梓「律先輩がジュリエット……ぷっ」
律「中野ぉ!!」
こんな事、澪先輩やムギ先輩には言えないだろう。
こんな風にからかえる先輩は彼女だけ。
なんとなく親しみやすさを感じる。
なんでだろう…
律「こんにゃろう!お仕置きだー!」グリグリ
梓「いやー!やめてー!」
お互い軽口を言える関係。
こうなるとは正直思いもしなかった。
元スレ
梓『律先輩みたいなお姉ちゃんもアリかな…と』
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1281366463/
梓「律先輩みたいなお姉ちゃんもアリかな…と」
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1281764684/
家では一人っ子の私。
休みの日になるとやることがない。
姉妹でもいれば遊び相手になるけど…
こういう時、お姉ちゃんがいる憂をうらやましいと感じる。
梓「……」
暇だ。
せっかくの休みなのに予定がない。
憂は唯先輩の相手、純は…よく分からない。
とにかく私はやることが何もなかった。
梓「……」
ギターの練習をしよう、時間は無駄にできない。
私はケースからギターを取り出しさっそく練習を始める。
ジャーン…
梓「あれ…音が変」
弦が古くなっていた。
そろそろ代えなければ。
しかし張替え用の弦を探しても見つからなかった。
梓「しかたない、買いに行こう…」
これで暇が潰せると思えば面倒とは感じない。
楽器屋についた。
弦を探すついでに辺りをうろつく。
梓「うーん…なんかよさげなエフェクターが…」
「あれ?梓じゃん」
梓「!」
聞き覚えのある声。
少し心臓がドキッとする。
会いたくはなかった。
実はあまり慕っている人ではないからだ。
律「よっ」
梓(うわぁ…)
律「なんであからさまに嫌そうな顔するんだよ」
梓「…してませんよ」
梓「はぁ…」
律「なんでため息してんだよ!?」
梓「律先輩は何でここに来てるんですか?」
律「うん?ちょっと暇だからブラブラしてただけだけど」
梓「…受験生なのにいいんですか?」
律「ちゃ、ちゃんと勉強もしてるわい!」
律「そういう梓は何やってるんだよ」
梓「弦を買い換えようと…」
律「ふーん…」
梓「ていうか、私のことはどうでもいいじゃないですか」
律「いや、気になってさ」
律「暇なら一緒に遊ぼっかな~って」
梓「…私とですか」
律「うん」
梓「……」
律先輩は軽音部ではムードメーカー的な存在だ。
社交的で誰とでも仲良くすることができ、場の雰囲気を明るくしてくれる。
正直、そういう所は尊敬していた。
けど普段の彼女は大雑把で、適当で…
あんまり好きじゃない。
梓(どうせ遊びに誘ってくれるのなら澪先輩がよかったのに…)
梓「……律先輩一人ですか?」
律「そうだよ」
梓「うーん……」
律「なんだよぉ、嫌なのかよ?」
梓「いや、そういうわけじゃ…」
本音は言えないのでとりあえず誤魔化した。
律「遊びに行こうよ~、あずにゃ~ん」
梓「律先輩がそれ言うの、やめてください」
律「ひどっ!?」
梓「……」
よくよく考えてみれば、私は彼女のことをあまり知らない。
部活での付き合いはあるけど、それ以上のことは他の先輩に比べてないし。
そんな状態で嫌いって思うのはさすがに失礼なのでは?
梓「う~ん……」
律「梓?」
梓「…分かりました、私も暇だし付き合います」
律「それでこそ梓!」
とりあえず今日一日、田井中律という人間を観察しよう。
そしてどういう人なのか確かめないと。
好き嫌いになるのはその後だ。
律「よーし、じゃあゲーセンにでも行くか!」
梓「どうぞ、任せます」
律「音ゲーやろうぜ」
梓「音ゲー?」
律「知らないのか?リズムに合わせてボタン押したりするやつ」
梓「太鼓の達人みたいなものですか?」
律「そうそう、それそれ」
ゲームセンターへ着いた。
色々なゲームがある。
すごい雑音。
普段こういう所にはあまり来ないので新鮮な光景だ。
梓「律先輩はここによく来たりするんですか?」
律「ん?まぁな」
梓「ふーん……何か毎日通ってそうですもんね」
律「どういう意味だ?」
梓「いえ…別に」
不良っぽいから。
なんてことは言えなかった。
行ったらどういう反応するのかは興味あったが。
怒るのか?それとも笑って流してくれるのか?
私はまだ彼女のことをよく知らないから分からない。
律「まずは私からだな」
目的のゲームにたどり着くと、
律先輩がさっそくお金を入れてやり始めた。
律「梓はこういうのよく分からないだろ?ちゃんと見てろよ」
梓「参考にさせてもらいます」
ドラムを模したゲーム…私はこれがどういうものか知らない。
そんな私に、どうやら気を使ってくれたみたいだ。
少し感心した。
律「よっ、ほっ…」
リズムよくスティックを叩く先輩。
ちょっと凄いと思ったが…
律「あっ!わわっ!!ちょっと!?」
梓「何やってるんですか…」
律先輩のリズムはしだいにズレて、
最終的にはあまり高くないであろう得点になった。
梓(かっこわる…)
律「いやー、ははは…いつもこんなんじゃないんだけどな」
照れくさそうに笑う先輩。
けど私にはその言葉が言い訳っぽく聞こえて、好印象ではなかった。
律「ほら、梓もやってみなよ」
梓「……」
そう言われるとスティックを渡された。
自分でも少し自信はあった。
律先輩がやってるところを見てると、簡単そうに思えたからだ。
ドラムはやった事はないけど、しょせんはゲーム。
大したことはないだろう。
これで先輩より高得点を取ったらどんな顔をするのか…
想像しただけで、ちょっと不敵な笑みをこぼした。
梓「あ、あれ…?」
私が抱いていた自身はあっという間に崩れた。
やってみると意外に難しい。
梓「あっ…あぁっ!?」
律「ほらほら、しっかりしろよ」
梓「分かってます!」
ずれたリズムをなんとか修正しようとする。
だんだんコツもつかめてきた。
かと思うとゲームが終わる。
梓「あぁっ…」
律「おっ、初めてにしては中々良い点数じゃん」
梓「……もう一回やってもいいですか?」
律「え?いいけど」
せっかく慣れてきたのに、このまま引き下がりたくはない。
私は再びゲームにお金を入れた。
30分後。
梓「よっ、とっ…」
律「あぁ、そこもうちょっと早く」
梓「分かってます!」
1時間後。
律「だいぶ慣れてきたじゃん」
梓「当然です、次はもっと難しいやつにチャレンジします」
律「えっ、まだやんの?」
2時間後。
梓「えいっ、よっ」
律「おーい、梓ー…」
梓「話しかけないでください!集中が切れます!」
律「はい……すいませんでした」
梓「はっ、そりゃ!」
律(いつまでやるんだよ…)
梓「やった!クリアできました!」
あれから何回プレイしたのだろう。
気づいたら腕がかなり上達していた。
梓「先輩より高得点ですよ」
誇らしげに先輩に自慢してみた。
律先輩のちょっと悔しがる顔が見てみたかったのだが…
律「おめでとさん、よく頑張ったじゃん」
梓「あっ…」
悔しがるどころか褒めてくれた。
しかも頭をナデナデして。
これじゃあ肩透かしをくらったどころか、むしろ私が悔しい。
本当だったら律先輩の残念そうな顔を見れたのに…
けどナデナデされること自体は嫌ではなかった。
悔しいような、嬉しいような…複雑な気持ちだ。
律「それより梓…お前財布の中身は大丈夫か?」
梓「えっ……あっ」
どうやら所持金のほとんどがゲームに吸われてしまったようだ。
梓「すいません…おごって貰っちゃって」
律「気にすんなよ」
ゲームセンターの帰りに、私たちはハンバーガーショップに寄った。
私はお金がないので遠慮したが、先輩がどうしてもと言って連れてきた。
梓「明日ちゃんとお返しします」
律「だからいいって、先輩なんだからおごらせろよ」
梓「はぁ…」
律「おっ、期間限定メニューだってさ。これ食おうぜ」
セットメニューを受け取ると、私たちは席についた。
ポテトをおぼんの上にばら撒いて食べやすいようにする。
律「それにしても、ずいぶんと夢中でやってたな」
梓「ま、まぁそこそこ楽しかったですから」
律「かなり楽しかった、だろ?じゃなかったらお金が尽きるほどやらないもんな」
梓「うっ…」
律「今度本物のドラムやってみろよ、そっちも楽しいぞ」
梓「……考えておきます」
律「…そういえばさ」
ハンバーガーを口に含みながら、律先輩がしゃべり始めた。
行儀が悪いですよ、と言おうとしたがどうせ聞く耳を持たないだろう。
そのまま流すことにした。
一応これは減点対象だが。
梓「なんですか?」
律「こうやって二人っきりになるのって珍しいよな」
梓「そうですね…」
律「本当はもっと行きたい場所があったんだけど、梓が音ゲーで満足しちゃったからさ」
梓「…すいませんでした」
律「いや、まぁ満足してくれればそれでいいんだけど」
梓「そうですね、もともと誘ってきたのは先輩ですし」
律「切り替え早いな…」
梓「……」
律「……」
しばらく沈黙が流れる。
いざこういう時間を共にすると、何を話していいか分からなくなってしまった。
とりあえず二人とも目の前にあるハンバーガーを黙々と食べている。
律「…あっ、そうだ」
梓「はい?」
律「もうすぐ文化祭だな」
梓「そういえば…そんな時期ですね」
律「梓のクラスは何やるか決まったのか?」
梓「いえ…先輩たちは?」
律「私たちもまだ」
梓「まぁクラスの出し物も大事ですけど…軽音部だってライブやるんですからね?」
律「分かってるって」
梓「明日からちゃんと練習するんですよ」
律「うーん………」
梓「……」
律「はい!」
梓「何ですかその間は…」
ハンバーガーも全部食べ終わり
そろそろ時間なので私たちは家に帰ることにした。
横断歩道につき、お互いここで分かれることにする。
律「送ってやろうか?」
梓「大丈夫です」
律「遠慮するなよ子猫ちゃん、夜道に一人は危険だぜ?」
梓「誰が子猫ちゃんですか、それにまだ夜じゃないです」
律「いやー、私としては梓のことが心配でさ…」
梓「気遣いはありがたいですけど、私なら大丈夫ですよ」
律「本当か?」
梓「はい…それより先輩こそしっかりしてくださいね。明日からちゃんと練習すること」
律「はーい」
梓「じゃあ私はこれで…」
律「あ、あぁ…車に気をつけるんだぞ」
梓「分かってます、さようなら」
律「…お疲れ」
そのまま私たちは反対方向へと進んだ。
家に帰ったらどうしようか、そんな事を考えながら歩を進める。
そういえば中途半端な時間に食事を取ってしまった…
母親に夕飯はいらないとメールしておかないと。
そしてバッグから携帯を取り出そうとした、その時
大切なことを思い出した。
梓(あっ…律先輩にまだ今日のお礼言ってない)
しまった、と思った。
一応今日付き合ってもらったんだからお礼ぐらいはしないと。
振り向き、律先輩を探す。
…いない。
もう姿が見えないところまで行ってしまったか。
梓「……」
まぁいい、メールですませよう。
携帯を取り出し、律先輩へメールを送ろうとするが…
梓「あっ……電池切れてた」
家に到着し、自分の部屋に入る。
疲れた…
私はすぐにベッドへと倒れこんだ。
梓(携帯充電しておかないと…)
梓「……」
そういえば何か大切なことを忘れているような…
梓「あっ!ギターの弦買い忘れた!!」
大失態だ…明日練習があるのに。
梓「もー…律先輩と遊んでたからぁ…」
それでも自分に非があることぐらいは分かっていた。
けどイライラしてしまい、つい誰かのせいにしてしまう。
結局、その日は律先輩にメールを送ることはなかった。
送る気分になれなかった。
梓(明日直接言えばいいや……ていうか明日の練習どうしよう)
律「うん、それで今日梓と遊んでさ…」
夜、私は部屋で澪と電話で話していた。
なんとなく寂しくて話し相手が欲しかったから、私が電話したのだ。
律「色々連れて行きたかったんだけど、上手くいかなくて」
澪『ふぅん…律にしては珍しいな』
律「なんかさぁ…私って梓にあまり好かれてないじゃん?」
澪『そうかな?』
律「そうだよ……お前に比べれば全然」
澪『私と比べられても…』
律「だから今日仲良くなろうと頑張ったんだけどさ……なんか力入っちゃって逆にダメダメで」
律「ドラムのゲームでもミスってかっこ悪いところ見せちゃった」
澪『律っぽくないな』
律「本当だよ…どうしたんだろう」
澪『…でも、言っておくけど梓はお前のこと嫌いではないと思うぞ?』
律「そうかなぁ…」
澪『そうだって、自信持っても大丈夫だよ』
律「…ま、澪がそういうならそうなんだろうな」
澪『もちろん』
律「しかし澪に励まされるとは…一生の不覚」
澪『おい!なんだそれ!?』
律「あはは、冗談だって」
澪『まったく……もう遅くなるから切るぞ?』
律「うん、じゃあなー」
携帯を切り、ベッドに放り投げた。
私もベッドに飛び込む。
そしてその投げた携帯をジーッと見つめている。
梓からの電話なりメールを待っていた。
律(お礼ぐらい言ってもらえると思ってたんだけど…ダメだったかな)
今日一日のこと思い出した。
何がまずかったのだろう。
何か気に障ることでもしたのだろうか。
いくら考えても分からなかった。
律(あー…失敗したのかなこりゃ)
律「……」
律(それにしても、梓のことだと色々悩んじゃうな…)
律(なんでだろう…)
律「……」
そのまま瞳を閉じて、眠りについた。
朝、目が覚めベッドから出る。
頭はまだボーっとしている。
「……」
昨日のことを思い出した。
彼女と遊んでいた時間。
楽しかったのかつまらなかったのか分からない。
けど、新鮮な感覚だった。
「……」
そろそろ学校の時間。
今日はどんな顔をして彼女に会えばいいのだろうか。
純「律先輩と遊んだ?いいな~楽しそうで」
梓「でもさ、そのおかげでギターの弦買い忘れちゃって」
朝の休み時間、授業が始まるまでいつもの友達とおしゃべりをする。
この時間は気楽に過ごせて好きだ。
純「あぁ、弦ならジャズ研で余ったやつあるよ」
梓「本当?」
純「うん、なんだったらあげてもいいけど」
梓「ありがとう!純!」
放課後、授業が終わると急いで音楽室に向かった。
弦も張り替えたし準備は万端だ。
梓「こんにちは」
唯「おっ、あずにゃんいいところに来たね~。一人で暇だったんだよぉ」
部室の扉を開けると、ソファの上でゴロゴロしている先輩が迎えてくれた。
相変わらずだらしないが、この人らしいともいえる。
梓「唯先輩一人なんですか?」
唯「うん、みんな掃除や色々用事があってね」
梓「そうですか…」
唯「それよりあずにゃん」
梓「なんですか?」
唯「あずにゃんもゴロゴロしようよ~」
梓「結構です」
唯「えぇっ!?なんで~」
梓「ダラダラしてないで練習してください」
唯「うーん…もうちょとダラダラしてから」
梓「はぁ…」
まったく、これだから唯先輩は。
呆れながらも、唯先輩だからしょうがないと思い少し笑ってしまった。
唯「ほら、あずにゃんもこっちにおいで」
梓「えっ…」
唯先輩は私の腕をひっぱる。
そのまま先輩の上に覆いかぶさってしまった。
梓「えっ…唯先輩?」
唯「えへへ~」
先輩が私のことを強く抱きしめる。
すこしドキドキした。
ただ唯先輩にとってこれはコミュニケーションの一つであり
特別なことではない。
私もそこは理解していた。
梓「唯先輩、もう話してください」
唯「もうちょっと」
梓「もう…」
その時、ガチャッと音楽室の扉が開く音がした。
律「おーっす…」
梓「!」
律「あっ…」
唯「りっちゃんいらっしゃ~い」
律「あ、あぁ…」
梓「……」
律「…お前らは相変わらず仲良いな~」
唯「えへへ」
梓「……」
なぜか急に恥ずかしくなった。
こんな事、軽音部じゃ当たり前の光景なのに。
律先輩と顔を合わすことができない。
なんでだろう…
唯「澪ちゃんとムギちゃんは?」
律「ムギはまだ掃除、澪は進路調査とかでもうちょっと遅くなるって」
唯「そっかぁ」
律「はぁ~疲れた、和つぃもちょっと休もうかな」
梓「そ、そんなことより早く練習を!」
律「あっ、うん……」
唯「え~?もうちょっとこうやってようよぉ」
唯先輩が力強く私を抱きしめた。
梓「もう、いい加減離してください!」
唯「ええではないか~ええではないか~」
律「……」
梓「り、律先輩からもなんか言ってくださいよ」
律「…別にいいんじゃない?」
梓「えっ…」
律「せっかくなんだからもっと楽しんじゃいなさいよ、お二人さん♪」
唯「では遠慮なく♪」
梓「ちょ、ちょっと律先輩!?」
律「さ~て、澪たちが来るまで漫画でも読んでようかな~」
梓「……」
昨日真面目に練習するって言ったのに…
なんだか裏切られた気分だ。
結局その後、澪先輩とムギ先輩が来て。
いつも通りミーティングをしていつも通り少し練習をしてその日は終わった。
満足いく練習ができなくて、私は少し不機嫌になる。
梓「むぅ…」
律「どうしたんだ?梓」
梓「先輩、昨日ちゃんと練習するって言ったじゃないですか」
律「あぁ…あれね。まぁ明日からはちゃんとやるよ」
梓「今日やらない人が明日やるとは思えません」
律「…おっしゃるとおりで」
梓「しっかりしてくださいよ、部長なんですから」
律「あはは、申し訳ありません」
梓「はぁ…」
こういう適当な所があるから好きになれないんだ。
律先輩らしいって言っても、私は納得できない。
その性格をなんとかしてほしい…
律「……」
澪と分かれた帰り道、私は一人で歩いていた。
少し落ち込んでいる。
律(本当は梓の言うとおりにやりたかったんだけどな…)
律(その方が梓も喜ぶと思ってたし…)
律(けど……)
律「……」
唯と梓が抱き合ってるところを思い出した。
あれは唯のスキンシップだって分かっていたけど…なんか悔しい。
私は私なりに頑張って梓と仲良くなろうとしてるのに、唯はあんなにも簡単にくっつけるなんて。
悔しくて、モヤモヤして…そのせいで練習する気も起きなくて。
つい意地悪なこと言ったりして……本当はそんなつもりじゃないのに…
律(また嫌われちゃったかな……)
梓「……」
家に帰り、自分の部屋でくつろぐ。
ご飯も食べたしお風呂も入った。
明日の予習も、ギターの練習も終わった。
やることがない…
憂に適当なメールを送ってみたが返信はまだ来ていない。
唯先輩の相手でもしているのだろう。
梓(一人っ子はこういう時つまんないからいやだ…)
梓「……」
暇だからベッドでゴロゴロしながら携帯をいじっている。
その時、あることに気づいた。
梓(あっ…律先輩に昨日のお礼まだ言ってない…)
梓(…今からメールしようかな)
梓(でも今さらって感じがするし…)
梓「……」
少し考える。
…そういえば律先輩の方は昨日した約束を破ったじゃないか。
真面目に練習するって言ったのに…
梓(なんか…もうどうでもいいや)
私は携帯を閉じた。
そして律先輩への不満を頭の中で爆発させる。
どうして部長なのにもっとしっかりしてくれないのだろう。
どうしてちゃんと練習しようとしないのだろう。
どうして私の思い通りにしてくれないのだろう。
梓「……」
最後の不満は不満なのか?
