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517 : 以下、名... - 2015/10/31 04:33:27.89 sjSXlkcCo 513/620

~~上空~~


ヒュオオ

さやか(あ、今さらだけどあんたを連れて飛んでも大丈夫なんだっけ)

恭介(浮力が上がりすぎないように抑えてる。君こそよく気を遣ってくれて助かってるよ)

さやか(気を遣ってる?)

恭介(ほら、例えばこんな高さなのに寒くないだろ。

   いま分かってるだけでも風防は言うまでもなく他に空調、

   エアバッグ、酸素マスク、対Gスーツ……、

   ここまで快適に調整してくれるならもっと加速してもいいくらいだよ)

さやか(ああ……そのお礼は背中の剣に言って。

    あたしは『恭介がなるべくケガしないように』ってお願いしてるだけだから。

    ホントに体だいじょうぶ? 折れたりしない?)

恭介(正確には実物のエアバッグより高性能だ。

   ほら、重い物を持ち上げるときに、

   背中が反らないように腹筋に力を入れながらやると腰を痛めないだろ。

   あんな感じに瞬間的な衝撃だけじゃなく持続的にかかる力も絶妙に殺してくれてる)

さやか(よかった。んじゃ、ちいっと飛ばすよ)グァ

恭介(んがが)ギゴゴ


~~魔女の結界~~


カシン  ドカーン!

ゾゾゾ…  

ほむら「倒してもこんなすぐに使い魔が増えるなんて……!」

まどか「マミさん! この気配って……」クルッ

マミ「(コク)……一つの結界に複数の魔女がいる」

ほむら「2人も魔女が……? 

    倒すのに時間をかけてる間に体育館に別の魔女が来るかもしれないのに」

杏子「固まって歩いてくれてりゃあたし一人でもやれるんだけどな。

   仲がいいのか悪いのか分かんねえ連中が同居してるみたいだぜ」チラリ

ほむら「なによ?」

杏子「別に。マミ、あたしたちが侵入する前にこの結界にさらわれた住人はいなかったよな?」

マミ「ええ、確認したわ」パウッ

杏子「なら急ごう。あたしとマミはあっちの魔女に向かう。

   まどかとほむらはもう一匹の相手をしろ。それでいいか?」

マミ「――わかった。(クルッ)暁美さん、鹿目さん、無理はしないで!」タッ パウッッ

ほむら「あ、ちょっと!」

杏子「急げよ、この結界だけに構ってられねえぞ!」ダッ

まどか「行こう、ほむらちゃん」バシュッ

ほむら「は、はい!」タッ

518 : 以下、名... - 2015/10/31 04:37:28.57 sjSXlkcCo 514/620

――

ザアッ ビシッッ

ほむら「っ!」

まどか「ほむらちゃん!」バシュッ ズバッ

ほむら「ありがとう!」

まどか「だいじょうぶ!?」スタッ

ほむら「うん! でもこの魔女、強い……!」

まどか「(キリ…)マミさんが『無理するな』って言うだけあるね――」

ほむら「(サ…)そうだね。でも何とか――……鹿目さん?」チラ

まどか「(バシュッ)……ほむらちゃん、大変。またこの結界に魔女が増えちゃった……」

――

杏子「予感的中! 

   けど2匹の中間地点――出入り口付近にお出ましとはやってくれるなァッ」バシュッ

マミ「キュゥべえ、佐倉さんについていって! 頼むわね!」ジャキッ

QB「わかったよ」トトッ

マミ「佐倉さん! 引き込まれた人がいたらそちらを優先して!」パウッ

杏子(あいよっと)ダダダ

――

杏子(まどか、ほむら、ボチボチやってるか!)

ほむら(杏子、無事!? また新手が――)ポーン  ドカーン

杏子(わかってる。つかソイツの相手してる)

まどか(ごめん杏子ちゃん。わたしたちだけでこの魔女を倒すのは難しいかも)キリリ…ッ

杏子(マミもあたしも予想より苦戦してる。

   何とかもちこたえろ、あんたたちならできる)

まどか(わたし、さっきの技を――)バシュッ

杏子(待て、まだ使うな。……よし、あんたたちの場所は大体分かった)

ほむら(場所……?)

杏子(「ロッソ・ファンタズマ!!」)パシュン スタッ

ほむら「!?」

まどか「杏子ちゃん!」

ザアッ  ヒョイッ

杏子「いい動きすんなあ、コイツ」スタッ

ほむら「あ、あなた別の魔女と戦ってるんじゃ…」ス…

杏子「ちょい待ち。時間止めるなよ。万が一マミの勘が狂うといけないからね。

   あたしもこの状態、そうはもたないからな」タタッ

ほむら「え?」

杏子「現状維持で頑張れ、ってこと!」ヒュッ スタッ

まどか「わ、わかった!」キリリ バシュッ

519 : 以下、名... - 2015/10/31 04:41:29.33 sjSXlkcCo 515/620

――

杏子「(スタッ)――そろそろ決めてくれるかい、マミ先輩」クル…

マミ「(ジャコンッッ)」グッ

QB(2秒後にライン成立、暁美ほむらの射線上からの除去は標的の動きに影響しない)

――

杏子(ほむらを抱いて飛べ!!)

まどか「(タッ)――」ギュッッ  バシュッッ

ほむら「(ムギュ…)!?」ヒュオオ…ッ

――

魔女「ガアアアッ」ゴウッ

マミ「――(ドパズゥッッ‥)ティロ・フィナーレッ!」

――

ドオオオッ   パアアンッ…

杏子「うん」

――

ドオ  シュゥッッ!!   パアアアン……ッ


まどほむ「……!」スタッ


~~体育館~~


ギュオオ… 

杏子「魔女の結界層ブチ抜くとか、あんたもえげつない進化してんなあ。

   わかってたけどグリーフシード1個も回収できねえし」

マミ「(タハハ…)自分でお膳立てしといてよく言うわね。

  (……あの魔女たちってわたしたちみたいな関係だったのかもね)」ゴソ カチ フウゥ… スッ

杏子「(パシ)…フン」カチ フゥゥ…

マミ「結界に引き入れられた人はいなかったのね?」

杏子「ああ」ポイ

QB「(コロン)……きゅっぷい」

トコ トコ

子ども「おねえちゃん……」ヒック

スタ…

マミ「(ナデ…)大丈夫、みんなわたしたちが守るから。いい子で待っててね」ニコ…

母親「お願いします……頑張ってください」

マミ「はい」

520 : 以下、名... - 2015/10/31 04:45:30.03 sjSXlkcCo 516/620

ガンバレ…  ガンバレー  ガンバレーー!

まどか「よかった……みんな信じてくれたんですね」

マミ「(……本当は魔女のことは知らないほうがいいんだけど。)

   美樹さんたちも頑張ってる。ここを守り抜きましょう」

まどほむ「はい!」

杏子「おう。つかまだ魔女はここに来るのか?

   魔法少女が張ってれば大丈夫なんじゃなかったか」

QB「この場にはまだ大量の穢れが残存していて、近辺から魔女が押し寄せているみたいだね。

   ワルプルギスが去ったいま、一時的に見滝原全体で穢れが巻き取られてしまい、

   結果的に魔女から見てここが目立っている状況だ。

   君たちがその強さを知らしめることでほどなくあきらめて去っていくんじゃないかな。

   その頃には見滝原各所における場の穢れも現在より平均化が進んでいるだろうし、

   それに伴って魔女の出現頻度も通常パターンに収まっていくはずだ」

杏子「要するにもうちょいここでガンバレってことか。

   いつもなら大漁って喜ぶんだけどな。さやかの方も気が気じゃねえし」クル…

ほむら「(クス…)」

まどか「じゃあもう一度、アルティマ・シュートで……」

杏子「お前の腕じゃ効果範囲が狭すぎる。それは切り札にとっとけ」

まどか「う、うん……」

マミ「体育館に入ってきた魔女から地道に戦っていきましょう」

まどほむ「はい!」


~~上空~~


サアアアアア――…

恭介(……ところでそれ、何?)

さやか((フフン)よくぞ聞いてくれました! 

    鞘に封印されしさやかちゃんの魔力が、王様の剣を抜くことによって解き放たれ、

    さやかちゃん本来の武器である剣が使えるようになったのだ!)

恭介(そうなんだ)

さやか(驚くのはまだ早いっ。

    この柄にあるトリガーを引くことで何と刀身を発射できるっ)カシュン

シュルルル…

さやか(呪いを探知して魔女や使い魔を自動追尾し命中すると炸裂するという優れモノなのだ!

    さらにあたしの魔力によって刀身はまた装填でき何発でも撃てる、どうよコレ!?)

恭介(すごいね。あとで暁美さんに教えてあげよう)

さやか(それは勘弁して! あたしも剣が抜けてから初めて気づ――)

ドオオン!

使い魔「ギャアアッ」

恭介(もう使い魔がいるぞ!)

さやか(行くよ恭介!)チキッ

521 : 以下、名... - 2015/10/31 04:45:56.57 sjSXlkcCo 517/620


Fighter's Honor (Flying Remix)

作曲/編曲:椎名 豪

522 : 以下、名... - 2015/10/31 04:46:47.18 sjSXlkcCo 518/620


ギュオア

使い魔「キャハハッ」パキュキュキュ

さやか「ぐっ」シュン

恭介「ッッ」ギイイッ…

さやか(くのッ)カシュン

ヒュン ウフフッ

さやか(避けられた!? 追尾してるはずなのに!)

パキュキュ

さやか「!!」ギュオ

恭介「ぐ……」ギイッ…

さやか(恭介、大丈夫!?)

恭介(気にするな、集中しろ)

ギュオオ

さやか(でも当たらないんだよ、こっちの弾が)ヒィィ…

恭介(使い魔は霊体だから物理法則に縛られないぶん、こちらより機動性に優れてる。

   ミサイルの誘導性能だけに頼らず、しっかり引きつけてから撃つんだ)

さやか(わかった!)グオ 

グググオオッ…

使い魔「アハハッ」キュンキュン

さやか「……ッ」ギイイイ… シュオ ルン

恭介「ぷっっ」ゲポッ 

さやか「(ハッ)ッッ」チラ

恭介(撃たれるぞ、前を見ろ!)ガチ‥

パキュキュ

さやか(ッッ)シッッ ギュオ

カシュン    ドオン!

さやか(よし!)

恭介(8時と1時の方向)

さやか(続々とお出ましか……道をあけてもらうよ!)シュン

パキュキュ…

…ドオン  

523 : 以下、名... - 2015/10/31 04:50:48.55 sjSXlkcCo 519/620

――

恭介(もう1体、後方に出現したぞ)

さやか(OK!)グ

ゴオンゴオン…

さやか((ハッ)あの飛行機なに!?)

恭介((チッ)――自衛隊の戦闘機だ。

   あんまり空が賑やかだからスクランブル発進してきたんだろう)

さやか(このままだと2機とも使い魔にやられるよ、知らせなきゃ!)

恭介(いや、まずい…)

――

小林三尉(何なんだアレは……人が空を……? ありえない、化け物か!?)

管制官『コントロールよりディアボロⅠ、状況はどうだ?』

仰木一尉「こちらディアボロⅠ、視認で得られた情報をありのままに報告する。少――」

――パキュキュ ヂッッ

仰木一尉「(クルッ)被弾した!?」

小林三尉「発砲をやめろ!」

さやか(ちょっと聞いて! 今すぐここから――)

小林三尉(あ、頭の中に声が――!!)ブルブル

パキュキュキュッ

仰木一尉(ハッ)ヒュン

小林三尉「攻撃を受けた! 交戦開始!!」ギュルオッ

仰木一尉「小林、待て! 弾の来た方向が――」

――

グオオ

さやか(?)

恭介(避けろ、さやか!!)

さやか(えっ?)シュオ

ヴォオオオオオッッ

ツッッ

恭介(大丈夫か!?)

さやか(ああ、マントにかすっただけ……ときになんであたしは機関砲撃ちまくられてんの!?)

恭介(パイロットに使い魔は見えない。

   流れ弾がかすめたからこっちが向こうを撃ったと思われてる)

さやか(そりゃまたハイパーな状況に……)ギュン

524 : 以下、名... - 2015/10/31 04:55:14.91 sjSXlkcCo 520/620

――

仰木一尉「戻れ小林!」

小林三尉「こんな連中、野放しにさせられるか!」

ブオオオーッッ

恭介(この速度域だとついてこられるな。機動性だけは優れてる)

さやか(恭介、あたしたちばかり追って使い魔に気づいてないなら余計にまずいよ!

    使い魔はどっち!?)ギュルン

恭介(さやか。この2機にはおとりになってもらおう。君が本気を出せば引き離せるはずだ。

   使い魔を任せてワルプルギスに向かってくれ)

さやか(そんな……見殺しにしろって言うの!?)

恭介(客観的に考えてみろ、パイロット数名の命と全世界の命と、

   いったいどっちが大事だっていうんだ)

さやか(いま避けるのに忙しい!! 頼むからあの人たち説得して!!)ゴオオ ヴンッッ ヴヴンッ

恭介(……それならあの機に思いっきり寄せてくれ。 攻撃してくるほうの陰になるように)

さやか(オーケー! ありがとう!)ギュル

グク…

仰木一尉「……」グ…ッ

小林三尉(クソッ、位置取りを……)グオ

恭介(いいか、このタコ!!)

さやか(…)アチャー

恭介(ワルプルギスの夜っていう魔女をさやかは倒さなきゃならない。 

   あと10分で崩れ落ちる世界に出来ることがないっていうんなら、

   せめてさやかが救いに駆けつけるのを妨げるな!!)

さやか(…いや元はといえばあたしがあの子をひっくり返したような……)

恭介(君は黙ってろ!)

さやか(はい)

恭介(常日頃国の防衛の前線に立ってるあなた方でも理解できないかもしれないが、

   人知れず魔女という不可視の敵性存在から国民を守ってる子たちがいる。

   理解できなくてもいい、こちらからあなた方に危害は加えないから元の任務に戻れ)

仰木一尉(……君たちは、いったい……)

小林三尉「フォックス・スリー!」ギュオ

使い魔「キャハハッ」パキュキュッ…   

さや「あっ…」

525 : 以下、名... - 2015/10/31 04:59:31.03 sjSXlkcCo 521/620

ビシビシシッ… ドグヮアッッ

小林三尉「ゴハアッ…」ドォッ…

仰木一尉「小林ーーーー!!」

恭介(くっ…)

さやか「(ギュル)まだ生きてる!!」グンッッ

ピタッッ

さやか「アヴァロン!!」

キインッ…

仰木一尉「!?」

恭介(パイロットも機体も…元に戻った!?)

管制官『ディアボロⅠ! ディアボロⅡの機影が一瞬レーダーから消えたぞ、どうした!』

仰木一尉「……異常、なし…」

小林三尉「…………」チラ…

さやか「……」ニコ…

恭介(正面からさっきの使い魔が戻っててきたぞ……後方も――挟撃だ!)

さやか(……ッ)カシュン

使い魔「ウフフッ」キュン

恭介(後方へのミサイル、回避された)

さやか(それでいい、この人たちから距離をとってくれれば。もいっちょ)カシュン

使い魔「キャハハッ」ヒュオオ

恭介(前方の使い魔、接近!)

小林三尉(前……? どっちに避ければいいんだ?)

さやか((ヒュオ)あたしが防ぐ。信じて)ヒュオォン…

小林三尉(……!)

仰木一尉(小林、動くな! もう一匹とやらは俺が引き付けるッ)キアアッ

小林三尉(仰木さん無理だ! 相手はレーダーにも映らないし見えないんですよ!?)オオ…

カシュン カシュン…

仰木一尉(新婚ホヤホヤのお前を墜とされる俺の身にもなってみろ!

     相手が見えなくても追尾するミサイルの動きを見ればおおよその位置は推定できる、

     あとはこちらが撃たれる瞬間の――)グッ…

――パキュキュッ

仰木一尉(うおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!)ギュワァン ッヅッ――

小林三尉「仰木さんッッ!!」

526 : 以下、名... - 2015/10/31 05:03:35.72 sjSXlkcCo 522/620

恭介(向こうもあまりもたないぞ)

さやか(分かってる)

恭介(――来る!)

パキュキュキュキュッ

シャッ カカカカンッ ギュオ

ザシュッ

使い魔「ギャアアアッ…」

恭介(……あと1体)

さやか((ヒュゥゥ…)……この剣があんたを護ってくれてるんだよね)グクク…

恭介(ああ)

さやか(今から本気出す)

グオ キュル キュルルル…

恭介(……ッッ)グググォ…

仰木小林(なんて挙動だ……ッ!)

カシュ ドオン!

さやか(――もう時間がない、はやくワルプルギスに追いつこう!)ギュル

仰木一尉(君たち、どこへ行くんだ)

チラ…

さやか(あっちへ、あと10分もないうちに行かないといけない。そうしないと世界がやばい)

仰木一尉(私たちにできることは……)
 
恭介(この時間制限のなかで魔法少女以外に対応できる者はいない。

   あなた方二人の無事と脅威は去ったとの報告をしてください。さやか、急ごう)

さやか(じゃあ、あなたたちも気をつけて)クル シュオオッ

オオ…      ――バアアアアアアアアンッッ…

仰木小林「……」

管制官『ディアボロⅠ、両機とも無事か? 応答せよ』

仰木一尉「――こちらディアボロⅠ、

     他国からの領空侵犯および攻撃は受けていない。

     繰り返す、他国からの領空侵犯および攻撃は受けていない。

     ディアボロⅠ、ディアボロⅡともに問題なし」

管制官『了解した。先ほどの交戦開始したとの通信について説明されたし』

仰木一尉「ああ――空で溺れたところをイルカに助けられた」

管制官『何だって?』

仰木一尉「ディアボロⅠの機体が一部破損したのをディアボロⅡが誤認した。

     破損の原因は不明」

管制官『それを早く言え。空域に異常はないな?』

仰木一尉「目視確認する限り異常なし」

管制官『了解。ディアボロⅠ、ディアボロⅡ、直ちに帰投せよ。無事で何よりだ』

仰木一尉「ディアボロⅠ、帰投する。通信終わり」

528 : 以下、名... - 2015/10/31 05:12:39.20 sjSXlkcCo 523/620

――

ヒュオオオ

恭介(……さっきは感情的になってた。君が正しかった)

さやか(あのさ、さっきあんたが言ってたことなんだけど……)

恭介(ああ)

さやか(あたしにとって大切な命が…、世界の全部の命に比べたらちっぽけかもしれないけど、

    誰が大切かは決まってる。

    でも客観的に考えるなら、そんなのあたしに決められることじゃない)

恭介(…君はちゃんと選択して行動をとった。

   全てを救うことができるなら……)

さやか(‥きっとそんな単純な問題じゃないんだと思う。

    でも…、あんたが訊いてくれたおかげで吹っ切れたよ)

恭介(……未決にして進むのか)

さやか(これからもあたしは人の命に関わることで間違いを犯すだろう。

    それでも進もう。やれることをやろう。

    あたしに必要なのは推進力…、きっとそのためにこの剣を貸してくれたんだから!)

恭介(……オーケー。じゃ、遠慮はいいから思いっきり飛ば――)

パッ パッ パッ 

さやか((ハッ)囲まれた!)

恭介(しまった……まっすぐに進んでいたら簡単に待ち伏せされる相手なんだ!

   なんとか振り切って距離を取――)

使い魔「キャハハッ」ガシッ

さやか「くッッ」ズシッ グラッ…

使い魔「ウフフッ」シュン

使い魔「アハハッ」シュン

恭介(放せ、この……ッ)ググッ…

さやか「(サッ)ッッ」ギュウッ…

恭介(さやか!?)ムギュ

キャハッ アハハッ

パヒュッ 
チュンッ
パンッ

さやか「……ッッ」ビシッ ビシッ

恭介(さやかやめろ!!)モガッ

529 : 以下、名... - 2015/10/31 05:16:40.57 sjSXlkcCo 524/620

パヒュ ヅッッ

恭介(ぐっ…ッッ。離脱を――)

パヒュッ

ブツッ ヒュンヒュン――…

恭介(剣が……っ)

ビシ…ッ 

さやか「―――」ユル…

ヒュ‥ルルル…ーー


恭介「さやか!!」ガシッ

使い魔「ウフフフッ」

恭介「ッッ」モゾッ パシ

カシュ バンッ!!

使い魔「ギャアアッッ」ビヒユッ…

パシパシ カシュカシュン ドドォン!


~~魔女の結界~~


マミ「ッッ!?(クルッ)」ドキ

杏子「マミ、あと何分だァ!!」ギン ザシュッ

マミ「……ッ」ドキドキドキドキドキ…

杏子「マミ……?」


~~上空~~


恭介「――おいさyか!!」ギュッ

さやか「………」

恭介「くっ……!」

ヒュウウーー


恭介(このまま地面に激突した際に追加されるダメージ、

   何より追跡に必要な剣が……、ここまでか)

ギュ…

530 : 以下、名... - 2015/10/31 05:20:41.96 sjSXlkcCo 525/620

ヒュオオーー

恭介(さやか。脳が損傷してもキュゥべえの中継がなくても魂なら聞こえてるか)ナデ…

恭介(君はよくやった。これから目が覚めて最後まで力を尽くしたら胸を張れ。

   君がもしワルプルギスの力を解放するキッカケを作ったのだったとしても、

   それを責める資格なんてこの世の誰にもない。

   魔女はこの世の穢れを巻き込んで強くなっていく。

   人の世はいつだってノロイ、タタリ、ウラミの総量は人の善い部分の量を上回っていて、

   ――それを巻き取ったワルプルギスがこの世の因果の総決算なんだとしたら、

   勝てる道理なんてあるはずがない。

   きっと鹿目さんたちも心の中で悟ってた。悟ったうえで戦ってた。

   君たちはみんな、キュゥべえが見込んだのはそんな『希望』の存在だから。

   だってそうだろう、『あいつは死ね』とか、『この世がすべて滅びろ』とか、

   そんな願いからソウルジェムは生まれない。

   そのまえにキュゥべえに魔法少女の素質があるとは見出されないだろう。

   魔法少女になってから使い魔は狩らないと決めた子もいる、だが、

   その最初の祈りはたとえちいさくたってきっと、

   人類がもっとも大切にしなければならない輝きのひとつだった。

   そんな輝きを胸に抱ける子は限られている。

   だって無けりゃ無いで生きるにはそれで精一杯だし、

   それに耐えて生きて死ぬ人生だってあるだろう。

   幸か不幸か、誰かから贈られたものか君たちが自発的にもったものか、

   それはわからないけどさやかがその一員だってことは僕のひそかな誇りだ)

ビュオオッーーー

恭介(心残りなのはこの距離じゃ彼女たちとテレパシーもつながらないってことだ。

   さやかが一緒に戦ってきた仲間や家族と離れたまま独りで――、

   一人じゃないとか心は一緒だとか言ってもどうしたって君は独りぼっちでこれから――、

   タイムリミットが来て、君が失敗したと分かったとき、

   鹿目さんも暁美さんも巴さんも佐倉さんも、その最期まで心に引っかかるだろう、

   君が世界が滅びるのが自分のせいだと勝手に背負いこんで独りになってるんじゃないか、

   君のせいじゃないって伝えることもできずに心を痛めたまま終わるだろう、

   そんな子たちだよ、この僕をさしおいて)クス

ビュウウッ

恭介(君がもし――、世界のためじゃない、いや君の世界が彼女たちなら、

   鹿目さんたちの心痛を取り去りたいなら、とっとと目を覚まして救ってみせろ!

