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女提督「甘えてもいいんだよ?」【前編】
みんなは、見たことあるかな。
うん、何人かはあるだろうね。特に川内は、ね。
え?何の話って……ああ、まだ言ってなかったね。夜の海にぼーっと浮かぶ光の話。
……この様子だと誰も知らないみたいだね。なら、教えてあげる。
高校生の頃の話なんだけど、私は海沿いの方に住んでてね。まあ田舎町だったせいか何も遊ぶものがなくてさ…やることと言えば家でゲームしたりとか昼寝したりとか、海に遊びに行ったりとかだったんだ。
……違うもん!確かに寝るのは好きだけど当時はもっとアグレッシブだったもん!
話戻すよ?いい?
………で、ね。学校が終わる度、毎日のように友達と海に遊びに行ってたんだ。
……水着?いや、私は裸足になって波打ち際を歩いてたりしただけだったけど…なんでそんな残念そうか顔するのさ。
ああ、もうっ!話逸れすぎ!ちょっとみんな静かにしてて!
それで、何回も行くうちにその海が好きになっちゃってね。月を眺めたくて、夜に一人で砂浜まで来たりしてたの。
潮風と足にぶつかる波が気持ち良くて……その時だけは、唯一孤独でも安らげる時間だったかも。
……けど、それもすぐになくなっちゃった。目を瞑って波の音を聴いてたら、ふと妙な気配を感じたの。はっとして目を開けたら、すぐ近くに黄色に輝く光が浮かんでいてね?
真っ暗だったせいか、人魂にも見えてちょっと不気味だったな…
………けど、好奇心の塊だった当時の私は……え?なに?今も?ま、まあそれはいいとして…その光に触れてみようと、手を伸ばして、一歩踏み込んだんだよね。
一歩一歩、足を波に浸して光に近付いて行ったら……いつの間にか、腰あたりまで水に浸かってたんだ。夜の海は危険だって、何度も友達に言われてたからね……慌てて砂浜まで引き返そうとしたんだけど、足が動かないの。
そう、まるで、誰かに掴まれてるみたいに。
必死に足を動かそうとするけど、まるで動かない。それどころかどんどん向こうまで引きずり込まれて、ついには全身が完全に浸かっちゃったの。
肺にまで水が入ってきて、苦しくて、いよいよダメか〜…ってなって、ふっと意識が飛んだの。うん、私も死んだとは思ったなあ…
…けど、目を覚まして最初に見えたのは幼馴染の心配そうな顔だった。
その時期はテスト中だったからね、気分転換に散歩してる途中、砂浜で寝転んでる私を見つけて慌てて駆け付けたんだって。
私も飛び起きて、あの光は…!?って訪ねたんだけど……何のことか見当もつかないみたいだったし、落ち着いてよく見てみたら服も濡れてなかったの。
その時は幼馴染に茶化されるがまま、砂浜で寝落ちして悪い夢を見たってことにしたんだけど……それっきり、あの海には近付いてないな。
うん、これでこの話はおしまい。特に盛り上がりがなかったかな?
でもさ、もしあれが人をどこかへ連れて行くものだったとして、失敗したら何もかもなかったことにするものだとしたらさ……そんなの、ずるくない?
提督「………どうだった?」
飛龍「こわっ!怖いよ普通に!」
蒼龍「すごい臨場感だったね…」
瑞鶴「加賀さんなんて、ほら」
加賀「」ブルブル
赤城「アルマジロみたいに布団に丸まってますね…」
翔鶴「頭に枕乗せて聞こえないようにしてますよ」
提督「か、加賀…」
布団<ベツニコワクナイケレド
提督「じゃあ怪談話、する?」
布団<ワタシモウネムイカラエンリョスルワ
提督「だってさ」
飛龍「えぇ?」
蒼龍「抜け駆けは」
瑞鶴「良くないわよねえ?」
赤城「今寝たら明日の夕飯私が全部食べますよ?」
加賀「…………」バサッ
提督「おはよう」
加賀「おおそよ人のすることとは思えないわ」
提督「そんなに怖い?」
加賀「別に怖くなんてないけど?」
提督「…………」
赤城「…………」
瑞鶴「…………」
翔鶴「…………」
飛龍「…………」
蒼龍「…………」
加賀「何、その目は」
提督「そんなに言うなら一人で寝てきなよ」
加賀「怪談話聞きたいわ」
提督「そう、なら続けよっか」
加賀「ッ……!!」ピクピク
赤城(この人、加賀さんいじりが巧い…!)
瑞鶴「しかし夜の海に浮かぶ光ね…誰か見たことある?」
飛龍「私、あるかも…」
蒼龍「どんなのだった?」
飛龍「うーん…提督の話だと黄色って言ってたでしょ?」
翔鶴「ええ」
飛龍「けど、私が見たのは赤色だったな…同じ編隊だった駆逐艦の子も、その光を見たって言ってた。その時はみんな無事に帰ったけど…」
提督「赤色……なにか違いがあるのかな…」
加賀「その二人に何か共通点はなかったの?」
飛龍「………あ!二人とも大破してた!」
赤城「大破…ということは、死が近い状態だったということでしょうか」
提督「ならあれは…もしかして、死神?」
蒼龍「でも提督は死にかけてもなかったのに連れて行かれそうになったんだよね?」
提督「うん……もしかしたら、黄色は無差別なのかも」
加賀「……お、恐ろしい話ね」ブルッ
提督「みんなも気をつけてね」
提督「加賀は何か怖い話とか持ってないの?」
加賀「そうね……怖い話、なのかどうかは分からないけど…時々、書類を作る時に図鑑が必要になって書斎に行くことがあるでしょう?」
提督「うん」
瑞鶴「書斎ね…私、なんだかあそこの雰囲気苦手…」
飛龍「私も…」
蒼龍「飛龍は勉強嫌いなだけじゃない?」
飛龍「失礼な!」
加賀「続けていい?」
飛龍「あ、はい!どうぞ」
加賀「……その、書斎の最奥の本棚なのだれけど…あそこで図鑑を見ていると、壁の向こうから声がするような気がして…」
提督「…………」
赤城「それ、私も聞いたことがあります…女性が呻くような、高い声でしょうか…」
加賀「ええ、そうだったわ」
蒼龍「うわ…何か出てきそう…」
翔鶴「怨霊でも封じ込められてるんでしょうか…ねえ?」
提督「…………」
翔鶴「……提督?」
提督「……そうだね」
翔鶴「は、はぁ…」
提督「他に怖い話、ないの?」
飛龍「じゃあ蒼龍、アレ…」
蒼龍「ああ、アレね…」
瑞鶴「アレ?」
飛龍「うん、駆逐艦の子達が言ってた話で、私達が見たわけじゃないんだけどね」
蒼龍「夜になるとたまに軍服を着た幽霊が出るんだって」
加賀「………」ビク
提督「それ、もしかして運動場に出る幽霊の話?」
飛龍「あ、それそれ!」
蒼龍「ずっと歩き回ってるみたいだけど…なにか目的でもあるのかな…」
提督「うーん…でも、今のところ悪さはしてないんでしょ?」
飛龍「うん、駆逐艦の子達も悪い気配じゃないって言ってたし…」
提督「そっか…なら、そのうちお祓いに来てもらうよ、ずっと彷徨ってるのも可哀想だし」
翔鶴「幽霊って悪さをするものなんですか?」
提督「中にはそういうのもいるね、俗に言う悪霊ってやつ」
蒼龍「そうならなきゃいいけどね…」
赤城「幽霊を見た…と言えば、駆逐艦の子達はよく何もない場所でも誰かいると言いますね」
提督「子供は見えるって言うからねえ。もし駆逐艦の子達が何か見つけても近付かないように言っておいてね」
赤城「はい、お任せください」
蒼龍「ところで提督は幽霊見えるの?」
提督「見えるよ」
飛龍「あはっ、やっぱり子供だー」
提督「なっ、失礼な!私は大人だもん!」
瑞鶴「幽霊に悪さとかされたことある?」
提督「んー…ないなぁ、されそうになったことはあるけど」
翔鶴「どうやって切り抜けたんですか?」
提督「塩を握って思いっきり殴る、それだけ」
瑞鶴「随分大雑把ね…」
加賀「塩を握って……なるほど……」ブツブツ
翔鶴(本気だこの人…)
提督「ところで加賀、幽霊ってさ」
加賀「なに?」
提督「こういう話してると寄って来るって言うよね」
加賀「!?」ビクッ
赤城「ぷふ…」
提督「加賀の周りにうわわわーって…」
加賀「あっあっあっあっ」
瑞鶴「ブフ、くくく…やめなよ、提督さん…くく…」プルプル
加賀「あ、ああ、全然怖くないけどなんだか寒くなってきたわ、一緒の布団に入ってもいいかしら」
提督「えー、暑くなるからやだ」
加賀「」ガーン
提督「冗談だよ、おいで」バッ
加賀「」パアアキラキラ
提督(可愛い…)
ゴソゴソ
加賀「暖かいわ」ギュウウ
提督「ちょっと痛い…まあいいんだけど」
加賀「ふふ」
飛龍「イチャイチャしおってぇ…」
蒼龍「むー、加賀さんばっかりずるい…」
提督「まあまあ、また今度かまってあげるから」
飛龍「ほんと?約束だよ?」
提督「もちろん」
蒼龍「やったぁ!」
翔鶴「ところで怖い話は…」
加賀「まだ続けるの?」
提督「そりゃそうだよ、まだ全員回ってないし」
加賀「そ、そう…」
瑞鶴「次翔鶴姉じゃない?」
翔鶴「え?いえ、私は特にそういうお話はないから…」
瑞鶴「そう?なら私でいい?」
提督「うん、いいよ」
瑞鶴「よーし……」
───これは艦娘の間で囁かれる、都市伝説?みたいな話なんだけど。
私達艦娘って、それぞれ固有の名前と身体を持って生まれてくるでしょ?けど、みんながみんな必ずそうなるわけでもないんだって。
建造の際の異物混入、妖精さんのミス、手違いその他諸々……色んな要素が積み重なって、ある程度の差異が生まれるんだとか。
性格の違いや目の色、髪色、肌色の違いとか多少のものなら問題なく世に送り出されるんだけど……
………これがね、人間の子供と同じで、酷い時は知的障害だとか奇形だとか…とても外に出せないようなものが生まれてくる事があるんだってさ。
で、本題はそのなりそこないがどこで解体処理されるかなんだけど………ここって結構大きい鎮守府じゃない?そういう大きめの鎮守府には解体処理用の地下室があって、そこで極秘裏に解体処理されるんだって。
………ただ、問題はその地下室に続く道がどこにあるか、だよね。もしかしたらこの鎮守府にも処理場があったりして!
なんてねっ!
瑞鶴「………っていう話なんだけど、どう?」
翔鶴「それ、本当だとしたらちょっと怖いわね…」
赤城「ですね、極秘裏ということはもし見てしまったら……」
飛龍「………消される、だろうね」
蒼龍「………こわっ」
加賀「実際のところ、どうなの?」
瑞鶴「まあただの都市伝説だし、そんなこと有り得ないよね!」
提督「……………」
瑞鶴「ねっ、提督さん!」
提督「………そうだね、そんなこと私も知らないし」
翔鶴「………?」
提督「もう夜も遅いし、そろそろ寝よっか」
瑞鶴「えーっ、まだ怖い話したいのに」
提督「加賀が怖がってるから、ね?」
加賀「私は別に怖がってないけど」
提督「そんなことより加賀、早くトイレ行かないと一人で行くことになるよ」
加賀「提督、あなた一人だと怖いでしょう?今なら私がついて行ってあげるから早く行きましょう」
提督「はいはい…飛龍は?」
飛龍「私はさっき行ったから大丈夫ー」
蒼龍「私もー」
瑞鶴「同じく」
翔鶴「お、同じく」
提督「なら私達二人だけかぁ。戻ったらもう寝られるように準備しておきなよー」
「「「はーい」」」
飛龍「よいしょっと…はい、枕」
蒼龍「あっ、ありがと」
飛龍「ふふっ、一緒に寝る?」
蒼龍「もう、子供じゃないんだから…」
翔鶴「…………」
瑞鶴「翔鶴姉、どうしたの?」
翔鶴「……え?」
瑞鶴「さっきからなんか考え事してるみたいだけど…」
翔鶴「あ、いえ…なんだか、さっきから提督の様子がおかしいような気がして…」
瑞鶴「提督さん?別にいつも通りだと思うけど…」
翔鶴「いや、でも…すぐにさっきの話を切り上げたり、なんだかまるで……」
瑞鶴「考えすぎじゃない?きっと気のせいよ」
翔鶴「………だといいんだけど」
提督「……………」
「ねえ、風花」
提督「なに?」
「さっき瑞鶴が言ってた話……」
提督「ふふっ、もしかして加賀、信じちゃった?」
「そういうわけではないけれど……」
提督「安心してよ、ここにそんな場所はないからさ」
「でも………」
提督「ね?」
「…………」
提督「ねえ?」
「……そうね、確かに何の信憑性もない話だったわ」
提督「でしょ?だからただの都市伝説だって」
ガチャ
加賀「風花は嘘を吐かないから大丈夫ね」
提督「えへへ、そう言ってもらえ る と嬉しイ なあ。」
加賀「………?」
提督「さ、戻ろっか」
加賀「……ええ」
ガチャ
提督「ただいま〜…おっ、みんなもう寝る準備出来てるみたいだね」
飛龍「あ〜…布団かぶったらもう眠くなってきた…」
蒼龍「…………」ウトウト
瑞鶴「私はまだ起きてられるんだけど…」
翔鶴「ダメよ、明日も早いんだから」
瑞鶴「はーい…」
提督「よーし、じゃあ電気消すよ〜」
飛龍「おやすみ〜…」
蒼龍「………ぐぅ…」
提督「はい、おやすみ」
パチッ
提督「よいしょっと…」
ゴソゴソ
提督「………なにナチュラルに私の布団入ってるのさ」
加賀「ダメ?」
提督「………こっちの方があったかいよね」ギュウ
加賀「ふふ、でしょう?」
提督「はいはい、おやすみ」
加賀「ええ、おやすみ」
〜〜〜〜
飛龍「すー……すー……」
蒼龍「むにゃ………」
翔鶴「…………」コロン
加賀「ん……すぅ……」
赤城「んぁ…もう食べられ……ふふ……」
提督「…………」
瑞鶴「…………」
瑞鶴(眠れない……)
瑞鶴(昼寝しすぎたからかなぁ…不思議と目が冴えてる……)
瑞鶴(……せっかくだし提督さんの寝顔でも……?)
ゴソ…
提督「…………」ムク
瑞鶴(あれ?)
提督「…………」スタスタ…
瑞鶴(トイレ、かな……?でも寝る前に行ってたし……)
───さっきから提督の様子がおかしいような気がして……
瑞鶴(………もしかして…)
ガチャ…
…パタン
瑞鶴「…………」
瑞鶴(…こんな夜中に一人で用事なんて……何があるの…?)
瑞鶴(……ダメ、好奇心に勝てない…)
ガチャ…
……パタン
提督「…………」スタスタ…
瑞鶴(あ、いた……見つからないように、そーっと…)ソー…
提督「…………」スタスタ…
パタパタ…
サッ
瑞鶴(バレてない…よね。玄関口にいるってことは外に行くのかな…?)
提督「…………」キョロキョロ
瑞鶴「!」サッ
提督「………よし」
ガチャ
瑞鶴(え……?あの制服って、憲兵さん…?)
憲兵「……どうも」
提督「はい、じゃあ行きましょうか」クル
瑞鶴「!」
瑞鶴(こっちに来る…!)
タタッ
憲兵「…………?」
提督「どうしました?」
憲兵「………いえ、なんでも」
提督「そう……」
スタスタ…
瑞鶴「…………」
瑞鶴(ふぅ、危ない危ない……ってなんで見つかるのを恐れてるんだろう、私…)
瑞鶴(……あの二人、どこに行くんだろう…どっちも敬語だし、仲が良いようには見えないけど…)
瑞鶴(一応、バレないように後をつけてみようかな…)
パタパタ
提督「…………」
憲兵「…………」
瑞鶴(二人とも全く話さない……何が目的なの…?)
ガチャ
提督「…………」キョロキョロ
瑞鶴「!」バッ
憲兵「………見られてないですね?」
提督「ええ、どうぞ」
パタン
瑞鶴(……え?あそこって、書斎…よね?書斎に何かあるの…?)
瑞鶴(………気になる……)
瑞鶴(ちょっと覗くだけ…ちょっとだけ…)
ガチャ…
瑞鶴「…………」ゴクリ
瑞鶴(……!提督さんがいるのって、加賀さんが言ってた最奥の…)
提督「…………」カチッ
ガタッ ゴゴゴ…
瑞鶴「………!?」
瑞鶴(棚が、動いた…!?)
憲兵「……先導を頼みます、慣れていないもので」
提督「分かりました、では後に続いてください」
ギイィ……
バタンッ
瑞鶴(何あの扉……あの向こうに何があるの…?)
瑞鶴「…………」ソワソワ
瑞鶴(き、気になる……)
───もし見てしまったら……
スタスタ…
ピタリ
瑞鶴「…………」
瑞鶴(………ちょっと見るだけなら、大丈夫だよね…?)
