関連
食人鬼「お前を太らせて食べたいだけだ」 少女「そう」【前編】
ガチャ
少女「はぁ、はぁ…」ズズ
食人鬼「…」フラ
少女「し、…死ぬかと、思った…」
食人鬼「…寝る…」
少女「待ちなさい。…着替えて、薬飲んでから…だよ…」ヨロ
食人鬼「今なら永遠に寝れそうな気がする」
少女「死ぬ!!」
食人鬼「うう…。寒い…」
少女「待ってて、すぐお湯沸かすから。薬飲んで、温かくして寝よう」タタ
食人鬼「…」ドサ
少女「はいタオル」ボフ
食人鬼「…体が動かない」
少女「無理するからだよ…。本当に危なかった」
食人鬼「…」ノソ
少女「ああ、もう、…手伝うから」
食人鬼「ごめん」
少女「はいはい」ワシャワシャワシャ
食人鬼「…犬みたいだ」
少女「似たようなものじゃない」
少女「着替えた?」
食人鬼「…なんとか」
少女「はい、じゃあこれ飲んで。苦いけど我慢ね」
食人鬼「…」
少女「子どもか!そんな顔しても駄目よ。飲みなさい」
食人鬼「…う」グビ
食人鬼「うあ…」
少女「苦いわよね、これ…。消し炭みたいな味するのよ」
食人鬼「……」ゴクゴクゴク
少女「全部飲んだ?」
食人鬼「うん」
少女「よし、じゃあすぐ良くなるわ。ちゃんと布団かぶって寝なさいよ」
食人鬼「…ん」ボフ
少女「じゃ、おやすみ」
食人鬼「…少女」
少女「何?」
食人鬼「…もう少し、ここにいて」
少女「…いい、けど」
食人鬼「僕が寝るまで、…何処にも行かないで」
少女「うん。…分かった」カタン
食人鬼「…」
食人鬼「君がいると、…安心する」
少女「そう」
食人鬼「…ありがと、少女」
少女「どういたしまして」
少女「…ねえ、食人鬼」
食人鬼「…ん…?」
少女「あのね、…ずっと気になってたんだけど」
食人鬼「うん…」
少女「…あなた、私を食べる気なんてないでしょ?」
食人鬼「…」
少女「そうでしょ?」
食人鬼「…うん」
少女「…そうよね。逃がそうとするくらいだものね」
食人鬼「だって、…君は」
少女「何?」
食人鬼「…君は、…僕の友達なんだろ」
少女「…」
食人鬼「僕の、…ここでの初めての友達なんだ」
少女「そう」
食人鬼「だから、食べない。…食べたくなんか、ないよ」
少女「そうね。…そうよね」
食人鬼「…」
少女「さ、もう寝たら」
食人鬼「うん」
少女「…」
食人鬼「…ん」
少女「……はぁ…」
食人鬼「すぅ、…すぅ…」
少女「…やっぱり、そっか…」
少女「…」ガチャ
バタン
少女(この答えを、…予想はしてた)
少女(いや、初めからなんとなくわかっていたのかもしれない)
少女(彼に助けられた時から、…確定してたのかもしれない)
少女「…」ゴソ
少女(私の考えがいかにお粗末だったか、今身に染みて分かるわ)
少女(…都の自警団も来たんだし、時間がない)
ゴト
少女「…ん、しょ」
少女(…最善の手を選んでる場合じゃないんだわ)
少女(…決めたことじゃない)
少女「…箪笥、でいいか」ギィ
少女(ここなら見つからない。…人の使う箪笥を漁るような人じゃないし)
バタン
少女「…」
少女(終わりが、…近い)
少女(でもこれは、全て私の責任だ。…いつまでもだらだらしてた、私の)
少女「…」
保安官さん、それから村の皆さんへ
この手紙を読んでるということは、私はもうすでにいなくなった後なのでしょう。
青年、心配かけてごめんなさい。
けど、私はお父さんがいなくなった時から、なんとなくこうしようと決めていました。
だから、あんまり自分を責めないでください。 皆も、青年に辛く当たらないで。
私が決めたことなんだもの。…誰も悪くないんだから。
私は森に行きます。
そして、彼に会ってきます。
お父さんがいつか言ってたの。
森の奥で、人じゃないものを見た、って。
食人鬼は本当にいる。深い森の奥に、きっといる。
だから私は、彼に会います。
そして、
あとは皆、分かると思います。
お父さんの部屋から銃が一丁なくなっていたと思います。
あれ、私が取りました。ごめんなさい。
どうしても必用な物だったので、持って行きました。
これで全てを終わらせようと思います。
お父さんの遺体は見つかりましたか?
…多分、無理だと思います。
同じように、きっと私の遺体も見つからない。
きっとあいつに食われてしまうだろうから。
もし、私が無事で帰ってきたとしたら、もう食人鬼の恐怖に怯える心配はないでしょう。
けど、帰ってこなかったら
…ごめんなさい。本当に。
皆に謝りたいです。こんな馬鹿なことをしてしまって。
けど、私は絶対にあいつを許せない。
私の友人や、たった一人の家族を簡単に奪ったあいつを、絶対に許せない。
だからどうか、恨まずに行かせてください。
悲しまないでください。
私は自分から望んで、死ぬんだから。
青年「…」
保安官「青年、大丈夫か」
青年「自分を、…責めるな、だってよ」
保安官「…ああ。皆お前を悪く思ってない、お前だけなんだ。自分を罰してるのは」
青年「…」
保安官「止めたって少女は行っただろうよ」
保安官「そういう子だ…。やると言ったら必ずやる」
青年「少女は、…もう」
保安官「…いつまでも望みは持っていたかった。けど、もう諦めよう」
青年「…」
保安官「俺たちが今すべきことは何だ?」
青年「…食人鬼を捕まえる」
保安官「そうだ。それだけだ」
青年「自警団の人たちも、頑張ってくれてる。…必ず捕まえる」
保安官「ああ」
青年「…とどめは、…俺の手で刺したい」
保安官「そうか」
青年「明日も捜索なんだ。…俺、頑張るよ」
保安官「ああ。…俺も長官と現場の洗い直しを進める」
保安官「思いつめるなよ、青年。誰だって辛いんだ」
青年「分かってる。…ありがとう」
保安官「じゃあ、俺は呼ばれているから行くな。しっかり休めよ」
青年「…」
長官「…」パラ
コンコン
長官「…ああ、どうぞ」
保安官「お呼びでしょうか」
長官「ああ。2,3質問したいことがあってね」パラ
保安官「はあ。…それは、事件の資料ですか?」
長官「そうだ。まあまず、これを見てくれ。私が被害者の特徴をまとめた資料だ」
保安官「…」パラ
長官「まず、被害者は猟師を除く全てが女性。…9歳から25歳までの幅だ」
保安官「ええ」
長官「女性、若い。…獲物にするのはもってこいだな。それに」
長官「…肉も美味いだろうしな」
保安官「…」グッ
長官「ああ、すまん。不謹慎だったかな?」
保安官「いえ。…事実でしょう」
長官「次に、ほとんどが遺体で発見されている。手足や臓器が失われた形でな」
保安官「これも猟師、少女以外でですね」
長官「ああ。遺体の身元も判別しやすかった。顔に傷がほとんどないからだ」
保安官「…確かに。身元の特定は簡単でした」
長官「3つ目。遺体の発見はわりとすぐで、発見場所の全てが森だ」
保安官「ええ…」
長官「4つ目。遺体が見つかった被害者の死因は、首を切られたことによる失血死だ」
長官「殺してから食った。…それに傷は深く、すぐ死に至っただろう」
保安官「…」
長官「以上が被害者たちの特徴だ。…なにか気づくかね?」
保安官「…猟師と少女の失踪の異質さです」
長官「ふむ」
保安官「食人鬼は遺体を必ずどこかに遺棄していた。…今回はすでに1週間は経っているのに、発見されていない」
長官「そうだな。何故だ?」
保安官「…」
保安官「食人鬼の…食指に合っていたのでは?」
長官「どういうことだ?」
保安官「…全て食べつくした、ということです。美味しかったから」
長官「なるほど。いい点に気づく」
保安官「…」
長官「私の考えを話してもいいかな?少し長くなるが」
保安官「はい、是非」
長官「まず私がこの事件の資料を都で読んだとき、こう思った」
長官「…“ずいぶん美食家な魔物だ”、とな」
保安官「美食家…?」
長官「奴は10名を越える人間を食っている。しかし、食い方がどこか妙だ」
長官「足、手、肝臓、…。一人の被害者から、どこかを抜き取る。これが奴の特徴だ」
保安官「それは、我々も思っていました。偏食気味なんです」
長官「理由を考えてみると、一つ有力なものがあげられる」
長官「…奴は選んでるんだ。被害者のどの部位が美味しいか、見極め、選定する」
保安官「…」
長官「およそ魔物とは思えない品性と知能だ。私がイメージしていたものと全く違う」
保安官「品性、ですって?あいつは…」
長官「そう、品性だ。…抑制といってもいいかな」
長官「奴の殺しの手順を整理しよう。まず奴は美味そうな女性に狙いをつける」
長官「そして彼女らが一人になった隙かなにかに、襲う。いいか、こうだ」ペシ
保安官「…首、ですね」
長官「そう、首だ。…それも一撃が深く、即死に値する」
長官「何故即死させる?奴は魔物だ。生きたままむさぼっても良いのではないか?」
保安官「…なるほど」
長官「そのほうが新鮮で、いいのではないだろうか。そんな魔物聞いたことがない」
長官「私が考えるに奴は、獲物に情をかけている」
長官「死なせてるんだ。…苦痛がないように」
保安官「そんな、まさか。…ありえません」
長官「さあ、どうだろうな。まだ仮定の話だ」
保安官「奴に情なんて…」
長官「待て、まだある。猟師はどうだ?殺害現場の特徴は」
保安官「悲惨極まりない。…彼の骨や、…脳まで」
長官「首はどうした?」
保安官「…!」
長官「脳だぞ?恐らく攻撃は首でなく、頭になされた。骨が砕け、肉が飛び散った」トン
長官「娘はどうだ?」
保安官「…現場には、血が」
長官「少ない。首を切ってあの程度は少なすぎる」
長官「それにあそこからは空薬莢が見つかったな。娘は発砲している」
保安官「それは、魔物に対して撃ったのでは?」
長官「私はそうは思わない。…弾は地面にめりこんでいたと聞く。魔物が目の前にいて、地面を撃つか?」
保安官「…どういうことです」
長官「娘は自分で自分を撃ったんだ」
保安官「…はあ!?」
長官「しかし致命傷ではない。恐らくは、…足か。確証はないが。そこを撃った」
長官「つまり、あの場で少女は死んではいない」
保安官「では、…では、なぜ少女は自分で」
長官「…おびき寄せるためではないか?魔物を」
保安官「…復讐のため、ですか」
長官「ああ。つまりこの2件の事件だけ、他と異質なんだ。君の行ったとおりな」
保安官「…つまり、どういうことでしょうか」
長官「…」ペラ
長官「食人鬼に、…何か変化があった」
長官「…いや、…何かしっくり来ない。何だ」
保安官「奴の殺しの手法が変わったということでしょうか」
長官「…そもそも、根本的に違うのだ」
長官「何故男を殺したのか。何故死体がないのか。…ここが核心なのではないだろうか」
保安官「何か、お考えは?」
長官「ない。…魔物の気持ちなど分からん」
