1 : VIPに... - 2010/05/12 19:00:48.78 yzZZN3UP 1/307

それは、春から夏にかけて起こった一連の事件が収束し、皆の日常が平静を取り戻した時のことだった。



八九寺!久しぶりだな!

「お久しぶりです、ちゃららぎさん」

まて、僕は何か凄くチャラいキャラなのか?

「すみません、噛みました」

わざとだろ!

「いいえ、今更阿良々木さんの名前をわざと噛んだりはしませんよ?」

なんだ、恣意的か…ダメじゃん!

「ところで阿良々木さん、お時間あります?」

時間なら、まぁ無い事は無いが、無いと静止するだろ?

「THE WORLD!」

誰の真似なんだよ!

「阿良々木さんに時間が無い場合、阿良々木さんだけが世間から取り残されているともいえます」

なんか嫌だなそれは。

で、本題はなんだ?

元スレ
阿良々木「あれ?なんか忘れてる」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1273658448/

2 : VIPに... - 2010/05/12 19:01:48.55 yzZZN3UP 2/307

「町外れの学習塾跡はご存知ですよね?そちらへ行ってくれますか?」

八九寺にそう告げられた事に僕は驚いた。

僕らが何度と助けられ、否、僕らを「手助け」したアイツが塒(ねぐら)にしていた元学習塾だった廃墟ビルに行くよう八九寺に告げられたからだ。

こいつはあそこに行った事が無い、いやその存在は知っていたとしても、僕とあの建物の関係を知る筈が無い。

「少し頼まれましたので…」

誰にだよ?

「それは…禁則事項です」

誰の真似なんだよ!

「まぁ、危害は加えられないと思いますので、急いで行ってください」

行くのは良いとして、まだお前にハグすらしてねぇ!

「本当にロリコンは困りますね。まぁ、また今度という事で、今日は私忙しいのですよ、こう見えて」

お前が忙しいとか嘘だろ!

「嘘ではありません。今日は帰ってから撮り溜めした深夜アニメを見無くてはなりませんから」

そ、そうか…お前が見るのって日曜午前のアニメじゃないんだな

「今一番のお勧めは『DRRR』ですよ。折原ってのがウザいんですけどね、声とか」

何か物凄く嫌味を言われた気がした。

「では阿良々木さん、またお会いしましょう」

そういうと八九寺は通りの角に消えて行った。

僕はママチャリのハンドルを大きく切りなおし、廃墟ビルへと向かった。

3 : VIPに... - 2010/05/12 19:04:16.50 yzZZN3UP 3/307

懐かしい、いやそう時間はたってはいないが、思い出と言うか色々ここであり過ぎたから。

僕はフェンスをくぐり、4階を目指す。

多分そこに行けば誰かが待っているのだろうと確信した。

恐らく羽川だろう。

八九寺が見えるのは僕か羽川だけだろうし。

しかし僕に用があるなら携帯に電話すれば良いだけのはず…

何か事情でもあるんだろうか?

そう考えながら、4階の一室のドアを開ける。

僕は悲鳴にも似た声を上げた「お前!こんなところで何やってんだ!」



『よう阿良々木君、どうしたんだいそんな元気な声を上げて。何か良い事でもあったのかい?』

そこに居たのは僕達を手助けした忍野だった。

4 : VIPに... - 2010/05/12 19:05:01.31 yzZZN3UP 4/307

「阿良々木君、久しぶりだねぇ。元気にしてたかい?」

そりゃ元気だけど…ていうか、忍野いつ戻ってきたんだ?

「昨日だよ。さっきコンビニへ買い物に行く途中、迷い牛だった怪異を見つけてね、恐らく阿良々木君の知り合いだろうから声を掛けたんだ」

お前、八九寺が見えるのかよ?

「阿良々木君、僕はねぇこう見えても一応は君たちを手助けした側だよ?見えないと決めつけるのは少し思慮が足りないとは思わないかい?」

忍野にそう言われると、何となく納得してしまう。

というか、忍野には見えると考える方が妥当だな。

「ところで阿良々木君、時間はあるかい?」

無かったら俺だけ取り残されるとか言うつもりか!

「おや?察しが良いねぇ、本当に阿良々木君は察しが良い。ついでだからこの先僕が言おうとしている事も分かってくれたら良いのにねぇ」

俺はエスパーじゃねーよ!

「ま、そうだろうね。じゃ単刀直入に話す」

忍野は机の上からひょいと飛び降りるとポケットから煙草を取り出し咥える。

いつものように火は付けず、ただ咥えるだけ。

「阿良々木君、君を助けに来た」

忍野はそう一言だけ言う。

5 : VIPに... - 2010/05/12 19:06:29.12 yzZZN3UP 5/307

まて、僕は何も今困ってないぞ

「阿良々木君、本当は君が困ってから手助けしようと思ったんだが、こっちにも事情があってね」

なんの事情だよ

「まぁご存知のように僕の同級生が色々とやらかした様で、僕は心が痛いんだよ、分かる?」

まぁ忍野の友人はとんでもない奴ばかりだったけどな、でも全部解決しているんだよ。

「解決?解決なんて出来てないさ、解決どころかこのままだと二度と元には戻れないというか、犯罪者さえも生み出しかねないからね」

僕が犯罪者になるとでも言うのか?説明しろ!

「本当に元気だねぇ、誰も阿良々木君が犯罪者とは言ってない、それより君の周りの人間だよ、ツンデレちゃんとか…」

どういう意味だ?

「んー、ここまで察しが悪いと僕は呆れてしまうよ本当に」

悪かったな

「阿良々木君、『フラグ』って知ってるかい?」

聞いた事はある

「ゲームやアニメに出てくる『フラグ』ね、君も色々と立てちゃってるよね?」

待て、それはどういう意味だ?

「やっぱアニメと同じだな、フラグ建築士はそのフラグに気がつかないとは、ククク」

忍野は声を殺すように笑う。

「阿良々木君の気がつかないところでフラグは立っている、それを回収しないと大変な事になるんだよ」

僕はそんなにフラグを立てた覚えは無い。

現に僕には彼女が居て、羽川だって知っている。

「それなんだよ、それが勘違いって奴さ。いいかい阿良々木君、君が思ってるほど女の子は簡単なもんじゃないんだよ、それに…」

6 : VIPに... - 2010/05/12 19:08:04.78 yzZZN3UP 6/307

それに?

「僕も回収しなくちゃならない事がってね」

なんだよ、お前もフラグ立ててるのか?

「やだな阿良々木君、一緒にしないでほしいな。まぁそれはいつか分かる事さ」

「それよりも、君のフラグなんだけどねぇ、委員長ちゃんの怪異は恐らく大丈夫だと思うが、他のフラグは早めに回収、いや折らないとツンデレちゃんが暴走しちゃうと思うんだ」

「ツンデレちゃんの暴走、それは阿良々木君が一番危険だと思わないかい?」

僕は何も言い返す事が出来なかった。

しかし、僕が立てたフラグってそんなに多いのか?

「仕方が無いなぁ、じゃ一から説明してあげよう」

「まず委員長ちゃん、それから百合っ子ちゃん、照れ屋ちゃん、迷い牛ちゃん、妹ちゃん達かな」

おい、色々とカウントしちゃダメなものがあるぞ!

「だから君はダメなんだよ、全部フラグが立ってるんだよ、分かるぅ?」

羽川の件は良いとして、神原は違うだろ?

「そうじゃないんだよ、ツンデレちゃんというトリガーがあるから動かないだけで、それがなきゃ恐らく猛アタックされるよ?」

あいつはBL好きで、百合…

「阿良々木君、女の子はねちょっとした事で心変わりするもんなんだよ」

……

「万に一つ、君がツンデレちゃんに捨てられたとしよう」

まぁ有り得るな、まて!

7 : VIPに... - 2010/05/12 19:09:32.62 yzZZN3UP 7/307

「そうすれば君に対して委員長ちゃんを始め皆がアタックするよ?」

僕はそんなにもてねぇよ!

「ふんっ、君がそう言っても現実にはフラグは立っている」

「もし疑うなら、ツンデレちゃんと別れるからぼくとつきあってくださ~いと委員長ちゃんに言ってごらんよ、OKされると思うよ?紆余曲折はあると思うが…」

マジか?

「マジも大マジ。それぐらい君は愛されてるんだよ。色々と助けたせいでね」

「だから折れ」

忍野は真面目な顔で言いきった。

でも折ると言っても…

「簡単な事さ、君が誰と一緒に居たいか、それを決めればいい」

戦場ヶ原しか選択肢がないじゃないか?

「ご名答。阿良々木君は頭が良いね、いつもそれぐらい頭が回れば良いんだけど」

褒めているのか?貶しているのか?

「君の身を守るためには選択肢は一つ、今のままで居れば良い。ただし他のフラグを折っておかないと禍の火種になる」

まぁそう考えても良いのだが、本当にフラグは立っているんだろうか?

「考えも大事だが、ここはひとつ順に簡単なものから折ってきなよ」

忍野はニヤッと笑い言った。

「まずは妹ちゃん達」

というか、妹にフラグってどんなシチュエーションなんだよ

忍野曰く、「兄弟愛の延長は怖いよ、ヤンデレの妹に愛されるCD聞いた事無い?」

ねーよ、そんなもの!

このフラグは簡単に折れるらしい。

まずはこれから実行することにした。

8 : VIPに... - 2010/05/12 19:12:11.53 yzZZN3UP 8/307

Pipipi

「あー、戦場ヶ原?僕だけど」

「あら阿良々木君こんにちは。私の声が聞きたくなって電話して来たの?これだから童貞は…」

「待て!ていうか、明日暇?」

「暇じゃないわ。こう見えて私、モテモテだからデートの誘いが多くて困っているぐらいなの」

「ふーん、そうか。じゃもういいわ、ごめんな」

「切ったら殺すわよ」

「おい、なんだそりゃ!」

「まぁ、話ぐらい聞いてあげるわ。何?声をオカズにしようとしている童貞さん」

「なんかお前に言われるとムカつくよな」

「そう?私はスッキリするけど」

「あのさー明日暇ならうちに来ない?」

「え?何をする気なの?まさか私を睡眠薬で眠らせて、あらん限りの猥褻行為を行う気ね」

「そんなんじゃねーよ」

「じゃあ何?」

「んー、まぁ単刀直入に言うと、家族に紹介したい」

「家族…」

「阿良々木君、当てつけなの?」

「ち、違うよ!純粋に彼女として俺の親に紹介したい。それに勉強も見て貰ってる事を報告したい」

「それなら私がわざわざ行く必要などないじゃない。説明だけすればいいでしょ?」

「うっ…まぁそういう口実でお前に会いたいんだよ!」

「まぁ言いきったわね、下僕の分際で。まぁ良いわ、丁度空き時間もあった事だし伺うわ」

「ああ、あ、ありがとう」

「礼には及ばないわ、その代り変な事しようとしたら裁断機で切るわよ?」

「ていうかあれも文房具なのか?」

「さぁ?じゃ明日ね」

9 : VIPに... - 2010/05/12 19:13:38.30 yzZZN3UP 9/307

戦場ヶ原との約束は出来た。

これで明日戦場ヶ原を彼女だと家族に紹介すれば良いって忍野は言ったが、本当に上手くいくのか?

色々と心配になってきた。



翌日、僕は戦場ヶ原を迎えに戦場ヶ原の家に行く。

「あら…何故自転車なの?こういう場合、左ハンドルの車で迎えに来るのが礼儀じゃなくて?」

「僕は免許がありません」

「浅はかね、ハイヤーぐらいチャーターしなさいよ」

「ゴメン…」

「嘘よ、冗談よ。さぁ行きましょう」

「ああ」

僕は戦場ヶ原を後ろに乗せペダルを漕ぐ。

「ねぇ阿良々木君、今日の服装変じゃないかしら?」

「は?別におかしくは無いぜ?というか初めて見る服だな。買ったのか?」

「ぐはぁ!」突然脇腹に鈍い痛みを感じる

「私が盗んできたとでも言うの?」

「そうじゃない!今日の為に買ったのかって聞いただけだ!」

「何なのその自信、まるで私が阿良々木君の家に行くのを楽しみにして服を新調したような言い方」

「いや、初めて見る服だし」

「私が一張羅だけで生きているとでも思っているのかしら、この下僕は」

「そういう言い方止めろよな。ていうか家族の前では止めて欲しい」

「まぁそこまで言うなら仕方が無いわね、ダーリンって呼んであげる」

「それもどうかと思うぞ、それより首に値札がついたままだぜ?」

「え?嘘!?」

「嘘だよ」今度は背中に尖った痛みを感じた。

「次そういう事したら再生できないぐらいコマ切れにするから」

「こえーよ!」

10 : VIPに... - 2010/05/12 19:21:51.48 yzZZN3UP 10/307

ただいま~と僕は自転車を止め、玄関のドアを開ける。

事前に家族に伝えてあったので、みんな居間で寛ぐというか、待機状態。

僕の自転車を止める音を聞いて、火憐ちゃんと月火ちゃんが玄関まで出てきた。

「にいちゃんおかえり!」「おにいちゃんおかえり!」

いつになく元気な二人だ。

「初めまして、妹の火憐です」「妹の月火です」

「こんにちは。戦場ヶ原ひたぎです」

「綺麗な人だね~」と火憐が戦場ヶ原の挨拶を遮るように言う。

まぁ立ち話も何だし、上がってよ。

「どうぞー」と月火ちゃんがスリッパを差しだす。

「阿良々木君の妹さん、とても素直な子ね」

そうか?お前もファイヤーシスターズの話は知ってるんだろ?

「噂はね。でも実物は思ったより…阿良々木君の女の子バージョンね」

そりゃどういう意味だ?

「ふふ」とほほ笑んでそれ以上戦場ヶ原は話さなかった。

戦場ヶ原をリビングに通すと、母親がお茶を用意していた。

「初めまして、暦の母です」

「初めまして、戦場ヶ原ひたぎです。暦さんにはいつもお世話になっております」

「本当は父さんも居たんだけど、急用ができたってさっき出かけちゃったんだよ」

「そそ、火憐ちゃんと引きとめたんだけど…逃げた!兄ちゃんそっくりだよ」

お前ら、父さんの事をそんな風に言うんじゃありません。

母さんがお茶とお菓子を出す。

みんな、色々と質問したいようでウズウズしている。

ここは僕から先に言うべきだなと、意を決した瞬間に戦場ヶ原が語り出した。

11 : VIPに... - 2010/05/12 19:23:57.23 yzZZN3UP 11/307

「暦さんとは真剣にお付き合いをさせていただいております。その…清い交際ですが///」

お前!照れながら凄い事言ってるぞ!

「あら、暦の彼女さんね。こちらこそどうしようもない息子ですが宜しくお願いします」

母さんまで…

「ところで兄ちゃん、前に言ってた「彼女紹介する」って勿論戦場ヶ原さんの事だよね?」

え?ああ、そうだけど?

「なんか不釣り合いだよね、兄ちゃんとは」火憐は怖いもの知らずである。

「そう?優しそうだけど厳しそうな面もあってお兄ちゃんにはピッタリかも」と月火。

月火の鋭さは…いや、今その事を考えるのは止めよう。

「いえ、実は私の方が暦さんに告白してOK貰ったんです」

うわぁーこいつ言っちゃったよ!ていうかその真顔まぶしすぎる!

三人は、リビングのソファーに掛けたまま固まってしまっている。

おーい!おまえらーかえってこーい!

「私、イケメンの息子を産んだ覚えは無いわ」(怪異は産んだけどな)

「兄ちゃん、本当の素顔を見せろ!」(ヒーローごっこかよ)

「あれか?何か凄い物持ってるのか?」(お前だから良いけど神原だと卑猥だろうな)

お前らな、人を何だと思ってるんだ?

「今、暦さんの勉強を見ています。出来たら来年は同じ大学に進学して、将来は一緒になりたいと思っています」

でた、人生設計と逆プロポーズ!

流石に僕が固まっちまったよ。

しかし、我が家の女性陣は強い。

「あらあらひたぎさん、そんなに無理しないで。嫌になったら捨てていいのよ?」

母さん…

「兄ちゃんより良い男は幾らでも居るよ?」

「兄ちゃんが大学行きたいって女がらみだったのか!」

もう僕はボロ雑巾のような扱いだ。

しかし戦場ヶ原は顔色一つ変えず言う。

「私が、今の私で居られるのは暦さんのおかげです。だからずっと一緒に居たいと思います」

眉一つ動かさず戦場ヶ原は家族を直視したまま語る。

ここに親父がいたらきっと卒倒していたに違いない。

ああ、これは戦場ヶ原なりのジョークなのだろう。

まぁジャブにしては強すぎて、みんなノックアウトされているけどな。

先制攻撃が効いたのか、みんなそう言った話はせず世間話に切り替えてきた。

一時間程度話したところで、僕は自室にひたぎを招き入れた。

12 : ここで休憩します - 2010/05/12 19:26:22.68 yzZZN3UP 12/307

「ふーん、ここが阿良々木君の部屋なの」

なぁそれよりさっきのは驚いたぞ

「何?ああ、ただのリップサービスよ。それより…阿良々木君は他の「リップサービス」がされたいの?」

え?あ、いや、別にそんなつもりは…

「それよりも、この部屋臭いわ」

嘘!ちゃんと窓も空けてあったし、特に匂いのするものは…

「妹とお母さん以外の匂いがする。一つは分からないけど、あとの2つはよく知っている匂い」

お前は犬か!もう何か月も前の匂いだぞ!匂いが残ってる訳ないじゃないか!

「やっぱり、ただのカマ掛けよ。さっきのお返しよ」

やっぱ値札の件怒ってたんだな。

しかしこいつは匂いで羽川が居たのをあてた事もあるしな、冗談とは思えん。

「彼女の私が一番最後ってのも悔しいような気もするけど、真打登場って感じで悪くも無いわね」

やっぱこいつ犬以上だ。

「ねえ阿良々木君、しましょう」

え?>?????何を?なんて言った?

13 : VIPに... - 2010/05/12 19:47:06.76 yzZZN3UP 13/307

「お話をしましょう」

ほっ…というか少し残念なのは内緒だ。

で、何の話?

「今日の私どうだったかしら?」

なんか驚いた

「そう、ご家族にもかなり効いたようね」

だろうなぁ

「じゃこれで私は帰るわ」

なんだもう少しゆっくりして行けよ

「嫌よ、臭いし。それに長居してたら童貞に何されるか解らないし、御家族にもそう思われるのは勘弁よ」

お前、よくそこまで言えるな

「言ったでしょ、私はメンヘル処女。愛された事を悲しむのね、阿良々木君」

もう何が何だか。

「それと、これで一つは折れたでしょう?いや3つかな?羽川さんと神原のフラグ」

お前、何でその事を知ってんだ!

「忍野さんに聞いたのよ。全部ね」

全部…

「そう全部。だから今日来たのよ」

お前、いつ忍野に?

「昨日、公衆電話から携帯に電話があったわ」

それで協力したと…しかし、あいつがお前の番号をよく知ってたな。

「前にお礼を払った時に連絡先を渡していたのよ。」

「それと勘違いしないでね、協力じゃなくて排除しただけ。阿良々木君は私の物だから」

背筋が凍った。俺はとんでもない女に愛されちまったんじゃないのか?

確かに忍野の言うように、フラグを折って正解だったな。

これ間違ったフラグ回収したら、俺死んでたな、多分。いや必ず。

戦場ヶ原が言うには、羽川や神原に今日の話は妹達を経由して必ず届くだろうと。

確かにそうだ。

しかし、一度に折ってしまうとは恐るべしだな。

その後、また自転車で戦場ヶ原を送り、僕は忍野の所へ向かった。

14 : VIPに... - 2010/05/12 19:48:27.39 yzZZN3UP 14/307

「よぉ阿良々木君今日も元気そうだね」

忍野、お前何で戦場ヶ原に言ったんだ?

「まぁあれだ、君ひとりじゃ荷が重いと思ってね」

やってみなくちゃ分からないだろそんなの

「いいじゃない、上手く行ったんだし」

確かに、『戦場ヶ原』と言う深窓の令嬢風の彼女がいれば、

妹達は兄を尊敬しても恋愛対象にはならない…

まて、端から妹達は関係ないんじゃないか!

「阿良々木君、鋭いねぇ。まぁ、もっと早く気がつくかと思ったがやっぱり阿良々木君はダメダメだよ、本当に」

お前なぁ

「妹ちゃん達には広報活動をして貰っただけさ。これでツンデレちゃんの意思の固さが伝わっただろうに」

まぁそうだけど

「じゃ、次は照れ屋ちゃんか」

ていうかそのフラグって本物なのか?

例え立っていても折る必要はないんじゃないのか?

憧れとかそんな感じの物だろう、どうせ。

「甘い。甘いねぇ阿良々木君、忍ちゃんが好きなドーナツの様だよ」

人を食べ物に例えるんじゃねぇ!

「真ん中もポッカリと空洞、おっと失礼」

……

「10年、10年たったら阿良々木君は28歳、そこに24歳の女性が現れた。阿良々木君は恐らく心を奪われる」

勝手に決めんなよ!

「だってさぁ、28歳はオバサン手前だよ?24はまだピチピチかも知れない」

「いや、5年後、5年後でいいな、うん。23歳と19歳、確実に19歳に心奪われる」

もううんざりだ!

「さて冗談はさておき、要はねいつまでも阿良々木君の事を片思いで居ると良くないって事」

「フラグは一本で良いんだよ、一本で」

じゃぁどうすりゃいいんだよ

「何もする事は無いさ、妹達が勝手に言ってくれるよ」

でも今はそんなに交流がある訳でもなく…

「簡単な事さ、電話」

15 : VIPに... - 2010/05/12 19:49:53.24 yzZZN3UP 15/307

電話?

「そう電話。妹達の前で照れ屋ちゃんに電話する、それだけで良いんだよ」

よく分からないが、今まで忍野の言うやり方で間違いは無かった。

今回も信用して…良いんだろうか?

「大丈夫阿良々木君、きっと上手く行くさ」

そうかな?

「大丈夫さ、人間なんて怪異に比べたら素直なもんだよ」

笑えないな

僕は自宅に帰り、千石に電話をした。

「もしもし、ああ、暦だけど」

すると月火が電話をしている僕の所に駆け寄る。

「兄ちゃん、戦場ヶ原さんと電話?」

いや違うって

「ちょっと代わって!」

そう言って僕の電話を奪い取る。

「あーもしもし、また遊びに来てね」

おい!

「あれ?もしかしてその声はなでこ?」

「ごめーん、てっきり兄ちゃんの彼女かと思って。今日遊びに来てたんだよ」

「それが凄く美人でね、びっくりしたよ」

いいから代われ

「もしもし、千石?」

「…」

「あーすまん、月火がつい」

「暦お兄ちゃん、彼女出来たんだ」

「あ、うん」

「良かったね」

「ありがとう」

「じゃ」

Pu-pu-pu

切れた…一方的に切られた。

というか折れた。

後味の悪い折り方だ。

気分が悪い。

僕はまた自転車に乗って忍野の所へ向かった。

16 : VIPに... - 2010/05/12 19:50:48.59 yzZZN3UP 16/307

「なんだい阿良々木君、また来たのかい?」

忍野!

「照れ屋ちゃんの件、上手く行ったみたいだね」

お前、こうなる事が分かってたのか

「まぁ、想像できるから言ったんだけどね」

他にやり方があるだろ

「他に?他のやり方だともっとキズ付けるような気もするが、どうだろう阿良々木君」

しかしだな

「阿良々木君は甘いんだよ、人間にも怪異にも」

どうせ僕はアマチャンだよ

「それに怪異以上に人間の憎悪は怖いよ、何せ命まで取っちゃうからね」

別に愛憎劇で刺し殺されてもいいよ、僕は

「おやおや、童貞の分際で良く言うねぇ」

戦場ヶ原みたいな事を言うな!

「さてと…一応はこれで全部終わった。僕はこれでお暇するよ」

まてよ、お前も何か回収するんじゃなかったのかよ?

「ああ、そうだねぇ、どうしよっか?」

僕に関係する事なのか?

「そうさ阿良々木君、僕が回収する為には君の同意を得る必要がある」

僕の?

「そうだよ阿良々木君、君の同意、君の人生、どうする?」

どうするも何も何の事か解らないのに返事なんか出来ない。

「やっぱ阿良々木君は頭が良いよ、二つ返事で任してくれない辺りが」

上げたり落としたり忙しい奴だ

「じゃあ、ついでだからツンデレちゃんも呼ぼうか?」

戦場ヶ原を?

「そう、話はそれからにしよう」

忍野はポケットから煙草を取り出し咥えた。

17 : VIPに... - 2010/05/12 19:51:38.23 yzZZN3UP 17/307

僕はまた自転車で戦場ヶ原の家に向かう。

今日一日で50㎞ぐらい走行してるよな、きっと。

先に電話をしていたので、戦場ヶ原は家の前で待っていた。

「あら?やっぱり自転車なの?左ハンドルは?」

はいはい、じゃぁ、こっちのハンドル握れよ

僕は自転車の左ハンドルを戦場ヶ原に差しだす。

「阿良々木君にしては上手く言えたわね」

言えてねーよ!

「ところで忍野さん、一体全体何の話なのかしら?」

さあな、お前の方が知ってるんじゃないのか?

「私は何も知らないわ。何も知らないし何も出来ない」

なんだこの含みのある言い方は。

「でも忍野さんが呼ぶなら仕方が無いわ、行きましょう」

僕たちは忍野の所へ向かった。

18 : VIPに... - 2010/05/12 19:53:15.16 yzZZN3UP 18/307

「やぁツンデレちゃん久しぶりだね、昨日は電話で話したけどさ」

「お久しぶりです。というか今日は何のご用でしょう?」

「まぁそう焦りなさんなって」

忍野と戦場ヶ原のやり取り、他愛も無い挨拶の様で見えない刃が火花を散らすようにも聞こえる。

「さて、役者をもう一人呼ばないと始まらない」

誰の事だ?

「よし、始めるとするか」

そう言って忍野は机から飛び降り、僕の前に立ちはだかった。

「忍、出ておいで」

忍野は僕の影に向かって問いかける。

「出てこないと引っ張りだしちゃうぞっと!」

と話しかけながら影に近づく。

その瞬間、忍が影から飛び出す。

「なんじゃ、忍野か。わしを呼ぶから誰かと思いきや相変わらずむさ苦しい顔じゃな」

忍は忍野を睨みつけながらそう言った。

「阿良々木君、これは何なの?」

ああ戦場ヶ原には言ってなかったか

これが吸血鬼さ、なれの果てというかまた育って同級生ぐらいなんだけどな。

訳有って俺の陰の中に潜んでる

19 : VIPに... - 2010/05/12 19:54:26.33 yzZZN3UP 19/307

「おや、忍ちゃんちょっと見ない間に成長しちゃったね」

「阿良々木君がこの子に吸われて吸血鬼になったんだよ、ツンデレちゃん。びっくりした?」

戦場ヶ原は正直に頷いた。

「そりゃそうだよね、彼氏の影の中にこんな美人さんがいたらヤキモチの一つも焼きたくなるって」

そういう問題か?

「さて、そんな話はまた今度ゆっくりするとして、僕はね忍ちゃんの回収に来た」

忍野はそう告げる。

忍は不機嫌そうな顔になる。

僕は二人の距離を見つめる。

「なんじゃ、わしを笑わせに来たのか?忍野」

「つれないねぇ、忍ちゃん。3か月も一緒に暮らした仲だってのに」

「ふん、わしはお前のくだらない話を聞かされていただけさ」

「まぁ、そんな事はどうでも良い。名前を返す」

忍はその言葉に一瞬ためらった表情をする。

「阿良々木君、悪いんだけど「名を返す」と言ってみてくれる?

名を返す…こうか?

「いやー実に良いね、よく似てる。素晴らしいよ」

僕には何の事かよく分からなかった。

忍野が忍に名を返す、それは忍が「キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード」にもどると言う事。

言いかえれば、僕がまた彼女の眷族になると言う事でもある。

「さて、ここからは少し長くなるけど僕の話を最後まで聞いてほしい」と忍野は断る。

「僕が忍野メメであり、何故ここに居るのか」

忍野が初めて煙草に火を付けた。

何かが始まると僕は感じた。

21 : VIPに... - 2010/05/12 20:14:38.82 yzZZN3UP 20/307

「さて、忍。いや、キスショット、久しぶりだな。400年ぶりか」

「何?」忍が怪訝そうな顔をする。

「全然思い出せないようだね」

「ま、仕方が無い、説明するからちゃんと最後まで聞くんだぜ」

「その前に、ツンデレちゃん。阿良々木君の影に彼女が居た状態でずっと阿良々木君と居られるか?」

「結婚したとして、食事する時も、寛いでいる時も、はたまた寝る時も、四六時中誰かが見てる」

戦場ヶ原は一瞬ためらったが「嫌よ、そんなの」と短く答えた。

「そりゃそうだよね、誰だって人に見られたくない事がある。特に…まぁ言わなくても分かるか」

「そこで、僕がキスショットを回収に来た訳さ」

忍野、お前何者なんだ?

「阿良々木君、良い質問だ。僕はね、キスショットの最初の眷族さ」

その言葉に忍の表情が曇る。

「キスショットは忘れているようだけどね」

「わしの最初の眷族は自害したのじゃ、生きてはおらぬ」

「まぁそう思うのが普通だな。しかし、それは勘違いさ」

「僕は自害した、多分死んだと思うよ。でもね、この国の昔の人は凄かった。」

「死んだ僕を蘇らせる術を持っていたんだよ、陰陽師って知ってるよね?影縫ともあっただろうし」

「壊す以外にも再生などの術を持った陰陽師は居たんだな、これが」

「魂だけ浮遊して日本に戻ったら術式で蘇らされ、俺は体を得た訳だ」

「勿論、一度死んだから眷族ではなくなったが、記憶や再生能力は残った」

「長い間、その陰陽師に使える形で過ごしてきたさ、何年も何十年も、否何百年と」

「現代になってそういった類が必要となくなり僕は解放されてね、ふらふらと世の中を渡り歩いている時にキスショットに再会した訳だ」

「で、阿良々木君とも出会った」



22 : VIPに... - 2010/05/12 20:16:16.24 yzZZN3UP 21/307

じゃ、なんで忍の心臓を抜いたりしたんだ?

「いやー、驚かせようと思ってね。それがあんな事になるとは思いもよらなかったが…」

「忍野メメ、阿良々木君なら分かると思うが、キスショットに付けた忍ってのは忍野の忍ではなく、ハートアンダーブレード、「刃の下に心」から付けたんだが、本来は「忍野」がハートアンダーブレードから付けたと言ったら理解出来るかな?

ハートアンダーブレードの眷族、元侍」

「阿良々木君、侍のイメージってなんだい?」

そりゃ二本差しの刀にちょんまげだな

「ご名答、しかしこの時代にちょんまげも帯刀も変だし目立つ、だから僕は名前で元眷族である事を結んだ、それがメメ」

「メメ何かに見えないかい?」

何かって…うーん?なんだ?

「二本刀」と戦場ヶ原が呟く。

「流石ツンデレちゃん、偉いね。その通りなんだよ、片仮名のメの字は刀そっくりだろう?」

「ハートアンダーブレードの眷族の侍、忍野メメ。それが僕さ」

「何だと!」忍が叫ぶ。

「いやー今まで黙っててごめんね、いつかはバレると思ってたんだが、誰も気がつかなくてね」

忍野は笑いを堪えながら話を続ける。

「じゃ本題に戻ろう。眷族としてキスショットを返してもらう」

23 : VIPに... - 2010/05/12 20:18:30.64 yzZZN3UP 22/307

「というか再び眷族になるって事なんだけどね」

まてよ、それと僕の事とどう関係があるんだ?

「慌てなさんな。今から言うから良く聞きなよ」

「僕がキスショットを殺す、そして蘇らせる。キスショットは元の意識と記憶を持って吸血鬼として蘇る。そうすれば阿良々木君は眷族で無くなる。勿論、人間として生きられる。その上で僕がもう一度キスショットの眷族になれば、400年前に戻れるって訳、分かる?」

分かるけど…忍野はそれで良いのか?

「別に眷族になる必要なんて必要もないんだが、キスショットも寂しと思ってさ。まぁその先の事はキスショット次第、というより素直に殺されてくれるかどうかだな」

忍野は不敵な笑みを浮かべ、忍を見つめる。

「良かろう、阿良々木が人間に戻り、わしがまた吸血鬼に戻れるなら忍野に任せよう。

但し、忍野をまた眷族にするかどうかは分からんがのぅ」

「相変わらずキスショットは気が強い、そんな所に惚れたんだがな」

「じゃ、今から始めようとするか」

「まて、わしは本当に吸血鬼として蘇るのか?」

「そりゃそうさ、吸血鬼として生まれた者は吸血鬼に。人間として生まれた者は人間、これは変えられない。後から加味された能力は消えないんだけどな」

そういうと忍野は耳にぶら下がっていた十字架のピアスを引きちぎる。

耳たぶごと千切れたが、直ぐに再生していく。

「じゃ始めるよ」と忍野はいうと、そのピアスの十字架を忍の額に押しつける。

忍はのたうち回ろうとする、しかし忍野がそれを押さえつける。

どのくらいの時間だろう、多分数十秒だったような気がする。

忍が動かなくなり、少しづつ体が崩れてゆく。

「忍野?いつ再生するんだ?」

「再生ねぇ…このまま死なせてやっていいんじゃなかなぁなんて思ったりもして、今考え中」

おい、お前。端からそのつもりだったんじゃ…

「冗談だよ阿良々木君、何か良い事でもあったのかい?」

「じゃ始めるとするか」

忍野は消えかかる忍の前で手を合わせ、聞きなれない呪文を唱える。

一瞬の光のあと、また闇が戻る。

そこには僕が初めてであった時のキスショットが居た。

24 : VIPに... - 2010/05/12 20:20:07.92 yzZZN3UP 23/307

「おお、わしが元のわしに戻ったぞ!」

いつもクールなキスショットが雄たけびを上げる。

「さて、この先は好きにすりゃいい、眷族にするもよし、殺すもよし、若しくは餌にしてもいい」

「さて…わしはどうするべきかのぅ?なぁお前さん」

僕に振るなよ…人の人生が掛かってんだから。

「忍野、ではお主から血を貰おうとしよう。こっちに来るがいい」

「いいねぇ、それでこそ俺の惚れたキスショットだ」

忍、いやキスショットは忍野の首筋に噛みついた。

そして忍野が床に突っ伏する。

どっちなんだ?生きてるのか死んでるのか?

「我が眷族、目覚めよ」

「あーやっぱこうなったか、しょうがねぇなぁ全く。また死にたくなるまで付き合ってやるよ」

忍野はキスショットの眷族になった、いや戻った。

「阿良々木君、たぶんこれで君は人間に戻ったと思うよ?なんならツンデレちゃんに1回刺して貰ったらどうだい?」

お前、もし本当に戻ってたら僕は死んじゃうじゃないか!

「ねぇ阿良々木君、本当にどうなの?」

さぁ、全然分からないよ

「そう…」

突然腕に痛みが走る

「どうかしら?」

腕を見ると戦場ヶ原がカッターナイフの先で僕の腕を刺している。

ほんの軽くなんだけど、そこから血が出ている。

いつもなら数十秒で止まり、キズは消える。

傷口を眺める、いつまでも真っ赤な血が流れる。

「良かったねぇ阿良々木君、これで人間に戻れたじゃないか」

「お前さん、いや阿良々木暦よ、世話になったな」

これで一連の事件とおさらば出来る。

そう思うと突然足が震えだした、なんだろうこの感じ、嬉しくて武者震いなのか?

床にへたり込んだ僕に戦場ヶ原が優しい声で話しかけてきた。

「お帰りなさい、でも二度と痛めつけられないと思ったら少し残念だわ」

「なんならもう一回眷族になる?忍野さんが生きている限り、何度でも元に戻れるのよ?」

あーもう好きにしてくれよ!

25 : VIPに... - 2010/05/12 20:21:22.74 yzZZN3UP 24/307

それから

キスショットと忍野はまだ学習塾跡に住んでいる。

二人して夜になったら閉店間際のミスタードーナツに行っては、ドーナツを食い、ダベっている。

30過ぎのおっさんと30前の外国人、街ではちょっとした有名人だ。

僕は相変わらず受験に向けての勉強をしている。

講師は羽川なんだけどね。

戦場ヶ原も一応は受験生なんで自分の勉強をするという事で。

羽川は教師に説得され、一応受験はするらしい。

それが何故か僕と戦場ヶと同じ大学。

もっと高い所でも狙えるはずなんだが、本人いわく

「戦場ヶ原さんや阿良々木君と居ると楽しいじゃない、ただそれだけよ」

いや、絶対に何か裏がある。

この1年近くで僕は確信した事がある。

ひたぎは裏表共に怖い、羽川は裏がとっても怖いって事。



春の事は春になってから考えよう

また続きがあるなら話をしたい。

でも、どこにでもあるような学生生活なら話す事も無いだろうけどね。

しかし、何か一つ忘れているような気がするんだが、気のせいか?