グッ
「っ………」
小さく削られたドアノブに手を掛ける。加賀の言っていた話を思い出したせいか、それとも深夜の空気に飲まれたのか、それだけで重苦しい雰囲気に包まれたような感覚に陥る。
しかし今の瑞鶴は、それよりも好奇心の方が勝っていた。意を決したように深く息を吸って吐き、力を込めて手首を捻る。
重い。見た目の威圧感や場の空気のせいではなく、実際に分厚いつくりになっている。
そう、まるで中の何かを封じ込めるように。
鉄を思わせるような重厚な音と共に、扉が開く。その扉の先は瑞鶴が予想していた通り、地下へと続く階段が伸びていた。
自然な緊張と高揚感に、口が渇く。喉を鳴らして唾を飲み、一歩一歩音を立てないよう慎重に階段を降りる。
奥の扉までの距離から計算すると、提督達はまだそう遠くないところにいる。そう考えながら階段の中腹あたりまで降りたその時───
「………っ!?」
音もなく、扉がひとりでに閉まった。思わぬ出来事に心臓が高鳴るが、風のせいだ、こっちの気圧の都合で云々……と心で言い聞かせ、すぐに前に向き直って歩を進める。
「……………」
暗闇に目が慣れ始め、突き当たりの扉に表記されている文字が見えた。
関係者以外立ち入り禁止。
ありふれたフレーズだが、血を連想させるような赤いインクと、状況が状況なため言い知れぬ恐怖感をこみ上げさせる。
瑞鶴自身も次第に雰囲気に飲まれ始めていたが、まだ何も見ていない、中途半端に終わるのはイヤだ、と。迷うことなくその扉を開いた。
「…………!」
扉を開けた先に広がっていたのは、まさにそう形容するしかないような地下道だった。壁はおろか、床すら舗装されておらず、支柱となる無骨な木材と土が剥き出しになっている。
灯になるものと言えば、天井を支える梁から吊り下げられている古めかしいランプだけ。光が行き届かないほどに広いのか、それだけだと自分の足元すら見えない程薄暗い。
「あっ…!」
通路の奥に、固定されているランプとは違う、揺れる光が見える。時々その光を覆うように、二つの影が動く。
間違いない、提督達だ。二人は自分から数えて三つ目の通路を曲がった。
そう脳に刻み込み、後を追う。瑞鶴がそうしなければいけないのは、見えるだけでもこの地下道にいくつもの分岐路があったからだった。
揺れる光を見失わないように、かつ音を立てずに迅速に的確な距離を保ち、必死に追いかける。こんなところで迷ったらもう出られないかもしれない、という焦燥感からか、真冬の地下というのにも関わらず瑞鶴の額には汗が浮き出始めていた。
しばらく歩き詰め、足に疲れが生まれ始めた頃。
提督と憲兵が唐突に立ち止まり、慌てて角に身を隠す。
「…………?」
そこから顔だけを出し、二人の行動を監視する。何やら鍵を出しているようだ。その間も二人の間に会話はない。
幾重にも錠が掛けられているのか、鍵同士がぶつかり合う金属音だけが響き、あまりに無機質な時間が過ぎていく。
「はぁ……」
長い間歩き続け、くたびれた足の疲れを癒そうとへたり込むように腰を下ろす。
同時に視線も足元に降り、地下水で湿った土を眺めていると、土に埋もれるように白い何かがその一面を出しているのが目に留まった。
ほんの興味本位でそれに手を伸ばし、指先を器用に使い掘り返す。
意識の端で音が鳴り止まないのを確認しながら、何かに取り憑かれたように指を土に埋めて一気に引き抜く。
勢い余って、顔の高さまでその白い物体を持ち上げてしまった。
そして、ぽっかりと空いた二つの眼窩と目が合う。それだけではその物体が何か分からず、少し目元から離してまじまじと見つめる。
眼窩の間の小さい穴と、ところどころ抜け落ちてはいるが綺麗に並んだ歯。
「ひっ……!!」
そう、瑞鶴が躍起になって掘り起こしたそれは人の頭蓋骨だった。振り払うようにそれを放り投げ、声を漏らさないように慌てて口に両手を当てる。
しかしその瞬間、金属音が鳴り止んだ。
「………!」
見つかってしまった。一瞬そう考えただけで、脳裏に嫌なイメージがいくつも駆け巡る。何度も何度も、バレていない、バレていない、と自分に言い聞かせ、心臓の音すら聞こえないようにぎゅっと胸の前で手を組む。
ここまできて、やっと瑞鶴は後悔した。帰り道も分からず、普段頼れる存在である提督が今は畏怖の対象となっているという事実。
好奇心で満たされていた心も、今は恐怖の色で埋め尽くされてしまっている。
しかし、まだ希望は捨て切っていない。震えを止めるように肩を抱き、思案を巡らせる。提督達が来る気配もない。気休めでしかなかったが、それでも今の瑞鶴にとっては十分救われるものだった。
深く息を吸って吐き、心を落ち着かせる。
背後の方で扉の閉まる音が聞こえた。どうやら気付かれていた訳ではなく、解錠が済んだだけだったようだ。
「……提督さん……」
一抹の希望を胸に、後に続くようにドアの前に立つ。
いつも優しい提督なら、自分の存在を知れば元の場所まで案内してくれるかもしれない。きっとそうだ、あの提督が長い間一緒に過ごしてきた人をそう簡単に消すはずがない。
その願いを縋り付くように信じながら、また扉を開く。瑞鶴にはもうこの道しか残されていなかった。
「………のですか?」
「ええ、…………誰…も……です…ら」
遠くの方から声が響いてくる。先ほどまでの土とは打って変わって、舗装された硬い床をそっと歩く。
ここで、瑞鶴はある違和感に気付いた。
「………?」
そう、通路のつくりが真新しい。電灯もあれば、壁も床も舗装されている。まるで、ここで重点的に何かを見るように。
ところどころに病院で使われるようなワゴンや、その上に乗ったメス、血の付いた白布、そして真っ黒に染まったハサミ。
まさか、本当にまずいところまで来てしまったのでは…と、暗い想像を首を振って振り払う。
気付けば、提督達はもう通路の奥から差し込む光の先、つまり大広間に出ようとしていた。
その入口の淵にあるプレート。そこには大きく『第一処理場』と表記されていたが、そんなことには気付く気配もなく、瑞鶴は提督に声を掛けようと手を伸ばした。
「提督さ……!?」
目の前の異様な光景に、思わず伸ばしかけていた手を止める。
ドーム状の構造、眩しすぎる程に強く照明が当てられた大広間。その中央に、ソレは鎮座していた。
「ウg……ア、ぁギッ……」
人の体内と同じピンク色の巨大な肉塊。それに張り付けられたようないくつもの顔、いずれも目は抉り取られていてそれぞれが不揃いに呻き声を挙げている。
肉塊から疎らに生えた数十を超える手足と、どこか見知ったような様々な色の髪。自重を支えることすら出来ないのか、歪んだ床にめり込んでいる。
「う、おえっ……!!」
想像もしたくなかった。が、他に考えようもなかった。どういう細工かは知りようもないが、あの肉塊は、できそこないの艦娘達を詰め固めて結合させたもの。
軽く嘔吐し、涙の溜まった目を上に向ける。提督は、その肉塊に餌付けをするようにバケツから何かを取り出しては口と思われる穴へ次々と放り込んでいた。
飲み込まれる度に響く、硬い何かを砕くような小気味良い音。それに続く咀嚼音。そして、提督が持つその『何か』の端に見える先が分かれた五本の突起。
それが見えた瞬間、瑞鶴は今すぐこの場を離れなければ何をされるか分からない。そう確信した。
それもそのはず、提督が穴に放り込んでいたのは紛れもなく人の腕と足であったからだった。
普段優しい提督の、裏の顔。何を企んでいて、何を望んでいるのかが全く見えてこない。そのギャップのせいか、瑞鶴の恐怖心はすでに精神を振り切りかけている。
逃げ出そうとするも、足がすくんで一歩足りとも動けない。
「え………?」
ずっと姿を消していた憲兵が、キャスターの付いた寝台と共に現れた。その上に乗せられたものを見て、目を丸くして硬直する。
「これで最後ですね」
「ええ」
毎日同じ時間を過ごし、見てきたそれを見間違うはずがない。その寝台に乗せられていたのは、紛れもない、自分の姉である翔鶴だった。
「な、なんで……!?」
翔鶴は眠らされているのか、足場の悪い床に寝台が激しく揺れても目覚める気配は一向にない。
「…………」
提督は何も言わずに、翔鶴を抱き上げて例の肉塊の方に向き直る。
「え…う、嘘、でしょ…?」
何の躊躇いもなく、それを肉塊へと投げ込んだ。先ほどの手足と同じように、骨の砕ける音と肉をしゃぶり尽くす音を鳴らして咀嚼していく。
思考と意識がまるで追いつかない。
瑞鶴はただ、その様子を呆然と眺める事しか出来なかった。
「アァ…bゲ、ウー…ウ…」
大量の手足も、翔鶴も食べ尽くしたというのに、肉塊は飯を強請る赤子のように、その巨体を揺らして呻き声を挙げる。
「まだ物足りないという感じですね」
「そうですね、でもちょうどいいんじゃないですか?」
提督と憲兵、二人顔を見合わせて相談をするようなトーンで話す。瑞鶴は、今だ意識をふわふわと浮かせている。
そして互いに相槌をうつと同時に、今まで聞いた事のないような声色で提督が言う。
「活きの良いのが、居ますから」
それを合図に、二人が瑞鶴の方を振り返った。突き刺さる視線にはっと自分を取り戻して身を翻して逃げようとする……が、すでに手遅れだった。
「きゃあっ!?」
背後から飛びかかってきた何かに押され、勢いを止められずに床に押し倒される。すぐに身体を起こそうとするが、小さい感触に反して大きすぎる力で押さえつけられてまるで動かない。首だけを捻って背中に乗った何かの正体を視認する。
と、同時に背筋に冷たいものが走る。瑞鶴を押さえつけている何かは、身体こそ小さいものの、確実に顔の右半分が抉れた翔鶴だった。
「ひっ…!!」
床に取り押さえられている間に、提督はすぐ側まで近付いてきていた。
「ふふ、アハはは」
口を三日月型に歪ませながら、ゆらゆらと覚束ない足取りで詰め寄ってくる。
もはや提督にいつもの面影はない。その姿は、狂人と形容する他なかった。
「っ……!」
必死に身を捩る瑞鶴の前にしゃがみ込む提督。先ほどまで狂気に満ちた笑い声を発していたはずなのに、その表情は怒りとも侮蔑ともつかない完全な無表情だった。
「た、助けて…!」
涙目で訴えかける瑞鶴を見下ろしながら、口を開く。
「見ちゃ ったね 、 ぇ?」
機械のように冷たい声。ところどころアクセントが狂っており、人間ではないのかとすら思わせる。
「ダメな んだ、よ、ミち ゃった のなら」
憲兵は肉塊の方でメモか何かを記入しているようで、こちらの様子には全く興味を示さない。ただただ、ひたすらに何かを書き殴っている。
「見ちゃッっっったのなら、ねえ、ねえ」
「消えてもらわなきゃ、ね?」
「ひっ……!!」
いつもの、優しい提督。そのトーンで、そう言った。そう言いながら、どこからか蛍光色の液体が詰まった注射器を取り出した。
それが、瑞鶴にとって何よりの恐怖だった。
振り切った恐怖心で、狂ったように叫びのたうちまわる。が、片手のない翔鶴、片足のない翔鶴、半身が薬品のように真っ白に染まった翔鶴に次々と床に叩きつけられる。
そして四肢を完全に押さえつけられ、顎を引かれ顔を固定された。
「ダメだよ、ダメだよ、ダメだよ、消えてもらわなきゃ、消えてもらわなきゃ、消えてもらわなきゃ消えてもらわなきゃ消えてもらわなきゃ」
うわ言のように淡々と何度も何度も繰り返し呟きながら、注射器を掴み瑞鶴の顔へ向ける。その先端は眼の中心を指していた。
「あ……あ、ああ、ああっ、あああああ!!!い、いやっ!!やだっ、誰か助けて!!いやああああああああああああ!!!」
広間に絶叫が木霊する。これから起こる惨劇を想定し、かろうじて動かせる指先だけでも動かして抵抗にならない抵抗をするが、それに反応して翔鶴のなりそこないが指に食い付き動きを止める。
「あは、フふふはっ、あはははハハハはハははははは」
眼に針が近付くごとに喧しくなる提督の笑い声と、瑞鶴の荒い息。垂れる涎も、溢れ出る涙も、拭うことすら出来ない。
やがてそれは絶叫へと変わり、右目から零れる涙は赤い色に染まる。
「ああああああああああああああ!!!!っぎ、いぎゃあああああああああああああああああああああ!!!!!!」
尋常を超える痛みによる絶叫を最後に、瑞鶴の意識は途絶えた。
ーーーー瑞鶴、瑞鶴っ!」
「ああああ……あ、あ…?」
翔鶴「瑞鶴、どうしたの?悪い夢でも見たの?」
瑞鶴「え……あ…?」
翔鶴「ずいぶんうなされてたみたいだけど…」
瑞鶴「あ、あれ……翔鶴姉、食べられたんじゃ…?」
翔鶴「何を言ってるの、もう……明日は早いんだから、早く寝なさい…」
瑞鶴「う、うん…」
翔鶴「はぁ……」ポスン
瑞鶴「…………」チラッ
提督「すぅ……」
瑞鶴「………ほっ」
瑞鶴(よかった…ただの夢だったんだ…)ポスン
翔鶴「………zzz」スヤァ
瑞鶴(はぁ……なら、私ももう寝よう…)
瑞鶴「…………」
ゴソ…
瑞鶴「…………?」パチッ
提督「…………」ムク
瑞鶴(え?)
