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【艦これ】提督「バリバリ最強No.2」【前編】
【艦これ】提督「バリバリ最強No.2」【中編】

490 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/09/04 00:23:01.89 A+sXl/WEo 269/385




~空谷の跫音~



-残された者-

看護士「ダ、ダメです!何をやってるんですか!?」

??「うるっせぇ!もう十分動ける!あたし等だけ、指咥えて見てるなんて出来るわけがないだろ!」

看護士「外部の傷は治癒されました!ですが、まだ内部は完全に治癒されているわけではないんですよ!?」

??「だから身内や仲間が傷付くのを黙って見てろってのかい?それに、あたし一人を止めても無駄だぜ? あたし『等』の意思は一本の太い線で繋がってんだ。あたし等は艦娘!たった一つの信念の下にのみ動く!」

看護士「な、何を言ってるんですか。あ、あたし等って…」

??「彼女の言うとおりだよ。私達はここでヌクヌクとベットに潜ってる場合じゃないんだ」

??「そりゃあ、無理無茶言ってるのは解ってますよ~」

看護士「な、な、な……!」

??「わりぃな、看護士さん。あたし等にも譲れないものってのがあるんだよ」

??「同じ辛酸を舐め続けるのは、金輪際なし!やるなら、徹底的にやります!」

??「とーぜん!」


新聞記事に後日、艦娘病院脱走事件として小さな見出しを飾るこの事件は、今現在戦場で奮戦する艦娘達にとっては天より差し伸べられた救援の一手となった。


看護士「はぁ…もう、これどうするのよぅ…」

医師「やれやれ、以前に治療した艦娘達もそうだが、一人として怖気付かないものだな」

看護士「あ、先生…!」

医師「うむ。まぁ、こうなるだろうとは思っていたが…よもや、ほぼ全ての艦娘が、とは想定外だったよ。怪我の程度がひどい子達はそういう気があっても体が動かないから断念していたが…」

看護士「ですけど、他の子達だってまだ完治してるわけじゃないんですよ!?」

医師「修復剤と入渠を交互に繰り返して外と中を治癒していたくらいだからね。まぁ、しかしだ…こうなってしまったのなら我々もある程度腹を括らねばならんだろう。彼女達在っての今の世界なのだ。余り好ましくはないが、またここに舞い戻ってくる事になってもいいように、万端の準備で出迎えてやろう」

看護士「戻ってきたら雁字搦めにしてやります!」

医師「ははっ、程ほどにな」

491 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/09/04 00:23:45.60 A+sXl/WEo 270/385




先行した元帥や進撃聨合艦隊、ハズレ鎮守府の面々から遅れる事数時間後、そこにまたもう一つの艦隊が結成された。

目的はそれぞれに異なり、彼女達自身も既に満身創痍に他ならない。

ただ護ると言う信念の下に、彼女達は立ち上がった。


??「よし…んじゃ、準備いいよな?」

??「うん、バッチリ!」

??「問題なしだよ!」

??「はい、大丈夫です!」

??「今度こそ、やってやるわ!」

??「二度と遅れは取らん!」

??「おう!じゃあ行くぜ!抜錨だ!!」

??「艦載機の練度もバッチリです。戦果を期待してください!」

??「今度はゼッタイ本領発揮しちゃうからね!」

??「行くわよ!」

??「抜錨します!」

??「よし、出撃するぞ!」


バラバラだった者達が次々と力を合わせていく。

エリート提督の誤算とは、まさにここにあったのだろう。

最後の最後で詰めを誤る深慮の浅さ。

捨て置いて問題ないと軽薄に考えた思考の緩さ。

以前に誰かが言った。

やるならきっちりトドメを刺して殺さないと意味がないと。

492 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/09/04 00:24:12.24 A+sXl/WEo 271/385




-収束された力の真価-

飛龍「第二次攻撃隊の要を認めます!」スッ

リコリス「脆いわね!これならまだ、あの当時戦った榛名達の方が数倍…いいえ、何百倍も強かったわ!」サッ

飛龍「攻撃隊、発艦っ!」ビュッ

リコリス「The second Air fleet…Let's go!!」バッ


ヒュン ヒュン ヒュン ヒュンッ


ボゴオオオォォォォォォン


蛇蝎「くっ…!何なのよ、どうして…!私の従える一群が、こんな…たった六人ぽっちの艦娘なんかに…ッ!!」

リコリス「空の目はもう私一人で十分ね」

飛龍「え?」

リコリス「直にこの海域は制圧できるといったのよ。少しだけ耳に挟んだ事があるの。何ものをも恐れず、空母でありながら先陣を切り、数多の深海棲艦を一矢の下に撃滅する最強の矛が存在する、と…」

飛龍「…………」

リコリス「彼女は元・エリート艦隊の第一艦隊に所属していた最上位の空母艦娘。鎧袖一触の加賀。二つ名を持ってる艦娘なんてそうはいないわ。それこそ、それぞれのクラスで名を馳せていても、轟くかも怪しいレベル。けど、彼女の場合は周知の事実として今も尚、その強さは恐れ戦かれている。あなたも空母の端くれじゃない?」

飛龍「むっ、その言い方には些か不満を覚えますよ!」

リコリス「ふふっ、それは失礼。でもだからこそ気になる。違うかしら?あなたにしか扱えない最高戦力、友永隊。その動きがこうもブレると言うのはよほどの事ではないかしら? 一矢入魂の飛龍が集中を切らせるとしたら、私に思いつく限りではそこにしか行き着かなかっただけよ」

飛龍「……気にならないと言えばウソです。赤城さんを通じて、その戦果は幾度と無く聞かされていましたからね。でも、誰かと自分を比較するなんて、そんなのはおこがましい事だと思いますよ?って、赤城さんが言ってた。そうだよね、自分は自分!他人は他人!そこには微塵も同じ所なんて無いんだから、比べるなんて無理なんだよ。でも、だからこそ私は彼女には常に最強であって欲しい。いつか私が彼女を越す壁として、存在してて欲しい」

リコリス「なら、向かいなさい。蛇蝎が率いている艦隊程度の錬度ならば、私を含めた残りの四人で十分対応できるわ。駆逐艦と少し甘く見ていたけど、あの子達の錬度は申し分ない。下手をすれば戦艦クラスですら呑み込む力を持ってる。なら、私はそんな彼女達が思う存分海を駆れる様に、空を見通しよくする事に注力すればいい。その程度の事なら、今の私には造作もない事だわ」

493 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/09/04 00:24:50.20 A+sXl/WEo 272/385



ザザッ…


陸奥「あら、小休憩かしら?」

飛龍「陸奥さん」

陸奥「冗談よ。親しき仲にも礼儀ありってね?袂は違っても、大切な仲間なら助けに行って当然じゃないかしら? 勿論、火遊びは程ほどにしないとダメだけどね?」

飛龍「…ありがとう。本当に、ありがとう!」

長門「暁、ヴェールヌイ!左舷から二匹着ている!二人で対応しろ!」

「当然じゃない!」

Bep「ハラショー。的確な指示だ。一気に片付けるよ、暁!」

「この暁に任せなさい!」

長門「行け、飛龍!お前の背を狙う愚か者が居るのなら、その全てを私の主砲が貫いてやる!」

飛龍「長門…」

リコリス「私は縁も所縁も無いもの。その分、ここで普段のストレスを発散させてもらうわ」

蛇蝎「何処までも邪魔をして…ッ!」


──確実に仕留めなさい、長門!──


長門「…!提督か」バッ

鋼鉄「蛇蝎中将、そろそろ未納分の返済期日よ。きっちり利子分含めて回収して上げるわ」

蛇蝎「鋼鉄…!」

鋼鉄「飛龍、久しぶりね」

飛龍「こんな場じゃなかったらちゃんと挨拶したいんですけどね」

鋼鉄「ふふっ、『かしこまりー♪』っていつも言ってたじゃない」

飛龍「そ、そういう裏情報はしまっておいて下さいよっ」

鋼鉄「加賀の援護に向かうんでしょ?何処に居るのか知らないけど、あのハズレの提督さんの子達だものね。必ず何処かの海域で彼女達も戦ってるんでしょう。援護に向かってあげなさい」

飛龍「はいっ!」ザッ

蛇蝎「私の艦隊を無視して何処へ行こうって言うの!あの空母を集中的に狙いなさい!!」

鋼鉄「忌避の艦隊が聞いて呆れるわね。自分から関心持ってちゃ世話無いわ。長門、陸奥、リコリス、暁、ヴェールヌイ。ここから先は私が指揮を執るわよ。先の作戦概要に沿ってまずは眼前に立つ忌避の艦隊を撃滅。残存兵力を完全無力化し、後方の憂いを完全に断ち切るわ」

長門「ふっ、頼もしい限りだ」

陸奥「任せなさい。思う存分に力を発揮してあげる!」

リコリス「数だけの烏合の衆、恐れるまでもないわね」

「ヴェールヌイ、帰ったらプリンよ、プリン!」

Bep「ああ、新月提督が特大を用意してくれるって約束してくれたからね。こんな場所で足踏みはゴメンだよ」

494 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/09/04 00:25:20.99 A+sXl/WEo 273/385



艦娘には、各々に秘められた根底の力が存在すると言われている。

かつて提督が推測し根拠のない絵空事と断じた推論こそ、的を射ている。

そして既にその存在を認識し、己の力として行使している艦娘も僅かながらに存在している。

艦娘が抱く秘められた想いとは大枠は皆同じものを有している。

『今度こそ護りたい』という守護の感情だ。

それは言わば遥か昔に果てて水底へと沈んでいった数多の軍艦の想いが顕現したものだろう。

それは形となって生まれ変わり、意思となって彼女達の深層心理の奥底へと埋め込まれ、人知れずその瞬間を待ち望む。

だから彼女達はいつ如何なる場面においても臆す事無く凛として前を向き、獅子の如く雄々しく在れる。

数で言えば圧倒的な戦力差であろうこの場面でさえ、今の彼女達にとっては瑣末な問題でしかない。

だからこそ、蛇蝎の狼狽した表情はそれを知りえない故に当然と言えただろう。

艦娘を道具としてしか扱えない者に、艦娘は本当の心を開きはしない。

例えどれだけその者を艦娘が信奉しようと、それは誠の忠節ではなく、真に在る形ではないからだ。

故にこの結末は当然と言えるのだろう。


長門「さぁ、どこからでも掛かって来い!ビックセブンの名に恥じぬ戦を見せてやるぞ!」

陸奥「怖いならそのまま逃げてもいいわよ?けど、向かってくるなら容赦しないわ!」

リコリス「飛龍の邪魔をするのなら、この私が念入りに駆除してあげるわ。艤装の一片も余さず残らないようにね!」

「駆逐艦だからってあなどってるとコーカイするわよ!」

Bep「見せてあげるよ。本当の強さがどういうものかって言うのを!」

蛇蝎「耳障りな連中……ッ!殺しなさい…全ての戦力を以て、こいつ等を殺せッ!!」


オオオォォォォ……ォォォ……ォォォォ………


海を震わせるほどの蛇蝎軍の咆哮が轟き、無数の深海棲艦が一気に長門達へ向けて進軍を開始する。

既に飛龍はその場を離脱し、命令の行き場を失った深海棲艦達の怒りの矛先は完全に長門達へ向けられる。


長門「ふっ、そうだ。こっちだ!私達はここに居るぞ!向かって来い!!」

リコリス「それじゃ、やるわよ。Let's beginning. All planes take off!!」ビュン ビュン ビュン ビュン


ボボボボボボボボボンッ


リコリス「さぁ、見せてやりなさい!」

495 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/09/04 00:25:50.10 A+sXl/WEo 274/385


陸奥「いい、二人とも?」

「ええ!」

Bep「勿論さ」

陸奥「危険と判断したら必ず私や姉さん、リコリスの後ろへ退避しなさい」

Bep「ふふ、もしもの時はそうするさ」

「べ、別に怖くて隠れるわけじゃないわ!そこのところ、ちゃんと解っててよね!」

陸奥「あはっ、ええ、了解よ。さぁ、姉さん!」

長門「よし、合わせるぞ!全砲門開け!」ジャキッ

陸奥「照準よし!」ジャキッ

「いつでもいいわ!」ジャキッ

Bep「いくよ!」ジャキッ

長門「いくぞ…!てーッ!!」


ドォン ドォン ドォン ドォン ドン ドン ドン ドン


ボゴオオオォォォォン

ボボボボボボボボボンッ


蛇蝎「くっ……!怯むな、進め!数で押し切りなさいッ!!」

戦艦艦娘「報告します。こちらの戦力、その六割が既に消滅。残すは後方に控えておいた深海棲艦と艦娘のハイブリット型、そして我等の艦隊のみです」

蛇蝎「…だから、何?」

戦艦艦娘「何、とは?」

蛇蝎「だから何だと言うの!?ハイブリット型を前面に出して、盾にでも何にでもして相手旗艦の長門の首くらい持って帰ってきなさい!」

戦艦艦娘「…恐れながら、最早この勝負に勝敗を天秤に掛けるだけの材料はありません。我等の敗北は必至。なればこそ、大人しく投降するのが最良と判断します」

蛇蝎「……何を寝言のような事を言っているのかしら?それが本音なら、貴女の首をこの場で飛ばすわよ」

戦艦艦娘「…不可能です。所詮、貴女は人でしかない。我等は、艦娘です。今、無意味に前に出て駆逐されている深海棲艦と艦娘のハイブリット型と我等は違う。何故、我等が貴女に付いて来たのか…最も、その時点で我等の運命は決まっていたのかもしれません」

蛇蝎「貴女は、何を言っているの…!?」

戦艦艦娘「申し訳ありませんが、我等が今まで貴女に付き従ってきたのはどのような状況だろうと、どのような風評を受けようと、ありのままでそこに存在し続け、我等を導いてきてくれたからに他なりません。根本は、やはり我等を道具としてしか見なかった。そこに尽きるのではないでしょうか」

蛇蝎「この、私に…逆らうと言うの!?」

戦艦艦娘「有体に言えば。ですが、こちらから牙を剥く事はしません。それがせめてもの、我等から貴女へ送る敬意です。我等はこれより投降し、事の顛末その全てを彼女達へ告げます。貴女は我等をハイブリット型へと変えなかった。貴女のその優しさがもっと良好な方へと向かえばよかった。それだけが心残りでしょう。では、失礼します」ペコリ


忌避の艦隊、その本隊による投降によってその勝負はあっけないほどあっさりとついた。

残された残存兵力はそれでも抵抗を続けたが、錬度の高い長門率いる敵勢力殲滅主力第二部隊の前では風前の灯と言えた。

程なくして鬼の形相を向ける蛇蝎を包囲した形でこれを自滅させる事も無く捕縛、最初の陥落は蛇蝎艦隊となった。

502 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/09/11 00:53:26.74 MSvA5CxKo 275/385

-奇蹟-

加賀「今まで見てきたどの深海棲艦とも異なります。名を名乗りなさい」

??「フフ……そうネ。ドウせ死ヌんだから、それ位ハ教えてアゲないとね?私ハ泊地水鬼…貴女、ステキね」

加賀「……?」

泊地水鬼「この私に、フフ…単身ダなんて、健気過ギテ見逃してアゲたくなっちゃう」

加賀「ならば、試して見るまでです」チャキッ

泊地水鬼「タッタ一人ノ艦攻艦爆、これのナニを恐れれバいいと言うノ?寧ろ、貴女ガ恐れなサイ」バッ


泊地水鬼が両手を天へと広げる。

それを合図とするように彼女の周囲に無数の艦載機が浮上し、臨戦態勢に瞬時に入った。


加賀「なっ…」

泊地水鬼「聞かなかったカシラ?貴女一人デ大丈夫ナノかって…フフ、どちらデモ構わないワヨね。ダッテ、どちらにしテモ死ぬワケだし…聞くだけ、野暮ダッタかしらネ。貴女を始末スレば、この大空ヲもう一度、飛べるカシラ?アァ…これも、貴女に聞いてモ意味ノないコトだったわネ。死人に口ナシ…ってね」ニヤ…


加賀は、この時初めて己の慢心を自覚した。

圧倒的な差を誇った戦力の前では、僅か一人の戦力など高が知れていると言う現実をまざまざと見せ付けられた瞬間。

この深海棲艦は、今まで倒してきたどの深海棲艦とも一致しない。

過去に聞いた上位の深海棲艦の事は加賀も聞いて知っている。

だが、それすらも眼前に居る深海棲艦は上回っていると加賀は瞬時に悟った。

彼女が初めて、戦わずして敗北を認めようとした瞬間だったのかもしれない。

頬を嫌な汗が一筋伝い、彼女の顎を滴って海面に落ちる。

これほどの屈辱はない。

戦わずして敗北を受け入れるしかないと言うこの現状。

今まで散々、高尚な事を言い並べてきた自分がまさかこの様で終わるのかと。

そんな自分を叱咤する声に、漸く彼女は我に返り顔を声の方へ振り向けた。


──加賀さん、今こそ一航戦の誇り、お見せする時です!──



503 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/09/11 00:53:54.79 MSvA5CxKo 276/385

一体、私はどれだけ幸せなのだろうと、加賀はこの窮地に至って思わず笑みを零さずには居られなかった。

緩んだ心、諦めかけていた気持ち、揺るいだ信念、その全てがその掛け声一つで引き締められた気がした。

そう、私は栄光の第一航空戦隊、その一翼を担った鎧袖一触の加賀。

どれだけ高く聳えようと、そこに敵が存在するのなら殲滅するのみ。

何より、自らを信じて進んだ仲間達とまだ顔を合わせてすらない。

言ったではないか、相手が誰であろうと容赦する必要は無い。

持てる全てを出し切り、再び出会おうと。

まだ何も出し切ってないどころか構えを取っただけだ。

走り出してすらない。

顔を上げた加賀の表情には既に畏怖する影は消え、迷える表情もそこからは完全に消え失せていた。

あるのはただ一つ、『勝つ』と言う二文字のみ。


泊地水鬼「アラ、援軍?諸共、鉄屑ニ変えてアゲるわ!」


──いいえ、そうはさせませんっ!──


泊地水鬼「ナニ…!?」

加賀「……!」


更に響き渡る凛とした声、実際に会うのはこれが初めてでも、彼女には解った。

これもまた、合縁奇縁…記憶の奥底に燻る邂逅の連鎖なのだと。


赤城「一航戦赤城、戦列に加わります!第一次攻撃隊、発艦してください!」ビュッ

飛龍「同じく二航戦飛龍、戦列に加わるよ!第一次攻撃隊、発艦っ!」ビュッ

加賀「恩に着ります。ですが、ここは譲れません」ビュッ


三者一斉に放った一矢は綺麗な三条の軌跡を残して大空で散開、無数の艦載機へと姿を変える。


赤城「皆さん、準備はいい?」

加賀「鎧袖一触です」

飛龍「よしっ、友永隊、頼んだわよ!」


三人は各々に自らが放った艦載機に指示を飛ばし、目標たる泊地水鬼に狙いを定めて片手を振り下ろす。


泊地水鬼「フフ、面白い。航空戦というワケね。纏めて鉄屑ニ変えてアゲるわ!」

504 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/09/11 00:54:26.79 MSvA5CxKo 277/385




鳥海「名を、名乗りなさい。深海棲艦!」

??「瑣末ナ……が、これも一興カ。イイでしょう。私ノ名は港湾水鬼…特別ニ覚えてアゲる。貴女も名乗りなサイ?」

鳥海「高雄型四番艦、重巡洋艦の鳥海です。貴女を、深海へ還します」

港湾水鬼「コノ私を…?フフッ……ハハハッ!それは何カ作戦ヲ帯びたギャグなのカ?中々に面白イ冗談ダ」サッ

鳥海「!?」

港湾水鬼「多少ハ、全体を見る目ヲ持ってイルみたいネ。そう、コノ艦載機がドレほど凶悪カ…解るでショウ? 潔く、負けヲ認めてコノ場で私に傅クと誓うのナラ、命は救ってアゲても良いわ。深海棲艦ニ、屈しなサイ」

鳥海「誰、が…っ!」ギリッ…

港湾水鬼「コノ圧倒的な戦力差ヲ垣間見てもマダ、邪まな考えヲ巡らせるノカ。愚かな、艦娘風情ガ…ッ! やはり、イヤ……所詮は艦娘ト、そういう事カ。無様デ、愚かデ、無知とクレば、残るのハ最早愚鈍か。ここマデ考えの鈍いヤツもそうは居マイ?ある程度考えヲ纏められるのナラ、この状況ガ今どれ程自らヲ貶めた状況にシテいるのか位は容易ニ想像デキそうなモノだがナァ…どんな馬鹿デモ、背を見せ逃ゲルぞ?」

鳥海「敵を前に背を見せるのは海軍に身を置く者として最上の恥です!」

港湾水鬼「サイジョウの恥、か…矮小な意地ダナ。だから貴女達艦娘ハ容易く命を落とすノヨ。いいわ、望み通りニしてアゲましょう。そのちっぽけナ誇りを胸に抱き、死になサイ!」バッ


ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン


鳥海「」(被害を最小限に、避けれるもの、撃ち落すものを見極める…!)グッ

港湾水鬼「アハハハハッ!そのナリでこの攻撃ヲ防ごうと言うノカ!?フッ、これでは…戦にスラならぬ!」


ブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン……


──苦労が絶えねぇな。対空戦かい?だったら任せろ!あたしの後ろに隠れてな、鳥海!──



505 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/09/11 00:55:02.51 MSvA5CxKo 278/385

鳥海「えっ」

港湾水鬼「ナンだ、お前は…!」

摩耶「ああん?防空巡洋艦、摩耶様だ!生まれ変わった摩耶様の本当の力、思い知れ!」ジャキッ

鳥海「摩耶!?」


ドン ドン ドン ドン


ボボボボボボボボボボボンッ


港湾水鬼「ナッ」


パラパラパラ……


摩耶「はっ、どーだ!参ったか?ってまぁ、これくらいで『ごめんなさい』するような面構えじゃあねぇよな」

鳥海「ま、摩耶、貴女…どうして…」

摩耶「へへっ、妹が頑張ってんのにねーちゃんが寝転がってるワケにゃいかないだろ。おら、前向け! まだ終わってねぇんだ。さっさと終わらせて他の援軍にいこうぜ!」

鳥海「ふふ…そう、そうよね。うん、私は信じてたわ、摩耶」ニコッ

摩耶「期待に応えて何ぼだ。感謝はされても感謝はしねぇからな」ニッ

港湾水鬼「たかが第一陣ヲ屠った程度デのぼせ上がルナ。重巡がタッタの二人、死ぬ順番ガ順不同か逆さにナルだけよ」

鳥海「自分が先に死ぬかもという想定は考えないんですね」

港湾水鬼「馬鹿カ?万に一つもそんなコトはありえナイ」

摩耶「上等じゃないか。だったら番狂わせってヤツをあたし等が教えて上げるよ」

港湾水鬼「番狂わせ?フフッ、小賢しい…艦娘風情ガッ……!」バッ


ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン


港湾水鬼「強者が当然のヨウニして勝つ。それが摂理デ、それが全てダ。弱者には反論ノ機会ナド訪れない。言うダケ無駄だからヨ……弱い存在ノ言葉には、文字通り説得力モ力も、何もナイッ!」

鳥海「他者を慈しむ気持ちのないあなた達に、私達は絶対に負けません!」

港湾水鬼「ほざけ、口先ダケの矮小な存在ガ!朽ち果てろッ!!」サッ


ボゴオオオォォォォォォンッ



506 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/09/11 00:55:30.03 MSvA5CxKo 279/385




??「コノ戦艦水鬼の攻撃ニ物怖じシナイ馬鹿がマダいた事には賞賛スル」

長良「っぶなぁ…」


巨大な顎から放たれた閃光のような一撃を長良は辛うじて回避するが、その火力に戦慄した。

直撃すればまず間違いなくあの世逝きは免れない。

この勝負に勝つ最低条件、それは相手の攻撃を一撃も受けないこと。

そして第二の条件として、一発も余さず自らの攻撃を相手の致命傷となりうる箇所に全弾命中させること。

艤装を破壊する余力はない。

そもそもあの分厚い装甲を打ち抜けるだけのスペックが自らの技量にあるのかも解っていない。

不確定要素が織り込まれた攻撃は直結して長良自身の首を絞め、死へと誘う航路を取る。

綱渡りなどという生易しい条件ではない。

糸のような細い場所を全力疾走するような、無謀とも言えるチャレンジを長良はしようとしていた。


戦艦水鬼「ソレで…いつまでソウやって、逃げ回るツモリだ?」

長良「……貴女が根を上げるまで」ニコッ

戦艦水鬼「日ガ暮れ、夜が明ケ、再ビ太陽が東ノ空に昇ろウト、我等の位置関係ハ一つとシテ変わりはシナイ。つまり、貴様の死期ガ無駄に先延ばしサレるだけという事ダ」

長良「……神風って、知ってる?」

戦艦水鬼「…ナニ?」

長良「……」(ごめんね、皆。結構、私って貧乏くじ引くタイプかも…)クスッ…

戦艦水鬼「ナニを笑ってイル!」

長良「捨身の特攻さ」グッ…

戦艦水鬼「…!?」

507 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/09/11 00:56:06.96 MSvA5CxKo 280/385



長良は腰を落として身を屈め、右足を後ろに左足を前に出し、陸上のスタンディングスタートの構えを取る。

波の揺蕩う不安定な海上であっても、長良はその持ち前の足腰で揺るがないボディバランスを保持する。

揺れていようが揺れていまいが、長良にとってはそんなものは些細な事。

大荒れに海上が時化っていようがバランスを崩す事無く、速度を落とす事無く、長良は前に進める自信があった。

長良にだけ許された、これこそ神が与えたもうた天賦の才。

彼女の初速は何者をも凌駕する。


長良「私は長良型軽巡洋艦一番艦…ネームシップの長良だ!」

戦艦水鬼「身ノ程ヲ弁えろ。私は深海棲艦ノ上位種、戦艦水鬼ッ!眼前に立ち塞ガルと言うノなら、その全てヲ破壊する!」


ザバァァァンッ


長良の背後で凄まじい音を奏でて水飛沫が上がる。

それは長良が走り出す為に蹴り出した最初の一蹴り。


戦艦水鬼「コケ脅しガ…!」ジャキッ

長良「思い知れ、艦娘の底力!」ザッ


ザンッ ザンッ ザンッ


戦艦水鬼が構えたと同時に長良の動き出しの軌道が歪になる。

例えるなら、それは海上を駆け抜ける雷光。

左へ右へ、目で追う事すら困難なほどに凄まじい速度でほぼ直角に等しい切り返しを織り交ぜながら、

長良は一瞬にして戦艦水鬼の背後を取る。


戦艦水鬼「ナッ…!」

長良「長良の足についてこれる?今のあなたは遅い!全然遅い!いつも私達を勝利に導いてくれた司令官。今度は、私達が…私が、勝利を導く!最高の響きよね!いくよ、砲雷撃戦!!」ジャキッ

512 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/09/20 21:54:44.85 jyzX1b4lo 281/385

