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391 : 田中(ドワーフ) ◆7fp32j77iU - 2014/06/17 11:09:29.15 otn6E9cr0 255/1732

――フランス 某放送局

司会者『――はい、では続いてゲストのコーナー』

司会者『次世代を担うアーティストを紹介するってぇ主旨ですが!今日は何とはるばる学園都市からお客さんだよ!やったねチクショウっ!』

司会者『うっさいな!さっさとゲスト呼べってないでしょお!そんなにブーブー言うなよっ高木かっ!?……え、知らない?』

司会者『Great Old Five(ザ・ドリフターズ)の一人に、高木ブーという偉大なコメディアンが――』

司会者『死ねとか言うな!お前らに言われなくたって死ぬわ!長生きしてから死ぬわ!』

司会者『バツ一だけどねっ!一人娘も浮気しくさったクソアマに取られたけどなっ!それでも精一杯生きてるわ!』

司会者『つーかパパは頑張ってるからな!だから新しい野郎の事をそう呼んじゃダメだからねっ!』

司会者『――て、おいスタッフなんで止めやめよせ――』

392 : 以下、名... - 2014/06/17 11:10:54.24 otn6E9cr0 256/1732

……

アナウンス『暫くお待ち下さい』

……

393 : 以下、名... - 2014/06/17 11:12:35.55 otn6E9cr0 257/1732

司会者2『――はい、で、本日のゲストは学園都市からお越し頂いた――』

レッサー『ハーイどうも「Frog Eater(カエル食い野郎)」の皆さんはじめましてっ!そしてサヨウナラっ!』

レッサー『テロとの戦いに「ミーは怖いザンス」と逃げを打った、サレンダーモンキー(土下座するサル)の方々っ、生きてて楽しいですかー?』

レッサー『世界がテロと戦ってる時にお仕事しないで食べるご飯は美味しいですかねー?イタリア料理をパクったフランス料理、大人気ですしねー」

レッサー『それでもまぁ前サルコジ大統領は史上最悪の大統領で済んだんですけど、オランドみたいな俗物が国のトップって!』

レッサー『ねぇどんな気持ち?いまどんな気持ち?同性婚を国民投票せずに通して、EU議会選挙で保守政党に第一党を取られたのってどんな感じですかー?』

レッサー『こないだフランス国営放送――つーかここ見てたら、「オランド首相が世界の中心になる日がやってきました」ってジョークカマしてたんですけど』

レッサー『要は4時間以内に、エリザベート女王・ロシア大統領・アメリカ大統領と会談するっつーニュースでして』

レッサー『それどう見てもコウモリ野郎ですから!残念っ!』

レッサー『しかもサミットでアメリカとロシアへ良い顔するため、「二回昼食を取ったオランド」なんて書かれてんですけど、正気なんですか?』

レッサー『てーかBNPパリバ――あー、テニスのマスターズ主催社っつった方が良いですかね?まぁほぼ最高峰の大会運営してるフランスの銀行』

レッサー『パリバがイランやスーダンなどの制裁対象国相手に取引やってたらしく、100億ドル強(1兆1000億円強)の罰金払え、って言われてんですよ』

レッサー『オランド首相はそのケツを拭くために、クツを舐めに行ったってだけの話です、えぇ』

レッサー『加えてカエル食い野郎は強襲揚陸艦をロシア制裁決議ブッチして売ろうってぇハラなんですよね――この卑怯者』

レッサー『流石はフランスさん!現実を把握する能力が無く、チラ裏に書いた妄想を事実だと思い込む異能力!それに痺れる憧れる!』

レッサー『テロ支援国家を援助しているサレモンの皆さーん、頑張って下さいな。頑張ってフランスのGDPの5%超を差し出して下さいねー?』

レッサー『てかまた負けちゃうんですかね?フランスはまたまたまたっ負けちゃうんですかねぇ?』

レッサー『ガリア戦争で負けて、百年戦争でどうにか引き分けて、イタリア戦争で負けて、ユグノー戦争で負けて、三十年戦争で同盟国に潜り込んで、ネーデルラント継承戦争で引き分けて、オランダ侵略戦争で引き分けて、アウクスブルク同盟戦争で負けて、スペイン継承戦争で負けて、ナポレオン戦争で負けて、普仏戦争で負けて、第一次・二次世界大戦で同盟国に潜り込んで、第一次インドシナ戦争で負けてっ!』

レッサー『ファシスト野郎に首都が占領されて思いっきりナチスへ荷担していたのに、同盟国に取り戻されてからあっさり掌返した弱虫のみっなさーん!』

レッサー『戦後「あ、これじゃ流石にマズくね?」つってレジスタンスを持ち上げたのいいけど』

レッサー『実際には「軍人以外の戦争行為」かつ「戦闘地域以外でのテロ行為」であって、明らかな戦争犯罪でー』

レッサー『しかも一部のバカが「レジスタンスする俺超カッコいい!」と勘違いしちゃったせいで民間への圧力が強化されちゃったヒトー?』

レッサー『対テロ戦争で敵前逃亡したSurrenderMonkeysのみなさーんっ!生きてて楽しいですかーーーーーっ!?』

レッサー『あ、それはさておき「濁音協会」さんは潰しますんで、そこんとこヨロシク』

レッサー『あースッキリした。ってあなた達どなたさん――って離して下さい!私にはブリテンの未来を担う旦那様以外に触らせるつもり――』

レッサー『てか酷いコトするつもりでしょーが!エロ同人みたいに!……あ、嘘嘘、ジョーダンですってば、はい』

レッサー『いやですから頭を鷲掴みにはやめて下さぁwせdrftgyふじこlp』

394 : 以下、名... - 2014/06/17 11:14:44.68 otn6E9cr0 258/1732

……

アナウンス『暫くお待ち下さい』

アナウンス『……尚、以上の事をフランス人へ言うとマジギレされます』

……

395 : 以下、名... - 2014/06/17 11:16:30.44 otn6E9cr0 259/1732

司会者2『――はい、そんなこんなでARISAさんです。こんにちわーっ!』

鳴護『……え、はい、どうも、こんにちは』

司会者2『今のは、そのどちら様で……?』

鳴護『知らない人です!「生放送なんで連中に宣戦布告かましてやりましょーよ!」とか言ってましたし!』

マネージャー『てか95%フランスの悪口じゃねぇか』

鳴護『これ生放送だよね?色々とマズいんじゃ……?』

司会者2『さっきから抗議と絶賛する電話が鳴りっぱなしだと受付からクレームが来ています』

司会者2『でも一番多いのは「さっさとARISA出せ」だったんで、まぁ出しとけ、みたいな』

鳴護『えっと……恐縮、です?大丈夫かな?翻訳されてる?』

司会者2『学園都市の翻訳アプリ、きちんと動いてるみたいなので問題は無いですよ』

司会者2『と言うかそちらは?さっき同じく意味も無く乱入した一般の方、ではないですね』

マネージャー『かみ――マネージャーです!ARISAの専属の!』

司会者2『ずいぶんとお若いですねー、東洋人はまぁこんなもんでしょうが』

司会者2『さて!では何から――あぁ、台本これ?いいの?』

司会者2『まず「エンデュミオンの奇蹟」で有名なARISAさんですが、つい先日ユーロトンネル崩落事故でも見た、という噂があります』

司会者2『パニックになって、列車から飛び降りようとした人達を助けるために、車内放送で歌ったとか』

司会者2『その辺りの真偽の程はどうなんでしょうね?』

鳴護『あ、はい。私もユーロスターへ乗り合わせていた所までは事実です』

鳴護『ただ、それ以外はフィクションかなーと』

司会者2『やってらっしゃらない?』

鳴護『……その、私も正直憶えていない、と言いますか。落ち着こうとするので精一杯でしたので、あまり……』

鳴護『誰かを落ち着けるために歌を歌う、のは理解はしますけど……でもそれはスタッフの方が判断すべき事で、第三者が割って入るのは良くないと思います』

司会者2『でもですよ?実際にARISAさんなら「また歌が奇蹟を呼んだ!」みたいな感じで――』

マネージャー『すいません。その質問はそれぐらいで』

マネージャー『今も怪我で入院されている方も居ますし、あまり不謹慎なのは』

司会者2『ですかねぇ?そも現代であれば動画か写メの一つでも残ってそうなもんですしね』

司会者2『無い、って事はそんな事実存在しなかったんでしょうか。失礼しました』

マネージャー『(良い仕事してんな「黒鴉部隊」!)』

鳴護『(お姉ちゃん、その……いつも、やってるから)』

鳴護『(カメコさん?とかのアップロードする動画を削除したりとか)』

マネージャー『(予想を裏切らない過保護っぷりですよねっ!あと削除したり”とか”の内容が気になるが!)』

司会者2『では続いて――視聴者から質問が届いています。えぇと――』

396 : 以下、名... - 2014/06/17 11:18:18.22 otn6E9cr0 260/1732

司会者2『「――ARISAさん、こんにちはっ!いつもアルバム買ってます!」』

鳴護『こんにちはー、ありがとー』

司会者2『「あたしはARISAさんと同じ夢を持っています。その夢に向かって努力を続けているのですが、どのようにすればいいでしょうか?」』

司会者2『――あー、この方もARISAみたいになりたいようですねー』

鳴護『ありがとうございます』

司会者2『まぁジュニアハイスクールからシンガーデビューして、一年経たずにEUツアーですからね』

司会者2『それはもう大成功している、って訳なんですが』

鳴護『そんな事ありませんよ。私なんてまだまだ、っというか全然でっ』

鳴護『むしろどっちかって言えば、その、ダメダメな方ですからっ!』

司会者2『そう、でしょうかね……?』

マネージャー(……あれ?何か話が噛み合ってなくね?)

マネージャー(『ARISAみたいな歌手になりたい!』って話なんだよ、な?)

司会者2『まぁいいや、とにかく、ARISAさんと同じ夢に向かってる、P.N「友達はボール!」さんへアドバイスをお願いします!』

マネージャー(友達少なっ!?)

鳴護『そうですねぇ、まず大切なのは――笑顔、だと思います!スマイル!』

司会者2『笑顔、ですか?』

鳴護『誰だって、どんな人だって、キツくて、辛くて、嫌になっちゃって』

鳴護『怖くて怖くて仕方が無い時、逃げちゃいたいなって事ありますよね?』

鳴護『そんな時にはですねっ、こう優しくお姫様だっこなんかして貰って』

鳴護『「間一髪か」みたいに、笑いかけられたら、うんっ!』

司会者2『え、あ、はい?』

鳴護『他にも相手を信じる事!それだけで、もう充分ですからっ!』

司会者2『相手……?』

マネージャー(やっぱ、何か食い違ってるような……?)

397 : 以下、名... - 2014/06/17 11:20:32.67 otn6E9cr0 261/1732

司会者2『えぇっと、ARISAさん?それじゃ、具体的に何か言ってあげて下さい』

鳴護『取り敢えず、はい、頑張って機会を作る事だと思います!遠くからじゃなくって、直接逢う!これ、大事です!』

鳴護『後はちょっとした事でもきちんとお話ししたり、他にもですね――』

鳴護『なんか、少し触ってみる、みたいなの?白井さん――友達が言ってたんですけど、タッチを増やしてみる、とかって』

マネージャー(え?何で白井の名前が出てくんの?)

鳴護『――とにかく!ライバルが居てもメゲないで!頑張りましょう!ねっ?』

司会者2『……あの、すいません?一体何のお話をしてるんでしょうか?』

鳴護『はい?叶えたい夢の話ですよね?』

司会者2『念のために聞きますけど――ARISAさんの、夢というのは?』

鳴護『お嫁さんですけど?』

マネージャー『空気読めよっ!?っていうか空気読みなさいよっ!』

マネージャー『普通分かるじゃんか!?何でこの「友達はボール!」さんがアリサに結婚相談持ちかけんだよ!?』

マネージャー『つーか音楽番組に呼ばれて婚活聞かれる筈がねぇさっ!なあぁっ!?』

マネージャー『そもそも話の内容が俺の話であって恋愛じゃねぇだろ!』

鳴護『……当麻君も、もう少し空気読んでもいいんじゃないかな、と思いました!マル!』

マネージャー『俺関係ねーじゃんか!?……ないよね?悪い事してないもんね?』

司会者2『……チッ』

スタッフ『……チッ』

観客『……チッ』

マネージャー『何かスタッフと観客さんがおもっくそ舌打ち始めたんだけど、これ俺が原因じゃないよね?』

マネージャー『贔屓のチームが浦和スタジアムで試合する時の雰囲気になってんだが、俺には責任ないよな?』

鳴護『……むしろ取って欲しい、っていうか?』

マネージャー『……はい?』

司会者2『――はい!と言う事でリア充は死ねば良いと思いますが!そろそろお時間です!』

司会者2『ではARISAさん、一言頂いてから歌へ行きましょうか!はいどーぞ!』

鳴護『え、あ、はいっ。そうですねー、んー?』

鳴護『鈍感な相手でも、追い詰めれば大丈夫!きっと何とかなるって!』

マネージャー『宣伝しよう?それ歌番の曲の前振りで使う言葉じゃないよね?』

鳴護『歌はARISA、曲は「笑顔の向こうへ」。英語verで、どぞっ」

マネージャー『ねぇ俺の話聞いてる?つーか柴崎さんこんな無理ゲーいつもやって――』

398 : 以下、名... - 2014/06/17 11:21:48.08 otn6E9cr0 262/1732

○To the other side of the smile(笑顔の向こうへ)

A gentle voice affects, and my mind is shaken.
(優しい声が響き、私の心を揺らす)
It is scary and more than others slow to be damaged by good at vomiting of the lie nevertheless.
(嘘を吐くのが得意で、だけど傷つくのが怖くそのくせ人一倍鈍い。)
There is no other way any longer.
(もうしょうがないよね?)
I want ..seeing with a smile.. to end it sadly. Because I am on the side.
(悲しい微笑み、終わらせたいよ。私が側にいるから。)
A vague smile unexpectedly strikes it ..me...
(曖昧な笑みは私を不意に殴りつける。)
You in the other side of the smile that it wants you to teach
(教えて欲しい、その笑顔の向こうにある君)

It grieves in a sad voice, and my mind is tightened.
(悲しい声で嘆き、私の心を締め付ける。)
The distances are long and slower well in the good laughter than anyone nevertheless.
(上手く笑うのが得意で、だけど距離は遠くそのくせ誰よりも鈍い。)
There is no other way any longer.
(もうしょうがないよね?)
I want ..seeing with a smile.. to start gently.
(優しい微笑み、始まりたいよ。)
A straight glance that I am on the side makes me puzzled.
(私が側にいてあげるまっすぐな視線は私を戸惑わせる。)
I want you to tell it. You in the other side of the smile …….
(伝えて欲しい。その笑顔の向こうにある君……。)

399 : 以下、名... - 2014/06/17 11:23:59.68 otn6E9cr0 263/1732

――回想 ブリュッセル南駅(ベルギー) 『N∴L∴』vs『S.L.N.』

上条「……なに?」

アル「いやいや難聴のフリは止めよーぜ?」

アル「現実を把握出来ないってんなら、そのまま何も知らないままで死んじまいな。そうした方が幸せだぜ」

上条「敵、なんだよな……?」

アル「だからそう言ってんじゃねぇか」

上条「『濁音協会』じゃ――!」

ウェイトリィ弟「……何?兄さん、説明してなかったの?」

ウェイトリィ弟「つーかだったらなんで一人で接触してたの?どこで遊んでたの?」

アル「何かアレじゃん、よくあるパターンの『こいつ絶対敵だろ!』みたいな正体不明の登場人物ゴッコやってました!」

ウェイトリィ弟「取り敢えず殴っていい?」

レッサー「『双頭鮫』――確か、シチリア系マフィアの魔術結社だったと記憶していますが」

レッサー「そちらさんが出てくるってぇのは、一体どういう訳でしょーかね」

フロリス「クトゥルー教団はハッタリ、つーか誤魔化しでそっちが本体だってオチ?安易だねー」

アル「……んー?何か誤解されてるみてーだから、最初に名乗って方が良いかな」

ウェイトリィ弟「あ、そちらのは結構ですよ。『ハロウィン』で盛大に騒いだようですし、お噂はかねがね」

レッサー「いやぁそれほどでも」

ランシス「多分誉めてない……」

フロリス「あとレッサーは速攻で捕まりそうになったのを反省した方がいーよ」

ウェイトリィ弟「いやいや。『必要悪の教会』を出し抜いたんだから、大したもんですよ」

アル「――で、俺が『双頭鮫(ダブルヘッドシャーク)』のアルフレド、こっちが最愛の弟で愛人のクリストフ」

クリストフ(ウェイトリィ弟)「兄さん止めよう?いい加減ホモネタは自粛しないと」

クリストフ「あと別に『愛』ってつけば、なんでかんでもポジティブな単語にならないからね?日本語難しいけどさ」

レッサー「二番目の形容詞をもっと詳しく!」

上条「お前も超反応するなよ」

クリストフ「まず『壁ドン!』から――」

上条「よく分かんねぇけどそれ以上は言うなっ!よく分かんないけどもだ!」

上条(――みたいな、ふざけた会話しながらも隙が無い)

上条(俺はアリサを背後に庇い、レッサー達はジリジリと間合いを詰めている)

400 : 以下、名... - 2014/06/17 11:26:26.56 otn6E9cr0 264/1732

アル「こっちのちっこいの、男だか女だかわかんねーナマモノは『野獣庭園(サランドラ)』の阿阪安曇(あさかあずみ)」

安曇(少年?)「逆。安曇は『安曇阿阪(あずみあさか)』と言う。見知りおくと嬉しい」

上条(色素の薄い少年――は、身じろぎも愛想笑いもしない。一見陽気なウェイトリィ兄弟とは対照的か)

上条(赤く澄んだ瞳を見てると、底の知れない深淵を覗いているような……確か、『深淵を覗くものは、深淵からも覗かれる』んだっけか)

アル「面倒臭い名前着けてんじゃねーよ。外人か!」

安曇「名前を付けたモノへ言って欲しいな、外つ国の魔術師」

クリストフ「……バカは放って最後にこちらが『団長』さんです。本名は知りません」

団長「……」

上条(四人目は更に異質だった)

上条(この季節にトレンチコーチを着て、中折れ帽を目深に被る長身の人間)

上条(それだけでも不審者まっしぐらなのに、彼を危険だと思わせているのは――)

上条(頭全体をすっぽりと覆う『鉄仮面』)

クリストフ「『殺し屋人形団(チャイルズ・プレイ)』のボス、というか団長をやってらっしゃいます。無口ですけどね、兄さんにも見習って欲しいぐらいで」

上条「……待てよ、お前ら!」

アル「だが断る!」

クリストフ「兄さんはちょっと黙っててくれないかな?反射的にボケる癖止めよう?」

上条「ステイルから聞いてたんだよ、俺は!今頻繁に動いてる魔術結社の話を!」

上条「『野獣庭園』も『殺し屋人形団』も!『双頭鮫』だって聞いてた!」

上条(『どうせこの中に一つ”アタリ”がある』みたいなオチだと思ってたのに――)

上条「それが『全部敵だった』って事かよ!?」

クリストフ「やっぱり僕たちの敵はイギリスさんですかねぇ」

アル「だーねぇ。その理解で合ってると思うぜ」

レッサー「自分達の組織の身元バレるのが怖くて偽装してました、でファイナルアンサー?」

アル「いやいや、そっちが勘違いしてたんだろ。つーか俺ら全員揃って出て来たんだから、隠すも何もねぇよ」

アル「――俺達が『濁音協会』だ」

401 : 以下、名... - 2014/06/17 11:27:51.02 otn6E9cr0 265/1732

ベイロープ「幹部、幹部ねぇ?『目撃者は全員ぶっ殺す』、みたいな剣呑さを感じるのよ」

安曇「話し合いによる交渉が決裂すれば、武力での交渉を始めよう」

安曇「安曇は争いを好まない。が、必要であれば否やはないぞ、うん」

アル「待て待てカミやんの疑問に答えてねーだろ。まずはそっちから片付けようや」

アル「こっちも誠意を示してるって理解してくれよ、なっ?」

フロリス「オンナノコ一人捕まえるのに、大のオッサンどもが一般人巻き込むのが誠意ねー?」

ランシス「『誠意』って言葉も軽くなった、よね?』」

アル「だよなぁ?笑っちまうよな?」

クリストフ「兄さん僕たちがdisられてるって気づいてあげて?ほら、ボケでスルーされると嫌味言った方が気まずくなるんだから」

クリストフ「言えた義理じゃないでしょうけど、一応こっちも幹部全員揃えて顔合わせ、みたいな感じですし」

クリストフ「今でも問答無用で襲撃しない辺り、話し合いの余地は残してる――と思って頂けだらな、と」

ベイロープ「……だから!仮にそっちの四人が結社のボスだったとしての話」

ベイロープ「それ要は『最大戦力が一堂に介している』のよね。警戒して当然でしょうが」

クリストフ「そうですが、まぁ?こちらは『味方以外は全て敵』状態、イギリスさんもフランスさんも敵な訳ですし、はい」

クリストフ「ぶっちゃけ事故直後のホームなんて、囲まれてボコられる可能性もですね、えぇ」

上条「それは!お前らがユーロスターに攻撃を仕掛けたからだろうが!?」

上条「大勢巻き込んで!敵を作らない訳がない!」

アル「くっくどぅーどるどぅー?」

クリストフ「直訳すると、『今日はよいお天気になりそうですよね?』だ、そうです」

上条「……こいつら……!」

レッサー「(落ち着いて上条さん!『これ』がクトゥルーなんですよ)」

レッサー「(一見マトモそうでマトモじゃない、異常そうで中身はもっと狂ってる。それが彼らです!)」

402 : 以下、名... - 2014/06/17 11:30:10.54 otn6E9cr0 266/1732

上条「(じゃあどうしろって言うんだ?)」

レッサー「(様子見と時間稼ぎですかね。向こうさんの言う通り、こっちはホームであっちはアウェイ)」

レッサー「(フランス当局が囲むのを待つのがベターでしょうな)」

上条「(ベストは?)」

レッサー「(駅のホームなのにアウェイとはこれ如何に?)」

上条「(取り敢えず思い付いたままボケるのは止めよう?俺の知り合いの可愛いけど残念な子にも言いたいけどさ)」

ランシス「(実家へ戻ったら、ご近所の誰それが、親戚の誰々が続々と結婚した話を聞かされ)」

ランシス「(『ホームへ帰ってきたのにアウェイだった!』……如し!)」

上条「(お前も無表情のまま乗っかってくんな!?てかなんだよその身につまされるような嫌な話は!)」

レッサー「(私らが今ここでぶっ潰すのが、一番後腐れは無いでしょうねぇ)」

上条「(やれんのか)」

ベイロープ「(――勝てねぇ喧嘩しかしねぇのかよ、マイ・ロード?)」

上条「(ベイロープ……)」

レッサー「(あ、あれ?いつの間に上条さん呼び捨てになってるんですか?)」

ベイロープ「(勝ち負けじゃなくて、必要だから、する)」

ベイロープ「(一度立てて誓いを破るな!それはあなたが救ってきた人を裏切る事にもなるのだわ)」

上条「(……悪い)」

ベイロープ「(弱いのは罪じゃない。弱さにつけ込むのが、罪よ)」

ベイロープ「(あなたが暴虐に腕を振り上げるなら、私はその手に握られた剣になる)」

ベイロープ「(怖れるな!あなたがどこの戦場でノタレ死んでも、私がその側で死んでやるから!)」

上条「(……あぁ!)」

レッサー「(あのぅ、すいませーん?ちょ、ちょっといいですかねぇ?)」

レッサー「(ベイロープがヅカっぽい呼び方をしてるとか、妙になーんか通じ合っちゃってるみたいなんですけど!)」

レッサー「(そこら辺の事情ですね、レッサーさんにちょぉぉぉっと話して見やがれ、みたいな)」

ベイロープ「(――レッサー)」

レッサー「(は、はい?)」

ベイロープ「(ごめん)」

レッサー「ごめんってなんですか!?ごめんって!?」

403 : 以下、名... - 2014/06/17 11:32:24.71 otn6E9cr0 267/1732

レッサー「いやそりゃ『ゴメンナサイ』の略だって事ぁ知ってますがね!そういう事じゃなくて!」

レッサー「なんで今!今今今っ!謝罪の言葉が出て来たかってぇ話ですよえぇもうっ!」

レッサー「密室!閉ざされた空間!若い男女!絡み合う視線!乱れた衣服!Dカップ!」

レッサー「このキーワードが表わしているものとは――ッ!!!」

フロリス「レッサー、声大きいよ」

ランシス「……あと後半は、ほぼ捏造」

安曇「交尾だな、うん」

アル「この安曇さん意外とノリノリである」

団長「……」

クリストフ「すいませんすいませんっ!真面目にやりますからっ帰ろうとしないで!」

クリストフ「ほら上条さん、今のウチに質問をどうぞ!団長さんがマジギレして見境無く暴れ出す前に!」

上条「……頭イタイな、別の意味で」

フロリス「フリークス程タチが悪いんだよねー、何をするか分からないから」

上条「魔術師なのに?」

フロリス「知識があんのと知能があんのは別問題じゃんか。何言ってんの?」

レッサー「ベネッ!その態度ディ・モールト宜しいですよっ!」

レッサー「フロリスはデレのないツンの姿勢のままでお願いします!」

ランシス「それ、ただの態度悪い人」

404 : 以下、名... - 2014/06/17 11:34:41.98 otn6E9cr0 268/1732

鳴護「――どうして」

上条「アリサ?」

鳴護「どうして私なんですかっ!?」

鳴護「私なんて、ただの無能力者なのに――なんで!」

アル「うーむ。まぁ核心的な質問、つーか疑問だよなぁ、そりゃ」

アル「てか予告状送ったじゃん?読んでねぇの?折角書いたのにさ」

上条「……あの電波10割のポエムをどう理解すりゃよかったって?」

鳴護「関係ない人達を一杯傷つけて――そこまで私に拘って!」

鳴護「そうまでしてやりたい事って、一体何なんですかっ!?」

アル「――『シィ』の帰還だ」

上条(『シィ』……?もしかして『C』か?)

