1 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2014/09/24 20:14:22.85 A+SRFBGUo 1/430【艦これ】提督「暇じゃなくなった」
艦これのSSです。
書簡体、対話体、それぞれの形式で書く事があります。
いくつかオリジナル要素が登場します。
各艦娘の相関図等、若干違う部分もあると思いますが二次創作観点からご了承下さい。
【艦これ】提督「暇っすね」
http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/kako/1404/14040/1404046254.html
→http://ayamevip.com/archives/42382809.html
【艦これ】提督「暇っすね」Part2
http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/kako/1404/14042/1404294340.html
→http://ayamevip.com/archives/46130372.html
【艦これ】提督「暇っすね」part3
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1404646553/
→http://ayamevip.com/archives/46130818.html
上記三作品の続きのようなものになります。
元スレ
【艦これ】提督「暇じゃなくなった」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1411557252/
~晩秋~
-艦娘病院-
阿武隈「……はぁ」
北上「あらら、ホント元気ないねぇ」
阿武隈「えっ…」
北上「よっ」
阿武隈「き、北上、さん?」
北上「むっちのとこにも行こうかと思ったんだけど、なんか大本営って足踏み入れたくないんだよねーっていうか、まぁ門前払い受けただけなんだけどね」
阿武隈「陸奥さんに会えなかったから、じゃあ代わりにあたしって事ですか」
北上「おっ、解ってんじゃーん。普段からかってる相手が居ないと私も調子狂うっていうかね」
阿武隈「バッカみたい…一人でやってて下さい」
北上「まーまー、そう言わずにさ。少し私に付き合いなよ。どーせ暇なんっしょ」
阿武隈「能天気な北上さんと一緒にしないでよ!あたし的には……!」
北上「能天気ってあんたねぇ」
阿武隈「…っ!何よ、あたし何も間違ってないでしょ。いっつもヘラヘラしちゃって、直に人を馬鹿にして……。そうやって困ってる人嘲って、笑って、さぞ楽しいんでしょうね!」
北上「むっ…ちょっとちょっとー、それ少し言いすぎじゃない~?これでも一応心配して……」
阿武隈「上辺だけのクセに……」ボソッ
北上「はい?」
阿武隈「上辺だけのクセにっ!したり顔で心配してるとか、そういうのがあたし的には鬱陶しいのよ!目障りなの!本当はそんな事、気ほども思ってもないくせに、そうまでしてあたしの事からかいたいの!?北上さんを、ちょっとでも良い所あるかもって…思ってた自分がバカみたい。自分に腹が立つ」
北上「……んじゃいいや」
阿武隈「……え?」
北上「提督に話聞いたらむっちはもう直戻れるかもって事だったし、どっちにしても大本営に提督の許可なしに艦娘が単身で入るってのは無理って事だったから、じゃあ阿武隈っちの様子見てくるって事で着たけど、なぁんかやっぱ嫌われてるし、まさかここまでキレるとは思わなかったけどね。あっはっは……」クルッ
阿武隈「……」
北上「……別に、私はあんた嫌いって訳じゃないよ。同じ鎮守府の仲間だしね。まっ、駆逐艦はウザいけどそれでもやっぱ同じ鎮守府の仲間…家族みたいなもんだしねぇ。本気で憎いなんて思わないし……ホントにさぁ、駆逐艦連中がウザいのよ。阿武隈さん大丈夫かな?阿武隈ちゃん大丈夫っぽい?阿武隈さんは大丈夫なのです?って……私は阿武隈っちの近況報告する放送局じゃないっての」
阿武隈「え……?」
北上「まぁ何が言いたいかって言うとね、ウジウジしてないでさっさと戻って来いって事よ」
阿武隈「なっ…べ、別にあたしは…!」
北上「深海棲艦が怖いってのは別に恥じゃないと思うよ。あんたはあのレ級とやりあって生き延びた。それって誇ってもいいと私は思うんだけどねぇ。ま、次回からは別の寄越すわ~。私じゃイヤっしょ」
阿武隈「…なんで」
北上「へ?」
阿武隈「なんで、それなら来たの」
北上「ん~、なんでって言われてもなぁ。仲間とか家族とか、そういうの心配するのに理由っていんの?」
阿武隈「ぇ……?」
北上「なんかのゲームの台詞のパクリだけどね~。いい台詞だと思うよ、うん。じゃ、そういう事で」ヒラヒラ
-鎮守府-
北上「……って感じでまぁ、嫌われてる嫌われてる」
提督「はぁ、頭痛い…」
北上「まぁ結構凹んでるみたいだし、ちょっちナーバスになってるだけじゃないかなー」
提督「お前の嫌味でも聞けば奮起するかと安直に考えすぎたか」
北上「ちょっと、それどーいう意味さぁ!」
提督「そのまんまだけど?」
北上「失礼しちゃうなぁ、もう!私だってね、面と向かってあそこまで言われたら流石にちょっと傷付くってーの!」
提督「はいはい、悪かったよ。今度飯でも奢ってやるよ」
北上「ん、じゃあそれで手を打とうかな。それよりさっきから何と睨めっこしてーんの?」ノゾキコミ
提督「ん?あぁ、これか。異動の話だ」ピラッ
北上「え…?え、ちょっと、何それ、聞いてないって!提督別んとこいくの!?」
提督「ばかたれ、俺じゃない。お前達艦娘の、だ」
北上「あ、そうなんだ。へぇ…って、おい!」
提督「上官に向かって『おい!』とはなんだ、アホタレ!」
北上「いやまぁ、ノリっていうかなんていうか…そ、それより誰が異動すんのよ!」
-道場-
日向「……ふぅ」
利根「少しよいか、日向」
日向「ん、あぁ。利根さんか」
利根「辞令、聞いたぞ」
日向「…私には姉が居てね。伊勢と言うんだが、彼女の所属する鎮守府からお声が掛かったのさ」
利根「そうだったのか」
日向「それに、私だけではない。長門、翔鶴、飛鷹、筑摩、阿賀野、天龍、龍田、まるゆ……彼女達にも異動の辞令は降りている」
利根「殆どが後輩鎮守府の再編が整った事によるものだそうじゃが…」
日向「その後釜には提督の先輩提督が就くと聞いている。漸く意識も回復し、心身への異常も認められなかったとかで早々に退院も出来たそうだ」
利根「ふっ、少しばかり寂しくなるのう」
日向「別れのない出会いなどは無い。だからこそ、この地で得られたその全てを私はこの身に刻み込んでいる」
利根「合縁奇縁とはよく言ったものじゃな。提督もそうじゃ…彼が居なければ、今の我輩達は無かった。そう考えると、本当に不可思議じゃな」
日向「だから生きているのは楽しいんだ」
利根「かもしれんな。おっと、そうじゃ…本題をすっかり忘れておったぞ」
日向「ん?」
利根「盛大に祝してやる。お主も来い。我輩達からの持てる限りの最大の手向けじゃ」
日向「まぁ、それも悪くない」
-演習場-
長門「……短いようで、長い月日だったな」
榛名「そんな、今生の別れみたいな…」
長門「ふっ、すまんな。感傷的になるのはどうも性分とはかけ離れているみたいだ」
電「長門お姉さん、いっちゃうの?」
暁「わ、私は別に寂しくなんてないけどね!」ウルウル
響「暁…目に涙一杯に言っても説得力ないよ」
長門「出来る事なら、お前達駆逐艦とも一緒の任務で暴れてみたかったが、どうやら今回は願いが叶わなかったようだ」ナデナデ
電「はわわ…」ナデラレ
長門「あぁ、そうだ」ゴソゴソ
響「?」
榛名「それは?」
長門「うむ。私自身、こう…手先が余り器用ではないのでな。妖精に協力してもらいつつ、試行錯誤して作ってみた。アクセサリーだな。ふふ、少し不恰好になってしまったのは笑って許してくれ。七つあるから、お前達暁達と白露達三姉妹、それと島風にそれぞれ渡してやって欲しい」
暁「な゛が どぉぉ~~!」グスグス
長門「ふふっ、そう泣くな。異動先は先輩鎮守府で、私は先輩提督の秘書艦として招かれた。近所に引っ越すようなものだし、会おうと思えばいつでも会える。それに、私達の補填ではないが、新たな仲間が進水するのだろう?新しい家族だ。楽しみだな」
-中庭-
阿賀野「はぁ、ここでの暮らしもあと少しかぁ。夕張ちゃんに借りてたものとか返さないとなぁ」
龍田「阿賀野ちゃんは提督、元に戻るだけだからいいけどね~」
天龍「オレや龍田、もぐらはまさに新天地だからな。ちっと緊張するぜ」
まるゆ「うぅ、もぐらじゃないもん!まるゆだもん!」
天龍「へーへー、そーでございますか。ったく、いきなり半泣きで喚きだした時は何かと思えば、左遷させられるぅ~!とか勝手にほざいて混乱してたクセによぉ。そういう所の反論だけは一端だよな」
まるゆ「だ、だってだって!まるゆはこれといって、特技とか得意なこととか、本当に何もないから…」
天龍「だから提督が見限っててめぇ捨てたとでも思ったか?」
まるゆ「そ、それはぁ…」
天龍「バーカ。提督はそんな薄情じゃねぇ。それに、ここに居る四人は全員先輩鎮守府んとこへ異動なんだぜ。長門も一緒だ。先輩提督の手腕は本物だって言うじゃねぇか。そんな人んところが左遷先なんて、お前冗談でも笑えねぇぞ」
まるゆ「う、うぅ…」
龍田「後は翔鶴ちゃんも一緒ねぇ。筑摩ちゃんと飛鷹ちゃんは日向ちゃんと一緒だったかしら~」
天龍「オレ等と入れ代わりで三人ばかし、こっちの鎮守府に進水してくるヤツ等が居るって聞いてるけど日時的にもオレ等は面ぁ拝めなさそうだがな」
-食堂-
金剛「長門や日向、他の皆も居なくなるのは寂しいネー」
比叡「けど、三名ほど新しくこちらにくるようじゃないですか」
霧島「内一名は駆逐艦の子で、正式な配属かどうかもまだ解ってないそうよ」
鈴谷「ちーっす!」☆(ゝω・)ゞ
熊野「鈴谷さん、いい加減その挨拶の仕方どうにかなりませんの?」
鈴谷「えー、無理」
金剛「Hello! 二人とも異動の話は聞いてるヨー?」
鈴谷「うん、筑摩さんから聞いたー」
熊野「寂しいですけど、出会いがあれば別れもありますもの、仕方ない事なのかもしれませんわね」
鈴谷「まぁねぇ、こればっかりはねぇ」
霧島「まぁだからこそ、こうして送別会の準備してるんだけどね」
鈴谷「よーし、鈴谷も張り切って手伝うかんね!料理は任せて!」
比叡「私も、気合い!入れて!てつd……」
熊野「ひ、比叡さんは装飾のお手伝いをお願いしますわ!」アセ
比叡「…そうですか?」
霧島「」(比叡お姉さまに料理をさせたら凄い事になりそうね)
金剛「」(悪気はない子だけど、比叡に料理はNGネー…)
比叡「ん?」キョトン
飛鷹「んもう、大袈裟なんだから…」
長門「だが、こういうのも悪くない」
日向「ああ…門出として呷る酒も、これはこれで乙なものだ」
筑摩「ふふ、そうですね。武勲を上げた訳ではないのに、ヨイショされるっていうのも、たまには良いかもしれません」
翔鶴「笑顔で送り出してくれる…と、言うのがこれほど嬉しいものかと、涙が出てきますね」
龍田「皆が笑って、笑顔でいるんだもの~。私達が泣いたらダメよ~」
まるゆ「ずびばぜん、わだじはムリでずぅ~」グスグス
阿賀野「ほらほら、まるゆちゃん鼻水……はぁ、でもやっぱり、仲良くなれたのに離れ離れは寂しいねぇ」
天龍「バーカ。むしろ代表だろ、代表!オレ達は提督鎮守府の代表として他の鎮守府へ移るんだ。栄誉で名誉、それ以外に何があるってんだよ!」
木曾「へへっ、言うじゃねぇか天龍。先輩提督んところでも暴れろよ!」
天龍「おう!木曾、てめぇの耳にもイヤってほどオレ様の名前入れてやるから覚悟しとけよ」
木曾「はっ、言ってろ!が、仲間の武勲の知らせってのはまぁ……アリだな」
龍驤「飛鷹ぅ~、ほんま元気でやるんやでぇ!」ウルウル グシグシ
飛鷹「ち、ちょっと…人の袖で涙拭かないでよ!自分ので拭きなさいよ!」
利根「ほれ、筑摩。ぐっといけ、ぐっと!」
筑摩「ね、姉さん、私はそんなお酒強くないから…」
利根「なぁにを言うか!利根型じゃろ!利根型二番艦の筑摩じゃろ!」
筑摩「余り関係がないような…」
利根「まぁそう言うでない。ほれほれ♪」
筑摩「もぉ、利根姉さんったら、あんまりくっつかないで下さい…」
暁「ながとー!これ、のみなさい!」
長門「む、なんだこれは」
響「オレンジジュース」
電「き、今日は電達で長門お姉さんのおしゃくをするのです!」
榛名「長門さん、付き合ってあげて下さい」
長門「ふっ、そうだな。よし、そのビンをこっちへくれないか、暁」
暁「へ?」
長門「何を呆けている。ほら、コップを持て。お前達もだ、響、電」
響「あ、うん」
電「あ、あれ?なんだか逆のような気が…」
長門「ははは、気にするな。普段、駆逐艦のお前達や白露達、軽巡の天龍姉妹や阿賀野、川内に神通……そして木曾や夕張、阿武隈…皆が遠征任務などで足場を支えてくれるから、前線の私達は何の憂いもなく、前を向いて戦えるんだ。そんなお前達を労わずして、何を労えという。これは、正当な権利だ」
暁「長門…」
長門「うむ。暁、響、電、いつもお疲れ様だな。今日くらい…というが、今日しかないからな。一緒に飲もう」
北上「ほい、阿賀野っち」
阿賀野「あ、ありがとー、北上ちゃん」
夕張「阿賀野、貸してたゲーム機持ってっていいよ」
阿賀野「えぇ!?」
夕張「餞別よ。せ・ん・べ・つ」
阿賀野「大事にするよー」
白露「えっ、夕張ちゃん!私には!?」
夕張「あんたはここに残るでしょうが…」
白露「あっ、そっか」
阿賀野「あはははっ」
時雨「はぁ、この抜けた所さえなければいいんだけどね」
夕立「んふふー、それは無理っぽい」
島風「白露ちゃんからボケとったらただのポンコツじゃーん、にししっ」キャッキャ
白露「全部聞こえてるからー!もーっ!」
阿賀野「あぁ、そんな暴れたら危ないよ、白露ちゃん。あははっ」
夕張「ホント、この姉妹仲が良いわ…プラス島風ちゃん」
-中庭-
提督「……」
長門「こんな所で一人晩酌か、提督」
日向「連れないな、君は」
筑摩「今日のメンバーは最後かもしれないんですよ?」
天龍「一人だけ星が肴かよ」
龍田「ロマンチストにはみえないわね~」
翔鶴「夜風が気持ちいいですね」
阿賀野「ふぁ~、いい風ぇ」
飛鷹「物思いに耽るなんて、それこそらくしないわね」
まるゆ「た、隊長も一緒に、どうですか?」
提督「なんだよ、皆との馬鹿騒ぎに興じてなくていいのか?」
天龍「あんたが居て、初めて成立するんだよ。オレ達のバカ騒ぎってのはな」
日向「ふっ、トリをとってもらわないとな」
筑摩「示しがつきませんよ、提督」
まるゆ「大トリですよ!」
提督「参ったね」
龍田「あら~、私達が任せているのにそんな態度なの~?」
飛鷹「相変わらず、オンオフの態度が明確よね」
阿賀野「でも、そこが提督らしいよね」
翔鶴「ええ、本当に」
長門「さぁ、酌み交わそうか。提督」
提督「そうだな。酌み交わすか。あと、明日にでも今日顔を出せなかった陸奥と阿武隈の所にも連れて行く」
長門「ああ、解った。提督、陸奥や阿武隈のことは任せたぞ」
提督「言われんでも解ってるよ」
-後日 鎮守府・近海-
提督「……全艦、主砲構えーっ!」
榛名「一斉射、撃てーっ!!」
ドォン ドォン ドォン ドォン ドォン ドォン ドォン
天龍「ははっ、こうしてみると壮観だぜ」
日向「ああ、いい門出だ」
長門「胸が熱いな…」
提督「長門、日向、翔鶴、飛鷹、筑摩、阿賀野、天龍、龍田、まるゆ……この地で学んだ全てを遺憾なく発揮し、お前たちの名が何処に居ても轟くことを期待する。お前たちの上官で在れたことを俺は誇りにしてこれからも邁進し続けよう。さぁ行け…暁の水平線に、勝利を刻み込むために!」
長門「必ず、また会おう、提督。その時はまた、酒でも酌み交わそうか」
日向「君が私の提督であったことに、私も誇りを持とう」
翔鶴「提督、貴方が掬い上げてくれたこの命の恩、たとえどれだけ離れていても私は生涯忘れませんよ」
飛鷹「私が抜けたとたん腑抜けたりしたら承知しないわよ?って、愚痴っても仕方ないけどね、ふふっ」
筑摩「提督、利根姉さんはあんなですから、時々様子見て上げて下さいね。一時でも、また提督と共に肩を並べれられた事、嬉しく思います」
阿賀野「てーとくー、阿賀野、もっともっと凄くなっちゃうからね!手放したこと、後悔させちゃうんだから!」
天龍「よう、提督!後からオレの強さに惚れ直してもおせぇからな。まっ、あっちでの活躍に嫉妬してくれよ!」
龍田「ふふふ、楽しかったわよ、提督。私も提督の事はきっと忘れないと思うわ~」
まるゆ「あ、あの!隊長!まるゆは隊長の下で成長できたと思ってます!まるゆのこと、気にかけてくれて本当にありがとうございました!まるゆは、これからもがんばりますからぁ!」
提督「ああ、俺もお前たちのことは忘れたりしないさ。だから、心置きなく行って来い!」
榛名「…行っちゃいましたねぇ。提督?」
提督「…何でもない」クルッ
赤城「提督って、ちょっと涙脆いところありそうですね」クスッ
提督「うっせー、目にゴミが入っただけだ!」
鈴谷「あはは!そんじゃ、そういう事にしときますかー」ニヤニヤ
龍驤「せやなー、提督の威厳損なってまうしなぁ」ニヤニヤ
北上「提督の貴重な号泣シーンっと…」パシャ パシャ
羽黒「もう、北上さんったら…」クスッ
木曾「おら、午後からは新着で三人艦娘新しく来るんだろ。そっちの準備も進めとこうぜ」
霧島「ええ、そうね!」
提督「わぁかってるよ!はぁもう…どいつもこいつも」
榛名「ふふ、口癖…最近は出ませんね、提督」
提督「暇じゃなくなったしな」
白露「暇は暇で暇だから退屈だよー」
夕立「っぽい?」
時雨「ぽいって言うか、まんまじゃないか、それ…」
提督「だぁー、もううっせーうっせー!朝のミーティングさっさと始めるぞ!ほらっ、動け動け!」
瑞鳳「空元気って感じだね」
大鳳「出会いがあれば別れがあるって言うしね。むしろ、それだけ提督は私達一人一人を大事にしてくれてるってことだと思います」
川内「そーそー、昨日だって一人外で誰か死んだのかってくらいテンション下げて呑んでたくらいにね」
熊野「なんていうか、表現悪くありませんこと、それ…」
神通「あ、あはは…」
衣笠「まぁまぁ、取り敢えずミーティングよ、ミーティング!皆いきましょ」
-作戦室-
提督「……って事で、今日の任務は以上だ。長くとも本日のヒトナナマルマルには終わるだろう」
金剛「Hey!提督ぅ、新しい艦娘は何時くるネー?」
提督「この鎮守府にはヒトフタマルマルには到着予定だ。あと二時間ちょっとってとこだな。榛名は悪いがこの後は執務室で書類整理を手伝ってくれ」
榛名「はい、お任せ下さい!」
提督「近海哨戒任務は衣笠、利根、北上、木曾、神通、島風の六名。遠征組はそれぞれ鈴谷、熊野が旗艦、随艦には鈴谷の方には羽黒と暁隊、熊野には夕張と白露隊、各五名で行うこと」
鈴谷「ぃえっさー!」
熊野「了解しましたわ」
提督「んで、戦艦組と空母組、お前たちは鎮守府の掃除だ。頑張れ」
龍驤「あ、あんな提督…サラッと言うてるけど、この鎮守府リフォームしてんねやろ?」
提督「ああ、そうだな」
龍驤「むっちゃ広いやん?」
提督「ああ、そうだな」
龍驤「空母組かて四人やん。戦艦組は三人やん?」
提督「ああ、そうだな」
龍驤「どう考えても無理やんな!?」
提督「あぁ、そうか。すまんすまん…えっと、残ってるのは川内と潜水部隊か」
川内「ギクッ…」
イムヤ「はぁ……」
ゴーヤ「嫌な、予感…」
提督「…ってことで、合わせて十名確保した。頑張れ」
赤城「…やる前からもうお腹空きました」
瑞鳳「え、えぇ…!?」
金剛「よーし、ピカピカにするネー! Follow me! 皆さん、ついて来て下さいネー!」
比叡「よしっ!私も頑張ります!」
霧島「比叡お姉さま、言っておきますけど、以前寮を掃除してた時みたいに途中でサボってたら…」メガネキラン
比叡「うっ…!」
霧島「耳元でマイクチェックしますよ、今度は…」
金剛「Oh…それはされたら悲惨ネ、比叡…霧島、こういうの容赦ないヨ」
大鳳「私はむしろ久々に鎮守府内を動き回れるから楽しみだわ」
川内「任務ないから夜まで寝てられると思ったのにぃ…」
イムヤ「あんた、それは怠けすぎでしょうが…」
-執務室-
提督「……いや、あのですね。俺は……って、あれ?もしもーし、もしもーし……くぅおぁぁ!切りやがった! あんのクソ先輩提督…っ!」
榛名「廊下まで声、響きますからね、提督」
提督「だってよ!おま、あれだよ?命かけて助けたのに、言うに事欠いて返ってきた言葉が『後輩取り逃がすとかあんたバカなの?』って俺は悪くねぇ!大本営に駐留してた大将連中が!」バンバン
榛名「って、私に言われても…」ニガワライ
提督「あぁ、うん。だよね」
榛名「それより提督、これ判子お願いします」スッ
提督「ん…あぁ、新着の三人に関する書類か」
榛名「はい。正直、翔鶴さんと入れ代わりできた正規空母が彼女だったのは以外です。てっきり私は先輩提督の方へ配属されるとばかり思ってたので」
提督「あぁ、俺も少し驚いてる。まぁ、赤城と大鳳が居るとはいっても、残りの瑞鳳と龍驤の二人だけってのも正直荷が重いだろうから、歓迎は歓迎なんだがな。まぁ何より、後遺症もなく無事治療も終えたってのが個人的には喜ばしい」
榛名「確かに、そうですねぇ。えーっと、残りの二名は…駆逐艦と潜水艦、ですか?」
提督「あぁ。駆逐艦の方はうちで研修みたいなもんだ」
榛名「研修?」
提督「そっ、なんでも大本営に元々は籍を置いてたみたいだが、あっちは任務なんて早々舞い込んでこないだろ」
榛名「つまり、経験を積ませたいと…」
提督「だな」
榛名「潜水艦はまるゆちゃんの後任って事ですか?」
提督「それもあるし、何よりイムヤとゴーヤ、まるゆで今までは回せてたものが一人抜けたらその分、負担が増えるだろう。取り敢えず三人、揃えておきたかったってのが前提だな」
榛名「潜水艦の子たちは本当に縁の下の力持ちですからね」
