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蛇足 とあるフラグの天使同盟 漆匹目【前編】
323 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/20 07:31:04.29 Myp3Dm6Go 179/571
皆様、お久しぶりです。>>1にございます。
三日以内の投下が難しくなると宣言したにも関わらず支援レスをたくさん書いてくださり、
大変嬉しく思っております。本当にありがとうございます。
さて、今日は久々に更新をしにきました。ようやく引越しのどたばたも落ち着き、
しかしネットは未だ使用不可のため更新が滞っていましたが、ようやく暇を作れたので
投下させていただきます。
今回の投下はもちろん前回の続き。一方通行とヴェントが格ゲーで対戦するというお話です。
格ゲーなんざ触ったこともない一方通行は果たして彼女に勝利することができるのか、的な。
それでは、久々によろしくお願いします!
――――――――――――――――――――――
ひとえに格闘ゲームと言っても様々な種類があるのだが、
今回一方通行とヴェントがプレイするのは『外』の世界で大流行している
『スーパーストライキファイターⅣ』、通称『スパⅣ』という格闘ゲームだった。
―――主人公、『リュウタ』は通っている道場で毎日のように師範にしごかれ、
いつまで経っても強くなれない自分に絶望していた。元々リュウタは気弱で臆病な
性格であり、大親友である『ケイン=マスタード』とは対照的な人間であった。
そんな気弱な性根を叩き直すために格闘道場へ入門したリュウタだがやはり才能はなく、
ケイン以外の門下生からは嘲笑され、師範から浴びせられる喝は彼の気弱さに拍車をかけていった。
ある日、いよいよ周囲からの侮辱に耐えられなくなったリュウタは『反逆』を決意する。
『こんな環境では俺の才能は開花しない。 俺は俺より弱いヤツと戦って自信をつけていく』。
師範と門下生達の前で堂々と宣言したリュウタは、ケインや師範の呼び止めにも応じず
道場から出て行ってしまう。見かねたケインもリュウタの後を追って道場を飛び出すが―――。
こんなバックストーリーが存在する格闘ゲームの第四作目(外伝的扱い、バージョンアップの作品は除く)である。
主人公のリュウタをイメージした『俺より弱いヤツに会いに行く』という情けないキャッチコピーが人気を博し、
このキャッチコピーは今回のスパⅣでも『俺より弱いヤツがいない件について』という変化を経て引き継がれている。
「……八方向レバー操作に六ボタン、番外個体がやってたゲームと
同じか。 つかあいつが垣根から借りてた格ゲーってまさかこれか?」
筐体に書かれた操作説明を見つめながら一方通行は番外個体が家庭用ゲーム機で
プレイしていたゲームを思い出そうとするが、真面目に鑑賞していた訳ではないため
明確に思いだす事は出来なかった。
対面の筐体にいるヴェントは現在、CPUと対戦をしているのだろう。
彼女がプレイしている画面が対面の一方通行の筐体にも表示されている。
ここで一方通行が一〇〇円を投入すると、『乱入対戦』が成立するのだ。
「……とりあえず俺みてェな初心者は、主人公キャラを選択するのが無難だよな」
筐体のキャラクター説明には各キャラの簡単な説明と技コマンドが表記されている。
一方通行は一通り確認して一〇〇円を投入し、ヴェントに乱入対戦を挑んだ。
一方通行が選択したのは主人公のリュウタ。第一作目から何一つとして成長していない
彼の表情は、プレイヤーからやる気を削ぐような鬱々しいものだった。
キャラ選択画面のリュウタの顔には既に青アザがあり、彼の受難さが表現されている。
「で、ヴェントの使用キャラは…………って、そォか同じじゃねェか」
対するヴェントが操作するキャラクターもリュウタであった。乱入された方のプレイヤーは
最初に選んだキャラを変える事は出来ないため、一方通行がリュウタを選べば同キャラ対戦に
なる事態は必然的である。ステージ選択を終え、いよいよ二人の対戦が始まった。
(弱パンチ……あ、このボタンは弱キックか。 ちっ、ボタン配置にまず慣れねェと)
六ボタンという配置に多少手こずるものの、初心者にありがちな『画面見たり操作方法確認したり』という
視線が上下に泳いでしまう現象は一方通行には見当たらなかった。彼は筐体に書かれている基本操作、特殊操作、
全キャラの技コマンドを数秒で完全に記憶してしまっていた。
そんな彼がボタン配置に手こずる時間などほんのわずかであり、瞬く間に彼はリュウタを
手足のように操作してしまう。虚弱で格闘才能ゼロという設定のはずのリュウタが、
ヴェントの操る1Pカラーのリュウタを手玉に取ってしまっている。
(技が出るまでの時間は技によって違うのか。 技を出し終えた後の硬直時間も
考えねェとスカった時に攻撃をもらっちまうな……。 連続技を食らわせる際の
ダメージに補正がかかってやがるな。 ゲージの管理も慎重に行わねェと……)
予備知識ゼロであるはずの一方通行が独学でゲームのシステム、駆け引き、コンボを習得していく。
第一ラウンド目が終了した時には、彼はリュウタの全てを理解していた。どの技からどの技が繋がるか、
各動作のフレーム、硬直、対空、牽制、ゲージ管理、起き攻め、投げ間合い等、ゲーム開始から数分で
彼は初心者という枠組みから一気に脱却してしまった。
(たかがゲームだと思ってたが、なるほど結構奥深いじゃねェか。
番外個体やヴェントがハマるのも納得出来るな、面白れェぞこれ)
続けて第二ラウンド、次に一方通行はヴェントが操作するリュウタの動きを観察してみる。
自分がまだ知らないリュウタのコンボ、セットプレイがあるかも知れない。そう考えた一方通行は
相手の出方を窺う戦法に切り替えたのだが、
「……、」
ヴェントが操作するリュウタがまず遠距離で不気味な挙動を何度か繰り返し波動拳(リュウタを代表する技)、
それを捌きながら一方通行操るリュウタがじりじりと距離を詰めたら前ジャンプ。すかさず一方通行は
昇龍拳というアッパーカット、つまり対空技で飛んできた敵を打ち落とす。受身も取らずゆっくり起き上がる
敵に足払いを仕掛ける。ヴェントはこれにほぼ一〇〇パーセント引っ掛かり、再びダウンしてしまう。
次にヴェントのリュウタが起き上がるが、その直後に反撃の昇龍拳を放ってきた(リバーサル)。
その際、対面の方からガチャガチャガチャガチャ!!! とレバーをムチャクチャに操作する音が聞こえてきた。
レバーをへし折るつもりなのだろうか。
ヴェントのリバーサルを先読みしていた一方通行はバックステップで攻撃を回避すると、アッパーカットからの
着地で硬直していた敵キャラに容赦のないコンボ攻撃をお見舞いする。
両キャラの距離が離れる。ヴェントは再び波動拳を連射し、一方通行がそれを捌きつつ接近。
ヴェントが操作するリュウタが飛び込んでくるので一方通行は対空技で敵を打ち落とす。
受身を取らず起き上がる敵に足払い。相手のリバーサルを読んでフルコンボ。
以上の『作業』を繰り返し、一方通行は見事にヴェントを打ち負かした。
(…………待てよ、こいつ)
対面のヴェントに何かを伝えようとしたのか、一方通行は一度席を立とうとするが
その直前に乱入者が現れた事を報せる演出が筐体の画面に表示された。
ヴェントが再び一〇〇円を投入して一方通行に勝負を仕掛けてきたのだ。
「……」
放置する訳にもいかないので一方通行は椅子に座り直し挑戦を受ける。
ヴェントが次に選んだキャラクターはリュウタの親友、ケイン=マスタードだった。
リュウタとは対照的に明るい性格で、格闘技の才能もあり、人柄も良い善良な設定のケイン。
まぶしく輝く金髪を振りかざし舞うその格闘スタイル、初心者にも優しいそのキャラ性能から、
全国でも使用率の高い人気キャラだ。
Fight!! というシステムボイスで幕を開けた第二戦。だが、
「……さっきの試合のリプレイじゃねェか」
結果は言うまでもなく、一方通行の圧勝。リュウタとケインのキャラ性能が
似通っているためか、試合展開もほぼ同じという散々な結末に終わった。
「おい、ヴェン――――」
一方通行はヴェントに声をかけようとしたが、再び流れた乱入者登場の演出によって
それは遮られた。次にヴェントが選んだキャラは『シュン=リー』。この作品の
ヒロイン的存在で、かつては彼女が繰り出す特定の技の動作中にスタートボタンを
連打して一時停止を繰り返すプレイヤーが続出したとかしないとか。
一方通行はため息をついて対戦に臨む。対戦相手に手加減が出来るレベルの腕前になった
彼はかなり消極的なプレイスタイルに切り替えるが、結果は火を見るより明らかだった。
(……これでも駄目か。 仕方がねェ)
一方通行は席を立った。その際にまたしても乱入者登場の演出が流れたが、
彼は無視して対面の筐体に座るヴェントの下へ足を運ぶ。
「…………」
一方通行の目に飛び込んできたのは、目尻にうっすらと涙を溜め、下唇をキュッと噛み、
レバーを握ったままふるふると震えるヴェントの姿だった。
――――――――――――――――――――――
ヴェントが完全に不貞腐れてしまった。
「…………まァこれでも飲ンで元気出せよ」
「……」
一方通行は自販機で購入した缶コーヒーをヴェントに差し出すが、
彼女は見向きもせずただ不機嫌そうな表情を固定したまま正面を見据える。
ヴェントが座っているベンチに一方通行も腰を下ろし、自分用に購入した
缶コーヒーを開封して一息ついた。
ヴェントが操作するシュン=リーを撃破した後も二人の対戦は続いた。
総勢三九キャラの中からヴェントは立て続けにキャラ変更を行い一方通行に
挑み続けたが、何らかの波動に目覚めたとしか思えない動きを繰り出す
一方通行のリュウタに手も足も出なかった。一度、一方通行はわざと
ラウンドを落とす事でヴェントに勝利を譲ったが、彼女のプライドが
許さなかったのか、散々な非難を被った。
「……」
「……」
隣に座るヴェントの横顔を一瞥する。やはりムスッとした表情のまま
一方通行と目も合わせようとしない。だが二人の周囲にだけ漂う沈黙
の空気に耐え切れなくなったのか、ボソリと彼女が呟いた。
「初心者って言った」
「……いや、本当に今日この日までやった事なかったンだから、初心者だと申告しても語弊はねェだろ」
「初心者って言った」
「いつまでも初心者の腕前でいられる訳がねェ。 こォいうゲームは
何度もやってりゃ誰だってある程度は上手くなるモンだしよォ」
「最初っから上手かった」
「……」
反論は許さないと言わんばかりに、ヴェントは一方通行の弁論に耳を傾けず
一方的に言葉責めを送る。悔しさを隠し切れない表情は変わらぬまま。
まさかこのヴェントが対戦ゲームで負けてここまで悔しがる性分だったとは、
と一方通行は意外に思ったが、いつだったか、番外個体と対戦ゲームで遊び、
そこで負けたヴェントが憤慨してゲーム機を叩き潰していた事を彼は思いだす。
「そォか、番外個体のヤツに敗北した事を未だに引きずってンだなオマエ。
そこでゲーセンに通って腕前を上げて、あの女にリベンジしよォって魂胆か」
「……、」
返事はこなかったが、恐らく図星だろう。ヴェントが首を横に向けて
一方通行から完全に視線を外している。
「確かに割と楽しめたが、それでもたかがゲームじゃねェか」
「そのたかがゲーム如きで私は敗北を喫したのよ」
「ゲームで負けたくらいでオマエ自身の評価が上下する訳じゃねェだろ」
「私自身の気持ちの問題なんだよ、これは」
ヴェントはキッと一方通行を睨むと、彼が手に持っていた未開封の
缶コーヒーを乱暴に奪い、一気に飲み干していく。
「……アックアの野郎に手伝わせてまで練習したのに」
「あいつまで巻き込ンでやがったのかオマエ!?」
「アイツ、交通警備のバイトしてるでしょ。 昼休憩の時とかバイトが
終わったあとにアックアを拉致ってここで対戦相手を務めてもらってたのよ」
「結果は?」
「アックア相手だったら私も善戦出来たけど、それでも一回も勝てなかった」
「ウィリアムがどれだけの腕前かは知らねェが、オマエ下手糞すぎンだろ」
「うるさい!」
頬を膨らませて再び不貞腐れてしまった。今まで彼女がほとんど見せた事のない、
人間らしい、女の子らしい仕草だった。対戦ゲームでの敗北が彼女の隠れた表情を
引き出しているのだろうか。一方通行はそんなヴェントを物珍しそうに観察する。
「何よ」
「いや、オマエにも子供っぽい面があるンだなと思ってな」
「うるせえな……別にいいでしょ。 私だってくだらない娯楽に熱中する
事だってあるし、ゲームでも勝負に負けたら悔しいと思う心くらいあるわよ」
「科学嫌いのオマエがか。 そォいやここは科学技術で生み出された
ゲームが腐るほど並べられてるが、平気なのかよ?」
「……」
ゲームセンターも突き詰めれば科学技術を利用して作られた娯楽が詰め込まれた、
ヴェントにとってはアウェイの塊でしかない施設だ。以前の彼女ならこのような
施設など視界に入っただけで憤り、その手で破壊し尽くしてしまっていただろう。
「平気じゃないわよ」
しかし彼女は滔々と語り続ける。
「平気じゃないけど、学園都市で生活すると決めた以上、いつまでも
毛嫌いはしてられないでしょ。 その辺は既にアンタに散々語った
はずだけど。 言ってしまえばこれはリハビリみたいなものかしら」
「無理して受け入れよォとする意向は賛成しかねるけどな」
「科学の結晶であるアンタとこうして一緒に過ごしてる時点で察しろよ。
アンタに比べたらこの街やゲーセンなんて屁でもないわ。 いつまでも
目を背けてられない、アンタが私と結んだ約束は意地でも守ってもらう」
「……そンな話もあったな」
「だから格闘ゲーム程度で躓いている場合じゃないって事よ」
「どォしてそこで格ゲーに繋がるのかは理解に苦しむがな、何も格ゲーじゃ
なくたってイイんじゃねェのか? 対戦ゲームだけでも色々な種類がある
ンだぞ? レースゲームとかシューティングゲームとかカードゲームとか」
「それじゃ逃げになるでしょ。 私は格闘ゲームであの女に勝ちたいのよ」
「結局そこに落ち着くのか……オマエ意外と根に持つタイプなンだな」
さて、とヴェントは立ち上がり、空になった缶をゴミ箱へ放り捨てる。
「続き、始めるわよ」
「まだやンのか……。 格ゲーにしたってさっきやったゲーム
以外にも色々あるンだからよ、手ェつけてみたらどォだ?」
「番外個体にはこの格闘ゲームで勝利を得たいの」
「ますますガキの物言いだな……。 まァでもオマエの意外な一面が
垣間見えて、俺としては結構面白かったりするからイインだけどな」
という訳で二人は再び『スパⅣ』の筐体へとやって来た。
このゲームの筐体は二人がプレイした二台だけではなく、横二列で六台までズラッと並んでいる。
二人以外に『スパⅣ』をプレイをしている学生を見つけた一方通行がある提案を申し出た。
「あそこでプレイしてるガキに乱入してみたらどォだ?」
「嫌よ、アンタとやりたいもの」
「つってもなァ……俺の腕前云々以前に、オマエ下手だからなァ。
対人戦はともかく、CPU戦ならオマエでも楽に勝てるンだろ?」
「CPU相手にまともに戦った事ないからわからない」
「ここまで対人オンリーかよ……無駄にチャレンジャーだな」
一方通行は一〇〇円玉を筐体に投入する。デモプレイが流れていた画面が
タイトル画面に戻り、ボタン操作を要求してきた。そこにヴェントを座らせるが、
一方通行は対面の筐体へは向かわず彼女の背後から画面を眺めて言う。
「どうしたのよ」
「とりあえずアーケードモードってのをやってみろよ。 CPU相手に
連戦して、最後まで辿り着いたらゲームクリアだ。 このモードで
ゲームの基本動作を頭に叩き込め。 あと操作キャラも固定しねェとな」
「基本動作って……前に出て敵に攻撃するだけのお手軽ゲームだろこんなもん」
「そのお手軽ゲームで一つも勝利を掴めねェオマエは一体何なンだ」
一方通行は一度ため息をついて、ヴェントに最初のアドバイスを送った。
「まずオマエが覚えるべき操作は…………ガードだな」
344 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/20 08:01:26.28 Myp3Dm6Go 200/571
今回はここまでです。
実際の格闘ゲームは一方通行が簡単にノウハウを極めたようにはいきませんけどね。
難しいですよね格ゲーは……。
私事ですが、ネット開通は思ったより時間がかかりそうで、完全に安定した投下を
行うには三月中頃までかかりそうです。なので次回更新は未定ですが、すんごい
暇なときにまた更新しますので、よろしくお願いします。
次回は垣根パートと、おまけのお話をひとつ。
それでは、今回もありがとうございました!
