【関連】
ハルヒ「IBN5100を探しに行くわよ!」#1
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◇Chapter.3 涼宮ハルヒのパラノイア◇
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2010.08.09 (Mon) 9:00
湯島某所
ハルヒ「本日のIBN5100捜索は中止!」
キョン(ホントに寝てる間に世界改変が起きちまったのかと思ったよ……。記憶の齟齬が無いから違うと思うが)
キョン(昨日の夜はどこかの天真爛漫な由緒ある家のお嬢様のようにはしゃぎ回っていたあのハルヒが、不機嫌を特殊メイクで顔にはっ付けたような仏頂面をしてやがる)
キョン(ハルヒにはIBN5100のツテであるところの椎名まゆりの友人の父親の線が消えた、しかも何年も前に海外に売られたらしいということは昨日宿に帰る途中で伝えたが……。そのせいでご立腹なんだろうか?)
ハルヒ「まったく、考えれば考えるほどイライラしてくるわ! みくるちゃん、お茶! 古泉くん、東京の地図!」
みくる「は、はぁい!」
古泉「こちらに」
キョン「おい古泉ちょっと来い。これは一体どうゆうことだ」
古泉「こちらが聞きたいくらいです。あなたが寝ている間、閉鎖空間が発生し《神人》退治で忙しかったのですよ」
キョン「なに? そうだったのか。そいつは、なんだ。お疲れ」
古泉「……失礼しました。まぁ、差し詰め嫌な夢でも見たのではないでしょうか」
キョン「その程度で済めばいいんだけどな」
キョン(昨日俺もなにか変な夢を見たような、見なかったような……)
ハルヒ「キョーン! 古泉くーん! 荷物持って談話室まで来なさい! 今日は全っ力で東京観光するわよ!」
古泉「おや、涼宮さんは溜め込んだストレスを健全な方法で昇華させるようです」
キョン「新陳代謝の激しいやつだ」
アメヤ横丁
ハルヒ「いいわねー、このぐちゃぐちゃ具合!」
キョン「おい、勝手に進むな! おい!」
みくる「あれぇ、みなさんどこですかぁ、ここどこですかぁ」
上野恩賜公園 上野動物園
ハルヒ「みくるちゃーん! 有希―っ! あのゴリラ、キョンにそっくりよー!」
みくる「ま、まってくださぁーい」
長門「デジカメ」パシャ パシャ
浅草寺 仲見世通
ハルヒ「ニンジャー! サムラーイ! ハラキリー!」ブンッ!ブンッ!
みくる「ちょ、ちょんまげはやめてくださいぃふぇぇ」
長門「」パシャ パシャ
キョン「あれが新東京タワーか、でかいな」
古泉「まだ展望台部分より上はほとんど頭角を現してしませんが、あれは内部で建設中のアンテナ部分、ゲイン塔をエレベーター式に押し上げるリフトアップ工法で」クドクド
浅草花やしき お化け屋敷
ハルヒ「こんなんでビビると思ってんの? もっと気合い入れておどろかしなさいよ!」
みくる「ぴ、ぴえぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」
長門「幽霊……」
隅田川 水上バス
ハルヒ「ジャンプしたら橋げたに飛び移れそうね!」
キョン「バカ、そんなに乗り出したら川に落ちるぞ!」
芝公園 東京タワー
ハルヒ「ひっくい景色ねー! 金返せドロボー!」
キョン「やめろ!」
みくる「ソフトクリームおいしいですぅ」
古泉「東京タワーの高さが333mだということは有名かと思いますが、竣工は昭和33年と『3』に愛された電波塔でして」クドクド
皇居前広場 二重橋前
ハルヒ「一度来てみたかったのよねー、皇居!」
キョン「頼むから余程なことを口走るんじゃねぇぞ……」
ハルヒ「日本中のありとあらゆる時空の謎を集約した場所だと思わない!?」
みくる「なんだか空模様が怪しくなってきましたぁ」
古泉「雨に降られる前に宿に戻るのが良いかと」
2010.08.09 (Mon) 21:09
湯島某所
キョン「つ、疲れた……。もーだめだ、足が棒のようだ……」
古泉「すいません、僕に、託された分の、お土産まで、持って、いただいて……」
みくる「……ぴぃぃぃ……」
長門「雨が降り出す前に戻れてよかった」
ハルヒ「まったく、みんな体力なさすぎよ? 今後は団員の体幹トレーニングも考えておかなきゃね」
キョン「その一言で疲労度が五倍増しだぜ……」
2010.08.10 (Tue) 00:03
湯島某所
キョン(その日ハルヒの渋っ面から始まった観光と言う名の東京砂漠縦断キャラバンを完遂した俺たちは泥のように眠った、はずだったんだが)
キョン「くそ、寝る前にトイレに行っておくべきだった。おかげで中途半端な時間に起きちまったぜ」
ピカッ!ゴロゴロ…
ザーザーザー
キョン(外は雷雨、雨降りの音が建物の中まで響いて来る)
キョン「ふー、スッキリした。古泉のやつ、俺が部屋を出ても起きないほど爆睡してたな。昨日寝てないのにホントご苦労なこった」
キョン「……ん? 1階の談話室の電気がついてる?」
キョン(誰か居るな……って、なんだハルヒか。熱心にA4サイズのルーズリーフになにかを書き込んでいる。明日の計画書でも作ってんのか?)
キョン(……一旦階段まで戻ってから声を掛けてやろう)
キョン「おーい、誰か居るのか? 電気つけて」
キョン「居ないなら消すぞー、ってハルヒか。何してるんだ」
ハルヒ「アンタ、寝たんじゃなかったの?」
キョン「変に目が覚めちまってな。それで、お前の方こそ何してたんだ?」
ハルヒ「あたしも眠れなかったの。それだけ」
キョン「そうかい」
キョン(見事にルーズリーフは隠されてしまったな)
ハルヒ「あたしが眠くなるまでちょっと話に付き合いなさい」
キョン「へーへー。明日はどんな灼熱強行軍が待ってるんだろうな。新宿か? 渋谷か?」
ハルヒ「まだ観光したりないの?」
キョン「いや、連日はさすがに勘弁してほしい。というかだな、今朝はどうして虫の居所が悪かったんだ?」
ハルヒ「……昨日のこと、時計的に言えばおとといの事だけど、色々と許せなかったのよ」
キョン(どうしたんだ、急に神妙な顔しやがって)
ハルヒ「まずね! あたしの預かり知らないところで『過去を変える実験』とかいうメッチャ面白そうなことやってるんじゃないわよ!!」
キョン(心配して損した)
ハルヒ「世界はあたしを中心に回るべきなの! ありとあらゆる不思議は全てあたしに対して挑戦的であるべきだと思わない!?」
キョン「あーそうだな、思う思う。だがあれは不思議というより科学実験だと思うが」
ハルヒ「それを! 人を上から見下すしか能が無い厨二病こじらせた童貞コミュ障野郎に独占されてるのが……ホント許せないわアイツ……」イライラ
キョン(童貞かどうかは関係ないだろ!)
キョン「だがあの未来ガジェット研究所が秘密主義結社だとはとても思えん。むしろその逆のベクトルだ。誰でも過去メールを使えるみたいな話だったし、独占されてるわけではないだろ」
ハルヒ「違うわよ! 全っ然違う! あたしが! 実験サンプルになるとか! 頭下げて使わせてもらうなんてのはね! もってのほかなの!!」
キョン(文節ごとに語気が強くなっていらっしゃる。このままハルヒをイライラさせてたら古泉がマジで過労死するかも知れないな。ちょっとはご機嫌取りでもやってみるか)
キョン「まぁ、東京に来ていろいろおもしろい話が聞けてよかったじゃないか。お前はお前でやりたいことをやればいいし、あっちはあっちでやってただけだ。いい刺激になったんじゃないか」
ハルヒ「……そりゃ、おもしろそうだったのは事実だけど」
キョン「だったら素直におもしろがっとけ。悔しいなら、もっとおもしろいことを見つければいいのさ」
ハルヒ「……あとね、あの牧瀬紅莉栖って人も許せないの」
キョン「ん? 意外だな、結構仲良くしてたじゃないか」
ハルヒ「それはあの変質者を叩くのに共闘しただけよ。あの人、あたしに過去を改変するように迫ってきたでしょ?」
キョン「あぁ。俺に観測しろだなんだと言ってたな」
ハルヒ「純粋に実験目的なのはわかるけど、『変えたい過去はない?』なんて、ヒトの琴線に触れるような言葉を使ってズカズカと土足で上がりこんできたのよ」
キョン「まー、そうともとれるか。自分の人生の変えたい過去、やり直したい過去が無い人間が仮に居たとしたらそれはもう伝説上の生き物だからな。その質問をする時点でだいぶ利己的だと言えるかもしれない」
ハルヒ「それに! あの口ぶりだときっと自分は自分で自分を実験台にした過去改変をしてないのよ! 理由はたぶん、怖いから、とかでしょうけど……」
ハルヒ「それを平気な顔して他人に勧めてくるなんて、狂気のマッドサイエンティストとかあの岡部は言ってたけどそんなんじゃないわ」
ハルヒ「人の気持ちがわからないのよ。友達が居ないんじゃないかしら、あの人」
キョン(ハルヒにそこまで言わせしめるとは。中学の頃のハルヒに言って聞かせてやりたいよ。ホントお前はSOS団を結成していて良かったな)
ハルヒ「後は、自分が許せない」
キョン「いつになく殊勝な発言だな」
ハルヒ「『変えたい過去が無いか』って聞かれた時に、悔しいけどちょっと心が動いちゃったのは事実よ。アンタも言ったけど、あたしにだってやり直したい過去の一つや二つくらいある」
キョン(ハルヒのやり直したい過去ってなんだろうな)
ハルヒ「だけど……。やっぱり自分の過去はやり直したらいけないと思った。思い直したの」
ハルヒ「あたしの過去は、あたしのもの。他の何物とも取り替えたくない」
ハルヒ「だって、もしやり直しちゃったら、今のあたしたち、SOS団の、みんなとの思い出が、無くなっちゃうような気がして……」
キョン(なにがこいつをそこまで不安にさせてるんだろうね。第六感ってやつか?)