提督「数日掛かりの遠征なんかじゃ、毎度申し訳なく思う。勿論、遠征任務が多い軽巡洋艦や駆逐艦の奴らも同じでな。遠方だと、なんていうか…毎度そうだが心配で仕方がない」
榛名「ふふっ、親心、みたいな?」
提督「親じゃねぇよ!」
榛名「はいはい。言い当てられると直に声を荒げる癖、直さないと言動だけで色々とばれちゃいますよ?」
提督「んなっ」アセ
榛名「あなたは結構解りやすい性格ですよ?」クスッ
-先輩鎮守府-
先輩「あ~~……この椅子の感触、ひっさびさー!」
大淀「本日、ヒトフタマルマルの着任式までの時間、代理で秘書艦を務めさせて頂きます、大淀です」
先輩「うん、ありがとね、大淀ちゃん」
大淀「元帥殿からも頼まれましたから。それよりも、本当にこのメンバーでよかったのですか?お言葉ですが、先輩提督の階級は中将です。相応の艦隊編成が可能であり、また義務でもあります。確かに、錬度として見れば彼女達の力は十分に先輩中将を支えられるだけのものはあると思いますが…」
先輩「いいのよ。それに、私の失敗は貴重な戦力を削ぎ落とした事だけじゃない。それも踏まえてかしらね。それに、今の私は中将じゃない。少将よ」
大淀「…は?」
先輩「階級よ、階級。ワンランク下げてもらったのよ」
大淀「申し訳ありません。言っている意味が、よく…」
先輩「あははははっ、別に解らなくたっていいわよ。これは私のけじめみたいなもんなんだからね。ヒヨっ子に助けてもらったのもあるし、あいつにも恩返しは必要じゃない?だから、私はここに戻ってきたのよ」
大淀「は、はぁ…解りました。元帥殿にもその事は報告として上げておきます」
先輩「あははは、別に報告として上げるような大層なもんじゃないでしょうに…ホント、大淀ちゃんって真面目よねぇ…えーっと、あいつんところから送られてきた書類はっと…」
大淀「提督鎮守府から送られてきた書物はこちらです」スッ…
先輩「おっ、あんがとー…ふむふむ、秘書艦は、戦艦長門……にしてもあの子、よく長門寄越してくれる気になったわよねぇ」
大淀「それを言うなら、元々は貴女の艦隊……それも第一艦隊に属していた正規空母を手放したのも、私からしてみれば以外な程でしたが…先の混乱も収まり、彼女自身も無事だったんです。元の鞘に収まるのが道理と踏んでいたんですけどね」
先輩「んー、まぁね。ただ、これはあの子が望んだ事でもあるから、私はそれを尊重したまでよ」
大淀「そうでしたか。さて…そろそろ彼女達も着任してくる頃です。出迎えましょう。そこで私と秘書艦の務めも引き継がせて頂きます」
先輩「はいはーい。それじゃ行きましょうか」
-鎮守府・母港-
??「あっ、わざわざお出迎えしてくれるとは!」
提督「よう、すっかり元気になって何よりだ、飛龍」
飛龍「改めまして!航空母艦、飛龍です。空母戦ならおまかせ!どんな苦境でも戦えます!」
イク「はじめましてなのね。優しそうな提督で嬉しいのね。伊19なの」
榛名「伊って事は、イムヤちゃんやゴーヤちゃんと一緒、なのかな」
イク「イムヤとゴーヤ、やっぱりいるのね!イク今から楽しみ!あっ、イクの事はイクって呼んでもいいの!」
提督「またこゆいの来たな…」
??「あ、えっと…白露型駆逐艦五番艦の春雨です、はい」
榛名「白露型…」
提督「おぉ、白露達の姉妹か」
春雨「え?」
榛名「それにしても、美味しそうな名前…」
春雨「おいしそう…ってその春雨とは違います!」
榛名「あ、あはは…」アセ
提督「お前のおねーちゃん達、長女と次女、四女がうちには居るんだよ」
春雨「えぇ!?白露お姉ちゃんと、えーっと…時雨お姉ちゃん、あとあと…夕立お姉ちゃん?」
榛名「うんっ」
提督「今は遠征任務で出払ってるけどな。夕方には戻るだろうから、仲良くやれよ」
春雨「は、はいっ!」
提督「よし…飛龍、イク、春雨。よくぞ我が鎮守府へ着任してくれた。我々は君達を歓迎しよう。同時に君達の戦果にも期待する。これから宜しく頼むぞ」
三人「「「はい!」」」
提督「鎮守府内の案内は榛名に任せる。俺は大本営と艦娘病院に行く用事があるから、そのまま引き続き代理を榛名に任せるが、構わないか?」
榛名「はい!榛名は大丈夫です!」
提督「よし、それじゃ任せた。このまま俺は向かうから宜しくな」
-先輩鎮守府-
長門「本日よりこちらに着任する、長門型一番艦戦艦長門だ。宜しく頼む」
翔鶴「同じく、本日付で着任しました。翔鶴型一番艦正規空母の翔鶴です。宜しくお願いしますね」
天龍「オレは天龍。天龍型一番艦軽巡洋艦の天龍だ。よろしく頼むぜ!」
龍田「同じく天龍型二番艦の龍田です。よろしくね~」
まるゆ「はっ……!ま、まるゆは海軍工廠出身じゃないので、皆さんとちょっと違うっていうか…」
先輩「あはは、そんなの気にしなくて良いよ。五人とも、良く来てくれました。若干、顔馴染みもいると思うし馴染みやすいとは思うから、今後とも宜しくね」
大淀「それでは長門さん、後の秘書艦執務はお任せしますね」
長門「ああ、賜った。任せておけ」
-大本営-
提督「……って事でやって参りました、大本営」
陸奥「あら、提督」
提督「おう、陸奥。元気そうだな」
陸奥「ええ、おかげさまでね」
提督「両手、どうだ?」
陸奥「うん、もうかなり普段通りに動かせるようになったわ。近代化改修様々ね」
提督「そうか、良かっひゃ……ふぉい、はにひへんひゃ!」グイー…
陸奥「うふふっ、ね?この通り、いつでも提督をフルボッコに出来るわ」グググッ…
提督「いへーから…ひょっちょ、いへーからひゃ!ひゃにゃひふぇ!」
陸奥「何言ってるのか解らないのも不便ね」パッ…
提督「あ゛ー、いってぇ…容赦なさすぎだろ」ヒリヒリ
陸奥「気安く人の頭撫でるのが悪いのよ」
提督「大抵の艦娘喜ぶんですけどねぇ」
陸奥「煩いっ」
提督「へぇへぇ…よし、そんじゃ支度整えて阿武隈迎えに行くぞ」
陸奥「ええ、了解よ」
-艦娘病院-
医師「どうだい、まだ不安や恐れは奥底に残ってる感じがするかい?」
阿武隈「正直解りません。でも、もう逃げたくありません」
医師「うん、そうか。提督殿には正直に全てを話す。その上で、提督殿自身に判断してもらう。それでいいね?」
阿武隈「はい、大丈夫です。それで、構いません」
医師「……と言う訳で、本人が自覚してる部分では、幾分か深海棲艦に対する恐怖心と言うのは払拭できているのかな…と、言った感じなんですが…」
提督「あくまで映像や演習においてのみ、ってことですね」
阿武隈「…………」
陸奥「…大丈夫よ、阿武隈」
阿武隈「陸奥さん…」
陸奥「長門姉さんだってそうだった。大鳳も、木曾も、神通だって……あの時、あの場に居た皆が阿武隈と一緒、同じ思いをしたのよ。勿論、私もね?」
提督「俺の言葉は必要なさそうだな、こりゃ…」ニガワライ
医師「はははっ」
陸奥「さぁ、行きましょ。皆が待ってるわ」
阿武隈「……はいっ!」
この鎮守府に着任する前、大体のことは大本営から通達として聞いていた。
それでも馬鹿正直に大本営が全てを告げるはずもない。
内容としてはありきたりで前任提督による不徳とする行為の数々によって鎮守府としての機能が損なわれた結果、通常運用が間々ならない状況に陥ったことによる上官の交代要請。
それに伴い、現存する艦娘たちのメンタルケア。
前者は俺が代われば良いだけで済むが、後者はどうやったって俺じゃ無理な話だった。
精神科医でもなければメンタルカウンセラーでもない。
俺は日本海軍の提督であって戦術、戦略には長けても、心のケアなんてものは不得手に入る部類所か不可能の域にある。
案の定、着任して早々、現存する艦娘連中からは空気のようにぞんざいな扱いを受けた。
今思えばそれもいい思い出だが、正直あの当時は堪えた。
紆余曲折を経て今に至るも、やはり彼女たちの心のケアというのは困難を極めた。
だが、今回ばかりはどうしても力になってやりたいと願った。
陸奥と阿武隈、この二人を救えるのは俺だけだと、そう思ってありとあらゆる手を尽くしてみた。
が、気付いてみれば艦娘に励まされる俺と、対象として救うはずの艦娘に救われる始末。
結局のところ、彼女たちの支えあっての今であり、俺は常にそんな彼女たちから勇気と力を得ていたのだと再認識した。
陸奥の一言であそこまで阿武隈の表情は変わるものかと……何度話し合っても感情を露にしてまで言い合いにはならなかったってのに、北上と会話させれば激昂したという。
まぁ、確かに立場上、上官である俺に対して激昂する訳にもいかないんだろうが、たった一度の面会で彼女の感情を呼び戻してしまった北上には頭が下がる。
何はともあれ、漸く全員が揃った。これで名実共にこの提督鎮守府が深海棲艦に対し、反撃の狼煙を上げる時が来る。
-鎮守府近く-
提督「さぁ、見えてきたぞ。二人とも久々だろ。リフォームして結構でっかくなったんだぞ」
陸奥「ほんっと、久しぶりねぇ…長門姉さん達が異動するって全員で押しかけてきたときはちょっとビックリしたけど、先輩提督が復帰したんだものね。元々うちで預かってたようなものだし、仕方ないのかな」
提督「あっちからの注文も幾分かあったけどな。あと、日向、飛鷹、筑摩はまた別の鎮守府だ」
阿武隈「…戻ってこれた」ウルウル
提督「ははっ、当然だろ?ここがお前の居場所だ」ポンポン
阿武隈「うぅ…あぁ!もう!北上さんじゃあるまいし、あんまり触らないでくださいよ!あたしの前髪崩れやすいんだから!セット大変なんだからね!」
提督「っと…」
陸奥「ふふ、やっと阿武隈らしくなったわね」
提督「はぁ、元気なのはいいことなんだがな。元気になったからって直に北上に噛み付くなよ?」
阿武隈「噛み付いてくるのあっちだし!」
提督「へぇへぇ…」
スタスタ……クルッ…
陸奥「どうしたのよ、いきなり向き直って…」
阿武隈「普段、キャップも被ってないのにね…」
提督「まっ、形式だな。形式」サッ
陸奥「ぁっ…」
提督「…長門型二番艦戦艦陸奥、及び長良型六番艦軽巡洋艦阿武隈!君たちの帰還、心より歓迎する!」ビシッ
阿武隈「て、提督…」
提督「…なんてな。お帰り、二人とも」ニコッ
陸奥「うん、ただいま。提督」
阿武隈「遅くなってごめんなさい」
~青雲と凌雲~
-執務室-
榛名「お疲れ様です、提督。どうぞ、珈琲です」
提督「ん、さんきゅー。はぁー、これ飲むと気が休まる」
榛名「今日は珍しくこれといった任務が入ってきませんね」
提督「それが嫌なんだよ。嵐の前の静けさ…のどかな空気の中に、こう一本の電話とか通信が…」
ピピピピピ ピピピピピ ピピピピピ
榛名「えー……」
提督「マジでか…はぁ、もう…はい、こちら提督鎮守府。識別番号どうぞー」
??『腑抜けた声だな、提督』
提督「へ?」
??『なんだ、もう私の声は忘れたのか。案外軽薄な男だな、君も』
提督「ひ、日向か!?」
日向『まだそこを離れて一週間程度しか経ってないと思うんだが、まぁそれもいいさ』
提督「あ、いや、唐突だったもんでな。すまん…それよりどうした?」
日向『ああ、急な話で悪いんだが、君のところの水雷戦隊に協力を仰ぎたい』
提督「うちの水雷戦隊?どうしてそうなるのか経緯を聞かせてくれるか?」
日向『うん?あぁ、それもそうだな』
提督「……そうか、キス島に残っている人たちの救出作戦か」
日向『現時点で北の海域全てを制圧するのは困難だ』
提督「だが、どうして俺の方に?」
日向『うちの鎮守府には駆逐艦を中心とした水雷戦隊を組むだけの人員が確保できなくてね。提督に前の鎮守府、つまり君のところの話をしたら、話を通して見てくれと言われてね』
提督「そういう話を普通艦娘に委ねるかね…」
日向『ふふっ、私の所の提督はどうもゆるすぎてね。現元帥殿よりは若いが、まぁいくつか修羅場を潜ったような面構えはしている人さ』
提督「協力は出来る限りしよう。だがその場合はちゃんとした鎮守府間でのやり取りが必須だ。こっちにもこっちの任務がある。駆逐艦の連中にも勿論任務がある。共同戦線を張って聯合艦隊を編成するなら尚のことだ」
日向『ああ、最もな意見だ。その点についてもうちの提督にちゃんと話をしておこう。それじゃ、私もまだ任務中の身なんでね、通信を切らせてもらうよ』
ブツン…
榛名「キス島っていうと、例のうずしおの関係で一定速度を維持しないと通過できない海域がある…」
提督「ああ、そうだ。別名、魔の領域と言われている。正直なところ、うずしおに惑わされずに速度を維持するだけならそこに全神経を集中させればお前たち高速戦艦や赤城たち空母組にも可能だろう」
榛名「けど、実際には敵が布陣しているから…」
提督「そう…交戦の最中に流され、ルートからは確実に外れる。例え敵を殲滅して戻ったとしても…」
榛名「新手の敵陣が待ち構えて一からやり直し…」
提督「そう言うこと。これを突破するにはそれらを振り切る速度をもつ駆逐艦が必須。敵側にも駆逐型はいるだろうが、陣形を崩して単独になってまで追ってこようなんて奴らはそうは居ない」
榛名「どうするんですか?」
提督「白露姉妹と島風、暁、響かな」
榛名「春雨ちゃんも、ですか?」
提督「あー、いや。彼女は今回は抜きだ。それと、陸奥、飛龍、龍驤、羽黒、北上、木曾の六人にも頼むか」
-あくる日・作戦室-
提督「皆、お疲れさん」
陸奥「どうかしたの?」
木曾「あんだよ、今日は任務ねぇと思ってたのによー」
提督「木曾、言葉を慎め」
木曾「へ?」キョトン
??「あっはっは!いやぁ、提督大佐ん所は艦娘も元気ハツラツとしててぇ、いやぁ…いい、実にいいねぇ」
木曾「な、なんだぁ?」
提督「以前に座学で話したことがあるだろう。現海軍には、俗に言うエリート艦隊がいて、中将や大将クラスの鎮守府で功績を挙げ続けているって。俺の先輩が率いてた鋼鉄の艦隊もその一つ。で、この方はそんなエリート艦隊を率いている大将の一人だ」
木曾「うげっ、マジかよ…た、大将って…な、なんだってそんな大物がこんなチンケな場所に…」
提督「チンケで悪かったな」
大将「だぁーっはっはっは!いやぁ、提督君さぁ、お前んとこの艦娘マジ面白いね。どうせなら日向じゃあなく、そこの木曾ちゃんトレードさせてもらえば良かったわぁ」
日向「はぁ…話が進まない。伊勢、君からも何か言ってくれ」
伊勢「んん~~、無理、かなぁ…こういう人だからねぇ」
陸奥「日向!?」
日向「ん?ああ、陸奥か。久しぶりだね。とは言っても、まだ一週間ほどしか経ってないが…」
提督「とにかく、全員席に着け」
提督「……まぁ、そんな訳で、引き続き俺たちは北方海域の攻略に従事することになるかもしれない」
龍驤「せやけど、うち等はその海域、入り口までしかいけんのやろ?」
北上「つまり私達は白露っち達の護衛って訳か」
伊勢「ごめんね、君達にばかり重荷を背負わせるような形になるかもしれない…」
大将「すまんね、うちにはキス島に挑めるだけの錬度を持った駆逐艦が揃ってない。お陰でついた異名は不動要塞、不動の艦隊なんて言われてるよ」
飛龍「道中、キス島手前にあるうずしおが展開された海域目前まで、水雷戦隊を護衛すればいいんですよね?」
羽黒「その後、モーレイ海の哨戒は進んでるんでしょうか?」
不動「こっちの艦隊で常に目を光らせてる。お前さん等のお陰でね。正直、深海棲艦の幹部クラスを仕留める事ができたのは今後の任務遂行に際してかなり公算として高い。中将や俺達大将連中でさえ、一歩を踏み出すのに躊躇してたほどなんだ」
提督「この場で言う事ではないと思うんですが、不動提督…」
不動「あぁん?」
提督「以前に元帥殿から直に伺って知ってます。現大将十名の意見は現時点でキス島、如いては北方海域全体を攻略するのは時期尚早であると…まずは北方を監視するに留め、西方より攻略を進めるべきであると提案・可決が成され、満場一致であったと聞いてます。何故このタイミングで再び北方海域、魔の領域であるキス島の救出及び撤退作戦を敢行されたのか、率直な意見を伺いたいと思います」
不動「……まぁ、妥当だぁな。そう思うのも当然ってなぁ」
伊勢「元々は私達の艦隊にも水雷戦隊は従事してたんです」
響「じゃあ、何故今は…」
伊勢「一言で片付けてしまうのであれば、作戦ミス…かな」
不動「……今よりも情報が出揃ってない時期だったなぁ。モーレイ海も深部までは攻め込まず主力艦隊と見込んでいた一群を制圧して、あの規模ならいけると踏んだ。当初は伊勢を基幹とした水上打撃艦隊で乗り込んだが、知っての通りうずしおに翻弄されてな。戦闘時でも常に35~40ノットはかっ飛ばせる艦じゃねぇとこりゃあ無理だってんで、当時うちの艦隊で破竹の活躍見せてた駆逐艦六人に向かってもらったんだわ」
伊勢「結果、戻ってきたのは僅か一隻……その戻ってきた子も、片腕を失い満身創痍で命辛々逃げ延びてきた」
白露「そんな…」
不動「……何かがおかしい。俺の直感がそう告げた。その後さ、今度はモーレイ海を哨戒してた俺の航空戦隊が的にされて半壊にまで追い込まれたのはよ」
島風「半壊って、まさかっ…!」
暁「戦艦レ級……」
伊勢「ええ、見た事もない深海棲艦で圧倒的な強さを誇っていたと聞いた。けど、大破したり大怪我負った子は居ても、誰一人としてロストする事はなかった。一応皆無事で戻れた…ううん、あれは無事とは言えない…」
不動「ああ、見逃されたってのが一番妥当な表現だぜ…こっちを徹底的に甚振って、屠って、弄り尽くす鬼畜の所業」
夕立「ひどい…」
不動「んで、提案したんだよ。現時点で北方海域を攻略するのは得策ではない。開示が進んでない他の海域に進路を変えて、一旦様子を見るべきだってな。惨状を知ってた他の九人の大将連中は二言返事でオーケーさ。最も元帥殿の愛娘、先輩中将が般若の形相で猛反発してくれたがねぇ…ありゃあ夢に出てくる迫力があったぜ」
北上「んでさー、そんなおどろおどろしい話聞かせた後でうちの子等向かわせんの?」
提督「北上、口を慎め…」
北上「だってさぁ!大将連中お抱えの水雷戦隊っしょ!?言わばエリートじゃん!それが……っ!」バンッ
不動「北上嬢ちゃんの言い分は最もだよ。だからこいつぁ俺の頼みだ。頼む、提督大佐…お前さんとこの艦娘の命、俺に預けろなんて厚かましい事ぁ言わねぇよ。だがせめて、貸してくんねぇか」
北上「」ブチッ…
ガタンッ
提督「北上っ!」ガタッ
北上「うち等の子は『物』じゃないっての!何さ、貸すって!じゃあなくしたら返せるっての!?なくすって事の意味解って言ってんなら、冗談じゃすまないっしょ!!」
陸奥「落ち着きなさい、北上!」ガシッ
暁「き、北上さん…」
夕立「お、落ち着こうよ…」
時雨「僕等なら大丈夫だから」
島風「興奮するのはよくないってばっ!」
飛龍「……」
龍驤「せ、せやんな。一回、ほな落ち着こか。な?北上かて、そない興奮しとったら回る頭も回らんなるで…」
木曾「ちっとは頭に上った血ぃ下げろって…」
北上「なんでさ!なんで、皆そんな冷静なワケ!?おっかしいんじゃないの!?こいつらはっ!白露っち達の命を物として扱おうとしたんだよッ!!?」ググッ
白露「北上さん…」
提督「…北上、皆わかってるよ。俺も同じだ。こんな身分じゃなけりゃ不動提督の顔面変形するまで殴ってる」
不動「え、マジかよ…」アセ
日向「……ちっ、流石に言葉は選ぶべきでは?」ギロ…
伊勢「ひ、日向もそう睨まないの!あと舌打ちしない!不動提督もです!預けるとか貸すとか、そういう話じゃないでしょ!?流石に言葉が過ぎます!」
不動「…………」ポリポリ
提督「…そういう非情な決断や思考が時として重要なのは認めます。ですが、俺たちの目指すものは誰かの犠牲の上に存在する訳にはいかないんですよ。奇麗事だって思うでしょう。砂上の楼閣、机上の空論、どんな揶揄をされたって構わない。それでも、俺たちが掲げるのはただ一つ、生きて帰ること、それだけです」
陸奥「私達は、戻った時の提督の言葉が聞きたいんです」
木曾「わかるか?ボロッボロになって帰ってきてよ、そんな俺等の肩に手を置いて、たった一言『お帰り』って言ってもらうだけで、俺等がどんだけ救われるか、あんたはわかるか?」
島風「無事で良かったって言ってもらえると、ちょー嬉しいよねっ!」
時雨「うん、頑張れたかなって、ちょっと自分を褒めたくなるね」
羽黒「冷えた心も、身体も、司令官さんのその一言がかかるだけで、直に無くなるんです」
白露「あったかいんだよねー」
響「うん、あの一言は本当に温まるよ」
北上「私達は物なんかじゃない!貸し借りが簡単な無機物とは違うっての!」
不動「……そうかい。言葉が過ぎた、いや、悪かった。そうさな、嬢ちゃん達の事をもっと尊重すべきだった。物じゃねぇ…その通りだ。だが改めて頼む、あの海域は俺達だけじゃどうにもならん。力を、手を貸してくれ」
白露「提督、私達なら大丈夫だよ」
時雨「うん、それに…ほら、これ」
提督「なんだ、そのヘンなモノは……」
島風「にしし、そんなこと言うと長門さんに怒られるよ?」
提督「へ?」
夕立「これね、長門さんが作ってくれた私達駆逐艦のお守りなんだって!」
響「私達には背後に戦艦長門がついている」
暁「アドバンテージとしては最高よね。ね、司令官だってそう思うでしょ?」
提督「ははっ、ああ…確かにそうだな」
不動「下手な言動で惑わした罪滅ぼしだ。キス島海域までの前線護衛はうちの艦隊が全霊を賭して受け持つ」
日向「任せろ。お前達には奴等の垢すらつけさせはしない」
伊勢「索敵は広く展開させないと難しそうだけど…」
飛龍「それならお任せをっ!」
伊勢「あれ、そういえば君…飛龍、だよね?」
飛龍「はい?そうですけど、それが何か?」
伊勢「あ、ううん…記憶が正しければ、君は確か先輩鎮守府の正規空母だったように記憶してたからさ」
飛龍「あ~、あははっ、確かにそうですね。これは私の意思です!先輩提督とも話し合いをして、認めて下さいましたからっ!」
暁「飛龍が凄いのは私達が身をもって知ってるわ」
響「うん、鋼鉄の艦隊の一翼は伊達じゃない」
飛龍「ふふっ、お任せを!索敵は大切にねっ!なんせ空母戦は先手必勝ですから!」
龍驤「ほんなら、さくっと陣形決めて準備せなあかんね」
木曾「っし、いっちょまた泡吹かせてやろうか!」パンッ
不動「それじゃ、うちも一度戻るとするか」
提督「決行は早いほうが良いでしょう。不動提督も既にご存知とは思いますが、あの新鋭提督がもぐらだったという情報、確固なものとなりました」