終わり

26 : VIPに... - 2010/05/12 20:24:00.33 yzZZN3UP 25/307

第二部ただ今書いてます

32 : VIPに... - 2010/05/13 12:10:06.59 p1rD2FYP 26/307

そろそろ冬将軍が訪れる頃の事。
日曜日、羽川に勉強を教えて貰う為に図書館に向かっていた。
角を曲がった時に大きなリュックを抱えた小学女子を見つけた。
僕は後ろからゆっくりと近づき、ハグをする。

「八九寺!逢いたかったぞー!」

真宵「フシャー!」

「ドウドウ、落ちつけ僕だよ」

真宵「あららさん、突然抱きつかないでください!」

「木が抜けてるぞ、八九寺」

真宵「気など端からありません。阿良々木さんに気があるなんてこの世に…ああ一人強いますね」

「強ってなんだよ、強って」

真宵「とにかく私は忙しいので構わないで下さい」

「なんだ、何か用でもあるのか?また深夜アニメの鑑賞か?」

真宵「よくご存じで、流石は私のストーカーですね」

「人を勝手にストーカー呼ばわりすんな!」

真宵「失礼。間違いました。流石は私専属のロリコン変態野郎ですね」

「酷くなってる!」

33 : VIPに... - 2010/05/13 12:11:37.92 p1rD2FYP 27/307

真宵「今、お勧めのアニメは『WORKING!』ですよ」

「へー、そうなんだ。僕はテレビ自体見る事少ないからな」

真宵「中でも相馬ってのが凄くウザキャラで見ているだけでイライラします」

「へ、へぇ…そ、そうなのか」

真宵「あと、荒川アンダーザブリッジ。これもお勧めです」

「荒川の橋の下?」

真宵「ホームレスの話です。まるで私のようです、エヘン!」

「自慢するところか?」

真宵「この主人公も結構ウザキャラなんですよね」

「ウザかったら見なきゃいいだろ?」

真宵「ああ、この声じゃなかったらもっと良いのにとか思いながら見るのも楽しいのです」

「へーそうなんだ…なんか中の方で悪意を感じるな」

真宵「阿良々木さんが気にする事はありませんよ?」

「なんか他人事だと思えない!」

真宵「でも、一番のお勧めは『らき☆すた』ですね、古いですが」

「それなら知ってる、見た事ある」

真宵「柊かがみが最高に可愛い声なんですよね、私もあんな女子高生になりたいです」

僕はつい八九寺の頭に空手チョップを入れてしまった

真宵「阿良々木さん、何をするんですか!」

「すまん、つい…無意識のうちに殴っちまった」

真宵「訴えますよ?」

「それだけは勘弁してくれ、まだ犯罪者にはなりたくない」

真宵「もう十分なぐらい犯罪者です、自覚が足りません」

「そ、そうか・・・すまん。これで許してくれ」と僕は100円を差し出す。

真宵「今時、100円につられる小学生なんで居る訳ないでクマーーーーーー」

八九寺は本当に簡単な子で良かった。

34 : VIPに... - 2010/05/13 12:13:42.43 p1rD2FYP 28/307

「ところで八九寺、お前寒くないのか?」

真宵「は?別に寒くありませんよ。寒いのはあらあらさんのお話でしょう」

「もう突っ込む気もねぇよ」

真宵「うぅ、もう私に飽きたのですね、ヤリニゲですか…」

「おい!人が勘違いするような事言うんじゃねーよ!」

真宵「噛みました」

「そういうのは噛んだとは言わない」

真宵「ボケました」

「ツッこめなかった!」


「しかしお前、春先と服装が変わってないじゃないか?寒くないのか?」

真宵「ええ、特には。季節の変化は感じられますが、霊なので気温の変化は感じられません」

「へー、じゃあエアコン要らずでいいよな」

真宵「ただし、阿良々木さんが暑苦しいって事は分かります」

「酷いなお前」

真宵「と言う事で、私はこれで失礼しますね」

「ああ、またな」

そして僕は図書館へ向かった。

35 : VIPに... - 2010/05/13 12:26:57.78 p1rD2FYP 29/307

受験前の図書館は学生でいっぱいだった。
いつものテーブルへ向かうと羽川が居た。
軽く手を上げ挨拶をする、図書館では静かにするようにと羽川に言われてるんでね。
席に着き、勉強を始める。
3時間ほど根をつめた所で休憩。

「なぁ羽川、合格しても行かない可能性はあるのか?」

「そうねぇ、無いとは言い切れないわ」

「どの場合ないんだよ?」

「阿良々木君が落ちる、戦場ヶ原さんが落ちるかな?」

「何で?」

「前にも言ったじゃない、3人なら楽しいだろうって」

「でもなぁ、折角合格したのにそれじゃ勿体ないじゃないか」

「別に合格する事に有難味なんて無いのよ、合格出来るだけの勉強が出来たってことに意味はあるけど」

「ふ~ん、よく分かんないや」

「それに阿良々木君が居ないのに大学に行っても仕方がないし、万に一つ戦場ヶ原さんが落ちて私と阿良々木君だけで行くとなると、私は…」

「私は?」

「えへ、なんでもない。ちょっと自意識過剰だったかな?」

「なんだよ、最後まで言っちゃえよ」

「まぁ、二人で会う時間が増えたら横恋慕しちゃうかもって話」

「へー…え?ええー!?」

36 : VIPに... - 2010/05/13 12:28:06.10 p1rD2FYP 30/307

「冗談よ。元々大学には行く気なかったし、世界中を回りたいと思ってるからね」

「そっか、みんなで合格出来たら良いな」

「そうね、その為には阿良々木君が一番頑張らないと」

「そ、そうだな…(荷が重い!)」

「私が見た所では、ケアレスミスさえなければもう合格ラインだと思うの」

「そ、そうなのか?」

「だからと言って気を許したら落ちちゃうよ?最後まで高めないとね」

「ああ、頑張るよ」

「じゃ、もう少し頑張って今日は終わりにしましょう」

「ああ」

結局この後、2時間ほど頑張った。
昔の自分からは考えられないぐらい勉強してるよな、本当に。
月火が言った「女がらみで進学」はあながち嘘ではないのかもしれない。
羽川を自宅付近まで送り届けた後、僕はいつものコースで自宅に戻る。
といっても、直線ではなく、大周り、戦場ヶ原の自宅まで寄ってから帰るのが日課だった。

38 : VIPに... - 2010/05/13 18:38:34.70 p1rD2FYP 31/307

ひたぎ「阿良々木君、今日もちゃんと勉強できた?」

「まぁそこそこに」

ひたぎ「そう、それは良かったわ」

「あと少しだからな、一生懸命頑張るよ」

ひたぎ「そう、それは良かった。ところで阿良々木君、万一落ちた場合どうするの?」

「そんな不吉な事言うなよ」

ひたぎ「違う大学に行くとか、浪人するとかってあるじゃない」

「あー、そういうことか。今回は1校しか受けないし、違う大学は無いな。浪人かな?」

ひたぎ「そう…浪人してまた私と同じ大学を受けるの?」

「まぁそうなるかな」

ひたぎ「四浪したらどうするの?私、卒業してもう居ないわよ?」

「待て!なんで四浪確定かよ!」

ひたぎ「一浪して入っても、私の後輩よ?色々こき使うわよ?」

「いまもそう変わらねぇよ!」

ひたぎ「サークルで乱交してズッコンバッコンな女になってるかも知れないわ」

「それはお前次第だろ!」

ひたぎ「阿良々木君、私に寂しい思いはさせないでね?」

「うん…」

あー胸が痛い!最近愛されてるって実感できる事が多い。
半分怪異な時なら物理的な愛情(攻撃)だったのに、最近は精神戦で攻めてきやがる。
これはますますやばくなってきた!

39 : VIPに... - 2010/05/13 18:51:57.18 p1rD2FYP 32/307

結局、戦場ヶ原の家に上がり込んで、お茶をしておまけに勉強も少し見て貰う。
そとはもう真っ暗だ。
やはり冬だな、外に出ると一段と寒さが増していた。

ひたぎ「気をつけて帰ってね」

「ああ、じゃまた明日学校で!」

ペダルを漕ぎ出そうとする僕に戦場ヶ原が近づく。

「チュッ」

軽く頬にキスし、戦場ヶ原がほほ笑む。
僕が何か言いだそうとした瞬間、背を向け家に戻って行った。
自分の頭のてっぺんから蒸気が出ているような気がした。
何故かペダルを漕ぐ足に力が入る。
坂道すら楽勝、今の僕なら自転車で電車を抜ける気がした。
道中、ミスタードーナツの前を通ると、店内に忍野とキスショットが居るのが見えた。

「ちょっと寄ってくか」

40 : VIPに... - 2010/05/13 18:55:13.05 p1rD2FYP 33/307

ドアを開け、店内に入る。
オールドファッションとコーヒーを頼み、それを持って二人の居る席に行く。

「よぉ、久しぶりだな」

忍野「やぁ阿良々木君、元気そうだねぇ。頬に口紅がついてるよ?何か良い事あったのかい?」

「何?!」

キス「ほぅ。お前さんはどんな受験勉強をしとるのか教えて貰おうか?」

僕は走って化粧室へ向かい鏡を見る。

確かに仄赤い口紅が付いていた…

拭き取るのは勿体ないような気もするが、このまま世間の晒し者になるよりはマシだ。
ハンカチを濡らし、頬を擦る。
化粧品ってのは強く擦らないと落ちない、結局紅が伸びたのか摩擦で赤くなったのか、
僕の頬はほんのり赤みを帯びた状態になった。
で、テーブルに戻る。

41 : VIPに... - 2010/05/13 18:56:36.25 p1rD2FYP 34/307

「いやー、電車が混んでて隣のOLがぶつかってさー」

キス「今日は日曜日じゃ、電車が混みあう等嘘じゃな」

忍野「阿良々木君、別に隠す事も無いんだよ?ふふん」

キス「どうせお別れにあのツンデレ娘にキスされたんじゃろ」

忍野「ツンデレちゃんはやるねぇ。ちゃんと彼氏の飼い方を知ってる」

「…」

キス「お前様は眷族になったり、犬になったり忙しい奴じゃの」

「犬になった覚えは無い!」

忍野「まぁいいじゃないの青春しててさ」

キス「それより来週の旅行はどうするのじゃ?」

忍野「そうだねぇ、樹海散策なんてどうだい?」

キス「樹海はもう飽きた。わしは東尋坊に行ってみたいんじゃ」

忍野「この時期の日本海は寒いよぉ?まぁ僕はどこでもいいけどさ」

キス「なら福井に決定じゃ、飯はカニじゃからな」

忍野「あいよ、委細承知だよキスショット」

「相変わらずお前たちは仲が良いな」

忍野「阿良々木君、やきもちかい?なんなら君も眷族になってもいいんだぜ?」

キス「うむ、お前さんなら儂も歓迎じゃ」

「いや、遠慮する。それよりお前達、結構有名だぞ?」

キス「別にやましい事はしておらん」

忍野「そう、今はこうしてるのが楽しいのさ」

42 : VIPに... - 2010/05/13 18:58:10.82 p1rD2FYP 35/307

キス「そう、楽しいのじゃ」

「ふ~ん、なら良いけどさ」

忍野「そうそう阿良々木君、僕たちはね春になったら日本から居なくなっちゃうよ」

「え?本当なのか?」

キス「まぁ色々と国に帰ってするべき事もあるからのぅ」

「そうなんだ…少し残念だな」

忍野「少し残念だけど、多くは嬉しいのかい?」

「そういう意味じゃねーよ!」

キス「まぁ春までは、ほぼ毎日こうしておるから用があったらここに来るかビルに来ればいい」

「ああ、そうするよ。大した用は無いと思うけどな」

僕はコーヒーを飲みほし、帰ろうとした。時だった。

忍野「阿良々木君、大事な事忘れてたよ」

「ん?」

忍野「フラグの折忘れ」

「何!まだあったのか!」

忍野「ああ、僕もうっかりしていたよ」

「だれなんだ?」

43 : VIPに... - 2010/05/13 19:00:24.20 p1rD2FYP 36/307

忍野「迷子のお嬢ちゃん」

「八九寺?」

忍野「そう、迷子ちゃんね」

「小学生だぞ?」

忍野「年齢なんて関係ないって前にも言ったろ?」

キス「なんじゃそやつは」

忍野「怪異さ、今じゃ阿良々木君に助けられ浮遊霊になってるけどな」

キス「わしが心渡で一刀両断して始末してやろうか?」

「笑えない冗談言うなよ、キスショット」

忍野「まぁなんだ迷い牛から浮遊霊になったのは良いんだが…」

「良いんだが?」

忍野「そろそろ成仏させてあげたらどうかな?」

「成仏って僕がさせるのか?」

忍野「そりゃそうさ、彼女も君に『助けられた』内の一人なんだからさ」

「でもどうやって…」

忍野「そりゃ自分で考えなよ。でもね、迷子ちゃんがずっとこの町に居るのは君がいるからさ」

「そうなのか…」

忍野「浮遊霊ならどこでも行けるさ、でもここに留まってる。意味分かるよね?」

「でもそれはこの町がお母さんの居た町だからだろ?」

キス「相変わらず鈍いな、お前さん」

忍野「手厳しいねぇ、まぁあの子が君に好意を抱いているのは間違いない」

「何故そんな事が言える?」

忍野「彼女が浮遊霊だからさ。普通は思い出があっても留まらない、だから浮遊」

「ならあいつには明確な理由があると?」

忍野「そう。君と言う名の理由」

46 : VIPに... - 2010/05/13 19:04:43.56 p1rD2FYP 37/307

忍野「もう一つ言えば、彼女は浮遊霊だけど浮遊霊じゃない、君に縛られた霊だ。地縛霊みたいなもんさ」

忍野「で、彼女も輪廻転生の権利はある。ずっと君に構ってちゃまた人として戻れない」

忍野「だから彼女を解放してあげなきゃね」

「そうか…」

忍野「ま、とりあえず自力で頑張って。ダメなら『手を貸すよ』」

僕は席を立ち、店を後にした。

緩やかな坂道を下りながら、ボーっとどうすればいいか考えつつ。

角を曲がった瞬間、視界に光が飛び込んできた。

鈍い衝撃と刺すような痛み、目の前の信号は青だったはず…

遠のく意識の向こうで人の声が聞こえる

「大丈夫か?」

それとは別に小さな女の子のすすり泣く声が聞こえたが、そこで僕の意識は飛んだ。

50 : VIPに... - 2010/05/14 12:17:04.67 wTzsSdMP 38/307

遠くの方で声が聞こえる

「阿良々木さん、阿良々木さん」

誰の声だろう?よく分からない。
ぼんやりとした視界、いや視界じゃなくて意識の中で誰かの声が聞こえる。

「阿良々木さん、阿良々木さん、目を覚ましてください」

ずっと聞こえる、そう八九寺だ、八九寺真宵の声。
聞こえているが返事が出来ない。

「阿良々木君、早く起きないと試験に間に合わないよ?」

「兄ちゃん、みんな心配してるから早く起きなよ!」

「お兄ちゃん、お母さんにいつまでも心配かけないの!」

「暦…」

色んな声が僕の意識に届く。
なのに返事が出来ない。
僕はどうなってるんだ?
何も思い出せない。

51 : VIPに... - 2010/05/14 12:18:24.68 wTzsSdMP 39/307


「阿良々木君」

何か温かみを感じる。
誰かに手を握られているようだ。

「阿良々木君、ねぇ、阿良々木君」

暖かさの中に小さな冷たさを感じる。
その冷たい点は僕の手を滑り落ちて行く。

「阿良々木君、このまま私を置いて行くの?」

「阿良々木君、戻ってきてよ」

柔らかい暖かさと冷たい雨が僕に落ちてくる。
なんだろ、誰だろ?
ああ、戦場ヶ原。
ひたぎが泣いている。
今僕が助けに行くから!
のんきに寝ている場合じゃない!
そう思い、力を振り絞る。
重い、体が重い。
でも行かなきゃ!

「阿良々木君、一人にしないで!」

僕はあらん限りの力で答えた「戦場ヶ原!」

52 : VIPに... - 2010/05/14 12:21:38.29 wTzsSdMP 40/307

ふと視界に飛び込んできたのは戦場ヶ原ひたぎ。
クラスの同級生、いや僕の彼女だ。

「やぁ、元気?」

「うぅぅ」

「なんかさっきから戦場ヶ原が呼ぶんで何かと思ったら俺寝てた?」

「よかった、よかった…」

戦場ヶ原の泣き顔を僕は初めて見た。
もうくしゃくしゃで、ちょっとびっくりするぐらい。
少しして、白衣の人たちがやってきた。
ああ、そうだった僕は帰り道に車と衝突して…えっと、ああそうか、もう眷族じゃないから再生しないんだったな。
聞けば1カ月近く眠っていたらしい…
気がつけば来週には新年がやってくる。
今日がクリスマスだと知ったのは、妹達が小さなケーキを持って来た時だった。

55 : VIPに... - 2010/05/14 14:37:00.04 wTzsSdMP 41/307

色々と欠落している記憶。

思い出せない事もあるが、確か坂道を下って曲がった時に車と衝突して…

で、この有様。

それよりも卒業が危ぶまれる。

不慮の事故だとしても出席日数がヤバい。

万に一つ、卒業出来たとして受験は?右手は動くんだけど…

そこに戦場ヶ原がやってきた。

56 : VIPに... - 2010/05/14 14:37:47.42 wTzsSdMP 42/307

ひたぎ「阿良々木君、具合はどう?」

「ああ、悪くはないね。ただ左足と左腕の自由が無いのが辛いが」

ひたぎ「そう、なら学校には行けるわね」

「そうだなぁ、早く行かないと卒業もヤバいし…

ひたぎ「その件だけど、羽川さんが学校に掛けあって、特別に学期末試験を受けられるようになったわ」

「そうなんだ」

ひたぎ「羽川さんが受けさせないと自分の大学受験も辞めるとか言い出してね」

「ふふ、あいつらしいな」

ひたぎ「少し嫉妬したわ」

「……」

ひたぎ「まぁ、あの人の裏が黒いのは知っていたけれど、私を超える黒さだわ」

「(どっちもどっちだけどな)」

ひたぎ「そういうことで阿良々木君、学期末試験は年明け直ぐよ、今日から勉強させるから」

「今日からかよ」

ひたぎ「そう、今日から。みっちり教えてあげるから感謝しなさいね」

戦場ヶ原が普段と変わりない様になって、僕も一安心だ。

一時はかなり凹んだ顔をしてたんだけどな。

それはそれで結構楽しかったりもした。

こんなことを考えているのがバレたらどうなるかは、簡単な事だけど。

57 : VIPに... - 2010/05/14 14:39:02.97 wTzsSdMP 43/307

何とか卒業は出来そうな雰囲気にはなってきたが…

医師が言うには、骨折のほうは意識不明のうちにほぼ完治に近い。

ただし、リハビリは必要らしい。

脳や内臓に何もなかったのが不幸中の幸いで、この調子なら3学期は通学する事も可能らしい。

ということで、冬休みにしっかり復習して、3学期前日に全教科の試験を行い、赤点さえ取らなければあとは卒業の運びとなる。

よって毎日病室で勉強。

朝から晩まで、見舞いが可能な時間帯に戦場ヶ原が付きっきりで教えてくれる。

リハビリや入浴、食事の時間だけが休憩みたいなものさ。

でもって、夕方遅くに色んな人が見舞いに来る。

火憐ちゃんや月火ちゃんはほぼ毎日、母親の代わりに色々持ってくる。

両親は元気なら大丈夫!と見舞いに来ない。

というかかなり心配したんだろうな、今はゆっくりして貰いたい。

火憐ちゃんが言うには、事故の加害者側の保険会社との交渉とかで案外忙しいとか。

羽川は戦場ヶ原が帰る前にやってきては、少し話し、戦場ヶ原と一緒に帰っていく。

あの二人、知らない間に仲良くなったんだな。

というか、師弟関係?だっけ。

「様」とか前に言ってたしな。

神原と千石は邪魔しちゃ悪いからって、一度だけお見舞いに来ただけだった。

58 : VIPに... - 2010/05/14 14:40:32.26 wTzsSdMP 44/307

で、面会時間が終わると、夜の面会が始まる。

最初に来るのは忍野とキスショット。

毎日、ミスタードーナツを持って来るが、ほぼ自分達だけで食べつくす。

忍野「しかし、死なないとは阿良々木君もしぶといねぇ」

キスショット「のぅ、半死ならわしが眷族にしてやろうと思ったが、お前さんは不死身か?」

「お前達には言われたくない!」

忍野「まぁ、死んでたとしても僕が生き返らせる事も可能だったんだけどね」

キスショット「ただでか?」

忍野「そりゃそれなりの代金は貰うさ、お友達価格で900万ぐらいで」

キスショット「おードーナツがいくつも買えるのぅ、お前さん今から死んでみるか?」

「お前らもう帰れよ!」

病室で僕そっちのけでワイワイ騒いでは婦長に怒られ、追い出される。

押野達が帰った後に最後の来訪者がやってくる。

そう、八九寺。

59 : VIPに... - 2010/05/14 14:42:34.45 wTzsSdMP 45/307

病室のドアが音も無く開く。

ドアから半分だけ顔を出し、中に僕以外いないか確認した後、八九寺は入ってくる。



真宵「こんばんは、あららあららさん」

「きょうの僕は困ったチャンですか」心地よいやり取り

真宵「今日もリハビリはちゃんとやりまして?」

「ああ、いつものように体と脳と両方やったさ」

真宵「それは良かったです」

「さっきまで押野達が居たんだけどな」

真宵「見たいですね、床にドーナツの屑がいっぱい落ちてますよ」

「毎晩ここで大騒ぎだからな、あいつら」

真宵「みんな阿良々木さんが元気になって嬉しいんですよ」

「そうなのかなぁ」

真宵「そうにきまってますよ」

60 : VIPに... - 2010/05/14 14:43:54.09 wTzsSdMP 46/307

「それより八九寺、お前俺が事故に遭った時いたよな?」

真宵「はい、居ました」

「そうか…いやね、遠のく意識の中でお前の声が聞こえてさ」

真宵「そうですか…」

「あの時間にあんなところで何やってたんだ?」

真宵「そ、それは…あそこが今のおうちなんです」

「え?あの辺に住んでるの?」

真宵「いえ、あそこは私が轢かれた交差点ですから」

「そうだったんだ…」

真宵「ええ。あの交差点が私の家です。というか戦場です」

「何と戦ってるんだよ」

真宵「事故とです、事故。なるべく事故が起きない様に努力しているんです」

「例えば?」

真宵「禁則事項です」

「まだそのネタを引っ張るか」

真宵「べ、別にあんたに教えようと思ってやってるんじゃないからね!」

「ある意味、すげー似あうなツンデレ」

真宵「///」

61 : VIPに... - 2010/05/14 14:44:40.72 wTzsSdMP 47/307

「何にせよ、あそこは危険な場所なんだな」

真宵「そうです、行政に直談判して信号を増やしたり、停止線をもっと奥にしなければなりません」

「おお、建設的な意見!」

真宵「笑い事ではありませんよ阿良々木さん、阿良々木さんも私と同じ運命を辿る可能性があったのですよ」

「まぁそうなるな」

真宵「阿良々木さんの迷い牛なんて性質が悪すぎです」

「なんだそりゃ?」

真宵「『お前の事は嫌いだ、どっかいけ!』とか暴力的です」

「あっはっは、僕ならみんな迷わしちゃうかもな」

真宵「ま、忍野さんに駆除されて終わりでしょうけど」

「僕は害虫かよ!」

真宵「自覚が無いなんて、阿良々木さんらしいです」

「絶望した!」

真宵「はぁー、それもウザいですね」

「やっぱそう?」

62 : VIPに... - 2010/05/14 14:45:58.82 wTzsSdMP 48/307

真宵「話は変わりますが、勉強は大丈夫なんですか?」

「まぁ卒業は出来そうだよ」

真宵「大学受験はどうなんですか?」

「うーん、受験勉強さぼったしな。もしかしたらダメかも」

真宵「そうなんですか…」

「羽川が言うには前より20%ぐらい学力がおちてるそうだ」

真宵「0はいくら落ちても0じゃないんですか?」

「おまえなー!」

真宵「大丈夫です、阿良々木さんならちゃんと合格出来ます、私が保証します」

「お前に保証されてもな」

真宵「大船に乗ったつもりで受験はしてくださいね」

「まぁ一応は受けるけどな」

真宵「なら大丈夫です!」

八九寺は満面の笑みで俺の方を見る。

何考えてんだか?

真宵「では私はこれで失礼します。あ、そうそう、阿良々木さんにお礼がまだでしたね」

「何のお礼だよ」

真宵「おうちに届けてくれたお礼です。ちゃんと返しますからね」

頬笑みながら八九寺は病室を後にする。

それから僕は八九寺を見かける事は無かった。

63 : VIPに... - 2010/05/14 14:47:00.77 wTzsSdMP 49/307

3学期が始まる。

僕は当面、車いすで通学。

戦場ヶ原と羽川が毎日迎えに来てくれる。

途中から神原も合流し、3+1での登校。

学内では「阿良々木とは何者?」と噂になってる。

そりゃそうだわな。

学校一の天才、学校一のスポーツマン、学校一のクールビューティに車椅子を押され登校する僕。

(僕と戦場ヶ原が交際しているのは殆ど知られていないからな)

まぁそんなこんなで、学期末試験も無事済ませ、高校生活最後の学期を「消化」させる。

大学受験まであと3週間と差し迫っていた。

64 : VIPに... - 2010/05/14 14:48:33.59 wTzsSdMP 50/307

授業と学期末試験、3年の学年末試験は受験の前に済まされる。

殆ど授業なしでの学年末試験は出題範囲が狭い。

というか1週間分の授業だけが出題範囲。

難なく試験も終了し、あとは大学受験するだけ。

それが済めば消化試合的な授業と卒業式。

大学入試に向け、追い込んで結構勉強したが、不安だ。

羽川は「出来るだけやったし、あとは当日にどれだけ力を出せるか」と言い、

戦場ヶ原は「阿良々木君、分かってるわね。落ちたら2人で浪人よ」と自分の人生を掛けた発言をする。

そして受験当日が当たり前のようにやってきた。

65 : VIPに... - 2010/05/14 17:42:26.15 wTzsSdMP 51/307

ひたぎ「阿良々木君、分かってると思うけど、合格しなさいよ」

「戦場ヶ原さん、試験前にプレッシャー与えちゃダメじゃない」

「まぁ、なるようになるさ。出来るだけ頑張る」

ひたぎ「出来るだけ?死に物狂いで頑張りなさい」

「はいはい、分かったよ」


そして試験が始まる


(くそーいきなりつまずいた!)

簡単な単語問題で答えが出てこない。

やはり事故の影響だろうか?見たような気はするが意味が分からない。

とりあえず出来る問題からやっていこう。

解答用紙が7割ぐらい埋まったところでもうお手上げ。

その時だった、僕の回答用紙に消しゴムが走る。

正確には小さな子供の手が回答を消す。

横に目をやると八九寺が居た!

66 : VIPに... - 2010/05/14 17:43:55.41 wTzsSdMP 52/307

「お前何やってんだ!」つい叫んでしまった。


試験官に静かにするように諭される。

クソ!大恥かいた!


真宵「阿良々木さん、こことここは間違っています」

「お前何やってんだよ!」

僕は小声で話しかける

真宵「お礼です。戦場ヶ原さんの回答と違う所をチェックしています」

「お前、それはカンニングだろ!…」

真宵「いえ、私が勝手にやってるだけで阿良々木さんには関係の無い事です」

「詭弁だ」

真宵「他の人には見えていませんので問題ないです」

「でもな…」

試験官がこちらを睨む。

僕は黙って下を向くしかなかった。

勝手に解答用紙が訂正される。

消されるなら未だしも、空欄を鉛筆で埋める八九寺。

「にひー」と悪戯っ子の様な顔で笑いながら。

67 : VIPに... - 2010/05/14 17:44:47.04 wTzsSdMP 53/307

とりあえず1科目目が終了、同室で受験していた戦場ヶ原に声を掛けられる。

「どうだった?」

「お前の方こそ、どうだったんだよ?」

「まぁ、全問正解に近いと思うわ」

「そうかい、なら僕も全問正解に近いだろう」

「?」

戦場ヶ原は一瞬不思議そうな顔で僕を見たが、すぐ笑顔になった。

「私が教えたからよね」

そういう問題じゃないんだけどな。

僕は廊下に出て八九寺を探した。

どこにも居ない。

そして2科目目が始まる。

68 : VIPに... - 2010/05/14 17:45:53.98 wTzsSdMP 54/307

試験時間が残り30分辺りでまた八九寺が来た。

「黙って鉛筆を軽く持っていればいいんです」

八九寺はそういいながら、僕の手を取り回答用紙(マークシート)を埋めて行く。

勿論、戦場ヶ原の回答を見てきての話だ。

こいつがこの問題を解けるレベルでないのは分かっている。

しかし…消しゴムで消される場所の多い事…こりゃ八九寺居なけりゃ落ちてたな俺。

こんな調子で3科目、全部終了。

八九寺は「羽川さんに見つかる訳にもいかないのでこれで失礼します」とどこかに行ってしまった。


そして僕の大学受験は「不本意」な形で終わってしまった。

結果は多分合格だろう、でも何か間違ってる。

そんなモヤモヤした気分で試験会場を後にする。

69 : VIPに... - 2010/05/14 17:46:54.33 wTzsSdMP 55/307

「阿良々木君、試験どうだった?」

「あー、多分合格」

「ちゃんと出来たんだ」

「ああ、まぁな」

ひたぎ「凄い自信ね」

「そういう戦場ヶ原はどうなんだよ?出来たのかよ?」

ひたぎ「こんな試験どうって事なかったわ」

「へーそりゃ良かった。じゃあ、僕の合格も確定だな」

2人は首をかしげる。

「いや、出来るお前たちに教えて貰ったから大丈夫って話だよ」

「てっきり戦場ヶ原さんの回答でも写したのかと思ったわ」

本当にこいつは何でも知ってるな

「でもよかったじゃない」

「そういう羽川はどうだったんだ?」

「分かる所だけ書いたわ」

「じゃ全部埋まったって事だな」

「ふふ、どうでしょうか?」

「まぁ心配は要らないけど、合格したら入学するのか?」

「さぁ?まだわかんない。とりあえず合格発表の日まで考えておくね」

「やっぱ確定じゃないのか…」

そんな事を言いつつ、僕達は帰路に着いた。

70 : VIPに... - 2010/05/14 18:41:50.22 wTzsSdMP 56/307

電車を降り、そこで別れて家へと向かい歩く。

振り向くと八九寺がついて来ていた。


「八九寺、何のつもりであんな事したんだ?」

真宵「えへー、何の事ですか?」

「とぼけるな!カンニングの件だ!」

真宵「阿良々木さん、カンニングと言うのはバレてカンニングなんですよ」

「でもなー!」

真宵「誰にもバレなければカンニングにはならないんですよ?」

「お前、だからって…」

真宵「いいんです、怒られても別に。でも阿良々木さんには大学に行って欲しかったんです」

「落ちたら一浪すりゃいいだけの話だろ!」

真宵「それもダメです。阿良々木さんは戦場ヶ原さんとずっと一緒の時間を過ごすべきなんです」

「だからって…」

八九寺はうつむきながら呟いた。

「阿良々木さんはきっと戦場ヶ原さんを幸せに出来ます。私はそんな幸せな…」

言葉に詰まる八九寺。

「分かった、もう泣くな」

僕はいつもと違う風に八九寺を抱きしめる。

71 : VIPに... - 2010/05/14 18:42:51.25 wTzsSdMP 57/307

「ありがとう」

僕は、僕の事を想ってくれた八九寺に感謝の気持ちを零す。

「よかった、これでお礼が出来ました」

八九寺は顔を上げ、涙目で笑う。

「本当に良かった、これで私も…」

抱きしめた八九寺の向こうに道が見える。

いや、八九寺が透ける、消えてゆく。

「おい、八九寺!お前!」

「阿良々木さん、本当に有難うございました。私、これでお別れです」

「何言ってんだ!もって話そうぜ!八九寺!」

「阿良々木さん、最後にお願いです。戦場ヶ原さんといつか結婚して女の子が生まれたら『真宵』って付けてくださいね」

「お前、何バカな事言ってんだよ!八九寺、消えんなよ、はちくじー!」


僕の手から八九寺の感触が消えた。

そこにはただ僕の腕で作られた空間が存在した。

72 : VIPに... - 2010/05/14 18:43:45.55 wTzsSdMP 58/307

その晩、僕は廃墟ビルで忍野に事の次第を説明した。

忍野「ほぅ、阿良々木君も大人になったね、ちゃんと送れたじゃないか」

「でも…」

忍野「でももへったくれも無いんだよ阿良々木君。これで良かったんだよ」

「本当にこれで良かったのか?」

忍野「ああ、間違いない」

「そうか…」

忍野「あとね、試験の件は誰にも言っちゃダメだよ。彼女の苦労が水の泡になる」

「その事なんだけど…」

忍野「阿良々木君、他人の苦労と別れの悲しさを無駄にするのかい?」

「それは…」

忍野「ま、いいじゃない、誰にもバレなきゃ『テクニック』になるんだよ、イカサマはね」

結局、忍野に言い包められ、僕はビルを去った。

合格発表の日、当たり前だけど僕も戦場ヶ原も羽川も合格だった。

73 : VIPに... - 2010/05/14 18:44:24.55 wTzsSdMP 59/307

「みんな合格出来て良かったね」

ひたぎ「ええ、まさか阿良々木君まで合格するとは思わなかったけど」

「ああ、そうだな」

ひたぎ「あら?いつもなら『落ちるの前提かよ!』とか言うのにどうしたの?」

「うんうん、何か試験終わってから阿良々木君変だよ?」

「いや、別に。ただ何となくね、何となく」

僕の言葉に2人は何かを感じたのだろうか?何も言わずほほ笑む2人。

「2人とも、有難う。みんなありがとう」

74 : VIPに... - 2010/05/14 18:45:47.93 wTzsSdMP 60/307

それからの事(近い話)


卒業式に神原が大泣きして大パニックになった。

でも、翌年うちの火憐が入学したら「バルラギコンビ」を結成するとか、何とか。

大学は僕達と同じ所を受けるとか。


忍野とキスショットは桜が咲く前に街から消えた。

勿論、別れの挨拶は無し。

というかキスショット「向こうは冬が寒いからまた秋に戻る」とか。

もうくんなよ!

お前らは渡り鳥かよ。

75 : VIPに... - 2010/05/14 18:47:39.62 wTzsSdMP 61/307

羽川は結局、大学に進学せず放浪の旅に出かけた。

入学金の締め切り日までに納めず、学校に対し「忘れてました」とか。

勿論、教員は慌てて大学側に掛け合ったが、門前払い。

流石、羽川やる事が恐ろしく黒い。

忍野・キスショットの計らいで、彼らの向かった先に行く事になった。(ルーマニアだっけ)

その旅費が「お年玉」とか。

餞別にいつかの本のお返しにと包んだが断られた。

でも、空港で別れ際に彼女の鞄に潜り込ませておいた。


戦場ヶ原は勿論、僕の彼女のままである。

大学までは1時間程度の距離なんだが、同棲している。

というか、戦場ヶ原の父親が海外出張となり、あのボロいアパートを引き払い

マンションを借りると言ったんだけど、戦場ヶ原がうちに転がり込んできた。

もううちの姉妹は大喜び。

いや、親が喜んでいる。

ていうか、僕に2人目の母親が出来たようで辛い。

幸せなんだけどね。


そんな風に僕達は日常を楽しんでる。


この後の話はまたいつか。

76 : VIPに... - 2010/05/14 18:48:51.24 wTzsSdMP 62/307

あれ?なんか忘れてる?

ああ、そうそう。

あの廃ビル、この夏に取り壊しになるそうだ。

忍野達に伝えておかないと…うちが住処にされそうだ!


おわり(つづく)

77 : VIPに... - 2010/05/14 18:51:09.93 wTzsSdMP 63/307

ここまで呼んでくれた方、有難うございました。
駄文・乱文に耐えていただき感謝です。

尚、この続きは需要があれば落としておきます。
スレの残りは忍野とキスショットの「深夜のラジオ」をお送りします。

83 : VIPに... - 2010/05/14 23:12:31.07 wTzsSdMP 64/307

忍野「さて、深夜ラジオでも始めるか」

キス「勝手にやりゃんせー」

忍野「おいおい、忍ちゃん寂しいなぁ。何か悲しい事でもあったのかい?」

キス「ここの>>1が気に食わん。わしを海外に捨て置きやがった」

忍野「まぁ良いじゃないか。秋には戻れる設定なんだし」

キス「しかし、家がぁ!ないぞ?」

忍野「別にまたどっか探せばいいんじゃないか?」

キス「そうじゃな、今度はせめてシャワーぐらいは欲しいぞ」

忍野「そんな物件どこかにあったな」

キス「あとドーナツ屋の近くがいいぞ」

忍野「ああ、いいところが有ったよ」

キス「どこじゃ?」

忍野「元ツンデレちゃんのアパート」

キス「おお、しかし家賃が要るでないか?」

忍野「大丈夫、阿良々木君に貸してある500万を払ってもらうから」

キス「あやつも大学生だし、バイトしてボロアパート代ぐらい払えるか」

忍野「とりあえず不動産屋に家賃きいてみる」

84 : VIPに... - 2010/05/14 23:17:40.26 wTzsSdMP 65/307

忍野「忍ちゃん、家賃分かったぞ」

キス「その忍というのやめい!わしはキスショット(りゃく)じゃ!」

忍野「あーごめんごめん。でなキス、あのアパート、月額5000円らしい」

キス「何?5000円もするのか?」

忍野「いやいや、そこはたったの5000円と驚くべきでしょうが」

キス「5000円あれば何個ドーナツが買えると思っておるのじゃ」

忍野「キスの金銭感覚はドーナツ本位制なんだな」

キス「何を今更言っておる、当たり前でないか」

忍野「ちなみに、眷属の僕はドーナツ何万個分?」

キス「そうじゃな、3個とお手拭ぐらいじゃ」

忍野「そんなに安いの?」

キス「眷属で3個なら優秀なほうじゃ」

忍野「そ、そうなんだ・・・」

キス「何せ人肉はただで手に入るからのぅ」

忍野「怖い・・・」

85 : VIPに... - 2010/05/14 23:24:26.24 wTzsSdMP 66/307

忍野「さて、気をとりなおして最初のお手紙を読んでみるか」

キス「まて、いつの間に葉書募集してたんじゃ」

忍野「細かい事は気にしない」

キス「じゃわしが読んでやる、かせ」

ペンネーム:BL大好きッ子ちゃん
本文:
最近愛しの先輩が彼氏と同じ大学に進み、高校に取り残された私はすることがありません。
二人を別れさせる良いアイデアは無いでしょうか?

