1 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/04 16:09:02.09 ETsIBHFYo 1/526

この二次創作はライトノベル『とある魔術の禁書目録』の登場人物、一方通行を主人公にした
どうにかしてほのぼのな雰囲気を出そうと奮闘するどうしようもないSSです。


【本編】

一方通行「フラグ・・・ねェ」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1285654962/

一方通行「フラグ・・・・・・なのかァ?」  風斬「そうですよ!」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1289310136/

一方通行「フラグ・・・・・・じゃねェだろ」  エイワス「まだそんな事を言っているのか」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1294928027/

一方通行「フラグ・・・・・・だろォな」  垣根「ち・・・・・・くしょ・・・・・・う」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1295564748/

一方通行「フラグだと? って事ァ」  レッサー「私はあなたが好きって事です♪」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1298041227/

一方通行「そンなフラグはヘシ折ってやる」  ヴェント「・・・・・・あ?」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1300453744/

一方通行「いいか、フラグってのはなァ」 ガブリエル「vbhti素敵apfrgt」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1303132992/

とあるフラグの天使同盟
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1305963129/


【本編のエピローグ・続編】

蛇足 とあるフラグの天使同盟
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1307804166/

蛇足 とあるフラグの天使同盟 弐匹目
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1310210981/

蛇足 とあるフラグの天使同盟 参匹目
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1313069422/

蛇足 とあるフラグの天使同盟 肆匹目
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1316009458/

蛇足 とあるフラグの天使同盟 伍匹目
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1319277226/


上記のスレからの続きとなっています。もしお暇でしたら、ご一読を。


以下、留意点など。

・更新は基本的に三日以内です。時間帯は不安定。
・キャラ崩壊が起きています。ご注意ください。
・地の文と台本形式、両方でお送りします。
・誤字脱字のバーゲンセール。発見した方は厳しく指摘してやってください。
・書き溜めは多分尽きる事は恐らくないでしょう。

元スレ
蛇足 とあるフラグの天使同盟 陸匹目
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1322982536/



【関連】

◆本編

1スレ目
一方通行「フラグ・・・ねェ」【1】
一方通行「フラグ・・・ねェ」【2】
一方通行「フラグ・・・ねェ」【3】
一方通行「フラグ・・・ねェ」【4】

2スレ目
一方通行「フラグ・・・・・・なのかァ?」  風斬「そうですよ!」【1】
一方通行「フラグ・・・・・・なのかァ?」  風斬「そうですよ!」【2】
一方通行「フラグ・・・・・・なのかァ?」  風斬「そうですよ!」【3】
一方通行「フラグ・・・・・・なのかァ?」  風斬「そうですよ!」【4】

3スレ目
一方通行「フラグ・・・・・・じゃねェだろ」  エイワス「まだそんな事を言っているのか」【1】
一方通行「フラグ・・・・・・じゃねェだろ」  エイワス「まだそんな事を言っているのか」【2】
一方通行「フラグ・・・・・・じゃねェだろ」  エイワス「まだそんな事を言っているのか」【3】

4スレ目
一方通行「フラグ・・・・・・だろォな」  垣根「ち・・・・・・くしょ・・・・・・う」【1】
一方通行「フラグ・・・・・・だろォな」  垣根「ち・・・・・・くしょ・・・・・・う」【2】
一方通行「フラグ・・・・・・だろォな」  垣根「ち・・・・・・くしょ・・・・・・う」【3】

5スレ目
一方通行「フラグだと? って事ァ」  レッサー「私はあなたが好きって事です♪」【1】
一方通行「フラグだと? って事ァ」  レッサー「私はあなたが好きって事です♪」【2】
一方通行「フラグだと? って事ァ」  レッサー「私はあなたが好きって事です♪」【3】

6スレ目
一方通行「そンなフラグはヘシ折ってやる」  ヴェント「・・・・・・あ?」【1】
一方通行「そンなフラグはヘシ折ってやる」  ヴェント「・・・・・・あ?」【2】
一方通行「そンなフラグはヘシ折ってやる」  ヴェント「・・・・・・あ?」【3】

7スレ目
一方通行「いいか、フラグってのはなァ」 ガブリエル「vbhti素敵apfrgt」【1】
一方通行「いいか、フラグってのはなァ」 ガブリエル「vbhti素敵apfrgt」【2】
一方通行「いいか、フラグってのはなァ」 ガブリエル「vbhti素敵apfrgt」【3】

8スレ目
とあるフラグの天使同盟【1】
とあるフラグの天使同盟【2】
とあるフラグの天使同盟【3】

9スレ目
蛇足 とあるフラグの天使同盟

◆蛇足(続編)

1スレ目(9スレ目)
蛇足 とあるフラグの天使同盟 壱匹目【前編】
蛇足 とあるフラグの天使同盟 壱匹目【後編】

2スレ目(10スレ目)
蛇足 とあるフラグの天使同盟 弐匹目【前編】
蛇足 とあるフラグの天使同盟 弐匹目【中編】
蛇足 とあるフラグの天使同盟 弐匹目【後編】

3スレ目(11スレ目)
蛇足 とあるフラグの天使同盟 参匹目【前編】
蛇足 とあるフラグの天使同盟 参匹目【後編】

4スレ目(12スレ目)
蛇足 とあるフラグの天使同盟 肆匹目【前編】
蛇足 とあるフラグの天使同盟 肆匹目【後編】

5スレ目(13スレ目)
蛇足 とあるフラグの天使同盟 伍匹目【前編】
蛇足 とあるフラグの天使同盟 伍匹目【中編】
蛇足 とあるフラグの天使同盟 伍匹目【後編】



【注意】

この蛇足(後日談)は【未完結】です。
あらかじめご了承ください。

2 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/04 16:10:21.82 ETsIBHFYo 4/526



                   【登場人物紹介・『天使同盟(アライアンス)』の構成員】


【一方通行(アクセラレータ)】


このSSの主人公。学園都市最強、超能力者(レベル5)第一位の『一方通行』の能力を持つ白髪の少年。
第三次世界大戦を経て大天使ミーシャ=クロイツェフに好意を抱かれてしまった哀れで幸せな男。
『第一九学区事件』後、ひょんな事から垣根帝督と衝突してしまうが、その事もあって一方通行は
他人(特に異性)との交流について真剣に考えるようになる。現在はフラグを立てた女性陣と真剣に
向き合い、自分という存在と方向を確立しようと奮闘している。


【ミーシャ=クロイツェフ】


『神の力(ガブリエル)』。本作のヒロインにして『天使同盟』の顔。水を司る本物の大天使。
第三次世界大戦で意思疎通をした一方通行に好意をよせ、以後は彼と共に人間界で生活する。
『第一九学区事件』で周囲の仲間達に救ってもらった後も学園都市に居座り自由奔放に暮らす。
現在、フィアンマと打ち止めを巻き込んで一方通行に贈る『サプライズ』を進行している。


【風斬氷華(ヒューズ=カザキリ)】


『天使同盟』に咲き誇る一輪の花。『天使同盟』内でも比較的常識を持ち合わせている健気な女の子。
油断をするとつい風斬がヒロインなのではないかと勘違いしてしまうほどヒロインをしている、はず。
『第一九学区事件』も好意を寄せる一方通行相手になかなか積極的になれずにいるが、健気に彼を
遠くから見守っている。風斬氷華専用ルートが蛇足にて確定した。

3 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/04 16:10:52.86 ETsIBHFYo 5/526




【エイワス】



――――システムエラーにより、エイワスの情報が閲覧出来ません。



【垣根帝督】


学園都市第二位の超能力者(レベル5)、『未元物質(ダークマター)』の能力を持つ少年。
『第一九学区事件』で脳をひどく損傷し、能力と魔術が使用出来なくなってしまった。
ひょんな事から一方通行と衝突してしまい、彼は一時的に『天使同盟』から離脱した。
現在はドレスの少女と共に過去に訪れた魔術サイドの地へ足を運び、能力と魔術を
取り戻す修行に専念している。一方通行同様、異性との向き合い方がわからないでいる。


【フィアンマ】


『天使同盟』最後の構成員。ローマ正教『神の右席』のリーダーを務めていた最上級魔術師。
様々な経緯を辿った末、『天使同盟』唯一の魔術師として加盟する事になった。
組織内でも比較的常識人ではあるが、それでもたまに意味不明のボケに走ってしまったりする。
現在はミーシャと打ち止めの協力を受けながら、とある『計画』を進行中なのだが…………。

4 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/04 16:11:29.93 ETsIBHFYo 6/526



                   【閲覧可能エンドルート一覧】



・【風斬氷華育成計画 -AIM Simulation-】

・【???】

・【???】

・【???】 

・【???】 

・【第一位と第二位の垣根を越えて -Identity-】

・【???】 

・【???】

5 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/04 16:12:03.57 ETsIBHFYo 7/526

前スレで更新を開始しますので、しばらくお待ちください。

6 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/04 16:36:33.19 ETsIBHFYo 8/526


前スレからの続きを投下します。
カエル顔の医者と一〇〇三二号が診察を終えて帰るようです。

7 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/04 16:37:33.67 ETsIBHFYo 9/526


カエル顔の医者と一〇〇三二号は荷物を片して部屋を去ろうとするが、
一方通行が二人を呼び止める。


「金はイイのかよ?」

「ああ。 そうだったね、えーと」

「診断料なら既に頂いているので問題はありません、とミサカは返答します。
 それ相応に良い物を見させていただきましたし、ネットワークも大いに盛り上がってます」

「……そりゃずいぶんとお高い診断料だなクソッたれ」


いやちょっと何勝手に決めてんの、とカエル顔の医者が呆れ果てた様子で一〇〇三二号を見るが、
彼女は全く応じず、一度頭を下げると踵を返して部屋を後にしてしまった。

8 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/04 16:38:53.96 ETsIBHFYo 10/526


「……やれやれ、個性というのも考えものだね? それじゃ、お大事に」

「世話になったな」

「"お互い様さ"」

「?」


最後に一方通行へ意味深な発言を残し、カエル顔の医者も部屋から立ち去って行った。


――――――――――――――――――――――


『さてウサギ。 お前にもう一つお願いしたい事があるの』


カエル顔の医者と一〇〇三二号が帰った後、キャーリサに『ある物』を持って来いと
頼まれ、否、命じられ、一方通行は頑なに拒んだがやはり最後は根負けし、一度
ホテルを出て『ある物』を取りに行き、再びホテルへ戻ってきた訳だが―――――、

9 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/04 16:39:40.11 ETsIBHFYo 11/526


「……これでイイのかよクソババア」

「あははははは! うんうん、やっぱお前にはそれがよく似合ってるの、不思議とな!」


本当に風邪なんだろうなこいつ、と疑いながら一方通行がこめかみをひくつかせる。
そんな苛立ち度数一〇〇の一方通行を見ながらゲラゲラと笑うキャーリサが本当に
病人なのかどうか疑問に思う彼の胸中も頷けるが、こればかりは致し方ないだろう。




学園都市最強の第一位の頭上で何ともキュートなウサギのお耳がひょこひょこ揺れていれば、鬼だって笑う。




10 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/04 16:40:28.89 ETsIBHFYo 12/526


「ふふふ、それ、まだ大事に持っててくれたんだな」

「成り行きだクソ……。 ま、これのおかげでとある強敵を討てた事もあるしな。
 打ち止めのヤツも何故か気に入ってやがるみてェだし、割りと重宝してる」

「それ付けてたら足が速くなったりしないの?」

「オマエはあの国民的ゲームをやった事があンのか!?」


一方通行が頭に装着しているのはロンロン牧場の周囲を走り回っている
マラソンマンから貰える物……でもなければ、ロマニー牧場でマーチを演奏し
ヒヨコを集めて入手出来る物……でもない。

『星の欠片』を巡る旅の過程で立ち寄ったバッキンガム宮殿でキャーリサから貰った
謎のウサ耳バンドである。


「オマエこれ一回付けたら何故かなかなか取り外せねェの知ってンだろ……」

「でもお前は付けてくれてるし。 案外自分でも気に入ってるんじゃないのか?」

11 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/04 16:41:22.08 ETsIBHFYo 13/526


「オマエが年甲斐も無く手足バタバタさせて付けろ付けろのシュプレヒコールを
 しやがるからだろォが!! 二〇代後半の女が駄々こねても気味悪いだけなンだよ。
 ……それで、これを装着した俺はどォいうアクションに移ればイインだ?
 杵でも担いで餅つきよろしくオマエのめでたい頭でもカチ割ればイイのかよ」

「鑑賞するの。 私がこーやって、じ~」

「これオマエがオッサンとかだったらコスプレを強制されてる野郎の
 卑猥な絵面が完成するな……。 とンだ趣味嗜好をお持ちのよォで」


愚痴愚痴と文句を漏らす一方通行に構わず、キャーリサは膝を抱えて座った体勢で
月からやって来た正義の使者、『因幡通行(ウサミミレータ)』を凝視し続ける。

本人は見ているだけでも満足そうだが、特にアクションも要求されずウサ耳バンドを
装着して突っ立っている一方通行にとってはただの羞恥プレイでしかなかった。
もしこの時点でまだ一〇〇三二号が帰っていなかったらどう行動していたかは言うまでもない。

12 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/04 16:42:18.73 ETsIBHFYo 14/526


「もォそろそろ俺、帰ってもイイか? 月に」

「ダメなの。 今日はずっと私の看病してろ」

「ふざけンじゃねェぞ。 つか病人が看病しろなンて命令してくるか普通。
 もォずいぶん体調良くなってンだろ、朝死にかけてたオマエは誰だったンだよ」

「うー、ごほっ、ごほっ……」

「女優にゃなれねェな、その演技力じゃ」


ともあれ、この様子だと今日は本当にアジトへ戻れそうもないな、と一方通行は
ため息をつく他なかった。そんな些細な仕草にさえ反応するウサ耳バンドの耳が
ふらふらと揺れ、その度にキャーリサが笑顔を浮かべるのだが、一方通行はもう
文句を言う気力も残されていない。

それに、

この状況や出で立ちはともかく、純粋に楽しく笑うキャーリサの姿を見るのは
悪くない。一方通行は陽が沈んでいく学園都市の空に目を向けながら、
無意識にそんな感情を抱いていた。

13 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/04 16:48:13.79 ETsIBHFYo 15/526

という訳で、今日はここまでとさせていただきます。

一〇〇三二号を加えたお話はいかがだったでしょうか?
本当はもう少し真面目に会話させたかったのですが、それやっちゃうと
本筋からズレまくるのでまた次の機会にさせていただきました。

さて、次回でいよいよ一方通行パート、アンロック編withキャーリサも終了します。
長かったですが楽しんでいただけだでしょうか。
そしてそのまま垣根帝督パートに移行します。大変長らくお待たせしました。

蛇足もついに六スレ目、もうここまで来たら10スレくらいやったろうかと
いう気になってしまいますね……。

次回更新は三日以内。

それでは、今日もありがとうございました!


14 : 次回予告はここまでです。  ◆3dKAx7itpI - 2011/12/04 16:48:40.61 ETsIBHFYo 16/526




                          【次回予告】



「普段はふざけているような女だが、それでもテオドシアはイギリス清教のエキスパートだ。
 魔術はおろか能力の一つも使えない生身の状態で戦うなんて無駄、無茶、無謀の三連コンボだよ」
イギリス清教『必要悪の教会(ネセサリウス)』の魔術師――――――ステイル=マグヌス




「それでもあなたのその……演算能力? は確実に修繕されているようデスマス。
 あと一〇〇回くらい死にかければ能力を取り戻せるのではないマスでしょうか。
 いやー、死にかけて復活するたび強くなるってどこかの戦闘民族みたいデスねえ」
イギリス清教『必要悪の教会』の魔術師――――――テオドシア=エレクトラ




「その一〇〇回の内何回本気で死ぬ可能性があんだよ。 マジで死んだら元も子もねえだろ」
『天使同盟(アライアンス)』の構成員・学園都市第二位の超能力者(レベル5)『未元物質(ダークマター)』――――――垣根帝督




35 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/07 10:17:56.75 b5vuv5uBo 17/526

こんにちわ、更新を開始します。

新スレでも変わらずの支援をありがとうございます!
蛇足だけで既に六スレ目……ボリュームだけで考えると
もはや蛇足じゃなくなってる気がしないでもないですね……。

さて、そんな新スレで始まる今回の投下は、一方通行パート・アンロック編のキャーリサの
お話が終わり、次は垣根帝督パートに移行します。

ロシアでテオドシアと演算能力復活のための訓練をしていた垣根帝督。
その結果と、あと垣根もついに例の事件について知ることになります。

それでは、よろしくお願いします!

