々しかった女の子が刺したら痛いつまようじになりましたとさ」

提督「薔薇の方がオシャンティだぜ、棘もあるし」

「はいはい、これ以上脱線させないの。 そうやってふざけられるといつまで経っても話が進まないんだから」

提督「真面目な話って苦手なんだよ、自分からすることもあるけど」

「我慢して。 私はさ、変な言い方になるけど、こうまで変われたというか更生出来たのは漣やアンタのおかげだと思ってる」

提督「お、おう……むっちゃんは?」

「んー? んー……一応カウントしといてあげるか」

提督「一応扱い」

「まあ仲悪かったし」

665 : ◆1VwSTfn.DM - 2016/02/06 15:33:45.18 hoKU7Ms10 323/334


「アンタ達はこっちがいくら無視しても突き放しても邪険に扱ってもどうしてもさ、懲りないし諦めないしへこたれないしでホンッッットしつこかったわ」

提督「良い褒め言葉だ、心が温まるぜ」

「私も意固地になって反抗し続けてたけどね。 それでも見捨てないで見放さないで見限らないで。 どっかネジ外れてるどころかぶっ壊れてんじゃないのってくらい、私に構い続けて」

「そうね……確か1度訊いたことがあったっけ、何が目的なんだって。 意味、無かったけどね。 普段から口にしてるのと同じこと言うんだから」

「アイツは友達だからとか、アンタは仲良くしたいだけ、とかそんな感じことだったかしら」

「私からしたら訳が分からなくてね。 あの頃は嫌われて上等って考えしてたからなあ。 むしろ全部全員に嫌われてる方が何も期待しないで済むから気が楽だった」

「一時期を除いてずっとそうだったから、ここに来ても同じ様に振る舞ったのにね。 アンタ達ときたら」

提督「提督たるもの、しつこさと根性がなければ務まらないってもんよ」

「どっちかと言うと忍耐力じゃない? 数多の美女美少女に囲まれてながら提督然として誰にもなびかずにいないといけないんだからさ」

提督「別に艦娘と付き合っちゃダメーみたいなのはないんだけどな」

「風紀よ風紀。 目の前で同僚が上官とイチャコラしてたら魚雷をぶん投げたくなるわ。 ウザいし」

「別に鎮守府外から誰か適当に引っ掛けてここに連れてくる分なら別にいいかもね」

提督「こんな仕事してると艦娘以外の出会いが滅多にないんですが? ていうか今度はぼのやんの方から話逸らしてるぞ」

「あら失礼」

666 : ◆1VwSTfn.DM - 2016/02/06 16:10:05.53 hoKU7Ms10 324/334


「まあ、さ。 艦娘になってここに来て、出会ったのがアンタ達で良かった」

「そうじゃなかったら多分私は灰色な世界でずっと燻ったままでいて、無為に時間だけを浪費して、誰にも心を閉ざしたままで1人の人間としても未熟なままで」

「任期が終わったらそのまま逃げる様に艦娘辞めて、それでもどこに行っても何をやっても居場所なんかなくって——なんてのが容易に想像出来るわ」

提督「て事は俺らはぼのやんの恩人って訳だな」

「そうなるわね、胸を張ってもいいのよ?」

提督「どやっ☆」

「はいはいウザいウザい」

「……それで私がアンタ達と出会って、私の手を掴んでは引っ張ったり振り回したりしてさ。 そうされている内に私の目に映る世界も少しずつ色鮮やかになって、たんだと思う。 変化が急じゃないから過程についての実感はないけれど」

