関連
魔王「世界の半分はやらぬが、淫魔の国をくれてやろう」【前編】

619 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/11/28 21:26:17.99 FVTtBnwgo 201/424

勇者「中々いい部屋じゃないか」

隣女王「恐れ入ります。陛下をお泊めするにはいささか質素かと思われますが……」

勇者「遜らなくていいよ。足を伸ばして寝られて、寒くなければそれで十分」

隣女王「…不思議な言い方をなさるのですね」

勇者「馬車の中で折り重なって寝たり、野宿同然に毛布に包まって寝る事が多かったのさ」

隣女王「……陛下が?」

勇者「昔の……、昔の話でもないな。どうにもおかしな気分だ」

隣女王「?」

勇者「いやこっちの話。で、堕女神の方は?」

隣女王「はい、出来る限り良いお部屋を」

勇者「襲うなよ。いいか、絶対に襲うなよ」

622 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/11/28 21:37:19.86 FVTtBnwgo 202/424

隣女王「は、はい?」

勇者「もう一度言う。絶対に襲うなよ。分かったな?絶対にな」

隣女王「……はい」

勇者「分かったのならいい」

隣女王「陛下、晩餐の前に沐浴をなさってはいかがですか?」

勇者「あー……昨日から入ってないし、オークの血も浴びたし、久々に戦ったし……いただこうか」

隣女王「それでは、浴場にご案内しますね」

勇者「…まさか、例の淫魔どもの中に放り込むつもりか?俺をどうするつもりだ?」

隣女王「い、いえそんな。私や来賓のための別の浴場があります」

勇者「(残念なような、安心したような)」

624 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/11/28 21:56:15.17 FVTtBnwgo 203/424

浴場

勇者「しかし、恐ろしいよなぁ……」

堕女神に降りかかった災難をしみじみと想像しながら。
あの冷静な彼女が唇を奪われ、よく育った乳房を弄ばれ、
淫魔の蜜を飲まされ、その後も無邪気な笑い声とともに玩具にされ……

勇者「………見たかったな、いっそ」

湯の中でむくむくと持ち上がったそれを一瞥する。

勇者「それにしても、もしかしてここの淫魔って……」

戦いながら、彼女らを助けていた時に感じた事がある。
オークに暴行を受けていた彼女らだが、勇者や堕女神が踏み込んだ時、泣き叫んでいる者は殆どいなかったのだ。
逆に快感に打ち振るえ、自らオーク達のいきりたった欲望を咥え込み、小さな尻を振り立てながら貪欲に求めていた。
もちろん個人差はあるが、その様子は、勇者はもちろん堕女神にとってすらも異常だった。
望まぬ行為の筈なのに。
間違いなくレイプだった筈なのに。
生存本能がそうさせた、と言うにはあまりに行き過ぎている。

勇者「……もしかしてここの淫魔は俺達が思うより、とんでもないのか?」

634 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/11/28 22:54:28.62 FVTtBnwgo 204/424

入浴後

勇者「うーん………」

隣女王「陛下、晩餐の準備が整っております」

勇者「ああ…………」ジー

隣女王「な、何でしょうか?」

勇者「…いやいや、考えすぎだよな、うん」

隣女王「え?何が……」

勇者「まさかね。こんなあどけない顔でね」

隣女王「???」

勇者「気にしすぎだな、流石に」

隣女王「は、はぁ…?」

635 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/11/28 23:27:22.71 FVTtBnwgo 205/424

勇者「ところで、オークどもはあれからどうなったのかな」

隣女王「はい、群生地へと戻ったようです」

勇者「窮鼠に噛まれて驚いたか。……いや、突っ込んだら食い千切られた、の方が正しいかな」

隣女王「…よく分かりませんが、それが何かはしたない例えなのは分かります」

勇者「それは置いといて晩餐にしよう」

隣女王「はい。……食材のほぼ全てが貴国からの援助という有り様ではありますが」

勇者「あまり豪勢じゃなくていいよ」

隣女王「そう言っていただけると」

勇者「まぁ、積もる話は食後にしようか」

640 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/11/29 00:10:58.58 b/P4ZjNFo 206/424

食後の一時

勇者「……ふう。この国の料理は味付けが薄いんだな」

隣女王「お口に合いませんでしたか?」

堕女神「私としては、素材の味が引き立っていて気に入りましたが」

勇者「硬い言葉を使うんだな、全く。……俺も、美味かったよ」

隣女王「ありがとうございます」

勇者「…ところで、女王」

隣女王「はい、何でしょう」

勇者「………今回のオークの襲撃だが、不自然じゃなかったか」

隣女王「と、申されますと」

勇者「何故、決裂したはずの二つの勢力が手を取り合ってここに攻め寄せた?」

655 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/11/29 00:57:37.21 b/P4ZjNFo 207/424

堕女神「……気になりますね。これまで、どんな異変が起きても淫魔の国には手を出さなかったのに」

勇者「恐らく、何者かに駆り立てられた……と俺は見ている」

隣女王「それは、何故でしょうか?」

勇者「勘だ。……というのは冗談だけど、何か、かなりの理由があったに違いないだろ」

隣女王「理由……」

勇者「まぁ、考えても今の所はお手上げさ。……さて、部屋に戻って一休みするよ」

隣女王「はい、どうぞおくつろぎ下さいまし」

堕女神「私も失礼いたします。……陛下、変な事を言ってないでしょうね?」

勇者「……ああ。『絶対に堕女神を襲うな。絶対に』って釘を刺しておいたよ」

隣女王「?」

勇者「い、いや。何でもないよ。……それじゃ、失礼」

659 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/11/29 01:32:46.36 b/P4ZjNFo 208/424

ベッドに身を横たえる。
きっと隣女王なら、「食後に横になるのは良くありませんよ」とでも言うのだろうか。
そんないかにもな空想を描きながら、天井を見る。
どこか異国の情緒を感じるパターンが描かれており、寝台の装飾にも同じものを感じる。

勇者「………ん…?」

ずぅん、と体に重みを感じる。
無理もない、久々に剣を握って戦ったのだ。
心地よい疲労感とともに、彼はその手を見た。

勇者「俺は……そうだ。勇者だったんだな」

手のひらに熱いものを感じる。
……もしかすると、この無償の戦いは「王」としては失格だったのかもしれない。
見返りもなく戦い、安い理由で食料支援を行い。
「王」としてではなく「勇者」として判断してしまった。

勇者「見捨てろ、か?……俺は、あの王達のようにはなりたくないんだ」

661 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/11/29 01:47:26.75 b/P4ZjNFo 209/424

砂漠の国の王がいた。
彼は兵士を魔王軍との壮絶な戦いに費やし続け、街には寡婦と父無し子があふれていた。
訪れた勇者の一行を快く迎え入れはしたものの、最寄の魔王軍の砦を攻め落とす手伝いをさせられた。
結果として勇者の活躍によって勝利したが、その後も彼は無益な戦いを続け、
今度は隣国に攻め寄せて返り討ちに遭って、その国は滅んだ。

エルフの王がいた。
彼は頑なに里から出ようとせず、自慰行為のように魔術や薬学の研究に取り組んでいた。
ある日、間近にあるダークエルフの里が、魔王軍の襲撃を受けた。
戦える若者達は救援を申し出たが、王は断固としてそれを跳ね除けた。
終わりも無く、その始まりすら見失ってしまった憎しみによって、ダークエルフ達は死よりも辛い運命に置かれた。
その後、力を増した魔王軍によってエルフの里も襲われ、勇者達が辿り着いたときには、そこは廃墟と化していた。

664 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/11/29 02:05:34.25 b/P4ZjNFo 210/424

絶えず戦を行っている、二つの国があった。
魔王の登場まで何十年も戦争を行っていたその国は、もはや原因が何だったのかも忘れていた。
共通の脅威に晒されても戦を止めただけで、手を取り合う事はなかった。
あちら側の国にいけば、「あっちから来たのか」と唾を吐かれ、侮蔑の視線をぶつけられた。
子供には石を投げられ、女達には水をかけられた。
恐らく、魔王が倒れれば、再び戦争を始めるに違いない。


勇者「……反動、なのかな?」

手を返しながら何度も見る。
そうしているうちに心地よい眠気に襲われ、ゆっくりと瞼が落ちていった。
帳が落ちるように視界が閉じられていき、自分の手が見えなくなる。

瞼が完全に閉じるのとほぼ同時に、勇者は眠りに落ちた。

667 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/11/29 02:22:08.06 b/P4ZjNFo 211/424

数刻すると、勇者の部屋に誰かが尋ねてきた。
規則正しいノックとともに、幼く、それでいてよく通る声が聞こえる。

隣女王「……陛下、入ってもよろしいでしょうか……?」

勇者「んぁ……?寝てた、のか。……どうぞ」

口の端から一筋の唾液を垂らしながら、入室を促す。
恭しくゆっくりとドアを軋ませながら入ってきたのは、やはり女王だった。

勇者「……何だい、一体」

隣女王「…あ、あの……」

勇者「?」

隣女王「心ばかりのおもてなし……と申したのを、お覚えですか?」

勇者「それが?」

隣女王え、ええと……つまり……」

勇者「つまり?」

669 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/11/29 02:33:41.66 b/P4ZjNFo 212/424

隣女王「……う、うぅ………///」

勇者「……言わなきゃ分からないよ」

隣女王「わ……私の……」

勇者「私の?」

隣女王「は、はじめて……を…差し上げ、ます…」

勇者「………………待て」

隣女王「え……?」

勇者「……どう繋がるんだ、それ」

隣女王「で、ですから…心ばかりの…」

勇者「…そこがおかしい。何故女王自ら」

隣女王「…ほかに、差し上げられるものがなくて……」

勇者「いやいや、もうちょっと考えようよ」

673 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/11/29 02:41:47.75 b/P4ZjNFo 213/424

隣女王「…私では、だめですか?」

勇者「っ……いや、そんな事ないけど」

隣女王「それでは、何が?」

勇者「……いや、そういうのは好きな人と……って、何を言っているんだろうか」

隣女王「…私は、貴方が好きです」

勇者「へっ!?」

隣女王「我が民を救って下さいました。…我が民の命を救うために、自ら剣を握って下さいました」

勇者「いや、ちょっと……」

隣女王「……お願いします。私の、はじめての殿方になって下さいまし」

676 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/11/29 02:52:14.09 b/P4ZjNFo 214/424

勇者「…………」

隣女王「おこがましい申し出かもしれません。……オークに穢された民を尻目に、私だけ……貴方と…」

勇者「…分かったよ」

隣女王「え?」

勇者「……こちらへ、来てくれ」

隣女王「……は、はい…」

勇者「本当に、いいんだな?」

隣女王「…はい」

ベッドサイドまで進み出た彼女を抱き締める。
細い身体は、力加減を誤るだけで折れてしまいそうだ。
甘く、上質なミルクのような香りが鼻腔をくすぐる。
女王の薄い褐色の肌が汗ばみ、僅かに震えている。

勇者「……『俺にまかせろ』」

677 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/11/29 03:06:24.94 b/P4ZjNFo 215/424

抱き締めたまま、ベッドに倒れこむ。
下が勇者、上側が女王。
倒れこんだ衝撃に女王が声帯を震わせ、小声で喘ぐ。

勇者「…キスを?」

隣女王「……はい」

勇者が自分から唇を寄せようとした、その瞬間。

隣女王「んむっ……ちゅっ…はぅ……ん…」

逆に、唇を奪われた。
首に細腕を巻きつけ、洗練されていない、貪るような調子で。

勇者「っ……待っ……!」

隣女王「んちゅ……はぁ……」

一心不乱。
彼女は、脇目も振らず、一所懸命に勇者の唇を嘗め回す。
まるで、本能に従うように――ただ、ひたすらに。

678 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/11/29 03:24:17.35 b/P4ZjNFo 216/424

勇者「んっ……んんん!」

肩口を押して引き離すと、涎が別れを惜しむように糸を引いた。

隣女王「……っはぁ……な、何か……?」

勇者「…何で、こんないきなり?」

隣女王「…分かりません。……頭がぼうっとして……こうしなきゃ、って……」

勇者「………おいおい」

彼女が再び口付けする前に、膝を入れ、位置を逆転する。
今度は勇者が上に乗る形となった。

勇者「……脱がすよ」

胸周りを覆う、煌びやかな装飾を施された布のような衣類を押し上げ、脱がせる。
下からは薄い胸と、桃色に色付いた、飾りのような乳首が現れた。

679 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/11/29 03:49:06.18 b/P4ZjNFo 217/424

隣女王「み、見ないで……恥ずかしいです……」

勇者「…どの口で言ってるんだ?」

両手を伸ばし、隣女王の薄く未発達な胸へと触れる。
ほぼ乳首だけという胸に手をかけ、乳房、というより……胸筋をこね回す。
薄さに反して感覚神経は発達しているのか、触れる度に吐息が漏れ、その度に彼女は顔を背ける。

隣女王「あっ……ん……う、んん…ふっ…」

彼女が口に両手を当て、声を漏らすまいと押さえ込んだ瞬間。

隣女王「えっ……!?」

勇者がその両手を左手で絡め取り、頭の上、枕に彼女の両手を押し付ける。
直後――右手で、ピンク色の乳首を捻り上げた。

隣女王「んあぁぁぁぁっ!ひゃ、あ……!」

広い部屋全体に響くような、甘い悲鳴が吐き出された。
背筋が硬直し、小柄な体が魚のように跳ねる。

680 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/11/29 04:06:06.73 b/P4ZjNFo 218/424

丁度、その頃

堕女神「…………」

堕女神が、ベッドに横たわりながら、今日起こった事を振り返っている。
王とともに戦い、オーク達を駆逐し、そして……淫魔達を、救った。

堕女神「…私でも、何かを救えるのでしょうか」

上質なシーツに包まって、ぽつりと漏らす。
あの双子は、私に礼を言った。
「助けてくれてありがとう」と。
その言葉は未だに残響を以って、彼女の心を震わせている。

そして―――浴室で行われた、無邪気な陵辱。

忘れたい事のはずなのに、心から消えてはくれない。
熱っぽくリアルな感触が、今も体に残っている。
小さな手が伸びてきて、敏感な部分を探り当て、競うように刺激を加えてくる感覚。


思い出しているうちに―――彼女の手は、下着の上から、秘所をなぞった。

681 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/11/29 04:12:18.89 b/P4ZjNFo 219/424

堕女神「ひんっ……!」

手触りは、既に濡れていた。
下着が湿気を帯び、指先を湿らせる。

堕女神「……こん、な……事……」

言葉とは裏腹に、次に、左手が乳房を探り当てる。
汗ばんだ胸元を左手が這い、乳首を摘まむ。

堕女神「…ひぃ…あ…!」

爪が乳首の先端を何度も引っかき、まるで自分の意思と反して動き出す。
かりかりと爪を立てる度に意識が飛んでしまいそうになりながら、必死で堪える。

こんな事、だめだ。
『陛下』にならともかく――幼い淫魔に弄ばれた事を思い出し、自分を慰めるなんて。
そう言い聞かせながら、指は止まってくれない。

右手が下着越しに何度も秘所をなぞり、指先で陰核を刺激する。
まるで、何かに操られているようだ。

682 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/11/29 04:27:15.88 b/P4ZjNFo 220/424

堕女神「嫌……こん、な……の……!」

枕に噛み付きながら、襲ってくる異常な快楽に堪えようとする。
思い出し、手淫しているだけでこの快感。
手を動かしていると、不鮮明だった領域がハッキリとしてくる。

小さな指が、彼女のクリトリスを摘んで笑っていた事。
アヌスに侵入してくる、指の感覚。
首筋に這わされた、ざらざらとした舌。
膣内を何度もかき回し、こすり上げるいくつもの手。

涙を滲ませ、溢れ出す愛液が、まるで失禁したかのように彼女の下着を濡らす。
それどころか、もはやシーツがじっとりと濡れている。
屈辱と背徳が入り混じり、彼女の心を侵す。

ぽろぽろと涙を流して、彼女は堪えようと歯を食い縛る。
依然として左手は乳房から離れず、右手はもはや、下着をずらし、指先を秘所に沈ませている。
中指と薬指は、いやらしく濡れた内部へ。
人差し指と親指は、真っ赤に充血したクリトリスへ。

683 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/11/29 04:41:27.75 b/P4ZjNFo 221/424

堕女神「くひっ……ひゃ……あぁ……!」

二度、三度、四度。
激しく身を強張らせると、同時に侵入していた指先がひどく食い締められる。
きゅっ、きゅっ、と指先を締め付ける、秘所の感覚。
意識が白く飛び散り、乳首と秘所からの感覚が交じり合い、脳髄を焼く。

ともすれば、これほどの快楽は二度と味わえないのかもしれない。
幼い、事実彼女よりも桁違いに幼い淫魔達に弄ばれ、それを種に自慰行為に耽る。
背徳感が心を埋め尽くし、そして、愛する『王』が近くにいない寂しさが顔を出す。

この火照りを、彼に鎮めてもらったらどれほどの快楽が押し寄せただろうか。
あの逞しい棒で、ぐちょぐちょに掻き回して貰えたら、どれほど心が満たされただろうか。

昨夜の素晴らしく満たされた時間を思い起こすと、それだけで胸が張り裂けそうだ。
会いたい。
愛してもらいたい。
昂ぶった感覚神経が、未だに醒めない。

684 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/11/29 04:53:12.37 b/P4ZjNFo 222/424

堕女神「…はぁっ……はぁ、はぁ……」

荒く息をついていると、首筋に薄ら寒いものが走る。
誰かが、いる。
この部屋に……誰かが。

幼魔C「……いやだ、お姉ちゃんってば」

幼魔D「自分でしちゃうなんて、はしたないのね」

幼魔E「…ね、続き、する?……今度は誰もいないし、たっぷり遊べるよ?」

首筋に息を吹きかけられ、動けなくなってしまう。
どうして?なぜここに?
それに……いつから?

幼魔C「……ねえ、お姉ちゃん。今度は、もっと気持ちよくシテあげるね?」

幼魔D「こわれちゃうかもね?」

幼魔E「…ねぇ、色々持ってきたんだよ。たくさん遊びましょ?」

686 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/11/29 05:13:55.16 b/P4ZjNFo 223/424

堕女神「や、止めてください……!こんな……!」

気付けば、既に彼女は拘束されていた。
両手は後ろ手に組むように、両脚は、恐るべき事に、惜しげもなく広げたままで縄をかけられ、ベッドの頭側の支柱に固定されていた。
俗世で言う「まんぐり返し」に相当する姿勢で、薄茶色のアヌスも、女陰も尿道もクリトリスも、
そして、羞恥に染まる顔も、一直線に見える格好となる。

幼魔C「うわぁ……いやらしぃ」

幼魔D「全部見えちゃってるね。……匂い、嗅いじゃおっかな?」

淫魔の一人が、彼女の膣に鼻先を寄せる。
大げさに鼻を鳴らして香りを吸い込まれ、羞恥が彼女の顔を重ね塗る。

幼魔D「すっごくえっちな匂いがするよー。……ね、どうしよっか?」

幼魔E「……舐めてあげたらいいんじゃないかな?」

幼魔D「あ、そっか。……ねぇ、聞こえる?お姉ちゃんのおま○こ、今からいっぱい舐めてあげるね」

688 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/11/29 05:24:22.34 b/P4ZjNFo 224/424

幼い淫魔の舌が、彼女の秘所を舐め上げる。
ざらついた舌が陰唇を這い、時折、クリトリスを唇で吸い上げられ、意思に反して体が反応してしまう。

堕女神「っ…やめ、やめて……お願い……っ……!」

抗議の声を上げながら、びくびくと痙攣してしまう。
拙く、興味本位の舌先だが、それ故に計算されていない不規則な快感を与えるのだ。

幼魔C「ねーねー、これ何に使うの?」

幼魔E「それ?…お尻に入れて使うんだよ。…こっちはね、おっぱいの先っちょに……」

残った二人は、鞄を覗き込んで話しているようだ。
その中身は、快楽を与えるための魔具で犇いていた。
尻穴を弄ぶための、真珠が連なった形の器具。
バネの力で締め付ける、金属製の小さなクリップ。
魔力を使って振動する、小さな丸い石。
男のモノをかたどった、野太い張り型。

幼魔C「……迷うねー。どれからいこっか?」

幼魔D「んー…迷うね」

740 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/11/30 00:16:57.50 BxOeXkgjo 225/424

場面は再び、勇者の客室へ

勇者「そんな声も出るのか」

彼女の両手を封じ、乳首を指先で摘み、引っ張り、くりくりと捏ねながら。
乳首がぴんと張りつめ、硬く勃起していく。

隣女王「や、…ダメ、です……も…やめて……」

許しを請うような言葉を努めて無視し、唇を、彼女の右乳房へと寄せていく。
左の乳房は未だ弄ばれ、指が踊る度に艶めいた声とともに体が跳ねた。
舌先を尖らせ、右の乳首に触れるか触れないか、という所で止まる。

瞬間、思いついた顔をして舌を引っ込め、ふっ、と硬くしこった乳首へ息を吹きかける。

隣女王「ひゃっ……」

予想外の刺激が喉を震わせる。
それと同時に、彼女の目が勇者を見据える。

勇者「……どうしたんだ?何を期待した?」

隣女王「……何、も……!」

勇者「そう言われても、これだけ胸が薄いと鼓動がダイレクトに伝わるんだが」

隣女王「………っ」

743 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/11/30 00:28:31.74 BxOeXkgjo 226/424

言葉に顔が更に赤らむ。
薄いと言われたこと。
鼓動が隠せないこと。
そして、反応を示してしまう顔を隠せず、見られていること。
羞恥心に、思わず涙が滲んでしまう。

勇者「ダメだな。これじゃ、まるで……」

言って、彼女の両手を取り押さえていた左手を放す。
傍目には強姦以外の何者でもなかった。
客観視した結果、その行動に至る。

勇者「……すまなかった」

自由になった両手を下ろし、交差させるように胸を隠し、彼女はそっぽを向いてしまう。
振り乱された髪が目元を覆い隠し、表情は窺い知れない。
顔全体が赤く染まって、頬などは熟れた林檎のようだ。

隣女王「……や…」

勇者「…?」

隣女王「やさしく……して、ください……」

747 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/11/30 00:51:25.18 BxOeXkgjo 227/424

勇者「……ああ、分かってる」

今度こそ、彼から唇を奪う。
サキュバスや堕女神とも違う、薄く頼りない、少し間違えただけで裂けてしまいそうな。
柔らかいというよりは最早「儚い」と表現できそうな、唇。

強引に奪われた時とは違い、微かに震えているのが分かった。
唇を触れ合わせ、動くたびに彼女の身体までも小さく震える。
口付けに慣れていないためか、彼女の目は開かれたまま。

鼻息が少しずつリズムを崩していき、合わせるように口付けも激しさを増していく。
口先を寄せ合う軽いキスから、全体を押し付けあい、唇をぴったりとくっつけるように。

女王の赤い瞳が、涙を染み出させて揺らぐ。
場の空気に酔ったのか、それとも感極まり、行き場を失った感情が溢れたのか。

勇者「何故、泣く?」

隣女王「わ、分かりません……でも…」

勇者「でも?」

隣女王「……こんなに……心臓が……」


749 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/11/30 01:06:23.10 BxOeXkgjo 228/424

勇者の右手を取り、左胸へと導く。
自分での行為でありながら、勇者の手が胸にふれた瞬間、身を強張らす。

まず感じたのは、火のような熱さ。
褐色の肌に、殊更に赤みが差しているように見える。

次いで、心臓の鼓動。
まるで、彼女の胸越しに勇者の手を殴りつけているかのように、非常に激しい。

隣女王「私……おかしく、なってしまったのでしょうか?」

勇者「そんな事は無いさ」

利き手を彼女の胸に当てながら、左手を下へと伸ばす。
柔らかい腹部を指先で撫でながら、少しずつ、下へ。

粘土に刃で切れ込みを入れたかのように美しい臍を経て、なおも下へ。

隣女王「っ…そこ、は……」

勇者「……駄目、か?」

751 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/11/30 01:35:06.25 BxOeXkgjo 229/424

ゆったりとしたシルエットのパンツを腿の半ばまでずり下げる。
現れた飾り気のない下着は、微かに湿っていた。

勇者「……可愛いな」

ウエストのゴムからクロッチまでを目で辿る。
素材自体は悪くないにしても、飾り気がなく、股上の浅い下着のせいで彼女の印象が更に幼くなったようだ。
布地を引き込み、割れ目に食い込んだ部分を見つけた。
思わず、指先でなぞる。

隣女王「ひっ……!」

背筋が伸び、氷を突っ込まれたかのように情けない声が上がる。
それが「快感」であるという事を、彼女はまだ知らない。
怖い。
ただ、怖い。
覚悟をしてきたとはいえ、指で、それも下着越しに触れられただけでこの感覚。
これから勇者のモノを迎え入れ、純潔を散らす事を考えると、それだけで、狂いそうなほどに怖い。

隣女王「っ……ひっく……お、お願い……します…や、優しく……優しく、して……」

752 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/11/30 01:53:25.39 BxOeXkgjo 230/424

勇者「ああ、分かってるよ。……俺を、信じてくれないのか?」

隣女王「…こ、怖い……です……」

ぽろぽろと涙を流し、それでも、顔は逸らさない。
こちらを見つめる勇者の目が、あまりにも優しかったから。

勇者「……脱がせてもいい?」

微笑みかけ、彼の手が、零れた涙をぬぐった。
その問いかけに、彼女は小さく、そして……確かに、頷いた。

勇者「いいんだね?」

確認しながら、まず、下がったパンツを少しずつ、引き摺り下ろしていく。
太ももの触点をビロードの繊維が撫で、その度、小さな女王の体が震えた。
太ももから膝、ふくらはぎ、くるぶしに布が過ぎ去る感触を覚え、そこからは、脚全体に、シーツの感触しか感じなくなった。

757 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/11/30 03:16:19.18 BxOeXkgjo 231/424

勇者「綺麗だ。……ものすごく」

細くまとまった脚に、視線を落とす。
太ももは細く、それでいてしっかりとした張りがある。
ふくらはぎには僅かに肉がつき、思わず触れてみたくなるような衝動を覚えた。
小さな貝殻のように整えられた爪は、肌の色と相まって、その美しさに溜め息すらでる。

隣女王「……恥ずかしい……です」

口ではそう言うが、隠したりする素振りはない。
それでも顔を横へと向けて表情を見られまいとする仕草に、どこかちぐはぐなものを見受けられた。

再び覆い被さるようにして、右手を彼女の股間へ差しのべる。
彼女の方も覚悟を決めたらしく、既に受け入れていた。
人差し指で、下から上へと食い込んだ割れ目をなぞった。
気持ち程度に指先が湿り、いやらしい香りが一瞬だけ匂う。

勇者「…見たいんだ。いいか?」

耳元に顔を寄せ、囁きかける。
うなじが毛羽立つようにゾクゾクと昂ぶり、それだけで悩ましく喘いでしまった。

758 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/11/30 03:56:51.30 BxOeXkgjo 232/424

隣女王「…………はい…」

熱に浮かされたような感覚。
ともすれば、自分自身の存在さえ晦ませてしまいそうに、体の奥が熱い。
反面、跳ね上がりそうだった心臓の鼓動は収まり、静かにリズムを刻み始めていた。
目は蕩け、どこにも視線が置かれない。
クラクラするような高揚感が下腹部を基点に広がり、全身の末端まで染み渡る。

足側に、誰かの存在を感じる。
続いて、腰に誰かの手が触れる。
ウエストを優しく撫でるその手は、いったい誰?

