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369 : 以下、名... - 2015/01/06 12:13:05.03 Hjce1d0Y0 891/1732

『ここまでのあらすじ』


――イングランド某所 某学校のクラブハウス

???「……まずは小麦粉・卵・デンコを用意しますぅ!ココ大事!よう聞きぃ!」

???「あ、デンコって知っとぉ?デンコちゃん言うても電弧ちゃんちゃうよ?勘違いしたらあかんで?」

???「デンコ言うんはデンプンの粉の事やん。そないな事も知らんと自分アレやで?ガッコとかでハブられんで?」

???「それをなー、こう、ボールの中へ入れて――かき混ぜますぅ、こぉ、菜箸でね」

???「菜箸無ぅかったら別に割り箸とかでもかまへんよ?要は下町の味やし、あんま鯱張んのもアレやゆーこっちゃね」

???「軽く塩振った後、泡立てて――メレンゲの出来上がり!完成!ガラガラ!」

???「――ってちゃうやん!?これ生クリーム違うからな?つーかレッサーも見てないで止めぇよー、もーホンマかなわんなぁ……」

???「でもだいじょーぶ!こんな事もあろうかと前もって混ぜ合わせたものがありますぅ!」

???「ホラここに空のボールが――って無いやん!?空やんっ!?ワイが作っといた生地はっ!?」

???「てかランシスぅ?アンタが持っとぉお好み焼き的なブツは何なん?てーかそれ先生の練った生地で作ったんちゃうんかな?ん?」

???「ワイが作る前に鉄板で焼き始めるってどういう事?学級崩壊?」

???「え、何?『お約束だと思った……?』……あー、そりゃしゃーないわー、ワイもそこまでボケが用意されてたら乗るわー」

???「それじゃ新しく生地を作って――て、無いやん?おっかしーなぁ?確かに五人分はあったんやけど」

???「……」

???「『"There is a usurpation. Though it isn't unusual. "』」
(下克上ってあるやんか?珍しくもないねんけど)

???「『"The hunter is hunted by the hare, and the rabbit is eaten by the grass. "』」
(狩人は野兎に狩られるしぃ、兎は草に食まれんねんな)

???「『"Could TIME FATHER capriciously cause it a little?Unpleasantly and seriously in seriousness. "』」
(偉いオッサンよ、ちぃと気まぐれ起こしてくれませんかー?いやマジでマジで)

???「『"Change, Coagulate, and time doesn't advance ahead――. "』」
(流転しぃや、凝固しぃよ、時は必ずしも前に進むとは限らないよって――)

シュゥゥゥッ……

???「……」

???「――はいっ!ってなん訳でアレなんですけども!アレがアレしてどないやっちゅーねん!ヤったんねんや、あぁっ!?」

???「頑張ってワイが造り直した生地!これを使いますぅ!」

???「『そのぐらいで魔術師使うな』?いやいや使ぉてへんよ、いや全然全然?」

???「見とったやん、アンタら見とったやんか?なぁ?」

???「『ランシスがあんあん言ぅとぉ』?知らんて、ワイ別に時間戻したりとかしてへんって!」

370 : 以下、名... - 2015/01/06 12:17:45.39 Hjce1d0Y0 892/1732

???「仮に!仮にもし使ぉたとしても!それはきっとアレや、アレに決まっとぉ!」

???「こう、女の子が好きな男の子のお弁当作る時とか、そう『おいしくなぁれ!』みたいな!そのぐらいよ?ホンマに」

???「まぁ使ぉたっちゅーかな、うんまぁ、アレやね。使ぉたか使ぉてへんかの二択やったら使ぉてると言えるかもしれへんよ?」

???「や、でも別にそれは魔術じゃないし?ワイは別に魔術だなんて思ってないし?」

???「だからまぁ、ノーカン?まぁまぁノーカンでいいんとちゃうかな?」

???「てーかそろそろたこ焼きプレート温もぉてきてるから、次の行程行ってもいい?つーか行かんと」

???「次に大切なんは鉄板かなー。こう、あんま熱くし過ぎても焦げるし、温ぅても生焼けやしね」

???「ホットプレートにごま油垂らしぃの、あ、少しキッチンペーパーで拭くのがコツよ?あまりギドギドでもあかんで?」

???「湯気が出るぐらいになったら、生地をドーーーーンっ!さ、後は時間との戦いや!」 ジュゥゥゥゥゥッ

???「かかってこんかいガリア兵にマルキスト共!ワイらの大英帝国は負けへんでぇ!」

???「見ぃや!ぶつ切りにしたタコちゃんを放ぉり込んで、素早く!菜箸使ってひっくり返すっちゅーねん!」

???「あ、ケンミンショ×だかなんだか知らへんけど、『関西人は粉モノを焼かない』なんて嘘や、嘘嘘」

???「ケツもんだだかチチもんだたか言う、正露○ジジイの寝言なんか真に受けへんといてぇな?これワイとの約束やで?」

???「んで、キレーにひっくり返しよったら、後はもうほぼ完成やね」

???「あんま時間かけとぉと、中のフワッフワがカリッカリになってまうんで、ガワが出来たらもう上げた方がエエよ」

???「ま、硬いのが好き言うのもおんねんけど、ワイは認めんよ!何がフワッフワしてないのはたこ焼きちゃうわ!別の食べもんやわ!」

???「あ、取り上げる時にはたこ焼きを崩さないようにするんがポイントやで?でないとたこ焼きとは言えへんし」

???「――で、後は船の上にでも、皿の上にでも取って出来上がりー、っと」

???「後は熱いウチに出汁につけて食べれば最高や!冷めないうちに、ホラ、みんなで仲良く食べぇよ!」

???「……何?どうしたん?何か、変な顔して――『これ、たこ焼き違ぉう』?」

???「な、な、な、何を馬鹿な事を言うてますのん!?ワイに間違いなんて言葉はあらしませんて、いやマジで!」

???「ちゅーかアンタら、ワイの事舐めすぎちゃうん?こう見えてもワイ『魔術師の中の魔術師』的な事も言われてんてねんよ?」

???「なんか知らんけど、Adob○さんから妙にリスペクトされてるし……何やろね、あれ?中二病?」

???「それにホラ、たこ焼き作らしたらブリテン一っちゅーか、まぁ――」

???「『だからたこ焼き違う』?……またまたぁ、そんなにワイをからかうのも大概にしぃ。趣味悪――」

???「『出汁で食べるのは、明石焼き。そもそもデンコ入れない』……?」

???「『しかも地元では明石焼きじゃなくて、卵焼きって言う』……?」

???「……」

371 : 以下、名... - 2015/01/06 12:18:35.95 Hjce1d0Y0 893/1732

???「……い、いや知ってたで?うん、大体8、9割は知っとったよ?」

???「つーか明石焼きもたこ焼きも大体同じやん?粉モノのタコ入れんねんで、カブっとるわ」

???「だからまぁ、正解って言うか、こう、間違いじゃないやん?ニアピン賞ですやん?」

???「こうあえて、みたいな?」

???「……」

???「――って知るかボケぇ!またワイになんの相談も無しにケンカしさくりおって!」

???「『レッサー達なんで昨日もおとついも来なかったんやろー?インフルかなんかかー?』」

???「『ま、ええわ。そないな事よりテレビ見よ、テレビ――ってレッサー何フランスにケンカ売っとぉ!?』」

???「ビックリしたわ!なんでアンタらARISAとテレビ出てへんねんな!レッサーはよう言ぅたけども!」

???「ちゅーかワイは?『新たなる光』のアドバイザー的なワイは要らない子ですのん?」

???「アレですやん!『生き物の世話は最後まで看る』って教わなかったんかアンタら!?」

???「ある日突然ここぉ来なくなるし!しかも連絡は取れへんわ、どないやっちゅーねんな!」

???「冷蔵庫の中にはドクペしか入ってへんし!お菓子もフロリスの食い散らかしたのしかないわで!」

???「センセー拾われた子犬やったらガリッガリに飢えて死んでますぅ!冷たくなって今頃アンタら号泣してんよ!いやマジで!」

???「ワイが飲み食い必要無いから良かったもののぉ!謝って!きちんとワイに謝って!」

???「大体そんな無計画やから、アレやん?ベイロープの男運みたいに焼きが回ってくるっちゅー話やね」

???「ええか?誰も見てないと思っても、お天道様が見ぃ……何やベイロープ?どしたん?」

???「……あぁ、いや別に今のは例えよ、例え?別にアンタの男運が悪いなんて言ってへんよ?」

???「ベイロープの場合、男運以前にまず男を見る目が――あ、いやなんもないですぅ!独り言ですし!」

???「――ってベイロープ、どしたん?センセーは健康器具ちゃうよ?そんなぎゅっとしても握力トレーニングにはイタタタっ!?」

???「って千切ったらアカン!?幾らセンセーもふもふしとるからって千切ったらダメやん!?」

???「増えるから!センセー増えちゃうから!前にもゆうたと思うケドも!」

???「ゴメンて!センセー悪かったて!?だか――」

372 : 以下、名... - 2015/01/06 12:19:53.70 Hjce1d0Y0 894/1732



~10分後~


373 : 以下、名... - 2015/01/06 12:21:52.36 Hjce1d0Y0 895/1732

???「……いや、あんな?確かに今のはワイも悪かったかもしれんけどやな」

???「こう、アンタらももう少しレディとしての慎み持った方がええんとちゃうん?いやマジでマジで」

???「ベイロープの凶行を指さして笑ぉてたレッサーとフロリス、我関せずでお好み焼き作って鰹節が踊るのを観察しとぉたランシス……」

???「ワイはもうアンタらの女子力の無さが心配で心配で。もうちょいワイを見習わなアカンよ?」

???「ベイロープは……アレやんな。周囲から『出来る女!』みたいに思われてて、婚期を逃しそうやし」

???「ランシスも協調性無くてぼっちまっしぐら」

???「フロリスはなー……気がついたら一人だけ彼氏が出来てそう」

???「レッサーもちゃっかりしよるから、結婚一番早そうやね。ま、子供ぎょうさんこさえてブリテンのためにしぃや」

???「ま、その前に立派な旦那はんみっけんのが先やけどねっ!アンタらにはまだまだ早いかもしれんけど!」

???「……どしたん?なんで全員視線外して微妙な空気になっとんのん?」

???「なんやろう……触れてはいけない所に触った的な、バツの悪さを感じんねんけど……?」

???「ま、まぁええわ。そんな事よりも旅の話を聞かしてぇな。ワイも興味もあるし」

???「ユーロトンネルでは……『アレ』?いや、アレ言うても分からんて。なんか渾名とかないのん?」

???「”ショゴス”……あー、納得やね。それ以外にはないわー」

???「しかし『進化』する敵なぁ……アンタらの意見は科学サイドっちゅー話やけども」

???「そもそもで言えば、『進化』って何やの?っちゅー話やね」

???「あー、あれやん。こっち側とあっち側で見解が分かれるんよ」

???「現時点でのあっち側の見解だと『進化とは自然選択と遺伝子浮動』だって言われとるけどな。分かる?」

???「ダーウィニズム、もしくはネオダーウィニズム言うねんへんて」

???「もっと簡単に言え?無茶プリ止めてぇな、ワイただの魔術師やで?」

???「え、何?『Ado○e一押し』?いややわぁ、そんなんちゃうし!もっと言ぅて!」

???「まぁ簡単に言えば『自然選択』らしいんよ。例えばフィンチっちゅー鳥がおるんやけど、個体によってクチバシの大きさが違ぉんやて」

???「雑食性のフィンチと昆虫食のフィンチを比べると、後者がキツツキみたいに細いクチバシを持っておぉたり」

???「捕食率が高いフィンチは硬いクチバシやったり、環境に合ぅた進化をしてい”た”ってのがスタート地点やね」

???「今では『環境に合わせて優れたものが進化した』って考えから、『環境に適応したものが生き残った』って変わっとるけとな」

???「……ま、優生学とアーリアン学説ごっちゃにしたらあかんよ?そんな子ぉは要らん子やからな?」

???「で、これが正しいか正しくないか、ワイには判断つかへんのよ。つーかあっち側でも論争がされてるぐらいやし」

???「ただ”こちら側”の理屈から言えば、進化論は間違いやねん。分かるか?」

???「そぉや。大抵の神話っちゅーんは、『神代に神々が創ったのが最高にして最上』ってなっとぉやろ?」

???「十字教なんかでも『楽園』から追放されるまでは、少なくとも平和に暮らしていた、っちゅー話やし。他も大差ないで」

???「確かに魔術自体の技術は上がっとぉ。それは確かにワイが保証したるで」

???「けどなぁ……上がっとぉのは魔術師としての”平均”レベルであって、トップは下がってる気がしてなぁ」

374 : 以下、名... - 2015/01/06 12:23:57.81 Hjce1d0Y0 896/1732

???「例えば古代にはモーセやら十二使徒、他にもごっつい魔術師は仰山おったわー」

???「中世にもパラケルススやサンジェルマン――もとい、サンジェルミっちゅうオカマがな」

???「ほんで、近代になるとクロウリーの『黄金夜明』が有名や、有名やねんけど……それ以降はパッとしないねんな」

???「……ま、あっち側の技術が進んで、ワイらがアングラへ潜るしか無かった、言うのも大きいけども」

???「そんな訳で――何、フロリス?『長い』?長いて!どういう意味!?」

???「聞いたのはそっちやんか?ワイ丁寧に説明しとるし……そんな事も言われてもなぁ……」

???「ま、まぁええわ。ザックリ言うたると、『グレムリン』おるやんか?」

???「他にも魔術師一杯おるけど、大抵は『神話を模した術式・霊装』やんね?むしろ強ければ強い程、古くて旧い方が使われる」

???「結局アレなんよ。ウチらの業界じゃ神話を再現してなんぼ、みたいな所があるからなぁ」

???「だから必ずしも魔術師的には新しいものが正しいとは限らへん。新しい概念を探すのは大切よ?大切やけど……」

???「その概念が正しい、もしくは有効であるかは別の話やで?知られてないんは有利やけど、落とし穴もあるかも知れんのよ」

???「新薬と同じやね。劇的に改善が見込まれる可能性がない訳ではない……ものの、どんな危険な副作用が現れるか分からへん」

???「まぁ、そう言った意味じゃワイらが長年蓄積してきよった魔術知識も、全体のレベルを押し上げるのに一役買ってるっちゅー形なんかな」

???「なので、『アレ』やったか?『進化』っちゅー特性は珍しいんやけど、多分ワイらの流儀とは違うわ」

???「ただ……少しだけ懸念があるねんけど、まぁええわ。恐らく今更言ぉてもどうしょうもないと思うし」

???「次に出て来たんが『安曇阿阪』かぁ……知っとるよ?顔見知りっちゅー訳や無いけども」

???「こいつもある意味同業他社との戦いやったなぁ、ほんま。あ、知らん?」

???「『進化論』の通りだとすれば、最終的に邪魔になるんは人類やねん。いやマジで」

???「なんつーかなぁ、種族ってのは分化、そして環境に適応出来なかったら淘汰やからねぇ」

???「こんだけ人類が繁栄すれば、そりゃ規格外の奴らも『多様性』って形で出るわな。それがいい事かどうか分からんけど」

???「……たまーに現れるシリアルキラーとかサイコパスっておるやん?ワイらの国でも”Jack the Ripper”みたいなのん」

???「あれも戦時下で敵国兵士を殺せば英雄やし、さっき言ぅたアーリアン学説も時と立場を間違えなければ、チャーチルやルーズベルトになれるんよ」

???「あちらさんでは『生物学的に優れた』を定義しよう――ぶっちゃけ科学も姿を変えた錬金術と変わらへんねん」

???「こっち側が神を讃える『賛美歌』のに対し、あっち側が人を讃える『人類賛歌』のような気がしてしゃーないわ」

???「人を神格化――ありとあらゆる方面へメスを入れて分析しぃの、最近じゃ魂まで定義づけしたれ、みたいな動きもあるし」

???「それって一種の科学信仰なんかなぁ、とかワイも思ぉとるけどなー……て」

???「三番目がイタリア国境近くの『団長』かぁ……古代エジプトの魔術師やったっけ?」

???「流石にカノープス壺使ぉたキワモノなんてワイも知らんて!そないに無理ブリされても困るし!」

???「そもそもワイはコノハト出身やし、暑い国はあんま好かんねん――って、言ぅてへんかったっけ?」

???「……や、でもな?術式自体は割とメジャーなんよ?何言ってるか分からんと思うんやけとも、あー、アレや」

???「エジプトでの『復活』関係の術式でまず頭に浮かぶんは、ミイラやろ?」

???「……」

???「(……Mummy is Mammy……)」 ボソッ
(……お前のかーちゃんミーイーラー……)