ちょっと違う気もするが…
梓「……」
でも悪い人ではない、それは分かっている。
彼女なりに気を使ってくれるし、優しくしてくれるし。
昨日も私のために色々としてくれた。
今まで彼女とは絡みたいとは思っていなかった。
無意識のうちに避けていたのかもしれない。
嫌いではないのに…
梓「……」
そう、嫌いではない…律先輩のことは嫌いではないんだ。
嫌いではないが…なぜだか彼女に対しては不満ばかりが募る。
どうしてだろう…
梓「……」
梓(なんか昨日からずっと…律先輩ことばかり考えてる…)
梓(変なの…)
自分でも分からなくなってきた。
先輩と仲良くなりたいのか、どうなのか。
好きなのか嫌いなのか…
梓「もっとしっかりやってくださいよ、先輩…」
部屋で一人呟く。
不安定な気持ち。
律先輩がこのまま不真面目だと、彼女に対して本当に失望しそうで怖くなった。
梓「私だって嫌いになりたくないんですから……理想的な先輩になってくださいよ」
理想的な先輩……なぜ律先輩にこんなことを求めているのだろう。
だんだん自分の気持ちが混乱してくる。
何がなんだか分からない。
もう寝よう。
律「なんだかさー、最近人間関係がうまくいってない気がするんだよなぁ…」
紬『りっちゃんが?』
今日はムギと電話している。
梓との関係でモヤモヤしていたので思い切って相談することにした。
相手が梓ということは秘密にしているけど。
律「なんとか仲良くなるように頑張ってるんだけど、上手くいかなくてさ…」
紬『珍しいわね、りっちゃんなのに』
律「なんかその言葉、澪にも言われた気がする…」
紬『だって私が見る限りに、りっちゃんて意識して誰かと仲良くしようとしないでしょ?』
律「は?」
紬『みんな気づいてたら、りっちゃんと友達になってたじゃない』
律「……そう?」
紬『えぇ…だからいつも通りのりっちゃんのままで、その人と向き合えばいいんじゃないかしら?』
律「うーん……でもいつも通りの私を向こうが嫌ってるような…」
紬『…誰かに嫌われないように生きるのって、辛くない?』
律「……」
紬『もしりっちゃんが私に嫌われないように振舞ってたら、私は嫌いになっちゃうかな~』
律「えっ…なんで」
紬『だって、それじゃあ私に心を開いてくれる事にはならないじゃない?』
紬『そんな人とは友達になりたくないわ』
紬『もしそれで友達になっても、お互い気を使って疲れるだけだと思うし』
律「……」
紬『りっちゃんはどうしたいの?その人と仲良くなりたいんでしょ?』
律「うん…」
紬『だったら、ありのままの自分でぶつかる方がいいんじゃないかしら』
紬『本当の自分を見せなきゃ、その人だって心を開いてくれないわよ?』
律「……」
紬『大丈夫、素のりっちゃんを嫌う人なんていないから』
律「……本当?」
紬『えぇ、もちろん』
律「…ありがとうムギ、なんか楽になったよ」
紬『ふふっ、どういたしまして』
律「そうだよな…私らしくないよな…」
紬『ところでりっちゃん』
律「ん?」
紬『その人って…男の人?』
律「は、はぁ!?なんでそうなるんだよ!」
紬『だって…好きな人の前で本当の自分をさらけ出せないなんて…』
紬『まるで恋する乙女みたい///』
律「違う違う違う!!全然ちがう!!」
紬『でもその人のことで最近は頭がいっぱいなんでしょ?』
律「うっ…いやそうだけどさ…」
紬『それに嫌われないように頑張るだなんて……恋してるとしか…』
律「ち、違うって!!」
紬『もう…りっちゃんたら///』
律「あぁもう!電話切るぞ!!」
紬『あっ、りっ…』
電話を切った。
律「はぁ…相談する人選ミスったか」
律「私が梓に恋なんて…」
確かに梓はかわいい。
ちっちゃいし、ネコ耳が似合うし。
ちょっと生意気なところもいい。
律「だからって、相手は女で後輩で恋なんて飛躍した話…」
唯《え~?もうちょっとこうやってようよぉ》
梓《もう、いい加減離してください!》
唯《ええではないか~ええではないか~》
律「……」
ふと部室であった出来事を思い出した。
なぜか心がチクチクする。
律「…いや、ないない」
律「ありえないって…ははっ」
律「……」
とりあえず、明日からはいつも通りの自分で梓に会おう。
あくまで私は部活の先輩として仲良くなりたいだけだ。
決して特別な感情で動いてるわけない。
そんなことはありえない。
律「ありえねぇーーー!!」
聡「姉ちゃんうるさい」
夜が過ぎ、朝を迎えた。
今日も学校に行き授業を受ける。
そして放課後は部活だ。
梓「はぁ…今日こそちゃんと練習をしたい」
音楽室の扉を開けた。
梓「こんにちは…」
律「よっ、梓」
梓「あっ…」
まさか律先輩いるとは思わなかった。
ちょっとドキッとする。
梓「律先輩一人ですか…?」
律「そだよー」
梓「なんか困ることでもあるのか?」
梓「いえ…」
困ることは…ある。
昨晩悩んで以来、律先輩とどう接すればいいか分からない。
なぜか変に意識してしまう。
梓「……」
律「……」
梓「……」
律「おい!」
梓「な、なんですか?」
律「ちょっとは不思議がれよ!勉強してる私をさ!」
梓「えっ…」
よく見れば律先輩は机に教科書を広げていた。
確かに珍しい光景かもしれない。
律先輩でも勉強するんだ。
やっぱり三年生だなと感心した。
梓「そろそろ受験ですもんね」
律「いや、今日の授業寝てて聞いてなかったからその復習だけど?」
梓「……」
前言撤回。
やはり適当な人だ。
梓「はぁ…」
律「なんだそのため息は!」
梓「呆れて何も言えないため息です…」
律「ひどいわ中野さん!私こんなに頑張ってるのに!」
梓「はいはい…」
律「こう見えても私、東大を目指してるのよ?」
梓「はい、そうですか」
律「適当に流すなー!」
梓「律先輩は全国の東大を目指してる人たちに対して失礼ですよ」
律「まともな反論!?」
律「くそぅ、澪なら愛ある突込みで返してくれるのにさ」
梓「……」
澪先輩と比べられても困る。
あの人は私の憧れ。
美人で、優しくてかっこよくて…
律先輩の扱いも上手い。
……あれ?
最後のは尊敬するべきところなのか?
律「もっと、突っ込みをするのならビシッっと」
梓「澪先輩に頼んでください。私じゃ無理です」
律「突っ込みもできないで軽音部を生き残れると思ってるのか!」
梓「そんな大げさな…」
律「お前だって澪に憧れてるんだろ!?」
梓「な、なんでそれを!?」
律「澪以外みんな気づいてるよ?」
梓「うぅ…」
律「なら、ちゃんとした突っ込みもできないとな」
梓「それとこれとは話が違うと思います…ていうか澪先輩の突っ込みには別に憧れてはないし」
澪「お待たせー」
梓「!」
音楽室に澪先輩が入ってきた。
律「いいか梓、ちゃんと澪の突っ込みをお手本にしろよ?」
梓「はぁ…」
律先輩はヒソヒソと私に話しかけた。
だけどそんな事を言われてもどうしろと…
律「よう、澪」
澪「なんだ?」
律「今日出された宿題みせて」
澪「まだやってるわけないだろ…」
律「じゃあ私の分も家でやってきて」
澪「誰がやるか!!」
律「いだっ!?」
ボカッ、と鈍い音がした。
律先輩が澪先輩に殴られたのだ。
律「ど、どうだ……これが澪の突っ込みだ…」
梓「たんこぶ出来ちゃってるじゃないですか」
律「お前もこれぐらい出来るよう頑張れよ」
梓「律先輩ってドM?」
律「違うわい!」
澪「まったく、もうすぐ受験なんだぞ?」
律「はい、しゅみましぇん…」
梓「……」
今日も変わらず律先輩はうっとおしい。
相手をするのは疲れて面倒だ。
梓「…ふふっ」
でも、なぜか今日は笑ってしまった。
なんでだろう…いつも通りの先輩のはずなのに。
この前みたいな不快な感じはしない。
彼女のことは嫌いではない。
かと言って好きかと言われても困る。
微妙な関係。
澪「ところで律、今日部長会があるって和から聞いたんだけど出なくて良いのか?」
律「あっ!」
梓「……」
こんな所があるからがっかりしてしまう。
律「あー、今日も練習疲れたなー」
澪「言うほどやっていないけどな」
部活が終わり、澪と一緒に下校中。
今日はなんだか気分がいい。
澪「そういえば、梓のことだけど」
律「うん?」
澪「言ってたほど仲悪くなかったじゃないか」
律「……そう見えた?」
澪「あぁ」
律「…そっか」
自分でも今日は梓と上手くやってた気がする。
だから気分がいいのかな。
律「…いつも通りにさ」
澪「ん?」
律「いつもの私みたいに接してみた」
澪「そっちの方がいいよ」
律「だよな。まぁ梓はどう思ったか分からないけど…」
澪「梓だって悪くないと思ったんじゃないか?」
律「そうかな?」
澪「そうだよ」
律「じゃあ、もし違ってたら私の宿題代わりにやってくれない?」
澪「なんでそうなるんだ」
澪が軽く私の頭を叩く。
こうやって軽口を言い合ってるときが、私は一番楽しい。
いつか梓ともこういう関係になりたいな。
ぐぅ~
律「……ん?」
澪「……」
どこからか音がした。
これは腹が減ったときに出る音。
律「……澪さん?」
澪「うぅ///」
律「ふっ…お前も人間だもんな」
澪「笑うなぁ!!」
律「そうだ、ハンバーガー食いに行こうぜ!今期間限定メニューやってるんだ」
澪「今から?」
律「めっちゃ美味しいんだって!」
澪「う~ん…そうだな。行くか」
梓「……」
部活からの帰り道、私は大通りを歩いていた。
夕日がオレンジ色に周りを染めている。
梓「…きれい」
ふと、今日の律先輩を思い出した。
なんか今日はいつも以上にうっとおしかったが、一緒にいて楽しかった気もする。
なんでだろう、最近は律先輩が頭の中に毎日いる。
思えばあの日、二人で初めて遊びに行ってから気にかけるようになったのかも。
梓「……」
あんなに律先輩と二人っきりだったのは初めてだった。
先輩の良い所や悪いところも確認できた。
それからずっと、律先輩がどういう人かもっと知りたがっている。
……知りたがっている?
何を思っているんだ、私は。
別に律先輩のことなんかどうでも…
梓「……」
またわけが分からなくなってきた。
律先輩のことが興味があるような、ないような。
初めはただうっとおしかっただけの先輩が、私をここまで悩ますなんて。
なんだか段々と腹が立ってくる。
梓「あぁもう!なんなの……」
普段あんなへらへらしている人のどこがいいんだ。
能天気で適当でおちゃらけてて・・・
まったく尊敬できない先輩。
梓「次会ったときは…澪先輩みたいにゲンコツしてやりたい……」
純「あっ、おーい!梓ー!」
梓「!」
後から聞き覚えのある声がした。
純だ。
純「部活の帰り?」
梓「うん」
純「そっか、私も」
梓「お疲れ様」
純「そうだ!今ヒマ?」
梓「えっ…なんで?」
純「実はさ、ハンバーガー食べたくて。期間限定メニューがあるらしいんだよね」
梓「あぁ…あれね」
純「知ってるの?」
梓「うん、この前食べた」
律先輩と遊んだときに。
梓「あんまり美味しくないよ」
純「えぇ~?」
梓「私はそんな好きじゃなかった」
純「う~ん…でもヒマなら行こうよ!私は食べてみたいし」
梓「もう…しょうがないなぁ」
お店につくと純は限定メニューを
私はあまりお腹がすいてなかったのでジュースを注文して席に着いた。
純「ん~…そこそこ美味しいじゃん」
梓「そう?」
純「うん」
梓「まぁ…純や律先輩は好きそうだよね」
純「え?律先輩?」
梓「…なんでもない」
うっかり律先輩の名前が出てしまった。
そんなつもりはなかったのに…
純「そういえば律先輩ってかっこいいよね」
梓「…そうかな?」
純「そうだよ、さっぱりしていて男らしいし」
梓「……」
梓(律先輩が聞いたらどう思うんだろう…)
梓「…でもあの人、あれで結構いい加減なところもあるから」
梓「部長のくせに部活の事ちゃんと管理しないし、練習も率先してやらないし…」
梓「おまけに今日なんて受験生なのに授業中寝てたりしてたんだよ?ありえない」
梓「ドラムはいっつも走り気味だし、私のことからかってくるし…」
純「へ、へぇ~…」
梓「……でもまぁ、あれで一応優しいところとかもあるんだけどね」
梓「がさつに見えて細かいところまで気を配ってくれて、場の雰囲気も和ませてくれるし…」
梓「意外と料理や家事が上手かったりするんだよ?驚きだよね」
純「……」
梓「純?」
純「ふ~ん…」
梓「…何ニヤニヤしてるの?」
純「梓さぁ、律先輩のこと今すっごく楽しそうに話してたよね」
梓「……え?」
純「文句言ってるあたりから楽しそうだったよ」
梓「な、ななな何言ってるの!?楽しいわけないじゃん!!」
純「そうかそうか~」
梓「あっ!今変な風に思ってるでしょ!?」
純「べっつにー」
梓「違うからね!そういうのじゃないもん!」
純「そういうのってどういうの?」
梓「うっ…それは…」
純「うん?」
梓「…と、とにかく違うの!!今のはただの愚痴なんだから!!」
純「…ねぇ梓、知ってる?」
梓「な、何が…」
純「愚痴は愛情の裏返しなんだって」
梓「えっ…」
純「愚痴ってのは全て思い通りにならない愛情からくるただのぼやき…」
純「こんなに大好きなのにどうしてこの人は思い通りにならないの?っていうノロケ話なんだってさ」
梓「!」
純「まぁ、さっき読んでた漫画に書いてあったことだけどね」
梓「……」
純「梓は素直じゃないから、そういうこと認めないと思うけどね」
梓「……」
愛情の裏返し?
嘘だ。
だってついこの前まで律先輩のことなんてどうとも思ってなかったし。
むしろ嫌い…
梓「……」
嫌いだと思っていたかった?
自分が律先輩のことを好きだと認めたくなかったから
それを隠すために嫌いなフリをして……
自分自身に…嘘をついていた?
梓「……」
純「認めちゃいなよー、律先輩のこと本当は好きなんでしょ?」
梓「……」
…違う。
そんなの嘘だ。
律先輩は…キライで
キライでキライでキライすぎて
気になって…気になって…
気づいたら一日中ずっと律先輩のこと考えてて
いつの間にか頭の中に住み着いていて…
梓「……」
純「梓?」
梓「…わっ、私は……」
純「あっ……」
梓「私は…律先輩のことなんて大嫌いなんだから!!」
梓「あんな先輩、好きになるところなんてこれっぽちもないよ!!」
言った。
言ってしまった。
これでいい。
これでいいんだ。
私が律先輩を好きだなんてありえない。
あんな先輩…
純「……」
梓「…純?」
なんか言ってよ。
こんなこと本当は言いたくなかったんだから…
純「あの…梓…」
梓「え?」
純「うしろ…」
うしろ?
うしろに何があるの?
私は純が指差す方向へと振り向いた。
律「……」
梓「!?」
梓「り、律先輩…?」
律「……」
頭の中が真っ白になる。
心臓が止まるかと思った。
なぜ律先輩がここに?
いや、それよりまさか…今わたしが言ったこと……
澪「…そ、外から見えたから…その…」
純「ごめん…私も気づいてたんだけど言おうとしたら…」
梓「……」
律「……」
思考が停止する。
冷や汗が出てきた。
息苦しい。
梓「……」
律「……」
律先輩の顔もよく見えない。
私の目から涙が出てきた。
梓「……くっ」
純「あっ!ちょっと梓!?」
そのまま逃げ出してしまった。
澪「梓!」
律「いいよ澪…」
澪「で、でも!!」
律「いいんだよ…」
澪「……」
律「…それよりさ、さっさと食べようぜ!」
澪「律…」
律「あっ佐々木さん、この席使っていい?」
純「いいですけど……あと鈴木です」
律「あはっ☆そうだったそうだった」
澪「……」
律「いやー、美味しそうだなー」
梓「はぁ…はぁ…」
すぐに家へ戻り、自分の部屋に入った。
そしてベッドの中にもぐりこむ。
梓「うっ…うぅ…」
梓「ふうぅっ…グズッ…」
なんとか泣くのを堪えようとする。
けど、無理だった。
梓「うっ…うああぁぁぁぁああん!!」
恐ろしいほどの後悔の念が、私を襲う。
なんであんな事を言ってしまったのだろう。
あの時、自分の気持ちに素直になっていたら…
しかし、もうどうしようもない。
梓「うあああぁぁぁぁぁぁあああん!!」
嫌われた。
これで私は律先輩に完全に嫌われた。
澪「……」
律「……」
澪「な、なぁ律…」
律「あっ、もうここでお別れだな」
澪「……」
律「じゃあな、澪。また明日学校で」
澪「あ、あぁ…バイバイ」
律「……」
澪「……」
律「ただいまー」
聡「あっ、姉ちゃんお帰りー」
律「聡、今日夕飯いらないって言っておいて」
聡「なんで?ダイエット?」
律「馬鹿もん!こんな素晴らしいプロポーションを持っているのにダイエットなんてする必要あるか!」
聡「はいはい」
律「…さっき食べてきちゃったからさ、もうお腹いっぱいなんだよ」
聡「ふーん」
律「じゃ、ちゃんと伝えておいてくれよ」
聡「はいよー」
律「はぁ……」
律「……」
自分の部屋に入り、ベッドの上に横たわる。
チクタクと時計の針が進む音が聞こえる。
一人でいると静かなものだ。
律「……」
携帯を見た。
澪からメールが来ている。
律「……」
なんとなく、開ける気が起きなかった。
律「……」
静かな空間。
嫌でも自分と向き合わなければいけない。
律「……」
思い出したくない。
忘れ去りたい出来事。
それでも、どうしても頭から離すことはできなかった。
梓《私は…律先輩のことなんて大嫌いなんだから!!》
律(大嫌い、か……)
律(まぁ…最初から好かれてるとは思ってなかったからいいけどさ)
律「……」
律(逆に清々しいな、あそこまでハッキリと言われると…)
律「…ははっ、マジうける……」
律「ろくな先輩じゃないな、私は…」
律「梓の気持ちも知らないで仲良くなりたいだなんて…」
律「今日も私と絡んでて、イヤだったんだろうな~……」
律「……」
律「寝よう…」
寝て全部忘れられたら、いいな…
梓「……」
あれからどれ程経ったのだろうか。
私は泣きつかれてベッドの上でぐったりとしている。
梓「……」
喉が痛い。
鼻はまだ詰まっている。
頭はボーっとしている。
梓「……」
涙はとっくに枯れ果てた。
もう泣く気にもなれない。
何も考えることができない。
梓「……」
律先輩のこと想うとチクチクする。
イライラする。
ムカムカする。
ザワザワする。
ズキズキする。
息苦しい。
梓「……」
こんなに辛い思いになるのも全て律先輩のせいだ。
だから私は律先輩を嫌いになった。
こうすれば少しでも気が楽になると無意識に思って。
自分自身を騙していた。
自分が傷つきたくないから、彼女を避け。
心の中で馬鹿にし、見下すことで彼女を遠ざけようとしていた。
頭で思っていなくても、心がそうした。
梓「……」
けど純に言われて気づいた。
自分の気持ち。
頭で理解することができた。
単刀直入に言えば私は律先輩のことが……好きだ。
なんで好きになってしまったのかは分からない。
けど好きだという事実は認めるしかない。
その上で、自分がどれほど大変なことをしたか改めて思い知らされる。
大好きな人を傷つけてしまったのだ。
自分はなんて馬鹿なんだ。
なんて愚かなんだ。
なんて浅はかなんだ。
梓「……」
最低だ。
最低な人間だ。
自己嫌悪が膨れ上がりどうにかなってしまいそうだ。
梓「……!」
耳をすますと足音がした。
誰かが私の部屋に近づいてくる。
誰?
お母さん?
それともまさか…
コンコンとノックの音がする。
純「梓?いるー?」
梓「純…?」
予想外の人物だった。
どうして純が?
