1 : ◆3dKAx7itpI - 2012/01/28 18:04:11.48 MBMzVLU9o 1/571


この二次創作はライトノベル『とある魔術の禁書目録』の登場人物、一方通行を主人公にした
天使と人間が織り成す感動のラブストーリーです。ラブ100%です。もう甘々です。吐き気がする。

【本編】

一方通行「フラグ・・・ねェ」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1285654962/

上記のスレが本編最初のスレです。こっからグダグダと続いていきます。


【本編のエピローグ・続編】

蛇足 とあるフラグの天使同盟
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1307804166/

蛇足 とあるフラグの天使同盟 弐匹目
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1310210981/

蛇足 とあるフラグの天使同盟 参匹目
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1313069422/

蛇足 とあるフラグの天使同盟 肆匹目
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1316009458/

蛇足 とあるフラグの天使同盟 伍匹目
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1319277226/

蛇足 とあるフラグの天使同盟 陸匹目
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1322982536/


上記のスレからの続きとなっています。もしお暇でしたら、ご一読を。


以下、留意点など。


・更新は基本的に三日以内です。時間帯は不安定。
・キャラ崩壊が起きています。ご注意ください。
・地の文と台本形式、両方でお送りします。
・誤字脱字のバーゲンセール。発見した方は厳しく指摘してやってください。
・書き溜めは多分尽きる事は恐らくないでしょう。


元スレ
蛇足 とあるフラグの天使同盟 ?匹目
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1327741451/



【関連】

◆本編

1スレ目
一方通行「フラグ・・・ねェ」【1】
一方通行「フラグ・・・ねェ」【2】
一方通行「フラグ・・・ねェ」【3】
一方通行「フラグ・・・ねェ」【4】

2スレ目
一方通行「フラグ・・・・・・なのかァ?」  風斬「そうですよ!」【1】
一方通行「フラグ・・・・・・なのかァ?」  風斬「そうですよ!」【2】
一方通行「フラグ・・・・・・なのかァ?」  風斬「そうですよ!」【3】
一方通行「フラグ・・・・・・なのかァ?」  風斬「そうですよ!」【4】

3スレ目
一方通行「フラグ・・・・・・じゃねェだろ」  エイワス「まだそんな事を言っているのか」【1】
一方通行「フラグ・・・・・・じゃねェだろ」  エイワス「まだそんな事を言っているのか」【2】
一方通行「フラグ・・・・・・じゃねェだろ」  エイワス「まだそんな事を言っているのか」【3】

4スレ目
一方通行「フラグ・・・・・・だろォな」  垣根「ち・・・・・・くしょ・・・・・・う」【1】
一方通行「フラグ・・・・・・だろォな」  垣根「ち・・・・・・くしょ・・・・・・う」【2】
一方通行「フラグ・・・・・・だろォな」  垣根「ち・・・・・・くしょ・・・・・・う」【3】

5スレ目
一方通行「フラグだと? って事ァ」  レッサー「私はあなたが好きって事です♪」【1】
一方通行「フラグだと? って事ァ」  レッサー「私はあなたが好きって事です♪」【2】
一方通行「フラグだと? って事ァ」  レッサー「私はあなたが好きって事です♪」【3】

6スレ目
一方通行「そンなフラグはヘシ折ってやる」  ヴェント「・・・・・・あ?」【1】
一方通行「そンなフラグはヘシ折ってやる」  ヴェント「・・・・・・あ?」【2】
一方通行「そンなフラグはヘシ折ってやる」  ヴェント「・・・・・・あ?」【3】

7スレ目
一方通行「いいか、フラグってのはなァ」 ガブリエル「vbhti素敵apfrgt」【1】
一方通行「いいか、フラグってのはなァ」 ガブリエル「vbhti素敵apfrgt」【2】
一方通行「いいか、フラグってのはなァ」 ガブリエル「vbhti素敵apfrgt」【3】

8スレ目
とあるフラグの天使同盟【1】
とあるフラグの天使同盟【2】
とあるフラグの天使同盟【3】

9スレ目
蛇足 とあるフラグの天使同盟

◆蛇足(続編)

1スレ目(9スレ目)
蛇足 とあるフラグの天使同盟 壱匹目【前編】
蛇足 とあるフラグの天使同盟 壱匹目【後編】

2スレ目(10スレ目)
蛇足 とあるフラグの天使同盟 弐匹目【前編】
蛇足 とあるフラグの天使同盟 弐匹目【中編】
蛇足 とあるフラグの天使同盟 弐匹目【後編】

3スレ目(11スレ目)
蛇足 とあるフラグの天使同盟 参匹目【前編】
蛇足 とあるフラグの天使同盟 参匹目【後編】

4スレ目(12スレ目)
蛇足 とあるフラグの天使同盟 肆匹目【前編】
蛇足 とあるフラグの天使同盟 肆匹目【後編】

5スレ目(13スレ目)
蛇足 とあるフラグの天使同盟 伍匹目【前編】
蛇足 とあるフラグの天使同盟 伍匹目【中編】
蛇足 とあるフラグの天使同盟 伍匹目【後編】

6スレ目(14スレ目)
蛇足 とあるフラグの天使同盟 陸匹目【前編】
蛇足 とあるフラグの天使同盟 陸匹目【中編】
蛇足 とあるフラグの天使同盟 陸匹目【後編】



【注意】

この蛇足(後日談)は【未完結】です。
あらかじめご了承ください。

2 : ◆3dKAx7itpI - 2012/01/28 18:05:16.99 MBMzVLU9o 4/571



                   【登場人物紹介・『天使同盟(アライアンス)』の構成員】


【一方通行(アクセラレータ)】


このSSの主人公。学園都市最強、超能力者(レベル5)第一位の『一方通行』の能力を持つ白髪の少年。
第三次世界大戦を経て大天使ミーシャ=クロイツェフに好意を抱かれてしまった哀れで幸せな男。
『第一九学区事件』後、ひょんな事から垣根帝督と衝突してしまうが、その事もあって一方通行は
他人(特に異性)との交流について真剣に考えるようになる。現在はフラグを立てた女性陣と真剣に
向き合い、自分という存在と方向を確立しようと奮闘している。


【ミーシャ=クロイツェフ】


『神の力(ガブリエル)』。本作のヒロインにして『天使同盟』の顔。水を司る本物の大天使。
第三次世界大戦で意思疎通をした一方通行に好意をよせ、以後は彼と共に人間界で生活する。
『第一九学区事件』で周囲の仲間達に救ってもらった後も学園都市に居座り自由奔放に暮らす。
現在、フィアンマと打ち止めを巻き込んで一方通行に贈る『サプライズ』を進行している。


【風斬氷華(ヒューズ=カザキリ)】


『天使同盟』に咲き誇る一輪の花。『天使同盟』内でも比較的常識を持ち合わせている健気な女の子。
油断をするとつい風斬がヒロインなのではないかと勘違いしてしまうほどヒロインをしている、はず。
『第一九学区事件』も好意を寄せる一方通行相手になかなか積極的になれずにいるが、健気に彼を
遠くから見守っている。風斬氷華専用ルートが蛇足にて確定した。

3 : ◆3dKAx7itpI - 2012/01/28 18:05:43.62 MBMzVLU9o 5/571


【エイワス】



このままではエイワスの命が危ない! みんなの応援が、彼(彼女)に勇気を与えるぞ!



【垣根帝督】


学園都市第二位の超能力者(レベル5)、『未元物質(ダークマター)』の能力を持つ少年。
『第一九学区事件』で脳をひどく損傷し、能力と魔術が使用出来なくなってしまった。
ひょんな事から一方通行と衝突してしまい、彼は一時的に『天使同盟』から離脱した。
現在はドレスの少女と共に過去に訪れた魔術サイドの地へ足を運び、能力と魔術を
取り戻す修行に専念している。一方通行同様、異性との向き合い方がわからないでいる。


【フィアンマ】


『天使同盟』最後の構成員。ローマ正教『神の右席』のリーダーを務めていた最上級魔術師。
様々な経緯を辿った末、『天使同盟』唯一の魔術師として加盟する事になった。
組織内でも比較的常識人ではあるが、それでもたまに意味不明のボケに走ってしまったりする。
現在はミーシャと打ち止めの協力を受けながら、とある『計画』を進行中なのだが…………。

4 : ◆3dKAx7itpI - 2012/01/28 18:06:10.99 MBMzVLU9o 6/571



                   【閲覧可能エンドルート一覧】



・【風斬氷華育成計画 -AIM Simulation-】

・【兎追いしかの街 -Wonder land-】

・【闇喰らわぬもの祈るべからず -Saint-】

・【???】 

・【???】 

・【第一位と第二位の垣根を越えて -Identity-】

・【???】 

・【???】

5 : ◆3dKAx7itpI - 2012/01/28 18:07:00.12 MBMzVLU9o 7/571


テンプレは以上です。っつーか文字化けしてるよスレタイ!!ちくしょう!!
前スレでこれから投下を始めますので、今しばらくお待ちください。

9 : ◆3dKAx7itpI - 2012/01/28 18:50:22.70 MBMzVLU9o 8/571


前スレ、埋まりました。ほんとうにありがとうございます。

で、このスレなんですが……すみません、タイトルが文字化けを起こしております。
正しくは『蛇足 とあるフラグの天使同盟 七匹目』なのですが、『七』の大字が
文字化けを起こしたようで……。今まで大丈夫だったのに、何だよちくしょう……。

ですので、このスレは蛇足七つ目のスレとなります。皆様、よろしくお願いします。

以下、新スレでお話無しは寂しいのでさっき適当に書いた小ネタをsageで投下します……。

10 : ◆3dKAx7itpI - 2012/01/28 18:51:01.66 MBMzVLU9o 9/571


――【フィアンマ】


垣根「『天使同盟(アライアンス)』の新参者」

フィアンマ「立場的に言えば俺様は一番の下っ端ということになるな」

エイワス「一番の下っ端という言葉もおかしいと言えばおかしいが」

ガブリエル「xybi頼airf」

風斬「でもフィアンマさんが下っ端って……何だか少し違和感ありますよね」

フィアンマ「と、言うと」

11 : ◆3dKAx7itpI - 2012/01/28 18:51:37.96 MBMzVLU9o 10/571


風斬「フィアンマさんって……『神の右席』のリーダーだったんですよね?」

一方通行「黒歴史だな」

フィアンマ「暗部なだけにな」

垣根「そのリーダーが今となっては落ちぶれたもんだよな」

フィアンマ「何故だかは俺様にもわからんが、お前にだけは言われたくない」

一方通行「つか俺達の間に下っ端もクソもねェだろォよ」

エイワス「左様だな。 我々は、何時如何なる場合も心身を共にする同士だろう」

垣根「ない」

一方通行「それはない」

12 : ◆3dKAx7itpI - 2012/01/28 18:52:17.19 MBMzVLU9o 11/571


フィアンマ「もう俺様に立場を言及する資格などないよ」

垣根「俺様(笑)」

一方通行「今時そンな一人称使ってるヤツもいねェよなァ」

フィアンマ「……『フィアンマ』として振る舞うのなら俺様で通す他ないんだが」

垣根「自分で言ってて恥ずかしくねえの?」

エイワス「出ました、新人いびり」

フィアンマ「俺様の何が悪い。 別にお前らに迷惑かけてないだろ」

垣根「溢れ出る小物臭」

一方通行「それもオマエには言われたくねェだろォな」

13 : ◆3dKAx7itpI - 2012/01/28 18:53:03.47 MBMzVLU9o 12/571


ガブリエル「ngjc意地悪guy禁止cip」ゴツン

垣根「わかったから殴るのをやめろ……首の骨がズレた……」

フィアンマ「ふん。 まぁ、お前らが俺様をどう思おうと勝手だが」

風斬「でも私……頼りにしてますから、フィアンマさんのこと」

ガブリエル「xhye同意pvdgt」

フィアンマ「…………何に対してどう期待しているのかは知らんが……」

エイワス「照れる事はないだろう」

フィアンマ「照れてなどおらん」

14 : ◆3dKAx7itpI - 2012/01/28 18:53:44.41 MBMzVLU9o 13/571


――【垣根帝督】


一方通行「死ね」

フィアンマ「そもそもお前、一度死んだんだろう?」

垣根「何の因果か、こうして生き返ったけどな」

エイワス「その点に関しては訂正を加えなければならんだろう。
     彼は死んでなどいなかったのだよ、学園都市的には」

風斬「怖い話ですけど……脳さえあれば死者として扱わないっていう……」

エイワス「脳に開発を施す学園都市ならではの、死の定義だな」

15 : ◆3dKAx7itpI - 2012/01/28 18:54:19.45 MBMzVLU9o 14/571


ガブリエル「qqtud開帳spdso」

垣根「やめろテメェ! 頭を割ろうとすんじゃねえ」

フィアンマ「そして死亡フラグに定評のある男、か」

風斬「私個人の意見なんですが……別に垣根さん、そんなに立ててないですよね?」

エイワス「立てても悉く回避している傾向にあるな」

垣根「回避しねえと死ぬだろうが」

ガブリエル「ycnr素敵xnvb」

風斬「たくましいですよね……」

16 : ◆3dKAx7itpI - 2012/01/28 18:54:48.85 MBMzVLU9o 15/571


垣根「お、好感度上がった?」

風斬「そうですね……もう少し好感度が上がれば、グラフのバーが下から顔を出すかも……」

垣根「お前俺の事どんだけ嫌いなんだよ!?」

フィアンマ「ムードメーカー的なイメージがあるな、組織内の」

垣根「暗部の頃はこんな感じじゃなかったんだけどな」

エイワス「良き傾向と捉えて構わないだろう。 これが垣根帝督の正体なのだよ」

垣根「ちっ……。 ま、俺、お前ら大好きだからな。 白髪のクズ以外は」

一方通行「死ね」

17 : ◆3dKAx7itpI - 2012/01/28 18:55:17.00 MBMzVLU9o 16/571


おしまい。

大変失礼しました。ではまた、三日以内に。

26 : VIPに... - 2012/01/29 10:24:42.54 N8zc0Ch6o 17/571

前スレの>>974から見れねえ
スレ落とすの早すぎだろ……

35 : ◆3dKAx7itpI - 2012/01/30 09:50:50.16 5bYIzcmbo 18/571

>>26
申し訳ないです……未だに上手く次スレ誘導できない>>1をお許しください。
前回の更新は垣根がイギリスに着いて、ランベスの女子寮に顔を出そうかなと
考えている辺りで終わりです。お手数ですが、参考までに……。

おはようございます。更新を開始します。

このスレで投下した小ネタ、初期の頃のギャグを思い出してくださった方も
いらしたようで大変嬉しく思いました。最近ああいうノリやってないので
たまに小ネタ書いてはしかし投下せずを繰り返したりしています。

さて今回は垣根帝督が例の女子寮へ。久々の再会に胸踊らせる彼ですが、
何やら事態はそう簡単にほのぼのとさせてはくれないようです。

それでは、よろしくお願いします!

