1 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/15 17:54:37.85 2KQRMJF/0 1/830暦「火憐ちゃん、ごめん」前編
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1365139513/
http://ayamevip.com/archives/45552842.html
暦「月火ちゃん、ありがとう」後編
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1367036973/
http://ayamevip.com/archives/45563098.html
の続編となっております。
明日のお昼頃に第一話投下致します。
元スレ
月火「どういたしまして、お兄ちゃん」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1368608077/
変だ。
何が変かって言うと、お兄ちゃんの様子がおかしい。
それが昨日、私が夜遅くに家に帰ってからベッドの中で思っていた事。
私自身、昨日の事はあまり覚えていないんだけど。
でもその時は確かに思っていたんだ。 朝起きればまたいつも通りに……なんて能天気でいたんだ。
しかし結局、朝になってもお兄ちゃんは元通りにならなかった。
そんな朝の事を少し、思い出そう。
以下、回想。
月火「……火憐ちゃん、おはよー」
まだ完全に目が開かない状態で、目を擦りながら朝の挨拶。
火憐「おう、月火ちゃん。 おはよう」
火憐ちゃんは完全に覚醒。 っていった感じ。
見ると程よい具合に体が温まっている様だった。
月火「またジョギング? 毎日大変だねぇ」
火憐「またジョギングだよ。 大変っつうか、好きでやってる事だしなぁ。 楽しいって感じかな?」
月火「元気だねー」
火憐「月火ちゃんも今度、一緒に走らない? 朝の運動は気持ち良いんだぜー」
月火「うーん。 私はインドア派だから。 遠慮しておくよ」
火憐「ふうん、そっか。 まあ、たまには体を動かした方が良いと思うよ。 健康第一だしな」
月火「大丈夫大丈夫。 頭の中でいっつも動いてるから」
火憐「イメージトレーニングって奴か。 さすがは月火ちゃんだ」
どこがさすがなのか……ちょっと分からない。
まあいつもの事なので、私も一々それを聞き返したりしないけど。
月火「そんな感じかな?」
といった感じに、とりあえずは肯定したりする。
火憐「おっし。 じゃあ月火ちゃん、ちゃっちゃと顔洗って、兄ちゃん起こしに行こうぜ」
月火「うん。 りょーかいりょーかい」
いつものパターン。 それが結構、好きだったりする。
火憐「あたしはここで待ってるから、あんまり遅いと一人で行っちゃうぜ」
まだ完全に起きていないのもあり、私は火憐ちゃんに言われるまま洗面所へと向かった。
月火「……ふわぁ」
あくびが出る。 まだ眠いなぁ。
そういえば昨日は大分、夜遅くに寝た気がする。
……あれ。 そういえば私って昨日、何であんな夜遅かったんだろ?
それに、お兄ちゃんも一緒だったし。
昨日は確かに出掛けた。 お兄ちゃんと一緒に帰ったのも確かだ。 その辺りは覚えている。 それは間違い無い。
けど、具体的に何をしていたのかが思い出せない。
……うへぇ。 もしかして、ど忘れって奴なのかな。
この年にしてど忘れって、笑えないよ。
まあ、多分。
大方、私が何かに怒って、家を飛び出したのだろう。 それをお兄ちゃんが迎えに来たとか、そんな感じだと予想を立てて置く。
それが一番ありえそうだし。 一番可能性が高そうだから。
月火「ひっ」
水が冷たかった。 いつも顔を洗うのにはお湯派なんだけれど、まだお湯にはなりきっていなかったみたい。
月火「……今日の運勢、チェックしておかないと」
多分、血液型占いでも星座占いでも、下位になってそうである。
テンション下がるなぁ。
月火「よいしょ」
キュッ、キュッ。 と蛇口を閉め、顔を拭く。
綺麗さっぱり。 ようやく目も覚めてきた。
タオルを片付けて、再びリビングへ。
火憐「お。 お目覚め月火ちゃんだ」
月火「うん。 すっきり月火ちゃんだよ」
火憐「さっぱり月火ちゃんだぜ」
月火「しゃきっと月火ちゃんだよ」
火憐「だな。 んじゃあ行こうぜー」
火憐ちゃんのノリにも大分付いていけている。 うん、目覚めたな、私。
月火「お兄ちゃんは相変わらず、朝に弱いなぁ」
火憐「んまあ、昨日は帰りが遅かったらしいし。 まだ寝かせてあげても良いんだけどな」
月火「駄目だよ火憐ちゃん、そんな甘やかしたら。 朝は朝。 夜は夜だよ」
火憐「うんうん。 確かにそれを言ったら、月火ちゃんも帰りが遅かったしな。 なのに月火ちゃんはちゃんと起きている訳だし」
月火「そうだよ。 私がしっかり起きているのに、お兄ちゃんだけ寝ているなんて許せない!」
そうだそうだ。 私がちゃんと起きている以上、お兄ちゃんも起きなきゃ駄目だ!
で、火憐ちゃんと私とで、お兄ちゃんの部屋の前。
火憐「兄ちゃん、入るぜー」
そう言い、火憐ちゃんがドアを開ける。
月火「お兄ちゃん、入るね」
私も言い、火憐ちゃんの後へと続く。
火憐「あれ? 兄ちゃん?」
ん? どうしたんだろ?
先を行った火憐ちゃんが、何故か足を止める。
月火「どしたの? 火憐ちゃん」
火憐ちゃんの背中に向けて、問い掛ける。 部屋のすぐ入り口で火憐ちゃんが立ち止まるから、どうにも奥の様子が掴めない。
火憐「いや、てっきり寝てると思ったんだけど。 兄ちゃん起きてるみたいで」
嘘だぁ! あのお兄ちゃんが起きているだなんて、殆どあり得ないよ!
それこそ正しく、奇跡みたいな確率だ!
そう思って、火憐ちゃんの後ろからなんとか顔を出し、お兄ちゃんのベッドを確認。
月火「あれ、お兄ちゃん?」
ふむ。
どうやら、確かに起きている……のかな?
ベッドの上に座り込んで、膝を抱えている。
もしかして、新しい寝相なのだろうか?
……こう言っちゃあれだけど、何だか新手のお化けみたい。
火憐「おーい。 兄ちゃん」
火憐ちゃんが少しだけ声量を上げて、お兄ちゃんに言うと、やがてお兄ちゃんは反応を示した。
暦「……起きてるよ」
とだけ、ぽつりとお兄ちゃんは漏らす。 私達の方には、顔も向けず。
火憐「んだよ。 そうならそう言ってくれよ」
暦「……悪いな」
何か、様子がおかしい。
というか、昨日の夜からだ。
そうだ。
私はそれを忘れようとしていたんだ。
朝になったら、元に戻っていると思って。
思おうとして、昨日は寝たんだ。
火憐「元気ねえなぁ! 朝だからってテンション下がりすぎだろ!」
火憐「そんなんで敵が来たらどーすんだよ! 兄ちゃん!」
月火「ちょ、ちょっと火憐ちゃん。 来て来て」
恐ろしく空気が読めていない火憐ちゃんを引っ張り、私は部屋の外に出る。
火憐「な、なんだよ月火ちゃん。 どうしたんだよ、そんな慌てて」
等と言う火憐ちゃんを少しだけ無視し、リビングまでぐいぐいと引っ張る。
やがて、到着。
火憐「おいおい。 本当にどうしたの?」
月火「……何かさ、変じゃない? お兄ちゃん」
火憐「うーん。 まあ、そう言われればそうかも」
月火「絶対おかしいよ。 まず、あのお兄ちゃんが起きてるって事自体がおかしいよ」
火憐「……何かあったのかな?」
火憐ちゃんもようやく分かったみたいで、少々深刻な顔付きとなる。
お兄ちゃんが起きているって事でそこまで深刻な顔をするのは少し、お兄ちゃんに失礼だと思うけど。
月火「ううん……分からない」
月火「けど、様子がおかしかったのって、昨日からなんだよね」
火憐「昨日って言うと……月火ちゃんと兄ちゃんが、一緒に帰ってきた時からって事? あたしはその時寝てたから、良く分からないけど」
月火「そうそう。 その時から、ちょっと様子がおかしいんだよね」
火憐「……何でだろ?」
月火「……何でだろうね」
と、いくら話し合っても結論は出ず、とりあえずは一度、一人にしておいてあげようとの対策案を出し、ファイヤーシスターズ会議は終了。
回想終わり。
それで、今はとりあえずお風呂。
湯船の中で、考える。
何故、お兄ちゃんの様子がおかしいのか。
こう言ってはあれだけど、これまでに何回か似たような事はあった。
でも、それは似たようなってだけで、同じという意味では無い。
それに比べると、今回のはちょっと異常だ。 お兄ちゃんの部屋に入って、お兄ちゃんの姿を見て、一瞬でそれは理解できたのだ。
むう。
末っ子として、なんとか兄妹関係の改善をしなくては。
まずは、何から調べようかなぁ。
月火「……うーん」
月火「とりあえずは、原因が分からないとどうしようも無いよね」
独り言。
月火「様子がおかしい原因を調べて。 って言ってもなぁ」
その原因が、どんな種類の物かさえ分からない。
友達関係なのか、恋の悩みなのか、人生の悩みなのか、ただの不眠症なのか。
それとも、家族の悩みなのか。
例を出したら、キリが無い。
月火「一個ずつ、潰して行くしか無いかな」
それが正攻法だとも思う。 しらみつぶしに、一個ずつ。
けど、あまり時間を掛けるのは気が進まない。 一刻を争う事態かもしれないし。
最低でも一週間。 夏休みが終わる前には、なんとかしないと。
月火「あーもう!」
顔を湯船に沈める。 いい案が出てこない。
勿論、お兄ちゃんに直接聞くなんて愚直な選択肢はあり得ない。 当人に気付かれず、悩みを解決しなくては意味が無いんだから。
それに、私が動いていると知ったら、お兄ちゃんに余計な負担を掛けそうだし。
だから、ばれずにやる。 これは最低条件だ。
月火「ううううう」
ぶくぶくぶくと。 湯船に泡が出来る。
月火「ううう」
また少し、ぶくぶく。
月火「……」
もうちょっと。
月火「……ぷはっ!」
危ない。 溺死する所だった。 朝から私は何をやっているんだろ。
そんな事を一人でやっている時、ガラガラとドアが開かれる。
火憐「よ、月火ちゃん」
月火「あ、火憐ちゃん。 いらっしゃい」
そうだそうだ。 一人で悩んでいても仕方が無いじゃないか! 困った時は火憐ちゃんだ。
火憐「やっぱ朝風呂は良いよなぁ。 月火ちゃんもそう思うだろ?」
火憐ちゃんが髪の毛を洗いながら、後ろに居る私へと話し掛ける。
月火「うん。 そだね」
湯船に浸かりながら、火憐ちゃんへ向けて。
月火「ねえ、火憐ちゃん」
火憐「んー?」
月火「お兄ちゃん、どうしたんだろうね」
火憐「……さあ。 わっからねぇ」
月火「やっぱそうだよね。 私達、どうすれば良いんだろ」
火憐「あたしは月火ちゃんみたいに、頭の回転が良くないからなぁ。 正直、月火ちゃん頼みにしてる部分もあるよ」
月火「うう。 責任重大だ」
火憐「ま、月火ちゃんなら何とかなるって。 あたしにして欲しい事があったら、言ってくれよ」
火憐「もしも悪い奴がいるなら、ぶっ飛ばす! 月火ちゃんの邪魔をする奴もな」
そんな事を言いながら、火憐ちゃんは私に拳を向ける。
格好良いなぁ。 火憐ちゃんは。
月火「うん。 もしもそんな風になった時は、すぐに教える」
火憐「おう!」
やがて、火憐ちゃんも体を洗い終わり、私が入っている湯船へと入る。
火憐「ごめんな、力になれなくて」
そんな事を言いながら、私の頭をぽんぽんと撫でる火憐ちゃん。
月火「良いって良いって。 いっつも火憐ちゃんには活躍してもらってるし」
火憐「つってもさぁ。 大体は、月火ちゃんのおかげだろ?」
月火「そんな事無いよ。 私と火憐ちゃんだから、色々出来るんだよ」
火憐「そう言われると、なんか照れ臭いな」
月火「火憐ちゃんが居なかったら、私は駄目だし」
火憐「月火ちゃんが居なかったら、あたしは駄目だしな」
顔を見合わせ、笑う。
月火「だからさ、一緒に頑張ろうよ。 とりあえずは別行動で調べて、後で結果報告って感じでさ」
火憐「おっけーおっけー」
月火「よし、なんかやる気出てきた!」
お兄ちゃんの為だけじゃない。 火憐ちゃんの為にも、私が何とかしないと。
そうだよね。 まだまだ作戦は始まったばかりなのだから、こんな序盤の序盤、RPGでいうと最初のスライムで投げ出す様な物だ。
飽きやすい私だけど、これはそういう問題じゃないんだ。
それにそんな最初で諦めちゃ駄目。 もし、仮に私が諦めるとしたら。
エンディング直前で、ゲームデータを消される位の事が無ければ、諦めない。
火憐「ところで、月火ちゃんはさ」
月火「ほい?」
火憐「兄ちゃんの事、好きか?」
ぶはっ!