純「入ってもいい?」
梓「あっ…うん」
純「おじゃましまーす」
部屋の扉が開くと純が現れた。
純「おー、ここが梓の部屋かー」
梓「純…どうして…」
純「これ、梓のバッグ。さっき置き忘れてたよ」
梓「……ありがとう」
純「どういたしまして」
突然のことで中に入れてしまったが、今は人と話せる状態ではない。
せっかく来てもらった純には悪いが、早く一人にしてほしかった。
梓「あの…純……」
純「分かってる、用事はこれだけだからもう帰るよ」
梓「……ごめん」
純「いいっていいって」
梓「……」
純「…明日学校来れる?」
梓「……分からない」
純「そっか、了解」
梓「……」
純「…じゃあね」
梓「うん…」
純は部屋から出て行った。
また一人。
嫌悪感と向き合う。
梓「……」
その日は一日眠れなかった。
唯「おはよー、澪ちゃん!」
澪「あぁ、おはよう唯」
唯「今日もあっついね~」
澪「ほんとだな…」
唯「あれ?りっちゃんは?」
澪「え?」
唯「いつも一緒に学校に来てるのに、今日は違うの?」
澪「律は……たぶん休みだ」
唯「え…風邪?」
澪「……」
唯「?」
純「……」
憂「おはよう、純ちゃん」
純「あっ…おはよう憂」
憂「今日も暑いねー」
純「うん…」
憂「…純ちゃん?」
純「…せっかく夏も終わったのに、イヤだよね。早く涼しくなって欲しいよ」
憂「そうだねぇ…梓ちゃんはまだ来てないんだ」
純「あははっ、暑さでダウンしちゃったんじゃない?」
朝。
窓から太陽の日差しが差し込んでいる。
梓「……」
梓母「じゃあ学校には連絡入れておくから、何かあったら呼んでね?」
梓「うん…」
母親に体調不良と言っておいて、学校を休むことにした。
行ったって居場所はない。
純や澪先輩にまであんな酷い醜態を晒してしまったのだ。
会わせる顔がない。
梓「……」
人生で初めて死にたいと思った。
唯「部活だよー!」
シーン…
澪「…あ、あぁそうだな」
唯「もう澪ちゃん!そこは『全員集合ー!』って言って欲しかったのに!」
澪「ドリフか…」
唯「澪ちゃんのいけずぅ」
澪「はいはい、ごめんな」
紬「お茶とお菓子持ってきたわよ~」
澪「ありがとう、ムギ。……ん?」
紬「どうしたの?」
澪「…律の分はいらないんじゃ」
紬「あっ、ごめんなさい。ついうっかり…」
唯「あずにゃんも休みなんだって。憂から聞いた」
紬「梓ちゃんまで?二人とも大丈夫かしら…」
澪「……ケーキ、帰りに律の家に届けてくるよ」
紬「そうね…お願い澪ちゃん」
唯「二人がいないとなんか寂しいな~…」
律「はーっ……」
一日中ベッドの上で寝転がっている。
昨日寝ようよしたが結局眠れなかった。
ご飯も食べていない。
ただひたすらボーっとしているだけ。
律「……」
律(失恋ってこんな感じなのかな)
律「……」
律(いや、恋じゃないか…恋じゃないよな)
コンコン、と扉がノックされる音がした。
澪「律、いるか?」
律「あ…澪?」
澪「入るぞ」
澪が部屋に入ってきた。
手には何か持っている。
澪「体調はどうだ?」
律「…普通」
澪「なんだそれ…。これ、ムギから」
律「え?」
澪「ケーキだよ、しかも律の好きなやつだぞ」
律「ありがと…」
ケーキがテーブルの上に置かれる。
確かに私の好きなやつだ。
ただ今は、そのケーキにあまり魅力を感じない。
律「……」
澪「食べないのか?」
律「…なんか、食欲がない」
澪「…律なのに?」
律「どういう意味だ」
澪「せっかく持ってきたんだから食べろよ」
律「いらないって」
澪「なんだよ…じゃあ私が食べちゃうぞ?」
律「別にいいけど」
澪「…お前、今日ご飯食べたのか?」
律「食べてない…」
澪「食べないとダメだろ!何考えてんだ!?」
律「うっせえな!お前は私のお母さんか!!」
澪「お前のママじゃないけど、心配なんだよ!!」
律「…っ」
澪「律…私だけじゃない、みんな心配してるんだ」
律「……」
澪「ちゃんと自分の体を大切にしてくれよ」
律「…ごめん」
澪「分かればいいけど」
律「……ママって言ってたな」
澪「…ついうっかり」
律「……」
澪「梓のこと、まだ気にしてるのか?」
律「うん…」
澪「だよな…」
律「……」
澪「じゅ、純から聞いたんだけどさ…あれはただ場のノリで言っただけって」
律「そっか…」
澪「だから深い意味はないってさ、気にするなよ!」
律「うん…」
澪「……」
律「……」
澪「ケーキ食べろよ、何かお腹に入れたほうがいいって」
律「後でな」
澪「…じゃあ私、もうそろそろ時間だから」
律「あぁ、お見舞いありがと」
澪「うん、ゆっくり休めよ」
律「分かってる、じゃあな」
澪「……律」
律「なんだ?」
澪「私は律のこと…好きだから」
律「え?」
澪「そ、そういう好きじゃないからな!ただ友達として…」
律「う、うん…」
澪「うぅ///」
律「…澪さん?」
澪「ご、ご飯食べて早く寝ろ!じゃあな!」
バタンと扉を閉め澪は出て行った。
律「……」
私は部屋で一人、さっき澪に言われた言葉を考えながら
ケーキをジーッと見つめている。
律(澪のやつ…あんな顔真っ赤にしてたらバレバレだろ…)
律「はぁ…本当ならもっと驚くはずなんだけどな」
けど澪の告白はあまりピンと来なかった。
嬉しくないわけじゃない。
ただ、私が求めていたものと何か違う。
私が求めているのは…
律「梓…」
例えどんなに避けられても。
どんなに嫌われても。
今でも梓のことを想っている。
私は梓のことが好きだ。
律「好き…?」
そうか…今気づいた…
私は梓のことが好きだったんだ。
後輩や友達ではなく、一人の女の子として。
律「ははっ…まいったなこりゃ…」
まさか梓に恋愛感情を持つなんて、思ってもないことだ。
今までただの後輩だったのに…
律(そういえば最近、梓のことばっかり考えてたもんな…)
初めは仲良くなりたかっただけだった。
澪たちに比べて私と梓の接点は少ない。
それが妙に寂しかった。
だから梓に近づきたくて
梓のことをもっと知りたくて
気づいたら梓に夢中だった。
梓のことで頭がいっぱいだった。
嫌われないよう自分なりの努力もした。
ベタベタしてる唯に嫉妬したりもした。
でもそれは、梓のことが好きだから。
梓と話がしたかった。
梓に自分のことを見て欲しかった。
梓を抱きしめたかった。
梓に…私のことを好きになってもらいたかった。
律「……」
けど梓は私のことを嫌っている。
もう私に希望は…ない。
律「…グズッ…ううぅぅ…」
今になって涙が溢れてくる。
自分の気持ちにはっきり気づいたせいで、悲しみが膨れ上がる。
律「やだよぉ…グズッ…嫌いにならないでよぉ…ヒック」
律「あずさぁ…」
ケーキはその後、聡にあげた。
梓「……」
梓(律先輩に嫌われた…嫌われちゃった…)
私は部屋の片隅でうつむいていた。
もう夕方になっている。
あっという間だ。
梓「……」
~♪
携帯の着メロが鳴く。
純からのメールだ。
梓「純…」
メールには『元気?』『梓がいなくて寂しかったよ~』などと書かれていた。
あんなことがあったから私に気を遣ってくれたのだろう。
とりあえず『ありがとう』とだけ返信した。
梓「……」
~♪
すぐに純から返信が来た。
『律先輩も気にしてないって言ってたよv(^^)明日は学校来れるかな?』
梓「……」
本当だろうか。
あれだけ大声をあげて嫌いだと言ってしまったのに。
梓「……」
携帯を閉じ、再びうつむく。
純のメールの通りなら、どれほど幸せなことか。
もし本当なら、会ってすぐ謝りたい。
そして自分の正直な気持ちを伝えたい。
そうなったら、彼女はどんな反応をするのだろう?
拒否される?
その可能性は大きい。
今まで冷たくしてたのに好きだと言っても…
それに私は女だ。
同姓に好意を持つなんてひかれるに決まっている。
それでも誤解を解きたい。
律先輩に、私の本当の気持ちを知ってもらいたい…
梓「……」
今までひどいことしてたのに…勝手な人間だ。
梓「律先輩…」
もし私が澪先輩みたいにかっこよかったら、律先輩も受け入れてくれるだろうか。
もしも異性だったら、先輩だったら
好きになってくれただろうか…
梓「……」
なに馬鹿なことを考えてるんだろう。
私は律先輩に嫌われたんだ、そうに違いない。
それなのに私は…ありもしない希望を…
梓「最低だ…」
一応明日は学校に行こう。
みんなも心配してる。
けど部活は…恐らく出ない。
澪(律のやつ遅い…今日も来ないのかな)
澪「……」
朝、いつもの場所で律を待つ。
ここで毎日待ち合わせをして、一緒に登校する。
それが私たちの日常だった。
今思えば幸せなことだ。
親友と共におしゃべりをしながら歩く。
律がちょっとおどけると私が突っ込みを入れたり…楽しかった。
色々あったけど、あの頃に戻れるといい。
戻りたい。
けど、私の願いは叶うことがなかった。
電話が鳴り、律の母親から連絡を受けた。
律が交通事故にあったらしい。
急いで病院に向かった。
病室につくとそこには、律が眠っている。
律の家族が泣いていた。
私はゆっくりと律に歩み寄る。
律、おい律!
返事をしない。
ふざけているのか?
なぁ、ふざけているんだろ?
私の問いかけに、律は答えない。
なんでだよ…
なんで……律…
律の母親から聞いた。
即死だったそうだ。
それを耳にした瞬間、私のヒザが崩れ落ちる。
体に力が入らない。
頭が動かない。
律…?
律は目を閉じたままだ。
律…そんな…
律……
嘘だ、これは夢だ。
律がこんな簡単に死ぬわけ…
律…律…
律「りつううぅぅぅぅぅううう!!」
澪「……人の後ろで何してるんだ?」
律「ナレーションごっこ」
澪「意図が分からない」
律「いやさ、昨日お前が私のこと励ましてくれただろ?だからそのお返しに」
澪「お返しになってないだろ!」
律「違うんだって、この後にお涙頂戴のストーリーがあるんだよ!それで澪に感動してもらおうと…」
澪「感動できるか!!」
律「いたっ!?」
澪が私の頭を殴る。
うん、いつものことだ。
律「ちぇっ、せっかく昨日考えたのに」
澪「下らないことを考えるな…」
律「ちなみに最後は、愛しの人のキスで生き返るんだぜ」
澪「へぇ…」
律「な?澪こういうの好きだろ?」
澪「べ、別に好きじゃない!」
律「またまた~、こういうご都合展開がいいくせに」
澪「あのな…死ぬなんて不謹慎な話やめろよ。本当に死んだりしたらどうするんだ?」
律「知らないのか?私は簡単には死なないんだぜ?」
澪「はぁ…」
律「さ、早く学校に…」
澪「…なぁ、律」
律「ん?」
澪「そ、その…昨日のことなんだけど…」
律「…あぁ」
澪「昨日はちゃんと言えなかったけど、もし律がよかったら私と…付き合って……」
律「ごめん」
澪「っ!」
律「私…やっぱり梓のことが好きだ」
澪「……」
律「昨日気づいたんだ、梓しかいないって」
澪「……」
律「だから…」
澪「私の方が…」
律「え?」
澪「私の方が付き合い長いのに?」
律「そ、それは…」
澪「私のほうが、律のことを理解している」
律「えっと…」
澪「お前が何が好きで、どんなことが嫌いで……」
澪「それに、お前の馬鹿な話に突っ込みを入れられるのは私だけじゃないか!」
律「……」
澪「もしイヤだったら殴るのはやめる!だから…それでも…」
律「…ごめん」
澪「……」
律「どうしても、梓じゃなきゃダメなんだ」
皮肉なことに、澪からの告白で気づいた気持ち。
私も今日このことを言うのに負い目を感じていた。
それでも、きちんと返事をしないと失礼だ。
自分の気持ちに正直に。
澪「……」
澪は傷つくだろう。
たぶん泣くはずだ。
それでも私は梓のことが…
ごめんな澪。
こんな私を許してくれ…
澪「…ふふっ」
律「え?」
澪「そっか…それなら仕方ないよな」
律「み、澪さん…?」
澪「言っただろ?律のことは理解してるって」
澪「お前がどんな気持ちかぐらい分かってたよ。どれだけの付き合いがあると思ってるんだ?」
律「……」
澪「ただ、確かめたかっただけなんだ…どれだけ梓のことが好きなのか」
律「……」
澪「お前の気持ちが確認できてよかったよ。お前が本気で梓のことが好きなら、私は応援するぞ」
澪「だって親友だからな!」
律「澪…」
澪「今日、学校来ても平気なのか?」
律「…うん」
澪「梓と会える?」
律「分かんないけど…気持ちは伝えたいと思ってる。私が梓のことを好きだって気持ちは…」
律「それで嫌われるのなら…後悔はない」
澪「そっか…頑張れよ!」
律「おうよ!」
澪「ふふっ」
律(でもフラれてその後部活にひびくような事があったらどうしよう…)
澪(これでいいんだよな…律がさわせならこれで…)
澪「律、そろそろ行かないと遅刻するぞ」
律「あぁ、待ってろ今…!?」
澪「律?どうした?」
律「…いや、ちょっと緊張しちゃってな」
澪「しっかりしろよ。梓に見捨てられちゃうぞ?」
律「ははっ…」
なんか今…頭がグラっとしたような…
律「……」
緊張してるだけだよな、きっと。
梓「……」
学校へはなんとか来れた。
けど今すぐに帰りたい思ってる。
あの人が同じ空間にいると思うだけで、怖くて…
純「あーずさ!」
梓「純…」
純「おはよ」
梓「うん…」
純「大丈夫?」
梓「うん…」
純「そっか」
梓「私さ…」
純「ん?」
梓「部活は行けないかも…」
純「行けないなら無理して行く必要ないよ。学校に来ただけでも偉いって」
梓「……」
純「まぁ…そりゃ怖いよね」
梓「純…あの…」
純「今日は一日私がそばにいてあげるから、心配しないで」
梓「…ありがとう」
憂「梓ちゃん、純ちゃん、おはよう」
純「あっ、おはよう憂」
律「おーっす」
唯「りっちゃん!!」
律「!?」
突然唯が抱きついてきた。
いきなりのことで対処できず、そのまま押し倒されてしまう。
律「いたた…」
唯「ご、ごめん!私嬉しくてつい…」
律「あぁ…いいよ別に」
唯「りっちゃん弱くなった?」
律「え?」
唯「だっていつもなら抱きついても倒れたりしないのに」
律「アホ!病み上がりなめるな!」
唯「そっかぁ…ごめんねぇ」
律「いいから上どいてくれ」
唯「うん」
律「はぁ…」
唯「でもよかった~、りっちゃんが学校来てくれて。風邪は治ったの?」
律「うん?まぁな」
本当は風邪ではないんだけど。
でも唯に言われたとおり、確かに体に力が入らない。
緊張のしすぎだろうか。
いや、たぶん…
律「……」
とりあえず余計なことを考えるのはやめよう。
梓と会う心構えでもしておかないと。
梓「すぅー…はぁー…」
純「なにしてるの?」
梓「深呼吸…緊張してて…」
純「よしよし、落ち着け」
純はそう言って慰めてくれるが、正直落ち着けるわけがない。
体は震えている。
心臓はさっきから鼓動が早い。
お腹が痛くなってきた。
帰りたい。
今すぐ帰りたい…
純「…大丈夫」
梓「…っ」
純が手を握ってくれた。
温かい。
その手の温もりが、私の心を癒してくれるようだった。
純「梓…大丈夫だよ。そばにいてあげるから」
梓「純…」
純「でもね梓。律先輩と会った時ににどうするかは、考えておいた方がいいよ?」
梓「律先輩と…」
純「もし会っちゃったらどうする?」
梓「……」
昨日頭の片隅で考えていはいた。
けど今は頭を働かせることができない。
想像するだけで怖くて…
嫌われてるのにどうすればいい…
純「まずはちゃんと謝るんでしょ?」
梓「あっ…」
そうだ…あの時の無礼を謝るんだった…
……そして私の本当の気持ちを知ってもらいたい。
純「できる?」
梓「……」
答えることができない。
自信がないからだ。
こんなことは生まれて初めてだ。
誰かを好きになって、想いを募らせて…
それなのに伝えることができなくて。
改めて自分の不器用さを知った。
醜さを知った。
愚かさを知った。
そして初めて…人を好きになるのがこんなにも辛くて苦しくて、耐えられないものだと知った。
思考が矛盾する。
会うのが怖い。
それでも心のどこかでは会いたいと思ってる。
会わないと…一生後悔してしまいそうな。
でも…
同じことが頭の中でループしている。
純の質問に答えられない。
梓「……」
純「…ま、気楽にいきなよ」
梓「えっ…」
純「もう落ちるところまで落ちちゃったんだしさ、後は這い上がるだけじゃん」
梓「なにそれ…」
純「当って砕けろってこと」
梓「……」
純「こう考えればいいんの!もしフラれても、世界中で傷つくのは梓だけ!」
純「世界規模で考えれば梓の告白が成功しようが失敗しようがちっぽけなことなんだよ!」
梓「…馬鹿にしてる?」
純「大まじめ」
梓「はぁ…人選ミスだ。憂に相談すればよかった」
純「えぇっ!?せっかくアドバイスしたのに!」
梓「アドバイスになってないから、それ…」
まったく呆れたものだ。
人がこんなに悩んでいるというのに…
純「えへへ」
梓「もう…」
でも…気分が楽になった気がする。
確かに小難しいことを考えすぎた。
相手は律先輩だ。
もっとシンプルにぶつかってもいいかもしれない。
当って砕けたくはないが…
純「梓…」
梓「なに?」
純「ファイト!」
梓「はいはい」
純の励ましに、笑顔で応えることができた。
少し落ち着いたのだろう。
お昼休みを告げるチャイムが鳴る。
午前中の授業が終わった。
律「んーっ……ふあぁ…」
紬「大丈夫りっちゃん?なんだか疲れてるみたいだけど」
律「あ、うん…大丈夫」
頭はボーっとしているが…たぶん平気だろう。
それより梓のことで心が張りつめてかたくなっている。
こんな調子で梓に会っても大丈夫なのだろうか?
唯「おーい、りっちゃんやーい!お昼食べよー!」
律「今行くー」
唯に呼ばれて席を立った。
唯「ごはん♪ごはん♪」
和「楽しそうね、唯」
唯「だってみんなとお昼だよー?このために学校に来てるもんだから」
和「もっと別の目的があるでしょ…」
唯「あっ!軽音部とかね!」
和「…これじゃあ唯だけ卒業できなくて留年ね」
唯「りゅ、留年ですか!?」
和「三年生なんだからもっとしっかりしなさい。憂と同じ学年になりたいの?」
唯「憂と同じ…」
憂《お姉ちゃ~ん、また一緒に学校に通えるね~》
唯《あはは~》
唯「それはそれでいいかも」
和「ちょっと…」
律「あっ…」
澪「どうしたんだ?」
律「弁当忘れた…」
紬「あら…じゃあ私のお弁当ちょっと食べる?」
律「いや、いいや…食欲ないし」
澪「……」
唯「まだ体調悪いの?」
律「そういわけじゃ…ないんだけど」
紬「どっちにしても食べないとダメよ?」
唯「そうそう、元気でないよ!」
律「あはは…そうだよな。ちょっと購買行ってくるわ」
唯「いってらっしゃ~い」
澪「……」
食欲は本当にない。
ただ体調が悪いとかではなく、気持ちの問題だ。
朝からずっと梓のこと気にかけてる。
原因はそれだ。
律「はぁ…完全に夢中だな…」
気晴らしに校内でも散歩しよう。
純「梓、一緒に購買行かない?」
梓「え?」
純「今日はなんかおごってあげるよ」
梓「い、いいよ別に…」
純「遠慮しない、遠慮しない」
純「じゃあ憂、私達ちょっと行ってくるね」
憂「うん、いってらっしゃい」
純に無理やり購買へ連れられた。
私は行く途中で断ったが、純はどうしてもと言って聞かなかった。
しょうがないのでついて行く。
購買につくとそこには大勢の生徒がいた。
一年から三年生までみんな並んでいる。
純「私が買ってくるから、梓はここで待ってて」
梓「うん、分かった」
純は行列へと並び、品物を買う。
その動作は妙に手馴れているものがあった。
純「お待たせー。いっぱい買ってきたよ」
純の手には大量のパンと飲み物がある。
一体いくら使ったのだろう。
私は予想外の量にちょっと驚く。
梓「こ、こんなにいらないよ」
純「なに言ってるの、勝負に備えて活力を蓄えないと!」
梓「勝負って…」
純「とりあえず教室に戻ろっか?」
私たちは廊下を歩いている。
手に大量のパンを持ちながら。
途中で何人かの生徒が珍しそうな目で私たちを見ていた。
ちょっと恥ずかしい…
梓「…純はさぁ」
純「うん?」
梓「何でここまでしてくれるの?」
純「そりゃあ、梓のためにやりたいと思ってるから」
梓「なんか今日は気持ち悪いね…」
純「おーい、おごったのにそんな言い方はないでしょー」
梓「ふふっ、ごめんごめん」
純「…梓にはさ、幸せになって欲しいの」
梓「え?」
純「そう思ってるの!」
梓「ど、どうしたの急に?」
純「なんでもない、なんでもない。気にしないで」
梓「?」
純は何かを誤魔化すように笑う。
何を隠してるんだろう?