忍野「あーなんか怖いね、こういう手紙」

キス「痴情の縺れでグッサリやるタイプかのぅ?」

忍野「まぁ、人を呪わば穴二つというので、ここは勝手に別れるまで待てばいいんじゃない?」

キス「じゃな。統計では高校時代からのカップルが結婚する率は0.05%じゃ」

忍野「へー興味深い統計だねぇ」

キス「先日、コッソリアンケートで取ったのじゃ」

忍野「コッソリ・・・それって殆ど悪意の塊でしょ!」

キス「まぁ年齢=童貞の阿良々木みたいなのが答えておるからの」

忍野「じゃ、次!」

86 : VIPに... - 2010/05/14 23:29:29.43 wTzsSdMP 67/307

ペンネーム:お兄ちゃんハァハァ
本文:最近お兄ちゃんに彼女が出来ました。二人を別れさせる方法はありませんか?

忍野「またそんな内容か・・・」

キス「世の中にはモテモテの男がいるんじゃな」

忍野「しかし、これ妹さんでしょ?喜ぶべきなんじゃないかな?」

キス「わからんぞ?他人だがお兄ちゃんって慕っているだけかも」

忍野「僕的には妹がヤンデレ化してお兄ちゃんを監禁する方向がいいなぁ」

キス「小僧、まだあのCDもっておるのか?」

忍野「あれは僕の癒しなんだよ」

キス「ほう、ならわしが同じ事をしてやろう」

忍野「あーキス、それはやめて!」

キス「遠慮するな、ほれ」

忍野「あー!あwせdrftgyふじこ」

キス「他愛も無い事よ」

忍野「ハァハァ、死ぬかと思った!次行こう!」

87 : VIPに... - 2010/05/14 23:36:11.95 wTzsSdMP 68/307

ペンネーム:バイト少女蘭
本文:最近うちのバイト先にカップルが来るんだけど、ドーナツ1個とコーヒー1杯を分けながら何時間も粘ります。
見た目が嫌らしいアロハ男と風俗にお勤め風の金髪女、冬なのに男はアロハ、女はタンクトップ。
どう考えても嫌がらせです。来なくする方法はないでしょうか?

忍野「・・・だからタンクトップは止めろって言ったんだよ!」

キス「小僧こそ、年中アロハ着るな!」

忍野「キスが毎日ドーナツドーナツ言うから、僕の財政がきついんだよ!」

キス「ならお前は食わずに見ておれば、半分こしてるとか書かれんのじゃ!」

忍野「そういう問題じゃない!」

キス「どういう問題じゃ!」

忍野「この店員、絶対にあいつだ!いつも夕方に居るメガネの!」

キス「おお、あいつか!よし、今度この手紙もって店長を〆てやる」

忍野「お詫びにドーナツ1年分とかくれるかもな」

キス「!よし、今からいくぞ!」

忍野「まて、もう閉店している。明日にしよう」

キス「ざんねんじゃのぅ、じゃ次読むぞ」

88 : VIPに... - 2010/05/14 23:39:46.75 wTzsSdMP 69/307

ペンネーム:貝になりたい
本文:金返せ

忍野「・・・・・・」

キス「・・・・・・」

忍野「何もここまで送ってこなくて良いのに」

キス「だからわしは嫌じゃと申したろ、詐欺師を騙すのは良くないと」

忍野「いやー学生時代からあいつは馬鹿でね。すぐに僕に騙される」

キス「その反動で色んな人が被害に遭ってると思うが?」

忍野「ほら、いうじゃない。『被害は天下の回り物』」

キス「なんか嫌な格言じゃの、ていうか、間違ってるぞ」

忍野「じゃ、この手紙は無かった事にして、次」

89 : VIPに... - 2010/05/14 23:50:28.59 wTzsSdMP 70/307

キス「本日最後の手紙じゃ」

ペンネーム:中の人がウザイと>>1に思われてる人
本文:また知らないところでフラグを立てていたようです。折り方教えてください。
早く折らないと身の危険を感じます。

忍野「・・・・・・」

キス「・・・・・・」

忍野「うーん、まだか?」

キス「またみたいじゃな?」

忍野「とりあえずそれは>1に何とかしてもらうしかないんじゃないのかな?」

キス「しかし>1は中の人が嫌いみたいだからな、協力してくれるかどうか」

忍野「ですよね、突然車に轢かれる設定とか無茶し過ぎかもね」

キス「今度は校舎の屋上からダイブってのもあるかもな」

忍野「あーあれはイケメン専用行動だから、イケメンじゃなきゃ死亡フラグだよ?」

キス「イケメン・・・イケメンではないな」

忍野「イケメンとは僕のような人を言うんだよね」

キス「ねぇ、いっぺん死んでみるぅ?」

忍野「にてねぇwwwww」

キス「あーもう!もう一枚読んでから終わる!」

90 : VIPに... - 2010/05/15 00:03:29.93 5Xp/IqsP 71/307

ペンネーム:荷物が重すぎ
本文:最近「さらい屋五葉」というアニメの弥一さんがかっこよすぎです。
あと、『ダンス イン ザ ヴァンパイアバンド』って吸血鬼のアニメも最高です。
私は大きくなったら声優になりたいのですが、どうなればなれますか?

忍野「うーん、この子素晴らしい感性だね」

キス「そうか?」

忍野「あーそういえば、バンドでも吸血鬼は『わし』とか言ってたねぇ」

キス「あれはあやつが真似したのじゃ」

忍野「へぇ・・・プ」

キス「何がおかしいのじゃ!」

忍野「いや、キスの中の人って未定というか、出番無かったし」

キス「馬鹿も休み休みに言え!ちゃんと居るわ!」

忍野「ああ、CDで片言しゃべってたアレそうなの?」

キス「そうじゃわしじゃ!」

忍野「てっきり・・・あーもうだめ、耐えられんわはははあ!」

キス「小僧!殺す!」

忍野「まぁまぁ来年ぐらいに続きが放映されたら出番あるからガマンガマン」

キス「本当にあるのかのぅ?」

忍野「あんだけDVD売れてないわけは無い」

キス「それなら良いんじゃが・・・」

91 : VIPに... - 2010/05/15 00:09:30.08 5Xp/IqsP 72/307

忍野「アレだけ売れて、続編なかった詐欺だな」

キス「まぁそうじゃな」

忍野「しかし続編が有るからといって、CDと同じ声優とは限らんよ?」

キス「@@!何!」

忍野「僕的には、うーん、そうだねぇ。悠木碧なんかがいいな」

キス「・・・」

忍野「きっと大人気キャラになると思うよ?」

キス「そ、そうかのぅ」

忍野「ころねもノエルも評判よかったからねぇ」

キス「お前、詳しいな」

忍野「まぁね」

キス「では、わしの中の人は悠木碧に変更じゃ!」

忍野「ちなみに、ミナ・ツェペッシュと同じ声だけだなwwww」

キス「!!」

忍野「じゃ、今日の放送はここまで、またあした~」

キス「お葉書おまちしてま~す」

92 : VIPに... - 2010/05/15 17:34:43.44 5Xp/IqsP 73/307

阿良々木君と戦場ヶ原さんの一日


ひたぎ「そろそろ起きないと大学に遅れるわよ」

「うぅ~ん、もう少し寝かせて…」

ひたぎ「ねぇ、暦君。そろそろ起きないとあの世に行く事になるけど?」

「シャキーン!起きました!起きましたからその包丁を収めてくれ!」

ひたぎ「あら、これは今朝ご飯を作ってるだけよ、さっさと降りてらっしゃい」

「はいはい」

ひたぎ「ハイは1回よ」

「はい…」

そんなこんなで僕と戦場ヶ原の同棲は、親公認の同居というスタイルになっている。

勿論、僕の部屋に2人で暮らしている。

とはいっても、僕達はまだ深い関係には至っていない。

まだ彼女のトラウマが消えていないし、仕方がない。

以前と変わったと言えば、僕が「暦君」と呼ばれ、戦場ヶ原を「ひたぎ」と呼ぶくらい。

(但し、呼び捨てに対しては一悶着あった)

朝食は戦場ヶ原がほぼ毎日作る。

忙しい両親、妹達は大喜び。

家賃代わりって事らしいが、そんな事されたら僕の立場はどうなるんだ?

しかし、戦場ヶ原と一緒に住むようになって家族関係は以前よりも良好だ。

さて、とっとと朝食済ませて大学に行くか…

93 : VIPに... - 2010/05/15 17:36:01.07 5Xp/IqsP 74/307

通学は電車だが、駅までは自転車で行く。

バスに乗っても良いんだが、いつも戦場ヶ原を後ろに乗せて駅まで漕ぐ。

この時間が2人のプライベートタイム。

ひたぎ「ねぇ、暦君。今度の週末、どこか行かない?」

「うん、いいよ。どこか行きたい所ある?」

ひたぎ「そうね、潮干狩りとか」

「潮干狩りか…いいぜ、行こう!」

ひたぎ「うん」


いつもこんな調子で話す。

ちなみにここで話したって事は2人で行くって事。

家で話すと、確実に火憐ちゃんと月火ちゃんが一緒に行くと言うからね。

自室で話していてもこういう話をすると乱入してくるからね。

(盗聴されているんじゃないか?)

戦場ヶ原もようやくその事に気が付き、大事な話は外でするようになった。

ちなみに大学に着くと、これまた周りが五月蠅くておちおち2人で話せない。

隠している訳じゃないけど、交際の件は知られていない。

大学じゃ、ただの仲の良い高校時代からの友達と認識されている。

ま、何かとその方が好都合、というか戦場ヶ原ってそういう事を根掘り葉掘りされるのを嫌うからね。

ちなみに全カリキュラム、戦場ヶ原と同じ時間割なのだが…

だれもその件についてはツッこまない。

行きも帰りも一緒に帰っていく、男女の同窓生。

誰か気がついてもおかしくないんだけどな。

94 : VIPに... - 2010/05/15 17:37:57.95 5Xp/IqsP 75/307

帰り道、戦場ヶ原は買い物へ、僕はバイトに行く。

大学に入ってからアルバイトを始めた。

といっても、週に3回だけ。

近所の店を手伝ってる。

3時間、花の水をやったり配達に行ったり。

一日働いて2,700円、一週間で8,100円、一ヶ月で3万円強。

でも今の自分にはこれで十分。

このお金?ああ、車の免許を取ろうと思ってね。

いつか戦場ヶ原に連れて行って貰った星の綺麗な場所に行きたくて。

だから使い道は内緒、というか先日エアメールが届いた。

忍野からだった。

「阿良々木君、相変わらず良い事ばかりありそうだねぇ(笑)。ところで阿良々木君、例の廃墟ビルが取り壊しになるそうじゃない。申し訳ないんだが、日本に帰ったら住む場所が無いので君の家に居候しようと思ったが、家族に悪いんでどこか借りようと思う」

待て、俺には悪いと思わないのか!と手紙につっこみを入れる

「で、相談だけど。未払い分の仕事料を分割で良いので払ってくれたまえ。そうだねぇ、月1万円で良いよ、1万円。これなら貧乏な阿良々木君でも何とか工面できるでしょう」

あー帰ってこなきゃ良いのに…

というか、どっか洞窟捜して住みやがれ!

こんな風に僕らの日常は続いている。


阿良々木君と戦場ヶ原さんの一日 了

95 : VIPに... - 2010/05/15 18:24:01.67 5Xp/IqsP 76/307

バルラギコンビ

私立直江津高校にこの春からファイヤーシスターズの姉が入学した事は、この町全体の常識となっている。

勿論予告通り、火憐はあこがれの先輩神原と「バルラギコンビ」を結成し、学生生活を楽しんでいる。

駿河「火憐、今日は大事な話がある」

火憐「はい、先輩!なんでしょうか!」

駿河「お前、部活しろ」

火憐「え?!」

駿河「健康な女子が部活一つしないでどうする?何でもいいからやる事」

火憐「それは…だって私、神原先輩と一緒に居たいんです」

駿河「しかしなぁ、私はもうバスケ部を引退したし、受験に備えなければ成らん」

火憐「でも…あ、そうだ!ヒーロー部作りましょう!」

駿河「ヒーロー部?」

火憐「そうです、ヒーロー部」

駿河「何か面白そうだな」

火憐「ええ、きっと面白いです」

駿河「で、何をするクラブなんだい?」

火憐「学校にはびこる悪を倒す!」

駿河「火憐、それはちょっと難しいぞ」

火憐「何故です?」

駿河「この学校に悪い奴はいない。しいて言えば阿良々木先輩が一番悪かった」

火憐「ええー!本当ですか?」

駿河「ああ、この学校で不良と言えば阿良々木さんの事だったよ」

火憐「……」

駿河「まぁヒーローは戦うだけじゃない、清掃活動とかでも良いじゃないか」

火憐「うぅ…」

駿河「そういう事で、とりあえず同好会から始めよう。これなら簡単だ」

96 : VIPに... - 2010/05/15 18:25:56.61 5Xp/IqsP 77/307

ということで、バルラギコンビは校内の美化清掃に努める。

これがどうした事か、神原を慕う子、火憐を姉御と慕う同級生が入り、結局30人からの大所帯になり、学校側から特例で部に昇格させられた。

但し、その名称は「校内美化部」という恐らく日本で最初のクラブ名が付けられた。

尚、裏の仕事ではないが、他校の生徒に直江津高校の生徒がいじめられたり、脅迫された場合、闇の部隊(2人組)が出動するらしい…(恐ろしい話だよな)

なので、この部のお陰で、直江津高校の生徒は安心して暮らせるんだってさ。

僕が不良ってのもどうかと思うんだけど。


ちなみに、ずっと先の事なんだけど、神原は僕らと同じ大学には入らなかった。

県内の大学に進学し、20歳で腕が元に戻った。

その後、何故か警察官になった。

勿論、うちの火憐も同じく警察官になった。

火憐は短大卒で警察官になったので、神原とは歳は違えど同期として頑張ってる。

2人して交通取り締まりしている姿は想像するだけで鳥肌モノだけどな。

天職と言えば天職だろうけど、いつか二人とも捜査一課とかに配属されてどこかの組事務所の捜索に行ったり、特殊部隊に配属されて立て篭もり犯と対峙したり…考えただけで鬱になるよ、全く。

あいつらに実弾持たせるのは危険だと思うんだ。

直ぐに発砲しそうじゃないか!


バルラギコンビ 了

97 : VIPに... - 2010/05/16 12:11:33.84 FJIlWDso 78/307

クソツマンネ

98 : VIPに... - 2010/05/17 01:06:24.79 GKJEXz60 79/307

ぼくはすき

99 : VIPに... - 2010/05/17 07:13:15.17 SuEopQEP 80/307

バルラギコンビって、ヴァルハラコンビみたく、ちゃんと二重の意味あんのか?

100 : VIPに... - 2010/05/17 07:14:13.82 20gM6kSO 81/307

俺も好き
続きまだあるのか?

101 : VIPに... - 2010/05/17 18:17:13.90 DsNcNy6P 82/307

>>97 さーせん
>>98 ありがとうございます
>>99 さーせん、思い付きで名付けてしまいました
>>100 ありがとうございます。頭の中には出来上がってます。仕事が捌け次第書きます。

107 : VIPに... - 2010/06/09 18:47:47.05 MPhY6lcP 83/307

そんな普遍的とも思える日常が幾日も重なり、季節は変わり、僕は大人になっていく。

最近じゃ、戦場ヶ原とも普通に喧嘩し笑い、そして愛を確認する事も…

大学は何とか卒業し、外資系の会社に勤めている。

そう、戦場ヶ原に勧められ就職した。

直属の上司ではないが、いつか夜半に山麓まで車を運転したあの方。

駐車場で短い間だったが話し、自分の娘を任せたと言った、戦場ヶ原の父。

縁故での入社には気が引けたが、彼女の父親からも「君なら歓迎だ」と言われれば悪い気はしない。

結局、楽に社会人になってしまった。

で、戦場ヶ原と言えば…

何故か今でも僕の家に住んでいる。

そこから地元の商店街でレジ打ちをしながら生きている。(所謂フリーター)

この件には色々あったが、端折って言えば僕を就職させる為にポジションを譲り、

且つ自分は面倒な就職活動はせず、父親の監視下に僕を置くことにより、

居ずにして僕の動きを把握すると言う事になったようだ。

あいつの事だから、何か大きな仕事をする企業に勤めると思ったんだが…

最近の口癖は「そうね、敢えて就職するなら専業主婦ね」と仰る。

これって、逆プロポーズ?!

108 : VIPに... - 2010/06/09 18:58:58.86 MPhY6lcP 84/307

仕事は順調、怪異を見る事も無くなった。

あ、そうそう。

うちに居た怪異、いや月火ちゃんは羽川が引き取った。

羽川は、世界を回ると言う予告通り、各地を転々とし、今じゃ10ヶ国語を話し、世界中に400人ぐらい友人がいるらしい。

その中に、VIPクラスも居るとか(本当かよ?)

ヨーロッパに居るキスショットや忍野とも交流があり、そんな関係から忍野の助言を受け、

月火ちゃんを引き取ると言うか、一応自分の部下として手元に置くようになった。

2人とも似たようなものだから、馬が合うのか、猫や鳥が合うのかは知らないが、

月火ちゃんは羽川を慕っているようだ。

羽川の仕事は、驚く事無かれ忍野の様な「祓い屋」をしている。

日本に戻った忍野から聞いたんだが、そりゃもう片にハマっているらしい。

「阿良々木君、委員長ちゃんは凄いよ、僕じゃ太刀打ちできないぐらい凄いんだよ」

と、褒めちぎっていた。

羽川がねぇ・・・

「助けてくれ!」とか言ったら「何でも助けないわよ、助けられる事だけ」とか言いそうだ、あの口調で。

両親も、羽川を信頼していたし、高校出てすぐには心配そうだったが、結局羽川に押し切られ手放すことに。

ある意味、助かったような気もする。

109 : VIPに... - 2010/06/09 19:06:51.15 MPhY6lcP 85/307

そう言う事で、今実家には両親と僕達だけ。

火憐は、一人暮らしをしているからね。

一人暮らしと言うか、2人暮らしと言うか…

僕が掃除に行かなくなったので、実家は既に寝床すら無くなった神原。

あいつが火憐の部屋に転がり込んで、住みついている。

たまにはBダッシュで掃除しろよ!

そんな神原に感化されて、BL本を読んでいる事は百も承知。

先日、久しぶりに実家に戻ってきたが、大きな紙袋を持っていた。

ちらっと見えた本が…神原の部屋で見たようなアレだ。

一応は隠しておきたいのだろう。

別に、だからって軽蔑する訳じゃないんだけどさ。

こんな風に僕達の日常は、極ありふれた、どこにでもある日常と化していた。

110 : VIPに... - 2010/06/09 19:32:24.95 MPhY6lcP 86/307

それから数年、僕は戦場ヶ原と結婚する事を決めた。

プロポーズ?

ああ、一応は「言葉にする」ってのが、大事だからな。

場所は勿論、初めてデートしたあの場所。

星が見えるあの場所。

ドライブでもしようか?と戦場ヶ原を誘い、いつものように横になって星を見ながらプロポーズ。

返事?そりゃここまで来て「阿良々木君、あなたの気持ちは嬉しいわ、けど…」なんて言わない。

二つ返事でOKだった。

僕的にはネタを織り交ぜた返事が欲しかったのかもしれない、いや気の迷いだな。

それほどに、戦場ヶ原は普通の女性になっている。

式は年が明けた2月。

4月には新しいプロジェクトの立ち上げに参加し、もしかすると海外出張に成るかも知れない。

だから、一緒に行く為にも結婚を決意した。

そんなプロポーズから数週間のある日の事。

111 : VIPに... - 2010/06/09 19:33:40.86 MPhY6lcP 87/307

どこかで見た事のある女の子。

良く知っている子に似ているが、何か違う?

「八九寺?」

「あら、阿良々木さんじゃないですか?」

「やっぱ、八九寺だよな?」

「ええ、そうですよ、阿良々木さん」

「噛めよ」

「噛みません」

「噛めったら!」

「噛みません!」

「噛んでください!」

「噛めまめん><」

「亀よ!」

「もしもし?」

久々に八九寺に会って、僕は驚いている。

ここ数年、突然と見かけなくなったからな。

それ以上に驚いているのが、八九寺が大人びている。

「なぁ、お前。もしかして成長してんの?」

112 : VIPに... - 2010/06/09 19:35:13.26 MPhY6lcP 88/307

「失礼な、当たり前じゃないですか!」

「でも、霊は…」

「阿良々木さん、地縛霊は色々と制限がありますが、浮遊霊は制限ナッシングなのですよ」

「そ、そうなのか!」

「ええ、だから私、日本を旅していたのです」

「旅って…」

「ある時は電車で、ある時はトラックの荷台に潜り込み…」

「なんか想像できないな」

「49都道府県全部回りました!」

「おい、一個多いぞ!」

「え?そうですか?2個多いと思うんですけど?」

「くっ……」

「えへーワザとですよ」

「おまえなー」

「でも、ハワイとグアムも行ったんで49ですね」

「あれは県じゃねーよ!」

「細かいところは昔と変わりませんね」

「別にそんな事はどうでも良いだろ。ところでさっきの話だけど」

113 : VIPに... - 2010/06/09 19:36:21.28 MPhY6lcP 89/307

「だから心も成長し、体も成長するんです」

やっぱ八九寺は成長している。どう見ても小学生じゃない。

もう立派な中学生ぐらい。

「でも、何かおかしいな」

「人間と同じスピードじゃないですからね」

「そっか…ていうか、そうなんだ?」

「ええ、そうなんです。でも残念でしょう、ロリコンの阿良々木さんには」

「ロリコンじゃねーよ!」

「だっていつもみたいに抱きつかなかったじゃないですか」

「それは…人違いだった拙いからだろ!」

「ふんっ、もう私の分別もつかない程、あの女にぞっこんなんですね」

「お前…なんて事言うんだ!」

「まぁ、それは仕方ありませんわね。阿良々木さんには最初で最後の【チャンス】だった訳ですし」

「殴るぞ!」

「かみまみた」

「噛んでねぇ!」

そんな懐かしい話をしていたら、八九寺が急に真面目な顔をして話し出した。

114 : VIPに... - 2010/06/09 19:38:06.54 MPhY6lcP 90/307

「阿良々木さん、結婚するんですよね?」

「ああ、良く知ってるな」

「八九寺ネットワークを舐めないでください」

「なんだよ!その如何わしいネットワークは!」

「全て筒抜けです」

「僕のプライバシーは無いのかよ!」

「一応、アレとかアレとかアレは見ない様にしていますから」

「全部見んな!」

「全部で皆?頭痛が痛いとかいうアレですか?」

「字が違う!」

「やれやれ、話がそれますね、阿良々木さんと話すと」

「そらしたくもなるわ!」

「そりゃしたくなる?何を?」

「お前、さっきから何なんだよ全く」

「えっとですね…」

「言えよ」

「あのですね…」

八九寺は何か言おうとしてモジモジしている。

「怒らないから言えよ」

そうすると八九寺は意を決して話し始めた。

115 : VIPに... - 2010/06/09 19:44:47.35 MPhY6lcP 91/307

阿良々木さんの結婚式には呼んでください!」

は?なんだそりゃ?

来ればいいじゃないか?

来たところで何の問題も無い。

どうせ誰にも見えないだろうし。

「いえ、そうであっても…あの…」

「何だよ言ってみろよ」

「あの…私の…私の席を用意してください!」

「は?」

「はい」

「ああ、成るほど」

「ええ、そう言う事です」

「なんだ、そういう事か」

「ですです」

「いいよ、お前の席もちゃんと用意してあげるよ」

と僕は微笑みながら八九寺を見る。

116 : VIPに... - 2010/06/09 19:46:00.24 MPhY6lcP 92/307

少し顔を赤くした八九寺が嬉しそうに言う。

「当日はバッチリめかして、新婦から新郎を奪います」

「待て!」

「冗談です、では当日必ず行きますから」

「ああ、待ってるよ。ていうか、案内状取りに来いよ」

「大丈夫です、ネットワークで入手済みです」

「あはは、はは…(参ったな)」

「じゃ、当日!」

そう言って、八九寺はいつものように走り去る。

その後ろ姿にあのリュックは無かった。

良く見れば、学生鞄を持っていた。

直ぐに八九寺って気付かなかった訳だ。

さて、当日席を用意するのは簡単だが、なんて戦場ヶ原に説明しようかな?

119 : VIPに... - 2010/06/10 17:42:50.69 v.rerH2P 93/307

結婚式当日

かしこまった形は希望しなかったが、会社に勤めるとそうは言ってはいられない。

結局、地元のホテルで式を挙げる事となった。

昨日までの上司が、今日からお父さん。

昨日までの彼女が、今日から奥さん。

結婚なんて何か人生の通過点だと思っていたが、案外この期に及んで少し腰が引ける。

それよりも…

式に呼んだメンバーの落差が激しい。

片や会社関係、片や高校時代の友人、いや怪異がらみのメンツ。

神原筆頭に忍野やキスショットまで居る。

勿論、羽川もきてくれた。

1テーブルに固めたが、何とも場違いな雰囲気。

忍野はこんな日もアロハシャツだし(一応、ジャケットは羽織っているがサンダル履き)、

キスショットはドレスだが、そこがまた注目を集める。

金髪でドレス、でもって流暢な「ガラの悪い」日本語を話す。

神原は一人で妄想に耽り、羽川はニコニコして、千石はずっと泣いている。

なんかあのテーブルだけ見ると、僕の過去はかなりキワモノだと思われるんだろうな。

花嫁は花嫁で朝から……

120 : VIPに... - 2010/06/10 17:43:37.76 v.rerH2P 94/307

「阿良々木君、いえ違うわね。あなた」

「何だよ、急にかしこまって」

「これからも宜しくお願いいたします」

「う、うん……」

「これで晴れてヤンデレ処女を卒業出来るわ」

「どう突っ込めばいいのかなぁ?」

「もう突っ込んだよ!じゃなくて?」

「言葉のDVで僕はこの先も虐められる訳だ!」

「ふふ」

いつもの軽快な会話をしているが、戦場ヶ原否、ひたぎも緊張しているようだ。

「本当に良かった」

「何が?」

「こんな日が来て。カニに出会った事を今感謝しているわ」

「そうなのか?あれほど苦しんだのに」

「だってカニに遇わなければ、あなたと逢う事も無かったのよ?」

「そりゃそうだけど……」

121 : VIPに... - 2010/06/10 17:44:03.06 v.rerH2P 95/307

「ところであなた、忍野さん達のテーブルにある空席は何?」

「ああ、覚えてないかな?迷子の八九寺の事」

「覚えているけど、私見た事無い、いえ見えなかったし」

「一応呼んだんだよ、というか来たいって言うからさ」

「あら?あなたは私に隠れて他の女と逢ってるの#?」

「おいおい、一応は霊だし、子供だし」

「ふーん」

「怒った?」

「何で?」

「いや、何となく」

「怒る理由は無いわ。だってあなたの友達なのでしょ?」

「あ、うん、まぁ」

「なら何の問題も無いわ」

「そっか、そう言ってくれて嬉しいよ」

「じゃ後で」

122 : VIPに... - 2010/06/10 17:45:11.60 v.rerH2P 96/307

控室を後にし、式場へ。

式は神前で執り行う。

別にどんな形も良かったが、敢えてドレスの似合う式と言えばこれでしょう。

流石にキスショットは嫌がって、入ってこなかった。

そりゃそうだよ、大きな十字架に賛美歌が流れる。

死刑宣告受けるようなものだからな。

式は形式上の言葉の約束とリングの交換、そして誓の口付け。

うん、緊張した。

今まであった事よりも緊張した。

いつもと変わらないひたぎにキスをする。

あの日の夜の事が鮮明に蘇る。

「キスをしましょう」

今日が全てのゴールだと何となく僕は思った、何故だか。

123 : VIPに... - 2010/06/10 17:45:53.97 v.rerH2P 97/307

披露宴では開始早々、あのテーブルが五月蠅い。

お前ら、食べ物の取り合いは止めろよ!

何年たってもキスショットと忍野は変わらないなぁ。

神原はあっちこっちのテーブルに行き、笑顔を振りまきながら何かセールストークをしている。

気になるが、ここからは聞こえない。

千石はずっとこっちを見ている。

しかし美人になった、驚きだよ。

うちの火憐と月火はそのまま大きくなったのに、千石だけは本当に化けた。

忍野の言う「ラスボス」ってのも理解できる。

ひたぎと付き合っていない時に逢ったら、猛烈にアタックしてたかもな。

まぁ、そんな感情、彼女にはないだろうが。

ん?じゃ何で泣いてるんだ?

ん?ん?うーん?え?

ええー!

もしかしたら、千石は僕の事が好きだったのか?

そんな筈は無い、断じてない、多分ない……

つい、ひたぎの方を見る。

微笑みを返してきた!

うん、こんな日にそんな妄想は止めよう、事実を知ったら僕は死んでしまうかもしれない。

(心が苛まれて死ぬんじゃ無く、殺される方の意味で死んじゃう)

124 : VIPに... - 2010/06/10 17:46:49.30 v.rerH2P 98/307

新郎新婦の事など捨て置かれ、宴はすすむ。

上司の長い挨拶、同僚のとぼけたスピーチ、後輩の歌……

結構退屈なもんだな、結婚式ってのは。

あのテーブルを見ると…

お?いつの間にか八九寺が来ていた。

羽川と忍野に挟まれる形で座っている。

がつがつ食うのかと思ったら、じっと座ってこっちを見ている。

なんか千石といい、八九寺といい、そんな目で俺を見るな!

俺だけ幸せになって「呪ってやる!」みたいな感じだぞ。

ひたぎがお色直しに行き、同僚が祝杯を上げに来る。

さっきから注がれては飲み、注がれては…

まぁ、新郎が倒れない様に、ボーイさんが適度に見計らって、グラスを替えてくれるので、思ったほどは飲んでないんだけど。

125 : VIPに... - 2010/06/10 17:57:09.72 v.rerH2P 99/307

ひたぎのお色直しが終わって、羽川が高校時代の2人の共通の友人として挨拶する。

何か言われるかと思ったが、普通のあいさつで済んだ。

が、サプライズはこの後だった。


「では、私達友人から2人に花束を贈呈します」と羽川が言う。

神原か?千石か?まさか忍野は無いな」

「では、八九寺さん、前へどうぞ!」

!!

何?何だって?何を言ってるんだ羽川!

八九寺はお前や僕にしか見えないだろ!

テーブルに目をやると、八九寺が立ち上り、こちらに向かってくる。

それをみんなが拍手で見送る。

嘘だろ……

花束を持った八九寺が僕達のテーブルの前に立つ。

「暦さん、ひたぎさん、おめでとうございます」

僕は唖然としていた。

126 : VIPに... - 2010/06/10 17:58:10.08 v.rerH2P 100/307

ひたぎは「ふふ、可愛い女の子ね」と微笑む。

何故この期に及んでお前はそんなに平気な顔なんだよ!

「お二方、是非お幸せになってください」

八九寺は当り障りの無い言葉を投げかける。

それから小さな声で僕達に聞こえるように囁く。

「今度生まれ変われるならお二人の様な幸せな所がいいです」

少し涙ぐみながら八九寺は言う。

あっけに取られた僕を一瞥し、ひたぎが応える。

「ええ、あなたの様な可愛い女の子なら大歓迎よ」

そんな僕達を見ながら羽川が話を続ける。

「お二人の交際のきっかけは、八九寺さんが迷子になっている所を助けた時なのです」

「まさに、お二人の愛のキューピッドです。今一度温かい拍手を!」

会場は一斉に拍手喝采。

少し事実とは違うようだけど、付き合ったのはあの日からだしな。

八九寺は一礼し、テーブルに戻る。

忍野やキスショットとも会話している。

何がどうなっているのかよく分からないが、あとで聞けば分かるだろう。

127 : VIPに... - 2010/06/10 18:09:11.81 v.rerH2P 101/307

式も終わりを迎え、僕のスピーチで締める事となる。

二人で温かい家庭を築き~なんちゃらかんちゃらってスピーチ集の暗記文だけどさ。

温かい拍手を受け、一礼し、頭を上げたらあのテーブルにもう八九寺はいなかった。

みんなを見送る為に、ホールの外に立ち、挨拶をする。

会社関係の人を送り出した後、我らが怪異な仲間が出てきた。

「阿良々木先輩!今夜はBダッシュかい?」神原はおどける。

「暦お兄ちゃん…いつまでもお兄ちゃんで居てね」千石!スマン!本当に!

「おぬしもこれで主じゃな、まぁ頑張れ!」ああ、有難うキスショット、お前のおかげでもあるんだぜ

「阿良々木君、本当に千載一遇のチャンスを物に出来て良かったよ」と忍野。

「なぁ忍野、八九寺の件だが……」

「ああ、それなら僕じゃなくて委員長ちゃんに聞いてみなよ」と羽川を見る。

「阿良々木君、戦場ヶ原さんお幸せに」羽川は本当に人当たりが良い事しか言わない。

「なぁ、羽川。八九寺の件だが……」

「うん、あれはね、具現化する術式を使っただけよ」

「そうなのか……」

「阿良々木君、委員長ちゃんは凄いって前に言っただろ?」

128 : VIPに... - 2010/06/10 18:10:38.04 v.rerH2P 102/307

忍野が口を挟む。

「ああ、そうだったな、忘れてた」

「でも悲しいお知らせもあるわ」

「結婚式の当日に悲しい話かよ!」

「彼女、真宵ちゃんの願いだったのよ、二人に花を送りたいってね」

「そうなんだ」

「普通は無理なんだけど、ある事を引き換え条件に」

「何なんだ?」

「聞かない方がいいわ」

「教えろよ」

「じゃあとで」

そう言って、羽川は去って行った。

二次会の席でゆっくり聞けばいいか?そんな楽天的な考えで居た僕は浅はかだった。

129 : VIPに... - 2010/06/10 18:30:36.09 v.rerH2P 103/307

タキシードを脱ぎ、ラフな格好へ。

ひたぎも普段着に着替え、ホテルのロビーで落ち合う。

二次会へいく仲間が皆揃っている。

そこに勿論、羽川も居た。

「なぁ、さっきの話だけど」

「どうしても聞きたい?」

「そりゃ……」

「覚悟出来る?」

「何の?」

「色々よ」

「まぁ、今更驚く事も無いと思うよ」

「そう、じゃあ教えるわ」

と羽川はホテルの外へ僕を連れ出す。

「あのね、真宵ちゃんはね…」

「何だよ、もったいぶるなよ」

「うーん、あのね、成仏したわ」

「え?何て?」

「成仏。もうこの世には居ないわ」

130 : VIPに... - 2010/06/10 18:31:12.45 v.rerH2P 104/307

「う、嘘だろ?」

「嘘は泥棒の始まりよ、阿良々木君」

「何で?何で?」

「霊を具現化させるには、成仏させる必要があったの。その過程で少しの時間具現化出来る、ただそれだけ」

「まてよ、じゃああいつはもう居ないのかよ!」

「ええ、居ないわ」

「何で、何でそんなことしたんだよ!」

「それは、彼女が希望したから」羽川は冷静に答える。

「でももう会えないじゃないか!」

「阿良々木君、彼女は人間じゃなくて霊なの、人間の魂だけなのよ」

「本来なら輪廻転生で次の世界に繋がるべき所を漂っていただけ」

「正しい形に戻っただけよ?あと貴方と彼女に話したいって希望も叶えてね」

131 : VIPに... - 2010/06/10 18:31:58.06 v.rerH2P 105/307

ふと気が付いたら僕は涙を流していた。

八九寺真宵、僕には何だったんだろうか?

迷子のカタツムリ?

時折街で見かける話し相手?

何だったんだろ?