不動「ああ…大本営のど真ん中、大将連中二人を掻き分けて後輩をぶっ刺してドロン、だろ。失態もいい所だぁ」
提督「海軍の戦術は全て筒抜けと見て間違いありません。正攻法では、到底太刀打ちは不可能です」
白露「……」コクッ
島風「うんっ」コクッ
響「それなんだけどね、司令官」
提督「ん?」
時雨「僕達にちょっとした秘策があるのさ」
提督「秘策…?」
夕立「んふふ~、そっ!私達や暁ちゃん達じゃないと、むしろ無理っぽい!」
提督「面白い。なら後で少し時間を作って概要を聞こうか。不動提督も電話での参加をお願いします」
不動「おう、了解だ。それじゃ一旦、俺らは自分の鎮守府へ戻るぜ」
伊勢「では、失礼しました!」
日向「まだ少ししか経ってないのに随分と懐かしく感じる。全員じゃないが、また君達と会えたのは行幸だ」
提督「なんなら泊まるか?」クスッ
伊勢「日向遅いよ。置いてくからね?」
日向「ふぅ…ご覧の通りさ。全く、落ち着きがないと言うのは考え物だよ。じゃあね」ヒラヒラ
-その夜・作戦室-
提督「前衛艦隊を不動提督の第一主力艦隊が務めると…」
不動『おう!旗艦は今日顔見せしたな、伊勢だ。随艦に日向、古鷹、加古、矢矧、名取をつける。飛鷹と筑摩が若干ブー垂れたが、伊良湖のスペシャルデザートで手を打つことに決まった。お陰でいらねぇ散財が確定だドチクショウめっ!』
提督「ははっ、ごほん…えー、それじゃ前面に関しての警戒はお任せします。こちらは側面と後方、それぞれに艦を配置して主力の水雷戦隊を中心に据え、囲うように布陣します」
不動『おう、了解した。そんで、そっちの嬢ちゃんズに妙案ありきって話だが?』
提督「ええ、図を書いての説明だったので把握できたんですが、結構特殊…と言うよりも、確かにこれはうちの艦娘ならではって感じですね」ニガワライ
暁「ちょっと、司令官!何笑ってるのよ!」
島風「私達は真剣に考えたんだからねっ!」
提督「いや、だって、おま…これ、絵…誰が描いたんだよ、一体」
暁「暁ですが?」
提督「どこぞのマンガのタイトルみたいな言い方するな」
不動『はっはっは、ホントお前さんところは賑やかでいいねぇ』
提督「す、すみません。騒がしくて…えーっと、それじゃ説明します────」
不動『────文字に起こしては見たものの、確かにこりゃあ…ははは、懇切丁寧なお前さんの説明あってはじめて俺も理解できたレベルだぁな。が、こいつが成功するなら確かに相手を撹乱させるのは成功するかもしれねぇ』
提督「ええ…最も、冷静なやつが相手だと乗らずに反る可能性もありますが…」
不動『その為の、分厚い護衛聯合艦隊ってワケよ』
提督「はい。型にさえ嵌めてしまえば、一杯所か二杯でも三杯でも食わせることが出来ます」
不動『俺ぁ乗ったぜ、提督大佐。若ぇってのに随分と大胆不敵に攻めてくるじゃねぇか。死線の一つや二つは潜らねぇとこんな突拍子もねぇ発想はでてこねぇもんだ』
提督「今回は半分以上が艦娘の案ですけどね」
不動『そうはいっても、下地はお前さんだろうが。ったく、その若さで化け狐の真似事かよ』
提督「ば、化け狐って何ですか、それ…」
不動『けっ、作戦参謀、戦術指南、戦略策略謀略と、なんでもござれの智謀提督大将様の異名だよ。決して本性を表に出さない。常に相手を疑い、決して100%信じることもしねぇ。その癖てめぇの事を信じねぇと文句たらたらとうるせーのなんのって、ついたあだ名が化け狐ってワケよ。おっと、話題が逸れちまったな。まぁ、何が言いてぇかっていうとだな、お前さんなら立派な提督にきっとなれるってこったよ』
提督「不動提督…」
不動『俺ぁお前とお前が従える艦娘の嬢ちゃん達を信じる。だからお前達の盾になると決めた。かませよ、一発でも二発でも、何発でも良いからブチかましてやれ!』
提督「…はい!必ず、この作戦は成功させてみせます!」
-???-
??「ねぇ、ポート」
ポート「どうかシタの、アクタン」
アクタン「どぉして、アイツ達は、ワタシ達をイジメるの?」
ポート「さぁ、ドウしてかしらネ。リコリスがそう言った話ハ詳しいカラ、私にはよく解らナイわ。ただ、解っ
てイルのは、貴女は私が守る、ト言う事ヨ」
アクタン「うんっ!ワタシ、ポートが大好き!ポートが一緒ナラ、ワタシ寂しくナイもん」ダキツキッ
ポート「フフッ、アクタンは少し、この甘え癖ヲ直さナイとね。また、リコリスが拗ねるワヨ」ナデナデ
アクタン「リコリス、お話難しいカラ苦手っ!でも、リコリスも大好きっ!」
ポート「ええ、私もリコリスは好きヨ。だから────」
── この足元に広がル、哀れな魂ヲ…水底へ誘わナイと……可哀想な子達。来るな…と……言ってイル…のに…… ──
北方海域、その最奥には港湾棲姫と呼ばれる深海棲艦の上位種が存在している。
それに伴い、北方棲姫と言われるこちらも同じく深海棲艦の上位種が治めている。
実質として指揮を執っているのは港湾棲姫・ポート。北方棲姫・アクタンはそのサポートに回っている。
彼女達が出現した明確な時期は解っていない。
同時に、彼女達自身も明確な目的があって世界を侵食しようと目論んでいるわけでもなかった。
言って見ればそれは自衛であり、防衛でもあった。
生命の本質、生きたいと願う想い。それらが色濃く、強く、激しく胎動する以上、脅威となるものは排除する。
そう信じて行動を起こしているに過ぎない。
しかし、ここ最近ではそれ以外の感情、思惑を持って行動する深海棲艦も増えている。
その感情や思惑など、現時点で各鎮守府は愚か海軍全体で見ても知る者は居ないだろう。
深海棲艦と同調し、反旗を翻した人間以外は……
-鎮守府-
榛名「提督…」
提督「安心しろ。絶対、全員で戻ってくる。夕張に頼んで人間仕様の艤装も作れるのか試してもらったんだが、今回はどうやら間に合わなかったみたいでな。船で移動するしかない。多少の危険は覚悟の上さ」
陸奥「安心して、榛名。私達も付いてるのよ。そう易々と本丸に攻撃なんて通させやしないわ」
提督「俺も一応お守りみたいの持ってるからな」チャキッ
榛名「将校、剣…?」
提督「神通から貰ったもんだ」
神通「以前に、夕張さんと一緒に妖精さんに頼んで作ってもらったんです」
夕張「まっ、それにヒントを貰って提督でも船じゃなく、水上移動可能な艤装作れるんじゃないかなーって思って今も暇を見ては設計してるんですけどね。これが中々上手くいかないのなんのって…」
提督「まぁ、気長にそっちは待つさ。さて、と…ヒトフタマルマル…時間だ。榛名、他の皆、留守を任せる」
衣笠「無茶だけはしないでよ、提督」
提督「無茶はお前等の専売特許だろ」
瑞鳳「もう、直にそうやって茶化すんだから!」
提督「へぇへぇ、悪かったよ。よし、不動艦隊との合流地点、北北東へ向けて抜錨するぞ!」
白露「さぁー、はりきっていきましょー!」
陸奥「よし、私達も行くわよ!」
-北方海域最深部-
ポート「……その情報、正しいのカシら?」
アクタン「ブーン……ブーン……」
新鋭「あら、私を疑うわけ?」
ポート「そうじゃナイわ。この子、アクタンを出来る限り、危険な目にハ合わせタクないだけ」
アクタン「ブーン……」
バキッ……
アクタン「ぁ……あぁ!ゼロ、壊れた……シンエイ、ねぇねぇ、シンエイ!」
新鋭「何かしら、アクタン?」
アクタン「ゼロ、壊れた。新しいゼロ、置いテケ」
新鋭「えぇ?持ってないわよ、そんなの」
アクタン「」プルプル…
新鋭「ちょっとちょっと…涙目は止めてよ。はぁ、困った子ねぇ」
ポート「アクタン、あっちの部屋にマダあったでしょう。向こうで遊んでイナさい」
アクタン「ウンっ、解った!」タッタッタ…
新鋭「喜怒哀楽が激しい子ね」
ポート「…話を戻すワ。その情報が真実なら、遅くともヒトサンマルマルにはキス島手前ノ海域、魔の領域への進軍が整うハズね?けど、大本営ヲ離れてカラもう随分と歳月ガ経ってルでしょう。ドウやってその情報ヲ?」
新鋭「優秀なもぐらがいるって事よ」クスッ…
ポート「……」(この女…何を考えてイルのかさっぱり解らナイ…何故、リコリスはこの女を信頼シテいるのか。他の深海棲艦共モ…イヤ、私が成すのはアクタンをあらゆる危険カラ遠ざけるコト…)
新鋭「それで、どうするの?自ら出るの?それとも、出ないの?」
ポート「重要ナノはこの泊地にある情報ノ山。泊地棲姫が敗れたノハ計算外とシテも、キス島の為だけに貴重な戦力ヲ分散させるノハ得策ではナイワ。結論、あえてキス島は彼等へ明け渡し、ソノ間にこの北方海域を離脱…拠点ヲ南方海域に移すコト。同時に、西方海域を指揮スル装甲空母鬼を動かし、相手ヲ揺さブル」
新鋭「北方の足止めもここまでか…タイミングとしては、まぁ良いかもしれないわね。気がかりだったのは思いのほか不動艦隊以外の部隊が出張ってたことだけど…出来れば不動艦隊を釣って壊滅に追い込みたかったんだけどなぁ。こんな事なら、戦術の起点になる智謀提督から葬っておくべきだったかしら…」
ポート「」(同じ人間デモここまで違うモノか。否、人と深海棲艦、ソノ境界線でスラあやふやなものデシカない上に、艦娘トモまた違う思考を持つ中で、この女だけは明確な思惑と意思をモッテ動いてイル。結論、この女は必ず……私達ニモ牙を剥く。もしも、深海棲艦に、私に、アクタンに牙を剥くノナラ……コロス、必ず……)
新鋭「ポート、アクタンを連れて直に北方海域を離れなさい。暫くの間、ここの指揮は私が執って上げる。どうせ直にこの場も証拠を全て破棄した上で放棄するんだもの。今回、相手の目標がキス島とは言っても、万が一がないわけじゃない。余計な情報を相手に与える必要はないわ」
ポート「……その意見にツイテは賛成ネ。アクタンを連れて直にデモ退避する」
新鋭「」(その意見、ね…リコリスにポート、この二匹は利害の一致と見て行動を共にしているだけ。もしも私に嫌疑の一片でもあれば、即座に手の平は返すって事かしら。それはそれで面倒だもの、まだ…味方でいてもらうわよ、深海棲艦三姉妹さん)
-提督・不動聯合艦隊-
■キス島救出主力艦隊
白露 時雨 夕立 暁 響 島風
■主力艦隊前衛護衛隊
伊勢 日向 古鷹 加古 矢矧 名取
■主力艦隊後方護衛隊
陸奥 飛龍 龍驤 羽黒 木曾 北上
-魔の領域・近海-
木曾「やっぱ変だぜ!これまでに遭遇した敵部隊、どれも哨戒艦隊や前衛艦隊ってレベルじゃねぇ」
飛龍「防衛艦隊クラスですね。逆にここまで堅牢な防衛ラインを構築してるって言うのは、この北方海域が相手にとっても奪還されては困るって考えれるけど…」
北上「確かにね~。でもどっちにしてもこっちの動きが全部バレてるような感じだよね~」
提督「…恐らく、新鋭提督の差し金だろうな」
不動「ま、妥当な読みだわな。しかも初回の連中以降、遭遇するのは精々小規模艦隊。しかもヒット&アウェイでこっちを殲滅しに来る様子はなし。明らか情報収集が目的だ」
提督「規模、艦種、進路、全て筒抜けになったな。相手も馬鹿じゃない。このうずしおが自分達にとって利に働いてるのを十分承知した上でだろう。この先、何らかの罠が仕掛けてある可能性は否定できない」
陸奥「それじゃ、過剰すぎるくらいで、偵察機飛ばしてこっちも警戒態勢作っちゃう方がいいんじゃない?」
提督「そうだな。出鼻、挫かれるくらいなら挫いた方がまだ精神的に余裕が出来る。飛龍と龍驤は艦載機を飛ばして周辺警戒、伊勢と日向は瑞雲を飛ばして近隣周辺を満遍なく警戒してくれ」
不動「古鷹ぁ!加古ぉ!お前らも水上偵察機出していつでもぶっ放せる準備しとけや!」
古鷹「も~、ぶっ放すって…言い方って物があるじゃないですかぁ…」
加古「ふあぁぁ~、んじゃブッ飛ばすッ!てのでどう?」
古鷹「あ、あのねぇ、加古…」
矢矧「おふざけはそれ位にして、準備に取り掛かりましょう」
古鷹「なんで私まで…」
名取「に、逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ…」
矢矧「な、名取さん?」
名取「!?は、はいぃ!なんでしょうかぁ!」ビクゥッ
矢矧「カチンコチンだけど、大丈夫?」コンコン…
名取「ほあぁぁぁぁ……」
日向「深呼吸をしろ。演習で学んだ全てを思い出せ。最後は、仲間を信じろ」
名取「!!はい、頑張ります!」
伊勢「よし、皆準備良いね」
陸奥「私と羽黒は後方、飛龍、龍驤、木曾と北上で右舷と左舷をそれぞれお願い」
飛龍「任せて下さいっ!」
龍驤「よっしゃ、発艦準備万端、いつでもいけんで!」
提督「仕掛けてくるとすれば…」
不動「あぁ、付かず離れずのこの距離…海流に乗せない一歩手前で仕掛けてくるはずだ」
ザバァァァ……
飛龍「…っ!」
龍驤「きたで…!」
伊勢「日向!」
日向「ああ、四航戦、出撃するぞ!陸奥、こっちは任せろ。正面の道は私達が切り開く!」
陸奥「ええ、私達は周囲の警戒を強める!」
不動「よーし、おっぱじめるかぁ!不動艦隊の恐ろしさ、今一度思い知らせてやれッ!」
~我、敵艦ト相見ユ~
-魔の領域-
不動「おう、そっちは今の内に先行しろ!」
提督「はい!白露、号令をかけろ!」
白露「りょーかいっ!皆、準備いい!?」
時雨「いつでも大丈夫さ」
夕立「うん、オッケー!」
暁「大丈夫よ!」
響「うん、いけるよ」
島風「号令、おっそーい!」
白露「よーし!全速前進!一気に駆け抜けるよ!全員、散開っ!!」
駆逐ハ級1「テキスイライセンタイ…バ、バラケマシタ」
軽巡ホ級FS「ジンケイヲ、クズシタダト…!?」
駆逐ハ級2「ド、ドウシマスカ」
軽巡ホ級FS「チッ…ロキュウ1ト2デ、ツイゲキヲカケル!ハキュウ1ト2ハ、ワタシニツヅケッ!」
駆逐ロ級1「ニガサン」
島風「ふっふーん、私に駆けっこで勝負挑むんですか?無理無理ー♪だってしまかぜは速いもん!」ビュンッ
駆逐ロ級1「ナッ…!?」
夕立「おーにさん、こーちら♪」パンパン
暁「てーのなーるほーうへ♪」パンパン
駆逐ロ級2「ナメタマネヲ…!」グッ…
ボゴォォォォン
駆逐ロ級1「ナ、ナニガ…!?」バッ
駆逐ロ級2「」 轟沈
木曾「寝惚けるなよ、深海棲艦」
北上「頭数揃えたほうがま~だまともだったかもねぇ」
軽巡ホ級FS「カクランカラノ、ライジュンノライゲキ…!」
陸奥「陣形、崩れてるけど大丈夫?単縦陣にも複縦陣にもなってないデコボコな陣形だけど…?」
軽巡ホ級FS「ナッ…!?」
駆逐ハ級1「ロキュウニヒキガトビダシタノガ、ゲンインカト…」
羽黒「お粗末過ぎます」ジャキッ
飛龍「慢心はダメ、ゼッタイ!第一次攻撃隊、発艦!!」キリキリ…ビュッ
ビュン ビュン
龍驤「ほなっ、こっちもいこか!一気に決めるで!」バサァ…
ビュン ビュン
軽巡ホ級FS「ハ、ハジョウコウゲキダト…!?」
ボボボボボン
駆逐ハ級1「」 轟沈
駆逐ハ級2「」 轟沈
駆逐ロ級1「」 轟沈
軽巡ホ級FS「オノレェェ……!」
陸奥「あら。あらあら…あっという間に孤立無援ね?」
軽巡ホ級FS「クッ……」
木曾「こっから先は追わせねぇよ」チャキッ
北上「あんたらも気をつけていきなよー!」
響「スパスィーバ」
時雨「よし、このまま直進だ」
北上「よっし、そんじゃぁ…」ジャキッ
羽黒「残りを倒します!」ジャキッ
飛龍「徹底的に叩きます!索敵も念入りにねっ!」
陸奥「前面は日向達が食い止めてくれる。けど、後方から襲ってきた浅ましさ、それは後悔させて上げないとね!」
-キス島航路-
島風「皆、大丈夫?」
夕立「うずしおの引きが結構強いっぽい」
時雨「確かに、これは小回りが利いて速度がある僕達じゃないと抜けるのが難しい海域だ」
暁「皆、前!」
響「くっ、待ち構えていたのか…」
白露「せ、戦艦!?」
島風「なんであっちは戦艦とかいるのよー!」
暁「白露、強行突破よ!」
白露「うん、だね。ここで時間取られるわけにはいかないもん!」
戦艦ル級EL「クククッ、バカナレンチュウダ」
重巡リ級EL「イッピキズツ、リョウリスル」
軽巡ト級EL1「サユウカラ…」
軽巡ト級EL2「ハサミコム…」
駆逐ハ級EL1「ドウジニ…」
駆逐ハ級EL2「タイロヲタツ…」
白露「島風ちゃん!」
島風「まっかせて!」
────────
──────
────
暁「キーワードは誘導と囮よ!」
提督「ほぅ、暁にしては知的な表現を使うもんだ」
暁「な、なによー!」ムキー
白露「私達は基本的に固定の陣形を組まない」
提督「…はい?」
夕立「つまりー、基本の陣形は五つ…単縦陣、複縦陣、輪形陣、梯形陣、単横陣。この陣形を私達は形式的にしかとらないってこと!」
提督「お、おう?益々解らんぞ…」
時雨「つまり、僕達六人それぞれが独立した存在って事さ」
響「大袈裟に言えば、六つの独立艦隊って事」
提督「六つの、独立した艦隊?」
響「表現としては間違ってると思うんだけどね」
島風「きっと駆逐艦だけの構成を見たら、相手は囲ってくると思うの」
提督「逃げ場を作らせない。囲いの中で隙を見せるまで付かず離れずの砲撃を定期的に行うだろうな」
暁「けどっ!はじめから私達がバラバラに行動して、統率が取れてなかったら!」
提督「痺れを切らした相手から作った網目に穴を空ける、か…だが、弱点はある。バラバラに動くことは利点として相手の照準を絞らせない、注意力の散漫を引き起こしやすい。だが、逆にその空いた穴を通過できるのは、原則として一人ないし二人が限度だろう。残りが同じようにまた再度塞がった網目に穴を空けるのは初回よりも更にハードルが上がる」
時雨「そう思わせるのがこの作戦のミソなのさ」
提督「なに?」
夕立「統率が取れてないように見せることが肝心っぽい」
響「そう、不規則でいてバラバラ、一見統率が取れてないように見せる事が重要なんだ」
提督「……そうか、なるほど、だから誘導と囮か」
────
──────
────────
不動「よーし、粗方残存部隊は掃討できたか」
提督「ですね」
不動「しっかし、言うのは簡単だが殆どぶっつけ本番なんだろ?疑う訳じゃねぇが、それでも憂いがねぇと言えば全くの嘘になっちまう。上手くいくのかい、あの嬢ちゃんズの作戦はよ」
提督「正直俺も驚きました。誘導と囮がキーワードの撹乱作戦。けど、逆に急場凌ぎで結成された艦隊では決して成せない、互いを信頼し、知り尽くした彼女達だからこそ成せる戦術。戦艦クラスや重巡クラスが相手でも、油断と驕りが生まれた瞬間、足元を容易く掬われる。それほどまでのインパクトと決まった時のダメージは計り知れませんよ、この作戦。一泡所じゃない、戦慄するのは相手のほうだ」
不動「へへっ、無邪気な小悪魔か」
戦艦ル級EL「オノレ、ウロチョロト…!」ドォン ドォン
ササッ
島風「あっかんべー!はっずれー♪」キャッキャ
戦艦ル級EL「コムスメェェ……ッ!」ギリッ…
重巡リ級EL「ソンナデタラメナウゴキデ…!」ドン ドン
ササッ
白露「ぶっぶー!残念、的は遥か前方なのでしたっ!」
重巡リ級EL「ハ、ハヤイ…!」
軽巡ト級EL1「コザカシイマネヲ…!」ジャキッ
時雨「……」コクッ
夕立「……」コクッ
軽巡ト級EL2「ニヒキマトメテモクズニナレッ!!」ジャキッ
ドン ドン ドン ドン
ババッ
軽巡ト級EL1&2「「ナッ……!?」」
戦艦ル級EL「ナッ、バカモノ…!ナニヲミカタドウシデ……!」
ボゴォォォン
時雨「残念だったね」ジャキッ
夕立「ソロモンの悪夢、見せてあげる!」ジャキッ
軽巡ト級EL1「シ、シマッ……」 中破
軽巡ト級EL2「カ、カワセナ……」 中破
ドン ドン ドン ドン
ボゴボゴボゴォォォン
時雨「これだけ至近距離から撃ち込めればね」
夕立「逃がさないっぽい」
軽巡ト級EL1&2「「」」 轟沈
重巡リ級EL「チッ…ハキュウドモ!ドウシウチニキヲツケロッ!!」
暁「まぁ、当然目の当たりにすれば…」
響「そう指示が飛ぶのは解りきってるね」
ザザザッ
クルッ
暁「全速力よ、響ッ!」
響「ああ、解ってる!」
バシュッ
駆逐ハ級EL1「ホウコウテンカンダト!?」
駆逐ハ級EL2「マ、マサカ…!」
白露「そのまっさかー!いーっけぇー!」バシュンッ
島風「五連装酸素魚雷!いっちゃってぇー!」バシュンッ
戦艦ル級EL「アノ、カンムスドモ……!カイヒシロ、ハキュウタチッ!!」
ボボボボボォォォン
駆逐ハ級EL1「クッ……」 無傷
駆逐ハ級EL2「ウグッ……!」 中破
戦艦ル級EL「ニゲ、ラレタダト……!オノレ、コザカシイマネバカリ!ゼッタイニ、ヤツラハイカシテハカエサンッ! モクテキチハキストウダナ。ナラバ……」ニヤリ…
重巡リ級EL「スグ、ジュンビニトリカカル…」
-キス島目前-
暁「作戦っ!」
白露「だーいせーいこー!」
夕立「いぇーい!」ハイタッチ
島風「いぇーい!」ハイタッチ
時雨「それにしても静かだな」
響「うん、さっきの連中も追ってこないし…まぁ、うずしおの関係もあるんだろうけど、少し腑に落ちないね」
暁「とにかく、キス島へこのまま直進よ!救出できる人は救出して、さっさと離脱よ!」
村人1「おお、あれは艦娘の救援部隊か!?」
村人2「た、助かるのかぁ!?」
時雨「皆さん、用意した船に急いで乗り込んで下さい!」
夕立「直に出発させるっぽい!」
島風「進路確保してあるよ!」
白露「全員の移動が終わったらソッコーで離脱ねっ!」
響「司令官、無事キス島の住民の収容完了したよ。先導は島風、行きで水上打撃艦隊と遭遇したけどなんとかやり過ごしてここにいる。けど、戻りで待ち伏せされてる可能性も否定できない。だから、戻りは部隊を二手に分けて残存する深海棲艦を欺くとかしないといけないかもしれない────」
ツー、ツー、ツー……
提督「……くそ、不味いな」
陸奥「提督?」
提督「キス島までは到着し、避難し損ねていた住民の収容は完了した。あとは戻るだけ…だが、行きで敵の水上打撃艦隊と遭遇していたらしい。あいつらの戦術が見事に嵌って無傷でその場はやり過ごせたそうだが、相手も半数以上が健在の状態で振り切ったらしい」
不動「…待ち伏せ、だな」
北上「直に援護に行かなきゃ!」
提督「無理だ。残りの駆逐艦は鎮守府に待機させたままで、今から呼び寄せてどれだけ早く到着しても夜になる」
木曾「じゃあこのまま手を拱いて見てろってのか?」
提督「木曾、北上…夜戦の怖さはお前たちなら十分に解ってるだろう」
北上「けど…!」
提督「信じろ。あいつ等を…」(響…無茶だけは絶対にするなよ…早まるな、頼む……っ!)
