1 : 以下、名... - 2011/12/01(木) 23:12:44.09 s0ZLuuWoO 1/52

俺、ダル、紅莉栖の三人で電話レンジ(仮)の稼働状況を、X68000にて確認している時だった。

岡部「ヒャーッ!!」

ダル「うわ!なんだよオカリン、いきなりでけー声出すなって」

ダルが身体をビクリとして反応する。
どうしたもこうしたもない!

岡部「触った!!」

ダル「えっ?」

岡部「今、誰か触っただろう!」

見渡すと、紅莉栖と目が合った。
が、すぐに目を反らされてしまう。

紅莉栖「さ、触ったって何を……?」

紅莉栖が目を合わせないまま首をひねる。

岡部「俺の尻をだ! 誰だ今触ったやつは!挙手をしてもらおうか!」

シーンとする。
誰も挙手していない。
こいつら、しらばっくれるつもりなのか!?

元スレ
岡部「比翼恋理のダル・ルート……だと?」
http://hibari.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1322748764/

3 : 以下、名... - 2011/12/01(木) 23:14:12.54 s0ZLuuWoO 2/52

尋問してやるべく、まずはダルを睨みつけてやる。

岡部「おいダル、お前か!」

ダル「な、何でいきなり僕に聞くん!? 僕は野郎の尻には興味無いお!」

まあ、ダルで無いであろう事は俺でもわかる。
となれば、だ。

岡部「じゃあクリスティーナ!貴様なのか!?」

紅莉栖「ティーナをつけるなと言っとろうが!!」

岡部「なにっ!? ならば、ザ……」

紅莉栖「ゾンビでもないわ!」

岡部「ぐぬぬ……じゃあ……」

――助手、と言おうとして、またもや紅莉栖がまくし立ててくる。

紅莉栖「あ、あのさ! 時間が勿体ないんだから、さっさと実験続けない?」

岡部「う、うむ……」

5 : 以下、名... - 2011/12/01(木) 23:16:43.67 s0ZLuuWoO 3/52

はぐらかされた。
が、それもそうだ。
クリスティーナの言うとおり。
俺は再び、PCの画面を見やる。
するとまたもや――。

岡部「ヒャーッ!触った! 今度こそ絶対触ったぞ!」

その証拠に、尻を触られた瞬間、とっさにその腕を力一杯に掴んでやっていたのだ!

紅莉栖「いっ……たっ! ちょ、岡部、なにすんのよ!」

岡部「“なにすんのよ!?”お前が言うのか!? こいつを見ろ!今俺の尻を触っていたやつだ!」

掴んだ腕を引っ張り、紅莉栖の目の前に持って行く。

岡部「まさかとは思ったが、やはり貴様だったのだなクリスティーナよ!」

紅莉栖「意味がわからない!全然意味がわかりません!」

紅莉栖は紅莉栖で、ブンブンと腕を振り払おうとしてくる。
しかし、俺は断固としてそれを離さない。
生意気にも睨み返してくる紅莉栖に、追撃をかける。

7 : 以下、名... - 2011/12/01(木) 23:19:35.89 s0ZLuuWoO 4/52

岡部「貴様、人の尻を撫で回しておきながら開き直るつもりか! 随分と地に落ちたものだな!?」

紅莉栖「ち、違っ……わ、私は……そう、お尻を触られた人の反応速度とリアクションの実験をしていたのよ…」

岡部「な、なに!?…………そう、なのか?」

紅莉栖「そ、そうよ! 結果あんたは“ヒャーッ!”と叫び、感応までに少なくとも2秒はかかった!」

実験……だったのか。
ちょっとビックリしたぞ。

岡部「ううむ……そうだったのか、ならば仕方がない。 ……すまなかったな」

謝罪のあと、握った腕を離してやると紅莉栖はその腕をさすりながら、

紅莉栖「べ、別にいいけど……」

と、許してくれた。

8 : 以下、名... - 2011/12/01(木) 23:21:07.78 s0ZLuuWoO 5/52

岡部「じゃあ、今週中にはちゃんと提出するように」

紅莉栖「ふえっ? なにを?」

ハトが豆鉄砲を食らったような顔をしている。

岡部「レポートに決まっているだろう。 実験なのだから書くのではないのか?」

紅莉栖「あ、ええっと……わかった。 明日には提出出来ると思う」

紅莉栖はメモを取り出して何かを書き出した。
しかし、驚いたな。
まさか本人の知らぬところで脳科学実験の対象にされていたとは。
ただ、興味深いのは興味深い。
この実験によって何が得られるのかはわからないが、曲がりなりにも天才少女の考える実験だ。
もしかすると、人類史に残るような偉大な実験なのかも。
ここはあえて、紅莉栖に協力してやる事にする。

9 : 以下、名... - 2011/12/01(木) 23:21:54.66 s0ZLuuWoO 6/52

俺たちは、再びPCに目を戻した。

ダル「うっわ! ちょっ、オカリンなにするん!!」

ダルの尻を触ってやると、奴は即座に俺の腕をとってひねりあげた。

岡部「いてててててててて!!」

……すごく痛い。
しかし、今のはダルにしては反応が早かったんじゃないか?
俺は、期待を込めて紅莉栖を見やる。
が、またもやポカンとしていた。
ええい、何をしているのだ!

岡部「じょ…助手よっ!今のはなかなかに早かったんじゃないか!?」

紅莉栖「え、えっ!? ああ、そうね……橋田至、約1秒で実験者の腕をひねり上げる、と」

そう呟きながら、メモ帳に目も落とさず、ペンでグルグルと何かを書き込んでいる。
はて、そういえば……。

岡部「す、ストップウォッチ……いててて! ダル、そろそろ離せ!」

ダルがハッとしたように、俺の腕を解放する。
肘の関節が痛い。
筋が変な事になっていなければいいが……。

ダル「あ、ああ、ごめんお……それよりさ、それマジで実験なん?」

12 : 以下、名... - 2011/12/01(木) 23:24:44.17 s0ZLuuWoO 7/52

そうだ。
それそれ。

岡部「……俺も不思議だったんだが、約1秒とか2秒でいいのか? 随分と曖昧なようだが」

紅莉栖「ど、どういう事?」

岡部「いや、ストップウォッチとかでしっかり計測しなくていいのか……と訊いている」

大体計測機器が見当たらないし、クリスティーナがそれらを操作している風にも見えないではないか。

紅莉栖「えっ? ああ、そうね。ストップウォッチは明日用意してくる…」

おいおい……マジかよ。
しっかりしてくれ!
これでは俺もダルも“触られ損”!
俺に至っては“負傷させられ損”ではないか!