【次回予告】
「あ? 何だよ、『カドゥケウス』って」
『天使同盟(アライアンス)』の構成員・学園都市第二位の超能力者(レベル5)『未元物質(ダークマター)』――――――垣根帝督
「聞きそびれたんだけど、どうしてお前は『黄金』なんかと関わろうとしてるのよ?」
イギリス清教『必要悪の教会(ネセサリウス)』の魔術師――――――シェリー=クロムウェル
「エリザリーナ独立国の住人が居住区の大型船から行方不明に
なっていた『法の書』を含めた原典を発見したらしい」
イギリス清教『必要悪の教会』の魔術師――――――ステイル=マグヌス
「私やステイルは管轄外デスので詳細はわかりませんが、神裂火織が
『必要悪の教会』の魔術師として担当している事件の一つデスマス」
イギリス清教『必要悪の教会』の魔術師――――――テオドシア=エレクトラ
371 : :VIP... - 2012/02/28 02:09:47.63 QpO3Sy290 202/571無性に素ヴェントさんが描きたくなったから支部に>>338の挿絵的なもの上げてきた(下手でゴメソ)
372 : VIPに... - 2012/02/28 02:28:26.29 DERNHz3DO 203/571>>371
URLはよ
373 : VIPに... - 2012/02/28 03:48:40.24 VhHzHTDUo 204/571>>372
天使同盟で検索すればいいんじゃね?
374 : VIPに... - 2012/02/28 04:54:27.18 DERNHz3DO 205/571>>373
トンクス
見付かった
ってか、ヴェント・画像 でググったら仮面ライダー龍騎がいっぱい出たわ
397 : ◆3dKAx7itpI - 2012/03/04 02:31:30.34 vb7leFHWo 206/571>>371
ありがとうございます!励みになります。なんならもっともっと書いてくれていいのよ?
暇、です。暇で暇でお腹と背中がくっつきそうな>>1です。
まあ私事など投下が終わってからにしましょう。
というわけでお久しぶりに更新をば。
前回は……なんでしたっけ、一方通行とヴェントがゲーセンで遊んだのか。
今回は垣根の話とかおまけの話を投下します。
では、よろしくお願いします!
――――――――――――――――――――――
『必要悪の教会(ネセサリウス)』の女子寮にステイルとテオドシアがやって来た。
寮内で『暴徒』や『明け色の陽射し』についての情報を聞き出していた垣根が
軽く手を振って二人に応じる。
「よう、本当に来てくれるとは思わなかったぜ」
「わーお、こんな所に『必要悪の教会』の領地があったとは驚きデスね」
「『必要悪の教会』所属の魔術師、ステイル=マグヌスと
テオドシア=エレクトラだ。すまないが少し失礼するよ」
垣根と適当に言葉を交わして寮に住むシスター達に挨拶を済ませると、
二人は垣根が座る席の隣にそれぞれ腰を落ち着けた。ステイルが煙草に
火をつけようとすると、周囲のシスターが若干迷惑そうな顔を浮かべる。
ステイルは仕方なく喫煙を諦め、何やら数枚の書類に目を通しているシェリーに言葉をかけた。
「……シェリー=クロムウェル、イギリス清教からの招集命令を
幾度と無く断っているらしいけど、どうして応じないんだい?」
「何、お前ら本部に戻ってたの? ……招集命令ったってどうせこの私にも
『必要悪の教会』の魔術師として暴徒の連中の淘汰に尽力しろとかそんなん
だろ? 人手なら充分足りてるでしょうし、私まで参加する必要はねえよ」
「ていうかぶっちゃけ面倒なだけデスしょ?」
「有り体に言えばそういう事ね。 暴徒の件についてはさっきも
こいつに話したけど、私自身は興味がないもの。 そろそろ
王立芸術院の方にも顔出ししなきゃならねえし、興味の無い事で
養った英気を無駄に浪費したくねえんだよ。 てなわけでご勘弁」
「養った英気? ふん、この寮で自堕落に生活を送っていただけの
君が一体どう英気を養ったというんだ? バカも休み休み言え」
「うるせえな、一応本部からの通達は手紙を通して受け取ってやってんだから
別に問題ねえだろうが。 お前らの方こそ、バチカン図書館の件の解決を
一任されてるんだろ? 『法の書』を始め世界各地から蒸発した原典の捜索、
本部からの手紙で『必要悪の教会』の魔術師が担当してる案件の一覧が記載されてたぞ」
「『法の書』?」
反応を示したのはステイル達ではなく垣根帝督だった。
彼は眼鏡のシスターが淹れてくれた紅茶を一口含みながら尋ねる。
「それってアレだろ、アレイスターのクソ野郎が書いた魔導書とかいうヤツ」
「あら、知ってるの?」
「一度だけ目を通した事があるからな。 あの本なら確か―――」
「原典捜索の件なら本部で解決の目処が立った事を知らされてるよ」
そこでステイルはなぜか垣根の顔をジロッと睨みつけ、呆れた調子で
ため息をつくと話を続けた。
「僕らと垣根帝督達がロシアを発った直後の事らしいけど、エリザリーナ独立国の
住人が居住区の大型船から行方不明になっていた『法の書』を含めた原典を発見
したらしい。 魔導師のエリザリーナが極めて慎重に調べて本物だと判断したから
間違いないだろう。 後日、原典管理課の魔術師達に引き渡すそうだ」
「船?」
「あー……」
シェリーが訝しげに眉をひそめるのに対し、垣根は罰の悪そうな顔を浮かべていた。
船とロシア、そして原典というワードがどう結びつくのかシェリーには理解出来ず、
苦笑いをする垣根に問いただす。
「…………お前らの仕業か?」
「俺らっつーか、エイワスの仕業だよ。 あー、ここではまだドラコって
名前じゃねえと通らねえんだっけ? あの野郎、確か各所から原典を
かき集めちゃ読みふけってやがったな。 返本し忘れてたんだろう」
「僕の聞き間違いかな? 今、君、『法の書』に目を通したと」
「ああ、頭痛くなってまともに読めなかったけどな」
「そのまま死ねばよかったのに、まったく君たちは……」
「返本って……原典をそこらの図書館から借りた書物みたいに言わないで
欲しいのデスが。 しかし『法の書』紛失事件もあなた達『天使同盟』が
関わっていたとは……。 こうなると『カドゥケウス』の件もあなた達が
一枚噛んでいるのではと根拠もなく疑ってしまうのでマスが…………」
「あ? 何だよ、『カドゥケウス』って」
テオドシアは金と銀が混じった髪を指で弄りながら適当に答える。
「私やステイルは管轄外デスので詳細はわかりませんが、神裂火織が
『必要悪の教会』の魔術師として担当している事件の一つデスマス。
イギリス某所にある霊装保管施設で厳重に保護されている呪いの杖
なのマスが、例の暴徒がカドゥケウスの杖を強奪しようと暗躍している
不確定情報がイギリス清教に飛び込んできまして」
「いわくつきの杖ってか。 残念ながら心当たりはねえな」
「君に心当たりがなくても、他の構成員はそうじゃないかもしれない」
「?」
ステイルが複雑な顔をしながら会話に割って入る。
「本部で聞いた話だが、神裂火織は現在学園都市に居るらしい」
「あぁ、そういや来てたな」
「学園都市に魔術師が赴く用件なんて、現時点では『天使同盟』絡みの
何かとしか僕には思えない。 君達が及ぼした影響であの街には現在
無意味に魔術師が集まっているからね。 学園都市にカドゥケウスの
情報を持っている誰かが居るのか、或いは『天使同盟』に協力を仰ごう
とでも考えているのか……。 後者ならば、君以外の構成員に何か
心当たりがあるのかもね。 土御門元春は別件で動けないようだし」
「そういう事かよ。 ま、何にせよ俺達をアテにはしねえ方が得策だと思うけどな」
「同感だ」
ステイルは忌々しげにしながらも垣根の言葉に頷いた。
どうやらステイル達の現状報告が終わった事を察した垣根は、
シェリーが持ってきた書類の一枚を手に取って話を切り出した。
「それで? "こいつ"の件に関してはどうだったんだ? グラスゴーで
『明け色』の連中が暴徒とぶつかったんだろ? お前らがここへ来た
って時点で既に事は何らかの理由で収拾がついたと推測出来るが」
「逃げられた、そうデスよ」
テオドシアが淡々と結果報告を述べた。
「『明け色』の魔術師が暴徒の連中を何人か生け捕りにして情報を
吐かせようとしたみたいなのデスが、捕らえた暴徒は全員自殺。
残った連中も死に物狂いで『明け色』から逃げ延びたらしいデス」
「遅かったか。 チッ、確実に会える機会は逃したくなかったんだが……
ここでのんびりと茶をしばいてる場合じゃなかったかな。 面倒くせえ」
「聞きそびれたんだけど、どうしてお前は『黄金』なんかと関わろうとしてるのよ?」
シェリーの疑問に垣根は軽い口調で答えた。
「単純な好奇心だよ。 ほら、俺が『禁書目録』に触れちまった事は
話しただろ? あれの影響で魔術が使えなくなっちまってな。
『明け色』の連中がどういう魔術を使うのかも気になるし、あわよくば
そいつらに魔力を取り戻すコツのような教鞭をもらえりゃ儲けもんだろ」
「何も『黄金』じゃなくても、魔術結社は他にも腐るほどあるでしょう」
「別に『黄金』にこだわってる訳じゃねえんだ、色々歩いて回ってんだよ。
だがまぁ、聞けばそいつらは魔術サイドの中でも有数の力を持ってる
らしいし。 どうせコツを聞くならスペシャリストの方がいいだろ」
「ふうん、欲深な考えだけど……一理あるかもな」
だけど、とシェリーは前置きをして、
「会おうと思って会える連中じゃないわよ、『明け色の陽射し』は」
「普通に会おうと思えば、そうだろうな。 まさかアポ受付
のために連中が公式サイトなんざ運営しちゃいねえだろうし」
「どうするつもりだ? 君は暴徒も叩こうと考えているんだろ?
相手は小規模とはいえ、戦力は多いに越したことはない。
君が望むなら僕達との行動を許可しても構わないが…………」
「ああ、でもその前にやっぱ『明け色』のヤツらとは会っておきてえ。
確かそいつらはそいつらでアジトを構えてるって話だったよな?」
それがどうした、とでも言いたげにステイルは首を傾げる。
この女子寮に顔を出す事を優先したが故に『明け色の陽射し』との
接触の機会を逃してしまった垣根だが、なぜか彼の表情は余裕が窺えた。
「拠点さえあるなら、あとはこっちで『明け色』の居場所を掴めるはずだ」
「どういう意味デスか?」
「俺のバックには優秀な"駒"が控えてるんだよ」
――――――――――――――――――――――
常盤台中学敷地内。
風斬氷華は何故か必死で顔も知らない男の身を擁護していた。
「で、でもアンジェレネさんの説明を聞いた限りでは……この人が
ストーカー行為を行なっていたという根拠にはならないじゃないですか。
状況証拠が圧倒的に不足していますし……今回は許してあげてもいいんじゃ……」
「いいえ、疑わしきは罰する、です!」
「それを言うなら『疑わしきは爆する』でございますよ、アンジェレネさん」
「それ『爆弾魔(ボマー)』ですよオルソラさん…………」
シスター二人のボケに苦笑しながらツッコミを入れる風斬。
ちなみに、正しくは『疑わしきは罰せず』である。
朝の散歩をしていた風斬は常盤台中学付近でオルソラ=アクィナスと
アンジェレネのシスターコンビに出くわした。二人の修道女の右腕には
『風紀委員(ジャッジメント)』の腕章が装着されていた。
何でも昨日、風紀委員の体験講習を受けたとかで二人はすっかり風紀委員の
お仕事にハマってしまい、第一七七支部にワガママを申し付けて体験講習の
実行期間を延長してもらったらしい。ただオルソラの場合、風紀委員の腕章が
欲しかったというガッカリな理由で講習に参加しているようだが。
で、そんな二人がどのように風紀委員らしい働きをしていたのかというと、
「あの……そういう事ですので、そろそろ自分を解放していただくわけにはいきませんか?」
見るからに優男といった風貌だった。柔らかな声色でその少年は風紀委員の
取り調べの解放を要求する。茶色の頭髪、何をやらせても様になりそうな
典型的サワヤカフェイス。
モデルをやらせたらそこそこのファンが発生しそうなその美男子の名は、海原光貴といった。
「自分は本当にただここを通りかかっただけで……ストーカーだなんてとんでもない」
「通りかかった? その割にはずいぶんと常盤台中学の女子寮を気にかけている
ような仕草をしていましよね? 何度も何度も常盤台の敷地内をぐるぐる
歩き回って……、特に女子寮に視線が集中していた点がまた怪しいです!」
「今は一端覧祭期間中。 普段お目に掛かる事のない常盤台中学に足を運んで
見学するくらい誰だってするでしょう? 自分もその一人ですよ。 女子寮に
視線を向けていたというのは濡れ衣でしかありません、貴女の思い違いです」
「そ、そうですよアンジェレネさん……ちょっと警戒心を高め過ぎて人の動きに
過剰に反応しすぎなんですよ。 こんな人柄の良さそうな海原さんがそんな……
ストーカーだなんて不審な行為に走る訳がないじゃないですか……」
海原の弁解に風斬も乗っかる。どうやら彼女は海原寄りにこの状況を見ているらしい。
普段アンジェレネ達とも仲が良いだけに、当のアンジェレネは風斬の態度にちょっとだけ
不満を抱いていた。その証拠に、何だか不貞腐れてたように頬をぷくっと膨らませている。
「人を見かけで判断しちゃいけませんよ風斬さん……! 大体、確かに一端覧祭中は
常盤台の敷地内もフリーになっていますが、それでも生徒が利用する女子寮は
立ち入り禁止の規定が設けられています。 にも関わらず、足音を殺して寮の周辺を
ウロウロとしている人を見つけたら風紀委員として見逃すわけにはいかないんです」
「人を見かけで判断してはいけない、か。 あははは……言い得て妙ですね」
「?」
「あ、いえ。 独り言です、気になさらないでください」
海原は何故か視線を泳がせてポリポリと頬を掻くが、三人は彼の微妙な感情の
変化に気付く事が出来なかった。
「それで……どうすれば自分は身の潔白を証明する事が出来るのでしょうか?」
困ったような笑みを浮かべながら海原は尚もアンジェレネに無実を主張する。
アンジェレネは柔和な笑みを浮かべる海原の顔を尚も疑うようにジト目で見上げていたが、
やがて思い直したようにこう言った。
「うーん……でも、風斬さんの言う通り……私の判断もちょっと早計過ぎたかもしれません。
海原さんが嘘をついている可能性も否定出来ませんが、同時に海原さんが女子寮の常盤台
生徒目当てに愚行に走ったというのも確定ではない。 ……やっぱり風紀委員は簡単じゃないですね」
「今回は厳重注意、という事でよろしいのではないでございましょうか?」
ふわぁぁ……、と退屈そうにあくびをしながらオルソラが意見を出してきた。
重たそうに瞼を瞬きさせている所からして、彼女は昨夜あまり眠れていないのだろうか。
「根を詰め過ぎているアンジェレネさんにも多少非はあるでございましょうが、
立ち入り禁止の女子寮敷地内に入り込んでいた海原さんもそれは同じにございます。
ここはお互い様という事で収束させても構わないと思うのでございますが……」
「…………そうですね、うん」
アンジェレネは得心いったように頷くと、
「海原さん、この度は早計な取り調べで不愉快な思いをさせてしまい、申し訳ありませんでした。
ですが先も申し上げました通り、女子寮周辺は立ち入り禁止ですので、その点だけは充分に
注意を払っていただけると助かります。 私に対する苦情はお手数ですが第一七七支部の方に……」
「あぁ、いえいえ。 立ち入り禁止区内に入り込んだ自分の不注意が悪かったですし、
風紀委員の貴女方に抗議をするつもりなんて毛頭ないですので、ご安心ください。
それに助かりました、貴女達にこうして呼び止められなければ自分は本当に拘束されて
しまう所でした。 改めてお礼と謝罪を申し上げます。 本当にありがとうございました」
「これにて一件落着、なのでございますね」
互いが互いの非を認め合う事で今回のストーカー疑惑の件が解決し、その場に居合わせた
風斬もホッと胸を撫で下ろした。
海原は最後にもう一度三人に頭を下げると、踵を返して常盤台中学敷地内から出て行く。
(…………………………………………ふう)
風斬達からは窺いようがないが、この時海原の顔は冷や汗にまみれていた。
実は今回彼にかけられたストーカー疑惑。あながち濡れ衣という訳ではなかったのだ。
まず、彼の名前は海原光貴ではなくエツァリである。顔も容姿も、果ては口調までが
嘘っぱち。彼は学園都市の人間ではなく魔術サイド、アステカの魔術師だ。
海原光貴という仮の姿は彼が学園都市で活動する際に利用している術式によって作られた
仮面である。
さらに彼はもう一つ、『グループ』という学園都市暗部構成員の顔を持っているが、
今回は暗部も魔術組織も関係なく、単に街をぶらついていただけだ。彼には想い人が
おり、その想い人が常盤台中学の生徒であるため、"『海原光貴』という姿で常盤台に
近づく危険性"を棚にあげて想い人の様子を見に行こうとしていたのだが、
(いやぁ……マジで危なかったですね。 風紀委員や警備員には警戒していたのですが、
まさか修道服を着た風紀委員がいようとは……ていうかあのお二人完璧に魔術サイドの
人間ですよね。 どうしてシスターがこの街に、しかも風紀委員として…………)
ともあれ、自分の立場を危うくしてしまいかねない火遊びは控えよう、と
海原光貴は『同僚』が待っている病院へ足を運ぶ事にした。
その一方、
「あー!? う、海原さん、ついさっきここへは近寄るなと忠告したはずですよ!?
