1 : 以下、名... - 2015/07/26 01:35:57.92 zFB0rYZJO 1/102



勇者とくれば

思い浮かべるのは魔王だろ?


数え切れない怪物を従えて

人の世を支配しようと目論む恐ろしき魔の王。


それに立ち向かうのは勇者、神に選ばれた人の子だ。

そこらの酒場でゴツい戦士と年寄り魔法使いを仲間にしたら、長い旅の始まりさ。


勇者は仲間と共に数々の困難を乗り越えて、絆を深めてゆく。




2 : 以下、名... - 2015/07/26 01:38:41.51 zFB0rYZJO 2/102



まあ、話しによっちゃあ勇者が女だったり

戦士が女だったり…

無骨な騎士が鎧を脱げば、実は見目麗しい女性だったり。

魔法使いが素性を隠していたお姫様だったりもする。

勿論、全員可愛らしくて美しい。

でなけりゃ誰も見ねーからな。


勇者以外はみな女ってのも、今じゃ珍しくない。


3 : 以下、名... - 2015/07/26 01:39:56.52 zFB0rYZJO 3/102



ああ、そうそう

何と魔王が美女だったりもするんだぜ?

果ては勇者と恋するときたもんだ!



まったく、今時のは分からんね。

他には主人公が別の奴で

勇者が敵になったり、憎まれ役になるやつもあったっけな。

中には、実は勇者が魔王だった!なんてのもあるくらいだ。


ま、出尽くした今なら何でもありさ。



4 : 以下、名... - 2015/07/26 01:41:18.71 zFB0rYZJO 4/102



あぁ悪いな、話しが逸れた……


勇者は苦難の果てに魔王の城に辿り着き、死闘の末に魔王を打ち倒す。

人の身でありながら強大な魔を討ち、世界に安寧と平和が訪れる。

中には悲劇的な結末を迎えるやつもあるみてえだがな。


まあ、大体こんな感じか?


ただ、今回の勇者の物語はちょっとだけ違う。

いや、俺が知らねえだけで、こんな話しは既にあるのかもしれねえ。

何百年と繰り返されてる演目だけに、こんな物語があってもおかしくねえからな。


5 : 以下、名... - 2015/07/26 01:43:05.31 zFB0rYZJO 5/102



それはともかく

この劇場都市で、終わることのなかった勇者の物語は、遂に終わりを迎える。

勇者が勇者を終わらせる為、劇場都市に反発し、長い長い物語に終止符を打つ。

台本なんざ無視!勇者が脚本家に牙をむく!

劇の為に死んでいった役者の命を背負い、真の勇者が立ち上がるのさ!


勇者は脚本家を打ち倒し

人々は台本から解放され、初めての自由を得る。

斯くして、劇場都市は幕を閉じる……



とまあ、今回の劇はそんな『シナリオ』さ。



6 : 以下、名... - 2015/07/26 01:45:55.71 zFB0rYZJO 6/102


>>>>

盗賊「ふーん、じゃあ此処はずっと演劇を続けてきた都市なわけか…」

盗賊「で、酒場のマスター、あんたもこのデカイ舞台の役者なのかい?」

マスター「いやいや、俺はただの酒場のマスターだよ。正真正銘の一般人さ」

盗賊「……今のもセリフってことはねえよな?」

盗賊「この劇場都市丸ごと使って劇をする、なんて聞いた後じゃあ信用出来ねえぜ?」

マスター「ま、そりゃそうか…あっ、ところであんた」

盗賊「ん?」


マスター「何しに来たんだ?劇を見に来ただけってわけじゃあなさそうだ」


7 : 以下、名... - 2015/07/26 01:47:27.74 zFB0rYZJO 7/102



盗賊「見に来たって言えば見に来たんだけどさ……」

盗賊「まあ、他にも色々と目的があってね」

マスター「……何が狙いか分からんが、気を付けた方がいい」

マスター「この劇場都市でシナリオを乱す奴は、舞台から下ろされる」

盗賊「……なるほどね、憶えとくよ」

マスター「それともう一つ」

盗賊「?」




マスター「劇は、もう始まってる」


8 : 以下、名... - 2015/07/26 01:49:06.31 zFB0rYZJO 8/102



バンッ!