岡部「全く!そんな重要なところで詰めが甘いとは……とんだおっちょこちょいだな、貴様は」

紅莉栖「う、うん……ごめん」

岡部「これが実験だと解った今、明日急に尻を触られてもリアクションに困るぞ?」

ダル「だよねー。それに、それだと反応実験にならんだろうし…」

紅莉栖「そ、そうね……うかつだったわ」

紅莉栖が俯いたまま、微妙な返事を返してきた。

14 : 以下、名... - 2011/12/01(木) 23:26:35.29 s0ZLuuWoO 8/52

それからしばらくして、談話室でコスプレ衣装を縫っていたまゆりが立ち上がる。

まゆり「そろそろまゆしぃはバイトに行ってくるのです♪」

岡部「ああ、そうか」

まゆり「じゃあね、オカリン」

岡部「あ、待てまゆりよ」

そそくさと出て行こうとするまゆりを呼び止める。

岡部「そのトートバッグの中を見せろ」

俺は、まゆりが脇に抱えたカバンを指さしてやった。

まゆり「えっ!?」

岡部「いいから、テーブルの上に全てあけるのだ」

それを聞いていた紅莉栖が研究室から出てきて割って入ってきた。

紅莉栖「ちょ、岡部! まゆりになんていうHENTAI的行為を……」

岡部「はい」

紅莉栖「はいじゃないが……あっ!」

言いかけて赤面する紅莉栖に、俺は右手を突き出して制止する。

16 : 以下、名... - 2011/12/01(木) 23:29:50.30 s0ZLuuWoO 9/52

岡部「待て、これはそのようなHENTAI的で下心的なものではない」

紅莉栖「で、でもっ!女子のカバンをチェックするなんて、どう見てもデリカシーゼロのHENTAIだろ!」

まゆり「オカリン……まゆしぃは悲しいのです……」

岡部「くっ………」

まあ、確かに。
まゆりも心なしか涙目になっている。
いきなりカバンの中身を見せろ、というのはやりすぎたか。

岡部「じゃあまゆり、そのクロシェを脱いで見ろ。 さっきからずっと不思議だったのだ」

今度は、まゆりの頭を指差す。
室内で帽子を脱がないなど、ダルではないのだからな。
明らかに不自然だ。

まゆり「え、えぇー……」

紅莉栖「……まゆり?」

戸惑うまゆりを、紅莉栖が訝しげな音を込めて呼ぶ。

19 : 以下、名... - 2011/12/01(木) 23:32:20.70 s0ZLuuWoO 10/52

岡部「どうした? なにか脱げない理由でもあるのか?」

まゆり「それは……」

紅莉栖と俺に詰め寄られ、とうとう観念したまゆりが帽子を脱いだ。
パチリと音がして、床に俺の歯ブラシが落ちる。
間違いない、それは俺のだ。
“鳳凰院凶真”という俺の真名が書かれている。

岡部「やはりお前だったのか、まゆり……」

まゆり「うう……ごめんオカリン…」

紅莉栖「……」

またもや紅莉栖はポカンとして、言葉を失っている。

岡部「今週に入って、これで17本目だぞ……?一体なんのつもりなのだ?」

まゆり「え? えっと……えっと……」

21 : 以下、名... - 2011/12/01(木) 23:35:26.38 s0ZLuuWoO 11/52

まゆりは、わたわたと視線を泳がせてしばらく考え込んだあと、

まゆり「お父さん?」

と呟いた。
え? お父さん?まゆりの?

まゆり「お、お父さんの靴を磨いてあげようと思って……えっへへ」

岡部「なにっ!? それは本当か! まゆり……」

まゆり「う、うん。 お父さんにはね、いつも綺麗な靴を履いていて欲しいなぁ、って」

岡部「まゆり……」

なんていい子なんだろう……。
このラボに歯ブラシ泥棒がいる!
…などと疑ってしまっていた自分が恥ずかしい。

岡部「すまなかったな、まゆり……これは持って行け」

床から歯ブラシを拾い上げて、まゆりに手渡してやる。

まゆり「えっ、いいの? オカリンありがとう♪」

岡部「ああ、おじさんによろしくな。 あと……バイト頑張れよ」

まゆり「うん!」

まゆりは純粋な笑みを浮かべると、そのままフワフワとラボを出て行ってしまった。

23 : 以下、名... - 2011/12/01(木) 23:37:40.37 s0ZLuuWoO 12/52

紅莉栖「あー、私も……“岡部”の歯ブラシで父親の靴を磨いてあげたいなぁ、なんて?」

紅莉栖がチラチラとこちらをみてくる。
クリスティーナのやつ、前に父親とは不仲だと話していなかったっけ?
いきなり靴を磨かれても不審に思われるだけだろうに。
まあ、いい。
なにか復縁の取っかかりが欲しいのだろう。

岡部「助手にしては殊勝な心がけだな。 ちょっと待っていろ」

紅莉栖「えっ? いいの?」

俺は、流し台の扉から新品の歯ブラシを取り出して紅莉栖に渡してやった。
俺はそのまま紅莉栖に近付いて、

岡部「ありがたく思えよ。 ……なんせ“新品”なのだからな。まゆりが嫉妬するといけないから内密にするように」

と、耳打ちする。

紅莉栖「さ、サンクス……」

どうやら、俺の気遣いにたじろいでまでしまったようだ。

岡部「礼には及ばん……ラボメンが家族と上手くいくよう取り繕ってやるのも俺の役目なのだからな」

俺は、わざとらしく前髪をかき上げて見せた。
最高に決まった。

27 : 以下、名... - 2011/12/01(木) 23:42:21.31 s0ZLuuWoO 13/52

それからというもの、電話レンジの放電現象が起こらなくなり、実験を中止せざるを得なくなった俺達は、各々ラボを後にした。
ラボの外はうんざりするほど蒸し暑く、遠くでセミが鳴いている。