375 : 以下、名... - 2015/01/06 12:25:57.70 Hjce1d0Y0 897/1732

???「いや別に何も言うてへんよ?気のせいちゃうかな?」

???「あぁっとな、アレやで、ミイラっちゅうのは死後の世界での復活を願うために作られた――のは、知らん奴はおらんと思うけど」

???「その基になったのが『オシリスとイシスの伝説』やね。まぁかいつまんで言うと……」

???「オシリスは体を14に分割されて殺されましたー、嫁のイシスは頑張って甦らせますー、でもパーツが一つ足りませんー」

???「なのでオシリスは冥界の神として復活しましたー、マル」

???「ちゅー訳でミイラを復活させる術式はオシリス、もしくはイシスのものが殆どや――ん、ねんけども」

???「活躍したんはイシスやし、そもそもで言えばイシスへ知恵を授けたんは、書物と智恵そして時と夜を司るトート神やねん」

???「またトートはギリシャ神話のヘルメス神とも同一化され、ヘルメス・トリスメギストっちゅー神格を形成する」

???「有力な近代魔術師の一人であるアレイスター=クロウリーも『トート神のタロット』を作らしとるしやな」

???「またゼウスを先導する道の神として、鳥は用いられて……あー、なんやったかな?」

???「ヘルメスの遺産管理人で、鳥頭だか鳥回しだか言う一族がおったような気ぃがするけど……ま、ええわ。アンタらと関わる事はないやろ」

???「『夢の中で探偵もの』……んーやっぱり『夜』のトートの霊装ちゃうんかなー、とワイは思うわ」

???「しっかしわざわざ夢の中で殺す意味が分からんわ。誰かに化けられるんやったら、関係者攫ぉて――」

???「……」

???「……殺す?連中最初っからやる気ぃあったんかな?」

???「どぉにもそこいら辺、あっちの人らと一回話し合わないといかんもかもなぁ」

???「……ええわ。それも緊急っちゅー事は無いやろ。そっちは壊滅したんやし――と、そうそう」

???「『ダンウィッチの双子』……つか、兄弟か」

???「クトゥルー神話の方じゃ、まぁ蕃神の子ぉらやんな。どっちもが」

???「門がどぉたら言うのんもヨグ=ソトースの神性に合ぅてるし、『クトゥルーの魔術師』かぁ、と個人的には楽しみにしとったんやけど」

???「いざ蓋を開ければ『世界樹を特定多数へ植え付けた並列化・魔力のストレージ化』……どやろなぁ?」

???「魔術師的には興味深いテーマなんやけど……んー……?不完全燃焼っちゅーかな、なんやこう、納得行かへんわー、うん」

???「や、アレやで?昔から魔術の並列化とか、他の人から魔力頂いてまおうって発想はあったんやで?」

???「龍脈や『Feng-Su(風水)』へ手ぇ力入れたり、一番分かりやすいのんは合唱やね、賛美歌とかの」

???「一つの祈りが世界を変える――なんて、どっかのセカイ系のフレーズにありそうやけども、だったら千の祈りはセカイを滅ぼせるんとちゃうん?」

???「ローマ正教には『歌』を媒介してテレズマを集め、攻撃する術式があるっちゅう話やね。ま、それもまた当たり前なんやけども」

???「『歌』自体、そもそもが神や精霊、この世界へ感謝する儀式魔術だった過去があって、ずっと信仰の一部として使われてきた訳やんか」

???「ルネッサンスとオペラで切り離し、娯楽へと堕落させた――昇華させたんが、元の姿へ戻るだけ。何とも皮肉な話やね」

???「……しかし直接生身の人間へ霊装を接続させる……意識の並列化……どっかで聞いたような話やなぁ?」

???「ん?まぁ思い出さへんのやったら、大した事あらへんのやろ。大丈夫、ワイの記憶力を信じぃ」

???「ともあれ文化も技術もそうなんやけども、決して前へ進むだけとは限らんのよ」

???「あ、一定の蓄積はしとるで?してるんやけども、こう、定期的にプッ壊してんの。そやなぁ……」

???「ローマ帝国なんてそうやん?あんだけ広い国土と政治システムや文化を持ったにも関わらず、滅ぶ時は滅びよぉ」

???「エジプトもそうやし、ギリシャもそう。現代ですらあのレベルまで文化水準を満たしてる国は、そうそうないとちゃうんかな?」

???「奴隷制度やし君主政治やけど、民主主義でも失敗する時は盛大にコケるしなぁ」

???「なので時たま発掘されるオーパーツも、パチモンを除いてはアンティキティラの歯車のようにホンモンも混じっとぉよ」

376 : 以下、名... - 2015/01/06 12:28:37.52 Hjce1d0Y0 898/1732

???「あー……そのな、あんま言いにくいねんけど、ワイらは『ロマンチシズム(ロマン主義)』ってのがあったんよ」

???「例えばフランス。18世紀のフランス革命から、19世紀の7月革命までガンガン内戦やっとったんやけど」

???「そん時に『あーもうなんか王政派もブルジョア派も胡散臭いわぁ。ウチらそんなんコリゴリやでぇ』って思想が背景にあったんよ」

???「ロマンチを代表する芸術家としてはドラクロワの『民主の自由を導く自由の女神』やな」

???「フリジア帽被っておっぱい丸出しにしたねーちゃんが、民衆の死体の上で旗振ってるヤツなー。見た事あるやろ?」

???「ワイ的にはあの絵画、『同朋の屍体を足蹴にして勝利を喝采する』ってぇ姿で、どぉにも気に入らんのやけど……さておき」

???「あの絵にはドラクロワ自身とされる人物が描かれ、また」

???「『レ・ミゼラブル』の登場人物であるガヴローシュのモデルになった”ピストルを持った少年”の姿が描かれとる」

???「知っとぉ?レジスタンスで6月暴動で戦死した不労児やね」

???「ドラクロワは自身の姿を描いて勝ち馬に乗り腐ったの対し、ユーゴーは政治家としてナポレオンに接し、一時は支持する」

???「やけども独裁政治が強まって見限り、ベルギーへ亡命してミゼラブルを完結さしたんやから、フランスも捨てたもんやないで」

???「……ま、王政廃した10年後にたかだか司令官だったナポレオン皇帝にする辺り、フランスはフランスやなぁ、っちゅー感じやけど」

???「で、ドラクロワの絵の中で、最も特筆されるんべきなんはおっぱいねーちゃん、フリジア帽の女や」

???「この女、『マリアンヌ』の象徴とされてるんやけど……まぁ、ぶっちゃけ『自由の女神』やねんな」

???「はいレッサー中指立てんといてぇな。気持ちは分かるけども!19世紀にアイタタタタ言うのもあかんよ!」

???「……や、まぁ、なんちゅーの?ぶっちゃけワイも困んねんけど、フランス革命の象徴が、この『フリジア帽被った女』なんよ」

???「『なんで女神?なんでこいつら同朋ぶっ殺しておいて自由とか言うのん?』ってツッコミは禁句やで?フランス人へしたらメッチャ怒られるわ」

???「まぁこの場合、女の被ぅとる『フリジア帽』っちゅーのが大事や。ここテストへ出るで?」

???「いや、ネタやのぅてマジで。フランスの文化人類学のテキストに載っとったもん」

???「……この帽子な。外見は……まぁググっみるのんがいっちゃん早いんやけど、例えるんやったら、とんがりコー○?」

???「サンタさんのくしゃってなっとぉ帽子あるやん?あれの先っちょのポンポンとって、垂直に立たした感じやよ」

???「ちなみにフリジア帽のルーツは古代ローマ言われとぉてやね。自由身分の解放奴隷が被っとったもんよ」

???「これはその当時から『自由と解放』のシンボルとして取り入れられよって、ローマ皇帝カリグラが硬貨のデザインに使ぉたり」

???「キューバやコロンビア、ニカラグアの国章としても使われとぉで」

???「あ、ちなみに単純化させる都合で、帽子じゃなく三角形にする場合もあってや。その三角形を指して『フリーメーソンのシンボルだっ!!!』ってぇ宣ぉと」

???「まともな義務教育受けとぉ人間からは狂人扱いされるから、レッサーとランシスは注意しぃや?ギャグでも言うたらいかんよ?」

377 : 以下、名... - 2015/01/06 12:31:31.75 Hjce1d0Y0 899/1732

???「で、この帽子はなんかフランスじゃエライ大切にされとる。何でもフランス国家へ対する忠誠の証、みたいな所があるらしくてやな」

???「ルイ16世って――そうそう、最初のフランス革命で処刑された王や」

???「彼が処刑される前、フランス市民がよってたかって被せた帽子、それもまた『赤いフリジア帽』やったんよ」

???「要はアレやね。『お前は今まで奴隷やったけど、俺らが革命興して解放してやったん!』みたいなノリやね」

???「他にもなー、ストラスプール大聖堂がフランス革命の余波を受けて壊されそうになったん」

???「そん時にもフリジア帽、そう、デッカイの」

???「それを大聖堂の尖塔へ被せる事で破壊を免れたんやって!凄いなぁフリジア帽!」

???「……うん?ベイロープ、ワイは正気やで?だから額に手ぇ当てて心配しなくってもいいんやで?」

???「あとピコピコでペット霊園の検索し始めたフロリスさんには後でお話があります。帰らんといてぇな!今日という今日はお説教したるさかい!」

???「うん、何を言ってるのか本気で分からないと思うんやけど、まぁそこは『フランス野郎だから』で納得しときぃ」

???「『平等主義に反してるやん!ぶっ壊さなあかんでコレしかしぃ!』で尖塔壊そうとした革命軍もそうやし」

???「『このままじゃマズいねんな……そや!建物にフリジア帽被せたら壊されへんかも!』と思った司祭達もや」

???「あと他には……そうそう、ワイらの方面からすれば『神の子』が生まれた時に祝福をしに来た東方三賢者」

???「初期キリスト教の絵画やイコンだと、彼らもまたフリジア帽を被った姿で現れとぉ」

???「ただ、これもまた十字教が浸透するに従って、三賢者自体が『王』であるとの解釈が進み、被らされへんようになるんやけどな」

???「これは当たり前の話やねんけど、美術にしろ文化にしろ、当時の思想や知識を背景にしとる事が殆どや」

???「十字教が『庶民から輩出された民』であったローマの帝政時代。そこでは『解放奴隷の徴を持った東方三賢者』に祝福され」

???「『権威を得て教会や王権の礎となった』以降は『異国の王である東方三賢者が頭を垂れる』っちゅー風にや」

???「もっとぶっちゃけるとなぁ、東方賢者の祝福を授ける術式ってあるやん?そうそう、赤ん坊が病気しないとか健康になるぅいうん」

???「あれをするにしたっても、賢者達の立ち位置をどこへ置くかで、効果や内容が変質しよるからな?くれぐれも注意したってや」

???「神話や逸話、伝承や英雄譚を再現して術式や霊装へ換えるにしたって、どの時代や誰主観で大いに変わるし」

???「……ま、ワイの霊装貸した時から何度も言うてる事やからなぁ。今更やけど」

???「――で、や。フランス革命をきっかけにロマンチシズムが勃興するんよ」

???「どっかの極東の島国じゃ、『浪漫』ってぇ単語になって伝わっとぉらしいけど、そのロマンやね」

???「あー……これな、要は古典主義にエゴと個人感情を持ち込んだものなんやけど……まぁある意味歴史の分水嶺だっちゅー学者もおるねん」

???「古典主義もそうやねんけど、基本『ギリシャとローマ時代などの過去や異郷に楽園を見い出そか』っちゅー話やよ」

???「……ブルジョアの俗物主義、教会主体の教条主義から脱却するためには、過去の栄光よもう一度!みたいな事なんかなぁ」

???「ま、まぁそれ自体は悪い事じゃないんよ?ワイの王様の名前へ誓ってもええけど、昔を大事にするのは大切やで」

???「19世紀、産業革命の直前にも関わらず、よりにもよってざっと1800年前の帝政時代&多神教時代っちゅーのもな?」

???「十字教の影響から逃れるために、どっか適当な逃げ場を過去の栄光の中へ求めたんかなぁ、のもな」

???「……ただなー、違うねんよ」

???「『たこ焼きじゃないですよね』?……ってウッサいわ!その話は終ったっちゅーの!センセーの傷エグるんは止めてあげてよ!?」

???「違ぉて!そうじゃ無ぉて!人種が違ぉとるのよ、マジで!」

378 : 以下、名... - 2015/01/06 12:33:33.45 Hjce1d0Y0 900/1732

???「ギリシャの歴史を見てみぃや。東ローマ帝国滅亡以降400年近くオスマントルコ帝国やったんよ」

???「一応、改宗せぇへんでもギリシャ正教徒のままでおられたんはおられた。けど、さっさと亡命しようる正教徒も大勢おったようやし」

???「そもそも純血かそれに近いギリシャ人はおらず。現在ギリシャ人を名乗ってるんのはスラブ人やっちゅー話」

???「はっきり言って人種的にはトルコと変わらん……割に、トルコ系キプロス人とギリシャ系キプロス人で仲違いしとぉしやな」

???「……なんちゅーかなぁ、こう、『勘違い』しよったんよ。誰も彼も」

???「ただの主義主張に留めておけば良かったのに、『自分らはあの偉大なローマ・ギリシャの後継者やで!』って思い込んだんよ」

???「皮肉な話やね。十字教の影響から逃れるために、異郷の文化に縋ってみたら、今度は囚われとる」

???「あ、言っとくけど、それはワイらも例外やないよ?ちゅーか一部はもっと酷いんよ」

???「ロンドンにある大英博物館に行った事ある――って、修学旅行で行くわなぁ、普通は」

???「ほいじゃアテネから借りたパルテノン神殿の一部が飾られとるのは――あぁ、そうそう、あの病的までに真っ白のな」

???「材質が大理石やから、そうなるんやけども――」

???「――あれ、オリジナルは『極彩色』だったんよ。あ、飾られとぉのはオリジナルやで?レプリカでなくて」

???「んーとなぁ、19世紀のエルギン=マーブルっちゅー外交官がな、派遣先のギリシャ――当時はオスマン帝国から借り受けたんよ」

???「その当時はアホのナポレオンがギリシャに侵攻しぃ、それを追い払ったんがイギリスっちゅー事でエラい感謝されとった」

???「その後色々あって、パルテノン神殿の彫刻群――俗に”マーブルズ”言ぅ大英博物館へ寄贈されたやけども」

???「それを勝手にな『Cleaning』したんよ。こう、極彩色だった表面をガリガリ削って、大理石の字が出るまで徹底的に」

???「……その暴挙の引き金になったんが『ロマンチシズム』や」

???「『ギリシャは偉大な文化を築いていた』」

???「『よって同じく偉大な自分らはギリシャは自分達のルーツに相応しい』」

???「『だからギリシャの彫刻も”ホワイト”でなければいけない』」

???「……実際の所、地図を見ても分かるように、ギリシャ自体は東方・南方文化の影響を思いっきり受けとる」

???「クノッソスの迷宮壁画を見れば分かるねんし、ナイルを描いたフレスコ画も見つかっとぉ」

???「……」

???「なんちゅうかな……ワイの考えやけど、19世紀から20世紀にかけての『狂奔』は神を殺した所にあると思うんよ」

???「ロマンチシズムが、先に言ぉたアーリアン学説や優生学と結びついたんやな」

???「『偉大な祖先を持つ自分らは、この世界を支払いするに相応しいんや!そうに決まっとぉ!』的な考え」

???「初めは方便だったかの知れんよ。十字教やローマ正教からの脱却を計るため、新しい価値観を探すために過去の文化へ行っただけなのかも知れへん」

???「……けどな。現実の話、『信じ込んだ』んよ。心の底からな」

???「その後、何が起きて誰を殺したんかは、誰でも知っとぉ筈やけどな……」

???「……あぁ、ごめんな?ワイの話が長くなってしもうて、ホントはこんな話しとぉ無かったんやけども」

379 : 以下、名... - 2015/01/06 12:37:48.75 Hjce1d0Y0 901/1732

???「……ただ、アンタ達がもしかして遠い未来……や、少し前まで相手して来た連中の事ぐらいは知っとかあかんな思っ――」

???「――分かっとぉよ!ちゃんと言うから聞いてな!?特にレッサーとフロリスとランシス!ちぃとベイロープを見習ぃ!」

???「……なんですのん。金払っても聞きたい言うような話してんのにこの仕打ち……!アンタらいい加減にしときぃよ!」

???「あー……さっき言ぅたフィンチ、ダーウィン・フィンチっちゅー鳥の話あったやろ?あれ実は今も変化してんねんて」

???「そやフロリス。『進化』やのうて『変化』やね。生態学的には違ぉ思うけど、ワイとしてはそう言うしかないわ」

???「クチバシの長いフィンチは短く、クチバシの細いフィンチは太く」

???「クチバシの硬いフィンチは柔らかく……っちゅー風にやね」

???「まぁ……んなぁ?ぶっちゃけて言うけど、フィンチを変化させとぉんは『観光客』や」

???「毎年ぎょうさん来よぉ観光客が、なんも考えとんとフィンチへ餌を与えぇ」

???「フィンチは楽に食事出来るから、個々の特性が少しずつ失われとってん」

???「……これなぁ、ロマンチシズムと、この直後に起きたアーリアン学説と同じやねん」

???「『前後の脈絡抜きにして、整合性もへったくれもなく”都合の良い結論”へと飛びつく』ねんよ」

???「ローマの直系?ギリシャの正当後継者?……アホかっちゅーねん。もしオマエらがそうやったとしたら、どっちも滅びてへんよ」

???「自分達の願望のために過去ねじ曲げた挙げ句、理想や願望の中にしかない楽園を追い求める……つける薬もあれへん」

???「……そいでな、タチ悪ぅ事に今の状況とよぉ似てんねん。このロマンチシズムが」

???「ネオ・ペイガニズムっちゅー『異教の滅びた信仰”の名前を借りた新興宗教”』へ救いを求めたり」

???「『Eco-Army(環境テロリスト)』みたいな、神さんの居ない宗教へハマったりなぁ?」

???「『ここではないどこか』や『これではないなにか』を探しぃ、現実社会をスポイルしくさる人間が」

???「ダーウィン・フィンチみたいに、楽やからーちゅーて餌付けされた連中が」

???「なんも考えんと、耳障りのいい用意された結論へ飛びつくと碌な事あらへん」

???「アレやで?ISISみたいなダボハゼに入る連中もそうやで?」

???「行き場がない、ちゅーか社会からハブられたり、なんか上手く行かん人間はおるやんか?一定数は」

???「まぁそれ自体はしゃーないと思うんよ。こんだけ人がぎょーさんおれば、そりゃついてけん人もおって当然や」

???「そういう人間にええ加減な事吹き込んで騙してんのが連中や。あ、テロリストだけや無いよ?」

???「アンタらが戦ぉた魔術結社の人間達もそうやで?そこは理解してやってや?」

???「ただ、な?だから言ぅて手加減する必要はないよ。いやマジで」

???「人並みの判断力が持っとって、人並みに善悪が分かるんだったらやったら行かん事は分かるやろ。ちゅーか」

???「ええ歳こいてその判断も出来ひんねんやったら、色んな意味で終っとる。そんなアホはぶん殴ったり」

???「……うん?どしたんみんな?微妙なお顔やで?」

???「『その話は終った……』?終ったてどういう事よ!?ワイ知らんもん!」

???「知らんがな!ちゅーか誰よ!?ワイの大事なお話と被らせたんは!?」

???「あー……日本の?『幻想殺し』……アンタらが散々迷惑かけたお人かー……」

???「ワイどないして頭下げたらええか分からんよ!いやマジで!」

???「え、でも……別に会う必要はないんよね?機会もないし」

???「いやー残念やわー、実に残念やわー、でも会えへんかったら謝る機会もないしー……って何?」

380 : 以下、名... - 2015/01/06 12:41:11.40 Hjce1d0Y0 902/1732

???「チケット?日本語やね、何々……『ARISAの学園都市凱旋LIVE優待券』……?」

???「あー、ShootingMoonツアーの締めくくり?最後は自分んとこで……ふーん?」

???「アンタら招待されとるん?へー……?」

???「……」

???「や、ワイも――『連れてかない』!?まだ何も言うてへんやないのんっ!?確かにそれ的な事やけど!」

???「なんでぇな、連れてってぇよ!ワイ別にもふもふやし、チケット要らへんやん!」

???「なんやったらぬいぐるみに成り済ますから!ワイそういうミッション得意や!」

???「『立場的にマズいんジャン』?フロリスぅ、アンタよういちびぃ事言ぇんなぁ?」

???「これはアレやで?純粋な気持ちやで?科学の街で観光とかしたいとか思うてへんよ?いやマジでマジで」

???「ほらどうせ、連中倒したっても、まだ残ぉとる”シィ”倒さなあかんやん!?」

???「やったらワイも着いてって、こうサポートするわ!頑張るから!」

???「……ん、何?『”シィ”倒すってどういう事』?」

???「や、アレですやん。アンタらまだ話は終ってへんやろ、ちゅーかボス倒してないやんか」

???「このまま放置しとぉてもええねんけど、『幻想殺し』だけじゃまず勝てへんね」

???「地脈だけやのぉて黄道宮からもマナ集めよぉさかい、タチ悪ぅ――」

???「――え、何なん?なんや、『初耳やで!?』みたいな顔しよってるし、なんかワイ余計な事言ぅた?」

???「またまたぁワイ担ごうたってそうは問屋は降ろさへんのよ。センセー最初に言うとるやんか」

???「アイソン彗星喰ぉたんは『蝕』の権能やん。魔王ラーフと同格かそれ以上の力を持つ魔神の術式」

???「並の魔術師には感じ取れへんかもしれんけど、獣帯でマナが枯渇し始めて、白道へ流れ込んどぉわ」

???「あと『濁音協会』が『Society Low Noise』名乗ぉてんのも、あの魔神を崇めてますよってにっちゅー事やん?」

???「かなわんなぁ。ワイ、前からずっと言ぅて――え?何?」

???「『聞いてない』?いやいやっ!ダチョ○ちゃうねんからそれはないで!」

???「なんぼワイでもアンタらの命がかかっとる以上、相手の情報出し惜しみする程薄情な子とちゃうわ!」

???「見ぃや!ほら、きちんとレポートに書き直してワイのNokiaからメール送ったわ!履歴をよ!」

???「ほぉら見ぃ!きちんと下書きの所にあるやん!なっ!?」

???「……」

???「……いや、違うんよ?そういう事じゃないねんな、多分アンタらの想像とは違ぉとるよ?」

???「や、確かに一見すると、ワイが魔神に関するレポート書いたまま、送信するん忘れてたように――って何?ベイロープ?最後まで言わせてぇな」 グイッ

???「ちゅーかレッサーもフロリスもランシスも、なんでワイを掴もぅとするん?……はっ!?」 グググッ

???「……そかそか、恐かったんやね?なんぼエゲつない霊装持っとる言ぅても、アンタらはまだ子供やもんね……!」

???「やったら甘えてもええねんやで?このワイが全部受け止めたるさか――あ、あれ?なんか引っ張る力強ぉなってへん?気のせいやろか?」

???「あ、甘えんのは受け止めたるねんけど、もう少しだけ優しゅう――ってイタタタっ!?痛いですやんかっ!?」 ギュゥゥゥゥッ

???「そんなに全力で引っ張ったら千切れんねんて!?しかも個体個体が自我持つからっ!」

???「火の○の生命編みたいに誰が誰でワッケ分からん事になるからダメやって!」

381 : 以下、名... - 2015/01/06 12:43:50.40 Hjce1d0Y0 903/1732

???「てか悪気は無かったんよ!見てみぃこのレポート!きちんと書いてあるやろ!?」

???「それにアンタらも悪いやんか!?なんや旅が始まっとぉ思ぉたら連絡も碌に寄越さひんし!」

???「ワイが!ワイがどれだけ心配しくさった事か!」

???「ある意味アンタらはワイの娘にも等しぃんのんに!ワイがどれだけ心痛めとったかっちゅー話――」

???「――ってランシスさん?ランシスさんはこっそりワイのケータイの履歴探すの止めてぇな?それプライバシーと違うん?」

???「ワイ、確かにもふもふやし人権もないねんけど、気ぃ遣ってくれてもいいとちゃうかな?空気読め的なアレやで?」

???「てかアンタ前から言ぉ思ぉとったけど、そういうトコあんねんな?計算高いっちゅーか、結構腹黒い割に大胆っちゅーか」

???「あとレッサーな、今小声で『ダイター○カムヒアー』言うても誰も拾えへんよ?」

???「”大胆”と”ダイター○3”かけたと思うんやけど、ワイみいなツッコミにCP振ってる人ぐらいしかキャッチ出来ひんからね?」

???「なに?『勇者指令ダグオ○を拾った奴が居る』?……世界は意外と広いんやねぇ……」

???「……」

???「……えーっとなぁ、ほれ。誰が悪いとか犯人捜しは止めよか?なぁ?」

???「別に誰も悪くないんちゃう?ワイはそう思うよ?」

???「……ま、でも敢えて!敢えて犯人捜しをするんやったらば!」

???「バンナ○が悪い――って待ちぃな!?またセンセー言い終わってへんよ!?処刑執行するんやったら最後まで言わせてぇな!?」

???「いや、あんな?出たやん、Gジェ○?」

???「携帯ゲーム機で新作出しよらんと、なんかモバゲーばっかりやんか?」

???「しかも最新作言う割にはアレもコレもシステム廃止しよるし、何が新作やねんっちゅー話や」

???「なんかもうアレよね。格ゲーが複雑化しすぎて初心者離れて行きよったのとは対象的に、SLGは単純化しすぎるとダメやね」

???「ベーシック機体の導入とOVER WORL○のコアインパクトは良かったんよ。最初から強すぎんのも引くし、任意で難易度上げられんのも」

???「ただなー、多段ヒットと変形機構無くして、アシュタロ○の存在意義を奪ぉたのは納得いかんし」

???「あとスキルが個人で選べるようになったやろ?あっれーはダメダメよ?汎用性が高過ぎると、弱キャラ育てる意味が無くなんねんなー」

???「他にもワイ的にはザンスパイ○のスペシャルアタックの演出、元へ戻して欲しかったやんなー」

???「てかザンスパは誰に乗せるかんでセンス分かれるやんか?あ、ワイはエリス=クロー○に乗せとぉねんけど」

???「パイロット服も機体の色とオソロやし、個人的にはザンスカのテストパイロット的な感じっちゅー解釈をやね」

???「おとうちゃんがザンスパの開発者で、エリ○がテストパイロット的な」

???「マリ○主義がこれ以上広まんのを恐れたおとうちゃんが、娘に機体託して逃がすねんな」

???「追っ手と戦ってるウチに、マー○らのキャリベに保護され、傭兵として戦い始めぇ」

???「つっても最初からザンスパは使えへんよ?逃げ込んだ直後はブラックボックスの塊みたいなもんやし、整備班もよう直されへんやろ」

???「なんで鹵獲したMSを開発しとる間に――ってのがいいと思うわ」

???「……てか、レイチェル……どないしよるんかなぁ……?デバイスレイ○の頃からのファンにはキッツイねんな……」

???「うん、まぁそんな感じでもうすぐデンドロ作れんねんね。ちょっと夢中になってた言ぅか、あるやん?そうゆうの?」

382 : 以下、名... - 2015/01/06 12:45:15.12 Hjce1d0Y0 904/1732

???「むしろワイ頑張ったんちゃうんかな?序盤のステージでコツコツと――ってギィヤアアァァァァァァァァァァァっ!!!?」

???「削除だけはっ!?削除だけは堪忍しぃや?!てかアンタらそれでも人の子ぉかい!?」

???「ジ○からデンドロまで作んのにどんだけ時間遣ぉた事か!人の努力を足蹴にしよってからに!」

???「アンタを育てたヤツ出て来ぉ!ワイが直々にお説教したるわ――」

???「――って育てたんワイないかーーーーーーい!ルネッサーーーーーー○!」

ピッ

???「ってレッサオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォアアァァァァァァァァァァァァっ!?」

???「アンタ――アンタホントに何してくれよったんかっ!?ワイがどんだけの思いでフルバーニア○育てたかっちゅーねん!」

???「宇宙適正以外アホみたいに低いのんに、紙装甲だから使い辛いの我慢してやなぁ!」

???「後々ネオジオン○設計用に取っとこう思ぉたワイの開発計画を――何?」

???「『消してない』?そ、そうやんな?アンタらそないな酷い子ぉちゃうもんね?」

???「信じとぉたよ!ワイはアンタらがそないな外道やな………………うん?」

???「……あるぇ……?ユニット一覧にフルバニおらへんね……?」

???「その代わりに見慣れない赤いユニットが……どらどら?」

???「あー、ガーベ○やんね、これ」

???「……」

???「開発しとるやんっ!?てかこれワイの欲しかったMSちゃうよ!」

???「しかもこれ発展性が改ぐらいしか無ぉて、どん詰まりですやんか!?」

???「これでガチャ回すしか手に入ら――って何よ?何でみんなでセイセーもふもふしとぉん?」

???「なんか、こう、手で適当に大きさ見繕ぉてるようで、ごっつ不安になんねんけど……?」

???「や、まさかワイを適当な大きさに千切って持ってこうとか、そういう事やあらへんよね?アンタらそこまで外道とちゃうもんね?」

???「成り行きとはいえ、魔術師の師匠であるワイを100均でよぉ売れるドイツ製の消しゴムスポンジみたいにカッティングせぇよね!」

???「――てか携帯ストラップ取り出して目算立てる止めてぇな!今まさにワイの危惧が現実になろうとしてるやん!?」

???「だから千切るのはアカ――」

プチッ



――『ここまでのあらすじ』 -終-

390 : 以下、名... - 2015/01/13 12:43:14.29 tiewVY9N0 905/1732



――『闇、海より還り来たる』


391 : 以下、名... - 2015/01/13 12:44:32.10 tiewVY9N0 906/1732

――2014年10月8日8時過ぎ ロンドン『必要悪の教会』 ステイルの私室

Chirp, chirp, chi-chi-chi-rp……

ステイル「………………」

ステイル「……寝てないよ?}

ステイル「今のは少しウトウトしてただけで、僕はずっと起きてた」

ステイル「嘘だというのであれば、まず異論を挟んだ方が証明すべきじゃないかな?」

ステイル「……」

ステイル「……あぁクソ、眠ってた……」

ステイル「……」

ステイル「……ちなみに、極東の島国じゃスズメの鳴き声を『Chun-chun』と言うらしいね」

ステイル「……」

ステイル「……顔、洗って来よう……」

~10分後~

ステイル トントン、ポシュウウッ、ジジジジジジ……

ステイル「……ふうー……」

ステイル(朝食も採らずに――いや、採”れ”ず、徹夜明け……)

ステイル(……あの女狐め!何も、こんな時に溜まってる仕事を押しつけなくたっていいだろうに)

