1 : 以下、名... - 2015/11/14 17:18:29 d4/dbahI 1/37

― 戦場 ―

パカラッ! パカラッ!

騎士「魔族め、俺たちの国は渡さんぞ! ――はああっ!」シュバッ

ザシィッ!

魔族「ぐっ! おのれ、人間がぁっ!」ヒュオッ

ザシュッ!

「ヒヒィィィン!」

騎士「――大丈夫か!? このぉっ!」ズバンッ

魔族「ぐはぁっ……!」ドサッ

元スレ
騎士「俺の愛馬に肉体改造させることにした」
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1447489109/

2 : 以下、名... - 2015/11/14 17:22:39 d4/dbahI 2/37

― 馬小屋 ―

騎士「ふぅ、今日もかろうじて魔族を撃退できたけど、攻撃は激しくなる一方だ……」

騎士「このままじゃ、お前の身が持たないな……」

「ブルルルルッ……」

騎士「そんなことないってか? ありがとよ」ナデナデ

「ブヒヒィン……」

3 : 以下、名... - 2015/11/14 17:25:40 d4/dbahI 3/37

騎士(このまま戦い続けたんじゃ、俺の愛馬はいつか確実に死んでしまう)

騎士(かといって、馬の機動力なしで魔族と戦うのは不可能だ)

騎士(愛馬を死なせたくない。かといって戦場に出さないわけにもいかない……)

騎士(この両方の願いを叶えるには、こいつに強くなってもらうのが一番だ!)



騎士「よぉし、肉体改造させてみるか!」

4 : 以下、名... - 2015/11/14 17:28:39 d4/dbahI 4/37

騎士「まずは体を鍛えよう!」

騎士「体を鍛えるというのは、すなわち体に負荷を与えるということ!」

騎士「この起伏に富んだコースを駆け回って、脚を鍛えるんだ!」

「ヒヒィィィン!」

パカラッ! パカラッ! パカラッ!

