1 : 以下、名... - 2015/11/04 16:47:18.15 fqlQ7fvZ0 1/28




キシャー

イーッシャーッ



「・・・・・・・」

ドドーーーーーン


イヤーッ

ギャオオオオ

ゴゴゴゴゴ

「・・・・・・・」


「・・・・・・・」


私は昔から、怪獣の方に肩入れしてしまう質だった。

2 : 以下、名... - 2015/11/04 16:53:10.10 fqlQ7fvZ0 2/28


少年「おじさん」

私はまだおじさんという歳ではない。

「・・・・・なんだい」

少年「ヒーローと怪獣、どっちが好き?」

「・・・・・・怪獣かな」

少年「へぇ」


セヤーッ

ギャオオオオオオ

ドカーーーーーン

少年「あーあ、負けちゃった」


少年は、退屈そうに怪獣の最期を眺めた。

3 : 以下、名... - 2015/11/04 17:01:08.33 fqlQ7fvZ0 3/28


少年「おじさん、暇?」

「あぁ、まぁね」

今日は仕事も終り、特別することも無かった。

帰宅途中で怪獣と巨人の戦いを見上げる形になった。

少年「じゃあ、怪獣の話をしようよ」

少年「僕の家で」

一瞬ためらったが、彼の目が余りにも輝いていたのに加え

断る理由がさして見当たらなかった。

「別に、構わないよ」

少年は瞳を一層煌めかせて、喜んだようだった。

4 : 以下、名... - 2015/11/04 17:09:48.99 fqlQ7fvZ0 4/28


少年「僕の友達は皆ウルトラマンを応援するからね」

少年「怪獣好きには初めて出会ったよ」

カラカラと笑う少年の姿は、怪獣のようにも見えた。

少年「おじさん、名前は?」

「私かい」


私の名前は金城哲夫だ。


少年「キンジョウ テツオ」

少年は、私の名前を咀嚼するように呟いた。


金城「君の名前は?」

少年はにやりと笑みを浮かべた。

5 : 以下、名... - 2015/11/04 17:12:10.97 fqlQ7fvZ0 5/28








怪獣殿下とでも呼んでよ







6 : 以下、名... - 2015/11/04 17:21:00.08 fqlQ7fvZ0 6/28


少年――、怪獣殿下の家は、アパートの一室だった。

狭く、古臭く、畳にちゃぶ台という、時代錯誤も甚だしい部屋だ。

彼はここに一人暮らしているという。

ふと、窓際の棚を見ると、そこには怪獣のソフビ人形が

行儀よくこちらを睨み付けていた。

ゴメスだ。


怪獣殿下「さぁ、お話ししよう」

彼は頭上から垂れる糸を引いた。

部屋に灯りがともる。

どうやら、豆電球の光らしかった。

8 : 以下、名... - 2015/11/04 17:29:43.50 fqlQ7fvZ0 7/28


私たちは怪獣について語り合った。

造形、設定、戦闘能力、またその鳴き声に至るまで。

彼は勿論だが、私にとっても

ここまで怪獣の話ができる人間に出会ったのは初めてだった。

運命のめぐり合わせとは、こういうものなのかも知れない。


私たちは、太陽が地平線に呑み込まれるまで語り合った。

9 : 以下、名... - 2015/11/04 17:40:29.31 fqlQ7fvZ0 8/28


怪獣殿下「時に、金城さん」

怪獣殿下「金城さんは、怪獣ってどういうものだと思う?」

どういうもの、とは?