キョン「それは無くなったように見えるだけで、実際は無くなってないんじゃないか?」
ハルヒ「……?」
キョン「いやなに、SF的な話だけどな。仮に過去改変が起きて世界が再構成されたとしても、改変前の世界があったって事実は変わらないだろ?」
ハルヒ「でもそれって『憶えてる』、って言えるの?」
キョン「もしかしたら俺がしっかり憶えてるかも知れないぞ?」
ハルヒ「あー、そうだったわね。だけどそういうことは暗記科目の点数を上げてから言わないと説得力が無いわよ?」
キョン「そっちは約束できん」
ハルヒ「少しは意地張りなさいよ。ま、過去なんて改変できるわけないわ。所詮SFよね、アレの虚言の範疇だし」
キョン「さて、そろそろいい時間だ。今日はお前も疲れてるだろ、早く寝ようぜ」
ハルヒ「……そうね。電気代ももったいないし」
キョン(よかったな古泉、お前の財布は心配されているらしい。お前のはな)
キョン「明日は探すのか? IBN5100」
ハルヒ「まだ考え中。明日の朝発表するわ」
キョン「あいよ。それじゃ、おやすみ」
ハルヒ「ん」
キョン(不愛想な挨拶だけ残して女子部屋へと帰って行く我らが団長様であった)
2010.08.10 (Tue) 9:03
湯島某所
みんなへ
今日の午前中は自由行動にするわ。
疲れてるなら寝てていいし、行きたいところがあるならどうぞ。
お昼は一緒に食べましょう。
SOS団団長 涼宮ハルヒ
キョン「昨日書いてたルーズリーフはこれか……」
キョン(談話室の入り口となっている襖にペタッとセロハンテープを四隅に貼る形で自由行動の文言が貼りだされていた)
キョン「古泉、ハルヒは?」
古泉「それが、僕が起きた時には既に玄関に靴はありませんでした」
古泉「ですがご心配要りません。機関の者が跡を追っています。いつでも居場所が確認できますし、連絡取れますよ」
キョン「頼もしいんだか人権侵害なんだか。そうだ古泉、もし疲れてるんだったら寝ててもいいんじゃないか? こんなチャンスは滅多になかろうよ」
古泉「いえ、僕は二度寝すると余計疲れてしまうタイプなので、コーヒーでもいただきながらゆっくりした時間を過ごそうと思います」
みくる「少し遅くなりましたけど、朝のコーヒー入りましたよぉ」
キョン「あぁ、朝比奈さん。俺は幸せ者です」
キョン(談話室は入口が廊下より一段高くなった襖の部屋で中には畳が敷いてあるが、その上に低めのレザーソファーと高級感あふれる低い脚のテーブルが置いてある)
キョン(“談話室”という名前が部屋の前に書いてあったので俺たちはそう呼んでいるが、個人宅としては応接間と言ったところだろう。まぁ、機関の提供する設備など考察しても意味がなさそうではあるが)
古泉「涼宮さんが居ない今、もし良ければ例の過去改変について色々話し合ってみましょうか。僕たち4人で」
キョン「一応昨日の深夜、ハルヒにな、『過去改変は所詮SFだ』と釘を刺しておいた」
古泉「おや、僕たちが寝静まった後で逢瀬とは。あなたもなかなか積極的ですね」
みくる「キョンくん……」
キョン「ち、違う! 偶然、偶然だって! 勘違いですよ朝比奈さん!」
古泉「ですが。『押すな』、というのは逆に、『押せ』、という意味であるとどこかの大御所芸人さんがおっしゃっていましたよ」
キョン「こりゃ失敗したか」
長門「過去改変の具体的プロセスについて説明がほしい」
キョン「まだ話してなかったが、こりゃ説明するのは大変だ。俺自身でも、聞くには聞いたが理解できてないことが多すぎる」
長門「いい。あなたの記憶だけ読み取らせてもらえばいい」スッ
キョン「なるほど……って、おい! 長門ッ! 顔が、ちか、ちか、近いッ! ひっ……」ピトッ
みくる「な、長門さん、大胆ですぅ……」
古泉「おでことおでこを合わせておられますね……」
長門「人間の記憶は大脳皮質、とりわけ側頭葉に電気信号の伝わりとして記憶される。人間が記憶にアクセスしようとする時、前頭葉から側頭葉へ信号が行く。このトップダウン記憶検索信号を読み取り、あなたの脳が該当すると判断した記憶だけをわたしの脳にコピー&ペーストしている」
キョン(長門がしゃべる度にクールミントのような吐息が俺の顔面にかかる! こそばゆい!)
キョン(そして俺は声が出せん! 声を出したら俺の泥臭い息がモロに長門の顔にかかってしまう!)
キョン「……あのー、長門さん? あんなことをする必要があったのでしょうか?」
長門「あなたが思い出すことのできない記憶も同時に読み取るにはあの方法が一番」
キョン「……さいですか」
長門「朝比奈みくるに質問がある」
みくる「ひぇっ。あ、あたしですかぁ」
古泉「ふむ、長門さんが朝比奈さんにご質問とは、珍しいですね」
長門「あなたの居た未来では、未来ガジェット研究所という存在や、あるいは電話レンジ(仮)という名前の装置はどのような扱いをされていた」
みくる「え、えっと、あの、おとといあそこに行ってお話を聞いたのが初めてでしたぁ」
キョン「まぁ、リアクションを見てなんとなくそうなんだろうなぁとは思ってましたよ」
キョン「ん? そうか、過去改変なんて事象が未来で語り継がれていないってことは……、どういうことなんだ?」
長門「カー・ブラックホールをあの設備で生成すること、またカー・ブラックホールを利用して過去にメールを送ることは原理的に不可能。よって過去改変は無理」
キョン「カー・ブラックホール? あぁ、牧瀬先生がハルヒとの講義の中で言ってたっけか……」
キョン「そりゃ普通に考えたら無理だよな、ケータイと電子レンジくっつけただけで過去にメールを送れるなんて」
キョン「そういや、確かリフターにあたる存在がなにかわからんのに稼働してるとか言ってたが、そのことか?」
長門「違う。蓋然性を考慮すればブラウン工房のテレビがリフターの役割を果たしている。だがこれを特定できたところで変わらない。電子の配給の調整によるカー・ブラックホール生成可能性も関係ない」
古泉「その“原理的に不可能”、という理由をお聞かせ願えますか」
長門「あの電子レンジ内部にはリング状特異領域が裸の特異点となったものが二つ存在していた。しかし量子効果によって空間的特異点へと変換されるため時間移動に利用することはできない」
みくる「あっ、まったくわからないです……。あたし、タイムトラベラーなのに……」
キョン(安心してください朝比奈さん。俺もわかりません)
古泉「裸の特異点を二つも作り出すことは未来ガジェット研究所では本来技術的に不可能であると。かつ原理的に不可能ということは、彼ら未来ガジェット研究所が過去改変を成し遂げたというのは、嘘だった、ということですか」
長門「岡部倫太郎の発言のうち過去改変に関する物に関しては虚偽の意識がなかった。加えてバナナやから揚げの実験は小規模ではあるが間違いなく過去改変」
古泉「つまり、最低でも自身は真実を述べているつもりであり、過去改変は確実に操作的に発生させていると。そうなると、一体なぜ過去改変が起こったのでしょう」
長門「他の存在が影響を与えていると思われる」
キョン「……まさか、それってのは」
長門「涼宮ハルヒ」
長門「涼宮ハルヒによる世界システムの改変のために、一定期間に限り先述の時間跳躍メカニズムの実用および未来ガジェット研究所における奇跡的な技術的達成が可能となった」
キョン「……なんだってやっこさんは過去を変えたいだなんて願っちまったんだろうねぇ」
古泉「その一定期間というのは?」
長門「1975年から2034年」
キョン(よくわからん数字だが、1975と言えばIBN5100発売の年だったな)
みくる「こ、困ります! 涼宮さんの能力で過去改変されたら、未来人でも対応できなくなってしまいます!」
キョン「朝比奈さん、心配しないでください。どういうわけかハルヒの奴は、自身が直接手を下す方法ではなくなんだか七面倒くさい遠回りなやり方で過去改変しているので、止めるタイミングはいくらでもありますよ」
古泉「ふむ……。涼宮さんはどうして過去改変をしたいと思ったか、ですか」
古泉「…………」
キョン(ん? 古泉のやつ、どうしたんだ?)
古泉「まず長門さんに確認しておきます。1975年から2034年を改変したということは、たとえ最近になって涼宮さんが世界システムを改変したとしても、35年前から既に世界システムは改変されていたことになっているのですね?」
長門「そう」
キョン「お前が前に言ってた、世界五分前仮説の過去世界創世みたいな話か?」
古泉「そんなことを言った記憶は僕にはありませんが……、おそらく合っていると思いますよ」
古泉「ゆえにたとえ涼宮さんがどのタイミングで改変を起こしたとしても、その改変以降に世界システムが改変された、ということではなく、既に世界はそういうことになっていた状態になるのです」
キョン「それはわかったが、だからどうしたんだ?」
古泉「ですが、過去改変を願った時点から涼宮さんの手によって過去改変が実際可能となる時点までに距離を置く意味はありません。つまり、涼宮さんが過去改変を願った時点は最近なのです」
古泉「……未来ガジェット研究所の手による最初の大規模な過去改変はいつ行われたと思いますか? それはあなたの記憶に影響のあるもの、おそらくジョン・タイター改変でしょう」
キョン「それが全く見当がつかないんだが、俺が体感できるほどの大改変は例の柳林神社でのが最初だった」
古泉「……7月28日のお昼頃、つまり例の人工衛星が秋葉原に墜落した頃ですが、その時あなたになにか体調の変化は?」
キョン「さぁ、どうだったかな……。たしか前日の腱鞘炎もどきアンド右ふくらはぎの筋肉痛のせいで昼頃までぐったりしていて、寝過ぎて頭が痛かったような」
古泉「普段からあなたは昼頃まで寝た時は頭痛がするのですか」
キョン「い、いや、そんなことはないと思うぞ、多分。ってことはなにか? あのタイミングで世界改変が起こり、人工衛星が突っ込んできたと? だが、だからどうしたってんだ」
古泉「いえ、大事なのはそこではありません」
古泉「仮に7月28日に過去改変があったとして……、問題は……」
古泉「その前日が、“結婚披露宴”だったということ……ッ!!!!!」
キョン「お、おい? 突然血相を変えてどうした?」
古泉「未来ガジェット研究所へ乗り込んで涼宮さんを止めてください!!! いえ、緊急事態です、今すぐ機関の者に制止させます!!! 僕も一緒に行きます!!!」
キョン「はぁ? お前なにを言って」
古泉「涼宮さんがッ!!!! 今まさに過去を改変しようとしてい――――――――――――――――――
D 0.409420 4920656e767920796f75%
2010.08.10 (Tue) 10:05
????