36 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/07 10:18:34.92 b5vuv5uBo 18/526



「ウサギ」

「……あンだよ」

「こーしてると、お前らが宮殿に来た時の事を思い出すの」


ふと、キャーリサがそんな事を言ってきた。彼女の表情は先程までの
明るい笑顔と打って変わり、過去の記憶に思いを馳せるような儚い笑顔が浮かんでいる。
一方通行は不覚にもそんな彼女の姿に魅せられそうになった。

いや、ここは素直に認めるべきだろう。淡い夕焼けの光が窓から差し込み、
そのオレンジ色の陽射しに照らされるキャーリサの表情が良い塩梅に演出されており、
一方通行は彼女の姿に少しだけ見蕩れてしまった。

37 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/07 10:19:43.26 b5vuv5uBo 19/526


「あの時も部屋で、二人きりで、色々と話をしたな」

「……そォだな。 オマエがイギリスで"不器用"なクーデターを起こした時の
 話とか、やれ母上がどォだの姉や妹がこォだの息つく間もなく思い出語り
 してやがったっけか。 第二王女してねェ時は本当に普通の女だなオマエ」

「可愛いだろ?」

「自分で言うな。 ……しかしまァ、あれだけ楽しげに話してた母国や
 家族の下へ帰りてェとか、オマエ少しは思わねェのか?」

「………、」


何の気無しに尋ねた一方通行だが、キャーリサは答えなかった。
ただ、その呻吟と寂寥感が混じり合ったような複雑な表情が、確かな返事になっている。
一方通行はゆっくりとキャーリサが座るベッドの端に腰掛けて、

38 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/07 10:20:52.18 b5vuv5uBo 20/526


「軽率だったか。 考えりゃオマエが帰れねェ原因を作ったのは俺だしなァ」

「……そーだぞ」

「あァ、そォだよな。 ……だからちょっと待ってろ、ちょうど上手い話が
 俺の下に舞い込ンできてな。 イギリス清教の神裂が俺をイギリスまで連れて行く
 よォ厳命を受けたらしい。 俺はその話に乗った、だからついでって言やァ聞こえは
 悪いが、宮殿に行って詳しい状況をオマエの母上様から聞いてくる。 出来たらだが。 
 上手く取り繕ってオマエを、オマエやオッサン二人をイギリスに帰せるよォ手配してやる。 
 だから、」

「……お前のせいで、私はイギリスに帰れないの」


キャーリサは確認するようにもう一度繰り返した。


「本当に悪いとは思ってンだ。 だからそこは俺がきっちりケジメつけて―――」

「そーいう事じゃないし、鈍感め」

39 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/07 10:21:42.59 b5vuv5uBo 21/526


鈍感という言葉に一方通行が過剰な反応を示した。

彼は考える。今の鈍感発言は恐らく自分が見当違いな発言をしているからなのだと。
焦らず、冷静に、状況と相手の心境を推測して一方通行は言葉を選ぼうとするが、
キャーリサは待ってくれなかった。


「英国のマスコミがどーとか、世界各地で小規模ながら騒ぎを起こしてる
 『暴徒』の出現とか、そーいうのは気にするなとさっき言ったはずだし」

「……でも俺のせいでイギリスに帰れねェンだろ? オマエは」

「そーなの」

「………、……。 ………………、帰れねェンじゃなくて、"帰りたくねェのか"……?」


そこでキャーリサはようやく傍にいる一方通行と目を合わせた。
その目付きは睨んでいるようにも見えたが、そこに恨みや敵意の色は見受けられない。
彼女の瞳を彩っているのは――――純粋な迷い。揺蕩う心が反映されていた。

40 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/07 10:22:54.86 b5vuv5uBo 22/526


「お前と宮殿で話している時も言ったはずなの」

「?」

「お前と一緒にいると面白い、お前と一緒にいると楽しい、って」


本来、このように胸の内で思っている事を素直に口にする性格ではないキャーリサが
その胸中をはっきりと言葉にする要因の一つに、風邪による衰弱の影響もあるだろう。
病に冒されて弱ってしまった人間の言動が素直になるという話も多分にある。

しかしそれ以上に、キャーリサの言葉は己の強い意志が含まれているのを
一方通行は察する事が出来た。それ程までに、彼女は"想っている"。


「どーせこーなるなら学園都市でお前としばらく会ってなかった内に
 無理を通してでもイギリスに帰ってれば良かったの。 そーすれば
 今みたいに、半ば本気でずっとここに居たいなんて気持ちは生まれなかったし」

41 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/07 10:23:55.10 b5vuv5uBo 23/526


「……、」

「仮に今、私の第二王女としての王権が本当に剥奪されたら、多分私は
 抗う事なく受け入れるの。 そーなれば私の居場所は無くなる。 いや、
 私の居場所はここになる。 ここにする。 学園都市じゃなくて、」

「……、」

「お前と、ずっと一緒に居る。 ……仮の話だけどな」


一方通行は口を挟めなかった。いつもならここで茶々を入れて適当にごまかす所だが、
そんな余地も与えられない程に、キャーリサの言葉は真剣味を帯びていた。


「けど、それでも、私にはやはり私の帰りを待ってくれている国民達がいるの。
 ブリテン・ザ・ハロウィンなんてクソ以下のクーデターを起こしたこんな私の
 帰りを待ってくれてる国民達がいる。 国のために、『連合の意義(ユニオンジャック)』
 の恩恵を受けていたとは言え、天使長クラスの力を手にしていた私に立ち向かった
 勇気ある国民達がいる。 私は第二王女として、『軍事』の柱として、その国民達を
 自分の勝手な都合で見捨てる訳にはいかないの」

42 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/07 10:24:52.20 b5vuv5uBo 24/526


「……あァ」

「それに母上や姉上、ヴィリアンも私の帰りを待ってくれてるし。
 家族だ、あそこが私の居場所だ。 騎士団長もウィリアムも連れて、
 私はいずれ帰らなきゃならないし、帰りたい気持ちも当然ある」

「……、」

「でも、」


キャーリサの声に震えが生じているように聞こえるのは、果たして一方通行の思い違いだろうか。


「その一方で、心のどこかで、私が得た何もかもをかなぐり捨てて真の自由を得たいと
 考えている自分がいるの。 目を背けるなんてものじゃない、本当に全てを捨てて、
 廃棄して、破棄して、ここに居たいと考えてる自分がいる。 憧れや羨望じゃない、
 あくまで『選択』。 ……どこまでも自分勝手な女だと思っただろ?」

43 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/07 10:25:38.93 b5vuv5uBo 25/526


「そォだな」

「……こんな事で思案に暮れるハメになったのも、全部全て何もかもお前のせいなの。
 どーしてお前はそんな態度で私に接して来るんだ。 お前さえいなきゃこんな喜び
 を知ること無く私は……。 ……ガキのくせに、知ったよーな態度とりやがって」


積年の恨みを晴らすような物言いとは対照的に、キャーリサは自然と
傍で座っている一方通行の白い手を握っていた。

この行動こそが、彼女の心境の顕れ。もはや言葉など不要と言っても過言ではない。


「……"一方通行"、私はどーしたらいいと思う?」

「自分で決めろ」

44 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/07 10:26:26.70 b5vuv5uBo 26/526


慰めるでもなく、黙って抱き締めるでもなく、一方通行は言葉で応じた。
相手の気持ちによっては、それは冷たく突き離すような言い草に聞こえたかも知れない。
だがキャーリサがそうであるように、真剣に相手の心情を考慮した一方通行は即答出来た。


「俺も、国ってモンを背負ってるオマエとはスケールが違いすぎるかも知れねェが、
 この際規模の大小なンざ関係ねェ。 オマエ自身が並べた選択肢を吟味して、
 選ンだ道を進めばイイ。 胸を張ってな。 少なくとも俺はそォいうやり方で
 ギリギリの所を生きている……と、思ってる」

「……生意気言ってくれるし、ガキのくせに……」

「オマエは俺よりずっと歳上なンだから、俺に出来る事くれェオマエにも出来るよなァ?」

「歩んできた人生が違いすぎるの。 比較なんて出来る訳がないし」


そう言ってキャーリサはベッドに寝転び布団を掛けた。どうやらこのまま就寝するつもりらしい。
それでも、握った一方通行の手を離すことはなく、

45 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/07 10:27:03.70 b5vuv5uBo 27/526


「……もー少しだけ、じっくり考えてみる」

「そォしろ」

「だから今日だけは……、ずっとここに居てくれないか? ウサギ」


一方通行は答えなかった。キャーリサも返事を待てる程の余裕が無かったのか、
目尻に僅かな雫を輝かせながらすぐに寝息を立ててしまった。
一方通行は彼女の目元を優しく指で拭ってあげると、


「………俺もオマエと居ると楽しいよ、……クソッたれが」


一方通行は翌朝、キャーリサが目覚めるまで一睡もせず彼女の看病に励んだ。

46 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/07 10:28:48.80 b5vuv5uBo 28/526



                  ~Information~


     【兎追いしかの街 -Wonder land-】がアンロックされました。



・【風斬氷華育成計画 -AIM Simulation-】

・【兎追いしかの街 -Wonder land-】

・【???】

・【???】 

・【???】 

・【第一位と第二位の垣根を越えて -Identity-】

・【???】 

・【???】

47 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/07 10:29:39.23 b5vuv5uBo 29/526



――――――――――――――――――――――




起床してまず一戦。その後朝食を取って一戦。食事を兼ねた昼休憩を終えて一戦。
夕食の前に軽く一戦。夕食後に一戦。風呂に入る前に一戦。就寝前に一戦。夢の中で一戦。




どこのバトルマニアのスケジュールだと思わせる日々を過ごした垣根帝督は、


「痛てててててッ!! テメェわざとやってんのか!? 普通消毒ってのは
 こうトントントンって軽く叩いて処置するもんだろうが。 テメェはさっきから
 傷口に塩を塗り込むように痛い痛い痛い痛い痛い痛いっつってんだろぉぉぉッ!!!」


48 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/07 10:30:32.57 b5vuv5uBo 30/526


「これぐらい我慢しなさい。 というより、"この程度で済んだ幸運を噛み締めなさい"」

「……君のような熱血バカを見てると、どうしても思い出したくない男の顔を思い出すよ」


ふーっ、と紫煙を窓に向かって吐きながら冷めた口調で言うステイル=マグヌスに
垣根は『俺は熱血とは程遠い人間だぞ痛い痛い痛い!!!!』と目を背けたくなるような
傷口に消毒液を染み込ませたコットンで抉り込むように処置をするエリザリーナを
睨みつけながらツッコミを入れた。


「ふーむ。 少々やり過ぎた感があったマスでしょうかねえ?」

「自覚があるだけマシってもんだ。 もう走馬灯なんざ見飽きたぞクソが」


現在エリザリーナ独立国同盟の軍事基地施設にある医療室で治療を受けているこの男、
垣根帝督は自分に何度も走馬灯をリフレインさせてきた銀と金が入り交じる髪の毛を
した四十路前の女魔術師、テオドシア=エレクトラと訓練を繰り返していた。

49 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/07 10:31:54.74 b5vuv5uBo 31/526



訓練内容は『垣根帝督の超能力を取り戻す』という建前で行われた。
『未元物質(ダークマター)』。垣根帝督曰く、『自身が極限まで追い込まれたら
脳が反応して演算能力を取り戻すかもしれねえ』との事。

そんな訳で垣根帝督はイギリス清教『必要悪の教会(ネセサリウス)』所属の魔術師、
テオドシアに自分から喧嘩を売るような物言いで訓練相手として選んだのだが、


「普段はふざけているような女だが、それでもテオドシアはイギリス清教のエキスパートだ。
 魔術はおろか能力の一つも使えない生身の状態で戦うなんて無駄、無茶、無謀の三連コンボだよ」


ステイルがつまらなそうな調子で言うように、テオドシア=エレクトラはめちゃんこつおかった。

もとい、メチャクチャ強かった。

50 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/07 10:33:25.91 b5vuv5uBo 32/526


ダブついた上着に色を抜いて真っ白にしたジーンズという魔術師らしくない格好をした
テオドシア御大将はなんか一種類の魔術を究めているとかそんなんじゃなく、
手品師のように多彩な魔術を使い捨てるような手段で行使してくるタイプの魔術師だった。

正確には北欧神話をベースとした魔術を使い、短期間で使用魔術をホイホイと
変えるというタイプの魔術師なのだが、テオドシアは垣根があんまりにも勝ち気な
態度で接してくるものだから『ちょっとくらいは本気出しても問題ないマスよね?』的な
軽いノリで"戦闘中に魔術に基づく神話を切り替えまくる"という、格ゲーに出演したら間違いなく
複雑な操作を要求されるトリッキーな戦闘スタイルで挑んだのだが、


「対魔術師の経験こそ少なかれど、俺は今まで色んな能力者と殺り合って生きてきたんだぞ。
 つまりどんな戦闘スタイルの相手でも余裕で対応出来るスキルを持ち合わせていたはずなのに、
 まさかこの女がここまで強かったとはな……………」

「その対能力者との経験は、『未元物質』ありきで積んできた経験でしょう?
 魔術も能力も使えないあなたが『必要悪の教会』の魔術師に勝てる要素なんて無いわ」


エリザリーナの厳しいが的確な指摘に垣根は唇を噛むしかなかった。

51 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/07 10:35:56.60 b5vuv5uBo 33/526


『追い詰められたら能力が復活するかも』という週刊少年誌でよく見るような
展開を期待した垣根帝督だったが、追い詰められるどころか実際マジで一〇回くらいは
死んだ気がする、とため息をつく。

しかし、ならば訓練は全くの無駄に終わったのかと言うと案外そうでもない。

「ていうか、さっきから皆さん。 垣根が魔術はともかく能力さえ使えない
 使えないと連呼しているのが気になるというか何というかデスねえ――――」


テオドシアは落ち込む垣根にくすくすと微笑みかけながら、




「―――実際、私に使ってきた"アレ"。 超能力デスしょ?」




52 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/07 10:37:09.33 b5vuv5uBo 34/526


そう。


ほんの僅か。微弱で微細で微動でしかなく、片鱗のへの字も見えるか見えないかくらいの変化だったが、訪れていた。
垣根帝督は何度目かも分からなくなった訓練の最中、テオドシアに対して間違いなく能力による攻撃を行ったのだ。

その詳細は掌から鉄骨くらいなら吹き飛ばせそうな威力の烈風の発生。
そして自分を中心に小規模な全範囲爆破攻撃という、かつて垣根帝督が『未元物質』の
能力を用いて使用していた攻撃手段とほぼ同じである。

背中から『未元物質』最大の武器と言ってもいい無機質な白い翼が現出するような事は
無かったが、それでもこれは大きすぎる前進、収穫であった。


「あの程度じゃハエも殺せねえよ、使えねえのと変わらねえ」

53 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/07 10:38:05.40 b5vuv5uBo 35/526


「それでもあなたのその……演算能力? は確実に修繕されているようデスマス。
 あと一〇〇回くらい死にかければ能力を取り戻せるのではないマスでしょうか。
 いやー、死にかけて復活するたび強くなるってどこかの戦闘民族みたいデスねえ」

「その一〇〇回の内何回本気で死ぬ可能性があんだよ。 マジで死んだら元も子もねえだろ」


当然、その程度の力を取り戻しただけでは垣根帝督は満足しない。
超能力を完璧に取り戻し、かつ魔力の精製が可能になる事。それが
垣根帝督の最終目標であり、己の『居場所』へ帰れる条件なのだ。


「はい。 とりあえず手作業で施せる治療はここまでよ。
 回復魔術でも完治出来ない程の怪我を毎回毎回負わないでちょうだい」

「チッ、うるせえな……それが出来りゃ苦労しねえよ」


垣根は言いながら、血が滲んだ包帯だらけの上半身にシャツと上着を重ねていく。

54 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/07 10:39:03.57 b5vuv5uBo 36/526


「『必要悪の教会』以外に魔術のエキスパート的な組織は存在しねえのかよ?
 エリザリーナは訓練に付き合ってくれねえし、ステイルも乗り気じゃねえし、
 ワシリーサはもう飽きたっつーか次あいつとやったらマジで殺されるかもしれねえし、
 サーシャとは俺がやる気起きねえし、現状、テオドシアくらいしかいねえってのがな」

「何をー! 人がわざわざ忙しいスケジュールの合間を縫って訓練に付き合って
 あげているというのに、その言い草は失礼極まりないというものデスしょ!」

「……単純に、質の高い魔術師をお目にかかりたいのなら、
 僕は推奨しないが君にうってつけの魔術結社が存在するよ」


意見を提示してきたのは豈図らんや、ステイル=マグヌスだった。
垣根はとりあえず彼の言葉に耳を傾けてみる。




「イギリスの『黄金』系魔術結社の一つ……。 『明け色の陽射し』」

「……『黄金』系?」




垣根が聞いたことのない魔術結社の名前を出し、ステイルは忌々しげに煙草を噛みつけた。

55 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/07 10:46:33.94 b5vuv5uBo 37/526


今回はここまでです。

キャーリサエンドのルートが解放されました。どういう結末になるかは
皆様も大体わかっているでしょうが、どうかお楽しみに。

そして垣根帝督ですが、すみませんウソつきました。彼が例の事件について
知るのはまだ少し先でした。ですが今回であの『黄金』系魔術結社との
接触フラグが立ちましたです、はい。

次回も垣根帝督パート。一方のドレスの少女はワシリーサとの計画を進行していて……。

次回更新は三日以内。

それでは、今日もありがとうございました!

56 : 次回予告はここまでです。  ◆3dKAx7itpI - 2011/12/07 10:47:02.50 b5vuv5uBo 38/526




                          【次回予告】



「―――という事ですので、ワシリーサの事は単純に魔術師として尊敬していますが、
 同じ人間、女性としてはむしろ軽蔑さえしています。 人として破錠しています」
ロシア成教『殲滅白書』の魔術師――――――サーシャ=クロイツェフ




「本人の目の前でボロクソな評価を言えちゃうサーシャちゃんもス・テ・キ♪」
ロシア成教『殲滅白書』のシスター――――――ワシリーサ




「あなたも大概病気だわ……」
『クラッカー』の構成員・『心理定規(メジャーハート)』の能力者――――――ドレスの少女




70 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) - 2011/12/08 03:10:35.66 JI39JlCIO 39/526

質の高い魔術師? フィアンマで良くね?

71 : SS寄稿... - 2011/12/08 06:09:45.18 3hfqSgCDO 40/526

今少しわかたことが…


本編

蛇足(各ルート解放)

ED(各ルート毎のシナリオ)

TRUE ED

続編

新規シナリオ


こんな感じで>>1はこち亀並の期間やってくれるに違いない

72 : SS寄稿... - 2011/12/08 06:50:01.63 lRWTS0sR0 41/526

>>71
ちょwwwそれは長すぎwwww

78 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/10 02:18:39.08 IvK9dLcOo 42/526

>>70
いやフィアンマはちょっと……。確かに質も高いし実力もある優秀な魔術師ですが
彼は『神の右席』体質ありきの魔術師ですし使用する魔術も特殊すぎて参考にならない
かなと思いました。でも基礎を学ぶくらいなら彼でも問題ないですよね。

>>71
トゥルーエンドまではともかくそっから先はさすがに長過ぎますww


夜遅くにこんばんわ、更新を開始します。

今回も垣根帝督パートです。心理定規がギャグ担当、垣根帝督が今度こそ『暴徒』について知っていきます。

それでは、よろしくお願いします!