ていうかさっきあっちの方向へ歩いていったのに一体どうやって後ろから!!?」
「あ、え? いえ、確かに自分がここへ立ち寄る事は普段無いというか出来ない
のですが、今回は女子寮の寮監に寮内の規則変更についての書類をお届けする
ために……。 あれ? あの……その、何でしょう、その変質者を見るような目は……」
「積極的なのはとてもいい事でございますが、海原さんの場合は少々度が過ぎると言いますか……」
「へ?」
「取り調べ、いいえ、問答無用で拘束でっす!」
「ちょ、ちょっと!? 自分は"今ここに来たばかりで"……うわぁ!?」
困惑が極まった表情もまた様になってるなぁ……、と風斬はシスター風紀委員の
二人に強制連行される『常盤台中学理事長の孫』をのん気に見送りながら呟いた。
――――――――――――――――――――――
お姉様を慕う純血乙女、白井黒子の朝の目覚めは微妙に複雑なものだった。
「ぬう……」
寝起きでボケーッとしている頭を白井は"その光景"を網膜に焼き付ける事で覚醒させる。
彼女の視線の先には、すぐ隣にあるもう一つのベッド。
そこに眠っている少女を、白井は心から尊敬し、愛していた。
「ぐぬぬ……」
常盤台中学女子寮の一室。ここには二人の生徒が住んでいる。
一人はさっきから隣のベッドを素人目には落書きにしか見えない絵画を
見るような目で見つめ続ける少女、白井黒子。
もう一人は、そんな白井が絶対の信頼を寄せているお姉様、御坂美琴であった。
学園都市第三位の超能力者という肩書きを抜きにして、白井は美琴を尊敬していた。
尊敬という道から時には恋慕、終いにゃ欲情という歪んだ方向へ走ってしまう事も
あったが、ともかく白井は御坂美琴を慕っていた。
そんな白井は、すやすやと寝息を立てる美琴を見て若干"引いていた"。
可愛らしい寝顔を浮かべる美琴にではない。美琴が抱き枕のようにギュッと
抱きしめている『それ』を見て引き気味になっているのだ。
(ま、あの類人猿よりかはなんぼかマシかもしれませんけど)
抱き枕扱いを受けている『それ』が白井ならば本人も本望でだろうが、
残念ながらそれは白井でも無ければ、彼女が言う類人猿なる殿方でもなく、
ましてや美琴が熱中しているゲコ太の巨大ぬいぐるみでもない。
そもそも美琴が抱きしめているそれが人間だったら、白井はそれが誰であろうが
テレポート→ギロチンのコンボをお見舞いしていただろう。
ではなぜ白井が何の行動も起こさないかというと話は簡単、『それ』が人間ではないからだ。
「…………。 uryap、apvmr起床zbvort」
「あら、おはようございます。 "ミーシャ"さん」
異形にして異常。怪異にして怪奇。この世ではない別位相の住人。
正真正銘本物の大天使。水を司る『神の力(ガブリエル)』。
ミーシャ=クロイツェフが常盤台中学女子寮の一室で新鮮な朝を迎えた。
ミーシャはまだ慣れない部屋の光景を首を動かしながら見回し、そこでようやく
自分が美琴に思いっきり抱きつかれている状況に気付いた。
「?」
「あぁ、申し訳ございませんの。 どうやらお姉様ったら、貴女を枕と勘違いして
就寝なさっているようでして……。 出来ればそっと、お姉様を起こさぬように
ゆっくりそこから降りてきてほしいのですけど…………」
「……」
大天使様からの返事は無い。そもそもこっちの言葉が通じているのかも定かではない。
白井は朝っぱらから怪奇現象に直面したような寒気を背中に感じるハメになった。
彼女はミーシャ=クロイツェフと面識がある。常盤台中学の能力実演で美琴が
ミーシャと少年漫画のようなバトルを展開する少し前、校内で不思議な赤い髪の
男と共に常盤台へ訪れた天使と出会っている。
だがその時のミーシャは全身を黒のガウンで包み込んでおり、
(……一夜で慣れるものではありませんわね、この方の異形過ぎるお姿は)
現在のようにガウンを脱ぎ捨て、灰色のような白のような薄気味悪い肌や
葉脈のように全身に走る金色の装飾、製作途中の人形のような顔、頭部から
後ろへ流れるように広がるラッパ状の布は披露していなかった。
「ミーシャさん、念のため聞いておきますけれど……わたくしの事は覚えておいでで?」
「…………。 chfri白黒apijtv」
「何だかものすごく失礼な事を言われた気がしますが、やっぱり言葉が理解出来ないですの……」
するとミーシャはコクン、と首を縦に振って頷いてみせた。
コミュニケーションが成立した事に白井は一瞬喜んだが、同時に謎の疲労感が襲ってきた。
(まぁ……お姉様自身がご友人であると仰るのですからわたくしも受け入れますが……
実際あり得ますのこれ……? ていうか何ですのこの方は? 人? いいえ天使です。
いやいやそれでハイそうですかと得心いく人間などこの世にいてたまるものですか)
昨日の事である。一端覧祭誘拐事件解決に助力した御坂美琴が部屋に帰ってきて、
『黒子ー、今日はちょっともう一人部屋に入れたいんだけど、大丈夫?
一応寮監にも奇跡的に許可は得られたし、いいわよね? 答えは聞いてない』
問答無用とばかりに部屋を招いたのがこのミーシャ=クロイツェフとかいう化物だった。
既に面識があった白井は訝しく思いながらも最終的には快く天使を迎え入れた。
しかし、さぁお風呂へ入ろうという話になった際、ガウンを脱ぎ捨て『真の姿』を
披露した時に白井が放った絶叫は恐らく天界まで届いていただろう。何事かと部屋へ
やって来た寮監の目からミーシャを隠すのにかなりの苦労を強いられた。
美琴もミーシャの全裸(?)姿にやはり驚きを隠せないでいたが、それでもある程度の
耐性が付いていたのか、白井のように悲鳴を上げるような事はなかった。
「cnyeu何処aqwyrlsy」
「何をさっきからキョロキョロと……。 貴女は昨日、お姉様に招かれて
この部屋へいらしたんですのよ。 覚えていませんの? お風呂でわたくしを
溺死寸前に追い込んだ事や、お姉様の美しい裸体に卑猥な行為を……って、
まぁそれはわたくしが言えた事ではございませんが……」
「hditu把握bnriq」
どうやら見慣れない部屋に少しだけ困惑していたらしく、白井の事情説明を
聞いたミーシャは全てを思い出したようにうんうんと頷いた。
「……それで、その、そろそろお姉様から離れていただけると
わたくしとしましても安心というか何というか……ね?」
「xbnitud了解lparrnc」
「…………ん。 んん、うぅん…………」
と、ミーシャが美琴のホールドから抜けようとした時、微かに声が漏れた。
音源は御坂美琴。彼女はするりとミーシャに絡みつけていた腕を解くと、
こしこしと寝ぼけ眼を手でこする。
「ふぁ……黒子~……おは―――」
「mvncv美琴alwtrd」
「――――…………ようございますぅ」
目を開けるとそこは、出来損ないのマネキンみたいな顔が視界いっぱいに広がった世界だった。
美琴は一度目を閉じ、再び瞼を開き、やはり視界を覆い尽くすは人外の顔面である事を確認すると
うむ、とゆっくり頷いて―――――。
「うっぎゃあああああああああああああああああああああああ!!?!?!!?!!?」
「お、お姉様! お気を確かに! ていうかお姉様が連れてきたのですわよこの怪物!!」
ネズミを見つけてしまった青いタヌキのように、美琴はベッドから勢い良く跳躍した。
不思議そうに首を傾げるミーシャ。白井は天から舞い降りた天使が誘う騒がしい
朝の光景に頭を抱えるしかなかった。
427 : ◆3dKAx7itpI - 2012/03/04 03:13:31.08 vb7leFHWo 236/571
今回はここまででーす。
しかし、暇です。引越しのゴタゴタも終わって、やっと腰が落ち着いて、
しかも私が働いている店が改装するということで長期間お休みになり、
思わぬ休暇を得たのはいいのですが……
ネット環境が未だに成立していないため、とにかく暇すぎる。
私からネットをとったら仕事と書き溜めしか残らないとか……悲しすぎるだろ。
書き溜めはたまっていく一方で、しかし投下は自由にできないという。
まあでも、こんな風にたまには投下していきますので、皆様もうしばらくお待ちください。
ったくこんなに時間かかるとは思わなかったですよ……
次回更新は未定。
それでは、たくさんの支援に感謝しつつ、また次回よろしくお願いします!
【次回予告】
「あ、あと一ミリ!! あと一ミリだろこれ!? ど、どうする? どうすればいいのよ!!?」
ローマ正教禁断の組織、『神の右席』の元一員――――――前方のヴェント
「イイか、とにかく落ち着け!! 強攻撃を意味もなく振ったりするクセを直せ!!」
『天使同盟(アライアンス)』のリーダー・学園都市最強の超能力者(レベル5)――――――一方通行(アクセラレータ)
466 : VIPに... - 2012/03/20 08:06:41.36 oUqs4xbDO 238/571このSS結構有名なのかな?
とあるのSSの過去ログを読むと天使同盟の話題がちらほら出てくるね
467 : ◆3dKAx7itpI - 2012/03/20 09:59:06.61 +geG/7bno 239/571>>466
どうなんですかね。有名なら嬉しい半面、ちょっと怖かったりしますが……
まあこんだけ長くやってりゃ嫌でも人の目につくかもしれませんよね。
というわけでおはようございます。久々に投下を開始したい所存でございます。
二週間以上あけてしまって、本当に申し訳ありません。
どんだけ読者様が離れてしまったかわかりませんが、
また戻ってきてもらえるよう頑張りますのでどうかお願いします。本当に。
今回は一方通行パート。番外個体どころか一方通行にすら格ゲーで勝てない
ヴェントが修行に励みます。
それでは、よろしくお願いします!
――――――――――――――――――――――
学園都市のゲームセンターに勤務する青年は業務をほったらかして
その光景を凝視していた。その光景が愉快であると同時に、物珍しかったからだ。
青年の視線の先には、時には叫び、時には項垂れ、時には歓喜する、
筐体に向かってあらゆる感情をぶつける二人のカップルが映っていた。
正確にはその二人はカップルでも何でもないのだが、青年の目には
二人が仲睦まじいバカップルにしか見えなかったのだ。
ゲーセンに熱狂する客が居ること事態はそう珍しくもない。
ただそれでも、一端覧祭という多くの学生にとっては楽しいイベントが
今まさに開催しているというのに、それを無視してゲーセンを満喫する
その二人が、青年にとっては微笑ましいものだったに過ぎない。
で、
「あ、あと一ミリ!! あと一ミリだろこれ!? ど、どうする? どうすればいいのよ!!?」
「イイか、とにかく落ち着け!! 距離を置いて深呼吸をするンだ!! 体力ゲージが
残り数ミリなのはオマエも同じだ、弱攻撃はおろか削りダメージ食らってもお終いの
状況なンだよ。 とにかく距離を置け、強攻撃を意味もなく振ったりするクセを直せ!!」
レバーを握るヴェントの手はじっとりと汗ばみ、ふるふると小刻みに震えていた。
彼女の背後から覗き込むように見守る一方通行も同様に嫌な汗を掻いている。
ヴェントの操作キャラと相手CPUの体力ゲージはお互いにミリ単位。あと一発、
何らかの攻撃が入ったらそれで即K.Oという緊迫した状況。
一方通行との対戦でボッコボコにされたヴェントは、ひとまず基本操作と戦術を学ぶため
CPUとの対戦に明け暮れていた。さすがのヴェントも初戦のCPU相手には勝てるものの、
三戦目までいけば上々、五戦目ともなるとCPU相手に全く手も足も出ない有様だった。
CPUの難易度を店側が定めているケースもあるが、この店のCPUはせいぜいノーマル
程度の強さだった。が、致命的に下手糞なヴェントではそれすらも精一杯であった。
だが彼女には心強いセコンドが居る。そう、わずか数分で上級者と遜色ないプレイを
披露出来る腕前になりやがった初心者(笑)の一方通行だ。彼の適格でわかりやすいアドバイスと
一〇〇円の出費のおかげで、ヴェントはついにアーケードモードのラスボスに辿り着くまでの
実力を有するまでに至ったのだ。
ヴェントがラスボスに辿り着くまでにかかったクレジット数――――実に一〇〇〇〇円以上!!