36 : ◆3dKAx7itpI - 2012/01/30 09:52:14.62 5bYIzcmbo 19/571



――――――――――――――――――――――


ルチアは絶体絶命の危機に陥っていた。


黒の修道服で身を包んだ彼女は現在、ランベスの人気のない路地で
息を潜めている。人一人がやっと通れるような汚い路地から時折顔を
覗かせては大通りの路地の様子を確認する。

そもそも彼女がいる大通りは、人気のない場所ではなかった。

朝から商店の開店準備のためにこの道を通る住人や、学校へ向かう
学生などが頻繁に利用する通路なのだが、不思議な事にさっきから
人っ子一人通りかかる事はない。

37 : ◆3dKAx7itpI - 2012/01/30 09:53:16.38 5bYIzcmbo 20/571


だがそれは、ルチアにとっては不思議な事でも何でもなかった。

簡単な話。"連中"は人払いのルーンを使って人間を大通り周辺に
近づけないよう手を打っているだけであり、ルチアもそれに気付いている。
ならばルーンの札を剥がせばいいのだが、そう簡単に見つかるような場所に
"連中"が札を貼ってくれている訳がなかった。


結論を言うと、ルチアは追われていた。


昨今、魔術サイドで狂信的な志を振り撒く、『暴徒』と呼ばれる連中に。


(まったく……想像以上の連中ですね。 まだ心にいくらかの余裕が
 残っていると判断した私がバカでしたか。 まさかあれ程までに
 『天使同盟(アライアンス)』に心酔しているとは……。 念のため、
 車輪を持ち運んでおいて正解でしたね。 問題はどう切り抜けるか)

38 : ◆3dKAx7itpI - 2012/01/30 09:54:14.85 5bYIzcmbo 21/571


額の汗を拭い、ルチアは手に構える『車輪』を強く握り直す。
彼女が使用する魔術は聖カテリナの『車輪伝説』をモチーフにしたもので、
車輪を爆散させ、その破片で敵を攻撃するという仕組みの魔術なのだが。


(二対一では……、いえ、多人数相手でも対応出来るのが『車輪』の術式。
 しかし相手の技量は私より遥かに上……。 拮抗するならまだしも、
 これでは次に相対したら一気に畳み掛けられてしまう…………)


ルチアが『暴徒』の存在を知ったのは、オルソラ=アクィナスとアンジェレネが
勝手に寮を抜けだしてどこかへ行った事実が発覚し、彼女が激怒した後だった。
アニェーゼやシェリーに手を借り、オルソラとアンジェレネの行方を調べていく内に
『天使同盟』の存在を歪んだ方向で狂信する『暴徒』の情報を入手したのだ。

そして今日の早朝、ルチアが朝の散歩に出掛けている時に、彼女は偶然目撃した。
平和な街で見かける事はまずない、やたらボロボロになったコートを着た二人の男。
男達の会話が耳に入り、ルチアは思わず声をかけてしまった。

39 : ◆3dKAx7itpI - 2012/01/30 09:55:36.17 5bYIzcmbo 22/571


『「天使同盟」……。 つかぬ事をお聞きしますが、あなた達が例の―――』


それだけだった。迂闊だった。所々が破けたコートを着た不審な男二人組に、
『あなた達は「暴徒」の一味なのか』と出し抜けに尋ねるルチアもルチアだが、
無理もない。明らかに様子のおかしい二人組が『天使同盟』の名を口にすれば、
本物の『天使同盟』を知っているルチアに対し声をかけるなという方が酷だ。

そして『暴徒』かどうかの有無を尋ね、二人組が魔術サイドに関わっていない
一般人なら首を傾げるだろうし、『暴徒』の淘汰に勤しむ魔術結社の魔術師なら
『我々も暴徒の連中に手を焼いている。 この身なりも先ほど暴徒によって――』
等と言って事情を説明してくれるだろう。少なくとも、ルチアはそう判断して声をかけた。


二人組の男は、ルチアに対して言葉ではなく害意のこもった『魔術』で応じた。


40 : ◆3dKAx7itpI - 2012/01/30 09:56:33.18 5bYIzcmbo 23/571


ルチアは咄嗟に相手の攻撃をかわす。背後で大きな爆発が発生した。
そしてルチアは悟った。こいつらが例の『暴徒』であると。


そこから先は追って追われての戦闘が始まり、自分と相手の力量の差を
正確に計ったルチアは現在、細い路地に身を隠しているという訳だ。


(シスター・アニェーゼ達が敵の存在に気付いていれば……。 気付いて
 いなくとも私がどうにかこの状況を切り抜け、寮に戻って事情を説明
 すれば……。 いえ、駄目ですね。 彼女達をこんなくだらない事に
 巻き込む訳にはいきません。 私が、一人でどうにかしないと……)


路地から顔を出し、大通りの様子を確認する。
暴徒の二人の姿はない。人の気配すらない。遠くから車が何台も走る
走行音が聞こえる。まるでここら一帯だけ、その日常から切り離された
かのような錯覚に陥る。

41 : ◆3dKAx7itpI - 2012/01/30 09:57:02.94 5bYIzcmbo 24/571


(とりあえず場所を変えますか)


最大限の警戒網を張り巡らせながら、ルチアはゆっくりと路地から大通りへ踏み出そうとする。




「示すは『左方』。 司るは『緑』。 『アルマデル』の声に呼応するは、万物を天に誘う『風』」




にも関わらず、その詠唱が鼓膜を揺さぶるまでルチアは気付くことが出来なかった。
ルチアが潜んでいた細い路地を作り出す両端の建造物。その内一つの屋上に暴徒の
魔術師が潜んでいた事に。

42 : ◆3dKAx7itpI - 2012/01/30 09:57:56.53 5bYIzcmbo 25/571


「――――――ッッ!!」


相手の姿を確認する事もせず、ルチアは地面に飛び込むように跳躍する。
直後、さっきまでルチアが居た位置に局地的な暴風が発生した。
暴風は地面をドリルのように抉り、両端にあった建物の壁をクッキーのように粉砕してしまう。
この風に巻き込まれていればルチアの肉体はズタズタに引き裂かれてしまっていただろう。

しかしそこで安堵の息を吐く事は叶わなかった。


「示すは『右方』。 司るは『赤』。 『アルマデル』の声に呼応するは、焦熱地獄を産みし『炎』」


ルチアが飛び出した大通り。先程まで誰もいなかったはずの大通りの前方には、
片手に分厚い書物、片手に赤い蝋を固めて作った奇妙な像を携えたもう一人の暴徒の姿があった。
蝋で出来た像が真っ赤に輝く。瞬間、ルチア目掛けて蝋から巨大な火球が射出された。

43 : ◆3dKAx7itpI - 2012/01/30 09:59:11.92 5bYIzcmbo 26/571


ルチアは慌てて車輪を前面に構えガードの体勢に移る。火球は車輪に直撃し、
爆散して、ガードしていたはずのルチアごと吹き飛ばしてしまった。


「う、ぐ……ッ!!」


凶悪な熱風を浴びながらルチアは地面に転がる。たった一撃でボロボロに
なった彼女の姿を赤い蝋を持った男は冷めた目で眺めていた。
建物の屋上から、緑の蝋を持った男がふわりとした動作で飛び降りてくる。


(まるで歯が立たない……、このままでは……)


この二人に声をかけるという行為は、迂闊だったとは思う。しかし後悔はしていなかった。
わずかでも自分達の行動の障害になり得る人間を見つけたらこのように危害を加えてくる
魔術師を放置しておくわけにはいかないとルチアは思った。

44 : ◆3dKAx7itpI - 2012/01/30 09:59:39.15 5bYIzcmbo 27/571


『暴徒』が何人いるのかも分からない。全貌など、イギリス清教の単なるシスターである
ルチアには掴めるはずもない。太刀打ちだって出来ないかも知れない。現に彼女はこうして
手も足も出ず一方的にされるがままなのだから。


「示すは『左方』。 司るは『緑』――――――」

(くっ…………!!)


しかしルチアは退かない。ここに味方がいない以上、味方を巻き込むまいと
誓った以上、ここで自分が引き下がる訳にはいかない。
そんな彼女の想いを踏みにじるように、男は呪文を紡いだ。

45 : ◆3dKAx7itpI - 2012/01/30 10:00:47.85 5bYIzcmbo 28/571





「『アルマデル』の声に呼応するは、偽典を裁く『刃』―――」

「おーおー、朝から派手にやってんなぁ。 さすがは魔術の本場イギリスってか」




突如として介入してきた声に、ルチアは一瞬戦慄した。
ただでさえ防戦一方なこの状況に、さらに暴徒の連中が増援に来たのかと思ったからだ。
しかしその考えは見当違いだという事に気付かされる。

緑の蝋を構えた男が、術式発動直前で詠唱を停止した。怪訝そうに眉をひそめながら
背後へ振り返る。赤の蝋を持った男も同様に声のした方へ首を回した。


「あ……」

46 : ◆3dKAx7itpI - 2012/01/30 10:01:31.05 5bYIzcmbo 29/571


「んん? これって、アレか? ピンチになったヒロインの下に
 颯爽と駆けつけるヒーローの図? そういうのガラじゃねえんだけどな」


場の雰囲気とは裏腹に男の声は陽気そのものだった。
男もこの状況と張り詰めた空気をひしひしと感じているはずなのだが、まるで動じない。
そしてルチアは目を剥いた。


「垣根……帝督、ですか……?」

「よぉ、遊びに来てやったぜ。 ルチア」


自分を襲っている二人の男が心酔する組織、『天使同盟』。


その構成員である垣根帝督がイギリスに再びやって来た現実を、
ルチアは素直に受け入れる事が出来なかった。

47 : ◆3dKAx7itpI - 2012/01/30 10:02:40.81 5bYIzcmbo 30/571



――――――――――――――――――――――


「何者だ」

「相手の名前を尋ねるならまずはテメェから自己紹介しろよ」


垣根帝督はとくに身構える様子も見せず、ゆっくりとルチアと二人組の
方へ歩いていく。その表情に困惑や緊張は一切見られず、彼は余裕の笑みを
浮かべながら続けてこう言った。


「で、こんな朝っぱらから何やってんだ? ナンパにしちゃ手が込んでるが」

「……貴様には関係の無い事だ。 怪我をしたくなければ立ち去れ」

「そいつ、俺のオンナなんだけど」

48 : ◆3dKAx7itpI - 2012/01/30 10:03:24.41 5bYIzcmbo 31/571


へ……? とルチアは思わず間抜けな声を出してしまったが、
二人の魔術師はどうやら気付いていないようで、


「理解出来たか? 俺のオンナがちょっかい出されてる以上、
 俺も無関係じゃねえんだよな。 おら、さっさと消えろよ」

「この修道女の関係者という事は、貴様も魔術師なのだな」

「現在は休業中だがな。 活動再開の目処はついてるんだが……」

「どうやってここへ来た」

「これ、人払いのルーンだろ? この大通りの入り口付近にある商店の
 壁にさりげなく貼ってあったぜ。 最初の一枚を見つける事が出来りゃあ
 あとはトントン拍子ってな。 悪いが、ルーンの札に関しちゃそれなりの
 知識があるんだよ」

「ま、待ってください!」

49 : ◆3dKAx7itpI - 2012/01/30 10:04:22.56 5bYIzcmbo 32/571


地面に伏しているルチアが叫んだ。頭の中が混乱に陥りグチャグチャに
なっているためか、その先の言葉がなかなか紡げない。
なぜイギリスに垣根帝督がいるのか。なぜ急に自分を『俺の女』などという
ふざけた位置付けで呼ぶのか。言いたい事は色々とある。

だが今はそんな事を言及している暇はない。どうにかして取り繕わないと敵の二人と
垣根が衝突してしまう。それを危惧したルチアは、


「あの御方と私は無関係です。 いくらあなた達でも、一般人を巻き込む
 事で得られるメリットはないでしょう。 ですから彼は見逃して―――」

「手遅れだぜルチア。 まず最初の時点で俺はお前の名前を呼んじまってるし、」


傷つきながら、それでも自分を庇おうとするルチアの痛々しい姿を見ていた
垣根の顔から、ふと表情が消えた。明らかな雰囲気の変化に男はすかさず警戒する。
だが敵意を向ける二人を意に介さず、垣根は声を低くして言い放った。

50 : ◆3dKAx7itpI - 2012/01/30 10:06:24.60 5bYIzcmbo 33/571





「今のルチアの言葉で理解した。 ……テメェらが例の『暴徒』だな?
 ルチアをこんなにしちまった以上見逃せねえんで―――ま、覚悟しとけよ」




直後、垣根の全身から溢れたのは明確な『殺意』。たかが少年一人が出せるような
敵意ではない事に気付いた男達は攻撃対象を垣根帝督に変更し、臨戦態勢に移った。


「垣根帝督……!!」

「すぐ終わらせる。 お前はそこで俺に振る舞う朝メシの献立でも考えとけ」

51 : ◆3dKAx7itpI - 2012/01/30 10:07:24.68 5bYIzcmbo 34/571


垣根の軽口にルチアが反論しようとしたが、二人の内の赤い蝋を持った
男が一気に垣根の下へ駆け寄った事で断ち切られてしまった。
魔術師の男は赤い天使を象ったような像を構えながら距離を詰めていく。


「何だそれ、大人のオモチャ?」

「詠唱破棄。 灰になれ背信者」

「あ、そう」


灼熱の炎を吹き出さんと赤い蝋が不気味に輝く。


だが炎が出現する直前に、垣根は右足を思い切り振り上げて蝋を持っている方の
男の手を蹴り、赤い蝋を空中へ弾き飛ばしてしまった。

52 : ◆3dKAx7itpI - 2012/01/30 10:08:20.66 5bYIzcmbo 35/571


「な、」

「遅えよ豚。 アレイスターの攻撃は今の数億倍は早かったぜ」


垣根はそのまま左足に重心を置き、不安定な格好で男に右ストレートをぶち込む。
ベキリ、という鼻っ柱がへし折れる音と共に男が地面に叩きつけられた。

と同時に、垣根の耳に呟くような詠唱の声が届く。


「示すは『左方』。 司るは『緑』―――」

「ハッ、来いよ」


今の垣根の位置ならギリギリの所で緑の蝋を構えた男の詠唱を食い止める事が
できるが、彼はそうしなかった。
そうしなかった行為に挑発の意味合いもあったが、それ以上にこれから
男がどのような魔術を繰り出してくるのか、垣根は単純に興味があったのだ。

53 : ◆3dKAx7itpI - 2012/01/30 10:09:07.66 5bYIzcmbo 36/571


そして垣根の希望通り、男は術式を発動させる。


「『アルマデル』の声に呼応するは、万物を天へ誘う『風』」


詠唱終了と同時、垣根の足元から恐るべき威力の暴風が舞い上がった。
暴風は瞬間的に膨れ上がり、垣根を包んでそれこそ本当に天へ昇っていく。
その光景を目にしたルチアの顔が真っ青に染まるが、


「ナメてんのかテメェ」


荒れ狂う暴風の中から、ハッキリとそんな言葉が聞こえた。
それがこの風の中で平然としている垣根帝督の声だと認識した時には、
垣根を中心に起きた正体不明の大爆発によって風が霧散していた。

54 : ◆3dKAx7itpI - 2012/01/30 10:09:53.33 5bYIzcmbo 37/571


「風鈴でも持ってりゃ風情が出てたかもなぁ、今は冬だけどよ。
 風と言えば俺の知り合いにとんでもねえ風のスペシャリストがいるぜ。
 ん? あの女は風じゃなくて氷だっけ? ……よく知らねえや」


垣根が適当に言葉を紡いでいるが、緑の蝋を持った男は聞いていなかった。
先ほど垣根が起こした爆発に巻き込まれ、数メートル先まで吹っ飛んでいたからだ。
爆発によって地面を転がった男の全身から力が抜ける。


「『未元物質』……、雑魚を撃退する程度の力は戻ってきてるな。
 ただそれでも翼は出せねえし、魔力精製に繋がる手掛かりも
 浮かんでこねえ。 ……もう少しリハビリが必要か、面倒くせえな」


あっという間の攻防だった。ルチアがあれだけ苦労した魔術師の二人を、
垣根帝督はあっさりと一蹴してしまった。
防御術式を施していたのか、垣根に鼻をへし折られた魔術師が呻くように言う。

55 : ◆3dKAx7itpI - 2012/01/30 10:10:40.93 5bYIzcmbo 38/571


「貴、様…………、何者……」

「お前らが狂信してる大天使様に聞いてこいよ」


言って、垣根は男の顔を思い切り踏みつけた。今度こそ男の意識が断絶される。
二人の魔術師が使う魔術が期待外れだったのか、垣根はつまらなそうにため息をついて、


「…………どうせ居るんだろ? このクソ二人を回収しろ」

「承知」


音源不明の声が垣根の指示に応えたと思ったら、大通りの随所から
黒いローブを羽織った謎の人物が三、四人程集まってきた。
フードの部分に黄金の鷹の頭をあしらったローブを着る謎の人物達は
互いに言葉を交わすことなくダウンした暴徒の二人を回収していく。

その光景にルチアは疑問符を浮かべるが、彼女がその正体を推察する前に
黒ローブ達は音もなく大通りから消えてしまった。

56 : ◆3dKAx7itpI - 2012/01/30 10:11:20.41 5bYIzcmbo 39/571


「立てるか?」

「え。 あ、はい…………」


手を差し伸べてきた垣根に、ルチアは動揺しながらも応える。
垣根の手を取ってゆっくりと立ち上がり、破壊された車輪を再生させた。


「あ、あの……垣根帝督……」

「あーはいはい。 どうせ『なぜあなたがこんな所にいるのですか!』とか
 さっきのヤツらの事でギャーギャー言ってくるんだろ。 だがその前に
 メシにしようぜ。 俺朝から何も食ってねえからよ、何か作ってくれ」

「は、はぁ…………」


垣根に先を越されてしまい、何も言えなくなったルチアは辿々しく返事をするしかなかった。

57 : ◆3dKAx7itpI - 2012/01/30 10:16:29.16 5bYIzcmbo 40/571


今回はここまでです。

今回登場した『アルマデル』は、何でも四属性の天使を召喚する霊装なんだとか。よく覚えてませんけど。
天使召喚については私が勝手にアレンジして、ただ四属性の魔術が使えるってだけの代物にしました。

あと今回の垣根はちょっとやりすぎとういうか、強すぎた感がありますよね……。
ただ彼の久々の見せ場なので、見逃していただければありがたいです。

次回は久々に再会した垣根とルチアの漫才をお送りします。

次回更新は三日以内。

それでは、今日もありがとうございました!