392 : 以下、名... - 2015/01/13 12:46:08.09 tiewVY9N0 907/1732

――『必要悪の教会』・廊下 回想

ステイル「……げっ」

スチュアート「人を見たりに『げ』とは、最近の若者言葉も変わりたるものなのよなぁ、ステイル?」

ステイル「いいえ、そんな事は全くありませんとも。色あせぬ名画のようにお美しい最大教主」

スチュアート「それは遠回しにババアだと申したる候?」

ステイル「急いでいますので、失礼しますね」 スッ

スチュアート「否定はされし方が良かれなのよ!?――って、あらあらまぁまぁ、これはこれは」

ステイル「言葉を何回も重ねるとバカがバカに見えますよ?」

スチュアート「んふふー、両手一杯にお菓子を抱えてどこへ参るの言うかしらー?レディへ持って行くには野暮だと申したるけどー?」

スチュアート「もし私なら花束の方が好み足りけるのだが?」

ステイル「あの子が帰って来ているでしょう?なんでも『日本のお菓子が食べたい』ってダダ捏ねたらしくて」

ステイル「なので仕方が無く、と」

スチュアート「ステイル!あぁステイルよ!」

ステイル「あ、すいません。そういうのいいんで」

スチュアート「何か忘れたりし事は無きか?」

ステイル「忘れている事、ですか?急を要する案件などは特に無かったようですし」

ステイル「『S.L.N.』の掃討は終了、事後処理で行政との折衝が幾つか残っているだけ――ですが、それは僕の管轄ではありませんし」

スチュアート「んむ、概ね合うているのよ。この私もようやく昨日、金冠ババアと別れられて気分爽快だわ」

ステイル「……一応、国のトップを”金冠ババア”呼ばわりは……」

スチュアート「だけれども!私の所へ連中の報告が上がって来ないというのは怒り心頭なりしの!」

ステイル「報告……あぁ、今作っている最中です。確かに作業が遅れているのは事実ですが」

ステイル「というよりも、最大教主?あなたが『この情報は集団が共有するのはマズい』と仰ったため、僕一人でまとめる必要になっ――」

スチュアート「すーてーいーるー、すーいーてーーーーるーーーーーーーー!」

ステイル「ですから、なんです?」

393 : 以下、名... - 2015/01/13 12:47:47.67 tiewVY9N0 908/1732

スチュアート「あらあらまぁまぁどうしたことなりし事なりけるのかしらー?」

スチュアート「まさか禁書目録が里帰りしただけなのに、まさか業務に差し障りがあるとはなぁ?」

ステイル「それとこれとは別の話だと思いますが?」

スチュアート「これは私の有能なる部下のために、禁書目録を早ぉ返さねばならないたるかしら?かしらー?」

ステイル「(……このクソババア、調子に乗りやがって……!)」

スチュアート「んー?何か申したかー?んんー?」

ステイル「……分かりました。ではこれを届けたら直ぐにでも取りかかります」

スチュアート「あー、いやいや。それには及びたりける事無かれ、なのよ」

スチュアート「ここはほれ、親切で友愛深い上司が代わりに運びたりけるゆえに」

ステイル「……極東の島国じゃ、”友愛”って言葉は」

ステイル「『故人献金を受けた現役総理大臣の担当秘書が、次々と事故で亡くなるが全く報道されない』とか」

ステイル「『現役総理大臣がテロ支援国家に亡命中のテロリスト、その息子の政治団体へ政党ぐるみで億単位の献金をしていても報道されない』とか」

ステイル「『総理大臣になる議員が政権交代直後、外国人の互助会へ顔を出して”選挙協力ありがとう”と言っても報道されない』って」

ステイル「『自称ジャーナリスト様に取って都合の悪い真実を国民へ報道しない権利』、を指して”友愛”というらしいですが」

スチュアート「うむ、それは知らなかったことあるけりよの!」

ステイル「面の皮が厚い――年輪か」

スチュアート「なので早くレポートを書く作業へ移りたれ!」

ステイル「……ちっ」

スチュアート「素直で良きかな良きかな――あ、もう一つ」

ステイル「まだなにか?」

スチュアート「提出を終えるまで禁書目録へ会いに行くのは禁止なりけるので、注意する事ぞ」

ステイル「なっ!?」

スチュアート「ではそういう事で失礼致すのでー」

394 : 以下、名... - 2015/01/13 12:49:12.89 tiewVY9N0 909/1732

――2014年10月8日8時20分過ぎ 現在

ステイル「……ふぅ」

ステイル(徹夜も三日目となると堪える……っていうか、児童虐待じゃないのかい?とも思う訳だが)

ステイル(別に手早く済ませたい訳じゃないが、まぁ――まぁ、色々あるんだよ)

ステイル(って言うか鳴護アリサ――ARISAの凱旋コンサートの日だっけ、開演は確か夕方からか……)

ステイル(あの子も行きたがってたろうに、結局どうしたのかな……)

ステイル(妖怪年増ババアinロンドンめ!……報告書なんて今まで碌に目を通した事なんて無かったろうに!)

ステイル(第一調べるんだったら僕達なんか通さず、訳の分からない諜報員を使っているんだし!)

ステイル(サフォークでもそうだ!……『取り敢えず傍観なりたけるので、手出し禁止の事――ただし!逃げ出す信者が居れば保護するように!』)

ステイル(後は丸投げ。いつもの通りと言えばそうなんだけどね)

ステイル(オルソラを保護した一件のように、事態が解決した上、気が向けば説明はしてくれる……が)

ステイル(今回は何が気に食わないのか。計画の全貌すら僕は知らない……だと、言うのに)

ステイル(現場での指揮その他諸々の責任者は一任されてる。これを『信頼』と呼べはしないだろうね)

ステイル(結局、僕達がした事は民間人の保護、そしてバカ二人の確保と簡単な手当) ピラッ

ステイル(どこに書いたか……な、と。これこれ)

ステイル(『ヤドリギの家』教団施設、その施設の殆どは既存のそれと変わりが無かった)

ステイル(10年前に作られた建物が殆どで、最初から設計へ入っていた――の、とは少し違う)

ステイル(フォーマットの関係というか、ホテルはホテルだし、病院は病院としてしっかり建てられている)

ステイル(隠し部屋やら、各種怪しげな監視用の機器も無く。ホント、いい加減だよね)

ステイル(関係する魔術資料は病院の診療記録アーカイバの棚の中にあったし。や、まぁ素人が見ても身は分からないだろうが)

ステイル(残った連中を確保した後に、施設内の……えーっと、第一聖堂、だっけ?昔からある教会の方)

ステイル(そこの地下墳墓の中には、まぁブラッグロッジらしい”もの”が一杯あったけれど」

ステイル(まずは居なくなった人間達、そしてウィリアム=ウェイトリィ院長兼主教の屍体)

ステイル(一番奥、増設された部屋に原形を留めていない程、言ってみれば土に還るぐらいにボロボロになっていた)

ステイル(当然肉体の生命反応は無し。しかしクリストフ=ウェイトリィの術式、『世界樹の根』で生き長らえていた可能性はある)

ステイル(術式を埋め込まれて、無理矢理魔力を吸い出れられるのが、『生きて』居るのだとすれば、だけれど)

ステイル「……『世界樹の根(Root Yggdrasil)』」

ステイル(元々は前身であった、というか本来の『濁音協会』で研究がされていた術式か)

ステイル(言わば魔力の共有化――ある意味社会主義っぽい気もするけど、まぁ発想自体は悪くはなかった)

ステイル(個人で精製出来る魔力量はたかが知れている。ならば引き上げてしまえば強くなる、という概念)

ステイル(ポーカーで手札が5枚じゃ少ないからって、10枚へ増やせば強い役が出来るだろう、かな?)

ステイル(気持ちは分からないでもないし、多分に共感……というよりは同情する所もあるんだけれどね)

ステイル「……えぇと、昔の資料――どこ行っ――あった」

ステイル(新しい『濁音協会』の魔術師は途中でこの術式の開発を放棄した。いや、せざるを得なかった)

ステイル(あのバカなルーン使いが魔術師と資料破棄をしただけで、共同研究者であったウィリアム医師を放置したからだ)

ステイル(人道的?違うね、あの男にすれば『合理的じゃない』だけだったんだろう……今はもう知りようもないんだが)

395 : 以下、名... - 2015/01/13 12:59:50.41 tiewVY9N0 910/1732

ステイル(どうにも制御なんて出来ない状態になった――筈、だった)

ステイル(その”神”の、方向性を決める相手――そう、アルフレド=ウェイトリィが居なければ)

ステイル(アルフレドの遺体……も、また殆どが炭化しており、原型は全く留めていなかった)

ステイル(『幻想殺し』が殺した……のなら。僕の敵はもっと弱っちくて楽だったんだろうけどね)

ステイル(これもまた副作用なんだろう。術式が切れたら院長を筆頭に、肉体の限界が来ていた人間達はそのまま屍体へ戻ったように)

ステイル(最初から生きていたのかも怪しい所だが――まぁそれは些細な事だ)

ステイル「……」

ステイル(この話、『濁音協会』の中心に居るのは紛れもなくアルフレドだ)

ステイル(パワーダウンしたとはいえ、弟と同じ時空間魔術を使いこなす)

ステイル(厄介な再生能力も、使い方さえ間違えなければ教皇級の魔術師と渡り合えるだろう)

ステイル(対外交渉能力も長けているらしく、『野獣庭園』や『殺し屋人形団』を巻き込む事さえやってのけた)

ステイル(ただでさえ個人主義が強い魔術師の中、限りなくフリーダムにやっている連中を?どうやって?)

ステイル(今時の自称魔術結社じゃあるまいし、自前のHPを持ってメールアドレスを公開してるじゃあるまいし)

ステイル(フツーの組織でも利害関係の擦り合やせ、お互いをどう出し抜くか、はたまた裏切るかと忙しいのに)

ステイル(どうやって渡りをつけたのか。残念ながらそこら辺の資料は残されていなかった)

ステイル「……」

ステイル(……そう、『なかった』んだよ)

ステイル(教団本部に残されていた魔術的な資料、その殆どはクリストフと『世界樹の根』に集約されていた)

ステイル(クリストフがどう産まれて、どのように改造されたのか……施術を施したのはウィリアム院長であったらしい)

ステイル(まるで――という言い方は正しくないんだろうが――モルモットのように事細かに記録が残されていた)

ステイル(……よくもまぁ付け焼き刃の魔術知識でどうにかしたもんだ、と褒めてやりたいぐらいだけれどね。ただ)

ステイル(普通、魔術師は他人に知識を盗まれるのを酷く嫌う。ま、僕らだけではないし、当たり前だけどね)

ステイル(なので研究資料を作ったり、残したとすればそれは他人には解読不能な所を入れたりする)

ステイル(異国の文字で書いたり、人によってはオリジナルの文字を作ったりするそうだ)

ステイル(アレだね。どっかのバカが不用意に表へ出してしまったヴォイニッチ手稿なんかが最たる例だ)

ステイル(中には最も大切な部分へ意図的に嘘を混ぜたりもする……ん、だけど)

ステイル(この先生はどうやら医者としての癖が抜けない上、僕達の流儀を知らないようで、実に正確且つ丁寧に記録を残してくれていた)

ステイル(……まぁ、自分が不治の病になったからって、誰かに研究を引き継いで貰うつもりだったのかも知れないが)

ステイル(なんだかんだで院長先生は多くの命を救ってきた。無償に近く、献身的で、人望をそれなりに集め、同業者から疎まれて)

ステイル(だがその結果、魔術に手を染め、全てをスポイルしてしまったんだが……)

ステイル(……この一件が表へ出る事はないのだから、彼は人格者として名を残すだろう)

ステイル「……」

ステイル(ただその魔術資料の中から、また病院の医療記録と出産記録の中にも)

ステイル(教団の残した裏帳簿のようなものですら、その名前は残っていなかった――)

ステイル(――『アルフレド』という名前が)

396 : 以下、名... - 2015/01/13 13:01:28.99 tiewVY9N0 911/1732

ステイル(信者――真っ当な判断を残しながら運営していた、テリなんとかって女――へ聞いても、『お兄さんが居たんですか?』とビックリされるし)

ステイル(他の人間へ聞いても大抵同じ反応が返ってくるだけ。いい加減飽きた――とシスター・アンジェレネの報告書には書いたあったよ)

ステイル(二人とも外見はそっくりだった)

ステイル(これはまぁ双子だったとすれば説明がつ……かない事もないし、あの双子が魔術的に同調しているのであれば、まぁまぁ分からないでもない)

ステイル(『他人の意志を受けて振舞う』特性がある以上、どっちかの外見をコピーした可能性もある)

ステイル(けれどクリストフですら載ってる出生記録や戸籍、その他研究データの中に、アルフレドが一切登場してこないのは何故だ?)

ステイル(几帳面を通り越して、神経質なまでに記録を残していた老医師)

ステイル(自らの息子を差し出す事すら厭わなかったのに、どうしてもう一人の息子には無頓着なのか?)

ステイル(セオリーであるなら、情も排した僕達の流儀に則るのであれば、素体を二つも手に入れられた以上、どちらかを『予備』とするか)

ステイル(もしくは医師が高齢である以上、助手兼後継者と目論むのが自然だと言える)

ステイル「……」

ステイル(ウェイトリィ老医師が研究データをそのまま残していたように、素人ならではの発想がある、か……?)

ステイル(……考えても仕方がない。次へ移ろう) ピラッ

ステイル(次は……あぁなんだっけ?子供達の数が合わない?)

ステイル(名簿と生き残った連中、そしてそうではなくなった人間)

ステイル(彼らのすり合わせをしていたら、一人だけ行方不明になっていた。そうアニェーゼ達からの報告があったと)

ステイル(なんだろうね、こうワープロソフトで数字を入れて見積もり出したら、何かズレてるとか。一人だけってのも気に入らない的な)

ステイル「……」

ステイル(……多分、あのバカどもは勘違いしているだろうけど、今回の件、僕達は遊んでいただけじゃないからな?)

ステイル(戦いってのは戦いそのものも大切だけれど、それ以上に前後も大切でさ)

ステイル(サフォーク騒動もそう。事件の前には他からの間諜も入ってて、そっちとの調整もしなきゃいけない)

ステイル(また当然騒ぎが大きくなって、施設内から警察へ通報してきたら、それも何とか誤魔化す必要がある)

ステイル(中から逃げてくる信者達の保護、怪我人の手当、また彼らを受け入れられる施設の確保)

ステイル(終ってからは彼らの身の振り方や事情説明をしなければいけない)

ステイル(――以上全てを『魔術なんて存在しない』前提で進める必要がある。それも、速やかに)

ステイル(……昔の記録を読んでいると、だ。関わった人間皆殺しだなんて、物騒な話はいくらでもあるし、今でも必要があれば躊躇いはない)

ステイル(けれども実行へ移した話が殆ど聞かないのは……良い事なのかな?)

ステイル(この世の中、人一人消すのがどれだけ難しいか。親兄弟に親戚知人に友人、メル友だかSNS繋がりにツイッターやフェイスブック……)

ステイル(他人と”繋がる”ツールが発達しすぎて、どこから足がつくか分かったもんじゃない)

ステイル(また科学サイドほどの徹底的な情報操作――という割には甘い気もするが――も出来ない。パソコンに魔術はかからないからだ)

ステイル(いったん広まった情報は回収不可――何代か前のイギリス王子が未成年と淫行したスキャンダルも、手が着けられなかったしね)

ステイル(国家権力と繋がってるとは言え、それらの『隠滅』する対象が広がれば広がるほど面倒臭くなっていく訳だからね、これが)

ステイル(……まぁ、魔術と魔術師の存在をある程度知らせた上で共謀するのであれば、まだ楽なんだが……生憎、味方にすら僕らを知られる訳には行かない)

ステイル(なので僕達がどうしているかと言えば、『放置する』んだよ。ある程度知っただけの人間であれば)

ステイル(どこかの熱血バカの東洋人の場合、僕らがあの子を連れ帰ったとしよう)

ステイル(そうすればあの幼女ホイホイは何らかのアクションを起こす筈――っていうか、絶対に、起こすね。賭けてたっていい)

ステイル(周囲へ話して助けを求めるのか、ネットで暴露して支持を得るのか)

ステイル(もしかすると直接乗り込んでくる――って可能性が一番高い気がするけどね)

ステイル(――ただ、現実は非情なんだ)

397 : 以下、名... - 2015/01/13 13:05:23.22 tiewVY9N0 912/1732

ステイル(いきなり『悪い魔術師が友達を攫っていったんだ!』とぶち上げて、一体どれだけの人間が信じると思う?)

ステイル(動画があっても合成だと判断されるだろうし、ネットにしろ相手にされない。”良くて”売名行為と思われるだけで、最悪――)

ステイル(――ただの”気狂い”と判断され、あのBBAキラーを信じる者は居なくなる)

ステイル「……」

ステイル(……ん?ふと思ったんだが、というか……これはきっと三徹した僕の妄想なんだろうけど)

ステイル(あの子とラッキースケベ量産機が出会ったのは『偶然』なんだろうか?)

ステイル(その後の世界状況にしろ、魔術サイドでは僕達イギリス清教が一人勝ちしている状態――CPを女運に全振りした男によって、だ)

ステイル(最大教主はもしかして、最初からそれを狙って……?)

ステイル「……」

ステイル(……えぇとね、そのだ。世界には『方向性』とか、『規則性』なんてものはないんだよ)

ステイル(何も無い所で転んだとしても、それは悪の組織の陰謀ではなく、ただ単に転んだって結果があっただけで、それ以上の意味は無い)

ステイル(世界も同じく。日々目まぐるしく様々な者や物が変わってるけれど、そこに特定の意図された動きはない)

ステイル(そしてそれを説明”出来る”と信じ込んでしまえば、『何でも出来る悪の組織が仕組んでいる!』って結論へ行かざるを得なくなる)

ステイル(信じるのはまぁ勝手だけれど……そこまで行くと宗教の範疇だね)

ステイル(……たまーにさ、オカルトや政治関係の匿名掲示板を覗く事があるよ。趣味じゃないけどね)

ステイル(どこでどう危険な知識が広まっていやしないか、確かめるのが目的――なん、だけども)

ステイル(中には『一国の宰相レベルでしか知り得ない情法』やら、『マフィアと政治家が癒着している』的な話もチラホラとある)

ステイル(訳知り顔で教えて”やる”という人間はどこにでも居るけれど、あれを見ていつも思う――)

ステイル(――そんな重大情報握ってんだったら、マスコミか第三国で発表すればいいじゃないか)

ステイル(日がな一日、朝から晩までハロウィンもニューイヤーも関係なく書き込む彼ら、そのバックボーンの方が興味あるけれど)

ステイル(ほぼ全てが例外なく出所も分からない風聞の類、良くてゴシップ紙の『消息筋』からの伝聞)

ステイル(よくまぁ信じる気になれるというか……そのメンタルを褒めるべきかもしれないね。僕はゴメンだが)

ステイル(魔術も存在が隠され続けているのも、そういう益体もない人間のお陰なのかも)

ステイル(情報の氾濫。それが返って信憑性全てを失わせてしまうのに気付けない)

398 : 以下、名... - 2015/01/13 13:06:32.24 tiewVY9N0 913/1732

ステイル(もしもあの歩くフラグ製造器目当てに最大教主が画策した、なんてのは妄想もいい所だろうな)

ステイル(……とはいえ疑念は残る、しかし確かめる方法が。方法、ねぇ?何か……)

ステイル(いっそのこと、何か適当な用件を作ってしまってだ)

ステイル(あのフラグ未回収で個別ルートに派生出来てない男を、最大教主に引き合わせてしまえば……?)

ステイル(あのBBAずっと昔からあの姿らしいし、適齢期を通り越しているのは間違いない)

ステイル(二人を結びつけてしまえば、あの子の貞操も……!)

ステイル「………………ふむ?悪く、ないね、むしろ良いな」

ステイル「これはジョークじゃなく、本気で実行へ移し――」

上条(想像)『初めまして!今日から”必要悪の教会”の一員になった上条です!』

ステイル(……)

トントン、ポシュッ、ジジジジジジ……

ステイル「……ふー……っ……」

ステイル(今、『必要悪の教会』ロンドン女子寮を爛れたハーレムにするビジョンが一瞬浮かんだ……疲れてるんだな、僕は)

ステイル(……えっと……なんだっけな。何で頭が痛かったんだっけ……)

ステイル(……あぁ、そうそう。足りないんだよね。、女の子一人)

ステイル(特徴を書き出して……警察か。僕らじゃ『双頭鮫』の方の活動まで手に負えない)

ステイル(あっちの方はマフィアだって話だが、生憎そう言ったアウトローな人間に知り合いは居な――)

ステイル「……」

ステイル(……『明け色の陽射し』、か。居たな)

ステイル(あそこのマニア向けボスの妹を助けたんだったか。ある意味貸し一つ……いや、ドナーティのホロスコープも含めて差し引きゼロ)

ステイル(上手く手懐けた男を、不幸にも僕は一人知っている。知っているけれど……頼りたくはない)

ステイル(……ま、最悪の最悪、アニェーゼ辺りから情報を流して貰えば良いさ。借りを返すのは僕じゃないし)

ステイル(さて、ではその子の特徴をレポートに……って何?USBメモリ?書類じゃなくて?)

ステイル(wavデータ……あぁ関係者からの聞き取りはしてあると……だったら最後までしてほしいけれどね)

ステイル(ま、仕事なんだから聞きますか。さて――)

399 : 以下、名... - 2015/01/13 13:08:06.18 tiewVY9N0 914/1732

――MC201410XX-XXXX

女S「あーテステスー、聞こえてるかー?」

女S「突然こんなモン渡されてもな、私は専門じゃねぇんだけどよ」

女O「大丈夫なので御座いますよ、ほらここがマイクになっておりますので」

女O「ギザギザが振り切ったままになっていなければ、適量で録音されているとのお話で」

女S「ギザ?あぁ、これね。名前は分かんないけど、ミキサー的なアプリについてるヤツか」

女O「それで『エレーナとイワンはもう家に帰ってんだ』とは、一体どういうお話なのでしょうか?」

女S「どこまで巻き戻ってんだ!?てかいつの話よ!?」

女O「あ、ボリュームが振り切ってます」

女S「いや、だから!大声上げさせてんのは誰だ!」

女O「シェリーさんではないでしょうか?」

女S「確かになっ!実際に声張ってんのはあたしだけれども!そういうこっちゃなくてよ!」

女S「つーかこれ、私の名前言ってるし……あぁ面倒クセェ、つか良いか別に。どうせあの若オヤジが聞くんだよな」

女S「だったら勝手に編集でもしてろっつーの。で、来てるのかしら?」

女O「はい。先程からずっとこちらに」

女S「見られてんじゃねぇかダメダメなとこ……まぁ、それも別にいいや」

女S「それで?あなたの名前は?」

女O「オルソラ=アクィナスと申――」

女S「あなたじゃないわね!?っていうか今、明らかに私はそっちの人を見てたでしょうっ!?」

女O「で、こちらの方がシェリー=クロムウェルさんといって、美術大学で教鞭を――」

女S「おい誰かコイツを連れて行ってくれ!」

女O「相手に信じて頂くにはまず自分から、で御座いますよ?」

女S「時と場合よね?今、話をちょっと聞くのに必要はないわよね、主に私達の個人情報は?」

400 : 以下、名... - 2015/01/13 13:10:12.85 tiewVY9N0 915/1732

テリーザ「え、っと、その、いいでしょうか?」

女S「あんっ?」

テリーザ「ごめんなさいごめんなさい!わたしは何も見てませんっ!だから命だけは!」

女S「……何?このリアクション?睨んだのは悪かったけどよ」

テリーザ「上条さんから『取り敢えず謝っとけば何とかなる!』って」

女S「なる……か?」

女O「多分その名前が出た時点で、恐い方は手出し出来ないと思いますよ」

女S「まぁ別にだ。取って喰おうって訳じゃないのよ、少し聞きたい事があるってだけで」

テリーザ「は、はぁ」

女O「あなたが子供達のお世話をされていたと聞きましたが、それで合っておりますでしょうか?」

テリーザ「あ、はい。基本的にわたしが、していました」

女S「子供達は三人だけ?名前を言って貰ってもいい?」

テリーザ「ケインとカレン、クリスタです」

女S「……んー……それじゃ、少し前には女の子が居たんだよな?」

テリーザ「いいえ、居ませんでしたよ」

女S「何?」

テリーザ「わたしが請け負った、っていうか勉強を教えていたのはあの三人だけですし。他に子供が居たなんて知りません、けど」

テリーザ「それが、何か?」

女S「あー……ちょっと待って貰って構わないかしら?少し、他の子の話とも合わせないといけないから」

テリーザ「後であの子達と会わせてくれるんですよねっ?」

女O「勿論で御座いますよ。それでは少し世間話等を――」

401 : 以下、名... - 2015/01/13 13:10:59.18 tiewVY9N0 916/1732

――私室

ステイル(……知らない?どういう事だ?)

