1 : 以下、名... - 2015/09/02 22:36:26 /gngvOCo 1/28

「お、今日はノーベル賞の授賞式らしいぜ」バサ…

「今年は日本人が一人受賞するみたいだ」

「へぇ~、ノーベル賞ねぇ」

「俺にはまったく縁のない話だな」

元スレ
男「裏ノーベル賞……!?」
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1441200986/

2 : 以下、名... - 2015/09/02 22:39:14 /gngvOCo 2/28

「そもそもノーベル賞って、どんな部門があるんだっけ?」

「えぇと、物理学、化学、生理学・医学、文学、平和、あと経済学だな」

「とりあえず、理系の部門は俺にはさっぱりだし」

「あと文学……本なんかマンガぐらいしか読まないし」

「平和も、ボランティアとかしたことねえし」

「経済学もダメだな。東証株価指数を説明しろ、っていわれたらできねえもん」

「みごとにどれもダメだ」

「お前ってたしか、劇団入ってるっていってたよな」

「ああ」

「なら、ノーベル演技賞でもあれば狙えたのにな」

「ハハハ、そうだな」

3 : 以下、名... - 2015/09/02 22:40:10 /gngvOCo 3/28

「俺なんて、ヒマさえありゃ自分に都合のいい妄想ばかりしてて、めんどくさがり屋で」

「バイトの時はいつも店長に『お前、仕事が適当すぎんだよ』って怒られて」

「本気出す時といや、エロ画像収集の時ぐらい」

「能力はどうひいき目に見ても、凡人レベル」

「だけど、ネット上じゃ自分は一流大生だの、彼女持ちだのとウソばかり」

「あ~あ、こんな俺でも取れるノーベル賞ってないのかなぁ」

4 : 以下、名... - 2015/09/02 22:41:26 /gngvOCo 4/28

「……あるかもしれないぞ」ガサ…

「へ?」

「この新聞に書いてあるんだけど」

「なんでも今日、“裏ノーベル賞”の授賞式もやるらしい」

「裏ノーベル賞……!? なんだそりゃ!?」

5 : 以下、名... - 2015/09/02 22:43:15 /gngvOCo 5/28

「それって、もしかして“イグノーベル賞”ってやつじゃねえの?」

「ほら、バカな研究した奴がもらえるってやつ」

「あれはあれで、ユーモアセンスがいるから、とても俺じゃ取れねえよ」

「いや、それとはまた違うやつだ」

「記事によると、れっきとしたノーベルが創設した賞なんだそうだ」

「だけど、あくまで“裏”ノーベル賞だし」

「表のノーベル賞の価値を損ねることにもなりかねないから」

「大々的に授賞式が行われることはないそうだ」

6 : 以下、名... - 2015/09/02 22:44:44 /gngvOCo 6/28

「ふうん、ちなみに部門はなにがあるんだ?」

「えぇと、妄想、怠惰、適当、変態、凡人、虚言癖、の六つだ」

「なんだそりゃ!?」

「俺なら六部門制覇できそうな賞じゃねーか!」

「くそっ、そんなもんがあると知ってりゃ、もっとアピールしてたのにな……」

「ちなみに、授賞式はどこでやるんだ?」

「……この近所の市民ホールらしい」

「へ!?」

7 : 以下、名... - 2015/09/02 22:46:41 /gngvOCo 7/28

「なんでそんなとこで!?」

「なにしろ、あまり表に出さない方がいい賞だから」

「毎年、こそこそと場所を変えて授賞式を行ってるんだそうだ」

「それで、今年は日本の市民ホールでやることになったんだと」

「はぁ~、なるほど」

「――で、どうする?」

「そりゃもちろん、授賞式を見に行くに決まってんだろ!」

「未来の“裏ノーベル賞候補”としては、今のうちに研究しとかなきゃな!」

8 : 以下、名... - 2015/09/02 22:48:19 /gngvOCo 8/28

市民ホールにやってきた二人。



ザワザワ……



「ホントにやってる! ……でも、客席にあまり人は入ってないな」

「しょせん、“裏ノーベル賞”だからな」

9 : 以下、名... - 2015/09/02 22:49:54 /gngvOCo 9/28

司会『お待たせいたしました!』

司会『ただいまより、裏ノーベル賞の授賞式を行います!』

司会『ではさっそく、“ノーベル妄想賞”の受賞から参ります!』





「お、まずは妄想賞か!」

「ちなみにお前はいつも、どんな妄想をしてるんだ?」

「そりゃま、可愛い女の子に囲まれてハーレムとか」

「メチャクチャ強くなって、悪人を倒しまくるとか、そういうのだよ」

「受賞者がどんな妄想してるかは知らねえが、俺も妄想力ならかなり自信あるぜ!」

10 : 以下、名... - 2015/09/02 22:52:15 /gngvOCo 10/28

司会『このたびは、受賞おめでとうございます!』

受賞者A「ありがとうございます」

司会『しかし、すごいですね』

司会『自分の中で、“もう一つの人類史”を妄想してしまうとは』

受賞者A「大したことではありませんよ」





「もう一つの人類史? なんだそりゃ?」

「どういう意味だろうな?」

