関連
長谷川千雨「鳴護アリサ、って知ってるか?」#1
http://ayamevip.com/archives/46428023.html

198 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2013/12/27 14:53:04.71 pd7j0B5g0 813/920

 ×     ×

「ハ、ハハ、何が、何であろうが、ハハハ、
間に合うものか間に合うものかああああっっっっっ!!!」
「何してやがるっ!」

レディリー=タングルロードがバンッ、と、機材の一つを掌で叩き、
叫んだ麦野沈利の放った原子崩しがひらりと交わしたレディリーの前で機材を吹っ飛ばす。

「無駄無駄無駄無駄無駄ぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!」
「!?」
「既に火薬は満タン装填されたって事よっ!!!」

ばあああっと室内の魔法陣が輝き、一斉に魔素人形が姿を現す。

「超多過ぎ、ます」
「もしかしたら素手で引き裂かれてバラバラ死体か今すぐローストか
どっちがいいんだ絹旗あっ!?」

ここまでの経験値に目の前の数値を乗算した絹旗最愛を麦野が怒鳴りつける。

「通しませんよ、戦乙女の名に懸けてっ!!」
「もちろんっ!!!」

エミリィの叫びにコレットが応じる。

(本気で多すぎる、一度に来られたら流石にひとたまりも…)

ギリッと歯がみした綾瀬夕映がインデックスを見る。
そして異変に気付く。
インデックスは、丸で虫を見付けた猫の様に視線を動かしていた。

199 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2013/12/27 14:58:19.85 pd7j0B5g0 814/920

「これは…歌?」

次の瞬間、大量の魔素人形がドギャンッと蹴り飛ばされた。

「歌はいいね」

口走ったフェイトに魔素人形が群がり、
人類の文化論を語り始めたフェイトによって活火山の如く吹き飛ばされる。

「この歌…鳴護アリサ…」

ようやく、夕映も気が付く。

「ちが、う………これは………」

レディリーがぶるぶると震え出した。

「!?」

床が、ばあああっと一面全て白く光った。

「何だ?」

麦野が呻く。

「何だ、こりゃあ?電気に似てるが電気じゃない?」

麦野が床からのまばゆい光を把握しようとした次の瞬間、
何かが床から天井へとぶち抜けた。
ぶち抜けたが、物理的な穴は空いていなかった。

それは、人の様にも見えた。
普通のサイズにも見えたし、巨人にも見えた。
何故なら、全体が白い光でその人間も光の一部なのか発光してるのか、
恐らく少女の様であり、それにしてはやけに丸っこい様にも見えた。

そして、その白い光の少女が通り過ぎた後には、
魔素人形の大群は儀式術式を残して魔法陣ごと消滅していた。

201 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2013/12/27 15:03:33.54 pd7j0B5g0 815/920

「うっ」
「ああっ」

そして、いつの間にかアリアドネー結界が解除されており、
エミリィとコレットがぐらりと倒れ込んでいた。

「お嬢様!?」
「大丈夫ですかっ!?」
「え、ええ、少し頭痛が。
何か些か不快ですが、敵が消えているのが幸いです」

 ×     ×

「ネギ!」
「はいっ」

杖に跨り宇宙空間を突き進むネギ・スプリングフィールド、
その杖に同乗している神楽坂明日菜。
宇宙仕様の白い光に包まれた二人の前に姿を現したのは、膨大な数のデーモンの大群だった。

ある者は有翼の魔獣に跨り、ある者は自らの翼で飛翔している。
とにかく、イメージ通りの黒い悪魔がヘイフォークやら剣やら何やらを手にして
巨大な軍団を編成して殺到している。

「おおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉりゃあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

まずは、大剣ハマノツルギを一閃。
放たれた巨大な光は、それだけで巨大な軍団の一角を引き裂く様にかき消す。

「ラス・テル マ・スキル マギステル………」

更に、ネギが放った巨大な雷を前に悪魔軍団が旋回し、
逃げ遅れた悪魔が塵と消える。
一直線に突き進むネギと明日菜が、デーモンの大群に呑み込まれた。
二度、三度、巨大な球形の爆発が起き、
その度に大量のデーモンが塵と化し群れが散開する。
そして、二人はぐっと前を見る。

202 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2013/12/27 15:08:54.19 pd7j0B5g0 816/920

「ネギ」
「はい。ラス・テル マ・スキル マギステル………」

前方には、景色にしか見えない、
うっかりすると宇宙の闇に溶けて見えなくなりそうな
とてつもなく巨大なデーモンが現れようとしていた。

「千の雷っ!!」

ネギと明日菜から、最大級の攻撃がその途方もない「景色」に向けて放たれる。
しかし、手応えすら頼りない。

「ネギ先生!」

ネギが耳を押さえて葉加瀬聡美からの通信を聞く。

「茶々丸から発射許可の要請が入っています。
異常なエネルギー反応の中心に当たる座標は把握出来ています」
「駄目です、茶々丸砲でも一発や二発じゃどうにもならない。
衛星への反撃に集中されたらその余波だけで地球が保ちませんっ!」
「分かりました」

一度通信から離れたネギがぐっと前を向く。

「明日菜さんしっかり掴まってっ…く、っ!!!」

それは、場所柄を無視するなら天地をも揺るがす笑い声の様だった。
事態が事態だけに都市破壊クラスの兵器にも対抗する魔法防壁の中で、
ネギと明日菜は嵐の小舟の如く激しく揺さぶられ懸命に墜落を免れる。

「ひゃっ!?」

ようやくバランスを取り戻したと思った瞬間にいきなり横に移動され、
明日菜が悲鳴を上げる。

203 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2013/12/27 15:12:04.88 pd7j0B5g0 817/920

「何よっ!?」
「何か、マジックキャンセルに近い反応が急接近、
全てを魔法に依存したこの状態で巻き込まれたら本気で危険ですっ!!」

ネギが離脱した進路に、白い光が一直線に突っ込んで来た。
目、感覚を極度に研ぎ澄ませた二人が光の先頭にとらえたその姿は、
空飛ぶヒーローの如く拳を前に突き出した人の姿だった。
造形の基は少女の様であるが、それでいて豊かに丸っこくも見える。
少女が光っているのか光が少女を作っているのかよく分からない事が、
その大きさの把握を難しくしている。

「へぶしいいっっっっっ!!!」

そんな声が聞こえた気がした。
その、白い光が突き出して突っ込んだ拳が、
景色の様なデーモンの頬を一撃してその顔を動かした様に見えたからだ。

「くっ!」

ネギが腕を顔の前に出して防御する。
周辺がカッと赤く輝き、白い光もびゅんびゅんと激しく軌道を混乱させる。
それでも、白い光はデーモンの上後方に移動して、
デーモンに雷を思わせる大量の光が降り注ぐ。

「アスナさん」
「うんっ」
「仕掛けます。デーモンが押さえ付けられていますが、何秒も保たない筈ですっ!」
「オッケーッ!!」

ネギの杖が、デーモンの正面の配置に戻った。

「ラス・テル マ・スキル マギステル
契約により我に従え高殿の王…」
「………アスナ・ウェスペリーナ・テオタナシア・エンテオフュシアの名において命ず!!…」

204 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2013/12/27 15:15:24.07 pd7j0B5g0 818/920

 ×     ×

「違う、この歌は違うっ、あああああっ!!!」
「つっ!」

レディリーが頭を抱えて絶叫しているエンデュミオンラスボスの間で、
夕映は仮契約カードの異常な反応に気付き、熱を帯びたカードを手にする。
そして、そこから響いた何かを察知してカードを額に当てた。

「夕映さんっ!一気に言います。
とんでもない大規模宇宙術式の粋を尽くしたデーモンはとんでもない規模です。
前触れのオーラだけでスクナの百や二百では比較にならない。
実体化したらその場で地球が壊滅します。
………退治は論外………三分………術式を………」

圧縮された強力な魔力で、
無理やり短時間の宇宙通信をしたのだろうと夕映は見当を付ける。

「三分ですっ、三分で術式解除、出来ますかっ!?」
「誰に言っているのかなゆえ?
十万三千冊の魔道書の知識で!!!」
「まりょ、くが」

エミリィが立ち上がる。

「………これは………彼女の声が術式を書き換えてる?」
「はい、お嬢様。インデックスさんは術式の文字列に僅かなスペルを埋め込む事で、
そのまま崩壊する様にその意味を書き換えています」
「術式の書き換え、ですって?このペースで?」

青い顔で言うエミリィにベアトリクスが頷いた。

205 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2013/12/27 15:18:50.42 pd7j0B5g0 819/920

「そしてこの歌、実際にインデックスさんの作業も歌に合わせて行われていますが、
何と言いますか清々しい力に満ちて魔力よりも更に上の…」

「そうですビー。これが、私達が外交上対峙する相手…
一つ間違えたら大陸規模の大爆発を起こす術式を、
精密に、正確に、このスピードで小揺るぎもさせずに消滅させていく。
いかなる大規模魔法兵器であっても無効化出来るきょういが、
改めてアリアドネー騎士団、否、魔法世界に於いても抜本的にモガモガッ!!」

取り敢えず、その辺から巨大な火炎や日本刀が飛んで来る前に、
夕映が穏便な形でエミリィの口を塞いだ。

 ×     ×

「なんだ、こりゃ?」

コンサート会場にたどり着いた長谷川千雨が立ち尽くす。
そこは、大地震か爆撃かと言った有様で、
只、歌だけが清らかに紡がれている。

そのステージ上も、常識で考えたら異常な光景だが、
千雨の頭の中では真実のピースがカチリとはまり込んでいた。
そんな目の前の異様と言うべき光景も何もかもすっ飛ばして、
千雨は只、聞き入る事しか出来ない。

「鳴護アリサの最後の一曲、それも新曲だ?
それを観客二人っきりのコンサート、どんだけ贅沢なんだよ」

乾いた笑いを浮かべながら、汚れきった千雨の頬では、
目から伝うものがその汚れを上から下に切り裂いていく。

「良かったな、取り戻せたんだ。
そんなに綺麗なもの喪ってたんだ、
あれは心神喪失って事で勘弁、はちょっと出来ねぇなぁ…」

言ってやりたい事は山ほどある。
だが、千雨の中に沸き起こる予感は止まらない。
素晴らしい歌が、最高の一刻が終わりを告げる。
終わりを告げる。
千雨は、笑顔で送り出してやった。
多分、それは成功したのだと、思う。気合いで成功させた。

206 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2013/12/27 15:22:17.75 pd7j0B5g0 820/920

「なあ、そこのヒーロー」

乾いた笑いと共にペタンと座り込んだ千雨が声を掛ける。

「ん?」
「ああそうだあんただ、まあ他に誰もいないしな。
ああ、他に誰もいない。
ヒーローっつって今の展開でなんとなーく心当たりがあるんだけどさ」
「なんだ?」

千雨が、よいしょと立ち上がる。

「あんた、何かの拍子で目の前の女の服が吹っ飛んだり、
なんかの弾みでずっこけた女にしっかり抱き付かれて押し倒されたり、
ドアを開けたらマッパの女が風呂から駆け出してたりと、
こんな感じの日常送ってるのか?」

つーっと斜め下に視線を走らせたヒーロー上条当麻は、
ガシッ、と、長谷川千雨の両肩を掴んでいた

「どこで監視していた?」

数秒を経てダラッダラに汗を流しての引きつった返答。
ここまでの、インドア派の一般人なんて肩書きクソ食らえの体を張った激闘、
本当は何もかもが肉体的に辛い現在進行形の激痛の数々などものともせず、
魔法世界の英雄であろうとその世界での最強の奴隷傭兵であろうと、
決して引けを取る事の無かった長谷川千雨の拳は
全てをぶち壊す幻想殺しにも決して引けを取らぬ勢いで本日も絶好調であった。

「不幸だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……………」

207 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2013/12/27 15:26:05.70 pd7j0B5g0 821/920

 ×     ×

宇宙空間の科学をガン無視して耳をつんざくおぞましい断末魔の悲鳴。

「間に合った、みたいですね」

全方位に広がる平穏な星空の中、ネギはふーっと息をついた。
巨大デーモンのオーラに近づき飛び回っていた白い光は、
ネギの上空に移動し、そこでチカッ、チカッと明滅を始めた。

「いけないっ!!」

ネギが、自分達の防壁を拡大して白い光を包み込んだ。
白い光は見る見る輝きを失い、人間の形に凝縮していく。

「うぶぶぶぶっ!!!」

仰向けかうつぶせかと言えばうつぶせの角度で落下して来た所を、
ネギは、正面から相手の腋の下とウエストの中間辺りに両腕を差し込み
ぎゅっと抱き締める形で受け止める。
その結果、宇宙空間である事とは全く関係無しにネギは窒息の危機に見舞われ、
杖の後部座席では神楽坂明日菜がバキッ、ボキッと拳を鳴らしていた。

209 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2014/01/04 04:02:54.17 NOnTuy0v0 822/920

ハッピーニューイヤー!!

まずはお詫びを一つ。
風斬さんの髪色間違えた…
黒髪じゃなくて茶髪です。

まあ、公式が茶髪なんだから全面的に私の調査ミスだったんですけどね。
ぐぐる先生の画像の上位がかなり紛らわしいのが揃ってるとか…

それでは今回の投下、入ります。

209 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2014/01/04 04:02:54.17 NOnTuy0v0 823/920

 ×     ×

「止まった…」

部屋全体がまばゆい光に包まれた。
それが収まった時、エンデュミオンラスボスの間でベアトリクスが呟いた。

「術式は完全に機能を停止した様です…わわっ!」

魔法レンズを摘んだ夕映が言い、
歓声を上げたコレットが後ろから夕映に飛び付き抱き付いた。

「どうやら、終わった様ですね」
「ええ………!?」

言いかけた夕映が、エミリィを見て声を上げる。
エミリィ、そしてコレット、ベアトリクスの周囲にキラキラ光る銀の粒が大量に舞い始める。

「委員長、コレット、ベアトリクス…」

夕映の脚がふらりとよろめく。

「大丈夫なんだよ」

その夕映にインデックスが声を掛ける。

210 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2014/01/04 04:08:07.90 NOnTuy0v0 824/920

「召還術式が解除されて、みんな在るべき所に還るだけなんだよ」
「そう、ですか」
「ええ、何と言う顔をしているのですか。
分かれは暫しの事、約束した筈では?」
「そう、でした委員長」

「ん、ちょっとだけど、一足早く旧世界見せてもらったよ」
「コレット」
「お嬢様と共に楽しみにしています」
「ベアトリクス、有り難う」

「それはお互い様です。ここで終わっていたら全ては水の泡。
私は外交官として騎士として為すべき事が山ほどあるのです。
ユエさんもそうなのでしょう」
「はいですっ委員長…しかし…」
「ん?」

自分を見た夕映の言葉にコレットが聞き返す。

「いかに巨大な召還術式が暴走したとは言え、
魔法世界からここまで、どうやったら最良の相手がこうしてピンポイントに…」
「確かに」

エミリィも考え込む。

「いいんじゃないの」

コレットが言った。

「奇蹟、って事でさ。世の中こういう事もあるよ。
なんか、とんでもない巡り合わせでユエに出会って、
そしてみんなで世界を救った事もあったんだから」
「確かに」

そう言われると、夕映も笑うしか無かった。

「それでは、暫しの別れ」

笑顔で送り出そう。そう心に決めた。一筋二筋隠しきれないものがあっても。

211 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2014/01/04 04:13:35.76 NOnTuy0v0 825/920

「麦野…」
「よく分からないイレギュラーなコスプレ能力者がテレポートで、
って事にでもしとけ。
裏の仕事してりゃあ、その内分かる時も来るだろうよ」
「ア、ハ、アハハハハハハハハハハ!!!」
「!?クソがあっ!!!」

甲高い笑い声を聞き、
麦野が振り返るや通路側の壁にじゅっと焦げ付きが発生する。

「手間掛けさせやがって、私がマジになったらこんぐらい軽いんだよ」

麦野はばっと前髪を払い、
ふーっと息を吐きながらも余裕を強調する。

「えーと、麦野、死体は黒幕も情報源も吐かないとか…
そもそも死体すら超残ってませんが」

絹旗がつーっと汗を浮かべる。
爆弾を抱えて飛び込んで来たレディリーに、
麦野は調整されたカッティングのシリコンバーンで起爆の暇すら与えず全てを塵にして終わらせた。
爆弾抱えて突撃する小柄な女の子を相手にした場合の完璧な対処だった。

「黒幕はこいつだよ。この騒ぎでどうせこの会社もガタガタだ。
これ以上アイテムにアヤ付ける余裕があるか、そいつは後の情報収集次第だな。
こいつらが何かを知ってるかって事だが…」
「この二人に手を出すと言うなら、
契約上君達の安全は保障できないが」

フェイトが静かに間に入る。

「だとよ、テメェの怪獣退治の時点でそこん所は分かってる。
今ん所、そっちのお仲間とは手打ちが成立してて
仕事にもなってない以上どうしてもやり合う理由も無い。
フレンダと滝壺も引いた、私らも行くぞ」
「超了解です」

「行きましょう、フェイト先生、ゆーなさん」
「うむ」
「うん」

かくして、アイテムと麻帆良は綺麗に別々の出口からその場を後にする。

212 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2014/01/04 04:18:39.42 NOnTuy0v0 826/920

 ×     ×

エンデュミオン基部エリア。

「ナメてんのか?レベル5第二位ナメまくってんのかっ!?
全員まとめて束になっててとっとと来やがれっ!!」
「だとよ」

「うむ、威勢がいい。やはり若い者はこうでなければの」
「ハッハーッ、全くだ」
「おお、とうとう婆ぁを認めたか」
「やかましいわこの筋肉ダルマ」

「て、事だから、ナンバー2って微妙なプライドに配慮して、
ここは戦友カルテットって事で妥協しとこうか」
「ま、後ろの連中も異存はないみたいだぜ」
「まあ、あったとしても(以下略)」

「おお、待たせたの、そういう事で順番が決まったわ」
「ム、ム、ム、ム………
ムカついた!!!!!