ステイル(もう一人の子供、名簿には載っていた筈だけど……) ピラッ

ステイル(……いや、こっちの帳簿には記載されていない。それじゃこの先生が言っていた事が正しい、筈だが)

402 : 以下、名... - 2015/01/13 13:11:44.79 tiewVY9N0 917/1732

――MC201410XX-XXXY

女A「はいどーも。それでは自己紹介しちまってくださいよ。まずは名前を」

ケイン「……ケイン、ケイン=パワスカァだ」

女A「ケイン?ケインですかい?」

ケイン「……なんだよ」

女A「いえね、名簿にはパワスカァってぇ名前はあるんですが、ケインではねぇんじゃねぇですか?」

ケイン「……カイエンヌ。長いしイギリス風じゃないから、ケインって言ってるんだよ

女A「へー?女の子みたいな名前ですね」

ケイン「……だよ」

女A「はい?今なんて?」

ケイン「女だよって言ったんだ!」

女A「あー……まぁ、二次性徴前ですし、美少年に見えるっちゃ見えますがね」

ケイン「俺はどうだっていいだろ!それより何の用で呼んだんだよ!?」

女A「あーもう、興奮しないで下さいな。お友達とは用事が済んだらお引き会わせますし

ケイン「……」

女A「あなたの『立場』ってぇヤツには同情しますがねぇ、そう誰彼構わず突っかかってたら、最後には誰も相手にされなくなっちまいますよ?」

ケイン「アンタに何が分かるんだよ!歳だって俺とそんなに変わりないじゃないか!」

女A「分かるってもんですよ。だって私も孤児ですから」

ケイン「え」

女A「両親を殺されてストリートチルドレンまっしぐら。いやー、毎日が大変でしたねぇ」

女A「色々あって、仲間と一緒に助けられましてね、流れ流れてロンドンまで来ちまいましたよ、えぇ」

ケイン「……」

女A「確かにあなたは『不幸』なんでしょうけど、それはそれ、これはこれ」

女A「同情を引きたいのと、世界を相手にして生き残っていくのは別の話ってぇ話です」

女A「人間、どうやっても一人で何か生きられっこねぇんですから、どっかで折り合いをつける必要がある。違いますか?」

女A「差し出される手が善意か悪意か?……経験上、多分そんな事で悩んでるんだと思いますけど」

女A「どっちだって良いんですよ。善意であれば成長してから恩に報いれば良いし、悪意ならばさっさと逃げ出せば」

女A「このくそったれな現実であっても、手を差し出してくれる物好きは意外と少なくねぇようでしてね」

女A「折角拾ってくれるって人が居るんですから、少しは前向きに考えてはどうでしょうかね――と、柄にもなく説教しちまいましたね。すいません」

ケイン「……こっちもゴメン」

女A「いえいえ。では改めて質問なんですが――」

女A「――あっこの教団、子供は何人居ましたか?」

ケイン「四人だったよ。最後は三人になっちまったけど」

女A「……ですよねぇ。あなた方からの聞き取り調査じゃ、そうなってますよねぇ」

ケイン「セレナはまだ見つからないの?」

女A「……えぇまぁ。そうなんですけど、えっと……それじゃ、あなたがご存じの特徴とか教えて貰えませんか?」

ケイン「前にも言ったよな」

女A「念のためにですよ」

ケイン「アジア――たぶん、東洋人だった。日本語も話せたから、日本人なんだと思う」

ケイン「二週間ぐらい前に来て、また居なくなっちゃったけどさ」

403 : 以下、名... - 2015/01/13 13:13:02.70 tiewVY9N0 918/1732

――MC201410XX-XXXZ

女AN「え、えーとですね。それでは今からあなたの尋問――じゃなかった、取り調べ――でもない、えぇと……」

カレン「質問?」

女AN「そ、それです!質問!質問をしたいと思います!」

カレン「緊張してるの?誰か大人を呼んできた方が良いんじゃない?」

女AN「し、失敬ですねこのお子様は!わ、わたしはきちんとしたシスターですよ!」

女AN「そりゃちょっとは若く見られますし、『全く、シスター・アンジェレネは!』とよくシスター・ルチアに言われますけど……」

カレン「あ、シスターさんアンジェレネちゃんって言うんだ?」

女AN「はっ!?巧みな誘導尋問!?」

カレン「わたしカレン。カレン=スウェドバーグって言うのよ。ヨロシクね」

女AN「は、はぁよろしくお願いします……?……じゃ、なくてですね!」

カレン「セレナちゃんの事を話せば良いのよね?えっとねぇー」

女AN「……な、なぜか会話の主導権があっちに……?」

カレン「肌がねー、すーーーっごくキレイなんだよ!Ceramics(陶磁器)みたいに白くてさーぁ?」

カレン「髪と眼も黒――っていうよりは、夜の色?見つめられたら、なんかヘンな気分になるしー」

女AN「へ、へー?写真とかないんですかねぇ?」

カレン「クリスが描いた似顔絵ぐらいはあるけど、わたしたち携帯電話も持ってなかったからねぇ」

カレン「クリスはママに懐いてたからなぁ」

女AN「……ま、ママ?」

カレン「うん。セレナちゃんってね、すっごい大人っぽいんだけど、意外とワガママなのよ」

カレン「わたしたちに『ママ』って呼ばせたりとかね」

404 : 以下、名... - 2015/01/13 13:14:00.96 tiewVY9N0 919/1732

――MC201410XX-XXXZ

女L「……」

クリス「……」

女L「……その、ですね」

クリス「……!?」 ビクビクビクビクッ

女L「しょ、初対面の女の子にここまで怯えられるとは……」

女L「(事情が事情なので分かってはいても、堪えますね)」

女L「(しかし……やはり年が近いシスター・アニェーゼやシスター・ルチアの方が適任だったのではないでしょうか?)」

女L「(特に精神年齢の近――いけませんいけません!シスター・アンジェレネをガキだなどと思っては!)」

女L「(さて、この状態をどうしたら良いのでしょうか……?こんな時、あの子にするんだったらどうするか――)」

女L「(――って、考えるまでもないですが)」

女L ギュッ

クリス「っ?」

女L「大丈夫、あなたは一人ではありませんよ」

女L「苦しい時も、病める時も、不安で押し潰されそうになっている時ですら、あなたは決して孤独ではありません」

女L「天におわす、いと高きあの御方が、私達をご覧になっているのですから」

クリス「……」

女L「……私達は、とても弱きものです。体もそうですし、心はもっと」

女L「けれど、常にあの方は私達がどのような行いをしているのかを見て下さっています。ですから、ね?」

クリス「……ママ?」

女L「そう、ですね。慈悲深き聖母マリアも、あなたのお母様と同じようにあなたを見守り続けてくださるでしょう」

女L「ですから、あなたは真っ直ぐに生きなければいけません。誰に恥じる事無く、誰に後ろ指を指される事無く」

女L「誰かを陥れ、偽りの幸せを手に入れたとしても、それはきっとあなたの手には余る事でしょう」

女L「正しく生き、正しく死ぬ。そうする事によって初めて安寧と幸福を得られます」

クリス「……よく、わからない、けど」

女L「……今はそれでも構いませんよ。ただ、あなたが決して――そう、決して一人ではないと――」

クリス「それ、ママも言ってた……」

女L「そうですね。あなたのお母様はとても敬虔な方だったようです」

クリス「……違う、そうじゃなくって。その」

クリス「”おかあさん”ではなくって、”ママ”が」

女L「えぇと……なんて?」

クリス「つらいことや、くるしいこと、いっぱいあるだろうけど……」

クリス「……ほんとうにイヤになったら、ママのお名前を呼んでって」

女L「ママ、名前……?」

クリス「――そうすれば、いつだって『むかえにいくよ』って」

405 : 以下、名... - 2015/01/13 13:14:38.04 tiewVY9N0 920/1732

――ステイル

ステイル ピッ

ステイル「……なんだ、これは……?」

ステイル(この子の言ってる”ママ”ってのは、子供達にしか見えない”ママ”――セレナって子、だよな?)

ステイル(やや年長の子供が、お姉さん風を吹かせて年下の子供に”ママ”と呼ばせる……まぁ、それはある、かも知れない)

ステイル(それは確かに、特殊な環境下へ置かれた子供達にとっては救いだ。それは、いい)

ステイル(だがなんだろう、これは?気味が悪い。まるでオバケの話をされているみたいで)

406 : 以下、名... - 2015/01/13 13:15:24.10 tiewVY9N0 921/1732

――MC201410XX-XXAA

女S「それじゃあなたはそのセレナってぇ子を見た事はないのよね?」

テリーザ「えぇ、はい。子供達から話は聞くんですけど、居ないものは居ませんし」

女S「放置してたのかよ?」

テリーザ「あ、いえ具体的に続くようでしたら、何かしようと思っていたんですが、そのっ!」

テリーザ「あれぐらいの子供が、『大人達には見えない友達』を持つのって、割とあるらしいんですよ」

女O「イマジナリーフレンド、では御座いませんか?」

テリーザ「それです、それっ!」

女S「なんだそりゃ?幽霊みたいなものなの?」

女O「お友達が居ない一人っ子が、悪戯に作りだした疑似人格のようなもの、でしょうか?」

テリーザ「ですね。子供に取ってみれば現実と空想の境が曖昧ですし、また想像力も豊かですから」

女S「ふーん?ごっこ遊び、みたいな感じ?」

テリーザ「お人形さん遊び、しませんでしたか?あ、小さい頃ですけど」

女S「あー……」

女O「シェリーさんは今も現え――」

女S「やったわね!小さい頃には!」

テリーザ「あれの延長線上みたいな感じじゃないかなー、と……というかですね」

テリーザ「わたしも気にはなったんで、何回か『ご飯を一緒に食べられない?』とか、『先生とお話しさせてくれないかな?』とか」

テリーザ「本当に誰かもう一人居るんだったら、保護しなくちゃいけませんから」

女S「って言い切るって事はだ」

テリーザ「はい、そんな小さな子なんて居ませんでしたよ」

テリーザ「わたしがあの子達のお世話をするようになって二ヶ月ぐらいですけど、その間は全然」

女S「……ふぅん。それじゃ、まぁ……問題ない、よな?」

女O「で、御座いますのですよ」

女S「それじゃ以上で質問を終え――」

女O「ではこちらへどうぞ。子供達がお待ちなのですよ」

女S「だから!勝手に話を――」

プツッ

407 : 以下、名... - 2015/01/13 13:17:23.78 tiewVY9N0 922/1732

――MC201410XX-XXAB

女A「そうですかい、他には何か?」

ケイン「ARISAの歌をよく弾いて歌ってくれたよ。すっげー上手でさ!」

女A「弾いた、のは何で?」

ケイン「んーと、キーボード?って言うのか?あの、電子ピアノ?」

女A「……あー、ありましたね。古そうなのが」

ケイン「後は何かあったっけ……?あ、お姉さんぶるっつーか、”ママ”って呼ばせようとしてたな」

女A「それはどうして?」

ケイン「俺に聞くなよ。クリスは懐いてたけど、俺とカレンはそういう歳でもないからな」

女A「……はい、まぁこんなもんでしょうかね」

ケイン「長いよー」

女A「それでは、こっちへどうぞ?お友達は……まだ終ってねぇみたいですが」

ケイン「あ、やった!お菓子食べてていいのか!?」

女A「どーぞどーぞ。今、紅茶でも――」

プツッ

408 : 以下、名... - 2015/01/13 13:18:47.21 tiewVY9N0 923/1732

――MC201410XX-XXAC

女AN「ま、ママですかぁ?なんか、子供ですよねぇー?」

カレン「そうよね?わたしも笑っちゃったもん……あ、でもクリスはよくママって言ってたから、良かったんだと思う」

女AN「そ、それでは他に何かセレナさんについて、ありますかぁ?」

カレン「んー、そうねぇー……?日本語が上手かった、かな?やっぱり」

カレン「わたし達に、先生も教えてくれたけど、セレナちゃんの方がずっと上手かったし?」

女AN「そ、そうなんですか?どんな風に?」

カレン「気がついたらおぼえちゃってる、みたいな感じかな?こう、頭の中へスッと入ってくるみたいな」

女AN「そ、それは羨ましいかも……」

カレン「『お兄ちゃんに失礼のないように』って、頑張っておぼえたんだよー?ね、ねっ?エラいエラい?」

女AN「ふ、ふーんだっ!わたしだってすこしぐらいなら話せますよーだ!」

カレン「あ、そういう事言うかな?あなたって意外――でもないけど、子供っぽいよね?」

女AN「こ、こ、子供ぉ!?このわたしのどこが子ど――」

プツッ

409 : 以下、名... - 2015/01/13 13:19:51.04 tiewVY9N0 924/1732

――MC201410XX-XXAD

クリス「……ママはね、おまじないが、とくいなの」

女L「お呪い、ですか?あまり……まぁ、良いでしょう。で、どのような?」

クリス「……わたしたちに、ぱぁっとすると、ぺらぺらになれるんだって……!」

女L「そ、そうですか……?それは良かった、ですね、えぇ」

クリス「むかしむかしにも、おなじことがあったんだけど、こんどはもうおきないんだって」

クリス「だから、おっきなお城をつみあげても、言葉をうしなわずにいいんだよーって」

女L「昔、とはいつの――」

カチャッ

女A「――っとすいやせん!シスター・ルチア緊急事態です!」

女L「はい!敵の魔術師の攻撃ですか!?」

女A「いえその……シスターアンジェレネが、尋問中の子供に泣かされた、って……」

女L「はいっ、ただちに戦闘準――はい?」

女A「……」

女L「あの……シスター・アニェーゼ?今とてもとても残念な言葉が聞こえたような気がしたんですが……?」

女A「……今、シスター・オルソラとシェリーさんで慰めてますが、その……」

女L「……」

クリス「……?」

女A「……も、もう終わりで良いじゃないですかね?他は全部終っちまってるようですし!」

女L「そう、ですね……」

プツッ

410 : 以下、名... - 2015/01/13 13:20:59.97 tiewVY9N0 925/1732

――私室

ステイル「…………………………」

ステイル(音声データは以上だし、シスター・アンジェレネのこれからも不安でいっぱいだけれど……)

ステイル(……なんだろうな、これ?今の会話の中に、とても気持ち悪い何か、見落としているようなものがある気がする……けど)

ステイル(あまりにも残念過ぎるオチで、思考回路が働かない……まぁ、良いだろう)

インデックス「――っ!――――――ってば!」

ステイル(子供達にしか見えないのだから、それはきっと子供達にしか影響を――)

インデックス「――ねーえ!聞いてるのーーーー!?」

ステイル「あぁもうウルサいな。今ちょっと手が離せな――」

ステイル「……い」

インデックス「……?」

ステイル「――って君!?どうしてここに居るんだい!?」

インデックス「さっきからずっと呼んでるのにその反応っ!?おかしくないかな!?」

ステイル「ん、いや、ごめん……か?少し考え事――と、仕事をしていてね」

インデックス「めっ!だよ!聞いたんだからね!」

ステイル「……いや、そこまで怒られるのは理不尽だと思うんだがね」

インデックス「そうじゃなくて!あなたはご飯を食べてないって聞いたんだよ!」

ステイル「………………はぁ?」

インデックス「あーくびしょっぷ、って人が『仕事が好きしゅうて好きしゅうてしようがない』」

インデックス「『あぁ誰かあのロンゲ神父へご飯を運んでくれる剛の者はおらんのか……!?』って!」

ステイル「……なんかおとぎ話の鬼退治になってるけど……」

インデックス「だから私が、わーたーしーがっ!持ってきた上げたんだもん!」

ステイル「……あのクソ女……!まさかこのためだけに仕掛けやがったのか……!」

インデックス「ありがとうは?」

ステイル「……ありがとう、ございます」

インデックス「よし!それじゃ食べ終わるまで私が監視してるからね」

ステイル「……いや、そこまでして貰わなくたって――」

インデックス「……あれ、これ”シィ”なのかも」

ステイル「――構わないんだが、まぁ別に邪魔をしないんだったらば吝かではな……」

411 : 以下、名... - 2015/01/13 13:22:12.13 tiewVY9N0 926/1732

ステイル「……何?」

インデックス「この魔術シンボルの解釈間違ってるよ?だってこれ”シィ”だもん」

c


ステイル(しまった!?『濁音協会』のシンボルマークを見られた!)

インデックス「ねー?ねーってば!聞いているのー?これ間違っ――」

ステイル「マズい!目を閉じるんだインデックス!精神汚染される可能性がある!」

インデックス「眼?……瞑れって言うんだったら、瞑るけど……それ、意味無いかも」

ステイル「だってこれは『クトゥルー』の”シィ”だ!君の中に眠る魔導書、ネクロノミコンに悪影響を与えるかも知れないんだよ!」

インデックス「あ、そういう心配?だいじょぶだいじょうぶ、それだったら問題ないと思うよ。だってこれ――」

インデックス「――『クトゥルーの”C”じゃない』んだもん」

ステイル「………………何?今君、なんて……?」

インデックス「これは『くとぅるー』の”シー”じゃなくて!別の”シィ”なんだよ!」

ステイル「いや待ってくれ!これは”シー”――何かの頭文字、Cだろう!?どう見たって!」

インデックス「あー……それ、勘違いかなのかも。ってか描いた人がイジワルなんだと思うけど」

インデックス「これはアルファベットの”シー”じゃないの!もっと古くて厄介な”シィ”なんだよ!」

ステイル「……分かった、オーケー、落ち着こう?」 ボシュッ

インデックス「あーもう、たばこは体に良くないんだよ!」

ステイル「良いから話を続けてくれ。場合によっては今から日本へ飛ばなくちゃいけなくなるんだ!」

インデックス「……また?またとうまなの?」

ステイル「中心に居る訳じゃないが、その周辺をうろちょろしてやがるね、相変わらず」

インデックス「……わかった。それじゃ結論から言うけど、この文字は――」

412 : 以下、名... - 2015/01/13 13:23:04.24 tiewVY9N0 927/1732

インデックス「――『シグマ』なんだよ」

ステイル「僕の知ってるΣ(シグマ)とは、大分違うようだけれど……ってか、似ても似つかな――」

インデックス「だから!『”小文字”のシグマ』!」

ステイル「……似てる、かな?だって”σ”だろう?」

インデックス「違うんだよ!それは『現代ギリシャ語』のシグマであって、昔のじゃないんだってば!」

インデックス「分かるかなぁ?ここ!ここに”点”がついてるの!」

ステイル「……えっと、アルファベットの”C”の、丁度真ん中辺りに”点”がついている?」

ステイル(『濁音協会』のシンボルは、水に映った波紋のようなものが背景にある。その中央部……言われてみれば”点”っぽく見えない事もない)

インデックス「昔のシグマは、『三日月形のシグマ』であって、単語自体が特別な魔術記号の役割を持ってるんだって!」

インデックス「それはクトゥルーなんかよりもずっと優しく残酷で!とてもとても旧い神なんだよ!」

ステイル「クトゥルーよりも、旧い?」

インデックス「……」

ステイル「どうしたんだい?」

インデックス「……そっか。もしかしたらそれが目的なのかも!」

インデックス「だって『あれ』もクトゥルーと同じ。死して夢見みながら、永劫の果てに再臨が約定され――」

ステイル「……?」

インデックス パタン

ステイル「――!?インデックス、インデックスっ!?」

ステイル(まさか本当にネクロノミコンと干渉したってのか!?……クソ、僕のミス――)

インデックス「……ぐぅ……」

ステイル「……………………うん?」

インデックス「……ぐー……むにゃむにゃ……」

ステイル「……なんだこれ?てか、寝てる……?」

413 : 以下、名... - 2015/01/13 13:23:55.84 tiewVY9N0 928/1732

インデックス「……それはわたしのなんだよ!……うーん……」

ステイル(特にこれと言った異常は見当たらない、っていうかこんなベッタベタな寝言を言うが、敵の攻撃である訳がない、か?)

ステイル(魔力の流れを調べてみても……吐きそうなぐらい濃密で、這い寄るように不快なものが充満している……)

ステイル(良かった、”いつもと同じ”じゃないか……)

ステイル「そう……いつもと同じ、く……?」

ステイル(何か、間違っている、かな?何かおかしいような気がする……)

ステイル(ここは僕の部屋だ。とは言っても仕事部屋でしかないが)

ステイル(窓の外へ目を向けても、そこには夜空にポッカリと満月が浮かんでいる)

ステイル(あぁそうだ、今日は月蝕だったな。だからきっとおかしく感じたんだろう)

ステイル「時計は……AM9時16分……なんだ、もうこんな時間か」

ステイル(こんな真夜中まで起きていたのであれば、この子が眠ってしまうのも仕方がない) トサッ

ステイル(彼女をソファへ寝かせて……僕はどうしようか?)