ちょ、いきなり何を聞くの!
出鼻を挫かれた気分だ!
大ダメージだよ。 一撃必殺を食らった気分だよ。
月火「な、ななななにを言ってるのさ。 火憐ちゃん!」
火憐「お、落ち着けよ月火ちゃん。 別に変な意味じゃないから!」
月火「って、言われてもさぁ。 いきなりさぁ!」
落ち着かない。 落ち着いていられる訳が無い!
火憐「で、どうなんよ?」
うう。
月火「……そりゃ」
月火「どっちかって言うと」
月火「……好き、かな」
火憐「やっぱりかぁ。 ちなみにあたしも好きだ」
ずばっと言える火憐ちゃんは、やっぱり格好良い。
月火「一応言っておくけど、お兄ちゃんには絶対に言わないでね!」
火憐「分かってるよ。 言わない言わない」
月火「ほんとに?」
火憐「ほんとほんと。 でもあたしは好きだって事言っちゃうぜ?」
いやいや、そんな宣戦布告みたいに言われても。
月火「良いんじゃないかな。 火憐ちゃんが伝えたいなら」
火憐「本当に良いのか? 月火ちゃんは伝えなくても」
月火「良いんだよ! だからちゃっちゃ伝えちゃえば良いよ」
一応、勘違いが無いように。
私と火憐ちゃんが話しているのは、あくまでも家族として、兄弟として好きか? と言う事です。
絶対に、間違い無く、天と地が引っくり返っても、例え宇宙人が襲来しようとも、男女的な感じで好きって訳じゃないです。
火憐「そっか。 後悔するなよー」
月火「……しないって」
火憐「そっかそっか、後悔しないかぁ」
そう言い、火憐ちゃんは私の頬を突付く。
月火「……火憐ちゃんの意地悪」
火憐「んー? 何か言ったか?」
月火「何でもなーい」
もう。
やっぱり、どう足掻いても火憐ちゃんは私のお姉ちゃんで、それは変わらない。
どうにも、火憐ちゃんとお兄ちゃんだけには勝てそうに無いなぁ。
まあ別に、勝とうとも思って無いけどさ。
月火「よし!」
自分の頬をぱちんと叩き、気合いを入れる。
火憐「お? どうした月火ちゃん。 兄ちゃんに告白する気になったか?」
月火「ちっがーう! お兄ちゃんの悩み解決作戦だよ!」
火憐「ああ、そっちか。 わりわり」
絶対にわざとだろー!
月火「とりあえず、動かない事には何も変わらないからね。 あまり良い案じゃないけど、しらみつぶし作戦をまずはやってみるよ」
月火「まずは初手。 友達関係からだね」
火憐「おお、了解だぜ。 あたしも一応、兄ちゃんと繋がりがありそうな所に当たってみるよ」
月火「うん。 って言っても、お兄ちゃんの様子がおかしいって事は、ばれないようにね」
火憐「だな。 余計な心配も、周りに掛けたくねーし」
よっし。
それじゃあ私は、実際に歩いて潰して行こう。
なんだか、響きが怖いかな……
ま、いっか。
作戦その壱、しらみつぶし作戦スタート。
第二話へ 続く
歩く。
立ち止まる。
歩く。
立ち止まる。
休憩。
疲れた。
まずは私の友達でもある、せんちゃんの所に行こうとしたのだけれど。
こんな遠かったっけ、あの子の家。
いや、違う可能性。 私の体力が無くなっているという説もある。
この歳で体力の衰え。 考えたく無い!
多分、せんちゃんの家が遠くへ移動しているのだ。 日々少しずつ。
私はそう思う事にした。 実に奇妙な光景だとは思うけど、気にしない。
そうそう。
お兄ちゃんは朝ご飯になっても、結局一歩も部屋から出て来なかった。
今日の朝は火憐ちゃんが部屋までご飯を運んだらしい。 その時、会話は無かったとか。
はあ。 全く、世話が焼けるお兄ちゃんだよ、本当に。
でも、本当に一体どうしたのだろうか?
お兄ちゃんはポジティブと言えばポジティブだし、あそこまで塞ぎ込んでしまうとなると、多分よっぽどの事があったのだろう。
そんな事を考えながら歩いている時、聞き覚えのある声がした。
「そうなんだ。 じゃあ真宵ちゃんも大変なんだね」
と。
ええっと、この角かな?
角から顔を出して、そこに居る人を見ると、やっぱり私の知っている人だ。
月火「羽川さん?」
羽川「あれ、月火ちゃん。 こんにちは」
うーん? 誰かと話していると思ったんだけど、一人だけ?
月火「今、誰かとお話中だった?」
羽川「あー。 そっか、月火ちゃんには見えないのかぁ」
私に見えない? 何だろう?
私が少しだけ怪訝な目を羽川さんに向けていると、羽川さんは微笑みながら、口を開く。
羽川「ごめんごめん。 こっちの話だよ。 それで、月火ちゃんは何でこんな所に?」
月火「私は、今は作戦展開中って感じかな。 大事な作戦中」
羽川「そうなんだ。 何か手伝える事とかある? ばれたら阿良々木くんに怒られそうだけど」
くすくすと笑いながら、羽川さん。
月火「うーん。 でも、その作戦の中心がお兄ちゃんなんだよね。 お兄ちゃんの為の作戦中」
羽川「ふむふむ、なるほどね。 何かあったの?」
月火「ううん。 そうじゃなくって、なんて言えば良いのかなぁ」
月火「お兄ちゃん、最近様子がおかしかったりってありました?」
我ながら、随分とストレートに聞いた物だなぁ。
火憐ちゃんにばれないようにって言っておきながら、私がこの有様じゃ駄目じゃん!
羽川「うーん。 阿良々木くんはいつも通りだと思うけどなぁ。 少なくとも、私が最後に会った時はいつも通りの阿良々木くんだったよ」
羽川「さっきも、阿良々木くんの友達と話していたんだけど、その子も特に変とは言ってなかったかな?」
ふむう。
月火「……むう」
羽川「阿良々木くんの身辺調査って感じ? 協力しようか?」
月火「いや、大丈夫大丈夫。 これはファイヤーシスターズの任務だから」
羽川「そっか。 じゃあ、頑張ってね」
月火「うん。 ありがとう、羽川さん」
羽川「平気だよ。 それじゃあ、ばいばい」
さすがに、羽川さんを巻き込む訳にはいかない。
お兄ちゃんが、一番恩を感じているって言うくらいだし。
頭を下げ、元々の目的地でもあるせんちゃんの家へ。
羽川「あ、それと月火ちゃん」
何だろう?
そう思って、振り返る。
月火「はい?」
羽川「月火ちゃんは、お兄ちゃんの事が大好きなんだね」
何で! 何で! 何でそうなるのさ!
納得いかない!!
別に、羽川さんが悪いって訳じゃない。
そう見えているって事に、納得が行かない!
何でだー!!
と心の中で叫んでも、無駄だけど。
そりゃ、私も一応はお兄ちゃんの事が好きだけれども。
それは別に「大」って文字が付くほどじゃない!
むしろ、私達兄妹は世間一般から見たら、仲が悪い方だろうし。
それはお兄ちゃんも良く言っているし、私も思っている事だ。
なのに、そんな事言われたら。
さてさて、そろそろ見えてくるかな? せんちゃんの家。
ここの角を曲がってー。
真っ直ぐ行けばー。
見えてきた。
私が考えた可能性の一つ、せんちゃんの家が少しずつ離れて行っているという奇妙な現象は、とりあえず起きていないらしい。
だとするとやはり、私の体力が落ちているのかもしれない。 か弱くなっているんだね、女の子だし。
今日は一応、日曜日だけど。 確か、せんちゃんのパパとママって日曜日も働きに出てたはず。
なら、そうだ。 ちょっと驚かせよう。 ちょっとだけ。
まずはインターホン。
ピンポーンと小気味良い音が響く。
で、少しした後に。
「せ、千石でしゅ!」
噛んでるし。
ほんっとに、大丈夫かな。 この子。
この子の両親も、よく留守番を任せられるよね。
私だったら月火ちゃんみたいに賢い子にじゃないと、任せられないなぁ。
さて。
勿論、ここで普通に反応したらつまらない。
だから敢えて、無視。
「……あ、あの」
ふっふっふ。 怖がってる怖がってる。
「……あのお」
まだ反応しないよ。 私はそんなにぬるく無い。
……
……
……
五分、いや十分程たったかな?
インターホンはどうやら、まだ切られない。
おのれ、せんちゃん。 意外としぶといな。
むうう。
よし、飽きた。 仕方ないから私の方が折れてあげよう。
月火「月火ちゃんだよー」
ガチャリ。 と音がした。
どうやら、切られた様である。
うん?
なるほどなるほど。
むっっっっっっかついたー!!
なんなの!? 出た瞬間切るっておかしくない!? 非常識だよね!?
ピンポンピンポンピンポン。 連打連打連打。
「……千石です」
お、今度は噛まなかった。 やればできるじゃん。
月火「月火ちゃんだよー」
「ららちゃん? 今、行くね」
あれ? 普通通り?
もしかして、さっきのは私の勘違い?