   そう、いちばんひとりぼっちの君こそが彼女たちを助ける側なんだ)

   
~~魔女の結界~~


杏子「マミ!! 何してる、やられるぞッッ!!」ザラララ ギンッ ジャッ

マミ(お願い、最後まで駆けぬけて……、海原い不死鳥……!)ギュッ…


531 : 以下、名... - 2015/10/31 05:24:42.19 sjSXlkcCo 526/620

~~地表~~


さやか「……」

――ュンヒュンヒュン ドスッッ   

恭介「しょうがないなあ、このねぼすけ」ギュ…

さやか「――っっ」パチッ

ギュオ パシッ ズクッッ… シィイー…‥ン‥

グワッ キュオオオッ……

さやか「誰がねぼすけだwwwwwwww」ギュオオッッ

532 : 以下、名... - 2015/10/31 05:25:08.64 sjSXlkcCo 527/620


Like a Phoenix Rising

Noel、作詞:Noel、作曲/編曲:椎名 豪

533 : 以下、名... - 2015/10/31 05:25:34.75 sjSXlkcCo 528/620


僕は飛び立ち

翼を空に向ける

灰から立ち昇って

そして今僕は空を舞う

戦火の中から僕は蘇った

さあここからは僕の番

今勝利は約束された

534 : 以下、名... - 2015/10/31 05:26:36.16 sjSXlkcCo 529/620

君より遥か高く上昇したとき

僕は君が僕の中に何を見たか理解する

開戦を決定した者どもを屈服させるため

僕は今日、日のあるうちにここに静寂をもたらす


なぜ君はまだ僕に挑む

君は勝てない

それは君の運命じゃない

君の名声も機体とともに地に墜ちるというのに

535 : 以下、名... - 2015/10/31 05:27:36.75 sjSXlkcCo 530/620

君に希望を、僕等に友愛をもとにした団結を

敵味方に分かれたすべての人にその闇は虚妄だという聞こえを

君が戦いに身を投じる道を選ばなかったら

今日も君の業を為す一日であったのに


焦土の瓦礫から僕は不死鳥のように舞い上がる

力だけが全てなのか、違うはずだ

卑怯にならず恨みや偏見も超えよう

戦乱を終わりに向かわせる

翼にのしかかる慣性をものともせずに

536 : 以下、名... - 2015/10/31 05:28:37.54 sjSXlkcCo 531/620

深く澄んだ青空にくっきりと飛行機雲を残して

僕は前へ進む

翼を広げ風を切る

君は投げ出さずこれから僕と戦うだろうから

そして誰かが死ぬだろう

僕等は始終相手を斃そうとするから


灯火に飛び込む蛾のように

君は還れないと分かっていてなお挑むのか

君がそうであるように

僕も名をかけて君を墜とそう

537 : 以下、名... - 2015/10/31 05:29:38.36 sjSXlkcCo 532/620



君と友達になれたなら

君が君の人生を歩めたなら


海原に漂う藻屑から僕は不死鳥のように舞い上がる

「力こそが正義」ではない

自由と公正を戦いのなかでも守れるのか

この戦争を終わらせよう

重力に勝る速度で

538 : 以下、名... - 2015/10/31 05:30:39.43 sjSXlkcCo 533/620

雲々よりさらに高く往きながら

みるみるうちに高度を上げながら

音を突破しながら

熱に灼かれ昇華して

いつか君と僕は太陽に届こう

539 : 以下、名... - 2015/10/31 05:31:39.97 sjSXlkcCo 534/620



さあ、戦おう


密林の陰から僕は不死鳥のように舞い上がる

僕の両翼に託された渇望

この空でだけは正々堂々と飛ぶ

最後まで

逆巻く重力を切り裂きながら

540 : 以下、名... - 2015/10/31 05:32:54.90 sjSXlkcCo 535/620


恭介(あれ、聞こえてたのか)

さやか(聞こえてたのか、じゃない!!

    あんた、自分のことは思いっきり死ぬ前提じゃない、ふざけんな!!)ギュン

恭介(…そうだね)

さやか((イラッ)…さっきの使い魔たちは?)ギュン

シュン           シュン              シュン            シュン

恭介(ぜんぶ倒した。前方に使い魔、数4)

さやか(‥ッッ)カシュカシュカシュカシュン

シュオア

ドドドドオオオオンッ!!

恭介(お見事。いよいよ本丸だ)

アハハハハ…

クアアアアアアッ

さやか(火を吐いた!)

恭介(任せろ)ス…

ボオヒュウウッッ…

さやか「くっ、火の勢いで進みにくい……ッ!」グラッ グラッ…

恭介(この火は僕が捕まえておくから君はその隙にワルプルギスを倒せ)

さやか(そんなこと――)

グイッ 

さやか「――ッ」

――チュッ…

ドンッッ

さやか「(ハッ)恭介ッッ!!」

恭介「行け、さやか!」ヒュウゥ…

さやか「……くッッ!!」クル ギュルッ

アハハハハハ……ッ

さやか「うおおおおっ!!」ギュオ

ザキン

さやか「恭介ーーーッッ!!」ギュン

恭介「……!」ヒュウウウ

ハシ ガシッッ

541 : 以下、名... - 2015/10/31 05:36:56.29 sjSXlkcCo 536/620

~~山岳地~~


ズザザ バキバキ ドザ ガササッ

ザザァーーッ……


恭介「………さやか」

さやか「(ムクッ…)恭介、大丈夫?」サス サス

恭介「そっちこそ。ていうかワルプルギスにとどめを刺したのか?」

さやか「(フリフリ…)あたし、正義の味方失格だな。

    (ニコ)さいごのさいごで、あんたと一緒にいたいって思っちゃった……」ギュッ…

恭介「…。(ギュッ ムクッ…)やつは……」


アハハハハ… グラ  グラ…


さやか「とどめを刺せなかったけど、もうあの状態じゃ剣の結界から逃げられても、

    嵐も起こせないよ」

恭介「よくやった。じゅうぶんだろ。

   つぎにワルプルギスが力を盛り返すまでは世界は守られたんだから。

   何年後か何百年後かわからないけどそうしょっちゅう出てくるもんじゃないらしいし」

さやか「うん……」

恭介「…どうした?」

さやか「もうグリーフシードの残りないよね」

恭介「うん」

さやか「あたし、たぶん見滝原に帰るだけで精一杯ってところ……」

恭介「そのソウルジェムの状態じゃね」

さやか「いま、あたしならとどめを刺せる。ワルプルギスの夜を終わらせられる。

    そうすると、代わりにあたしが魔女になってしまう」

恭介「……」

さやか「あの子達、もうずっとずっと長いあいだ魔女になってさまよってきたんだ」ジッ

恭介「……」

さやか「(ブンブン)悪い、ミスッた!いまの忘れて!あたし変なテンションになってるわww」

恭介「いいよ。やれ」

542 : 以下、名... - 2015/10/31 05:40:56.94 sjSXlkcCo 537/620

さやか「っ…」

恭介「君はいままで、正しくてラクな道と間違っててしんどい道に遭ったとき、

   いつだって間違ったほうを選んできた」

さやか「……」

恭介「それが君だ。それが美樹さやかだ。

   誰かを助けようと手を伸ばして結果、自分が滅びるのが君っていう女だ」

さやか「‥そう言ったらあたしが思いとどまるって思ったんでしょ」

恭介「いいや。君とたかだか十数年つきあってきた僕のただの本音だよ」

さやか「……」

恭介「どうせ君のことだ。

   魔女になって世界を滅ぼそうとしたところで僕や鹿目さんたちに――」

ピッ

恭介「…」

さやか「(ス…)……あんたってほんっとバカだわ」

恭介「おたがいさまだろ」

さやか「(ニコ)」クル…

チキッ…

アハハハ…

543 : 以下、名... - 2015/10/31 05:44:57.82 sjSXlkcCo 538/620

スッ

さやか「ワルプルギス……!

    あたしはあんたがどれだけ悩み、深く苦しんできたか知らない。

    でもあたしはあんたにありったけの、ちっぽけな敬意を捧げる。

    なぜなら世の中、どれだけ苦しんだ人が評価されるわけじゃないから。

    どれだけ努力し頑張って結果を出した人だけが評価されるのが世の中だから。

    あんたがそのタダシイ世の中の方向に逆らってまで、

    孤立した誰にも評価のされない戦いを続けてきたに違いないから。

    なぜって、それこそが人間が機能的な獣じゃない証拠だろ?

    苦悩と絶望こそが人間が精神というモノを持ってる、心が自由な証拠だから。

    力だけが正義じゃない、あたしはそう信じるから。

    誰にも認められず、進歩もしないという代償を払って、

    ただ同じ舞台を回し続け苦しみ続けるあんたに……、

    あんたが…、あんた達がどういう経緯で魔女になったのか分からないけど、

    あたしは、勝手にあんた達に敬意を持つ。

    そして、あたしはあたしのわがままであんたの停滞を断ち切る。

    魂が…、向かうべき場所が、それが本当にあるのなら、

    あんたをそのタダシイ方向へ送る、それがあたしのわがままだ!エクス――」グッ

さやか「カリバーーーーーーーーーーーーッッ!!!」ブオッ

ドオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!


~~学校の体育館~~


杏子「(ハッ)な、何だマミ……!? 遠くから、なのにはっきりと……」クル…

マミ「ええ…、凄まじいまでの浄化の波動……美樹さんの意志を感じるけど――」

杏子「なんつーか真っ白だ…それも何かが混じったら濁っちまうようなヤワなもんじゃねえ。

   自分が染まるのでも周りを染めるのでもねえのに……」

マミ「ただありのままの色彩を浮かび上がらせるのよ。

   ちょうど日の出をぬけて南中を目指す太陽が、

   その眩いばかりの輝きで地表を普く照らすように」

ほむら「これは……」

まどか「さやかちゃん……!」

詢子「何だ、さやかちゃんがどうしたんだ?」

マミ「(クル)彼女が、ワルプルギスを……」

544 : 以下、名... - 2015/10/31 05:48:58.77 sjSXlkcCo 539/620

~~山岳地~~

オオ…

恭介「ワルプルギスが消し飛ばされた……いや、洗い流された、のか……」

スゥゥ…

さやか「……あ、上へ…消えてく……」

恭介「剣と鞘……君が与えられた役目を果たしたってことかな」ジッ…

さやか「(ヅカッ…)王様……本当にありがとうございました。

    何度か乱暴に扱っちゃってごめんなさい……」グッ…

恭介「僕からも。さやかのソウルジェムの穢れも浄化してくれてありがとう」ペコ

さやか「(ハッ)あ、あたし魔女になってない!?」バッ

フゥ…‥

恭介「…さてと。帰ろうか」クル

さやか「(コク)うん。みんなのところへ」

恭介「で……」クル…

さやか「どっちから来たんだっけ?」クル


~~学校の体育館~~


まどか「あっちのほうの……ワルプルギスの夜の気配が消えましたね」

詢子「さやかちゃんは無事なのか?」

マミ「分かりませんが、少なくとも意識はある状態のはずです。

   連絡を取ってみないと。この辺りの魔女の気配ももうないわね?」ソワソワ

杏子「らしくねえな、落ち着けよ。こっちは片付いてるだろ。

   ワルプルギスのグリーフシードか。楽しみだな」ウヒヒ

ほむら「まったくあなたは……」

まどか「(クス)……?」チカ

ボウ… 

まどか「――杏子ちゃん!!」バッ

杏子「!?」

ほむら「っっ」サッ 

マミ「(ハッ)(ステルス!?)」クルッ

ほむら(時間静止できない!?)

545 : 以下、名... - 2015/10/31 05:52:59.67 sjSXlkcCo 540/620

ドッ

まどか「かはっ」パキィンッ…

ほむら「――」

詢子知久マミ「まどかッッ!!」

杏子「っらあああああッッ!!」ザシュッ

魔女「ギャアアアアッッ」ギュオオ… カツ

ドサッ… 

ほむら「――そんな……」

詢子「(グイッ)おい、まどかッッ!」

杏子「しっかりしろ、まどか!」ギュッ

まどか「(パチ)ママ……杏子ちゃん」

杏子「マミ、早くケガを――」クルッ

マミ「してないわ、鹿目さん…」

杏子「何を……ッ!?」

知久「(ズイ ジッ)――確かに。確かにケガはない……まどか、返事しなさい」

まどか「はい……。ママ、大丈夫だよ。杏子ちゃん、あの魔女は? 大丈夫?」ムクッ…

杏子「心配すんな、お前以外誰もやられてねえ……」

詢子「(ホッ…)あー…」ガクッ

知久「(フゥ…)……よかった。無事で」サス

マミ「(コク…)(……胸とソウルジェムを魔女に貫かれたはずなのに傷ひとつない……?)」

まどか「(サス)あ、あれ? わたしのソウルジェムは?」キョロ

マミ「!」

杏子「(ハッ)いや、まどか……」

まどか「ほむらちゃん、知らない?」

ほむら「……」フリ…

スタ… ギュウッ…

まどか「マ、マミさん!?」

マミ「(スッ…)鹿目さん……あなたは元に戻れたのよ、普通の女の子に…」

まどか「え? それって……」

杏子「魔法少女じゃなくなった、ってことだ。だからソウルジェムはない、だろ?」チラ

QB「そういうことだね」

ほむら「やった…」

まどか「あ、えと、じゃあ、キュゥべえ」

QB「なんだい、まどか」

杏子「だぁ~~っ! コラ! 変な願いごとして再契約とかすんじゃねえぞ!?」ガシッ

まどか「きょ、杏子ちゃん……。お礼を言いたかっただけだよ。

    キュゥべえ、今までありがとう」

QB「こちらこそありがとう。魔法少女として今まで頑張ってくれたね。

   君がそのつもりならいつでも復帰して。歓迎するよ」

まどか「わたしは……」

546 : 以下、名... - 2015/10/31 05:57:00.52 sjSXlkcCo 541/620

ポン…

まどか「?」チラ

マミ(鹿目さん。一つだけお願いがあるの)

まどか(何でしょう?)

マミ((ニコ)わたしのことを忘れないで。最近感じるの、

   人は死んでもその人のことを憶えてる人がいる限り完全に死んだわけじゃないんだって)

まどか(……ッ)

杏子「何だお前ら……」

マミ「べつにー。ね?」ニコッ

まどか「……」

杏子「絶対何か言ったろ! 泣いてるぞコイツ!」

まどか「泣いてなんかないよ……」ゴシ

マミ「(クルッ)わ、悪いことは言ってないですよ!?」ニコ コク…

詢子「……わかってるよ」コク…

ほむら「おかしな巴さん……」フフ…

マミ「ちょっと…」フフ

さやか(ワルプルギス倒したぞーー!)

杏子(……さやか。お前もいちいちうるさい)ペチ…

まどほむマミ(!)

さやか(「も」? この一大ニュースをお届けしたさやかちゃんに「も」とは、

    そちらで何かあったのか?)

杏子(結論から言うと何もねえ。あたしの失態はあったけどな)

さやか(ほう…)

杏子(そっちは? 戦利品はどうなんだよ)

さやか(それがですな。キレイサッパリ、何も残っとらんのです)

杏子(……苦労して倒したのにワルプルギスのグリーフシードは手に入らないってあんた……)

    
マミ(無理もないわ。あれだけの浄化の波動を浴びたのなら……。

   きっと本当の意味で、呪いも穢れも浄化されたのよ)

杏子((ハァー)ならもう、早く帰ってこい)

さやか(うん。……あのさ、ちょっとどっちの方向から来たのか分からなくなっててですね)

杏子(ああ、分かった! 現在位置が把握できてねえなら動くな!

   マミが恭介に渡したリボンの結び目を解けば伝わるんじゃなかったか?)

さやか(そうだね。わかった)

547 : 以下、名... - 2015/10/31 06:01:01.49 sjSXlkcCo 542/620

――

マミ「――OK。確認したわ」コク

杏子「それじゃあたしがまどかを連れてくから、マミはほむらを頼む」

マミ「(コク)迎えにいきましょう、美樹さんたちを」

ほむら「ええ」コク

まどか「……」

杏子「どうした?」

まどかが「わたしやっぱりここに残る。みんなで行ってきて。

     さっきみたいな魔女が出たら……」

杏子「あんな奴そんなにいてたまるか」

マミ「第一、鹿目さんはもう魔法が使えないでしょう」

杏子「そんなに心配ならあたしが残るから。お前が行かなくてどうすんだよ」

詢子「みんなで行ってきな」

杏子「あ…」クル…

詢子「鹿目詢子、まどかの母親だ。よろしく、佐倉杏子ちゃん」

杏子「…」ペコ

詢子「もうワルプルギスの心配もないし、

   あれだけみんな頑張ってここを守ってくれたんだ。

   いま、この街ほど魔女から安全な場所はねえだろ?」

まどか「でも、ママ…」

詢子「でもじゃねえ。そのレベルまで気にしてたら24時間寝ずの番で、

   一生この街から出られなくなるぞ。対策を取るなら後日に回せ。

   今日はさやかちゃんの所へいって労ってこい」ポン

まどか「う…」チラ

さや母恭母さや父恭父「(ニコ)……」コク…

まどか「じゃあ…いってきます」

詢子「おう。いってこい」



――


~~山岳地、上空~~

ヒュウウ…

杏子「マミ、まだか? ここらへんほんと山ばっかだなあ」

マミ「もう少しよ。ほら、あの――」ハッ

シュル カチャッ…

ほむら「……巴さん?」

まどか「マミさん、どうしたんですか?」

マミ「……」スッ…

杏子ほむまど「……?」

548 : 以下、名... - 2015/10/31 06:05:02.39 sjSXlkcCo 543/620

――


~~山岳地~~


恭介「……突然ソウルジェムが砕けて」

まどか「……」

マミ「……」

杏子「……ッ」

ほむら「……」

杏子「……傷を癒す鞘を持っててなぜこうなる」

恭介「剣と鞘は本来の持ち主の元へ還ったあとだった。

   さやかが持ってたところで砕けるのを防げたかどうかはわからないけど」

QB「そうだよ。たとえ鞘の力があったとしても無理だったろう。

   だって、いまさやかの願いが叶ったんだもの」

杏子「願いって――、何だよそ――」ハッ

マミ(――!!)

QB「さやかの願いは『大切な人が死ぬときに、自分がその身代わりになること』だったんだ」

杏子「――」

まどか「あ――、あ…、」ガク

ス ポゥ…

まどか「きょうこちゃ…」

クラ

杏子「――お前はちょっと寝てろ」ハシッ…

まどか「…………」クテッ…

QB「ともすれば恭介が対象になりかねない大きな賭けだったが、

   彼だけでなくさやかや恭介の家族、まどかやマミやほむらそれに杏子、

   志筑仁美など願いの対象が次第に拡大されリスクが分散されていったし、

   そのぶん魔女化の際に回収できるエネルギーも大きくなると見込んだんだが残念だ」

マミ(――初めから、自分にかけられた呪いだった)