怪獣殿下「『怪獣』という言葉と概念が存在する以上、それを定義できて然るべきだ」

怪獣殿下「例えばゴムマリならば、『球状で、中に空気が入っている、ゴム製品』という具合に」

怪獣殿下「金城さんは、怪獣をどんなもので、何故存在するものだと思ってるの?」

ゴムマリが足元をころころと転がっていく。

鮮やかなピンク色をしていた。

相変わらず、ゴメスは私を睨んでいるようだった。

10 : 以下、名... - 2015/11/04 17:51:47.12 fqlQ7fvZ0 9/28


金城「私は、怪獣たちは、被害者だと思ってる」

金城「怪獣たちの多くは、人間の環境破壊や、兵器の開発」

金城「そういうものの結果として生まれ、暴れるものが多い」

金城「或いは、人間の負の感情、憎しみや、妬みを糧とするものもいる」

金城「そういった、人間が生み出した『負』を、彼らは人間にぶつけているんだ」

金城「最終的にウルトラマンに倒されてしまうのも、被害者的側面を強くしている」

金城「人間が作ってしまった『負』を、それによってできた悲しみを」

金城「人間に突きつけるために生まれた、自然や宇宙からの使者」

金城「それが怪獣なんじゃないだろうか」

11 : 以下、名... - 2015/11/04 18:04:37.65 fqlQ7fvZ0 10/28


怪獣殿下は穏やかに微笑んでいるようだった。

怪獣殿下「では、金城さんは、怪獣を『人間の愚かさを示すために、大自然が生み出した使者で、被害者』」

怪獣殿下「そう定義するんだね」

怪獣殿下「つまり、怪獣を作り出すのは、超自然的な力であると」

私は首肯した。

金城「彼らは明確に使命があるわけではないが、人間に危害を加えることで」

金城「結果として、人間の『負』を抉り出す」

金城「ある種、この世界からの人間への警告、または挑戦と見てもいいかもしれない」

怪獣殿下「なるほど」

怪獣殿下はカラカラと笑った。

12 : 以下、名... - 2015/11/04 18:07:09.69 fqlQ7fvZ0 11/28








突如、目の前が暗転した。


ゴメスが笑っていた。







14 : 以下、名... - 2015/11/04 18:48:42.34 fqlQ7fvZ0 12/28


視界が白に変わる。

そこはどこかの、街中だった。


ギャオオオオオオオオオオオ


怪獣殿下「熔鉄怪獣デマーガ」

怪獣殿下「身長50メートル、体重5万5千トン」

怪獣殿下「怪獣好きな田口清隆らしい、いい怪獣だ」


デマーガ「ギャオオオオオオオオオオオ」ゴオオオオオオオオ


怪獣殿下「やや期待外れな回答だったよ金城さん」

怪獣殿下「いや、君は金城哲夫であり、金城哲夫ではない」

怪獣殿下「本物の金城哲夫がどんな答えを出してくれるか、いささか興味があるが」

怪獣殿下「死人に願いを掛けるのは虚しい」

15 : 以下、名... - 2015/11/04 18:55:35.82 fqlQ7fvZ0 13/28


何を言っているのだこの少年は。

その時、宙から電脳的なエフェクトと共に、光の巨人が推参した。

ウルトラマンXだ。

怪獣殿下「ウルトラマンXは怪獣をスパークドールズに変える力を持つ」

怪獣殿下「変身者の大空大地は、怪獣と共存できる未来を目指しているそうだ」

怪獣殿下「心優しい青年なのだろう」