-キス島-
暁「うんっ、島風、いつでもいけるわよ!」
島風「よーし!いっくよー!」
響「白露達は島風をサポートして欲しい」
白露「任せてーっ!」
時雨「二人は後方だね」
夕立「水上電探は持ってる?」
響「うん、ちゃんと積んであるさ」
暁「後方は任せなさい!」
島風「陣は輪形陣で出発!」
この六人の中で最も冷静に現状の異質さに感付いていたのは響だった。
最初の違和感は統制された敵艦隊の一群。
序盤こそ六匹編成で哨戒艦隊、前衛艦隊と送り込んできたものの、その後は少数、それも精鋭という訳ではない。
明らかにこちらの情報や現状を盗む事を目的とした偵察艦隊。
第二の違和感。交戦した水上打撃艦隊の潔さ。
あそこまで翻弄された挙句に逃げられたとなれば、本来であれば鬼の形相で追ってきてもいい場面。
しかも先の偵察でこちらはキス島へと救援に向かう艦隊であるのは明確にバレていたはず。
ならばそのまま追撃を加え、キス島で救援を困難にさせる為に襲ってしまえば事足りた話だ。
それをしなかった。それ所か、その先の道中では一匹として深海棲艦は出現しなかった。
それも響の異質さの疑問に拍車をかけた。だからこその陽動作戦。
自らを囮にする事で確実に救出した村民を魔の領域外へと退避させる。
最も恐ろしいのは救出した村民諸共、自分達が待ち構えていた敵艦隊に沈められる事。
そう、まさにこの瞬間、あと少しで戻れると安堵するその瞬間こそ、最も恐ろしい魔の時間帯。
気の緩みはそのまま警戒網を浅くし、注意力を散漫にし、死への恐怖を和らげる麻薬。
敵は、その間隙を必ず突いて襲い掛かってくる。それだけは何が何でも阻止しなくてはならない。
そこに至って響が出した結論。一人で考えた最善策。初めて、響が単独で行動を起こした瞬間。
これが、その後の彼女の命運を大きく分ける。
島風「夕刻、あと少しで夜になっちゃう」
白露「大丈夫、もう直、魔の領域は抜ける!」
時雨「ま、待って…どうしたんだい、暁」
夕立「ん?どーかしたの?」
暁「はぁはぁ…ひ、響が…響が居ないのよ!」
島風「えっ!?」
響「やあ、お待ちかねだね」
戦艦ル級EL「……ナンノジョウダンダ?」
重巡リ級EL「オマエダケデ、ナニヲスルツモリダ」
響「陽動、かな?」
駆逐ハ級EL1「ツマリ、ホンタイハスデニ…」
駆逐ハ級EL2「マノリョウイキヲトッパシテイルト…?」
響「ハラショー、悪くない読みだよ。だから、このまま留まっていて欲しいのさ」ジャキッ
重巡リ級EL「……クチクカンガイッピキデ、ワラエナイジョウダンモ、タイガイニシロ!」ジャキッ
戦艦ル級EL「オノレ……イチドナラズ、ニドマデモ…ワレラヲグロウシテ……ゼッタイニ!キサマハ!コノカイイキカラ!イキテハカエサンゾッ!!」ジャキッ
響「私は、沈まない!不死鳥の異名は伊達じゃない!」バッ
-魔の領域手前-
提督「皆、無事か!」
島風「提督!響が!」
提督「……っ!」
白露「どこで、はぐれたのかわかんなくて…」
暁「私と一緒に、後方からの護衛に回ってたの。けど、もう少し後ろから私はついていくって…」
夕立「提督さん!響ちゃんと通信したよね?その時何か言わなかったの?」
提督「あいつ、まさか…お前たちに何も説明をしなかったのか!?」
時雨「え?」
白露「せ、説明って、何を!?」
提督「あいつは行きで遭遇した敵の残存艦隊が待ち伏せしてる可能性を考慮して、救出した村民へ被害が及ばないように、帰りは危険を承知の上でお前たちを二手に分けて陽動作戦を行う提案をしてきた」
暁「そんなっ……」
提督「最後まで反対をしたが、途中で通信をあいつ切りやがった…まさか、一人で陽動作戦を敢行するとは…」
木曾「おいおい、冗談だろ!」
陸奥「どうするのよ。私達じゃ魔の領域へ行っても直に流されてどうにもならないわ!」
提督「資材も残り少ない。村民を一度大本営へ避難もさせなきゃならない。幸い、ここから鎮守府まではそこまで遠くない。急ぎ戻って再度、駆逐艦の水雷戦隊を準備して……」
不動「馬鹿野郎ッ!」
提督「…っ!」
不動「てめぇ、正気で言ってんのか!?既に夕刻、行って戻る頃には既に夜!捜索開始は深夜だぞ!!それがどれだけ危険か、さっきてめぇ自身が北上の嬢ちゃん達に啖呵切ったばかりだろうが!!」
龍驤「夜間じゃ、うちらの艦載機も飛ばせへん…」
飛龍「何より、私達じゃこの海域には足を踏み入れられない…」
提督「しかしっ、響が…ッ!!」
不動「しかしもへったくれもねぇ!あえて言うぞ、非難したきゃ好きにしろ!今は個で考える場合じゃねぇ! お前の選択一つで、想像もつかない数の艦娘や一般市民が犠牲になるかもしれねぇんだ!今は、耐えろ…ッ!!」
提督「……くっ、ちくしょうッ!」ガンッ
提督達が戻ってきてから、どんな会話をしたのか私は覚えていません。
ただ、響ちゃんが居ないという事実だけが、それが現実なのだというのを知らしめるかのように胸にポッカリと穴を空けられた感じで言葉として突き刺ささり、未だ癒えぬ傷のようにズキズキと痛む感じが残るだけ。
任務としては、キス島救出作戦は大成功だったといえます。
その陰で何が起こっていたのかなんて、当事者以外は誰も知る由もない。
出された結果にだけ食いつき、誰もが提督と不動提督を、提督鎮守府と不動鎮守府の皆を祝福し、賞賛し、持ち上げた。
あの日から今日まで、皆は努めて明るく接し合う。そんな中、提督だけが笑顔を消した。
いつもの口癖も、憎まれ口も、拗ねた顔もない。ただ無気力に執務をこなして一日を終える。
一週間が過ぎて、十日、二週間……響ちゃんが消息を絶ってから二十日目の早朝、それは人知れず執務室に届いていました。
一枚の紙にただ一言、それが提督へ宛てた言葉だと解るのにそう時間は掛からなかった。
────たった一言。
『до свидания』
~ヴェールヌイ~
-執務室-
榛名「提督っ!提督っ!早く来て下さい!」
提督「なんだ、榛名。まだ陽も昇りかけた早朝だぞ」
榛名「…っ!」グッ
提督「こんな朝早くに、任務なんて……」
榛名「しっかりしなさいっ!」ブンッ
パァン
提督「っ……!」
榛名「あなたは、私達の提督です!」
提督「……」
榛名「私は、今のあなたが嫌いです」
提督「そうかい…」
榛名「今のあなたを、響ちゃんが見たら何て言いますか?」
提督「……っ!その話をするな」
バンッ 『до свидания』
提督「っ!」
榛名「一人で自己完結して、見て見ぬ振りをして、勝手に響ちゃんを思い出にして、終わらせないで下さい!」
提督「これは…電文?」ガシッ…
榛名「見ましたか?見ましたよね?なんて書いてあるかまでは私には解りません。けど、これは提督、あなたに宛てられた言葉だと私は感じています。これを見てそれでもまだ下を向いて、俯いて、自分の殻に閉じ篭ろうとするのなら、榛名は……!」
提督「……ダスビダーニャ」ボソッ…
榛名「…え?」
提督「ダスビダーニャ。ロシア語で、また会おうって意味だ」
榛名「また会おうって……それじゃ、まさかこの電文は!」
提督「響……なのかもしれない。けど、お別れとも取れる文章なのも確かだ」
榛名「そんな…!」
提督「ああ、解ってるよ…それでも、一縷の望みが出来たのも事実だ」
-作戦室-
電「司令官、響ちゃんが生きてるって本当なのです!?」
提督「確固たる証拠とは言い切れないが、ロシア語を扱う艦娘は、俺が知る限り響だけだ」
暁「本当に、本当に本当の本当に!響なのね!?」
提督「ああ、その可能性が極めて高い。楽観視できる状況でもないが、それでも消息を絶ってから二十日間が過ぎて、生存も絶望視していた矢先の電文だ。期待せずにはいられない」
榛名「提督…」
提督「ああ、解ってる。皆……色々と、すまなかった」ペコッ
榛名「……」
赤城「提督…」
利根「お主が人一倍、我輩等を大切に思うてくれとるのは解っておる」
川内「涙脆いのもね」
金剛「一人で抱え込むなんてNonsenseデース!」
夕張「私達は全然気にしてないですよ!」
夕立「でも、もっと頼って欲しいっぽい!」
瑞鳳「私達の仲じゃないですか、提督!」
イムヤ「それにさ、前に言ったじゃん?私達はさ、提督の笑顔が元気の源なんだよ」
衣笠「そりゃねぇ、提督がションボリしてたら、私達だってションボリするっての」
鈴谷「提督が笑わないとテーンションさーがるぅー」
提督「ははっ、テンション下がるか」
熊野「あら、漸く笑ったと思えば苦笑いですわね?」
比叡「ほらっ、提督!もっと!笑顔で!笑いましょう!」
大鳳「響ちゃんはきっと戻ってきます。だから、彼女が戻ってきたときの為に、笑いましょう」
提督「ああ、そうだな。響を笑顔で出迎えてやらないとならないからな」
-執務室-
榛名「提督、さっきは、その…えっと、ごめんなさい」ペコリ
提督「ん、おう。ははっ」
榛名「へ?」
提督「いや、榛名が本気で怒ったのって、あれが初めてかなってさ。結構痛かった」
榛名「ご、ごご、ごめんなさい!あの、えっと、その、大丈夫?」オロオロ
提督「そんな気にするなよ。良い教訓になった。艦娘のビンタは相当痛いってな」
榛名「はぁ…」ションボリ
提督「ほら、いつまでもしょげるな。仕事だ仕事!サボった分取り返すからな。ヒトゴーマルマルまでに終わらんと間宮さんのおやつ抜きになるぞ!」
榛名「え、えぇ!?なんで私まで!提督が勝手にいじけて滞ってたんじゃないですかぁ!」
提督「秘書艦も連帯責任」
榛名「納得できません!」
提督「じゃあ榛名は今日、おやつ抜きね」
榛名「んなぁ!どうしてそうなるんですか!?」
-弓道場-
赤城「…少し、勝負をしましょうか」
瑞鳳「勝負?」
飛龍「むっ、何を対象にするんでしょうか?」
赤城「……ふふ、そうですねぇ。成績優秀者は、ヒトゴーマルマルのおやつの時間、二人から半分ずつ摂取できる、という天国と地獄ゲームはどうでしょう」
瑞鳳「あ、赤城さん攻めるね…」
飛龍「ま、負けられない戦いがありますっ!」ギュッ
瑞鳳「は、鉢巻までしちゃうレベルですか!?」
赤城「瑞鳳ちゃん、おやつ…要らないのなら頂きますが?」
瑞鳳「」ビクッ
飛龍「赤城さん、言っておきますが以前の私と同じとは思わない方がいいですよ!」
赤城「あら、一航戦の実力をもう一度知らしめる必要がありそうですね」
瑞鳳「二人が潰しあった所を、私が…」ボソボソ
二人「」キランッ
瑞鳳「ひぃっ」
飛龍「隙は、ありません」
赤城「ズルは、ダメですよ?」
瑞鳳「」コクコクッ
龍驤「おーおー、あっちは火花散っとるなぁ」
大鳳「弓を使わないのに、龍驤は何をしてるのよ」
龍驤「んー、ここ広いやんか」
大鳳「ええ、まぁね」
龍驤「せやから、こーしてやな…」バサァ
大鳳「ま、まさか…」
龍驤「せやっ、ここやったら艦載機の整備もし放……」
ビュオッ
カッ
バイィィン……
赤城「気が散りますので」ニッコリ
龍驤「す、すんません…」アセ
-花壇-
阿武隈「ふふ~ん、ふふふ~ん♪」サー…
春雨「あ、阿武隈さん!肥料もって来ました、はい」ドサッ
阿武隈「あっ、ありがとー、春雨ちゃん」
春雨「色とりどりですねぇ」
阿武隈「そりゃね。一杯、種蒔いたからね!」
春雨「この勢いで作物とかまで育てちゃうんですか?」
阿武隈「あははは!流石にそこまでの敷地って言うか、スペースがないよ。農業とガーデニングはまたちょっとっていうか、規模も量も違うからね」
春雨「そ、それもそうですよね」
阿武隈「それより、ここでの生活は慣れた?」
春雨「は、はい!お姉ちゃん達も優しいし、他の皆も色々と親切で、ちょっとビックリです」
阿武隈「ふふ、そっか。あっ、でもね…」
春雨「??」
阿武隈「北上さんって言う人には注意だよ!直にちょっかい出してきて、人の嫌がることをヘラヘラ笑いながらやるいや~な人だからっ!」
北上「だぁれがいや~な人だ!」
阿武隈「で、でたぁ~!」
北上「人をお化けかなんかと一緒にするな!」
春雨「あ、こ、こんにちは!」
北上「お~、白露っちんところの五女だっけ?」
春雨「はい!」
阿武隈「も~、何しに来たんですか、北上さん」
北上「ん、いや~、別に~…」ススッ…
阿武隈「むっ、後ろ手に何隠してるんですか!?」
北上「うっさいなー、なんでもいいじゃん」
阿武隈「あーっ!また何か企んでたんですか!?ほんっと、サイッテー!」プンプン
春雨「あの~、それ…如雨露、ですよね?」
北上「こ、こらっ、覗き見るな!」
阿武隈「如雨露…?え?なんで、如雨露?」
北上「うぅ~、これだから駆逐艦は…!」
春雨「?」キョトン
北上「……はぁ~、この花壇……あんたと日向くらいしか世話してなかったじゃん。んまぁ、当番制だったし? 水遣りくらいは他の子達もやってたけどさ。荒れてたら荒れてたで、色々と面倒なのよ」
阿武隈「」(そういえば、雑草の除去とか花壇の手入れとか、凄い行き届いてる…)
────────
──────
────
北上「あ~、このまま真っ直ぐ艦娘寮行くとまた白露っち達に捕まりそうだし、私は鎮守府寄ってから戻るわ~」
夕立「鎮守府に何かあるっぽい?」
北上「ははは…野暮用」
時雨「?」
北上「若人は気にしなさんな~。じゃね~」ヒラヒラ
北上「はぁ~、鎮守府誰も居なかったら花とか余裕で枯れるってーの」ガサゴソ
北上「…流石に戻ってきて荒れ放題じゃあの子も凹むだろうしねぇ。まっ、あの軽巡が戻るまでは私があんたらの世話して上げるわよ。木曾っちはそうでもないかもしんないけど、大井っちは花とか好きだったよね~」サー…
北上「っていうか、提督もわざわざ大井っち達の慰霊碑、海の見えるこの花壇の横に作るしさぁ…ここが荒れてたら荒れてたで大井っち絶対化けて出てくるっての。北上さん?お花、枯れてるんだけど?とか言ったりして…」サー…
北上「……な~んてね。私相当アホっぽいわぁ」サー…
ザァァァァァ……
北上「うわっと…な、なに?いきなり突風ってなにさ!?」キョロキョロ
北上「え゛……」アトズサリ
加賀「……」
武蔵「……」
大井「……」
北上「う、うそぉ…」
加賀「…貴女にも花を尊ぶ、と言う感性が備わっていたのね」
北上「んなぁ!?ちょっとそれどーいう意味さぁ!」
武蔵「ふっ、だがここは居心地が良くてな。常に手入れが行き届いていて実にいい。海も見える。暗い水底ではなく、海原を眺めていられる。初めて進水した日を、思い出す」
大井「北上さん、ふふっ、なんだかこうして喋るのも久しぶりね」
北上「お、大井っち…」
大井「ああっ、安心してね。別に私達、化けて出てきたとかじゃないから」
北上「ぶっ…!」
加賀「出来れば私は赤城さんに伝えたかったけれど、まぁ貴女でもいいわ」
北上「イラッとくるなぁ、あんたさぁ!」
武蔵「加賀」
加賀「ごめんなさい。赤城さんと話をしたかったのは本当。けれど、居ないんだから仕方ないわね」
北上「な、なにさぁ」
大井「北上さんにね、あとは…いつもこの花壇を世話してくれてる阿武隈ちゃんに、日向さんに、お礼を言いたかったの」
北上「はい…?」
武蔵「貴様はクラバウターマン、と言う言葉を知っているか?」
北上「ク、クラ…?」
大井「クラバウターマン…一説には船に宿る妖精とも言われていてね、私達の手助けをしてくれている妖精達は、このクラバウターマンなんじゃないか、とも言われているのよ」
武蔵「そして、死後の私達もな」
北上「えっ」
加賀「一つ、教えて上げるわ。強い念を帯びて散った私達艦娘には、三つの道がある」
武蔵「一つは輪廻転生、とでも言うのか。新たな魂を受け継ぎ、この世に転生する」
北上「なっ…」
大井「一つは、クラバウターマンとして、現世に生きる皆を支えること」
加賀「そして、最後の一つ────」
────
──────
────────
北上「……」
春雨「あ、あの…北上さん?」
北上「…っ!んあ、なに?」
春雨「あっ、いえ…何だか思い詰めたような表情だったから…」
阿武隈「北上さんが、花壇…手入れしてくれてたの?」
北上「あぁ、はいはい…そーですよ。勝手にいじって悪かったわね」
阿武隈「別に、そんな言い方しなくても…その、ありがと。感謝、してるわよ…あたし的には、だけど…」
北上「……まっ、大事にしなさいよ。じゃないと、化けて出るらしいから」
阿武隈「は…?」
北上「あと、たまにだけど…ここにある花、そこの慰霊碑に手向けるのに使いたいから、よろしくね。んじゃね」スタスタ
阿武隈「え?あ、うん…それは、別にいいけどって、行っちゃったし…」
春雨「どうしたんでしょうか…」
阿武隈「さぁ…?」
北上は、皆に一つ黙っていたことがあった。
それは加賀、武蔵、大井の霊と対話し、自分達のこと、またそれに関わるであろう事象に関しての真実。
厳密には黙っていたというよりも、言い出せずに居た、と言った方が正しいのかもしれない。
夢幻の白昼夢を見ていただけと断じればそれまでであり、また自身だけが経験した事柄であり、これを立証する術も、方法も、何もないのだから仕方がない。
ただ、前にも増して彼女の中で艦娘同士の繋がり、絆、思いやりが増したのは事実だろう。
先のキス島での一件で激昂したのも、自らの感情の昂ぶりを抑え切れなかったのも、これに起因する所が大きい。
以前に、大本営に務める大淀が艦娘には既存とする性能や実力とは別に、彼女達から発せられる感情による性能の向上と言う推測が立てられていた。
不確かなもので、必ずしもそれがプラスに働くという根拠も理由もない上に、感情とは光と闇という薄皮一枚で成り立つ表裏一体の関係を秘めている以上、全てを鵜呑みにして良いものでもないと結論付けている。
だが、この感情と言う喜怒哀楽から成り立つものこそ、光と闇を凌駕する新たな艦娘の成長の一旦である事もまた事実であるとも感じていた。
想う力とは、有限として捉える事は不可能であり、また不確かでありながら無限の可能性を秘めている。
その片鱗は既に北上のみにならず、この提督鎮守府の艦娘達で幾つかの事例と共に実証されつつあった。
想いが生み出す、新たなる進化。それは、例え離れていても変わらない。
-???-
??「礼を言う」
??「フッ、それはお互い様さ。キミ達の技術は実に素晴らしい。近い将来、また再び邂逅を果たそうじゃないか」
??「いや、それでも…これは、私にとっては奇跡に等しいのさ。願いが通じたと言っても過言ではない」
??「そうか。まぁ、ここからの航海もまた難儀だろうが、途中までは私達も護衛として付き添おう」
??「感謝するよ。スパスィーバ」
??「フフッ、バジャールスタ。では行こうか、キミの言う、暁の水平線とやらに再び勝利を刻むために」
??「ああ、行こう!」
-母港-
提督「はぁ~、潮風が超気持ち良い」
イク「提督!海の中ならもっと気持ちいいよ!?」プカプカ
提督「アホ抜かせ」
イムヤ「司令官も入ればいいのに」プカプカ
ゴーヤ「ねー?」プカプカ
提督「スキューバダイビングはまた今度だ。しっかし、お前ら朝っぱらから海に潜って何してたんだ?」
イムヤ「私はお魚と朝の水中散歩」
ゴーヤ「早朝水泳でち」
イク「周辺海域見て回ってたの!」
提督「じーさんやばーさんの思考だな…」ボソッ…
イムヤ「今なんか言ったー?」グッ…
ゴーヤ「悪口な発言に思えたでち」ググッ…
イク「イクはまだおばーちゃんじゃないのね!」グググッ…
提督「わー!解った、悪かった!だからその溜めた両手を収めろ!」
イムヤ「そう言えば、この間のキス島攻略でその先に広がるアルフォンシーノ方面へ進出できたんだって?」
提督「ん?あぁ…別の鎮守府で進軍して、見事溜まってた膿を吐き出させたようだ。その中の鎮守府の一つは先輩の鎮守府、新生鋼鉄の艦隊だ」
ゴーヤ「新生、なのでちか?」
提督「旗艦は長門、随艦には翔鶴や天竜たちも加わってたみたいだ」
イムヤ「おー、早速活躍してるわね」
イク「イクはまだ出撃してないの!」
提督「その内な。何よりイクと春雨は決定的に実戦経験が少ない。無理をさせて怪我でもされたら大変だからな」
イク「提督、優しいのね…」ウルウル
イムヤ「イク、目をウルませても多分何もでないわよ」
ゴーヤ「散々ゴーヤ達で試験運用して失敗に終わってるでち」
提督「散々やられたから免疫できてるんだ、アホタレ」
イムヤ「私は殆ど参加してないでしょ!」
提督「まぁ、概ねゴーヤだな」
ゴーヤ「テヘペロでち」
イク「ちっ…」ボソッ
提督「今お前舌打ちしただろ!?」
イク「え?」キョトン
イムヤ「ははは…」(いい性格してるわ)
提督「ったく、ほら…もう直ミーティングの時間だから海から上がって、体シャワー室で洗ってこい。言っておくが、遅れましたは通用せんからな」
三人「「「はーい!」」」
-作戦室-
提督「────とまぁ、今日は比較的平和だ。遠征の任務がある潜水艦隊と一部水雷戦隊は準備が出来次第順次発つこと。潜水艦隊はイムヤを旗艦とし、随艦にゴーヤとイク、夕張が付くように」
夕張「はいはーい!」
提督「後は、護衛任務と輸送任務だが、護衛任務は旗艦を阿武隈、随艦に白露と春雨、熊野だ。輸送任務は暁を旗艦とし、随艦は電、川内、神通でそれぞれ頼む」
木曾「残りは何すんだ?」
提督「午前と午後にAとBで分けてそれぞれ実技演習、座学で頭の体操だ」
木曾「げっ…」
北上「木曾っち~、寝るなよ~」
木曾「う、うっせーな!解ってるよ!」
木曾「」スピー…
提督「誰かそこの眼帯馬鹿を起こせ」
衣笠「ティッシュ丸めて…コチョコチョ~」サワサワ
木曾「ふぐっ…へあ……はぁっくしょん!」ガバァッ
北上「お~、起きた起きた」
木曾「んあ…」キョロキョロ…
瑞鳳「あはは、寝惚け眼だ」
提督「木曾、悲しいお知らせだ」
木曾「はぁ?んだよ……あっ」
提督「この後の休憩時間、俗に言うお前らのおやつタイムだ。お前無しね」
木曾「あ、ちょっ、たんま、たんまっ!お、おい、北上!なんで起こしてくれないんだよ!」
北上「姉は時として厳しいのだよ、木曾っち」
木曾「んだよそれ!」
提督「良かったな、榛名。お前は定時でおやつタイムだ」
榛名「」ニヤリッ
木曾「おいっ!おい、提督!今の榛名の顔見たか!?」
提督「あ?」
榛名「?」キョトン
木曾「この、アマ…!」プルプル
赤城「榛名さんのダークサイドを見た気がします」ヒソヒソ
瑞鳳「普段から提督の相手してるとああなっちゃうのかな…」ヒソヒソ
霧島「さ、司令。早いところ続きを」
提督「ん、おお、そうだな」
瑞鳳「絶対、霧島さんとか学級委員長とか風紀委員長とか生徒会委員長とか似合うんだろうなぁ…」
赤城「因みに、瑞鳳ちゃんは?」
瑞鳳「私はぁ…う~ん、なんだろう?体育委員とか楽しそうだなぁ」
赤城「ふふふ、私は是非給食委員で!」テカテカ
瑞鳳「」(初日でつまみ食いしてクビになりそうだなぁ、赤城さん…)
-執務室-
提督「木曾、次はこの書類だ」
木曾「勘弁してくれ提督…俺は文字と睨めっこってガラじゃねぇんだよ…」
提督「戯け。お前の報告書ひどすぎんだよ。大体な、この前のだってお前のだけ大本営から送り返されてきたんだからな?詳細理由部分が理由になっていません。経過報告部分が報告の意味を成していませんって注意書きのおまけ付きでな!」
木曾「うへぇ…」
提督「うへぇじゃねぇ!それは俺の台詞だアホタレ!」バンバン
木曾「だってよぉ…」
提督「おっ?言い訳?言い訳しちゃう?そっかー、言い訳しちゃうかー」
木曾「あっ……ちょ、まって……!たんま、今のたん……」
提督「おめでとうっ!君のおやつタイムは塵と消えました!さぁ、夕方までみっちり付き合ってもらうぞ、コラ」
木曾「…………ッ!!」プルプル
モウ、イヤダァァァァァァァァァ……ッ!!
-談話室-
北上「おー、聞こえてきたね~、木曾っちの断末魔」モグモグ
瑞鳳「恒例の断末魔。最近は皆ボロを出さないからなぁ」ニガワライ
榛名「この、時間は、提督も、休憩したくて、ウズウズしてますからね」モキュモキュ
赤城「普段、榛名さんと、一緒には、あまり休憩、できませんからね」モキュモキュ モキュモキュ
榛名「はぁ、美味しい。幸せ…」テカテカー
瑞鳳「休憩時のレア艦娘、それが榛名さんですからね」モグモグ
霧島「……」カリカリカリカリ…
衣笠「霧島さん、休憩時間でもお構い無しでめっちゃノートに色々書き込むね」
霧島「日々データは更新されてますからね!何より、提督の座学は非常にためになります!」
衣笠「うわっ、すご…文字とグラフと…これ、何?」
霧島「各艤装の図解と特性を記載した表です」
衣笠「うへぇ…」
榛名「霧島にノートとペン持たせると、凄いよ」
衣笠「そういえば、この間もキリちゃんの妨害をものともせずに黙々となんか書いてたよね」
北上「今も、かなぁ…」チラッ…
キリ「うにゃ~…」ウロウロ ウロウロ
霧島「……」カリカリカリカリ…
キリ「にゃっ」テテテテ…
ムンズ…
キリ「んにゃ!?」
ヒョイ…
榛名「預けられた…」
キリ「にゃーん…」ショボーン
榛名「よしよし…」ナデナデ
瑞鳳「名義上、金剛さんの飼い猫なのに完全に榛名さんに懐いてるよね」ツンツン
キリ「うにゃぁ」ゴロゴロ
瑞鳳「あはは、可愛い」
榛名「普段は金剛お姉さまの部屋でくつろいでるけど、キリが自分の意志で日替わり感覚で私達四姉妹の部屋へ出たり入ったり、かな」
赤城「うふふ、四姉妹の部屋を行ったり着たりですか?贅沢なネコさんですね」ナデナデ
キリ「にゃ?」
衣笠「本人は解ってないみたいね」
キリ「」ペロペロ
北上「この前は確か提督と庭で戦ってたね」
キリ「にゃん!」フンスッ
榛名「提督は煙たがってますけど、この子は結構提督がお気に入りみたいですね」
北上「呈のいい遊び相手なんじゃないの~?」
榛名「あははっ、かもしれないですね」
金剛「Oh!キリ、こんなところにいたネー!」ワキワキ…
キリ「にゃっ」ビクッ
榛名「あら、金剛お姉さま。どうかしたんですか?って…何、両手ワキワキさせてるんですか…」
金剛「これからキリはIt's bath time.ネ~!」バーン
キリ「うにゃ~!」ドタバタ
衣笠「ち、ちょっとちょっと、暴れだしたわよ…」
瑞鳳「あはっ、そっかぁ、お風呂苦手なんだ?」
キリ「シャー」
金剛「Hey!キリ、それじゃよくないヨ~?体綺麗にしないと、また提督が怒るネ~。主に怒られるのは私なんだかネッ!」
キリ「にゃにゃにゃっ」フルフルフル
瑞鳳「あはは、首振って拒否してる。金剛さんの言葉解ってるのかな?」
金剛「キリ~、頼むネ~」
キリ「フシャー」
赤城「臨戦態勢です」
ダッ
赤城「あらら、敵前逃亡…」クスッ
金剛「待つネー!キリーッ!!」ダッ
榛名「提督に見つかったら、金剛お姉さまも執務室に缶詰でお説教プラス書類整理のお手伝い確定ですねぇ」クスッ
北上「第二の犠牲者か…ってか、金剛っちは良く悲鳴上げてたか…あんま面白みないなー、それだと…」
赤城「あなたは相変わらずね」クスッ
北上「んふふ~、まぁ楽しい事はいいことだよ、うん」
-???-
??「さぁ、ここまでくればもう良いだろう」
??「感謝するよ。この恩は忘れない」
??「よしてくれ。これも何かの縁…そう、私達という存在が紡ぎだした一つの奇跡だ。キミは、その先駆けに過ぎないのかもしれない。だが、確かな一歩と確かな奇跡の始まり、それがキミさ」
??「ふふっ、そうかもしれないね。ダスビダーニャ」
??「ダスビダーニャ、ヴェールヌイ」
Bep「……帰ってきたよ。司令官、皆…」
彼女の見据える先には提督鎮守府の灯す明かりが燦々と夜空を照らして輝いていた。
普段は余り感傷的にならない彼女も、この時ばかりは熱いものが込み上げてきた。
期間にすれば大した事はないのかもしれない。
いや、それでも二十日間と言う期間は鎮守府の皆にとって、彼女自身にとっては途方もない時間に感じた事だろう。
だからこそ、この瞬間は奇跡が起こった瞬間であり、待望の瞬間であり、かけがえのない瞬間だったのかもしれない。
紆余曲折を経て、漸く提督鎮守府へと彼女は帰還を果たす。響改めヴェールヌイ、提督鎮守府へついに邂逅を果たす。
~If~
-???-
そこは深くて暗くて寒々とした印象だけが支配する。
誰も近寄らない、誰も近寄れない、暗闇だけが全てを支配する水底。
静かで、ゆったりと流れる時間。
手を差し伸ばしても、誰もその手を取ってはくれない。
差し伸ばした手、腕、白い素肌がすぅっと青白く変わっていく。
不思議と恐怖はない。
心地良ささえ感じる。
寒さは消えて、変わりに心の奥底に芽生える感情。入れ代わるように消えてゆく感情。
仲間の顔、仲間の声、明るい……未来。全てが消える。
それら全てが消えて、新しく生まれるのは、悔しさ、悲しさ、孤独感……負の感情。
違うと心の中で叫んでも、その声はもう表には届かない。
やがて心も暗闇に支配され、それは出でる。
??「ヨウこそ、こちら側ノ世界へ……」
バサッ…!