上条(クトゥルーの、『C』)

アル「ルルイエで死して夢見る『シィ』、どうせだったら起こしてみようじゃん?的な」

鳴護「……えと」

レッサー「すいまっせーん、あの質問なんですけど良いですかね?」

アル「どうぞ」

レッサー「どうもです。あ、もしかしたらキツい聞き方になるかもですけど、他意はありませんから、あんま気を悪くしないでくださいな」

レッサー「つーか多分私ら一同を代表しての疑問なんですけど――」

レッサー「――頭おかしいですよね、あなた達?」

アル「実は俺らもそうなんじゃないかと薄々思ってたりもする」

ランシス「薄々なんだ……?」

上条「自慢するような事じゃねぇ!」

フロリス「クトゥルーなんて居るかどうかも怪しいイカを、何でまた?ムシャクシャしたー、みたいな?」

ベイロープ「第一、『帰還』を果たしたとして人間全員発狂エンドなんでしょーが」

アル「問題じゃない。存在するかしないか、『帰還』した後にどうなるのも、関係ない」

アル「だって俺達は答えを持ってない。証明する証拠を出すのも無理だし、帰還した例が無いんだから、どうなるかまでは保障出来ない」

アル「――ま、『今までの世界』なんてのが吹っ飛ぶのは確実だろーがな」

レッサー「『やった事がないから試してみよう!』ですか?まぁたタチの悪いどこぞの学園都市並の発想ですなー」

ベイロープ「また魔術師らしい自己中が……」

上条「魔術師連中こんなんばっかかよ!」

405 : 以下、名... - 2014/06/17 11:37:22.85 otn6E9cr0 269/1732

クリストフ「言わせて貰えるんでしたら、『グレムリン』のやろうとしている世界も大差ないでしょうに」

クリストフ「あっちは新世界の構築へ対し、僕らは『シィの顕現』」

安曇「むしろ安曇はこちらの方が穏当だ、と考えているな」

フロリス「だからクトゥルーがアルハザードが幻視た通りであれば、全員狂うんだってば」

アル「……でも、まぁ俺達は狂っちゃいるが、分別を持ってない訳でもないんだわ」

アル「だからこうして『お願い』へ来たんだよ」

上条「信用出来ねぇ――第一!」

上条「『ショゴス』みたいなバケモンけしかけといて、何が『お願い』だよ!脅迫の間違いじゃねーか!」

クリストフ「ですから、そこはですね?ウチの愚兄がチョロチョロしてましたよね、あなた方の周りを」

クリストフ「でもって実際に上条さんと学園都市の能力者、そして僕たちにとって最も脅威だった『多脚戦車』が分断できて、隙だらけでした」

クリストフ「手薄になった時点で鳴護さんを奪う事はしなかった、そこを考えて頂ければ」

アル「あ、ごめん。それ最初の計画じゃそうだったんだけど、『N∴L∴』の居残り組にガードされてて無理だったんだわ」

クリストフ「兄さんその説明要るかな?せっかくブラフかましてるんだから、少しぐらいは話し合わせてくれたっていいじゃない?」

フロリス「そらそーでしょ。あんだけ怪しいシチュでARISAの側離れたら、ベイロープに百叩きされるよ」

ランシス「……って、言ったのは私。フロリスは飛ぶ気満々……」

フロリス「ヤだなぁ、そんなことなっいてば」

安曇「と、いうよりもだ。アルフレドが『アレ』を制御出来なくなって逃がしたのが、今回の発端だと安曇は聞いている」

クリストフ「……あの、すいません。安曇さんも?ちったぁ黙ってろ、な?」

レッサー「予想以上にグダグダですねぇ」

アル「――と、言う訳で俺達の誠意は伝わったと思うが!」

上条「伝わってないよ。映画のキャッチコピーの『等身大の○○』ぐらい伝わってこないな!」

アル「てな感じで鳴護アリサ、渡してくんねぇかな?『穏便』に――」

上条「断る」

アル「――頼んでるウチに、って台詞完全に喰われちまったんだが、まぁいいや」

上条「お前らみたいな人の道踏み外した連中に、アリサ――いや、アリサじゃなくてもだ!」

上条「真っ当に生きてる人間を、はいそーですかって渡せる訳がねぇだろ!」

クリストフ「ですよねぇ?ほら、兄さん言ったじゃない。最初はもっと穏便に行こうって」

安曇「無理だろう。『神漏美』となれと言っても、うん」

上条「かみろみ……?」

クリストフ「まぁ仕方がない――でしたら、EUのあちこちで『アレ』が活動しますけど、それでも構いませんね?」

上条「……テメェら、バカにしてんのかよ!?」

アル「うんまぁぶっちゃけしてるけど」

クリストフ「兄さん、ぶっちゃけすぎ」

鳴護「あたしが犠牲になるんだったら――」

レッサー「――とか、は考えない方がいいですよ、鳴護さん」

鳴護「え」

406 : 以下、名... - 2014/06/17 11:39:10.16 otn6E9cr0 270/1732

レッサー「もしも、『それ』が出来るのであれば最初からしています。テロを起こしておいて、その後堂々と身柄を寄越せと言ってきたでしょう」

ベイロープ「そもそも、あそこで出し惜しみする必要はなかった筈よ。計画が杜撰すぎる」

クリストフ「どうでしょうねぇ、それは。たまたま制御不能だっただけで、本当は似たような『アレ』を何体も有している可能性は?」

クリストフ「指向性を持たせた襲撃には適さない。が、無差別攻撃であれば出来る――なんてのはどうですか?」

アル「うんまぁぶっちゃけハッタリなんだけどな、全部」

アル「そもそも『アレ』が量産出来たり、遣い勝手がいいんだったら、もっと別の所でテロやってんよ」

クリストフ「兄さん?後でお話があるからね?ご飯食べても寝ちゃ駄目だからね?」

アル「……よせよ、周りが見てるじゃねぇか」

クリストフ「やめてくんない?その『実は兄弟でイケナイ関係なんです』みたいなリアクション止めてくれないかな?」

クリストフ「ってかいい加減にしないとぶっ飛ばすよ?」

レッサー「出来れば動画を所望します!!!」

アル「ダメダメ。俺は独占したいタチなんでね――っていうかまぁ、ネコなんだけど」

レッサー「――で、まぁまぁどうします?こっちとそっちの利害は対立している、ですが」

アル「なんだかんだ言ったところで。解決方法は簡単だし。しかもそっちは一致してんだわな」

レッサー「でっすよねぇ?お互いにしたい事は同じ、って言いますか。まぁまぁ?」

レッサーアル「「あっはっはっはっーーーーーーっ――」」

レッサーアル「「――ここで、潰す――ッ!!!」」

407 : 以下、名... - 2014/06/17 11:42:42.03 otn6E9cr0 271/1732

――回想 ブリュッセル南駅(ベルギー)

アル「俺の壁になれ!盾一号二号三号!」

団長「――」

安曇「安曇はきゃら的に四号が好きだ、うん」

クリストフ「真面目にっ!皆さんどうか真面目にお願いしますよ!特に兄さん!」

上条(アルフレドは魔術詠唱――だが、その前に潰す!)

上条(キレてたのはレッサー――だけじゃない!)

上条(とっくの昔に会話を諦めた俺はずっと突っ込むのを抑えてた、っつーか!)

上条(『取り敢えず』で人殺すような相手、一回はぶん殴らないと気が済まない……ッ!)

上条(レッサー達よりも先んじて、俺がアルフレドへ殴りかかる!――しかし!)

団長「――」

上条(鈍重そうな図体には似合わない素早さ、どっかの学園都市の機械兵士さながらのスピードで『団長』が踏み込んでくる!)

上条「まずはっ、お前からだっ!」

上条(体格からすれば建宮やアックアよりもデカい!どう見ても直接戦闘向けの魔術師――て、色々矛盾してるような気がするけど!)

上条(だがデカいだけあってモーション自体は大きい!動作自体はまだ何とか見切れる――かっ!)

団長 ヒュゥッ!

上条(振りかぶった拳を紙一重で避け――)

ズゥン……ッ!!!

上条「んなっ!?」

上条(コンクリが軽く陥没程度の威力!?アックアのメイス並の威力じゃねぇか!)

上条(素手で受けたら即戦闘不能!あんだけの馬鹿力で捕まれてもアウト!)

上条(……ま、でも?慣れっこなんですけどねー、こっちは)

408 : 以下、名... - 2014/06/17 11:44:59.40 otn6E9cr0 272/1732

上条(こういう威力重視の直接戦闘タイプは大抵過信する事が多い!)

上条(高い攻撃力と防御力!どっちも魔術で物理法則無視してんだろうが――)

上条(――『右手』なら!)

上条「がら空きだっつーの!」

団長「――!」

上条(俺はそのまま団長の背中側から一撃を――!)

上条(入れよう、として『目』が合った)

安曇「――やあ、安曇は同情を禁じ得ない」

上条「背中に――張り付いて!?」

安曇「『綿津見ニオワス大神ヘ奉ル(しょくじのじかんだな)』」

安曇「『同胞ノ血ヲ以テ盟約ト成セ、我ラガ安曇ノ業ヲ顕現セン(では、いただきます)』」

上条(かぱ、と安曇の口が開く。背丈相応の小さな口が開く、開く、開く)

上条(――顎が外れ口は倍に広がり、中にはワニのような牙がビッシリ生えそろっ――)

ギャリギャリギャリキ゚ャリッ!

フロリス「――ぼーっとしてんなジャパニーズ!精神にクる攻撃すんのは『アレ』で体験済みでしょうが!」

上条(文字通り『呑まれ』そうになった俺を、フロリスの『槍』が安曇を一閃!軽い体は弾き飛ばされる!)

上条「すまん!恩に着る!」

フロリス「それよりっ前前っ!?」

409 : 以下、名... - 2014/06/17 11:46:48.92 otn6E9cr0 273/1732

団長「――!」

上条「クソっ!」

上条(立った今割ったばかりのコンクリートの塊を!優に1mを越えるソレを!)

上条(団長は素手で投げつけ――)

上条(『これ』は魔術じゃない!だから防げ――)

ランシス「ほいよっと」

上条(俺を後ろから抱きしめるような形で、ランシスの両手が、にゅっと石塊へ伸びる!)

上条(その十指の一本一本には、禍々しい色をした『爪』の霊装が填められていた!)

ジッ、ザザザザザザザザッイィンッ!

ランシス「……ま、こんなもの、かな?」

上条「……助かった」

上条(飛礫へ『爪』が触れた途端、さわった側から石片は砂へと姿を変える)

上条(初めて見る霊装、だよな?)

団長「――!」

フロリス「だから、前っ!」

上条「分かってるっつーの!」

上条(何とか距離を取りたい俺と離れたくない団長。多分ベイロープの『知の角杯』対策だろう)

上条(敵味方が密集している所へ範囲攻撃は撃ち込めない!)

上条(が、最悪、俺は『右手』で打ち消せば――あ、でも『持続的に続く力』とは相性悪いか――?)

上条(と、背中を見せて退くべきか迷っている所に)

レッサー「うっえっかっら、ドーーーーーーーーンッ!!!」

ズゥゥゥンッ!!!

団長「……!?」

上条(団長の砕いた石片の大きさはまちまち。小さなもので数十センチ、大きなものではメートル越え)

上条(その、大きめの破片をレッサーは『槍』で掴んだ上、死角へコソコソ回り込み)

上条(こう、後頭部へ、がーんって、うん)

上条「正義側の攻撃じゃねぇな……」

レッサー「どうでっすかっ上条さーん!私達の愛のコンビネーションを!」

上条「いや君、背後からぶん殴っただけだよね?」

フロリス「仲間を囮にしてなー。愛されてるネェ?」

上条「こんな愛はいやだっ!?切に!」

410 : 以下、名... - 2014/06/17 11:48:29.17 otn6E9cr0 274/1732


安曇「あぁ痛い。安曇は痛いのは好きではないのだけれども」

団長「……」

上条「……だよなぁ、まさか魔術結社のボスかこんだけでくたばる訳がねぇよな」

上条(両者は何事もなかったように――団長は首が曲がってるが――立ち上がる)

安曇「安曇は少しやる気を出そうと思う。勝負に負けるのは嬉しくない」

上条「――あぁいや、勝負は付いてると思うぜ?」

上条「てかもう終りだよ、お前らは」

安曇「うむ?」

上条「ベイロープ!」

ベイロープ「『さぁ吹き鳴らせギャッラルホルン!その音は雷鳴と化して蛇の中庭に響きわたらん――』」

ベイロープ「『――神々の黄昏が来た!(ラグナロク、ナウ!)』」

――イイイイイイイイイィィン――!!!

上条(ルーンを伴った雷光が!邪悪を打ち払う雷が!)

上条(ずっと後ろで術式の準備をしていたベイロープから放たれる!)

上条「……」

上条(だが、しかし、それは)

411 : 以下、名... - 2014/06/17 11:50:15.82 otn6E9cr0 275/1732

上条(向こうも同じ条件だって、俺は気づいた!気づいてしまった!)

アル「『Gate of open hollow through chaos. (混沌を媒介に開け虚空の門)』」

アル「『The intellect of the original first word of known the barrel strange appearance. (原初の言葉を知りたる異形の知性)』」

アル「『1 by one ..all.. and the person who becomes it. (全にして一、一にして全なる者)』」

アル「『Give birth to thick shadows and utter one's first cry!(漆黒の闇に生まれ落ちて産声を上げろ!)』」

アル「『――Shout. BattleRam!(叫べ、破壊槌!)』」

ウジュルズズズズズズスッ!!!

上条(俺は見た)

上条(アルフレドの翳した掌から、肉色の蔦が伸びた瞬間を!)

上条(まるで動物の臓物の如く絡み合い、うねり、蠢動する肉の蔦!)

上条(名状しがたい触手が雷光に囚われ――そして、両者は共に消え去る)

上条「……相打ち、なのか……?」

アル「だーねぇ。こう見ても殺し技だから、結構自信あったんだけど、まぁまぁ?」

アル「けど、まぁ?そっちは『もう限界みたい』だし、もう撃てないよな?」

ベイロープ「……くっ!」

アル「……なんかなぁ、あんまり格好つかねぇよなぁ。『前の戦闘で息切れしてたんで』みたいなーオチ?」

アル「出来ればどっかで再戦したいトコなんだろうけど、こっちも遊びじゃねぇんだよ、これが」

レッサー「……ですかねぇ?試してみたらどうです、お付き合いしますから」

上条(そうか……!こっちは『ホーム』なんだから、時間を稼げば――)

クリストフ「『時間稼ぎ』も良いんですが、でもやっぱり有利になるのは僕らの方ですよ?」

上条「な」

フロリス「……どーゆーイミ?」

安曇「安曇達は魔術結社の長だと言った。なら」

安曇「その『構成員』はどこに居る?」

412 : 以下、名... - 2014/06/17 11:51:40.73 otn6E9cr0 276/1732

ベイロープ「どこって、そりゃ」

アル「足止めしてんだよ、俺らに邪魔が入んねぇようにな」

アル「考えてみろ。命からがらトンネルから逃げ出したっつーのに、他の乗客はなんで降りて来ねぇ?」

クリストフ「物量じゃ分が悪いですがね」

アル「んで、カミやんプラス『明け色』さんよぉ、一応聞いとくけど――」

レッサー「やってらんねーですな、こりゃまた」

フロリス「だっよねぇ、随分ワリに合わないって感じだし」

ランシス「かーらーのー?」

ベイロープ「『戦士』は逃げないのだわ」

上条「……はは。イギリスの女性”も”強ぇな」

鳴護「……当麻君、みなさん」

レッサー「ここまで言わせてんですから、『私が犠牲に!』みたいな事ぁ言いっこ無しですよ、鳴護アリサさん?」

レッサー「つってもま、私らはそれぞれ自分達の利益を確保するため、たまたまそうしているだけですからね、えぇ」

鳴護「……ごめ――」

レッサー「その言葉も嫌いじゃないですが。でも、どうせだったら別の言葉の方が嬉しいでしょうか」

鳴護「ありが、とう……?」

レッサー「お礼はブリテンの国益に適う事一つでお願いしますよ」

鳴護「えと」

レッサー「もっかいウチでコンサート開けっつってんだよ言わせんな恥ずかしい」

フロリス「あ、レッサーずるっこだ。ワタシサインほしーし」

ランシス「抱き枕……いっかいぶん」

ベイロープ「『スコットランドの花』、アンセムフルボーカルのWAVEデータでヨロシク」

レッサー「ちょっ!?なに私に便乗しようとしてんですかっ!恥を知りなさい、恥をねっ!」

上条「お前が言うな」

鳴護「当麻君は?」

上条「友達助けるのに理由は要るか?」

レッサー「ダメダメですなー。こういうのはノリで何かかるーくて、しょーもないお願い言っとくのが通ってもんです」

上条「つってもCDはいつも貰ってるし、今更これっつって……」

413 : 以下、名... - 2014/06/17 11:53:46.32 otn6E9cr0 277/1732

上条(インデックスとメシ奢って貰ったり、そーゆーのはたまにあるし。むしろ借りが溜まってんのは俺達の方で)

上条(何か適当で、それでもって大した負担になんないようなの……?)

上条(あ、そういやこれからEU回るし、メシもご当地料理ばっかになんだよな、当然)

上条(たまには日本のご飯も食べたくなるだろうし――よし!)