まあ、今行くって言ってくれたし良いか。
気にしない気にしない。
それから数十秒待つと、せんちゃんが玄関のドアを開ける。
月火「久し振りだね」
千石「……うん。 久し振り」
月火「さっきはびっくりしちゃったよー! いきなり切られちゃったからさ!」
千石「わ、私もびっくりしたよ。 ……十五分も無言なんだもん」
月火「十五分も経ってたんだ。 せんちゃんの為にそんなに使っちゃったかぁ!」
月火「ん? ていうか十五分も無言って、やっぱりせんちゃんさっき私が出た時、一回切った?」
千石「な、なんの事かなー」
月火「……とぼけてる?」
千石「と、とぼけてないよ! 」
千石「丁度私が切った時と、ららちゃんが出た時とが一緒になっちゃったんだよ。 きっとそうだよ!」
月火「……うーん」
月火「ま、いっか」
月火「で、感想は?」
千石「……ど、どう考えても嫌がらせだよね」
月火「そういえばびっくりしたって言ってたっけ? なら成功だ。 そういう作戦だったんだよ」
千石「……私の話聞いてないし。 というか……陰湿な作戦だね」
月火「何か言った?」
千石「う、ううん。 何も」
いやぁ。 良かった良かった。 やっぱり私の親友だよ。 てっきり悪口でも言われてるのかと思っちゃったじゃん。
千石「……ここで話すのもあれだしさ、私の部屋、行こ」
月火「せんちゃんの家に来るのは久し振りだなぁ。 何十年ぶりだろ?」
千石「ららちゃん、まだ私達そんな年老いて無いよ……」
月火「何? 私が老けて見えるって言いたいの?」
千石「そ、そんな事言って無いよ。 ららちゃんは若いよ!」
月火「本当に? せんちゃんより?」
千石「私なんかより全然だよ! す、す、すっごく若い」
月火「いやいやぁ。 そんな褒められても困るって。 ま、早く上がって上がって」
千石「……もうやだ。 しかも私の家なのに」
月火「ほら、早く早くー」
時間経過。
どうしてか、せんちゃんと話すとちょっといじりたくなっちゃうんだよね。
私の本質的な性格がこんなのでは無いって事だけは、理解しておいて欲しいけど。
千石「……それで、ららちゃんはどうして急に?」
月火「ああ、そうそう。 危うく本来の目的を忘れる所だったよ」
月火「最近、せんちゃんはお兄ちゃんに会ってる?」
千石「お、おおおお兄ちゃんって、ここここっここ暦お兄ちゃん?」
動揺しすぎでしょ……
というか、これだけ分りやすいのに気付かないお兄ちゃんって。
月火「私にお兄ちゃんはその暦お兄ちゃんしかいないよ」
千石「そ、そっか! そうだよね!」
月火「うんうん」
千石「……だよねぇ」
月火「……」
千石「……」
月火「私の質問に答えろおおお!!」
千石「ひっ!」
月火「なあに黙ってるの! 私が最初にした質問を忘れたのか!」
千石「こ、答える! 答えるから……殴るのをやめて」
月火「せ、せんちゃんちょっと待って。 私今殴って無いよね? 何であたかも、今現在私がせんちゃんの事を殴りつけている様に言ったの?」
千石「そ、それは。 多分、言葉の綾って奴……かな」
月火「……ふむ」
月火「ま、良いや。 それで?」
千石「切り替え早いなぁ……」
千石「ええっと、それで、暦お兄ちゃんに会ってるか。 って話だったっけ?」
月火「そうそう。 どうなの?」
千石「さ、最近は会って無いよ。 最後に会ったのは、この前遊びに来た時くらい、かな」
ふむむ。
となると、お兄ちゃんは最近、せんちゃんには会って居なくて……
それで、羽川さんと、ええっと……まよいちゃん? って子には会ってはいる物の、様子がおかしいとかは無かったらしい。
前に友達は五人って自信満々に言っていたし、残す所は後二人かぁ。
……改めて考えてみると、友達少なすぎだよね。 たった数時間で、お兄ちゃんの友達の過半数を調べ終わっちゃったよ。
千石「ら、ららちゃん?」
月火「へ? ああ、ごめんごめん。 ちょっと考え事」
千石「……そう。 暦お兄ちゃんに、何かあったの?」
せんちゃんが少し、泣きそうになりながら聞いてくる。
よし。
ちょっとだけ、物凄く軽い冗談でも言ってみようかな。
月火「……落ち着いて聞いてね、せんちゃん」
千石「う、うん」
月火「お、お兄ちゃんは。 その、死んだの」
千石「へ、へ?」
月火「今日の朝、階段から転げ落ちて……打ち所が悪くて」
千石「う……うそ。 そんなの、うそだ!」
月火「本当だよ。 私も、未だに信じられないもん」
千石「そ、そんな……」
せんちゃん泣きそうになってる。 というか泣いてる。
そろそろマズイな。 いくら私でも、泣かそうとは思っていなかったのに。
本当だよ?
月火「なーんて。 嘘でしたー」
千石「へ、う、うそ?」
月火「そうだよ。 ちゃんと生きてるよー」
千石「ひ、酷いよ……」
月火「ごめんごめん。 悪気は無かったんだけどね」
千石「どう見ても悪気の塊だよ……嘘月火だよ……」
月火「やめて。 せんちゃんそのあだ名で呼ぶのはやめて」
千石「今、その頃の片鱗が見えてたよ。 嘘月火の片鱗がしっかり見えてたよ……」
月火「せんちゃん、この話はもうやめよう! 終わり終わり!」
千石「う、うう」
月火「な、仲良し中2コンビ、イエーイ!」
千石「い、いえーい」
よし、これ以上私の印象が悪くなる前に、さっさと帰ろう。
月火「それじゃあせんちゃん、またね」
千石「う、うん。 またね」
立つ鳥跡を濁さずとは、こういう事だろう。
時間経過。
私の株が上がったか下がったかで言えば、上がった方になるのかな? 多分。
まあ、私はそんなの気にしないけどね!
帰りながら、そんな事を考える。
まだ時刻はお昼過ぎ。 調査はまだまだ続けられる。
えーっと。 五人の内、三人は確認済みだから……残るは二人か。
その片方は、多分火憐ちゃんが尊敬している人だ。 確か名前は神原さん、だっけかな?
私の方は面識が無いし、そっちは火憐ちゃんに任せよう。 恐らくはもう、聞きに行ってるだろうし。
ってなると、私の方はもう一人の方か。
……誰だろう?
うーん。
記憶を少しずつ、掘り返す。
うう、なんだろ。 何か頭が痛い。
でも、思い当たる人が一人居た。
確かあれは、なんだかお兄ちゃんが格好良かった日の事だ。
とは言っても、お兄ちゃんの前じゃ絶対に言わないけど、お兄ちゃんは基本的に格好良いんだけどね。
そんなお兄ちゃんが、言っていた事。
「夏休み明けにさ、僕の彼女を紹介してやるよ」
なるほど。
つまりはあの時、お兄ちゃんは自分の彼女すら、友達として一旦はカウントしていたのだろう。
他に友達が存在するよりも、そっちの方がよっぽど考えられるし。
……寂しいお兄ちゃん、可哀想に。
よし。 じゃあ、とりあえずはその彼女とやらに突撃してみようかな。
色々聞きたいし。
健全に付き合っているのかとか。
お兄ちゃんに変な事はしてないかとか。
お兄ちゃんに貢がせていないかとか。
後は、いつ別れる予定なのかとか。
ううーん。
そうだね。 まずは一旦家に帰ろう。
火憐ちゃんの報告も一度聞きたいし、それからその彼女さんと連絡を取る手段はいくらでもあるし。
と、着信。
着信音で、電話だと分かる。
誰だろ?
画面も見ずに、通話ボタンを押し、耳に当てる。
月火「はい、もしもし」
「お、月火ちゃん。 あたしだけど」
月火「火憐ちゃん? 何か進展でもあったの?」
「いやぁ。 進展って言ったら微妙なんだけど、妙な噂を聞いてな」
妙な噂? 何だろう。
月火「それは、今私達が進めている事と関係あり?」
「勿論。 大ありだな。 兄ちゃんの友達にも当たってみたんだけど、そっちは駄目だったんだ」
「けど、帰り際にここら辺に住んでる友達に会って、んでちょっと気になる事を聞いた」
月火「ふむふむ」
「あたしは一旦帰るからさ、月火ちゃんはこれからどっか行くの?」
月火「いや、丁度私も帰る所」
「そっか。 なら家に集合だ。 その時に話すよ」
月火「ほいほい。 じゃあ今から帰るね」
「うん。 それじゃ、また後で」
ツーツー。 との音を聞いて、電話を鞄に仕舞う。
ふむむ。
妙な噂かぁ。 あまりそう言うのには、最近は触れてなかった気がするかな。
あのおまじないの一件も、妙な噂と言えばそうかも知れないんだけど。
とにかく、一度家に帰って話を聞かない事には何も分からない。
何かの手掛かりになればいいんだけど。
そう思い、私は少しだけ足早に家へと向かう事にした。
第三話へ 続く
私と火憐ちゃんの部屋。
ここは大体の場合、ファイヤーシスターズ的活動をする際には、会議室となる。
その時々によって、どう動くか? 何を目的とするか? 作戦はどうするか? とかを決める為に。
で、今はその会議室を使用中。
月火「そっかぁ。 火憐ちゃんの友達にも、何かを知っている人は居なかったって事だね」
火憐「その言い方からすると、月火ちゃんの方も駄目だったみたいだな。 で、友達関係じゃないとすると」
月火「その火憐ちゃんが言っていた「妙な噂」ってのが、少し気になるね。 やっぱり」
火憐「うん。 あたしもそう思う。 それで、その内容なんだけど」
火憐「月火ちゃんは多分、身に覚えがある事だぜ」
月火「私が? 何だろ?」
私に身に覚えがある、妙な噂?
うーん。
考えてみても、全く思い当たる事が無い。
おまじないの件はもう終わっているし、最近友達と連絡を取っていないって訳でも無いから、何か変な噂があれば耳に入ってくるはずだけど。
火憐「うし、じゃあ話す」
そして、火憐ちゃんはゆっくりと話し始める。
その友達から聞いた、妙な噂を。
火憐「兄ちゃんってさ、自身は気付いていないけど結構な有名人だろ?」
月火「うん。 確かにそうだね」
何でも、ファイヤーシスターズの黒幕だとか言われいてるというのは、聞いた事がある。 後なんだっけ、ファイヤーブラザーだっけ。
安直すぎるとは思うけど、私達ではどうしようも無くなった時は必ず手助けをしてくれるので、間違ってはいないと思う。
火憐「で。 最近噂になっていたのがさ、兄ちゃんが何かに焦っていたらしいんだよ。 その何かってのは、分からないんだけど。 まあ、あたし達が知らない時点で、当たり前の話なんだけどな」
火憐「そんでさ、そんな兄ちゃんが月火ちゃんと良く一緒に居たとかなんとか」
火憐「ぶっちゃけた話……最近まで月火ちゃんって、兄ちゃんと一緒に出掛けたりって無かっただろ?」
月火「うん。 そりゃまあ、殆ど無いと思うけど」
火憐「でも、最近はちょくちょく一緒に出掛けてたよな?」
月火「何回か、あると思うかな。 確か」
確か。
あれ? 確か、なんだっけ。
月火「……多分、お兄ちゃんの用事に引っ張り出された、のかな?」
火憐「えらく曖昧だな」
月火「うーん。 なんか、ちょっとはっきりとは覚えて無いんだよね」
火憐「そっか。 で、昨日は確か夜に出掛けてたよな?」
月火「そうだね。 帰ってきたのは夜中だったけど」
火憐「それで、その時神社に行ったか?」
神社? ここら辺に神社って、あったっけ?
それに、夜に神社って。 初詣でもあるまいし。
ましてやこんな時期に神社なんて怖くて絶対行けない。 例えお兄ちゃんが居たとしても、よっぽどの事が無きゃ行かないはず。
月火「……行って無いと思うけど」
月火「それが、どうかしたの?」
火憐「言ってたんだよ、その子が」
火憐「兄ちゃんと月火ちゃんが、夜中に神社に行くのを見たって」
嘘だ。
真っ先に頭に浮かんできたのは、その言葉だった。
というか、何で私とお兄ちゃんが夜中にそんな所へ行かなきゃいけないの?