イーッシャーッ


怪獣殿下「だが愚かだ」

少年がカラカラと笑う。

やはり、怪獣のように見えた。

16 : 以下、名... - 2015/11/04 19:06:27.28 fqlQ7fvZ0 14/28


怪獣殿下「怪獣は被害者だと、自然が生み出したと、そう言ったな金城」

怪獣殿下「それは完全に間違いだ。純然たる、大いなる、間違いだ」

怪獣殿下「君に一つ問いたい」

怪獣殿下「きみは怪獣の何に惹かれて怪獣贔屓になったのだ?」

ごくりと唾を呑み込む。

デマーガをふと眺めた。


デマーガ「ギャアアアアアア」


私は

金城「私は、怪獣の、被害者的な哀愁や、その、儚さに」


怪獣殿下「 嘘 を 吐 く な !! 」


その通り、嘘だ。

17 : 以下、名... - 2015/11/04 19:17:07.12 fqlQ7fvZ0 15/28


怪獣殿下「君は初めて怪獣を見た時、彼らがために倒壊する家屋に興奮したはずだ」

その通りだ。

怪獣殿下「彼らが放つ熱戦によって焼き払われる草木に震えたはずだ」

その通りだ。

怪獣殿下「その獰猛な牙に、理性無き瞳に心奪われたはずだ」

その通りだ。

怪獣殿下「自らの破壊衝動を代行する怪獣に、敬意を、感謝を覚えたはずだ」

その通りだ。

私は昔から、怪獣の方に肩入れしてしまう質だった。

それは、怪獣たちの、理由無き破壊に、殺戮に

自らが絶対に為し得ることのできないその行為に

焦がれたからだった。

18 : 以下、名... - 2015/11/04 19:39:22.09 fqlQ7fvZ0 16/28


怪獣殿下「人間は心の内に破壊衝動を抱えている」

怪獣殿下「対人、戦争、己、政府、差別、環境破壊、社会、世界」

怪獣殿下「この世のありとあらゆる、自身に憎しみ、悲しみを抱かせるもの」

怪獣殿下「その全てを破壊し、抹殺したい―、という破壊衝動」

怪獣殿下「それが結集し、創造されたものこそが怪獣だ!」

怪獣殿下「怪獣を生み出したのは自然や、宇宙ではない」

怪獣殿下「人間だ」

怪獣殿下「人間の思いが、その破壊衝動のはけ口として、怪獣を生み出した」

怪獣殿下「人間が、破壊のために怪獣を創造し」

怪獣殿下「自らの破壊を代行する怪獣を望み」

怪獣殿下「破壊を執行する怪獣を呼び寄せるのだ」


怪獣殿下「怪獣とは、絶対的な破壊の権化、その姿だ!」

19 : 以下、名... - 2015/11/04 19:49:57.32 fqlQ7fvZ0 17/28


怪獣殿下「大空大地は言った!」

怪獣殿下は巨人を指さす。

怪獣殿下「怪獣と人間が共存できる日が来ると!」

丁度、ウルトラマンXがザナディウム光線によって

デマーガをスパークドールズに変えた瞬間だった。

怪獣殿下「そんな日は来てはならないのだ!」

怪獣殿下「怪獣は破壊しなければならない!その全てを!」

怪獣殿下「のうのうと暮らすだけの怪獣に意味は無い!」

怪獣殿下「ましてや、ウルトラマンと共に人間を守ってはならない!」

怪獣殿下「怪獣は英雄でも、被害者でも、共存生命体でもない」

怪獣殿下「破壊者だ!」

怪獣殿下「そうであることを、誰よりも、お前たち人間が望んでいる!」

20 : 以下、名... - 2015/11/04 19:59:35.41 fqlQ7fvZ0 18/28


金城「君は」

誰だ?