レッサー「決まりました?」

上条「おけおけ、俺に任せとけって!」

レッサー「……なーんか、いっやーな予感がするんですけど……?」

上条「――アリサっ」

鳴護「うん?」

上条「俺に味噌汁を作ってくれ!」

鳴護「――ふぇっ!?え、えぇっ!それはっ、どういう意味でっ!?」

鳴護「ま、まさか『毎日』みたいな!そゆことじゃないよねっ!?」

上条「毎日?いや、作ってくれるんだったら、そりゃスッゲー嬉しいけどさ」

鳴護「……不束者ですが、うん」

レッサー「『うんっ』、じゃ、ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇですよおぉぉぉっ!」

レッサー「てーか上条さん!上条さんあなたって人は地雷を踏み抜くにも程があるでしょうが!?」

上条「え?」

414 : 以下、名... - 2014/06/17 11:54:56.76 otn6E9cr0 278/1732

レッサー「天然な分、難聴主人公よりもヒドいな!てーか鳴護さんも嫌なら嫌って言いませんと!」

レッサー「てかコレなに!?割と悲壮な場面だっつーのにコレて!」

レッサー「ここは勢いで私を口説く流れじゃないんですかねっ!」

レッサー「『俺、この戦争が終わったら実家へ帰ってパン屋を継いで、幼馴染みのあの娘と結婚してから裏の水門を見に行くんだっ!』」

ベイロープ「ドサクサに紛れて自分の欲望を全うしようとすんな。てかブレわね、あなた」

ランシス「てかベッタベタな死亡フラグ……」

フロリス「あと水門関係ないよね?パン屋なのか農家なのかよく分からん」

アル「……ねぇ、お話続けていーい?ラブコメ終わった?」

アル「なーんか俺ら悪役っぽくて、超気分悪いんだけどさ」

上条「悪役だろうが、徹頭徹尾」

アル「悪役?俺らが?なんで?」

上条「……本気で言ってんのか!?」

アル「そりゃまぁ手段がアレだけどな。ま、伊達にクトゥルー教団名乗ってはねぇよ」

アル「が、お前らが俺達の敵だからって、『正義』だとか『正気』を名乗るのも、おかしな話じゃねーの、あ?」

上条「どこがだよ!だって――」

アル「――だって、『それ』、人間じゃねーじゃん?」

415 : 以下、名... - 2014/06/17 11:56:53.00 otn6E9cr0 279/1732

上条「……あん?なに?」

アル「お前の後ろで、それっぽい顔作ってる『それ』だよ、『それ』」

アル「そんな『バケモノ』を後生大事に護ろうとしてるお前らってさぁ、本当に正気なんかなー?」

上条「お前は――っ!」

アル「俺らは『バケモノと呼ばれたヒト』。それは否定しねぇし、その通りだと思うぜ?けどな」

アル「鳴護アリサは『ヒトと呼ばれたバケモノ』だ!そいつを使って何が悪い!」

鳴護「――っ!?」

アル「言ってみりゃ『生物』の枠に入るかうかも怪しいっつーの」

上条「関係ねぇだろ!そんなもんは!」

上条「意志があって疎通が出来て!誰かを大切に思う事が出来りゃヒトだろうがそうじゃやなかろうが!」

上条「お前らみたいに誰彼構わず傷つけるような奴らが言ってんじゃねぇよ!」

上条「……アルフレド、アルフレド=ウェイトリィ……っ!」

アル「おっす」

上条「お前のらクソッタレな『幻想』は――」

上条「――俺が絶対にぶち殺す!」

アル「……良し!そう来ないとな!そうじゃねぇと『正義』じゃねぇよ!!」

アル「――が、だ。カミやん、どうすんのこの状況?気張ってみたって、詰んでんだろ」

アル「ウチの兵隊どもはバカばっかだが、基本イカれてる分死ぬまで動く」

アル「ましてやちっとぐらい銃を囓った武警が来たって、お前らの足を引っ張んが関の山って訳で」

アル「俺達は確かにMinorityだが、バカじゃねぇんだよ」

アル「わざわざイギリスとフランスの泣き所で事件起こして、最凶最悪の異端審問機関『必要悪』の介入を遅らせた」

アル「『専門外』だった学園都市の兵器も、護衛の能力者共々トンネルの中で足止め」

アル「よくある『悪の科学結社』とは違って、戦力を出し惜しみなんてしねぇ。最初から幹部四人と兵隊揃えてタマ取りに来てんだわな」

アル「……あぁやっぱつまんね。面白くねぇ」

アル「優勝が決まった後のプレミアリーグっつーか、消化試合みたいな?」

???「――ほう、随分と大口を叩くな、魔術師ども」

アル「あぁ?」

416 : 以下、名... - 2014/06/17 11:58:44.68 otn6E9cr0 280/1732

???「――だったら私が面白くしてやる……ッ!!!」

鳴護「――お姉ちゃんっ!?」

上条(物陰に隠れて近寄っていたシャットアウラは、円盤状のレアメタルを無数に撃ち出す)

上条(ずっと狙っていたのか、それらは的確にアルフレド達を囲むように配置され)

シャットアウラ(???)「上条当麻ぁぁぁっ!!!」

上条「――任せろ!」

上条(彼女の呼びかけで、俺は、右手を突き出した!)

上条(今から起きる大爆発から『みんな』を守る盾に!)

ズズズズズズズォォンッ!!!――パキィィッン!

上条(連鎖する爆発を『右手』で打ち消し、次第に爆音が遠ざかっていく!)

上条(妹思いの能力者の爆炎が収まった時、そこには大きなクレーターと粉々になった駅のホームがあって)

上条(アルフレドを筆頭とした奴らの遺体は影も形も、痕跡すら残せず消え失せていた)

上条「……終わった、んだよなぁ?……つい、さっきもトンネルん中で言ったけどさ」

レッサー「えぇ、終りですとも。『今』は、ですがね」

フロリス「メンドー……」

上条(皮肉っぽく笑うレッサーとへたり込むフロリス)

ランシス「……」

ベイロープ「――」

上条(ぼーっとしているランシスと周囲の警戒を続けているベイロープ)

鳴護「お姉、ちゃん?」

上条(アリサがシャットアウラを気遣う、という妙なシーンに耳を澄ませば)

シャットアウラ「……これ、保険下りるかな……?」

上条(心からの呟きに、俺達は笑みを零していた)

シャットアウラ「――で、貴様がアリサを放置していた件についてだが」

上条「締めたじゃん!?今のでオチてるからこれ以上はっ!」

シャットアウラ「あと貴様には私の味噌汁をお見舞いしてやろうかっ!」

上条「結構前から隠れてたんじゃねぇか!?だったら助けろよ!」

レッサー「遠回しなボロネーズっ!?ぐぎぎぎっ……ここにもまたブリテンの敵が居ましたね!」

フロリス「レッサーそれプロポーズ。ボロネーズはイタリアのボローニャ発祥のパスタ」

ランシス「日本語だとミートソース……あと、ブリテンの敵認定を量産しないで」

ベイロープ「そんなトリビアはいいのだわ。それよりこちらさんは――」

シャットアウラ「……自己紹介の前に場所を移そう。ここは少々埃っぽい」

423 : 田中(ドワーフ) ◆7fp32j77iU - 2014/06/24 10:36:30.63 zTTXki+Z0 281/1732

――フランス 某病院 六人病室

シャットアウラ「――と、以上が今回の顛末だ」

上条「……そか、大変だったよな」

レッサー「いやぁ、あのあと警備室に連行されて大変でしたよー?」

レッサー「屈強なオッサンどもに捕まって可憐な少女の貞操がピンチに!」

上条「おい、フランス舐めんな。よく知らねぇけど、そんな事態にはならない」

ランシス「でもロルカに荷物を盗まれても、追っかけてはいけない、のは結構有名……」

フロリス「大使館へ駆け込むと、『荷物だけで済んで良かったよねぇ』って言われんだっけ?」

ベイロープ「つか具体的に何されたの?」

レッサー「『いやぁよく言ってくれた!』とジュース奢って貰って帰されました、えぇ」

上条「寛容すぎるな!国際問題間違い無しなのに!」

フロリス「頭イタイ子だと思われたんじゃないのー?」

鳴護「あー、たまにー生放送で見切れる人、居るよねぇ」

ベイロープ「中継とかで携帯片手にドヤ顔で映り込む奴かよ。私が身内なら絶交してるけど」

レッサー「でよねぇ。育てた親の顔が見たいってぇもんです」

ベイロープ「だからっ!あなたの事をっ!遠回しに言っているのだわ……ッ!!!」 ギュウゥッ

レッサー「ヘルゥゥゥゥゥゥゥゥゥプッ!?ハァイロゥンダァ(超巻き舌)が攻めてきたぞォォォォォォッ!!!」

ベイロープ「いい加減ケリつけてやろうかああぁぁぁあぁん!?」

鳴護「な、仲良しなんですね?」

上条「ですよねー」

レッサー「助けて下さい上条さん!私のケツが割れて半分になりましたっ!?」

上条「もう一々突っ込むのも面倒だよ!」

鳴護「……当麻君、不潔」

上条「アリサもこの子のテンションを分かってあげて!大体いっつもこんな事言い出すんだから!」

レッサー「……むぅ!中々やりますねっ鳴護さん!まさか私の『ケツ』と『不潔』を被せてくるとは!」

鳴護「してないよ!?」

上条「あと被せる意味が謎だな。つかARISAのイメージ悪くなるから止めろ」

424 : 以下、名... - 2014/06/24 10:38:53.28 zTTXki+Z0 282/1732

ランシス「……レッサー、言葉言葉」

フロリス「うーむん。普段っから男っ気がないもんだから、ワタシも気をつけなきゃいけないのかも」

上条「っていうかベイロープが執拗にレッサーのお尻を狙う意味が分からん」

ランシス「ヒント、『女子校』……!」

上条「うん、まぁ別に興味は無いんだけど、一応話の流れっていうか社交辞令で聞くよ?べ、別に興味ある訳じゃないからね?」

上条「具体的なエピソードを頼む!」

フロリス「ペイロープの弱点はふくらはぎだと言っておこう」

上条「良かったら弱点を知った過程を詳しく。出来る限る情緒溢れる表現で頼む」

フロリス「最初はじゃれていただけなんだよねぇ。別に好きとか嫌いとか、そういうんじゃなくって」

フロリス「ホラ、オンナノコ同士で腕組むってあるじゃんか?あれの延長みたいでさ」

フロリス「たまたまベッドの上で、二人で寝っ転がってDVD見てた時の話」

フロリス「ワタシは別にまぁ、そんなに乗り気じゃなかったけど、なんかこうついつい盛っちゃってー、みたいな?」

上条「うん、それで?一線を越えたのはどっちから?」

上条「心理描写で感情を豊かに表現しつつ、比喩の少ない肉感的で写実的な表現で頼む!」

ベイロープ「オイ堂々と捏造とするんじゃないレズ予備軍。あとそこの百合厨は食い付き良すぎだろ」

鳴護「……その、リアルな体験談っぽい話に引くって言うか、当麻君の見ちゃいけない一面だったのなのかも……!」

レッサー「あ、レズるの好きなら絡みましょうか?地の文アリアリでこう、終わった後に『まったくこの子ったら』みたいな感じで!」

上条「やめろ!そんな事するんじゃないぞ!絶対にな!絶対だからなっ!」

レッサー「よーしそこまでネタ振るんだったらやってやりますよっ!さぁっベイロープ!」

ベイロープ「近寄るな」

レッサー「フロリス、私達の絆を見せてあげましょうよっ!」

フロリス「あ、ごめん。そういうのノーサンキューで」

レッサー「では『新たなる光』のお色気担当!ランシスと私の生き様を――」

ランシス「……また裏切るから、いや」

レッサー「見たか!我らの血で結ばれた円卓の絆を!」

上条「涙拭けよ。悪ふさげたした俺が悪かったから、なっ?」

上条「つーか円卓ってアーサー王伝説なんだろうが、あれ結局『嫁を寝取られた挙げ句負けました』ってオチじゃねぇか」

ベイロープ「あー……うん、そのなんだ。反省はしてるわよ?反省は」

ランシス「……ムシャクシャしてやった。でも割と満足している……」

上条「何の話――」

鳴護「あのー、当麻君?ちょ、ちょっと良いかなぁ?」

425 : 以下、名... - 2014/06/24 10:40:59.86 zTTXki+Z0 283/1732

上条「はい?なに?」

鳴護「さっきからお姉ちゃんが下向いてブツブツ言ってるんだけど、そろそろ本題へ戻ってくれると……」

上条「ごめんなさいシャットアウラさんっ!?俺ら、ホラ!何か色々あって疲れちゃってて!」

シャットアウラ「上条コロス上条コロス上条コロス上条コロス上条コロス……!」

上条「え、俺限定で殺意がっ!?」

レッサー「お、ナイスな殺気ですな」

シャットアウラ「アリサが私以外と笑ってるアリサが私以外と笑ってるアリサが私以外と笑ってる……!」

フロリス「愛されてるねぇ、アリサ?」

鳴護「いやぁ」

上条「愛されすぎだろ!つーかどっから脱線した!?」

レッサー「私らの通ってるゴードンストウンは共学ですよ?」

上条「もっと前だ。てかお前らが学生やってた事に驚きだけどな」

ベイロープ「てか学校行ってないのにユニフォーム揃える方がイタイだろ」

レッサー「おやおやー?ご自分の事を棚に上げて第三次世界大戦の爆心地へ突っ込んだ高校生が居ますよー?」

上条「ありますよねー、そういう話。珍しくもないですもんねー」

鳴護「当麻君、少しは自覚しよ?まず認める所から始めるべきだよ」

レッサー「そしてこちらにも『エンデュミオンの奇蹟』を起こした歌姫さんが一人」

レッサー「これで騒ぎにならない、って方がおかしいでしょーなぁ」

鳴護「いやでも、地味だよ。ね?」

上条「だよなぁ?別に目立ってはない、よな?」

ベイロープ「一般人とそれ以外を一緒にすんな――てか、そろそろ話を戻しましょうか」

シャットアウラ「感謝する。ベイロープ、で良かったのか?」

ベイロープ「こっちも確認したい事ばっかだし。つーかさ」

ベイロープ「本当に『学園都市の協力は得られない』の?」

上条(あの後、俺達はシャットアウラに連れられて車――護送車で移動させられた)

426 : 以下、名... - 2014/06/24 10:44:35.08 zTTXki+Z0 284/1732

上条(爆睡した俺が次に目を覚まして見たものは、フランス語で書かれた病院の門)

上条(そこそこ有名な大学病院なんだそうだが、そこで検査・検査・検査)

上条(夕方になって連れ出されて、前っから決まってた情報番組に出張。何故かついてくるレッサー)

上条(……そして『やらしかた』後、何故か俺しっレッサーだけが説教を喰らう)

上条(夜遅くになって解放されてから、通訳付きでイギリス当局の人から事情聴取)

上条(つっても最初から根回しがあったらしく、『大変な事故でしたねー?HAHAHA!』みたいな茶番だった)

上条(……んで、深夜にさしかかる頃に解放されて、用意された六人部屋へ――)

上条(――来たと思ったら、病院着に着替える女の子達がねっ!つーかアリサ達なんですけどね!)

上条(……うん、ボッコボコにされて気がついたら今と)

上条「……」

上条「……着やせ、してたよなぁ……」

鳴護「うん?どしたの?」

上条「思い出してないですっごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ!!!」

シャットアウラ「黙れ、外野」

上条「はい」

シャットアウラ「……と、今話したように最初から決められていた事だ――が」

シャットアウラ「私達『黒鴉部隊』が”勝手に”、持ち込んだ兵器とクルマが問題となっている」

ベイロープ「兵器ぃ?」

シャットアウラ「機械的に改造した能力者。要人警護用の対爆対弾対BC戦機能があるのが気に食わないんだと」

鳴護「柴崎さん……」

シャットアウラ「あのバカは命令違反を繰り返した上、『クルマ』の無断使用に無理な遠隔操作で神経系がズタズタ」

シャットアウラ「これでアリサに怪我でも負わせていたら、首の一つでも切ってやる所だ」

上条「リストラって意味だよね?深い意味は無いんだよな?」

427 : 以下、名... - 2014/06/24 10:46:24.20 zTTXki+Z0 285/1732

鳴護「今、どちらに?」

シャットアウラ「一度学園都市へ戻ってオーバーホール――というか、休養を命じておいた」

シャットアウラ「肉体部分の損傷はともかく、それ以外はどうしても、な」

鳴護「……そっか。じゃ、良かった」

上条「すまん。俺が無茶頼んだばっかりに」

シャットアウラ「いや、お前に謝られる筋合いは無い。そもそも護衛対象でもあるお前を護るのは仕事の内だ」

シャットアウラ「むしろ部下の命を助けてくれた事を感謝しよう。ありがとう、上条当麻」

上条「……っ!」

上条(……そう言ってぎこちなく笑うシャットアウラの顔は、どこかアリサに似ている)

上条(元々が同じで、今は『姉妹』としてそれぞれを大事に思ってるんだから、それは当たり前なんだろうが)

上条(その『無防備さ』ってのが、なんか、こう、アレだ)

上条(なーんか『勘違い』しちまいそうになる、っていうかですね?)

シャットアウラ「どうした?」

上条「ん!?あぁいやいや別に何でも!」

上条「ただ『聖地巡礼してー」みたいな事言ってたけど、どうしたんかなーって」

シャットアウラ「ローランサン巡りは有給でも取ってくればいい。申請は取りやすいようにしてやる、と言っておいた」

鳴護「えっと、一人で?お姉ちゃん何か言われてなかった?」

シャットアウラ「うん?……あぁ、確か『一緒にどうですか?』とは言われたな」

鳴護「そ、それでっ?」

シャットアウラ「『なんで?』と応えておいたが?」

鳴護「……お姉ちゃん」

上条「あー……うん、まぁ!まだまだチャンスはあるし!」

レッサー「横からで恐縮ですが、シャットアウラさんはそちらさんがお嫌いで?」

シャットアウラ「特に何とも。それがどうした?」

レッサー「あっちゃー……他人事とは言え、聞いてて痛々しいですな」

上条「……えっと、どうしようこの惨事……?」

鳴護「言っても分かんないと思うけど、当麻君にも責任はあるからね?自覚はしなくていいけど、ってかされると困っちゃうけど」

上条「すいません……?」

428 : 以下、名... - 2014/06/24 10:49:09.39 zTTXki+Z0 286/1732

シャットアウラ「――話を戻そう。さっきも言ったが、これ以降私達がアリサと行動を共にするのは不可能だ」

上条「そんなっ!?」

レッサー「仕方がありませんよ、上条さん。右手で握手しようって時に、後ろへ回した左手にハンマー持ってるようなもんですから」

レッサー「申告しなければ『あ、言ってませんでしたっけ?』で済む話なんですが、バレちまったら、はいオシマイ。そればっかりはどうしようも」

上条「俺が、余計な事を言ったから、か?」

鳴護「当麻君、そんな事無いよ!」

シャットアウラ「繰り返すがお前は関係ない。『敵』を甘く見すぎていた私達――ひいては学園都市に落ち度がある」

シャットアウラ「決して、決してお前達がやった事に間違いじゃない」

ベイロープ「その証拠が『コレ』なのよね?」

シャットアウラ「そうだな。あれだけの事をしでかしたのに『コレ』で済んでいるのが僥倖でもある……いいや、必然か?」

上条「『コレ』ってのは?」

ベイロープ「問題、あなたはユーロトンネルの中でど派手なドンパチを繰り返しました」

フロリス「具体的には列車をぶった切る×2、架線にモノぶつけて運行に多大なロスを与えたりー」

ランシス「明らかに条約ブッチした『戦車』を乗り回したり……」

上条「……怒るよねー、普通は。治安機関にケンカ売ってるよなぁ」

シャットアウラ「私も、というか私”達”は全員その場で射殺されても文句が言えないレベルの事をしでかしている」

シャットアウラ「公になれば確実に外交問題確定、連日連夜ネットニュースで人気者となるな」

レッサー「だってぇのに取り調べはヌルいは待遇は良いわ。しかも女五人に男一人放り込んでハーレム状態ですか!薄い本ですか!」

上条「前半と後半繋がってねぇ――事も、無いか?」

上条「ハタから見りゃ非常識な対応、厚意的な待遇を受けてるのって」

シャットアウラ「それはお前達がユーロスターへ留まり、多くの乗客の命を救ったからだ――上条当麻」

シャットアウラ「もしこれが『自分達だけ逃げました』なんてものだったら、今頃留置所だったろうに」

上条「……無駄、じゃなかったんだな……!」

レッサー「ま、私らはトンズラしますけどね」

フロリス「だっよねぇ」

ランシス コクコク

ベイロープ「黙ってろおバカども。や、まぁ私も逃げるだろうけどさ」

429 : 以下、名... - 2014/06/24 10:51:28.60 zTTXki+Z0 287/1732

上条「でもさ、それっておかしくないか?確かに俺達は、つーか『黒鴉部隊』は武器やクルマを隠してたけど」

上条「自分達を護るためにしてた武器が、オーバーキルだから取り締まるってのは!」

シャットアウラ「そっちは政治的な駆け引きだな。何と言うべきか……」

レッサー「本音と建て前の使い分け、国内法と国際法との兼ね合いとでも言うんでしょうかねぇ」

レッサー「例えばテロリストを摘発するためには証拠を集めて、裁判所へ逮捕状を請求してから検挙と相成ります」

上条「あぁ、お前らも元テロリストだもんな」

レッサー「うっさいですね!あんま騒ぐとちゅーで口を塞ぎますわよ!」

レッサー「いや、悪くないですな……むしろ率先して喋って下さいねっ!」

上条「……」

レッサー「あ、あれ……?そこでお口チャックマンするんでしょうかっ!」

フロリス「だからさぁ?レッサーのアプローチ、どっから情報仕入れてんのか分かんないケド、引くじゃん?つか引いてんじゃんか?」

フロリス「そもそも『抱いて下さい!』つって『喜んで!』みたいに即答するようなヤツが、ブリテンのためになる人材なわきゃないでしょー」

ベイロープ「それ、普通に駄目男よね」

レッサー「……うーん、うぬぬぬぬぬっ?」

ランシス「……どったの?」

レッサー「いえ、なんつーんでしょうかねー?こう、なんかフロリスのツッコミが、いつもにまして厳しいような……?」

フロリス「ん?ワタシ?」

レッサー「い、いやっ気のせいですね分かります!まっさか『新たなる光』のツン担当がデレる日なんて来ませんもんねっ!」

フロリス「勝手に決めんな。つーか誰がツンだ、誰が」

ベイロープ「それで?続きは?」

レッサー「あー、テロの話でしたっけ?あー、そうそう、アレですよ、アレ」

レッサー「実際にテロを取り締まる方は様々な法的制約が生じるんですよね。国内法・国際法のどっちもが」

レッサー「軍事行動でぶちかますにしても、する側は関連法を整備した上で、遵守しながら戦わなきゃいけません」

レッサー「当然、他の国のお伺いを立てなきゃ必要もありますし、場合によっては羽織ゴロから反対喰らうんですよ、えぇ」

レッサー「資金にしたってとどのつまりは税金ですしね。ヘタに不透明な使い道をすれば突き上げられますし?」

レッサー「けどテロリスト側は、違う」

レッサー「資金も強盗・脅迫・人身売買に麻薬の密売、ずっと囁かれている東側からの援助等々。実に他材で、多罪」

レッサー「昨今じゃ中東の盟主を気取る所がやってんじゃねぇの?みたいな事が公然と言われ始めて来ました」

レッサー「テロの方法も脅迫してやらせたり、子供を誘拐して洗脳したりと人道なんか知ったこっちゃあーりません。それが、現実」

レッサー「テロをする方は縛りなんて皆無なのに、彼らと戦う方は縛りプレイが多すぎってぇ話です」

上条「……テロリスト――この場合は『濁音協会』か」

レッサー「えぇ。あっちには制約もクソもありません――が、それを取り締まる側はそうじゃない」

レッサー「ブリテンじゃブリテンの法に、フランスじゃフランスの法の下で」

レッサー「ただ、それだけの話でしょう」

上条「……よくよく考えれば酷い話だよな」

シャットアウラ「だが、それもまた理屈ではあるのさ……アリサ」

鳴護「はい」

430 : 以下、名... - 2014/06/24 10:53:14.65 zTTXki+Z0 288/1732

シャットアウラ「これ以上、『黒鴉部隊』――学園都市はお前についてはいけない」

鳴護「……はい」

シャットアウラ「加えて、イギリス清教の魔術師達も力を貸してはくれない」

シャットアウラ「私にとってすれば下らない理由だが、『そう』じゃないと友好もなにもなくなってしまうからだ」

レッサー「……コートの中に何を隠しているのか、それが分からない状態ならば握手も出来るでしょうが――」

レッサー「――あからさまに『銃を持ってる』ってバレちゃいましたからねぇ」

シャットアウラ「……なぁアリサ、よく聞いて欲しい」

鳴護「……」

シャットアウラ「お前は『逃げ』だと言うかも知れない。確かにそうなのだろう。否定はしないさ」

シャットアウラ「けれど、どうしてアリサでならないんだ?他にも適役は居るだろうし、その」

シャットアウラ「……私の父親は『奇蹟』で命を落とした。お前が生まれた時に、戦って、死んだ」

シャットアウラ「私は父を誇りに思い――それ故にアリサにも牙を剥いた!『奇蹟』なんて要らないと!」

上条「シャットアウラ……」

シャットアウラ「けれど、お前は!あの時戦ったろう?『奇蹟なんて起きない!』と私を叱り飛ばして――」

シャットアウラ「――『奇蹟』を起こした。助けられない大勢の命を、助けてくれただろう?」

シャットアウラ「だから――帰ろう?」

鳴護「帰る、の……?」

シャットアウラ「……あぁそうだ。学園都市側からの許可も下りている」

シャットアウラ「ここまで大事になってしまった上、守りようがないんだったら仕方が無――」

鳴護「……私は、帰らないよ」

シャットアウラ「アリサ!」

鳴護「お姉ちゃんも知ってるよね?私が学園都市と『取引』した内容」

上条「……『取引』?」

431 : 以下、名... - 2014/06/24 10:55:03.62 zTTXki+Z0 289/1732

鳴護「レディリーさんの帰還をお願いしたんだよ……伝えたい事が、あるから」

上条「エンデュミオン上層階に取り残されてるんだったっけ?」

上条「ラグランジュポイントを漂う、残骸の中で――独りで」

鳴護「……あの時、私は――あたしは『みんなが助かりますように』って祈ったんだけど――」

鳴護「――レディリーさんは、助けられなかった、よね」

上条「……そう、だな。それは確かに、そうだ」

シャットアウラ「だが!レディリーはアリサを!」

鳴護「お姉ちゃんも、だけどね?」

シャットアウラ「……」

鳴護「あ、ごめんごめん!責めてるんじゃなくて!そういうんじゃなくって、そのっ」

鳴護「お姉ちゃんとも仲直り出来るんだったら、レディリーさんとも出来るんじゃ、って」

シャットアウラ「アリサ……でもっ!」

鳴護「あたしは暴力へ何も出来なかったよ。レディリーさんに捕まってから、逃げ出せないままで」

鳴護「お姉ちゃんと争った時だって、当麻君が助けてくれるまでは。ただ、無力だった」

鳴護「……けど、あたしも、戦った!」

鳴護「誰かを誰かの代わりに殴りつける強さや」

鳴護「不当な暴力から誰かを庇える強さも」

鳴護「そんなものは無かった……でも!」

鳴護「あたしにはすべき事があって!あたしにしか出来ない事があったの!」

鳴護「だから……ッ!」

シャットアウラ「……アリサ」

上条「……強いんだよな、アリサは」

シャットアウラ「……当然だ、馬鹿者」

上条「おう?」

シャットアウラ「私の自慢の妹なんだからな」

上条「……だな」

432 : 以下、名... - 2014/06/24 10:56:56.73 zTTXki+Z0 290/1732

――数分後

シャットアウラ「――とはいえ、だ。いざ現実的にどうしたものか、という問題がある」

シャットアウラ「大きな敵は五人。魔術師が四人とそこの冴えない男が一人……うむ」

上条「あれ?俺も敵にカウントされてんの?」

鳴護「学園都市側は、全然援助してくれないのかな?」

シャットアウラ「と、言う訳でもない。ないが……まぁ、望み薄だ」

上条「俺の知り合いの能力者とか、はマズいんだよなぁ」

シャットアウラ「『ほんの少し』の私達ですらこの有様だ。御坂美琴辺り呼んでバレてみろ、下手すれば第四次世界大戦だ」

上条「そーかぁ?アイツ結構海外旅行とかしてっけど?」

シャットアウラ「学園のカリキュラムで当たり障りのない観光地を点々とするのと、一応の外交使節を混同するな!