??「はぁ~あ……よりにもよって駆逐艦。どうせなら、空母や戦艦を食い殺したかったなぁ」

満潮「…思い出したわ。あんた、一度うちを襲撃してきたヤツと同種ね」

「そういえば…」

??「ん?あぁ…そっか。ボクの妹を相手にしてたのってお前達だったんだ。改めまして、ボクは過去の威光。先の大戦で猛威を振るった脅威にして畏怖の象徴たる存在の生まれ変わり…ボクこそが全て、ボクこそが最上位。ボクこそが……絶対!戦艦レ級FSだ」


目一杯まで見開かれた瞳、その深紅の瞳から更に際立つ輝きが放たれ、雷光の如き残光を残してレ級FSの姿がそこから消える。

しかし、その動きを悟って半ば反射的、言い知れない何かを感じ取って二人は同時にそこから飛び退いた。


ザバァァァァァァァンッ


直後、二人が先刻まで立っていた海面が大きく爆ぜて、二人の身の丈の倍はある高い水飛沫が巻き起こる。


満潮「……っ!」

「ちょっと、これ…」

満潮「ええ、案外シャレにはなってないかもね」

「上等ですよ!」

レ級FS「へぇ……動き、見えるの?見縊ってたよ…」ニヤァ…

満潮「……漣、あんた死ぬ覚悟はできてんでしょうね」

「みっちゃん、そういうの今ここで言っちゃいます~?」

満潮「うっさいわね。大体、元はと言えばあのアホ面オヤジが悪いんでしょうが」

「ふふっ、でもあれですね。みっちゃんも私が『みっちゃん』って呼ぶようになってから結構経ちますけど、文句言わなくなっちゃいましたね?」

満潮「……はぁ、言うだけ無駄って悟っただけよ。それに……」

「ん?」

満潮「…友達なら、呼び方なんて別に拘らないでしょ」プイッ…

「…!あはは、でーすよねー?ふふっ、みっちゃんの『デレ』頂きましたよ~」ニコニコ

満潮「言ってなさいよ。冥土の土産ってヤツよ。行くわよ、漣!」

「りょーかい!冥土にはもっていきませんって、土産話にしてやるです!」

レ級FS「他のを甚振る前のウォーミングアップには最適かもねぇ…」

満潮「勘違いしてんじゃないわよ。逆に甚振ってサンドバックにしてやるわ」

レ級FS「面白いことを真顔で言うねぇ…ウケ狙いなら、流石に笑えないけど…」

満潮「ウケ狙いかどうか…」ザッ

「試してやるです!」ザッ

513 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/09/20 21:56:49.22 jyzX1b4lo 282/385



言うや否や、二人は同時に駆け出しレ級FSへ迫る。


レ級FS「きなよ!完膚なきまでに潰して絶望を教えてやるッ!!」


満潮と漣、この二人の出だしは加賀や鳥海ですら距離を見誤るほどに速い。

そんな中で、特に満潮が当時悔しがっていたのが長良と対峙した時だった。


長良「遅い!」サッ

満潮「なっ」ザザッ

長良「ふふーん」ドヤァ

満潮「ムカつくドヤ顔…!」イラッ

長良「でも満潮の持ち味は私よりも身軽って所だよね。確かに私は初速を継続させた行動が出来るけど…」

満潮「けど、何よ…」

長良「私は左右の二次元の動きには対応可能だけど、満潮は違うじゃん?」

満潮「む…」

長良「満潮に出来て私に出来ない事、それは────」


レ級FS「死ねッ!!」ジャキッ

満潮「うるっさい!お前が死ね!!」バッ

「えぇ!?」

レ級FS「なっ」


真っ直ぐに駆け出した満潮は勢いを殺さずに膝のバネを使ってその場で大空に舞い上がり、空中で一回転してレ級FSの背後に着水する。


ザバァァァァンッ


満潮「私に出来てあんた等には出来ない事、それがこの三次元の動きよ。殺せるもんなら殺してみなさいよ!」ジャキッ


ドン ドン


ボゴオオオォォォォォン


レ級FS「サーカス気取りか!」バッ 被害軽微

「正面確保♪」ジャキッ

レ級FS「っ!」


ドン ドン


ボゴオオオォォォォォン


レ級FS「鬱陶しいなぁ…ッ!」 被害軽微

満潮「鬱陶しくて何ぼよ!」

「ちょっと小回り利く程度の戦艦モドキが付け上がるんじゃねーですよ♪」

レ級FS「そんなに死に急ぎたいの?相当酔狂だね…いいよ、君達は食わない。代わりに肉片すらも残さず粉砕する。この世から、完全に消滅させてあげるよッ!!」

514 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/09/20 21:57:39.59 jyzX1b4lo 283/385




-軍艦の記憶-

火薬の香りと辺りを焦がす嫌なにおい。

いつ終わるのかも解らない、地獄がそのまま世界に再現されたような阿鼻叫喚の空間。

次々と沈んでいく仲間達と同じくらい、相手方も次々と海の底へと沈んでいった。

倒さなければ倒される世界。

だから私は情けを捨て、心を鬼として獅子奮迅の働きをした。

別に憎かった訳ではない。

相手にも同じ感情があるはずだ。

どこかですれ違ってしまった想いはそう易々と元には戻らない。

やがて、私も沈む時が来た。

海の底に沈みながら見た光景は、鮮烈の一言だった。

沢山の鉄屑が眠る水底。

それら全てが物語っていた。

『まだ沈むわけにはいかない』

『まだ何も成してはいない』

『まだ戦える。まだやれる』

ああ、その通りだ。

まだここで、私も沈むわけにはいかないのに。

悔しい、悲しい、このままでは悔やんでも悔やみきれない。

その時に至って初めて沸き上がる感情は、海の上、そこから見える青い空に馳せる思いだった。

ただ、穏やかな時を過ごしたいと願い、その為に奮戦してきた。

その結果が、この多くの鉄屑と共に未来永劫この先を漂い続けるという運命に行き着いて私は初めて怒りを覚えた。

冗談ではない。

何故、どうして、私がこんな目に遭わなければならない。

思えば、それが最初に抱いた負の感情だったのかもしれない。

気付けば私は忌まわしい艤装を抱き、彼女達を憎み、恨み、蔑み、怒り、全ての負の感情を撒き散らしていた。

久しく忘れていた……護りたいという感情。

それに気付けた時、私は本当の意味で生まれ変われた気がした。

今までに犯してきた罪の全てを私は受け入れ、その全てを背負って戦う。

果たせなかった無念、貫き通せなかった信念、その全てを今度こそ私が散っていった者達の代わりに引き継ぐ。

515 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/09/20 21:58:12.68 jyzX1b4lo 284/385



キメラ男「これ以上の邪魔は許さないよ」

フェアルスト「貴様のようなゲスに使役されるだけの人生はさぞ無益な時の浪費だろうな」

キメラ男「何だと…?」

フェアルスト「私が終わらせる。数多と散っていった者達の遺志を私が受け継ぐ!」

キメラ男「艦娘に感化されて慈善活動でもやろうってのかい?元・深海棲艦の上位種たる君が…? つくづく笑えない冗談だねぇ…まるで偽善者の教科書みたいな有様じゃあないか!?」

フェアルスト「偽善者で大いに構わない。授けられたこの命、偽善だろうと慈善だろうと拘りなどそこにはない。あるのはただ一つ、今度こそ私は護り抜く。眼前に見える全てを、この手に届く全てを、私が愛したこの海を!」

比叡「うん、護ろう!」

霧島「ええ、今度こそ…!」

衣笠「そうだね、同じ過ちはもうごめんだもんね!」

北上「いいねぇ、痺れるねぇ……ふふっ」

木曾「何笑ってんだよ」

北上「いやぁ…こういうのも悪くないなってね」

木曾「ちっ、これから戦だって時に辛気臭く笑うなっつーの」ガシッ

北上「わっ」

木曾「そりゃあ、俺だって三人揃って暴れてみたかったぜ。けど、二人ってワケじゃねぇだろ。ちゃんと居る。ちゃあんと俺等を見ててくれてんだろ。大井はさ」

北上「ん…そだね。そんじゃま、装いも新たになってる事だし、ギッタギッタにしてあげましょうかね!」

木曾「おう!頼りにしてるぜ、姉貴!」

ル級改艦娘「ようこそ、艦娘の皆様。遠路遥々とこのような所にまで来られるとは、余程馬鹿なのでしょうね?」

タ級艦娘「愚かで浅はかな艦娘ほど、度し難いものはありません」

ネ級艦娘「無様に果てるだけとまだ解らないのか」

リ級艦娘「我等にお任せ下さい、ご主人様」

ツ級艦娘「偽善者共が…!」

ト級艦娘「直に後悔させて上げるわ」


六人の前に立ち塞がったのは肌の色が白い以外は彼女達艦娘と何ら変わりのない存在。

これこそ、キメラ男の成功作品である艦娘と深海棲艦のハイブリット型である。

薄っすらと笑みを浮かべるキメラ男を前に、フェアルスト達も臨戦態勢に入る。

516 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/09/20 21:58:40.51 jyzX1b4lo 285/385



フェアルスト「どうかしら、私達と戦ってた頃に比べれば随分と難易度は下がってると思うけど」

比叡「あはは、サラッと嫌味を言うねぇ」

霧島「憎まれ口も叩けないわね」

フェアルスト「ふふ、悪気はないのよ?それに、中々無い機会だもの……そうでしょ、提督」チラッ

衣笠「あっ」

北上「お?」

木曾「はっ、んだよ重役出勤かよ」

不動「よう、汚ぇ面は相変わらずだな、キメラ男!」

新月「…………」

キメラ男「不動に新月か…」

新月「貴方の取った行為は凡そ許されるものじゃない」

キメラ男「別に君に許しを請うつもりは無いよ。何故なら、私が自らを許しているからだ」ニヤッ

不動「それを認めねぇつってんだよ、脳みそ欠陥野郎!」

キメラ男「脳筋馬鹿が私を批難できるクチかい?片腹痛いね、不動!完成された私の最高傑作達をみなよ。従順で、純粋…何ものをも恐れず、在るがままに蹂躙する。私の匙加減一つで彼女達は思うがまま、自由自在さ。大人しく私に跪き、頭を垂れ、哀願する。自らをもっと必要としてくれ、とね」

新月「そんなものは本当の信頼じゃない。それが解らないと言うのなら、貴方は艦娘に関わるべきじゃない!」

キメラ男「信頼…?信頼だと?笑わせるな!この道具達の何を信頼しろと言う!こいつらは道具である前に玩具だよ。私の有り余る暇を埋めるための愛玩具。相手をしてやってるのは私の方なんだよ。海に駆り出されるだけの戦争兵器…それの何を信頼すればいい?そもそも信頼などする必要があるのか?否、道具に感情は不要!ただ道具としてそこに存在し、ただ眼前に見える敵を屠り続ければいいだけだ!故に信頼などという形の無い幻に縋らなくてもいいのさ!」

新月「……るな」

不動「新月…?」

新月「ふざけるなっ!彼女達を愚弄することは僕が許さない。彼女達が居たから、今の僕が在るんだ。彼女達の存在が、昔の僕を前進させ、今の僕を支えてくれているんだ。その彼女達を愚弄する事は、僕が許さない!」

キメラ男「車椅子生活で脳みそまで退化したのかい?ピーピーと五月蝿いなぁ…今すぐに黙らせ……」

フェアルスト「黙るのは貴様だ。人以下に成り下がった屑にも劣る畜生風情が…我等の提督には指一本触れさせん!」

キメラ男「何ぃ……!」ピクッ

木曾「不動さんよ、この場の総指揮は今回はお預けだな」ニヤッ

不動「けっ、どっかの坊主でも憑依してんのかねぇ。おら、新月大将。そこまで啖呵切ったなら最後まで勤め果たせよ!」

新月「はい!フェアルスト艦隊各位に告ぐ!この場で僕等に刃向かう敵に容赦は要らない。完膚なきまでに叩き潰せ!!」

北上「そうこなくっちゃね~!」ジャキッ

衣笠「ふふっ、りょーかいよ!」ジャキッ

木曾「おう、任せな!」ジャキッ

霧島「お任せを、新月司令!」ジャキッ

比叡「いつでも!全力で!撃てます!」ジャキッ

フェアルスト「頼もしい限りだ、提督!」ジャキッ


新月の吠えるような指示の下、各々が艤装を構え直して臨戦態勢に入る。

また一つ、ここに大きな海戦が幕を開けた。

521 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/10/04 19:59:58.33 qqEsdzVNo 286/385




~小さな願い、大きな望み~



-揺るがぬ信念-

ビスマルク「ちっ、次から次へと…!これでは大和の艦隊に追いつけないじゃない!」

ローマ「相手も少しは頭を使っていると言う事ですね」

イタリア「困ったわねぇ…」

レーベ「ここを突破出来たとしても、残弾が僅かになる可能性が高いよ」

マックス「物量作戦が型に嵌っている。失速してしまっては一点突破も適わないわ」

プリンツ「ビスマルク姉さま、右舷から更に追加です!」

ビスマルク「息つく暇も与えないって事ね」

マックス「どうしますか」

ビスマルク「フッ、何を恐れるの?私達は淵源の艦隊…元帥直属護衛艦隊、その第二部隊……進むのよ。立ち塞がると言うのなら、持てる力全てを賭して突き崩す!」


──よく言った。それでこそ元帥が誇る直属護衛艦隊だ──


レーベ「な、那智女史…!?」

ビスマルク「それに、貴女は不動艦隊所属の艦娘ね」

阿賀野「黙ってみてるだけなんてごめんなんだから!」

那智「この先に道が続いていると言うのなら、掻き分けてでも進め。敷き詰められた砂利程度、踏み固めて見せろ」

ローマ「言ってくれるわね」

イタリア「ふふっ、でもそうね~。本領発揮、しちゃおうかしら?」

マックス「異論は無い」

レーベ「うん、叩き伏せてやろうじゃないか」

那智「我等も持てる力全てを賭して、淵源の艦隊を援護する」

阿賀野「うん!」

ビスマルク「視界に映る全ての深海棲艦を殲滅するわ。開闢の艦隊へ追いつくわよ」

522 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/10/04 20:00:28.38 qqEsdzVNo 287/385




ボゴオオォォォォォン


ドオオォォォォォォォン


遠くから木霊する爆撃音と砲撃音、その音に乗って喧騒とも言える咆哮も聞こえてくる。

深海棲艦の上げる雄叫びだろうか。

今わの際にあって絶命の最中に上げる最期の猛る叫び声。

しかしそんなものに怖気付く彼女達ではない。

深海棲艦の呻き、叫びは言い換えれば艦娘達が善戦している事にも繋がるのだ。

だからこそ大和は表情を引き締め、続く艦隊に声高らかに作戦を伝える。


大和「敵の数は未知数。種別も、戦力も、弄している策すら不明慮です。しかし、臆す理由などありはしません。己の持つ実力、確固たる意思、そして私達が始まりの艦隊だと言う事を相手に教えて差し上げましょう。妙高さん」

妙高「はい」

大和「大本営直営隊の一角を纏めるその手腕、大いに期待しています」

妙高「ありがとうございます。できるのなら、この様な戦が起こらないのが最善なんですけどね」

大和「同じく足柄さん」

足柄「何かしら?」

大和「言葉で多くは語りません。その戦力を遺憾なく発揮してくれる事を願います」

足柄「ふふっ、任せなさいな」

大和「ご足労、感謝します。三隈さん」

三隈「うふふ、たまには身体を動かさないと、鈍ってしまいますものね?」

大和「雲龍さん」

雲龍「言われずとも、ね?」

大和「貴女と共に再び戦場に立てる事、私は誇りに思っています」

雲龍「あら、奇遇ね。私もよ?それに…ちょっと恩もあるしね」

大和「ふふ……そして、天城さん」

天城「は、はい!」

大和「元帥からの温情です。貴女の提供してくれた内容に虚偽の一切が見られない事、加えて雲龍さんの妹である事…」

天城「…元々は、葛城の行方を探す為に転属願いを出していました。結果としては、雲龍姉さんに迷惑をかける事に…」

雲龍「気にしないの。貴女は最善を尽くした…違うかしら?」

天城「けど…!」

大和「むしろ、よく生きて戻ってきてくれたと、元帥は仰ってました」

天城「……進撃鎮守府の方々、それにハズレ鎮守府の鳥海さんによる温情が大きいと思います────」

523 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/10/04 20:00:54.50 qqEsdzVNo 288/385



木曾「────で、こいつらどーすんだ」

天城「…………」

北上「んまぁ、単純に考えるなら大本営に報告、元帥の耳に入れるのが一般的だぁね」

鳥海「…貴女は何故、心悸に付き従っていたのかしら?」

天城「……妹の、葛城の行方を探す為に、私は鮮血の艦隊に加わりました」

木曾「妹だと?」

鳥海「カツラギ……聞いた事の無い名前ですね」

天城「雲龍型三番艦正規空母葛城……それが私の妹です」

鳥海「うんりゅ……って、じゃあ貴女は…」

天城「お察しの通りです」

北上「けど、雲龍型なら本来であれば赤レンガのどっかの管轄になるんじゃないの~?」

天城「その通りです。ですが、葛城は行方を晦まし、姉の雲龍は既に大本営直営隊としての任務があります。ある程度、自由の利く私が探すしかなかったんです」

鳥海「それを、姉の雲龍さんはご存知なのですか?」

天城「ふふ、知らないでしょうね。私も、告げる事無く転属願いを提出してしまいましたから」

鳥海「けど、なぜ心悸提督の下に?」

天城「信頼などはされないと思っていました。皆様もご存知の通り、あのような性格ですからね。ただ、私の所有する情報の中で最も葛城に近付ける可能性があるのが、心悸提督だった…ですけど、私も甘かった。まさか、ここまで非道の限りを尽くしている艦隊とは想定を大きく上回っていました…」

木曾「まっ、だろうな。大っぴらにそんなふざけた真似する訳がねぇ。解ってんだよ、それが禁忌だって…その上でやるんだから、そりゃあ隠れてコソコソやるに決まってる」

鳥海「そして結果、今回の事態に直結した」

天城「戦うしかないとは思っていました。周りの艦娘達の様子が不自然なのにも既に気付いていました。ですけど、どこで同じ目に遭うかも解らない以上、迂闊に行動を起こす訳にも参りませんでした。結果として、皆様と対峙せざるを得ない状況に陥った……言い訳にしかなりませんが、それが全てです」

鳥海「まぁ、であれば仕方ないかもしれませんね」

北上「えっ、あんた今の全部鵜呑みにすんの?」

木曾「そりゃ幾らなんでもお人好しの枠越えてんだろ。実際にこっちに矛を向けてきてんだぜ?」

鳥海「今この場で語った事が全て作り話なら、それはそれで驚嘆です。艦娘など辞めて文豪を志すべきでしょう。ですが、頭から全てを否定する、というのは最も不得手になる手法と私は考えます」

北上「ん~、そうはいってもねぇ…」

鳥海「ですから、事の顛末が如何なものか、それを精査する機会くらいは与えてもいいはずです────」

524 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/10/04 20:01:31.80 qqEsdzVNo 289/385



大和「そう…だから、進撃提督からの一報があったわけですね。鳥海、相変わらず頭の回転が早い子ですね」

天城「相変わらず…?」

三隈「元々鳥海は姉の摩耶とは違う部隊ですが、大本営の部隊に所属する予定だったんです」

雲龍「けど、彼女は大本営から去った。凄い決断力よね。理由が自分の肌には合わないから、だもの」

足柄「挙句に何処に行くのかと動向を見守れば『あの』鎮守府でしょ?驚きよね」

妙高「ですが、こうして彼女は成長した。素晴らしい事です」

天城「ようやく、手掛かりを掴んだんです」

雲龍「ええ、そうね」

天城「鋼鉄の艦隊に痛手を負わせた艦隊、それがエリート提督の艦隊です。そして、その中に葛城は居た…」

雲龍「五航戦を相手にしても、全く躊躇いも無かったって話だし…ちょっと複雑ね。同じくらい、二航戦にも顔向けできない」

天城「このままでは、です。姉さん…あの子は、私が止めます」

雲龍「ここまで追い続けてくれたんだもの。最後まで貴女に任せるわ」

天城「はい!」

大和「では、まずは目先の進撃の艦隊へ恩を返しましょう」

雲龍「大和、貴女だって複雑じゃないかしら」

大和「今ここに至って何を況や…ここまできて狼狽するようではこの開闢の艦隊を引き従える資格はありません」

雲龍「ふふ、強いのね、貴女は」

妙高「不可思議な点はまだあります。過去の資料によれば────」

525 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/10/04 20:02:11.54 qqEsdzVNo 290/385




-ミッドウェー-


ボゴオオオォォォォォォォン


泊地水鬼「……ソレで?」 被害軽微

加賀「この、装甲は…」

赤城「強い…!」

飛龍「ウソでしょ、これじゃ足りないって事?」

泊地水鬼「フフッ、一航戦モ二航戦モ、所詮は過去ノ栄華というワケね。無様デ無力、コノ程度で狼狽スルのか? もしソウなら、早々に背ヲ向けて失セルがいい。負け犬ヲ始末スル道理ハないからナ」ニヤァ…

加賀「……」

赤城「何を…!」

飛龍「絶対的な力なんてものはないよっ」

泊地水鬼「…ダカラ?」

飛龍「強いって言うのは形に見えるものが全てじゃない。力を誇示すればいいってもんじゃない。この身に括った一本の矢は、決して折れはしませんっ!」

泊地水鬼「寄らば折レヌ三本の矢、とデモ言いたいノカ?」


──三本でも折れるって言うなら、倍にしてあげます!──


ブウウウゥゥゥゥゥゥン……


泊地水鬼「ナニ!?」


ボゴオオオォォォォォォォン


泊地水鬼「チィッ…!まだ、くるか!」 被害軽微

蒼龍「二航戦蒼龍、戦列に加わるよ!」

飛龍「そ、蒼龍…!?」

翔鶴「先輩方が尽力しているんです、ここでおめおめと指を咥えている訳には参りません。五航戦翔鶴、戦列に加わります!」

瑞鶴「加賀さん達が頑張ってるのに、ただ黙ってるだけなんて無理に決まってるじゃない!五航戦瑞鶴、戦列に加わるわ!」

赤城「皆さん…!」

加賀「あなた達…」

泊地水鬼「六人ノ、空母艦娘ダト……」

526 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/10/04 20:02:52.54 qqEsdzVNo 291/385



遥か昔、日本列島より東にある遠い地ミッドウェーにて激戦を繰り広げ、主力として獅子奮迅の働きをした一航戦と二航戦。

その残照とも言える過去の記憶を彼女達は朧気にでも脳裏に刻んでいたのだろうか。

集うべくして集ったこの六人に、もはや過去の残照に囚われる者は一人として居ないだろう。

ただ、眼前に立ち塞がる敵を真っ直ぐに捉え、今度こそ勝利をその手に掴み取る。

それぞれの歩んできた軌跡は違えども、志した想いは誰一人として違わない。

だからこそ、今の彼女達が目の前で起こす行動は奇跡などではなく、阿吽の呼吸から齎される必然にして当然の動き。


加賀「全艦、散開して下さい。目標は泊地水鬼、私達の全力をもってこれを殲滅します。高邁な精神は永遠なれ…深海棲艦、あなたにお見せします。今この世に在る私達艦娘の誇る大和魂…その信念を」サッ


手の指を真っ直ぐに揃え、その切っ先を泊地水鬼に差し向けて加賀が宣言する。

そしてそれに応えて五人は同時に陣形を崩し散開する。


赤城「貫きます、この誇り!一航戦赤城、参ります!」

飛龍「たとえ最後の一艦になっても、叩いて見せます!二航戦飛龍、いきますっ!!」

蒼龍「過去は過去、それでも…!第一機動艦隊の栄光、ゆるぎません!二航戦蒼龍、いくよ!」

翔鶴「惨劇は、二度と起こりません。ここからです!五航戦翔鶴、行くわよ!」

瑞鶴「逆境、苦境、なんだって乗り越えて見せる。艦載機がある限り、負けないわ!五航戦瑞鶴、いきます!」

加賀「反撃開始です。その身をもって知りなさい。ここから先は、一歩たりとも譲れません」

泊地水鬼「いいワ……その全てヲ耐え抜き、絶望ヲ再び貴女達に刻ミ込ンで上げまショウ。如何ニ無力か、無意味か、その身デじっくりト味わいなサイッ!」サッ


泊地水鬼は怒気の篭った声と共に片手を振り翳し己の艤装から無数の艦載機を出現させる。

最初に加賀達を相手取って出現させていた数を優に超えるおぞましくも思えるほどの艦載機数。

彼女の上空を漆黒が埋め尽くすかのようにして暗雲とも呼べるようなそれ等が一斉に飛来する。

しかしそれに怖じる事も無く六人はそれぞれに動く。

まるでそれが当然であるかのように、長年の苦楽を共にしてきたかのように、それぞれがそれぞれの考えを汲み取って

いるかのように、迷いの無い動きで散開する。


泊地水鬼「フン、纏まって死ぬノヲ恐れたカ」

瑞鶴「あんたは絶対に潰すわ」

泊地水鬼「フフッ、潰せるモノなら潰してミセろ!」

翔鶴「いい?瑞鶴、行くわよ!」サッ

瑞鶴「勿論!」サッ


スラッと伸びた銀髪が風に靡いてユラユラと揺れる。

左右に伸ばしたツインテールも風の影響を受けて躍るようにユラユラと揺れる。

二人の見据える一点は彼方上空を埋め尽くす漆黒の闇。

しかし、一瞬も躊躇う事無く、二人は同時に弓を取り出し、共に矢を番えて斜め上空へその穂先を向ける。

そして寸分の狂いも無く同時に矢を弓から解き放つ。


翔鶴「全航空隊、発艦始め!」

瑞鶴「第一次攻撃隊、発艦始め!」

527 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/10/04 20:03:41.82 qqEsdzVNo 292/385



五航戦の目標は泊地水鬼本体ではない。

その上空を埋め尽くす悪夢そのもの。

それらを確実に制圧する。

埋め尽くされる前に、この闇に一条の矢で亀裂を入れる。

亀裂はやがて乖離し、その溝を深めて隙間から光を齎す。

齎された光を拡大させる。

ただそれにのみ尽力する。


泊地水鬼「矮小な勢力ダナ!それで何をスルというノか!」

翔鶴「闇に包まれたままでは視界も曇ります。空も海も、その全てを取り戻します!」

瑞鶴「私達の亡骸を確認してから鼻息荒くしなさいよ!」

泊地水鬼「なラバ、望み通りにシテやろう!」サッ


泊地水鬼の手が一振りされ、漆黒の雲の如く蠢いていた空が俄かに動き出してその形を変えていく。

ゆっくり、静かに、先端を尖らせたように真っ直ぐとこちらへ向かい闇の切っ先が迫り来る。

その切っ先に真っ向から二人の放った矢は突き進み同時に無数の艦載機となって解き放たれる。


ブゥゥゥゥゥゥゥゥゥン……


瑞鶴「加賀さん!」

加賀「上出来です」

翔鶴「お願いします!」

赤城「お任せを!」

加賀「全てを薙ぎ払って見せます。鎧袖一触よ」サッ

赤城「この一矢に、誇りを乗せて…!」サッ

泊地水鬼「そのようなバラバラな陣形デ…!」

加賀「どのような状況下にあろうとも、この意思まではバラバラにはなりません」

赤城「私達は一つの塊となって、あなたを討ちます!第一次攻撃隊、発艦してください!」ビュッ

加賀「いきます」ビュッ


鶴姉妹から遅れて放たれた一航戦二人の矢は先の二人の横、側面を狙って放たれた。

528 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/10/04 20:04:12.79 qqEsdzVNo 293/385