…まぁいいか
梓「ありがとね、じゅ…」
お礼を言おうとしたその時、目の前にとんでもないものが現れ
驚きで身体が停止した。
梓「っ!?」
頭が真っ白になる。
心臓がバクバクと動いている。
息ができない。
完全にパニック状態だ。
純「梓?」
純が不思議そうに私のことを見つめ
私と同じ視線の方向に目をやる。
純「あっ…」
純も気づいた。
律「梓…」
目の前には律先輩がいる。
梓「りっ…」
それ以上言葉を発することができなかった。
あれだけ想定していた出来事なのに、いざとなるとどうすればいいのか分からなくなる。
律「あ、梓…その…」
純「梓ほら、今がその時だよ」
梓「……」
純が私の肩をポンと叩く。
分かっている。
頭ではこの状況は理解できた。
私にとってもの凄くチャンスであり
ものすごくピンチだ。
梓「り、律先輩…」
言葉が出ない。
言いたいことが言えない。
そもそも何を言うべきだったかを忘れている。
心臓の動きが早くなった
冷や汗もかいている。
またお腹が痛くなってきた。
ひょっとしたらライブの時より緊張してるんじゃないか?
今すぐ逃げ出したい。
梓「はっ…はっ…」
律「梓…?」
…いや、ここで逃げるわけにはいかない。
せっかくの機会だ。
ここで会えたのも運命かもしれない。
ここで勝負を決めよう。
とりあえず落ち着け…落ち着くんだ私。
カムバック私!
梓「すぅー…はぁー…」
…謝ろう。
まずは律先輩に謝るんだ。
今までの無礼を許してもらう。
それができたら次は告白だ。
私の想いを先輩に全てぶつける。
成功しようが失敗しようが、気にせずやるんだ。
悔いを残さないためにも…!
よし、シュミレーションは完璧。
後は実践のみ。
行け!行け私!!
梓「あ、あのぅ…律せんぱ…あの…」
律「えっ…?」
あ、あれ?
思ったよう口が動かせない…
梓「り、りつ…違う……えっと…」
顔が熱くなってくる。
心臓がまた一段と早く動いている。
手足が震える。
梓「せっ、せんぱ…その…あの……」
頭が再び真っ白になっていく。
あれ?私なにを言えばいいんだっけ?
確か大切なことを伝えるはずだったのに…
梓「えっと…えっとぉ…」
涙目になってきた。
早くなにか言って気を静めないとおかしくなりそうだ。
梓「あ、あの…あのぅ!」
律「は、はい!」
言うんだ、とにかく何か言うんだ!
これ以上長引けば心臓発作で死んでしまう!
梓「フーッ…フ~~ッ…」
純「あ、梓…大丈夫?」
言え、もう言ってしまえ!
何でもいいから想いを全てぶちまけるんだ!
言って楽になってしまえ!
梓「り、律先輩…」
律「はい…」
梓「この…大バカ野郎ーーーーーーー!!!」
律「……え?」
純「は!?」
梓「あっ…」
言葉を発してからはすでに何もかもが遅かった。
梓「あっ、あぁ…」
真っ白になった頭は何も考えることができず、もはや存在する意味がない。
理性を失う。
そして緊張から来るストレスにより、不満が爆発した。
その結果が…これだ。
梓「う…うわあああぁぁぁぁああああん!!!」
私はとりあえずその場から逃げ出した。
パンなんか持っていられない。
全て捨てて全力で走った。
純「ちょ、梓!?」
律「……」
純「あっ…こ、これは違いますから!ちょっとした手違いですから気にしないでください!」
律「……」
純「あの…また出直しきます!」
律「……」
純「梓ぁ!!ちょっと待てーーーー!!」
律「……」
梓「はぁ…はぁ…」
どこまで走ったのだろう。
ここは校内のどこ?
頭が混乱している。
自分でも何をしたのか訳が分からない。
とにかく泣きそうだ。
梓「はぁ…はっ…」
純「梓ーーー!!!」
梓「っ!」
純が追ってきた。
純「このボケー!何なのあれは!?」
梓「こ、告白…?」
純「ただキレただけでしょ!!」
梓「だって…だってぇ…」
我慢できずとうとう泣き始めてしまった。
うまくろれつが回らない。
梓「い、ヒック…いい言おうとっ、したっグズッ、にい~~っ!!」
純「はぁ…梓がここまで根性なしだったなんて…」
梓「うああぁぁぁぁぁあああん!!」
純「それで…どうするつもりなの?」
梓「エッグ…ヒッグ…」
純「泣いてちゃ分かんないって…ほら、これ使って」
そう言って純はハンカチを差し出してくれた。
私はそれで涙をふき取る。
梓「わ゛、わ゛だじどうすれば…」
純「そりゃあ…謝るしかないでしょ」
梓「だって謝りたかったのに~~っ!」
純「はぁ…やっぱり部活に行くってのは?その時にきちんと話を…」
梓「部活なんていけないよ~~っ!!」
純「だったらどうすればいいのよ…」
梓「グズッ…うぅ…」
純「梓…好きな人の前で緊張するのは分かるけど、もっと冷静になりなって」
梓「……」
純「律先輩と仲良くなりたいんでしょ?好きになってもらいたいでしょ?」
梓「…グズッ…うん」
純「梓にはもう失うものはない、あとは掴み取るだけ」
梓「純…」
純「《今までのことはごめんなさい、本当は律先輩のこと好きでした》これだけ言えればすむんだから」
梓「……」
純「梓は普段素直じゃないけど、素直になったら可愛いの。だから自信持ちなよ」
梓「そうかなぁ…」
純「そうだって、きっと律先輩も受け止めてもらえるよ!もしそれでダメでも私…」
梓「え…?」
純「…ううん、なんでもない。とにかく次はしっかりやるんだよ」
梓「うん…」
純「じゃあ律先輩のところに戻ろっか」
梓「ごめん…今は無理かも」
純「おい」
律「……」
昼休みが終わり、午後の授業が始まった。
私はその間ずっと、先生の話を聞かず考え事をしていた。
律(…おおばかやろう、って何だ?)
大馬化野郎?
大婆化野郎?
大歯化野郎?
律「……」
律(あぁ…大バカ野郎か)
そっか、私は梓にとって大バカ野郎なのか。
ってことはやっぱり私のこと…
律「……」
まさかあそこまで嫌われてるとは。
いや、当然のことか。
今日ここに来るまで、ひょっとしたら事が上手く運べるんじゃないかと
淡い期待をしていた私が馬鹿だった。
本当に大バカ野郎だ。
律「……」
頭がクラクラする。
体が重い。
吐き気もする。
さっき言われた事がショックだったからか?
律「……」
6時間目終了のチャイムが鳴った。
唯たちが部活に行こうと誘ってくる。
そんな気分ではない。
でも周りに気を遣わせるのはイヤだ。
我慢しよう。
私たち軽音部の四人は音楽室へと向かう。
私以外の三人は楽しそうにおしゃべりをしていたが、私には話の内容が頭に入ってこなかった。
ただひたすら頭が痛い…
死にそうだ。
唯「音楽室とうちゃーく!ムギちゃん、さっそくお茶の準備を!」
紬「まかせて!」
律「……」
澪「おい律、どうした?体調悪いのか?」
澪が心配そうに話しかけてくる。
確かに体調は悪い。
けど、いらない心配をかけたくはない。
私は何でもないよと言い、席に着いた。
それでも澪は聞いてくる。
澪「なんでもないって…どう見ても顔色悪いだろ?」
律「大丈夫だって」
唯「りっちゃん?どうしたの?」
律「…別に」
紬「でも…澪ちゃんの言うとおり顔色が悪いわ。熱とかあるんじゃない?」
とうとう唯とムギまでこっちに注目してきた。
そんな大事にしたくないっていうのに…
律「大丈夫だよ…ほっといてくれ」
澪「お前、やっぱり体調悪いんだろ?心配してるんだから正直に言っても…」
律「…余計なお世話だ」
澪「っ!?」
こんなことは言いたくなかった。
けど、つい口がすべってしまって…
澪「なっ…なんでお前はいつもそうなんだよ!?なんでこういう時に強がるんだよ!!」
律「強がってねぇよ」
唯「り、りっちゃん…澪ちゃん…」
紬「二人とも…とりあえず落ち着きましょ?お茶でも飲んで…」
律「……」
頭はボーっとしてるが、空気は肌で感じる事ができる。
完全に悪い流れだ。
澪「律…お前そういう所があるから、好かれたい人にも好かれないんじゃないか?」
律「!?」
澪「もっと弱さを見せたって…」
律「い、今はその話は関係ないだろっ!!」
澪「っ!」
澪の言葉がカチンときた。
今その話を掘り返して欲しくない。
さっきフラれたばかりだというのに。
無性に腹が立つ。
勢いよく立ち上がり澪に怒鳴ってやった。
澪はちょっと怯えたような顔でこっちを見ている。
私は怒りで我を忘れていた。
律「もう私に構うなよ!!どうせ私は…」
律(!?)
その時、意識が急にもうろうとし始めた。
律「あっ…?」
周りがグラついて見える。
体に力が入らない。
ちゃんと立っていられない。
律「あ、あれ…」
澪「律…?」
律「っ!!」
完全に力が抜けた。
体が落ちていく。
ガツンと音がした。
頭に一瞬だけ痛みが走る。
テーブルの角にぶつけた?
それよりも視界が歪んで、何がなんだか…
律「あっ……」
そのまま地面に倒れこんでしまった。
律「いった…」
澪「っ!?」
唯「りっちゃん!!」
紬「た、大変…」
みんなにかっこ悪いところ見せてしまった…
恥ずかしい。
それより頭がなんだか温かい。
なんだろう?
手をあてて確かめてみた。
律「えっ…」
次の瞬間、自分の手を見て驚く。
真っ赤に染まっていたのだ。
その真っ赤なものは頭からポタポタと落ち始めていた。
律「血…?」
さっきテーブルの角にぶつけたからか?
なにがなんだかもう…
澪「り、律っ!!」
意識が遠のいていく。
澪が私を抱きかかえて大声で何かを言ってる。
何を言ってるんだ?
澪「律!!おい律っ!!」
唯「ち、血がいっぱい…」
痛みは思っていたよりない。
ただ力が入らない。
気持ち悪い。
寒気がする。
律「私…死んじゃうの…?」
澪「律っ!!ごめん…私のせいで!!」
律「……」
違う。
悪いのは澪でも梓でも他のみんなでもない。
悪いのは…全部私だ。
律「私…さ…」
澪「律…?」
律「梓のことが…不安で…ずっと寝てなくて…食べてなくて…」
澪「なっ…ちゃ、ちゃんと休めって言っただろ!」
律「ごめん…でもどうしようもなくて…」
澪「バカ!!バカ律!!」
律「ごめんな…応援してくれるって言ってたのに…」
澪「り、律…?」
律「もう…ダメみたい…」
澪「な、なに言ってんだよ!!お前は簡単には死なないんだろ!?」
律「ごめ…ん……」
澪「おい律…律っ!!」
律「……」
澪「りっ…りつううぅぅぅぅううっ!!」
律「…ガッ…」
澪「っ!?」
唯「りっちゃん!」
紬「まだ生きてるわ!」
律「ガリガリ…くん…」
澪「え?」
律「ガリガリくんは…食べた…」
澪「食べた?ガリガリくんは食べたのか!?」
律「朝に……」
澪「な、何言ってんだよお前!!」
律「……」
澪「おい!それが最後の言葉でいいのか!?」
紬「りっちゃん!!」
澪「り、りつううぅぅぅぅうううっ!!」
唯「と、とととりあえずきゅっ、救急車を呼ばないと!!」
紬「そっ、そうね!まずはきゅきゅきゅっ、救急車を!!」
唯「な、何番だっけ!?110?119??177???」
澪「おっ、おお落ち着け唯!」
紬「そうよ!!とりあえずおっ、おお落ち着いてお茶でも…」
澪「ムギも落ち着け!!お茶飲んでる場合じゃないだろ!!」
唯「あぁっ!?澪ちゃん!!」
律「……」
唯「血がたくさん出てるぅ!!」
澪「うわあぁぁぁあああっ!?」
紬「お、おおお落ち着いて!!今おおおっお茶を持って…」
澪「だからお茶はいいって!!」
ガチャッ
さわ子「ちょっとあなた達、なに騒いで…」
律「……」
さわ子「きゃああぁぁぁああっ!?」
梓「……」
私は教室で自分の席に座りながらボーっとしていた。
これからどうしよう。
やはり部活に行ったほうがいいのだろうか?
そして彼女にちゃんと事情を…
梓「……」
いや…もし会ったとして彼女とちゃんと向き合えるのだろうか?
もしさっきみたいな事があったら…
考えるだけで恐ろしくなる。
梓「はぁ…」
ため息を漏らすことしかできなかった。
純「あ、梓!!」
梓「純…?」
突然純が教室に入ってくる。
なんだか慌てている様だ。
梓「どうしたの?」
純「り、律先輩が病院に運ばれたって!!」
梓「えっ…」
純「頭ぶつけて血がいっぱい出て、それで…」
純の知らせを聞いた瞬間、背筋が凍った。
病院に運ばれるほどの怪我?
頭から血?
まさか、すごく重症なんじゃ…
梓「ど、どこの病院!?」
私は純に詰め寄る。
純もすぐに場所を教えてくれた。
タクシーを使って急いで病院に向かう。
向かってる途中、あらゆる思考が頭を駆け巡った。
どれほどの怪我なんだろう。
律先輩の命は無事?
もし…死んでたら…
梓「律先輩…」
唇をぎゅっと噛み締めた。
少し血が出た。
病院につくと運転手にお金を渡し、急いで院内に入った。
そして受付で律先輩がいる病室を聞き出す。
すぐに向かった。
私は焦っていた。
一刻も早く律先輩の安否を知りたい。
もし最悪の事態が起こったと思うと、涙が出てくる。
イヤだ。
律先輩が死ぬなんてイヤだ。
まだ誤解を解いていないのに。
まだ謝っていないのに。
まだ告白してないのに。
それなのに…いなくなっちゃうなんて絶対イヤだ!
神様、お願い…
律先輩を助けて。
案内された病室にはすでに澪先輩がいた。
暗い顔をして病室の扉の前で立っている。
その顔を見て、私の不安はさらに増した。
梓「み、澪先輩…」
澪「梓…」
なんで…なんでそんな顔をしてるの?
笑ってくださいよ。
笑って、「律は無事だ」って言ってくださいよ…
澪先輩…
澪「梓…あのな…よく聞いてくれ」
梓「え?」
なに?
なにがあったの?
律先輩は無事…?
それとも…
澪「…さっきお医者さんから聞いたんだ。律は……死んだ」
梓「……」
私の思考が一瞬停止した。
澪先輩がなにを言ってるのか分からなかった。
梓「澪せ…」
澪「死んだんだ。頭の打ち所が悪くて…」
梓「…嘘」
澪「梓…」
梓「嘘ですよね?嘘って言ってくださいよ」
澪「……」
梓「澪先輩らしくないですよ、私をからかうなんて」
澪「……」
梓「澪先輩…嘘って言ってくださいよ!!」
澪「……」
澪先輩はなにも答えてくれなかった。
私はまだ澪先輩の言葉が信じられない。
病室に入る。
自分自身の目で確かめに行くために。
律「……」
梓「律先輩…」
病室では律先輩が目を閉じてベッドの上で寝ていた。
本当に死んでいる…?
梓「律先輩…起きてるんですよね?…起きてくださいよ」
律「……」
先輩は反応しなかった。
まさか…律先輩が…
梓「……」
先輩の手を握った。
まだ温かい。
これで本当に死んでいるなんて…
事実を知ったら泣き崩れると思っていた。
だが今は嘘みたいに冷静な自分がいる。
どこかが麻痺したような感覚で…涙が出るわけでもない。
梓「……」
律「……」
私はベッドの横にあるイスに座った。
律先輩の手を握りながら。
梓「律先輩、私…謝りたかったんです。ずっと…」
律「……」
不思議と言葉が出てきた。
さっきは緊張でろくに話せなかったのに。
自分でも違和感を感じるぐらいだ。
梓「私…律先輩のこと嫌いだなんて言いましたけど…」
梓「全部嘘だったんです…」
律「……」
梓「本当は強がって…純の前で嫌いって言っただけなんです」
梓「私…自分の気持ちを他人に伝えるのが下手糞で、どうしようもなくて…」
律「……」
梓「それでいてひねくれているから、自分自身にまで嘘ついちゃって…」
律「……」
梓「さっき大バカ野郎って言ったのも嘘です。つい緊張しちゃってそんな事しか言えなくて…」
律「……」
梓「ごめんなさい。私のほうこそ大バカ野郎ですよね」
梓「私なんて嘘つきで、臆病で、強がりで、根性なしで、うるさくて、不器用で、可愛くなくて…」
律「……」
梓「律先輩に好かれる後輩になりたかったんですけど…結局ダメでした」
律「……」
梓「律先輩…本当は私、あなたの事が好きでした。大好きだったんですよ」
梓「先輩や部活の仲間としてではなく…一人の女性として」
律「……」
梓「…そんなこと言っても信じてくれませよね…」
律「……」
梓「律先輩…」
それからすぐに、律先輩との思い出が頭の中に鮮明に蘇る。
初めてあった時、元気そうな人だと思った。
合宿、初めてのライブ、夏フェス。
そして軽音部での日々…
そんなに一緒にいたわけではない。
でも、ずっと見ていた。
律先輩のことずっと見ていた。
そして律先輩と一緒に過ごした時間が私にとってどれほど大切なものだったか、思い知らされた。
けど、もう律先輩は動かない。
話しかけてくれない。
からかってくれない。
あの笑顔を見ることはもう…ない。
律先輩は死んだ。
梓「……」
律「……」
急に涙がでてきた。
止まらなくなった。
梓「律…先輩…」
こんなことなら、もっと優しく接するべきだった。
自分に素直になるべきだった。
後悔の念が私を襲う。
余計に涙が出てきた。
梓「りつ…せんぱぁい…」
律「……」
梓「死んじゃイヤだよぉ…」
律「……」
梓「ごめんなさい……ごめんなさいぃ…」
律「……」
どれだけ謝っても律先輩は答えてくれない。
私は絶望する。
梓「……」
律「……」
梓「律先輩…最後に…キスしていいですか?」
律「……」
梓「お願いです…一生の思い出にしたいんです」
律「……」
梓「いいですよね…」
これで最後だ。
律先輩に触れるのも。
これで最後になる。
私は先輩の唇に軽く口づけをした。
これが律先輩との最後の思い出…
一生忘れないと心に誓う。
梓「律先輩…天国でも幸せになってくださいね」
律「…………まだ死んでねぇです」
梓「………え?」
律「……」
目の前の先輩は目を開けてこちらを見ている。
顔は真っ赤だ。
梓「……」
律「……」
梓「……」
律「……」
梓「……」
律「…て、てへっ☆」
梓「きゃっ…きゃあぁぁぁぁあああああっ!!ゾンビいぃぃぃぃいいいいいっ!!!」
律「ち、違えよ馬鹿っ!!最初ッから生きてるわい!!」
梓「なっ、ななななんでぇ!?」
律「だから死んでねえって言ってんだろ!頭うったくらいで私が死ぬか!!」
梓「えっ…えぇっ!?」
律「ったく…」
梓「あっ、あの…ちなみに…ずっと起きてたんですか…?」
律「ま、まぁな」
梓「私が部屋に入ってきたときも…?」
律「まぁ…な…」
…え?