ママ「――ぼうや、妾の可愛いぼうや」

ステイル「なんだい母さん――何?かあ、さん……?」

414 : 以下、名... - 2015/01/13 13:24:31.20 tiewVY9N0 929/1732

ママ「闇の帳はとうに降り、良い子はもう眠る頃」

ママ「夜更かしする悪い子は、狂ったザントマンがやってくる」

ママ「『Danced and Turn(まわれまわれ)』と声をかければ、哀れな父は塔から落ちた」

ママ「お勉強は明日にしましょう?あなたの役目はもう終わり」

415 : 以下、名... - 2015/01/13 13:25:22.93 tiewVY9N0 930/1732

ステイル「これは勉強じゃないんだけど……ま、あ、母さんが言うんだったら、うん」

ママ「煙草は消しておくれ。プロメテウスの道標はぼうや達には必要無いものだから」

ステイル「これを、消す?消した方が良いのかな?」

ママ「今まで辛かったろう?だから、しっかり消してお休み――妾の可愛い、ぼうや」

ステイル「そう、だね――」 ジュッ

ママ「はつかねずみがやってきた――」

ステイル「……でも、どうせ――眠るんだったら」

ステイル「この子の、となり――」

ママ「――はなしは、おしまい」

ステイル「………………」

ステイル ……スゥ

ママ「…………………………………………………………………………きひっ」

423 : 以下、名... - 2015/01/20 12:31:53.78 W4ZXiSrW0 931/1732

――2014年10月4日(土) 路上

佐天「ちゃんらーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーんっ!」

佐天「初春っ!愛してるよ!薄い本的な意味でねっ!」

佐天「やぁって来ました『学・園・探・訪』!くぅーーっ!ついに昼間の時間帯にまで侵略しちゃうぜ!」

佐天「いやー色々ありましたねぇ。思い起こせば下積み時代からコツコツと――は、してなかった気も?」

佐天「グッダグダの深夜番組から初めて、ぶっちゃけロケと称してあちこち遊び回ってただけ、みたいな……?」

佐天「――はいっ!そんな訳で始めようと思うんですがねっ!」

佐天「今日は何とスペッシャルンなゲストが来てます!やったねっ!」

佐天「てゆーかタイアップ企画じゃないと昼間になんか来れないよっ!何かそんな感じはしてたけどさ!」

佐天「では張り切ってどうぞっ!『奇跡の歌姫』ことぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

佐天「アァァァァァァァァァァリィィィィィィィィサァァァァァァァァァァァさんの登場ですっ!」

鳴護「あ、はい、どうも。ARISAです……」

佐天「なんですかー?テンション低いですよー?折角なんですからもっと上げていかないと!」

鳴護「そうじゃなくて、さっきからアンチスキルの皆さんが『あそこで声張ってる子、なんなんだろう?』ってマークしてるみたいだし?」

佐天「カメラの前のJC大好きと着痩せマニアとファンに一言どうぞっ!」

鳴護「はい、頑張りますっ。よろしくお願いしますっ」

佐天「てか、お久しぶりですよー。ヨーロッパツアーは大丈夫?食べ物に困ったりとか?」

鳴護「えぇ、はい。レッ――スタッフの皆さんが良くして下さったので、不自由とかは全然。はい」

鳴護「イギリスでもタンドリーチキン、とっても美味しかったです!」

鳴護「向こうでも色々な方にお会いしましたし、楽しかったですよー」

佐天「ほっほぅ?例えばどんな方ですか?」

鳴護「ファンの方は勿論ですけど、旅先で仲良くなったお友達とか。レッサーちゃん見てるー?」

佐天「おっと!そこら辺は後で突っ込んで聞きたいものですが、まずはタイトルコールを読み上げて貰いましょうか!」

佐天「主にノルマ的なあれがあるんで」

鳴護「えっと、カンペカンペ――『がくえんとしななだいふしきたんはっじまっるよーー』」

佐天「続きはCMの後でっ!ちゃかちゃんっ」

鳴護「『ご覧の番組は、”未来に生きる?いいや今のは残像だ!”で、お馴染みのTATARAグループの提供でお送りします』」

上条「――ちょっといいかな?」

424 : 以下、名... - 2015/01/20 12:33:05.20 W4ZXiSrW0 932/1732

佐天「なんですかカメラマンさん?」

上条「さっきからボケがタダ流れになってて、誰も拾おうとしないんだけど、これ問題ないかな?てか軽く放送事故だよね?」

上条「一つ一つ拾っていくと、まずアリサの紹介がJC・着痩せに続いてファンが三番目に来るのおかしくないかな?」

上条「あとツアーの感想はいいと思うんだけども、食事から聞くのってどうなの?」

上条「アリサもアリサで『タンドリーキチン、イギリス料理じゃなくね?』とか考えよう?」

上条「レッ――は、まぁフリーダムだし、一応向こうの立場も配慮しよう?」

鳴護「それだとマタイさんぐらいしか居ないんだけど……」

上条「そこは、ほら!ファンだって誤魔化しゃいいじゃん!あっちは去年のクリスマスコンサート褒めてくれてたしさ!」

上条「ついでに言わせて貰うとTATARAさんのキャッチフレーズがおかし過ぎんだろーが!?」

上条「”Innovation that excite○”とか!”面白カッコいいぜ!”みたいなのだったら分かるけども!」

上条「何をどうやったら中二病拗らせるんだよ!?あと、出来れば俺に読ませて欲しかった!」

佐天「『人生に於いて言ってみたい台詞』、の上位へランクインしそうな台詞ですもんねー」

上条「つーかボケ二人ツッコミゼロって、武闘家四人で魔王倒しに行くようなもんだよね?」

上条「最初のダンジョンで『あれ?回復誰も使えなくね?』とか、新しい街で『武器屋で誰も新調出来なくね?』って不安に思わないかな?」

上条「もしくはモンスター四体で塔を登るような感じかな?つーか正攻法から行くとカミ結構強いし、詰んでるよな?」

佐天「理論上はクリティカル連発すれば何とかなるかも知れません!」

上条「それ『アイドルと結婚する可能性はゼロじゃない』って毒男が言ってんのと同じだよね?否定はしないけどさ」

上条「でも浜面の中(予定)の人がアレして、関係掲示板が怨嗟の声に包まれてるのを見ると……」

佐天「玉蟲(オーム)ばりの怒りが世界を覆っちゃってる気がしますよねっ!」

上条「ある意味君達も地雷原に立っている訳だが……俺はいいと思うんだけどなぁ、大人なんだからさ」

上条「てか、番組このままじゃツッコミ無しのグダグダしたもんになるけど、いいの?こんな番組だったっけ?」

佐天「いつもは初春とか御坂さんや白井さんも巻き込むんで、誰かは拾ってくれるんですけどねぇ」

鳴護「二人で商店街レポートした時も、こんな空気だったよね?」

佐天「あれはあれでニコ○のように、視聴者さんがツッコミ入れるんで好評だったようですが!」

上条「……いいのかなー?俺が昔見てた頃のテレビって、もっと手の込んだ作りしてたような……?」

佐天「あ、それじゃ上条さん適当にツッコんできて貰えますか?水曜どうでしょ○みたいに、カメラマンさんが入ってくるのってありますし?」

上条「……絶対に視聴者から抗議殺到すると思うが……まぁ、今更だけどねっ!」

上条「アリサも少しはツッコもう?アイドルとしても拾う勇気を忘れないであげて!」

鳴護「それ、アイドルに必要なスキルとは思えないんだけど……」

上条「そう!そんな感じでもっと元気に力強く断言して!」

鳴護「だからそれやっちゃうとあたしの中のアイドル像とはかけ離れるんだってば!」

佐天「あ、Aパート入りまーす」

425 : 以下、名... - 2015/01/20 12:34:14.50 W4ZXiSrW0 933/1732

――ファミレス

佐天「――はい、そんな訳で移動してきましたファミレス。和食レストランで、デザートのスイーツが充実している所ですよー」

鳴護「今日のオオスメはブルーベリーパフェとダブルモンブランかぁ、迷うなぁ」

佐天「あ、取材費と称して食事代はせしめてあるんで、どうせだったらドカーンと注文されてもいいですよ?」

佐天「『TATARA』さんがねっ!スポンサーの『TATARA』グループさんが張り切っちゃいましてねっ!」

鳴護「スポンサーさん連呼するのはどうかと思うけど……」

佐天「いえ、視聴率はイマイチ奮いませんが、カルトなファンを味方につけたようでDVDの売り上げは中々なんですよね」

佐天「ただ何故か1万枚刷っても必ず30枚余るという謎の現象が!」

鳴護「ファンの人が結託してるー、みたいな?」

佐天「それにしたって意味がないと思うんですよねー、って注文決まりました?」

鳴護「大丈夫ですよ」

佐天「では、すいませーん!注文良いですかー?」

鳴護「佐天さん、呼び出しのボタン付いてる……」

店員「――はい、ご注文お伺いします」

佐天「ドリンクバー三つとケーキセット一つ。アリサさんは?」

鳴護「パスタランチと本日のお勧めランチ」

佐天「おぅ?お昼ご飯まだだったんですか?しかもカメラマンさんの分も注文するなんて、中々気が利――」

鳴護「――と、天ぷら盛り合わせとと揚げ出し豆腐、鶏の唐揚げ」

佐天「――す、よ、ねぇ?」

鳴護「カレイに煮付けに鯛のあら炊き、ぶり大根と豚の角煮と、あと、そうだなー」

鳴護「牛肉ときのこのクリーム煮、牛肉とトマトのオイルソース炒め、牛肉の香味揚げ、牛肉のベーコン巻き」

鳴護「ビーフステーキにビーフシチューと牛タンのワイン煮、かな?」

佐天「……あの、すいません?」

上条「こっち見んな。つーかアリサは普通に食うから」

佐天「そっちの心配じゃなく、予算的なものがですね」

上条「あ、すいません。柴崎さーん!どうせどっかで隠れて尾行(ツケ)てんでしょー?」

柴崎「――ご無沙汰しております。あ、マネージャーの柴崎と申します」

上条「えっと……うん、その、な?」

柴崎「委細承知しておりますので、ご心配は必要無いかと存じます」

佐天「……あっのー?たった今まで隣の席でノーパソ打ってたサラリーマンさんが、何がどうしたらマネージャーさんなんでしょう?」

佐天「てかあからさまに堅気っぽくねぇぜ!って感じなんですが」

上条「前職――前々職がSP?だかって話で、うんまぁそんな感じで」

柴崎「あ、すいません。カメラNGなのでアリサさんへ向けてて貰えますか?」

上条「嬉々としてスイーツ注文する姿はファンにも知られたくねぇだろ!」

佐天「いやぁでもギャップ萌え!みたいなのは期待出来るかもですよ?」

上条「ギャップっつーか、そのまんまな気がするが……」

佐天「あー、テレビではよく拝見してましたし、こないだ食べ歩き番組ご一緒させて頂いた時にも見たんですけど」

佐天「あれはまだ力の片鱗に過ぎなかった、と?」

上条「真の魔力を隠している魔王風に解説しないの。つか見てみてぇな、その放送事故番組」

426 : 以下、名... - 2015/01/20 12:35:45.70 W4ZXiSrW0 934/1732

アリサ「――以上でお願いしますっ!」

店員「え、えぇっと?これホントにいいんですか?」

上条「POS端末の容量超えた、だと!?」

柴崎「自分から詳しくご説明致しますので、どうかお話を続けて下さい」

上条「すいません。つーか心底お疲れ様です」

柴崎「ぶっちゃけEUの方がまだ楽だったとか、決して口には出しませんが」

上条「言ってる言ってる。てかどんだけブラックなんですか」

佐天「――はいっ!という訳でARISAさんが大食いキャラだって再確認した所で――」

鳴護「いやだから、普通だって言ってるんですけど……あたしのお友達にも同じくらい食べる女の子も居ますし?」

佐天「食べた栄養がどこへ行っているかはお察しですけども!気になる人は写真集買うと分かるかもよーっ?」

鳴護「せ、せくはら反対でーすっ。だめ、ゼッタイ!」

佐天「セクハラも何も。ほぼ毎日初春のスカートめくってるあたしに死角はなかった!」

鳴護「死角っていうか、資格の間違いじゃ……?」

佐天「LIVEのブイ見ましたけど、ボディライン出まくり&超谷間見せつけるChuCh○系ドレス着て、何を今更だぜって感じでは?」

鳴護「あたしだってあんなの着るとは思わなかったよ!しかも最後の割には気を遣ってくれてるらしくて、転んでもいいようにショーパン仕様だったし!」

佐天「それでヨーロッパのライブツアーはどうでしたか?」 チラッ

鳴護「あ、カンペ見た」

佐天「ノルマの中に『8日に開催する凱旋ライブの宣伝もしてあげてね?』って、ディレクターさんから言われてまして、その前フリに」

佐天「『さり気なくね?あくまでもさり気なくだからね?絶対にさり気なくだからねっ!?』――と!」

鳴護「うん、だからそれフリじゃないもんね?」

佐天「いやーあたし、実はちょっと怒ってまして。お友達になったじゃないですか?」

鳴護「うん、あたしはそのつもりだけど……?」

佐天「忙しかったのは分かりますが、メールの一本もくれなくて寂しかったかなー、なんてですね」

鳴護「あー……はい、いやほんと、それはゴメンなさい」

佐天「一体上条さんとどんな爛れたツアーをしていたのかと小一時間!」

鳴護「してないよっ!?……し、してない、よね?」

上条「アリサも否定する時ゃはっきり否定する!あと残念な子はその場のノリで爆弾放り込むんじゃねぇ!」

佐天「まぁまぁ生放送じゃなかったら後で編集出来ますし――で、進展も含めておねーさんに言ってみ?んん?」

上条「考えろ、なぁ?場合によっちゃ俺がARISAファンから闇討ちされるんだからな?」

427 : 以下、名... - 2015/01/20 12:37:46.22 W4ZXiSrW0 935/1732

上条「ただでさえ今はビリビリの追っ掛け達から『そろそろ社会的に消す?』みたいな――」

上条「……あ、それじゃ今と変わらないですよねー。そっかー、AHAHAHAっ!」

鳴護「当麻君、眼が死んだお魚さんみたいになってる……!」

佐天「ま、まぁ流石に今のは冗談ですって!冗談!」

佐天「あとファンの皆さんはくれぐれも自重して下さいねっ!誰も得をしませんから!早まった真似をすると回り回って」

佐天「『くっくっくっ、お前のファンがしでかしたんだから、誰が責任を取るかわかってんだろうなぁビリビリビリっ!』的な展開に!」

上条「ビリ一個多くないか?あとそれ多分佐天さんの脳内俺なんだよね?」

佐天「あ、ビリは服を破る擬音です!」

上条「佐天さん、俺会う度に言ってると思うけど、君あんま頭良くないよね?」

上条「『佐天さん巨乳説』には個人的に色々思わない所がない訳でもないと認めざるを得ないかも知れないけど、もっと成長しよう?精神的にね」

上条「初春さんのスカートめくり、通称公然露出プレイ(軽)にしたって、あれ下にショーパンツ履いときゃいいだけじゃねぇかな?」

佐天「あ、それ一回あったんですが、あたしが脱がしにかかったら諦めたらしくて」

上条「……初春さん、大人だよなぁ……」

鳴護「た、多分小学生時代の延長でやってるから、大きくなれば分かる、よ?」

上条「このまま育ったらいつかどこで地雷を踏み抜きそうで怖いが……ま、まぁ初春さんがフォローしてくれるだろうな!」

鳴護「全力で投げたよね、今?手に負えないからって人任せにしたよね?」

佐天「んでー?どうなんですかー、そこら辺はー?」

柴崎(カンペ) サッ

鳴護「『当――上条さんはスタッフとして、よくして下さってますし、年も近いので良いお友達だと思っています』……です!」

上条「今更”上条さん”つっても、編集出来るんだからいいと思うんだけどさ……」

佐天「あ、いえそっちじゃなくて。ツアーの方どうでした、ツアー?」

佐天「予定で行く筈だったロシアもキャンセルして、イタリアで二回やったんでしたっけ?」

鳴護「ですね。あたしも急なお話でビックリしましたー」

佐天「ユーロトンネルでも事故とかありましたし、心配したんですよ?もー!」

鳴護「えっと、はい、ありがとうございます……?」

柴崎(カンペ) サッ

鳴護「『ユーロトンネルでは混乱した中でも、多くの方が冷静に対応しようとしていたお陰で、被害は最小限で済みましたし』」

鳴護「『またロシアとウクライナの事は、一刻も早く両国の努力によって解決するように願っています』」

佐天「あの、マネージャーさんはアリサさんにカンペ読ませてないで、ご自分で言ったらいいんじゃないですかね?」

上条「台無しだなっ!?カンペ見てんだからバラすの止めてあげて!?」

428 : 以下、名... - 2015/01/20 12:38:44.61 W4ZXiSrW0 936/1732

鳴護「て、いうか、佐天さんの方はどうだったの?」

佐天「そう、ですねぇ……別にフツーっちゃフツーでしたけど……あ、そういえば!」

佐天「去年の『エンデュミオンの奇跡』の前ぐらい、あたしや初春達でステージ上がったじゃないですか?」

佐天「前のマネージャーさんに誘われて、あたし達にもステージ衣装着せて貰ったの!」

鳴護「……ステージ、壊れちゃった時のお話だよね?」

佐天「ですねー。もうすぐ一周年って事でその映像を流してたんですが――」

佐天「――実家の母がその動画を見たらしくてですね、はい」

鳴護「あー……見られちゃったかー」

佐天「当然、激おこ」

鳴護「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ!嫁入り前の娘さんにあんなハレンチな衣装着させてすいませんでしったっ!」

上条「そう、か?俺も見たけど、可愛かったよ?」

佐天「あざーす!……ではなく、母は言いました!」

佐天「『なんて事でしょう!恥をお知りないな、涙子!』」

鳴護「……あたし、佐天さんのお母さん知らないけど、多分キャラ違うような気がする……」

上条「てかその口調の母親からこの子が産まれる筈がねぇよ」

上条「や、でも内容的には合ってるか?露出は少ないようで絶対領域超えてたしなぁ」

鳴護「……当麻君?」

上条「一般論です!一般論!」

佐天「『――ノリで初春さんに負けるなんて、もっと前に出るべきでしょうが!』」

鳴護上条「「言いそう」」

佐天「――と、厳しい訓戒を受けたような、受けてないような?」

上条「……どこまで盛ってると思う?」

鳴護「言われた、のはホントだろうし……『もっと前へ出ろ!』も、佐天さんのお母さんならやってくれる筈……!」

佐天「いやもうホント心配性でしてねー――で、アリサさんのお母さんはどうです?」

鳴護「あたし?」

上条「(それ地雷!)」

鳴護「あたしは――そう、ですねぇ。事情があってお母さんの事はよく分からないんですけど、その」

鳴護「佐天さんとお母さんの距離感って羨ましいですよねー。お友達!みたいな感じで!」

上条(……アリサ)