保安官「そうでしょうとも。…しかし、あなたの推察は的を得ています」
長官「まだ我々は何かを見落としているんだろうよ」ギシ
長官「どうにも、しっくり来ないんだ。型にはまる考えが浮かばない」
保安官「…」
長官「君も考えてはみてくれないか?資料を渡そう」
保安官「はい。…できるだけ知恵を絞ります」
長官「ああ。何か新しい発見があることを祈っている」
保安官「…」
保安官(美食家、…獲物に情をかける魔物…、か)
食人鬼「…」モゾ
食人鬼(あ、れ。いいにおい、する…)
食人鬼「…」ムク
少女「あ、おはよー」
食人鬼「…お、おはよう」
少女「具合は?どう?」
食人鬼「大分良い。普通と変わらない」
少女「嘘!?そんなに早く効き目あるかしら?」
食人鬼「普通とあんまり変わらないんだけど…。この草すごいな」
少女「いや、…あなたがおかしいわよ」
食人鬼「そうか?…それ、朝ごはん?」
少女「ええ。食べれる?」
食人鬼「うん。お腹すいた」カタ
少女「じゃあ、どうぞ。スープよそうわ」
食人鬼「ん。…ありがと」
少女「…」
食人鬼「いただきます。おいしそうだ」
少女「な、なんか。…気味が悪いわ」
食人鬼「」ブホ
食人鬼「なっ、何がだよっ!?」
少女「そう、それ。それがいつものあなたじゃない」
食人鬼「い、いつもの僕?何言ってんだよ」
少女「いや、昨日土砂降りの中あなたを見つけたときから思ってたけど」
少女「…性格変わってない?」
食人鬼「か、…変わってるわけないだろ、僕は僕だ」
少女「嘘よ!なんか雰囲気が丸くなってるわ!」
食人鬼「そんなことないってば!」
少女「今までだったら私に暴言吐きまくりだったくせに。何の心境の変化?」
食人鬼「…」ズズ
食人鬼「べ、別に…いいだろ」
少女「うーん、まあいいけど。優しいほうがいいもの」
食人鬼「…」モグ
少女「あ、薬はちゃんと飲んでね。3日分は余計に飲まなきゃ」
食人鬼「分かった」
少女「ほら、なんか妙に素直だし」
食人鬼「だっ、だから…!うるさいなあ、もう!」
少女「変なのー」クスクス
食人鬼「…うう…。何なんだよ」
食人鬼「…」
少女「あー、やっぱり天気ぐずついてるなあ。洗濯物干したいのに」
食人鬼「な、なあ」
少女「んー?」
食人鬼「少女はさ、昨日…。私を食べないのって僕に聞いたろ」
少女「そうね」
食人鬼「で、僕は食べないって答えたよな」
少女「裏切り者」
食人鬼「な、…。そ、それを聞いてどう思った?」
少女「裏切り者」
食人鬼「…本気で言ってるのか?」
少女「ええ、まあ。だって嘘ついてたのね。太らせるためとか言ってご飯あの手この手で食べさせて」
食人鬼「…」
少女「全く、がっかりだわ」
食人鬼「じゃあ、…出て行く、か?」
少女「…」
食人鬼「僕にもう用はないのか?」
少女「ううん、行かない」
食人鬼「!」
少女「だってあなた、私がどこか行ったら泣くでしょ」
食人鬼「な、泣かない!んなわけあるか!」
少女「昨日泣いてたじゃない!しょうじょー、しょうじょーって」
食人鬼「嘘つけ!!」
食人鬼「村に戻らなくて、いいのか?」
少女「必要ないわ」
食人鬼「…どうして?」
少女「…秘密」
食人鬼「じゃあ、…ずっと、」
少女「ん?」
食人鬼「…」
食人鬼「……」カァ
少女「な、何。何なの」
食人鬼「な、なんでもない…」
少女「やっぱりあなた、変よ」
食人鬼「確かに、…そうかも」
少女「顔が赤いわ。どうかしたの?」
食人鬼「…分かんない。知らない」フイ
少女「はあ…。本当、変なのー」
食人鬼「…」
ザアア…
少女「本降りね」
食人鬼「…」
食人鬼「なあ、ちょっといいか」
少女「ん?何よ」
食人鬼「これ」チャリ
少女「ん。…何これ?」
食人鬼「地下室の鍵だ」
少女「…なんでまた?」
食人鬼「君、入りたがってたろ?だから、見せてあげようかと思って」
少女「ええ、いいの?」
食人鬼「うん。まあ、…ここで暮らしてるんだし、部屋のことは知っていたほうがいいだろ」
少女「やった。確かにずっと気になっていたの」
食人鬼「別に積極的に隠すつもりはなかったんだけど…」
少女「嘘ー。正に立ち入り禁止って感じでガードしてたじゃない」
食人鬼「ん、まあ。…前は見られたくないものとか、あったから」
少女「え、何それ。ちょっと怖い」
食人鬼「いかがわしい物じゃない!…ただ、今はいいかなって」
少女「そう。…嬉しい!」ニコ
食人鬼「…」ポリ
ギィイ…
少女「わくわくするわね。冒険みたい」
食人鬼「気をつけろよ、階段あるから」
少女「うんっ」
食人鬼「…顔がきらきらしてる」
少女「早く行こうよ!ねっ」
食人鬼「お、押すなよ。落ち着け」
カツ カツ
少女「あ、結構寒いのね」
食人鬼「…平気か?その、上着貸そうか」
少女「ううん、大丈夫よ。病み上がりが着てなさい」
食人鬼「…僕こそ平気なのに」ムス
カツ
食人鬼「ランプつけるぞ。いいか、ええと…。あんまり期待されても困るけど」
少女「早く早くっ」ワクワク
食人鬼「じゃあ、いくぞ」
パッ
少女「…え」
食人鬼「…」
少女「何、ここ」
少女「……」
食人鬼「…」
少女「…絵?」
食人鬼「そう」
少女「一面絵とか彫刻だらけじゃない。ええー!思ってたのと違った」
食人鬼「何を想像してたんだよ」
少女「なんかこう、ミイラとか血がついた武器とかあるのかと」
食人鬼「そんなわけあるか!!」
少女「何なのこの絵?まさか違法贋作?」
食人鬼「犯罪に結びつけるなよ!怒るぞ!」
少女「冗談よ。あ、これ凄い。綺麗な油絵」カタ
食人鬼「…僕の母が描いたものだ」
少女「へえ、すごいわ。プロみたいよ。都で個展が出せそうだわ」
食人鬼「そうだろ、母さんはすごいんだ」クス
少女「これなんか、目の中まで描きこまれててすごく綺麗。引き込まれるわ」
食人鬼「あ、それ僕も好きなやつなんだ」
少女「お母さん、才能ある方だったのね。すごいわ」
食人鬼「…」
少女「ニヤニヤしてる。嬉しいんだー」
食人鬼「し、してない!」
少女「こんな部屋に置いてあるの、勿体無いわよ。どうして一階に飾らないの?」
食人鬼「…辛くなるんだ」
少女「…そっか」
食人鬼「母さんの遺言がここにあったんだ。死んでから気づいた」
少女「そう」
食人鬼「遺書には、絵とかは全部燃やせって書いてあった。けど、無理だった」
少女「そうよね。私でもそうするわ」
食人鬼「…なあ、僕…」
食人鬼「君になら、自分のこと全部話してもいいって思ってる。だからここも見せた」
少女「…」
食人鬼「今、話すことだってできる」
少女「…うん」
食人鬼「僕は君に隠してることが、山ほどある」
少女「そうね。…知ってる」
食人鬼「でも」
食人鬼「…少女も、そうなんだろ?」
少女「…」カツ
食人鬼「君は僕に隠し事をしてる。…嘘をついてるって言ってもいい」
少女「…」
食人鬼「僕は、君のこと…知りたい」
食人鬼「僕はもう、隠さない。全て話す準備は出来てる。だから、少女も」
少女「…」ギュ
食人鬼「…駄目か?」
少女「…食人鬼」
食人鬼「君は僕に会ったとき、摂食障害を患っていたよね」
少女「…」
食人鬼「ストレスからくる嘔吐性の障害だ。…本で調べた」
食人鬼「僕は最初、お父さんが亡くなったこととかが原因かと考えてた」
少女「…」
食人鬼「でも、君は言ったよね」
食人鬼「僕を恨んでない、って。何でもない顔して、言ってた」
少女「…ええ」
食人鬼「村の殺人事件の犯人である僕に、平然とそう言ってのける」
食人鬼「…君のストレスの根本は、別にあるんだろ」
少女「…」
食人鬼「全部、…聞かせて欲しい。力になりたいし、それに」
食人鬼「ぼ、…僕は」
少女「…」
食人鬼「き、君のこと。…少女のこと、その、…」
少女「私のこと、何?」
食人鬼「…」
食人鬼「守り、…たいんだ」
少女「…」
食人鬼「僕は、母さんが死んでからずっと一人だった」
食人鬼「ずっと、寂しくて、狂いそうで、…でも」
食人鬼「君が来てから、…毎日がすごく楽しい」
少女「…」
食人鬼「君を、守りたい。ずっとここにいて欲しい」
食人鬼「僕は、…多分君が」
少女「できない」
食人鬼「…え?」
少女「…。まだ、…できないわ」
少女「ごめん、食人鬼。あなたの思いは十分伝わった。けど、今は駄目」
食人鬼「…でも、今はだろ?」
少女「うん」
食人鬼「もっと時間が経ったら、できるのか?」
少女「うん、きっと」
食人鬼「…じゃあ、それまで待つよ。君のタイミングでいい」
少女「ありがとう、…ごめんね」
食人鬼「いいんだ。僕、君が答えてくれただけで嬉しい」ニコ
食人鬼「…それで、その」
少女「…」
食人鬼「さっき言いたかったのは、つまり…」
少女「あ!!!」
食人鬼「な、何っ!?」ビク
少女「私、お湯沸かしっぱなしだった気がする!大変!」
食人鬼「え、ちょ」
少女「火止めてくる!」ダダダ
食人鬼「あ、…う、うん」
食人鬼「…」
食人鬼(あー、…当分勇気でないだろうな…)
コツ
少女「…」スゥ
少女「…はぁ…」
少女(…ああ)
少女(揺らいでは、駄目)
保安官「…」
保安官(思い出せ)
保安官(あの時俺が見た化け物)
保安官(あれがきっと、食人鬼だ)
保安官(あいつの姿をはっきり思い出せたら、きっと…)
保安官(何か解決の糸口が掴める)
保安官(…)
あの日俺はすこし浮かれていた
「…なあ、いいだろ?」
「早く家に帰りたいんだが…。俺には娘がいるんだぞ」
俺は新しい猟銃を手に入れたばかりだった
「起きないって。大丈夫だ、少しだけでいいから」
「…ほどほどにしろよ」
俺は猟師に頼み込んで、猟に同行してもらうことにした
保安官「どうだ、いそうか?」
猟師「どうかな。…あまり気配がない」
保安官「くそっ、こんな時に限って」
猟師「干し肉の備蓄ならあるんだろ。今やらなくてもいいんじゃないか」
保安官「いや、…おい、そっち!」
猟師「!」サッ
保安官「鹿だ!」
猟師「静かに。…雌か」
保安官「待て、逃げるぞ!」
猟師「深追いはするな!」
保安官「平気だって!心配しすぎなんだよ」ダッ
猟師「ああ、…馬鹿が!」
保安官「はあ、はあ」
ザザザ
保安官「追いついた。…隠れるぞ」
猟師「お前な…大分深くまで来たじゃないか」
保安官「すぐ終わらせる。見てろよ」チャ
ダン ダン
…ドサ
保安官「命中、っと」
保安官「おい、大物だ」
猟師「これでやっと帰れるな」
その時だ
後ろから、何かとてつもなく嫌な気配がした
保安官「…ん」
猟師「…」バッ
最初に振り返ったのは、猟師だった
「…ひ、!」
奴は、暗がりの中に立っていた。
白い髪 赤い目が闇の中に気味悪く浮かんで
猟師「なん、だ…あれは」
鋭い爪が生えた手が、掴んでいたものは
保安官「…しょ、く…」
ザザザッ!