泊地水鬼「小賢シイ…!」

赤城「飛龍さん!」

飛龍「蒼龍、いくよ!」

蒼龍「私達の最高戦力、見せちゃおうか!」

飛龍「こういう空の時って、なんていうんだっけ?」

蒼龍「対空見張りも厳として、よろしくねっ!飛龍!」

飛龍「ふふっ、お任せ!一航戦にだって遅れはとらないんだから!徹底的に叩きます!」サッ

蒼龍「うんっ!どうせだしね、大物を狙って行きましょう!艦載機の錬度もバッチリ!」サッ

飛龍「よしっ、友永隊、頼んだわよ!」ビュッ

蒼龍「江草隊、友永隊に続いてっ!」ビュッ

泊地水鬼「ククッ、そうか…なるほど、過去ノ残照……縋るカ、そして同じ道ヲまた辿る。
ここがミッドウェーでないノは残念だったワネ?」

蒼龍「え?なに、ミッドウェー?」クスッ…

泊地水鬼「何ガ可笑しい…!」

蒼龍「ふふっ、なにそれ、美味しいの?」


含み笑いを見せる蒼龍、それに釣られて口角が少し釣り上がる飛龍。

互いが放った矢は上方へ放たれ、一航戦の二人とは反対側の側面へ向かいその姿を艦載機へと変える。


泊地水鬼「コザ、かしい…!全てヲ滅ぼセ、我ガ艦載機群!」


正面、左右側面からそれぞれの艦載機が一斉に泊地水鬼の放った艦載機群の殲滅に乗り出す。


泊地水鬼「私ヲ狙わず艦載機にダケ照準を絞るカ。最早ジリ貧ネ?」

赤城「それは早計です」

飛龍「私達航戦のエースを舐めない方がいいよ」

瑞鶴「やっちゃえ、加賀さん!」

加賀「…………」キリキリ…

泊地水鬼「チッ…!」

529 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/10/04 20:04:42.23 qqEsdzVNo 294/385



ボゴオオォォォォォン


ボゴオオォォォォォン


ボゴオオォォォォォン


ボゴオオォォォォォン


上空で艦娘達と泊地水鬼、双方が放った艦載機群がぶつかり合い壮絶な爆発が巻き起こる中、その爆風、熱風に怯まずただ真っ直ぐに泊地水鬼を見据えて弓を構えていた加賀の瞳により一層の力が宿るのを泊地水鬼は見た。

────来る。

そう悟った直後、泊地水鬼もまた両手を前方に突き出し防御姿勢を取っていた。


ビュッ


加賀達の戦術は次の通りだ。

まずは泊地水鬼を扇状に包囲するようにして全員が散開する。

そして目標を泊地水鬼の放った艦載機群にまずは集中させ、初動の動きを封じ込める。

制空権を奪えないのなら、自軍の制空に侵攻してくるまでの数秒を稼ぐ。

その間に加賀の一矢に勝機を見出す。

怯んだ中枢指揮の攻撃合図が無ければ深海棲艦の艦載機は動かない。

泊地水鬼の合図があるまで行動を起こそうとしなかった暗雲の如き相手の艦載機群を見て見出した答え。

そこから隙を与えない連続艦攻艦爆の雨霰を降らせる電撃作戦。

ここまでは読み通り。

計画通り。

530 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/10/04 20:05:09.71 qqEsdzVNo 295/385



ボゴオオオォォォォォォン


一際大きな爆発が泊地水鬼を中心に巻き起こり、その姿を一瞬にして爆煙が覆い尽くす。

上空では無情にも加賀達の放った艦載機達が驟雨の如く墜落していく。

しかし、この好機を逃す訳にはいかない。

六人は一斉に弓を構え直し、未だ冷め遣らぬ正面の爆煙渦巻く場所へ向かい一斉に矢を放つ。

────しかし。


──小賢シイ。だから…何度キテも……同じナノヨ…!──


加賀「なっ」

赤城「そんな…!」

飛龍「ウソ、でしょ…」

蒼龍「ありえないって…」

翔鶴「これだけ打ち込んだのに」

瑞鶴「まだだっていうの!?」


爆煙が止み、薄っすらと煙の中にその輪郭を浮かび上がらせそれは姿を再び現す。

六人を驚愕させるに足る生命力とその耐久力、堅牢なまでの装甲は悪夢と言っても差し支えないだろう。


泊地水鬼「フッ……痛い、痛いワ……ウッフフフフフフ……!痛みヲ、私はマダ覚えてイタみたい。あえて感謝スル」 小破


ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン


泊地水鬼「お礼参りッテいうのカシラ?冥土の土産、トモいうのカシラ?私カラのせメテもの手向け、下賜としヨウ。私達こそ絶対者デあり、上位に立つ存在ダト、思い知るガいいッ!艦娘風情ガ、出すぎたマネをするナッ!!」


ボゴオオオオォォォォォォォン


先の六人の巻き起こした爆発よりも一際大きな爆発が広範囲に渡り六人を一斉に飲み込み、その姿を一瞬にして掻き消した。

泊地水鬼の眼前に広がるのは漆黒に等しき黒煙と深紅の如き炎。

その炎に照らされてか、泊地水鬼の瞳がより一層の赤みと輝きを増しているかのようだった。

535 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/10/18 22:05:56.43 b/W4+tlPo 296/385

-姉妹-



ボゴオオオォォォォォォン


摩耶「っとにさぁ、よくこんなの一人で相手しようなんて考えたな、お前。頭良いのか悪いのか、どっちかにしろよ」

鳥海「な、何よ!摩耶だっていきなり突っ込んで無茶してたじゃない!」

摩耶「ばっ…あたしのは計算済みの行動だっつーの!事実防いでんだろうが!」

港湾水鬼「茶番ハそれ位にシテもらえると助かるんダケド?」

摩耶「っせーんだよ!てめぇ等の存在が茶番だっつーんだよ。くっ…」ガクッ…

鳥海「摩耶…!やっぱり、貴女まだ…」

摩耶「鳥海…前だけ見とけよ。前だ、前を見ろ…!いつだってそうだったろ、あたし等は…前だけ向いて、生きてきた」

鳥海「摩耶……」

摩耶「仲間、待ってんだろ?だったら尚更後ろなんて振り向いてる暇、ねぇよな」

鳥海「うん…!」

港湾水鬼「次デ三度目だ。防戦一方デ攻めに転じレナイ、ろくに動けもしナイ…不毛過ギテ泣けてクル。ソレで、この茶番をいつマデ続ける気ダ?」

摩耶「決まってんだろ。お前が泣いて土下座するまでだよ…」ニヤッ

港湾水鬼「フン、無駄ナ問答だったナ。朽ち果テロ」ジャキッ

鳥海「砲雷撃…!?」

摩耶「ちっ、砲塔も二基装備してやがんのか、こいつ…!」

鳥海「そうか…」

摩耶「あ?」

鳥海「ふふ、そういう事。なるほどね…摩耶、勝ちに行くわよ」

摩耶「はは、なんかわかんねぇけど、お前がそう言うんだから勝ちにいける策があるって事だよな」

港湾水鬼「ゴチャゴチャと…口先ダケで戦場に立テルと思わない事ネ!」

鳥海「摩耶、合図したら一度後方へ下がって」

摩耶「あぁ、お前の戦術に間違いはねぇの知ってるからな。期待してるぜ」

港湾棲姫「死ネ!」

鳥海「今よ!」サッ

摩耶「おう!」サッ

536 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/10/18 23:57:48.04 b/W4+tlPo 297/385



ドォン ドォン


ザバアアアァァァァァァァン


港湾棲姫「…ッ!?」


距離と範囲、鳥海は港湾水鬼と自分達の立ち位置を瞬時に把握し、それに応じて港湾水鬼が攻撃のパターンを変更している事に一瞬にして気付いた。

鳥海達が下がった場所は砲雷撃と艦爆艦攻を港湾水鬼が切り替える境目。

そこより後ろへ下がれば砲雷撃は届かなくなり、前へ出れば届く。

爆風や爆発の範囲を考慮して間合いを多めに取れば被害を被らずに済むと言う寸法だ。


港湾水鬼「舐メタ真似を…ッ!」

鳥海「摩耶、攻勢に出るわよ!」ジャキッ

摩耶「へへ、よっしゃあ!いくぜ!!」ジャキッ

港湾水鬼「たかが二匹程度、一息ノ下に黙らセテやるッ!!」

鳥海「稚拙な戦略、戦術をひけらかした所で、私の張り巡らせた戦略、戦術には到底及びません。艦娘と深海棲艦がどう違うのか…教えて差し上げます」

港湾水鬼「艦娘、風情ガ…ッ!」

摩耶「風情風情ってうるっせーなぁ。そんな卑屈根性丸出しだから『そう』なっちまっただけだろうが。憧れ抱くのと妬むのはお門違いだぜ。悔しかったら『なって』みせろってんだ!」

港湾水鬼「……ッ!!」

鳥海「摩耶、狙いは本体に集中。あの深海棲艦の艤装を破壊するには流石に二人じゃ無理があるわ」

摩耶「まっ、だろうなぁ」

鳥海「それと、港湾水鬼の砲撃には敏捷性が著しく欠けている。照準を合わせ、構え、撃つまでのタイムラグが結構ある」

摩耶「へぇ…」

鳥海「ただ侮れないのはやっぱり艦載機ね。あの数を全て捌くのは正直無理に等しいわ。単発で来るならまだしも…」

摩耶「あぁ、間断無くやられると流石にキツイ。だったら、勝負をする場所は決まりだな」

鳥海「うん…!」

港湾水鬼「死ぬ順番ハ決まったカ?」

摩耶「あぁ…テメェがいの一番で死ぬのは変わりねぇけどな?」ニヤッ

港湾水鬼「貴様……ッ!」ギリッ…

鳥海「そこを、退いて頂きます」

港湾水鬼「退かセルものならナ?」サッ

537 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/10/18 23:58:20.57 b/W4+tlPo 298/385



片手を振り上げ、港湾水鬼が合図を送ると、背後から無数の艦載群が浮上する。

それと同時に、港湾水鬼は不敵な笑みを浮かべた。


港湾水鬼「私ノ攻撃範囲ヲ瞬時に把握シ、安全圏を即座に見出シタその目利きは大シタものだ。ダガ、私が艦載機と砲撃、ドチラかしか出来ナイ、とは一言も言ってはイナイぞ? サテ、どうする?空と海上、双方カラの攻撃に貴様等ハどうやって対処スル?」

摩耶「鳥海、いくぜ」

鳥海「いつでもいいわ」


ザッッ


真っ直ぐに駆け出す鳥海とは別に、摩耶は横に向かって駆け出す。

それと同時に港湾水鬼の停滞させていた艦載機群が標的を見定め進軍を開始する。


港湾水鬼「たかが二匹ノ艦娘に、コノ私が遅れヲとるものカ…!」サッ…

鳥海「無駄です!」ジャキッ

港湾水鬼「なっ…は、ハヤ……」


ドン ドン


ボゴオオォォォォォォン


構えから狙いを定め、砲撃に移るまでの一連の動作は港湾水鬼のそれと鳥海では雲泥の差だった。

結果、港湾水鬼の砲撃の体勢を目視してから鳥海が構えて狙いを定め、砲撃を開始するまでに順序が入れ代わり、先に鳥海の攻撃が開始される。

攻撃が放たれた頃に漸く港湾水鬼の狙いが定められる計算になり、撃ち方を始める時には鳥海の砲撃が既に相手に着弾しているというものだ。

538 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/10/18 23:58:46.71 b/W4+tlPo 299/385



港湾水鬼「グッ…おの、れ……ッ!!」 被害軽微


そして一度港湾水鬼にとってノイズともいえる想定外の事象が発生する事によって、上空遍く港湾水鬼の艦載機群は沈黙する。

それはつまり、無条件に摩耶の対空迎撃が有効打として成立する事を示した。


ボボボボボボボボボボボボンッ


港湾水鬼「しまっ……」

摩耶「へへっ、テメェ自慢の艦載機もこれじゃ形無しだな」

港湾水鬼「小賢シイ……フフッ、だが……そうか、少しハ、ヤルノカ……?楽しいナ……!」ギロッ…


宍色の淡い輝きを放っていた港湾水鬼の瞳に強い光ともいえる意思が宿り、その瞳は大きく見開かれ強さがより一層際立つ。

両手を広げ、真っ白な長く伸びた髪を靡かせ、真っ直ぐに鳥海と摩耶を見据えて港湾水鬼は宣言する。


港湾水鬼「私ガ受けた命ハ、時間マデ貴様等と遊ぶ事……けど、イイワ…殺す。我が名ハ港湾水鬼…異国の地、異国の海……寂しいナ……だから、貴様等ノ骸で、ソノ寂しさヲ埋めてクレ」


黒光りする異形の艤装、怪しく輝くその脇に備えられた深紅の滑走台。

そこから再度、無数の艦載機群が飛翔していく。

港湾水鬼の両脇に備えられた艤装の顎が大きな口を開き、港湾水鬼の意思に呼応する。

直後、鳥海と摩耶は初めて絶望を味わう。


鳥海「そん、な……」

摩耶「冗談、だろ…」

港湾水鬼「誰が、先マデの戦闘が全力ダト言った?分ヲ弁えなサイ。不相応な自信ハ身を滅ぼすダケよ」


ボゴオオオオオォォォォォォン


一際大きな爆発が港湾水鬼の眼前で巻き起こる。

薄っすらと笑みを浮かべ、片手で顔面を覆って港湾水鬼は低く喉を鳴らして笑う。

その声はやがて声量を増していき、口を開いて顔を上げ、声高らかに笑い続けた。

543 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/10/25 21:32:38.16 5C/bFQhFo 300/385

-背水の陣-



ボゴオオオオォォォォォン


戦艦水鬼「チィッ…!」 被害軽微

長良「はぁ、はぁ、はぁ…」ザザザッ

戦艦水鬼「ウロチョロと、鬱陶しい…!そんな脆弱な砲撃ヲ何度繰り返し行オウと、無意味だと解らナイのか。動き出しコソ確かに驚嘆シタが……だが、ソレだけだ」ニヤッ

長良「くっ…」


傍から見れば長良が圧倒的に戦艦水鬼を押し込んでいるように見えただろう。

しかし、それは偏に長良の敏捷性が成した奇跡に過ぎない。

何十発と的確に打ち込まれた必殺必中の砲撃、しかしその全てが戦艦水鬼にとっては脆弱な一発に過ぎない。

例えるのなら、世界トップランカーガチガチのインファイトボクサーを戦艦水鬼、片や極東に生まれた新生、磨けば輝きを増すであろう発展途上のアウトボクサーを長良。

一発の重みは誰が見ても雲泥の差と理解が出来るほどに、そのウェイトの割合ははっきりとしていた。


戦艦水鬼「気付いてイルのか、いないノカ…フフッ、その顔は気付いてイルけど、認めたくナイ。どうかシラ? 当たらずトモ遠からず、と言ったトコロだろう?」

長良「…………」

戦艦水鬼「ククッ……貴様の考えナド当の昔に気付イテいるサ。こちらの死角カラ致命傷になり得る場所へ、決定的とナルべき一撃ヲ常に撃ち込むコト……それで、残弾ハ後幾つダ?」ニヤッ…

長良「……さぁ、どうだったかな。数えてないよ、そんなの」ギリッ…

戦艦水鬼「ククッ…そう言えば、開幕に面白いコトを言ってイタな。神風……覚悟が足りてイナイんじゃないのカ」

長良「……ッ!」ピクッ…

戦艦水鬼「己が身ヲ弾丸とスルのなら、その程度の覚悟デハ私の身は貫けナドしない。無様デ、愚カ……がっかりダナ。もういい…貴様ハこのまま、泣き叫んデ……沈んでイケ……ッ!!」ジャキッ

544 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/10/25 21:33:15.06 5C/bFQhFo 301/385



双頭の悪魔ともいえるような漆黒の艤装の顎、赤黒く怪しい輝きを放ち耳障りな咆哮を轟かせてそれは戦艦水鬼の合図を待つ。

真紅の瞳は真っ直ぐに長良を見据え、辺りを恐怖が支配する。

一陣の風が戦艦水鬼の黒いドレスワンピースをそっと靡かせ、同時にその漆黒の長く伸びた髪を舞い上げる。

波の揺蕩う音がやけに大きく響いたように長良は感じた。

同時に、自身が如何に無謀な真似をしようとしていたのか、冷静になって考えてしまった。

その時点で、長良は負けていたのだ。

平たく言えば戦艦水鬼の放つ覇気に気圧されてしまったのだ。

両の拳を掌に爪が食い込むほどに強く強く握り締め、歯を食い縛り、俯いて小さく震える。

その震えは恐怖から来るものではなく、己の不甲斐無さ、覚悟の浅さ、決断力の乏しさからくる震え。

後悔……幾度と無くしてきたはずだ。

自分の歩んできたその道に、決断に、選択に、後悔はあったか。

その道を選んでよかったか。

選んだ決断は間違っていなかったといえるか。

その選択は、振り返って確認する必要があったか。

覚悟が足りなかった。

戦艦水鬼の言葉を否定するだけの材料が長良には無かった。

悔しいくらいにその通りだったから。

今この場に至って、長良は漸く自分の愚かしさに気付いた。

だからこそ、震えた。

悲しくて、悔しくて、情けなくて、己に憤りを覚えて。

自分の言葉に自信も持てない奴が、何を言ってもそこに力は及ばせない。

誓いを立てたのならそこに向かって突き進む覚悟を示さなければならない。

それらの教えを説いてくれたのは────

545 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/10/25 21:33:44.25 5C/bFQhFo 302/385



長良「────司令官、皆……ゴメンね。すぐ、会いに行くよ」ジャキッ

戦艦水鬼「……?理解に苦シム。何故、マタ構える。フフッ……よもや、コノ窮地に至って壊れデモしたのカ?」

長良「まだまだ、これからだよ」

戦艦水鬼「ナンだと…?」

長良「」ニコッ…

戦艦水鬼「何を、笑ってイルッ!?」

長良「長良の足についてこれる?」

戦艦水鬼「先の焼き直しデモしようというノカ」

長良「さぁ、それはどうか……なっ!」ザッ

戦艦水鬼「ッ!?」

546 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/10/25 21:35:05.79 5C/bFQhFo 303/385



次の瞬間、長良の姿が目の前から忽然と消失する。

海面に波紋だけを残し、文字通り長良はそこから消えたのだ。

そしてその直後、戦艦水鬼の周囲で断続的に海面が次々と爆ぜていく。


バシャァァァァァン

バシャァァァァァン

バシャァァァァァン

バシャァァァァァン


そして戦艦水鬼は目撃する。

何もない空間が突如爆ぜる瞬間を。

そしてその爆ぜ方には見覚えがあった。

そう、それはまるで────


ドン ドン


────砲撃のような爆ぜ方。


ボゴオオォォォォン


戦艦水鬼「グッ…!」 被害軽微


ザザザッ


長良「何発でも、何十発でも、あなたが倒れるまで私は撃ち続ける!」ジャキッ

戦艦水鬼「キ、サマ…ッ!」

長良「また会おうって、約束したのに…勝手に決めて、勝手に諦めて…これじゃ、何も変わってないじゃん。やるよ……私、絶対に皆に会うからね!」ジャキッ

戦艦水鬼「チッ……」(ナンだと言うのだ。何故、今わノ際に至って、ここマデ戦意が回復シテいる…それに、先程ノ動き…この、私が…見失ッタ?馬鹿な、ソレこそ…ありえナイッ!)ジャキッ

長良「……!」

戦艦水鬼「遊びハ終わりダ。貴様ガどれだけ速く動コウが関係ナイ。この、砲撃の前デハ、全てが無力!」


戦艦水鬼の広げた両手と共に従える艤装が怪しく蠢き、その無数に備えられた砲塔が一斉に長良へ差し向けられる。

それと同時に長良も動くが、直後に轟音とも言えるような凄まじい砲撃音が断続的に響き渡り、辺り一帯を一瞬にして火の海へと戦艦水鬼の艤装が変貌させていく。

火の海へと変えても尚、戦艦水鬼の砲撃は止まない。

ただ只管に長良が居るであろう空間を焼き尽くし続けた。

552 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/10/29 00:01:39.54 oFJLn+nYo 304/385

-共に-

これまでに戦艦レ級と戦い、勝利を収めてきた艦娘は少ないが存在した。

しかしそれは同等の火力と耐久力を秘めた言わば戦艦型であり、空母であり、また奇策を衒った奇襲戦術の賜物でもある。

此度は初回、相手の油断も手伝ったとは言え、五人全員で収めた辛勝だった。

完全勝利、余裕を持っての勝利には程遠い、辛くも手繰り寄せた勝利だった。

しかし今度の相手は、あの時よりも更に強さも速さもエリート型を上回るフラグシップ型へと進化を遂げた究極の悪魔。

エリート型は過去に何度と無く制圧されてきた。

先の大戦でも最後の最後に進化を遂げた戦艦レ級だったが多勢に無勢、数多の砲撃と艦爆艦攻の前に成す術も無く轟沈した。

しかし、今は違う。

万全の状態で且つ、あの時よりも更に凶悪性を増した、まさに完成された怪物なのだ。

それを、たった二人の駆逐艦が相手にしなくてはならない。

それでも、最悪の怪物を前にしても、彼女達には微塵も後退すると言う選択肢は存在しなかった。

何故なら、それは慢心と紙一重のある種の信念、自信、確信、度胸。

物怖じしないこの二人を前に、レ級の心はかき乱され続ける事だろう。

それ故に生じる隙を、この二人が見逃すはずも無い。

相手がうんざりするほど、諦めるほど、悔やむほど、泣けるほどに、今までのどの艦娘よりも、この二人は……しつこい。

553 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/10/29 00:02:17.67 oFJLn+nYo 305/385



「漣からは逃げられないよ!」ジャキッ

レ級FS「お前如きにボクが逃げるとでも思ってるの?」

「ふっふっふ。一度は言ってみたかったこの台詞!滅びの風をその身に受けるがいい…くたばれッ!!」


ドン ドンッ


満潮「どこが風よ!」

レ級FS「ふざ、けるな…ッ!!」ブンッ


ボゴオオォォォォォン


「うひゃ~…」

レ級FS「鬱陶しいなぁ…何様?ねぇ、お前達…何様なの?こんな貧弱な砲撃を飽きもせずにポンポンポンポン……馬鹿でも気付くってもんでしょ。力も、強さも、存在感も!全てにおいてボクが上回ってるんだよ! いい加減、無駄な足掻きは止めて死ねよ……艦娘ッ!!」

「だが断る」ズキュゥゥゥゥン

満潮「だってさ?」

レ級FS「」ブチッ…

「あれ…なんか、嫌な音したです?」

満潮「みたいね。あんた、余計な事しすぎなんじゃないの」

「あははは…」

レ級FS「ここまでコケにされたのは初めてだよ…それも、駆逐艦風情に…ッ!」

満潮「何よ、煽り耐性ゼロな訳?てんで、お話になってないわね。それにさっきからペラペラペラペラと…ウザイのよッ!!」ザッ

554 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/10/29 00:03:04.20 oFJLn+nYo 306/385



漣とスイッチする形で今度は満潮が駆け出す。

狙う場所は既に決めている。

見た時からそこだけを狙うと満潮は決めていた。

何度見てもイラつく、その顔。

その顔面目掛け、相手が許しを乞おうとも、絶対に許しはしないと覚悟を決めた上でそこだけに一点砲火を浴びせる。


満潮「変形するまで撃ち込み続けてやるわ!」ジャキッ

レ級FS「お前…!」

満潮「宣言してやるわ。私はあんたの顔面しか狙わない。深海のアイドル気取るんだったら、顔面偏差値維持する事ね!」


ドン ドンッ


ボゴオオオオォォォォォォォン


レ級FS「グッ…!」 被害軽微


ザザザッ


レ級FS「お前、今、何をした…」スッ…

「みっちゃん…!」

満潮「……っ!」

レ級FS「宣言通り、殺す。遊んでやってればつけ上がる…ゴミ以下の分際で、このボクの顔に何をした…?」

555 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/10/29 00:03:34.42 oFJLn+nYo 307/385



片手で片目を覆い、牙を剥き出しにして静かにレ級FSの怒りが膨れ上がる。

片方の瞳から迸る怒りの眼光は真っ直ぐに満潮を見据え、瞬きすらも生温いと目一杯に見開かれ、睨み据える。

ゆっくりと覆っていた片方の手を下ろすと、その瞳周辺は赤く火傷の痕の様になり、目からは一筋の真紅の液体が涙のように頬を伝って流れ落ちた。


レ級FS「すぐ、楽にしてあげるヨ…」


その姿がブレた。

そう悟った瞬間、漣の体は宙に浮いて強い衝撃と共に数メートル真横に吹き飛ばされていた。


バシャァァァァァン


満潮「さ、さざな……」

レ級FS「バカなの?お前…」


ボゴオォッ


満潮「あ゛ぁっ……!!」


バシャァァァァァン


レ級FSの言葉が届いたかと思うと、同じようにして今度は満潮が漣とは真逆の方角へと吹き飛ばされる。


満潮「げほっ、ごほっ……!くっ…」 小破

「げほ、ごほっ……うっ」 中破


ビチャッ…


満潮「漣っ!」

「怪、力、馬鹿…!」ヨロッ…

レ級FS「へぇ…ボクの全力で壊れない駆逐艦って、居るんだ」ニタァ…


弾き飛ばした二人の中心に悠然と立ち、レ級FSは不敵に笑いながら左右に視線を漂わせる。

レ級FSが行ったのは砲撃でも艦攻艦爆でもない。

ただ、尾のような艤装を力任せにフルスイングしただけだ。

556 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/10/29 00:04:01.62 oFJLn+nYo 308/385



レ級FS「最後の晩餐には物足りないだろうけど、最後だからね。選ばせて上げるよ…どっちが先に肉の塊になるのか、ね。好きなだけ悩み、好きなだけ足掻け。ただし先に背を見せた方を真っ先に八つ裂きにする。戦場で尻込みする奴に用はない。死ぬと分かっていても、立ち向かってくるのなら最後まで愉しませてあげるよ。帰結点は、どちらも『死』だけどね」