上条「ビリビリはヘンな事しない――と、思うが!多分!」

鳴護「御坂さんはいい人だけど、他の人が信じるかって言えば……うん」

シャットアウラ「対爆対弾のキャンピングカーはこちらで用意するし、衣食住にかかった費用もあちら持ち」

シャットアウラ「加えて必要な人員――通訳と”称し”てボディガードを雇うのもアリだそうだ」

上条「……ま、普通のコンサートツアーなら妥当なんだろうけどさ」

鳴護「レディリーさんみたいな魔術師さんだと、うーん?って感じかなぁ」

上条「俺の知り合いの――」

シャットアウラ「却下だ」

上条「まだ言ってねぇ!?知り合いの魔術結社のボスに頼るっつー話なんだけど!?」

シャットアウラ「下手な部外者呼んでこれ以上の騒ぎになってみろ。『ARISA』の活動もし難くなる」

鳴護「あたしは別に。アイドルじゃなくってもインディーズで歌えるんだったら」

シャットアウラ「それに今回の抗争、相当な借りを作る事になるぞ?お前がもし『学園都市を離れて私のイスになれ』とか言われたらどうするんだ?」

鳴護「あー……ありそう」

上条「いやいや、ナイナイ。バードウェイ良い子だもの、口じゃ文句言いつつ付き合ってくれるって」

鳴護「当麻君にはちょくちょく注意しているけど、『好き過ぎてこじらせる』みたいのも注意した方が良いと思いますっ!」

シャットアウラ「その内刺されてしまえ」

上条「シャットアウラさんは本気で言ってますよね?その『叶ってくれれば良いなー』みたいな顔どーよ?」

433 : 以下、名... - 2014/06/24 10:58:16.77 zTTXki+Z0 291/1732

レッサー「あのぅ、すいまっせーん?ちょっと良いですかねぇ?」

レッサー「今までのお話をまとめさせて頂くと、ぶっちゃけ『ある程度の関係者で一定の能力を持ったぷちりーなボディガード』であればいい、と」

フロリス「もすこし謙遜したほーがいいんじゃなーい?」

シャットアウラ「ぷりちー成分は要らん」

上条「言ってやって。シャットアウラさんガツンと言ってあげて!」

シャットアウラ「アリサで充分過ぎる程満たされてる、っていうかカブるわっ!」

上条「やっべェ!いつの間にか四面楚歌!?」

鳴護「あたしも当麻君サイドだと思うんだけど、っていうかお姉ちゃん人前でぷりちー言わないで欲しいかも」

レッサー「――ま、別に難しい話じゃないんですよね、これが」

レッサー「私達は所謂『魔術結社未満』の、団体」

レッサー「言ってみりゃ趣味が高じてやってるような『テキトー』な連中であり――」

レッサー「そんな私達が『好きなアイドルの追っかけ』て、EUを渡り歩く――なんて話、よくあると思いません?せんせん?」

鳴護「……危ないよ、そんなのっ」

フロリス「最初はねー、ワタシらも『あ、知り合いが来てる!』ってノリで顔出したんだケドー」

ベイロープ「ぶっちゃけそんなノリじゃ済まなくなってんのよ、これが」

上条「どういう事?」

シャットアウラ「ユーロトンネルでテロを起すような組織。連中の目的が世界平和である筈がない」

シャットアウラ「むしろ中心人物らしき『双頭鮫』の活動範囲を考慮すると、騒ぎを起こすのはEUだろう」

レッサー「んー、まぁ本音を言いますと私達――てか、私も世界がどうなろうと知ったこっちゃあないんですね」

レッサー「てーか上条さんも『知り合いのために戦う』事があっても、『世界にために戦おう』とはあんまりー、ですよね?」

上条「当然だ。『セカイのため』に戦うヤツって、ロクな事しなかっただろ」

上条「……だからって『個人のため』でもアレなヤツばっかだった気が……?」

レッサー「んがっしかぁし!私達は知り合いのため!たかだか乗り合わせた鳴護さんのために細やかながらお手伝い致しましょう!」

レッサー「それが義侠心ってもんですからねっ!えぇっ!」

鳴護「レッサーさん、ありがとう!」

ランシス「で、本音は?」

レッサー「鳴護さんへ恩を売るついでに上条さん籠絡出来たらラッキー、みたいな?」

上条「また思惑が軽いな!分かってたけどさ!」

434 : 以下、名... - 2014/06/24 11:00:51.86 zTTXki+Z0 292/1732

シャットアウラ「信用出来るのか?能力的にも、信条的にも」

ベイロープ「こっちのおバカの下心はさておき、そんなに悪い話じゃないでしょう?」

フロリス「少なくともワタシら”そっち側”じゃ無理だった連中を倒したしー?」

フロリス「むしろアリガトウと言いたまえよ、ウン?」

シャットアウラ「なら、こっちも婚后インダストリィ製が半壊被害を受けている」

レッサー「あれはホラっ!共闘してる立場ですし、何よりもコントロールはそちらさんだったじゃないですか」

レッサー「外装甲がヘコんだのも、私が操作したんじゃありませんとも!」

シャットアウラ「火気厳禁のキャノピーの中で、焚き火をかましたバカが居てな」

シャットアウラ「”ガワ”だけが破損していれば、予備パーツを換装すれば修繕費は安く済んだんだよ」

シャットアウラ「お陰でコンパネから全部オーバーホールしなくてはいけなくなったんだが……?」

レッサー「そ、それはっ仕方がないでしょう!?私だって必死でやってんですから!」

シャットアウラ「――余談だが、”クルマ”の中は常にモニタされていてな」

レッサー「へ、へぇー?それがなんだって言うんです?」

シャットアウラ「移動中に暇だったのか、デタラメにスイッチを入れたり消したりした上」

シャットアウラ「シフトレバーを『レッサー!一番機、吶喊するでありますよ!』とか言ってガチャガチャやった姿が映っているんだが?」

レッサー「よぉしっ!過ぎた事は水に流しましょうかっ!明日とは『明るい日』って書きますしねっ!」

上条「話題の逸らし方が他人とは思えない。つーかビルよじ登るわジャンプはするわ」

上条「アホみたいな超起動兵器なのにあっさり捕まったのおかしいと思ったら、お前のせいか!」

シャットアウラ「ま、なんにせよあの状況では、逃げ出す『アレ』を止めるためにはチャージが最適だろうがな」

ベイロープ「なんか、ゴメンナサイね?後でシバいとくから」

レッサー「ともあれっ!選択肢なんかないんじゃないですかねぇ?」

レッサー「考えてみてくださいな!今回のツアーなんて危険が危ないに決まっています!」

上条「お前の脳の方がピンチだと思うよ?」

435 : 以下、名... - 2014/06/24 11:02:49.71 zTTXki+Z0 293/1732

レッサー「若い男女!助け合う二人!ピンチの中で育まれる絆!あと、着やせっ!」

鳴護「あの、最後のいるかな?」

レッサー「いつしか二人は護衛とアイドルを超えた間柄に……ッ!!!」

上条「危険だと思う所が間違ってるよ!そんな話してたんじゃねぇし!」

シャットアウラ「一理あるな!」

上条「ヤッベぇこの部屋ボケしかいねぇぞ!?また俺ツッコミで喉を涸らす日々が帰ってくるのか!?」

ランシス「『へーい、レッサー。隣の家に塀が出来たってねぇ……!』」

上条「唐突に何言い出した!?」

レッサー「『よし、それじゃ記念にミントの苗をプレゼントしようか!向こうの庭をミント畑にしてあげよう!』」

ランシス「『このテロリストめ!』」

上条「オチてねぇしお約束じゃねぇし!つーかお前それ園芸ネタだから分かるヤツ少ないだろっ!?」

鳴護「当麻君、芸人さんばりに拾わなくても」

レッサー「で、どうです?この二人っきりで旅をさせるよりか、安心出来ると思いますよ?」

レッサー「今ならなんと!必要最低限のご予算で魔術結社未満がお仲間に!」

フロリス「未満言うな」

ランシス「レッサー、逆に胡散臭い……」

シャットアウラ「……そうだな!まずはアリサの身の安全が最優先だ……!」

上条「ねぇ?ちょっと聞いて良いかな?俺、シャットアウラさんの中でどんだけ危険人物だと思われてんの?」

シャットアウラ「いや、特にどうって事はない。気を悪くしていたら謝ろう」

上条「だ、だよねっ?オートマタん時から、どっちかってつーと共闘してたもんな?」

シャットアウラ「ただちょっと『私の本当の敵は魔術結社よりもまずお前だろうな』ぐらいにしか」

上条「随分具体的に嫌われてるじゃねぇかよ!?そこまで言われる程何かしたか!?」

鳴護「相性悪いもんねぇ、当麻君とお姉ちゃん」

レッサー「ま、ぶっちゃけ旅が終わる前に私がオトすんで、色々な意味で安心出来ると思いますよ?」

上条「打算的すぎるわ!愛情の欠片もないっ!」

436 : 以下、名... - 2014/06/24 11:05:39.72 zTTXki+Z0 294/1732

レッサー「いやでも10代の恋愛ってそんなもんじゃないですかねぇ?なんかこう、『ちょっといいなー』で付き合ったり」

レッサー「自慢じゃありませんがおっぱい大きいですし、将来性も考えると先行投資しておいて損はないんじゃないかと」

レッサー「ね?一回だけでいいですから、一回だけノリで付き合いましょーよ、ね?」

上条「フザケんな!人生には取り返しのつかない一回があんだよ!」

レッサー「こう見えても尽くしますよー?ご奉仕しちゃいますよー?」

上条「だーかーらっ!」

鳴護「レッサーさん、押し強い……」

ベイロープ「ま、あの子の持ち味みたいなもんだし。本当にブリテン好きっつーか」

鳴護「本当に当麻君の事好きなんだねぇ」

フロリス「多分その『好き』は珍しい動物の『好き』だと思うンだよね」

鳴護「え?違うよ、それ」

ベイロープフロリスランシス「え?」

シャットアウラ「――分かった。ならば正式に――ではなく、非公式に――」

上条「マジで?こんな流れでいいの?」

シャットアウラ「大事だろう、そこも」

上条「否定はしないけど……いや、否定するよ!俺そんなに節操なくないもん!」

レッサー「”もん”て」

シャットアウラ「だがしかし貴様からアリサを守りつつ、ついでに魔術結社へ対抗出来る人材なんて貴重だろ?」

上条「逆逆、優先順位逆じゃないですかね?いい加減俺のハートが傷つきっぱなしなんだけど」

シャットアウラ「『勝手についてくる』、しかも『あやふやな連中』なのでグレーゾーンだからな」

上条「そりゃそうかもしんないが、納得がね?」

「――話は全て聞かせて貰ったのよな……っ!!!」

ベイロープ「誰よッ!?」

「カステラ一番!電話は二番!三時のおやつはチラメイドっ!」

上条「歌詞違ぇよ。てーかお前はコスプレに拘りすぎだろ!」

437 : 以下、名... - 2014/06/24 11:07:32.97 zTTXki+Z0 295/1732

「天草式十字せ――」

シャットアウラ「――っと捕まえた」 ギリギリギリギリギリッ

「名乗りは最後まで言わせて欲しいのよなっ!?って締まる締まる締まってるのよ!」 タシタシタシタシ

シャットアウラ「見るからに怪しげな大男!『濁音協会』の幹部かも知れないぞ!」

「誤解なのよな!?俺はこう見えて由緒ある魔術結社の教皇代理を――」

シャットアウラ「よし、ギルティだ」 プチッ

「ノォォォォォォォォォォウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!?」

上条「……あの、すいませんシャットアウラさん?その人知り合いだから、そのぐらいで勘弁してあげて!」

シャットアウラ「私達にも気配を掴ませずにここまで接近出来た相手なのにか?味方相手にするなんて怪しいだろうが!」

上条「いや、まぁ、うん。『どう見てもそのアフロと服、隠密どころか写メされまくるよね?』とか思うけど、それも多分術式の一つだと思うし、うん」

上条「な、そうだよな?建宮?」

建宮斎字(男)「まだまだあぁっ!この俺を屈服させるにはシメが足りないよのな!」

ランシス「……要約すると?」

建宮「黒髪ロングって最高なのよ!」

シャットアウラ「取り敢えず、落とすな?」

建宮「アッーーーーーーーーーーーーーーーー!?」

438 : 以下、名... - 2014/06/24 11:09:19.66 zTTXki+Z0 296/1732

――10分後

建宮「――ま、とどのつまりはメッセンジャーなのよな」

上条「つまりアレか?ステイル達が不用意に動けないから、天草式が代理で来た?」

建宮「いんや。もしヘマしたら『個人の独断でやった』で足切りなのよ」

レッサー「相変わらずエゲツないですなー、『必要悪』さんは」

建宮「そう心配はいらんのよ。『普通』の病院へ潜り込んなんざ。我らに取っちゃ朝飯前なのよ」

上条「んじゃ五和や神裂達も来てんの?」

建宮「いやー何人かは来てるが……女教皇は禁書目録のガード、五和は……ま、その、アレがアレして槍振り回しそうだから、自重させたのよ」

フロリス「うえ?禁書目録が『聖人』頼る程ピンチなの?」

上条「つーか五和の方はさっぱり分からない」

建宮「お前さん方の敵が『クトゥルー』である以上、禁書目録がターゲットである可能性も否定出来ないのよな」

建宮「何せ記憶する10万3000冊の中には『ネクロノミコン』も含まれるのよ」

シャットアウラ「ネクロノ?」

ベイロープ「クトゥルー神話に登場する魔導書、狂えるアラブ人が夜に鳴く魔神の声を書き綴った書物ね」

上条「そーいや最初の頃、そんな名前の本も憶えてるってドヤ顔で言われた気が……?」

建宮「連中の狙いが禁書目録で、こっちは大がかりなフェイク。女教皇達はそう考えてるのよな」

シャットアウラ「すまん。ちょっといいだろうか?」

レッサー「どぞ?やっぱり科学サイドには荷が重いですかね?」

シャットアウラ「正直その通りだ。お前達が何を言っているのかすら、分からない。というか――」

シャットアウラ「――お前達の方こそ、正気なのか?」

レッサー「何を根拠に?自身の正常性を疑うのは良い事だと思いますがねぇ」

シャットアウラ「初めて話を聞いた時にも思ったが、『それら』はフィクションだろう?個人が作って暇人が広めた創作物だ」

シャットアウラ「……私も日本での生活が長い分、多少はオリエンタル・アミニズムにも詳しくなっている。例えば、そうだな」

シャットアウラ「ツクモガミ?全てのモノに神が宿り、神性を持つという思考も理解出来る」

ベイロープ「汎神論ね。インドや古代ギリシャ辺りが発祥の」

上条「オリエンタル関係ねぇな」

フロリス「オリエント文明って習わなかった?欧州から見れば『東っぽい蛮族』を一括りでそう呼んだんだよ」

フロリス「もっと勉強した方が良いんじゃん?」

上条「……お前、俺に厳しかねぇかな?チャラにするとかって聞いたんだけど」

レッサー「んぅ良し!良い感じのツンですよフロリス!」

レッサー「そのまま適度に痛めつけ、傷ついた所を私が慰める!これこそ完璧ですなっ!」

ランシス「……汚れた思惑がただ漏れになってる……」

上条「たまーにこの子、ネタでやってんじゃないかって思うんだよなぁ」

439 : 以下、名... - 2014/06/24 11:11:46.06 zTTXki+Z0 297/1732

シャットアウラ「日常品に感謝して供養したり、土木作業の時に祈祷するのも理解はする。だけれども!」

シャットアウラ「『そんなモノ』に神は宿ると?フィクションに過ぎない存在にもか?」

建宮「そうよなぁ……まず結論から言うと、『ネクロノミコンは実在し、それ相当の力を持った魔導書』なのよ」

シャットアウラ「信じがたい話だ」

建宮「あ、そこら辺は絶対なのよ。なんせ俺達が戦ったんだから」

上条「そうなのか!?日本にも連中が居たって!?」

建宮「いやいや。やり合ったのはイギリスなのよ。『必要悪の教会』の入団試験で攻撃されたのよな」

建宮「そこら辺の事情も含め、『敵』の情報を託すに相応しいと思われたのが天草式なのよ」

レッサー「ほへー、って事は既に『濁音』とやりあってたと?そいつぁ初耳です」

ランシス「(多分ニホンダルマの出店準備で忙しかったころ……)」

ベイロープ「(よね)」

建宮「それも違うのよ。別口の魔術師であって、クトゥルー教団じゃないのよな」

シャットアウラ「意味が分からん」

建宮「そっちのおねーちゃんの疑問には答えた筈なのよ――『ある』と」

建宮「実際、魔術的にもネクロノミコンは力を持った魔導書なのよな」

シャットアウラ「納得出来るか!私はよく知らないが、世界が滅びるような魔術が使えるんだろう!?」

シャットアウラ「そんなものが存在して良い訳がない!」

建宮「あー……混同してるのよな、お前さんはよ」

シャットアウラ「何が!?」

建宮「『ある』と『できる』は別の話なのよ。これが」

ベイロープ「……あぁ成程。そういう事ね」

上条「すいません、俺にも分かるように」

レッサー「さぁっ!言っておやりなさいな、ベイロープさん!」

フロリス「いやアンタも分かってないじゃんか」

レッサー「いやですよぉ。人が折角見せ場を作ってやろうって配慮してんのに、言わせんな恥ずかしい」

ランシス「……魔導書は『ある』。そして『できる』と書かれてる」

ランシス「……ても、本当かどうかは分からない、って話…?」

440 : 以下、名... - 2014/06/24 11:14:09.42 zTTXki+Z0 298/1732

レッサー「まさかのランシスが核心を突いたっ!?」

上条「やっぱ分かってなかったんじゃねーか。つーかアリサ大丈夫か?」

鳴護「うーん?お勉強しなきゃいけないのかなぁ?」

上条「専門分野は専門家に任せておいた方が良いぞ。素人が首突っ込んだって邪魔になる」

レッサー「――と、毎回首突っ込んでる方が言うと説得力ありますよねっ!流石ですっ!」

上条「グーで殴るぞこの野郎」

建宮「そうさな、あぁっと……おねーちゃん、アステカ神話は知ってるのよ?」

シャットアウラ「今ある世界は第四の太陽であり、世界はジャガーが呑み込む、だったか?」

シャットアウラ「あと私を『お姉ちゃん』と呼ぶんじゃない」

建宮「エッダ、北欧神話は?」

シャットアウラ「フェンリル狼が太陽を呑み込む――と、こっちも狼なのか……?」

建宮「あ、それは本題と関係ないのよ。んじゃヒンドゥーは?」

シャットアウラ「ヒンドゥー……?あぁインドは確か」

上条「シヴァって破壊神が全部ぶっ壊す?」

建宮「正解。で、最後に仏教、ブッティズムの『オワリ』はどんななのよ?」

シャットアウラ「あれに明確な終りは無かった筈だが……?」

ベイロープ「ブッダの入滅から56億7千万年後に現れる弥勒菩薩、よね」

建宮「大体合ってるのよな。釈迦の入滅後、定期的に末法思想が広がり、それらは信仰に影響を与えてきた」

建宮「キリ――十字教でも黙示録や千年王国は有名なのよな」

上条「ま、確かに世界各国、色んな所で色んな終末論はあるわな。それが?」

レッサー「あるぇ?まだ分からないんですか?」

上条「レッサーさんはご存じなの?出来れば教えてみろや、出来るんだったらば」

レッサー「さぁっフロリスさんあなたの出番ですよっ!」

フロリス「おっけー。まーかせて。えっとねー」

レッサー「ここでまさかの裏切りがっ!?」

鳴護「どっちかって言えば、レッサーさんの方が裏切って言うか、なすりつけようとした、って言うか」

441 : 以下、名... - 2014/06/24 11:15:22.89 zTTXki+Z0 299/1732

フロリス「今言った全部の『神話』は例外なく魔導書が作られ、実際に魔術が使われてんだよ、うん」

フロリス「ワタシらだって北欧神話をベースに――あ、逆か。ベースにしたのを北欧神話でアレコレしてんだけど」

ベイロープ「余計な事は言うな。先生にシバかれる」

フロリス「これ、つまりそれぞれの魔導書や魔術が『ある』って証明だよねぇ?ねっ?」

上条「少なくとも神話を模して霊装や魔術使ってんだから、まぁ、証明にはなるのか……?」

フロリス「でも――あ、こっちからがキモだかんね?よく聞いててね?――世界にはイッパイ魔術があって、そのオリジンになった神話もある」

フロリス「ついでに言えばその殆どが『終末』が書かれてるんだけどぉ――」

フロリス「――その『オワリが来た』のって一回もないじゃんか」

フロリス「具体的に『世界が終わった』事は」

上条「……確かに」

建宮「その通りなのよな。魔術は『ある』のよ、それは絶対に」

建宮「だがしかし『できる』かどうかは別問題」

建宮「例えそれが魔導書に載っていたとしても、『過去一度も世界を終わらせた魔術師は存在しない』のよな」

シャットアウラ「クトゥルーは『ある』。が、世界全てを発狂させるような事が『できる』かは未知数、だと?」

建宮「……ま、術者が力及ばず、どっかのエロい下乳魔神みたいに尊大な魔力を持たない限り、絵に描いた餅なのかも知れんのよ」

442 : 以下、名... - 2014/06/24 11:16:28.00 zTTXki+Z0 300/1732



ジジッ