岡部「久しぶりに実家に帰ろうか…」

しばらく池袋の実家には帰っていなかった。
もちろん、俺にとっては世界の支配構造を塗り替えるための未来ガジェット開発の場である、ここ、大檜山ビル二階の未来ガジェット研究所こそが実家のようなものではあるが、さすがに二週間も家に帰っていなくては、親にやいのやいのとやかましく言われかねない。
今日は研究のキリもいいので、一度実家に帰っておく事とする。
そして俺が実家に向けて歩みを始めて、しばらくして異変は起こった。

岡部「まさか……つけられている?」

29 : 以下、名... - 2011/12/01(木) 23:45:37.43 s0ZLuuWoO 14/52

まただ。
やはり今日もつけられている。
何者かの尾行に気付いたのは、ラボを出てほんの数分足らずの所だ。
まさか、とうとう“機関”の奴らが俺たちのラボを押さえにかかったというのか!
気がつくと俺は、手どころか背中にまで冷や汗をかいていた。
歩幅は自然と広くなり、息を早めながらひたすら追跡者と追走劇を繰り広げる。
しかし、さすがに辛い。
日頃の運動不足が祟ったか。
俺は観念して立ち止まると、追跡者が居るであろう路地裏に向きなおった。

岡部「そろそろ出てくるがいい!貴様が数日前からコソコソと俺をつけ回していた事くらいわかっていたぞ!」

出来るだけ凶悪に、マッドサイエンティストのポーズを決める。

岡部「そのお粗末な尾行……この俺が、狂気のマッドサイエンティスト、鳳凰院凶真と知ってのことか!?」

大声で怒鳴りつけて追跡者を脅してやったつもりだ。
これでただの勘違いだったら実に恥ずかしい。
しかし、路地裏からは息をのむような気配が返ってきた。
え、マジで?
やっぱりつけられていたのか!?
どうしよう!

???「あっちゃー、バレちゃってたかぁ、これは失敗した……」

32 : 以下、名... - 2011/12/01(木) 23:48:43.74 s0ZLuuWoO 15/52

※説明不足ですみません。オカリンがラボメン達からセクハラを受ける話です。


意外にも、路地裏から現れたのは大檜山ビル一階に居を構えるブラウン管工房のバイト戦士、阿万音鈴羽だった。

岡部「なんだ、バイト戦士か……ビックリしたぞ」

鈴羽「いやぁ……ごめんごめん……」

自転車を引きながら出てきて、なんともバツの悪そうな顔で頭を掻いている。

岡部「お前、こんな所で何をしているのだ?まさか俺をつけていたのか?」

鈴羽「えっ!? …あ、いやー……あのさ、警護?」

岡部「そうか……」

鈴羽「う、うん。そう。 へへへ…」

はて?
“けいご”? “敬語”?
ああ、“警護”か。

岡部「いや待て、警護、だと?」

34 : 以下、名... - 2011/12/01(木) 23:50:39.07 s0ZLuuWoO 16/52

鈴羽「そ、そうそう!岡部倫太郎って、なんか色々ヤバい連中に追われてるんでしょ?」

岡部「う……む。 まあ、そうだが」

鈴羽「だから、あたしとしては放っておけなかったっていうか……前にあたしが言ったじゃん」

鈴羽は、依然として目を泳がせたまま、こちらを見ようとはしない。

岡部「言ったじゃん? って何をだ」

鈴羽「困った事があったら相談して、って。 岡部倫太郎、あんまり一人で無茶したらダメだよ?」

そう言えば、初対面の時に言われた気がする。
その時は、なんだこいつ、と思ったものだが。

岡部「バイト戦士……」

最近昼も夜も、何者かが俺の周りを監視していると思っていたが、なるほど。
あれはすべてバイト戦士が俺を見守っていてくれたのか。

35 : 以下、名... - 2011/12/01(木) 23:51:57.78 s0ZLuuWoO 17/52

どうやら俺の人望はラボ内に収まらず、階下のブラウン管工房へも突き抜けてしまっていたらしい。
このままいけば、あの冷酷非道の鬼と恐れられたミスターブラウンまでもが、我が手中に落ちるのも時間の問題。
改めて“俺”というものが恐ろしくなる。

岡部「バイト戦士……いや、鈴羽よ」

鈴羽「えっ?」

岡部「貴様は今日から、この俺のボディガードだ」

鈴羽「えっ! いいの?」

鈴羽が目を見開いて聞き返してくる。
いいもなにもない。
願ってもない事だ。
俺は確かに鈴羽の言うとおり“機関”に狙われているとみて間違いない。
ゆえに、味方は多いに越した事はない。
となれば、ここでこの申し出を受けないのは馬鹿というものだ。

岡部「当たり前だ。頼りにしているぞ? 鈴羽よ」

鈴羽「ちょっ……わわっ! お、岡部倫太郎!?」

岡部「さあ来い! 存分に警護してくれよ」

鈴羽「あっ……う、うんっ! 任せて、岡部倫太郎!キミはあたしが“見守る”よ! えへへ」

俺は鈴羽の手を取ると、そのまま池袋にある実家まで警護してもらった。
その後、鈴羽がそそくさと自室に入ってこようとしたのはさすがに止めたが。

37 : 以下、名... - 2011/12/01(木) 23:54:09.99 s0ZLuuWoO 18/52

翌朝、自室に差し込んだ夏の朝日が目に痛い。
今日は朝っぱらから暑すぎて、俺はラボに行くのをためらった。
まゆりと紅莉栖に、今日は研究活動は休みだとメールを飛ばし、気晴らしにでもなるかと、久しぶりにダルを釣りにでも誘ってみる。
海にでも行けば、海風が少しは癒やしてくれるだろう。
電話の向こうでダルが散々渋ってばいたが、15分も粘ると観念したようで、気が向かないが出てくるという。
実家の玄関を出たところで、偶然ひょっこりと姿を現した鈴羽と共に、ダルとの待ち合わせ場所に向かった。