「『外』から入荷したゲーム取り揃えてる店で家庭版買った方が経済的だったンじゃねェか!?」
「今そんな事どうでもいいだろうが!! どうすんの、もうタイムアップになっちゃうわよ!」
ラスボスCPU―――『ヤス』というキャラクターの不気味な肢体が画面狭しと暴れまわる。
ヤスは他キャラの技をコピーしそれを駆使してくる恐るべき強敵だ。
もはや触れられたら負けの勢いでヴェントは敵の攻撃をギリギリのところで捌いていく。
極限まで追い詰められたヴェントは実力以上のプレイが出来た。しかしそれも所詮まやかし――。
「あ、」
ヤスの屈強K―――足払いが、ヴェントには死神が振るう鎌にも見えた。
「―――――ッ!」
しかしヴェントのまやかしの集中力はまだ消えてはいなかった。彼女はレバーを斜め上に正確に倒し、
全身をゲル状化させるという改造を施した設定の操作キャラ、『ジュレ』を前ジャンプさせる。
「蹴り入れろォ!!」
思わず叫ぶ一方通行。キャラ操作に集中力を割いていたためヴェントの
耳に彼の声は届かない。しかし本能が彼女の指を強Kボタンへ誘う。
『K.O!』
相手を倒した事を報せるアナウンスが響き渡る。ヴェントが操作するジュレの斜め下蹴りが
(ストーリー的な意味で)ヤスの野望を打ち砕いた瞬間であった。
「っしゃああああああああああああああああああああ!!!!!!」
「おらァァァァァああああああああああああああああ!!!!!!」
筐体のディスプレイにジュレのエンディングが流れているが、二人は見向きもしなかった。
ヴェントは勢い良く席から立ち上がると、反射的に一方通行の細い体に抱きついた。
一方通行も自分の事のようにヴェントの勝利を喜び、彼女を称えるようにギュッと抱き締める。
「よくやった!! やりゃァ出来るじゃねェかこのクソ女!!!」
「当然よ!! この私を誰だと思ってるの、『堪輿エンジンのヴェント』とは私の事よ!!」
前方のヴェントというキャラ設定を放り投げる程に彼女は歓喜し、勝利を噛み締めていた。
だがそこに野暮なツッコミを一方通行は入れない。それぐらい彼も周りが見えていない。
小躍りしながらアケモ制覇を喜び称え合う二人を店員の青年は和やかな笑みで静かに祝福していた。
「アンタの適格なアドバイスのおかげよ!」
「バカ言え、結局はオマエの腕前が導いた結果じゃねェか! 驚嘆せざるを得ねェぜ、
まさかこの短時間でここまで腕を上げるたァ、万札崩した価値があったってモンだ!」
あははうふふと互いに互いを賞賛する姿のなんと微笑ましく鬱陶しい事か。
周囲の客は迷惑という感情を通り越し、見てはいけない物を見たような目をして
ドン引きしていた。
「よし、この勢いに乗るわよ! さ、白いの。 あっちの筐体に行きなさい。
もはや何者をも寄せ付けないくらい強くなった私のサンドバッグになるのよ!」
「おいおいイイのかよ? あンま調子に乗ってっとまた痛い目見るぞォ?」
「今の私なら足で操作しても勝てるってなもんだ! 勝負しなさい!!」
やれやれ、と言いながらも一方通行の顔から笑顔が消える事はなかった。
彼女と喜びを分かち合った時のテンションを保ったまま意気揚々と向かい側の
筐体へ移動する。
ヴェントも普段絶対に浮かべないような女の子らしい笑顔を振り撒きながら
エンディングが終わりタイトル画面に戻った筐体へ腰を下ろす。
手元のボタンをピアノのように指で軽快に叩く。今のヴェントは絶好調だった。
「負けたら私に一生服従よ! アンタの仲間や家族に別れを告げるなら今のうちだぜ?」
「おォおォおっかねェなァ、こりゃ本腰を入れてかからねェとマジで足元すくわれるかもな!」
お互いに一〇〇円を投入し、いざ尋常に勝負。
数分後。完膚なきまでに叩きのめされたヴェントがベンチに座って不貞腐れ、
彼女を再起不能に追い詰めた一方通行が面倒くさそうに慰める光景がそこにはあった。
――――――――――――――――――――――
――学園都市・第七学区 『外部系』ゲームセンター
ヴェント「……」ムスッ
一方通行「イイ加減機嫌直せよ……」
ヴェント「ていうかさ、」
一方通行「あン?」
ヴェント「違うだろ」
一方通行「何がだ」
ヴェント「アーケードモードクリアが最終目的じゃねえだろうが」
一方通行「……なンだったか」
ヴェント「私の最終目的はあのクソ生意気な腹黒女をぶちのめす事よ!」ガタッ
一方通行「番外個体をあの格ゲーで潰すンだったっけ」
ヴェント「そうよ」
一方通行「番外個体の腕前なンざ知らねェが……今のオマエじゃ無理だろォな」
ヴェント「だからこうして特訓してるんだろ」
一方通行「アーケードモードで苦戦してるよォじゃなァ」
ヴェント「……」
一方通行「つかさっきの俺らのテンションは明らかにおかしかった」
ヴェント「それもそうだわ。 私なんかつい勢いに任せて……」
一方通行「互いに抱きついたりなンかしてなァ……何やってンだ俺ら」
ヴェント「お、お互い忘れてしまうのが賢明ね」
一方通行「で、どォする。 続けるか?」
ヴェント「まだ付き合ってくれるの?」
一方通行「乗りかかった船だ、最後まで面倒みねェと締まりが悪い」
ヴェント「ガキをあやすような物言いはやめろ」
一方通行「ところでオマエ、金は持ってねェのかよ?」
ヴェント「どういう意味よ」
一方通行「オマエがアーケードモードクリアするまでに俺が被った出費、
結構バカにならねェンだよ! 俺はオマエの財布じゃねェぞ」
ヴェント「アンタ、今更出費がどうこう言うつもり?」
一方通行「……まァ、金銭面は問題ねェけどよ」
ヴェント「とりあえず、少し休憩するわよ」
一方通行「もォ昼か……こンなに長い時間ゲーセンに入り浸る事は二度とねェだろォな」
ヴェント「お腹空いたわね」
一方通行「どっか適当な店で腹拵えでもするか?」
ヴェント「………………、よし」スクッ
一方通行「どォした?」
ヴェント「私が食料を調達してきてやる」
一方通行「ほォ? 気が利くじゃねェか、どォいう風の吹き回しだ」
ヴェント「外に行くついでに、ちょっとアイツを呼んでくるわ」
一方通行「アイツ?」
ヴェント「アックアの野郎よ」
一方通行「あァ? どォして」
ヴェント「私がどれだけ強くなったか、アイツを相手に確かめてみる」
一方通行「ウィリアムがどこに居るのか知ってンのかよ?」
ヴェント「あの野郎が派遣されてる職場は全て把握してあるわ」
一方通行「なンで知ってンだよ……」
ヴェント「アンタ、何が食べたい?」
一方通行「実を言うと食欲より睡眠欲の方が俺の中では勝ってンだが」
ヴェント「ダメよ、寝たらアンタに目押しコンボぶちかますから」
一方通行「ゲームじゃ目押し出来ねェクセに……、んン、じゃあ……」
ヴェント「多分コンビニに寄ると思う」
一方通行「適当でイイ。 いくら金渡せばイインだ?」
ヴェント「いらないわ。 アックアに奢ってもらうから」
一方通行「こいつらの現状をローマ正教の連中が知ったら泡吹いて倒れそォだな」
ヴェント「じゃあちょっと行ってくるから」
一方通行「あァ……」
ヴェント「ちゃんと待ってろよ」
一方通行「オマエこそガキに向けるよォな物言いしてンじゃねェよ。
心配しなくてもどこにも行きゃしねェからさっさと行け」
ヴェント「……」タッタッタッ
一方通行「…………はァ」
一方通行「さて、寝るわけにもいかねェし……ヒマだな」
一方通行「……」
一方通行「なンかゲームでもするか」
一方通行「他になンか格ゲーねェのかな……」キョロキョロ
一方通行「…………ン?」
一方通行「……よくわからねェが、グラフィックからしてずいぶん古そォなゲームだな」
一方通行「これも『外』から仕入れてきたゲームか。 需要あンのかよ」
一方通行「同じ六ボタン形式か……」チャリン
一方通行「キャラは……まァ主人公っぽいこいつで」カチカチッ ポチッ
一方通行「よし……」ポチッ ポチッ
一方通行「…………」ガチャッ ガチャガチャッ
一方通行「!? オイ、なンか序盤からCPUの動きが尋常じゃねェンだが」
487 : ◆3dKAx7itpI - 2012/03/20 10:21:44.86 +geG/7bno 258/571
今回はここまでです。
そして、本日よりこのSSは通常更新体制に移行します。
ようやくネットも繋がり、やりたい放題やれるようになりました!
ちなみに電王だけでなく、ライダーは大体好きですよ。
次回も一方通行パート。アックアも交えてさらにカオスな状況になります。
ホント何やってんだって感じですよね神の右席……。
次回更新は三日以内(これが言えるようになった……)。
それでは、今日もありがとうございました!
皆様のご支援のもと、またグダグダやっていきますのでよろしくお願いします。
【次回予告】
「かたい事言うなよ、第三王女に言いつけるわよ」
ローマ正教、禁断の組織『神の右席』の元一員――――――前方のヴェント
「レバーを回しているだけである程度戦えるから楽なのである」
ローマ正教、禁断の組織『神の右席』の元一員――――――後方のアックア
「全国のザンギ使いを敵に回すよォな発言すンな、そンなお手軽キャラじゃねェだろ」
『天使同盟(アライアンス)』のリーダー・学園都市最強の超能力者(レベル5)―――――― 一方通行(アクセラレータ)
512 : ◆3dKAx7itpI - 2012/03/23 13:28:33.25 d+ywJUqGo 260/571
こんにちわ、真っ昼間から更新を開始します。
長い間更新できなかったにも関わらずのご支援、本当にありがとうございます。
未だにグダグダ続くこの長ったらしいSSに付き合ってくださって、もうどう感謝
していいやら……。とりあえずただいまと言っておきましょう。ありがとうございます。
さて今回も一方通行とヴェントがゲーセンで遊ぶだけっていう
中身スッカスカのお話をお送りします。今回は後方のアックアも出ますよ。
では、よろしくお願いします!
――――――――――――――――――――――
ヴェント「さっさと歩けよ」
アックア「貴様……少しは私に対して気を遣え」
ヴェント「私、かなり腕を上げたわよ」
アックア「また格闘ゲームなるものを私にやらせる気であるか……」
ヴェント「何よその言い方、まるで私がアンタを拘束してるみたいじゃない」
アックア「しているのである!!! 休憩時間を潰されているのだぞ!」
ヴェント「かたい事言うなよ、第三王女に言いつけるわよ」
アックア「一国の姫君を脅迫材料に使用するとはどういう了見であるか……」
ヴェント「さて、白いの……寝てたら承知しないんだから」
ウィーン
アックア「……相変わらず騒がしい店であるな」
ヴェント「あれ……アイツどこ行ったのよ?」キョロキョロ
一方通行「クソったれがァァァァァ!」
ヴェント「!?」ビクッ
アックア「一方通行の声である」
\I'm a perfect soldier/
一方通行「キャラスペックがあまりにも違いすぎるだろォが!
訳の分からねェ間合いから投げてきてンじゃねぇよ!」ドカッ!!
ヴェント「ちょっと、何やってるのよ」
一方通行「あァ!? ……なンだオマエか」
アックア「久しいのである、一方通行」
一方通行「よォ、オマエも難儀してンな」
アックア「返す言葉もない……」
ヴェント「何このゲーム?」
一方通行「知らねェよ。 序盤から超反応かますCPU相手にどォにか2クレジット使って
ノーコンかつストレートでアーケード制覇したらよォ、スタッフがボケてた
としか思えねェよォな性能のラスボスが出てきやがった。 なンだこいつ」
アックア「貴様のような人間でもこんな娯楽に夢中になるのであるな」
一方通行「やってみたら意外と駆け引きが面白くてな」
ヴェント「そんな古臭いゲームなんてやるなよ。 ほら、ご飯」ガサッ
一方通行「どォも」
アックア「ではヴェント、さっさと終わらせて帰らせてもらうのである」
一方通行「割と面倒見イインだなオマエ」
アックア「ぬかせ」
ヴェント「じゃあ始めましょうか。 今日は特別に私が一〇〇円入れてあげる」
一方通行「俺の金だけどな」
ヴェント「~♪」
アックア「……初めて見るのである」
一方通行「あン?」
アックア「あの子が、ヴェントがあれほど純粋に感情を表している姿を」
一方通行「確かに。 まさかあいつがあンなに女の子するなンてなァ」
アックア「これもまた、貴様の影響であるか」
一方通行「……」ピクッ
アックア「聞いたぞ、騎士団長から。 キャーリサ様の事を」
一方通行「あの野郎……」
アックア「キャーリサ様の事については素直に感謝するのである」
一方通行「必要ねェよ、あれは俺にとっても必要な事だった」
アックア「今回のこれも、か」
一方通行「……そォだよ。 だからクソ眠いのを我慢して来てンだろォが」
アックア「ふ。 異常だな」
一方通行「あァ?」
アックア「誰に想像出来る? ローマ正教の暗部として活動していた我々が、
今やこのような科学の娯楽施設で平穏に浸っているなどと、誰に」
一方通行「気にしてンのか」
アックア「気にするなという方が無理であろう。 だが……悪くない」
一方通行「平和ボケ、結構じゃねェか」
アックア「私や貴様のような者にとっては特に、な」
ヴェント「二人でこそこそ話してないでさっさとキャラ選べよ!
早くしないとタイムアップになるでしょうが」
アックア「わかっているのである。 ……、一方通行」
一方通行「……」
アックア「貴様が、あの子の闇を払うか」
一方通行「俺に闇を払うなンて芸当は不可能だ。 せいぜい、一緒に抱えるくらいか」
アックア「そうか。 ……そういう手段もあるのだな」
一方通行「…………さっさとキャラ選べってよ」
アックア「うむ、ではいつものこれで……」ポチッ
一方通行「『ザンギ』か。 北海道出身のレスラーキャラだな」
アックア「レバーを回しているだけである程度戦えるから楽なのである」
一方通行「全国のザンギ使いを敵に回すよォな発言すンな、そンなお手軽キャラじゃねェだろ」
ヴェント「今日こそ対人戦で勝利を掴んでみせる……!」
ファイッ!!!
アックア「…………、……! む!?」ガチャガチャ
一方通行「お……」
ヴェント「……! くっ、この、」
アックア「ガードを覚えたか!」
一方通行「俺が仕込ンだ。 今まで通りってわけにはいかねェぞ」
アックア「ならば……」
ヴェント「!」
一方通行(飛び道具を裏掌撃で掻い潜りつつ前進……、このオッサン結構やり込ンでるじゃねェか)
アックア「ちっ、敵キャラの飛び道具、不規則な軌道で……! しかし、」
ヴェント(近づかれた……!)
一方通行(バカ野郎……、コマンド投げは投げ抜け出来ねェよ!)