杏子「おい…、馬鹿もいい加減にしろよ……、何で、

   わざわざ自分が死ぬってことまで願いにいれてやがんだよ!!」

QB「『あんたにそう言われちゃ返す言葉が無い』」

549 : 以下、名... - 2015/10/31 06:09:02.99 sjSXlkcCo 544/620

杏子「は?」

QB「これは自分の願いに対して杏子が非難をした場合に用意された返答だ。
 
   さやかは君たちに遺言を残してるんだが」

杏子「聞かせろ」

QB「では、まどかが対象となった場合のさやかからの遺言を……、

   本人の意識がないから後日にしようか?」

杏子「今ここで聞かせろ」

QB「『みんな、まず黙っててごめん。どうしても話せなかった。

    杏子、悪いけどバットを返せなくなったからあんたが体育倉庫に戻しといてくれる』」

杏子「……」

QB「『マミさん。迷惑かけてごめんなさい。

   率直に言ってもっとマミさん家に行きたかった』」

マミ「……」

QB「『ほむら。分かってるね。まどかが無事で済んだここで止めよう。

   棺桶にあんたの眼鏡を入れてくれると嬉しい』」

ほむら「……」

QB「『恭介。悪い。アメリカへの付き添いは仁美に頼んで』。

    ……それからまどかだがこれはやはり直接本人に…」

杏子「一番重要だろ」

マミ「美樹さんから禁止されてないのなら聞かせてちょうだい」

QB「『まどか。……あんたでよかった。今までで一番ひどいことをあんたにした。

   あたしは本当に馬鹿だ。でも、あんたが一番強い。

   キュゥべえの言うとおりだと、あんたはこれで魔法少女じゃなくなったよね。

   だから、あんたは持てる可能性すべてを発揮して、幸せになってほしい。

   それがもしまた魔法少女になりたいというのなら止めないよ。

   でもひとつだけ約束して。その願いにあたしを生き返らせることは入れないで。

   もしあんたがそうするならあたしはあんたを元に戻すよう願って、魔法少女になる。

   ……分かるでしょ。魔法少女は大人になる前に死ぬから。

   あんたが幸せになってくれるならあたしの馬鹿もちょっとはましなことになるからさ』。

   以上だ」

551 : 以下、名... - 2015/10/31 06:16:21.40 sjSXlkcCo 545/620

杏子「……あいつ、さっきあんなに威勢のいい報告してきたのに」

マミほむ「……」

杏子「なんだよ、あんたたちも聞いてたろ」

マミ「わたしには届いてなかったわ。あなたがテレパシーで会話を始めたからてっきり……」

ほむら「わたしも。

    そもそもテレパシーの圏外のはずなのに繋がってるのが不思議だったけど、

    さやかならあなた一人くらいになら通信できるのかなって勝手に思い込んでた。

    恐らく鹿目さんにも……」チラ

杏子「そんな……。恭介、お前は会話を聞いてリボンを解いたんじゃなかったのか?」

恭介は「……僕は巴さんからもらったリボンをたまたま思い出して結び目を解いただけだよ」

QB「そもそもテレパシーを送ろうにも出来なかったはずなんだ。

   まどかのソウルジェムが砕けた瞬間にさやかは絶命したのだからね」

杏子「でもあたしには聞こえたんだ。あいつの声が」

マミ「佐倉さん……」

ほむら「杏子。わたしには確かめようもないしどちらでもいい。

    それよりこれからどうするべきかを考えましょう」

杏子「…ッッ。…………ああ、そうだな」

マミ「いえ。どうするも何もないわ。美樹さんを連れて帰りましょう」

ほむら「わたしは時間を巻き戻す。さやかを死なせないようにするわ」

マミ「反対よ。同じ時間を繰り返したところでうまくいく保証なんてない」

ほむら「さやかがいないのに鹿目さんを守れたとはいえないわ」

恭介「あいつが暁美さんに残した言葉を思い出してくれ。

   また転校生として同じ人と最初から関係を築かないといけなくなるんだよ」

ほむら「わかってるわ」

杏子「あたしはやり直せるんならそうしてほしい。

   よりにもよってこんなバカな願いごとするなんざ絶対に許せねえよ」

マミ「だからって……」

ほむら「さやかが身代わりになって鹿目さんはこの先笑顔でいられると思う?」

マミ「……」

ほむら「……じゃあ」クル

マミ「……ほむら」

ほむら「……」チラ

マミ「……時間を巻き戻すのなら、

   もうあなたのこれから出会う巴マミはわたしじゃないと思って。

   同じ人でも、ふとした出会いの綾や心の向きが絡まり積み重なってまるで…いえ、

   正に別人になるものだと考えたほうがいい。

   あなたの望みとわたしの望みは重なるから、場合によってはわたしたちは敵同士になる。

   だから覚えていて。わたしは敵だと認めた相手に対して行動を起こすのは速い。

   きっとあなたが思っているよりも、ずっと」

552 : 以下、名... - 2015/10/31 06:20:22.67 sjSXlkcCo 546/620

杏子「……」

ほむら「(コク…)……マミ。約束、守れなくてごめんね」

マミ「謝る必要なんてないわ。あなたが一方的に言ったことだもの」

ほむら「(ニコ…)……」

スッ…

恭介「待っ――」パシ

ほむら「!?」

カチンッ…

恭介「(ハッ)しまった!」

シュン

杏子マミ「なっ――!?」

マミ「二人が消えた……上条くんが暁美さんに触ったせい……!?」

QB「なるほど。『消えた』というより『去った』という表現のほうが近いかな」

杏子「『去った』? あいつの左手が作用して時間を巻き戻すこともできずに、

   二人ともどっか行っちまったってのか?」

QB「時間遡行に関しては妨害されなかっただろう。

   むしろ、二人は大幅に過去の時点に帰着してしまったかもしれないよ」

杏子「何を言ってやがる! げんにあたしたちがこうしてしゃべってるのは、

   時間が巻き戻されてないからだろ!?」

QB「そうだとも。僕もたったいま確認することができたから推測を述べたのさ。

   ひとくちに時間をさかのぼると言っても幾つかのアプローチがあるからね」

マミ「(ハッ)まさか……暁美さんの魔法はこの時間を巻き戻すのではなくて、

   暁美さん自身が――」

QB「魔法が発動したときに接触していた恭介とともに、

   別時間軸における過去へ移動した。そういう形式による時間遡行の可能性が高まったよ」

マミ杏子「……!」

553 : 以下、名... - 2015/10/31 06:24:23.15 sjSXlkcCo 547/620

~~有史以前の見滝原~~


ほむら「どうしてこんなことを……」

恭介「キュゥべえが言ってたことを思い出したんだ。

   幻想御手はこの僕しか有していないらしいって。暁美さんが時間を巻き戻した場合、

   その時間の僕が幻想御手を持っていなかったらまずい。だから……」

ほむら「止めようとした?」

恭介「いや。君につかまっていれば自分もこのままで遡行した時間に戻れるかなって、

   とっさに……。すまない。幻想御手のことを忘れてた」

ほむら「……やってしまったものはしょうがないわ。それよりここは……」

恭介「君の魔法を強化したのだとすると、うんと昔の見滝原だろう。

   暁美さん、もう一度時間を巻き戻せないか。

   こんどは魔力をコントロールして君が転校してくる辺りにいけるようにするから」

ほむら「いえ、ちょっと待って……。ここだからこそできることがあるかもしれない」クル…

スタ スタ…

恭介「?」スタ…

――


スタ スタ 

ほむら「……」キョロ…

恭介「暁美さん、何を探してるの?」

ほむら「キュゥべえよ。ここがどれくらい昔なのかわからないけど、きっといるはずだから」

恭介「あ、そうだね」

ほむら(インキュベーター。いるなら応えてちょうだい)

QB(…………?…………)

ほむら「……応答があったわ。こっちに来るみたい」

恭介「日本語が通じるの?」

ほむら「テレパシーなら言葉は通じなくても意志の疎通なら何とかできるから」

…ピョコピョコ……

恭介「ほんとにいた。おい、キュゥべえ!」

QB「???、??????」

554 : 以下、名... - 2015/10/31 06:28:24.52 sjSXlkcCo 548/620

――


~~数時間後~~


QB「――なるほど。この星の子とはまだ一人も契約していないのに、

   君が魔法少女や僕たちインキュベーターに関する諸々の実情をはっきり理解したうえで、

   僕を呼べたことにも納得がいったよ」

ほむら「この短時間で言語を習得しながら理解できるとはさすがね」

QB「君たちの脳内における言語処理メカニズムについての研究の応用だよ。

   正確にはこちらの言意が適切に君たちに音声認識されているだけだ。

   ところでなぜ僕を呼んだんだい」

ほむら「そうね。あなたはさっき、

    この星で魔法少女の契約をした子はまだいない、って言ってたわね」

QB「これから着手するところだよ。僕はまずこの先にあるムラの――」

ほむら「ちょうどよかったわ。

    あなたと魔法少女の引退制度の導入について交渉しようと思って」

恭介「引退……」

QB「それは力になれないよ。前の時間軸の僕は『それは無理だ』と言わなかったかい?」

ほむら「ねえ、キュゥべえ。あなたが『魔法少女を元の人間に戻すことは無理だ』というのは、

    戻す方法じたいが存在しないという意味なの?

    それともいまの条件では感情エネルギーの回収について採算が取れない。

    にもかかわらずわたしたちの要求にこたえてしまうことは、

    インキュベーターとしての役割に反する。

    だから元に戻すことはできない、という意味なの?」

QB「……」

ほむら「人の魂を結晶化できるほどの技術力を持ったあなたたちなら、

    もう一度魂を元の肉体へ収めることくらい造作もないように思えるけど。

    魔法少女を引退させる制度を導入しても、

    それに代わるエネルギーの回収プランがあるとしたらどう?」

QB「確かに元に戻すこと自体はたやすいことだ。

   君たちがそれに釣り合うだけの対価を用意してくれるというのならね。

   ただ、引退するまでもつ子がどれだけいるかわからないよ?

   彼女たちは自らの希望に裏切られ絶望するのだから魔女になるのは必然だとも言える」

ほむら「人間は意外としぶといものよ。たとえあなたが選んだ子たちであっても」

QB「では引退する条件についてだが、満25歳でかまわないかい?」

ほむら「インキュベーターは、その勧誘する少女に対し、

    契約前に魔法少女の真実について余すところなく説明しなければならない。

    かつ『使い魔100体を魔女1体に換算して、魔力係数×1.75≧魔女討伐数』、あるいは、

    『満18歳』、いずれかの条件を満たした魔法少女を引退させなければならない」

恭介(『魔力係数』……?)

QB「それではこちらの分が悪すぎるよ」

555 : 以下、名... - 2015/10/31 06:32:27.51 sjSXlkcCo 549/620

ほむら「『希望と絶望の相転移によって発生する感情エネルギーを回収する』、

    かつて、あなたからそう聞いたわ。

    確かに、少女のほうが感情エネルギー回収には効率がいいかもしれない。

    じっさい、契約時にその子が絶望から希望へ相転移する瞬間に発生するエネルギーも、

    あなたは回収してるんでしょう?」

QB「……」

ほむら「でもそちらに目を向けすぎじゃない?

    あなたはこうも言ったわ、『魔法少女は希望を振りまく』。

    魔法は魔女を倒すためだけでなく、

    もっと直接的に困ってる人たちの手助けにも使えるはずよね。

    あなたが魔法少女をこき使えば、世の中の絶望に沈んでいる善男善女からの、

    相転移時に発生する感情エネルギーを回収して、塵も積もれば山とならないかしら。

    魔女の数に左右されない収益源になるはずよ」

恭介「僕からも提案がある。

   幻想御手で使い魔からグリーフシードを増産したり、

   魔女が落としたグリーフシードを強化したり、魔法少女が引退するまでサポートするよ。

   僕の寿命の問題なら僕から魂を抜き取って操り人形として使ってくれてもいい」

QB「先ほど話してくれた左腕の複製の件に鑑みるに、

   恭介を傀儡にしてしまうのはリスクを伴う。

   採用するにしても君の自由意志を残した方法を考えないとね」
   
恭介「頼む。暁美さんはまた時間を巻き戻してくれ。発動した魔法の方向を調整して、

   今度は君だけ転校前の時間に行けるようにするから。

   さっきいた時間への経路の感触なら残ってる」スッ

ほむら「上条くん……」

QB「ではそのシステムで試行開始するとして、担保となるものはあるかい?」

ほむら「ああ忘れてたわ。別の契約も追加で導入して。

    希望を祈る子もいれば絶望から呪う子だっているはずでしょう。

    そういった子に呪いを成就する代わりに魔女になる契約を持ちかけるの。

    これで魔女の減少問題にもいくらか対応できるでしょう」

恭介「なっ……」

556 : 以下、名... - 2015/10/31 06:36:28.64 sjSXlkcCo 550/620

QB「確かに。ところで担保の件だが」

ほむら「わたしがここでその魔女契約を結ぶから、魔女化のさいのエネルギーを回収して。

    魔法少女からでもかまわないかしら?」

QB「魔女になるのは幾らでも歓迎だよ。

   君はその祈りの行き着く先の呪いを唱えて、ただ魔力をすべて使い切ってくれればいい。

   しかし、ほむらのほうこそかまわないのかい」

ほむら「ええ、システムのスターターとしてのエネルギーも必要でしょうし。
   
    そういうわけで上条くん、悪いけど後のことは頼むわね」

恭介「ちょっと待ってくれ! なんで君が魔女にならなきゃいけないんだ?」

ほむら「それが今のわたしの望みだからよ。いえ、そうしなきゃいけないの」

恭介「……?」

ほむら「『繰り返せばそれだけ鹿目さんの因果が増える』ことをわたしは知ってる。

    なぜなら夢の中でわたしは『その』暁美ほむらだったから」

恭介「夢……?」

ほむら「上条くん。あなたは左手で『さっきいた時間』への道筋がわかる、って言ったよね」

恭介「ああ」

ほむら「その未来は『いまわたしたちが立っているこの時間』と連続しうるものかしら」

恭介「え? (チラ)――なっ……。(ハッ)……まさか」

QB「なかなか興味深いね。ほむら、いくつか確認させてもらってもいいかい?」

ほむら「ええ。

    夢の中の暁美ほむらと出会っていた『概念となった鹿目さん』についても話すわ」

恭介「『概念』……?」

~~山岳地~~


杏子「『時間軸』……?」

QB「繰り返すけど、暁美ほむらが実行しうる時間遡行プロセスには、

   おおまかに分けて二通りの候補があると考えられていた。

   ひとつは『同時間軸内の移動』、

   あるいは『時間推移座標の一致する別時間平面群への移動』だ」

杏子「だから時間軸とか平面とか、何だよそれ」

QB「時間平面は、いまこの瞬間の世界そのものだと言っていい。

   ある時間平面における全事象のその一点一点ごとの全ての可能性に対応して、

   新たに時間平面は発生する。

   その時間平面の連なりを過去から未来に向かって、仮にひとつ、

   あみだクジのようにたどっていけば、それが一本の時間軸と呼ぶことができるわけだ」

マミ「無限の、可能性……」

557 : 以下、名... - 2015/10/31 06:40:29.40 sjSXlkcCo 551/620

~~有史以前の見滝原~~


QB「……なるほど、ありがとう。話が逸れるけど君たちがよければ、

   ほむらの時間遡行の性質について、考察を述べさせてもらいたいんだが」

ほむら「ええ。わたしも知っておきたいことだから」

恭介「……」コク

QB「まず時間遡行後のスタート時において、

   遡行してきたほむらとその時間平面のほむら2人ではなく、

   衣服や所持品まで入院時のほむら1人のみに君の意識が宿っていることから、

   君の時間遡行は平行世界間をソウルジェム、

   すなわち魂のみで移動する性質のものであると仮定する。

   しかし、その既存の時間軸にいたはずのほむらの肉体に魂だけを飛ばして、

   元いた魂を押しのけて居座っていたのなら、

   それなりにほむら自身の因果に反映されるはずだが、

   君の因果値はその置かれた境遇なりの範囲を大きくは逸脱していない」

ほむら「そう、わたしの因果は顕著に増加してはいない……」

QB「この『魂の別時間軸への移動説』を(A)とおき、

   『魂の同一時間軸内移動説』を(B)とおくと、仮説(B)も排除できる」

恭介「同一時間軸説?」

QB「ほむらの魂が別の時間軸に移動するのではなく、

   同じ時間軸のなかにあるやり直し時点、

   すなわち退院直前の病室にまで戻ったのだという仮定だ。

   しかし、これは(A)が棄却されたことによって成り立たなくなった。

   なぜなら、分岐元が同じ自分ですら時間平面ごとのその存在に魂が宿っているのだから、

   やり直し時点の時間平面において、条件が(A)と同じだからだ」

恭介「わかった」

558 : 以下、名... - 2015/10/31 06:44:31.05 sjSXlkcCo 552/620

QB「では、君がその肉体と魂両方を別時間軸へ移動させたのかというと、

   これはさっき述べたように『その時間平面に既存するほむら』と、

  『時間遡行してきたほむら』の2人が同じ時間平面上に存在してはいないから違うよね」

ほむら「……その時間平面のどこかに『既存の暁美ほむら』が閉じ込められている、

    あるいは存在そのものを抹消した可能性は?」

QB「まず無理だろう。

   いずれも遂行するためには全インキュベーターの目をかいくぐらなければならない。

   君が完全な時空操作の魔法を発動できるなら話は別だけど」

ほむら「……」フリ…

QB「最後にもう一つ仮説を述べよう。

   ほむらの魂は既存のほむらの魂を押しのけたのではなく、

   重ね合わせたのではないかという説だが、これついてもやはり可能性は低い。

   魂が重合するのだからさきほどと同様に君の因果値にも反映されているはずだからね」

ほむら「わたし自身、時間遡行魔法をどんな形で使っているのかは分からない。でも……、

    時間軸に働きかけ、何らかの副作用をもたらすほどの魔法であった可能性はある?」

QB「あるとも。君が時間を巻き戻したとするなら先ほどの『夢の中の暁美ほむら』に対して、

   インキュベーターが語ったという事柄には、頷けるものがある」




~~山岳地~~


――


QB「――以上の検証からほむらが魂のみで時間軸のあいだを移動したという各仮説は、

   全て偽であると結論付けられる。もっとも、因果値を持ちだすまでもなく――」

マミ「ちょっと待って。そもそも今の話だと時間軸は無限に存在するのよね。

   つまり同じ時間を巻き戻したのではなくパラレルな時間軸に自分が移動するだけで、

   一度死んでしまった鹿目さんは時間遡行しても絶対に戻ってこない……」

QB「ほむらが時間軸間を移動する形式だとそういうことになるね」

マミ「……暁美さんはこの事実を知っていたの?」

QB「実体験を重ねてそれに基づき考えていれば、何かしら気づいていた可能性はあるだろう」

マミ「ふたつ言いたいことがあるわ。

   気づいていたとしてそれでも鹿目さんを守ろうとするのなら、彼女は、

   鹿目さんの安否の如何を問わず別の時間軸の鹿目さんを守るためにやり直すことになる。

   それはまるで出口のない迷路をさまようようなものよ」

QB「祈りのままにほむらが進みつづけるとするなら、そうなるだろう」

杏子「……」ギュウッ…

559 : 以下、名... - 2015/10/31 06:48:31.04 sjSXlkcCo 553/620

マミ「それにもう一つ。魂だけを移動させるというのなら、

   この時間軸に抜け殻となった暁美さんの肉体が残されることになる」

QB「しかし現に暁美ほむらの肉体は魂とともにこの時間軸から去った。

   肉体と魂の移動先まで追跡しなければ決定的とまでは言えないものの、

   これは今まで検証してきた魂移動説の一つの反証となる」

マミ「違う!! それはこの世界の暁美さんは死ぬってことなのよ!?」

QB「確かに現象的にはそうなるね」

マミ「っっ……!」

杏子「――マミ。実際、そうじゃなかった。……それでよかったじゃねえか」

マミ「……ええ。ごめんなさい」

杏子「……あのさ、蒸し返すようだけど。

   あいつの魔法はこの時間を巻き戻すわけじゃない、って本当に言い切れるのか。

   今さら言ってもしょうがねえけど、時間軸とやらが無限にあって、

   ほむらがそん中のまどかを全員助けなきゃいけないってのは……」

QB「確かに幻想御手からの影響でほむらの魔法そのものが変質した可能性は捨てきれない。

   つまり君はほむらの時間遡行がアナログ形式によるものだと主張したいんだね」

杏子「は?」

QB「時間があたかも砂時計のように上から下に向かって流れ落ちていき、

   ワルプルギスの訪れる一か月の時点で砂が流れ尽きる。

   この砂時計を逆さまにすることで時間を巻き戻し、

   暁美ほむらはひと月前から再スタートできるというわけだ」

マミ「あの小さな盾の……。その可能性はないの?」

QB「ほむらの魔力の強さでは無理だ。あの盾にはめこまれた砂時計は、

   あくまで魔法使用時などの表示的意味しかもたないと推測するよ。

   なぜならアナログ的観点における時間とは、

   世界――いや、世界どころか現在に至るまでの因果のすべてをも包括し、

   刻々と変化する莫大な事象そのものだからだ。ここにおいて時間を巻き戻すとは、

   その過程において、世界に循環する各因果を途中で巻き取り、

   新たに設定した帰結点まで運び去ることを意味する。

   時間を静止するのにも無視できない量の魔力を消費する彼女には、

   とてもこんなスケールの時間干渉はできない」

560 : 以下、名... - 2015/10/31 06:52:32.02 sjSXlkcCo 554/620

杏子「じゃー結局、世界とか時間ってのはアナログじゃなくデジタルでできてんのか?」

QB「世界も時間も、それ自体はアナログでありデジタルであるとも言える。

   捉えかたの問題だよ。もっとも、まどかの魔力係数値から推論すると、

   ほむらの時間遡行はアナログ方式であると仮定したほうが納得できるんだが……」

杏子「おいおい、さんざん否定しといてそれはないだろ」

マミ「鹿目さんの魔力係数、っていま言ったわね」

QB「実のところ僕らは魂の時間軸間移動説が適当だとは考えていなかった。

   なぜなら契約前のまどかの魔力係数が、

   ごく平凡な人生だけを与えられてきたのに釣り合わない高い数値を示していたからだ。

   マミもまどかについては気づいていたよね?」

マミ「魔力係数なんて用語は初耳だけど、(チラ…)

   初めて会ったときからこの子は見かけ以上のものを持っているとは思ってたわ。

   それこそ鹿目さんの人となりを知る前から、何か……素質があるといえばいいのか」

QB「正にそのとおりだ。

   複数の手法を行使して得られたデータを読み解くという僕らの一連の観測過程を飛躍し、

   マミはその射手の目をもって直観的に見定めるんだね。

   魔力係数とは、少女が将来魔法少女の契約時に示すであろう、

   魔力の強さを決定する要素のひとつで、魔法少女としての素質といってもいいものだ。

   この値は背負い込んだ因果の量で決まってくるんだけれど、

   種々の要因に該当しないまどかにとって、考えられるのはほむらの願い、

   時間を超える魔法によるものだと仮定するのが今のところ最も自然だ」

マミ「それはどういうわけで?」

QB「『鹿目まどかの安否』という理由で時間を巻き戻すことで、

   ほむらが最初にいた世界のすべての因果線が、今の世界の鹿目まどか、

   つまりこのまどかに連結されたとするなら、彼女が僕と契約する前に示していた因果値、

   すなわち魔力係数の大きさも納得できるんだよ。

   ただし、この現象は既存の時間軸間を、

   暁美ほむらの魂が移動するだけでは決して起こりえないんだ。

   例えば、君たちが疑いもなく思い込んでいたように、有史以前から現在にいたる、

   いま僕らが立っている世界の時間が丸ごと巻き戻される、

   文字どおり世界の因果線を巻き取るというクラスの事象によって初めて可能になる」

杏子「ちょっと待て! ほむらが巻き戻すなり飛ぶなりすんのはひと月分だけだろ?

   それがなんで有史以前から今までの因果とかになるんだよ?」

561 : 以下、名... - 2015/10/31 06:56:32.60 sjSXlkcCo 555/620

QB「言っただろう、アナログ方式における時間とは、

   現在に至るまでの因果のすべてをも包括するって。

   時間を巻き戻すという行為自体がそこに干渉することを意味する。

   いや、干渉どころではないね。時間軸そのものを新たに因果の帰結点、

   時間軸内の点の変位として捉えるなら中心軸と言ってもいい、

   『今のまどか』へと向かわせるんだから」

杏子「(カリカリ…)……とにかく、ほむらのおかげでまどかはパワーアップしたと。

   そこは確定でいいんだな?」

QB「まどかの因果値に関して、今のところ他に原因が見当たらない」

杏子「つか、何べんも言うけど時間を巻き戻すとか帰結点とかにいくんだとしたら、

   今ここで話してるあたし達は何なんだよ。

   ほむらが時間を巻き戻した時点でこの時間軸ってのが終了して、

   まどかの因果線とやらになるんだろ?」

QB「そのとおりだ。あくまでこの推論にこだわるなら、何者かが親切にも、

   巻き戻されたこの時間軸が継続するよう完璧にコピーしたうえで、

   新たに世界を創ってくれたのだとでも言うほかない」

杏子「もうサッパリだわ…」

QB「そうだね。……残念ながらこの仮説を裏付ける要素はまだ見当たらないし、

   暁美ほむらの時間遡行魔法の方式も謎のままだ。

   しかし彼女の願い、魔法がまどかの魔法少女としての強さを増強したことは、

   数値的に疑いがないよ」

マミ「……キュゥべえ。あなたは『既存の』時間軸という言い方をしたわね。

   暁美さんが新しく時間軸を創造しそこに自らを置いた、という可能性はないの?

