1 : 以下、名... - 2015/11/29 14:04:55 lUlqCPo. 1/18

「俺、小説家になりたい」

「どうすればなれるのかな?」

「そうねえ……。まずその髪の毛をもうちょっとボサボサにした方がいいわね」

「え、どうして? 人からだらしなく見られちゃうんじゃない?」

「それでいいのよ」

「執筆に夢中で、ヘアスタイルを気にしてる余裕なんかないってアピールできるでしょ」

「なるほど!」

2 : 以下、名... - 2015/11/29 14:06:31 lUlqCPo. 2/18

「どう?」ボサッ

「おお~、いいじゃない、いいじゃない」

「髪の毛いじくってる暇なんかないんだよ、って無言の主張が伝わってくるわ」

「ありがとう。次はどうすればいい?」

「洋服より和服にした方がいいわね。その方がより小説家っぽいし」

「分かった!」

3 : 以下、名... - 2015/11/29 14:08:49 lUlqCPo. 3/18

「どうかな?」バッ

「いいじゃない、いかにも文豪って感じ!」

「じゃあ、今度は道具を揃えなきゃね。万年筆を買いましょう」

「万年筆? 今時の小説家って、みんなパソコンで書いてるんじゃないの?」

「なぁにいってんの。万年筆じゃないと雰囲気が出ないじゃない」

「それにパソコンでカタカタ執筆、だなんて風情がないでしょ」

「それもそうか」

4 : 以下、名... - 2015/11/29 14:11:04 lUlqCPo. 4/18

「万年筆を購入したよ!」サッ

「わぁっ、かっこいい! すっごくいい文章書けそう!」

「だけど万年筆って結構高いんだね。これ1万円もしたよ」

「なにしろ万年っていうぐらいだしね」

「だけど、中には100万円以上する万年筆もあるっていうわよ」

「ひえぇ……万年筆ってすごいんだなぁ」

「道具も揃えたところで、次はどうしようか」

「小説家になるなら、やっぱり書斎が欲しいわね」

「書斎かぁ……。俺、今アパート暮らしなんだけど、大家さんに頼んでみるか」

5 : 以下、名... - 2015/11/29 14:14:33 lUlqCPo. 5/18

「すみません、アパート改造して書斎作ってもいいですか?」

大家「いいよ!」



「あっさり快諾してもらえて、書斎を作ったよ」ジャーン

「まぁっ、ステキなお部屋!」

「マホガニー製の机、天井に届く本棚、無駄にぶ厚い本、どれをとっても素晴らしいわ」

「あのぶ厚い本の数々は、多分一生読まないだろうけどね」

「さて、他にやることはあるかな?」

「本を出版した時に使う、著者近影を撮影しましょう!」

6 : 以下、名... - 2015/11/29 14:16:36 lUlqCPo. 6/18

「……」ビシッ

「うーん、まるで証明写真ね。もっと悩ましげな表情とポーズの方がいいわ」

「こう?」クイッ

「お、いいじゃない。いい文章が書けなくて悩んでる、って顔してるわ」

「実際には親知らずをどうしようかで悩んでるんだけどね。抜くべきか、抜かぬべきか」

「ハイチーズ!」パシャッ



「おお、いいねえ! どこからどう見ても、気難しい文豪にしか見えないよ!」

「あとなにか必要なものってあるかな?」

「そうねえ……やっぱり編集者は欲しいところね」

「編集者か……。友達に出版社勤めの奴がいるから、そいつに頼んでみるか」

7 : 以下、名... - 2015/11/29 14:19:50 lUlqCPo. 7/18

「先生! 原稿はまだですかぁ~!? 締め切りはとっくに過ぎてますよぉ!?」

「このままじゃ雑誌に穴が空いちゃいますよぉ~! どうしてくれるんです!?」

「……これでいいのかい?」

「うん、実によかったよ! やべぇ、まだ白紙だよ……って気分になれたよ!」

「それじゃ、今のを週に3回ぐらい頼むよ」

「お安い御用さ」



「いよいよ、俺も本格的に小説家っぽくなってきたな。あとはどうすればいい?」

「そうねえ。やっぱり作家たるもの、自殺未遂の経験くらいあった方がいいわね」

「自殺未遂かぁ……ちょっと怖いなぁ」

「カッターナイフで手首をちょっと切ればいいのよ。平気、平気」

8 : 以下、名... - 2015/11/29 14:22:11 lUlqCPo. 8/18

「えいっ!」チクッ

「こんなものでいいかな? 1ミリほど傷をつけただけだけど。血も出てないし」

「ええ、こんなものでいいわ」

「ようするに、自殺をしようとしたっていう事実が大事なんだから」

「なるほどね」

「これで俺も、ようやく小説家だ!」

「――待って! やることはまだあるわ!」

9 : 以下、名... - 2015/11/29 14:25:17 lUlqCPo. 9/18

「くっそぉ~! 今年も○○賞に落選した!」クシャクシャッ