じゃあ私が今まで話してたこと全部聞いて…
梓「……」
律「……」
梓「う…うわああぁぁぁっ///」
律「ど、どうした梓!?」
梓「死ねっ!!死んで全部忘れちゃえぇぇっ!!」
律「できるかぁ!!」
梓「うわあぁぁああん!!何で言ってくれなかったんですかぁ!!」
律「い、言えるわけないだろ…いきなり部屋に入ってきて…」
あっ…そうだ私…
律「それで告白して…キ、キスしてくるなんて…///」
梓「……」
律「…梓さん?」
梓「うわああぁぁぁっ!!律先輩なんか死んじゃえぇぇぇっ!!」
律「さっきまで生きて欲しいとか言ってただろ!?」
澪(ふふっ…うまくいったみたいだな)
純「澪先輩ー!」
澪「あっ、純。来たか」
純「どうでした?」
澪「成功だよ」
純「よかったぁ」
澪「お互い素直じゃないからな、こうでもしないと本音を言えないだろ」
純「でも驚きでしたね、澪先輩からこんな案が出るなんて」
澪「律を応援するって決めたからな。梓には悪いが…こうする方がいいと思って」
純「澪先輩…」
澪「それに純が事情を教えてくれたから、できたんだよ」
純「えへへ」
純「それにしても驚きましたよ、律先輩が病院に運ばれたって聞いたときは」
澪「まぁ、ただの栄養失調らしいからな」
澪「それに頭はもともと血が大量に出る所だから、思ったよりも平気みたいだし」
純「そっか…安心しました」
澪「死んだ人間が愛しの人のキスで生き返る。上出来だな」
純「それって澪先輩が考えたんですか?」
澪「いや、律だよ」
純「え?」
澪「私のために用意した、お涙頂戴もののストーリーだってさ」
純「はぁ…?」
澪「とりあえず、私たちは退散しよっか?」
純「そうですね」
澪(律…幸せにな…)
純(あぁ~あ。結局私の恋は叶わずか…)
澪「……」
純「……」
澪「…お腹すいたな」
純「そうですね…」
澪「何か食べに行く?」
純「えっ…いいんですか?」
澪「あぁ、どうせヒマだし」
純「じゃあ…お供させてもらいます!」
唯「ねぇムギちゃ~ん」
紬「なぁに?」
唯「なんで私たち病院に入っちゃダメなんだろうね?」
紬「う~ん…お邪魔だからじゃないかな?」
唯「えぇっ!?なんで~…」
紬「うふふ。…ねぇ唯ちゃん」
唯「なに?」
紬「時間があるなら…これから二人でどこか遊びに行かない?」
唯「あっ、それいいかも」
紬「じゃあ行きましょうか!」
唯「うん!あっ、待って…」
紬「どうしたの?」
唯「帰りが遅れる前に、憂に連絡しないと」
憂「はぁ…お姉ちゃんは紬さんと遊んでるし…今日は一人かぁ…」
ピンポーン
憂「はーい」
ガチャッ
和「こんばんわ」
憂「あっ…和ちゃん」
和「唯いる?学校に忘れ物があったから届けに来たんだけど」
憂「お姉ちゃんは帰りが遅くなるって…」
和「そう…分かったわ」
憂「あの、和ちゃん」
和「なに?」
憂「よかったら、夕飯…一緒に食べて欲しいなぁって…」
和「え?」
憂「えへへ」
和「…いいわよ」
梓「……」
律「落ち着いたか?」
梓「…はい」
律「よかった、本当に殺されると思ったぜ」
梓「……」
本当は落ち着いてはいない。
顔が熱い。
心臓がはちきれそうだ。
穴があったら入りたい。
律「…なぁ梓」
梓「は、はい!」
律「…ありがとな」
梓「えっ…」
律「梓の本当の気持ち…知れてよかった」
梓「……」
律「私さ…お前に嫌われてると思ってたんだ」
梓「……」
律「なんか私に対して冷たいし、そっけないし…」
梓「…ごめんなさい」
律「いや、いいんだよもう。本当のこと知ったから」
梓「うっ…」
律「それにしても梓が私のこと、キスしちゃうぐらい大好きだなんてなー」
梓「ち、違います!!あれは…ついちょっとうっかりしょうがなくて!!」
律「なんだそれ…」
梓「うぅ///」
律「なぁ、梓」
梓「…な、なんですか?」
律「私もお前のこと、大好きだぞ」
律「好きだ、一人の女の子として。愛してる」
梓「なっ、ななななにをっ!?」
律「私は梓が好きだ!大好きだ!!」
梓「あっ…えっと…」
律「まだ言わせるのか?梓ー!好きだー!愛してるー!!」
梓「わ、分かりましたから叫ばないでください!!」
律「へへっ」
梓「もう///」
律(よかった…本当によかった。梓と分かり合えて本当によかった)
梓「あ、あの…」
律「なんだ?」
梓「本当に…私でいいんですか?」
律「当たり前だろ!私はお前を超愛してるんだからなっ!」
梓「私も…律先輩のこと超愛してます」
律「なんだとぉ!?じゃあ私は超超愛してる!」
梓「な、なら私は超超超愛してます!!」
律「だったら私は……ぷっ」
梓「ふふっ」
律「あははっ、何くだらないことで張り合ってんだよ」
梓「律先輩こそ、子供じゃないんだから」
律「なにぃ?生意気なことを言うのはこの口か!お仕置きだ!」
梓「きゃー♪」
律先輩に抱きしめられる。
力強い。
なんか落ち着く。
幸せな気分だ。
梓(そっか、私…ずっとこうされたかったんだ)
梓「あの…律先輩」
律「んー?」
梓「もう一度…キスしてもいいですか?///」
律「その前に…」
梓「え?」
律「中野梓さん、私と付き合ってください!」
梓「律先輩…」
律「ほら、早く答えてくれよ。改めてやると恥ずかしいんだからさ…」
梓「ふふっ…はい、喜んで」
梓「こちらこそ、よろしく願いします」
律「よっし!」
梓「律先輩…大好きです」
律「私も…」
見つめ合う二人。
キスするまでそう時間はかからなかった。
唇と唇が触れ合う。
あたたかい。
ずっとすれ違っていた私たちは、ようやく交わることができた。
嬉しくて涙が出てくる。
律「泣くなよぉ…」
梓「律先輩こそ」
律「…なぁ梓、いっこ聞いていいか?」
梓「なんですか?」
律「私のどこが好きなんだ?」
梓「そうですねぇ…お姉ちゃんみたいなところ?」
律「へっ?」
梓「私一人っ子なんですけど、姉妹が欲しかったんです」
梓「それで、律先輩みたいなお姉ちゃんもアリかな…と」
律「…恋人じゃなくて?」
梓「お姉ちゃんみたいな恋人ですっ」
律「なんじゃそりゃー!」
梓「きゃー♪」
また律先輩に強く抱きしめられた。
癖になりそうなぐらい気持ちい。
幸せだ。
私たちが付き合ったことなんて、世界規模で考えればちっぽけな事かもしれないけど…
たぶん私は、世界で一番の幸せ者に違いない。
梓「律先輩…大好き」
数ヵ月が経った。
文化祭も最後のライブも全部終わり、三年生は本格的に受験勉強を始めている。
そして冬休み。
私は律先輩の家に遊びに来ていた。
梓「本当に来ちゃってよかったんですか?勉強の邪魔になるんじゃ…」
律「いいっていいって、梓がいる方が集中できるんだよ」
梓「そう言って、落ちたら私のせいにしないでくださいよ?」
律「任せろって!」
梓「不安だ…」
律「なにぃっ!?」
梓「あっ、でも落ちたら落ちたで私と同学年になるかもしれませんよね」
梓「それはそれでいいかも…」
律「そ、それだけはご勘弁をっ!!」
梓「ふふっ、じゃあ勉強頑張ってくださいよ」
律「はいっ!」
梓(私もちょっとは勉強しておこうかな…)
律「なぁ、梓」
梓「はい?」
律「春休みになったらどっか遊びに行こうな」
梓「いいですね」
律「私、合格できるよう頑張るから」
梓「はいっ!」
律「だから…息抜きにキスしていい?」
梓「なんでそうなるんですか…」
律「なー、いいだろー?」
梓「…ふふっ、いいですよ。断る理由はありませんし」
律「やった!」
律「じゃあ…いくぞ?」
梓「はい」
律「んっ…」
梓「んむっ…」
律先輩と口づけをする。
毎回ドキドキしてしかたがない。
唇どうしがくっつくだけではなく、舌まで絡ませるようになった。
律先輩の口の中は温かく、優しい。
体までポカポカしてくる。
寒い冬なんて吹き飛んでしまいそうだ。
ずっとこうしていたい。
律「梓…今日はもう一足踏み込んだことする?」
梓「もう…先輩のエッチ///」
願わくば、この温もりが永遠に続きますように…
おわり
700 : 以下、名... - 2010/08/13(金) 00:14:12.38 cLWyC2SNP 194/361予定より長くなった
あとで普通にイチャイチャするやつ書いていい?
本当はそっち書きたかったんだ
文化祭が終わり数日が経った。
今でも律先輩とは仲良く過ごしている。
今日も学校で会えるのが楽しみだ。
梓母「あっ昨日言い忘れたけど、今日お父さんとお母さん帰ってこないから」
梓「え?」
梓母「お父さんは仕事、私は友達とちょっと旅行にね。明日の夜までいないわ」
梓「そうなんだ…」
梓母「もう子供じゃないし、一人で留守番ぐらいできるでしょ?」
梓「もちろんだよ」
梓母「じゃ、今悪いけどよろしくね」
梓「うん、分かった」
キーンコーンカーンコーン
憂「梓ちゃん、お昼食べよ」
梓「ごめん、今日はちょっと先約があるんだ」
憂「え?」
純「おっとー、お熱いですなぁ」ニヤニヤ
梓「う、うるさい」
憂「よく分からないけど、それなら仕方ないね」
梓「ごめんね、明日は一緒に食べるから」
憂「うんっ」
純「妬けちゃうな~」ニヤニヤ
梓「もう、純は黙ってて!」
屋上
梓「律先輩、お待たせしました!」
律「来たか!我が愛しのジュリエット!」
梓「誰がジュリエットですか!ていうか、ジュリエットは律先輩でしょ?」
律「いや~、私にはやっぱ似合わないよ」
梓「そんな事ないですよ、すっごい綺麗でした」
律「ほ、本当?///」
梓「はいっ!」
律「嬉しいこと言ってくれるじゃないかこの~!」ギュ~ッ
梓「きゃー♪」
律「さ、早く飯食べようぜ」
梓「そうですねっ」
律「ほら、お前のために弁当作っておいたぞ」
梓「わぁっ!ありがとうございます!」
律「感謝するがいい」
梓「ははーっ」
律「へへっ…味はどうだ?」
梓「モグモグ…美味しいです!」
律「おいおい、もっと具体的に言ってくれよ」
梓「律先輩の味がします!」
律「それなんかエロいな…・」
梓「い、言われてみれば///」
梓「でも、美味しいのは本当ですよ?」
律「ありがとな…って、お前ほっぺにご飯ついてるぞ」
梓「え?」
律「ほら、とってやるよ」ヒョイ、モグモグ
梓「あっ…」
律「ん?」
梓「なんか今の…恋人っぽい」
律「恋人だろ?」
梓「そ、そうでした///」
律「まぁ、まだ実感がわかねえのは分かるけどさ」
梓「ですよね」
律「まさか私と梓が付き合うなんてな~」
梓「本当ですよ、私なんて最初は澪先輩のことが好きだったのに」
律「私の第一印象はどうだった?」
梓「えっと、澪先輩にくっついてる…アホ?」
律「んだとコラ中野ーッ!!」ギュ~ッ
梓「きゃー♪」
律「ったく、相変わらず失礼なやつだな」
梓「えへへっ」
梓(最近気づいた事がある。律先輩は、からかえば抱きついてくる)
梓(だから私はたまにからかったりする。抱きつかれたいから)
梓「あっ、そういえば今日うちの両親いないんですよ」
律「なんで?行方不明?」
梓「違います!それぞれ都合があるんですっ」
律「ふーん…」
梓「はぁ…今日一人で大丈夫かなぁ…」チラッ
律「……」
梓「……」チラチラッ
律「…なんだ?私に来て欲しいのか?」
梓「べ、別にそういうわけじゃないですけど…」
律「あっそ、じゃあ一人で頑張れよ」
梓「あっ…」シュン
律「…行ってやろうか?」
梓「!」パアァァ
律「やっぱやーめたっ」
梓「!?」シュン
律(やっべ、超楽しい)
梓「うぅ…」
律(でも流石にイジワルすぎるか)
律「しょうがないなー、かわいい恋人のために一肌脱いでやるよ」
梓「律先輩だいすきっ!」
律「おー、よしよし。良い子良い子」ナデナデ
梓「えへー」
帰宅
律「じゃあちょっと買い物してから行こうか」
梓「え?」
律「夕飯は私が作ってやるよ」
梓「本当ですか?やったー!」
律「そんなに嬉しいか、こいつぅ~」
梓「はい、そのために呼んだようなものですから!」
律「中野ォ!!」ギュ~ッ
梓「きゃー♪」
律「ったく、作ってやんないぞ?」
梓「えへへ、ごめんなさい」
スーパー
梓「なに作るんですか?」
律「んー…カレーかな」
梓「へぇ…律先輩のカレー楽しみです」
律「お任せなさい!私が究極で至高のカレーを作ってあげますわっ!」
梓「あんまり自分でハードル上げると後々大変ですよ?」
律「ですよね」
梓「でも、大好きな律先輩の料理は私にとって世界一ですけどねっ」
律「お、おいおい…いきなり恥ずかしいこと言うなよ///」
梓「えへへ///」
律「そ、そんなことより早く買出しをするぞ!梓隊員!」
梓「ラジャーッ!」ビシッ
梓(なんか私も律先輩に似てきちゃったかなぁ…)
梓(ま、悪い気はしないけど)
中野家
律「ほぅ…ここが梓の部屋か」
梓「あ、あんまりジロジロ見ないでくださいよ」
律「いいじゃん、ここに泊まるんだし」
梓「そ、それもそうですね…」
梓(律先輩と同じ部屋で寝る…)ドキドキ
律(やっべー、勢いで言っちゃったけど、今日の夜梓と二人っきりになるんだよな…)
律(き、緊張してきた…)ドキドキ
梓「……」
律「……」
梓「あっ、り、律先輩!」
律「は、はい!」
梓「お、お茶持ってきましょうか!?」
律「よ、よろしくお願いしますっ!!」
律「梓の家はCDがいっぱい置いてあるなー」
梓「なにか聞きます?」
律「あっ、いいな。じゃあこのCDをたのむ」
梓「えー?これよりこっちの方がいいですよ」
律「ヤダ!こっちがいいっ!」
梓「私はこっちがオススメですっ!」
律「なんだとぉ…」
梓「な、なんですか?」
律「なら、勝った方が好きなCDをかけられるってことだな!」
梓「か、勝ったほう?」
律「それっ、くすぐりだー!」コチョコチョコチョ
梓「ふにゃっ!?あはははははっ!!」
梓「ひゃ、ひゃめへくらひいよ~~!!」ジタバタ
律「どうだ?私のCDをかける気になったか?」コチョコチョコチョ
梓「あははははっ!!か、かけましゅからひゃめへ~っ!!」ジタバタ
律「おっと、そろそろ夕飯の支度しなきゃな」
梓「律先輩、お願いします」
律「うむ、任せたまえ」
梓「私も何か手伝いますねっ」
律「じゃあジャガイモの皮でもむいてくれ」
梓「はいっ!」
梓(律先輩と一緒に料理するなんて楽しいな~♪)
律(梓と料理できるなんて楽しいな~♪)
梓「…律先輩、なにニヤけてるんですか?」
律「梓こそ、なに考えてるんだよ?」
梓「別になにも考えてませんけど?」
律「こっちこそ」
梓「…ふふっ」
律「なんだよー」
梓「なんでもありませんっ」
律「よし、下ごしらえは大体できたな。梓、後は私が全部やっておくから」
梓「分かりました」
律「まってろよー、美味しいの作ってやるからなー」
梓「……」
梓(なんか律先輩に抱きしめられたい気分…)
梓(よし、ちょっとからかっちゃおう)
梓「律先輩」
律「なんだ?」
梓「カレーにケーキでも入れちゃいましょうよ」
律「はぁ?」
梓「美味しいものと美味しいものを合わせれば、もっと美味しくなるかもしれないじゃないですか」
律「ははっ、何言ってんだよお前。そんなことあるわけないだろ」
梓「えー?でもひょっとしたら美味しいかもしれないですよ?」
律「あははっ、ありえねー」
梓「入れちゃいましょうよー、ねー」
律「やめろっての」
梓「そんな事言わないで…」
律「やめろって言ってんだろうが」ギロッ
梓「ひっ…」ビクッ
律「……」
梓「ご、ごめんなさい…調子に乗りすぎました」
律「はぁ…あのな、私はお前のために美味しい料理を作りたいんだよ」
梓「律先輩…」キュン
律「だからマジメに作ってるの!」
梓「ごめんなさい…」
律「分かればよろしい」
律「ほら、おとなしく待ってな。すぐにできるから」
梓「はいっ!」
律「おーっし!できたぞー!」
梓「わぁ、おいしそうです!」
律「ふふん、当然。なんせ私が作ったんだからな」
梓「いただきます!」
律「どうぞ召し上がれ」
梓「モグモグ…美味しいですっ!」
律「だろー?」
梓「律先輩は食べないんですか?」
律「うん?私はもうちょっとお前が食べてるところを見てからな」
梓「え?」
律「お前が美味しそうに食べてる姿がかわいくて、見惚れちまうんだよ」
梓「は、恥ずかしいこと言わないでくださいよ!食べづらいじゃないですか…///」
律「何言ってんだ、遠慮しないでいっぱい食べていいんだぞー?」ニヤニヤ
梓「もぅ///」
律「ふぅ…腹もいっぱいになったし風呂でも入るか」
梓「そうですね」
律「よし、一緒に入ろうぜ!」
梓「えっ…」
律「どうした?」
梓「一緒に…ですか?」
律「せっかくなんだからいいだろ」
梓「うぅ…は、恥ずかしいです///」
律「恥ずかしいって…合宿の時に一緒に入ったろ?」
梓「あれは…部活でしたから」
梓「でも今は…恋人同士だし…」
律「恋人同士だから一緒に入るんじゃないか!」
梓「り、律先輩…」
律「私はお前の裸が見たい!!」
梓「ストレートすぎます…」
お風呂
律「おーい梓ー、早く入って来いよー」
梓「そ、そんな急かさなくても入りますよ…」モジモジ
律「ぐへへー、タオルで前を隠しちゃダメだぞー」
梓「な、なんですかその変態みたいな顔!!」
律「それーっ」ガバッ
梓「きゃーっ!?」
律「ふっふっふ。せっかくの風呂なんだ、裸の付き合いといこうじゃないか」
梓「うぅ…タオル奪われた…」
律「お、おぉっ…!」
梓「ジ、ジロジロ見ないでくださいよ!///」
律(なんてかわいい…裸なんだ…)
律(やばい、興奮してきた…どうしよう…)
梓「て、ていうか律先輩も!」
律「え?」
梓「目の前に裸で仁王立ちされてると、見てるこっちは恥ずかしいんですけど…」
律「いやーん、エッチー」
梓「先輩が見せてるんじゃないですか!」
律「えへっ」
梓「もう…///」
律「ほれ、背中流してやるよ」
梓「あっ、ありがとうございます」
律「痛くないか?」ゴシゴシ
梓「はい、大丈夫です」
律(梓の背中かわいいなぁ…後から襲ってやりたいぐらいだ)
梓(なんかいやらしい気配を感じる…)
ゴシゴシ、ゴシゴシ
律「よし、流すか」
梓「…なんか嬉しいです」
律「ん?」
梓「お姉ちゃんに背中を洗ってもらってるみたいで」
律「ははっ、どういたしまして可愛い妹よ」ザパーン
チャポンッ
律「あ~…湯船気持ち良いな~…」
梓「はい…癒されます」
律「このままお湯の中に溶けちゃいそうだ…」
梓「そうですね~」
律「私、ゲル状になっちゃう~」
梓「ぷっ、それムギ先輩のものまねですか?」
律「梓ちゃん、私このままじゃゲル状になっちゃうわ~」
梓「ククッ…もう、やめてくださいよ」
律「ゲル状になっちゃう~」
梓「ぷっ…ククッ…あはははっ」
律「クスクス…あはははっ」
律「のぼせるといけないし、そろそろ上がるか」
梓「はい」
ザパァッ
梓「……」
律「どうした梓?」
梓「い、いえ…」
梓(なんか律先輩の裸…魅力的だ///)
梓(好きな人の裸だからかな…?)