猟師「おいっ、待て!!」
保安官「よせ!し、死ぬぞ!」ガシ
猟師「けど、けどあいつ女を持ってたぞ!」
保安官「もう死んでた!助けられはしない!追うな!」
保安官「くそっ、嘘だろ…」
猟師「こんなことが。…本当に、いたのか」
保安官「見間違いじゃない!ありゃ、本物の…」
猟師「…あの女は誰だ?」
保安官「…分かんねえよ。ちらっとしか見えてないし…」
猟師「まさか、村の」
保安官「…!」
保安官「お、おい。急いで帰ろう!」
猟師「…」
保安官「なあ、どうした?早く来いよ!」
猟師「…食人鬼、が」
保安官「なあって!」
猟師「…」
猟師「ああ、…今行く」
そしてあの忌まわしい出来事が始まったのだ
保安官「…」
保安官「…白い髪、赤い目、腕に抱いた女」
保安官「……」
保安官「…つ、め…?」
鋭く光る爪。 5本の爪。
保安官「……ちょっと、待てよ…」
……
…
少女「…」
食人鬼「…」
少女「…」キィ
食人鬼(…昨日地下室を見せてから、…なんか元気ないな)
食人鬼(ああやって窓の外見てはぼうっとしてるだけで…)
少女「…」キィ
食人鬼(そういえばご飯もまた残してた。どうして…)
食人鬼(…僕のせい、なのか?秘密を話せ何て言うから…)
食人鬼「…」
食人鬼「なあ、少女」
少女「あ。…なに?」クル
食人鬼「僕、少し外出するんだけど。…着いてくるか?」
少女「外、か」
食人鬼「ああ。足ももう杖が要らないくらい回復してるだろ」
少女「…」キィ
食人鬼「嫌か?」
少女「ううん、行く」カタ
ザク ザク
少女「…」
食人鬼「…」
少女「ね、何処行くの?」
食人鬼「墓参り」
少女「…誰の?」
食人鬼「僕の母さんのだ。気に入らないか?」
少女「ううん。一回くらい挨拶しておきたいって思ってた」
食人鬼「そっか。…なら良かった」
少女「…」
食人鬼「…少し遠いけど、平気か」
少女「大丈夫よ」
食人鬼(…僕の目を見ようとしない)
食人鬼(なんか、…寂しいな。いつも賑やかな分)
少女「…」
ザク ザク
食人鬼「ほら、手」
少女「ん。ありがと」
サワ
少女「…わあ。綺麗なところね。こんなに花が咲いてる」
食人鬼「母さんが好きな花だったんだ。名前も知らないけど」
少女「良い匂いがするわ。いいなあ。私もこういう所に埋められたい」
食人鬼「…なんだそりゃ」
少女「お墓は?」
食人鬼「ここ」
少女「ちゃんと十字架、立ててあるのね」
食人鬼「うん。これも遺言なんだ」
少女「辛かったわよね。…一人で埋めたの?」
食人鬼「うん」
少女「そう。…お祈りしていきましょうか」
食人鬼「ありがとう」
少女「…」
食人鬼「…」
食人鬼「…母さん、多分喜んでるよ。僕がいつも一人で来てたから…」
少女「あら。何だこの女はって思わないかしらね」クス
食人鬼「そんなことないって」
少女「…お母さん、きっとあなたみたいな優しい息子がいて幸せだったでしょうね」
食人鬼「僕は、…あんまり聞き分けない奴だったぞ」
少女「いいえ。そういうことじゃないのよ」
少女「…ああ」
食人鬼「ん、どうした?」
少女「…私」
少女「お父さんのお墓も、…建ててないんだ」ポロ
食人鬼「!」
少女「最低な、…娘よね。こんな親不孝ないわよね…」ゴシ
食人鬼「な、泣くな。そんなこと、親父さん思ってないさ」
少女「…私、…お父さんに酷いことしたわ」
食人鬼「泣くなってば…」
少女「っ…。会いたい。…会いたいよ…」
食人鬼「…あ」
食人鬼(手を伸ばせば、…触れる)
少女「っ、ひ、っく。…おとう、…さん」
食人鬼(…抱きしめられる)
食人鬼「しょう、じょ」ソッ
少女「…」
ギュ
少女「…死にたい」
食人鬼「そんなこと、…親父さんが悲しむよ」
少女「一緒に死ぬべきだった」
食人鬼「ううん」
少女「私、…私、お父さんしかいなかったのよ」
食人鬼「…」ギュ
少女「それなのに、…」
食人鬼「僕も、そうだよ。死にたいと思った」ナデ
少女「…どうやって、ここまで生きてこれたの?」
食人鬼「…」
食人鬼「何が何でも生きろ、って母さんに言われたから」
少女「…」
食人鬼「母さんにそう言われたんなら、守るしかないかなって」ナデ
少女「家のお父さんも言ってた。俺より先に死ぬなって」
食人鬼「…親は、みんなそう思うんだよ」
少女「…私」
食人鬼「泣けよ。ずっと我慢してたんだから」
少女「…」
少女「うん」ギュ
食人鬼(…どんなに繕っても)
食人鬼(どんなに平気な顔をしても)
少女「っ、く…」
食人鬼(…これが本当の彼女なんだな)
少女「…あー」
食人鬼「落ち着いたか?」
少女「…頭痛い」ゴロ
食人鬼「僕は胸が寒い。少女の涙と涎で濡れたし」
少女「涎なんか垂らしてないわよ」
食人鬼「…そうだっけ」
少女「そうよ」
食人鬼「…まあそういうことにしておく」
少女「馬鹿」ベシ
食人鬼「いたっ。…乱暴者」
少女「はぁ…。なんか、泣いたらすっきりした」
食人鬼「そっか」
少女「なんか、吹っ切れたってかんじ」
食人鬼「良かったな」
少女「…空、青いわね。綺麗」ゴロ
食人鬼「うん」ゴロ
少女「…」ソッ
食人鬼「!」ビク
少女「手、あったかいわね」クス
食人鬼「あ、う。そりゃ、そうだろ」カァ
少女「…あなたには世話になってばかりだわ」
食人鬼「本当だな」
少女「…謙遜という心がないのかしら」
食人鬼「だって、ほん…」
少女「あーもう、黙って」ギュ
食人鬼「ん、…」
少女「…あ、そうだ」
食人鬼「どうした?」
少女「あなたに色々案内してもらったし、今度は私が連れてってあげる」ガバ
食人鬼「え?何処に」
少女「それは内緒。お楽しみだよ」
食人鬼「へえ。…いいけど。何時がいい?」
少女「今日の夜!」
食人鬼「早くないか…?」
少女「いいじゃない、善は急げって言うじゃない」
食人鬼「でも、夜は危ないぞ」
少女「いいのよ。雨が上がったあとの夜空って綺麗よ。一緒に見ようよ」ギュ
食人鬼「…う、うん。そこまで言うんなら」
少女「やった。じゃあ、急いで帰って準備しよ」ピョン
食人鬼「…ああ」クス
保安官「…長官、お話が!」
長官「ん。何だね?」
保安官「食人鬼のことについてです。ささいな事ですが、気づいたことがあります!」
長官「本当か。話してくれ」
保安官「資料を…。見てください、この被害者たちの外傷についてです」
長官「ああ。致命傷の傷のことか」
保安官「はい。全員鋭く抉られています」
保安官「長官は、この傷を与えたものは何だとお考えですか?」
長官「…爪ではないか?村人たちも言っていた」
保安官「私もさっきまでそう思っていました。しかし、奴の姿を思い出して考えが変わりました」
保安官「魔物は、…5本の指を持っていた。人の形です」
長官「…本当か」
保安官「間違いありません。小さい手でした」
長官「とすると、…この傷の切り口とはつじつまが合わないな」
保安官「そうなんです。あの小さな5本の爪で首を切った場合、こう…」ギギ
保安官「複数の傷がつくはずなんです。どれだけ強い力にせよ」
長官「ああ、そうだ。被害者の首の傷はほぼ滑らかで、一発だ」
保安官「つまり使ったのは爪じゃない。…別の鋭利なものです」
長官「…」
保安官「…いえ、すみません。まだ確証もないし、小さなことですが」
長官「いや、…ありがとう。君のお陰で、自分の仮説に確証が持てた」
保安官「え?」
長官「…隊員を集めてくれ。緊急集会を行う」
少女「よし、と」
食人鬼「そんな大荷物で行くのか?」
少女「いいじゃない。あ、大丈夫よ。自分でちゃんと持つ」
食人鬼「何が入ってるんだ、それ」
少女「だから、秘密ー」ニマ
食人鬼「…まあいいや。行こう。忘れ物ないな?」
少女「勿論」
バタン
少女「ふふ、なんかどきどきする」
食人鬼「それは楽しいのか、不安なのか?」
少女「楽しいからに決まってるじゃない!なにが怖いの?」
食人鬼「あのなあ…。一応こっちは追われてる身だし、第一森の夜はまずいだろ」
少女「大丈夫よ。匂い、しないんでしょ?」
食人鬼「まあ、そうだけどさー」
少女「万が一何かに出くわしても大丈夫よ」
食人鬼「何で?」
少女「あなたを盾にして私は逃げるわ」
食人鬼「おい!?」
少女「月が出て明るいから、ランプ必用ないくらいね」
食人鬼「そうだな。…ああ、満月なのか」
少女「あー、見ないで!空見ちゃ駄目」バッ
食人鬼「うぶっ。な、何すんだよいきなり!びっくりした!」
少女「いいから、黙々と前だけを見て歩くの」
食人鬼「…はいはい」スタスタ
少女「はいは一回」
食人鬼「…はい」
少女「よっと、ここよ!」
食人鬼「…あれ、ここ」
少女「まあ若干あなたの紹介してくれた場所と被ってるけど」
少女「私の思い出の泉!どう?」ニコ
食人鬼「へえ。…静かでいいところだと思う」
少女「でしょ!」
食人鬼「あれ、あそこに小屋があるな」
少女「そうそう。お父さんが使ってた小屋なの」
食人鬼「え、そうなのか?」
少女「だから思い出の場所。ほぼ毎日ここに来てたのよ」
食人鬼「ふうん…」
少女「でね、…あ、目を瞑って!」
食人鬼「ん、こうか?」
少女「そ。で、私が手を引くから着いてきて」
食人鬼「…なんか、不安なんだけど」
少女「何よ、信頼しなさいよ!」
食人鬼「泉に投げ捨てるってのは勘弁してくれよ。風邪がぶり返す」
少女「あ、その手もあるか」
食人鬼「ちょ」
少女「開けないで!嘘よ、嘘っ」
食人鬼「…ったく…」
少女「いい、まだよ。…」
少女「はい、開けて!」
食人鬼「…」パチ
食人鬼「うわ…す、ご…」
少女「えへへ、綺麗でしょ?」
食人鬼「泉が、…光ってる?月が映ってるのか」
少女「そうなの。ここだけ木々が無くて、丸い土地でしょ?」
少女「月や星がそのまま泉に映って、鏡みたいになるの!」
食人鬼「へえ…こんなはっきり映るんだな」
少女「水が澄んでるからね。他じゃ見られないわ」
食人鬼「月が掬えるんじゃないか?」
少女「…わお、詩的な表現」
食人鬼「な、べ、べつに恰好つけたわけじゃ」
少女「いいわね、それ。やってみよう」ジャブ
食人鬼「あ、待てって。…深くないのか?」
少女「大丈夫大丈夫。そんなに冷たくないし、おいでよ」
食人鬼「…本当だ。丁度いい」チャプ
少女「はい、あなたは左手でお皿つくって」
食人鬼「こうか?」
少女「そう。いくよ、せーのっ」
チャプ
少女「…ふふ」
食人鬼「…掬えた、な」クス
少女「月を捕まえたのね。あはは、なんかすごい」
食人鬼「…綺麗だな」
食人鬼「…」ジッ
少女「…」ニヤ
少女「あ、手が滑った」
食人鬼「その手には乗らない」ガシ
少女「あー!やめ、冷たい!!?」
食人鬼「馬鹿め、そんなことだろうと思ってた」
少女「あーあ…もう、顔にかかった!引っかかりなさいよ!」
食人鬼「君の考えることなんて手に取るように分かる」
少女「この…」ゴシ
食人鬼「ま、こんな静かで綺麗な場所で水遊びはよそう」チャプ
少女「…そうね」
少女「足つけて座ろう。見上げると本物の月が見えるよ」ドサ
食人鬼「…本当だ。大きいな」