58 : 次回予告はここまでです。  ◆3dKAx7itpI - 2012/01/30 10:17:04.47 5bYIzcmbo 41/571




                          【次回予告】



「幾千の欲を切り捨て、節制を心がけ、規律と信仰を重んじる事が
 我々シスターの役割です。 勝手に寮を抜け出してどこかへ出掛けて
 しかも連絡を寄越さず帰る気配の無いあの二人とは違うんです」
元ローマ正教のシスター――――――ルチア




「知ってるか? そうやって自分を縛ってる人間ほど、案外エロい話に
 興味を持つ傾向があるんだぜ。 欲とは無縁とかのたまってるヤツとか」
『天使同盟(アライアンス)』の構成員・学園都市第二位の超能力者(レベル5)『未元物質(ダークマター)』――――――垣根帝督




61 : VIPに... - 2012/01/30 10:57:28.85 tFDaZ4eAO 42/571

おつおつ
今までの相手が世界最強クラスしかいなかっただけで、ていとくんもやはり最強クラス
というか能力不調とはいえこんな名も無き雑魚に苦戦したらワシリーサに殺されるレベル

78 : VIPに... - 2012/02/01 21:58:02.77 kymbCJLS0 43/571

おつです!

読み返し宣言してからやっと追いついた・・・。
量は多いけど飽きないで読めるってすごい事だと思います。
>>1の技量的な意味で。

ていとくんとルチアの情事?全裸待機してますね。

80 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/02 10:46:05.32 71S8SZs9o 44/571

>>61
ですよね?普通に垣根帝督強いですもんね。
いっそ暴徒の二人なんて舌だけで倒したあげく建物の柱もぎ取って
それ投げてそれに乗って女子寮まで行くくらいの事してもよかったですよね。

>>78
ありがとうございます。ゆっくりでもいいので、これからも
読んでくれたら非常に嬉しいです。

そして皆様も、いつも沢山の支援をありがとうございます。
お昼前ですが更新を開始します。

今回は再び出会った垣根とルチアがぐだぐだ漫才して、
女子寮に着いてまだぐだぐだ喋るだけの信じられない程中身のない内容です。
いつもの事とか言わないでください。

それでは、よろしくお願いします!

81 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/02 10:46:40.64 71S8SZs9o 45/571



――――――――――――――――――――――


――イギリス・ロンドン ランベスの大通り


垣根「何だ? 急に人が通るようになったな」

ルチア「あなたが人払いの術式を解除したからです」

垣根「ああ、そういやそうだった」

ルチア「……」

垣根「いやそれにしても、久しぶりだなお前」

ルチア「……お久しぶりです」

82 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/02 10:47:29.51 71S8SZs9o 46/571


垣根「怪我とかしてねえだろうな? さっきのクソ共と戦ってたんだろ」

ルチア「大した事はありません」

垣根「そりゃ重畳」

ルチア「……それで、垣根帝督」

垣根「あ?」

ルチア「学園都市に居るはずのあなたが何故イギリスに?」

垣根「さっき言っただろ、遊びに来たって」

ルチア「まさか大天使様の身にまた何か……?」

垣根「そんなんじゃねえよ、あのアホ天使は今も元気にやってんじゃねえか?
   『天使同盟』の近況報告は寮に着いたらたっぷり話してやるからよ」

83 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/02 10:48:37.05 71S8SZs9o 47/571


ルチア「そう、ですか」

垣根「しっかしさっきの連中が暴徒ねえ……。 思ってたより雑魚でガッカリだな」

ルチア「あ。 か、垣根帝督」

垣根「なんだ?」

ルチア「先ほどは……その。 助けていただいて……あ、ありがとう……ございました」

垣根「飛び回ってたハエを払っただけだ、礼を言われる程の事じゃねえ」

ルチア「あなたが来てくれなかったらどうなってたか……」

垣根「何だよ、もしかして惚れちゃった?」

ルチア「ば、馬鹿な事を出し抜けに言わないでください!///」

84 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/02 10:49:20.27 71S8SZs9o 48/571


垣根「冗談に決まってんだろ、相変わらずだなお前」

ルチア「そういうあなたも、剽軽な人柄は相変わらずですね」ムスッ

垣根「怒ってんなよ、いちいち細けぇなぁ」

ルチア「……」

垣根「あの寮、まだシスター共が利用してんのか?」

ルチア「へ? ええ、まぁ一応……」

垣根「ふうん。 ……ああ、て事は男は俺一人か。 居づれぇな」

ルチア「何ですかそれは、何かふしだらな考えを起こしているんじゃないですよね」

垣根「お前はそのテの話に警戒しすぎだよなぁ」

85 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/02 10:50:16.98 71S8SZs9o 49/571


ルチア「幾千の欲を切り捨て、節制を心がけ、規律と信仰を重んじる事が
    我々シスターの役割です。 勝手に寮を抜け出してどこかへ出掛けて
    しかも連絡を寄越さず帰る気配の無いあの二人とは違うんです」

垣根「知ってるか? そうやって自分を縛ってる人間ほど、案外エロい話に
   興味を持つ傾向があるんだぜ。 欲とは無縁とかのたまってるヤツとか」

ルチア「な!?」

垣根「学校のクラスに居なかったかそういうの? あ、お前は学校とか
   行ってないのか? 俺も通ってねえけど。 でもまぁ、いるんだよ」

ルチア「ど、どういう意味ですか。 詳細な説明を要求します」

垣根「クラスの男子がエロい話してる中、一人だけ『そういうの興味ねえから』とか
   言って紳士ぶるヤツとかいるじゃん。 そういうヤツほど裏じゃ成人雑誌片手に
   興奮してたりするんだぜ? その他よりよっぽど知識が豊富だったりな」

86 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/02 10:51:18.76 71S8SZs9o 50/571


ルチア「な、な……///」

垣根「逆もまた然りでな。 男より女の方がエロ知識が豊富だったりするだろ。
   そういう話をしてる男共を女達は蔑むが、本当はその女達の方がエロい
   話で盛り上がってたりするもんだ。 お前んとこの寮でもそういう話――」

ルチア「し、してませんッ!! い、いいですか? あなたさっきから
    スラスラとエロいとか成人雑誌とか口にしてますけど、女性である
    私の前でそのような如何わしい話題を出すなんて、正気とは思えません!!」ウガー

垣根「仕方ねえだろ、俺男だし。 格ゲーで女キャラ使っただけで馬鹿にしてくる
   ヤツとかたまにいるよな。 あれ何でだ? 男だからこそ女キャラを使うんだろ」

ルチア「知りませんよそんな事!」

垣根「あれ、シスターってゲーセンで息抜きしたりしねえの?」

87 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/02 10:52:45.07 71S8SZs9o 51/571


ルチア「あり得ません。 節制に重きを置く修道女が、その……ゲーセン、ですか?
    そのような場所で遊ぶなど以ての外です。 ゲーセンという娯楽自体を
    全否定する気はありませんが、修道女ならば無縁であるべきだと考えます」

垣根「いいじゃん、シスターがゲーセンで遊んだって。 オルソラとかアンジェレネとか、
   平気でゲーセン行ってるイメージあるけどなぁ、しかも超楽しんでる感じ」

ルチア「あの二人は確かに修道女としての何かが欠落している雰囲気がありますが、
    それでも弁別はきちんとしているはずです。 それは流石にないかと」

垣根「前に俺らが来た時、ミーシャに煽られて酒飲みまくって潰れたお前が
   節制だの規律の修道女の何たるかを語られても説得力に欠けるなぁ」ニヤニヤ

ルチア「……ッ/// だ、大天使様は我ら十字教徒を導いてくださる高貴のなる御方です。
    大天使様が酒を飲めと仰られたら酒を飲むのが十字教徒にとって正しい行いなのです」

垣根「さすがにそれは十字教を軽んじ過ぎちゃいねえか……? とりあえずお前はやっぱ姑タイプの女だな」

88 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/02 10:54:13.72 71S8SZs9o 52/571


ルチア「姑言うな!」


心理定規「あ、いたいた。 垣根帝督~」タッタッ


ルチア「?」クルッ

垣根「チッ……」

心理定規「あからさまに舌打ちしないでよ、傷つくでしょ」

垣根「このまま放置していこうと思ってたんだがな」

心理定規「そんな事したら私、『天使同盟』に関する情報全部リークするから♪」

ルチア「? あの、この御方は……」

89 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/02 10:55:02.11 71S8SZs9o 53/571


心理定規「お、シスターだ。 あの変態女とは違って黒い修道服なのね」

垣根「あー、俺の連れだ」

心理定規「『荷物』から『連れ』に昇格か、光栄ね」

ルチア「連れ……?」

垣根「よくここがわかったな」

心理定規「あなたの背中に小型の発信機を付けておいたからね」

垣根「ああ!? ……クソッ、これか」ポイッ

心理定規「こんな物にも気付けないなんて、本当に丸くなったわね」

垣根「くだらねえ事してんじゃねえよクソ女」

ルチア「あの……」

垣根「そうだ、この女も一緒に連れていきてえんだけど、いいか?」

ルチア「え?」

90 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/02 10:55:53.99 71S8SZs9o 54/571


心理定規「ちょっと、断られたらどうすんのよ」

垣根「そりゃお前……捨て置くしかねえだろ」

心理定規「あなたって垣根帝督の知り合い? この男、こんなヤツなのよ?
     こんなのより私を傍に置いた方が楽しいと思うけど、どう?」

垣根「目くそ鼻くそだな」

ルチア「…………」ジー

心理定規「(はい来ました、明らかな警戒の眼差し。 何とかフォローしてよ)」ヒソヒソ

垣根「余計な事はしないよう見張るから、許可してやってくんねえか」

ルチア「……まぁ、あなたがそう言うのでしたら……、……」ブツブツ

心理定規「あら、ずいぶんとこのシスターさんに信頼されてるのね」

ルチア「あ、いや別に私は……」

垣根「どうでもいい。 さっさと行こうぜ」

91 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/02 10:57:02.24 71S8SZs9o 55/571



――――――――――――――――――――――


――イギリス・ロンドン 『必要悪の教会(ネセサリウス)』の女子寮


ルチア「ただいま戻りました」ガチャ

アニェーゼ「おや、お帰りなさい。 そろそろ朝ご飯にしちまおうと思ってたんですよ」

シェリー「くぁ……眠い」ポケー

ルチア「おや、珍しく朝から起きていらっしゃるのですね」

シェリー「昨日は特に何にもしなかったからな」

92 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/02 10:57:53.97 71S8SZs9o 56/571


アニェーゼ「今日の朝食担当はシスター・ルチアですよ」

ルチア「わかっています。 が、その前に……」

シェリー「?」

ルチア「はい皆様、ご拝聴ください」


「?」

「はい、シスター・ルチア」

「なんでしょうか?」


アニェーゼ「何ですか突然。 一体何が始まるんです?」

ルチア「今日はお客様がお越しになっています」

93 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/02 10:58:31.63 71S8SZs9o 57/571


シェリー「客?」

ルチア「『天使同盟』の方です」

アニェーゼ「あ、『天使同盟』!? 何でまた!?」ガタッ

シェリー「まさか例の『暴徒』についての情報を聞きにきたとかかしら?」ガタッ


    ザワ…… ザワザワ…… ドヨドヨ…………


ルチア「…………。 では、どうぞ。 お入り下さい」

アニェーゼ「またあの時みたいにどんちゃん騒ぎが出来ちまうんですかね!?」ワクワク

シェリー「色々聞きたい話もあるしなぁ、眠気飛んだわよ」

94 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/02 10:59:25.55 71S8SZs9o 58/571




垣根「うーっす、久々だなぁお前ら!」



アニェーゼ「……………………………………………………」

シェリー「……………………………………………………」


              シーン…………


垣根「あれ」

ルチア「今日は垣根帝督が遊びに来てくれました。 皆様、どうか丁重なおもてなしを―――」

95 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/02 11:00:06.70 71S8SZs9o 59/571


アニェーゼ「一方通行さんは?」

シェリー「おい風斬は来てねえのか風斬は」

「あ、あの、ドラコ様はお見えになってないのでしょうか?」

「大天使様は!? あの事件の後も現世に留まってくださっているのですか?」

ルチア「今回は垣根帝督のみです」

アニェーゼ「何だ垣根だけか……」

シェリー「あー、途端に眠くなってきたわ。 マジ萎えるわー」

アニェーゼ「ま、一応歓迎しときますか。 どーぞごゆっくりー(棒)」

垣根「殺していいな?」

ルチア「抑えてください」

96 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/02 11:00:50.84 71S8SZs9o 60/571


心理定規「修道女とあなたって反り合わなそうだしねえ」

アニェーゼ「ん?」

シェリー「誰だその女」

心理定規「垣根帝督の連れでーす、よろしくね」

アニェーゼ「しかも女連れかよ……」

シェリー「マジで何しに来たのって感じね」

垣根「俺の女じゃねえよ、妙な誤解してんじゃねえ」

心理定規「そこまで必死に否定することないじゃない」

97 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/02 11:01:31.48 71S8SZs9o 61/571


シェリー「白髪のガキとか天使とかは本当に来てないの?」

垣根「今日は俺だけだ」

アニェーゼ「仕方ねぇです、垣根さん一人で妥協するとしましょう」

垣根「クソ生意気なガキだなテメェ……」

ルチア「…………。 では私は朝食の準備に取り掛かりますので、
    お二人はゆっくりと寛いでいてください。 失礼します」スタスタ

アニェーゼ「……ふんふん? でもまぁ、シスター・ルチア的には僥倖ですかね?」ニヤリ

垣根「ああ?」

シェリー「そういやお前、そんな話してたわよねえ。 こいつらが帰った後も」

98 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/02 11:03:04.61 71S8SZs9o 62/571


アニェーゼ「とりあえず、第三次世界大戦と『第一九学区事件』が相次いじまったせいで
      生まれた暇っつーもんが少しは潰せるってなトコですよ、この状況は」ニタニタ

垣根「さっきから何をぶつぶつ言ってんだ? あー、お前なんて名前だっけ」

アニェーゼ「なっ!? 前来た時名乗りませんでしたっけ!?」

垣根「記憶にねえんだわ」

アニェーゼ「失礼な野郎ですね。 アニェーゼです、アニェーゼ=サンクティス」

シェリー「垣根の連れの女は初めて会うんだから別に自己紹介してもいいだろ。 私は、」

垣根「シェリー=クロムウェルだろ、お前は覚えてるよ」

シェリー「あら、そう?」

99 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/02 11:03:51.44 71S8SZs9o 63/571


アニェーゼ「何でシェリーさんだけ……」

心理定規「あなた達もやっぱり魔術師なの?」

アニェーゼ「うーん、まぁ一応そうなりますが……、あれ? そんな事を聞くってこたぁ、」

シェリー「お前、学園都市の人間か」

心理定規「そゆ事。 垣根帝督と同じ能力者よ」

アニェーゼ「もしかして『天使同盟』の一員だったりします?」

心理定規「そうよ」

垣根「呼吸をするように嘘をつくんだなお前は。 んなわけねえだろ」

心理定規「別にいいじゃない、加盟させてよ」

100 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/02 11:04:31.11 71S8SZs9o 64/571


垣根「冗談じゃねえ。 六人もいれば充分だろうが」

アニェーゼ「……六人?」

シェリー「白髪のガキ、風斬、ミーシャ=クロイツェフ、……えーと、ドラコだっけ。
     それにお前で……五人じゃねえか。 まさかあれから一人増えたのかしら?」

垣根「そうだな、じゃあその辺も含めて『第一九学区事件』後の事を話すと
   するか。 一応お前らも関与してるしな。 ただし、メシが出来てからだ」

シェリー「それと、『暴徒』の連中についてもだろ?」

垣根「話が早くて助かる。 それと、あとは俺からの個人的な相談だ」

心理定規「にしてもここ、シスターだらけね……。 量産でもしてるの?」

101 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/02 11:11:46.31 71S8SZs9o 65/571


今回はここまでです。

垣根帝督、まさかの……というか必然ですが、さりげにハーレム状態です。
彼がこのSSでこうなるのも珍しいですが、たまにはいいんじゃないでしょうか。
ただ周りの女性陣がどいつもこいつも一癖ありそうな……いえ、何でもないです。

次回も台本形式で、垣根がまったり近況報告して、おにゃのこ達が色々アクションしてくれます。

次回更新は三日以内。

それでは、今日もありがとうございました!