提督「水を差しちゃうけどぼのやんって結構ポエミーと言うか詩人めいてない?」

「そういうのは心の中だけにしといて、黙っといてよ」

669 : ◆1VwSTfn.DM - 2016/02/06 23:41:52.75 14JA6aRAO 325/334


「だからさ、今の生活は私なりに凄く楽しんでるよ。 アンタに騙し討ちで街に連行されたり、それについて他の連中にからかわれたりするような生活だけどね」

提督「騙し討ち……? ああ……何か不便をかけたようで」

「ちなみにまだ現在進行形」

提督「おおう……」

「私個人じゃどうにもならないから、ほとぼりが冷めるのを待つしかないわ」

「ま、こういうのも刺激をもたらすハプニングとでも思えばいいのかな。 でもこれで終わりじゃない、これから先もまだ楽しませてくれるんでしょ?」

提督「……無論、言われるまでもないな、どうせならいつか死ぬほど笑わせてやるよ」

「期待しとくわ、顎が外れなければいいけど。 その前に、お礼を言わないとね」

提督「お礼?」

「さっき電話でお母さんと話してる時にさ、声が明るくなったねって言われたのよ。 今の生活が余程楽しいんだろうって」

「私にそんな風に感じさせてくれた友達や提督って人に感謝しないとね、ってさ。 だから……その」

「……ありがとう」

「っ、わ私朝ご飯作ってくるから」タタッ

672 : ◆1VwSTfn.DM - 2016/02/07 01:36:49.39 Uq60qsxQ0 326/334


宿直室——


ガチャ バタン

「……はー」カベモタレ

(思いついたが、ってことで勢いに任せてしまったけど正直恥ずい)

(だけど、私がクソ提督に対して燻ってた感情は感謝ってことでいいのかな。 一応何か吐き出した感じはあるし)

(そういうことにしておこう。 嘘の気持ちって訳でもないし)

(……顔が熱い。 朝食作って平静を取り戻そう……)

「ん……」カガミチラー

(……なーに笑ってんのよ私は)

673 : ◆1VwSTfn.DM - 2016/02/07 01:52:49.56 Uq60qsxQ0 327/334


執務室——


提督「…………」

<ドアガチャ-

「ご主人様だけデレぼのやんいただくとかズルくねーです? ねー? ズルくねー?」

提督「…………」

「漣ちゃんも付き合い同程度なんにさー。 あんにゃろめ、マジで雑に扱ってくれちゃって、こりゃあオシオキが必要な奴だぜ!」

提督「…………」

「……おーいご主人様やーい、無反応はボケ殺しだってジュラ紀の頃から言い伝えられてるんだよ? ってか何ぼけーっとしてんのさ」

提督「……いい笑顔だった」

「は」

提督「決めた」クルッ ガサゴソ

「や、決めたって何を……」

提督「みっけ。 適当にしまい込んだ記憶しかなかったが、すぐ見つかってよかった」

「漣ちゃんガン無視かよオイ……て、なんそれ? 何かの用紙と小箱……?」

675 : ◆1VwSTfn.DM - 2016/02/07 02:19:21.21 Uq60qsxQ0 328/334


提督「ケッコンカッコカリ。 このふざけた名前を聞いたことくらいはあるだろう」

「え? あーアレでしょ、艤装の限界突破改装みたいな……なんでそんな名称やねん!って感じの」

「……ってこの流れでその話をするってこたご主人様あーた」

提督「ぼのやんは最大限の練度があると認められているしな、ああ、その通りだ、行ってくる」

「ちょい待ち、その書類一式さ、いつから持ってたの?」

提督「俺が着任して1年くらいの時にお試しセットとか言って大本営から届いたんだよ。 その時は誰も練度の条件を満たしていなかったし、名前が名前だから俺も抵抗があってな。 皆には黙って隠してた」

「名前が、って一応そういう風に感じたりはする人だったんすね……ちゅーことはちゅーことはもしかしてご主人様アンタ」

提督「ぶっちゃける、惚れた」

「」

提督「いやまずね、ありがとう、ですよ? あの絶対零度の頃から面倒見続けたってか構い続けてさ、そして今報われたというか感無量というかね? まあそんな親心みたいな感情も1%くらいはありましたよ」

「1%かよ」

提督「残りはね、笑顔です」

「笑顔」

提督「この時のとはまた違うんですよ、こんな顔を出来るようになったのかとかそういうのも3%くらいはあるんだけどさ」

(こないだの笑顔ぼのやん写真を待ち受けにしてやがる……!)