   彼女の願いがそんな奇跡を起こすことだって……」

QB「それこそ最もありえないことだ。

   じっさい、今この瞬間にも無数の時間平面が生じているけど、

   それと奇跡や魔法によって新たに時間平面を作り出すのとはワケが違う。

   暁美ほむらの魔力の規模はとてもそんなことが出来るほど大きくはないよ。

   何か彼女の時間遡行魔法をサポートする要因がないかぎり不可能だ」

562 : 以下、名... - 2015/10/31 07:00:33.87 sjSXlkcCo 556/620

~~有史以前の見滝原~~


ほむら「――わたしの夢に出てくる暁美ほむらの記憶でも、

    あなたは……キュゥべえはそう告げたわ。

    わたしが時間を遡るうちに、幾つもの平行世界を螺旋状に束ねてしまったんだって。

    鹿目さんの存在を中心軸にしてね」

QB「暁美ほむらは時間遡行者であると同時に、時間を巻き戻す主体者である。

   恭介が左手に残る感覚から、いま僕らのいる時間軸と、

   先ほど君たちがいた時間軸とが連続し得ないものだとした報告など、

   有力な反証がなければ、これほど矛盾の少ない定義付けはないだろう。

   ほむらの魔力の不足についても、イレギュラーである魔法少女の起こす奇跡なのだと、

   目をつぶるとするならばだけど。

   君が言うように平凡な子が魔法少女として破格の素質を備えている以上、

   インキュベーターとして何らかの納得いく仮説を立てたいところだからね」

恭介「『その暁美ほむら』の時間遡行の副作用で、

   因果の特異点となった鹿目さんが自らの願いによって、

   『魔法少女を消滅によって魔女になる運命から解放する理』という概念に変わった……」

ほむら「でも鹿目さんが無事であってほしいというわたしの願いによって、

    その巻き戻した時間の因果のすべてが鹿目さんにだけ束ねられるなんておかしい。

    因果とは業でしょう? 平行世界のひとつを左右した張本人のわたしでなく、

    わたしの繰り返してきた時間、その中で循環した因果のすべてが鹿目さんに、

    あらゆる出来事の元凶として繋がってしまうなんて心情的におかしいの」

QB「いや、実はそもそも時間に関する理論とその説は矛盾するんだ。

   観測によって捉えられない事象が絡んでいるのでもない限りはね。

   逆に言えばあえて矛盾を無視して推論を進める場合もある」

563 : 以下、名... - 2015/10/31 07:04:34.96 sjSXlkcCo 557/620

ほむら「え?」

QB「その時僕は、鹿目まどかという少女の魔力係数値について言及していただろう?」
    
ほむら「ええ、『そうだとしたらあの途方もない魔力係数値にも納得がいく』と言っていたわ」

QB「その僕は与えられたデータを納得するために一つの仮説を述べたにすぎない。

   あわよくば暁美ほむらを精神的に追い込もうとした側面もあったのかもしれない。

   だが君の言うように、固定点1つ――つまり鹿目まどか単独の存在だけでは、

   ひとつの時間平面を固定することはできない。

   固定点は2つあってはじめてその時間平面を固定できるからね」

恭介「固定できる、ってどういうことだ? 各々の時間軸が全く同一になるってことか?」

QB「否定する。しかし近いね。平たく言うなら、『一つの時間軸を固定する』とは、

  『その時間平面に至るまでの来し方を固定する』ことであり、

   固定とは、ほむらの願いに含まれる暁美ほむらが暁美ほむらであり、

   鹿目まどかが鹿目まどかである、と願った時点の暁美ほむらが許容する範囲に収まる、

   ということを意味する。ある時間平面に固定点が2つあれば、

   来し方時間軸――つまりその時間平面に至るまでの全歴史も、

   多少の揺れ幅を許しながらも固定されるんだ。

   言いかえると、その2つの固定点に均等にその時間軸の因果が集中することになる」

ほむら「つまり……ほんらい時間を巻き戻した因果は……」

QB「『願う者』と『願われる者』、

   すなわち暁美ほむらと鹿目まどかの二人ともにかかることになる」

ほむら「それじゃ……」

QB「ときにほむら、プライベートな話になって申し訳ないが、

   君は今まで時間軸の同異を問わず、

   鹿目まどかのソウルジェムと君のソウルジェムを接触させたことはあるかい?」

ほむら「? ……多分ない、と思うけど……」

QB「本当に? 

   握手や抱擁、日常生活のはずみなどによって起こらなかったと言い切れるかい?」

ほむら「そう言われても分からない」

恭介「ソウルジェムどうしが接触するとまずいのか?」

QB「ソウルジェムどうしというよりも固定点どうしの接触について、だね。

   君たち魔法少女の魂の在処はソウルジェムだから、

   この場合固定点はソウルジェムだと言える」

ほむら「鹿目さんとわたし……固定点どうしが触れ合うと悪いことが起こるの?」

QB「悪いというか、幸運だったと言うべきか、はたまた話が振り出しに戻ったのか。

   まずげんざい唱えられている理論上、

   固定点どうしである君たちのソウルジェムが接触すると、

   文字通りまどかとほむらが一つになる」

ほむら恭介「……で?」

564 : 以下、名... - 2015/10/31 07:08:37.35 sjSXlkcCo 558/620

QB「次に起こるべきは時間推移の崩壊だ。

   そもそもほむらに巻き取られた――何らかのサポートが、

   それを君に可能にさせたとして――因果線はまどかとほむら、

   この2つの固定点の間を、始点と終点あるいは終点と始点として循環することで、

   安定を保っているものと考えられる。

   もし固定点どうしが触れ合えばその瞬間、因果は始まりも終わりもなくなり、

   最悪の場合、時間軸そのものがサイクリックに陥る。

   この世界は有史以前からまどかとほむらが出会うまでの歴史を、

   永遠に繰り返すことになるんだ」

ほむら恭介「それはまずい」

QB「まあ、接触したけど何も起こらなかったのか、接触しなかったのかは分からないし、

   そもそもこの理論が間違っているのかもしれない。

   実証できなかったのは残念でもあるし、幸いでもある。

   第一、魔法少女が絡んでいることに時間に関する理論のみが通るとも限らないしね。

   念のために尋ねるが、魂と肉体の区別もつかないような状態で、

   固定点となったまどかと君が触れ合った、なんてこともないね?」

恭介「そんなこと……」

ほむら「あ」

恭介「え?」

ほむら「夢のなかであった、ような……」

QB「それじゃデータにならないな」

ほむら「でも、夢だけれど、あれはどこかで確かにあったことなの……」

恭介「暁美さん。……その夢の中の暁美ほむらは、

   本当に君自身ではない別の暁美ほむらだって言い切れる?」

ほむら「ええ、確信を持ってる。その夢はいまキュゥべえが言ったような、

    まさに魂と肉体の区別もつかないような状態の鹿目さんとわたしが会話をしていた。

    それだけの夢だったけど、追体験させてくれたの。

    その暁美ほむらが歩んだ全ての道程も、その鹿目さんが心の中に映し出してくれて。

    だからこそ自分とは違う暁美ほむらだと認識できる」

恭介「考えたんだけど、君が……いま僕が話してる暁美さんが仮に時間を巻き戻したとしても、

   その影響を受けるのは君が出会うはずの鹿目さんに限定されるんだよね?」

QB「そういうことになるね」

恭介「それに対してさ、暁美さんの話に出てくる『概念となった鹿目まどか』は、

   君とは違う暁美ほむらが出会った、つまり君が出会わないはずの鹿目さんだろ。

   その彼女には、君の魔法の副作用はかからないはずじゃないか」

ほむら「ええ……」

恭介「言ったら悪いけど、その鹿目さんの存在を示す証拠なんて……」

ほむら「ねえ。2つの固定点にかかるはずの因果・業が、

    なぜ鹿目さん一人に集中するんだと思う?」

565 : 以下、名... - 2015/10/31 07:12:39.10 sjSXlkcCo 559/620

恭介「なぜって……」

ほむら「きっとあの子が、この世界、この時間軸を創った。あの子と出会うわたしであろうと、

    出会わないわたしであろうと、因果を背負わせないように。

    もう片方の固定点、鹿目さんだけにかかるように……」

恭介「そもそも因果関係が逆というか、成り立たないよ。

   その神様と言えるほどの因果を一人で背負う仕組みを作った鹿目さんは、

   その仕組みを作るためには神様にならなきゃいけないのに、そうなる前は、

   因果は2つに分散してたのなら、そうはならないわけで……矛盾してるだろ?」

ほむら「それは……わからない」

恭介「今までキュゥべえと話したことだってすべて机上の空論だろ。

   僕の左手の感覚の示す先が違う時間軸のようだとしてもさ、

   実際はこの時間軸の未来かもしれないじゃないか」

ほむら「韜晦はやめて。そうでないことはあなたが一番わかってるでしょうに」

恭介「っっ……」

ほむら「あなたが助けた黒猫のエイミー。わたしが最初に出会った鹿目さんは、

    目の前で車にはねられたのを助けるために魔法少女になったそうよ。

    あなたの知っている鹿目さんが願ったこととは違うの」

恭介「同じ時間をやり直してるんだから、多少の差は出てくるんじゃないか」

ほむら「そうね。同じ世界だとしてもそういう違いは出てくるでしょうね」

恭介「……」

ほむら「わたしが最初に出会った鹿目さんの家で見せてもらったアルバムに、

    小学校の入学式の日の写真があった。

    あなたとさやか、それに鹿目さんが校門の前で写っていたわ」

恭介「そんな、鹿目さんは……」

ほむら「わたしは同じ時間をやり直していた……鹿目さんとの出会いの直前から始まる時間を。

    でもそれは違う世界だったのよ。わたしが最初に出会った鹿目さんは……」

恭介「……」

ほむら「わたしがこの時間を繰り返すほど鹿目さんの因果が増える。

    最初こそ偶然に見滝原に現れたワルプルギスも、

    莫大な因果同士が引かれ合い見滝原での具現化は必然になっていく」

恭介「だから、みんなで力を合わせて――」

ほむら「たとえワルプルギスを倒せても、

    遅かれ早かれ彼女は誰にも止められない最悪の魔女になってしまうの。

    この世界を心から愛したあの子が――その手でこの世を滅ぼすことになるのよ。

    それを避けるためには――わたしがここで――この時間軸でやめるしかない」ニコ

566 : 以下、名... - 2015/10/31 07:16:40.22 sjSXlkcCo 560/620

恭介「(ゾク)……暁美さん」ジリ…

ほむら「……」ス…

恭介「ッッ」ダッ

カシン ピタ

恭介「――」ダダッ…バッ キョロッ

ほむら(――上条くん)

恭介「(ハッ)待てッ!!」ダッ

ほむら(――巴さんと杏子を助けて。

    巴さんは中学一年のとき、学校帰りに家族と車で食事に行く途中、事故にあった)

恭介「何を言ってるんだ! 僕が君をそこまで送るから――」ダダッ…

ほむら(わたしはここで魔女になるから、ごめん。お願いよ)

恭介「よせ、他に方法はある!!」ダダダッ…


~~山岳地~~

ゴゴゴ…

マミ「――!?」バッ

オオオオオオ…ッ

杏子「空が――揺れてる……!?」

567 : 以下、名... - 2015/10/31 07:20:40.65 sjSXlkcCo 561/620

~~有史以前の見滝原~~


QB「では契約を結ぼう。

   暁美ほむら、君は何への、あるいは誰への呪いでグリーフシードを満たすんだい?」

ほむら「(クル…)鹿目まどかを。この時間軸の未来で必ず現れるあの子を」

QB「契約は成立だ」

恭介「やめろーーッッ!!」ダダダ

ほむら「……」スッ… カシン

――


『ほむらちゃんって呼んでいいかな?』


恭介「!?」ダダダッ

ほむら「……」ガクッ… 

ビキビキ… ピシッ…



『わたしね、あなたと友達になれて嬉しかった』

ほむら「――」ニコ‥

『ほむらちゃんが悪い人になったら嫌だよ!!』

恭介「――ッ」ダダッ

『ならんで同じ景色を見ていたいなって』

恭介「ぐ……っ!」バッッ…



『いつかお揃いでやってみようか?』



ほむら「まど――」

パキィンッ

グ ゴオアア――ッッ

恭介「ぐ…あああああっっ!!」ビュゴオッ

ドサゴロゴロゴロゴロゴロゴロッッ…


~~山岳地~~


QB「これはいったい……! 宇宙が、書き換えられていく……!?」

マミ杏子「なっ――」


サアアアアァ…



568 : 以下、名... - 2015/10/31 07:24:41.52 sjSXlkcCo 562/620

~~有史以前の見滝原~~

ヒュオ オオ…

ジリッ ムクッ…

恭介「……いま、ッッ…」ギュウッ… ポタ ポタ

QB「大丈夫かい? 魔女化の際にフラッシュバックされる記憶が、

   反転する希望の奔流をそのままに、

   テレパシーを媒介にして君の心に共振を引き起こしたんだんだろうね」
   
恭介「暁美…さん……」ヨロ スタ スタ…

QB「彼女は無事、孵化したよ。素晴らしい収穫だった」

ガクッ…

恭介「……~~~~~~~~~~~~~~~~―――――ッッ!!!」

QB「君、彼女は望みを果たしたのにその反応はいったい――」

ガフッ…

QB「まずいぞ、恭介。ヒグマ一頭がすぐそこまで接近している」

恭介「……」

QB「何をしている ゆっくりでいい、立ち上がって背を見せずに退避するんだ。

   ちょうどよくそこに暁美ほむらの抜け殻がある」

恭介「抜け殻……」

QB「そうだよ。足止めになるはずだから君は刺激しないよう――」

ザッ ダッ

QB「恭介!?」

恭介「来るなあああッッ!!」ダダダッ

ガウッ バキイッ…

恭介「あ…ぐはっ…ぐぐ……っ」ピクピク…

ガブ グチャグチャピチュピチュ…

QB「やれやれ、しょうがないなあ」ピョコン スゥッ…

――パシッ グイッ…

ガフッ バキッ ガッ!

ガシ グイイイッ… ギュウゥッ…

ガフガフッ ブンブルンッ ジタバタ バタバタ バタ… パタン

ドサッ…

恭介「……」ムクッ…

569 : 以下、名... - 2015/10/31 07:28:42.55 sjSXlkcCo 563/620

QB「君の肉体から魂を抜き取ることが半径100kmに影響を及ぼさないか懸念されたから、

   もっと慎重に行いたかったんだけどね。

   近くのムラの住民にも何も起こらなかったところをみると、

   君の話のとおりその『幻想御手』は僕らのテクノロジーに干渉する性質はないようだ。

   あるいはそもそも左手の力は存在するのか……これから証明してほしいところだね」

恭介「左手が……動く……」ニギッ…

QB「今後の活動の支障にならないよう、ついでに修復しておいたよ。

   先ほどの君の申し出に則り、

   正式に契約を結ぶ前ではあるが臨時でも生命を維持する必要があると判断したからね。

   君の魂は抜き取った後、僕のポケットの中の異次元空間に保管している。

   さて、君の意志の確認を――」

恭介「ちょっと待ってくれ。(クル…)……彼女を運ばなきゃ」

QB「?」

―――
――

~~峡谷の上~~


恭介「まず暁美さんを……」キョロ

スタ スタ グッ…

恭介「くそ……、この石……、さっきはあんなに力が出たのに……」ググ…

QB「力を貸そう」

恭介「!」ググッ 

ズポッッ

恭介(軽い……?)

スタ…

恭介(ここにしよう)