提督「…………」スタスタ…
瑞鶴(何、このデジャヴ…)
ピタッ
提督「…………」
瑞鶴「………?」
提督「今度は何も見ないようにね」
瑞鶴「」
ーーーーー
「こら」
瑞鶴「んぐぅ……zzz…」
「起きなさい」
ペチッ
瑞鶴「んぁ!?な、なに!?」
加賀「いつまで寝ているの、もうとっくに演習の時間よ」
瑞鶴「えっ?あ、う、うそ!?もうこんな時間!?」
加賀「私は先に行ってるから。食堂に提督が作ってくれた朝食があるからそれを済ませてから来なさい」
瑞鶴「あ、は、はい!」
パタパタ…
加賀「はぁ……」
ガチャ
加賀「…………」
提督「あ、加賀。瑞鶴起こしてくれた?」
加賀「ええ、食堂に向かったわ」
提督「そっかそっか、ありがと」
加賀「…………」ジッ
提督「どうしたの?」
加賀「………昨日、あの子と何かあったの?」
提督「何もなかったよ?」
加賀「……そう、ならいいけど」
提督「うん、じゃあ演習頑張ってね」
加賀「ええ」
スタスタ…
提督「…………そうだよ」
提督「何もなかったんだよ。何も」
………あれから特に私の身に何かがあったわけでもないし、あとで聞いてみたら翔鶴姉も何も知らないって。
翔鶴姉と一緒に書斎の奥の本棚も調べてみたけど、何もなかったし、壁にスイッチもなかった。加賀さんが言ってた声も聞こえなかったし…空耳か何かだったんだろうね。
提督さんもいつも通りの優しさだし、変わったこともない。
やっぱり、あれはただの夢だったのかな?それとも………
おわり
ーーーー
ーーーーーー
『ごめ……さい、風花』
『おかあ………ど…してあやま……?』
『あの…達とは、……なくなっちゃ………』
『え?』
『お父…んとお母さんが落ち……まで、それまで…』
「……ーかん」
『や、やだ…やだよ、そんなの…』
「…れーかんってば!」
『それまでの、お別れだから』
「司令官!」
提督「!」ビクッ
提督「んえ、あ、な、なに?」
雷「もー、司令官ってばさっきから何回も呼んでるのに何の反応もないんだから!」
提督「あ、あはは…ちょっと、考え事してたから…」
暁「ふあ……」
響「そんなことよりもう一番上のお姉さんが眠そうにしてるよ」
電「電ももう眠いのです…」
木曾「日付も変わってるからな。子供は早く寝た方がいいだろう」
暁「子供じゃないもん…」ゴシゴシ
提督「あ、そっか、今日一日中ずっと一緒なんだっけ」
雷「忘れてたの?」ジロ
提督「ちゃ、ちゃんと覚えてたよ!ほんとだから!」
雷「…ならいいけど」
暁「………う〜」フラ
木曾「おっと」
ガシッ
響「布団に入らないとダメそうだね。司令官」
提督「あ、うん…おいで」
雷「はーい!」ピョーン
電「なのです!」ピョンッ
提督「ちょっ」
ボフッボフッ
提督「こ、こら!危ないでしょ!」
雷「ふふ、でも司令官はしっかり受け止めてくれたじゃない?」ギュウ
電「えへへ…司令官さん…」スリスリ
提督「もう…」
響「ウラー」スタスタ
木曾「ほら、ちゃんと自分の足で歩きな」
暁「ふぁい…」フラフラ
ボフ
暁「ふご……zzz……」
提督「そういえば、木曾はどこで寝るの?」
木曾「ん、俺は床に布団敷いて寝るよ」
提督「一緒に寝なくていいの?」
木曾「そう言いたいところだが…その人数だとはみ出るだろ」
提督「………まあ、確かに」
響「悪いね」
雷「木曾さん、ごめんなさいね」
木曾「気にするな。そんなことよりほら、布団敷いて寝るぞ」バサッ
提督「そうだね、おやすみ木曾」
木曾「ああ、おやすみ」ゴロン
雷「司令官、おやすみなさい!」
電「おやすみなさい、なのです」
提督「はい、おやすみ〜」
響「司令官のおっぱい枕で」ムンズ
スッパーン
響「おやすみ司令官」
提督「はいおやすみ」
提督「……………」
電「すぅ……」
雷「んぐ……しれいか……」
響「ふへ…うへへ…zzz」
暁「むにゃ……」
木曾「……………」
提督「……………」
木曾「………なあ」
提督「………なんでしょーか」
木曾「……やっぱり起きてたか」
提督「バレてた?くふふ……」
ムク
木曾「寝付けないのか?」
提督「……うん、ちょっと」
木曾「そうか……なら、一杯やるか?」
提督「ふふ、いいねえ。好きだよ、そういうの」
カラン
木曾「こうしてお前と二人きりで飲むのは久しぶりだな」
提督「そうだっけ?」
木曾「そうさ、いつもお前は他の人にかまってるからな」
提督「……なんか、ごめん」
木曾「いいんだ、お前の立場も理解してるし、お前がみんなに好かれているのも分かってるから」
提督「木曾、前にずっとそばにいたいって言ってたよね」
木曾「出来ることならな」
提督「しようとは思わないの?」
木曾「そんなことをしたら他の人達に迷惑がかかるだろ、あいつらが悲しんでるところを見たらお前が悲しむし、お前が悲しむことはしたくないし」
提督「………前々から思ってたけどさあ、木曾ってすごいイケメンだよね」
木曾「少なくとも女に向けて言う台詞ではないな」
提督「顔赤いよ?」
木曾「………酒のせいだよ///」ゴク
提督「素直じゃないなあ」
木曾「素直じゃないのはお前もそうだぞ」
提督「なにが?」
木曾「…寝付けない理由のことだよ、お前が眠れないなんて相当だぞ」
提督「……………」
木曾「昔のことを思い出していたんだろう?」
提督「……すごいね、よく分かってるね」
木曾「お前のことはずっと見てるからな。少しでも様子が違えばすぐに分かるさ」
提督「……………」ゴク
木曾「………何か、思い出せたのか?」
提督「………うん、でも、辛い思い出だったと思う」
木曾「そうか……苦労してたんだな…」
提督「……まだ明確には思い出せてないんだけどさ、それでもやっぱり、その時の事を考えてると…なんだか、怖くなってくるんだ…」
木曾「……ああ」
提督「大切な誰かに置いて行かれるんじゃないかって……そんな、怖い思い出だった気がするの…」
木曾「…………」グイ
提督「! ふふ……慰めてくれるの?」
木曾「強がらなくてもいい」
提督「………うん」
木曾「辛い思い出を無理にでも思い出せとは言わない。誰かに話せとも言わない。……ただ、これだけは覚えておいてくれ」
提督「うん……」
木曾「昔なにがあったのかは分からないが、今のお前にはみんながいる。お前が悲しんだり苦しんだり、辛い時は共に泣いて励ましてくれる仲間がいるんだ。誰もお前を裏切らないし、俺もお前を裏切らない。この海に誓うよ」
提督「………ふふっ」
木曾「む、なにがおかしい」
提督「ううん、やっぱり木曾はイケメンだなって思って」
木曾「……そうか、ふふ」
提督「………ありがとう」
木曾「ああ」
提督「はぁ……まだ眠れそうにないや。もうちょっとだけ、付き合ってくれる?」
木曾「いいぞ、明日は何もないからな。とことん付き合おう」
提督「えへへ、そうこなくっちゃ!」
提督「……そろそろ寝よっか」
木曾「そ、そうだな……」
木曾(俺の二倍近く飲んだのに顔すら赤くなってないぞ…)
提督「ふあぁ…いい感じに眠くなってきた…」
木曾「お、おう…じゃあ、改めておやすみ…」ゴソゴソ
提督「おやすみ〜……」
ゴソゴソ
木曾「…………」
提督「…………」
木曾「………なあ」
提督「なにぃ…?」
木曾「すごいナチュラルに俺の布団に入ってきたよな?」
提督「う〜ん…なんか、そんな気分…」ギュウ
木曾「はぁ……はいはい、おやすみ…」
提督「………ぐぅ」
木曾(早い…)
提督「…えへ……zzz…」
木曾「………いい夢見ろよ」ナデナデ
〜〜〜〜〜
ゲシッ
提督「………んぁ…」パチ
ゲシッ
提督「いた……なに…?」
暁「んご……」ゴロゴロ
提督「……………」
「あー、やっと起きた」
提督「ん?」
雷「おそよう、司令官!」
提督「……おそよう…」
ゴシゴシ
提督「………今何時?」
響「ヒトヒトマルマル。もうお昼前だよ」
提督「そっか……というかなんでみんな木曾の布団に…」
響「司令官がいなくて寂しかったんじゃないかな」
雷「………一番に行ったくせに」ボソ
響「…………///」
提督「ふあぁ…電と木曾と暁はまだ寝てるんだ…」
電「んぅ…」パチ
提督「あ、電も起きたみたい」
電「……ぁー…」
提督「?」
電「………あむ」カプッ
提督「っひぃ!?」
電「ん〜……」チュッ チュパ
提督「ちょ、いいい電!?何をしてるのです!?」
雷「寝ぼけてるんじゃない?たまにあるわよ、電の寝ぼけ癖」
響「さすがに指を舐められたことはないけど」
提督「そ、そうなんだ…へえ〜…」
電「ん……れろ…」ペロッ
提督「……………」
提督(なんだろうこの背徳感…すごい…)ゾクゾク
雷「……司令官、すごい気持ち悪い顔してない?」
響「………まあ、ロリコンだし…」
電「んむ………?」
提督「あ、起きた」
電「…あれ…?」
提督「おはよう、電」
電「あ、は、はい…おはよう、なのです…」
提督「いやー、赤ちゃんみたいだったねえ」
電「へ……?………!!////」カァッ
提督「ふふふ、可愛かったよ」
電「はわわわ……ご、ごめんなさい///」
提督「謝らなくてもいいよ、寝ぼけてる時は仕方ないことだし」
雷「仕方ないことなの?」
響「それはないと思う」
響「私も寝ぼけたふりしておっぱい揉もうかな」
提督「響はお昼ご飯抜きでいい?」
響「今のは寝言だから」
雷「お昼ご飯…そういえばもうそんな時間ね」
暁「……おひるごはん……?」パチ
電「あ、お姉ちゃんも起きたのです」
提督「おはよう暁、もう十一時だよ」
暁「え……えっ!?遅刻じゃない!!」バッ
雷「もしかしてこっちも?」
響「ああ、寝ぼけてるね」
提督「暁ー、今日は休みだよー」
暁「……へ?あれ、というかなんで司令官がここに…」
提督「ここは私の部屋だよ、それに今日一日は一緒って言ってたでしょ」
暁「………あ、ああ!そうだった!」
提督「はー…長女がこれだと心配だねえ…」
電「でも、おかげで目も覚めたみたいなのです」
提督「………さて、問題は……」
五人「「「「「…………」」」」」チラッ
木曾「ぐー……」
雷「………ねえ」
電「………なのです」
暁「考えてることは…」
響「同じだろうね」
提督「うん……ずっと気になってた」
木曾「zzz…」ゴロン
「「「「「この眼帯……!」」」」」
提督「………じゃあ、外すよ?いい?」
暁「……………」コク
雷「し、慎重にね」
響「もしかしたら爆発するかもしれないしね」
電「!?」
提督「んなわけないでしょ…」
木曾「うぅ〜…ん…」
提督「……………」ゴクリ
スッ
グッ…
一同「「「「「…………」」」」」ドキドキ
木曾「……………ん?」パチ
提督「わああああああ!??」ドタドタ
電「ひゃああああああ!!?」ザザザザ
木曾「…なにやってんだお前ら」
響「なんでもないよ」
木曾「いやそれは無理があるだろう」
木曾「なあ、なにやってたんだ?」チラッ
提督「えっ!?い、いやあ、ちょーっとその眼帯が気になって、ね?」
木曾「眼帯?これか?」スッ
提督「へぇあ!?」
暁「そんな簡単に外しちゃうの!?」
木曾「外すも何も別に怪我してるわけでもないしな」
提督「あ、ほ、ほんとだ…というか、右目金色なんだ…」
木曾「え?そうなのか?」
提督「そうなのかって…鏡で見たことないの?」
木曾「いや、風呂入る時も着けっぱなしだから…」
提督「ダメだよそんなの!目悪くなるよ!?」
雷「司令官だってお風呂入る時も寝る時も眼鏡掛けたままだって言ってたじゃない」
提督「それは昔の話!」
木曾「というかそもそも中破した時は眼帯吹き飛んでるだろ」
提督「そうなの!?」
木曾「見たことなかったのか!?」
提督「いや、だって木曾が改二になってから中破した回数って何回か覚えてる?」
木曾「………二……いや、一回きり……じゃないか…?」
提督「その一回の時、私いなかったよね?」
木曾「あ、ああ。大本営に呼び出されてたな」
提督「なんで勝手に出撃してたの?」
木曾「……………」
提督「……………」
暁「……………」
響「……………」
雷「……………」
電「……………」
提督「………仮にも私、上官なんだけど」
木曾「すみませんでした!!!」
提督「ところでさ、その眼帯、何か意味でもあるの?」
木曾「ん?いや、特にはないが」
提督「えー、じゃあなんで着けてるのさ」
木曾「ファッション」
暁「えっ」
響「うわあ」
雷「厨二病…」
電(それはないのです…)
提督「カッコいい…」キラキラ
木曾「だろう?」
四人((((えっ))))
422 : ◆CaWSl75vrE - 2015/06/09 22:58:26.62 C3LjxU6h0 269/680木曾の眼帯は元々少ない水上機の搭載量とそれに伴って使われなくなった格納庫にかぶせる天蓋をイメージしたものらしいですね
木曾「そろそろいいか?」
提督「あ、うん」
スッ
木曾「はぁ…やっぱこれが落ち着くな…」
提督「なんていうか、眼帯着けてる時はカッコいいけどさ、眼帯着けてないとすごい可愛らしく見えるね!」
木曾「!?///」
響「出た」
電「天然たらしなのです」
提督「ねえ、また今度でいいから眼帯外したところ見せてもらってもいい?」
木曾「むう…割と恥ずかしいからな…」
提督「じゃあ二人っきりの時に、ね!」
木曾「………まあ、それならいいか…」
提督「やったー!」
響(こうやって色んな人を落としていくのか…)
暁「ねえ司令官、お腹空いたわ…」
提督「ん?そういえばもうお昼前だったね」
木曾「俺はまだだな」
雷「私も」
電「電もなのです」
響「響もなのです」
電「もう!真似しないでほしいのです!」
提督「私もまだあんまりお腹空いてないんだよね…暁、先にご飯食べる?」
暁「い、いいわ!暁はお姉さんだから、我慢してあげる!」
響(そんなこと言ってまた)
電(絶対司令官さんと一緒に食べたいだけなのです)
提督「そっか……じゃあ、お昼まで散歩でもしよっか」
木曾「このままでか?」
提督「うん、たまにはいいでしょ?」
木曾「まあ……悪くはないか」
提督「よーし、なら行こっか」
電(あれ………司令官さん、下着どっちも着けてないんじゃ…)
提督「電ー?」
電「あ、はい!」タタ
ガチャ
提督「う〜ん…あー、差し込む陽射しが眩しいねえ…」
木曾「ああ、ちょうどいい暖かさだな」
提督「はあ〜…なんだか眠くなってくるね…」
雷「司令官、だらしないわよ?」
提督「はいはい、分かってますよ〜」スタスタ
暁「散歩するって言っても、どこに行くの?」
提督「さあ…適当にぶらぶら」
響「計画性がないね」
提督「散歩なんてそんなもんだよ」
電「電は、みんなと歩くだけでも楽しいのです」
提督「ああ〜、電はウルトラいい子だねぇ〜」ワシャワシャ
電「ふふ、えへへへ…///」
木曾「親子みたいだな」
提督「ふふっ、じゃあ私がお母さんで木曾はお父さんかな」
木曾「……!///」ドキッ
提督「えへへ、なんちゃって〜」スタスタ
響「……真性だねアレは」
木曾「ああ…困ったもんだ」
430 : ◆CaWSl75vrE - 2015/06/10 22:57:01.86 FWHOKy970 273/680※前スレレス230ぐらいを参照に
ガチャ
提督「ああ〜……やっぱり今日はかなりあったかいねえ…」
木曾「まだ二月なのにな」
提督「うーん、絶好の昼寝日和…」
電「……………」ジー
提督「じょ、冗談だよ、うん」
暁「ねえ司令官、外に出て何するの?」
提督「そうだねえ、せっかくだし演習場の方行ってみようか」
響「視察というやつかな?」
提督「サボりの子がいたらお尻叩かなきゃ」
雷「あんまり痛くなさそう…」
木曾「……………」ガクブル
雷「…………!?」
ドーン ヒュンッ ダダダダ
鳳翔「あら、提督…それにみなさんも」
提督「やっほー、ちょっと見学してもいいかな?」
鳳翔「はい、お好きにどうぞ」
電「みんな元気にやってるのです」
木曾「ん、姉さん達が手振ってるな」
響「那珂さんが水上で歌って霧島さんに怒られてるね」
雷「うわあ、加古さん立ったまま寝てる…」
暁「……今さらだけど、大丈夫かしらこの艦隊」
鳳翔「ま、まあ、どの子もやる時はやりますから…」
提督「ところで、なんで加賀は赤城にジャイアントスウィングかけられてるの?」
鳳翔「えっと…昨日夜食を食べられたとか…」
提督「で、的に縛り付けられてる瑞鶴は?」
鳳翔「八つ当たりかと…」
提督「ああ…」
提督「ちょっと加賀にお叱り入れてくる」ザッ
鳳翔「は、はぁ…」
電「声をかけたのです」
響「加賀さん、心なしか嬉しそうに見えるね」
雷「……あ、司令官がお説教始めた」
暁「………反省してるようには見えないけど」
鳳翔「……まずいですね」
暁「へ?なにが?」
鳳翔「いえ、このままだと……あっ」
電「あっ……」
響「すごい……見事な大外刈りだ…」
鳳翔「ああ…やっぱり…」
雷「なるほど、こうなるのね…」
雷「加賀さんが本気で頭下げてる…」
電「滅多にこんなところ見られないのです…」
暁「あ、帰ってきた…」
提督「ただいまー」
木曾「お前……」
提督「なに?」
木曾「いや……可愛い顔してえげつないことするな……」
提督「やだ、可愛いなんて…そんな…///」ポッ
響「論点はそこじゃない」
電「というか、なんでそんなに綺麗な技が…」
鳳翔(というか、なぜ下着を着けていないのでしょう…)
鳳翔「そういえば提督、もう朝ご飯は食べられたのですか?」
提督「ううん、さっき起きたところ」
鳳翔「なら、食堂に作り置きのお味噌汁がありますので、それと…」
提督「うん、あとは私が作るね」
木曾「いいぞっ!」
暁「司令官のご飯食べられるの!?やったわ!」
響「これは実にハラショーだ」
電「実にハラショーなのです!」
響「む」
電「ふふん」
提督「そうだね、もうそろそろいい時間だし、食堂行こっか」
雷「はーい司令官!」
提督「それじゃあ鳳翔さん、みんなの面倒見てあげてね」
鳳翔「はい、任せてください」
一方その頃
飛龍「ねえ、見た?」
蒼龍「うん、見た!」
瑞鶴「提督さん、ノーブラだった!」
翔鶴「ゆさゆさしてたわ…」
雲龍「ふふ…パジャマ姿の提督、可愛かった…」
飛龍「なんかもう……色々と、わああああ!!」バタバタ
蒼龍「ねー、セクシーだったねー」
赤城「オカズが決まりましたね…」ボソ
加賀「……………」ギリギリ
赤城「おや、加賀さんどうしました?」
加賀「だまれ!!」ガスッ
赤城「ゲハァ!!」
提督「なに作ろうかなあ、なにがあったかなあ」
木曾「昨日見たけど卵がたくさんあったぞ」
提督「う〜ん……じゃあオムライスでも作ろっかな、みんな忙しくてキッチン空いてるみたいだし」
暁「オムライス?そんな子供みたいな…」
提督「じゃあ暁は卵かけご飯にする?」
暁「…オムライスがいい!」
提督「よーし、決まりだね」
雷「私、たくさんケチャップがかかったのがいいわ!」
電「電はちょっとすっぱいのを抑えてほしいのです」
提督「了解、響は?」
響「私は司令官のならなんでもいいよ」
提督「本音は?」
響「…ご飯を醤油風にしてほしいな」
提督「おー、大人だねえ」
木曾「俺は…」
提督「木曾も響と同じのでいい?」
木曾「あ、いや……その…」
提督「?」
木曾「お、俺もケチャップがいっぱいかかったのがいい…」
提督「……意外と子供だね」
木曾「いいだろ別に…」
提督「……可愛い」
木曾「…………///」カァ
響「暁、オムライスに旗を立ててもらったらどうかな?」
暁「絶対バカにしてるでしょ」
ガチャ
提督「……うん、やっぱり誰もいないね」
「ウニャー」
提督「おっと、あすかがいた」
木曾「あすか?」
提督「うん、あの黒猫の名前」
暁「ああ、前に大淀さんが言ってた…」
提督「そうそう」
響「…………」ソー
あすか「フシャー!!」
響「」ビクッ
提督「ダメだよ響、この子お腹空いてる時は怒りやすいから」
響「…………」ショボーン
提督「そ、そんなに落ち込まなくても…ほら、ご飯食べてからまた触ればいいから…」
響「…それもそうだね」
提督「よーし、じゃあご飯作りましょうかね」
雷「手伝うわ!」
電「電も手伝うのです!」
提督「いいよいいよ、すぐ出来るから、みんな座って待ってて」
暁「でも…」
提督「上官命令でもかな?」
暁「うう…了解です…」
提督「それでよし、おとなしくしててね〜」
パタパタ
木曾「…………」ガタ
雷「木曾さん?」
木曾「お前達は座って待ってな」
提督「お米は……うん、ちゃんと炊いてる」
バサ
木曾「よう、手伝うぞ」
提督「あれ、木曾?座ってていいって言ったのに」
木曾「そうは言ってもなあ、さすがに六人分作るのに一人だとちょっとキツいだろ」
提督「まあ……確かにそうだね、断っても聞かないんでしょ?」
木曾「そういうタチだからな」
提督「ふふ…ならお願いしようかな」
木曾「よし!まず何からすればいいんだ?」
提督「このボウルに卵を割って入れて、15個ぐらい」
木曾「そんなに要るのか?」
提督「卵分厚い方が好きでしょ?」
木曾「! そうだな!」
提督(ああ…木曾も子供だなぁ…可愛いなぁ…)
木曾「…………」コンコン
パキッ
提督「…………」
木曾「…………」コンコン
パキッ
提督「…………」
木曾「……なんだ?」コンコン
提督「いや、器用だなーと思って」
木曾「まあ、これぐらいはな」パキッ
提督「木曾って料理出来るんだっけ?」
木曾「カレーくらいだけどな」コンコン
提督「へー…いいお嫁さんになれるね」
木曾「嫁はお前だろう」
提督「あ〜らまあ、カッコいいこと言っちゃって」
木曾「いや、でもお前は本気で優良物件だと思うぞ」
提督「そう?」
木曾「面倒見いいし、優しいし、美人だし、料理上手だし、掃除洗濯家事にぬかりもないし」
提督「う〜ん…美人以外は自覚してるんだけどさ…」
木曾「なんだ?」
提督「それって、人として普通じゃないの?」
木曾「」ピキィン
提督「当たり前にご飯作って掃除も洗濯もして、当たり前に人に優しくして…美人かどうかは人それぞれだけど、一人で何も出来ないってそれ人としてどうかしてるよ」
木曾「……すごい納得した」
提督「でしょ?」
木曾「卵終わったぞ」
提督「ん、じゃあこれでかき混ぜて」
木曾「ああ」ガシャガシャ
提督「ちょっと強すぎるかな、もっと優しく」
木曾「こうか?」カチャカチャ
提督「そうそう。子供をあやすみたいに」
木曾「よ〜しよ〜し…いい子だねぇ〜…」カチャカチャ
提督(木曾って天然なのかな…)
提督「さてと、私も作り始めないと」
木曾「ご飯の方か?」
提督「うん、ちゃんとケチャップ多めにするからね」
木曾「ふふふ…いいぞ」
提督「ここに刻んだタマネギニンジン、そして鶏胸肉があります」
木曾「へえ。それをどうされますか?」
提督「油を引いたフライパンにぽいぽい」
木曾「ぽいぽい」
提督「一旦これは置いといてご飯に和えるソースに移ります」
木曾「そうっすか」
提督「二点。時間がないからソースの素とケチャップを混ぜ合わせ、煮ます」
木曾(二点…)
提督「よし、あとはちょっと放置かな」
木曾「何もやることがないのか?」
提督「うん」
木曾「そうか……」
提督「…………」
木曾「…………」
提督「………ねえ、前々から気になってたんだけどさ」
木曾「なんだ?」
提督「その軍刀ってさ、使う機会あるの?」
木曾「これか?……そうだな、闇討ちとかする時に使えるんだが…なんせ砲撃が出来る分あまり使いはしないな」
提督「へえ〜…」ジー
木曾「………そんなに気になるのか?」
提督「うん」
木曾「………ちょっとだけだぞ」カチャ
提督「わあ…!」
提督「やっぱりこれって切れ味すごいの?」
木曾「それなりにな」
提督「木曾、卵一つ取って」
木曾「? ほら」
提督「ありがと……よっ」ポイッ
チャキッ
提督「はぁ!!」
スパァン!!