響「…はぁ、はぁ…夢?」
提督「響…なのか?」
Bep「やあ、司令官……ただいま」
響「ここは、現実…?海、上……?」
艦娘には、死後三つの世界が待ち受けている。
響……改め、ヴェールヌイは死に直面したことでその内の一つの狭間を垣間見た。
厳密には感じ取ったと言うべきで、彼女自身はそれを現実としては捉えておらず、夢として処理していた。
これは、彼女に起こったであろう最悪の結末。
起こって欲しくないという願望が生み出す悲劇。
そして起こりえる可能性を秘めた悪夢。
加賀「そして、最後の一つ……水底へ沈み、深海棲艦として生まれ変わる」
武蔵「残した念が強ければ強いほど…」
大井「悲しみを帯びて、憂いを引き摺れば引き摺るほど…」
加賀「それは負の感情となって自分が想像しえる最低最悪のイメージとして具象化し、死後私達に牙を剥く」
-鎮守府-
ビー、ビー、ビー
榛名「提督っ!深海棲艦が……!」
提督「くそっ、残ってる連中を集めろ!防衛ラインを形成し、なんとしても食い止めるんだ!」
??「やっと、戻ってコレたよ……司令官」
暁「あ……あぁ…」
電「そんな、どうして……」
??「あぁ、暁…電…タダイマ。戻って、キタよ……」
暁「ごめん、ごめんね、響……!」ジャキッ
電「せめて、安らかに眠って欲しいのです…!」ジャキッ
??「どうして、何、シテるの?」
ドン ドン ドン ドン
ボゴォォォン
グギャァァァ……
アアアァァァァァ……
??「え……?」チラッ
──深海、棲艦?──
??「私が、連れてキテ、しまったのか…?」
ボゴォォン
??「うぐっ…!」
暁「はぁ、はぁ…」
??「あか、つき…?ドウして、私を撃つんだ?」
暁「響は…響は死んだんだからぁ!卑怯よ…深海棲艦、こんな卑怯なマネ……許さないんだからっ!!」ジャキッ
??「やめろ、アカツキ……私だ、ヒビキだよ……!」
暁「響の仇は、私が取るんだから!」ドン ドン
??「……ッ!」
-医務室-
ガバァッ
Bep「……ッ!はぁ、はぁ、はぁ……」
提督「おい、響!響、大丈夫か?どうした、凄いうなされてたぞ」
Bep「し、司令、官…?」
提督「そこの砂浜んところで倒れてるのをイムヤたちが知らせてくれてな。取り敢えず、入渠ドックへ運んで、怪我は治したんだがお前の意識が戻らなくて、皆心配してたんだぞ」
Bep「…私、戻ってこれた、のか」
提督「ああ、そうだ。戻ってきた。ったく、無茶ばかりして…後であの当時、作戦に参加したメンバーにはちゃんと謝るんだぞ?特に暁がもうひどくてな…宥めるのに苦労した。俺も、相当迷惑かけたから余り暁のことは言えないんだがな…」ニガワライ
Bep「うん、反省してる。けど、私は強くなって戻ってきたんだ、司令官」
提督「強くなって?そういえば、被ってた帽子が暁たちと違ったが…」
Bep「私の名はヴェールヌイ…信頼できると言う意味の名なんだ」
提督「お前、まさかロシア海域まで行ってたのか!?」
Bep「実は良く覚えてないんだ。案の定、奴等は待ち伏せしていた。その時は虚勢を張ってでも切り抜けるつもりだったけど、相手は戦艦級に重巡級、他にも沢山いたように思う。夜の闇に紛れて何匹かは沈めたところまでは覚えてるけど…弾薬も底をついてきて、燃料も相当厳しかったのもあったから、隙を見て闇と煙幕を利用して逃げた」
提督「けど相手は追ってきたんだな?」
Bep「随分としつこい連中でね。方角なんてもう気にしてる余裕はなかったよ。途中で、ついに追いつかれて万策尽きて、これまでかと意識が遠のき、気付いたらベッドの上に横たわっていた」
響「……ここ、は?」
??「プリヴィエート。気が付いたか」
響「君は…?」
??「私はポルタヴァ級第一等戦列艦、ポルタヴァだ」
響「…聞いた事のない、名前だ」
ポルタ「それはそうだろう。私達はキミ達、ヤポーニャとは違う。ロシアに属する艦隊なのだから」
響「ここは、ロシアなのか…?」
ポルタ「ああ、その通りだ。丁度うちの艦隊が遠征任務を行っていてな。道中砲撃の音に釣られてキミ達の戦闘区域に遭遇したという事だ。深海棲艦は共通の敵という事だな」
響「そうか…わざわざすまない」
ポルタ「気にするな。それよりも、その成りで戦艦級や重巡級を相手にするというのがそもそも無謀だ。それでは命がいくつあっても足らんぞ」
Bep「それで、暫くそこの鎮守府で厄介になって、様々な技術を交換したというわけさ」
提督「ロシアの鎮守府か。はは、連絡の取りようもないな。まぁ、とにかくお前が無事だった事をみんなに伝えてくるよ」
ガチャ…パタン
Bep「……あれは、本当に夢だったのか?現実味が、ありすぎた……」
その後、響改めヴェールヌイは皆の前で謝罪をした。
勝手な行動を取ってしまった事、心配させてしまった事、溢れてくる感情は抑えきれず、後半は言葉にもなっていなかったように思う。
それでも、全員が響の帰還を心より歓迎し、安堵し、涙した。
改めてヴェールヌイは皆の温かい心に触れて、この鎮守府にこれてよかったと実感した。
-あくる日・某所-
提督「…こういう所、あんま慣れてないんですけどね」
榛名「わぁ…」キョロキョロ
先輩「何よ、快気祝いもしない不逞の後輩の分際で、偉そうに文句垂れるわけ?」
提督「だぁからぁ、それ所じゃなかったって言ってんでしょうが、全くもう…」
長門「ふっ、相変わらずだな、提督大佐は」
榛名「提督、提督!高そうなお酒がいっぱいあります!」ワクワク
先輩「ふふっ、榛名ちゃんはお酒、イケる口かしら?」
榛名「えっ、あ、えーっと…す、少しなら…」ニガワライ
長門「榛名は一定量のアルコールが入ると愚痴が始まるから注意だな」
榛名「な、長門さん…!///」
提督「で、秘書艦を随伴させる意味はなんなんですか。実務的な内容なら、別に俺らだけでもいいでしょ」
先輩「まぁそう急くな。私やお前、それに榛名ちゃんや長門にも大いに関連が深い話だ」
提督「この場の面子にとって重要って事ですか?」
先輩「厳密にはこの場限りではない。が、代表してといったところだな」
事の発端は、つい先日の事さ。うちの艦隊でアルフォンシーノ方面を攻略した事は記憶に新しいと思う。
問題は、そこから更に哨戒地域を広げている段階で発生した。
もはや積年の相手と言っても過言じゃないな。新鋭元提督の姿をそこで確認した。
実際にこの目で確かめた訳じゃないが、空母組の艦載機からの情報だ。まず間違いはあるまい。
それとは別に、西方海域方面と南方海域方面へ向かう敵影をそれぞれ確認した。
どちらも今までに認識した事がない容姿と聞いてね。まず、間違いなくお前達が交戦した通称「鬼」や「姫」と呼ばれていた連中だと思ったよ。
それと、これも正式な識別として決まった呼称、戦艦レ級も確認されている。
ここにきて局面が一気に動いたって訳さ。
で、一つは実際に合間見えた事があるお前達に生の情報を貰いたかった事。
で、残りもう一つ、長門達の戦闘を見て感じた事だが…正直驚きのほうが勝っていてね。
提督「長門たちの戦闘…?」
先輩「長門に限った話じゃないだろうが、それでも頭一つ抜きん出ていたのはやはり長門だ」
長門「……」
先輩「で、直感的に思ったわけ。あんた、どういうコネでいったか知らないけど、大本営のトップシークレットにもなってる近代化改修を施したわね?」
提督「元帥殿自らが話をしてくれたんですよ」
先輩「父さんが…?」
提督「先のモーレイ海を掌握するために、俺たちは一度挑んで大敗していました。相手は戦艦レ級…たった二隻でしたが、その戦力は予想を遥かに凌ぐ脅威でした。主力の第一艦隊に第二艦隊を随伴させて挑みましたが結果は散々なものでしたよ」
榛名「…途中、機転を利かせて陸奥さんが自爆に等しい特攻を仕掛けてくれて、そこに生じた隙をついて私達はなんとか逃げ遂せたんです」
長門「私もあの場では全くと言っていいほど手も足も出なかった。結果として、無様な姿を晒す事にもなった」
先輩「なるほどね…それを皮切りに、近代化改修か。けど、その効果は未だ実戦で本領を発揮していなかった。それ所か、元帥お抱えの部隊でもまだ主力艦隊でしか実証が完璧にはなされてないものだったのよ?」
提督「ええ、賭けでしたね。結果論ですから素直には喜べていません。正直、安堵の方が勝ってます」
先輩「けど、そうね…榛名ちゃんと長門に、それぞれ聞いてみたかったのよ。近代化改修、聞くだけならきっと内容としては容易く感じたはず。けど、実際に行って見てどうだったのか。また、その後の感じとしてもどうなのか。非常に気になるところなのよね」
榛名「私の場合、瞬発的にですけど、力や速さが増したというか…普段なら到底無理な動きとか反射速度とか、そういったものを半ば少し無視した動きが出来るようになりました。周りの皆からも『ありえない動き』なんて言われるくらいですから…」
長門「潜在的な力と言うものを余さず引き出せるトリガーと私は認識している。よく言うだろう、火事場の馬鹿力と…それに近いものを意識的に出せるようになる、とでも言うのかな。しかし、最も大きいのは私の場合は、だが…誰かを守ると決意した瞬間だな」
榛名「…それ、解る気がします。私は、あの時…散っていった武蔵さんや加賀さん、大井さん達を強く想って、彼女達の遺志を背負ってみせるって、決意した時に力が発揮された気がします」
先輩「艦娘個々でその『トリガー』は別々に存在するって事か。榛名ちゃんなら託された想いを汲む事で、長門なら誰かを守ると決意した時、それぞれ近代化改修で得たパワーを表面に発現させられる、と…」
提督「そんなに凄いのか?」
長門「ああ、得られる力は絶大と言えるな。だが、それに振り回されることもある」
榛名「自分の身体なのに、言う事を聞かないというか…」
提督「狂乱状態だな」
榛名「だけど、表現が難しいんですけど…頭の中で、カチッてスイッチが入った感じで、そうなると暴れている力も難なく御せるようになるんです」
先輩「なるほどね。そして、その結果が深海棲艦の幹部クラスと目された泊地棲姫の撃破に繋がった…」
提督「それなんですけどね」
先輩「ん?」
提督「鬼や姫と呼ばれる存在です。どうやら、鬼と呼ばれる状態はあいつらにしてみれば通常形態で、本領発揮をすることで姫へと進化しているのではないかって思いまして…更に、途中途中で聞こえてきた深海棲艦の言葉なんですが、少し気になる部分もあります」
長門「……以前にも、戦った事がある口ぶり、か」
提督「気付いてたか、長門」
長門「なんとなく程度だ」
榛名「それに、なんだか私達を憎んでいる口ぶりでもありました」
提督「その通りだ。少なくとも奴らは艦娘を憎む、あるいは遠ざけたい、近寄りたくない存在として捉えている」
先輩「その癖、人間に向ける意識は薄い…」
提督「その通りです。ですが、俺は以前にその艦娘に対して全く敵意を向けない深海棲艦を目の当たりにしました」
先輩「何…?」
榛名「え、それって…」
長門「…電達から私も話を聞いたことがある」
提督「外見は空母ヲ級でしたが、容姿が成長途中と言うか…」
先輩「幼子って感じだったわけ?空母ヲ級って言えばみた感じ、確か人間でいう所の中~高校生に近かったわよね」
提督「ええ、ですがその見かけたヲ級は容姿は幼子、扱う言葉はカタコトでしたが、こちらに敵意を全く向けてこないので、印象に残ってました」
先輩「それ以外で何か気になる事はいってたの?」
提督「私自身は敵意はないが、他の深海棲艦がそうとは限らない。私はもう戻る事もできない、と…」
先輩「はぐれ深海棲艦って事か…」
提督「深海棲艦…本当に謎の部分が多いです。合わせて、新鋭元提督の動きも気になります」
先輩「深海棲艦の生態についてはこっちで調べておくわ。あんたには危険と承知でお願いするけど、新鋭のその後の動向を探って欲しいのよ」
提督「お願いって…俺たちが独断に見える動きをしてたのは、元帥殿のお墨付きがあったからですよ?先輩みたいにホイホイあちこち出歩くなんて基本出来ませんよ」
先輩「あんたねぇ…まるで私が夢遊病患者みたいな言い方やめなさいよね!?」
提督「事実でしょうが…」ボソッ
先輩「長門、提督命令。こいつ押さえつけなさい」
長門「……恨むなら自分を恨んでくれ、『元』提督」ガシッ
提督「あっ、おいこら長門!おま、薄情すぎるだろ!?しかも何『元』強調してんだ、ふざけんな!元だろうが上官は敬え、ちくしょう!っていうか、榛名も助けて欲しいんですけどね!?」ジタバタ
榛名「面白そうなので傍観に徹して見ます」
提督「どんだけ薄情だ!ぐおぉぉ…ち、力つえぇ…!」ググッ
長門「ビッグセブンの力は伊達ではないよ」グググッ…
提督「力の使いどころ間違ってんだろぉ……!」
今更ですが、上位の深海棲艦にはそれぞれモチーフになっている場所が解っている場合やちょっと名前などを他国語に変換、アナグラムなどにして結構適当に勝手な名前がつけてあります。
なんぞその名前ってのがあってもそこはオリジナルの設定として読んで頂ければ幸いです。
-???-
リコリス「ポート、アクタン以外は全員集まったワネ」
装空鬼「西方海域ダケじゃなく、他の海域のモノ達まで呼ぶノハどういうコト?」
リコリス「既に泊地棲姫が沈めラレたと言う話は聞いてイルはず」
??「マサカ決起会デモしようと言うの?」
リコリス「寝首ヲ掻かれナイ様に対策が必要ダト言ってイルのよ」
??「不必要に感じるケレど?」
??「デモ、リコリスの言う事も事実カナ?」
??「けど、ここマデこれるのカシラ?泊地棲姫モ浮遊要塞のみで、単独で挑んで、相手の力量ヲ見誤って、こうナッタんでしょう?ナラ、始めカラ全力で潰しにイケばいい。アノいけ好かナイ人間の女ノ方針になど、基本私達ハ従う理由ナドないのだから…」
リコリス「ピーコック……」
ピーコック「なぁに?モシかして、普段の私の働きの事ヲ言ってイルのかしら?それとも、パートナーのコトかしら?」
リコリス「……」
ピーコック「フフッ、怖い顔ね。いいわ…だったら私達が少し、その噂の艦隊ト遊んデあげる」
??「私もついてイクの?」
ピーコック「イイじゃない、どうせ暇ナンだから。ソウでしょ、フェアルスト?」
フェアルスト「はぁ…貴女の奔放さにつき合わサレる私の身ニモ、たまにはナリなさい?」
リコリス「少なくトモ、私達と一対一デモ引けを取らナイ艦娘が存在するノハ事実よ」
ピーコック「…なんですって?聞き捨てナラないわ。私達と、同等デスって?」
フェアルスト「六隻ヲ相手に、沈めらレタ訳ジャないと?」
リコリス「報告デハ初回、一隻…その後、三隻ヲ相手にシテ一方的に攻撃を受けテ沈めラレた、とあるわね」
??「泊地棲姫がタッタの三隻に沈めラレたと言うノ!?」
??「信じラレない…」
装空鬼「……つまり、艦娘達も私達に対応デキる何かヲ、掴んだと言うコトね」
??「フフ、なら…絶望するマデ、何度でも水底へ落とセバいい……」
装空鬼「南方棲戦鬼……忘れてイルみたいダケど、新型の戦艦モ、こちらはヤラれているのよ」
南戦鬼「変わりはシナい。私の理念はな…私の砲撃は、ホンモノよ……」
??「……何度デモ繰り返す、コノ愚かな戦いヲ……」
??「フフッ、それこそ慢心がモタラス発言かもね?」
??「……随分と辛口ネ」
??「あら、ゴメンなさいね?」
ピーコック「いいわ。少しヤル気も出た…あの計画の下準備ノ前にする準備運動ニハ丁度いいでしょう?」
フェアルスト「それもソウね」
リコリス「二人トモ、くれぐれも……」
フェアルスト「解ってイル」
ピーコック「名目は敵情視察…遠征ヨ。遠征…」
深海棲艦達が何かの計画を企て、時を同じくして提督と先輩提督が今後の方針について語り合っていた頃、鎮守府では一つの催しが行われていた。
泊地棲姫との戦闘以降、休息も含めてこれといって遠征任務程度しか活躍の場がなかった面子は体の鈍りを解す目的と大本営で培った能力をさび付かせないという名目で、身内同士で演習戦を行う事を決定していた。
その戦いに、同じく自分の実力を再確認したいとヴェールヌイも名乗り出た。
-演習場・夜-
北上「ほいっ、ちにっ、さんっ、しっ、と…」
羽黒「司令官さんと榛名さんいらっしゃらないのに、大丈夫でしょうか…?」
衣笠「んまぁ、なんとかなるっしょ」
大鳳「それに、遊びではないですからね」
木曾「っし、準備は万端!いつでもいけるぜ!椅子に座りっぱなしで鬱憤溜まってるからよ…マックスでわりぃがいかせてもらうぜ」
陸奥「私はまぁ、小手調べ程度かしらね」
龍驤「そないな事言うて、ひっくり返ってもしらんでぇ」
川内「ふっふーん、そぉれはどっちかなぁ?足元掬われないようにしなきゃね」
赤城「戦力差が明確に分かれてしまうと思いますが、出来る限り均等になるように私の方で分けて見ますね」
北上「よろしくね~」
陸奥「最も、タイマン仕様でやるからどっちに転ぶかなんて解らないだろうけどね」
■赤組
陸奥 龍驤 川内 北上 夕立
■白組
衣笠 大鳳 羽黒 木曾 Bep
赤城「…こんな感じでしょうか?」
神通「大本営で演習に臨んだ皆さんの実力、凄く期待してしまいます」
夕張「データの更新にもなるなぁ、ねっ、霧島さん!」
霧島「ええ、榛名の実力を鑑みても、確実に他の子達も戦力は大幅に上がっているはず。あの時は本領発揮とまではいかなかったみたいだけど、衣笠や羽黒も実力は格段に上がってると思うしね」
瑞鳳「何より、あの時の長門さん達の強さは本物だった…」
暁「ひび…じゃないや、ヴェル」
Bep「別に響でも構わないよ、暁」
暁「う~…」
電「ベルちゃん、余り無理はしたらダメなのです」
Bep「正直、改装を施した後でどれだけ性能が強化されてるのか自身でも解ってないんだ。だから、こういう場で確認したかったんだ」
夕立「病み上がりなんだからさぁ」
Bep「解ってる。無理はしないよ」
夕立「むぅ、ホントに頑固なんだから!それなら、私だって容赦しないっぽい!」
Bep「ふふっ、臨むところさ。信頼の名は伊達じゃないところを見せるよ」
-陸奥 vs 衣笠-
陸奥「艦隊戦じゃなく、一対一ってこと?別にいいけど、ちょっと物足りないわねぇ」
衣笠「あらら、もしかして衣笠さんじゃ役不足ぅ?」
陸奥「なんてね。あなたや羽黒をそこら辺の重巡型と一緒にしたら泣きを見るのはこっちでしょ?リハビリついでの練習台なんて思わないわよ。全力で倒しに行くわ!」
衣笠「それはそれは、重畳の至り、なんちゃってね!ヴェルちゃん同様、病み上がりだからって私も容赦はしないんだからね!?」
陸奥「上等よ。ビックセブンの力、思い知らせてあげるわ!」
比叡「陸奥さんはどうでるかな?」
金剛「陸奥は一発が強力な戦艦ネ。足で稼ぐより手数で稼ぐのが得策に思うけど…」
霧島「…今までは、ですよ。長門さんの戦いを目の前で見ていた私からしてみれば、足元を掬われるかと…」
比叡「そっか…今回の面子って、夕立やヴェールヌイ以外は…」
金剛「大本営帰りネー」
衣笠「先手…必勝!」ダッ
陸奥「」(足回りはどう頑張っても衣笠には及ばない。なら、まずは正攻法ね)ジャキッ
衣笠「む……」
陸奥「足は使わせないわよ」ドォン ドォン
ボボボボン
衣笠「っとぉ!それそれ!」ドン ドン
陸奥「っ!」(こっちの攻撃の合間を狙って撃てるの!?)
ボゴォォン
衣笠「宣言通りっ!先手頂きぃ!」
陸奥「……何が宣言通りですって?」 無傷
衣笠「あ、あれ…?」
比叡「は、速い…衣笠って、あんなに速かったの!?」
金剛「命中精度も格段に上がってるネ。あれだけ速く動き回れば、夾叉になっても不思議じゃないのに…」
霧島「はい…的確に陸奥さん目掛けて砲撃してました」
比叡「けど無傷って辺り、流石ビックセブンって感じなのかなぁ」
金剛「はぁ、比叡ぃ~、しっかり見るネ~!着弾の瞬間、陸奥はきっちりガードの姿勢をとって防いでたヨ?」
比叡「え゛……」
衣笠「むぅ…」(あれ防いじゃうのかぁ。硬直上手く狙ったと思ったんだけどなぁ…)
陸奥「じゃ、行くわよ?」サッ
衣笠「え、行くわよって…なんで砲撃の構えじゃないの?」
陸奥「そりゃあ…」
衣笠「ちょ、ちょ、ちょっと待ったぁ!ダメダメ、衣笠さん殴り合いなんて無理だってばぁ!」
陸奥「問答…」
衣笠「うわ、やば…」
陸奥「…無用ッ!」ビュッ
衣笠「このっ…!」ドン ドン
ヒュン ヒュン……ボゴォォン
陸奥「精密性欠けてるところを見ると、こういった距離が満更でもないみたいね?」
衣笠「」(痛い所突くなぁ…でもまぁ、短所を克服するのもありだけど、長所を伸ばして更に短所までカバーするのも、またありよね)チャキ チャキ
陸奥「む…連装砲じゃない?」
衣笠「そっ、これは私専用にカスタマイズしたものよ。20.3cm(3号)三連装砲…」
陸奥「」(もう一個は…従来と同じもの。二門同時に主砲を扱えるって言うの?)
衣笠「そんじゃま、いくわよぉ!」ダッ
陸奥「手数で勝負なら負けないわよ!」
衣笠「ほらっ!」ドン ドン
陸奥「これしき!」サッ
ボボボォォン
衣笠「もう一つ!」ドン ドン
陸奥「くっ…!」(この子、ホント的確ね)
ボゴォォン
陸奥「……少しはやるじゃない」 小破
衣笠「直撃させたと思っても最小限に抑えてくるなぁ…」
陸奥「火遊びが過ぎるわね」ジャキッ
衣笠「やばっ……射線…」
陸奥「全砲門、開け!」ドォン ドォン
ボゴォォォォォォン
衣笠「夾叉…危なかった…」
陸奥「何処がかしら!?」サッ
衣笠「えっ」
ドゴォッ
衣笠「きゃあ!」 小破
陸奥「姉さん譲りなのよ、殴り合いはね」グッ
衣笠「げほっ、やばい…」
陸奥「悪いけど、私の前に立つ以上、徹底的に撃ち落すわ!もう二度と、私は倒れない!!」ジャキッ
衣笠「はは、ウソでしょ。速すぎるって…」(時間、あと少し…なんとしても!)