満潮「漣、私が時間稼ぐから、あんたは先に…」

「じょーだん…でしょ!みっちゃん、格好つけすぎ、ですよ」

満潮「だって、あんた…!」

「旅は道連れ、世は情け…合縁奇縁で丸儲け、ですよ」

満潮「こんな時に意味不明なギャグかましてる場合じゃないでしょ…!」

「どうせ、死ぬんだったら……私は、一番の友達と、一緒に死ぬですよ」

満潮「漣……」

レ級FS「決まり?いいよ、同時に首を刎ね飛ばすくらい、ワケ無いからさ。栄誉を抱いて死ね。お前達はボクを本気にさせたんだ。これは素晴らしい事だよ。だって、ボクは常に遊び半分で君達艦娘を屠ってきたんだ。歯応えのない、手応えのない、感触のない。そんなボロ雑巾みたいな連中ばっかりで、ボクの悦が満たされるワケがない。だから、お前達の首はボクのコレクションとして、永遠に傍に置いてあげるよ。綺麗に胴体と切り離して、最高の表情で剥製にしてあげる。だから笑って死ね。この栄誉を抱いて、満足な顔をして逝けッ!!」


レ級FSの姿が一瞬ブレる。

その刹那、二人にどれだけの考える時間、過去を振り返る時間があったのかはわからない。

もしかしたら万事休すと、完全に思考は停止していたのかもしれない。

悔やみがあるとすれば、再び五人揃ってまた出会えないと言う無念の悔やみがあるだろうか。

だから、眼前で爆発が起こった時でさえ、二人はただ呆けて立ち尽くすだけだった。


ボゴオオォォォォン

ボゴオオォォォォン


レ級FS「なっ…!お、お前は…なんで!?」

??「『欠陥戦艦』とか『艦隊にいる方が珍しい』とか、いいたい放題ね……当然よね。だって、今の今まで、私は────」

557 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/10/29 00:04:27.82 oFJLn+nYo 309/385



『経過観察は?』

『良好です。ですが、目覚める兆候はありません』

『心的なものなのか、それとも外的なものなのか…』

『恐らく前者でしょう』

『確証があるのかね?』

『聞く所によれば死ぬ寸前にまで追い詰められた上に、目の前で最愛の姉を失ったのでしょう?』

『あぁ……指揮を執るそこの提督が懸命にフォローして何とか一命は取り留めてはいたが、心が追いついてこない』

『ならば明白ではありませんか』

『貴重な戦力と言われているようだが、物言わぬこの身では…』

『件の提督は?』

『今日も着ていました。姉妹が好きだったと言う花を添えて帰られました』

『律儀なものだ。今時珍しい』

『そう言うな。大本営に集っている提督陣は各々に任された鎮守府で日夜深海棲艦と命を削る戦いを艦娘と共に行っている。運命共同体と言っても過言ではなかろう。そんな部下がこの有様では、気が気ではいられんだろうよ』

『悪事を働く提督も居る中で、と言う意味です。本当に、珍しいですよ。だからこそ、切なくて仕方が無い』

『目覚めの時は、訪れるのだろうか…最早、それすらも神のみぞ知る、か……』


??「今でも、覚えているの。最後の時も、扶桑姉さまと一緒に戦えたと、誇りに思って果てる筈だった。なのに……不幸よね。こうして、私だけのうのうと生きている。予感……って、私の場合は結構当たるのよ。こと、嫌な予感と言うのは、特にね?」

レ級FS「なんで、お前…生きてるんだよ……山城ッ!!」


二人の窮地を救ったのはそこに居るはずのない艦娘、扶桑型戦艦二番艦、山城。

彼女は一体、誰なのか。

どうしてそこにいるのか。

何故、山城と名の付く艦娘が二人存在しているのか。

これもまた、エリート提督の深慮の浅さが招いたミスであり、提督が弄し一種の賭けにして勝利の一手。

鳥海ですら知る由もなかった、数には含まれない幻の六人目。

集うべくして集うはずだった、陸の孤島に漂着した最後の艦娘。

563 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/11/01 20:56:42.63 EFrEMnOwo 310/385




~未来への扉~



-百戦錬磨-

負けは誰にでもある。

負けを知らないと言うが、そんなものは極地に立って本気の勝負をした事が無い者の語る幻想だ。

敗北を知り、辛酸を舐め、藻掻き苦しんだ先に初めて見える光を手にし、そして立ち上がる。

そうして人は成長し、進化し、躍進する。

艦娘も同じだ。

想うだけではどうにもならない事もある。

願うだけでは適わない事もある。

ならばどうすべきなのか。

一歩踏み出す勇気を得る。

例えそれがどれだけ遠回りになろうとも、茨の道を進む事になろうとも、死の淵に立とうとも。

それが正しいと、それが答えだと、自らがそう確信を得たのなら、そこに向かって突き進む勇気を得るだけだ。

進まなければ景色は変わらない。

戻れば見慣れた風景が飛び込んでくるだけだ。

それじゃダメだと思ったから、己の弱さを知り、己の敗北を受け入れ、己自身と向き合い、そうして今に至る。

だから強い。

この者達はそれ故に完成された存在なのだ。

564 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/11/01 20:57:26.19 EFrEMnOwo 311/385



榛名「主砲!砲撃、開始っ!」ジャキッ

山城「くっ…!」


ドォン ドォンッ

ボゴオオオオォォォォォォォン


山城「なっ…被弾!?」 小破

榛名「まだ、狙いが甘かった…!」サッ

山城「小賢しい…!」ジャキッ

榛名「させません!」ジャキッ


ドォン ドォン ドォン ドォン

ボゴゴゴゴゴオオォォォォォン


山城「ぐっ…!なっ、まさか…今の、副砲で…!?」

榛名「迎撃するだけなら、小回りと速射に長ける副砲で事足ります」

山城「どうして、そんな不相応な艤装を纏っているのに、私よりも動きが早いのよ…!」

榛名「『今は亡き』戦友が残してくれた、言わばその人の分身。それがこの艤装です」

山城「何を、訳のわからない事を…」

565 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/11/01 20:58:15.65 EFrEMnOwo 312/385



ピーコック「貴女、情緒不安定にも程があるんじゃないかしら?」

葛城「うるさい!」

ピーコック「ヒスってる女はウザがられるだけよ?」

葛城「元・深海棲艦だった分際で、偉そうにしないでよ!」

ピーコック「そう、深海棲艦ね。だから何よ?中身の伴ってない連中に言われても、この心には微塵も響かないわ」

葛城「中身の、伴ってない…ですって?」

ピーコック「あら、癇に障る言い回しだったかしら?」クスッ…

葛城「…後悔させて上げるわ。この改飛龍型の本当の力、見せてあげる!!」

ピーコック「神社幟に神道の…なるほどね、それが貴女の武器という訳。弓、かしらね。随分とリスペクトしてるじゃない」

葛城「沈め……」

ピーコック「」(情緒不安定…焦点の定まらない目。この子は、アレとは違うみたいね。はぁ、尚の事面倒ね)

葛城「沈め…!攻撃隊、発進!!」ビュッ


ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン


ピーコック「申し分ない艦載数ね。けど、私にとってはどうでもいい事よ。それが、空母と陸上型の決定的な違い。私の名はピーコック。ウェーク島基地陸上型ピーコック。その心意気には応えて上げるわ。ただし、武を以てね」バッ


ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン


葛城「…っ!」

ピーコック「当然でしょ。私と貴女では搭載している数が違うのよ。この力は、憎しみによって生まれたんじゃない。悲しみの中、争わずして成せなかった今の時、幾重にも折り重なって、過ちと後悔を繰り返し、漸く辿り着いた場所。今在るこの力こそ、遥か昔から私達が皆平等に想いを馳せ、恋焦がれ、夢にまで見た愛する海を護る為……そして巡り巡って繋がれた艦娘として、新たに出会えた仲間を護る為の……この世界を、深海棲艦より退ける為の戦力!」

566 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/11/01 20:58:42.66 EFrEMnOwo 313/385



武蔵「さぁ、何処からでもかかって来い、虫けら共!」

川内「言いたい放題言ってくれるね」

羽黒「絶対、負けません!」

神通「殿、この神通が引き受けます」

川内「援護するよ、神通!」

神通「はい!」

羽黒「神通さんの身、私も全力でお守りします。お任せ下さい!」

武蔵「消え失せろ!」ジャキッ

神通「私の知る貴女は、もっと悠然とした雄々しい方でした。今の貴女に、同じ影は見えもしません」

武蔵「寝言は寝て言え。私こそ大和型戦艦二番艦の武蔵!」

神通「隊は単縦陣!」

川内「はいよ!」

羽黒「はい!」

神通「神通、突撃します!」バッ

武蔵「速さだけが取り得の軽巡が、粉々にしてくれる!!」


ドォン ドォン

キンッ

ボボボボボボボボボンッ

567 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/11/01 20:59:11.69 EFrEMnOwo 314/385



武蔵「なっ」

神通「私達の振るう艤装は何を取り繕おうとも結局は生きるものを殲滅する道具。なれば、人が刀を、刀が人を…互いに心通わせ信じる道を違わぬように、互いが互いを振り回さぬように、諌め、慈しみ、認め合う事。私達は容易く道を踏み外す事でしょう。だからこそ、己を律し、己を磨き、己を諌め、己を起たすべく邁進するのです。人道を外れた者に、その理を説くのは些か無力が過ぎるのかもしれません。ですが、私はあえて問います。何故、この道を選んでしまったのですか」

武蔵「精神論か。小賢しいな。何故選んだのかなど決まっている。この道こそ、私が進むべき道だからだ!」

神通「仁義礼智信」

武蔵「何…?」

神通「仁義無き、礼を尽くさぬ、智に乏しき、浅はかな信念。凡そ道を踏み外すなどと言う生易しい言葉で取り繕えるものではありません。だからこそ、私が…私達がお教えします。この五常に通じるものが何かという事を。これを備えてこその、私達艦娘なのです」キンッ

武蔵「虫唾が奔る。消えろ」ジャキッ

神通「押し通ります」

川内「真面目モードの提督譲りだねぇ。何言ってんのか私にはさっぱりだけど、その心意気には応えるさ」ザッ

羽黒「私達が信じて進んできた道です!」サッ

川内「うん、その通りだ。いくよ、武蔵!」バッ

武蔵「砲撃のモーションなしだと!?」バッ


カカカッ

ボゴオオオオォォォォォン


武蔵「ぐっ…!」 被害軽微

羽黒「砲撃、いきます!」ジャキッ


ドン ドンッ

ボゴオオオォォォォォォン


武蔵「まだだ…!」 小破

神通「艦娘の誇り、これ以上穢させる訳には参りません!」

572 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/11/03 19:35:39.13 /tuVBYoLo 315/385

-因縁-

エリート「ククッ…存外に苦戦しちゃってるねぇ…僕の従える方が、だけど」

提督「て、めぇ…!」

エリート「提督、勘違いしないで貰いたいな」


元より、あんな傀儡人形共に僕は興味ないんだよ。

あんなものが幾万、幾億居ようが楽しくもなんともない。

根本から違うんだからね。

彼女達は所詮、道具なんだよ。

始まりはやっぱり新鋭さんだった。

僕はね、提督…組織ってものが大嫌いなんだ。そこにあると潰したくなるくらいに…

けど、僕達人間の社会と言うのは、その全てが組織としての確立を果たしている。

大なり小なり、上下関係が存在し、傅く者、敬う者、従う者、逆らう者、色々と居るね。

その中でも、僕が当てはまるものは何一つとしてない。出る杭は打たれ、潰される。

だったら潰される前に潰すだけだ。

この海軍を選んだのも、この日本と言う国が今はこの海軍を中心として動いているからさ。

深海棲艦の脅威に怯え、終わるとも知れない戦いに興じ続け、上層部は安寧と構え続ける。

そんな肥えた豚共を恐怖と言う音頭で無様に躍らせるには、内乱が最も手っ取り早い。

上に行けば行くほど、人間とはさもしいもので自身の保身を第一優先に考えて周りを一切見なくなる。

周りに居るのは己の駒と割り切り、使える内は笑みを零し、使い終われば即座に捨てる。

面白いと思わないか?

本性を晒した豚共の姿を垣間見た時、従ってきた同じ豚共が共食いを始めるのさ。

浅ましい醜悪な欲望を曝け出し合い、目糞鼻糞の無意味な争いを始める。

それに僕等は無益にも巻き込まれ、使役される。

だがね、僕はそうはならない。

この戦争兵器を用いて、僕がこの世界を蹂躙する。

手始めがこの極東たる列島国・日本と言うわけさ。

着実に力をつけて順風満帆の航路だったのに、君ときたら生意気にも感付いて噛み付いてきた。

新鋭さんの起こしたあの騒乱の中にあっても、君は僕を見据え続けていたね。

不愉快だよ。

573 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/11/03 19:36:11.57 /tuVBYoLo 316/385



提督「だから、レ級の群れを、ばら撒いて、無差別を装い、俺様の鎮守府と、艦隊を、諸共消し去ろうとした…」

エリート「いい嗅覚だね。その通りだよ。僕は憂いは微塵も残したくない性質でね。けど、心悸に任せたのは失策だった」

提督「ククッ…あの馬鹿は、てめぇの保身を考えて前にすら、出なかったからな。それが後々の、禍根になったのは明白だ」

エリート「百貫に任せるべきだったと、今更ながらに思うね。ふふ、けど…今の君を見てごらんよ。地べたに這い蹲り、今か今かと死ぬ瞬間を待ってるだけの出来損ないじゃないか」

提督「俺は、当の昔に死んでんだよ…」

エリート「奸計の白夜…あのまま戦果を重ねていれば、間違いなく君はあの智謀と共に並び称されただろうね。まさに伏龍鳳雛と成り得た存在だ。君を潰せた事は、当時では大いに僕の計画の躍進に貢献したよ。だが、捉え方を間違えていたようだね…僕は智謀を伏龍、君を鳳雛と見立てていたが…事の実は真逆だった」

提督「そいつはご大層な例え、痛み入るね。糞喰らえだ」

エリート「しかし、滑稽だね。君の信じた五人の艦娘は未だ影すら見せず、代わりに君とは無縁の艦娘達がこの場に居る」

提督「無縁…?いいや、そいつは、違うな…」

エリート「何?」

提督「そもそも、縁も所縁もねぇなんてのは、この海軍に置いちゃ、ねぇに等しいんだよ、バァカ。あいつ等が俺様の為に、この場に居るかと言えば、そいつはノーだ。しかし、あのクソガキの為に居るのかと、聞かれりゃ、多分イエス…だがな……大前提は、てめぇ等がここに居るからさ……合縁奇縁ってヤツだ。そして、俺様とてめぇにあるのは、因縁だ」

エリート「ちっ…」

提督「性懲りも無く、てめぇは…未だに、俺様の艦隊を、侮辱し続ける。お陰で、俺様は耐えるという事を、学んだ」ググッ…

エリート「その身体でよくもまぁ、まだ立ち上がろうとする。老体に鞭を打つにしても、打つ時を間違えてないかな?」

提督「いいや、そうでもねぇ…何より、俺様はな…見下されるのが、大嫌いなんだよ。特に、てめぇのような……ゴミ以下の掃溜めにも劣る、畜生風情にだけは、願い下げもいいところだ」

エリート「ほぅ…」ピキッ…

提督「扶桑を殺し、当時の俺様の精鋭達……千代田、睦月、弥生も死んだ……残ったのは、山城と鳥海の二人だけ……」

エリート「何が言いたい」

574 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/11/03 19:40:17.74 /tuVBYoLo 317/385



山城は……あの時から、今の今まで、ずっと植物状態だった。

目を覚ませば、きっと俺様を呪うだろう。

だがそれでもいいと、俺様は思っていた。

生きているのなら、それでいいと…だから、てめぇと一緒にあの時現れたのを見て、俺様は内心『そうか』と納得しかけた。

だがな、その後で、あいつはやっぱり、まだ『あそこ』にいたのさ。

そして、あいつの口調が、決定的となった。

だからこそ、俺様は確信を得た。

同時に、忘れかけていた怒りも得た。

どこまでも、人を馬鹿にして、虚仮にして、いい加減、腸煮え繰り返って、血反吐を無意味に吐き出しそうだ。

いいか、エリート……てめぇが、人形と言い張るのなら、そうなんだろう。

実際、あいつ等じゃ、クソガキの従える、あの艦娘達には、勝てねぇだろうしな。

だがな、覚えておけ……今、目に映ってる、光景だけが……全てじゃ、ねぇって事をな。


エリート「何が言いたいって聞いてるんだ!」

提督「ククッ……俺達ゃ影……てめぇ等がゴミと、クズと蔑んだ連中で、構成された、影だ。加賀を、てめぇは覚えていなかったな」

エリート「……あの空母艦娘か。それが何だと言うんだ」

提督「てめぇの、第一艦隊に、所属していた艦娘の顔も、名前も、覚えていないとはな…医学界を震撼させる、レベルの…痴呆症だぜ。だからこそ、てめぇは、あいつを出汁にして、消そうとしたんだろう。善と悪で、考えれば、あいつは善だ。その洞察力と、頭の回転の早さから、てめぇにとっては、目の上のこぶ、だったわけだ。余計な、根回しと、漏洩を防ぐべく、てめぇは加賀を、排除しようとした。が、ククッ…詰が甘かったな」

エリート「ちっ…」

提督「見届けようじゃねぇか…てめぇのその、薄汚ぇ面が、笑みに変わるのか…俺様が、嘲笑うのか…賽は、投げられた…もう、止まりゃしねぇ…ここからが、見物だぜ…見せてやる、目に物ってヤツをな…!」

575 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/11/03 19:44:13.99 /tuVBYoLo 318/385




-航空戦隊-

泊地水鬼「……他愛ノ無イ。これが、過去…脅威と謳わレタ南雲機動部隊トハな……」


燃え盛る炎の海を尻目に、泊地水鬼は薄っすらと笑みを浮かべてポツリとそう呟いた。

彼女にとっての六人の分析は既に付いていた。

加賀は放つ艦載数に似合わず機動力と破壊力を兼ね備えた、高い次元で完成されたオールラウンダー。

赤城は加賀に匹敵するポテンシャルか、それ以上の潜在能力を秘めた存在。

まさにこの二人は、一航戦は別次元の戦力だと認識していた。

そして二航戦の飛龍と蒼龍。

この二人の操る艦載機は他と一線を画している。

友永隊と江草隊と呼ばれるこの艦爆艦攻隊は、事航空戦において無類の強さを発揮する。

最後に一航戦の後釜と言われた五航戦。

未だ荒い部分も多いが、それを差し引いても有り余る集中力と秘めた強さを醸し出している。

しかし、それらの分析を経ても尚、泊地水鬼にとっては瑣末な事実として認識できた。

結果を見ればそれは火を見るよりも明らかだった。

事実、今こうして立っているのは己なのだから。

過去の焼き直し、過去の繰り返し、過去は無論、同じ事象を塗り替える事など不可能だと、証明してやったのだ。

だからこそ笑みが零れた。

愚かで無力、無意味な行為を繰り返す、哀れな艦娘の努力に呆れ果てて笑いが込み上げてきた。

だが、そう思っているのは泊地水鬼だけだった。

言わばここまでは間幕。

序幕を経て中盤へと差し掛かり、間幕が終われば次にくるのは────


──次で終幕です。まだ、私達は負けてない──



576 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/11/03 19:45:09.79 /tuVBYoLo 319/385

泊地水鬼「…っ!?」バッ


響いた声に背を向けていた泊地水鬼は驚愕の顔を露にして振り返る。


赤城「一航戦の誇り…こんなところで失うわけには参りません。まだです!」 小破

加賀「今度こそ、私は護る。赤城さん…貴女を残して……沈むわけにはいかないわ」 小破

飛龍「言ったはずです。たとえ最後の一艦になっても、叩いて見せます!」 小破

蒼龍「なんでまた甲板に被弾なのよっ!痛いじゃない!」 中破

翔鶴「過去の全てを踏襲する訳ではありません。翔鶴型は、この程度で沈みはしません!」 中破

瑞鶴「最後の機動部隊を護れなかった過去がある。でも、それでも私は矢尽き刀折れるまで、戦うんだから!」 中破

泊地水鬼「貴様等…!アノ、爆撃ノ中を、どうヤッテ…!」

蒼龍「ホントあったまくる!でも、今度は託せる仲間が傍に居る。飛龍…!」

飛龍「うんっ!徹底的に叩きます!蒼龍の分まで、私が飛ばすっ!!」

瑞鶴「過去は壊滅したのかもしれない。でも、今度は違う。本格正規空母の力、存分に魅せてあげるわ!翔鶴姉、やろう!」

翔鶴「ええ、そうね。あの惨劇の後は、先輩方の後を継いで……でも、今は違うものね。この海原を越えて、今度こそ皆で共に飛び続ける!」

赤城「私達機動部隊はこの日、この時に向けて練成してきました。必ず隙は生じるはず。一航戦の…いいえ、我々機動部隊の誇り、お見せします!」

加賀「私達が揃うのだから、心配いらないわ。鎧袖一触よ」

泊地水鬼「ナンだと、言うのダ…貴様等ハ、一体…!何故、アノ爆撃の中、ソノ程度の損害デ済む!?」

蒼龍「志の違いでしょ!」

瑞鶴「言ったでしょ。ぶっ潰すって!潰すまで、倒れるわけにはいかないのよ!」チャキッ

泊地水鬼「バ、バカな…!何故、構えらレル!」

瑞鶴「第二次攻撃隊。稼働機、全機発艦!」ビュッ

翔鶴「行くわよ!全機、突撃!全航空隊、発艦始め!」ビュッ

泊地水鬼「ソノ…装甲…貴様等、まさか…ッ!」

加賀「」(そういえば、瑞鶴の軍装が翔鶴と同じ物になっている。以前見た時は、迷彩の施された紺と茶だったのに)

翔鶴「無限の可能性、在り得ないを可能にするのが私達艦娘です!」

瑞鶴「紡ぐ事をしないあんた達になんて、絶対に負けないんだから!」

蒼龍「飛龍!」パッ

飛龍「うんっ!」パシッ

泊地水鬼「…ッ!」バッ

577 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/11/03 19:45:48.81 /tuVBYoLo 320/385


飛龍「何度蹴散らされたって、何度撃ち落されたって、そんなのどーって事ないっ!私達の信念が折れない限り、私達は何度だって、何回だって、立ち続けます!二航戦飛龍、反撃開始しますっ!第二次攻撃の要を認めます! 友永隊、江草隊、頼んだわよ!」ビュッ

赤城「加賀さん」チラッ

加賀「はい?」チラッ

赤城「ふふ、上々ね」クスッ

加賀「はい。みんな優秀な子たちですから」スッ…

赤城「ええ、そうですね」スッ…

加賀「音頭を、赤城さん」チャキッ…

赤城「南雲機動部隊、これが最後です!第二次攻撃隊、全機発艦!」ビュッ

加賀「続きます。一航戦の誇り、今こそ貫く時。ここで、終わらせます」ビュッ


ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン


泊地水鬼「何故、ダ…何故、マダ…これ程ノ……ッ!!」


空を遍く星々の如く、更なる力を得た五航戦姉妹の決死の一矢。

蒼龍の力を得て、己の力を乗せて、双頭の龍となって飛翔する二航戦。

全てにおいて常に前線を駆け続けた栄光の第一航空戦隊。

その双翼たる赤と青。

常に前線から周りを鼓舞し、叱咤し、己をも奮い立たせ、その身に括った誇りと言う名の信念を掲げてきた。

『あの時』は沈み逝く皆を、誰一人として手を差し伸べる事も、救う事も、護る事も叶わなかった。

だが今思う、護るなどと思い上がっていたと。

護られていたのは、自身に他ならなかったのだと。

しかしだからこそ、慎重に且つ大胆に、今は行動が取れる。

憂いを帯びる必要も、何かを気負う必要も無い。

あるがままに、ただ自らの力を最大限に発揮し、周りの期待にただ応えるのみ。

思いはただ一つ、皆が同じ思いの下に信じ続け、願い続ける。

即ち『勝つ』事だ。


加賀「終わりです、泊地水鬼」スッ…

泊地水鬼「馬鹿ナ、何故…既に二順目ヲ構えてイル!?」


六人が放った艦攻艦爆隊が大きな弧を描いて上空を飛翔し、攻撃態勢に移行する。

その直前、加賀は既に二順目となる艦攻艦爆隊の矢を番えて弦を引き絞り、真っ直ぐに標的を見定めていた。

何度叩きのめしても、何度絶望を植え付けても、眼前に並ぶ六人の艦娘は誰一人として脱落しない。

それ所か、打ちのめす度に錬度を上げて刃向かってくる。

執念、怨念だけでは、敵わない。

泊地水鬼には持ち合わせる事のない、信念がそこには存在しない。

これがあるから、彼女達は何度死の淵に立とうと、その淵より這い出て再び立ち上がれる。

思いの強さが、秘めた覚悟が、己の取る行動が、全てにおいて泊地水鬼は彼女達と対峙した時点で負けていた。

己の艦載機で迎撃する事も忘れ、呆然とその光景を目に焼き付ける。

ただ、誰にともなく静かに問い掛ける。

578 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/11/03 19:46:21.98 /tuVBYoLo 321/385



泊地水鬼「モウ…飛べナイの……飛べナイのよ……解ル?…ネェ」


ボゴオオオオォォォォォォォォォン


水飛沫を上げ、爆発が轟き、その姿を一瞬にして掻き消す。

しかし、一点の迷いも無く加賀は真っ直ぐに見据えた先を狙って番えていた矢を解き放つ。


ビュッ


空を切り裂き、立ち昇る爆煙を蹴散らし、矢は真っ直ぐに標的へ向かって突き進む。


泊地水鬼「マタ…アノ、空に……」 中破


ボゴオオオォォォォォォォォン


容赦の無い追撃の艦爆艦攻が更に泊地水鬼を襲い、周囲を再び爆煙が包み込む。

それを合図とするように加賀の放った矢が無数の艦載機へと姿を変える。

編隊を組んで飛翔する艦載機の翼によって再び立ち昇る煙は一掃される。


泊地水鬼「アア…綺麗……」 大破


空ろな目で迫り来る加賀の艦載機を見上げ、泊地水鬼は静かに呟く。


泊地水鬼「大きな、翼…!」


眼前にまで迫った艦載機を見て、泊地水鬼は目を見開き小さく笑う。

その直後、最後の艦爆艦攻が降り注ぎ泊地水鬼を三度爆煙が覆い尽くした。

嵐の如き艦爆艦攻の爆煙が風に流された後には、僅かに泊地水鬼の艤装だった滑走台の残骸が水面に浮かぶが、それすらも直に水底へと静かに沈んでいった。

579 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/11/03 19:46:49.06 /tuVBYoLo 322/385



瑞鶴「勝った…」

翔鶴「ええ…」

蒼龍「やったねっ!」

飛龍「はぁ…疲れたぁ…」

赤城「加賀さん…?」

加賀「……私は、まだまだです」

赤城「何を…」

加賀「ですけど、それでいいのだと、今更に痛感しています」

飛龍「はぁ…ほぉんと、今更だよ」

加賀「飛龍…」

飛龍「でもさ、君はやっぱり、No.1で居てくれないと。一航戦…うん、一航戦!最高の響きよね」

加賀「…?」

蒼龍「私達が越える壁はさ、高く高く聳えててくれなきゃ。ね、赤城さん?」

赤城「え、えぇ?わ、私もですか?」

翔鶴「先輩方を越える…並大抵の努力では不可能だと思っています」

瑞鶴「でも、越えるし!抜くし!絶対にね!」

赤城「ふふっ、うかうかしていられませんね」

加賀「はぁ…五航戦の子なんかと一緒にしないで欲しいものね」

瑞鶴「んな…!何よ!」

加賀「比べる事の無意味さを最も痛感しているのは私です。私と貴女達は一緒ではないわ。越えるんでしょう?」

瑞鶴「……」

加賀「なら、越えてみせなさい。越えたと、確信を得た時、その時は真っ向から貴女達の勝負を受けましょう。ただし…私達の艦載機は優秀な子たちですから。気をつける事ね?鎧袖一触よ」