79 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/10 02:19:39.93 IvK9dLcOo 43/526



――――――――――――――――――――――


同刻、ドレスの少女は独立国から少し離れた雪原で雪だるまをせっせと作成している
サーシャ=クロイツェフと、その上司であるワシリーサと談笑していた。


「―――という事ですので、ワシリーサの事は単純に魔術師として尊敬していますが、
 同じ人間、女性としてはむしろ軽蔑さえしています。 人として破錠しています」

「本人の目の前でボロクソな評価を言えちゃうサーシャちゃんもス・テ・キ♪」

「ふーん……なるほどね。 ロシア成教に『殲滅白書』……、こうやって聞いてると、
 学園都市なんて箱庭が如何に狭い世界かを嫌でも認識させられるわね」



80 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/10 02:20:48.12 IvK9dLcOo 44/526


ドレスの少女はサーシャに魔術サイドの仕組みについての説明を受けていた。
十字教という世界最大の宗教から派生する旧教(カトリック)と新教(プロテスタント)、
イギリス清教、ローマ正教、ロシア成教、アタナシウス、グノーシス、ネストリウス……etc。

さらにイギリス清教なら『必要悪の教会』、ローマ正教なら『神の右席』(現在は解体)、
そしてロシア成教なら『殲滅白書』と言った内部組織も存在し、旧教でない宗派に
天草式十字凄教やスペイン星教派、以上のどれにも属さない魔術結社やその予備軍、
組織や宗派にすら属さず、単身で活動する魔術師など、そのバリエーションは多種多様だ。

一般人、能力者、暗部、統括理事会、研究者くらいしかカテゴリが無い学園都市で
生活してきたドレスの少女からすると、確かに学園都市は狭く感じてしまうだろう。
尤も、複雑さで言えば魔術サイドも科学サイドも大差は無いのだが。


「まさか第三次世界大戦にそんなオカルトが深く関わっていたなんてね。
 ニュースやマスコミが報道しないのも、基本的に魔術という法則は
 公には出来ないから魔術サイドが隠蔽工作をしているという訳、か。
 『外』に能力者の詳細情報を開示しない学園都市と似てる部分もあるのね」

81 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/10 02:22:58.23 IvK9dLcOo 45/526


「第一の質問ですが、如何ですか? 魔術サイドの全貌を簡単にですが
 知ったという感覚は。 今この国にいる垣根帝督や以前に訪れた
 一方通行達はある程度魔術についての知識があったので無知めいた
 雰囲気はありませんでしたけど」

「なんていうか、正直どうでもいいかな。 今のあなたの話を聞いても
 魔術自体には興味を持てなかったし、実際にワシリーサが魔術を使った
 時も驚きはしたけど自分も使ってみようとは思わなかった。
 私は自分が持っている能力さえあれば『力』に関しては満足かな。
 垣根帝督みたいにどっちも、なんて気持ちにはなれないわ」


仕上げに雪だるまの頭部を胴体部分に慎重な動作で置き、小さな手で雪だるまの
頭部をぺちぺちと叩くと、完成した作品に満足したのかサーシャはにこやかに微笑んだ。
そういうあどけない仕草がワシリーサの邪な感情を揺さぶっているのだが、
普段のワシリーサの奇行に辟易しているサーシャはその辺の自覚はあるのだろうか。

82 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/10 02:23:54.88 IvK9dLcOo 46/526


ちなみにワシリーサもサーシャに習って、サーシャのあられもない姿を模した
氷像を作成していたが、当然サーシャの手によって破壊されている。


サーシャは立ち上がるとドレスの少女に質問をした。


「第二の質問ですが、あなたはどのような能力を有しているのですか?
 補足説明しますと、一方通行や垣根帝督は学園都市でも大変優秀な
 能力者であると聞いていますが、あなたも彼らクラスの能力を?」

「冗談よしてよ。 第一位や垣根帝督と私を同列視されても困るわ。
 あの二人は学園都市じゃもはや人間扱いされてない、文字通り化物よ。
 反面、私は別に大した能力じゃない、せいぜい――――」

「はい、ちょっと待ったー!」

83 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/10 02:25:10.48 IvK9dLcOo 47/526


ドレスの少女が自分の能力説明に入ろうとしたところでワシリーサが制止してきた。


「……第三の質問ですが、急に何ですかワシリーサ」

「ムスッとしてるサーシャちゃんも食べたくなるほど可愛いけど、
 ちょっとゴメンにゃ♪ ここだけは譲れないのよ」

「?」

「こっち来て」


ワシリーサは明らかに訝しい視線を送るサーシャを放置してドレスの少女の
手を握り、サーシャから少し離れた位置まで移動する。

84 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/10 02:25:57.20 IvK9dLcOo 48/526


「何よ」

「何よじゃないでしょおバカ! いい? サーシャちゃんは可愛いだけじゃなくて、
 素質もバッチリの優秀な子なの。 今あの場面であなたが自分の能力の詳細を
 話したらサーシャちゃんに私の企み……じゃない、サプライズが見抜かれちゃうじゃない」

「……ああ、そう言えばそうだったわね。 確か私の『心理定規(メジャーハート)』を
 利用してあの子と仲良くなりたいんでしょ? ……でもそれってサプライズというより、
 ただの自己満足じゃないの? 得をするのはあなた一人なんだし」

「夢くらい見させてよ、いつもはツンツンのサーシャちゃんが引くくらい
 私にデレッデレになる姿を見てみたいのよ!」

「私は別にいいけど、あの子の意見は無視するの? これって別の言い方をすると
 サーシャの心を私があなたの意志で勝手に弄るって事になるんだけど」

85 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/10 02:27:04.54 IvK9dLcOo 49/526


「事情説明はあとで必ずサーシャちゃんにするわよ。 多分殺されるけど、
 この夢が成就したら私もうマジで死んでもいいとさえ思ってるから」

「あなたも大概病気だわ……」

「それで、出来るの? この前お風呂で言ってたけど、他人と他人の
 心の距離を調節する事は難しいとか。 実際の程はどうなのかにゃん?」


うーん……、とドレスの少女は唸る。この様子からして簡単にはいきそうもない事は窺える。

ワシリーサの計画は『心理定規』の能力によるサーシャ=クロイツェフとの
ベタベタイチャラブライフを送りたい、というアフロディーテも頭を抱える
くっだらない計画だった。

ドレスの少女が扱う『心理定規(メジャーハート)』は対象に対して他人の心の距離を自由自在に
調節出来るというもの。端的に説明すれば『自分と相手の親密度を調節出来る』という訳だ。

86 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/10 02:28:09.46 IvK9dLcOo 50/526


しかし今回のワシリーサの計画で実行するのはサーシャ=クロイツェフとワシリーサ。
『心理定規』はあくまで『自分』と『相手』の心の距離しか調節出来ない……と、
ドレスの少女は考えている。

というのも、ドレスの少女は『心理定規』の対象に己を含まないパターンを試した事がない。
能力が発現してから間もなく『スクール』として活動する事になり、能力の効果範囲を試す
暇が無かったからだ。自分の立場や状況を有利にしたり身の危険を回避するだけならば自分と
相手の心の距離を調節するだけで充分なため、検証する必要性が無いという理由もある。

それならワシリーサの計画は実行前から破綻する事になるのだが、ドレスの少女にとっては
自分の能力の検証を行える良い機会とも言える。という訳で少女はワシリーサの話に乗ったのだが、


「成功の見込みは薄いわね。 現時点での『心理定規』の応用性を考慮しても、
 私観点で言う他人と他人の距離を調節するのは不可能だし」

「いやん、そこを何とか出来ないかしらん………?」

87 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/10 02:29:10.37 IvK9dLcOo 51/526


「いやあなたに上目遣いでウルウルとか様式美なおねだりされても不快なだけだから。
 ……でもそうね、一縷の可能性なら無い事も無いんだけど」

「ふむ?」

「能力使用者である私が対象Aと対象B……、つまり今回のケースで言う
 サーシャとあなたに直接触れて介する事で、二人の心の距離を調節
 出来るかも知れないという、まぁ荒唐無稽にも程がある理論だけどね」

「荒唐無稽だろうが机上の空論だろうが検証可能ならするのが科学でしょ。
 早速それでやってみましょう、悩む暇があるならまず行動よ」


徐々に魔の手が迫っている事など露知らず、勝手に検証対象に選ばれた
サーシャ=クロイツェフは雪だるまにデコレーションを施すのだった。

88 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/10 02:30:39.68 IvK9dLcOo 52/526



――――――――――――――――――――――


『明け色の陽射し』。


イギリスの『黄金』系魔術結社の中でもトップクラスの力を有する大組織。
元々は魔術結社としてではなく、『支配のためにカリスマを研究する』という指針を持った
組織だったが、当時のカリスマは教祖への信頼・信仰を大前提とした宗教権威と不可分であったため、
どうしてもオカルト色に染まってしまいがちだった。やがて組織は『黄金』を調査する内にオカルトに
取り込まれ、魔術結社と化す。それが今の『明け色の陽射し』である。

『黄金』系魔術結社は当然、『明け色の陽射し』だけではないのだが―――。


「質の高い魔術師を相手取りたいと言うのなら、僕なら『明け色の陽射し』を想起する。
 ……もっとも、『黄金』系はその他の結社と比較しても一癖も二癖もある連中ばかり
 だからね。 君の要求から挙げるなら『黄金』系だが、やはり推奨は出来ない」


89 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/10 02:32:00.00 IvK9dLcOo 53/526


過去に『明け色の陽射し』と何かがあったのか、ステイルは苦虫を噛み潰したような顔を
浮かべながら窓の外を見つめ続けていた。


「『黄金』系……なぁ。 ご大層な名前だが、俺は聞いた事ねえな」

「そうなの? 『天使同盟』のあなたなら『黄金』系の名を
 聞いた事くらいはあると思っていたけど、意外ね」

「そりゃどういう意味だ? 『黄金』と『天使同盟』にどんな因果関係があるんだよ」

「……あなた、『暴徒』に関する話は聞いてないの?」


エリザリーナは眉をひそめながら質問を返すが、垣根は首を横に振る。
『暴徒』とがどうとか言われても垣根には何の心当たりも無い。

90 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/10 02:32:54.11 IvK9dLcOo 54/526


そんな彼の疑問に答えるために、ステイルは吸い終わった煙草を灰にすると
室内へ視線を戻す。


「『第一九学区事件』で発生した現象の事を、君は覚えているか?」

「どの現象の事だ? あの日は訳の分からねえ出来事が起きまくってんだろ、心当たりがありすぎるぜ」

「世界から魔力というエネルギーを喰らい尽くすように蔓延した、
 黒い霧の事だ。 詳しい原因は不明だが、あの日世界中の魔術師や
 魔術的施設、霊装が力を失い機能しなくなったんだよ」

「……………前言撤回、心当たりねえわ」

「無理もない、当時の君は『禁書目録』の酷使によって意識が定かではなかったからね。
 強制的に精製していた君の魔力すらもあの黒い霧は奪っていたが……、
 さすがにそれと今の君が魔力を精製出来ないという事実は結び付けられないだろうが」

91 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/10 02:35:25.34 IvK9dLcOo 55/526


黒い霧発生時、垣根帝督はただひたすら『星の欠片』の保護について思考を巡らせていた。
『禁書目録』の酷使によって脳がボロボロになっていた以外に、彼が『星の欠片』だけに
意識を向けていたのも当時の事を覚えていない理由に含まれるだろう。

ステイルは続ける。


「あの日、僕を含めほとんどの魔術師が十字教の終焉をイメージした、させられたんだ。
 エイワスから受け取った『手紙』にも十字教の終わりを思わせる文が記載されていたが……、
 しかし結果的に魔術サイドの崩壊は成らなかった。 十字教は今も健在している」

「ま、十字教がどうとか言われても俺にはよくわかんねえけどな」

「だが『第一九学区事件』で起きたその現象を目の当たりにした魔術師の一部が
 暴走し始めたんだ。 事件から数日しか経ってなかったかな。 その暴徒は口々に
 『今の時代は終わっていなければならない』、『現存する魔術師は滅びなければ』、
 と世界各地の魔術師を襲ったり霊装や施設を破壊したりとやりたい放題な訳さ」

92 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/10 02:36:16.94 IvK9dLcOo 56/526


「それでも規模としては微々たるものなのだけれどね」


ステイルの説明にエリザリーナが補足を加えてきた。


「確かにその点だけを鑑みれば魔術サイドの現状は荒れ狂っていると思うかも知れない。
 けど実際はその逆。 既に誰かから聞いてるかも知れないけど、魔術サイドは第三次世界大戦
 を終えてからというもの、良い方向に改善が進んでいるのよ。 これまで派閥同士の交流が
 盛んでなかった十字教も、今では組織と組織が手を取り合い互いの支えになっているわ。
 『第一九学区事件』で発生した暴徒も、主にイギリス清教とローマ正教が率先して淘汰してる」

「じゃあステイル、お前やテオドシアみてえなイギリス清教の魔術師がロシアに居るのも」

「いや、僕とテオドシアは暴徒の鎮静のためにここへ赴いた訳じゃない。
 今のところロシアではそんな連中は現れていないからね。
 でもイギリス清教やローマ正教の魔術師が出張ってる事も事実だ」

93 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/10 02:37:20.31 IvK9dLcOo 57/526


『第一九学区事件』で発生した黒い霧の影響は何も暴徒の出現だけでは無いらしい。
術式によって封印されていた曰くつき世界遺産や重要文化財などが世間に露呈してしまったり、
魔術を施すことによって安定した保存状態を保っていた国宝級の物品等が破損してしまったりと、
大々的に報道される事はなくても魔術サイドにとっては苦慮せざるを得ない事態も多いようだ。

だからこそ宗派と宗派が協力し合い、直面している問題を解消しているのだと二人は語る。


「それで?」


しかし自分が覚えてもいない黒い霧による問題など垣根は興味が無いらしく、


「その話と『黄金』系はどういう繋がりがあるんだ? 話が脱線してるんじゃねえだろうな」

「……今説明した暴徒の乱心に拍車を掛けている組織があるらしいのよ」

94 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/10 02:38:48.09 IvK9dLcOo 58/526


「あぁ? まさかそれがステイルの言う『明け色の陽射し』って連中なのか?」

「暴徒の激化を促進させているその連中は確かに『黄金』系結社だが、
 それは『明け色の陽射し』ではない」


と、エリザリーナは着込んでいるコートの懐から何枚かの書類を取り出した。
彼女に書類を渡された垣根は怪訝そうに書類の文面を目で追う。


「『宵闇の出口』」

「?」

「この前ここへやって来た姉さんから聞いたのだけど、どうやら今回の
 暴徒発生事件は『黄金』系魔術結社の一つ、『宵闇の出口』が一枚噛んでいる
 らしいのよ。 まだ確証は無いけれどね。 『第一九学区事件』の影響が絡んでる
 事件だから『天使同盟』であるあなたも『宵闇の出口』について何か知ってると
 思ってさっきも聞いたの。 知らないのなら、せっかくだから聞いていくといいわ」

95 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/10 02:39:51.67 IvK9dLcOo 59/526


「……『宵闇の出口』、か。 やっぱり聞いた事がねえが、『明け色の陽射し』と
 比べると何か陰険そうっつーかタチの悪そうな組織っぽいな」

「事実、陰険であるし質も悪い。 『明け色の陽射し』を支援するわけではないけど、
 同じ『黄金』系魔術結社である事が不思議なくらいの連中だ」


『宵闇の出口』。


魔術サイドはおろか、同じ『黄金』系魔術結社の魔術師からも酷評を受けている組織。
無駄が多く、数に限りのある資源や人員を平然と消費し、とにかく反道徳的な行為を
頻繁に行う事で知られている、魔術業界で問題視されている結社だ。


「………おいおい。 危機感こそ覚えねえが、これ結構シャレになってねえんじゃねえの?」


垣根が眺めている書類には、その『宵闇の出口』が『第一九学区事件』を起こしたとされる
『天使同盟(アライアンス)』を全面的に支持している、と書かれてあった。

96 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/10 02:47:29.69 IvK9dLcOo 60/526

今回はここまでです。

きりよく次のパートへ移行するために調節をしているため、少し
投下量が少ないと感じるかもしれませんがご了承ください。

今回で明らかになった暴徒出現の原因。『宵闇の出口』ですが、これからも
こいつらが『天使同盟』と魔術サイドにちょっかいをかけてきます。
ただ『宵闇』には名有りキャラがいないので扱いづらいのが難点ですね……。

次回も垣根帝督パートです。

次回更新は三日以内。

それでは、今日もありがとうございました!

97 : 次回予告はここまでです。  ◆3dKAx7itpI - 2011/12/10 02:48:01.96 IvK9dLcOo 61/526




                          【次回予告】



「だ、第一の私見ですがそれは分かっています。 ……補足説明しますと、
 分かってはいるのですが……あぁ、ど、どうして急にこんな気持ちに……?
 今の今までこんなに……あなたの顔を見るだけで胸が高鳴る事は無かったのに……」
ロシア成教『殲滅白書』の魔術師――――――サーシャ=クロイツェフ




「(……よ、よっしゃ、出来たわ……。 人間、やろうと思えば何でも
  出来るものね……。 私はこの日をもって己の限界を突破したのよ)」
『クラッカー』の構成員・『心理定規(メジャーハート)』の能力者――――――ドレスの少女




「ノン。 聖ジョージ大聖堂の魔術防壁は今、ガッタガタなのデスマスよ」
イギリス清教『必要悪の教会(ネセサリウス)』の魔術師――――――テオドシア=エレクトラ




「ロシアに来た事が無駄足にならずに済んだって事だよ。 急に押し
 かけて来ておいてこう言うのも悪いが、俺はそろそろ出て行くぜ」
『天使同盟(アライアンス)』の構成員・学園都市第二位の超能力者(レベル5)『未元物質(ダークマター)』――――――垣根帝督




133 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/12 23:22:19.00 f2nEAXLjo 62/526

まさかここまで私の誕生日を覚えていてくださった方がいたなんて……
素で喜んでしまいました。皆様本当にありがとうございます。
まさか二度も誕生日を迎えてしまうとは……つくづく長いSSだなこれ。

さて、皆様からの祝福を受けながらの更新です。

今回も垣根帝督パートをお送りします。
『宵闇の出口』が暴徒を率いている事を知った垣根帝督はどうでるのか。
一方、サーシャとワシリーサの心の距離を操作せんと奮闘する心理定規の結末は……。

そんな感じで始まります。

では、よろしくお願いします!

