1 : VIPに... - 2012/03/24 21:43:59.96 3EJp6ei0o 1/18

000


「阿良々木君、怪異なんて本当はいないのだよ」

怪異の専門家であるアロハのおっさん。
忍野メメはそう切り出した。

「なんだ忍野?藪から棒に」

「まあ、こいつは一種のカウンセリングの様なものさ」

「カウンセリング?」

阿良々木君のように脆弱で薄くて弱い精神の持ち主は専門家のサポートが必要なのよ。
大丈夫?生きていてつらくはない?何か助けがいる?
そんな事を先日、ヶ原さんに言われた事をふと思い出した。

「そんなに大げさなもんでもないんだけどね。
阿良々木君には少し必要だと思って」

妙に勿体ぶった言い回しに思えた
この男はいつもそうだけれど。

「どんなカウンセリングなんだ?」

「そうだねぇ
・・・怪異にあえばそれに惹かれやすくなるのは知っているよね?」

そう。
怪異を知った者、一度怪異と関わった者は、またそれに惹かれやすくなってしまうらしい。
忍野が度々言っていることだ。

「まあ、一応な」

「阿良々木君は特にその傾向が強いみたいだからねえ。
ここらで今一度怪異に対する認識を調整した方がいいんじゃないかと思ってね」

「調整・・・」

「そ、調整。
バランスを取るわけさ。
まあそんな訳だから、話半分に聞いて行ってよ」

怪異と人間のバランスを取る。
忍野が最も重要視しているポイント。

僕は何かバランスを崩すような真似をしてしまったのだろうか?

・・・今さらか。

「よくわからないが、忍野。
お前の言うことだし聞いてみるよ」

「そうかい?
・・・じゃあまず、君は春休みに吸血鬼となんか出会っていない」

「えっ?」

元スレ
阿良々木暦「怪異なんて、本当はいないのだから」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1332593039/

2 : VIPに... - 2012/03/24 21:45:47.52 3EJp6ei0o 2/18

001


忍野からの突然の『カウンセリング』に僕は戸惑いを隠せなかった。

「だってそうだろう?
怪異なんて本当はいないのだから」

「・・・そういう話かよ」

怪異なんて本当はいない。
これも忍野がよく言う言葉だった。

「そうそう、鬼に襲われた少年・阿良々木暦は、本当は吸血鬼に襲われちゃあいない」

「・・・。」

「君は吸血鬼になっちゃいないし、
不老不死でも怪力でも治癒力があるわけでも無い」

「でも、実際僕は何度も吸血鬼の能力を使ったぜ?」

そう、僕は春休みになってすぐに
吸血鬼に出会い、吸血鬼になったのだ。

どうにか人間には戻れたが、その時の後遺傷で少しだけ吸血鬼の能力が残っている。

それ以降いく度か吸血鬼の能力を使った事もある。


これは紛れもない事実だし、偽りない真実だ。

「阿良々木君が吸血鬼の能力を使った、そのすべてが怪異絡みなんだよ。
いや、すべてではないか。
でも殆どが怪異相手、『架空の者に架空の能力を使ったに過ぎない』のじゃあないかい?」

「・・・。」

「傷が治るのは、はじめからケガなどしてないからだし。
怪力もすべて怪異と戦った時だけだ。」


これもまた、紛れもない事実で、偽りない真実でもある。


「いくつかの例外をひとつひとつ説明しようか。
君が怪異相手以外に吸血鬼の能力を使った時の説明さ」

「ああ、続けてくれ」

「まずは記念すべき第一話の冒頭、戦場ヶ原ひたぎ、ツンデレちゃんにホッチキスを付きつけられた時だよ」

3 : VIPに... - 2012/03/24 21:49:33.49 3EJp6ei0o 3/18

002


忍野の話は続く

「コレはなんでもない、口腔内の粘膜は治りが早いからねえ。
歯を磨いてて血が出た時なんかも、何時までも血がダラダラ出るかい?出ないだろう。
それと同じさ。」

忍野の言っていることも、あり得ない話ではないのだ
いや、怪異なんてものが存在すると思うよりはずっと現実的な話ですらある

「小さなホッチキスの針の穴が1分弱でふさがってもおかしくはない。
ましてや君は健康な高三男子なんだしね
あるいはホッチキスの故障で、針など刺さっていなかったとか、はじめから針の入っていないホッチキスで脅したとか・・・
可能性はいろいろあるねえ」

僕は黙って聞いているしかなかった

「あとは羽川翼、委員長ちゃんの父親に殴られた傷を治した時かな?
ああ、春休みに彼女がヴァンパイアハンターにやられた傷は当然はじめからケガなどしてなかったよ。
そもそもあのヴァンパイアハンターたちも本当は存在しない 」

「・・・。」

「父親に殴られた顔にはガーゼが貼ってあったよね?
あの下は本当は大したことのないアザがあっただけなのさ
君がガーゼを剥がしたときに、大怪我だと錯覚したにすぎない 」

錯覚。
怪異とは、錯覚なのだろうか?