キョン「―――――――――ッ!!!!! いってぇ!!!!! 頭が、割れるッ!!!!!」
古泉「だ、大丈夫ですか!? 落ち着いて、深呼吸してください」
キョン「はぁ……はぁ……。な、なぁ古泉、さっきは何を言いかけたんだ……」
古泉「ええとですね、『どうして最近の邦画はつまらなくなったのか』という話について、それはミーハー層の感受性が変化したという前提を踏まえて……」
キョン(こいつ、一体、なんの、話を……くそっ、またアレかよ……過去改変による世界改変か……。しかも俺が体感した中で一番どでかいやつだ……)ズキズキ
古泉「……映像やストーリーメイクなどの技術的なものの質自体は上がっている、ということを言おうとしていたのですが、そんなことよりお体大丈夫ですか?」
キョン「長話をしやがってホントに心配してるのかお前……? まぁ、身体のほうは大丈夫だ、心配するな」
古泉「それならよかったです」
キョン(どうも調子が狂うな……)
キョン(しかし参った。心の準備ができてないのはいつものことだが、こうも間断なく世界が改変させられると自分の記憶力が不安になるぜ)
キョン「えっと、ハルヒのやつはどこだっけか」
キョン(とにもかくにもまずはハルヒだ。さりげなく情報を吸い上げてやろう)
古泉「先ほど朝比奈さんとお手洗いに行かれたところですよ」
キョン(よかった、ハルヒは居る)
キョン(だがここは一体どこなんだ?……観察するに映画館の通路か?……もしかして、秋葉原から俺たちの街に帰ってきたのか?)
一旦状況を整理しよう。
改変直前の古泉の話からすると、ハルヒがDメールとやらを過去に送って世界を改変した。
いったいどんな世界に変わったってんだ? そしてそれはどのタイミングで変わった? ハルヒはどうして、なにを変えたかったんだ……?
元の世界に戻る算段は全くないが、この辺りを調べてみるか……。
さて、夏休みの自由研究、4次元間違い探しの始まりだ。
ハルヒ「ジョン~! 待たせてゴメンネ~? さみしかったぁ?」ムニュ
キョン(その胸はやわらかかった……い、いやいや! 現実逃避しとる場合ではないッ! 今こいつなんて言った!? そしてなんだこの、俺の腕に絡みついてきたハルヒと、おっぱいは!)ドキッ
みくる「涼宮さぁん、待ってくださいぃ。ジョンくんは逃げませんよぅ」
ハルヒ「ジョンどうしたの? そんな変な顔しちゃって。まぁアンタはいつも変な顔だけど」ププッ
キョン「な……な……」
キョン(数秒でいい、俺に考える時間をくれ……。どうしてハルヒは上目遣いで執拗に俺との距離を詰めてくるんだ? い、いやそこじゃなくて、どうして俺の事をジョンと)
古泉「先ほど少し体調に異変があったみたいでして、混乱されているのでは」
ハルヒ「えぇぇーーッ!! 大丈夫ジョン!? どこか痛いところはなぁい!? 救急車呼ぶ!?」ピ、ポ、パ
みくる「わわぁー、呼んだら来ちゃいますよぉー!」ガシッ
キョン「あ、あぁ! 救急車はいらん! 簡単に呼ぶな馬鹿野郎! えっと、ほら! 俺は元気だぞー!」アハハ
ハルヒ「そ、ならよかった。なんかいつも以上に挙動がおかしいわよ? フフッ」
キョン(このSOS団は一体なにがどうなってると言うんだ!?)
キョン(そう言えば、このSOS団に長門はいないのか?)キョロキョロ
長門「……」トテトテ
キョン「おぉ長門! 居てくれたか!」
長門「……?」
キョン(やっぱり世界改変は検知できないのか……)
古泉「長門さんがエンドロールをすべて見終えたようですね」
キョン「あぁ、なるほどな。それで」
古泉「なるほどな、とおっしゃいますと?」
キョン「言葉の綾だ。気にすんな」
ハルヒ「有希も揃ったわね! それじゃ、次はどの映画を見ようかしら!」
キョン「……古泉、俺たちって映画館のはしごでもやってんのか?」
古泉「もしや自覚がなかったのですか?」
キョン「はぁ、さすがに2年目ともなると飽きるものかと思っていたが」
古泉「おや、去年も涼宮さんと映画館のはしごをされたのですか? うらやましい限りです」
キョン「…………」
キョン(おかしい。明らかにおかしい。これはそろそろトボけて付き合うのは厳しいか)
キョン「なぁハルヒ、みんな。悪い、俺、ちょっと本当に体調が悪くなっちまったみたいだ。今日は帰るよ」
キョン(一旦家に戻ってハルヒ以外に再集合をかけよう)
ハルヒ「えーっ。ねぇみくるちゃん、ジョンが体調を悪くするのは規定事項だったの?」
みくる「えっと、そのような報告は未来から連絡されてません」
キョン(なッ!? なんだその会話!? さっきから冷静を装い続けている俺だが、そろそろビックリ水位の上昇が堰を切って溢れ出さんとしている……!)
ハルヒ「てことは仮病ね? ジョンのくせに生意気だ―! こうしてやるー! うりうりー!」
キョン「だはぁっ! や、やめんかハルヒ! 抱きつくな! 暴れるな! 顔をこすりつけるな!」
古泉「ほほえましい限りです」ンフ
みくる「ですねぇ」ポッ
長門「…………」
ハルヒ「で、なんで仮病なんか使おうとしたのよ」
キョン(どうする、なんて言い訳をする……。シャミセンが円形脱毛症になった、いやこれは一度使ったな……)
キョン「い、いや、それがだな、その……。家で待つ妹が心配になってだな」
キョン(きっとこの世界のジョン君は妹思いのシスコン野郎だったに違いない!)
ハルヒ「アンタの家族、お母様のご実家に行ってるんでしょ? ほら、初恋の相手だった従姉妹が近くに住んでるとかいう地方に」
キョン(手詰まりだ!)
ハルヒ「ふーん、このあたしに隠し事。別にいいわよ? 不思議の一つや二つ、男なら隠しておくものよね」
キョン「勘弁してくれ……」
ハルヒ「でもね、浮気だけは絶対に許さないから」ニコッ
キョン(笑顔だが顔が笑ってねぇなぁ……。あたかも誘拐犯を恫喝する際の森園生さんを彷彿とさせる表情に背筋が凍った)
キョン(ん? “浮気”、だと?)
キョン「まさか、俺とハルヒは付き合っているのか?」
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2010.08.10 (Tue) 10:05
????
キョン「―――――――――ッ!!!!! いってぇ!!!!! 頭が、割れるッ!!!!!」
古泉「だ、大丈夫ですか!? 落ち着いて、深呼吸してください」
キョン「はぁ……はぁ……。な、なぁ古泉、さっきは何を言いかけたんだっけか……」
古泉「ええとですね、『なぜ漫画原作の実写映画化が最近増えているのか』という話について、一般的には既存の固定ファン数から動員数を予見できる作品のほうが収益見込みが安定するからとされますが……」
キョン(こいつ、一体、なんの、話を……くそっ、またアレかよ……過去改変による世界改変か……。しかも俺が体感した中で一番どでかいやつだ……)ズキズキ
古泉「……SFX、特殊メイクやアクションなどの技術的な質に対する実験の俎上となっている、ということを言おうとしていたのですが、そんなことよりお体大丈夫ですか?」
キョン「長話をしやがってホントに心配してるのかお前……? まぁ、身体のほうは大丈夫だ、心配するな」
古泉「それならよかったです」
キョン(どうも調子が狂うな……)
キョン(しかし参った。心の準備ができてないのはいつものことだが、こうも間断なく世界が改変させられると自分の記憶力が不安になるぜ)
キョン「えっと、ハルヒのやつはどこだっけか」
キョン(とにもかくにもまずはハルヒだ。さりげなく聞き出してやろう)
古泉「先ほど朝比奈さんとお手洗いに行かれたところですよ」
キョン(よかった、ハルヒは居る)
みくる「お待たせしましたぁ」トテトテ
キョン(だがここは一体どこなんだ? 大きな映画館のロビーのようだが……もしかして、秋葉原から俺たちの街に帰ってきたのか?)
ハルヒ「ジョン~! 待たせてゴメンネ~? さみしかったぁ?」ムニュ
キョン(その胸はやわらかかった……い、いやいや! 現実逃避しとる場合ではないッ! 今こいつなんて言った!? そしてなんだこの、俺の腕に絡みついてきたハルヒと、おっぱいは!)ドキッ
みくる「涼宮さぁん、ジョンくんが照れてますよ」ウフ
キョン「な……な……」
キョン(数秒でいい、俺に考える時間をくれ……。どうしてハルヒは上目遣いで執拗に俺との距離を詰めてくるんだ? い、いやそこじゃなくて、どうしてこの二人は俺の事をジョンと)
ハルヒ「えっと、あなたがその、みくるちゃんでいいのね? トイレのみくるちゃんじゃなくて」
みくる「はい、そうですぅ」
キョン(ヤバい、ついに俺は混乱し過ぎて日本語のリスニング能力に異常をきたし始めたらしい……)
ハルヒ「ジョンどうしたの? そんな変な顔しちゃって。まぁアンタはいつも変な顔だけど」ププッ
古泉「先ほど少し体調に異変があったみたいでして、混乱されているのでは」
ハルヒ「えぇぇーーッ!! ジョン、だいじょうぶ!?」
みくる「だいじょうぶですよ、涼宮さん! 未来からジョンくんの身体には問題ないと連絡が来てますっ!」
キョン(なッ!? なんだその会話!? さっきから冷静を装い続けている俺だが、そろそろビックリ水位の上昇が堰を切って溢れ出さんとしている……)
キョン「……あぁ、大丈夫だ。俺は元気だぞ」
ハルヒ「そ、ならよかった」
キョン(このSOS団はなにがどうなってるっていうんだ!?)
キョン(そう言えば、このSOS団に長門はいないのか……?)キョロキョロ
長門「……」トテトテ
キョン「おぉ長門! 居てくれたか!」
長門「……?」
キョン(やっぱり世界改変は検知できないのか……)
古泉「長門さんがエンドロールをすべて見終えたようですね」
キョン「あぁ、なるほどな。それで」
古泉「なるほどな、とおっしゃいますと?」
キョン「言葉の綾だ。気にすんな」
ハルヒ「有希も揃ったわね! みくるちゃんは……」
みくる「あっ、あの、あっちのあたしのことは気にしないでくださいぃ」
ハルヒ「そう? それじゃ、次はどの映画を見ようかしら!」
キョン「…………」
キョン(おかしい。明らかにおかしい。これはそろそろトボけて付き合うのは厳しいか。一旦家に戻ってハルヒ以外に再集合をかけよう)
キョン(とは言ってもさっき『体調が悪い』という言い訳が朝比奈さんのせいで使えなくなっちまったからな……)
キョン(どうする、なんて言い訳をする……。シャミセンが円形脱毛症になった、いやこれは一度使ったな……)
キョン「あー、すまんが、俺は一旦家に帰らせていただきたい。家で待つ妹が心配になってだな」
キョン(きっとこの世界のジョン君は妹思いのシスコン野郎だったに違いない!)