134 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/12 23:22:59.15 f2nEAXLjo 63/526



――――――――――――――――――――――


『言うは易し行うは難し』とはよく言ったもので、実際に他者と他者の心の距離を
詰める演算処理は思った以上に苦戦を強いられた。

ウキウキ気分満点のワシリーサとこれから何を行うのか一切の説明を受けておらず
キョトンと首を傾げるサーシャ=クロイツェフの手をドレスの少女が握り、全身から
不愉快な汗を掻きながら必死で距離の調節を実行した。


結論から言うと『心理定規(メジャーハート)』による他者と他者の距離の調節は
見事に成功した。この成果を学園都市の能力研究機関に報告すればドレスの少女は
さらに一段階上のレベルの能力者として登録される事だろう。


無論、大量の雪が積もった白銀の地面に膝をつき、荒々しく息を吐く
疲労困憊のドレスの少女にそんな考えは全く無いのだが。

135 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/12 23:23:47.33 f2nEAXLjo 64/526





「だ、第一の質問ですがワシリーサ……ど、どうしましょう……」




サーシャ=クロイツェフだった。彼女はドレスの少女が疲労により崩れ落ちた直後、
明らかな異変を生じさせていた。
頬を赤らめ、ワシリーサに何かを尋ねるその声は普段のサーシャが絶対に発しない
甘えた声色そのものだった。


「ど、ど、どうしたの? ていうか、どう? サーシャちゃん、私に何か―――」

「い、いえ………その。 あ、すみません……あの、あまり顔を近付けないで……」


136 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/12 23:25:12.71 f2nEAXLjo 65/526


ワシリーサに対するサーシャの態度が急によそよそしくなっていた。
ワシリーサが様子を窺うために彼女の小さな顔を覗こうとすると、
照れたようにそっぽを向いてしまう。


「さ、サーシャちゃーん……? どうしたのかにゃ? ワシリーサさんですよー?」

「だ、第一の解答ですがそれは分かっています。 ……補足説明しますと、
 分かってはいるのですが……あぁ、ど、どうして急にこんな気持ちに……?
 今の今までこんなに……あなたの顔を見るだけで胸が高鳴る事は無かったのに……」


過度な演算処理を行ったせいでオーバーヒート寸前に陥った脳を冷やすため
ドレスの少女はふっかふかの雪の絨毯に思い切り顔を埋める。
そうしながら、彼女は二人の会話を聞いてグッと握り拳を作った。


(……よ、よっしゃ、出来たわ……。 私と対照だけでなく、他者と他者の
 心の距離を調節するという応用性が生まれた。 人間、やろうと思えば
 何でも出来るものね……。 私はこの日をもって己の限界を突破したのよ)

138 : ×=対照 ○=対象 失礼しました。  ◆3dKAx7itpI - 2011/12/12 23:27:40.53 f2nEAXLjo 66/526


それは学園都市に住む能力者なら誰もが気持ちよく噛み締める達成感。
能力の向上。例えそれが具体的なレベルアップには至らないとしても、
成長したという実感を得る事が出来れば微々たる成長でも喜ばしい事なのだ。

そしてそれは能力者に限らず、努力の成果が実る瞬間の充実感というものは
それがどんな事でも過程でも、人間動物問わず何物にも代え難いものである。
この広い雪原に今誰一人として居なかったら、ドレスの少女は両腕を
天に突き上げて歓喜の咆哮を轟かせていただろう。


「さ、サーシャちゃん……?」

「だ、第一の私見ですが……。 正直に告白します」


ズボッと積雪から顔を引っこ抜き、自分の努力の成果を現在進行形で
再現してくれている『殲滅白書』の魔術師をドレスの少女は見る。

139 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/12 23:29:28.41 f2nEAXLjo 67/526


ドレスの少女が設定したワシリーサとサーシャの心の距離は何と『ゼロ』。
互いを隔てる壁などもはや二人の心にはありはしない。そんな壁はドレスの少女が
粉砕してしまった。今のワシリーサとサーシャはこの世に現存するどの友達よりも、
兄妹よりも、親子よりも、夫婦よりも、カップルよりも、想い、愛し合える関係にある。

そして何より、それはワシリーサの祈願だった。人間一人の夢を叶えてあげるという
行いがこれほど気持ちの良いものだとは、ドレスの少女は思わなかった。
慈善事業など本来の彼女なら鼻で笑う所だが、いざやってみると悪くないとさえ思えた。


「わ、ワシリーサ! す、す、好きです……ッ!」


我慢の限界に達したのか、サーシャはこの世で最も愛しい(という設定の)ワシリーサに
飛びついて抱き締める。顔をりんごのように真っ赤にしながら抱きつく彼女の姿の
なんと初々しく甘酸っぱい事か。ここで『I Will Always Love you』が流れればそのまま
エンドロールが出現しだしても違和感の無いシチュエーションだった。

140 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/12 23:30:16.39 f2nEAXLjo 68/526


(本当は成功したらそれ相応の報酬をいただこうと思っていたけど、
 ……こんな場面を見せられたらそんな野暮な事言えなくなるわね。
 おめでとう、お二人さん。 未来永劫、あなた達の愛が尽きぬ事を願って……)


まだ脳の調子が戻っていないのか、ドレスの少女は二人の愛が開花した瞬間を
見届けると、薄く笑みを浮かべながら無言で踵を返す。

愛しのサーシャちゃんにギュッと抱き寄せられたワシリーサは、




「なーんか違くねこれ? 私が求めてるものじゃないなぁ」




141 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/12 23:31:17.92 f2nEAXLjo 69/526


気がついたら、二人に背を向けていたはずのドレスの少女が
ワシリーサの頭に華麗なまでのドロップキックをぶちかましていた。
抱きついたままのサーシャと共にワシリーサは雪の上を盛大に転がっていく。


「いったーい!! ちょっと、いきなり何すんのよ!?」

「黙れ……」


唸るように低い声を出すドレスの少女は、そのまま懐に手を忍ばせ
グリップの小さいレディース用の拳銃を取り出した。
危険を察したサーシャが慌てて起き上がりワシリーサを庇うように立ち塞がる。


「だ、第ニの私見ですがやめてください!! ワシリーサが一体
 あなたに何をしたというのですか!? 本気で彼女に牙を剥くというなら、
 私もあなたを迎撃するために全力で魔術を―――」

142 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/12 23:32:30.53 f2nEAXLjo 70/526


「あなたも黙りなさいクソガキ!! つかキャラ変わっちゃってるじゃない!!
 人の苦労も知らないで……、ああもう面倒だからこれでも喰らえ、えいっ☆」


これでも喰らえと言われて怯んだサーシャは思わず唇をキュッと噛むが、
ドレスの少女は特に何のアクションも起こさなかった。が、代わりに、


「ふ、ふにゃ~……」


一体どうしたというのか、サーシャは口元をにへら~と緩めると
とてとてと母親に甘える子供のようにドレスの少女の下へ歩み寄り、
スカートの裾をギュッと摘んできた。

143 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/12 23:33:58.69 f2nEAXLjo 71/526


「さ、サーシャちゃん!?」

「ふん、この子と私の心の距離を弄っただけよ。 距離は『母性』すら感じる
 程度に調節してるけどね。 ……それよりあなた、ふざけないでよ」

「だ、だって何か違ったんだもん! そりゃサーシャちゃんにあんな風に
 甘えられたら垂涎もの……どころか出血多量で死んじゃってもおかしくないわ。
 でもいざそういうシチュに直面してみると何か違和感あるっていうか……。
 私はあくまで可愛いものが好きなのであって、サーシャちゃん一辺倒って訳じゃ……」

「脳が焼きつくくらいの演算処理をしたのよ私は! そんな私の苦労も考えず
 なーにが求めてるものと違う、よ。 僅かでもあなた達の間に芽生えてた愛に
 感動した私の心を返せ! ていうかどうしたら満足するっていうのあなたは!?」

「うーん……、思い返せば私、サーシャちゃんになじられてた頃が一番充実してたかも。
 もしかしたら私はサーシャちゃんに愛されたいんじゃなくて虐げられたいだけなのかにゃ?
 だってほら、現にこうしてあなたに拳銃を突きつけられてる状況でも私、ちょっと興奮」

「ならたぁっぷり虐めてア・ゲ・ル」

144 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/12 23:34:40.33 f2nEAXLjo 72/526


ドレスの少女は唇を舌で艶かしく濡らすと、うふふうふふと"愉しげ"な笑い声を
漏らしながらヒールを履いた足で雪の上に寝転がるワシリーサの顔を踏みつけた。


「あらやだ、だらしない顔で悦んじゃって……ふふ。 何だか私の心の
 奥底に眠っていたサディズムの資質が沸き上がってきちゃったみたい♪
 ……ほらサーシャも、この愚かで醜いメス豚の顔を踏みにじってあげて」

「第ニの解答ですが、それがあなたのご命令だと言うのでしたら……とりゃ」


やたらエロい格好をした小柄な少女二人に顔を踏まれ悦に浸るいい歳した修道女。


とてもじゃないが絵や映像ではお送り出来ないこの光景を、雪合戦をしに
足を運んだ純粋無垢な独立国の少年少女達が未知と遭遇したような目で眺めていた。

145 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/12 23:37:12.45 f2nEAXLjo 73/526



――――――――――――――――――――――


「と、そんな垣根帝督のご朗報が届いたのデスマスが」

「あん?」


『宵闇の出口』に関する情報が記載された書類を眺めてその情報の
信憑性を疑っていた垣根に、テオドシアが声をかけてきた。


「つい先ほど、イギリス清教から緊急の連絡が舞い込んで来マスした。
 イギリスのグラスゴーにて魔術師による暴動が発生、そこに暴徒を引率する
 『宵闇の出口』の魔術師を確認。 直ちにこれを鎮静、無力化せよ……。
 状況が芳しくないのデスかねえ? ロシアにいる私達に応援要請を送るなんて」

「……こちらでも確認した」

146 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/12 23:38:51.80 f2nEAXLjo 74/526


携帯電話の画面を睨みながらステイルが言う。


「どうやら奴らの狙いはイギリス清教本部、聖ジョージ大聖堂らしいね。
 大凡、魔術サイドで現状最も大きな勢力を保持しているイギリス清教を
 潰す事で、残りの『掃除』を楽に進めようという魂胆だろう。言うまで
 もないが周囲の一般市民に振りかかる被害について、奴らは全く考慮して
 いない。 これで件の暴徒発生事件に『宵闇の出口』の連中が絡んでいる
 事は確定したな」

「ちょっと待って」


ステイルの言葉を遮るようにエリザリーナが割り込んできた。


「聖ジョージ大聖堂は数ある教会の中でも群を抜いて強固な魔術防壁で固められているはずよ?
 いくら『黄金』系と言っても首謀者は『宵闇の出口』、連中があの防壁を突破出来るとは
 とても思えないのだけど」

147 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/12 23:40:07.75 f2nEAXLjo 75/526


「ノン。 聖ジョージ大聖堂の魔術防壁は今、ガッタガタなのデスマスよ」


エリザリーナの疑問にテオドシアは他人事のような調子で答える。
そこへ退屈そうに話を聞いていた垣根が話に参加した。


「例の黒い霧とかいう現象の影響か?」

「そうマス。 不思議なことに、黒い霧によって奪われた魔力は魔術師には戻ったものの、
 聖ジョージ大聖堂のような教会や魔術的な物件にはほとんど戻ってきていないのデス。
 つまり黒い霧によって一番被害を受けたのは魔術師ではなくそういった建造物や物品」

「特に聖ジョージ大聖堂は第三次世界大戦で、……甚大なダメージを被っていた。
 その被害を修復している最中にあの黒い霧だ。 手痛い追い打ちだったよ。
 おかげでイギリス清教の本部はネズミはおろか一般人でも堂々と最深部まで
 辿りつける程度のクソセキュリティになってしまっているんだ」

148 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/12 23:40:57.36 f2nEAXLjo 76/526


もちろんその分、教会を護衛する魔術師の数もハンパじゃないけどね、
とステイルは付け加える。垣根は眉間に皺を寄せながら尚も尋ねた。


「今の話のどの辺に俺にとっての朗報があるんだよ?」

「『宵闇の出口』の迎撃に『明け色の陽射し』が参加するようマス。
 どうやら今回の件を受けて『黄金』系、少なくとも『明け色の陽射し』は
 完全に連中を見限るようデスね。 ぶっちゃけ、『明け色の陽射し』が
 出張るなら私達の増援なんて必要無いと思うマスけれど」

「腐っても『黄金』。 同じ結社の『明け色の陽射し』だけでは
 不安要素が拭えないとイギリス清教が判断したんだろう。
 ……しかしこの状況で最大主教に動きが見られないのが
 少し気になる。あの女、このままのんびりと高みの見物を
 決め込むのか、それとも何か策を講じているのか………」

149 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/12 23:42:06.82 f2nEAXLjo 77/526


言いながらステイルとテオドシアは医療室から出て行ってしまった。
恐らくイギリスへ帰還するために荷物をまとめに向かったのだろう。
垣根は部屋から出て行く二人を見送ると、改めて書類に目を通す。


(……一方通行の野郎はこの情報を傍受してやがんのか……?)


垣根が気にしていたのは『宵闇の出口』ではなく、その組織に対して
『天使同盟(アライアンス)』のリーダーである一方通行がどうアプローチを
仕掛けるのか、という点だった。

『暴徒』の一件は世間的には何も報じられず、魔術サイドの大半にとっては
いきなり訳のわからない連中が魔術師にいらぬ発破をかけ始めた、程度の認識
でしか無いだろう。

しかし『天使同盟』がこの件を我関せずで貫くとは垣根には思えなかった。
と言うよりも、我関せずで通せる訳が無いだろう。
例え周囲が暴徒の件に悩む一方通行に『気にするな』と気を遣っても、
一方通行という少年は聞き入れない。あれはそういう人間だと垣根は思う。

150 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/12 23:43:55.71 f2nEAXLjo 78/526


だとしたら既に一方通行他、『天使同盟』の構成員も何らかの行動に出ているはずだ。
もしかしたら既にイギリスへ向かっているかも知れないと垣根は推測する。


(俺から言わせりゃ『天使同盟』が起こした事件に感化されたクソボケ共が
 何をどうしようが関係ねえが……。 その後始末を魔術サイドの連中に
 押し付けるだけってのは面白くねえな……。 『天使同盟』を勝手に崇め
 奉ってバカ騒ぎしてやがるって点も気に入らねえ。 ……クソ、仕方ねえ)


垣根は考える。テオドシアの言う朗報とは『明け色の陽射し』に接触するチャンスの事を
指しているのだろう。イギリスで『明け色の陽射し』と合流し、共闘戦線を張って迎撃に
貢献出来れば儲け物、あわよくば連中から魔力喪失について詳しい話を聞けるかも知れない。

少々ズレはあるが、互いの利害は一致しているはずだ。

151 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/12 23:44:59.15 f2nEAXLjo 79/526


「だったら、俺がロシアに来て得た報酬は『手掛かりと情報』だな」

「?」

「ロシアに来た事が無駄足にならずに済んだって事だよ。 急に押し
 かけて来ておいてこう言うのも悪いが、俺はそろそろ出て行くぜ」


垣根がそう言ってくる事がある程度予想出来ていたのか、エリザリーナは
大してリアクションをしてこなかった。


「あなたもイギリスへ行くの? 『明け色の陽射し』と接触するために」

「会えたらいいな程度の気持ちだけどな。 身から出た錆って訳でもねえが、
 ついでに『天使同盟』の名を汚そうとしてやがるクソ共を片付けてやろうか
 なんて考えてる。 ……言っておくが、魔術サイドの手伝いをしようってんじゃ
 ねえからな? 丁度いいウォーミングアップにもなるし、あくまでついでだぞ」


残念ながらエリザリーナは『ツンデレ』という言葉と意味を知らなかったため、この場面で
垣根に的確なツッコミを入れる事は出来なかった。今の発言がツンデレに含まれるのかどうかは扠置いて。
彼はエリザリーナに書類を手渡す。

152 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/12 23:45:42.94 f2nEAXLjo 80/526


「世話になったな。 俺一人じゃなくて他の『天使同盟』の連中も
 連れてきた方がお前も嬉しかっただろうが……いや、逆にうぜえだけか」

「そんな事はないわよ。 あなたがここに来て何か収穫を得る事が出来たのなら、
 私としても嬉しいわ。 でも、イギリスに向かうなら気をつけなさい。
 『宵闇の出口』は評判こそ酷いものの、それでも『黄金』系の魔術結社なのだから」

「肝に命じておくぜ。 お前もあんまり根詰めるんじゃねえぞ」

「ふふ、一方通行のような事を言うのね」


不意にそう指摘された垣根帝督は失言を悔いるように舌打ちをし、医療室を後にした。


次に向かうは彼にとって『二度目』のイギリス。目的は『明け色の陽射し』との接触。
目標が明確になる事で、垣根の気持ちも活気づく。

153 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/12 23:51:31.93 f2nEAXLjo 81/526

今回はここまでです。

ドレスの少女の話はもうカンペキにギャグですね。サーシャがオモチャに
なってしまってるし……。オチもバレバレだったでしょうが、楽しんでいただけたら幸いです。

垣根帝督は再び、というかやはりイギリスへ向かう事に決めました。
このSSイギリス行き過ぎですよねどう考えても……。

てなわけで垣根帝督パートはここで一旦終わりです。またすぐに
始まると思いますが、次回からは一方通行パートと、なんとミーシャパートを
交互に繰り返しながら進行させていきます。どうかお楽しみに……。

次回更新は三日以内。

それでは、今日もありがとうございました!

154 : 次回予告はここまでです。  ◆3dKAx7itpI - 2011/12/12 23:51:59.90 f2nEAXLjo 82/526




                          【次回予告】



「krughc気分qagtnl爽快cppoogx」
『天使同盟(アライアンス)』の構成員・水を司る大天使『神の力(ガブリエル)』――――――ミーシャ=クロイツェフ




「いや無理ッ!! ないない、無いわよ!」
学園都市・常盤台中学の超能力者(レベル5)――――――御坂美琴




164 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/14 21:23:23.08 8DEBMbw+o 83/526

こんばんわ、更新を開始したいと思います。

ところで、ルート解放の話の時にチラッと出てくる『小悪魔』なんですが、
…………誰の事なんでしょうか?
あのキャラのことかなってのはあって、それならいいんですがもし違ったら
どうしようと内心ハラハラしていますww きっとあの娘のことですよね……

さて、今回は一端覧祭四日目のミーシャパートからお送りします。
このパートではミーシャと第三位の御坂を中心に展開します。

では、よろしくお願いします!

165 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/14 21:24:04.03 8DEBMbw+o 84/526



――――――――――――――――――――――


学園都市で開催されている一端覧祭も今日で四日目となった。
本来なら終わっているこの文化祭だが、学園都市統括理事長の粋な計らいで
七日間に期間が引き伸ばされたらしく、街は昨日に引き続き活気づいている。

四日目開始の朝、御坂美琴は第七学区を散歩していた。
本日は特にやることもなく、常盤台中学の寮で一日中惰眠を貪っていても
文句を言われない、彼女にとっては完璧なオフだったのだが、今日の美琴は
宛もなく外をブラつきたい気分だった。


「……、」



166 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/14 21:24:39.11 8DEBMbw+o 85/526


美琴の顔には若干の疲れが浮かんでいた。一昨日、常盤台中学のイベントである
能力の実演ショー的なものに出場していた美琴はそこでとある能力者とバトルを演じる
ハメになった。

いや、あれを能力者と呼んでもいいのかどうか、美琴の中では未だに判断がついていない。
ガウンの着た謎の怪物は、パフォーマンスの範疇とはいえ美琴の実力を圧倒していた。
パフォーマンスの範疇だというのに、既に美琴を圧倒していた。


―――学園都市第三位の超能力者(レベル5)、『超電磁砲(レールガン)』の御坂美琴を。


(不思議と、悔しさは無いんだけどね)


それは強がりや意地ではなく、美琴は素直にあの能力者の実力を認めていた。
過去にも自分の力をあっさりと越える実力者に遭遇した事のある彼女だが、
その者の存在を認めず、否定するような事を美琴はしない。実力で勝っていれば
素直に勝ち誇るし、劣っていれば甘んじて受け入れる。そんな心を彼女は持ち合わせていた。

167 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/14 21:25:36.81 8DEBMbw+o 86/526


そしてそれ以上に。


(楽しかったなぁ……。 あいつの名前……確かミーシャって黒子が言ってたっけ)


気が沈むようなバックストーリーも無く、出会った瞬間殺し合う程の縁も怨恨も無かった
ガウンの怪物との戦いは素直に楽しめたと美琴は今でも思う。
その証拠に、美琴はガウンの怪物―――ミーシャ=クロイツェフとメアド交換を交わしている。


(あいつのメール……文章がちぐはぐ過ぎてたまに要領を得ないけど、
 やり取りは割りと楽しかったりするのよね。 変な事知ってたりするし)


メールでのやり取りの頻度はそうでもないが、美琴はミーシャと今日まで普通に
連絡し合っていた。その時だけの勢いでメアドを交換してそれっきり、という
ありがちな関係には留まっていない。メールの内容は実に日常的で些末なものだが、
美琴にはそれが何故だか新鮮だと思えた。

168 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/14 21:26:40.61 8DEBMbw+o 87/526


(さて、と。 ……これからどうしよう、宛もなくフラつくってのも案外難しいわね)


着信したメールを処理しながら美琴はため息をついてしまう。


実を言うと今日の朝(というかついさっき)、常盤台中学の学生寮に初春飾利と佐天涙子が
訪問してきたのだ。二人の目的は『一緒に一端覧祭を見て回りましょう』というごくありふれた
お誘いだったのだが、美琴はイマイチ乗り気になれず丁寧に断ってしまっている。