少女「…ねー」
食人鬼「…」
食人鬼「…」ゴク
少女「星がよく見える。雨雲が無くてよかった」
食人鬼「あ、あのさ」
少女「ん?」
食人鬼「ち、ちょっと手、出して」
少女「…ん?」
食人鬼「…」
チャリ
少女「わ。…何、これ」
食人鬼「…ネックレス」
少女「凄い。…可愛い!くれるの?」
食人鬼「…」コク
少女「あ、このトップの石…どこかで見たことある」
食人鬼「柘榴石。…僕が石を削って作ったんだ」
少女「えっ、あなたが?」
食人鬼「あ、ああ。…どう、かな」
少女「すっごく、すっごく可愛い。それにお洒落」
食人鬼「そっか。…よかった」
少女「つけてみるね。…あれ」
食人鬼「あ、手伝ってやる。あっち向いて」
少女「こう?」
食人鬼「ん。…よし、できた」
少女「…あはは、似合う?」
食人鬼「…うん。えっと。…その」
食人鬼「か、…可愛い」ボソ
少女「へ?」
食人鬼「だ、だから。似合ってる!可愛い!」カァ
少女「…」
食人鬼「き、君は…。色が白いから、赤が似合うって思って」
食人鬼「間違ってなかった。…可愛い。綺麗だ」
少女「な」
食人鬼「…」フイ
少女「な、なにそれ。…何言ってるの」カァア
食人鬼「じ、事実を述べたまでだ」
少女「お、お世辞なんていいから!ネックレスが可愛いのよね?そうよね?」
食人鬼「…少女が可愛い」ボソ
少女「な、な」
バシャ
少女「あ、あはは。変なの。何言ってるの、ばっかじゃない…」
食人鬼「…」
少女「…」
食人鬼「…なんか、…ごめん」
少女「お、お互い恥ずかしいわね…」
食人鬼「口が滑ったというか。…でも、…言いたくなった」
少女「あ、…っそう…」ギュ
食人鬼「それ、大事にしてくれるか?」
少女「勿論よ。気に入ったわ」
食人鬼「…また、何か作ってやる。イヤリングとか、小物とか…。指輪、とか」
少女「…う、うん。…嬉しい」
食人鬼「…」
食人鬼「あのな、少女」
少女「…」
食人鬼「…僕は」
少女「はっきしゅっ」
食人鬼「うわ!?」
少女「あー、やっぱり足冷やしてると寒いわ。小屋に入ろうよ」ザバ
食人鬼「…」
食人鬼「はぁ…」
少女「何やってるの?早くー」
食人鬼「分かった、もう…」
食人鬼「わざとやってんのかなぁ…」ボソ
少女「ん、何か言ったー?」
食人鬼「何でもない!!」
ガチャ
バタン
長官「…以上が私の立てた仮説だ」
保安官「…」
青年「…」
長官「仮説、か。いや。もうこれは確証に近い。事件はすぐにでも解決するだろう」
青年「…待ってくださいよ」
長官「信じがたい気持ちはあるだろうがね、これが事実だ」
保安官「青年。…座れ」
青年「ふざけんなよ!そんな、そんなことがあるわけないだろ!?」
長官「私も信じがたい。しかし」
青年「都から来たあんたに何が分かる!?この村のこと、人のこと、何も知らないくせに!」
保安官「青年っ」
青年「保安官さんも何か言えよ!こんなこと信じない!村への侮辱だ!」
保安官「…っ」
保安官「私も、…あなたの意見に真っ向から賛成はできません」
長官「…」
保安官「しかし、…しかし、あなたはベテランだ。可能性は、高いでしょう」
長官「ああ」
保安官「その説が正しければ、…今後、何が起きるのですか」
長官「…簡単だ」
長官「あいつが全てを終わらせる」
少女「よっと」ガタ
食人鬼「へえ、意外と何もないんだな」
少女「ええ。お父さん、物置くの嫌いだったし。テーブルと椅子くらい」
食人鬼「…それ、何だ?」
少女「じゃーん。ポット持ってきた」
食人鬼「大荷物はそれか…」
少女「お菓子もあるの。お茶でも飲もう」
食人鬼「歩きつかれてるし、丁度いいな」
少女「はい、どうぞ」
食人鬼「ん。…いただきます」
少女「っと、その前にこれを飲んで」
食人鬼「…げ」
少女「食後渡すの忘れてたわ。今飲んじゃって」
食人鬼「もう体は良くなったし、飲まなくても…」
少女「絶っっ対駄目。ぶり返すことになるわよ」
食人鬼「…はぁ。分かったよ」サラ
少女「…」
食人鬼「ぐ。…水」
少女「はい」
食人鬼「…ん。なんか、あんまり苦くないな」
少女「え、なんで?」
食人鬼「分かんない。…なんだ?」
少女「苦味に慣れてきたんじゃない?よかったわね」
食人鬼「ああ…」
少女「じゃ、口直しに食べよう」ガサ
食人鬼「今度さ」
少女「ん?」
食人鬼「一緒に街に行こう。お菓子屋さんいっぱいあるぞ」
少女「えー!行きたい、いいね」
食人鬼「街に泊まってもいいし。観光とか、してみたい」
少女「…そうだね。楽しそう」
食人鬼「君と色々、今まで行ったことないところに行きたいな」
食人鬼「一人じゃ、寂しくてできなかったことも、…したいし」
少女「…」
食人鬼「どうした、食べないのか?」
少女「…ごめんね」
食人鬼「ん、なにが」
少女「この間さ、…私のこと、話したくないって言ったじゃない」
食人鬼「…気にしなくていい。半分押し付けだったし」
少女「…」
少女「今…話す気になったわ」
食人鬼「そ、う…か」
少女「ここで話したかったの。だから、連れて来た」
食人鬼「ああ」
少女「…でもまず、あなたからよ」ビシ
食人鬼「は?」
少女「言いだしっぺの法則!先に言い出した方が語るの」
食人鬼「なんだそりゃ。…まあいいけど」
少女「話せる?」
食人鬼「ああ。…勿論」
食人鬼「…ええと、改まるとなんか緊張するな」
少女「秘密の打ち明けっこだよ。そりゃそうよね」
食人鬼「…はあ。えっと、少し長くなる」
少女「ちゃんと聞くわ。口挟まない」
食人鬼「…僕の、昔の話だ」
少女「…」コク
食人鬼「僕は、ここから遠く離れた土地の集落で生まれた」
食人鬼「…食人習慣のある集落だ。周りの社会とは隔絶されている」
少女「…うん」
食人鬼「父はそこの長の息子。母は、ごく普通の…っていうのも変か。住人だった」
少女「…」
食人鬼「そもそも、僕の集落の人間は、魔物ってわけじゃなかった」
少女「え」
食人鬼「混血、とでも言おうかな。…用は中間に立つ種族だ。確かに人とは言えない」
少女「…そうなんだ」
食人鬼「…何故、人間を食べるか」
食人鬼「…簡単だ。風土病があった」
少女「ふうど、…びょう?」
食人鬼「ああ。人間という特別な栄養を摂取しなければ、死ぬ病だ」
少女「…」
食人鬼「村人は定期的に近くに住む人や旅人を調達して、食べた」
食人鬼「…ただ、母さんだけは違った」
少女「…」
食人鬼「母さんは小さい頃、食用に捕らえられた人間の子供と口を聞いたことがあって」
食人鬼「そこで、他の村人と違った考えが生まれたんだ」
少女「…そうなんだ」
食人鬼「食い初めっていって、12歳になって初めて人間を口にする儀式を、母はうまくはぐらかした」
食人鬼「それからは、徹底的に人肉を避けた。目に見えた体調の変化はなかった」
食人鬼「母は多分、人間を食べるくらいなら死んでもいいと思ってたんだと思う」
食人鬼「…病の兆候は、18になっても現れなかった。結婚し、僕を妊娠した後のことだ」
食人鬼「…母の髪は急に白くなって、目が赤くなった」
少女「…!」
食人鬼「典型的な欠乏症だった。村人はすぐに人を口にしていないのだと分かった」
食人鬼「死ぬぞと言われても、流産してもいいのか、と言われても、母は絶対に食べなかった」
食人鬼「…それでも必死で、僕を産んだ」
少女「…」
食人鬼「僕の髪や目は、生まれつきだ。僕は生まれつき、病気なんだ」
少女「…そうだったのね」
食人鬼「生まれてきた僕を見て、村人たちは恐れた」
食人鬼「異質な母に、異質な息子だった。なにより自分達の風習が廃れることを嫌った」
食人鬼「…父は母に、風習を受け入れることを強要した。赤ん坊の僕にもだ」
食人鬼「…母は、拒んだ。…そして、集落から追放された」
少女「…」
食人鬼「母は病でぼろぼろになりながらも、僕を真っ当に育てようと考えた」
食人鬼「村から離れ、行き着いたのがここだ」
食人鬼「母はここで、僕を人に育てようとしていた」
食人鬼「…」
食人鬼「けど、…駄目だった。僕らは人間と混じりえない」
少女「…それって、何時の事」
食人鬼「4,50年前だ。…その当時から魔物の伝説はあったよ」
少女「ってことは、つまり」
食人鬼「伝えられていたのは、ただの寓話。けど僕たちが移住したことで現実になった」
少女「…そんな裏が」
食人鬼「母は、村にも時々行こうとしてた。けどやっぱり、欲の暴走を恐れてた」
食人鬼「…母は、日に日に弱っていった」
食人鬼「度々吐血した。風土病の苦しみはすさまじいものだった」
食人鬼「僕にもこの苦しみを味あわせるのが、嫌だったんだろう」
食人鬼「…でも、それ以上に僕を畜生の道に落としたくなかったんだと思う」
食人鬼「僕の一族は人より長く生きる。生命力も高い」
食人鬼「その分、母は苦しんだ。苦しんで、…亡くなった。一度も人を食べなかった」
少女「…立派だわ」
食人鬼「…僕も」
食人鬼「母がいなくなってから、どうしようもない欲が襲ってくることがあった」
食人鬼「何を食べても満たされない、苦しいんだ」
食人鬼「…自分を保つのに必死だった」
食人鬼「時々森で人間を見ると…自分が獣の感情を持ってることに気づいた」
少女「…あなた、病気は」
食人鬼「…長く土地を離れてる僕が同じ病を発症するかは、分からない」
食人鬼「まだ兆候はない。けど、年々病気には弱くなってる」
食人鬼「…たまにああやって、発熱する。死にはしないけど」
少女「…」
食人鬼「ぐだぐだ話してごめん。ただ、…僕が言いたいことは一つなんだ」
少女「うん」
食人鬼「僕の過去とか、そんなのはどうでもいい。過ぎたことだ」
食人鬼「…君に知っててほしいのは」
食人鬼「…っ」ガッ
少女「どうしたの?」
食人鬼「…っ、…頭が。…痛い」
少女「…」
食人鬼「急に、…めまいが」
少女「大丈夫?」
食人鬼「…だい、…じょうぶじゃ…ない、かも」
少女「…」
食人鬼「あ、…ぐっ」ガタン
食人鬼(な、んだ、これ。…座って、られな)
少女「…」スッ
食人鬼「…は、っ……っ」
少女「肩を貸すわ。立って」
食人鬼「ごめ、…少女…」
少女「どうしたのかな。風邪がぶり返したとか?」
食人鬼「わかん、な…い。けど、…はぁっ…」
少女「…」カツ
食人鬼「どこ、…行くんだ」
少女「…」
食人鬼「しょう、…じょ」
少女「大丈夫。横になる場所があるの」カツ
長官「全員、装備はいいか!」
「はっ!」
長官「今回の任務は少数で行う。くれぐれも気配を悟られないよう注意しろ」
長官「到達地までの案内は、この二人だ。従うように」
保安官「…」
青年「…」ギュ
長官「万が一敵を発見し次第、捕獲せよ。殺傷は認めない」
長官「奴は武器を携行している可能性もある。気をつけろ」
「はっ!」
長官「では、全隊出発!」
青年「…保安官さん」
保安官「何だ」
青年「…本当に、あいつの言っていることが…」
保安官「…」
保安官「…現実を見るしか、道はない」
青年「…」
「君達は根本的に敵の姿を見失っているのではないか?」
…え?