鈴羽「おっはー、橋田至」

岡部「待たせたな、ダル」

ダルは待ち合わせ場所にて、汗を拭き拭き立ち尽くしていた。

ダル「遅いおオカリン。 あれ、阿万音氏も一緒なん?」

岡部「……たまたまそこで会ってな」

鈴羽「う、うん」

鈴羽が顔を赤らめて頭を掻いている。
いや、そこは照れるところではないぞ。
変な誤解を招いたらどうするのだ。

39 : 以下、名... - 2011/12/01(木) 23:55:19.19 s0ZLuuWoO 19/52

鈴羽「よかったら、釣りを教えてほしいなーと思ってさ」

ダル「ふーん。 んでオカリン、今日はどこ行くん?」

岡部「ああ……えっと……」

釣りとは言ったものの、明確な場所までは決めていなかった。
そもそも、俺たちは釣り竿など持っていないし、いつもその辺に落ちている棒状のものに糸を括り付けて、海に垂らすだけという無意味な作業を繰り返すだけなのだから、実際、海があればどこでもいいのだ。
長らく考え込んでいる俺を見て、ダルがため息をついた。

ダル「まさか考えてなかったん? オカリンってそんな奴だったっけ」

岡部「なに? 釣りなら前にも行っただろう?前もこうだったではないか」

ダル「は? 僕とオカリンが釣りに? いや……そんな覚えはないお」

岡部「なに……?」

おかしい。
どうも最近、ダルとの記憶に齟齬がある。
一緒にサンボすら行ったことがないと言うのだ。
一体、どうしたと――。

ダル「とりあえず、海のあるとこ行けばいいんじゃね?」

考えかけた所で、ダルがもっともな意見を出してくる。

40 : 以下、名... - 2011/12/01(木) 23:57:02.17 s0ZLuuWoO 20/52

鈴羽「うん。悩んでいても、こんな所に魚がいるわけじゃないしねー」

岡部「……そ、そうだな。 とりあえず、お台場辺りに行ってみるか」

俺たちは、有明駅から出ると、すぐ近くにあるビッグサイトを通り抜け、目的の海に到着した。
魚釣りの餌は、駅で購入したあんパン。

ダル「こんなもんで釣れるんかお?」

ダルが糸を垂らしながら聞いてくる。

岡部「いや、釣れた事はないな」

ダル「は?」

岡部「釣れた事はない、と言っている。一度もな」

ダル「……」

早くも、竿を持つダルが帰りたそうにしている。

鈴羽「ふーん、岡部倫太郎って、もぐもぐ……思ったより面白いやつなんだねー、んぐっ」

岡部「お、おい……それ、お前……」

頬に餡をつけた鈴羽が、不思議そうに俺を見てくる。

41 : 以下、名... - 2011/12/01(木) 23:58:04.30 s0ZLuuWoO 21/52

鈴羽「うん?」

それに気付いたダルが、空になったあんパンの袋を拾い上げた。

ダル「あーあ、阿万音氏、あんパン食べちゃってんじゃん……それ餌だろ?魚釣りの」

なんということだ……いきなり魚釣り作戦が頓挫してしまう事になるとは。

鈴羽「あー、ごめん……おなか空いててさ……」

くっ……。
せっかく気分転換にと釣りに来たというのに、これでは15分と保たないではないか。
そこからというもの、餌を無くした俺たちは、
無意味にもその辺の葉っぱや石ころを糸にくくりつけては海に投げた。

岡部「やはり、石ころでは駄目か……」

石を餌として30分近く粘ってみたが、当然、当たりの気配はない。

43 : 以下、名... - 2011/12/01(木) 23:59:34.14 s0ZLuuWoO 22/52

ダル「いや、石ころじゃ魚も食わないだろ、常考」

ダルが横目にチラリとこちらを見てくる。

岡部「……そうか? そういうダルは何をつけている?」

ダル「僕は葉っぱを付けたお?」

岡部「いや、同レベルではないか!!」

ダル「いや、オカリンに言われたくないわー! 石ころよりマシだろー」

岡部「なにっ!?それはどういう意味だ!!」

ダル「そのまんまの意味だろ」

岡部「この野郎!」

そんな俺たちのやり取りを見て、その辺で拾ったネジを餌に釣りを続けていた鈴羽が吹き出した。

鈴羽「あはは、キミたちって面白いねー」

岡部ダル「え?」

鈴羽「なんかさ、こうして見てると兄弟みたいだよ?」

は?

44 : 以下、名... - 2011/12/02(金) 00:00:36.24 Hui25IbdO 23/52

岡部「俺が――」

ダル「オカリンと――?」

見事に被ってしまう。
それを見て、再び鈴羽が吹き出した。
俺は無性に気恥ずかしくなり、怒ってはいないのだがギリリと歯噛みする。
そしてダルはというと、にやけながら呟く。

ダル「まあ確かに、今日のオカリンは何か面白い気がするお」

なんだと?

岡部「そ、そうか……俺はいつもこうだが?」

ダル「そうなん? いやいや、馬鹿っつーか、見てて飽きないっつーかさ」

岡部「あ、貴様!今馬鹿と言ったな!」

背後から近付いて、ダルの肩をグッと掴んで絞り上げてやる。

ダル「いててて! 何すんだよオカリン……って、おっ?」

ダルが釣り竿を見て反応する。
それに続いて、ヤツの釣り竿を見ると、なんと糸が揺れているではないか。

46 : 以下、名... - 2011/12/02(金) 00:03:36.93 Hui25IbdO 24/52

岡部「お、おい……ダル、それ!」

ダル「う、うん!何かかかったみたいだ!」

もちろん針など付いていないのだが、まさかそれに食いつく魚がいるとは!
とんでもない馬鹿がいたものだ!

岡部「フゥーッハハハ!! ダル!慎重にいけよ……!? 何としてもそいつを釣り上げるのだ!」

ダル「お、オーキードーキー!」

気付くと鈴羽までもが、自分の持っていた釣り竿を投げ捨て、ダルの隣で海面を見つめていた。

ダル「っしゃあ! 来いコラーッ!」

ダルが竿を引っ張り上げると、なんと本当に魚が釣れているではないか。

鈴羽「うっわー!すごーい!!本当に釣れたじゃん!」

岡部「なん……だと……?」

糸の先でピチピチと跳ねる魚を、俺はただ呆然と見つめた。

ダル「本当に釣れるとは思わんかった……」

ダルは腰が抜けたらしく、地面に座り込んでいる。
釣れないと思っていた分、これは悔しい。
見返してやらねば。

47 : 以下、名... - 2011/12/02(金) 00:05:05.87 Hui25IbdO 25/52

岡部「お、おいっ!!鈴羽!」

鈴羽「えっ!?」

岡部「葉っぱだ!葉っぱをかき集めろ!!」

鈴羽「う、うんっ、わかったよ!」

結局それから2時間粘ったが、一匹も魚は釣れなかった。
ダルの釣ったやつも、あまりにやせ細っていてかわいそうだからと、結局は鈴羽の制止も無視して海に放り投げてやったのだった。
もっとも、俺はその時にひどい目にあったのだが。