律「なにボーっとしてんだ?もしかしてのぼせた?」
梓「あっだ、大丈夫です」
風呂上り
律「あ~、良い湯だった」
梓「……」ポーッ
律「…なんだ?」
梓「改めて思うんですけど、カチューシャ外した律先輩って…素敵ですね///」
律「な、なんだよ急に///」
梓「いやだって、ものすごくかっこよくて美人ですよ」
律「ほ、褒めたって何も出ないぞっ!」
梓「別にそんなつもりじゃ…た、ただ」
梓「律先輩みたいな人と…付き合えてよかったなー、って思ってるだけです///」
律「梓///」
律「そ、それなら私だって!」
梓「え?」
律「梓みたいにかわいくて、めっちゃかわいくて…」
律「超かわいい恋人を持てて幸せだと思ってるぞ!」
梓「り、律先輩…」
律「梓…」
梓「……」
律「……」
梓「…や、やっぱりちょっとのぼせちゃいましたね///」
律「そ、そうだな…あはは///」
律「ふぁ…そろそろ寝るか」
梓「ですね」
律「あー、楽しい時間はあっという間だった」
梓「何言ってるんですか、また明日があるじゃないですか」
律「…それもそうだな」
梓「…律先輩」
律「ん?」
梓「抱いてもらってもいいですか?」
律「もちろん」
ギュ~っ
梓「…律先輩」
律「今度はなんだ?」
梓「私…文化祭の時、澪先輩に嫉妬してたんです」
律「はぁ?」
梓「だって、二人でロミオとジュリエットやるなんて…羨ましくて」
律「……」
梓「演じてるときの二人は、本当の恋人みたいで…悔しかったんです」
梓「律先輩と付き合ってるのは私なのに…」
律「……ぷっ、バカだなぁ梓は」
梓「な、なんですか」
律「くだらないことで悩んでるんじゃないよ。私はお前しか頭にない」
梓「…本当ですか?」
律「当たり前だろ。恋人なんだから」
梓「律先輩…///」
律「そうだ!なんなら今からやるか?ロミオとジュリエット」
梓「え?」
律「やろうぜ、二人っきりなんだし」
梓「じゃあ…やりたいです」
律「よし、なら私がジュリエットで梓がロミオな」
梓「了解です」
律「おお、ロミオ、ロミオ!あなたはどうしてロミオなの?」
梓「……ぷっ」
律「こらーっ!いきなり笑うなーっ!!」
梓「だって…クスクス」
律「なんだよぉ、お前がやりたいと思ってやったのに」
梓「ご、ごめんなさい…でもおかしくて」
律「何がおかしいんだ!」
梓「律先輩がジュリエットなところ」
律「中野ォ!!」ギュ~ッ
梓「きゃー♪」
律「ったくぅ」
梓「えへへ」
律「もう絶対やんないからな!」
梓「…律先輩」
律「なんだ?」
梓「最後に…ラストシーンだけやってもいいですか?」
律「ラストって…自殺のシーン!?」
梓「いえ、自殺じゃなくてもうちょっと前の……キ、キスシーンです」
律「あっ…」
梓「だ、だめ…?///」
律「あれは…ロミオからキスするんだし…」
梓「じゃ、じゃあやってもいいですか?」
律「…///」コクリ
梓「…ジュリエット」
律「ロ、ロミオ…」
梓「……」ドキドキ
律「……」ドキドキ
チュっ
律「……」
梓「……」
律「……///」
梓「……///」
律「も、もう寝るぞ!!」
梓「は、はいっ!!」
律(こ、これ以上のこと今したら死ぬ!!死んじまう!!)
梓(幸せすぎて死んじゃう~~っ!!)
就寝中
律「はぁ…」
梓「ふぅ…」
律(やっべー…眠れねえ…)
梓(ていうか今隣に律先輩が寝てるんだよね…それだけでドキドキしちゃう…)
律「な、なぁ梓…」
梓「はいっ!」
律「眠れないからちょっとだけ話でもしよっか」
梓「そ、そうですね」
律「なに話す?」
梓「えっと…」
律「……」
梓「……」
律「……」
梓「……」
律「…話題がないな」
梓「ですね…」
律「…やっぱ寝るか」
梓「はい…」
律「あっ、そういえばさ…」
梓「どうしたんですか?」
律「私ずっと気にしてた事があったんだ」
梓「何をです?」
律「低身長」
梓「え?」
律「私ってさ、4人の中で一番背が低いじゃん?」
梓「はぁ…言われてみれば」
律「それがずっと嫌だったんだけどさ、最近それも良いかなって思えるようになったんだ」
梓「どうしてです?」
律「だって身長が低いってことはさ、梓と一番距離が近いってことと同じと思えるじゃん?」
律「梓も身長低いし」
梓「…あんまり嬉しくいないです」
律「あれっ!?今いいこと言ったつもりだったんだけど」
梓「どこがですか、身長低いって言われて嬉しいわけありませんよ」
律「まぁ…それもそっか」
梓「そんな事より早く寝ましょ、明日も早いですし」
律「だな…寝るか」
梓「律先輩…」
律「ん?」
梓「明日も幸せだといいですね」
律「幸せに決まってんだろ?私たち二人なら」
梓「ふふっ、そうですね」
律「おやすみ、梓」
梓「おやすみなさい、律先輩…」
梓「……」
律「……」
梓「すぅ…すぅ…」
律「ぐ~…」
梓「すぅ…すぅ…」
律「うぅん…」ゴロッ
ドスッ
梓「うぐっ!?」
梓(り、律先輩の膝蹴りがお腹に…)
律「う~ん…」ゴロゴロ
梓「!?」
ズゴッ
梓「おごぉっ!?」
梓(ま、また…)プルプル
律「ぐー…すー…」
朝
律「ふあぁぁ…よく寝た」
梓「……」
律「梓?なにお腹かかえてるんだ?」
梓「…律先輩のせいです」
律「私の…私が何を……はっ!」
律「も、もしかして陣痛か!?でも私そんなことして…」
梓「この…アホーッ!!」ボカッ
律「いてえっ!?」
おわり
778 : 以下、名... - 2010/08/13(金) 06:17:28.16 cLWyC2SNP 232/361起きて残ってたら大学生活編書いていい?
内容ほんのちょっとだけど
私と律先輩が付き合い始めて二年近くが経ちました。
ケンカしたり色々あったけど、今でも仲良く関係は続いています。
大学に入学した私は、律先輩と一緒にアパートでルームシェアを始めました。
ちなみに律先輩とは別の大学に通っています。
梓「ふあぁ…」
梓「……」
梓(もう朝か……起きなきゃ)
カチッ、カチカチッ
梓「あ、あれ?電気がつかない?」
ガチャッ
律「おーっす、ただいまー」
梓「あっ…律先輩」
律「いやー、遅くなってごめんごめん。バンドの練習がさぁ…」
梓「それより、電気がつかないんですけど」
律「え?なんで?」
梓「…電気代払いました?」
律「……あっ」
梓「昨日払っておいてって言ったじゃないですか!」
律「ご、ごめん…うっかりしてて」
梓「はぁ…後で私が払いに行きますよ」
律「あ~…その~…」
梓「どうしたんですか?」
律「そっかー…だから財布にお金がいっぱい…」
梓「え?」
律「……」
梓「…まさか、使っちゃったんですか?全部」
律「…きゃはっ」
梓「どうするんですか!今月苦しいのに!」
律「すいませぇーん…」
梓「はぁ…アルバイト週3に増やそうかな…」
律「それより眠い…私ちょっと寝るわ」
梓「もう、勝手なことばっか」
律「ぐー…すぅー…」
梓「…寝ちゃった。ちゃんと布団かけないと風邪ひいちゃいますよ」バサァ
律「ぐー…」
梓「まったく、律先輩は相変わらずだなぁ」
律「ん~…むにゃむにゃ…」
梓「…もうそろそろ学校に行かなきゃ」
律「ぐー…ぐー…」
梓「行ってきます、律先輩」チュッ
律「ぐー…」
梓(電気代は…しょうがない、無理して払うしかないか)
梓(はぁ…お金貯めて二人で旅行とか行きたかったのに)
律「ぐー……」
律「……」
律「……」
律「ふっ…ふがっ!?」
律「う、うーん……」
律「……」
律「…・…」キョロキョロ
律「…梓ー?」
律「…学校か」
律「てか今何時?……もう昼か」
律「ふあぁぁっ……」
律「……」
律「ねむっ…バイト行かなきゃ」
大学
梓(今日は早く帰らないと…私が夕飯の当番だし)
女「中野さーん」
梓「あっ…どうも」
女「よかった、会えて。この前の話考えてくれた?」
梓「え?」
女「バンドよ、私たちのバンドに入ってくれるかって話」
梓「あ、あぁ…」
女「どう?私たちプロを目指してるし…けっこう本格的にやってるんだよ?」
梓「えっと…」
女「中野さんギターすごく上手いし、入ってくれれば私たちも助かるな~って思ってるの」
梓「……」
女「ギターは続けてるんでしょう?」
梓「一応…」
女「ならバンド入ったほうがいいって!一人でやったって楽しくないし」
梓「……」
女「中野さん?」
梓「すいません、もうちょっと考えさせてください」
女「…そう、分かった。いい返事を期待してるわね」
梓「すいません…」
コンビニ
律「いらっしゃーませー」
律(あぁ…早く上がりてぇ~)
男「お疲れさま~」
律「は…お疲れです」
男「田井中さんってさぁ、今日ヒマっだったりする~?」
律「はい?」
男「よかったら~、この後オレとご飯でも食べにいかない~?」
律(うわぁ…うぜぇ…)
律(ん?でもタダ飯が食べれるってことだよな…)
律「じゃあ喜んで!」
レストラン
律(うへ~っ、なんか高そうなお店…周りピカピカだよ)
男「ここ、オレのオススメの店なんだよね~」クチャクチャ
律「はぁ…」
男「ほら、オレの父親社長じゃん?」クチャクチャ
律(知らねえよ…)
男「ここの店長とも仲良くてさ~」クチャクチャ
律「そうなんですか~」
律(ていうかクチャクチャ食べるなよ…)
男「でも、いくら社長の息子だからって甘えてるわけじゃないよ?」クチャクチャ
男「こうやってコンビニでアルバイトして社会勉強してるんだし」クチャクチャ
律「へ~…」
男「それにオレ、地元じゃけっこうなワルだったんだよね~」クチャクチャ
律「……」
律(帰りてえ…)
男「田井中さんは食べないの?」クチャクチャ
律「ちょっと食欲が…」
男「そうだ、今日は君に素敵なプレゼントを用意したんだ」
律「え?」
男「はい、ギター」
律「ギター?」
男「田井中さん音楽やってるんしょ?だからそれ使いなよ」
男「そこら辺の安物とは違うぜっ」
律「ははっ…どうも・・・」
律(私ドラムなんだけど…)
男「それはそうとさぁ…」
律「はい?」
男「今度から君のこと…りっちゃんって呼んでいい?」
律「も、もう帰らせてもらいますっ!」
律「あぁ…最悪だ…最悪な食事だった…」
律「ついて行くんじゃなかった…」
律「ていうか、ギターなんてもらっても嬉しくねえよ」
律「梓さにでも…いや、あいつ自分の持ってるし」
律「ん~……」
律「あっ、そうだ!売っちまおう」
梓「いっけない、遅れちゃった。早く夕飯の支度を…」
~♪
梓「あれ…律先輩からだ」ピッ
梓「もしもし?」
律『あっ、梓。飯もう作った?』
梓「すいません、今から…」
律『作ってないならいいや。今から外で食おうぜ』
梓「えっ…何言ってるんですか、そんなお金があるなら…」
律『いいからいいから、駅前で待ってるぞ』ピッ
梓「あっ、ちょっと!」
ツーッ、ツーッ
梓「きゅ、急にどうしたんだろう…」
駅前
律「じゃーん♪」
梓「ど、どうしたんですかそのお金!?」
律「へへー、凄いだろ?」
梓「まさか…強盗でもしたんですか?」
律「違うわ!!ちょっと都合がついたんだよ」
梓「へぇ…でもそれだけあれば溜まってた家賃とかも払えますねっ」
律「まぁな、とりあえずご飯食べに行こうぜ」
梓「はいっ!」
居酒屋
律「ぷはーっ!やっぱこういう所は気が落ち着けるぜ」
梓「飲みすぎですよ、先輩」
律「いいじゃん、もう二十歳すぎてるんだし。お前も飲むか?」
梓「私はまだ十九ですっ」
律「細かいこと言うなよ、誰も守ってないって」
梓「もう…」
律「うめー!」ゴクゴク
梓「……」
律「どうした?食べないのか?」
梓「律先輩…実は相談があるんですけど…」
律「バンドに誘われた?」
梓「はい…」
律「入ればいいじゃん」
梓「でも…うまくやってけるか不安で」
律「なんで?」
梓「なんて言うか…どうしても放課後ティータイムと比べてしまうんです」
梓「あの時みたいな感じでまたやれるのかなって…」
律「……」
梓「それにプロを目指すっていっても、イマイチ実感がわかなくて…」
梓「…やっぱり私の中で音楽といったら、放課後ティータイムしかないのかな」
梓「あの頃が音楽やてって一番楽しかったなぁ…」
律「……」
梓「律先輩はどう思います?」
律「ていっ」デコピン
梓「いたっ!?な、なにするんですか!」
律「お前があまりにも年寄りくさくてつい」
梓「は、はい?」
律「あのな梓、お前は思い出に浸るほどまだ大人じゃないだろ?」
梓「えっ…」
律「思い出に浸るぐらいなら、今を楽しく生きろよ」
律「ギターやりたいのかやりたくないのか、どっちなんだ?」
梓「……」
律「昔私に告白してきた時みたいに正直になれよ、梓」
律「どうなんだ?」
梓「……」
梓「…ギターは…やりたいです」
梓「やりたいですけど…やっぱりプロとか自信がなくて…」
律「やりたいことが分かってるなら、それでいいじゃないか」
梓「……」
律「世の中にはさ、自分のやりたい事が分からなくて困ってる連中がたくさんいるんだぜ?」
律「それに比べれば、やりたいことが分かってるお前は幸せ者だよ」
梓「……」
律「やってみろよ、お前まだ十九なんだろ?まだまだ可能性はあるって」
梓「律先輩…」
律「お前は自分が思ってるほどダメな人間じゃないよ…」
律「なんたって梓は、私が一番大切に想ってる人間だからな!」
梓「…ぷっ、なんですかそれ」
律「へへっ、とりあえず今日はめいいっぱい飲もうぜ!」
梓「だから私はまだ十九ですって」
帰り道
律「う~~~…ぎもぢわるい゛~~……」
梓「だから飲みすぎですって、そんなにお酒強くもないのに」
律「うぇ~~…」
梓「間違っても吐かないでくださいね…」
律「くそぅあの男…思い出したらムカムカしてきた…」
梓「何があったんですか…」
律「う゛~~…梓おぶってぇ~…」
梓「あとちょっとなんだから頑張ってください」
律「あ゛ぅ~~…じぬ゛~~…」
梓「…そういえば」
律「あ゛~?」
梓「さっきの事で思い出したんですけど、軽音部の人たちって今どうしてるんでしょうね」
律「あ~~…そういえば澪とも最近連絡とってねえ…ウェップ…」
梓「憂や純とも連絡してないな~」
律「しかたねえよ…ウッ…みんな忙しいだろうし…」
梓「ですよね…でも何だか寂しい…」
律「なんだよぉ…私だけじゃ不満なのか?」
梓「い、いやっ…そういう意味じゃないですけど」
梓「でもこうやってそれぞれの道に進むのって、希望もあるけど悲しいところもあるんですよね」
梓「それが妙に辛くて…」
律「…ま、それが人生ってやつですよ」
梓「先輩は大人ですね」
律「ばーか…私だってお前と同じで大人と子供の中間だよ」
梓「中間かぁ…ていうことはこれから大人にもなれるし子供に戻っちゃうってこともありえるんですね」
律「本人しだいだけどな…オェッ…」
梓「はぁ…大人になれるか不安…」
律「お前は悩んでばっかだなー…もうちょっと気楽に生きろよ」
梓「律先輩が悩まなさすぎなんですっ」
梓「ほら、もうアパートつきましたよ」
部屋
律「あ゛~~…」
梓「先輩、お水ですよ」
律「う゛~…」ゴクゴク
梓「明日は大家さんに家賃まとめて返しましょうね?」
律「あぃ~…」
梓「本当に大丈夫なんですか…」
律「あ~…ちょっと楽になったかも…」
梓「もう寝ましょうか」
律「梓ぁ~」
梓「なんですか?」
律「エッチしよ~」
梓「イヤです」
律「な、なんで~!?」
梓「だってこの前酔っ払った先輩とした時…」
~~~~~
律「うぉっ…おえぇぇぇっ」ビシャビシャビシャ
梓「にゃあぁぁぁぁぁあっ!?」
~~~~~
梓「…裸の私に吐しゃ物吐きかけたじゃないですか」
律「…そんなことあったっけ?」
梓「ありましたっ!後始末が大変だったんですからね!!」
律「あ~…言われればあったような~…」
梓「とにかく、酔っ払ってる先輩とはしませんからねっ!」
律「しょんな~…」
梓「明日に備えて早く寝てください」
律「……」
梓「律先輩?」
律「やばい…ゲー出そう…」
梓「えぇっ!?ちょ、ちょっと待ってください!今ビニール袋持って…」
律「もう無理…」ビチャビチャビチャ
梓「あぁ!?もうっ!!」
律「あ~…食ったモン全部出た…」
梓「ゲロ先輩…今後はお酒は禁止ですよ」
律「誰がゲロ先輩だ…」
梓「はぁ~~~…これどうするんですか…」
律「掃除するしかないな…手伝ってやるよ」
梓「先輩が吐いたんでしょうがっ!!」
律「しゅみましぇん…」
梓「ちゃんと綺麗にしておいてくださいね」
律「はーい…」
梓「はぁ…まったく」
律「うぅ…まだ気持ち悪い…」
梓「……」
梓(憂に…久しぶりにメールしてみようかな…)
梓「……」
梓(まぁいっか…遅いし…)
翌朝
梓「律先輩、起きてください。シャワー浴びないんですか?」
律「う゛~…頭痛い…」
梓「今朝食作りますから早くしてくださいね」
律「あ゛~い」
梓「あっ、それとポスト見てきてください」
律「はいはーい…今行きまーす」
律「あ゛~…しんどい…」テクテク
律「もう決めた…二度と酒なんか飲まねえ…」テクテク
律「…でもまた飲んじゃうんだろうな~」tクテク
律「おっと、それよりポストポストっと…」カラッ
律「何か来てるかなぁ…………お?」
律「梓ーーーっ!!」ドタバタ
梓「ど、どうしたんですか?」
律「見ろよコレ!さわちゃんから手紙来てるぜ!!」
梓「えっ…」
律「はさみ、はさみ貸してくれ!」
梓「あっ、はい」
律「よし…」チョキチョキ
律「開いた!」
梓「何が書いてあるんですか?早く読みましょうよ」ワクワク
律「待ってろ、今手紙広げるから」
パサッ
律「どれどれ…」
律「お久しぶりです、りっちゃん、梓ちゃん」
律「実は私、結婚する事が決まったのでそのご報告に…」
律「……」
梓「……」
律「はあぁぁぁぁぁあっ!?」
梓「えぇぇぇぇぇぇえっ!?」
律「さ、さわちゃん結婚するんだ…」
梓「驚きです…」
律「よく相手が見つかったな…さわちゃんなのに」
梓「それは本人の前で言わないほうがいいですよ」
律「いやー、たぶん今年最大のサプライズだぜ」
梓「式はいつなんですか?」
律「ん?…また追って連絡するってさ」
梓「幸せになれるといいですね、先生…」
律「よし、私たちも結婚するか!」
梓「ゲロ吐く人とはイヤですっ」
律「なんだとこの~っ」ギュ~ッ
梓「きゃー♪」
梓「そういえば…」
律「うん?」
梓「結婚式に行けばみんなに会えるかもしれませんね」
律「あぁ…そっか」
梓「…みんな自分の人生頑張ってるんでしょうね」
律「まぁあいつらの事だから、そうだろうな」
律(唯は心配だけど…)
梓「…私、決めました」
律「なにを?」
梓「バンド、やってみます!」
律「おっ、ついに決断したのか」
梓「はい。もしみんなに会ったとき、自分の人生を胸張れるようにしたいんです」
梓「だから…やれるだけやってみます!」
律「へぇ…成長したな、梓」
梓「律先輩もいい加減に成長してくださいよ」
律「なんだと中野ォ!」ギュ~ッ
梓「きゃー♪」
律「ま、お前のいう事にも一理あるわな」
梓「律先輩はちゃんと人生設計とかしてるんですか?」
律「う~ん…梓のお嫁さんにでもなろうかな」
梓「は?」
律「お前がプロのギターリストになって、私がそのお嫁さん。完璧だろ!」
梓「何言ってんですか…」
律「じゃあお婿さんにするか?」
梓「そういう問題じゃありませんっ!」
律「へへっ」
梓「はぁ…マジメに生きてくださいよ」
律「おう、マジメに必死に生きるぜ!」
梓「…まぁ」
律「うん?」
梓「律先輩と一緒に、このままずっと暮らすっていうのは悪くないですね」
律「梓…」
梓「ほ、ほら!ご飯作りますからシャワー浴びてきてください!」
律「オッケー!そしたらベッドで待ってるぜ!」
梓「何言ってるんですか、学校に行くんでしょ!」
律「はーい」
梓「…ふふっ」
律「へへーっ」
梓「律先輩…」
律「なんだ?」
梓「愛してます」
律「私も愛してるぞ、梓」
おわり
848 : 以下、名... - 2010/08/13(金) 19:38:38.88 cLWyC2SNP 265/361書いてる途中でストーリーが膨れ上がってまた長くなりそうだった
とりあえずこれでおしまい
851 : 以下、名... - 2010/08/13(金) 19:41:32.17 M430MLfoO 266/361もっと書け 消化不良だ
862 : 以下、名... - 2010/08/13(金) 20:27:33.56 wNFYXqGZ0 267/361行ける所まで行ってもらいたい
873 : 以下、名... - 2010/08/13(金) 23:13:31.55 cLWyC2SNP 268/361お前らこれ以上何を望んでるんだよ
唯「ねぇムギちゃん」
紬「なぁに?」
唯「これからどこに行くの?」
紬「そうねぇ…とりあえず唯ちゃんとお散歩したいかな~」
唯「お散歩?」
紬「ダメかしら…?」
唯「ううん、全然いいよ!」
紬「よかったぁ」
唯「それにしてもりっちゃん、本当に大丈夫かなぁ?」
紬「検査では問題なかったみたいだし、しばらく安静にしてれば平気らしいわよ」
唯「よかった、早く元気になって欲しいな」
紬「ねぇ、唯ちゃん」
唯「なに?」
紬「りっちゃんのこと、好き?」
唯「うん、好きだよ。いつも元気で、一緒にいて楽しいもん」
紬「そう…」
唯「えへへ」
紬(どっちの好きなんだろう…なんか変なこと聞いちゃった)
紬(もし唯ちゃんがりっちゃんのこと…)
唯「ムギちゃん?」
紬「え?」
唯「どうしたの?ボーっとしちゃって」
紬「あ、えっと…なんでもないわよ」
唯「そう?あっ、それでね、この前りっちゃんと…」
紬「……」
紬(りっちゃんの話をする唯ちゃん、楽しそう…)
紬(いいなぁりっちゃん、羨ましい…)
唯「……」ジーッ
紬「ど、どうしたの?」
唯「やっぱりムギちゃん変だよ、私といてつまらない?」
紬「そ、そんなことないわよ。唯ちゃんと一緒だととても楽しいし、とても落ち着くし…」
唯「本当ぉ~?」
紬「えぇ、もちろん」
唯「よかった、ムギちゃんに嫌われちゃったのかと思った」
紬「……」
紬(嫌うわけがない。むしろその逆…)
紬(唯ちゃんのことが…好き)
紬(誰よりも…誰よりも愛している)
紬(もし唯ちゃんが誰かに取られると思うと…ショックで死んでしまうかもしれない)
紬(その人のこと、恨んでしまうかもしれない…)
紬「……」
紬(でも、そんな事じゃダメよね。好きな人の幸せも祝えないようじゃ…)
紬(なんて、何を考えてるのかしら私…)
唯「ねぇ、ムギちゃん」
紬「なに?」
唯「ムギちゃんは…好きな人とかいる?」
紬「えっ…」
紬(なに…その質問は?)
