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蛇足 とあるフラグの天使同盟 伍匹目【前編】
357 : ◆3dKAx7itpI - 2011/11/07 19:33:06.90 TrplGhkyo 175/504こんばんわ、更新を開始します。
ワシリーサって『可愛いもの』が好きなだけですから、実を言うとあんまり
サーシャちゃんサーシャちゃん言わせたくないんですよね。
まぁでもサーシャは可愛いから問題はないのか……。
そんな話はさておき、今回はフィアンマ改めミーシャパート。
ひょんな事から学園都市第三位の御坂と激突します。
それでは、よろしくお願いします!
――――――――――――――――――――――
観客のざわめきに包まれる空気を無視して、美琴はただひたすら困惑した。
(え? 何これ? ていうかアイツは誰? 背、高………)
美琴が立っているプールのスタート台の真正面。
向かい側のスタート台には謎の人物がいつの間にか佇んでおり、こちらに手を差し出して
挑発するように指を動かしていた。
ボクシング世界チャンピオンがリングへ上がる前に着ていそうなぶっかぶかのガウン。
その顔はフードに包まれており、顔は窺えない。
背丈は約二メートル。中学生の美琴から見れば相当な巨体である。
「mjtfyiri勝負purjfr」
(うん!? 何今の声……声? ちょ、ちょっとこれ乱入じゃないの?
アクシデントよ。 警備員は何をしてん…………)
こういうアクシデントの際に活躍するはずの警備員は、先ほどの美琴消失事件と
突然の、あまりにも突然の乱入者の登場に呆気にとられていた。
あの様子ではあと数分は活動できそうにない。
と、美琴は端のプールサイドに目をやる。
観客席で盛大にすっ転んでいた赤い髪の男が体勢を整えていた。
(あ……さっきの人。 てか何でズッコケてたんだ?)
「あのクソ天使……!! 一体何を考えてやがる……!?」
何やら赤髪の男―――フィアンマは呆れと怒りを混ぜ合わせたような表情をしていた。
よく見るとフィアンマの傍にはどこか自分とそっくりな少女が二人居るのだが、
頭の中で入り乱れる情報と状況に惑わされ、二人の少女について考える暇が与えられない。
すると、フィアンマは表情を元に戻し、美琴と視線を合わせて無言でこちらを見つめてきた。
(チッ……これもミーシャなりに考えた第三位へのフォローだと
信じるしかないか……。 おい、あのバカに"合わせろ"!!)
(?)
どうやら無言で何かを訴えてきているようだが、『念話能力(テレパス)』など
持ち合わせていない美琴にはなかなか伝わらない。
しかしフィアンマの必死さは伝わったようで、美琴も懸命に彼の考えを読み取ろうとする。
(『ショー』を演じろ! 第三位、お前がヒーローで、対面のバカは悪の親玉だ。
戦え、あの天使と。 能力を使って戦闘を行えばそれもデモンストレーションの
一環だと観客達も思い込むだろう。 それでさっきの飛翔失敗も帳消しになるし、
要はお前が場を盛り上げて活躍すれば客は満足するんだ……皮算用の域を出んがな)
(………………)
(とにかく戦え、あいつと。 あいつもこれがデモンストレーション
だという事は理解しているはずだ。 想定外のアクシデントは俺様
が対応する。 お前は気兼ねなくここで暴れればそれで万事解決だ)
この間わずか数秒。だがそれでも、二人はある程度意思疎通を行うことが出来た……らしい。
(……もしかしてあのガウンの人と戦えって言ってんのかな? デモンストレーション
の範疇で。 だとしても見ず知らずの人に電撃を放つのは気が引けるなぁ………)
フィアンマの目論見は約八割ほど美琴に伝わっていた。
『ガウンの人物と能力による戦闘を演じてみせ、観客たちを満足させろ』。
一体どうやってフィアンマの表情、雰囲気からそんな事を見出したのか。
人間、窮地に立たされたら誰でもテレパシーを行使する事が出来るのか……今はそんな事を
論じている場合ではない。