騎士「ようし、いいぞ! その調子だ!」

6 : 以下、名... - 2015/11/14 17:31:00 d4/dbahI 5/37

騎士「ベンチプレスに挑戦だ!」

騎士「300kg……イケるか!?」

「ブルルルルル……!」ググッ…

騎士「頑張れ!」

「ブヒヒィィィィィン!」グンッ

騎士「よし、成功だ!」

7 : 以下、名... - 2015/11/14 17:33:13 d4/dbahI 6/37

騎士「たっぷり運動した後は、このプロテイン草をいっぱい食べろ!」

「ヒヒィィィィン!」モッシャモッシャ

騎士「いいぞ……どんどん食べろ! どんどん食って強くなるんだ!」

「ヒヒィン! ヒヒィィィン!」モッシャモッシャ

8 : 以下、名... - 2015/11/14 17:35:25 d4/dbahI 7/37

「…………」ムキムキッ

騎士「おおお、すごいぞ!」

騎士「脚は太くなり、体も全体的に大きくなり、見違えるようだ!」

騎士「弱い魔族なら、多分お前が踏みつけるだけで倒せるぞ!」

「ブヒヒィィィン」

9 : 以下、名... - 2015/11/14 17:37:51 d4/dbahI 8/37

騎士「だけど、肉体を鍛えただけじゃ、魔族に勝ち続けることはできない」

騎士「魔族ってのは人間以上に見た目ってのを重視すると聞く」

騎士「つまり、強そうな外見をすれば、それだけ委縮させることができるってことだ」

「ヒヒィィン」

騎士「そこで――」

10 : 以下、名... - 2015/11/14 17:41:24 d4/dbahI 9/37

騎士「お前にツノをつける!」ペトッ

「ブヒンッ?」

騎士「象牙を削って、お前の頭に合うようカスタマイズした手作りのツノだ」

騎士「どうだ?」

「ヒヒィィィィイン!」ビーン

騎士「おおっ、気に入ってくれるか!」

「ヒヒィン! ヒヒヒィィィン!」ビーン

騎士「ハハハ、ユニコーンみたいでかっこいいぞ!」

11 : 以下、名... - 2015/11/14 17:45:27 d4/dbahI 10/37

騎士「けれどツノだけじゃ、まだ迫力が足りない」

騎士「今度は翼をつける!」

「ヒヒィィィン!」

騎士「ペガサスのような翼といいたいところだけど……あれじゃちょっと弱そうだから」

騎士「このデカスギコウモリの翼をくっつける!」ペトッ

「ヒヒィィィィン!」

12 : 以下、名... - 2015/11/14 17:48:06 d4/dbahI 11/37

「ヒヒィン!」ビーン

「ブヒヒィィィィィン!」バッサバッサ

騎士「おおおっ、立派なツノに、不気味なコウモリの翼! これはかなり強そうだ!」

騎士「さらに、全身を虎のような色に塗ってやれば――」ヌリヌリ…

「ヒヒィィィィィィン!」

騎士「うおおおおお、メチャクチャ強そうだ!」

13 : 以下、名... - 2015/11/14 17:50:43 d4/dbahI 12/37

騎士「お前を一目見た魔族は、きっと“トラウマ”になること間違いなしだな!」

「…………」シーン

騎士「ごめんなさい」

14 : 以下、名... - 2015/11/14 17:52:45 d4/dbahI 13/37

騎士「――さて、これだけやれば、見た目に関しては十分だろう!」

騎士「次は、俺とお前がより正確に意思疎通できるよう、人間の言葉を覚えてもらう!」

騎士「その方が戦いがより有利になるに決まってるからな!」

「ブヒヒィィィィン!」

15 : 以下、名... - 2015/11/14 17:56:50 d4/dbahI 14/37

「ヒヒィィン!」

騎士「ヒヒィンじゃない。これは“ニンジン”だ」

「ヒ、ヒィンジン」

騎士「惜しい、ヒンジンじゃない。“ニンジン”だ」

「ニ、ン、ジン……」

騎士「よくいえた! 偉いぞ!」ナデナデ

16 : 以下、名... - 2015/11/14 18:00:03 d4/dbahI 15/37

騎士「これはペンです!」

「コ、レハ、ペン、デス……」

騎士「私は馬です!」

「ワタシハ、ウマ……デス」

騎士「ご機嫌いかがですか?」

「ゴキ、ゲン……イカガ……デスカ……?」

17 : 以下、名... - 2015/11/14 18:03:46 d4/dbahI 16/37

騎士「文章を読めるようになるために、このテストを解くんだ!」

「ハ、イ……」カリカリ

「…………」

騎士「どうした? 分からない問題があるのか?」

「コノ“作者ノ気持チヲ答エヨ”トイウ設問ハ、ナンデスカ?」

「“文章ヲ書クノハ大変ダ”ト答エレバヨイノデスカ?」

騎士「なかなかいい着眼点だが、残念ながらそれじゃテストでは0点だ!」

18 : 以下、名... - 2015/11/14 18:07:47 d4/dbahI 17/37

「これはペンです!」

「私は馬です!」

「ご機嫌いかがですか?」

「――どうですか、ご主人様!」

騎士「うん、バッチリだ! 人間並みに流暢にしゃべれるようになったな!」

騎士「さて、次はどうしようかな……」

「ご主人様、実は私に考えがあるのですが……」

騎士「考え?」

19 : 以下、名... - 2015/11/14 18:10:10 d4/dbahI 18/37

騎士「――辺境に住むドラゴンの生き血を飲む!?」

「はい、そうすれば私はさらなる力を手に入れられるはずです」

騎士「ううむ、しかしなぁ……さすがに危険すぎるよ。竜は魔族より強いとも聞くし……」

「ですが、危険を恐れては力は手に入りません!」

「竜の巣に入らなければ竜の卵は手に入らん、というでしょう?」

騎士「お前、いつの間にそんなことわざまで覚えたんだ……やるじゃん」

騎士「分かった、やろう!」

20 : 以下、名... - 2015/11/14 18:14:22 d4/dbahI 19/37

― 竜の山 ―

ドラゴン「ほう、我の生き血を飲みたいがために、我に挑戦したいと?」

ドラゴン「面白い、かかってくるがよい」



騎士「いくぞ!」

「はい!」

ドカラッ! ドカラッ!