ヴェント「あ……」
アックア「すまんな」グルグル
\道民のために!!/ \K.O.!!/
一方通行「ジャンプ経由無しで二回転コマンドかよ、オマエ本当は格ゲーマーか?」
アックア「ヴェントに散々付き合わされているからな……」
ヴェント「く……」
一方通行「わかっちゃいるだろォが、」
アックア「うむ、手加減は無しである。 以前手加減して負けてやった時は非難轟々だったからな」
――――――――――――――――――――――
ヴェント「しまっ……」ガチャ
アックア「また私の勝利であるな」タタンッ
\K.O!/
一方通行「これでヴェントは五戦五敗か……、やっぱ対人はまだ早かったかァ?」
ヴェント「もう一度よ!」チャリン
アックア「このザンギというキャラ、真上へジャンプした瞬間に各種方向へ
レバーを入れると移動距離を縮めてジャンプする事が出来るのである」
一方通行「あー、それで表裏択ってンのか」
アックア「それと、私はまだ安定していないが裏掌撃を弱攻撃に仕込んだり、」
一方通行「オッサンこのゲームやり込ンでるだろ絶対」
アックア「ヴェントとこのゲームをやっていた時に観衆が出来た事があってな。
その内の一人にそういったテクニックを教えてもらったのである」
一方通行「……」
ヴェント「いくわよ!」
一方通行「にしてもよォ、」
アックア「?」
一方通行「第三王女放ったらかしでゲームやってるンだなァ……」
アックア「ぐっ!?」ギクッ
\ファイッ!!!/
一方通行「ヴィリアンがこれ知ったらどンな顔すンだろォなァ……」
アックア「貴様……!!」
一方通行「『私の事を忘れて格闘ゲームに夢中になってただなんて……。
そんなに格闘ゲームが好きなら一生股間のスティック握ってなさい!』」
アックア「ヴィリアン様はそんなこと言わない」
一方通行「嘆くだろォな……呆れるだろォなァ……」
アックア「ぐ、く……! き、貴様こそ打ち止め達を放置してこのような場所に―――」
一方通行「俺は俺にとって必要な事だからここに居るだけだ、さっきも言ったろ?」
アックア「私を惑わせてヴェントに勝利をもたらすつもりであるか」
一方通行「いやいや別にィ? ただヴィリアンがこの光景見たらどォ思うかなァって……」
アックア「…………ヴィリアン、様……」
ヴェント「あ! も、もらったわよ!」ガチャッ
アックア「あ、」
\K.O!/
ヴェント「か……勝った。 ま、まずは第一ラウンド……」フルフル
アックア「ぬ……」アセアセ
ヴェント(ラリアットはしゃがめば当たらないのね……)
一方通行(……こンくらいのハンデはあってもイイだろ)
アックア「……不思議とな、」
一方通行「あン?」
アックア「このような娯楽とはいえ、騎士道精神を捨ててでも負けたくない
という気持ちが湧き出てくる。 私もまだ子供であるな」
一方通行「オマエみてェなガチムチのガキがいてたまるか」
ヴェント「…………ッ」ガチャガチャ タタンッ
アックア「勝ちを得て動きが変わった……? 勝利という美酒が
あの子のポテンシャルを引き出しているのであるか!」
ヴェント(あのコマンド投げの間合い……)
アックア「……ちっ、不用意に懐へ入らなくなった。 学習しているのである」
ヴェント「ここか……?」
アックア「!?」スカッ
ヴェント「見極めた! この距離が恐らくベスト!」
アックア「スクリューをスカされたか!」
ヴェント「弱、中、強で間合いが変化する事も既にお見通しよ」
アックア「ふっ、レバーをぐるぐる回しているだけでは勝てぬという事であるな」
一方通行(『神の右席』ってもしかして内情は結構和気藹々としてたンかな……)
ヴェント(落ち着いて……むやみに飛び込まない……足払いに頼らない……)ドキドキ
アックア(体力差でこちらが不利の場合、遠距離ではゲージ溜めくらいしか
選択できる手段が無いのである……。 非常にまずい状況だな)
一方通行(綺麗に勝とォとするな……どンな結果であれ勝ちは勝ちなンだ)
ヴェント「……」
アックア「……」
一方通行「……」
\K.O.!/
ヴェント「あ……勝った」
一方通行「っし」グッ
アックア「……完敗、であるな」
ヴェント「勝ったわ……、対人戦で、私が……!」パァァァ
一方通行「見ろよ、ヴェントの顔」
アックア「どこにでもいる普通の女の子である」
ヴェント「私の勝ちよ、アックア!!」ドン!
アックア「ぐうの音も出ないのである」
ヴェント「…………」チラッ
一方通行「文句なく、オマエの勝ちだ。 誇ってイイ」
ヴェント「ふふ……!」ニコニコ
一方通行「(こっちまで嬉しくなっちまいそォな笑顔だな)」
アックア「(もっと早く、この子に今のような表情を浮かべさせたかったのである)」
ヴェント「勝った勝った……やった……!」
一方通行「……」ジー
ヴェント「私が人間相手に……勝っ―――ハッ!?」ギクッ
アックア「……」ジー
ヴェント「…………///」コホン
ヴェント「……ま、当然の結果よね。 今までのは私が手加減してあげたから
負けていただけの事よ。 私がちょっと本気を出せばこの通りだわ」
一方通行「雛鳥の巣立ちを見守る母親の心境だな」
ヴェント「誰が雛鳥なんだよテメェ!!」
アックア「ふっ……」ガタッ
一方通行「仕事か?」
アックア「うむ、そろそろ休憩時間も終わりである」
一方通行「ほぼこの女が原因とはいえ、付き合わせちまって悪かったな」
アックア「構わん、良いものが見れたからな」
ヴェント「雑魚に用は無いわ。 どこへでも消えなさい」シッシッ
アックア「言われずとも。 ……一方通行」ボソッ
一方通行「?」
アックア「ヴェントの事……よろしく頼むのである」
一方通行「……俺がフルンティングのオッサンにあのバカ姫を任された事、聞いてるよな?」
アックア「選ぶのは貴様である」
一方通行「クソ野郎……」ギロッ
アックア「ではな」
ヴェント「……。 ふん、所詮アックアもあの程度のプレイヤーだったって事か。
情けないわね。 あれでも元『神の右席』の一員だってんだから」
一方通行「『神の右席』に格ゲーの腕前がどォこォは関係ねェだろ……」
ヴェント「てんでつまんないわね」
一方通行「素直に勝利を喜べよ」
ヴェント「勝って当然の勝負だったのよ? どこに歓喜しろって?」
一方通行「……俺、ちょっとトイレ行ってくる」カツッ カツッ
ヴェント「そういうのは黙って行ってこいよ。 ……、」
ヴェント「…………」
ヴェント「…………」
ヴェント「…………、ふ、ふふ」ニコーッ
ヴェント「やったー……ふふふ」ニコニコ
一方通行「…………素直じゃねェよな、ホント」ジー
538 : ◆3dKAx7itpI - 2012/03/23 13:53:42.48 d+ywJUqGo 286/571
今回はここまでです。
2クレでゴンザレス倒す一方通行は異常。ですがさすがに伝説の尖兵には敵いませんでした。
こうしてみると本当にただゲーセンで遊んでるだけの話ですね……。
多少それっぽい話も今回は含まれてましたが、しかしいいのかこんなんで……。
でも次のお話も一方通行とヴェントがゲーセン満喫するだけなんです。
ただし格ゲーはちょっとお休み。せっかくですから他のゲームもやってみます。
次回更新は三日以内。
それでは、今日もありがとうございました!
新約4巻、出てたんですね……早く読まないと。
【次回予告】
「UFOキャッチャー……? このガラスぶち割って中のぬいぐるみやら何やらを取るの?」
ローマ正教、禁断の組織『神の右席』の元一員――――――前方のヴェント
「その行為のどこにUFOの要素が含まれてンだよ」
『天使同盟(アライアンス)』のリーダー・学園都市最強の超能力者(レベル5)―――――― 一方通行(アクセラレータ)
561 : ◆3dKAx7itpI - 2012/03/26 07:21:24.52 GTpI+JVxo 288/571
おはようございます。朝っぱらから更新を開始すべく馳せ参じました。
あー、今回も一方通行とヴェントがゲーセンで~……以下略。
マジこの話書きためてた当時は(去年の11月くらい)このネタだけで
SS一本書けるって考えてましたね。多分本当に書けますし……面白いかは別として。
ただ今回は格ゲーをお休みして、ゲーセンそのものを満喫しようぜという
流れになります。これなら格ゲー知らなくてつまんねえと思っていらした
読者の方も少しは気が晴れるんじゃないでしょうか……。
それでは、今日もどうかお付き合いくださいませ。よろしくお願いします!
――――――――――――――――――――――
一方通行がトイレから戻ると、ベンチに座っていたヴェントが何やら妙な事をしていた。
自分の頬をぐにぐにと引っ張っている。どうやら弛緩しきった頬の筋肉に喝を入れている
らしい。アックアとの対人戦で勝てた喜びが抜けず、ニマニマとした笑顔が解けないのだろう。
「よォ」
「ふぁ!?」
一方通行の存在に気付いたヴェントは慌てて頬から手を離す。
一体どれだけ引っ張っていたのか、彼女の頬はほのかに赤く染まっていた。
もっとも、紅潮の原因は頬をつねった事だけではないのかもしれないが。
ヴェントは頬をすりすりと摩りながらいつもの調子で話しかける。
「ちょっと格ゲーは休憩するわよ」
「勝利の余韻を味わっていたいのか?」
「べ、別に。 あんなの、勝って当然だって言っただろうが。
適度な休憩も挟まないとベストなプレイが出来ないのよ」
相変わらずの言い草だったが、しかしその目はどこか遠いところを見つめていた。
やはり相当対人戦で勝利できた事が嬉しいらしい。ヴェントの口角がひくひくと
動いている。一方通行がこの場にいなければいつまでも悦に浸っているだろう。
一方通行は携帯電話を開いて時刻を確認しながら尋ねた。
「で、だったらどォする? メシも済ませちまったし、どこか適当にぶらつくか?」
「アンタ何言ってんの。 ここはゲームセンターよ? 娯楽施設なんだから、
暇を潰せる手段は腐るほど揃ってんだろ。 外を出歩く必要はないわよ」
確かにゲーセンで一日中過ごしていられるという人間もいるが、
それだけ入り浸るには結構な金が必要になる。
「別に構わねェンだけどよ……、オマエやっぱり金持ってねェンだな」
「アンタ程は持ってないわよ。 無い事もないけどこのお金は……、あ」
「?」
ふと、ヴェントが言葉を止めた。見ると、何かを思い出したようなハッとした表情を浮かべている。
「どォした」
「そうだった、私、買っておかなきゃいけないものがあったんだ……」
「何を買うンだ?」
「……」
返事が来ない。なぜかヴェントは困ったような、忌々しげな、そんな複雑な
顔をしながら言い淀んでいる。
「なンだよ」
「……別に、何だっていいでしょ」
「俺には言えねェモンなのか?」
「そうじゃないわよ。 ……そうね、ついでにアンタにも後で付き合ってもらおうか」
「何なンだよ」
「諄いわね、後でいいって言ってんだろ。 それより、何か面白いゲーム無いのここ?」
結局ヴェントが購入したいものがなんなのかは教えてもらえず、話は一方的に終わってしまった。
一方通行は一瞬、自分に何かを贈るつもりなのだろうかと考えたが、ヴェントの様子からして
そうではないと否定した。当の彼女があまり面白くなさそうに話していたからだ。
ヴェントは立ち上がり、店内の様子をキョロキョロと見渡す。
どうやら今ここでしつこく問い質しても機嫌を損ねるだけだと判断した一方通行は
面倒くさそうに頭を掻きながら定期的に襲ってくる睡魔を追い払った。
「ゲーセンには割と回数通ってンだろ? オマエまさか格ゲー以外のゲームやった事ねェのか?」
「他に目的が無かったから目もくれなかったわよ。 こういう店って対戦型格闘ゲームを
主に取り揃えて営業してるもんじゃないの? ゲームセンターって言うくらいなんだから」
「ゲームの定義狭すぎだろ……。 まァ無理もねェか、今までこンな場所で
ゲームなンてモンに触れる機会も無かっただろォしなァ。 ……そォだな、」
ついて来い、と言うだけ言って一方通行は勝手にどこかへ歩き始めた。
こことは違うエリアにあるメダルコーナーに目を向けていたヴェントが
慌てて彼の後を追う。
二人がやって来たのはゲーセンの定番中の定番、UFOキャッチャーだった。
箱の全面がガラス張りになっている、通常より少し大型サイズの仕様だ。
「UFOキャッチャー……? このガラスぶち割って中のぬいぐるみやら何やらを取るの?」
「その行為のどこにUFOの要素が含まれてンだよ。 これは中に設置されてる
クレーンを自分で操作して、アームで目当ての景品を掴ンでダクトの中に
放り込むゲームだ。 これはニボタン機種だから割と運が絡ンでくるけどな」
「ふうん。 で、具体的にはどうやるの?」
「やってみるか? 一回だけ俺がやってみせるから、黙って見てろ」
一方通行は財布から硬貨を数枚取り出し、投入口に入れる。
すると本体からリズミカルなBGMが流れだし、手元のボタンが点滅し始めた。
一方通行はまずクレーンが左右に動く方のボタンを数秒間押し続ける。
次にクレーンが奥へ進むボタンを押し、適当な景品の上へクレーンを移動させた。
「あとは見守るだけだ」
一方通行が二つ目のボタンから指を離すと、BGMが変化すると同時にクレーンが
緩やかに降下する。アームの先端がウサギのぬいぐるみの頭部を少し押さえ、
そのまま左右に開いていった。
「……」
ヴェントはまるで水族館の巨大水槽を泳ぐ魚を物珍しげに見つめる子供のように
両手をガラスに押し当ててその一部始終を凝視し続けていた。
クレーンのアームがウサギの頭部をがっしりと掴む。が、
「あ」
どういう訳か、完全にぬいぐるみの頭部に固定されていたはずのアームが、
クレーンが上昇するとまるで力が抜けたようにぬいぐるみを解放してしまった。
何の成果も上げられなかったクレーンが虚しく景品ダクトへ移動していく。
「アームの強度がイマイチだな……。 ま、こンな感じで上手いこと目当ての
景品を掴ンでダクトに放り込みゃイインだよ。 上手いヤツは中身空っぽに
するまで搾取出来るが、下手な奴はもォどこかの店で景品と同じモンを
購入した方が早いンじゃねェかってくらい金を吸い取られちまうけどな」
ただ最近のクレーンゲームの景品にはプライズゲーム専用景品、プライズ品と
呼称される、クレーンゲームでしか入手出来ない景品も存在する。特に注目されて
いるのがプライズフィギュアであり、専門メーカーから販売される完成品フィギュア
にも負けず劣らずの出来のフィギュアがクレーンゲームで入手できるという事で
人気を博している。その景品が元値より高い値で取引されるケースもあるらしい。
「奴隷市場とかでこのシステムを採用したら面白そうね」
「滑稽過ぎて反吐が出そォだな。 どォする、一回やってみるか?」
一方通行が硬貨を差し出すと、ヴェントは黙ってそれを受け取り本体に投入した。
比較などしても意味はないが、さすがにクレーンゲームと格闘ゲームでは操作の
複雑性が天と地の差であるため、ヴェントにも容易にプレイする事が出来た。
「あのウサギのぬいぐるみ、アンタにそっくりじゃない」
「ふざけンな……と言いてェところだが、さすがに否定は出来ねェな。
つかおかしいだろあのデザイン。 明らかに"俺に似せてやがる気がする"」
「だからアンタもあのぬいぐるみを狙ったんでしょ? 私もそうする」
先ほど一方通行が取ろうとしていたウサギのぬいぐるみをターゲットに選んだヴェント。
一方通行も言っていたが、そのぬいぐるみはウサギをモチーフしたにしては明らかに
不自然なデザインだった。