グッ

ガッ ザッ ザッ

QB「いくつか留意すべき点について説明したい。

   君が役目を引き受けてくれる場合に関してね」

恭介「…あとにできないか。(ガッ)ちゃんと…、深く掘らないと……」ザッ

QB「では穴を掘る作業を続けながらでいいから話を聞いてくれるかい」

恭介「……」ザッ゙ ザッ

570 : 以下、名... - 2015/10/31 07:32:43.43 sjSXlkcCo 564/620

……

QB「――また熱量は肉体を構成する物質の結合にも関与している。

   つまりエネルギーによって、太陽光線、空気や空気中の水分、

   土や海水などから肉体の再生が可能だ。

   恭介の器官を構成する組織のパターンはおのおの記憶したから、

   たとえば灰になった状態からでも元に戻せるよ。そうでなくても君の必要に応じて、

   地球上の各地にいる僕らの個体すべてが君の肉体を任意の場所に復元可能だ。

   僕らとちがって人間の魂と肉体は一対一対応だから、

   新たに肉体を作成すると同時に古いほうの肉体は逆に分解処理すると無駄がすくない」

恭介「君たちの胃袋に収まるってわけか」ザッ ザッ

QB「呑み込みが早いね。

   見かけ上、君が世界中の任意の場所へ瞬間移動ができる、ということになるかな。

   これは君の肉体がマグマ溜まりなど、

   回収が難しい場所にとどまってしまった場合にも有効だ。

   デフォルトで固定されるから君自身の筋繊維の増加などはできないけど、

   熱量から運動エネルギーに変換して君の動作に付加する形での支援は可能だ。

   さっきヒグマを倒したときのようにね」

恭介「僕の体の動きはすべて君からの補助を受けているのか」ザッザッ

QB「今みたいに硬い地面を石で掘るなど、

   君のほんらいの筋力では相当な時間を要する、あるいは無理な場合などはね。

   でもすべて、なんてそんな非効率なエネルギー消費はしないよ。抜け殻とはいえ、

   その体は摂取した食糧からの熱量を筋力へと変換できるよう進化してるんだもの、

   その機能を利用しない手はない。

   もっとも状況次第ですべてこちらからのエネルギー供給でまかなうこともできるけどね。

   君は食料や水の経口摂取のみならず酸素さえ必要はなくなる。

   体内に吸収された毒や人体に寄生するウイルス、

   精神を蝕むたぐいの魔力も熱量変換の前には紙くず同然だ。

   ただしこれはあくまで非常手段だよ。

   飢餓や凍結、疾病などによる動作の支障が出ない程度には力を貸すけど、

   日常生活はできるかぎり自前でエネルギー調達してくれたまえ。

   君からの運動エネルギーの直接付加要請にも応じよう。

   しかし要請を出すまえに考えてほしい。

   集めたエネルギーを無駄にしたくないからね」

恭介「それは分かった。

   しかし、外部から直接エネルギーを与えて僕の動作を強化できるなんて……」ザッザッ

QB「人間の感情をエネルギーに変換する技術に較べたら難しいものではないよ」

恭介「そうか」ザッ ザッ…

571 : 以下、名... - 2015/10/31 07:36:44.62 sjSXlkcCo 565/620

――


恭介「キュゥべえ、この両手を燃やすことはできるか。‥幻想御手が干渉するかい」

QB「熱量を付与すればできるよ。

   燃焼および再生も僕らのテクノロジーによるものだから幻想御手の影響も受けないし。

   でもどうしてだい」

恭介「このとおり泥だらけでね。洗おうにも河はあんな下を流れてるし。

   まっさらな状態で再生できるんだろ」

QB「確かにそうだが君の魂は身体から抜き取られたまま、

   実体化したとも言えない中途半端な状態で異次元空間内に保管されてるんだよ」

恭介「つまり?」

QB「このインキュベーター個体が破壊されようが君の魂は無事だけど、

   ソウルジェムのような制御機構をもたない以上、痛覚のコントロールはできない」

恭介「わかった。燃やしてくれ」

572 : 以下、名... - 2015/10/31 07:40:45.71 sjSXlkcCo 566/620

――


恭介「(ピタ…)……………………」

QB「ほむらは、この星の少女が魔女になるかどうか、

   またその際に得られる感情エネルギーは得られるかどうかなど、

   検証に役立ってくれた。

   エントロピーを凌駕したかどうかについては比較データがなかったので不明だけど、

   恐らくうまくいったことだろう」

恭介「キュゥべえ。君が僕の肉体を一定のパターンに修復するってことは、

   脳内の神経細胞の連係も修復のたびに決められた状態に戻るってことだよな」

QB「そうだね。君が今記憶していることが半永久的に全て保持される」

恭介「でも更新はされない。……今の、この気持ちは、

   今、友達が死んだことすらも、その記憶は次の修復とともに消えてしまう……」

QB「いや、恐らくその出来事は忘却されないものと推測する」

恭介「……?」

573 : 以下、名... - 2015/10/31 07:44:46.82 sjSXlkcCo 567/620

QB「さすがにそんなに忘れっぽいのはこちらも困るよ。

   ここからはあくまでも仮説だが、

  『感銘を受ける』『感動する』ことや喜怒哀楽を大きく発する……、

   つまり君の『感情』が深く動く事象に関する記憶は、

   あたかも印影が連なるがごとく残存するものと思われる」
   
恭介「それは……何で?」

QB「幸いなことに君は年齢的に、認知能力に優れているからだ」

恭介「いや、何故かって聞いてるんだけど」

QB「情報把握に伴う学識・情緒など、

   多岐にわたる分野に対する分析と連動したその瞬間的受容性が鋭敏で――」

恭介「だからいくらそうやって感じたり考えたりしたことでも、

   この頭の中からは無くなってしまうんだろ? どうして覚えていられるっていうんだ」

QB「君たちが用いる慣用的・叙情的表現を借りるなら、

  『ほんとうにだいじなことは魂に刻み込まれるから』とでも言うべきかな」

恭介「――」

QB「納得してもらえたかい」

恭介「……ありがとう」ニコ

QB「どういたしまして。さあ、こちらで用意できる条件は提示した。

   君は魔法少女と魔女に関する役目に参加するのか否か、

   そろそろ答えを聞かせてくれるかい」

恭介「参加する」

QB「では次にいま灰になった状態から再生した君の左手――、

   それに宿る力とやらがほんとうに発揮されるかどうかだけれど――」

恭介「これから確かめて使えなければ好きにすればいい。

  (クル…)この河を下れば集落にでるんだよな」

QB「そうだね。まず麓まで降りて――」

タタッ

QB「話聞けよ」トトッ ピョン

バッ




ドボーン…

574 : 以下、名... - 2015/10/31 07:54:40.89 sjSXlkcCo 568/620

―――――
――――
―――



~~『数か月後』、山中の霊園、美樹家の墓前~~


ミィーーンーミンミンミンミンミンミンミィー…   ニィーーイイイイーー ニイイーーイイイイイーー…

和子「…………」ピタ…

…スタ スタ

杏子「……」スタ…

和子「…………」ピタ…

杏子「……」

…プーン… …チョン

杏子「(サッ)蚊が止まってる」ペチ

和子「(ハッ)あ、ありがとう。ごめんなさい、いたのに気づかなくて。どうぞ」スッ

杏子「(スッ)……」

ソッ…

杏子「……」ピタ…

和子「……あなたはさやかちゃんの魔法少女仲間かな」

杏子「いきなりそういう確かめかたはしないほうがいいよ」

和子「(クス)…そうね。……なんとなく、そんな気がしたから」

杏子「……あんたは?」

和子「中学の担任だったの」

杏子「そうか。さやかから聞いてたよ。

  (スク…)まどかはあんたが戻ってきたとか話してたけど、

   あんなことの後じゃ大変だろ」クル…

和子「それくらいは……。

   ……いま受け持っているクラスまでで退職するつもりなの。

   わたしは何としてもこの子を死なせちゃいけなかった。

   教師として、守るべきだったのに、止めるべきだったのに止められなかった」

杏子「あんたは守ってくれたよ、さやかを。それに誰が止めようが行くと決めたら行く。

   それがさやかや……あたしたちの役目だからな」

和子「ありがとう……。でもね、道に外れてでも方法はあった」

575 : 以下、名... - 2015/10/31 07:58:42.88 sjSXlkcCo 569/620

杏子「自分の信念まで踏みにじってでもか?」

和子「ええ……わたしは間違っていたから」

ほむら父「それだけで済ますおつもりですか」

和子「(ハッ)…」クルッ…

ほむら父・母「……」

タッ…

ほむら母「待ってください、早乙女先生!」

和子「(ビク)っっ」ピタ…

ほむら母「あなたが形式的な挨拶だけで済ませたのを受け入れたのは、
   
     先生が美樹さんの娘さんの死を背負っていると見受けたからです」

和子「……大事な娘さんの命が失われたことを、……背負うことなど……」

ほむら父「あなたしかいないのですよ。鹿目さんの娘さんが信じ、美樹さんの娘さんが信じ、

     我々の娘が信じることができる教師は。あなたを措いて誰が背負えるというのです。

     先生が娘たちへ注がれたは情熱は嘘だったのですか。

     あの子たちを送り出したこと……それは絶対的な間違いです。

     だからこそ我々やあなたがそれぞれに背負わなければならない十字架なのですよ」

和子「……」ギュッ…

さやか父「暁美さん」

ほむら父「……」ペコ…

さやか父「今日はわざわざ来てくださってありがとうございました。

     親御さんまで遠いところから足を運んでくれるとは娘も幸せ者です」

さやか母「杏子ちゃん、探したのよ」

杏子「……」

さやか父「先生……」スタ…

和子「申し訳ありません……っ。

   みなさんがお帰りになった後かと思って……」

さやか父「午前中にわたしらで一通り済ませておりまして」

詢子「和子、悪い……あたしの判断でみんなが来る時間、ウソを教えた」

和子「詢子……」

さやか母「(ペコ…)ありがとうございます。娘も喜んでいると思います」

和子「……」

さやか父「……娘が本当にお世話になりました。

     早乙女先生がわたしたちにそうして下さったように、

     わたしたちも娘の魂と共にあなたの幸せを心からお祈りしています。

     どうかこれからはご自分の心を自由にしてあげてください。

     わたしたちはあなたがさやかの担任の先生で本当によかったと感謝しています。

     きょう娘に別れを告げることで少しでも先生のお心が軽くなってくれることを、

     娘も願っていると思います」ペコ……

和子「(ガクッ…)……~~~~っ!」

576 : 以下、名... - 2015/10/31 08:02:44.21 sjSXlkcCo 570/620

スタ…ストン

詢子「(ニコ)……」ポン… サスサス

和子「ごめんなさい、さやかちゃん、ごめんなさい……っ」

知久「……」ペコ…

ほむ父ほむ母さや父さや母「……」ペコ…

タツヤ「あう?」

マミ「(ニコ…)……」ナデ…

ほむら母「巴さん」

マミ「はい」

ほむら母「この間は取り乱してごめんなさい。まどかちゃんも、辛いのに」

まどか「……」フリフリ…

マミ「いえ。ほむらさんを行かせてしまったのに変わりはないのですから……」

ほむら母「あの子が自分で決めて行動したことよ。あなたがたのせいなんかじゃない。

     それにこうなるってことは巴さんたちは知らなかったんでしょう。

     時間が巻き戻るものだと……」

マミ「それでも……」

ほむら母「(ニコ…)わたしたちがわだかまりを残したままだったら、

     あの子が戻ってきたときにすねてしまうわ。

     ……ね、今度みんなで東京へいらっしゃい。色々案内してあげたいから」

マミ「……はい。ありがとうございます」

ほむら母「ほんとうによ。まどかちゃん」

まどか「はい……」

ほむら母「わたしを許してくれる?」

まどか「許すだなんて……わたしこそ……っ」

ほむら母「(ニコ)じゃあ仲直り。……わたしもさびしいの。

     あの子がどうしてたか、すこしでいいから教えてくれる」

まどか「……はい。わたしも……ほむらちゃんのこと、教えてください」ニコ…

ほむら母「ええ、いいわよ。あの子が怒るかもしれないけど」クス

マミまどか「(クスクス…)」

ほむら母「それじゃあ、さやかちゃんに挨拶が遅れてしまったから……」クル…

マミまどか「……」ペコ…

スタ スタ…

まどか「――杏子ちゃん」

577 : 以下、名... - 2015/10/31 08:06:44.47 sjSXlkcCo 571/620

杏子「……」クル…

マミ「いいかげん、わたしたち話そうよ」

杏子「…魔獣を狩るときは声を掛け合ってるだろ」

マミ「そんなの会話とはいえない。倒したらあなたはすぐどこかへいってしまうでしょう。

   美樹さんのご両親が心配してるのよ。あなたがどこで暮らしてるのか、って……」

杏子「…ッッ。あ~~あっ、親子でそろいもそろって他人の心配ばかりしやがって……」プイ

まどか「……」

マミ「憎まれ口をたたくの治そうとしないのね。

   前みたいに逃げ出さないで、

   わたしたちのために踏みとどまってるのは成長したと思うけど」

杏子「(キッ)――」クルッ

マミ「感謝してる」ジッ…

杏子「~~っ……ッッ」チッ…

マミ「お願いよ。美樹さんのお父さんお母さんとも、鹿目さんとも向き合ってちょうだい。

   あなたならそれができるから」ペコ…

杏子「ふんっ……。お前はまどかさえ良ければそれでいいもんな。

   いいよ。向き合ってやる。おい、まどか」

まどか「うん」

杏子「…さやかのやつは希望も絶望も、一人で完結して死んじまいやがった。

   だからこっから先あんたがどうなろうがあんたの責任だ」

まどか「うん」

杏子「(プイ)う恨むならあたしを恨めよ。

   甘ったれて他の奴に当たろうもんならあたしがあんたをブッ叩いて――」

ガバッ

杏子「――!?ッ…」

まどか「うん。うん」ギュウウ…

杏子「……っ」

まどか「だから、どこかにいったら、だめだよ‥ッ!」ブルブル…

杏子「……ッ」

まどか「杏子ちゃんだけが、いちばんつらいままだなんて、

    さやかちゃんが、ゆるすはずがないよ……」ブンブン 

杏子「(ギリッッ…)…………ああ。どこにもいかないさ」ハシ ギュ…

ソッ…

杏子「ふざけたこと言ってんじゃねーよw

   あんたこそいちばん辛いままだったりしたら、さやかが許さないだろ?」

まどか「……ッ」

――…ギュウ……

まどか「…っ……っ…」

杏子「……さやかがあたしを許さねーとしたら、またあんたを死なせちまったときさ」ギュ…

578 : 以下、名... - 2015/10/31 08:10:45.24 sjSXlkcCo 572/620

マミ「……」ソ…

杏子「マミ。さやかの魂は迷ってねえだろうな?」

マミ「大丈夫よ。あれだけ魔法少女としての使命に力を尽くしたんですもの。

   その魂がないがしろにされるはずがないわ。

   どの神様か分からないけどきっと天国に導いてくれるだろうし、

   もしかしたら美樹さんの意思を汲み取って、

   円環の理に迎え入れられるよう取り計らってくれるかも」

杏子「(クス)お前の神様はずいぶん都合よくやってくれるんだな」

マミ「(ニコ…)ご都合主義に見えるけど、わたしはそんな気がするの」

杏子「ああ……。お人好しなあんたらしい。

   でもだからあんたが言うんなら実際そうなのかもって思えてくるよ。

   あいつずっと『円環の理の正体はまどかみたいな魔法少女に違いない、

   あたしが会って確かめるんだ!』って息巻いてたもんな」

マミ「(クス)どんなことも目を逸らさずに、それでも前向きでいようとして」

杏子「(チラ)あたしも、ちょっとは見習ってみるか……」

クル… スタ スタ

杏子「おじさん、おばさん。ちょっといいかい」

さやか母「杏子ちゃん。ええ」

さやか父「……」コク

杏子「あのさ……黙っていなくなっちまって……悪かった」カキカキ

さやか母「うん。悪いわよ。心配したんだから」ピッ

杏子「う……ご、ごめんなさい」ペコ…

さやか母「今度から、出かけるときはひと声かけてね」

杏子「は、はい。って、ええ……?」

さやか母「(フフ…)……なぜかけさ勉強机の上に手紙が置いてあって」ゴソ

杏子「え?」

さやか母「(ス…)たぶん引き出しに入ってたと思うんだけど、

     机には触らないでってあの子に言われてたから今まで気がつかなかったのね。

     それであの子、せっかちだから……」

杏子「……(クス)あいつならやりかねねえな。なんて?」

さやか母「あなたが大学を出るまで養ってあげてほしいって」カサ…

杏子「――ッ」

さやか母「偶然だけどお父さんもわたしも同じことを前から話し合ってて。

     さやかの代わりってことじゃない。あなたがさやかの恩人だからとかじゃなく。

     ……いえ、ごめんなさいね。わたしはやっぱり娘の生きた証が欲しいのかも。

     でも、本当に大学を出たら梨のつぶてでも構わないから……」

杏子「どっちが頼んでんだよ……」ペチ…

579 : 以下、名... - 2015/10/31 08:18:00.40 sjSXlkcCo 573/620

さやか母「あはは、そうねえ……」

杏子「なんつーかな……。あ、そうだ。さやかの生きた証ならそこにいる」クル…

まどか「……」

さやか母「まどかちゃん……」

杏子「……知ってのとおりさ、

   魔女に襲われそうになったあたしを庇ったまどかの身代わりになってあいつは死んだ。

   あいつがいたからあたしたちは生きてる」

まどか「おばさん、わたし……」

――ハシ ギュ…

さやか母「ごめんね、まどかちゃん。辛かったね……」

まどか「(フリフリ)わたしのせいで、さやかちゃん、ごめんなさい……っ」

さやか母「(ナデ…)だれのせいでもないの。あの子が誰かのために、

     自分のために願ったことだから……こんな優しい子を生かしてくれて、

     誇りに思ってる」

まどか「……っ」ギュッ…

さやか母「きょうだけは……今だけは……あなたを抱きしめてもいいかな」

まどか「(コク)」

さやか母「……さやか……」ギュッ…

まどか「……っ」ギュゥッ…

……

さやか母「……杏子ちゃん。さっきの話、どうかな」

杏子「(カキカキ)あのさー、さっきから仏前でやかましくっつーか、

   そういう話いまするかな」

さやか母「うん、大事なことだからね。あなたは目を離したらいなくなりそうだから」

杏子「さっき言ったろ、急にいなくなったりしないって。……施設の子でもねえんだ。

   面倒みるにしたってお役所はそうそう力貸してくんねえぞ?」

さやか母「今まであの子を育ててきたのよ。わたしだって稼いでる」

杏子「――けっきょく互いが一緒にいたいかいたくないかだって、さっさと決めろって、

   ……あいつは言うんだろうな」

さやか母「……」

杏子「……あたしはいたいよ。あんたたちと」

さやか母「よし、これからよろしく、杏子ちゃん!」ニギッ…

杏子「(ニギッ…)よろしく。おじさん、おばさん」

さやか父「……うむ。よろしく」コク

まどか「(ニカッ)大学に行くんだったら、これから中学校に行かなきゃだね、杏子ちゃん」

さやか母「そうね、忙しくなるわね」フム

杏子「大学かどうかはともかくさ。

   あいつがあたしにバットを体育倉庫に返させたのって……まあいいか」クス…

580 : 以下、名... - 2015/10/31 08:22:01.60 sjSXlkcCo 574/620

マミ「美樹さん……」

さやか母「巴さん。……どうぞ」スッ…

マミ「(ペコ…)ありがとうございます」ハシ…

……

マミ「…………」ピタ…

スク… 

さやか母「さやかも『素敵な先輩ができたんだ』って家で喜んで話してて……、

     今日もきっと……」

マミ「……さやかさんはわたしにはない真っすぐで潔いものを持っていて、

   特に善悪の基準には特に細やかにご自身を照らし見つめながら歩む人だと思います」

さやか母「――とてもあの子を良く見てくれて……」

マミ「……いえ。わたしにも、おかげでさやかさんの物差しが胸の中に収まったようです。

   これからも、生き方は違いますがわたしの歩みを測る一つの視点というか……」

さやか母「そう……ありがとう、巴さん」コク

マミ「(ペコ)……あの、お父さん。(チラ)すこし、よろしいですか」ス…

さやか父「はい」


スタ スタ…

さやか父「今日はわざわざありがとう」

マミ「(ペコ…)さやかさんは……わたしたち皆の命を背負っていました。

   きっと、内心とても苦悩されていたのではと……、

   そばにいながら気づかなかったことが……」

さやか父「……それはこれからもあの子に寄り添うわたしたちの役目です。

     巴さんはあの子の明るい心を憶えていてくだされば……」ニコ…

マミ「――ッ……」ペコ…


スタ スタ…

仰木一尉「失礼ですが……巴マミさんですね?」

マミ「そうですが……どなた様ですか」

小林三尉「美樹さやかさんにあの日、命を救われた者です。

     あなたがたは『魔法少女』で『魔獣』という、

     我々人類を脅かす存在と日々戦っておられる……」

マミ「いったい……」

仰木一尉「詳しいことはまた後日、あらためてご挨拶に伺いたいと存じます。

     本日は我々の命の恩人であり英霊となられた、

     美樹さやかさんに敬意を捧げたく参じました」

さやか父「? ……どうぞ心ゆくまで……」

仰木小林「はっ」クルッ スタスタ ビシッ…

581 : 以下、名... - 2015/10/31 08:26:02.51 sjSXlkcCo 575/620

……

仰木小林「では、失礼いたします」ビシッ クルッ 

スタスタ…

恭介父・母「?」

スタ…

恭介父「やあ……」ス…

恭介母「……」ペコ

さやか父「……」ス…

さやか母「(ニコ)……」フリ‥

……


恭介父・母「…………」ピタ…

……


さやか父「恭介くんはまだ?」

恭介父「守るべき女性を守れないなら戻ってくるなと伝えましたから。

    生きていく術は仕込んでおいたので、

    あの男はどこでなりとやっていることと思います」

さやか父「彼がさやかを大切に思ってくれていることは知っています。

     我々は彼に心から感謝していますし、

     娘は最後まで幸せでしたから、彼はもう自由に……幸せになってほしい」

さやか母「そうよ。親孝行だって心配かけたぶんしてもらわないといけないでしょ?」

恭介母「……っ」

恭介父「……」

スタスタ… ハァハァ…

仁美「(ハァハァ…)遅れて、ごめんなさい……」スタスタ…

まどか「仁美ちゃん! 来れたんだね!」

仁美「(ハァ ハァ)はい」

さやか母「わたしたちもさっき来たばかりですよ。

     そんなに急いで……ありがとうね、仁美ちゃん。少し休んでいったら?

     あの建物、クーラーが効いてたから……」

仁美「…いえ、平気です」ペコ…

さやか父恭介父・母「……」ペコ…

さやか母「気分が悪くなったら、すぐに言うのよ」

仁美「はい」ニコ フキ

582 : 以下、名... - 2015/10/31 08:30:03.59 sjSXlkcCo 576/620

さやか母「……」ス…

仁美「(ペコ)……」ソ…

シュボッ… チ… パタパタ… ソ…

さやか母「……」ソッ…

仁美「(ペコ)……」カタ チャポ…

パシャ‥

仁美「(ペコ…)……」ソ…

さやか母「(スッ)……」チャポン…

スト…  ジャラ ピタ…

仁美(……これから何度も『あなたがいてくれたら』と思うことでしょう。

   あなたとの別れだけは惜しんでも惜しみきれない。だから今は、悼みます)

――


さやか母「さあ、そろそろ片づけますね。みなさん、先生もよかったらこの後……」

和子「(ニコ…)……はい。ご一緒させてください」

詢子「美樹さん。わたしの思いつきで騒がしくしてしまって……」

さやか母「そうですね、他のお家のお墓もありますから」

詢子「……それもありますが……」

さやか母「……でも、個人的には感謝してます。きっと、あの子はこうしたがっているから」

詢子「……」
      
知久「……」

――ゴォン ゴオン ゴオオオオオオオオオオオオオオ…

知久「あれ……こんなところに……?」

詢子「……このエンジン音はブルーインパルス!? なんでここで……?」


サアアアアアア オオオオオオオオオオオ……ッ


タツヤ「あーーーっ、まろか、しゃかーーーっ」フリフリ…


マミ「きれい……」


~~麓への道~~


オオオオオオ…


仰木小林「…ッッ」ビシッッ


~~美樹家の墓前~~


オオオオオオオオオオオ…


杏子「……いっちまったか」フ…


まどか「……ほむらちゃん……」ギュッ…



583 : 以下、名... - 2015/10/31 08:33:04.59 sjSXlkcCo 577/620

~~『2年前』の見滝原の車道~~


グアアーン…

マミ「お父さん、前!」

マミ父「うああっ!」ダムッ 

マミ母「きゃああ!!」バッガッ…

キキィーーッ!!

バッ…

マミ(――――男の子――?)

バウンッッ 

ゴ ガシャドオオオオンッッッ

マミ父「(ハァハァ…ッ)お母さん、マミ……、大丈夫か……?」カチャッスルル クルッ

マミ母「(カチャッスルル)ケホッ…、(クルッ)マミ!? どうしたの!?」

マミ「お父さん、お母さん……。今、男の子があの車を……、見なかった……?」

マミ父「いや……お母さんは?」

マミ母「わたしは目をつぶってたから……男の子が今の車につぶされたの!?」

マミ「ううん。お母さんの座ってる側から飛んできて、

   (クルッ スッ)あの車を触ったと思ったら……あッ!」

584 : 以下、名... - 2015/10/31 08:36:06.08 sjSXlkcCo 578/620

ドーン!

マミ母「わあ!」ビクッ

マミ父「引火した! 外を見てくる。お母さん、消防と救急車、電話して」ガチャ スタ

マミ母「わかった! 気をつけて、お父さん」ゴソ ピッピッ…

マミ「(カチャ スルル…)……」ガチャッ…

マミ母「(クルッ)マミ! 中にいなさい! ――もしもし」

スタ スタ…

ゴオオオオーッ メラメラメラ…ッ

ギャアアーーッ アツイーアツイー  タスケテーー

マミ「……あ……っ」

マミ父「駄目だ……なんてひどい……。これじゃ近寄れない……!」

マミ(みんな……みんな…、死んじゃう……ッ!!)

マミ父「マミ、戻りなさい! (タタッ)お母さん、まだ消防車は来ないのか!?」

マミ(何も……何も出来ない……、助けたいのに、わたし何も……)

QB(本当にこの事故現場の彼らを助けたいと思うのかい、巴マミ)ピョコン

マミ(あなたは、キュゥべえ……)

QB(君がそう願うのなら、僕が力になってあげられるよ。

   魔法少女の役目や魔女については前に説明したよね?)

マミ(ええ。呪いを生んだ少女と元魔法少女――つまり魔女や、その使い魔を狩ること。

   世の中の人々の絶望を魔法によって希望へと変えること。

   引退するまでにわたし自身が魔女になってしまうリスクを負うこと……)

QB(要点をかいつまめばそうだ。引退の条件については、

   『使い魔100体を魔女1体に換算して、魔力係数×1.75≧魔女討伐数』、あるいは、

   『満18歳』、いずれかの条件を満たした魔法少女は引退しなければならない。

   ただしそれまでに魔力を使い尽くすか、

   君の願いから発生した歪みがやがて君の絶望に帰結するとき、君は魔女になる)

マミ(ええ、わかってるわ。(クル…)それでも――)