「阿良々木君、深く考えない方がいいわ」

羽川は僕を宥める様な声で話しかけてきた。

「今日はあなたの幸せな日よ?彼女もそれを見届け、幸せに違いないわ」

僕と羽川が戻らないので、ひたぎが心配して見に来た。

「どうしたの?」

「いや、何でもない」

「泣いてるじゃない」

結局、僕はひたぎに全てを話す。

ひたぎは笑いながら「良かったじゃない、色んな怪異のお陰でここまで幸せになれたんだから」といった。

そう怪異は僕達が大人になる為に、その心を鍛えてくれた奴ら。

「どこにでも居て、どこにも居ない、それが怪異」

忍野にずっと昔、言われたよ、そう言えば。

「忘れてた」

132 : VIPに... - 2010/06/10 18:43:03.53 v.rerH2P 106/307

それからの話

特に変わった事も無く、日々過ごす。

忍野達はたまに遊びに来る、神原と火憐は相変わらずだが、来年は捜査課配属だとか何とか。

千石は、僕が結婚し少しして東京へ行ってしまった。

羽川は相変わらず、世界中を旅している。

勿論、月火も一緒に。

僕は会社で課長を拝命し、車はファミリーカーになった。

そうそう、春先に子供が生まれた。

母子ともに健康で、女の子。

名前はひたぎが決めた。

133 : VIPに... - 2010/06/10 18:43:57.52 v.rerH2P 107/307

「ねぇ、あなた。この子の名前はね」

「ん?決めているのかい?」

「うん、産まれて初めて抱いた時に浮かんだわ」

「で、なんて名前なんだい?」

「真宵」

「そうか」

「この子がね、その名にしてほしいって言ったのよ」

「うん、良い名前だよ。その名前が一番素晴らしい。阿良々木真宵、良い響きだよ」

娘はひたぎに似ている。

でも、少しだけあの子の面影がある。

僕は娘が、八九寺の生まれ変わりだと信じている。

そう信じる事が幸せなんだよ、きっと。

これだけは忘れていない、八九寺が僕らに言ったあの言葉を。

「今度生まれ変われるならお二人の様な幸せな所がいいです」

おかえり、真宵。

おわり

134 : 1です - 2010/06/10 18:48:38.56 v.rerH2P 108/307

途中、放置になり本当にすみませんでした。
ところどころ、僕と俺を間違えている所は脳内で補完してください。
今読み返したら、稚拙な文で、話も飛躍していますが、
私的な化物語の終点はこうであったらいいなって思いで書きつづりました。

もうこれ以上ネタも出てこないし、来週からまた中国に長期出張だし、
毎晩虫のお化けが部屋に出てくるので、怪異がらみはこの辺にしておきます。

御静聴ありがとうございました。

140 : 1です - 2010/06/10 23:11:34.92 v.rerH2P 109/307

補足

入試の時点で八九寺は消えているんですが、結婚式のキーマンとして出すにあたり
どのような形で復活させようか、一番考えるポイントだったのですが・・・

・実は恥ずかしくて消えただけ
・違う霊に昇格した

なんですが、消えただけでは忍野が「送れた」というのも変なので、何か違う霊に仕立てるつもりでしたが
霊って案外種類が少なく、怪異以外で地縛霊や浮遊霊を除くと、背後霊・守護霊・指導霊・動物霊・因縁霊ぐらいしか
なかったので、煮詰まってました。
結局、恥ずかしくて消えただけという設定(忍野は見ていないから)にして話を進めたんですが、その一番大事な件を書くのを忘れていました。
ですので、「あれ?昇天しただろ?」って疑問を持った方は、適当に補完お願いします。

「だって、阿良々木さんに抱きつかれて恥ずかしくって、消えて逃げました!テヘ」でも追加宜しくです。

続きは・・・
無い事も無いけど、黒い、黒すぎw
書くのを躊躇したというか、ENDが見つからない
何かお題いただけたら、エロでもラブでも書きますので、お時間と合わせてくださいな。

141 : VIPに... - 2010/06/11 19:32:02.80 wU0xeMDO 110/307

ラスボスが寝取っちゃうとかありそうだな

142 : VIPに... - 2010/06/12 09:50:08.07 9Ay97TEo 111/307

まあラスボスだしな

143 : VIPに... - 2010/06/12 12:20:26.63 N1ASmTo0 112/307

ラスボスなら、仕方ないな

144 : VIPに... - 2010/06/13 07:46:20.41 TKBZr5Y0 113/307

ラスボスさんは強い。

145 : 1です - 2010/06/13 21:57:21.13 wJTNVYwP 114/307

ラスボスの需要了解^^
広東で下書きしてきます
向こうから投下できたら良いんですけどね
自宅にリモート走らせて行ってきます

148 : VIPに... - 2010/06/27 06:14:59.06 HYKeB2SO 115/307

待ってるからねっ!

149 : 1です - 2010/06/29 13:24:18.61 hAdOmIgP 116/307

こんにちは。
本日帰国しました。
こっちは蒸し暑いけど、空気が美味いねぇ。

馬鹿みたいに捲し立てて話す中国人に
「豪く元気だねぇ、何か良い事でもあったのかい?」と言ったら、通訳がそのまま伝えて
険悪な雰囲気になりましたですよ、ええ。
忍野の様には世の中上手く渡れません。
そもそも、給料上げろだなんて平の自分に言っても、無駄なんだにゃ。
なんか帰国したら、翼猫5が出てたとか……隔離されていると辛いです。
向こうから書きたかったんだけど、セキュの関係で書けませんでした。


とりあえず、下書きはそこそこ進んだので、今夜あたりから自宅に帰り次第校正して途中までですが投下します。
で、幸せルートと不幸ルート、どっちがいいですか?
勿論、ラスボス戦です。

150 : VIPに... - 2010/06/30 17:05:54.10 HQAKu.SO 117/307

どっちも、は駄目かい?
駄目なら幸せルートで

あと国籍関係ナシに忍野のセリフは喧嘩売ってると思われる言い方だよな

151 : VIPに... - 2010/06/30 18:17:40.95 62/GXKso 118/307

おかえり!
不幸も気になるけど、やっぱりハッピーエンドがいいんだよ!

152 : VIPに... - 2010/06/30 18:30:50.53 CpGK6KkP 119/307

真宵も大きくなり、今年で2歳。

僕も相変わらず順調な生活を送っている。

特に変わったと言えば、ひたぎが運転免許を取った事か。

何かと子供が出来ると、買い物にせよ出掛けるにせよ結構大変だと言う事で。

最近の教習所は託児所もあって、何かと親切だとか。

「ねぇ、あなた。免許を取ったら車を買おうと思うんだけど?」

「ん?ああ、僕の車でも良いんだぜ」

「いやよ、あれは大き過ぎるわ。もう少し小回りのきく車が欲しいの」

「軽自動車?」

「もう少し大きいのが……」

「希望の車ってあるの?」

「ええ、あるわよ」

「じゃそれを買ったら?」

「いいの?」

「小型車だろ?そう高い物でもないし」

「そう、相変わらず理解があるのね」

「そろそろ、その仰々しい話し方をやめないか?」

「やめるも何も、これが普通だから」

153 : VIPに... - 2010/06/30 18:32:20.72 CpGK6KkP 120/307

「まぁ、それはそうなんだけど」

「ところで、来月から東京支社に行くんでしょ?」

「え?何で知ってるの?」

「父から聞いたわ」

「そっか、うん。当分単身赴任になるかも知れない。まぁ、正式な辞令は来週だと思うけど」

「ふーん。東京……夜遊びしたら許さないから」

「しないって」

僕はにこやかな顔で返事した。

彼女は本当に心配そうだ。

まぁ、結婚してこの方、短期の出張はあれど、基本的に一緒に居たからな。

「週末にはちゃんと帰るようにするよ」

と、何も考えずに返事をしたのが、2カ月前の話である。


東京支社に来てから、日々の多忙さに少し辟易している。

無駄に仕事量が多い。

何でもかんでも書類だの印鑑だの許可だと小五月蠅い。

支店じゃ、支店長決裁に該当する物件以外は自己判断の事後報告で良かったからね。

結局、毎日残業続き、土曜も自宅(東京の仮の住まい)に持ち帰って、残務処理をする始末。

154 : VIPに... - 2010/06/30 18:33:17.37 CpGK6KkP 121/307

ひたぎに約束した事は全然守られていなかった。

それでも一応、毎日帰宅したら電話する。

「あー、僕だけど」

「あら昨日ぶりね。今日も忙しかったの?」

「まぁ、色々と大変なんだ。で、今週も帰れそうにない」

「そう……ご飯はちゃんと食べてる?」

「ああ、その辺は大丈夫。洗濯も自分でやってるし」

「洗濯は洗濯機がするんでしょ」

「まぁ、そうだけど」

「健康には注意してね」

「ああ、分かった。ところで真宵は?」

「今日も元気よ。あなたの写真を見て『おちゃーんおちゃーん』って言っているわ」

「おっちゃんって……すまん、ちゃんと帰って父親らしくしないと本当にオジサンになっちゃうよね」

「違うわ。お父さんって言う所を噛んでるだけよ」

「噛んでるのか!」

「ふふ」

そんな家に居た時と変わらない会話をしつつも、二人してその距離を明らかに感じていた。

155 : VIPに... - 2010/06/30 18:38:25.04 CpGK6KkP 122/307

とある週末、久々に仕事が片付いたので、家に戻れるようになった。

新幹線で数時間、1時間なら通勤しても良いんだけどね…

東京駅から電話を入れる。

「僕だけど、今から帰る。うん、地元には8時過ぎに着けると思うよ」

そう言って、僕は新幹線に乗り込む。

窓際の席に座って、出発まで何をする事も無く、窓の外を眺めていた。

反対のホームに、上りが入ってくる。

ゆっくりと電車は停止し、車内の人が徐に立ち上がる。

ガラスの向こうの人はこれから東京、僕は直江津へ。

ふと、もう一つ向こうのガラスの先の女性を見た瞬間、僕の視点は固定された。

そこに居たのは「千石撫子」に似た女性。

そう言えば、東京に出たと聞いていたな。

彼女もあんな感じになるんだろうか?

そんな風に女性をを凝視していたら、目があった。

一瞬、向こうも何かとんでもない物を見つけたかのように吃驚した後、何か言っている。

「こ よ み お に い ち ゃ ん」

僕にはそう聞こえた、ように思えた。

次の瞬間、彼女は走って電車から出て行った。

156 : VIPに... - 2010/06/30 18:47:53.58 CpGK6KkP 123/307

そうするうちに、こちらの列車も出発となる。

ホームにアナウンスがなり、ドアが閉まり、列車は動き出す。

また明日の夜には戻ってこなきゃならないんだけど、東京を出る事がこんなに嬉しいとは思わなかった。

家族に会える事よりもだ。

まぁ、ここのところ仕事ばっかだったからな。

窓の外から視線を逸らし、正面を見た時僕は仰天した。

そこにさっきの女性ががいた。

「こよみおにいちゃん!」

彼女は突然僕に抱きつき、そう言った。

「せ、千石?!」

「暦お兄ちゃん逢いたかった!」

彼女は恥じらいもなく、僕に抱きついたまま。

他の乗客の視線が痛い、一呼吸おいて千石に話しかける。

「ほら、一応公共の場だから、ね?」

「ごめんなさい、つい嬉しくって」

面影こそ有れど、僕の知ってる千石とは乖離した明らかに「明るい女性」、それがこの千石撫子。

157 : VIPに... - 2010/06/30 19:04:44.34 CpGK6KkP 124/307

「何か変わっちゃって、最初分からなかったよ」

「暦お兄ちゃんは変わってないね」

「そ、そうか?」

「うん、昔のままだよ」

「そ、そうなんだ、ははは」

「うん、そのまま。ところでどこに行くの?」

「え?ああ、家に帰る所だよ、それより千石は今さっき東京に戻ってきたんだろ?またどこか行くのか?」

「ちがうよ、暦お兄ちゃん見つけたから、走って来ちゃった」

「いいのかよ?!」

「うん、まだ時間大丈夫だし、次で降りて戻るから」

「うーん、なんていうか一応それ切符買わないとキセルだからな」

「うんうん、そういう変に厳しい所も昔のままだよね、暦おにいちゃん」

「その暦お兄ちゃんってのは止めないか?千石も……」

僕の言葉を遮るように、千石は言葉を発す。

「暦お兄ちゃんは、いつまでも撫子のお兄ちゃんだから」

何故か何も言えなかった。

「で、今日は東京に出張?」

「うんまぁ、そんな所。ていうか、ここ数カ月ずっと東京に住んでる」

「え?そうなの?何で?単身赴任?」

158 : VIPに... - 2010/06/30 19:05:59.55 CpGK6KkP 125/307

「正解。仕事の都合でこっちに居るんだよ。今日は久々に地元に帰って、また明日とんぼ返り」

「ふーん、そうなんだ」

一瞬、千石がニヤリと、そうどこかで見た事のあるような……笑みを零したのを僕は見逃さなかった。

「ねぇ、暦お兄ちゃん。今度どっか遊びに行こうよ」

「そんな暇は無いよ。毎晩夜遅くに帰ってくるし」

「ご飯とかは?」

「コンビニか外食だよ」

「洗濯は?」

「洗濯機がしてくれる」

「添い寝は?」

「添い寝は……はぁ?!お前、何言ってんだ!」

「ふふふ」

千石はまたさっきの様な笑みを零して僕を見る。

「んなもん、いらねぇよ!仕事が終わったらバタンキューだよ!」

「ふーん、相変わらず暦お兄ちゃんは真面目なんだね」

「悪かったな」

「別に悪くないよ、好きだよ、暦お兄ちゃんのそういう所」

千石はサラッと恥ずかしいセリフを吐く、聞いてるこっちが照れるぐらいの事を。

159 : VIPに... - 2010/06/30 19:06:27.28 CpGK6KkP 126/307

「でも、また逢えてよかった」

「まぁ久々だしな」

「あのね、これ私の住所なんだ。それから新しい電話番号。何かあったら電話して」

「何もねぇよ」

「洗濯機が壊れたら、手洗いしてあげるから」

と、千石は笑いながら言う。

そして、僕の携帯番号を教えてくれと、これまたサラッと言う。

つい、僕は番号を教えてしまった。

これが後々、色んな事を引き起こすとも知らずに……

次の停車駅で千石は下車し、窓の外から僕に手を振り、そして視界から消えた。

何故かドキドキする心臓。

千石の余りの豹変?気性の変化に驚いた僕だった。

台風一過、その後は到着まで深い眠りに付いた。

164 : VIPに... - 2010/07/06 18:46:58.75 hc11McUP 127/307

地元駅に着き、改札を抜けるとひたぎと真宵が待っていてくれた。

「おかえりなさい」

その言葉にとてつもない有難味を感じる。

「ただいま」と、僕は返す。

「迎えに来てくれなくても良かったのに」

そう言いながら、僕は真宵を抱き上げる。

僕の鞄を代わりに持ったひたぎが、

「別に。少し外に出たかっただけよ」

と、相変わらずのツンドラである。

僕の先を歩くひたぎ、あれ?そっちじゃ……

「車で迎えに来たから」

「ああ、もう納車されたんだ」

「今朝ね」

「へーそうなんだ、どれ?」

「これ」

ひたぎは嬉しそうに笑いながら屋根に手を置き、こっちを見据える。

「えっと……この車、なんていう車?」

「フィアット プント エヴォ」

165 : VIPに... - 2010/07/06 18:48:12.31 hc11McUP 128/307

「外車なの?」

「そうよ、外車よ。私が国産に乗るとでも思って?」

「あ、いや、別にそういう意味じゃなくて」

「じゃあ何?」

「いや、別に何もないです」

正直驚いた、ひたぎってどちらかと言うと「走れば何でもいいわ」というタイプだと思ってた。

でも、幾らするんだろうか?値段を聞いたら心臓に悪そうだから聞かない事にしよう。

左ハンドルに乗るのは初めてではないが、やはり右側にハンドルが無いのは違和感を覚える。

乗り込んで、シートベルトを締めた時、ひたぎがこっちを向いて話しかけてきた。

いや、その顔つきからして「尋問」だな。

「ねぇ、東京で遊びまくっちゃった?」

「遊んでねぇーよ!」

「ふーん、そう。じゃぁこの女の香りは何なのかしら?」

「はぁ?女の匂い?する訳ないだろ」

と言ってから僕は、はっとした。

もしかすると、ひたぎが言っているのは千石の匂いの事なのだろうか?

確かに、何か香水の匂いがしたな。

166 : VIPに... - 2010/07/06 18:57:17.94 hc11McUP 129/307

「あー多分、電車の中で横に座った人の匂いじゃないか?」

「なんか疲れてたみたいで、こっちに寄りかかって寝てたからさ」

「そう……ならいいわ」

ひたぎは、そういうとギアを入れ車を発進させる。

僕は何故正直に言わなかったのだろう?

何もやましい事は無いはずなのに……

自宅に着いて、さっさと飯を食い風呂に入る。

「今日は僕が真宵を入れるよ」

「あら、それは殊勝な心掛けね。でも残念、もう入った後よ」

「そ、そうか」

僕は心なしか残念だった。

「何その残念そうな顔」

「え?」

「昔から直ぐに顔に出るのは変わってないわね」

「さっきも顔に出てたわ」

「嘘つけ!俺は遊んだりしてねぇよ!」

「チッ」

ひたぎは舌打ちをする。

167 : VIPに... - 2010/07/06 18:58:29.02 hc11McUP 130/307

「そんなカマ掛けに引っかかる僕じゃない。そもそも僕は…」

「僕は?何?」

「そんな暇ねぇよ、マジで」

「そう。ならいいわ」

と、ひたぎは僕の脱いだシャツを洗濯機に入れようとしつつ、シャツをじっと見る。

「ねぇ、電車で横に居た人ってどんな人?」

「え?えっと……うん、中年の女性」

「ふーん、そう……結構しゃれた女性だったのね」

「いや普通の人だよ」

「そう。この香水、若い子に人気のブランドよ。あまり中年は付けないわ」

そう言うとひたぎはバスルームから出て行った、こっちを一瞥しながら。

ああ、なんてこった。

久々にあの視線を向けられた。

絶対に何か勘繰ってる、いや気が付いてるかもしれない。

僕は東京に戻るまで細心の注意を払う事にした。

168 : VIPに... - 2010/07/06 19:07:00.81 hc11McUP 131/307

風呂からあがって、居間で寛いでいると両親が帰宅する。

「暦、久しぶりだな。仕事は順調か?」

「まぁ、非常に忙しいぐらいだよ」

「そりゃよかったじゃないか」

「親父たちはどうなんだよ?」

「ああ、親子水入らずで仲良くやってるよ、孫ともな、あはは」

僕は子じゃないのか!

世間話も適度に切り上げ、寝る事にした。

「なぁ、先に寝るわ」

「そう、折角コーヒー入れたんだけど?」

「ああ、じゃぁ……」

「部屋で寛いでいて。真宵の寝顔でも見ながら。持っていくから」

と、ひたぎは僕を寝室に向かわせる。

部屋ではベビーベッドで真宵が寝ていた。

そりゃこんな時間だもんな。

しかしこの子は可愛い。

あースリスリしたいな、少しぐらいいいかな?じゃぁ、ちょっとだけ

ベビーベッドの中に顔を入れようとした瞬間、部屋のドアが開いた。

169 : VIPに... - 2010/07/06 19:16:55.61 hc11McUP 132/307

「あら、ごめんなさい。お邪魔したかしら?」

「べ、別にお邪魔も何も」

「ふーん、えらく娘にご執心ね」

「当たり前だろ!自分の子だぞ、可愛いに決まってるじゃないか!」

「なら、数時間でも帰ってきても良くなくて?」

「……」

「往復5時間で駅で5分しか会えなくても、そこまでするべきじゃない?」

「車内で5時間も睡眠を取れば、家で寝なくても大丈夫でしょ?」

「ごめん、本当にごめん」

僕は謝るしか出来なかった。

確かに、戻ろうと思えば戻れた。

なのに戻らなかったのは僕の怠慢ともいえる。

「待つのは辛いのよ?」

「ごめん」

「別に謝らなくても良いわ。今日は今までの分、しっかりと……」

そこでひたぎが言葉を止める。

「しっかり?何?」

と言った所で、気がつく。

170 : VIPに... - 2010/07/06 19:17:46.54 hc11McUP 133/307

なんて僕は鈍感なんだろう。

本当に嫌になるな。

こういう場の空気が読めなくて……

ひたぎは無言でコーヒーカップを僕の前に置いた。

僕はそれに手を伸ばす。

ひたぎも自分のカップを取り、僕の横に座る。

もたれ掛りながら耳元で呟く。

「残業頑張ってね」

勿論、今夜の事であるのは間違いない。

長い夜になりそうだ……

174 : VIPに... - 2010/07/09 14:23:19.50 QEmK/MDO 134/307

千石にドギマギしつつも、やっぱり戦場ヶ原を愛す阿良々木でいてほしいなー。

175 : VIPに... - 2010/07/10 07:43:10.03 GQXT2EgP 135/307

>>174
了解、書き直してくる

176 : VIPに... - 2010/07/10 22:44:53.01 ZGm1CISO 136/307

書き直すってことは撫子無双も考えてたってことだよな?
よし、完結したらそれも書くんだ

177 : VIPに... - 2010/07/16 14:48:04.19 IRaGEV6P 137/307

>>176把握した。夜の生活は省略した。


翌朝、ベッドに潜り込んできた真宵に起こされる。

「とーとー」と足をばたつかせながら抱っこしてくれと。

真宵を抱え、居間に降りると朝飯の準備がしてあった。

「あら?起きたの?」

「あ、うん。というか起こされた」

「あらあら。もう少しゆっくり寝ていれば良かったのに」

「まぁ、リズムも大切だから起きても問題は無いよ」

「そう。じゃぁご飯食べたらどこかに行きましょう」

「そうだな。久しぶりに家族でどこかに行こうか」

朝食後、車でショッピングモールに出かけた。

買い物をしたり、昼食をとったり、真宵と遊んだり、ここ数カ月出来なかった事を全部やった。

一度にすると結構疲れるもんだな。

夕方、早目の夕食を取った後、僕は東京に向かう。

駅までひたぎの運転で送って貰う。

改札前でまたお別れ。

「次はなるべく早く帰ってくるよ」

「そうね。楽しみに待っているわ」

「うん、じゃぁ……」

178 : VIPに... - 2010/07/16 14:49:38.29 IRaGEV6P 138/307

改札に向かおうとした時だった。

「ねぇ、また毎日電話してね?」

「ああ、当り前さ。ちゃんと電話する」

「あと……隠し事は無しよ」

「分かってる。大丈夫さ」

僕はそう言ってひたぎ達に見送られながら改札をくぐる。

今から東京に戻ったら、22時か……いつもと変わらない。

新幹線は僕と同じような単身赴任ぽい男性が多い。

みんな、家族の為に帰ったりしてるんだろうな。

昼間頑張り過ぎたせいだろうか、闇の中にポツポツと見える光の流れを見ながら僕はいつの間にか眠っていた。

ふと、何かの温かさ、人の感触で眼が覚める。

横に座っている人がこっちにもたれ掛っている様な感覚。

視界がはっきりと回復した後、僕は横を向く。

そして、車内に響かんばかりの声を出し、驚愕した。

「わっ!千石?」

その声に横の席の人間が顔を上げる。

「暦おにいちゃん」

まぎれもなくそこに居たのは千石だった。

179 : VIPに... - 2010/07/16 14:50:27.19 IRaGEV6P 139/307

「暦お兄ちゃん、おはよう」

「おはようって……何やってんだよ」

「別に何もやってないよ。電車に乗ったらたまたま暦お兄ちゃんが居たから横に座ったんだよ?」

「たまたま?たまたまなのか?お前、昨日東京に居たじゃないか」

「今日、またこっち方向に用があったの」

「本当か?」

「本当よ。でね、電車に乗ったらお兄ちゃんが居たの」

「へぇ……そ、そうなんだ」

内心、僕は何かに脅えた。

もしかしたら、ストーキングされたんじゃないかと。

だって、二日続けて同じ人間に会う等考えられない。

これが毎朝の通勤電車ならいざ知らず。

「お兄ちゃん、今帰り?」

千石は屈託の無い笑顔で話しかける。

「ああ、今から東京のマンションに帰って明日からまた仕事」

「ふーん」

その後、千石は何かを考えだしたかのように黙り込んでしまった。

180 : VIPに... - 2010/07/16 14:51:02.08 IRaGEV6P 140/307

新幹線を降り、メトロに乗り換える。

何故か千石も居る。

「お前んちこっちなの?」

「こっちなの」

ニコニコしながら答える。

「そ、そうか。俺次で降りるからまたな」

「またがあるんだ?」

「まぁ、地元で会うかもしれないし」

「ふーん。こっちじゃ会わないの?」

「そんな暇ねえよ」

「それじゃぁな」

僕は自分が降りるべき駅で鞄を抱え、何かに脅えるように振り向きもせず、早足で改札に向かう。

改札を出て、マンションに向かう道を歩く。

流石にこの時間になると日曜だし人通りも少ない。

段々と静かになる。

その静けさに自分の足音が映える。

ふとその足音に耳を傾けると、少しテンポの違う足音が聞こえる。

振り向き、僕はまた驚愕した。

181 : VIPに... - 2010/07/16 15:07:37.33 IRaGEV6P 141/307

街灯に照らされた道に一人の影がはっきり見える。

見覚えのある影、というかシルエット。

さっきまで一緒に居た人間、千石。

その影を見た瞬間、僕は初めてキスショットに出会った日の感覚が蘇る。

多分、何かヤバい事になる。

これまでの経験則で直ぐにそう思った。

僕は声をかけずに、シカトを決め込んだ。

少し早足になった僕の足音。

それに付いてくるようにもう一つの足音も早くなる。

速度を落とすと同じように……決して近づく事もなければ離れる事も無い。

ある一定の距離を保ったまま、僕の後を付けてくる。

僕は意を決して、振り向き「そこに居るの、千石だろ?」と声を発した。

その声が届いた瞬間、影は一瞬立ち止まったが、直ぐに動き出しこちらにやってくる。

はっきりと千石の顔が認識出来た時には既に僕の目の前に立っていた。

182 : VIPに... - 2010/07/16 15:08:20.42 IRaGEV6P 142/307

「お前、何付けて来てんだよ?」

「別に付けてないよ?」

「嘘つけ」

「本当だもん。私の家もこっちだもん」

「適当な事言うな」

「ねぇ、暦お兄ちゃんどうしたの?なんか怖いよ」

「あのな、怖いのはこっちだ。後ろをずっと付けられて気分悪いだろ」

「本当だって。こっちが私のマンションの方向なんだよ」

「昨日渡した住所はこの辺だったでしょ?」

「え?」

僕は鞄からシステム手帳を取り出し、昨日貰ったメモを見た。

そして3回目の驚愕。

住所も番地も全部一緒。

唯一違うのは最後の三ケタの数字。

「えええ!本当だったんだ・・・」

「でしょ?所で暦お兄ちゃんはどこに住んでるの?」

僕は一瞬言葉を発せられなかった。

「ねぇ?お兄ちゃん?」

187 : VIPに... - 2010/07/17 11:05:16.42 ru/SDeEP 143/307

我に返り、僕は話を続ける。

「ああ、あーまぁこの辺かな?」

「かな?」

「あはは……」

「暦お兄ちゃんはマンションに住んでるの?」

「あ、うん」

「へーそうなんだ。この辺でマンションって少ないよね」

「そうだな……」

「もしかして同じマンションだったりして」

「……」

誘導尋問されている様な気がする。

そんな話をしているうちにマンションに着いてしまった。

どうする?ここは一度やり過ごすか?それとも何食わぬ顔で入るか?

今の今まで逢わなかったんだし、ここでやり過ごしても大丈夫かもしれない。

いやいや、万が一中で遭遇したらその時の言い訳に困る。

「暦お兄ちゃん、どうしたの?」

「あ、いや、何でも無い、なんでも……」

僕は意を決して、オートロックの前に立ちキーを差し込む。

自動ドアが解錠され、微かな音を立て開く。

その一部始終を千石は驚く事もなく、見ていた。

そしてこう言った。

「暦お兄ちゃん、私達って不思議な糸で結ばれてるのかもね」

薄く口元に笑みを浮かべながら……

188 : VIPに... - 2010/07/17 11:24:30.77 ru/SDeEP 144/307

エレベーターホールでは既に上りエレベーターが待機していた。

僕はエレベーターに乗り込む。

後ろから千石が乗り込み、すっと手を出し6階のボタンを押す。

僕も遅れて8階のボタンを押す。

「暦お兄ちゃん、8階なんだ」

「ああ、803号室」

「奇遇!私も603号室なんだ」

「そうか……」

そんな話をしているうちにエレベーターは6階に着く。

「じゃあな」

「ねぇ、暦お兄ちゃん」

「ん?何?」

「遊びに行っても良いかな?」

「駄目」僕は即答する。

「なんで?ダメなのかな?」

「年頃の女の子が一人暮らしの妻帯者の家に行くなんて駄目にきまってる」

「誰が決めたの?」

「常識で考えて駄目」

189 : VIPに... - 2010/07/17 11:26:19.86 ru/SDeEP 145/307

「幼馴染なんだよ?なんでダメなのかな?」

「僕がうら若き乙女を連れ込んでるとか思われたくない」

「暦お兄ちゃんは、変な事するような人じゃないよね?」

「当たり前だ!」

「じゃあ、行っても良いよね?」

「駄目なものは駄目」

「もしかして、部屋に誰かいるの?」

「誰もいねえよ!」

「人に見られたくない物があるとか?」

「ねえよ、何にも!」

必死に弁解する僕を見て、千石は少し吹き出した。

明らかに「プッ」という音が聞こえた。

「じゃあ、お休みなさい。また今度遊びに行くから」

「来なくていい」

「ご近所だし仲良くしてね、暦おにいちゃん」

そう言うと、千石は後ろ手で押していたドアを開くボタンを離し、そのままこっちを見ながらエレベーターを降りる。

ドアが閉まり、僕が上がって行くまでずっと手を振る。

ガラス越しに見えた千石はオートロックの時と同じように口元が笑っていた。

192 : 今日の分はエロ無し - 2010/07/17 23:10:15.64 ru/SDeEP 146/307

部屋に入り、自宅へ電話する。

「もしもし、僕だけど、うん今着いた。真宵は?そう寝てるか」

電話の向こうのひたぎはいつもと変わらない調子で受け答えする。

「じゃあ、また明日電話する」

そう言って、僕は電話を切る。

また明日から長い一週間が始まる。

色々有ったせいか、僕はそのままベッドに突っ伏した。

どのくらいの時間が過ぎたんだろう?

呼び鈴を鳴らす音で目が覚める。

ふと時計を見ると朝5時半、こんな朝から誰だよ?と考えたが、一瞬で答えが出る。

僕は玄関に行き、ドアを開ける。

そこに居たのは、勿論千石だった。

「暦お兄ちゃん、おはよう」

「ん、ああ、おはよう。それよりこんな時間にどうした?」

「んっとね、朝ご飯。朝ご飯作ってあげようと思って」

「朝飯?ああ、いいよ、いつも出勤前に会社近くの店で済ませるから」

「駄目だよ、そんな物ばかりじゃ。直ぐに私が作ってあげるから」

と、千石は半ば強制的にドアを開ける。

193 : VIPに... - 2010/07/17 23:11:49.65 ru/SDeEP 147/307

「分かった、分かった。でも明日からそんなことしなくていいからな」

「ごめんね、暦お兄ちゃんが近くに居ると思うと……ソワソワしちゃって」

「お前も自分の用事があるだろ?」

「いいの、気にしないで。こっちの方が大事だし。それに今日は仕事休みだから」

「ふーん、平日休みなんだ」

「うん。だから、気にしないで」

千石は紙袋から材料を出し、キッチンで何やらゴソゴソと始める。

僕はその間にシャワーを浴び、身支度し出勤の準備をする。

風呂場から出てきたら、食卓には既に朝飯が出来上がっていた。

「へぇ、結構器用なんだな」

トーストにサラダ、ハムエッグに珈琲。

いつも出社途中で食べる喫茶店のモーニングと変わりはしない内容だが、味は格段に違った。

「千石、気持ちはありがたいがこんな事して貰ったら僕も何というか、罪悪感じゃないけど、悪いと思うから……」

話の途中で千石が語り出す。

「暦お兄ちゃん、お兄ちゃんに助けられた事、撫子今も忘れてないよ?そのお礼は何もしてないから」

「そんな事ないだろう。キス、いや忍が行方不明になった時夜遅くまで探してくれたじゃないか?」

「そんなの返したうちにならない」

千石はハッキリと、そしてきつく言い返した。

喜怒哀楽の「怒」を顕わにした千石を見るのは、これが初めてかもしれない。

「そうか。じゃあ今日はありがたく頂くよ」

「うん」

一瞬にして、いつもの千石に戻る。

194 : VIPに... - 2010/07/17 23:13:34.00 ru/SDeEP 148/307

「美味しい?」

「ああ、美味しいよ。本当に美味しい。これだけ美味ければ毎日でも食べたいよ」

と、僕は本音を零してしまう。

しまった!と一瞬自分で思った時は既に時遅し、千石は目を輝かせながら

「じゃあ毎日作りにくるね」と。

「そりゃ気持ちは嬉しいがこんな時間に毎日起きるとお前の仕事にも影響するだろ?」

「大丈夫。だって撫子もいつもこの時間に起きてるし」

「いやいや、千石。それでも朝早くして貰ったら悪い。それに僕は仕事の都合で会社で寝泊まりする事もあるし」

「じゃあ、洗濯しておいてあげる。ね、それなら気にしないでしょ?」

「そんな事はさせられないよ」

「洗濯は洗濯機がするんでしょ?撫子が干しておいてあげる。」

「夜に洗濯機回すと廻りに迷惑だし、部屋干しは綺麗にならないよ?あと、外で干したら夕立とか困るじゃない?」

「そうだけど、昼間は千石も居ないだろ?」

「うんとね、平日は昼過ぎから夕方までがシフトだから大丈夫。朝干したら昼には乾くし」

「ていうか、お前何の仕事してるの?」

「ふふ、内緒」

「何だよ、内緒って。人に言えない仕事か?」

「そんなんじゃないけど……喫茶店のウエイトレスみたいなものかな」

「へー喫茶店なんだ」

「うん、喫茶店」

成程、珈琲が美味い訳だ。

「ね、だから暦お兄ちゃん気にしないで」

言い切られ、押し切られ僕は承諾してしまった。

昨日の晩、あれだけ突っぱねたと言うのに。

朝早くに来られ、まともに思考回路が働いていなかったか、若しくは何か心の中で期待したのか。

結局、部屋の合鍵を千石に渡してしまった。

195 : VIPに... - 2010/07/17 23:14:24.94 ru/SDeEP 149/307

甘いと言われるかも知れないが、僕は千石との関係が幼馴染以上になるとは思ってはいなかった。

近所の子が遊びに来て、勝手に部屋まで入ってくるような感覚でしかなかった。

そしてそのまま、出勤した。

夜遅く、部屋に戻ると朝脱いだ下着やシャツが全部洗濯され、綺麗に畳み揃えられていた。

なんか悪いな、こんな事させちゃって。

今度お詫びに何か買ってあげなきゃな。

そんな軽い気持ちで、僕はいつもの様に家に電話し、ひたぎと話す。

他愛もない会話、でもこの電話こそが僕達二人を結ぶ大事な時間。

お互いを気遣い、声を聞く事で安心する。

電話の後、風呂に入る。

ふと気付く、風呂場がやけに綺麗だ。

もしかしたら、千石が掃除してくれたのか?

心の中で少し罪悪感が生まれた。千石に対し、ひたぎに対し。

これ以上の事はさせられない。

今度ちゃんと説明しよう。

そして、僕は布団に潜り込んだ。

微かな違和感を感じながら。

196 : VIPに... - 2010/07/17 23:16:04.58 ru/SDeEP 150/307

千石に洗濯をして貰うようになって、二週間過ぎた土曜の事。

久々の連休だが、会社のレクリエーションとやらでボウリング大会。

何が悲しくて、休日の昼間からボウリング場に居るのやら。

普段は休めないのに、こういう行事があると不思議と皆休める。

ワイワイと皆楽しそうにしているが、出張組の僕は何となく浮いた感じ。

それでもたまに体を動かすと一応楽しい。

また昔みたいにマウンテンバイクを買って、ぶらぶらと走ってみようか?

などと思いつつ、二次会には参加せず、そこから買い物に出かけた。

丁度、新しいノートパソコンが欲しいと思っていた。

僕は電車に乗り、秋葉原へ向かう。

電気街というより、神原でも連れて来たくなる街だ。

そんな中、一件の店で欲しかったモデルを見つけ購入。

「仕事に使うソフトを入れなきゃ」と帰り道を急ぐと、一軒の喫茶店があった。

「喉が渇いたし、何か飲んでから帰るか」

路上で缶ジュースでも良かったんだが、折角の休みだし、喫茶店でゆっくり飲むのも悪くない。

僕は携帯をマナーモードにし、一軒の店のドアを開けた。

197 : VIPに... - 2010/07/17 23:18:05.07 ru/SDeEP 151/307

『お帰りなさいませ、ご主人様』

一瞬何が起こったか把握できなかった。

次の瞬間に「ああ、ここってメイド喫茶か」と自己完結する。

話には聞いていたが、生まれて初めて入った。

前に忍野に逢った時にも言っていたな。

「阿良々木君、メイド喫茶は良いもんだよ、ロリからツンデレまで何でもござれだ」

別に、ロリやツンデレに興味は無いと言い切ったら

「それは阿良々木君の周りにはそういう人がいっぱい居るからね」とからかわれた。

落ちついた内装で、どうかすれば普通の喫茶店としか思えない店なのに、女の子は皆メイド服。

僕は案内されるまま、席に着く。

「ご主人さま、今日は何になさいますか?」

注文を聞きに来た女の子の声にハッとし、徐に顔を上げる、そして驚く。

そこにはメイド服姿の千石が居た。

勿論、千石も驚く。

「暦お兄ちゃん!」と驚いてしまったので、店内の注目を浴びる。

つい「いや、違います」と、咄嗟に嘘をつく僕。

千石も「失礼しました。兄にあまりにも似ていたので」と切り返す。

その場を取り繕う事は出来たが、今すぐ店から出たくなった。

もう1秒もここには居たくない。

理由?