「食人鬼、と呼ばれる魔物は」
…ええ
「確かに存在するのかもしれない」
はい、断言できます
「しかし、今まで何も事件を起こさなかった奴が、ここ10数年で爆発的に被害者を出している」
…
「これは何故だ?」
…魔物としての本能が、覚醒したのでは
「…」
「君は優秀だ」
…
「しかし事件に私情を挟んではならない」
…なにを
「この村のことが大事だろう。人が好きだろう」
「しかし、受け止めてくれ」
…長官
「…いいか、この事件の真相は」
…もう
「しっかり聞け!!お前には村を守る義務がある!!!」
…っ
食人鬼「…しょう、じょ」ズル
少女「…」カチャ
食人鬼「…っ、は、あ…」
少女「食人鬼」
ギィ
食人鬼「な、に…」
少女「あなたの話、聞けてよかった」
食人鬼「…ん…」
少女「でも」
敵を見失っている
少女「この先は」
魔物の正体を教えてやろう
食人鬼「…しょう、じょ?」
奴は
少女「…いらない」
ドガッ
食人鬼「…っ」
一瞬、何が起こったのか分からなかった
食人鬼「あ、…ぐっ…」
少女がどこかの部屋の扉を開けて
…そして
食人鬼「しょ、…う…じょ…」
少女「…」カツ
ギィイ
バタン
食人鬼「な、…んで」
少女「殴れば血が出るのね。発見だわ」コツ
何で彼女は斧を持っている?
食人鬼「……ぁ」
何故彼女は僕を殴った?
少女「…」カチャリ
少女「…食人鬼。…ここ、どこか分かる?」
食人鬼「…な、…」ズリ
少女「13回」
食人鬼「…」
少女「私がここで女性を解体した回数」
食人鬼「……!!」
少女「あはは、…びっくりした?ずっと不思議だったのよね?」
少女「村では食人鬼の噂が流れてる。自分が疑われてる」コツ
少女「けど、身に覚えがない…」
食人鬼「…はっ、…は、ぁ」
少女「そうよね」
少女「だってあなた、人間を食べたことないもの」
食人鬼「……!」
少女「全て私がやったことよ」コツ
食人鬼「な、…ん、で」
少女「…」
少女「何でって」
少女「…美味しいって気づいちゃったのよ」
食人鬼「…!」
少女「病み付きになったわ。…ねえ、ヒトがどんな味するか知ってる?」
少女「今まで食べた肉の中で一番美味しいの!柔らかくて、すっごく、美味しいのよ」
少女「私、他のものじゃ駄目になっちゃった。受け付けないの」
食人鬼「……」ズリ
少女「…逃げないでよ、ねえ」コツ
少女「私、酷いわよね」
食人鬼「…っ」
少女「あなたの噂をいいことに犯人像をあなたにむけて」
食人鬼「…」
少女「…で、罪をなすりつけようとしてる」
食人鬼「…そん、…な」
少女「それと、ごめん。あの薬は勿論痺れ薬。動物に使うもの」
少女「…ねえ、あなたって斧で斬ったら死ぬ?」
食人鬼「は、…っ」
少女「何回くらいで死ぬ?苦しませたくないんだけど、どうしよう」ガラ
少女「そうだ、首かたむけてよ。いっつもそうしてきたの」
少女「首の後ろを、一回思いっきり切るとね、すぐ死ぬのよ」
食人鬼「……はっ、…はぁ、っ」
少女「…本当はこんなことしたくないのよ」
少女「でも、チャンスがなくってこうなっちゃった」
少女「最初、銃であなたを撃っておけばよかった。そしたらすぐだったのに」
食人鬼「…っ」
少女「…ね、死ぬのは怖いでしょう?」
食人鬼「……」
少女「…」
少女「選ばせてあげようか」
食人鬼「…な、」
少女「私があなたを殺すか、あなたが私を殺すか」
食人鬼「…!」
少女「正直どっちでもいいわ」
少女「だから最初しくじったときに、私を殺してって言った」
食人鬼「…どっち、も。…嫌、だ」
少女「…」
少女「…っ」シュッ
ポタ
食人鬼「…!!」
少女「ほら、見て。血。…美味しそう?」
食人鬼「や、…め」
少女「お腹空いてこない?食べたいでしょ、ねえ」
食人鬼「しょう、…じょ!」
少女「もう疲れたの。お父さんが死んだときから、全てどうでもいい」ギュ
ボタ ボタ
少女「どうせあなたを殺した後は私も死ぬわ。…だからこっちのほうが被害は少ない」
食人鬼「やめ、ろ!…血、止めろ」
少女「食べなさいよ、食人鬼。欲望には逆らえないでしょ」
少女「…ほら、口開けて」グイ
食人鬼「ふ、…あ、…!?」
少女「噛んで。できるでしょ、その歯なら」
食人鬼「あ、っ…。む、」
食人鬼「はな、…せ」
少女「ほら、…噛め!」グッ
食人鬼「ぐ、…。や、…だ」
少女「じゃあ私があんたを殺す。それでいいのね!?」
食人鬼「…」
少女「何とか言いなさいよ!死にたいの!?」
ガシャン!
少女「はぁ、はぁ…」
食人鬼「…しょう、じょ」
少女「呼ぶな。…呼ぶな!お前なんかに呼ばれたくない!!!」
食人鬼「…」
少女「…っ、本当にやるわよ」
食人鬼「…ねえ」
少女「…っ、そう。じゃあ、いいわ。…」フラ
少女「さよなら、食人鬼。…あんたとの友達ごっこ、まあまあ楽しかったわ」ガラ
食人鬼「…」
少女「…っ」
少女「ば、…い、ばい」
食人鬼「…嘘だよ」
少女「…え、…?」
ああ、…君はまた誤った考えをしている
少女「な、…にが。嘘、って」
食人鬼「…う、…てて…」ズリ
少女「う、動かないで。本当に、殺…」
食人鬼「ろれつ、…まわんない。…効くね」
少女「なんで、なんで動けるのよ。…なんでっ!!」
少女が犯人か
食人鬼「…君じゃないよね」
少女「…!」
何故そう思う?違う、甘い。…まったく違う。
少女「何、言って。私が、私が」
食人鬼「そんなはず、ない。…最初の事件は、11年前、だろ」
少女「だから、…私が」
食人鬼「君は、6歳。……無理が、あるよね」
彼女の本質は
少女「ち、が…」
隠蔽者、といったところか
少女「はぁ、はぁ」フラ
ガラン
食人鬼「…そうなんだろ、少女」
少女「はっ、…は、あっ」ドサ
食人鬼「君が、誰かの罪を被ってるんだ」
少女「わ、わたし、…違う。わたしが」
食人鬼「…少女」
少女「い、いや。…嫌だ。…私なの。お願い、信じて」
食人鬼「君が話す番だよ」
少女「…っ」
食人鬼「君が庇ってる人は」
少女「やめ、て!!やめて!!お願い!!言わないでっ!!」
そうだ
少女「なん、で!違うの、違うのに!!何で言うの!?」
彼だ
食人鬼「…お父さん、なんだろ」
少女「…っ」
少女「あああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!」
お父さん
私の お父さん
…優しくて強くて面白くて
たった一人の、私の家族
「少女」
お父さんは、私の全てだった
「少女、…どうしてここに」
世界の全てだった
「…少女。…これは」
少女「おと、う…さん?」
それは今でも変わってない
少女「なに、それ…?」
彼の隣に横たわる白い死体を見たあとでも
猟師「…」
少女「ねえ、お父さん」
猟師「んー?…何だー?」
少女「そろそろまた狩りに行く?村のお肉もなくなってきたし」
猟師「そうだな。明日にでも行くつもりだ」
少女「そっか。…気をつけてね」
猟師「なんだ、心配なのか」
少女「そりゃ、…そうでしょ。だって村で夜も出歩くのお父さんくらいだもん」
猟師「大丈夫さ。奴は男に手を出したりしない」
少女「…分かんないじゃない、そんなの」ムス
猟師「心配なのは分かる。けどな、俺が行かなきゃ村が飢えるんだ」ポフ
少女「分かってる。…分かってるけど」
猟師「寧ろお前が十分気をつけろよ。俺は気が気でないんだ」
少女「外出もちゃんと二人以上でしてるし、…言われたとおり、これも」
猟師「お。…ちゃんと整備してるか?」
少女「うん。いつでも撃てるよ」
猟師「いいか、それは緊急事態用だからな。オモチャじゃないんだぞ」
少女「分かってるよ、散々訓練したし」
少女「何時ごろ出発する?」
猟師「そうだな。…まだ暗い朝のうちに」
少女「ええ…。なんだ、じゃあ朝ごはん作れない」
猟師「まあ適当になにか摂っていくさ」
少女「じゃあ、お昼は私が届けてあげるね」
猟師「ん、…まあ嬉しいが、大丈夫か」
少女「いつもどおりちゃんと舗装された道を通るわ。友達と一緒に」
猟師「そうか。じゃあ昼時になったら森の入り口で待ってる」
少女「うん!お昼、なにがいい?」
猟師「そうだな…。最近寒くなってきたし、温かい麺料理がいいかな」
少女「最近してなかったもんね。いいよ、分かった」
猟師「いつもありがとうな、少女」
少女「ううん。お父さんこそ、お仕事頑張ってくれてありがとう」
私は
幸せだった
少女「ごめんね、付き添わせちゃって」
友人「全然大丈夫よ。私もそろそろ家の中じゃ退屈してたくらいだし」
少女「確かに。そっちの家、厳しいもんね」
友人「そう!夜は勿論昼も外出るの禁止だもん」
友人「息がつまるっていうか…。あー、病気になりそう」
少女「あはは、…でも、笑い事じゃないか」
少女「…だんだん魔物の被害が村の中心にまで迫ってきてるし」
友人「うん。…そうだね。怖いね」
少女「怖いよ。なんであんな酷いこと、するんだろ」
友人「…食べられたくないなあ」
少女「私も…」
友人「でもさ、あんたはお父さんがいるから大丈夫なんじゃない?」
少女「え?」
友人「いくら魔物でも、でっかい猟銃抱えたおじさん見たら、逃げ出すわよ」
少女「そうかなー?」
友人「うん。私だってたまに怖いもん」
少女「私は全然平気。だって銃持ってようがお父さんは優しいもの」
友人「…相変わらずラブラブね」
少女「らぶらぶ?なにそれ」
友人「都で流行ってる言葉よ。意味は教えてあげない」
少女「…どうせ、しょうもない意味なんでしょ」
少女「…あ」
少女「…お父さん!」タタタ
猟師「お、来たか」
少女「うん!」ニコ
友人「おじさん、お疲れ様です」
猟師「ああ、友人ちゃんも。すまんね、何もなかったか?」
少女「大丈夫だよ!人通り多い所通ったし、ね?」
友人「うん。何もなかったです」
猟師「そうか。…お、持ってきてくれたか」
少女「うん。今日はね、スープパスタにしてみた」
猟師「パスタか。いいな、おいしそうだ」
少女「ね、何か獲れた?」
猟師「はは、それがまだ」
友人「珍しいですね」
猟師「今日はさっぱりだ。良い獲物が見当たらない」
少女「えー…じゃあ、長引く?」
猟師「…」
猟師「いや、大丈夫だ」チラ
友人「…」
猟師「なんとか目星はつけれそうだからな」
少女「そっか、じゃあ早く帰ってきてね」
猟師「ああ、分かって」
ビュウ
友人「きゃ!?」
少女「わ、…」
猟師「おっと、大丈夫か二人とも」ガシ
少女「びっくりした。…いきなり強い風吹いたね」
友人「ありがとうございます、おじさん。…転ぶところだった」
少女「もう、髪ぼさぼさだよ…て、あれ」
友人「なに?」
少女「友人、…髪飾りは?」
友人「…」バッ
猟師「あ、さっきまであったのにな」
友人「無い。嘘。さっきの風で?」
少女「うわ、…あれ、大事な奴だよね?」
友人「うん。…気に入ってたのに」
猟師「ここら辺にないか?」
少女「…無い。どこか飛ばされちゃったみたい」
友人「…そんなぁ」
猟師「俺が探しておこう。見つかるか保証はできないが」
友人「でも、いいんですか」
猟師「ああ。だからそろそろ二人は帰ったほうが良い」
猟師「…魔物が匂いを嗅ぎつける前に」
少女「ね、お父さんに任せて帰ろう」
友人「…うん」
少女「…」ペラ
少女(遅い、な)
少女(もう夕飯時だっていうのに。…どうしてかな)
少女「…何か、あったのかな」
ギィ
少女「!」バッ
猟師「ふう。…ただいま」
少女「お帰りなさい、お父さんっ」
猟師「ああ。…なんだ、ご飯食べずに待ってたのか」
少女「うん。一緒に食べたくて」
猟師「ごめんな。少し手間取った」
少女「あ、どうだった?なにか獲れた?」
猟師「ああ。猪が二頭だな。明日加工する」
少女「…一人じゃ大変じゃない?手伝おうか」
猟師「いいや、大丈夫。それより早く夕飯にしよう」
少女「分かった。今準備す…」
ダンダン!