陸奥「この勝負は私の勝ちよ、衣笠!」ドォン ドォン
ボゴォォォン
陸奥「……」
霧島「決まったかしら?」
比叡「…でも、なんか腑に落ちないって言うか。衣笠だって大本営帰りでしょ。これで終わりな気がしない」
金剛「ここから、多分衣笠が巻き返してくるネ」
霧島「え?」
金剛「慌てずに良く見てたヨ。土壇場で冷静な対処が出来るって言うのは大きなAdvantageネ」
陸奥「あれを、凌いだの…?」
衣笠「はぁ、はぁ…」 中破
陸奥「やるじゃない、衣笠」
衣笠「まだまだ、これからよ。衣笠の夜戦、見せてあげる!」サッ
スッ……
陸奥「闇に紛れて…!くっ…」
ドン ドン
陸奥「っ!?」サッ
パァァァン
陸奥「うっ…!これは、照明弾!?」
ザバァァァン
陸奥「そこっ!」ドォン ドォン
ボボボボボボン
陸奥「え…?これ、艤装…!?」
衣笠「ほら、こっちが本命よ!」ジャキッ
陸奥「このぉ!」ジャキッ
ドン ドン ドォン ドォン
霧島「位置の把握は完全に衣笠が一歩リード」
金剛「けどそこから囮を利用して更に不意を突いたのに対応した陸奥も流石ネ~」
比叡「結果、相打ちに見えたけど…衣笠の方が被害は大きいかなぁ」
衣笠「うぅ~、まーけたー!」 大破
陸奥「夜戦まで視野に入れてたなんてね」 中破
衣笠「はぁ…いけると思ったのにぃ」
陸奥「正直冷や冷やものだったわよ。あなたも羽黒も、鬼や姫と呼ばれるクラスを相手にしたんでしょう?」
衣笠「私達はその護衛みたいなのが相手だったけどね」
陸奥「それでも、実力は確かなものよ。次やったら今度は負けるかもしれない。だから、次やってもまた勝てるように、もっと修練は積むわ」
衣笠「ふふーん、次は絶対に勝つわよ!」
-大鳳 vs 龍驤-
大鳳「艦載数の数を言い訳にはしないわ」
龍驤「とーぜんや!正規空母と軽空母じゃその差は歴然。せやけど、うちらかてやれるっちゅうとこ見せなあかん時があるんや。見せたるわ…軽空母でも、正規空母に引けは取らんゆーとこな」バサァ
大鳳「上等です。装甲空母の恐ろしさ。身内にもきっちりと知らしめて上げます!」バッ
龍驤「さぁ仕切るで!攻撃隊、発進!」ビュン ビュン
大鳳「第一次攻撃隊、全機発艦!」ビュン ビュン
瑞鳳「赤城さんや飛龍さんはどう見ますか?」
飛龍「単純な戦力差で言えば迷わず大鳳かなぁ。勿論、先輩鎮守府からの同僚贔屓抜きでね」
赤城「通常の正規空母の耐久力や装甲なんかに比べれば、彼女は本当に粘り強いものを感じます」
飛龍「確かにね。私や赤城さん、勿論瑞鳳もだろうけど、ある程度負傷が嵩むと発艦が困難になるけど、あの子はもう無理でしょって思うところからでも追撃に出れるんだよね」
瑞鳳「装甲空母の名は侮れないって事ですね…」
赤城「けど、龍驤の操る艦載機は身内の私達でも戸惑う軌道を描きますからね」
飛龍「奇想天外…正攻法で理詰めにするには最も不適切な相手だね。直に横道に逸れちゃうからっ」
龍驤「まずは小手調べや!」
大鳳「開幕で終わらせる!」
ドォン ドォン ボゴォォン
大鳳「そのまま…!いけっ!」
龍驤「ほんま、正規空母と軽空母じゃ自力の差がよぅ出るわ…」ニガワライ
ボフゥゥゥン
バサァ
龍驤「せやかて、指咥えて見てるだけやあらへんで」サッ
大鳳「残りの突貫だけじゃ無理か。けど、貴女の艦載機で私の装甲甲板を撃ち抜けるかしら?」
龍驤「勅命…!」バッ
大鳳「む…?」
龍驤「うちの子らかて優秀なんはおるんよ。キミんとこのハリケーン・バウにも引けはとらへんで?」
大鳳「え…?ち、ちょっと…どういうこと!?」
瑞鳳「え…?あれ!?」
赤城「見えました?飛龍さん」
飛龍「あの子って、こんなトリッキーな真似できたんだ…」
瑞鳳「え?え?龍驤さん、何したんですか?」
飛龍「ミスディレクションって言葉、知ってる?」
瑞鳳「ミ、ミスディレクション?」
赤城「マジシャンとかが良く使う誤った視線誘導の事で、一種のテクニックですね」
飛龍「あの子は今、左手を前に差し出して『勅命』って言葉発したでしょ。わざわざ、艦載機を発艦させる時に放つ仕草と同じように」
瑞鳳「で、でも…何も起こってないし…」
赤城「そこが、ミソなんですよ。その時点で既に瑞鳳さんも、恐らく対峙してる大鳳さんも、彼女の罠にハマッてますよ」
飛龍「本命は…龍驤の左側とは反対の右側…更に迂回させて、大鳳の直上…!」
大鳳「何の真似よ…!」
龍驤「ふふん…ショータイムはこっからやで!艦載機のみんなぁー、お仕事お仕事ー!」
ブーーーン……
大鳳「えっ?なっ、直上!?い、何時の間に…!」
ヒュン ヒュン……ボゴォォォン
大鳳「くっ…!」 小破
龍驤「ちぃ、浅いか…!」
大鳳「この程度、この大鳳はびくともしないわ!装甲甲板は伊達ではないってことよ。第二次攻撃隊、発艦!」ヒュン ヒュン
龍驤「」(純粋なこの子等の錬度はきっと大鳳の方と比べたらうちの方が劣る…せやったら、その分、うちが自分で埋めたったらええねん!当たって砕けて、砕けたら今度はしがみついてスッポンも真っ青なレベルで纏わりついたるわ!あん時から何も変わってへん。せやから、変わるんや…!)ダッ
大鳳「なっ…!?」
龍驤「よし、一気に決めるで!」ヒュン ヒュン
瑞鳳「じ、自分も同時に駆け出した!?」
赤城「一体何を…」
飛龍「まさかあの子…!」
龍驤「うちの子等の邪魔はさせへん!」ジャキッ
大鳳「25mm連装機銃…まさか、私の艦載機を撃ち落す気なの!?」
龍驤「そのっ、まさかや!!」ダダダダダッ
ボボボボボン
大鳳「くっ、誘爆は防がないと…次発発艦準備も、まだ……ならっ!」ダッ 中破
龍驤「いぃっ!?な、なして…!」
瑞鳳「えぇ!?大鳳さんも駆け出した!」
飛龍「次の発艦までの時間を稼ぐつもりなの?」
赤城「だとしても、彼女は砲撃装備を所持してなかったはず…」
龍驤「キミ、まさか…」
大鳳「その、まさかよ!」グッ ブンッ
龍驤「あ、あぶなぁ!」サッ
ビュンッ
大鳳「ちっ」グッ
龍驤「どないな訓練自分つんできてるん!?」
大鳳「武闘派二人が一緒だったかしらね。結構いい訓練だったわよ」
赤城「長門さんと木曾さんから近接戦闘の施し受けてたみたいですね」
瑞鳳「大鳳さんも元々体動かすの好きな方だし、理に適った特訓だったって事ですね」
飛龍「龍驤にとっては想定外だろうなぁ。あれは別の意味でトリッキーだし…」
大鳳「この距離から逃がさないわ」ヒュッ
龍驤「……!」(あかん、近距離やと体感的に更に速く感じて…)
ドゴォッ
龍驤「うっ…!」ズザザッ 小破
大鳳「さぁ、やるわ!第六○一航空隊、発艦始め!」サッ ヒュン ヒュン
龍驤「やっぱ、ちょっち装甲薄いねんなぁ…って、泣き言言うてもしゃーない!!」バッ ヒュン ヒュン
ボゴオオオォォォォン
龍驤「…っぅ、流石に…これはあかんか……!」 中破
大鳳「…あなたも同じよね。もう二度と、同じ過ちを繰り返さない。私もあなたも、これが最後の教訓よ」ザッ
龍驤「はは…ほんま、自分…タフすぎるって…」
大鳳「…丈夫が取り柄なのよ」
龍驤「よういわんわ…せやけど、ほれ…やってやれないっちゅう事あれへんのや」
ブーーーン……
大鳳「なっ…!」
龍驤「便利やろ、視線誘導ちゅうんは…対人相手やとよう皆引っかかってくれるんや。王手飛車取りっちゅーとこやな」
ボゴォォォォォン
大鳳「ぐっ…!」 大破
飛龍「驚いた…最後、被害拡大する直前に発艦させてたんだ」
赤城「天晴れ、ですね。この勝負は龍驤さんの勝ちです」
瑞鳳「凄い……」
大鳳「負けたわ…完全に、気を抜いてた。まさか最後のあの瞬間に発艦を済ませていたなんて…」
龍驤「キミこそ、大概タフすぎるねん。終わる気がせぇへんかったわ」
大鳳「ふふ、言ったでしょ?それが一つの取り得だって。ありがと、いい勉強になったわ」
龍驤「にしし、お互い様やな」
-川内 vs 羽黒-
川内「よしっ!容赦しないからね、羽黒!」
羽黒「大丈夫です。私だって、やる時はやるんですよ?」
川内「えへへー、まぁそうこなくっちゃね!これは訓練用に模造された武刀剣だけど…」
羽黒「遠慮も勿論要りませんよ?もしも遠慮したら、絶賛大奮発で後悔させちゃいます」
川内「あははっ!羽黒も言うようになったねぇ。じゃ、遠慮なく行くよ!」サッ
羽黒「」(川内さんはヒット&アウェイの戦法がとても上手だったのを覚えてる。自分の攻撃が届く距離をきっちり把握して、そのギリギリの距離、自分が離脱に必要な距離をしっかり見極めて動いてる。まるで戦闘エリアを俯瞰の風景で見ているみたいに、圧倒的な空間把握能力がある。けど、私だって…!)チャキッ
川内「」(私が知る限り、羽黒ほどきっちりしてる子はそうはいないねぇ。うちの神通に似てるものがあるって言えばあるけど、ちょっと違うんだよなぁ…何が違うのか、それは…)グッ
羽黒「」ピクッ
川内「」(これこれ…この敏感な所は神通とそっくりだ。演習でも戦闘になるときっちりスイッチ入れ替える辺り、やっぱ怒らせると怖いかもねぇ…ただ、身内贔屓に見ても羽黒はやっぱり優しいんだよ。うちの神通程じゃないにしてもね。そこが違いだね)ザッ
羽黒「……!」バッ
川内「いくよっ!」ドン ドン
羽黒「」(動きは、最小限…!)バッ
ヒュン ヒュン
ボゴォォォン
川内「あれをかわしますか。けどまぁ、そうした場合は…」チャキッ
羽黒「そこです!」ドン ドン
川内「なんの!」シャシャッ
ボン ボボン
羽黒「た、太刀筋が速い…!」
川内「まっ、これからよね!」ブン ブン チャキッ
イク「うわー、速い…」
イムヤ「駆逐艦連中が速いのは言わずもがなだけど、彼女達以外でうちの鎮守府だと川内、神通、それに木曾かな。スピードスターって異名がぴったりなのって」
鈴谷「だねぇ。ぶっちゃけ川内ちゃん、昼戦でも夜戦でもその勢いが変わらないってのがマジヤバイっしょ」
熊野「そ、そうなんですの?」
ゴーヤ「夜戦の川内さんはまさに鬼神でち」
イムヤ「目にサーチライトでも仕込んでんじゃないの?ってくらい精密よ」
鈴谷「これ、絶対夜戦に持ち込み狙ってるよね」
イク「じゃあ、羽黒ちゃん危ないのね?」
熊野「そうとも言い切れませんわよ。彼女の目、あれは虎視眈々って言葉がとても似合う獣のような眼光ですわ」
羽黒「」(まだ、もう少し…)
バッ
川内「む…」
羽黒「いきますよ、川内さん」ジャキッ
川内「いつでもどうぞ?」スッ
羽黒「」タンッ
イムヤ「自分から間合い詰めた!」
熊野「恐れ入りますわね…」
ゴーヤ「へ?」
鈴谷「あははー、重巡の動きじゃないって…まぁ、私や熊野は航空巡洋艦だから若干、遅いのは認めるけど…」
熊野「元は重巡、ですけどあそこまで俊敏にって訳には参りませんでしたわ」
川内「」(うっそ、速い…!?)
羽黒「全砲門…!」ジャキッ
川内「まずい…!」バッ
羽黒「」ニコッ
クンッ ザザザッ
川内「直前で方向変えた!?やられた…っ!」
羽黒「いけぇー!」ドン ドン
ボゴオオォォォン
川内「いったぁ……やってくれるじゃん、羽黒!」 中破
羽黒「五倍の相手だって…支えて見せます!」ジャキッ
イク「直撃は避けたみたいだけど、これは相当厳しそうなのね」
イムヤ「けど、夜戦仕様に変わるわ…勝手も変わる」
鈴谷「ぶっちゃけ、こっからが本番、見所満載だと思う。観戦組は暗視スコープもあるからよくみーえるぅー」
ゴーヤ「羽黒さんには悪いけど、川内さんの独壇場になるかもでち」
川内「上等…けどねぇ、こっからはフルスロットルだよ。負ける気がしない!さぁ、羽黒…私と夜戦しよ!」
羽黒「」(ここからが、本番!きっと川内さんは夜戦も視野に入れて対策してきているはず…となれば、きっと探照灯、照明弾、夜間偵察機のどれかは持ってきてるはず…明確な位置を特定されたら、あの人の精確な空間把握能力から逃れる術がなくなる。その前に、決着をつける!)
ドォォン
パァァァン
羽黒「」(あの明かりは、違う…あっちの方には確か陸奥さんと衣笠さん……集中、集中よ……)
ビュッ
羽黒「っ!」サッ
カッ
羽黒「えっ!?」
ボゴォォン
羽黒「きゃあっ」 小破
鈴谷「今の、見えた?」
熊野「川内さん用にカスタマイズして工廠で作成された投擲して爆破させる爆弾、かしら?」
イムヤ「接触すると爆発ってのはまぁ、機雷の原理と同じみたい。それを設置タイプじゃなく投擲タイプにカスタマイズしたのが川内さんの艤装だね」
ゴーヤ「ゴーヤも初めて見たでち」
イク「かっこいーのねー!」
イムヤ「それに、あの絶妙な間合い。投擲してもうその場には居ないし…ふふ、ホント忍者よね。あれ…」
羽黒「二番砲塔が…!けど、まだです!」
川内「私が夜戦好きなのはさ、この領域でなら誰よりも活躍できる自信があるからなんだよね。昼戦じゃどうしたって戦艦組や空母組が花形になりそうじゃない?勿論、それぞれに華が出る場所ってのはあると思うから、これは私の勝手なこじ付け論ね。で、私の考えじゃ駆逐、軽巡、重巡って類は昼戦よりも夜戦が本領発揮できるんじゃないかって思ったわけさ。じゃあ、私は夜戦で誰にも負けない存在になろうって思ったわけ。だから……」
羽黒「…この領分で私に負ける訳には行かない、と…」
川内「せーかい。夜戦をものにする為に、周りとは一風変わった訓練を重ねてね。まっ、お陰で得る事ができたスキルってのは今のところ大いに私を助けてくれてるよ」
鈴谷「そう言えば、何度か川内ちゃんと一緒の夜戦って経験した事あったけど、なーんか動きが正確すぎるんだよね」
ゴーヤ「それ、聞いた事あるでち。神通さんにもゴーヤ聞いた事あるけど、なんか苦笑い浮かべながら『川内姉さんは神経研ぎ澄ませてると目を閉じていても周りの殺気とか、そういう類の気配を感じ取るんです』とか言ってたけど、冗談だとばかり思ってたでち」
鈴谷「マジ忍者じゃん…」
イムヤ「それ、何気にハンパなく凄い事なんじゃない?」
熊野「第六感とも言うべき感覚的な部分が特定の条件化で発揮されているんですわ」
川内「今の私は、音や気配すら視て相手の位置を把握する」
羽黒「」(これが…これが、川内さんを夜戦王なんて呼ばせてる所以。あの泊地棲姫と対峙した時、私に足りないのは火力だと思ってた。けど違った…火力だけじゃない、必要なのは…)
川内「これで終わりだ、羽黒」スッ
羽黒「」(読んで…もっと集中して、気配を感じる。音は捨てて、気配だけ…近付く気配、攻撃を仕掛けるときに漏れる気配、模造された武刀剣はきっと囮…始めにあれを見せておいて意識させる事が目的なら、あれを攻撃の手段としては絶対使わない)
川内「…………」
羽黒「…………」
ヒュッ
川内「チェックメイト」チャキッ
羽黒「いいえ、ステイルメイトです」スッ
川内「っ!?」
カッ バシュン
ボゴォォォン
川内「……まーじかー」 大破
羽黒「けほっ、こほっ……」 大破
イク「うーわー…」
ゴーヤ「お、驚きでち…」
イムヤ「羽黒、凄い…」
鈴谷「いやー、ドキドキハラハラってこういう時に使うんだねー」
熊野「鈴谷、あなたは本当に緊張感の欠片もありませんのね…」
鈴谷「へ?」
川内「最後、なんで私が接近してくるって解ったのさ。あそこで声掛けたって、既にこっちは攻撃のモーション入ってるし、絶対回避は無理って踏んでたのにさー…」
羽黒「川内さんのお陰ですよ」
川内「はい?」
羽黒「気配を、読み取ってみたんです。流石に、川内さんみたいに視るっていうのは無理がありましたけどね?」
川内「まじで?」
羽黒「ふふっ…ええ、まじです」
川内「もー、なんだよー。私の専売特許だったのにー」
羽黒「では、これからは折半という事で」ハニカミ
-北上 vs 木曾-
木曾「北上ぃ、先の恨み晴らさせてもらうぜ…」
北上「え、ちょ…木曾っち、それ完全に八つ当たりじゃん」
木曾「うっせぇ!」
北上「はぁ、お姉ちゃんはこんな粗暴に育ってしまった末っ子を悲しく思うよ」
木曾「けっ、よく言うぜ。嫌がらせしか受けた記憶ねぇっつーんだ」
北上「まっ、それはそれとして…どっちが重雷装の扱いに長けてるかって部分は譲れないよ?」
木曾「へぇ、そらぁあれか…ぽっと出の俺に負ける気がしねぇってワケか」
北上「うん、まぁね~。あ、そうそう…」
木曾「あ?」
北上「大井っちが眠ってる慰霊碑に花、手向けてくれたでしょ?」
木曾「し、知らねぇなぁ…///」メソラシ
北上「ふふっ、きっと喜んでると思うよ。ありがとね♪」ニコッ
木曾「だぁー!もう、知らねぇって言ってんだろ!卸すぞ!///」
阿武隈「木曾さんって嘘がホント下手よね。北上さんとは大違い」
利根「もーちょい素直でも良いと思うがのう…」
神通「けど、そこが木曾さんらしいですけどね」
夕張「うーん、これは非常にいいサンプルデータ取れそうですよー」
阿武隈「夕張ってそればっかよね」
夕張「ちゃんと皆さんに還元してるじゃないですかー」
利根「霧島といいお主といい、飽きもせずようやるのう」
夕張「ふっふっふ…今はまだ、五口のみの武刀剣、川内さん専用の爆散クナイ、夕立ちゃんの時限式魚雷しか実現してませんが、行く行くは皆さん一人一人、専用の艤装を完成させて見せると!」グッ
神通「ふふっ」
阿武隈「あぁ、そう…っていうか、全員分作る気なんだ」
夕張「勿論です!」キラキラ
木曾「ったく、お前と一緒だと調子が狂う」
北上「そう?私は結構、息が合ってるって思うけどな~。姉妹だけに?」
木曾「どの口が言うんだか…まぁ、いいよ。演習だが遠慮無しでぶっ飛ばすぜ」
北上「ま、演習だしね~。姉に手を上げる粗暴な末っ子ってレッテルは貼らずにおくよ」
木曾「うっせー!砲撃で蜂の巣にされんのと刀の錆にされるの、どっちがいいか選ばせてやるよ…!」チャキッ
北上「あのさ、それ…どっちもイヤに決まってんじゃん」
木曾「そんじゃあ、俺の方で選んでやるよ!」バッ
北上「は~、やれやれ…血気盛んだよね~」チラッ
木曾「オラー!」ドン ドン
ヒュン ヒュン……ボゴォォォン
木曾「む…」
北上「どーこ狙ってんのー?」スッ ドボン ドボン
木曾「ちっ」サッ
北上「」ジー
阿武隈「北上さんの戦闘って余り見たことないけど、なんかヘン…」
利根「ヘンって、お主も辛辣じゃのう…」
阿武隈「ち、違うってば!そうじゃなくて!なんていうか、違和感?」
神通「……足運び、ですね」
阿武隈「え?」
利根「ほぅ、流石じゃな、神通」
神通「木曾さんは気付いてませんが、そろそろ…ですね」
利根「ふっ、小細工と言うには精密すぎていかんのう」
木曾「これなら、どうだよ!!」ドン ドン
北上「んー、同じかなー?」ヒョイッ
ヒュン ヒュン……ボゴォォォン
木曾「なっ……」
北上「さーん、にー、いーち……ほいっ」パチン
ボゴォォン
木曾「ぐおっ…!」 小破
北上「あり…?浅い、か…」
木曾「チッ…やるじゃないか!」
北上「」(うーん、木曾っちの動きは結構把握してるつもりだったんだけど、見誤ったか)
神通「恐ろしいほど冷静に観察・分析してますね、北上さん」
利根「んむ…普段の北上からは中々想像し難いものじゃが、我輩の視点から見ればあやつは相当クレバーな奴じゃ」
阿武隈「ク、クレバー…?」
夕張「冷静ってことでしょ。でも、射線を予測してるような立ち回りですけど…」
神通「予測してるんですよ。木曾さんの癖や傾向を逆手にとって、最小限の動きで…加えて木曾さんは射程距離がバラバラです。着弾点付近の場合は夾叉を避けて、北上さんもさり気無く大きくステップして移動してます」
夕張「……凄い。てか、神通ちゃんも何気によく見てるなぁ」
神通「川内姉さんの練習相手をさせられると、見てないと大変な事になりますから」ニガワライ
北上「いーかい、木曾っち!木曾っちの悪いところはそうやって直に突出しようとするとこだよ」
木曾「あぁっ!?」
北上「まぁ、私も結構カッと頭に血が上るから、解らないでもないけどね~。なんだっけなー、なんかのマンガであったんだよね~。い~い、台詞…」
木曾「んのやろう…」チャキッ
北上「お…?」スッ
木曾「ぶった斬るッ!」ブンッ
北上「おわ、あぶな!」サッ
木曾「動くんじゃねぇ!」ブンッ
北上「アホか!動くわ!っていうか、避けるわ!」サッ
木曾「おらー!」ブンッ
サッ
北上「落ち着けーぃ!」キタカミキーック ドカッ
木曾「ぐはっ」ザバァァ…
北上「はぁ、もう…あ、そうそう。頭はクールに心はホットだ。んむんむ、この言葉は結構アリだよ、うん」
阿武隈「せ、説教しながら木曾さんを押してる…」
夕張「器用なんだか何なんだか…」
神通「ふふっ」クスッ
利根「どうした、神通」
神通「やっぱり、お姉さんなんですね」
利根「む?」
神通「木曾さんの悪いところ、一つ一つ見つけてその度に指摘して…後でそれに気付いて、感謝するんですよ」
利根「そんなもんじゃろか?」
神通「ええ、そんなもんなんですよ」
木曾「あー…いってぇ。まさかケリ飛んでくるとは想定外だったわ」
北上「いいかね、木曾っち。重雷装巡洋艦ってぇのは艤装次第じゃ身軽に動けていいかもしんないけど、自分が思ってる以上に装甲と耐久力ってのはないんだよ。それを補う戦術ってのが必要になるのさ」
木曾「……」
北上「私ならこの四十門の酸素魚雷。さっき、いつ攻撃されたか解ってなかったっしょ?」
木曾「…あぁ、悔しいけど唐突だった」
北上「私が木曾っちと正面切って戦えるのは、木曾っちの癖や傾向把握してるからってだけじゃあないんだなぁ」
木曾「んだとぉ?」
北上「そっ、それそれ!その短気が私としちゃ利用できる要素の一つさ」ビシッ ドボン ドボン
木曾「ぐぬぬっ」
北上「こうしてのらりくらいりと挑発しつつ間合いは取って、死角になった所で魚雷をちょいと海面に流し込む作業」
木曾「」(チッ、マジ戦闘に関しちゃ大井譲りで上手行かれる。悔しいけど相性マジ最悪だぜ…かみ合う気がしねぇ)
北上「正直さ~、単装砲って、何気にわびさびよね~。まっ、今回は運が悪かったと諦めるんだね~」
木曾「はぁ!?まだ終わってねぇだろ!」
北上「うんにゃ、もう終わりだよ。言ったじゃーん!頭はクールに、心はホットって、ほらっ」パチン
ボゴォォォン
木曾「ぐおっ!ま、まさか…小言も全て、戦術の内、かよ……」 大破
北上「ま~、私も漏れなく負けるの大嫌いだからさ。心はホットなワケよ。それにまあ…私はやっぱ基本雷撃よね~」ニヤッ
木曾「くっそ…なんも、できてねぇ…」
北上「今はそれでいいんだよ。やるべき時に木曾っちの本気、みせてちょーだいな」ポンポン
木曾「頭叩くな!///」ブンブン
北上「あははははっ」
阿武隈「あの飄々とした感じ、北上さんって感じだなぁ…」
夕張「北上さんの戦闘スタイル真似ようっても、これは真似ようがありませんね」
利根「ふっ、確かにのう。あれは北上ならではと言った所かのう。らしさが十分にでとったわ」
神通「私達もうかうかしてられませんね」
-Bep vs 夕立-
いきなりに余談だが、駆逐艦達の中で現在最も活躍が著しいのを差別化して宣言すればヴェールヌイ前の響、そして夕立、島風の三者だろう。
響の鎮守府に対する貢献度は度外視で大きいと言える。
夕立、島風も対深海棲艦での働きは暁、電、白露、時雨、春雨と比べれば、その貢献度は群を抜いて頭一つ飛び抜けていると言える。
だが提督はこれまでこれらの事実を褒める事はしても決して格差を明確にする順位等は一切つけてこなかった。
一つは姉妹で要らぬ争いの火種を生み出さないため。
特に白露隊は長女の白露が一番じゃないと嫌だと言う傾向が発言からも見て取れる。
暁隊は現時点で仲の良い三姉妹であり続けている見事なトライアングルの関係に綻びを生みかねない、と提督はそれぞれに判断し、能力や貢献の差別化を一切行っていなかった。
だが、ここにきて偶然にしろ駆逐艦の中でトップスリーを争う内の二人が演習で激突する事になってしまった。
これは果たして凶と出るのか吉と出るのか…結末は運命のみぞ知る。
電「暁ちゃん、ベルちゃんきっと勝てるよね?」
暁「とーぜんよ!」
島風「どれだけ速くなったのかな!?」
暁「しらない!」
島風「ぶーぶー」
時雨「余りこういうのはしない方がいいと思うんだけどね」
白露「大丈夫だって!この勝負は夕立が一番よ!」
春雨「えっと…ゆ、夕立お姉ちゃんなら心配要らないかなって、私は思います」
時雨「あはは、そういう事じゃなくてね。響は病み上がりなんだから、そんなに急く必要もないんじゃないかって、僕は思ったんだ」
白露「ま、まぁ…言われればそうだけど」
夕立「一つ確認っぽい」
Bep「何かな?」
夕立「演習でも、身内でも、私は負けるのだけは嫌なの。だから、響には悪いけどやるなら全力で私はやるっぽい」
Bep「勿論、私もそうしてもらわないと困る」
夕立「そう、良かった」クスッ…
Bep「……っ!」サッ
夕立「なら、思う存分戦れるね!」バッ
春雨「え…?」
白露「え、ちょっと…何魚雷を空中に放り投げてるのよ!?」
時雨「あの子の魚雷は少し特殊でね。着弾式じゃなくて時限式なんだよ」
春雨「え…!?そ、そんな魚雷存在するの、時雨お姉ちゃん…?」
時雨「ふふ、僕も最初聞いたときはビックリしたよ。けど、夕張仕様って聞いて妙に納得したのを覚えてる」
時雨「ふふ、僕も最初聞いたときはビックリしたよ。けど、夕張仕様って聞いて妙に納得したのを覚えてる」
夕立「いくよっ!」ヒュンッ ガンッ ガンッ ガンッ
Bep「魚雷を、蹴り飛ばした!?」
空中に魚雷を無造作に放り投げ、それを夕立は三方向へそれぞれ蹴り飛ばす。
そして自身はヴェールヌイからは見えなくなるように、海面を足で蹴り、高い水飛沫を上げて姿を晦ます。
ザバァァン
Bep「くっ、水飛沫で目晦ましか…!」
バシュッ
直後、その水飛沫を突き破って夕立が一気にヴェールヌイとの間合いを詰めて接近する。
夕立「さぁ、ステキなパーティしましょう?」グッ
Bep「なっ…近接格闘!?」(最初の魚雷の行方も気になる…次の目晦まし、これが海面に波紋を呼んで魚雷の射線確認が容易じゃなくなってる。更にこの水飛沫は虚を突いて私を固定するための言わば餌……本命は間合いを撹乱して、一気に近付くための布石)サッ
ビュオッ
Bep「くっ」ガガガッ
夕立「ダンスはお好き?」クルッ
Bep「余り得意じゃないが…」クルッ
急な展開に虚を突かれるも、夕立の踊るような蹴りの連撃を艤装を器用に操り防ぐヴェールヌイ。
ガシィッ
夕立「それっ!」バッ
Bep「くっ」(私の艤装を足がかりにして、飛び退いた……まさかっ)
夕立「」ニコッ
Bep「しまっ……!」
不敵に、と表現するのが適したかのような笑みを夕立が浮かべた直後、ヴェールヌイの足元から魚雷が飛び出る。
ボゴォォオン
夕立「忘れた頃にってのがいいっぽい」
暁「あぁっ!」
電「ベルちゃん!」
島風「おー…連装砲ちゃんもビックリレベル」
白露「ゆ、夕立ってこんな凄かったっけ…?」
時雨「僕が知る限りは…うん、強いと思うけど」
春雨「言葉になりません…」
モクモク……
Bep「……ハラショー。少し時間を掛けすぎたみたいだね。計算ミスだ」 被害軽微
夕立「」(いくつか夾叉で命中しなかったの?ううん、彼女の言葉通り…設定時間を失敗したっぽい)チャキ チャキ
Bep「その魚雷、怖いから私からは近付かない事にするよ」
夕立「ご自由に」
Bep「スパスィーバ。それじゃ、私はこのまま次の夕立の動きを観察させてもらおう」
時雨「時限式魚雷……夕立の扱うこいつは、言い換えれば自分の好きなタイミングで発破させる事が可能って部分にある」
白露「ふんふん、つまり?」
時雨「姉さん…」アセ
白露「な、なによーっ!」
時雨「はぁ…つまり、待ちの戦法…相手を焦らすって方法は取れないのさ」
春雨「メ、メモしておこう…」カキカキ
島風「夕立すごーい!」
暁「ふ、ふん!響のほうが凄いに決まってるじゃない!」
電「けど、夕立さんの魚雷は思いのほか厄介なのです…」
暁「た、確かにね…夕立のあれ、きっと夕張にでも作ってもらったんでしょうけど、もしも深海棲艦であんなの使ってるの居たら、私だったら回れ右、なのは…悔しいけど確か、かな」
島風「んー、でも、あれ突破する方法はあると思うよー?」
電「ふぇ?」
島風「まぁ、自己流だけどねっ!響ちゃんが出来るかどうかはわかんなーい」
夕立「そっちが近付かなくても、こっちが近付く場合はどうする?」バッ
Bep「その場合は、こうするさ」ジャキッ
夕立の動き出しに合わせ、ヴェールヌイは両手に持った主砲を一斉射する。
ドン ドン ドン ドン
夕立「」(射撃の間隔が短い。凄い早い…!)