「なぜ、このような低俗な作品が入賞するのだぁっ! バカな審査員どもめ!」ポイッ

「どう?」

「いいじゃない! 実力はあるけど、なかなか賞に恵まれない作家みたいだったわ!」

「といっても、俺は落選するしない以前に、作品を一つも書いてないし」

「入賞した作品を読んでみたけど、メチャクチャ面白かったけどね」

「個人的な事情や感想はどうでもいいの。悔しがらないと小説家っぽさが出ないの」

「小説家になるって大変なんだなぁ」

「だけど……これでやっと、やっと俺も小説家になれたんだね」

「ええ、華々しくデビューしましょう!」

10 : 以下、名... - 2015/11/29 14:27:47 lUlqCPo. 10/18



司会「あなたは小説家なんですって?」

「ええ、小説家です」

司会「ちなみに、どんな作品を書いておられるんですか?」

「なにも書いてません」

司会「小説家ちゃうんかい!」

どっ……!


11 : 以下、名... - 2015/11/29 14:30:15 lUlqCPo. 11/18



「これが、この町の名物のおまんじゅうですね」

「ではいただきます」モグッ

「……うん、おいひぃ~! 上品な甘さで、とてもデリィシャスです!」

「皮とあんこの絶妙なコラボレーション! ほっぺたが落ちそうですよぉ!」

店主「ありがとうございます」ニコニコ…


12 : 以下、名... - 2015/11/29 14:32:38 lUlqCPo. 12/18



実況『今回、始球式を務めますのは、小説家の男さんです!』



「えいっ!」シュッ

ズバンッ!



実況『おおっ、すばらしい投球! ありがとうございましたーっ!』


13 : 以下、名... - 2015/11/29 14:35:09 lUlqCPo. 13/18



<アフリカに井戸を掘れ! 人気小説家の挑戦!>



「ハァ、ハァ……水出ねえなぁ……」ザクッザクッ

ブッシャアアアアア!

「おおっ、水が出たぁっ! やったぁ!」

現地人「アリガト、アリガト」ガシッ

「いや、みんなが協力してくれたおかげだよ……!」ギュッ…


14 : 以下、名... - 2015/11/29 14:38:02 lUlqCPo. 14/18



『この世の中を変えたい! ……という情熱をもってこのたび出馬いたしました!』

『わたくしに任せていただければ、この国はもっとよりよい国になります!』

『皆さま、どうかわたくしに清き一票を、お願い致します!』



パチパチパチ……! ワアァァァ……


15 : 以下、名... - 2015/11/29 14:42:12 lUlqCPo. 15/18



アナウンサー『人気小説家の男氏が、妻に暴力を振るっていたことが明らかになりました』

アナウンサー『まもなく、記者会見が開かれるもようです』



パシャッ! パシャシャッ! パシャッ!

「このたびはこのような不祥事を起こしてしまい、誠に申し訳ありません」

記者「なぜ奥さまに暴力を?」

「小説家たるもの、不祥事のひとつやふたつ起こさないと、と妻にいわれまして……」

「しばらくは執筆活動を自粛するつもりでおります」

パシャッ! パシャシャッ! パシャッ!


16 : 以下、名... - 2015/11/29 14:45:21 lUlqCPo. 16/18



人気小説家の男さんがアニメ監督に初挑戦!

天国と地獄と現世がくっついてしまうという、超エンターテイメント作品!



劇場アニメ『天地崩壊 ~作画も崩壊~』



○月×日より、全国ロードショー!


17 : 以下、名... - 2015/11/29 14:49:18 lUlqCPo. 17/18



記者「――エベレスト登頂成功、おめでとうございます」

「ありがとうございます」

記者「今のお気持ちはいかがですか?」

「達成感と……あと生きて帰ってこれてよかったという気持ちが同居してますね」

記者「このエベレスト登頂体験を本になさるおつもりはありますか?」

「今のところ、そういった予定はないですね」


18 : 以下、名... - 2015/11/29 14:52:33 lUlqCPo. 18/18

……

……



テレビ『本日未明、小説家の男さんが自宅で心不全のため亡くなりました。93歳でした』

テレビ『なお、葬儀は身内だけで行われるということです』

テレビ『亡くなる寸前、男さんは雑誌のインタビューに対して』

テレビ『小説書く以外のことはだいたいやった。いい人生を送れた、と語っており……』







                                     おわり

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