美琴は瞬間的に表情を切り替え、勇ましい笑顔を浮かべると、
「あ、現れたわね怪人! この美琴サマが今日こそ、アンタを成敗してやるわ!!」
「xhlrkh上等prykas」
???????、と全観客の頭上に疑問符が連なった。
ようやく動き出そうとした警備員も思わず動きを止めてしまう。
(ちくしょー! やっぱみんな首を傾げてる~!! でもやるしかない、
自分で犯したミスは、自分で解決しないと! ……既に協力を得てるけど)
とにかくやり切るしかない。小学校低学年くらいまでしか食指が動かなさそうな
安っぽいヒーローショーを、学園都市第三位の超能力者が演じるしかないのだ。
それでごまかせるかどうかを考えている暇など、今の美琴には無いのだから。
「い、いくわよ!! 覚悟しろ怪人!」
切った啖呵は大した迫力だったが、いかんせんその攻撃がショボかった。
美琴は前髪から紫電をパチパチと発すると、静電気程度の威力しかない電撃を
二五メートル先のガウンの人物―――ミーシャ=クロイツェフにお見舞いする。
それも当然、見ず知らずの他人にいきなり全力の電撃攻撃を放つほど美琴も常識知らずではないからだ。
が、
「うえええっ!!?」
「jyun無力xshtp」
美琴が間抜けな声を出して驚愕するのも無理はなかった。
ミーシャはあろうことか美琴の放った電撃など無視して、二五メートル規格のプールに入っている
水(二〇〇〇トン以上)を押し上げるように"上へ持ち上げ"、防壁の要領で電撃を防いでしまったのだ。
(ちょっと待てえええええい!!!! なにアイツ『水流操作系能力者』なの!?
にしたってこの水量を軽く操れる能力者なんて聞いた事が無いわよ!!)
しかも美琴は知る由もないが、ミーシャにかかれば質量二〇〇〇トン程度の水を操るなど
造作もない事なのだ。
彼女がちょっとその気になれば、日本列島程度なら一発で沈められる程の水を操作する事だって出来る。
常識をわきまえていないのはむしろミーシャの方だった。
美琴と同じように口をあんぐりと開け、観客はその非現実的な光景を
呆然と見つめるしかなかった。
ただ一人、フィアンマだけがいつでもフォロー出来るようにと冷静に身構えていた。
果たして学園都市第三位vs水を司る大天使という、金が取れそうなバトル
(ただしパフォーマンスの範疇)の火蓋は切って落とされたのだった。
――――――――――――――――――――――
ミーシャが膨大な質量の水を空になったプールに落としたことによって
ド派手な水飛沫が辺りに飛び散る。
(あれ、あの水を使って攻撃してくるんじゃないの……?)
美琴は一瞬困惑したが、そこである事に気付く。
もし今の質量二〇〇〇トン以上の水の塊を直接ぶつけられていたら、自分はどう対処しただろう? と。
手はある。それこそさっきのように水分子を利用した翼で一時的に飛翔すれば
避ける事は出来るし、全力で超電磁砲を放てば水の塊など一撃で爆散させる事が出来ただろう。
しかし、周囲の観客達はどうなるだろうか?
恐らく水流操作系能力者であろうガウンを着た人物が演算を誤り、膨大な質量の水が観客に
襲いかかる事になったら………。
その水に超電磁砲を撃って、その余波で観客の中から怪我人が出てしまったら……。
超電磁砲は音速の三倍の速度で放たれる。周囲の被害も考えずにぶっぱしてしまえば
怪我人どころか死者が出てしまっても何ら不思議はない。
(でも……これはつまり、安心していいって事よね?)
だが、美琴は水飛沫を浴びながら安堵する。
(そういう事よね? あのガウンの人にも、私と赤い髪の人の考えが、ちゃんと伝わってる)
だからこそガウンの人―――ミーシャもあえて質量二〇〇〇トンの水で攻撃を仕掛ける事はせず、
慎重に事を運んで行こうと考えているのだろうと美琴は安堵する。
これならデモンストレーションの範疇で戦闘を行う事だって不可能じゃない。
もっとも、それで観客の目をごまかせるかどうかは定かではないが。
(少しずつ電撃を撃ちながら……相手の出方を見るしかない!)