て、め、え、ら、全、員、

愉、快、過ぎる、

オブジェにしてやるぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっっっっっっっ!!!!!」

つぎのしゅんかん
とほうもないひかりが
あたりをつつみこんだ

「タカネ」
「はっ!」

テオドラに声を掛けられ、高音・D・グッドマンは慌てて片膝を着いた。

213 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2014/01/04 04:22:01.93 NOnTuy0v0 827/920

「こ、この度は、この様な事に巻き込んだ事お詫びの申し上げようもなく、
これはひとえに全てこの私、高音・D・グッドマン一人の不手際、
全ては私の一存にてどうかその事だけは…」
「顔を上げよ」

高音が厳かな言葉に従った時、テオドラの顔は高音の目の前にあった。

「おぬしは、剣を取る事の重みをよく分かっておる。
些か慌て者だとは聞いたがの。
それでも、魔法使いとして己の為すべき事、守るべきものはよく理解しておる。
ならば、それを信じよう」

「は、はっ!」
「ネギから聞いておるぞ」
「はっ」

「あの夏の事以来、麻帆良学園では急ごしらえの魔法使いが増えて、
やはり血気の若者達の事、様々に懸念される状況であると。
それでも、学園にはそなたの様な、しっかりした魔法使いの先輩がいてくれる。
だから教師として申し訳ない事でもプランの仕事に集中する事が出来るとな」

「あ、あ…」
「その時が来たら、一献傾けようぞ。
全く、悪ガキ共の責任者としての苦労話など、
時が来たらいい酒の肴じゃ」
「おいおい、オテンバ姫が何言ってくれてんだ?」
「ハッハーッ、全くだ」

快活な笑い声を聞きながら、高音は手の甲を目に当てていた。

「お」
「ん」

高音も気付いた。テオドラや他の面々に、
銀色に光る粒が取り巻き始めたのを。

214 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2014/01/04 04:25:51.36 NOnTuy0v0 828/920

「どうやら、迎えの時間の様じゃ」
「アコ…」
「だからそれはいいってんだよ。
つーか何しに来たんだ俺らはよぉ!」
「あーあ、ノドカちゃん」
「ま、何か解決したみたいだし、その内会えるって」

「それではの、タカネ」
「おうっ、じゃあな、頑張れよっ!」
「はいっ!!」

涙を拭い、高音はすくっと立ち上がる。

「その潔さは良し!
麻帆良学園での姉ちゃんの称号も聞いてるからよぉ!!」
「馬鹿言ってないでほら行くぞ筋肉ダルマ!」

220 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2014/01/06 03:16:12.18 R6POwOr70 829/920

 ×     ×

「どうした?」

エンデュミオン中継ステーションコンサートホール近くの通路で、
携帯を確認する長谷川千雨に上条当麻が尋ねた。

「レディリーの術式は完全に崩壊。
こっちの仲間も粗方脱出に成功した」
「よしっ。じゃあ俺達も…」

言いかけて、上条はふと天井を見る千雨に気付く。

「おい」
「ああ、いや、私、友達を助けに来たんだなあって…」
「………」

「そんなキャラじゃなかったんだけどさ私。
小利口で、友達なんて他人のために命を賭けるとか、そんな事少し前まで考えられなかった。
それが、ホントに社会的にも肉体的にも危ない事しまくって、
こんな宇宙の高さまで追い掛けて来て、それで、その結果があれだ」

「後悔、してるのか?」
「まさか」

振り返った長谷川千雨の笑顔は、
どちらかと言うと最近はハムでもやってそうな先生を描いてるとかなんとかな
白身ではなく角張っていなさそうな辺りが描き出す雰囲気が似合いそうな
どこか哀しく、そして眩しいものだった。

221 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2014/01/06 03:21:28.80 R6POwOr70 830/920

「キザたらしいけど、時間の長い短いじゃないんだな。
見返りを求める求めないって事もあるけど、
見返りって言うんならさ、友達のためだけに、
あんな最高の歌と最高の笑顔で迎えてくれた。
これ以上最っ高の見返りあるかよ。
もっとも、友達、って言っちまうとな」

「ん?まあー、俺も短い付き合いだったけどな、
それでも大事な友達で…」

意味ありげな含み笑いをする千雨を見て上条は首を傾げ、
そして言葉を続ける上条に千雨は嘆息したくなる。
やっぱり、ここは最高の友達としてこのヒーローにもう一発拳で語っておいた方がいいものか、
どうして自分の周りのヒーローと言う奴はどいつもこいつも。

「じゃあ、そろ、そろ…」
「おいっ」

先に進もうとして転倒しそうになった千雨の体を、先回りした上条が支えた。

「ああ、私、元々廃人手前のネットジャンキーのインドア派でさ。
それが健康的な朝っぱらから一日で運動量百倍精神的疲労一万倍、って、
あっちの世界でも結構ハードだったんだけどな、ぁ。
流石にいい加減、限界、来てるかなこれ…」
「と、とと…」

ついには寝息を立て始めた千雨を、
上条は転倒させじと悪戦苦闘する。
上条より年下であっても、少なくとも千雨と同年代の御坂美琴よりも
色々起伏に富んでいるらしいと言う事も、改めて再確認される。

そうしながら、一度床に軟着陸させようかとも思ったが、
そんな事をしている時間もない、と思い至った辺りで、
角を曲がって到着したのはその途方もない知識と
お気楽に見えて確固たる使命感で地球破壊の巨大術式を崩壊に追い込んだ
今回のMVPを飾るスーパーヒロインであった。

「とぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ
うぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ
ま?」キラーン

後に続く足音を、上条は遠くから聞いた気がした。

222 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2014/01/06 03:27:00.41 R6POwOr70 831/920

「ああ、インデックスさんに上条当麻さんですか?」

そこに現れたのは、綾瀬夕映、フェイト・アーウェルンクス、明石裕奈のチームだった。

「千雨ちゃん?ちょっと大丈夫?」
「ああ、疲れたみたいだな、ちょっと寝てるだけだ」

壁を背に長座する千雨を見て、裕奈と上条が言葉を交わす。

「なるほど…裏の情報で多少の聞き覚えはありましたが、
流石は十字教領域の魔術と科学の世界の軋轢に拳一つで挑んで来たと言うヒーロー。
今回も又、未だ生々しい生傷も痛々しい激戦だった様ですね。
本当に、お疲れ様でした。
とにかく千雨さんを有り難うございました」

夕映がぺこりと頭を下げる。

「ああ、そっちこそ、味方って事でいいんだな?」
「術式の解体まで私の事をガードしてくれたんだよ」
「そうか。サンキューな」

「こちらこそ。それでは、私達に脱出のルートがあります。
一応イレギュラーですので皆さんとはこれで」
「ああ、分かった」
「全く。教師とはこういう事もするものなのか」

フェイトが千雨をひょいと背負う側で、上条と夕映が別れの挨拶を交わした。

「んあ?フェイト、先生?」
「ああ、そうだ。何でも僕にレクチャーしてくれる事があると聞いたが?
こちらも出来る事なら良質なテキストが欲しい。言ったからには約束は果たしてもらう」
「ああー、任せろ。ま、最初はオーソドックスかつ日本名物って事で、
萌え萌え巨乳美少女テキストで基礎からやり直しってトコだ」

「何でもいいが、それまでは君に詰まらない事で終わって貰っては困る。
従って船までそのまま休んでろ。
知っての通り僕にとって平均的十代女子など重さの内ではない」
「んあ、助かる。くったくた、だからさ」

千雨がぎゅっと体を固定してすとんと眠りに落ち、
フェイトは少々不快な表情を見せてびゅんとダッシュに入った。

223 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2014/01/06 03:32:22.91 R6POwOr70 832/920

 ×     ×

「全く」

エンデュミオンラスボスの間で、レディリー=タングルロードはよいしょと立ち上がる。

「プラズマ焼却炉にダイブしたのは三回、だったかしらね。
五百年もあれば、もう一回ぐらい…」

言いかけて、レディリーはハッと後ろを振り返る。

「ネギ・スプリングフィールド、
それに、そう、あなたも一緒だった。
あなたは初めましてだったわね。もう英雄夫妻、とでも呼ばせていただこうかしら」

「又お会いしましたね」
「そう、そういう事。
魔法協会は私をバラバラの肉塊にして甕の酒に沈めて岩でも乗せておく事にしたのかしら?
魔法協会、或いは人の世が滅亡するまでは。
ねぇ、姫巫女様」

その声は、涙に割れ始めていた。

「駄目ね、見苦しい負け惜しみが止まらない。
改めて見せてもらったわ。
まさかあれを完成させる者が現れて、しかも、それが君みたいな坊やだったとはね。
嘲笑なんて下衆だけど、途方も無さ過ぎて笑うしかないじゃない。

まだ女も知らない坊やが世界のために、英雄の称号と引き替えに。
何と言う、愚かな選択を…それを授けた者は、今は麻帆良に落ち着いているのかしら?
暫く見かけないと思えばやんちゃが過ぎて封じ込められて、
世界を救った黒幕気取りなのかしら?」

「色々言いたい事もありますが、否定する程間違ってはいません」

ネギが静かに言った。明日菜もレディリーの繰り言を静かに聞いている。

「そう、否定などさせない、何と言う愚かしい事っ!!」

レディリーは叫び、ぐっと自分の胸を掴む。

224 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2014/01/06 03:36:00.51 R6POwOr70 833/920

「最早感じられなくなる程のその痛み、その痛みを私は知っている。
随分と、いい弟子を持ってやり甲斐のある仕事を成し遂げて、
あの女も又、随分と充実した一時を過ごしているみたいね。
そう、随分と充実した一時を。

それが、一時だからこそ、輝き充実しているからこそ、何度でも思い知る。
悠久の未来の中の一点の輝き、それがいかに残酷なものかを。
終わり、通り過ぎた、その後の………

それとも、今度は何か、自分と同じ、永久の道連れでも誘うと言うのか。
今は青臭い、人並みの若さに任せていても、必ず後悔する時が来る。
そう、今、私の邪魔をした事をあなた達はきっと後悔するっ!
ネギ・スプリングフィールド!!」

レディリーが叫び、赤い目を向けた。

「自分はそれでいい、どちらもそう言うだろう。
だが、思い知る事になる。慟哭を聞いた時、貴様は思い知る。
今のこの選択が、否、それ以前に根本的に如何に愚かな選択をしたものかを。
それを振り切るには貴様は優しすぎる。

その時は私に声を掛けなさい。
あなたと組む事が出来るなら今度こそ、この世の全てと共に終わらせてあげる。
この戯れ言は必ず真実になる、絶対に」

静かに首を横に振るネギを見て、レディリーは唇の端に笑みを浮かべる。

「絶対に、なりません」
「言っていればいい。何れ認めざるを得なくなる、若さ故の過ちを」
「あなたがそれを見る事は決してあり得ないからです」

そう言って、ネギはレディリーに杖を向けた。

「ラス・テル マ・スキル マギステル…」
「あら、この場で始末してくれるの?」
「ええ」
「まあ、あなたなら条理を覆すぐらいの魔力もあり得るけど、
そうだとするならば嬉しい事ね」

レディリーの憎まれ口にも構わず、
幾つもの光の矢がレディリーの体を直撃する。

225 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2014/01/06 03:39:33.01 R6POwOr70 834/920

「?」

光の矢はレディリーの体に吸い込まれ、光り出した。
光はレディリーの体の上で紋様を描き、大きな原虫の様に幾つもに分裂してうねうねと動き出す。

「アスナさんっ!」
「おおおぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっっっっっ!!!!!」

神楽坂明日菜が、大剣ハマノツルギを構えてレディリーに向けて突進する。
そして、大剣はレディリーの胴体をぶち抜いてそのまま壁に釘付けにした。

「が、はっ!」

レディリーが吐血し、明日菜が剣を引き抜く。
その、最早その身を分断しかねない傷の中心には、
ネギから吸収した光の筋が集中していた。

「シム・トゥア・パルス!!」
「なおれぇぇぇぇぇぇぇぇっっっっっっっっっ!!!!!」

そして、その光の筋が消滅した頃に、
その場にパッと現れた近衛木乃香にネギが後ろから抱き付き、
二人は光を放ちながら木乃香が力一杯白扇を仰ぐ。

「お、おおお、おっ…」

レディリーが、うめき声を上げてその場に膝を着く。
そこに、パッ、と、頭に袋を被った白衣の人物が姿を現した。

「すいません、お願いしますっ!」
「やれやれ、随分と手荒な往診だね?もちろん治すよ」

ネギが袋を外し、カエル顔の医師がレディリーの傷を診察する。

「うん、大体治っている。
これなら縫合さえ済ませれば学園都市の警備用救命セットで十分だね?」
「有り難うございます。本当はこちらで全て済ませたかったのですが、
どうしても足りなくなりまして」
「おおきに」

226 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2014/01/06 03:42:42.95 R6POwOr70 835/920

「パターンから見て東洋だね?
非常に質の高いものだ。治癒の効果が非常に澄んでいて無理がない。
只、本来なら完治出来るだけの技術がありながら、
そのための力が予想外の支出で足りなくなったと言った所かな?」

かくして、治療を終えたカエル顔の医師は再び袋を被って姿を消す。

「えっ?」

明日菜と木乃香がネギの放った強力な電気結界に取り巻かれ、それと共に食蜂操祈が姿を現した。

「これぐらいならちょっと計算したらすぐに突破出来るけどぉ」

顔から袋を外した食蜂が電子結界を一瞥し、取り出したリモコンをレディリーに向ける。

「オールデリートの上で打ち合わせた基礎データのみを再入力、
可愛い顔してエグイ事するわぁ、ゲスいって言われるわよぉ」
「これで、良かったですか?」

「ええ。ご要望の通り、詳しい事も覗かないでおいてあげたわぁ。
そんな時間力無かったし、
君ならそれをやろうとしたら横から察知力出来そうねぇ。
まあ、これから色々大変そうだし、気が済んだ、って事にしておいてあげるわぁ」

「有り難うございます」
「なかなか愉快なお茶会だったわよぉ、
なんなら又デートでもするぅ?」
「光栄です」

「本当に紳士さんねぇ。聞くだけ聞いてあげる、どこに連れて行って欲しいのかしらぁ?
やっぱり遊園地?」
「そうですね………じゃあ、プール………」
「あらぁ」

ネギが口を突いて言いかけた時、食蜂はずいっとネギの顔に視線と高さを合わせた。

「ふぅん、ネギ君もやっぱりねぇ。
いいわよぉ、とぉーっとも大胆力なビキニ用意してあげるわぁ。
お子ちゃまは素直力が一番よぉ。
紳士さんなのにそこまでストレートに言ってくれるって気に入ったわぁ」

227 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2014/01/06 03:46:22.85 R6POwOr70 836/920

「え?あ、えっと、いえ、そうじゃなくって、
何となくどこからともなくプールで泳ぐイメージが…」
「運動力全般は御坂さんの担当なんだけどなぁ」

ネギがわたわた言いかけた時、食蜂はひゅんと姿を消し、代わって現れたのが。

「やれやれ、君がすっかりマエストロかい?」
「最高の演奏をお願いできますか?」
「ふんっ!」

ステイル=マグヌスの炎剣が、
きょとんと座り込んでいたレディリーの顔面を直撃しレディリーが悲鳴を上げる。

「喚くなっ!」

ステイルの詠唱と共に炎は鎮火し、
顔には造形そのものが変化したと言う事を覗いては火傷一つ残っていない。

「ラス・テル マ・スキル マギステル…」

ステイルと明日菜、木乃香の三人、そしてレディリー一人が、
それぞれ別の青い光のドームに包まれる。

「べんとらべんとらー!!」

そして、レディリーは、ネギが絶叫と共に振り抜いた杖のホームランを受けて、
青いドームごと展望硝子をぶち破って宇宙空間へと姿を消す。
次の瞬間、ラスボスの間に繋がる通路は電子的侵入者の手で緊急隔壁で遮断され、
部屋にいた他の面々は一つ下のフロアに移動していた。

「あー、さっきのは魔法使いの呪文か何かかい?」
「ああ、いえ、宇宙を飛ばすんならあれがいいとどこかで」
「つまり、記憶を消され顔も変えられて地球上のどこかに墜落、ね」

一服つけたステイルが言う。

「普通に考えたら99%死にますけど、
ここまでの事をやった以上、その時はその時です」

そう言ったネギの目の前で、ステイルは木乃香に煙草を没収されていた。
そして、ネギは携帯を取り出す。

228 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2014/01/06 03:49:44.84 R6POwOr70 837/920

「公式訪問中に地球規模緊急事態に遭遇した
魔法使いネギ・スプリングフィールドの名において行った緊急介入の結果として、
元凶となった呪いはその全てに就いて解除を確認。

頂上のレディに就いてですけど、
記憶を科学の学園都市の最上位に位置する能力者に
顔の造形をイギリス清教でもその分野では高い技術の魔術師に
完全に変えられて一介の孤児として地球上のどこかに落下した筈です。

それから、瞬く星々の間から大変に魅力的な女性が落下して来たもので、
つい先ほどまで行動を共にしていました。
たっぷりとした茶色いロングヘアで、
少し垂れ気味の大きな目に眼鏡がおっとりした感じで凄く可愛らしい、
そして、素晴らしく豊満なバストがとても魅力的なグラマービューティーです。

お陰様で、そんな天使の様に魅力的なお嬢さんと
星空の下で大変親しく有意義な語らいの一時をもって
友誼を結ぶ事に成功しました事をここにお伝えしておきます」

「どこに電話を?」
「ああ、我々の側の連絡員です。
そこの所は大した問題ではありません。
重要なのは、今の電話の電波が着信した場所が科学の学園都市の敷地内だと言う事ですから」

「なるほど、ね。やろうと思えばそっちでも出来る、
だが、麻帆良が抱え込んだと思われるつもりはない、か」
「ご協力感謝します」
「まあ、神裂の件も含めて、落ち着く所に落ち着く話だと聞いているからね」

両手を上げたステイルが、顔に袋を被り姿を消した。

「それでは、僕達も帰りましょうか」

229 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2014/01/06 03:53:15.74 R6POwOr70 838/920

 ×     ×

エンデュミオン作業用地下通路。

「どうします?」

携帯電話の時刻表示を確かめ、一人の少年が尋ねる。

「行くわよ。馴れ合う関係じゃない、上の方が本気でヤバくなって…」

場所柄を外れてひらひらした格好の少女が言いかけ、
少年が機械ゴーグルを装着した所で、地下通路の天井がドカンとぶち抜ける。

「ギリギリセーフか?」
「アウトよ」

すとんと着地した垣根帝督に、ひらひらの少女心理定規が応じる。
それでも、無駄な事はしないと言う事で、一同サイドカーでの脱出を開始する。

「例のイレギュラーは?…」

尋ねたゴーグル少年は、次の瞬間冷たい死を覚悟する。
垣根帝督、学園都市レベル5超能力者第二位。
その時点で曖昧な決着など、ある筈がなかった。それが、ほんの僅かでも沈黙の時間が訪れる。

「逃げられた?」
「結論を言えばな」

仕事として事態を把握する心理定規に垣根が応じる。

230 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2014/01/06 03:56:42.27 R6POwOr70 839/920

「で、どうするの?」
「この件は一旦終わりだ。元々、今回の襲撃自体仕事じゃないしな。
元々は怪電波のイレギュラーの調査、依頼はそれだけだ。仲介人からは?」

「何も。アイテムもごそごそ勝手に動いてるらしいけど、
裏の情報だと、今回の仕事、どうも仲介サイドも一杯食わされたみたいね。
エンデュミオン自体がイカレて、
その大元は理事会や暗部にもパイプがあって、って事で、上の方も暫くゴタつくわよ」

「じゃあ、ちょっと寄り道したがこれ以上余計な深入りは無しだ」
「分かった」

心理定規が短く返答し、垣根は反っくり返る。

「なんだありゃあ?何だってんだぁ?この第二位を…
テメェなら知ってるってのかアレイスターよぉ…」

 ×     ×

科学の学園都市エンデュミオンシティー。

「お帰りなさい、ネギ先生」

避難客で未だざわつく路上に待っていたのは、結標淡希だった。

「ご協力、本当に有り難うございました。
関係者を下からあそこまで、それもそれぞれが関わり合いにならない形での運搬。
空間移動を超える座標移動に長じた結標さんだからこその素晴らしい手際でした」

深々と頭を下げるネギの前で、じゅるりと音が聞こえた以上、
そのまま動きが無ければ数秒で結標は飛び蹴りに倒れていた筈だ。

「いえいえとんでもない、
あの程度の仕事、ネギ先生のお願いとあらば朝飯前のお茶の子さいさいでございます」
「淡希さん」
「え?」

ネギが、すっと前に出る。

231 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2014/01/06 04:00:49.26 R6POwOr70 840/920

「それでは、少し時間は遅いですけど、
ブレックファーストの前に夕食にしましょう。
ホテルのレストランに予約を入れてあります。
今回は淡希さんに非常にお世話になりましたから、是非ともそのお礼を」
「は、ははははは、ははははははいっ!!!!!」
「では」

ネギが右手を差し出すと、結標はぐわんぐわんぐわんと何度か揺れ動いてからその手を取った。
ネギがするりと一礼した時、天を向いた結標の顔面からは赤い噴水が迸る。

「あー、いいんちょ」

物陰で、神楽坂明日菜が雪広あやかに尋ねた。

「ネギ、ああ言うのどこで覚えてる訳?」
「権謀術策渦巻く社交界と言う戦場を渡り歩いて来ました。
その内に、生来の武器と言うものは知らず知らずの内に研ぎ澄まされるものですわ」
「絶対いつか刺される…」

「まあ、あの方も大変な働きでしたから、今夜ぐらいは」
「ん?」
「どうかしまして?」
「いや、ネギが取り出してるの、あれってホテルのルームキー?」

次の瞬間、神楽坂明日菜はちょっと久々に再会した幼馴染みの親友相手に、
野外にも関わらず殿中でござるに及んでいた。

233 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2014/01/09 14:22:46.98 FDL90NFq0 841/920

 ×     ×

「いかがかしら?」
「美味しいです」

ネギ・スプリングフィールドの素直な感想を聞き、
最高のローストビーフを提供した者としては目を細める。

場所は、ロンドン聖ジョージ大聖堂。
その中でも、比較的小さく、一見して質素ながらも、
調度、人、料理、全てにおいて一際上流なる食堂。
そこに案内する事が出来る者は極めて限られていた。

「閉ざされた帝国とて、今の時代には真の密室に非ず。
まして、どちらが優位であっても、
経済的な結び付きを有している以上、現金と言う者は多く持っている者が勝つ。
シンプルなルールたる事ね」

「グローバル経済のお話ですか?」
「その様にも言いたる話。手広く商いを行うと言えば、ネギ先生の教え子の中にも、
そうした商いの家に生まれたる娘御がありけると聞き及ぶ」
「お陰様で、最近はなかなか顔を出せませんが、
僕の任された教室は、ユニークな事には事欠きません」

「なるほど。最近もそちらの方面で、
少し大きな規模の資金投入が、それも迅速に行われたとも聞き及びたる」
「速く、遅く、大きく、小さく、どれが過ぎても駄目、
どの戦争もそうですが、経済戦争と言うものは難しいものみたいですね」

234 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2014/01/09 14:28:25.65 FDL90NFq0 842/920

「それでも、その見極めが確実にはまるなら、
途方もない利益に結び付ける事が出来る。戦争とはそういうものではなくて。
雪広、那波を中心としたシンジケートによる資金投入。
それも、一見バラバラの契約をリンクさせた、
幾らでもその意図を言い抜ける事が出来る巧妙なスキームで」

「教会の影響下にあるシティの金融筋も一枚噛んでいる、と、
僕の耳には入っていますけど」
「お陰様で。
そちらの単独でも十分に行ける、むしろその方が都合がいい話だった筈でありけるものを、
どういう筋からか、敢えてこちらの資金が一部相乗りする様に話を持って行った者がありけるみたいね」

「そして、その話に乗って了承した人も。
お陰様で僕と縁ある企業が無理な資金繰りをせずに済みました」
「あの短期間に投ずるだけの資金を用意しておいて無理とは又。
昔から、教会と金融の裏側の関係は深いもの。
美味しい儲け話を有り難う、と言うておきたるかしら」