木曾「!?」
提督「おおおおお!!ほんとだ、すごいよく切れる!!」
木曾「バカ、危ないだろ!怪我したらどうするんだ!?」アセアセ
提督「しないしない、大丈夫だって!」
木曾「するから言ってるんだ!とにかく返しなさい!」パシ
提督「あー」
木曾「まったく…洒落にならないぞ…」
提督「えへへ、ごめんね」
木曾「はぁ…」
木曾(……いや、しかし見事な太刀筋だったな…常人なら目視出来るかどうか…)
木曾「そういえばさ」
提督「なに?」
木曾「お前のその料理上手の秘訣ってなんなんだ?」
提督「秘訣というか……好きこそ物の上手なれというか」
木曾「へえ?」
提督「私が料理し始めたのは、確か十歳ぐらいの頃からだったかな?作り始めた当時は簡単なものしか出来なかったんだけどね」
木曾「ふむ」
提督「作ったご飯は幼馴染に味見してもらってたんだけど……いつも美味しい美味しいって言ってくれるから、それが嬉しくて張り切ってたらいつの間にか色んなものが作れるようになっちゃった」
木曾「そうか…なるほど、練習あるのみだな」
提督「うん……」
提督(懐かしいなぁ……いつも口いっぱいに頬張っては笑って美味しいって言ってくれたっけ……)
提督「…………」
木曾「……おい、焦げるぞ?」
提督「………ん、あっ」
木曾「また考え事か?」
提督「えへへ、そんなところ……ボウル貸してくれる?」
木曾「ああ」
提督「別の熱したフライパンに卵を流し込みまーす」ジュワァ
木曾「おお、いい匂いだな」
提督「木曾、ソースを具材の方に入れて」
木曾「ほい」ダバア
提督「で、そこに大量のお米を」
木曾「こうか!」ドバッ
提督「いいねえ、ワイルドだねえ」
木曾「ふふ、料理も戦いもこうでなくっちゃな」
提督「じゃあそれを焦がさないように炒めておいて」
木曾「任せろ!」
木曾「こんなもんか?」
提督「そうそう、いい色合いだね」
木曾「美味しそうだな…ふふ、楽しみだ」
提督「あとはこれを卵に包むだけだから、向こうで待ってていいよ」
木曾「ああ、わかった。期待してるぞ」
提督「うん、任せて」
スタスタ…
提督「さて………ん?」
ヒョコ
赤城「……………」ジー
提督「……ちょっとだけだからね」
赤城「!!」パアア
木曾「よっと……ん?」
響「にゃー。にゃー、うにゃにゃあ」
あすか「…………」
電「にゃ、にゃあ……」
雷「違うわ、もっと大きくよ!」
電「にゃー!」
木曾「………なにやってるんだ?」
雷「あ、木曾さん!なんとかしてこの子の気を引こうと思ってるんだけど、なかなか懐かなくて…」
木曾「その子、確か野良だったろう?すぐ懐かせるのは難しいんじゃないか?」
暁「そんなのじゃダメよ、暁がお手本を見せてあげるわ!」
響「うにゃあ、みゃー」
暁「にゃー!ごろごろごろ、ふにゃあー!」
あすか「シャーッ!!」
暁「ひいっ!」
木曾「……………」
響「にゃーん、にゃんにゃん」
ガチャ
加賀「……………」スタスタ
暁「あ、加賀さんだ」
雷「お腹空いたのかしら?」
電「キッチンの方に向かってるのです」
木曾「今日何かしら仕事がある人はまだ飯の時間じゃなかったはずなんだけどな…?」
響「みゃーお。しゃー、にゃー」
あすか「…………」
提督「はい、あーん」
赤城「あー……」
スパァン!
赤城「痛い!?」
提督「あ、加賀」
加賀「突然いなくなったと思えばやっぱりこんなところに…お昼はまだのはずよ」グイ
赤城「ち、違うんです加賀さん!私はサボろうとしたわけじゃなくて、ただちょっと小腹が空いただけで!」
加賀「そう、ならあと少し我慢しましょうか」
赤城「あっ、あっあっ、ああ〜〜〜っ!て、提督っ、助けてくださいぃぃぃ!!」ズルズル
提督「ま、待って加賀!ちょっとぐらい許してあげてよ!」
加賀「へえ。普段よくサボっているあなたがそれを言うの?」
提督「…………………」
赤城「提督!?」
提督「ごめん何も言い返せない」
赤城「ヘァッ!?」
加賀「さあ、演習に戻りましょうか」
赤城「あ、ああっ…い、いやあああああ……」ズルズル
提督「………がんばれー」
提督「出来たよー、取りにおいでー」
ドタドタドタ
雷「はーい司令官!」
暁「待ってたわ!……ってなんで暁のだけ旗が乗ってるのよ!!」
提督「かわいいでしょー」
暁「もう!司令官のバカ!子供じゃないんだからこういうのはもがもご〜〜〜!!」
木曾「はいはい、文句は食べてからにしような」
提督「はい、これが電のね」
電「わあ…ありがとうなのです」
提督「あ、私の分も持って行っておいて」
雷「わかったわ!」ダッ
木曾「あっ、おい!そんなに走ると危ないぞ!」
提督「ごめんね木曾、あの子達を見てて」
木曾「ああ。子守は親の役目だな」
提督「ふふっ…そうだね」
響「司令官」
提督「ん……ああ、響のぶんは今から作るからね」
響「すぐ出来る?」
提督「うん、五分もあれば」
響「そうか…ならここで待っててもいいかな」
提督「いいけど…なんで?」
響「司令官と一緒にいたいから」
提督「………へえ〜」
響「……なに、その顔は」
提督「いやあ、響ってそういうこと言う子だったんだなって」
響「…まあ、こんな機会でもないと司令官のそばに居られないからね」
提督「そんなに私のこと、好き?」
響「……………」
提督「………あれ?」
響「司令官のことは好きだけど……正直なところ、その好きの感情がどういうものか分からないんだ」
提督「うん」
響「愛だとか、恋だとか、そういうものは……まだ、私には分かっていない」
提督「なるほど」
響「司令官は……加賀さんみたいに、私のことを恋愛の対象として見てくれる?」
提督「う〜ん……」
響「……………」
提督「…………無理かな」
響「………!」
提督「少なくとも今は、だけどさ…響を含めた駆逐艦の子達は妹のようにしか思えないんだ」
響「そう、か…なら、ちょっと、悲しいな…」
提督「それを言われてそう思うのなら、やっぱり私のことを恋愛対象として見てるんだと思うよ、響は」
響「………うん、ありがとう」
提督「響は美人になるよ…その時になったら、また私の価値観も変わるかもね」
響「………うん、ふふ…」
提督「そういえば響ってさ」
響「?」
提督「なんで私の胸を揉もうとするの?」
響「…………興味本位?」
提督「…………そ、そう…」
響「いや…大人の胸ってどういう感触なのかなと思って…」
提督「大人……そうだね、大人…ふふふ……」
響(ちょろいな)
提督「……ってそうじゃなくて、それってセクハラだよ?」
響「非合意の方が興奮する」
提督(ダメだこの子)
提督「はぁ……」
響「そんなに嫌だったかな…」
提督「そういうわけじゃないんだけど……いくら同性とはいえ、ここまで好き勝手にされると自分の胸がそんなに安いものなのかと思っちゃって」
響「安心するといい、司令官の胸は安くない。私が保証しよう」
提督「……それどう考えても響が言うことじゃないよね」
響「まあ、本気で嫌ならやめるけど…」
提督「いや、うーん…それで響が少しでもいい気分になるなら私は構わないよ」
響「そうか。なら遠慮せずに……えいっ」フニョン
提督「〜〜〜〜〜っ!!///」カァッ
ガッ
提督「あああああもう!!この変態ガキンチョめ!!」ギリギリギリギリ
響「う、うそつき……ギブギブ…」パンパン
提督「いきなり触るのをやめなさい!!わかった!?」
響「そっちの方が興奮s
\スッパーン/
提督「わかった!?」
響「了解」ヒリヒリ
提督「まったくもー、いつからこんな捻じ曲がった子に育っちゃったのかねえ」
響「司令官も十分捻じ曲がってると思うけど…」
提督「? なにが?」
響「いや、なんでもない」
響(無自覚か…)
提督「ほら、響」
響「ん…?」
提督「オムライス出来たよ。向こう持って行ってみんなで食べよう?」
響「……うん」ギュ
提督「どうしたの、手なんて握ってきて」
響「ちょっと手が冷えたから」
提督「そう?ふふっ」
提督(あったかいのになぁ…照れ屋さんめ)
響(それでも、この愛情は本物だから余計に…)チラッ
提督「?」ニコ
響「……なんでもない」
提督「変な響」
響「司令官には言われたくないね」
提督「口が減らないねえ」
響(……余計に人に惚れられるんだろうなあ)
…………
…………………
〜〜〜
木曾「はーっ、美味かった!」
雷「ごちそうさま、司令官!」
提督「お粗末様です」
暁「なかなかいけたわね」
提督「はいはい、口周り綺麗にしてから言おうね」フキフキ
暁「んぐぐ……」
響「で、これからどうするの?」
提督「ん?ああ、えっとね…一日一緒と言ったところ悪いんだけど、実は明日が期限の書類を提出するのを忘れててね」
電「無能……」ボソッ
提督「うぐ……で、一旦執務室に行ってそれを書き上げないといけないんだ」
雷「もう!しっかりしてよね、司令官!」
木曾「すぐ終わるのか?」
提督「うん、あとサインだけだから…」
暁「なら暁達はここで待ってるわ」
提督「悪いね」
雷「もー…司令官ってば、だらしないんだから…」
電「仕方ないのです、誰だって忘れることもあるから」
木曾「まあな。あいつ、最近色々と思い詰めてたみたいだし」
暁「思い詰めてた?」
木曾「ああ、昔のことをよく思い出してるそうだ」
雷「昔のことで悩む?なにか嫌な思い出でもあるのかしら…」
木曾「さあ…それは分からないが、まだ記憶が完全ではないらしい」
電「辛いことなら無理に思い出さなくてもいいのに……」
木曾「……知っておきたいんだろう。自分のことだから」
響「…………」ガタ
暁「響?」
響「お花を摘んでくる」スタスタ
バタン
木曾「すごい大人な言い方だな。なあ?」
暁「なんで暁に言うのかしら?」ピキピキ
カリカリ…
提督「………よし」キュッ
ガチャ
響「司令官」
提督「あれ、響?どうしたの?」
響「司令官の仕事ぶりがどんなものか気になってね」
提督「それが目的ならごめんね、もう終わらせちゃった」
響「ん…そうなのか」
提督「ちゃんと真面目にやってるからね」
響「なら司令官のおっぱいでも揉もうかな」
提督「『なら』の使い所おかしいよね」
パタパタ
響「よいしょ」ノシッ
提督「ちょっ……あ、軽い」
響「うん、執務室の椅子は座り心地がいいね」
提督「今響が座ってるの私の膝だけどね」
響「………しかし、あれだ」
提督「?」
響「パジャマとこの部屋の雰囲気は合わないな…」
提督「……あとで着替えるから」
響「そう…それはいいとして」ワキワキ
提督「うっ」
響「ふふふ、お楽しみの時間だ」
提督「はぁ……いいよ、好きにして」
響「…………」
提督「……どうしたの?」
響「いや……もっとこう、ないの?」
提督「はっ?」
響「そんなに素直になられるとこっちも燃えないというか…」
提督「何様のつもりじゃお前」
響「すみません」
ムニ
提督「…………」
響「…………」ムニムニ
提督「…………」
響「………どう?」モミモミ
提督「どうって、なにが」
響「気持ちよくない?」フニフニ
提督「全然」
響「我慢しなくてもいいんだよ」モミモミ
提督「してないよ」
響「………なぜだ」
提督「ムードってものがあるから」
響「ムード?」
提督「空気っていうのかな…たぶん響とはどう向き合っても無理だと思うけど」
響「ムード……ムード……そうか……!」ピコーン
響「ふふ……可愛いよ、司令官……愛してるよ…」モミモミ
提督「…………」
響「ああ、君は美しい…どこまでも綺麗で……えっと…うん……」モミモミ
提督「…………」
響「オウイエース……ナイスおっぱい…」モミモミ
提督「…………」
響「うへへへ、姉ちゃんええ乳してまんなぁ〜!」モミモミ
提督「…………」
響「…………」
提督「さて、いつまでもくだらないことしてないでみんなのところ戻ろっか」ギュ ガタッ
響「あ、ちょ、それずるい。逃げられない」バタバタ
提督「暴れたらパワーボムするよ」
響「…………」ピタッ
提督「よしよし、聞き分けがいい子は好きだよ」ナデナデ
響(力持ちだな…片手で私を支えてる)
提督(はー…考えてることは大人でもやっぱり子供だなあ、軽い軽い)
ユサユサ
響「…………ん?」
ユサユサ
響「…………」スッ
ムニ
響(ほう…ぱふぱふも悪くない)スリスリ
提督(やっぱり変態だこの子…)
ガチャ
提督「お待たせ〜」
響「…………」
木曾「戻ったか…ってなんだ、それ」
暁「響、セミみたいになってるじゃない」
響「……ヴィーッヴィーッヴィーッヴィーッジジジジジジジ」
電「!?」
響「ヴィーッヴィーッヴィーッヴィーッジジジジジジジ」
雷「ブッフォwwwww」
木曾「くっくくwwwwwなんだこいつwwww」
提督「ちょっ、こらwwwやめなさいwwwww」
スパーン!