ハルヒ「アンタの家族、お母様のご実家に行ってるんでしょ? ほら、初恋の相手だった従姉妹が近くに住んでるとかいう地方に」
キョン(……やっちまった!)
ハルヒ「ふふん、このあたしに嘘を吐くなんて、ジョンのくせに生意気だ―! こうしてやるー! うりうりー!」
キョン「だはぁっ! や、やめんかハルヒ! 抱きつくな! 暴れるな! 顔をこすりつけるな!」
古泉「ほほえましい限りです」ンフ
みくる「ですねぇ」ポッ
長門「…………」
ハルヒ「ふーん、このあたしに隠し事。別にいいわよ? 不思議の一つや二つ、男なら隠しておくものよね」
キョン「勘弁してくれ……」
ハルヒ「でもね、浮気だけは絶対に許さないから」ニコッ
キョン(笑顔だが顔が笑ってねぇぜ、おい……)
キョン(ん? “浮気”、だと?)
キョン「まさか、俺とハルヒは付き合っているのか?」
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2010.08.10 (Tue) 10:05
????
キョン「―――――――――ッ!!!!! いってぇ!!!!! 頭が、割れるッ!!!!!」
古泉「おや、突然どうし……だ、大丈夫ですか!? 落ち着いて、深呼吸してください」
キョン「はぁ……はぁ……。な、なぁ古泉、さっきは何を言いかけたんだっけか……」
古泉「さっきですか? ええとですね、『どうして映画版ジャイアンは良いやつなのか』という話について、それはそもそもコミック版やアニメ版などの日常編における敵役だとしても映画版となれば日常組vs非日常組という構図になるのはストーリーメイキング上仕方なく……」
キョン(こいつ、一体、なんの、話を……くそっ、またアレかよ……過去改変による世界改変か……しかも俺が体感した中で一番どでかいやつだ……)ズキズキ
古泉「……決してジャイアンだけが特筆すべき存在ではない、ということを言おうとしていたのですが、そんなことよりお体大丈夫ですか?」
キョン「長話をしやがってホントに心配してるのかお前……? まぁ、身体のほうは大丈夫だ、心配するな」
古泉「本当ですか? 無理しないでくださいね」
キョン(どうも調子が狂うな……)
キョン(しかし参った。心の準備ができてないのはいつものことだが、こうも間断なく世界が改変させられると自分の記憶力が不安になるぜ)
キョン「えっと、ハルヒのやつはどこだっけか」
キョン(とにもかくにもまずはハルヒだ。さりげなく情報を吸い上げてやろう)
古泉「先ほど朝比奈さんとお手洗いに行かれたところですよ」
キョン(よかった、ハルヒは居る)
キョン(だがここは一体どこなんだ?……観察するに映画館の通路か?……もしかして、秋葉原から俺たちの街に帰ってきたのか?)
ガサゴソ
キョン(ん? 自販機の後ろに、誰か居る?……朝比奈さんか? でもどうして隠れてるんだ?)
ハルヒ「ジョン~! 待たせてゴメンネ~? さみしかったぁ?」ムニュ
キョン(その胸はやわらかかった……い、いやいや! 現実逃避しとる場合ではないッ! 今こいつなんて言った!? そしてなんだこの、俺の腕に絡みついてきたハルヒと、おっぱいは!)ドキッ
みくる「涼宮さぁん、待ってくださいぃ。ジョンくんは逃げませんよぅ」
ハルヒ「ジョンどうしたの? そんな変な顔しちゃって。まぁアンタはいつも変な顔だけど」ププッ
キョン「な……な……」
キョン(数秒でいい、俺に考える時間をくれ……。どうしてハルヒは上目遣いで執拗に俺との距離を詰めてくるんだ? かわいいじゃねーか! い、いやそこじゃなくて、どうしてこの二人は俺の事をジョンと)
古泉「先ほど少し体調に異変があったみたいでして、混乱されているのでは」
ハルヒ「えぇぇーーッ!! 大丈夫ジョン!? どこか痛いところはなぁい!? 救急車呼ぶ!?」ピ、ポ、パ
みくる「わわぁー、呼んだら来ちゃいますよぉー!」ガシッ
キョン「あ、あぁ! 救急車はいらん! 簡単に呼ぶな馬鹿野郎! えっと、ほら! 俺は元気だぞー!」アハハ
ハルヒ「そ、ならよかった。なんかいつも以上に挙動がおかしいわよ? フフッ」
キョン(このSOS団はなにがどうなってるっていうんだ!?)
キョン(そう言えば、このSOS団に長門はいないのか……?)キョロキョロ
長門「……」トテトテ
キョン「おぉ長門先生! 居てくれたか!」
長門「……?」
キョン(やっぱり世界改変は検知できないのか……)
古泉「長門さんがエンドロールをすべて見終えたようですね」
キョン「あぁ、なるほどな。それで」
古泉「なるほどな、とおっしゃいますと?」
キョン「言葉の綾だ。気にすんなこの野郎」
ハルヒ「有希も揃ったわね! それじゃ、次はどの映画を見ようかしら!」
キョン「……古泉、俺たちって映画館のはしごでもやってんのか?」
古泉「もしや自覚がなかったのですか?」
キョン「はぁ、さすがに2年目ともなると飽きるものかと思っていたが。そんなに映画好きだったとはな。そりゃ超監督をやるくらいだから、映画好きなのかアイツ」
古泉「おや、去年も涼宮さんと映画館のはしごをされたのですか? んっふ、うらやましい限りです」
キョン「…………」
キョン(おかしい。明らかにおかしい。これはそろそろトボけて付き合うのは厳しいか)
キョン「なぁハルヒ、みんな。悪い、俺、ちょっと本当に体調が悪くなっちまったみたいだ。今日は帰るよ。埋め合わせはまた今度するから」
キョン(一旦家に戻ってハルヒ以外に再集合をかけよう)
ハルヒ「えーっ!? ねぇみくるちゃん、ジョンが体調を悪くするのは規定事項だったの?」
みくる「えっと、そのような報告は未来から連絡されてませぇん」
キョン(なッ!? なんだその会話!? さっきから冷静を装い続けている俺だが、そろそろビックリ水位の上昇が堰を切って溢れ出さんとしている……)
ハルヒ「てことは仮病ね? ジョンのくせに生意気だ―! こうしてやるー! うりうりー!」
キョン「だはぁっ! や、やめんかハルヒ! 抱きつくな! 暴れるな! あぁいい匂い! 顔をこすりつけるな!」
古泉「ほほえましい限りです」フッ
みくる「ですねぇ」ポッ
長門「…………」
ハルヒ「で、なんで仮病なんか使おうとしたのよ。バカジョン」
キョン(どうする、なんて言い訳をする……。シャミセンが円形脱毛症になった、いやこれは一度使ったな……)
キョン「い、いや、それがだな、その……。家で待つ妹が心配になってだな」
キョン(きっとこの世界のジョン君は妹思いのシスコン野郎だったに違いない!)
ハルヒ「アンタの家族、お母様のご実家に行ってるんでしょ? ほら、アンタの“ハツコイ”の相手だった従姉妹が近くに住んでるとかいう田舎に」
キョン(手詰まりだ!)
ハルヒ「ふーん、このあたしに隠し事。別にいいわよ? 不思議の一つや二つ、男なら隠しておくものよね。それでこそ日本男児ってやつだわ」
キョン「勘弁してくれ……」
ガサゴソ
キョン(ん、なんだ? また自販機の裏に……)
ハルヒ「よそ見すんなッ!」グイッ
キョン「グエッ」
ハルヒ「その耳かっぽじってよく聞きなさい。浮気だけは“ゼッタイに”許さないから♪」ニコッ
キョン(だから顔が笑ってねぇってばよ!)
キョン(ん? “浮気”、だと?)
キョン「まさか、俺とハルヒは付き合っているのか?」
D 0.409417 4920656e767920796f75%
2010.08.10 (Tue) 10:07
????
キョン「えっと、ハルヒのやつはどこだっけか」
キョン(とにもかくにもまずはハルヒだ。さりげなく聞き出してやろう)
古泉「先ほど朝比奈さんとお手洗いに行かれたところですよ」
キョン(よかった、ハルヒは居る)
みくる「お待たせしましたぁ」トテトテ
キョン(だがここは一体どこなんだ? 大きな映画館のロビーのようだが……もしかして、秋葉原から俺たちの街に帰ってきたのか?)
ハルヒ「ジョン~! 待たせてゴメンネ~? さみしかったぁ?」ムニュ
キョン(その胸はやわらかかった……い、いやいや! 現実逃避しとる場合ではないッ! 今こいつなんて言った!? そしてなんだこの、俺の腕に絡みついてきたハルヒと、おっぱいは!)ドキッ
キョン「な……な……」
キョン(数秒でいい、俺に考える時間をくれ……。どうしてハルヒは上目遣いで執拗に俺との距離を詰めてくるんだ? い、いやそこじゃなくて、どうしてコイツは俺の事をジョンと)
ハルヒ「えっと、あなたがその、みくるちゃんでいいのね? トイレのみくるちゃんじゃなくて」
みくる「はい、そうですぅ……」
キョン(ヤバい、ついに俺は混乱し過ぎて日本語のリスニング能力に異常をきたし始めたらしい……)
ハルヒ「ジョンどうしたの? そんな変な顔しちゃって。まぁアンタはいつも変な顔だけど」ププッ
古泉「先ほど少し体調に異変があったみたいでして、混乱されているのでは」
ハルヒ「えぇぇーーッ!! ジョン、だいじょうぶ!?」
みくる「だいじょうぶですよ、涼宮さん。 未来からジョンくんの身体には問題ないと連絡が来てます」
キョン(なッ!? なんだその会話!? さっきから冷静を装い続けている俺だが、そろそろビックリ水位の上昇が堰を切って溢れ出さんとしている……)
キョン「……あぁ、大丈夫だ。俺は元気だぞ」
ハルヒ「そ、ならよかった」
みくる「…………」
キョン(このSOS団はなにがどうなってるっていうんだ!?)