「お役に立てて何よりです」
「傍目、日本辺りから見るなれば同じ国の同じ魔術。
なればせめて親しき隣人でいたき事」
「お陰様で、細くとも確かな道を付ける事が出来ました。
科学の学園都市、そして宇宙、魔術サイドとしてそこに進むための道を」
「その道を行くはロンドン、ウェールズ、そして日本の関東関西」

にこやかに語り、ローラ=スチュアートはフォークに刺したビーフを持ち上げる。
些かお行儀悪く大口でも開けなければ物理的に無理、
と思われた肉片は、ネギの目が追い切れぬ程の速さで、
一見した所は美少女な最大主教のにこやかなる口の中に収まっている。

「牛そのものを捌いた伝統的なおもてなし。
それでいて、その中でも一番美味しい、極上の所を一呑みにしてしまう」
「あらあら、レディに対して些か失礼ではなかりける?」
「見ていて気持ちがいいです」

「ふふっ、元気な娘御が好み、と聞きたる事よ」
「流石に修行として導かれた道だけあります。
日々圧倒されていますよ」
「又左様な。世の殿方に言わせればハッ倒されたる事よ、
何を贅沢な羨ましいと」
「そうですね、とても魅力的な女性達の集まりです」

235 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2014/01/09 14:33:37.26 FDL90NFq0 843/920

「まあ臆面も無き事。そなたが如き紳士と対面したる乙女の身としては嫉けたる事。
些か冒険好きのお転婆娘が揃いたる様なれど、先生として如何に見ているものなるか?」
「ええ、何と言っても元気が一番。
それに、まだ未熟な所はあっても、だからこそのこれからです。
そうであっても、筋の通らない事はしない人達です」

「信頼のある事ね」
「お陰様で、一緒にあの夏を乗り越えましたから。
自分達の行いに就いてはきちんと考えて行動出来ると。
それに、その上でも尚、彼女達に理不尽な迫害を加えると言う者がいるのであれば」

ネギが、カットされた肉片をナイフとフォークで切断し、
その一切れを平らげる。

「それはその個人も団体もこの世の歴史から跡形もなく消滅すると言う事ですから。
およそ聡明な知恵を頂く組織であればその様な事はしませんし、
それが分からない程に愚かな相手であれば、
そもそも彼女達をどうこうする事など出来ません」

 ×     ×

「しかし、その体でよく上まで行ってお手伝いしたもんだにゃー英雄君の」
「まあ、ね。上からの話でもあったし、
僕が断れば彼も諦める、その場合、場所からして「不死」を握るのはほぼ確実に学園都市だ。
彼は別にそれでも構わないと言う素振りだったが、
一つ二つ恩を売っておくのも悪くないと言う事さ」

見舞いに来た土御門元春の言葉に、病院のベッドでステイルが応じた。

「お陰さんで、麻帆良との関係も何とかなりそうかにゃー?」
「神裂火織、土御門元春の命懸けの助勢に深く敬意と感謝を表する。
故に、麻帆良学園及び日本の魔法・呪術協会においては、
麻帆良学園に関して前日の夜に特段の異変が存在しなかった旨、公式記録上取り扱う。
上と上との密約で、大凡この線でまとまって後は事務方が名目を付ける段階らしい」

「なるほどにゃー、雌狐とトンカチ爺ぃ、どっちも食わせモンぜぃ。
もっとも、その前にその雌狐を口説きにかかった子狐がいたみたいだけどな」
「英雄、か。確かになかなかの狐だったらしいな。
ハナから知ってたのか?」

236 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2014/01/09 14:38:45.74 FDL90NFq0 844/920

「状況証拠だけどにゃー。
あの事件の結果として、オービット・ポータルはエンデュミオンごとぶっ倒れそうになってる。
当分揺れ続けるだろうが、エンデュミオンに関しては、実の所大方の話はついてやがる。

エンデュミオンの契約、技術、人材、その他諸々、
「エンデュミオン」って存在そのものの実質的な帰属は水面下で決定済みって事だ。
まだかなりの部分が密約だが、それでも、名義自体は学園都市内の企業に買い取られてる。
それを注意深く追跡して行った結果、行き着く先は雪広、那波」

「その名前は?」
「英雄君と関わりの深い、って言うか羨まし過ぎるセクシービューホーな
英雄坊や先生の教え子の実家が経営してる財閥だにゃー」

ステイルとしても、ここまであからさまな絵解きをされては笑うしかない。

「外の財閥として、学園都市の外部協力機関を初めとしてじわじわと下準備を進めて、
タイミングを見て莫大な現金と培った人脈と手練手管をあらん限り注ぎ込んだ。
無関係や名義や契約を山ほど噛ませて大元が誰の意思による買収かを察知されない様にな。
金も人も契約も、そのタイミングに合わせて動ける様に調整されてたとしか思えない」

「つまり、それが使える、必要になる事を知っていた、そういう事か」

「これでもしオービット・ポータルが今の時点でもエンデュミオン落成式典大成功、
資本介入なんて欠片も必要としない前途洋々の有望企業でした、なんて事になっててみろ。
投入される予定だった現金だけでも、三日も寝かせりゃあ雪広、那波はもちろん
日本経済そのものの動脈停止で恐慌が勃発するレベルぜよ。
途方もない手間暇を掛けて、一つの方向一つのタイミングに向けて契約も人脈も練り上げられていた。
結果から馬鹿みたいな手間暇掛けて逆算してようやく分かるってぐらい深く、静かにな」

「で、エンデュミオンは英雄君に乗っ取られたのかい?」
「いんや、流石にそれは無理だ、学園都市の最先端科学を外の企業が乗っ取るなんて、
条例を含む国内国際の法律上の制約その他諸々、どれだけ金を積んだって無理なモンは無理。
形の上では雪広中心のシンジケートが手にしたのは、形式上は精々エンデュミオンの1%。
だが、株式、技術、契約、人脈、要所要所をきっちり押さえて、
支配は出来なくても確実に声が届くルートをその1%で確保したって所だ」

「まあ、それでも大変な事だと言うのは分かるけど、正直気の長い話だ」
「まあ、坊やは若いですからにゃー。
もっとも、そういう訳で、本当はもっと気の短い物騒な事も考えてたって説もあるけどにゃー」
「気の短い物騒な事?何か?英雄君が武力征服でも企んでいたとでも言い出すのか?」

そう問うたステイルは、土御門の意味ありげな笑みに目の動きを止めた。

237 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2014/01/09 14:42:26.34 FDL90NFq0 845/920

「「英雄」の「Blue Mars計画」それ自体は、
人道上、実利上の理由で科学、魔術、政治の最高レベルに於ける内諾は得られている。
故に、そのために必要な学園都市訪問であれば、
魔術サイドの協定上からも例外的に容認された。
「英雄」もそう根回しをした。
レディリーのプランが弾けるそのタイミングにな。それは偶然か?」

「分かってて自分から介入しに行った、そう言うのか?」

「実に絶妙なタイミングだにゃー。
許可を受けてそこにいる以上、自分の身を守るのは当然の権利。
まして、地球規模の破局的な事態が今そこで起こる、
って言えば、それ以上の道理はないぜい。
実際にレディリーの地球規模破壊プランによって、
取り敢えず自分の命と地球が間違いなく危なくて自分は現場のすぐ側にいる」

「正義の魔法使いの降臨、か。話に聞くあちらの世界でやったのと同じ様に」

「ああー、正に、あっちの世界とやらでそれをやらかして
世界を一つ救った実績の持ち主だからにゃー「英雄」君は。
緊急事態に於ける正当防衛を理由とした直接介入。
と、言って、エンデュミオンを物理でぶっ壊して済むって話じゃない。
「英雄」は宇宙エレベーターを欲しがっていた。
事態収拾のための情報収集を名目としたオービット・ポータル社の接収」

「正に火事場泥棒だな。
そのままバベルの塔の設計図をぶっこ抜いて持って帰るのが目的か?」
「それで済みゃあいいんだがにゃー」
「何?」

「エンデュミオンを建造したオービット・ポータル社はあくまで学園都市の最先端科学企業だ。
少なくとも魔術サイドから見るならばな。
それが、魔法の「英雄」を、本人が訪問してる真ん前で危険に晒した、それも地球諸共。
と言ったらどういう事になる?」
「学園都市そのものが「魔法」に宣戦布告、そう言う解釈か?」

「事はあくまで「科学」の側の責任、
そして、当事者として巻き込まれている「被害者」に関与の度合いを確かめている暇は無い。
そういう名目を付けたとしたら」

238 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2014/01/09 14:46:26.28 FDL90NFq0 846/920

「エンデュミオン、オービットポータル諸共、と言う形で「科学」そのものを」
「ぶっ叩く、って事さ。オービット・ポータルはあくまで「科学」のそれも最先端企業。
監督責任がある以上は学園都市が知らなかったでは済まされないってな。
「英雄」以下の精鋭部隊が、「敵ではない事が確認されるまでの間」統括理事全員を制圧する電撃戦、
って辺りが一番ありそうなシナリオかにゃー?」

「精鋭部隊…おい、土御門」
「ああー、そういう事だにゃー。
「英雄」が何よりも誰よりも信頼する、あの夏に世界を一つ救った「戦友」。
イザ動かすのに、これ以上の少数精鋭部隊は無いぜい。
そいつらが当日、この学園都市に配置されてたんだ」

「じゃあ、あの女達はハナからそのために…」
「いんや、本人達は知らなかった。これはまず間違いない。
直前まで知らなかったからやむを得ず緊急措置をとった、この建前も必要だしにゃー。
うっかり捕まったら拷問自白剤サイコメトラーなんでもあり、下手に通信も出来ない。
そんな街で事前に説明して動かすのはリスクが高過ぎるぜい。
只、自信はあったんだろうにゃー」

「自信?」
「ああ、イザ声を掛けたら、それも間違いなく地球規模の非常事態が目の前に迫っているなら、
イレギュラーはその場で英雄の白き騎士団になる、その揺るがぬ自信がな。
学園都市を訪問中の「英雄」が緊急事態を察知したために、
「英雄」自身が、或いは「魔法」サイドが「英雄」の安全を最優先とする緊急措置として
信頼する部隊を超法規的に派遣した。そういう話に持っていく」

「それで実力部隊を派遣しての武力介入、強引すぎる解釈だ」

「細かい合法性に於いて色々問題はある。
そんな事をして魔術サイドの正式な審問になれば「英雄」や「魔法」はかなりまずい事になる。
だが、その場合、それ以上にまずい事になるのは、
学園都市の責任の下で「魔術」への宣戦布告同然のレディリー・プランを暴露される学園都市。
そう踏んでの短期決戦。どっちにとっても不都合な「魔法」と「科学」以外の介入を受ける前に、
「英雄」が中枢を掌握した時点で、誤解を解くと言う名目での将来に渡る大幅譲歩が約束される」

「あの坊やが、そこまで目論んでいたと?」

239 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2014/01/09 14:50:04.30 FDL90NFq0 847/920

「プランのためにエレベーターを初めとした最先端の宇宙技術を求める「英雄」にとって、
それを独占したまま鎖国し続ける、「魔術」サイドである「魔法」との交渉も一々面倒臭い、
そんな学園都市の存在そのものが余りにも面倒に過ぎる。

それならいっそ、この機会に学園都市そのものを呑んじまおう。
科学、魔術、あらゆる利害の中からあんだけのプランをここまでに漕ぎ着けた「英雄」君だ。
その優秀な頭脳がそんな算盤を弾いたとしてもおかしくないぜい」

「レディリー・プランを奇貨として、
自分自身を的にしての学園都市中枢の一時的征服と弱味に乗じた大幅譲歩の要求」
「言ってみりゃあユスリだにゃー」
「だが、そんな事は起こらなかったな」
「ああ、最初っから俺の妄想だったのか、それともマイルドに方針転換したのか。
ま、後の方だって考える要素もあるにはあったけどにゃー」

「なんだそれは?」
「もしかしたら直前にあったねーちんと「魔法」の言わば突発的遭遇戦。
これでイギリス清教と学園都市の二面展開を本気で考えざるを得なくなった、とも考えられるが、
あの事件の当日、窓の無いビルの案内人が「英雄」を中の主の下に案内している」
「なるほどね」

十分過ぎる理由だった。
ステイルはその主ともネギとも双方に面識がある。
確かにネギ・スプリングフィールドは「英雄」の称号に恥じない、
桁違いの実力を持つ「魔法使い」。

であればこそ分かった筈だ。あそこに立ち入った以上、
もしその様な計画を立てていたとするならば、
それが如何に無謀で見当外れに思い上がったものであったのかを。

「それで、拳による解決から札束で頬をひっぱたく穏健な方向に方針転換したと言う事か」

「あれだけの戦力を潜伏させていた配置から言って、
ギリギリまでそれを考えていたとしても不思議は無いんだけどにゃー。
俺の聞いている限りでも、まあ、色々あったらしいな。
結果だけで見るなら、超能力者の中でも第一位と第二位は
実際に「魔法使い」にぶち負かされてる。

第三位も「魔法」が本気を出せばまず無理だったって情報が入ってるぜい。
第四位はトラブッた魔法使いをボコボコの半殺しの目に遭わせたって言うが、
これが夏のドサクサで成り立てのぺーぺー、
「魔法使い」とガチでぶつかったらどこまで通用するか分かりゃしない」

240 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2014/01/09 14:53:23.60 FDL90NFq0 848/920

「何を考えている…魔術サイドの人間が科学の能力者のそれも頂点と片っ端から、
それも、世界規模のプロジェクトに直接関わる「英雄」の直属が。
それがどんな政治的な意味を持つか分からないとでも…」

「まーまー、丸で何かのオールスターお祭り劇場版みたいに豪華な対戦カードだにゃー、
誰かがこんなの見てみたいって思ったんですかにゃー。
それに、この事は表沙汰にはならない、それは最初っから決まってた事だ」
「決まっていた?」
「ああ、魔術の中でも噛んで来たのが麻帆良とネセサリウスだったと言う時点でな。
簡単な事だ、表沙汰になった所で、誰も得をする者がいない」

確かに、ステイルもそう言われて少し考えると、割と簡単に納得出来そうだった。

「学園都市の科学のバベルの塔で魔術のアルマゲドンを仕掛ける。
そんな事が魔術の世界で表になった時点で、
魔術サイドの中に於ける科学協調派は立ち直れない程の打撃を受けて、
魔術サイドは保守・極右に牛耳られる。

活版印刷を科学と呼んで魔術に用いる事が許されるのか否か一々厳密に教義にお伺いを立てる程にな。
そこを軽視したら、今度こそ魔術サイド内でヒステリー状態からの戦争になる。
最先端科学の技術導入が絶対条件でタイムリミット切られてる
「英雄」にとっては絶対あってはならない事態だにゃー。

同時に、普通に考えたら学園都市も破滅的にヤバイ事になる。
学園都市の監督下でエンデュミオン完成まで容認していた時点で、
普通に魔術サイドへの宣戦布告と受け取られる。
雌狐にした所で、何か得のある陰謀でもない、
只の死にたがりの自爆で現実的な科学協調派としての権益を失うなんて愚の骨頂だ」

「つまり、レディリーのプランは蓋をする。
その事で三者の利害は最初から一致していたと言う事か」

「そういう事だにゃー。それが分かった上で、
英雄君は自分の身一つ的にしたチキン・ゲームを仕掛けた。
レディリー・プランを放置したら物理的肉体的な意味で破滅。
表沙汰になったら魔法世界救済とか戦争とかそう言う次元で政治的に破滅」

「推測通りなら、結局、居直ったのは学園都市で英雄はハンドルを切った、そういう事か」

241 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2014/01/09 14:56:10.19 FDL90NFq0 849/920

「まあ、お互いそれなりにいいタイミングだったと思うぜい。
何の根拠は知らないが、「魔法」も「魔術」も、第三次世界大戦になろうとも恐るるに足らず、
それがハッタリとはとても思えない、
そんなモン相手にユスリ掛けるなんて出来る相談じゃないからにゃー。

それに、その性質上、イギリス清教とも慎重に共同歩調を取ってる。
エンデュミオンの買収工作にしたってそうだ。
英雄君の買収工作に相乗りして、教会の資金がかなり投入されている」

「相変わらず鼻がきく、って事か」
「それもあるが、どうやら誘い込まれたってのもあるにゃー。
もっとも誘い受けとかなんとか複雑怪奇な主導権争いって事もあるけどにゃー」
「学園都市への橋頭堡を築くなら、「魔法」が独占した方がいい気もするが、
こちらも巻き込んだ方が得策と踏んだか、共犯者として」

「冴えてるにゃー。
色々と名目やダミーを噛ませてはいるが、「魔法」による学園都市への干渉。
それが「魔術」サイドで問題になった時、
外での経済活動がたまたまそうなった、
そう言い抜ける共犯者が欲しかったって所かにゃー。

元々、学園都市へのパイプに関してはイギリス清教が一歩も二歩も先んじてる。
先走って恨まれるよりは堅実にってのもな。
「Blue Mars計画」の性質上、
魔術サイドの中でも保守・極右から九割方隠して同意させてる上に
科学協調派同士の関係が破綻したら終わりだからにゃー」

「さて、「英雄」坊やが共犯者として御せる相手かね」

242 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2014/01/09 14:59:17.87 FDL90NFq0 850/920

「まあな。数字だけでイメージを簡単に言うなら、
「英雄」が握ったのはオービットポータルの1%に過ぎない。
そして、イギリス清教が握ったのはその中の更に1%。
だから、仮に魔術や科学のうるさ方が察知しても、
一般的な経済活動じゃない不法な介入だと言うのは簡単じゃない。

こっからが知恵比べだにゃー。
資金、契約、人脈、技術、
支配期出来なくても確実に声が届く様に、その1%をラインにしてやがる。
今ん所は穏便にやってく構えだが、
一つ間違えたら内側から1%が99%にころっと引っ繰り返るって事だって十分あり得る配置だ」

「つまり、二つ引っ繰り返ったら」
「「英雄」坊やが雌狐にぱくっと呑まれてしゃぶり尽くされる。
そういう結果も十分ありだにゃー」
「どちらかと言うと、そちらの方が説得力があるんだがね。
相手が相手だ、いくら魔術師としての実力があっても、
そもそもその意味でも桁違いの相手、御せるものか」

「ま、現にこの資本注入スキームを成立させた、
あれでなかなかの狐だからにゃー。
プランに関わる公式訪問として色々動いてはいたが、
どっちにしろ資本介入自体はやるつもりだったんだろうしにゃー」

「統括理事会による屈辱的和平条約の調印後なら、
ますますもって用意した大金も効果的だっただろうな」

「まあ、実際の所はそうならなかった訳で、
それでも、雪広のほそーい紐付き資本注入を
受け容れた方がマシだと言う事になる条件を整えて交渉相手を絞り込んだ。

そうしなければもっとヤバイ相手が介入するか、
エンデュミオンみたいな先端技術抱えたままグダグダのカオスが長期化するか、
どっちにしろもっとまずい状況に陥る。
その事が理解出来て的確に対処出来る頭脳と人脈の持ち主を見付けておいて、
互いの利益になる方向で早々に話を付けた」

243 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2014/01/09 15:03:01.58 FDL90NFq0 851/920

「そうやって聞いてると、学園都市は外の「魔法」に随分いい様にされた様だが?」

「そうも言えるが、ま、見た感じそうでもないみたいだぜい。
元々、「英雄」と学園都市の利害は一致していたんだ。
「英雄」や子飼いのイレギュラーが多少飛び跳ねようが、
表立って学園都市を潰して困るのは「英雄」も同じ事。
「魔術」を巻き込んで事を荒立てたら、
特に宇宙絡みとなると最悪にヤバイって点ではむしろ切実だ。

夏に世界を一つ救った「英雄」はそこまで馬鹿じゃない。
だったら死にたがりの魔術師の一つや二つ、
世界を救う「英雄」とネセサリウスと幻想殺し、
利害にかなうモンがこんだけ揃ってりゃあ焦る理由も無い」

「所詮は「英雄」も僕らも、この街では手札の一つだったと言う事か」

「精々池の中で飛び跳ねるのをニヤついて眺めてたって所だろうよ。
池に雷魚やパイクを放そうが、中にいるのは両○勘○モデル並に逞しい錦鯉だからな。
それに、「魔法」の実力はもちろん、
「魔法」サイドが「魔術」のみならず「科学」として有している能力。
技術力初め才能、発想力、それを知る貴重な機会を得た、なんて事も言ってたか。

当分は「科学」は静観、「魔法」の宇宙開発が害になるって事は今の所無さそうだ。
後は「魔術」と「魔法」、雌狐と子狐の笑顔の睨み合いって事になるぜい。
子狐って言やぁ、あの雌狐、妙な事を言ってたが…」

そこで、二人はノックに気付いた。

245 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2014/01/12 03:46:49.30 UehW/yQc0 852/920