紬(どういう意味で聞いてるの…?)
紬「えっと…」
唯「えへへ、なんかこういう会話って高校生っぽいよね」
唯「私みんなに『唯はまだ子供だね~』って言われてるから、こういう会話してみたかったんだ」
紬「唯ちゃん…」
唯「で、ムギちゃんにはいるの?好きな人が」
紬「……」
紬「いるわよ…」
唯「本当!?」
紬「私の好きな人はね…優しくて…温かくて…可愛くて…」
唯「ふんふん、それで?」
紬「それで…一緒にいて安心できて…私の心まで優しくなるようで…」
唯「すごい人なんだねっ!」
紬「……」
紬(唯ちゃん、あなたのことなの…)
紬(あなたのことを言ってるのよ…)
唯「いいなぁ~、そういう人を私も好きになりたいな~」
紬「…ねぇ唯ちゃん」
唯「なに?」
紬「女の子どうしの恋愛って、どう思う?」
唯「へっ?う~ん…お互いがよければいいんじゃないかな?」
紬「じゃあ…唯ちゃんは女の子と恋愛したいと思う?」
唯「私?よく分かんないなぁ…恋愛自体経験したことないし…」
紬「そう…」
紬(そうよね…分からないわよね)
紬(唯ちゃんはまだ純白、汚れを知らない…)
紬(真っ白なキャンバス…)
紬(もし、私が告白したら…唯ちゃんはどんな色になるのだろう?)
紬(見てみたい…唯ちゃんの色が変わるところを)
紬(そしてできれば、私の色に染めたい…)
紬(唯ちゃんを…私のものに…)
紬「…ねぇ、唯ちゃん」
唯「なに?」
紬「私ね…唯ちゃんのことが好きなの」
唯「私も好きだよ?」
紬「そうじゃないの…その好きじゃないの」
唯「え?」
紬「あなたを愛してるの、唯ちゃん」
唯「ムギ…ちゃん?」
紬「……」
紬(言ってしまった…)
紬(これから、どうなってしまうのだろう…)
紬(彼女はどんな色になってしまうのだろう…)
紬(このキャンバスを、私が自由に染められるのだろうか…)
紬(染めたい…彼女を私の色に…)
おわり
893 : 以下、名... - 2010/08/14(土) 01:14:16.31 SR+oHYicO 278/361短いのにずいぶんと濃いな…
で、次は?
896 : 以下、名... - 2010/08/14(土) 01:49:01.35 rlR0R755O 279/361安価で決めちゃえよYOU
897 : 以下、名... - 2010/08/14(土) 01:53:35.26 WlZ6RuFqP 280/361じゃあ好きな組み合わせ>>898
あと下げといて
898 : 以下、名... - 2010/08/14(土) 01:54:54.35 T6m5kU9S0 281/361憂澪
美人でかっこいい人。
それが彼女の第一印象でした。
憂「……」ジーッ
澪「ん?どうしたんだ憂ちゃん」
憂「いっ、いえ…」
そして意外と恥ずかしがり屋さん。
そのギャップが可愛い。
あとメイド服も似合う。
今日は軽音部の人たちがうちに来た。
みんなで夏休みの宿題をするみたい。
憂「外暑かったですか?麦茶いれますね」
澪「ありがとう、憂ちゃん」
ちょっと嬉しかった。
澪さんと話せて。
澪さんにお礼を言ってもらえて。
律「よーし、澪。さっそく写させてくれ!」
澪「自分でやれっ!」
澪さんが律さんの頭を殴る。
痛そうだ…
でも、どこか楽しそうにも見える。
私はそんな光景を見て、ちょっぴり羨ましいと思った。
澪「憂ちゃんは宿題終わったの?」
憂「えっ…まだですけど」
澪「なら、一緒にやる?」
憂「いいんですか?」
唯「もちろんだよ~、分からない事があったら教えてもらいたいし」
澪「妹に教えてもらってどうするんだ!」
憂「じゃあ…お言葉に甘えて」
嬉しかった。
澪先輩と話すだけで気持ちが高ぶってくる。
お姉ちゃんとはまた違う喜び。
なんだろう?
不思議だ…
律「澪さん、ここを教えなさい」
澪「もうちょっと自分で考えろ」
律「んだよー、ちぇっ」
唯「ムギちゃん、ここ教えて~」
紬「そこはね…」
律「澪ちゃん、ここ教えて~」
澪「唯のマネしてもだめ」
律「ケチー」
憂「……」
二人のやり取りは見ていてやっぱり羨ましい。
距離が近い。
そう感じる。
これがお互いに長い間に築いてきた絆なんだろうか。
憂「うーん…」
澪「どうしたんだ憂ちゃん?分からないところがあった?」
憂「あっ、はい。ここなんですけど…」
澪「どれどれ…」
律「こらぁ!私に教えないで憂ちゃんに教えるとはどういう了見だ!」
澪「憂ちゃんは後輩なんだからいいだろ!」
憂「うふふ」
ちょっと律先輩に勝ったようで嬉しい。
憂「そろそろお昼ですし、私なにか作ってきますね」
唯「やったー、ご飯だー」
憂「ふふっ」
澪「ごめんね、憂ちゃん」
憂「いえ、みなさんはお客さんですし。どうぞゆっくりしていってください」
律「おーし、私も手伝っちゃうぞー!」
憂「そんな…悪いですよ」
律「気にしなーい、気にしない」
台所で律さんと二人きり、お昼ご飯を作っている。
律さんは意外と料理が上手く、私は驚いた。
憂「律さんって料理上手なんですね」
律「いやー、憂ちゃんには負けるよ」
そうは言っても、その手さばきは慣れているものがあった。
憂「普段も料理するんですか?」
律「うん、たまにね」
憂「へぇ……」
私と律さん、どっちが料理上手なんだろう?
もし私が負けたら…イヤだなぁ…
料理が出来上がり、みんなのもとへと運ぶ。
律「おまたせーっ!」
唯「待ってました!」
澪「憂ちゃんの料理、楽しみだな」
律「おいおい、私も作ったんだぞ?」
澪「憂ちゃんの料理、楽しみだな」
律「無視すんなーっ!」
たとえ軽口でもいい。
褒められて悪い気はしない。
唯「ふぅ…お腹いっぱい」
憂「はいお姉ちゃん、食後のアイスだよ」
唯「ありがと~っ」
憂「ふふっ、みなさんもどうぞ」
澪「本当に憂ちゃんはよくできた妹だな」
憂「えへへ」
唯「ふあぁ…なんだか眠くなってきちゃったよぉ」
紬「私も…昨日寝るのが遅かったから眠い…」
律「おいおい、食ってすぐ寝たら太るぞ?」
唯「むにゃむにゃ…」
律「聞いてねえ…」
憂「お姉ちゃん、風邪ひいちゃうからちゃんと布団かけて」
澪「まったく、何してるんだか」
憂「いいじゃないですか、疲れてるみたいですし」
その後、結局お姉ちゃんと紬さんは寝てしまった。
二人とも気持ちよさそうに寝ている。
お姉ちゃんはいつもより勉強を頑張っていた。
だからちょっとは休ませてあげたいしこのままにしておこう。
律「これからどうする?」
澪「どうするって…勉強だろ?」
律「えぇ~…だって二人とも寝てるのに?」
澪「二人が寝てても私たちはできるだろ」
律「勉強つまんなーい」
澪「だったら邪魔にならないように寝てろ」
律「ちぇっ、じゃあそうしよっと。勉強するぐらいなら寝てる方がマシだ」
とうとう律さんまで寝てしまった。
憂「い、いいんですか?」
澪「ほうっておこう…それより、私たちは頑張ろっか?」
憂「は、はいっ」
まさかの展開。
今この部屋で起きてるのは私と澪先輩の二人きりだ。
心臓の鼓動が少し早くなった気がする。
憂「……」
澪「……」
憂「……」
澪「……」
正直に言って、勉強に集中できない。
澪さんの顔をチラチラと見てしまう。
気になって気になってしょうがない。
今まででは考えられないこと。
お姉ちゃんみたいに気になってしまう。
いや、お姉ちゃん以上かもしれない。
だけどお姉ちゃんに対する気持ちとは微妙に違う。
この気持ちは何?
澪「…あ、あのー…憂ちゃん」
憂「な、なんですか?」
澪「さっきから私のこと見てるけど…な、なに?」
憂「!」
チラ見してるのがバレてた。
憂「あっ、いやっ!そのっ!」
ドキッとする。
顔が熱くなる。
頭の中はパニック状態だ。
澪「な、なにか変なものでもついてるのかな…?」
憂「ち、違うんです!澪さんが綺麗だからついその…」
澪「えっ」
憂「あっ…」
つい出てしまった本音。
口の動きが止まってしまう。
澪「あっ…その……」
澪「えっと…あ、ありがとう///」
憂「い、いえ…」
面と向かって言われれば、流石に恥ずかしいに決まってる。
澪先輩の顔は赤くなっていた。
この空気はちょっとマズイかも。
何か言ってフォローしなきゃ。
憂「で、でも!美人なのは本当ですよ?」
澪「…///」
逆効果だった。
それに言ったこっちまで恥ずかしくなってくる。
憂「ぁの…えっとぉ…」モジモジ
澪「そ、そういう…」
憂「え…?」
澪「そういう憂ちゃんも…可愛いんじゃないかな…」
憂「あっ…えぇっ!?」
澪「いやっ、その…私ばかり褒められるのもあれだし…」
憂「うぅ…///」
いきなり言われた一言。
それだけで私は撃沈された。
澪「……べ、勉強やろっか」
憂「そ、そうですね…」
とりあえず気を静めよう。
勉強に集中さえすれば落ち着くはず…
憂「…///」チラッ
澪「っ///」
無理だった。
やっぱり澪さんの方に目がいってしまう。
このままじゃ自分がおかしくなる。
憂「あ、あのぅ…澪さん」
澪「はいっ!」
とりあえず話の流れを変えよう。
憂「み、澪さんの字って…かわいいんですね」
澪「え?」
憂「ノート、ちょっと見えたんで」
澪「あっ!?」
澪さんはとっさにノートの上に体を覆いかぶさった。
まるで何かを隠すようにして。
憂「澪さん?」
澪「いや!なんでもないんだ、なんでもないぞー」
憂「?」
何を隠してるんだろう…
気になる。
でも触れないほうがよさそうだ。
澪「……」チラッ
憂「……」
澪「……」チラチラッ
憂「…あの~」
澪「な、なにっ?」
憂「ひょっとして…見てもらいたいんですか?」
澪「えぇっ!?そ、それは…でも…」アセアセ
澪「えっと~…」オズオズ
憂「なにが書いてあるんですか?」
澪「……詩」
憂「え?」
澪「歌詞…書いてたの…」
憂「歌詞?」
澪「うん…」
憂「うわ~、見てみたいですっ」
澪「で、でもぉ…恥ずかしい…」
憂「そんな…笑いませんって」
澪「で…でも…」モジモジ
憂「澪さんの書いた歌詞…見てみたいです…」シュン
澪「っ!」
澪「じゃ、じゃあちょっとだけなら…」
憂「ありがとうございますっ!」
憂「……」
澪「ど、どうかな…?」
憂「…すっごく」
澪「え?」
憂「すっごくイイです…」ウットリ
澪「ほ…ほんと?」
憂「はい。すごいですね、こんな詩が書けるなんて」
澪「ははっ…よかった…見せて…」
憂「いつもこういうの考えてるんですか?」
澪「いや、今日は…」
憂「?」
澪「憂ちゃんがこっち見てくるから…勉強に集中できなくて…つい…」
憂「あっ…」
澪「っ///」
憂「ご、ごめんなさい///」
澪「い、いいんだ!おかげで良い歌詞も書けたし…」
憂「澪さん…」
恥ずかしがっている澪さん…すごくかわいい。
いつも美人できっちりしているイメージがあるのに…こんな姿を見れるなんて…
憂「澪さん…かわいい…」
澪「えっ…///」
またうかっかり口がすべってしまった。
でも、今度はもう止められない。
憂「澪さん…私…」
澪「う、憂ちゃん…?」
憂「私…お姉ちゃん以外の女の人に夢中になるなんて初めてです…」
澪「は、はいぃっ!?」
憂「もっと…澪さんの本当の姿を見たいです…」
澪「あ、あのっ…そのっ…」
澪さんにせめ寄る。
顔がどんどん近づく。
すごい…
澪さんかわいい…
憂「クスッ…澪さんって…良いにおいがする」
澪「っ!?///」ドキッ
憂「キレイな肌…」
澪「あっ…あぅ///」
憂「すっごく…かわいい」
澪「ひゃうっ///」
私が言葉を投げかけるたびに、澪さんはかわいい顔で恥ずかしがる。
その顔が見たくて、私はどんどん言葉を発してしまう。
ずっとこのまま澪さんを…いじめたい…
澪「も、もうやめてぇ…」ポロポロ
憂「あっ…」
澪「グズッ…ひどいよぉ…」
憂「……」
とうとう泣いてしまった。
ここまでするつもりじゃなかったのに…
澪「うぅ…ヒッグ…グズッ…」
憂「……」
…ごめんなさい、澪さん。
こんなのダメですよね。
ごめんなさい…
憂「澪さん…」
澪「ふぇ~~んっ!!」
憂「……」
泣きじゃくる澪さんを見て、改めて自分のやったことを反省する。
突然のことで驚いただろう。
怖かっただろう。
わけが分からなかっただろう。
澪さんの気持ちを考えないで、なんて自分勝手なことをしてしまったのか…
罪悪感が私を押しつぶそうとしていた。
憂「……」
澪「ふぇ~~~っ!!」
憂「…っ」
次の瞬間。
澪「!?」
私は澪さんを力いっぱい抱きしめた。
澪「う、憂ちゃ…」
憂「ごめんなさい澪さん…許して…」
これだけしか私には言えなかった。
言葉が足りない。
だけどその代わり、愛情を込めて抱きしめる。
私がやったことへの謝罪の気持ちと同時に、澪さんを落ち着かせるために。
澪「……」
憂「澪さん…私澪さんの事が好きなんです」
憂「好きになっちゃったみたいなんです」
澪「憂ちゃん…」
憂「澪さん…もし私の告白を受け止めてもらえるなら…」
憂「キス…してもいいですか?」
澪「……」
憂「イヤなら拒否しても構いません…だから…」
澪「……」
憂「キス…させてください…」
チュッ
唇と唇が触れ合った。
やわらかい…
思えば初めてかもしれない。
お姉ちゃんとだってやったことはない。
これが私のファーストキス。
相手は澪さん。
キスしてくれたってことは…私の告白を受け止めてくれたってこと?
ねぇ、澪さん?
憂「私のこと…好きですか?」
澪「……」
憂「……」
澪「……」
憂「……」
澪「……」
憂「澪…さん?」
澪「プシュー…」バタッ
憂「澪さん!?」
憂「大丈夫ですか!?澪さん!!」
澪「うぅ…らめぇ…」
憂(あぁ…っ!恥ずかしさのあまり絶頂に達してる澪さんの顔もかわいいっ!!)