ゴオオオ…

585 : 以下、名... - 2015/10/31 08:39:07.02 sjSXlkcCo 579/620

―――
――




~~風見野の教会、初夏~~


杏子母「上条くん。せっかく久し振りに杏子に会いにきてくれたんだし、

    ゆっくりなさったらいいのに」

恭介「ただでさえとつぜん押しかけてる身でそんなのもう……」カキカキ

杏子母「いいんですよ、わたしたちには日常茶飯事ですし。

    それは別としてあなたならいつでも歓迎しますから。

    ほら、杏子も。見滝原の魔法少女さんたちしか友達いないんでしょ?」

杏子「んなことねえって言ったろ。恭介だって忙しいんだよ。

   ‥今日もこれから行くとこあんだろ?」

恭介「ああ。見滝原に用事があってね」

杏子母「残念ね。あなたのヴァイオリン、また聴きたいものだと思っていたのだけど」

杏子「無茶言うなよ、母さん」

恭介「用事のほうはそう急ぎでもないんですが。ただその相手が気まぐれでして、

   運がよければ今日じゅうに落ち合えるかな、と言ったところです。

   こちらこそご都合がよろしかったら、一曲聴いていただけますか」

杏子母「あ、いま弾いてくださるの?」

恭介「はい。そうですね、あと2時間ほどのあいだでしたら、いつでも」

杏子母「ああ、嬉しい。じゃあ、今から一曲と言わずお願いします」

杏子「母さん。一曲でいいぞ、恭介」

恭介「(コク)」ゴト…

~~~~~~~

パチパチパチ…

杏子「……『球根の中には』。母さんのとくに好きな歌だな」

杏子母「うん。こうして耳を傾けるのもいいものね。

    音楽のことはわからないけどいままで聞いたことのないいい音色。

    ありがとう、上条くん」

恭介「こちらこそ。聴いてくださってありがとうございました」ペコ…

ゴト カツッ…

杏子母「ではそろそろ邪魔者は失礼するわね。何か飲み物でも……」

杏子「いいってば。ここ飲食禁止だろ」

杏子母「じゃあ帰りのお弁当用意するわ。さて…」スタスタ…

恭介「あ、本当にお構いなく」

杏子「ありゃ止めても無駄だわ。母さんがそうしたいんだから気にしないでいいよ」

恭介「……」カキカキ…

杏子「まあ、座んなよ」

恭介「……」トサ…

586 : 以下、名... - 2015/10/31 08:42:22.22 sjSXlkcCo 580/620

杏子「…1年ぶりか。親父たちに魔法少女やってんのバレたとき以来だな。

   あん時もお前とマミさんが間に入らなきゃどうなってたか」   

恭介「たまたまキュゥべえに状況聞いてみたらこれだ、って感じ。

   せっかくいい宿を見つけたのに、

   そこの娘が父親と絶賛ケンカ中でよその家に転がりこんでるときた。

   宿が険悪な雰囲気になってちゃ休んだ気がしないもんね」

杏子「いい宿を見つけたかどうかなら損してるぜ。

   マミさんのお母さんすっげえ料理うまくてさ、もうちょっといたかったな」

恭介「‥親父さんは元気? 仲直りできた?」

杏子「ああ。家族ともども、ぼちぼちやってるよ。親父はまだ怒ってるかな。

   母さんがとりなしてくれてる。

   そういや親父もモモも、お前に会いたがってたぞ」

恭介「え、そうなの? 二人とも?」

杏子「親父がさ、お前のことを人の世の全てを見てきたようなことを言う不思議な奴だ、って」

恭介「まさか。そんな言い方があてはまる存在がいるとしたらキュゥべえくらいじゃないか?」

杏子「そうさな。でもお前、なんか違うだろ。キュゥべえといつも一緒にいたり」

恭介「…そうだな」

杏子「幻想御手…。ま、なんだっていいよ。お前がいいやつだってことは知ってるし」

恭介「買いかぶりだよ」

杏子「モモなんか、お前がまた来たら合奏すんだ、ってオルガンの練習に励んでんだぜ」

恭介「僕はけっこうあちこちで恨みを買うようなことしててね」

杏子「恨み? お前が?」

恭介「だから教育上、あの子と僕が交流を深めるのは――」

杏子「おいおい、今さらだろ」

恭介「(ニヒヒ)おっしゃるとおりで……」

杏子「……。なんかあたしが力になれることはあるか?」

恭介「ある。大いにある。この教会を潰さないで。僕が宿に困るから」

杏子「(ジッ…)……」

恭介「……」

杏子「了解。心配するな。

   すこしだけど、前より信者になる人も増えてきたしな。

   もちろんやめる人もいたけど、そこらへんはその人しだいだし。

   これからもこじんまりとやってくんじゃないかな」

恭介「よかったね」

587 : 以下、名... - 2015/10/31 08:45:27.73 sjSXlkcCo 581/620

杏子「ああ。…ただ親父がさあ、、信者からの献金を家族が暮らしていく分や‥、

   これ以上建物がボロくならないていどの維持費とかだけ取った残りを全部、

   伊勢の内宮に寄付しちまうんだな」

恭介「ブッwwwwwww」

杏子「笑いごとじゃないんだよ。まさに清貧」

恭介「wwwwもちろん、信者のみなさんには黙ってるんだよねw」

杏子「ある日とつぜん説教の最中に宣言したのが始まり。

   『みなさん、考えてみればここは日本です。主はわたしを捨てました。

   自分の行いと不反省からこれは当然のことです、しかしながら、

   この国のことわざにありますように、わたしと妻と子どもらを拾ってくださった。

   その神様がどなたかはわかりませんので、これからは、

   とりあえず日本でいちばん偉い神様にみなさまからの献金を寄付いたします。

   では本日の説教に~~』。これでただでさえすくないうちけっこうな数の信者がさった」

恭介「こんだけ堂々とブレにブレまくってふみとどまる人のほうがおかしいwwwww」

杏子「お前責任取れよwww」

恭介「いやいやwww

   君との契約は『初回の5分だけみんなが親父の話を聞いてくれるようにする』だったし、

   その5分以後は聞く聞かないは相手次第でほぼ親父さんの功績ですよwwwww」

杏子「軌道に乗るまでお前がここでヴァイオリン弾きまくって客寄せしてただろがww」

恭介「そんなことあったかなwww

   モモちゃんと契約して元通りにしたいかいwww

   ぼくたちモモちゃんと契約するつもりありませんからwwwww」

杏子「あいつ勧誘したらお前ら殺すわw」

QB「恭介のいうとおりだよ。あれだけもって足ることを知る子と契約するのは無理だ」

杏子「へいへい。どーせあたしは強欲な人間ですよ」

恭介「いいじゃん。その欲のおかげでいまの君たち家族があるんだから。

   お父さんも腹の中じゃ君に感謝してるんだよ」

杏子「わかってるよ。…こないだ家族で神宮に納めにいってきたんだけどさ。

   母さんとモモが川んとこで手を洗いにいってるときに『色々すまない』って言ってた」

588 : 以下、名... - 2015/10/31 08:48:29.73 sjSXlkcCo 582/620

恭介「(ポリポリ…)……。……ところでさ、この教会、神社に改修するの?」

杏子「いや。礼拝はいままでどおりそのままだよ。

   もうムチャクチャだよな。ついてきてくれる信者の人には申し訳ないというか、

   頭が下がるよ……」

恭介「そこはあの人の人柄なんだよ。言ってることもやってることもムチャクチャでも、

   どこか透徹としてる。普通は拾ってくれた神様を素直に信仰するよね」

杏子「だろうな」

恭介「けど君の親父さんはあくまで父と子と聖霊の唯一神信仰にとどまってる。

   自分は考えも行いも間違えてるのを自覚したまま直す気はないから、

   神は赦そうにも赦すことができない。

   こちらから神を許しはするけどこのままだと神が赦すことはない、って覚悟してるんだ。

   でも一方で、信者や君たち家族を確実に巻き込むことに耐えられるほど強い人じゃない。

   『父さんはもう少しここの神様にご挨拶したいからお前たちはおかげ横丁に行っといで』

   とか言わなかったかい?」

杏子「え……?」

恭介「きっと皇大神宮のまえで衛士さんに内心驚かれながら土下座してたんじゃないかな。

   引き裂かれる思いで、自分はどうなってもいいから信者と家族だけは救ってほしいって。

   チャンスを与えてくれたにも拘らず信仰もしていない神様が自分を救うはずなどない。

   それでもすがりついて信者と家族の魂の救済を懇願する。

   信じているのに間違いを正し赦しを求めない神が自分を赦すはずがない。

   それでも自分の信じた教えを説き続ける。

   …相変わらずなんかこじらせてるよね、君のお父さん」

杏子「親父と話したのか。……いや、あの人が話すはずないよな」

589 : 以下、名... - 2015/10/31 08:51:30.61 sjSXlkcCo 583/620

恭介「……」

杏子「……父さんも母さんも、あたしとモモは大学まで行かせてやる、って言うんだ。

   でも今みたいな生活してたら絶対二人とも……」

恭介「大学は出といたほうがいいんじゃない。他にやりたいことがないんなら」

杏子「大人が行くから大学っていうんだろ。高校までの勉強はサボらねえよ。

   必要だと考えたら自分の力でいくさ」

恭介「そう。…すくなくとも親父さん、死ぬまで生きるさ。

   親父さんだけ救われなかったとしてもその行き先には多分僕も行くだろうから、

   よろしく言っといてくれよ」

杏子「恭介に一緒にいられてもなあ」

恭介「きっつ。まあ親父さんは君に幸せになってほしいと思ってるんだろ。

   だからさ、君は君の人生を生きたほうが親父さんのためになるんじゃない?」

杏子「‥ありがとな、恭介」

恭介「はて。なあキュゥべえ、僕は礼を言われるようなことを佐倉さんにしたっけ。

   親父さんについて憶測を述べたらソウルジェムの濁り具合を進められるかと、

   君のやりかたを真似てみたんだけど」

QB「以前のことにしてもここで与えられた食事と宿の対価という範囲を逸脱してないね。

   それにやはり君は魔法少女の感情の操作について要領を得ていないものと察するよ」

恭介「…だってさ。やはり慣れないことはするものじゃない」

杏子「(クス)……」

――


~~教会前~~


杏子「恭介。元気でな」

恭介「(ニッ)ああ。君もな」スッ

杏子「(ニッ)」スッ

コツッ

恭介「(ニコッ)じゃ、お弁当ありがとうございまーす」スタ…

杏子母「どういたしましてー、いつでも寄ってねー」フリフリ…

フリフリ スタスタ…

杏子母「本当にいい子ね。次はいつ来てくれるかしら、杏子」

杏子「さあね。ほら、入った入った」パッパッ

杏子母「なに、もう……」スタ…

スタ…

杏子(あいつ……何かにケリをつける、って顔してたな……)

チラ…

杏子(……負けんなよ)クル…

スタ スタ…

590 : 以下、名... - 2015/10/31 08:54:31.26 sjSXlkcCo 584/620

~~見滝原へのバス、車内~~


ガタガタ ゴトゴト

アナウンス「次は見滝原駅、終点です――」

QB(恭介、いいかい)

恭介(何?)

QB(幾度も注意するようだけどね。佐倉杏子との契約時のことだが、

   君は彼女が願おうとしていたことに助言をしてたろう?

   彼女たちの希望と絶望の因果に介入するのは僕らの立場としては避けるべきことだよ)

恭介(介入ってほどでもないさ。

  『その内容だと話を聞く人の本来の意志に関係なく、

   親父さんの話に従わせてしまうことになるけど本当にそれでいいのか?』、

   って確認しただけだぜ)

QB(やれやれ……そこがインキュベーターと元人間の違いなのかなあ)

恭介(確かにね。人の心は不可解で理のとおりにならないこともある。

   だからこそ君のいうように、

   エントロピーを凌駕するほどの感情を爆発させることだってできるのかもしれない。

   いままで、どんなにグリーフシードを供給しても魔女として送ることになった子もいる。

   魔力の消費だけでなく自分が起こした奇跡が絶望をもたらすことは避けられないからだ。

   ただ、魔女化を防ぐべきだという前提には僕は立たない)

QB(その瞬間に発生するエネルギーが宇宙の寿命を延ばすことに役立つからね)

恭介(君の言うようにそれはとても大事なことだし、それが君や僕の負う役目なのだろう。

   それが当然であると君は従事するだろうし、僕も役目を果たすことに変わりはない。

   ただ、魔女になることで宇宙の役に立つから、じゃなく、

   魔女になるかならないかは本人の人生の問題だから、さ。

   君は魔女になる素質のある子を見抜いて魔法少女・魔女の契約をする。

   かといって、絶望がもたらされることが理のとおり逃れられないことであっても、

   そこで魔女になるかならないかは本人の欲しだいで変えられることなんだ。

   絶望を見つめてそれでも、純じゃなくなっても生きたいと思うかどうか。

   君が選んだ子たちは皆、それがすごく難しいのは確かなんだが。

   逃げ方を間違えて心に欺瞞を抱えてやりすごすとそれはそれで辛いことになるし。

   いやそれでもいい、生き長らえてこその物種だよ。逃げるのに間違いも何もない…、

   もし何かやりたいことがあるなら、でなくてもただすなおに生きたいとだけ思うなら、

   僕は全力でサポートする。生きるという選択だけがすべてじゃない。

   そうだ僕は信じていない、でも僕の考えることなんてどうだっていい)

QB(散漫で言いたいことがよく分からないけど、

   確かに祈りの魔力の根源がぐらついた子は魔法少女としての強さを失い、

   君が絶えずグリーフシードを供給しないと引退までもたなかったからね。

   いちど魔女になる機を逃した子は希望と絶望の振幅が収束するから、

   僕にとってそれほど重要でもない。君の言う、

   生き長らえて引退を迎えてもその後の人生の可能性が拓けた子ばかりじゃないだろう)

591 : 以下、名... - 2015/10/31 08:57:33.57 sjSXlkcCo 585/620

恭介(そうだ。でもこれだけは言わせてもらおう。

   絶望と希望の振幅が小さくなるってのは強くなったってことなんだ。

   そのカタチはさまざまだけど、人は生きた分だけ強くなる)

QB(確かにさまざまだね。

   月日が過ぎてから僕らと再会して、自分の娘は絶対に魔法少女にしないだの、

   僕のやり方が仕事の参考になるから感謝してるだの、

   恭介はなまじ目印になるから僕にまで話しかけられてどう対応すべきか困るんだよ)

恭介((クス…)そりゃ愛憎というものさ。懐かしいだろうしね)

QB(君がなぜそこまで力を注ぐのかわからないけどね。

   その懐かしいという感情を得たいためかい)

恭介(求めて得られるものじゃない、偶然なんだ。

   それに送った子だってみんな僕の魂には刻みこまれてる。

   時間の感覚もちがうから『懐かしい』とはすこし違うとおもう)

アナウンス「見滝原駅、終点です。

      お降りのさいは、車内事故防止のためバスが完全に停止するまで――」

――


~~見滝原、駅前の広場~~


~~♪~~♪~


恭介「……」ス…

さやか「……」ポー…

パチパチパチ…  

さやか「(ハッ)っっ」パチパチ

チャリン ポン チャリン

恭介「どうもありがとう」ペコ

チャリン チャリン ペコ ペコ…

……

さやか「あ、あの……」

スク… パチ パチ パチ… スタ スタ…

恭介父「ブラヴォー。素晴らしい演奏だったよ」パチ パチ

恭介「ありがとうございます」ペコ…

さやか「あ、おじさん! (クルッ)ねえ、この人ーー」

592 : 以下、名... - 2015/10/31 09:00:34.56 sjSXlkcCo 586/620

恭介父「(シーッ)」ピ

さやか「う、うん…。……素敵だったよ、あなたの演奏」

恭介「ありがとう」ニコ

さやか「(カァ…)あ、あのさ! 最後の曲、なんていうの?」

恭介「気に入った?」

さやか「うん! ゆったりしてて、人間味があって、静かだけど温かみがあって。

    聴いてるとヨーロッパの昔の小さいけど活気のある、

    馬車とか走ってそうな街が心の中に浮かんできたよ」

恭介父「さやかちゃんは感受性が豊かだね」フフ…

恭介「ええ、君のほうもそう感じられるのって素敵だよ。聴いてもらってよかった。

   ちなみにこの曲はベートーヴェンのロンディーノ。

   クライスラーのほうじゃないから注意しないといけない」

恭介父「(クス…)確かに。ややこしい話になるね」

さやか「ややこしいってどんな風に?」

恭介父「この曲は元々ベートーヴェンが、

    ホルンやオーボエ、クラリネットを主体にした管楽曲として作曲したものだ。

    これとは別に彼は『ヴァイオリンとピアノのためのロンド』を書いたが、

    後にクライスラーがそれを編曲した、

   『ベートーヴェンの主題によるロンディーノ』のほうが有名になっている。だから…」チラ

恭介「たとえば事故で入院したヴァイオリン弾きが、

   演奏できない憂さ晴らしに別の楽器の曲を聴きたくなった。

   それで見舞いにきてくれてる子にうっかりこう頼むとする、

   『どうせならベートヴェンのロンディーノのCDを持ってきてくれ』。

   合点承知に意気揚々とやってきたその子の手には、

   クライスラーのCDが握られてるってわけ」

さやか「(クスクス…)なにそれ、ややこしいね」

593 : 以下、名... - 2015/10/31 09:03:35.98 sjSXlkcCo 587/620

恭介父「ところで君、よかったらもっと弾いてくれないか。

    妻が迷わずここにたどり着けるようにね」

さやか「え、おばさんが?」

恭介父「はは、大丈夫。二人ともずっとこの街で暮らしてるから。いや悪かった。

    新鮮な気持ちを忘れないようにと言って、それで近所のお嬢さんに心配をかけてはな。

    こんな歳で結婚記念日に待ち合わせてデートをしようというんだから。

    君たちのような若い二人を前にするといささか恥ずかしいものだ」

さやか「いや、あの……」ポリポリ

恭介「仲が良いのはなによりですよ」

恭介父「どうも。わたしらにも子どもがいれば君たちくらいの歳なんだろうがね」

恭介「その待っているお相手は、まだ……」

恭介父「向こうのベンチにやってくるはずなんだけどね」

さやか「携帯もってるでしょ、何かあったんじゃ……」

恭介父「ありがとう。いや、待つのも楽しみのうちさ」パチ

さやか「そ、そう……」

恭介「では、待ち人がここに誘われることを願って……」

恭介父「お願いするよ」


……


恭介父(……アヴェ・マリアか……)

恭介父(古酒のなかには稀に老ね香で唸らせるものがあるがあれと同じだ。

    ハイフェッツがときに譜面に忠実には弾かぬように……。

    それを年端もいかぬ子がいったいなぜ? ……もしやあの噂は……)

……

恭介父「ねえ、君はこんなところで何をやってるんだ? 

    君の演奏はもっと大舞台で披露するべきものだよ」

恭介「こうして旅費を稼いでるんです」

恭介父「そうするにしてももっと人の協力を仰ぐとかやり方がある。

    第一、その楽器も傷んでしまうだろう……」

恭介「はい。良くないと思ってます」

恭介父「……それにしてもいいヴァイオリンだ。拝見しても?」

594 : 以下、名... - 2015/10/31 09:06:38.69 sjSXlkcCo 588/620

恭介「どうぞ」スッ

恭介父「(スッ…)ふむ、どこかで見たような気がするな……?」

恭介「メシアのコピーなんです」

恭介父「そうだ! ……はて、あれはアシュモリアン美術館のガラスケース越しにしか……」

恭介「ええ。模造が得意な友人がいるんです」

恭介父「見ただけで参考にして製作することはあるにはあると聞くが……、

    それにしても先ほどの音色は……。

    いやはや、楽器職人の知人と先日談じていたばかりだが、

    つくづく後生畏るべしと思い知らされる日だな」

恭介「……」

恭介父「ありがとう」ソッ…

恭介「いえ」スッ…

恭介父「しかし君、家の人は何も言わないのかね?」

恭介「親からは約束を果たすまで戻ってくるなと言われてますので」

恭介父「そうか」

恭介父「(ゴソ カキカキ… ビリッ)君、これを…」スッ…

恭介「…」ハシ

恭介父「黙っててすまなかったがわたしは実は……」

恭介「存じ上げてます。僕はあなたの大ファンなんですよ」ニコ

さやか「なーんだ、知ってたんだ」ハァ…

恭介父「それは嬉しいな。何か力になれることがあればいつでも連絡してくれ」

恭介「(ペコ…)ありがとうございます。ところで、あの……」チラ

恭介母「ねえ、あなた」

さやか「あ、おばさん!」

恭介父「(クルッ)!? こ、これは……いやはや……」

595 : 以下、名... - 2015/10/31 09:09:40.24 sjSXlkcCo 589/620

恭介母「(ニコ)さやかちゃん、こんにちは。

   (フゥ)しょうがないわね。ヴァイオリンのことになるとあなたは目がないんだから。

    ……こちらの方は?」

恭介父「そうだ、たった今素晴らしい音色を響かせてくれてね」

恭介母「聴いてたわ」

恭介父「す、すまない…」

恭介母「それにしてもあなたが手放しで褒めるなんて……」

恭介父「(オホン)と、ともかく連絡先は渡しておいたから。……そろそろ行くとしようか」

恭介母「……(クス)そうね、旦那様。じゃあ、さやかちゃん、と……」

恭介「ごきげんよう、麗しい奥様」ペコ…

恭介母「あら、ありがとう。ごきげんよう、街角のヴィルトゥオーゾさん」ニコ フリフリ スタ…

恭介父「では、失礼」スタ…

さやか「よい結婚記念日を……」フリフリ

恭介父・母「ありがとう」フリフリ…

恭介母「(スタスタ…)あの子の演奏している姿、若いころのあなたに似てたわね。

    あなたのは『フィガロの結婚』の小姓さんのだったけど」フフ

恭介父「む…、」

スタスタ



さやか「いいね。ずっと仲がいいんだ」ニコ…

恭介「ああ。さて、まだ時間があるようだし。何かリクエストある?」



           この左手が治ったら――



さやか「え、いいの? んーとね、ハナミズキ」

恭介「へえ、あの歌好きなの?」

さやか「うん。カラオケでよく歌ってるくらい」



     ――何でも弾いてあげよう、君の聴きたい曲を



恭介「なら君が歌ってくれ。僕は伴奏するから」

さやか「え!? ちょっと」

596 : 以下、名... - 2015/10/31 09:12:42.12 sjSXlkcCo 590/620

……

パチパチパチ…

通行人「(ニコ)……」チャリン

さやか「あ、えと、ありがとうございます」ペコ…

恭介「……」

さやか「(ヒソ)ちょ、ちょっと。

    (チラ)悪いよせっかくの演奏にヘタクソな歌を混ぜちゃっ――」

恭介「いや。…感動したよ」

さやか「……あんた……、ゴメン…違う曲のほうが」

恭介「謝らなきゃいけないのは僕のほうだ。

   すこし感情を入れすぎて弾いてしまってあんまり……」

さやか「そんなことない。とっても、とても素晴らしかったよ。

    ……あんたが、この曲大事に弾いてるって伝わってきて……すごくよかった」

恭介「そう。…君も謝ることなんてないよ。いい選曲だ。

   これは平和を願う詩だからね……君の歌もよかった」

さやか「(ニコ)……」ポリポリ…

パチパチ…

マミ「ブラーヴォ! 素晴らしかったわ!」パチパチ…

さやか「マ、マミさん!? いつから……?」

マミ「ほとんど歌いだしからだったかな」

さやか「ああ……誰にも言わないで!」

マミ「恥ずかしがることないのに。美樹さんだって歌が上手いんだから。

   二人の息も合ってたし、いいもの見せてもらいました」

さやか「からかうのはそれくらいにしてください……。ていうか、もう行きましょ」

マミ「鹿目さんがまだ来てないでしょう?

   わたし実物のヴァイオリンって見るの初めてで」シゲシゲ

恭介「(タハハ…)」

さやか「マミさん、テンション上がりすぎ! 戻って戻って!

    もう、じゃあ情報交換からいいですか?」

マミ「ええ。気づいたこととか、何か変わった噂は?」クル…

597 : 以下、名... - 2015/10/31 09:15:52.03 sjSXlkcCo 591/620

さやか「噂ですか。そういえばクラスの子から聞いたんですけど昨日、

    小学生の列に車で突っ込んで、電柱に衝突して死亡したっていう事故あったでしょ」

マミ「ええ、確か小学生の子は一人もケガしなかったって」

さやか「それが『お空からお兄ちゃんが飛んできて車から助けてくれた』って、

    みんな言ってるそうなんですよ」

マミ「っっ。……そう……ショックで混乱して、そういうお話にしたのかもね」

さやか「ええ、子どもですもんね。で、その男ですけど。

    以前、車道で多重事故を起こした奴だったって」

マミ「えっ……そうなの?」

さやか「それは今日のニュースでやってましたよ。

    ほら、反対車線から突っ込んできた車がきっかけで車がたくさん炎上したのに、

    事故を起こした当人もふくめて誰もケガをしてなかったっていう、

    奇跡だって騒がれたことが前あったでしょ?

    あの時と同じで、危険ドラッグをキメてたんだって。

    こりないやつはいつか自滅するんですよねー」ハァー

マミ「(ジワ…)そう……」

ハッ

マミ「(クルッ…)……!」ジッ…

恭介「何か?」

マミ「いえ……そういえばあなたたち、同級生なの?」

さやか「いや今会ったばっかりです。

    この子、さすらいの路上ミュージシャンやってるんだって」

マミ「その年で?」

恭介「キュゥべえから日常生活の消費カロリーくらいは自分で補えって言われてるんでね」

マミさや「え?」

恭介「いいかげんむずむずしてきたから改めて自己紹介するよ。

   そうだな、名前は恭介。巴マミさん、美樹さやかさん、

   君たちと直接会うのは初めてだけど、

   僕はそこらの使い魔を狩ってグリーフシードに変えてる」

マミ「じゃあ……あなたがあの『幻想御手』?」

恭介「……まあ」

598 : 以下、名... - 2015/10/31 09:18:53.62 sjSXlkcCo 592/620

さやか「ちょっとキュゥべえも! 先に言ってよ!」

QB「どのタイミングでだい? 君の方から彼に近づいたんだし、

   今まで生活者どうしとして君たちは会話していたんだろう?」

さやか「はあ……。で、恭介だっけ。何のためにここに来たの?

    魔法少女のサブが必要ってほど人手が足りない街でもないのに」

恭介「実は今、この街に原初の魔女が来てる」

マミ「原初って、あの――」

恭介「ハヤサスラヒメだ」

マミ「――そ、そんな……!」

さやか「マミさんが驚くって……そんなにヤバイ魔女なんですか?」

マミ「わたしも話にしか聞いたことはないけど……。

   わたしたちは魔女にはめったに遭遇しないでしょう。

   でも、使い魔とは比べ物にならないほど強い」

さやか「みんなしてかからないとダメですもんね。

    さっすが引退の条件としてカウントされるだけあるというか……。

    あれよりずっと強いとか?」ナッハハ…

マミ「ええ……魔女の中の魔女。あのワルプルギスの夜をも凌駕すると言われてるわ。

   彼女の結界に踏み入れた子は必ず死ぬって」

さやか「あ、そりゃまずい……」

恭介「逆に言えば彼女に関してはあくまで今のところはだけど、

   こちらから接触しなければ一般人にも魔法少女にも一切被害は出ない」

さやか「ええ!? 魔女なんでしょ! その子……そんなことってあるの?」

QB「その質問に答えるには契約の種類から説明したほうがいいね」
   
さやか「契約の種類? 魔法少女にアルバイトとかあんの?」

QB「契約形態ではなくて、最初から魔女になる契約もあるんだ」

さやか「ええ、マミさん! 本当ですか!?」

マミ「ええ。わたしも話にしか聞いたことはないし、

   あなたも追い追い耳にするくらいに思ってたけど」

QB「魔法少女になる素質がある子がいるように、最初から魔女になる素質を持った子もいる。

   もちろん魔法少女になった子からも受け付けているけどね

   魔女としての強さは呪う対象に背負い込ませた因果の量で決まってくる。

   たとえば社会や特定の集団、個人による虐めなどから個人が苦痛を受けたぶんだけ、

   呪おうが呪わまいが苦痛を与えた側はその個人に対して業を背負うことになる。

   魔女になる契約を結ぶとき、呪う対象を決定すると、

   魔女になったのちその呪いの力で対象のみを滅ぼそうと行動するんだ」

599 : 以下、名... - 2015/10/31 09:21:54.14 sjSXlkcCo 593/620

さやか「ただの逆恨みだったらどうするんだよ?

    第一、呪いなんて成就しても誰にとっても生産的とはいえないでしょ」

QB「ほんとうにただの逆恨みなら背負いこませる因果が発生しないから、

   そもそも契約が成立しないか成立したとしても呪いを成就するほど魔女は強くならない。

   それに希望と絶望のバランスは差し引きゼロだ。

   君たち魔法少女がそのバランスのなかにありながら、

   社会の発展に寄与した部分があるように、

   彼女たちのように望んで魔女になった子の呪いもまた無意味とは言えないだろう」

さやか「むむ……。じゃあいまここに来てるのも最初から魔女になった子なの?」

QB「正確には魔法少女が途中から魔女の契約を結んだんだけどね。

   いまこの街に引き寄せられるようにたどり着いたハヤサスラヒメもまた、

   望んで魔女になったことに変わりはない。

   それも呪う対象の因果はかつてないほどの量だ。

   さらに他の魔女とちがい使い魔をもたない分、魔力はワルプルギスの比ではない。

   それでいて魔女としては完成していない。呪いをまだ成就していないから、

   限りなくグレーに近い黒というべき状態だ。

   たまに契約した子が取り殺す前に呪う対象が事故や事件・病気等で死ぬ場合があるけど、

   呪う対象の命を直接奪わないかぎり魔女としては完成しない。

   つまり、この世から巻き取った穢れを撒き散らさない。

   また、意図的に人々を結界に迷い込ませて生命エネルギーを取ったりしない。

   そうなると、呪われる相手以外には害を及ぼさないから、

   魔法少女にとっては倒す優先順位が下がることになる。

   魔女として完成してないため人としての意識が残っていて自制が働くのか、

   結界外に使い魔が出てこないことが多いしね。

   もっとも、そのぶん集めた穢れから生じた魔力はほぼ結界内に滞留・集積され、

   放っておくと強敵になる危険はある」

600 : 以下、名... - 2015/10/31 09:24:57.73 sjSXlkcCo 594/620

さやか「だったらなんでそのハヤサスラヒメってのをもっと前に倒さなかったの?」

恭介「倒そうとしたさ。だが、ハヤサスラヒメだけは……、

   まず結界内にすら使い魔が見つからない。つまり、結果として有史以前に生まれて以来、

   この世から巻き取った穢れのすべてをその魔力へと変えている。

   単に強さから言っても魔法少女には勝てない。しかも彼女は時間停止の魔法が使える。

   今までこの話を聞いたうえで原初の魔女に挑んだ魔法少女がいたけど――、

   志願者は少ないとはいえ、その子たちはみな優秀で立派な魔法少女だったけど――、

   文字通り結界に侵入した瞬間にみな息の根を止められた」

さや「(ゴク)……」

マミ(……? だとしたらこの子はなぜそのことを……?)

QB「だからもう一度確認するけど、

   魔法少女にとってハヤサスラヒメと戦う意味はひとつもない。

   この魔女はこちらから仕掛けない限りいっさい害を及ぼさないし、

   結界に侵入するのは自殺行為以外の何物でもない。

   何より、僕と契約した魔法少女が魔女にならずにソウルジェムを砕かれては困るよ」

マミ「ええ……。触らぬ神に祟りなしってことね」

さやか「よし、この魔女だけは街を通り過ぎるまで何もしないぞ」

…チカ チカ チカ…

601 : 以下、名... - 2015/10/31 09:27:59.59 sjSXlkcCo 595/620

さやか(マミさん……! すぐそこに……)

マミ(ヘタに動かないで……平静を装って……)

恭介「……」

まどか「みんなーー」パタパタ…

さやマミ(!?)ビクゥッ

クル…

さやか「まどか……あんた魔女に気づかないのか……っておい!」

まどか「? ?」

マミ「鹿目さんの首筋に魔女の口づけが! 

   ……魔力の波動が今ソウルジェムが同じ、ということは……」

さやか「大変だ! まどかがロックされてる!」

まどか「ロックって?」

さやか「魔女があんたを24時間絶賛ホーミング中だってことだよ!

    しかも、相手は……何せ超ヤバイ魔女なの! 早く逃げないと……」

恭介「逃げても無駄だ。魔女の口づけはその魔女が倒されるまで消えない。

   魔法少女だから普通の人より魔女の呪いに対して抵抗力があって意識を保ってるけど、

   植え付けられているのが穢れである以上相性が悪くいつかは魔女に操られることになる。

   彼女自身が原初の魔女を倒すしか手はない」

さやか「くそっ……」

まどか「えっと、あなたは……?」

恭介「自己紹介がまだだったね」

マミ「そんな悠長なことしてる場合じゃ……」

恭介「襲うつもりならとっくにそうしてるだろう。現に彼女はそこで止まって待ってる」

マミさやまど「……」チカチカチカッ…

マミ「……確かに。待っていても獲物は誘導されて自分からやってくるんだし、

   有史以前から待ち続けている彼女にとっては今さら急ぐ必要はない……ってことね」

――


まどか「そっか……でもなんでわたしなんかに呪いの対象を選んだんだろ?」フーム…

さやか「こっちが聞きたいよ!

    なんでそう易々と……せめてソウルジェムの反応で近づいてきたって分かるでしょ?」

まどか「ええ……? でもわたし、そんな心当たり……」

マミ「(ハッ)あなた就寝するとき魔法で結界を張ってないの!?」

まどか「結界? 魔女のですか?」キョトン

マミ「(ドーン…)ああ、教えておくんだった……失敗だわ……」

さやか「いや、そんな器用なこと多分教えてもまどかには……あたしも無理だと思うし」

まどか「(ニコ)でもこんな取り柄もないわたしを、

    そんなすごい魔女さんが選んでくれるなんて、魔法少女になったかいがあったな……」

QB「危機意識の欠如傾向が見受けられるね。

   魔女の呪いに精神の侵食を受け始めている証拠だよ」

602 : 以下、名... - 2015/10/31 09:30:49.43 sjSXlkcCo 596/620

さやか「いや、魔女の呪いなんかじゃない! まどかはもともとこうふわっとしてるんだ!」

まどか「さやかちゃん、そんなほめなくても……」ティヒヒ

さやか「けなしてるんだよ! いやほめてるのか!? あたしにも分からん!」

まどか「(ジッ)それにね、さやかちゃん。ずっと苦しくてさまよってきた子なんでしょ?

    わたしが向き合ってなんとかしてあげられるなら、そうしたいの」

さやか「……まどか……。

    でも、相手は今までどんな強い魔法少女だって倒してきたやつなんだ。

    あたしも一緒にいく!」

まどか「それこそ危険だと思う。呪う相手じゃないのに侵入したからきっと怒ったんだよ。

    でもハヤサスラヒメさんが自分からわたしを招いてるんだから、違う結果になるかも。

    わたしは、わたしにしかなんとかできない相手なんでしょ?」

マミ「でも……歴代の魔法少女が一度も倒せなかった魔女よ。

   あなたが彼女に殺され、呪いが成就して魔女として完成してしまえば、

   今後、世界は……」

恭介「遅いか早いかだけの話だ。座して待つより鹿目さんの意識がはっきりしているうちに、

   彼女のほうから挑むほうがまだ勝ち目はあると言える」

マミ「……」