 ×     ×

そこで、二人はノックに気付く。
土御門の案内を受け、病室に現れたのは佐倉愛衣だった。

「おおう、麻帆良の可愛こちゃんだにゃー」
「その節はどうも」

愛衣は、土御門に礼儀正しくぺこりと頭を下げる。

「で、何の用だい?」

ベッドの上から、ステイルが素っ気なく尋ねる。

「具合の方は?今回の事件の負傷と聞いたけど」
「おおっ、お見舞いかにゃー?」
「さてね、「科学」のど真ん中で戦力に関わる情報を
所属の違う魔術師に教える義理も無いからね」

「そう。お陰様で私の方は今日治療が終わったから、
物の順序として紹介してくれたあなたにはお礼を言っておく、有り難う。
それに、魔法教会とイギリス清教の関係にしても、
少なくとも今現在、エンデュミオンの事件に関しては既に警戒が解けているから」

「そうかい。お礼は承っておくよ」
「分かった」
「ふーん」
「?」

顎に指を乗せて唇を歪める土御門に愛衣が反応する。

「いや、リアルタイムのツンデレの現場って、
なかなか滅多に見られるモンじゃないからにゃー」

246 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2014/01/12 03:51:51.36 UehW/yQc0 853/920

「は?いや、それは無いです。ないないないないない、
いくら何でもパンクなヤニ塗れのクレイジー神父とか
ストライクゾーンを宇宙の果てまで広げても無理」
「失敬だな君は。僕としても、敵対するなら塵にしてやると言うだけで、
小生意気な未熟者にかかずり合ってる程暇じゃないからね。
最初から眼中に等ありはしないよ」

「それはどうも、利害が一致して助かります。
どうぞ生涯聖女マルタに殉じて下さい」
「いい加減な日本人の魔法使いらしい台詞だ。
どうせグラビアのアイドルに熱を上げるのが関の山のお子ちゃまだろうに」
「いやいやー」

ずいっとベッドに迫ろうとする愛衣の前に、さり気なく割り込んで口を開く土御門。

「案外そうでもないみたいだにゃー。
だーって、メイちゃんフツーにいい線いって可愛いからにゃー」
「あ、えっと…」
「そうかい」

「ま、意中の君はどっちかって言うと黒くてチビなワンパク坊やって事だから、
確かにタイプとしては大外れって事になるにゃー。
土御門さんの地獄イヤーが聞いた所では、
なんかもう既に本妻さんがいて同居済みで公式設定並の鉄板フラグで
ウエディングドレスでゴールインまで一直線って聞いてるけどにゃー」

佐倉愛衣なのだから洒落にならない表現として
発火しそうな勢いで見る見る真っ赤になる愛衣の耳朶を目にして、
ステイル=マグヌスは袖で顔を隠しながら懸命に笑いを噛み殺す。

「んー、やっぱ同居済み同棲生活ってのは割り込みNTR超難しい
二人の世界でゴールインまで一直線な最強パターンですたい。
ステイルと話が合うのもよーく分かるにゃー」

プチィィィィィィィィィィィンンンンンンンンン

247 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2014/01/12 03:57:22.49 UehW/yQc0 854/920

「………そうですよ………ヒクッ………大体、最初から同居してるだけでも思い切りリードなのにグスッ………
勝手に付いていってバラバラになったのにウグッ旅の間中ずっと一緒とかどういうハンディですか?ウエエッ………
挙げ句の果てにズズッ、只の目立たない一般人とか言っといて、
あんなチートファクト引き当てるとかギリギリギリギリ………それでポジションはずぅーっと相棒でアハハハハハハ、
昨日も今日も明日もずっとずーっと一緒の部屋で一緒にご飯食べて一緒にフフ、フフフフフ、フフフフフフフフフ、………………
メイプル・ネイプル・アラモード………
契約に従い我に従え炎の覇王………」

「あー、何かにゃその学園祭の最終日の上空ででも爆発してそうな呪文詠唱は?
ステイル、ステイル君、ステイルさんじゅうよんさい、
怪我人の身で病室中にルーン配置とかあんまり無理したらいかんぜぃ………
おっ大事にぃーっ!!!」

びゅうんっと病室から消えた土御門を見届け、愛衣はふーっと息を吐く。

「冗談はさておき」
「冗談だったのかい?どう見ても本キ…」
「何か仰いまして?」ニコッ
「いや、何も」

ゴゴゴゴゴゴゴゴと建物を揺るがしそうな効果音は全力で聞かなかった事にする。

「取り敢えず今回は成り行きでも協力してもらった件も含めてお礼は言っておきます。
何れ、非公式ではあっても、こちらの上からも相応の事はあると思うから」

「そうかい、承っておくよ。
まあ、こっちも協力してもらった身でもあるからね。
麻帆良にも、英雄にも、君にも。それに関しては礼は言っておく」

「承りました。それでは」
「ああ………お勉強は出来るんだ。精々健全な魔法使いをしていればいい」
「承りました先輩………これは私が口を出す事じゃない」

ふと足を止めて愛衣が呟く。

「そのルーンを完成させた狂おしい想い。
一人の女として畏れるかも知れない、憧れるかも知れない」
「女として、ね」

どうやら怒るまでも無いと言う風情のステイルにぺこりと頭を下げ、
愛衣が出ようとした病室のドアがバーンと開く。

248 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2014/01/12 04:02:29.07 UehW/yQc0 855/920

「あれーっ、どうして麻帆良の負け犬魔法使いがここにいるんですかー?」
「えーと、三対一の結果を威張ってる時点でお子ちゃまにしか見えないんですけど」
「あー、こいつ毒吐いたー、ししょーなんかあったのーっ!?」

ステイルが眉間を摘む間に、
黒い触手の巻き付いたジェーンとマリーベートの体がむくむくと空中に持ち上がる。

「全く、迎えに来て見れば病院で騒がしい」

そういう高音・D・グッドマンの目からは、イメージ映像的には既に黒目が消えていた。

「3on3なら、今すぐにでも相手になりますけど」

腕組みして視線を走らせる夏目萌に、メアリエは困り顔のお姉さんの笑みを浮かべる。
そのメアリエの顎からすーっと視線を下に向け、
この学園都市のまっただ中でも相変わらず風通し面積の広い魔女装束のメアリエを見て、
自分に視線を向けてひょいと下を向き、相変わらず「負けた」と夏目萌は自覚を新たにする。

メアリエがツカツカと歩き出す。
そして、高音とずいっと相対する。
しん、と、部屋が静まり返る。
メアリエが一礼し、高音が礼を返す。
それで終わりだった。

かくして、何やら騒がしい背後を多少は気に掛けながら、
高音達のチームは病室から廊下に出る。
そこで、愛衣が携帯電話を取り出した。

「えーと、件名…人生と書いて妹と読む?
先ほどのお詫びに一発逆転絶対勝利必殺必中NTRルート大成功万歳確定な最強アイテム
大堕天使…この画像…」

後ろから覗き込んでいた高音が自分の携帯を取りだした。

「もしもし、ええ、手段は問いません。差出人の居場所を検索して下さい。
ええ、 最 優 先 です」

249 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2014/01/12 04:05:46.14 UehW/yQc0 856/920

 ×     ×

「全く、何と言うのかにゃーあの関係は…」

病院を出た土御門は、
建物の裏手に回って言いかけた所でぴたりと動きを止めた。

「あなたの何れの連絡先も、ネギ先生のプランの利害関係に大きく関わる事になった」

振り返った土御門元春に、桜咲刹那が告げる。

「そうだな。それじゃあ早速一つ聞かせてもらおうか?」
「なんでしょうか?」
「レディリー=タングルロードはどこに行った?」

「分かりません。
実際に報されていないのですから、例えその髪の毛をどう使おうが結果は同じです。
もっと言うと、恐らくネギ先生も知りません。
只、害はありませんので無駄な手間を掛ける事もありません」

「それはつまり、「魔法」がレディリーを逃がした。そう解釈していいんだな?」
「学園都市、イギリス清教も了承しての事です」
「肝心な所が伝わっていないらしいな。
舞夏を人質にする仕掛けを張って俺に脅しを掛けたクソアマを「魔法」が逃がしたのか?
そう聞いているんだが?」
「その通りです」

返答した刹那の表情に変化はない、冷静沈着な仕事モードだ。

「個人として「魔法」に報復しますか?
それとも、口八丁情報操作で「魔法」への包囲網でも構築しますか?」
「その価値は十分にある。俺にとってはな」
「私はそれを看過しない」
「だろうな」

土御門が折り鶴を摘み上げる。

「今更あなたに言う事ですか?神鳴流は武器を選ばずと。
直接戦闘なら私に分があります。玉砕戦を挑みますか?」
「戦闘じゃない、通信だ。ネセサリウスから潜入している人間もいる。
それよりもここは学園都市だ。息の掛かった高位能力者を呼んでもいいんだぞ。
そっから楽しい人質交渉、舌でも噛んでみるか?」

250 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2014/01/12 04:09:10.74 UehW/yQc0 857/920

「嘘ですね。学園都市で「魔法」と事を構える。
ネセサリウスがそれをやるメリットは無い、タイミングが絶望的に悪過ぎる。
超能力者の戦闘力に関してもある程度の情報はあります。
あなたの様な人にレベル5を二人も三人も動かす権限、人脈を与えるとは思えない。危険過ぎる。

レベル5一人、その下なら二十人三十人束になれば何とかなるかも知れませんが、私も只ではやられない。
今、このタイミングに陣営が交差する局地戦を起こす事は、
間違いなく土御門元春の基本的な目的に反する、あり得ない」

「俺の目的か」

「レディリーは、罪の前に途方もない罰を受けて来た。
今、生きている可能性自体が極めて低い。
これからも致死率や更に厳しい可能性の方が九割を超える人生、
なぜ罰せられるのかも理解していません。

最終作戦での直接の死者こそ避けられたものの、ディダロス氏の様に実際に彼女に殺された人もいる。
これが罪と罰の釣り合う正しい裁きなのか、正直言って正答は出せません。
それでも、これ以上の深追い、まして「魔法」との争いは、
あなたの元々の目的を考えても本末転倒にしかなりません」

「優等生の回答だな。
「裏」は複雑でいてシンプル、そして譲れない我が儘のパワーゲームだ。
裏であれをやった人間がのうのうとして生きている、それはあっちゃならない事だ。
あれをやった人間がどういう目に遭うべきか、
それは、何のために俺が闇にいるのかと同じ意味を持っている」

「もう一度言います。
土御門元春の何れの連絡先も、ネギ先生のプランの利害関係に大きく関わる事になった。
土御門元春のカウンターパートナーとして「魔法」が選んだ者は、
土御門元春の本気がどれ程のものか、それをよく理解している。
だから、脅し、等と言う無駄な事はしない」

刹那はカードを取り出した。

「出来るのか?何食わぬ顔で笑い合ってそのすぐ後で、
背中を刺して心臓を抉る真似をオマエに出来るのか?」
「ネギ先生だけではない。
ネギ先生も含めて、私の大切な人が途方もないものを擲ったプランです」
「そのために人柱になって土台に埋まったとでも言うのかにゃー?」

尋ねた土御門の眼前から刹那の姿が消えた。

251 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2014/01/12 04:12:19.66 UehW/yQc0 858/920

「脅しはしないんじゃなかったのか?」
「無益な殺生もしません。只、知っていてもらいます。
いつでも出来る事であると」
「自分の手を汚す事ぐらい物の数じゃあないってか?」

くるりと振り返った土御門は唇をニッと歪め、刹那は匕首を鞘に戻す。

「それが、英雄君との誓いの証しか。
何人もの従者も、想いも、世界も、その全てを受け止める英雄の。
みんな笑ってハッピーエンド、その中にはもちろんオマエも含まれている。
オマエが大事にしてる英雄の想いってのは、そういうモンじゃないのか?」
「分かっています」

真面目に言う土御門に刹那も真面目に応じる。

「ネギ先生はそう。だからこそ、私の様なものが…」
「なんて、テメェの仲間を下に見て侮辱するモンがいるなら、英雄はブチギレるぜ、
例えそれが自分自身であってもな。
英雄ってのは、そういうモンだ」

そう言った土御門は、ふと空を見ていた。

「あの件に就いて、俺は退く気は無い。
だからと言って、オマエの言う本末転倒、舞夏、舞夏の住む街住む世界を危険に晒すつもりもない。
結論として、ま、仲良くしようぜい。
この件に関しては、せっちゃんいじめても俺の怪我が増えるだけの話だからな。

誰にとってもそれがいい事なんだからよ、少なくとも今ん所は。
みんな笑ってハッピーエンド、表でも裏方でも、意地でもそいつを作ってやろうぜい。
そん中に、絶対に守りたいものがあるんならよ」

「よろしくお願いします」
「おうっ。よろしくな。
手始めに、麻帆良の可愛こちゃんの綺麗所との情報交換の席を…」

早速、ハリセンに変容したカードが気持ちよく振り抜かれる。

252 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2014/01/12 04:15:29.85 UehW/yQc0 859/920

 ×     ×

かくして、美少女ランク上位との確かな情報に基づき発動した
麻帆良お近づき大作戦に見事玉砕した土御門元春は、
元々の予定通り色気もクソも無い野郎同伴カラオケに繰り出す。
土御門が便所から個室に戻った所で、連れが入れ違いに便所に立つ。

「もしもーし、ラジオネーム人生と書いて妹と読むより、
そちらの同居人に伝言お願いしたいんだけどにゃー、ああ、出来れば録音で」

ドアが閉じたのを見届けて、土御門は携帯を使っていた。

「今の妹の件で、僅かとは言え俺を退かせて、
それで、元の妹分の心配になるぐらい堅物だったハートをど真ん中ブチ抜きやがった。
そういう事なら、一つだけ覚えておけクソガキ。

妹をNTRったクソ野郎が利用した挙げ句くだらない結果を出した、
そんな事が俺の耳にまで入った時、何が起きるか。
くだらない兄貴を敵に回す事がどれほどの事を意味しているか、
ちょっとだけでも考えておく事だ」

「心配性のお兄ちゃん、お眼鏡に適いそうですか?」

「そうじゃなきゃ困る。
妹の一言を口に出した以上、それは俺にとって絶対の有言実行だからな。
そん時ゃ相手がスーパーヒーローでも大魔王でもぶん殴りに行く羽目になる。
そんな酔狂な野郎は一人で十分だ。

目の前にいるあんな健気な女一人、その心からの誠。
テメェで引き付けたそいつを直視しない世界だ英雄だ、そんなモンがいるんならよ、
それはとぉぉーってもだっせぇにゃーって、なぁファザコン坊や。
シスコン軍曹が言ってるんだから間違いないぜぃ」

「土御門はん」
「はっ」
「ありがとな」
「ご機嫌ようひい様」

255 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2014/01/15 14:40:53.49 BCrxB6gx0 860/920

 ×     ×

「あ、こっちに戻ってたんですか?」
「ええ」

廊下で夏目萌と言葉を交わしたネギ・スプリングフィールドは、
ぺこりと頭を下げる彼女を見送り、
すぐ側の麻帆良学園情報処理室に入る。

「やあ」
「どうも、弐集院先生」

そこで、ネギはパソコンに向かう弐集院に近づいた。

「今回は色々と有り難うございました」
「いやいや」

ネギが礼を言い、テーブルにお土産のメガロ饅頭を置く。

「それからこちらはお嬢さんに」
「ああ、有り難う」

弐集院が礼を言い、カエルキャラの指人形セットを受け取る。

「包帯も面白いですけど、やっぱり女の子はピンク色が好きですかね?」
「五個セットと言う訳じゃないのかな?」
「ええ。色々回っている内に。最初に当たったのがピンク色でしたけど。
それでその後、鳴護アリサ、或いはシャットアウラ=セクウェンツィアは?」
「いいや」

ネギの問いに、弐集院が首を横に振った。

「どうも、科学の学園都市やイギリス清教サイドでも二人の行方は掴めていないらしいね」
「奇蹟の源ですからね。分かれば何等かのアクションを起こす筈です」

弐集院の言葉にネギが同意した。

256 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2014/01/15 14:45:54.86 BCrxB6gx0 861/920

「それにしても、今回は瓢箪から駒だったね」

言って、弐集院が表示したのは、保存されていた過去の鳴護アリサWebサイトの画像だった。

「オリオン号の件から調査を進めて、
鳴護アリサの調査を進めている内に、
まさかネギ先生の方に接点が出て来るとはね」

弐集院の言葉に、ネギがアハハと笑いを返す。

「最初にこちらに報せていただいて助かりました」

「うん。その時点でネギ先生の依頼で調査の一時ストップ。
二人で学園長先生の所に出向いて、
通常の調査から外れた三人限りの扱いになったからね。
葛葉先生すら詳しい事は知らなかったんじゃないかな」
「職務としての調査中の秘かな方向転換で内部も欺く様な事をお願いして、
重ね重ねお手間を取らせました」

「少なくとも当時は学園都市の大物経営者だったレディリー=タングルロード。
レディリーの仕掛けた電子結界も強力だったからね。
実際にあのまま迂闊な調査をしていたら、科学の学園都市と魔法サイドを巻き込む紛争の危険すらあった。
事は科学の学園都市とどうやらイギリス清教も絡んでいる。
となると、時期的にネギ先生を初めとした外交的配慮が重きを置かれるのも理解は出来る」

「助かりました」
「実際、既に接点を持っていたネギ先生の側で秘密裡の対処になったからね」
「鳴護アリサとの間でここまでの信頼関係を築いている以上、
魔術であれ科学であれ、鳴護アリサの側へのアプローチがあるなら、
遅かれ速かれ伝わる。そして動きがあるとは思いました。
特にこの手の事で隠し事なんて出来ない、鋭いし賢い、何より優しくて熱い人達ですから」

「ネギ先生もそれで」
「ええ、随分苦労させられて、随分助けられましたから。
本当に、手間のかかる、頼りになる仲間達です」

257 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2014/01/15 14:51:01.15 BCrxB6gx0 862/920

 ×     ×

ネギ・スプリングフィールドは山道を行く。
麻帆良学園都市の裏山を。
山林が開け、ちょっとした広場に出る。

「おお、ネギ坊主でござるか」
「どうも、楓さん」

久しぶりに顔を合わせた教師と教え子が、にこやかに挨拶を交わす。
楓の右の拳がネギの頬にクリーンヒットして、ネギの小柄な体躯が地面を滑る。
立ち上がったネギが、頭を下げた。

「少し、策が過ぎたでござるな。
なかなかにスリリングでござったよ、
千雨殿初め夏にも負けぬ命懸けの戦いとなる程に」

楓の言葉に、ネギはもう一度頭を下げた。

「色々と、助かりました」

改めて、ネギが礼を言う。

「口の中は、大丈夫でござるか?」
「ええ、つっ」

倒木に腰掛け、楓から受け取ったカップの野草茶を口にして、
ネギは小さく顔を顰める。

「千雨さんが危ない事をしそうならサポートをお願いします、
と言う事でござったな」
「ええ」
「実に一般的なお願いでござるな」
「一番危ない事をしそうにない、と言う点で最初から全然一般的ではない無理のある話ですけど。
それでも、僕が知っていたと言う痕跡は可能な限り避ける必要がありました。内にも外にも」

「ふむ」
「人道的にもプランの上からも、鳴護アリサさんの事を放置する事は出来ない。
それでも、僕が公式訪問と彼女の救出を同時に展開するのも綱渡り過ぎます。
今、僕が得ている武力も権力も、志と拳一つで突き進むには強くなり過ぎました。
それでいて、全てをぶち抜く程の絶対的な強さと言う訳じゃない。
そんな力、あってはならない」

258 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2014/01/15 14:56:05.90 BCrxB6gx0 863/920

「最も大きくなったのは責任、でござるかな?」
「結局、僕は知っている、「魔法」の「英雄」でプランの責任者。
ネギ・スプリングフィールドが事情を知っている。
自分で名乗るのも気恥ずかしい肩書きですけど、
現実を直視しなければ、僕が知っていると言う事が知られた時点で、
プランへの外交的な影響は元よりアリサさん本人の危険も考えられました」

「故に、いっそ我らが勝手に動き回った方が彼女の安全が確保出来ると言う事でござったか」
「全ては可能性の問題でしたけどね。
あくまで僕に相談する、と言う選択がとられた場合は、
先生としてリーダーとして腹をくくって対処するつもりでしたが。
やっぱり…千雨さんは賢い人です」

一瞬だけ、楓の糸目が何か剣呑な光を帯びる。

「我らがどこまで突き進むと見ていたのでござるかな?」
「正直言って、最終日に直接乗り込むと言う点に就いては、
僕の予測では半々でした。
慎重で賢い千雨さんの性格からしてそこまでやるだろうかと」

「慎重さに勝るものがあったでござるな」
「ええ、それも千雨さんらしいと言えばらしいです。
もっとも、そう仕向けた人がいた様ですが」
「ほう」

「食えない女狐さんですよ。
実質的な同盟者と言う一歩引いた立場で事態の推移を見守っていた。
こちらが穏当に宇宙エレベーターの利権を手に入れるなら、
そこに一枚噛んで分け前にあずかる。