相手との距離はおよそ一〇〇メートル。美琴はスタート台の上から勢い良く跳ねた。
無論、それは水中へ飛び込むための跳躍ではない。水流操作系能力者との戦いで
水の中に飛び込むなど、自殺行為に等しい。
美琴は自らの能力で電気を操り、プールの『箱』を構成している金属に対し
磁力線を繋いで干渉する。
すると、美琴は着水する事なくふわりと、まるで目に見えない跳び箱を飛んだ時のような
緩やかな放物線を描き、一気にミーシャとの距離を詰めた。
美琴の考えではこのまま相手の身体の一部に触れ、相手に害が無い程度の電気を浴びさせる事で
この勝負にケリをつけようとしたのだが――――。
「ッ!!?」
思惑通りにはいかなかった。
ミーシャもまた美琴と同じようにスタート台の上から跳躍した。
しかしその跳躍は美琴のものとはまるで別物。
べキャッ!!! という嫌な汗が流れそうな物々しい音が鳴り響いたかと思ったら
既にミーシャの姿は見当たらず、跳躍の際の踏み込みでグシャグシャに砕けたスタート台だけが
無残に取り残されていた。
(―――――上!?)
ショーにしてはやりすぎなのではないかと思いながら美琴は砕けたスタート台に上手く着地し、
空を仰ぐ。
だがそこにミーシャはおらず、代わりに彼女の位置を報せてくれるかのように背後で派手な着水音がした。
(…………! 何この身体能力、『水流操作』とは関係ないものじゃない!)
美琴は慌てて身を翻し後ろを振り向く。
彼女の目に飛び込んできた景色は当然、さっきまで自分が立っていたスタート台と
更衣室に続く出入口のあるプールサイド。
"しかし目に映る全ての景色が、水面に映る景色のように揺らいでいるのはなぜだ?"
その原因が、自分の眼前に水の塊が飛んできたからだと気づく前に、美琴はほぼ反射的に
身を屈めていた。
美琴に命中しなかった水の塊はプールサイドを隔てる金網のフェンスに衝突し、
遅れて巨大な風船が破裂したような炸裂音が鼓膜を叩く。
「は―――――、」
速すぎるわよこの馬鹿!! と美琴はミーシャにクレームをぶつけようとしたが、
声を出すまでには至らなかった。
なぜなら大小様々な水の塊が数十個、いや一〇〇に近い数で虚空にふよふよと浮かんでいたからだ。
(……これだけの数の水を、一秒にも満たない時間で作り上げたっての……?)
にわかには信じられない美琴だったが、観客の反応から見るにそれは事実らしかった。
皆が皆、目を真ん丸にしてこの超常現象を開いた口を塞ぐことも忘れて見つめている。
今まで散々常盤台中学の生徒による能力を見てきたにも関わらず、だ。
水の中でゆらりと、黒い影が不気味に揺れていた。
その正体は言うまでもなく、黒のガウンを着込んだミーシャ=クロイツェフだ。
それを見て、美琴は海水浴に遊びに来たら浅瀬に鮫の影を見た時のような悪寒に襲われる。
影の腕がスッと、さりげない仕草で動いた。
それを合図に一〇〇に近い形状が不安定な水の塊が、一気に美琴を撃ち抜かんと襲いかかってきた。
(おいいィ!? この人ガチじゃん!!!)
ついさっきギリギリで躱した水球とほぼ同じ速度で向かってくる
無数の水が、美琴には機関銃から射出される弾丸にも思えた。
しかもその玉は大砲に使用される珠と同等の口径。
……本当にこれがショーであると相手は分かっているのだろうか、と美琴は思う。
こんなものが直撃したら美琴の身体など一発で肉花火となって咲き乱れてしまうだろう。
実はこの威力も速度も虚仮威しで、実際は食らってもちょっと痛い程度です、なオチなら
安心できるのだが、
「冗談じゃ………ないっつーの!!!」
無数の水の最初の一発が接触する直前に、美琴の全身が一瞬白んだ。
次の瞬間、美琴を中心に全周囲から極めて小さな範囲で落雷が発生した。
その雷は美琴に迫っていた水の弾丸を貫き、霧散させる。
しかもその落雷は一発では終わらない。二発、三発、四発と、非常に短い間隔で轟く。
その連続落雷を周囲に落とすことで擬似的なバリアを形成し、美琴は
向かってくる弾丸を全て防いでいた。超局地的落雷バリアと言ったところか。
「「「「おおおおっ…………!」」」」