429 : 以下、名... - 2015/01/20 12:40:06.51 W4ZXiSrW0 937/1732

佐天「ですかねぇ?こないだもですよ、『アイドルデビューはしないの?』みたいな感じで、えぇ」

鳴護「あ、だったらウチの事務所から出ちゃう?ってもあたしの個人事務所だから、あんまり大きな事は出来ないけど、安心だよ?」

佐天「マジっすか!?ネタじゃなく!?本気と書いてホンキって読む方の!?」

上条「それ、普通じゃね?」

鳴護「うん、マジマジ。なんだったら初春さんや御坂さん、白井さんと一緒にどうかな?」

佐天「いいですねー、それじゃユニットを組んだりしたり?例えば――」

佐天「――『スフィ○』とか?」

上条「縁起悪っ!?」

佐天「てかスフィ○ポーズ、寝かせてないで真っ直ぐ立てると『カネ』って見えなくも――」

柴崎(カンペ) サッ

鳴護「『ただ今一部の演者により不適切な発言がありましたが、それは実在・非実在する個人や団体に関するものではありません』」

鳴護「『仮に同じ名前であったとしても、それは偶然でありフィクションであるため、何ら関係性は御座いません』……と」

上条「スゲーな!こんな長文事前に用意してあったとしか思えない!」

鳴護「……あたし、どんなポカをやらかすと思われてるのかな?」

佐天「てかマジ話ですか?本当に?ネタではなくって?」

鳴護「大丈夫!絶対に安心だからねっ!」

上条「……何があったんだ、アリサ」

鳴護「聞いてよ当麻君っ!?だってあたしシンガーソングライター枠で応募した筈なのに、気がついたらフリフリの衣装着て踊ってたんだから!」

上条「やだ、そこだけ聞くと芸能界って超こえぇ」

佐天「素敵な感じで魂の叫びを感じますし、あっちのジャーマネさんも目を逸らしていますよ」

鳴護「もう一人でネットラジオのMCやるとかライブのMCやるのは寂しくて寂しくて……」

上条「誰か雇えばいいじゃん?他の事務所とか」

柴崎(カンペ) サッ

佐天「『最初はリーダーがやる気になったので、全力で止めた結果、誰も出来ない有様に』……って、変なカンペですね?」

上条「佐天さん佐天さん、君気付かなくて良い所には100%の確率で気付くよね?狙ったように踏み抜くもんね?」

鳴護「歌歌えとか踊れとか言わないから、MC関係だけでも前向きに考えてくれないかなっ?具体的には今度のライブから!」

佐天「お友達が困ってるんなら、お手伝いしたいんですけど……んーむ?」

鳴護「あ、じゃ収録終ったら事務所へ来て貰えるかな?大丈夫、細かい内容を詰めるだけだから!軽い気持ちで!」

佐天「どうしましょう?何か『否が応でも逃がさねぇぜ!』って強い意志が見え隠れするんですけど」

上条「……んー……無責任だけど、一回やってみてダメだったらそん時に考えればいいんじゃね?」

佐天「また無責任な」

上条「てかアイドルの相方のMCなんて、生涯にどんだけ出来るんだっつー話でさ」

上条「胡散臭い事務所は腐る程あるけど、アリサんとこは身内だけで回してるからまず大丈夫だよ?」

上条「なんつってもアリサが出来るぐらいだから」

佐天「ですよねぇ、アリサさんが出来るぐらいですもんね」

鳴護「あれ?何か引っかかるな?」

430 : 以下、名... - 2015/01/20 12:41:49.66 W4ZXiSrW0 938/1732

上条「芸能界って、何だかんだ言っても同業他社の壮絶な足の引っ張り合いじゃんか?だから居れば居る程擦れてくるし」

上条「でもアリサはそんな中に居てもデビュー前から変わらないだろ?だから安心出来るよね、って意味で!……多分!」

鳴護「……当麻君」

佐天「チョロっ!?」

上条「黙っていような?拗れるからさ」

柴崎(カンペ) サッ

上条「『元・暗――じゃなく、専門のスタッフが居るので、相手が能力者でも安心・安全を保証させて頂いております』」

鳴護「お給料も、えっと……お給料制+歩合制で……基本が一ヶ月これだけ、かな?」

佐天「え?これ年間じゃないんですかっ?」

鳴護「あとこの他にも、ボイトレとか演技の授業とかの経費は全部事務所持ちだし」

鳴護「準社員扱いになるから、初春さん達とユニット組めば同じ寮に住めるよ?あ、勿論費用はこっち持ちで」

上条「おいバカ止めろ!現役アイドルが生々しいカネの話を電波に乗せるな!」

柴崎(カンペ) スッ

上条「『そろそろ次の展開を考えていたので、丁度良いと思います』――って、アンタも乗り気かっ!?」

上条「中途半端にアイドル路線は良くないって!ファーストアルバム出してから、その後CDの仕事が来なくなった声優さんだって居るんだからな!?」

佐天「え?CDって出せば売れるんじゃないんですか?」

上条「鬼っ!悪魔っ!高千穂っ!出来る子の理論で世界は回ってなんかないんだからな!」

柴崎(カンペ) サッ

上条「ホレ見ろ!マネージャーさんだってこう言ってるぞ!」

上条「『TariTar○関係で結構売れています』――よし、戦争だ!全員でボケ倒すつもりなら俺にだって考えがあるぞ!」

上条「さっきから気になってたんだけど、どうツッコんでいいか分からなかったツッコミをするからな?覚悟しとけよ!」

佐天「その心は?」

上条「『学探』はどーした?」

佐天「――ぁっ」

上条「素で忘れてやがっただろうが!今までのほぼ雑談じゃねぇかよ!いつも事っちゃいつもの事だけど!」

431 : 以下、名... - 2015/01/20 12:43:09.51 W4ZXiSrW0 939/1732

佐天「――はいっ、って言う訳で始まりましたけどね-、『学園探訪』」

佐天「あ、お久しぶりですー、アリサさん?お元気でしたかー?」

上条「無理だろう。アリサ相手に腹芸とか通じないと思うよ?」

鳴護「へ、編集さんが頑張ってくれれば、何とか!」

芝崎(カンペ) サッ

佐天「『ではCMへ行きまーす』……はい、Aパート終了ですね。今の内に休んどきましょう」

店員「あの、お料理出来ましたので運んでも宜しいでしょうか?」

佐天「あ、お願いしまーす」

鳴護「佐天さん、さっきの話冗談じゃないからね?本気で考えてね?」

佐天「事務所へ伺えば良いんでしたっけ?正直、キョーミ津々ではあるんですがねー」

柴崎「あ、送迎でしたら、遅くなってもご自宅まで車を出しますのでご心配なく」

佐天「……なんか、外堀から着々と埋められてる気がするんですけど」

上条「怪しげな所だったら殴ってでも止めるけど、アリサんトコならスタッフの人も知ってるし大丈夫」

上条「流石に今日話聞くのはアレだと思うから、日を改めて初春さんと一緒に行けばいいんじゃね?」

鳴護「むー……仕方がないかなぁ」

柴崎「上条さんの仰る通りです。事を急いでも碌な事にはならないかと」

上条「言って上げて下さい」

柴崎「近日中にご実家の方へ菓子折を持って伺いますので、暫しお待ちを」

上条「お前も大概過保護だよな?何?シャットアウラから伝染ったの?」

佐天「あ、そろそろBパート始まりまーす」

432 : 以下、名... - 2015/01/20 12:45:37.98 W4ZXiSrW0 940/1732

――ファミレス

佐天「ってな訳でご飯も運ばれてきましたし、食べながらお話ししましょうか。では――」

佐天鳴護「「いただきまーすっ!」」

佐天「んー……っ!美味しいっ!よくあるファミレスかと思いきや、中々やりますよねっ!」

鳴護 モグモグ

佐天「計算された味って言うんでしょうか、こう、品質を落とさずに一定以上の味を提供する――そんな凄みさえ伝わって来るような一品です!」

鳴護 モグモグ

佐天「しかもお値段リーズナブル!あたしのような学生にも優しいっ!よっと、店長良い仕事してんなっコノヤロウッ!」

鳴護 モグモグ

佐天「……」 チラッ

上条「……」

鳴護 モグモグ

上条「――ってしろやリポーターを!?何一心不乱に食ってんの!?」

鳴護「――もぐ?」

上条「口の中の物飲み込んでから!アイドルが失態見せないで!」

鳴護「……って、何?あたし何かやっちゃったのかな?」

佐天「いえあの、あたしらがフツーに黙々と食べていたら、放送事故になるんじゃ?」

鳴護「……あぁっ!そうだよねっ!」

上条「慣れろよ。一年以上もアイドル兼食べドルやってんだから」

鳴護「……食べドル?それきっと良い意味じゃないよね?」

佐天「お、あたし知ってますよ。元フードファイターでいい歳なのにケバい格好した女の人瞬殺したから、誰が呼んだか『ガチで食べるアイドル』」

佐天「略して、『食べドル』!」

鳴護「あれは……あの人が食事の後毎にお手洗いで吐いてたから、『苦しいんだったら無理して食べない方が良いですよ?』って言っただけだもん!」

佐天「それを生放送でカマして、視聴者がほぼ全員アリサさんの味方になったという……!」

上条「あー……あの人らは命削ってるから、どっかで止めた方が良いんだよな、きっと」

上条「誰がどう見てもどっかで『処分』してないとオカシイのに、同じ局で『子供の貧困率がー』とか言うんだからどうしようもない」

佐天「てか更に本題へ戻しますけど、アリサさんってオカルト的な話はお好きですか?」

鳴護「えっと……」 チラッ

柴崎(カンペ) サッ

鳴護「『怖いのはあまり好きじゃないですけど、都市伝説ぐらいだったら、はい』」

上条「……しかし手慣れてるよな。一体どんな修羅場をくぐったのか想像もつかないが!」

433 : 以下、名... - 2015/01/20 12:46:53.38 W4ZXiSrW0 941/1732

柴崎「(修羅場と言うよりは適当にあしらうのを憶えただけですが)」

柴崎「(今の音楽業界でメジャーデビューする意味はほぼありませんし、いつ芸能界から干されても構わない、というスタンスで)」

上条「終ってんなぁ、音楽業界も」

柴崎「(レコード社との専属契約で囲い込まれるより、CDリリース限定契約で充分やっていますから)」

上条「超絶不況の時だって、アニメ・ゲーム業界だけは売り上げが変わらなかったのに、『ネットか悪い!』って言った時点で終わりだろ」

佐天「あー、それじゃこの間やってた番組見ました?『世界の超常現象スペシャル!』的なの」

鳴護「あー、見ました。大の大人がUFOや幽霊について熱く語るんだよねっ。マネージャーさんに『リアクションの勉強になるから』って言われて、はい」

佐天「目の付け所が違うと思いますけども……ど、どうでした?」

鳴護「ピタゴラスだか、ソクラテスだか、有名な大昔の学者さんのお話ありましたよね?」

佐天「ありましたありました!その時代に書かれている地図が、今と殆ど変わりがないってオカルト!」

佐天「やっぱりですねー、あたしはあると思うんですよー、オーパーツ的なものがねっ!」

佐天「あ、知ってます?オーパーツ?言ってみればロスト・テクノロジィ(※巻き舌)の産物って言うんでしょうかねぇ」

佐天「他にもアンティキテラの歯車とか――」

鳴護「その学者さん、UFO的なものに乗せて貰ったら、もっと正確な地図が描けるじゃないでしょうか、ねぇ?」

佐天「……えっと?」

鳴護「確か芸術家や数学者としても有名な人で、天才だったらば、こうもっと寸分違わぬような地図!が、出来るんじゃ?」

鳴護「ていうかそもそも、あたしが宇宙人さんでその人を乗せたんだったら、『あ、ここ少し違うよ?』みたいな監修すると思うんですよね」

鳴護「なんだったら余ってる地図とか、置いてくって発想は無かったんでしょうか?」

佐天「えーっと…………そう!心霊動画!あれは怖かったですよね!」

鳴護「あー、ありましたよねぇ。こう、事故があった場所へ酔っ払った男の人が行くって」

佐天「そうですそうです!その人達が不謹慎にもバカにするような言動をした結果、その事故で亡くなった女性の生首が――」

鳴護「でもあれ、普通動画撮らないよね?」

佐天「……」

鳴護「酩酊してる割にはアングルもしっかりしてるし、女性の声を認識してますし」

鳴護「都会の雑踏の中、あんな小さな声を酔っ払った状態で聞き分けるなんて凄――」

佐天「他にも!滝壺から這い出る女性の霊――」

鳴護「這い出てる、って事は重力的なものは感じてるんですよね?」

佐天「そうですよっ!」

鳴護「髪は何故か斜め下固定になってませんでした?おかしいですよね?」

鳴護「あと他にもムービー撮ってる筈なのに、三脚が撮影しづらい自由雲台になっているのはなんかこう、はい」

鳴護「あ、自由雲台ってのはパン棒がついてないのモデルで、スチルカメラでよく平行移動――」

上条「いい加減にしておこう、なぁ?アリサさん天然発揮するのも大概にしないと」

上条「今、俺が口を挟む暇も無い程、鮮やかな流れでオカルト瞬殺してったけど、お願いだから番組のタイトル思い出して上げて?」

上条「つーかカメラ詳しいな。趣味かなんか?」

鳴護「写真集撮影の時に、カメラマンさんが空いてる時間に教えてくれたの」

柴崎(カンペ) サッ

佐天「『ちなみに女性です』、ですか。ガード堅いですよねー」

上条「てかあの番組、俺も『しょぼっ!?』って見てて思ったけども!もうちょっと他に振るのないのっ!?」

佐天「えー、無茶ブリはそっちだと思いますが、あぁっと……あ、はい、ありましたありました。都市伝説の方」

佐天「『スレンダーマン』ってご存じですかー?」

434 : 以下、名... - 2015/01/20 12:48:36.64 W4ZXiSrW0 942/1732

鳴護「あー……やってたよねぇ、てかアレも『ゲームソフト撮るかな?』って――」

佐天「ありましたよねっ、ねっ!?」

鳴護「……あ、うん、ごめんなさい……」

上条「え、なに?俺知らないや。途中から見たし、どんなの?」

佐天「ググればいいんじゃないですか?」

上条「番組は!?確かにボケを天然に轟沈されて悔しかったのは悪かったよ!ツッコミ忘れてメシ食ってた俺の責任だけどもさ!」

上条「今度メシでも作るから!機嫌直して、な?」

佐天「やたっ!ゴチになりまーすっ」

鳴護「当麻君、そーゆーのが……まぁいいけど」

上条「おぉっと!何を言っているのは分からないな!」

柴崎(カンペ) サッ

上条「『修羅場ですね(死ねばいいのに)』――おい、カッコ必要かな?これあんたの本音って意味なんだよな?」

佐天「まぁまぁまぁまぁっ!過ぎた事は水に流して!都市伝説、『スレンダーマン』の解説をしちゃいましょうねっ!」

上条「いいけど……スレンダー?」

佐天「特殊な性癖を隠すために、あえて『スレンダー』と言っている人達の話じゃないですからね?」

上条「うんまぁ、リアルにそういう人達も居るけどさ。そんな話してなかったよな中学生?立場を弁えて、な?」

佐天「実はロ×ペ×なのにカモフラージュするため、『お姉さん好き!』と公言してる人の話でもないですから!」

上条「それは君、遠回しな宣戦布告なのかな?公共の電波に乗せる意味ってあるか?」

佐天「あ、すいません。紙と何か書く物ありませんか?あった方がイメージしやすいんで」

柴崎 ササッ

上条「ありがとうございます。って書くの俺かよ」

鳴護「先入観ない方が書きやすいと思うよ。複雑でも無いし」

佐天「ですねー、それでは『スレンダーマン』の特徴!”スレンダーである”!」

上条「まんまだな……や、でもそうじゃなきゃ噂にならないか」

上条(スレンダー、スレンダーなぁ?) カリカリ

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435 : 以下、名... - 2015/01/20 12:49:39.96 W4ZXiSrW0 943/1732

上条「……こんな感じ?」

佐天「絵心の欠片もありませんが、もっとです。もっと」

鳴護「だね。あ、顔はのっぺらぼうだから、このままでオケ」

上条「足長くすればいいのか……っと」 カリカリ

上条(何か少女漫画の登場人物みたいな。リアルなデッサンするんだったら、このぐらいの頭身は”スレンダー”だろう)

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佐天「足りませんなー、もう二声ぐらいずいーとっ!」

上条「そんなになのかっ?……や、まぁ都市伝説なんてそんなもんだとは思うけど」

上条(これ以上、足伸ばせないから裏に改めて書こうっと。あ、少し透けてるが……いいか)

上条(きゅっきゅっとー……あ、ヤベ。やり過ぎた)

上条(針金細工みたいになっちまってるけど、クツ描いてーと)

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上条「どうだ!」

佐天「少し短いですが、まぁこんな感じですねー」

鳴護「だねっ」

上条「やだ超目立つじゃない――てか、これパースおかしいだろ!どう見ても3mぐらいはあるし!」

佐天「ですから”スレンダー”マンなんじゃ?」

上条「あー……ツッコんだら負けなんだよな、きっと」

鳴護「他にも特徴なかったっけ?スーツを着てるとか」

上条「いやだから、この時点で超目立つし……」

佐天「ちなみに全身白いという設定だそうです」

上条「俺の知り合いにも二人白いの居るけどさ、あいつら遠くから見ても分かるもの」

上条(服っぽいの着せてー……)

佐天「あ、下半身は裸だそうです」

上条「なんでだよっ!?それ怪人じゃ無く変質者じゃねぇーか!」

鳴護「無いんじゃないなか、サイズ的に?」

上条「……だったらなんか巻いて置こうよ、方向性間違ってんだろ……」 カリカリ

436 : 以下、名... - 2015/01/20 12:50:57.95 W4ZXiSrW0 944/1732

http://tanakadwarf.web.fc2.com/images/2015/03.PNG

上条(……いやもう子供の落書きだけど……良しとしよう、うん)

上条「……完成だよな?もうスーツ着てる辺りで設定的にはお腹いっぱいなんだけど、これ以上乗っけないよね?」

鳴護「や、それが、ねぇ?」

佐天「お気の毒ですが、スレンダーマン最大の特徴がまだ一つ残っておりましてね、えぇはいっ!」

上条「な、なんだってーーーーーっ!?」

佐天「ナイスリアクションっ!それは何かと言えばっ!」

上条「よっし!かかってこいや!」

佐天「何とぉ――背中からたくさんの触手が生えているっ!!!」

上条「盛り過ぎじゃねぇか!?つーかスレンダーマンの設定考えたヤツ出て来いや!俺が説教すっからな!」

上条「背が高いのは100歩譲ってありとしよう、なぁ?のっぺらぼうももしかしたらあるかも知れないよ?そりゃ?」

上条「妖怪の神様ものっぺらいぼうとぬっへっほふの類似性とか、ベトベトさんとベトサントの共通性について語ってるしな!」

上条「妖怪っつーか昔の都市伝説っぽい話に、ムジナってのもあるぐらいだから、まぁあるかも知れないけど!」

上条「スーツ着てるのも『あ、こりゃ全裸で歩かせると目立つよな?』的な判断したんだと思うから!それはそれで良いさ!」

上条「でもな!触手どっから持って来やがった!?アレか?ジャパニメーションの弊害か?なぁ?」

上条「『なんかインパクト弱い……そうだ!触手生やしとけ!』みたいな感じか?あ?」

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上条「……もうこれ、属性混ぜすぎじゃねぇの?つーかこれでいいのか?」

上条「てーかどっか見た事あるよ!アメコミのヴィランでこーゆーの居なかったっけ?」

柴崎 コトッ

上条「ノーパソ?これは……どっかの公園で子供達が遊んでる写真だよな?」

佐天「あーこれスレンダーマンの有名な画像ですね。左側、遊具の後ろ辺り見て貰えません?」

上条「陰になって……あ、女の子と背ぇ高くて腕が、ぐにょんってなった奴が映ってる……」

佐天「そう!これがまさにスレンダーマンなのですよ……!」

鳴護「これ、望遠レンズの圧縮効――」

佐天「怖いですねぇ、恐ろしいですよねぇっ!スレンダーマンはあなたの身近に潜んでいるのかも知れませんよっ!」

鳴護「だからその、佐天さん?さっきから言っ――」

柴崎(カンペ) サッ

鳴護「『こ、こわーいなー!どうしよう佐天さん、あたしスレンダーマンに遭っちゃったらー?』」

上条「茶番じゃねぇか。徹頭徹尾そうだけどもさ」

佐天「ご心配なく!苦しい時!そんな時!頼りになるのは『噂』もリサーチ済みでありますんでっ!」

上条「あー、あれか?口裂け女には『べっこう飴』や『ポマード』って言うのと同じで」

鳴護「聞いた事ある。『ベトベトさんベトベトさん、先へお行き』みたいな」

佐天「しかもこれ、学園都市だけに広がっている噂らしいんですよ。あ、ネタでは無くマジです。初春情報ですから!」

437 : 以下、名... - 2015/01/20 12:51:56.03 W4ZXiSrW0 945/1732

上条「へー?学園都市も人多いからなぁ、ローカルな都市伝説も生まれるんだー?」

佐天「なんかですね、怖い都市伝説に追い詰められたとしましょう。バネ足ジャックでもスレンダーマンでも良いですが!」

佐天「そんな時、こう叫ぶと助けてくれるんだそうです――では、ご一緒に!」

佐天「『助けてー、カブトムシさーーん!!!』」

上条鳴護「「……」」

佐天「って言ってくれなかった!?」

上条「事前に知らされない、っていうか正直、いつもの『初春愛してるぞー!』が来るもんだと身構えたんだが」

佐天「………………チッ」

上条「あ、こら女の子が舌打ちするんじゃありません!」

鳴護「それじゃ今の冗談じゃ無くって、本当に?――って噂を聞くのもどう思うけど」

佐天「はい、そうです。なんでも路地裏で危険な目に遭いそうになったら、そう呼べば白いカブトムシが助けてくれるそうです」

上条「……白い、カブトムシ?」

佐天「おっと上条さん!それは何かを知ってる顔ですなっ!」

上条「いや知らないよ?やだー佐天さん、幾ら俺でもカペド虫の知り合いなんて居ないって!」

佐天「カペドむし?」

上条「噛みました。他意はありません!」

鳴護「当麻君が必死になるって事は……あっ」

上条「天然さんも空気読もうね?あ、ほらステーキ美味しそうだぞー?」

鳴護「……当麻君はあたしを子供だと思ってもぐ?もぐもぐっ!」

佐天「やべぇ両頬に肉詰め込むアリサさん超可愛えぇぜっ!」

上条「佐天さんも自重しなさい――てかカオスすぎるわ!なんでオカルト系深夜番組でこんな展開になってんだよ!?」

上条「……使える場面あるか?さっきからどう超編集した所でまともな部分はないと思うんだが……」

上条「てかもう完全にフリートークという名の雑談だけで、俺らがファミレスでしてるレベルの話しかしてねぇしな!」

佐天「ちっちっち!ナメて貰っちゃあ、困りますよ上条さん!こう見えて『学探』は結構長く――は、やってないですけど!」

上条「だから、そーゆートコがね?」

佐天「さっきから編集編集言いますけどねっ!そこはそれあたしの培った手腕で!立派に番組を作ってますし!」

上条「その一点の陰りもない澄み切った笑顔、俺は信じてやりたいんだが……!」

鳴護「うん、やっぱりあたし佐天さんもアイドルに向いてると思うよ。主にそーゆートコが」

佐天「つーかこれ、生放送なんで編集出来ませんしねー」

上条「…………………………うん?」

438 : 以下、名... - 2015/01/20 12:53:10.67 W4ZXiSrW0 946/1732

佐天「や、ですから記念すべき第一回目と同じく、生ですっ!LIVEですわ、えぇはい」

上条「……待て待て?さっき『生放送じゃなかったら後で編集出来る』って」

佐天「えぇ言いましたねー。でも『生放送じゃない』んで、ざーんねーん!ナマなんで編集出来ませんっ!つーかこれも流れています!」

上条「――ってバカじゃねぇのかっ!?編集出来ると思ってアレコレ言いまくったよ、俺!」

上条「放送事故ギリギリいっぱいの食レポートとかも流れてんのかっ!?アリサも聞いて――る訳はねぇよな!」

鳴護「あたしはまぁ、別に?この間の商店街巡りもそんな感じだったし?」

上条「お前ら未来に生きすぎるだろ!もうちょっと色々キチンとしようぜ、なあぁ!?」

佐天「『未来に生きる?いいや今のは残像だ!』――で、お馴染みのTATARAグループの提供でお送りしていますっ!」

鳴護「あ、繋がったよ!凄いね当麻君!繋がった繋がった!」

上条「だからアイドルが繋がった繋がった連呼するんじゃありません!コラ素材にされるから注意しなさいっ!」

佐天「――と、言う訳でお送りしてきました『学園探訪』!今日もきっちり何にもしませんでしたがご愛敬!」

佐天「あ、ここでアリサさんから告知があるそうですよー?」

上条「あれ?俺をスルーする流れなの?」

鳴護「今度の8日?にライブやりますっ。チケット……は、もうないけど、ネットで見られますんで、応援よろしくお願いします」

柴崎(カンペ) サッ

鳴護「『新曲、”夜と月のパヴァーヌ”のお披露目にもなります。どうぞお時間が許すようでしたら、是非ともご覧下さいねっ(はぁと)』」

上条「……こんなんでシメるの?こんなんでいいの?」

佐天「では最後!リスナーの方からメールが届いてまーす!」

上条「最後の最後にメールて――あれ?募集してなかったよな?」

佐天「ハンドルネーム、『目覚めるとゲコ太になっていたい』さん!」

上条「やだ俺その人知ってる。てかそれフツーに友達からメール貰っただけだよね?」

佐天「いつもメールありがとー!あ、今度素敵なアクセのお店見つけたんで、行きましょーねー?」

上条「公共の電波使って言う事じゃねぇよ!TATARAさんもう少し厳しくして上げて!?」

佐天「えぇっと――『佐天さんARISAさん、マネージャーさんとその他の人こんにちは!』」

鳴護「あ、お久しぶりです御坂さーん」

上条「だーかーらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

佐天「あー、ウッサいですよ!お静かに!メール読めないじゃないですか、良い所なのに!」

上条「……あのさ?もしかしたらなんだけど、もう嫌な予感しか――」

佐天「『ARISAさんShootingMOONツアー成功おめでとう御座います!一ファンとしてとても嬉しいです!』」

鳴護「ありがとー」

佐天「『これでアイドルからも見事に脱却され、本格派シンガーとして確立されていくんだと思います』」

上条「……お、意外とまとも、か?」

439 : 以下、名... - 2015/01/20 12:54:17.86 W4ZXiSrW0 947/1732

佐天「『今後、学園都市だけではなく、海外でも積極的に活動されるのを寂しく思いますが』」

佐天「『以前からの応援している私としては、胸が一杯になります』」

鳴護「……ありがとう、うん、本当に……!」

上条「御坂……いい話――」

佐天「『――で、そんな世界的アーティストになったARISAさんなのに』」

佐天「『横で親しげに名前で呼んでいるツンツン頭とは、一体どういうご関係なんですか?』」

上条「待て!違うんだ!これはきっと――」

上条「――敵の魔術の攻撃なんだ……ッ!」

鳴護「あ、決め台詞出た」

佐天「――と、言う訳で今回の『学園探訪』はこの辺で!謎は次回だ!解明したいと思います!」

上条「待て、待てって!?お前これこのまま終ったら、俺見てる人になんて思われ――」

佐天「本日のゲストは歌手兼食いドルのARISAさんでしたー!では、ご一緒に別れのご挨拶をどうぞ!せーのっ」

佐天鳴護「「うーーーいーーーはるーーーーっ!愛しーーーてーーーるーーーぞーーーーーーーーっ!!!」」

上条「違うんだ!俺は罠に填められただけで――」

プツッ

440 : 以下、名... - 2015/01/20 12:55:28.70 W4ZXiSrW0 948/1732

――2014年10月4日(土) 路上・夜

 学園都市の夜は早い――と言うと語弊があるかも知れないが、交通機関は早々に仕事を止めてしまう。
 学生の本分は勉強である、を建前に大体夜7時前後にはバスも電車も終電になる。親元を離れた学生達が主役の街である以上、一定の歯止めは必要だろうから。
 なので多少友人との遊ぶ時間を作ろうとするのであれば、土日や祝日。普段よりも授業が少ない日に宛てるのは当然。それは学園都市でなくともそうだろうが。

 そんな浮かれた学生の一人、佐天涙子はコンビニ帰りに考えていた。
 『学探』の収録を無事に終え、残った時間を鳴護アリサとのお喋りに費やし――若干一名、脱兎の如く逃げ出した先輩はさておき――気がついたら終電を逃しそうなので、お開きにした。

 流石に今日はファミレスでお腹いっぱい食べたし、自炊もするよう気分じゃなかったので、コンビニで朝食のパスタとサンドイッチを買い、さっさと帰る事にする。

(ママに見つかったら叱られちゃいそうだけど……ま、たまにはいいよね?……てか)

(アイドル、ねぇ?あたしが?マジっスか!やったね初春!)

 話が唐突すぎてついていけない部分は多々あれど、友達を助けるのには吝かでは無い――以上に。

(……むぅ。憧れだよねぇ、アイドルって)

 煌びやかなステージへ立ち、ファンの前で華やかな衣装を身に纏い、歌う。

(憧れない女子などいるもんか!いや、居ないっ!)

 能力の大小、少なくとも今では大切な友人の一人だと思っている御坂美琴へ対する劣等感。それが表に出て来る事はもうないであろうが。
 ただ、それはそれ、これはこれ。
 同世代の女の子、しかもアイドルとして活躍している人間へ多少思う所がない、と言う程に無欲でもなかった。
 それを”欲”と呼ぶにはあまりにも細やかであったとしても。

(アイドルになれるかは分からないけど……うーん?MC、ぐらいならやってみたいよーな?)

 ……と、単純に自身が今まで歩んできた道、それと異なるものを提示された喜びで満たされていた、というのがザックリと彼女の心情を表している。
 誰しもが、大抵は、子供の頃に夢見たものが、思いがけなく手が届きそうになるとすれば、浮かれるのも無理はない話である。

 ――だが、しかし。

441 : 以下、名... - 2015/01/20 12:56:39.57 W4ZXiSrW0 949/1732

 開いている道は決して一つではなく。またそれはアカルイミライが約束されているとは限らない。
 悪意で人を騙す者は勿論、善意で人を騙す者も少なくない世界で。

 この少女は――”そういう”道へ踏み込む事も躊躇いはしないのだから。
 そして何気ない日常の落とし穴はそこかしこに、空いている。

 人里離れた大森林の中に。
 寄る辺のない廃村の奥に。
 誰も知らぬ深海の果てに。

(あれ――?)

 そして当然、学園都市の路地裏もまた一つ。ぽっかりと、這い寄るように。

 ”闇”が。

(今……路地裏へ入っていった人、なんか、なんかこう……おかしかった、よね?)

(くたびれたスーツを来たおじさん、なんだろうけど……)

(”頭”が真っ白だった、っぽい?)

 つい先程まで語っていた『スレンダーマン』のように。

 禿頭――僧侶のような剃髪ならば地肌の色が見えるだろう。夕暮れを過ぎ、夜になった頃に見たいものでは決してないけれども、まぁ居るかも知れない。
 ”カリキュラム”関係や一部の体育教師――『警備員』を兼ねている――がしている。そう彼女の記憶にはあった。
 おぼろげだが、航空自衛隊出身のパイロットとして予備役にあるとか何とか。日直で名簿を届けに行った際に聞いた事がある。
 ……まぁ、「何でツルッパゲなんですかねっ!」とストレートに聞いて、隣の少女が卒倒しそうになったのは余談ではあるが。

 しかし、つい今しがた目にしたものは、街灯の乏しい光量にすら映える”白”。
 そうそう見間違えるようなものでは、ない。

(……ってもどうしましょうかねー?包帯を巻いていましたー、なんてオチだったらそれはそれで笑えるけど)

(つなぎ目みたいなのも無かったし……うーん?)

(……ま、勘違いだったら、『ごめんなさい!』すればいっか!いいよねっ!)

 こうして佐天涙子はおっかなびっくりながらも、深淵を覗き見る暴挙へと及んだ。

 ……だが忘れる事なかれ、然れど教訓が生かされる事もなく。

 長く深淵を覗く者を、深淵もまた等しく見返すのだから。

442 : 以下、名... - 2015/01/20 12:57:26.17 W4ZXiSrW0 950/1732

――路地裏・夜

 コツ、コツ、コツ、コツ、コツ、コツ……。

 決められたリズムを保ちながら、目の前の『それ』は路地裏を歩いていた。
 遠目の上に暗がり、よく分からないビールケースや段ボールが積まれてる中を、ペースを落とさずに一定間隔で。規則正しく、と言えば語弊があるか。

(『アレ』……おかしい、よね?)