21 : 以下、名... - 2015/11/14 18:17:19 d4/dbahI 20/37

ドラゴン「我が爪で引き裂いてくれる!」

ブオンッ!

ドラゴン「当たった! ――いや、当たってない!?」



「残像です」バババッ

騎士「ナイスフットワーク! 上に乗ってる俺は吐きそうだ!」ウップ

22 : 以下、名... - 2015/11/14 18:21:12 d4/dbahI 21/37

ドラゴン「ならば、この炎のブレスは避けられるか!?」

ゴォワァァァァァッ!



「なんの! 地面を踏みつけ隆起させ、岩の壁とすることで防ぐ!」

ズンッ!



ドラゴン「ええええええええええ!?」

騎士「すげえええええええええ!」

23 : 以下、名... - 2015/11/14 18:24:14 d4/dbahI 22/37

「鍛え抜かれた脚にて、ペガサスのように跳躍!」バッ

「今だ、ご主人様!」

騎士「うおおおおおおおおっ!」ブンッ

ガキンッ!

騎士「ダメだっ! 竜のウロコには刃が通らない!」

ドラゴン「フハハハッ、我の鉄より硬いウロコに傷をつけることは不可能よ!」

24 : 以下、名... - 2015/11/14 18:26:36 d4/dbahI 23/37

騎士「くっそぉ~……これじゃ生き血が手に入らないぞ」

「こうなったら作戦を変えましょう」

騎士「どういう風に?」

「…………」ゴニョゴニョ

騎士「――押してダメなら、ってことか! やってみよう!」

25 : 以下、名... - 2015/11/14 18:30:19 d4/dbahI 24/37

ドラゴン「どうした、かかってこい!」

騎士「すみません、生き血は諦めます」

ドラゴン「え? なんで急に……」

騎士「だって冷静に考えたら、竜の生き血ってどう考えてもマズそうですもん」クスクス

「肉ばかり食べてそうだから、きっとものすごく生臭いでしょうしね」ヒヒヒン

ドラゴン「な、なんだと!?」

26 : 以下、名... - 2015/11/14 18:33:13 d4/dbahI 25/37

ドラゴン「飲みもしないうちから、なんでそんなこというんだ! 失礼だろ!」

騎士「じゃあ、飲ませてくれるんですか?」

ドラゴン「おお、飲ませてやるともさ!」

「だけど、そのウロコにどうやって傷をつけるんです?」

ドラゴン「こんなこともあろうかと、前もって試飲用の生き血を用意してある!」サッ

騎士(ペットボトルに入れてんじゃねーよ)

27 : 以下、名... - 2015/11/14 18:35:11 d4/dbahI 26/37

「いただきます」グイッ

「…………」ゴクッ

「オエッ! マズッ!!!」



ドラゴン「!」ガーン

騎士「まぁ、常識的に考えて血液がおいしいわけないし……ドンマイ」

28 : 以下、名... - 2015/11/14 18:40:30 d4/dbahI 27/37

「だけど……マズかった分、力が湧き上がってくる!」ゴゴゴ…

「うおおお……」メキメキィッ

「むおおおおおおおおおお……」ムキムキィッ

騎士「おおお、すごい迫力だ! 俺の愛馬に竜のパワーが加わった!」

騎士「竜の血を飲んだことで、ツノと翼も体と一体化したようだ!」

ドラゴン「うむむ、もしかしたら我の強さをも超えたかもしれん」



騎士「竜よ、ありがとう! さらば!」グイッ

「ヒヒィィィィィン!」

ドカラッ! ドカラッ! ドカラッ!