「魔法」が科学の学園都市で本当に事を起こして、
こちらが科学の総取りに成功したなら勝利者との同盟者、協力者として、
事態が膠着したら双方にパイプを持つ仲裁人の立場として、
そして双方の弱味を握る無傷の立場として美味しい所を持っていく。

そのために、科学の学園都市に埋め込む「魔法」の弾頭となる様に、
只でさえ頭が熱くなる状況でそこに更に火を付けた人がいると言う事です」

「何れにせよ動きがあると読んで、後ろで注視していたでござるか」

259 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2014/01/15 14:59:08.60 BCrxB6gx0 864/920

「僕に宇宙エレベーターと言う差し迫った動機がある以上、
僕の側から動かざるを得ない。そして、科学の学園都市も対応を迫られる。
それに対して、科学の学園都市とウェールズの双方にパイプを持っている第三者の実力者。
この立場はなかなか食えないですよ。
実際に人員の派遣も行っていた様ですけど。
安全な所で次点の利益を確実にして、隙を見せたら総取りを虎視眈々と狙っていた」

「我らはまんまとそれに乗せられたと言う事でござるかな?」
「一触即発に危険と言う状況は本当でしたから、
最終日に乗り込むと言う事に就いては変わらなかったかも知れませんけど」
「信頼されていたと受け取るでござるよ」
「有り難うございます」

「時にネギ坊主、刹那の仕事が一つ増えたでござるな」
「ええ、聞いています」
「裏の人間故に出来ぬとは言わないが、
相手は名うての食わせ物とも聞いているでござる」
「そうですね、各陣営の上で踊る食わせ物の道化師。やり手ですよ」
「ネギ坊主にとって、重要なポイントでござろう」

「ええ、だから」
「ふむ」
「だから、大丈夫です。
刹那さんは誰よりも僕達の進めるプラン。
このプランがどれ程重いものか、大切なものであるかを理解してくれていますから」

カップに両手を添えて笑みを浮かべるネギを、
楓が細目でじっと見ていた。

「ネギ坊主」
「はい」
「いつでも来るでござるよ。たまにはゆるりと湯に浸かる事でござる」
「そうですね。それが出来れば有り難いんですけど、
今はなかなか時間が取れません。
お気遣い有り難うございます」

260 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2014/01/15 15:02:12.23 BCrxB6gx0 865/920

 ×     ×

ネギ・スプリングフィールドは、下山途中にふと足を止める。

「細工は隆々、まずまずの成果と言った所か」
「正しい評価ですね」

木陰から聞こえて来た少女の声に、ネギが応じた。
少女の声はネギの少し上と言った年代の若さだがやけに気取った口調。
共に、流暢な英語の会話であった。

「あのバベルの塔のハラワタに無事釣り針を呑み込ませたんだろう」
「ちょっとした弾みに簡単に切れてしまいそうですが」
「それだけ細い、繊細な、容易には把握できない釣り糸と痛みすら分からぬ小さな釣り針なのだろう。
器用なお利口さんだからな、イザとなったらそのぐらい悠々たぐり寄せて見せるんだろう」
「簡単に言わないで下さいよ。慌てたら簡単にぷっつり切れるかこちらが引きずり込まれます」

ネギが苦笑して言った。

「ふん。まだその時ではないと言う事か」
「ええ、その時ではないですね。
そちらでも色々と備えてはいるらしいですけど、
今の所、科学の学園都市を供給源とした「科学」サイドの利害は取り敢えず安定しています。
取り敢えず、無理に今の関係を壊すのは損だと言う程度には」

「なるほど、今、浮き足立つ様な事をしても無駄だと言う事か」
「ええ。科学の学園都市を中心に「科学」サイドを本当に揺らそうと思うなら、
世界大戦や大災害の一つや二つでも起こらなければ無理でしょうね。
こちらが得た限りの情報でも、その手の事態であっても生半可な規模では簡単に呑み込まれる、
あの街にはそれだけの問答無用なパワーがあります」

「つまり、今、何か詰まらん騒ぎを起こしても、
科学の学園都市を中心とした秩序は落ち着く所に落ち着くだけ、
実際には小揺るぎもしない、そういう事か」
「そういう事になると思います。ですから…」

「ああ、分かってるよ。折角あのバベルの塔にほそーいラインを付けたんだ。
それがラインとして把握出来る前に中途半幅な騒ぎを起こされたら
ラインが切れて終わるだけ、その危険性が高い。そういう事だろう」
「そういう事です」

261 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2014/01/15 15:05:19.39 BCrxB6gx0 866/920

「本来なら英雄君がどうなろうがこちらの知った事ではないんだが、
現状、そちらのプランに絡んでネセサリウスとウェールズが君を媒介に実質的な同盟関係を結んだ。
その同盟の立役者の怨みを買ってその矛先が本格的にこちらに向けば、
ロンドン中の鼠の穴から燻り出す事も難しくはないだろうからな」
「ええ」

ネギの返答は至ってシンプル、迷いの欠片も無かった。

「そして、魔術の側にもでっかい石頭がつっかえている。
その反感にも配慮しながら、それでもあくまで魔術サイドだ。
それが、科学サイドの最新技術を使う事を求めて綱渡りの交渉。
我々がロンドンの裏街で使えるモンなら何でも使うのとは訳が違う。
何しろ「英雄」様だからな。世界を救う、んだからな。
前途多難な話だな」

「長くは保ちませんよ、この膠着状態は」
「根拠はあるんだろうな?」
「見て来ましたから」

「科学の学園都市をか?ああ、もちろん訪問して来た事は知ってはいるが」
「ええ。科学の学園都市自体の魔術サイドとの綱渡りな関係。
僕が見たのはあの街の片鱗ですが、それでも、
あそこまでの力を持ってしまった以上、綱渡りを続けるには余りにも大きすぎて重過ぎます」

そう言って、ネギは顎を指で撫でて思い返す。

(あの圧倒的な柔らかさの中に、僕の雷体が察知した僅かな違和感。
詳細ははぐらかしたものの、世間話から聞き出した彼女がどこから来た何者なのか。
あれが、そうだとするならば…)

ネギの唇が動き、結論が導き出される。

「あり得ない、十字教は決して許さない」
「戦争でも起きそうな口ぶりだな」

僅かに浮かんだ嘲笑を、ネギの表情が打ち消す。

「なるほど」
「ええ。十字教の存在意義を賭けて科学の学園都市を討伐する。
そうした考えが武力行使に発展する」
「その確実な材料がある、と言う事かあの街には」

262 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2014/01/15 15:08:25.17 BCrxB6gx0 867/920

「それも、非常に大規模な、世界大戦と呼んでもいい程の武力衝突になります。
そうでもなければ戦端自体が開かれません。
もちろん、ギリギリまで回避を計る動きは続く筈ですが、
ヨーロッパの十字教サイドの情勢も水面下で飽和点に近づいている。
そう仕向けている動きもありますが、そこに対処しても流れ自体は止められません」

「どちらが勝つ?」
「科学の学園都市」

ネギは即答した。

「ま、そちらとしてはそうでなければ困るだろうな。
十字教が学園都市相手に雌雄を決する、そんな事をやるとするなら、
主導するのは十字教、引いては魔術サイドの中でもすこぶる付きの石頭だ。

そいつらが支配する世界、バベルの塔の支配などもう一度歴史をやり直した先の話になる。
プランが君の命とイコールだとするならば、
学園都市の敗北の先に語るべき未来はない。
そして未来を捨てるつもりは全くない、そういう事か」

「科学の学園都市にはそれだけの力があります。
少なくとも、世界を敵に回しても勝利しかねない、それだけの力です。
そして、科学と魔術の関係は新たな段階に入ります。善くも悪くも。
現状、十字教との軋轢を恐れ、魔術と科学の一線を画する建前を維持している、
例え戦争が終わったとしてもその事自体は変わらないでしょう。
しかし、つっかえていたものが外れた時、その影響はプラスばかりではありません」

「科学と魔術で箍が外れて境界線が緩くなった時、
その混沌の中から貪欲に力を欲する得体の知れないキメラや鵺が生まれる、それもあり得るか」

「その事も懸念材料ですけど、それ以上に問題なのは科学サイドそれ自体です。
僕達魔法使いは歴史の教訓として影の世界で生きて来ました。
今の時代の一般社会に生きてそこで修行をしながらも、
その異能の能力を決して知られる事の無い様に、厳しい制裁をもってその秘密を厳守して、
それを知らない人には決して知られる事の無い様に、
慎重に慎重に生きて来た、それが魔法使いです」
「………………」

「或いは、科学と直接的に協調して、
今すぐ誰かを救えるその技術をフルオープンにした方が世の中のためではないかと、
そういう考えもないではありませんが、
歴史の教訓に鑑みて、それこそ戦争レベルの議論と覚悟が必要になる事です」

263 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2014/01/15 15:11:33.30 BCrxB6gx0 868/920

「異能の力に対する持たざる者の想いは身に染みて分かっているか。
故に魔女狩りに怯え霧の向こうに隠れ住みながら、
それでもその力で人の世に関わる事を忘れない、それが魔法使いと言うものか」

「十字教との大規模な武力衝突と言う事になれば、
科学の学園都市の本来の実力、少なくとも世界規模の紛争すら制する程の一端は隠し切れなくなります。
そして、情報の流通に関する一度始まった流れは、
事、あれだけの巨大な存在に就いてはそれを止めるなんて事は成功しない。

そこまで世界が不安定になれば、もう一つ二つ、大きな戦争や災害レベルのインパクトがあるかも知れない。
科学者を含めた全ての者が理解する事の出来ない、それでいて途方もない利便性を持った技術。
そんな技術を持つ科学者はこの世界に於いてかつて何と呼ばれていたか」

「魔女、魔術師、か」
「上から下に、科学の学園都市から外部に、
技術的には一方的に支配されている、科学サイドは今でもその通りです。
それなりのインテリであれば、知識としてその事は理解している。
しかし、何れその事は実感されます」

「自分達がブラックボックスの得体の知れないウィザード、モンスターに支配され、
事によっては世界の生殺与奪の権すら握られていると実感する時が来る。
世界そのものが学園都市と言うモンスターを恐れ、動き出すその時であれば、
外から内に繋いで釣り針を呑み込ませた細いラインを手繰って、
世界が学園都市を離れるそのドサクサにエンデュミオンをぶっこ抜く事も可能。
そういう仕掛けか」

「僕はプランを成功させなければなりません。そのために軌道エレベーターは何としても必要です。
その必要を僕はエンデュミオンに賭けた、それがプランの要です。
だから科学サイドの、科学の学園都市のゴタゴタで無駄な時間を使っている暇もありません。
避けられない、起こると分かっている事態であれば、
プランを阻害しない様にその予測に対して出来る手は確実に打ちます」

「さて、戦争にその上のインパクトか。
それが歴史的な必然だとして、どれ程の人命と人生が関わるのだろうな、
「魔法」の「英雄」?」
「僕は、この手で、出来る事をするだけです」

ネギは開いた右手をぎゅっと握った。

264 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2014/01/15 15:14:38.66 BCrxB6gx0 869/920

「滅び行く魔法世界をそこに住む人々を救わなければならない、それが僕の約束。
そのために一つ一つ手を打ったエンデュミオンです。
それ以外にも膨大な政治的外交的な利害調整を繰り返して来ました。
もちろん、あらゆる犠牲は最小限度に留めなければなりません。留めます。
それでも、起こる事であれば、その現実に即した対処をしなければなりません」

「まあ、あらゆる偉業は大概の場合偉大なる妥協の産物でもあるからな。
正義の行いから悪の側面が覗き悪から正義の側面が覗く」
「英雄の偉業、誰よりも知るあなたが言うのだから間違いありませんね」
「英雄としてその名を残すために悪になるか?」

「その志を果たすため敢えて悪の名を選んだ人がいました。
恐らく、数え切れない程にいたのでしょうね」
「ああ、とても追い切れない程にな」
「英雄であるため、英雄に相応しい働きをするために、
悪を為す必要があるのでしょうね」

「と、言っている内に、何れ、己への言い訳として定着するものだがな」
「その時は…僕が英雄に相応しくない、只の悪に過ぎない存在だと言うのならば、
その時は、恐らく本物の英雄に討ち取られる時になる」
「そんな者がいるのか?
その拳一つで一つの世界を救い「英雄」の名を勝ち取って見せた、
そんな漢を相手に「英雄」の名を腕ずくで否定してやろうと言う男が」

「いるかも知れませんね。いえ、います。
恐らく天下国家から見たらひどくちっぽけで詰まらない、
そんなものが何よりも掛け替えもなく大切なものであると。
その事を忘れた時には、その大切さを誰よりも知っている英雄が、
その重さを込めた拳で詰まらない悪人を打ち倒す。そういうお話しです」

「まあいいさ。読みとしては概ね妥当だ、私もそう思う。
従って、こちらとしてもその筋を前提に行動する」
「起こる事であれば、利益は最大限損失は最小限に」
「恐ろしく都合のいい注文だな英雄」
「誰だってそう考えて行動するものです。
しかし、開腹手術を患者本人が行う事は出来ません、科学の学園都市と言う患者本人が」

「イギリス清教とは昵懇ではなかったのか?」
「もちろん、イギリス清教は科学の学園都市と只の仲良しではない、
狐と狸の化かし合いの関係ですが、それでも関係が近過ぎて組織が大き過ぎる。
科学の学園都市そのものがどうなるかと言う段階では、
イギリス清教が総取りするか、そうでなければ保守的に動かざるを得なくなります」

265 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2014/01/15 15:17:45.05 BCrxB6gx0 870/920

「何れにせよ、そっちでエンデュミオンをモノにする程の主導権を握る事は難しい、
不可能と言ってもいい。そういう事か」
「ええ。プランのためのエンデュミオン、僕が見ているのはあくまでそこですから。
科学の学園都市は何れ大揺れになる。
イギリス清教をパートナーとしてエンデュミオンを確保するのも難しい」

「それで消去法の結果か、光栄な事だな英雄君に選ばれて」
「どちらからの接触だったか、それはおいておきましょう。
科学の学園都市とイギリス清教。そしてウェールズ。
余り変な方向に流れるとそちらとしても余りいい影響は無い筈です。
こちらにはこちらの立場があります。そして、そこから得るものもある」

「こちらは、あくまで裏側から状況を都合良く誘導する、か。
そう都合良く行くと思われたら買いかぶりと言うものだがな」
「小回りがきいて科学への考え方も柔軟。
あなたの頭脳と技量であれば、
繊細な仕掛けを行いながら決定的な場面に確実な手を打つでしょうね」

「煽てても何も出やしないよ。まあいいだろう。
そちらは限りなく公認に近い存在とは言え、
あの石頭共から見るならば、英雄のなんのと言っても、
お互いうろんな魔術結社同士だ。精々一口乗って利用させてもらうとしよう」

木陰から気配が消える。ネギは、木の幹に背中を預け、ふーっと息を吐いた。
そこに、駆け付けて来る者が二人。

「ああ、高音さんに、ナツメグさん」
「ネギ先生、この付近でセキュリティーから要警戒人物の警報が入ったのですが」
「いえ、特に何も」

高音の言葉にネギが応じる。

「そう言えば佐倉さんは?」
「出張です。上からの急な指示でアメリカに」

ネギの問いに、高音が答える。

「そうでしたか」
「ええ。こないだ帰って来てマカダミアナッツなんてお土産置いて向こうに蜻蛉返りですから、
一体何やってるんですかね」

ナツメグこと夏目萌も首を傾げていた。

266 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2014/01/15 15:21:11.99 BCrxB6gx0 871/920

 ×     ×

麻帆良学園都市市街地。
ネギが手を振ると、オープンカフェスターブックスのテーブルで神楽坂明日菜が手を振り返す。
ネギがそのテーブルに同席して、少しの間他愛もない世間話。

「あれ、アスナ?」
「ネギ先生?」

話も一段落と言った辺りで通りかかったのは、
柿崎美砂、椎名桜子、釘宮円の、ネギが3Aで担任するチアリーディング部三人娘だった。

「おひさーネギ君」
「アスナも、こっち戻ってたんだ」
「ん、まあね」
「すいませんご無沙汰して」
「うちらこれからカラオケなんだけど、アスナは久々だし一緒に行く?」

美砂の言葉に明日菜がチラッとネギを見て、ネギはにっこり笑って小さく頷く。

「んー、じゃあ行く」
「ネギ君も…」
「すいません、僕はこれから仕事がありますから」
「そうなんだー」
「はい。久しぶり、と言っては悪いですけど明日から僕の授業ですし」

わぁーっとハイジャンプして感涙にむせぶチア三人娘に、ネギがちょっと首を傾げる。

「じゃあねー、ネギ君」
「はい。ですから、余り遅くならない様にして下さいよー」

かくして、独り残ったネギが、両手でカップを包み込む。

「そうです。僕がやるべき事なんです。
父さんと母さんが救った、父さんが救ったアスナさんを礎とする魔法世界。
何としても成功させる。妨げるものに立ち向かう。
それは、僕がやらなければならない事なんです。
どちらに転んでも犠牲が避けられないと言うのであれば…
悪を行い世界に対し僅かばかりの正義をなそう」

291 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2014/01/25 14:29:55.39 Y33oC2200 872/920

 ×     ×

聖ジョージ大聖堂の執務室で、
デスクについた最大主教ローラ=スチュアートが神裂火織に一通の書状を渡した。

「あくまで私的なものと言う形式なれど、
我が身を省みず宇宙見学中の学生の安全のために一方ならぬ尽力をたまわったと、
かくいう理由にて先方より感謝状が届きたるのよし、受け取るがよき事」
「つまり、事を荒立てるつもりはない、と言う非公式な外交メッセージですか」

一礼して受領しながら神裂が言う。

「まあ、そう思うてよき事よ。
今回の件に就いては、魔法の側にも色々とありたる事故に」

言いながら、ローラは机の上で裏返っていた写真を手にする。

「女狐に子狐、まこと、土御門はよく言ひたる事」
「?」

ローラは、首を傾げた神裂に写真を見せる。

「これは………日本で流行っているコスチューム・プレイと言うものですか。
ファンタジーとして獣と組み合わせる事も行われているとは聞きましたが、
それにしても、可愛らしい女の子ですね」

神裂の返事を聞き、ローラは実に面白そうな笑みを浮かべて写真をデスクにしまう。

「まこと。これも、ちょっとしたカードぐらいにはなりけるかしらヒーロー殿?」

292 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2014/01/25 14:35:18.09 Y33oC2200 873/920

 ×     ×

「科学の学園都市を訪問したネギ先生が、
それ以前の調査も含めて麻帆良に異常を察して調査の要請を行った。
ところがその書類が、こちらの事務局の段階で受理印だけを残して事務的なミスで紛失したらしく、
その間に事態が切迫したので、やむなく従者に調査指示を出した」

麻帆良学園都市ダビデ広場の一角で、高音・D・グッドマンが長谷川千雨に告げる。

「これが、今回の事件に就いて麻帆良学園、
引いては関東魔法協会が下した非公式の公式見解です。
科学の学園都市で実際に、地球が破滅する規模の大事件が進行していた。
しかもそれが科学、魔術双方に跨る事件であったために、
責任ある立場で事件の存在を知る者は皆、事件が裏の世界であっても表面化する事を望まない」

「闇から闇、そういう事ですか」

「そういう事です。そのためにあなた達は助かったのです。
科学の学園都市及びイギリス清教は、
その過程で嫌でも目に付いた筈の麻帆良学園に関する協定上の逸脱、
それに就いて深く追及する事は出来ない。

それ以外の魔術勢力はそもそも一連の事件を知らない。
科学と魔術を交差させたバベルの塔によるアルマゲドン計画など、
もしも魔術サイドでも頑迷な大勢力の耳に入ったら別のアルマゲドンが発生します。

麻帆良学園としても、実際に公式訪問中の科学の学園都市で地球規模の緊急事態と言う現実があった以上、
「英雄」でもあるネギ先生の名の下に強行されたネギ先生の従者を含む形式上の越権行為は、
言わば全ての法律をすっ飛ばしてでもそうしなければ魔法使いとしての憲法を守る事が出来なかった。
そう見るのが妥当な状況下における魔法使いとしての現場の判断として不問に付す。
こちらの学園、協会はそういう判断をしました」

そこまで言って、高音は改めて千雨の目を見据える。

「いいですか、あなた達はあくまでネギ先生の従者として、
ネギ先生の責任の下で助命されたのです。
この様な横紙破り力ずくのルール違反のねじ伏せ、こんな事は二度とありませんから、
そのつもりで決して勘違いの無い様に、いいですね」

高音の言葉に、千雨は深く頭を下げた。

293 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2014/01/25 14:40:44.28 Y33oC2200 874/920

「密約…」

頭を上げた千雨の前で、高音がぽつりと言う。

「ドサクサに紛れて誰かが科学の学園都市とイギリス清教に、
一連の逸脱を不問に付する密約を呑ませた。そう考えるのが自然です」
「誰かが?」

高音の言葉に千雨が聞き返す。

「上の方で色々とあった様です。
正直、今回の決着に就いては関東魔法協会、麻帆良学園警備の正式所属である
私から見てよく分からない事が多い。
長谷川さんは何か聞いていますか?」