ダル「はふぅ、盛大に時間を浪費した気分だお…」

電車のなか、ダルが汗を拭いながら言った。

鈴羽「うん、でもなんか楽しかったよね」

ダル「あー、それは同意」

岡部「なに?終始文句を言っていたくせによく言う……」

ダル「いや、それでも楽しかったって。オカリンが海に落ちたところとか特にな」

電車内のクーラーの風が冷たい。
未だに服が身体に張り付いて気持ち悪い。
磯の香りがする。

49 : 以下、名... - 2011/12/02(金) 00:07:39.13 Hui25IbdO 26/52

岡部「ぐぬぬ……ま、まあ……あれは貴様達を楽しませるためワザとやったんだが?」

ダル「うそつけー! あん時のオカリンの顔、一生忘れないお」

鈴羽「あっははは!」

ダル「でも、オカリンがこんなに面白い奴だと思わなかったお、プークスクス」

岡部「くっ………お、お前たち!笑うなっ!!」

俺達は、秋葉原駅について、俺を除いてそれぞれがいい気分のまま解散した。

50 : 以下、名... - 2011/12/02(金) 00:09:05.98 Hui25IbdO 27/52

翌日は、ラボに顔を出す前に柳林神社へと向かった。
もちろん、この神社の宮司の息子、漆原るか。
通称、ルカ子の行っている“修行”の進捗状況を見るためにだ。

岡部「今日もご苦労な事だな、ルカ子よ」

ルカ子は今日も今日とて、このいじめのような、殺人的な日差しの下で健気にも掃き掃除に汗を流していた。
しかしそれは、日に焼けてはおらず、相変わらずに透き通るような白を称えている。

るか「あ……っ! おかべ……じゃなかった、凶真さん!」

俺に気付いたルカ子が掃除の手を止め、こちらにスイスイと寄ってくる。
その立ち振る舞いは、巫女そのもの。
実に神聖でいて優雅だった。
だが男だ。

岡部「うむ、ルカ子よ。そういえば、昨日は素振りのメールが無かったが……」

るか「あっ……すいません……」

ルカ子が、狭い肩をがっくりと落とした。

52 : 以下、名... - 2011/12/02(金) 00:11:06.49 Hui25IbdO 28/52

るか「昨日はお父さんが会合に出てしまって…」

岡部「そうだったのか」

なるほど、神社を空けられなかったということか。

岡部「……ならば仕方がないな」

るか「本当にすみません……」

うなだれるルカ子の頭に、ポンと手を置いてやる。

岡部「いや、気にする事はない。 昨日出来なかった分、今日やればいい話だ」

るか「は、はいっ!ありがとうございます…っ!」

実に可愛い弟子だ。
可愛いというのは可愛いではなくて、弟子に対する可愛いなのだが。

るか「そうだ、凶真さん!良かったらお茶でも飲んで行きませんか?」

ナニーッ!?

岡部「お……お茶……だと……? いやいい!」

今日は随分、いきなりかましてきたな!

56 : 以下、名... - 2011/12/02(金) 00:12:42.99 Hui25IbdO 29/52

るか「えっ!? な、なんでですか?」

ルカ子が大声をあげてビックリする。
俺もそれにビックリした。

岡部「いっ、いや……この後寄るところがあってな……」

るか「そうなんですかぁ……」

またもやルカ子が肩を落とした。
このルカ子の出す、漆原家のお茶が非常にまずい。
不味いのではなく、色々な意味でマズい。
とにかく危険なのだ。
先日、俺がこれを飲んだ時など、一日中身体の火照りが治まらず、
しまいにはダルの尻にまでアレしてしまったくらいなのだ。
無論、思ってても行かなかったわけだが。
しかし、あの時俺が昏倒していなければどうなっていた事か。
思い返してみてもゾッとする。

58 : 以下、名... - 2011/12/02(金) 00:13:29.32 Hui25IbdO 30/52

岡部「それじゃあな、ルカ子……修行頑張れよ」

るか「……っ」

ルカ子は去りゆく俺を、なぜか恨めしそうに見つめていた。
後ろ髪を引かれる、とはこの事だろうか。
だが男だ。

59 : 以下、名... - 2011/12/02(金) 00:15:12.38 Hui25IbdO 31/52

メイクイーンを訪れた俺を出迎えたのは、他でもないフェイリス・ニャンニャンだった。
目が合うなり、いきなり俺に飛びついてくる。

岡部「ぐあっ! フェイリス!離れろッ!」

フェイリス「イヤニャイヤニャア~! 凶真ぁ、ニャフフぅ~」

フェイリスがだだをこねながら、おもむろに胸を押し当ててくる。

岡部「こらやめろ! 当たっているぞ!」

まゆり以上に華奢なロリっぽい見た目に対して、この肉感は反則だっ!
即刻離れて貰わねば、大惨事を巻き起こす事になるかも。

フェイリス「えっ? 何がニャ?」

フェイリスが目を丸めて見上げてくる。

岡部「な、何って……」

そこでフェイリスが、何かをひらめいたかのように、ニヤリと意地悪そうな笑みを浮かべた。

フェイリス「……そうだニャ、何が当たってるか、凶真のお口から言えたら離してあげるニャ?」

60 : 以下、名... - 2011/12/02(金) 00:17:00.90 Hui25IbdO 32/52

こいつ……まさか衆人環視の中でこの俺を辱めようというつもりか?
この状況はそうとしか思えない。
依然としてフェイリスは胸を押し当ててくる。
やわらかい。
周囲の客が、一様にギロリと俺を睨んでいた。
まずい。
完全にアウェーなうえ、しかもそこでマウントを取られたような気分だ。
なんとかしなければ………あ、そうだ。