足の付け根が、急激に涼しくなる。
冷えた外気が火照った秘所を刺激し、心地良い。

隠されていた尻にもシーツの感覚を覚え、妙にくすぐったい。
太ももから足首まで、何かが通り抜けていくようだ。

最後に――

足先から、何かがするりと抜け落ちた。

759 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/11/30 04:16:22.61 BxOeXkgjo 233/424

遂に、彼女は生まれたままの姿になった。
覆い隠されていた秘所には、彼女の毛髪と同じ、白金色の毛がまばらに生えている。
ぴっちりと二枚貝のように閉じられた秘裂には既に染み出した愛液がまとわれ、
窓から差し込む月明かりを反射して、てらてらと光っていた。

その光りが消えぬうちにと、彼女の腿を掴み、ゆっくり、それでいて優しく足を広げさせる。
勇者が広げられた足の間に顔を沈めていくのを、彼女はただ見ていた。
もう、恐怖は無い。

しかし、どこかおかしな気分だ。
今まで誰の目にも触れる事のなかった場所に視線を向けられている。
熱い息がかかり、くすぐったさ、恥ずかしさ、そして『期待』。
まるで獣に見据えられているような。
息がかかるような間近で、獣が牙を研いでいるかのような。

再び、心臓が高鳴る。
その間にも秘所に勇者の顔が近づき、遂に、その距離はゼロとなった。

刹那、心臓から脳髄までを一気に駆け抜け、意識が灼かれる。
声すら出なかった。
初めは秘所に生暖かい何かを感じただけの違和感だったが、次の瞬間にそうなった。

760 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/11/30 04:52:21.38 BxOeXkgjo 234/424

隣女王「はっ……わた、し……何、されて……!」

事態が掴めない。
焼かれるような、凍てつくような快感が続く。
秘所を暖かく湿り気のあるもので何度も舐られ、息がかかる。
掴まれている太ももにすら、こそばゆさの皮をかぶった快感が伝わる。
尻穴に、液体が垂れてくるのを感じる。
それが果たして彼の唾液なのか、それとも自らの垂れ流した快楽の蜜なのか、それすら分からない。

そう激しく舐めている訳でもない。
極めて普通のペースであり、特に早くもない。
であるのに、彼女の反応はあまりに過敏すぎる。
これまでの二人のサキュバスとも、堕ちた女神とも違う。
死に直結しそうなまでに、敏感すぎるのだ。
このまま続けていたら心臓を壊れさせてしまうのではないかとも思える。

あまりの乱れぶりに、一旦舌を止めた。

勇者「大丈夫か?」

隣女王「はぁ……、はぁ……!だ、いじょぶ……です……それより……もっと……」

彼女の手が、太ももの下から秘所へと伸びる。

そのまま――彼女は、自らの秘所を、自らの手で、大きく広げた。

762 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/11/30 05:20:56.44 BxOeXkgjo 235/424

さしもの勇者もその光景に面食らったが、希望に応えようと、再び愛撫を始める。
まぎれもなく、彼女は「処女」なのに。
先刻までの恥じらいが嘘のように、彼の舌を秘所に求めている。

何度も何度も過ぎった言葉が、再び脳裏に過ぎる。

その間にも舌先が未発達の陰唇を這い、包皮に包まれたクリトリスを刺激し、
顔に似合わず肉厚な秘所に指を這わせ、こすり上げる。

少女の声が、部屋中に甘く響き渡る。
腰を浮かせながら嬌声を上げる姿に、控えめな女王の面影は既に無い。
彼女は、「淫魔」となってしまった。
勇者が、彼女を「淫魔」に変えてしまった。

勇者「……そろそろ、入れて……いいか?」

隣女王「えっ……!」

流石にその言葉には、彼女も驚く。
むき出しにされ、血管を浮き立たせたモノを見て、クールダウンしたように見えた。

778 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/01 02:25:05.78 rHmt5IqKo 236/424

隣女王「……はい」

意外にも、彼女はすんなりと受け入れる。
小刻みに震え、かちかちと歯を鳴らしてはいるが、その視線は一瞬も逸らされない。

勇者「いいんだな?」

隣女王「はい。で、でも……お願いします、どうか…優しく…」

勇者「……うん、分かってるから」

腰を突き出し、赤黒く怒張したそれを彼女の濡れそぼった秘所に当てる。
僅かに開いた秘貝に先端が押し付けられ、未知の感触に、ぴくりと震えた。

隣女王「あっ……!」

火傷しそうなほどに熱いモノが、ぷにぷにとした、柔らかく肉厚な秘所に触れる。
まだ押し当てられただけで、入ってすらいない。
前戯で生来の淫魔の性質が刺激された事により、彼女は一種のトランス状態にあった。
破瓜の恐怖や、知る由も無かった快感への畏怖。
それに反して、快感を激しく求め続ける、淫魔の性(さが)。

二つの相反する感情に挟まれ、どうして良いか分からない。
だけど、それでも。
彼女の気持ちは動かない。
目の前の男に、国を救ってくれた『勇者』に純潔を捧げる、その一点のまま。

781 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/01 02:56:05.55 rHmt5IqKo 237/424

先端がほんの数mm、沈み込む。
跳ね返すような圧を感じつつ、どうにか裏筋の基点までを飲み込ませていく。

隣女王「…入り、ました……か…?」

勇者「…まだ、入り口だよ」

隣女王「そ…んん、なぁ……ふぁ…!」

ぎちぎちと締め付ける内部へ、愛液とカウパーをまとって更に進入する。
千切られそうなほどに締め付けられ、押し出そうとする圧力も強まる。
負けまいと突き込ませていけば、途中、彼女が大きく反応し、唇を噛み締めた。
目尻に浮かんだ涙が零れ落ち、枕へ落ちる。

ここから先へ進めば、彼女は大切なものを喪失する。
勇者には、それが分かった。
それでも、最早、了解を取るような真似はしない。
涙を滲ませて耐えようとする表情。
きゅっとシーツを掴み、爪を立てて気を紛らそうとする仕草。
いじましい姿を見ては、もう、彼女の心は変わらないという結論しか出ない。

彼女の中へ、更に押し進める。

ぷつり、という音が亀頭から伝わり、

愛液とも違う、熱い何かの温もりが、勇者自身を包んだ。

794 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/01 21:32:27.47 rHmt5IqKo 238/424

手応えを感じてからは、驚くほどスムーズに侵入を許した。
彼女は声にならないくぐもった叫びとともに、熱っぽい視線で勇者を見上げる。

隣女王「私……、もう……」

勇者「入ったよ。……頑張ったな」

隣女王「あ、あの……」

勇者「ん?」

隣女王「…も、もっと……動いて、下さいまし…」

勇者「いいのか?」

隣女王「……はい…」

女王が答えると、半ばまで埋まった肉棒を引っ張り出し、入り口近くまで引き戻す。
モノには奪われたばかりの神聖な血が絡み付き、愛液と交じって薄紅の糸を引く。
完全に抜け落ちてしまう直前――再び、叩きつける。

隣女王「んっ…ぐ、うぅぅ……!!」

奪われたばかりの処女膜の残滓には、未だ痛覚が残る。
傷跡を抉られるような痛みが彼女を襲った。

795 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/01 21:46:12.36 rHmt5IqKo 239/424

経験したこともない、身が裂けてしまいそうな痛み。
不揃いに大きな息をつき、少しでも痛みを逃がそうと試みる。

更に引き戻し、そして肉を掻き分けて奥まで入り込む。

隣女王「あぁんっ……!」

一瞬、内壁を擦られ、苦痛とも違う感覚が届けられた。
くすぐったさを更に押し進めたような、心臓にじかに伝わる、甘い電流のような。
彼女は、妙な声を漏らしてしまった事に驚き、戸惑う。

それも束の間、奥まで届いた瞬間に再び苦痛が襲う。
痛い。
確かに、痛い。
なのに、何故……今、刹那の快楽は何故?


黒い情念が燃え、悪魔の囁きを確かに感じる。
だが彼女の胸中には、未だ女王のプライドが燻っていた。
はしたなく求めるなんて、という理性。
もっと気持ちよくなりたい、という本能。
その二つが、今も尚戦っている。

796 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/01 21:55:55.19 rHmt5IqKo 240/424

勇者「…痛いのか?」

隣女王「あ、の……何か、変、なんです。…痛いのに。……気持ちいいんです……」

勇者「………そう、か」

体を前へ倒し、より深く体を密着させながら、唇を求めた。
勇者の細身でありながら絞られた肉体に、彼女の吸い付くような肌理の細かい肌が触れる。
屹立した乳首が押し潰されるようになり、じんわりとした快感が広がる。
人肌の温かさが、彼女の苦痛を心なしか散らすようだ。
そして、唇に感じる体温。
唇を吸われ、小さな水音が頭蓋に響いて聞こえる。
実質としてその音は大きくないが、彼女の耳には、
まるで部屋中に響き渡るような大胆な口付けをしているように聞こえた。

隣女王「んっ……ふ、ぅん………!」

口付けの間に、三度目の抽送。

内臓ごと引き抜かれるような感覚。
直後、先ほど感じたような刹那の快楽。
――いや、違う。
先ほどよりも、快楽の時間が僅かに長い。
代わりに、苦痛が薄れていく。

800 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/01 22:13:46.10 rHmt5IqKo 241/424

隣女王「ぷはっ……!…も、もっと……いっぱい……」

唇から一度逃れ、上気した笑みを浮かべてそれだけ言う。
最後まで言い切る前にはっとした表情をして目線を逸らした。
求めてしまった。
自分から、情けを求めてしまった。
それに気付いてか、彼女はもはや勇者を直視できない。
自分に向けられる視線を見るのが、恐ろしかったから。

彼は、何も言わなかった。
言わないかわりに、首筋に唇を這わせ、そのまま耳たぶへと移っていく。

隣女王「やっ……ぁ」

反対に、少しずつモノは抜かれていく。
そして、四度目。

隣女王「い、あっ……!」

更に伸びた、至福の時。
苦痛はもはや感じない。
凍てつくような快感が背筋を反って上りつめ、胸を震わせるような快感に襲われた。

801 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/01 22:46:48.25 rHmt5IqKo 242/424

五度、六度、七度と前後に規則正しく運動を始める。
突き込むたびに甘い声が耳をくすぐり、閉まりきらない口元からは唾液が漏れる。

はじめは狭くきつかった膣内も、驚くべきペースでこなれてきた。
泡立つ愛液には、薄く赤が混じって吐き出される。
少しずつ、少しずつ、開かれていた彼女の脚が閉じられていき、勇者の腰を固く挟み込む。
同時に両腕が胴に回されていく。

突く度に彼女の全身が強張り、背が跳ね、爪が勇者の背を浅く掻く。
先ほどまで喘いでいた彼女も、もはや声を出す事もできないのか、乱された息を漏らすのみ。

勇者が、一気に奥までを刺し貫く。
先端がぷにっとした柔らかく吸い付くものに触れたと思った瞬間、膣内が艶めかしく震え始める。
しぼり取るかのようにモノを締め付けながら、全体へ刺激を与え始めた。
触れたものが亀頭の先端にぴったりと張り付いて、暖かく湿った刺激をもたらす。

彼女は、先ほどから体を弓なりに反らし、声にならない叫びを上げる。
ゆるんだ尿道から断続的に飛沫を散らして、それでもなお秘所を締め付ける。

勇者はかろうじて達してはいないものの、それでも、危うい所での均衡を保つ。
気を抜けば、彼女の中に放ってしまいそうだ。
それだけはいくらなんでも、抵抗がある。
自分は王で、彼女は女王。
不用意に放つ訳にはいかないのだから。

802 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/01 23:04:19.52 rHmt5IqKo 243/424

隣女王「ッ……!!」

勇者「……気持ち、良かった?」

隣女王「………ッ……ァ……」

勇者「女王?」

隣女王「……」

勇者「…女王、聞こえて――」

手を伸ばした瞬間、視界が揺れる。
背中に柔らかい衝撃を感じて、気付けば、いつの間にか位置が逆転していた。
今度は自分が下になり、上には、女王が馬乗りになって。

勇者「……いったい?」

問いかけにも、彼女は答えない。
乱れた髪で表情は見えず、まるで状況が把握できない。

そのまま彼女は腰を沈め、再び勇者のモノを咥え込んでいく。
盛大に濡れた秘所は、もはや抵抗もなく容易く飲み込んでいった。

803 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/01 23:18:52.24 rHmt5IqKo 244/424

勇者「…じょ、女王って……!」

遠慮会釈なく、根元まで一気にくわえ込まれてしまう。
同時に、女王が背を反らせ、天を仰ぐようにして動きを止めた。
僅かに痙攣しているようだが、それも無理は無い。
達した直後の高まった状態で、再び奥まで迎え入れたのだから。

数秒後、再び動き始めた。
跨りながら、何度も上下に運動を繰り返す。

勇者「くっ…!や、やめ……ろ…!」

湿った肌の触れ合う音、ベッドのきしみ、切実な彼女の吐息、そして、上から犯される勇者の声。
月光を浴び、彼女の顔が一瞬だけ覗かせた。

その表情は、あどけなく真摯な「女王」ではない。

夢枕に立って精を搾り取り、命を吸い取る、恐ろしい恐ろしい魔族の一柱。
それを、人は「サキュバス」と呼び慣わす。

彼女は―――嗤っていた。

807 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/01 23:43:33.04 rHmt5IqKo 245/424

これが、本当に先ほどまで処女だった彼女の内部なのか。
絶えず内部がうねり、暖かい肉が勇者のモノにまとわりつく感覚。
加えて、横方向への腰の動きが更なる刺激を与える。
亀頭を全方位から不規則に刺激する、熱い感覚。
全体をぴったりと包み込み、離さずに蠢く魔性の秘壷。

隣女王「……か…?」

勇者「っ……な、何?」

隣女王「…気持ちいい、ですかぁ?私の中…」

勇者「…………!」

ゾッとするような、愉悦に満ちた声。
彼女は、愉しんでいる。
性行為を、ではない。
人外の快楽を与えられる、勇者の反応を。

808 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/02 00:06:12.48 PQnaktxSo 246/424

搾り上げられる。
その形容が、まさに当てはまった。

腰をくねらせながら上下動し、容赦なく男根を弄ばれる。
堪えきれずに声を漏らすたびに、彼女は満足そうに口元を歪ませる。
この状況とはいえ、彼女の未成熟な女陰は今もなお、きつい。
処女の締め付けに、まるで年経た淫魔のような、快楽を貪る腰使い、そして練られたような内部の感触。
肉ひだが吸い付き、子宮口が先端に貼り付き、ぶちゅぶちゅと音を立てながら加え込む、美しい割れ目。
愛液に濡れた銀の陰毛が輝き、しなやかな髪が揺れ、傍目には、息を呑むほどに美しい。

その実、勇者は堪え続ける。
気を抜けば今にも発射してしまいそうだ。
あまりに強烈すぎる快感に思考が遅れ始め、目の奥が時折暗転する。
出したい。
彼女の中に、ありったけを吐き出したい。
膣内を、穢してやりたい。

彼女は勇者のそんな心境を汲み取ったのか、更に激しく動き始める。
内側をきゅっと締め付けながら上へ動く。
そして、緩ませながら再び呑み込む。
牛の乳を搾る手のような動きで、精液を搾り取らんとしている。

810 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/02 00:42:30.48 PQnaktxSo 247/424

勇者「……あ……ううっ…」

人外の刺激に、もはや堪えられなかった。
呆気なく……いや、人間としては、淫魔を相手によくもった方だろう。
ひときわ強く締め付けられた瞬間、モノが震え、溜まった欲望を一気に吐き出す。

隣女王「ああん……熱い、です……!」

どくん、どくんと脈打つのを膣壁で感じながら、文字通り飲み込んでいく。
焼け付くように熱く、濃厚な精液が子宮を満たす。
さしもの彼女も、満ち足りた顔で一滴も零すまいと精道を揉み込むようにこすり上げる。

隣女王「…気持ちいい……気持ちいいです……」

終わりの無い脈動が、互いの意識を白く染め上げる。
勇者は、全てが溶け込んでしまうかのような、止め処なく続く絶頂と射精に。
女王は、全身を白く彩られ、心臓から脳天までを貫かれるかのような錯覚に。

812 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/02 01:09:15.38 PQnaktxSo 248/424

長すぎる射精を終えると、女王は、ぷつりと糸が切れたように勇者の胸板へ倒れ込んだ。
勇者には、彼女を気遣える余力は残されていなかった。
あまりに強すぎる快楽の余韻と、疲労感。
数多の怪物を倒し、旅を続けてきた勇者にすらも耐えられないほどの疲労。
さながら、命を吸われ、削られたかのような。

勇者「………くそ、……女王…?」

重くなった体を起こして、女王の髪へ触れる。
柔らかい銀色の髪が指先に、さらさらとした手触りを届けた。

隣女王「…………あ、れ……?私……?」

反応が意外なほどに早く返ってくる。
彼女の方も正気に戻ったらしく、その声色も、表情も、彼が良く知る女王のものだった。

勇者「……覚えて、ないのか?」

隣女王「…えっと……?なんで……私が、上に乗って……?」

勇者「…やっぱり?」

隣女王「それに………え?…なんで!?どうして……こんな……!?」

813 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/02 01:22:11.35 PQnaktxSo 249/424

秘所から、生温いものが出てくるのを感じて目を落とす。
白濁した液にしか見えなかったが、彼女にはそれが何か分かった。

隣女王「そんな…どうして……?」

勇者「……女王が、無理やり絞り取ったんだろ。俺は止めたのに」

隣女王「嘘……中に……出さ、れ……」

事態の深刻さに、女王は青ざめ、涙を零し始める。
彼が、無理やり膣内に出すようには思えない。
事情はともかく、中へ…精子を注ぎ込まれてしまったのだから。
それも、一国の女王が。

隣女王「……ぐすっ……ど、どうしよう……私……私……」

勇者「…本当に、何も覚えてないのか?」

彼女はふるふると首を振って答えた。

814 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/02 01:42:12.89 PQnaktxSo 250/424

勇者「……もしもの事があったら」

隣女王「……っ……ふっ……ひっく………」

勇者「…もしもの事があったら、結婚しよう」

隣女王「…えっ……?」

勇者「こういう責任の取り方は嫌いだ。……だが、種をつけて後は知らん、なんてのはもっと嫌なんだ」

隣女王「そん、な……早い、ですよ……」

勇者「もしも、の話だ。…もしも子供ができていたら、結婚しよう」

隣女王「………どう、答えれば……?」

勇者「約束する。そうなっても、領土を奪うような真似はしない。……君と、君の民を幸福に導くと誓う」

隣女王「…………」

勇者「今答えなくてもいい。……しかし、堕女神の奴、怒るだろうな」

815 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/02 01:56:55.77 PQnaktxSo 251/424

隣女王「堕女神……さん?」

勇者「…ああ、……そういえば、ちゃんと念押ししたよな?」

隣女王「はい。…ちゃんと彼女の部屋には見張りをつけて、窓の外にも同様に。何人たりとも通しません」

勇者「えっ?」

隣女王「えっ?」

勇者「……本当に?」

隣女王「はい。……蟻一匹通さぬように、きちんと」

勇者「…そう、か。いや、それならいいんだ」

隣女王「???」

816 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/02 02:03:42.62 PQnaktxSo 252/424

勇者「……どうする、もう一回するか?」

隣女王「………したい、ですけど」

勇者「ですけど?」

隣女王「…何か、すごく……疲れて……」

勇者「まぁ、無理もないか」

隣女王「申し訳ありません。このまま……眠っても、よろしいでしょうか」

勇者「ああ、…勿論」

隣女王「……暖かい、です。陛下の……体」

勇者「ああ、こっちも」

隣女王「…おやすみ……なさい、まし…」

声を細くさせながら、彼女は、勇者の隣で眠りに就く。

817 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/02 02:15:44.57 PQnaktxSo 253/424

堕女神「……う…ん、……ふ、うぅぅぅ……!!」

大股を開いた状態で拘束されながら、喘ぐ。
尻には淫魔の国の玩具が深く突き刺さり、幼い姿の淫魔に弄ばれて。

幼魔C「……あら、お姉ちゃん。もしかして、お尻が気持ちいいのかしら?」

言って、尻に入れられた、真珠が連なった形の玩具が一気に引き抜かれる。
口には球形の口枷が嵌められ、唾液を溢れさせながら、口を閉じる事はできない。

堕女神「ッ……ん、んうぅぅ~~~!」

排泄に酷似した強烈な快感に襲われ、みっともなく声を上げてしまう。

幼魔D「えへへ……気持ちいいでしょ?お尻。……次は、もっと太いのを入れましょうね」

幼魔E「そーだ。目隠ししてみたらどうかな?…何されるのか、わかんなくなっちゃって面白いかも」

幼魔D「うん、そーしよっか。……はい、動かないでね?」

小さな手にアイマスクが握られ、彼女の顔にかけられる。
視界を奪われた。
叫ぶ自由も、もがく自由も奪われた。
もう―――全てを、受け入れるしかない。

822 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/02 02:35:27.90 PQnaktxSo 254/424

幼魔C「うわっ……何、これ」

幼魔D「…大きすぎじゃない?それに、このイボイボ……」

幼魔E「大丈夫。……このお姉ちゃんすごくエッチだから、これぐらい入るよ」

声しか聞こえない。
それ故に、想像力に掻き立てられた恐怖が、彼女を襲う。

幼魔C「うん……どっちに入れる?」

幼魔D「だめだよ、喋っちゃ。……お姉ちゃんに聞こえちゃうよ」

幼魔E「……それじゃ、こっちに入れちゃおうか?……賛成の人、手ー上げて」

何秒か、後。

陰唇に、何かが押し当てられる。
二つの手が秘所に手をかけて大きく開かせ、中心へと、選ばれた玩具が突っ込まれる。

堕女神「ぐぐぅっ……ん、ふ……うぅぅぅぅ!んぅ!……っ~~~~!!」

涙が、アイマスクの隙間から染み出し、枕へと流れた。

824 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/02 02:49:58.08 PQnaktxSo 255/424

こうして、それぞれの夜は更けていく。

片や、少女の姿の淫魔達に弄ばれて。
片や、互いを求め合って。

残る時間は、あと二日。
二日後に、全ての答えが明らかになる。

……そして、夜が明けた。

825 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/02 03:01:07.05 PQnaktxSo 256/424

六日目


隣女王「……陛下、お目覚め下さい」

勇者「……ん?」

隣女王「朝です。どうかお目覚めを」

勇者「…ああ」

鈴を転がすような声に促され、体を起こす。
はっきりとしない目を擦って見ると、女王は既に服を着ているようだ。

勇者「……どこまでが現実なんだ」

隣女王「……昨夜……褥を、ともになさいました」

勇者「ああ。……それで、女王の中に……」

隣女王「お、お止めください……!」

827 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/02 03:19:31.88 PQnaktxSo 257/424

勇者「堕女神はまだ寝てるのか?」

服を着ながら、訊ねる。
腰に剣を差して立ち上がり、体をほぐして。

隣女王「そのようです」

勇者「……起こしにいこうか」

隣女王「はい、陛下」

勇者「……女王、だよな?本当に」

隣女王「…?」

勇者「いや、なんでもない。行こう」

隣女王「はい」

832 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/02 03:55:40.13 PQnaktxSo 258/424

堕女神の部屋の前

勇者「……本当に、見張りがいるな?」

隣女王「はい。信頼の置ける衛兵です」

勇者「ふむ。……おい、異常はないか?」

衛兵「はい。物音一つしませんでした」

勇者「なら結構。……入るぞ?」

二回、ドアを叩く。
返事はない。

勇者「……寝てるのか?入るぞ?」

もう一度ノックする。
またしても、返事はない。
ドアノブを捻り、中へ入る。

833 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/02 04:02:38.98 PQnaktxSo 259/424

女王を伴い、室内へ。
部屋に異常はなく、彼女も、ベッドの上で規則正しく寝息を立てている。

勇者「……おい、起きないか。おい?」

堕女神「う………?」

隣女王「堕女神さん、お体の具合でも悪いのでしょうか?」

堕女神「…じょ、女王陛下……?も、申し訳ありません、ただいま……!」

布団を跳ね飛ばし、体を起こす。
彼女のいつものドレスはベッドの上に畳んで置かれ、彼女は下着姿で眠っていたようだ。

勇者「…慌ててないか?何かあったのか?」

堕女神「………い、いえ……別に……」

勇者「話すんだ」

堕女神「本当に、……何でもないのです」

勇者「…話せ。これは頼みだ。……何が、あったんだ?」

834 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/02 04:09:13.27 PQnaktxSo 260/424

堕女神「……実は」

勇者「ああ」

堕女神「昨夜、浴場で…会った淫魔達が、この部屋に。……そして……私、を……」

勇者「…本当なのか?」

隣女王「何かの間違いではありませんか?彼女らは、お二方の滞在中は罰則として地下牢にいる筈です」

堕女神「いえ。……その証拠に縄の痕が………?」

勇者「そんなの、ないぞ?」

堕女神「え?」

隣女王「……もしかして」

勇者「何だ?」

835 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/02 04:15:20.79 PQnaktxSo 261/424

隣女王「考えられるのは……『夢』です」

堕女神「私が……淫夢を見たと?」

勇者「ああ、そうか。お前は、『夢』に入り込まれたんだ」

堕女神「……!」

勇者「忘れてた、って顔だな。……覚醒してたなら、それぐらいの力はある筈だ」

隣女王「…それでも、彼女らは一介の淫魔ですよ?…堕女神さんほどの力の方の夢になんて」

勇者「…俺が身をもって知ったんだよ。この国の淫魔は、そういうのに長けてるんだ。……女王も含めて」

堕女神「……夢、だった」

隣女王「………後ほど、彼女らに話を糺します」

勇者「それで、いったいどんな夢を見たんだ?」

堕女神「…………」

836 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/02 04:38:00.86 PQnaktxSo 262/424

朝食中

隣女王「……申し訳ありません。やはり、彼女らでした」

勇者「……予想通り?」

隣女王「はい。三人とも淫魔として覚醒していました」

勇者「……まるでサキュバスみたいな事をする」

隣女王「いえ、サキュバスですから」

堕女神「陛下、早く帰りましょう。……身の危険を感じて、仕方がありません」

勇者「ああ、分かった。食事を終えたら、すぐに帰ろう。転移は使えるな?」

隣女王「誠に申し訳ありませんでした。彼女らは、どうにも力を使ってみたくて仕方がなかったようです」

勇者「新しい玩具をもらったら、そうなるか」

859 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/03 01:12:04.63 QgmEsVeko 263/424

勇者「それにしても、一体どんな夢だったんだ?」

堕女神「…言えません」

勇者「言いたくないならいいけど。全く、どういう国なんだ」

隣女王「お詫びのし様もありません……」

勇者「……アレコレと恩に着せるつもりは無いが、仇で返される謂れは、もっと無いな」

隣女王「………」

堕女神「へ、陛下。どうか……お平らかに」

勇者「分かっている。嬲りたい訳じゃない。……ただ、どうしても収まらなかっただけだ」

隣女王「…申し訳、ございません」

勇者「………力の使い方を、きちんと教えてやってくれ。淫魔の本能が抑えられないのは分かっているつもりだ」

隣女王「……」

勇者「それでも、違えてはいけない領分があるという事を。……頼む」

隣女王「……はい」

860 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/03 01:29:32.71 QgmEsVeko 264/424

食後

勇者「さて、……帰ろうか、堕女神」

堕女神「はい」

隣女王「この度の御恩、決して忘れません」

勇者「もう、オークが襲ってきても大丈夫だろ?」

隣女王「そう願います」

勇者「まぁ、駄目でもいいさ。いつでも助けに来る。……『勇者』である限り」

隣女王「……勿体無きお言葉」

勇者「さぁ、行こうか」

堕女神「はい、陛下」

862 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/03 01:52:28.16 QgmEsVeko 265/424

淫魔の国 玉座の間

勇者「……おー、流石に早いな」

堕女神「…ようやく、帰って来れましたね」

勇者「なんだか、酷く久しぶりな気がする」

堕女神「同感です」

勇者「……とりあえず、部屋で休みたい」

堕女神「はい。その前に、サキュバス達に会いに行っては?」

勇者「それもそうだな。何処にいる?」

堕女神「今は昼前ですから……恐らく、庭園に」

勇者「分かった、ありがとう。お前は休まなくて大丈夫か」

堕女神「お気遣いなく。私は問題ありません」

勇者「…そうか。それじゃ」

863 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/03 02:22:15.14 QgmEsVeko 266/424