「隠されていた部分を覗き見てみれば、そこには怪異が潜んでいた。
これこそ怪異譚の基本だよねえ阿良々木君?」

幽霊の正体見たり枯れ尾花

僕が体験した怪異たちとは、本当は何だったのだろう?
あるいは、本当は何も無かったのだろうか?

「阿良々木君が怪異相手以外に能力を使ったのはこれだけかな?
ぱっと思いついたのはこれだけだが、他にあったとしても何かしらの説明がつくよ」

「そう、か・・・」

「そんなわけで、阿良々木君の春休みの大冒険はただの家出で、
ハートアンダーブレードは存在せず、忍ちゃんはただの君の影法師さ」

忍が初めからこの世には存在しない。

これが、忍野の言うカウンセリングか。
今まで忍野に言われたどんな言葉よりも・・・

いや、まだ続きがある
最後まできちんと聞こう。

「そんな確認を一つずつしていくのか?」

「そうだよ。次は・・・時系列順ではなくて話数順に行こうか?
ツンデレちゃんの怪異を説明しようかな」

「ああ、続きを頼むよ。忍野」

4 : VIPに... - 2012/03/24 21:56:22.01 3EJp6ei0o 4/18

003


忍野の話は続く
僕が襲われた怪異に続き、次は戦場ヶ原の出逢った怪異だ

「体重が5kgになる奇病。そんなモノが発見された記録はない
ツンデレちゃんは病院に行ったと言っていけど、もしそんな奇病が実在すれば大騒ぎだ
すなわち、彼女は体重が5kgになったと錯覚しただけ、あるいは病院には行っていないかだね 」

確かに、納得のいく推測ではある

「病院に行っていたとしたら、たぶん精神科を紹介されたんじゃないかな?
ヤブ医者がどうとか言っていたしさ
彼女の体重は今も昔もかわらずだよ」

「・・・。」

「ここから先は完全に憶測だけれど、両親の離婚や破産のストレスが
彼女に幻覚をもたらしたのかもしれないね
ま、よくあることさ」

よくあること
よくある現実から眼を背けたくて、
よくないことを想い描く

それこそが、怪異なのかもしれない

5 : VIPに... - 2012/03/24 22:10:43.66 3EJp6ei0o 5/18

004


「次は八九寺真宵、迷子ちゃんだね。
彼女に関しては説明要るかい?
もちろんこの世には存在しないよ。
現にツンデレちゃんは彼女の存在を感知できなかったろう?いないのさ。」

「でも実際、新聞に八九寺の記事はあったぜ?
それに羽川も八九寺を見ている」

「ああ、どうして彼女の事故死を知っていたか、だね。
彼女が死んでいる事実を知らないと誤認のしようもないからね 」

そうだ。僕は八九寺の存在を知らずに彼女に出会った
たとえ他の誰に見えなくても、彼女は間違いなく存在している

「たまたまあの公園で近所の小学生が噂してたんじゃない?
『真宵ちゃんみたいになるぞー』とかさ 。
10年前に事故死した子が小学校で噂として存在し続けても不思議じゃない 。
君はそれを聞いて彼女の幻影を見たんだよ。委員長ちゃんもね」

少し強引な解釈にも思えるが、幽霊である八九寺の存在を証明するよりは。と言ったところだ

「委員長ちゃんはもしかすると、はじめから迷子ちゃんの事故を知っていたのかもね。
他にも阿良々木君が事故の記事を何かで読んでいたのかもしれないし、
他の要因から知っていたかもしれない。」