響「ギッ」ボト
木曾「があああああwwwwwwwwww」
雷「木曾さんが壊れた…」
電「……ギッ」ボソ
雷「ん、ふ……」ピクッ
暁「くく…ふ、ぐぐ……」プルプル
提督「なに、この地獄絵図は…」
木曾「ひっ……ひひひひ、死ぬ…」ピクピク
響「ちょっとやりすぎたかな」
提督「ちょっとどころじゃないよ…いや面白かったけどさ」
響「ハラショー」グッ
提督「なにがハラショーなのさ…というか電もだよ、変なノリに付き合っちゃダメ」
電「ジジジジ…」
提督「電……」
電「…ごめんなさいなのです」
木曾「はーっ、はーっ、ふっ……ぐひひひ……」プルプル
提督「まだ笑ってるし…」
暁(姉として、時々響がどこに向かってるのか心配になるわ…)
響「実にハラショーだ」
提督「ほら木曾、起きて、着替えるよ」
木曾「あっ、ああ…はぁ、死ぬかと思った」
雷「着替えてなにするの?」
提督「運動!付き合ってもらうよ〜」
響「ダイエット?」
提督「そう!そろそろ本格的に絞らないといけないからねえ」
暁「でも司令官、そんなに太ってないじゃない?」
提督「色々あるんだよ、女にはね」
電「色々………」
電「………あっ」
電(ああ……加賀さんに、裸見られるからかぁ…)
暁「電?」
電「…な、なんでもないのです///」ポッ
木曾「そんなにというか、むしろすらっとしてる方じゃないか?」
響「じゃあなんで重いんだろうね?」
提督「さあ…」
雷(………もしかして司令官、筋肉のせいで重いんじゃ…)
提督「さてと、それじゃあ各自着替えてからグラウンドに集合ね!」
雷「了解!」
木曾「あんまりキツいのはなしで頼むぞ」
提督「わかってるよ」
暁「司令官、またあとでね!」フリフリ
提督「はーい」
スタスタ
提督「…………」
響「…………」
ガシ
クルッ
提督「響も向こうね」
響「ちっ」
ガチャ
提督「さてさて、ジャージはどこにしまったかなと……」
提督「…………ん?」
提督「あれ……なんで私のブラが机の上に…?あ、置き手紙…加賀の字だ」
『これからは気をつけなさい。みんな見ていたから』
提督「…………」
提督「…………!?」
提督「えっ……」フニョン
提督「…………」
提督「う、うわああああああああああああああ!!!!???ずっとブラ着けるの忘れてたあああああああ!??!!?」
提督「思い返してみればそうだった……!加賀にお説教してる時、空母のみんなは変な目で見つめてくるし、青葉は写真撮ってるし、長門は鼻血出してたし榛名はあわあわしてたし……!!」
提督「響にも完全にノーブラの感触楽しまれてたよね、やっぱり…」
提督「はああぁ…なんで忘れてたんだろ…恥ずかしすぎてもう死にたい…」ペタン
提督「…………」
提督「……着替えよ」
提督「身体動かせばスッキリするよね…」
提督「…よーし」
プチ
スルッ パサ
木曾「でな、酔っ払った球磨姉が俺を二階の窓から投げ飛ばして…」
提督「やー、お待たせー」
雷「あ、司令官!」
暁「おっそい!」
提督「ごめんごめん、ちょっとジャージ見つけるのに時間かかっちゃった」
木曾「なんでもいいさ、それより早く身体を動かそうぜ」
提督「おっ、いいねえ、ノってるねえ」
電「運動といっても、何をするのです?」
提督「ん?そうだね、普段から私がやってたことかな」
響「結構キツそうだけど」
提督「そうでもないよ、それに暁達には付き合ってもらうだけだし」
暁「なら、司令官に協力してあげるわ!」
提督「ふふ、ありがと」
木曾「………しかしあれだな」
提督「?」
木曾「そのポニーテール、すごく似合ってる」
提督「そう?えへへ」
木曾「……髪で遊ぶのも楽しそうだな」
提督「木曾も髪伸ばす?」
木曾「そうだな、考えておこう」
電「司令官さん、まずはなにをするのです?」
提督「ん、そうだね…じゃあ電、私の背中に乗って」スッ
電「い、いいのですか?」
提督「遠慮しないで」
電「は、はい…」
ノシッ
提督「よーし……久しぶりの運動だし、最初はトラック二周ぐらいでいいかな」
雷「その状態で走るの!?」
提督「うん」
暁「準備運動、しなくていいの?」
提督「これが準備運動だよ?」
木曾(えっ…)
雷(司令官ってすごい体育会系なんじゃ…)
響(脳筋だ)
提督「じゃあ、まずは軽く小走りで行こうかな。しっかり掴まっててね」
電「は、はい」ギュッ
提督「よーし、後に続けー!」ダッ
木曾「お、おう」ダッ
暁「け、結構速くない?」
響「足の長さが違うからね」
暁「くぅ…暁も大人なんだから!」ダッ
雷「元気ねえ」
響「電が羨ましいな」
雷「……サボりたいの?」
響「正直」
提督「ほっ、ほっ」
電「お、重くないですか?」
提督「うん、軽い軽い」
木曾「これで本当に軽く流してるのか?」
提督「そうだよ」
木曾(冗談キツいぜ……普段俺達が演習中に走る時と同じペースだぞ)
提督「あ…もしかして辛かった?」
木曾「い、いや。そんなことはない」
木曾(まるで息も切らしてない…なんなんだこの子…)
提督「暁、響、雷、遅れてるよー」
暁「司令官が速いのよ!」
響「はっ、はっ…」
雷「なんでそんなに速く走れるの!?」
電(背負われててよかった…)
ズザッ
提督「ふぅー…」
木曾「はぁ、はぁ…お前、どんな体力してるんだ…」
提督「え?そんなにキツかった?」
木曾「後ろ見ればわかるぞ…」
暁「ひぃ…し、司令官…」
響「こ…この体力バカ…」
雷「ふ、普段から走りこんでるのに…」
提督「……ありゃ」
木曾「もうちょっとペースを考えてだな…」
提督「だいぶ抑えてたつもりなんだけどなあ…」
電「司令官さん、とっても速かったのです…」
提督「むう…ならどうしようかな…」
提督「………じゃあ雷、ちょっとこっちに来て」チョイチョイ
雷「なあに?」
提督「で、電越しに私の肩に腕回して」
雷「こう?」ギュッ
提督「そうそう。電、苦しくない?」
電「大丈夫なのです」
雷「ねえ司令官、もしかして…」
提督「うん、このまま走るよ」
木曾「冗談だろ…」
響「いったいどこにそんな力が…」
暁「というかもう走り出してるし…」
『三人とも座ってていいよー!』
木曾「……信じられないな…」
暁「二人背負って走るなんて…」
響「とても人間とは思えない…」
木曾「…しかもさっきと走るスピード変わってないぞ」
響「むしろ速くなってるような…」
暁「………戻ってきた」
雷「あははは!ゴーゴー司令官!」
電「デビルバットハリケーンなのです!!」
提督「にょわああああああああああ!!!」
ドドドドド…
響「………バカだ」
木曾「ああ、違いない…」
提督「ふうっ、いい汗かいたねー!」
電「とっても楽しかったのです!」
雷「お馬さんに乗ってるみたいだったわ!」
木曾「…………」
暁「…………」
響「…………」
提督「あれ、みんなどうしたの?変な顔して」
木曾「いや……なんだか、とてつもない敗北感を味わった気がして…」
提督「敗北感?」
暁「暁達も普段鍛錬してるはずなのに…」
提督「ああ…まあ、元が違うからねえ」
響「元?」
提督「学生時代に色々とねー…いやあ、懐かしいなあ…」
提督「しかしこの分だと持久走はダメかあ…なら他に何しようかなあ」
雷「たぶん司令官の鍛え方がおかしいのよ。いつも私達がやってることをやればいいんじゃない?」
提督「それもそうだね。じゃあ普段なにやってるの?」
木曾「なにやってるのって…あのプログラム組んでるのってお前じゃないのか?」
提督「ん?うん、いつも大淀に任せてる」
木曾(それでいいのか…)
暁「そうねえ。暁達が得意って言ったら、やっぱりメートル走じゃないかしら」
提督「よーし、ならそれで行こう!」
提督「じゃあ、計測よろしくねー!」ブンブン
木曾「任せろー」
暁「これ、何メートル?」
雷「五十ね」
響「…別の人も参戦してるけど」
島風「」フンスフンス
雷「…まあ、問題はないでしょ」
提督「ハッハッハ、私と戦うつもりかね」
島風「ふふん、提督には負けないもんね!」
電「えっと……位置についてー」
提督「いざ尋常に!」
島風「勝負!」
電「よーい、どんっ!」
島風「ほおあああああああああああ!!!!」ドドドドド
提督「ふんぬおおおおおおおおおお!!!!」ドドドドド
響「うわあ」
雷「二人ともはっやーい!」
暁「いい勝負してるじゃない」
ザザッ!!
提督「はーっ、はーっ、はーっ」ゼェゼェ
島風「はぁ、はぁ…し、島風がいちばん…」
電「ど、どっちが勝ったのです?」
木曾「タイムは……なっ!?」
暁「え?な、なにかあったの?」
木曾「……風花が6.3、島風が6.2だ」
島風「やったぁー!!」
提督「くっそぉ!負けたあー!!」
雷「速っ…」
電「……とてもアラサーのタイムではないのです」ボソッ
提督「ふぐぅ!?」グサッ
木曾「……………」
提督「はーっ…悔しい…」ゴロン
島風「ふふん、どーお?これが私の本気なんだから!」
提督「むう…次は負けないもん!」
暁「でも司令官、走るの久しぶりだったんでしょ?なら勝ち目はあるんじゃない?」
雷「そうよ!司令官、とっても速かったもの!」
提督「ふふふ…なら次走る時は私の勝ちだね」
島風「なにおぅ!?私だって次は本気で走るもん!」
提督「本気じゃなかったの!?ぐうう、舐めプレイしおって〜…!」
電「……?木曾さん?」
木曾「……………」
木曾(ずっと前から気にはなっていたが…なにぶん普段の物腰が柔らかいせいか、いまいち確信は持てなかった…)
木曾(しかしこの前の雪合戦と、今分かったことが一つ…この子の運動能力は常人のそれを遥かに上回ってる)
木曾(そしてもう一つ……異常なまでの反射神経)
木曾(普段はなんともないが…気を張っている時は死角からの攻撃にも反応していた)
木曾(最後に、今日の昼見せたあの太刀筋……)
木曾(………この子は、強い)
木曾「……………っ」ゾクリ
木曾(この子を相手に、俺はどこまでやれる…?もしかしたら、勝てるかもしれない…いや、勝ちたい…!)
木曾(この子と、戦いたい…!!)
木曾「……………」スタスタ
電「き、木曾さん…?」
響「………ずいぶんと怖い顔をしていたね」
雷「そうね…なんだか、出撃する時みたいな…」
ザッ
木曾「なあ、お疲れのところ悪いんだが」
提督「ん……なーに?」
提督(ピンク…)
木曾「………俺と、勝負してくれ」
提督「……………えっ!?」
暁「!?」
響「ほう」
雷「!?」
電「!?」
島風「おぅ!?」
提督「ちょ、ちょっと待ってよ、勝負って…」
木曾「文字通りの意味だ。俺は、お前に決闘を申し込む」
提督「本気……の目だよね……」
木曾「…………」
雷「な、なんで!?どうしていきなりこんなこと!?」
暁「そ、そうよ!司令官達が戦う理由なんてないじゃない!」
木曾「お前達は黙っていてくれ。決断をするのは風花の問題だ」
提督「…………」
電「し、司令官さん…」
提督「……いいよ。受けて立つ」
木曾「…そうこなくちゃな」
暁「ちょっと!?」
響「戦いを止めるなんて無粋なことはしないよね」
暁「うぐ…」
木曾「勝負の方法は?」
提督「剣でいいよ。慣れてるでしょ?」
木曾「……ああ。確かにそうだが、お前は」
提督「私は大丈夫」
木曾「………ふっ、そういえばそうだったな、お前は剣の心得がないとは言わなかったもんな」
提督「あれ、そうだっけ」
木曾「いつ何をしていたかは聞かないが…お前、剣に関しては相当な腕前だろう?」
提督「………バレた?」
木曾「そりゃあな、少しでも剣を嗜んでいたら嫌でも分かるさ」
提督「うう〜ん…やっぱり分かっちゃうよね…」
木曾「俺はこの軍刀を使う。お前はどうする?」
提督「どうするって言われても、私剣なんて持ってないし……あ」
スタスタ
ヒョイ
提督「これでいいかな」
雷「これでって…ただの棒切れじゃない」
木曾「…………」
木曾「くっくく……ははははは!!」
提督「なに、そんなに面白かった?」
木曾「ふふふ…ハンデのつもりか?」
提督「そういうわけじゃないけど……勝てないわけではないし」
木曾「棒切れで?剣にか?」
提督「うん」
木曾「そうか……なら、その自信ごと叩き斬ってやろう」
提督「どうかな」
木曾「…………」チャキ…
提督「…………」キッ
木曾(……自信に満ちた目だ……虚勢を張ってるわけではないな…)
電「は、はわわ……」
暁「空気がピリピリしてる…」
雷「お互いに本気、ね…」
提督「…………」
木曾「…………っ」ジリッ
響「動く……!」
木曾「おおおっ!!」グッ
提督「!」ザッ
「しれぇー!!」
木曾「!?」
提督「うわっ!!」ガッ
キィーン
暁「わっ!?」
提督「あたた…」ビリビリ
木曾「あ…わ、悪い」
提督「あ、ううん、大丈夫だよ。ごめんね」
雪風「あ、あれ…?雪風、お邪魔でしたか…?」
提督「ん…いや、そんなことはないよ。なにか用?」
雪風「はっ、そ、そうでした!大変なんです!」
提督「た、大変?なにかあったの?」
雪風「とにかく来てください!こっちです!」グイグイ
提督「う、うん」
木曾「…………」
暁「木曾さん?行かないの?」
木曾「……ん?あ、ああ…」
響「なにか引っかかることでもあるの?」
木曾「いや……お前は見ていただろう?」
響「ああ、見てたね」
木曾「あいつが持っていた棒切れ…俺が全力で振り下ろしたのに、折れるどころか横に弾き飛ばしやがった」
響「偶然ではない?」
木曾「それは考えられないな。偶然にしては求められる要素が多すぎる」
響「……そうか」
木曾「ああ…さっきの一瞬で分かったよ、あの子は強い……強すぎる」
響「ふうん。まあ、私には関係のない話かな」ザッ
木曾「…………」
木曾「…………」
木曾(あの棒切れそのものは、どこにでも落ちているなんの変哲もないようなものだ…精錬された軍刀なら切り裂くことなんて難しい話じゃなかったはずだ)
木曾(なら切り裂けなかった原因は……あの子だろうな)
木曾(響だけは目視出来ていたようだが………俺の剣と棒が触れ合う瞬間…いや、それよりもっと前に俺の動作を見て、剣と斜めからぶつかり合うように棒を立てていたんだ……)
木曾(ただの棒でも、軸をずらされればインパクトの瞬間に想定していた結果とは違うものになる…)
木曾(もしあれが本物の剣だったら、あのままバランスを崩した俺は………)
木曾「…………」ゾク
木曾「………俺も、まだまだか…」
電「木曾さーん!」
木曾「今行く」ザッ
雪風「しれぇ、こっちです!」グイグイ
提督「う、うん……ん?人だかりが出来てるけど、もしかしてあれ?」
雪風「はい、その上に…」
妖精さん「ヘルプミー…」
天津風「あっ、あなた!」
提督「ああ、天津風…あれって確か、九九艦爆の妖精さんだよね?」
天津風「ええ、演習中に編隊からはぐれちゃったみたいで…他の子達のところに戻ろうとした時に木に引っかかっちゃったみたい」
雷「大変じゃない、早く助けてあげなきゃ!」
提督「それは困ったね…でもこの木、結構高いし、そんなに枝も多くないから登れないんだよね」
時津風「あたしに任せてー!」ダッ
提督「ま、待った!」ガシ
時津風「うぎっ!?な、なんで止めるのさ!?」
提督「危ないからダメ!登ったところで降りられるような枝がないから、かえって危険になるの!」
時津風「うー…わかった…」
提督「うん…ちゃんと待っててね、お願いだから…」
天津風「登れないなら、どうするの?」
提督「……確か倉庫に脚立があったはずだから、それ持ってくるね」
木曾「なら俺も手伝うぞ」
提督「うん、ありがと」
提督「……………」
ガタッ
ゴソゴソ…
木曾「うえ…ずいぶんホコリをかぶってるな」
提督「倉庫と言っても、普段使わないものを押し込めたようなものだからね…元はと言えば私が大掃除の時にサボり癖出したせいなんだけど」
木曾「ああ、曙にこっぴどく怒られてたな」
提督「うん……」
木曾「………なあ」
提督「なに?」
木曾「少し、元気がないように見えるが…そんなに俺と戦うのが嫌だったか?」
提督「え?いや、そういうわけじゃないんだけど…」
木曾「なら、何か他の理由があるんだな」
提督「………!」
木曾「時津風が木に登ろうとした瞬間、見るからに顔色が変わったぞ」
提督「……よく、見てるんだね」
木曾「…別に問い質そうとしているわけではないんだがな」
提督「……ううん、いいんだ。ほら、脚立見つけたし、移動しながら話すね」
木曾「あ、ああ…」
時津風「む〜……」パタパタ
天津風「……ちょっと、少しは落ち着きなさいよ」
時津風「だって退屈なんだもん!」
雷「まあまあ、すぐ二人とも帰ってくると思うから」
電「…でも、早く助けてあげないと、可哀想なのです…」
妖精さん「ヘールプ…」
時津風「そうだよ!もう待ってられないもん!」ガッ
天津風「ちょ、時津風!?」
暁「あ、危ないわ!降りなさい!」
時津風「だいじょーぶだいじょーぶ!こんなの簡単だって!」ヨジヨジ
雷「司令官が戻ってくるまで待ちなさいってば!」
時津風「やー!」
響「もうあんなところまで…」
木曾「……なるほど…そんなことがあったのか…」
提督「もう、ずいぶん昔の話だけどね……」
木曾「……ん?ってお前、記憶は戻ったのか?」
提督「うん、もうほとんど思い出した」
木曾「そうか…なら、よかった…のか?」
提督「どうだろ。あの時のこと思い出すだけで心臓がドキドキするし、時津風がもしそんなことになっ………たら……」
木曾「?」
提督「………そうだ、時津風は!?」
木曾「え?い、いや、グラウンドじゃないのか?」
提督「嫌な予感がする……!」ダッ
木曾「あ、おい!」
提督(木曾を残して行くべきだった…時津風の性格で辛抱出来るはずがない…!)