盗賊「?!」

「悪名高き盗賊がいるのはこの酒場か!」



マスター「ほーら、おいでなさった」

盗賊「……ハァ、やっぱりあんたも役者かよ。いい演技だったぜ?」

マスター「そりゃどうも」ニコリ

盗賊「(つーか、劇は始まってるってことは、今は入ってきたのが勇者役の役者か?)」


盗賊「(おっ、照明が切り替わって夜になった。流石は劇場都市……)」



9 : 以下、名... - 2015/07/26 01:51:03.31 zFB0rYZJO 9/102



勇者「……!!」

盗賊「(こんな間近で主役の演技を見れるなんて、今日はツイてるな……?)」

勇者「………」ツカツカ

盗賊「?」

勇者「おい」

盗賊「えっ、オレ!?」

勇者「貴様が盗賊だな?」

盗賊「いやいやいや!!」



盗賊「確かにオレは盗賊だけど、あんたの捜してる盗賊じゃないぜ?」


10 : 以下、名... - 2015/07/26 01:52:49.02 zFB0rYZJO 10/102



勇者「嘘を吐くな!!」

盗賊「はぁ?」

勇者「金の為なら命をも奪う極悪人……私が成敗してやる!」チャキ

盗賊「ちょっ、ちょっと待てよ!あんたは勘違いして

勇者「問答無用!!」


ガキンッ…




ーーお見事!いやぁ、素晴らしいですなぁ

ーーこれぞ迫真の演技、来た甲斐がありましたよ


11 : 以下、名... - 2015/07/26 01:54:26.91 zFB0rYZJO 11/102



ーーパチパチパチ…


盗賊「ったく危ねえなぁ、少しは聞く耳持てよ…つーか何で拍手?」

勇者「……ちょっと」ボソッ

盗賊「ん?」

勇者「ん?じゃないわよ、次のセリフはあなたでしょ?」ボソッ

盗賊「いやいや、だからオレは盗賊役じゃなく…」



『シナリオを乱す奴は舞台から下ろされる』



盗賊「……次はどうすりゃいいんだ?」ボソッ

勇者「あなた、舞台に上がると頭が真っ白になるタイプね?」


12 : 以下、名... - 2015/07/26 01:56:29.11 zFB0rYZJO 12/102



ーーおぉ、緊迫したシーンですよ

ーー睨み合い一つでも迫力ありますねえ


盗賊「いいから、早く教えろって」

勇者「(はぁ、こんな駄目役者が私の相棒だなんて……)」

盗賊「は・や・く・し・ろ」

勇者「ちょっと抵抗してから私にやられるの」

勇者「それから悔い改めて、人々の為に尽くすことを誓う、分かった?」ボソッ




盗賊「……やられ役にして下僕か…散々だな」


13 : 以下、名... - 2015/07/26 01:59:12.11 zFB0rYZJO 13/102



勇者「分かった?それじゃあ、行くわよ?」グッ

盗賊「(まっ、なるようになるか)」


勇者「せいっ!!」

盗賊「(競り合いからの蹴り、これで吹っ飛べばいいのか?)」

ドガッ…ズダンッ…

盗賊「……っ」

勇者「貴様は、その短剣で幾つの命を奪ってきた……」ブンッ

盗賊「!!」


盗賊「(役者なのに動きは本物、何か妙な感じだ。動きが良すぎる)」


14 : 以下、名... - 2015/07/26 02:00:14.51 zFB0rYZJO 14/102



カキィン…カランッ…


勇者「(セ・リ・フ)」

盗賊「!!(あーもう、こうなりゃヤケだ。どうにかしてくれんだろ)」

盗賊「……確かにオレは許されない罪を犯した。しかし、全ては母の為だ」

勇者「(アドリブ!?こいつ…いいわ乗ってあげる)」

勇者「母の為に人を殺したと言うのか!!それが母の為になると!?」

盗賊「……重い病を患ってな、不治の病という奴さ……」



盗賊「女手一つ、苦労なんて一切見せずに育ててくれた。強く優しい母、だった…」


15 : 以下、名... - 2015/07/26 02:01:29.12 zFB0rYZJO 15/102



勇者「……だった?」

盗賊「悪事に手を染めた報いさ、母は……死んだよ…」



ーーむぅ、彼も中々良い味を出してますな

ーーどうなるんでしょう

ーーしっ…静かに…



勇者「………」

盗賊「少しでも楽にしてやりたい、だから金になることなら何でもやった!!」

盗賊「それが例え人殺しの依頼であっても!!オレは母を救いたかった!!」


16 : 以下、名... - 2015/07/26 02:03:29.48 zFB0rYZJO 16/102



ーー母への愛、か…

ーー恋人や娘ではないのか、少々以外だったな

ーーええ、あの若さで母への想いを表現出来るのは素晴らしいですよ



盗賊「(好評でなにより。つーか、母ちゃんかぁ……)」

勇者「(へえ、中々やるじゃない)」

盗賊「殺せ、オレにはもう何もない。母の下へ送ってくれ…」



勇者「……罪に塗れたその魂、母の下へ行けると思うのか?」


17 : 以下、名... - 2015/07/26 02:05:04.91 zFB0rYZJO 17/102



盗賊「……ならどうすればいい、教えてくれ(本当に分かんねえ)」

勇者「この劇場都市に、劇と称して数々の命を奪い続ける存在がいる」

盗賊「?」

勇者「悲劇を生むには仮初めではなく、本当の死でなければ意味がない」

勇者「命の終わりは、一際輝くなどと言ってな……」

盗賊「………(これ、演技だよな?)」

勇者「私は劇場都市を終わらせる。劇の度に起きる真実の悲劇を終わらせる為に…」



勇者「……母の下へ逝くのは、降り掛かる悲劇から人々を救ってからにしろ」


18 : 以下、名... - 2015/07/26 02:07:00.31 zFB0rYZJO 18/102



盗賊「どういう意味だ」

勇者「今のままでは確実に地獄行きだ、母に会いたければ共に来い」

勇者「貴様の犯した罪は消えないが、悔い改めることは出来る」

勇者「これからは奪うのではなく、救う為に生きろ」

盗賊「!!」

盗賊「……分かった。オレの命は人々を救う為にあると誓おう」




ーーおお、これは素晴らしい

ーーまったくです、これを間近で見られたのは幸運ですよ

ーー二人とも良い役者だ、暗がりながら表情が輝いて見える

ーー互いに決意した瞬間、というわけか


19 : 以下、名... - 2015/07/26 02:09:15.11 zFB0rYZJO 19/102



盗賊「(はぁ、やっと一段落か……)」

盗賊「(さっさと退場してえけどそうもいかねえしなぁ)」

勇者「……」ツカツカ

盗賊「?」

勇者「ここは二人とも無言で酒場を出るのよ、まだあがってるの?さ、立って」ボソッ

盗賊「あっ、ああ、わりぃな」スッ

勇者「(さっきのアドリブは大したものだけど、先が思いやられるわね)」ガシッ



ザッザッ…ギィィ…バタン



ーーパチパチパチ


20 : 以下、名... - 2015/07/26 02:14:09.11 zFB0rYZJO 20/102


>>>>

脚本家「……役者変更にアドリブか、好き勝手やってくれる」

脚本家「その分シナリオに沿っているとは言えるが、少々やり過ぎだな」

脚本家「このシナリオでなければ消えてもらう所だが、彼の観客受けは実に良い」

脚本家「しばらく好きに泳がせておいた方が此方も面白いというものだ……」

ペラッ…

脚本家「次は魔法使いとの出会いだが……ん?」

ヒラリ…ヒラリ…

脚本家「これは…ふっ、はははっ!」

脚本家「これはいい、ますます面白くなりそうじゃないか!」







ーーー終わりなき 勇者の物語り

ーーー神の脚本 その結末

ーーー舞台の上より 頂戴致します





24 : 以下、名... - 2015/07/26 23:09:21.24 7ddOBcYkO 21/102


>>>>

勇者「……」ツカツカ


酒場を出てから一言もなしだ、今んとこセリフは必要ねえってことか。

この後に何があるのか訊こうとしても、そこら中に観客の目があるからなぁ…

しかし流石は勇者サマ、歩く姿も堂々たるもんだ。


視線が自分に集中してるってのに、気にする素振りなんざ微塵も見せねえ。

あれが本物の役者ってやつか。

いや、まあ、そのくらいじゃねえと劇場都市の主役に選ばれねえか。


25 : 以下、名... - 2015/07/26 23:16:27.07 7ddOBcYkO 22/102