11 : 以下、名... - 2015/09/02 22:56:16 /gngvOCo 11/28

司会『何とこの方、自分の頭の中で』

司会『人類誕生から現代に至るまでの“もう一つの歴史”を妄想しているのです!』

司会『ちなみに、あなたの中のもう一つの歴史では、1600年はなにがありましたか?』

司会『こちらの歴史では、関ヶ原の合戦や東インド会社設立、などがありましたが』

受賞者A「1600年というと、私の中の歴史ではK.L885年にあたりますね」

受賞者A「大きな事件としては、ドーク戦争、ペレポ政変、ゲジャ地震が起こっています」





「なんだなんだ……? なによ、ドーク戦争って……? 聞いたことねえぞ」

「ようするに、アイツの頭ん中にゃ、俺たちが知る世界史とはまたちがう」

「“もう一つの世界史”が出来上がってるってことだろ? ……妄想で」

「マジかよ……!」

12 : 以下、名... - 2015/09/02 22:57:58 /gngvOCo 12/28

受賞者A「さて、ドーク戦争から説明いたしましょうか」

受賞者A「ドーク戦争の発端は、チャゲネ王国でのブレナードゥ王暗殺に始まります」

受賞者A「チャゲネ王国というのは、この世界でいうとフランスあたりに位置します」

受賞者A「また、ドーク戦争はチャゲネ語では“$&%#”と表記――」

司会『はい! はい! もう結構です! ありがとうございましたー!』





「言語まで作ってんのかよ……とんでもねえな。どんな密度の妄想だよ……」

「頭の中がどうなってるのか、想像するだけで頭がおかしくなりそうだな」

「妄想でさえ、こんだけやらねえと、ノーベル賞は取れねえのかよ……」

13 : 以下、名... - 2015/09/02 22:59:37 /gngvOCo 13/28

司会『続いて、“ノーベル怠惰賞”の受賞を行いたいと思います!』

司会『受賞者の方、どうぞー!』





「ノーベル怠惰賞だってさ、どんな奴が出てくると思う?」

「うぅ~ん……」

「きっとニート歴ン十年なんてのが出てくるんじゃねえか?」

14 : 以下、名... - 2015/09/02 23:01:28 /gngvOCo 14/28

司会『こちらが受賞者です! なんとベッドに横たわったまま運ばれてきました!』



受賞者B「…………」





「なんだ、寝てるだけじゃねえか。たしかに怠惰といえば怠惰だけど」

「思ったより大したことないな」

15 : 以下、名... - 2015/09/02 23:02:58 /gngvOCo 15/28

司会『実はこの方、呼吸をしていませんし、心臓も止まっているのです!』

司会『脳も全く活動していませんし、血流も停止しています!』

司会『怠け癖を極めてしまった結果、体の全機能を自ら止めてしまったのです!』



受賞者B「…………」





「え、え、え!? ちょっと待て、それ死んでるってことじゃねえの!?」

「だ、だよなぁ!」

16 : 以下、名... - 2015/09/02 23:05:05 /gngvOCo 16/28

司会『しかし! この方は紛れもなく生きているのです!』

司会『世界中の医師がこの方を診断しましたが――』

司会『死んでいる、と認定した医者は一人もいなかったのです!』

司会『生きているという診断しかできなかったのです!』

司会『今どういうお気持ちでいるのか、お言葉を聞けないのが本当に残念です!』



受賞者B「…………」





「心臓も呼吸もなにもかも止まってるのに、生きてるのか……?」

「もうなにがなんだか分からなくなってきた……」

「深く考えるのはよそう……」

17 : 以下、名... - 2015/09/02 23:06:54 /gngvOCo 17/28

司会『さて、続きましては“ノーベル適当賞”です!』

司会『受賞にさいして、一言コメントをお願いします!』

受賞者C「はい」






「適当賞か……。きっと『あざぁーっす』とかいうにちがいないぜ」

「あ、それありそう」

18 : 以下、名... - 2015/09/02 23:10:00 /gngvOCo 18/28

受賞者C「このたびは、“ノーベル適当賞”という大変素晴らしい賞をいただき」

受賞者C「誠にありがとうございます」

受賞者C「これを励みに、今後も頑張っていきたいと思います」





「…………!」

「なんて適当なコメントだ……!」

「一見、模範的なコメントに見えるけど」

「内からにじみ出る『こう言っときゃいいんだろ?』みたいな投げやり感がすげえ!」

「下手に態度が悪かったりするより、よっぽど適当って感じがする!」

「さすがノーベル賞受賞者……ってところだな」

19 : 以下、名... - 2015/09/02 23:13:00 /gngvOCo 19/28

司会『それでは、“ノーベル変態賞”に移ります!』

司会『受賞者の方、こちらへどうぞ!』





「よっ、待ってましたァ!」

「うおっ、いきなりテンション上げてきたな」

「なんたって“変態賞”だもん」

「男の変態なら笑えるし、女の変態なら大歓迎だ! どっちにしろ楽しめるだろ?」