頭部こそ長い耳にまん丸の赤い目、口を表現したバツ印ではあるが、それ以外がおかしい。
ウサギの右腕には何故か『杖』が装着されているし、キャラクターとして着せられている服は
彼がよく着る縞模様のシャツ。おまけに首にはオシャレな黒いチョーカーが付けられていた。
(悪意すら感じるンだが……、偶然で片付けられるレベルじゃねェだろあのデザイン)
誰かが嫌味のつもりで作成したようなぬいぐるみ目掛けて、ヴェントが操作する
クレーンが移動していく。景品の頭上にクレーンを位置づける作業は意外と難しい
のだが、彼女は難なく絶妙な位置へクレーンを持っていく事が出来た。
運命の瞬間。クレーンが降下し、あまり信用出来ないアームがウサギの頭部を挟む。
「! 捕獲したわ!」
がっしりと頭を掴まれたウサギは、クレーンによって問答無用に
ダストまで運ばれていく。自分に似ているからか、一方通行はその光景を
見て何だか悲しくなってきてしまった。
「え……」
軽く絶望したような、目の前に餌をぶら下げられ食いつく直前に取り上げられたような、
そんな調子の声がヴェントから漏れた。ぬいぐるみがダストにボッシュートされる直前、
アームが限界を迎えたのか、ぬいぐるみを落っことしてしまったのだ。
「残念だったな。 個人的には回収してほしかったンだが……」
「……」
ヴェントは黙ったまま取り逃したぬいぐるみに視線を固定させたままだ。
てっきりまた不貞腐れたのかと一方通行が適当に慰めようとしたが、
「ま、いいわ」
「諦めたのか?」
「わざわざ金払ってまで手に入れる価値が無いってことよ。 こんなぬいぐるみ
じゃなくてもアンタという本物がここにいるし、私はそれで充分満足出来るわ」
「それどォいう意味だオマエ……」
どうやらUFOキャッチャーはヴェント様のお気に召さなかったらしい。
わずか一回プレイしただけで飽きた彼女は次なるゲームを求めて場所を移動した。
ならば自分が回収してやろうかと一方通行はもう一度UFOキャッチャーに挑もうとしたが、
ダストの傍で虚しく転がっている自分そっくりのぬいぐるみを見てやる気を削がれたのか、
このまま処分されるまで永遠に他者の手に渡らぬ事を祈りながらヴェントの後を追っていった。
――――――――――――――――――――――
ところで、『プリクラ』がプリント倶楽部の俗称及び略称である事を知らない人は結構多いらしい。
「……どういうゲームなのこれは? 何でカーテンで仕切られてるのよ」
「ゲームっつか、こりゃプリントシール機だな。 この部屋の中で撮った
写真をシールにしたモンが手に入るンだよ。 今でも流行ってるらしいが」
一方通行とヴェントはプリクラ機の前でそんな会話をしていた。
普通、プリクラが設置されているエリアに男女二人組が居る事は極めて自然なはずだが、
なぜか二人は浮いていた。両者が放つ独特の雰囲気とプリクラのキャピキャピした雰囲気が
マッチしないせいなのかもしれない。
カーテンを少し開けてヴェントが部屋の中を覗き見る。これまでここでプリクラを
作成した学生等が貼っていったのだろう、部屋の至る所に人の顔が写った可愛らしい
デザインの写真シールが見受けられた。
写真は人の想い、意識、念が強く込められるという。ヴェントは部屋の中に渦巻く
大勢の人間の思念じみた何かを感知し、気分を害したように青くなった顔を引っ込める。
「なんか気味悪いけど、便利かもねこれ。 写真に魔術的意味を持たせて
魔術発動の道具や霊装に用いる例はいくつもある。 このサイズでしかも
シールなら携帯性も文句ないし。 探せばこのプリクラとやらを利用した
魔術を使う魔術師がいるかもしれない。 俗っぽくて気に入らないけど」
「プリクラに対してそンな解釈をする人間は魔術師だけだろォな」
「普通の人間はこんな物を集めてどうしようっていうのよ?」
「普通の人間はこんな物を集めてどうしようっていうのよ?」
「若年層が一〇年以上前に食いついたンだよ。 特に女子高生なンかは思い出を
残せる写真とかを好むからな。 女受けしそォなデコレーションも施せるし、
残したい記憶をシールって形で誰でも気軽に作成できる点が好評で流行ったらしい」
「何でアンタそんな事知ってんの?」
「……なンでだろォな。 知らねェ内に余計な情報まで取り込ンでたのかも
知れねェ。 ガキの頃は毎日が実験漬けだったから、そンな余裕は無かった
はずなンだけどな。 情報ってのはいつの間にか刷り込まれてるモンだろ」
「あっそ。 ……思い出、ねえ」
ヴェントはほんの一瞬だけ遠い目をした。
彼女が持つ、恐らくは唯一の『思い出』。死別した弟と一緒に写った
一枚の写真を思い出しているのだろうか。
「こういうのってどういう人間が利用するもんなの?」
「さっきも言ったが若年層、特に女子高生が中心だが……実際は色々だろ。
男連れでも家族でも、親子でもカップルでも、プリクラなンて呼称されてるが
要は写真シールだ。 写真なンだからどンな人間でも利用するンじゃねェのか」
「まさかアンタも誰かとこういうの撮ってたりすんの?」
「ねェよ。 写真自体は何度か撮ったり撮られたりしたよォな気もするが、
プリクラなンざ俺にはまるで縁のねェモンだからな。 全く似合わねェし」
「……」
ヴェントは改めて部屋の中を覗く。多くの人間が写った写真が
こちらを見ているような錯覚に襲われ、やはり良い気分はしなかったが
よくよく見てみると写真に写った各々の顔はどれも皆、純粋に人生を
楽しんでいるような笑顔である事に彼女は気付いた。
「ふん」
ヴェントは思案し、顔を引っ込めて一方通行に提案する。
「だったら記念に一枚撮ろうか」
「嘘だろオイ。 オマエこォいうの一番嫌悪しそォな人間だろ」
「デコレーションだとかそういう浮ついた要素は気に食わないけど、
写真くらい私だってたまには……、……たまには撮ろうかなとか思うわよ」
「あァそォかい。 ……俺があまり乗り気じゃねェンだが、まァたまにはイイか」
という訳で一方通行は財布を取り出し中身を確認したのだが、
「……チッ。 オイ、ちょっと待ってろ。 小銭がねェから崩してくる」
そう言って踵を返し、現代的なデザインの杖をつきながら両替機へ向かった。
「……」
一方通行の姿が見えなくなったのを確認したヴェントは三度部屋の中を覗く。
こうして見るとまるで恐れながらも路地裏から表の様子を窺おうとする臆病な猫のようだ。
よく確認すると部屋中にぺたぺたと貼られているプリクラが皆笑顔なのだが、
更に注意深く観察してみるとそのプリクラに写っているのはほとんどが
仲睦まじげな男女二人組、つまりカップルである事が新たに判明した。
(な、何よこれ……。 カップル以外はお断りみたいな……プリクラって得てしてこんなもんなの?)
これから一方通行と二人でプリクラを撮るという時に、ヴェントは何だか急に気恥ずかしさを覚えだす。
と、そんな彼女の耳に声が届いた。音源はヴェントが居るプリクラ機の隣にあるもう一つのプリクラ機。
室内から顔を出して隣から聞こえる声に耳を傾ける。声色からしてどうやら中に居るのは男女二人組らしい。
よく耳をすませてみるが、会話の内容が聞き取れない。声が外部に漏れないよう
ひそひそと会話をしているようだ。
「……?」
会話の内容はともかく、ヴェントはプリクラの撮影風景がどのようなものなのか
気になって仕方がなかった。中の二人に悟られないよう足音を殺してゆっくりと
カーテンを開き、ほんのわずかに開いた隙間から室内の様子を窺ってみる。
「!」
室内の光景が視界に入り、様子を理解した瞬間にヴェントは速攻で顔を引っ込めた。
彼女の顔は耳まで真っ赤に染まっている。視線があちこちに揺らぎ、今にも倒れそうな
危なっかしい足取りで一歩一歩後退していった。
中に居た男女の学生二人は、その、いわゆるチューをしながら撮影に臨んでいたのだ。
何かを言うために声を出そうとするが、口がパクパク開閉するだけで
音を発する事が出来ない。
「…………、……!」
ここでヴェントの頭に蘇ったのは、あの時の記憶。
そう、彼女は何も男女のキスシーンを見て衝撃を受けた訳ではない。
いくら何でもそこまでヴェントはウブではない。
蘇った記憶は、『天使同盟』がロシアに来て何日か経った時の事。
露天風呂の休憩所で一方通行と会話をし、そして―――――――。
「待たせたな」
「ぬふぅ」
掛け値なしに口から心臓が飛び出たとヴェントは思った。両替を終えて
帰ってきた一方通行は、声をかけただけで妙な声を出したヴェントに怪訝な目を向ける。
「? なンだよ」
「ちょ、ちょっと……待ちなさいよこのクソ野郎……。 あ、あ、
アンタ、この……プリクラとかいうの。 ちょっとアレなんじゃ」
「は?」
「い、いや……何でもないけど……」
茹で上がりのタコのように顔を赤く染めながらヴェントは激しく動揺していた。
この場を離れたわずか数分の間に一体何があったのかと一方通行は考えるが、
「ま、まぁ仕方ねえよな……アンタが撮りたいっていうんだから仕方が無い……」
「いや俺が撮りてェって訳じゃねェンだが……。 何だ、嫌なら別に―――」
「いいからさっさと入れよ!」
尻に強烈な蹴りを食らった一方通行は転がるように室内に激突し、
悪態をつく前にヴェントが部屋に押し入り、カーテンを閉めてしまった。
587 : ◆3dKAx7itpI - 2012/03/26 07:51:06.11 GTpI+JVxo 314/571
今回はここまでです。
書いてて腹が立ってきたのでチューしながらプリクラ撮ってるカップルが
心臓麻痺で死ぬ展開にしようかと思いましたが、意味不明なのでやめました。
私事なのですが、最近はあまりゲーセンなどには立ち寄れず、今のゲーセンが
どのようになっているのかよくわかってません。ビデオゲームフロアなどは
何となくまだわかりますが……。今でもプリクラってありますよね?
そんな訳で次回はちゃっちゃとプリクラ撮って、そしてこのお話のラスボスを呼ぶまでをお送りします。
次回更新は三日以内。
それでは、今日もありがとうございました!
【次回予告】
「こんな所で妙なプライド出してどうすんのよ」
ローマ正教、禁断の組織『神の右席』の元一員――――――前方のヴェント
「俺も血生臭せェ『闇』から背を向けるなら、普通の人間として生きて
いくつもりなら、この程度の壁なンざ鼻歌交じりで越えなきゃならねェ」
『天使同盟(アライアンス)』のリーダー・学園都市最強の超能力者(レベル5)―――――― 一方通行(アクセラレータ)
「お姉様に付き従ってもう割と長い月日が経ちましたが、初めてお姉様をバカだと思いましたの」
第一七七支部所属の『風紀委員(ジャッジメント)』――――――白井黒子
「や、やかましい! とにかく試してみるわよ、構わないわよねミーシャ?」
学園都市・常盤台中学の超能力者――――――御坂美琴
「studm了承zmfrs」
『天使同盟』の構成員・水を司る大天使『神の力(ガブリエル)』――――――ミーシャ=クロイツェフ
597 : VIPに... - 2012/03/26 20:03:57.78 CQWtJxYD0 316/571乙
この一方さんなら穴冥も数回でフルコンできる気がする
603 : ◆3dKAx7itpI - 2012/03/29 11:10:09.73 ymqQwoTLo 317/571>>597
冥界帰航でしたっけ、音ゲーネタもやりたかったですねえ
皆様こんにちわ。更新を開始しに参りました。
えー今回は一方通行とヴェントがプリクラに挑戦するお話と、
白井とミーシャが美琴のとある事に付き合う小話を一つ。
小話とかいいつつ、こっそり伏線のようなものを張ってたりしますが……。
それでは、よろしくお願いします!
――――――――――――――――――――――
プリクラ機の室内は何故かピンクを基調としたカラーリングが施されており、
ハートや星のデコレーションで甘々な雰囲気が演出されていた。
当然、そんな擬音にしたら『きゃるきゃる~ん』や『ぽわわわ~ん』な空気に
まるで縁がない一方通行とヴェントはこの光景にうんざりとする他ない。
「出よォか」
「この程度の重圧に耐えられないようでは私と写真を撮る資格は無いわよ」
「オマエと写真を撮るにゃ資格が必要だったのかよ」
だがそういうヴェントもよく見ると冷や汗を掻きまくっており、気のせいか
息遣いも荒い。恐らく内心で懸命にこの『毒』と言っても過言ではない
スイートな室内の空気と戦っているのだろう。戦況は芳しくないようだが。
「なンつゥか、ラブホテルの部屋みてェだな」
「な、あ?」
一方通行の唐突な発言に思わず変な声が出るヴェント。
「あ、アンタそういう場所に行った事があるの?」
「さっきも言っただろォが。 情報ってのは求めていよォがいなかろォが
いつの間にか頭ン中に刷り込まれてるモンなンだよ。 つかプリクラ
知らねェクセにラブホテルは知ってンのか、知識偏ってンなオマエ」
「う、うるせえな」
プリクラとラブホテルに何の因果関係があるのかはわからないが……。
視線をあちこちに泳がせながら混乱するヴェントは必死で何か違う事を
想起しようとするが、いくら記憶回路を絞っても出てくるのは先程目撃
した男女二人組の学生が交わしていた口づけの場面だけだった。
このままでは『どうにかなってしまう』と危惧したヴェントは
半ばヤケクソ気味に話題をチェンジしようと試みる。
「そ、そういえばさっきアックアと勝負した時―――」
「気のせいかも知れねェが、なンかこの部屋やたらと狭くねェか?」
が、ヴェントの努力は一方通行の何気ない指摘によって遮られる形となった。
彼の言葉を聞いてヴェントは室内を見回す。先ほどカーテンから少し覗いた
時には気がつかなかったが、言われてみれば確かに狭いようにも感じる。
いや、明らかに狭い。プリクラ機の面積基準を満たしていないとしか
考えられないほど狭い。その証拠に、隣にいる一方通行とある程度密着
していないと壁に押し付けられてしまう体勢になる。
(まさかこの部屋……"そういうコンセプト"なのか?)
ヴェントの推測はズバリ的中だった。二人が利用しているこのプリクラ機、
男女のカップルが利用する事を前提とした仕様の少し珍しいタイプだったのだ。
『恋キュン密着倶楽部』という名称がプリクラ機の外面にデカデカと記載されて
いるのだが、確認作業を怠った二人はまんまと場違いな部屋へ入ってしまった。
「や、やっぱやめ――――」
「面倒くせェ、さっさと撮ってここから出るぞ」
もうさっきから紅潮状態が続いているヴェントの退室提案も虚しく、
一方通行は硬貨を投入口に入れてしまった。室内に"それっぽい"BGMが
流れだし、画面が切り替わると同時に手順を説明する音声案内が始まる。
「話聞けテメェ! 中止よ中止」
「オマエに否定形はねェンじゃなかったか?」
「た、たまにはあるわ!」
「そりゃ俺もオマエと同じ心境だがよォ、」
一方通行は音声ガイダンスを軽く聞き流し、タッチパネルを適当に
操作しながら話を続ける。
「こォいう笑えるくらい似合わねェ事でも、やらなきゃならねェンだ俺は。
さっきも言ったが今でも俺は乗り気じゃねェし、許されるならこの機材
を銀河の果てまでぶン投げてェとさえ思う。 だが、残念ながらそれじゃ
ダメなンだよ、今の俺は。 こォいうバカな事でもやらなきゃダメなンだ」
「こんな所で妙なプライド出してどうすんのよ」
「プライドっつーか……、例えばこンなプリクラとかゲーセンとか、
普通の人間なら当たり前のよォに生活の一部として割り切れるだろ?