勇者「観客の目が邪魔だ。盗賊、裏道に入るぞ」

盗賊「ん?ああ、分かった(これもセリフか?)」


劇場都市のど真ん中、劇場大通り

そこからわき道へ抜け、どんどん人気のない道を進んでいく。

いつの間にやら、天井は星のきらめく夜空に変わってる。

ここじゃ朝も夜も取り替え放題、正に劇の為の都市ってわけだ。



ん?本当に人気がなくなってきたな……

後を付けてた観客の姿もねえ。

何だか解放された気分だ、妙に力が入っていたのか肩が凝る。

しかしなぁ、まさかこんな形で舞台に立つとは思わなかったぜ。

26 : 以下、名... - 2015/07/26 23:22:59.59 7ddOBcYkO 23/102



勇者「……」ピタッ

盗賊「?」

勇者「ふーっ、やっと撒いたわね。座りましょ?」

盗賊「えーっと、これは休憩?」

勇者「まあ、そんなところね……」

盗賊「あー、すっげえ疲れた」ストン

勇者「ねえ、一ついい?」

盗賊「どーぞ」


勇者「あなた、役者じゃないでしょ?」

盗賊「うん」


勇者「……随分あっさり認めるのね」


27 : 以下、名... - 2015/07/26 23:26:54.83 7ddOBcYkO 24/102



盗賊「演技は下手なんだ、幾ら取り繕ってもバレるに決まってる」

盗賊「それに、一流の役者に嘘は通じないだろ?」ニコッ

勇者「当たり前でしょ?」

勇者「あなた、顔はいいんだけど他はまるで駄目よ」

盗賊「は、はぁ…すいません」

勇者「酒場のアドリブは良かったけど、外に出た途端に気を抜いたでしょ?」

勇者「立ち姿もなってないし、歩き方もなってない」


勇者「素人ね、素人」

28 : 以下、名... - 2015/07/26 23:29:39.83 7ddOBcYkO 25/102



盗賊「オレなりには頑張ったんだけどな……」

勇者「はぁ…あなた、夜場面の照明に助けられたようなものよ?」

勇者「歩いてる時も、やたら観客の視線気にして落ち着かない顔してるし」

盗賊「それは本業が盗賊だからさ、クセみたいなもんだよ」

勇者「盗賊?本物の?」

盗賊「酒場でそう言ったろ?オレは盗賊だってさ」



勇者「……だから間違えたのね」


29 : 以下、名... - 2015/07/26 23:33:42.43 7ddOBcYkO 26/102



盗賊「ん?」

勇者「私、てっきり役に入りきってると勘違いしたのよ」

勇者「あなたが本物の盗賊だなんて知らずに、この人が『盗賊役』だってね」

勇者「本物がいたら勝てるわけないわ……盗賊役には申し訳ないことしたわね」

盗賊「まあまあ、過ぎたこと考えても仕方ねえよ」

勇者「……はぁ、このミスがどれだけのことか分かってる?」

盗賊「分かるさ、でもオレには力強い味方がいる」



勇者「味方?盗賊仲間ってことかしら?」


30 : 以下、名... - 2015/07/26 23:40:27.83 7ddOBcYkO 27/102



盗賊「違う違う、味方ってのはキミだよ」

勇者「私?」

盗賊「ああ、オレには主役の勇者サマがついてる」

盗賊「例えオレがド下手な演技をしようが、どんなヘマをしようが……」

盗賊「一流の役者が何とかしてくれる、だろ?」ニコッ

勇者「……あぁ…何だか頭が痛くなってきたわ」

盗賊「ははっ、オレは大船…いや、豪華客船に乗ってる気分だよ」



勇者「……私は泥船漕いでる気分よ」


31 : 以下、名... - 2015/07/26 23:44:05.45 7ddOBcYkO 28/102



盗賊「あのさ」

勇者「何?お金ならあげないわよ」

盗賊「そのつもりならもうとっくに盗んでる。そうじゃない」

勇者「………」

盗賊「この劇の結末は勇者役の勝利、脚本家役の敗北なんだろ?」

勇者「……ええそうよ、あくまで劇中での出来事だもの」

盗賊「オレはそれを本当にしたいんだけど、どうかな?」

勇者「!!」



盗賊「キミが酒場で叫んだセリフは演技じゃない。あれは本心だ」


32 : 以下、名... - 2015/07/26 23:49:14.35 7ddOBcYkO 29/102



勇者「何を根拠にそんなことを……」

盗賊「さっき言ってたろ?本物には勝てないってさ」

盗賊「あの時の表情は本物だと思った。どうかな?」

勇者「………」

盗賊「答えたくないなら別にいい、オレがそうしたいだけだから」

勇者「あなた、一体何が目的なの……」

盗賊「うーん、何だろうね?」ニコッ

勇者「真面目に答えて」

盗賊「物語に囚われ続ける終わりなき勇者……の、終わり」

勇者「……えっ?」




盗賊「いや、目の前の麗しき君の自由かな」



34 : 以下、名... - 2015/07/27 00:51:08.90 G523CZfIO 30/102



勇者「………」

盗賊「どうした?」


勇者「別に何でもないわ」

勇者「よくもまあ、そんなセリフを言えるものだと思っただけ」

勇者「まあ、今の演技はいい線いってるんじゃない?」

盗賊「演技?今のは本気だぜ?」

勇者「………」フイッ


盗賊「大体、女に戦わせるってのが気に入らねえんだよなぁ」ウン

盗賊「マスターの言う通りだぜ、最近の脚本家の考えることは分かんねえ」


35 : 以下、名... - 2015/07/27 00:54:56.02 G523CZfIO 31/102



盗賊「あ、ところで、これからどうするんだ?」

勇者「……(こんな素直な、正直な人が劇場都市いるなんて皮肉ね)」

勇者「(この人は演技が下手なんじゃない。演技が出来ない人……)」

盗賊「?」

勇者「(ねえ、この人になら、話してもいいの?)」

盗賊「大丈夫か?」

勇者「え、ええ、大丈夫よ。なにかしら?」

盗賊「だから、これからどうするんだ?」



勇者「劇場大通りへ戻って、魔法使いに会うの」


36 : 以下、名... - 2015/07/27 01:21:09.07 G523CZfIO 32/102



盗賊「いいのか?」

勇者「えっ?」

盗賊「オレも一緒に行っていいのか?本物の盗賊だぜ?」

盗賊「オレは目的を言ったけど、まだキミの気持ちは聞いてない」

勇者「……ごめんなさい。少し、考えさせて」

盗賊「そんな顔すんな、話したいときに話せばいいさ。いきなり話せって方が無理だ」

盗賊「ほら、誰にだって秘密はあるもんだろ?」

勇者「……あなたには、あなたには秘密はないの?」

盗賊「それは秘密」



勇者「(彼の、この笑顔は何だろう……)」

勇者「(自分が勇者であることを、役者であることを忘れてしまいそうになる)」


37 : 以下、名... - 2015/07/27 01:23:55.03 G523CZfIO 33/102



盗賊「うっし、休憩は終わりだな。行こうぜ」

勇者「待って、照明が夜から昼、朝へ変わる前に言っておくわ」

勇者「明るくなれば誤魔化せなくなる。良くも悪くもあなたは目を引くから」

盗賊「げっ…どうすりゃいい?」

勇者「何もしなくていい」

盗賊「は?」

勇者「あなたは自然体でいいの、下手に演じようとしない方がいいわ」

盗賊「え、何で?」

勇者「それはあなたが……」

盗賊「なんだ?」

勇者「何でもないわ……盗賊、行くぞ」



盗賊「はいはい分かりましたよ、勇者サマ」


40 : 以下、名... - 2015/07/27 16:24:25.70 SBgv0h4wO 34/102


※※※※

今の職業に不満があるそこの貴方!

ぜひぜひ、劇場都市へお越し下さい!

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ーー夢見る貴方の劇場都市より抜粋


41 : 以下、名... - 2015/07/27 17:07:31.93 SBgv0h4wO 35/102

>>>>

勇者「警戒を怠るな、脚本家は何処かで必ず見ているはずだ」

盗賊「ああ……(雰囲気も表情もさっきとはまるで違う)」

盗賊「(軽々しく話そうものなら何されるか分かんねえな)」



ーーおお、出てきたぞ!

ーーあれが勇者か…何とも美しく凛々しい

ーーわぁ、私もあんな格好いい女性になりたいなぁ

ーーきゃー、盗賊さーん!こっち見てー!