時津風「ほっ…もう少し…」グググ
天津風「ちょ、ちょっと!危ないから降りなさいってば!」
暁「落ちても知らないんだからね!」
時津風「大丈夫だって……ほら!妖精さん取れた!」
妖精さん「センキュー!」
ザッ
提督「時津風!?やっぱり…!」
時津風「あ、しれえ!ほら、見て見て!妖精さん助けたよ!」ブンブン
提督「わ、わかったから!落ち着いて、早く降りてきて!」
時津風「えー、なんでさー?」
提督「危ないから!ほら、脚立も持ってきたからここから降りて!」
時津風「むう、結構いい眺めなんだけどなあ…まーいっか!よいしょっ」スッ
ズルッ
時津風「うわっ!?」
電「ひっ!」
雷「落ちっ…!」
提督「時津風!!」
ズザッ
ドスンッ
提督「うう…」
時津風「あいたた……あれ、しれぇ…」
雷「だ、大丈夫!?」
響「間一髪、といったところだね」
提督「っ……なんで言いつけを守らなかったの!?」
時津風「へっ…?」
提督「危険だから登らないでって言ったのに!下手したら死ぬかもしれなかったんだよ!?」
時津風「し、しれぇ…?」
天津風「ちょっ…あ、あなた、そんなに怒鳴らなくても…」
木曾「お、おい、どうしたんだ?空気が悪いぞ」
時津風「う、うぅ…」ジワッ…
提督「……あ……」
暁「……って、二人とも怪我してるじゃない!」
木曾「本当だ…大したことはないみたいだが、とりあえず医務室に行こう」
時津風「……うん…」グスッ
医務室
明石「………はい、これで大丈夫ですよ」
時津風「ありがと…」
天津風「木から落ちた時に擦り剥いたみたいね…痛まない?」
時津風「ヒリヒリする……けど、司令の方がもっと気になる…」
響「かなり怒ってたね。普通の様子じゃなかったけど」
雷「もう!じっとしてなさいってば!」
提督「いたっ、痛い!染みるんだって!」
雷「じゃなきゃ消毒出来ないでしょ!もう大人なんだから我慢しなさい!」
暁「まあ、腕擦り剥いただけでよかったんじゃない?」
木曾「ああ、骨折とかじゃなくて本当によかった」
電「でも、司令官さんは頑丈すぎるのです…」
提督「うぐぎぎ…な、なんで?」
木曾「いや…だってそりゃあ、なあ?」
電「あの高さから落ちてきた人を受け止めるなんて、とても人間のやることとは思えないのです…」
提督「そうかなあ…」
雷「そうでしょ…」
雷「はい、これで終わり」
提督「へぇあ…よかったー」
響「司令官、時津風が二人でお話したいって」
提督「え?ああ、うん…わかった、じゃあちょっと…」
木曾「ああ、お邪魔みたいだからな。出て行くよ」
雷「しっかりとケアしてあげなきゃダメよ!」
暁「ふふん、出来る大人は空気も読めるのよ」
電「えーっと…ちゃんと仲直りするのです!」
雪風「雪風もお供します!」
天津風「ダメ、あなたもこっち」グイ
雪風「ぐえぇ!」
明石「何があったのかは分かりませんけど…ケンカはダメですよ?」
バタン
提督「……別にケンカしたわけじゃないんだけどなあ」
時津風「……しれえ」
提督「ん?」
時津風「しれえ、まだ怒ってる…?」
提督「ううん、怒ってないよ」
時津風「あの、ね……ごめんね」
提督「うん……私の方こそごめんね、あんなに大きい声出して…」
時津風「うん…あと、助けてくれてありがとう」
提督「えへへ、どういたしまして。それよりさ」
時津風「?」
提督「ずっとそこにいたら声が聞こえづらいから…ほら、こっちおいで」
時津風「……うん!」
ボスッ
提督「わっ…ふふっ、膝の上じゃなくて隣って言ったつもりだったんだけどなあ」
時津風「こっちの方が好きだもん」
提督「だよね、ふふふ」ナデナデ
時津風「〜〜♪」
時津風「ねえ、しれー」
提督「なあに?」
時津風「ぎゅーってして」
提督「うん」ギュウ
時津風「……やっぱりしれぇは優しいなあ」
提督「急にどうしたの?」
時津風「えっとね、いつも優しいからあんなに怒られて怖かったなーって」
提督「ああ、そういうこと……ごめんね、怖がらせちゃって…」
時津風「ううん、もう気にしてないよ。でもなんであんなに怒ってたの?言うこと聞かなかったから?」
提督「……二割はそれかな」
時津風「? 残りの八割は?」
提督「…………」
提督「…私が七歳の時、だったかな。その日は日曜日で、妹二人と家の近くにある公園に遊びに行ったんだ」
時津風「うん」
提督「しばらくは普通に遊んでたんだけど…ブランコとか、滑り台とか…」
時津風「なにそれ、面白いの?」
提督「うん、今度鎮守府にも置いてあげるね」
時津風「ほんと!?」
提督「うん、約束する。で、ここからが問題なんだけど……その公園の真ん中に、グラウンドにあるみたいな大きい木が一本あったの」
時津風「7メートル…ぐらいの?」
提督「そう、それぐらい。その木の上に、猫が登っててね?降りられなくて困ってるのを見た一番下の妹が助けるーって言い出して木に登り始めたの」
時津風「あたしと同じだ…」
提督「その時私は、危ないから大人の人を呼んでくるって家に母さん達を呼びに戻ったんだけど……これがダメだったなあ…」
提督「私が母さん達を連れて公園に戻った時には、泣きながら身体を揺さぶる妹と、動かなくなった一番下の妹がいて……そこから、ずっと大変だったから…」
時津風「そうだったんだ…」
提督「うん……頭から落ちたらしくてね、しばらくずっと意識が戻らなくて、その間、ずっと私も妹も大泣きしてたんだって。数日間起きては泣いて、泣き疲れては寝て、また起きて泣いて…って感じだったみたい」
時津風「それで、どうなったの?」
提督「ん?その後は妹が目覚めて、奇跡的になんの後遺症もなかったからすぐに退院したよ」
時津風「そうなんだ…ならよかったね」
提督「うん……」
ガチャ
木曾「もういいか?」
天津風「って、ちゃっかり膝の上に乗せてもらってるじゃない。仲直りは出来たみたいね」
時津風「ふふん、羨ましいの?」
天津風「ばっ……そんなんじゃないわよ!///」
時津風「それにしても、しれぇの妹さんも頑丈なんだねー」
木曾「? なんだ、昔の話か?」
時津風「うん、しれぇの妹さん、7メートルぐらいの木から頭から落ちたんだって」
木曾「頭から!?」
雷「えっ、そ、それでどうなったの!?」
時津風「なんにもなかったんだって」
木曾「えっ」
提督「何もなかったよ?三日ぐらい意識不明だったけど」
木曾(信じられない…)
暁(司令官の家系はおかしいのかしら…)
響(気が狂ってる…)
雷(普通死んでてもおかしくないわよね…)
電(頭おかしい…)
提督「……もうこんな時間かあ」
明石「そうですね、そろそろお腹も空いてきましたね」
木曾「もう演習も終わってる頃なんじゃないか?」
提督「そだね、みんな戻ってくるし……食堂の方に行こっか」
暁「もうご飯出来てるの?」
提督「ううん、鳳翔さんのお手伝い。早く美味しいご飯食べたいでしょ?」
暁「むう、それもそうね」
雷「なら早く行きましょう!腕が鳴るわ!」
電「電も手伝うのです!」
提督「はいはい、分かったから引っ張らないで」
響「私も同行しよう」
木曾「なんでそんなネタしってるんだお前」
キッチン
提督「鳳翔さーん」
鳳翔「あら、提督…」
大鯨「あっ提督、お疲れ様です」
提督「あ、大鯨!大鯨も鳳翔さんのお手伝い?」
大鯨「はい、料理を教えてもらおうと…」
鳳翔「ちょうど提督もいることですし、見てあげてくれませんか?」
提督「私?私でいいなら教えてあげるけど…」
大鯨「本当ですか!?よろしくお願いします!」ギュッ
提督「私じゃ役に立てるか分からないけど…頑張るね」
鳳翔「それで、あなた達は…」
雷「鳳翔さんのお手伝いよ!」
鳳翔「あら…ふふ、助かります」
暁「で、今日は何を作るの?」
鳳翔「今日は揚げ物をしようかと…」
響「エビフライとか…かな?」
鳳翔「はい、そんなところです」
響「ほう、なるほど…まずは何をすればいいのかな?」
鳳翔「ええっと、まずこのエビの殻を剥いてもらって…」ガタッ
電「いっぱいあるのです…」
鳳翔「この鎮守府の全員分ありますからね、結構大変ですよ」
暁「暁も大人なんだから、これくらい余裕よ!」
響「任せてくれ、やってみせる」キラキラ
パタパタ
鳳翔「響さん、なんだかキラキラしていましたね」
電「お姉ちゃん、エビフライ好きだから…」
鳳翔「ああ…」
雷「鳳翔さん、私達は何をすればいいの?」
鳳翔「あ、今持ってきます」タッ
電「持ってくる…?」
ドスドス
鳳翔「お待たせしました〜」
雷「うわっ!?すごいお米…」
鳳翔「ふぅ、ふぅ…これを、研いでくれますか…」
電「こんなにたくさん……ようし、頑張るのです!」
鳳翔「目安としては研ぎ汁が薄くなるまで…」
雷「その辺は分かってるわ!ほら電、やるわよ!」
電「電の本気を見るのです!」
鳳翔「ふふ、頼もしいですね…」
鳳翔「さてと……私も私のやることを…」ストン
雷「……?」
電「やることって…ただ椅子に座ってるだけなのです」
鳳翔「ふふ、これからですよ」
雷「?」
電「へ?」
パタパタ
赤城「ご飯ご飯……あっ!?ほ、鳳翔さん!」
鳳翔「ダメですよ赤城さん、まだご飯は出来ていません」
赤城「で、でも…小腹が空いて…」
鳳翔「つまみ食いしたい気持ちも分かりますが、我慢することも大事です。それに、これでは他の子達に示しがつきませんよ?」
赤城「そ、そうですね……はい、我慢します…」
鳳翔「美味しいご飯を作りますからね」
赤城「はーい」
パタパタ
鳳翔「ふぅ…」
雷「おぉー…」
電「なるほど…」
鳳翔「こうやってつまみ食いしに来る子をやんわりと追い返すのも、大事な仕事ですよ」ニコ
電「すごいのです…」
暁「くっ……」パリ…
響「苦戦してるみたいだね」パキパキ
暁「いえ…もう慣れてきたわ」パリパリ
響「そうか、それはよかった」パキパキ
暁「…………」パリパリ
響「…………」パキパキ
暁「…………」パリパリ
響「…………暁」スッ
暁「ん?なn……くさっ!!」
響「ふむ、やっぱり臭いのか」
暁「なんで暁で試すのよ馬鹿!!」プンスカ
響「ほれ」スッ
暁「臭い!!」
提督「じゃあ私達も始めようか。今日は何を作るの?」
大鯨「あ、はい!揚げ物と、炊き込みご飯と言ってました」
提督「ふんふん…なら私達はご飯担当だね」
大鯨「はい、よろしくお願いします」
提督「……とは言ってもねえ、うーん…」
大鯨「どうしました?」
提督「大鯨の料理は美味しいし、他に教えることなんてないんだよね、正直……」
大鯨「ほえっ!?」
提督「そうだなぁ……じゃあ、味だけじゃない大切なことを教えてあげようかな」
大鯨「は、はい!」
提督「料理って難しいものでね。大鯨は嫌いなものってある?」
大鯨「え?えぇっと…特には」
提督「大人はそうでも、子供はそうじゃないことってよくあるの。たとえば、このニンジンとか」
大鯨「ニンジン?」
提督「特に多いのが駆逐艦の子達。カレーは好きでもニンジンは嫌いだーって子はいっぱいいるからね」
大鯨「ああ…まだ味覚が子供だから…」
提督「そう。味が良くても、嫌いなものが入ってるだけで苦手意識を持つ子も多いんだ」
大鯨「なるほど…困ったものですね」
提督「だから嫌いなものだけ端に寄せて残す子とかいて…それも可愛いんだけど、そのままだと教育に悪いからなんとかしないといけないよね」
大鯨「は、はあ」
提督「? 分からないことでもあった?」
大鯨「い、いえ…」
大鯨(それも可愛いって言う必要あったのかな…)
提督「そこで活躍するのが、この型取りです」トン
大鯨「ほお、星の形をしてますね」
提督「まずニンジンを切ってみて」
大鯨「こうでしょうか」
ストン
提督「そうそう。で、その輪切りにしたニンジンの真ん中にこれをどーん」
大鯨「どーん!」サクッ
提督「もっともっと、別のところにもどーん」
大鯨「どーん!どーん!」サクッ サクッ
提督「はいお疲れ様。するとどうでしょう、ニンジンが綺麗なお星さまになりました〜」パッ
大鯨「まあ、可愛らしい」
提督「こうやって興味を引いてあげるのが大事なんだ。ニンジンを食べてるって意識がなくなるでしょ?」
大鯨「ほえぇ…なるほど…」
提督「でも、これだと及第点」
大鯨「えっ?」
提督「ほら、見て。色んなところから型を取ったせいで、色合いがまばらになってるでしょ?」
大鯨「あ、確かに…」
提督「このままだと彩りにムラが出ちゃうからね…どうせなら、みんな一緒にしてあげなきゃいけないから、こうするの」スル
大鯨「身を桂剥きにするんですか?」
提督「そう。少し厚めに、するするーって。はい、出来た」
大鯨(すごい…早くて綺麗…)
提督「で、これをさっきの型取りでどーんってやると…」ストン
ポロ
大鯨「あ…色が均一になりましたね」
提督「こっちの方が綺麗でしょ?」
大鯨「ええ、本当に…大人の目から見ても興味を惹かれますね」
提督「手間はかかるけど、こうすれば子供達も食べてくれるからねえ。私は時間をかけてでもやるよ」
大鯨「わ、私もやります!」
提督「うん、みんなも喜ぶよ」
ストン
提督「そういえばさっき、鳳翔さんが揚げ物するって言ってたね」
大鯨「はい、エビフライやコロッケなどを作るそうです」
提督「え?コロッケあるの?」キラキラ
大鯨「ええ。たくさんジャガイモを用意していたので」
提督「ほんと!?やったぁ!!」
大鯨「コロッケ、好きなんですか?」
提督「うん!……あっ、こ、子供っぽかったかな…?///」カァ
大鯨「………〜〜〜〜!!!」
大鯨(何この大人可愛すぎる…!)キュンキュン
提督「た、大鯨?」
大鯨「い、いえ。可愛らしいですよ」ニコ
提督「ん…なら、よかった…///」
大鯨「〜〜〜〜〜〜〜!!!」
大鯨(提督可愛い…愛でたい…撫で回したいぃ……)
大鯨(だ、ダメダメ…何か別の話をして気持ちを落ち着かせないと…)
大鯨「そういえば提督って、嫌いな食べ物はないんですか?」
提督「なんで?」
大鯨「いえ、私が提督に料理をお出しした時に嫌いなものがあると提督を困らせてしまいますので…」
提督「大鯨の料理ならなんでも食べられるよ?」
大鯨「〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」
大鯨(そういうことを聞いたんじゃなくて…!そんな殺人級の返事を聞きたかったわけじゃなくてえぇ…!!)キュンキュン
提督「た、大鯨、大丈夫?さっきから様子が変だけど」
大鯨「だ、大丈夫れす」
提督「噛んでるし……ちょっとじっとしててね」スッ
大鯨「え?ちょ、提督、顔が近
コツン
大鯨「ほえっ」
提督「うーん……熱はない……よね」
大鯨「………!!???!?//////」カァアアア
提督「具合が悪いなら一応医務室に…」
大鯨「」ブシャッ
バターン
提督「わああああ!!??大鯨!!?」
提督「ほ、鳳翔さん!大鯨が鼻血噴き出して倒れた!!」
鳳翔「はい、見ていました」
提督「ど、どうすればいいの!?医務室連れて行った方がいい!?」
鳳翔「いえ、そのあたりに寝かせてあげてください」
提督「えっ!?そ、それで大丈夫なの!?」
鳳翔「はい、命に関わる問題ではないと思うので…」
提督「ほ、鳳翔さんがそう言うなら…」
大鯨「ほえぇ……」グッタリ
提督「よいしょっと…動かないでねー…」グイッ
鳳翔「…………」
響「うわあ…」
電(ナチュラルにお姫様抱っこ…)
雷「むぅ…」
提督「……あれ、みんなどうしたの?そんなに見つめて」
暁「……しれーかんのバカ!」
提督「えぇー…」
大鯨「うあう……」
提督「大鯨、しっかりー」
大鯨「ふぁい……」パチ
提督「大丈夫?」ズイ
大鯨「」ブシャッ
提督「うわぁ!?」サッ
大鯨「し、しあわせ……」ガクッ
提督「……幸せなら大丈夫……かな?」
木曾「……うおっ!?な、なんだこれ、どうかしたのか?」
提督「あ、木曾……いやちょっとね、大鯨が鼻血噴き出したから寝かせてるんだけど…」
木曾「医務室に連れて行った方がいいんじゃないのか?」
提督「そう思ったんだけど、鳳翔さんが大丈夫だって」
木曾「そ、そうか…ならいいが」
提督「ところで木曾、今までどこにいたの?」
木曾「ん?ああ、みんなをもう飯の時間だぞって呼びに行ってたんだ」
提督「へー……」ジー
木曾「……なんだ?」
提督「いや、木曾もご飯作ればいいのになーって思って」
木曾「俺がか?そんなガラじゃないぞ」
提督「でも、木曾のご飯美味しいよ?」
木曾「お前や鳳翔さんに比べたらまだまださ」
提督「そうかなぁ…」
木曾「……その、さ」
提督「うん?」
木曾「お前が俺の料理を美味いって言う根拠はなんなんだ?」
提督「うーん……やっぱり、他の子との食べ比べかなあ」
木曾「え?そんなに多いのか?」
提督「うん、一応ほぼ全員にご飯振舞われたけどその中でも木曾のは上位に入るぐらい美味しいよ」
木曾「そ、そうか……なるほどな…そうか……///」クルクル
提督(髪巻いてる。かわいい)
木曾「……ところでさ」
提督「なに?」
木曾「上位がどうとかってことはさ、やっぱりマズいやつも……」
提督「………うん、いるね」
木曾「………例えば?」
提督「………言わずと知れた比叡カレー」
木曾「ああ……あれはもう二度と食べたくない…」
提督「比叡はまだいいよ…食べられないレベルじゃないし…」
木曾「…そういやあの姉妹って、他に料理上手なやつはいるのか?」
提督「そうだね、金剛はすごい上手だったかな。スープカレーとスコーンを作ってくれたんだけど、どっちも美味しかった。まだ日本食を作るのは慣れてないみたいだけど」
木曾「なるほど。他は?」
提督「榛名も霧島もそれなりに上手だったなあ…もっとも、カレーの話だから別の料理も美味しいかは分からないけどね」
木曾「そうか……で、さっき比叡はまだいいって言ってたよな?」
提督「そうだね……言ったね…」
木曾「……誰なんだ?その良くない方は」
提督「…………磯風」
木曾「!」
提督「あれは料理じゃない…人間の食べるものじゃない…」ガタガタ
木曾「そ、そんなにか」
提督「吐くとかそういうレベルじゃなかった、まさか体調に支障をきたすほどだとは思いもしなかった」
木曾「うわあ…」
提督「磯風の何がいけないって、同型の三人が同じ部屋に居てその三人はまともな料理を作れるしアドバイスももらえるのに我流を貫いてまずい料理を作ることなんだよね」
木曾「それって、メシマズの特権じゃないか」
提督「そうなんだよ、しかもまずい癖に自分から進んで作ろうとするしさ、なんかもうそれって食材と食べる人への冒涜としか思えないよね」
木曾(……あれ、なんかキレてないか?)