庭園

勇者「……ここに、いるのか?」

サキュバスA「……陛下?」

勇者「何してるんだ」

サキュバスA「見ての通りですわ。……薔薇の手入れを」

勇者「お前達の仕事だったのか?」

サキュバスA「ええ、まぁ」

勇者「……普段、何してるんだ?」

サキュバスA「そうですわね。…庭の手入れ、城内の掃除、厨房の手伝い……それと、陛下の」

勇者「ほう」

サキュバスA「……ん?」クンクン

864 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/03 02:26:24.05 QgmEsVeko 267/424

勇者「どうかしたのか?」

サキュバスA「……ひょっとして、隣国に行きませんでしたか?」

勇者「ん、ああ……それが?」

サキュバスA「……生還、心よりお喜びいたします」

勇者「あ?」

サキュバスA「よくあの国に行って、生きて帰って来れましたこと」

勇者「話が見えない」

サキュバスA「……あの国で夜を過ごすと、生きては帰れないのです。特に殿方は」

勇者「…………そこまで言われてるのか?」

サキュバスA「……ダー○シュ○イダーが壊れるレベルですわ」

勇者「誰だよ」

サキュバスA「さぁ?」

866 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/03 02:41:33.83 QgmEsVeko 268/424

勇者「………」

サキュバスA「私達はただ度を超えて淫乱なだけですが、彼女らは男を文字通り殺しますからね」

勇者「…よく帰ってこれたなぁ、俺」

サキュバスA「『サキュバス』の剣呑なイメージの六割ぐらいは彼女らが担っています」

勇者「……あの外見で?」

サキュバスA「あの外見で」

勇者「聞けば聞くほど、妙な種族だ」

サキュバスA「私達でもドン引きしますよ」

勇者「さっきから酷い言い様だな」

サキュバスA「自分でも不思議ですわ」

868 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/03 03:10:06.84 QgmEsVeko 269/424

勇者「それで、サキュバスBは?」

サキュバスA「あら、私とでは退屈でしたか?」

勇者「絡むなよ」

サキュバスA「ふふ。…あの子は、確かあちらで剪定を」

勇者「ああ、ありがとう」

サキュバスA「………?」

勇者「…どうした?」

サキュバスA「……あ、い、いえ……今、陛下が……」

勇者「俺が?」

サキュバスA「…一瞬、消えたように見えてしまって。……気のせいですわ」

勇者「…消えた?」

871 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/03 03:30:07.40 QgmEsVeko 270/424

勇者「……変な事を言う奴だな」

サキュバスB「あ、陛下!」

勇者「お」

サキュバスB「お帰りなさい。…どうしたんですか?」

勇者「いや、別に。……それより何だ、酷く汚れてるな」

サキュバスB「え、あ……さっき、木から落ちちゃって」

勇者「飛べるんだろ?」

サキュバスB「あ……。そ、そうでしたね……えへへ……」

勇者「……こっちに来い」

サキュバスB「…え?」

勇者「(……こいつ、こんなに可愛かったか)」

サキュバスB「陛下、何を……えっ!?」

872 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/03 03:53:51.51 QgmEsVeko 271/424

勇者「………」ギュッ

サキュバスB「へ、へいか……?」

勇者「…いい匂いがする」

サキュバスB「…………!」

勇者「……しばらく、こうさせてくれないか」

サキュバスB「…は…はい……」


そのまま、時間にして十分前後。
勇者は、彼女を抱き締めていた。
ふわりと漂う花の香り。
さらさらとした髪の手触り。
背中に回した手から伝わる、確かな鼓動。

何故だろう。
彼女が、いや。
『淫魔』の体の温もりが、酷く切ないものに思えてきた。

873 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/03 04:18:45.12 QgmEsVeko 272/424

勇者「……今夜は、お前とA二人で来い」

サキュバスB「え?」

勇者「…嫌ならいい」

サキュバスB「いえ、そんな事……」

勇者「済まないな」

サキュバスB「?」

勇者「……いや、自分でも分からない」

サキュバスB「……陛下、いったいどうなさったんです?」

勇者「……今夜、話すよ」

そう言って、勇者は体を離していく。
表情はどこか哀しげで、それでいて、揺らがない決意を感じさせる。

920 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/05 00:00:19.75 lDlhPoeEo 273/424

勇者「…ちょっと訊きたいが」

サキュバスB「はい、なんですか?」

勇者「俺……消えて、ないよな?」

サキュバスB「…質問の意味が……」

勇者「いや、分からないならそれでいいんだ」

サキュバスB「はぁ……?」

勇者「じゃあ、また夜にな」

サキュバスB「はい、陛下」

勇者は、自室へと帰って行く。
言わんとする事を理解できない淫魔は、呆けたような、それでいて熱を帯びた視線を向けて見送った。

921 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/05 00:18:21.85 lDlhPoeEo 274/424

勇者「………さて、と」

自室に入り、鍵を閉める。
いつの間にか「我が家」と同じ居心地を感じていた、『淫魔の王』の部屋。
山羊の頭が象られた飾りのついたベッドに、腰を下ろす。

勇者「…見ているんだろ?魔王」

魔王「ああ、見ているとも。……あそこで精気を吸われて殺されていれば、我も手間が省けたものを」

勇者「ふざけるな。俺は戻る。戻って貴様を、『魔王』を倒す」

魔王「さて、そこだ。……我を倒して、いったい何になる?」

勇者「…少なくとも、世界は貴様の脅威から救われる」

魔王「その後は?」

勇者「………そうだな。きっと俺の国と隣の国は、また戦争を始めるな」

魔王「ククク、中々に現実を見る勇者もいたものだ」

922 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/05 00:32:52.57 lDlhPoeEo 275/424

勇者「『世界を救った勇者』だからって、きっと贅沢な暮らしもさせてもらえないだろうな」

魔王「大方、貴様を祭り上げて戦争にでも駆り出すのだろう?……人間というものは、全く以って救いがたいぞ」

勇者「……それでも俺は、『世界』を救う」

魔王「滅私……いや、殉教者ではないか。それはそうとだ。この世界の『王』の正体は分かったかな?」

勇者「俺なりの答えには辿り着いたさ」

魔王「それは重畳。……いや、流石は『勇者』かな?クク……」

勇者「一つ答えろ」

魔王「ほう?」

勇者「南方のオークを追い立てたのは貴様か?」

魔王「……きっかけは作ったな。オークほど扱いやすい手駒もそう無いのでね」

923 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/05 00:58:27.22 lDlhPoeEo 276/424

勇者「…目的は何だ?」

魔王「強いて言えば、貴様のための演出、といったところだ」

勇者「何だと?」

魔王「なに、身体が鈍るだろうと思ってな。ほぐすには手頃だったろう?」

勇者「………それだけの、ために」

魔王「奢侈と色欲に溺れ、感覚を鈍らせた勇者と戦うのも面白くあるまい」

勇者「貴様!」

魔王「怒りは、こちらへ戻って来た時のために取っておくが良い。……さて、我はもう貴様とは話さん。あと一日なのだからな」

勇者「魔王……!」

魔王「今日と明日。悔いの残らぬように過ごす事だ。……いや、貴様の選択次第では戻って来れるがな?」

勇者「………」

魔王「ではな。貴様の答えを楽しみに待つとしようか」

924 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/05 01:33:33.63 lDlhPoeEo 277/424

それきり、魔王の声は聞こえなくなった。
見てはいるだろうから、余計に居心地が悪い。

窓から、外を覗き込む。
眼下の庭園から、城下町、そして遠くの山までを一望できる。
空は広く青く、流れる雲が表情を加えていた。

深く、深く息を吸い込む。
日が高くなり、緩んだ空気があたたかく肺を満たす。
下を見れば、サキュバス二人をはじめとして、数人の園丁が庭を整えていた。
薔薇の棘を落とし、伸びた枝を切り、仕事をこなしている。
サキュバスAは危なげなく、洗練された物腰で薔薇の手入れをしていた。
サキュバスBは少し外れた庭園迷路に手を入れているようだが、迷わないかが心配でもある。

見ているだけで、楽しかった。
時折視線に気付いた使用人が一礼を送り、すぐに仕事に戻る。
満ち足りていた。
園丁の一人一人にいたるまで、心底美しかった。
外見の麗しいのは、疑う余地もない。
魔王が言ったように、人界には望めないほどの美女ばかりだ。

926 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/05 01:47:58.16 lDlhPoeEo 278/424

美しいと思えたのは、見た目だけではない。
彼女らは、確かに生きていた。
庭を整え、厨房で腕を奮い、自らの職務を全うし、それでいながら澱んでいない。
その『活きる』姿が、美しいのだ。

―――魔王を倒せたら、世界がこんな風になればいいのに

その一文が、心を横切る。
誰もが平和に生活を送り、子供らの成長を見届け、夜には暖かい食卓があり、日々を『活きる』世界。

だが、望めない。
勇者の故郷とその隣国は、既に情報戦を開始していた。
互いの領地に斥候兵を送り、土地に浸透した間諜が本国へ早馬を送る。
彼らは、既に人同士で殺し合う準備を進めていた。

『勇者』が救ったあとの世界で、また、互いを殺し合う手はずを整えていた。

927 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/05 02:06:50.35 lDlhPoeEo 279/424

旅の途中、『魔法使い』が病に倒れ、『戦士』と『僧侶』とともに薬草を採りに行った。
冗談のような体躯を持つ氷の巨人を打ち倒し、間一髪のところで魔法使いの命は助かった。

ある古城では、『僧侶』が吸血鬼に浚われてしまった。
吸血鬼が彼女の首筋へ歯を立てる寸前に間に合い、その吸血鬼は灰と化した。

またある時は、『戦士』と『勇者』が領主に囚われてしまった。
処刑される前日、内通者を得た魔法使いと僧侶に救出され、領主に取り付いた魔物を倒す事ができた。

数え上げる事も億劫なほどの、命の危険。
野営すれば山賊に襲われ、海に出れば巨大な怪魚が姿を現した。
命がいくつあっても足りないほどの旅の末、魔王を倒せたとしてもあるのは戦乱。


強く精悍な『勇者』の頬を、
涙が一筋流れ落ちる。
ひどく虚しく、そしてどこまでも哀しい。
窓から離れ、椅子に腰掛ける。

誰もが『勇者』の勝利を信じ、応援していた。
二人の国王は、勇者が勝つ事を計算に入れた上で、『戦争』の計画を立てていた。

自分は、いったい。
何のために、戦ってきたのだろう。

928 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/05 02:31:34.76 lDlhPoeEo 280/424

勇者「…………ああ、もう」

落ち込んでいくしかない思考に区切りをつけ、立ち上がる。
魔王だけのせいではないが、どうにも暗く、唾液が苦くなるようだ。

勇者「どっちにせよ、引き返せないんだ」

旅の最中、出会った人々の顔を思い浮かべる。
渋い顔をしていたが、襲ってきた怪魚を倒してから、勇者の為に船を使わせてくれるようになった船長。
コボルトの被害に悩んでいた、ある村の長。
ダンジョンの奥深くから助け出した、エルフの娘。
勇者の生まれた国の、この世界の住人と比べても見劣りしないほど美しい姫君。

何の解決にもなりはしないが、ネジを締めなおす事はできた。
部屋を出て、どこへともなく歩いていく。
気の赴くまま、城内を散策しようと。

929 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/05 02:57:52.66 lDlhPoeEo 281/424

見て回ると、やはり淫魔の国の城と言うにふさわしい。
男女の交合の絵画が、廊下を彩っている。
その中には、『神』と『人』との交わりを描くものもあった。
どれも悪趣味ではなく、芸術作品として完成されていた。
それこそ、芸術に対し造詣が深くない勇者さえ、魅入ってしまうほど。

勇者「……ふーむ」

一つの絵画が目に留まった。
描かれているのは、豪華な寝台に寝そべる若い男に這い寄る淫魔。
その淫魔は、どうにも見覚えがあった。

勇者「これって……どう見ても……」

すぐに、その正体は分かった。
絵の中の淫魔は、サキュバスAに似ているのだ。
蒼い肌も、上質のアメジストのような瞳も、ねじれて天を向いた角も。
いや、これは本人と言っても良い。

930 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/05 03:28:02.61 lDlhPoeEo 282/424

サキュバスA「……気になります?」

勇者「うぉっ!?」

いきなり後ろからかけられた声に、驚いてしまう。
すぐに後ろを振り返り――そしてすぐ、絵画と見比べた。

サキュバスA「…これ、確かに描かれてるのは私ですよ。あの第二皇子は、中々に精力に溢れていました」

勇者「……ちなみに訊くが、これはいつの事だ?」

サキュバスA「今から……1039年前ですね」

勇者「相変わらずケタが凄いな」

サキュバスA「この時は、ただ彼の童貞を奪っただけですよ」

勇者「ただ、で済ますあたり更に凄いな」

サキュバスA「まぁ、いい思い出ですよ。……それはそうと、厨房に行ってみては?」

931 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/05 03:46:54.75 lDlhPoeEo 283/424

勇者「何か面白いものでもあるのか?」

サキュバスA「ええ。……くれぐれも、見つからないように?」

勇者「何なんだ?」

サキュバスA「行けば分かりますわ。…ふふ」

勇者「……そこまで言うなら」

サキュバスA「きっと驚きますよ」

勇者「堕女神が、『おいしくなぁれ』とでも唱えながら仕込みをしてるのか?」

サキュバスA「…………」

勇者「おい」

サキュバスA「…そういう日もありましたね、確か」

勇者「何か、どんどんイメージが崩れていく」

サキュバスA「い、いえ。……ともかく、行ってみてください」

勇者「……分かった」

932 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/05 04:11:03.74 lDlhPoeEo 284/424

物陰から、厨房を覗き込む。
広い厨房の中には、堕女神と、手伝いが二人ほど。
堕女神は大鍋の前から離れず、火加減を見ながら、ときおり灰汁を掬っているようだ。

堕女神「……もう少し、塩……?」

言って、塩を一つまみ投入する。
かき混ぜ、小皿にスープを取る。
左手で小皿を口元に運び、啜りこんだ。

堕女神「…良いでしょう」

得心がいったか、大鍋をかき混ぜながら小皿を置く。
見ていれば、たまに唇に指先を当て、俯いていた。
何日か前の朝食の時にも、その様子は見かけた
彼女の癖なのか、それとも、つい最近になってからなのか。
それは、勇者には分からない。

堕女神「……『美味しい』と、言ってくださるでしょうか」

灰汁を掬いながら、一人呟く。
その様子を見て、勇者は顔を引っ込め、厨房から離れて行った。

963 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/06 01:12:12.56 H3OHunjxo 285/424

勇者「…………………」

サキュバスA「あら、陛下。ご覧になられましたか?」

勇者「……ああ」

サキュバスA「いかがでした?」

勇者「もう、何つーの。『お前誰だ』って感じ」

サキュバスA「可愛いでしょう?……陛下も罪なヒトですわね、本当に」

勇者「別に怒らないけど、お前は本当にアレだな、言葉遣いから何から」

サキュバスA「私をそうさせたのは陛下ですわ」

勇者「それも俺のせいか?」

サキュバスA「ええ」

勇者「即答かよ」

サキュバスA「しおらしく振舞うのもわざとらしいでしょう?」

964 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/06 01:26:57.92 H3OHunjxo 286/424

勇者「自由な奴だな。初日とは大違いだ」

サキュバスA「初日……?」

勇者「ああ、いやこっちの話」

サキュバスA「?」

勇者「ともかく、五日前とは全然違うぞお前」

サキュバスA「というより、これが素ですので」

勇者「なぜ演じるのを止めたんだ?」

サキュバスA「……今の陛下なら、受け入れてくれると思いましたので」

勇者「…何だって?」

サキュバスA「何故でしょうね。自分でもよく判りませんわ」

勇者「………まぁ、続きは今夜だな」

サキュバスA「さてと、そろそろお昼ですわね。……それでは、失礼致します」

965 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/06 01:59:43.13 H3OHunjxo 287/424

勇者「…何だと言うんだ」

メイド「陛下、こちらにいらしたのですか?」

勇者「何だ、どうした?」

メイド「はい。お食事の準備が整いましたのでお呼びに」

勇者「分かった、すぐ行くよ」

メイド「沐浴の準備も済んでおりますので、いつでもどうぞ」

勇者「ありがとう。……やっぱり、我が家が一番、か」


966 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/06 02:17:20.25 H3OHunjxo 288/424

食事中

勇者「……なぁ」

堕女神「はい、何でしょう」

勇者「見すぎ」

堕女神「…失礼しました」

勇者「………」ズズ

堕女神「お味はいかがでしょうか」

勇者「美味いよ。視察のはずが色々と回るはめになったけど、これが一番だな」

堕女神「勿体無きお言葉です」

勇者「それだけか?」

堕女神「と、申されますと?」

勇者「……スープを火にかけながら、『おいしくなぁれ☆』って」

堕女神「そんな事は言ってません」

967 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/06 02:36:56.89 H3OHunjxo 289/424

勇者「……言ってないのか、残念」

堕女神「私はどういう位置付けなんですか」

勇者「それはともかく、さっきから口元が緩んでるな」

堕女神「………いえ」

勇者「今さら引き結んでも手遅れだ」

堕女神「…………」

勇者「話を変えるが、この後何か予定は入ってるのか?」

堕女神「いえ。予定では今頃南方の砦の視察から帰る途中ですので。今日は、体をお休めください」

勇者「…言葉に甘えるよ。流石に、色々と堪えた」

堕女神「お食事が済みましたら、体を清めて、少し眠るがよろしいかと」

968 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/06 02:55:46.20 H3OHunjxo 290/424

勇者「そうするかな。……さて、ご馳走様」

堕女神「……残さず、食べて下さるのですね」

勇者「…?」

堕女神「私の作ったものを、残さずに」

勇者「当たり前だろ?」

堕女神「あの時、褒めて下さいましたね」

勇者「それが?」

堕女神「………貴方は、『誰』ですか?」


喉の奥、うなじから上の辺りが重く、震えた。
突飛すぎる。
そのきっかけも、言葉も、全てが予想外すぎる。
彼女の料理を褒め、そして残さず平らげた。
それが―――彼女には、違和感だったと。

969 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/06 03:21:35.02 H3OHunjxo 291/424

勇者「質問の意味が、分からない……な」

堕女神「あまりにも、違いすぎるのです」

勇者「え…?」

堕女神「隣国に対しての措置。私に対しての態度。……何もかもが」

勇者「…………」

堕女神「……差し出がましい事とは存じますが、どうかお答えを。……貴方は、『誰』なのですか?」

勇者「……俺、は」

堕女神「…はい」

勇者「上手くは説明できない。明日の夜、部屋に来てくれ。……そこでなら、全てを話せる」

堕女神「明日?」

勇者「……ああ。明日が、俺が『ここ』にいられる、最後の日だ」

堕女神「……分かりました」

972 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/06 03:49:36.79 H3OHunjxo 292/424

勇者「『俺』が嫌いか?」

堕女神「…………」

勇者「まぁ、いい。それも、明日だ」

堕女神「はい」

勇者「……だが、信じてくれ。お前の料理は、本当に美味かったんだ」

堕女神「そう……申されても」

勇者「今までに食べたどんなものよりも、美味かった。『勇者』をもてなす為の晩餐じゃない。
    誰かが、心を込めて作ってくれる料理。……美味かった」

堕女神「……」

勇者「それじゃあ、な。……少し休んだら、風呂に入って少し眠るよ」

973 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/06 04:28:18.53 H3OHunjxo 293/424

少しの休息の後、勇者は浴場へ向かった。
二回目だというのに、不釣合いに広い浴場は、馴染んだ我が家の風呂そのものだった。

湯煙の中、適温に保たれた湯に体を沈める。
肌から染み入るような、体表から毒素が抜けるような、何とも言えない至福の時。
一瞬の至福の時を超えると、重苦しく、斧刃のように心に圧し掛かる事実。

明日の夜に眠り、目が覚めると自分は消えている。
魔王の前に、対峙する事になる。
それを今さら恐れたりはしない。
魔王を倒すという気概は、微塵も薄れていない。

だが、失われる。
この世界の、全てを。
堕女神の料理を味わえない。
サキュバス達との交合の快楽も。
この素晴らしく満たされた時間の、全てが。

39 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/07 03:35:17.46 5snW6QyYo 294/424

勇者「一ヶ月って言えば良かったな」

冗談めかして、鼻で笑いながら漏らす。
無論、本気ではない。
ただ、あまりに短くて。
せっかく、あの堕ちた女神も柔らかい態度を見せるようになったのに。
サキュバス達とも、気のおけない付き合いができるようになったのに。
この世界を取り巻く環境と、力関係が理解できてきたのに。
それが、あまりに惜しい。

勇者「はぁ……」

大きな溜め息が、誰もいない浴場に響く。
一人ではあまりにも広い。

勇者「上がろう、どうにも今日は落ちるな。……少し、寝よう」

水面を波立たせて、立ち上がる。

その時、踏み締めた床の感覚が消えた。
鼻の奥から頭痛が昇って来て、それが頭頂に達するのを感じた途端、視界が歪んだ。


次に感じたのは、したたかに左肩を強打する痛みと、床の冷たさ。
最後に――少しずつ、暗転していく世界。

42 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/07 03:52:26.66 5snW6QyYo 295/424



誰かの、声が聞こえた。
無意識下の幻聴なのか、それとも、本当に誰かが語りかけてくるのか。

無造作に広がる茫漠とした韻律が、”こより”を作るかのように徐々にはっきりとしてくる。

???「――起きてください」

勇者「誰、だ」

???「私を、お忘れですか?……『勇者』よ」

勇者「…お前は」

???「貴方に力を授け――いえ、目覚めさせた存在」

勇者「……『女神』だな。堕ちていない方の」

???「………」

勇者「これは、夢か?……今度は、一体何を押し付けてくるんだ?」

45 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/07 04:22:12.53 5snW6QyYo 296/424

女神「……ごめんなさい」

勇者「…謝る前に、何に対してなのか言ってくれよ」

女神「貴方を……『勇者』にしてしまった事に」

勇者「それの何が負い目だ?」

女神「魔王の災いを止める為に、私は正しい事をしたと思っています。……『勇者』を覚醒させるしかなかったのですから」

勇者「……謝りたいのはそれじゃない、か」

女神「『勇者』でなければいけなかったのです。古来より、『魔王』は『勇者』に打ち倒される。その因縁は、私とて抗えません」

勇者「……………」

女神「絶対の真理なのです。『魔王から逃げる事ができない』のと同じように」

勇者「……ふん」

女神「……?」

勇者「今言ったそれは、違うんだ。俺は、旅の中でそれを知った」

女神「え?」

46 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/07 04:37:45.80 5snW6QyYo 297/424

勇者「魔王が怖くて逃げようとして、それでも逃げられずに殺されてしまう人も、確かにいるさ」

女神「……」

勇者「…でも、そうじゃなかった人達もいっぱいいた。無名の兵士だったり、叩き上げの十人隊長だったり、あるいは『父親』だったり」

女神「と、言いますと……?」

勇者「目の前に、世界を恐怖に陥れる『魔王』。一度逃してしまえば、次に姿を見られるのはいつなのか。
    そもそも、命があるうちに対峙する事ができるのか分からない。そして、今自分は生きて目の前にいる」

女神「…………」

勇者「…逃げる事など考えられなくなる人がいる。ここで倒せば、それで世界は救われる。
    ――だから、考えるんだ。『魔王から、逃げるわけにはいかない』って」

女神「それは……無謀に過ぎます」

勇者「分からないよ。貴女には。……ともかく、『魔王から逃げられない』は、魔王の言葉じゃない。俺達の、人間の言葉なんだ」

48 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/07 04:51:42.83 5snW6QyYo 298/424

女神「……つまり?」

勇者「血を引く勇者の末裔ではなくても、『魔王』と戦う事はできるんだ。岩に刺さった剣を抜けなくても、雷電の剣撃を扱えなくても」

女神「……ですが……」

勇者「上手く言えないが。……『勇者』は、任命されるものじゃない。自分で『勇者』になるんだ」

女神「………」

勇者「ある若い新兵が、魔王に一太刀を浴びせ、血を流させるのを見た事がある。……彼は死んでしまったけれど、
    その時は紛れも無く……『勇者』だったよ」

女神「そんな……非現実的な」

勇者「心配しなくていい。それでも俺は、魔王を倒す。……だから、もう。『勇者』を任ずる必要は、無いんだ」

女神「…初めて、です。そのような言葉を頂いたのは」

勇者「そうか。ともかく、世界は……貴女達が思うより、『大丈夫』なんだって事を俺は言いたいんだ」

女神「……ごめんなさい。あなたの人生を、奪ってしまって」

49 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/07 05:13:42.44 5snW6QyYo 299/424

勇者「全く怨んでいない、と言えば嘘になるな。……この世界の俺は、『女神』を憎んでいるらしいから」

女神「…憎んでください。怨んでください。……何ならば、魔王を倒してから、私を殺して下さっても構いません」

勇者「そんなつもりは、今は無いよ」

女神「え……?」

勇者「俺は、力を貰ったおかげで護る事が出来た。仲間の命もそうだし、助けてくれた人達も」

女神「…………」

勇者「貴女がいたから、俺はみんなを守れた。………ありがとう。今は、そう言いたい」

女神「…私に、礼を?」

勇者「…ああ。貴女のおかげだ。貴女のおかげで、俺は守る力を得られた。感謝しているよ」

女神「…………」

勇者「さて、他に話はあるのかな?」

女神「……いえ。そろそろ、目覚めの時です。………『勇者』よ、あなたは……紛れも無く、『勇者』です」

51 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/07 05:31:57.76 5snW6QyYo 300/424


女神の言葉が終わり、再び世界が明るくなる。

少しずつ開けていく視界に、最初に映ったのは、堕ちた女神の顔。
血と闇に染まった瞳が、勇者の顔を見つめていた。
何故か、それは勇者の心に、底知れぬ安堵をもたらした。

堕女神「気がつかれましたか?」

勇者「……俺、は……?」

堕女神「浴場で倒れているのを、使用人が見つけました。……僭越ではありますが、寝室に運ばせていただきました」

勇者「そうか」

堕女神「遠征の疲れが祟ったのでしょう。……少し、お休みを。夕食は、食べやすいものをこちらにお持ちしました」

勇者「…助かるよ。本当に。ところで、今は何刻だ?」

堕女神「日はとうに沈みました。……今、お食べになりますか?」

52 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/07 06:01:54.11 5snW6QyYo 301/424

勇者「ああ、頼む」

堕女神「はい、承知いたしました」

台車の上の、皿にかぶせられたクロッシュが外される。
消化に良いように、ゆるく仕上げられたリゾットが載っている。
上に振られたハーブの香りが鼻腔をくすぐり、疲れた体にも食欲を沸き起こさせる。

堕女神「腕は、動きますか?」

勇者「…………」

問いに、勇者は沈黙で答える。
わざとではなく、腕も、今はいう事を聞いてくれそうにない。

堕女神「…………口を開けてください、陛下」

スプーンを持ち、リゾットを一すくいして、まず堕女神の口元に運ばれる。
唇が窄み、スプーンの上のリゾットに息を吹きかけ、冷ます。
その後、勇者の口元へと持っていかれる。

勇者「……うん。美味しいよ」

堕女神「…………///」

54 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/07 06:36:35.87 5snW6QyYo 302/424