 恐怖心よりも好奇心を優先させた結果、佐天涙子は謎の人物を尾行していた。というよりも、してしまっていた。
 最初は慣れぬ――事も無く、割とある話だが――尾行と緊張で、何度か不用意に音を立ててしまっていたが、気付かれる心配も無かったようだ。
 ビール瓶を倒そうが、立てかけられた自転車に引っかかろうが、尾行されている『それ』は振り向きもせずに歩いていたからだ。

(てか、なんだろー、あれ?UMA?それとも妖怪さん?)

 外見はずんぐりむっくりとしたスーツ姿の男性。体型からすればやや小さめで小太りであるぐらい。”スレンダー”とはお世辞にも評しがたい。
 けれど後ろから見る分には、その頭部が真っ白な何かになっているように見える。
 フードのようなゆったりしたものでもないし、タイツのような光沢があるのでもない。

(だったらあれは何……?ロボット?)

 怖いよりもコミカルで、何かのマスコットキャラクターかゆるキャラに……頑張れば見える、かも知れない。
 ゆるくないゆるキャラが大量増殖しているのであれば、もしかしたら自身の知らないだけ――。

 コツ――。

(あ、角曲がっちゃった――急がないと!)

 慌てて追いかける。しかし彼女はここで気付かなければならなかった。
 願わくばもっと先、尾行を始めたその瞬間に悟るべきであった。

 そうすればきっと小さな冒険は中止されていただろうから。

443 : 以下、名... - 2015/01/20 12:58:46.44 W4ZXiSrW0 951/1732

 時に――佐天涙子は中学生である。
 一部の知り合いになんだかんだと言われていながらも、その本質は未だ学生の身分に過ぎない。

 従って、今日のような『学探』収録の日ですら制服を着て撮影に臨んでいる……まぁ、特定の誰かが『実は中学生好きだ!』という噂があるから、とかでは決して無い。
 多分、恐らくは……きっと。
 なので彼女の今の服装は棚側中学の制服であり、履いている靴も学校指定の革靴であった。

 ……そう、”音を出しやすい靴”を履いている。だというのに。

 『相手の足音が響く一方、自身の靴音が響かない』という異常な状況を察すれば……この結果にはならなかっただろうか?

(…………あんれー…………?誰も、居ませんなー…………?)

 結果から言えば、正体不明『それ』を彼女が見失う事になった。
 ぽかんと広がる夜の帳、路地裏でや拓けた広場のような一角。
 この先に道はもう無く、唐突に消えてしまった。それが全てである。

(うっわーっ!マジですかっ!?これ心霊体験じゃないですかっ!)

(やっべぇマジテンション上がってきた!取り敢えず誰かに連絡を――)

 けれど、『彼女をが”それ”を見失った』としても。
 だからと言って『”それ”が彼女を見失った』とはイコールではない。

 コツ、コツ、コツ、コツ……。

「――え?」

 たった今見失ったと思っていた”それ”が――。

「――っ!?」

 真上から聞こえてきたのだから。

 コツ、コツ、コツ、コツ……。

 『それ』は雑居ビルの壁面に張り付いて身じろぎもせず。
 だというのに、コツコツという耳障りな音は鳴り止まない。

444 : 以下、名... - 2015/01/20 12:59:57.63 W4ZXiSrW0 952/1732

「え、ぇっと、その――ですね?あ、あたし、ケーブルテレビの――」

 するっ、と。壁面から『それ』は音も無く飛び降り、彼女の前へ立った。

 正面から見た『それ』は目も鼻もない。まさにのっぺらぼう、としか言いようがない顔立ちをしていた。
 その真っ白な顔面に唯一あったのは、真一文字に閉ざされた口。
 何かガムでも噛んでいるかのように、定期的に上下している。

「ご――ごめんなさいっ!あたし、そういうつもりじゃなくって!」

 数歩タタラを踏んで後ずさる。しかし『それ』は足を向けず、ただ。

「――ひっ!?」

 ぬるっと、伸びた。
 たった3m程、足を伸ばして距離を詰める。『それ』の上半身が近づいてくる!

 コツ、コツ、コツ、コツ……。

 耳障りな音は鳴り止まない――それは、足音ではないから。
 至近距離にまで迫り、ようやく彼女はそう悟る。

 何故ならばそのコツコツという音は、『それ』の口元から聞こえる――。

『コッ、コッ、コッ、コッ、コッ、コッ』

 ――歯ぎしりだったから。

「や、やだっ!こっちに来ちゃ――」

 突然、ミチリという音と共に『それ』の背中が弾け飛ぶ。
 中から出て来たのは触手の塊、ウネウネとフィクションでしか有り得ない動きで、彼女の手足を絡め取る。

「……そ、そんなの、聞いて――てか、本当に!?」

 噂であった筈だ。昼間面白可笑しく語っただけ、ネタにして笑い飛ばしただけの『それ』が。
 今まさにスレンダーマンが彼女の目の前へと顕現していた。

『コッコッコッコッコッコッコッコッコッ』

 カチカチと歯を鳴らしおぞましい吐息が顔にかかる。恐ろしくて目を瞑りながら――それでも、諦めてはいない。

 ふと――こんな状況下でも、思い出した事があったから。

(そうだ――都市伝説があったんなら、あの”噂”も有効かも知れない……!)

「た、助け、助けて――」

 恐怖で混乱しながらも彼女が呼んだ相手とは。

「助けて!――――――上条、さ――」

「――それは、ルール違反ではないのかな」

445 : 以下、名... - 2015/01/20 13:00:46.56 W4ZXiSrW0 953/1732

『がぁぁげぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?』

 怪物の嘶きと共に、至近距離で感じていたプレッシャーがかき消えた。

「とは言え、今際の際に好いた相手の名を呼ぶのもまた、佳きかな」

(……だ、誰?)

「力は言葉になり、言葉は力とならん。原初の言葉がそうであったように」

 恐る恐る目を開けると――そこには闇に溶け込むようなローブを着た『誰か』が居た。
 暗くて顔は見えない。けれど声からすれば相当年上の男性。

 どうやったのかは分からないが、『それ』を壁際にまで弾き飛ばしたようだ。

「あ、あのー?」

「すまないが、もう少しの間だけ目を瞑っていては貰えないだろうか?」

「えっと……?」

「あまりレディにお目にかけるものでも無いのでね――『ジョン・ポールの断頭鎌(Sacred Death)』……!」

 ザン、とローブの男は右手に持っていた巨大な鎌を一振りする。その姿はまさに『死神』としか呼べないものであった。
 『それ』とは優に数メートル以上も離れているにも関わらず、広げようとしていた触手をまとめて断ち切る。

 だが男はそれでも満足しなかったらしく、ヒュゥンっと片手だけで鎌を投擲する。

『ゲガガガガガガガガガ……っ!?』

 鎌は空中で綺麗に回転し、『それ』の体の中央に突き刺さり、壁へと縫い止める。
 男は躊躇いもせずに近づき――壁に刺さった鎌を軽々と引き抜いた。

『……カギュッ!?』

「死を欺く奇跡は私の師だけが手にした力だが、力を合わせれば我々とてその秘密を明かせるだろう――が、だ」

「されど神ならぬ人の身でするには傲慢の罪と知るが佳い――」

「――弁えよ、俗物が」

 パンと両手を合わせて謳う――そう、何回、何百、いやそれ以上に手慣れた言葉を。
 あるがままに振舞うその言葉を。

 神の代理人たる彼は、厳かに奉る。

446 : 以下、名... - 2015/01/20 13:02:07.17 W4ZXiSrW0 954/1732

「『”Holy, holy, holy ! Lord God Almighty Early in the morning our song shall rise to thee”』」
(聖なる聖なる聖なるかな。三つに居まして一つなる神の御名を、朝跨ぎ起きてこぞ褒め奉らん)

「『”Holy, holy, holy merciful and mighty! God in Three Persons, blessed Trinity!”』」
(聖なる聖なる聖なるかな。神の御前に聖らも冠を捨てて伏拝み、御遣い達も御名を褒めん)

「『”Holy, holy, holy ! tho' the darkness hide thee, Though the eye of sinful man thy glory may not see,”』」
(聖なる聖なる聖なるかな。罪ある眼には見えねども、慈しみ満ちたる神の栄えは類無き)

「『”Holy, holy, holy merciful and mighty! God in Three Persons, blessed Trinity !”』」
(聖なる聖なる聖なるかな。御手の業にて三つに居まして一つなる、神の御名を褒め奉らん)

「『”――AMEN(かくあれかし)”』」

447 : 以下、名... - 2015/01/20 13:03:01.45 W4ZXiSrW0 955/1732

 ジュウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ……。

『デゲリ、リィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィイッッッっっ!!!』

 『それ』は青い炎に包まれ、悲鳴を上げながら徐々に小さくなっていく。
 最後の一片まで燃え尽きたのを確認すると、ローブの男は改めて――。

「――では少し眠りたまえ。なぁに、悪夢など直ぐに忘れるさ」

「待っ、待って下さ――」

「あとあぁいう場面でこそ、いと高き御方の名を呼ぶべきだが……まぁ、それもまた佳いだろう」

「あたしまだっあなたにお礼を――」

「『”Requiem ? ternam dona eis Domine et lux perpetua luceat eis. ”』」
(主よ、永遠の安息を彼らに与え、絶えざる光でお照らしください)

456 : 以下、名... - 2015/02/02 13:02:42.32 r988Yk1T0 956/1732

――2014年10月4日(土) 路上・夜

老人「――残念であるが『スレンダーマン』は既に著作権登録が為されているのだよ」

老人「元々はアメリカの電子掲示板コミュニティから発祥し、それを面白可笑しく肉付けしていった、というのが始まり」

老人「こちらにもあるだろう?タチの悪い匿名掲示板を元に発展していく都市伝説、のような何かが」

老人「人々が好きな残酷でやくたいもない話――『友達の友達から聞いた話』と語られるような、そんな噂話」

老人「……まぁ普通の精神であれば、著者が”著作権”として登録はしまい。した以上某かの目的があると判断すべきであろうな」

老人「……そして、その噂を鵜呑みにした。下らない悪ふざけと金儲けの作り話が一人歩きし、現実に事件は起きる」

老人「アメリカ北部のウィスコンシン州で、12歳の少女二人が同級生を滅多刺しにした事件だ」

老人「捕まえられた少女達曰く、『スレンダーマンの手下になるため、人を殺す必要があった』のだとか」

老人「幸いにも被害者は命を取り留めたが、勿論今後の人生が穏やかなるものとは言えないであろう。そう、願ってはいるがね」

老人「そして何よりも、この少女二人が『自分自身の人生を閉ざしてしまった事』がだ」

老人「……この二人は最長で65年の懲役刑が科される可能性があり、この先ずっと過ちを悔いて生きねばならない」

老人「『人は生まれながらにして原罪を負う』――胸に突き刺さる佳き言葉であるが、何も坂道でより重き荷を背負い込む必要もあるまい」

老人「彼女達が求めれば信仰が助けとなり、杖となり、また友となろうが……それもまた酷く険しい道が約束されている」

老人「そして当のスレンダーマンの父親は、この件に関して『ノーコメント』だそうだ」

老人「顔と心が無いのは息子と同じく」

佐天「……」

老人「フィクションをフィクションと割り切るのは当たり前の話であるが、それとは別に引かなくてはならない一線がある」

老人「君もそうだ。花や月を追いかけろとは言わないが、もう少し分相応なものをだね――」

佐天「……あ、あのー、すいませーん?」

老人「何かな」

佐天「どうしてあたしは見知らぬナイスミドル――を、ちょっとだけ通り越したオジサンと並んで歩いているんでしょーか、と?」

老人「お世辞は有り難いが私は通りすがりの老人だよ、お若い方。物忘れに関しては……判断を保留するが」

老人「なぁに幾ら照れるからといって、道に迷っていた私を駅の近くまで案内する程度の善行、忘れてしまわなくとも佳かろうに」

佐天「でしたっ、け?……まぁいっか。人助けですよね、人助けっ!」

老人「……これはこれで心配になる反応である、な」

佐天「はい?」

老人「あぁ気にし――ては欲しいが、まぁ今は佳いだろう」

佐天「てかスレンダーマンのお話でしたね?既に人様の著作物だったってマジですか?」

457 : 以下、名... - 2015/02/02 13:05:10.41 r988Yk1T0 957/1732

老人「この話題を振ってきたのは君からだった筈だが……そうだ、間違った話ではないよ。残念だがね」

老人「アメリカの匿名掲示板で面白可笑しく奉り上げ、偶像を作りだし、実際に『一人歩き』してしまった事例だ」

老人「……知っているかい?この下らない顛末が露になるまで、Cultural anthropology――」

老人「――文化を扱う学問の中では、『神話が形成されゆくモデルケースの一つ』として名前が挙がっていたんだが」

佐天「……その、起きちゃったんですよね、事件?」

老人「『起きるべくして起きた』事例でもあるな。狂人を真似、狂人を演じ、狂人を辿ればそれ即ち狂人なのだから」

老人「……反対に、首足処を異にするのが得意なだけ若造であっても、三重冠を戴き金と銀の鍵を預かれば尊敬を集めるように」

老人「意味も無く人を殺める”神”を造り上げれば、それが人を弑するのは必定」

老人「だから私達は『ここ』へ神を降ろす事なんてしなかった。いや、出来なかったが正解か」

老人「人の身で『塔』を積み上げれば、必ず報いが待っている。それだけの話だな」

佐天「あのー?」

老人「すまない、脱線したようだが……とにかく”スレンダーマンはいない”」

老人「あくまでもフィクションであり物語に過ぎない。”そんな存在が私達へ影響を与える事など出来やしない”んだ」

老人「だから”君が路地裏へ入ってしまっても、怪物には襲われない”と」

――パキイィィィッン……

佐天「ありゃ?今なんか音が――それも、どっかで聞いたような……?」

老人「お若い方、これで分かっただろうか。そうそうGhostの類は存在しないという事を」

佐天「でっすねぇ。特に『スレンダーマン』が実在しないのはガッカリです、えぇガッカリ」

老人「で、あれば不用意な冒険は慎む事だ。暗がりにいるのは人ならぬ者だけではなく、人のならず者も多いのだから」

佐天「まっかせて下さいっ!なるべく前向きに検討するであろう事をお約束しますよっ!」

老人「……君には約束という概念がないのかな?」

佐天「いえそんなっ!『安請け合いをさせたら棚中一!』って二つ名がですねっ!」

老人「どこかで聞いたような話だが……それもまた佳かろう。受難を経て人は強くなれる――と」

老人「Station……あぁ着いたようだね。わざわざ案内してくれてありがとう」

佐天「いえいえっ!あたしの家も直ぐ近くなんで。ついでです、ついで」

老人「善行が美徳と分かってはいても、中々実行へ移せないのが世の常だよ」

佐天「いやぁそれほどでもありませんなっ!それほどでもねっ!」

老人「……君の将来が酷く不安になってしまうんだが、それはきっと気のせいではないのだろうな」

老人「ともあれ、助かったよ。ありがとう、お若い方よ」

佐天「あ、いえいえどういたしましてっ――て、ですね、ここのだけ話で良いですから、ちょっとお伺いしい事が」

老人「ふむ?」

佐天「イアン=マクダーミ○さんがお忍びでどうしたんですが?てかぶっちゃけサイン下さいなっ!」

老人「全く以て他人だね。彼はスコットランド人で私はドイツ人だから」

老人「俳優のような人生を歩んではいるが、未だに気取った台詞の一つも言えやしない。だから」

佐天「だから?」

老人「子供はもう、家へ帰る時間だ」

佐天「ぶーぶーっ!」

458 : 以下、名... - 2015/02/02 13:08:15.55 r988Yk1T0 958/1732

――2014年10月5日(日) オービット・ポータル本社 応接間

上条(オフィスビルの建ち並ぶXX学区の一等地。その端っこの方にオービットの本社はある)

上条(レディリー――直接会った事ないんだが――って人が会長やってた頃には、もっと中心部にあったらしいんだが)

上条(ARISAの芸能プロ事務所、『黒鴉部隊』だけを残して整理したんで、もっと小さい所へ移ったんだそうで)

上条(芸能事務所兼警備会社って何?とか思わなくも……まぁいいか)

上条(ともあれ、俺は先日の報酬を受け取りにやって来た訳だが……)

テレビ『――!――!!』

上条(つけっぱなしのテレビは海外局のデモを流している)

上条(日本語のキャプションじゃ、『報道の自由を守れ!』と入っているけれど、彼らが口にしているのはもっと別の言葉)

上条(中には『見せられないよ!』的なあからさまなスラングなのに、ゴールデンタイムで堂々と流してるし)

上条(……全く、外国語分かんねぇだろって適当な事しやがって……ま、俺も耳が慣れなければ分かんなかったんだろうが)

上条(……ネット漁りゃ幾らでも原文出て来るだろうに、こんな事やってっから――)

柴崎「お待たせ致しました」 ガチャッ

上条「あ、お疲れ様です」

柴崎「上条さんにご尽力頂いたEUツアーの報酬が揃ったのですが……本当に宜しいので?」

柴崎「何もキャンピングカーに設置されていた調理器具でなくとも、それ以上の物をこちらでご用意出来るのですか……」

上条「あれだって外のと比べれば数世代先だろ?ウチにあるよりもずっと新しいし、使えるんだったら勿体ないなー、って」

柴崎「まぁ……技術流出の懸念からして、あの車は外部企業からすれば宝の山みたいものですからねぇ」

柴崎「このお話が出る前から回収は予定しておりましたので、当社としても構わないのですが」

柴崎「それで設置の日時は如何致しましょう?大体半日もあればシステムキッチンへの換装は可能です」

上条「それはいつでも構わないよ。寮の管理人さんには言っておくから、鍵も開けて貰えると思うし」

柴崎「分かりました。では今週中には終らせる方向で」

上条「ありがとうございます」

柴崎「――と、上条さんに於かれましてはARISAの護衛、大変ご迷惑をおかけしました」

柴崎「オービット・ポータル社、並びに『黒鴉部隊』を代表して、再度深くお礼申し上げます」

上条「や、そんなっ頭を上げて下さいよっ!俺は別にそんな大した事はっ!」

柴崎「本来であれば社長、シャットアウラが頭を下げるのが筋なのでしょうが……その」

上条「あ、いいですよ。忙しいんでしょう?」

柴崎「『あの男に頭を下げるぐらいなら、アイツを殺して私は生きる!』と」

上条「殺人予告っ!?てか感謝の欠片も持ってねぇよな!」

柴崎「いやいや、ただの照れ隠しでしょうからお気になさらず」

上条「そ、そうですかね?」

柴崎「リーダーが誰かを殺す殺すというのは……そう、ですね。仕事で敵対した相手と上条さんぐらいでしょうし」

上条「それってつまり俺も敵であって、殺るのに躊躇しないって事じゃないですかね?」

459 : 以下、名... - 2015/02/02 13:12:11.23 r988Yk1T0 959/1732

上条「てか『黒鴉部隊』大丈夫?あれがリーダーってやってんのって不安を憶えるんだが……」

柴崎「……えっと、まぁ戦闘面に関してだけ言えば、リーダーの”能力”と”クルマ”さえあれば学園都市上位陣へ食い込むのではないかな、と」

柴崎「『エンデュミオン』も生身でなければ負ける事はなかったでしょうしね」

上条「そっかな?瞬間的な攻撃力だけで言えば、ビリビリのファイブオー――」

柴崎「――はい!と言う訳で上条さん!最近どうですかっ!?学業に恋愛っ青春してますかねっ!」

上条「何?急に?」

柴崎「プラン名を知ってるだけで行方不明者を絶賛量産中のお話はそこまでに!自分はどんな意味があるのは存じませんが!」

上条「結構詳しいじゃねぇか。『暗部』繋がり――って言うかさ、前から気になってたんだけど」

上条「『黒鴉部隊』の扱いってどうなの?やっていけてんの、経済的な意味で?」

柴崎「元々は企業の私設治安維持部隊で、今は外付け保安部の扱いです」

上条「違いが分からん。てーか違うの?」

柴崎「以前はレディリー会長などスポンサーが一つでした。契約期間中はそれ以外とはお付き合いしないと」

柴崎「今は複数の企業が資金を出し合って雇われている、でしょうか」

上条「ふー、ん?」

柴崎「深いお付き合いをするよりも、浅く手広くやりましょう、と言うだけの話ですかね」

上条「てかあの多脚戦車を民間の警備会社が持ってるだけでおかしいわっ!」

柴崎「あれはKONGOHインダストリィの試作機でして。本来工業ラインには乗らなかったものです」

柴崎「なので、あんな最新技術を惜しげも無く使い続けるのは無理でしょうけれど」

柴崎「派手に動きすぎてARISAさんへ迷惑かけるかも知れませんしね」

上条「『エンデュミオン』も世間的には事故扱いだからな……ゴシップ紙を除いては」

柴崎「あぁあれは確かに驚きましたね。日刊ゲンダ×でしたか」

柴崎「彼らは社会に一定数いる層、『何かよく分からないが、世界には陰の組織がいる!』と思い込んでいるのが購買層ですから」

柴崎「たかだか週刊誌如きに暴露されるような『陰の組織』が居て、しかも絶大な力を持つ筈なのに放置されるのか、という疑問に行き当たらない……」

柴崎「幸せなんでしょうね、きっと」

上条「未来に生きてんだから、許してあげて!」

柴崎「ま、そちらはきちんと名誉毀損で係争中ですのでご心配なく。学園都市的にも突かれると拙いので、ご支援を――おっと何でもありませんよ」

上条「汚い!大人って汚い!」

柴崎「汚いのは大人の専売特許みたいなものですからね。正攻法で潰しに行ったって構いはしないのですが――と、あれが良い例でしょうね」

上条「あれ?」

柴崎「テレビでやっている、あれ」

上条「フランスでテロかました件か」

柴崎「当該する新聞社に関しては自業自得、宗教差別を煽っていれば過激派は嬉々としてテロを起こしただけの話かと」

上条「言論の自由って話――では、あるけどさ」

上条「普通の人達も一緒くたにしてバカにするようなのは、ちょっと違和感がある……」

460 : 以下、名... - 2015/02/02 13:14:52.70 r988Yk1T0 960/1732

柴崎「過去にも日本の五輪誘致が決まった際に”手が三本のガリガリに痩せこけた力士”を風刺として載せていましたし」

柴崎「反対に同紙を揶揄したコメディアンや、『新聞じゃ銃弾は防げなかったね!』と風刺画を書いた少年を逮捕してみたり」

柴崎「自分達が他人を蔑み、莫迦にするのは自由――しかしその逆は受け入れない」

柴崎「よく言われるユダヤ陰謀説、ありますでしょ?アレも同じく」

柴崎「自分が憶えている限り、日本で出版社を廃刊へ追いやった事はありますけど、それはあくまでも”合法的”な範疇での事」

柴崎「少なくとも今回のようなテロはしなかったですからね」

上条「……一緒にしていいのか、それ……?」

柴崎「テロを起こしたのはあくまでもテロリストであり、ムスリムではないので何とも言えませんがね」

上条「つーかアンタの人質云々の話がほぼ的中してて怖えぇよ!どんなんだ!?」

柴崎「そりゃ情報を意図的に取り込んでいるからに決まってるでしょう?BBCやCNN、場合によってはアルジャジーラも普通に見ますし」

柴崎「……ま、傭兵なんてのは人様の不幸で食ってるから、情報に聡くなって当たり前だな」

上条「柴崎さん、口調口調」

柴崎「おっと失礼――と、報酬の受け渡しは以上となります。が、上条さん」

上条「あい?」

柴崎「イギリス人のお嬢さん方の連絡先などはご存じではありませんか?もしお持ちでしたら、当社の方からお礼がしたいのですが」

上条「知ってる、は知ってるけどなー……レッサー達、好きでやってんだから要らないと思うけど」

上条「つーか今、何やってんだろ――」

柴崎「上条さん上条さん、テレビ見て下さい」

上条「はい?……あ、デモの最前列にプラカード持ってる子が」

『Ukraine. → It doesn't know. 』
『Tibet. → It doesn't know.
『France. → Going mad 』

『The French defends the freedom of the expression of France. 』
『It doesn't know even though the people how many die in other countries. 』