提督「なんでそういうことするかなあ、人のアドバイスも聞けばいいのにそんなことで人が喜ぶとでも」
木曾「な、なあ、もしかしてお前、料理下手なやつは嫌いなのか?」
提督「………別に、そんなことないけど」
木曾(目が笑ってねえ…)
木曾「じゃ、じゃあ、逆に美味い料理を作るのは誰なんだ?」
提督「え?うーん……そうだなあ、意外だったのは暁かなあ…」
木曾「へえ。あの小さい子が」
提督「レディーの嗜みだー、って言って練習してたよ。長女らしいところもあるね」
木曾「他は?」
提督「他?………深雪も意外だったねえ、曰く司令官のために頑張ったーって」
木曾「ふっ、健気だな」
提督「あとはみんなだいたい美味しかったねえ…八割がカレーなのはどうかと思うけど」
木曾「はは…お前は愛されてるな」
提督「そう?」
木曾「愛されてないなら他になんて言うんだ?」
提督「………それもそうだね」
提督「………ねえ、木曾」
木曾「どうした?」
提督「愛って、なんなのかな」
木曾「いきなりなんだ?」
提督「…ごめん、やっぱりいいや」
木曾「そう言われると気になるんだがな」
提督「あはは…確かに」
木曾「そうだな、愛か…難しい話だな」
提督「うん……小さい頃からずっと考えてるけど、今もまだ分からないまま」
木曾「……自論でしかないが、誰かと一緒に居て、その時間が満たされているものならそれは愛なんじゃないか?」
提督「じゃあ、今木曾とこうしてる時間も愛?」
木曾「ああ、俺は満たされてる」
提督「そっか…なら私も木曾を愛してるんだね」
木曾「ふっ、相思相愛か?」
提督「それだとこの鎮守府の子達みんなとも相思相愛になっちゃうよ」
木曾「ははは!違いない!」
提督「でも、やっぱりよく分かんないや」
木曾「くくく、なんだそれ」
提督「だって…愛って言っても色々あるでしょ、家族愛とか、兄妹愛とか、性愛とか、恋愛とか…」
木曾「? お前のは恋愛じゃないのか?」
提督「……正直、自分でもよく分かってない」
木曾「んん?お前には恋人がいるだろう?」
提督「うん…好きなことは好きなんだけど、これが恋愛感情かと言われたらどうなのかなーって」
木曾「ならなんで好きになったんだ?」
提督「………似てるから」
木曾「似てる?誰に?」
提督「…似てるんだよね、お母さんに」
木曾「……??」
提督「ごめんね、変な話して。もうこの話は終わりにしよう?」
木曾「あ、ああ…」
大鯨「うう…ん…」パチッ
提督「あ。おはよう、大鯨」
大鯨「……おはようございます…?」
木曾「まだ寝ぼけてるな」
大鯨「あれ…私、なんで眠っていたんでしょうか…?」ゴシゴシ
提督「えっとね、ご飯作ってたらいきなり鼻血噴き出して倒れたんだよ」
大鯨「ええっ!?そ、それはどうもご迷惑をおかけしました…」
提督「いいよいいよ、気にしないで」
大鯨「うーん…でも、なんだか幸せだったような記憶が…」
木曾「……幸せだったって、お前何やったんだ?」
提督「ん?おでこくっつけて熱がないか確認しようと」
木曾「ああ…」
提督「何その顔」
木曾「いや…天然ジゴロだなと思って」
提督「??」
大鯨「……あ、そうだ、ご飯作らなきゃ!」ガタッ
提督「ああ、大丈夫だよ、あとは鳳翔さんがやってくれるって」
大鯨「そ、そうなんですか。なら、もうちょっとだけ休憩してようかな…」ストン
提督「うん、ゆっくり休んで」
大鯨「……あ、あのう」
提督「なに?」
大鯨「その…まだ体調が優れないので、お、お膝を借りてもよろしいでしょうか…」
提督「膝枕?いいよ、ほら」ポンポン
大鯨「! し、失礼します…」
ポスッ
提督「どう?」
大鯨「と、とても柔らかくて気持ちいいです…」
提督「そっか、ならよかった」ナデナデ
大鯨「ほえぇ…///」
大鯨(いい匂い…)スンスン
木曾「……………」
提督「…どうしたの?」
木曾「なんでもない」プイ
提督「……ははあ、さては嫉妬してるね?」
木曾「そんなのじゃない」
提督「うぇへへへ、可愛いやつめ」
木曾「うるさい!///」
暁「……さて、響」
響「ああ。ついにこの時がやってきた」
暁「揚げ物初挑戦…!」
響「とは言っても油に入れるだけなんだけど」
暁「そうね。じゃあさっさと済ませちゃいましょうか」
ヒョイ
ポチャン
ジュワッ…
響「……うん。上出来だと思う」
暁「なんだか、思ってたよりあっけないわね…」
パチッ
暁「へっ!?」
パチッ パチパチパチパチッ
暁「きゃあ!?」バッ
響「あつっ」バッ
暁「ちょ、ちょっと!?これってまずいんじゃないの!?」
響「そうみたいだね」
暁「なんでそんなに落ち着いてるのよ!!とにかくどうにかしないと!」
響「……水でもかければいいんじゃない?」
暁「それよ!よーし…」キュッ
ジャー
鳳翔「ああっ!だ、ダメです!ストップ!」パタパタ
暁「へっ?」
鳳翔「油に水はダメです!大変なことになりますから!」
暁「そ、そうなの…?」
鳳翔「はい、大爆発します。冗談抜きで」
暁「!?」
響「ぶふっ、くくく……」
暁「! 響〜!!」
響「ふふ、悪かった、まさか本当に信じるとは…」
暁「危うく大事故だったじゃない!もう!」
暁「でも、あれはどうすればいいの?」
鳳翔「ああ…これくらいならなんの問題もありませんよ。あとは色がついたところであげるだけです」
暁「そうなんだ…」
鳳翔「揚げ物はまだ早かったみたいですね…横で見ていてください」
暁「はーい」
響「…………」ポリポリ
暁「……なに食べてるの?」
響「落ちた衣」ポリポリ
暁「そう……」
響「いる?」スッ
暁「いらない」
提督「でね、その時母さんが……」
鳳翔「提督、あとはご飯が炊けるまで待つだけですよ」
提督「あ、そうなの?ならお皿並べてくる」
木曾「俺も手伝うぞ」
大鯨「あ、お膝、ありがとうございました」
提督「うん、よかったらまた今度耳かきでもしてあげるね」
パタパタ
大鯨「耳かき…」
鳳翔「ふふ、楽しかったですか?」
大鯨「へ?あ、い、いえ!そんな、私は…」
鳳翔「そんなに否定しなくても…顔が嬉しいって言ってますよ」
大鯨「うう、すみません…働きもしないでこんな…」
鳳翔「いえ……でも、ちょっとだけ羨ましいです」
大鯨「えっ?どうしてですか?」
鳳翔「私みたいに大人になると、素直に甘えられなくなるので…私も、あんなふうに提督と一緒に過ごせたらなと思うんです」
大鯨「えっと……言えば普通に甘えさせてくれますよ?」
鳳翔「……えっ」
大鯨「えっ」
〜〜〜
木曾「おお。この炊き込みご飯のニンジン、星の形になってるぞ」
暁「ほんとだ!可愛いじゃない!」モグモグ
提督「…………」ジー
木曾「……ん、どうした?」
提督「……え?あ、いや、なんでもないよ」
木曾「…さては俺のコロッケが欲しいんだな?」
提督「い、いや、そんなんじゃなくて…」
木曾「遠慮するなよ、俺とお前の仲じゃないか」スッ
提督「あ…ありがとう」
提督(小細工がウケたのが嬉しくて見てたんだけど…こっちもちょっと得したなあ)サクサク
響「…………」ジー
木曾「なんだ、お前も欲しいのか?ほら、エビフライ」
響「……! これは実にハラショーだ……スパスィーバ、木曾さん」
木曾「ふっ、いいってことさ」
提督(木曾ってほんとにイケメンだよねぇ…もし男だったらモテてたのかなぁ)モグモグ
鳳翔「あの、提督…」
提督「んぁ、どうしたの?」
鳳翔「これを開けてもらってもよろしいでしょうか…」
提督「黒豆の瓶?開かないの?」
鳳翔「はい、みなさんにお配りしようとしたのですが、前に食べた人が強く閉めすぎたようで…」
提督「なるほど…ん゛っ」
グッ
提督「……これは固いねえ…」
木曾「どれ、貸してみな」
提督「はい」
木曾「ふんっ…!」ググッ
パカッ
提督「おおー!」
木曾「ふふ、こういうのにはコツがあるのさ」
提督「やるねー男らしいねー」パチパチ
鳳翔「助かりました…ありがとうございます」
〜〜〜
提督「ふぅ、ごちそうさま」
木曾「いやあ、今日の飯も美味かったな」
雷「しれーかん、私達も食べ終わったわ!」
提督「そうだねえ。じゃあ何しようか」
暁「お風呂は?」
提督「うーん、先に食べ終わった子達が入ってるだろうしねえ。私達は後回しかな」
響「眠い」
提督「じゃあ寝る?」
響「それはやだ」
電「でも時間があるのです」
提督「私釣りしたいんだけどなあ」
雷「釣り?」
提督「そう、夜釣り。大きいのが釣れるから」
木曾「お前……さてはハマったな?」
提督「えへへ、バレた?」
雷「そうと決まれば早く行きましょう!明日の朝ご飯になるわ!」
提督「それもそうだね。じゃあ行こうか」
暁「響、ランタン取りに行くわよ」
響「ん…わかった」
木曾「なら俺達は釣り竿と餌取りに行くか」
電「はい、ついていくのです」
提督「とは言っても三本しかないんだけどねえ…雷、私達は先にバケツ持って行こうか」
雷「ええ!」
カタン…
雷「ふぅ……夜の海は暗いわねえ」
提督「やっぱり夜戦の時もこれくらい暗いの?」
雷「んー……いや、こっちも深海棲艦もお互いに探照灯持ってるからそうでもないわ」
提督「へぇー…」
雷「どう?司令官は夜の海は怖い?」
提督「……そうだね、吸い込まれそうでちょっと」
雷「ふふん、安心して!たとえ幽霊が相手でも私が司令官を守ってあげるわ!」
提督「ふふ…頼りになるね」
雷「でしょ?もーっと私を頼ってくれてもいいのよ?」
提督「なら針に餌付けてもらおうかな」
雷「ええ、任せて!」
提督「…………」
木曾「どうした、また考え事か?」
提督「木曾……うん、そう」
木曾「……昔のことか?」
提督「ううん、別のこと」
木曾「ふーん…それにしてはずいぶん悲しそうな顔だな」
提督「悲しいっていうか…不安になるっていうか…」
木曾「不安?」
提督「うん……この戦いは、いつ終わるのかなって」
木曾「……また難しい話だな」
提督「だって……このまま戦いが続けば、沈む子だって出てくるかもしれないし、もしかしたら向こうの勢力が衰えずにジリ貧になって負けるなんてことになったら…」
木曾「………そうだな。確かにそれは避けられない運命なのかもな」
提督「どうすればいいんだろう……平和な世界にするには……」
提督「…………そもそも、どうして私達は戦わなきゃいけないの?」
木曾「え?そりゃあ…向こうが攻撃してくるからじゃないのか?」
提督「違う、そうじゃなくて…本当は戦う理由なんてどこにもないんじゃないの?」
木曾「どういうことだ?」
提督「だって、何かを目的にして争っているわけでもないんだよ?なら、和解するっていう道もあるかもしれないし」
木曾「和解、か……でも、あいつらに言葉は通じるのか?」
提督「喋ってた子いたじゃん」
木曾「そういえば」
木曾「しかしそいつとどう接触するか、だよな…」
提督「うん…他の深海棲艦達もいるし、厳しいだろうね…」
響「あ、カニだ」
暁「うそ!どこどこ?」
電「網で取るのです!」
提督「危ないからあんまり遠くまで行ったらダメだよー」
暁「はーい!」
木曾「……まあ、叶わない話ではなさそうだな」
提督「うん…きっと出来るよね」
木曾「ああ、平和な世界の為にもな」
提督「力が脅威となるならば、力を抑止力とせよ。か」
木曾「?」
提督「昔おじいちゃんがよく言ってた言葉。力をぶつけ合ってもお互いに壊れるだけだから、あくまでそれを留めるだけの力を持って話し合えって意味があるんだって」
木曾「なるほど……いい言葉だ」
提督「意思を持つ者同士が殺し合うなんて、悲しすぎることだからね…分かり合う事が出来るのなら、それが最良の道だよ」
木曾「ああ……そうだな。俺達の力を戦うための力じゃなくて、戦わないための力にするんだ」
提督「ふふっ、どこまで付き合ってくれる?」
木曾「無論、この身が滅びようとも」
提督「うん……私も諦めない」
木曾「………ところでさ」
提督「なに?」
木曾「釣らないのか?」
提督「あっ」
カララララ
ポチャン…
提督「…………」
木曾「…………」
雷「あー!逃げちゃう!」
暁「ちょっと電、早く早く!」
電「はわわわ!」パタパタ
響「ほら、怖くない怖くない…挟むな挟むな」
提督「…………」
木曾「…………」
提督「…………」
木曾「…………」
パシャッ ザァー…
提督「…………」
木曾「…………」
雷「ほら見て、ここ」
暁「クラゲね」
電「この時期に出るクラゲは危険だー…って司令官さんが言ってたのです」
響「クラゲ……ふよふよしてて可愛いな…」
暁「それはないわ…」
電「可愛いのです」
雷「可愛いわよね?」
暁「え゛っ」
提督「…………」
木曾「…………」
提督「…………」
木曾「…………」
提督「…………」
木曾「………ふわぁぁ……」
提督「…………」
木曾「………釣れないな」
提督「うん………」
木曾「夜は大きいのが釣れるとか言ったのは誰だ」
提督「むう、すぐにおっきいの釣ってみせるもん」
木曾「まったくアタリがないが?」
提督「ぐぬぅ…私が悪いんじゃないもん…」
木曾「くくく、粘れ粘れ」
クイクイッ
提督「! ほら、来た!」
木曾「おおっ、持ってるな」
ググ
提督「うわ……け、結構強い!」
木曾「大物か!?」
グイッ
提督「わあ!?ひ、引っ張られる!」
木曾「こいつはかなりでかいぞ!俺も手を貸す!」ギュ
提督「こんのっ……」グググ
木曾「落ち着け!体力を削ってからだ!」
提督「う、うん…!」
提督「! 引きが弱まった…!」
木曾「よし、リールを巻け!」
提督「わかった!」ギュルギュル
木曾「いいぞ、もう少しだ!」
提督「ふぬうあああああ!!」ギュルギュルギュルギュル
ザパァーン
木曾「おお!やっt……」
提督「え?なんか魚じゃn……」
ヲ級「」プラーン
提督「」
木曾「」
提督「わああああああああ!!???」ザザザザザ
木曾「おおおおおおおおお!!!??」ザザザザザ
ヲ級「」ベチャ
提督「なななななんで空母ヲ級がぁ!?どどどどうしよう!??」
木曾「おおお落ち着け!!俺が守るからお前は後ろに!!」
提督「ああぁ……ん?ちょ、ちょっとまって」
木曾「え?な、なんだ?」
提督「艤装……着けてないよね?」
木曾「ん?……確かに」
ヲ級「……………」モグモグ
提督「あ、針にかかってた魚に食いついたんだ…」
木曾「冷静に分析してる場合か!」
提督「でも、敵意を向けられてるわけでもなさそうだし…」
木曾「それは……まあ、そうだが…」
ヲ級「…………」モグモグ チラッ
提督「!」ビクッ
木曾「!」ササッ
提督「ちょ、見えないから」グイ
木曾「えぇー…」
ヲ級「…………」
モグモグ…
提督「どうする?」
木曾「いや…攻撃してくる気配がないなら逃げるなりなんなり出来るが…」
提督「魚生で食べてるよ…調理しなくていいのかな…」
木曾「そこかよ」
ヲ級「…………」ゲフ
スクッ
提督「あ……ま、待って!」ダッ
木曾「っちょ、おい!?」
ヲ級「…………?」クル
提督「えっと、君……言葉は分かる?」
ヲ級「…………」コクン
提督「! あ、あのね、私はあなたと話を」
ヲ級「…………」
クル
スタスタ
提督「さ、最後まで聞いて!私達はあなたを攻撃するつもりなんてないから!」
ヲ級「…………」ピタッ
提督「その……今は何か用事とかがあるのならここに居なくてもいいから、だから…」
ヲ級「…………」
提督「……一週間後!一週間後の朝、またここに来て!」
ヲ級「…………」
ヲ級「…………」クルッ
スタスタ
提督「朝の五時ぐらい!分かるよね、少し明るくなり始めるくらいだよー!頑張って早起きするから!」ブンブン
ヲ級「…………」ピョンッ
ザブン
提督「………行っちゃった」
木曾「お前……すごいな」
提督「う、うん……」ヘニャ
ストン
木曾「お、おい。大丈夫か?」
提督「あ、あはは……ほんとは、かなり怖かった…」
木曾「はぁ…馬鹿なやつめ…」グイ
提督「ん、ありがと…」
木曾「しかし、なんで言葉が通じるってわかったのに引き止めなかったんだ?」
提督「えっとね……みんながいたから」
木曾「え?」
提督「普段敵として戦ってるみんながいたから…あの子、怖かったんじゃないかって…」
木曾「………そう言われてみれば」
提督「だから、次会う時は私一人で…」
木曾「……!正気か!?殺されるかもしれないんだぞ!」
提督「ううん、あの子はそんなことしない…優しい目だったから」
木曾「なんだその根拠…」
提督「信じる理由にならない?」
木曾「………お前が言うと説得力がすごい」
提督「ふふ、ありがと」
木曾「ただしだな、危ないと感じた時はすぐに逃げるんだぞ」
提督「うん、分かってる」
タタタ…
雷「司令官、大きな声を出してたけどどうかしたの?」
提督「ん?ああ、ちょっとおっきいイカが水面を泳いでてびっくりしちゃったの」
暁「え、どこどこ?」
提督「もういないと思うけど…」
暁「なーんだ…」
響「で、魚は?」
提督「あはは…一匹も釣れなかった」
電「ボウズなのです?」
提督「うん、ボウズ」
木曾「もういい時間なんじゃないのか?」
提督「そうだね、もうみんなお風呂出てるだろうし…戻ってお風呂入ろっか」
雷「はーい!」
〜〜〜
暁「一番乗りー!」タタタ
提督「あ、こら!ちゃんとタオル巻きなさい!」グイ
暁「ぐぇっ!?別にいいでしょタオルくらい!」
提督「ダメ!はしたないでしょ!」
響「でも司令官、私達は普段タオルなんてしてないから」
提督「えっ」
暁「そうよ!みんなもしてないわ!」
提督「えっ、恥ずかしくないの?」
雷「別に」
提督「」ガーン
暁「まあ司令官がそこまで言うなら巻くけど…」シュル
提督「」ズーン
木曾「どうしたそんな世界の終わりみたいな顔して」
提督「いや…若い子達ってみんなああなの…?」
木曾「まあそうだな。駆逐艦は電みたいな子じゃない限り全員だぞ」
提督「」ガーン
木曾「おいおい…」
提督「私の考えは古いのかなあ、常識という眼鏡で子供達の世界は覗けないのかなあ」
木曾「時代は移り行くものだぞ」
提督「すごいジェネレーションギャップを感じる…」
ガラッ
暁「いやっほー!」ピョーン
響「Ура!」ピョーン
雷「そーれっ!」ピョーン
電「なのです!」ピョーン
ザバァン!!