ええっと。
ここで、一番考えられる可能性は。
月火「見間違え、じゃないかな」
火憐「そっかそっか。 でもさ、月火ちゃん。 本当に行ってないのか? 神社じゃなくても、神社っぽい所って事は?」
なんだろ。 今日の火憐ちゃん、何だかおかしい。
月火「ごめん。 火憐ちゃん、何が言いたいの?」
火憐ちゃんは言い辛そうに、言う。
火憐「……兄ちゃんは、月火ちゃんと出掛けて帰ってきた時から、様子がおかしかったんだ」
火憐「こうは思いたくねーけどさ、もしかしたら……」
火憐ちゃんが言いたい事。 なんとなく、分かってしまう。
姉妹だから、私のお姉ちゃんだから。
月火「私が原因って、言いたいのかな。 火憐ちゃんは」
火憐「決め付けてる訳じゃねえよ。 あたしも違うと思いたい」
火憐「でも、月火ちゃんはさ、 はっきり覚えて無いんだろ? 昨日の事とか、最近の事とか」
火憐「なら、やっぱり」
なんで、どうしてそんな事を言うの。
私が原因で、お兄ちゃんがああなる事なんて。
それに何で今になってそんな事を言うんだ。
火憐ちゃんだって、私とお兄ちゃんが出掛けていたのは知っているじゃん。
今日の朝にだって、それは言えたはずじゃん。
ああ、駄目だ。 頭に血が昇ってきている。
月火「わっけ分からない! 私の所為な訳無いじゃん! 火憐ちゃんこそ、何かしたんじゃないの!?」
火憐「あたしがそんな事する訳ねえだろ? 何言ってんだよ、月火ちゃん」
月火「そっか、なら火憐ちゃんはこう言いたいんだよね。 自分はそんな事はしないけど、私だったらするかもしれないって、そう言いたいんでしょ?」
火憐「……いや、そこまでは言って無いけどさ。 可能性がありそうってだけの話で」
月火「結果的には一緒じゃん。 私は知らない。 そんな事に心当たりは無い。 満足した?」
火憐「だから、それを信じたいからさ。 月火ちゃんと兄ちゃんが昨日何をしていたか、教えてくれよ。 多少は覚えてるだろ?」
月火「って事は、今の私は信用できないって事だよね。 私がしっかりと昨日した事を言わないと、信用できないって事で良いんだよね?」
火憐「……まあ、そうなる」
月火「じゃあ良いよ、信用しなくても。 私は私でやるから、火憐ちゃんは火憐ちゃんでやれば良いじゃん。 私は一人でも平気だから」
火憐「いや、だからさ月火ちゃん。 思い出せないって言うなら、思い出せるようにあたしも協力するから」
月火「良いよもう! 火憐ちゃんなんて知らない!」
そう言い、目の前に居た火憐ちゃんを突き飛ばし、私は部屋を飛び出す。
知らない知らない。
酷いよ。 なんで私を疑うの。
私がそんな事、する訳無いのに。
それだけで、良いじゃん。 何で分からないんだ。
良いよ。 一人でやってやる。
私一人だって、問題無いし。
もう、火憐ちゃんなんて知らない!
時間経過。
はあ。
飛び出したは良いけど、行く所なんて無い。
目的地も決めていなかったので、仕方ないんだけどね。
せんちゃんの家に行こうかと一度は思ったけど、こんな状態じゃ、逆に心配させてしまいそうだし。
せんちゃんもせんちゃんで、結構心配性というか、お人好しというか、そういう部分があるからなぁ。
月火「……これからどうしよ」
そんな事を呟きながら、適当に徘徊。
まさか家にすぐ帰る訳にもいかない。 それは嫌だ、絶対に!
……なんか負けたみたいだし。 嫌だ。
それにしても、火憐ちゃんも火憐ちゃんだよ。 そりゃ、疑うのは分かる。 分かるよ。
でも、私が知らないと、分からないと言っているのに、それを追求してもどうしようも無いじゃん。
あーもう!
作戦開始一日目にして、仲間を失ってしまった。
なんだか、半身が無くなってしまった気分。
……落ち込むなぁ。
火憐ちゃんと最後に喧嘩したのって、いつだったっけ。
少なくとも中学に入ってからは、一回も喧嘩してない気がするなぁ。
そんな事をつらつらと考えながら歩いていたら、やがて川が見えてきた。
ちょっと疲れたし、土手にでも座って休んでいこうかな。
月火「よいしょ」
一人で寂しく座り込む。
いつまでも悩んでいたって仕方ない。
なっちゃった物はなっちゃったんだし、これから先を考えないと。
それに、今はやっている事もあるんだ。
……とりあえず、状況を整理しよう。
お兄ちゃんの様子が変な理由。 不明。
お兄ちゃんの友達は、どうやら何も知らないらしい。 最後に会った時は普通だったと言うくらいだし、様子が変になったのは最近の事。
それは私も知っている。 昨日、お兄ちゃんが私をおぶって帰っている時から、なんだか様子が変だったから。
可能性として考えられる事は。
可能性。 私が原因。
火憐ちゃんが言っていた事だ。
……無いと思う。 多分。 無いと思いたい。
でも、私と話している途中で、段々とそれに拍車が掛かっていたのは事実。 これは認めないと。
その前に何があったのかは分からないけど、私との会話がそれのきっかけだった可能性も……ある。
少し思い出そう。 昨日、お兄ちゃんとどんな話をしたか。
うーん。 何だっけ。 確か。
お兄ちゃんが見た夢の話、だったかな。
お兄ちゃんには大切な人が居て、その人の為に戦ったとか、なんとか。
夢物語みたいな話だなぁ。 いや、夢って言ってたから夢なんだろうけどさ。
しかし、その大切な人とは誰だろう?
大切な人って聞いて、すぐに連想する人は。
やっぱり、彼女さんかな。
む? 彼女さん?
ああ! そうだ! すっかりその人に確認を取るのを忘れていた!
私とした事が、失敗失敗。
まずはそうだ。 その人に確認を取らないと。
善は急げ。 早速電話。
とは言っても、勿論私はその人の携帯番号なんて知らないから、電話をするのはあの人。
知っている事は知っている、羽川さん。
電話帳から名前を呼び出して、通話。
二、三回程のコール音がして、電話は繋がった。
月火「もしもし、羽川さん?」
「月火ちゃん? 珍しいね、月火ちゃんから電話だなんて」
「もしかして、ファイヤーシスターズ的活動のお手伝いかな?」
鋭い! さすがは羽川さんです。
月火「まあ、今はシスターって感じなんだけど」
月火「その一環、かな。 ある人の事を聞きたくて」
「何かあったんだね。 けど深くは聞かないでおくよ。 二人の問題だろうしさ」
「それで、うーん。 ある人っていうのはこの場合だと……阿良々木くんの彼女さん、で合ってる?」
ある人ってだけで分かっちゃうの!? いやあ、お兄ちゃんの友達って、数は少ないけど質はとても良い。
……こんな事、お兄ちゃんの前で言ったら「失礼な事言ってるんじゃねえ!」とか言われてしまいそうだけど、事実だからなぁ。
月火「は、はい。 彼女さんって事は、最近お兄ちゃんと会っているだろうし」
そりゃ、そうだよね。 いつかは別れる彼女だとしても、現時点では一応付き合っている訳だし。
「そっか。 なるほどね。 でもごめんね、月火ちゃん」
謝る? 何でだろ?
月火「……へ?」
「その彼女さんなんだけど、今帰省しているんだよ。 だから最近は阿良々木くんとも会っていない筈なんだ」
なんと!
うーん。
えーっと。
手詰まり?
月火「……なるほど。 羽川さん、ありがとう」
「いえいえ。 力になれなくてごめんね」
通話終了。
さて、どうしよう。
その彼女さんが、最後の頼み綱とも言えたんだけど。
ってなると、やっぱり友達関係って事は無さそうかな?
まさか、一日でお兄ちゃんの友達全員を調べ終わっちゃうなんて、お兄ちゃん友達少なすぎ!
月火「だーめーだー」
寝転がる。
服が汚れちゃうかもだけど、別に良いや。
今日はなんだか、色々あって疲れちゃったよ。
空はとても綺麗に澄み渡っているけど、気分はどん底。
……最近、私何していたっけ。
お兄ちゃんと良く出掛けていたのは覚えてる。
とは言っても、一昨日と昨日……くらいだっけかな?
出掛けたのは覚えているんだ。 けど、その肝心の内容が思い出せない。 思い出そうとしても、すぐに別の事を考えてしまう。
それは私が一点の事について考えられないって話じゃなくて、何故か……いつの間にか別の事を考えてしまっている。
最近の事。
恐らくは何か目的があったんだと思うけど。 そうじゃなきゃ、お兄ちゃんが私と二人で出掛けるなんて、宇宙人が地球に侵略してくるくらいあり得ない。
そして昨日の、あの帰りの時の記憶もなんだか曖昧。
確か、お兄ちゃんは何か大事な事を言っていた気がする。
お兄ちゃんにとっては、ただの言葉だったのだろうけど、私にとってという意味で。
……。
「それで最後に僕はお前の---------よ」
駄目、やっぱり思い出せない。
おかしいなぁ。 記憶力は、悪い方じゃないはずなのに。
うーむ。
よっし仕方ない、諦めよう!
勿論、今回の作戦をって意味じゃない。
思い出すのは、諦めよう。 一旦。
思い出せない以上、時間の無駄だし。
とりあえず。
まずは、お兄ちゃんが良く行く場所に当たってみるしか無い。
あまり期待はできないけど……こうしてよく分からない場所でぼーっと考え事をしているよりは、確実にマシだし。
む?
あれ、今何かおかしい事を思わなかった? 私。
繰り返してみよう。
こうしてよく分からない場所でぼーっと考え事を……
えっと。
よく分からない場所で。
つまり。
月火「……迷子になった?」
マズイマズイマズイマズイ。
中学二年生にして、迷子になってしまった!
起き上がり、辺りを見回す。
周辺地理には詳しい筈なのだけど、全く見覚えが無い場所。
……多分。 予測を立てるとするならば。
普段は目的があってこの町を歩いているのだけど、今日に限っては感情的になって、思うままに進んだからなのだろう。
何回か似たような事はあったけど。
その時は必ず、お兄ちゃんが迎えに来てくれた。
けど今はそれも、無いだろう。
改めて周りを見渡す。
もしかしたら、私の知っている町では無いかもしれない。
でも、でもでも!
一応は自分で歩いてきたのだから、同じ様に徘徊すればきっと戻れるはずだ。 間違いない。
うんうん。 さすがは月火ちゃん。
時間経過。
日が少し傾いてきた。
足は大分、棒になってきている。
服もなんだか、さっき寝転がった所為なのかもしれないけど、しわくちゃ。
そして。
川の音が、平和的。
月火「……元の場所じゃん」
一時間? 二時間? それくらい歩き回ったのに、振り出しって。
人生ゲームでゴール直前に、スタートに戻るとか、そんな理不尽なマスを踏んだ気分。
ゴール直前では無いかもしれないけど。
うううう。
……火憐ちゃんに、来てもらおうかな。
駄目駄目駄目! それは駄目!
あれだけ大見得を切っておいて、今更「迷子になっちゃったから迎えに来て」だなんて口が裂けても言えない!
こんな時、お兄ちゃんが居れば。
なんて思ってしまう。 情け無いなぁ。
さて。
とりあえずは、さっきまで寝転がっていた所に再度寝転がろう。 疲れたし。
いつかは着く着く。 大丈夫大丈夫。
……だよね?
考えても仕方ない。 何かしらの行動を起こさないとなんだけど。
不覚にも、適当に歩き回った所為で足が動くのを拒否しちゃってる。
うー。
空は今尚、綺麗に澄み渡っていた。
私がこれだけ苦労しているのも知らずに。 なんかムカツク。
いや、空に腹を立ててもどうしようもないけどさ。
でも、そんな私を馬鹿にするように綺麗な空を見ていると、なんだか気持ちが落ち着いてくる。
川沿いという事もあって、風が気持ち良いなぁ。
この辺りは殆ど何も無い田舎だし、空気も綺麗。
……何だか、少し眠くなってきてしまった。
少しだけ、少しだけ目を瞑るとしよう。
多分、起きたらいつも通りの光景が。 なんて事は無いだろうけど。
とにかく一度、体を休めよう。
第四話へ 続く
夢を見た。
その夢が私には何故か身に覚えがあって、現実にあったんじゃないかと思うほどはっきりとしていた。
けれども多分、目が覚めた時には忘れているだろう夢。
しばらくは私のそんな夢のお話。
以下、回想?
お風呂に入ろうと、扉を開ける。
火憐ちゃんが入っているとは知っているけれど、それは問題無い。 私達は結構な頻度で一緒に入っているから。 だから問題無しなんだ。
そう思って、お風呂の扉を開けたんだけれど。
目の前には、火憐ちゃん。
うんうん。
そして、何故かお兄ちゃん。
……?