岡部「フェイリス、いいから離せ! こんな状況、アイツが見たら悲しむぞ……」

正しくは、こんな間抜けな状況。

フェイリス「アイツって………ハッ!」

とっさに口から出任せを言ってやると、フェイリスはハッとして身を離した。
どうやら、上手くいったようだな。

フェイリス「も、もしかして……フェイリスのお兄ちゃん……?」

61 : 以下、名... - 2011/12/02(金) 00:18:40.87 Hui25IbdO 33/52

フェイリスがたじろぐ。
俺はその隙を見計らって、メイクイーンの店内に視線を巡らせる。
すると、奥の席に、先ほど俺がメールで呼び出したダルの姿が見えた。

フェイリス「ま、まさか……フェイリスのお兄ちゃんが聖域から戻ってきた……ニャムッ」

俺の左手がフェイリスの口を塞ぎ、これ以上の妄想発言を抑える。
俺は、右手の人差し指を自らの口に添えて、フェイリスに静かにするよう促した。
そうして、俺もあえて小声になり、目だけで辺りを見回しながらフェイリスに伝えてやる。

岡部「今アイツの話を出すのは危険だ……後でメールで詳しく話してやる」

フェイリス「……そ、そうだったニャ。凶真、お願いするニャン。 魔王の手下がどこで聞いてるかわからないしニャ……」

いねえよ。
思わず突っ込みそうになるのをグッとこらえる。
まず、魔王の手下などは少なくともこの秋葉原には来ないであろう。

岡部「ああわかった、約束しよう」

フェイリス「ありがとニャ、凶真♪ フェイリスが頼れるのは凶真だけニャ」

64 : 以下、名... - 2011/12/02(金) 00:20:56.53 Hui25IbdO 34/52

……口から出任せの絵空事とはいえ、随分面倒な事を約束してしまった。
しかし、今はダルと話すことが先決。

岡部「なあ、フェイリス。ダルが先に来てるだろう? 今はそっちに通してくれないか」

フェイリス「わかったニャ♪ご主人様一名、ご案内ニャンニャン!」

俺は、案内しようとするフェイリスのからみつく攻撃を交わし、店の奥へと向かった。
背後からフェイリスのわめきが聞こえるが、無視する。

岡部「ダルよ、待たせたな」

ダルは窓際の席に座ったまま視線を逸らし、不機嫌そうな顔をしている。

ダル「オカリン、いきなりフェイリスたんと絡みつきやがって。 許さない。絶対にだ」

ふてくされているダルの前に腰を下ろすと、向こうからヤツが睨みつけてくる。

岡部「冗談ではない。俺だってやりたくてやっている訳ではないのだ…」

ダルの目の前に置かれたコップをひったくり、一口水をあおった。

66 : 以下、名... - 2011/12/02(金) 00:24:36.74 Hui25IbdO 35/52

ダル「うは、オカリンそれって間接キッスじゃね?」

岡部「うぐっ……お前まで気持ち悪い事を言うな!」

身を乗り出して、ダルの頭をひっぱたいてやった。

ダル「いてて、冗談だお…」

岡部「今の俺には……この世界線では、何が冗談で何がそうでないのか、さっぱりわからんのだ…」

そして、変わらないのはダル、お前のみ。

ダル「サーセン。 それよりそれって、前にオカリンが言ってたやつだろ?」

ダルが帽子の位置を直しながら聞き返してくる。
俺はテーブルにひじを突いて、頭を抱えた。

岡部「……ああ、やはり皆の様子がおかしい」

ありえない。
前いた場所では、こんな事などあるはずがないのに。

68 : 以下、名... - 2011/12/02(金) 00:27:27.62 Hui25IbdO 36/52

と、そんな時、うなだれる俺の頭の上に、でかくて柔らかいものが乗ってきた。
俺は、なんだなんだ、と両手でそれを掴む。
顔を上げるとダルがあわあわとしている。

岡部「ん?」

フェイリス「あん、凶真ったらぁ……えっちだニャ……」

岡部「うぐおッ!!!」

見ると、フェイリスが自らの胸を俺の頭の上に乗せてきていた。

フェイリス「凶真、それって……ん、いやんっ……なんの話ニャ?」

やっぱりおかしい。

岡部「やめろやめろ! 何の話でもない、あっちへ行っていろ!」

フェイリス「ニャウーッ……凶真ったら、ノリが悪いニャ~」

俺はネコ娘メイドの悪質な精神攻撃を振り払う。
するとフェイリスは、そのままカウンターの方へヒョイヒョイと去っていってしまった。
俺は改めてダルに向き直る。

岡部「な? 明らかにおかし――」

言おうとして、ダルが両手を差し出している事に気がついた。

ダル「オカリン、握手してくださいお願いします」

71 : 以下、名... - 2011/12/02(金) 00:31:50.32 Hui25IbdO 37/52

岡部「あん?」

ダル「い、いま触ってたよな、オカリン……」

触ってたって……あ。

岡部「ばっ、馬鹿者ッ!! あんなものに惑わされるな!」

ダル「触ってたのは触ってたろ? オカリン頼むお……僕、握手してくれたらオカリンの話を信じる」

岡部「なにっ!?」

……仕方があるまい……まあ、この世界線で頼れるのはダルだけなのだし。

岡部「くっ………ほら」

ダルに向けて手を差し出してやる。

ダル「あ、あざーす!」

いうが早いか握るが早いか、ダルが俺の手を取って、手の平をためつすがめつ眺めている。
ふと、隣のテーブルの奴と目があった。

岡部「お、おいダル、いい加減に離してもらおうか?」

ダル「ちぇー、オカリンだけずるいお……フェイリスたんの、な、生おっぱいなんて…」

岡部「うるさい! あれは不可抗力だ! それに生ではないわ、この馬鹿が!」

ダルの手を振り払うと、奴は“あうう”ともの惜しげなため息をついた。

72 : 以下、名... - 2011/12/02(金) 00:33:26.99 Hui25IbdO 38/52

さて、本題に戻らせてもらおう。
結論から言う。

岡部「それで……これってやっぱりセクハラ……だよな?」

ダル「は?」

岡部「いや、一昨日の紅莉栖の尻タッチやらまゆりの歯ブラシ泥棒やら…」

その他、鈴羽のストーカーやら、今日に至ってはルカ子が薬を盛ろうとしてきた事やらも、ダルに説明してやった。

岡部「それで、フェイリスもあの様子だ。 正直、尻の座りが悪くてかなわん……」

必死に冷静を装うとして、現実から目を背けてきたが、もう限界だ。
以前と変わらないのはダルのみ。
そう思ってダルに告白してみたものの、当のダルはキョトンとしてしまっている。
すがる思いだったのだが、ダルから発せられた言葉は意外なものだった。

ダル「それ、なんてエロゲ?」

なに……?
なんだと………!?