少女「…!」ビクッ
「猟師!開けてくれ、俺だ!」
少女「なんだ、保安官さん。…びっくりしたぁ」
猟師「どうかしたか?」ギィ
保安官「はぁ、はぁ…。おい、養鶏場のとこの娘を見なかったか?」
少女「…友人のこと?どうかしたの?」
保安官「…いなく、なった」
少女「…!」
猟師「何時からだ」
保安官「夕方から姿が見えないそうだ。母親が料理している隙に…」
少女「嘘、…嘘」
猟師「少女、落ち着け。まだ決まった訳じゃない」
少女「なん、で。…なんで、友人」
保安官「とにかく、村で緊急集会がある!お前も来い!」
猟師「分かった。準備しよう」
少女「……」
猟師「少女、お前も来なさい。一人にはさせられない」
少女「…お父さん、でも」
猟師「大丈夫だ。希望を捨てちゃいけない。お前の親友なんだろ」
少女「…うん」
猟師「コートを取ってきなさい。急いで行くぞ」
少女「…分かった!」
青年「…少女」
少女「あ、…青年」
青年「集会、まだ終わらないな」
少女「…うん」
青年「友人が、…まさか。何かの間違いだといいけど」
少女「…」
ギィ
少女「…あっ」
猟師「少女、…待たせたな」
少女「お父さん、…どうだったの?」
猟師「ああ。まだ見つかってない。…捜索隊が組まれた」
少女「そんな…」
猟師「残念ながら俺は外されたが…。今は大事な狩猟期だから」
少女「…友人、どうして」
猟師「靴がなくなってた。自分から外に出たようだ」
少女「どうして!そんな、自分からなんて」
猟師「分からない」
少女「…あ」
少女「髪、飾り…?」
猟師「…!一人で探しに行った、ということか」
少女「まさか。そんな…」
猟師「俺は探したが見つからなかった。それに、あそこで人は見ていない」
少女「…」
猟師「とにかく、…気をしっかりもて。どんな報告があっても乱さないように」
少女「…そん、な」
猟師「大丈夫だ。…お前は、俺が守る」ギュ
少女「…友人…。どう、して…」
少女「…」
少女(友人、…無事でいて)
ギィ
猟師「…ただいま」
少女「あ、…お父さん。お帰り」
猟師「…今日はずっと家にいたのか」
少女「…」コク
猟師「何か知らせは?」
少女「無い。…お父さんは、大丈夫?」
猟師「ああ。解体もし終わったしな」
少女「そう…」
猟師「…」
猟師「顔色が悪いぞ。…悲しいのは分かるが、ふさぎこむんじゃない」ポン
少女「でも、…」
猟師「夕飯を一緒に作ろう。新鮮な肉があるんだ」
少女「…食べたくないよ」
猟師「駄目だ。しっかり食べないと、体が持たないぞ」
少女「…うん」
猟師「さ、台所へ行こう」
少女「…」コク
猟師「猪、好きだろ。柔らかい腹の肉をとってきたんだ。猟師の特権でな」
少女「うん。…美味しそう。煮込み料理がいいかな」
猟師「固まり肉だから、切ってくれるか?俺は湯を沸かしておく」
少女「うん」
ドサ
少女「…」
少女(あれ?)
何故だかそのとき
猟師「…ん、おい?」
少女「…」
目の前に置かれた肉が
少女「…あ、」
どうしても触れなかった
猟師「どうしたんだ、…少女?」
少女「お父さん。…ねえ、お父さんが切ってくれない?私、…ちょっと」
猟師「そうか。…肉を食べるのは辛いか?」
少女「…」
猟師「こんな事件が起こっている最中だもんな。…無理もないさ」
ザク
少女「…」
猟師「いいぞ、俺がやる。少女は鍋を見てくれ」
ザク
少女「…うん。分かった」
少女「…」
お父さんは何のためらいもなく肉に刃をつきたて
猟師「…」
淡々と切り裂いていった
ドンドン!
少女「…あ。誰かな」
猟師「開けてくれ少女。手が離せない」
少女「分かった」タタ
猟師「…」ザク
ガチャ
保安官「ああ。少女、ちゃんか。…いいか、よく聞いてくれ」
少女「…」
保安官「…遺体が発見された」
ザク
少女「…」
猟師「…少女」クル
少女「…」フラ
猟師「少女っ!!」
ドサ
…
「少女」
…
「少女。なあ、開けてくれ」
…いや
「何日も出てきてないじゃないか。…体を壊すぞ。顔を見せてくれ」
…いやだ。もう、…誰にも会いたくない
「…少女」
……なんで、あの子が
「辛いだろうよ。友達だったんだもんな。…悲しいだろうよ」
…っ
「けどな、少女。お前までふさぎ込んだままじゃ、あの子も報われない」
報われる、って。何よ
「お前が体を壊すと、余計あの子は悲しむだろう。あの子の親もだ」
…
「泣きたいなら、泣けばいい。一杯に悲しめばいい」
「けど、自暴自棄にならないでくれ。お願いだ。泣くんなら、俺の腕の中で泣いてくれ」
…お父さん
「開けてくれ少女。俺も一緒に泣く。だから、背負わないでくれ…」
…
遺体は川岸で発見された
腿の肉と、肺が切り取られていた
少女「…」
私は彼女の葬式に参加できなかった
家に一日中引きこもっては、泣いてばかりいた
猟師「…じゃあ、行ってくるな」
少女「…うん」
バタン
どうして
あの日、私が彼女を誘わなかったら
少女「…っ」ポタ
何かが変わっていただろうか
少女「…っ、ひくっ、っ…」
彼女が死ぬこともなかっただろうか
少女「ごめん、なさい…」
私は何度も何度も自分を責めた
少女「…っ…」
そんな中でも、現実は無情に動くのだ
親友が死んで4日後、新たな行方不明者が出た
少女「…」
少女「…ん」パチ
少女「…」ムク
少女(あ、…。こんな時間まで、寝てたんだ)
少女「…お父さん?」
…
少女「…あ」ピラ
「少女へ。 仕事に行ってくる。きちんとカーテンを開けて日の光を浴びるように。
夕方には帰ってくる。ご飯をちゃんと食べろよ」
少女「…行っちゃったんだ」
少女「…あ」
少女「…お弁当、…渡してない」
どうかしていたのかもしれない
少女「…」ガチャ
あの時どうして一人で家を飛び出したか
少女「はぁ、はぁ」
いや、無意識のうちに分かっていたのかもしれない
私は死なない
だって、
少女(…お父さん、どこかな)
少女(冷静に考えれば、まだ仕事だったのかもしれない)
少女(…あー、お弁当だけ小屋に置いて帰ろうかな)ザク
少女「…ん」
泉の前に、見慣れた背中が見えた
少女「あ」
広くて優しげな、お父さんの背中
少女「…っ」
だから、なんだか嬉しくなって
少女「…」タタ
駆け寄ってしまったのだ
少女「おとうさ、…」
「…」
振り向いたお父さんの顔は
少女「…え」
真っ赤だった
大きな体の下に見えたのは、脱力した白い細い、足
「しょう、じょ…?」
ドサ
少女(…え、…え…?)
猟師「何故だ。どうして、ここに」
少女(なんで、お父さんの顔、血がついて)
少女(なんで、…その子、…行方不明になってる…)
猟師「…少女」スッ
少女「おと、う…さん?」
少女(ああ、そっか)
猟師「…」
少女「そのこ、…死んでる?遺体、見つけたの?」
私の希望は簡単に打ち砕かれる
猟師「……」
お父さんの持っていた、血の着いた斧で
少女「……え」
猟師「何故、来た」
少女「お父さん、…なに、それ」
猟師「少女。…何故、来た」
彼の瞳は今まで見たことがない位、静かで、…何の感情も浮かんでいなかった
少女「はぁ、は、あ」
私は理解できない
少女「なん、でって。だって、お弁当」
理解できない 頭が拒む
少女「…お父さん、それ」
少女「お父さん、が。…やったの…?」ポロ
猟師「…ああ」
少女「嘘、嘘、だよね」ズリ
猟師「今血抜きをしていた」
「…」
少女「ひ、っ!!」
猟師「…少女。いつかお前には打ち明けようと思っていた」
少女(な、に。言ってるの?)
猟師「村で起こっている全ての事件は、俺がした」
少女(…あはは。冗談だ。そうに決まってる)
猟師「けど、安心しろ。お前には何もしない」ナデ
少女(だって、魔物だよ?魔物がしたんだよ?お父さんがこんなこと)
猟師「大丈夫か、少女」
少女「あ、…っ。…っ…」
猟師「…震えているな。無理もない。すまなかったな」
少女「お父さん、お父さん。…ねえ、…これ、夢?」
猟師「いいや、違う」
少女「だって、おかしいよ。なんで、お父さんが、人殺しなんて」
猟師「…俺なんだよ、少女」
少女「…」
猟師「今からこの子の肉を取ろうと思っていた。顔色がいい子だから、肝臓がいいはずだ」
少女「な、…にが?」
猟師「…」
少女「魔物、じゃ、ないの」
…いや
少女「お父さんが、…食人鬼、…なの?」
猟師「ああ」
少女「…」
ひとをたべる
猟師「驚くよな。…もう少し、分別のある時期になってから打ち明けようと思ったんだが」
ひとをたべる、げどう
猟師「小屋へ移動しないか?お前は少し休んだ方がいい」
まもの。 けがらわしい
猟師「すぐ終わらせるから、その間に休んでいなさい。昼を食べたら一緒に帰ろう」
わたしの、おとうさん
少女「…友人、は」
猟師「ああ、あの子か」
猟師「俺も辛かった。…少し後悔はしている」
少女「……」
猟師「けど、あの子の脚は今まで食べた中で一番の味だったぞ」
少女「……!!」
気づいたら、喉になにかがこみあげてきて
少女「ぅ、えっ…。ぐ、おえっ……!!」
ビシャ
猟師「少女っ!」
少女「は、っ。う、ぐっ……」
猟師「大丈夫か、少女!」ナデ
少女「う、…っ!」
ビシャ
猟師「すまない。少女、すまない」
少女「……う、ぅ…」
猟師「けど、話せば分かる。きっと分かる。俺の娘だもんな」
お父さんは何を言っている?
猟師「そのために今まで色々教えてきたんだ」
猟師「銃の扱い、刃物の扱い、獲物の解体…」
少女「…、…」
彼は何を言っている?
猟師「お前はもう立派な猟師だよ。俺の手伝いだってできる」
猟師「そうだ、今手始めにこの子を解体するところを見てみるか?」
猟師「いつも言っているだろう、目で盗めって」
少女「…あ、」
猟師「体調が悪いか?とにかく小屋に」
この男は、何を言っている?