瑞鶴「ま、負けないんだから!」

加賀「そう…それなら、良いわ」ザッ…

赤城「加賀さん?」

加賀「まだ、終わりではありませんから」

飛龍「ん…加賀!」バッ

加賀「…!」パシッ

飛龍「餞別。君の言葉を借りるならぁ…まぁ、私達にとっては優秀な子たち、かな?」

蒼龍「ふふっ」

赤城「加賀さん、慢心せずに…」

加賀「恩に切ります。染入る言葉です、赤城さん」

瑞鶴「…気をつけて、加賀さん」

加賀「問題ないわ」

翔鶴「ご武運を」

加賀「……」コクッ…

585 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/11/04 23:35:31.60 /YNYHcZDo 323/385

-智勇兼備-

港湾水鬼「肉片スラも残らナイか…少しムキになってしまったワネ」


一頻り笑い終えて周囲を見渡し、港湾水鬼は鳥海と摩耶の姿を確認出来ぬとみると小さくため息をついて呟いた。

元から本気を出す気など毛頭無かった。

しかし思いの他、重巡洋艦風情にしては手を焼いてしまった自分に些かの憤りを覚えてしまった。

故に遊ぶのを止めて全力で潰しに掛かった結果がこれでは、流石に大人気なかったと反省するほかない。


ポタッ…


港湾水鬼「?」


ポタッ…

グッ…


港湾水鬼「血…ダト…」 被害軽微


己の頬を伝って滴る血液に港湾水鬼は訝しげな顔で周囲を見渡す。

未だ冷め遣らぬ炎の壁と熱気が風に乗って熱風と変わり辺りを駆け抜ける。

それもやがて収まり、辺りは穏やかな波の音だけが木霊する海域へと変わる。

見渡す限り、水平線が広がる。

否、一点だけ、岩礁のように何かものが邪魔をして水平線の景観を損ねている。

それに焦点を合わせて、港湾水鬼はその目を見開いた。

586 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/11/04 23:35:57.69 /YNYHcZDo 324/385



港湾水鬼「貴様等…ッ!」

摩耶「へへっ、毎度お馴染み、防空巡洋艦の摩耶様だ。あたしは死ぬ思いするのはこれで二度目だが、存外死なないもんだね」 中破

鳥海「私の計算を上回っていた…誤算だったわ。でも、あの時の絶望に比べれば、この程度…!」 中破

港湾水鬼「くたバリ損ない共ガ…!」

摩耶「何度だって、立つさ。あたし等は、前を向いて進んでる。お前等後ろ向きな連中と、一緒にするんじゃねぇ!」

港湾水鬼「言いタイ事は、ソレだけか?」

鳥海「そうね。喋るのも、飽きちゃった。だから、終わりにしましょうか」サッ


鳥海がその手に引っ提げた物を見て、港湾水鬼の顔が始めて歪む。


港湾水鬼「貴様…ソレは…ッ!」

鳥海「貴女の『大好物』よ」ニコッ…

港湾水鬼「小賢しい、マネを…!」

鳥海「ここからよ、ここから────」


鳥海『摩耶、空を見て』

摩耶『あぁ?』

鳥海『もう直、私達の土俵よ』

摩耶『一撃必殺…ってワケか』

鳥海『この、三式弾を相手の鳩尾に叩き込んでやるのよ』

摩耶『用意周到じゃねぇか』ニヤッ…

鳥海『作戦は次の通りよ』


あえてこちらの手の内を見せ付ける。

自分にとって脅威となるものを見せ付けられれば、否が応でも相手はそこに注意を向けざるを得ない。

万が一があってはならない。

相手からしてみれば私達は格下と見ている。

そんな相手に弱みを見せる訳にはいかない。

何より、格下と見ている相手に負けるはずがない。

負けるわけがない。

だからこそ、この三式弾を見せ付ける意義が出る。

一見、本気をもって全力でこちらを潰しにかかる素振りは見せるでしょうけど、でもそれだけ。

三式弾がいつ来るか解らない以上、迂闊にこちらの懐には飛び込めない。

そこまでの度胸、深海棲艦にはないわよ。

秘めた想いや信念の無い者に、覚悟を込めた行動は取れない。

587 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/11/04 23:36:28.95 /YNYHcZDo 325/385



鳥海「暗闇の中で、貴女はどれだけ精密な射撃が出来るかしら」メガネキランッ

港湾水鬼「…ッ!」バッ

摩耶「さぁて、最終局面ってヤツだ。お前……あたし等を怒らせちまったなぁ!」

鳥海「伝統の夜戦…今こそ鍛えた力をお見せする時!摩耶、行くわよ!」

摩耶「おう!いくぜ!」

港湾水鬼「この時ヲ、待ってイタのか!」ギリッ…


水平線を燦然と照らしていた太陽が沈み、周囲を暗闇が支配する。

慣れきっていない、この僅かな時間こそ最も怖い瞬間である。


ジャキッ

ジャキッ


暗闇に響く艤装を構える音に港湾水鬼は周囲を警戒し砲塔を身構える。

範囲を無視した艦爆艦攻を強制敢行する事も可能だっただろう。

しかしそれは相手の位置を明かりで見つけ出す事も可能になるが、逆に自らの場所も晒す事になる。

どちらが見つけるのが先か、一か八かの賭けに出るわけにはいかない。

相手には三式弾があるのだから。

流石にあれをまともに食らえば一溜まりもないのは港湾水鬼にもわかる。

それほどまでに局地的に際して凶悪な艤装の一つなのだ。

だがそれこそが、港湾水鬼に冷静な判断を損なわせる要因となる。

奇しくも鳥海の考えはその全てが的を射る結果となった。

588 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/11/04 23:36:59.70 /YNYHcZDo 326/385



港湾水鬼「」(ドコだ、どこカラくる…!)

摩耶「怖ぇか?」

港湾水鬼「…ッ!」バッ


ドォン ドォン

ザバアアァァァァァン


港湾水鬼「しまっ……」

摩耶「あたし等もそろそろ先へ進みたいからさ、終わりにしようや」


ドン ドンッ

ボゴオオオォォォォォン


港湾水鬼「ウグッ…!」 小破


バッ


砲撃を側面に受けて港湾水鬼は即座にその場から飛び退き周囲を無差別に砲撃する。


ドォン ドォン ドォン ドォン

ボボボボボボボボボボボボボボボボン


それに合わせて位置を定めさせないように更に動き、再度先よりも集中力を高めて周囲の警戒に当たる。

しかしそれを意に介さないように、二人の艦娘は行動に移る。

最も、この戦場において取られてはならない場所、背後。

それを、港湾水鬼はついに奪われる。

589 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/11/04 23:37:26.89 /YNYHcZDo 327/385



鳥海「そこね…計算通り、見つけたわ」

港湾水鬼「背後…ッ!」バッ


それでもその集中力が成せる業だろう。

音に全神経を研ぎ澄ませ、響いてきた声に即座に反応し暗闇の中でも音の方角を正確に読み取り、そちらを向く。

だが、それは言わば罠。

鳥海による誘導。

彼女が欲しかったのは港湾水鬼の真正面。

それを見越し、あえて声による反応を待った上で一拍置いての砲撃。


港湾水鬼「チッ、罠か…!」

鳥海「いいえ?」

港湾水鬼「……ッ!?」


至近距離から木霊した声。

思わず視線を泳がせてしまった、僅かな躊躇いが生じさせた隙。

その直後、轟音と共に全身を駆け巡る今までに受けた事のない激痛と衝撃。

この瞬間、初めて港湾水鬼は己が死の淵に片足を突っ込んでいるという事を認めた。


ボゴオオオオォォォォォォォォン


港湾水鬼「ガアアア……ッ!!」 中破


ヨロッ…


港湾水鬼「この、ようナ…所デ……異国ノ地、異国ノ海で……ッ!私ハ、沈まんッ!!」ジャキッ

摩耶「悪ぃけど、年貢の納め時ってヤツだぜ」

鳥海「沈めるわ、ここで…確実に!」


バッ


港湾水鬼「オノレ……ッ!」


──少しハ、ヤルノカ……?楽しいナ……!──


港湾水鬼「冗談デハ、ない…!私の、認識が、誤ってイタと言うノカ…ッ!」

590 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/11/04 23:37:57.49 /YNYHcZDo 328/385



ドォン ドォン


港湾水鬼「認メンッ!!」


ボボボボボボボボボン


摩耶「悪手だ、深海棲艦…無闇な砲撃はテメェの居場所晒すだけだぜ」


ドン ドンッ

ボゴオオオォォォォォォン


港湾水鬼「グゥ…ッ!」 大破

摩耶「ちっ、これでも浅いのか…!」

港湾水鬼「沈、まん…わ、タシは…決して、沈みハ、シナイ……ッ!」ジャキッ ジャキッ

摩耶「こいつ、まさか二基同時に…!鳥海…っ!」

鳥海「大丈夫…!私の計算は…もうこれ以上、狂わない!」

港湾水鬼「沈メえええぇぇぇェェェェェェッ!!」

鳥海「貴女がね…!」

591 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/11/04 23:38:26.51 /YNYHcZDo 329/385



ドン ドンッ

ドォン ドォン


互いに放った一撃はくっきりと明暗を分けた。

港湾水鬼の放った一撃は鳥海の頭上を越えてその後方で大爆発を引き起こし、鳥海の放った一撃は港湾水鬼の真正面を捉えて確実に直撃する。


ボゴオオオオォォォォォォォォン


互いの砲撃の爆発音が轟き、辺りを一瞬明るく照らし出す。

火の粉が舞い、それが仄かな明かりとなって周囲を照らし出し、互いの位置関係が明白に浮かび上がる中、港湾水鬼は虚ろな瞳を空へ向けて自嘲気味に笑う。


港湾水鬼「フフッ……花……サクラ……」

摩耶「あぁ?桜なんて何処にも…」

鳥海「…きっと、もう殆ど見えてないのよ。この火の粉が、そう映ってるのかもしれないわね」

摩耶「…………」

港湾水鬼「……綺麗な、モノ……ネ…」 轟沈

鳥海「安らかに、眠って…」


バシャァァァン……


鳥海「っ!ま、摩耶!?」

摩耶「わり…はは、疲れたわ…」

鳥海「病み上がりなのに、無茶するから…!」

摩耶「うるっせー…結果オーライだ。お前はさ、自分が選んだ道、進んだんだろ? だったら、振り向くなよ…前向いてけ、進め…ここが最終航路じゃねぇんだったら、前だけ向いて突き進め!」

鳥海「摩耶…」

摩耶「感謝しろよ。けど、次はもう、助けてやんねぇからな。いけ、鳥海」ニヤッ…

鳥海「…うんっ!」

595 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/11/06 23:36:16.82 R/lhVhuXo 330/385

-決闘-

戦艦水鬼「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……ふふ、ハハハッ……これダケ撃ち込め……」


ボゴオオオォォォォォォン


戦艦水鬼「ガァ…ッ!」 小破


ザザザッ


長良「悪手だね。そういう砲撃は、対人戦には不向きだよ。どちらかと言えば対軍戦や対城戦。大体数を一手に相手する時にこそ、その真価と威力が発揮される。そんな相性の悪い砲撃に打ち負けるほど、私の足は、安くない!」 中破

戦艦水鬼「グゥ…おの、レェ…!その、ナリで……マダ、諦めヌのか…!」

長良「終わりにしよう、深海棲艦」

戦艦水鬼「終わりダト…?貴様が終ワル以外に結末ハないぞ?」

長良「軽巡が戦艦に勝てないなんて道理はない」

戦艦水鬼「何…?」

長良「石の上にも三年って諺、知ってる?堅固なものは一点を集中して狙え。水でもやがて岩に穴を空ける…!」ジャキッ

戦艦水鬼「」(先ノ一撃…私の、腹部…)ズキッ…

長良「…………」

戦艦水鬼「」(思い出セ…ヤツの、攻撃の全てヲ……ヤツは、ヤツは…ヤツは……ッ!)ズキンッ…

長良「骨身に、沁みるよね。頑丈が取り柄って言うのも、裏を返せば鈍感って事よね。今更庇った所で、後の祭りってね」

戦艦水鬼「」(この、艦娘…ッ!駆けるダケしか能のナイと…私が、見誤ッタ…?まさか、コレまでの行動も……全て、ヤツの演技?いや、ソンナ様子は見らレナかった。ならば、ドウして…ここまで、冷静ナ…クソッ!)

596 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/11/06 23:36:44.22 R/lhVhuXo 331/385



以前に提督は加賀達五人を発展途上と称し、輝く原石と例えた。

それはその通りであり、やり方次第で彼女達は腐りもすれば輝きもした。

進化し、成長し、更なる上のステージへと駆け上がるべき資質を秘めた五人の艦娘達。

長良は、何処かでまだ踏ん切りの付け所が不十分だった。

言葉に表すのは簡単だ。

それを口にするのも簡単だ。

だがそれを行動に移すのは困難だ。

更には、それを達成するとなれば困難の度合いは最早筆舌に尽くし難いことだろう。

だからこそ長良は今わの際に至ってもまだ、その過程で藻掻き続けた。

失敗もし、反省もし、悔やみ、嘆き、己の不甲斐無さに涙した。

そうして得られた経験は己の血肉となって漸く彼女の力として還元された。

戦艦水鬼の邪推はそんな長良のこれまでの過程を知る由もなく練られた推測と憶測に基く。

故に矛盾を孕み、噛み合わない歯車が更にその円環を歪にしていき、深みに嵌る。

演技ではない本心、計算し尽くされてなどいない、偶然による結果。

一度疑ってしまったその考えは、ちょっとやそっとでは払拭できない。

戦艦水鬼にとって、今の長良の行動は計画性を孕んだ危険な存在として認識される。

己が勝手に踏み外し、勝手に深みに嵌った沼で、無様に足掻く結果となる。


長良「いくよ、戦艦水鬼!」スッ…

戦艦水鬼「…ッ!」バッ

597 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/11/06 23:37:11.76 R/lhVhuXo 332/385



真っ直ぐに見据えてきた長良の瞳に戦艦水鬼は一瞬気圧され、無意識に後方へとたじろぐ形で身構えた。

自分でも気付いていない、あってはならない失態。

海面に小波を起こして、長良の姿がそこから消える。


戦艦水鬼「どれダケ速く動こうト、水面にはソノ行く先が反映されル!同じ手は二度ハ通じんゾッ!!」ジャキッ

長良「聞いたよね。私の足に、ついてこれるかどうかって」ザッ…


ドォン ドォン

サッ


ボボボボボボボボボボボン


戦艦水鬼「ナッ…!」


戦艦水鬼の砲塔が捉えた先、予測された射線軸とその範囲に入るよりも前に、長良は方向を直角に、行き先を変える。

結果、その動きについていけなかった戦艦水鬼は制御しきれずに何もない海域へ向けて砲撃を放つ。

そして生まれた砲撃後の抗いようのない隙。

狙い澄ましたようにして長良は砲身を既に構え、そこへ向けて砲撃を見舞う。


ドン ドンッ

ボゴオオオォォォォォォン


戦艦水鬼「ガッ…!グゥ、おの、レェ…ッ!!」 中破

長良「残りの弾数なんて数える必要ない。お前を倒すまで、撃ち続けるだけなんだから!」

戦艦水鬼「……認識ヲ……改めるベキか。ククッ…中々……ヤルじゃないカ……認めヨウ」

長良「……?」

戦艦水鬼「貴様ハ、強い。軽巡ダカラ、戦艦ダカラ……そんな事ハもうどうでもイイ。小細工も、小賢シイ戦略も不要…ッ!ただ無心デ、この20インチ連装砲の砲弾ヲ、貴様へ撃チ込ムのみッ!!」ジャキッ

長良「絶対勝つ!」

戦艦水鬼「絶対負ケンッ!」

598 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/11/06 23:37:39.55 R/lhVhuXo 333/385



最終局面。

最後の最後、土壇場に至って戦艦水鬼は長良と同じ土俵に立った。

これで条件は五分と五分。

雌雄を決するのは互いの持つ武装のみ。

意図した訳でもない。

長良にしてみれば、このまま混乱に乗じて戦艦水鬼を沈める事が出来るチャンスだったはずだ。

しかし、長良も別にそこまで計算していたわけでもなく、ましてや考えてなど微塵もない。

これは結果としてそうなったというだけの話だ。

だから、長良は全力を持ってこの勝負に臨む。

真正面から勝負を挑み、これを打ち破り、勝利を手にし、そして皆との約束を果たす。


ザッ


互いに構えを取り、同時に動き出す。

水面に波紋を残し、その場から消失する長良。

赤黒く怪しく蠢く艤装を従え、周囲を警戒する戦艦水鬼。

全神経を集中させ、戦艦水鬼は長良の動く先、その未来を見据える。

僅かな所作、現象、違和感を見逃さずに万全の態勢で次の行動を選択する。


戦艦水鬼「」(コノ艦娘は強い。クラスと言う物差しデ図れる範囲ヲ超越した存在。油断ハこちらの死ヲ意味スル)


いつ以来か……物事ヲ作業と思ウ様になったノハ。

煩わシサが前面に立チ、考える事ヲ止めて、どれくらい時は過ギタだろう。

抑えきれナイ衝動。

抗いきれナイ躍動。

忘れてイタ、これが……感動。

私は……コノ艦娘に勝ちタイ。

是が非デモ、何を犠牲にシテでも!

この戦いダケは、譲れないモノがある!

この身ハ既に朽ち果テタ残骸。

どこマデ行こうト、変わらぬのナラ!

せめてこの者ガ賭した想いト願いに、応エル!

そうでなけレバ、今この場に私が存在スル意味は皆無!

ダカラこそ、全力で合間見エル!

599 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/11/06 23:38:08.81 R/lhVhuXo 334/385



戦艦水鬼「ソコダッ!全砲門解放ッ!ソノ全てヲ……焼き尽くす!泣き叫ンデ……沈んでイケ……ッ!!」

長良「く…っ!」バッ


ドォン ドォン

ボゴオオオオオオォォォォォォォォン


戦艦水鬼「…………フッ」ニヤッ…

戦艦水鬼「……勝ッタ」


──遅い!全然遅い!──


戦艦水鬼「……ッ!」バッ


ジャキッ


戦艦水鬼「……ククッ、艦娘、風情ガ……見事ダ」


ドン ドンッ

ボゴオオオオオォォォォォォォン


戦艦水鬼「軽巡、洋艦……長良……ソノ名、忘れヌ。光……溢レル……水面に……私モ……」 大破


ガシッ


戦艦水鬼「…!?」

長良「……待ってる。リベンジ…だから、この手は、ここで離すよ」 大破


パッ…


戦艦水鬼「そう……ダナ……さらばだ。貴様は生きろ、長良……」 轟沈

長良「…バイバイ、戦艦水鬼。でも、正直……もっと鍛えておけば……悔しいっ…!」バシャァァァン


沈み逝く戦艦水鬼の手を取り、最期の別れを告げて手を離すと同時に、長良もその場に仰向けに倒れ込む。

盛大な水飛沫を上げてそのまま海を揺蕩うように力なく浮き続ける。

空を見上げ、満天の星空が顔を覗かせているのに気付き、夜なのだと悟り、何故か笑みが零れる。


長良「ゴメン、皆……ちょっと、一休み、してくね……」

長良「…………」

??「無茶ばかりして…よい、しょ…!はぁ、満足そうな顔だなぁ…よし、それじゃ行きますか!」

606 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/11/10 20:12:06.98 Gy+FzMiPo 335/385

-やり残した事-

山城?「なんで?そういう言い回しは、墓穴を掘るだけって飼い主に習わなかったの?」

レ級FS「何ぃ…!」

山城?「最も、解っていて聞き返しただけだから、別にどうって事ないけど。はぁ、やっぱり不幸だわ。殺されかけて、植物状態になって、やっと目が覚めたと思ったら枕元には不幸の手紙…見てはダメと分かっていたのに、誘惑に負けて開封して、やっぱり後悔して、見て見ぬ振りも出来たのに……はぁ、不幸だわ」


言葉の端々に『不幸』の一言とため息を織り交ぜ、ブツブツと独り言のように呟き続ける山城。

もとより、彼女は本当に山城なのか。

今、榛名と戦闘を行っている山城は何なのか。

それらを払拭するように彼女の緋色の瞳が真っ直ぐにレ級FSを見据える。


レ級FS「くっ…」

山城?「ご丁寧に私の影分身を拵えて、提督を狼狽させたんですって?うろたえる提督を見るのはそれはそれで面白そうではあるけど、少し前までだと扶桑姉さまが直に怒ってしまうから噴出す事も躊躇ってしまうのよね。でも、今度ばかりは流石の私も腹に据えかねているの。提督の肩を持つわけじゃないのよ? それを差し引いても、あなた達は到底許せないわね」

「唖然、騒然、ですけど…ダレ?」

満潮「山城とか、言ってなかった…?」

山城?「無事で何よりね。死期が少し延びて、不幸だったかしら?」

満潮「な、なんですって…!」

「み、みっちゃん…!落ち着くです!」

山城「私なんて数年間病院で管に繋がれて延命処置されて…死んだとばかり思っていたのに目が覚めたらベットの上。病院だと理解してため息一つ、生きていたという現実に直面してため息二つ、おまけに不幸の手紙もあってため息三つ。はぁ……もう、ほんっと不幸だわ。どうして扶桑姉さまと一緒に居られないのかしら。どうして一緒じゃないのかしら」

レ級FS「だったら、今度は望み通りにあの世に送って上げるよ…山城ッ!」

山城「断るわ。だって、提督と扶桑姉さまにお願いされてるんだもの。もしも、気持ちがあの当時のままならば、一度で構わないから戦場に立ってほしいって。扶桑姉さまの無念をそこで晴らしてほしいって。私が不幸なのは別にいいのよ。でも、扶桑姉さまが不幸なままなのは……我慢ならないわ。せめて、元凶たる存在…あなたくらいは血祭りに上げたいところよね?」

レ級FS「ボクを血祭りに上げるって?ククッ…生き遅れの戦艦風情に何が出来るってのさ」

満潮「勝手に、視界から外してんじゃないわよ」

「ぶっ飛ばす、です!」

607 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/11/10 20:12:35.10 Gy+FzMiPo 336/385


レ級FS「どこまでボクをコケにすれば気が済むのさ……どこまでボクを愚弄する気だ……どこまで、お前等はバカなんだ!? 実力の差も解らないほど愚かで、無知で、無様な存在をボクは見たことがないよ」

山城「所詮、影と中身の伴わない取るに足らない艦娘もどき……本物の艦娘を、あなた相手にしてこなかったの?」

レ級FS「はぁ?ボクが何でボクより劣ってるお前等の相手をマジメにしなきゃならないのさ。馬鹿馬鹿しい」

満潮「だったら教えて上げるわよ。何度だって蘇ってきなさいよ。その度に同じ…いいえ、それ以上の屈辱と苦痛を与えて、深海に沈め直してやるっ!」

レ級FS「駆逐艦風情が…このボクを沈める?笑わせるなッ!」

山城「そこの二人の駆逐艦。確か、漣、満潮、だったかしら?」

満潮「何よ」

「む?」

山城「あなた達の提督は恐らく本丸…エリート提督が監視を勤める中部海域に居ると思うわ。この子達をあなた達に託す。その程度の怪我なら何とかなるでしょうし……」

満潮「……応急修理要員の妖精達?」

「そ、それで、どうするです?」

山城「元々、捨てるはずだった命なの。でも、当時はよく、あなた達の提督に命を粗末にするなと説教されていたわ。はぁ……怪我をすれば即入渠。扶桑姉さまが直に密告するから怪我を隠していてもバレて即撤退・入渠、かーらーのー……説教……はぁ、ホント不幸だわ。怪我した上に説教されて、部屋に戻ったら扶桑姉さまにまた説教されて、ホント不幸だわ。あ、いいえ…扶桑姉さまと二人一緒で居られたあの時間は至福だったかしら…思わずにやけてしまって説教の時間が延びたけど…」

「不幸自慢がハンパないです…」

満潮「私達に、この場で背を向けて逃げろっていうわけ?」

山城「やり残した事があるの。それを、やり遂げない事には死んでも死に切れない。けどそれにあなた達を巻き込む訳にはいかないもの。あなた達は、ここで死ぬべきではないと思うし……はぁ、人身御供って言うのも、不幸だわ…」

満潮「何言ってんのよ。既に巻き込まれてるってのよ。あのアホ面オヤジの下についた瞬間から、巻き込まれてるのよ」

「ですねー。ご主人様って、そういう星の下に生まれたんじゃないかってレベルで、災難降り注ぎますからねぇ」

山城「…はぁ、嫌な予感しかしないけど、それでもいいかしら?」

満潮「何より、やられっぱなしじゃ私達の気が済まない!」

「です!」

レ級FS「井戸端会議は終わったかい?じゃあ殺すけど、誰が最初が良いかだけ決めさせてあげるよ。手を上げなよ。そいつから真っ先に首を刎ね飛ばして殺して上げるからさぁ!」

608 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/11/10 20:13:08.58 Gy+FzMiPo 337/385


山城「ですって?」クスッ…

「みっちゃん?」ニコッ…

満潮「何してんのよ。さっさと手を上げたら?」ニッ…

レ級FS「何…?」

満潮「最初に死ぬのはあんただって言ってんのよ。煽り耐性ゼロの癖に偉っそうに挑発とかしてんじゃないわよ。バッカじゃないの?そういうところが……ウザイのよッ!!」


ザバアァァァァン

ザバアァァァァン

ザバアァァァァン

ザバアァァァァン


「な、なっ…!?」

山城「…っ!まさか、援軍…!?」

レ級FS「…ッ!」


レ級FSと満潮達を隔てるようにその間に大きな水飛沫が立ち、そこに四体の深海棲艦が出現する。


タ級FS「マスターガ、オヨビデス」

ル級改FS「イチド、ヒイテクダサイ」

リ級改FS「アトハ、ワレワレガ…」

ネ級EL「シトメマス」

レ級FS「…っ!ふざけるな!こいつ等はボクの獲物だぞ!!」

タ級FS「マスターノメイレイニ、サカラウト?」

ル級改FS「アマリオススメデキナイ、ホウホウデスネ」クスッ…

レ級FS「お前等…」ギリッ…

リ級改FS「ワレワレニホコヲムケナイデクダサイ。イイブンガアルノナラ、ソレハマスターヘ」

ネ級EL「ワタシタチハ、マスターノメイデココニイマス」

レ級FS「……フッ、命拾いしたね、艦娘……けど、お前等は必ずボクが殺す。そう、ボクのこの手で…ッ! だからこの四匹を見事引き裂いてみせろ」

タ級FS「ナッ…!」

レ級FS「この程度の深海棲艦に負けるのなら、ボクが本気を出した意味がない。失望させないでくれよ?」クルッ…


レ級FSはそれだけ口にするとペロリと口の周りを一舐めして踵を返し、その場を後にした。

609 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/11/10 20:13:43.18 Gy+FzMiPo 338/385



山城「…あっさり引き下がる辺り、訳有りかしら?でも、面倒そうなのが四匹……はぁ、不幸だわ」

満潮「そこ、退きなさいよ。不出来な深海棲艦!」

ル級改FS「クチノキキカタヲシラナイカンムスネ」

ネ級EL「カンムスフゼイガ…」

リ級改FS「ソレモタカガクチクカン…ナメラレタモノネ」

タ級FS「ナンデモカマワナイ。ガ……カノジョノハツゲンニハ、ヒッカカルブブンモオオイ。ワレラヲヒキサク? ジョウダンデモ、ワラエナイジョウダンダ」

「じゃ、試してみるです?」

リ級改FS「タメス?ナニヲタメスキダ?」

ネ級EL「キサマラガニクヘンニナルコトシカ、タメシヨウハナイゾ!」

山城「見縊られたものね」

満潮「あんた、戦えるんでしょうね」

山城「あら、これでも少し前は一線を駆けていたのよ。白夜の艦隊、その第一艦隊に所属していた主力級よ」

「え、それって鳥海と一緒?」

山城「あの子もしぶとく生きてるのね。まぁ、それはどうでもいいわ」

「どーでもいいって…」ニガワライ

山城「レ級FSの追撃に移るわ。この場は…瞬殺します」ギュッ…

「おぉ、鉢巻カックイー」

満潮「当然よ。ここまで馬鹿にされて、死の淵に立たされて…生かされて…黙ってられるかってのよ!」

ネ級EL「シュンサツダト…ジョウダンモ、ヤスミヤスミ……」

610 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/11/10 20:14:11.29 Gy+FzMiPo 339/385



ドォン ドォン

ボゴオオオォォォォォォン


ネ級EL「ナ……ニ……?」 轟沈

山城「…まず、一匹」ジャキッ

満潮「……っ!」

「す、ご…」

リ級改FS「バ、バカナ…!」

ル級改FS「ネキュウELヲ、タッタイチゲキ…?ア、アリエン…!」

タ級FS「キサマ、イッタイ…!」

山城「自己紹介、まだだったかしら?元・白夜の艦隊第一部隊主力、扶桑型戦艦二番艦の山城…」

満潮「」(こいつ、本当に強い。誰よ、こいつを欠陥戦艦なんて言った奴…目玉、何処につけてんのよ)

山城「残りも、綺麗に消すわよ」

満潮「」(いける、レ級FSにこれなら、追いつける!)