キョン(そう言えば、このSOS団に長門はいないのか……?)キョロキョロ
長門「……」トテトテ
キョン「おぉ長門! 居てくれたか!」
長門「……?」
キョン(やっぱり世界改変は検知できないのか……)
古泉「長門さんがエンドロールをすべて見終えたようですね」
キョン「あぁ、なるほどな。それで」
古泉「なるほどな、とおっしゃいますと?」
キョン「言葉の綾だ。いちいち気にすんじゃねぇ」
ハルヒ「有希も揃ったわね! えっと……」
みくる「あっ、あの、あっちのあたしのことは気にしないでくださいぃ」
ハルヒ「そう? それじゃ、次はどの映画を見ようかしら!」
キョン「…………」
キョン(おかしい。明らかにおかしい。これはそろそろトボけて付き合うのは厳しいか)
キョン(一旦家に戻ってハルヒ以外に再集合をかけよう)
キョン(とは言ってもさっき『体調が悪い』という言い訳が朝比奈さんのせいで使えなくなっちまったからな……)
キョン(どうする、なんて言い訳をする……。シャミセンが円形脱毛症になった、いやこれは一度使ったな……)
みくる「えっと、ジョンくん!」クイッ
キョン「あ、はい? なんでしょう朝比奈さん」
キョン(そのちっこい先輩は俺の半そでシャツの腹部をついと摘まんで来た。なんと言うことだ、俺は“キョン”という呼称が恋しくなっていた)
みくる「えっと……とりあえず今は涼宮さんと一緒にいることを考えてくださいぃ」
キョン(……まさか、朝比奈さんはついに未来人属性からサイコメトラー属性へとジョブチェンジしてしまったというのか!?)
キョン「朝比奈さんがそう言うなら、わかりました。理由はもし教えてもらえるならいずれ」
みくる「はい! ありがとう、ジョンくん!」
ハルヒ「そこぉ。何をひそひそ話してるのかしら?」
みくる「ひぇっ」
キョン「あ、いや、なんでもないんだ。気にするな」アハハ
ハルヒ「ふーん、このあたしに隠し事。別にいいわよ? 不思議の一つや二つ、男なら隠しておくものよね」
みくる「あっ……」
キョン「勘弁してくれ……」
ハルヒ「でもね、浮気だけは絶対に許さないから」ニコッ
キョン(朝比奈先輩とそういう仲になれるのならばあれかしと祈るばかりだが……)
キョン(ん? “浮気”、だと?)
キョン「まさか、俺とハルヒは付き合っているのか?」
279 : ◆/CNkusgt9A - 2015/08/06 03:11:13.67 t01DjCqH0 211/1008更新遅くてホントごめん 今日8月6日の夜に続きを投稿したい(希望)
しばらくハルヒサイドの話が続きます。ゴメンネ!
(ループ演出は燻製ニシンの虚偽だったなんて言えない……)
<ヒント>
・時をかける少女(モロバレ)
・16進数%は、ハルヒ的変態パワーで作り出されたなんか変な世界線、程度の意味合い。 文字コード変換用
・下二桁、20→19→18→17→16への段階的な変化はなんかこう未来的な技術(すごい)
――――――――――――――――――――――――――
D 0.409420%
2010.08.10 (Tue) 10:03
未来ガジェット研究所
ハルヒ「……メール、準備できたわ」
岡部「こっちも準備万端だ。して、メールの内容は?」ヌッ
ハルヒ「お、乙女の秘密よ! 見るなバカ!」
岡部「……貴様もか。まぁ、別に構わんが」
岡部「さぁ、放電現象が始まったら送信しろ」
バチバチバチッ
ハルヒ「…………」
ハルヒ「……ジョン」ピッ
――――――――――――――――――――――――――
D 0.409416 4920656e767920796f75%
2010.08.10 (Tue) 10:05
????
キョン「―――――――――ッ!!!!! いってぇ!!!!! なんだこれ、いってぇぇぇぇ!!!! 頭が、頭が割れるッ!!!!!」
キョン(脳がかゆいッ!! 死ぬほど痒いッ!! 目と耳から指を突っ込んで掻き毟りたいくらいだッ!!)
古泉「おや、突然どうし……だ、大丈夫ですか!? 落ち着いて、深呼吸してください。はい、ひっひっふー」
キョン「はぁ……はぁ……。な、なぁ古泉、さっきは何を言いかけたんだっけか……」
古泉「ええとですね、『なぜ日本映画は比較的海外進出しにくいのか』という話について、そもそも映画業界が斜陽産業と呼ばれていた時代から脱するためにテレビ局や広告代理店が映画を企画し始めたため……」
キョン(こいつ、一体、なんの、話を……くそっ、またアレかよ……過去改変による世界改変か……。しかも俺が体感した中で一番どでかいやつだ……)ズキズキ
古泉「……国内向けビジネスとして特化してしまった、ということを言おうとしていたのですが、そんなことよりお体大丈夫ですか?」
キョン「長話をしやがってホントに心配してるのかお前……? まぁ、身体のほうは大丈夫だ、心配するな」
古泉「本当ですか? 何かあったらすぐ言ってくださいね」
キョン(どうも調子が狂うな……)
キョン(しかし参った。心の準備ができてないのはいつものことだが、こうも間断なく世界が改変させられると自分の記憶力が不安になるぜ)
キョン「えっと、ハルヒのやつはどこだっけか」
キョン(兎にも角にもまずはハルヒだ。さりげなく情報を吸い上げてやろう)
古泉「先ほど朝比奈さんとお手洗いに行かれたところですよ。連れション、というやつでしょうか」ンフ
キョン(よかった、ハルヒは居る。あと古泉は一回殴る)
キョン(だがここは一体どこなんだ?……観察するに映画館の通路か?……もしかして、秋葉原から俺たちの街に帰ってきたのか?)
みくる「はぁ……はぁ……、あ、古泉くん! と、……」トテトテ
キョン「あぁ、朝比奈さん。って、どちらへ行かれるんですか?」
みくる「ちょっと買い物に行ってきまぁす!」トテトテ
キョン(?)
ハルヒ「ジョン~! 待たせてゴメンネ~? さみしかったぁ?」ムニュ
キョン(その胸はやわらかかった……い、いやいや! 現実逃避しとる場合ではないッ! 今こいつなんて言った!? そしてなんだこの、俺の腕に絡みついてきたハルヒと、おっぱいは!)ドキッ
みくる「涼宮さぁん、待ってくださいぃ。ジョンくんは逃げませんよぅ」
ハルヒ「ジョンどうしたの? そんな変な顔しちゃって。まぁアンタはいつも変な顔だけど」ププッ
キョン「な……な……」
キョン(数秒でいい、俺に考える時間をくれ……。どうしてハルヒは上目遣いで執拗に俺との距離を詰めてくるんだ? い、いやそこじゃなくて、どうしてこの二人は俺の事をジョンと呼んでいるんだ!?)
キョン(それだけじゃない。俺はたしかに映画館を出る方向に走っていった朝比奈さんを確認している。それじゃこのトイレから出てきた朝比奈さんは誰なんだ!?)
古泉「先ほど少し体調に異変があったみたいでして、混乱されているのでは」
ハルヒ「えぇぇーーッ!! 大丈夫ジョン!? どこか痛いところはなぁい!? 救急車呼ぶ!?」ピ、ポ、パ
みくる「わわぁー、呼んだら来ちゃいますよぉー!」ガシッ
キョン「あ、あぁ! 救急車はいらん! 簡単に呼ぶな馬鹿野郎! えっと、ほら! 俺は元気だぞー!」アハハ
ハルヒ「そ、ならよかった。なんかいつも以上に挙動がおかしいわよ? フフッ」
キョン(このSOS団はなにがどうなってるっていうんだ!? あ、朝比奈さんが二人!?)
キョン(そう言えば、このSOS団に長門はいないのか……?)キョロキョロ
長門「……」トテトテ
キョン「おぉ長門! 居てくれたか!」
長門「……?」
キョン(やっぱり世界改変は検知できないのか……)
古泉「長門さんがエンドロールをすべて見終えたようですね」
キョン「あぁ、なるほどな。それで」
古泉「なるほどな、とおっしゃいますと?」
キョン「言葉の綾だって何回言ったらわかるんだ」
キョン(ん? なんで“何回言ったら”なんて言ったんだ、俺……)
ハルヒ「有希も揃ったわね! それじゃ、次はどの映画を見ようかしら!」
キョン「……古泉、俺たちって映画館のはしごでもやってんのか?」
古泉「もしや自覚がなかったのですか?」
キョン「はぁ、さすがに2年目ともなると飽きるものかと思っていたが」
古泉「おや、去年も涼宮さんと映画館のはしごをされたのですか? んっふ、うらやましい限りです」
キョン「…………」
キョン(おかしい。明らかにおかしい。これはそろそろトボけて付き合うのは厳しいか)
キョン「なぁハルヒ、みんな。悪い、俺、ちょっと本当に体調が悪くなっちまったみたいだ。今日は帰るよ」
キョン(一旦家に戻ってハルヒ以外に再集合をかけよう、と思ったが、これは失敗する気がするな……)
ハルヒ「えーっ。ねぇみくるちゃん、ジョンが体調を悪くするのは規定事項だったの?」
みくる「えっと、そのような報告は未来から連絡されてませぇん」
キョン(なッ!? なんだその会話!? さっきから冷静を装い続けている俺だが、そろそろビックリ水位の上昇が堰を切って溢れ出さんとしている……)
ハルヒ「てことは仮病ね? ジョンのくせに生意気だ―! こうしてやるー! うりうりー!」
キョン「だはぁっ! や、やめんかバカハルヒ! 抱きつくな! 暴れるな! 顔をこすりつけるな!」
古泉「ほほえましい限りです」ンフ
みくる「ですねぇ」ポッ
長門「…………」
ハルヒ「で、なんで仮病なんか使おうとしたのよ」
キョン(どうする、なんて言い訳をする……。シャミセンが円形脱毛症になった、いやこれは一度使ったな……)
キョン「い、いや、それがだな、その……。家で待つ妹が心配になってだな」
キョン(きっとこの世界のジョン君は妹思いのシスコン野郎だったに違いない!)
ハルヒ「アンタの家族、お母様のご実家に行ってるんでしょ? ほら、アンタの“ハツコイ”の相手だった従姉妹が近くに住んでるとかいう地方に」
キョン(なんとなくそんな気がしていた!)
ハルヒ「ふーん、このあたしに隠し事。別にいいわよ? 不思議の一つや二つ、男なら隠しておくものよね」
キョン「勘弁してくれ……」
ガサゴソ
キョン(ん、なんだ? 自販機の裏に……二人目の朝比奈さんか?)
ハルヒ「よそ見すんなッ!」グイッ
キョン「グエッ」
ハルヒ「その耳かっぽじってよく聞きなさい。浮気だけは“ゼッタイに”許さないから♪」ニコッ
キョン(何度見てもおっかねぇ顔だぜ……)
キョン(ん? “浮気”、だと?)