その時同じ部屋で暮らしている白井黒子が明らかに不安げな視線を送ってきていたが、
美琴は敢えて無視した。無視して、そして現在彼女は街を散策しているのだが、案外
一切の目的無く外出するというのは暇なもので、一端覧祭という素敵な催し物も、
既にこの文化祭以上に派手なイベントに遭遇している経験のある美琴の興味をそそるには至らないらしく、


「お?」

169 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/14 21:27:34.64 8DEBMbw+o 88/526


と、そこで美琴は軽く目を見開いた。彼女の視線の先にはそこそこの面積がある公園があった。
夏には涼を取るために子供や学生が噴水に集まり、安全面をとことん追求した遊具が何点か設けてあり、
意外と大人でも楽しめてしまうような人気の高い物が並ぶ公園。

そんな公園に今、結構な数の人が集まっていた。一端覧祭というイベントの内容上、
人が集まるなら学校か一般人でも見学出来るようになっている研究施設等が主だが、
こんな普遍的な公園でも何かをやっているのだろうかと美琴は釣られるようにその足を
公園へ向かわせた。


敷地内に入って分かったが、どうやら集まっている人は遊具やイベントが目的ではないらしく、
皆が皆『噴水』へ好奇の目を向けていた。そのほとんどが子供で、目をパチクリさせて驚いていたり
指をさしてケラケラと笑っていたりと様々なリアクションを取っている。美琴の位置からでも
噴水自体は確認できるが、子供たちが見ている何かは回り込まなければ見えない位置にあるらしい。


「?」

170 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/14 21:28:19.77 8DEBMbw+o 89/526


噴水。

水、というイメージに若干嫌な予感を抱きつつ、美琴は子供たちが
見ている何かを確認するために円形の噴水に回り込むように移動してみた。


回り込んで。


子供たちが見ているそれを見て、美琴はフリーズした。
だがそれも無理はない。




「krughc気分qagtnl爽快cppoogx」




171 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/14 21:29:17.97 8DEBMbw+o 90/526


公園に設けられている噴水で水浴びをしながら、明らかにリラックスした様子で
寛いでいる『異形の化物』がそこに居れば、美琴じゃなくても凍りついてしまう。


異形の化物は美琴から見ても本当に『異形』だった。
まず、という前置きすら億劫に感じる程説明する気が起きないが、それでも
美琴はこの異形の具体的な特徴を唯一稼働している脳で確認する。

まず、頭がおかしい。これは一二月という冬真っ盛りの時期に公共施設の噴水で
水浴びをしているこの化物の頭がおかしいという意味ではなく(真冬に大衆の前で
水浴びをしている時点で頭もおかしい気はするが)、文字通り頭の形状がおかしい。

後頭部から伸びるその布……? は、まるでラッパのようにさらに後ろへ広がっており、
顔、と判断していいのかどうか分からない部分は、凹凸で目や鼻、口のような部位が
表現されている。

全身は青白いような灰色のような曖昧な色の布で覆われていて、全身に流れる
神経や血管の意匠なのか、至る部分に金色の葉脈のような物が巡っていた。

172 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/14 21:30:13.68 8DEBMbw+o 91/526


しかしここまでならまだ良い。いや良くはないが、ここまでなら美琴は
この異形を受け入れる器を持っていた。フリーズこそすれど、『まぁ、たまにいるわよね
こんな格好したヤツ』程度の認識で済ませる事が出来た。

今は一端覧祭真っ最中だ。こんなコスプレをした学生が公園で休憩がてら
水浴びをするくらい何の不思議も―――、


「いや無理ッ!! ないない、無いわよ!」


無理だった。『いるいるこんなヤツ』程度の認識では済まなかった。

目の前の異常現象は美琴の器の許容量をオーバーしてしまったらしい。
身体の硬直が解けたと同時、美琴は周囲の事も気にせずツッコミを入れてしまっていた。

コスプレ、と割り切るにはあまりにも不自然な部分が見られた。
どう目を凝らしても皮膚と装束の境目が見当たらないし、身長が二メートル近く
ある事はどうでもいいとしても、その巨体が淡い青色に光っていたらそれはもう
コスプレでも何でもない。例え発光機能を備えた高制作費衣装だとしてもそれを着て
噴水に浸かるなんて馬鹿な真似をする意味が無い。

173 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/14 21:31:26.41 8DEBMbw+o 92/526



何より美琴の目を引いたのは目の前の化物だけではなく、


(……………あのガウン、どっかで見たような気がするのは気のせい?)


それが一週間前や一ヶ月前なら気のせい、で片付ける事も出来ただろう。

しかし美琴が噴水の傍に無造作に放置されているボクシングの世界チャンピオンが
入場時に着てそうな黒のガウンを見かけたのはつい一昨日の事である。
現実逃避をするにはあまりにも最近の出来事だった。


(こ、こいつだったの!!? 色んな意味で能力実演に貢献してくれた怪物は!)


174 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/14 21:32:52.31 8DEBMbw+o 93/526


美琴は思い切り顔を引きつらせながら、あまり振り返りたくない過去を振り返ってみる。
確かに今目の前で水浴びをしている怪物とあの時プールで死闘を演じたガウンの怪物は
特徴が一致する。どちらも同じく巨体であったし、『水』というイメージがどちらにも
しっくり来るのはこの怪物が噴水で水浴びをしているだけが理由ではないだろう。

そもそもこんな派手なガウンを着込む人間がそうそういるはずもなく、
そもそもこの怪物は信じ難い事に(恐らく)人間ではない訳で、

それでもプールで戦ったミーシャ=目の前で水浴びをしている怪物という
確定したも同然の現実をなかなか認めない美琴に、怪物が決定打を与えた。


「dkhi美琴tybg」

「あ……」


美琴は怪物と目が合った(目があるかどうかはともかく、視線がぶつかったのは確実だった)。
その瞬間、噴水でのんびりとしていた怪物は二日ぶりくらいに友人と出会った時くらいの気軽さで
美琴へ手を振ってきたのだ。

175 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/14 21:34:04.84 8DEBMbw+o 94/526


周囲の視線が一気に美琴へ集まっていく。『え、噴水で水浴びしてるバカと常盤台中学の生徒が知り合い?』、
的な疑惑とセットになって集まっていく。美琴は顔から嫌な汗を冬の朝にも関わらずダラダラと流し、
手を振ってくる怪物―――ミーシャだと認めざるを得ない怪物にどう応えようか思案を巡らせる。


「hyyrw美琴aqpm美琴enxvgt」

(ぬぐおおおお! いや良いのよ!? あいつと私は知り合いなんだからあいつが
 私に手を振ってくるのは全然構わないのよ、私だってそれを無視してここから
 逃げ出すなんて野暮な事はしないわ。 けどね、せめて普通の状況でいてよ!!
 真冬に噴水で水浴びするバカ――しかも外見が特異過ぎる――にフレンドリーな態度
 取られても応じようがないでしょうが!! って、ああもうメッチャ手振ってるし!)


バッシャバッシャとあちこちに水を撒き散らしながらジェスチャーで美琴に
呼びかけるミーシャ。このまま放置しておく訳にもいかず、かと言って
ミーシャを無視して立ち去る事は美琴の良心が許さない。

176 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/14 21:35:11.70 8DEBMbw+o 95/526


発覚した事実と周囲から湧き出る重圧にもう色々耐えられなくなった美琴が
下した決断は――――、




「な、何でやねーん!」




関西弁を大して知らない人間がとりあえず使う関西弁第一位のセリフと共に、
ミーシャの頭に軸足で地面を割らんばかりのネリチャギをお見舞いした。
普通の人間なら脳に深刻なダメージを負う威力だが、相手は普通の人間では
ないので美琴は一切の手加減を加えなかった。

177 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/14 21:36:16.98 8DEBMbw+o 96/526


「?????」

「普通にシャワー浴びればいいでしょ!! 何でわざわざ噴水なのよ!
 しかもこんな真冬に! いくらボケだからって体張りすぎだっつの!!」

「?」

「だーっ、もう! ほらさっさと服持って逃げ、じゃない帰るわよ!!」


手を振っただけなのにカカトを浴びせられたミーシャは首を傾げるが、
美琴は構わずミーシャの手を引っ張って噴水から引き出すと、地面に
置いてあった黒のガウンを押し付けるように持たせて、


「で、では失礼しましたー。 あはははー!」


そう言い残して脱兎の如く公園から姿を消してしまった。もちろんミーシャを連れて。
ネリチャギ→逃走までの流れが速すぎて、周囲に居た子供や学生達は開いた口を
塞ぐ事も忘れて呆然と佇む事しか出来なかった。

178 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/14 21:37:06.33 8DEBMbw+o 97/526


――――――――――――――――――――――


「ふう……何とか撒いたか……」


泥棒が追っ手から逃げ切った時に吐くようなセリフを呟く美琴だが、
彼女は別に誰にも追われてないし何も後ろめたい事はしていない。

美琴はもう一度好奇心旺盛なお子様等が追いかけてきてないか周囲を警戒し、
完璧に逃げ切った事を確認すると近くに設置してあったベンチにへたり込むように座った。
朝っぱらから自分の肉体に全力疾走を強要したため、息は切れ切れで冬だというのに
手で顔を扇いでしまう始末だ。


「ysrrw何事znahr」

「あー……もう丸一日消費してアンタに説教したい所だけど、
 今は何よりも水分補給を優先したいわね。 急に走ったから
 喉乾いちゃったわよ、まったく……」

179 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/14 21:38:03.71 8DEBMbw+o 98/526


ノイズ混じりの不気味な声で話しかけてくるミーシャ(ガウン装備済み)に対し、
美琴は聞きたい事が山ほどあったがとりあえず保留する事にした。

座ったベンチのすぐ隣には運良く自動販売機が設けてあった。が、美琴は顔をしかめる。
この自動販売機は美琴が新入生の時分にジュースを購入しようと入れた万札を飲み込んだ
恐るべき守銭奴なのだ。いや、守銭奴というよりはジュースという商品で人を誘惑しておいて
金だけ奪うという特徴からして詐欺師と呼称するべきか。

よって美琴は飲み込まれた万札の分はきっちりジュースを吐き出してもらうと、
ここでジュースを入手する際に自販機の側面に四五度から強烈な蹴りを浴びせる事で
無理やり吐き出させる、という手法を繰り返していた。

風紀委員である白井黒子には呆れられている行為であるし、以前この自動販売機を
蹴った事で白井ではない厄介な風紀委員に絡まれた事もあり、美琴にとって
この自販機はあらゆる意味で思い入れがある。

180 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/14 21:39:18.96 8DEBMbw+o 99/526


「……うーん。 今はちょっと蹴り入れる元気も無いし。 どうしよっかな」


と、美琴は隣で座る水芸者(性的な意味ではない)を一瞥すると、


「ちょろっとー、アンタに頼みたい事があるんだけど」

「?」

「そこにある自販機、実はちょっとした裏技があってね。 ……あんま大声じゃ
 言えないんだけど、こいつの横っ腹を蹴っ飛ばすとジュースが出てくる
 仕組みになってんのよ。 ……会っていきなりで悪いんだけど、出来る?」


『唐突で申し訳ないんですけどちょっとこの自販機蹴り飛ばしてくれませんか?』、
と言われてハイ承知しましたとキックを放つ人間など居るわけがない。
美琴もそこは分かっているため冗談で言ってみたのだが―――、

181 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/14 21:40:37.57 8DEBMbw+o 100/526


「xxgti了解fersi」

「あ、え? ほ、本当にやってくれるの? 度胸あるわねアンタ……」


ミーシャは元気よく立ち上がり自販機の前まで移動する。美琴はまだ把握し切れて
いないようだが、ミーシャは『自販機蹴ってくれ』と言われたら『ハイわかりました』と
頷いてしまうくらい世間知らずな天使なのだ。


「あ、そっとよそっと! いや、あんまり手加減してもジュースは出てこないんだけど、
 力加減間違えたら壊れちゃうかもしれないから。 まず最初はかなり弱めに蹴って、
 そこから微調整していけば問題ないわ。 四五度の角度で蹴るのがポイントよ」

「ctykf把握ewzs」


フードで顔が隠れているため見辛いが、ミーシャは首を縦に振って理解したと意思表示した。
右足をトントンと地面に叩いて準備運動をする。このさりげない仕草だけでコンクリートの床に
ヒビが入っている。この時点で美琴は気付くべきだったのだ。

182 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/14 21:41:22.01 8DEBMbw+o 101/526



ミーシャ=クロイツェフにそんな"面白そうな事をやらせてはならない"、と。


美琴はミーシャの蹴りを肉眼で捕捉する事が出来なかった。
ヒュッ、という空気どころか空間を切り裂くような風切り音がしたかと思ったら、
トラックとトラックが正面衝突事故を起こしたと想起させる轟音が鼓膜を叩き、
盗難防止も兼ねて非常に頑丈かつ複雑な構造で出来ている自販機が『くの字』に折れ、
グシャグシャにひしゃげたボディからカラフルな液体を吹き出し、


一〇メートル以上先の街灯の頂点に引っ掛かった。


「………………………………………………………………………………………………………」

「nmptr……失敗?」


本日二度目の全力疾走が決定した。

184 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/14 21:45:47.57 8DEBMbw+o 102/526


今回はここまでです。

初っ端からメチャクチャな展開で始まったこのミーシャパート。
御坂と天使の組み合わせは個人的に書いてて面白かったのですが、
いかがだったでしょうか。

この二人は次から始まる一方通行パートと徐々に繋がっていきます。
で、その一方通行パートなんですが、風斬やキャーリサの時と違って
いわゆる『爆発しろ』要素が(終盤を除けば)ほとんどありません。
今までの展開とは少し違う特殊なお話になります。

そんな一方通行パート、次は誰のアンロック編なのか……まぁバレバレですよねww

次回更新は三日以内。

それでは、今日もありがとうございました!


185 : 次回予告はここまでです。  ◆3dKAx7itpI - 2011/12/14 21:47:08.80 8DEBMbw+o 103/526




                          【次回予告】



「だからって帰ってもオマエらが畳毟ってンだろ!? 黙って見てられるかァ!」
『天使同盟(アライアンス)』のリーダー・学園都市最強の超能力者(レベル5)――――――一方通行(アクセラレータ)




215 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/17 14:04:20.16 oYRNUrCFo 104/526

こんにちわ、真っ昼間からの更新です。

今回は一方通行パート。アンロック編ですが、さて風斬→キャーリサときて
次のヒロインは一体誰になるのでしょうか……と言いたいところなのですが、
前回も言った通り今回は今までと少し趣向が異なります。

それでは、よろしくお願いします!



216 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/17 14:05:06.28 oYRNUrCFo 105/526



――――――――――――――――――――――


「………なンだこりゃ。 ずいぶンと暇なヤツがいるンだな」


何やら道に人集りが出来ていたため一方通行も近付いてみたのだが、
どこかの能力者の能力が暴発でもしたのか、自動販売機らしきスクラップが
街灯の照明部分にぶら下がっていた。何人かの警備員や風紀委員が集まって現場周辺を調査している。


「くっだらねェ」


一方通行は杖をつきながら踵を返す。人集りから背を向け、大きなあくびを一つ。

217 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/17 14:06:20.49 oYRNUrCFo 106/526


彼は徹夜明けだった。昨日、風邪を引いてしまったキャーリサを一晩中看病していた彼は
翌日、つまり今日の早朝にキャーリサを黄泉川愛穂の家まで送り届けていたのだ。
ついでに黄泉川の家で朝食をご馳走になり、かまってかまってとゴネる打ち止めを宥めて
アジトへ帰りがてらここに立ち寄ったのだ。


一端覧祭開催から今日で四日目。


今日一日くらいは爆睡しても構わないだろう、と一方通行が再びアジトの帰路へ着こうとすると、




「あら、一方通行さん。 おはようございます」

「お、おはようございます!」

「……オマエらか。 相変わらず朝から活動してンだな」




218 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/17 14:07:19.00 oYRNUrCFo 107/526


あくまで彼の主観だがすっかり学園都市の街並みに馴染んでしまった
オルソラ=アクィナスとアンジェレネの凸凹シスターコンビに声をかけられた。

二人は学園都市の店で購入したのか、ここへ来た時は持っていなかった
オシャレなバッグを提げている。このまま二人をファッション誌の
表紙に飾っても良さそうだが、二人の衣装は相変わらず修道服だった。


「オマエら代えの服とか持ってねェのか? 女ならその辺気になるだろ」

「もちろん持っているのでございますよ。 ここへ来る時に持参しているので
 ございます。もっとも、代えの服も全部修道服でございますけど」

「修道服ねェ」

219 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/17 14:07:58.09 oYRNUrCFo 108/526


「わ、私達が修道服以外の服を着たらキャラとしての特徴が無くなって
 誰が誰やら分からなくなりますから、修道服は常備していないと」

「そンな悲しい事言うなよ……。 修道服着てなくても顔見りゃ判別出来るだろ……」


何か朝からネガティブな発言をするアンジェレネに少しだけ気分を沈ませた
一方通行は再び大きなあくびをする。


「あれ……一方通行さん。 心なしか眠たそうにしてますね。
 何だか誰かを一日中徹夜で看病した直後みたいな……」

「なンで無駄に鋭いンだよ……」

220 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/17 14:09:13.49 oYRNUrCFo 109/526


「ねむねむなのでございますか?」

「ねむねむでございますゥ。 オマエの物憂い声聞いてたら余計眠たくなってきた」


するとオルソラとアンジェレネは一方通行に背を向けて囁くような小声で何か話し始めた。


「(ど、どうしましょうシスター・オルソラ。 一方通行さんはどうやら
  スリープモードに移行する寸前みたいですけど)」

「(電源スイッチをちょっとだけスライドさせたら切り替わる状態の事でございますね)」

「(いやそれ風斬さんが持ってたゲーム機の機能じゃないですか。 シスター・オルソラは
  昨日風斬さんや五和さん達と遊んだ時に妙な知識を蓄え過ぎです。 そうではなくて、
  一方通行さん、これじゃもう街を回って遊ぶ元気は残ってないんじゃないですかね?)」

221 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/17 14:10:14.59 oYRNUrCFo 110/526


「(それは困った事でございます。 せっかく寮の皆様には無断で学園都市に
  遊びに来たというのに……まだ私達は一方通行さんと楽しく過ごせていない
  のでございますよ。 今日は思い切って彼と一日を過ごそうと決めていたのですが……)」

「(でも無理をさせて倒れられても……)」

「(……そうでございますね。 こればかりは私達のワガママで押し通せる問題では
  ございません。 アンジェレネさん、今日はもう潔く諦めて帰るのでございます。
  帰って、部屋の畳の藺草を一日中毟って過ごしていましょう)」

「(そうですね……、仕方ないですもんね。 一日中毟りましょう、惨めったらしく)」


オルソラとアンジェレネは何事も無かったかのように笑顔を浮かべて振り返ると、


「「それじゃあ一方通行さん、私達はこの辺で―――」」

「ぜェーンぶ聞こえてンだよクソシスター共。 つか何で畳を毟る!?」

222 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/17 14:11:00.78 oYRNUrCFo 111/526