僕がこういう店に出入りしていると知人に知られた事。

千石の見慣れない服装を見てられない事。

そんな理由が重なり、椅子に座っているのに針の簟に正座させられている気分だ。

例え、何気に入った店がそういう店だったと弁解しても誰もが「そうなんだ」と言いつつも、絶対に心の中で疑う。

誤解を解くほど、労力と気力を使う事は無い。

しかし、ここで不用意に立ってしまっては、また店内の注目を浴びるかも知れない。

198 : VIPに... - 2010/07/17 23:19:55.55 ru/SDeEP 152/307

僕はメニューの一番上に会った【オリジナル珈琲】を頼む。

ここからは自分との闘い。

廻りの声は聞こえるが脳内で変換できない程、緊張している。

とりあえず珈琲が出てきたら、さっさと飲んでとっとと店を出よう。

そんな事を考えていたら、千石が珈琲を運んできた。

「ご主人さま、お待たせしました」

テーブルの前で膝をつき、僕のテーブルにカップを置く。

そして「砂糖とミルクはどのくらいに致しますか?」とか言ってきた!

なんなんだ、これは!

いいのか、こんな事があって!

女子が膝着いて砂糖だのミルクを入れるなんて聞いてない。

ただ見るだけだと思ってた。

しかし、いつもの癖というか嗜好は正直で、砂糖2つとミルク無しを頼む僕。

最後はスプーンで混ぜて貰い……

正直なところ、この時点で僕は気を失いかけていた。

というか我を失っていた。

何とか属性とかいうのが自分にあるんじゃないかと。

珈琲を飲んでも、水を飲んでも味に変わりがないほど……

結局、熱い珈琲を一気に飲み干し、僕はレジに向かう。

勿論、千石が見送りに出てきた。

無論、僕はシカトする。

ドアを開けられ「行ってらっしゃいませご主人様」と言われ、道行く人がこっちを見る。

その恥ずかしさ、言葉なんかには出来ない程だった。

199 : VIPに... - 2010/07/17 23:21:21.45 ru/SDeEP 153/307

僕はふらふらと店を出て通りを歩きだした時、うしろから呼び止められる。

「暦お兄ちゃん、忘れ物!」

さっき買ったばかりのノートパソコンの箱を抱え、千石が走ってきた。

「ああ、ごめん。ついうっかり」

「暦お兄ちゃん、この後暇なの?」

「ん?ああ、別にする事無いよ」

「じゃあ、そこの角曲がったところで少し待っていて」

そう言い残すと、千石は走って店に戻った。

20分ぐらい僕は突っ立って、待っていると私服に着替えた千石が来た。

「あ?バイトは?」

「うん、抜けてきた」

「いいのかよ?」

「大丈夫。今日は暇だったし」

「あれで暇なの?」

「いつもは表で待つ人も居るよ」

「へー、そうなんだ……」

「一緒に帰ろうよ」

「うん、いいけど。それよりいつも洗濯して貰ってるし、悪いからなんか奢るよ」

「うーん、撫子は外食あまり好きじゃないんだな」

「そうなのか」

「それに洗濯ぐらいで気を使わなくていいよ」

「お前、掃除とかもしてくれているだろ?」

「ついでだし」

「ついでねぇ」

200 : VIPに... - 2010/07/17 23:22:13.28 ru/SDeEP 154/307

「あ、そうだ!買い物して帰って家でご飯作ろうよ」

「いや、お前にそんな事はさせられない」

「別に撫子は気にしないよ?」

「僕が気にする」

「じゃあ、いつものお礼に撫子の言う事聞いてよ」

「出来る事なら聞いてやるよ」

「じゃあ、撫子の作ったご飯食べてみて」

「おい!なんだよそれ」

「撫子、いつも一人でご飯食べてるから……たまには誰かと食べたいなって……」

千石は悲しそうな顔をする。

「分かったよ。その代り、材料は僕が全部買うから」

「うん!」

千石は嬉しそうな返事をした。

結局、またも押し切られる形になった。

何か大事な事を忘れている気がしたが、思い出せない。

しかし、電車を乗り継ぎマンション近くのスーパーで買い物をしている頃にはすっかり記憶から消えていた。

201 : VIPに... - 2010/07/17 23:23:32.08 ru/SDeEP 155/307

マンションに戻り、とりあえず荷物を置く。

千石は料理の材料を置いて、一旦自分の部屋に戻る。

暫くして、色々と鞄に詰めて戻ってきた。

「暦お兄ちゃんの部屋って、食器とか調理器具少な過ぎなのね」

「仕方ないだろ。男一人で暮らしたら鍋一つもあれば十分だよ」

「だから撫子の部屋で食べようって言ったのに」

何故か僕はそこだけは譲らなかった。

最後の砦というか、一線引いた感じ。

妻帯者が独身女性の部屋に上がり込むなんて、うちのが聞いたらただで済まないだろう。

今の状況だって、千石だからいいものの、ひたぎが知らない女性だと……考えただけで恐ろしい。

結局、僕の部屋で作る事となった。

料理は千石にすべて任せ、僕は言われるがままリビングで寛ぐ。

買ったばかりのノートパソコンを取り出し、仕事で使うファイルやアプリケーションを入れていた。

台所からは良い香りがする。

何を作ってるのかな?と覗きに行くと

「まだ来ちゃダメ」と叱られる。

何かサプライズでもあるんだろうか?

それから半時間ほどし、「出来たよ」と声をかけられ、行ってみるとそこには素晴らしい料理が並んでいた。

202 : VIPに... - 2010/07/17 23:24:27.09 ru/SDeEP 156/307

「これ全部一人で作ったんだよな……当たり前だけど」

「うん、今日は気合入れたよ」

「そ、そうなんだ」

「だって、暦お兄ちゃんと二人っきりで食事するの初めてだし」

「そっか」

正直、驚いた。そこらのレストラン以上の見栄えに数。

僕だと半日かけても作れないかもしれない。

「ねえ、暦お兄ちゃん。遅くなったけど、再会のお祝いしましょう」

と、千石はワインボトルを鞄から取り出し、栓を抜く。

「へぇ、千石ってそんな事も出来るんだ」

「これ、とっておきの一本なの。2004年のマジ・シャンベルタンなの」

「凄いな。千石はワインに詳しいの?」

「うんとね、ソムリエ目指してるの」

「マジ?」

「うん、マジ・シャンベルタン!」

少し驚いた、とても内向的だった千石が、メイドにソムリエときて、おまけに冗談までいう。

203 : VIPに... - 2010/07/17 23:25:28.50 ru/SDeEP 157/307

確かに再会した時の明るさというか、押しの強さには少し驚いたよな。

料理も美味いし、話も上手になった。

男も放っておかないだろう。

が、千石にはそんな素振りは全くない。

世の中の男は何を見て生きているんだろうね?

「美味しい?」

「ああ、とっても美味しいよ」

「良かった!暦お兄ちゃんにそう言って貰うと、撫子嬉しいな」

「きっと良いお嫁さんになるよ」

「そうかな?」

「ああ、成れるさ」

「誰のお嫁さんになれるかな?」

「さぁ、それは僕には分からないよ」

「ふーん、撫子、暦お兄ちゃんのお嫁さんになりたかったな」

僕は口に含んだワインを吹き出しそうになった。

「馬鹿な事言うんじゃない。僕なんかよりもっと素敵な男性がきっと見つかる」

「暦お兄ちゃんより素敵な人なんていないもん!」

まただ、また「怒」を表した。

204 : VIPに... - 2010/07/17 23:26:24.63 ru/SDeEP 158/307

「ごめんごめん、そう言ってくれるのは嬉しいけど僕はもう結婚しちゃったからね」

「結婚で来たって事は、離婚も出来るんだよ?」

「おいおい、物騒な事言うなよ。最近子供も生まれたのに」

「ふーん、撫子、赤ちゃん引き取ってもいいよ?」

「千石!そういう悪い冗談は良くない。折角の料理が不味くなるじゃやないか」

「冗談じゃないよ?撫子真剣だよ?撫子、今でも暦お兄ちゃんの事好きだもん」

「だから、それは幼馴染の……」

「ちがうもん!ずっと好きだったんだから!」

有らんばかりの力でテーブルを叩き、千石が怒鳴る。

僕は怒鳴られた事よりも、そんな千石を見て驚き、呆気にとられる。

「いつでも奪えるもん。だって暦お兄ちゃんはもう私の手のうちにあるんだから」

立ちあがり肩を震わせ俯きながら話す千石の口元が微かに笑う。

なだめようと声を出そうとした時だった。

僕の体から力が抜ける。

段々と視界が狭まる。

なんだこれは!

「暦お兄ちゃんは誰にも渡さないんだから!」そんな声が鼓膜を震わせる頃に僕の意識は無くなっていた。

205 : VIPに... - 2010/07/17 23:27:37.71 ru/SDeEP 159/307

ふと、冷たく硬い感触で僕は目を覚ます。

眼を覚ましたが、視界は無い。

「暦お兄ちゃん、ごめんね」

千石の声が聞こえる。

「お前、何やったんだ?」

「暦お兄ちゃんには少し大人しくして貰う為に薬で眠って貰ったの」

「お前、こんな事してどうなる?僕の気持は変わらないぞ!」

「少し黙っていて」

首筋の冷たい感触が一層僕の皮膚に強く当たる。

ナイフ?!

「ごめんね、こんな手荒な真似はしたくなかったんだよ」

「なぁ、千石、今からでも遅くない。お前、もう部屋に帰れ、そして僕とは逢わなかった事にしろ」

「駄目よ、暦お兄ちゃん。撫子は今から欲しかった物を手に入れるんだから」

「それに、このまま放置して帰ったら暦お兄ちゃんどうするの?動けないんだよ?」

僕は両手両足を縛られ、リビングに転がされている。

「今日、おまじないをするから」

「何のだよ!」

「覚えている?撫子と暦お兄ちゃんが再会した日の事」

206 : VIPに... - 2010/07/17 23:28:29.17 ru/SDeEP 160/307

「蛇の怪異か……」

「そう。おまじないってちゃんと効くんだよ?今日はお兄ちゃんが撫子の事が好きになるおまじないをするから」

「馬鹿、やめろ!お前、まだ懲りてないのか!」

「今度は大丈夫。ちゃんと上手くやるから。それに今度は撫子が掛ける番で、誰も苦しめないんだよ?」

「お前、何言ってるのか分かってるのか?」

「うん、分かってるよ。お兄ちゃんを手に入れるだけ。誰も苦しまない。死なない」

「僕の、僕の家族はどうなる!」

「家族?私から暦お兄ちゃんを奪った泥棒とその子どもなんて撫子には関係ないんだから」

「お前!いい加減に……しろ!」

僕はもがいた、精いっぱい力を振り絞ってもがいた。

しかし、手首も足首も動けば動くほど締まる。

段々と手足の感覚が薄れる。

「もう少し辛抱してね」

そう言うと、千石は僕の口をテープで塞いだ。

「おまじないは深夜にするからそれまで大人しくして」

「あと数時間我慢してくれたら、明日から撫子の事しか見えなくなるんだから」

ああ、そうだ、こいつはラスボスだ。

207 : VIPに... - 2010/07/17 23:30:04.51 ru/SDeEP 161/307

忍野の言った意味がようやく分かった。

とてつもなく恐ろしい。

怪異以上に恐ろしい、そしてそう易々と手出しが出来ない。

はは、僕が馬鹿だったよ。

あの時、マンションの前をスルーすれば良かったのに……

そうすれば、こんな事に成らなかったのに……

アイマスクの下から涙が零れる。

もう諦めるしかないのか?

その時だった、ズボンのポケットが震える。

携帯電話だ、きっとひたぎに違いない。

いつもの時間に電話しない場合は架けてくる。

ということは、今は22時か…

糞!何とか電話に出たい。

でも、両手がふさがり電話に出られない。

少しして電話は切れた。

が、1分後また電話が震えだす。

間違いない、ひたぎだ。

せめてサイドボタンが押せれば通話状態になる。

僕は必死に床を転がりまわる。

だが、努力も空しくまた電話が切れた。

でも僕はこれで少し安心した。

ひたぎならもう一度電話してくる。

それでも出ないならメールがあるはず。

208 : VIPに... - 2010/07/17 23:31:25.94 ru/SDeEP 162/307

いつもの癖で、喫茶店に入る時は先にマナーモードにする、功を奏した。

僕が携帯を持っている事に千石はまだ気が付いてない。

「暦お兄ちゃん、足掻いても無駄だから。ね、大人しくしてね」

千石は何かをやっている。

恐らく儀式の準備だろう。

何かとあの手の儀式は様式に拘るからな。

3回目の電話が鳴った。

僕は転がりながら何とか着信させようと頑張る。

ポケットから電話が出ても良い、それなら後ろ手でも握れる。

1回転した時に、バイブレーションが止まった。

どっちだ?切れたのか?それとも繋がったのか?

僕はとりあえず体を揺する。

そして耳を澄ませる。

次の瞬間、短いバイブレーションが続く。

それはメール着信の合図。

繋がって無かったんだな……

一瞬にして、僕は全ての望みを断ち切られる。

「暦お兄ちゃん、さっきから何しているのかな?」

「むーむー」

「あ、ごめんね話せないんだっけ?」

「それよりも、ポケットの中光ってるよ?」

僕が放置されている部屋は恐らく電気が消されているんだろう。

だからズボンの布越しにランプが点滅しているのが見つかってしまった。

209 : VIPに... - 2010/07/17 23:32:46.45 ru/SDeEP 163/307

千石は僕のズボンに手を入れ、携帯を取り出す。

「ふーん、着信3件……全部あの女からだよ?しつこい女だよね?暦お兄ちゃん」

「メールも着てるよ?読んであげようか?」

「今日も仕事ですか?ひたぎ」

「何これ?いつもこんなメールなの?馬鹿みたい。私ならもっと暦お兄ちゃんを労わるメールを打つよ?」

(労わるってんなら、このロープ何とかしろよ!)

「代わりに返事しておいてあげよっか?」

「『う・る・さ・い・だ・ま・れ、お・れ・に・か・ま・う・な』送信っと」

「これ読んで青い顔しちゃうかもね?」ケラケラ

千石は完全に壊れている。

何とかする方法は無いのか?

こんな時、忍がいてくれりゃ助けて貰えるのに……

窓伝いに外の音が聞こえる。

車の走行音、遠くのサイレン、隣のドアが閉まる音。

そして、直接聞こえる千石の声。

「またメール。マジウザい」

そう言うと千石は僕の携帯を叩き折った。

それ先月買ったばかりなんだぜ?

そんな事はどうでも良い、誰か助けてくれ。

声に成らない声で僕は嘆願する。

「ねぇ、暦お兄ちゃん、撫子と気持ちいい事しよっか?」

僕は必死に首を横に振る。

「明日になったら暦お兄ちゃんの方から求めてくるから別に良いんだけど」

「でもおまじないまでの時間、勿体ないし」

「撫子が勝手に遊んじゃおうかな?」

そう言いながら、千石は僕の上に馬乗りになった。

210 : VIPに... - 2010/07/17 23:34:15.76 ru/SDeEP 164/307

「暦お兄ちゃん、撫子の事ちゃんと見て」

そう言って、千石は僕のアイマスクを剥がす。

千石のシルエットが飛びこむ。

隣の部屋の明かりが千石の背中から差し、影になって表情は見えない。

でも上半身に何も着けていないのは分かった。

「撫子がこんなに暦お兄ちゃんの事好きなのに、気が付いてくれなかったのが悪いんだよ?」

そう言いながら、千石は僕に覆いかぶさる。

耳元で囁きながら、舌で僕の首筋を舐める。真っ正面に構え、ガムテープの上からキスされる。

「ごめんね、本物のキスは儀式の最後まで取っておかないと駄目だから」

そういうと、今度は僕のシャツのボタンを順番に外し、胸のあたりを舐めまわす。

残念だが、男ってこういう状態になっても体が反応してしまう。

その変化に気がついた千石はそっと着衣の上からそれを撫でる。

「これも全部撫子のモノになるんだから」

少し、高揚した声で話しかける。

「もう諦めてね」

だれが諦めるか!

僕は渾身の力で千石を振り切る。

「駄目よ、暴れたって。今のうちにあの女に騙された事を悔やんでね」

それは言いがかりだ。

騙されてなんていない。

今でも言える、僕が好きなのはひたぎだけだ

儀式までの時間つぶしを僕の体でするな!

千石が舌を這わそうとすると、僕は体を左右に振り抵抗する。

何度も何度も……

こうなったら頭突きでもひざ蹴りでも何でもいいからこいつを何とかしなきゃ。

千石がまた舌を這わそうとした時に僕は膝を曲げ、体の上から千石を突き落とした。

211 : VIPに... - 2010/07/17 23:37:22.53 ru/SDeEP 165/307

「いたっ」

千石の小さな悲鳴が聞こえる。

次の瞬間、僕の顔面に拳が突き刺さる。

「いい加減にしなさいよ!こっちが下手に出てりゃ調子に乗って!」

「ふん、もういいわ。どうせ朝には私の物なんだから!」

千石はその場で叫び倒す。

もう僕の知っている千石ではなかった。

「それと、あまり調子に乗るとこうなんだから」

突然、太ももに冷たい感触が走る。
(痛い!)

太ももにナイフが刺さる。

「いい?今度変な気起こしたら、その時は殺すから」

もはや彼女は人間ではない気がした。

いや、怪異と言っても良いかもしれない。

刺された傷口からは血が流れる。

そう深く刺された訳じゃないが、もう普通の体の僕にはその傷を再生する力は残っていない。

痛み、痺れ、恐怖……

段々と僕の意識が遠のいてゆく。

ごめん、ひたぎ、真宵……僕はもうダメかも知んない。

気を失った訳ではないが、思考が止まり時間の経過すら意識できない。

今がいつであるか、いや僕自身が何者であるかという事すら考えられない。

幾許かの時間を何も考えず僕は過ごす、これが無の境地なのか?

ぼんやりとしていたら、千石が僕の足を掴む。

そしてそのまま寝室へ引き摺られ、また転がされる。

212 : VIPに... - 2010/07/17 23:38:45.50 ru/SDeEP 166/307

「時間だから儀式を執り行うからね、暦お兄ちゃんはじっとしていてね」

千石は部屋に作った祭壇の前で何かを唱える。

段々と意識は回復するが、もう僕には抵抗する気力がない。

窓の外の車の音、サイレンの音、人が走る音、全てが僕の耳に入り、そして消えてゆく。

千石は僕の頭の上から水をかけ、そしてまた呪文を唱える。

そしてこう言った。

「暦お兄ちゃん、ごめんね。でもこれでやっとお兄ちゃんは撫子の物になるんだよ」

そう言って、千石は僕の口元のガムテープを剥がし、手足を縛っていた紐を解く。

今なら逃げられる、そう思っても体が全く動かない。

千石は羽織っていた白装束を脱ぎ捨て、僕の体に乗りかかり、胸のあたりに何かを何かで描く。

「汝、我の物と成りえよ」

そう言って、千石が僕にキスをしようとした。

最後に僕は出せるだけの声を出した。

「やめろー!」

213 : VIPに... - 2010/07/17 23:40:15.53 ru/SDeEP 167/307

その時だった、部屋の外で大きな音がした。

リビングのドアを思い切り蹴破ったような音。

続いて、聞き覚えのある声がした。

「阿良々木先輩、無事か!?」

得意技はBダッシュのあいつだ。

「貴様、阿良々木先輩に何をする気か!」

神原はそのまま、千石に飛び蹴りを喰らわす。

うしろにぶっ飛んだ千石は祭壇にのめり込みうめき声を上げる。

「午前三時零壱分、監禁致傷の現行犯で逮捕する!」

これたま聞き覚えのある声。

「兄ちゃん生きてるか?もう大丈夫だからな!」

火憐がそこにいた。

そして、そのうしろからいつもの声。

「あらあら、なんて酷い格好なの?」

「ひたぎか?ごめん……」

「今は何も言わなくていいわ。でも無事でよかった」

「兄ちゃん、これマジで何なの?」

「先輩、この子って千石じゃないか?」

「すまん、詳しい事は後で説明する」

僕は安堵で失神してしまった。

214 : VIPに... - 2010/07/17 23:41:22.41 ru/SDeEP 168/307

気が付いたら、病院のベッド。

「あら?気がついた?」

ひたぎが座っている。

「ごめん」

今の僕にはそれしか言えなかった。

「馬鹿ね。あれだけラスボスって言われてるのにやられるなんて……うちの旦那も大した事がないわ」

「ごめん」

「今回は事情が事情だから許すけど、昔の私だったらあなたも彼女も私自身も殺していたわ」

「ごめん」

「だらしないわね、シャッキとしなさい、阿良々木暦」

回復して間もなく、警察からの取り調べあった。

勿論、僕は全部話した。

会社は休職扱いにして貰ったが、最終的には退職した。

裁判では僕自身が情状酌量の願いを出し、神原や火憐も協力してくれたお陰で千石は執行猶予付きの判決が出た。

ひたぎにはかなりこっぴどく説教されたけど。

でも、許して貰えた。

215 : VIPに... - 2010/07/17 23:42:50.37 ru/SDeEP 169/307

で、助かった理由なんだけど……

千石が僕の代わりにひたぎにメールした時、『僕』じゃなく『俺』と書いたので、ひたぎが何か感じたらしい。

そして、神原と火憐に連絡し、パトカーぶっ飛ばしてやってきたとか。

一体、何キロで走ったんだ?

神原に聞いたら「先輩、そりゃBダッシュkm/hだよ」と笑って答えた。

216 : VIPに... - 2010/07/17 23:44:55.67 ru/SDeEP 170/307

後日談

今は、地元に帰りひたぎと一緒に始めた花屋をやってる。

昔、バイトした花屋さんが高齢で跡取りも居ないって事で、引き継いだ。

まさか自分が花屋を始めるとは思ってもみなかった。

でも案外様になってる気がする。

神原と火憐は外回りの途中で、よく休憩しにくる。

「しかし、あの大人しい子が本物のラスボスとは恐れ入った」

「本当よね。兄ちゃんは罪作りな男よね」

「まぁ、阿良々木先輩に惚れる女は多いと思うぞ」

「えーそうなのー?」

「かく言う私も先輩の事好きだからな」

「え?マジで?」

「戦場ヶ原先輩の彼氏でなかったら私が貰っていったぞ」

「まって、神原さんは……その、なんというか……」

「私は両刀使いで、たちでもねこでも大丈夫だ」

「お前ら、うちの店先でなんて話をしてんだ!とっとと仕事に行け」

「はーい!では、街の平和を守ってきます!」

「いってきまーす!」

やれやれ、あいつらいつもあの調子だ。

でも、こんな日常が戻ってきて僕は感謝している。

辛い思い出でもあったが、ラスボス戦でHP1で勝ち残ったのは悪くない。

あの時、誰も来てくれなかったら……

どうなってたんだろう?

217 : 1です - 2010/07/17 23:48:40.64 ru/SDeEP 171/307

「そんなの簡単よ、あなたは彼女の性奴隷になってただけよ」

ひたぎが背後からつぶやく。

「いやね、どんな事になってたかちょっと気になって……」

バスッ!

「いてぇ!腹パンやめろよ」

「仕方がないわね、ズボン下ろして待ってる人の為に、私が想像して教えてあげるわ」

「ああ、そうしてくれ」

「但し、今日は駄目。今から真宵のお迎えにいかなくちゃならないから、後日」

「後日談の後日談かよ!」

「だって、Bパートでいいって言うんだし」

「Bダッシュなら神原に任せりゃいいんだが」

「それを言うならBLでしょ?」

「はいはい」

千石無双(Bというかエロ描写パート)は少しお待ちください。

風邪引かない様に……

223 : 最終話 - 2010/07/19 11:11:46.17 DJxSiY6P 172/307

「よぉ、阿良々木君。なんだい?突然花屋なんか始めちゃって?何かいい事でもあったのかい?」

「お、忍野!」

「やぁ、元気そうだねぇ」

「どうしたんだよ、急に」

「いやね、阿良々木君がラスボス戦で勝利したって風の噂に聞いて、お祝いに」

「勝利って……それより一人なのか?」

「ああ、キスはねぇ、まだ日差しが強いからって家で寝てるよ」

「もう5時半時だぜ?」

「このぐらいの明るさでも『日焼けする』とか言って寝てるんだよ、本当に困ったもんだ」

「ふーん、よかったら中でお茶でも飲んでけよ」

「お?悪いねぇ。じゃあお言葉に甘えさせて貰うよ」

「とはいっても、缶コーヒーだけどな」

「何でもいいよ」

「そりゃそうと、ツンデレちゃんはどうしたんだい?」

「ああ、先に上がって家で晩飯の用意をしていると思う。店は最後に僕が締めるだけだし」

「成程。じゃあ、店締めて行こうか?」

「どこにだよ?」

「阿良々木君の家に決まってるじゃないか?」

「なんでだよ?」

「え?君は何も聞いてないのかい?」

「何の話だ?」

「今日はツンデレちゃんに呼ばれてるんだよ、みんな」

「はぁ?マジかよ」

224 : VIPに... - 2010/07/19 11:12:50.30 DJxSiY6P 173/307

「反省会するから来るように言われたんだよ」

「何の反省会だよ!」

「さぁねぇ?とりあえず阿良々木君のツンデレちゃんが招集かけているのに行かない訳にはいかない」

「それよりも、お前に連絡って……」

「ああ、それね。ほらこれだよ。僕も最近は文明の利器ってのを多少は使えるようになってね」

忍野は嬉しそうに携帯を見せびらかす。

「お前、まるで中学生みたいだな」

「おやおや、酷い言われ方だ。400年生きた人間に中学生は無いだろ?阿良々木君、何か悲しい事でもあったのかい?」

「お前に会った事が悲しいわ!」

「元気そうで何より、てっきり凹んで廃人化と思ったが大丈夫だね。じゃぁ行こうか」

忍野は薄ら笑いし、僕を急かす。

僕は取り急ぎ片づけをし、忍野と家に帰った。

家に帰ると、玄関には家族分の倍の靴が並んでいる。

「やぁ阿良々木先輩、お邪魔してます」

「兄ちゃん、遅いよ」

「お前ら、仕事は?」

「今日は非番だから問題ない」

「よっこらしょ、ツンデレちゃん、ビール!」

「忍野、お前は何者だ?」

「お帰りなさい。今日は私が皆を呼んだのよ」

「何始める気だよ?」

225 : VIPに... - 2010/07/19 11:14:07.14 DJxSiY6P 174/307

「反省会」

「反省会?」

「そう、反省会。うちのご主人様が何故あんな事になってしまったか、反省会」

「だよなぁ、阿良々木先輩の性格考えたら単身赴任は危険だよな」

「そうだよ、兄ちゃんの素行調査をちゃんとしなかった私が悪い」

「そう言われると僕も困っちゃうよ、ちゃんとラスボスに付いて説明しなかった訳で、ビールおわかり」

「お前ら、僕を笑いに来たんだな!」

「笑うも何も、『やっちゃったー』というか詳しい事情が聞きたいだけだよ、阿良々木君」

「うんうん、何故阿良々木先輩がああなったか、調書では言えなかった事を」

「私たちがちゃんと聞いてあげるよ、兄ちゃん」

なんなのお前ら?そのコンビネーションは!

神原、火憐が台所から料理を運び、ひたぎも席に着いたところで宴が始まる。

反省会と言いつつも、みんな近況を話したり、思い出話に花を咲かせる。

みんなホロ酔いになった時に、神原が口火を切る。

「で、先輩。本当はやっちゃの?」

「それは断じてない」

「いつから付き合ってたの?」

「付き合ってない」

「どうやって連絡取ってたんだい?」

「偶然出会ったのと、マンションが同じだった訳で……」

質問攻めに真面目に答える僕。

ひたぎはそれを憐れむように何故か遠い目で僕を見る。

「僕は何もやってないし、やられも……性的な意味では」

「全く何もされてないの?」とひたぎ。

「いや、まぁその……」

「兄ちゃん、男らしく正直に言いなさいよ!」

226 : VIPに... - 2010/07/19 11:16:25.52 DJxSiY6P 175/307

「~中略~とまぁ、こんな感じ」

「へー、ラスボスってのは恐ろしいな」

「まるで官能小説みたいな展開ですよね?」

「阿良々木君、やっぱ体は正直だったかい?」

嗚呼、こいつら絶対に喜んでる。

「結局、舐められただけなのね?本当に」

「そうだよ、でもって、嫌がって振りおとしたら殴られた」

「パーで?」

「グーで、でもってその後、刺された」

「阿良々木君、血が止まらないのは怖かっただろ?」

「なんていうか、死ぬと思った」

「なら、わしの眷族にまたなるか?」

うしろからする声に振り向くと、キスショットが居た。

「忍ちゃん遅かったねぇ、まぁ座りなよ」

と忍野が自分の座っていた所を詰める。

「で、お前さん的には本当はどこまでされたかったんじゃ?」

「別にされたい事なんてねーよ!」

「ふーん、えらく尖っておるの。本当はあんな事こんな事されたかったんじゃないのか?」

「何だよ、あんな事とかこんな事って」

「そうだねぇ…百合っ子ちゃん的にはどんなだと思う?」

「私?そりゃもう、私的にはラスボスが連れてきた男子と阿良々木先輩が……ヤバ、鼻血出てきた」

「駄目だな、こりゃ。ここはやっぱり阿良々木君の事を一番知ってるツンデレちゃんに想像して貰うか」

「想像も何も、この人の性格ならどんな事も口では断っても体が受け入れるでしょう」

「流石、阿良々木君の奥さんやってる人は言う事が違うねぇ、一つお話してみないか?」

「そうね……」

227 : VIPに... - 2010/07/19 11:17:28.69 DJxSiY6P 176/307

「暦おにいちゃん、今日は撫子が晩ごはん作りに行ってあげるね」

「いつも悪いな」

「いいの、気にしないで。撫子がやりたくてやってるんだから」

夕刻

「ただいま」

「暦お兄ちゃん、お帰り」

そこにはバイト先の制服を着た千石が居た。

「えへ、どう?似あう?」

「ああ……とっても可愛いよ」

「暦お兄ちゃん、ご飯にする?それともお風呂にする?」

「そうだなぁ、今日暑かったし先に風呂浴びてくるわ」

僕は鞄を置き、浴室に入る。

「暦お兄ちゃん、着替えここに置いておくね」

「悪いな」

「気にしないで」

僕は頭を洗いながら返事をする。

一瞬、冷たい空気が浴室内に入ったと思ったら、ドアが閉まる音がした。

228 : VIPに... - 2010/07/19 11:18:02.62 DJxSiY6P 177/307

「ん?」

「暦お兄ちゃん、撫子が背中流してあげるね」

「千石!」

「そのまま、座っていて」

「う、うん……」

千石はボディソープをスポンジに取り、泡立て僕の背中を流す。

「暦お兄ちゃんの背中って、思ってたより大きいね」

「そ、そうか?」

「うん、凄く大きい」

千石は泡立てたスポンジをゆっくり上から下に滑らせる。

「はい、次は手を横に広げてして」

「いいよ、ここは自分で洗えるから」

「撫子が洗うと嫌なのかな?」

「そんな事は無いんだけど……」

「じゃぁ洗わせて」

僕は言われるまま、両手を水平に広げる。

千石の手が脇から胸の方へ伸びてくる。

大きな円を描くように、僕の胸の辺りを撫でまわす。

「くすぐったいよ」

「えへへ、まだ動いちゃダメですよ」

スポンジは胸から腹部へと滑り落ちる。

その時、千石の体が僕に密着する。

「え?」

明らかに想像とは違った。

229 : VIPに... - 2010/07/19 11:19:06.82 DJxSiY6P 178/307

皮膚と皮膚の間にバスタオルが挟まれるべきなのに、直接僕の皮膚に千石の柔らかい物が当る。

その柔らかさの中に、少し硬い二つの点を感じつつ。

僕の、僕の怪異が豹変する。

「あわわ、せ、千石、もういい。あとは自分で洗えるから」

「駄目よ、暦お兄ちゃん。今日は撫子が全部洗うんだから」

千石はそう言うと、背中に当った体をゆっくりと動かす。

「気持ちいい?」

「ん、うん……」

千石の右手が僕の下腹部に届こうとした時、その手はいったん止まる。

「はい、手を下ろして」

良かった、僕は内心ほっとした。

終わったかと思ったんだが、次は腕を洗われる。

肩から二の腕、肘、手の甲、指へとスポンジは走る。

泡を絡ませた指を僕の指の間に入れ、ゆっくりと前後に動かす千石。

くすぐったいというか、不思議な感覚にやはり僕の怪異は反応する。

「暦お兄ちゃん、お湯掛けるね」

「ああ、うん」

呆けた僕に千石が声をかける。

「じゃ今度は立って。足洗うから」

既に僕は千石の言い成りになっていた。

椅子から立ち上ると、千石はスポンジで僕の足を上から下に洗う。

「今度は前を向いて」

230 : VIPに... - 2010/07/19 11:20:57.82 DJxSiY6P 179/307

「あ、いやそれはちょっと……」

「嫌?撫子に見られるの嫌なの?」

「嫌というか、恥ずかしいと言うか……」

「まだ駄目だよ?まだ終わってない所があるよ?」

「でもそこは、ほら自分で洗うし」

「今日は撫子が全部洗うって言ったでしょ」

「は、はい……」

千石は手のひらにボディソープを取り、泡立て僕の怪異をゆっくりと洗う。

「気持いい?」

「はい」

「ねぇ、暦お兄ちゃん、何か大きくなってるよ」

「><」

「感じちゃってる?」

「いや、ほら、一応僕も男だし、異性にそういう事されると……」

「ふーん」

そそり立った僕の怪異を、千石は右手でゆっくりと僕の怪異をしごく。

左手で怪異の袋を撫でまわし、次第にその手がゆっくりと肛門付近まで届く。

「ちょ、そこは」

「全部」

「は、はい」

僕は既に膝が震えだしている。

怖いからではなく、下半身に力が入らない。

千石はシャワーを出し、僕の体を上から下へと流す。

助かった……

危ないところだった、もうどうなるかと思った。

231 : VIPに... - 2010/07/19 11:21:47.32 DJxSiY6P 180/307

しかし、そんな安堵は次の瞬間吹っ飛ぶ。

「暦お兄ちゃんの素敵」

そう言うと、千石は僕の怪異を口に含んだ。

千石の柔らかい唇が僕のを刺激する。

右手でしごかれながら、左手は袋を撫でまわす。

「ねぇ、暦お兄ちゃん。私をおかずに一人でした事ある?」

「え?」

「昔、お兄ちゃんの部屋で、撫子脱がされたじゃない?」

「あれは……」

「あれで一人でしちゃった?」

千石はそう語りながらも手は止めない。

「ねぇ、どうなの?」

「うんと……ないかな?」

「本当?」

そう言いながら、千石は僕の尿道口を舌で広げようとする。

「あ、あ、あの1回あります」

「ふーん、1回あるんだ」

「興奮した?」

「うん」

「今とどっちが興奮した」

「分、か、らないよ」

もう僕は普通に受け答えが出来ない。

232 : VIPに... - 2010/07/19 11:22:17.73 DJxSiY6P 181/307

「本当に1回だけ?」

「う、ううん、何回も……何回もしました」

「正直でよろしいかも。サービスしちゃおっかな?」

千石はまた僕の怪異を口に含み、前後に頭を動かす。

強弱をつけながら吸引し、袋を揉みながら……

「やべ、出る!」

「ふちのはかれらしてぇ!」

僕は千石の口の中で逝ってしまった。

「暦お兄ちゃん、逝っちゃったね」

千石は僕が出した怪異の魂を飲み込んだ後、舌で僕の怪異を舐めまわす。

「汚いから……」

「汚くないよ、暦お兄ちゃんは」

「でも……」

ピチャピチャという音に、僕の怪異はまた硬くなる。

そのまま千石はまた始める。

さっきより激しく責められ、僕の怪異は一瞬で果てる。

千石が手で扱いていた為、怪異の魂が千石の顔面を襲う。

233 : VIPに... - 2010/07/19 11:22:44.68 DJxSiY6P 182/307

「ごめん」

「ううん、温かくて気持ちいい」

千石は顔を汚したまま、僕の怪異をまた舐めて綺麗にしてくれる。

「はら、顔を拭かなきゃ」

僕はタオルで千石の顔を拭いてやる。

「あのね、暦お兄ちゃん……」

「ん?何?」

「あのね、な、撫子も洗って欲しいな」

僕の怪異はその言葉だけでまた果てかける。

「分かった」

僕はスポンジで千石の背中や胸を洗う。

スポンジが動くたび、千石は甘い吐息を吐く。

「ぜ、全部洗ってね?」

「ああ、任せておけ」

僕は千石を愛でる様にスポンジを滑らす。

一度石鹸を流し終えた後、千石をバスタブの縁に座らせ、ゆっくりと足を開く。

「暦おにいちゃん、そんなの恥ずかしいよぉ」

「駄目だよ、千石も綺麗にしないと。お返し」

「う、うん」

千石は恥じらいながら、斜め下を向く。

僕はそっと千石の恥部を舌で舐める。

「お、お兄ちゃん……ダメ……あ、ああ」

僕は一心不乱に千石の恥部を舐める。

「千石、ここが良いのか?」

軽くクリトリスを摘まむと、千石は体をよじらせ熱い吐息を吐く。

234 : VIPに... - 2010/07/19 11:25:11.17 DJxSiY6P 183/307

「お兄ちゃん、お兄ちゃん、撫子の事『撫子』って呼んで」

「わかった。撫子、ここが気持ちいのか?」

「う、うん、感じる」

硬く、そして赤く隆起するまで僕は撫子のクリトリスを弄ぶ。

恥部の割れ目からは粘り気のある汁があふれ出る。

人差し指をゆっくりと入れ、中で軽く折り曲げ、腹部の裏を押す。

「だ、だめぇええええええ、出ちゃ、うぅ」

突然、撫子の割れ目から勢いよく汁が出る。

潮吹き。

そこまで感じてるんだ、撫子は。

「撫子、もう僕我慢できない」

「いいよ、暦お兄ちゃん。お兄ちゃんなら好きにしていいよ」

バスタブの縁に手をつかせ、僕は千石の背後から恥部に怪異を挿入する。

撫子のは僕のそれを一瞬にして受けいれる。

「はぅ、お兄ちゃんのがはいってるぅ」

「撫子、撫子の中、温かくて気持ちいよ」

僕はそのまま激しく撫子を突き上げる。

乳房を揉み扱きながら、何度も何度も激しく、そして深く。

235 : VIPに... - 2010/07/19 11:27:13.36 DJxSiY6P 184/307

「あ、あ、はぅ」

「はぁはぁはぁ」

二人の吐息がバスルームに木霊する。

「お兄ちゃん、撫子、逝っちゃう///」

「ぼ、僕も逝っちゃいそうだ」

「中で、中でだしてぇ」

「うん、中に出すよ」

「うっ」

僕の怪異が激しい脈を打つ。

それに合わせるように撫子が震える。

「暦お兄ちゃん、気持ちよかった?」

「勿論だよ。撫子は?」

「うふふ、あと4回ぐらいはしてほしいかな?」

「あはは、時間はまだ沢山あるよ」

「でもご飯冷めちゃったかもね」

「僕は、撫子の作ったご飯も好きだけど、撫子をもっと食べたい」

「もう、暦お兄ちゃんたら」

236 : VIPに... - 2010/07/19 11:28:28.89 DJxSiY6P 185/307

空想終わり

「なんて所じゃないかしら?」

既に場はシーンと静まり返っていた。

「ゴホン」

忍野の咳払いで皆、我に帰る。

「す、凄い……阿良々木先輩は変態なんだな」

「神原、俺じゃねぇだろ」

「お兄ちゃんはもっとマトモな人だと思ってたのに、絶倫すぎる」

「姉妹をそうしなかっただけ、お前さんはまだ救いがあったのぅ」

「僕はそんな事しねぇよ、多分」

「というか、ツンデレちゃんの想像力は凄いねぇ。案外想像じゃなかったりして……」

そんな忍野の一言に皆が僕とひたぎを見る。

「想像じゃなくて?」と神原。

「そ、想像に決まってるじゃない!べ、別にわ、私と暦がする事を置き替えた訳じゃないんだから!」

その無駄な弁解が全てを露呈させる。

僕ら夫婦の新しい一面が見られたと、来客は喜んで帰った。

「お前、言い過ぎだろ」

「べ、べつに言い過ぎてないもん」

「じゃあ、なんであんな事言うんだよ」

237 : VIPに... - 2010/07/19 11:29:33.96 DJxSiY6P 186/307

「そ、それは……」

「それは?」

「またして欲しいかなと思って……」

「何を?」

「言わせないで!」

バスッ!