102 : 次回予告はここまでです。  ◆3dKAx7itpI - 2012/02/02 11:12:22.75 71S8SZs9o 66/571




                          【次回予告】



「し、シスター・アンジェレネとシスター・オルソラが学園都市に!!?」
元ローマ正教のシスター――――――ルチア




「まぁもしかしたら一端覧祭の騒ぎに乗じたバカが誘拐事件なんてもんを
 起こして、オルソラとアンジェレネが誘拐されるか、そうじゃなくても
 巻き込まれてる可能性はあるかもしれねえけどな。 もしもだけどよ」
『天使同盟(アライアンス)』の構成員・学園都市第二位の超能力者(レベル5)『未元物質(ダークマター)』――――――垣根帝督




「魔術サイド側が秘密裏に報道規制をかけてんのよ」
イギリス清教『必要悪の教会(ネセサリウス)』の魔術師――――――シェリー=クロムウェル




「『禁書目録』を……使った? 能力者が……?」
元ローマ正教のシスター――――――アニェーゼ=サンクティス




「(ヤバいわね。 このテの話になると私は空気になる……)」
『クラッカー』の構成員・『心理定規(メジャーハート)』の能力者――――――ドレスの少女




62 : VIPに... - 2012/01/30 11:34:41.50 l99OYOV70 67/571

乙  エロ期待

小ネタとか眠らせずに投下しちゃってもいいんだよ? (チラッ

126 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/04 17:24:17.78 KWx8Iu9Co 68/571


>>62、と仰ってくれる方もいらっしゃったので、
お言葉に甘えて小ネタをsage進行で投下します。
前回の小ネタの続きみたいな感じになっております。

127 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/04 17:24:46.46 KWx8Iu9Co 69/571


――【エイワス】


一方通行「……」

風斬「……」

垣根「……」

フィアンマ「……」

エイワス「新手のいじめ?」

ガブリエル「ckftu同類ajru素敵awt」

128 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/04 17:25:24.22 KWx8Iu9Co 70/571


エイワス「どうだろう、ミーシャ=クロイツェフ。 私と式を挙げる気はないか?」

ガブリエル「……」

エイワス「いっそ清々しい」

一方通行「『天使同盟』はこいつが加盟してから確実におかしくなった」

風斬「申し訳ないですけど……その意見には賛同を禁じ得ません……」

垣根「俺にとっちゃ……いや、恩人でも何でもねえなこいつは」

フィアンマ「まあ、忌々しい存在ではあるな」

エイワス「君達、私相手なら何を言っても許されると思っていないか?」

129 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/04 17:26:05.65 KWx8Iu9Co 71/571


一方通行「こいつが余計なヤツを勧誘するからこンな訳のわからねェ集団が生まれたンだよ」

風斬「で、でも……」

一方通行「ン?」

風斬「連れてくるのはエイワスさんですけど……その、最終的な判断は一方通行さんに
   委ねてますよね……? そ、そこで首を縦に振っちゃうから結局一方通行さんが……」

一方通行「………………」

エイワス「くくく、痛いところを突かれたのではないか?」

フィアンマ「エイワスが推薦→一方通行が承諾のプロセスが組み上がっているんだな」

130 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/04 17:26:51.63 KWx8Iu9Co 72/571


垣根「うさぎってのは寂寥感に殺される生き物なんだろ? 群れてえんだよこいつは」

一方通行「うるせェな……そンなンじゃねェよ。 俺が断ったって、エイワスが無理にでもねじ込むだろ」

エイワス「そんな強行手段、私は取らんよ。 根も葉もない事を言う」

風斬「でも結局……私も含めて、皆さんエイワスさんを頼ってますよね……」

一方通行「……」

垣根「……」

フィアンマ「……」

ガブリエル「vcxb成程pxtbj」

131 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/04 17:27:35.27 KWx8Iu9Co 73/571


エイワス「風斬氷華、君は私の事が好きなのか?」

風斬「いえ」

一方通行「頼るっつーか……、なァ?」

垣根「俺達の場合、もうこいつに任せるしかねえって場面に出くわし過ぎなんだよ」

フィアンマ「そりゃこれだけの勢力が集まればな。 当然その周りを取り囲む環境も厳しくなる」

風斬「頼りになるじゃないですか……実際。 そうですよね?」

垣根「そうかぁ? 思い返してみれば微妙な結果ばかりじゃねえ?」

エイワス「ふふ、何を言う。 私ほど頼れる存在もそうはいまい?」

132 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/04 17:29:11.74 KWx8Iu9Co 74/571


フィアンマ「そういう事を自分で言う辺り、自信家ではあるかもな」

エイワス「遠慮無く私に頼って構わんのだよ?」

一方通行「じゃ、なンか『やっぱ頼りになるなこいつ』的なアピールしてみろ」

風斬「♪一難去ってまた一難、」

エイワス「ぶっちゃけ想定内」

垣根「かっけえ!」

133 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/04 17:29:52.20 KWx8Iu9Co 75/571


風斬「♪だって、」

エイワス「やってられます」

風斬「♪ストレスより、」

エイワス「エイワスでしょ」

フィアンマ「頼もしいな」

一方通行「つか風斬、オマエ……」

風斬「すみません、つい……」

134 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/04 17:30:42.42 KWx8Iu9Co 76/571


――【風斬氷華】


一方通行「正直なァ、『天使同盟』は初期の三人で充分だと思うンだがよ」

エイワス「酷い事を言う。 ではその三人から更に一人リストラするとしたら?」

一方通行「なンで更に一人抜かなきゃならねェンだよ……」

垣根「テメェがリーダーなんだから、テメェ以外のどっちかだぜ」

風斬「……」

ガブリエル「……」

135 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/04 17:31:36.04 KWx8Iu9Co 77/571


フィアンマ「どちらで答えても殺されそうな気がせんでもないが」

一方通行「………………ガブリエル」

ガブリエル「!?」

エイワス「何故だ?」

一方通行「『天使同盟』最後の良心だろォが風斬は……」

風斬「い、いえそんな……///」

ガブリエル「cktr不愉快xosr」

フィアンマ「普通に機嫌悪くなったりするんだなお前でも」

136 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/04 17:32:26.23 KWx8Iu9Co 78/571


エイワス「しかし、『天使同盟』の中なら彼女が一番良識を弁えているしな」

一方通行「一緒に行動しててもハラハラする必要がねェからな」

風斬「わ、私……そこまで人間出来てませんよ。 人間じゃないし……」

フィアンマ「今気付いたが、『天使同盟』の女性陣には人間が一人もおらんのだな……」

垣根「でも風斬はなんか……見逃されてる感あるよなぁ」

風斬「え?」

エイワス「なるほど。 私やミーシャ=クロイツェフの奇行ばかり目立つ
     この組織だが、その影で実は風斬氷華も割と無茶を犯していると」

一方通行「自覚あったのかオマエ……」

137 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/04 17:33:26.94 KWx8Iu9Co 79/571


風斬「わ、私……そんな……」

垣根「おどおどした仕草の可愛さを武器にしてるって感じだよな」

風斬「そんなつもりは……私は」

一方通行「オマエら謂れのねェ事ほざいてンじゃねェよ」

垣根「こんな風にな。 一方通行が庇ってくれるが、よくよく思い返してみると
   風斬も割とメチャクチャやってる感あるよなぁ? 裏番長みたいな感じか」

フィアンマ「まぁ……甘やかされてる感は否めんかもな」

138 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/04 17:34:02.40 KWx8Iu9Co 80/571


風斬「……………………新参者のクセに」ボソッ

フィアンマ「ん?」

風斬「い、いえ……」

垣根「ま、常に風斬の味方でいてくれる白馬の王子様ならぬ白髪の王子様がいるからなぁ」

風斬「そんな言い方しなくてもいいじゃないですか…………垣根さん、死ねばいいのに」

垣根「え?」

一方通行(……たまに黒い部分出るよな、風斬……)

149 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/05 06:24:45.84 I0jgkS5Oo 81/571

>>125
確かに、同意見です。ご指摘ありがとうございます。
でも投下時に修正するのはアレなのでまんま投下します。

皆様おはようございます。更新を開始します。
ニチアサキッズタイムの前にパパっと読んでいただけたらなと思います。
今日から新しいプ○キュアが始まるようですね。

さて、今回はイギリスの女子寮で垣根帝督がおにゃのこ達に囲まれながら
『天使同盟』の近況を報告したりします。

それでは、よろしくお願いします!

150 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/05 06:25:16.41 I0jgkS5Oo 82/571



――――――――――――――――――――――



ルチア「し、シスター・アンジェレネとシスター・オルソラが学園都市に!!?」ガターン



心理定規「あ、このスープすっごく美味しい」

垣根「ああ、来てたぞ」

アニェーゼ「あ、あの二人……なるほど、そういう魂胆だったんですか」

シェリー「たった二人でなぁ、よくやるよ本当」

151 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/05 06:25:50.73 I0jgkS5Oo 83/571


アニェーゼ「貴女はたった一人で学園都市に襲撃をかけたんじゃ?」

シェリー「…………それもそうだ」

垣根「あ? お前学園都市に来た事あんのか?」

シェリー「まぁね」

ルチア「ちょ、そんな事より垣根帝督!! その話は本当なのですか!?」

垣根「ウソついてどうすんだ。 つか大体考えてみりゃすぐに辿り着く答え
   じゃねえか? あの二人がこっそりとここを抜け出して向かう場所なんて」

アニェーゼ「言われてみりゃそうですよね。 "あの二人"なんですから」

垣根「"あの二人"だからなぁ」

心理定規「?」

152 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/05 06:26:31.32 I0jgkS5Oo 84/571


ルチア「た、確かに……。 クソッ、今すぐ学園都市へ連絡を―――」

シェリー「少なくともここに学園都市直通の電話回線はないっつーの」

ルチア「では垣根帝督、あなたの電話を貸してください!」

垣根「やなこった。 いや別に良くね? 好きにさせてやれよ」

ルチア「しかし……」

垣根「あっちにゃ一方通行やミーシャがいるんだぞ? 万が一が起きるとでも思ってんのか?」

アニェーゼ「一方通行さんはともかく、大天使様がついてくれりゃ文句はねえですよね」

ルチア「む、むぅ……」

153 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/05 06:27:32.74 I0jgkS5Oo 85/571


シェリー「過保護過ぎるのよお前は。 そりゃ鬼姑だの何だのと言われるわ」

ルチア「ぐぬぬ……」

垣根「まぁもしかしたら一端覧祭の騒ぎに乗じたバカが誘拐事件なんてもんを
   起こして、オルソラとアンジェレネが誘拐されるか、そうじゃなくても
   巻き込まれてる可能性はあるかもしれねえけどな。 もしもだけどよ」ニヤニヤ

ルチア「そ、そんな事になったら私は一体どうすれば……」

アニェーゼ「どうもしなくていいんじゃねえですか? それこそ大天使様とかいますし」

ルチア「し、シスター・アニェーゼやシェリーさんは不安じゃないのですか!?」

シェリー「別に」

アニェーゼ「同じく。 ただそれは冷酷っつー訳じゃなくて、それだけあの二人を信頼
      してるって事ですよ。 そういう意味じゃシスター・ルチアもそうでしょう?」

154 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/05 06:28:10.50 I0jgkS5Oo 86/571


ルチア「……」

垣根「何かあったら誰かが連絡寄越すだろ、気にすんな」

ルチア「……そう、ですね」

アニェーゼ「ま、それはさておき……あの事件の後の学園都市はどんな感じなんです?」

垣根「普通に文化祭やってる辺り、まぁ平和なんじゃねえの? 何かもう世間や
   マスコミもあんまり『第一九学区事件』や『天使同盟』について報道しねえしよ」

シェリー「魔術サイド側が秘密裏に報道規制をかけてんのよ」

垣根「そうなのか?」

155 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/05 06:29:09.35 I0jgkS5Oo 87/571


シェリー「例の『暴徒』の件を表沙汰にしたくないんだろうな」

アニェーゼ「大天使様は無事なんですか?」

垣根「無事も何も、あの破天荒な性格に拍車がかかってるくらいだ」

シェリー「ハッ。 よく学園都市が無事でいられるな」

心理定規「ちょっと」クイックイッ

垣根「あん?」

ルチア(そ、袖を……)

心理定規「さっきから話題に出てる大天使様って何よ?」

垣根「そこからかよ……」

156 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/05 06:30:05.70 I0jgkS5Oo 88/571


アニェーゼ「貴女は『天使同盟』について何も知らねえんですか?」

心理定規「あなた達にとっては『天使同盟』は割と身近な存在なんでしょうけど、
     学園都市の人間にとっては未知でしかないのよ。 暗部に属する私でさえ
     入手出来た情報はその存在の真偽と構成員くらいだった、詳細情報無しでね」

垣根「じゃあお前、風斬の事とかも知らねえのか」

心理定規「構成員の詳しい素性はあなたと第一位くらいしか知らないわ」

シェリー「ミーシャ=クロイツェフっていう大天使がいるのよ、こいつらのとこには」

心理定規「ミーシャ=クロイツェフ? サーシャ=クロイツェフじゃなくて?」

ルチア「サーシャ=クロイツェフの事はご存知なんですね」

157 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/05 06:32:08.37 I0jgkS5Oo 89/571


垣根「あ、そう言えば結構前に誰かから聞いたんだけどよ、サーシャとミーシャって
   肉体がどうのこうのであーだこーだだから名前が似てるのか? そもそもミーシャ
   の本来の呼び名って『神の力(ガブリエル)』なんだろ? 何でミーシャなんだ?」

心理定規「???」

ルチア「ええっと、ミーシャという名は本来『神の如き者』が名乗るべき名でして」

垣根「ミカエルだからミーシャなのか? じゃあサーシャは元々の名前か?」

シェリー「ああもう面倒くせえな……端折ってもいいんじゃない?
     その辺についてはいずれ分かる事でしょうし」

垣根「いや端折るなよ……」

心理定規「つまりどういう事だってばよ」

158 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/05 06:33:02.86 I0jgkS5Oo 90/571


アニェーゼ「個人的には事件の詳細について詳しく聞きてえんですがね。
      黒い霧とか空から降る羽根とか、あの時何があったんです?」

垣根「俺は詳しく知らねえんだよなぁ、その辺の事は」

シェリー「当事者だろうがお前は」

垣根「俺、あの戦いの時に『禁書目録』を使っちまってな。 頭ん中ボロボロに
   なって、記憶が曖昧なんだよ。 曖昧っつか、ほとんど覚えてねえかも」

シェリー「は、はぁ……!?」

アニェーゼ「『禁書目録』を……使った? 能力者が……?」

ルチア「…………!!」

159 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/05 06:33:44.39 I0jgkS5Oo 91/571