「ん?いや、私は特に」
「ネギ先生からは何か?」
「いいや、あれからも全然顔合わせてない。
うちのクラスのチア部が授業に復帰するみたいな情報掴んで来たけど、
それも直後に急用だかで流れたって話だ。今日も何人か謎の欠席してるしな」

「そう、ですか」
「高音さん?」

ついと横を向いた高音に千雨が声を掛ける。

「いえ、何でもありません」
「それに関しては高畑先生からも話は聞いてる。
むしろ、本来の目的であるエンデュミオンでレディリーがやりたい放題やらかしたから、
その後始末で前にも増して奔走する羽目になった、ってさ」

そう言って、千雨は天を仰いだ。

「もちろん、今回の事件と私達の事も色々聴かれたけど、
どやされるよりも冷たい言葉よりも応えたよ」
「それは何よりです。
そうであれば私からは以上です。くれぐれも勘違いの無い様に」
「分かりました。今回は本当に色々とご迷惑をお掛けしました」

294 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2014/01/25 14:45:50.59 Y33oC2200 875/920

「で、ある事をよく覚えておいて下さい。
鳴護アリサさん、ですか」
「ええ」
「条理を覆し滅びにも救いにも通じる程の奇蹟の歌。
しかし、その様な事は関係無かったのですねあなたには」

「ええ」
「あの面子の中でも常識的で賢いあなたなそうさせたもの。
力には責任を伴う。何に対して責任を負うのか、大切なものに対して。
行きなさい」

千雨は、もう一度頭を下げてその場を離れた。

「上の方で、色々あった様です」

その背中を見送り、近くの低い塀に腰を下ろした高音は、
ふと呟いて親指の爪を噛む。

「そもそも、私達は何故鳴護アリサの調査に着手した?
誰の意思で何を思ってその様な指示を出した?誰がどこまで知っていた?
ネギ先生の目的がエンデュミオン。
同じ時期に好き勝手なイレギュラーとして潜入していた。
イギリス清教、レベル5まで引っ張り出された上での迅速な政治的決着…」

呟いて、高音はふっと笑う。

「ネギ先生の性格上、最も嫌う事の筈。
何よりも生徒の安全を優先し、
生徒が危ない事に首を突っ込もうとするなら率先してそれを止める、
むしろもっと人を頼れと言われ続けている程の優しい少年、
そんな私達の「英雄」ではありませんか。
何れにせよ、このままではいけませんね」

そして、高音は立ち上がる。

295 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2014/01/25 14:49:36.63 Y33oC2200 876/920

「元々それなりの機密はあったとは言え、
プランが動き出してから徐々に進行している、組織の政治的に過ぎる傾向は少々目に余ります。
今回の事件に関しては改めて顕著です。
伏魔殿に甘んじている訳にはいきません。
微力ながら妹達を預かる身としては」

ようやく、仕掛けた魔法が時限解除されて周囲に人が戻り始める。
だが、高音は知らない。それ以前より、電子的手法でその効力外からの観察を受けていた事を。
確かにその観察は複数の目と耳により複数の脳へと情報がインプットされていた。
その観察者達同士を比較した場合、最新鋭の科学的な顔面認証、DNA型鑑定をもってしても、
別人との結論を出す事が躊躇される程に著しく酷似していた。

 ×     ×

その話術をフル活用してついでにコネを若干濫用して確保した学校内ベッドに於ける快眠の後、
たった今切った携帯を別の場所にかけ直しながらベッドの上に座り直す。

「もちろん簡単ではないけど、上手くやれば上とは別に、現場レベルとのパイプが繋がりそうだけど」
「ほう、脈ありと言う事か?」
「坊やは事を少しシャープに進め過ぎて、現場に齟齬が生じ始めているみたいだけど。
他人を動かしながら大きな仕事を推し進めるには、お利口さんだけでは足りない。
その事を理解するには少々年を食って痛い目を見なければ理解出来ないものだけど」

「実に説得力がある。クイーンの方はどうする?」
「もちろん、メインに直結している彼女との関係が最優先だけど。
聡明にして優美、それでいて熱すぎる程の情熱を秘めた女傑にして高貴な姫、
クイーンと呼んで大袈裟な所は欠片も無い相手だけど」

「確かに。そして君がそういうのなら間違いは無いだろう」
「そしてそれは、あくまで上の肩書きを前提にした関係だけど。
だから、このルートが成功したら下の、本当の力の片鱗でも掴む事が出来るかも知れないのだけど」

「あの学園の真実の力、事によっては」

「或いは、磨く前の宝石。
事前にも最近にも、霞の掛かった様な防壁に阻まれながらもじわじわと収集した情報の結果、
暫定的に「魔法の学園都市」と外で口に出しても視線を外されただけで済みそうな名称に至った、
もう一つの学園都市に可能性の存在する、「もう一つの能力」。
あのクイーンが宇宙を欲してまでコントロールしようとしている何か。
案外足下から核心に近い所に迫る事が出来るのかも知れないのだけど」

296 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2014/01/25 14:53:23.19 Y33oC2200 877/920

「外の、そして能力の根幹にも関わりかねない事、となると、
迂闊なやり方は出来ないな」
「無論だけど。この線で下手な動きをしたら統括理事の一人や二人、
そこにくっついてる影のブレーンとやらなんてどうにでも、だけど。
ここで死ぬにはこの街にはやる事が山ほど残っているのだけど」

「それを理解しているのならいい」
「じゃあ、そういう事だけど」

かくして通話を打ち切った後、携帯を操作して今度はスケジュール帳を表示する。
本来の公式な身分に於いての日常を示している所の、
一日の半分ほどを五つだか六つだかに区切った予定表だった。

「たまには、体を動かすのもいいんだけど。
面倒だから着て行こうか」

携帯をポケットにしまい、鞄を漁る。
そして、競泳用の水着を引っ張り出してベッドの上に戻る。
ガチャリと保健室のドアが開く。

「不、幸、だ、
や、はり、胃腸の頑丈さを暴食シスターと張り合ったのが間違い、だった。
食費節約の誘惑に負けて、インデックスが、食えてたから大丈夫、だろ、おお、とおおおっ」

上条当麻が床に放り出されていた鞄に蹴躓き、
白いカーテンの区切りをがしっと手掴みにしたままその体重でカーテンの強度を軽々と凌駕する。

「こら待て上条当麻っ!!貴様どこかに姿を消す前に、
今日こそは係の希望配置、提出するまで逃すつもりは無いんだからなっ!!」
「とうまー、お昼ご飯忘れてるんだよーっ!」
「上条君。小萌先生が呼んでる」
「ちょろっとここの先生から論文を預かって来て欲しいってたたた頼まれただけで
あんたの顔を見たいとかそんな事はゼンゼンナインダカラネッ」
「近くにお店出すのでおしぼりセット持って来ましたーっ」

間違いなく本来の目的の真逆を突き進みそうな保健室空間の禍々しい歪みを余所に、
ひょいと隣のベッドに飛び移り、後に残った作業としてさっさと水着と制服を身に着ける。

「相変わらず、お前は意味不明な事になってるけどなぁ」

その一言だけを残して悠々と保健室を後にした。

297 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2014/01/25 14:56:36.11 Y33oC2200 878/920

 ×     ×

麻帆良学園都市某所。

「とまあそういう訳で、
うちの天才過ぎて手に負えない先輩がみょーな関心持ってるらしいから、
そっちのお姉様にみょーな気配が無いか、
ちょっと注意しといてくれないかにゃー、お互いの平和のために」
「要件は承りましたが、留保しておいた質問に移ってよろしいですか?」

電話を受けた佐倉愛衣は淡々と尋ねる。

「何なりとドンと来いですたい」
「どうしてあなたが番号非通知でも絶対出なければならない事になっている
私の携帯の番号をご存じなんですか?」
「それはもちろん、企業秘密ですたい。
それ相応の情報交換で、と言うのなら考えないでもないんだけどにゃー」

「情報交換、ですか?」
「そ、それなりの重要機密情報と交換で。
例えば、メイちゃんのスリーサイズとか」
「ユニークな暗号ですね。
つまり、各勢力とは無関係な土御門元春個人として
麻帆良学園に宣戦を布告するから総力を挙げて消し炭にするつもりで掛かって来いや。
この様に解読して上に通達して欲しいとそういう事ですね」

「ま、待て待て待て、メイちゃんにとってもとぉーっても朗報、
悪くない情報交換ですたい」
「どの辺りがですか?今すぐそちらに直径3メートルほどの火炎ボールをお届けしなくても
頭痛が沈静化するぐらいにはいいお話しなのでしょうか?」

「そりゃあもちろんメイちゃんみたいな可愛こちゃんが
これでチラ見せしながらするっと紐を解いて抱き付いたらそれはもう、
相手がどーんな鉄板幼馴染み同居カップルだろうが横取り上等NTR必勝確実、
キューティーセクシーダイナマイトな大精霊チラメイドストリングバージョンを
オーダーメイドジャストフィットで特別に…」

佐倉愛衣は、すぅー、はぁーっと呼吸を整え、一言宣告する。

298 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2014/01/25 15:00:25.69 Y33oC2200 879/920

「ご愁傷様です」
「へ?」
「遺言はお済みでしたか
あ、に、さ、ま?」
「おおおおおネコミミ和風メイドの天使様がぁぁぁ……………」ツーツーツー

テレビ電話ではなかったが、
その張り付いた笑顔など想像だけでも十分克明なものだった。

場所は再び科学の学園都市。
とあるマンションの屋上で、砂皿緻密は望遠鏡を下ろしふっと笑みを浮かべる。

「やめるの?」

その側でステファニー=ゴージャスパレスが言い、砂皿が頷く。

「今回は見送りだ」
「そう。ま、私もどっかの高校の保健室に、
なんて正直気が進まなかったから」

「本業か。それこそ貴様に任せたら阿鼻叫喚の巷と化すからな。
まあ、これは俺の勘だが、恐らく今回の仕事、
俺が仕留める前にキャンセルが来る。そんな予感がする」
「奇遇ね。行きがかり上受けたは受けたけど、
裏の流れがなんとなーくそんな風になりそうって、それは分かる。
ま、命拾いしたって事ね」

とある廃ビルの屋上で、
龍宮真名が、たった今まで砂皿緻密を映していた望遠鏡を下ろす。

「命拾いしたな」

龍宮真名は呟き、ギターケースを肩に掛けた。

「もしもし麦野ー、
例の色黒ノッポ、望遠鏡覗いただけで帰っちゃうみたいなんだけど、
このままビルごと吹っ飛ばしとくー?」

「やめろ、やらないってんなら依頼の外だ、放っておけ。
例のイレギュラーの関係で間違いない。
仕事ってんならやるが、余計ないざこざやっていい相手じゃねぇ」
「はーい。結局、命拾いしたって訳よ」

299 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2014/01/25 15:03:32.83 Y33oC2200 880/920

「と言う訳で、
フレンダ=センヴェルンさんは退散するみたいですー。
追跡しますかネギせんせー?」
「いえ、こちらもそのまま引き揚げて下さい。
手を出さない以上、深追いしてはいけません。
図書館チームの戦力で逆襲されたら危険過ぎます」

「了解しましたネギ先生。
その通りです。武力だけで言えば私達の適う相手ではありません。
知略も含めた全面戦争に至ったとしても七割方我々が負けるです。
お互い、命拾いしたです」

「つまり、動きは無いと言う事か。
ならば別に構わんよ。精々データを披露してくれればいい。
今の君の利害であれば、それは所詮プランの内だ。命拾いしたな。
楽しみに待たせてもらうとしよう。
星々を制するバベルの塔、それが相応しいのはこの学園都市か。
君の創り上げる新しき都とやらか」

315 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2014/02/17 03:54:24.42 z/7YxN5b0 881/920

 ×     ×

「あっちの世界に留学だって?急だな」

麻帆良大学工学部の研究室で、長谷川千雨が葉加瀬聡美に言った。

「ええ、短期間ですが。
当面、総督の関係先にステイして、そこから初期の技術上の摺り合わせと言う事になります。
と、言うのが、裏の中でも表向きの事情でして、
裏側からの情報では、とにかく早めにあっちに行ってろ、死ぬぞ、
と言う情報が流れているらしいですね」

「は?」
「まあー、研究の過程で何か地雷でも踏んだのでしょうか。
ネギ先生からの依頼も残っていたのですが」
「ネギ先生から?」
「ええ。ネギ先生が触れた何かをその感覚を基に可能な限り数値化して再現する。
そういう依頼です」

「今一つよく分からないな」

316 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2014/02/17 03:59:33.92 z/7YxN5b0 882/920

「ええ。今の所は「電気の様なもの」としか分かっていません。
只、どうも魔法の領域に干渉する何かがある様な。
このまま突き詰めていけば何か面白そうなものが出て来ると私の勘は囁いていたのですが、

その研究を始めた直後に留学の指示が来ましたから。
まあ、裏に関わる研究をしていればよくある事です。
精々あっちの魔法技術を取り入れて宇宙開発の先陣切ってみせますよ」

葉加瀬がアッハッハと快活に笑った。

 ×     ×

「胸糞悪くなる夢を見たんだ」

ふと足を止めて、千雨は呟いた。

「………消えちまう夢を」

こほん、と、咳払いに気付いた千雨が振り返る。
そこには、近衛木乃香が千雨の顔を覗き込む様に立っていた。
千雨がへっと笑みを浮かべると、木乃香は相変わらずにっこり無邪気な笑みを浮かべる。

もしかしたらその裏側に物凄いどす黒さが秘められているのかも知れないし、
とんでもなく高貴なのかも知れないが、
今分かっている事は、とにかく圧倒的に可愛いと言う事だ。

ひらひらと手を振って木乃香と分かれる。
こうして又、千雨は一人。
周囲を見回すといつもの賑わい、どこか他人事に感じる。
元々、長谷川千雨はやたらに群れるのとは対極の生活をして来た。

確かに最近は非常識な友人との馬鹿騒ぎも悪くはないと思うが、
同年代によくある様に、ぞろぞろと連れ立って歩く習慣も関係も余り持ち合わせていない。
だから、特に何も用事が無ければ、こうして一人で出歩いていても全く不思議ではない。

と言う訳で、研究室を出た千雨は、こうして何とはなしにダビデ広場をてくてくと歩いている。
千雨は、携帯を手にした。
何もせず、携帯をしまう。

317 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2014/02/17 04:04:40.14 z/7YxN5b0 883/920

「千雨さーん」
「?」

現実感が無かった。

「千雨さーん」

機械的にそちらを見る。
さ程長い期間の別れではなかった筈だが、随分と長い事に感じられた。
そんな訳で、少なくとも書類上は現在でも長谷川千雨の担任教師
ネギ・スプリングフィールドが快活に手を振って駆け寄ってきた。

「ああ、ネギ先生」

取り敢えず、二人の会話はネギの後頭部にメガロ饅頭が炸裂し、
そんな魔法世界の英雄にして何れ最強の称号を手にするであろう、
取り敢えず別の世界の「最強」をこないだぶちのめして来たばかりの漢の中の漢が
本日も絶好調のチサメパンチに宙を舞った辺りからスタートしていた。

「あー、ネギ先生」
「はい」
「ネギ先生には色々と聞きたい事とか話したい事もある訳だが」
「はい」

相変わらずの屈託のない笑顔でネギは千雨の言葉を聞いている。
それを見て、千雨の頭脳は何かのヒットを告げる。
ネギ・スプリングフィールドと言う少年は、お人好しな所はお人好しである一方で、
真面目と言う点ではクソマジメと言ってもいい性格をしている。

さて、ネギ自身が今最優先としているプランも含めて、あれだけの事件。
そんな事件のかなり真ん中辺りに教え子である千雨達が居てしまった事を、
ネギが知らない筈も関心を持たない筈も無い。
これは、単に千雨の事を信じていて、
それでこちらからの話を待っていると言う事なのか。

318 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2014/02/17 04:09:54.60 z/7YxN5b0 884/920

「色々話したい事もあるん、ですけど」

千雨は言葉を切る。
何から話すか、どう話すか、追及すべきか弁明すべきか。
そんな高度な頭脳戦が一瞬にしてフリーズする。

千雨は、その場ではっと振り返った。
ネギの事も何も、その時には頭に無かった。
目の前の光景はいつもの、麻帆良学園のダビデ広場。視覚上も、
今はそれ以外の感覚からも何の変哲もない。

だが、聞こえた。確かに聞こえた。
目に浮かぶのは、硝子のビル、立ち並ぶ巨大な風車の遠景。
そんなただ中の、人の行き交う空中通路、何の変哲もないそんな一角。
千雨の背後では、ネギが笑みを消してそんな千雨を静かに見ていた。
目を見開き、僅かに震える長谷川千雨を、静かに見ていた。

「………い、た………聞こ、えた………」

ほんの小さな、震える声を漏らした後で、

長谷川千雨は眼鏡を外し、ぐいっとその目に袖を押し付ける。

「ネギ先生」

振り返った千雨が声を掛ける。

「はい」

応じたネギは、穏やかな顔だった。
あの街の事だと言うのならば、

(私の、最高の)

最優先はたった一つ。それは、

「鳴護アリサ、って知ってるか?」

千雨が見たのは、千雨もよく知っているあの優しい笑顔だった。

-了-





※この後、『後書き』が入りますが、当ブログでは省略させていただきました。

気になる方は、元スレの方を覗いてみてください。

元スレ:長谷川千雨「鳴護アリサ、って知ってるか?」2(ネギま!×とある禁書)
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1384882889/319-




567 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2014/09/08 13:28:05.28 QBf3KIK40 888/920

二度目になってしまいましたが、
本編最終回書き下ろし短編の投下となります。

>>318の続きになります。

それでは投下、入ります。

>>318

 ×     ×

「そう、妙な衛星だ。記録上はあるかどうかも判然としない。
だが、実際あるんだから仕方がない、やけにファンシーな衛星だ」
「余りに漠然とした話なんだけど」

「記録、証拠の上からならば、確かに存在したとも言えるし存在していなかったとも言える。
存在していなかったならこの記録はあり得ないし、
存在していたならばこの記録はあり得ない。絶対的矛盾だな」
「で、結論は存在していた、なんだな」
「私が直接確かめたんだ、そう答えるしかない。
幸か不幸か私の精神は、拘禁反応が猫型ロボット人工衛星の幻覚を産むには未だ堅牢に過ぎるらしい」

「それで、わざわざ私にそんな話を振る意味を教えて欲しいんだけど」
「麻帆良学園、例の衛星の出所だ」
「ふうん、正体不明から随分と飛躍しているんだけど」
「私を誰だと思っているんだ?」
「宇宙はこちらの領分、そう言いたいのか?」

「最先端科学が求められる分野であれだけ大規模なプランとやらを動かされたら、
それは嫌でも耳に入る、目につくと言うものだ。
こちらの領分で動きがあれば、当然その大元を知ろうとする。
これでもアンタと同じ統括理事会を支える『忌まわしきブレイン』の一人だからな。
最近アンタが色々動いているらしいな、
麻帆良と宇宙、この二つが結びついたプランとやらに」

「地球上の事はこちらの領分でもある、そういう事なんだけど」
「まあいいさ、何れ、紹介してくれるのかな?
随分とゴージャスなお嬢様に可愛い紳士さんを」
「さあ、どうかな?」

568 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2014/09/08 13:33:14.37 QBf3KIK40 889/920

「ほう、本気で独り占めする気か?」
「いや、その時は、私が紹介する必要があるのか、
まずそこに疑問があるんだけど」
「確かに、その前に直接接触する事になるかも知れないな。
もっとも、こっちに近づいているのは、
アンタのその立派なものにも負けない母性の塊だ」

 ×     ×

「まあ、立ち話もなんですから」

と、言う事で、ネギが千雨に案内された先は、「超包子」の新店舗屋外席だった。

「色々事情があって、この店借りて結構本格的に始めてるみたいですよ」

千雨が、結構洒落た隠れ家的店舗を親指で指さして言った。

「頑張ってるんですね、五月さん」
「まあな。ま、普通ならこの時期に担任が生徒放りっぱなしってのは洒落になんないんだけど、
うちの場合中高一貫ののほほんが売りだ」
「面目ないです」

「ああ、その事はネギ先生もよーく分かってるんだろうってな。
だから、うちの連中もそれなりに自分らで頑張ってるさ、
ネギ先生がいつ戻って来てもいいように、って。
って、しみじみしてるけど、実際ん所は、
ネギ先生のポジションに世界一つ滅ぼそうって鬼が居座ってるからな。
そりゃあ頑張りもするさ」

「厳しいですか、やっぱり」
「ご想像の通り、って奴だ」

そうやって、二人は世間話と苦笑を交わす。

「と、言う訳で、ネギ先生には色々と聞きたい事がある訳ですけどね」
「はい」

千雨の言葉に、ネギは佇まいを整える。

569 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2014/09/08 13:42:13.20 QBf3KIK40 890/920

「まあ、取り敢えずアレです。
イギリス清教って所から届け物が届いていましてね」
「届け物、ですか?」

「ええ、一連のお詫びとお礼と友好の印と言う事で、
なんでも、極めて手間暇かかった匠の技の究極にして至高の素晴らしい一品、
なんだそうです」
「一体、何が届いたんですか?」

ネギはにこにこと尋ねるが、それはもう字面を読んでも分かる通り、
普通に引くレベルの形容詞を並べられて恐れを感じない方がおかしい。

「ああ、風香さんに史伽さん、又いたずらですか?」
「♪」

鳴滝風香、史伽姉妹がたたたーっと逃走し、
しゅるしゅると椅子の背もたれと自分の体に縄が巻き付いている前で、
ザジ・レイニーデイがバッとハンカチを振る。
テーブルの上に甕が現れ、ネギがぱちぱちと手を叩いた。
取り敢えず、ロープが巻き付いて縛り付けられているのは胴体と背もたれだけらしい。
ザジが一礼している間に、千雨が甕の中に菜箸を差し込んだ。

「何せあっちでもとびっきりのスタイル抜群最強美女からの手作りプレゼントなんですから、
流石ですね、ネギ先生。はい、あーんして下さい」

 ×     ×

「?」

「超包子」新店舗屋内テーブル席で、
何か外から悲鳴を聞いた気がした飛び切りの美女が視線をそちらに走らせた。
見た目は長い黒髪も烏羽に美しい日本人だが、それにしては一つ抜けてすらりと背が高く、
それでいてその上背に負けない抜群のぼんきゅぼんスタイル。

ラフな白いTシャツのジーンズ、それも、片脚をばっさり切り落としたジーンズが
その凶悪な迄の脚線美、見事過ぎるメリハリバディを最大限に強調し視界に活性化し尽くしている。
視線を走らせたのは一瞬。
次に感じたのは、気配と、嗅覚。

「お待たせしました」

570 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2014/09/08 13:46:58.20 QBf3KIK40 891/920

(肉野菜炒めとお握り、ですか。
飾り気のない素朴な、最も難しい。
匂いはいい。)

箸をつけ、口に運ぶ。
その目が、カッと見開かれた。

(味付け、火の加減、全てが絶妙。
本場の基礎を踏まえたしっかりとした味付けでありながら、
日本人向けの配慮も怠りない)

もう一口、目を閉じて噛み締める。

(確かに、使われている。
決して邪魔にならず、そして不足と言う事もなく。
この料理の中にあって見事にその存在を主張し、
全ての持ち味を引き出し、全体を引き締めて完成させている)

素早く箸を進め、そして、白いお握りにかぶりつく。

(まさしく塩梅!!)