443 : 以下、名... - 2014/06/24 11:18:36.67 zTTXki+Z0 301/1732

建宮「……ま、術者が力及ばず、どっかのお美しい魔神様みたいに莫大な魔力を持たない限り、絵に描いた餅なのかも知れんのよ」

上条「なんでお前二回言ったの?てか今ノイズが……?」

建宮「俺達が出会った『クトゥルーの魔術師』も、効果範囲は精々数十メートルってトコだったのよな」

ベイロープ「『人類全てを発狂させる』だけの効果を得んのに、どんだけのテレズマ遣うかって話よね」

上条「……そっか。確かに得体の知れない相手だが、だからって『魔術サイドのセオリー』からは逃れられないのか……!」

建宮「そもそものネクロノミコンだって、どっかの誰かが『造った』シロモノなのよ」

レッサー「裏を返せば『20世紀の魔導書書きの技術で造られた』のであり、決して例外やキワモノではない、と」

建宮「俺が個人的に睨んでいるのは、クトゥルーに関わった者が例外無く『発狂』するのよな」

建宮「あれ、何かに似てると思わないのよ?」

上条「頭がおかしくなる……?」

レッサー「なんかありましたっけ?つーかなんで皆さん私を見てんですか?」

ベイロープ「――そうか!『原典』の精神汚染よ!」

フロリス「レッサー、もうちょっと勉強しなよ」

ランシス「素人と同レベルて……」

レッサー「ぐぎぎぎぎ……」

建宮「巷にある『クトゥルー』の魔導書、それらは本当に『クトゥルー』なのか?」

建宮「――『読んだ者は力を得て、同時に身の破滅を呼ぶ』――」

建宮「――それは『原典』の魔導書と同じなのよな」

シャットアウラ「待ってくれ!その言い方だとクトゥルー神話の作者が『そっち』の知識を持っていて!」

シャットアウラ「『既存の魔導書の関係をクトゥルーの設定に引用した』みたいな言い方に聞こえるぞ!?」

建宮「可能性はある、とだけ言っておくのよ……ま、別に力を求めた者が破滅する話なんぞ、古今東西珍しくも無いのよな」

上条「とにかく脅威は脅威だけど、既存の魔術師とそんなには変わりが無い、って事なんだよな?」

ベイロープ「対策がやりにくいっちゃやりにくいけど、そんなもんは誰が相手でも同じよね」

レッサー「とはいえですよ、知ってるに越した事こたぁないでしょーがねぇ。うむむむ」

フロリス「今っから全員で小説でも読む?ワタシはちょっとパスしたいなぁ」

建宮「あー……”それ”が来た理由の二つ目なのよ。向こうさんの出方を教えに来たって言うのよな」

444 : 以下、名... - 2014/06/24 11:20:09.38 zTTXki+Z0 302/1732

上条「あぁ、こないだやりあったからって?」

建宮「そっちは一つ目なのよ。禁書目録の『非公式見解』は伝え終わったのよな」

上条「え!?今のインデックスの解釈だったの!?」

ベイロープ「向こうさんの立場上色々あるのだわ」

フロリス「てかボカしてんだっからツッコムの止めなよ。つーか空気読めっての」

鳴護「誰かに責められる当麻君って新鮮……!」

シャットアウラ「いいぞもっとやれ!」

建宮「いやでもアレ、なんつーか――アレ、なのよな?」

ランシス「やっぱ、そう思うよね……?」

建宮「どう見ても――まぁ、五和には言わないでおくのよ。そっちの方が面白そうだし」

建宮「ともかく!こっからは俺達が日本に居た頃の話に聞いた話!」

建宮「『野獣庭園(サランドラ)』の安曇阿阪、別名”墓穴漁り”――」

建宮「――野郎は『タダの魔術師』なのよな」

453 : 以下、名... - 2014/07/01 10:49:41.85 ce+frY1U0 303/1732

――六人病室 深夜

上条「待て待て。連中クトゥルー教団名乗ってるよな?だってのに他の魔術遣うってのかよ?」

建宮「んー、ま、そこら辺は結構難しいのよな。考えられる点は二つ」

ベイロープ「そうね、アイナオ・クルス――ケルト十字って知ってる?十字架の背後に丸い輪っかくっがついたデザインの」

レッサー「所謂、『太陽を示す円環』と『太陽と地平が交わる十字』の融合した形です」

ランシス「……あれ、太陽じゃなくって、月」

レッサー「大昔は月信仰も盛んでしたからね。ま、そこは意見が分かれていますが」

上条「あぁ何か映画で見た事ある気がする」

ランシス「あれ、『キリスト教が布教されるよりもずっと昔から使われてきた』、の……」

フロリス「十字教言いなよ。てーかぶっちゃけんのイクナイ」

鳴護「……はい?十字教が信仰されるより前から、十字架使ってたんですか?」

ベイロープ「元々はルーンと同じ魔術様式の一つだったのよ。一説にはアレ自体もある種のルーンだって話もあるぐらいだし」

建宮「『十字架』ってぇのは『神の子が我らの罪を背負われた』という象徴。それが十字教の根底にある『原罪』の概念なのよ」

建宮「が、それとは別にアイルランドでは『死と再生のシンボル』としてケルト十字が使われていたのな」

上条「ウロボロスの蛇のような『円環』……?」

レッサー「おっ、よくご存じですねー。系譜は同じですよ」

上条「昔――いや、最近誰かから聞いたような……?」

ランシス「聖パトリックがアイルランドで布教を始め、私達は受け入れた……」

ランシス「……その時にケルト十字は十字教のシンボルに代わった、の」

上条「へー?同じ十字架だし大事だから、一緒くたに崇めたみたいな?」

レッサー「だけじゃないですね」

フロリス「ワタシの地元でも『ウェールズの赤い竜(Y Ddraig Goch――ア・ドライグ・ゴッホ)』って伝承があんだけどさ」

上条「イギリスっつったら竜退治?」

フロリス「半分アタリ。でもってハズレ」

フロリス「『赤い竜』は『白い竜』を退治した正しい竜であり、ウェールズの象徴になってんの」

上条「あれ?十字教のドラゴンは悪者じゃなかったっけ?」

フロリス「そんだけワタシらとは切り離せなかったって事っしょ、多分」

ベイロープ「ちなみにそっちのアフロが着てる赤十字ロングTシャツ、聖ゲオルギウスのシンボルってのが有名だけども」

ランシス「アーサーの赤十字でもある、うんうん」

454 : 以下、名... - 2014/07/01 10:52:34.50 ce+frY1U0 304/1732

建宮「『異教を取り入れる』ってのはどこの国でも当たり前のようにしているのよ。十字教の悪魔は元々シュメールの悪魔」

建宮「日本の仏教はインドの神様。シヴァ神も大自在天や大黒天として崇められているのよな」

建宮「我ら天草式十字凄教も十字教の聖母信仰へ観音様を取り入れ、マリア観音とか生み出しているのよ!」

シャットアウラ「……それ逆に失礼じゃないか?」

フロリス「てーか隠れキリシタンは『原罪も許した』って超解釈してたから、ローマ正教との仲はあんま良くなかったのだわ」

建宮「兎にも角にも!魔術師が他の信仰を取り入れてアレンジするのは珍しくも無いよな!」

上条「そっか。じゃ安曇は『元々別の魔術系統を使ってたけど、クトゥルー風にアレンジしている』で合ってるか?」

ベイロープ「それが一つ目の推測。もう一つは『偽装』よ」

鳴護「自分達の正体を知られないようにするため、でしょうか?」

建宮「俺はどーもその説が合っているとは思えないよのな」

レッサー「ありそうな話ですけど、どしてまた?」

建宮「安曇阿阪はお前さんがたの前で術式を使っているし、名乗りも上げているのよな」

建宮「そっから野郎の身元がバレで、禁書目録に解析されて、日本の魔術師界を知ってる俺が派遣された」

建宮「隠すんだったら徹底的にしなければ意味が無いのよ」

ベイロープ「……いや、なんか、おかしい。納得がいかない。腑に落ちない」

レッサー「ベイロープさんの『勘』は今一精度に欠けますけどねっ!」

ベイロープ「結果的には『ブリテンのため』になったんでしょーうがっ!あぁっ!?」

レッサー「おーけー落ち着きましょうベイロープ?まずはその花瓶を離す所から対話を始めるべきだと思うんですよ、えぇ」

レッサー「花瓶を離して話すとはこれ如何にっ!?」

上条「やめろ無理矢理ボケるな」

鳴護「ふなっし○プリッツを買ったら、丁度頭の所が切り込み線になってて、『え!?頭を切断するのっ!?』って思いましたっ」

上条「ARISAそんな日常あるあるは要らん!つーかアリサふなっ○ー好きか!?」

ランシス「……切っちゃったの?ざっくり?」

鳴護「袋の底の方をこう、チョキチョキって」

レッサー「現役アイドルの方がインパクトが強い!これはなんとかしなければ……!」

上条「いいから話を聞け。文字通り雷落とされっから」

ベイロープ「てーか話す機会が遅れたけど、トンネルの中に居た『アレ』の事なんだけど」

ベイロープ「『アレ』は科学サイドのバケモノよね?」

455 : 以下、名... - 2014/07/01 10:55:12.04 ce+frY1U0 305/1732

シッャトアウラ「待ってくれ!私達の世界でもあんなのは聞いた事が無いぞ!?」

ベイロープ「行動原理が『生物』に限りなく近い。尚且つ『進化』する」

ベイロープ「何よりもテレズマ――『魔力』が感じられない」

ランシス「ビリビリ……無かった」

シャットアウラ「『術式』よりも『生物』らしいと?」

建宮「俺達の流儀はよ。自分達の良いように、変えたいように世界を改変するってぇのが根底にあるのよな」

建宮「例えば『生ける鎧(リビングアーマー)』を作るんだったら、鎧へ仮初めの命と自我を与える。シンプルな話なのよ」

シャットアウラ「フィクションではよくあるが、目にした事はないぞ」

上条「シェリーのゴーレム――ほら、夏頃学園都市で土人形の騒ぎがあったろ」

シャットアウラ「あれもお前たちの仕業だったのか」

ランシス「一纏めにされると、うーん……?」

建宮「けどそちらさんはまず、『鎧状の命を産み出す』って所から始まる」

建宮「脳を造って、筋肉を開発して、骨格を拵えて――んで、仕上がったヤツも『生物』である以上、その特性に付随するアレコレからは逃れられんのよ」

ベイロープ「私とマイ――こっちのアレはアイツから『恐怖』を感じた。なりふり構わずに混乱するのは、とても生き物らしいと」

建宮「対してゴーレムは魔力が切れるまで命令をこなすのよ。筋肉も血も通っておらず、生存本能も無い」

レッサー「なーるほど。そう考えると『アレ』はそちらさんの生体兵器と考えてもおかしかないですよねぇ」

シャットアウラ「しかしっ非効率的だ。どう考えても『兵器』として非効率的過ぎ――」

シャットアウラ「――いや、違うな。だからこそ、か」

鳴護「お姉ちゃん?」

シャットアウラ「学園都市は無駄一つ無い合理主義――合理”原理”主義で動いていると思われがちだが、それは誤りだ」

シッャトアウラ「実験をすれば成功するまで、相応の無駄や失敗は出来上がる。誰しもが一直線に答えを出せる訳もない」

シャットアウラ「1の目的へ対し、100のプロジェクトチームを作り、それぞれの方法で研究を進める」

シャットアウラ「成果を上げたチームが評価され、他のチームは全て失敗」

シャットアウラ「何らかの分野で再利用出来そうであれば横滑り、そうでなければ破棄される」

シャットアウラ「そんな過程で造られたのが、『アレ』と考えれば……!」

上条「『兵器』としちゃ失敗作……けど、”だからこそ”『濁音協会』みたいな人の連中が使える……!」

シャットアウラ「……自虐を承知で言えば『失敗作も手を汚さずに廃棄出来る』という、超合理主義の考えなのかも知れないが」

上条「それはちょっと考えたくないな……あちこちに『失敗兵器』がバラまかれてるって事だろ?」

456 : 以下、名... - 2014/07/01 10:56:30.05 ce+frY1U0 306/1732


レッサー「そうじゃなかったら改めて『鬼灯様に代わって呵責しちゃうぞ(はぁと)』って事で」

上条「……ふーん?」

ランシス「ちなみに今のは”月”と”鬼灯”が被ってるレッサー渾身のネタ……っ!」

レッサー「やめてとめて滑ったギャグを解説しないでプリーズ!」

ベイロープ「んで、二つ目の『偽装だったんじゃね?』論について。私の意見なんだけど」

ベイロープ「『隠す』にしちゃ甘い所あるわよね?堂々と自己紹介カマしたり、術式披露したり」

ベイロープ「何かを『隠してる』ような気はするんだけど、『何か』が分からないのだわ。それが気持ち悪い」

建宮「そいつぁ考えすぎだと思うのよ。だって連中が出張ってきたのは『ここでケリつけるため』よな?」

建宮「あん時白黒つけるんだったら、そりゃ出し惜しみもしないのよ」

ベイロープ「うーん……?」

シャットアウラ「ブラフ、ではないのか?名の知れた異能者でも、実際の能力が知られているなんてまず有り得ないぞ」

シャットアウラ「『発火能力者(Fire Starter)』が二つ名なのに、実は温度変化が得意でした、という例もある」

建宮「ま、考えるのは結構なのよ。相手に隙を突かれない程度には」

レッサー「それよりか今は分かってる事だけでも聞きたいですよねぇ、つか私ジャパンの魔術師界に興味津々なんですけどっ!」

上条「実は俺も気になってた。日本の魔術師は天草式以外二、三人しか知らないし」

シャットアウラ「結構多いだろう、それ」

建宮「あー、まぁぶっちゃけ十字教みたいな影響力は無いのよ。デカい団体が統轄してる訳でも無く」

建宮「戦前は神社庁って国の機関があったんだが、戦後解体されて民間の神社本庁へと姿を変えたのよ」

建宮「そこら辺の『隙間』を突かれて学園都市が出来って背景もあるのよな」

レッサー「悪い魔術師とか出て来たらどうするんです?まさかスルー?」

建宮「大抵は地方ごとに『顔役』と言われる結社が幾つかあって、そこが人の道を外れた連中を締めているのよな」

上条「何か、うん」

建宮「言いたい事は分かるが、仕方が無いのよ。刑法じゃ呪いは大した罪には問われないのよな」

建宮「しかも全てが全て適切に裁かれる事もないのよな。最近は魔術師そのものが減少傾向にあるのよ」

レッサー「これまた意外ですなぁ。ニンジャとかメッチャ憧れますけど!」

鳴護「それ、魔術師かな……?」

457 : 以下、名... - 2014/07/01 10:57:45.29 ce+frY1U0 307/1732

建宮「……まぁ、個人的に言わせて貰えれば?仏道には八斎戒――俗に八戒という戒めがあるのよな」

レッサー「西遊記の猪八戒さんが守ってる奴ですね」

鳴護「あ、だから八戒さん?」

レッサー「ですです。原作じゃ割と真面目なブッティストなんですよー」

建宮「まず基本となる五戒――殺すな、盗むな、色欲に溺れるな、嘘を吐くな、酒を飲むな」

建宮「加えて特定の時間に抱き合うな、食事をするな、豪華な寝具を使うな――で、八戒なのよ」

建宮「これ、どれだけの『聖職者』が守ってるのよな?」

上条「あー……まぁ、なぁ?」

シッャトアウラロープ「程度じゃないのか?堅持するのが難しいからこそ、戒めとされてるんだろうし」

建宮「袈裟の色と檀家の数で座る順番を変え、休みの日には高級外車を乗り回す連中が?」

建宮「実際、開祖である釈迦は妻帯して子も居たのに、全て捨てて修業の道へ入ったのよな」

建宮「それに比べて『真っ当』かどうかは知らんのよな」

建宮「……ま、本来、その土地土地の者が果たすべきだった役割を放棄し、今じゃ魔術や霊装すら知らない奴らか殆ど」

建宮「その分、『老舗』――所謂『お山』と呼ばれる所へ負担が行っているのよ」

レッサー「具体的に聞きたい所ですねぇ。やっぱり秘密なんで?」

建宮「おっとこれ以上は言えないのよな!」

建宮「高野山には裏高野、闇高野、元祖・高野、BB高野、高野幻想アリスマチックがあるなんて口が裂けても喋る訳には行かないのよ!」

レッサー「マジか……!?MANGAは本当にあったんですよねっ!」

ベイロープ「そんだけあったらバレるだろ。どんだけMt.KOUYA広いんだ」

上条「途中からもう高野関係ねぇよ、てかさ」

上条「神裂は確か、戦いの中で『自分を守ってくれた仲間が死ぬのが辛い』みたいな事言ってたけどさ、それ」

上条「お前達の『戦ってた相手』ってのは、一体――」

建宮「――『救われぬ者に救いの手を』」

建宮「それが我らの全てであるのよな、上条当麻」

建宮「この世界はお前さんが知らない所で、いつも誰かか何かと戦っているのよ。それは天草式だけじゃないのよな」

上条「……ヤバそうになったら、またぶん殴ってでも手伝いに行くぞ?」

建宮「二度も冤罪で殴られたくはないのよ、その時はこっちも本気出すのよな!」

レッサー「♂×♂の友情ってアリだし嫌いじゃ無いと思いますっ!!!」

上条「突然どうしたっ!?つーかむしろ野郎同士の間には友情しか芽生えない!」

建宮「五和に知られたら無言で撲殺されそうなのよ……」

458 : 以下、名... - 2014/07/01 10:59:35.84 ce+frY1U0 308/1732

レッサー「まぁそちらさん割かし末期ですけど、こっちもそんなにゃ変わりはないですよねぇ、はい」

レッサー「聖職者の幼児性愛スキャンダルに、バチカン銀行と揶揄されるマネロン用の地下銀行」

ベイロープ「年利6%で非課税だっけ?ただし数パーセントは『信仰のため』に使うの義務づけられてるって」

レッサー「何を以て『信仰』とするのかってぇ問題ですよねー」

フロリス「果てはマフィアとの癒着もおおっぴらに言われてるからねぇ」

建宮「どこの世界も世知辛いのよな。代わりにペイガニズムが台頭しているのよ、嘆かわしい話よ」

鳴護「ペイガニズム?」

シャットアウラ「古い信仰――ウィッカやドルイドなど、十字教じゃ異端とされた信仰の復活、だったか?」

建宮「いんや。黒髪のどう見ても日本人にしか見えないねーちゃん、それは違うのよな!」

シャットアウラ「おい、私の外見に文句があるんだったら話を聞こうか?なぁ?」

建宮「連中は『新興』宗教なのよな。所謂カルトと呼ばれる異端者なのよ」

上条「あれ?ウィッカ?は知らないけど、ドルイドってケルト系の、十字教以前の宗教だよな?」

レッサー「んーむむむむむむむ、どう説明したもんでしょうなぁ」

レッサー「あ、じゃいっその事結婚しましょうか?」

上条「あ、そっかー、そうすれば――ってバカ!?どこをどう超飛躍させればその結論になんだよ!?」

レッサー「上条さん上条さん、私こないだ日本へ行った時、”洞爺湖”って書いた木刀買ったんですよ!学園都市製の!」

鳴護「意外に流行りへ乗るよね、今思ったんだけど」

建宮「ちなみにそれ洞爺湖サミットで各国要人のSPが、土産物さんへ殺到してマジ買ってったのよな」

レッサー「空港のお土産物売り場には、他にもシンセングミ?のショールも売ってたんですが――」

レッサー「――もし私が”それっぽい格好したら、シンセングミになれる”んでしょうかね?」

上条「……はぁ?ガワだけ似せるのは出来るだろうけど、でも似てるだけでホンモノじゃねーだろ」

鳴護「歴史的には100年以上前になくなってる組織だしねぇ」

レッサー「それと同じですよ。『外見は似せる事が出来るが、本質は全く違う』存在です」

ベイロープ「言ってみればコスプレして”それっぽく”騒ごうってだけ。信仰の欠片もない宗教モドキよね」

フロリス「たーとーえーばードルイドなんか-、ウィッカーマンって-、儀式があるのさー」

フロリス「大きなヒトガタを造ってから、中へ生け贄を入れて燃やしちゃうの。ぼーっと」

上条「うわぁ……」

レッサー「引くかも知れませんけど、当時のドルイド僧や信者にとっては大真面目、つーか生け贄求めて戦争カマした記録もあるぐらいですよ」

ランシス「ケルトにとって、短い夏の到来を祝う大事なお祭り……」

ベイロープ「アメリカのおバカお祭りに『ファイヤーマン』ってのがあんのよ。デッカイ巨人作って、その周りでドラッグパーティ開くヤツ」

ベイロープ「フィナーレはその巨人に火を灯して盛り上がる――これが『ドルイド』だっつーんだから、鼻で嗤うわ」

459 : 以下、名... - 2014/07/01 11:01:14.43 ce+frY1U0 309/1732

建宮「元々『 Pagan(ペイガン)』ってのは”田舎者”や”異教者”を示す言葉だったのよな。十字教”系”から、それ以外を呼んだ蔑称」

ベイロープ「正確には『田舎者過ぎて十字教を崇める知恵がない』的なニュアンスね」

鳴護「ザビエルさん達も、そんな感じだったのかも?」

上条「どこの国も自分の国が世界の中心だって思うよなぁ」

シャットアウラ「今も居るがな――『アイツらは××だから理解出来ない』とか言う奴は」

建宮「にも関わらず、最近じゃ『ペイガン』が『復活させた異教の祭司』みたいな使われ方をしているのよな」

フロリス「而してその実体は、タダのヒッピーとアナキズムを煩った、社会不適合者の集まりなんだけどねー」

フロリス「日本でも『数百年の前の文明へ戻ろう!』とか言う人ら、居ない?あめ玉舐めてガン治しましょうっての」