心理定規「"きんしょもくろく"って何?」

アニェーゼ「呆れて物が言えねえですね……貴方、バカでしょ?」

シェリー「よく生きてられたな」

垣根「まぁ、おかげ様で―――」

ルチア「………………それで、あの時」

垣根「?」

ルチア「それであの時、……あんな消え入るような声で私に……!!」

160 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/05 06:34:30.44 I0jgkS5Oo 92/571


垣根「な、何だよ」

アニェーゼ「……あぁ、そういえば私達、ミサカさんの協力を経て貴方達に連絡を取ったんですよ」

シェリー「あの辺は私もよく覚えてないんだけどな(寝起きだったから)」

垣根「…………? あ、そういえば俺が"死にかけてた"時、確かルチアの声が―――」


ルチア「どうしてそんな無茶をしたんですか、あなたは!!!」ガタッ


垣根「…………、」

心理定規(ヤバいわね。 このテの話になると私は空気になる……)

161 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/05 06:35:26.40 I0jgkS5Oo 93/571


垣根「待てよ、何でお前がそんなにキレるんだ」

ルチア「あの日、私がミサカさんを通してあなたに声をかけた事は……」

垣根「覚えてるっつーか、何かお前の声が聞こえたような記憶はあるな」

ルチア「あの時のあなたは……声色だけでも窺えるくらい衰弱していて……」

垣根「まぁ……『原典』の毒ってのは洒落にならねえもんだったからな」

ルチア「何が図書館で調べ物ですか……、あんな皮肉めいた冗談をよくも……」

垣根「そんな事言ってたか?」

162 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/05 06:36:18.92 I0jgkS5Oo 94/571


ルチア「無茶はしないでと言ったのに……」

垣根「あー、まぁそんな怒るなよ。 現にこうして俺は生きてるんだから」

ルチア「結果論に過ぎません、よりにもよって『原典』など……生きてる方が不思議なくらいです」

垣根「何でそこまで俺の心配するんだよ?」

ルチア「えっ」

垣根「俺なんかより、それこそミーシャに気を配った方が修道女"らしい"んじゃねえの?」

ルチア「え、っと……」

アニェーゼ「そりゃあだって、ねえ?」ニヤニヤ

163 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/05 06:37:15.92 I0jgkS5Oo 95/571


垣根「あん?」

シェリー「まぁ、アレだ。 白髪のガキと同じく、お前も鈍感って事なんじゃない?」

垣根「え、何。 やっぱ俺に惚れてたりすんのお前?」

ルチア「惚れてません!」

垣根「そりゃ残念」

心理定規「……………………………………」

ルチア「だ、大体……能力者が魔術を使うとどうなるかについては
    以前にここで散々説いたはずですよね?」

垣根「神裂と一緒に話したアレだろ、耳が痛くなるほどになぁ」

164 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/05 06:38:14.86 I0jgkS5Oo 96/571


ルチア「にも関わらず、その危険性を無視して魔術を使うとはどういう了見ですか?」

垣根「いや、それは色々と事情があったっつーか手段を選んでる場合じゃなかったし」

ルチア「単に魔術に対する知的好奇心が勝っていただけなのでは?」

垣根「……、」

ルチア「人の心配を度外視して自らを死の危険に晒すあなたの考えが理解できません」

垣根「いやでも、」

ルチア「でもも何もありません。 超能力という通常の人間がどれだけ努力を
    積み重ねても得られない力を有しておきながら魔術にまで手をだすとは、」

垣根「る、ルチアさん?」

165 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/05 06:39:30.75 I0jgkS5Oo 97/571


ルチア「それは強欲でしかありません。 強欲が七つの罪源の一つとして
    挙げられているのは関連知識を持たぬ人間でも知っている事です」

垣根「強欲?」

ルチア「そうでしょう? 超能力では飽き足らず、魔術まで欲している時点で」

垣根「強欲……テオドシアと同じような事言いやがって」

ルチア「いいですか? 我々のような修道女は当然として、普段この世で
    生きている一般人もそのような罪に繋がる欲望を自制するべきなのです」

垣根「それが出来れば苦労はしねえよ」

166 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/05 06:40:37.69 I0jgkS5Oo 98/571


ルチア「確かに欲望や邪な感情を完全に自制する事は簡単ではありません。
    言うは易し行うは難しと言いますが、それでもある程度は抑えて
    人は生を謳歌しているのです。 今回のあなたの件は、明らかに
    セーブ出来る欲望を好奇心で解放している。 これは愚かしき行為です」クドクド

垣根「やべえ……始まった」

シェリー「アンジェレネが居ない分、お前に対してありがたいご説法(笑)が向かってるな」

ルチア「知識を得る程度なら問題はないでしょう。 むしろある程度知って
    おいた方がためになる。 しかし、それを実行するという危険性を
    あなたは充分に理解しているはず。 それをあろう事か『原典』に
    手を出してしまうとは……。 一方通行は構成員の管理がまるで
    なってない。 これは非情に由々しき事態です。 いえ、手遅れでしたか」

167 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/05 06:41:24.45 I0jgkS5Oo 99/571


垣根「一方通行は別に関係ねえんじゃ……」

ルチア「何か?」ギロリ

垣根「いや……何でもねえ、です」

心理定規「……ねえ、ちょっと。 アニェーゼ……だっけ?」ヒソヒソ

アニェーゼ「ん? 何ですか?」

心理定規「このルチアって口うるさい女は……、つまり"そういう事"なの?」

アニェーゼ「と言いますと?」

心理定規「だからその、垣根帝督をさ……」

168 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/05 06:42:31.56 I0jgkS5Oo 100/571


アニェーゼ「ああー、やはり貴女もそう思っちまいますよね?」ニヤニヤ

心理定規「実際の所、どうなのよ」

アニェーゼ「個人的見解を述べさせてもらいますと、うーん……恐らくはそうなんじゃねえかと」

心理定規「…………」

アニェーゼ「ただ例えそうだとしても、ここから発展するにはいかんせん
      段階が踏み足りねえような気がすんですよね、私としては」

心理定規「段階?」

アニェーゼ「有り体に言っちまえば『親密度』的なものがあの二人の間には
      まだ不足してるんじゃねえかと私は考えてるんですよ」

169 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/05 06:43:22.00 I0jgkS5Oo 101/571


心理定規「……フラグ的なイベントとか?」

アニェーゼ「そんな感じですね。 今はまだ時速三キロくらいの一方通行なんですよ。
      あ、走ってんのはシスター・ルチアだと仮定しての話になっちまいますけど」

心理定規「少しわかりにくい例えね……」

アニェーゼ「垣根さん次第ですけど、このまま進展していけば二人はいずれ
      正面衝突しちまって、そのままめでたく結ばれんじゃねえかと」

心理定規「…………あの二人が?」

アニェーゼ「ま、フラグがまだ弱すぎますんで、断言は出来ませんけど」

心理定規「…………」

170 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/05 06:43:58.66 I0jgkS5Oo 102/571


アニェーゼ「どうかしました?」

心理定規「そういう心情、私は私が弄った能力の結果としてでしか抱いた事がないのよね」

アニェーゼ「は?」

心理定規「偽物の愛情。 こんな能力を持った私に、本物は手に出来ないのかな」

アニェーゼ「?」

心理定規「なーんてね、冗談よ冗談。 馬鹿馬鹿しい」

アニェーゼ「独り言でしょうか?」

心理定規「そうね。 ちょっと羨ましいなと思っただけ」

171 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/05 06:45:26.14 I0jgkS5Oo 103/571


ルチア「いいですか? そもそも七つの大罪とはとある著作に現れた八つの枢要罪が……」

垣根「ああもう、うるせえうるせえ!! いいかルチア!?」

ルチア「ひゃっ、な、何ですか急に……」

垣根「とりあえずお前が俺を心配してくれた事はわかった、ありがとう。 以上、この話終わり!」

ルチア「だ、誰があなたのような野蛮な異教徒を心配しますか!///」

シェリー「今更そこを否定してもねえ……」

垣根「おいそこのメガネのガキ!! スープおかわり!」

アガター「は、はい」

172 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/05 06:47:04.10 I0jgkS5Oo 104/571



――――――――――――――――――――――


垣根「―――つー訳で、俺以外の『天使同盟』は学園都市の一端覧祭を満喫中、以上」

ルチア「なぜあなたが『天使同盟』から一時離脱した経緯の説明を省くのですか?」

垣根「んなもんどうだっていいだろ。 ほらアレだよ、暴徒の調査」

ルチア「暴徒は『天使同盟』そのものに関わる問題です。 その案件をなぜあなたが一人で――」

垣根「ごちゃごちゃうるせえんだよテメェ! 色々事情があんの!」

ルチア「な、なんて乱暴な話のまとめ方……これだから垣根帝督は」

173 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/05 06:47:56.97 I0jgkS5Oo 105/571


シェリー「その前に、まだ一つ聞いてない事があるだろ」

垣根「?」

シェリー「六人目の『天使同盟』。 ま、私らが聞いても面白くない話かもしれないけどさ」

垣根「あー、何、聞きてえの?」

アニェーゼ「個性豊かな集まりですからね貴方達は。 六人目ってのも気になっちまいますよそりゃ」

垣根「あー……、でもなぁ、言ってもいいもんなのかこれ」

シェリー「問題児?」

垣根「お前らにとってはな」

174 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/05 06:49:54.39 I0jgkS5Oo 106/571


アニェーゼ「??? 誰です?」

垣根「…………言ってもいいけど、騒ぐなよ?」

シェリー「オルソラ=アクィナスに一票」

ルチア「!」

アニェーゼ「シスター・アンジェレネに一票。 あり得ねえ話じゃないでしょ?」

ルチア「!?」

垣根「あー……」

ルチア「も、勿体ぶらないで早く教えてください」

175 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/05 06:50:45.33 I0jgkS5Oo 107/571


垣根「……………………フィアンマ、っていう……。 知ってるか?」

アニェーゼ「」

シェリー「…………こりゃまた、とんでもない名前が出てきたわね」

ルチア「ま、さか……そんな……じょ、冗談にしてもひどすぎます!!!」

心理定規「何? 誰?」ヒソヒソ

垣根「お前も見たんじゃねえの? あの赤い髪した男」

心理定規「…………あぁ。 あの明らかにヤバい雰囲気醸してた男か。 へえ、問題児なの」

垣根「あの第三次世界大戦、発端者がそいつなんだよ」

心理定規「うわ、それマジなの? あはは、そりゃ問題児よね」ケラケラ

176 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/05 06:52:29.16 I0jgkS5Oo 108/571


ルチア「笑い事ではありません!!」

心理定規「きゃっ! 帝督、この女の人怖い~」ギュッ

ルチア「ちょ……」

垣根「騒ぐなって言っただろ?」

ルチア「こ、ここで騒がずどこで騒げと言うのですか!」

垣根「テメェも離れろ、何ださっきのキモい演技」

心理定規「ふん」

アニェーゼ「い、イギリス清教が急に右方のフィアンマの捜索を打ち切ったのって……」

シェリー「お前らが一枚噛んでたって事かよ、信じらんないわね」

177 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/05 06:53:47.65 I0jgkS5Oo 109/571


垣根「ん? フィアンマのヤツ、魔術サイドから追われる身じゃなくなったのか?」

アニェーゼ「少なくともイギリス清教は最大主教の命によって捜索打ち切りが宣言されちまってます」

垣根「マジかよ? へえ、そりゃあいつにとっては朗報じゃねえか」

ルチア「何が朗報ですか、こんな……!!」

アニェーゼ「まぁまぁシスター・ルチア、落ち着いてくださいよ」

シェリー「イギリス清教と『天使同盟』は非公式に協定を結んでるんだろ?
     最大主教がフィアンマの加盟の事実を何らかの手段で傍受したんでしょう」

垣根(…………何らかの手段だぁ? 最大主教、何か引っかかるな)

178 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/05 06:54:50.17 I0jgkS5Oo 110/571


ルチア「しかしあの男は世界中を混乱の渦に……」

垣根「オルソラとかアンジェレネも受け入れてるんじゃねえ? もう顔合わせてるだろうし」

ルチア「おお……なんという事でしょう……。 我らを救済せし大天使様……どうか……」オヨヨ

垣根「その大天使様が一番歓迎してると思うけどな」

シェリー「世も末ね」

アニェーゼ「……一応聞きますけど、どうすんです?」

シェリー「ローマ正教やロシア成教にこれを伝えたところで私らが得られる
     メリットが無いからねえ。 害が無いなら放置でいいんじゃない?」

アニェーゼ「まぁ、そうするしかないですよね。 私達がどうこう出来る相手じゃないですし」

179 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/05 06:55:53.15 I0jgkS5Oo 111/571


ルチア「そんな短絡的な……」

垣根「そりゃねえだろ。 こいつらだって適当にこんな事言ってる訳じゃねえ」

ルチア「……」

垣根「お前だってそれはわかってんだろ? 言いたい事は山ほどあるだろうが、
   ここは一つ折れてくれねえか。 大罪人なのはフィアンマだけじゃなく、
   一方通行や俺や、この女だってそうなんだ。 …………頼むよ、ルチア」キリッ

心理定規「私が大罪人? …………否定出来ないわね」

ルチア「…………。 し、仕方がありませんね。 あなたがそう仰るのなら、
    私は渋々納得する次第です。 ここで口論しても無駄ですし……」

垣根「すまねえな」

180 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/05 06:56:47.45 I0jgkS5Oo 112/571


ルチア「…………。 し、仕方がありませんね。 あなたがそう仰るのなら、
    私は渋々納得する次第です。 ここで口論しても無駄ですし……」

垣根「すまねえな」

ルチア「ゆ、許したわけではないですからね」

垣根(案外ちょろい一面もあるなこいつ)

アニェーゼ「はいはいそれじゃ一件落着って事で。 垣根さんのお話は終わりですね?」

垣根「こんなもんだろ。 ここから先は『これから』の話になるしな」

シェリー「暴徒の件だろ? 私も『必要悪の教会』の魔術師として情報を集めてる」

垣根「そりゃ助かる。 が、まだ個人的に抱えてる案件があってな」

181 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/05 06:57:22.63 I0jgkS5Oo 113/571


アニェーゼ「?」

心理定規「『黄金』系がどうとかいう連中の事だっけ?」

ルチア「……『宵闇の出口』、ですか?」

垣根「それは暴徒の方だろ? 俺が知りたいのは――――『明け色の陽射し』」

アニェーゼ「おおっと、」

シェリー「またずいぶん面倒な魔術結社の名が出てきたわね」

垣根「そいつらと合流して暴徒を叩く手筈になってる。 ステイル達から
   連絡があるまで、お前らが知ってる限りの情報を提供してくれ」

182 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/05 07:01:57.23 I0jgkS5Oo 114/571


今日はここまでです。

これで近況報告は大体終わりましたかね。
フィアンマがどうのこうのは正直口論させてもめんど……もとい、
埒があかないのでこんな感じで落ち着けました。

そして次の話題はいよいよ本命、『明け色の陽射し』と『暴徒』についてです。

……が、垣根パートはここでほんの少しだけ休憩して、
次はその問題児パートを少しお届けしようと思います。
で、また垣根パートといった感じで。

次回更新は三日以内。

それでは、今日もありがとうございました!

183 : 次回予告はここまでです。  ◆3dKAx7itpI - 2012/02/05 07:02:30.84 I0jgkS5Oo 115/571




                          【次回予告】



「(……こんなアパートで一体何が起きた? 魔力の濃度からして事態が起きたのは約五ヶ月程前……か?)」
『天使同盟(アライアンス)』の構成員・元『神の右席』の魔術師――――――フィアンマ




「ど、泥棒ー!!!」
上条当麻の担任――――――月詠小萌




192 : VIPに... - 2012/02/05 17:14:04.82 UfKm+nnE0 116/571

>>1おつです!!!!

満遍なくいろんなキャラ使ってくれるから読んでて楽しい

この3日以内ってのがもどかしい・・・

197 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/07 15:33:17.27 cbrju3gno 117/571

>>192
もっと更新頻度増やした方がいいですかね?
しかし多忙故、時間を見つけてちょこちょこ投下しているので
三日以内が今のところ限界なのです。申し訳ありません。

こんにちわ、今日の更新を開始します。

垣根帝督パートは今回お休みで、フィアンマパートをお送りします。
フィアンマもずいぶん出番なかったですが、最後に出たのはいつだったかな……。

それでは、よろしくお願いします!