ごくりと一際喉が動く。

(ふうわりとして、それでいて確かな形を維持している。
そして、天然塩と米飯の甘味のバランスは絶妙。
そこに怒涛の如く攻め寄せ、攻略するっ!!!)

下品にならぬギリギリの線で、がっつき貪り食らう事も又、
この料理の前では最大の敬意であり、礼儀、そして素直に求めるもの。
そこに置かれる新たな器。
蓋を開き、漂う匂いだけで正体を把握する。

(相手のウィーク・ポイントの把握は基本、ですか)

蓮華を差し込み、ずずっ、と一口、噛み締める。

(出汁はあくまで炙った骨、そして焼き解した身。
米の素性も確かなもの。
その持ち味を邪魔しない薄味ながら、確かに引き立てている中華の味付け」

出汁を確かめ、そして、大きく掬い取り口に運び始める。

571 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2014/09/08 13:52:17.62 QBf3KIK40 892/920

(十分に出汁を吸った米の味。
嫌な臭いは欠片も立てず、緩過ぎずベタつかず、
出汁と米、絶妙な均衡の上で溶けあっている。
で、あるならば、その間に口にするのが礼儀と言うもの)

ずずっ、ずっ、と、熱い出汁もなんのその、
快調に啜り込みながら、その中から顔を出した隠し味を少しずつ、潰してみせる。

(見事。
熱い出汁に浸っている状態から全体を引き締め、
そして、あらゆる味付けを引き立ててみせる。
潰れるごとに徐々に味わいを変えていく。
全てを押し潰しても決して過剰とはならない。
これぞ正しく塩梅。
何よりも、米の飯に合わない筈がないっ!!!)

「あなたがこの料理を?」

デザートの杏仁豆腐まで綺麗に平らげ、
合掌した後に尋ねる。

「はい、本日の料理を担当しました、四葉五月です」

心地よい声と共に、五月がぺこりと頭を下げた。

「そうですか、素晴らしい料理でした」
「ありがとうございます」

それに対して、立ち上がり改めて一礼した。

「異国に娘を嫁に出す心境でしたが、
確かな仕事をして、それでいて決して出しゃばらず、
媚びる事なく確実に持ち味を貫く。
これ程見事に料理されて、お礼の言葉もありません」
「こちらこそ、これ程見事な材料を提供いただき、
料理人冥利に尽きます」

五月も、礼を返した。

「又、娘の様子を見に来ます」
「お待ちしております」

572 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2014/09/08 13:55:52.83 QBf3KIK40 893/920

 ×     ×

「んー………
これは古典的な製法を忠実に守ったものですね。
ファーストコンタクトは強烈ですけど、ご飯が欲しくなります」
「ま、近衛がついてるんならこんなモンか」

未だに口が刻み目になっているネギの反応を見ながら、千雨は鞄を用意する。

「エンデュミオン、駄目みたいですね」

千雨が言い、ネギは涙目を千雨に向ける。

「今の所表にはなっていませんが、
あっちの統括理事会はその方針で本決まりだそうですよ」
「そうですか」

ネギが何でもない事の様に返答する。

「流れから言って、形の上でははっきりしない状態で進めるみたいですけど、
徐々に流れを作って、最終的には理由を付けて中止。
既に統括理事会レベルの方針で、覆すのは難しいでしょうね。
何か、悪い虫でもついたから、
学園都市に蔓延する前に大木ごと引き倒して焼き払おうって魂胆ですかね」

静かに聞いているネギの前で、千雨は資料を取り出す。

「スペースプレーンからエンデュミオン、
そして今度は、ちょっとばかり超特急な宅急便が目玉になるみたいですね」

千雨から渡された資料にネギが目を通す。

「ま、何かやるんだったら声ぐらいかけて下さい。
今回も助けられたのは確かみたいですから。
死なない程度に手伝いますよ」
「有難うございます、千雨さん」
「ああ」

573 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2014/09/08 13:59:33.67 QBf3KIK40 894/920

実に素直なネギの態度に、改めて千雨は拳を制御し嘆息に留める。
多分、又、そう遠くないタイミングに、
このガキ共々ろくでもない事に巻き込まれているのだろう、まず間違いなく命懸けで。
肉饅で簡単な飲茶を楽しんだ後、千雨は席を立つ。
一人残されたネギは、少しの間麻帆良の景色を目に焼き付ける。

 ×     ×

(日本人であんなに背が高いのにばいーんな感じって、
それでポニーテールの綺麗な長い黒髪、
でもって、見せびらかしてるのか、見せびらかしてるんだなって、
ぶるんぶるんな感じのTシャツにスーパー脚線美な露出狂カッティングジーンズ。
でもって、傍らには桜咲さんが持ってるあれ。

うん、現実を見よう。大体、宇宙で実物見たんだし。
だから、なんで宇宙でアレの実物を見たって時点でおかしいし。
だから、つまり話に聞いた神裂火織そのものだよねあの人。
イギリス清教ネセサリウスの「聖人」。
コタロー君がガキ扱い、刹那さんとアスナと高畑先生ボコボコにして
フェイトとか麻帆良の学園警備相手に感じにガチバトルやってたとかって。

だだだだだだだだだーからなーんでこーこにいるのかなー?
落ち着け、落ち着け落ち着け落ち着け、うん。
確か、あっちとは和解してメイちゃんもステイルとよろしくやってたとかなんとか、
だから、だから害はないんだよねそうに違いない、

それにしてもスタイルいいなー、デカいし色々と、
でもって何歳ぐらいなのかなー、
すっごい美人で大人って感じで適齢期ブッチの大人って感じ過ぎるって事は
やっぱ彼氏とか、もう結婚してるとか………)

最初知り合いのチアでも来ているのかと声を掛けようとして
そのまま入口で硬直していた村上夏美が思考を一回りしてそのまま一区切りする。
取り敢えず脳内で安全は確認したものの、頼まれて友人を近くまで送った後、
そのままの流れで「孤独な黒子」を顔に向けたままで本当に良かったと心から思う。

(うん、一回出直して………)

そこで、夏美は扉を小さく開いた所でドドドドドドドドドと物騒な足音を耳にする。

574 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2014/09/08 14:09:17.76 QBf3KIK40 895/920

「間違いないのですね?」
「はい、メールで上に確認を求めている所ですが、
防犯ビデオで確認しました間違いありません」

夏美がささっと壁際によけた所で、
「超包子」の入口の扉がばぁーんっと扉が開く。

「おや」

神裂火織がそちらに目を向けて、完全防備の美少女三人組を視界に入れる。

「何か事件でもあったのですか?」

事件そのものにその質問をされて、高音・D・グッドマンは絶句する。
そして、口頭で状況を確認する。

「つまり………」

高音がこめかみを押さえて言った。

「親睦の贈答品に関する用事でこちらを訪れた。
和解は成立して上の承諾を得た上での事で問題はないものの、
短期の滞在で前回の件が前回の件であるから、感情的なトラブルの危険を考慮して、
一応建前上は基本自由往来の許されたこの街をお忍びで行動している、と、そういう事ですか」
「そういう事です。どうもお騒がせしてしまった様で申し訳ない」

神裂がぺこりと頭を下げ、高音以下も礼を返す。

「それで間違いないみたいですね」

ナツメグが携帯を手に言う。

「事情は分かりました。色々言いたい事もありますが和解が成立したのも確かですし、
個人として魔術師として信が置ける人物であるとも伺っています。
どうぞ、麻帆良をお楽しみ下さい」
「お騒がせしました」

高音達が踵を返し、ほおほおほおーっと胸を撫で下ろした事で、夏美の反応は一瞬後れを取っていた。

「よぉーっす、神裂、この店でいいのか?
こないだのお礼でこっちにいるんだったら旨いモン奢ってくれるって」
「お腹ぺこぺこなんだよーっ」

575 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2014/09/08 14:13:05.08 QBf3KIK40 896/920

自分も出直そうとした村上夏美の見えるが解らない脚と上条当麻の脚が交差し、
右手を前に突き出した上条ロケットミサイル当麻の照準は三人娘の中心高音・D・グッドマンを的確にとらえる。
着弾、その瞬間、ミルク色の深い谷間を覗かせた豊満な黒き幻影は、
むにゅっ、と、力強い程に確かな現実と共に上条当麻に完全掌握されていた。

 ×     ×

「超包子」テラス席。
ネギの側で、緩くウェーブが掛かった髪の毛がふわりと揺れた。

「そちらからのアプローチも順調みたいですね」
「遠からず直接コンタクトをとる事になると思う。
向こうから見たら遅れた外の世界の重工業でも、
その外の世界に於ける商業的な総合力となると話は別」
「色々と、お世話になります」
「もちろんこの社会、そして私の実家の利益になる範囲で」
「もちろんです」
「あやかだけでは不安な相手なの?」

「いいんちょさんは素晴らしい人です。
それでも、今回ばかりは手に余るかも知れません。
既にこちら、麻帆良でも主導権争いの材料を探ってるみたいですね」
「巨大なビジネスの戦い、それぐらいの事は当然やるでしょうね」

「ええ。この麻帆良で、可能な部分はあってもそれを可能としています。
何よりも、僕の知るその道の切れ者でも手に負えないと言う程の相手です。
素晴らしい才媛で高潔な人格者、そんないいんちょさんに力を貸してあげて下さい」
「元々、ネギ先生のプランを手伝う事は承知している。
まして、あやかのサポート。返事は決まっているわ」
「有難うございます」

言って、ネギは千雨に渡されたプリントアウトを掲げ、それが引き取られる。

「そちらで探り出した、物資の動きから推測されていたシナリオ。
どうやら意思決定の情報の流れも、それを裏付けているみたいですね」
「あの厳重なラインの防壁を掻い潜って、
このレベルの情報まで引き出した。これはネギ先生の指示で?」

静かに微笑み、下を向いたネギの両肩に圧倒的に柔らかな重力がのしかかる。

576 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2014/09/08 14:20:58.60 QBf3KIK40 897/920

「一人で背負い込んでも重いだけですよ。まして、世界の命運なんて。
ネギ先生にも見えているのでしょう。
パートナーでありたい、みんなのその思いは」

ネギは、自分の胸に回った手に静かに手を重ねる。
頬と頬がひたと重なった。

「出来る事、為すべき事をします。
使えるなら使いたかったですが、エレベーターはやっぱり自前になります。
大幅ですが致命的な軌道修正ではない筈です」
「ええ、厳しいけど今ならあり得る想定で動いていました」
「そちらに大きな無理のかかる展開で申し訳ありません。
将を射んとする者はまず馬を射よ。まずは地上の頭脳、こちらの交渉を盤石に」
「分かりました、ネギ先生」

その時には、那波千鶴はネギの斜め後ろに静かに立っていた。
ネギが、ふと店舗に視線を向ける。

フコーダー

「悲鳴?」

 ×     ×

「やぁっほぉーっ!!」

絶景に、木霊が響き渡る。

「ほらほら、せっちゃんも」
「あ、いえ、わたくしは」
「もーっ、折角ここまで来たんやからー」
「そ、それでは、や、っほおぉーっ」

にこにこと桜咲刹那を眺め、うーんと背中を反らしていた近衛木乃香が、
荷物から衛星携帯電話を取り出す。

「もしもし」
「はぁーい、お姫様」
「どうもー、ご機嫌さん」
「これはどうも、景色の方はいかがですか、ひい様」

577 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2014/09/08 14:24:24.72 QBf3KIK40 898/920

「それはもう、絶景や。
お天気もいいし、お結び美味しいやろなー」
「それはそれは、たまりませんね。
しかし、華奢なひい様が意外と言いますか」
「図書館探検部甘もう見たらあかんえ」
「失礼いたしました」


「しかし、信じられへんなぁ」

木乃香が、周囲をぐるりと見回して言う。

「昔は、死なない山、言うたんやろ。
今は静かなモンや」
「まぁー、今そいつに爆発してもらっても困るけどな」
「それだけ、昔は煙がもくもく上ごうてた言う事や。
死なない薬を焼いたから、永遠に燃え続けて煙が上がり続ける。
現実に、今でも燃えてない訳やない」

「ああ、ちょっとばかし眠ってるだけだ。
目ぇ覚ましたら東京なんざ簡単にイカレちまう。
火よりも灰に弱いって点じゃあ江戸時代とは比較にならないからな」
「そちらさんの街では、それすらねじ伏せて綺麗に維持できるんやろな。
死なない薬、欲しい人は欲しかったんやろなぁ。
いい天気、煙やのうてもお空まで届きそうや」

「それは何より」
「こちらはパワフルが売りですよって。
しかも、リーダーがモテてモテて仕方がない言う男はんですからなぁ」
「やっぱり、あいつの兄貴分として一発殴らせていただけませんでしょうかひい様」

「うん、その後は挽肉の消し炭ですけどなぁ。
そやさかい、時が来たなら、
五つのお宝携え空の果てまで、何時でも口説きに行きますさかい、
お餅でもついて待っててくれたら嬉しいなぁ」

「承りました、ひい様」
「まあ、当分の所は土の上でのお仕事ですけど。
地道にやらせてもらいます」
「お互いにな。それではひい様、ご機嫌よう」
「ご機嫌さん」

578 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2014/09/08 14:28:21.88 QBf3KIK40 899/920

木乃香が、電話を切る。

「お嬢様、どちらに」
「ん、ああ、ぼーいふれんどや」

夕凪の鯉口を切った刹那の目は、
頼もしく冷徹な仕事モードであった。

 ×     ×

「仕掛けは投げ入れられた、ルアーではない本物の餌だがね。
針にかかるか引き抜いて食い尽くすか、精々見せてもらおう。
何れにせよ、その結果が出るまでは、
決してこの地を離れられないのだから。
君が見るのが、帰りたもうその地は如何なる結末となるものか、
精々、ここから見せてもらうとしよう」

長谷川千雨「鳴護アリサ、って知ってるか?」-了-

これでおしまいです。
一旦本編終わらせたんですが、
その後に気楽に始めた解説が予想以上に長引きました。
その間に、色々と、本編でもちょっとやってみたい事が出来まして、
この通り、二度目の最終回となった次第です。
この辺の事は、本当に色々すいませんでした。

今回のネタの一部は、某スレの雑談を参考にさせてもらいました。

それでは、縁がありましたら又どこかでお会いしましょう。
本作はここまでです。
HTML依頼は折を見て。

-了-





※以下は、最終回の直前(>>266付近)に投下された番外編(小ネタ劇場)です。

270 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2014/01/21 03:38:03.21 +ALxWwHt0 902/920

感想どうもです。

今回は、本作の続きですけどちょっと時系列とか離れた小ネタ劇場投下します。

>>266

 ×     ×

「おおおっ!」

科学の学園都市某所の路上で、青髪ピアスが奇声を発する。

「なんだー?」

近くを歩く上条当麻が尋ねる。

「レベル高っ!あの軍団。常盤台のお嬢様も」
「ん?御坂?」

反対車線側の歩道を進むのは、
御坂美琴を含む、ちょっとした軍団と言うべき人数の集団だった。

「………まーた、どっかのレベル低い研究系の暴走かにゃー………」

面子から推測を走らせた土御門元春がぼそっと言う。

「っべっ!」

上条が携帯の時計を見て叫び、ダッシュで友人達から離脱する。
丁度、青髪以下が発見したのが角を曲がってすぐだった事もあって、
そんな視線など露知らず、ズカズカと我が道を進んでいた「軍団」が足を止める。

「初春、本当にその女でしたの?」
「それが、微妙なんです」

白井黒子の質問に初春飾利が答える。

「防犯カメラの顔面認証の結果はグレー、ギリギリの数値です。
「黒鴉部隊」やシャットアウラ=セクウェンツィアの情報に就いては
元々の非公開文書も含めてネット上から実質的に削除されています」

271 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2014/01/21 03:43:08.32 +ALxWwHt0 903/920

「異常に興奮していたけど訓練を受けた動きだった。
その証言から絞り込んで探し出してくれて助かった」
「エンデュミオンに関してあの部隊が変な動きをしていたのは分かっていましたから、
削除データから内部文書の顔写真を復帰させて、それで面通ししてヒットがありました」

固法美偉と初春が経緯を確認する。

「とにかく、そうだとしたら黙ってはおけないわね」

御坂美琴の声には殺気に近いものが込められていた。

「当然ですわ。警備員による捜査の対象となっていない事が信じられませんの」

美琴の言葉に黒子が憤然として言った。

「警備員サイドでは、実質としてはシャットアウラを容疑者として扱っていません。
被害者供述調書もどこかにしまわれて封印されたとしか思えません」

初春が説明する。

「職務遂行中のジャッジメントに対する殺人未遂、それで済ませる訳にはいきませんわ」

断言する黒子だが、美琴には少なからぬ懸念がある。
やはり事件の消され方が異様だ。これはやはりこの街の「闇」に関わっているのではないか?
そうだとすると、多少の経験があるとは言え、
表の住人である彼女達を巻き込むのは本来避けなければならない。

だが、だからと言って、今回は事件の内容が内容だ、
引っ込めと言って聞く筈がない。下手をすると見えない所で暴走される。
とにかく、美琴自身が基本的な状況だけでも把握する必要がある。

「何か、騒がしいですわね」
「この近くです」

黒子の言葉に初春が言う。

272 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2014/01/21 03:48:42.35 +ALxWwHt0 904/920

「これって…メタル?」
「この音楽ですの?」

固法の言葉に黒子が聞き返した。
黒子は基本、ヴァイオリン標準装備の常盤台のお嬢様。
クラシック以外を知らないとは言わないが、
今聞こえて来ているものはそうした彼女の経験値からかけ離れ過ぎている。

「あの娘?」
「だと思います」

目標らしき相手を見付けて美琴と初春が言葉を交わす。

「でも、顔が見えませんね」
「取り敢えず、手でギター弾くまで待とうか」

建物の陰から通りを見て、初春と固法が言葉を交わした。

「キマッてるぅ」
「結構本格的ですね」
「と言いますか、許可は出てるんですのあの様な騒音の騒ぎを」

そこに追い付いた佐天涙子が金属バットの先端を地面に付けて歓声を上げ、
その先の光景を初春が確認し、黒子が呆れ返った様に言う。

「お姉様?」
「う、うん」

黒子に声を掛けられ、美琴が曖昧な返答をする。
簡単に言うと、美琴達のいる場所は空中歩道だ。
そして、その視線の先では、
路上ライブを半円に取り囲む舌を出して指を突き出すギャラリーが見えていた。