上条「言われてみれば思い当たる点が……」

レッサー「文化自体をね、継承しようってぇ考えには共感出来るですよ。歴史的にも価値がありますからね」

レッサー「百歩譲って全然縁も縁もない民族が祭司……も、まぁ良いでしょう。信仰自体は自由ですからね」

ランシス「……でも、魔術師的にはない。てか遊びにしか思えない」

ランシス「彼らが連綿と信仰を続けてきた訳でもなく、祭祀の一部のみ、上っ面だけ……醜悪な模倣」

ランシス「信仰も無く儀式も間違い――そんな彼らに神が応える事は、ないの」

建宮「さっき言った新撰組も同じなのよな。幕末の動乱で敵味方粛正しまくった連中、彼らは彼ら以外に存在しないのよ」

レッサー「個人的な見解なんですが、もしも現代に彼らが復活したとしても、そう名乗る事はないでしょうね」

レッサー「一度終わってしまったもの、過ぎ去ってしまったものを偲ぶのは大切。けれど囚われるのは別」

レッサー「当時の思想を大事にして、現状を無視してまで同じ事を繰り返しても、それはただの人殺しですからねぇ」

ベイロープ「ま、別に剣を振るうだけが戦いって訳じゃ無いでしょうし、現代には現代の戦い方があるのだわ」

ベイロープ「……それしか出来ない、って不器用な奴もいるかも、だけど」

レッサー「ともあれ既存の宗教家、特に権威ある方々の劣化が激しくなったんでって」

レッサー「人は弱いですからねぇ。今までは信仰である程度カバー出来ていたのが、出来なくなるとバグを起こす。バッファでも足りてないんでしょうかね?」

レッサー「『古代の信仰の復活』へ”逃げ”たんでしょうな。現実と戦わず、戦えずに『理想のアレコレ』を造り上げて、そっちに縋る」

レッサー「笑っちゃいますよね-、あっはっはっはー!」

上条「笑えねぇよ、つーか痛々しいもの!」

建宮「かくしてどこの国でも宗教家の劣化で信仰離れが激しいのよな……少ない『本物』の負担は上がるばっかりなのよ」

シャットアウラ「……このまま行けば学園都市が何もせずに勝ちそうだな?」

シャットアウラ「残った側を『勝者』と呼べるのであれば、だが」

建宮「なぁに学園都市が出来てからたかだか半世紀。我ら天草式はその五倍も忍んだのよな!」

建宮「その程度で廃れる信仰であればそれもまた運命なのよ!」

ランシス「不思議だよねぇ。信仰の自由は大体の国家で認められてるのに、カミサマ離れが進むって」

レッサー「そう割り切れる方ばっかりなら良いんでしょうけどね」

ベイロープ「『オレ達がモテないのはアイツらが悪い』ってな具合に、一回は反学園都市運動起こされっちまってるし」

460 : 以下、名... - 2014/07/01 11:04:00.71 ce+frY1U0 310/1732

建宮「――最近、妙に霊障事件が起こるとは思わないのよ、少年」

建宮「都市伝説にしろ、心霊現象にしろ、神がかりな事件が多発している」

上条「都市伝説、つーかそれただのデマだろ?口コミで広がった無責任な噂話」

建宮「『それが本当だ』としたら、どうする?」

建宮「本来鎮護をすべき人間達が力を失い、異形のモノが氾濫していると、と言ったら?」

上条「んなっ!?大事じゃねぇか!」

建宮「――なーんつって!ってのは冗談なのよ!だーまさーれたーっ!」

上条「よし、取り敢えず建宮さんの幻想をぶち殺すか?あ?」

建宮「……でもま、俺は時々思うのよな。学園都市のような、ある意味科学万能の時代が来たって言うのによ」

建宮「科学の進歩と文明の成熟により人類の生活水準も、有史以来最高まで高まってるのよな」

建宮「だってのに『この虚しさはなんだ』と」

建宮「人が信仰を捨てる事は……ま、自由なのよな。神も仏も無い。そう断ずるのも勝手なのよ」

建宮「我らのように絶望して縋る者も居れば、棄てるの者も居る。むしろそちらの方が多いのかも知れんのよ」

建宮「また病や怪我に倒れたとしても、最先端医療やリハビリで大抵は治る」

建宮「不治の病と呼ばれたエイズであっても、今では正しく薬を投与する事で平均寿命程度まで寿命を延ばせる――しかし!」

建宮「未だ怪異は存在するのよ。人類にまとわりついた呪いのように」

建宮「『鰯の頭も信心』の、言葉があるようになんだって信心さえあれば、容易に克服出来る”筈”なのに」

建宮「どういう訳か怪異の噂話はネズミ算のように広まり、脅威が氾濫していく。それは――」

建宮「――『信仰』を人間が捨てる事によって、精神的に脆弱になってしまった証左じゃないのよ?」

建宮「人は闇を嫌い火を灯し、神を造って魔を打ち払ったのよな」

建宮「されど時代が進み、科学の進歩により神は時代後れとなった。その、顛末が『これ』かよ」

上条「納得行かないなぁ、それ」

レッサー「納得行く話の方が少ないですよ――ってどうしました、鳴護さん?」

鳴護「うーん……?思ったんですけど」

461 : 以下、名... - 2014/07/01 11:05:53.34 ce+frY1U0 311/1732

鳴護「『誰かに理解して欲しい』とか、『認めて欲しい』とか、切望する気持ちありますよね?」

レッサー「あー、自己顕示欲ですか?フリッフリの衣装着て踊るアイドルさん程じゃないでしょうが、皆さんお持ちでしょうな」

鳴護「違うの!?あたしは別にシンガーソングライター枠で応募した筈なの!」

鳴護「気がついたら、『あ、お洋服こっちの方が似合うわよ?』って言葉巧みに!どくろラビットの先輩さんみたいな衣装を着てたの!」

ベイロープ「……なんだろ、これ。この子見てるとレッサーと同じような目眩を感じるっていうか」

フロリス「あー、わかるわかる。なんなかチョロそうって感じだ」

建宮「悪い奴に『デビューさせて上げるから、分かってるよね?』とか騙されそうで怖いのよ」

上条「……もしかしてレディリーって悪いのは悪いけど、最悪っつー訳でもなかったんじゃ?」

シャットアウラ「一応夢自体は叶えているし、遺産関係も配分されるようになっていたからな」

シャットアウラ「――ま、なんであろうと落とし前はつけるが」

鳴護「……そうじゃなくって!その、なんて言うかな、孤独な人、結構多いよね?」

鳴護「普通に暮らしてるだけなのに、何か不安で不安でたまらないー、みたいな人」

上条「誰だって大なり小なりそうなんじゃねぇの?学校に職場、友人関係や上下関係」

上条「生活レベルが上がったからって、考える事自体はそんなには変わんないだろ」

鳴護「昔の人はさ。神様が見てるから真面目にしようーとか、神様が突いてるから大丈夫だよー、とかして頑張ってきたんだよね?」

建宮「ま、端的に言えばそういう話なのよ」

鳴護「でも今、神様を信じる人は少なくなってるかな?」

鳴護「その、昔々にあった『本物』とは違うけど、間違ったとしても動機自体は同じだと思うんだよ」

鳴護「『誰かに助けて貰いたいよ!』、『私をもっと見て欲しいなっ!』って感じで」

シャットアウラ「……アリサ、やっぱり超可愛いな」

上条「話違うよな?んな話してなかったよな?」

シャットアウラ「既存の信仰は減っては居るが、全体としてはそう変わっていない、か?」

鳴護「あと、人が信じるのは友達とか家族とかもそうだし、そこら辺は変わらない――変わって欲しくないなぁ、って思います、はい」

レッサー「……」

462 : 以下、名... - 2014/07/01 11:07:56.91 ce+frY1U0 312/1732

ランシス「……どったの?両手で顔を塞いで……?」

レッサー「まぶしくて」

ランシス「あー……」

レッサー「『次はどうボケようか?』とずっとずっと考えていた私は恥ずかしい!」

上条「やっぱそうだったのかコノヤロー」

ベイロープ「……真面目にやれ、真面目に?一応あなたは看板なんだから」

レッサー「何でですかっ!?つーかゲームバランス悪すぎでしょうが!」

レッサー「天然!ぽわぽわ!歌上手い!可憐!着やせ!属性揃いすぎじゃないですかねっ!?」

上条「属性言うな」

鳴護「うぇ?あたし天然じゃない、けど?」

レッサー「ホォラ見なさい!アレが天然のテンプレですよ!どうしろっつーんですか!どう戦えば良いんですか!」

レッサー「明らかにヨゴレの私には分が悪すぎやしませんかねっ神様!」

上条「自覚はあったんかい」

レッサー「確かに歌以外は私といい勝負ですけども!」

上条「待てやコラ?いつ誰がお前に可憐っつったんだ?あぁ?」

レッサー「こないだ駅前でタベっていたらですね、知らない男の人が近づいてきまして」

上条「待てよ!?これ完全にしょーもない小話へ行く方向じゃねーか!」

レッサー「『やぁKaren、どうしたんだいこんな所で?』」

上条「やっぱり可憐違いだよ!てかオチは読めてた!」

レッサー「……くっ!可愛い私がナンパされたという話をちょい盛って、嫉妬を煽らせる作戦だったのに……!」

建宮「ちなみに盛らないと?」

ランシス「『マックでご飯食べてから、本屋回って帰った』、だけ……」

上条「ナンパされたという事自体が盛りか!?」

レッサー「まぁ事実を捏造してまで気に引きたい、的なポジティブな評価をお願いしますよ」

フロリス「うーん、まぁ、頑張りたまえよ。てか、そこまでする価値無いと思うけど、コレに」

上条「コレ言うなよ!俺が一番分かってんだからな!」

レッサー「フロリスの鬼っ!悪魔っ!高千穂っ!」

レッサー「折角人が”鬼 悪魔”と検索したら、『もしかして;高千穂?』ってなるようコッソリ広めてたのに!」

レッサー「何バラしてんですか!しまいにゃ怒りますよ自称17歳のオッサンどもめ!」

上条「お前は誰と戦っているんだ。てか誰?」

463 : 以下、名... - 2014/07/01 11:08:53.88 ce+frY1U0 313/1732

レッサー「落選したのに国会議員気取りの家事手伝いさんへ」

レッサー「『お前は自分を有能だって言うけど、お前は失言カマした元大臣より比例順位低いし、何よりも有権者から一番無能だって審判受けてんだよ』と宣ったり」

レッサー「他にも『労働者の党なのに党首が一回も労働経験無しって何?党役員が労働だって言い張るんなら、無償で新聞配達する人らにも報酬支払え』と言い放つ猛者です」

ランシス「ブラックなのかレッドなのか、いい加減はっきりさせるべき……」

レッサー「例えるなら――そうっ!空を駆ける一筋の流れ星!」

ランシス「るぱんざさーっ……」

上条「収集つかねぇよ!?ボケる時はツッコミの負担も考えてあげて!」

建宮「――と、ここで休憩を入れるのよな。そっちの嬢ちゃんはクールダウンするのよ」

ベイロープ「オーケー、レッサー顔洗ってきなさい」

フロリス「レッサー、ハウスっ!」

レッサー「わふーっ!」

上条「全然堪えてない!?」

レッサー「ネタを振られたら反射的に体が動く……!?」

ランシス「……それ、ただの芸人気質」

上条「俺ら、深夜の病棟で思いっきり騒いでんだけど、いいんかな?」

シャットアウラ「そこら辺も含めて『特別待遇』なんだろう」

上条「てか気になってたんだけど、さ」

シャットアウラ「警備体制はそれなりだ。フランス当局から派遣されている軍人がツーチームで常時待機」

シャットアウラ「後は『たまたま同じ病院に検査入院している』私の部下達が6人程」

建宮「丸腰なのよ?」

シャットアウラ「当然だ。私達はゲストなのだから。無理が効く訳が無い――ものの」

シャットアウラ「仮にテロリストと接敵した場合、『相手の武器を奪って反撃』するのは自衛の内、という事で話がついている」

シャットアウラ「テロリスト達は『そんな武器持ち込んでいない』と言うかも知れないな――開く口が残っていれば、だが」

建宮「中々腹芸が得意なのよ」

上条「あぁいや、そっちは別に心配してねーんだけど。アリサの方で」

鳴護「なになに?何でも答えるよ?」

464 : 以下、名... - 2014/07/01 11:10:20.77 ce+frY1U0 314/1732

シャットアウラ「……チッ」

上条「せめてちょっとぐらい隠そう?今一応味方って設定なんだから」

鳴護「まぁまぁお姉ちゃんも、ね?」

上条「あー……さっきの話聞いてて思ったんだけどさ。アリサはアイドルになりたかったんだよな?昔っから?

鳴護「アイドル路線があたしの夢、みたいなのはちょっとアレだけど……うん、まぁ、そうだよ?それが?」

上条「うーん、まぁ大した事じゃ無いんだけど、どうしてアイドルになりたいのかなって思ってさ」

鳴護「……あー……」

上条「あ、ごめん。何か言いにくい事だったのか!?」

鳴護「って訳でもないんだけど、うーん……」

鳴護「願掛けって、口に出すと叶わないって言うよね?」

上条「あーはいはい!まだ叶ってないのな、そかそか、そりゃ悪かった」

鳴護「今もね、ある意味叶っちゃったようなものだけど」

上条(そう言ってアリサはシャットアウラを見る)

上条(シャットアウラが叶えた?)

鳴護「……当麻君がなってくれるんだったら、話しちゃってもいいかなー、なんて思ったり。思わなかったり?」

上条「どっちだよ」

鳴護「……まぁ、一番叶えたかったお願いは――」

鳴護「――もう、叶わないんだけど、ね」

465 : 以下、名... - 2014/07/01 11:11:53.01 ce+frY1U0 315/1732

――深夜の病棟 廊下

上条「……」

上条(病院って所はつくづく殺風景だと思う)

上条(入院が慣れてる――って誉められた話じゃないが――俺でも、やっぱり違和感が拭いきれない)

上条(昼間とも違い、また夜とも違って、照明の多くは必要最低限を残して消してしまっていた)

上条(目立つのは非常灯の灯り。それが無機質に白い壁を橙色に染め上げていた)

上条(つい最近、夜の学校や病院へ忍び込み時にも感じた。なんて言ったらいいのか、こう、アレだよ)

上条(普段騒がしい所から急に静かになったような?形容しがたい澄んだ空気ではある)

上条(とは言っても自然に囲まれた清々しさはなく、病的なまでに異物が排除した感じ)

上条「……」

上条(カエル先生に聞いた事がある。「どうして夜は照明を落としてのしまうのか?」と)

上条(……まぁ「予算削減」みたいな答えが返ってくると思ったんだが、意外にも俺の予想は外れた)

上条(『患者の中にはずっとここで暮らしている人が居るね?何ヶ月も、下手をすれば何年も』)

上条(『昼夜を問わず、衰えない照明を点けたままだったら、体内時間が乱れてしまうね?』、だそうだ)

上条(だからこうやって光量をギリギリまで落としている……例えるならば、そうだな)

上条(街中のスクランブル交差点。大抵は人で一杯のそこを、夜何気なく通りかかったとしよう)

上条(人影も無く、信号機が黄色く点滅しているのが、どこか物悲しい)

上条(……いつだっけかな?黄泉川先生に車で送って貰った時、見た光景)

上条(檻に入ってない猛犬と狂犬、あとライオンと同乗していた……?まぁ、いいか)

上条(人は居ないのに、人のために造った何かが黙々と動いているみたいな?)

上条(……不安?違和感?焦燥感?)

上条(どれでもなく、どれにも近い……強いて言えば感傷、か)

上条(寂しいような、悲しいような、何とも表現しにくい)

上条「……」

上条(……旅に出てからのアリサは、少し変だ)

466 : 以下、名... - 2014/07/01 11:13:45.38 ce+frY1U0 316/1732

上条(頭のアレな連中に狙われてるんだから、当然と言えば当然だけどさ)

上条(慣れてない海外で緊張しているせいもあるんだろう。けど、それにしては)

上条(テンションの上下が激しいって言うかな?うーん……?)

上条(こんな時、土御門や青ピだったら、適当に遊びに行けばどうにかなるんだろうけど)

上条(アリサを同じような扱いにするのは……マズい、んだよな。きっと)

上条(そうなってくると頼みの綱はレッサー達……)

上条(あぁ見えてレッサーは気ぃ遣いだし、少なくとも俺よりかは上手くやってくれそうな――)

上条「……」

上条(だ、大丈夫だよ!ベイロープとかも居るしっ!)

上条(俺に出来る事っつたらメシ作るのと『連中』の露払いか)

上条(建宮の話はまだ途中だけど。それなりの光明も見えてきた。一方的に振り回されずに済みそうだ、ってのはデカい)

上条(四幹部っつったっけ?アルフレドにクリストフ、安曇に団長)

上条(向こうの居所さえ掴めれば、政府公認で魔術師の討伐隊が動くって言うし)

上条(次行くイタリアはローマ正教のお膝元。ヴェント達が守ってくれ――)

上条「……」

上条(――る、かどうかはまだ分からないけど!少なくとも連中にとっては難敵なのは間近いない!)

上条(そもそも連中が一番力を入れていた”最初の一撃”――存在を気取られぬようにしながら、最大戦力で不意打ちするのは凌いだ)

上条(現地の機関も敵対者ありきで守ってくれるし、あの規模で仕掛けられるのはまず不可能……)

上条(……なんだ。そう考えると怖くもないか。そんなには)

上条(逆に言えばユーロトンネルがどれだけ薄氷踏んでたか、って事になるが。まぁいいや)

上条(さってと。あんま遅れない内にコーヒー買って戻ろう)

上条(あ、全員分買った方が……いや、深夜だし。あと数時間で夜が明けるっつーの)

上条「……?」

上条(……つーかさ、俺今思ったんだけど。てかスッゲー根本的な話なんだが)

上条(外国って、自販機あったっけ……?)

467 : 以下、名... - 2014/07/01 11:14:43.87 ce+frY1U0 317/1732

上条(病院が舞台のアメリカのドラマじゃ、紙コップのコーヒー自販機が出てたけど)

上条(よく分かんないけど、ロビーの方に行けば何とかなる、か?)

上条(このまま戻るのも、何か格好悪いし)

上条「……」

上条「……ロビー、ってどっちだっけ?」

カツ、カツ、カツ、カツ、カツ……

上条(パンプスの音……あ、誰か居るな?白衣?病院のスタッフだよね?)

看護婦「……」

上条「あ、すいませーん?ちょっと聞きたいんですけど」

上条「コーヒーの自販機って、どこにありますかね?」

看護婦 スッ

上条「あっち?どうも、ありがとうございましたっ」

カツ、カツ、カツ、カツ、カツ……

上条(良かったー、日本語が通じる人が居て。つーか言ってみるもんだな。うん)

上条(……あ、そか。プレインストールした翻訳アプリ使えば良かったんだ――)

上条(――って、病院だから鞄の中に電源切って、カバンに入れっぱなしだっけ?普段からあんま使わないしなー)

上条「……うん?」

上条(そういや今の看護婦さん、どうしたんだろうな?)

上条(なんで”顔全体を包帯でぐるぐる巻きにして”たんだ?怪我?病気?)

上条「……」

468 : 以下、名... - 2014/07/01 11:16:15.59 ce+frY1U0 318/1732

上条(……いやいや、違う違う!そうだよ!アレだって!ドッキリ的な!)

上条(まっさか深夜の病院でだよ?そんなベッタベタなオバ――いやなんでもない!それっぽいのが出る訳が無いって!)

上条(だって居ないの分かってるし?つーか子供じゃないんだから、そんなにビビる必要は――)

………………

上条「……うん……?」

上条(俺とすれ違った看護婦さんの向かった先、つーか方向からすれば真後ろ)

上条(遠ざかった足音が消えたのと引き替えに、何か、別の、音が聞こえる……?)

………………キュル………………

上条「……車輪……?」

上条(おかしな、音だ。三輪車を回しているような感じ)

上条(まさか深夜の病院に三輪車が、っていうか子供がキュルキュル漕いでる筈が無い)

……キュルキュル…………キュル………………

上条「……?」

上条(遠くの非常灯に映し出されたのは、当然三輪車ではなく。もっと病院に相応しい)

上条(車椅子、だった)

上条「……驚かせんなよ」

上条(だよなぁ。病院だもんな?ド深夜に三輪車乗ってる子供が居たら怖いよな)

上条(……ま、入院患者の誰かなんだろうけど、)

……キュルキュルキュルキュル……キュルキュルキュル……

上条「……あれ?」

469 : 以下、名... - 2014/07/01 11:17:07.00 ce+frY1U0 319/1732

上条(確かにあってもいい、ってかむしろ車椅子は病院にピッタリだ)

上条(勿論、席には人が座ってる。無人だったってオチもない。けど――)

上条(――どうして『搭乗者の両手が動いていない』んだろう?)

上条(この廊下には別段キツい傾斜がある訳でもなく、ビー玉を落としたら直ぐに止まりそうだ)

上条(慣性――おばちゃんが自転車に乗る時、何か二・三回漕いでから乗るのってあるよな?)

上条(アレみたいに、勢いがついている――に、しては速すぎる!)

上条(人が軽く走る程のスピードで!車椅子はこっちへ向かってきていた!)