耳を劈くような轟音が連続する中で、美琴は確かに聞いた。
観客の中の何人かが、この世にも恐ろしい光景を見て、それでも(恐らく)このショーを
見て楽しんでいるのだろう感嘆の声を。
美琴はその声を聞いて心の底で安堵の息をつきながら、
ミーシャが繰り出す水球連射の最後の一撃を擬似落雷で打ち砕くと共に、無意識に行動に出た。
ポケットから取り出すは一枚のコイン。それを素早く右手にセットし、
正面に構える。
狙いは、攻撃行動が終わって水中からトビウオのように飛び出してきたミーシャ=クロイツェフ。
美琴はそこを狙って指先に電力を溜め、弾くようにコインを射出する。
超電磁砲。
空気どころか、空間を引き裂くような音が鳴り渡った。
そして直後に美琴の顔が青ざめる。
「ッ!! 避けてッ!!」
最悪な事に、美琴は手加減を忘れて超電磁砲を放ってしまった。
正確に言えば彼女は無意識の内に手加減をしていたが、本人がそれに気付いていなかった。
しかし手加減をしたとはいえ、その速度は凄まじい。
とても人に向かって撃っていいような攻撃ではない。
身体のどの部位に当たっても致命傷。その速度故、人間ではまず避けられない。
―――知らず知らずの内に、自分の中で熱き闘争心が高揚していた。
そうだと気付いた時には、既に美琴は後悔の念で頭が満たされていた。
自分の勝ち気な性格をこんなに恨んだ事はなかった。
せっかく自分のミスをフォローしようと協力してくれた名も知らぬ親切な人に、
よりによって殺人兵器といっても過言ではない超電磁砲を撃ち放つ。
考えられぬ大失態。美琴はミーシャに向かって容赦なく突き進むオレンジ色の閃光を
スローモーションのようにゆっくりとした映像で見ながら激しく自己嫌悪した。
人を、殺めてしまっ―――――。
「udelop無駄zbgeyt」
ミサイルが着弾したかのような、耳どころか頭を塞いで身を屈めたくなるほどの音が
屋外プール会場を支配した。
超電磁砲が直撃したミーシャを中心に水面が爆破するように跳ね、超電磁砲の熱によって
辺りはスモークを炊いたような白の水蒸気で景色が失われていく。
音は一瞬で虚空に溶け消え、次に発せられた音は観客たちがざわめく声だった。
本当にこれは演出なのか?
常盤台の超電磁砲の今の攻撃は明らかに本気だったのではないかと
観客たちが疑問と焦燥に顔を青くする。
美琴はもう、黙って水蒸気が晴れるのを待つしかなかった。
(……、)
ほどなくして水蒸気が晴れ、視界が確保されていく。
美琴の目に、観客達の目に飛び込んできたのは――――、
―――――各々が想像するような"惨劇"ではなかった。
「yutcm上出来dregtdo」
「え…………?」
そこには、"まるで天使のように水面の上で優雅に佇む"黒いガウンを来た人物が居た。
ミーシャ=クロイツェフ。正真正銘本物の大天使。
その天使の肉体が超電磁砲によって粉々に砕かれている事はなかった。
(は、外れた………? でも、)
美琴は本日何度目か分からない安堵の息をつこうとしたが、直後に疑念が生まれる。
仮に相手が何らかの方法で超電磁砲の射線をズラしたとしても、ならば相手の背後にある
更衣室が丸々吹き飛んでいるはずだ。
しかし更衣室はいつも通りの状態を保っているし、
その更に後ろにある校舎にも変化は見られない。
と、ミーシャがこちらに向かって右腕を突き出している事に美琴はようやく気付いた。
ミーシャが着ているガウンの右袖はボロボロに焼き切れており、そこから覗く右腕は
人間にしてはあまりにも白すぎて、しかし不健康そうには見えない不思議な色をしている。
そしてその右手はギュッと握りしめられており、ミーシャが右手を開くとそこから、
「あ」
右手から落ちてきたのは、歪な形をした溶けかけのコインだった。
コインはそのまま音もなくプールに着水し、ジュッという熱した鉄板の上に
水を一滴垂らしたような音と共に水中へ沈んでいった。
焼け焦げた右袖。右手に握られていたコイン。超電磁砲受けて怪我一つ無い相手。
これらの点から導かれる答えを、美琴は素直に信じる事が出来なかった。
(こ、こいつ………超電磁砲を受け止めたの? 片手で?)