まどか「(コク)だからね、さやかちゃん。わたし……」

さやか「そんな……何か、他に手はないの?」

QB「そうだね。僕らにしても、結界内に同行できない以上、

   その場所においてのまどかの魔女化エネルギーの回収の見込みは立たない。

   彼女の結界内でまどかが息絶えても損失は損失だから、

   コストとの兼ね合いで許される限りではあるけど――」

恭介「逃げることも選択のひとつだ。僕がこれから24時間体制で鹿目さんの警護をする、

   魔女の結界に入っていかないようにね」

603 : 以下、名... - 2015/10/31 09:33:52.96 sjSXlkcCo 597/620

さやか「だから、まどか……。あたしもずっとそばにいて守るから……!」

マミ「わたしも。交代で見張れば――」

まどか「(フリフリ…)マミさん。そう言ってくれるだけで……。

    みんなが疲れて魔女になっちゃったら、杏子ちゃんが呆れちゃいますよ」ニコ

マミ「…ッッ」

まどか「さやかちゃん。(スッ…)ありがとう。

    わがまま言ってごめん。でもわたし、もう一つ確かめたいの。

    そんなずっと昔からわたしを待ってた子なら……わたしも会ってみたい」ハシ…

さやか「まどか……相手はあんたを呪ってるんだぞ……」

まどか「(ギュッ…)分かってる。でもそれだけ強く想ってくれてるんだって感じるの。

    お願い、行かせて……」

さやか「(ギュッ…)…………。……絶対、戻ってくるんだ。約束だよ」

まどか「うん」コク

……

チカチカチカチカチカ…

QB「――よし。周囲の目が途切れた。まどかに光学迷彩をかけるよ」

まどか「ありがとう、キュゥべえ」サァ…

QB「気にしないで。君がこれから手に入れるグリーフシードの価値に比べれば安いものだ」

マミ「ご武運を」

さやか「(ジッ…)」

恭介「……」

まどか「行ってきます」スタ…

604 : 以下、名... - 2015/10/31 09:36:58.51 sjSXlkcCo 598/620

~~魔女の結界~~


スゥ…

まどか「(パシャ…)え、ここ……」

シーン…

まどか(なんて静かなの……なにも、誰ももいない。

    わたし、見渡すかぎりの海面……にいるんだ。くらくて、波の音もない…)キョロ…

まどか(むこうの空がうっすらと明るい。夕焼け――ううん、この感じ、夜が明けるんだ)ジッ…


――やっと、あなたに会えた


まどか「(ハッ)」バッ 

ザザビシュッ ビシュッッ ザボオッッ…

まどか「(ゴポポ…ッ)がばっ…!!」モガモガッ…

ゴボボ…


~~見滝原、駅前の広場~~


ワナワナ…

さやか「ええい! やっぱりあたしもいくっ!!」

マミ「…!」

恭介「君が結界に侵入した瞬間、魔女に殺されたとして……、

   君は鹿目さんに対して自分の死の責任をとれるかい」

さやか「だって……」

恭介「この魔女をどうにかできる者なんているとしたら鹿目さんだけだよ。

   それが僕とキュゥべえが出した結論だ」

さやか「たとえそうでも……、このまま何もしないでいるなんてできるかよ!」

恭介「祈ることならできるさ。鹿目さんを信じて待つことも」

さやか「…~~~~っっ!!」グッ…!



~~魔女の結界~~


こんなところまで来てくれてうれしい――ずっと一緒にいましょう……


まどか((モガ‥)もうだめ……)ユル…


――――まどか!


まどか((パチ…)え…)




605 : 以下、名... - 2015/10/31 09:37:25.91 sjSXlkcCo 599/620


adore

Kalafina、作詞・作曲・編曲:梶浦 由記

606 : 以下、名... - 2015/10/31 09:38:31.02 sjSXlkcCo 600/620



ギチチ ズバアッッ

ギャアアアッ……

まどか「ッッ」

パシッ グイ 

ギュオ…ッ 

まどか「(ザバアッ)ゲホッ、ゲホッ……」ジャブバシャ

ほむら「(チャプ…)ちょっと待ってて。この空間を書き換える」

スウウ… 

ほむら「(ハシ…)――もう大丈夫よ」スタッ…

まどか「(ハァハァ…)……助けて、くれて、ありがとう……あなたは……?」チラ

ほむら「あの魔女のがん細胞みたいなものよ。この瞬間を待ってた……!

    あいつはすぐに息を吹き返す。今のうちに倒さないと」キッ

まどか「ごめん……なさい。あなただけでも、逃げて……わたし、すぐには走れな……」フラ…

ほむら「家族や友達のために生きて帰らないといけないでしょう」ガシッ

まどか「あ…うん……っ!」コク…ッ

ほむら「(キイイン…)早く。わたしが時空制御している間に」

まどか「(キリ…ッ)うっ…力がまだ……」プルプル…

ほむら「支えるわ」ソッ グウゥ…ッ

まどか「……ッ」キリリ…ッ

バシュッ  ギャアアアアッ

ほむら「ぐっ……」ガクッ

まどか「(ハッ)だいじょうぶ!?」

ほむら「平気よ。それより早くとどめを! あとは一人でやれるわ、ね…?」ジッ…

まどか「(コクッ)うん! いっしょに帰ろう!」キリキリ…ッ

ほむら「がんばって」ニコ

バシュッ


607 : 以下、名... - 2015/10/31 09:41:32.48 sjSXlkcCo 601/620

~~見滝原、駅前の広場~~


ギュオオオ…  カツン

マミ「鹿目さん!」

さやか「まどか!」ガバァッ

まどか「え……あの子は……? 出てこなかった? 見なかった?」キョロ

マミ「いいえ。あなた以外、誰も。(ソッ)鹿目さん。グリーフシードよ」スッ

まどか「(ソッ)あ、はい……」キョロ

さやか「どうした?」

まどか「うん、あのね……」

……

まどか「あの子がいたおかげで、わたし帰ってこれたの」

恭介「……その子、お下げで眼鏡をかけてた?」

まどか「ううん? 魔法少女の服もさっきのわたしみたいにボロボロで、ケガだらけで……。

    とても奇麗な子で、強くて気高いのにどこか哀しげな瞳で…」

恭介「キュゥべえ、誰だろう」

QB「髪形や眼鏡など外見に関しては人間だったときのものと全く同一とは限らないよ。

   場合によっては魔法を発動させる形式もね」

恭介「……つまり?」

QB「今まで侵入した子たちは皆その場でソウルジェムを砕かれた。

   結界が消滅するとき生きている者なら自動的に帰還できるはずだし、

   まどかの話を総合するとその子の正体は魔女の使い魔とでも言うよりほかない」

まどか「……っ!」

恭介「……使い魔だとすれば――」

QB「結界から分裂できていないものは魔女が倒されたときに同時に消滅するね」

まどか「……」グッ…

恭介「……そうだ。鹿目さん、そのグリーフシードを貸してくれるかい。

   僕の役目を果たさなきゃ」

まどか「うん……」ソッ…

トン コオオ…

608 : 以下、名... - 2015/10/31 09:44:33.31 sjSXlkcCo 602/620

恭介(暁美さん。君はこうなるようにするつもりだったんだな。

   無限の容量をもつグリーフシード。

   アルティマ・シュートを撃てる鹿目さんの対ワルプルギス戦の切り札。

   のみならず、鹿目さんの引退までの魔女化防止――。

   それらが確実になされるように、そのためだけに。そしてその通りになった)

コオオ…

QB「まだ容量いっぱいにならないとは……。

   さすがこの惑星の魔法少女史のはじまりから分裂もせず、

   ひたすら呪いを溜め込んできた魔女だけのことはあるね。

   このグリーフシードの最大容量たるや、まさに無尽蔵という形容がふさわしい」

恭介(どうする。チャンスは今しかない。しかし失敗すれば灰燼に帰してしまう。

   そもそも暁美さんの希望をねじ曲げていいのか。このまま――)

まどか「ねえ、だいじょうぶ……?」

恭介「(ハッ)――っ」

コオオオ…ッ

QB「恭介、そろそろだ」   

恭介「(グッ)――呪いから祈りに魔力を転じよ!

   その性質にしたがい時間も空間も超えろ!」

QB「何をするんだ!

   宇宙を書き換えるほどの力をもった魔女を別の時間軸に放逐するつもりか!

   恭介やめるんだ、その魔女はいちど孵化すれば、

   どの時空からでも飛び越えて必ずまたまどかを襲うぞ!

   呪いが成就し魔女として完成したが最後、もはや誰の手にも負えなくなってしまう……、

   君の行為は全時間軸を危険にさらすんだぞ!?」

恭介「――暁美さんは、暁美ほむらはもう魔女じゃない。魔法少女として生まれ変わるんだ」

キィイイ……キュルオオオ……

まどさやマミ「グリーフシードがソウルジェムに変わった!?」

恭介「(キオオ)ぐっ……(駄目だ……どうしても座標が特定できない……このままだと……!)」

まどか(――暁美ほむらちゃんをどこかへ送りたいの?

    ――ああ、そうだ。このできごとは知ってる。

    うん、だいじょうぶ。ソウルジェムとグリーフシードのはざまならこんなわたしでも、

    すこし力を貸してあげられるよ)

恭介「――!?」

キュウゥゥ シュン

609 : 以下、名... - 2015/10/31 09:47:34.25 sjSXlkcCo 603/620

さやマミ「消えた!?」

まどか「すごい……」ドキドキ…

QB「恭介……これは反逆行為としてみなしていいのか」

さやか「ちょっと……穏やかじゃないな」

マミ「キュゥべえ、断罪する前に彼の話を」

恭介「いいんだ。…好きにしろ」

QB「意見は違うことがあっても君は僕らの仲間だと認識していたが……君の魂を――」

まどか「ま、待っ――」

ゴゴゴ… オオオ…

マミ「(ハッ)な、何……!?」

さやか「空が……」


~~風見野の教会~~


ゴゴゴ…

杏子((ハッ)……恭介!)


~~見滝原、駅前の広場~~


QB「宇宙が書き換えられていく……!? まさかこれが――」


サアアア……







610 : 以下、名... - 2015/10/31 09:50:35.37 sjSXlkcCo 604/620

~~どこにもない時間~~


ほむら「――(ハッ)!」

まどか「はじめまして、暁美ほむらちゃん」ニコ…

ほむら「……まどか…?」

まどか「ふふ、あなたも鹿目タツヤくんと同じ名前でわたしを呼ぶんだね。

    あの子のお姉さんと同じなまえ……。どうしてだろう、

    あの家はなんだかなつかしくて、ついつい寄っちゃうんだ」

ほむら「…何を言ってるの…? あなたは、わたしが夢で見たことがあるまどかじゃない」

まどか「そうなんだ。鹿目まどかちゃんと同じ見た目をしてるんだね、わたし……、

    自分じゃ見えないから……」

ほむら「(スッ)いったいどうしてしまったの!? あなたに何が起こったの…!?」サワ…

まどか「心配させてしまってごめんね。わたしにも分からないの。

    ただわかってるのはわたしは円環の理と呼ばれてて、

    だれかのマホウでできた存在なんだ」ニコ

ほむら(概念となる以前の記憶が抜け落ちている……!?)

まどか「あなたがとおりすぎたあとの世界の魔法少女のみんなを、

    ソウルジェムからグリーフシードに変わってしまうまえに、

    何かしなくちゃいけないんだけど、何をしたら、どうしたらいいかわからなくて…、

    なんにんもなんにんも、なにもできなくて……。

    それなのに、ほほえんであげなきゃ、ってことだけはわかってて、

    それしかできないんだ」ニコ…

ほむら「……わたしの記憶だと、

    浄化しきれなくなったソウルジェムの呪いをあなたが受けとめることで、

    希望を願った魔法少女がその戦いの運命の最期に希望へと還る…、

    きっと彼女たちの魂の導き手であるあなたを指して円環の理と呼んでいるはずだわ」

まどか「うん、みんなもそう言ってる。でも……。それから、

    あなたがとおりすぎたせかいそのものを変えなきゃいけないのにそれもできない」

ほむら「(ナデ…)無理もないわ。魔法少女の魔法は祈りなのだから。

    自分が何者で、誰のために、何のために願うのか分からなければ、

    その救済の魔力も行使できないし、

    祈りで宇宙を再編することもできない…」…ナデ…ナデ…

まどか「……」

611 : 以下、名... - 2015/10/31 09:53:36.18 sjSXlkcCo 605/620

ほむら「……さっき『みんな』が、って言ってたわね。

    わたしが通った時間軸以外では、魔法少女達は最期にあなたのもとへ導かれたの?」

まどか「うん。わたしは過去と未来、すべての宇宙にいるから、

    わたしがこうなっちゃうまえにみんなたすけてたんだって。

    だからあなたの言うとおりになってるはずなんだけど、みんなは、

    『あのなぎさちゃんがいない』とか『このさやかはどうした』ってあわててるの」

ほむら「…? どこへ行ってしまったかあなたにも分からないの?」

まどか「(フリフリ…)ううん。ばしょはわかるんだけど、まるでかぎをかちゃったみたいに、

    そのせかいだけわたしもみんなもとおざけられちゃってはいることができないんだ」

ほむら「その世界はどうなってるのかしら…」

まどか「なかがどうなってるのかもわからない……」

ほむら「じゃあ、わたしの通ってきた世界に魔女が存在しているのとは別個の現象ね、きっと」

まどか「うん、あなただけは魔女のいる世界を通らなきゃいけないようにわたしがしたの。

    これもおぼえてる……」

ほむら「…………」

まどか「ごめんなさい。あなたや魔法少女のみんなを――――」ニコ

ガバッ

ギュッ…

ほむら「(フリフリ…)あなたがしたんじゃない。することを強いられたの」

まどか「……」ニコ…

ほむら「……あなたは誰かが辛い目にあってるとき、

    こういう風に黙ってただ寄り添う子だったわ。力になれない自分を内心責めながらね。

    そんなあなたが魔法少女が魔女に変わるさまを、

    永遠とも言える時の中で何もできず幾度も幾度も、ただ見届け続けてきたのでしょう。

    自分が何者かも分からず、ほほえみかけることだけを自らに強いて。

    ええ、あなたは鹿目まどかよ。

    自分が何者だったかの記憶が消えても、何も出来なくても失くしたはずの祈りを、

    あなたは持ち続けているじゃない……!」ギュウッ…

まどか「(ニコ…)ありがとう。優しいんだね、あなたは」

ほむら「……ねえ、まどか。何となく読めてきたわ。

    そしてわたしがここで何をしなければならないか……。任せてくれるかしら?」

まどか「うん、あなたに任せる」

ほむら「(コク)……あなたが自ら記憶…あるいは人としての記録を封印したのか、

    それとも何者かが奪い去ったのかは分からない。でも決めたわ。

    あなたをこんな状態で留めておくことなどできない。

    全ての時間軸から類似するレコードを取り寄せて、あなたが失ったものを仮補完する」

コオオオ…

612 : 以下、名... - 2015/10/31 09:56:37.21 sjSXlkcCo 606/620

まどか「(ハッ)‥ほむらちゃん!?」

ほむら「はじめまして、と言うべきかしら。円環の理さん」シレッ

まどか「もしかして……わたしの記憶、見ちゃった?」

ほむら「そんなことしない。興味はあったけどあなただって見られたくないでしょう。

    …ただ、1つの時間系からアクセス拒否されたわ。明らかに異種の魔力……。

    力量から見て、やはりあなたの記録を奪った者がいたようね。

    向こうもこちらに気づいたでしょうけど。(ジッ…)

    それとは別に何らかのテクノロジーで構成されたフィールド内の記録。

    こちらは触れずに、後の時系列のあなたから補完した」

まどか「そ、そうなんだ…」

ほむら「それにしても不思議よね」

まどか「え?」

ほむら「あなたには過去と未来のすべてが見える。

    だから、たとえばキュゥべえが円環の理を支配しようと目論んだとしても、

    みんなと相談するなりして対策を立てられるはずよね」

まどか「……」

ほむら「その魔法少女があなたの記録を奪うという情報をみんなや――、

    自身の人格と事前に共有していたの?」

まどか「…ううん。知ってたのはわたしだけ」

ほむら「やはり魔法少女の謀反だったのね、それも救済という接触のチャンスを狙った……。

    ――あなたにはその未来を回避する方法がなかったの?」

まどか「違う未来があったの。そしてそれは最初からなかった」

ほむら「無い未来があった?」

まどか「わたしは一つの時間平面を固定する因果の特異点という役目以外に、

    すべての時間軸を固定する固定点という役目があるから。

    わたしの祈りと意志と責任においてそれはないの」

ほむら「いまわたしとしてる会話さえ最初から決まってたの?」

まどか「ううん。ソウルジェムのなかにいたときや、片割れのわたしがいる時間系のように、

    ここでのことはわたしには見通せない」

ほむら「ソウル…(フリフリ…)ここでのことは分からなくても、

    ここ以外のことは固定されてるんでしょう? だったらここでの会話だって……」

まどか「わたし‥は…固定点…は…、」

ほむら「…ああ……、――やっぱり…」

まどか「……」

613 : 以下、名... - 2015/10/31 09:59:38.49 sjSXlkcCo 607/620

ほむら「すべての時間軸を固定するとなると、最低3つは固定点が必要じゃないかしら」

まどか「わたし一人で十分だよ」

ほむら「魔法少女の祈りで時間の理をねじまげて? 概念だから?

    祈りと意志と責任において?」

まどか「……」

ほむら「話が逸れたわね。その子があなたの記録を奪う未来を回避するということは――」

まどか「仮にその子を放置すれば魔女になってしまう。

    だからソウルジェムから穢れを取り除こうとした瞬間、やはり穢れは変質し、

    結果わたしはその子に捕らわれる」

ほむら「約2名を除いたすべての魔法少女の魂は、

    すでに導かれていたということで固定されていたから、

    あなたはあえてその選択をしたのね」

まどか「……」

ほむら「あなたは皆や自分自身さえあざむいて、その子を選んだというの?

    あの時間系となってしまった数々の宇宙を――、

    その子と引き裂かれたあなた自身にゆだねたというの?

    円環の理にすら見通せない、どんな悲劇がおこるともしれない世界だというのに。

    第一、残されたあなたがその祈りを発揮できなくなることも分かってたんでしょう?

    よほどその子はあなたに信頼されてるのね」

まどか「それは、あなたを――」

ほむら「その子は誰なの!! 名前は!?」

まどか「…………」

ほむら「……わたしにも教えてくれないのね。わかったわ」グッ…

まどか「あのね――」

ほむら「いいのよ。いまここで話してるあなたとわたしはそもそも幻みたいなものなんだから」

まどか「――」

ほむら「あなたとわたしは出会うはずがないのにね。

    いくら魔法少女が――あなたが条理を覆す存在であっても。

    幾つもの世界に循環する因果を、あなたが独りで背負い込みさえしなければ――、

    そもそもその姿のあなたは存在しないはずだもの」

まどか「(コク)だから――」

ほむら「嫌よ」

まどか「……」

ほむら「わたしが時間を繰り返すたびにまどかの因果だけが増えるなんて……。

    もともと誰かがそう仕組まなければ起こりえないことを――。

    ――そうよ、あなたさえいなかったものだと存在を認めなければ、

    他のまどかはみんな因果を背負い込まずに済むわ」

まどか「……」

614 : 以下、名... - 2015/10/31 10:02:40.37 sjSXlkcCo 608/620

ほむら「まどかは、魔法少女にならなくても――」

まどか「……」

ほむら「あなたさえ、あなたさえ――……ッ!」

まどか「――うん。わかった」

ほむら「――!?」

まどか「――わたしね、知ってるんだ」

ほむら「……?」

まどか「わたしが思ってるよりほむらちゃんは、

    ずっとずっとわたしのことを想ってくれてて…、

    そんなあなたとは別の、わたしの知ってるほむらちゃんにも、

    ――そしてあなたにも言いたいの」

ほむら「……」

まどか「あなたにこんなに愛されて嬉しい。それだけでわたしはとっても幸せだよ」

ほむら「…………」

スッ コオオオ…

まどか「ほむらちゃん」

ほむら「言わないで、これ以上、もう――。

    今しがた助けたあなたを見捨てられるわけがないでしょう――?」

まどか「……」

615 : 以下、名... - 2015/10/31 10:05:50.41 sjSXlkcCo 609/620

ほむら「今いるどこにもない時間から、わたしはすべてのまどかに対し、

    暁美ほむらの時間遡行のさい因果の糸がかかるよう仕組む。

    あなたに言われたからじゃない。

    あなたの願いが尊いものだと――自身を犠牲にしてすべての魔法少女の願った希望が、

    希望へと還るよう求めたあなたの愛が、わたしの心など関係もなく、

    消してはならないものだと――わたしが信じるからよ」

サアア…… ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン

ほむら「まどか。あなたの優しさと強さが、すべての時間軸における、ひとつの固定点なの。

    そして、そんなあなたを信じること。

    わたしのその意志が、もうひとつの固定点――。

    ふたつの固定点が――あなたとわたしが時空も因果も超えて、

    すべての宇宙を、今ある形にさせた。

    歴史の影に移ろい、消えゆくさだめであっても、

    数多に列する宇宙の、その一筋の片隅で瞬き散るくず星であっても、

    わたしは確かに光を見つけ、それを信じることができた。

    それは決して無常の儚さなんかじゃない。

    ほんの一点であるからこそ、祈り願う自身の帰結を引き受け果たし散る、

    ほんの一瞬の輝きだからこそ、絶対の存在。

    それがふたつあれば全時間軸を固定するには十分だわ。

    わたしは時間を超える魔法の遣い手。その祈りはときに時空を超えてつながる。

    あの夢は、いつか起こりえること。

    あの夢は、わたしが起こってほしくないこと。

    あの夢は、あなたが必ず実現するとわたしが信じること。

    たとい無から始まろうともわたしはあなたを信じ、その責を負う。

    そうしてわたしがすべてのまどかに因果がかかるように仕組み――。

    逆にあなたは、すべての暁美ほむらが時間遡行するさい、

    その片割れの魂を消されぬようにそのつど世界を作り上げた。

    わたしはいつだって、あなたを守れなかった。でもこれからは――」

616 : 以下、名... - 2015/10/31 10:08:52.02 sjSXlkcCo 610/620

ギュッ…

ほむら「――なんてきれいなの。…当然よね。まどかにかけられた無数の因果――。

    そのひとすじを紡いで織ったリボンだもの」

まどか「……? (ハッ)ほむらちゃん、やめて!」

シュルル… キュッ… フゥゥ…

ほむら「ソウルジェム…この暁美ほむらを固定点にしてしまえば、

    もうあなたはわたしの魂を迎え入れることができない。

    安心して、無数の因果はあなたにかけたままよ。

    固定点どうしが触れ合えばその瞬間、因果は閉じて一になる。

    すべての魔法少女の魂を救うという願いも無に帰するわ。

    あなたは、そんなことできないでしょう?」ブルッ…

まどか「……どうして…、こんなことを……ッ!」

ほむら「ひとりひとりのまどかが背負った因果なら、我が身に巻きつけて味わいたいものだわ。

    だってそうでしょう? それほど欲深くわたしはあなたに憧れたのだから。

    他のだれにも奪わせはしない。

    因果の糸に偽装して、わたしの魔力の一部を『あなた』にひそませておいたわ。

    その子が奪うのは『あなた』の記憶とトラップ付きのわたしの魔力の一部になる」

まどか「何をしたかわかってるの…?

    もうあなたの心が砕けても、わたしは迎えに来れない。

    それどころかあなたがソウルジェムを自浄することを放棄したら…、

    あなたがそう選択したら、

    いつかあなたは魂そのものをわたしの手で消し去られるしかなくなるんだよ!?

    だって、わたしは……あなたが…………ッ!!」

ほむら「心配しないで……大丈夫。

    全ての魔法少女の救済を願ったあなたに、

    そんな辛い役目を負わせたりはしないから…。あなたのためなら、わたしは……」

まどか「……――あなたはそうやって…、

    いつも独りになろうとして……、いい加減にしてよ!!」

ほむら「!?」

617 : 以下、名... - 2015/10/31 10:11:53.10 sjSXlkcCo 611/620

まどか「ソウルジェムを出して。改造するから」

ほむら「…」オズオズ

まどか「直接触れることはできなくても、

    わたしの『祈り』の使用権限を最大まであなたに与え、

    あなたの『祈り』の使用権限を最大までわたしに与える。

    わたしとあなたをつなぐリボンを通して。

    わたしの声はあなたに届きあなたが見たものをわたしの『目』に届けることができる。

    そのために新しいカタチを与える」

キイイ…ン…

ほむら「…!?」

まどか「浄闇にきられた忌火よ。すべての理から外れたものよ。

    わたしに忠誠を誓うならこの石を受け取りなさい」

ほむら「…」スッ

まどか「覚悟しててね。どこへ逃げても必ずあなたを見つけるから」

ほむら「(ソッ)かつて砕け、此岸の始まりから業を渦巻いていた心は、

    くしびの手の持ち主によって人の世に幸せをもたらすようにとここへ戻されました。

    かくて円環の理。この祈りはすべておんために。

    いかなるときもあなたの声に従い、現身のままにあなたの使いとなりましょう。

    百の此岸の果てるまで御幸の守護をいたしましょう」サ…

まどか「では命令します」

ほむら「はい」

まどか「まず『自分』を大事にしてください。家族や友達を大切にしてください。

    最後に――、あなたと出会えた鹿目まどかを愛してあげてください。

    このオーダーはいちばんめから順に優先するものとします」

ほむら「『自分』…」ハッ

まどか「(ニコ)…」コク

ほむら「……承りました。……ありがとう、まどか……」

まどか「(ニコ…)そろそろ上条くんと定めたところへあなたを送るね」

ほむら「うん」

コオオオオ…

ほむら「まどか、忘れないで。いつもあなたと共にたたかってる」

まどか「うん。忘れないよ、『ほむらちゃん』」ニコ…


618 : 以下、名... - 2015/10/31 10:14:54.37 sjSXlkcCo 612/620

~~見滝原、路上~~


さやか「あのさ、恭介ってまたこの街に来る?」

恭介「とりあえず用事は済んだし。そうだな、あと何十年後に寄るかも」

さやか「…そっか。元気でね」

恭介「君もね。魔獣退治頑張って。

   グリーフシードの申請は早めにね。巴さんみたいにならないように」

マミ「(タハハ…)迷惑かけてごめんなさい」

さやか「危なかったよね。(ナッハハ…)マミさんは自分のことそっちのけで、

    周りの子のことばかり心配するから……」

恭介「僕は迷惑ではないんです。間に合わなくて引退までに消えてしまうほうが大変だから。

   ただ、緊急となると繁華街とかに駆け込んで、

   その場の穢れから急ごしらえでグリーフシードを作らないといけないから、

   本末転倒になってしまうので……」

マミ「(ペコ)はい、気をつけます」

恭介「(ニコ)ではみなさん……」スタ…

まどか「待って、恭介くん!」

恭介「鹿目さん、どうしたの?」

まどか「あの子……さっきあなたは暁美ほむらちゃん、て呼んでたよね」

恭介「……」

まどか「あの子はわたしの名前を知ってた。
 
    わたし、ほむらちゃんとどこかで会ったことがあるの?」

恭介「“Now put a pretty smile on your face and don't hurt the people you love.” 」

まどか「え?」

恭介「魔獣との戦いで魂だけの状態でさえ君を守ってくれたんだよね」

まどか「うん」

恭介「それほど強く君を守ろうとする子なら、君が幸せであることを願ってるんじゃないかな。

   負い目に感じる必要はないし素直に感謝だけすればいいと思う」

まどか「……」

恭介「そんなに気になるならまた会えたときに気持ちを伝えたら?」

まどか「会えるかな」

恭介「さあ。魔法少女は条理を覆す存在だ。

   こうして会えないはずの子と会えたんだからまた会えたって不思議じゃないだろ?」

まどか「うん…」

恭介「それじゃ、元気で」フリフリ スタ…

さやか「バイ」フリフリ…

マミ「気をつけて」フリフリ…

まどか「あ、ありがとう、恭介くん!」フリフリ…

恭介「(コク)…」

スタ スタ…

619 : 以下、名... - 2015/10/31 10:17:56.13 sjSXlkcCo 613/620

――



トコトコ

QB「ほむらは宇宙を書き換えるほどの魔力を持っている。

   またまどかを助けるために、時間遡行や改変を繰り返すのではないかな?」

恭介「やろうと思えばできるだろう。ただ、そこに干渉することが、

   それぞれの鹿目さんの思いを大事にすることかどうかを考えるんじゃないかな、彼女は」

QB「ところで恭介、君は暁美ほむらの魂をどこへ送ったんだい?」

恭介「……肉体は魂の容器に過ぎない。いつか君はそう言ったよな」

QB「僕にとって重要なのは魔法少女となる子たちの魂だからね」

恭介「ところが肉体がダメージを受けると魂のほうも苦痛を感じる。

   そもそも現在の肉体の状態と自己同一性の認識は切り離せない」

QB「だからこそ、魂を肉体から抜き取ってソウルジェムへと形態を固定することで、

   魔法少女たちをその問題から解放することができるんだよ。

   痛みだって制御次第では完全に感じないようにもできる。

   もっとも、完全に肉体と魂のリンクが切れてしまうとソウルジェムは、

   肉体を媒介にして魔法を発動させることもできないし、

   意識がなくなり――したがって自我も失い、

   穢れが溜め込んで消滅することすらなく、単純にその機能停止を待つのみとなる。

   誰にとっても益のないことだ」

恭介「ああ。それも聞いた」

QB「ならば、暁美ほむらの魂――ソウルジェムだけを別の時間軸に送ったところで、

   事態になんら変化は起こらないことくらい恭介には分かってたんだろう?」

恭介「……」

QB「君は見たところ相当疲労してしまったようだ。

   また回復には2週間ほどかかるだろう。そこまでして――」

恭介「キュゥべえ。幾つか君の見解について、訂正あるいは提言をしたいんだ」

QB「言ってくれたまえ」

恭介「まず、そうだな。確かにいま僕は疲労困憊してて、しばらく使い物にならない。

   しかし、この月末に超大型の魔獣が見滝原に現れたして、

   それを単独で狩るのには回復が間に合うと思うよ」

QB「月末に超大型の?

   それに、この街にはしばらく訪れる予定がないとさっき言ってたじゃないか」

恭介「魔法少女たちに介入されたくない案件なんだよ。

   どう説明したらいいのか僕にも分からないんだが……、

   ただ、鹿目さんに対して僕はなんらかの負い目があって、

   それを清算するためにその魔獣を彼女の代わりに狩らなければならない気がするんだ」

QB「負い目とは? そもそも超大型の魔獣が出現するのはどうやって知ったんだい?」

620 : 以下、名... - 2015/10/31 10:20:57.28 sjSXlkcCo 614/620

恭介「分からない。まるで刷り込まれたようにそれは確かだと、

   恐らく因果バランスの関係から来るんだろうけど、直感するのさ。

   あの時、穢れを溜め込んだまま消失した暁美さんのソウルジェムが、

   鹿目さんを守ろうとしたためかこの時代のこの場所に出現した。

   そのことと関係があるのかもしれない」

QB「――君の言うとおりだ。

   だけど君、せっかくの興味深い観測対象を勝手にどこぞへと放り出されては困るよ。

   やってしまったものは仕方がないけれど」

恭介「(カキカキ…)すまない……」

QB「鹿目まどかからは不釣り合いなまでの高さの因果値が検出されている。

   確かにこの街がいつなんらかの災厄に襲われてもおかしくないほどのね。

   まあいい、月末にまた訪れることだね。君に狩れない魔獣はいないし、

   思わぬ呪いの収穫になるかもしれないから」

恭介「(コク)‥それから暁美さんのソウルジェムをそのまま送った、と君は言ったけど」

QB「そのまま、とは言ってない。

   0.1mmサイズに縮小をかけ、さらに形状に変化を加えていたね。まるで――」

恭介「そのうえで意識も強制起動させておいた。

   つまり、今の彼女の魂は肉体を持たずとも自我のある状態なんだ」

QB「それは人間にとっては酷なことなんじゃないのかい?」

恭介「僕の手を離れたあとは干渉できない。

   だから励起状態が切れるまでに彼女が自分の意志で生を選択しなければ……」

QB「彼女はいま魂のみが現存する状態だ。

   抜け殻とはいえ、元の肉体もなく生を選択することなどできないだろう」

恭介「そう。この世に生を享けるのに、魂と肉体は切り離して考えることはできない。

   敷衍すると魂は肉体の情報をも記録してるんじゃないかと考えられる。

   肉体が魂を宿すのなら、魂を元にして肉体を設計することも、

   ましてや時空さえも操作できる彼女なら可能なはずなんだ」

621 : 以下、名... - 2015/10/31 10:23:59.41 sjSXlkcCo 615/620

QB「それはつまるところ、

   僕が君の肉体を空間に再現するのと同様の結果を期待しているんだろう。

   しかしさっきも述べたように、

   ソウルジェム単体では肉体を再構築するための魔力を発揮できない」

恭介「ああ。しかしソウルジェムがあたかも設計図そのもののようにふるまうようにしたら。

   僕はフォーマットの段階までは準備した。

   あとは彼女が自身の遺伝子情報を魂の記憶から引っ張りだして念じるだけで、

   ソウルジェムの形状変化は完成できる、ってとこまではね。

   たとえ肉体を再構築できる能動性を持たずとも、それだけで十分だろ?」

QB「君は、まさか――」

恭介「ソウルジェムの形態すら自由自在、というよりもう彼女は縛られないんじゃないか。

   君が引退する魔法少女の魂をソウルジェムから元の肉体と融合した状態に戻すように。

   あえて魂とは別に魔力を運用する核として持ち歩くか否かも彼女の意志次第だろうし、

   そうなれば祈りの消費による副産物としての穢れや呪いなども、

   彼女自身の手によってグリーフシードとして分離することも可能だろう」

QB「もはや彼女はインキュベーターには制御不能な存在になってしまった。

   この世の穢れが溜まって瘴気となり発生した魔獣が倒されたときに、

   呪いのカケラとして遺すものがグリーフシードだ。

   しかし彼女個人から分離されたグリーフシードから産み出されるモノがあるとすれば、

   それは言うなれば彼女の使い魔とでも呼ぶしかないね。

   そのグリーフシードを僕らに分けてくれればいいけど協力してくれないとしたら……」

恭介「ひとつの勢力になるかもしれないって言うのかい?」

QB「そうだ。彼女が渡った先の僕らにとって脅威とならないか懸念される」

恭介「大丈夫さ。だってソウルジェムがあろうとなかろうと暁美ほむらは魔法少女なんだから」

622 : 以下、名... - 2015/10/31 10:27:00.19 sjSXlkcCo 616/620