「なるほどな」

20 : 以下、名... - 2015/09/02 23:14:59 /gngvOCo 20/28

司会『“ノーベル変態賞”おめでとうございます』

受賞者D「ありがとうございます」

司会『今のお気持ちはいかがですか?』

受賞者D「ノーベル賞を頂くのはもちろん嬉しいのですが、複雑な気持ちですね」

受賞者D「なにしろ、“変態賞”ですから。ハハハ……」





「あれ? ずいぶん普通だな」

「普通どころか、すごく紳士的だ。エロさなんか微塵も感じないぞ」

21 : 以下、名... - 2015/09/02 23:17:24 /gngvOCo 21/28

司会『なんとこの方、前世があまりにもエロすぎたために』

司会『今の人生はずっと無性欲状態、俗にいう“賢者タイム”なのです!』

受賞者D「お恥ずかしい限りで……」





「前世ときたかァァァ~~~~~~~~~~~ッッッ!!!」

22 : 以下、名... - 2015/09/02 23:21:12 /gngvOCo 22/28

司会『さて、続きまして“ノーベル凡人賞”です!』

司会『今年最も凡人だと評価された方が、この賞を得られるのです!』





「今、ふと思ったんだけどさ……」

「こんな賞もらってる時点で、そいつってもはや“凡人”ではないよなぁ?」

「そいつがいかに平凡でも、賞を与えることで、そいつの平凡性を消しちゃってるよ」

「いえてる! たしかに矛盾めいたものを感じるな」

23 : 以下、名... - 2015/09/02 23:23:46 /gngvOCo 23/28

司会『“ノーベル凡人賞”おめでとうございます』

受賞者E「ありがとうございます」





「なんだこいつ……。なんのオーラも感じない……」

「“ザ・凡人”って感じだ! 道ばたの石ころって感じだ!」

「いくら賞を与えても、この平凡っぷりは消せるもんじゃねえ!」

「こんなヤツがこの世にいたなんてな……」

24 : 以下、名... - 2015/09/02 23:26:48 /gngvOCo 24/28

「さて、残るはあと一つか」

「いったい、どんな受賞者が出てくるんだろうな」

「ぷっ……」

「ハーッハッハッハッハッハッハ!」

「あぁー、おっかしい!」

「な、なんだよ……突然!?」

「“裏ノーベル賞”とはいえ、式典なんだから、あまりでかい声で笑うなよ」

25 : 以下、名... - 2015/09/02 23:29:53 /gngvOCo 25/28

「“裏ノーベル賞”だって? そんなものあるわけないだろ?」

「へ……?」

「もう一つの歴史を妄想してる人間? 体を機能を停止した怠惰人間?」

「冷静に考えてみろよ。そんな奴らがいるわけないだろ?」

「仮にいたとしても、そんな連中がノーベル賞なんて偉大な賞をもらえるわけないだろ?」

「…………!?」

「なにいってんだ、“裏ノーベル賞”の記事を見つけたのはお前じゃないか!」

「お前、その新聞記事見たか? オレの話を聞いてただけだろ?」

(あっ、そういえば見てない……)

26 : 以下、名... - 2015/09/02 23:32:01 /gngvOCo 26/28

「ようするに、お前はまんまと騙されたんだよ。このオレにな」

「ちょ、ちょっと待てよ! じゃあ、この会場や客や司会者、受賞者はなんなんだ!」

「もちろん……あれは全員、オレの仲間さ」

「あ……! まさか、お前が所属してる劇団の……!」

「そのとおり。みんな、結構ノリがよくてね」

「友だちを派手に騙したいんだけど、って頼んだら快く協力してくれたよ」

「この市民ホールも、比較的安く借りれるとこだしさ」

「あ~、面白かった! いいもん見れたわ! ナイス解説だったぜ!」

「どうだった、オレたちの演技は? それこそノーベル賞もんだったろ?」

「…………!」ムカッ…

「く、くそっ! くそっ! よくも騙しやがったな!」

27 : 以下、名... - 2015/09/02 23:35:15 /gngvOCo 27/28

「このヤロウ!」

ボカッ!

「あだだ……!」

「なにが“裏ノーベル賞”だ! こんな手の込んだドッキリしやがって……!」

「もう帰る! お前とは当分会わねえ!」スタスタ…



バタンッ!



「いてて……」

「ちょっとやりすぎたかな……」

28 : 以下、名... - 2015/09/02 23:38:38 /gngvOCo 28/28

司会「あ、いたいた」

司会「これから“ノーベル虚言癖賞”の授与を行いますので、こちらへどうぞ」

「あ、どうも」

司会「ケガをされてますが、もしかしてまた誰かを騙してたのでは?」

「いやいや、そんなわけないでしょう。オレは人を騙すのが大嫌いなんですから」

司会「なにしろ、あなたときたらすぐ人を騙そうとしますからね」

司会「つい最近も自分のことを劇団員だとか、経歴を偽っていたそうですし……」

司会「もっともそれぐらいでなければ、ノーベル賞には届かなかったでしょうけどね」









おわり

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