ーー顔でしか判断出来んのか、これだから女の観客は……


42 : 以下、名... - 2015/07/27 17:08:46.80 SBgv0h4wO 36/102



ーーおや、盗賊の彼、観客である我々にも警戒しているようですね

ーーええ、あの目が素敵ね、彼の演技は新鮮だわ



盗賊「(なるほどね、自然体でいいってのはこういうことか)」

勇者「盗賊、あれを見ろ」

盗賊「?」

勇者「この延々と続く劇場大通りの先、塔があるのが分かるか?」

盗賊「……ああ、ぼんやり見えるな」


43 : 以下、名... - 2015/07/27 17:10:57.53 SBgv0h4wO 37/102



勇者「あれは神の塔と呼ばれている」

盗賊「神の塔、ね……」

勇者「この劇場都市では、脚本家が神と言っても過言ではない」

勇者「紡がれる物語の創造主にして、この都市の破壊者だ」

盗賊「……破壊者」

勇者「そうだ、劇の為なら命を奪い、都市すら破壊する」



勇者「それが私の、勇者の打ち倒すべき敵……」


44 : 以下、名... - 2015/07/27 17:12:58.05 SBgv0h4wO 38/102



盗賊「……それは本気なのか」

勇者「……ああ、私は奴を討つ」

勇者「奴がいる限り、勇者の物語は終わらない」

勇者「今まで劇中で失われた数多の命、奴の演出する悲劇……」

勇者「それら全てを、私が終わらせる!」



ーーうーむ、長年見てきたが、今までの勇者役とは格が違う

ーーこれは歴史に残るシーンかもしれん

ーーいやはや、声が出ませんでしたよ

ーー異色作って言うから悩んでたんだが、見に来て正解だったな


45 : 以下、名... - 2015/07/27 17:14:47.30 SBgv0h4wO 39/102



盗賊「(今のセリフが答えってことでいいのか?それとも……ん?)」

盗賊「なあ、あいつは誰だ?こっちに来るぜ?」ボソッ

勇者「きっと魔法使いよ、痺れを切らして来ちゃったみたいね」ボソッ


魔法使い「やあ、遅いから迎えに来たよ。おや、彼は?」


勇者「彼は盗賊、きっと頼りになるだろう」

魔法使い「へえ、盗賊……盗賊だって!?」

魔法使い「金の為なら命を奪う人殺し!大悪党じゃないか!」



盗賊「(ひでえ言われようだな……まっ、ここは勇者サマに任せるか)」


46 : 以下、名... - 2015/07/27 17:15:47.91 SBgv0h4wO 40/102



勇者「彼はこの都市の人々を救うと誓った。問題はない」

魔法使い「そんな安い誓いがあるものか!信用出来るはずがない!」

魔法使い「勇者、考え直すんだ、いつ背中を刺されるか分かったもんじゃない」



ーーなにアイツ、盗賊様に向かって…

ーーまあ、当然の流れだな

ーー盗賊か、オレはあんまり好きじゃないな

ーー男の嫉妬は醜いわよ

ーーけっ、顔がいいだけじゃねえか


47 : 以下、名... - 2015/07/27 17:18:12.03 SBgv0h4wO 41/102



勇者「ならどうする?」

魔法使い「簡単なことだよ」ガチャ

盗賊「勇者、下がれ!!」グイッ

勇者「!?」

ゴウッ…ボォォォッ…

盗賊「……てめえ、何しやがる」

魔法使い「あらら、避けられちゃったか」



魔法使い「今の魔法で二人とも燃やすつもりだったんだけど……」


48 : 以下、名... - 2015/07/27 17:21:22.70 SBgv0h4wO 42/102



盗賊「何が魔法だ、火炎放射器じゃねえか」

魔法使い「この劇場都市で、そんな夢のないこと言わないでくれるかな」

勇者「魔法使い、まさか貴様!!」

魔法使い「脚本家がもっと盛り上げたいらしくてね、シナリオ変更だよ」

魔法使い「私としても、こんな見せ場を貰えたのはラッキーだ」

盗賊「……なあ、これもシナリオの内か?」ボソッ

勇者「いえ、こんなの知らないわ」ボソッ

魔法使い「さて、観客も沢山いることだ。始めよう」ガチャ



魔法使い「裏切り者は悲劇は起こす。例え、やられ役だとしても……」

勇者「……………」


49 : 以下、名... - 2015/07/27 17:25:21.77 SBgv0h4wO 43/102



勇者「魔法使い、止めろ。今なら間に合う」

魔法使い「これは私の見せ場だ、邪魔しないでくれないか?」

盗賊「っ、何見てんだ!さっさと逃げろ!」


ーーこれも演出でしょ?

ーー少し離れれば大丈夫だろ

ーーおぉ、熱気がここまで伝わってくる

ーー凄い迫力だな、持つのも大変そうだ…



魔法使い「…哀れな観客だ……燃えろ」

勇者「よせっ、止めるんだ!!」


50 : 以下、名... - 2015/07/27 17:28:25.32 SBgv0h4wO 44/102



ーーお、おい、こっちに向けてるぞ?

ーーまさか本当に…


トントン…

魔法使い「!!」クルッ

盗賊「役者が観客を殺すなんてちっとも笑えねえな」

魔法使い「(こいつ、いつの間に……)」

盗賊「それにオレは、悲劇を止めると誓ったんでね」ニコッ

勇者「……盗賊…」

魔法使い「っ、燃えろ!!」


ゴウッッ…ボォォォッ…


51 : 以下、名... - 2015/07/27 17:34:16.54 SBgv0h4wO 45/102



勇者「盗賊っ!!」

魔法使い「はははっ、燃えろ燃えろ!骨まで燃えろ!」

勇者「……魔法使い、貴様っ!」ダッ

魔法使い「おっと、それ以上近付くな」ガチャ

ゴウッ…

勇者「くっ…」

魔法使い「剣で魔法に勝てるとも思っているのか?愚かな奴だな……」

盗賊「そんな魔法じゃ、オレはちっとも燃えないけどな」

勇者「!!」



ーーきゃー、盗賊さまー!

ーーふぅ、本当に燃えちゃったのかと思ったよ

ーー彼はスタントも出来るのか、凄いな……


52 : 以下、名... - 2015/07/27 17:38:10.50 SBgv0h4wO 46/102



魔法使い「ど、どこだ…」

盗賊「ここだよ、放火魔法使い」


ーーおいっ、あそこだ、パン屋の屋根の上!

ーーあの一瞬でどうやって……

ーー私決めた、彼のファンになる

ーーあんな役者は見たことがないな…


魔法使い「私は放火魔じゃない、魔法使いだ!」

盗賊「ははっ、そんな炎じゃパンも焼けねえよ。ほら、これ使いな」ポイッ

魔法使い「……箒?」



盗賊「ほら来いよ、魔法使いなら箒で空飛べんだろ?」


53 : 以下、名... - 2015/07/27 17:40:16.30 SBgv0h4wO 47/102



魔法使い「馬鹿にするな!!」ベキッ

盗賊「どうした、顔が真っ赤だぜ?顔から火を噴くつもりか?」

魔法使い「っ!!」


ーーはははっ、これはいい

ーーあっという間に盗賊のペースだな

ーーさっきまでの雰囲気が嘘みたい……



魔法使い「なら、最大火力で燃やしてや

勇者「いつまで下らない会話を続けるつもりだ?」


54 : 以下、名... - 2015/07/27 17:42:38.19 SBgv0h4wO 48/102



魔法使い「!?」

勇者「まさか主役を忘れたわけではないだろうな?」

ザンッ!

魔法使い「がはっ…」ガクン

勇者「舞台から下りろ、然もなくば……殺す」

魔法使い「舞台を下りるくらいなら、死を…選ぶ……」カチッ

勇者「っ、自爆!?」


ズダンッ!



盗賊「あんまりシナリオ乱すと、舞台からおろされるぜ?」ガシッ


55 : 以下、名... - 2015/07/27 17:45:11.47 SBgv0h4wO 49/102



魔法使い「!?」

盗賊「すぐ戻る」バシュッ

ガギッ……

勇者「ちょっと待って、何を

盗賊「大丈夫さ、悲劇は起こらない」

勇者「えっ…」


ギュララララ…


魔法使い「……どうするつもりだ」

盗賊「劇の度に生まれる悲劇はもう沢山なんだとさ」


魔法使い「……私は役者だ、舞台の上で死ねるなら本望だ。離してくれ」


56 : 以下、名... - 2015/07/27 17:48:28.92 SBgv0h4wO 50/102



盗賊「嫌だね」

魔法使い「このままではお前も死ぬぞ」

盗賊「あんたは生きたくないのか?」

盗賊「こんな劇が最後の舞台でいいのか?それがあんたの本望だってのか?」

魔法使い「………」

盗賊「舞台なんて世界中にあるんだ、あんたは自分で舞台を狭くしてるだけさ」

盗賊「今の魔法使いより素敵な魔法使いに、あんたならきっとなれるよ」

魔法使い「!!」

盗賊「さあどうする?」



盗賊「背中の燃料と腕の噴射機、あんたが外せば生きられるぜ?」


58 : 以下、名... - 2015/07/27 18:03:40.50 SBgv0h4wO 51/102



ドガンッ!