Bep「ウラー!」ドン ドン
夕立「くっ…!」サッ
気合い一閃、ヴェールヌイの雨のように続く砲撃を掻い潜るのに精一杯だった夕立もついに捉まる。
ボゴォォン
夕立「……」 小破
Bep「さぁ、次はどうする?」ジャキッ
夕立「夕立、突撃するっぽい」キッ
Bep「…ッ!」
白露「あ、夕立が…」
春雨「す、凄い睨んでる…」
時雨「これは…」
島風「あれ、ヤバくない?」
暁「な、なんか滅茶苦茶怒った顔してるわね…」
電「で、でもでも…これは演習なのです。そ、そんなまさか本気で怒ったりなんて…」
夕立「ソロモンの悪夢、見せてあげる!」バシュン バシュン バシュン ザッ
Bep「くっ…!なんだ、この急激な勢いの増しは…!」
演習と言う枠を超えて夕立の瞳が怪しく揺れたかと思うと、ヴェールヌイの立つ射線上には三本の魚雷が真っ直ぐに突き進み、それを発射したであろう夕立の姿は既にそこには居なかった。
Bep「ど、どこに…!?」
夕立「正面よ!」
Bep「なっ」スッ
夕立「遅いっ!」ブンッ
バキィッ
Bep「ぐっ」 バシャァァァァン 被害軽微
真横から至近距離で正面に再度現れた夕立は、行動を起こす前にヴェールヌイを更に後方へと蹴り飛ばす。
その夕立を魚雷が追い越し、ヴェールヌイの居る場所で彼女に触れるより手前で……
ボゴオォォォン
大爆発を起こした。
時雨「ほ、本気、みたいだね…これは僕も、相手にしたくないなぁ…」ニガワライ
白露「ゆ、夕立怒らせるのはやめよっか…」アセ
春雨「お、お姉ちゃん達ぃ…!」
島風「夕立、速い…!う~、私も夕立と勝負してみたーい!」ウズウズ
暁「響ぃ!」
電「だ、だいじょーぶ。きっと…!」ソワソワ
Bep「はぁ、はぁ…あ、危なかった。だが、まだだよ…まだ、私は沈まんさ」 中破
夕立「……はぁ、ひーびき。無理はしたらダメっぽい」
Bep「……え?」
これからだ、と臨戦態勢を取り直したヴェールヌイとは打って変わり、夕立はぷーっと頬を少し膨らませ、彼女に対して注意喚起する。
夕立「少し熱くなり過ぎちゃった。そこは反省するっぽい。響はまだ病み上がりなんでしょ?そんな体で、フルタイムで夜戦仕様まで突入したら演習の意味なくなっちゃうよ。何より、暁ちゃん達に私が怒られるっぽい」
Bep「夕立…」
夕立「実際に手合わせした私が一番解ってる。響は強い!それに、私もまだまだ欠点だらけだしね。演習なのにムキになって少し周り見えなくなりそうになるし…」
Bep「いや、夕立の言うとおりだ。私もまだ焦りがあったのかもしれない。感謝するよ、スパスィーバ」
夕立「次やる時は、肩を並べて一緒に戦うっぽい!」
Bep「ああ…うん、そうだね。その通りだ」
暁「あ、あれ…?」
島風「なんか終わってる?」
時雨「どうやら夕立が響の体を案じて停戦を言い渡したみたいだよ」
電「あ、時雨さん」
春雨「え、演習ですからね。無理は、良くないです」
暁「ま、まぁ…確かにそうよね!」
白露「演習で怪我なんてしたくないもんねっ」
かくして、今回の演習は────
赤 vs 白
中破 大破
陸奥 vs 衣笠
中破 大破
龍驤 vs 大鳳
大破 大破
川内 vs 羽黒
無傷 大破
北上 vs 木曾
小破 中破
夕立 vs Bep
明暗の分かれる試合もあったが、甲乙つけがたいものとなった。
~Extra Operation:艦娘奪還作戦~
-鎮守府-
榛名「あ、頭が…痛い、です」フラフラ
提督「お前、長門や先輩相手に酒で戦おうなんて無謀にもほどがあるぞ」
榛名「うぅ、罠です…」
提督「ったく、これに懲りたら自分の限界をきっちり解っておくんだな。お前運ぶのに苦労したんだからな」
榛名「め、面目ないですぅー」
提督「ホントに大丈夫かよ、おい…」
榛名「は、榛名は、大丈夫です」
提督「大丈夫そうじゃねー…今は榛名、休んでろ。そっちのスペースにソファーあるから。二日酔いなら午前中だけでもゆっくり休んで水でも飲んでりゃ直によくなる」
榛名「うぅ、榛名、待機命令、了解です…」
提督「待機じゃないっての…まぁいいや、ほら休んどけ」
カリカリカリ…
提督「…………」ポン ポン
榛名「……あの、提督」
提督「ん、なんだ」
榛名「お、落ち着かないと、言いますか…その、なんと言うか」
提督「我慢しろ」
榛名「は、はい…」
提督「…………」カリカリ…
榛名「……」チラッ
提督「…うーん、夕張と霧島の提出してきたこのデータ表、ハンパねぇな。あの二人どうなってんだ」
榛名「……」ジー
提督「えーっと、あぁ?なんだこりゃ…木曾はちっとはまともになったが、北上のやろうは相変わらずか…」
榛名「……」モジモジ
提督「うっし、報告書はこれで全部だな。北上のは排除してっと…ったく、何がスーパー北上さまの遠征報告書だ……舐めてんのか。内容報告がただの日記じゃねえかよ…イルカちょーかわいいじゃねぇ!」
榛名「て、てーとくー…」
提督「んん、今度はなんだ?」
榛名「そ、その…恥ずかしくて寝られない、と言いますか…」
提督「…はい?」
榛名「寝顔を見られたくない、と言いますか…」
提督「……この場で寝て、俺に寝顔見られるだけで午後は元気になるのと、このまま気分最悪のまま仕事頑張って倒れた上に皆に心配されつつ、その全員に寝顔見られるの、どっちがいい?」
榛名「む、むごい選択肢を…」
提督「カーテンで仕切りもしとくし、別に誰かに言い触らしたりとかしねぇから安心して寝てろ」
榛名「ふぁい…」
提督「海軍割烹術参考書のレシピを基にした海軍カレー…ほ、他は!赤城や瑞鳳、龍驤は何がいける!」
飛龍「赤城さんは刺身なら捌けるって。瑞鳳はー…ハンバーガーとか作れる、とかなんとか…」
提督「龍驤は……まぁ、勢いでなんか作るな、あいつは」
飛龍「あははっ」
提督「そうそう、以前にご馳走してもらったんだが大鳳のカレーも美味かったぞ」
飛龍「むっ、既に大鳳の手料理を!?」
提督「おう、なんか先輩んとこに居た時はよく作ってたとかで手際よくてな」
飛龍「提督も隅に置けませんねぇ」
提督「ばっ…ちげぇよ。そういうんじゃねぇって!」
飛龍「うんうん、まぁでも榛名に余計な誤解させないようにしないと、大変ですよっ!取り敢えず、昼食はカレーって事でそれじゃいいですかね?」
提督「おう、本場の海軍カレー、期待してるぞ」
飛龍「了解ですっ!赤城さん達と調理に取り掛かりまーす!ではっ、失礼しました!」
ガチャ…パタン
提督「……」チラッ
榛名「……」ジー…
提督「」ビクッ
榛名「どーせ榛名はまだ手料理ご馳走してませんよー…」
提督「あ、いや、そういうんじゃなくてね?以前にね?ね?聞いてるかな、榛名くん?」
榛名「榛名、待機命令、了解です…」ゴソゴソ プイッ
提督「あっ、こら!話を聞けぇ!」
-調理場-
飛龍「……って事でっ!」
瑞鳳「横須賀仕込の本場海軍カレーの作成ですね!」
龍驤「腕が鳴るで~!」
大鳳「レシピ、是非とも覚えたいわ!」
赤城「食べます!」
飛龍「作れっ!」
赤城「」(´・ω・`)
瑞鳳「えっと、まずは…材料ですね!」
飛龍「えっとね…カレー粉、小麦粉、お肉は何がありましたっけ?」
赤城「うーん、確か間宮さんがどうぞって言ってくれたのが……あ、ありました。鶏肉ですね」
飛龍「ヨシッ!あとは、それじゃあ…ニンジン、タマネギ、ジャガイモっと…塩に、お米っと…うん、全部ある!」
龍驤「役割分担決めてチャチャッといったろや!全員分作るんは骨が折れんでぇ」
大鳳「ええ、そうね。それじゃ、私は野菜切るのと、サラダを一緒に作っちゃうわ」
飛龍「大鳳、タマネギ、ニンジン、ジャガイモは四角く賽の目に切ってねっ!」
大鳳「ええ、任せて」
赤城「私はお米研いじゃいますね」
瑞鳳「それじゃー、私は大鳳さんが切り終わるまでにフライパンあっためて、準備しておきます」
龍驤「飛龍~、このチャツネってあるん?」
飛龍「あっ、それはここに!」
龍驤「おぉ、準備ええな!せやったらウチも赤城だけやと大変やろし、一緒に米研ぎ手伝ったるわ」
赤城「それじゃ、大急ぎで炊き込みまで済ませちゃいましょう」
龍驤「よっしゃ、いっちょ気張りますか!」
-食堂-
ワイワイ ガヤガヤ
提督「具合はどうだ、榛名」
榛名「だ、大分良くなりました…」
提督「ん、何よりだ」
榛名「あ、あの!」
提督「ん?」
榛名「あ、えっと…提督はやっぱり、その…手料理、とか……そういったの、好き、ですか?」
提督「はは、何だよ急に。そりゃ好きな人の手料理や楽しい仲間と一緒に作る料理にケチつける奴なんてそうは居ないだろう。何より、達成感や幸福感がそういった料理は違う。格別にな」
龍驤「おーおー、同伴出勤みたいになっとるなぁ」ニヤニヤ
榛名「なっ…!」
赤城「あらあら、お熱いですね?」クスッ
提督「はぁ…ったく、一々茶化すな」ムスッ
榛名「赤城さんまで、ふざけないでください!」プンプン
赤城「ふふ、怒られてしまいましたね?」
龍驤「にししし、ウチは別に気にしてへんで~」
瑞鳳「あっ、提督、榛名さん!お席、ちゃんと用意してありますよ!」
榛名「あ、瑞鳳ちゃん」(か、割烹着姿の瑞鳳ちゃん可愛い…)
瑞鳳「さぁさぁ、座って下さい!」
提督「お、おいおい…!そんな急かすなって」
赤城「さぁ、どうぞ」
提督「おっ、すまんな」
榛名「大鳳さんと飛龍さんは厨房の方ですか?」
龍驤「せや。おっそろしいスピードで盛り付けてんで。手際がもう神の領域や」
飛龍「ヨシッ!第二次給糧搬送の要を認めます、急いで!」
大鳳「さぁ、配るわ!第六○一航空隊、給糧始め!」
赤城「艦載機を利用して着席してる所に片っ端から配ってますね」
提督「すげ…」
榛名「器用なのか、そうじゃないのか…」
提督「それより見てみろ、榛名。これが海軍割烹術参考書のレシピを基にした本場の海軍カレーだぞ!」
榛名「カレーライスと、サラダと、牛乳、ですか?」
提督「ああ、海軍カレーを名乗るならこの三点は絶対外せん。調理に使用する材料も決まってるんだ」
榛名「えぇ!?そ、そうなんですか!」
提督「決められた材料、決められた調理法、決められた品を添えて、初めてそれは海軍カレーと名乗っていいのさ」
榛名「はぁ…そうだったんですねぇ」
提督「しかもこれは飛龍が海軍割烹術参考書ってレシピを基にして作った本場の海軍カレー。しこたま美味いぞ」
榛名「提督って、カレーの話する時は子供みたいですね」クスッ
提督「な、なんだよ。海軍っていったらカレーだろ!マジで美味いんだからな!?提督なったばっかのときに、横須賀での実技研修に通ってたんだが、そん時に出されたのがこの海軍カレーだったんだよ。もう滅茶苦茶美味くてなぁ…あれを食ったら、もう他所のカレーなんて食えないっての」
榛名「うふふっ、はいはい。解りましたから、早く食べましょうよ。はい、それじゃ頂きます!」
提督「あ、こら!待て、まだ話は終わってないだろ!」
-遠征組-
衣笠「いやー、まさか戦艦組が同行してくれるなんてねぇ。願ったり叶ったり♪」
羽黒「敵方の補給戦線の断絶が今回の任務ですけど、こうもあっさりと発見できるものでしょうか?」
比叡「うーん、確かにねぇ。霧島はどう思う?」
霧島「考えられるのは、一つは羽黒が危惧するとおり、罠の可能性。それならわざと発見されやすい航路を選択してても不思議はないわ。もう一つは、馬鹿だった、としか言いようがないかも…」
時雨「ふふ、辛らつだね」
春雨「な、何もないのが一番です!」
比叡「まっ、無理はせずってのが提督の命令だしね。囲まれる前に全力で叩きましょう!」
霧島「私と比叡姉さまで後方から援護射撃をします。そこから時間差で、今度は衣笠と羽黒が主砲で敵の護衛艦の牽制…気を逸らした所で、側面から時雨と春雨が間近まで一気に近付いてでかいの一発、急所にお見舞い」
比叡「その頃には私達も換装済んでるから第二射いけるし、護衛艦を吹っ飛ばされて浮き足立ってれば相手の陣形もバラッバラになってるだろうから、立て直しさせるまもなく各個撃破できれば、勝利はこっちのもんだね」
衣笠「胆は時雨と春雨が自由に動けるように、注意を私達四人に引き付ける事ね」
羽黒「やってみせます!」
時雨「春雨、落ち着いてやればいいよ。焦る事はない」
春雨「は、はい!」
衣笠「出来るだけ私達もカバーするよ!」
霧島「後ろは気にせず、前だけ見て対処するといいわ」
春雨「はいぃ!」プルプル
時雨「あはは、緊張しすぎだよ、春雨」
春雨「け、けどぉ、時雨お姉ちゃん…」
時雨「いいかい、春雨。そういう時は、こうやって…」
春雨「ひ、人、人、人?」
比叡「あはは、昔馴染みのおまじないだね」
こうしたやり取りから凡そ三十分後、衣笠を旗艦とした遠征艦隊は消息を絶つ。
そして、彼女達が消息を絶ってから更に今度は一時間後、大本営からではない、明らかに違う作戦命令の電文が提督鎮守府に届く事になる。
-作戦名:艦娘奪還作戦-
■■■■■■■■番電
「発 離島棲鬼・ピーコック
宛 提督鎮守府一同
翌 一三○○ヨリ コノ作戦ヲ敢行サレタシ
諸君等ニ拒否権ハ無イモノトシ 又放棄スル事ハ 預カリシ艦娘ノ処遇ガドウ成レド構ワナイトスル
周リノ鎮守府ヘ救援ヲ要請シタ場合 之ヲ作戦上ニ因ル違反行為ト見做シ 即時艦娘ノ処断ヲ執行ス
大事ナレバ 諸君等ノミデ現地ヘ参ラレタシ 場所ハ南方海域 珊瑚諸島沖
付ケ加エ告ゲルガ 上記内約ヲ違ワヌ限リ 艦娘ノ命ハ保障スル事ヲ約束スル
諸君等ニ対シ未来星霜光輝カン事ヲ」
-執務室-
バンッ
提督「比叡や霧島、それに衣笠や羽黒も随艦させたってのに、くそっ!」
金剛「提督、比叡達ならきっと大丈夫」
榛名「そうです。霧島だって、そんな軟じゃありません!」
提督「…すまん。時間がない。敵の目的が皆目見当もつかない以上、議論の余地はない。急ぎ準備を整えてくれ」
榛名「了解です!」
金剛「第一艦隊は私が指揮を取りマス!」
提督「解った。編隊を発表する。残っている艦娘全員を作戦会議室へ招集しろ」
-会議室-
提督「とにかく、敵の目的が解らない以上、細かい作戦概要は立てられない。よってこの作戦にはこの鎮守府の可能な限りの最大戦力を注ぎ込む」
木曾「つっても、鎮守府留守にする訳にはいかねぇだろ。考えたくはねぇが、相手がここを狙わないって保障はないんだしよ」
提督「ああ、木曾の言う事も尤もだ。だから、出向くのは第一艦隊のみ、残りのメンバーは鎮守府の防衛に当たって貰うことにする」
陸奥「少数精鋭って訳ね」
金剛「旗艦は私、金剛が引き受けマス」
提督「随艦は榛名、赤城、大鳳、北上、川内で頼む。近海の哨戒には第二艦隊として飛龍を旗艦に瑞鳳、陸奥、利根、神通、阿武隈の六名。残りのメンバーで鎮守府の防衛をしてもらう」
提督「よし、全員揃ったな」
金剛「Perfect!準備万端ネ!」
榛名「燃料、弾薬、補充は完了してます!」
赤城「艦載機の子たちも錬度良好です」
大鳳「こっちもコンディションバッチリよ」
北上「まっ、今回は気合入れていきますか」
川内「とは言っても、比叡や霧島、衣笠に羽黒、時雨に春雨…駆逐艦の二人はまだしも、前者四人がそうあっさりと負けるとは到底思えないんだよね。ってことは、やっぱ不意突かれたとかで捕縛されたのかな?特に、羽黒は気配を感じ取れるくらい敏感な神経持ってるんだよ?」
提督「解らん。だからこそ用心が必要だ。すまん、俺は戦線に参列できない。だからお前達に託す」
榛名「提督…」
金剛「何言ってるデース!提督の執る指揮があって、はじめて私達は動けるんですヨ!それに、私は提督に感謝してもしきれない恩がありマス」
提督「え?」
金剛「私や比叡、霧島を救ってくれた事、榛名を守ってくれた事、そして…再起への道を開いてくれた事!この瞬間、この場面こそ、私が提督へ恩をお返しする最大の見せ場デス!見ててくださいネ、提督!必ず、比叡達を救出して、十二人全員で戻って見せマス!」
赤城「金剛さんの言うとおりですよ、提督」
大鳳「はい!」
北上「良いねえ、しびれるねえ…!」
川内「えへへ、私達にしてみれば今更だけどね!」
榛名「離島棲鬼・ピーコック…おそらく、泊地棲姫と同等かそれ以上の深海棲艦のはずです。ですが、私達は決して負けません。提督の下へ、また戻りたいから」
提督「ああ、戻って来い。必ず戻ってきてくれ!」
-珊瑚諸島海岸-
ピーコック「さて、馬鹿正直ニ相手は来るカシラ?」
フェアルスト「海軍、ト言うのハ私が知る限り最モ約束ヲ果たソウとする組織だ。無駄にね」
ピーコック「ウフフ、辛辣ねぇ…そんな事言っタラ、可哀想じゃナイの」
フェアルスト「私は、貴女の付き添いだケド、個人的に彼女達には知らしメテあげないといけナイの…」
ピーコック「知らしメル?それは、私も一緒ヨ……この傷跡、一生消えナイ、この傷……同じ分ダケ、刻んで上げなきゃ、私だって狂ッテしまうわ」
フェアルスト「フフ、つくづく共感出来る部分がズレるわね。なのに、噛み合う……私は再度、アイアンボトムサウンドの恐怖を刻み込む……」
ピーコック「私は、ウェーク島の戦いで負った傷跡ヲ癒すの……きっと、彼女達ヲ沈めれバ沈めた分ダケ、私は心の底カラ安堵し、癒さレル……リコリスにはああ言ったケド、遠征なんて気分デ戦いナンて無理よね。ねぇ、あなた達だってソウ思うでしょう?」
比叡「くっそぉ……!」ギリギリ…
フェアルスト「足掻くダケ無駄よ。そんな状態デ、何が出来るノ?」
霧島「黙りなさい!」
ピーコック「あなたが黙りナサイ?」ビュッ
ドスッ
霧島「がはっ…」
比叡「霧島っ!や、やめろ!」
衣笠「私達を、どうするつもりなのよ」
フェアルスト「餌よ。貴女達ハ泊地棲姫を沈メタと言う、艦娘を誘き寄セル餌…」
羽黒「必ず、貴女達は後悔しますよ」
フェアルスト「そう願う。でなけレバ、こんな下らナイ真似をシタ意味がない」
春雨「……」
時雨「大丈夫かい、春雨」
春雨「う、うん…」
時雨「安心して。きっと、提督や皆なら成し遂げてくれる…雨は、いつか止むさ」
フェアルスト「……そう、こんな下らナイ真似をする程に脆弱。本当に貴女達、泊地棲姫ヲ倒したの?捕らえらレル位、弱いのに?」
比叡「…解ってないよ」
ピーコック「あら、マタ何か言い訳?」
比叡「言い訳……ああ、別に言い訳でもいいよ。実際に私達は捕まった訳だしね。けどね、あんた達のやったこの行為自体が、自身の首を絞める結果になるよ」
霧島「……余り、彼女達を舐めない方が、良いわよ」
ピーコック「随分と強気なノネ。まぁ、ソレでも構わないケド…味わう絶望ハ深ければ深いダケ、より深刻で根深く楔トなって心の奥底ニ打ち付けラレル……」
-海上-
赤城「不気味ですね」
大鳳「深海棲艦の哨戒、偵察隊すら居ないなんて…」
北上「まっ、目的地で罠張ってるから道中なんてどーでもいいって感じなんじゃなーい?」
川内「気に入らないねぇ」
金剛「それでも油断は禁物デース!赤城、大鳳は周辺の索敵を念入りに、私と榛名も水偵を飛ばして警戒するネ!」
榛名「ですけど、この天気…嵐になるかもしれません」
金剛「……出来れば、比叡達を救出するまでは持って欲しい所ネ。Hey!提督、聞こえてますカー?」
提督『ああ、聞こえてる。経過時間からして、これが一旦最後の通信だな』
金剛「提督、私達戻ったらとびっきりの紅茶用意して出迎えて欲しいヨ」
提督『お前より紅茶に疎い俺に用意させるのか?』
金剛「Oh…そうでした、提督は珈琲派でした……」
川内「あはははっ、残念だったねぇ、金剛」
金剛「うぅ…でも私は諦めません!必ず提督に紅茶の良さを解って貰うデース!」
提督『なら、期待して待ってるよ。さっきからキリも煩くてな。飼い主不在だと色々と問題だ』
金剛「No problem!私を信じるネー」
榛名「お姉さま、そろそろです」
金剛「OK…提督、行ってくるネ」
提督『ああ、頼んだ』
金剛「すぅ……はぁ」
榛名「…いつでも行けます。号令を!」
赤城「一航戦の誇り、お見せします!」
大鳳「ガンガンいきましょう!」
北上「ギッタギッタにしてあげましょうかね!」
川内「見せてやろうじゃない、私達の実力ってやつをさ!」
金剛「Yes!川内の言う通りネ!さあ、私たちの出番ネ!Follow me!皆さん、ついて来て下さいネー!」
-珊瑚諸島沖-
ピーコック「……時間」
フェアルスト「……驚いた。本当に来るトハ…しかも、律儀に六隻ねぇ……フフ、余程の自信がアルのか、それトモただの馬鹿なのか、コレは見ものネ」
ピーコック「教えてアゲル…どれほど自分達が愚かデ惨めカ、無様カ、無力ナノかを…!」
川内「あれは……」
北上「何さ、あれ…」
大鳳「今までの、深海棲艦とは違う」
赤城「艤装と人型が、分かれてるの…?」
フェアルスト「ふふ、まずはご苦労様、ト言えばイイのかしら?」
金剛「比叡達は何処ネ!」
ピーコック「この先、珊瑚諸島の海岸ニ打ち上ゲテ拘束サセてもらってるわ」
榛名「何が目的でこんな真似を…!」
ピーコック「泊地棲姫を沈めたンデすってね?」
フェアルスト「その力、見セテ貰おうと思っタノヨ」
金剛「そんな、理由で…!」
ピーコック「私は離島棲姫・ピーコック」
フェアルスト「私は戦艦棲鬼・フェアルスト」
ピーコック「フフ、ここまで来たんだモノ……いいデショウ?」
フェアルスト「どうせナラ、アイアンボトムサウンドに沈めて上げタイ所だけど……」