198 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/07 15:33:53.33 cbrju3gno 118/571



――――――――――――――――――――――


一方通行がオルソラ=アクィナス、アンジェレネと共に風紀委員第一七七支部へ赴いている頃、


「さて、どうせ外出禁止令など一切守らんミーシャが何かをやらかす前に
 さっさと『星の欠片』を調整せんとな。 まずは『御使堕し』だが……」


魔術サイドの問題児、右方のフィアンマは第七学区を歩いていた。
学園都市最大の文化祭、一端覧祭も今日で四日目。相変わらず科学の総本山は
たくさんの学生と『外』からの来客で賑わいを見せている。

その多くが友人同士であったりカップルであったり家族であったりしたが、
当のフィアンマに連れはおらず、彼は一人で街を散策していた。
もちろん、フィアンマの目的は学園都市観光ツアーでもなければ志望校の取捨選択でもない。

199 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/07 15:34:40.54 cbrju3gno 119/571


「儀式場を用意しなければならん」


『御使堕し(エンゼルフォール)』。フィアンマはそう呼ばれる大魔術を発動に必要な
儀式場にお誂え向きの場所を捜していた。


この大魔術は過去に一度発生している。その際には四界に多大な影響が及び、
現世ではそれを上回るとんでもない現象が発生した。
原因は天文学的数値の偶然から起こり得たもので、とある中年男性が意図せず
大魔術発動の条件である魔方陣の作成を成してしまい事件は起こった。

それによって現世に大天使ミーシャ=クロイツェフが召喚される事となったのだが、


(……あの日に起きた『御使堕し』も正当な手順を踏まえて発動されたものでは
 ないが、今回のケースではさらに法則を無視した発動条件を満たさねばならんな)

200 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/07 15:35:24.69 cbrju3gno 120/571


『御使堕し』の副作用。世界中の人間の魂がイス取りゲームの要領で入れ替わってしまう
現象を未然に防ぐ事が第一であるとフィアンマは考えていた。
その現象も含めて『御使堕し』であるため、魂の入れ替わりを防ぐのは魔術的理論上不可能なのだが、


(不可能を可能にするためには『奇跡』という材料が必要になってくる)


奇跡を起こす。口にすれば実に簡単だが、実際に起こすとなるとそれこそ奇跡が
起きなければ不可能だ。しかしフィアンマは不本意ながらも取り戻す事に成功した
『右腕』を見つめ、薄く笑みを浮かべた。

彼を象徴する最強の魔術、『聖なる右』。フィアンマの肩口から生えるその第三の腕は
あらゆる奇跡を起こす事が出来る。フィアンマは『御使堕し』という大魔術に己の右腕という
要素を組み込む事で副作用の無効化という都合の良い奇跡を実現しようと考えていた。

201 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/07 15:36:18.95 cbrju3gno 121/571


(だが不安要素が多すぎる……。 まず『神の右席』の魔術師として肉体を調節された
 この俺様に大魔術など発動出来るのかという懸念事項。 『神の力』召喚術式が実行
 出来た以上、大魔術"程度"ならどうにかならん事もないだろうが……。 そこにこの
 『神の如き者(ミカエル)』の力を加えるとなると、『御使堕し』ではない別の魔術が
 発動する危険がある。 俺様にも予想がつけられん未知の大魔術…………)


少し考えただけでフィアンマの計画(正確にはフィアンマとミーシャ、そして打ち止めの計画)には
不安要素が多すぎる事が判明する。計画の話をミーシャから持ちかけられた時点で簡単に内容を
まとめていたフィアンマだったが、こうして改めて考えると天地がひっくり返っても実行は不可能だ。

大魔術の効能を自分の都合の良い形で書き換えるなど、魔術サイドの歴史上を踏まえても前代未聞である。


(面白い)

202 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/07 15:37:39.87 cbrju3gno 122/571


それでも、フィアンマは臆しなかった。『神の右席』のリーダーですら頭を抱える難問が
立ちはだかり、しかし彼はそれを楽しむかのように笑ってみせた。


(奇跡は俺様の専売特許だ。 出来る出来ないの問題じゃない、やってやる)


となると、まずは大魔術発動のための儀式場の確保なのだが。
フィアンマは最初、学園都市の『外』で儀式場の作成に取り掛かろうと考えていた。

だが今日になってフィアンマは、やはり学園都市内で『御使堕し』を発動させる決断をする。

『外』で行う場合、まず誰の目も届かぬような広い平原、荒野で行うのが望ましいが、
そんな場所を捜している時間が彼には惜しいと感じられた。
更に、奇跡的にフィアンマ特製『御使堕し』が発動した場合、恐らくこれから先も
しばらく学園都市に留まるであろうミーシャの肉体に明確な変化が発生する。

203 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/07 15:38:50.26 cbrju3gno 123/571


その際のフォローに回る時、『外』にいては手遅れになる可能性があるのだ。
通常の手順を踏んでいない『御使堕し』でミーシャの身に何が起きるか、
それは術者であるフィアンマにも未知数なのだ。

学園都市内で大魔術を発動させる決断に至った理由はまだある。
それは副作用だ。『御使堕し』が発動した際に起きる魂の入れ替わり。
これはフィアンマが何としてでも未然に防ぐ。

だが、フィアンマ特製の『御使堕し』にも何らかの副作用があった場合は?
その副作用が魂の入れ替わりとは比べ物にならぬ恐ろしい現象だとしたら?

フィアンマがこれから行おうとしているのは、もはや新たな魔術の開発と言って過言ではない。
その未知なる副作用が発生するなら、まず変化が起きるのはミーシャが存在する学園都市内。
ならばフィアンマも学園都市に居た方が素早くフォローに回れる。
ミーシャ自身を『外』へ連れ出すケースも考慮したが、あのバカは多分このお祭り会場から
梃子でも動かないだろうとフィアンマは判断した。

204 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/07 15:39:26.19 cbrju3gno 124/571


(問題は『御使堕し』をどこで発動するかだが……)


学園都市は関東地方を大幅に開拓して発展した巨大都市ではあるが、
今回の場合に限ってはそれでも足りないほど狭いのだ。
大魔術発動の瞬間はどうしようもないが、せめて準備だけは静かに整えたい。

そう考えていたフィアンマは、


「ん?」


ある『違和感』を覚えた。場所は依然として第七学区。
違和感。しかも、"魔術的な残り香"を辛うじて嗅いでいるような、そんな違和感。
恐らくフィアンマレベルの魔術師でないとまず見逃すであろう、そんな儚い違和感。

フィアンマはその違和感が漂う方向へ視線を投げてみる。

205 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/07 15:39:55.71 cbrju3gno 125/571


「……」




フィアンマの視界に、くしゃみをしたら吹っ飛びそうなボロッボロの木造二階建てアパートが映った。




なぜここから魔術的要素満載の『残り香』が? 疑問に思いながらもフィアンマは
暗闇の部屋で壁を探す時の仕草のように右手を少しだけ前に向けながらアパートを
品定めするようにゆっくりと調べる。

彼の頭に想起されたのは、『かつてここで聖戦級の戦闘が勃発した』という"イメージ"。
このアパートに残されたあまりにも僅か過ぎる魔力の残滓から、フィアンマはそこまで
イメージする事が出来た。

206 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/07 15:40:37.03 cbrju3gno 126/571


(……こんなアパートで一体何が起きた? 魔力の濃度からして事態が起きたのは約五ヶ月程前……か?)


フィアンマはここでかつて何が起きたのかを調べるつもりはなかった。
しかしここで聖戦級の戦闘が勃発し、にも関わらず未だ健在しているという
事実だけが、彼が抱えていた案件の一つを解決するに至った。


「ここでいいか」


まるで一人暮らしを決めた青年が不動産屋でよくわからんカタログを見せられ、
品定めが面倒になりよく調べもせずに適当に物件を決めた時のようなセリフだった。

『御使堕し(改)』の儀式場にこのアパートを選んだ理由。
それはどうせ学園都市内で行うのだから場所の選り好みをしたって仕方がない、
というあまりにも適当過ぎるものだった。

207 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/07 15:41:24.12 cbrju3gno 127/571


強いて言えば聖戦級の戦闘に耐えうる何かがこのアパートにはあるんじゃないか、
というフィアンマの願望も含まれた推測も理由の一つになるだろうか。


(……二階の一番奥、だな。 ここで何かがあったとすれば、その部屋だ)


という訳でフィアンマはアパート二階、一番奥の部屋に辿り着く。
全体的にボロっちいアパートだが、その部屋は更に上をいっていた。
吹っ飛んだ屋根を覆い隠すようにビニールシートが敷かれ、フィアンマの位置からは
窺えないが壊れた壁の応急処置としてベニヤ板も施されている。

少し躊躇したが、フィアンマは無断で室内に侵入した。どうやら彼はこの部屋を儀式場として
利用する事にしたらしい。鍵がかかっていたが、フィアンマは魔術の風を使って鍵を壊してしまう。
どうせこんなボロ部屋に人など住んでいないと判断した故の不法侵入だった。


フィアンマは部屋主の名前が書かれたドアプレートを見逃していた。

208 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/07 15:42:09.54 cbrju3gno 128/571



――――――――――――――――――――――


で、夜。


フィアンマは無許可でお邪魔した第七学区のオンボロアパート、二階の一室に
とりあえずさっと呪文と魔方陣を書き終え、さてここからどうしようかと考えていると
空はすっかり闇に包まれていた。

彼がいる部屋には時計という物が一切存在しなかった。だがフィアンマはここに
人など住んでいないと思い込んでいるため、疑問を感じる事はなかった。


「……、」

209 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/07 15:43:45.09 cbrju3gno 129/571


ただ、フィアンマはまずこの部屋に入って"察した"。掃除の行き届いていない部屋の
壁に、既に書かれていた魔方陣(煤やヤニで塗り潰されかけていた)を見て、かつてこの部屋で
どのような戦いが繰り広げられたのかを。


(なるほど、『聖なる右』を介していたとはいえ『禁書目録』に触れた俺様が
 違和感を覚えたのはそれが原因か。 あの男の記憶喪失も、ここで…………)


それと、もう一つ。


(……学園都市で何らかの大きな動きがあったようだが、それも済んだようだな)


学園都市を流れる目に見えない『人間の気の流れ』が意図的に操作されている感覚に
フィアンマは気付いた。今日、この街で何者かが『人払い』の術式を使った。
彼は気付いたが、しかし関わらなかった。それどころではないし、学園都市で起きた問題は
学園都市の人間が片付けるだろう、と首を突っ込む事はしなかった。

210 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/07 15:44:42.40 cbrju3gno 130/571


「さて、」


瑣末な疑問も片付いた所で、フィアンマは一息つく。

改めて部屋を見回してみると、部屋の角にはビールの空き缶が何本か転がっており、
無造作に置かれた灰皿には大量の煙草の吸殻がオブジェのように積み重なっている。
ベッドはつい最近まで使用されていた痕跡があり、ベッドの上に投げられたパジャマは
見たところ子供用のようだった。

そこまで認識して、フィアンマはこの部屋に生活感がある事を察知する。


(しかしまさか、いくら何でも魔術サイドによる戦闘が行われたであろう部屋に
 人間が住み着くはずが……。 ……学園都市の破落戸が根城にしているのか?)

211 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/07 15:45:31.58 cbrju3gno 131/571


彼が言う破落戸とはスキルアウトの事である。スキルアウトが誰も手をつけない
この部屋を勝手にアジトとして利用している可能性は充分に考えられた。
だとしたら、部屋の空き缶や煙草の吸殻も説明がつく。

仮に今ここを根城にしているスキルアウトが帰ってきたら、そいつはフィアンマに
牙を剥くだろう。当然だ、人様の領域に勝手に踏み込んだバカ野郎が何か訳のわからん
魔方陣や呪文を壁に、床に、天井に書き殴っているのだから。


(ま、その時は悪いがそいつにはしばらく眠っててもらおうか。
 不法侵入を働いている俺様にも非があるが、破落戸も他人の
 事は言えんだろうしな)


不測の事態への対応も決まった所で、フィアンマは『御使堕し(改)』の魔方陣に
視線を移す。我ながら法則を無視しすぎたメチャクチャな魔方陣だとフィアンマは
ため息をついた。普通ではない方法で術式を発動させなければならないとはいえ、
魔術サイドの人間がこの部屋の有様を見たら、悪魔でも召喚するつもりかと笑われそうだ。

212 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/07 15:46:28.68 cbrju3gno 132/571


だが笑われようが呆れられようが、この法則無視の魔方陣から新たな『御使堕し』を
開発、発動しなければならない。それがミーシャと打ち止めの『計画』を成就させる
鍵となるのだから。


(とりあえず微量の魔力を注入し、『神の右席』である俺様のフォーマットでも
 術式を発動出来るのか、魔力を注いだ際の反応を見極める必要があるか……)


フィアンマの右肩から、音もなく"腕"が現出した。『赤』を象徴するその腕、
『聖なる右』。フィアンマは第三の腕の指でそっと魔方陣を撫でようとして――――、




「あ、あれー!!? 鍵が、鍵が壊されてるのですー!!!」




213 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/07 15:47:01.88 cbrju3gno 133/571


ビクン、とフィアンマの肩が跳ねた。突然部屋の玄関の向こうから幼い女の子の
絶叫が飛んできたからだ。


「チッ」

「ど、泥棒ー!!!」


今時そんな叫び声をあげる人間などいないだろう、と思えるセリフと共に
玄関の扉が勢い良く開け放たれる。それに対しフィアンマは即座に第三の腕を
収め、掌に火球を出現させて相手の出方を窺った。とても不法侵入者とは思えぬ
堂々とした対応だが、彼は相手がスキルアウトだと想定しているので仕方がない。

だから、

214 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/07 15:47:42.91 cbrju3gno 134/571


「…………って、あれ? ひ、火野ちゃんですかー?」

「…………お前、いつかの妖精教師か?」


見た目一二歳の幼女と視線が合ったフィアンマは目が点になった。
対するピンク髪の幼女も大きな瞳をぱちくりさせながら驚愕している。


幼女の正体は、フィアンマが数日前に出会った学校の教師、月詠小萌であった。


「ど、どうして火野ちゃんが先生のお家に……?」

「ここは空き部屋じゃなかったのか?」

「扉のプレートに先生の名前が思いっきり書いてあるのですー!」

215 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/07 15:50:10.93 cbrju3gno 135/571


右手に提げたパンパンの買い物袋を揺らしながら小萌先生は叫んだ。
掌に火球を浮かべたままフィアンマはしばらく微動だにしなかったが、
やがて事情を察すると静かに火球を虚空に還す。


「合点がいった。 ベッドの上のパジャマはお前の私物だったのか」

「ま、まさか火野ちゃん……先生のパジャマに顔を埋めてクンカクンカスーハーなんて―――」

「俺様を侮るな。 匂いを嗅ぐどころか、お前のパジャマは食べてしまったぞ」

「食べた!?」

「下着も全てぺろりだ」

「そ、その流れで今度は先生を食べちゃ―――」

「いや、お前はいらん」

「真性の変態さんなのですよ……」

「…………いや、女。 冗談だ、真に受けるな」

216 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/07 15:51:06.74 cbrju3gno 136/571


小萌先生はまさかの事態が起きていない事に安堵し、そっと胸を撫で下ろすが、


「げぇー!!? な、何だか先生のお部屋がとってもオカルトチックにー!?」

「…………これならまだ破落戸の方が対処が楽だったかもしれんな」


あわあわと慌てふためきながらもしっかりと玄関で靴を脱ぎ、買い物袋を
そっと床に置き、首を回しながら部屋中の様子を窺いつつ手をしっかりと
洗っている辺り、小萌先生もこういったハプニングは慣れっこらしい。

そしてフィアンマも、指の間も爪の間も丁寧に洗う小萌先生の後ろ姿を
眺めながら考える。
考えるというか、彼の頭にはある一つの『提案』がスタンバっていた。

217 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/07 15:51:47.79 cbrju3gno 137/571


「……月詠小萌、だったか」

「はいはいー小萌先生ですよー。 ていうか火野ちゃん、勝手に人様のお家に
 無断で忍びこむとは何事ですか! それだけに飽き足らず、部屋中にこんな
 落書きまでして……さては反抗期? 先生、火野ちゃんをこんな風に育てた覚えは――」