ーーな、何だ?爆発!?

ーーあいつ、本当に自爆するつもりだったのか?

ーーまさか、これも演出でしょ

ーーいや、こんな危険な演出、あるはずがない

ーーじ、じゃあさっきのは全部本当だったってこと?

ーーいや、でも無事だったわけだし大丈夫だろ

ーーあの盗賊は、我々を救う為に死んだというのか?

ーー『…………………』



ズダンッ!

盗賊「皆様方、花火はお気に召しましたか?」ニコッ


ーー『キャーッ!!』

ーー『ワアアアア!いいぞー!!』



勇者「まったく、シナリオなんてとっくにめちゃくちゃじゃない……」


62 : 以下、名... - 2015/07/27 21:01:57.14 SBgv0h4wO 52/102


>>>>

脚本家「魔法使い……彼を相手によくやった方だが、やり過ぎだ」

脚本家「……一度崩れた物語は修復出来ない、この先は全てがアドリブになってしまう」

脚本家「少しでも修正しなければならないな。多少、強引であっても……」

脚本家「……しかし、彼があそこまで影響を及ぼすとは……」

脚本家「今や盗賊役ではなく、彼自身が観客に受け入れ始めている」

脚本家「……面白い存在だが、少々目障りなのも事実……」

脚本家「まるで彼を中心に世界が……」

脚本家「いや、いるわけがない!彼女以外にそんな存在はいない!」

脚本家「……これまで創作した何よりも、彼女は輝かしく自由だった」



脚本家「彼女の物語は、決して終わらせない……」


63 : 以下、名... - 2015/07/27 21:04:45.93 SBgv0h4wO 53/102


>>>>

ーーパチパチパチ!!!


盗賊「ふーっ、何とかなったな!!」

勇者「そうね、もう誰が主役か分かったもんじゃないわ」

盗賊「怒ってる?」

勇者「怒ってなんかないわ、ただ悔しいだけよ」

盗賊「悔しい?何で?」

勇者「この都市に響き渡る拍手を一身に受けるあなたが羨ましいの!」


盗賊「ははっ、今なら大声で話してもバレねえし、良かったろ?」


64 : 以下、名... - 2015/07/27 21:06:19.73 SBgv0h4wO 54/102



勇者「まあ、そうね……」

勇者「私、舞台でこんな風に話したのは初めて……」

勇者「もしかしたら、観客がこんなに喜んでるのも初めてかもしれない」

盗賊「そりゃあ流石に言い過ぎだろ」

勇者「本当よ?きっと、これが見たかったのよ……」

盗賊「?」



勇者「演劇ではなく、人間が生み出す本物の感動や驚きを……」


65 : 以下、名... - 2015/07/27 21:09:15.33 SBgv0h4wO 55/102



盗賊「演劇に飽きてるってことか?」

勇者「皆は気付いてないでしょうけどね……」


ーーパチパチパチ!!!

ーー『ワアアアアッ!!』


勇者「この拍手と熱狂を見れば一目瞭然よ」

盗賊「へえ、オレには楽しんでるようにしか見えないけどな」

勇者「はぁ…今更だけど言っておくわ」

盗賊「なに?」

勇者「素人のくせに目立ち過ぎ、あなたの所為でシナリオはめちゃくちゃ」



盗賊「うーん、もういいんじゃねえかな?」


66 : 以下、名... - 2015/07/27 21:11:54.66 SBgv0h4wO 56/102



勇者「えっ?」

盗賊「だって勇者の、いや、キミの物語はそういうシナリオだろ?」

勇者「だからってここまで……まあいいわ…」

勇者「それより魔法使いはどうしたの?彼は無事なのよね?」

盗賊「勿論、今頃劇場都市を出て新しい舞台を捜してるはずさ」

勇者「……そう、じゃあ私達も行きましょ?今なら姿を隠せる」

勇者「あなたに話したいこともあるから……」



盗賊「……そっか、じゃあ行こうぜ」


67 : 以下、名... - 2015/07/27 21:14:43.42 SBgv0h4wO 57/102



ーー飲め飲め!

ーー踊れ踊れ!