怪獣殿下「さぁ、誰だろう」

怪獣殿下は懐から何かを取り出した。

怪獣殿下「君かもしれないし、彼らかもしれない」

彼は「それ」を掲げた。

その瞬間の屈託のない笑みで

私は彼が少年であることを思い出した。

怪獣殿下「これが私の怪獣だ」

違う。それは怪獣ではない。

それは、

金城「ただの粘土の塊だ」

均整がまったくとれていない、ただの、粘土の塊。

21 : 以下、名... - 2015/11/04 20:06:53.20 fqlQ7fvZ0 19/28


怪獣殿下「どうだろう」

粘土がぶくぶくと肥大化する。

瞬く間に40メートルを超える巨体と化す。

そして、ウルトラマンと対峙する形となった。

その姿は――――、





金城「私だ・・・・・」





私だった。

22 : 以下、名... - 2015/11/04 20:19:50.60 fqlQ7fvZ0 20/28


怪獣殿下「君には自分自身に見えるのか」

少年は楽し気に笑っていた。

彼の瞳は、初めて出会ったときとおなじように輝いていた。

怪獣殿下「彼は見る者が考える怪獣の姿を映し出す・・・僕にはかっこいい怪獣に見えるが」

怪獣殿下「環境破壊とか、兵器開発とか、そういう無駄なバックヤードの無い」

怪獣殿下「純粋に、破壊するだけの、完全なる、怪獣の中の怪獣」

怪獣殿下「そうだな、命名の法則に従えば『なんとか怪獣』、後ろに固有名詞が来るわけだが」




怪獣殿下「怪獣怪獣『怪獣』とでも名付けようか」





23 : 以下、名... - 2015/11/04 20:30:34.61 fqlQ7fvZ0 21/28


私は、いや、私の姿に見える怪獣は、正義の巨人に飛び掛かった。

怪獣殿下の言う通り、怪獣の頭の中には破壊することしか無いらしい。

周囲の建物が轟音と共に崩壊した。

彼が吐き出す熱線によってコンクリが溶解していく。



いつの間にか、怪獣はウルトラマンXに馬乗りの形になった。

怪獣はウルトラマンを殴打する。

怪獣はウルトラマンを殴打する。

怪獣はウルトラマンを殴打する。

怪獣はウルトラマンを殴打する。

私の姿をした怪獣はウルトラマンを殴打する。

24 : 以下、名... - 2015/11/04 20:32:54.74 fqlQ7fvZ0 22/28


私の姿をした怪獣はウルトラマンを殴打する。

私の姿をした怪獣はウルトラマンを殴打する。

私の姿をした怪獣はウルトラマンを殴打する。

私の姿をした怪獣はウルトラマンを殴打する。

私の姿をした怪獣はウルトラマンを殴打する。

私の姿をした怪獣はウルトラマンを殴打する。

私の姿をした怪獣はウルトラマンを殴打する。

私は、ウルトラマンを殴打する。

25 : 以下、名... - 2015/11/04 20:44:45.78 fqlQ7fvZ0 23/28


ふいに

ウルトラマンが動かなくなった。

私の股下に寝転がっていた正義の使者は、粒子となって消滅した。

怪獣殿下「おめでとう」

少年が笑っている。

私は吠えた。あらん限りの力で咆哮を上げた。

手近な自動車を、オフィスビルに投げつける。炎上した。ははは。

逃げ惑う人々が乗る車の渋滞に、熱線を吹きかける。皆死んだ。はははは。

街中を、理由もなく走り回る。あらゆる物が踏み潰され、崩れ去った。ははははは。

26 : 以下、名... - 2015/11/04 20:46:31.90 fqlQ7fvZ0 24/28









                        たのしい




27 : 以下、名... - 2015/11/04 20:55:32.96 fqlQ7fvZ0 25/28


怪獣殿下「どうだい」

分かるだろう?

怪獣殿下「壊すのは、楽しいんだ」

怪獣殿下「でも、現実じゃ、そんなことできない」

だから怪獣がいるんだよ。

怪獣殿下「そのための、怪獣なんだよ」

特撮が、怪獣に街を破壊させる理由。

主人公のヒーローを立てるための所謂「やられ役」たる怪獣が

子どもたちに、特撮ファンに支持される理由。



怪獣殿下「私たちは皆、心に怪獣を飼っているんだ」



私は、少年に穏やかな笑みを向けた。

28 : 以下、名... - 2015/11/04 21:05:27.50 fqlQ7fvZ0 26/28


そこからの私の行動は、ある種必然だった。


私は怪獣殿下の上に馬乗りになると、その顔面を何度も殴りつけた。

ウルトラマンXにしたのと同じ要領で殴りつけた。


人間は、自身に憎しみや、悲しみを抱かせるものに対して、破壊衝動を持つ。

今の私にとって、彼こそが、それだった。



少年は光の巨人よりも脆く、すぐにただの肉袋になった。



29 : 以下、名... - 2015/11/04 21:26:26.54 fqlQ7fvZ0 27/28


金城「君は、誰だ」


怪獣殿下「君自身かもしれないし、君の中の怪獣かもしれないし」

怪獣殿下「皆の中の怪獣かもしれないし、また、どれでもないかもしれない」


或いは、


怪獣殿下「怪獣を愛した人間の成れの果てかもしれない」



カラカラという少年の笑い声が、火の海となった街に響き渡る。


あぁ、やはり

その笑い声は怪獣のようだ。


30 : 以下、名... - 2015/11/04 21:54:17.23 fqlQ7fvZ0 28/28



-1967年-


金城哲夫「円谷さん、少しお時間よろしいですか」

円谷一「あぁ、金城くん、大丈夫だよ」

金城「26話と27話のプロットができたので、見てもらおうかと」

円谷「そうか、どういう感じになるの?」

金城「今回の怪獣は、ひたすら破壊するんです」

金城「人間の失敗の結果生まれた、とかではなくて、元々いた怪獣が」

金城「怒りに身を任せて、大阪城とかを」

円谷「へぇ、タイトルは?」

金城「タイトルは・・・」





《怪獣殿下》





~おわり~


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