「無いだろうし、俺様もお前に教育を受けた覚えなど無い。 それより、一つ頼みがある」


フィアンマの真剣な面持ちを見て何かを察したのか、小萌先生はタオルで
手を拭き終えると何も言わず丸テーブルの前で正座をした。


「先生にお願い……何ですか?」

「ここまで準備を整えた以上、今更ここを離れる訳にもいかん」


フィアンマも小萌先生に習って丸テーブルの前で座り込み、続けてこう言った。


「少しの間で構わん。 しばらく俺様をここへ住まわせてはくれんか」

218 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/07 15:53:03.52 cbrju3gno 138/571



――――――――――――――――――――――




「新しい同居人に、カンパーイなのですー!!」

「……」




鉄板から立ち上がる煙を吹き消すように、フィアンマと小萌先生は
お互いが持つグラスと缶ビールをぶつけ、盛大に乾杯をした。


フィアンマが口頭でした事情説明はこうだ。
まず、どこでもいいからそれらしい空間を見つけてそこに魔方陣(小萌先生でいう落書き)
を書き殴る必要があった。なぜならこうする事で救われる人物がいるから。だからしばらく
ここに居候させてもらい、救済の準備を整える事を許可してほしい。

219 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/07 15:53:48.06 cbrju3gno 139/571


たったこれだけ。魔術的要素を含む詳細説明など一切合切省略し、フィアンマは
嘘はついていないためそれをアピールするために真剣味を強く出して説明した。
小萌先生は数秒の間目を閉じ、うーんと悩むように唸った後、


『よし! 先生、火野ちゃんの居候を許可するのですよー』

『いいのかよ!?』


懇願する側のフィアンマが思わずツッコミを入れてしまう程の判断だった。
どう考えても話が見えてこないフィアンマの意味不明の説明のどこに納得
したのか、小萌先生は深く事情を言及する事なく彼との同居を容認してしまった。


そうと決まれば次は新たな同居人の歓迎パーティ、と小萌先生は買い物袋から
焼肉用の肉を詰めたパックと缶ビールを大量に取り出し、台所から家庭用の鉄板を
引っ張って来て、あっという間に今夜の食卓を完成させてしまったのだった。

220 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/07 15:54:41.19 cbrju3gno 140/571


「いやー先生、どうもそろそろ新しい居候がやって来るんじゃないかと
 思って、こうして焼肉のための買い物をした次第なのですけれど、
 無駄にならなくてよかったのですー。 ささ、火野ちゃんも遠慮せずに」

「新しい居候がやって来る……? お前、普段から路頭に迷う人間を
 捕まえてこの部屋に住まわせる生活を送っているのか?」

「しょっちゅう歓迎している訳ではないですけどねー。 今年は……、
 パン屋へ修行に行った誘波ちゃんとー、夏に転校してきた姫神ちゃん、
 それとめっきり姿を見せなくなった結標ちゃんくらいですかねー。
 ん? そう考えると男の子の同居人は火野ちゃんが初めてなのですー」

「……、」


それは教師という立場が彼女を奮い立たせているのか、とフィアンマは適当に考察する。
家出少年、無法者、浮浪者。それらを厚意で拾い上げ育むという行為は小萌先生に限らず、
科学も魔術も飛び越えて、世界中で行われている事だが。

221 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/07 15:55:38.74 cbrju3gno 141/571


「それにしても自分の住処に勝手に侵入し、部屋中に術式を仕込む
 人間が居たら然るべき機関に連絡するのが普通ではないのか?
 俺様は迷える仔羊でも無ければ親に捨てられた哀れな子供でもないぞ」

「うーん、確かにこの魔方陣……でしたか。 これは先生もさすがに引きましたが、
 これも含めて火野ちゃんが大切に想っている人を救うための準備なのでしょう?
 安心してほしいのです、先生こう見えてもなぜかオカルトめいたイベントに多く
 遭遇する星の下で生まれた人間ですから。 火野ちゃんを全力で応援しますよー」

「……お人好しが」

「んー?」

「何でもない。 とにかく助かった、お前と接触していた過去が役に立ったよ」

「いやぁ、そこまで言われると先生も照れるのですー。 あーほらほら!
 早く食べないとお肉が焦げちゃうのですよー? 火野ちゃんはその菜箸で
 肉焼きに徹して下さい、そして私が育った肉をこうしてヒョイパク」

「……せめて換気くらいはしたらどうだ。 煙たくてかなわん」

222 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/07 15:56:35.86 cbrju3gno 142/571


部屋の窓を開けて室内に充満する煙を逃がそうと立ち上がったフィアンマだったが、
その窓にもフィアンマ独自の法則に従って描かれた呪文の一部があったため、
窓を開く事は出来なかった。ヘタに陣形をズラして妙な魔術が発動してはたまったものではない。

小萌先生が五〇〇ミリリットルの缶ビールを数瞬で空にしながらフィアンマに尋ねる。


「時に火野ちゃん。 さっき先生が入ってきた時に出現させてた火の玉なのですが……」

「アレについて説明しろと言われたら多分朝までかかるが」

「いえいえ、アレ、『発火能力(パイロキネシス)』によって生み出された炎じゃ
 ないですよねー? 先生、『発火能力』専攻の教師ですからそれは分かるのです。
 火野ちゃんは確か『空間移動(テレポート)』の能力者だったはずですからねー」

「…………それで?」

「あ、いえ、気に障ったのなら謝るのですが……どうやってあの火の玉を生み出したのかなーって」

223 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/07 15:58:05.60 cbrju3gno 143/571


フィアンマは少し驚いていた。『発火能力』専攻の教師と発言している事から
小萌先生は学園都市の炎に関する能力についての知識を豊富に蓄えているのは彼でも理解出来る。
しかし小萌先生はフィアンマが魔術によって生み出した火の玉をあっさりと『別の手段による何か』
と看破した。

魔術についての知識は無くとも、この小さな教師は何度か魔術そのものを目撃、
或いは体験しているのかもしれないとフィアンマは推測した。先程もオカルトめいた
場面に多く遭遇すると言っていたことも手伝って。


「……とりあえず、科学による力ではないという事実は明かしてしまっても構わんだろう」

「科学ではない技術……という訳ですかー?」

「そう思ってもらって問題はない」

「ふむふむ、科学ではない別の法則……『非科学』ですかー」

「思い当たる節は?」

「あるのですよー」

224 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/07 15:59:00.80 cbrju3gno 144/571


小萌先生は即答した。フィアンマが面倒を見ていた肉の焼き加減を見極め、
鉄板の上に素早く割り箸を滑り込ませてながら小萌先生は続ける。


「例えばインデックスちゃんの時の……天使がどうこう言うなんたらかんたら……とか、
 大覇星祭の時に大怪我を負った姫神ちゃんを治療する時に、火野ちゃんと同じような
 赤い髪の神父ちゃんが手伝ってくれたアレとか……科学じゃ説明の出来ないような現象は
 先生、さっきも言いましたけど何度か目にした事があるのですよー」

(禁書目録との関わりも持っていたか……。 当然と言えば当然だが)

「先生、暇が出来てはあの現象について考えていたりしたのですがー……。
 うん、やっぱり先生の頭じゃ結論は出せなかったのです。 あの不思議現象、
 『未知の法則』は学園都市の人間では解き明かせない現象なのでしょうか」

「その訳のわからん法則でこの部屋を満たし、訳のわからん現象で
 俺様が誰かを救おうと考えていると言ったら、お前はどうする?」

225 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/07 15:59:49.30 cbrju3gno 145/571


フィアンマの唐突な質問に、小萌先生は『ふぇ?』と首を傾げる。
が、その手に構える割り箸にはしっかりと肉が掴んであった。


「俺様が実は学園都市の能力者ではなく、お前がこれまでに見てきた
 科学とは別の法則に満たされた世界の住人であり、俺様の都合で
 お前を勝手に巻き込んでその法則を利用しようとしていると言ったら、」

「……、」

「お前はどうする。 お前が住む世界とはまるで違う世界の人間である
 俺様が、お前の居場所に土足で踏み込もうとしているんだぞ」

「構わないですよー? 火野ちゃんはそんな事を気にしているのですか?」


やはり小萌先生は即答した。しかも散々悩んで搾り出したような物言いではなく、
何をそんな細かい事を今更になって言い出しているんだと言うような口ぶりで。

226 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/07 16:00:57.41 cbrju3gno 146/571


「住む世界がどうとか、法則がどうとか、先生はそんな小さい事気にしないのです。
 インデックスちゃんや神父ちゃんの時は、そりゃ驚きはしましたが、"それだけなのです"。
 気味悪がっている訳でもないし、否定するつもりもない。 どういう手段であれ、
 火野ちゃんが誰かに手を差し伸べようとしているのなら先生は応援するのですよー」

「応援どころか、場合によっては俺様がお前に助力を申し出るかもしれん」

「むしろ大歓迎なのです! 先生なんかが火野ちゃんの行いの助けになるのなら、
 先生は嬉しいのですよ。 何か手伝える事があるなら遠慮せず言ってください。
 火野ちゃんが能力者ではないという事実には驚きましたが――――」

「……、」

「―――住む世界が違えどなぞるルールが違えど、火野ちゃんと先生は同じ人間なのですから」


ね。 と、小萌先生は純粋無垢な笑顔を浮かべて肉を頬張った。
まだ肉が高温を保っていたせいか、はふほふと口の中で肉を冷ましている。

227 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/07 16:01:46.66 cbrju3gno 147/571


フィアンマはこの時、月詠小萌という名の人間の器量の大きさを理解した。
同時に、『天使同盟』という科学も魔術もクソもないイミフ軍団の一味のクセして
科学だの魔術だのとこだわり、引きずっている自分の器量の小ささも思い知らされた。


「……恐らくお前は、俺様が救おうとしている存在が人間ですらないと
 知っても、同じように答え、同じように笑顔を浮かべるのだろうな」

「?」

「少し、長い話になる」


フィアンマはほとんど使っていない割り箸をタレが注がれた小皿の上に乗せ、
こちらをジッと見つめる小さな、そして大きな女教師の瞳を見ながら言った。


「俺様がこれからお前の部屋で行おうとしている事、俺様が救おうと
 している存在の事、漏れなく全てを話す。 そして話した上で、
 お前に協力を要請したいのだが……、構わんか?」

228 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/07 16:02:18.46 cbrju3gno 148/571


「先生に二言は無いのですー。 ドンとこい、ですよ」

「…………礼を言う」


話さなければならないと思った。不法侵入をされて、意味もわからない
魔術という名の法則で自分の領域を侵され、それでも受け入れてくれた
この月詠小萌という人間に、隠し事など失礼だと、フィアンマは判断した。

自分の勝手な都合を全て受け入れてくれた小萌先生に素直に感謝しながら、
フィアンマはまずこの『計画』の根幹たる存在を小萌先生に明かした。


「俺様が救おうとしている者は……天使。 現世とは違う別位相に住む
 未知なる存在、ミーシャ=クロイツェフという大天使だ」


この日、月詠小萌が認識している『世界』が新たに開拓された。

230 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/07 16:07:36.62 cbrju3gno 149/571


ようこそ、月詠小萌てんてー。

という訳で今回はここまでです。
フィアンマはあろうことか、月詠小萌のお家で術式を開発する事に決めました。
ロマンチックの欠片もない同居生活の始まりです。
ボロボロのアパートとか書いちゃいましたけど、そこまでボロくなかったような気もします。

ですがフィアンマはここで一旦フェードアウト。次の出番はもう水平線の向こう側です。

次回は代わりに一方通行パートが加わります。そして垣根帝督パートも
挟みつつ進行する……はず、です。

次回更新は三日以内。

それでは、今日もありがとうございました!

誘波って誰ですか?

231 : 次回予告はここまでです。  ◆3dKAx7itpI - 2012/02/07 16:08:16.59 cbrju3gno 150/571




                          【次回予告】



「死ぬ……眠い……死ぬ……眠い……死ぬ……眠い……死ね……殺す……」
『天使同盟(アライアンス)』のリーダー・学園都市最強の超能力者(レベル5)――――――一方通行(アクセラレータ)




「実戦とリアルファイトを混同しないでくれる? 私は実戦慣れしてるけど、
 リアルファイトなんてお店のマナーを破るような行為には走らないわよ」
ローマ正教、禁断の組織『神の右席』の元一員――――――前方のヴェント




263 : VIPに... - 2012/02/09 22:47:24.47 tNs9LQ9TP 151/571

懺悔します
未だにクルーズで移動してた頃の風斬の濡れ場(エイワスの妄想)を定期的に読み返します

264 : VIPに... - 2012/02/10 05:55:09.86 KCm7Bh4DO 152/571

>>263
俺はこのSSを読みはじめてから御坂妹から氷華に乗り換えてしまいそう

どうしよう…ちっぱい派の俺がおっぱい派になっちまった…

265 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/10 12:42:37.77 q/1JS9LVo 153/571

>>264
の、乗り換えちゃってもいいのよ?いやこれを機に乗り換えてしまえ!

皆さん、こんにちわ。更新を開始します。

前回はフィアンマが月詠小萌の家に居候することが決まり、
しかも彼女もまた、『天使同盟』の事情を知るに至るのでした。

今回は一方通行パート。風紀委員の雑務と戦った彼の話の続きをお送りします。

それでは、よろしくお願いします!


なお、更新後に重大発表がございます。……重大発表ってほど大袈裟なもんじゃないですが

266 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/10 12:43:18.68 q/1JS9LVo 154/571



――――――――――――――――――――――


結局、風紀委員(ジャッジメント)の雑務は翌日の朝一〇時頃までかかってしまった。




「死ぬ……眠い……死ぬ……眠い……死ぬ……眠い……死ね……殺す……」




最後の方はもはや恨み言と可していた。

一方通行。学園都市第一位の超能力者。

267 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/10 12:44:33.85 q/1JS9LVo 155/571


彼は杖をつきながら学園都市の第七学区を歩いていた。歩くと言ってもその歩行速度は
フェアな条件で亀と競争してもまるで勝ち目が無い程に鈍かった。彼は容姿をウサギと
例えられる事があるが、これでは亀どころか陸に上がった魚にすら追い抜かれてしまう。

杖をついて歩いている理由は、彼が過去に頭を銃でぶち抜かれ、歩行機能とその他諸々が
著しく低下してしまったからではあるが、今の一方通行の状態なら例えかのようなハンデが
無くとも杖を使用しなければ歩行すらままならない程であった。


学園都市最大の文化祭。一端覧祭の五日目である。


昨日、色々あって風紀委員の事務処理を強制実行させられるハメになった一方通行は、
共に行動していたイギリス清教のシスター、オルソラ=アクィナスとアンジェレネの
協力を経て始末書の処理に勤しんだ……のだが、まず最初にアンジェレネが眠りこけて
リタイアし、その後もなんやかんやした後にオルソラが机に突っ伏して寝息を立てて
しまったため、事実上彼は一人で見上げる程の量がある始末書を睡魔と戦いながら
適格に処理していくことになってしまった。

268 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/10 12:45:25.52 q/1JS9LVo 156/571


朝になって通常出勤してきた白井黒子と固法美偉は締め切り数分前の漫画家のような
状態になっている一方通行を目の当たりにして凍った。彼女達曰く、一方通行達は
雑務など放り投げてとっくに帰宅しているものだと思っていたらしい。

白井と固法は一方通行に心の底から感謝と尊敬の意を送り、息も絶え絶えの
彼に素晴らしい出来の朝食を振る舞ってくれた。アンジェレネが目を覚まし
『あれ……まだ終わってなかったんですか一方通行さん……』とか言い出した時は
危うく黒翼を現出させるところだった。

真面目に感謝してくる白井と固法にオルソラとアンジェレネの事を任せ、一方通行は
ようやく風紀委員という立場の地獄から解放され、第七学区のアジトへの帰路に着いたのだが、


「眠い……あァ……これ今寝たら俺一生目ェ覚まさねェンじゃね?」


彼はここ数日、あらゆるイベントに邪魔されて就寝を取る事が出来なかった。
最後に寝たのは風斬氷華とのデート後。翌日、一端覧祭の三日目であるキャーリサの
看病の時から彼は一睡もしていない。本当の意味で徹夜二日目だった。