「みっちゃん!」

満潮「漣、あんたは一先ず修理要員の妖精に患部の手当てしてもらいなさい。治療が済み次第、戦線に合流。いいわね?」

「……ヤダって言うとご主人様ばりにキレますもんねー。了解ですよぅ」

満潮「アホ面オヤジと一緒にすんなっての!山城、一点突破よ」

山城「はぁ……後輩に『さん』付けもしてもらえないなんて……不幸だわ」

満潮「ぐっ……わ、悪かったわね。や・ま・し・ろ・さ・ん!」ピキッ…

山城「別に良いわよ。それがあなたのスタンスなんでしょう?」クスッ…

満潮「」(んも~~!やり辛い!)

タ級FS「アノセンカンハ、ワタシガオサエル」

ル級改FS「ワタシトアナタデ、アノクチクカンヲカクジツニホウムル」

リ級改FS「リョウカイ…!」

山城「くるわよ…!そっち、複数だけどどうかしら?」

満潮「上等…!目に物、見せてやるわ!」

山城「……!」

満潮「な、何よ…」

山城「…いいえ、何でも。ふふ、そうね……目に物、見せてあげましょう」クスッ…

満潮「何笑ってんのよ…」

山城「一念天に通ず……やってやれない事はない。一途に、ただ真っ直ぐに、自分の秘めた信念を貫き通す……そうよね……扶桑姉さまも、そうだった。その信念を、あなたもまだ持っているのね、提督…柄じゃないんだけど、こういうのは嫌いじゃないかも、ね」

615 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/11/20 12:40:55.79 2DPB3Ucko 340/385




~結束~



-負の終焉-

キメラ男「戦艦級から排除しろ!それ以外の連中は深海棲艦に任せればいい!」

ル級改艦娘「心得ました。タ級、我等でフェアルストを制圧します」

タ級艦娘「了解」

ル級改艦娘「同じようにネ級とト級で金剛型の二番艦、リ級とツ級で三番艦を制圧」

四人「「了解」」

フェアルスト「こいつ等…」

比叡「私達に照準絞った!?」

霧島「不愉快ですね」

衣笠「私達はシカトって訳か」

木曾「舐め腐りやがって…!」

北上「だったらさぁ、みせてやればいいっしょ。うち等を無視すると、もれなくどうなるかってね」

木曾「へへっ、そりゃいいな。だったらまずは暴れやすいように周辺綺麗に掃除といくか!」

衣笠「オッケー。じゃ、お二人さん!挨拶代わりに一発景気の良いのお願いね!」

木曾「っしゃあ!いくぜ!」ジャキッ

北上「四十門の酸素魚雷は伊達じゃないからねっと!」ジャキッ

ル級改艦娘「ちっ、先制雷撃か。深海棲艦を盾にして被害を最小限に留める。雷巡共の雷撃が終わり次第、我々は先の概要に沿って行動を開始する。目標は戦艦艦娘三名の制圧とその捕縛だ」

タ級艦娘「ふん、雷巡如きの雷撃、恐れるほどのものか」

木曾「だったら…」

北上「受け取りなよ!」


バシュッ バシュッ バシュッ バシュンッ


ル級改艦娘「タ級艦娘!『それ』はヤバイ…避けろッ!!」

北上「」ニヤッ

木曾「」ニヤッ


ボゴオオオオオォォォォォォォン


タ級艦娘「くっ……!貴様等…ッ!」 小破

木曾「テメェの相手はフェアルストだ。精々『遊んで』もらえよ。言っておくがな、伊達や酔狂でそいつ等は艦娘になってねぇぞ」

北上「狙われたら最後…そう思っておいた方がいいかもね~」

616 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/11/20 12:41:25.28 2DPB3Ucko 341/385


衣笠「お二人さん、お先っ!」バッ

木曾「あっ、待ちやがれ衣笠!」バッ

北上「じゃっ、お三方の心配とかしないから適当に頑張っちゃって下さいな」バッ

フェアルスト「全く、言いたい放題言ってくれるな」

比叡「あははは」

霧島「それだけ信頼されていると割り切るべきかしら」

比叡「よしっ!霧島、私達もいくよ!」

霧島「はい!」

フェアルスト「杞憂だとは思うが…別に問題はないわね?」

比叡「勿論!」バッ

霧島「お任せを!」バッ

フェアルスト「わざわざ向こうからのご指名だしね、存分に暴れればいい……さて、私の相手をするんだったな?」ザッ

ル級改艦娘「随分と余裕ね」

タ級艦娘「あの程度の雷撃で痛むとでも思ったか!」

フェアルスト「避け損ねたくせに…」クスッ

タ級艦娘「き、さま……ッ!」

ル級改艦娘「挑発よ。乗る必要は無い」

フェアルスト「まさかとは思うけど、彼女達や私をあなた達二人だけで、何とかできるなんて思ってないわよね? 良くて足止めって所かしら?」

ル級改艦娘「何を言っている。ここで再起不能にした上で捕縛するに決まっている」

フェアルスト「正気の沙汰とは思えない発言ね。それとも、私達は見縊られすぎているのかしら?
だとするのなら、教えて上げる必要があるわね。実力の差、というものを」

タ級艦娘「戯言を…!」

フェアルスト「きなさい。分不相応な自信が招く最悪の結末というものがどんなものか。初体験で終わりにして上げるわ。戯言かどうか、それを証明してあげる。あなた達は、この海域に沈みなさい!」

617 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/11/20 12:42:00.23 2DPB3Ucko 342/385

比叡「さぁ、掛かってきなさい!」

ネ級艦娘「ふん、威勢だけは良いみたいね。けど、重巡クラスだからって侮ってもらっては困るのよ」

ト級艦娘「そうね。軽巡クラスでも、戦艦クラスを出し抜く術くらいは心得ています」

比叡「そんな事、言われなくても身内で経験済みですっ!油断も!隙も!与えません!」ジャキッ

ネ級艦娘「こいつ…!」

ト級艦娘「な、はやっ…!」

比叡「姉さま譲りのこの艤装、たっぷりと味わってもらいます!」


ドォン ドォン


ネ級艦娘「くっ…!」サッ

ト級艦娘「おのれ…!」サッ


ボゴオオオオォォォォォォン


比叡「金剛型二番艦、高速戦艦比叡…いざ、参ります!」ザッ

ネ級艦娘「立て直せ、ト級艦娘!」 小破

ト級艦娘「言われなくたって…!」 小破


素早い構えから先制打撃を与え、比叡が一気に前に出る。

そして呆気無い程に勝負は一瞬で着く。

比叡自身も想定していたわけではない。

ある程度の苦戦は強いられるだろうという目測の元に、出だしから全力で捻じ伏せるという作戦に準じて動いたまでだ。

そう、力の差とはこの場合、双方の圧倒的なまでの経験の差から来る力量だったのだ。

結果、比叡の起こした行動によってネ級艦娘とト級艦娘は瞬殺された。

厳密には、比叡はたったの一撃で両者を再起不能にまで追い込んでしまった。


ボゴオオオオオォォォォォォォン


ネ級艦娘「がっ……!」 大破

ト級艦娘「うぐっ……!」 大破

比叡「とっと、ひえぇ~…あれれ、お、終わり?」


体勢を整える前に一気に二人の懐へ入り込み、左右に展開させた二基の主砲を同時に発射。

一度のアクションで双方を一瞬で無力化させてしまったのだ。

自分のやった事とは言え、余りの拍子抜けっぷりに比叡自身も目が点の状態になり、思わず呆けて頭を掻く。


比叡「えー…結構気合、入れてただけに、これは……」ポリポリ…


同じ事が霧島にも言えた。

程なくして二人のハイブリット艦娘を両手に引っ提げながら、霧島が比叡に近付いてくる。


リ級艦娘「…………」 大破

ツ級艦娘「…………」 大破

霧島「あ、あの、お姉さま…なんていうか、弱すぎました」

比叡「あ、あははは…これは、ちょっとねぇ…」

618 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/11/20 12:42:29.34 2DPB3Ucko 343/385



決して弱かったわけではないだろう。

力量差が、互いの経験値の差が歴然としすぎていたのだ。

彼女達が自身を分析する以上に、実力も錬度も、何もかもがハイブリット艦娘を遥かに凌駕していた。

その結果がこの圧倒的な力の差として現れてしまったのだ。

言わずもがな、フェアルストもこれでは苦戦などするはずもない。


フェアルスト「……お前達、弱すぎるぞ」


率直な感想だった。

彼女も秘めた思いがあっただけに、別の意味で挫かれそうになるほどに相手にならない力量差がそこにはあった。

火力だけは上等なものを秘めてはいたが、ただそれだけだった。

戦術眼、戦略面、立ち回り、動き出し、全てが稚拙で錬度の欠片も見られない。

高次元の戦闘を幾重にも経験してきたからこそ解る、相手の完成度の低さがそこには存在した。


ル級改艦娘「そん、な……」 大破

タ級艦娘「うそ、だ……」 大破

フェアルスト「はぁ、口ほどにも無いとはこの事か。ガッカリさせてくれたな…ハイブリットが聞いて呆れる」

不動「こりゃあ、なんつーか…」

新月「……哀れ、ですね」

キメラ男「何故だ…どうして、なんでそんな簡単に負ける!おいッ!人形共!自爆するくらいはしろよ!!」

不動「ピーピー五月蝿ぇなぁ……生まれたての雛でもそこまで喚かねぇよ、バァカ」

新月「キメラ男、お前の艦隊もこれで終わりだ。今一度、縛についてもらいます!」

キメラ男「ふざけるな!私は、私には…まだ!やらねばならない事が山ほどあるんだ!!」グワッ…

不動「ちっ、こいつやっぱてめぇ自身も変えてやがったか…!」

木曾「っるせーんだよ、変態野郎」スタッ

キメラ男「……ッ!」

不動「木曾、おま……」

619 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/11/20 12:42:58.20 2DPB3Ucko 344/385

木曾「散々仲間姉妹を弄びやがって…」チャキッ…

キメラ男「く、くるな…!」ビュオッ


ザンッ


キメラ男「がっ…!」

木曾「今のは、今までてめぇに弄られた艦娘の分」ビュッ


ザンッ


キメラ男「あがっ……!」

木曾「今のは、薄汚ぇてめぇの施設で、俺の身内を愚弄した分!」


ザンッ


キメラ男「あひゅ……」

木曾「今のは、今は亡き不動艦隊、鋼鉄艦隊の面々が味わった辛酸の分!」

不動「お前……」


ザンッ


キメラ男「も……やめっ……」

木曾「ざけんなボケッ!そう言って懇願した艦娘にてめぇは何をした!寝言言ってんじゃねぇぞ!」

新月「木曾、それ以上は…!」

木曾「今のは、新月大将の苦労を馬鹿にした分だ!」

新月「木曾……」

620 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/11/20 12:43:25.72 2DPB3Ucko 345/385


木曾「いいか、この腐れゴミ屑野郎……俺達は、俺達はなぁ…てめぇの呈のいい道具でも、玩具でもなんでもねぇッ! そんな俺等にも越えちゃならない一線ってのはある。けどなぁ、てめぇだけは許せねぇ…絶対にだ!」チャキッ

キメラ男「ひっ……」

北上「はいストーップ」パシッ

木曾「…!止めんな、北上!」

北上「皆一緒だからさ、そんくらいにしなよ。あんた一人が全部やっちゃったら、他の連中の憂さが晴れないっしょ」ニコッ

木曾「北上……」

不動「悪ぃな、北上」

北上「私も一回、似たような時あったからねぇ…あれは、うん…まぁ、迷惑、だったよねぇ…」

不動「ありゃあ俺の失言だった。お前に非はねぇよ。怒って当然だぁな」ポリポリ…

木曾「ちっ…はぁ、分かったよ」スッ…

衣笠「こらぁー!さぼるなー!っと…まだ深海棲艦居るんだから!衣笠さんのお肌荒れたら二人のせいよ!」

木曾「へへっ、しょうがねぇな」キンッ

衣笠「しょーがないって何さ!うわっと…!あぶな…!っとー!」サッ ササッ

北上「おぉ~、避けるねぇ…」パチパチ

衣笠「拍手とかいいから!」

不動「やれやれ、なんだかなぁ。ほら、後は俺がやっとくから、てめぇ等はもう一暴れしてきやがれ」

木曾「あぁ、いってくる」

北上「私、疲れたから木曾っちの後ろに隠れててもいい?」

木曾「あ゛?」ギロッ

北上「うっ…じ、冗談だって…」


ザザザ…


不動「…全く、進撃の野郎んとこの艦娘はホント、天使にも悪魔にもなるってなぁガチだな」

新月「な、なんですか、それ…」

不動「あーいうこったよ」クイッ…

キメラ男「うっ……あ、が……」

不動「さて、と…見事にズタズタにされちまったなぁ、キメラ男くん。ま、これも因果だと思えや。てめぇで蒔いた種だ。こういう結末だって別に驚きゃしねぇわな」


圧倒的な戦力の差を見せつけ、文字通り足許にも及ばない強さで隷属の艦隊を捻じ伏せたフェアルスト達。

キメラ男の捕縛にも成功し、忌避の艦隊に続きここに二つ目の敵艦隊の撃破が成された。

628 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/11/23 16:39:36.80 DzyPAqWTo 346/385

-存在意義-

山城CL「こいつ…っ!」


ザザザッ


榛名「いい加減、諦めたらどうなんですか!」ジャキッ

山城CL「うるさいっ!私は……なっ!」


何かを言おうとし、その言葉を飲み込んで彼女は大きく目を見開いて遠くを見据える。

その視線の先に見える六つの影。

それを視認して奥歯を強く食い縛り、榛名とその後方を交互に目線で追った。


大和「全く、大人しくできないお年頃か何かでしょうか、榛名さん?」

榛名「大和さん!?あー……あはは、えっと……」ニガワライ

大和「懲りもせず、新鋭の技術を転用してこのような艦娘と言う器を利用した兵器を使っているとは…」

榛名「えっ!?」

大和「貴女も記憶に新しいでしょう。妹の武蔵をはじめとし、幾人かの艦娘のクローンが過去に存在しました。そして今また、同じ過ちが繰り返されている。何度…何度、彼女達の誇りを穢せば気が済むのか…!」

榛名「大和さん…」

大和「山城は…そこにいる山城は偽者です。彼女は、あなた達が以前に合間見えたクローンと呼ばれる存在です」

榛名「…!」

山城CL「だったら何よ。勝者が全てよ!ふふっ、もう、誰にも、欠陥戦艦なんて言わせないッ!!」

大和「どこまでも、愚か…どこまでも、嘆かわしい。せめてもの情け…彼女を雷撃処分にします」

榛名「だとしても、悲しいですね」

大和「だからこそ、その悲しみをこれ以上増やすわけには参りません」

榛名「はい!」

大和「開闢の艦隊旗艦大和、これより戦列に加わります。目標は前面海域に布陣する煉獄の艦隊とそれに随艦する深海棲艦。榛名さん、細かい事は後です。今は、貴女の戦果を期待します」

榛名「お任せ下さい!」

629 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/11/23 16:40:11.45 DzyPAqWTo 347/385



ピーコック「あら?」

天城「ここからは、私が…この、天城が参ります!」

葛城「まだ、増えるの?いい加減、鬱陶しいわね」

ピーコック「貴女、確か…」

天城「彼女は、私達雲龍型の末っ子…長女の雲龍姉様、次女の私、三女の妹…雲龍型三番艦、葛城……葛城、私や姉様を覚えてない?」

葛城「知ってるわ。どっちも、抹殺の対象よ!」チャキッ

ピーコック「一つ、忠告して上げるわ。彼女のあの目を覚まさせるには、相応の代償が必要よ」

天城「……葛城っ!」

葛城「…………」

ピーコック「言葉は届かない。届くのは、その手だけよ。Dead or Alive……皮肉ね、ここまできて決死の覚悟を抱かなければならない」

天城「これ以上、仁を尽くさぬ、尽くせぬ、あまつさえ理に反した不仁の限りを尽くすというのなら、この天城が粛清します!」ヒュンッ

ピーコック「」(次女はこれ、棒?杖?弓…じゃないのね。まぁ、どうでもいいけど…それはそうと…)チラッ…

葛城「天城姉ぇ……死んでよ。私の目の前から、消えてッ!!」ザッ

ピーコック「」(人物を認識してるのに口から出る言葉と剥き出しの感情は劣の極み、か……そう、まるで……)

天城「深海棲艦…」ボソッ…

ピーコック「あなた…」

天城「……どれほど経過しているのか解りません。あれは、艦娘と深海棲艦のハイブリット型の兆候です。早期であれば、まだ望みはあります。ですが、後期、末期の症状が出始めているのなら…」

ピーコック「…無理なのね?」

天城「……はい」

ピーコック「けど、まだそうと決まったわけではない。なのに、自分から修羅の道を行くわけ?」

天城「それが、せめてものあの子に対する慰めと弔いになるのなら、そうします」

ピーコック「……私達がそうだったように、艦娘の信念とやらに最後は縋ってみなさいよ」

天城「…………」

ピーコック「艦娘は、そこまで弱くは無い。私がそれを知っているわ。最後の最後まで諦めない…みっともなくても、それが例え結果として報われなくても、賭すべき時に命を賭さなくて何処で賭すと言うの?」

天城「……そう、ですね。はい、そうですよね。私があの子を信じなきゃダメ。だからこそ、あの子は私が救い出す!」

ピーコック「周りの雑魚は私が掃除して上げるわ。思う存分、じゃじゃ馬の相手しなさい」ザッ

天城「恩に切ります」ザッ

630 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/11/23 16:40:53.35 DzyPAqWTo 348/385




ボゴオオオォォォォォォン


神通「くっ…!」 小破

川内「この…!」 小破

羽黒「この、火力は…!」 小破

武蔵CL「言ったはずだ。まだだ、とな」ジャキッ


ボボボボボボボボボボンッ


武蔵CL「ちっ!援軍か!」バッ

川内「あれ、確か大本営の…!」

神通「着て下さったみたいですね」

羽黒「妙高姉さん、それに足柄姉さん!?」

妙高「…………」

足柄「羽黒、お痛が過ぎるんじゃないかしら?」

羽黒「え、えぇ…!?」

武蔵CL「妙高姉妹か。次から次へと鬱陶しい連中だな。重巡や軽巡がどれだけ束になろうと、この武蔵は落とせはせんぞ!」

妙高「同じ理屈です。貴女がどれだけ強かろうと、彼女達をはじめ、私達を沈める事は適いません」

武蔵CL「何だと…?」

妙高「私達は海軍の誇る最後の盾。この牙城、崩せるものなら崩して御覧なさい」

武蔵CL「ならばその悉くを破壊し尽くしてやる。破片の一片すら、余さず粒子になるまでな!防げるものなら防いでみせろ!」

足柄「羽黒、まずはこのクローンを蹴散らすわ」

羽黒「ク、クローンって…」

川内「それって、まさか…!」

足柄「そっ…あなた達も記憶に新しいでしょう?色が褪せるにはまだ少し時間が経ってないんだもの…」

武蔵CL「消し飛べッ!」


ドォン ドォン

ドン ドンッ


ボボボボボボボボボボボボボボボボン


武蔵CL「なっ」

妙高「言ったはずです。この牙城、崩せるものなら崩してみせよと。この妙高型一番艦重巡洋艦妙高が立つ限り、ここより先にあなたの砲撃は破片の一片すら通らせはしません。私が、イージスの名を冠する限り、決して!」

631 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/11/23 16:41:24.16 DzyPAqWTo 349/385



雲龍「次から次へと、ホント数だけは無尽蔵ね。深海棲艦って連中は…」

三隈「安請け合いし過ぎてしまいましたわね。私達だけでこの数、捌ききれますでしょうか?」

雲龍「ふふっ、今更じゃないかしら、それ。それに、天城が頑張ってるのに私がのほほんとはしてられないわ。この程度の苦難、二つや三つは乗り越えないと顔向けの一つもできないでしょう」

三隈「背負うものがあると、言う事もまた厚みが出来ますわね」


ボゴオオオォォォォォォォン


三隈「っ!」

雲龍「なっ、まさか相手の援軍…!?」

ビスマルク「冗談、一緒にされるのはゴメンだわ」

雲龍「ビスマルク!」

プリンツ「ビスマルク姉さま、後続の追撃はなしです!」

イタリア「あらら~、また深海棲艦?」

ローマ「右を見ても深海棲艦、左を見ても深海棲艦…はぁ、ウンザリしそう」

レーベ「ふふ、ローマ、表情がひどいよ」

ローマ「んなっ!」

マックス「あと少し、踏ん張り所だと思うわ」

ローマ「はぁ、駆逐艦ズは元気ね」

雲龍「淵源の艦隊もようやっとお出ましって事ね」

ビスマルク「全く、大和ったら自分の艦隊が揃ったらソソクサといっちゃうんだもの」

雲龍「取り敢えず、あのエリート艦隊は進撃の艦隊と大和達できっと封殺できる。私達は周囲の憂いを消し去る事が先決よ」

三隈「終わりは近いはずです。気を緩めずにいきますわよ」

ビスマルク「ええ、そうね」

イタリア「ビスマルクさん、わらわらと凄いけど、どうする?」

ローマ「掃射よ!掃射!見晴らしよくしてやるわ!」

ビスマルク「そうね、大盤振る舞いしてあげようじゃない。残りありったけ、余さず撃ち込むわよ!」

プリンツ「はい、ビスマルク姉さま!」

イタリア「ねぇ、ローマ」

ローマ「何、姉さん」

632 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/11/23 16:41:50.12 DzyPAqWTo 350/385


イタリア「ローマもたまには、プリンツちゃんみたいに『はい、イタリア姉さま!』とか言ってみ……」

ローマ「言 い ま せ ん !」

イタリア「……拒否、早すぎないかしら?っていうか強調しすぎてないかしら?」

ローマ「艤装で殴りますよ、姉さん」メガネ クイッ

イタリア「はぁ、妹が怖い…」

那智「全く、やる気があるのか無いのか…」

ローマ「ありまくりです!」

阿賀野「あははっ」

ローマ「姉さんがもう少ししっかりとしてくれればいいだけです!」

イタリア「まぁ…!聞きました、阿賀野さん?ひどい妹だと思わない?」

阿賀野「お姉ちゃんはもっと立てて上げないとダメだよぉ」ニヘラァ

ローマ「」(このダメ姉ーズ…!)ピキッ

那智「…もういい、勝手にやっていろ。私は先んじて深海棲艦の殲滅に入る。お前等を見ていると進撃の連中とダブって不愉快だ」

阿賀野「あーっ!なっちちゃん、直にそうやって阿賀野の事バカにする~!」

那智「なっちじゃない、那智だ!ちっちゃい『つ』を入れるな!」

阿賀野「あはは、ちっちゃいって言い方可愛いねぇ♪」

那智「」(泣いて謝るまで平手打ちを打ち込みたい)ピキッ

ローマ「毒されてるわね…」ボソッ

イタリア「んん?」

ローマ「いいえ、何でもありません。さぁ、ビスマルク達に遅れを取るわけにはいきません。いきましょう!」

レーベ「マックス、僕達も急ごうか」

マックス「ええ、そうね。周りに居る深海棲艦はまだ多いし、これを放っておいていい道理なんてないわ」

636 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/11/24 19:54:49.44 CkwhHRvGo 351/385

-再会-

加賀「…………」


ザザァァァァ……


加賀「…………」チリッ…

加賀「…………」クルッ…

鳥海「流石ですね、一番乗り」

加賀「無事で何よりです」

鳥海「まぁ、ご覧の通り結構痛んではいますけどね。他の皆はまだですか」

加賀「無事だと、私は信じてますから」

鳥海「ふふっ、それもそうですね」

加賀「……これは」チリッ…

??「あっ、居た!」

鳥海「あなたは、鬼怒さん!?」

鬼怒「そーっれ!」ポイッ


バシャァァァァン


長良「わぷっ…!はばばば、しょっぱ!塩、辛っ!」

鬼怒「長良お姉ちゃん?」

長良「はへ?えっ、鬼怒!?えっ、どうして?あっつ…いたた…あ、あれ?私、確か……」

鬼怒「あんな状態で海原で寝てたら沈んじゃうよ。応急修理要員連れてきて正解だったよ」

加賀「随分と激戦だったみたいね」

長良「あっ、加賀さん…と、鳥海!」

鳥海「ついでみたいな言い方はどうなんですか!」

長良「えへへ、ごめんごめん」

加賀「動けるくらいには回復しているのかしら」

鬼怒「応急修理要員に治させてましたから、少しはって所かと…」

長良「あはは、ごめんね。結構梃子摺っちゃって…」

鳥海「でも、こうして居るんだもの。それが答えでしょう?」

長良「うん!あっ、でもどうして鬼怒がここに?」

637 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/11/24 19:55:20.55 CkwhHRvGo 352/385