ドラゴン(そんなにマズイのかな……飲んでみるか)ゴクッ

ドラゴン「オエッ! マズッ!!!」

29 : 以下、名... - 2015/11/14 18:43:31 d4/dbahI 28/37

― 魔界 ―

騎士「いよいよ最終試練だ……」

騎士「本当に行くのか? やめてもいいんだぞ? というか、やめた方が……」

「いえ、やります! ここで一ヶ月生き延びられたなら、私は完成するはずなのです!」

騎士「分かった……死ぬなよ! 必ず戻ってこい!」

「もちろんです、ご主人様!」

……

……

……

30 : 以下、名... - 2015/11/14 18:47:46 d4/dbahI 29/37

一ヶ月後――



「やりましたよ、ご主人様!」ドカラッ

騎士「おお、戻ってきたか!」

騎士「体はさらに大きくなり、闇の瘴気をまとって、また一段と強そうになったな!」

「ええ、有力な魔族を全員屈服させて、ついに私が魔界の王となったのですよ!」

騎士「へぇ、そりゃすごい――」ハッ

「さぁ、またいつものように私の背中にお乗り下さい!」

騎士「…………」

31 : 以下、名... - 2015/11/14 18:50:33 d4/dbahI 30/37

騎士「……ダメだ」

「な、なぜです!? 私はこの日を夢見て、魔界で戦い抜いたのですよ!?」

騎士「お前は魔王になったんだろう? なら、人間と仲良くするわけにはいかないだろう」

「!」ハッ

騎士「人間の中で特に偉いわけでもない俺を乗せたりしたら、反乱が起きるぞ」

騎士「“人間をやすやすと上に乗せるような王にはついていけない”ってな」

「それがどうしたってんいうんです!? 反乱が起きたってかまわな――」

騎士「バカヤロウ!!!」バキッ

32 : 以下、名... - 2015/11/14 18:53:49 d4/dbahI 31/37

騎士「反乱が起きたら、魔界はどうなる? お前を心から慕ってる部下はどうなる!?」

騎士「秩序は失われ、お前の部下は次々戦死することだろう。それでもいいのか!?」

「うぐっ!」ギクッ

騎士「お前は優しい馬だ。そうなることは望んでないはずだ」

騎士「……それでいいんだ」

33 : 以下、名... - 2015/11/14 18:59:01 d4/dbahI 32/37

騎士「これからはお前が魔王として、魔界を守っていくんだ」

「分かりました……ご主人様」

騎士「…………」

「…………」

「だけど、最後に……もう一度だけ……」

「ちょっとだけでいいから、もう一度ご主人様を乗せたい……ダメですか?」

騎士「もちろんいいとも!」

34 : 以下、名... - 2015/11/14 19:01:42 d4/dbahI 33/37

パカラッ! パカラッ! パカラッ!

騎士「ひゃあ~、速い! 以前とは比べ物にならないスピードだ! 体がちぎれそうだ!」

「ペースを落としますか?」

騎士「いや、このままでいい! ヒャッホウ!」

35 : 以下、名... - 2015/11/14 19:06:29 d4/dbahI 34/37

パカラッ! パカラッ! パカラッ!

騎士「お前のことは、仔馬の頃からよく知ってるけど……」

騎士「いやー……お前……ホントにでっかくなったなー……」ポンポン

「ご主人様の……おかげです……」

騎士「いやいや、俺は何もしてないよ。お前が自分で強くなったんだ」

「そんなことありません。ご主人様がいたからこそ、私は頑張れたのです」

36 : 以下、名... - 2015/11/14 19:09:22 d4/dbahI 35/37

騎士「あ~、楽しかった!」

「私も最後にご主人様を乗せることができて、嬉しかったです」

騎士「……じゃあな、相棒。魔界で達者に暮らせよ!」

「ご主人様こそ、騎士団でもっと出世して下さいよ! 私のように!」

騎士「お、こいつ、いうようになったな!」



「ハッハッハッハッハ……」

騎士「ハッハッハッハッハ……」

37 : 以下、名... - 2015/11/14 19:16:35 d4/dbahI 36/37

……

…………

………………



騎士仲間「いやー、今日も平和だ」

騎士仲間「新しく魔界のリーダーになった奴が、人間との共存に方針転換したらしくて」

騎士仲間「すっかり平和になっちまったなー」

騎士「……そうだな」

騎士(この平和があるのは、お前のおかげだ……)

騎士(新しい魔王としてしっかりやれよ、俺の愛馬……!)

騎士(もし人と魔族が本当に仲良くなったら……また一緒に走ろうぜ!)





~おわり~

38 : ◆wlzEEwfN9A - 2015/11/14 19:17:11 d4/dbahI 37/37

完結となります

ありがとうございました

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