269 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/10 12:46:42.09 q/1JS9LVo 157/571


普通に過ごしていれば二日程度の徹夜など一方通行なら苦に感じなかっただろう。
だが徹夜せざるを得なくなったその二日間、彼の華奢な体に溜まった疲労は尋常
ではないものだった。彼にとってあまりにも『非日常』な事が立て続けに発生し、
尚且つ眠れなかったというのだから現在の彼の疲労度は筆舌に尽くし難い。


(時間を無駄に出来ねェなンてのたまってるが、これじゃイギリス行きの前に
 俺が昇天しちまう。 今日はもォ一日中寝る、何人たりとも邪魔はさせねェ)


二日後、彼は神裂火織と共にイギリス清教のローラ=スチュアートと謁見する約束を取り決めている。
仮にも最大主教であるローラに自分の亡骸を差し出す訳にはいかない。
一方通行は今日一日爆睡する事を固く、固く誓った。


「着いた……」

270 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/10 12:47:34.92 q/1JS9LVo 158/571


『天使同盟』が利用している『グループ』のアジトであるアパートが見えた。
一方通行にはそれが天界への入り口にも思えた。
這うように階段を登り、意識朦朧の中部屋の扉を開ける。


「ソロモンよ……俺ァ帰ってきた……」


ここはソロモンではなくアパートの一室なのだが、意識が混濁している彼には
この部屋が軍事用に改装された宇宙要塞に見えたのかもしれない。

部屋には誰の物かも判別つかない衣服や私物が無造作に放り投げてあったが、
肝心の人間がいないため室内にはなんとも言えぬ寂寥感が漂っていた。


「誰かいねェのか……? 風斬、ガブリエル、フィアンマ。 その他大勢のモブ共。
 ……………………チッ、部屋散らかすだけ散らかして外出してやがンのかよ」

271 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/10 12:48:33.99 q/1JS9LVo 159/571


だが無人という状況は今の一方通行には都合が良かった。
彼は他には目もくれず一直線にソファへ向かうと、溶けるように寝そべって
そっと目を閉じる。二日ぶりの睡眠だ、その寝心地はさぞ気持ちの良いものだろう。




「あ、白いの。 テメェやっと帰ってきやがったのか」




夢かと思った。怒涛の二日間を徹夜で過ごした一方通行ならわずか数秒で
夢を見れる。だから彼は夢の中で誰かが語りかけているものだと思い込み
声を無視して睡眠に徹しようとしたのだが、


272 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/10 12:49:41.22 q/1JS9LVo 160/571


「ちょっと、ねえ、起きてよ。 ねえってば」

「…………」

「起きろよ白いの。 このヴェントが起きろっつってんのよ?」

「…………うるせェなァ」


ゆさゆさと体を揺すられ、仕方なく一方通行は意識を戻して愚痴るが
しかし瞼は閉じられたままだ。だがそれでも相手が名乗ってきてくれたおかげで
一方通行は元『神の右席』の魔術師、前方のヴェントの存在を認識した。


「アンタここ最近帰ってこなかったけど、どこ行ってたのよ」

「ンあー……、…………、知らン。 どこでもイイだろ……」

273 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/10 12:50:41.61 q/1JS9LVo 161/571


「どうせその辺の女とイチャついてたんでしょうけど」

「人聞きの悪い事言うンじゃねェ……」


ぺちぺち、とヴェントが頬を軽く叩いてくる。一方通行はそれを鬱陶しがりながら払った。
シャンプーの甘い香りが一方通行の鼻孔をくすぐる。どうやらヴェントはさっきまで
シャワーを浴びていたようだ。

そんなヴェントが就寝と永眠の狭間で揺れる一方通行に質問を投げかける。


「ねえ、アンタ今日暇?」

「いいや……恐ろしく忙しいなァ」

「何か予定があるの?」

「寝る。 ただひたすら寝る。 これが今日のスケジュールだ……」

274 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/10 12:51:43.49 q/1JS9LVo 162/571


じゃあオヤスミ、と一方通行が再び夢の世界へ旅立とうとした所を、
ヴェントが彼の薄いお腹にのしかかり阻止した。


「げふェ!!?」

「朝っぱらから惰眠を貪る程度には暇なんじゃない。 ちょっと付き合ってよ」

「殺されてェのかなァこの小娘ちゃンは……」


腹に座る魔術師の女をどけようと抵抗するが、今の一方通行では到底太刀打ち出来ない。


「ねえ、聞いてんの?」

「あァもォ勘弁してくれ……。 風斬とかその辺のヤツらと一緒に遊べばイイじゃねェか」

275 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/10 12:52:29.99 q/1JS9LVo 163/571


「ここにはアンタと私しかいないんだけど」

「だったら街に出て探してくりゃイイだろ……。 悪いが俺はマジで疲れてンだ、
 頼むから今日だけは寝かせてくれ……。 後日埋め合わせしてやるからよ……」

「……」


発声出来ているのかいないのか微妙な声量で懇願する一方通行。
すると彼の願いを承諾したのか、ヴェントは素直に彼の腹から降りる。
一方通行の腹部に開放感が訪れた。


「何よ……人がせっかく誘ってあげてんのに」

「眠いンだからしょうがねェだろ……」

「……まぁいいわ。 どうやら本当にお疲れのようだし、見逃してやるわよ」

「……、」

276 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/10 12:53:27.96 q/1JS9LVo 164/571


その言葉にわずかな寂しさが窺えたのは一方通行の気のせいだろうか。


「アンタこの前、暇が出来たらどこかへ遊びに行くかって言ったわよね。
 あの時の言葉を今日実行してもらおうと思ってたんだけど」

「……」

「……また今度、声かけるから。 都合が良かったら付き合って」


一方的に話を切り上げると、ヴェントは一方通行から離れて適当に外出の
準備を始めた。ここで一方通行は初めて瞼を開く。用意を進めるヴェントの
背中から伝わる孤影悄然とした雰囲気は、やはり気のせいではなかった。

277 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/10 12:54:08.31 q/1JS9LVo 165/571


「ちょっと待てよ」

「! ……何?」


ぴくっ、と肩を震わせてヴェントは聞き返す。


「どォやら睡眠は充分に取れたみてェだ。 すっかり眠気が飛ンじまった」

「だ、だから何?」

「暇になっちまったって言ってンだよ。 どこにでも連れてけ。
 つまらねェ事に俺を付き合わせよォって魂胆だったら叩き潰すぞ」

「……別にアンタじゃなきゃ駄目って事はないんだけど」

278 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/10 12:54:53.92 q/1JS9LVo 166/571


「だったら俺から申し出る。 今日暇か? 一緒に遊ぼォぜ」

「……………………。 し、仕方ないわね」


ヴェントは一方通行の方に体を向けると、腰に手を当てふんぞり返りながら言った。


「どうしてもって言うなら付き合ってあげなくもないわ」

「元はといえばオマエが言ってきたンだが」

「いちいちうるさいわよ白いの。 さっさと出掛ける準備してもらえる? 文化祭
 だからか何だか知らないけど、"あの店"、早く行かないと人が増えてウザいのよ」

「ちっ、調子のイイ女だ。 …………あの店?」


一端覧祭五日目。一方通行の今日一日のスケジュールが決定した。

279 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/10 12:55:58.41 q/1JS9LVo 167/571



――――――――――――――――――――――


「さ、着いたわよ」

「……………………」


ずぶずぶと沈みそうな意識を必死で引っ張り上げながらヴェントのお出かけに
付き合った一方通行は、彼女の案内で目的地にたどり着いた。

たどり着いて、


「さて……帰って寝るか」

「ふざけんな、ここまでついてきておいてそれはないでしょ」

280 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/10 12:56:55.39 q/1JS9LVo 168/571


「帰りたくもなるわそりゃ、オマエの方こそふざけンなよ?」

「何がよ」


一方通行は心の底からうんざりしたような顔を貼りつけて指をさした。
彼の指の先には、ヴェントが目的地としていたとある店。




「なンでこの俺が寝る間を惜しンでゲーセンなンかに行かなきゃならねェンだよ!?」





281 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/10 12:57:49.73 q/1JS9LVo 169/571


第七学区の地下街。栄養学、料理専門学校が実験的に出している店がズラリと並ぶ
地下世界。その一画にあるゲームセンターの前で一方通行は捲くし立てる。


「少しシリアスな雰囲気でよォ、『一緒に来て欲しい場所がある』とか言われたらよォ、
 なンかオマエにとって思い入れや悲しい過去があった地域とかにでも赴くンだろォな
 と思って俺も寝てる場合じゃねェなって思ったから着いてきてみりゃよォ、」

「心外ね。 悲しい過去はともかくある程度の思い入れはあるわよ」

「ゲーセンに対するオマエの思い入れなンざ知るかァ!」


ぎゃあぎゃあと怒鳴り続けた一方通行は終いに呆れてしまい踵を返すが、
すかさずヴェントが彼の右腕に装着された現代的なデザインの杖を蹴っ飛ばした。
バランスを崩した一方通行はバナナの皮で滑ったように間抜けな転び方をしてしまう。

282 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/10 12:58:34.62 q/1JS9LVo 170/571


「私を置いて帰ったらここで暴れてやるから」

「この俺に脅しをかけてくるとはイイ度胸してンなァ……」

「一端覧祭中は忙しかったんでしょ? ここは娯楽施設よ、アンタの体に
 蓄積された疲労をここでパーッと解消させればいいじゃない」

「ちっ……。 つーか、まさかオマエがゲーセンに通ってるとはなァ」


腰に手を当てて見下ろしてくるヴェントを睨みながら一方通行はよろよろと立ち上がる。


二人が行き着いたゲームセンターは、いわゆる『外部系』の店だった。
学園都市のゲームセンターは『外部系』と『内部系』が存在しており、
『内部系』は学園都市内で開発されたゲームが並び、『外部系』は
学園都市の『外』から入荷したゲームを取り揃えている。

283 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/10 12:59:33.43 q/1JS9LVo 171/571


学園都市の文明レベルは『外』に比べて二、三〇年は進んでいるため、
『内部系』ゲームセンターのゲームは『外』では味わえない最新技術が
取り入れられた面白さが溢れているが、中には『外』の技術が遅れた
ゲームの方が楽しいという学生もおり、そういった学生のニーズに応えるため
用意されたのがここ、『外部系』のゲームセンターなのだ。

予想以上に『外部系』のゲーセンは需要があり、『内部系』に負けず劣らずの
賑わいをみせているようだ。実際、一方通行が軽く店舗内の様子を確認しても
頭の軽そうな数人の不良が店内のベンチで屯しているし、いかにもゲーマーですと
訴えているような容姿の学生が筐体を凝視しながら手元でレバーを操作しているし、
仲睦まじい女子高生集団が黄色い声で騒ぎながらUFOキャッチャーを楽しんでいた。


「あァ……一端覧祭って一部の学生にとっちゃ単なる休日でしかねェモンな。
 今年の一端覧祭はエイワスの野郎が延長してやがるからあァいうのも増えてンのか」

「つべこべ言ってないでさっさと中に入るわよ」

284 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/10 13:00:29.43 q/1JS9LVo 172/571


ヴェントに襟を掴まれ、一方通行は半ば強引にゲーセンへと連行される。
店内へ入った瞬間、ゲーセン特有の騒音が彼の鼓膜を叩いた。


「相変わらずだなゲーセンってのは……かなり前に番外個体とかと行った時もうンざりしたモンだぜ」

「アンタ、こういう場所に来た事あんの?」

「自分から赴く事はまずねェけどな。 で、ここでオマエは何をしよォってンだ」

「これよ」


店内を歩くヴェントの足が、ある筐体の前で止まった。
そのゲームを見て一方通行は不可解さを表すように眉をひそめる。

285 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/10 13:01:16.92 q/1JS9LVo 173/571


「…………格ゲー?」

「アンタ、一〇〇円持ってる? 無ければ両替してきてくれないかしら。
 ここ数日ゲーセンに通ってたせいで私の所持金も底を突いてしまったのよ」

「おいおい待て待て、オマエまさかこれをやるつもりか?」

「何よ」

「オマエが格ゲーって……、リアルファイトの方が得意分野だろォに」

「実戦とリアルファイトを混同しないでくれる? 私は実戦慣れしてるけど、
 リアルファイトなんてお店のマナーを破るような行為には走らないわよ」


そう言う割にはベンチからこちらを見る不良達の目が怯えの色を浮かべているが、
ヴェントはこの店の常連で、過去に何かをやらかしているのかもしれない。
もしくはその不良達はヴェントでなく、一方通行に対して警戒しているのだろうか。

286 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/10 13:02:41.96 q/1JS9LVo 174/571


「一〇〇円」

「うるせェなクソ……。 とりあえずこンだけあればイイだろ」

「ありがと。 さ、アンタは向こう側の筐体に行きなさい。 私はここの筐体を使うから」

「?」

「どうしたのよ、早く」

「一体何が始まるンです?」

「何言ってるのよアンタ。 これは格闘ゲームよ?」


ヴェントはさも当然のように言ってのけた。

287 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/10 13:03:20.33 q/1JS9LVo 175/571


「これからこのゲームで私と対戦するのよ。 格闘ゲームなんだから当たり前でしょ。
 CPUという名のサンドバッグを延々とボコボコにしてもつまらないもの」

「……俺、格ゲーなンてほぼ未経験なンだが。 初心者ってレベルじゃねェぞ」


一方通行の言葉を聞いて、ヴェントの瞳がわずかに見開かれた。
その際に彼女の口角がわずかに『ニヤリ……』なニュアンスで歪んだのは
気のせいだろうか。


「大丈夫よ、アンタ学園都市第一位の超能力者なんでしょ?
 学園都市で一番頭がいいんだったら、こんなゲームのノウハウくらい
 一瞬で覚えられるわよ。 操作方法は筐体に記載してあるし、ね」

「学園都市第一位は格ゲーも上手いなンて根拠があるかよ……。
 まァここまで来た以上やってもイイが、初心者相手じゃつまンねェだろ」

「いいから」

288 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/10 13:04:14.82 q/1JS9LVo 176/571


ヴェントは筐体の椅子に座ると一方通行から受け取った一〇〇円を投入する。
初回プレイ時に作成したのか、彼女はスカートのポケットから格闘ゲーム用の
プレイヤーカードを筐体にスキャンした。プレイヤーのスコアやランクを記録する
ためのカードなのだろう。

筐体のディスプレイがボタン操作を要求し、ヴェントは慣れた手つきでボタンを押すと
キャラ選択画面でカチカチとレバーを横に倒した。


これより、学園都市最強の超能力者とローマ正教『神の右席』の魔術師による
ガチバトルが始まる。…………ただし格闘ゲームだが。

289 : ◆3dKAx7itpI - 2012/02/10 13:12:16.36 q/1JS9LVo 177/571


私「引越しするんでネットの移転手続きお願いしまーす」

プロバイダ「かしこまりました。移転先のご自宅にネットが
        繋がるまで二週間前後かかりますがよろしいですか?」

私「な、なんだってー!?」


……というわけなんです。重大発表でもなんでもない、ただの私事でした。

ただこれで少しだけ更新に支障が発生する可能性がございます故、
一応報告させていただきました。しばらくはネットカフェで投下していきますが、
もしかしたら三日以内というルールは守れないかもしれませんのでご了承ください。

あと、今回から始まった一方通行パートのヴェント編は、かなりパロディ要素が含まれます。
パロディ6、ギャグ3、その他1の割合で進行していきます。
そういうの苦手な方には申し訳ないのですが、どうかよろしくお願いします。

次回更新は(多分)三日以内。

それでは、今日もありがとうございました!

290 : 次回予告はここまでです。  ◆3dKAx7itpI - 2012/02/10 13:13:14.74 q/1JS9LVo 178/571




                          【次回予告】



「……アックアの野郎に手伝わせてまで練習したのに」
ローマ正教、禁断の組織『神の右席』の元一員――――――前方のヴェント




「あいつまで巻き込ンでやがったのかオマエ!?」
『天使同盟(アライアンス)』のリーダー・学園都市最強の超能力者(レベル5)――――――一方通行(アクセラレータ)






続き
蛇足 とあるフラグの天使同盟 漆匹目【中編】


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