キョン「まさか、俺とハルヒは付きモガフッ!!!グフッ!!フゴッ!!」
みくる(?)「は、はぁ……はぁ……。しゃ、しゃべらないでくださいぃ!」
キョン「バザビナザン!!ビギガ!!ビギガドバドゥ!!ジヌ!!」ジタバタ
ハルヒ「ちょ、ちょっとみくるちゃん!? さっきまでこっちに居たような、って居る?」
みくる「あ、あれぇー、あたしがもう一人いますぅ」
みくる(未)「えっと、あたしはちょっとだけ未来から来たみくるですぅ」
みくる「あ、どうもー」
みくる(未)「どうもー」
古泉「大変です涼宮さん! 彼が息をしていません!」
キョン「」
みくる(未)「4回目にしてやっと成功しましたぁ」
キョン「頑丈そうな布地の両端を両手で持って背後から頭部をひっかける形で鼻と口を塞ぐとか……。もうちょっとお手柔らかにできなかったんですか……」ゴホッ
ハルヒ「みくるちゃん、よくわからないけどGJよ!」
みくる(未)「わぁい」
古泉「おや、4回も挑戦したということは、4人の朝比奈さんがいないとおかしいのでは?」
みくる(未)「えっと、ちょっとした小技を使ったんです。ほんのちょっとずつ時間平面に開ける穴をずらすように分岐点を探し出してあげれば、【禁則事項】と組み合わせて【禁則事項】になるんです。あっ、これは禁則事項でした……ごめんなさい」
キョン「なんなんだこの世界は……」
みくる(未)「涼宮さん、ちょっとこっちで、こっちのあたしさんと二人きりでお話がしたいんですけど、いいですか?」
ハルヒ「許可する!!」ドヤァ
みくる「ありがとうございますぅ」
みくる(未)「失礼しまぁす」
キョン(このハルヒの満足そうな笑顔よ)
キョン(というか、タイムトラベルまでして俺の口をふさいだってことは、相当にあの発言は禁句だったということか……。仕方ない、ハルヒの彼氏ジョン君を演じよう。これは不可抗力である)
みくる「それで、何が起こったの? あの時のジョンくんの言葉?」
みくる(未)「そう。ジョンくんは、自分と涼宮さんが付き合ってることを疑問に思って、それがきっかけで別れ話に発展します」
みくる「えっ……」
みくる(未)「原因は世界外部からの干渉によってジョンくんの記憶が書き換えられたこと。これは本来あたしたちの時間線のSTCデータには無い事項、特大のイレギュラーでした」
みくる「ひぇぇ……」
みくる(未)「規定事項が次々に破綻し、大量の時空震動が観測されたから未来は大混乱。分岐と収斂を繰り返してあたしという存在自体が消えかかったりしました。時空断層を構築されなかったのが不幸中の幸い」
みくる「はゎゎ……」
みくる(未)「最初の世界線では、別れ話の後いろいろあって、涼宮さんが絶望を感じてしまって、久しぶりに閉鎖空間を展開します。それも地球規模で」
みくる「うん……」
みくる(未)「古泉くんたちの機関は壊滅状態、長門さんたちの攻勢も長くは持たなかった。時間線も存在が曖昧なものになってしまって、そんな中にあってなんとか世界線理論的過去改変の実行許可を取り付けたあたしは近接世界の過去に飛んだの」
みくる「そっかぁ……」
みくる(未)「それで世界を4回やり直して、なんとかこの世界線に来れたの……」グスッ
みくる「……つらかったね」グスッ
みくる(未)「うん……つらかったよぉ、ふぇぇ」ダキッ
みくる(未)「まもなくSTCデータの上書きが完了すると思います」
みくる「うん……」
みくる(未)「次の世界線の変更と同時に、あたしという存在はその世界線に再構成される」
みくる「…………」
みくる(未)「たぶん、その世界線のあなたと合体するようなことになると思うんだけど、あたしの記憶は全部なかったことになる」
みくる「うん……」
みくる(未)「実質、あたしが消えちゃうんだよね……えへへ……」グスッ
みくる「……こうして抱きしめていれば、怖くないです」ダキッ
みくる(未)「……うん、ありがとう、あたし」ギュッ
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2010.08.10 (Tue) 19:07 北口駅前
キョン(結局映画館のはしごに遅くまで付き合わされてしまった。中は冷房施設ではあるが、外気温との寒暖の差のせいか、ちょっとめまいがした)
キョン(ハルヒのやつ、執拗なまでに俺のことを束縛しやがって……まぁ、色々柔らかかったことは脳裏に焼き付けておこう)
ハルヒ「みんなまた明日ねー! 明日は昆虫採集、セミ取り合戦よ!」
キョン(どうも去年のエンドレス夏休みの無制限イニング延長戦に突入しているような気分だ)
みくる「あ、あの、ジョンくん……」
みくる(ジョンくんはどうして記憶が書き換わっちゃったんだろう……)
キョン(この朝比奈さんは未来から来たほうなのか、元々居たほうなのか、どっちなんだろうな。みちるさんの時を考えると未来から来たほうなのかもしれない)
ハルヒ「さ、ジョン。帰るわよ」グイッ
みくる「あっ……」
キョン「おい、引っ張るなハルヒ。朝比奈さん、また明日」
みくる「は、はい……」
キョン「それじゃ、踏切まで一緒に行くか」
ハルヒ「は? 何か用事でもあんの?」
キョン「え?」
ハルヒ「ん?」
キョン「……あ、あぁ。そうだったな。お前の家まで見送ってやろう」
ハルヒ「アンタさっきからなに頓珍漢なこと言ってるの?」
キョン「……これもハズれたか」
ハルヒ「もしかして、あたしの家に居づらくなった……?」ウルッ
キョン(上目遣いはやめろ! くそ、ハルヒが女の武器を意識的に使うようになるとこんなにも攻撃力がアップするとは!! というか、なにか? この世界の俺はこのハルヒと一つ屋根の下で暮らしているとでも言うのか! うらやま、じゃなかった、けしからん!! けしからんぞ!! お父さん許しませんからね!!)
ハルヒ「……?」
キョン「そそそ、そんなことは断じてないぞ! お前の手作り飯が美味いことは俺の胃袋が重々承知しているんだ! あぁ今日はお前のお母様が飯当番なのか!? たとえ味音痴な飯マズ嫁だったとしても一向に構わん! ちょっと今日は、ホントに、家に帰んないとヤバいんだって! 頼む! この通りだ!」
ハルヒ「うぇーんジョンが浮気してるー!! あたしとは遊びだったのねー!!」ビェェ
キョン「往来で変なことを言うな!! なぁ、どうしたら俺を家に帰してくれるんだよ!!」
キョン(ハルヒの家に行ってみろ、絶対に古泉や長門、朝比奈さんたちと相談する隙を得ることはできない!)
ハルヒ「じゃーあたしもジョンの家行くー♪」ダキッ
キョン(本末転倒だーッ!?)
2010.08.10 (Tue) 19:30
喫茶店 珈琲屋夢<ドリーム>
キョン(とりあえず晩飯をおごるという条件で喫茶店に逗留することに成功した。が、その場しのぎにしかならないことは百も承知だ)
ハルヒ「♪」モグモグ
キョン(どういうわけかわからんがこのハルヒは蜂蜜ヌガーのように俺にべったりとくっついて離れない……)
キョン(それからどうでもいいことだが、『ジョン』と呼ばれ続けた俺の瞼の裏には、光陽園学園の制服を着たハルヒの不遜な顔がちらついていた。あぁ、懐かしいじゃねぇか)
喜緑「ご注文の品はすべてお揃いでしょうか。伝票こちらに置いておきますね」ニコッ
キョン「あ、どうも」
キョン(この人まだここで働いてたのか。こっちの喜緑さんも情報統合思念体の総意の代表なんだろうか)
キョン「……なぁハルヒ。昔話をしないか?」
ハルヒ「んー?」モグモグ
キョン「お前が俺の正体を『ジョン・スミス』だと知ったのは、どういう経緯だったんだっけか」
ハルヒ「タイムトラベルの後遺症かしら、ジョンって時々記憶力に問題があるわよね。でも心配しないで! 今年もしっかりテスト勉強の面倒はあたしが見てあげるから!」ゴックン!プハーッ!
キョン(ム、ムカつくが、耐えろ、耐えろ俺……)
ハルヒ「ハッキリバッチリ確定したのは去年の七夕でしょー、アンタの自己申告で」
ハルヒ「でも4年前の夏ごろには特定してたわけ。それはジョンがよく覚えてるでしょ?」
ハルヒ「中学生のほうのアンタには結局声かけられなかったけど……。未来が変わっちゃうんじゃないかと思ったら不安だったのよ」
ハルヒ「同い年ってのはわかってたし、あたしが北高に入学すれば良いだけだしね。3年間退屈だったけど、ジョンのおかげでそれなりにやってけたわ」
ハルヒ「入学式の日、偶然にもアンタの真後ろになって、ニヤニヤを隠すのが大変だったわねぇ」ニヤニヤ
キョン(コイツ、思い出し笑いしてやがる……)
ハルヒ「まぁ、それからのアンタは『俺はジョンじゃない! 変なあだ名を増やすな!』の一点張りでめんどくさかったけど」
キョン(ということは、4年前の七夕の日に中学生ハルヒがジョンの正体、おそらく俺の生年月日と本名あたりを特定できた、という点が過去改変されてるわけか……)
キョン「なぁハルヒ。4年前の七夕の日、変なメールを受け取ってなかったか? 例えば、未来から来たメールとか」
ハルヒ「んー?…………!!!???」ガタッ
ハルヒ「……」ギロッ
キョン(ん? 突然表情が変わった。これは核心か……?)
ハルヒ「ねぇ、ジョン」
キョン「なんだ」
ハルヒ「アンタ、誰」
キョン「……!? な、なにを突然ななな何を言ってるんだハルヒさん!! 俺は至って普通のどこにでもいるジョン・スミスじゃないか!」アハハ
ハルヒ「あたしはあの宇宙からのメッセージのことは誰にも話したことがない。たとえタイムトラベラーのジョンやみくるちゃんでもね」
キョン(う、宇宙からのメッセージ?)
ハルヒ「あたしのジョンはどこにいったの!? アンタは誰なの!? 答えなさいッ!!」バンッ!