岡部「き、貴様ぁッ! 俺が真剣に悩んでいるというのに!」

手の平でテーブルをバンバンと叩く。
周囲の客からどよめきが起こった。

74 : 以下、名... - 2011/12/02(金) 00:37:59.06 Hui25IbdO 39/52

ダル「あ、いやいや、すまんかった」

そう言うと、ダルも真剣な顔になってかぶりを振る。

ダル「でもさ、僕から見たら様子が一番変なのはオカリンだお?」

岡部「なに……?」

ダル「いや、ここ数日は、オカリンがまるで別人みたいじゃん。昨日とか釣りに行くとか言い出してさ」

岡部「……俺が……別人?」

薄々感づいてはいたが…やはりそうか。
そう言えば、皆がおかしくなってから、その事についてダルに話したことはあれど、
結局それだけで話は終わってしまい、俺自身の事について話したことはなかったのだった。

ダル「そ。僕ぁてっきりオカリンが改心したんだと思ってたけど」

岡部「改心……か。 な、なあ、ダル。 以前の俺って、どんなだったのだ?」

76 : 以下、名... - 2011/12/02(金) 00:40:51.85 Hui25IbdO 40/52

以前の俺、とは、今ここにいる俺こと、鳳凰院凶真の事ではない。

俺がDメールによって、ここに来る以前の岡部倫太郎について聞きたいのだ。

ダル「んー?」

ダルがなんとも不思議なものをみた顔をして見つめてくる。
無理もない。
本人から自分の事を聞かせてくれ、など、普通はあまりない会話だ。

ダル「なに? まさか覚えてないん?」

岡部「そんなところだ……」

ぶっちゃけ、何も覚えていない。

ダル「ふむう。 あんま信じらんねーけど。 うーん、そうだなぁ…」

ダルが腕を組みながら考える。

ダル「……前のオカリンは、とにかく女の子全員をクドいてたお?そらもう、手当たり次第に」

岡部「なん…………だと……?」

俺が女を口説いていた、だと?

79 : 以下、名... - 2011/12/02(金) 00:45:52.46 Hui25IbdO 41/52

ダル「そのくせ男相手にゃ気難しくて、今みたいに子供っぽくなかったしな」

岡部「……」

……今の俺は子供っぽいと見られていたのか。

ダル「さっきのフェイリスたんの下りみたいなバカ話も、まともにしなかったんだぜ?」

岡部「そう……なのか?」

ダル「そうだお。 なんていうか、リア充すぎて別の世界で生きてる、みてーな」

岡部「……」

ダルが思い出したように手を打った。

ダル「そうそう、ATFでの講義中にもかかわらず牧瀬氏を口説きにかかった時があったろ?」

岡部「………なに!!?」

ダル「あれにはさすがに頭が下がったっつーか、こいつアホだと心底思ったっつーか……」

アホだ……心底。
俺は一体、どうしてしまったというのだろうか。
どんなDメールが、俺をそのような救いようのないアホへと変えてしまったというのか!
俺はだんだんイライラしてきて、自分の膝を叩く。
その痛みで少し冷静に戻った。
いや……まさか……アレなのか?
だとしたら、俺は……馬鹿だ。

80 : 以下、名... - 2011/12/02(金) 00:48:40.70 Hui25IbdO 42/52

岡部「そうかダル……連日の事件の原因がわかったような気がするよ……」

ダル「あ、おおう。 やっぱりオカリン様子が変なのだぜ?大丈夫かお?」

今度は打って変わって、心配そうに俺を見つめてくる。

岡部「ああ……わざわざすまなかったな……」

そう言って立ち上がろうとした時、ダルが声を掛けてくる。

ダル「オカリン?」

岡部「なんだ?」

ダル「まだ半信半疑だけど、本当にオカリンが前のオカリンと違うならさ」

岡部「ん?」

ダル「僕は今のオカリンの方が好きだお」

意味を考えて、思わず赤面してしまう。

岡部「なっ、ダルッ!? お前、なにを馬鹿な事を……!」

ダル「いや、深い意味はないって。 そのまんまの意味だろ」

ダル「オカリンはアホより馬鹿の方が断然いいのだぜ?」

岡部「ぐぬぬ……」

83 : 以下、名... - 2011/12/02(金) 00:52:06.38 Hui25IbdO 43/52

言葉に詰まってしまい。
俺はダルに背を向ける。
そんな時、ダルから声がかけられた。

ダル「オカリンは、また別の世界線へ行っちゃうのかお?」

………。

岡部「……あとでラボに来い。Dメールを使う」

ダル「そう、わかった。 それじゃ後で」

振り返らずにそう伝え、俺はメイクイーンを出た。
ダルが先ほど言ってくれた言葉に、この世界線で不確かな存在である“俺”というものが、少しだけ許されたような気がした。

84 : 以下、名... - 2011/12/02(金) 00:55:31.52 Hui25IbdO 44/52

ラボに戻るや否や、俺はX68000の電源を入れた。
考えられるのは、あの時。

前世界線のダルと、過去改変について何をしようかと迷っていたとき、当時14歳でレトロゲームにハマっていた俺が、念願かなってようやく叔父から借りられた、ファミコンとドラクエ1・2のセット。
それを何を思ったのか、14歳の岡部少年に、Dメールでラスボス直前の、“ふっかつのじゅもん”を送ってみようず、という話になったのだった。
俺とダルは連日連夜、旧ドラクエをプレイし、ようやく最強のふっかつのじゅもんを入手。
それを迷いもなく過去の俺の携帯に送信していたのだ。
そんなに傷ついたのか、俺。
人格が変わるほどに。
すまなかったな……。
などと、知りもしない岡部倫太郎を思い浮かべて感傷的になってしまう。
しかし、俺のいるべきところはここではない。