金剛「Shut it!どんな理由であろうと、この行いは……!」
榛名「お姉さま、二手に分かれましょう」
川内「北上!」サッ
北上「ほいさ!」サッ
大鳳「赤城さん!」サッ
赤城「問題ありません!」グッ
榛名「榛名!いざ、参ります!」
ピーコック「ハルナ…そう、貴女が戦艦榛名ネ?フェアルスト、彼女は私が相手スルわ」
フェアルスト「構わナイ」
ピーコック「フフッ、海軍もここまでクルなんて、ね……楽しまセテくれるわ」
-榛名・川内・赤城 vs ピーコック-
赤城「第一次攻撃隊、発艦してください!」ビュッ
迷いなく放たれた一矢は海面を滑り一気に上昇、一糸乱れぬ編隊で真っ直ぐピーコックへ向かい突撃する。
だが、それをピーコックは一笑に付し、左手を上げて真っ直ぐに榛名達へと振り下ろし命じる。
ピーコック「哀れ…身の程ヲ教えてアゲルわ」ヒュッ
ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン
赤城「なっ……!」
ボゴオオオォォォォォン
川内「くっ…!なんだ、あの規模で…まさか、一巡目の艦攻艦爆隊だってのか!?」 被害軽微
赤城「相手の艦載機数、底が知れません…!でも、怯みはしません。次に備えます!」 被害軽微
榛名「……なら、あの艦載機を出させはしません!川内さん、被害箇所確認後、追随して下さい!」バッ 無傷
川内「なんの、掠り傷程度よ!」バッ
制空権は辛うじて五分を保ったものの、戦闘が長引けば赤城に軍配が上がる可能性は著しく低くなるのは明白だった。
相手が圧倒的な艦載数を誇る飛行場タイプだとすれば、砲撃は無いに等しいと判断した榛名はその足を活かして一気にピーコックとの間合いを詰めようとする。
BGM:https://www.youtube.com/watch?v=z42yftFIHdg
ピーコック「おバカ、さん……ッ!」クスッ ジャキッ
榛名「なっ…!?」
ピーコック「誰が砲撃はデキナイって言ったかシラ?沈め、水底ニッ!!」ドォン ドォン
榛名「川内さん!射線を…!」バッ
川内「任せて!」バッ
ヒュン ヒュン……ボゴォォォン
ピーコック「チッ…」
榛名、川内、両名共に体を捻って勢いは殺さず、ピーコックの砲撃を回避し、そのまま彼女へ迫る。
その距離、二人の砲撃射程には余りあるほどに接近。姿勢を崩さず狙いを定め、一気に砲撃へ転じる。
榛名「砲撃、開始!」ドォン ドォン
川内「艤装部分がでかい…こいつ、飛行場か何かを丸ごと取り込んでるっての!?」ドン ドン
ピーコック「見せてミナサイ…艦娘の、力ヲ!」ブンッ
ドオオォォォン
ピーコックが片手を振るうと同時に脇に控える艤装の顎が大口を開き、榛名と川内の放った一斉射撃を一気に迎撃する。
榛名「はあぁぁーっ!」
巻き起こった爆風を物ともせず、巻き上がった水飛沫を蹴散らして榛名が一気にピーコックへ肉薄する。
ピーコック「小賢しい、マネを…!」グッ
ドゴォォッ
突き出された榛名の強烈な鉄拳を艤装で受け止め、二人の顔が真正面で向かい合う。
ピーコック「怖い顔…」クスッ
榛名「その余裕が、どこまで続くかお見せします!」グッ
ピーコック「近接戦ナラ勝機があるとデモ言うのカシラ?」グッ
榛名「どんな距離だって関係ありません!私は…私達は、散っていった皆の想いを背負っているから!」ダンッ
ピーコックの艤装を足がかりに榛名が跳躍する。
ピーコック「なっ…!?」グラッ…
川内「ま、まじで!?」
驚くのも無理は無い。
これが現地で見ていた皆が声を揃えて言っていた榛名の『ありえない動き』の根本なのだから。
空中で一回転、姿勢を正して落下の勢いを利用し、ピーコックの艤装目掛けて鉄拳ならぬ鉄脚を打ち込む。
ドゴォォッ
ピーコック「ぐっ…!」 被害軽微
榛名「赤城さんっ!」
赤城「毎度、驚かせてくれますね。準備万端です!第二次攻撃隊、全機発艦!」ビュッ
ヒュン ヒュン ヒュン
赤城「艦載機のみなさん、真っ向からの撃ち合いになります。奮戦を…!」
ピーコック「オノレェ…ッ!この、私ヲ足蹴に…ッ!ケド、それで不意を突いたツモリ?その程度で…空を自由に出来ルト思わないコトねッ!」ヒュン ヒュン
赤城の裂帛の気合いと共に放たれた艦載機は、同時に放たれたピーコックの艦載機と真っ向からぶつかり合う。
しかし、再び空を駆る赤城より発艦された艦載機達の錬度は先とは打って変わって違い、善戦を見せる。
ドォォン ボォォン ボゴオオォォォン
ピーコック「くっ…!ま、まさか…!私ノ艦載機ガ競り負けた!?」 小破
赤城「……」スッ
ピーコック「あの、女ァ…!」
赤城「…装備換装を急いで!次発発艦用意!」チャキッ グッ
川内「ほら、よそ見してるとさぁ!」ビュン ビュン ビュン
ピーコック「……ッ!」バッ
赤城を睨みつけるピーコックの視界に三つの黒い物体が高速飛来するのが映り、反射的に彼女は身を仰け反らす。
ジッ…
しかし、回避に一瞬遅れて一つが僅かに艤装を掠めたその瞬間。
ボゴオオォォォン
ピーコック「くあ……ッ!」ザザザッ 小破
川内「あんま舐めないでよね。榛名の名前しか覚えてないってんならさ、後学の為に私たち全員の名前、覚えておいてよ。榛名の事は知ってるんだよね?で、あっちが赤城、赤城型一番艦正規空母の赤城、で…私が川内って言うの。川内型一番艦軽巡洋艦の川内…軽巡は眼中にないってんなら、教えてあげるよ。熟成された軽巡の魅力、心行くまでたっぷりとね!」
ピーコック「……ス」
榛名「…?」
ピーコック「……コロスッ!」ビュッ
ピーコックの瞳が真紅の輝きを放った瞬間、その残光だけをその場に残して本体は川内の背後に出現した。
川内「なっ…!」
榛名「川内さん!」
ピーコック「……遊びハ、終わりヨッ!」ドシュッ
川内「ぐっ……かはっ…!」 中破
ピーコック「邪魔よッ!」ドンッ
川内「ぐあっ!」バシャァァァン
片手を刀のように見立て、川内の背を袈裟に切り裂き、よろめいた彼女をそのまま回し蹴りで吹き飛ばす。
ピーコック「艤装の一片スラも余さず、全て喰らい尽くシテ上げるわ…!」ギラッ
-金剛・北上・大鳳 vs フェアルスト-
金剛「大鳳はOut range、北上はHit&Away…常に間合いに注意するネ」
北上「おっけー。まっ、人質とか腐った真似する連中には人道ってもんをきっちり叩き込んで上げましょうかね」ジャキッ
大鳳「了解よ。北上さんの雷撃を合図に発艦させます!」サッ
北上「いくよっ!四十門の酸素魚雷は伊達じゃないからねっと!」バシュンッ
フェアルスト「重雷装巡洋艦…先制雷撃か。オモシロイ」サッ
北上「えっ!?」
フェアルストは避けるでもなく、ただ左手を前面に翳して合図を送る。
その直後、背後に控える巨躯の艤装がフェアルストの前面で両腕を交差させ、鉄壁の防御姿勢を取る。
ボゴォォォォン
大鳳「第一次攻撃隊、全機発艦!」ヒュン ヒュン
モクモク…
未だ冷め遣らぬ水飛沫と爆煙の中、大鳳の放った艦載機が一気に突貫する。
ボゴォォォォン
盛大な爆発音を轟かせ、更に爆煙を巻き上げる中で、裂帛の声が三人の耳に届く。
フェアルスト「ハァッッ!!」
艤装「グオオオオォォォ……ッ!!」
ボフゥゥゥン……
金剛「なっ…!」
大鳳「……っ!」
北上「ま、まさか…」
三人の声にならない驚嘆と感じ取った危惧はその発せられた気合いの声が物語る。
爆煙を蹴散らし、威風堂々と元居た場所から微動だにせず、彼女はそこに立っていた。
フェアルスト「コレガ本気?コレガ覚悟の一撃?コレデ渾身を込めたのダトしたら……」ニヤァ… 無傷
金剛「……」
大鳳「……」
北上「……」
フェアルスト「……安い覚悟ネ?確かにコレでは…遠征とも言い難い。遊びニモならないワネ」
金剛「…覚悟が足りないかどうか、それはFirst Attackのみでは計れないネ」
フェアルスト「あら、ソウ?それなら……」グッ
金剛「見せて上げるネ。金剛型一番艦、戦艦金剛の戦闘ッ!」ザッ
フェアルスト「……見せてみなサイッ!」ザッ
互いに構えを取り、砲撃ではなく一足飛びで海面を蹴り、金剛とフェアルストの間合いが詰まる。
フェアルスト「ハァッ!」ブンッ
金剛「……ッ!」サッ
フェアルスト「ふぅん…」
金剛「絶対、負けない!」ブンッ
パァァン
フェアルスト「……ッ!」(コノ艦娘…!)ギリギリ…
金剛の正拳突きを受け止めたフェアルストの表情が先とは明らかに変わる。
だがその余韻に浸る間も無く、フェアルストは次に湧き出た気配に意識を集中させた。
北上「一発で余裕ってんなら、お好みの数…ぶち込んで上げましょうかね!」ジャキッ
フェアルスト「フン、構わないワ。好きなだけ撃てばイイ」シャッ
金剛「Shit!」サッ
北上「あんま調子に乗んなーっ!」バシュンッ バシュンッ
フェアルスト「バカな子……」パシッ パシッ
北上「うげっ…!」
フェアルスト「初撃、開幕に放たレタ雷撃……面白かったワヨ。着弾よりも前デ爆発スルんだもの…」
北上「」(迂闊だった…夕立っちの魚雷、一部借りて見たものの、タイミングを間違えてたんだ…!)
フェアルスト「フンッ!」ブンッ
金剛を回し蹴りで後方へ押し遣り、その合間を狙ってきた北上の魚雷を臆す事無く両手でそれぞれに掴み取ったフェアルストは、間髪入れずにそれを北上へ向かい投げ返す。
金剛「北上!」
北上「このっ!」バシュンッ
ボゴオオォォォン
北上「ぐっ…!げほっ、こほっ…」 小破
フェアルスト「器用な真似をスル。苦しむ時間が増エルだけダト言うのに…」
後方へ飛び退きながら北上は狙いを定めて魚雷を発射し、送り返された魚雷とぶつけて誘爆を引き起こした。
だが間合いが近かった事で誘爆に巻き込まれ、自身のみが痛手を負う結果となってしまった。
大鳳「あのまま攻勢に出られるのは不味いわね。第二次攻撃隊、発艦!」サッ ヒュン ヒュン ヒュン
フェアルスト「ッ!」バッ
大鳳の攻撃態勢を察し、フェアルストは三人との間合いを大きく取ると右手を上空へ翳す。
フェアルスト「……全機、撃チ落ス!一斉射ッ!!」
艤装「……グオオォォォォッ!!」ドォン ドォン ドォン ドォン
ボォォン ボボボボンッ ドオオォォォォン
大鳳「なっ…!」
フェアルスト「……温い。温い、温い、温イ、温イ、温イ、ヌルイヌルイヌルイッ!コノ程度なの?貴女達艦娘の力と言うノハ、この程度デシかないの?コノ、程度の……やはり、沈むベキね。憂いは、この海域がアイアンボトムサウンドでは無かったト言うコトかしら。恨むなら、自らの脆弱な力ヲ恨むコトね」
北上「ふざけんな…!」
金剛「Hey!北上…ここは私に任せるネ」
北上「はぁ?ちょ、一人でやる気なの!?」
金剛「北上こそ、頭冷やすネ。無理は良くないヨ。大鳳も、この深海棲艦には不意でも突かないと艦載機の一撃はきっと通らないネ」
大鳳「くっ…」
僅か短時間で川内、北上の両名が負傷。
ピーコックに対してはある程度の手傷を負わせたものの、逆鱗に触れたのか圧倒的な力を解放される。
結果として榛名と金剛がそれぞれに導き出したのは無駄な手傷をこれ以上身内に負わせない、と言うものだった。
二人のこの決断は、結果として人質として捕まってしまった比叡達六人を無事救出する事へと繋がる。
そして同時に、二人の姉妹にとっても大きなターニングポイントになる。
-珊瑚諸島沖-
赤城「榛名さん!」
榛名「大丈夫です。それより、赤城さんと川内さんは捕らわれている比叡お姉さま達の救出を!」
川内「ごめん、私がドジってなきゃ…」
榛名「関係ありません。失敗だって、手違いだって、なんだってあります。だから、私達は手を取り合って協力するんじゃないですか。倒せなくとも、抑える事くらいはできます」
川内「…りょーかい。ありがとね、榛名!赤城、行こう!」
赤城「ご武運を、榛名さん…!」
榛名「はい!」
金剛「大鳳、北上、先に海岸の方へ行って比叡達の救出をお願いするヨ」
大鳳「だけど、それじゃ…!」
北上「金剛っちはどーすんのさ!」
金剛「まだまだ、私の実力の全てを見せたわけじゃないワ。それに、比叡達の救出が本来の私達の任務ヨ」
北上「いいんだね…?」
金剛「No problem!任せるネ!」
大鳳「了解!絶対に救出する!」
金剛「北上達の邪魔は私がさせないヨ。任せて!」
フェアルスト「ピーコック」
ピーコック「……あの、虫けら共……絶対に、コロスッ!」
フェアルスト「」(あの榛名と言う艦娘ダケ、一人突出シテるの?いいえ、他の連中も今マデ沈めてキタ艦娘と比べれば、ダントツの強さヲ誇ってイル。あのピーコックが、制空権を取り損ネルのも驚嘆シタ……そして私が相手をしてイルこの者達モ……ああは言ったケド、フフッ……楽しませるジャナイ)
榛名「お姉さま」
金剛「榛名、私達の連携、相手に見せ付けてやるネ!」
榛名「はい!」
フェアルスト「……前面は私が抑エル。ピーコック、冷静になりなサイ」
ピーコック「アノ榛名って艦娘は、私がコロスわ」
フェアルスト「解ってるワヨ」
金剛「Hey!人質は別にどうでもイイネー?」
ピーコック「お前達ヲ抹殺シタ後で、直にソノ跡を追わセテ上げるわ」
榛名「そう簡単に…」サッ
金剛「…事は運べまセーン!全砲門!Fire!」ドォン ドォン
後方から一気に榛名が駆け出し、それに合わせて金剛の主砲が火を噴く。
双方共に単縦陣の陣形、フェアルストの後方に控えるピーコックが片手を振り下ろし声を張る。
ピーコック「落とせッ!水底へ、深い闇へ!余さず沈メロッ!!」バッ ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン
榛名の突進を削ぎ落とす作戦か、金剛への警戒は殆どせず、ピーコックの放った艦載機の全てが榛名を強襲する。
しかし、榛名は迫りくる艦載機が放つ攻撃の数々を悉く回避していく。
ピーコック「なっ……」
フェアルスト「こいつ…!」
撃ち落しと回避、熱風や致命傷にならないダメージを意に介さず、真っ直ぐに榛名は海面を駆ける。
フェアルスト「奇を衒ってもナイ単発の砲撃ナドッ!」グッ
金剛「榛名ッ!」
榛名「はい、お姉さま!」ジャキッ
ピーコック「……ッ!待って、フェアr……」
ピーコックの制止よりも先に、榛名の凛とした声と海面を貫く衝撃音が先に届く。
ザバアアァァァァン
榛名「……砲撃、開始ッ!!」
フェアルスト「ナッ…!?」
金剛の放った主砲はフェアルストの手前、数メートル先の海面を撃ち抜き巨大な水の障壁を出現させる。
その水の障壁が出現した音に掻き消され、榛名の砲撃が成されたのかどうなのか、フェアルストには知る術がなかった。
その、直後……
バシュンッ
立ち昇った水の障壁を突き破り、全砲門を開放した榛名がフェアルストの眼前に躍り出る。
金剛「お望み通り、簡単なTrick仕立てにしてみたヨ!」
フェアルスト「フェイクッ!?小賢しいマネをッ!!」ザッ ドォン ドォン
榛名「一斉射っ!!」ドォン ドォン ドォン ドォン
ヒュン ヒュン……ボゴオオオォォォォン
フェアルストの放った一撃は明後日の方向へ飛び、逆に榛名の狙いを定めた至近距離からの一斉射撃に成す術もなく、フェアルストは一身にその砲弾を受けて爆煙の中に消えていく。
ピーコック「フェアルストッ!貴様等ァッ!」ドン ドン
金剛「……ッ!」サッ
榛名「っ!」サッ
ザバァァァン
ピーコックの怒りに任せた攻撃をやり過ごし、金剛と榛名は距離を置いて対峙し直す。
二人は黙ったまま、モクモクと立ち昇る爆煙を凝視してると、その揺らぎに異変が現れる。
未だ爆煙の冷め遣らぬ中、静かに巨大な影が浮き上がり、それは周囲の煙を掻き分けるように、後ろへと追いやるようにゆっくりとした足取りでそこから姿を現した。
フェアルスト「……今ノハ、効いた」 中破
ピーコック「フェアルスト…!」
フェアルスト「ピーコック……残念ダケド、ここで退くノガ正解よ」
ピーコック「ハァ?何を言ってるノヨ」
フェアルスト「……最初は手応えノない連中ダト思って相対シテいた。が、フフッ……これなら泊地棲姫が一人デ挑んで負けタト言うのも、強ちウソとは言い難い。宣言通り、ココは遠征とシテ終わらせるノガ吉よ」
ピーコック「何ヲ言って……」
???「言うとおりにナサイ」
???「フフッ、随分なナリになっちゃって…」
???「聞きシニ勝る、と言うコトか…」
装空鬼「敵の戦力ヲ見誤った結果ヨ」
金剛「なっ…!」
榛名「見た事のない…深海棲艦…!」
ピーコックの非難の言葉を遮るように、新たに四匹の深海棲艦が姿を現す。
ピーコック「装甲空母鬼、南方棲鬼、航空棲鬼、南方棲戦鬼…!」
フェアルスト「リコリスの命令ね、キット…」
南戦鬼「リコリスにとっては私達ヨリも、貴様達が重要ナンダそうだ…」
航空棲鬼「フフッ、拗ねちゃって、カワイイのね?」
南戦鬼「フン…」
南方棲鬼「これは命令ヨ。撤退しなサイ」
装空鬼「後ヲ引き継ぐ」
ピーコック「くっ…!」
フェアルスト「後味は最低ネ…」
苦々しい表情で二人は金剛と榛名を一瞥し、踵を返してその場を後にする。
そして入れ代わるようにして四匹の深海棲艦が二人の前に立ちはだかった。
金剛「流石に、冗談が過ぎるネ…」
榛名「お姉さま…」
金剛「榛名、多分赤城達は救出に成功してるはず……比叡達がどれだけ痛めつけられているかは解らないけど、五人でなら速力を落とさず退避は出来るはずネ」
榛名「お姉さま、何を言って…!」
金剛「相手は簡単に逃がしてくれる相手じゃないワ。ピーコックとフェアルスト…この二匹を前にして気付いた事は、大本営で錬度を上げた榛名達が絶対今後も必要って事ネ」
榛名「一人で残るって言うんですか!?それに、今後も必要なのはお姉さまも一緒です!」
金剛「考えてる暇はないヨ。それに、全員が残ったら救出しに来た意味まで無くなる。作戦を思い出すネ!捕らわれた艦娘の安全を確保し、現地より撤退する事!それが、今回の私達の任務…!」
榛名「ですけど!」
金剛「誰かが、殿を勤めないと無理ヨ」
榛名「それなら私が…!」
金剛「榛名、貴女には提督の下に戻るって言う特別な任務もあるデショ」
榛名「それは皆一緒です!」
金剛「そうネ…けど、榛名が戻らなかったら、提督が泣くヨ。だから、貴女は戻るべきなの」
榛名「お姉さま!」
金剛「榛名…私は、貴女達の長女として何かできたかな」
榛名「え…?」
金剛「例え、出来てなかったとしても、私は貴女達の姉で本当に良かった。私の覚悟、今ここで見せるヨ!」
榛名「」(お姉さまの覚悟を、決意を、無駄にする訳にはいかない…ごめんなさい、お姉さま…!)バッ
装空鬼「あら、敵前逃亡ナノ?」
南方棲鬼「敵に背を見せるナンテ…愚かネ」ジャキッ
金剛「何処狙ってるネ!」サッ
航空棲鬼「……まさか、一人で私達ヲ相手にスル気?」
金剛「私一人じゃ不満デスカ?」
南戦鬼「些末な問題ダ。どうせ朽ち果テル…」
-珊瑚諸島海岸-
赤城「皆さん!」
衣笠「赤城さん!」
羽黒「助けに、来てくれたんですか…」
大鳳「当然じゃない。仲間なんだから」
比叡「川内に北上、あんた達その怪我…」
霧島「大丈夫なの…!?」
川内「はは、艤装ぶっ壊されてうち等より怪我がヒドイお二人さんに言われちゃ形無しだってば」
北上「全くさ~、どっちが患者かわっかんないよね~」
時雨「皆、ありがとう」
春雨「うぅ…」
北上「ほらほら、泣くな!女の子でしょ!」ポンポン
川内「北上、それを言うなら男の子だ。バカやってないでさっさとここから撤退するよ!」
霧島「赤城さん、まさか四人で来たわけじゃないわよね?」
赤城「はい、今金剛さんと榛名さんであの二匹を食い止めてくれています」
大鳳「急いで戻って加勢に向かわないと…!」
榛名「皆…!」
比叡「榛名…!?」
霧島「榛名、金剛お姉さまは…」
榛名「はぁ、はぁ…話は、後…今は、早くこの海域から撤退する事を考えて!六人は、艤装を壊されてるだけ?」
衣笠「いや、まぁ…ちょっとあちこちやられちゃってはいるけど、速度が落ちる事は多分ないと思う」
羽黒「はい、なんとか、ですが…」
榛名「うん、了解。一応、六人を庇うようにして輪形陣で進みましょう」
赤城「解りました!」
榛名「それじゃ、六人をお願いしますね」
大鳳「え?」
比叡「榛名、あんた何言ってんのさ」
榛名「金剛お姉さまは、私達の撤退を促す為に深海棲艦とたった一人で交戦中です。はじめは、お姉さまの意志とか、決意とか、無駄にしちゃいけないって、そう思って、背を向けてしまった…けど、私は『もう二度と』空を眺めているだけなんてイヤなんです!今度こそ、お姉さまは私が守ります!」
北上「え、ちょ…今度こそって、はい?榛名っち、何言ってんのさ…」
川内「もう二度とって、前にも生死の危機に陥った事でもあるの…?」
霧島「は、榛名…?」
榛名「必ず、お姉さまと一緒に戻って見せます!だって、私は金剛型三番艦……お姉さまの妹だからっ!お姉さまが困ってるのに、助けないなんて、そんな事出来ません!」
比叡「……榛名、ごめんね。こんなナリでさ。頼んだよ、お姉さまの手助け、本当なら私もしたいけど、今回はぜーんぶ、あんたに譲るからさ」
霧島「私達の分まで、お願い…お姉さまを、金剛お姉さまを助けて!」
榛名「はい!」
続き
【艦これ】提督「暇じゃなくなった」【中編】