但し、場所は近くでも同じ歩道ではないので直接行く事は出来ないが、
少々遠くてもライブそのものを直接見る事が出来る位置関係だった。

中心で歌っているのはセミロングの黒髪の美少女。
体格はむしろ小柄、幼さを残すとも言えるが、
全体のきりっとした雰囲気がキメキメのボンテージを鋭く似合わせている。
それがエレキをかき鳴らしての分からない人間には騒音一歩手前のライブ。
逆に言うと、分からない人間であっても騒音一歩手前で留まる何かがある。

273 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2014/01/21 03:54:37.95 +ALxWwHt0 905/920

「これって…」

それは電気能力者としての繊細な感覚なのかそれ以外の何かなのか、
目の前のシンガーに、美琴は何か、記憶に引っ掛かる様なものを感じていた。

「どう?碧美?あの娘…」
「んー………違う………」
「え?」

固法に尋ねられた柳迫碧美が望遠鏡を下ろして首を傾げ、そして答えた。

「うん、顔はあんな感じだったと思う。だけど…」
「だけど?」
「何て言うか、私もジャッジメントで訓練受けて、
揉み合ってる内に刺されてたから分かるけど、体格が違う。
この短期間であの大きさの変化は無い」
「やっぱり…」

初春が言う。

「防犯カメラで見付けた彼女の映像、
シャットアウラの様でシャットアウラでなさそうで、そういう結果でしたから」
「はっきりしませんわね」

「はっきりしないんです。
防犯ビデオと昔の写真を照合した顔面認証ソフトの結果は、
同一人物として通用するかしないかギリギリのグレーゾーン、
それも角度によって白と黒を行ったり来たりと言う厄介な状態だと最初に説明しました。
だから、後は肉眼で確認するしかなかったんですけど」

「そうねー、ライブはあんなだけど、彼女、
本人はなんて言うか、顔の作りもシャットアウラの昔の写真よりも柔らかいと思う」

初春の言葉に、固法も賛同する様に付け加える。

274 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2014/01/21 03:58:02.39 +ALxWwHt0 906/920

加えて、初春は奇妙な経験をしている。
初春が電子的な手法でこの事件、
シャットアウラを詳しくを調査していると、奇妙な妨害を受けていた。

確かに、データ自体を隠蔽されたと言う事もあるのだが、それだけではない。
クラッキングと言った事とは根本的に違う、
どう言う訳か後から考えると理論上はケアレスミスと言うのか、
探している内に進路に齟齬が出て来てゴールに辿り着かない。

それを注意深く潰して先に進もうとすると、敢えて例えるならば、
丸で二十年前のパソコンでも無理やり使わされている様な、
誰かに妨害されていると言う感じではないが上手くいかない、
そんな変な感じで検索作業が妨害されていた。

卓越した技術と勘で辛うじてそれをくぐり抜けてここまで漕ぎ着けたのだが、
言語として理論化出来ないので、その事を初春は説明出来ていない。

「はわわわわわ」
「若いわねぇ」

佐天が口の前で両手の拳を握り、固法が腕組みして呟く。

「おほおぉーっ」
「ん?」

遅れて気が付いた初春が奇声を発して、
初春と話し込んでいた美琴もようやくそちらに目を向ける。
ライブでは、エンデュミオンを模した愉快なオブジェを相手に、
高らかな宣言と共にパフォーマンスが始まっていた。

「いけませんのっ!」
「黒子ぉ?ちょっと、なっ!?」
「いいいいいいけませんのお姉様お姉様があの様な目の毒ですのっ」

美琴が、おんぶお化けと化して美琴の目を塞ぐ黒子を振り回す。
その間に、連呼をもって秒と言う時間の壁に挑む戦いが始まり、
黒子は奇声を放ちながら急遽目を塞いだ手を美琴の耳に回す。

「くけえぇぇぇぇえええええっっっっっ!!!いけませんいけまんせのおおっ!!!!!
お姉様が是非にと仰るならばこの白井黒子」
「でええぇぇぇぇぇぇぇいいいいいっっっっっっっっっ!!!!!」

275 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2014/01/21 04:01:37.43 +ALxWwHt0 907/920

地面に煙を上げる黒子を残し、ようやく美琴は隠れ観客に復帰する。
視線の先のライブでは、ドロドロと録音のドラムが響き、
それに合わせておぞましい歌が始まる。

「学園長!」

麻帆良学園で、葛葉刀子が学園長室に駆け込んだ。

「うむ、関西からの報せかの?」
「はいっ!」
「地理的には科学の学園都市
七つのラッパが鳴ったが如き禍々しい反応を察知したと、
関東関西初め全ての魔法協会、
十字教三大宗派を初めとした主立った魔術団体に緊急連絡が走ったと言う」

「そうですっ!」
「只、現時点では完全な消滅を確認。
それだけのエネルギーが一瞬で消滅した事から、
まあ、気象条件の合致か何かによる誤作動と言う事でついさっき合意が成立した所じゃふぉっふぉっ」

科学の学園都市のとある空中歩道では、
シンガーが甲高い雄叫びの如き感謝と共に膝立ちになり、
観客の絶叫のど真ん中で天に指を突き出している所だった。

「どうする?」

美琴が尋ねる。

「取り敢えず、話だけでも聞いてみましょうか。
機械が誤認する程似てるって事は」
「親戚とかかも知れない」

固法の言葉に美琴が言う。

276 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2014/01/21 04:05:06.02 +ALxWwHt0 908/920

「くおおおぉぉぉぉぉぉぉらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!」

覚めやらぬ余韻を突き破る怒声。

「こんな所で無許可で
なぁぁぁぁぁぁぁぁぁにやってるじゃんよぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっっっっっっ!!!!!」
「あーあ、来ちゃったよ」
「当然ですの」

佐天の発言に黒子が無感動に言う。

「今度はちょーっとうるさ過ぎ、やんちゃが過ぎたじゃんよおおおおっっっっっ!!!!!」
「クロウ7より各員、総員総力を挙げ、
マイスイートルシファーオブリリスを絶対死守せよ、以上だ」
「ラジャー、我らが主は神にも等しき聖なるものを貶めし存在。
学園都市の犬共よりの絶対的死守を貫徹すべくより熱く寄り深き愛の闘争を開始する」

ぽかーんと眺める美琴達の前で、数人のアンチスキルと怒声を返すギャラリーとの押し合いが始まった。

「丁度いいわ、アンチスキルに手を回して事情聴取に噛ませてもらう?」

固法が言う。

「おいおい何かこの近くで電気系統飛んでるぞ、
どういうアンプ繋いで無茶な電気の不正使用でもしたじゃんよっ!?」
「やばっ!!」

277 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2014/01/21 04:08:21.26 +ALxWwHt0 909/920

 ×     ×

「すいません、まだ準備中で…」

麻帆良学園都市某所。
最近出来た一軒の日本料理店で、店員の制止も無視して一人の女性客が着席する。
それを見て、可愛らしいショートカットの女性店員が前掛けを揺らしてその席に向かった。
女性客は、テーブルに立った「予約席」の目印を倒して一回転させる。

「ご注文は」
「店主のお勧めDセット特盛で」

その言葉を聞き、店内に鋭い何かが走り抜けた。

程なく、いかにも酸いも甘いもかみ分けた百戦錬磨に精悍そうな大男が、
その女性客の前に姿を現す。

「ご注文有り難うございます。
このご注文は微妙な調整が必要ですので奥へどうぞ。
その前に、最初の確認を。コースは………」
「はい。だ………だだだ………だだだてだだだだだだだてだだてだだてだだだ………
ごめんなさい出直して来ますっ!!!」

女性客は、ばびゅんと店を出て行った。

278 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2014/01/21 04:11:40.07 +ALxWwHt0 910/920

 ×     ×

科学の学園都市某所。
土御門元春が携帯を使い電話を受けていた。

「じゃあ、帰っちまったのかにゃー?」
「ああー、巻いたツインテールの可愛い娘だったのよなぁ」
「つぅーっ、惜しい事したぜい」

「全くなのよな。堕天使なんて最高だったのよな」
「おいおい、ありゃあフェアリーで行くべきじゃないのかにゃー」
「いんや、あれは堕天使なのよな」
「見たろ、あんな可愛い娘、妖精さん方面でいくのがだにゃー」

「いやいや、だからこそなのよな。
ああ言う真面目で大人しそうだからこその堕天使、
ご注文の動機がアレなんだろ。それで背伸びして背伸びして
もじもじされたら一発鼻血KOなのよなあっ!」
「うんうん、それは一理あるにゃー」

「それにあの娘、ほそっこい感じだけど中身結構むっちりなのよな」
「そこまで見抜いたか!?」
「おおーっ、堕天使も堕天使、紐バージョンまで開発してる我ら、
破壊力ダイナマイトでいけるのよなっ!!」
「いやいや、だからこそだ、清楚な妖精のさり気ない切れ込みから覗く
絶妙なる絶対領域がにゃー」

「まどろっこしいのぉ…ん?おおっ」

279 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2014/01/21 04:16:10.42 +ALxWwHt0 911/920

「どうした?」
「まーた可愛こちゃんご来店なのよな。特別メニューだったら最高だ」
「ほーう」

「ああ、すらっとスタイルのいいパッキン美少女、
お?ボンテージか?」
「何?」
「おお、ボンテージ決まってるのよな。
すらりとしていながら出るトコ出てるからアピールばっちり」
「おい…」

「いや、何だあの後ろからぞろぞろと黒マント………」
「おい、ちょっと待てっ!!………」ツーツーツー

土御門がつーっと汗を浮かべて切れた電話を眺めていると、
同じ番号から着信した。

「…もしもし…」
「その節は様々に色々な意味で大変お世話になりました。
つきましては、そちらでご用意いただいた実に奇抜な装備の数々、
土御門元春プロデュースtheベストオブメイドコレクションと銘打って
しかるべき所にご連絡申し上げましたので。
それではご機嫌よう」ツーツーツー

一方的な棒読みを聞き終えて、土御門はごくりと息を呑む。
背後から微かに聞こえるのは清掃ロボットの走行音。
この科学の学園都市では珍しいものではない。
但し、土御門の耳には分かる。
清掃ロボットに上から掛かっている負荷が、
その走行音に僅かな違和感を与えている事を。

282 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2014/01/22 14:57:53.20 xk3YlZhJ0 912/920

 ×     ×


再び麻帆良学園都市某所の日本料理店。

「怪しげな霊装を密売していると言う情報を得て来てみれば。
まあ、そちらの方の危険は無い様ですが、
では一体誰ですかこの様なアホな事を始めたのは?
組織全体の意向とも思えませんが」

店内の方々に影法師を配置して腕組みする高音を前に、
天草式十字凄教の意思統一は一名を除く指の向きで素早く示される。

「おおおおいっお前らあっ!!!」
「なるほど、よく分かりました。
それはそれとして、あなた達は一体何を考えているのですか?」

高音の声はより強いものになる。

「関西呪術協会を経由して、
エンデュミオンの事件にも少々絡んでいたと言う非公式の報告は聞いています。
しかし、それも既に解決しています。

いくらこちらが科学の学園都市などと比べて緩い土地柄とは言え、
「魔法使い」の本拠のど真ん中に、
現在はイギリス清教の「聖人」にも深い関わりを持つ独立魔術勢力の主要構成員が
ぞろぞろ現れて店をオープンする等と、それが一体どういう意味を持つか…」

「我らは敵なのか?そのど真ん中に乗り込んで来るとは、
なかなかいい度胸よのぉ、惚れ惚れするのよな」

ニッと笑った建宮斎字を高音がギロッと睨み付ける。

283 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2014/01/22 15:03:09.83 xk3YlZhJ0 913/920

「ご心配には及びません。
サイズの関係で表に待たせているだけですから、
イザとなったら出入り口など幾らでも拡張する事は出来ます。
それに、あなた達は私達の敵なのですか?」

「いいや、出来れば仲良くさせてもらいたいのよな」
「の割にはいかにも挑発的ですが」

「おう、確かに少々野郎って生き物に対して挑発的なメイドファッションの数々を」
「いつわこのばか殺していい?」
「一応いないと困りますのでおはぎ程度にお願いします」

棒読みで尋ねる高音に五和が淡々と応じる。

「それにしても…」

すたすたと高音に近づいた五和が、高音の胸の辺りをこんこん叩く。

「話には聞いていましたが、本当に頑丈なんですね」
「無論です。そのままでも三倍、肌にぴったり密着させれば七倍の防御力を誇る優れもの。
何なら試してみますか?」
「いいんですか?」
「支配権はこちらにありますから、
どうせならこちらの実力を少し知っていただきましょう」

かくして、高音と五和、それに浦上、対馬も加わり、
小上がりに上がり障子が閉じられ中から簾が下ろされる。

「おおっ」

その面々が出て来た時、残った面子が声を上げた。

「ほぉーお、これが」

建宮が、そのゴシック調の黒衣を上から下まで観察する。

284 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2014/01/22 15:08:18.86 xk3YlZhJ0 914/920

「先ほども申し上げましたが、三倍から七倍の防御力、
話に聞くトリック攻撃も著しく制限される筈です。
つまり、こちらと喧嘩しよう等と馬鹿な事は考えるな、と言う意味です」
「無論なのよな。
本拠地のど真ん中で「魔法使い」とやり合うには我らじゃあちぃと苦しいのよなぁ」

「それを理解しているのなら、今後建設的な話し合いに応じて下さい。
無用の衝突は避けたいものですが、
こちらに踏み込まれてはいそいですかで終わらせる程お人好しでもありませんので」
「了解したのよな」

その時、奥のドアがガチャリと開かれた。

「パーツ色々見せてもらったよ。いいモン揃えてるな建宮さん。
後でまとめて注文するから…高音さん?」
「長谷川さん?何故ここに」
「何故って、高音さんこそどうして?」
「そうですか」

棒立ちになった高音がぽつりと言った。

「そうですか、そういう事でしたか。
今度は天草式十字凄教が関わって又白き翼が太陽系が破滅する程の大事件の予感で
こうしてはいられません直ちに情報を収集して今度こそ蚊帳の外などと言う…」
「もしもーし」

抑揚のない声でぶつぶつ言い始めた高音に長谷川千雨が声を掛け、
五和と顔を見合わせて首を傾げる。
そこで、ガラリと玄関が開く。

「あ、すいません、ちょっと取り込み中…」

「よぉーっす。
ちょっと色々あって片付くまで学園都市から出てろって事でさ、
で、こっちに店出したんだって?
ちょっと寄ってみたんだけど、表の黒い蛸人形の愉快なオブジェあれ作ったのか?

あれ、オマエ、こないだの魔法使い?
麻帆良だからいても不思議は無いか、こないだは色々大変だったな。
元気だったかなんか顔色悪いけど」

すたすたと入店した上条当麻は、気楽な仕草で高音・D・グッドマンの肩を右手でぽんと叩いた。

285 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2014/01/22 15:13:23.04 xk3YlZhJ0 915/920

 ×     ×

麻帆良大学病院病室。

「街が変わってもラストシーンがこれってどういう事なのかな?
というか説明したよね?前スレの>>81でちゃんと説明したよね?
つまり、わざとだね、わざとなんだね、
とぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ
うぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ
ま?」キラーン

 ×     ×

ネギま!暦2009年

「かんぱーいっ!」

麻帆良学園都市内の居酒屋チェーン店の小上がりで取り敢えずビールを掲げていたのは、
柿崎美砂、釘宮円、椎名桜子、和泉亜子のカルテットだった。

「ビールが旨い」
「いい汗掻いたから」
「ひっさびさだもんねーっ」

一同実に清々しく旨いビールで喉を鳴らす。
つい先ほどまで、バンド活動「でこぴんロケット」として、
大きいとも言えないライブハウスでアンコールまで終えたコンサートのその後の事だった。
本日の成果やその過程を肴に賑やかにビールを空ける事暫し。

「でもねー」

既にほんのり赤くなった円が、しみじみと語り始めた。

「今でも結構きっつかったけど、社会人になったら厳しいよねー」
「んー、流石にねー」

美砂が同意する。ここの一同は将来の目標はほぼ決まっている。
その結果として現状学生だったり違ったり、
そんな、決して容易くはない時間の中で漕ぎ着けたのが今回だった。
そんな面々は、店内がちょっと静まっている事に気付いていない。

286 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2014/01/22 15:16:39.43 xk3YlZhJ0 916/920

「じゃあ、いっそプロデビューして見る?」
「ん?」

ようやく気付いた円がそちらを見る。
靴脱ぎからこちらに来ようとしていたのは、見慣れない美少女だった。

「えーっと、誰?取り敢えず未成年?」

円が美少女に尋ねる。
中学生ぐらいのほっそりした感じの白人少女、
長い金髪に紅系のゴシック・ロリータがよく似合っている。
場違いにしてお人形の様な美少女ぶりが、ちょっと彼女の通り道に沈黙を呼んでいた。

「だいじょーぶ、私の連れだから」

その少女の背後から現れたのは、朝倉和美だった。
そして、朝倉共々でこぴんロケットの小上がりに上がり込む。

「で、この娘誰?」

美砂が改めて尋ねると、少女は名刺を差し出した。

「コンサルタント………代表?………」
「謎の天才少女」

和美が言い、ざっくり書かれた百科事典ページを表示した携帯を渡す。

「本人も出自を覚えていない孤児からアメリカでの養父母に恵まれて
天才的な頭脳で飛び級、企業経営を経て現在に至る。
私達にも無関係じゃないよ」
「どういう事?」

287 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2014/01/22 15:19:46.58 xk3YlZhJ0 917/920

「ブレーン、或いは黒幕。
その桁違いの天才ぶりでね、公社とかいいんちょ那波さんトコとか関連企業とか、
すっごく食い込んでるんだわこの娘」
「へぇーっ」

和美の言葉に亜子が感心した様に言って少女を見る。
やはり、こうしてちょこんと座っているとお人形の様だ。
大きなイヤリングが又アクセントになっているが、それもバランスを崩していない。

「そういう訳で」

和美による紹介が一通り終わった所で、少女は口を開いた。

「プロデビューと言うのはどう?」
「プロ、って私達が?」

亜子の言葉に少女は頷く。

「でこぴんロケット、流石に最近の練習不足は否めないけど、
磨けば光るものを持っていると思うわ。
広告を扱って来たから芸能関係にも相応の実績はあるのよ」
「そうなんだー」

言って、円は天を仰いだ。

「ええ。元々人脈的にも裏の関係で非常に関係が深いと言う事もあるし、
今も言った通り才能の輝きがある。
だから、エレベーター関連の事業のイメージキャラクターとして起用すると言う話は、
これは決して夢物語ではないわ」
「悪いけど厳しいなー」

言ったのは、美砂だった。

「私達、地道に社会人するつもりだからね。
亜子なんか特にそうだけど、本当にやりたい仕事があるって訳だし。
魅力的な提案ではあるんだけどねー」

288 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2014/01/22 15:22:52.63 xk3YlZhJ0 918/920

「そう、残念ね」

少女の反応はしごくあっさりしたものだった。

「?」

視線に気付き、桜子が自分を指差す。
少女はこっくり頷いた。

「私には、一桁の年齢の記憶がほとんど無い。
きっとロクでもない記憶だったのでしょうね。
後は彼女が説明した通り、どこかの国の孤児がアメリカの富豪の養子になって、
才能と努力で大学に飛び級して株式の世界で成功した。
経営者として情報を集める内に、全てを擲つ価値のあるプロジェクトを発見した」

「それが、今進められている宇宙のプロジェクトなんやね」

亜子の言葉に、頷く事で返事がなされる。

「ええ。本当に全てを擲って、そして賭けには勝ったみたいね。
プロジェクトは私を必要としている、少なくとも役には立っているみたい。
がむしゃらに生きて来て、それが悪いとは思わない。
今の所充実した人生だと思うわ。

努力はした。だけど、努力が出来るスタートに立てた時点で、
正体不明の孤児としては宝くじなんてレベルじゃない幸運にも恵まれた。
ねえ、椎名さん」

289 : ちさめンデュ ◆nkKJ/9pPTs - 2014/01/22 15:26:10.35 xk3YlZhJ0 919/920

「ん」

声を掛けられ、桜子は同意の表情を見せる。
他に反応の仕様も無い。

「そんな私がね、どこか惹かれるのよあなた達に。
音楽、もしかしたら遠い昔に何かあったのかしらね?
知らない過去なんて振り返るつもりもないけど、
運命とか奇蹟なんて、口に出せば陳腐な言葉を体現している私の中のどこかに。

ええ、もちろん、声を掛ける以上はビジネスとしてもきちんと考えているわよ。
でも、それだけでは済まないどこかで惹かれる所があるの。
ねえ、椎名桜子さん」

今回はここまでです。

まあ、考証的に言えば、ちょっと学園都市出てろって言われて、
ナノデバイス入れた上条さんの行った先が麻帆良学園都市でした、とか言ったら
討伐部隊出されるレベルの話ですが…

小ネタ劇場はここまで、次回は本編行きます。
と、言っても、大方終わっていますけど。

まあ、それが私の力量と見て貰ってもいいのですが、
元ネタがエンデュミオンでそれに沿った場合、政治的にどこまで広げるかも難しいです。
殲滅白書とネギを絡められないか割と真剣に頭を悩ませたりもしましたが…

続きは折を見て。




記事をツイートする 記事をはてブする