上条「お、おい、これってまさか――」

上条(”ホンモノ”の幽れ――)

フロリス「モモンガーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!」

上条「のわああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

フロリス「……」

上条「………………え?」

フロリス「……」

上条「フロリス……?なんでお前車椅子に乗っ」

フロリス「………………ぷっ」

上条「あ、テメっ!?騙しやがったな!?」

フロリス「ぷ、くくくくくくくくくくくくっ!やったよ!大成功!」

フロリス「『のわーーーーっ』だって!『のわーーーっ』って」

上条「テメこらやって良い事と悪い事があんだろうが!?本気で『濁音協会』かと思ってビビったんだからな!?」

フロリス「いやぁ?今のリアクションは違ーくない?ないない?アレでしょ?」

フロリス「『深夜の病院でオバケに出会った』ってぇ反応じゃない?ね?ねぇ?違う?」

上条「だってしょうがないじゃない!誰だって驚くさ!」

470 : 以下、名... - 2014/07/01 11:18:42.10 ce+frY1U0 320/1732

上条「つーかお前どうやってんの?助走つけて車椅子走らせたにしちゃ速いんだけどさ」

フロリス「ん?ワタシの霊装見せなかったっけ?これこれ」

上条「肩んトコに翼の……?」

フロリス「座ったまま『金の鶏冠(グリンカムビ)』をパタパタと」

上条「……お前、霊装まで使って脅かしに来るって魔術師としてどうよ?」

フロリス「異能者はイタズラで能力使わないのかにゃー?」

上条「あー……使いますねー。むしろそっちがメインなんじゃねぇの?的な頻度で使いますよねー」

上条「てかフロリスの貸しは利子つけて払ったじゃねぇか!だってのにこの仕打ちはなんだよっ!蹴られ損か!?」

フロリス「それはそれ、これはこれ」

上条「出たよ!それ母さんがよく使う台詞だよ!」

フロリス「あと”さん”をつけろよジャパニーズ」

上条「……で、なに?フロリス”さん”は俺のSAN値をゴリゴリ削るために着いてきたの?暇だねー?」

フロリス「なーんか言葉にトゲがあるなぁ?折角ワタシが親切で来てやったってのに」

上条「イギリスじゃ人様をドッキリさせるのが親切かあぁコラ!?」

フロリス「逆ギレよくないと思いまーす」

上条「正統な怒りだよ!レッサーといいお前といい、どっかズレてませんかねぇっ!?」

フロリス「ちゅーか、ここでどったのジャパニーズ?トイレはあっちだよ?」

上条「……いや、ここで素のテンションに戻られてもアレなんだが」

上条「何か喉渇いちゃってさ。コーヒーでも飲もうかと」

フロリス「おっ、いいねぇ。付き合おう」

上条「帰れよ!俺の心の平穏のために帰ってくれよ!?」

フロリス「あっちゃー、そんなに邪険にしなくってもいいじゃんか。ワタシかなんかしたっけ?」

上条「文書と口頭どっちがいい?俺的には裁判所もアリだと思いますけどねっ!」

フロリス「ノーサンキューで。つーか興味ないし」

上条「待てコラテメー!あんな包帯ナースまで用意しやがって!」

471 : 以下、名... - 2014/07/01 11:20:41.31 ce+frY1U0 321/1732

上条「どう考えても事前に用意してなっきゃ無理だろうがよ!」

フロリス「あーはー?ナースぅ?」

上条「そうだよ!お前が来た方に行った人だ!」

フロリス「知らない。ナニソレ?」

上条「……え?マジで?」

フロリス「マジでマジで、うん」

上条「冗談だよね?実は知ってましたー、ってオチなんだよね?」

フロリス「つーかワタシ誰ともすれ違わなかったし。それこそ『ホンモノ』にでもあったんじゃなーい?」

上条「……」

フロリス「……」

上条「あのぅ、フロリスさん?ちょ、ちょっとお願いがあるんですけどね?」

上条「いやあの、俺達って不幸な出会いをしたじゃないですか?まぁ、ある意味時代が生んだ悲劇って言うか、運命の悪戯的な?」

フロリス「うん、それで?」

上条「ですからね、俺としてもいい加減仲直り的なアレですね、した方が良いんじゃないかって思いましてね」

フロリス「頭が高いぞジャパニーズ!人にモノを頼む時には態度ってモンがあるよねぇ?」

上条「自販機まで付き合って下さい!お願いしますっ!」

フロリス「Pardon, Aha?(もっかい言ってみ、あん?)」

上条「実は最初っから思ってました!フロリスさんって優しくて美人で気立ても良い娘だなぁって!」

472 : 以下、名... - 2014/07/01 11:21:49.81 ce+frY1U0 322/1732

フロリス「そこまで卑屈になられると、ちょっと引くけど……」

上条「そこをなんとか!俺一人じゃ厳しいですから!」

フロリス「てかそこまでしてコーヒー飲む意欲はナニ?シールでも集めてんの?」

上条「映画とかの定番でさ。ここで『……なんかアレだし、戻ろっか?』とか言う奴が真っ先にヤラれるからだよ!定番じゃねぇか!」

フロリス「あるけど。映画じゃないしリアルだし、やれやれ」

上条「みてーなモンだろうが!伊達に列車でパニック映画ゴッコしてねぇよ!」

フロリス「シチュ的には定番だーよねぇ。てかビビりすぎだって」

フロリス「天草式の人やこっちの人らが警備してんだから、そうそう心配しなくってもさー」

フロリス「……や、まっいっか。病室で話聞くのもダルいし、サボリに付き合ってあげようじゃないか、んー?」

上条「俺は別にサボるつもりはないんだが」

フロリス「二人ぐらい居なくっても、別に良いっしょ?ほら早く行こう、さっさと行こう!」 キュルキュルキュキュル

上条「……車椅子は置いてきなさい。つーかどっから持ってきたんだ、それ」

フロリス「廊下の真ん中にポツンって。あ、邪魔だから脇に寄せとこうか」

上条「……ふーん……?」

473 : 以下、名... - 2014/07/01 11:23:04.63 ce+frY1U0 323/1732

――六人病室

建宮「その中、有力な一派に『安曇氏族(クラン・ディープス)』がある」

建宮「『安曇氏』とは古事記や日本書紀にも名を残す古参中の古参。由緒正しい氏族なのよ」

レッサー「せんせー!質問です!」

建宮「なんなのよな?」

レッサー「上条さんとフロリスさんが居ませんっ!あんチキショウは抜け駆けしてどこへ行ったんですか!」

ベイロープ「自分を基準に物事を考えるな」

建宮「つーか我らも暇じゃないのよな。この後日本へ戻って『安曇氏族』から直接話を聞いてくるのよ」

建宮「五和がアポ取りへ行ってるとはいえ、一介の魔術師がホイホイ話を聞けるような相手じゃないのよな」

シャットアウラ「アズミ?それは敵の名前じゃないのか?」

建宮「いんや、彼らは極々普通の連中――というか、ちょい待つのよな」 ゴソゴソ

建宮「ある筋から聞いた話なのよ」

鳴護「メモ帳?……あ、この印刷したみたいな字、インデックスさんの」

建宮「消息筋から聞いた話によると!この一族は日本全国に散らばっているのよ!」

建宮「その証拠に、彼らが根を下ろした地方には『アズミ』の名が多く冠されているよな!」

鳴護「メモには……えぇと」

鳴護「安曇、安住、安積、阿曇、飽海、熱海……最後関係なくないかな?」

建宮「滋賀には『安曇』と書いて『あど』と呼ばせる所もあるのよ」

レッサー「滋賀……大きな湖がある所ですね。『水』関係と」

建宮「一番有名なのは長野県の安曇平(あずみだいら)よな。安曇氏族は阿墨氏を氏とする一族なのよ」

シッャトアウラ「ウジ?」

建宮「祖先、先祖、氏神。つまりは『阿曇磯良(あずみのいそら)』という地祇(くにつかみ)がルーツの一族なのよ」

レッサー「あー、一杯いますもんねー日本の神様。そりゃ子孫も居るってぇ話ですか」

474 : 以下、名... - 2014/07/01 11:24:58.80 ce+frY1U0 324/1732

建宮「安曇氏族は『海洋民族』だと言われているのよ」

建宮「福岡辺りを中心に活動した海の民。彼らは海洋活動に長け、高い操船・造船技術を持ってたのよな」

ベイロープ「海洋技術って事は、アレ?ミクロネシア辺りからの流入?」

建宮「DNA的にはそっちとされているのよな」

シャットアウラ「お前らがそれを言うのか……?」

鳴護「ま、まぁまぁ。科学で分かる所もあるし、ね?」

建宮「時代が下る連れ彼らは次第に姿を消す。具体的には日本と同化していったのよな」

建宮「そうして彼らが移り住んだ先へ自らの氏族名をつけた、とされているのよ」

レッサー「にゃーるほど。それで日本列島各地に名前が残ってんですな」

鳴護「あのー、先生?」

建宮「おっと現役アイドルにそう呼ばれると興――すいません言いませんからその物騒なものを下ろすのよ!?」

シャットアウラ「二度目はないぞ?いいな?」

レッサー「聞きましたかっ建宮さん!二度目はないんですって、二度目は!」

レッサー「だから絶対フザケちゃいませんからね?絶対ですから!絶対ですよ!?」

建宮「……ぬぅ、見事な、『押すなよ!絶対に押すんじゃないぞ!?』って前振りなのよな!」

建宮「これに答えずして何が天草式、何が教皇代理なのよ……っ!」

鳴護「いやあの、そういうの別にいいんで疑問なんですけど」

建宮「うん?」

鳴護「その、安曇さん達って海の人達なんですよね?船で移動してたり、航海技術が得意な人達」

建宮「と、言われているのよな」

鳴護「長野県の安曇地方って、陸の真ん中ですよね?富士山に近いっていうか、結構な高地だったような?」

鳴護「だったら、どうやって移動したのかなって」

建宮「――それは”川”だと言われているのよ」

シャットアウラ「船で遡ったと?」

建宮「長野には木曽川ってデカい川があるよな。そこを遡って行ったと考えられているのよ」

建宮「その証拠に安曇平にある諏訪大社、熊野神社、穂高神社には『お船祭り』という祭祀が執り行わせるのよな」

鳴護「船、なんですか?」

建宮「そうよ!大体は『近くの川から豊穣をもたらすように!』との願いを込められているのよな!」

475 : 以下、名... - 2014/07/01 11:26:49.41 ce+frY1U0 325/1732

レッサー「川ですか?日本はコメの民族じゃなかったでしたっけ?」

ベイロープ「古代農法でも米の栽培には水が必要でしょうが。てか勉強しなさいよ」

レッサー「ぶーぶー、いっくら何でも私らが極東の魔術師とかち合うなんて、有り得ないでしょう?」

建宮「全くその通りなのよな!By天草式、inロンドン!」

レッサー「……あのぅ、ベイロープさん?戻ったら、お勧めの本願い出来ませんかねぇ?よかったらでいいんですけど」

ベイロープ「先生に頼め、先生に」

レッサー「いやでも最近ボケが進行してるらしくてですね。こないだなんか、たこ焼きと明石焼き間違って食べてましたっけ」

建宮「それ、日本人も結構間違うのよな。てか俺は分からんのよ」

鳴護「レッサーさん達の先生、凄く気になるよねっ」

ランシス「んー……癒やし系……?」

シャットアウラ「おい、ツッコミが一人居ないだけで脱線しまくってるんだが」

シャットアウラ「……そうか。安曇氏族が持っていたのには、航行技術だけじゃなく治水スキルもあったのか」

建宮「だから外様であっても現地の住人から歓迎され、名前も残せたのよな」

レッサー「今と違って、キャベツキャベツ騒げば人権派弁護士に守って貰える訳じゃないですからねぇ」

レッサー「そりゃ技術の一つでも無い限り、自分達が有用だって示さないと安心して定住は出来ないでしょうね」

建宮「繰り返すのよ。安曇氏族自体は極めて古い一族であり、国のまほろばにも顔を出す程の有力な一派なのよ」

建宮「しかも移住した先で名を残す程、異物粛正上等の古代であっても『共存』を尊しとした連中なのよな」

建宮「興味がある奴は馬食文化を調べてみると良いのよな。大抵その風習が残っている地域には、『アズミ』と呼ばれた何かがあるのよ」

建宮「黒髪の嬢ちゃんよ。そこいら辺が知りたいんだったら中山太郎先生の『日本巫女史』辺りを読むのよな」

建宮「……ただ、素行がアレな人物だったので、主流派からは嫌われているお人なのよ」

レッサー「こりゃご親切にどーもです――ともあれ!」

レッサー「話を聞くに割と真っ当そうな方々ですな。少なくとも――『表』は」

建宮「『裏』もそう変わりは無いのよな。『安曇氏族(クラン・ディープス)』として全国津々浦々にネットワークを持ち、影響力も深い」

建宮「……が、時として多様性は異端を産んでしまうのよな」

シャットアウラ「種の多様性とはそういうものだ」

シャットアウラ「鼻の短い一族の中に、ある時鼻の長い個体が産まれる」

シャットアウラ「鼻が長い個体は他よりも生存競争で有利であれば、次第に数を増やし」

シャットアウラ「最後に群れは鼻の長いゾウだけになる。それが淘汰だ」

ランシス「……平和な国にシリアルキラーが生まれてしまうのも、その一例……」

建宮「――そう、安曇阿阪は」

建宮「ヌルい日本の魔術界が産んだ『鬼子』なのよ」

476 : 以下、名... - 2014/07/01 11:29:21.03 ce+frY1U0 326/1732

――深夜病棟 ロビー

上条「ってあったあった自販機。つーか缶じゃないな?紙コップがポコンって降りてくるタイプ」

フロリス「LEDライトも点いてるし、売ってるみたいだね」

上条「ん、まぁこういう所は誰かが起きてなくちゃいけないだろうから、その人ら向けなんじゃねぇの」

フロリス「ウチの国じゃ新聞のVending machine――ジハンキ、もあるよ」

上条「へー?それはちっと見てみたい。日本にも雑誌――つーか、まぁ、特殊な本の自販機はあるけど」

フロリス「ショッボいけどね。んーと、まずお金を入れるじゃない?カチャンカチャンって」

フロリス「一定額貯まったらパカって開いて、そっから新聞を引き抜く仕組み」

上条「Autoの概念どこ行った!?ほぼ手動じゃねぇかよ!」

フロリス「言ったじゃんか。ショボいって」

上条「買う人居るんか……?」

フロリス「見た事無い」

上条「だっよなぁ。日本でもオッサンがエロ記事目当てで買ってる感じするもんなー」

フロリス「マジ?日本でもそうなの?」

上条「スポーツ紙は、まぁ。てかイギリスにもある方が驚きだな」

フロリス「”The SUN”って日刊タブロイド紙にトップレスのおねーちゃん日替わりで載ってる」

フロリス「しっかもあれ、英語で出る日刊誌だと発行部数最大らしくてさぁ」

上条「日本のHENTAIにもまだまだ敵があるって事か……!」

フロリス「誇るな。むしろ恥じなよ」

上条「……」

フロリス「……どったん?サイフ落とした?」

上条「あの、何書いてあるか、ですね?」

フロリス「英語でも書いてるのに!?てか準備しないにも程があるだろジャパニーズ!」

477 : 以下、名... - 2014/07/01 11:30:55.04 ce+frY1U0 327/1732

上条「いえ、あの、種類ぐらいだったらまぁ、分かるんだけど。ここの、これあるじゃん?」

フロリス「この☆印?」

上条「☆×1とか☆×5まであるんだけど、これ何?最大五個出て来んの?それとも豪華って意味?」

フロリス「バッカだなぁ、そんな訳ないじゃんか。これ砂糖の数だってば」

上条「マジで?てか最大五倍ってどういう事だよ」

フロリス「あぁフツーのが☆3、無糖が☆1、砂糖アリアリが☆5ってコト」

上条「成程成程。アメリカみたいにやったら甘い訳じゃないのね」

フロリス「まぁ試してみなよ。くっくっく……」

上条「フロリスさん?お前なんか企んでるよね?リアクションがもう、振ってるもんね?」

フロリス「いやマジで☆5はオオスメだって。騙されたと思って、ミルクアリアリで」

上条「……悪い意味でフラグっぽい気がするが……まぁ試しに」 ピッ

ドポドポドポドポ……ピーッ、ピーッ、ピーッ……

上条「……どれどれ、ってお前何勝手に――」 タシッ

フロリス ゴクゴクゴクゴク

上条「ってお前が飲むんかい!?」

フロリス「……あ、意外と美味しいかも、☆5つ」

上条「やっぱりお前もぶっつけ本番じゃねぇか!てか知らないのに堂々としやがって!」

フロリス「まぁまぁ、奢ってあげるからさ」 ピッ

上条「……なんだろうな、こう?納得行かねっつーか、何かおちょくられてるっつーか」

上条「てか君お金入れてないって事は、今から出るのも俺のお釣りであってだね」

478 : 以下、名... - 2014/07/01 11:33:32.98 ce+frY1U0 328/1732

ドポドポドポドポ……ピーッ、ピーッ、ピーッ……

上条「……んじゃ、頂きます……」

フロリス「どーそ……どう?」

上条「……美味いな、超甘いけど。何かコーヒーじゃなくってカフェオレになってる」

フロリス「昼間あんだけ騒いだからねぇ。染みるっしょ?ん?」

上条「あー……まぁ、疲れた時には甘いモン欲しくなるけど」

フロリス「それともアレか。『男だったら黙ってブラック!』気取りか!」

上条「ん?あぁいや別にンなこだわりはないなぁ。男だろうが女だろうが、好きなものは好きで良いだろ」

フロリス「レッサー居たら大喜びしそうな台詞だーよねぇ」

上条「コーヒーに牛乳入れた方が美味く飲めるんだったら、そうすりゃいいし」

フロリス「へー?ちょっと見直したかも」

上条「なんで?飲み方一人で印象変わるって、お前ん中で俺の評価はどんだけ低かったの?」

フロリス「いやぁ、ジャパニーズの特性から考えると、またヘラヘラ笑って同調しとけ、みたいな感じかなーって」

上条「オイオイ日本人だって真剣になる時はなるぞ?」

フロリス「例えば?具体的にプリーズ?」

上条「そうだな……メシの時、とか?」

フロリス「あ、それ聞いた事ある!どんだけ悪口言ってもキレなかったのが、ついにキレたのって食べ物だって話!」

フロリス「都市伝説じゃなかったかー、そっかそか」

上条「他には……まぁ、食い物、か?」

フロリス「言ったよねぇ?それ今言ったばっかだよね?つーかナメんての?」

上条「知らねぇよ!てかそんなにキレねぇだろ、普通は!」

フロリス「ロシア人のジョークで、こんなのがあってだね」

フロリス「『ロシア人同士が自分トコの首相の文句を言っていたので便乗したら、「ロシアをバカにするな!」ってキレられた』――」

フロリス「――的な逸話とかないの?」

上条「俺ロシア人じゃないけど、どこの国だって余所の連中が詳しい事情も知らずに批判してたら、普通は良い気分じゃなくね?」

上条「てかレッサー辺り、ボッコボコにしそう」

フロリス「あー、そう見える?んまぁレッサーは誤解されやすいかんねー、仕方が無いけど」

フロリス「でも多分、『国家』じゃなくって『政治家』だったら別になんも言わないよ」

フロリス「むしろ肩組んで盛り上がると思うなぁ」

上条「レッサーがキレる所って想像つかないんだけど、どんな感じになんの?」

フロリス「笑顔でキレる」

上条「あー……それ、日本人と似てるかも」

フロリス「そなの?」

479 : 以下、名... - 2014/07/01 11:34:57.20 ce+frY1U0 329/1732

上条「俺らって大抵、まぁ大人しいじゃん?良くも悪くも引いてるっつーか」

上条「嫌な事されても、大体困った笑顔なんだけど――それが一定のレベル過ぎると、『笑顔でお断り』するんだ」

フロリス「あっそ」

上条「あ、すまん。興味ないか」

フロリス「んー……むむむむむむむ」

上条「……どったの?紙コップの中に溶け残った砂糖の塊でもあった?」

フロリス「いゃぁそんなんじゃないだけど、妙にイラついててさ。こう」

フロリス「もっかい蹴って良いかな?」

上条「嫌に決まってんだろうが!?てかそれで『あ、どうぞどうぞ?』って言い出す奴はどっか壊れてるぞ!」

フロリス「なんてーかなー……うん、よくわっかんないんだけど、こないだの件あるじゃんか?『ハロウィン』の」

上条「いやだから、それも謝ってんでしょうが」

フロリス「分かってるし。そうじゃなくって、つーか、んー……?」

上条「どうした?お前ホントにおかしいぞ?」

フロリス「あ、いやホラ。ワタシ、どんな風に見える?どんな感じに見える?」

上条「……質問に質問で返されまくってんだが」

フロリス「マジで答えて」

上条「あー、うん。まぁ、そうだな。言えっつーんだったら、言うが」

上条「どっちかっつーと、綺麗系だよな」

フロリス「――へ?」

上条「クラスの一人ぐらい居るじゃん、綺麗なんだけど鼻にかけないで、あんまツルむのも好きじゃないっぽい子」

上条「別に女子からハブられる訳じゃないんだけど、なんか、こう孤立してる感じの」

上条「でも何か俺達がサッカーとかゲームとか、その子の好きそうな話してたら混ざってくる感じでさ」

上条「……で、自分の容姿とかにも、あんま興味ない感じだから。距離感とかも無造作?無頓着?」

上条「卒業して何年か経って、『あ、そういや俺、あの子好きだったかも?』って思い出すの」

フロリス「妙に具体的だなっ!?」

上条「ベイロープまで行っちまうと『無理めの美人』って感じだけど、フロリスさんだと、まぁ『ちょい無理めの不思議系』?」

フロリス「どっちにしろ無理ジャンか」

上条「ごめんなさいねっ!だって俺彼女居た事ありませんしぃっ!」

フロリス「ちゅーか、意外だなぁ。似たような事レッサーにも言われたよ」

480 : 以下、名... - 2014/07/01 11:36:40.51 ce+frY1U0 330/1732

上条「総評として『外見は良いんだが、どっから話を持っていったら分からない系』じゃね?」

フロリス「そのナンパ師みたいな言い方はどうかと思うんだけどさ……まぁ、大体合ってるっちゃ合ってる、かも?」

上条「つか俺何恥ずかしい事言ってんだよ!?」

フロリス「もっと速く気づきなよ。こっちは『え、遠回しにコクられてんの!?』ってドキドキなんだから」

上条「いやごめん、そういうつもりは今んとこはないって言うか」

フロリス「おい。そこは笑顔で肯定すんの流れじゃないのか、あ?空気読めよ、ったく」

上条「お前は俺のキャラをどうしたいんだ……で?俺に人物評価させて何がしたかったの?」

フロリス「いや、何ってワケじゃないんだけどさ。まぁ大体合ってるし、つーか別に拘る事なんて少なくない?」

フロリス「遊びたくなったら、遊ぶ相手を探せばいーし。そのために普段からツルんでるのって、逆に不自然じゃないかな?」

上条「ま、そういう考えもありだろうとは思うが」

フロリス「ま、ぶっちゃけワタシ、そんなに拘りはないんだよねぇ、うん。友達もそうだけど、その他にもそんなにはー、みたいな?」

フロリス「その場その場できーーーっ!ってなる時もあるけど、大抵は暫くすると『ま、いっか』みたいな?」