驚くというより、むしろ呆れた。
音速で突き抜けるコインを"キャッチ"する。そんな芸当を行うには音速で放たれるコインを
まず"視認"しなければならない。
並の人間に、いや異常な人間にだってそんな事は出来やしない。そして仮に視認できたとして、
超電磁砲として射出されたコインには莫大なエネルギーが付与される。
それを片手で受け止めるなど、それこそ人間には絶対不可能なはずだが――――。
381 : ◆3dKAx7itpI - 2011/11/07 20:07:22.05 TrplGhkyo 199/504
美琴「仙水よけろォォーーーーー!!!」
今回の更新はここまでです。
ミーシャと御坂を絡ませるのが思いの外楽しかった記憶があります。
皆様にも楽しんでもらえているなら幸いなのですが……。
次回もミーシャパート。引き続き御坂とのバトルをお送りします。
次回更新は三日以内。
そrでは、今日もありがとうございました!
【次回予告】
「eyghe、ghspjjfesdynudn……xju雷yqxnz……、nahndhrwifjbriwfn」
『天使同盟(アライアンス)』の構成員・水を司る大天使『神の力(ガブリエル)』――――――ミーシャ=クロイツェフ
「………………………………う、うん? ? そう、そうなんだ……へえ」
学園都市・常盤台中学の超能力者(レベル5)――――――御坂美琴
「……………………………………………天使?」
学園都市・常盤台中学の生徒――――――白井黒子
401 : ◆3dKAx7itpI - 2011/11/09 20:37:40.17 QGooWWTeo 201/504こんばんわ、更新を開始します。
毎度ながら支援レス、ありがとうございます。
それにしても最近は本当に寒いですね。ついこの前まで夏だったような
気がするんですが……。私は冬が好きなので構わないのですが、風邪にはお気をつけください。
今回も引き続きミーシャvs御坂美琴をお送りします。
最初はミーシャの人外っぷりに困惑する御坂でしたが、彼女もだんだん
この戦いが楽しくなってきて……。
それでは、よろしくお願いします!
(いや、でも……信じたくないけど、"居る"。 私の超電磁砲を片手で受け止める事が出来るヤツが。
私の超電磁砲を、正面から受け止める事が出来るヤツが。 ……コイン握り潰されたのは初めてだけど)
と、そこまで考えていた美琴の思考が中断された。
原因は周囲から巻き起こった、観客による拍手と喝采。
「いいぞー! 超電磁砲、カッコイイ!!」
「きゃー御坂様ー!! こちらをお向きになってー!!」
「"怪人役"の人もすげーぞ!! あの超電磁砲を前に恐れる事なく立てる勇気、気に入った!」
そんな感じの声援があちこちから飛んでくる。
見ると、黒のガウンを来たミーシャは照れを示すように頭部をポリポリと掻いていた。
それを見て美琴は『あ……良かった、本当に無事みたい』とやっと安心する事が出来た。
(とりあえずは乗り切れてるみたいね。 お客さんも『ショー』として楽しんでくれてる。
………正直、既にやり過ぎ感はあるし自分でもよくごまかせたなとは思うけど)
これもショーの一環だと思わせる。
そんな状況を作ってみせた美琴はふと、"ある出来事"を思い出していた。
(『学芸都市』……、あれはある意味この状況とは逆の出来事だったわねー……)
美琴は客席にいた赤髪の男を一瞥する。
彼も美琴の方を向きつまらなそうに視線を戻すが、それでもパチパチと申し訳程度に拍手を送る。
その隣にいた白井や初春、佐天達も何だかよくわからないけどとりあえず美琴を賞賛しておこうと
いった調子で拍手をしていた。そして、"自分とそっくりの顔つきをした二人"も同様に。
(…………あの二人には後で話を聞くとして)
それにしても、と美琴は思う。
(結構堪えちゃうわよね……。 "アイツ"はともかく、真正面から私の
超電磁砲を受け止められるヤツが"あと二人"も居ただなんて)
先のミーシャのように超電磁砲を正面から受け止める事が出来た人物は、
不思議な右手を持つツンツン頭の少年以外だとこの学園都市に二人存在する。
一人は今も水面に浮かぶように佇むミーシャ=クロイツェフ。
そしてもう一人は、名前もレベルも知らないが、『旭日旗のTシャツの上から白の学ランを着込む』という
妙に時代遅れした、しかし見ようによってはファッション性の高い格好をした、記憶ではやたら