鬼怒「これ…!」ピラッ…

長良「手紙…?」

鳥海「これ…」

加賀「どうかしましたか?」

鳥海「いえ、この手紙の字…」

加賀「……汚いですね」

鳥海「いや、そこじゃなくて!」

加賀「冗談です。これを書いたのは恐らく提督でしょうね」

鬼怒「えっと、長良お姉ちゃんの所の、提督?」

加賀「ええ、そうです」

鳥海「ホント、どこまで見通しているのやら…」

長良「後は満潮達だけか…大丈夫かな?」

加賀「問題ないでしょう」

鳥海「ひょっこり現れるんじゃないでしょうか」

「呼ばれて飛び出……はぶっ」バシッ

満潮「うるっさいのよ!」

山城「あら、騒がしいわねぇ」

鳥海「えっ……」

加賀「あなたは…!」チャキッ

満潮「あーっ!加賀、たんま!ちょっとあんたも弁解くらいしなさいよ!」

山城「はぁ、事情無視で矢を突きつけられる……不幸だわ」

満潮「弁解する気ないでしょ、あんた…」

加賀「これは、どういう事ですか、満潮」

鳥海「いえ、その前に…山城、あなた…本当に、あなたなの!?」

山城「ええ、不幸にも目覚めてしまったのよ。あのまま眠り続けていられれば、夢の中で扶桑姉さまと永遠に一緒で居られたのに…」

鳥海「あ、相変わらずですね…」

加賀「…………」

山城「あなたが私を見た、と言うのは恐らくエリート提督の下に居た私よね」

加賀「相違ありません」

山城「知ってるかどうかはこの際省かせてもらうけど、過去に新鋭と言う女性の提督が起こした大規模な叛乱事件、覚えてるかしら?」

加賀「知っています」

山城「その渦中に居て、餌食となったのが私達元・白夜の艦隊よ」

鳥海「……」

山城「そして、エリート提督は死んだと思っていた私のクローンを作成し、自分の傍に置く事で提督の心理を揺さぶろうとした」

加賀「では、あの時居たあなたは…」

山城「本当の私ではなく、クローンの私でしょうね」

鳥海「幻の六人目…」

山城「え?」

鳥海「この鎮守府に着任するに当たって、提督は以前私にこんな話をしたんです────」

638 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/11/24 19:55:47.62 CkwhHRvGo 353/385



提督「折角のチャンスを自分から捨てるとは、大した玉だな、お前」

鳥海「司令官さんが変わったように、私だって心境の変化はあるという事ではないでしょうか」

提督「違いない。未だに山城は昏睡から目覚めない。もしもだ…もしも、あいつが目覚めて敵として立ちはだかっても…」

鳥海「最善は尽くします」

提督「はぁ……そんで、てめぇは本当にあの鎮守府に行くつもりか」

鳥海「私の力を最大限に発揮するには、規律を重んじる大本営では無理です」

提督「言い切りやがって…まぁ、俺様もご覧の通り不手際働いて降格処分&左遷のダブルコンボだ。が、てめぇが居るのなら戦術用法に関しちゃ問題はなさそうだ。しかし、どうにもアクの強い馬鹿共が揃ってる」

鳥海「以前の司令官さんの態度では凡そ無理でしょうね。っていうか不手際って何やらかしたんですか…」

提督「……うっせー。それと、それ以上過去を持ち出したらてめぇ殴り殺すぞ」

鳥海「はぁ…脅し文句だけは超一流になりましたね」

提督「っせーんだよ。ったく、小賢しい連中だぜ。巧妙に尻尾まで隠して着々と力を蓄えてやがる。あの糞野郎に賛同して同志になってる連中が少なくとも六匹は居る。おまけに……」ブツブツ…

鳥海「なんの話ですか?」

提督「ちっ、うるせーな。てめぇは山城の動向だけ気にしてりゃ良い。いいか、山城は相手にとっても、俺達にとってもジョーカーだ。どちらに転んでも腹ぁ括れ…例え、一度は肩を並べて共に戦った戦友であってもな」

鳥海「そうならなかったら、どうなんですか」

提督「…言っただろ。あいつはジョーカーだ。そん時は、幻の六人目だ……行き着くべくして行き着いた、海軍の墓場。この腐りきった海軍に教えてやるのさ…てめぇ等が切り捨ててきた人材がどれだけ優秀なのか、どれだけてめぇ等が見る目がないのか。そいつを身をもって落とし込んでやる」

鳥海「ですけど、司令官さんから貰った資料はどれも…」

提督「あぁ、そこに書いてあるのは大体が事実だ。が…どれも小賢しいレベルで細工がしてある」

鳥海「えっ!?」

639 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/11/24 19:56:40.80 CkwhHRvGo 354/385



加賀はエリート艦隊に属していた空母の中でも最高峰の艦娘だ。

進撃の艦隊に属している赤城と共に第一航空戦隊を牽引し、その双翼を担ったほどのな。

そんな優秀な艦娘をあっさりと手放したエリートの野郎はまさに馬鹿と言わざるを得まい。

じゃあなんで捨てたのか……突き詰めれば色々あるだろうが、恐らくは隠蔽だ。

加賀に知られては不味い案件でもあったんだろう。

あわよくばと戦場で轟沈を狙ったんだろうが、そうは問屋が卸さねぇ。

結果として奴は生き残ったが、これ幸いとこれ以上近くを飛ばれないようにあの鎮守府へ左遷同然で弾き飛ばしたわけだ。

長良は確かにこれはてめぇ自身で引き起こしたミスで変わりは無い。

変わりはないが、こいつの持つポテンシャルはこの程度じゃない。

はじめて見たぜ、深海棲艦の戦艦ル級FSを相手に単身乗り込んで相手取る軽巡なんてよ。

そんなのを相手にしながら前線の指揮までこなすとなれば、状況判断にはずば抜けた嗅覚を持っていると見てまず間違いはない。

が、先も言ったとおりこいつは自分のミスを未だ自覚していないしそこから逃げる傾向にある。

尻上がりって奴だろうが、それじゃ使い物になる前に死ぬのが落ちだ。

ある程度、荒療治が必要かもしれないな。

満潮だが、こいつも俺様が今までに見てきた駆逐艦の中では群を抜いている。

以前に進撃のところに居る白露型を見た事があったが、あれとはまた毛色の違う群の抜き方だ。

一言で言えばあれはただ死に急いでる。

なりふり構わず出だしからぶっ飛ばしていく姿はさながら鬼神だろうよ。

その姿勢はてめぇ自身が何とかしないとならないという強迫観念に常に突き動かされている。

周りがどうにかなる前に、てめぇが何とかしようとするから入渠後も直に再出撃しようとする。

勝つ事で周りを救えたと言う安堵からそこに至高の喜びを得る。

だがそれは長良と同じで辿り着く先は死だ。

必ず死ぬ。

だからこそ手綱が必要になるわけだが、あの沛艾を手懐けるにはこちらも相応の力を示さねぇとならん。

最後に漣だ。

こいつは特殊と言うより、一言で言っちまえばただのコミュ障だ。

対人恐怖症とは少し違うが解りやすいくらいに周りとの壁を形成し、それ以上は絶対自分から踏み込まないし相手にも踏み込ませない。

だが戦場じゃあその特性上、常に一歩引いた位置で周囲を上手い事見ている。

結果として戦場での状況判断、最善策が何か、そういった決断力がずば抜けている。

四面楚歌の状況で半数の仲間を失いながらも無能な馬鹿提督の進軍命令から脱却できたのもこの判断力による所が大きい。

そして何より、こいつは事射撃に関しては相当な腕前だな。

射程範囲内であればほぼ確実に標的を撃ち抜けるだけのセンスを持っている。

640 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/11/24 19:57:12.95 CkwhHRvGo 355/385



提督「磨けば輝く原石の宝庫。それがあの墓場なんぞと呼ばれてる鎮守府の実態だ。その調書にあるのは大まかな現実とそれに肉付けされただけの、残りは全て改ざんされた虚偽ものだ」

鳥海「こんなものが、許されるのですか!?そ、それに、これだけ大それた事、大本営が気付かないわけが…」

提督「さて、精査している部署がどこかは知らないが、適当に目を通しているだけならすり抜けられるだけの偽装だ」

鳥海「それと、山城の関連性は…?」

提督「内部に膿が溜まっている。そんな中に山城を置いておく訳にはいかない。全て信じるな。お前が真に足りえるとその目に適った連中以外は全て敵と思え。お前の目は、それを見極めるだけのものを有しているはずだ」

鳥海「あの鎮守府でも、それは変わりありませんよ?」

提督「構わん。その時は俺様も同様の事をするまでだ────」

641 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/11/24 19:57:46.41 CkwhHRvGo 356/385



加賀「では、はじめから…」

鳥海「申し訳ありません。ですが、山城の事もある以上、提督も私にすら細かい内容を話す訳にはいかなかった」

山城「……とんだ策士、いいえ腹ぐろ提督ね。とは言っても、扶桑姉さまが亡くなってそうなってしまった。そう言う方がまだ報われるのかしら?」

鳥海「……それは、解りません」

山城「はぁ、扶桑姉さまの居ない世界をこの先も生きていくのかと思うと……不幸だわ」

「通算で16回目っと……」メモメモ…

満潮「何で数えてんのよ…」アセ

長良「ん~、まぁでもさ、また会えたね、皆!」

加賀「当然です」

鳥海「ふふっ」

鬼怒「ば、場違いでごめんなさい!」アタフタ

満潮「気にするだけ損でしょ」

「でーすよねー!」

山城「乗りかかった舟だもの、行くわ。それに、逃してしまったのもあるしね?」

満潮「……ええ、次こそ潰す!」

「結局、邪魔してきた深海棲艦を殲滅してる間に逃げられちゃいましたしねぇ…」

加賀「鬼怒さん」

鬼怒「えっ、あ、はい!」

加賀「あなたは万が一に備えて大本営に戻って現状を元帥に報告しに行って下さい」

642 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/11/24 19:58:13.26 CkwhHRvGo 357/385


鬼怒「で、でも…」

長良「だいじょーぶ。私達は掃除屋!」

鳥海「私達が愛するこの海を汚されたままじゃ困るもの」

「クリーニングは必要ですよねー」

山城「粗大ゴミはきっちりと焼却処分よ」

加賀「お願いできますか?」

鬼怒「…解りました。私は、お姉ちゃんやその仲間を信じます!」コクッ

満潮「あの顔面に絶対にキツイの一発……いいえ、撃ち込めるだけ全弾撃ち込んでやるわ」

「漣は受けた恩は決して忘れません!そしてやられたらやり返す……倍返しだ!」

鳥海「ドラマの見過ぎです。そして古いです。ついでに今後テレビ視聴の時間制限設けますよ」

「えー!?」

鳥海「さっ、それじゃ行きましょう、加賀さん」

「スルー!?」

加賀「そろそろ緩めている兜の尾を締め直して下さい。この出撃で、全てを終わらせます。目標はエリート提督の計画阻止、その全てを完膚なきまでに破壊する事です」

山城「言うわねぇ。自信の程は?」

加賀「そんなもの必要ないわ。ただ、成すだけよ」

鳥海「私達は、そういう集まりですから」

山城「そう。確かにそうね、そういう集まりだものね」

「いっちょやってみっか~!ですよ!」

長良「うん、ただの勝利じゃなくて大勝利!しちゃおう!」

満潮「当然よ。絶対勝つ!」

加賀「行きましょう」


再度集まった五人。

そして新たに加わった一人。

改めて邂逅を果たしたこの六人。

見据える先に何が待っていようと、彼女達に迷いは一切ない。

今、最後の出撃が始まる。

646 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/11/25 15:51:27.52 BdERJ8/Go 358/385




~最強のNo.2~



-志の違い-

エリート「ふふっ、はは……あはははははッ!!」

提督「何が可笑しい!」

エリート「見てご覧よ。この僕が、長い年月を掛けて築き上げた一つの理念の下に集約された一群とも言える存在が、君たちと言う烏合の衆に等しい存在如きに蹂躙されているんだよ。これを笑わずに何を笑えと言うんだい?」

提督「サイコパス野郎が…!」

エリート「人も艦娘も深海棲艦も…死に際こそ美しい。それが例えどんな死に方だろうと、神は平等に扱ってくれるさ。何故なら、死と言う概念は死に方こそ千差万別を極めるが、その後は一つの線で繋がっているからだ。死んだ先は、皆が平等で一つになる。そこには格差も、贔屓も、優劣も無い!完全なる無だ!」

提督「何をほざいてやがる…」

エリート「この世界を破壊する。この僕が、頂点に立つ事で全世界に平等な死を齎す。自分の欲に忠実に塗れるから、人は何かをするのに全力を賭せる。それは真理だよ…見紛う事無き真理だ。深海棲艦は何故艦娘を憎悪するか解るかい?」

提督「…………」

エリート「何を黙ってるのさ」ニヤッ…

647 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/11/25 15:51:55.50 BdERJ8/Go 359/385



君も解ってるんだろう?

そこに答えが無いから決定的と認められずにいる。

彼女達は何処から来て何処へ行くのか。

これは一種の哲学だよ。

僕はそんな彼女達の道標になっているだけに過ぎない。

答えは、目の前に常にあるんだからねぇ!

けどそれを手にする事は深海棲艦にとっては禁忌、決してしてはならない、地獄への片道切符なのさ。

深い海の底から生まれ出でて、成長を遂げる毎に知恵を、力を、規模を増やしていく。

未曾有のシーハザードさ。

遥か昔、この海洋各地の底で無念の最期を遂げた数々の軍艦たちが存在した。

救われたものと、見捨てられたもの。

拾われたものと、拾われなかったもの。

生まれ変わったものと、生まれ出でたもの。

艦娘と深海棲艦は表裏一体……元は、同じ存在だ。

その宿した魂が人に宿るのか、物に宿るのか、それだけの違いさ。

深海棲艦は憎いんだよ。

自分達と違う道を行った同じ魂が。

艦娘と成った存在が、憎いのさ。

人と人が争う時代はもう終わった。

今は、人と物が争い、殺し合い、永遠と終わりの無い闘争を繰り広げる時代!

だからこそ、世界は滅ぶべきなのさ。

君たち人が争っている相手は、物だ。

その物はどこから生まれる?

この海だ!

人類は、僕たちちっぽけな人間は、愚かにも海と争っているのさ!

自然の驚異を認識できもしない愚かな人類が、何をどう足掻こうとこの海に、大海に敵う訳が無いだろう!

子供のプールで水の掛け合いをしているのとは訳が違う。

これは定められたもの……運命なんだよ。

例え僕をどうにかしようと、このうねりは、この悲劇は、この未曾有のシーハザードは決して止まりはしない!


エリート「そうだろう……戦艦レ級FSッ!!」バッ

提督「ッ!?」

レ級FS「そう……お前達人間は、艦娘は……神に逆らおうとしているんだよ。ボクこそが絶対だ」

エリート「哀れにも中身の無い言葉に縋って、それを信じて自らの身が傷付く事も厭わない…愚かで、無様で、無益な存在」

648 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/11/25 15:52:33.31 BdERJ8/Go 360/385



山城CL「沈めッ!沈めッ!沈めッ!!」ドォン ドォン


サッ

ボボボボボボボボボボボボンッ


榛名「大和さん!」ジャキッ

大和「合わせますよ!」ジャキッ

山城CL「どうして…あんた達は!沈まないのよ!!」

大和「志の違いです」

榛名「それでも、ごめんなさい。私達は、こんな悲劇が起こらない未来を必ず作って見せます」

大和「敵艦捕捉…」

榛名「主砲…!」

大和「全主砲薙ぎ払え!」

榛名「砲撃開始!!」


ドォン ドォン ドォン ドォン


山城CL「私は……私はッ!!」


ボゴオオオオオォォォォォォォォン


榛名「ごめんなさい…」

大和「…………」


爆発の収まった後には何も残っておらず、ただただ穏やかな水面だけがそこにあった。

榛名と大和は暫し、その場に佇み静かに頭を垂れて、本来は生まれてくるはずも無い、出会う筈も無かった艦娘の冥福を祈った。

649 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/11/25 15:53:09.58 BdERJ8/Go 361/385



武蔵CL「邪魔だ、退けぇ!!」ジャキッ

妙高「お断りします」ジャキッ


ドォン ドォン

ドン ドンッ

ボボボボボボボボボボンッ


武蔵CL「おのれ…ッ!」

足柄「無理よ。妙高姉さんの鏡面射撃は大本営随一よ。あなた程度に、このイージスの盾は破れはしないわ。そ・し・て……防御したら反撃が待ってるって事、忘れちゃダメよ?」クスッ


バババッ


武蔵CL「貴様等…!」

川内「終わりにしようか、戦艦武蔵の亡霊さん」

神通「次発装填済みです。神通、突撃致します!」ザッ

羽黒「五倍の相手だって、支えてみせます!神通さん、後ろは気にせずに!」ジャキッ

神通「はい!」

川内「羽黒!」

羽黒「川内さん、いきますよ!」サッ

足柄「あの子達、何を…」

妙高「……?」


神通は真っ直ぐに武蔵CLへ向かい駆け出し、川内と羽黒は左右に展開する。

そして羽黒は陣痛の進む少し先に主砲を翳し、躊躇う事無く砲撃を開始した。


羽黒「これ以上、やらせません!」


ドン ドンッ


神通と武蔵CLの中央付近、斜めに射線を取り二人を別つようにして羽黒の砲撃が放たれる。


カカカッ


その直後、乾いた音と共に神通と武蔵CL、両者の中央で大きな爆発が巻き起こった。

650 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/11/25 15:53:37.92 BdERJ8/Go 362/385



ボゴオオオオォォォォォォォォォン


武蔵CL「な、に…!?」

羽黒「やった!」

川内「ビンゴ!」

妙高「まさか、擬似的な煙幕!?」

足柄「うそでしょ…」

武蔵CL「くそ…!小賢しいッ!!」ジャキッ


──言ったはずです。次発装填済みと──


武蔵CL「ッ!?」


カッ


武蔵CL「これは…魚雷だと!?」


ボゴオオオォォォォォン


武蔵CL「ぐぅ…!」 中破

651 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/11/25 15:54:20.98 BdERJ8/Go 363/385



羽黒の放った砲撃が両者の丁度中央に迫った瞬間、川内の放ったクナイ型の爆雷が羽黒の砲弾に接触し誘爆を引き起こした。

結果として周囲は一瞬にして煙幕に包まれ、視界は白み、武蔵CLにとっては照準を絞る事もできなくなった。

そんな中、神通だけは目標を見失わず、先に捉えていた場所へ向かい抜刀の要領で魚雷を放つ。

その爆発によって生じた音と気配で更に場所の把握をし、一気に射程内へと忍び込んだ。


ヒュンヒュンッ

ズババババッ

キンッ…


武蔵CLと交錯した瞬間、空を何かが薙ぐ音と、それによって何かが切断される音が静かに響き渡る。

一拍置いて、更に爆発音が響き渡り、武蔵CLの堪えるようなうめき声が続いた。

神通が斬り捌いたもの、それは武蔵の艤装だった。


ボゴオオオォォォォン


武蔵CL「おの、れ…!」 大破

神通「終わりです」ジャキッ


振り返った神通は手にする主砲を構え、それを躊躇う事無く解き放つ。


神通「よく……狙って!」


ドン ドンッ


武蔵CL「おのれえええぇぇぇぇぇぇぇっ!!」


ボゴオオオォォォォォン

ザザザザッ


神通「あなたの想いは榛名さんが受け継いでいます。ですから…どうか、お心、静かに…」


猛々しい咆哮の様な叫びと共に武蔵CLの姿は静かに水面の底へと沈んでいった。

それを神通は最後まで見送り、胸の前に手を添えて静かに瞳を閉じて冥福を祈った。

652 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/11/25 15:54:56.76 BdERJ8/Go 364/385



ガシッ


葛城「離せ…!」ググッ

天城「離さない!戻ってきて、葛城!あなたは、一航戦から脈々と受け継がれてきた航空戦隊の歴史を背負っているのよ。二航戦の飛龍さんを始めとして、五航戦の意志を継いで、あなたは生まれたの!それを、あなたが忘れるはずが無い! あなたは新生第一航空戦隊の筆頭、改飛龍型、雲龍型三番艦の葛城よ!深海棲艦に意識を乗っ取られるような柔な子じゃない!」

葛城「うる、さい…!五月蝿い!五月蝿いッ!!わた、しは……!」

天城「戻ってきなさい、葛城!あなたは弱くない。だから、目を覚ましなさい、葛城!!」

葛城「あ…あぁ……」

天城「…!」バッ


遥か遠くを目を見開いて葛城は凝視する。

その先に天城も視線を巡らせ、その目を大きく見開いた。


飛龍「安心しなよ。私達は沈まない」

蒼龍「ご覧の通りってね?」

翔鶴「まだまだ、やる事は多いですよ」

瑞鶴「さっさと戻ってきなさいよ、葛城!」

天城「皆さん…」

葛城「瑞……鶴……先、輩……」パシャ…


葛城は力なくその場に崩れ落ち、両手で自らの顔を覆い、静かに肩を震わせた。

その肩にそっと手を置いて最後に現れた赤い袴の艦娘が優しく微笑んだ。


赤城「やっと、海軍の誇る空母が揃いましたね。過去、現在、未来、私達が護るべきものはとても多いです。だから、誰一人として、失う訳には参りません。そうですよね、天城さん」

天城「はい…!はい…!」

赤城「翔鶴さんも瑞鶴さんも、私達一航戦の後釜です。そう易々と沈みはしません。同じように二航戦のお二人も、あなたが思うよりもずっと強い。だから、あなたは悔やむ前にまずは顔を上げて前を見て下さい。その目に映っているのがどんな光景か、絶望なのか希望なのか、それを見極めてからでも遅くはありませんよ」


ザッ…


赤城はそっと葛城の肩から手を離し、周囲を見渡す。

本丸からは結構離れたところ、まだ深海棲艦の数は数え切れないほどに居る。

けど不安は微塵も無い。

きっと彼女達がこの元凶を絶ってくれると信じているから。

だから赤城は自分のすべき事に心血を注げる。

653 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/11/25 15:55:30.97 BdERJ8/Go 365/385



赤城「天城さん、葛城さんはもう大丈夫なはずです。そうですよね、飛龍さん?」

飛龍「ん…まぁ、そうだね。私もね、同じような目に遭った事あるけど、大丈夫だよ。この子なら、戻ってこれる」

蒼龍「うん、そうだね」

天城「はい、ありがとう、ございます…!」

赤城「では、二航戦のお二人はまずは修復と補給に専念して下さい」

飛龍「オッケー」

蒼龍「ごめんね」

赤城「翔鶴さん、瑞鶴さん」

翔鶴「はい!」

瑞鶴「はい!」

赤城「見せて頂きます。その手腕、今一度」

翔鶴「……!」

瑞鶴「え、それって…」

赤城「加賀さんも言っていましたね。私達一航戦を越えるのならば、この程度の障壁は跳ね除けて下さい」

翔鶴「良いんですか?」

瑞鶴「翔鶴姉ぇ?」

赤城「はい?」

翔鶴「赤城さんの見せ場、無くなってしまうかもしれませんよ?」クスッ

赤城「うふふ、それは大変ですね。では、程々にして頂く方が良いのでしょうか? けど、そうなると加賀さんがブツブツと五月蝿いですよ、きっと」

瑞鶴「あなた達、まさかこの程度を蹴散らしただけで図に乗っているのかしら?だとしたら勘違いもいい所ね。とか絶対言う!絶対に言う!」

赤城「ふふっ」

翔鶴「では、赤城さん。赤城さんも今しばらくは腕の怪我の治療に専念して下さいね?応急修理要員は居ると思いますから」

赤城「…バレていましたか」ニガワライ

瑞鶴「無理すると加賀さんが五月蝿いよー」

赤城「はい、そうですねぇ…では、お言葉に甘えるとします。頼みました、五航戦」

翔鶴「お任せ下さい。いい、瑞鶴?」

瑞鶴「勿論!」

翔鶴「行くわよ!」

瑞鶴「了解!」

655 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/11/25 16:34:02.20 BdERJ8/Go 366/385

-遺恨-

エリート「さぁ、提督。見物はここからさ…あの時と同じ悪夢を、今一度お前の目に焼き付けてやるよ! 前回と違うのは、絶望を焼き付けたその先で、今度は共に死ね」ニヤッ


──滅びの時を迎えるのはあなたです──


エリート「……!?」バッ

レ級FS「お前等……ッ!」

提督「…………」ニヤッ

加賀「……やはり、あなた程度を立てた所で物事が穏便に済むとは思えませんね、エリート提督。器の差、でしょうか」

エリート「加賀……貴様ッ!」

加賀「今更になって私の名を覚えた当たり、学習能力は高い方なのでしょうか。いえ、そもそも今更ですから低いのかもしれません」

エリート「ほざくなよ、艦娘風情が……取るに足らない存在の顔と名前を一々覚える方が無駄と言うものだ。僕の為に成らない存在を、何故僕がご丁寧に覚えてなきゃならない。寝言は寝て言えッ!」

満潮「どんだけ脳みそ小さいのよ。一人や二人の名前も記憶に残せないとか、馬鹿も通り越してただの痴呆ね」

「ご主人様~、生きてます?死んでたら心マした上でぶっ殺しますよ~」

提督「けっ、うっせーんだよ。片方のお下げ切り飛ばして、バランス取れなくしてやろうか、小娘が!」

「ふふっ」ニコッ

長良「司令官、最後の大掃除、始めちゃうよ!」

鳥海「存外しぶとく健在なようで、安心しました。司令官さん」

提督「言いたい放題言ってく……」

山城「はぁ、随分と様変わりしてるわね、提督?」

提督「……山、城」

山城「ふふ、その顔を見れただけでも役得かしら。レアケースだものね」

エリート「馬鹿、な……何故、お前が、生きている……お前は、昏睡していたはずだろうッ!」

山城「遺恨を残さない為、かしら?扶桑姉さまに呼ばれたから、かしら?どっちにしても、目覚めるべくして目覚めたのよ」

レ級FS「のこのこと現れて…だったらここで確実に沈めてやる。忘れた訳じゃないよね?一度は死に掛けてるんだからさぁ」ニヤァ

鳥海「そちらこそ、先とは状況が違うという事を認識して下さい」

加賀「これ以上、この海も、艦娘も、何もかも、穢させはしません」

656 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/11/25 16:34:39.69 BdERJ8/Go 367/385


エリート「小賢しい……レ級FS、知らしめるんだ……君がこの世の頂点であるという事を。矮小な存在がどれだけ足掻こうと、無駄だという事をさ……教えて上げなよ!」

山城「こっちも教えて上げるわ。あなたがやってきた事がどれだけ無意味だったのかをね?提督、最後くらいは指揮しなさいよ」

提督「ちっ……後からひょっこり湧いた分際で偉そうに……」

鳥海「内心嬉しいくせに…」ボソッ

提督「あぁ!?」

鳥海「いいえ、別に?」クスッ

提督「このクソメガネ……いいかてめぇ等。でけぇ粗大ゴミが二つだ……掃除を始めろ!」

エリート「ゴミだと…?クズがこの僕をゴミ扱いとは、分不相応にも程がある発言だよ。粋がるなよ…!」

進撃「それはあなたですよ、エリート提督」スタッ

エリート「進撃……!」

進撃「大層なお題目を並べたところで、結局あなたがやってる事は新鋭の延長に過ぎないでしょう。もう終わりです。既に忌避の艦隊、隷属の艦隊は壊滅しました。野望と言うには余りに稚拙なあなたの計画もここまでですね」

エリート「くくっ……あの連中も結局は僕の駒さ。存外、糞の役にも立ってなかったみたいだったけどね」

提督「どこまでも、糞を地で行くゴミ野郎だな、てめぇは…」

エリート「それで、僕をどうする気なんだい?」

進撃「決まってるでしょう。どうせ大人しく縛に付く気はないんでしょうし、だったら実力行使に出るまでです」スッ…

エリート「知ってるよ。君は海軍の中でも刀の扱いがずば抜けて達者だ。君の間合いには決して入らないよ」

進撃「待つだけが剣術じゃないですよ」

エリート「解っているとも」ニヤッ


パァンッ


進撃「っ!」

エリート「ははっ、威嚇だよ。そんなにビビるなよ。けど、そうだな…次はその腕を貰おうか?」チャキッ

提督「クソガキ、選ぶ武装間違えたんじゃねぇのか」

進撃「痛んでる人は黙ってて下さいよ」

提督「ちっ、あぁそうかよ。だったら精々片腕持ってかれねぇようにしとけや」

エリート「安心しなよ、提督。お前は最後だ…一番最後に最も惨たらしく殺してやる」

提督「くくっ……だ、そうだ。クソガキ、精々生きろよ」ニヤッ

進撃「ちっ」(ホント性格最悪だな、この人!)