そそくさと立ち去ろうとするシスター二人の肩を掴んで一方通行は引き止めた。


「で、でも一方通行さん……お疲れなんでしょ?」

「だからって帰ってもオマエらが畳毟ってンだろ!? 黙って見てられるかァ!」

「しかしそれを考慮せずとも……、今日はゆっくり休んだ方がよろしいのでございますよ」

「……オマエら、どォやら俺を見くびってやがるな?」


一方通行はカツン! と一度だけ杖を強く鳴らすと、


「俺が本気になりゃ向こう一年くれェは不眠不休でも問題ねェンだよ。
 睡眠欲のベクトルを操作して肉体の外へ追い出せるからな」

223 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/17 14:11:54.04 oYRNUrCFo 112/526


「……睡眠欲にベクトルなんてあるんですか?」

「ベクトルを完璧に究めた俺が言ってンだぞ? あるに決まってンだろォが。
 その気になりゃ俺は時間や空間のベクトルも操作してこの世の法則を――」


一方で睡魔と激しい戦いを繰り広げているせいか、一方通行の発言が
少々おかしな事になってきている点にアンジェレネが不安げな顔になる。
オルソラも重心を支えている一方通行の杖が震えている事に気付くと、


「……無理を言って申し訳ないのでございます。 私達は今日は完全下校時刻まで
 外出していますので、一方通行さんはどうか休暇を取って―――」

「………、」


普段の彼ならここまで言われると、いやここまで言われるまでもなく
さっさと帰って就寝している所だろうが、彼は深く深呼吸をして冬の外気を
体の中に取り入れると、頭の中で暴れ狂っていた睡魔を霧散させた。

224 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/17 14:12:36.66 oYRNUrCFo 113/526


「……時間は無駄にしたくねェンだ」

「?」

「今日一日付き合ってやる。 近くの公園に移動するぞ。 一日の
 スケジュールを組むついでに、俺から少し聞きてェ事もあるしな」

「よろしいのでございますか?」

「二度も言わせンじゃねェよ、着いて来い」

「わーい!」


一方通行の言葉を受けて無邪気に喜ぶアンジェレネ。オルソラも逡巡したが、
ここは厚意に甘える事にした。率先して歩く一方通行の背中に着いて行く。


イギリス清教の最大主教。ローラ=スチュアートとの謁見まで残り三日。


風斬氷華、キャーリサと続いて今回はオルソラ、アンジェレネと過ごそうと一方通行は決めた。

225 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/17 14:13:50.51 oYRNUrCFo 114/526



――――――――――――――――――――――


ともあって近くの公園に移動した一方通行とシスターズ(妹的な意味合いは含まれない)。
だが公園内の様子が少しおかしい。何やら十数人くらいの子供や学生が佇み怪訝そうに
会話をしている姿が見られる。先の街灯の自動販売機同様、ここでも何かが起きたようだ。


「チッ、一端覧祭中だってのになンで公園にこンな人が集まってやがンだ」

「と、とりあえずあそこのベンチに座りましょうか。 そういえば
 一方通行さん、朝ご飯は済ませました? 私達、オニギリを作って
 きてるんですけど……良かったらどうぞ」


アンジェレネに促され、一方通行達は公園のベンチに腰を降ろした。
このベンチは以前、風斬氷華と紛い物のデートを実行した時に訪れたベンチだ。
一方通行は当時の事を振り返り、よく考えるとここで結構大変な事態が発生した
事を思い出し、首を振って払う。

226 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/17 14:14:55.45 oYRNUrCFo 115/526


歪な形ながらも実に美味しい握り飯を食べながら、まずはオルソラが発言する。


「最初に一方通行さんが話しておきたい事、というお話を伺うのでございます。
 私達が聞いても意味のあるものなのでございましょうから」

「多分だけどな。 ……オマエら、世界各地で発生してる『暴徒』の件については知ってるか?」

「ぼ、暴徒ですか……?」


朝っぱらから物騒な言葉を耳にしたアンジェレネが怯えながら反応する。


「それは魔術サイドに関するお話でございますか?」

「モロにな。 なんでも、『第一九学区事件』の影響で発生した連中らしいンだが。
 そいつらが事件に感化されて暴れ回ってて、それを魔術サイドの組織が協力して
 淘汰していってンだとよ。 ……その様子だとどォやら初耳みてェだが」

227 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/17 14:16:02.65 oYRNUrCFo 116/526


「うーん……確かに初耳ですね。 規模が大きいならシスター・アニェーゼ辺りが
 情報を傍受していそうですけど、私達、『ミサカ』さんが居た研究施設から
 寮に帰って、次の日の早朝にはここへ向かうために出掛けちゃってましたから」

「って事ァオマエら学園都市に到着するまで一週間近く掛かってるって事だよな。
 どンだけ冒険してンだよ……シスターのクセに逞し過ぎるだろ……」

「しかしあの事件に感化されてそのような方達が現れるというのも、
 何だか聞いてて気持ちの良いお話ではございませんね……」

「まァな。 しかも事は『天使同盟(アライアンス)』に関わる。 イギリス清教の
 最大主教とやらが俺に招集するよォ要請があった話はオマエらも聞いたよな?
 もしかすると呼ばれた理由に『暴徒』の件が絡ンでンじゃねェかと思って、
 同じイギリス清教のオマエらなら何か知ってるンじゃねェかと聞いてみたンだが」


考え過ぎだったか、という一方通行の言葉を受けてオルソラは眉を八の字に
曲げて落ち込んでみせた。

228 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/17 14:17:09.04 oYRNUrCFo 117/526


「申し訳ございません……、何のお役にも立てなくて……」

「気にすンな。 むしろ知らねェ方が良かった話だ、聞かせちまった俺に非がある」

「暴徒……ですか。 何だか物騒で怖いですよね……」

「まァ、頬にごはン粒つけてもぐもぐメシ食いながらするにゃ相応しくねェ話題だったな」


内容自体は『暴徒』という暴力的なワードが含まれている時点でシリアスな話題なのだが、
突き抜ける青空を仰ぎながら公園のベンチでおにぎりを食べつつ話すには些か真剣味が
欠けているシチュエーションと言えよう。

これから楽しく過ごすという時にこんなテンションを引きずっていては
締まりがない。一方通行は早々に話題を切り替える事にした。

229 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/17 14:18:34.26 oYRNUrCFo 118/526


「俺からの話は以上だ、つか忘れろ。 ……で、オマエらの方は?」

「と、言いますと?」

「と、言いますと? じゃねェだろ、こっちは畳を人質にされてンだ。
 人じゃねェけどな。 今日もどっか行って遊ぶンだろ?」

「じゃあこういうのはいかがでございましょう。 誰があの部屋の
 畳を一番に丸裸に出来るか、私達で藺草をぶち抜いて―――」

「オマエは畳に親でも殺されたのか? どンだけ草むしりしてェンだよ。
 そンな非生産的なボランティアのためにオマエらに付き合ってンじゃねェンだよ」

「非生産的だなんて事はないと思うのでございますが……。 毟られた藺草は
 業者に回収され、ゴミ処理場で新たな生命を育む肥料に代えられるので
 ございます。 学園都市の技術なら更に質の良い肥料にしてくれるのでは」

230 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/17 14:19:30.68 oYRNUrCFo 119/526


「科学の最前線を突っ走る学園都市にわざわざ一週間近く掛けて遊びに来た
 シスターのやる事が畳の藺草を毟って肥料に代える事なのか?
 もしそォなら俺はもォ泣くしかねェぞ、虚しすぎるだろそンな観光旅行……」

「あ、でもそれだとこの街から畳が無くなってしまうのでございますね」

「オマエは学園都市に存在する畳を殲滅する心構えだったのか!?
 つか人の話を聞けよ! つまらなすぎるってンだよオマエの予定表は!」

「あ、でもでも毟った藺草から更に品質の高い藺草を錬金術で
 錬成すればより素晴らしい畳を生産出来るのでございますよ」

「錬金術って言葉に科学の匂いを感じねェよ。 オマエはこの数日間で
 学園都市から何を学ンできたンだ。 そして人の話を聞いてくれ」

「私達は別に観光旅行のためにここへ訪れた訳では……」

「もォ終わってンだよそのくだりはァ!」

231 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/17 14:20:14.24 oYRNUrCFo 120/526


もう最後の方はほとんど叫んでいた一方通行は、隣に居たアンジェレネが
取り繕うように差し出してきた美しく透き通った色合いの緑が特徴の
やたら凝ったホット玉露を一口飲んで心を落ち着かせる。

……畳といい、この恐らく急須から手間をかけて淹れたと思われる玉露といい、
このシスター達は学園都市で『わびさび』でも学んできたのだろうか、と
一方通行は呆れ果てる。それならこんな科学一直線の街よりどこか風情のある
日本の地へ飛んだ方がよっぽど効率的だろう。


「そのお茶はフクオカという土地で貰ってきた物でございますよ」

「冒険し過ぎだろいくらなンでも!!」


イギリス清教はいよいよ日本全土までその勢力に加えようと着手しているのだろうか。
恐ろしい話である。


「……まァイイ。 それで、」

232 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/17 14:21:06.74 oYRNUrCFo 121/526


こういったオルソラとのふざけた掛け合いをするのもずいぶんと久々だった
一方通行は、付き合ってられないと思う反面この光景を密かに懐かしみながら再度尋ねる。


「今日の予定をさっさと聞かせろ。 まさかマジでノープランか?」

「世の中そのくらい適当な方が過ごしやすいと思います」

「オマエ本当にシスターなのか……?」


修道女らしからぬ発言をしながらオルソラは持参していたバッグの中身を漁る。
彼女がバッグの中から意気揚々と取り出したるは、


「じゃーん、でございます。 本日はこれに参加しようかと考えているのでございますよ」

233 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/17 14:22:11.66 oYRNUrCFo 122/526


「へェ。 元気よくバッグの中から代えの下着を取り出して見せつけてくるサービス精神には
 感服せざるを得ねェけどよ、それに参加するってのはどォいう意図が含まれてンだ?
 人類にも理解できるよォ説明してくれねェとこっちとしても困るンだけどなァ」

「し、シスター・オルソラっ!」

「あ、………こほん。 これはほんの前フリなのでございます」

「前置きじゃなくて前フリなのか!? オマエまた下着出してくるつもりだろ!
 ていうか仮にも女がバッグに堂々と下着詰め込ンでンじゃねェよ……」


ほんのわずかに頬を赤らめながら結構色っぽいデザインのパンツをバッグに仕舞い、
オルソラは今度こそ本命のブツを中から取り出した。


「じゃーん、でございます。 本日はこれに参加しようかと考えているのでございますよ」

234 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/17 14:22:47.07 oYRNUrCFo 123/526


「………あァ? なンだこりゃ」


オルソラが取り出したのは一枚の紙だった。イラスト等は無く、A4サイズの味気ない
白紙に何やら細かい文字がビッシリと記載されている。
一方通行がそれを受け取り文面を目で追う前に、オルソラが本日の予定を宣言する。




「今日はこの、『「風紀委員(ジャッジメント)」体験講習』に参加したい次第でございます」





235 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/17 14:28:28.83 oYRNUrCFo 124/526


ここまででーす。

という訳で、今回のアンロック編ヒロインはオルソラ……、か?アンジェレネか?
一体どっちなんだと言いたいでしょうが、皆様にお任せします。

オルソラの宣言通り、一方通行パートはシスター二人に加え更に風紀委員三人と
あの女子中学生一人を交えて進行していきます。どうかお楽しみに。

次回はミーシャパート。ついに御坂美琴があっちの法則に触れてしまいます。

次回更新は三日以内。

それでは、今日もありがとうございました!


……そろそろ年末ですね。このSSにとって恐ろしいあの日が近付いてきましたね…………。

236 : 次回予告はここまでです。  ◆3dKAx7itpI - 2011/12/17 14:29:00.81 oYRNUrCFo 125/526




                          【次回予告】



「あるんだ……こんなの。 ロシアに行った時もそれに近い現象を見てるけど、
 これだけ近くでハッキリと示されたら現実逃避のしようもないわよね。
 ……超能力とは、科学とは違う『法則』。 うわー……手ぇ震えてるよ私」
学園都市・常盤台中学の超能力者(レベル5)――――――御坂美琴




「『注文が多い』」
『天使同盟(アライアンス)』の構成員・水を司る大天使『神の力(ガブリエル)』――――――ミーシャ=クロイツェフ




258 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/19 22:50:17.85 RQrQHHTHo 126/526


こんばんわ、更新を開始しまーす。

ええ、確かにクリスマスとかいうイベントも憎たらしいものですが、
そうではなくてですね……。年末はその、このSS史上最悪の事件が……あぁぁ。

気を取り直しまして、今回はミーシャパートです。
自動販売機を一発KOしてしまったミーシャを連れて逃走した美琴。
そして彼女はミーシャの正体に触れていきます。

それでは、よろしくお願いします!

259 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/19 22:50:53.00 RQrQHHTHo 127/526



――――――――――――――――――――――


朝から出し抜けに二度も全力疾走を余儀なくされた常盤台の超電磁砲、御坂美琴は
年頃の女の子が一人で居ては色々と危険そうな雰囲気の漂う路地裏でへたり込んでいた。


「ぜえ……ぜえ……。 ま、さか……この私が、トラブルに巻き込まれるだけなら
 多々あったけど……、巻き込まれて逃走するなんて選択を強いられるなんて……」

「xkftut休憩pddtwl」

「自由奔放なんて言葉じゃ足りないわよアンタの奇行は……。
 フリーダムねフリーダム。 アンタ羽生えるし」


260 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/19 22:51:56.31 RQrQHHTHo 128/526


会話するつもりで言葉を発するが、何せ今目の前にいる本物の大天使――美琴は知らないが――、
ミーシャ=クロイツェフの言葉がちっとも理解出来ないため、どうしても独り言をボヤいて
いる感が拭えない美琴。


「向こう一年はあの自動販売機があった周辺には立ち寄れないわね……罪悪感で。
 うわっ、さっそく黒子からメール届きまくってるし。 知らんぷりを決め込もう。
 ……でも黒子、今日は非番じゃなかったっけ? 初春さん達遊びに来てたし……」


後輩から滝のように送られてきたメールを静かに無視すると、美琴は
携帯電話を閉じてガウンを来た怪物をジロリと睨む。


「……はぁ、やったのはアンタとはいえ、唆したのは私だもんねー……。
 アンタを責め立てるのもお門違いか。 でもさすがにやりすぎ!
 重量三〇〇キロ前後の鉄の塊を蹴りで街灯にぶつけるか普通!?」

261 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/19 22:52:55.36 RQrQHHTHo 129/526


「xsutyw謝々oupfm」

「改めてアンタの怪物じみたスペックを思い知らされたわよ……。
 本当に人間なの? こう言ったら失礼に当たるかもしれないけど、
 噴水で水浴びてたアンタの姿、まず人間には見えなかったんだけど」


そう言われるとどう返したらいいものかと、ミーシャは首を左右に傾げて
困った様子を表現してみせる。


「……学園都市が秘密裏に製造した新種の『駆動鎧』? な訳ないか。
 『駆動鎧』の性能を大幅に向上させるために新たに生産された
 人造人間とか……? そんな『闇』に関わってそうな計画で作った兵器を
 こんな街中に放り出すわけないよね。 うーん、謎は深まるばかりね」

「hrero乾燥npyru」

262 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/19 22:53:49.57 RQrQHHTHo 130/526


ミーシャの正体について、ありとあらゆる情報が詰まった第三位の脳をフル稼働させる
美琴の事など気にもかけず、ミーシャは公園から逃げる際に水浸しになってしまった
黒のガウンの袖口を絞り、水を排出する。

こんな人間臭い行動を見せられると、然しもの美琴もますます人工物ではないと認識せざるを得ない。


「……アンタ、生き物なの?」

「?」

「そこで首を傾げるのはおかしいでしょ……。 人間でも人工物でも無かったら何?
 虫? 魚類? 水関連に因んでいるアンタとはいえ魚類ではないか……。 植物?
 哺乳類か! 二足歩行だし。 ……今私、物凄い失礼な発言連発してるけど、ごめんね?」

「ykhuo平気nbkto」

263 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/19 22:54:23.66 RQrQHHTHo 131/526


「……当然人間じゃないわよね。 この世の生物じゃないなんて言わないでよ。
 でもそうだと仮定した場合……、アンタってもしかして神とか天使とかだったりする?」


なーんてね、あはは。 と諧謔的な発言で笑いを取ろうとした美琴だったが、
彼女の言葉のどこに反応したのか、ミーシャは勢い良くコクコクと頷いてみせた。


「え? 何? どこどこ? どのワードに反応したの?」

「天使」

「急にハッキリ喋るな!! ビックリするじゃない! ……で、え? 何?」

「天使」

「天使……? アンタが? さすがに冗談よね?」

264 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/19 22:55:23.99 RQrQHHTHo 132/526


そう言うも、美琴の頬には一筋の汗が流れていた。二度の全力疾走による発汗で
伝った汗ではない。『いや、まさか』の不気味な予感が美琴の恐怖心と好奇心を
増幅させているのだ。

それに応えるように、ミーシャは指を一本立てた。指す方向はミーシャの頭上。


「うわっ。 あの時の……」


ミーシャの頭上に出現したのは、まさに天使を想起させる芸術的な『輪』。
水で構成された、青白い、淡く光る幻想的な現象。

学園都市の第三位に位置する美琴でも、その現象を説明する事が出来ない、非科学的光景。
常盤台中学の能力実演で見た際は能力によって作り出した演出的な何かだと思い込んでいた
美琴だったが、こうして堂々と、間近で見せつけられるとこの不可解な現象から目を背ける事も出来ない。


神秘的とさえ思える天使の輪。そして目の前に佇む"自称"天使ミーシャ=クロイツェフ。

265 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/19 22:56:22.43 RQrQHHTHo 133/526


天使などという偶像的概念が現実に存在するとは、美琴はここまでされてもまだ信じられなかった。


しかしこの瞬間、美琴は明確に『科学とは違う法則』の存在を認めたのだった。


「あるんだ……こんなの。 ロシアに行った時もそれに近い現象を見てるけど、
 これだけ近くでハッキリと示されたら現実逃避のしようもないわよね。
 ……超能力とは、科学とは違う『法則』。 うわー……手ぇ震えてるよ私」


例えるならこの状況は、幽霊の存在を全く信じていない人間の目の前にガチで幽霊が
現れたようなものだろうか。幽霊が実際に存在するかどうかはまた別の話としても。
未知との遭遇とは言い得て妙だ、と美琴は乾いた笑い声を発する。気がつけば、
彼女の手は小刻みに震えていた。

歴史上の偉人も、人類未踏の現象や発明を目の当たりにした際、美琴のように歓喜に震えたのだろうか。
だが今の美琴に生じているのが歓喜による震えなのかどうかは、本人でさえも分からない。

266 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/19 22:57:22.74 RQrQHHTHo 134/526