澪「う、憂ちゃん…」
憂「な、なんですか!?」
澪「お、お付き合い…よろしく…おね…がっ…」ガクッ
憂「澪さん…澪さんっ!!」
澪「……」
憂「澪さあぁぁぁぁぁあああんっ!!」
数分後
澪「ごめん…すごく恥ずかしくてその…」
憂「い、いえ…私もノリとはいえ、ついやり過ぎました…」
憂「ごめんなさい…」
澪「……」
憂「……」
澪「うぅ///」
憂「あはは…///」
澪「……」
憂「……」
澪「あのっ!」
憂「あのっ!」
澪「あっ、う、憂ちゃんからいいよ…」
憂「いえ、そんなっ…」
澪「い、いいから…」
憂「…じゃあ」
澪「……」ゴクリッ
憂「…澪さんはどうして…私の告白をオーケーしてくれたんですか?」
澪「そ、それは…」
憂「……」
澪「憂ちゃんに抱きしめられた時…ママに抱かれたみたいで…」
憂「え?」
澪「温かったんだ…憂ちゃんの身体…」
澪「優しくて…」
憂「……」
澪「だから憂ちゃんのこと、その時に…好きになったの…かな?」
憂「澪さん///」
憂「あっ、澪さんは何て言おうとしたんですか?」
澪「私は…本当に私でいいのかな?って」
憂「もちろんですよ、決まってるじゃないですか」
澪「っ///」
憂「ふふっ…澪さんって甘えん坊なんですね」
澪「えっ?」
憂「ママって…」
澪「わ、わーっ!!」
憂「ふふふっ」
憂「でも私…澪さんのそういう所にも惹かれたんだと思いますよ?」
澪「うぅ…///」
憂「澪さん…」
澪「な、なに…?」
憂「私と二人っきりの時は甘えていいんですよ?」
澪「憂ちゃん…」
憂「今みんな寝てるし…ね?」
澪「…うんっ!」
唯(起きてるよ…)
律(ていうか起きれねえ…)
紬(もう、二人とも///)
おわり
952 : 以下、名... - 2010/08/14(土) 08:39:42.72 5YHiKbN+O 315/361律梓よかったけど、スレタイ通りの姉妹的な関係のままがよかったな
律梓はちょっと意識してるけど、あくまでも先輩後輩のほのぼのが似合う
954 : 以下、名... - 2010/08/14(土) 08:51:01.30 hN/9/OWX0 316/361別カップルもいいけどやっぱ律梓の続き見たい
唯とかに再会するとことかその後のこととか
956 : 以下、名... - 2010/08/14(土) 08:53:43.85 WlZ6RuFqP 317/361>>952
じゃあお前のために書き直すよ
>>954
それもいいな、考えてたよ
けどもうこのスレ終わり
10 : 以下、名... - 2010/08/14(土) 16:26:25.50 WlZ6RuFqP 318/361えっ、なんで次スレとか立ってんの
ていうか続きって?
12 : 以下、名... - 2010/08/14(土) 16:36:52.47 WlZ6RuFqP 319/361いや俺が書いてたんだけど…これ以上なにを続けるの?
13 : 以下、名... - 2010/08/14(土) 16:46:00.58 83y1i6910 320/361俺は最初に終わった話の澪純、唯紬、憂和を匂わせてた話が見たい
ってだけに前スレ891みたいな事書いたんだけどなw
14 : 以下、名... - 2010/08/14(土) 16:54:06.72 PI3y4mVZ0 321/361前スレ>>952みたいな律梓とか
15 : 以下、名... - 2010/08/14(土) 16:57:27.57 WlZ6RuFqP 322/361正直何も考えてなかったわ
ちょっと待ってて
最初はちょっとした用事があっただけだった。
和「こんばんわ」
憂「あっ…和ちゃん」
和「唯いる?学校に忘れ物があったから届けに来たんだけど」
憂「お姉ちゃんは帰りが遅くなるって…」
和「そう…分かったわ」
そう言われ、私の用件は一瞬で片付く。
肩透かしを食らった感じはあるが…忘れ物を渡してこのまま帰ってしまおうか。
長居しても、憂に悪いだろうし。
憂「あの、和ちゃん」
和「なに?」
憂「よかったら、夕飯…一緒に食べて欲しいなぁって…」
和「え?」
予想外の出来事。
ただ、彼女のちょっと寂しそうな顔を見ると断ることができなかった。
憂「ごめんね和ちゃん、無理に付き合ってもらっちゃって」
和「気にしないで、私も夕飯まだだし」
和「そういえば、唯は今なにしてるの?」
憂「分からないけど…たぶん紬さんと一緒だから遊んでるんだと思う」
和「へぇ…二人で」
憂「待っててね、今そうめん茹でてるから」
和「うん、ありがと」
憂「えへへ」
和「どうしたの?」
憂「ううん、ただ…和ちゃんが来てくれて嬉しいなぁって」
和「え?」ドキッ
憂「やっぱりご飯は、誰かと食べたほうが美味しいもんね」
和「あ…そ、そういう意味ね」
憂「おまたせ~」
和「…けっこうたくさん作ったのね」
憂「張りきっちゃった」
和「張り切りすぎよ」
憂「えへー」
和「ふふっ」
憂「じゃあ食べよっか」
和「そうね」
憂「おいしい?」
和「えぇ、憂の作る料理はなんでも美味しいわよ」
憂「もう、マジメに答えてよ和ちゃん」
和「あら、けっこうマジメだったんだけど」
憂といる時間は悪くなかった。
なんだか妹ができたみたいで…楽しい。
こんな妹がいるなんて、唯のことが羨ましい。
憂「そうだ。昨日お姉ちゃんギターの練習していたんだけどね、なんか新曲が弾けるようになったんだって」
和「唯、ギター頑張ってるのね」
憂「えへ~」
唯を褒めると憂まで喜ぶ。
相変わらずお姉ちゃんのことが大好きみたいだ。
でも、唯のことで喜ぶ憂の顔が…私は好きだ。
満面の笑み、こっちまで癒される。
その顔が見たくて唯のことをまた褒めてしまう。
和「唯…軽音部に入ってから変わったわよね。活気があるっていうか…」
憂「そうなの、お姉ちゃん高校に入ってからすごく変わったの!」
和「ふふっ」
私は憂の笑顔を見たいから、唯のことを話題にする。
一応言っておくと、別に唯ことは嫌いではない。
むしろ、長年付き合っている親友だから大切に想っている。
ただ…ちょっと悔しい。
憂が唯に夢中なことが。
いつのまにか…私は憂のことを唯以上に大切に想ってしまっていたようだ。
この笑顔が目の前にあるだけで、幸せだ。
和「憂はお姉ちゃんのこと、大好きなのね」
憂「うんっ!」
和「…まぁ、唯も憂のこと好きでしょうけど」
憂「えへへ…あの、実はね」
和「なに?」
憂「昨日お姉ちゃんに、私の事どれぐらい好きって聞いたの」
和「またそういうことを姉妹で…」
憂「でも、ちゃんと答えてくれたんだよ」
和「なんて?」
憂「世界で一番大好き!だって」
憂「私も嬉しくて、お姉ちゃんのこと宇宙一好きって言っちゃった」
和「……」
憂「和ちゃん?」
和「…さてと、ノロケ話も聞いたし…食器でも洗いましょうか」
憂「え?私がやるよ。和ちゃんお客さんだし…」
和「いいの、私がやりたいだけだから。憂は休んでて」
憂「そう?じゃあ…」
和「……」
今さら、どうにもならないか…
憂「あっ、そうだ」
和「え?」
憂「私、和ちゃんのことも大好きだよっ」
和「う、憂…」
憂「だって、もう一人のお姉ちゃんみたいなんだもん」
和「っ!」
憂「和ちゃんは…私の事どれぐらい好き?」
和「……」
憂「和ちゃん?」
和「…そうね」
和「このメガネくらいかな」
憂「え?」
和「私にとって…無いと困るもの、ってことよ」
おわり
38 : 以下、名... - 2010/08/14(土) 22:01:32.28 WlZ6RuFqP 331/361二日寝てないんだ
ちょと休ませて
ガチャッ
梓「こんにちはー…」
律「おーっす、梓」
梓「あれ、律先輩一人なんですか?」
律「みんな掃除当番だってさ」
梓「そうですか…」
律「まぁ座れよ」
梓「あっ、はい」
律「もうすぐ冬休みだな~」
梓「あっという間ですね…私もそろそろ2年生ですよ」
律「まぁお前の場合、頭脳は高校生、見た目は小学生だけどな」
梓「なんですかそれ!」
律「あはっ、わるいわるい」
梓「むぅ…」
梓(なんでこの人はそういうことを言うかな~…)
律(梓をからかうと可愛いなぁ…)
梓「よいしょっと…」
律「なにやってんだ?」
梓「練習するんです、ギターの」
律「まだみんな来てないんだからいいだろ」
梓「何を言ってるんですか!学際のライブを忘れたとは言わせませんよ?」
律「あぁ…あれはひどい演奏だった」
梓「だったら次のライブに向けて、血の滲むような特訓をするべきですっ!」
律「いや、そこまでしなくても…まだ時間があるんだしさ?」
梓「何を甘いこと言ってるんですかっ!」
律(中野さん怖い!?)
梓「一年なんてあっという間なんですよ!?だいたい律先輩は部長なんだからクドクド…」
律(なんかスイッチ入っちゃったよ~…どうすりゃ治まるんだ?)
梓「律先輩っ!聞いてるんですか!?」
律「はっ、はいぃぃっ!!」
梓(こうなったらこれを機に、律先輩を更正させてやるんだからっ)
律(あーどうしよう…どうすれば…)
律(そうだ!)
律「梓よ」
梓「なんですか?」
ダキッ
梓「っ!?」
律「おーし、いい子いい子」ナデナデ
律(確か前に唯がこうやって落ち着かせてたような…)
梓「ふにゃぁ…///」
律(よしっ!このまま続ければ…)
梓「にゃぁ…」
梓(はっ!?いけない!)
梓(このまま流されるところだった)
律「ほーれ、いい子いい子」ナデナデ
梓(甘いですよ律先輩。こんなの…唯先輩と比べれば月とスッポン!)
梓(出直してきやがれですっ!)
梓「うがーっ!」
律「うおっ!?」
梓「ふっ…まだまだですね、律先輩」
梓「そんな抱きつき方で私をどうこうしようなんて100年早いです」
律「なっ!?」
律(なんて生意気な!)
梓「ほら、ふざけてないで早く練習してください」
律「ふ、ふざけてねーよ!マジメに抱きついたんだ!」
梓「そ、それどういう意味ですかっ///」
61 : 以下、名... - 2010/08/15(日) 01:00:34.20 zJ9ZPxPY0 338/361時系列がようわからんですたい
63 : 以下、名... - 2010/08/15(日) 01:02:43.73 laM+PTyiO 339/361>>61
会話の内容からしてあずにゃんが一年生の時の話だろ
律「いや…別に深い意味はないけど…」
梓「だったら…変なこと言わないで下さいよ」
梓(マジメに抱きついたって…なんか変な風に捉えちゃうじゃん)
律「まぁとりあえず落ち着けよ、ほら座りなって」
梓「あっ、はい」
律「いや~、もうすぐ冬休みだな~」
梓「そうですねぇ、なんかあっという間…って」
梓「なに話を戻そうとしてるんですかっ!!」
律「ちぇっ」
梓(もう…なんでこの人部長やってるんだろう)
梓(澪先輩がやってくれればよかったのに…)
梓「律先輩、なんで部長やってるんですか?」
律「今思ったことそのまま口にしただろ」
梓「気になったんです」
律「だってかこいいじゃーん」
梓「はぁ…」
律「んまぁっ!!なんでございますかそのため息は!」
梓「呆れてるんですよ…」
律「なら逆に聞くけど、誰が部長だったらいいんだよ?」
梓「澪先輩」
律「即答だな…けど澪みたいな恥ずかしがり屋に部長なんて無理だぜ?」
梓(恥ずかしがり屋は関係ないと思うけど…)
梓「じゃあムギ先輩なら…」
律「ムギもあれでぬけてる所があるからな~」
梓「じゃ、じゃあゆ……やっぱいいや」
律「ほら、結局私しかいないじゃん!」
梓「むぅ…」
律「さぁ尊敬しろ!部長の私を尊敬しろ!」
梓「……」プイッ
律「こらっ!そっぽむくなぁ!」
梓「…やっぱり納得できないです」
律「あのなぁ…」
梓「だって律先輩いつも適当にやってるじゃないですか」
律「なんだとぉ!」ギュ~ッ
梓「っ!?」
律「こいつー!」グリグリ
梓「きゃー♪」
梓(あっ…これはいいかも)
律「どうだ、まいったか!」
梓「ま、参ってなんかないですっ」
律(まったく、強情なやつだな…)
律(でも嫌いじゃないぜ)
梓(今のは…本当によかったかも…)
梓(って、なに考えてるのよ私!)
律「それにしても、あいつら遅いなぁ…」
梓「そ、そうですね…どうしたんでしょう?」
律「まさか…サボりか?」
梓「そんな、澪先輩がするわけないじゃないですか」
律「じゃあ補習かな?」
梓「唯先輩はともかく、澪先輩とムギ先輩はありえませんっ」
律「ひどいこと言うな…唯が聞いたら悲しむぞ?」
梓「じゃあ唯先輩は補習とかしないんですか?」
律「いやまぁ…ありえそうだけど」
梓「ちなみに律先輩もありえそうです」
律「なんだとこらーっ!」ギュ~ッ
梓「きゃー♪」
律「まったく、生意気な後輩め」
梓(だって律先輩相手じゃなんか気が引き締まらないし…)
律「言っておくけどな、私は成績けっこう良いんだぞ?」
梓「知ってます、澪先輩に教えてもらってるんでしょう?」
律「なっ、それだけじゃ…ないっ!」
梓「なんですかその間は…」
梓「やっぱり澪先輩は一流だな~、美人だし頭もいいし、勉強もできるし」
律「私だって美人でしょっ?」キラッ
梓「……ぷっ」
律「笑うなぁっ!」
梓「まぁ美人の類には入ると思いますよ」
律「何様だお前」
梓「でもやっぱり澪先輩には劣りますかね」
律「失礼な上に口を開けば澪だなぁ…そんなに好きなのか?」
梓「すっ、好きとかじゃなくて…///」
律(あー…好きなんだ)
律「でも…こんな生意気だと分かったら澪に嫌われちゃうだろうなー」
梓「!?」
律「澪のやつ、梓の本性知ったらどう思うんだろう?」ニヤニヤ
梓「ほ、本性ってなんですかっ!」
律「私に対してしてきた無礼の数々だよ」
梓「それは律先輩だからですっ」
律「んだとー?…でもまぁ、どっちにしろ澪に知られたら終わりだな」
梓「うっ」
律「そうなりたくなかったら、私の前でも礼儀正しくするんだな」
梓(それもなんかヤダ…)
律「ん?どうした」
梓「いえ…」
律「ならさっそく敬ってもらおうか、先輩の私を!」
梓「え~…」
律「なんだその顔は!!」
梓「だって律先輩相手だとなんか…」
律「私のどこが悪いって言うんだよ!」
梓「まぁ…率直に言うと傷つくから言いませんけど」
律「私の評価そんなに酷いの!?」
梓(たぶん唯先輩より…)
律「…グズッ」
梓「!?」
律「ひどいよ…そこまで言わなくても…」
梓「あっ、いやっ!その…」オロオロ
梓(まさか泣くなんて…)
律「びぇ~~~っ!梓のバカーーーッ!!」
梓「ご、ごめんなさい言い過ぎました!反省してます!」
律「びぇ~~~っ!」
梓「律先輩…」
梓「本当にごめんなさい…私が悪かったです…」
梓「先輩の言うことは何でも聞きますから…許してください」
律「えっ、マジ?」
梓「え?」
律「ふっ」ニヤリ
梓「う、嘘泣きだったんですか!?」
律「マジ泣きだよ?」
梓「うそだぁ!」
律「さぁ、さっそく言う事を聞いてもらおうか」
梓「イヤですよ、なんで私が…」
律「はぁ…散々好き勝手言ってこれか。私の心は深く傷ついたっていうのに…」
梓「うっ…」
律「あぁ、なんて可哀想な私…」
律「私は後輩のことを大切に想ってるっていうのに、その後輩ときたら…」
梓「わ、分かりました!ちょっとだけなら聞きますよ…」
律「じゃあイチャイチャさせて」
梓「は?」
律「私、梓ちゃんとイチャイチャするのが夢だったの~」
梓「い、イチャイチャって…」
律「ほら、いつも唯とやってるじゃん。あんな感じで」
梓「あれはイチャイチャじゃありませんっ!」
律「なんでもいいから愛でさせてくれよ」
梓「はぁ…」
梓(なんでこんなことに…めんどくさい人だなぁ…)
律「あ~ずにゃんっ!」ダキッ
梓「…律先輩にそれ言われると気持ち悪いんですけど」
律「ひどっ!」
律「あ~ず~にゃ~ん」ダキダキ
梓「…むぅ」
律「このぅ、かわいいやつめ」ナデナデ
梓「うにゃっ」
律「ほれほれ~」スリスリ
梓「うぅ…」
律(あぁ…梓を可愛がるのもけっこう良いかも…)
梓(律先輩にこれやられると凄い違和感…)
律「あ~ずにゃんっ」ギュ~ッ
梓「っ!」
梓(でも…強く抱きしめられるのは悪くない…)
梓(なんか嬉しい…)
律「そうだ梓」
梓「なんですか?」
律「これつけてみろよ…」ガサゴソ
律「じゃーんっ!ネコ耳」
梓「どこからそれを…」
律「いいから早く早く」
梓「むぅ…これでいいんですか?」
律「やっぱ梓といえばネコ耳だよなぁ」
梓「なんですかそれ」
律「ニャーって言ってみて」
梓「…ニャー」
律「やっぱかわいい!」ダキッ
梓「うっ…」
律「梓みたいな後輩を持てて幸せだ」
梓「そう言われるのは嬉しいですけど……」
律「梓、愛してるぞ!」
梓「て、適当なこと言わないで下さい!」
律「あ~…梓が本当の妹だったらいいのに」
梓(私はこんなお姉ちゃん絶対にやだ…)
律「なぁ梓…私のこと好きか?もちろん先輩としてだけど」
梓「…嫌いではないですよ」
律「そこはお世辞でもいいから大好きっていうんだよ」
梓「いやです…私は自分の気持ちに正直でありたいんですっ」
律(素直じゃないやつがなにを…)
律「でもまぁ…私は梓のこと好きだからな?」
梓「そ、そうですか…それはありがとうございます」
梓「私もこれからは、律先輩のこと好きになるようなるべく努力はしたいと思います」
律(そうまでしないと好きになってくれないのかよっ)
律「それにしても、澪たちはまだ来ないのか?」
梓「遅いですね…電話してみればいいんじゃないですか?」
律「…いや、もうちょっと梓と二人っきりでいたい」
梓「え?」
律「だってこうやって私たちが二人でいるのって、滅多にないじゃん」
律「だからもうちょっと楽しみたいの」
梓「……」
律「ははーん、ひょっとして今照れちゃったな?」
梓「て、照れてなんかないもんっ!」
律「よしよし、かわいい子め」ナデナデ
梓「うぅ…」
~♪
律「おっと、電話…澪からだ」
律「もしもし?」
澪『律、今何やってんだ?こっちは校門の前でずっと待ってるんだぞ』
律「え?部活は?」
澪『何言ってんだよ、今日は休みって言ってたじゃないか』
律「……あっ」
澪『はぁ…忘れてたのか』
律「あはは…ドンマイドンマイ」
澪『みんな待ってるから早く来いよ』
ピッ
梓「どうしたんですか?」
律「今日部活が休みなの忘れてた…」
梓「…あれ?そうでしたっけ」
律「お前も忘れてたのかよ」
梓「すいません…うっかり」
律「お前も忘れん坊屋さんだな」
梓「ち、違います!今日はたまたまですっ!」
律「私たち、もしかしたら気が合うんじゃね?」
梓「合いませんっ!」
律「照れるなよ~」
梓「照れてませんっ!」
律「本当は?」
梓「もう、いい加減にしてください!!」
律「はいはい」
律「じゃ、みんなも待ってるしそろそろ行こうぜ」
梓「はぁ…」
梓(律先輩の相手は疲れる…)
律「若いのになんて顔してるんだよ」
梓「律先輩のせいですよ」
律「なんとっ!?」
梓「もういいですから、さっさと行きましょう」
律「ったく、かわいくない後輩」
梓「めんどうな先輩…」ボソッ
律「なに?」
梓「なんでもありませんっ」
梓(でも…強く抱かれたのは悪くなかったかも…)
―――――
―――
―
梓(そういえば、昔そんなことがあったなぁ…)
梓(思えば、あの時から律先輩のこと意識してたのかも)
梓(あの頃は今みたいに素直じゃなかったから気づかなかったけど…)
律「ただいまー」
梓「あっ、お帰りなさい律先輩」
律「…なに嬉しそうな顔してるんだ?」
梓「え?」
律「なんかニヤニヤしてるぞ」
梓「き、気のせいですよっ」
律「そうか?まぁいいけど…」
梓「そうだ、頼んでたもの買ってきてくれました?」
律「…あっ」
梓「律先輩?」
律「忘れてた…」
梓「はぁ…相変わらずなんだから」
おわり