キョン「そんな不審者を見るような目つきはやめてくれ……胃が痛む……」
ハルヒ「……うーん、でもアンタも確かに人畜無害そうなジョンではあるのよね」ジロジロ
ハルヒ「ねぇ、一体なにが起こってるの? 怒らないから話して御覧なさいよ」
キョン「それは絶対怒るための前口上だろうが。これはもう、正直にゲロっちまった方がいいのか……」
ハルヒ「……ねぇ」
ハルヒ「…………」
ハルヒ「……あたしのジョンは、生きてるの?」ウルッ
キョン(……愛されてんなぁ、どこぞのジョン・スミスさんよぉ)
キョン「大丈夫だ、ジョンは生きてる。俺の中でな」
ハルヒ「……そ。ならいいわ」
キョン(わからんが、そういうことにしておこう)
ハルヒ「いえ、良くないわ! ってことは、突然あたしの彼氏になりかわったどこの馬の骨ともわからないやつを、ぶッ飛ばすこともできないじゃない! カーッ、アンタいったいなんなのよ!」バンッ
キョン「あ、あぁ。俺はだな、その、なんつったらいーか……。あれだ、異世界人だ」
キョン(ええいままよ! 『ジョン・スミス』という切り札が既に切られている状況だ、こういう話をしても大丈夫だろう!)
ハルヒ「異世界人……」ポカン
キョン「お前が生きてきたであろうこの世界に実によく似た世界からやってきた。いや、やってきたというか、あっちのお前が俺をこっちに送り込んだんだけどな……」
ハルヒ「あ、あっちのあたし?」
キョン「そうだ。ある事実を確認するためにな。それはさっき話してた、未来からのメールだ。お前が宇宙からのメッセージだと勘違いしてるやつだ」
ハルヒ「勘違い……。ねぇ、じゃぁあれを書いたのは」
キョン「あっちのハルヒだ」
ハルヒ「あっちのあたし……。そう、そうだったの……」
キョン(普通ならすんなり受け入れられる話ではないが。今回ばかりは長門の無表情並にコイツがなにを考えているのかさっぱりわからん)
ハルヒ「ふざけんじゃないわよ……。それって、まったく……」
キョン(怒ってるのか……?)
ハルヒ「サイッコーに、おもしろいじゃない!!!!!!」
キョン(くくっ、やっぱりハルヒはハルヒだったか……!!)
キョン「ってお前、店内で大声を出すな!」
ハルヒ「ってことはなに!? 異世界のあたしはついに異世界の、しかも過去にメッセージを送る能力を手に入れたってことなのね! なんてすばらしいの!」
ハルヒ「いつもジョンやみくるちゃんがうらやましかったのよねー、お手軽にタイムトラベルできて! どうしてあたしにはできないのかって!」
キョン「朝比奈さんも自由に時間移動できるわけじゃないんだけどな」
ハルヒ「あーっ、もう! うらやましいわーそっちの世界のあたし! なんでこんなにあたしだけ平凡なのかしら!」
ハルヒ「古泉くんは絶対裏でなにかやってるし、有希もなんだか知らないけど超人的な能力を持ってるっぽいのに! あたしだけ! 平凡!!」
キョン(本当はお前が一番ぶっ飛んでるんだとは言えないな……。というかこのハルヒはここまで暴露されていてまだ自分の能力に気づいてないのか。あるいは、本当に持ち合わせてないのか……?)
ハルヒ「あっちのあたしは、アンタと付き合ってないのね?」
キョン「えぶはっ!?……まぁ、そうだが」
ハルヒ「なるほどね、そういうこと……。つまり、異世界のあたしが叶えられなかったことを、あの日、こっちのあたしに託した、ってことなのね」
キョン(こいつの頭の回転が無駄に速いことに救われる日が来るとはな)
キョン「『恋愛感情は一時の気の迷いで精神病の一種』だと御高説をのたまったのはなんだったんだ」
ハルヒ「何の話よ……。あぁ、なるほど。ジョンと付き合ってないあたしならそういうこと言うかも。ふふ、おもしろいわね異世界人!」
キョン(ということはなんだ。元の世界でも、やっぱりハルヒは俺の事を……)
ハルヒ「言っとくけど勘違いしないでよね。あたしはアンタの不思議属性に惹かれてただけなんだから」
ハルヒ「去年の7月まではずーっと苦痛だったわ。こんなつまらない、退屈を絵に描いたような奴がどうしてあたしの白馬の……あたしと関わり合いを持ったのか、ずっとイライラしっぱなしだったんだからね!」
キョン(おそらくこれはツンデレではない。くぅ……)
キョン「よくそんなやつと今の今まで付き合っていられたな。俺が見た限りではラブラブバカップルだったぞ」
ハルヒ「まぁ、色々あったのよ。童貞のアンタに教える義理は無いわ」
キョン「なんでわかった!? あっ……」
ハルヒ「やっぱり。反応が初々しいを通り越してウブ過ぎたのよね」プププ
キョン(くそ、まんまとカマかけに嵌ってしまった)
キョン「……ん? 童貞の“アンタ”? 待てよ、まさか」
ハルヒ「それ以上詮索したら殺す……。精神的に殺す……」ゴゴゴ
キョン(ジョンの野郎、許さない絶対にだ……ッ!!)
ハルヒ「紛らわしいからアンタのことをジョンって呼ぶのをやめるわ。谷口たちがキョンって呼んでたっけ。じゃーキョンで」
キョン(異世界に来てもキョンと呼ばれる運命なんだな、俺は)
キョン「まぁともかくだ。その未来からのメールの内容を教えてくれ。それが俺の知りたい事、というか知るべき事だ」
ハルヒ「……絶対に教えない」
キョン「……は、はぁ!? 俺が元の世界に戻れないかも知れないんだぞ!?」
ハルヒ「それだけは絶対に嫌。死んでも嫌。元の世界に帰りたいなら他の方法を探しなさい」
キョン「なにがそんなに嫌なんだ」
ハルヒ「あれはあたしだけの特別なの! あれを書いた別世界のあたしも、絶対アンタには見られたくないって思ってるはずよ! キョンに見せるくらいなら死んだほうがマシ!」
キョン「おいおいハルヒ様よぉ、それはお前の愛しのジョンが戻ってこないってことなんだとわかって言ってるんだろうなぁ。え?」
ハルヒ「…………」
ハルヒ「…………」グスッ
キョン「あっ」
ハルヒ「バカぁ……死んじゃぇ……この、殺人者ぁ……うぐぅ……」
キョン「あぁ……その、なんだ。……すまん」
ハルヒ「グスッ……すまんで済んだら警察は要らないわよぉ……こっちは恋人人質に取られてんのよぉ……」
キョン「……飯、おごるよ」
ハルヒ「当たり前でしょ……。もう、いいから早くどっか行って……」
キョン「あ、あぁ……。ホントに、済まなかった」
ハルヒ「早く消えて!!! あたしのジョンの顔と声でしゃべるな!!! この、このぉ!!!」ブンッ
キョン「おわ! 灰皿を投げるな!! わ、わかったよ、出てくから……」
ハルヒ「……グスッ……ヒグッ」
キョン「……」カランコロンカラーン
喜緑「……またのご来店をお待ちしております」
2010.08.10 (Tue) 20:21
キョン自宅周辺
キョン(俺にとって未来からのメッセージと言えばファンシーな手紙が下駄箱の中に伝説のラブレターよろしく意味不明な記号群やなにやら可愛らしくも几帳面な書体の直筆文で届けられるアナログチックなものだったが、それが電子メールに取って代わって無機質な活字を媒体経由でデジタルデータ解析しなければならないとは、時代の波には抗えないようだ)
キョン「こりゃハルヒから聞き出すのは時間がかかりそうだ。しっかし、泣いて笑って怒って喜んで、忙しいやつだな」トボトボ
キョン(……ホント、ヒトの気持ちがわからないやつは最低だな。いや、この世界の記憶を持ってないんだからある程度仕方ないと思うが、それにしてもなぁ……)
キョン「ただいまーっと、うちのもんは誰もいないんだったっけ」ガチャ
??「おかえり、キョンくん」
キョン「あぁ、ただいま……って、誰だ!? スーツの、女性……。あ、朝比奈さん!?」
みくる(大)「なんてね。ビックリした? あ、住居不法侵入で通報しないでね」
キョン「あ、いえ、それはもちろんですが、いったいどうしてこの時代に?」
みくる(大)「色々積もる話もあるんだけど、それはまたいつか。簡潔に説明するね、あまり時間がないから」
キョン「時間が、ない……?」
みくる(大)「あなたは元の世界に戻らなければならない。ですよね」
みくる(大)「正確に言えば、過去改変のキッカケとなった事象を相殺することによって、この世界線を元の世界線変動率<ダイバージェンス>に近似した世界線に変更しなければならない」
キョン「事象を相殺するって、どうやってです? またあの七夕の日に行って大立ち回りを繰り広げればいいんでしょうか」
みくる(大)「そんなところなんだけど、よく聞いてね」
みくる(大)「今回対象となってる事象は時間平面理論における分岐点とはなりえないの。世界線理論で言うところの世界線収束範囲<アトラクタフィールド>の収束のようなもの」
みくる(大)「つまり、これからわたしとタイムトラベルしてあの日へ行っても、この世界の根幹を成り立たせているDメール受信とそれに伴う中学生の涼宮さんの行動から生じる因果律だけは変えることができない」
キョン(時間平面理論ってのはたしか、ハルヒが文芸部会誌に掲載した『世界を大いに盛り上げるためのその一・明日に向かう方程式覚え書き』とかいう落書きと、罪のないカメを真冬の川に投擲する作業の賜物だったと記憶しているが……)
キョン「……つ、つまり?」
みくる(大)「簡単に言うと、実力行使による事象の改変は大幅な世界線変動をもたらさない、ってこと」
キョン「それじゃぁどうやって事象を相殺する、というか世界を変えるんです?」
みくる(大)「あなたもDメールを送るの。涼宮さんの行動を元通りにするような内容のものを」
キョン「ですが、Dメール送信による過去改変はこの世界でも通用するんですか? てっきり秋葉原の、未来ガジェット研究所とかいうところのへんてこマシンは機能しなくなってるものだと」
みくる(大)「あら、それはどうして?」
キョン「たしか長門は、ハルヒの“過去を改変したい”という願望があったからDメールなるものが実用化されたとか言ってたので……。ということは」
みくる(大)「そう。この世界の涼宮さんも過去を変えたいと願っているということ」
キョン「あ、あの恋愛病罹患者のハルヒが!? いったいアイツがどんな過去を変えたいと?」
みくる(大)「あなたと付き合ったことをやり直したいと思ってるみたいよ」
キョン「…………」
キョン(あれ、なんだろう。俺のことじゃないとわかっているのに、涙が……)ツー
みくる(大)「あ、言い方が悪かったわ! ごめんなさい! えっとね、キョンくん。要はその、宝物はストーリーの最後に発見すべきっていう法則というか!」アセッ
キョン「は、はい?」
みくる(大)「なんかね、ラブコメ要素を抜きにしちゃって最初からラブラブしてるのはつまらないって思ってるみたいなのよ」