そしてそしてそしてそして。
火憐ちゃんが、お兄ちゃんに抱きついていた。
月火「あ?」
なんて声が、気付いたら漏れている。
結果。
それから少しの間、とりあえず私は火憐ちゃんに怒って、お兄ちゃんに怒って、結局お兄ちゃんと一緒にお風呂に入る事になった。
なんで!?
いやいや、そりゃ言い出したのは私だけどさ。 お兄ちゃんもお兄ちゃんで断れば良いのに。
そうすれば、私も一人でゆっくりと入れるというのに。
暦「つ、月火ちゃん。 僕、そろそろあがりたいんだけど」
はい?
前言撤回。
私が入った瞬間に、そろそろあがりたい? ふざけるな。
月火「火憐ちゃんとはお風呂に入れて、私とは入れないって事かな? お兄ちゃん」
お兄ちゃんが言っている事って、要はそういう事だよね?
暦「いえ。 そんな訳ありません」
ふむ。 なら良し。
月火「そう。 じゃあまだ入っていられるね」
って事になる。
で、それから一言二言三言? くらい話した後、お兄ちゃんが入っている湯船に私も浸かる。
月火「ふう」
気持ち良いなー。 丁度良い温度。 極楽だぁ。
お風呂へは一日に何回も入るけど、お兄ちゃんが作るお風呂は普段より気分が良い。 落ち着くから。
多分、温度の関係だとは思うけど。
ていうか、そんな事より何か忘れているような。
……あ! そうじゃん! お兄ちゃんが何故、火憐ちゃんとあんなに仲良く抱き合っていたのかを聞かなければ!
おのれお兄ちゃんめ。 お風呂の温度で私の怒りを冷まそうとするなんて、姑息だ。 姑息ではあるけれど、逆転の発想とでも言うべきお兄ちゃんの策略、恐るべし。
で、早速事の成り行きをお兄ちゃんに聞いたら。
暦「いや、火憐ちゃんと勝負しようってなってさ、それでなんか成り行きで……」
なんて、言い訳がましい事を言う。
……ふむ。
はぁあああ!? 成り行きで!? どんな成り行きよそれ!
いや、冷静になるんだ。 落ち着け、落ち着け私。 ここで怒っては駄目。 私はおしとやかな月火ちゃん。
月火「どうせ、火憐ちゃんに押し切られたんでしょ。 お兄ちゃんの事だしさ」
よし。 ナイスおしとやか。
おしとやかの意味を大分履き違えているかもしれないけど、そんな事は気にしない。
私は言いながら、お兄ちゃんの顔を見る。
……見続ける。
なんで黙ってるのさ。 というか視線逸らすくらいしなよ。
一旦、状況を整理しよう。
お風呂場で兄と妹が一緒に湯船に入りながら見つめあっている。
一行で整理できてしまった。
整理しておいてあれだけど、何だか恥ずかしい。 早く喋るなりしてよね。
で、私が顔を逸らそうか悩んだところで。
暦「……まあ、そうなります」
と、お兄ちゃんが言った。
とりあえず、喋ったのは褒めてあげよう。
でも、褒めるのはそれだけ。
そうなりますって何さ! 否定する場面でしょ、それ。
月火「ふーん」
何だか気持ち穏やかじゃない。 お兄ちゃんの顔を見るのも嫌だ。 結局私の方から顔を逸らしてしまったし。 ふん。 もうお兄ちゃんとは話してあげない。
……数秒後にはまたお兄ちゃんと話していた。 気持ちの切り替えって奴だよ? 別に私が感情の起伏が激しいだとか、そういう事では無いと信じてもらいたい。
そして、それからは大分くだらない話をして。
唐突に、突然に、お兄ちゃんがこんな事を言う。
これはもう、全く予想していなかった。
お兄ちゃんが絶対に言いそうに無い言葉。
暦「月火ちゃんの彼氏って、どんな奴なんだ?」
……ほい?
うーん?
月火ちゃんの彼氏って事は、私の彼氏って事だよね。
で、今お兄ちゃんはその人について「どんな奴か」と私に尋ねてきていると。
避難。
避難といっても、突然逃げ出す訳にはいかないので、湯船の中に顔を沈め、避難。
目を瞑りながら、急いで考える。 いつも以上に考える。
考えるというよりは、混乱って言った方が正しいかもしれないけど。
いやいや、おかしくない? おかしくない? おかしくは無い? いやおかしいよ!
だってあのお兄ちゃんがだよ? 私の彼氏も、火憐ちゃんの彼氏も、両方ストーカー扱いしているあのお兄ちゃんがだよ?
ありえないありえない。 それはもう火憐ちゃんが実は男の子でしたというくらい、ありえない。
つまり私は今、火憐ちゃんが実は男の子でしたと言われた時と同じ位の衝撃を受けているという事だ。
今更になって、何でそんな事を聞くの?
もしかしたら、お兄ちゃんもついに彼氏の存在を認めるって事?
いや、そうだとしたら、それはまあ嬉しいんだけど。
……なんか、変な気分になってしまう。 何でだろ。
お兄ちゃんにはいつまでも、そういうお兄ちゃんで居て欲しかった……のかな?
分からない。 自分の気持ちがちょっとだけ。
それに、今更そんな事を言うなんて、何だかお兄ちゃんが変わってしまいそうで。
嫌、かな。
だから私は、いつも通りに対応する事にする。 そうしよう。
ちなみに、ここまで約十秒です。
ふう。
とりあえずは、どんな奴かを話す事となってしまった。
それが嫌って訳では無いけど、いざ話すとなるとやっぱり少しだけ、恥ずかしい。
でも、話さない事には終わりそうにないし……
ええい。 やってやる!
月火「顔は、まあ、普通……かな」
うん。 お兄ちゃんみたいに。
月火「性格は、うーん。 良い人だよ」
そうそう。 お兄ちゃんみたいに。
月火「そ、それに、正義感が強い……かな?」
ふふん。 お兄ちゃんみたいに。
月火「私の事は大事にしてくれるし」
勿論、お兄ちゃんみたいに?
ん?
暦「えっと、月火ちゃんはそいつの事が好きなんだよな」
月火「……うん」
お兄ちゃん、みたいに……?
あれ?
何で私、最後にお兄ちゃんみたいにって付けてるのさ! も、もしかして声に出してた? マズイ? ブラコンだと思われる?
けど、お兄ちゃんが「駄目だ! やっぱり認められねえ! 今すぐ別れろ!!」なんて怒り出したので、多分声には出していなかったのだろう。
……助かったぁ。
やはり駄目だ。 今日の朝というか、ついさっきお兄ちゃんにも言われたのだけど、私は少し変なのかもしれない。
そりゃまあ、私の彼氏はお兄ちゃんに似ている人だけども。
けど、だからと言ってお兄ちゃんの事がそこまで好きって訳では無い!
好きか嫌いかどっち? と聞かれたら、私はこう答える。
四十九対五十一で、好きな方です。 って。
接戦だ。 いつ逆転してもおかしくないくらいの接戦だ。
つまりは好きと嫌いの狭間に居る訳だ。 私のお兄ちゃんは。
ちなみに勝ち越している分は、私の優しさから来ている。 その優しさを抜いたら、逆転してしまうだろう。
なんだかこう考えると、お兄ちゃんには感謝して欲しい物だよね。 今度何か奢って貰おう。 断られそうだけど。
暦「おう、行ってらっさる」
と、いつの間にかどうやらお兄ちゃんは出掛ける事になっていたらしい。
いや、勿論話した内容は覚えているのだけど。
そうして私はお兄ちゃんを見送った後、お風呂場の扉を見つめながら口まで湯船に沈める。
はあ。
……一人になっちゃった。
一人で居る事は、結構苦手だったりするんだよね。
火憐ちゃんとは殆ど毎日、一緒に行動しているし。
だから、今日もお風呂に火憐ちゃんが居るであろうタイミングで入ったのだけど。
まあ、結果的には人は居た訳だから、良かったといえば良かったのかな。
そんな私だけど、今日は一人で出掛ける予定。
火憐ちゃんと一緒に服を見れたり、そういう女の子っぽい事が出来れば最高なんだけど。
生憎、火憐ちゃんはあまりそういうのに興味が無いらしい。 女の子らしく可愛いというよりは、男の子っぽく格好良い感じだしね。
たとえ一緒に服を見に行っても、火憐ちゃんは別の物に興味が惹かれるし、そんな火憐ちゃんを無碍にする事が出来ず、ついつい火憐ちゃんの後に付いて行ってしまうのだ。
いや、無碍にするとは少し違うかな。 正しくは、私が寂しいだけだ。
一緒に行ってから、一人になるのは少しばかり耐えられないのだ。
だから最近は初めから一人で行ったりする。 それもそれで、結構寂しいんだけども。
まあ、とにかく。
今日も一日頑張るぞー。
と、自分自身に気合いを入れたところで、何やら声が聞こえた。
「つ……ちゃん」
へ? 何やら声が聞こえた? なんで?
だって、ここは今お風呂場で。
私は、お兄ちゃんとさっきまで話していて。
「月火ちゃん!」
回想? 終わり。
目が覚めた。
そうだ。 私は寝ていたんだ。
休もうと思ったら、いつの間にか眠っていた。
夢の内容は、思い出せない。 見ていないかもしれないけど、それとは少し違う。
なんだか、靄がかかっている感じ。
でも、それよりも目に入ってきた光景に私は驚いた。
月火「……火憐、ちゃん?」
目の前には火憐ちゃんが、私のお姉ちゃんが居たから。
火憐「やっと見つけた。 帰ろうぜ、月火ちゃん」
何で、だろ。
あれだけ酷い事を言ったのに。 火憐ちゃんはいつも通り。
まさか、あれも夢だった?