自分の身に湧き上がる感情の正体が掴めず戸惑い震える彼女の手を、ミーシャは―――。


「―――――――、」

「あ……」


極めて優しい動作で、己の手を重ねて包み込んだ。
母なる慈愛。疑う余地も無い愛をその手から感じた美琴は、不覚にも涙を流しそうになった。
ただ手を握られただけで泣きそうになるなど、自分はどれだけメンタルが弱いんだと
落ち込みそうになるが、彼女の感情の揺れは決して弱みなどではない。

美琴は知る由もないが、ミーシャが人に与える愛はあの第一位ですら涙した程なのだ。
中身がどうあれ、人間なら誰でも等しく感じる事の出来る天上の愛。
魔術サイドでは時に『兵器』としてカテゴリされる天使だが、本来の天使とはこのように
人に無償の愛を捧げる恵みの対象なのではないだろうか。

その天使の理想論ですら、人間が生み出した事には違いないのだが。

267 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/19 22:58:19.75 RQrQHHTHo 135/526


「…………あ、ありがと」


心の底から、素直にそんな言葉が出た。
美琴はミーシャに笑顔で礼を言うと、ゆっくりとミーシャの手を解いていく。

ここが薄汚い路地裏ではなくヤコブの梯子が降り注ぐ平地だったら、さぞ絵になった事だろう。


「ったく、例え本当に天使だとしても、そんなアンタが噴水で水浴び
 したり自動販売機ぶち壊したりとかしないでよね。 そんなのが
 世に知れたら、アンタのせいで天使のイメージぶち壊しになるわよ?」

「dptud不祥事exmgt」


頭を抱えてあわあわと慌てふためくミーシャ。この彼女の様子を『天使同盟』の
誰かが見たら、何を今更と冷静にツッコミを入れているに違いない。

268 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/19 22:59:17.87 RQrQHHTHo 136/526


さて、と美琴は立ち上がり、お尻についた埃をパッパと払う。


「ちょっとこんがらがった頭の中を綺麗に整理したいとこなんだけどー……。
 こんな場所じゃそれもままならないわよね。 朝から陸上競技並に走らされたし、
 喉も乾いたという事で、適当にファミレスでも利用しますかね」


美琴が振り向くと、ミーシャは頭上に出現させていた輪の中心部に指を入れて
チャクラムのように振り回して遊んでいた。そんな事も出来るのか……と
美琴は呆れて笑う。


「……その格好ならさして問題も無いわよね? どう?」

「?」

「アンタも一緒に来る? ファミレス」

269 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/19 23:00:08.79 RQrQHHTHo 137/526


まさかここまで人外っぷりを披露した自分が食事に誘われるとは思わなかったのか、
ミーシャは無邪気な子供のように首を縦に振って喜んだ。


「ホント、変なヤツ……。 あー、ちゃんと自己紹介してなかったわよね?
 私は御坂美琴。 一応この街でレベル5の第三位やってるんだけど、
 まぁそんな肩書き、アンタには関係ないか。 よろしくね」

「foitryd宜敷pairtu」

「アンタの名前は……黒子がミーシャって呼んでたけど、合ってる?」


ミーシャは首を縦に振り是を示す。と同時に、携帯電話を取り出して
ポチポチと拙い動作で操作し始めた。


「?」

270 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/19 23:00:59.29 RQrQHHTHo 138/526


美琴が怪訝に思っていると、彼女の携帯電話が着信音を発した。
また黒子か……? と辟易したようにメールを確認するが、そのメールは
目の前にいるミーシャから送られたものだった。

こんな至近距離でメールによる意思伝達もおかしな話だと思いながらメールを開き、
内容を確認する。


『私の事を天使、或いは別法則に準ずる人外的存在と認識したと思う。
 美琴は信頼に値する人間と判断し、私は美琴に対し、他の仲間に向けている
 感情や態度を向ける事をここに誓う。 しかしそれでも、その他大勢の
 人間から見れば私は脅威と畏怖と混沌の対象となる存在であり、現時点では
 私の存在を公に露呈するという事態は避けるべきだと私は判断する。
 よって、美琴は私の存在を他へは口外しない事を約束して欲しい。
 私から歩み寄っていてこの物言いは些か得心いかぬ事だろうとは思う。
 でもどうか、その時が来るまで、内密にしておいてほしい。 おおきに。
 ―――――ミーシャ=クロイツェフ』

「……、」

271 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/19 23:01:45.99 RQrQHHTHo 139/526


最後の一言さえなければ切実な頼みである事は容易に伝わったのだが、これでは
マジなのかテキトーなのか判断に困る、と美琴はため息をついた。


「おおきに、って……私はまだ何にも言ってないでしょ。 関西弁の使い方
 完璧に間違えてるから。 つか仮にも天使を自称するアンタが関西弁とか
 使わないでよ。 どんだけユーモアセンス溢れる天使だっつーの。
 あとこれだけまともな文章が作れるなら普段もそうしてくれると助かるわ。
 アンタのメール、たまに"絵文字のみ"で送られてくるから解読に時間がかかるのよ」

『注文が多い』

「アンタの事を慮って言ってるんでしょうが! そしてたったこれだけの
 文章をこんな距離から送ってくるなっての。 メール魔かアンタは」

「…………」

「…………」

272 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/19 23:02:45.67 RQrQHHTHo 140/526


ジーッとこちらを見てくるミーシャの表情は、この距離ならフードを着ていても
確認できる。マネキンの首に挿げ替えたようなその顔はやはり美琴と言えど背筋が凍るが、


「……りょーかい。 ま、アンタみたいな怪物なら、そりゃもう色々と
 事情がおありなんでしょうよ。 誰にも喋らないわ、美琴さんを信じなさい」

「codfy感謝vcpyi」

「うわっ!? ちょ、抱きつかないで―――うぎゃーーーーー!!?」


ミシミシ……と美琴の背骨から嫌な音が鳴り響いた。
ミーシャが仕掛けたハグは思慮の外強烈で、美琴は反射的に電流を放ってしまうが
天使には全くと言っていいほどダメージが無かった。

273 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/19 23:03:30.64 RQrQHHTHo 141/526


――――――――――――――――――――――


その後、行きつけのファミレスに向かう道中も美琴は振り回されっぱなしだった。


「――――ッ、」

「ひいいっ!!? な、何でくしゃみしただけでコンクリが炸裂するのよ!?
 規格外なんてもんじゃないわね……、さっき水浴びしてたから、身体冷えてんじゃないの?」


くしゃみらしき仕草をしたかと思ったら、コンクリートで出来た歩道が爆発したり、


274 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/19 23:04:11.80 RQrQHHTHo 142/526


「―――――♪」

「ファッション誌なんて読むんだ……。 てかオイ、アンタその本どこから持ってきた?」

「お客さああああああああん!!!! お金お金、代金貰ってないですよ!!」


鮮やか過ぎるミーシャの万引きに、あの第三位が頭を下げるハメになり、


「vbkktuf後方syrit後方aapgit」

「だー、もう! あんまり自分を知らない他人とは関わらない方がいいって
 言ったのはアンタでしょ! あの人は交通警備って仕事をやってるのよ、
 邪魔したら怒られるのは私なんだからもう勘弁して!」

275 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/19 23:04:55.23 RQrQHHTHo 143/526


一端覧祭のために配置されたゴツいオッサンの警備員になぜか近寄ろうとする
ミーシャを必死で引き止めたり(幸い警備員のオッサンは気付いていなかった)、


「えっ、ウソ!? ちょ、ちょっとこれ……もしかしてロシア限定の
 ロシア連邦軍仕様ゲコ太二等兵AK-47Ⅲ型装備フィギュア!!?
 日本はおろか世界各地でも手に入らないため半ば伝説と化していた……、
 さすがは一端覧祭! これ買っ……三〇万!? 本物の軍用小銃と
 大差ない値段じゃない!! いやでもこの程度なら私の財力で……」

「jtxxlyt飲食店oyie急行clcollri」


何やらレア物らしいフィギュアを目撃し周囲の目も憚らず興奮しまくる美琴にミーシャが呆れたり、


「そういやアンタ、外出禁止令がどうとか言ってたけど……保護者的な人がいるの?
 外出禁止令が本当ならアンタこうして私と出歩いてるのはマズいんじゃない?」

276 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/19 23:05:49.39 RQrQHHTHo 144/526


「vmkf少々puogk」

「まぁ別にいいんだけどさ……、保護者がいるなら私も会ってみたいし。
 ところでこの前私が薦めたゲコ太のアニメ、ちゃんと見てくれた?」

「tofsw勿論orosj」

「感心感心。 ねえ、第二二話から最終話にかけての展開なんだけど、あれどう思う?
 ネットの評価じゃかなり批判されてたけど、個人的にはあの急ぎ足な展開もありだと
 思うのよね。 確かに詰め込み過ぎ感あったけど、ゲコ太が踏んだ地雷がさ―――」


天使とアニメについて熱い議論を交わす事ができる人間は、美琴以外に数人しか居ないだろう。
というかさりげなく会話が成立しているのはどういう訳なのだろうか。


そんなこんなで二人は結局、徒歩で一〇分掛からないファミレスに三〇分以上掛けて
ようやく到着したのだった。


異形と過ごすという美琴にとっての非日常は、皮肉にも彼女が密かに抱く辛い現実を
ほんの少しだけ忘れさせてくれた。

277 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/19 23:12:23.86 RQrQHHTHo 145/526


今回はここまでです。

ハグ→ファミレスの流れは初期にあった展開です。
意図的に昔ながらのお話を書いてみましたが、いかがでしょうか。
ミーシャにサバ折りハグされたのって一方通行と御坂だけかな?

次回は一方通行パート。風紀委員の皆さんと合流して体験講習を行います。
シスター二人はきちんと風紀委員を務めることが出来るのでしょうか、的なお話です。

次回更新は三日以内。

それでは、今日もありがとうございました!

278 : 次回予告はここまでです。  ◆3dKAx7itpI - 2011/12/19 23:12:52.83 RQrQHHTHo 146/526




                          【次回予告】



「……参加者が俺達以外に存在しねェってのはどォいう事だ? まさか
 ここの支部だけ胸に一物ありそォな噂でも囁かれてたりすンのかよ」
『天使同盟(アライアンス)』のリーダー・学園都市最強の超能力者(レベル5)――――――一方通行(アクセラレータ)




「まったく……本当に自由奔放なのね、あなたは」
第一七七支部所属の風紀委員(ジャッジメント)――――――固法美偉




「まぁ……、風紀委員という役職はつまり、如何にゆったりとした日常を
 上手く過ごしていくか、そこに熱意を向けているのでございますね」
元ローマ正教のシスター――――――オルソラ=アクィナス




「(……イギリス清教って何ですの?)」
第一七七支部所属の風紀委員――――――白井黒子




292 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/22 11:23:10.56 5VTuysmko 147/526


こんにちわ、お昼からの更新です。

今年も残すところ十日となってしまいましたね。とりあえず今週末の
クリスマスですが、皆様はどのように過ごす予定でしょうか?
恋人とのリア充クリスマスライフを送る方は末永く爆は……お幸せに。

さて、今回は一方通行パート。アンロック編のシスターコンビです。
風紀委員の体験講習に参加したいとか面倒な事を仰ったオルソラ様の提案に乗っかり
一方通行はまたしても第一七七支部に赴くことになるのでした。

では、よろしくお願いします!

293 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/22 11:24:09.36 5VTuysmko 148/526



――――――――――――――――――――――




「何だかんだ言って昨日に引き続きここへ来てくれるなんて、無愛想な
 態度を取りながらも其の実、一方通行さんって良い人なんだなあって
 あたしは思うんですよ。 けれど、昨日の紳士風な男性に続いて
 今日はシスターさん二人を連れてくるなんて、一方通行さんって
 結構そういう風に奇を衒う傾向があるんですか?」

「昨日もそォだが俺は何もオマエのツラを拝みにここへ来てる訳じゃ
 ねェンだよ。 そもそも通っている学校に居る事自体は問題ねェと
 して、なンで風紀委員でもねェクセにオマエはここで寛いでやがンだ?」

「ま、まぁそれは今に始まった事ではないですし……ほら、居るじゃないですか。
 アニメとかでも。 いつの間にか主要キャラの一人として当たり前のように
 ポジションを築いているキャラって。 佐天さんの場合、『乱雑開放(ポルターガイスト)』
 の件とかもあって結構お世話になってるんですよ。 だからもう気分的には、というか
 雰囲気的には佐天さんもすっかり第一七七支部の一員って感じなんですよね」


294 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/22 11:24:51.60 5VTuysmko 149/526


「雰囲気的にはすっかり風紀委員の一員である佐天さんがここに来て
 する事と言えば、勝手に買い置きしておいたお菓子を頬張ったり
 ソファで寝転がってテレビ鑑賞に明け暮れたりしてるだけですの」

「まぁ……、風紀委員という役職はつまり、如何にゆったりとした日常を
 上手く過ごしていくか、そこに熱意を向けているのでございますね」

「そ、それなら私達でも何とかやっていけそうですね! シスター・オルソラ」

「妙な誤解を生んでしまうような会話は謹んでもらえるとありがたいのだけど」


ジロリ、と眼鏡の奥から射抜くように飛んでくる固法美偉の
眼光を受けて佐天は身体を強張らせ苦笑いを浮かべた。

295 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/22 11:25:46.67 5VTuysmko 150/526



一方通行、オルソラ=アクィナス、アンジェレネの三人は第七学区の柵川中学へ
足を運んでいた。


その目的はオルソラが提案してきた『「風紀委員」体験講習』の参加。
なんでも『外』から来訪してきた一端覧祭の参加者の中には、毎年風紀委員の
仕事に就きたいと志望する者がいるらしい。

そういう人達のために実地されるのがこの風紀委員の体験講習。
学園都市全域に点在する風紀委員支部の何れかに申請書類を送り、
実際の風紀委員の指導の下、風紀委員としての活動を体験するという講習だ。

今年は一端覧祭初日から実地されていたこの講習だが、


「……参加者が俺達以外に存在しねェってのはどォいう事だ? まさか
 ここの支部だけ胸に一物ありそォな噂でも囁かれてたりすンのかよ」

296 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/22 11:26:41.84 5VTuysmko 151/526


「人に不信感を与えるような活動なんてここではしてません。今日はもう
 一端覧祭の四日目よ? 風紀委員の体験講習を志望する人は大抵一日目で
 参加する支部を決めて、次の日には講習を始めるのよ。 ……もっとも、
 今年の一端覧祭は開催期間が大幅に延長されてるから、途中で根をあげて
 棄権しちゃう人もいるようだけど、ここはそういった事とは関係なく、
 人手が少ないから参加者もこぞって参加しようとは思わないだけ」

「と、途中で棄権するような事をするんですか……? このイベントって」


固法の言葉に一抹の不安を覚えたのか、アンジェレネが若干怯えた表情をしながら尋ねる。
その保護欲が掻き立てられる幼い顔を見た固法は歳上のお姉さんらしい柔和な笑みを浮かべて、


「参加者は実際に事件が起きた時などは活動出来ない決まりになってるから、
 安心していいわよ。 途中で棄権する人の大半の理由は訓練がきついとか、
 思っていたより活動内容が地味だったからとか、そんなものよ」

「確かに女性四人……いえ、三人では人手不足も否めないのでございますよ」

297 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/22 11:27:57.60 5VTuysmko 152/526


オルソラの言葉に、頭にたくさんの花を咲かせる少女、初春飾利が補足を加える。


「実を言うと固法先輩と白井さんは第一七七支部所属の風紀委員じゃないんです。
 ただこういう大きな催し物やイベントが行われる際はヘルプとしてこのお二人が
 一七七支部で活動してくれている訳でして」

「とりあえず一端覧祭中はこの支部で活動する事になっていますので、
 ここで体験講習をするというのでしたら私達の指示にも従ってもらいますの」


ツインテールが特徴の白井黒子は腰に手を添えながら言う。


「じゃあオマエは? オマエもここで講習に参加するのか」

「ん? いえいえ、あたしは面白そうだなーって思ったから着いてきただけです。
 御坂さんは何か用事があるみたいですし、初春と白井さんは一方通行さん達が
 こうして体験講習に来たから仕事が出来ちゃって―――いや不満はないですよ?
 だからあたしも暇なんで、今日は皆さんの活躍を陰ながら応援する次第です」

298 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/22 11:28:36.58 5VTuysmko 153/526


「まったく……本当に自由奔放なのね、あなたは」


固法にそう言われ、えへへーと頬を掻きながら佐天は笑顔を浮かべた。
風紀委員でも参加者でもない人間がここにいる事を、本来なら固法は
咎めなければならないのだが、追い出そうとはしない様子からするに
彼女も佐天の同伴を暗に認めているらしい。


(にしても、俺みてェな人間が二度も風紀委員の支部に赴く事になるとはな……)


在校生と他校の生徒が行き交う柵川中学のグラウンドを第一七七支部の教室の窓から
ぼんやりと眺めつつ、一方通行はため息をついた。


この『風紀委員体験講習』にオルソラとアンジェレネが食いついた理由。
それは彼女たちが数日前に参加した学園都市見学ツアーに同伴していた
風紀委員の仕事っぷりに興味が湧いたから、との事らしかった。

299 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/22 11:29:34.59 5VTuysmko 154/526


街の学生が街の治安を守るという学園都市ならではの体制により関心を示したらしく、
ツアーの最中にこの体験学習の情報を得て、これは丁度いいと参加してみる事にしたそうだ。

参加手続きを取るためにどこかの支部へ赴かなければならないのだが、『外』の人間である
オルソラとアンジェレネは場所が分からないため、一方通行に尋ねるついでに一緒に参加
しよう、という流れになって一方通行が選択したこの支部へ訪れた。


「さて、講習の一連の過程は把握してるし、さっそく始めましょうか。
 改めまして、私は固法美偉と言います。 今日は一日よろしくお願いします」

「あ、初春飾利です。 よろしくお願いします」

「白井黒子と申しますの。 ……それにしてもまさかシスターの方々が
 このような講習に参加なさるなんて……、世の中わからないものですの」

「えーと、あたしも一応自己紹介しといた方がいいのかな?
 佐天涙子でっす、よろしくお願いしまーす!」


四人の自己紹介を受けて、オルソラ達も丁寧に自身の情報開示をする。

300 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/22 11:30:09.69 5VTuysmko 155/526


「オルソラ=アクィナスと申します、イギリス清教所属のシスターで
 ございます。 今日はご指導ご鞭撻の程よろしくお願いします」

「あ、アンジェレネです! 頑張りますっ!」

(……イギリス清教って何ですの?)