俺も血生臭せェ『闇』から背を向けるなら、普通の人間として生きて
いくつもりなら、この程度の壁なンざ鼻歌交じりで越えなきゃならねェ」
「……、」
「ゲーセンに通ってるオマエと同じだよ。 俺はオマエを見習ってンだ」
暗部としての活動、第三次世界大戦、『天使同盟』、『第一九学区事件』。
ごくありふれた生活を送る上で必要のない要素に、一方通行は触れすぎた。
それは時に己から首を突っ込み、時に理不尽に巻き込まれたりもした。
そのような人間に必要なものは『何でもない日常』。一方通行も垣根帝督も、
風斬氷華もフィアンマも、"人間として"当たり前に生きるために自分の立場を
理解し、見直し、目を背けず、日々懸命に生きている。
非日常に浸りすぎた人間には、こういった馬鹿みたいに当たり前な環境に対し
真剣に取り組み、順応していかなければならないのだ。一方通行にとっては
その辺でスーパーでカートを押しながら買い物をするのもプリクラを撮るのも
違いはない。
だから、今ここでプリクラを撮る。阿呆らしく思えるかもしれないが、大事なことなのだ。
それがまず理由の一つであり、
「まァ、それと」
もう一つ、ただ単純明快な理由が彼にはあった。
「こォいう事言うのも抵抗があるが、イインじゃねェのかこォいうのも。
無理やりじゃなく自分を納得させて俺はそォ思ってる。 ようはアレだ、
せっかくだし、オマエと一緒に写った写真の一枚くらい持っておきてェンだよ」
「……」
真剣な話なのかシュールな笑いを狙っているのか判断し難い言葉に
ヴェントは閉口するしかなかった。
「オマエが最初に撮りたいと言った時、俺は乗り気じゃねェなンて言ったが
……実際はまンざらでもなかったりするのかもな。 まァ笑いたきゃ笑え、
悪いが俺は絶賛修行中の身でな。 あンまこォいう状況から逃げたくねェンだ」
「……何かこの前に垣根帝督と口論してた、アレ?」
「そォいうこった。 ……強制はしねェが、」
ヴェントは一方通行の横顔を見る。相変わらず見ていて腹の立つ顔だが、
どこか照れくさそうにしているその表情に彼女は観念したように笑った。
「……最初に持ちかけたのは私だしね」
「?」
「乗りかかった船だ、撮るわよ」
さっさと操作しやがれ、と完全な命令口調で吐き捨てるヴェント。
腕を組み、そっぽを向いてむくれた表情を浮かべる彼女に一方通行は
『はいはい』と面倒くさそうな調子で、しかし素直に撮影手順を踏んでいく。
『では、撮影を開始します! フレームに収まる位置を確認してください』
「チッ、こンな狭かったら顔も半分くれェしか写らねェじゃねェか……」
「だ、……」
撮影開始のカウントが始まったが、なかなか二人の顔がいい具合の位置に
収まらない。部屋が狭い上にフレームのサイズも微妙に小さいのはもちろん
この機体の仕様なのだが―――、
「だったらこうすればいいだろ、もたもたすんな!」
「なっ、オイ――――」
ヴェントは一方通行の細い腕に自分の腕をしっかり絡めると、そのまま
自分の方に彼の体を引っ張った。完全に密着状態になったところでタイミング
良くカメラのシャッターが降りる。
二人が撮った初めての写真。真っ赤な顔のまま引きつった笑顔のヴェントと、
強引に体を引き寄せられ苛立ったような表情の一方通行。お世辞にも良いとは
言えない写真が一二分割されて取り出し口に出てきた。
――――――――――――――――――――――
お昼。
「えー、とにかく。 この常盤台中学女子寮で過ごす限り、例え客人である
貴女でも寮の規則はしっかりと守ってもらいますの。 ご理解出来て?」
「mzighf了解lpvrgt」
「寮監には逆らわない事、暴飲暴食は以ての外、ここ以外の部屋に無断で
入室しない事、お姉様とあまりイチャイチャしない事、最低限これだけの
ルールは破らぬようお願いしますの。 基本的には歓迎ですのよ」
「czhj把握pufeg」
「会話が出来ねええええええ!」
実のところ会話はしっかりと成立しているのだが、ミーシャの放つ独特(過ぎる)言語を
理解出来ない白井黒子は頭を抱えながらベッドの上でのたうち回っていた。
食事を終えたミーシャ=クロイツェフと御坂美琴、白井黒子は三人で顔を合わせて
改めてこのミーシャという異形について議論を交わしていた。
とは言っても白井が『で、結局この怪物は何者なんですの?』と尋ね、美琴が
『んー、何か天使なんだって』と適当にも程がある解答を提示するの繰り返しであった。
話題の種であるミーシャはお嬢様が過ごす女子寮の部屋に興味津々といった様子で、
棚を漁ったり(白井に止められた)、故意ではないにせよ机を散らかしたり(白井に怒られた)、
二人の下着を漁ったり(白井に殴られた)、美琴の下着を白井の頭に被せたり(白井に褒められた)と、
いつも通りのやりたい放題スタイルを実行していた。
「あーんもう、これではコミュニケーションが成り立ちませんの。 以前に
常盤台で出会った時もそうでしたが、会話が出来ない以上客人としてもてなす
事はおろか普通に接する事もままなりませんの。 これは由々しき事態ですわ」
「ocjgw白黒lapqas」
「だからそれでは通じてるって言ってますの!! わたくしをそんな
オセロやオレオみたいに呼称するのはやめてくださいとあれ程――」
「yuds熊猫sjhot」
「今のは理解出来ませんでしたが結局同じ意味合いの事を言われた気がする!」
ギャーギャーと騒ぎながらも何だかんだで楽しそうに触れ合うアホ二人を放置し、
美琴は机に向かって作業を行なっていた。その手には精密作業を補助するドライバーや
ピンセット、その他に何やら細かい精密機器の部品、極小サイズのチップなど、
そのテのカテゴリーが苦手な人が見たら目眩を起こしそうな要素が机に広がっている。
「……で、ここをこうして……。 あ、ここはこの経路に繋げなきゃいけないのかな」
「……お姉様ぁ」
疲弊しきった調子の声色で白井が背を向けて黙々と作業を続ける美琴に尋ねる。
「先ほどから一体何をしておいでですの?」
「んー……ちょい待ち。 …………、……。 よっしゃ出来た!」
「?」
どうやら何かが完成したらしく、美琴は椅子から勢い良く立ち上がると
これ以上はないと断言出来るドヤ顔で二人の方へ振り返った。
「じゃーん!」
「……………………それ、は?」
「tsrot不可解cks反応loe感知psytxfr」
印籠よろしく腕を前に突き出して美琴はその完成した何かを二人に見せつけた。
それは一見、『首輪』のようだった。その首輪に比較的小さなワイヤレスマイクが
装着されている。
「黒子、アンタこいつとのコミュニケーションが成立しない事に苦悩してるわよね?」
「それはお姉様も同じでは?」
「marx微弱ahe魔力alpoe」
その首輪に、白井は怪訝な目を向けたがミーシャは違った。首を左右に傾げながら
不思議そうに美琴の下へ近づき、そろ~っと指で首輪をつんつんとつつき始める。
匂いを嗅いだりもしているが、この人外に嗅覚なるものは備わっているのだろうか。
「お、やっぱりアンタにはわかるの? これに組み込まれている『アレ』が」
「?」
「お姉様、勿体ぶらないで答えを教えてほしいですの」
よろしい、と美琴は咳を一度立て、首輪を天に掲げながら堂々と宣言した。
「対ミーシャ用コミュニケーションツール、その名も『ガブリンガル』よ!!!」
ぱちぱちぱち……と、とりあえず拍手しとくかみたいな雰囲気でミーシャが手を叩く。
対して白井は『お姉様、頭でも打ったのかな?』と口には出さないが内心では
正直美琴の言動に疑問を感じていた。
「その、ガブリンガルとは一体……?」
「私が今日、即興で開発したミーシャ専用翻訳機、と言ったところかなー。
ほら、『外』で開発された『バウリンガル』っていう犬の
コミュニケーションツールって名目の"オモチャ"があるじゃない?」
「ああ……ありましたわねそんなのも」
「アレの名称を拝借して名付けたの。アンタ、別名をガブリエルって
言うんでしょ? 語呂的にはグッドじゃない?」
こくん、とミーシャは首を縦に振る。ミーシャは美琴と白井に自分の本来の
呼び名を教えていた。もちろん、他言無用で。二人はなんだか仰々しくて
呼びにくいという理由で結局ミーシャと呼んでいるが、本人はもう気にしていない。
「ほ、翻訳機……ですの? この、眉唾ものですが別の世界からやって来た
ミーシャさんの意味不明の言語を翻訳するツール……? ど、どうやって
この方の言語の法則性を把握したんですの? そもそもなぜ首輪…………」
「ぶっちゃけ法則は人間である私には理解出来ないのよね。 あの火野とかいう
男に聞けばわかるかもしれないけど、どこに居るのかミーシャも知らないし。
で、私はとある極秘ルートから学園都市が秘密裏に保有してた物を入手したの」
「極秘ルート? 秘密裏に保有? お姉様、"また"わたくしに
内緒でヤバい案件に首を突っ込んでおられません?」
「…………、……。 足はつかないようにしたから平気よ。 黒子、『天使の涙』って聞いた事ある?」
若干の沈黙に、白井は眉をひそめて首を傾げた。
『天使』というキーワードが出てきた以上何らかの反応を示すべきのミーシャは
そもそも話を聞いていなかったらしく、さっきから美琴が持つ『ガブリンガル』をジッと観察している。
「私も詳細は知らないんだけど、かつて学園都市が研究、解明に着手した
曰く付きの宝石なんだって。 何でもそれを使えば天使と会話が出来る
けど、使用方法を誤れば死に至る……なんて、佐天さん辺りが食いつきそうよね」
「その胡散臭い宝石をパーツにして作ったのがこのガブリンガルですの?」
「私が入手出来たのは『天使の涙』のわずかな欠片だけ。 今はもう
その宝石の研究は凍結されてるらしくて、専門の研究機関も潰れた
らしいわ。 その時の『遺産』を今回、私が拾ってきただけの話よ」
美琴が開発した『ガブリンガル』は、その本体も兼ねた小さなワイヤレスマイクに
更に極小の精密機器と、一度落としたら二度と見つからない程小さな『天使の涙』を
第三位の頭脳をフル回転させて作り上げたアホ臭くも凄すぎるツールである。
少しでもその才能をどこか別の方向へ……普段は使っているのだが。
ミーシャの首に『ガブリンガル』を装着し、その状態でミーシャが声を発する。
その音波を『天使の涙』が組み込まれたワイヤレスマイクがキャッチし、
『天使の涙』を介して正しくミーシャの意思を伝える事が出来るという。
「ただし、正確に言語が再生出来るかどうかは『天使の涙』に一任しちゃってるけどね。
学園都市で研究されていたとはいえ、半分以上はオカルトの領域の宝石だもの。
いくら私でも個人でその宝石の性質を解明する事は出来ないから、そこはご愛嬌」
「お姉様に付き従ってもう割と長い月日が経ちましたが、初めてお姉様をバカだと思いましたの」
「や、やかましい! とにかく試してみるわよ、構わないわよねミーシャ?」
「studm了承zmfrs」
「いいのかよ」
白井のツッコミも虚しく、美琴の手によってミーシャの首に『ガブリンガル』が
装着される。その光景がまるで出社前の夫にネクタイを付けてあげる妻のように見え、
白井は理不尽な嫉妬の念をミーシャに送るが普通に無視された。
「これでよし。 さぁミーシャよ、今こそそなたの思いをあらん限りに打ち明けるのだー!」
「なんだか今日のお姉様、変……」
白井の言う通り、今日の美琴はいつもと違う奇妙なテンションが続いていた。
天使という別位相の存在と触れ合い過ぎてちょっと頭をやられてしまっている
のかもしれない。それならこの『ガブリンガル』とかいう才能の無駄遣いの結晶を
開発した行動も頷ける。
「wdefhndagpcbktrbemmr……、xwdnmd。 ……gbexezuratawyw」
ミーシャが声を放つ。翻訳には一度ミーシャの生声をキャッチして『天使の涙』が
解析し、マイクから翻訳されるという過程が生じるため多少のラグがあるようだ。
美琴も、疑わしい目を向ける白井も、何だかんだでドキドキしながら耳を立てて結果を待つ。
そしてついに、『ガブリンガル』によって翻訳されたミーシャの言葉が――――!
『わん! わんわん! わん! あおーん』
「結局バウリンガルじゃねえか! お姉様ちょっとバグりすぎですの、目を覚ませー!」
普段絶対にしないようなフライングクロスチョップをツッコミとして美琴に浴びせる白井。
彼女もまた、天使という領域に足を踏み入れて色々とおかしくなっているのだろうか。
(……)
しかし美琴としては『ガブリンガル』の成否など、実はどうでもよかったりする。
彼女はとある『主目的』を調べる過程で『天使の涙』の情報を得ただけなのだ。
主目的。
それは、美琴の立場からすれば決して見過ごすことのできない、とある『駆動鎧(パワードスーツ)』の情報だった。
631 : ◆3dKAx7itpI - 2012/03/29 11:36:50.23 ymqQwoTLo 343/571
今回はここまでです。
なんか久々にくっだらねえ話を投下した気がします。
実にどうでもいい的な意味で。でもこういうのもたまにはいいかなとも思います。
『天使の涙』のエピソード、もう覚えてないんで不安ですけど……。
で、また前回嘘をついてしまいました。申し訳ない。
一端覧祭五日目のラスボスが登場するのは次回です。
ようやく今回のゲーセン編も終わりが見えてまいりました。
次回更新は三日以内。
それでは、今日もありがとうございました!
【次回予告】
「じゃあじゃあ、ミサカとキャーリサがあなたの目の前で同時にひどい
風邪を引いたらあなたはどっちを看病するの? 言っておくけど、どっちも
なんてふざけた解答はNGなんだからってミサカはミサカは釘を刺しておく」
『妹達(シスターズ)』の司令塔――――――打ち止め(ラストオーダー)
「チッ、面倒くせェ……」
『天使同盟(アライアンス)』のリーダー・学園都市最強の超能力者(レベル5)―――――― 一方通行(アクセラレータ)
「このミサカに格闘ゲームで挑もうなんて無謀で愚かな挑戦状を
叩きつけてきたのはどこの馬の骨かなぁ? あひゃひゃひゃ」
『妹達』第三次製造計画(サードシーズン)で作られた御坂美琴のクローン――――――番外個体(ミサカワースト)
「今日、私がアンタに格ゲーで勝負を挑んだ理由、説明しなきゃダメかしら?」
ローマ正教、禁断の組織『神の右席』の元一員――――――前方のヴェント
650 : ◆3dKAx7itpI - 2012/04/01 16:41:23.82 KQlYIabRo 345/571
そもそも私はバウリンガルというものを使用したことがないのですが、
あれ本当に犬の言語を翻訳してくれる素敵ツールなんでしょうか?
私は犬を飼っていないので試しようがないのですが、どうも眉唾ものというか……。
こんにちわ、更新を開始したいと思います。
今回はいよいよヴェントが格ゲーに興じるきっかけとなったあの子を交え、
一端覧祭五日目(でしたっけ?)のアンロック編を終盤に持ち込もうと思います。
ちなみに今日はエイプリルフールなので何か嘘ネタしようと思いましたが、
既に午前は終了していたという……。
それでは、よろしくお願いします!