いや、そんな訳無い。 だったら私がこんな知らない場所まで、一人で来る訳無いのに。
けど、火憐ちゃんはいつも通りの笑顔で、私に手を差し出している。
火憐「もう暗くなり始めてるしさ。 帰ってご飯食べようぜ」
月火「……私、酷い事言ったのに」
私がそう言うと、火憐ちゃんは頭を掻きながら、口を開く。
火憐「そりゃ、お互い様じゃねえの? あたしもあたしで、月火ちゃんに酷い事言ったしさ」
でも、それでも私が違う対応をしていれば、こうはならなかったでしょ。
火憐「月火ちゃんが家を出て行った後、急いで追いかけたんだけど見つからなくて」
すぐに追いかけたんだ。 火憐ちゃんらしいなぁ。
火憐「そこら中ずっと探し回ってて、んでその途中でずーっと考えたんだよ」
もう夕方じゃん。 私が家を飛び出したのなんて、まだお昼丁度くらいだったのに。 だから汗でびっしょりなんだ、火憐ちゃん。
火憐「どうやったら月火ちゃんと仲直りできるかーとかさ。 どうやった分かって貰えるのかなーとかさ」
そんなのは。
火憐「そんで、怒らせちゃったなぁ。 って、少しだけテンション下がっちゃって」
火憐「そんな事をだらだらと考えてたんだよ。 月火ちゃんを見つけるまで、ずっと」
月火「……私も、色々考えてたよ」
火憐「やっぱりそっか。 それでさ」
火憐「月火ちゃんを見つけて、月火ちゃんの顔を見たら、全部どーでも良くなっちまった」
笑いながら、火憐ちゃんは言う。
火憐「あたしは月火ちゃんが傍に居てくれれば、それで良いやってな」
私も、そうだ。
目が覚めて、火憐ちゃんの顔を見たとき。
すごく、安心できた。 すごく、嬉しかった。
月火「一緒だよ。 私も一緒」
月火「……ごめんね、火憐ちゃん」
月火「ごめ……んね……ごめん」
気付いたら、何故か泣いてしまっている。
火憐「わりいな、迎え遅くなって」
いや、違うよね。
何故かじゃない。
火憐ちゃんは、私が一人を嫌うのを知っているんだ。
だから多分、家を出て行った後すぐに探しに出たのだろう。
いくら喧嘩しても。 火憐ちゃんは一番私の事を知っている。
それが、嬉しくて。
火憐「それにこっちこそ。 ごめんな、月火ちゃん」
二人で笑い。 二人で手を取り合う。
私達には、それだけで充分だった。
その後、二人で並んで座って少しのお話をした後、帰る事となる。
火憐「しっかし、月火ちゃんもよく歩いたなぁ。 ここ、家から結構距離あるぜ」
月火「火憐ちゃんは知ってるの? この辺」
火憐「うん。 ジョギングする時によく通るし」
そっか。 私が知らなくて、火憐ちゃんが知っている事もいっぱいあるんだろうな。
火憐「月火ちゃん、疲れてるだろ? 肩車してやるよ」
月火「良いよ良いよ。 火憐ちゃんずっと走って探してたんでしょ? 倒れちゃうよ」
火憐「あたしを舐めるなよ、月火ちゃん。 まだまだ全然走れるぜ」
そんな事言われても、迷惑掛けちゃうし。
火憐「遠慮すんなよ? 気にする事でもねえし。 あたしは一応、月火ちゃんの姉ちゃんなんだぜ」
そう言われて、それもそうだなと私は思うのだった。
一応なんかでは無くて、お姉ちゃんだ。 火憐ちゃんは、私のお姉ちゃん。
火憐「あー。 つっても、あたし汗だらけだしな……」
月火「良いよ。 何の問題も無いよ」
火憐「服、汚れちまうぞ? 今日のって、結構気に入ってる奴じゃなかったっけ」
月火「気にする事じゃないよ。 服なんて、洗えば良いしね」
火憐「はは、そっか。 んじゃ、帰ろうぜ」
月火「うん。 帰ろう帰ろうー」
こうして、少しだけ長く感じた一日目は終わった。
一日目。 結果報告。
お兄ちゃん元通り作戦……進展無し。
少なくとも、友達は何も知らない様子だった。
これについては、明日以降に対策を練る。 対策と、対応と。
勿論、途中放棄はありえない。 それは無し。
現在考えられる事としては、やはり、私の記憶。
お昼の時は、ついつい熱くなって、火憐ちゃんにああも言ってしまったけれど、冷静に考えればそれが怪しいというのは当たり前の事。
所々飛んでいて、曖昧な記憶。
とりあえずはそちらから、埋めていくのが正解かもしれない。
との訳で、明日は街中を火憐ちゃんと一緒に散歩予定。 時刻と散歩に使う時間は未定。
以上が本日の報告。
……。
書き忘れ。
火憐ちゃんと仲直りをして、一緒に家に帰った。
これが多分、本日一番の成果。
夜ご飯はハンバーグだった。 火憐ちゃんが「あたしの半分やるよ」と言って、半分くれたのだけれど「それじゃ悪いから、私のも半分あげるよ」と言って半分あげた。
意味ないね。 と二人して、笑ったのを覚えている。
だけど、やはりお兄ちゃんが居ない食卓は少し寂しい。 火憐ちゃんも多分、同じ気持ちだと思う。
だから私は、この作戦を諦める訳には行かない。
最終目的決定。
お兄ちゃんを食卓に引き摺り出す事。
上記が成功次第、作戦終了としよう。
それじゃあ、次の報告では良い事が書けると信じて。
おやすみなさい。 お兄ちゃん、火憐ちゃん。
第五話へ 続く
二日目、朝。
窓から日差しが差し込んできて、意識がはっきりとし始める。
今日も忙しい一日になりそうだなぁ。 なんて事を早速思う。
でも、それはそれでやる事が無いよりかは、良いんだけどさ。
それに、この作戦に中断や失敗は許されないんだし。
で、目を開けると。
目の前には、床。
床?
月火「うぉおおおお!」
ベッドから体が半分はみ出していた。 落ちていてもおかしくなかった。 危ないじゃん!
というか。
私は一応、寝相とかは良い方だと思っていたのに。 軽くショック。
今までこんな事は一度も無かったはずなのに。
……いや、違う。
昨日もそうだったんだ。 昨日の朝も、ベッドから落ちそうになっていたんだ。
ここ最近の疲れの所為なのかなぁ。
火憐「おーい。 大丈夫か? 叫び声が聞こえたけど何かあった?」
と、火憐ちゃんがベッドの上に来て、尋ねてくる。
月火「う、ううん。 大丈夫。 ちょっとベッドから落ちそうになってて」
火憐「月火ちゃんが? 珍しい事もあるんだなぁ」
月火「うー。 不覚だよ、一生の不覚」
火憐「あたしなんてほぼ毎日床で起きるんだから、気にすんなよ」
そうそう。 火憐ちゃんは寝相が悪い。 だから私が二段ベッドの上っていうのもあるんだけど。
半分寝ながら部屋の外に出ようと歩いていると、火憐ちゃんを踏んでしまう事が結構な頻度であるのだ。
しかし、こう今までに無かった事が二日連続で起きるなんて。
幸先悪いなぁ。 本当に。
時間経過。
火憐「んじゃあ、今日はどうしよっか?」
月火「どこをどう周るか、だよね」
会議室にて作戦会議。
ただ行く当ても無く歩いても良いんだけど、それよりはしっかりとした目的地やルートを考えて歩いた方が、効率は良いだろうし。
火憐「とりあえずの目的は、月火ちゃんの思い出探しって事で良いんだよな?」
月火「うん。 そうなるね。 昨日はああ言っちゃったけど、やっぱり繋がりが絶対に無いなんて言えないし」
思い出探しって言い方は火憐ちゃんが言い出したのだけれど、なんだか恥ずかしいから止めて欲しい。 それを火憐ちゃんに伝えたら。
「んじゃあ、トラウマ探し?」なんて言うものだから、結局は最初の方で決まってしまった。
火憐「ってなると、月火ちゃんの記憶が曖昧な時、どこに行っていたかって事だよなぁ」
月火「それについては大丈夫だよ。 昨日の内に調べておいたから」
火憐「調べる? えっと、どうやって?」
月火「私の友達にメールしておいたんだよ。 「ここ最近、私を見ていたら場所と時間を教えて」って」
火憐「すげえ質問だな、それ……」
月火「まあ、皆は何かの遊びだと思っていると思うよ。 返事は来てるから」
皆が不審がらなかったのは、もしかすると私がそういう奴として見られているという事なのだろうか。
だとすると、どこでどう間違えたのか問い質したいけど。
火憐「おし。 それならとりあえずはそれをリストにしようぜ」
月火「ほいほい。 じゃあ纏めるけど」
近所のデパート。 四日前、午前十時頃。
夜中の町中。 四日前、午後十一時時頃。
廃墟付近。 二日前、午後九時頃。
神社の近く。 二日前、午前零時頃。
月火「みたいな感じらしいね」
火憐「らしいって事は、全部覚えが無いって事?」
月火「全部が全部って訳では無いかな。 デパートに行ったのは覚えてるし」
火憐「なるほどね。 つっても、あたしが覚えている月火ちゃんが家に居なかった時間とは合う感じだなぁ」
火憐「四日前の町中ってのは覚えが無いけど、確かその時あたしは寝ていたんだっけ」
火憐「あれ、ちょっと待てよ」
何かに気付いたのだろうか? いつになく真剣な顔付きの火憐ちゃん。
火憐「……そういや、その日って兄ちゃんと月火ちゃん一緒に寝てたよな!?」
ええ? それですか? 思い出さなくて良いのに。
しっかし……そんな事も、あったっけかなぁ。
何故寝る事になったのかとか分からないけど、朝起きたらお兄ちゃんが横に居て、火憐ちゃんに怒られたっていう経緯はなんとなく、覚えている。
うん、ちょっとだけからかってみよう。
月火「ふふん。 火憐ちゃんがモタモタしている内に、先回りって感じだよ」
火憐「なんだと!?」
月火「実はあの夜……いや、こんな事はとても私の口からは言えないよ。 お兄ちゃんとあんな事があったなんて」
火憐「おい! 言えよ! 何があったんだよ!?」
火憐ちゃん、私の肩を掴んでぐわんぐわん揺らしてくる。
月火「……ごめんね、火憐ちゃん」
火憐「謝るなー!!」
っと、話がずれた。
火憐ちゃんの誤解を解くのに少し時間を使ってしまったじゃないか。
まあ、とりあえず。 こんな時はアレを使おう。
閑話休題。
便利な言葉。
月火「そうなると、見間違えの可能性も低いって事かぁ……」
月火「なら、やっぱり私で間違い無いよね」
とは言っても、自分が知らない所で自分を目撃されているというのは、正直言って気味が悪い。
でも、そう考えていても事態は変わらない訳だし、この不思議現象の理由とかを調べないと駄目だ。
火憐「んじゃあさ、今日は神社に行ってみるか? あたしの友達も、月火ちゃんをそこで見たって言ってたし」
月火「私も同意見だよ。 でもさ、火憐ちゃん。 この廃墟ってのはどこか分かる?」
私がそう訊くと、火憐ちゃんは首を傾げながら答える。
火憐「んや。 わりぃ、あたしも分からねえや」
ふむ。
なら、この町の中では無いのだろうか?
とにかく一度、ここを訪ねる時は場所の再確認って所かな。
まずは今日の事だ。 神社へと行こう。
それで何か分かるのを期待して。
時間経過。
火憐「なあ、それはそうとさ月火ちゃん」
私の横を逆立ちで歩きながら、火憐ちゃんが話し掛けてくる。
月火「どしたの?」
火憐「この前、兄ちゃんとチューしそうになってたよな?」
月火「ぶほっ!」
なんでそんな痛々しい話を掘り返すのさ! そりゃあまあ、そうなんだけどさ!
火憐「あれって、どうして?」
月火「な、なになに火憐ちゃん。 どどどどうしたのさ急に」
火憐「いや落ち着けって……」
月火「わ、私は落ち着いてるよ。 これでもかってくらい、平常心」
火憐「月火ちゃんがそう言うなら良いけどさぁ。 んじゃあもう一回聞くけど、あれってどうしてああなったんだ?」
月火「あ、あれは。 その」
月火「……成り行きで」
お兄ちゃんと同じ言い訳をしてしまった。 したくも無いのに!
火憐「成り行きかよ! てっきり、兄ちゃんと月火ちゃんはそういう関係だと思ってたぜ。 この前一緒に寝てたのもあったし」
月火「そ、そういう関係ってどんな関係?」
火憐「暇があったらチューしてる兄妹。 みたいな?」
月火「そんな兄妹はあってはならない!!」
と、なんだかとても恥ずかしい話をしながら歩いていたら、いつの間にか目的地へと到着。
あれ? そういえば私、いつお兄ちゃんが「成り行きで」と言い訳したのを聞いたのだろう?