また腹パンを喰らってしまった。

が、1年後ぐらいにまた子供が生まれたのは当然の結果。

誰が考えても分かる事だな。

生まれた子供には「維新」と名付けた。

何か面白い事をやってくれるんじゃないかなと思ってね。

生誕地が風呂場なのは真宵と同じって事は黙っておこう。

これは僕達二人の秘密だから。


千石夢想 おわり

238 : 1です - 2010/07/19 11:39:18.11 DJxSiY6P 187/307

2か月間に渡り、稚拙な文章にお付き合い頂き、誠にありがとうございました。
ズボン下ろして待っていた人には申し訳ないんですが、これぐらいの描写が書ける限界でした。
またいつか何かを読んで貰えるように精進します。

コメントをくれた方
叱咤激励のお陰で、なんとか完成できました。
重ねて、お礼申し上げます。

再来週からまた糞暑い中国に仕事に行ってきます。
何か面白い事浮かぶと良いんですけど……
また「あの一文句」を言いたいなぁw
ではでは

追伸
どなたか、適当な頃合いにhtml化のお願いを出して貰えませんでしょうか?
次は帰れるのが2ヶ月後ぐらいとなりそうなので、お願いいたします。




239 : VIPに... - 2010/07/19 11:46:49.30 Ddw9vIco 188/307

ふぅ・・・。

面白かったぜ、また機会があったらなんか書いてくれ

240 : VIPに... - 2010/07/19 12:16:50.61 t8T4iYY0 189/307

乙!
おもしろかったよ!
お仕事頑張ってね!

241 : VIPに... - 2010/07/19 15:58:16.39 3eq1DASO 190/307

ガハラさんに舐めてもらってるのか…羨ますぃなぁ…

242 : VIPに... - 2010/07/20 08:02:08.22 27DEXvAo 191/307

乙乙

243 : VIPに... - 2010/07/20 17:01:23.51 H1uZY8Y0 192/307

貝木事件後のガハラさんってツンドロじゃなかったっけ

244 : 1です - 2010/07/23 12:38:51.18 FZlCXM6P 193/307

なんか洪水で工場が停止とか言われて…
出張無くなっちゃいました

とりあえず、何か思いついたら書かせて貰います。
何も思いつかなかったら、自分でhtml化出しておきます。

>>239 有難うございます。がんばります。
>>240 日本で盆休みが取れそうです。
>>241 ヶ原さんをあまり汚したくは無かったので、妄想という事で。
>>242 ありあり
>>243 そこは笑って許してください^^;

しかし、物凄い雨というか、洪水というか
先任者は既に退去し、上海のホテルで待機とか
自然って恐ろしいよね

247 : 1です - 2010/08/01 19:07:53.63 GEmrmm6P 194/307

「もしあの時、あのようにしなければ……」という空想を一度ぐらいした事は無いだろうか?

今日はそんな話。

「なぁ、羽川」

「何?阿良々木君」

「うちのクラスの戦場ヶ原って知ってるだろ?」

「戦場ヶ原さん?」

僕の問いかけに羽川は首をかしげる。

「戦場ヶ原さんがどうかしたの?」

「どうかっつうか―――」

僕は曖昧に言葉を濁した。

「―――まぁ、なんていうか気になって」

「ふうん」

「戦場ヶ原ひたぎって名前、変わってて面白いし」

「……戦場ヶ原って、地名姓だよ?」

「あ、いや、僕が言ってるのは下の方、名前」

「ひたぎって、確か土木関係の用語だったような?」

「お前は何でもよく知ってるな」

「何でもは知らないわよ、知ってる事だけ」

248 : 1です - 2010/08/01 19:09:24.24 GEmrmm6P 195/307

そんな他愛も無い話をしたのには理由がある。

今朝、階段を上っていたら空から彼女、「戦場ヶ原ひたぎ」が降ってきた。

僕は……受け止める事無く、ただ茫然と見つめていた。

すると彼女はそのまま、まるで紙が宙を舞うように自然落下し、

最後は少し苦痛を伴う顔をしながら着地した。

明らかに重力を無視した様な落下だった。

「なぁ羽川。お前忍者とか鳥人間とか信じる?」

「何突然?文化祭の出物の事?」

「いや、そういう訳じゃないんだけどさ」

「ふーん、あ、今何か言いかけて止めたでしょ?男の子なんだからちゃんと言いなさいよ」

「いや、別に……何も」

「そんなに戦場ヶ原さんが気になる?もしかして好き?」

「そんなわけねぇーだろ!」

「そう……」

そういうと、羽川は少し微笑んだ。

「あー、そうだ。僕、ちょっと忍野の所へ行ってくるよ」

「忍野さんのところ?」

「うん。用事があったのを思い出した。悪い、あと頼む」

249 : VIPに... - 2010/08/01 19:09:50.09 GEmrmm6P 196/307

「仕方がないなぁ。穴埋めをちゃんとしなさいよ」

「分かってるよ」

僕は羽川を残し、教室を後にする。

後ろ手でドアを閉めた時だった。

うしろから声が掛かる。

「羽川さんと何の話をしていたの?」

振り向くとそこには戦場ヶ原が居た。

「動かないで」

「はい?……」

僕は口の中にカッターナイフとホッチキスを突っ込まれ、何やら尋問が始まる。

「別に何も……」

「羽川さんに私の中学時代の事とか聞いた訳?いやらしい人間ね、いいえ、虫けらね」

「おい、おま」

「動かないで。話すと言う行為も動作を伴うわ。それは全て敵対行為と見做すから」

「……」

「いい、これ以上私の事嗅ぎまわったら、命の保証は出来ないから」

僕は軽く頷くと、彼女はゆっくりとホッチキスを抜き、そして……

カッターナイフを真横に滑らせた。

250 : VIPに... - 2010/08/01 19:10:58.11 GEmrmm6P 197/307

「……うっ!?」

「あら、悲鳴を上げないのね」

続けて見下すように

「今日はこれぐらいにしてあげるわ。但し、この先……分かるわよね?」

「お前!」

カチャカチャ

収められた刃をまた押しだす戦場ヶ原。

「明日から、必ず私を無視してね」

そういって彼女はその場を離れた。

僕は頬を手で押さえる。

生温かい血が頬を伝うのが分かる。

「くそ、どうせならホッチキスにしろよ」

そんな僕のつぶやきが聞こえたのだろうか、教室の扉が開けられる。

「阿良々木君、どうしたの?」

「羽川か、何でもない。少し転んで口が切れただけさ」

「見せて」

「ああ、大丈夫。こんなの直ぐ……口の中が切れただけだから直ぐに血は止まるさ」

「でも、かなり血が出てるよ」

251 : VIPに... - 2010/08/01 19:23:34.97 GEmrmm6P 198/307

羽川はハンカチを取り出し、僕の頬を拭き始める。

「もう、おっちょこちょいなんだから」

「すまん」

「気をつけてね」

「もう大丈夫だし、忍野の所に行ってくるよ」

僕は階段を駆け降りたが、そこに戦場ヶ原の姿はもうなかった。

自転車を飛ばし、郊外の廃墟ビルに向かう。


「よぉ、阿良々木君。今日も元気そうだねぇ、何かいい事有ったのかい?」

「刃物を持った奴に脅された」

「おやおや、それで平然としてる阿良々木君は凄いよ」

「いや、別に平然とはしていない」

「で、今日は何の様なんだい?」

「忍野、スローモーションのように落下する人間、いや鳥人間みたいな怪異っているのか?」

「そりゃ阿良々木君、居るさ。有名な所じゃ『烏天狗』聞いた事あるだろ?君でも」

「ああ、そうだな。そんな感じで女子高生がフワリと階段の上から下まで飛べると思うか?」

「まぁ、身体能力が高くても人間には無理だねぇ」

「やっぱり……」

「そんなのに遭遇したんだ?阿良々木君、君は余程怪異に愛されてるんだねぇ」

252 : VIPに... - 2010/08/01 19:24:06.26 GEmrmm6P 199/307

「べ、別に愛されたい訳じゃないんだからね!」

「おやおや阿良々木君、新手のジョークかい?全然面白くないんだが」

「スマン、一度言ってみたかっただけだ」

「で、その様子だとその烏天狗みたいな女子高生に襲われ、ここに逃げてきたと?」

「ああ、そんな感じ。逃げてきた訳じゃないんだけどな」

「まっ、阿良々木君、なるべくなら近づかない方がいいよ」

「やっぱりそうだよな」

「そりゃそうさ、出来たら逢わない方が幸せなんだよ。自分でも分かってるだろ?」

「うん、まぁそれは」

「それで?相手は何か要求とかしてきてるのかい?」

「近づくな、無視しろと」

「そりゃ好都合じゃないか。そうしていれば襲われる事も無い」

「でもなぁ」

「阿良々木君は真面目なんだよ。世の中には三猿や蓋の例え話があるだろ?」

忍野はポケットから煙草を取り出し、咥えたまま話を続ける。

「その存在を意識しないだけで命が保証される、良い事じゃないか」

「わかったよ、そうするよ」

「おりこうさんだね、今度委員長ちゃんと遊びにおいで。ドーナツ用意しておくから」

僕は、そのまま廃ビルを後にし、帰宅した

253 : VIPに... - 2010/08/02 20:28:24.25 hTjaTmIP 200/307

結局、次の日から戦場ヶ原を「見ない」「呼ばない」「聞かない」という無視を徹底した。

忍野曰く「臭い物には蓋をすればいいんだよ」との事。

羽川は、昨日の事が少々気になるようだが、僕はいつもの様に振る舞う。

振る舞うと言うか、昨日は無かった事にした。

そんな事が続けば、いつしか意識せずとも自分の視界から彼女は消えた。

居るんだろうけど、認識されなくなる。

授業中に、教師が彼女の名前を呼んだとしてもだ。

羽川と文化祭の打ち合わせをしていても、そんな名前は上がらなくなった。


「で、阿良々木君。催し物の分担だけど、これでいいと思う?」

「うーん、少し男子の比率が少ないよ。重い荷物もあるんだし、あと二人は欲しいね」

「そっか。最近、阿良々木君も一生懸命考えてくれるようになって嬉しいな」

「まぁ、僕も羽川とこうやって色々と話すのが楽しくなってるしな」

「そう。そう言ってくれると嬉しいな」

「ねぇ、阿良々木君。話しは変わるけど、進路は決まってるの?」

「進路ねぇ……特には決めてないよ。僕の場合、進路の選択肢がないんだしさ」

「それはアレでしょ、やらずに逃避してるって事じゃないかな?」

「別に逃避はしていないよ。自分の能力、特に学力を鑑みれば直ぐに分かる事だろ」

「そうかなぁ?まだ時間もあるし、もう少し頑張ってみない?勉強なら私が見てあげてもいいけど?」

254 : VIPに... - 2010/08/02 20:30:42.27 hTjaTmIP 201/307

「羽川に勉強を教わるかぁ―――なんか凄くハードそう」

「そんな事無いよ、阿良々木君はやればできる筈だから、その後押しするだけだよ」

「ふーん。羽川って春先に『きみを更生させてみせます』って言ったけど、本気?」

「うん、本気」

羽川は笑みを零す。

「でもさぁ、なんでそこまで僕にしてくれるんだ?」

「何故だろ?自分でも分からないわ」

「それは嘘だな。羽川に分からない事は無い」

「そんな事無いわよ。案外、自分の事が一番分からないものよ、人間って言うのは」

「へー、何か意外。『何でもは分からないわよ』というと思ったんだけどね」

「そんなに私、そのフレーズ言うかな?」

「あー、肯定。さっきの肯定。自分の事が一番分からないっての肯定」

「ん?何?」

「何でもない。一応考えておくよ、羽川の後押し」

「うん。その代り途中離脱は許さないんだからね。前の穴埋めも終わってないんだからね」

「良く覚えてんな」

「記憶力は悪くない方だから」

「むしろ良過ぎだろ?」

「ふふ」

そんな話をしながら僕らの放課後は過ぎて行く。

結構楽しい学生生活を送ってるんだろうな、今の僕は。

255 : VIPに... - 2010/08/02 20:31:51.81 hTjaTmIP 202/307

もしあの時、空から降ってきた彼女を受け止めていたら今頃……

ああ、久々に考えてしまった。

止め止め。

人生にタラレバなんて無いんだしさ。

「じゃ、今日はこの辺で終わりましょう」

「そうだな」

「阿良々木君はこの後、真っ直ぐ帰るの?」

「いや、少し駅前まで行って本でも買おうかなって」

「ふーん、そっか。一緒に行っても良いかな?」

「別に構わないけど……」

「じゃ、行きましょう」

いつも通りの羽川だが、何か嬉しそうだ。

きっと良い事があったに違いない。

256 : VIPに... - 2010/08/02 20:33:19.37 hTjaTmIP 203/307

「ところで羽川、駅前までどうする?」

「どうするって?」

「羽川、駅から学校まで歩きだろ?」

「うん、そうだけど。阿良々木君は自転車だね」

「そうなんだよ。なんなら後ろに乗って行くか?」

そう言った後、僕は自分の発言が愚である事に気が付く。

「二人乗りは駄目だよ」と羽川に言われるのが見えた。

説教覚悟で羽川の方を振り向くと、何やら考え事の最中だった。

「じゃ、押して行くよ」と言いかけた時だった。

「本当は駄目なんだけど、阿良々木君の好意を有りがたく受け取るわ」

と、にこやかに返ってきた。

僕は、彼女が良く分からない。

僕の予測とは違う事をする時がある。

四角四面な人間で、折り目正しいのに何故かイレギュラーを見せる。

考えうる事の、斜め上方あたりのイレギュラーを。

257 : VIPに... - 2010/08/02 20:35:56.32 hTjaTmIP 204/307

僕は自転車を駐輪場から出し、校門まで押す。

「ここまでくれば、もう学校の外だし、どうぞ姫君」

「もうやだ、阿良々木君。姫君だなんて。変なテレビでも見た?」

羽川はそう言いながら、そっと自転車の荷台に腰掛ける。

「ゆっくり走るけど、落ちるなよ」

「それほど私はドジじゃないわ」

「ちゃんと持っとけよ」

「うん」

羽川は軽く僕の腰に手を回す。

傍から見ればどうなんだろ?

仲の良い同級生が帰宅?それとも……

そんなくだらない、どうでも良い事を考えていたら、自転車は下り坂に差し掛かる。

そう急ではないが、多少加速する。

腰に廻った羽川の腕に力が入るのが感じられた。

「大丈夫だよ、ゆっくり走ってるから」

そう安心させる為に言った言葉に返事は無かった。

ただ、羽川の上半身が僕の背中に預けられた。

多分、この時点で傍から見れば仲の良い同級生以上に見えちゃうだろうな。

でも僕は悪い気がしなかった、何故だか。

というか、背中に当たる何かが凄かった。

平坦な道に戻り、自転車はその速度を落とさず走り抜ける。

僕は、また羽川に語りかける。

258 : VIPに... - 2010/08/02 20:38:15.20 hTjaTmIP 205/307

「なぁ羽川、今度の日曜どっか行かないか?」

「ん?うん。どこに?」

「さぁ、何にも考えてない。でも、どこかに行きたい気分なんだ」

「うん、いいよ。阿良々木君が行きたいなら」

「じゃ、決まりな」

「待ち合わせは白浪公園でいいか?」

「マイナーな待ち合わせ場所ね」

「あの辺り羽川の家が近いだろ?」

「うん」

「じゃ、決まりな」

そんな約束事が成立した頃、僕達は駅前に到着した。

結局、何冊か本を買い、ファーストフード店で雑談をした。

羽川は滅多にファーストフード店を利用しないとか。

まぁ想像出来たけどさ。

1時間ほど話した後、駅前で別れる。

「阿良々木君、今日は有難う」

「別に何も感謝される事はしてないよ」

「ふーん。じゃあ、『無事姫君をお送りいただき感謝する、騎士殿』でいいかな?」

259 : VIPに... - 2010/08/02 20:39:19.47 hTjaTmIP 206/307

「ぷっ」

つい僕は笑ってしまった。

羽川にそんな冗句が言えるなんて。

「礼には及びませぬ。これも騎士の務め」と僕は乗ってみた。

そんな僕に羽川は……満面の笑みを零す。

ああ、こいつもこんな笑い方するんだ。

「じゃ、また明日。阿良々木君」

「うん、また羽川」

振り向き、家の方に漕ぎ出す。

ふと振り向くと、羽川が笑顔で手を振っていた。

僕は軽く手を上げ会釈する。

前を向いたとき、少しだけ心が小躍りするのがハッキリわかった。

なんだろうな、これ。

262 : VIPに... - 2010/08/03 11:34:50.74 g2SIxu6P 207/307

日曜、僕はクローゼットから『一応』他所行きの服を取り出す。

普段着と何も変わらないんだけど、『一応』ね。

で、階段を降り、外に出ようとした時だった。

「兄ちゃん、今日は家に居てよ!」

と妹の火憐が捲し立てる。

「スマン、今日は今から用があるんだ」

「今日は何の日か分かってる?」

「ああ、でも、今日は先約があってな」

「兄ちゃん、兄ちゃんはそんな事だから―――」

「そんな事だから?」

「そんな事だから―――」

「悪いけど、今日はデートなんだ」

「え?」

「デート」

「は?」

「デートだよ、デート。異性と遊ぶ、分かるか?」

「兄ちゃん……」

「ごめんな、高校3年にもなると『大人の事情』ってのが有るんだよ」

263 : VIPに... - 2010/08/03 11:35:25.68 g2SIxu6P 208/307

「嘘……」

「嘘じゃねーよ!今から同級生と待ち合わせて遊びに行くんだよ」

「……」

「悪いが、母さんとの時間はお前たちだけで過ごしてくれ」

僕はそう言って、ドアを閉めた。

『お母さん!兄ちゃんが彼女とデートとか言って出てった!』

ドアの向こうから火憐が大騒ぎする声が聞こえる。

まだまだ子供だな。

デートぐらいで騒いで……

というか、僕もデートするのは初めてかもしれない。

中学の頃、同級生たちと繁華街に出た事はある。

でもそれはデートじゃない。

グループ行動というのかな。

所謂「サシ」のデートはと呼べるものはこれが初めて。

高校に入ってからは、結構自閉気味なタイプになってしまったしな。

そう思うと、こんな気分にさせてくれた羽川って―――

羽川の事、僕はどう思ってるんだろ?

自分の事が一番分からないのは自分。

言い得て妙だな。

ただ、羽川が僕の事をどう思っているのかも分からない。

結局、僕は何も分かっていない『子供』なのかも知れない。

264 : VIPに... - 2010/08/03 11:36:01.09 g2SIxu6P 209/307

公園まで自転車で向かう。

いつもならマウンテンバイクで休日の街を疾走するけど、今日はママチャリにした。

この間の件、また後ろに乗せなきゃならないかも知れないし。

で、時間より早く着きすぎた。

羽川に至っては、遅刻しても「罰金!」とか言わないだろうけど、何故か早く着きすぎた。

今日はペダルがやけに軽かったしな。

公園のベンチに腰掛け、時間をつぶす。

公園の隅の地図掲示板の前に女の子が一人、メモを見ながら地図と睨めっこ。

「ははーん、あの子迷子だな」

ぼんやり眺めていたら、その子はどこかに行ってしまった。

「阿良々木君、おはよう」

羽川の声で我に返り、振り向くと、当たり前の様に羽川が居た。

「お、お前!」

「ん?何?何か変?かな?」

「いや、なんで制服なんだ?」

265 : VIPに... - 2010/08/03 11:36:59.22 g2SIxu6P 210/307

「え?学生だし」

「いや、今日は日曜だし。私服でも良いんじゃないかな?」

「んー、私服かぁ。そういう選択肢もあったよね」

「分かっていて着てきたな」

「そんな事無いよ、それに着なれた服が一番楽だし」

「べ、別にそれでも何の問題も無いけどさ」

「だよね。買い物も食事も映画だってこの格好で問題ないんだよ?」

「はいはい」

まぁ、あまり深く考えるのは止めよう。

何せ相手は羽川だ、イレギュラー当たり前だし。

というか彼女にとっては、イレギュラーでも何でもないんだろうし。

「じゃ、どこ行く?」

「どこでも。阿良々木君の行きたいところでいいよ」

「じゃ、今日もまず本屋から」

「本、好きなんだね」

「まあな。本は良いもんだよ」

「買わずに図書館でも借りられるんだよ?」

「知ってる。でも、僕の読みたい本はあまり図書館にない」

「そうね。この間買った様な雑誌は図書館には置かれているのが稀だし」

「ま、そういう事」

「ふーん」

266 : VIPに... - 2010/08/03 11:38:28.13 g2SIxu6P 211/307

「じゃ、行くか。乗って」

と僕は自転車を指す。

「阿良々木君、二人乗りは駄目なんだよ」

叱られた!この間は乗った癖に!

「この間は、ほら日も暮れてきたし、急がないと帰りが遅くなっちゃうから」

そんなの詭弁だ!

「ね、今日は時間もあるからゆっくり歩きながら話すのも良いじゃない」

「まぁ、そうだな。じゃ、ちょっと自転車を置いてくる」

僕は自転車を駐輪場らしき所に止め、鍵をして戻る。

「じゃ、行こうか」

「うん」

僕達は公園から歩きだした。

267 : 1です - 2010/08/03 11:40:02.49 g2SIxu6P 212/307

分岐です。

A 八九寺登場
B 八九寺スルー

ご希望あればどうぞ
ない場合はB√になります。

268 : VIPに... - 2010/08/03 16:12:33.59 fmFBm4U0 213/307

あえてa

269 : VIPに... - 2010/08/03 16:22:26.20 BL3OyQk0 214/307

bが見てみたい

270 : VIPに... - 2010/08/03 17:29:52.01 6eJ.UEE0 215/307

でも羽川には八九寺見えてるわけで…
きっとa!

272 : VIPに... - 2010/08/04 09:11:37.01 iDKRkKko 216/307

八九寺より撫子にしてくれ

273 : 1です - 2010/08/04 16:40:12.83 zEIFXPsP 217/307

√A選択しました。
お待ちください。

>>272
撫子はね、獄中です。

275 : VIPに... - 2010/08/04 20:46:55.77 zEIFXPsP 218/307

「あ、そうそう。さっき、羽川を待っている時に、小学生女子が道に迷ってたみたいでさ」

「それで?」

「地図とメモとを睨めっこしてどこかに行った」

「駄目じゃない、そういう時は『迷子?』って聞いてあげなきゃ」

「いや、最近はロリコン犯罪とかあるから、下手に関わったらあらぬ疑いを―――」

「阿良々木君、阿良々木君はそんな人じゃないよね?」

「当たり前だろ」

「なら何も怯える必要はないじゃない。毅然とした態度を取ればいいんだよ」

「そ、そうだよな、あはは」

「でも、ちゃんと行けてたらいいね」

「うん……」

「で、どんな子だった?」

「うーん、小学生高学年で、大きなリュックを背負って、髪型は―――」

「ツインテールで、目のパッチリした女の子」

「そう、それ!え?なんで分かったの?」

「あれじゃない?」

羽川の指さす方向を見ると、さっきの小学生女子がいた。

276 : VIPに... - 2010/08/04 20:48:00.55 zEIFXPsP 219/307

「あ、あの子だ」

「もしかして、まだ迷ってるのかな?」

「かもしれないなぁ」

「阿良々木君、かもしれないじゃなくて、こういう時はどうするの?」

「分かったよ。ちょっと行ってくる」

「はい、よく出来ました」

僕は曲がり角で悩んでいる小学生女子に話しかけた。

「おいお前―――迷子なんだろ?どこに行きたいんだ?」

「…………」

「そのメモ見せてみろよ」

「…………」

僕は三振したバッターの様な足取りで羽川の元に帰る。

「無視された。小学生にシカトされた」

「阿良々木君、高い目線から話しかけたんじゃない?もっと腰を落として優しく話しかけないと」

「そ、そうか。じゃ、もう一回行ってくる」

「今度は私も一緒に行くわ」

「大丈夫だって。今度はちゃんと出来る」

羽川に言われたように、目線の高さを合わせ、優しい口調で話しかける。

277 : VIPに... - 2010/08/04 20:48:47.43 zEIFXPsP 220/307

「お嬢ちゃん迷子かい?お兄ちゃんが見てあげるよ」

「…………」

まただ、またシカトだ。

「おい、お前。なんで無視するんだよ!」

「…………」

「なんか言いやがれ!」

パシッ!

つい、平手打ちが出てしまった。

「何するんですか!」

お!返事してくれた。

「誰だって突然叩かれたら声も出ますよ」

「いや、叩いたのは悪かった。というか、なんで無視するんだよ」

「別に私、迷子じゃありませんから」

「嘘つけ、さっきからずっとこの辺をウロウロしてるじゃねーか!」

「私がどこで何をしようと、貴方には関係ない話です」

「何!おいお前、名前はなんだ!」

「あなたこそなんですか?人に名前を聞くなら自分から先に名乗るものですよね?フン!」

「あ、う……あー僕は阿良々木暦と言うんだ、でお前は?」

「あなたに『お前』呼ばわりされる覚えは有りません」

「貴様!」

「きゃーぶたないで!痛いの嫌だよ」と言いながら、僕の腹にヤクザキックを入れる。

「貴様が人に名前を教えないからだろう!」

また平手打ちを喰らわそうと手を上げた時、僕の手首は物凄い力で握られ、動きを封じ込められた。

278 : VIPに... - 2010/08/04 20:49:31.90 zEIFXPsP 221/307

「阿良々木君、小学生相手になにやってるの、そんな怖い顔で」

「羽川……」

「ダメでしょ、殴ったりしちゃ」

「だって……」

「だってじゃない」

こんな真顔で説教する羽川を僕は初めて見た。

「いい、阿良々木君。人間はね、言葉でコミュニケーションする生き物よ。会話が成立しないから暴力ってのは良くない」

言い切られた。

いつもの「~~なんだよ」とか「~~かも」という柔らかい言い回しではなく、言い切る形で。

「すまない、ついカッとして」

「むしゃくしゃして、ついカッと。今は反省しているとかダメ人間の言い訳じゃない」

「はぁ……」

「ごめんね、痛くなかった?」

羽川は小学生に話しかける。

「お姉ちゃん、このお兄ちゃんの友達で羽川翼っていうの、よろしくね」

「はい……」

「で、お嬢ちゃんのお名前は?」

「八九寺、八九寺真宵と言います」

「八九寺?んー」

羽川は八九寺の名前を聞いて、少し考える。

279 : VIPに... - 2010/08/04 20:50:45.22 zEIFXPsP 222/307

「真宵ちゃんかぁ。なんか可愛いね」

羽川は八九寺を抱き寄せ、ハグする。

ちょー、どっちも羨ましいぞ!

「それでね、真宵ちゃん。親切心で話しかけている人を無視しちゃダメだよ?」

「はい……」

「そりゃ怖い人もいるかも知れないけど……」

「そこに居ます」

「何い!」

「このお兄ちゃんは怖くないよ。地図を見てた真宵ちゃんをずっと心配してたんだから」

「そ、そうですか。あ、ありがとうございます」

「うん、良い子」

そうやって、八九寺の頭を撫でまわす。

「止めてください。私、あなたの事が嫌いです」

「あらあら、私嫌われる様な事しちゃったかな?」

「別に何も……」

「じゃあ、なんで嫌うの?」

「なんでも!」

「羽川、もうそんな奴ほっといて行こうぜ」

「駄目よ、阿良々木君。そんな事じゃ」

「でも、本人も迷子じゃないって言ってるし、それに僕達は嫌われているようだし」

羽川は僕の言葉を無視し、八九寺真宵とやらに話しかける。

280 : VIPに... - 2010/08/04 20:53:43.49 zEIFXPsP 223/307

「本当に迷子じゃないの?」

「ええ、迷子じゃ有りません」

「おうちはどっち?」

「教えられません」

「お姉さん達、今から街に出て食事するけど、真宵ちゃんも行かない?」

「え?」

「ハンバーグとかオムライスとかプリンとか乗ってるの好き?」

「ええ、とっても!特に旗は星条旗が素敵ですよね!」

「じゃ、一緒に行きましょう。おうちはそれからでもいいじゃない」

(やはり子供だな、食べ物で釣られるなんて。でも……)

「羽川、それって連れまわしになるぞ?」

「大丈夫だって。まだ日は高いし、それに―――」

羽川は僕に耳打ちをする。

「え?そうなの?」

僕は羽川を信用し、任せる事にした。

「じゃあ行きましょう」

羽川の掛け声で、僕達は歩き始める。

道すがら、羽川の出すなぞなぞに答えたり……というか、僕と八九寺のレベルがあまり変わらない事に愕然とした。

「あら、あらららぎさんはこんな問題も解けないんなんて、プププ」

「八九寺、お前今度羽川の居ない時に会ったら覚えとけよ」

「こら、阿良々木君、またそんな事を言って、ダメじゃない」

「大丈夫です。こんな人にやられる私じゃ有りませんから。返り討ちにして上げます」

傍から見りゃ、歳の離れた妹を連れて遊びに行く兄妹(姉弟)みたいな感じか?