勇者「俺は、どれぐらい眠っていたんだ?」

堕女神「五時間ほどです」

勇者「…何か、寝言は言ってなかったか?」

堕女神「いえ。静かに寝息を立てていらっしゃいました」

勇者「……そっか」

堕女神「……これを食したら、もう一眠りして下さいませ。休息が必要です」

勇者「そうさせて貰うよ。…ありがとう、堕女神」

堕女神「いえ、これが私の務めですから」

勇者「硬いんだな」

堕女神「…………」

勇者「黙るなよ。……もう一口、くれ」

堕女神「はい」

ふー、と息をかけ、リゾットが口に運ばれる。
良い温度に冷まされた米が口へと入れられ、良く煮込まれたスープの香りと、ハーブの香りが広がる。
やわらかく煮られた米の感触が優しく、滋養が体の細胞一つ一つにまで染み込むようだ。

――そうして、全てを平らげた勇者は、しばしの眠りに就いた。

87 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/08 01:06:48.62 Mn6xIugoo 303/424

夜が深まった頃、寝室を訪れる者がいた。
扉が叩かれるより早く、勇者はそれに気付いて目を覚ます。

勇者「誰だ?」

???「さぁて、誰でしょうか?」

勇者「……呼んだのは俺だったな。入れ」

???「失礼します」

勇者「…待ってたよ。………と言うのも白々しいかな」

サキュバスA「ええ、全くですわ」

サキュバスB「陛下、体は大丈夫ですか?」

勇者「ああ。多分疲れが溜まってるだけだと思う」

サキュバスA「それとも、精気を吸われましたか?隣国の淫魔に」

サキュバスB「えええ!?」

勇者「……かもな。性器は吸われなかったけれど」

サキュバスA「あら、中々の切り替えしですわね」

勇者「お前に合わせたんだよ」

89 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/08 01:30:49.34 Mn6xIugoo 304/424

サキュバスA「それで、どうなさいます?」

勇者「……どう、って?」

サキュバスA「ふふふ、分かっていらっしゃるのでは?」

勇者「状況からしてそうなるよな、確実に。……ところで、B」

サキュバスB「はい?」

勇者「やけに静かだな」

サキュバスA「そうねぇ。何だか様子がおかしいわ、最近ずっと」

サキュバスB「そんな事……無い、です」

勇者「…お前こそ、熱でもあるのか?」

サキュバスA「……それとも、気が乗らないのかしら?」

サキュバスB「い、いえっ!」

勇者「別に怒らないぞ。……体調が悪いなら、正直に言ってくれ」

90 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/08 01:57:59.08 Mn6xIugoo 305/424

サキュバスB「……怖いんです」

勇者「何が?」

サキュバスB「わかんないですよ。……嫌じゃないし、嬉しいんです。……でも、怖いんです」

サキュバスA「……はー、そういう事なのね」

勇者「?」

サキュバスA「もう、野暮な方ですわ。……さて、夜は短いのですから愉しみましょう?」

勇者「ああ。……こっちに来いよ、B」

サキュバスB「はい……陛下」

サキュバスA「久々ですわね、三人でというのは。最近はずっと二人きりで夜を明かしてましたものね」

勇者「寂しかったのか?」

サキュバスA「蜘蛛の巣が張ってしまいますわ」

勇者「大げさな」

91 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/08 02:21:03.08 Mn6xIugoo 306/424


サキュバスBを抱き締めながら、ベッドに背から倒れ込む。
軽い衝撃に彼女の喉が震え、悲鳴ともつかない声が漏れ出た。

サキュバスA「……ふふふ、久しぶりですね。……まず、は」

次いで、もう一人の淫魔がベッドを軋ませながら這い寄ってきた。
そのまま真っ直ぐ、勇者の股間へ手を伸ばす。
下着とズボンの生地越しに、指先を感じた。
猫の喉元を撫でるような、紅を引く時のような、優しい圧で。

勇者「…っ」

サキュバスA「あらぁ、もうこんなにさせてますの?……私に対して?それとも、その子?」

サキュバスB「…私、ですよね?」

耳元から、Bの子供が内緒話を囁くような声。
下方からは、Aの挑発するような妖艶な声。

勇者「……両方、じゃダメかな」

92 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/08 02:43:06.91 Mn6xIugoo 307/424

サキュバスB「……ダメです」

首筋に、暖かく吸い付かれるようなくすぐったさを感じた。
ちゅ、ちゅ、という音が断続的に聞こえ、息をつく声も同じく。

その間に、サキュバスAがズボンを下ろしにかかる。
ベルトを外し、少しずつ、勇者の腰が浮いた瞬間を狙って、確実に。

隣国の女王と、まるで立場が逆だ。
思い至った勇者が、少しばかりの羞恥心を覚える。
あの女王も、こんな気分だったのかと。

思いを馳せている間にも首から鎖骨への愛撫が続き、こそばゆさに意識が何度も、何度も引き戻される。

勇者「……っや、めろ……!」

サキュバスA「そんなに熱っぽく仰っても、説得力がありませんことよ。……ほら、もう既に」

流石は淫魔、というべきだろうか。
ズボンはとうに脱がされ、彼の身を包むものはもう、下着のみとなっていた。

94 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/08 03:08:38.56 Mn6xIugoo 308/424

サキュバスA「ふふ……凄いですわ。こんなに……盛り上がって……」

再び、彼女の指先が這わされる。
隆起した部分からゆっくりと下へなぞり、やおら指先を引く。

そして――下着越しに、陰嚢を撫でた。

張り詰め、硬直して敏感になっていた陰部への、奇襲とも言える刺激。
それだけで、まるで達してしまったかのように背を反らせる。

サキュバスB「Aちゃん、ずるいよ。……私も」

首筋から彼女の口が離され、蛞蝓の這ったような、唾液の後が首筋から鎖骨へ残される。
ところどころに吸われた痕も、赤く残っていた。
口を離した彼女はベッドの上でもぞもぞと動き、勇者の胸の上に、またがるような姿で尻を向け、下半身の高まりへ向かい合う。

サキュバスA「あら?……陛下の上に、なんてはしたないんじゃないかしら?」

サキュバスB「だって、私も……見たいんだもん」

勇者「…お前、ら……!」

サキュバスA「ふふ。陛下、この子のお尻をじっと見ながら怒られましても」

サキュバスB「…ねぇ、早く脱がせちゃお。苦しそうだよ」

97 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/08 03:38:33.28 Mn6xIugoo 309/424

サキュバスA「いつの間にか、随分と楽しそうね。……ええ、その方がらしくていいわ。それじゃ」

視界を小ぶりな尻で遮られながら、下着を脱がされる。
小さな薄茶の窄まりと、毛の薄い秘所を目の前に突きつけられると、抵抗する気も失せてしまった。
息がかかるほど間近で彼女の秘所を観察し、同時に自らのそれも観察されている。

サキュバスB「わぁ……。こんなに大きくなるんですね」

サキュバスA「ええ、…お口に入りきるかしら?」

反り返ったペニスの、今にも破裂しそうなほどに膨れ上がった亀頭に息が吹きかけられる。
うっすらと冷たい息が刺激となり、勇者の喉の奥が震えた。
その反応を見逃さなかったか、妖艶な淫魔は、露わになった陰嚢へ、優しく掴むように手を伸ばした。

勇者「うぅっ……!」

触れた瞬間、足がぴんと伸びる。
亀頭と陰嚢、先端と根元に同時に加えられた刺激に、耐えられずに生娘のような喘いでしまう。

反射的に在り処を求めた手は、右は目の前に突き出されたままの臀部へと真っ直ぐに伸びて尻肉を掴み、
左は、彼女の細い腰側から回りこみ、同じく尻肉を掴んだ。

サキュバスB「うひゃっ……」

驚いたような、しかし甘さも入り混じる声が下方から聞こえる。
サキュバスAのくすくすという笑いと、声を出してしまった彼女をからかうような声も。

99 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/08 03:53:26.24 Mn6xIugoo 310/424

勇者「……く、そ……!」

されるがまま、という屈辱を誤魔化す為か、彼は指先を目標へと動かす。
思い起こされるのは、彼女と夜を共にした、翌朝の出来事。
悪戯心で放った行為は、彼にとっては意外な結果をもたらしたのだ。

ずぷり、と音を立て、左手の人差し指が彼女の、”後ろの穴”へと吸い込まれた。
中は熱く、指が折れそうなほどにきつく締め付ける。

サキュバスA「?……息が荒いわね」

彼女からは死角となっているため、サキュバスBの陰部になされている行為は見えない。
確認できるのは、尻を捕まえられた彼女が、息を乱して勇者への奉仕を休めている事だけ。

更に深く、ゆっくりとねじり回すようにして、第二関節までを沈めていく。

サキュバスB「あっ……あ……」

サキュバスA「…本当に、どうしたの?」

目の前の同族に心配されながら、必死で彼女は堪えようとする。
『尻穴を弄られて感じている』などと言える訳がない。
異物感と、尻に感じる異常な熱さが彼女の心を侵していく。
口はだらしなく開かれ、一筋の涎が垂れ落ちた。

100 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/08 04:12:26.28 Mn6xIugoo 311/424

一度指を引き抜こうと試みる。
しかし、あまりにきつく食い締められるため思うようにはいかない。

サキュバスB「あうっ……ん……!」

サキュバスA「陛下、一体何をなさっているんです?」

好奇心に駆られたか、一度体を起こして回り込もうとする。
されるがままの小さな淫魔は、それに気付いて、絶え絶えな声を捻り出す。

サキュバスB「…だ、め……Aちゃ……見、ない……で……」

当然というか、それを意に介する彼女ではない。
巴型に絡み合う二人の横から回り込み、勇者が彼女の陰部に何をしているのか、じっと見つめた。

サキュバスA「あらあら。……貴女、こんな事になってたのね?」

恥ずかしさに、胸から顔までが赤く染まってしまう。
溜められていた涙が、勇者の下腹部へ零れる。

勇者「…っ……力、抜けって……!」

サキュバスA「ほら、陛下がこう仰ってるんだから。……ね?」

102 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/08 04:37:41.84 Mn6xIugoo 312/424

サキュバスB「ひっぃ……!」

勇者のものとは違う、たおやかな指先を秘所に感じる。
秘裂に指先が添わされ、不意打ちの感覚に締め付けが緩み、勇者は、その隙を逃すまいと素早く指を引き抜く。

サキュバスB「うあぁぁっ!」

熱の塊が、アヌスから一気に引き出される。
不浄にも似た悦びが、全身の神経を引き締め、ぞわぞわと背筋を経由してうなじを冷たく、そして甘く痺れさせる。
指先を失った穴が二、三度ヒクつき、快楽の余韻を吐き出しているかのようだ。

サキュバスA「嫌ねぇ。…なんて声を出すのかしら。貴女が楽しんでどうするの?」

勇者「……いや、俺も楽しいよ。お前もだろ?」

サキュバスA「うふふ……陛下には、かないませんね。……さて、どうしましょうか。勿体無いですわね、このままだと」

勇者「ああ、全く。……何か思いつくか?」

サキュバスA「ええ。……陛下は、そのままの姿勢で弄びください」

122 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/08 22:48:50.22 Mn6xIugoo 313/424

言われたとおり、再び、彼女の尻へと指先を走らせる。
艶めかしく収縮を繰り返す小さな窄まりへ、まず息を吹きかけた。
ぴくん、と反応して尻を咄嗟に引いたが、すぐに太ももに絡めていた左手に力を入れ、引き戻す。

勇者「…濡れてる」

アヌスから僅かに下、本来性交に用いるべき部分からは、とろとろと蜜が溢れていた。
指摘しても、彼女からの目立った反応は無い。
羞恥心を押さえ込みながら、唸るような声を上げ続けるだけ。

次に、勇者は彼女の秘所から蜜を掬い採り、指先にまとわせる。
糸を引く粘性の液が人差し指、そして中指にぬめりを加えた。

勇者「いいか?……力を抜くんだ」

いよいよと告げれば、気持ち程度、尻穴が脱力し、無駄な力が抜かれた。
そこへ、愛液をふんだんにまとった中指がまず入り込む。

潤滑剤のおかげか、それともこなれたためか、抵抗はほとんどなく半ばまで呑み込まれる。
内部には柔らかく熱い肉が満ちて、指先を動かせば、熱い感覚に包まれた。

サキュバスB「んっ……は、ぅ……」

勇者「ひょっとして、苦しいのか?」

サキュバスA「いえ、物凄く良いお顔をしてますわ。顔も赤くて、眼がうるうるして、涎まで……ああ、素敵よ」

123 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/08 22:58:30.85 Mn6xIugoo 314/424

勇者「……悦に入ってるなぁ、おい」

サキュバスA「倒錯者の演技も中々にクセになりますもの」

勇者「多分聞こえてないな、こいつには」


ぐにぐにと腸内を指先でまさぐられ、べったりと勇者の上に身を投げ出してしまっている。
勇者の下腹部にだらだらと涎が垂れ、怯え竦ませるような、甘美な刺激に悶えるような、小さな声を上げる。

サキュバスA「もう、ダメじゃないの。……ほら、しっかりしなさい」

サキュバスB「…む……りぃ……無…理だよぉ……」

サキュバスA「貴女も、陛下にご奉仕しないと。……ほら、ちゃんと握って」

強引に手を取り、目の前に屹立した男根を握らせる。
その熱さに、一瞬だけ意識がはっきりと取り戻された。
時折さらに硬さを増すように全体が揺れ動く。

124 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/08 23:22:05.28 Mn6xIugoo 315/424

サキュバスB「はぁ……、あ……う……」

力なく男根を握り、ゆっくりと扱き始める。
何とか応えようと思ってはいるようだが、あまりにも遅く、気が入っていない。
中ほどを握り、ただ上下させているだけ、と言っても過言ではない。

勇者「……おい、降参か?」

腸内を思うがままに蹂躙していた中指を引き抜き、爪の根元が見えた頃、再び突き入れる。
異物が出て行く感覚、そして再び侵入してくる感覚。
赤く充血した腸壁が伝えてくる、焼け付いてしまいそうな圧倒的な快感。
未だ、それには慣れる事ができない。
背徳感、熱っぽい高揚感、それを見られ、楽しまれている羞恥心と湧き起こった被虐願望。
脳が熱い。
色々な感情が脳内を暴れ回り、熱を帯びていく。

考える事などできない。

そして、『全てを捨てて、みっともなく愉しんでしまえ』という悪魔の囁きが木霊する。
求めてしまえば楽になれる。
だけど、それだけは。

悪魔の提示した選択肢と理性との間で揺れていると、外部から与えられる刺激の量が増大した。

125 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/08 23:41:41.82 Mn6xIugoo 316/424

勇者「…何だ、お前も加わるのか?」

サキュバスA「だって、可愛いんですもの」

勇者「まぁ、いいかな」

秘所に細い指が沈む感覚で、サキュバスBは何が起こったのか理解する。
横から、サキュバスAが片手で前の穴へ愛撫を加えているのだ。
洪水のように溢れ出す愛液と、何度も開いて閉じてを繰り返す、いやらしい部分へ。
8の字に繋がった括約筋が、連動して収縮と弛緩のループを続ける。

勇者「……そろそろ、もう一本増やすか」

サキュバスA「ええ、よろしいかと。……たっぷり可愛がってあげましょう」

指一本では既に余裕と見たか、中指に続き、人差し指をもアナルに沈めていく。
たっぷりと愛液をまとった指を、押し返す余裕は無い。
侵入の際は抵抗があり、苦しさとほんの少しの痛みを届けたが、すぐに人差し指まで、くわえ込まれてしまった。
その後は、更に腸内を動き回らせ、バリエーションに富む動きで彼女の情念を昂ぶらせていく。

126 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/08 23:57:11.96 Mn6xIugoo 317/424

指の間を広げ、肛門をほぐすように押し広げる。
二つの指先で、腸内の熱い肉襞を傷つけぬように擦り込む。
あるいは指を曲げ、膣の方向へと腸壁越しに刺激する。
示し合わせたように、膣内を同じように蹂躙していたサキュバスAと、
膣壁と腸壁をそれぞれ隔てて指先を付き合わせる。

もう、限界だ。
我慢などできるはずもない。

サキュバスB「……せ…て……」

サキュバスA「何か言った?……聞こえないわ」

サキュバスB「イか……せ…て……くら……はい」

勇者「…聞こえないよな?」

サキュバスA「はい。声が小さくて聞こえませんわ」

サキュバスB「お願い…イき…たいんです……!」

勇者「どうやって?」

サキュバスA「ええ、きちんと説明してごらんなさいな」

127 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/09 00:27:50.39 BRe9u+qMo 318/424

明らかな焦らしに、流石に口篭る。
分かっている。
この二人は、意地悪く楽しんでいるんだ。
分かってはいても、もはや火のついた本能に逆らう事はできない。

サキュバスB「…お尻、と……おま○こ…を……めちゃくちゃに……掻き回して……イカせ、て…ください……」

サキュバスA「はい、良く言えました。……でも、ダメなのよ。ごめんなさいね?」

サキュバスB「え……?」

サキュバスA「……もっと大きなものが、目の前にあるじゃないの」

勇者「やっぱりそうなるのか」

予想通り、と言わんばかりの勇者が彼女の尻から指を引き抜き、サキュバスAも同じく、指をぬるりと抜く。
直後、まるで蛸のような身のこなしで彼女を後ろから抱え込み、太ももを掴み、足を大きく開かせた姿で勇者の上からどかせる。
子供に排尿を促すようなポーズをさせたまま、後ろからがっちりと押さえつけた。

勇者「………いい、のか?」

サキュバスA「ええ。……お好きな方へどうぞ」

129 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/09 01:04:37.59 BRe9u+qMo 319/424

勇者「正直、まだ怖いしな。……今日は、こっちにしておこうか」

サキュバスA「あら、お優しいのですね」

怒張しきった男根を軽く押さえながら、サキュバスBの「前」の穴へと誘導する。
いくら淫魔であるとはいっても、指一本でもきつい位の穴に挿入するのはどこか気が引けるようだ。
優しさというより、臆病と言っても語弊は無いかもしれない。

鼓動が収まらない。
屈辱的な姿勢を取らされておきながら、抵抗する気も起きず、そもそも体に力が入らない。
入れて欲しい。
はやく、あの逸り切った騾馬のような、凶暴なものを――。

最後まで述べる間もなく、秘所へとそれが進入する。
恥骨の軋む音さえ聞こえてきそうなほどに、彼女の小さな体に、不釣合いな逸物が。
肉をかき分ける音、ずぶずぶに濡れた膣内が立てる卑猥な水音。
彼女には、どこか現実味を感じられない。
魂が抜けて上空から見ているような、酷く信じがたい淫靡な空気と、それに中てられた快感。

サキュバスA「ふふふ……ほら、繋がってるのが丸見えよ。恥ずかしいわね。おま○こ、あんなに充血しちゃってるわ」

130 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/09 01:32:28.35 BRe9u+qMo 320/424

耳元で状況を説明され、あまりの恥ずかしさに俯き、黙り込む。
垂れた前髪で、サキュバスAはもちろん、正面から彼女に欲望を叩きつけている勇者でさえも表情が見えない。

サキュバスA「……せっかくだし、私もいじめちゃおうかしら」

脚を強引に開かせていた腕を閃かせ、両方の乳房を後ろから鷲掴みにする。
ぎゅうっと強めに掴んだ為に、サキュバスBの顔が歪み、痛みを露わにした。

サキュバスB「痛っ……痛い、よ……」

サキュバスA「あら?……痛くされるの、好きじゃないの?」

サキュバスB「それっ……は……Aちゃん……じゃ……」

サキュバスA「聞こえないわね」

わざとらしく話を切り、乳房の先端、痛々しいほどに硬く張った乳首を同時に抓り上げる。
乳首が千切れてしまいそうなほどに潰れて形を変え、それでも相反しない痛みと快感に、声すら出せずに酔い痴れる。

勇者「くぅっ……!急に……締め……」

サキュバスA「あら、ごめんなさい。……ですが、陛下。我慢は体に毒ですわよ」

131 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/09 02:10:53.59 BRe9u+qMo 321/424

子供じみたやり取りの間にも、手の中で、乳房が形を変える。
下から持ち上げるように揉んだり、乳首を強く摘まんだり、押し潰すように力を加えたり。
その度に切なげな声が聞こえ、犯されている膣内の締まりが強まる。

サキュバスB「……お願……い…も…う……」

サキュバスA「うーん、遊びすぎちゃったかしら?……いい感じに溶けちゃってるわねぇ」

サキュバスB「イき…たいぃ……イきたい…の…」

勇者「ああ。…俺も限界だ」

ストロークが強まり、濡れた肌のぶつかり合う、間の抜けた音が響く。
乳房への、サキュバスの手管による愛撫。
太ましく膨張した怒張による、容赦ないピストン。
乗算のように強まり、その快楽は留まる所を知らない。

サキュバスB「っ…だめ……!もう……イ…く……!」

びりびりと全身に広がる、快楽の波紋。
呑み込まれながら、彼女の体は何度も何度も跳ね狂う。
ぎくぎくと痙攣する膣の締めに、勇者も遂には耐えられなくなった。

勇者「うっ……俺、も……!」

133 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/09 02:35:54.49 BRe9u+qMo 322/424

奥深くまで叩きつけて、直後、身を折りながら彼女の中に吐き出す。
腰が砕けるような快感と、痙攣した膣肉が蠕動するかのように震え、男根全体をマッサージするかのように吸い取る。
何度めかの発射だが、やはりこの国は、「淫魔」の国だ。
いや、世界自体が「淫魔の世界」と言ってもいい。
未通であったはずの隣女王も、二人のサキュバスも、堕ちた女神も、例外なく、それでいて違う種類の「名器」である。
淫魔の具合を100とするなら、人間は全て0だとも言えてしまいそうだ。

射精が終わらない。
陰嚢が虚脱してしまいそうなほど、干からびてしまいそうなほどに吸い込まれていく。

サキュバスB「きっ……ぃ……っ」

達した直後で敏感になっていた膣穴に、情け容赦なく大量の精液を叩きつけられ、一層強く全身が跳ね上がる。
食い縛られた歯の隙間から、涎が溢れてくる。
びくん、びくんと豊かな乳房を揺らしながら、背を反らして――『イキ狂う』。
そして、少しずつ……静かに、なっていった。

サキュバスA「……B?大丈夫かしら?」

返事は、返ってこない。
半開きのまま蕩けた目から、涙が溢れている。

サキュバスA「…虐めすぎですわね。失神してしまったようですわ。全く、陛下ったら」

勇者「っふぅ……ふぅ……。俺…のせいか?」

134 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/09 02:54:26.48 BRe9u+qMo 323/424

サキュバスA「ふふふ……。さて。私にはお情けをいただけないのですか?」

勇者「お、い……もう一戦、か?」

サキュバスA「…陛下なら、きっと大丈夫ですわ。……とりあえず、お清めいたしますね」

言うが早いか、サキュバスBの秘所から引き抜かれ、凶暴さが形を潜めた逸物へ口を寄せる。
ベッドに脚を投げ出すようにして座っている勇者に、四つん這いになるようにして。

半ばまで、一気に咥えられる。
そして、こびりついた精液を丹念に舐め取っていく。
手は使わず、口だけで。
彼女の髪が太ももにさわさわと当たり、妙にくすぐったい。

時間にして、30秒ほどか。
根元に帯びた愛液、先端から僅かに染み出た精液の残滓までを清め終わり、一度口内に溜める。

最後に、口の中でそれらをまとめ、味わってから――飲み下す。
目を閉じ、喉を艶めかしく鳴らして、引っかかりを気にするように何度も、喉の奥に追いやる。

サキュバスA「…ふふ、ご馳走様でした」

目尻に涙を浮かべながら、微笑を勇者に向ける。
収まったとはいえ、根元まで咥え込んだのだから、反射で涙腺が緩むのも無理はない。

彼女の、そんな顔を見て。

何故か――興奮ではなく、胸が締め付けられるような感覚を覚えた。

260 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/11 00:06:40.64 YO3ZD/yXo 324/424

サキュバスA「陛下、どうしました?」

勇者「………話したい、事があったんだ」

サキュバスA「彼女が醒めていませんが」

横目に失神したままのサキュバスBを見る。
よほど深く達したのか、未だ反応はない。
もしかすると、眠ってしまったのか。

勇者「頼む、聞いてほしい」

サキュバスA「……何でしょうか」

勇者「言っても……まるで、信じがたいだろうな」

サキュバスA「構いませんわ。仰ってください」

勇者「……俺、は……」

サキュバスA「はい」

勇者「………」

サキュバスA「……『王』ではない?」

勇者「!?」

261 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/11 00:19:13.23 YO3ZD/yXo 325/424

サキュバスA「あの朝から、態度があまりに違いますもの。薄々と気付いていましたわ」

勇者「……そうか」

サキュバスA「あの夜伽、女王への態度、その他全て。違いすぎます、平素とは」

勇者「どこで、確信した?」

サキュバスA「……たった今ですわ」

勇者「何だと?」

サキュバスA「状況証拠の推論を口にしただけですのに、否定しませんでした。……詳しくお聞きしても?」

勇者「…敵わないな。……俺は……魔王と……」

彼は全てを語った。
魔王城へと辿り着き、最後の戦いの前に魔王が条件を提示した事。
提示された条件に、卑しい欲望を滾らせて迷った事。
見透かされたように、七日間の体験を提案された事。
そして――乗った事。
後は彼女も知っての通り、と。

263 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/11 00:31:24.50 YO3ZD/yXo 326/424

勇者「……信じられるか?」

説明を終え、一区切りついたところで問いかける。
荒唐無稽な説明に、さしもの彼女も戸惑っているようだ。
間の重さを誤魔化すように、勇者はベッドサイドのランプを点ける。

サキュバスA「…信じますわ。今更、疑う事などいたしません」

勇者「…そうか、信じてくれるのか」

サキュバスA「堕女神さんには?」

勇者「………まだ、言ってない。今日の昼餉からすると、気付いているのかもしれないけど」

サキュバスA「恐らく、彼女は気付いていますよ。『あなた』の変化に一番影響を受けたのは彼女ですから」

胸が、痛んだ。
彼女は今、『陛下』と呼ばなかった。
そう仕向け、話したのは確かに自分なのに、それだけで、言い知れない虚無感が心臓に燻る。

265 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/11 00:47:08.58 YO3ZD/yXo 327/424

勇者「……彼女が作ってくれた料理。すごく、美味かったんだ」

サキュバスA「?」

勇者「…残さず食ったよ。そして、賞賛した。……それを、『違和感』だと彼女は言った」

サキュバスA「…………」

勇者「…彼女と夜を明かし、口付けを交わした。夜が明けるまで、二人きりで肌を重ねた。……それもか?」

サキュバスA「…それは……」

勇者「……全部、違和感だったってのかよ」

サキュバスA「……………」

沈黙が、勇者にとっては『親切な返答』だった。
時として、沈黙は100の言葉に勝る説得力を得る。
それは、残酷なほどに。

揺れる火が、室内をぼうっと照らし出す。
未だ眠るサキュバスB。
ベッドの上で、脚を投げ出して天蓋を見上げる勇者。
そして、俯き、何も言えないサキュバスA。

266 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/11 01:12:43.19 YO3ZD/yXo 328/424

勇者「……参るな、これは」

長く息をつき、誰に言うでもなく呟く。
消化された虚無感が、脱力感へと化け始めた。
彼女へ施した全てが、違和感だったと知らされて、倦怠感さえ指先から侵蝕する勢いに。

サキュバスA「…差し出がましいですが、一つだけ」

勇者「…何だ?」

サキュバスA「……『あなた』には比べる事はできないでしょうが、彼女も、『あなた』が来てから変わりました」

勇者「え?」

サキュバスA「彼女が、『あなた』の為に健気な言葉とともに厨房に立つのを。……あれは、『あなた』の為なんですよ?」

勇者「………」

サキュバスA「…彼女は、笑っていました。私がからかうような言葉を投げかけると、頬を染めて言葉に窮していました」

勇者「…想像がつくよ」

サキュバスA「……そうでしょう。以前なら、この私にも想像できませんでしたわ」

268 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/11 01:43:53.28 YO3ZD/yXo 329/424