火憐「着いたみたいだな。 どう? 何か思い出す?」
横に居る火憐ちゃんが、私の方に顔を向け、訊いて来る。
その質問で、さっき感じていた違和感も霧の様に消えていってしまう。
月火「……特には思いださないかな。 けど」
火憐「けど?」
月火「何だか、嫌な感じがするね。 ここ」
火憐「ふうん? オカルト的な奴か。 あたしには全然分からねえなぁ」
火憐ちゃんはそう言っていたけど、確かに私はそう感じるのだ。
嫌な感じ。 私はここで何をしていたんだろう。
私はこの場所で-------、------。
火憐「おーい。 月火ちゃん?」
月火「え? 私、今……」
火憐「何だかぼーっとしてたぜ。 大丈夫?」
月火「う、うん。 大丈夫」
火憐「そっか、なら良いんだけどさ。 んで、どうする?」
月火「どうするって言うのは?」
火憐「この階段登って、鳥居とかの所まで見に行くかどうするかって話だよ。 聞いてなかった?」
月火「ごめんごめん。 うーんと、何かあるかもしれないし、行ってみよっか」
との訳で、私と火憐ちゃんはとりあえず、この神社の一番上まで登っていく事にした。
で、この滅茶苦茶長い階段を登り出した時点で、予想はしていたんだけど。
月火「か、火憐ちゃん。 ちょっと待って」
体力が持たなかった。
か弱い女の子なんです。 月火ちゃんは。
火憐「ちょっと辛かったか。 んじゃあこっからはおんぶだな!」
火憐ちゃん、実はおんぶするの結構好きだよね。
肩車をするのも好きだけど。 何かしら自分に負担を掛ける事が好きなのかもしれない。
月火「申し訳無いけど、頼むよ」
そして私も、火憐ちゃんにおんぶされるのは結構好きだったりする。
こういう小さい事でも、火憐ちゃんはしっかりとお姉ちゃんしているんだなぁ。
いつもは猪突猛進で、私もそれに便乗させてもらっているけれど。
お兄ちゃんとも喧嘩ばかりだったけどね。
けれど本当はお兄ちゃんの事も、私の事も、とても大切に思っていてくれてるのは知ってる。
火憐「お、見えてきたぜ。 月火ちゃん」
そんな声が聞こえ、火憐ちゃんの頭越しから奥に視線を移す。
月火「おお、到着だー」
そのまま、火憐ちゃんは一歩一歩進んで。
歩いて行き。
月火「うーん。 なんというか、寂れた場所だね」
火憐「そうだな。 しばらく人も来て無かったんじゃねえの?」
月火「っぽいよね。 こんな所に、私が本当にき」
その時だった。
途中まで出した言葉が止まる。 そうせざるを得ない状況に陥ったから。
つまり目の前に、奥の方に人が見えた。
あの人は、確か。
火憐「ん? どうした、月火ちゃん」
視界がぐらぐらと揺れる。
頭が、痛い。
月火「か、火憐ちゃん。 駄目、ここは……駄目」
火憐「あん? 駄目って、どうしたってんだよ」
月火「分からないけど、とにかく駄目なの。 今すぐ離れて、この神社から」
何故だろうか。
分からないけど、とにかく早く離れないと。
また、私はあの人に蹴られる。 殴られる。
それは、いやだ。
だから。
月火「逃げて! 火憐ちゃん!」
無我夢中で、火憐ちゃんにそう叫ぶ。
火憐「お、おう! 良く分からねえけど、分かった。 事情は後でだな!」
火憐ちゃんは言うと、進行方向を変え、来た道を戻ろうとした。
しかしそれは戻ろうとしただけで、戻る事ができなかった。
何故か。
目の前に、あいつが居たからだ。
月火「ひっ……!」
嫌だ嫌だ嫌だ。
やめて、やめてよ。
……助けて、お兄ちゃん。
そこで、私の意識が途切れてしまった。
以下、回想?
その日は確か、夜に物を買いに出掛けたんだ。
いや、それは言い訳。 ハンドクリームが切れているとお兄ちゃんに言って、一人になりたかったんだ。
いつもは一人は嫌いなのだけど、今日に限ってはそうでもなかった。
お兄ちゃんと一緒に居ると、一人で居る時よりもずっと辛いから。 だから今は一人の辛さの方が良い。
最近になって、特にそれを感じる。
具体的に言えば。
今日の朝、服を買いに行った時に、あのお化けと会ってから……かな。
以下、回想。
服を買いに行く途中。
デパートから家までは、結構な距離がある。
そこら辺はさすがは田舎町というか、寂れているというか、そんな感じ。
で、ただ馬鹿正直に進んだら、私の体力ではぶっちゃけもたない。
そこで普段の情報が意外と役に立ったりする。 情報、デパートまでの裏道。
これを使えば、普通に行くよりは全然楽。 時間も結構短縮できる。
そしてそんな裏道を使おうと、路地裏に入り込んで私は進んでいた。
やっぱりそういう細かな情報でも、活用しないとね。
その時。
前方から人影が見えて来た。
おかしいな。 この道は私と火憐ちゃんとその友達くらいしか、知らないはずなんだけど。
だとすると、私達の友達だろうか?
とか思っていたら、段々とその人影が歩いてきて。
顔が次第にはっきりと見えてくる。
え。
何、これ。 今目の前に居るのって。
嫌というほど見覚えがある。
というか、毎日見ている。 一日必ず一回は。
つまりは。
私じゃん。
月火「……へ?」
「こんにちは」
……いきなり挨拶された。
月火「えーっと」
もしかして、私って双子だったのか。
いや、無いでしょ。
なら、何これ。
「混乱しちゃってるかぁ。 まあ、無理も無いけどさ」
「私は阿良々木月火であって、そうじゃないんだよ。 ただのお化けだと思ってもらえれば、良いかな」
月火「え、ええっと」
「もう、落ち着いて落ち着いて。 別に取って食おうって訳でも無いんだし」
月火「に、逃げた方が良い?」
「なにも逃げなくても良いじゃん……」
「っていうか、それを私に聞くの?」
月火「……それもそうだね」
月火「なら、あなたは何者?」
それにしても、随分と落ち着いてるな、私。
驚きすぎて、一週回って落ち着いている感じなのだろうか?
それか、この不思議現象の原因を知りたいのかも。
「聞いた事無い? いや、私は私だから、ある筈だよね。 ドッペルゲンガー」
ドッペルゲンガー。
都市伝説的な話で、何回か耳にした事はある。
確か、ドッペルゲンガーと出会った人は、死ぬ。
月火「わ、私死んじゃうの!?」
「死なない死なない。 死なないから」
月火「で、でも……」
「私はさ、あなたの為に来たんだよ」
「あなたの願いを叶えてあげる」
目の前の私は、私に向けて、そう言った。
月火「な、なら今すぐ消えて!」
「何それ酷く無い!?」
ツッコミまで私そっくりだった。 気持ち悪い!
月火「だ、だって気味が悪いし」
「いや、それもそうかも知れないけどさぁ。 何か他に、無いの?」
月火「私に頼む事なんて無いよ。 別に、悩んでいる訳じゃないし」
「そう? なら私には会えないはずなんだけど」
月火「そうなの? うーん。 って言われてもなぁ」
「誰にも言わないからさ。 ほれ、言ってみ」
聞く側に回って初めて思ったけど、喋り方がうざい! 私自身だけども!
月火「何でも良いの?」
「基本的にはね。 超能力者になりたいとかは、さすがに無理だけど」
月火「なんだ、万能って訳じゃないんだ」
「そりゃそうだよ。 私はドッペルゲンガーだし」
いやいや、それ何の説得力も無いけど。
月火「うーん。 それならどうしよっかな」
「あ、一応先に言っておくけどさ」
「今から私が私に言う願いと、あともう一つ叶えるんだよ」
私私うるさいな。 月火ワンと月火ツーで良いじゃんか。
月火「もう一つ?」
まあ、そんな事を言える訳も無く、仕方なく聞き返す。
「そ。 私が私に口に出した願いと、心の奥で願っている事」
「その二つを叶えてあげるって化物なんだよ。 私は」
なんだか信憑性に欠ける話だなぁ。
月火「……物は試し、って事かな」
で、そんな訳で一人納得し、とりあえずは一つ、願ってみる事にした。
月火「絶対に、言わない?」
「言わない言わない。 私を信じてよ」
月火「本当に、何があっても?」
「うんうん。 何があっても言わないから」
月火「その何があっても言わないって事が願いになっていて、今から私が言う事は叶えてくれないとか、そういうオチでは無いよね?」
「いいからさっさと言え!」
やっぱり、うざい。
それにやっぱり、自分自身にツッコミされるのは気持ち悪い!
月火「うう、分かったよ。 お願い、だよね」
月火「私は」
月火「お兄ちゃんと、一緒に居たい」
第六話へ 続く
回想終わり。
そう、願った。
だけども、私は分かっているんだ。
心の中で、お兄ちゃんと早く離れたいと思っている事に。
お兄ちゃんだけじゃない。 火憐ちゃんも、そうだ。
けど、火憐ちゃんに思っている事と、お兄ちゃんに思っている事は違う。
お兄ちゃんは高校三年生で、もうすぐ、その時がやってくる。 少なくとも、火憐ちゃんよりも先に。
そりゃそうだ。 いつかはお兄ちゃんだって、家を出て行く。
それは大学へ行ってからかもしれないし、働き始めたらかもしれない。
今はまだ、いつか何て分からないけど。
時間が経てば、そうならざるを得ないから。
勿論私だって、いつまでもあの家に居る訳じゃない。
けどそれよりも先にお兄ちゃんが居なくなって、火憐ちゃんが居なくなって。
一人っきり。
だから、それを早く済ませたい。
嫌な事は、早くに終わらせたいから。
その時までずっと、こんな気持ちを抱いていたくないから。
今済ませてしまえば……その内、気には無くなるだろう。
時間の経過というものは、結構残酷だったりする。
その時はとても辛くても、次第にその傷は癒えていく。 お兄ちゃんと今すぐに離れられれば、数年経てば私も楽になると思う。 それが、唯一の手段。
自己中だよね。 本当に。
けど、私には何よりそれが辛くて辛くて、仕方ない。
毎日毎日、火憐ちゃんと一緒に居て。 お兄ちゃんとくだらない話をして。
私は一応、二人の前では普通で居られる。 いや、意識してやっている訳では無いんだけど。
よく、ずる賢いだとか気持ちの切り替えが早いとか言われるけども。
私はこう思う。 それは多分、中途半端なだけなんじゃないかって。
お兄ちゃんと一緒に居たい。 勿論、火憐ちゃんとも一緒に居たい。
けど、一緒に居たくない。 思えば思うほど、気持ちは重くなっていく。
そうしていつまでも悩んでいたら、やがてその時は来るだろうし。
それまでに、何度こんな気持ちになるのだろうか。 何度悩まなければいけないのだろうか。
……いつもそうだ。
最後に残るのは、決まって私。
一人になるのは、決まって私。
取り残されるのが、私だ。
それが末っ子なんだから。 と言われればそれまでかもしれないけどさ。
でも、だからこそ。 私は一人というのを嫌っているのかもしれない。
なんて、難しい事考えていても仕方ないよね。
もう少しだけ夜風を浴びたら、家に帰るとしよう。
こうしてだらだらと歩きながら考えていたら、お昼に会ったお化けも、なんだか性質の悪い夢の様な気がしてきた。
いや、だってそりゃそうでしょ。 いきなり願いを叶えるだなんて。
まあ、一応は願っておいたんだけど。
でも、最後にあのお化けは「頑張ってね」とか言っていたなぁ。
はて。 何をどう頑張れば良いのやら。 私には全く分からない。
うーん。 なんだか分からない事だらけだ。
これからどうすれば良いのかなぁ。
家に帰っても、辛いだけだよね。 いつまでもこうしている訳にはいかないけど。
……はあ。 落ち込む。
って、溜息ばかりじゃん!
溜息をつくと幸せが逃げていくとは良く言った物で、実際は幸せが逃げていってるから溜息が出るんでしょ?