馬鹿をやっているうちに、八九寺もだんだんと僕達に馴染んできた。

「じゃ、あの店へ!レッツゴー!」

281 : VIPに... - 2010/08/04 20:55:47.29 zEIFXPsP 224/307

今日の羽川はテンションが高い。

恐ろしいほどテンションが高い。

入ったのは普通のファミレス。

八九寺は少し躊躇した様だったが、羽川に手を引かれ店に入る。

(ちなみに、食事の後に羽川は交番へこの子を届ける気らしい)

「いらっしゃいませ。お好きな席へどうぞ」

「へぇ最近のファミレスは席案内しないんだな」

「まぁ、経費削減とか色々あるみたいね。それに席の案内なんて高級店だけでいいと思うの」

「ま、そりゃそうだな」

僕達は窓辺の禁煙席に座る。

「阿良々木さん、喫煙席でなくて良いのですか?」

「八九寺、僕は煙草を吸わない。それに未成年だ」

「極悪非道な悪の権化、アララギンさんのいうセリフに聞こえませんね」

「というか、お前僕の名前噛み過ぎ」

「わざとですよ」

「ワザとかよ!」

「技の方ですけどね」

「何の技だよ、ったく」

「二人とも何にするか決めた?」

「あー僕はこのハンバーグセット」

「真宵ちゃんは?」

「あの本当に良いのですか?」

「何が?」

「私、こう言う所あまり来た事無くて。それに今日は持ち合わせが―――」

282 : VIPに... - 2010/08/04 20:57:36.08 zEIFXPsP 225/307

「大丈夫!お姉ちゃんが出してあげるから」

「お、マジ?悪いね」

「阿良々木君は自腹です」

「あ、やっぱり?」

「うん、やっぱり」

「じゃあお言葉に甘えて、この―――」

「お子様ランチだよね?真宵ちゃん」

「はいっ!」

「じゃ私はこれにしようっと」

「意外だな」

「え?何が?」

「羽川って肉系あんまり食べない様な感じがしてさ」

「えーそうかな?」

「どちらかと言うと魚とか―――あーいやおや、和食?みたいな」

「朝が和食だからね、昼はそこそこお肉食べて、夜はあまり摂らない様にしてるの」

「ふーん、それって健康の為?」

「んー、栄養学的な脳へのエネルギー供給っていうのかな」

「本当にお前は何でも知ってるよな」

「何でもは知らないわよ、知ってる事だけ」

「――ふむふむ、そういう食生活をするとこういう胸になるんですね!私も頑張ります!」

「おい!」

「ふふ、頑張ってね真宵ちゃん」

「はい!」

しかし羽川への返事だけはいいな、こいつ。

283 : VIPに... - 2010/08/04 20:58:41.91 zEIFXPsP 226/307

暫くすると、3つの料理が運ばれる。

で、ウェイトレスがお子様ランチの配置に悩んだように見えた。

「お子様ランチのお客様は……」

「僕じゃねーよ」とつい、言い放つ。

その物言いが酷かったのか、適当に並べ置いて行ってしまった。

「阿良々木君、ダメだよあんな言い方しちゃ。怯えてたよ、ウェイトレスさん」

「この状況ならどう考えても僕じゃなく、八九寺の前に置くのが普通だろ?」

「うーん、そうかもしれないけど、一応マニュアル的なお仕事なんだし」

「それでも常識で考えろって話だ」

「まぁまぁ、お二人とも喧嘩はお止めになって」

「ごめんね、真宵ちゃん。心配させて」

「彼女が悩んだのは、この私が子供には見えなかったという事です。阿良々木さんよりも大人に見えたって事でしょう」

「お前、頭のネジ緩んでる?」

「緩んでません!私は財布の紐も貞操もガッチガチですから」

「小学生の発言じゃねーだろ」

「まぁまぁ、温かいうちに食べましょう」

「だな」

「じゃあ、いただきます」

「阿良々木さん、ハンバーグの横にあるエビフライ嫌いなんですか?」

「いや、嫌いじゃない。どっちかというと好きだな」

「好きな物はあとに取って置くタイプですか」

「そうだな、どっちかと言うと」

「ふーん」

「羽川さんは?」

「私は、どうだろ?基本的に満遍なく食べるかな?少しずつ」

284 : VIPに... - 2010/08/04 20:59:30.37 zEIFXPsP 227/307

「ほうほう、むー」

「お前、何悩んでるの?」

「タイプの違う二人がお付き合いした方が合うのかと」

「別に僕らは付き合ってるわけじゃない。ただのクラスメイトだ」

「そ、そうだよ。真宵ちゃん。同じクラスメイトだよ」

「ふーん。それはそれは。残念と申すべきでしょうか?結構お似合いだと思いますが?」

「はーちーくーじー、お前大人をからかうのもいい加減にしろよ」

「からかってなどいません。私的には非常にベストカップルだと」

「何?!」

「ずっと付き合っていると思ってました」

「そ、そんなに仲良く見えた?真宵ちゃん」

「ええ、とっても。とても仲のいいカップルだと思いました」

このあと長い沈黙が続く。

そのまま、食事が終わってしまうほど。


レジで会計をするとき、結局僕が全部済ませた。

「阿良々木君、私の分は自分で払うから」

「いいって。いつかのお年玉のお返しだ」

「あー、そんな事もあったね」

285 : VIPに... - 2010/08/04 21:00:02.78 zEIFXPsP 228/307

「阿良々木さん、その歳になって同級生にお年玉貰うなんて―――ダメ人間ですね」

「ちげーよ!そういう意味じゃないんだよ。色々事情があったんだよ」

「そうですか、それは要らぬ詮索をしてごめんなさい」

「では、奢っていただいたお礼に良い事を教えてあげましょう」

「なんだ?」

「阿良々木さん、あそこにある宝くじ売り場でスクラッチくじを買うと、今なら確実に当ります」

「嘘つけ」

「本当です。この私の予言が外れた事は一度も有りません」

「それも嘘だな」

「本当です。今まで予言などした事ないのですから、外れていません」

「おい」

「でも、1枚買うと今日の運だめしになりますよ?」

「200円で1枚買って、当るなんて出来過ぎ。無駄な200円になっちまうだろ」

「200円で夢を買うんですよ、夢を」

「面白そうだから私も1枚買ってみようかな」

「羽川……やめとけって」

「私、買った事無いんだよね、宝くじ」

「私もガチガチの貞操並みの財布のひもを緩めて200円だして買いましょう」

「しょうがねぇ、僕も1枚だけ買うよ」

結局、3人で200円づつ出して3枚買う。

適当に振り分け、ベンチに腰掛け削る。

286 : VIPに... - 2010/08/04 21:01:09.03 zEIFXPsP 229/307

「私のはハズレだったわ」

「私のもただの紙くずとなってしまいました」

「だろうな、そうそう簡単に当る訳ないんだよ宝くじって」

僕も自分のくじを削りながら、まるで聖人のような口調で諭す。

が、1マス、2マスと削るうちに言葉が少なくなる。

「おお?なんか同じ図柄が―――」

「阿良々木さん、最後のマスはこの私がハンドパワーで!」

「これが全部同じだと当りだよね?」

「うん、そういう事になる」

三人で1枚のくじを覗き込む。

傍から見りゃ、馬鹿な光景だろう。

ゆっくりと最後のマスにコインを当てる。

銀色の塗料がパリパリと剥がれる。

「キター!」

「やりましたわ、阿良々木さん!」

「当ったの?!」

「うん、当った……」

「阿良々木さん、何等ですか?」

「えっと2等。だから―――5万円!」

「5万円!5万円あればアイスが100本買えますね!」

「お前、いくらのアイス買うつもりなんだよ!」

「……」

287 : VIPに... - 2010/08/04 21:02:03.48 zEIFXPsP 230/307

「阿良々木君、ついてたね。流石だね」

「自分でも驚いたよ」

「ところで阿良々木さん、そのくじは、もしかしたら私のくじだったかも知れません」

「は?」

「阿良々木さんが配った時に、それを私に渡していれば……」

「だから?」

「分配金を要求します!」

「ふん!何を言うか、お前が当り引いてたなら分配したか?」

「当然です」

「ほう…なんとでも言っとけ」

僕は売り場でくじを換金し、財布に収める。

「さてと……」

「羽川、八九寺、ちょっと行こうか?」

「どこに?」

「成金様、どちらに?」

「八九寺、本当にお前はムカつくな」

「いいから、そこまで」

288 : VIPに... - 2010/08/04 21:02:44.84 zEIFXPsP 231/307

僕達は駅前のデパートに入る。

まずは子供服売り場へ。

「羽川、こいつに服選んでやってくれよ」

「え?」

「ああ、成程。阿良々木君、優しいね」

「別に。子供にお金持たすわけにもいかないしな」

「でも真宵ちゃんの親が吃驚しないかな?」

「ああ、ちゃんと説明すりゃ大丈夫だろ?」

「んー、まぁいっか」

で、羽川が選んだ八九寺の服は、かわいらしい白のワンピース。

試着室から出てきた八九寺の姿は結構可愛らしい。

「八九寺、よく似合ってるじゃないか?」

「あ、ありがとうございますぅ」

「うん、いいね」

「流石は羽川だ」

「なんとお礼を言えばいいのか」

「別に礼なんて要らないよ。じゃ、次いこうか」

「いいんでしょうか?」

「構わないって」

「次はお前のな、羽川」

「え、私のはいいよ」

「駄目だ、分配分配」

「うーん、服はあまり興味ないし」

「阿良々木さん、ちょっとこちらに」

289 : VIPに... - 2010/08/04 21:03:17.10 zEIFXPsP 232/307

「なんだよ八九寺」

「ゴニョゴニョ」

「ええー!それは……」

「チャンスです。これは絶対にチャンスです」

「チャンスも何も、別に僕は……」

「いいんですか?好きな物を最後まで取っておこうとすると誰かに取られて食べられますよ?」

「べ、別に好きとかって……」

「え?」

「なんだ?」

「てっきり、私は羽川さんの事が好きなのかと」

「ないよ。ただの同級生だよ」

「ふーん。でも、羽川さんはそう思ってないかも知れませんよ?」

「は?」

「案外、羽川さんは阿良々木さんが好きかも知れません」

「お前、いい加減な事いうなよ」

「いえ、先程の食事の時に私が『付き合ってると思った』と言いましたら、照れてましたから」

「それは照れじゃなくて、誤解されて困っただけだろ」

「あなたはどうして、そういう事を言うんですか!」

「お前の言う事なんか信用出来ねぇよ!」

「さっきも宝くじ当ったじゃないですか!予言的中率100%ですよ」

「たったの1回じゃねえか!」

「うー」

290 : VIPに... - 2010/08/04 21:04:14.41 zEIFXPsP 233/307

「二人ともどうしたの?」

「あ、羽川。すまん、こっちの話だ」

「そう……」

「ところで羽川、何も買わないのは僕の気が済まない。何か欲しい物ないか?」

「んー別に何もないかな?」

「じゃあ、僕が選んできた物でもいいか?」

「だから気にしなくていいって」

「それじゃ僕の気が済まない」

「じゃあ、阿良々木君に任せるね。あ、出来れば何か身に着ける物が嬉しいかな」

「OK。じゃあまっててくれ」

「あ、阿良々木さん、私も行きます!」

「お前が来ても意味がないだろ、迷子にならない様に羽川と一緒に居てろ」

「じゃあ、これだけは言っておきますね」

「なんだよ」

(身に着けるからと言って、下着を買ってはいけませんよ)

(そんなもん、売り場にすら踏み入る事が出来ねえよ!)

(そうですか、ではご健闘を祈ります)

「じゃ、行ってくる」

「阿良々木さん、行ってしまいましたね」

「行ったね」

291 : VIPに... - 2010/08/04 21:05:10.15 zEIFXPsP 234/307

「ところで羽川さん、身に着けるものと仰いましたが、何を期待されていますか?」

「え?ああ、ペアピンとかリボンとかそんな感じの物」

「はぁ。そんな物でいいんですか?」

「ほら私、いつもこういう髪型じゃない。ヘアピンとリボンなら使えるからね」

「なら、そう言えば良かったのに」

「良かったよね」

「羽川さん、案外それ以外の物を期待していたんじゃないのですか?」

「え?やだな、この子は突然何をいうかなぁ?このこの」

羽川は八九寺を引きよせ、頬を両で摘まみ、軽く左右に引っ張る。

「やややや、やめてくらさい」

「ぷにぷにして可愛いなぁ、本当に」

「ららら、らから、ひっはらないでぇ」

「阿良々木君、何買ってくるかなぁ」

「下着は無いと思います。ダメだと言っておきましたから」

「あら。あれも毎日付けるものだから別に良かったのに」

「良かったんですか!?」

「あまり変なの買って来られても困るんだけどね……」

「阿良々木さんが買う下着はきっと、とんでもないデザインだと思いますよ?」

「そうかなぁ?案外純白で苺のワンポイントとか買いそうじゃない」

「そんな事は無いと思います」

「まぁ、何を買ってくるか楽しみにしておきましょう」

「そうですね。季節的に考えて、帽子なんてのもあると思います」

292 : VIPに... - 2010/08/04 21:06:28.27 zEIFXPsP 235/307

「帽子かぁ」

「あら、残念そうですね」

「そんな事無いよ、うん」

「本当はどうなんですか?阿良々木さんに買って貰いたかった物があるんじゃないですか?」

「ないってば」

「ふーん、そうですか。ところで羽川さん、私、喉が渇きました」

「あらあら、じゃあジュースでも買ってくるね」

「ありがとうございます」

293 : VIPに... - 2010/08/04 21:07:50.25 zEIFXPsP 236/307

その頃阿良々木。

「あー困った。何買えばいいかさっぱり見当がつかない」

「どうしようかな……」

「女の子が身に着ける物か……」

適当に婦人物売り場をうろつき、物色する。

悩んでいると、後ろから突然後ろから声が掛かる。

「やっぱり何も買えていないじゃないですか」

「八九寺、お前なんで?」

「心配で見に来ました」

「羽川は?」

「今、ジュースを買いに行かせてます」

「なんでお前が上から目線的な言い方をするかな?」

「まぁ、ジュースが欲しい!と言って買いに行っている間にここへ来ました」

「じゃ、直ぐ戻れ。羽川が心配するだろ?」

「阿良々木さんが戻らなくても心配しますよ?」

「もう決めたから大丈夫だ」

「何を買うおつもりで?」

「その店でヘアピンを……」

「ヘアピン喜ぶのは中学生までですよ?」

「そ、そうなのか?」

「ええ、どこぞのお嬢様学校に通ってる電撃姫ぐらいです、喜ぶのは」

「へー、誰それ?」

「稀にファミレス勤務の高校生も……あれは例外中の例外です」

294 : VIPに... - 2010/08/04 21:08:43.36 zEIFXPsP 237/307

「そんなことより、こっちに」

僕は八九寺に手を引かれ、アクセサリーショップへ。

「これです、これ」

「こ、これ?」

「はい!これしか有りません」

「これは……」

「何ビビっているんですか、1万円でお釣りが来ますよ?」

「そりゃそうだけど、こういうのって……」

「深い意味は有りません。アクセサリーですから」

「でも、サイズとか分からないし」

「大丈夫ですよ、さっきプニプニされた時に把握しました」

「プニプニ?」

「もうそんな事は良いですから、これを買えば間違いないです」

「しかし、こういうのって……」

「17歳にこれを贈られると幸せになるんですよ?」

「へー、お前も色々知ってるんだな」

「色々は知りません、知っている事だけです」

「なんか似てきてるぞ」

「てへ」

そう言って、八九寺は小走りで消えてしまった。

295 : VIPに... - 2010/08/04 21:10:04.77 zEIFXPsP 238/307

他の物を自分で選べず、意を決して僕は八九寺の勧めたそれを買う。

「あの、これを一つ」

「はい、包装はどうされますか?」

「えっと……プレゼントなので」

「かしこまりました」

待つ事5分、綺麗にラッピングされた小箱を一つ受け取り、僕は戻る。

「お待たせ」

「阿良々木さん、どこまで行ってたんですか?」

「いや、色々と悩んで」

「それよりこれ。羽川へのプレゼント」

「あ、ありがとう」

綺麗にラッピングされた箱を羽川は両の手で受け取る。

「今開けても良いのかな?」

「別に良いけど」

「何が入っているか私が当ててみましょう!」

「もういいって!」

と僕は軽く八九寺を叩く。

突然叩かれた八九寺は前のめりになり、持っていたジュースごと床に伏した。

296 : VIPに... - 2010/08/04 21:10:49.86 zEIFXPsP 239/307

「わー服がべちゃべちゃです><」

「阿良々木君!」

「ごめん、軽くやったんだけど」

「駄目じゃない、叩いたら」

「はい……」

「とりあえず、拭いて。あ、そうだ、さっきの服に着替えましょう」

「はい……」

「阿良々木君、ここで待ってて」

羽川と八九寺がトイレに行く。

僕は零れたジュースのカップを拾い上げ、ゴミ箱へ。

そこに掃除のおばさんが通りかかり、床を拭きあげる。

「すみません、汚しちゃって」

10分ほどしたら、八九寺がワンピース姿で戻ってきた。

「なんか落ちつきません」

「いやー、さっきは本当にごめんな。でも、その服、よく似合ってるよ」

「褒めても何も出ませんよ。というか、モデルが良いから何でも映えるんですよ」

「はいはい」

297 : VIPに... - 2010/08/04 21:11:39.85 zEIFXPsP 240/307

「それより阿良々木君、もう一度言うけど叩いちゃダメよ。約束して」

「はい」

「よろしい」

「それじゃ、行きましょう」

「ん?どこに?」

「この近くに遊水歩道があるから涼みに行きましょう」

「そうだな、人の多いところも飽きてきたし」

真新しいワンピースを着た八九寺の両脇に立ち、手をつなぐ。

「なんかお父さんとお母さんが居るみたいです」

八九寺がそう呟く。

「こんな頼りないお母さんでいいのかな?」

「羽川さんはきっと良いお母さんになると思います。が―――」

「はいはい、どうせ僕は駄目なお父さんですよ」

「勝手にお父さんにならないでください!」

「お前さぁ、何か僕に突っかかるよな」

「気のせいです」

「そうかい」

ぶらぶらと新緑の中を歩く。

298 : VIPに... - 2010/08/04 21:12:32.56 zEIFXPsP 241/307

階段を降りると、水辺があって素足を浸けられる。

「ちょっと入るか」

僕は靴を脱ぎ、ジーンズの裾をまくしあげ、水に足を漬ける。

「うは、つめてぇ!」

「この時期だとまだ冷たいもんね」

「阿良々木さんは馬鹿ですか?そのまま凍死すればいいんです」

「この水温じゃ凍死出来ねぇよ」

「阿良々木君、凍死って凍って死ぬだけじゃなく、低体温症での死亡も凍死って言うんだよ」

「へぇ、相変わらずお前は何でもしってるな」

「そんな事無いよ」

「それより羽川さん、さっきの箱は開けないんですか?」

「んー、どうしようかな?」

「それより羽川さんは何歳ですか?」

「今、17歳だけど」

「17歳にある物を貰うと幸せになるって話知ってますか?」

「うん、聞いたことあるけど」

「中身がそれだと良いですね」

「そうね、それだとちょっと嬉しいかも」

(やはり羽川さんは阿良々木さんの事が好きなのが確定しました!)

299 : VIPに... - 2010/08/04 21:13:10.16 zEIFXPsP 242/307

「阿良々木さん、後ろから押しても良いですか?」

「駄目」

「けち」

「お前、俺がずぶぬれになるじゃないか!」

「人がジュースまみれになるのは良くて、自分がずぶぬれになるのは駄目っておかしいじゃないですか?」

「あれは事故だろ」

「わざとでしょ!」

「事故だよ、事故」

「ふん、どうでも良いですけどー」

どん!

押しやがった!八九寺は僕の背中を押しやがった。

僕はそのまま水の中に前傾する。

うわ!落ちる!

と思ったが、なんて事は無い30センチぐらいしか水深が無くて普通に立てた。

「八九寺、残念だった。裾が少し濡れただけだ。さて…お前をとっ捕まえて放りこんでやる!」

「きゃー!」

八九寺は逃げ回る。

300 : VIPに... - 2010/08/04 21:13:48.65 zEIFXPsP 243/307

「お前、結構素早いな」

「阿良々木さんに捕まるほど私はのろまな亀じゃありませんから」

「ふん、ほざけ」

少し本気になりかけていた僕。

「ベーだ、ここまでおいで!」

「こいつー」

何か結構楽しい。

なんでだろ?凄く楽しい。

ふと、羽川の方を見ると羽川も笑っていた。

少し心がピリピリした。

結構、僕は羽川の笑顔が好きなのかもしれない。

結構どころか、かなり。

「もう疲れたからやめ!」

「ハァハァ、あらららさんがいうなら、ハァハァ、ここで止めてあげます」

八九寺も全力疾走し過ぎて、疲れている。

僕達はまた元の場所に戻って、腰掛ける。

301 : VIPに... - 2010/08/04 21:14:34.86 zEIFXPsP 244/307

頬を撫でる風が気持ちいい。

「こういう休みも悪くないな」

「そうだね」

にこやかに笑顔で返事する羽川。

「ん?どうかした?」

「なんでもありませーん」

珍しく分かりやすい嘘をついた羽川。

八九寺は―――はしゃぎすぎて疲れたのか僕の膝を枕にし、寝てしまっている。

「じゃ、いこっか?」

「そうだな、時間も時間だし。こいつを送って行かなきゃならないし」

僕は八九寺を抱き上げ、一旦羽川に預け、そのあと背負って道を歩き出す。

「羽川、そのリュックのポケットに住所があったろ?」

「うん、これね……ああ、ここならすぐ分るわ」

「次を左、で、右に新しい道が出来てるからそこを曲がった突き当りよ」

「突き当り?」

「うん、多分そうなんだけど?」

「えっと……家なんてないぞ?」

「あれ?おかしいな。ここで良い筈なんだけど」

302 : VIPに... - 2010/08/04 21:15:10.27 zEIFXPsP 245/307

「おーい八九寺、おきろー」

「うーーんーん。あれ?ここはどこですか?」

「お前の家」

「家?」

「住所見て来たんだけど……家がなくて更地なんだが」

僕の背中から降りた八九寺はその空き地を見つめ、突然泣きだした。

「おい、大丈夫か?」

「大丈夫です。阿良々木さん、羽川さん有難うございました」

「え?」

『ただいま戻りました』

そう言いながら八九寺は更地へ走りだす。

まばゆい光に包まれながら、消えてしまった。

「何今の?」

「分からないわ」

「でも、きっとここが家だったんでしょうね」

「怪異なのか?」

「そうかもね。また忍野さんに聞けばいいじゃない」

「それもそうだな」

303 : VIPに... - 2010/08/04 21:16:49.40 zEIFXPsP 246/307

「それより阿良々木君、ありがとうね」

「ん?」

「大事にするね」

羽川が僕に差し出した手には、僕が買ったリングがはめられていた。

「あれ?いつの間に?」

「阿良々木君と真宵ちゃんが追いかけっこしている時にあけちゃって着けちゃった」

「そんなので良かった?」

「うん!最高のプレゼントだよ」

「そっか、気に入ってくれて良かったよ」

「うんとね、阿良々々木君」

「おい、噛んでる」

「あ、ごめんなさい。阿良々木君、このリングの意味ってあるの?」

「んー、羽川に幸せになって欲しいと思ってさ」

「それだけ?」

「え?」

「それだけなのかなって」

「んー、正直まだ良く分からないんだけど、多分そうだと思うんだけど」

「多分?」

304 : VIPに... - 2010/08/04 21:18:46.28 zEIFXPsP 247/307

「まだ確証が持てないんだけど、僕は羽川の笑顔が好きなんだよ。
お前の笑顔を見ているとドキッとする。
だからずっと幸せで、ずっと笑っていて欲しい」

「それは一人で幸せにならなきゃいけないのかな?」

「えーと。それは……」

「姫君を幸せにしてくれる騎士はきてくれないのかな?」

「えっと……うん、多分来てると思う」

「どこに?」

「ここに」

「そう」

羽川はそっと僕に寄りかかるように抱きつく。

「阿良々木君の事、好きだったんだ」

「お待たせしました、姫様」

「はい、騎士様」

今日、僕達は付き合う事になった。

「おめでとうございます」

背後からの声に僕達は驚き、飛び跳ねる様に離れる。

「八九寺?」

「ええ、そうですが。人の家の前で何やってるんですか?」

305 : VIPに... - 2010/08/04 21:20:42.61 zEIFXPsP 248/307

「お前こそ、さっきのはなんだよ!」

「それはおいおい説明しますが……なにはともあれ、おめでとうございます」

「あ、ありがとう」

「晴れてお付き合い出来る事となりましたね、羽川さん」

「うん」

「今の気持ちを一言どうぞ!」

「嬉しいんだニャ!」

「ニャ?」


エピローグ

八九寺の話は忍野に説明し、答えを得られた。

それは良かったんだが……

「ニャ!」が大変な事になった。

これはもう僕にしか解決できない事らしい。

忍野からそう念を押された。

やれやれ、この先どうなる事やら。

また機会があれば話します。


第一幕おわり

306 : 1です - 2010/08/04 21:23:50.66 zEIFXPsP 249/307

次回、「阿良々木の貞操大ピンチ!」の巻です

ちなみに、八九寺ちゃんは何で戻ってきたの?

「荷物預けて持って行くの忘れてたからです。戻ったら、何と言いますか、ちちくりあってました」

ありがとうございました。
ちなみに、B√は八九寺無しで遊歩道エンドでした。

309 : 1です - 2010/08/05 17:20:48.96 Cdt1IPMP 250/307

「阿良々木君、しかし君は罪作りな男だねぇ」

「何がだよ」

「忍ちゃんの力まで使って鎮めた猫を起こすなんて―――何かいい事でもあったのかい?」

「別に何もねえよ」

「しかし、あの委員長ちゃんが阿良々木君に惚れていたなんて、今世紀最大のニュースだよ」

「仕方がないだろ、僕自身も驚いてるんだし」

「ま、お似合いっちゃぁお似合いだけどね」

「それよりも……」

「分かってるって、委員長ちゃんの言動がおかしいって事だろ?」

「うん」

「あのね阿良々木君、人間ってのは欲の塊なんだよ」

「だから?」

「例えば、100万円欲しいと思った人間が100万手に入れると、それを使って何かを買う」

「そりゃそうだろ」

「時には、100万の次は1000万欲しいとも思うかもしれない」

「下世話な話、お金は幾らあっても困らないだろ?」

「お金に限った話じゃないよ、人間は次から次へと何かを欲するようになってる」

「だからどういう事なんだよ?」

310 : VIPに... - 2010/08/05 17:21:40.50 Cdt1IPMP 251/307


「本当に阿良々木君は馬鹿だね」

「なんだと!」

「委員長ちゃんは、ストレスで猫を出す」

「まぁ、家庭環境にストレスを感じてたんだろう」

「本当にそれだけかい?」

「ちがうのか?」

「違うにきまってるじゃないか、阿良々木君」

「じゃあ何なんだ?」

「まず君と交際したいという想い」

「そんなのストレスになるのか?」

「あーやだねぇ、どうして童貞って生き物はこうも鈍感なんだろう」

「ほっとけ!」

「で、今回は阿良々木君を手に入れる事が出来た委員長ちゃん」

「だったらストレスは解消されるんじゃ?」

「だーかーらー、次の欲求を抑えきれず猫が出たんだよ」

「はぁ?」

「男女交際、この先阿良々木君は委員長ちゃんとお手手つないで仲良く帰るだけかい?」

「……」

311 : VIPに... - 2010/08/05 17:22:22.44 Cdt1IPMP 252/307

「そりゃ健全な男女だし、キスぐらいするかもしれない。いや、率直に言えば互いを求めるだろう」

「そ、そんな事僕と羽川に限っては―――」

「無いと言い切れるかい?」

「それは……」

「委員長ちゃんは見ての通りの子。真面目な子な訳。そんな彼女がついに阿良々木君を手に入れた」

「なんかその言い方は嫌だな」

「まぁ、100歩譲って交際出来たとしよう」

「譲らなくてもそのまんまだ」

「で、阿良々木君はこの先どうなるか分からないと」

「そうさ、そんなもん分かるかよ」

「馬鹿だからね。でも委員長ちゃんは頭が良い。この先の事を頭の中で瞬時に組み立てる」

「君とのハグ、君とのキス、君との……はたまた、君が他の女の子と何かしないかと言う嫉妬」

「僕の浮気も規定事項かよ!」

「規定?概ね誰もが通る普通の道だと思うけどね」

「僕はそんなに軽い男じゃない」

「ふーん、自分に自信があるんだねぇ」

312 : VIPに... - 2010/08/05 17:23:14.47 Cdt1IPMP 253/307

「当たり前だ」

「ま、それはそれとしてだ。委員長ちゃんの性格を考えてごらん。
委員長の中の委員長の彼女が、阿良々木君との爛れた関係をどう思う?」

「そりゃ……」

「クリーンな関係?プラトニックな関係?馬鹿を言っちゃいけないよ。彼女も人間だよ?」

「まぁ、そういう事になるかもしれない……」

「だろ?君も男だ。委員長ちゃんの唇を欲するかもしれない。あのたわわな胸を触りたいと思うだろ?」

「ね、ねぇよ!」

「ここまできて格好付ける必要なんてないんだよ阿良々木君」

「分かったよ。その代り遠回しな言い方も辞めてくれよ」

「いいねぇ、そういう腹をくくった感じ。結局のところ、君と彼女は若い男女だ。」

「どんな関係になってもおかしくは無い」

「まぁそうだな」

「でも、委員長ちゃんは違う。頭の中で葛藤するんだよ。品行方正に生きなければダメ。でも、阿良々木君と結ばれたいってね」

「それがストレスになるってのか?」

「正解」

「じゃあ僕に何が出来るんだ?」

「君に出来るのは―――『幻想をぶち殺す』だな」

313 : VIPに... - 2010/08/05 17:24:04.03 Cdt1IPMP 254/307

「は?」

「委員長ちゃんの幻想をぶち壊せばいい」

「幻想ってなんだよ?」

「さぁ?それは阿良々木君次第。品行方正が幻想なのか、品性下劣が幻想なのか」

「そんなの僕に決められない」

「決められないなら―――にゃーにゃー言ってる委員長ちゃんとずっと居ればいい」

「それは……」

「ま、あとは頑張りなさい。今回は助ける手助けすら出来ないからね」

「……」

「ちなみに今回の葛藤はプラス方向だから、頭痛のタネにもなりやしない」

「豹変してまでなんとかしようとするわけでもない」

「ただ、その流れを加速させようと起きてる感があるんだよ。じゃ、頑張ってね」

僕はその言葉をかみしめながら、廃ビルを後にした。

314 : VIPに... - 2010/08/05 17:25:08.91 Cdt1IPMP 255/307

翌日、学校では羽川に何も問題は無かった。

ただ、それは不特定多数の人がいる時だけ。

放課後、いつもの様に文化祭の打ち合わせをしていたら、猫が出てきた。



「阿良々木君は、今日も素敵だにゃ」

「羽川、真面目にやろうぜ」

「にゃ!それを阿良々木君に言われるとは思っていなかったにゃ」

「私はいつも真面目にやってるにゃ」

「そうか、それならとりあえず僕の前に座ろうぜ、何で横に座るかな?」

「変かにゃ?」

「だれがどう見ても変だ」

「これじゃただカップルがじゃれ合ってるだけじゃないか!」

「別にそれでも私は構わないんだにゃ」

「良くない!誰かに見られたらどうするんだ?」

「別にいいもん!問題ににゃいんだよ」

「はぁ……、羽川、とりあえず前に座ってくれ、話がしにくい」

「しょうがにゃいなぁ、今日だけ前に座ってあげるにゃ」

「いつも通りで頼むよ」

「で、今日は何の話をするにゃ?」

「出し物の事と、人数と行程だろ」

「それにゃら、もう私が全部やったにゃ。はいこれを見るにゃ」

「―――本当だ、全部出来てる」

315 : VIPに... - 2010/08/05 17:26:37.43 Cdt1IPMP 256/307

「だにゃ。だから今日の打ち合わせはもう終わりにゃ!」

「今から阿良々木君とお話しするにゃ」

羽川は僕が贈った指輪を大事そうに撫でながら話しかける。

「それ、着けてきてるの?」

「あたりまえにゃ!」

「しかし、一応校則では禁止されてるし―――まぁ、みんな守ってないけどさ」

「校則は、破る為にあるものにゃ」

「おいおい、まさかお前の口からそんな言葉を聞くとは思ってなかったぞ」

「にゃはは」

「にゃははじゃねーよ」

「それより、本当にお前どうしたんだよ」

「別に何もにゃい。これが本当の私だにゃ」

「じゃ、今まで僕が見てきた羽川は偽物なのか?」

「そんな事も無いにゃ。全部私だにゃ」

「まるっきり違うじゃないか」

「変化を受け止められにゃい阿良々木君は可哀想だにゃ」

「変化って……劇的すぎるわ」

そんな与太話をしている途中で、教室の扉が開く。

316 : VIPに... - 2010/08/05 17:27:33.64 Cdt1IPMP 257/307

「あ、戦場ヶ原さん」

一瞬で以前と同じような振る舞いをする羽川。

勿論僕は、戦場ヶ原の名を聞いて身動きできない。

ただ普通に窓の外を見つめる。

「あら、お邪魔しちゃったかしら?」

「問題ないよ。今、文化祭の打ち合わせしてただけだから」

「ふーん。そう。何やら楽しそうな会話が聞こえてたんだけどね」

「阿良々木君とはいつもこんな感じなんだよ」

「あっそ。ちょっと忘れ物を取りに来ただけだから、直ぐに出て行くから」

「うん」

戦場ヶ原は自分の机から、筆箱を取り出し、一本のペンを取る。

「いつものペンがね、インク切れで……」

珍しく饒舌である。

「では、失礼」

ピシャ!という音が聞こえる様なスピードで扉を閉め出て行ってしまった。

「もう急に入ってくるから吃驚したにゃ」

「お前、さっきは普通だったのに……」

「にゃにが?」

317 : VIPに... - 2010/08/05 17:28:16.09 Cdt1IPMP 258/307

「もういい……」

「それより阿良々木君、今からどこかに行かにゃいかにゃ?」

「どこに?」

「どこでもいいにゃ。二人っきりになれる所ならどこでもいいにゃ」

本当に羽川は大丈夫だろうか?

結局、羽川に押し切られる形で僕は下校する事となった。

校門まで自転車を押して出ると、羽川が待っていた。

「で、歩く?乗ってく?」

「勿論乗って行くにゃ」

「だろうな」

僕は自転車に跨り、羽川に座るよう促す。

荷台に横向きで腰掛け、羽川は僕の腰に手を回す。

「OKだにゃ」

「じゃ、落ちない様にしろよ」

少し腰を浮かせ、踏み込む。

自転車は次第に加速してゆく。

腰に廻された羽川の腕が僕の腰をしっかりと掴む。

「うひゃひゃ!やめろー!」;;

318 : VIPに... - 2010/08/05 17:29:44.93 Cdt1IPMP 259/307

羽川が廻した手で僕の腰を弄る。

「お前、そういう事するなよ。危ないじゃないか」

「別にこのまま一緒に死んでも構わないにゃ」

「僕はまだ死にたくない。やり残した事が沢山ある」

「にゃー、それは何かにゃ?」

「そんなの言えない」

「言わにゃいのかー」

また僕の腰をくすぐる。

というか、羽川さんその手の位置は非常に拙いです。

「もう少し上の辺りを持ってくれないと困るんだけど?」

「ここに手を廻すと問題があるのにゃ?」

「問題と言うか……」

「揉んだるにゃぁぁぁあぁ!」

「あ、馬鹿!止めろ!」

あぶねぇ、もう少しで車道に飛び出すところだった。

「あのな羽川、本当に危ないからやめてくれ」

「分かったにゃ。その代り条件があるにゃ」

「なんだよ、言ってみろよ」

319 : VIPに... - 2010/08/05 17:36:13.18 Cdt1IPMP 260/307

「今日から二人で居る時は、『つばさ』って呼んで欲しいにゃ」

「え……」

「無理かにゃ?」

後ろから甘えた声で羽川がささやく。

そして僕の背中にもたれかかるようにして黙り込んでしまった。

「なんていうか、恥ずかしいな」

「にゃ!その代り私も阿良々木君の事を暦君って呼ぶにゃ」

「別に僕は阿良々木って呼んでくれて良いんだけど……」

「で、読んでくれるのにゃ?」

「あー考えとく」

「にゃあ、答えが出るまでこれにゃ」

「あーだからそんな所揉むな!」

「ふにゃ?」

「ふにゃじゃねーよ!カチカチだろ!」

「ふーん……面白いにゃ男子のは」

「人で遊ぶな、つばさ」

「にゃにゃにゃ!嬉しいにゃ!」

「おい、だから暴れるなって!」

つい、『つばさ』と呼んでしまった。

こうして、僕は一歩づつ泥濘に足を取られていった。

327 : VIPに... - 2010/08/07 13:44:04.99 kEXQSLEP 261/307

駅前のドーナツ店でお茶をする事にした。

「これとホットコーヒー」

「かしこまりました」

「私も同じで」

「かしこまりました」

羽川は第三者がいれば普通に話すのに、何故か二人っきりになるとその言動がおかしくなる。

席に着き、羽川と雑談をする。

「ところで羽川、この間の勉強見るって話なんだけどさ」

「やる気になった?」

「いや、お前自身は受験勉強しないのかよ?」

「んー、私は大学に行くつもりはないし」

「は?」

「出来れば世界を廻りたいなって思ってる」

「はぁ。でもさぁ、世界を廻るって事は僕と離れ離れになるって事だよな?」

その言葉に羽川の顔が一瞬曇る。

テーブルから少し身を乗り出し、僕の耳元で呟く。

「それは悲しい事にゃ。でも、1~2年だし、その間待っていてくれるにゃ?」

「え……僕は一人寂しく待つのか?」

328 : VIPに... - 2010/08/07 14:15:50.35 kEXQSLEP 262/307

浮かせた腰を席に着け、羽川が話し出す。

「阿良々木君は私と離れ離れになるのが寂しいんだ」

うわー!しくっじった!言質取られた!

「別にそういう問題というか、どうせなら一緒に大学に行けばいいんじゃないか?」

「じゃあ、阿良々木君。例えばの話だよ?」

「例えば?」

「うん。もし大学に行くようになりました。私は実家に居たくありません。
一人で住む事となりました。阿良々木君はどうしますか?」

「どうしますかって言われてもな」

「だよね。困るよね。結局、私は一人ぼっちじゃない?」

「ん?いや、別に学校や休みの日に逢えるじゃん」

「一緒に住むって選択肢は無いのかな?」

「って―――それは同棲でしょうか?」

「そうだね、そういう風に言うよね」

「なぁ、羽川。お前、まだ俺と知り合って数カ月だろ?好きになってくれたのは嬉しいし、
現に今はこうして付き合ってる。でも同棲とかって飛躍しすぎじゃない?」

「そうかな?普通の考え方だと思うんだけど」

「全然普通じゃない」

「好きな人と一緒に居たいって思うのは普通じゃない?」

329 : VIPに... - 2010/08/07 14:16:35.07 kEXQSLEP 263/307

「だとしても、普通は同棲しねえよ、多分」

「結局のところ、阿良々木君は私の事を心から好きじゃないんだ。四六時中一緒に居たいって思わないんだ」

「いや、そんな事は無い。僕は羽川の事が好きだし」

「好きだし?続きは」

「ん、まぁ、一緒に居たいとも思う訳で……」

また身を乗り出し、僕の顔前3センチで羽川が呟く。

「嬉しいにゃ。好きって言ってくれたにゃ。一緒に居たいって言ってくれたにゃ」

それだけ言うと、羽川はまた席に着く。

僕は手に持っていたドーナツを顔まで上げ、穴から羽川を覗き込む。

「阿良々木君は可愛いね」

その時、この泥濘は本当にヤバいと感じた。

溺愛されて溺れ死ぬ、まさにそんな雰囲気。

マジでくたばる5秒前とは上手く言ったもんだ。

羽川の二面性よりも羽川そのものの豹変ぶりがヤバい。

ちょっと冷めた言い方かもしれないが、「うかれてんじゃねーよ」だ。

人前では甘い言葉を言わないから良いものの、これ普通に人前だと確実に言われる。

今の今まで男に縁がなかった女性に彼氏が出来て、浮かれている。

330 : VIPに... - 2010/08/07 14:17:02.93 kEXQSLEP 264/307

僕が結婚詐欺師だったら、羽川は身ぐるみ剥がされるに違いない。

そう思うほど、羽川のテンションは高い。

だからこそ、逆に僕が冷静で居られる。

告白されて付き合う様な事になってたとしたら、そりゃ僕だって浮足立って毎夜彼女を想いながら……

まぁ、下世話な話は置いて、寝床で色々考えるだろう。

だからって同棲まで話が飛躍するのはどうなんだ?

一緒に住みたいとか、そういう気持ちになったとしても普通は交際数日後に言わないだろう。

この浮かれた羽川を少しペースダウンさせなきゃマジで拙い気がする。

でないと、このまま僕の意思とは関係なく羽川、いや猫の敷いたレールの上を走り、結婚し死ぬだけの様な気がしてきた。

僕にこれだけの事を瞬時に考えさせる彼女は一体何だろう?

とりあえず平常心だけは失くさないよう心掛ける、僕はそれを心の中で反芻した。

「どうしたの?ボーっとして」

「あ、いや何でもない」

「じゃ、とりあえず勉強がんばろっか」

「待て」

「僕はまだ教えを請うとは言ってない」

「阿良々木君……」

331 : VIPに... - 2010/08/07 14:17:51.40 kEXQSLEP 265/307

突然羽川が眼鏡を外す。

やべぇ、結構可愛い。

少し潤んだ目をこちらに向ける。

「え?泣いてるの?」

「だって、阿良々木君が冷たいんだもん」

「あ、ほら別に僕は冷たくして言ってるわけじゃない」

「全然分かってくれないし」

小声ではあるが、羽川の俯き加減から僕達が痴話喧嘩して、羽川が泣いている雰囲気は辺りに伝わる。

他のお客の視線が痛い。

「なぁ、つばさ。誤解だって。泣くなよ。別に冷たくした訳じゃないんだ。なるべくつばさに負担をかけたくないって思ってる訳で……」

「じゃあ、私が負担だと感じなければ問題ない?」

「ん、まぁそうなんだけど」

羽川はハンカチを取り出し目じりを拭き、また眼鏡を掛ける。

「私は全然負担じゃないよ。復習しながら阿良々木君に勉強が教えられて一石二鳥だから」

「そ、そうか……」

(やられたー!)