サキュバスA「隣国の女王。……彼女も、あなたのおかげで国難を乗り越えられましたね」

勇者「単なる偽善さ。『勇者』に疲れて、それでも『勇者』を止められない男の」

サキュバスA「『勇者』が重いのですか?」

勇者「……重すぎて、引きずるしかないんだよ。手を離す事もできやしない」

サキュバスA「………」

勇者「ともかく。……そういう訳で、明日が終われば、お別れだ」

サキュバスA「寂しくなりますわね」

勇者「…心が篭ってないな」

サキュバスA「泣きながら引き留めるのは、私の役目ではありませんし、柄でもありません」

勇者「違いないな」

サキュバスA「……明日は、堕女神さんとお過ごしなさいな」

269 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/11 02:09:13.09 YO3ZD/yXo 330/424

勇者「……言われなくても、そのつもりさ」

サキュバスA「………残念、ですわ」

勇者「今度は何だ?」

サキュバスA「あなたがこの国にいる最後の日、夜を共に出来ない事が」

勇者「……済まない」

サキュバスA「この子も。……もし聞いていたら、今頃、泣いて大変でしたでしょうね」

静かに寝息を立てる彼女の頬を優しく撫で、乱れて顔に垂れた髪をどけ、整える。
その寝顔は、安らかそうで。
この先にある離別を知らず、ただ穏やかに眠っていた。

サキュバスA「……この子には、言わない事にしましょう」

勇者「………それでいい、のか?」

サキュバスA「良くはありません。……ただ、『いつも通り』になるだけです」

271 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/11 02:37:56.90 YO3ZD/yXo 331/424

勇者「………」

サキュバスA「…分かってはいます。告げて別れた方が、誠実だという事を」

勇者「それなら、何故だ」

サキュバスA「…………残酷すぎるのです。『陛下』が別人で。彼女は『それ』に恋していた、なんて」

勇者「……すまない………」

サキュバスA「責めてはおりませんわ。……真実を告げるのは『正しい』けれども、優しくはありません」

勇者「…………」

サキュバスA「……このまま、眠りましょう。”明日”を、少しでも長くするために」

勇者「……ああ」

273 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/11 03:11:02.16 YO3ZD/yXo 332/424

促されるまま、ランプを消して二人のサキュバスを両脇に侍らせた姿で横になる。

このまま目を閉じれば、すぐにでも眠れてしまいそうだ。
そして、朝を迎えて最後の一日が始まる。
二人のサキュバスの寝顔も、温もりも、もう二度と味わうことは無い。

魅了するかのように見つめてくるアメジストのような瞳も。
あどけなく輝かせて見つめてくる金色の瞳も。
二度と、『勇者』を見つめる事は無い。

最後に、何か言おうと、サキュバスAの方に顔だけを向ける。
しかし、声が紡がれる事は無かった。

彼女は、もう眠ってしまっていた。
規則正しく立てる寝息が、耳に心地良い。
疲れていたのか。
それとも、眠る事でしか振り払えない念があったのだろうか。

もう、それを聞くことすらできない。
聞いても、どうする事も自分にはできない。
だから。

――せめても、と。
勇者は、両側の淫魔を抱き寄せ、自らもまた、眠りの世界へと落ちていった。

329 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/12 03:21:24.98 UzZKBwkmo 333/424

最後の日


目が覚める。
両側に寝ていたはずの淫魔は、いなかった。
僅かに残る温もりは、彼が起きるよりも少し前に寝床を発った事を示していた。

七度目の朝。
いつもと変わらず、鳥が歌う。
暖かい日差しが窓から注ぎ、細胞へと活力を与えるようだ。

どんな運命の朝も、いつもと同じだった。
変わらず日が昇り、変わらず寝床で目覚め、変わらず腹が減った。

普段というか、これまでなら彼女らが先に寝床を出る事は無かった。
それが、何故か無性に悲しい。
恐らくは、サキュバスAが気を利かせたのだろう。
Bを何と言いくるめたのかは分からない。

二つ、規則正しくノックの音が聞こえる。
音で分かる。
『彼女』だ。

330 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/12 03:43:27.38 UzZKBwkmo 334/424

堕女神「陛下、お目覚めですか?」

いつもと変わらない、彼女の声。
身にまとう雰囲気とは裏腹な、妙に暖かみのある声。
それも今日が、最後だ。

勇者「ああ、入れ」

堕女神「失礼します」

きぃ、と扉を開けて入ってくる。
黒く艶やかな髪は、相変わらず美しい。
黒鳥のようなドレスを隙無く着こなし、その所作も完全に身についている。

堕女神「朝食の準備が出来ております。……陛下?」

勇者「え?」

彼女が見つめてくるので、気付く事ができた。
自分の目から、涙が一筋零れていた。
熱くは無い。
すぅ、と流れるように一筋だけ。

331 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/12 04:01:29.52 UzZKBwkmo 335/424

堕女神「……まだ、お体の具合が悪いのですか?」

昨夜、浴場で倒れた事を思い出す。
彼女が、身を案じて食事を運んできてくれた事も。
そして、サキュバスAの言葉が思い出される。

勇者「…大丈夫だ」

涙を拭い、服を着る。
上質な白い絹のシャツを羽織り、ズボンを穿き、ブーツに足を突っ込む。
最後に剣を腰に帯びて、立ち上がる。

堕女神「本日は、特に予定は入っておりません。たっぷりと、休養なさって下さい」

勇者「ああ。……それより、早く朝食にしよう」

最後の日。
最後の朝。
それでも、腹は減る。
どんなに哀しくても、辛くても、腹は減るのだ。
それもまた、勇者が旅の中で得た経験値の一つ。

332 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/12 04:52:05.64 UzZKBwkmo 336/424

長い廊下を歩いていると、様々な使用人とすれ違う。
初日と同じく、様々な姿の淫魔が働いていた。
中には、隣国の淫魔と思しき種族もいる。
翼のサイズや、肌の色、そして幼すぎる外見で判別できた。

途中、中庭が見えた。
良く整えられた庭園に、勇者の姿をした銅像が建っている。
その正体に確信を得た今では、既に違和感は無い。

勇者「なぁ」

堕女神「はい」

勇者「……この国は、美しいな」

堕女神「…はい」

心から漏れ出すような言葉に、彼女は驚きもせず、同調でもなく、同意した。
傍から見ればその表情は変わらないが、勇者には、柔和な微笑を浮かべているように見えた。

時間を噛み締めながら歩いていくと、大食堂に辿り着く。
金糸を織り込んだ赤の絨毯が敷かれた豪華な内装が目を引く、大きく天井が高い部屋だ。
既にふわりと朝食の香りが立ち込め、鼻腔をくすぐり、胃袋を期待で既に満たされるかのようだ。

333 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/12 05:43:09.33 UzZKBwkmo 337/424

前日の件を考慮してか、消化に優しく、それでいて確かな風味と滋養のあるメニューだった。

最初に出されたスープは、口に運ぶと上品な香りと風味が広がる。
どれだけ煮込んだものか。
恐らく、勇者が倒れてからずっとか。
夜を徹して灰汁を掬い、具材の栄養が無駄なく溶け込み、それでいて、くどくはなく、優しく染み込み、胃を労わるような。
そんな難題を、彼女は一晩中、追求していたのかもしれない。

その後も、勇者の身を第一に考えたメニューが続く。
既に体力は回復していたのだが、一口ごとに体力が更に増すような。
とにかく彼の体力を回復させようと、考え抜かれた皿ばかり。

勇者は、舌鼓を打ちながら、ずっと脳裏から離れない『事実』をも同時に噛み締めていた。

二度と、この国の朝を味わう事はできない。
彼女が起こしてくれる事は無い。
素晴らしい朝食も、穏やかで静謐な空気も、全てだ。

勇者「……美味いよ。いつも通りね」

堕女神「勿体無きお言葉です」

褒められ慣れたか、慌てる事も、赤面する事も無い。
だがそれでも、彼女の口元には綻びが見える。

334 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/12 06:23:01.63 UzZKBwkmo 338/424

勇者「…ご馳走様。俺は、少し中庭で過ごすよ」

堕女神「はい。……後ほど、お茶をお持ちします」

勇者「頼む」

食卓から離れ、伸びをしてから、中庭へと足を進める。
今日は、良い天気だ。
真っ赤に照り付けている訳でもなく、適度に雲がかかった、素晴らしい表情の空だ。
こんな日は、風を感じ、空気や緑の匂いに包まれて過ごしたくなる。
何より――命の危険が、ない。

午睡するのもいいかもしれない。
この世界にいる時間は減ってしまうが、きっと気持ちよく眠れるだろう。

等と考えを巡らせていると、すぐに中庭に到着した。
以前と同じテラスを目指し、白いテーブルにつく。
風が気持ちよく、暖かい。
ふわりと舞った花びらが、勇者の視界を横切り、整えられた庭園を飾る。

勇者「……美しい、な」

356 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/13 04:45:05.64 3MnLayldo 339/424

高く青い空の下、勇者は思う。
これが、自分の人生で最後に許された『平穏』の時なのだと。
血生臭く危険と波乱に満ちた、旅のような人生の中での一時の休息なのだと。

夜に向けて、日が落ちていく。
この青空を見ていられるのも、残り数時間。

何をするでもなく、ただ、空を含めて風景を見やる。
30分もそうしていたら、誰かが茶器を銀製の盆に載せてやって来た。

堕女神「…失礼いたします。お茶をお持ちしました」

彼女はそう言って、眼にも正しい動作で紅茶を淹れる。
湯気が立ち上り、ふわっと芳しい香りが、まるで霧が広がるように勇者の鼻へと届く。

勇者「………」

椅子に背をもたれさせながら、彼女の手元をずっと見ていた。
美しいのもそうだが、彼女の手は、とても優しいのだ。
母親の手のように暖かく、柔らかく、そして、どう表現もしようがない程に、優しい。

堕女神「…いかがなさいました?」

勇者「……綺麗だな、って」

堕女神「?」

357 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/13 04:57:41.85 3MnLayldo 340/424

勇者「いや、何でもないよ」

ごまかしきれてはいないが、それでも、彼が何でもないと言うから追求はしない。
彼女は、全くもってよくできた侍従だった。

勇者「…ちょっと、待ってくれ」

茶を淹れ、菓子の載った盆を置いて去ろうとする彼女を、勇者が引きとめた。
何か不手際があったか、と軽い緊張が走り、次いで、立ち上がった勇者へ眼を向ける。

堕女神「何でしょうか?」

勇者「昨日、俺に訊いたな。今、答えるよ」

堕女神「昨日?」

勇者「『夜』と言ったが。……何故かな。今、言っておかなくちゃいけない気がする」

思い出したか、彼女が怪訝な顔をする。
そして、少し経ち――気付く。
彼があまりにも哀しげな、”笑顔”を浮かべている事に。

勇者「俺―――『勇者』なんだ」

風が、ざぁっと吹き抜けた。
木々を揺らし、葉がざわざわと擦れる音が聞こえる。

358 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/13 05:15:01.02 3MnLayldo 341/424

堕女神「……言っている意味が、分かりかねます」

当然の反応だ。
今まで夜に彼女を甚振りながら、まるで吼えるかのように話していた事。
それを、今更正面から聞かされる意味が、分からない。

勇者「『魔王』の力で、七日間だけこの世界に留まる事ができる。……そして、今日が七日目だ」

堕女神「……え…?」

魔王、というのが何を指すのかは即座には分からない。
だが、後半部分は分かった。
彼の言葉を正しく解釈すると、そうなる。

堕女神「……嘘、ですよね?また私をからかっているのでしょう?」

正面から、勇者の顔を見据える。
彼女が口元をへらへらと綻ばせているのは、言葉通りに受け止めたくない気持ちの顕れか。
対して、勇者は口を引き結び、押し黙る。
その目は険しく、嘘をついていない。

勇者「…俺は今日の夜、この世界を去る。……二度とここへは戻れない」

堕女神「…冗談はやめてください。面白くありませんよ」

359 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/13 05:23:09.59 3MnLayldo 342/424

冗談であればいいのに。
彼は、そう思った。

どうか冗談であってくれ。
彼女は、そう願った。

勇者「……今日が最後なんだ。……後は、前と同じ『王』の精神が戻る」

堕女神「……嘘」

勇者「………」

堕女神「『嘘だ』と言ってください!」

取り乱し、叫ぶ。
声の大きさに、近くにいた使用人の一人が思わず振り返る。

勇者「俺も、そう言いたいさ」

苦々しげではない。
変わらぬ決意を湛えた、『男』の顔。

認めたくない。
その一念が彼女の心を染める。
心臓がぎりぎりと締め付けられ、呼吸するごとに取り込まれる空気が、苦い。

いつまで待っても、彼は表情を崩して笑ってくれない。

口の中に苦味が満ちて、それが鼻と口の奥をつんとさせ、更に上へと昇ってくる。

360 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/13 05:49:09.67 3MnLayldo 343/424

いつまで経っても表情が変わらない彼の姿が、歪んだ。
にわかに鼻が詰まり、思う通りに空気を取り込んでくれない。
瞼が熱く、段々と、眼前の彼の姿が更に歪む。

勇者「………ごめん、な」

耐え切れずに放った言葉を引き金に、涙が溢れ出した。
頬を滝のように伝う涙が、石畳に染みを作る。
しゃくり上げると、つられて洟が垂れ、呼吸を著しく阻害された。
声を激しく上げる事は無い。
それでも、普段の彼女を知る者には想像すらできない、取り乱した泣き顔。
何万年もの年月を生きた彼女を、ここまで動揺させる言葉があるのか。
かつて彼女を崇めていた民も、思わなかっただろう。

堕女神「……うっ…っく……うぅ……」

声を出さないように、洟をすすりながら泣く彼女に、勇者が近づく。

勇者「……ごめん」

彼女の頭を優しく引き寄せ、胸へと抱く。
暖かさと、勇者の匂いに包まれ、彼女が顔を埋めて泣き濡れる。
じわりと染み込む彼女の涙を皮膚で感じた。
こんなにも、熱いのか。

自分との別れを、こんなにも哀しむものなのか。

362 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/13 06:07:44.03 3MnLayldo 344/424

勇者「……もっと、早く言えば良かったのかな」

縋り付いて泣く彼女の頭を撫で、左手で大きく開いた背中を抱き締め、擦りながら漏らす。
こんなにも取り乱す彼女を見るのは初めてだ。
恐らく、本来の『王』もそうだろう。

勇者「…作ってくれた料理は、本当に美味しかった。……この七日、楽しかったよ」

言葉が耳に届いているのか、分からない。
反応は返ってこず、シャツの生地をきゅっと掴まれるだけ。

再び、風が吹き抜ける。
その風は――何故か、冷たかった。
隙間風のように心に吹き込み、身を竦ませるように冷たかった。

勇者「こんなに、別れを惜しまれるのは初めてだな」

彼女の髪を撫でる。
絹糸をまとめたかのように、上等な油に手を浸したように、さらりと指の間を通り抜ける。
髪から漂う香りは、旅の途中で訪れた、季節を無視して様々な花の咲く天上の谷を思い出させた。

363 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/13 06:29:16.22 3MnLayldo 345/424

どれだけの間、そうしていたのか。
使用人達に幾度も視線を浴び、珍しいものを見るかのようだった。

勇者「落ち着いたか?」

しゃくり上げるような痙攣が治まり、呼吸も整いかけている。
既にシャツは涙と洟でじっとりと濡れている。

堕女神「……は、い。………お見苦しいところを……お見せ、しました」

勇者の胸元から離れ、赤く腫れぼったい瞼と鼻を見られないようにして、彼女が言う。
恥じ入るように隠して、何処から取り出したハンカチで鼻の下を拭う。

堕女神「昼を回ってしまいましたね。今すぐに、昼食の用意を致します」

勇者「ああ、いや。……昼を過ぎているし、軽いものでいい。……運んできてくれ、ここに」

堕女神「はい、畏まりました。…お茶を、淹れなおします」

勇者「いや、いい。お前が淹れてくれたんだからな」

再び席につき、とっくに冷めてしまった紅茶を啜る。
逡巡の後、彼女は遅い昼の準備を整えるため、足早に去って行った。

364 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/13 06:56:27.14 3MnLayldo 346/424

その後、彼女が運んできた細めのパスタを平らげ、再び午睡するかのように目を閉じ、風を感じる。
暮れなずむ空が青から橙へと色を変え始め、入り混じった薄紫の空が頭上に広がっていく。

日が落ちる前にと勇者は席を立ち、城内へと入る。
もう、空を見る事はできない。
後は、ただ夜へと変わっていくだけ。

勇者は一人ごちる。
これは―――まるで、『死刑囚』の心境だ、と。
二度と、空を見る事はできない。
二度と、舌を楽しませる料理を味わう事はできない。
二度と、人肌のぬくもりを感じる事はできない。

最後の日は、あまりにも切なく、救いなく終わりそうだ。

途中、サキュバスAを見かけた。
日が落ちて庭の手入れを終えたのか、大きな鋏を手にしていた。
彼女も勇者の存在に気がついたが、一礼を送り、すぐにその場を去ってしまった。

自室に戻る気にはなれず、当て所なく城内を彷徨う。
飾られた絵画を眺めながら廊下を歩き、思いついて謁見の間を覗き、まるで――最後に、目に焼き付けようとしているかのようだ。

385 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/14 01:39:56.31 NBSc6G9uo 347/424

そうして彼が向かったのは、玉座の間だった。
重厚なカーペットが敷かれ、壇上に金色の玉座が置かれた『王』の座する処。

一歩一歩、踏み締めながら向かう。
柔らかい感触がブーツの硬い底から伝わり、静かに音を立てながら歩いていく。
『彼女』の涙で濡れたシャツが、冷えて張り付く。
拭おうとも、着替えようとも思わなかった。
これは、『勇者』の身を心から案じてくれた、一柱の堕ちた女神が流してくれたもの。
『仲間』としてではなく、一人の『男』に対して別れを惜しんでくれた証。

ずっと塞がらない穴があった。
いつになっても隙間風が吹き込み、虚しく霜を降ろす心の一角。
そこに、何かがはまったような気がした。
傷が塞がった心は、もう寒くない。

玉座の壇前に立ち、しばし、目を閉じる。
今この瞬間は自らの座なのだが、それでも経験から染み付いた、心が引き締まる感覚。

しゅるり、と剣を抜く。
幾度と無く繰り返された抜剣の仕草は、今に至っても錆び付いていない。

刀身は未だ輝いていた。
白銀の刀身に、暁のように赤い光が不規則に射し込める。
それは、今この瞬間にも、勇者が『勇者』であり続けていることの証明でもあった。

386 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/14 02:05:21.99 NBSc6G9uo 348/424

切っ先を、眼前の玉座へゆっくりと向ける。
まるで、敵にそうするかのように。
眼光は鋭く前を向き、切っ先を通して玉座に殺気を放っているかに見えた。

勇者「……『お前』は生まれない。絶対にな」

そうして、数分後。
ゆっくりと剣を下ろして、鞘へと納める。

しばらく、玉座を見つめた後に踵を返し、背後の扉へと向かう。
城内を回るうちに、日は既に沈んでしまったようだ。
遅い昼食も歩き回るうちに消化され、胃が窄まるような感覚を覚えた。

玉座の間の扉を開け、再び廊下に出る。
日が落ち、冷えて引き締まった空気が身に沁みる。
空気は冷たい。
だが、『寒く』はない。

自らを動かす機関の収まった左胸へ手を当て、ゆっくり、城内の散策を再開した。

387 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/14 02:25:24.79 NBSc6G9uo 349/424

厨房で、彼女は一人晩餐の準備を進めていた。
黙々、というよりは我武者羅に。
幽鬼のように、感情が薄い表情で。
感情を少しでも出せば、崩れて涙に化けてしまいそうだから。

メインの肉を切ろうと、ナイフに手を伸ばす。
良質なヒレ肉の塊に刃を当てると、まるで布を裁つような音と手応えで容易く両断された。

感情を動かすまいと務めるが、あまりにも、真実は重い。
覚悟はしていた。
何かの変化が王に起こっていた、と。
その変化も、いつかは消えると。
それが、まさか――今日、なんて。

サキュバスA「……お邪魔だったかしら?」

入り口から声が聞こえた。
目を向けるまでも無く、その正体は分かった。
邪険にするつもりは無いにせよ、見られたくはない。
何とか、孤独を保とうと唇を動かす。

堕女神「…いえ。ですが……一人に、していただけないでしょうか」

388 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/14 02:45:04.17 NBSc6G9uo 350/424

サキュバスA「…刃物を手にして思いつめた顔の女を、一人になんてできませんわ」

頬を緩め、茶化しながら厨房へと入る。
邪魔になりそうな翼を一時的に隠し、調理台の隙間を縫って堕女神に近づく。

サキュバスA「その様子では、陛下の告白を聞いたようですわね」

図星を突かれ、身を震わせる。
刻んだハーブを肉に振り掛けていて、思わず手元が狂いそうになった。

堕女神「貴女も、聞いたのですか?」

サキュバスA「ええ。昨日の晩に」

堕女神「何故、私には今日になっていきなり…?」

サキュバスA「……心配しなくても。陛下は、貴女の事をきちんと想っていますわ」

堕女神「なら、どうして……」

サキュバスA「それは、陛下……いえ、『あの人』に直接聞いた方がよろしいかと」

389 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/14 03:13:49.09 NBSc6G9uo 351/424

堕女神「……」

サキュバスA「……最後の夜は、貴女とともに過ごしたいと、あの方は願いましたわね」

手を止め、堕女神は彼女の方へ目を向けた。
メインの肉料理の仕込みは終わり、後は焼き上げるのみとなっていた。

堕女神「そう……なります」

サキュバスA「あの方に取ってではなく、貴女にとっても、あの方と過ごせる最後の夜。……思い残さぬように」

堕女神「……はい」

サキュバスA「嗚呼、それにしても妬けてしまいますわ。……私達でも、女王でもなく、貴女を選ぶなんて」

大げさに謡うように節回しながら、くるりと背を向ける。
そのまま、厨房から出ようと歩を進めていく。

堕女神「………泣いて、いるのですか?」

サキュバスA「…まさか。貴女とも、あの子とも違いますもの」

堕女神「…そう、ですか」

サキュバスA「さて。晩餐の準備が整ったと知らせて参ります。……どうか、悔いを残さぬよう」

堕女神「はい。……よろしくお願いいたします」

390 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/14 03:36:28.19 NBSc6G9uo 352/424

城内を一回りした勇者は、いつの間にか、食堂近くの廊下へと戻ってきていた。
ここにいれば誰かが見つけてくれるだろう、と思ったのもある。
もう一つは――俗がすぎるが、併設された厨房からの、夕餉の香りに引き寄せられた。

何気なく、飾られた銅像を見ていた。
人間の女が、男の上に跨る姿勢で行為に耽っている像だ。
上の女は喜悦に顔をゆがめているのに対し、男は、或いは必死に止めようとしているかのようだ。

サキュバスA「……それは、原初の淫魔。『リリス』の像ですわ」

真後ろから声をかけられる。
距離が近いが、最終日ともなれば慣れたものだ。

勇者「リリス?」

サキュバスA「我々の祖です。彼女は快楽を求めるあまり、人類最初の男に拒絶され、楽園を出でて自らの国を作りました」

勇者「……で?」

サキュバスA「彼女の子供達は魔界へと追放され、人間の精を吸い取る魔族として恐れられるようになりました」

勇者「…それが、お前達か」

サキュバスA「はい。……あ、陛下。晩餐の準備が整っておりますので、食堂へどうぞ」

勇者「分かった。……もう少し早く言ったらどうだ」

391 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/14 04:10:58.14 NBSc6G9uo 353/424

大食堂へと続く目の前の扉を開けようとした。
手を扉へ伸ばした瞬間、止まる。

勇者「……なぁ」

サキュバスA「はい?」

呼び止められ、その場で返事をして彼に体を向ける。
いつもと同じく、挑むような眼差しに、飄々とした物腰。
それでも――彼には、伝わるものがあった。

勇者「……ありがとう」

体を捻り、じっと、彼女の顔を見つめる。
目が僅かに赤く、纏う空気も僅かに沈んでいる。
堕女神は分かりやすく取り乱した。
サキュバスBも同じくそうするだろう。
だが、彼女は?