猟師「少女?」
少女「さわ、」
少女「さわ、るな……。ばけもの……っ!!」
少女「は、っ。はぁ、はぁ」
猟師「…少女」
少女「やめて!!!来ないで!!」
猟師「…そうだな。俺は、…」
少女「い、や。……やめろ!!」
猟師「けどな、少女」
少女「は、っ。はっ、…っ…」ズリ
猟師「…お前だって、その化け物の血が入った娘なんだよ」
おまえだってそのばけもののちがはいったむすめなんだよ
少女「…ぁ」
猟師「分かり合えるさ」
わかりあえるさ
猟師「さ、行こう。早くしないと肉が悪くなる」グイ
はやくしないとにくがわるくなる
少女「…」
ああ
少女「…っ」バッ
こいつを
猟師「しょ、」
少女「…っ」ガラン
ころそう
少女「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
グシャッ
思いっきり振った、斧の下で
猟師「…が」
まず、木の実の殻を割るような手ごたえと
少女「はぁ、っ。はっ、…はっ」
猟師「…」
腐った果実のような不愉快なほど柔らかい手ごたえが、あった
ドサ
猟師「…」
お父さんは2,3回痙攣した
少女「…」
猟師「…し」
少女「……」
目を開けて、こちらを見つめながら
猟師「…」
死んだ
少女「……」
少女「…っ」バッ
私は、また吐いた
少女「ぐ、…っ!あ、…う…っ!」
脳が飛び散ったお父さんの遺体の横で、吐いた
思い出したように、涙が
あとからあとから溢れては
少女「ぐ、…っ!」
お父さんの血と混ざって、まだらになった
私は、お父さんを殺した
食人鬼「少女」
少女「…」
食人鬼「そうなんだろ?」
少女「…」
少女「…13件の女性の殺人は、…お父さん」
食人鬼「…」
少女「けど、けど…」
少女「私も、変わらない」
少女「…お父さんを、…殺したのは、私」
食人鬼「…そう」
少女「殺した後、…ここで、バラバラにした」
食人鬼「…」
少女「ここは、元々お父さんの使ってた解体場所だったの。…お父さんの遺体を処理したあとは」
少女「…埋めた。だから、遺体は無い」
食人鬼「…」
少女「被害者の女の子は見つかりやすい位置に置いて」
少女「泉のほとりにあった血は水で洗い流した」
少女「…ぞっとした。私ね、ずっと冷静だったのよ」
少女「全てのことを、まるで狩りの後処理みたいに終わらせたの」
食人鬼「…」
少女「その後はまっすぐ家に帰って」
少女「…寝た。何も考えられなかった」
少女「女の子の遺体は翌朝には見つかった」
少女「私は村の人に、お父さんが帰ってきてないと知らせた」
少女「…」
少女「そのときから、考え出したの」
少女「…全てあなたのせいにして、事実を隠そうって」
食人鬼「…どうして?」
少女「…」
少女「お父さんは人殺しだった」
少女「けど、」
少女「…私の、…私の全てだった…」ポロ
少女「お父さんの罪が、全て知られてしまうのが、…怖かった」
食人鬼「…」
少女「最初は、自分であなたを殺そうと思ったわ」
少女「私が復讐をしてこの事件は終了、それでいいって」
少女「でも、…失敗だった」
少女「だったらせめて死のうと思った」
少女「今度はあなたに私を食べさせようと思ったわ」
少女「魔物の一回の犯行で、村人はきっと全ての犯人だって誤解してくれるはずだから」
少女「…けど、あなたは私を」
食人鬼「…」
少女「…最後は、これ」
少女「この事件は私が全て起こした。食人鬼という少年を利用して、罪をかぶせようとして」
食人鬼「少女」
少女「私が狂ってた。私が、全て悪いのよ。ごめんなさい…あなたを巻き込んで」
食人鬼「君は、…間違いをたくさんしてるけど、全て悪い訳じゃない」
少女「いいえ、私は」
食人鬼「…真実は変わらないよ。きっといつか誰かが暴く」
少女「…」
少女「私、…」
少女「馬鹿よね。なにしてたんだろ」
少女「でも今も、…思うのよ。お父さんのしたことがバレるくらいなら」
少女「いっそ、…私が全て被ろうって」
食人鬼「…」
少女「ねえ、あなたの大事な人がさ」
少女「どんなに非人道的なことをしようとも、…助けたいって思う?」
食人鬼「…思うよ」
少女「そうでしょ。だから、私」
食人鬼「でも、君のやってることは救いじゃないと思う」
少女「…」
食人鬼「…多分、自己満足だ」
少女「…はは」
食人鬼「もう、やめよう。少女」
少女「…」
食人鬼「君は戻れる。全て村の人に話すんだ」
少女「話して、どうするのよ」
少女「もう私には何もない。…どうでもいい」
食人鬼「…どうでもよくなんか、ない」
少女「…」
食人鬼「僕が、…君を支える。いつか自分を許せるって思う日が来るまで、僕が一緒にいてあげる」
少女「…」
食人鬼「君は僕を救ってくれた」
少女「…」
食人鬼「だから、今度は僕が助ける番なんだ」
少女「…やめて」
食人鬼「少女、お願い。逃げないで。どんなに辛くても、君は生きなきゃいけないだろ」
少女「…」
食人鬼「そう、約束したんだろ」
少女「…お」
少女「おとう、…さん」
食人鬼「少女」
少女「…私、…」
食人鬼「ねえ、案外君を裁くのって他人じゃない。君自身なんだよ」
食人鬼「君のやったことは、…罪だと僕は思わない」
食人鬼「護身、っていってもいい。だから、僕は君のやったことなんて気にも留めない」
食人鬼「むしろ、可哀相だって思う。…君のお父さんがすごく憎い」
少女「…」
食人鬼「村の人だって話せば分かってくれる。時間がかかっても、きっと」
食人鬼「…君を罰してるのは、君だけなんだよ」
少女「…」ポロ
少女「わ、…」
少女「わた、し…」
…ドンッ!!!
「全員、突入!!!」
ドドドッ
少女「な、…に。まさか」
食人鬼「村の人たち?」
少女「…都の自警団だ。もう、…来たの」
ガン!
食人鬼「…っ」
少女「嫌。…嫌だ」
食人鬼「少女、もうお終いだ。全て話そう」
少女「…っ、でも、…」
食人鬼「少女。…僕がついてる」ギュ
少女「…」
食人鬼「ね?」
少女「どうして、…あなたは…そんなに」
食人鬼「…」
ガンッ!
「もっと強く突け!開けろ!」
食人鬼「…君のことが、好きだからだと思うよ」
少女「…」
少女「あ、…」
ガンッ
食人鬼「…ごめん、思うじゃなくて。ええと」
少女「…っ。あり、…がと」ギュ
「突破しろ!!!」
バンッ!
その日見た光景を、俺は一生忘れないだろう。
保安官「…」
長官から事件の真相を聞かされたとき以上の衝撃だった
「いたぞ!!」
「構えろ!!」
薄暗い地下室。血が散り、斧が転がっている部屋。
保安官「…」
青年「しょう、じょ…」
その中心に、彼女はいた
…いや、彼女たちはいた
食人鬼「…」
この事件の一番の被害者だろう小さな少女を
保安官「…お前、は」
異形の少年が強く腕に抱きしめ、こちらを睨みつけていた
赤い目だった
あのときの、目だ
長官「…動くなっ!」
食人鬼「…」
少女「…、しょく、」
食人鬼「大丈夫だよ、少女。大丈夫」
少女に向けられた目は、限りなく優しかった
「なんだ、…こいつは」
「人質をとって…」
青年「…っ、この野郎…っ」
保安官「待て!…全員、お願いだ。何もしないでくれっ」
長官「…少女をこちらにやれ」
食人鬼「…彼女を傷つけないか」
保安官「勿論だ、信じてくれ。俺たちはもう全て知ってる」
食人鬼「…」
少女「保安官さん、…私が、お父さんをやったのよ」
保安官「ああ」
少女「…女性は、…」
長官「我々はもう真相にたどり着いた。君一人が背負うな」
保安官「…おいで、少女。辛かったろ、疲れたろ」
保安官「もう、いいんだよ。…おいで」
少女「…」
食人鬼「行って」
少女「…うん」
名残惜しそうに、二つの白い手が離れて
長官「…保護しろ!」
「こっちへ!」
少女「…」
食人鬼「…」
青年「少女っ」
少女「……」
長官「消耗している。救護班のところへ連れて行ってくれ」
少女「待って、お願い。…彼を」
保安官「大丈夫だから、…少女」
少女「あ、…」
バタン
長官「…さて」コツ
食人鬼「…」
長官「森に住む魔物とは、君かね」
魔物が立ち上がった
食人鬼「…」
美しい、少女のようにも見える少年だった
食人鬼「ああ」
声だけが、低く掠れていた
長官「君もこっちに来たまえ。聞きたいことがある」
食人鬼「…」
保安官「そちらが変な気を起こさなければ、何もしない」
青年「…」
食人鬼「分かった。…行く」
長官「怪我をしているのか?」
食人鬼「問題ない」
「…」
ジャキ
食人鬼「…」
長官「何か武器を携行しているか?あるなら出せ」
食人鬼「ない」
長官「両手を上に上げて、ゆっくり出てきてくれ」
食人鬼「…」コツ
何十もの銃口を向けられた少年の顔は、白かった
手が震えていた
長官「…確保だ」
「はっ」
食人鬼「…っ」
長官「君の素性はまだ分からない。安全のためにも拘束はさせてもらう」
食人鬼「…構わない」
ギシ
保安官「…」
こうして、全てが終わった
青年「…」
はずだった
青年「…お前が」
青年「お前が、少女を惑わしたんだろ」
保安官「青年、」
食人鬼「違う」
青年「魔物の言うことなんか、…信用できるか!」
食人鬼「違う」
保安官「青年、やめろ」
青年「あんたら、こいつを信じてどうする!?」
青年「相手は魔物だぞ!?嘘をついて当たり前だろ!?」
青年「いなくなってる間に少女がどんな目にあったか、…想像くらいできるだろ!?」
保安官「…!」
長官「青年、下がれ」
青年「…」
少女を慕う青年だ
青年「お前が」
一度蔓延った恐ろしいほど汚れた妄想を、消せない
食人鬼「僕は、…彼女に何もしてない」
青年「…」
一瞬だった
ギシ
青年の背中が大きく揺れて
食人鬼「……!」
魔物の目が大きく見開かれた
青年「は、っ。…は…」
食人鬼「…」グラ
保安官「青年っ!!!」ガッ
長官「くそ、何をっ」
青年「だって、殺さなきゃ。魔物だぞ!?今回の事件の犯人じゃなくても、きっと」
保安官「離れろっ!」
青年「…っ」
ズッ
血管の浮き出た両手が、血に濡れた刃をつかんでいた
食人鬼「…っ、は、…」
保安官「腹をやられてる!」
食人鬼「…」
青年「…まだ、生きて…」
食人鬼「僕は、…なにも、…して、ない」
保安官「喋るな」
食人鬼「ただ、…生きてた、だけ、だ」
保安官「…!」
「外に運べ!救護班の所へ!」
バンッ
少女「…」クル
保安官「急いで止血を!すげぇ血だ!」
少女「…え、…?」
少女「食人鬼、食人鬼!何、どうしてっ」
食人鬼「…しょう、じょ。…大丈夫だから」
少女「なんで、安全だって言ったじゃない!」
保安官「すまない、けど…!」
少女「食人鬼っ、しっかりしてっ」
食人鬼「…うるさい、なあ。…大丈夫だから」
少女「ごめん、…ごめんね…」ギュ
「治療をします、離れて!」
少女「…っ」
食人鬼「僕、こんなことじゃ。…大丈夫だから。ね?」
少女「…」コク
保安官「さ、離れて」
少女「…」
保安官「俺たちは一足先に村に帰ろう。集会で全部話さなきゃ」
保安官「…落ち着いて事実を話せば分かってくれる」
少女「…」
食人鬼「少女」
少女「…あ」
食人鬼「大丈夫だからね」
少女「…うん。…うん」
少女「食人鬼は、…どうなるの?」
保安官「彼にも事件のことを聞く」
少女「彼は何もしてない。本当よ」
保安官「それはこれから確かめるんだ」
ザク ザク
少女「…私、…もう村にいられない」
保安官「…辛いか」
少女「うん。…皆に合わせる顔がない」
保安官「お前がそう思うなら、…どこか移住するのも手かもしれないな」
少女「…」
保安官「俺が着いていこうか?」
少女「え…?」
保安官「猟師のことはきっと無罪になる。だから、都にでも移住してお前は学校に通えばいい」
少女「でも、…でも」
保安官「俺はきっとここの任を解かれるだろうからな。行く所がない」