――――――――――――――――――――――
「で、撮ったプリクラはどォする訳?」
「ん……私が武器に使ってるハンマーにでも貼っておくわ」
「ボロボロになるわクソボケ」
本来は店内にあるゲームを隅から隅まで楽しもうという予定だったのだが、
プリクラの騒動で精神的に疲れ果ててしまった二人(特にヴェント)は結局
格闘ゲームの筐体に座って対戦をしていた。
「……また俺の勝ちか」
「何度でもやるわよ。 負けてもいいからとにかく経験を積まないと
上手くなれないんでしょ? ……努力なんてしたの、いつ以来だろ」
「ゲームにかける努力なンざたかが知れてるけどなァ」
「たかがゲームでも大事なんでしょ」
「……返す言葉もねェよ」
相変わらず一方通行は容赦なかった。圧倒的な猛攻でヴェントの操るジュレを
地に這いつくばらせている。が、午前中のような完全なワンサイドゲームという
展開ではなかった。
ヴェントもまた、着実に腕をつけてきていた。初めの方は一方通行が操作する
リュウタに一発のクリーンヒットも当てられなかった彼女が、今では調子の良い
時など敵体力の半分以上を減らせるくらいまで上達していたのだ。
「チッ」
「……今のは結構危なかったな。 あの女、この短時間でここまで上手くなるとは」
それでも一方通行の実力には遠く及ばないが(一方通行も現在進行形で経験を積んでいるため)、
恐らくアックア相手なら一〇回やって八回は勝てるであろうプレイヤースキルを備えている。
だが格闘ゲームというのはやはり対戦が主なゲームであり、対人戦となると本物の人間相手と
己の腕を競う事になる。例外こそままあれど、勝てば自分の実力が相手を上回っており、
負ければ自分が相手より下手クソなだけ。シンプルが故に、その実力面が浮き彫りになるゲームだ。
当然、負けたら面白くはない。負けても経験を得たと思えば、という考え方も正しいが、
それでも負けたら楽しくない、悔しいという気持ちが沸き上がってこなければ意味が無い。
格闘ゲームをプレイした経験を持つ人間の実に五割は、負けが重なりつまらなくなって
足を洗ったというケースである。
(……、)
ヴェントはどちらかというと負けず嫌いの人間にカテゴライズされる。それも当然、
彼女はこうして何でもない平穏を過ごす前はローマ正教最大の暗部組織、『神の右席』に
所属していた魔術師だ。こんなゲームなどではなく、本物の、正真正銘の『実戦』に
何度も駆り出されている過去を持つ。
実戦での負けは『死』を意味する。負けた事で被る『死』の定義は様々であるが、
肉体的に死のうが立場的に死のうが、『神の右席』という最重要位置に君臨する
ヴェントにとってはどちらも等しく『死』である。
故に彼女は負けを嫌う、避ける。根付いているのだ、敗北を拒否する体質が。
そんな彼女が今こうして格闘ゲームで一方通行にボコボコにされている。
これだけやっても一勝どころか、一ラウンドも奪えていない。
格闘ゲームで負けても死にはしないし立場が脅かされる心配もないが、負けたら
悔しいし面白くない事には変わりない。
そんなヴェントがなぜこうも対戦を続けられるのか。
(まんざらじゃないのは、私も同じって事か)
それは、楽しいからだ。数えきれない敗北を積み重ね、一方的に叩き潰され、
苦い思いを強いられても、楽しいと思っていられるから彼女は継続出来るのだ。
しかし敗北ばかりのこの対戦がどうして楽しいと思えるのか。
(対戦とか勝敗結果とかそういう問題じゃなく、)
ヴェントは筐体の向こう側にいる、姿の見えない一方通行に向かって
薄く笑いながら"認めた"。目を背けず、素直になる事が出来た。
(白いのと一緒に遊んでるって状況が、私にとって幸福なんだ)
何でも良かったのだ。今回がたまたま勝敗という結果付きの格闘ゲームだっただけで、
ヴェントは一方通行と過ごせるならどのような状況でも構わなかった。
薄々は理解していただろう。しかしなかなか自分の本当の気持ちを受け入れる事が
出来なかった。以前の、厳密には垣根帝督とぶつかる前の一方通行のように、
ヴェントもまた無意識に己の心と距離を取っていた。
(『楽しい』、というこの感情は悪くない。 意地張って目を逸らしてた
今までの自分をぶち殺したくなるくらいには、心地が良いと言える)
薄汚い定食屋だろうが、何の面白みもない映画館だろうが、ただ街路を歩いているだけであろうが、
どんな場所でも、どんな状況でも、ヴェントは無愛想で口を開けばすぐ暴言を吐く、杖をついた
髪の白い生意気な少年が傍に居れば幸せだった。
(……そろそろ頃合いかしらね。 『前方のヴェント』として自己を振る舞うのも)
そして人という生き物は、認識した幸福を手放したくないという気持ちが生まれてくる。
噛み締めた幸せを持続したいと、ずっと抱き続けたいと考える。
「白いの」
「あン?」
もはや何戦目かもわからなくなった対戦で敗北したヴェントは連コインを中断し、
席を立って一方通行の下へ歩み寄った。
「どォした、さすがにこンだけ負けが続いてやる気が無くなったか?」
「"決着"をつけるわ。 あの女をここへ呼べ」
「はァ?」
出し抜けな注文に一方通行は首を傾げた。が、ヴェントの実直な視線を受けた彼は
茶化す素振りも見せず詳細な説明を要求する。
「あの女ってのは、」
「番外個体。 アンタ、連絡先くらいは知ってるんでしょ」
「あいつとやる気か? まだ俺にすら勝てねェって段階なのに」
「アンタよりあの女の方が強いの?」
「……知らねェけどよ」
ヴェントが要求したものは、つまりは『ラスボスの呼集』。
彼女をゲーセンへ通わせる原因となった女、番外個体との決着であった。
かつてヴェントは成り行きで番外個体と格闘ゲームで対戦し、それはもう
見るも無残にギタギタにされてしまった。初心者狩りなどというレベルではない、
対戦相手の心をへし折るどころか粉々にしてしまう程の圧勝ぶりを番外個体は
見せた。明らかな悪意を以ってヴェントを潰したそのプレイスタイルは実に彼女らしい。
「呼べって……まァイイけどよ。 勝てるのかよこンな付け焼刃の特訓で」
「アンタと今日ここに来る以前にも、私は毎日のようにゲーセンへ
通っていたわ。 ……本格的に特訓したのは今日が初めてだけど」
「急ぐ必要はねェだろ。 今年いっぱいは練習に費やして充分に上達してからでも―――」
「私の中で『私』との折り合いがついたのよ。 気付けたとも言えるか。
思い立ったが吉日、でもいいわ。 とにかく、今日あの女と決着をつける」
「……? ……よく分からねェが、まァ勝手にしてくれ」
一方通行は番外個体に連絡するためにポケットから携帯電話を取り出した。
登録番号をプッシュして耳に添える前に、ヴェントからこんな質問が飛んできた。
「白いの」
「?」
「私、勝てると思う?」
「嘘ついてもしょうがねェからハッキリ言うが、十中八九無理だろ」
「だったら、私があの女に勝ったら……一つだけ私のお願いを聞いてもらうから」
「なンでそォなる……。 しかも、"お願い"たァオマエらしくねェな」
「そうね。 命令、私の命令に従ってもらう」
「…………、了解」
ヴェントの真意は掴めなかったが、とりあえず一方通行は彼女との賭けに乗った。
ボタンを押し、ラスボスである悪意一〇〇パーセントのクローンに電話をかける。
――――――――――――――――――――――
「待たせちゃったかにゃーん?」
「まだ一分も経ってねェぞ!? もしかして近くに居たのか?」
連絡をしてからわずか数十秒後。一方通行とヴェントが居る
ゲームセンターの自動ドアが左右に開かれた。そこに佇むはこれから
ヴェントが格闘ゲームで決闘を挑む、いうなれば"ラスボス"。
番外個体(ミサカワースト)。一体ミサカネットワークのどこにそこまでの
悪意が溢れていたのか、彼女の顔は『天罰術式』にお誂え向きの憎たらしい
笑顔で染まりきっていた。
「み、水……ってミサカはミサカは真冬であるにも関わらずカラカラに
干上がった喉を潤すため冷たい水を要求してみたり……ぜぇぜぇ……」
番外個体の隣に、彼女から悪意を抜いてそのまま小さくしたような少女、
打ち止めがフラフラとした足取りで店内に入ってきた。
彼女の様子から察するに、どうやら二人は一方通行の電話を受けて走ってきたらしい。
「黄泉川の家からここまでどれだけ距離があると思ってンだ……。
少なくとも一分以内に来れる距離じゃねェぞ……」
「ここんとこ暇が続いてたからね~。 あ、そうそう、あなたが
世話してたイギリスの王女様、すっかり元気になったから」
「キャーリサか」
「報告するよう頼まれててねえ。 そういう訳だから、伝えたよん」
風邪を引いてダウンしていた第二王女の回復報告を受けた一方通行は
つまらなそうな調子でそっぽを向いた。これが彼なりの『胸を撫で下ろす』
なのだから紛らわしい。というか、素直ではない。
「で?」
番外個体は死にかけの打ち止めを無視してつかつかと店内に入り、
額に手を当てながらわざとらしく視線を動かして何かを捜す仕草をする。
「このミサカに格闘ゲームで挑もうなんて無謀で愚かな挑戦状を
叩きつけてきたのはどこの馬の骨かなぁ? あひゃひゃひゃ」
「私よ」
「うん、知ってる」
番外個体の顔を正面から睨みつけ、これまたわざとらしく足音を
立てながらヴェントは彼女に接近する。ヴェントも番外個体に
負けず劣らずの悪に満ちた笑顔だった。
ひゅー、ひゅーと掠れた息を漏らす打ち止めの手を引いて自動販売機に
連れて行く一方通行など二人の視界には入っていない。彼女達は吐息が
かかる距離まで顔を寄せ、バチバチと火花を散らせていた。ていうか
番外個体が本当に前髪から紫電を放っている。非常に危ない。
「お久しぶりですねえ~魔術師さん」
「今日、私がアンタに格ゲーで勝負を挑んだ理由、説明しなきゃダメかしら?」
「くふっ、大方、ずっと前にこのミサカ相手に格ゲーでボッコボコにされて、
その忸怩たる思いを惨めったらしく今日まで引きずってぇ、第一位の前で
膝をついて懇願して修行を積んだからぁ、その成果をこのミサカ相手に
見せつけてやろうってとこでしょぉ? あーやだやだ、根に持つ女って☆」
「話が早くて助かるわ」
「……へえ、安い挑発には乗らなくなったか。 つまんにゃーい」
もっとも、ここでヴェントが番外個体の挑発にあっさり乗って
リアルファイトに突入したらこのゲーセンは廃墟と化していただろう。
だがそれでも二人から溢れるどす黒いオーラはあっという間に店中を
覆い尽くしてしまった。遠目でその光景を見ている店員の青年の膝が
ガクガクと笑っている。並の人間がこの場に居たら卒倒していたかも知れない。
当然、ヴェントと番外個体、一方通行と打ち止めを除く店内の客は
全員我先にと逃げ出してしまった。完璧に営業妨害である。
そして一方通行に買ってもらったオレンジジュースを一瞬で飲み干した打ち止めは、
「ぷっはー! これのために生きてますなぁってミサカはミサカは
改めて地球の恵みである水に感謝の意を送ってみたり!」
「つかなンでオマエまでついてきてる訳?」
「あなたがいる所にミサカがいる、って言いたいんだけど……
ってミサカはミサカはあざといジト目を作ってあなたを見上げてみる」
「あン?」
ゴミ箱に空き缶を放り投げ(入ってない)、腰に手を当てながら打ち止めは
一方通行の顔をジーッと凝視する。
「各地に点在するミサカから聞いたんだけど、あなた、ヨミカワの家に
いるキャーリサとホテルでイチャついておったらしいではないか、
ってミサカはミサカは当時受信した動画を再生しながら確認してみる」
「!?」
「しかもベッドの上で? スプーンであーん? うふーん? あなたが
年増フェチだとは思わなかったってミサカはミサカは失望してみる」
「話を飛躍させすぎだァ!! クソッ、一〇〇三二号が発信源だな。
つかあれはただあの女を看病してただけでイチャついてなンかねェよ!」
「ミサカをほったらかしにして看病? ってミサカはミサカは追撃してみる」
「何様なンだよオマエは!! なンで俺の行動の優先順位のトップに
オマエが君臨してる事になってンだ! キャーリサだって知らねェ
仲じゃねェンだ、放っとく訳にはいかねェだろォが」
「じゃあじゃあ、ミサカとキャーリサがあなたの目の前で同時にひどい
風邪を引いたらあなたはどっちを看病するの? 言っておくけど、どっちも
なんてふざけた解答はNGなんだからってミサカはミサカは釘を刺しておく」
「……、」
「即答しろー!! ってミサカはミサカはグーでポカポカ殴ってみたりー!」
自動販売機の前で痴話喧嘩をするアホ二人を放置して、ヴェントと番外個体は
因縁深い『スーパーストライキファイターⅣ』の筐体へ移動していた。
ちなみに打ち止めの問いに対する一方通行の答えは当然、『どっちも』である。
彼は口にはしなかったが。
「さっさとこのくだらない因縁を断ち切るわよ」
「因縁だと思い込んでるのはあなただけじゃないのかなぁ?
あ、でもその前にちょっと肩慣らししてもいいかな?」
「CPU相手に?」
「いいや――――――、ねえ~第一位」
「ンだよ、こっちは今取り込み中……痛てェ痛てェこのクソガキがァ!」
その完成度の低さに原作ファンが修羅と化した某格ゲーのキャラの如く、
打ち止めにマウントからのパンチを叩き込まれていた一方通行は返事をするのも
いっぱいいっぱいといった様子だ。
「一回だけでいいから対戦しようよ。 本命の魔術師さんと
やる前にウォーミングアップしておきたいからさぁ」
「し、白いの相手にウォーミングアップだと……? あ、アンタ、あいつと格ゲーで対戦した事あるの?」
「うんにゃ、あの人こういうゲームとかやらないから対戦なんてした事ないよ。
……ふむ、そう考えると不思議だねえ。 あなたとだったら第一位もこんな
ゲームに付き合ってくれる訳だ? これは上位個体へのいい土産話になるね」
「……いい性格してるわ、アンタ」
「いえいえ、あなた程ではないですよ。 あひゃひゃひゃ!」
ぐにゃあ~、と二人を取り囲む周囲の空間が複雑に歪んだ。あらゆる『負』の感情が
店内を所狭しと暴れまわる。店員の青年が重圧に耐え切れず過呼吸を起こしているが
放置しても大丈夫なのだろうか。
「あァクソ、イイ加減離れろクソガキ。 ……で、俺相手に肩慣らしか」
「ミサカ、誰かさんにゲーム機壊されたせいでしばらくゲーム出来なかった
からねえ、プレイするのも久々だし、カンを取り戻しておかないと。
どうせあなたの事だ、今日のプレイでかなりの腕前になってるんだろ?」
「う……」
「チッ、面倒くせェ……」
そんな訳でまずは一方通行vs番外個体の対戦。ヴェントは一方通行側の筐体で
対戦を観察する事にし、プンスカと怒ったままの打ち止めは頬を膨らませながら
番外個体側の筐体へ移動した。
673 : ◆3dKAx7itpI - 2012/04/01 17:02:26.82 KQlYIabRo 368/571
はい、今回はここまでです。
久々に登場した打ち止めと番外個体ですが、書いてて楽しかった記憶があります。
というか今の書き溜めで美琴を書いているのですが、ミサカ系キャラが可愛く
思えてきました。いや今までも可愛いとは思ってましたけど。
次回も引き続き、こんな感じでいきます。
次回更新は三日以内。
それでは、今日もありがとうございました!
【次回予告】
「国へ帰るんだな、あなたにも家族がいるだろう? って、
第一位に家族なんざいねえかあ、いやあゴメンゴメン☆」
『妹達(シスターズ)』第三次製造計画(サードシーズン)で作られた御坂美琴のクローン――――――番外個体(ミサカワースト)
「仇ィ討つンだろ、番外個体を倒して……仇討ちを成し遂げるンだろ!」
『天使同盟(アライアンス)』のリーダー・学園都市最強の超能力者(レベル5)―――――― 一方通行(アクセラレータ)
「か、仇……?」
ローマ正教、禁断の組織『神の右席』の元一員――――――前方のヴェント
「急に何言い出したのこの人、ってミサカはミサカはちょっと本気でこの人の容態を心配してみたり」
『妹達』の司令塔――――――打ち止め(ラストオーダー)
続き
蛇足 とあるフラグの天使同盟 漆匹目【後編】