根性根性とうるさく口走る少年である。
あの男は超電磁砲で弾いたコインを口で加えて受け止めるどころか、
その後の雷撃による連続攻撃にも『すごいガード』とか何かよくわからん技名で
全て耐え切るという、根性以前の化物じみた力を秘めていた。
今目の前にいるこの黒いガウンの人物も、あの男と同類のようなものなのかと美琴は
気疲れしたようにため息をついた。
しかし同時に、美琴は素直にミーシャへ賞賛の言葉を贈る。
「アンタ、凄いわね。 私の超電磁砲を受け止めるだなんて………
『水流操作』の応用でどうにかしたとは思えないんだけど。
とにかく、相当高レベルな能力者と見たわよ。 驚いたわ」
「fydufg同意zpd賞賛zret贈呈lkjtdb」
「はい?」
「eyghe、ghspjjfesdynudn……xju雷yqxnz……、nahndhrwifjbriwfn」
「………………………………う、うん? ? そう、そうなんだ……へえ」
相槌を打つものの、美琴はミーシャの言葉を何一つ理解出来ていなかった。
(ていうか何語? さっきもこんな声出してたけど……もしかして学園都市の最新技術を
結集して作り上げた新型の『駆動鎧(パワードスーツ)』とかじゃないでしょうね……)
たかが駆動鎧如きに超電磁砲を防がれたとはあまり考えたくない美琴。
しかしあの男といいこの黒いガウンの人物といい、一体何者なのか。
少なくともこうして自分のフォローを手伝ってくれてる以上、悪人ではない事は確かだが。
そして何より、何者なのかと考える以前にこの謎の人物との戦いは何だかとても心地が良いと美琴は思った。
殺意や悪意を向けてくる事もなく(あの水玉攻撃は洒落になっていなかったが、美琴も人の事は言えない)、
罵倒や侮蔑が飛び交うような雰囲気の悪さもなく、純粋に互いの力量を測るような戦い。
デモンストレーションという建前があるが、美琴はそれを除いてもこのガウンの能力者との
戦いを素直に楽しんでいる自分がいると素直に認めた。
(………まだもう少し時間はあるわよね)
美琴はフェンス越しに見える校舎に設けられた時計を確認して、
「そんじゃ、もうちょっとだけやりましょうか。 割と本気出していいわよね?」
「cutuwi受berp立zhitus」
ミーシャは超電磁砲のコインを握っていた右手を突き出して挑発するように指を動かす。
その不気味なまでに青白い手には、火傷どころかカスリ傷一つ見当たらなかった。
それを受けた美琴はニッと笑って、
「それじゃ…………遠慮無く!!」
異変が起きたのはプールではなく、その隣にあった校庭だった。
校庭に満遍なく敷き詰められた砂場が振動したかと思った直後、
そこから選別するように白と黒の砂が分離され、その内の黒の砂が
誘われるようにプールに居る美琴の方へ飛んでくる。
それは砂鉄だった。美琴は能力の応用である磁力操作によって砂場の中から
砂鉄だけを吸い寄せ、手元に持ってきたのだ。
更に美琴は精密な演算を実行し、その砂鉄を剣のような形状にして右手に携える。
その砂鉄剣は刃の部分が超振動を起こしており、チェーンソーの要領で
物体を切り裂くという恐ろしい性質を持っている。
(こんなもの、普通の人間に向けていいモンじゃないけど………、
こいつはどう考えても普通の人間じゃないわよね。
とにかくこれでいきなり叩き切る事はせず、慎重に牽制して様子を見てみるか)
美琴の玉に瑕な部分の性格がここで如実に現れ始めていた。
既に彼女の頭の中は『目の前の化物との決闘』で満たされている。
美琴の勝ち気な性格が、デモンストレーションという建前を失念させつつあった。
結果的にそれが観客を喜ばせるパフォーマンスになっているのだから
問題は無いと言えば無いのかもしれないが。
美琴が出現させた黒々しい砂鉄剣を見たミーシャは、
「fouet愉快zgado」
「え?」
露出した右腕を高々と空へ振るった。美琴も周囲の観客達も、
それに釣られてミーシャの右手を見据える。
その右手がある空間に変化が起きた。
何も無い虚空から、まるでミーシャの手に吸い付くように氷の礫が集結し、
やがてそれは一本の氷の剣と化したのだ。
美琴は思わず息を呑んだ。先の大質量の水の操作や無数の水の弾丸、
当たり前のように水面に立ったかと思うと、今度は虚空から氷の剣を生み出す。
(………空気中の水分を凝結させて氷を作り、それを剣の形状に仕上げた?