保安官「忘れることはできない。けど、新しくやり直すことだってできるだろ」
少女「…」
保安官「ま、ゆっくり考え」
ザッ
男「…」
少女「…?」
男「お前か」
保安官「どうした?男はもう村の集会場に集まってるはずじゃ」
男「お前が娘をおびき寄せたんだろ」
少女「…!」ビク
男「お前がおとりになって、俺の娘を」
保安官「下がれ、少女」
少女「…」
ザッ
男「お前は共犯だ。化け物、化け物の子どもなんだ」
少女「…」
保安官「少女!!俺のところへ来い!!」
男「…殺してやる」
少女「……」ヘタ
保安官「少女っ!!!」
少女「あ、…」
男「…っ、うわああああああああああああ!!!」
保安官「止まれぇぇぇえっ!!!」
俺は銃を抜くのが遅すぎた
俺の前で二つの影が重なる瞬間
保安官「……!」
聞いたこともないような、悲痛な、少女の悲鳴が
森にこだました
保安官「…しょ、…」
目の端が一瞬揺らいだ
少女「は、っ、…は、…」
血が
男「…あ、…?」
少女の
少女「な、…」
いや 彼女じゃない
保安官「…こんな、…ことが」
食人鬼「……っ」
苦痛に歪んだ顔の、化け物の背中から、血が
少女「な、…んで。…」
男「ひ、っ…ひぃいいっ!」ズザッ
食人鬼「…少女」
少女「なん、で。なんで」
食人鬼「人間って、…馬鹿だね」ギュ
少女「そ、うだよ。馬鹿だよ。皆、馬鹿だよ」ギュ
保安官「……」
食人鬼「…」
少年が、少女の耳元で何か囁いた
少女「…」
少女が小さく頷いた
保安官「あ、…」
魔物が、咆哮をあげた
保安官「……っ!」
俺は構えた
食人鬼「…」
しかし、撃てなかった
食人鬼「…彼女は」
撃つ必要がなかった
食人鬼「…彼女は、僕が引き受けます」
食人鬼「村の人たちには、あなたが説明してください」
何故なら魔物は
少女「…」ギュ
保安官「…分かった」
人間よりもずっと、深く優しい目をしていたから
食人鬼「…少女」
少女「保安官さん、…ごめんなさい」
保安官「…」
少女「私、…やり直しても、いいんだよね」
保安官「ああ」
保安官「…行け」
食人鬼「…」ペコ
強い風が吹いた
保安官「…!」
目を開けるとそこから
保安官「…」
全てが跡形も無く消えていた
保安官「…ああ」
保安官「生きろ。…もう、…縛られるなよ」
報告
●●●●年 ×月×日 深夜
全ての事件解決
13件の連続女性殺害事件の犯人は、村に住む猟師
小屋の近くから彼のものと思われる遺体が埋められているのを隊員が発見
死亡したものと断定した
重要参考人である猟師の娘が殺害したものと考えられる
しかし自己防衛の観点から見て、刑に問うことはない
もう一人の重要参考人は、ある少年
彼はこの地方で魔物と呼ばれ、隠れ住んでいた
隊は少女保護時に彼を確保
しかし村人により負傷
治療最中に隊員一人に軽症を負わせた後、逃亡
同時刻、保安官とに村へ戻っていた少女も失踪
目撃によれば、上記の少年とどこかへ姿をくらました模様
しかしこの二名は保護、および捕縛の必要はないものとする
少年の家は3日後に隊が発見
大規模な家宅捜索の上、彼が何かしらの事件をおこした可能性は薄いと判断
よって彼も刑事責任は不問とする
村でのこれ以上の事件は起こっていない
村の保安官は任を進んで辞退
全隊、事後処理を済ませた後都に帰還
事件を解決したものとする
少女「…で」
食人鬼「…んー」
少女「これからどうするの」
食人鬼「…んー…」
少女「とりあえず、医者に行かない?止血はしたけど心配だし」
食人鬼「えー、歩いて?」
少女「必要なら負ぶってあげるけど。最初に殴ったり毒もったのは私だし」
食人鬼「いや、いい。…大丈夫」
少女「なんでそんな元気なの?」
食人鬼「ああ、家の結界を解いたから、余計な力が戻ってきたのかも」
少女「…よくわかんないけど、死なないってこと?」
食人鬼「まあ多分」
少女「そっか、安心した」
食人鬼「…もう、家には戻れないな」
少女「ごめん」
食人鬼「いい。…僕はどこでも生きていける」
少女「…」
食人鬼「君と一緒なら。…きっと」
少女「あなた、傷だらけね」
食人鬼「跡になるかな」
少女「…」
食人鬼「でも、なんか清清しい気分だ」
少女「…なんで」
食人鬼「だって、大事な物を守って付いた傷だから」
少女「…」
食人鬼「最寄の医者って、どこかな」
少女「隣村かなー。…でもそこまで行くくらいなら、大規模な街の医者にしたほうがいいわ」
食人鬼「なるほど」
少女「…医者に行って、治療してもらった後は」
少女「どうしよっか」
食人鬼「どうするって、なに?」
少女「…だから、今後のことよ。いつまでもこうじゃ…」
食人鬼「え?…そのままでいいんじゃないか?」
少女「…は?」
食人鬼「場所を変わるだけだよ。僕が石を削って売って、君は何か他にする」
食人鬼「二人で暮らす。…それだけだよ?」
少女「…いいの?」
食人鬼「うん」
少女「本当に?」
食人鬼「当たり前だろ」
少女「…」
食人鬼「君料理上手いし、どこか料理店で働けば」
少女「そうね」
食人鬼「家を探さなきゃね。なんか、…本当に人間になったみたい」
少女「あなたは人間だよ」
食人鬼「…」
少女「誰よりも、人間らしい」
食人鬼「…そんなこと言われるなんて思わなかった」
少女「…」
食人鬼「…どうかした?」
少女「あのさ」
食人鬼「うん」
少女「よくよく考えてみたのだけれど」
食人鬼「うん」
少女「…これって、プロポーズなの?」
食人鬼「!」ズルッ
少女「いやだって、男女が一緒に暮らすってそういうことじゃない」
食人鬼「そ、そこまで深くは考えてない、けど」
食人鬼「…ゆ、…ゆくゆくは?」ボソ
少女「ああでも違うか。あなた結婚の概念とか分かってなさそうだし」
食人鬼「…」
少女「とにかく、早く行こう。なんだろう、今とても気分がいい」
食人鬼「…ああ」
お父さん
私は、元気です
お父さん
たくさんたくさん、あなたに謝って日々を過ごしています
あなたは罪人です
最近、それが身に染みて分かります
あなたがしたこと、忘れません
一生恨みます 一生悲しみます
けど、あなたのしたことの十字架は
娘である私がしっかりと背負います
私があなたの生を絶ったあのとき
あなたは抵抗しませんでしたね
それはきっと、自分に残った最後の人間性と
私を愛する本物の気持ちの表れだったのでしょう
そう、思っています
お父さん
私、一人ぼっちじゃないよ
心配しないで
とても優しい、男の子と一緒です
村にはいられなくなったけど、彼と都で暮らしています
私、パン屋さんで働いてるんだ
ご飯も少しづつ食べれるようになりました
もっといいことは、銃やナイフの扱い方を忘れてきたことです
私はもう、人を傷つけるものに触らないと誓いました
あれは命を奪うものじゃない 守るものだと気づいたのです
お父さん
私は、元気です
だから、あなたも
…自分のしたことを悔いる気持ちを忘れず、償いを続けて
眠ってください
……
…
少年「お母さん、はやくー!」
母「こら、走っちゃだめよ!」
少年「だってお母さん遅いんだもん」
父「こら、少年!お母さんは今大事な体なんだぞ。優しくしてあげなさい」
少年「あ、いけね。そうだった」
母「あら、別に大丈夫よ。これくらい」
少年「お母さん、ゆっくりでいいからねっ」
母「…ありがと」クス
少年「ねえ、これから何処行くの?」
父「お墓参り。少年のおばあちゃんとおじいちゃんのお墓に行くんだ」
少年「そっかー」
少年「ねえねえ、おじいちゃんとおばあちゃんって、どんな人だったの?」
母「…そうね」
父「どちらも立派な人だったよ」
母「…」チラ
少年「そうなんだ!」
父「ああ。だから少年も、彼らに恥じないように良い大人になるんだぞ」
少年「うん!」
少年「あ、僕先に行ってお墓に供えるお花探してくる!」タッ
母「気をつけて。転んじゃだめよ」
少年「うん!」
父「…」
母「…元気ね」
父「そうだな」
母「…良かったのかしら。あんなこと言って」
父「いいんだよ」
母「…」
父「きっと、これでいいんだ」
サワ
父「ただ、僕たちは忘れてはいけないんだ」
母「…そうね」
父「行こうか」
母「ええ」
少年「…らんらーん」
母「どう?あった?」
少年「うん!ピンクのお花いっぱいあった」
少年「もっと取ってくるね!」タッ
ドン
少年「あ、…ごめんなさい」
男性「…いやいや」
少年「お怪我、ないですか?僕、うっかりしちゃった」
男性「いいんだよ。…君は…」
父「少年?」
男性「…」
父「…あ…」
男性「そうか」
母「何?どうかしたの?」
男性「…」ニコ
母「……」
男性「お墓に供える花を摘んでいたのか。良い子だ」
男性「私の花束も、一緒に供えてくれないか?」
少年「え、…いいの?」
男性「ああ」
男性「…君の名前は?」
少年「…僕、少年!おじさんは?」
男性「…秘密だ」
少年「なにそれー」クスクス
男性「…黒髪に、赤い目、か」
少年「うん!変わってるでしょ」
父「…」
男性「…そうか。君達は」
母「あ、の…」
男性「幸せか?」
父「ええ」
男性「…」
男性「そうか。…それなら、いいんだ」
母「…」
男性「いいか、少年」ナデ
少年「なあに?」
男性「お父さんとお母さんを大事にな。道を間違えるなよ」
少年「うん!僕、二人とも大好きだよ」
男性「…」コク
男性「では、これで」
母「…」ペコ
父「…」
男性「…」カツ
男性(結構、結構)
あれから月日が経った
男性(彼らはもう大丈夫なようだ)
私は銃を捨て、田舎で別な職について
今では家庭を持つようになった
男性(…そうだ)
そう、彼らと同じように
男性(…もう心配はいらない)
親友が起こした暗い事件、その娘が庇い負った深い罪と心痛
その陰は、消えない
しかし
少年「おじちゃん、お花ありがとう!またねー!」ブンブン
それはもう、隠されてしかるべきことなのだ
男性「…」ニコ
彼らは罪を背負いながらも
それでも、希望を見つけたのだから
母「…」ソッ
父「…」ギュ
新しい、命と共に
おしまい
394 : 名無しさ... - 2015/08/02 13:51:09 eQ0 282/290おつー
後日談期待
397 : 名無しさ... - 2015/08/02 13:56:20 avj 283/290ところで少女は何キロ太った(太らせられた)んだ?
http://dic.nicovideo.jp/oekaki/223097.png
http://open2ch.net/p/news4vip-1437795499-397-490x200.png
398 : 名無しさ... - 2015/08/02 13:57:09 ZyQ 284/290>>397
誰この幼女かわいい
ほとんど太ってないよー
400 : 名無しさ... - 2015/08/02 14:05:48 VXu 285/290親父が人肉食ってたってことは少女も人食いの血が流れてるのかな?
401 : 名無しさ... - 2015/08/02 14:14:41 ZyQ 286/290>>400
彼個人の嗜好だから、食人鬼的な血は関係ないですよ
402 : 名無しさ... - 2015/08/02 14:17:23 pKv 287/290でも少年は・・・>>401
405 : 名無しさ... - 2015/08/02 15:53:13 ZyQ 288/290>>402
そ、それを乗り越えて生きるんだ
403 : 名無しさ... - 2015/08/02 15:13:21 42o 289/290食人鬼が抱えていた女性はマッマってことでいいの?
404 : 名無しさ... - 2015/08/02 15:52:47 ZyQ 290/290>>403
せやで