提督「後はもう理屈抜きにストレートに射抜かれ、俺は抵抗する術を持たなかった」

提督「ケッコンカッコカリ、正直この恥ずいふざけた名称の制度はこのいかにもな名称のせいでそういうことを意識する艦娘が多いと聞く」

提督「だが、このふざけた名称が今の俺には味方となる……!」

「……ご主人様」

提督「止めてくれるなよ漣、一世一代の大勝負なんだ」

「そうじゃない、止めやしないけど一言言ってもいいかな」

提督「……なんだ?」

「すぅーっ、」

「遅いよ!!!」

676 : ◆1VwSTfn.DM - 2016/02/07 02:32:40.94 Uq60qsxQ0 329/334


提督「えっ」

「おっせえよ!! 1万光年遅いよ!! 自分の気持ちに気付くのにどんだけ時間かけてんだこんにゃろーめ!! だからニブチン山脈ってんの!!」

提督「ニブチン……ってああ!? そういうことなの!? ニブチン山脈ってのがあるんじゃなくてそういうこと!? うっわマジか鈍いな俺!?」

「どっちを鈍いってんのか分かんねーよ!? いやってーかニブチン山脈なんて山脈どこにもある訳なかろーがおバカ! グーグル先生に訊けよ!!」

提督「いやでももしかしたらブラジルとかアルゼンチンとかに行ったらあるかも」

「ねーから! あったら全裸でブレイクダンスしながらヲ級沈めてやるわ!」

「いやっ、鈍いのはニブチンだけど! もひとつ! 行動が突飛すぎでしょ!! 諸々すっ飛ばして求婚かよ!!」

提督「それはアレ! 結婚を前提としてみたいな!」

「このロリコン!!!」

提督「ロリコンちゃうわ!!! 合法ですー!!!」

「マジかよぼのやん同い年だと思ってた!!! いやでもやっぱロリコン!!!」

提督「ちげーし!! ええい、鉄は熱いうちに打てってローマの誰かが言ってた! 俺はやるぞ!!」

「ああもうダメだこのクソ提督ってば人の話聞きゃしないよー!!」

682 : ◆1VwSTfn.DM - 2016/02/07 14:01:58.58 Q+Qjh0HsO 330/334


「何騒いでんのよギャーギャーギャーギャーとやかましい、動物園か」ドアガチャ-

提督「あっ、丁度良い時に来たぼのやん!」

「タイミングダメな時に来たぼのやん! 逃げてー!」

「どっちなんだっての、どちらにしろこれ以上騒ぐようならこのフライパンのサビにしてやるわよ」

提督「それよりもだ! 黙ってコイツを受け取るがいい!」バッ

「あん? 何これ、何の紙? と、ちっさい箱」パシッ

提督「おう! ……まあ、そういうことです!」

「ここに来てメンタル軟弱もやしか!! さっきまでの勢いはどしたの!!男ならジャッキーンのガキーンでパキパキパッキーンとせんかい!!!」

提督「お前はどっちの味方なんだよ」

「面白そうな方に転びそうな方の味方!」

「んー……ああ、例の奴ね? 改装ひとつするのに署名が必要なんて面倒な話ね」

提督「む」

「ん?」

「ちょっと待ってて、すぐ書くから。 机借りるわよ」

「……なんか、淡白じゃね?」

提督「ま、まあ、ぼのやんだし……?」

684 : ◆1VwSTfn.DM - 2016/02/07 14:42:09.85 Uq60qsxQ0 331/334


「ほいほいっと。 で、こっちの小箱は何? 開けてもいいの?」

提督「お、おう、どうぞ」

「なら早速」パカッ

「……指輪ー、指輪? シンプルだけど綺麗ね。 人差し指にでもはめとこ」

提督(!?)

(!?)

「これってアレ? 更なる改装をした艦娘っていう証明みたいな、免許証みたいな奴?」

提督「ソウダヨ」

「」ドスッ

提督「ごふっ、俺の脇腹に何の恨みが」

「そうだよじゃねーだろべおまいさん、なーに淡白アトモスフィアに流されそになっとんのじゃ、攻めろよ」

提督「さ、漣さん……ハイライトどこに失くしてきたの……」

「ぼのやんもぼのやんだよ!!!」

「うわっ、訳わかんないけど飛び火した」

「なぁーーーに何の疑問も持たずに指輪はめとんねん!!!っつーか何で人差し指やねん!!!そこは薬指にはめるところちゃうんかい!!!」

「そんなアンタ、婚約指輪じゃあるまいし」

提督「」

「いやいやいやいやいやいやいやいや何を言っちょんのぼのやんあーたねあのさ例の奴ってーくらいだから分かってんでしょ知ってんでしょ?ケッコンカッコカリじゃよ?な?ね?」