86 : 以下、名... - 2011/12/02(金) 00:58:39.10 Hui25IbdO 45/52

さっき、裸の紅莉栖がシャワー室から出てきて俺を誘惑しようとしてきたが、正直、そんなものは見たくなかった。
クリスティーナはクリスティーナであって、この俺の助手なのだ。
間違っても助手の痴態など、誰が見たいものか。
それに、まゆりは盗みなどしない。
あいつはいつでも純粋で純朴で、ラボの中でも微笑んでくれていて。
バイト戦士は、気さくは気さくだが、決して他人の深いところまで踏み込んではこない。
ルカ子は真面目で可愛くて、あんな卑怯な手段など使わない。
フェイリスはあれで、よく考えていて、あんな浅はかなことはしない。
ダルの事は残念だが、さっきの話で、どこに行ってもダルはダルだと確信出来た。
だから俺は。
―――元の世界を取り戻す。
それだけが、俺の望むところなのだ。
と、考えていたところでラボのドアが開いた。

ダル「オカリン、Dメールの内容は考えたのかお?」

ダルは入ってくるなり、そう訊いてきた。
こいつは、信じる信じないにせよ、俺を全て理解してくれているのだな。
胸の中に、どこか暖かさを感じる。

88 : 以下、名... - 2011/12/02(金) 01:04:37.84 Hui25IbdO 46/52

岡部「ああ、単なる文字の羅列だが、こいつを送れば俺もイタズラだと思ってアホな事はしないだろう……」

先ほどの感傷を振り払うべく、俺はかぶりを振った。

岡部「こいつを送れば……世界は変わる」

ダル「そっか、よくわかんねーけど、なんか残念だお」

研究室の椅子に座ったダルが、肩を落としてそう呟く。

岡部「……そんなに残念か? 馬鹿な俺が」

ダル「うん、せっかくオカリンと解り合えたっつーか、言いたいこと言い合えるようになった気がするのに」

岡部「……すまなかったな」

ダル「いや、気にすんなよ。前のオカリンも嫌いじゃないし、きっとまた仲良くするって」

岡部「ダル…」

……俺たちはこの先もずっとこうなのだろう、と。
そうあってほしい、と願う。
どこへいっても、どんな未来でも。
死ぬまで、俺の親友。
その様は伊達政宗と片倉景綱の如く。

89 : 以下、名... - 2011/12/02(金) 01:06:03.74 Hui25IbdO 47/52

岡部「ダル……お前はどの世界線にいても、我が頼れる右腕《マイフェイバリット・ライトアーム》だ」

ダル「うへっ、オカリンきもちわりー!」

ダルが吹き出す。

岡部「なっ、貴様ッ! せっかくこの俺が…!」

走り寄って、ダルの頭をひっぱたいてやる。

ダル「いてっ、やめろってオカリン!」

岡部「お前がからかうからだ!」

ダル「いや、でも……ぷっ……あはははは」

ダルがでかい腹を抱えて笑い出す。

岡部「……っ。 くくく…はははは!」

俺もそれにつられるようにして、笑いが止まらなくなった。
それから、しばらく笑いあう。
ラボの中で、うんざりするほど暑苦しくも、男二人。

90 : 以下、名... - 2011/12/02(金) 01:08:03.29 Hui25IbdO 48/52

岡部「それじゃあな、ダル……これからもアホな俺の事、頼んだぞ」

ようやく落ち着いた俺たちは、X68000へと向き合う。

ダルは俺の言葉に、PCの画面から目を離さず、ただ黙ってサムアップして見せた。

岡部「それじゃあ……………いくぞッ!電話レンジ(仮)起動だ!!」

電話レンジ(仮)が、激しく放電を開始する。
その時、振り返ったダルの眼鏡は青白い閃光が反射していてよく見えなかったが、
一抹の寂しさを称えているように見えた。

ダル「オカリン……また、あっちで会おうぜ?」

岡部「………ああ」

俺は―――。
送信ボタンに―――。
―――力を込めた。

95 : 以下、名... - 2011/12/02(金) 01:10:09.51 Hui25IbdO 49/52

すぐさま、リーディングシュタイナーの気持ち悪さが収まる。
ここは未来ガジェット研究所のラボだ。
相変わらず、俺はダルと一緒に、PCの画面をただぼんやりと眺めていた。
腹がぐるると鳴る。

岡部「うう……む」

時刻は正午。
俺は、戻って来られたのだろうか?
そんな時、ダルがPCを見ながら呟く。

ダル「うーん、やっぱ見つかんねえッス……チキショー。やっぱ駄目だわ、オカリン」

どうやら、ダルは今流行りのアニメのコスプレ画像を検索していたらしく、俺も馬鹿らしくも、それに付き合っていたようだ。
思わず、自分の馬鹿な選択に吹き出しそうになる。

96 : 以下、名... - 2011/12/02(金) 01:12:08.77 Hui25IbdO 50/52

俺は、ダルの肩をポンと叩いた。

ダル「ん。 なんだお?」

岡部「ダル……ここらで一時中断して、サンボにでも行かないか?腹が減ってしょうがない」

ダルはPC画面からは振り返らない。
相変わらず、検索結果を上から下へと忙しく視線を走り回らせている。

ダル「えっ? んー、まあ、腹は減ってるわけだが……」

岡部「そうだろう? ……今日はな、なんとこの俺がおごってやろう」

ダルがビックリして振り返ってくる。
眼鏡の奥の、つぶらな瞳がギョッとしている。
無理もない。
ケチな俺がおごるなんて言ったのだからな。

ダル「え……それマジで?」

岡部「……ああ、マジだ」

97 : 以下、名... - 2011/12/02(金) 01:13:37.66 Hui25IbdO 51/52

ラボを出ると、秋葉原の街は、殺人的な可視光線を放射してくる太陽と、
そして立ち並ぶビルが吐き出す排気熱も相まってか、相変わらずのクソみたいな蒸し暑さであって。
馬鹿馬鹿しい生活を続ける俺たちをまるでだめ押しするかのように、いつまでも熱し続けていく。
アスファルトには、細い影と太い影がふたつ。
俺たちは、遠くに見える陽炎に、そのうち段々と包まれて消えて――。


岡部「あー………ダルよ?」

ダル「ん? なんぞ、オカリン」

岡部「あ、いや……“お前”がラボにいてくれて良かったよ。 つくづくそう思う」

ダル「うへっ、オカリンきもちわりー!」

おわり。

101 : 以下、名... - 2011/12/02(金) 01:17:45.48 Hui25IbdO 52/52

皆様、遅くまでお付き合い下さいまして本当にありがとうございました。

数々のご支援に感謝します!

乙!

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