勇者「…忘れない。お前のおかげで、俺は最期まで『勇者』でいられそうだ」

それだけ言って、彼は大食堂へと入っていく。

彼が最後の晩餐へと消えた後、彼女は――悲しげに唇を震わせて、それでも微笑みながら、部屋へと帰った。

392 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/14 04:54:08.58 NBSc6G9uo 354/424

彼が、一人ではあまりにも大きな卓につくと、すぐに前菜が運ばれた。
茸を用いた固形の蒸し物に、野菜を添えられた皿だ。
一口運ぶと、口の中に芳醇な香りが広がり、それによって食欲が更に増進された。

物足りない量のそれを片付けると、次はスープ。
朝に出たものとは味付けが違っている。
よく煮込まれた玉葱と鶏骨のブイヨンが香り、メインに向けて更に食欲が増す。

メインの肉料理。
両面を良く焼かれているが、中はレア気味に、切ってみればグラデーションが目に楽しい。
口に運べば、肉汁と酸味を持つハーブの香りが広がり、そして非常に柔らかい。
飲み込むのが勿体無いと思えるほどに、勇者は何度も長引かせるようにそれを味わった。
余計な脂の雑味は無く、ただ、肉の持つ旨味と最大限まで引き出している、単純だが嗜好の調理。

そして、最後。
少なくとも人界では希少な、チョコレートを用いた焼き菓子が運ばれる。
フォークで割ってみれば、まるでパイ生地のように表面がさくりと割れた。
内部には瑞々しい野苺に似た果物が仕込まれ、ほろ苦いチョコレートと絶妙に絡み合う。

最後にして至高の晩餐を終えた後、茶が淹れられた。
堕女神自ら、勇者の傍らで。

394 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/14 05:20:50.52 NBSc6G9uo 355/424

勇者「…ありがとう。忘れられない味だったよ」

ティーカップを傾け、礼を述べる。
熱気を伴った香りが口内に満ちて、残った風味をリセットする。

堕女神「…恐れ入ります。……陛下」

勇者「何だ?」

堕女神「……今日は、少し早めにお部屋に伺ってよろしいでしょうか?」

勇者「…構わないが、それはまたどうして」

堕女神「あなたは、今日を最後にこの世界から去るのでしょう。……少しでも、共にいたいのです」

勇者「……ああ、分かったよ。待ってる」

野暮な事を訊いてしまった、と。
若干の反省とともに、茶を啜る。

最後の一口を飲み終え、席を立つ。
まっすぐに自室へと戻り、最後の夜を過ごすために。

それ以降、彼女が部屋に訪れるまで、口を開く事は無かった。

395 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/14 05:32:33.52 NBSc6G9uo 356/424

心地よい満腹感を得て、自室のベッドへ大の字に寝る。
剣はエンドテーブルへ立てかけ、ズボンのベルトも緩め、楽な姿に。

勇者「…魔王。待っていろ。……俺は、お前に屈する事は無い」

天に手を伸ばし、ぎゅっと拳を握って呟く。
見てはいるだろうが、『魔王』からの返答は無い。
だが、聞こえていればいい。
震えていればいい。
勇者は、既に――対決に向け、心を締め直していた。

暫くして、眠気が欠片ほど舞い降りた頃。
毎朝聞かされる、規則正しいノックの音が転がった。
いつものように、入室を促す。

――彼女が、入ってきた。
普段のドレスの上に、黒地に金糸で刺繍されたショールを羽織っている。

勇者「……早い、な」

堕女神「申し訳ありません」

勇者「…いいんだ。……こちらへ」

434 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/15 03:03:44.43 59deYyZzo 357/424

彼女が、近づく。
上体を起こしながらベッドの上で待つ勇者へ。

縁に腰掛け、靴を脱ぐ。
踵が高くサンダルにも似て露出度の高い、勇者の世界では見かけないタイプの靴だ。
片足、もう片足と順番に脱ぎ去ると、待たせた者の方へ体を向けなおす。

四つん這いに、近づいていく。
二人分の体重をかけられたベッドが軋み、ぎしぎしと音を立てる。
ランプの灯に照らされた彼女の影が、室内を彩った。

そのまま、止まらず――彼の胸元へ、体を預ける。
しな垂れかかった彼女の体を受け止めると、ゆっくりと体を倒し、横になった。

勇者「…もう、泣かないのか?」

返答は無い。
彼女はただ静かに、彼の胸に顔を押し付け、匂いと、温もりを感じていた。
ひたすら、記憶に残そうとするかのように。
細く、長い息遣いが妙なくすぐったさを伝える。

堕女神「………忘れられない夜を、下さいませ」

顔を胸に押し付け、きゅっとシャツの裾を握ったままで呟く。
まるで薄いガラスのように、儚く、透き通った声で。
顔は、見えない。
見えないから、逆に――彼女の心が、伝わった。

435 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/15 03:17:40.10 59deYyZzo 358/424

答えの代わりに、彼女の体を優しく抱き寄せる。
彼女の顔が、勇者の首下へと上ってくる。
俯き気味の顔を自由な左手で持ち上げさせ、横になったまま、見つめ合う。

この世界に来て、恐らく最も長い時間付き合わせた顔。
緋と闇の眼が、彼を真っ直ぐに、そして何かを求めるように見つめ返す。

――ああ、お前は。
――これが、好きだったな。

左手で彼女の顎を軽く持ち上げ、ゆっくり、吸い寄せられるように唇を近づける。
彼女は眼を閉じ、その瞬間を待ち侘びる。

一秒、二秒。
『彼』の唇が触れるまでの間を、彼女は永遠にも感じた。
焦らされている?
それとも―――

思考がとりとめなく動いた時、口先に温度を感じる。
瞬間、全ての雑念は消え、口元に全神経が集まったような、不思議な熱が篭る。

唇が、ゆっくり合わさる。
まるで、離れた二枚貝が再び組み合わさるかのように、ぴったりと。
それは唇のみを表すのではなく、心も。
こうある事が自然かのように、唇を通して二人の、――否、一人の男と、一柱の堕ちた女神の心が繋がった。

436 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/15 03:28:49.47 59deYyZzo 359/424

彼は、決意していた。
背負って歩んできた勇者としての旅を、嘘にしてしまわないために。
旅の仲間たちとの時間を、無駄なものとしないために。
それでも、彼は……哀しんでいた。
心を繋いだ堕女神との別れを。
二人のサキュバスとの、姦しい夜を失う事を。
幼くも凛々しい、隣女王の姿を見られない事を。


彼女は、抑え込んでいた。
『勇者』がいなくなってしまう、無限に続く洞のような哀しみを。
自分の作った料理を笑いながら食し、褒めてくれた勇者。
堕ちた後にも燻っていた、『愛』の残滓を認めてくれた事。
それでも、彼女は……望んでいた。
彼が、元の世界を救う事を。
勇者としての務めを全うし、世界の闇を討ち払う事を。


互いの心が、唇という粘膜を通して流入する。
魔法より、言葉より、その行為が互いの全てを語り尽くす、夜噺のように全てを語った。

ランプの灯が揺れる部屋に、粘膜が擦れ合う淫靡な音が響き渡る。
水音が絶え間なく続き、乱れていく息遣いが重なっていく。

437 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/15 04:03:13.93 59deYyZzo 360/424

唇が離れる。
もはやどちらのものかとも知れない唾液が、繋ぎとめようとするように糸を引いた。

どちらとも、呼吸が荒い。
酸素を取り入れる事すら忘れ、互いの唇を、心を求め合っていたのだから。

勇者「……しよう、か」

その言葉を合図に、体を起こし、身を包む衣類を取り去っていく。
背中合わせに、勇者はシャツを脱ぎ、ブーツを放り捨て、ズボンを荒っぽく脱ぎ捨てる。
堕女神はショールを折り畳んでエンドテーブルに置き、ドレスをゆっくりと脱ぐ。
互いが、背中越しに衣擦れを聞き、ひりひりと増していく熱い空気を感じる。
最後という哀しさを、無理やりに焼き切ろうとするかのように。

勇者が全てを脱ぎ去って向き直ると、彼女は下着を足首から抜き、一拍遅れて振り向いた。

堕女神「…どうか、私を満たして下さい。あなたが去った後も、忘れぬように」

言葉が、勇者の耳に届く。
数秒の後、勇者は彼女を、真っ白いキャンバスの上に優しく押し倒す。
立てられた腕の間で、彼女は見つめてくる。
在りし日の神性を取り戻したかのような、優しく輝く微笑みを湛えて。

438 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/15 04:33:28.86 59deYyZzo 361/424

首筋へ、口を寄せる。
透き通るような、白磁のようなしみ一つ無い肌。
特に薄い首の皮からは、彼女の脈動、体温、そして肌理の細かさが伝わる。

首筋へ口付けする。
身をくねらせた拍子に、小さく、声帯から声が震え出た。
吸い付くような、じわりとかいた汗を舐め取るかのような、優しく深い、キス。
ちゅ、と吸えばその度に体が揺れ、悩ましく声を上げた。

豊かな乳房に、右手を伸ばす。
左の乳房に手を伸ばせば、偶然に、乳房近くに指先が触れた。

堕女神「あぅっ……」

高まった乳房の頂点近くを指先で擦られ、甘く声が漏れた。
背筋が僅かに逸れ、ぶるん、と二つの果実が揺れる。

勇者は、黙って、彼女の乳房を下から押し上げるように揉む。
乳房の下側、アンダーと触れ合う部分にはたっぷりと汗をかいており、手に張り付くような、べたべたとした感覚が伝わった。
それでも、不快感は無かった。
むしろ、彼女の肌の質感を味わうための呼び水にすら感じる。

指先が沈み込む。
有り体だが、そう表現するしかない。
指が埋まり、見失うほどの質量と柔らかさ。
そして――大きさに見合わぬ、感度の強さ。

439 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/15 05:07:48.40 59deYyZzo 362/424

指先を動かせば、応じて彼女の体が魚のように跳ねた。
むにむにと沈み込んだ指先が乳房をこね回し、乳腺を揉み解されるような快感を届けるのだ。
声帯はもはや、彼女の意思を離れている。
体の各所から届けられる快楽の信号を受け取り、声を上げるだけの淫猥な機械へと化した。

首筋を吸われ、舌を這わされ、鎖骨下まで降りていく彼の感触。
そのまま、右の乳房を経由し――向かう先は。

堕女神「ひっ…う、あぁぁぁぁん!!」

遠慮会釈無く――頂点を吸われ、声帯が大きく震えた。
背が大きく逸らされ、勇者を跳ね返すように暴れる。
その瞬間、彼の左手が彼女の腰に回され、逃すまいときつく抱き締める。
更に二つの乳房への愛撫を進めると、少しずつ、彼女は大人しくなっていった。

だらしなく開けられた口元からは涎の筋が流れ、シーツに染みを作る。
乳房を弄べば、体をくねらせる。
乳首を弄べば、大きく口を開け、息遣いが激しくなった。

二つの刺激から逃れようにも、腰を強く抱かれている為、身動きを取る事はできない。
最早、されるがままに乳房をなぶられ、よがり狂う事しか許されていない。

440 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/15 05:45:55.57 59deYyZzo 363/424

右手を離し、彼女の左乳房を快楽の螺旋から解き放つ。
しかし、それは解放ではなかった。
向かう先は、彼女の秘所。
気付いていながらも、快感に溶けた心と、力の入らない四肢は、言う事を聞いてくれない。

尻穴の近くから割れ目をなぞり上げる、精悍な指先。
充血した陰核を擦られ、体を弛緩させたままで、びくびくと痙攣するように反応する事しかできない。

既に濡れそぼって、『彼』を迎える準備はできていた。
だが、彼はそうしない。
指先を躍らせ、彼女を更なる高みへと導こうとする。

入り口を指先で幾度かなぞり――人差し指と中指を、内側へと差し込む。
尿道側に軽く指を曲げて、内側を強く擦る。
裏側から刺激を受けた尿道が膀胱に刺激を送る。
気を抜けば、緩ませてしまいそうなまでの感覚。
耐えている間にも乳首を甘噛みされ、舌先で転がされ、意識を繋ぎ留める索が次々と千切れていく。

下から聞こえる、下品とすら表現できそうな激しい水音。
それを、彼女は自らの腺液の立てる音と認識しているだろうか。
指が内壁をこすり、指先が特に敏感な部分を探り当てて、内側から耐え難い快感をもたらす。

括約筋が二つの門を食い縛り、勇者の指先を締め付ける。
もしも男根を挿入していたのなら、瞬く間に果ててしまいそうだ。
それでも、勇者は手による愛撫と、唇を用いた愛撫を止めない。

それは、彼女へ最後まで、愛を施そうとするかのように。

500 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/16 20:25:09.87 44kbZ7YTo 364/424

指先を彼女の中で蠢かせていると、ある時気付く。
尿道側に人差し指の第二関節を曲げた辺りに、彼女が、より身を強張らせる部位がある。
偶然にその部位を指先で掻いた時、反応の違いは明白だった。

二度、三度。
おおよその当たりをつけて、その部位を絞り込むように、大雑把な円を描くように摩擦する。
彼女の声、呼吸、内部の締め付け、体の緊張を加味して少しずつ範囲を狭めていく。

堕女神「はぁっ……っく…ふぅ……っ!」

勇者「……ここ、か」

反応が濃く、長くなっていく。
爪先までがピンと伸ばされ、淫らに喘ぎながら体を硬直させて耐える。
『その場所』を指先が触れる度に、ぴりぴりと電流が走り、砂糖のように甘く脳髄に浸透していく。
触れる端から通過点を甘く作り変えるような、煮詰まった砂糖の塊が背筋を駆け抜ける。
送り込まれるペースも段々と速まり、快感の配達がやがて途切れ途切れの点ではなく、一本の線となった。

指先が、その部位を執拗に掻く。
切なく高まった快感の基点は、もはや彼女の正気をかき乱してならない。
緊張して伸ばされていた脚は緩み、媚びを売る犬のように、はしたなく段々と開かれる。
くちくちと音を立てて勇者の指先を飲み込み、稚児のようにしゃぶり上げる秘所を見せ付けるように。

堕女神「ぃ…い…いかせ……て……」

意味の無い嬌声を紡ぐのみだった唇と声帯が、久方ぶりに彼女の意思を伝えた。
弱々しく、それでいてはっきりとした望みを。

501 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/16 20:43:11.41 44kbZ7YTo 365/424

勇者は、何も答えない。
ほんの一瞬だけ指先を止め――更に激しく、内部を擦りあげる。
溶けてしまいそうなほど熱く高まった内側をめちゃくちゃに弄ばれ、
反り返った背筋が勇者を跳ね除ける如く暴れる。
腰を抱いたままの左手に更に力を込め、深く肌を密着させた。
吸われ、舐られ、歯を立てられて硬くなった乳首は、痛々しいほどに膨れ上がっている。

秘所の内側、快感の峰を掻く。
それと同時に、乳首に歯を立て、軽く引っ張る。
増幅された性感は留まる所を知らず、熱く、冷たく、そして甘く心臓と脳の奥底へと快楽の刃を突き立て、捻る。

堕女神「くあ……ぁ……!ひ、ぃあぁぁぁぁぁ!」


――意識が、白のインクを飛び散らせたように散っていく。
火中に栗を投じたように爆ぜて、あらぬ方向へと意識が飛んでいってしまう。
続け様に繰り返される快感の爆発で、既に正気は飛び、現状を把握する事はできない。
自分が今何を口走っているのか。
あのいやらしく長く喘ぐ声は、誰のものなのか。
霊体が抜け、俯瞰で見下ろしているように現実感が消える。
びくびく、と何度も痙攣し、その度に指先をきつく締め付ける。
閉じる事すら忘れた口の端から、幾筋もの唾液が流れ出て、ぐっしょりとシーツを濡らす。
目から溢れた涙は、眼前の男の姿をも滲ませ、明瞭とさせない。

痺れが全身に広がり、体をろくに動かす事すらできない。
意思に反して不規則に痙攣を繰り返すだけで、自由を取り戻せない。

くたりと脱力した彼女は、身を震わせ、全身に満ちた快楽の余韻を味わう。
心地よい脱力感、解放感。
ぽかぽかと全身を快感のベールで包み込まれ、敏感になった全身の触点から伝わるシーツの感触、
勇者の肌の暖かさ、流れ落ちる涙のくすぐったさ、全ての外的刺激を快感へと変換する。

502 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/16 20:51:48.43 44kbZ7YTo 366/424

甘ったるく広がる余韻に打ち震えていると、間髪を入れず、勇者が圧し掛かってきた。
膝の裏に腕を入れ、大きく脚を開かせる。
先ほどまで指先を咥え込んで離さなかった秘所は、溢れ出した蜜によって、余分なほどに潤っていた。

勇者「…いいな?」

堕女神「待っ…て……!」

抵抗はできなかった。
今も、勇者がただ触れているだけの部分にさえ、じんじんと熱を感じる有様で。
達したばかりの、それも余韻が抜けきっていない今、迎え入れてしまったら――どうなるのか。
期待と、そして恐怖が心を塗りつぶす。

入れて欲しい。
でも――入れられたら、一体自分はどうなってしまうのだろう。
ぐるぐると脳内を回り続け、その間にも、血管を浮かせて反り返った男根が近づいてくる。

絶え絶えに吐息を繰り返していても、男根の先端から、まるで目を離せない。
巨大な獣と遭遇した時のように、目を反らす事ができない。


先端が押し付けられる。
昂ぶって冷めやらない花弁から、より鋭い快楽の信号が送られる。

506 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/16 21:29:27.18 44kbZ7YTo 367/424

本当に、未だ挿入されてはいない。
それでも、先端を入り口で感じただけで、茨のように尖った快感を覚えてしまう。
挿入した時のそれを10としたのなら、既に7ほどの快感が。

勇者「一気に行くぞ?」

堕女神「そっ……ま、待って……お願……ん、ぐっ……う、うぅぅぅ!!」

順繰りにではなく、一気に――根元まで飲み込ませる。
ぐぶっ、という鈍く湿った音。
次いで、互いの腰が密着する快音が高らかに響く。

堕女神「…は、ぁ……はぁ……!イ……ヤ……!また……!」

突き込まれた衝撃で身体が揺れ、内部に熱した鉄の塊を突っ込まれ、
感覚神経を削ぎ落としていくような悲痛なまでの快感が生まれた。
その瞬間だけで、脳を焼かれ、心臓を冷えた手で握り潰されるように達してしまいそうになる。

抑え込んでしまうのは、何故だろう。
例え二度までも達してしまったとしても、目の前の相手は優しく受け入れ、微笑みをくれるはず。
抑え込む理由は無い。
なのに、何故か。

508 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/16 22:14:52.85 44kbZ7YTo 368/424

答えは分かっている。
一つに、今まではそれが許されなかったから。
先に達してしまえば、打擲を受け、詰られた。
首を締め上げられながら犯される事もあった。
彼女は、その痛みを忘れる事ができず、心にいつしか殻を形作った。

ほかにも幾つか理由は思いつきそうだが、
その中には、考えたくないものもあった。
淫魔の国に暮らす事をも否定してしまいそうな、唾棄すべき理由も。

勇者「耐えなくていい。……構わずにな」

そう言われるも、それでもつい、オーガズムへの欲望を抑え込む。
歯を食い縛り、目を硬く閉じ、内側から暴れ回るそれを、封じ込めようと。
あまりにも頑なに、快感を拒絶するかのように不要な忍耐を続ける。

勇者は、それを見て取ったのか。
微笑みとともに、繋がったままでのキスを試みる。
目を瞑っていた彼女は、唇に被さる感触で初めてそれを認識し、目を開けた。

堕女神「んぶっ……う、んっ……ぷぁ……」

驚いたように目を剥き、抗議するようにくぐもった声を上げる。
それでも、本心からの拒絶は無い。
唇から、秘所から、挟み込まれた下腹部に熱を感じた。
黒く燃え盛る淫獄の炎が、灯ったように錯覚する。

509 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/16 23:06:44.35 44kbZ7YTo 369/424

唇を重ねたまま、腰が動き始める。
ぴったりと張り付いた膣肉が、そのまま引き出されてしまいそうなほどに締め付ける。
捻りを加えながら、入り口近くまで肉棒を引き出し、再びゆっくりと、奥まで入り込ませる。
突き込む度、引き抜く度、何度も彼女の体が震え、膣内も一個の独立した生物のように蠢いた。

上と下、両方からの淫靡な水音が重なる。

硬く閉じていた歯は解かされるように薄開き、その間を逃さずに勇者の舌が滑り込む。
ぬるりと侵入してきたそれは、彼女の歯の裏、口蓋、歯茎を順に舐り上げる。
つるつるとした、歯の感触。
触れる度に舌先を熱くさせる、唾液をまとった口内の粘膜。
蹂躙を愉しむ暴君のように、舌が口内を暴れ回る。
途中で彼女の舌も合わさり、口内で、舌と舌が触れ合って踊る。
互いの口内を何度も逆転させて味わい合い、
どちらともなく舌先に唾液を乗せて贈り合い、
それ自体がもはや、完成した性行為にすら感じられた。

いつしか、彼女は両腕を勇者の首に回し、脚は勇者の腰に絡み付いていた。
爪先をすぼめて脚を組み合わせ、がっちりと。

ピストンを繰り返す度、塞がれた口内から吐息が漏れ、そのまま勇者の口へ届き、肺を満たす。
甘い快楽が溶け込んだような吐息が、ダイレクトに肺へ吸い込まれる。

510 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/16 23:30:17.05 44kbZ7YTo 370/424

勇者「……っ…姿勢、変える、ぞ…」

堕女神「えっ……?…きゃ……」

息継ぎの間に、告げる。
少し浮いた腰に両手を入れ、そのまま引っこ抜くように抱き起こす。
脚を絡ませたまま、両手を肩に回したまま、体を起こされて距離だけが縮まる。

向かい合ったまま、抱き合うように繋がる形となった。
距離が近くなり、互いの息遣いは勿論、潰れるように勇者の胸元へ押し付けられた乳房から、鼓動まで伝わる。

しばし、運動を止めて見つめ合う。
互いの体温を最大限に感じる、その姿勢で。
彼は、膣内に侵入したままの男根から、彼女の粘膜の熱さを感じる。
彼女は、未だ体内に突き立てられたモノを通して、硬さと、熱を感じる。

沈黙の後――再び、下から突き上げるように動き始める。
指の後が残りそうなほどに、互いを深く抱き締め合って。
乳房が潰れる圧迫感も、感じる体温と快感、充実感、そして幸福感に重ね塗られて消えた。

前後ではなく上下へと変化した運動の最中、涙がぽろぽろと零れる。
幸福感が箍を外し、涙へと化けてしまった。
文字通り溢れんばかりの幸せの一時。

―――本当に、これで最後なのだ。

511 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/17 00:02:22.59 0fXm8d2Co 371/424

心の深い部分から、じわじわと雪が解けるように哀しみが消えていく。
快楽に身を任せてはいない。
ただ、最後だから――哀しみの涙で終わらせたくは無いから。

勇者「…もう…っだ、出す……ぞ……」

堕女神「は……い……!」

一気に、運動が速くなる。
壊れそうなほどにがくがくと彼女の身体が揺れ、おもちゃ箱を引っくり返したようなデタラメな快楽が体を跳ね回る。
彼女は、その快楽に負けじと、腰を上下させて勇者のモノを扱き上げる。
最後まで、名残を惜しむように。
全てを吸出し、一滴たりとも零さぬように。


膣内に飲み込んでいたモノが、脈動する。
一回、二回。三回目の脈動で、腹腔内に熱いものが注がれるのを感じた。

堕女神「…ん、ふぁ……熱い、です……!」

叩きつけられるごとに、子宮が重力に逆らって持ち上げられるようだ。
強烈な欲望の噴水が、膣内を熱く原初の海のように満たす。
子宮内を満たされ、一拍遅れて彼女が達する。

512 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/17 01:03:31.57 0fXm8d2Co 372/424

内側から侵蝕される熱に浮かされ、手足に一層力が篭る。
思わず反れていきそうになる背筋を無理に押さえ込み、
強く勇者に抱きつき、紅潮した顔をごまかすように、首筋に顔を埋める。

弛んでしまいそうになる四肢に力を入れ、とにかく、離すまいと勇者にしがみ付く。
精を吐き出した肉棒が、鎮まって秘所から抜け落ちる事さえ拒むように。
押し寄せる快楽を封じ込めながら、荒く息をつき続ける。
不規則に痙攣する細い体は、快感に耐え、それでも縋り付くように勇者に抱きついたまま。

何度目かの快感の波が寄せてきた時――視界が、暗くなった。


勇者「……抑え込むな、と言ったのに」

呆れたような口調ではあるが、その顔は優しい。
彼女の体をベッドに横たえ、その体を抱きかかえたまま横になり、顔を眺める。
ふと、窓の外へ視線を送る。

もう、そろそろか。
鐘が鳴って『魔法』が解け、元の世界へと戻る時間は。

514 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/17 01:44:39.47 0fXm8d2Co 373/424

数分後、堕女神の目が覚める。
その時、彼女は気を失ってしまっていた事に気付き、慌てたように見えた。

堕女神「あ、あの……陛下。…先に眠ってしまい、申し訳ありません」

勇者「……硬くなるなよ。まだ『俺』だからさ」

返答され、彼女は安心しながら、体を起こす。
節々に倦怠感と余韻が残って、フラフラと安定しない。
それでも上半身を起こし、勇者の方へ顔を向けた。

勇者「でも、そろそろだな。……日付が変わって、『俺』はいなくなる」

彼も体を起こし、彼女の隣へ座る。

勇者「…世界を、救わなきゃいけないんだ」

暗い部屋で、彼がどんな顔をしたのかは彼女に分からない。
声から伝わるのは、相変わらずの堅い決意。
泣いても、縋り付いても、揺らがないだろう。

515 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/17 02:04:51.64 0fXm8d2Co 374/424

堕女神「…楽しんで、いただけたのでしょうか?」

勇者「ん」

堕女神「淫魔の国への滞在は、いかがでしたか」

勇者「楽しかったよ。……嘘じゃない。こんなに、魅力ある日々を送れたのは初めてだ。……だから」

―――もう、思い残す事は無い

堕女神「?」

勇者「いや、何でも。………こんなに、辛い別れは初めてだ」

堕女神「……私もです」

勇者「……すまない。お前には、かえって辛い思いをさせてしまうのかもしれない」

堕女神「いえ、私なら大丈夫です。……『今夜』が残る限り」

518 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/17 03:53:34.23 0fXm8d2Co 375/424

勇者「……本当に気が合うな」

堕女神「あなたも、ですか?」

勇者「俺も、七日間と『今夜』があれば。……最後まで、大丈夫な気がする」

堕女神「…最後、というのは今ではないのでしょうね」

勇者「ああ。……ん?」

視界に何かが割り込む。
映ったのは、ここではないどこか。
禍々しく広い大広間、そして―――

勇者「………済まない。もう、時間らしい」

別れを告げよう、そう唇に意思を伝えた時。
一瞬早く、暖かく唇が塞がれる。

何度も脈動するかのようにフラッシュバックする視界の中に、目を閉じた彼女の顔が見えた。

堕女神「……御武運を、お祈りします。『勇者』様」


意識が、猛烈な勢いでどこかへと引っ張られていく。
最後に伝わった彼女の声と温もりは―――いつまでも、胸にこだましていた。

暖かな風が、心の中を埋めていった。

もう、『寒く』はない。

552 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/17 23:07:49.97 0fXm8d2Co 376/424

加速しながら引き戻される意識は、一気に減速して、『魔王』の城へと戻った。
受肉したようにすっぽりと元の体に収まり、瞬間、耐え難い吐き気に襲われる。
術法で意識を揺さぶられた事にもだが、
淫魔の国で七日間を過ごした勇者に対し、禍々しく重い、圧し掛かるような殺気に満ちた魔王の城の空気は毒に感じる。

勇者「うっ……ぶ……はぁ…」

塩気の多い唾液が口を満たし、嘔吐の前兆をもたらす。
それでも、必死で押さえ込み、身を折りながら必死に耐えた。

魔王「ククっ…『おかえり』勇者よ。随分と満喫したようだな?」

眼前には、玉座に座ったままの魔王。
この世界では、どれだけの時間が経っていたのだろう。

途上に現れた魔王の腹心を引き付けるため、戦士、魔法使い、僧侶の三人は残り、勇者だけがこの決戦の場に立った。
三人は、倒してから必ず追いつくと約束していた。
その約束は、疑わない。

そして、三人は未だ現れていない。
七日間経っている、等という事は有り得ない。
筋力も萎えていない。
恐らく、そう大した時間は経っていないのだろう。

魔王「心配するな。貴様が行って戻ってくるまで、五分とかかってはいない」

勇者「…魔王っ……!」

魔王「さて、……淫魔の王の正体は、分かったか?」

勇者「……ああ」

魔王「流石は、勇者。我が最大の宿敵にして、『魔王』の対なる存在だ。聞こうではないか」

553 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/17 23:08:55.50 0fXm8d2Co 377/424

勇者「……あの王の正体は、『俺』だろう?」

襲い来る吐き気を落ち着かせ、重く、迫力を注いだ口調で問いかける。
体を起こし、真っ直ぐに魔王を見つめて。

魔王「…疑問に疑問を返すのか?……まぁ、正解には近いな。そうでなければ説明はつくまい」

肘掛けに頬杖をつき、手応えの無い相槌を打つ。
裏腹に真紅の眼は爛々と輝き、次の言葉を待っていた。

勇者「あの肖像画と銅像。三ヶ月も前に作られていた」

魔王「それだけでは根拠として弱かろう」

勇者「俺の『剣』があった。輝きを失った状態でな。……この剣を扱えるのは、紛れも無く俺だけだ。
   そして、オークと戦った時に輝きを取り戻した。つまりあの剣は、間違いなく『本物』て、それが『魔界』にあった」

魔王「…我とした事が、ヒントを与えてしまったようだな」

くっくっと笑い、愉快そうに推測に聞き入る。
オークをけしかけてしまった事が、彼に結果として情報をもたらした。
それを失態とは認識していないように見える。

勇者「あの世界の『俺』は、勇者である事を放棄し、暴君と化した。……だから、剣は鈍らとなった。違うか?」

魔王「いや。……及第点だよ、勇者」

勇者「……結論を、言おうか」

その言葉の後、一拍置いて生唾を飲み、腹を決めて言葉を舌に乗せる。


勇者「………『王』は、貴様の言葉に乗った『俺』の姿」

554 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/17 23:10:17.68 0fXm8d2Co 378/424

その言葉を聞き、ニィっと笑い、次の瞬間――狂ったように、笑い出した。
馬鹿馬鹿しいほどに高い天井と、石造りの広間に反響して響き渡る『魔王』の哄笑。
勇者でなければ、耳に残って神経症を患っても不思議ではない。
魔王の笑い声を受けながら、勇者の視線は揺らがず、ただ一点を見据えていた。
すなわち、歪ませて笑う魔王の顔を。

魔王「…失敬。いや、流石は勇者。推理もだが、何より……事態を受け止めた上で、そう言える点が実に良い」

勇者「貴様に褒められて嬉しいものか」

魔王「答えも明かされた事だ。出題者は補足の説明をするものだろう?」

勇者「……言ってみろ」

勇者が、促す。
殺気を滲ませ、全身に隙無く、研ぎ澄ました気迫を纏って。

魔王「……正解、だ。貴様が首を縦に振れば、ああなるのだ。贅に溺れ、快楽に溺れ、権勢に溺れる。
   美しい淫魔を片時も空かせず抱き、積もり積もった怨恨を堕ちた女神にぶつけ、何度も殺しかける」