まあ、そんな誰が最初に言い出したか分からない言葉に怒っても、仕方無いか。
というか、やっぱり一人は何だか寂しい。 家に帰ろう。
少しの間でも、皆と一緒が良いし。
矛盾、しているよね。 私。
辛いけど暖かくて、楽だけど寂しい。
どっちもどっちなんだろうな、きっと。
誰にも、気付いて貰えないんだろうな。 きっと。
月火「……まあ、良いや」
自分に言い聞かせる様に、呟く。
さて、本当にそろそろ帰らないと心配されてしまうかもしれない。
とりあえずは家に帰ろう。
そう思い、来た道を戻ろうと振り返る。
今まで何も居ない筈だった空間。 そこには、人が居た。
一体、いつから居たのだろうか? まるで気付かなかった。
「やあ」
挨拶される。 知り合い、では無いよね。 こんなおっさん、私は知らないし。
それに、こんな田舎町でも髪を染めてるなんて。 って事は、この辺りに住んでいる人では無い。 つまり余所者。
月火「すいません。 私帰るので」
結論、関わらない方が良い。
そして、その得体の知れないおっさんの横を通り過ぎる。
否、通り過ぎようとした。
「いやいや、僕は君に用事があったんだからさ。 逃げないでよ」
言われ、腕を捕まれる。
月火「は、離してください。 私には用事なんて無いです」
「離すのは断る。 けど少しくらい話してくれてもいいだろ?」
月火「大声、出しますよ」
「良いよ、構わない」
この野郎。
どうせ、私が声を出せないとでも思っているのだろう。
なら、やってやる。
月火「……っ!」
息を吸って、声を出そうとしたその時。
お腹に、そいつの拳がめり込んでいた。
いきなり、暴力って。
月火「げほっ……げほ……!」
痛い。
咽る。 吐きそうだ。 気持ち悪い。
お兄ちゃんにも何度か殴られた事はあるけど、そんなのは冗談混じりでやっているだろうし、本気で殴られた事なんて無い。
いや、あったかもしれない。 お兄ちゃんは結構酷いから。
けど、それとは全然違う。
大人だからか、それともこの人が鍛えているのか分からないけど。
こんなにも、痛いのか。
「ああ、ごめんごめん。 構わないよって言うのは、君がどれだけ傷を負おうと構わないって事なんだ。 勘違いさせたみたいだね」
月火「……し、しね! 人でなし!」
精一杯。
声を絞り出して。
「はは、残念ながらそれは聞けない。 まあ、人でなしってのはこの場合、悪口では無いんだけど」
「それじゃあ、行こうか」
そう言い、私を肩に担ぎ、そいつは歩く。
暴れようにも、動けない。
叫ぼうにも、声が出ない。
どこに、行くんだ。
私は、どうなるのだろう。
痛いよ。
怖いよ。
お兄ちゃん、火憐ちゃん。
ごめんね。
今日はちょっと、帰れないかもしれない。
やがて、見覚えが全く無い神社へと私は連れて来られた。
これから、何をするつもりだ。 こんな所に連れてきて。
……あまり、良い想像は出来ない。
まさかこんな田舎町で、こんな誘拐事件が起きるとは。
「君さ、ドッペルゲンガーって知っているかい?」
唐突に、そいつが私に話し掛けてきた。
ドッペルゲンガー。 このタイミングで、その単語。
嫌でも昼間の私自身を思い出す。
こいつは、何を知っているんだろうか。 少なくとも、あのお化けの事は知っている様だけど。
「知っている顔だね。 なら、君の所為でこうなってるんだよ」
月火「わ、私の……所為?」
「そうだ。 君が願ったドッペルゲンガー。 そいつが僕の所へ来て、願っていったんだ」
ドッペルゲンガーが願った? 何故?
それに、昼間のあいつがこいつの所へ行った?
「ああ、言い忘れていたけど、僕もドッペルゲンガーなんだよ」
しばし、思考。
そういう事か。
つまりは、ドッペルゲンガーがドッペルゲンガーに願いをしたって事、だよね。
「んで、君が願ったドッペルゲンガーから願われた」
「阿良々木くんを殺してくれってね」
「一応言っておくけど、阿良々木くんってのは君が大好きなお兄ちゃんの事だよ。 それくらいは分かるだろ?」
お、お兄ちゃんを殺してくれ? そんな、なんで。
月火「私はそんな事、願ってなんかいない!」
「そうかいそうかい。 で、それがどうかしたのかい?」
月火「ど、どうかしたって。 だって、あなた達は願いを叶えるって」
「僕達にも色々あるんだよ。 けど一々説明も面倒だなぁ」
「うーん。 そうだね。 この場合、手っ取り早く済ませる方法としては」
「あれは嘘だ。 本当は願いなんて叶えない」
月火「そ、そんな! でも、だからってお兄ちゃんを殺すだなんて!」
「あー。 そんなショックを受けるなって。 願いは願いで叶える事もあるんだしさ。 まあ、今回は色々と複雑なんだよ」
「君はただ、運が悪かったとでも思って置けば良いさ」
運が、悪かった。 だと?
それで、全部諦めろって?
お兄ちゃんがお前に狙われるのを見てろと?
冗談じゃない。 そんな事で、私はお兄ちゃんが殺されるのを良しと出来る筈が無い。
月火「死ね、化物」
「全く、君は本当に口が悪い。 ま、どうでもいいんだけど」
「けど、あんまり元気でぺらぺら喋られても困るし。 どれ」
そう言いながら、その化物は私のお腹を蹴り上げる。
容赦無く、手加減無く。
月火「ごほっ! ……ううう」
痛い。
体も痛いけど。
それよりも、私一人だけだという事が、近くに誰も居ないという事が辛い。 辛くて、痛い。
あんな夜遅くに家を出るんじゃなかったとか、せめてお兄ちゃんと一緒に居ればとか。
そんな後悔をしても、遅い。
誰も、こんな所に来る訳が無い。
私はこのまま、死ぬのだろうか。
「ほら、ちょっとそっちに行ってくれよ」
そう言われて、首を捕まれて、柱の影へと投げられる。
「そろそろだしさ」
そろそろって、何だろうか。
お腹が痛い、思考がうまくできない。
そして、それから少しして。
「忍野、来たぞ」
声が聞こえた。
私が、良く知っている声。
でも、どうして?
こんな所、分かる筈が無いのに。
なら、そうだ。 多分、幻聴か。
「それで、月火ちゃんは?」
また聞こえた。
程なくして化物が私の首を再び掴み、柱の影から移動させる。
目の前を見ると、暗くてはっきりとは見えなかったけど。
お兄ちゃんが、居た。
だとしたら、さっきまでの会話も幻聴じゃない……?
だとすると、この化物とお兄ちゃんは、知り合い?
訳が分からない。
お兄ちゃんにそれを聞いたら、返事は無かった。
何故か、私を見る目もどこか、冷たい気がする。
どうしてだろう。
……。
会話を聞いて、考える。
忍野、と言ったか。 この化物は。
そして、私をドッペルゲンガーにしようとしている?
お兄ちゃんを騙して、私がそうだと信じ込ませようと、しているのか。
それが分かり、お兄ちゃんに向け、私は必死に叫んだ。
怖くて、悲しくて、寂しくて。 涙が止まらない。
お兄ちゃんは私を見て、今もまだ動かない。
怖いよ、お兄ちゃん。
また叫ぼうか、そう考えた時。
本日何度目かの蹴りがお腹に入る。
意識はもう、殆ど残ってない。
そこに更に、何度も何度も蹴りが入る。
薄っすらと見える先に、お兄ちゃんが立っていた。
動かないお兄ちゃんを怒っている訳じゃない。
ただ、もしかしたら最後の言葉になるかもしれないから。
せめて、別れの言葉くらいは伝えないと。
月火「……お、おにい……ちゃん」
さようならとか、今までありがとうとか。
月火「た……すけ、て」
あれ、おかしいな。 そんな事言おうと思った訳じゃないのに。
勝手に、助けを求めていた。
お兄ちゃんに。 私が多分、この世で一番信頼しているであろう人に。
……結局、最後の最後でも私は強くはなれないんだな。
もし。
もし次の機会があったなら。
私も今以上にお兄ちゃんを信じて、もう少しだけ強くいよう。
回想?終わり。
目が覚めた。
というか、最近なんだかこのパターンが多い。
いや、まあそりゃ寝て起きては毎日している訳だから、当たり前っちゃ当たり前なんだけど。
にしても不思議なのが、夢の内容を殆ど覚えていない事。
けど決まって、どこか暖かい気持ちになっている。 何故かは分からない。
火憐「おーい、大丈夫か?」
火憐ちゃんの顔が、視界に入ってきた。 すごい、これもまた二日連続だ。
月火「火憐……ちゃん。 えっと、ここは?」
火憐「さっきの神社だよ。 月火ちゃん、気付いたら寝ているからさ、びっくりしたぜ」
火憐「それによー。 人見知りもそろそろ卒業しないと駄目だぜ、月火ちゃん」
月火「へ? 人見知り?」
火憐「うん。 知らない人がいたからって、逃げろーとか言ってたじゃん」
月火「……私、そんな事言ったっけ?」
火憐「……あれ? あたしの聞き違いだったかな?」
私が覚えているのは、神社の上に着いたまでの記憶。
その後どうしてか、気付いたら今のこの状態という訳で。
「大丈夫かい? 大分混乱している様だけど」
私の記憶に無い、知らない人がそこに居た。
月火「え、ええっと」
「ああ、ごめんごめん。 先に自己紹介だったね。 僕の名前は忍野メメ」
忍野「宜しくね。 妹ちゃん」
いやいやいや。
全く以って状況が分からない。
まず、誰ですかこの人は。
見た目的に、この辺りに住んでいる人で無いのは確かだけど。
火憐「んな堅苦しい挨拶なんていらねえよ、忍野さん」
火憐ちゃんは火憐ちゃんで打ち解けてるし!
月火「あ、えっと。 初めまして? 忍野さん」
とりあえず挨拶。 まさかとは思うけど、遠い親戚とかじゃないよね。
忍野「はは。 初めまして」
忍野「ま、今回は出会いが最悪の形だったかな。 僕の影響ってのが、大きすぎたのかもしれないなぁ」
忍野「……それも仕方ないか。 酷い目に会わされているんだから」
忍野さんが言っている言葉の意味は、分からない。
しかしそれよりも、この状況の方がよっぽど意味が分からない。
月火「あの、とりあえず状況が全く分からないんですけど」
火憐「ん? ああそっか。 月火ちゃんは寝てたんだっけか」
火憐「あたし達でこの神社に来たのは覚えてるだろ? んでさ、忍野さんが先に居たんだよ」
火憐「で、どうやらあたし達の事を待っていたらしい! 以上だ」
ごめん火憐ちゃん、全然分からない。
月火「……忍野さんと私達は、どこかで繋がりとかあるんですか?」
月火「それに、待っていたって事は、私達が今日ここに来るのを知っていたんですよね? それは、どうしてですか?」
忍野「うん。 まずは一つ目の質問だけど」
忍野「繋がりはあった。 って言うのが正しいね。 君達二人とも知らないだろうけどさ。 そんな小さな繋がりだよ」
忍野「で、二つ目の質問だ」
忍野「今日、って訳じゃ無いけど、ここに来るのは知っていたよ」
忍野「もっともそれは、君に言われた事なんだけど」
月火「私に、言われた?」
忍野「ああいや、それは気にしなくて良いよ。 とにかく僕は妹ちゃん達に用事があるんだ」
気にしない方が、無理だと思うけど。
というか、今、妹ちゃん『達』と言ったよね? それは少し、妙だ。
月火「忍野さんはもしかして、お兄ちゃんと知り合いですか?」
私の質問に、驚いた表情を見せ、忍野さんは答える。
忍野「あっはっは。 さすがはちっさい方の妹ちゃんって事かな。 まあそうだよ。 僕は阿良々木くんを知っている」
忍野「色々とあったからね、彼とは」
これは、思わぬ進展だ。
もしかしたら、忍野さんはお兄ちゃんが今の状態になっている理由を知っているかもしれない。
その可能性は、ある。
それも少しでは無く、大いに。
月火「……あの」
月火「今、お兄ちゃんが変なんです。 理由、知っていますよね?」
忍野「……ふむ。 どうして、そう思うのかな? 僕が理由を知っていると」
月火「そうじゃなければ、忍野さんがここに居る理由がありません。 それに、私達に用事があるって事は知っている可能性が高いと思って」
忍野「なるほどなるほど。 隠すつもりも無いし、答えちゃうけど」
忍野「理由は知っている。 けど教える事は出来ない」
忍野さんは、笑いながらそう言うのだった。
第七話へ 続く
続き
月火「どういたしまして、お兄ちゃん」【中編】