上条「そんな感じあるよな。つか猫みたいだぞ」

フロリス「それも良く言われんよ。気分屋ってニュアンスで」

上条「どういう環境で育ったんだ、って聞くのはダメ?」

フロリス「ん、いーよ別に?隠すよーなこっちゃないしなぁ」

フロリス「ウェールズって知ってる?ブリテンの西側で、元々別の国だったんだけど、700年ぐらい前に併合したんだ」

上条「ベイロープからもスコットランドの話、チラッと聞いたんだが、イギリスって一つの国家じゃないのな」

フロリス「イギリス”連邦”だったからねぇ。一時期は大英帝国名乗ってんだよ、これが」

フロリス「んでもやっぱさー、無理があったみたいでさー」

フロリス「ちょい前まで北アイルランドで独立テロばっかだったジャン?」

フロリス「経済が上向きになってようやく収まったと思ったら、今度はブレアのチクショウがスコットランド自治とか言い出すし」

フロリス「もー散々なんだよね、ホンットに迷惑って言うか」

上条「ウェールズも独立したがってんのか?」

フロリス「どうだろ?一緒んなって長いしねー、ワタシら」

481 : 以下、名... - 2014/07/01 11:38:20.28 ce+frY1U0 331/1732

フロリス「Union Flag(イギリス国旗)は聖ジョージ十字とスコットランド国旗、アイルランド国旗が合わさって出来たデザインなんだ」

フロリス「でもブリテンを構成してんのはイングランド・スコットランド・北アイルランド、そして」

フロリス「ウェールズの四つ。てか正しくは四ヶ国なのにウェールズの国旗は入ってない」

フロリス「……ま、同化する時期が早かったから、だっては言われてるけどね」

上条「ふーん。ウェールズなぁ……?」

フロリス「そんなにイングランドとの違いは無いし――あるとすれば『赤い竜』ぐらい?」

上条「さっき言ってた『竜殺しの竜』……ラノベにありそう」

フロリス「おっと、こちとら約1800年前から語られてたんだから、一緒くたにするのはやめてもらおうっ!」

フロリス「対してイングランドじゃ聖ジョージ――ゲオルギウス信仰が盛んだったから、そこは一線引いてるかも?」

フロリス「でも、ま、今更独立って感じでもないしねー」

上条「拘らない割に拘ってねぇか。やっぱ国が絡むと別か」

フロリス「いやいや、そんな事ぁないさ――ってそんな事も無いな。別に国だってどうなろうと関係ないし」

上条「んじゃまたどうして?」

フロリス「レッサー達と遊べなくなるのイヤじゃんか。それだけですが何か?」

上条「……いや、充分過ぎる理由だと思うぞ、そいつは」

フロリス「『新たなる光』で魔術師するのも楽しいしねー。こないだのクーデターごっこも良い感じだった」

上条「動機がまた軽いなっ!?」

フロリス「いやいやいやいやっ!大切じゃないですか、人生楽しまなっきゃいかんでしょーし」

フロリス「『楽しいか・楽しくないか』って結構重要だと思うんだよ、ウンウン」

上条「それもまぁ理屈は分かるが……うーん?魔術結社へ入って命賭けるのは……?」

フロリス「あ、ゴメ。それは無い、無いよー。命まで賭けるのはノーサンキューだってば」

上条「フロリスさん、テメェらこないだイギリス全部にケンカ売ってませんでしたっけ?あれが『軽い気持ちでやった』と?」

フロリス「うんっ!」

上条「やっぱ軽いなお前!動機も思想もフワフワしすぎじゃねぇかよ!?」

上条「てかお前らの魔術教えやがった野郎にも一回挨拶させろ、な?言いたい事が山ほどあっから」

フロリス「いやでも先生は『フローレンスがそう考えるんやったら、それで良いんとちゃう?』って言ってくれてるし」

上条「フローレンス?」

フロリス「や、今の無し。フロリスね?フロリス!」

上条「妙な関西弁にも突っ込みたいが……まぁいいや、これ以上地雷を踏み抜こうとは思わないし」

フロリス「――んがっ!そんなワタシもずっと引っかかってた事があんですよ、これが」

482 : 以下、名... - 2014/07/01 11:40:39.27 ce+frY1U0 332/1732

上条「へー、それちょっと興味あるかも。何々?」

フロリス「『ハロウィン』の時、ジャパニーズに裏切られたジャン?」

フロリス「利用するだけしといて、命を賭けないのがポリシーのワタシを無理矢理したじゃんか?ね?」

上条「人聞きがっ!?深夜であってもロビーでする話じゃねぇ!」

フロリス「そっちからだよ、なーんかおかしいのは」

上条「……何が?」

フロリス「いつもだったらさ、『ま、命は助かったし酷い事もされなかったから、別にいっかー』で済ますんだけど」

フロリス「なんか、こうイラつくって言うか、釈然としないって言うか」

上条「そんなにお怒りだったんですかねぇ、あれ」

フロリス「ん、あぁマジな話そんなには?元はと言えばやらかしたのもワタシらだし、そもそも最悪殺されるぐらいは思ってたし」

上条「珍しいな。そこまで覚悟はしてたんだ」

フロリス「死ぬのはイヤだけど、レッサー達と遊べなくのはもっとイヤだしねー――って、オイコラ!何ニヤニヤ見てんだよ!」

上条「あ、悪い悪い。他意は無いって!」

フロリス「……やっぱこれ殺意なのかなぁ……?何か妙に拘るって心底アンタを憎んでる証拠かもねー?」

上条「だからそこまで恨まれる程はっ!」

フロリス「あー……思い出した!その前から何か引っかかってたんだ!」

フロリス「ぶっちゃけ最初にヘラヘラ笑ってた時から、『あ、コイツ殺してー』ってイラついてたかも!」

上条「……そこまで来ると、もう前世からの因縁レベルじゃねぇのか?俺お前の親でも殺したんか、あぁ?」

フロリス「あ、ソレはもう許した」

上条「……うん?」

フロリス「てか今はのワタシの話でしょーが!聞けってば!」

上条「お前も落ち着けよ!つーかそんなに俺が嫌いか!?」

フロリス「好き嫌いで言えば――多分、嫌いじゃ無いと思う」

上条「……はあぁっ!?だってお前今、散々イラつくとか言ってたのに?」

フロリス「なんて言うんだろ、『馬が合う』でいいの?合ってる?」

上条「気が合うって意味だけど、その言葉は」

上条「……まぁ、言わんとしている事は分からんでもない、か?」

フロリス「だっよねぇ?話しているのはそこそこ楽しいし、波長が合う?みたいなの?」

フロリス「ワタシが時々遊ぶ相手も、大体ジャバニーズみたいな感じだよ、うん」

483 : 以下、名... - 2014/07/01 11:42:22.69 ce+frY1U0 333/1732

上条「そりゃどーも。ってか俺嫌われてんの?それとも好かれてんの?」

フロリス「だーかーらっ!イラつくんだって!その笑い顔が!」

上条「顔は親からもらったもんだしなぁ、どうしようもな――待て待て、『最初に会った時』?今そう言ったよな?」

フロリス「ん」

上条「……あぁそうだ!俺も何か思い出してきたよ、列車ん中の事!」

上条「あん時お前、何かピリピリしてなかったか?妙にツンツンしてる子だな、ってのが俺の第一印象だったんだよ、確か」

上条「もしかして、『たまたま機嫌の良くない時に俺と出会った』から、その印象が焼き付いてるだけじゃねーの?」

フロリス「いやいや、そんなまさかないでしょー。てか有り得ない」

フロリス「確かにあん時はレッサーのおバカに激怒してたさ、でもそれを引っ張るなんて――」

上条「あぁレッサーがあっさりと捕まったから?」

フロリス「いや、別にそれはどーでも」

上条「……まぁな。友達が仲間だった筈の『騎士派』から粛正されそうになってんだ。そりゃ怒らない方が――」

フロリス「ん、いやいや。ワタシが怒ってたのはレッサーにだよ。『騎士派』なんか最初っかに信じてもないし」

上条「失敗したから?」

フロリス「それもNO!……や、あっさりバレたのには無くはないが!」

上条「んじゃまたどうして?」

フロリス「あー……その、魔術的な通信機みたいなの、ワタシらの霊装にあんだよね。これなんだけど」

上条「ペラいメモ用紙。表面に何か描いてある」

フロリス「コレを使えば音声だけじゃなく、当人同士が許可すれば簡単な五感をリンク出来る仕組み――で」

フロリス「見てたんだよ、ジャパニーズに取っ捕まった時。レッサーの『眼』で」

上条「……そりゃ第一印象最悪だわなぁ……」

フロリス「あ、ごめん。興味なかったから顔と名前と声は全然憶えてなかった」

上条「……おい。ほぼ全てスルーしてんじゃねぇか。残ってんの性別ぐらいだよ」

フロリス「このおっぱいどうしてくれようって」

上条「そっち同行者な?別の意味で気持ちは分かるけども!」

484 : 以下、名... - 2014/07/01 11:44:37.61 ce+frY1U0 334/1732

フロリス「ワタシがイラついたのって、そん時のレッサーだよ」

フロリス「レッサーはあの時、『ロビンフッド』で狙撃されそうになった時」

フロリス「『笑った』んだよね、レッサー。それが――」

フロリス「――ワタシは理解出来ない。だから無性にイラついたんだと、思う」

フロリス「『何やってんの!?バカじゃないの!?なんで笑っていられるの!?』ってさ」

上条「……」

フロリス「……思えば、その後直ぐにジャパニーズと出会った時か」

フロリス「ヘラヘラした笑い顔が、なーんかレッサー思い出して気分悪くなったのかもねー」

フロリス「……あぁ、これじゃ完全に八つ当たりだよね、ゴメ――」

上条「――なんだ、お前”そんな事”も分からないのかよ?」

フロリス「――え」

上条「そうかそうか。成程な、だから笑ってたのか、アイツ」

フロリス「え、何?分かるの?なんで?どうして?」

上条「簡単だろ、そりゃ――」

上条「――レッサーは『お前らのために笑った』に決まってるじゃねぇか」

485 : 以下、名... - 2014/07/01 11:46:11.42 ce+frY1U0 335/1732

――深夜の病棟 ロビー 明け方近く

 なんで、という言葉が出るよりも速く。
 どうして、と問う台詞よりも早く。

 ベシャッ、とフロリスは飲みかけの珈琲をぶちまけていた。

 上条当麻の顔面へ向けて。正確無比に。

「熱っ!?……何しやがるんですかね?つーかテメーいい加減にしやがれ!」

「――あぁっと、ジャパニーズ。ワタシ、今、ちょぉぉぉっとぶち切れてるから、さ?」

 ジャキジャキジャキ、と『槍』が凶器へ姿を変える――戻す。

「素直に答えなよ?あ、別にイヤだってんならいいけど?」

「……なんだよ。つーかティッシュ持ってない?」

「何がどうしてどーなったら、レッサーのおバカが『笑った』のを無責任に言えるのかにゃー?」

 怒気を隠そうともせず――つい今し方まで談笑していたのに――言外に物騒なものを忍ばせる少女。

(これがフロリスの『素』?……いや、どっちも、か)

 猫と評した少女の一面。普段は拘らないと言っている反面、何かしらの”芯”はあるだろう。
 魔術師としても人格としてもサッパリとしているが、その分怒りを溜め込む事も少ない。

 だが『これ』は彼女にとってすれば例外中の例外――そう。

(やっぱ『友達』が絡むと熱くなってんだろうなぁ、うん)

 上条はそう判断する。

「あーのさぁ。死んじゃったら終りじゃない?ってか絶対に嫌だけど」

 理不尽に怒りをぶちまけているのかと言えば、そうではない。決して。
 有り触れた偽善者のように、我が身可愛さで理を曲げようとするのも違う。

「なーんであの状況であのおバカが、わざわざワタシのタメに笑えんだっーの」

 もしもそうであれば『自分』のために怒る筈であり、『他人』の生き死に拘泥する訳がない。
 とどのつまりフロリスという少女は、彼女の本質とは。

「お前、実は友達好きすぎるだろ?」

「よっし歯ぁ食い縛れジャパニーズ」

「待って下さいよ!?誉めたじゃないですか!」

「いやぁ?」

「いや、そこで改めて照れるのもおかしいっ!?」

 『他人のために怒れる』――その特性は目の前の『幻想殺し』と酷く似通っていた。

486 : 以下、名... - 2014/07/01 11:47:19.51 ce+frY1U0 336/1732

「あー……うん、何となく分かるよ。お前が怒ってんのはさ。要はアレだろ?」

 従って上条当麻も然程言葉を選ばずに済む。

「『コイツ人の気も知らないので、何ニヤニヤ笑ってやがったんだ』みたいな感じだろ?合ってるよな?」

「まぁ、そうだけどー」

「……俺も、似たような事言われるからよーく分かる。つーか座ろうぜ?」

「……うん」

 自動販売機のイスに並んで座る二人。『槍』は展開したままで。

「つーかスッゲーベタベタするし、流石☆5つ、砂糖たっぷりか。やっぱティッシュ持ってないか?」

「ハンカチならあるけど」

「……どっちみち後で着替えるからいいや。んで、だ」

 どこから話したものか、どう話したものか。
 自分と極めて近い思考回路を持つ彼女へ対し、どう話せば納得が行くだろうか?

(まずは、そうだな、結論から話しちまった方が早いよな)

 そう考えて、飲み終わったのとぶつけられた紙コップを広い、右手で近くのゴミ箱へ突っ込む。
 丁度ペットボトルの大きさ程度に開いたゴミ箱の穴。日本の自販機のそれよりも、一回りぐらい大きいそれに手を入れ――

 カコン――にちゃあぁっ。

「……うん?」

 手が、抜けなくなる。かすかな痛みが手首へ走り、何かがつっかえているような感触。

487 : 以下、名... - 2014/07/01 11:50:20.74 ce+frY1U0 337/1732

「どったん?」

 不審に思ったフロリスへ対し、上条は首を振った。

「あぁいや、なんか抜けない……みたい?」

「ローマの休日ネタ来たーーーーーーーーーーっ!」

「しねぇよ!夜の病院で趣味悪すぎんだろうが!」

「まったまたぁ?アレでしょ?好きな子に心配してもらおうってハラなんだろ?」

 また感情がくるくると変わる。ちょっと前までは馬鹿話、少し前までが殴り合い寸前。

「……どうしてこうなった――イタっ?」

 チクリと手の甲に何かが刺す感触。ガラスの破片でも入っていたのだろうか?

「ダストボックスん中で何か掴んでんじゃないの?ほら、子供が『おかしつかみ取り放題!』ってアレで、腕が抜けなくなるのと一緒で」

「……あのぅフロリスさん?一体俺がゴミ箱の中で何を掴んでんのか、またそれを離す程度の知能が無いとか、冗談ですよね?」

「あーぁ、そろそろ夜が明けそうだなぁ。完徹しちまったい」

「だかに聞きなさいよお前らはっ!?人の話をきちん――」

 ぶちっ。

「――と、抜けた抜けた。何だったんだよ、一体」

 上条当麻が引き抜いた『腕』。
 その手首から先が――。

「ちょ――ジャパニーズ!?」

 ”それ”にいち早く気づいたのはフロリス。そして次に声を上げたのは上条――。
 では、なかった。居る筈の無い、居て良い筈の無い。異物の、声。

「言った筈だぞ、ニンゲン――」

 メキメキゴリメキゴリゴリッ!

 やや大型とはいえ、子供ですらも入りきれないサイズのゴミ箱から、体中の関節をねじ曲げて脱出する少年。いや。

 『少年の形をした何か』。

「――『”安曇”は少し本気を出す』と」

488 : 以下、名... - 2014/07/01 11:52:28.78 ce+frY1U0 338/1732

 バキッ、ゴキュッ、バリバリバリバリ……!

 二度三度、安曇阿阪は血塗れの顎を開閉させる。その度に咥えていた肉片は小さくなり、ついには咀嚼され、呑み込まれる。

 それは、その肉片は?どこから来たのか。
 『幻想殺し』が『幻想殺し』たる由縁であり、相棒でもある。

 『右手』を喰った。

「う、あ、ああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 上条の千切れた右手が激しい痛みを訴えかける。激痛と言うよりも灼熱へ手を翳しているような錯覚に、彼は悲鳴を上げる事しか出来なかった。

「一応神経毒――蛇の持つ麻痺毒を撃ち込んでおいたが、まぁ痛むだろう。許せ」

「こ――のおぉっ!!!」

 ワンテンポ遅れて正気へ返ったフロリスが飛びかかる。だが、安曇は避けもしない。

 ギャリギャリギャリギャリィッ!

 『槍』の『爪』が安曇を引き裂く――事は、無かった。

「”それ”は昼間見た、と言うか安曇に効かなかったのを憶えていないのか?」

 駅構内で安曇阿阪へ攻撃をしたのもフロリス。あの時は吹き飛ばせはしたものの、目立った外傷は与えられなかった。
 その理由が――腕と顔を覆い尽かせんばかりに広がる鱗、鱗、鱗。

 条件さえ整えば最新式の高速鉄道すら切断出来る『槍』を防いだもの、それは安曇が生やした『鱗』だった。

「――と、いうかだな。安曇は余計な殺生を好まないので、一つ忠告をしてやる」

 うずくまって右手を押さえる上条を顎で差す。

「大量出血における初期治療が後の生存率を左右する、と安曇は知っているな」

「何言ってんだ!」

「応急手当をするなり、魔術で傷を癒やすなりした方が良いのではないか?」

「――っ!」

「治療の隙を突かれる――とでも考えているのだろうが、『それ』はない」

「……どうしてよ」

「虎がネズミを狩るのに隙を伺う必要は無い、と言っている」

489 : 以下、名... - 2014/07/01 11:54:16.85 ce+frY1U0 339/1732

「――このっ!」

「……か、は……」

「今なら『右手』は無い。簡単な術式でも十分に効果を見込めるだろうな」

「――黙ってろ!」

 フロリスは上条へ肩を貸し近くの椅子へ運んでから、口の中で二・三語詠唱し、術式を組み立てる。
 ぼぅ、と上条の右手首――喰い千切られた辺りに光りが宿り、激痛と出血が収まっていく。

「お前、は――!」

「出血多量とは大量に血液が失われる事で起きる。安曇はそう教わった」

 どうにか声を出せるようになった上条が問うも、明確な返事は無い。

「末端組織へ供給される血液の減少、心拍の低下、そして酸素欠乏。ちあのーぜ、を引き起こし、ゆっくりと死へ至る」

 安曇は二人とは少し離れ、今し方飛び出てきたゴミ箱の蓋を拾い、元の位置へと戻した。

「優先順位は止血。主に患部への直接圧迫が相応しい――時として壊死を怖れて処置を躊躇うが、そうすると手遅れになる場合がある」

 更に飛び散った紙コップを集め、重ねてからゴミ箱へと捨て始めた。

「次に大切なのは輸血。人類がこの技術を会得する以後と以前で、大分様変わりはした――が、実は輸血にも危険性が付きまと――」

「オイっ!」

「なんだ『幻想殺し』。これからが大事だぞ?輸血量を間違えると腎梗塞や脳梗塞にな――」

「……なんで!お前が……ここに、居るっ……!?」

「傷口が塞がったとは言え所詮は応急処置。術式が切れる前に、最低限輸血をしないと倒れるぞ、と安曇は言ってやる」

「ふざけるな!……クソッ!『濁音協会』の連中がもう追いついて――」

「あぁそれは勘違いだ、元『幻想殺し』。それは違う」

「何が?アンタ達、ストーカーして来たんじゃないのー?」

 フロリスの軽口に力は無い。それなりの自信があった『槍』の一撃を弾かれ、不安が胸をよぎっているからだ。

「『濁音協会』はもう、ない。昼間の戦闘でアルフレドが死んだからな」

「――は?」

490 : 以下、名... - 2014/07/01 11:56:07.71 ce+frY1U0 340/1732

「転移魔術を行使した影響か、直前の爆発のせいか。アルフレドはバラバラになっていたぞ」

「――うぇ、死んだ、の?」

「生命活動は停止していたな」」

「……え、ちょっと待てよ。マジで?だったらもう戦う理由なんか」

「だから後は好きにする事にした。好きにやる事になった。だから安曇はここへ来た」

「ジャパニーズの『右手』を食べに?いー趣味してるよねー」

「よく言われる、それは」

 皮肉を介さない安曇。ポリポリと頭を掻き、あぁそうだ、と思い出したように声を上げた。

「憶えているか?安曇は一度、『幻想殺し』に遅れを取っている」

「……俺、にか?つってもお前なんかと関わった憶えはねぇよ!」

「多目的ほーる、だったか。お前は安曇の眷属を破っただろう」

「――あの、蛇人間かっ!?」

「だから”これ”は意趣返しでもある。『神漏美』は後回し、今はりべんじ、という奴だな、さて――」

 パチン、と両手を合わせて祈りを捧げる。その姿は古今東西、どこの文化でも大差は無い。
 けれど安積の口から漏れる言霊は、全てが冒涜的で退廃的なものであった。

「『綿津見ニ眠ル我ラノ大神ヘ奉ル(そろそろいいじかんになった)』」

「『天ニ甕星、地ニ悪路、海ニ阿曇磯良(とはいえやくしゃがあずみだけではすこしさびしい)』」

「『天球ガ穿ツ星ノ光ニテ、同朋ノ血ヲイザ甦ラサン(せっかくのしこみだ、もっとひとをよぼうか)』」

「『我ガ名ハ、ミシャグジ――ソノ名ヲ以テ禍原ヘ弓引ク悪神ノ血統(もっと、もっとだ。けものなんてどこにだっているさ)』」

「『人ハ魚、人ハ蛇、人ハ虫(ひとというけもの、ひとというけもの、ひとというけもの)』」

「『五穀ヲ吐キ捨テ原始ノ獣ヘト帰還サセヨ(りせいをすててたのしくやろう)』」

「『血ト肉ヲ捧ゲ聞コシ召セ給ウ、思シ召セ給ウ(どうせおわりのひはそこまできている)』」

「『――海ヨリ還リ来タル!(――くるえ、そしてかわれ)』」

 ぞわり。

 世界が変わる。安曇を中心に弛緩していた世界が異質のものへと造り替えられる――元々居た住人達をも巻き込んで。

「テレズマ?……あ、でも別に変化は、ないかな……?」

「俺も……特に、は……」

 瞬間的に漏れた魔力が二人に影響与えることは無かった。二人には、何も。

491 : 以下、名... - 2014/07/01 11:57:19.54 ce+frY1U0 341/1732

「思い出せ、『幻想殺し』。あの夜の事を」

 ホール内の人間が『変化』した悪夢の夜を。

「『帰還った』のは誰だ?鳴護アリサを襲ったのは誰だったか?」

「何――コレ!?気配が、あちこちに」

 ホールの陰、カウンターの隅、エアダクトの中。
 その全てから獣の息づかいが、荒々しい鼓動が聞こえる。

「ミシャグジの先祖返り――『獣化魔術』とアルフレドは言っていたが、順番が逆だ」

 のそり、と顔を覗かせたのは――先程の看護婦。顔に巻いた包帯がずり落ち、その下からは鱗まみれになった地肌が露出している。

「人は獣だった――そして、今も本質は何一つ変わりなどしない」

 一人だけでは無い。二人、三人と姿を現す。入院患者が壁を這いずり、医師らしき男が四足でにじり寄る悪夢。

「夜など明けない。仮に天へ日が昇ったとしても、悪夢は終りなどしない――」

「――安曇は『DeepOnes323(深きものども)』、『野獣庭園(カサンドラ)』の首魁――」

「――朝の来ない夜に喰われて眠れ、ニンゲン」


【次】
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