勇者「…………」

魔王「その最中で勇者としての正義は消え、奢侈と色欲のみが支配する『怪物』となるのだ。
   魔王を倒せず甘言を受けた背徳から、『自分は勇者だ』と口にしながら女達を嬲る」

勇者は、黙ってそれを聞いていた。
七日間で堕女神とサキュバスAから聞いた話と、見事なまでに一致する。
そして、それが真実と成り得る事も――受け止める、しかない。
否定の言葉が、欠片も出てこない。

556 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/17 23:11:32.08 0fXm8d2Co 379/424

淫魔達と、絶技と淫具を用いた快楽の渦へと飛び込みたかった。
それは――疑えない。
だから自分は迷い、結果として淫魔の国で七日を過ごした。


自分の人生を塗り替えた女神を、怨んでいた。
今になれば、その醜さを受け止められる。
事実として、勇者に選ばれ、血生臭い日々を送らされる事に心のどこかで抵抗を感じていた。
怨みとまで昇華するのかは、分からなかった。
分からなかった、というだけで、十分に可能性として考えられる。


魔王「……だが、軽蔑しようとは思わないぞ、勇者よ。……本来、ヒトとはそういうものなのだからな」

勇者「言っていろ」

魔王「…人間の『王』は、貴様に誇りと強さと正義を求め、”魔王へ挑め”と命じたのだろう?」

勇者「……それが?」

魔王「しかし、我は違う。我は、醜さと弱さと悪を受け入れ、癒してやる事ができる。
   
言葉の調子が一転し、優しげに語り掛けてくる。
高圧的な魔族としてではなく、餌をばら撒いて「拾え」と命じる調子でもなく、ただ、危険な安堵感をもたらす。

魔王「……我は、貴様を”救って”やりたいのだよ」

甘い。
人心を掻き乱す魔王の言葉が、ほのかに甘く、魅了の韻律を伴って吐かれる。
命じられればその身を差し出してしまいそうなほど、その言葉には魅力を感じた。

557 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/17 23:14:14.43 0fXm8d2Co 380/424

魔王「知っているのだ。……我を倒して祖国へ戻れば、英雄として妃を娶る事になるのだろう?」

事実。
一度力を付けて故郷に戻った時、もてなされた酒宴ではそういう話を持ちかけられた。

魔王「…そして、”魔王を倒して終わり”の戦いではなく、絶え間なく続く人間の戦争へと身を投じる。
   ………おお、おお。何と哀れな事か!いたいけな子供の時分に勇者へと任じられたばかりに!」

大袈裟に、歌い上げるように言葉を続ける。
反論は無い。

――魔王の言葉は、間違えてはいないから。
――危険なほどに、道理に満ちていた。

魔王「貴様はもう――十分に、世界へ貢献した。人々を脅かす山賊を打ち倒し、海原の魔物を屠り、凶行に及ぶ騎士団を止めた。
    勇者よ……人間の王達は、お前に何をくれた?」

魔王「彼奴らは、貴様に『戦い』と『危険』を命じた。だが、我は貴様にそんな事はしない。
   …もう、十分に戦った。その褒美として、貴様にはこれくらいあって然るべきではないか?」

玉座から立ち上がり、一段、一段と壇を降りてくる。

魔王「……今一度、言おうではないか」

勇者の眼前、2mほどの距離で大仰に腕を開き、陶酔するかのように口を開いた。


魔王「世界の半分はやらぬが、淫魔の国をくれてやろう」

558 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/17 23:16:20.83 0fXm8d2Co 381/424

最初の言葉を、魔王は再び唱えた。
威圧するような口調ではない。
只管に優しく、聖人が手を差しのべるかのように、抗いがたい空気を纏って。

魔王「さぁ、勇者よ。貴様は、もう戦わなくていいのだ。……次代の勇者に望みを託し、淫魔達と永劫の快楽を愉しむが良いぞ」

微笑みすら浮かべ、握手を求めるように手を差し出す。
勇者は、何も言わない。
俯き、あるいは迷うように――頭を垂れる。

魔王「……嘘は吐かぬぞ。ヒトの愚かな王達とは違うのだからな。……貴様は、”救われる”べきなのだ」

更に、優しすぎて悪意すら感じる言葉が、降りかかる。
魔力を込めているのではないかとも疑えるほどに、魅惑的な言葉。
王達から労われた事は、ほぼ無い。
急き立てるように『魔王を倒せ』と命じるのみで、彼の心を慮る事は一度も無かった。

魔王「さぁ。……再び、あの堕ちた女神と、淫魔達と、出会おうではないか。貴様には、幸福を手にする権利と機会があるのだ」

『勇者』の心が折れかけていると信じて、言葉を紡ぐ。
勝利を確信した笑いが顔に浮かび、もはや隠すつもりはないようだ。


――――刹那、勇者の手が剣へかかる。
瞬きすら挟めぬほどの速さで抜き放たれた白刃は、真っ直ぐに魔王の喉へと突きつけられた。

560 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/17 23:21:20.85 0fXm8d2Co 382/424

微笑みを浮かべたまま、こちらを見据える勇者の顔を見つめた。
獲物へ狙いを定めた鷹のような。
旅の最中、理義の怒りに燃えて戦いを決意した時と、同じ目だ。

魔王「……捨てるのだな?」

声から、一種の神々しさが消え失せた。
それは、勇者も良く知り、世界中の人々が恐れてやまない『魔王』の声。

勇者「………会いたい」

魔王「ほう?」

勇者「出来る事なら、もう一度彼女らに会いたい。……抱き締めたい。感じたい。あの世界に骨を埋めたい」

魔王「ならば、何故だ?この切っ先の意味は?」

勇者「……お前は、俺を”救って”くれると言ったな」

ぴったりと空中に固定されたかのように、剣先はぶれない。
ただ、正確に魔王の喉を捉え続ける。

勇者「俺も救いたいんだ、世界を。……例え、俺が救われる結末を迎えずともだ」

魔王「理解に苦しむな」

勇者「……さて、始めようか。『勇者』と『魔王』の、最後の戦いを」

561 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/17 23:23:39.99 0fXm8d2Co 383/424

弾かれたように両者が距離を取る。
魔王は壇上へ飛び、右手指先に五つの火炎球を形成して勇者へ放つ。
火炎球が四つ、勇者の前後左右へ着弾して退路を断ち。
残りの一つが、そのまま勇者へと向かった。

勇者「………っ!」

剣を左腰から後方へ引き、斬り上げる構えを取り、その瞬間を待つ。
チャンスは、一度のみ。

着弾。
勇者の姿が火炎に包まれ、魔王の視界から消える。
先に放たれた四つの爆炎と重なって、勇者は炎の中へ消える。
燃え盛る魔力の炎は陽炎を発し、玉座の先、大扉を歪ませる。
その熱波は、岩石をも溶かしてしまいそうだ。

しかし魔王は、油断の色を浮かべない。
これが小手調べであり、到底、勇者を倒し得ない事も分かっているから。

業火の中から、魔王が放ったのと同じ威力の火球が返ってくる。
真っ直ぐに、魔王のいる壇上へ。

炸裂音が石造りの広間へ響き渡る。
それは、命中して爆ぜた音ではない。

魔王は、片手でそのカウンターの火球を受け止めていた。
着弾の瞬間に何かが輝き、火炎を吸収したようにも見える。
魔力の壁を自身にまとっている。
高位の魔族は押し並べてそうであり、その長たる魔王が、魔力の攻撃を素通りさせて受ける筈が無いのだ。

魔王「受け流す、とはな。それも正確に、我へと向けて」

562 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/17 23:28:35.08 0fXm8d2Co 384/424

勇者「さて。――次は、こちらの番だ!」

勇者を取り巻いていた火炎が、一瞬で消える。
強風に煽られたように、刺すほど冷たい空気が勇者を中心に広がり、魔力の炎を打ち消した。
波動は魔王へも届き、その冷たさに身じろぎを示す。

魔王「これは……」

感じたのは、自らを守る防御壁が凍らされ、砕かれた魔力の揺れ。
生み出された波動は炎を打ち消し、魔王を守る魔力の障壁すらも打ち消してしまった。

勇者「………喰らえ」

開いた左手を突き出し、魔力を集中させる。
荒々しく高まった魔力が魔王の周囲へ集まり、パリパリと音を立て、火花が散る。
広間を支配した低温の波動によって乾燥した空気が擦れ合い、更に雷の種を増幅させる。


―――轟音。
広間が……否、魔王の城全体をも揺るがすほどの魔力の炸裂。

幾つも束なった雷が、魔王の肉体を重ね塗った。
半球状に魔王を包んだ帯電した空気が、内部の魔王へと強烈な雷撃を放ち、その威力は見た目通りだ。

雷撃の振動が高らかに響き、勇者の耳をすら一瞬痺れさせる。
勇者にのみ扱える雷光の呪文の中で、最も……”初等”の呪文。

彼が、最初期に覚えた呪文の一つだ。

それでも、この威力。
練磨を重ねるうちに、一条だけであった雷の本数は増え、今では――30の雷撃を同時に浴びせる事すら可能となった。

563 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/17 23:46:19.35 0fXm8d2Co 385/424

炸裂した地点及び、そこと勇者の左手の間に、帯電した空気が充満する。
落雷で砕けた石畳と玉座が、砂埃を上げて視界を塞ぐ。
魔王の肉体が焦げた匂いは漂わない。
炸裂前に何らかの防御術を発動させていたとしても、魔力の残響を感じない。

―――直撃の筈。
命中の手応えはあるが、倒せた気は全くしない。
何故なら、広間を埋め尽くす魔王の殺気が、微塵も弱まっていないから。
逆に、強まっているとも感じる。

埃が晴れ、視界がクリアになる。
そこには――魔王が、いなかった。

真後ろに、薙ぎ払われるような殺気が迫る。
本能に従って身を沈めれば、直前まで首があった場所を氷の刃が通り過ぎる。
隠すことも無い、濃い気配が背後へ移動していた。
氷の刃が空間を進み、玉座にぶつかって砕け散るのを確認して、すぐに後ろへ向き直り、剣を構えた。

魔王「やってくれるな、勇者よ」

肉体に、目立つ傷は負っていない。
体を包む暗黒のローブはところどころが炭化してぼろぼろと崩れ落ちる様相だが、魔王は未だ健在だった。

勇者「無傷か。………いやになるな、全く」

ふぅ、と溜め息をついた直後。
魔王の背後、大扉が開き―――闖入してくる者達がいた。

564 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/18 00:32:33.56 iqMuIW78o 386/424

旅の最中で出会った、三人の仲間。
戦士は鎧に無数の傷を負い、僧侶も、魔法使いも、同様に消耗しているようだ。
回復の魔法は使ったようだが、それでも万全ではない。

勇者「……挟み撃ちだな、魔王」

魔王「惰弱。……せめて仲間が貴様の枷にならぬよう祈るのだな」

魔王の肩越しに、戦士とアイコンタクトを取る。
”同時に仕掛けるぞ”と。

全く同時に、勇者と戦士が動く。
勇者は上段、魔王の首を狙って。
戦士は下段、姿勢を低め、足を狙って横薙ぎに。

互いの太刀筋が避けあうように、魔王の体を裂く――筈だった。

しかし、二つの刃は虚しく空を斬る。

勇者「何……?」

戦士「逃がしたっ……」

二人が空中で交錯した、その瞬間。
魔王は、再び玉座の前に立っていた。
着地し、体勢を直したと同時に、尋常ではない魔力が魔王へと集まる。
特に口元へ集中し、唱えられた魔術の言葉が、力を高まらせていく。

565 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/18 00:51:40.27 iqMuIW78o 387/424

魔法攻撃で詠唱を遅らせようにも、もう遅い。
物理攻撃でかかろうにも、距離が離れすぎだ。
万事休す。

そう思った、次の瞬間。

魔王を中心に、空気が揺れた。
爆発が巻き起こり、吹き飛んだ床の欠片が、容赦なく襲ってくる。
攻撃が発動した?
――否。それなら、今頃自分たちは消し飛んでいた。
ならば、と思い、飛礫から身を守りながら、勇者は魔法使いを見る。

彼女は、魔力の盾で身を守りながら得意げに微笑んでいた。

勇者「……助かったよ」

魔法使い「魔王はきっと、あそこに転移すると思ったからね。いい読みだったでしょ?」

勇者「流石」

短く言葉を交わし、それでも緊張を保ったままで、魔王の動向を窺う。
もうもうと立ち上る煙の中に、シルエットを見つけた。
逃げてはいない。
先ほど勇者の放った波動で、魔力の障壁は未だ消えたままの筈。

――即ち、これも直撃の筈。
――だが、もしもこれでも無傷、だったら?

567 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/18 01:14:21.85 iqMuIW78o 388/424

しかし、その懸念は杞憂に終わった。
煙が晴れた時、魔王は全身いたる所に火傷を負い、膝をついていた。
ローブは襤褸切れのように無残に焦がされ、痛々しく残るだけ。

勇者「……どういう事だ」

僧侶「…恐らく、発動直前に魔法を受けた事で、魔力が暴発した……のでしょう」

勇者「狙ったか?」

魔法使い「…と、当然よ」

戦士「いい加減にしろ。……奴は、『魔王』なんだぞ。集中しないか」

勇者と戦士が前衛に進み出て、後列に僧侶と魔法使い。
年季の入った、戦闘の陣形。
そのまま、武器を構え、魔王と対峙する。

魔王「……予想外だな。まさか、自らの魔力を浴びる羽目になるとは。……やるな、ヒトの魔術師よ」

膝をついたまま、荘厳に呟く。

魔王「…芸が無いが、……ヒトの似姿では貴様ら四人を相手取るには役者不足か」

魔法使い「『変身』でもするってワケ?安直よね」

魔王「いや。……『変身を解く』のだよ」

572 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/18 01:53:11.47 iqMuIW78o 389/424

白煙を立たせたまま、その場で魔王が姿を変える。

骨格が変形していく、不快な音が連続する。
肉が裂け破れ、ぐちゃぐちゃと音を立てて、変形した骨格を軸に新たな肉体を形成する。
漏れ出た体液が床へ落ち、黒い煙へと変じ、瘴気を撒き散らす。

僧侶「…うっ……!」

その香りを嗅いだ僧侶は、思わず口に手を当てていた。
魔王が変形していくその姿より、その瘴気が、彼女には厳しいようだ。
悪臭と、凝縮された邪なる魔力の塊。
神職にある彼女にも、考えられない程に禍々しい。

爬虫類のような下半身に、丸太のように太く長い、無数の棘を生やした尾。
四本の鋭い爪を持つ、三対のひょろりと細く伸びた腕。
不揃いな、骨の欠片のような牙を無数に生やした、竜のような、二つの鋭く凶悪に捩れた角を持つ頭。
五つの、完全に血の色に塗られた眼球。

その体長は、少なく見ても、7mはある。

それは……あまりに、絶望的な光景だった。
見た目の暴威に加えて、『魔王』の意思が完全に残り、魔力を行使する事すら可能。


久しく忘れていた、絶望が。
姿を現した。

573 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/18 02:46:14.06 iqMuIW78o 390/424

まず、最初に――『魔法使い』が脱落した。

開幕直後、魔王が閃光の魔法を発し、陣形を薙ぎ払ったのだ。
口内から放たれた高熱の魔力が床を薙ぎ、容易く溶かしてしまった。

各々が飛ぶように回避すると、三手に分断された。
戦士。魔法使い。そして、僧侶と勇者に。

正面に位置した勇者が剣を構えなおし、僧侶は、その間に詠唱を始める。
彼女が使える数少ない攻撃の魔法、その中でも最も威力の高いものを選んで。

魔王の左手側の戦士が、盾で身を防ぎながらゆっくりと距離を取る。

右手側には、孤立してしまった魔法使い。
勇者は、彼女を助けに行こうとする。
だが、間に合わなかった。

振り回された腕が、彼女を捉えた。
その異様な細さに似合わない腕力で、彼女の体を無造作に掴み――まるで、人形のように広間の柱へ向けて投げ飛ばした。

大理石の柱に強かに身を打ちつけられ、柱が部分的に抉れるほどの衝撃が彼女を襲う。

勇者は、見た。
見ている事しか、できなかった。

ぐるりと白目を剥き、血の泡を噴きながら、力無くその場へ崩れる彼女の姿を。

619 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/18 23:38:07.86 iqMuIW78o 391/424

必死で前に出ようとする体を、引き留める。
魔法使いは、恐らく致命傷。現状の戦線復帰は不可能。
だがこちらには、僧侶がいる。
即死で無い限りは、彼女が治せる。

それでも、冷静さを取り戻すのは至難。

勇者「……戦士!」

戦士「分かっている!」

勇者が号令を飛ばすより早く、地を蹴って戦士が走る。
兜のフェイスガードを下ろし、盾を前面に構え、大きく引いた剣を横薙ぎにする姿勢に。

五つの眼球が、ぎょろりとこちらを向く。
射竦めるような『魔王』の邪眼を向けられ、恐れを知らぬ『戦士』でさえ、悪寒に襲われた。

―――殺される。

その一念が、戦士の心を支配した。
方向転換を許さない勢いで駆け出してしまった今、迎撃を避ける事は不可能。
だからこそ、今更……逃げる手立ては無い。
恐怖を覚悟で塗り潰し、その瞬間を待つ。

―――戦士は、仲間の為に死ぬのが役目だ。

酒場で仲間に聞いた言葉を木霊させながら、更に深く、加速していく。

620 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/18 23:39:47.35 iqMuIW78o 392/424

無拍子で生成され、放たれた氷塊が連続で飛来する。
盾で頭と胴を守りながら、兜の装飾を毟り取られながら、脚甲を変形させながら。
業物の盾でさえ、魔王の呪文の前では紙のようだ。
左手に衝撃を感じ、その度に、骨が軋むのを感じた。

盾を下げてしまった拍子に、左側頭を拳大の氷塊が直撃する。
角飾りがへし折れ、視界が一瞬暗転し、足元がぐら付いた。

まだ、倒れる訳にいかない。

視界が、再び鮮明さを取り戻す。
くずおれようとした脚に再び力を注ぎ、踏み出す。
左腕に、もはや感覚は無い。
盾は変形し、外縁部は欠け、もはや防御力は期待できそうになかった。

だが、それは歩みを止める理由にならない。
未だ、自分は剣を握っているからだ。

勇者が声を張り上げているのが聞こえた。
あの男の事だ。きっと、『無茶をするな』だとか『一度退け』だのと言っているのだろう。

それでも、前を見据え、魔王の眼を睨み返す。
変形したフェイスガードの隙間から、魔王が二本の左手を振りかぶるのが見えた。
避けられない。
握りつぶされるのか、それとも吹き飛ばされるのか。あるいは、甲冑ごと引きちぎられるのか。

未来は、そんなところだろう。

瞬間、一陣の風が吹く。

621 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/18 23:41:10.65 iqMuIW78o 393/424

僧侶の詠唱が終わり、魔力が解き放たれた。
真空の刃を無数に生み出す呪文。
彼女が唱えられる中で、最も高威力なものだ。

見えない刃が魔王の体躯を撫で、いくつもの切創を生み出す。
多くが漆黒の体液が僅かに滲む程度で、ぱっくりと開く傷が二つか三つ。
ダメージは、与えられている。
だが、それ以上に魔王の生命力が、高すぎるのだ。

真空の刃に付随した強風が、ほんの一瞬のみ、魔王の体を押しとどめて動きを止めた。
その一瞬は、『戦士』にとっては『永遠』と同義だった。

本来なら、疾風の如き剣技で気を引き、勇者に魔法使いを救出させる時間を稼ぐはずだった。
ダメージを期待してではなく、単なる繋ぎとして。

だが今なら、当てられる。
魔神の如き威力を生み出す、渾身の斬撃。
避けられれば死ぬしかない、命ごと浴びせる文字通り”必殺”の技を。

裂帛の気迫が、戦士を覆う。。
剣が重くなり、同時に体が軽く感じる。
超圧縮された闘気が全身へ漲り、全身の血液が沸騰しそうなほどに熱く滾る。
全身に鈍色に輝く地獄の鎧を纏い、手にした剣が重力の塊へ化けたように思えた。

剣先が届く寸前、魔王の胸中にある言葉が去来した。

―――『魔神』と。

622 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/18 23:43:06.87 iqMuIW78o 394/424

会心の斬撃が、魔王の左腕に食い込む。
二本の左腕が、まるで呆気なく根元から両断され、宙を舞った。
主を失った腕は空中で黒煙と化して蒸発する。

戦士はその勢いのまま、僧侶の眼前に滑り込む。
満身創痍の有様で、盾も兜も、使い物にはならない。
僧侶はすぐに、回復の呪文を唱える。

勇者は、間隙を逃がさず倒れた魔法使いの下へ駆ける。
さしもの魔王も腕を失えば、その痛みは抑えられないようだ。
絶叫が広間に響き渡る、その間に――無茶苦茶に振り回される右腕の間を縫い、辿り着いた。

勇者「おい、魔法使い!…しっかりしろ!」

反応は、返ってこない。
死んではいないが、すぐには意識は戻りそうに無い。

勇者「……くそっ!」

意を決し、左肩に彼女を担いで、僧侶のもとへ走る。
動かしてよい状態かは分からないが、治せるのは僧侶だけだ。
勇者の肉体には、彼女の体は軽く感じる。
こんなにも細くか弱い体に、魔王の豪腕が襲い掛かったのだ。
死んでいないのが奇跡としか思えなかった。

623 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/18 23:44:30.90 iqMuIW78o 395/424

回復を受けている戦士の傍らに彼女を寝かせ、魔王へと視線を向けた。
左腕をまとめて失った痛みは、未だ響いているようだ。
戦士が命を賭して稼いでくれた時間を、無駄にはできない。

勇者「頼んだぞ、僧侶。…今度は、俺が時間を稼ぐ」

僧侶「そんな!無茶です!あの魔王を相手に、お一人でなんて!」

勇者「魔王が回復を待ってくれる訳が無い。……危険だというなら、急いでくれ。いつまでもつか分からん」

僧侶「……はい、どうか……死なないでください」

背に僧侶の懇願を浴びながら、剣を抜いて魔王へ向かう。
ゆっくりと歩み寄る足取りは徐々に加速していき、攻撃が手薄になると思われる左手側から斬りつける。

狙いは、脇腹。
魔力で強化された刀身が、紫色の体表へ吸い込まれていく。

勇者「っうあぁぁ!」

硬い。
勇者の剣に、強化呪文を乗せても、なお魔王の身体は硬い。
今身を持って知っただけに、先ほどの戦士の攻撃が、いかに強力だったかを思い知る。
勇者は皮膚を浅く薙いだだけ。
それなのに、戦士は――こんな魔王の腕を、二本もまとめて切り落としたのだ。

勇者「……クソっ……それなら!!」

柄をぎゅっと握り直し、呼吸を整える。
途中に襲ってきた魔王の右腕の一つを掻い潜り、再び距離を取る。

624 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/18 23:48:17.57 iqMuIW78o 396/424

旅の途中、鋼鉄のような皮膚を持つ魔物に出会った。
その硬さは、今目の前の魔王と同じ、いやそれ以上。

戦士と勇者は、それを倒す為にある技を思いついた。
呼吸を整え、一撃に全てを込め、鋼鉄をも切り裂く剣技。
幾度も失敗し、幾度も逃げられ、ようやく身につける事ができた秘剣。

それならば、魔王の皮膚すらも切り裂けるかも知れない。
試す価値は、十分にある。

呼吸を深く、長く取る。
極限まで集中しなければ、鋼鉄の魔物を斬る事はできないからだ。

静寂が心を満たす。
魔王の殺気の流れが、手に取るように分かった。
今しがた味わった皮膚の感覚が手に残り、切り裂く様子を克明に思い描く。

僧侶は今、戦士の治療を終え、魔法使いに回復を施している。
今少し稼げば、体勢は整えられる。

勇者「………!」

正眼に構え、こちらに視線を向けた魔王を正面に捉える。
痛みから回復した魔王は、口元に魔力を溜めていた。

勇者は、一気に距離を詰める。
まるで地が歪み、縮まったかのように瞬時に懐へ潜り込む。
この歩法もまた、鋼鉄の魔物を、離脱されるより素早く斬るための鍛錬の賜物だ。


――再び斬り上げられた剣は、更に深く、初撃で刻んだ傷をなぞり、血飛沫を上げた。

625 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/18 23:50:00.10 iqMuIW78o 397/424

魔王の嘶きが聞こえた。
左腕に加え、脇腹の深手。

いける。
心の中でそう呟き、左手側に離脱して、反転して身を縮める。
今なら、更にもう一太刀加えられる。

小人めいた計算の下、勇者はその場から真上に飛ぶ。
自由落下の勢いのまま、直上から兜割りに斬りつける算段。
狙いは、頭。

その時、痛みに狂乱していたはずの魔王が、突如真上の、勇者を見た。

勇者「なっ……!?」

魔王「……『魔王』ヲ侮ルナ」

がちゃがちゃと牙を打ち鳴らしながら、魔王はぐるりと半回転する。
空中で無防備となった勇者の左側から、巨木のような尻尾が襲って来た。


僧侶は戦士の回復を終えて、魔法使いへと回復呪文を唱えていた。
―――酷い。
肋骨が四本。内臓をひどく傷めて、脊椎にもダメージがある。
頭を含めた全身を強く打っているため、戦闘中に意識が戻るかどうかも怪しい。
最上級の回復呪文を唱えて、細胞を活性化させて傷を塞ぐ。
僧侶の魔力が彼女の細胞へ溶け込み、エネルギーと化して超高速で新陳代謝を促進していく。
代償として、僧侶は魔力ががくんと削られていく、激しい疲労感と倦怠感を覚える。
使いつけない攻撃呪文に加え、回復呪文の連唱。
魔力が、底をついてしまいそうだ。

626 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/18 23:51:12.23 iqMuIW78o 398/424

集中していた僧侶の耳に、不吉な音が飛び込んできた。
何かがひしゃげ、直後、壁に激突する大音響。

ぞくり、と死神の鎌で背を撫でられるような悪寒。
発作的に顔を上げる。

勇者が、いなかった。

魔王がこちらを向いて、歯を剥いていた。


―――勇者は、空中でまともに尾の一撃を受けた。
寸前で防御はしたが、大質量に遠心力の加護を受けた一撃は重すぎる。
どこかの骨がみしみしと軋み、加重に耐え切れず、ゴキっ、とへし折れる音を勇者は聴いた。

その勢いのまま飛ばされ、玉座側の壁へと吹き飛ばされ、叩き付けられた。

最悪な事に、現状を整理すると……僧侶が、二人へ回復を施し、魔力が尽きかけている。
魔王はそちらへ意識を向けている。
勇者は直撃を受けて吹っ飛び、僧侶と魔王を挟んで遥か向こう側に。

地響きとともに、魔王が近寄ってくる。
消耗した体で、何とか立ち上がり、杖を構え、横たわる二人の前に、庇うように立ち塞がる。
魔力の消耗で弱った体。
加え、目の前には人界最凶の存在が、絶望的な威容を以て迫っている。

脚が、止め処なく震える。
根源的、そして不可避の恐怖がすぐ身近に迫り、涙が滲む。

怖い。
死にたくない。
――でも、ここを……どくわけには、いかない。

627 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/19 00:15:07.91 IpKcrNbbo 399/424

勇者は、魔王の向こう側の壁に叩き付けられた。
戦闘能力のある二人は、戦士はともかく魔法使いは未だ昏倒している。

――逃げる?