盗賊「ははっ、まるで祭りだな」

勇者「私達なんて要らないみたいね、あれだけ騒いでるんだもの」

盗賊「何言ってんだ、主役だろ?」

勇者「ふふっ、そうね。そうだったわね……」

勇者「ねえ……」

盗賊「ん?」

勇者「……花火、綺麗だった」

盗賊「また見せてやるよ、もっと綺麗なやつ」



勇者「……楽しみにしてる」


70 : 以下、名... - 2015/07/27 23:11:36.60 SBgv0h4wO 58/102


>>>>

街灯もない裏道の裏道

劇場大通りの熱気と歓声も、此処にはほんの少ししか届いてこない。


劇場都市の映し出す星空だけが、この舞台唯一の照明。

星明かりは勇者の髪を照らし、盗賊の存在を浮き彫りにした。

揺れる金色の髪はきらきらと輝いて、作られた星空は悔しそうにしている。

やがて星空は涙した。


この悔し涙は

観客の熱気を冷ます為に流されたのかもしれない。


71 : 以下、名... - 2015/07/27 23:13:33.79 SBgv0h4wO 59/102



冷えた雨粒に濡れながら、二人は歩く。

勇者も盗賊も、あれから無言のままだ。


雨音は激しさを増し、劇場都市を包み込む。

遂には熱気も歓声も、裏道に響く靴音さえも掻き消された。

星空は姿を消して、暗闇が現れる。


変幻自在の劇場都市が作り出す、偽りの暗闇。


ふと勇者は立ち止まり、古ぼけた家を指さした。

どうやら此処が目的地だったらしい。


72 : 以下、名... - 2015/07/27 23:16:02.14 SBgv0h4wO 60/102



当然明かりはなく、家の中は真っ暗闇。

盗賊の眼が暗闇に慣れた時には、既に勇者が暖炉に火を灯していた。


古くからこの場所を知っているのだろう。

何処に何があるのか分からなければ出来ない所作だった。

外観こそ古いものの、中は比較的新しく、埃もない。


勇者は盗賊を気にする素振りも見せず服を脱ぎ、着替え始めた。

盗賊も大して驚くこともなく、渡されたタオルで髪を乾かす。



二人は暖炉の前に座り、しばしの無言ののち、勇者は語り始めた。



73 : 以下、名... - 2015/07/27 23:18:00.39 SBgv0h4wO 61/102



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パチッ…パチパチッ…

勇者「今は裏道だけど、この辺りにも人が住んでたの……」


勇者「けど、劇の為に燃やされた。随分昔のことだけど今でも憶えてる」

勇者「あの時の勇者は助けに来なかったわ。ただ、焼けた家を見つめてた」

勇者「悲しそうに、済まない、なんて呟きながらね……」

勇者「勿論演劇よ?私達は知らなかった。知らされてもなかった」

勇者「当然よね?知らされてたら逃げるもの……」



勇者「勇者の悲しみを演出する為だけに、私は家を、家族を失った」


74 : 以下、名... - 2015/07/27 23:19:45.60 SBgv0h4wO 62/102



勇者「きっと私の他にも沢山いるわ。でもね?」

勇者「誰も劇場都市から出ようとしない、夢から醒めようとしないの」


勇者「皆、夢を見てるのよ……起きている事は全て現実なのに……」

勇者「自由を望んでいる人なんて、実は少ないのかもしれないわね……」

勇者「そもそも疑問に思ってる人がいるかどうかも分からない」



勇者「寝心地の良い、夢見る都で、私だけがおかしいのかも……」


75 : 以下、名... - 2015/07/27 23:21:09.79 SBgv0h4wO 63/102



勇者「……ごめんなさい、回りくどいわね」

勇者「何をどう言おうと、私のしようとしてることは復讐」

勇者「その為に生きてきた、だから演技も剣術も頑張れた……」

勇者「それを分かった上で、脚本家は私を選んだのよ……」

勇者「私が演じた方がリアリティがあるから、ね?」



盗賊「こんな時まで無理して笑うなよ」


76 : 以下、名... - 2015/07/27 23:24:29.40 SBgv0h4wO 64/102



勇者「えっ?」

盗賊「泣きたきゃ泣いてもいいんだ」

盗賊「此処にはオレしかいないし、泣き声は雨が消してくれる」

盗賊「でもさ、復讐の為だけに生きてきたなんて寂しいこと言うなよ」

盗賊「勇者の終わりが、キミの始まりなんだから」

勇者「!!」

勇者「ふふっ、あなたって…本…当に…グスッ…」

ギュッ…

勇者「あっ…」

盗賊「泣き顔は、誰にも見られたくないだろ?」

勇者「……バカ」


パチッ…パチパチッ…


盗賊「雨が止んだら塔に行こう。何か仕掛けてくる前に」

勇者「……そうね…きっと、私達を捜してる……」


79 : 以下、名... - 2015/07/28 00:57:12.40 6qdhqEVAO 65/102


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この雨音も、彼女と聴いた音色の一つだ。

雨宿りしたのは何処だったろうか……


確か、空き家に入って暖をとったのではなかったか。

暖炉の前で寄り添い、語る内に、瞬く間に夜が明けた……

そう、ちょうど、今の彼等と同じように……



記憶とは何と残酷な存在だろうか。

瞼を閉じれば彼女の笑顔が浮かび、笑い声さえ聞こえてくる。


80 : 以下、名... - 2015/07/28 00:59:56.60 6qdhqEVAO 66/102



誰よりも自由で

世界に愛されているような女性だった。


しかし彼女は世界から消え、以来、私は動けなくなった。

何度恨み言を吐いただろう、涙など一晩で涸れ果ていた。

あの日以降、私の時は動いていない。

今でも疑問なのは、自ら命を断たなかったことだ。

私は彼女を捜した。



彼女なら、ひょっこり現れてもおかしくないと思えたからだ。

願いなどではなく、本当にそう信じていたのだろう。


81 : 以下、名... - 2015/07/28 01:02:28.26 6qdhqEVAO 67/102



どれだけの間、捜していただろうか……

ある日、私は一つの結論に行き着いた。

進めぬのなら、戻れぬのなら、繰り返せば良いのだ。


輝かしいあの日を、彼女との日々を、繰り返せば良い。

その為に舞台を作り上げ、脚本を描き続けた。

ありし日の彼女を、レコードのように、繰り返し再生する為に……


いつの日か、劇場都市などと呼ばれるようになった。

忘れることも出来ず、前へ進むことも出来ない。

そんな、彼女を夢を見て眠る日々が、形を成した瞬間だ。


82 : 以下、名... - 2015/07/28 01:20:55.67 6qdhqEVAO 68/102



それ以降も私は脚本を書き続けた。

彼女を主人公に、数多くの作品を作り出した。


役者が男であっても似通った部分が一つでもあれば採用し、主人公にした。

それが勇者、名は一つでありながら無限の物語を生きる存在。

虚像でも、その内側に彼女の姿を垣間見られるのならばそれでいい。

それで十分だと、そう思っていたのに、彼女は蘇った。


あの頃のままの姿で、劇場都市に蘇った。

彼女でないのは分かっているが、紛れもなく彼女だ。

長らく止まっていた時は動き出し、私はペンを走らせた。


83 : 以下、名... - 2015/07/28 01:24:15.40 6qdhqEVAO 69/102



こうして完成したのが、終わりの勇者だ。

以前から構想はあったが、最後にしようと決めていた物語。


私は劇の為に悲劇を生み出し、命さえも感動の材料にした悪党。

私の作り出した勇者が、私を裁く。


彼女は勇者から解放され、私は彼女に解放される。

これが私の結末、終わりが訪れる。

私はやっと、彼女の下へと逝けるのだ。

他ならぬ、彼女の手によって……



脚本家にも、この結末だけは絶対に渡さん。

物語には、必ず終わりがあるのだ。


87 : 以下、名... - 2015/07/28 17:58:27.10 g7mL7pQvO 70/102


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勇者の衣装と盗賊の服が乾いた頃

あれだけ激しく降っていた勇者の涙も、作られた星の涙も止んでいた。


劇場都市の熱気はすっかり冷めて、本物の静けさが訪れる。

しかしこの都市でただ一人

勇者の熱だけは冷めることがなかった。


暖炉の前で二人は寄り添い、寝転んだまま。

盗賊は勇者を優しく抱き締めながら、眠ってしまったようだ。

その腕の中で勇者は顔を赤らめて、時折上目で盗賊を見つめている。


88 : 以下、名... - 2015/07/28 17:59:22.90 g7mL7pQvO 71/102



まるで子供のように無邪気で

吹き抜ける風のように、自由で掴み所のない彼。

演技の何たるかも知らないのに、観客の心を一瞬で鷲掴みにした素人。


じっと見つめる内に彼女の方が耐えきれなくなったのか、再び彼の胸に顔を埋める。

胸の内は穏やかなのに、心音は高鳴るばかりで落ち着きがない。

けれど彼女には、それが嬉しかった。


それが何なのか分かったことに身体が驚いただけで、心は喜んでそれを受け入れた。