暁「はーっ、気持ちいいーっ!」
響「ふふん…ハラショーだ…」
雷「ねえ、もう一回やりましょ!もう一回!」
電「電もやるのです!」
木曾「……おい、あれ、いいのか?」
提督「ヤッヒイイイイイイィィィィwwww」ピョーン
木曾「お前もやるのかよ」
ザバァン
提督「はぁー!木曾もやってみなよ、気持ちいいよー!」
木曾「いいよ俺は…そんなことしないって」チャプン
提督「むう、面白いのに」
木曾「いや……軽巡もとい雷巡としての威厳がだな」
提督「威厳?威厳なんて末っ子が考えることじゃなくない?」
木曾「………お前は姉さん達の性格を踏まえた上でそう言うのか?」
提督「………いや、でもさすがにお風呂に飛び込んだりは…」
木曾「するんだよ……」
提督「するんだ……」
木曾「まず球磨姉が飛び込むだろ。それに連れて多摩姉も飛び込む」
提督「うわあ、よりにもよって上の子達が」
木曾「で楽しそうだーって言いながら北上姉も飛び込んで、北上姉が飛び込んだら当然大井姉も」
提督「飛び込むだろうね」
木曾「ああ、俺以外全員飛び込むんだ。だからせめて俺が威厳を保とうとだな…」
提督「なんか……木曾も苦労してるんだね…」
木曾「で、お前は?」
提督「わ、私?私はそのー……暁達に合わせてあげてるだけだから…」
木曾「……ふーん……」
提督「なにその目!?全然信用してないでしょ!」
木曾「いや、どうも嘘くさいなと思って」
提督「そんな子供みたいなことするわけないでしょ、あは、あはははは!」
バシャッ
提督「ごぼがが」
暁「あははは!司令官、口にお湯いっぱい入った!」
提督「げぼっふ……やったな!このー!」ザブザブ
雷「きゃー!」
木曾(絶対やってるな……)ブクブク
キャーキャー
コノォー
アハハハ
木曾「はぁ〜……いい湯だな……」
大井「そうね……」
木曾「ああ……」
大井「…………」
木曾「…………」
大井「…………」
木曾「………うおお!??」ビクゥ
大井「どうしたの、そんなに驚いて」
木曾「な、なんでここにいるんだ!?」
大井「いえ、北上さんの残り湯を全身で味わおうと…」
木曾「変態かよ!!」
大井「あんまり大きい声出さないでよ、酸欠でくらくらしてるんだから…」
木曾(ずっと潜ってたのか……)
大井「提督と北上さんのブレンド湯……ふへへへ……」ゴクゴク
木曾「うっわぁ……」
大井「さて……明日はこの残り湯でご飯を炊こうかしら」
木曾「…………」ドンビキ
大井「それじゃあのぼせる前に私は上がるから、じゃあね」
木曾「あっ……ああ……」
ザブザブ
ガラッ
パタン
木曾「…………」
提督「あれ、誰かいたの?」ザブザブ
木曾「いや……俺は何も見ていない……」
提督「?」
提督「はぁ〜生き返るわぁ〜…」
木曾「……………」ジィ
提督「………んん?どこを見てるのかな?」
木曾「うっ……いや、浮いてるなと…」
提督「まあ、脂肪の塊だからねえ」
木曾「よくもまあそこまで育ったな」
提督「木曾もそれなりにあるでしょ?」
木曾「俺?どこがだよ、嫌味か?」
提督「……ああ、大井がいるから」
木曾「……別にコンプレックスとかじゃないし」ブクブク
提督(可愛いなあ…)
提督「……………」ススス
木曾「……………」ブクブク
提督「………えいっ」
モニュ
木曾「ひょあああああ!!??」バッシャア
提督「うーん、揉めるぐらいにはあるし…木曾、前より成長したんじゃない?」モミモミ
木曾「っ!!////」カァッ
\スッパーン/
提督「いたい…」ヒリヒリ
木曾「堂々とセクハラするなバカチン!!」プンスカ
提督「いやー、しかしまあこうしてみるとやっぱり木曾も女の子だねえ」
木曾「どういう意味だ」
提督「普段カッコいいからなんか……こう、ギャップ萌えっていうのかな?すごいキュンキュンする」
木曾「………だからってもう一回やろうとか思ってないだろうな」
提督「…………」
木曾「…………」
提督「………なんで分かったの?」
木曾「なんとなく」
提督「ちぃ…いい勘を持ってらっしゃる…」
木曾「お前、ほんとにいい肝してるよな」
提督「なにが?」
木曾「いや、人にそうやってグイグイスキンシップかけてくる割に自分がそういうことされたら恥じらうだろ」
提督「…………そう?」
木曾「無自覚か…俺を押し倒した時は笑ってたくせに俺が押し倒した時は女の顔になっただろ」
提督「そう言われてみれば……ああ、あの時の木曾、可愛かったなあ!私の腕の中でびくびくして…」
木曾「ばっ、やめろ!こんなところでそんなこと言うな!!」
提督「ああーもう一回見たいなあ…くふふ…」チラッ
木曾「ひいっ」
提督「うぇへへへへへ、木曾ぉー!」ガバッ
木曾「うわあああああ!!来るなあああああ!!」
雷「なにあれ」
暁「暁知ってるわ、ああいうのを痴話喧嘩って言うのよ」
電「たぶん違うと思うのです…」
響「…………」スイー
ワシャワシャ
提督「かゆいところないー?」
木曾「ああ」
響「はっ」ピュッ
暁「ぎにゃあーー!!?」
雷「こら!泡飛ばさないの!」
電「はわわわ、なにも見えないのです」
提督「もう!ちゃんと静かにしてないとお風呂上がりの牛乳なしにするよ!」
響「む……ならしょうがない」
雷「ほら電、頭流すわよ!」シャー
電「ほあぁ…」
暁「目が!目があああああ!!」
暁「うぅー、ひどい目にあったわ…」
響「目だけに?」
暁「あんたねぇ…」
提督「はいはい、喧嘩してないでちゃんと頭拭こうね」ワシャワシャ
暁「あいたた、もうちょっと優しくしてよ!」
響「私はこれくらいがちょうどいいけど。暁はお子様だね」
暁「なんですってぇー!?」
提督「じっとしなさい!!」
木曾(親子か)
雷「電、なに飲む?」
電「電は普通の牛乳がいいのです」
雷「司令官は?」
提督「私はコーヒー牛乳かなー」ゴソゴソ
響「フルーツ牛乳」
提督「わかったー。はい、暁も」
暁「ありがと……ってなんでフルーツ牛乳なのよ!」
雷「いいじゃない、他に飲むものもないし」
暁「そもそもなんでここ牛乳しかないのよ…もっと別のもの置いたら?」
提督「うーん、でも勝手に何か置いていいのかなあ」
雷「え?司令官が置いてるんじゃないの?」
提督「え?いや、私はてっきり鳳翔さんか誰かが補充してるんだと思ってたんだけど」
響「……この前聞いたら鳳翔さんじゃないって言ってたけど」
暁「えっ」
提督「……白百合鎮守府七不思議の一つだね」
木曾(やっぱイチゴ牛乳だな……)ゴクゴク
雷「七不思議?」
提督「そう、私がここに着任した当時から伝わる奇怪な現象がいくつもあってね…その一つがこれ、いつ誰が補充してるのか分からない牛乳なんだ」
暁「他のは?」
提督「……………」
木曾「何も考えてなかったんだろ?」
提督「……えへへ、バレた?」
雷「えー!?ちょっと期待しちゃったじゃない!」
提督「ごめんごめん、怖い話でもしようかなーと思ったけどなんにも思いつかなかった」
響「そもそもこの牛乳のサーバーは司令官が設置したものだしね。無理がある」
提督「おー、よく知ってるね」
電「書類整理の時に見つけたのです」
提督「なるほど、抜け目ないね」
提督「さて、もうみんな飲み終わったしそろそろ私の部屋に戻ろうか」
暁「ねえ司令官、あのゲームの続きやっていい?」
提督「いいよ、データ残してるから」
暁「やったぁ!ほらみんな、早く戻りましょう!」
響「元気だね」
雷「ふふ、もう眠いの?」
響「ああ、正直」
電「でも一日一緒だからもったいないのです」
響「…それもそうだ」
パタパタ
木曾「……で、結局誰が牛乳補充してるんだ?」
提督「え?知らないよ」
木曾「え?」
提督「え?」
〜〜〜
暁「ねー司令官、ここの氷どうやったら壊せるの?」
提督「えっとね、青い氷はウェイブバーナーとかスプレッドドリルとかで壊せるよ」
暁「別のステージで取るの?」
提督「そうだね、ここクリアしたらアイスウォール取れるからそれでウェイブバーナー持ってるボス倒せばいいよ」
暁「わかったわ!」
電「……電、ここの音楽好きなのです」
提督「ねー、このゲームの音楽いいよね」
木曾「……スーパーファミコンっていつのゲーム機だ?」
提督「私が生まれて……二年か三年ぐらいのじゃなかったかな?」
木曾「なんでそんな古いものがあるんだ…」
提督「この前実家から持ってきた」
響「ペンギンだ……」
提督「他にもあるよ、F-ZEROとかマリオカートとかスーパーメトロイドとか……ほら、不朽の名作星のカービィスーパーデラックス」
雷「かーびぃ…可愛らしい子ね」
響「マリオカート……」
提督「やりたい?」
響「うん。やる」
提督「でもこれマルチタップ対応してないから二人までなんだよね…暁、まだー?」
暁「このボス結構強いのよ!」カチャカチャ
提督「もー、そんなんじゃ最後まで行けないよ」
暁「むぅ…!これぐらい…!」カチャカチャ
電「動きがよくなったのです」
提督「さてと、一回ごとにコントローラー代わればいいよね」
暁「やったわ司令官!ボス倒した!」
提督「おー、よくやったね」ナデナデ
暁「ふふ、えへへへ……」
提督(フォルテでやってたんだ…絶対ロックの方が楽だよ…)
〜〜〜
雷「よーし!このままぶっちぎるわ!!」
電「あ……」
雷「ああああー!?」
暁「自分の投げたコウラに当たってる…」
響「……………」ゴシゴシ
提督「……響、眠い?」
響「…………」コクコク
提督「そっか…なら先にお布団入ってようね」グイ
響「うん……」ギュ
スタスタ
木曾「お前達もそろそろ寝た方がいいぞ、明日は遠征なんだろう?」
暁「あ、あと1レースだけ!」
木曾「……仕方ないな、これが終わったらちゃんと寝るんだぞ」
暁「やった!」
電「……これで一日一緒が終わりだと思うとなんだか名残惜しいのです」キュ
雷「そう?司令官ならいつでも甘えさせてくれるじゃない」
提督「そうだよ、遠慮してるのは電の方だよ。もっと積極的に来てもいいんだよ」
電「……はい、えへへ」
暁(目が本気だわ…)
提督「よしよし……それじゃもう遅いから寝ようね」
雷「おやすみ、司令官!」
電「ん……おやすみなさい、司令官さん…」ギュウ
暁「おやすみなさーい…」
提督「はい、おやすみ…」
木曾「……………」
木曾「……………」
提督「……………」
木曾「………寝たか?」ボソッ
提督「……………」ツン
電「んぁ…にゃ……」
提督「…………寝たみたい」
木曾「………よっし」
バッ
木曾「やるか」
提督「やりますか」
木曾「へへへ、よく気付いてたな」
提督「まあ視線が釘付けになってたからねえ。やりたくてしょうがないんでしょ?」
木曾「ああ。明日は非番だから思う存分出来るぞ」
提督「ふふん、なら私もサボっちゃおうかな」
木曾「悪い大人だ」
提督「くくく、人のこと言えないでしょ」
提督「はい、カセット」スッ
木曾「おう、コントローラー握るの俺でいいよな?」
提督「もちろん。それじゃ、電源入れるよ」
木曾「ああ」
カチッ
提督「きたきた、懐かしいなぁ」
木曾「こんや、12じ、だれかがしぬ」
「「かまいたちの夜…!」」
ーーー
ーーーーー
ーーーーーーーー
ーーーーーーーー
ーーーーー
ーーー
望月「はぁ〜…なんであたしがこんなこと…ふーちゃんなら加賀さんが起こす方がいいじゃん……」
望月「ふーちゃーん。ふーちゃーん」コンコンコン
望月「……………」
望月「………反応がないな、まだ寝てるのか…」
ガチャ
望月「入るよ……うわっ、なんだこれ」
提督「」zzz
木曾「」スピー
望月「なんで二人ともスーファミの前で寝てるんだ…」
望月「……んぁ?かまいたちの夜…?」
望月「……………」
望月「……なるほど、夜通しやってたのかぁ…そりゃそーなるわけだ…」
提督「」zzz
木曾「」スピー
望月「…………」
望月「そっとしておこう」
スタスタ
ガチャ
バタン
提督「」zzz
木曾「」スピー
630 : ◆CaWSl75vrE - 2015/07/31 00:41:16.64 crBPBiFT0 421/680ながいのおわり
かまいたちの夜久々にやったら気付いた時には朝になってました(半ギレ)
続き
女提督「甘えてもいいんだよ?」【後編】