「…………」

「そういえば一方通行さんって、本名はなんて言うんですか?」

「どォでもイイだろ。 睡魔が蘇る前にさっさと始めちまおうぜ」


佐天に名前を尋ねられるがそれを軽くスルーする一方通行。


斯くして、シスター二人に学園都市最強の超能力者という異色が混じった
風紀委員の体験講習が幕を開けた。

301 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/22 11:30:54.79 5VTuysmko 156/526



――――――――――――――――――――――


さて、あれよあれよという間に始まった風紀委員体験講習。
だが本来、風紀委員として活動するには厳しく辛い過程を乗り越えなければならない。

そもそもの大前提として、風紀委員とは基本的に校内の治安維持にあたる組織であり、
校外で起きた事件などは学園都市の警察的組織『警備員(アンチスキル)』の管轄だ。
よって風紀委員のメンバーは各学校から選出される。九枚の書類にサインをし、
一三種類の適性試験の後に四ヶ月の研修をクリアという軍隊のような道のりを踏破して
初めて正式な風紀委員として任命されるのである。

そのため今回の体験講習という形は風紀委員という体制上成り立ちにくいのだが、
将来的に学園都市の学校に入学して風紀委員として活動したいという人も
この一端覧祭には多数集まってくるため、こうして体験講習というものが実地されている。

つまり、

302 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/22 11:31:45.89 5VTuysmko 157/526


「貴女のように興味本位で風紀委員として活動したいという方は珍しいんですの」

「そうでございますか。 でも私、面白半分でこの講習に参加した
 訳ではないのでございますよ。 以前にあなたと同じような……、
 その、腕章を付けていた風紀委員の働きぶりに痛く感動いたしまして、
 何より学生の方が意欲的に街の治安維持に励むという事実に驚きまして、
 私も体験という形であれど、参加出来ればと思った次第でございます」

「……『外』の、しかも外国の方にしてはずいぶんと詳しいんですのね。
 学園都市の科学技術に興味を示すのは理解出来ますけれど、風紀委員に
 そこまでの関心を寄せる方はやはり珍しいというか……」


そんな会話をしながら、白井黒子とオルソラ=アクィナスは第七学区をパトロールをしていた。
この街のパトロールという活動も本来の風紀委員だと管轄外なのだが、一端覧祭で実地される
体験講習に限っては風紀委員の活動範囲が広がるらしい。第一七七支部は初日にきつい訓練を
行う事はせず、こうしてパトロールに励む方針を固めた。

303 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/22 11:32:30.88 5VTuysmko 158/526


話し合いの結果、固法美偉の提案で二手に別れる事になり、一方は固法美偉、初春飾利、
佐天涙子、アンジェレネという面子に。
そしてもう一方は白井黒子、オルソラ=アクィナス。そして―――、


「貴方が彼女に知識を提供したんですの? 学園都市第一位」

「その呼び方は癪に障るからやめろ。 一方通行でイイ」

「一方通行さん」


一方通行もまた、面倒くさそうに杖をつきながら二人と一緒に街を歩いていた。


「柵川中学に向かう道中で軽く説明しただけだ。 風紀委員の働きぶりが
 どォとか、街の治安維持に取り組む姿勢がどォとか、そンな事はこの女にゃ
 説明してねェし、する気もねェし、俺はそンな事に興味はねェからな」

304 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/22 11:33:18.42 5VTuysmko 159/526


「では貴方はなぜこの講習に?」

「付き添いだよ、このシスター共のな」

「以前、私とアンジェレネさんで学園都市の見学ツアーに参加した時、」


話の流れを意にも介さず、オルソラは語り始めた。


「二人の風紀委員の方が引率していたのですけど、その内のお一人が
 私とアンジェレネさんに風紀委員の特徴を詳しく説明してくれたので
 ございます。 懇切丁寧に、という感じでは、こう言うと悪いのですが
 無かったのでございますが、少なくともあのお方は風紀委員である事に
 誇りを持っていたのだと思うのでございますよ」

「割と惰性で続けてる風紀委員も少なくないのですけど、感心ですわね。
 その方に風紀委員に対する想いでも熱弁されたんですの?」

305 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/22 11:34:08.60 5VTuysmko 160/526


風紀委員としての誇りを持っている人物に少しばかり興味を示した
白井はオルソラに尋ねる。
しかし帰ってきた答えは白井の予想とは違った、意外なものだった。


「いえ、そのお方。 "見たところまだ小学生くらいのようでございましたので"。
 ちょうど白井さんと同じ金髪のツインテールの女の子でございました。
 小学生というまだ未熟な年頃でありながら風紀委員として勤しんでいる以上、
 彼女はこの仕事に誇りを持っているんじゃないかなぁ……と思ったような思わなかったような」

「気のせいかよ」


相変わらずのマイペースなオルソラの話にツッコミを入れる一方通行。
だがその隣では白井が何かを思い出そうとしているように唸っていた。

306 : 白井はツインテールだが、金髪じゃねえ……  ◆3dKAx7itpI - 2011/12/22 11:34:55.05 5VTuysmko 161/526


「どォした」

「いえ……、その金髪ツインテールの小学生……。 聞いたことがある、
 ではなく、見た事があるような気がするようなしないような……。
 はて、いつだったでしょうか、そんな風紀委員とお会いしたような」

「それは奇遇でございますね」

「いやわたくしも風紀委員ですので、他支部の方と顔を合わせる事は
 珍しくも何とも無いんですけど……。 うーん、思い出せませんの。
 一方通行さんの件といい、どうもここのところ物忘れが激しいような」

「ボケが始まってンじゃね―――げふゥ」


まだ最後まで言葉を言い切っていない一方通行の脇腹に鋭い肘がめり込んだ。
白井は咳払いをして気を取り直し、金髪ツインテの風紀委員の事はひとまず
置いておき話題を切り替える。

307 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/22 11:36:07.19 5VTuysmko 162/526


「ではこれからの行動についてですが」

「はい。 難事件の解決でも暴走した能力者の捕縛でも何でも来い! でもございます」

「オマエに暴走能力者の捕縛が出来る訳ねェだろォが……って、魔術があったか。 なンか使えるのか?」

「戦闘的な魔術は使えませんが、私は修道女。 世界各地で布教活動をしてきた
 経験で培った交渉術がございます。 自分の意見だけを押し付けて言い包める
 のではなく、相手の心情を理解し、どんなお方であろうと優しく手を握り、
 そのまま合気道を仕掛ければ能力者でも一発ノックアウト、でございますよ」

「交渉術どこいった。 ふン、だが面白いじゃねェか。 そォだな、
 なら例えば、今ここで俺の能力が暴走したと仮定しよォか。
 オマエはどンな話術で俺を食い止める? ぐ、ゥ、うおおおお!!
 の、能力が…………能力の制御がきかねェ!! ぐああああ!!!」

「頑張れー」

「頑張ったらダメだろ!! 遠回しに死ねっつってンのと変わらねェよそれ」

308 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/22 11:37:04.53 5VTuysmko 163/526


「物騒な話題に花を咲かせている所申し訳ございませんが、
 わたくしの話にも少し耳を傾けてもらってよろしいですの?」


間抜けな漫才を繰り広げる二人に割り込み、白井は言う。


「仮に能力者の暴走事故や強盗事件等、危険度の高い事件が発生したとして、
 体験講習という形で活動をしている貴方達は一般人としてわたくし達の指示の下、
 現場から避難してもらいますわよ? って、これさっき固法先輩が説明しましたわよね?」

「……それはつまり、」

「貴女が思い描いているような、事件現場で切った貼ったの大立ち回りで大活躍、
 異国のシスター・科学の街の治安維持に貢献、なんて事にはなりえませんの。 
 そもそもそんな事件が起きたらそれは『警備員(アンチスキル)』の管轄ですの」

「………………」


至極真っ当、至極当の然な白井の言葉を受けたオルソラは、

309 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/22 11:37:38.68 5VTuysmko 164/526


「『警備員』体験講習はどこで―――」

「やってねェよ」


普段はのほほんとした雰囲気を醸すシスター、オルソラ=アクィナスだが、


そんな彼女でもたまにはヒーローのような大活躍をしてみたいと思いを馳せる事があるのだろうか。


「バイクに乗ってスーツを着て、困っている人を助けてみたかったのでございますが……」

「オマエなンでシスターやってンだ? そンな願望があるならもォやめちまえよ。
 そして困っている人間を助けるのにどォしてバイクとスーツが必要なンだ」

310 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/22 11:38:35.47 5VTuysmko 165/526



――――――――――――――――――――――


しかし風紀委員の活動において校外へのパトロール等は管轄外というのは
"通常時"の事であり、一端覧祭のような学園都市全体で催されるイベントの際は
『外』からの来訪者が多いため警備員だけでは数に不足が生じてしまう。

その場合、警備員だけでなく風紀委員も校外の治安維持に取り組む事になるのだ。
風紀委員の体験講習もパトロールを兼ねて行う事が出来るので問題はない。


「まぁ大覇星祭に比べたら『外』からの客は少ない方だし、元々学園都市で
 暮らしてる学生も一端覧祭の時は大半が自分の通う学校で勧誘活動をしてたり、
 他校に赴いて将来自分が進学する学校の様子を確認したりしてる場合がほとんど
 だから、街中が人でごった返すなんて事はあまり無いんだけどね」

「で、でも……人、たくさんいますよ? 注意して歩かないと
 すれ違い様にぶつかっちゃいそうになる程度には……」

311 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/22 11:39:20.15 5VTuysmko 166/526


言ったそばから通行人とぶつかってしまったアンジェレネはペコペコと頭を下げて謝罪する。
そんな彼女を見て固法はクスっと微笑みながら、


「良かったら手、繋ぐ?」

「むっ、それには及びません! 講習とはいえ私も今は風紀委員ですから!
 街の安全を守る組織の一員が上司と手を繋いでパトロールしてちゃ締まりません」

「おおー、カッコイイねえ」


佐天は悪巧みを思い浮かんだような笑顔を見せて、


「あ! あそこで女の子が不良たちに絡まれてるよ!」

「ど、どど、どこですか!? 今すぐ助けに行きます!」

312 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/22 11:40:18.33 5VTuysmko 167/526


「と、そんな嘘に引っかかって持ち場を離れている間にあたし達が誘拐されたり
 とかしたらどうするのさ。 周囲の景色に目を凝らし、常に警戒を怠らず、
 何かが起きても冷静に状況を判断し分析する。 それが風紀委員というものだよ」

「風紀委員でも何でもない佐天さんが言えた事じゃないですけどねー。
 それに私達だってそんな目をぎらつかせて警戒網を張ったりとか
 してませんよ。 それじゃ気疲れしちゃってパトロールもままなりませんし」


嘘だと分かり、からからと笑う佐天を睨んでアンジェレネはプクーっと頬を膨らませる。


アンジェレネは非常に人見知りな性格をしている。ほぼ同僚しかいないロンドンの
女子寮でこそ明るく振る舞い、時にイタズラを働くような事もある彼女だが、
初めて顔を合わせた人間に対してまずアンジェレネが取る行為は決まって『警戒』だ。

女子寮に一方通行率いる『天使同盟(アライアンス)』が訪れた時などは顕著だった。
それはもうひどかった。警戒どころか敵意すら向けていたんじゃないかという程に。
特に一方通行に対してはなんか『食べられる』とか言っていたような気さえする。

313 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/22 11:41:18.55 5VTuysmko 168/526


そのように、とにかくアンジェレネはあまり顔の知らない人間に対しては
おどおどとした調子でルチア辺りの後ろに隠れるのがお決まりだったのだが――――。


「ごめんごめん、もうからかわないから。 ほら、腕章、似合ってるよ?」

「そ、そうですか……?」


佐天に言われて、アンジェレネは右二の腕に取り付けられた、盾をモチーフとした
デザインが施された風紀委員の証である腕章に視線を移す。
盾。その意匠を見てアンジェレネはふと思いだすように言った。


「『盾の紋章(エスカッシャン)』」

「?」

314 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/22 11:41:55.86 5VTuysmko 169/526


「イギリス清教の『騎士派』に選ばれた人が貰える家紋です。 その中でも
 盾の紋章は通俗的なものらしくて、盾の図柄に伝説上の生物や色を重ねて
 その紋章を持っている人の立場や生い立ち、思想や理念を示すんです。
 ……シェリーさんとシスター・オルソラの受け売りですけどね」

「ふ、ふーん……」


盾の紋章について滔々と語るアンジェレネ。しかしそれのよって生まれた空気は
『一般人が知らない知識を熱弁されてリアクションに困る』的なものだった。
魔術的知識を持たない固法も初春も佐天は、とりあえず頷くしかない。

そんな空気を察してか、アンジェレネは慌てて話題を変える。


「こ、この風紀委員の腕章はどのような意味合いが含まれてるんですか?」

「えーと……何でしたっけ」

315 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/22 11:42:52.34 5VTuysmko 170/526


「その盾はどのような状況に置いても街に住む人々の盾になり、守り通す。
 そういう思いが込められてるのよ。 警備員のシンボルマークである
 三叉の矛とは対照的になっていて、風紀委員が守るべき人々の盾となり、
 警備員が人々の平穏を脅かす脅威を穿つ。 ちょっと前時代的だけどね」

「なるほど……」

「脅威が迫ってきてから盾を構えても遅い、なんてたまに言われるけど、
 風紀委員は住民への脅威を未然に防ぐために日々地道な治安維持を行なっているから、
 そういう意味じゃ盾というよりは脅威の侵入を防ぐ壁なのかも知れないわね」

「…………大変なんですね、風紀委員って」


固法の説明を聞いてアンジェレネは、自分はどこか風紀委員の存在を軽んじていたと思い知らされた。
もちろん今回の講習を真剣に取り組む気持ちもあったが、しかし心のどこかでは浮ついた興味本位の
ようなものがあったと、自覚させられた。

316 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/22 11:43:47.94 5VTuysmko 171/526


主に教師で構成されている警備員とは違い、学校の生徒で構成された警察的組織。
その活動範囲は所詮校内だけの、言ってしまえば本来の意味での風紀委員(ふうきいいん)。
大きな事件が起きれば一般生徒に混じって避難する、形だけの役職。

アンジェレネもさすがにそこまでは思っていないものの、それを少し延長したものが
風紀委員なのだと無意識に感じていたのかもしれない。だからアンジェレネは改めて、


「が、頑張らなきゃ」

「あまり気負っても空振りするだけよ。 程々にね」


自分に喝を入れる。三人に支えられながらも、自分も今日一日しっかりと
街の治安を守っていこうと決心した。

317 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/22 11:44:44.51 5VTuysmko 172/526


と、このように人見知りであるはずのアンジェレネは、今日出会った
ばかりの固法や初春や佐天と目を合わせて会話をしていた。


いつもの臆病なアンジェレネは、ここには居なかった。まだ少しだけ距離を
置いている感は否めぬものの、彼女は三人とまるで親友と談笑するような
調子で楽しく過ごせていた。

きっかけは、突如女子寮にやって来た『天使同盟』との交流―――ではなく。

恐らくは『アドリア海の女王』の件から、彼女の中の引っ込み思案が
薄れていく予兆はあったのだろう。
あの件以来、様々な人間と交流するようになってきたアンジェレネは、
自分でも気付かぬまま、見知らぬ他人に自ら歩み寄るような勇気が
生まれてきていたのだ。

その勇気が産声をあげるきっかけになったのが『天使同盟』との
出会いというだけで、彼らのおかげという訳ではない。
いつかアンジェレネも、誰とでも笑顔で過ごせるような日がやってくるだろう。

318 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/22 11:46:09.64 5VTuysmko 173/526


「あ、改めてよろしくお願いします! 固法さん、初春さん」

「うん、頑張ろうね」

「私も初心に帰って治安維持に務めます!」

「あ、あれ? あたしは?」

「えと、佐天さんは風紀委員じゃないみたいですから……」

「なにをーっ! 差別禁止~!!」


斯くしてアンジェレネは風紀委員としての活動に意を決して望む。


刻一刻と『その時』が近付いている事に気付かぬまま。

319 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/22 11:46:48.68 5VTuysmko 174/526


――――――――――――――――――――――


少女はビルとビルの間に生まれた細い路地に佇んでいた。
第七学区。一端覧祭の影響でこの街は今日も多くの人で賑わっている。


「ま、ここでいいか」


いかにもテキトーです、みたいな調子でそう言った少女は手に持っていた可愛らしい
カエルのぬいぐるみを汚い地面に放り投げた。

その瞬間を見計らったように、彼女のズボンのポケットから声が響く。
無線機特有のノイズが混じっていたが、それでも相手の透き通った声色は正確に
彼女の鼓膜に届いた。

320 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/22 11:47:32.45 5VTuysmko 175/526


『そんなところに「地図」を置くのか? 通行人に拾われでもしたらどうする』

「それはそれで愉快だと考えればいい。 どうせ『地図』は私達のような能力者や
 一般人には解読できないシステムが組み込まれてるんだろ? こんなクソみたいな
 お仕事を務めてやってるんだ、少しくらいのスリルが無いと退屈で死んでしまう」


そう言う少女の笑顔は、歳相応の少女が浮かべられるようなものではない醜悪に満ちたそれだった。


『私達も堕ちたものだ。 "あっち側"の下請けのような雑務をやらされているのだからな』

「ていうか下積み? 今は『耐』だよ、誰かが上層部、もしくは暗部に一悶着起こして
 くれでもしない限り現状は変わらない。 "今の"学園都市統括理事長サマはずいぶんと
 自由奔放なお方みたいだからな。 私達の組織も一人勝手に抜け出しやがって、グダグダも
 いいとこだ。 ま、元々堕ちてこその暗部だし、気にする程の事でもないだろう」

321 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/22 11:48:02.15 5VTuysmko 176/526


『私の「コレクション」を勝手に使い潰した前の統括理事長よりはマシだと思うがな。
 ……ん、連中が行動を開始した。 私の方から「地図」の所在のポイントを連中に送る』

「りょーかいりょーかい」


少女は無線機の通信を切り、ごく自然に大通りの人ごみの中へ溶け込んだ。




「でもまぁ……十中八九、連中の作戦は失敗するだろうなぁ。 こんな
 手段で学園都市の裏をかけるなら、この街はとっくに崩壊しているよ」




イルカのビニール人形を背中に貼り付けながら歩く少女の独り言は、
周囲の人間が発する雑音によってかき消された。

322 : ◆3dKAx7itpI - 2011/12/22 11:54:34.11 5VTuysmko 177/526


今回はここまでです。

さて始まった風紀委員体験講習ですが、腕章の由来とかは私が勝手に設定しました。
多分こんな感じなんだろうなって。原作にその辺詳しく説明されてる部分あったらすみません。
第一七七支部が柵川中学にあるのも原作を基準にしたのが理由です。アニメでは確か専用のビル
があるんでしたっけ?そういうとこうろ覚えなのは問題ですよね……。

最後に何やら怪しい影が動き始めた場面がありましたが、どう展開するか楽しみにしていただけたらなと思います。
あんまり楽しい体験講習にはなりそうもないですけど……。

次回はミーシャパート。美琴がある相談をミーシャに持ちかけます。

次回更新は三日以内。

それでは、今日もありがとうございました!

323 : 次回予告はここまでです。  ◆3dKAx7itpI - 2011/12/22 11:55:06.97 5VTuysmko 178/526




                          【次回予告】



「話す前に一つ聞いておきたいんだけど、アンタって好きな人とかいる? 私もその……いるんだけどさ」
学園都市・常盤台中学の超能力者(レベル5)――――――御坂美琴




「efkpu選択apqit」
『天使同盟(アライアンス)』の構成員・水を司る大天使『神の力(ガブリエル)』――――――ミーシャ=クロイツェフ






続き
蛇足 とあるフラグの天使同盟 陸匹目【中編】


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