勇者である内は決して芽生えることはないと、そう考えていたのに。


89 : 以下、名... - 2015/07/28 18:01:13.88 g7mL7pQvO 72/102



予想予測は彼に通用しないのだろう。

だからこそ、それは一夜にして芽吹き、大輪を咲かせた。


しかし喜びと同様に寂しさもあった。

彼の寝顔も、私を抱き締めて離さない腕も、いつかは離れてしまうだろう。

この劇が終えた時、彼はきっと、遠い遠い場所へと飛び立ってしまう。

自由な翼で何処までも何処までも、気の向くままに羽ばたいていくのだろう。


そう考えると、胸が酷く痛み出した。

彼と共にいられるのは今この時だけだと、彼女は理解しているからだ。


90 : 以下、名... - 2015/07/28 18:06:00.48 g7mL7pQvO 73/102



すると突然

彼女の身体が、心の命ずるままに動き出した。


今までに経験したことのない、彼女の人生初めてのシーン。

それはぎこちなくて初々しくて、愛らしさに溢れていた。

彼女は彼の寝顔に優しく微笑んで、頬と唇に、そっとくちづけた。


すると彼の瞼がぴくりと動いた。

どうやら彼女のくちづけで彼は目覚めたようだ。

彼女は悟られぬよう素早く動き、顔を伏せた。

幸い気付かれてはいないようで、彼女は胸を撫で下ろし、平静を装う。


いつの間にか夜は退場していて

窓から差し込む眩い朝日が、二人を照らしていた。


91 : 以下、名... - 2015/07/28 18:07:41.89 g7mL7pQvO 74/102


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盗賊「……寝てた?」

勇者「ええ、気持ち良さそうに寝てたわ」

盗賊「んーっ、いい朝だ。雨、止んだみたいだな」

勇者「……バカ言ってないで起きなさい」

勇者「面倒なことになる前に、塔へ行くんでしょ?」

盗賊「あ、そうだったな。んっ…」ノビー


盗賊「うっしゃ、で?また大通りへ戻ってから塔へ行くのか?」


92 : 以下、名... - 2015/07/28 18:11:15.08 g7mL7pQvO 75/102



勇者「ええ、敢えてシナリオ通りにね」

盗賊「なるほどね、でも大丈夫なのか?」

勇者「何が起きるか分からないのは何処を通っても同じ」

勇者「迂回して行くことも考えてみたけど、大通りの方が安全だと思うわ」

盗賊「観客がいるからか?」

勇者「ええ、絶対安全、なんてことは言えないけど……」

盗賊「……観客にまで危険が及ぶ可能性があるな」


勇者「……そうなってもおかしくないわ、シナリオ変更なんて初めてだもの」


93 : 以下、名... - 2015/07/28 18:13:00.88 g7mL7pQvO 76/102



盗賊「まっ、なるようになるさ」

盗賊「何が出て来ても皆を守って勇者は進む、そうだろ?」

勇者「ふふっ、そうね」

盗賊「………」

勇者「な、なによ、じっと見て…」

盗賊「いや?そっち方がいいと思ってさ」

勇者「?」

盗賊「昨日の寂しい笑顔より、今の方がずっといい」

盗賊「演技も凄えけどさ、普通に笑った方がいいんじゃねえか?」



勇者「……もう目は覚めたでしょ、行くわよ」


94 : 以下、名... - 2015/07/28 18:15:11.48 g7mL7pQvO 77/102



盗賊「着替えねえの?」

勇者「今から着替えるわ」

盗賊「じゃあ着替えろよ」

勇者「……私は、今から、着替えるの」

盗賊「それは分かってるから早くし

勇者「っ、外で待っててってこと!分かった!?」ブンッ

盗賊「わ、分かった、分かったから!物投げんな!」

ガチャ…バタンッ…

勇者「はぁ…鈍いのか鋭いのか、わざとなのか素なのか分からないわね……」



勇者「本当に、不思議な人……」


97 : 以下、名... - 2015/07/28 23:54:36.13 tYh/23omO 78/102


>>>>

ーー…ナ…

ーー…サ…ナ…聞…えるか?

勇者「……誰?」

勇者「(声はあのスピーカーから?あれは壊れてたはず…)」

ーースサナ、其処は危険だ

勇者「スサナ?」



ーー……勇者、今から言うことを聞いてくれ

勇者「(敵意はない。けど、味方かどうかも分からないわね)」


98 : 以下、名... - 2015/07/28 23:58:53.70 tYh/23omO 79/102



ーー脚本家は君を殺そうとしている

ーー奴に物語を終わらせるつもりなどないのだ

ーー現に、私の描いた結末を覆そうとしている

ーー今の私なら、君を救える


勇者「……話が見えな

ズドンッ!

勇者「!?」


99 : 以下、名... - 2015/07/29 00:01:01.51 mGCfvI36O 80/102



ーーキメラ……劇の為に造られた怪物…

ーーどうやら奴も本気のようだ

ーー私も急がなければならないな


勇者「盗賊!!」ダッ


ーー悪いが、行かせるわけにはいかない

ーー君には勇者として、やるべきことがある

ーー舞台裏へ、来てもらう



勇者「えっ?きゃっ…!」



100 : 以下、名... - 2015/07/29 00:02:30.31 mGCfvI36O 81/102


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勇者「……此処は…」


ーー気が付いたか

ーー手荒な真似をして済まなかった

ーーああするしか方法はなかった


勇者「落とし穴なんていつの…間に…?」

勇者「!?(あれは、人間の…脳?)」


ーーあぁ驚かせて済まないな、私は見ての通りだ


101 : 以下、名... - 2015/07/29 00:04:20.71 mGCfvI36O 82/102



ーー膨大な機械に繋がれて生きている

ーーいや生きていると言えるのかは疑問だが


勇者「……あなたは、なんなの?」


ーー私は遙か昔に劇場都市を作り出した者にして

ーー劇場都市そのものであり……

ーー全ての勇者の創造主、脚本家だ



勇者「脚…本家?」

勇者「脚本家は何代も続いている一族、この都市の主でしょ?」


102 : 以下、名... - 2015/07/29 00:05:01.13 mGCfvI36O 83/102



ーー合っているが、違う

ーー何代も続くこの都市の主、それは私が与えた役だ

勇者「…なら、あなたはいつから……」


ーーこの姿になってからは数えていない

ーー少なくとも数百年は生きているだろう

ーー言っただろう?私が劇場都市を作ったと



勇者「……何が起きているか分からないわ」

勇者「状況が理解出来ない、これは現実?」


103 : 以下、名... - 2015/07/29 00:07:05.90 mGCfvI36O 84/102



勇者「それとも、これもシナリオの内なの?」

ーー君は何も理解する必要はない

ーーシナリオに沿って、私を殺せばいい

ーー君の復讐も遂げられる

勇者「!!」

ーー何も考える必要はない

ーー悩む必要も、これ以上の会話も必要ない

ーー私を壊せば、全てが終わる




脚本家「それは止めてくれ、終わってしまっては私が困る」


104 : 以下、名... - 2015/07/29 00:09:00.50 mGCfvI36O 85/102



ーー!!

ーー貴様……どうやってこの場所を…


勇者「(これは何なの?一体何が起きてるの?これは劇?それとも現実?)」



脚本家「とうの昔に知っていたよ。だから気付かれずに入ってこれた」

脚本家「まさかこんな薄暗いモニタールームに住んでいたとは……」

脚本家「なるほど、此処から劇場都市の全てを見ていたわけか」


105 : 以下、名... - 2015/07/29 00:10:54.89 mGCfvI36O 86/102



ーーっ、どうするつもりだ


脚本家「君には今まで通り、此処で生き続けてもらう」

脚本家「そして私の為に、永遠に脚本を書き続けて欲しい」


ーーふざけるな!私の物語はこれで終わりだ!

ーー誰が貴様の為に……

ーー貴様の為になどスサナを書いてたまるか!


106 : 以下、名... - 2015/07/29 00:11:57.51 mGCfvI36O 87/102



脚本家「機械になってまで数百年も生き続け……」

脚本家「数百年もの間一人の女を愛し、描き続けた狂人が何を言う」

脚本家「そこの娘が、そんなに似ているのか?始まりの脚本の彼女に…」


ーー!!


脚本家「私にとっては邪魔な存在だ、君には再び脚本に専念してもらう」チャキ

脚本家「君は夢を描き続ける存在、現実など必要ないだろう?」

勇者「!!」



ーー止せ!彼女に手を出すな!!


107 : 以下、名... - 2015/07/29 00:13:05.30 mGCfvI36O 88/102



脚本家「ははっ、身体を捨てたのは最大の失敗だったな」

脚本家「愛する女を身を挺して守ることすら出来ないのだから!!」

バンッ!

勇者「ぐっ…うっ…」


ーースサナ!しっかりしろ!

ーースサ…ナ…?スサナァァァ!!