「・・・。」

「何にせよ、彼女は死者だ。気軽に空想の中に登場させるべきではないんじゃあないかな?」

「そう、だろうか」

そう、八九寺は死者だ。
そこだけは覆らない事実でる。

八九寺は、10年前に死んでいる。

「そろそろ僕の意図が分かってきたかい?
大丈夫、本題は最後さ。
・・・話数順どおりにね」

6 : VIPに... - 2012/03/24 22:15:09.78 3EJp6ei0o 6/18

005


「次は神原か?」

「そうだね、彼女もほぼ説明不要だよ。
自分で夜襲かけただけさ 。自らの意思でね。」

あくまでも、他ならぬ神原自身の意思。
猿の手などに願わなくても、猿の手など存在しなくても、神原は僕を亡き者にしようとしただろう。

神原の戦場ヶ原に対する思いは、それ程に深い。
それは痛いほど思い知っている。

神原も、僕も、そこに神原の意思以外の何ものかの介入があったと信じたかったのだろう。

そうして生み出されたのが、神原が願った怪異。

怪異は外側には存在せず、人間の内側にのみ存在しているのだから。

「君とのバトルも怪異が存在しない以上ただの殴り合いの喧嘩さ。
痴情のもつれが原因のね 」

痴情のもつれって。
ああ、間違ってはいないか。

「そうだ、吹き飛ばされたように見えた阿良々木君のマウンテンバイクもスクラップになってはいないよ。あの時点ではね 。
今頃は道端で錆びついてるんじゃあないかな?」

「・・・。」

7 : VIPに... - 2012/03/24 22:17:32.33 3EJp6ei0o 7/18

006


「次は千石撫子、前髪ちゃんだ 。
うーん、そうだな。ここまで話を聞いた阿良々木君には細かい解説は必要無いんじゃあないかな?
阿良々木君、女子中学生にいっぱいセクハラできてよかったね」

「ああ、最高だった」

心からの言葉だった。


そして、千石の怪異の話、終了。




「僕としては、阿良々木君がどうやって女子中学生と知り合ったかのほうが気になるけどね」

「・・・そのうち話すよ」

「そっか。まあ、前髪ちゃんの話はこれで終わるよ。」

「ああ。続けてくれ、忍野。最後まで付き合うよ」

「最後まで、か。
うん。僕としても最後が気になるからね」

15 : VIPに... - 2012/03/26 09:29:46.10 qCR8h79jo 8/18

007


「次は羽川翼、委員長ちゃんは登場エピソードが多いね」

「まぁ、忍野と知り合う前からの付き合いだしな」

「ああ。彼女が関わった怪異については半分以上はすでに話したかな?」

猫に魅入られた少女、羽川翼。
彼女はその精神に猫を宿している。

その猫は彼女のストレスが高まった時に現れ、人格を乗っ取る。
羽川は正気を失い、気が済むまで暴れ狂うのだ。

春休みの時と文化祭直前の2回、彼女は猫に魅入られた。

「春休みの件はさっきも言ったね、重症など負っていない 。

ゴールデンウィークは彼女が暴れただけ、彼女の頭は怪異と関係なく優秀だから
バレないように上手くやったんだろうね 。
いやぁ、阿良々木君の説得で彼女も自分の凶行を反省したみたいでよかったね。うん。
そうでなければ歯止めが効かなくなってたかもね。よかったよかった。
まったくめでたしめでたしな結末だったよ。」

忍が存在しない以上は僕が羽川を止めたことになるのか。

いや、忍野の言葉を借りるならば、羽川が勝手に助かっただけなんだろうな。

「二度目の猫で君が襲われたのもまたしても阿良々木君との痴情のもつれで委員長ちゃんが家出しただけだよ。
モテる男は辛いねえ阿良々木君?いや、もっと辛い人もいるかもねえ?」

「別に、僕はモテてなんか・・・」

「ふぅん?まあそれはそれとして、委員長ちゃんも前回で反省したのか、
この時は誰かを傷つけるような真似はしなかったようだね。」

「その時だけどさ、僕は羽川にぶっ飛ばされて、エナジードレインを食らって、
忍に助けてもらってようやく事なきを得たんだぜ?」

「ああ、それかい?阿良々木君を組み伏せたのも普通に委員長ちゃんの腕力と運動能力で、さ。
あと、阿良々木君が力を吸い取られた、エナジードレインされたかのように感じたのは
薄着の委員長ちゃんに密着されて阿良々木君の思春期な部分が反応しちゃっただけだろうね。
要するにおっぱいの力だよ。おっぱい最強。

忍ちゃん?誰だいそれは?
そんなものはこの世に存在しないんだから、阿良々木君が単純に委員長ちゃんを振りほどいただけだよ。
男子の腕力ならそう女の子一人くらいどうとだってなるさ。