いや、ダメだ。
皆を見捨て、逃げる訳にはいかない。
仲間達を置いて、一人だけ逃げるなど論外だ。
十分に、それは理解している。
なのに、何故か……頭から、食いついたようにその言葉は離れてくれない。

魔王「……ソレモイイ。ダガ、知ッテイルノダロウ。……『魔王カラハ、逃ゲラレナイ』」

逃げようと背を向ければ、その瞬間、背から引き裂かれる。
炎の呪文で、骨まで灰にされる。恐ろしい歯で、生きながらに食い殺される。
それとも――魔物の群れに放り込まれ、神職として最も恥ずべき、恐ろしい結末を迎えるのか。

魔王「…シカシ。我ノ恐ロシサヲ知ラシメル、証人ガ必要ダ」

僧侶「え……?」

魔王「逃ゲルガイイ。見逃シテヤロウトイウノダ。……アワレナ仲間達ハ、置イテ行ッテモラウガナ」

630 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/19 00:39:22.50 IpKcrNbbo 400/424

逃がして、くれると。

魔王は、そう言っている。

僧侶「…………」

―――神よ、お許しください。
胸中にその言葉を唱えながら、後ずさる。
その所作に、魔王は……顔を歪め、嗤った。

しかし、嗤い顔が続いたのは、ほんの一瞬。

風が吹きぬけ、体表に傷とも呼べぬ傷が刻まれた。
浅く、皮を切り裂くだけのひ弱な呪文で。

―――神よ、お許しください。
―――私は、迷ってしまいました。
それが、密かな懺悔の続き。

僧侶「……魔王…から、は…逃……げ…ない」

今の呪文で、魔力は全て使い果たした。
これで、本当に”空”だ。

魔王「…勇者トイイ、貴様ラハ……救イガタイ。セメテ、終ワラセテヤル」

魔力が揺れ、魔王の喉の奥へと集まっていく。
逃げる事は、もう敵わない。

633 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/19 01:11:12.96 IpKcrNbbo 401/424

勝手に足が動き、進み出た。
大砲の筒先のように感じる、魔王の眼前に。
せめてもの気休めに、戦士と魔法使いを庇うかのように手を広げ、盾となろうとして。

僧侶「ごめんなさい。……私達、世界を……救えませんでした」

涙が頬を伝う。
今わの際、彼女の心へ降って沸いたのは、謝罪の念。
あんなに、旅をしたのに。
魔王の城まで、勇者とともにやってきたのに。
魔王を、倒せなかった。
倒せずに、ここで死んでしまう。

思い出されたのは、神父の微笑み。
教会にやってくる子供達の、魔王への恐怖からの不安に駆られ、それでも笑おうとしていた痛々しい姿。
あの子達を救い、未来への道を開いてあげたかったのに。

全てが、無駄だったのだろうか。


そして――暗黒の炎が、吐息と化して放たれる。

黒炎が視界を埋め尽くす中、僧侶は、黙って目を閉じ、運命を受け入れた。

634 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/19 01:37:22.44 IpKcrNbbo 402/424

―――おかしい。
―――いつまで経っても、身を焼かれない。

眼を、ゆっくりと開ける。
赤く輝く魔力の殻が、放たれた吐息を散らしていた。
ちりちりと僅かな熱は感じるものの、殺傷性はほぼ完璧に殻に奪われていた。

僧侶「これ、は……?」

魔法使い「…ゲフッ……あんた、ね……怪我人、働かすんじゃ……ないわよ」

彼女は、いつの間にか立ち上がっていた。
前かがみの姿勢で脇腹を押さえながらという有様ではあるが、彼女は、回復していた。
口元から血を垂らしながら防御結界を維持する彼女は、怨めしげに僧侶を睨みつける。

戦士「…しかし、マズい。……俺も、立つのがやっとだ」

次いで、戦士もよろよろと立ち上がる。
壊れた盾は捨て、視界を塞ぐだけの兜も脱ぎ捨てる。
顔を横断する刀傷が特徴的な、精悍な顔が現れる。
言葉とは裏腹に……彼は、悲観的な表情をしてはいなかった。


魔王「……小癪ナ」

黒炎の吐息を吐き終え、魔王が更に近寄る。
魔力の殻は、物理攻撃に弱い。
あの豪腕で殴りつけられれば、たちまち崩れてしまう。

635 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/19 02:08:11.12 IpKcrNbbo 403/424

魔王の姿が、強烈な閃光に打たれて浮かび上がった。
ほぼ同時に、聞き覚えのある轟音が響き渡る。

耳をつんざき、腹まで痺れさせるような、強烈な衝撃波。
更に、閃光と轟音は続き、魔力の殻の向こうで、何度も魔王が身をよじる。
肉の焼ける匂いが漂い、それは――魔王の体を、雷撃が灼いている証。

魔法使い「まさか………」

僧侶「……雷撃の、最強呪文です。本来、集団に向けて放つものを……魔王に集中させているようです」

戦士「生きて、やがるのか」

その間にも、絶え間なく雷撃が魔王の体を打つ。
一発ごとに魔王が悶え、唾液を散らしながら絶叫する。

数にして凡そ20の、極大の雷撃が収まったとき、魔王は全身に焼け焦げを作り、
煙を上げ、残った腕で体を支えている有様だった。

魔王「キサマ……!!」

勇者「寂しいだろ。……俺を無視するなよ、『魔王』」

幾らか頼りない足取りで、『勇者』が魔王の後ろから近づいていく。
左腕はあらぬ方向にねじれ、ぶらぶらと力なく垂れ下がっていた。
頭からは夥しい血が流れ、左目はずっと瞑られたまま。
歩き方から見て、恐らく足の骨も折れたか、ヒビが入っているはずだ。
肺をやられたか、咳き込む拍子に、血反吐が出る。

勇者「……もう、限界だ。『お前を倒す程度』の力しか、残ってない」

636 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/19 02:36:19.89 IpKcrNbbo 404/424

魔王「ヤッテミルガイイ!」

吼えて、魔王は身を翻し、勇者へと駆けていく。
巨体に見合わぬ俊敏さで、踏み出すたびに床を砕き、大きすぎる足跡を残した。
先の雷撃で吹き飛んだ魔力の障壁を再構成し、全身を覆いながら。

この巨体、速度で突進を受ければ、今の勇者は間違いなく即死。
だが、勇者はその場から微動だにしない。
剣を頭上に大きく振り上げ、身をかがめて力を溜める。

刀身の光が、増幅していく。
強く輝いていく光は、脈打つように”大きく”刀身を覆っていく。
錯覚ではない。
実際に光が刀身を覆って、直視できぬほど眩しい、光の刃を構成していく。

光の粒が集まり、刀身と、勇者の周りで踊る。
蛍が舞うが如く集まり、徐々に刃を膨れ上がらせ、最終的に……勇者の身の丈を越す、光の剣となった。

勇者「――――っ!!」

雄々しく叫び、飛び上がり、頭上から光の剣を、魔王へと振り下ろす。
叫ばれたのは、この『剣技』の名前。

勇者にだけ扱える、雷光の剣技。
最高の剣技、そして最高の勇気を持つ者のみが扱えると伝えられる、伝説の剣。


―――そして決戦の場は、眩い光に包まれた。

640 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/19 03:01:43.43 IpKcrNbbo 405/424

光が止み、三人が視界を取り戻した時。
眼に飛び込んできたのは、予想通りの、そして、精神を昂揚させる光景。
彼らが、世界中の人々が、夢見てやまなかった事。
過酷な旅を続けてきた、最大の理由。

気付けば、眼から涙が溢れていた。
潤んだ瞳が、揺らしながらその光景を映し続ける。

魔王の巨躯は、袈裟懸けに真っ二つにされ、暗黒の体液をだくだくと流していた。
勇者はその屍の上に、堂々と立っていた。

―――『勇者』が、『魔王』を倒したのだ。

神話のような光景が、目の前に広がっている。
誰もが子供の頃に聞いた、勇者のおとぎ話が目の前にあった。
誰もが子供の頃に憧れた、勇者の輝かしい勝利が目の前にあった。

そして、あれは……おとぎ話などでは、なかったのだ。

―――三人の仲間達は勇者へと駆け寄っていく。
勝者を、称えるために。

641 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/19 03:15:09.10 IpKcrNbbo 406/424

戦士が勇者の体を支え、前から抱きとめる。
だらりと弛緩した体が、重く圧し掛かった。
あまりに酷い怪我だが、驚くべき事に意識がある。
すぐに彼を魔王の屍から下ろし、僧侶が進み出た。

勇者「……あんまり、見えないんだ。……やった、のか?」

戦士「ああ。……倒したぞ!『魔王』を倒した!」

勇者「…そっか。………良かった」

僧侶「…待っててください。今、回復しますから」

勇者「いや、それはいい。……それより……」

魔法使い「…何よ?」

―――ぐらり。

地面が揺れ、足元を危うくさせた。
魔法使いは揺れた拍子に尻餅をつき、悪態を吐く。

勇者「……やっぱりな。……『魔王城』は、『魔王』の魔力でもってたわけか」

戦士「早く出るぞ。…これ以上、留まる意味は無い」

642 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/19 03:25:36.81 IpKcrNbbo 407/424

城全体が細かく揺れ始め、天井から土埃と小石が降ってくる。
立つことも徐々に難しくなり、四人はバランスを取りながら、その場に固まる。
何故か――勇者が、ビクとも動かないのだ。

魔法使い「ちょっと!出るわよ!魔王倒したのに生き埋めなんて、冗談じゃないわよ!!」

僧侶「早くしないと、通路も塞がれてしまいます!」

勇者「……それなんだが。……クソ、言いにくいな」

戦士「何だ?さっきから、お前は何を言いたいんだ?」

逃げようとしない勇者に苛立ちを募らせ、戦士が問い詰める。
魔王城が崩壊し始めたという事は、間違いなく魔王を倒したという事なのに。

勇者「……お前達だけで、逃げろ。…俺には、構うな」

僧侶「なっ……」

魔法使い「ちょ、何言ってんの!?ふざけるんじゃないわよ、こんな時に!」

戦士「そうだ!さっさと……」

仲間達が、口々に彼を攻め立てる。
対し、彼は一言だけ言葉を発した。

揺れは、一旦収まっていた。
それだけに、はっきりと聞き取れた。



勇者「……『めいれいさせろ』」

719 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/21 00:00:07.38 nfQOajV2o 408/424

冷たく放たれる、『勇者』の号令。
身についた習慣が、脳に一時の冷静をもたらす。

戦士「…何故だ!何故、そんな事を言う!?」

勇者「分かってくれ。お願いだ、俺を置いてみんなは故郷へ帰るんだ」

僧侶「嫌。絶対に嫌です!!」

勇者「……そんな声出るんだな、僧侶」

魔法使い「説明しなさい!……あんたを残して行くなんてイヤよ!」

勇者「…ごめんな」

口々に、勇者の真意を問い、そして連れ出そうと言葉を連ねる。

戦士の激しい詰問にも。
僧侶の涙ながらの拒否にも。
魔法使いの口から出た、普段の苛烈さとは見合わない本音にも。

勇者は、寂しく笑いかけるだけ。
体を支えてくれていた戦士を軽く押しのけ、その場に危うげなバランスで立ち尽くす。

再び、魔王城が大きく揺れる。
大地震の前兆のように、何度も揺れと静止を繰り返す。

いずれ、城を崩壊させる大きな揺れが襲って来る。
こんな所で、押し問答をしている訳にはいかないのに。

720 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/21 00:01:23.57 nfQOajV2o 409/424

勇者「……『魔王』はもういない」

魔法使い「そうよ、あんたが倒したんじゃない!だから、早く……」

勇者「…じゃあ、もう。『勇者』もいらないだろ?」

―――軽快な音が響く。

魔法使いの右手が、勇者の左頬を打った。
感情に任せて妙な打ち方をしたためか、手首を左手で抑えながら彼女は勇者を睨みつける。

魔法使い「痛っ……。あんた……冗談でも、言っていい事とそうじゃない事が…あるでしょ」

勇者「……怪我人ひっぱたくなんて、最後までお前らしいな」


魔法使い「『最後』なんて言うなっ!!」

悲鳴に似た叫びが、揺れの収まった広間に響き渡る。
声帯が裂けそうなほどの、悲痛すぎる声。
感情を隠さない彼女にしても、これほどまで取り乱すのを勇者は見た事が無かった。


しん、と静まり返った空気の中。
数拍遅れて、嗚咽が聞こえてきた。

魔法使い「…ねぇ……お願い、だから……一緒に……逃げようよぉ…」

勇者「………それだけは、ダメなんだ」

涙を見せた彼女にも、勇者は譲らない。
意固地になっているという訳でもなく、ただ、淡々と……何かを受け入れているかのように。

722 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/21 00:02:51.84 nfQOajV2o 410/424

勇者「……『勇者』は、『魔王』がいないと存在できないんだ」

ぽつりぽつりと、語り始める。
仲間達は、それに聞き入る。

勇者「女神から貰った『勇者』の力は、『魔王』を倒すためのものだ。……俺は、それを戦争に使いたくない」

戦士「……だったら…どこかで余生を過ごそう。平穏に、残りの人生を送ろう」

勇者「それも、いいな。……でも、無理だ。無理なんだと分かったよ」

僧侶「どうして、ですか」

勇者「俺は、この世界に名と顔が売れすぎてしまった。今どき、『勇者』の風体を知らないほうがおかしいぐらいだ」

戦士「…………」

勇者「どこかで晴耕雨読の暮らしをしていても、いつか探し当てられる。目覚めれば、軍隊に囲まれている」

魔法使い「…なんで……何で、そうなるのよぉ……」

勇者「………俺は、この…救った世界の人々に、剣を向けたくない。『勇者』が最後に倒したのは、『魔王』であって欲しいんだ。
   みんなとの、『世界を救うため』の旅を、嘘にしてしまいたくない」

僧侶「酷いですよ。……貴方は……酷い人です」

魔法使いに続き、僧侶も肩が震え始める。
梃子でも動きそうにない勇者の姿に、あまりの決意の固さを感じてしまって。
それは――『勇者とはこの場で別れ』という意味にしか感じられなくて。

723 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/21 00:04:06.68 nfQOajV2o 411/424

勇者「俺も……帰りたいよ。故郷の父さんと母さんに会いたい。妹の成長も見届けたい。
   でもさ。……そうすると、もう逃れられない。再開された隣国との戦争に、参じなければならないんだ」

たとえ王都に近寄らなくとも、故郷に帰ってしまえば噂が立つ。
そして、その噂を聞きつけ……後は、お決まりだ。
帰る事は、許されない。
帰ったら、不可避の戦争が待っている。

戦士「戦争が再開されるなんて限らないだろう!!……何故、そこまで悲観する!」

勇者「隣国を訪れた時、俺と僧侶は『あっちの国』の人間というだけで蔑まれた。……『勇者』がだぞ?
   魔王が現れても小競り合いは起こしていたし、既に情報戦も展開されてる」

戦士「クッ……あいつら……!」

勇者「…頼むから。もう、行ってくれ。……『僧侶』は人を癒し、正しい道へ導く役目がある。
   『戦士』、は仲間を守り、正しき事のために剣を振るう事ができる」

ゆっくり、勇者が後ろへ下がる。
繰り返された揺れが段々大きくなり、その間隔も狭まってきた。
―――そろそろ、本命が来る。

勇者「……なぁ、『魔法使い』。お前の呪文は、人々をまだ救える。弱い人達を、守ってやってくれ」

魔法使い「わかった……わかったから……お願い……」

勇者「………俺は、一緒に行けない。『勇者』の役目は、これで終わりなんだ。……みんな」

言葉を続ける前に、人間大の瓦礫が勇者と仲間達の間へ、幕を下ろすように降り注ぐ。


勇者「『いのちをだいじに』」

最後の、『作戦』が聞こえた。

724 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/21 00:04:40.70 nfQOajV2o 412/424

戦士「………行こう」

屈強な戦士が、必要以上に険しい表情で二人を促す。
まるで、何かを必死で押さえ込もうとしているように険しい。

僧侶は涙ながらに、戦士に促される通りに動く。
魔法使いは最後まで渋っていたが、戦士の表情を見て、素直に従った。
―――離れたくないのは、自分だけなのではないと気付いたから。

三人は、瓦礫の向こうにいるであろう勇者に、背を向けた。
背を向け、足を動かす。
それだけの事が、戦いよりも厳しく、辛い。

戦士の顔は、いつにもまして強面に、硬く保たれている。
戦友を置いて逃げ出す、その情けなさに耐え難いから。
勇者のあそこまでの決意を、揺るがす事は出来ないと痛感したから。

『世界を救った男』に、人殺しなどさせたくないから。
その為には、置いて行く事しか許されないと気付いてしまった。
涙腺を鍛える事などできないから、険しく塗り潰す事でしか、その哀しみには耐えられない。

本格的に揺れ始めた魔王の城。
三人の旅の仲間達は――歪みかけた大扉を開き、決戦の間から出た。

振り返らずに、勇者の、最後の言葉を果たすために

725 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/21 00:05:25.93 nfQOajV2o 413/424

程なく、降り注ぐ瓦礫で魔王の間は埋まっていった。

砕けた左腕にもはや痛覚は感じない。
息を深く吸うと、折れた肋骨の先端が肺を引っかき、痛みとともに吐血を催す。
左目は、開くことすらできない。
残された右の目も、上手く焦点を結んでくれない。

仲間が出て行った事を悟った勇者は、その場に片膝をついた。
右手に握っていた剣は、半ばから折れてしまっている。
最後の役目を果たした剣からは段々と輝きが失せていき、
戦場のどこにでも転がる、『折れた剣』へと変わってしまった。

勇者「………これで、いいんだ」

折れた剣を鞘に戻し、一人ごちる。
言葉にしてしまわないと、最後の最後で生への欲求がもたげてしまう。
認めたくはない。
だが、隠せない。

―――死にたく、ない。

―――あんまりだ。

―――俺は世界を救ったのに、世界は俺を救ってくれないのか?

―――こんなバカな話を、世界は受け入れるのか。

声無き慟哭が、崩壊していく魔王城に響き渡った。

仲間がいなくなった孤独な戦場跡で、勇者は『人間』としての、当たり前の感情を取り戻した。
醜く、弱く、打算さえ備えていた、『人間』の心が露わになる。
彼は、ようやく。

『勇者』と言う名の呪いから、解放されたのだ。

726 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/21 00:14:53.00 nfQOajV2o 414/424

絶望が、心を侵蝕する。
死にたくない。
出来る事ならば、今すぐにでもここから出て行きたい。
何をしてでも生き延びて、人並みかそれ以上の幸せを掴みたい。

だが、殺したくない。
救われた後でも結局救えない、戦火を再び灯らせる世界の中、無力感を噛み締めたくない。
命と引き換えの覚悟で救った世界で、救った人々に刃を向ける事などできない。

矛盾している。
そんな事は、分かっていた。

その矛盾もまた、『人間』の証明。


打ちひしがれ、くずおれて最期の刻を待つ勇者が。
俄かにうなじが毛羽立つ、覚えのある気配を感じた。


魔王「だから、我は言ったのだ」

地獄の底から響くような、本来の姿の魔王ではなく、人化の法でその身を変じさせた魔王の声。
勇者は、弾かれたように頭だけをその方角へ向けた。

勇者「貴様、まだ生きていたのか!?」

その身を両断された魔王は、頭と右腕のみを切り裂かれた胴体で繋ぐ有様で、再び人へと化けていた。

魔王「……いや、我はもうすぐ滅ぶ。魔王城の崩壊がその証だ」

勇者「…なら、何故だ。最後まで俺をなぶりたいのか?……それとも、死ぬまでの暇潰しに付き合えと?」

魔王「どちらも魅力的ではないか。だが、残念ながら違う」

727 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/21 00:21:51.27 nfQOajV2o 415/424

勇者「………もったいぶるな」

魔王「…貴様、自分が救われないと思っているな?」

勇者「何だと?」

魔王「……我は滅び、世界は一応救われた。……そして、世界を救った自分に、救いが来ないと思っている」

図星を突かれるが、募ったのは苛立ち。
間違いなく、魔王は自分の事を理解している。
それだけに――腹が立つ。
頭に血が上りそうになるが、努めて平静に振舞う。

勇者「……だから何だって言うんだ。言い当てて満足したなら大人しく死んでいろ、『魔王』」

身も蓋もなく言い放って身を起こし、落ちてきた天井の破片に寄りかかる。
その顔に、もはや生気は無い。
心の中で弱音を吐き尽くし、重く圧し掛かる死の事実を受け止めようとしているかのように。

魔王「…………つれなくするな。もはや、『魔王』も『勇者』も無いのだからな」

勇者「言いたい事があるんなら、言え。……最後ぐらい、付き合ってやるさ」

魔王「何、そう難しい話でもない。長くもな。……我の命と同じく」

勇者「…で、何だ?」

魔王「……我ながらくどいが、これが最後だ」



―――世界の半分はもうやれないが、淫魔の国をくれてやろう。

728 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/21 00:29:22.09 nfQOajV2o 416/424

魔王が何を言っているのか、分からなかった。
この状況で、何故―――?

勇者「……何を、言っているんだ?」

魔王「言葉通りだ。……ただし貴様がいた、七日目の時点ではない。その三年前へ、戻る。
   王位に就き、国を手に入れる所からだ」

―――『3年ほど前、あなたは王座に就かれました』

あの国で、堕女神がそう言っていた。
その時点に、戻る。
という事は。

勇者「……彼女らに、俺との記憶は無いという事か?」

魔王「愚問だな。……だが、それが悲しいか?」

勇者「………」

魔王「貴様との愛の無い、ただ性を処理させられるだけの記憶。堕ちた女神が自らに受けた苦痛の記憶。それを無くしているのが?」

勇者は、何も言えなかった。
彼女らとの七日間の記憶が、なくなってしまうのが哀しくはある。
だが、魔王の言うとおり。

―――堕女神に辛く当たり、心を抑え込ませてしまった過去。
―――ただただ欲望のままに生き、あの世界の『魔王』に成り果ててしまった過去。

それを、持ち越す事は。

魔王「……体験の『記憶』は、本編には持ち込めない。それだけの話だ」

729 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/21 00:52:11.69 nfQOajV2o 417/424

勇者「……何故だ」

魔王「質問になっていないな」

勇者「何故!俺にそんな話を持ちかける!?……お前は、もうすぐ死ぬんだぞ!?」

叫んだ拍子に、肺に血が溜まり、息苦しさを感じて咳き込む。
その様子を、魔王は黙って見ていた。
嘲笑うでもなく、かといって優しげでもなく、ただ、見ていた。

魔王「……我は『世界』の敵。世界の選択に逆らい、ただ自らの望む答えだけを求める者。……ゆえに、『魔王』」

揺れが一時的に収まった。
魔王が崩落を、自分の意思で遅らせているのかもしれない。
でなければ、本格的に始まった揺れが収まるわけがない。

魔王「……世界は、『世界を救った者』の存在を許さないのだろう。『勇者』のままにしておく事を、許さないのだろう?」

語りかける言葉に、もはや魔王の威圧感は無い。
致命傷を負い死を待つだけの、哀れな魔族。
放っておけば死ぬ、弱々しい存在。

魔王「………これが……我の、最後の、『世界』へ報いる一矢。征服はならずとも、我は、『世界』の選択に阿る事はしない」

730 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/21 01:09:45.36 nfQOajV2o 418/424

勇者「…………魔王」

魔王「開くぞ?」

勇者の眼前に、異界への扉が現れる。
紫の光で縁取られた、簡素な、文字通りの『扉』が。

魔王「貴様は、どうする?……世界を救った。『勇者』である必要はもうない。……自分に従え。
    最後まで、『魔王』に抗うというのならそれもいい。『魔王』冥利に尽きるというものだ」

勇者「…もう一度、会えるのか」

足腰に無理に力を入れ、立ち上がる。
膝は震えて、足裏の感覚はおぼろげで、立つ事でやっと。

魔王「……行くがいい。彼女らと、堕ちた女神と、淫魔達と、隣国の女王と。再び――『出会い』直せ。
    ……だが、しばし待つが良い」

勇者が立ち上がったのを見て、諭すような言葉を紡ぐ。
そして、引き止め―――

勇者「何……を……?」

全身を光が包み、負傷箇所に繭を形作るように光が舞い踊る。
ねじれていた左腕は元通りに。
潰れていた左目、頭部の裂傷、更には、痛めつけられた内臓までが癒えていく。
ぼろぼろになっていた肺も修復され、呼吸が、たちどころに楽になる。

魔王「舐めるな。……我は『魔王』なるぞ。死に際であろうと、ヒトを回復させる程度の魔力はある」

勇者「…………」

733 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/21 01:32:49.38 nfQOajV2o 419/424

扉へ、手を添える。
少し力をこめれば、簡単に開いてしまいそうだ。

勇者「『魔王』」

魔王「色気を出すな。……次の生では、必ずや『世界』を滅ぼしてやる」

勇者「上等だ。またお前を止めてやるさ」

魔王「……次は、負けん」

そのやり取りだけで、別れの言葉は十分だった。
『勇者』と『魔王』。
対極にして、最も近しい存在。
鏡に向かい合うような、正反対にして、自らの存在を確かめ合う事ができる存在。

『勇者』は扉を開け―――光に包まれ、『向こう側』へと消えていった。

『魔王』は勇者が消えていくのを見届け――大きな呼吸をひとつついて、命の灯を消し、末端から光と化して消えていった。


―――こうして、この世界から、『勇者』と『魔王』は消えた。

737 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/21 01:48:48.92 nfQOajV2o 420/424

扉をくぐると、その先は『淫魔の王』の、城だった。
細部は違っているが、恐らく、ここは玉座の間。

眼前、遠くには玉座。
そこまでの赤い絨毯の道を残して様々な姿の淫魔達が熱い視線を向けており、若干気圧される。

勇者「……これは…」

戸惑っていると、背後から、良く知る声が聞こえた。

???「お進みください。今日この時をもって、貴方は…『王』となるのです」

勇者「堕女神?」

堕女神「……はい?何でしょうか」

勇者「…いや。後でいい。……進めば、いいんだな」

振り返り、声の主を確認した。
そして、胸の奥から暖かくなるような喜びを感じて、玉座へと進む。

―――また、会えた。
―――彼女と、彼女達との時間を再び歩みなおす事ができる。

足取りは軽く、そして深い。
淫魔達の視線が惜しみなく注がれる中、玉座の前へ辿り着き、壇上から大きく振り返る。

738 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/21 02:10:58.85 nfQOajV2o 421/424

集まった者達の中に、二人の、良く知る淫魔の姿があった。

一人は、どこか妖しい、悩ましい魅力を備えたサキュバス。
一人は、幼い印象を持つ、利発そうな少女の姿のサキュバス。

両者は、視線を向けられる事に困惑しているようだった。
まるで――懐かしい者を見るような目だったから。

玉座に深く、ゆっくりと腰賭ける。

堕女神がその隣から、控えめな、洗練された動作で彼の頭に冠を下ろした。

瞬間、民衆の沸き立つ声が聞こえる。
玉座の間だけではない。
同時に城の外からも響き渡るような、『王』を歓迎する声が。


この日、淫魔の国は新たな王を迎えた。

『世界』を救った勇者は、魔王によって『世界』から救われた。

その後の彼の治世は、淫魔達のみが知るところ。


―――ある一説では、堕ちた女神と交わり、半神の子を設けたとも。
―――ある一説では、国難にあえぐ隣国へ、暖かく手を差しのべたとも。
―――ある一説では、国の淫魔達へ惜しみなく愛情を分け与え、そして愛される王となったとも。

そして、ある『勇者』の物語は、ここで終わりとなる。



魔王「世界の半分はやらぬが、淫魔の国をくれてやろう」


  完

739 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/21 02:11:43.17 nfQOajV2o 422/424

これにて終了です

一ヶ月以上のご愛読、ありがとうございました。

756 : ◆1UOAiS.xYWtC - 2011/12/21 02:31:53.78 nfQOajV2o 423/424

とりあえず、完結できて良かったです
気まぐれに乗っ取って、まさか一ヶ月以上も書く事になるとは思わなかったなぁ……。


感想、改善すべき点、質問などございましたら頂きたいです

763 : SS寄稿... - 2011/12/21 02:39:25.55 6pfsS59ro 424/424

まさか腹筋スレでがっかりしたあれから、ここまで来るとは思わなかったよ
惜しみない乙を!



続き
勇者「淫魔の国の王になったわけだが」 に続きます。(近日中に公開予定)


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