「じゃ、明日から勉強しようね」

332 : VIPに... - 2010/08/07 14:18:30.19 kEXQSLEP 266/307

「ああ、分かった」

「カリキュラムは私が考えるから。放課後頑張ろうね」

僕はドーナツを一気に齧り、温くなったコーヒーでもどかしさと一緒に飲み込んだ。


翌日、放課後になり人も疎らな教室で僕は自分の机に座ったまま、時を待つ。

「阿良々木君、お待たせ」

「じゃ始めるか?」

「ん?何を?」

「勉強だろうが!昨日そういう話になったじゃん」

「ああ、それね。場所は阿良々木君の家でやるんだよ?」

「何で僕の家なんだ?」

「だって、学校だと下校時間以降困るし、図書館も17時で閉館だから」

「だから僕の家?」

「そう、だから阿良々木君の部屋」

「ちょっと待ってくれ、そういうのは早く言ってくれないと」

「何か不都合でも?」

「男子の部屋には、女子に見られたくない三種の神器があるんだよ!」

「ふーん」

333 : VIPに... - 2010/08/07 14:19:06.61 kEXQSLEP 267/307

「じゃあ、家に着いたら外で待ってるから片付けなさい」

「命令かよ!」

「でないと、勉強が出来ませんから。阿良々木君が勉強が出来ないのは、私が復習出来ないに同義なんだよ」

何か騙されている様な気がする。

結局、押し切られる形で学校を後にする。

勿論、自転車の二人乗りで帰宅。

誰も居なくなった頃合いを見計らって、羽川が変わる。

「三種の神器って何なんだにゃ?」

「知ってて聞くな」

「知らないにゃ」

「嘘つけ」

「まぁ、想像するにエロ本・エロビデオかにゃ?」

「はい、正解ですよ」

「あと一個が分からないにゃ」

「教えない」

「アニキャラ抱き枕?」

「そんなもん持ってない」

「ロリフィギュア?」

334 : VIPに... - 2010/08/07 14:19:58.25 kEXQSLEP 268/307

「僕はロリコンじゃない」

「なんだろにゃ~」

「絶対教えない」

「にゃー、教えろにゃ」

「お前さぁ、前から思ってたんだけど、なんで二人きりだとにゃーにゃー言うの?」

「普段からこっちで阿良々木君にべったりがいいって言ってくれるなら私は構わないにゃ」

「お断りだ」

「冷たいにゃ」

「冷たいんじゃ無くて、みんなが驚くだろ」

「そうかにゃ?」

「そうに決まってる。委員長が「そうだにゃー」とか言ってみろ、学校中大騒ぎだぞ」

「それはそれで面白そうだにゃ」

「そんな事してみろ、僕が『委員長は名古屋出身だ!』って言うからな」

「名古屋は「にゃー」じゃなく、みゃーだにゃ」

「……」

「私は何でもしってるにゃ、知ってる事だけにゃ」

「はいはい」

そんな話をしつつ、帰宅する。

335 : VIPに... - 2010/08/07 14:21:04.02 kEXQSLEP 269/307

「ただいまー」

「兄ちゃんおかえりー」

「火憐ちゃん、すまないがジュースを二つ入れてくれ」

「なんで?」

「友達が来てるんだよ」

「だれ?」

「羽川」

「誰それ?」

「とりあえず、僕は部屋を片付けるから居間で待って貰って」

「羽川入って」

「お邪魔します」

「え?女の人?」

「うちのクラスの委員長」

「羽川翼です」

「い、妹の火憐です…宜しくお願いします」

「こちらこそ、よろしくね」

僕は先に部屋にあがり、少しだけ部屋を片付け窓を開ける。

シュッシュッと少しだけファブった。

336 : VIPに... - 2010/08/07 14:21:37.73 kEXQSLEP 270/307

男子の部屋はイカ臭いとか言われたくないからな。

「おーい羽川、上がってこいよ。片付いたし」

トントンと羽川の足音が聞こえる。

「阿良々木君の部屋、とても綺麗ね」

「そうでもないけど、適当に座って」

「お邪魔するね」

「さてと…始めるか」

「今日は英語から」

コンコン

「どぞー」

「兄ちゃん、これジュース」

「ありがとう火憐ちゃん」

「兄ちゃん、部屋で何するの?」

「受験勉強」

「受験すんの?」

「ああ、学校一の才女が僕の勉強を見てくれるらしい」

「へぇ……ところで彼女なの?」

「五月蠅い、もう下へ行っとけ」

「はいはい」

バタン

337 : VIPに... - 2010/08/07 14:22:33.61 kEXQSLEP 271/307

「阿良々木君の妹、可愛いにゃ」

「ていうか、ドアがしまったらそっちかよ」

「どっちも無いにゃ、私はわたしにゃ」

「あーもうどうでもいいわ」

「にゃ、とりあえず文法復習にゃ」

それから2時間、みっちり僕は羽川に教えられる。

驚いた事に羽川の教え方が上手いのか、今まで把握できなかった事がいとも簡単に頭に入る。

「阿良々木君は頭が良いからにゃ、直ぐに理解が出来るにゃ。やらず嫌いだったにゃ」

「そ、そうか?」

「にゃあ、今から復習テストをするにゃ。満点だとご褒美だすにゃ」

「なんだよご褒美って」

「それは秘密だにゃ」

「じゃ、ワザと1問間違えてやる」

「いいけどにゃー。100点じゃない時は恐ろしい罰が待ってるにゃ」

「マジ?」

「にゃー!」

338 : VIPに... - 2010/08/07 14:23:46.25 kEXQSLEP 272/307

試験は20分、今日やった文法の問題をいくつか解く。

「はいおわりにゃ」の声でペンを置き、羽川が採点する。

「にゃんと!100点だにゃ!」

「まぁ、お前の教え方が良かったからな」

「じゃあ、御褒美を渡すにゃ」

「何か先に言え」

「ちなみに罰は……窒息の刑だったにゃ」

「こえーよ」

「この胸で窒息させる心算だったにゃ」

「もっとこえーよ!」

「じゃ、御褒美だニャ」

そういうと羽川は僕の頬にそっと手を添え自分の顔を近づけてくる。

「え?」

目を閉じ、少し尖らせた唇が僕に接近する。

「あっ!」と思った時には既に僕の唇と羽川の唇の距離は0だった。

正直に言うと、僕のファーストキスだった。

心臓がバクバク言って、今にも破裂しそうだった。

ちなみに体全部が固まって、瞼も瞳孔も開いたままだった……

(死んでないけどさ)

339 : VIPに... - 2010/08/07 14:24:38.89 kEXQSLEP 273/307

「ふっ!」

羽川の舌が僕の口の中に入ってくる

そのまま、僕は後ろに押し倒されるように……

僕に覆いかぶさった羽川が僕を舐めるように唇を滑らす。

その時、僕の中で何かが切れた。

ふっ切れた。

僕は羽川を抱き寄せ、今度は僕が羽川の口の中へ舌を滑り込ませる。

羽川は軽く吐息を洩らす。

どのくらいの時間が経ったのかすら分からない。

やっと二人が離れようとした時、透明な糸が緩やかな弧を描き、二人を結んでいた。

「この続きは今度のテストで満点取った時にゃ」

「はい」

殆ど放心状態の僕は返事だけをする。

ぼーっとした時間を過ごしていたら、階段を上がる音がした。

コンコン

340 : VIPに... - 2010/08/07 14:25:38.80 kEXQSLEP 274/307

「はーい、あいてるーどうぞー」

「兄ちゃん、お母さん帰ってきてるよ。晩ごはん出来たからどうぞって」

「じゃ、阿良々木君私はこれで」

「あー、よかったら飯食ってけよ」

「あーダメダメ、そんなの悪いし」

階段を降りると、母さんが待っていた。

「ご挨拶が遅れました。私、暦君と同じクラスの羽川翼と申します」

「良かったら晩ごはん食べて」

「でも、突然おじゃまして……」

「いいから、どうぞどうぞ」

「食ってけよ」

「ではお言葉に甘えて」

今日は月火が遅くなるとかで、母さんと火憐、僕と羽川の4人で晩ごはんとなった。

母さんに羽川が委員長あり、全国模試でもトップクラスで、おまけに僕に受験を勧め、勉強をみてくれる事を話す。

「そう、それはありがたいわ。で、毎日?隔日?週一?」

「受験まで時間がないので、出来れば毎日でもと思ってます」

「そう。なら、明日から晩ごはんはうちで食べて言ってね」

「いえ、それは困ります」

「晩ごはんぐらい食べて貰わなきゃ、家庭教師代払わないといけないじゃない」

「別にそういうのが目的で教えている訳では……」

341 : VIPに... - 2010/08/07 14:26:32.91 kEXQSLEP 275/307

「おうちの方にはこちらから連絡入れるから、ね?」

「はい……」

羽川を説き伏せる母さんは只者ではないな。

飯を食った後、僕は羽川を家にまで送る。

「ごめんな、急な事で」

「いいにゃ。ご飯美味しかったし。それに久しぶりに一人じゃないご飯を食べたにゃ」

「そうなんだ」

「いつもは一人で食べてるにゃ。仕方がないにゃ」

「あー、前に聞いた話が関係あるのかな?」

「にゃー、父さんも母さんも本当の親じゃにゃいからにゃ。気兼ねするんだにゃ」

「そうか。じゃ、いいじゃん明日から遠慮なくうちで食べてけ」

「……」

背中に少し重みを感じた。

声を出さず羽川が泣いているのが分かった。

少しだけ僕のシャツが濡れた。


翌日からも羽川との受験勉強は毎日欠かさず行われた。

とある週末などは、遅くなったからと、うちの親が羽川家に電話して宿泊させる始末。

「ホント、助かるわ。うちの子、将来が心配だったのよ」

「いえ、こちらこそ毎日晩ごはんを戴き、有難うございます。阿良々木君はやればできる人なんで心配は要りませんよ」

「全国模試TOPレベルが保証してくれるなんて嬉しいわ」

342 : VIPに... - 2010/08/07 14:27:13.66 kEXQSLEP 276/307

「ところで翼ちゃん、うちの暦とは?」

「え?」

「ただのクラスメイトって事はないよね?」

「か、母さん!」

「暦も隠さなくていいのよ、見てたら分かるし」

「ん・・・まぁ、付き合ってる……」

「母の日にお出かけした相手は翼ちゃん?」

「そ、そうだよ」

「ふーん、暦もやるわね」

二人して真っ赤な顔して僕は上を、羽川は下を向く。

「ま、仲良くしてあげてね。あと私たちに何かあったらお願いね」

「はい」

これで親公認の仲。

おまけに宿泊ときたもんだ。

羽川の親は親で、我関せずのような感じだし……

勿論、その日羽川は妹達と一緒に寝た。

当たり前だな。

流石にオープンなうちの親でも同じ部屋で寝るなんて認めない。

343 : VIPに... - 2010/08/07 14:28:24.18 kEXQSLEP 277/307

そんな感じで僕と羽川の受験勉強がある程度過ぎた週末の事だった。

「こよみー」

「なんだい母さん」

「あのね、急なんだけど父さんの実家に行くから」

「何かあった?」

「お婆ちゃんが倒れてね。命には別条はないんだけど……」

「明日には戻ると思うから、あと留守番お願いね」

そう言い残すと、親父の運転する車で出かける母さんを玄関まで見送る。

あれ?今、後部座席に火憐と月火も乗ってなかったか?

PPPPP……

「もしもし、月火ちゃん?今どこ?」

「パパの車の中だけど?」

「火憐ちゃんも?」

「うん、居るよ。なんで?」

「なんでも無い……じゃあな」

344 : VIPに... - 2010/08/07 14:33:06.02 kEXQSLEP 278/307

部屋に戻ると羽川が心配そうにしていた。

「どうしたの?」

「いや、婆さんが倒れたとかって……親父らが見舞いに行った」

「阿良々木君は行かなくていいのかな?」

「留守を守れって」

「頭痛が痛いなのかな?」

「留守番してろって」

「ふーん……妹さんは?」

「一緒に二人とも行ったよ」

「にゃんだ、そうなると今夜は二人きりだにゃ」

「ん?あ?あのな、今日は帰れ」

「やだにゃ、週末は特訓講義でしっかり勉強教えるにゃ」

「それに今から帰っても晩ごはんがにゃい」

「じゃ、今から僕が飯作るから食ったら送ってく」

「晩ごはんは私がつくるにゃ!阿良々木君は勉強しているといいにゃ」

そういうと、羽川はキッチンへと向かった。

小一時間して呼ばれる。

「さぁ、食べて栄養つけるにゃ」

345 : VIPに... - 2010/08/07 14:34:03.73 kEXQSLEP 279/307

「へー、結構料理上手なんだな」

「お母さんが下ごしらえしてくれてたので、簡単だったにゃ」

「そっか。じゃ、お前も食べようぜ」

「にゃ」

食事の後、二人で皿を洗う。

「一緒に住んだらこんな感じだにゃ」

「あー、そうだな」

「それよりも、お風呂入ってくるといいにゃ、沸いてるにゃ」

「いつ沸かしたの?」

「食事の準備中にゃ」

「手際が良い事で。とりあえず、風呂はお前を送ってから」

「やだにゃ」

「何を駄々言ってる。二人っきりは拙いだろ」

「阿良々木君がにゃにもしないなら大丈夫にゃ」

「しねぇ……よ」

「なら居ても大丈夫にゃ」

「でもな……」

「お母さんに言われたにゃ、『何かあったら暦を頼む』ってにゃ」

「別に俺は一人でも大丈夫だ」

「朝ごはんも作るにゃ」

「……」

346 : VIPに... - 2010/08/07 14:34:36.86 kEXQSLEP 280/307

「にゃあ、とりあえず、お風呂に入るにゃ」

「わかったよ」

「洗濯するから汚れものはそのままカゴに入れて置くにゃ」

「わかったよ」

風呂に入り、湯船に浸かる。

しかし、急な話だ。

婆さんも今年で70だし、心配と言えば心配だけど……

「阿良々木君、ここに着替え置いとくにゃ」

「すまん、悪いな」

まっ、深く考えても仕方がない、明日にでも電話してみよう。

湯船から出て、頭を洗う。

「背中流すにゃ?」

「え?いいよ、別に」

「遠慮する事にゃい」

「自分で洗えるから大丈夫だ!」

そんな叫びも虚しく、羽川は遠慮なく風呂場に入ってくる。

「頭洗ってたんだにゃ。流すにゃ」

僕は壁に向かって丸くなるように下を向いていた。

「目に入ってにゃいかな?」

「大丈夫だよ」

347 : VIPに... - 2010/08/07 14:35:21.33 kEXQSLEP 281/307

「じゃ、背中流すにゃ」

「ありがとう」

ボディーソープをポンピングする音が響く。

次の瞬間、僕はガチガチに固まる。

「気持ちいい?」

「手?!」

羽川は自分の掌で泡だてたボディーソープを僕の背中に塗るように動かす。

「スポンジが見当たらないにゃ」

「そ、そこにあるだろ!」

「にゃい」

「ある」

「にゃいものはにゃい」

「あー、もう出ろ!」

ぴと

「☆△$&○*■!」

「出るの間違いじゃにゃいのか?」

「冷や汗しかでねえよ!」

「ちゃんと洗ってあげるから、じっとするにゃ」

羽川は、吊ってあったスポンジで僕の身体を洗う。

348 : VIPに... - 2010/08/07 14:36:22.65 kEXQSLEP 282/307

何年振りだろうか?人に身体を洗って貰うのは。

小さい時、よく母さんに洗って貰ったな。

そう言えば、父さんとはあまり入った記憶がない。

いつも残業で帰りが遅く、僕達が先に入っていた。

昔は火憐ちゃんや月火ちゃんも一緒に……

不覚にも妹との入浴を思い出し、少し下半身に力が入ってしまった。

「元気なんだにゃ」

「何が!」

「にゃははー」

とりあえず、洗い終わって目を開ける。

「気持ちよかったかにゃ?」

「ありがとう。気持ちよかったよ」

「それは何よりだにゃ」

予想外?にも羽川は服を着たままだった。

ただ、風呂場の熱気で汗ばんでる。

「僕はもう出るから、次はつばさが入れよ」

「分かったにゃ」

着替えて、リビングで寛ぐ。

「はい、お茶。じゃ、入ってくるにゃ」

「ごゆっくり」

茶を飲みながら、ソファーでボーっとしていたら、風呂場から羽川が呼ぶ。

349 : VIPに... - 2010/08/07 14:37:18.49 kEXQSLEP 283/307

「あららぎくーん」

「ど、どうした?」

「背中がかゆいんだにゃ」

「だからなんだよ」

「洗って欲しいんだにゃ」

「はぁ?」

「スポンジじゃ背中まで届かにゃい」

「はい、タオルここに置いとくから」

僕はドアの前にタオルを置いてリビングに戻る。

「あららぎくーん」

また呼ばれた。

「次はなんだよ」

「頭洗って欲しいんだにゃ」

「頭はいつも自分で洗ってるだろ?」

「今日はお願いしたいんだにゃ」

「自分で洗え」

と投げ捨てる様に言うと、突然風呂場の扉が勢いよく開けられる。

「洗わないと、あとで呪い殺すにゃ!」

聴覚と視覚を攻められ、僕はその場で凝固する。

「ちょ、おまえ、なんて格好―――」

胸元と下腹部が泡だらけ……

確かに、何も見えていない。

見えていないからこそ、いやらしく見える。

350 : VIPに... - 2010/08/07 14:37:44.37 kEXQSLEP 284/307

「分かったから、座って向こう向いてろ!」

仕方なく、風呂場に入り、羽川の髪を洗ってやる。

「あー、気持いいいにゃ」

「私、物心ついた頃から一人でお風呂に入ってたから、人に洗って貰うのは初めてなんだよね」

「そうか…」

「うん」

羽川の長い髪を洗うのは結構大変だ。

解いた髪は、腰のあたりまである。

頭の部分を洗った後、髪を撫でる様に洗う。

「よし、流すぞ」

シャワーを出し、頭の上から流す。

「熱くないか?」

「ちょうどいいよ」

「そっか」

髪を流れてゆく泡を見つめながら僕はある事に気が付く。

羽川がにゃーにゃー言ってない。

「はい終わり」

「うん、ありがとう。ついでだから背中も流してよ」

「しょうがねぇな」

やっぱりそうだ。

「ここら辺か?」

「もう少し上」

351 : VIPに... - 2010/08/07 14:38:22.51 kEXQSLEP 285/307

「ここ?」

「うん、そこ。気持ちいよ」

「はい、これでおわりっと」

「じゃあ、あとはゆっくり浸かれよ」

「うん……」

「でも阿良々木君、汗だくになっちゃったね」

「そうだな」

「もう一回入ったら?」

「あー、大丈夫だよ。タオルで拭けば……」

そう言いながら、風呂場を出ようとしたら、後ろから湯を掛けられる。

「のわぁ!何すんだ!」

振り向き、また凝固。

今度は何も着いてない。

「一緒につかるにゃ」

「……分かったよ」

また、猫。

たぶん、羽川は満足出来たら素に戻るんだろうな。

でも、次の欲求に押し流され……

352 : VIPに... - 2010/08/07 14:38:49.49 kEXQSLEP 286/307

僕はその場で服を脱ぎ、斜め上を見ながら湯船に浸かる。

ちなみに、うちの風呂はそんなに大きくない。

大人二人は無理がある。

僕は湯船で体育座りをし、羽川のいない壁の方を見る。

横で羽川も同じように……

と思ったら、湯船の縁に顎を乗せ、腑抜けていた。

「大丈夫か?」

「平気だにゃ。気持ちが良いにゃ」

「そっか」

「それよりも風呂が狭いにゃ」

「仕方がないだろ、一般家庭の風呂はこれぐらいだろう」

「うーん、阿良々木君がこうやって座って、私がこうしたらいいにゃ」

狭い湯船の中で体を密着させながら移動させられる。

僕が湯船の中で足を伸ばして座る。

その上に羽川が座る……・

なんて酷い格好だ。

腕を羽川に廻すようにはしたが、手は拳。

その手を軽く羽川が掴む。

353 : VIPに... - 2010/08/07 14:40:08.28 kEXQSLEP 287/307

「あー極楽だにゃ」

「そりゃ何よりで」

頭の中で素数を数えている僕にはそういうのが精いっぱい。

何せ、下腹部に羽川のお尻が当ってるし、手にはたわわな胸が乗っかる。

「何もしないんだにゃ、紳士だにゃ」

「もうこの時点で紳士じゃねーよ」

「なら、好きにしていいんだにゃ」

すまん、もう限界近いんだ。

「ここでしちゃおっか?」

「何を?」

「エッチ」

僕は、素数を179まで数えたところで思考が停止した。

湯の中で体を捩じり、僕の胸を登ってくる羽川。

柔らかい唇を僕の胸元にあて、軽く吸いながら上へ上へと登る。

洗いたての羽川の髪も僕の身体を滑るように上がってくる。

距離50ミリあたりまで羽川が接近する。

そのまま距離0まで、幾ばくの時間も掛らなかった。

僕達は喋らない口でお互いの愛を確認する。

354 : VIPに... - 2010/08/07 14:40:34.26 kEXQSLEP 288/307

「つばさ……」

僕が羽川を欲した時、頭がクラクラした。

そう、湯あたり。

興奮して、おまけに2回目の風呂、それも長湯。

僕は湯船で気を失った。らしい。

気が付くとソファーで横たわっていた。

勿論、何も着けていない。

バスタオルが一枚、掛けられていた。

頭には冷たいタオル。

「目が覚めたかにゃ?」

「ん、うん」

「お風呂でのぼせて倒れたから吃驚したにゃ」

「そっか……」

「おまけに鼻血までだしてたにゃ」

「流血騒ぎかよ」

「阿良々木君溜め過ぎなんじゃない?」

「ちがうだろうが!」

「にゃー、そんにゃに怒るとまた頭に血が昇っちゃうにゃ」

355 : VIPに... - 2010/08/07 14:42:45.98 kEXQSLEP 289/307

羽川は、ソファーの横に座り、団扇で僕を煽いでいた

「いきにゃり鼻血出して湯船に沈むから、本当に吃驚したにゃ」

「半分はつばさの責任だろ」

「にゃあ、どう責を負えばいいのかにゃ?」

「別に何もしなくていい―――それより、ありがとう」

「にゃにが??」

「助けてくれて」

「にゃははは、ここまで引き摺ってきただけにゃ」

「それに体が濡れていたから、簡単に滑ったにゃ」

「ちょっとお風呂と床を掃除してくるにゃ」

そういって立ち上った羽川の姿を見て、また血圧があがる。

上半身はTシャツ1枚、下は下着1枚だった。

確かに、羽川の下着を見た事はあるが……ちらっと見える物とは違ってやけに艶めかしい。

おまけに下に何も着けていないTシャツから仄かに透けるアレが……

歌いながら掃除をする羽川。

歌といっても、ニャーニャー言ってるだけ、猫踏んじゃったを歌うのもどうかと思う。

暫くして掃除を済ませた羽川が戻る。

「もう大丈夫かにゃ?」

「うん、たぶん」

356 : VIPに... - 2010/08/07 14:43:37.04 kEXQSLEP 290/307

「遅いし寝るにゃ」

「つばさは火憐ちゃん達の部屋で寝ろよ」

「にゃにボケた事をいうかな、この偽紳士は」

「だれが偽紳士だ!」

「また倒れたら心配だから今日は看病するにゃ」

「だから大丈夫だって」

「一人で寝るのが怖いにゃ……」

「は?」

「怖いにゃ!」

「お前、嘘ついたろ。委員長の中の委員長が嘘ついたらダメだろ」

「本当にゃんだもん!」

「好きにしろ、その代りちゃんと布団はもってこいよ」

「にゃはは」

羽川は火憐の部屋から布団を持ってきて、僕のベッドの横に敷く。

「これでいいにゃ」

「ま、それならいい」

「じゃ、寝るぞ」

「おやすみにゃさい」

357 : VIPに... - 2010/08/07 14:44:30.08 kEXQSLEP 291/307

電気を消し、ベッドで横になる。

次の瞬間、マットがいつも以上に沈む。

「にゃはは、お邪魔しますにゃ」

「おま!布団で寝ろ」

「だから布団に入ったにゃ」

「そうじゃなくて、布団持ってきただろ!」

「持って来たけど、そこで寝るとは言ってないにゃ。寝ろとも言われてないにゃ」

突き放すにも、既に羽川に抱きつかれ逆に僕の身動きが出来ない。

「今日は頑張ってするにゃ」

「何をだよ」

「エッチに決まってるにゃ」

「だから何を馬鹿な事を言ってるんだ」

「いやにゃのか?」

「いやとかそういう問題じゃなくて。それに何も用意してない」

「それなら大丈夫にゃ!安全日にゃ」

「……」

「流石私、なんでも知ってるにゃ」

これは拙い、本当に拙い。

358 : VIPに... - 2010/08/07 14:45:17.98 kEXQSLEP 292/307

無い頭で―――忍野に馬鹿とまで言われた頭で色々考える。

忍野はあの時なんて言った?考えろ僕。

『その幻想を―――』

そうだ、羽川の幻想を何とかしないと。

羽川は僕をどうしたい?

欲しているだけか?

彼女の幻想はどっちだ、品行方正?品性下劣?その選択で全てが決まる。

「あららぎくーん」

僕は振り向き、甘い声で僕に迫る羽川の肩を押さえ、話しかけた。

「なぁ、つばさ。今日、僕とつばさが結ばれたら、それで満足なのか?」

「ん?当たり前だにゃ」

「それはつばさの欲する事か?羽川が欲する事か?」

「私は羽川だし、つばさだし、同じ事にゃ」

「いや違うだろ」

「どういうことかにゃ?」

「羽川はそんなに甘えたりしない。もっと品行方正で今の品性下劣なお前は幻想だ!」

「なんでそんな事言うかな?私は私だよ、阿良々木君」

「僕の知っている羽川は不純異性交遊を認めたりはしない」

359 : VIPに... - 2010/08/07 14:46:15.31 kEXQSLEP 293/307

「そんなのただの建前。本音は貴方が欲しくてたまらないのよ、阿良々木君」

「羽川?」

「ごめんね。今まで騙してた。にゃーにゃー甘えて言ってたのも勿論、私」

「え?」

「ほら、阿良々木君って私に対する見方が固まってるじゃない。品行方正、委員長の中の委員長って」

「まってくれよ、じゃあ全部芝居?」

「芝居じゃないわ。貴方に受け入れて貰う為に猫さんのフリをしただけ。というか、照れ隠し」

「まてよ、何で猫なんだよ」

「ごめんね、GWの事全く忘れている訳じゃないんだよね。記憶の中に私とは違う私がいた事を覚えてるの」

「マジかよ……」

「その猫さんは私が普段出来ない事を、いいえ我慢している事をいとも簡単にやってのける」

「そこまで知ってたのかよ」

「だから……猫さんのフリをしたの」

「じゃあ、今までずっと……」

「お風呂では少し焦って忘れてたけどね」

「じゃあそれ以外は……」

360 : VIPに... - 2010/08/07 14:47:10.48 kEXQSLEP 294/307

「そうよ、阿良々木君の思い描いた羽川翼、品行方正な私も、ここにいる猫さんである品性下劣な私も同じ人間、同じ感情、同じ体」

「幻想を抱いているのは―――」

「そう、阿良々木君なの」

「だから私は―――貴方と一つになりたい」

僕は最初から間違っていた。

忍野と話した時点から、僕も忍野も認識を間違っていた。

完全に僕達は羽川に出し抜かれていた。

多分、この状況を回避するポイントはいくつかあった。

その全部を僕は選択ミスした。

いや、ミスではないな。

成るようにしかならない。

そもそも選択肢を与えられていたのではなく、流の中でその行為が選択になっていただけ。

この決定事項は多分変えられなかった。

「ねえ、阿良々木君。もう照れ隠しはしないよ。私を―――抱いて」

真っ白だ、僕の頭の中は全部刷新された。

通りで見かけた羽川も、新学期早々「貴方を更生させます」と言った羽川も、全部もうここには居ない。

全部、僕が勝手に決め付けた幻想。

361 : VIPに... - 2010/08/07 14:47:59.96 kEXQSLEP 295/307

品行方正な委員長ってのは僕の幻想。

本当の羽川は、今僕の目の前に居る。

そして、僕に抱かれようとしている。

たぶん、これが最後の選択肢だろう、抱くべきか抱かざるべきか。

今までとは違う、これで全部が決まる事を僕は分かってる。

ただ、その選択の結果は全部見えない。

突き放せば、多分僕達の関係は終わるかもしれない。

受け入れたら、今までの関係+αが続くだけ。

「阿良々木君……」

羽川はもう止まらない。

僕に残された時間はあと…羽川の唇が僕の唇に届く10cmの移動時間だけ。

多分、この唇が触れたら僕達は一つになる。

それで何が変わるか?多分何も変わらない。

これを拒んだら?

それだけじゃ何も変わらない気がする。

どうすりゃいいんだ!

無情にも僕の馬鹿な頭では瞬時に答えが出なかった。

いや、違う。

362 : VIPに... - 2010/08/07 14:51:23.75 kEXQSLEP 296/307

僕も健全な男子だ、幾ら格好付けても何も変わらない。

据え膳食わぬは―――などと格好付ける気は無い。

ただ本能のままに……受け入れる。

それしか選択肢は無かった、答えは決まっていた。

ただ、選択したと納得したかっただけだ。

距離が0になり……僕は羽川と結ばれた。


多分、一生忘れないと思う。

「ねぇ阿良々木君」

「何?」

「阿良々木君を手に入れちゃったね、私」

「そういうなら、僕も―――」

羽川は、僕の胸を人差し指でなぞりながら話しかける。

「ねぇ、阿良々木君。阿良々木君は私だけのものだよね?」

「んーまぁ、独占欲はほどほどにしてくれよ。まぁ学校で他の女子と話す機会なんて殆どないんだけど……」

「他の女の子と話したりしたいの?」

「別に……」

「前に聞いた戦場ヶ原さんなんかはどうなの?

363 : VIPに... - 2010/08/07 14:52:27.79 kEXQSLEP 297/307

「あれは……苦手なだけで」

「ふーん」

「なんだよ?いきなり隠し事か?」

「じゃあ、後ろ向いて」

僕は羽川に背を向ける。

「これなんて書いてるでしょうか?」

子供の頃によくやった文字遊び。

「あ」

「次は?」

「ら」

「これは?」

「ら」

「次は簡単だよね」

「ぎ」

「はい、これ」

「?なんだろ、もう一回」

「こうでこうでこう」

364 : VIPに... - 2010/08/07 14:53:29.56 kEXQSLEP 298/307

「君?」

「正解。でこれは?」

「次は漢字だろ(笑)」

「どうかなぁ?」

「これだよ?」

「???もう一回」

「はい、書いた」

「全然分かんない」

「分けて書くね」

「うん」

(最初が『ー』つぎが『タ』で、『ヒ』)

「ん?漢字?ひらがな?」

「まだ分からない?」

「うん……」

「最後はこれ」

「ね」

「あららぎくん○ね」

「○ね?添寝?」

365 : VIPに... - 2010/08/07 14:55:32.80 kEXQSLEP 299/307

「じゃもう一回、これ最後ね」

「こうやって、これを書いて、最後はカタカナみたい部分」

「はい?死?」

「正解」

「あららぎ君死ね?」

「ふふ、よく分かったよね、凄いよね」

「ていうか、そんな怖い事書くな―――」

「だって、浮気しちゃうでしょ?」

「しねえから」

ほんのジェラシー的なものだと感じ取った僕に待っていたのは…

ギュ!

突然、首に何かが巻き付けられた。

羽川は全力でそれを引く。

かなりの力、僕の背を足場に全体重で引く。

「おい!」

声にならない。

視界が狭まる。

マジで冗談じゃない、おい!

「ごめんね阿良々木君、もう誰にも阿良々木君を渡したくないんだ」

こいつは何を言ってるんだ。

「ここで阿良々木君を殺めればもう誰にも奪われないから……」

366 : VIPに... - 2010/08/07 14:57:21.08 kEXQSLEP 300/307

いくら吸血鬼の能力が残っているからって、心臓が止まっては終わりだ。

出来る限りの力を振り絞り、首に掛った紐を解こうとするも、指すら入らない。

「阿良々木君、好きよ」

(だったら、この紐を……)

「何でもは要らないわ、要るのは阿良々木君だけ」

「死んじゃえば、誰にも取られないからね」

「全部私の物だよね?」

「阿良々木君、愛してる」

僕の意識はそこで尽きた。

367 : VIPに... - 2010/08/07 14:58:31.48 kEXQSLEP 301/307

~暫くして~

「しかし、阿良々木君が死んでしまうとは、僕も驚きだよ」

「お前なぁ……他に驚く事あるだろ」

「別に何もないよ。阿良々木君は不幸な死を遂げて、悔しさのあまりあの世に行けなかっただけだろ?」

「そうなんだけど」

「いいじゃないか、別に一人じゃないんだろ?」

「そういう問題じゃない」

「その子、見た目は小学生みたいだけど、阿良々木君より先輩の様だし、仲良くして貰いなよ」

「ええ、ありゃりゃぎさんは私がちゃんと面倒見ますよ」

「なぁ、よかったじゃないか」

「よくねぇ!何とか生き返る方法は無いのか?」

「無いね。昇天する方法なら有るけど、教えない」

「何とかしてくれよ」

「1千万」

「何!」

「1千万で手を打とう。というか、今の阿良々木君には1円のお金すら用意できないんだろうけど」

「ちっ」

368 : VIPに... - 2010/08/07 15:00:25.19 kEXQSLEP 302/307

「それよりも、阿良々木君。委員長ちゃんにはまんまと嵌められたね」

「いうな」

「情状酌量で、殆ど無罪同然になるらしいじゃない」

「悔しいったらありゃしない」

「流石、ありゃりゃぎさん、ありゃに力が入ってます」

「で、実際のところどうなのよ?」

「何が?」

「やっちゃったの?」

「やった事はやったけど……」

「アララギンさん、不潔です」

「黙れ」

「しかし阿良々木君が婦女暴行とか考えられないな」

「だから、僕はそんな事してないって」

「でも、委員長ちゃん、警察にそう説明したらしいね。阿良々木君に犯されて、ついその場にあったベルトで締めたら死んじゃったみたいな」

369 : VIPに... - 2010/08/07 15:04:32.14 kEXQSLEP 303/307

「あれは同意でやったんだよ」

「無理やりじゃないのは分かったけど、中だしらしいじゃない」

「何でそこまで知ってんだよ!」

「まぁ、僕はそこそこ情報通だからね。というか、今週発売の週刊誌に載ってたよ」

「くそがぁ!」

「中だしまでして死ねたら本望じゃないか」

「あのヤンデレめ!」

「ヤンデレ?ちがうだろ、クーヤンだろうね、クールだけど、いざとなったら病む」

「それ、絶対流行らないと思うぜ」

「ま、幻想を壊せなかった阿良々木君の負けだよ、諦めてね」

「……」

「僕は前からあの子が気持ち悪かったんだよ。何を考えているか分からないからね」

「だったらそれを教えろよ」

「教えたところで、馬鹿な阿良々木君には理解できないだろうし」

「チッ」

「独占欲の強い悪魔の様な猫を心に飼う女、それが羽川翼だったんだよ」

「ま、いい勉強になったじゃない。生まれ変わったら肝に銘じておくんだよ」

370 : VIPに... - 2010/08/07 15:06:23.59 kEXQSLEP 304/307

「じゃ、真宵ちゃんだっけ?迷子のカタツムリだった」

「はい」

「阿良々木君の事よろしくね」

「ええ、お任せください。私も友達が出来て嬉しいです」

「じゃ阿良々木君、くれぐれも真宵ちゃんを押し倒したりしない様にね。ロリコンは犯罪だから」

「しねーよ!」

「というか、手を出したら私がクビ落としますから」

「おー怖、じゃ阿良々木君またね~」

「ああ、済んだ事はどうしようも無いからな」

あの時の選択肢は「突き放す」だった。

もしかしたら、今尚僕は生きていたかもしれない。

人間、どんな時でも格好付けるべきなんだな。

格好さえ付けていれば今頃違う「生き方」をしていたかもしれない。

「阿良々木さん、行きますよ」

「ああ」

僕はこの町で、八九寺と一緒に彷徨う霊となった。


おわり

371 : 1です - 2010/08/07 15:13:09.15 kEXQSLEP 305/307

あとがき

とりあえず、これで完結です。
阿良々木君には申し訳ないんだけど、死んで貰いました。
だって、羽川さんとやっちゃうんだもん。
八九寺と阿良々木のエロい部分は同人誌が沢山出てるようなので、そちらでお楽しみください。
八九寺と阿良々木の同行記なんてこれっぽちも需要がないだろうし書きませんw

ちなみに、これで全話終了でございます。

あとエロ描写が出来なくて申し訳ないっす。
もっとみんなの下半身が風邪ひく様な事が書ければ良いんですけどね……
無理があるので、今回もエロ要素殆ど無しになりました。

22/08/07
hanetsuba

375 : VIPに... - 2010/08/07 20:44:42.02 HTTNPkSO 306/307

お疲れさん
すげえ楽しめた
予想のかなり斜め上を行く結末だったけどw


>下腹部には羽川のお尻が
>腕にはたわわな胸が

これだけでもうね、ヤバかったね…

また>>1の書くSSに出会えるといいにゃー

376 : 1です - 2010/08/08 16:39:54.05 a3jtEmMP 307/307

>>375
ありがとうです。
また化物語系を書くと思いますので、その時はよろしくお願いいたします。

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