ん?自分が女の子を殴るわけない?
ああ、阿良々木君はそういう人だもんねぇ。
じゃあ真実を教えてあげるよ」

「・・・。」

17 : VIPに... - 2012/03/26 09:42:07.81 qCR8h79jo 9/18

008

「次に阿良々木君の妹、長女の火憐ちゃんの話だね」

ん?待てよ。よく考えたらいろいろおかしいだろ。この会話。

「まてよ忍野。そっちの話もすると、時系列的にお前が知らない話だろ」

「あー、それじゃあ、これは阿良々木君の夢のなかのおはなしで
夢で僕が語りかけてる。ってのはどうだい?」

「いいかげんだな」

いいかげんなおっさん、忍野メメ。
職業はホームレス。

そろそろこいつの存在自体も怪異で、本当はこの世に存在しないのではないかと思えてきた。

「それともオチで僕が阿良々木君に『お疲れ様でしたー。再来週の金曜にまた来てくださいねー』とか言っちゃえば」

「精神病院オチじゃねえか!ホントのカウンセリングか!」

それだけは避けたい酷いオチだった。

「まあ細かいことは気にせず、君の妹の怪異の話しさ」

「ああ」

僕の大きい方の妹。阿良々木火憐は蜂に刺された。

熱と痛みに苦しみ、それでも闘おうとしたマゾかっけー妹だ。

「蜂に刺された少女。ただの催眠術だね」

「催眠術って」

単純明快すぎる結論だった。

確かに、貝木は偽物の怪異と言っていた。
怪異に偽物も本物もあるのかは、今の僕にはもうわからなくなっているけれども。

それでも、あえて結論付けるならば催眠術が最も当てはまるのであった。

「かかりやすい人は本当にあっさりかかるもんだからねえ。
そのせいで一日だけひどい体調不良になったのだろうさ。
あるいは本当に蜂に刺されたとか、注射針で妙な毒物を打たれたとか、インフルエンザにたまたまかかったとか。
人間が人間にできる範疇ではこんなものだねえ。」