657 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/11/25 17:12:05.64 BdERJ8/Go 368/385



レ級FS「さぁ、死刑執行の時間だよ。墓場在住の皆様方?」

満潮「逆に死刑執行してやるわよ。覚悟しなさい」

「超本気モードでいくです!」

長良「絶対勝つ!」

鳥海「これで最後……是が非でも勝利をもぎ取ります!」

山城「それじゃ、いきましょうか」

加賀「預かり受けたこの力、如何無く発揮してみせます。友永隊……鎧袖一触よ」ビュッ

鳥海「目標、前方の戦艦レ級FS!全艦散開後砲戦用意……大掃除を開始しますよ」メガネキランッ


バババババッ


加賀の艦爆艦攻に続けて、六人が一斉に陣形を崩して散開する。


レ級FS「掃除?ふふっ、今更艦娘一人の放つ艦爆艦攻に、この僕がたじろぐとでも思ったのか!逆に掃除してやるよ!」サッ


ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン


加賀「友永隊を、余り見縊らない方がいいわ」

レ級FS「……ッ!?」


ボン

ボボボン

ボボボボボン


空中でレ級FSの艦載機と衝突した友永隊だが、出てきたのは友永隊の艦載機群。

その翼で煙を切り裂き、相手の制空領内へ進出し、大きく弧を描いて目標を補足する。

友永隊の妖精達も志す部分は同じなのだろう。

加賀に敬礼するその姿からは、任せておけという意思がしっかりと伝わってきた。

妖精の姿をしっかりと見届け、加賀は小さく頷く。

658 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/11/25 17:12:37.56 BdERJ8/Go 369/385



山城「鳥海、戦術の展開を」

鳥海「加賀さんの艦爆艦攻後、長良、満潮、漣による波状攻撃を展開!」

長良「よしきたー!任せといて!満潮、漣、いくよ!」

満潮「上等じゃない!」

「漣、狙い撃つ!ですよ!」


ボゴオオオォォォォォン


加賀の放った友永隊による艦爆艦攻がレ級FSを襲うが、それを物ともせずにレ級FSが煙を撒いて姿を現す。


レ級FS「効かないねぇ!」バッ 被害軽微

長良「私の足についてこれる?」ザッ

レ級FS「ほざけ、軽巡風情が!」ジャキッ


ドォン ドォン

サッ

ボボボボボボボボボンッ


レ級FS「何…!?」


レ級FSの砲撃と同時に、視認していた長良の姿がそこから消える。

レ級はFS眼球を動かし、神経を研ぎ澄ませてその行方を追う。

周囲に聞こえる海面を蹴る音、爆ぜる海面によって巻き起こる水飛沫、しかし長良の姿を視認するには至らない。


レ級FS「この、ボクよりも……速いっていうのか……ッ!?」ギリッ…


──そこっ!──


レ級FS「ッ!」バッ


ボゴオオオォォォォォン


レ級FS「ぐっ…!」 被害軽微

レ級FS「軽巡洋艦風情がァッ!!」ジャキッ


ドォン ドォン

ボボボボボボボボボンッ


満潮「長良一人にムキになってんじゃないわよ。ほら、精々顔面偏差値落ちないように気を付けなさい!」ジャキッ

レ級FS「ほざくな、駆逐艦が!!」バッ

659 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/11/25 17:13:06.89 BdERJ8/Go 370/385


満潮「」ニヤッ サッ

「漣からは、逃げられないよ!」ジャキッ サッ


ドン ドンッ

ボゴオオオォォォォォン


レ級FS「ぐぅ…!ウロチョロウロチョロ、貴様等ァッ!!」 小破

満潮「一々そうやって見下してる所がウザイのよッ!!」ザッ


一度目の構えをフェイクにしてレ級FSを誘い出し、後方に位置していた漣とスイッチする事で漣の砲撃に対する反応を遅らせる。

攻撃を受けたレ級FSは高確率で攻撃を加えてきた相手に矛先を向ける傾向がある。

そう満潮は推察して漣とスイッチした際にレ級FSの死角に回り込んでいた。

本来であればその動きにもレ級FSは気付けたはずだった。

が、長良の高速移動、加えて満潮の三次元の動き、漣の的確な射撃による弾幕がレ級FSの動きを大きく制限させた結果だった。


レ級FS「お前……何処から!」ザッ

満潮「撃つわ!」ジャキッ


ドン ドンッ

ボゴオオオォォォォォォン


レ級FS「がぁぁ……ッ!」 小破

660 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/11/25 17:41:15.89 BdERJ8/Go 371/385



エリート「馬鹿な……彼女は、最強なんだぞ。たかが六人の艦娘如きに、遅れをとる訳が…!」

進撃「世界最強…?」

エリート「何がだ…!?」

進撃「いや、日本最強……」

エリート「何が言いたい!」

進撃「あぁ、市区町村で最強程度だから、遅れを取るのでは?」

エリート「お前…何処まで僕等を見下すつもりだ」

進撃「見下すだなんてとんでもない。敬意は示してますよ。敬語でしょう?でもだからって、尊敬はしませんけどね」

提督「くくっ……嫌味言わせたら、そこのクソガキの右に出れる奴は、そうそういねぇよ」

進撃「」(あんたが言うな!)

エリート「…………」ギリッ…

提督「……はぁ、いやぁ~しかしなんだね……エリートくん、俺は今非っっっ常に愉快だ」

エリート「何…?」ピクッ

提督「くくっ……そう、その顔。その顔が見たかった。その呆けた馬鹿面を、どれだけ待ち望んだ事か」

661 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/11/25 17:41:42.42 BdERJ8/Go 372/385



いいか、このノータリンの痴呆持ちゴミクズ意識高い系気取ったなんちゃって糞屑野郎。

てめぇ等如きがチンケな小細工を幾重に展開させようと、俺様にしちゃ前座も前座、お遊戯レベルのしょぼい策な訳だ。

粋がって俺様の前を走ってたみてぇだが、勘違いも甚だしい。

じ・つ・に、甚だしい!

どうだ?実は先をいってるようでてんで後方、俺様の足許にも及んでなかったその腐った脳みその程を知って。

結果はご覧の通り、頭が良けりゃこうはならねぇんだよ、バァカ。

欠陥だらけな上に内容も稚拙、深海棲艦の手を借りなきゃまともな策も考え付かない。

最早提督と言う業務すらもまともにできない、雑魚以下の畜生にも劣る存在だな。

戦艦レ級ってのは生物を捕食する事で、その知能と能力を得て強化されるんだろ?

だったらてめぇ食わせれば、めでたく退化でもして消滅してくれるんじゃねぇのか。

馬鹿で無智!

ノータリンな上に医学界を震撼させる痴呆持ち!

ゴミでも今時リサイクルできるご時勢でリサイクルは不可!

その上クズときたもんだ!

こんだけマイナス要素取り込めばレ級も最速イ級クラスまで退化してくれんじゃないのかねぇ!

一丁前に意識高い振りはしてるが相手が悪かったなぁ……俺様を相手にするなんて正気の沙汰とは思えねぇよ。

分を弁えろよ、糞屑野郎。

解ったらさっさと銃なんぞ捨てて俺様の前に平伏せ、詫びを入れろ、てめぇがクズであると認めて自覚しろ。

言ってる意味は理解できましたか?

この糞屑野郎!

言い訳反論は認めん、以上だ。

662 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/11/25 17:42:08.60 BdERJ8/Go 373/385



エリート「……言いたい事は、それだけか……」ブルブル…

進撃「」(はぁ…煽ってくなぁ、この人)アセ

エリート「そんなに先に死にたいのなら、望み通り殺してやろうか、提督ッ!!」チャキッ


ザッ

ズバァッ


エリート「……っ!?」パラパラ…

進撃「言ったでしょう、待つだけが剣術じゃないって。でもって……」キンッ ガシッ

エリート「なっ」

進撃「漸く、掴まえましたよ」ブンッ


ドシャァ


エリート「くっ」

提督「おうおう、痛そうだねぇ…まぁ見てろよ。最強のNo.2連中がどんなもんかをな」

663 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/11/25 17:42:41.55 BdERJ8/Go 374/385



長良「鳥海!」

鳥海「山城、鬱憤晴らして来て下さい」

山城「言われるまでもないわね」サッ

レ級FS「雑魚が、どれだけ群れようとも、このボクには…」

山城「そうねぇ…あなたが複数でも居れば別かもしれないけど、あなた一人じゃどうかしら?」

レ級FS「何ぃ!」

山城「不思議と、今は嫌な予感がしないのよ。これって凄い事よ?それに、私ばかりに気を取られてると…」


ザッ


レ級FS「お前等…ッ!」

満潮「あんた何処いく、漣」

「どてっぱら!」ジャキッ

満潮「じゃあ遠慮なく顔面いくわね、私は!」ジャキッ

レ級FS「これ以上なめた真似を……」

長良「冗談、まだまだ終わりじゃないよ!」ジャキッ

レ級FS「……ッ!」


ドン ドンッ

ボゴオオオォォォォォン


レ級FS「片手で防げる程度の砲撃など…!」 小破

「なら防いでみるです!」

満潮「顔面とお腹、好きな方選びなさい!」

レ級FS「……くそォッ!」ザバァッ

満潮「こいつ…!」

「あぁ!ずっこい、潜った!?」

鳥海「加賀さんはそのまま、恐らく……」バッ


ザバァァァンッ


山城「標的が自分だって解ってたの!?」

レ級FS「ちぃ……お前、どうして」

鳥海「対水上電探って知ってます?」クスッ

レ級FS「…!」

鳥海「あなた如きに、私の展開させた戦術は破れません。ここに出てしまった事を、後悔して下さい」

レ級FS「後悔だと…?」

鳥海「目標、前方の戦艦レ級FS。砲戦用意……」バッ

レ級FS「なっ、しま……」

山城「不幸ね」ジャキッ

鳥海「……撃ち方、始め!」サッ

664 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/11/25 18:08:42.92 BdERJ8/Go 375/385



大きく手を振り翳し、その手を真っ直ぐにレ級FSを指し示すように振り下ろす。

次の瞬間、既に構えていた山城達の砲撃が一斉にレ級FSに襲い掛かる。

しかし恐るべきは相手の行動を予測した上で展開させた鳥海の戦術だろう。

開始、加賀の艦爆艦攻から息つく暇を与えず小回りと連射の利く長良、満潮、漣の三名による波状攻撃を展開。

海面を疾風迅雷の如く駆け抜ける長良と合わせ、そこに嵐を生み出すが如く、満潮による三次元の攻撃。

そんな二人が交錯する中でも的確に砲撃を命中させる漣の射撃センス。

暴風の吹き荒れた中、その間隙を縫って山城の砲撃を撃ち込む算段だったが、レ級FSもここで応戦する。

強引に包囲網を突破し、レ級FSが目星をつけたのは鳥海。

長良達三人はこちらの距離を的確に視認しており、狙い撃つにも距離が近過ぎる故に警戒態勢が万全だ。

加賀は最奥で遠すぎる。ならば、中距離に位置取り、今は動きを止めていた鳥海と山城。

その中で一番確実に仕留められると確信を得ていたのが鳥海。

だからこそ狙いを定めて突撃した。

驚くべきは相手が水上電探を備えた上に、こちらの目論見を完璧に看破し、更にそこからのカウンターに備えていた事。


ボゴオオオオオオォォォォォォォォォン


一際大きな爆発が轟き、そこに一点集中された砲撃の雨が止む。

大きく立ち昇る黒煙と硝煙の香りが辺りに充満し一時の静寂が訪れるが、直にそこから大きな雄叫びが響き渡った。

665 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/11/25 18:14:08.43 BdERJ8/Go 376/385



満潮「しぶとすぎでしょ」

「これだから戦艦って厄介ですー」

山城「これでもまだ足りないのね」

鳥海「ですが、この攻撃は相手にとって痛烈に効いている筈です」

加賀「…………きます」チリッ…


寡黙を貫き静観していた加賀が静かに呟き矢筒から矢を抜き取る。

それと同時に黒煙を吹き散らしてレ級FSが姿を現した。


レ級FS「ボク、こそが……絶対なんだ!忌々しい、艦娘如きに、ボクが敗れるわけには、いかないッ!!」 中破

加賀「いいえ、ここで終わりです」スッ…

レ級FS「……ッ!空母…ッ!なっ……」


加賀を真正面に捉えてその姿を認識し、レ級FSはその目を見開いた。

それは幻だったのか、いや恐らくは幻なのだろう。

幻なのかもしれないが、それはそのとき確かにそこに『存在』していたと言えるほどの威圧感を放っていた。

レ級FSが垣間見た、恐怖によって具現化した姿そのものなのかもしれない。

レ級FSにしか認識できず、レ級FSだけに具現化しているように見えていたのかもしれない。

それは加賀の背後に聳える無数の軍艦の群れ。

遥か昔、激戦を繰り広げてきた数々の歴戦の軍艦。

その誇りと魂は今を生きる艦娘達によって顕現された。

艦娘の秘めた闘志と秘めた想いは何れ、志半ばで朽ち果てていった軍艦達の無念すらも浄化してゆくことだろう。

これは、敵対するものに向ける怒りや悲しみ、憎しみ、恨みなどではない。

今を生きる者達を、共に戦う仲間達を護りたいと願う、彼女達の想いが具現化した本当の姿なのだろう。

その先陣を切るのは、第一航空戦隊の一翼を担った鎧袖一触の加賀。

その彼女を支えようと、力になろうと、共に行こうと、現れたのがそれなのかもしれない。

666 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/11/25 18:14:57.00 BdERJ8/Go 377/385



鳥海「全艦、突撃開始!加賀さんを援護して下さい!」ザッ

山城「決めなさい!全力で援護するわ!」ザッ

長良「よしきたー!がっつりいっちゃってー!」ザッ

満潮「当然じゃない!まだまだいけるわ!」ザッ

「キタコレ!全力で突撃ー!」ザッ

レ級FS「艦爆艦攻が放たれるのに、正気か、お前等…!?馬鹿なのかッ!?巻き添えを食って沈むだけだぞ!」

山城「果たしてそうかしら?」ジャキッ


ドォン ドォン

ボゴオオオォォォォォン


レ級FS「ぐっ…!」 中破

鳥海「今更、あの人がそんなヘマをするとでも?」ジャキッ


ドン ドンッ

ボゴオオォォォォン


レ級FS「くそっ、身動きが……!」 中破

長良「今更過ぎるね!」ジャキッ


ドン ドンッ

ボゴオオォォォォン


レ級FS「鬱陶しいぞ、お前等……ッ!」 中破

満潮「鬱陶しいのはあんた等よ!」ジャキッ


ドン ドンッ

ボゴオオォォォォン


レ級FS「この、程度で……ッ!」 中破

「漣達からは逃げられないよ、しつこいから!」ジャキッ


ドン ドンッ

ボゴオオォォォォン


レ級FS「がああァァ……!」 大破

加賀「ここは、譲れません」チャキッ

レ級FS「仲間、諸共……ボクを、沈めようと、言うのか……ッ!」

加賀「ありえません。みんな、優秀な子たちですから」ビュッ

レ級FS「正気、か……」

667 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/11/25 18:15:23.57 BdERJ8/Go 378/385



空を羽ばたく色とりどりの艦載機。

その後姿を見て、そして己が握る弓を見て、小さく、静かに、感謝の念を込めて呟いた。


加賀「……ありがとう」


パキッ…


その言葉と共に加賀の持つ弓が中央から真っ二つに裂け、完全に破損する。

それでも、加賀は矢を掴んでいた右手を振り翳し、飛び立った艦載機に最後の指示を出す。


加賀「鎧袖一触よ。心配いらないわ。敵機直上より急降下、全てを薙ぎ払って下さい」バッ


無数に連なる艦載機は一条の矢の如く、真っ直ぐに上昇後一気に急降下、加賀の意志を汲むように一糸乱れぬ鮮やかな動きをみせる。

そして目標へ向けて決死の艦攻艦爆攻撃を開始した。


レ級FS「くくっ……フフフ……アハハハハハッ!何度だって、何回だって、ボクは生まれてやるッ! いいか、覚悟しろ…海軍、艦娘ッ!!ボクは、この海の破壊者だ……どれだけ歳月を掛けようと、必ずまた……」


ブウウゥゥゥゥゥゥゥゥン……


レ級FS「……お前達を皆殺しにする為にッ!地獄の底から舞い戻ってやるよ……ッ!!」


レ級FSの呪詛とも言える咆哮を掻き消すように、加賀の放った艦攻艦爆隊の猛攻がレ級FSに一斉に降り注ぐ。

一点集中の凄まじいまでの艦爆艦攻。

乱れ撃つのではなく、目標にのみ攻撃を加え周囲への被害を出さない圧倒的な精密射撃。

攻撃の止んだ後には文字通り跡形もなく、ただ穏やかな水面だけが存在した。

668 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/11/25 18:38:50.65 BdERJ8/Go 379/385

-変わらぬ明日-

エリート提督の企てた海軍のっとり計画阻止から半年が過ぎていた。

戦艦レ級FSを撃破した後、進撃提督の手によってエリート提督は捕縛され、残っていた首謀者の三人全てが縛に付いた。

提督を始めとしたハズレ鎮守府の面々は戦艦レ級FS撃破後、何事も通達する事無くその場から撤退。

表向きの功労者は現場に居合わせた進撃、鋼鉄、不動、新月の各鎮守府と大本営本部と報道された。

だが現場に居た者はその恐るべき功績を目撃している。

たったの六人、少数精鋭と言うには心許ないほどに少ない人数でエリート提督率いる主力本隊を壊滅させた艦娘達。

大本営をも揺るがす大事を成しえ、それを公にさせずにその場から去ってしまった艦娘達。

そこは外れた鎮守府。

大本営をはじめとし、他の鎮守府ではそこをハズレ鎮守府と呼ぶ。

問題児とされた艦娘や提督の行き着く陸の孤島。別名、海軍の墓場。

そこで六人の艦娘は今も過ごしている。

669 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/11/25 18:39:17.41 BdERJ8/Go 380/385



山城「はぁ、やる事がなさ過ぎて不幸だわ…」

「よっ、今日も出ました山ピーの不幸自慢!」

山城「あなた、艤装の角で殴り殺すわよ?その山ピーって止めてくれないかしら」

「サンジョーさん?山さん?mountain castle?」

山城「」ピキッ ジャキッ

「わー!たんま、冗談!ジョーク!ウソ!こわっ、ヤバイってそれは!」アタフタ

満潮「あんた五月蝿いわよ!」

「あ、みっちゃん」

満潮「ったく…それよりアホ面オヤジまだ戻らないわけ?」

「恋しくなったとか、ですか?」ニヤッ

満潮「…………」ガシッ

「!?」

満潮「山城、良いわ。どてっぱらにぶち込んでやりなさい」

山城「あら、いいの?」

「ノー!良くないです!ダメです!イジメ反対!ダメ絶対!色々!」ジタバタ…

長良「あははは…相変わらずだねぇ」

鳥海「山城が加わってバリエーションが増えて、注意するのも面倒になってきたわ」

長良「何だかんだいってあの子達と山城さん、仲良いもんねー」

鳥海「元々山城は駆逐艦の子たちには良く懐かれてる所があったから、それの名残かしら?」

長良「名残って…それより加賀さんは?」

鳥海「弓道場」

長良「さ、流石…一人流されないねぇ」

鳥海「そこがあの人らしいといった所かしら?」

670 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/11/25 18:39:48.96 BdERJ8/Go 381/385



加賀「…………」ビュッ


トンッ


加賀「…………」スッ…


カチャ…


加賀「…二時間。まだまだね」


構えていた弓を静かに下ろし、時計を見て加賀は一人呟く。


加賀「集中力はある程度続くけれど、そこからの伸びが足りてないのかしら…」

??「競う相手がいねぇから気が緩んでるだけだろ、ダァホ」

加賀「……覗き見なんてついに下の下にまで落魄れましたね、提督」チラッ

提督「ぬかせ鉄面皮」

加賀「それで、今日は何かしら」

提督「全員集めろ。掃除の時間だってな」

加賀「……はぁ、平和を享受するのはまだ先という事ですか」

提督「っせーんだよ。つべこべ言わずにさっさと集めろ」

671 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/11/25 18:40:22.92 BdERJ8/Go 382/385



提督「全員揃ったな」

満潮「見て解んないわけ?あんた馬鹿?」

提督「クソチビまな板、殴り殺されてぇのか」

満潮「あっれー、算数できないのかと思って聞いただけなのに何ムキになっちゃってんの?」

提督「上等だ、即刻てめぇを解体処分にしてやる」

満潮「上等じゃない。解体される前にあんたを雷撃処分にしてやるわよ!」

加賀「……はぁ」

鳥海「……もう何も言いません」

山城「見てる分には愉快ね」

長良「あははっ、始まったー」

「よっ、待ってました!夫婦漫才っ!」パチパチパチ

満潮「漣……」ピキッ

提督「その口に五寸釘打ち込んで縫い合わせた上で二度と喋れねぇようにしてやろうか」イラッ

「」(こ、呼吸ピッタリ過ぎてヤバイんですけど…目がマジ過ぎて別の意味でヤバイんですけど!)プルプル

672 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/11/25 18:40:51.46 BdERJ8/Go 383/385


加賀「話が進みません」

提督「御託が多いんだよ。黙らせとけ!」

加賀「はぁ」

提督「ため息ついてんじゃねぇよ!」

鳥海「司令官さん…」アキレガオ

提督「ちっ…」

山城「三日間も鎮守府空けておいて、何をしていたのかしら?」

提督「あぁ?大本営はそうでもねぇが進撃のクソガキとそれに便乗したルポライターが五月蝿ぇんだよ。だがまぁそんなのはどうでもいい。どうせここは外れに外れただぁれもしらねぇチンケな鎮守府だ。任される任務なんてのも毛が生えたようなしょぼいもんしかねぇからな」

「お陰で平和すぎますけど、暇ですよぅ」

長良「体鈍っちゃうよねー」

提督「だろうと思って久々に仕方なく任務とやらを受けてやった」

加賀「任務?」

鳥海「どのような?」

提督「くくっ、何を血迷ったのか。未だに深海棲艦の残党ってのは姑息にも生きているらしい。それの殲滅が任務だ。泊地があるのならそれ諸共消滅させて来いってなもんだ」

満潮「何それ。超まともな任務じゃないのよ。裏があるんじゃないの、それ」

提督「当然だ。だから俺様の鎮守府に話が『捨てられ』たんだからな」

山城「どう裏があるのかしら?」

提督「向かう先は中部海域、未踏の部分も多い場所だ」

鳥海「何が起こるか解らない。故に何か起きても責任は負わない」

提督「そういうこった」

加賀「やれというのならやるだけよ」

長良「どーせやる事ないもんねー」

「じゃあパッパとやっちまうのね!」

満潮「普段が有給休暇見たいなもんだしね」

山城「どうせ捨てるはずの命だったんだもの。今更どこに行こうと変わりはないわ」

鳥海「では、指揮をお願いします、司令官さん」

提督「ふん…どうせ殺しても死なねぇんだろ。だったらやる事やってとっとと戻って来い。目に物を見せてやれ!」

加賀「了解です。目に物、お見せしましょう。ハズレ鎮守府艦隊、出撃します」

673 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/11/25 18:41:19.65 BdERJ8/Go 384/385



誰も見向きもしない、はみ出し者が寄せ集められた海軍の墓場。

誰が言ったのか、外れと出来損ないのハズレを掛けたハズレ鎮守府。

そんな墓場には今、一癖も二癖もある提督を筆頭とし、六人の艦娘が漂着している。

世間には決して知れ渡らない、名も知られない、誰からも認知されない。

しかし、そこに存在して然るべき六人の艦娘達。

人知れず、ただ任務を忠実に成していく影の功労者。

決して表には出てこない、常に陰を歩き、二番手に甘んじる。

それ故に彼女達の存在を知る一部の者達からは『最強のNo.2』と言われる存在達。

彼女達は今日も何処かの海域で、密かに任務を全うしている。



【艦これ】提督「バリバリ最強No.2」 Fin.

674 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/11/25 18:47:49.07 BdERJ8/Go 385/385

これにて【艦これ】提督「バリバリ最強No.2」は完結です。
今年の一月下旬から書き始め、同年11月下旬の完結と少し間延びしてしまいました。
スランプや諸事情により更新が延長された中、読み続けて頂いた皆様には本当に頭が下がります。

作品執筆中にも幾つか意見や感想など頂き、本当に勉強にもなりました。
本当は五人だけで最後まで、提督を含んで六人で完結させる予定でしたが、物語の流れ上、山城を参加させる運びとなりました。

作品を通じてそのキャラ達をもっと皆さんが愛してくれればと思います。
今後も何かネタが思い浮かべばスレ立てするかもしれませんが、その際はまた生暖かく見守って下さい。

このスレは数日間このままとし、折を見てHTML化依頼スレに報告を入れます。
では、皆様本当に最後まで読んで頂きありがとうございました!

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