みくる(大)「付き合う前の、お互い好き合ってるのに気持ちを伝えられないドキドキ、そのせいで発生するすれ違いやハプニング……。そういう学生生活を経験したかったらしいわ」
キョン「……あの野郎、どこまでも自分勝手なことを。振り回されるこっちの身にもなってくれよ、まったく」ヤレヤレ
みくる(大)「キョンくーん? 顔がにやけてるぞ♪」
キョン「そう言えば、どうして時間が無いんですか? 過去改変なら、去年の冬の世界改変の、再改変の時みたいにいつまでも猶予があるんじゃ」
みくる(大)「……涼宮さんの過去改変の力はとても強力で、現在進行形で元の世界線からの収束力が弱くなっていて、現在世界線が現アトラクタフィールドから離脱しようとしているの」
みくる(大)「時間線が収斂を忘れて分岐したままになってしまうとも言える。まるで太い縄の糸がほつれて二度と結びつかなくなるように」
キョン「えっと……?」
みくる(大)「メモ用紙2枚とペンを借りるね……。今キョンくんが居るこの世界線を仮にα´という直線だとして……、キョンくんが今日の朝までいた元の世界線をαとすると……、こう」
キョン「二枚の紙に、それぞれ一本ずつの直線ですね」
みくる(大)「そしてこの1枚の紙で構成されてる二次元平面がアトラクタフィールド。他にもいっぱい世界線はアトラクタフィールド上にあると仮定できるけど、とりあえずこの1本ずつね」
みくる(大)「通常のアトラクタフィールドの世界線がαの紙面上。そして、こっちのα´の世界線が涼宮さんの過去改変によって生み出されたアトラクタフィールド。それが、位相を変える形で交差しているの。こんな風に」エイッ
キョン「片方の紙の平面部に、もう片方の紙の端っこを垂直にあてて、“T”のような状態になりましたね」
みくる(大)「この2本、というか2枚の中身がほとんど一緒だったのは今から4年前の七夕の日。時間平面理論でいうところの超大型時空震が発生した時点ね。ここからα´が分岐発生したと考えてもよくて、そこから現在までは4年の月日が流れてる」
みくる(大)「そして今日、改変が起こってキョン君はα平面からα´平面に移動した。そう考えてるわね?」
キョン「はい。違うんですか?」
みくる(大)「実は世界全体が改変されているの。だから正しく言えば、“世界”という唯一無二の存在が今まで着てたαという服を脱ぎ捨てて、α´という服に着替えてしまった、っていう感じかな」
みくる(大)「この時、時空震は発生しない。もしかしたら発生してるのかもしれないけれど、改変によって無かったことになるから観測できないの」
キョン「パラレルワールド、じゃないってことか……」
みくる(大)「パラレルワールドとも仮定できるけどね。ホント、コペンハーゲン解釈とエヴェレット・ホイーラー・モデルのいいとこどりってズルいわね」
みくる(大)「これとわたしたち側の未来人のタイムトラベルを組み合わせられる、2006年から2034年の間はちょっとした小技が使えちゃうわけだけど、バタフライ効果を考えるとあんまりやりたくないのよね」ハァ
キョン(未来人によってタイムトラベルの仕方が異なるのか。TPDD<タイムプレーンデストロイトデバイス>は結局、パラパラ漫画に鉛筆を突き刺すイメージのタイムトラベルで合っているのか?)
キョン(そういや、あの憎々しい顔の藤原とかいう野郎も別の世界線、あるいは時間線から分岐前までやってきた存在だったんだろうか。まぁ、ハルヒがそっちの時間線側に時間断層を作ったらしいから、古泉の言う通り二度と現れることは無いんだろうが)
キョン(ええい、ややこしいな。考察したところで俺の海馬傍回は見事に記憶を長期保存することを拒んでいるようだ)
キョン「そういえば、2034年まで、というのは?」
キョン(長門もそんなこと言ってたっけか)
みくる(大)「涼宮さんの力で新しく発生した時空間関係のシステム……、わたしたちは世界線系タイムトラベルとか、アトラクタフィールド理論、世界線理論、リーディングシュタイナー系タイムトラベルなどと呼んでいるんだけどね」
キョン(リ、リーディングシュタイナーだと! あの岡部某の話は全部が全部ホラじゃなかったのか……)
みくる(大)「こっちのシステムには時限措置が取られていたの。去年の七夕の日、涼宮さんが短冊になんて書いたか覚えてる?」
キョン(突然何の話だ……? 短冊になんの関係が?)
キョン「えーっと、『地球の自転を逆にしてくれ』ってのと『自分中心に世界が回れ』でしたっけ?」
みくる(大)「そう。それはこっちのα´世界線でも一緒。それが16年後と25年後に叶う。彦星のアルタイルまで16光年、織姫のアークライトまで25光年ね」
キョン(アークライトってのはベガの別名だったか)
みくる(大)「後者の願いが2009年から見て25年後の2034年に叶うわ。これによって世界線系のタイムマシンはそれ以降新規開発が不可能になった。開発が不可能になっただけで、既存のマシンは普通に使えたみたい。理屈はよくわからないけど」
キョン(2025年には地球の自転が逆になるのかという野暮な質問はやめておこう)
みくる(大)「ともかく、時間が無いっていうのは、αとα´が互いに干渉不可能なほど独立してしまうまでの時間が無いということ」
みくる(大)「このメモに書いた例でいうと、まずα´平面上にα平面と交わっている線と仮定できる直線を書いて……、これをα´平面上のα世界線とします」
キョン(このα´の紙に新しく書いた直線ってのがさっきの“T”の付け根の部分ってことか)
みくる(大)「αの直線はこのまままっすぐ伸びるとして、今わたしたちが居るα´世界線は……えいっ」ビリビリ
キョン(α直線とα´直線のあいだの部分を平行にメモ紙の半分くらいまで破いた? そしてα´が書かれていたほうを持ち上げて……、ひねった?)
みくる(大)「α´はこんな風に、三次元座標的に独立した、二度とαと干渉しないベクトルとして進んでいくことになる。わたしたちはこの変な世界線を時間平面演算の関係から16進数アトラクタフィールドと呼んでいるわ」
みくる(大)「こうなってしまうと適切な過去改変を実行したところでα´の世界線の性質そのものが変化してしまって、元のαへと世界が改変されることは永遠に不可能になるの」
キョン「あれ? ってことは、今俺の目の前にいる朝比奈さんはα´の未来から来たってことなんですよね?」
みくる(大)「そう。キョンくん自身が今まで接触してきたわたしとは別の世界線、しかも別のアトラクタフィールドの出身ということになるわね」
みくる(大)「だけどやってることも記憶もほとんど同じはずだし、同じ人だと思ってくれて大丈夫よ。それに今日の改変前まではあなたの知ってるわたしと全く同じ存在だったはずだから。αとα´は、ほとんど同じ世界なの。今のキョンくんを除いてね」
キョン「むむむ……」
キョン「……朝比奈さん(大)にとって、元の世界線に戻るメリットってあるんですか」
みくる(大)「このままだと近い将来ディストピアになってしまう。わたしは直接体験することはなかったけれど、涼宮さんたちにとって良い未来とは言えないし、超未来においてディストピア社会とわたしたちの組織との衝突もできれば避けたい。今のところわたしたちは専守防衛に徹しているけど」
キョン「ディストピア……。ジョン・タイターの言ってた通りか。でも、朝比奈さん(大)がディストピアより未来から来たってことは……」
みくる(大)「完ぺきな統制社会とは言っても1世紀も続かなかったわ。首脳陣の利権がこじれたのが原因だとか。その頃には2034年製タイムマシンも経年劣化で使い物にならなくなってたしね」
キョン「でも、α世界線に戻ってもディストピアになる運命は変わらないとジョン・タイターは言っていたらしいんですが」
みくる(大)「αならその運命を変えられる可能性がある。より良い世界が待っている。その鍵を握っているのはあなたであり、未来ガジェット研究所よ」
キョン(いつからこの人はグノーシス主義に傾倒するようになったんだか)
キョン「世界を運命から救う、か。大層な大義名分がふっかかってきたもんだな……」
キョン「それで、タイムリミットはいつなんですか?」
みくる(大)「明日の午前12時まで」
キョン「なッ!? なんだってそんなすぐなんですか!? あ、明日ッ!?」
みくる(大)「涼宮さんの力だとわたしたちは考えているわ。わからないけど、彼女なりの照れ隠しのつもりなのかも」
キョン「はぁ?」
キョン(我ながら素っ頓狂な声を発してしまった)
みくる(大)「うーん、これはわたし個人の推測なんだけどね。多分、涼宮さんは“キョンくんが自分と付き合いたいと思うかどうか”を試しているのかもって思うの」
キョン「……ホントに迷惑千万なやつだ。たとえ無意識だとしても、そりゃないぜ」
みくる(大)「一応確認しておくけど、世界を元に戻す? それとも、この世界で生きていく?」
キョン「いやいやいや! さすがにそれは選択の余地はないですって。それはもう、去年の冬からずっと気づいていることです」
みくる(大)「でもそれって涼宮さんと付き合いたくないってこと?」
キョン「…………」
みくる(大)「ふふっ。いじわるしてごめんね。わかってるわ、SOS団として過ごしてきた日々を改変したくない。そういうことよね」
キョン「時間が無いなら早く行きましょう……」
世界が改変され、SOS団の記憶がすっかり入れ替わっちまっていて、俺はハルヒと付き合っているし、朝比奈さんの正体はハルヒにバレていた。
ちなみに朝比奈さんの正体がバレたのは、自分が未来人ジョンだとハルヒに白状したどこかのアホがどうやって3年前にタイムワープしたのかまでもセットにしてゲロっちまったかららしい。
現状はこのトンデモ度合の三重奏を奏でているというのに、どういうわけだか俺は落ち着いていた。
そういや第一回目の七夕飛行の時もそうだったな。TPDDを失くしたと泣いていた朝比奈さんを尻目に俺はどこまでも冷静だった。
第二回目は、そりゃあの後朝倉による暗殺とかいう事態が待ち構えていたとは言え、朝比奈さん(大)と合流してからはそれなりに落ち着きを取り戻していたのだ。
さて、今ひとたびの七夕飛行へと飛び立とう。帰ったらハルヒが電話レンジを使わせてもらったお礼として未来ガジェット研究所にIBN5100を届けないといけないしな。
こうして安心してタイムトラベルできるのはやはり、SOS団という名前の、能力的にも、仲間としてもとんでもないやつらが居るからである。つくづく俺はSOS団のメンバーで良かったと思うね。
そんなわけで、今の俺にはこんな状況を楽しむ程度の余裕が生まれていたのだった。
続き
ハルヒ「IBN5100を探しに行くわよ!」#3