「まあ、そんなところかもな」

「そんなものさ、怪異なんてね」

人間が人間相手にできる範疇の事象を、あたかも人間以外の仕業に誇張する。

偽物の怪異。偽物の事件。偽物の決着。

所詮、怪異なんてそんなものなのだろう。



「さて、次がいよいよ本題だよ阿良々木君」

「・・・。」

18 : VIPに... - 2012/03/27 00:13:32.26 0avADKRHo 10/18

009


阿良々木月火、阿良々木暦の妹、阿良々木家の次女、ホトトギスの少女、そして・・・

「生まれた時から怪異の少女。怪異そのものの妹。
さあ、阿良々木君。これまでの話を踏まえて僕は君の話が聞きたいなあ。」

「・・・。『怪異なんて本当はいない』か」

「そうだよ。ここから先は、僕には想像するしかないのだけれど・・・」

「ああ、僕から話そう」

「うん、聞こうか」

隠していたわけではない。
それでも、僕の妹には秘密があるのだ。

ついにこの話を誰かにする時がきたか。
戦場ヶ原や、他の友達にはまだ言ってはいない、僕の秘密。僕の家族の秘密だ。

みんなには時期をみて話す予定だったが、他ならぬ忍野だ。
一足先に話したって良いと思えた。

僕の下の妹、月火ちゃんの事。


「月火ちゃんは僕の妹だ、火憐ちゃんの妹でもある。
しかし、彼女には『戸籍』が存在しない。
流産して、死んでしまった妹。生まれてこれなかった、僕の妹だ」

「・・・。」

大切な、僕の妹だ。

19 : VIPに... - 2012/03/27 00:16:03.46 0avADKRHo 11/18

010


「傷の治りが早いのも、不老不死なのも当然だ。怪我なんてしないのだから・・・」

「そうだろうねえ。」

「やっぱり変なのかな、本当はいない妹が存在するかのように生活するのって」

その家その家で生活のリズムは異なるように、その家その家でルールが異なるように、僕の家では、これは当たり前の事だ。

「人それぞれ、とは言い難いレベルではあるね」

「それでも、これが僕の家の日常だ。子供の頃から、僕の家には月火ちゃんがいる」

「『いる』、かい?」

「ああ、いるとも」

ここから少し過去の話をしようと思う。
僕にとっても、すでに曖昧になり始めた記憶を呼び起こして語るので、多少怪しい部分がある感は否めないのだが。

「僕がまだ幼稚園に通っていた頃、僕の母親は妊娠していたんだ。
よく火憐ちゃんを抱っこしながら、いっしょに産婦人科に行ったのを憶えている。

だんだん大きくなるお腹、女の子だとわかって名前を考えていた両親、
火憐ちゃんがもう着なくなった新生児用の服を洗濯したりもしていた。」

僕自身も、新たな妹の誕生を歓迎し、祝福していたのだろう。

とても楽しみにしていた記憶がある。

「それでも、僕の妹は生まれてこれなかったんだ。」

20 : VIPに... - 2012/03/27 00:17:34.39 0avADKRHo 12/18

両親の悲しみは相当なものだった。
毎日たくさん泣いていた。

否、長男の僕が悲しんだのが決め手だったのかもしれない。
僕こそ、たくさん泣いていたのだった

僕にたくさん謝っていた気がする。

「数日が経ってからだったかな?
毎日の食事の時間に月火ちゃんにミルクを与える時間を作ったんだ。

誰が始めたのかはわからない。両親だったかもしれないし、親戚の誰かもしれない、僕かもしれない。

月火ちゃんの食事の時間には、その日の月火ちゃんに起こった出来事をみんなで話すんだ。」

これは今でも、阿良々木家の夕飯には欠かさず行われている。
僕の家の当たり前の光景だ。

「ミルクの時間は離乳食の時間になり、次第に毎日の夕食には月火ちゃんの食事を用意して、
月火ちゃんのエピソードを語るのが日課になった。」

「陰膳、とは違うね。そこまでいくと」

そう、これは月火ちゃんとの夕飯だ。
家族の団欒なのである。

21 : VIPに... - 2012/03/27 00:21:23.81 0avADKRHo 13/18

「小学校にあがる頃には、学校に寄付をして、月火ちゃんのクラスを用意してもらった。
もちろん非公式なものだけれど。

児童会のようなもので、『月火ちゃんのお友達の会』っていうのもつくってもらった
定期的に小学校の、『月火ちゃんのクラスメイトたち』がうちに来てお菓子を食べていく。

その時知り合ったのが千石だ 。

まあその会も、はじめこそ子供たちはお菓子を貰えるのを喜んでいたみたいだが 、
僕が中学に上がる頃には不気味がって自然消滅したよ。」

「子供は日々成長しちゃうもんねえ」

そう、時間は全てに平等だ。

成長するのは、なにも生きたものたちだけでは無い。
植物も、不死鳥も。風景や、星だって時間の流れに沿って成長している。

状況は常に変化しているのだから。

「しだいに月火ちゃんは阿良々木家の中だけの存在となった 。
でも、そこには確かに月火ちゃんは存在していた 。
状況が変わったのは、火憐ちゃんが中学に進学したこと 。」

彼女もまた、成長しているのだ。

そして何より、月火ちゃんを愛する者の一人なのだから。

22 : VIPに... - 2012/03/27 00:29:05.17 0avADKRHo 14/18

「火憐ちゃんが中学に上がると、例の『ファイアーシスターズ』を結成した 。

月火ちゃんは参謀で、裏方で、表で活動するのは火憐ちゃんだけ 。
火憐ちゃんが『ファイアーシスターズ』として活動し、月火ちゃんの存在を仄めかして回る 。

そうすると、誰も『参謀』を見たことがなくても、誰もがその存在を疑わない。」


例えば黒い三角形を三つ描くと、その中心に白い六角形が見えるように。


「月火ちゃんは、もう街のどこにでもいられるようになった。」

23 : VIPに... - 2012/03/27 00:33:44.01 0avADKRHo 15/18

011


「ふうん、それが阿良々木月火ちゃんの正体なんだね。」

久しぶりに忍野が口を開いた。
それでも相変わらず、真剣なのかどうかはわからない顔としゃべり方をしている。

「ああ、僕の大事な妹だ。
たとえ他の誰にも見えなくたってな。」

「そうかい、まあ、これでカウンセリングはおしまいさ。何か感想は?」

なかなかこれまでの価値観を揺るがすカウンセリングだったぜ、忍野。

「怪異は存在するかもしれないし、しないかもしれない。
でも、僕は怪異と関わり続けるだろうな。」

地獄のようだった春休み程では無かったけれど。

「そっか。ま、阿良々木君がそれでいいんならそれでいいんじゃない?」

「ああ、そうだな」

最後まで、いつもの忍野といった顔と語り口調だった。

24 : VIPに... - 2012/03/27 00:34:59.09 0avADKRHo 16/18

012


(そこで僕は目が覚めた、やはり夢だったらしい)

「起きるにはまだ早いな。
・・・二度寝でもするか。妹たちが起こしにきてくれるまで。」


(今日は・・・久しぶりに忍にミスタードーナツでも買ってやるか。学校の帰りにでもミスドに寄って・・・)


そこまで考えたあたりで、僕は再び眠りに落ちた 。

25 : VIPに... - 2012/03/27 00:35:41.96 0avADKRHo 17/18

(終)

26 : VIPに... - 2012/03/27 00:43:43.58 0avADKRHo 18/18

>>14で言われてるように過去作に加筆したものだ

元が不本意な感じになったので、いつか書き直したいと思ってたところに偽物語がアニメ化したから
今しかないなと思って書いた

出来は満足してる

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