~~~~~~~~~~

ほむら母「…っ」ヨロッ

まどか「暁美さん!」ハシッ

ほむら父「ママ! 大丈夫か?」

ほむら母「え、ええ……?」サス…

ほむら父「まどかちゃん、ありがとう。…まどかちゃん?」

ほむら母「(ピタ)………ほむら」

まどか「―――ほむら…、ちゃん」




623 : 以下、名... - 2015/10/31 10:28:08.28 sjSXlkcCo 617/620


グラスプ

ClariS、作詞/作曲:渡辺 翔、編曲:湯浅 篤

624 : 以下、名... - 2015/10/31 10:32:07.49 sjSXlkcCo 618/620


Feliciter

作曲/編曲:ZIZZ STUDIO

625 : 以下、名... - 2015/10/31 10:35:08.72 sjSXlkcCo 619/620


コネクト -Orchestra ver.- (short EDIT)

ClariS、作詞/作曲:渡辺 翔、編曲:湯浅 篤

626 : 以下、名... - 2015/10/31 10:36:47.22 sjSXlkcCo 620/620



まどか「――そう。忘れない」

~~

ほむら「神ならば、たたかいなどせず、統べるのみ」

~~

まどか「わたしは魔法少女で、魔女」

~~

ほむら「希望を願った因果の果て、呪いを受け止められるのは、呪いだけ」

~~

まどほむ「わたしは、まどかは、神なんかじゃない」

~~

まどか「わたしは祈りを胸に」

~~

ほむら「自身という呪いを受け止める」

~~

まどほむ「たたかい続ける『ひと』という概念そのもの」

~~

ほむら「だからもし彼女を神と焦がれる悪魔がいたならば」

~~

まどか「そのひとは、決して悪魔なんかじゃない」

~~

ほむら「きっと行こう。渡ろう。閉ざされた闇のなか、地に垂れ落ちる星を目印に」

~~

まど「あなたは光に背を向けただけなんだって」

~~

ほむら「振り返れば誰よりも夜明けにちかい場所にいる」

まどか「なぜならみんなの顔が曙光に染められるのをよしとする心をあなたは持ってるから」

ほむら「あなたと昇る日を仰ぐまで、わたしは傍に立とう」

まどか「あなたがつくった庭と同じように、この宇宙もまたわたしがつくった結界」

ほむら「わたしたちは閉じ込められた世界で生きるひとという存在」

まどか「わたしは世界にとってとくべつじゃないけど、

    あなたはわたしにとってとくべつだから」

ほむら「いっしょに並んで」

まどか「お日様に顔を向けよう」

END

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