「はあ……別にどこにつけてもいいと思うけど……様式に倣えって言うならそうするわよ、イマイチ納得出来ないけど」ツケカエ

「淡白ゥー!! めっちゃ淡白ゥー!!! ドライ過ぎんでしょ!! ぼのやんスローネドライだよ!!!」

「やっかましい」ベゴン

「うぎゃん!」

687 : ◆1VwSTfn.DM - 2016/02/07 15:52:27.77 Uq60qsxQ0 332/334


「いたあ……なんでんなにクールなんだよ……ケッコンカッコカリだよ……ケッコンだぞお前ぇ……」

「(仮)でしょうが、それに文句が言いたければ制度作った奴に言いなさいよ」

「ふざけた名前してるわよねー。 考えた奴ら、酒飲みながら会議してたんじゃないの?」

「いやでもさ……色々と連想せざるを得ないでしょ……だのになしてそんなさっぱりしすぎてんの……」

「連想? 連想って言ったってねえ」チラ

提督「」

「クソ提督が私にそういった感情を抱いてる訳ないでしょ」

「」

「あっても……そうね、精々世話焼きみたいなそんな感じの情くらいじゃないの?」

提督「」

「」

「で、話は終わり? なら私朝食作りの途中だから」スタスタ

「」

提督「」

「……いや放心してないで押しに行きなよ……ダイレクトに言わねーと通じねーよアレ……」

提督「……今はもう、そういう流れが消え去ってしまっている……」

「……敗因は思ったよりご主人様の押しが弱いってか肝心な場面で奥手かよってところだと思うけども」

提督「決めたって言っといて決まらねえよな……」

688 : ◆1VwSTfn.DM - 2016/02/07 16:13:19.44 Uq60qsxQ0 333/334


「……あのさーご主人様、ニブチン山脈登山部を設立しようと思うんだけど、どうよ」

提督「……部長は俺かな」

「むっちゃんさんを名誉顧問にしよう」

提督「……まさかニブチン山脈が他にもあるとはな」

「でもそこに山がある限り、挑戦するのが登山部の使命よ」

提督「完全踏破するには、ニブチン山脈はあまりにも険し過ぎるけどな」

「……とりあえず予行演習しません?」

提督「予行演習?」

「登山って言えば頂上でヤッホーでしょ、ほら窓開けて開けて」ガララ

提督「……風が寒いな」

「ここは山じゃないから……山に向かって言うつもりで」

提督「おう」

「せーのっ」

「ファッションツンドラのバカァーー!!!」

提督「こんっのニブチン山脈ゥーー!!!」


<ドアガチャッ

<ベゴンッ パゴンッ




おわり


690 : ◆1VwSTfn.DM - 2016/02/07 16:29:33.79 Uq60qsxQ0 334/334


くぅ疲。本当に疲れた
きっかり3ヶ月で終わりました。狙ってないけど区切りがいい
1,2ヶ月で終わるはずだったのに筆が変に乗ったり乗らなかったりで。話の大まかな流れ以外をフィーリング任せにした結果がコレだよ

年末年始スピンオフを読んだ方がいれば、読んだ方からしたら終わりはある程度察せるような終わり方
くっつかねえのかよ!感はある。でもいつか続き書くつもりやから…許してや…
続きって言っても他作品とのクロスオーバーをするつもりでもあるんですけど。というかする前提で書いてたりするのです
と言っても互いに密接に関わるというより同じ世界線にいるという程度の。クロスオーバーなんかするなって言われてもやりたいんだから仕方ない。 はい

コレ書き始めた理由は、色んなところで見る曙が大体テンプレツンデレで。でも自分としてはクールでドライでサバサバしててデレ?何それ美味しいの?みたいな曙が欲しかったから
ぶっちゃけ冷たくされたい。ずさんに扱われたい、そう思いませんかあなた


というくっさいくっさい後書きでした
長いことお付き合いいただきありがとうございました。返信こそしてませんが感想は励みになってました
それではまたお目にかかるその日まで

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