ーー…る…さん…

脚本家「ん?何かな?」

ーー許さん!貴様だけは決して許さん!!



脚本家「吼えるな、脳から妄想を垂れ流すしか能がない化け物め」


108 : 以下、名... - 2015/07/29 00:18:00.11 mGCfvI36O 89/102



勇者「…うっ…はぁ…はぁ…?」

勇者「(今、モニターに何か映っ……!?)」

ーー!!?


『神の塔にて、お待ちします』


勇者「はぁっ、はぁっ…」

脚本家「……ん?まだ生きていたのか」

勇者「ふっ…はははっ!!」

脚本家「……何が可笑しい」



勇者「貴様のような小物が、私の復讐すべき相手だったとはな!!」


109 : 以下、名... - 2015/07/29 00:22:58.99 mGCfvI36O 90/102



勇者「これが笑わずにいられるか!?」

勇者「しかも数百年続いたこの劇場都市は、ただの張りぼて……」

勇者「この私が、勇者が幕を引くまでもない!!」

脚本家「……言いたいことはそれだけか?」

ガコンッ!ゴゴゴ…

脚本家「なっ、何だ!?」



ーーこの場所も、いよいよ隠す必要はなくなった

ーーこの場所も、いよいよ舞台になる時が来た


脚本家「貴様、何を…」


ーー地の底より、神の塔へと昇る時が来た!


110 : 以下、名... - 2015/07/29 01:02:33.12 mGCfvI36O 91/102



轟音が鳴り響き、地を震わせる。

主役を乗せた新たな舞台は、凄まじい速度で天へ昇ろうとしていた。

神の塔の最上を目指し、彼は止まることなく昇り続ける。

永遠の脚本家は、終わりを目指して登り続ける。


愛した女性と瓜二つ

最後の勇者を背に乗せて、彼は遂に飛んだのだ。

暗がりから飛び出して、日の当たる場所へと羽ばたいたのだ。



傷を負い血を流す勇者を救う為

ありし日の彼女を救うべく、彼は決断した。


111 : 以下、名... - 2015/07/29 01:04:02.32 mGCfvI36O 92/102



強い意思を持って決断した。

自分も舞台へ立つことを!前へ進むことを!


突如、朝日は夕陽へと切り替わる。

それは彼が決めた景色、彼の想う景色。

遠い遠いあの日、彼女と共に見た夕陽。


全てが作り物、偽物

勇者が叫んだ通り、全ては張りぼて……

しかし、今やそれは本物になりつつあった。



勇者が、彼女が今、最も求めている存在。

彼女と彼の再会シーンは、紛れもない本物なのだから。


114 : 以下、名... - 2015/07/29 02:30:28.17 mGCfvI36O 93/102


ゴオオオオッ!

脚本家「ぐっ…」

勇者「うっ、重…い…」

ガゴンッ…

勇者「……止まっ…た?」

シュゥゥ…ガチャッ

盗賊「…ったく、いきなり消えるから焦ったぜ」

勇者「盗賊!!痛っ…」

ガシッ…


盗賊「無理すんな、撃たれてんだろ?これで縛っとけ」

勇者「…ええ、ありがとう……」


115 : 以下、名... - 2015/07/29 02:31:37.72 mGCfvI36O 94/102



盗賊「迫真の演技だったな……」

盗賊「映像はないけど、声は確かに聞こえたぜ?劇場都市中にな」チラッ


ーー……………


盗賊「それに、助けたのはオレじゃない。助けたのは彼だよ」

勇者「……でも、何で場所が?」

盗賊「最初から知ってたんだ」

盗賊「彼が劇場都市の地下、その何処かにいるってことだけはね……」



盗賊「やはり彼は……いや、偉大なる脚本家・パストルは生きていた」


116 : 以下、名... - 2015/07/29 02:33:38.53 mGCfvI36O 95/102



脚本家「………っ」チャキ


ーースサナ!!


勇者「?」

脚本家「死ね、終わりの勇者」ニヤ

盗賊「!!」ガバッ

バンッ!

勇者「……えっ…」

盗賊「っ…大丈夫…かっ…」ガクン



勇者「…盗…賊?そんなっ…うああぁぁぁっ!!!」ダッ


117 : 以下、名... - 2015/07/29 02:37:27.33 mGCfvI36O 96/102



ーー止せっ、無茶だ!!


脚本家「馬鹿が…」チャキ

勇者「お前は、お前だけは!!!」


ーーダメだ、あれでは届かない、無理だ……

ーー私は、また繰り返すのか

ーーあの悲しみを繰り返すのか

ーー私は、また動けないまま……

ーー!!


ーー盗賊、私を引け!!!早くするんだ!!


盗賊「………っ!!」バシュ


118 : 以下、名... - 2015/07/29 02:41:10.92 mGCfvI36O 97/102



ガギィッ…ググッ…

脚本家「なん…ッ!!?」

ドズンッ…グシャッ…


ーースサナ、良かった……

ーー私はまた君を失うところだった


勇者「私はスサナじゃ…


ーースサナ、大丈夫かい?怪我はないかい?

ーースサナ、大丈夫かい?怪我はないかい?


勇者「!!」

勇者「……ええ、私は平気よ。ありがとう、パストル」ニコッ


ーーそうか、良かった…本…当に、良か…た……

ーーあぁ…こ…れで、やっと君…の傍に…逝…ける…


121 : 以下、名... - 2015/07/29 03:36:51.95 mGCfvI36O 98/102


>>>>

勇者「…………」

盗賊「んっ…」

勇者「!!」

盗賊「いってえ…あ、おはよう」

勇者「ふふっ、おはよう。大丈夫?」

盗賊「……ああ」ムクッ

勇者「まだ寝てて良かったのに」

盗賊「そうしたいけど、脚が痺れるだろ?」



勇者「そうね、凄く痺れてるわ……」


122 : 以下、名... - 2015/07/29 03:37:37.13 mGCfvI36O 99/102



盗賊「?」

勇者「……ねえ」

盗賊「ん?」

勇者「私、あれで良かったのかしら?」

盗賊「ああ、あれで良かったのさ」

勇者「……そう」

盗賊「……………」


勇者「夕陽、とても綺麗ね」

盗賊「そうだな……」


123 : 以下、名... - 2015/07/29 03:39:42.92 mGCfvI36O 100/102



ーーあっ、二人共いたぞ!

ーー素敵なシーンね……

ーー勇者さーん、インタビューさせて下さい!


勇者「これは劇だったのかしら?」

盗賊「いーや、全部本物さ。あの夕陽も全部」

勇者「そうね……」

盗賊「……記者が待ってるぜ?行って来いよ」

勇者「ええ、そうするわ。ちょっと待ってて?」

盗賊「ああ、待ってる」




勇者「……まったく、本当に演技は駄目ね……」ボソッ


124 : 以下、名... - 2015/07/29 03:50:15.11 mGCfvI36O 101/102



記者の質問と観客の賞賛を浴びながら

ふと座っていた場所に振り向くと、彼の姿は忽然と消えていた。


分かっていたのに、覚悟していたのに、涙が溢れ出す。

彼がいた場所に何かが置かれているのが見える。

視界は涙でぐちゃぐちゃなのに、妙にはっきりと見えた。


私は記者も観客も置き去りにして走り出した。


置いてあったのは手紙

手紙というより、手帳の切れ端ようなものかしら。

書いてあったのは一言だけ……















ーー星のきらめく夜に、また会いましょう



125 : 以下、名... - 2015/07/29 03:51:24.34 mGCfvI36O 102/102

おしまい

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