上条(えっと直訳すると『フランスが攻撃された時ばっか自由自由言ってんじゃねーよ!』的なニュアンスだけど)

上条「これが何だって?フランス人でも中々思い切った事言うなー、とは思うけどさ」

柴崎「……見覚え、ありませんか?」

上条「見覚え?AHAHAHAHA、やだなー柴崎さん、幾ら俺だってテレビに知り合いが映り込むなんて、そんな偶然中々――」

レッサー(※テレビ中継)『Free Tibet! Free Ukraine!』

レッサー『Will the socialist following invent Piketist? Fellow France only with mouth! 』

レッサー『Is the freedom of expression only in France? Frog Eaters!』

上条「何やってやがんだレッサーさあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!?」

柴崎「直訳しますと『フランス人はフランスの表現の自由にしか興味ありませんが何か?』」

柴崎「『てーか社会主義の次はピケティニストか、いい加減にしろ口だけフランス野郎!』……ですかね」

上条「てかレッサースゲーな!?わざわざアウェイに乗り込んでフランスへ喧嘩売るって!嫌がらせにも芸が細かいし!」

461 : 以下、名... - 2015/02/02 13:16:54.33 r988Yk1T0 961/1732

柴崎「や、でもこれ、拙いですよ」

上条「え、なんで?明らかに頭オカシイけど、こんぐらいは別に許容範囲じゃね?」

柴崎「えぇまぁ日本ではその通りなんですけど、フランスでは『テロに荷担するのは違法』って法律がありまして」

レッサー『ちょっ!?何で私が取り押さえられるんですかっ!?聞いてませんよ、どーゆー事ですかっ!?』

上条「……あぁ、うん。こうなるのな」

レッサー『てーかランシスはっ!あの子はどこへ逃げやがったのかと濃い乳時間!……いやそうじゃなくて!最初に計画持ってきたのはあっち――』

レッサー『――おのれ!もしやこれはあのガキの罠かっ!オカシイと思っていましたよっ!チケット奢ってくれるなんて上手い話はねっ!』

レッサー『私を裏切るとは良い度胸をしてやがりますなっ!バストサイドに反してですが!』

レッサー『……と、まぁ私は騙された方ですんで、被害者的なアレでして……』

レッサー『よしこうしましょう!ここは一つお互いに引き分けって事で手を打ちましょうか!我が宿敵の裏切りに免じてねっ!』

レッサー『――って具合に、イイ感じでまとまったんでレッサーちゃんはこれにてドロンっと――』

レッサー『――と、お待ち下さいな!乙女の柔肌にそう簡単に触れないで貰いましょうか!……え、あなた女?マジで?』

レッサー『何か見た目がゴリラ・ゴリラ・ゴリラっぽいんで、てっきりプロのゴリラーの方とばかり』

レッサー『てかもう市井のゴリラ・ゴリラ・ゴリラって事で、つまりは服を着たゴリラ・ゴリラ・ゴリラである空○先生ではないですよねっ分かります!』

レッサー『と、言う訳で私は野生のゴリラを探しに旅へ出ようかと思――オイ待てやめて止めくぁwせdrftgyふじこふじこ』

上条「……警官に、連行されてったよな……?」

レッサー『って言うか私、世代的に増山さん以外のを聞くと違和感がどーにも拭えないんですが』

上条「黙ってろ!日本人だと思われるからねっ!」

柴崎「」 ピッ

柴崎「――はい、と言う訳で宜しくお願いしますね」

上条「ぶん投げたよね?もう何か色々と面倒臭くなって投げたよな?」

柴崎「彼女達の組織としての特性上、多少イリーガルな要求をされても、まぁまぁTPOで融通しろとの命令です」

上条「国際問題だけは起こしてくれるなよー、頼むからな!」

柴崎「リーダーも、あぁ見えて上条さん達には本当に感謝していますからね。なので少しでも恩を返したいではないかな、と」

上条「だったらその感謝の分だけでいいから、俺への敵意を割り引いて欲しいんですけど……」

柴崎「いいじゃないですか。それだけインパクトがあるって事ですから」

柴崎「自分なんて、もう何年も名前で呼んで貰った憶えが……」

上条「コードネーム使ってるからじゃね?仕様って言うかさ」

柴崎「必要最低限のサプライズは用意してありますけど、出来ればそれまでに伺いたい所ですよねぇ」

上条「おい待て?あんた今なんつった?また俺の知らない所でなんかしようとしてんじゃねぇか!?」

柴崎「お気になさらず。誰も損はしないと思いますから、えぇ――と、そんな事よりもこれからのご予定は?」

柴崎「お暇でしたら、少しお付き合い頂けませんか?学生のお立場からご意見を頂きたく」

上条「あー、ごめん。アリサから『お買い物に付き合って!』って言われて――何?意見?」

柴崎「デートですか……あぁ、それで先程からリーダーと話し込んでいるのですね」

上条「……具体的に何言われてるかは聞きたくないけどな!つーかシャットアウラ過保護過ぎんだろ」

柴崎「否定は出来ませんがねぇ」

上条「友達と遊びに行くぐらいで心配て、なぁ?」

柴崎「あ、すいません。やっぱり否定出来ます。リーダーの心配はご尤もです」

462 : 以下、名... - 2015/02/02 13:19:13.66 r988Yk1T0 962/1732

上条「お前らいい加減にしとけ、な?主従揃って人を魔王並に危険指定してないでくれる?」

柴崎「何を言ってるんですか上条さん!。冗談でも言って良い事と悪い事があるでしょうに!」

上条「お、おぅ?ごめん、なさい?」

柴崎「――魔王はね、殺せるんですよ……?」

柴崎「合法的に、この世から、消す事が、出来るんですね?分かりますか、自分が言っている事が?」

上条「それ、どういう意味かな?まるでどこかに殺したくて殺したくてしょーがない奴が居るみたいな流れになっちゃってるよ?」

柴崎「ともあれそんな訳でARISA専属スタッフの上条さんへ、学生さんのお立場からお伺いしたい事が御座いまして」

上条「俺の肩書きがちょっと見ないうちにレベリングしてあんだけど、どいつの仕業?」

柴崎「割とマジ話なので、えぇ」

上条「や、まぁまだ来る気配もないし……聞くけどさ。何?」

柴崎「取り敢えず、こちらを。先週のARISAの予定表となっております」

上条「見て良いの?実は興味あったり」

柴崎「どうぞどうぞ。大したものではありません……えぇもう本当に」

上条「んじゃちっと失礼して……何々、火曜日・全部出るまで帰れま――って、あのあれか?食べ物屋さんでベスト10出るまで注文するのか?」

柴崎「コンサートとNewシングルの告知ですね」

上条「ゴールデン出られるんだから凄いよなぁ……で、次、水サスの収録?」

上条「『東京近郊の隠れたグルメ点レポート!ゲストはあのアイドルが!』……ふーん?」

柴崎「コンサートとNewシングルの告知ですね、はい」

上条「なんか、こう……いや、気のせいだよな?俺の勘違いなんだよね、きっと?」

柴崎「……ま、続きをどうぞ」

上条「スケジュール、てーかテレビの仕事はもう一本か……あーっと」

上条「『金スペ!芸能人一芸選手権!』」

上条「『新星フードファイターARISAに対する挑戦者現る!?君は今、皇帝の怒りを目にする……ッ!!!』」

柴崎「コンサートとNewシングルの告知……ですね、えぇ」

上条「……」

柴崎「……これ。アイドルの仕事じゃないですよね?」

上条「ようやく危機感を共有出来た事に嬉しく思うわ、うん」

上条「つーか言ってんじゃん!?俺ずっと前から指摘してたじゃんかよおぉっ!?」

上条「食べドルからフードファイターにジョブチェンジしかかってますよって!結構前っからさあっ!」

463 : 以下、名... - 2015/02/02 13:22:27.15 r988Yk1T0 963/1732

柴崎「……いえ、それがですよ?シングルも初動セールスでミリオンには届かないものの、60万枚まで売り上げていますし」

柴崎「アルバムに関してはお陰様でミリオン達成、写真集とイメージビデオも着痩せで中々の評判を誇っていますし」

上条「……なんだろうな。シンガーとしちゃいいんだろうが、友達としては若干イラッとするって言うか」

柴崎「ARISAが彼女さんであれば、その思いは当然なんでしょうが、そうでない以上ただのモヤモヤに過ぎませんよ」

上条「分かってるよ」

柴崎「……だから、そこで聞き分ける時点で分かってなんかないんですよ」

上条「はて?」

柴崎「で、当社と致しましては長く皆さんに愛されるARISA――との認知を固めるべく、謎のシンガーソングライターでなく、素のARISAの魅力をお届けしようと!」

上条「ダメじゃない。だってもうこれアイドル路線じゃないもの。明らかに”フード”とか”グルメ”みたいな定冠詞つきそうになっちゃってるもの」

上条「そうそう日常会話で使わないよね?トリ○でも言う程グルメグルメ使ってないからな?言っとくけど」

上条「や、まぁ……確かにARISA――じゃない、アリサのメシ食ってる姿は見てて、勇気が出そう?」

柴崎「伸び伸びやらしてみた結果、お芝居でもなく堕落でもなく、どこをどうミラクルを起こして食べドルへ行ったのか……」

上条「ある意味当然の帰結だと思う。つーか事務所側のミスじゃねーのか?」

柴崎「でもですね、意外とこれはこれで好評でして。実は本を出さないか、という企画が上がっています」

上条「あぁ写真集以外で?良い……良い話だ!食べドルから脱却出来る!」

柴崎「タイトルが――『あたしの愛した二○』」

上条「ラーメン○郎のタイアップじゃねーか!?出てない!食べドルから一歩も脱却出来てないよっ!?」

上条「てかナメてんだろ事務所?あ?正直に言ってみ?」

柴崎「……アリサさんが乗り気でしてねー……『おやつ代わりにピッタリだねっ!』と、はい」

上条「あるんだ、二○?学園都市にも?……今度探してみよう……」

柴崎「――と、こんな感じなんですけど、どうしましょう?」

上条「お前これ、俺が『いいんじゃないですかね!』って言うと思ったの?」

柴崎「認知度は確かに間違いなく上がっているのですが、こう、一発屋的なルートへ入ってしまってるのではないでしょうか」

上条「いやまぁ……アリサの性格上、こうなるのは分かってたようなもんだし?」

上条「フードファイターとしての人生を歩き始めるのも、まぁそれはそれでいいんじゃないかな?」

柴崎「ぶっちゃけますね?もう面倒ですし、そろそろ妹に甘い”と、いうポーズ”のリーダーが折れる頃でしょうから」

上条「何だよ急に」

柴崎「――今のARISA、不自然だと思いません?」

上条「不自然、って言われてもな。何が?」

柴崎「その、正直下世話な質問だとは思うんですけども、ですがね」

上条「ん?あぁ良いって別に。男同士だし、気にするようなもんじゃ」

柴崎「では遠慮無く伺いますが――」

柴崎「――上条さんは今回のツアーで一体何人の少女を毒牙にかけたのでしょうか?」

上条「下世話すぎるよねっ!?しかもその言い方だと俺がどんだけ悪い奴だって話しだし!」

柴崎「偶然を装いながらも一体幾度か弱い少女を、その凶暴な右手の下へ組み敷き、羞恥の顔を赤らめる様を下卑た顔で舐るように見入ったんですか!」

上条「あれおかしいな?『ラッキースケベで押し倒した』を客観的に言うと、そこまでヒドく聞こえるんだー?へー?」

464 : 以下、名... - 2015/02/02 13:25:56.98 r988Yk1T0 964/1732

柴崎「上条さんは今まで食べたパンは数えていない派で?」

上条「残念ながら新品未使用だコノヤロー!文句があるんだったらかかってこい!」

上条「あとついでに言わせて貰えるんだったら、男女の差無く憶えてる方が健全だと思うがな!」

柴崎「……てっきり既成事実の一つや二つあると思いましたが、それも無かったのですか?」

上条「無かっ――ぁっ……無かった、よ?いやマジで?うん、全然全然?何一つとして、疚しい事は無かったよ?」

柴崎「それもおかしな話なんですよねぇ。あの年頃であれば恋の一つや二つ、興味はおありでしょうに」

柴崎「こちらの用意したスケジュールを文句一つ言わずにこなす……出来た子だと褒めるべきなのでしょうが、どうにも」

上条「……待て待て、いや待って下さいよ?」

柴崎「はい?」

上条「前にも言いましたけど、アイドルが恋愛とか事務所的にはNGなんですよね?」

上条「だったらアリサ――ARISAも我慢してやってる、ってだけの話じゃないのか?」

柴崎「我慢しているように見えます?」

上条「……無い、ですよねー。分かりますっ」

柴崎「慣れない環境下でのストレスはおありでしょうが、その他は至って自然体。しかもワガママらしいワガママは一度だけ」

柴崎「年頃の娘さんなのですから、もう少し色々あっても構わないと思うんですよねぇ」

上条「前にも言ってたよな、確かそれ」

柴崎「えぇ、護衛は上条さんに着いてきて欲しいとの一回だけです」

上条「……あれ?そうなの?」

柴崎「言い、ませんでしたっけ?……まぁどうせお気づきでしょう、流石に」

上条「何となくはそうなんじゃないかな、とは思ってた」

柴崎「学園都市側は”たまたま教育実習中になる常盤台の生徒”を提示したのですが、無理がありすぎるだろうとこちらで却下」

柴崎「次に大人げないアリサさんのお姉さんが出張ろうとして、同じく重武装過ぎてあちらから却下」

上条「年齢的には高校ぐらいなんだろうが、シャットアウラは何か無理があるよな」

柴崎「さてどうしようか、と迷っていたら――『当麻君が良いと思いますっ!』」

上条「俺の自由意志は?」

柴崎「嫌だったら見捨てて帰れば良かったのでは?」

上条「友達以前に、人としてそんなフザけた真似が出来るかっ!」

柴崎「……まぁ『水着の露出が激しい!』だの『日高さんが好きすぎて脇が痙る』と言った残念エピソードは結構ありますが、それはまた別でしょうかね」

上条「……ふーん?水着、着たんだ?」

柴崎「ホルターネックなので、其程露出高いって訳じゃ決して。ただ」

上条「た、ただ?」

柴崎「やっぱりその、強調されてしまうのがイヤラシくて――もとい、嫌らしくてお蔵入りとなりましたが」

上条「日本語って難しいよねっ!」

柴崎「で、そのデータがここに」 ピッ

上条「言い値で買おう!幾らだっ!?」

柴崎「――と、言った具合に誰しもがエロ根性の一つや二つ持っているんですよ、えぇ」

柴崎「朴念仁を気取っておきながら、こうして同性同士での会話となればエロ話も結構出ますしね」

上条「騙したなァァァァ!騙してくれたなァァァァァっ!?」

柴崎「あ、すいません。そういうの結構なんで……画像は後でコッソリ転送しておきますから」

上条「友情!プライスレス!」

465 : 以下、名... - 2015/02/02 13:28:21.00 r988Yk1T0 965/1732

柴崎「――話戻しますけど、アリサさん、何かおかしくありませんか?」

上条「天然だよ!つーか言ってやるなよ!」

柴崎「冗談ではなく真面目な話ですよ」

上条「……おかしい、ってのは」

柴崎「無理をしている……いえ、演技をしている、でしょうか?何か不自然なんですよね」

上条「マネージャーの仕事もやるようになったから、タレントの演技にも口を出すようになったって?」

柴崎「皮肉はよして下さいよ。仰りたくなるのも分かりますが、これは自分がボディガードをやっていた頃の経験から判断しています」

上条「護衛する人を観察するのも仕事のウチなんだっけ」

柴崎「はい。ストレスが元で体調を崩されたり、仕事に支障を来してしまっては誰も幸せになれませんからね」

上条「……じゃ何が変だ、って思うんだよ?」

柴崎「性格上有り得ないのは分かっているんですが、こう……とても上手い演技を見せられる感じがします、ね」

上条「演技?てか天然じゃなくって?」

柴崎「それも含めて、と言いますか。その……余りにも”それっぽく”振舞い過ぎる」

上条「うん?意味が――」

柴崎「……キャラ、っていうんでしょうか?えぇと――」

柴崎「――これは割と有名なお話なんですが、アイドルの語源はご存じで?」

上条「英語じゃ”偶像”って意味だったか」

柴崎「まぁ『最初から偶像っつってんだから、彼女らがキャラ作ってて当たり前だろ』、的な結論へと持っていくために多用されます」

上条「キャラ作るのは誰だってそうじゃね?」

柴崎「ですね。個人的には商売でやってる以上、最後まで演じ続けて欲しいとは思いますが」

柴崎「今のアリサさんも似たような感じではないか……というのが、自分の個人的な感想です」

柴崎「周囲の期待に沿うように、のも少し違いますかね。アイドルとしてなりきれない女の子であれば”こう”振舞うような」

柴崎「ファンの方の受けが良いのも、業界の流儀に染まらないピュアなアイドル――という願望を写し出しているように」

上条「考えすぎだろ。アリサがそこまで器用に生きてる訳じゃない」

柴崎「ただのアイドル、もしくは普通の能力者であれば自分もそう思ったんですがねぇ。ですが」

上条「……『奇跡』」

柴崎「こう言ってはなんですが……えっと、というか正確には教えられていないのですが」

柴崎「アリサさんの『異能』は『誰かの願いや願望を汲み取り、現実を改変する』ものですよね?」

上条「あれ?教えられてないのか?」

柴崎「大まかにだけは。その話もレディリー前会長から少しだけ聞いただけで、後は別に。仕事に関わるようなものでもありませんし」

上条「っと待て待て。だったら柴崎さんはアリサの『体』の事は知らないのか?」

柴崎「異能を制御出来ず、ある程度叶えてしまうって話ですし。それも不幸なものでない以上、気にする必要もないかと」

上条「シャットアウラとの関係は?」

柴崎「何を今更……あぁ、『柴崎が褒めていた』件の仕返しですか?上条さんもお人が悪い」

上条「や、そう言うんじゃないんだが……まぁ、頼む」

柴崎「『88の奇跡』の際、あの船に乗り合わせた記憶喪失の少女、彼女の『異能』のお陰で乗客乗員は全員助かった――リーダーのお父様を除き」

柴崎「なので『どうして助けられなかった!?』との確執――とも、呼べない八つ当たりをしていたのが『エンデュミオンの奇跡』であって」

柴崎「が、今ではお父様の意を酌み、身寄りの無いその少女を妹として引き取ろうとしている……で、合ってますよね?」

上条「あぁうん、そう――だよな」

柴崎「前にお話ししましたでしょうに。アリサさんの個人情報を集めたのは自分だと」

上条(……この人は、アリサがどこから来たのかを知らない)

466 : 以下、名... - 2015/02/02 13:31:15.90 r988Yk1T0 966/1732

上条(アリサがどこで生まれたのか、どんな存在なのかとか、心を許しているにも関わらず、だ)

上条(何も馬鹿正直に言う必要なんてどこにもない……ん、だが、なんかこう、寂しい)

上条(家族同然――てか、笑って命を賭けてくれるような、家族以上の繋がりを持っている人なのに……)

柴崎「聞いてますかー?もしもーし?」

上条「ん、あぁごめんごめん。続けてくれ」

柴崎「で、あちら側の事は存じませんが――サンタさん、幾つぐらいまで信じてらっしゃいました?」

上条「憶えてないけど……多分早い段階だと思うな」

柴崎「自分もその口です。嫌な子供だったので、一つの疑問が頭について離れませんでした」

上条「あー、あれか。『どうやっ一晩で回るんだ?』みたいなの?」

柴崎「惜しい!……『どうやって子供達の願いを聞き分けるのか?』ですね」

上条「世界中に子供が何人居るんだっつー話だわな」

柴崎「実際にはデンマークの公式サンタさんへ、毎年数多くの子供達からお手紙が寄せられていますから、恐らくそちらを参考に――と、言葉を濁しておくとして」

柴崎「ですがアリサさんの『奇跡』は、一体何を基にして人々の要望を汲み取っているのでしょうか、と話は繋がります」

上条「……成程。普通、”誰かの思いのを叶える”んであれば、当然『それが何かを知る』のか大前提か……!」

柴崎「一応は能力者の端に居る者が言うのもアレなんですが、不思議パワーでパパッと処理しているのは間違いないですよね」

柴崎「その謎パワーの部分が『共感』なのではないかと思いまして」

上条「共感、ってーとあれか?誰それにシンパシー感じるー、みたいな?」

柴崎「そこまで大げさなものでも無く、何となく場の空気読んだりする人とか」

上条「……ある意味、アリサとは対極にあるんじゃないのか……?」

柴崎「……あのですねぇ、上条さん。っていうか上条さん?」

上条「二回言うなよ。そんなに大事でもないのに」

柴崎「戦わなきゃ、現実と!」

上条「なんで俺が現実見てない前提で話が進められてんだよ!?」

柴崎「いやいや、アリサさん空気読みますよね?それも過剰なぐらいに」

上条「そう、かな?俺はあんまり」

柴崎「ご自分が誘拐されそうになっていたのに、あれだけ怖い素振りも見せず振舞うのって、そう出来る事じゃありませんよ」

上条「あ、それは――」

467 : 以下、名... - 2015/02/02 13:32:19.57 r988Yk1T0 967/1732

柴崎「大の大人だって、その筋の人間であっても自身が敵意を以て狙われている、と分かれば萎縮して当然」

柴崎「まだ10代半ばなのに、ご立派なものです」

上条「でも、話を聞くに”それ”がアリサの能力じゃないのか、って言いたいんだろ?」

柴崎「あくまでも仮定ですがね。『狙われているにも関わらず、健気に頑張るアイドル!』的な、”周囲からの思いに共感している”んじゃないかと」

柴崎「……いや、自分で言ってて何か違う気がしますね。お耳汚しでした、今のは忘れて下さい」

上条「別に良いけど……違う、ってのは何が違うって思ったんだ?」

柴崎「大した事ではありませんが……まぁ、その、人間誰しもが他人と共感する能力は持っていますよね?」

上条「だな。空気読んだり、映画や小説に泣いたりするしな」

柴崎「他にも意見に納得したり、反発する事もありますが――でも大概、どれだけ共感したとしても、人格が左右される事は無いでしょう?」

柴崎「……まぁ、基本的には、とごく一部の例外を除いておくとしても」

上条「その例外が聞きたいとは思わないが……ま、そうだよな」

柴崎「従ってアリサさんが『能力』の一環として、共感力に優れているとしてもですよ?」

柴崎「まさかキャラ全体がまるっきりの別人へ切り替わってしまう――なんて事は、無いでしょうからね」

上条「……いや、それは」

上条(有り得る……話ではある。だってアリサは――)

柴崎「上条さん?どうしました?」

上条「……や、なんでもない。それよりアリサ、遅いよな」

柴崎「今頃リーダーから何吹き込まれるかと思うと、少し頭が痛い気もしますけど」

上条「シャットアウラに関しちゃ自業自得な部分は一切無い!……筈だ!」

柴崎「言い切れない所が素敵ですし、また実際にそうであるのも減点ですな。自分には関係ありませんが」

上条「てかむしろ恩人なのにどうして扱いが悪いんだろうか……?」

柴崎「あ、そうそうデートの帰りが遅くなるようでしたら、自分へ連絡して下さい。車で拾いに行きますから」

上条「過保護――と、までは言い切れないか。アイドルだもんな」

柴崎「……いや、そっちはあまり心配してないんですが、その上条さんを地の果てまでも追いかけかねない方に心当たりがありまして」

上条「肉親の情が深いのは結構だけどなっ!思い知らされる立場以外であれば!」

柴崎「なので『終電終っちゃったね……どうしよっか?』的にアリサさんが遠回しに誘って来た時以外は、ケースバイケースでお願いします」

上条「お前アリサ信用してなくね?なんだと思ってる?」

柴崎「――と、いらしたようです」

上条「……あぁうん、そうだね。ツッコんじゃいけないんだろうな……」

柴崎「自分がリーダーを食い止めてる間に、ささ、お早く!」

上条「たかだか遊びに行くだけでどんな苦労が!?」


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