そんな芸当、レベル4でも出来っこない。 ……まさか私が知らない内に
『八人目』が登録されたのか?)
そろそろ驚愕を通り越して目眩を起こしてもおかしくなかったが、
ミーシャの"パフォーマンス"はまだ続く。
ミーシャの背中が弾け、ガウンの背中部分が細切れになったかと思ったら、
その瞬間にはもうミーシャの背中から氷の翼が生えていた。
フードを被っている頭部の上には、もはや『水流操作』では説明不可能な
ぼんやりと輝く『輪』が現出している。
氷の翼のサイズは数十センチから数十メートルまで。数は一二。
「あ、はは」
むしろこれで人間だったら美琴は今度こそ現実と空想の境界を見失ってしまうと思った。
背に氷の翼を生やす『異形』。
美琴はどこかでこれを見たことがある気がしたが、"なぜだか思い出す事は出来なかった"。
しかし、不思議な事に恐怖はない。
背中から禍々しく刺々しく、しかし煌びやかに翼を生やし、その手には万物を薙ぎ払えそうな
氷の剣を持っている目の前の怪物から感じられるものは、むしろ『情愛』だった。
(私も観客になってる気分よ、こんなものを見せられて………)
意識せずとも表情が勝手に笑みを浮かべていた。
ミーシャに呼応するように、美琴も水分子を操作して背中に大小六枚の翼を背負い、
「ふっ!!!」
肺から一気に酸素を吐き出し、猛スピードでミーシャに突進していった。
一瞬でミーシャの懐に潜り込んだ美琴は、振り抜かないと決めていた
砂鉄剣を横薙ぎに払う。
『遠慮はいらない』。なぜかミーシャがそう語りかけてきたように錯覚したからだ。
ミーシャは見えない角度から振り抜かれた砂鉄剣を、あろうことか剣を持っていない左手で直に受け止めた。
「あ、――――」
砂鉄剣は刃の部分が小刻みに振動しているチェーンソーのような働きを持っている。
そんなものを直接触れたりしたら掌が豆腐のように切断――――、
「dlro油断zhekl禁物jvigcs」
――――される事はなく、ミーシャはそのまま刃を掴み、握力に任せて剣を握り潰してしまった。
すかさず追撃。今度はミーシャが美琴の頭上目掛けて一直線に氷の剣を振り降ろす。
当たれば死は免れないが、美琴は砂鉄剣が握り潰された程度ではもはや驚く事もなく、冷静に
演算を行い前髪から雷撃の槍を穿ち、氷の剣を粉々に砕いた。
そこでようやく美琴の体に地球特有の重力負荷がかかるが、彼女は背中の翼を『噴射』させて
プールに着水することなく一気に約二〇メートル上空まで上昇する。
互いの距離が離れたわずかなタイムラグを利用し、美琴は新たな砂鉄剣を形成して手に携えるが、
(ヤバッ)
上下左右、オールレンジ攻撃の要領で氷の魔の手が美琴に迫っていた。
その正体はミーシャが背負う氷の翼。
氷の翼は空中にいる美琴の逃げ場を一瞬で無くしてしまう速度で迫るが、
直後に美琴の体が発光し、爆発的な雷轟が発生した。彼女は全方位から身を守るため、
球状に電撃を発する事で辛うじて氷の翼を撃退する事に成功する。
不意の急襲を防がれたミーシャもまた、美琴がいる高度まで超速度で上昇すると、
いつの間にか携えていた新たな氷の剣で呼吸をさせる暇も与えない勢いで追撃に出る。
それに応じるため美琴も砂鉄剣を振るう。氷と砂鉄の剣が激突し、コンマ数秒の鍔迫り合いが発生した。
押し勝ったのはミーシャの氷。美琴は単純に力負けし大きく後方へ飛ばされてしまうが、
不安定な体勢のまま即座に『超電磁砲』を放った。
音速の三倍のエネルギーを片手で受け止めてしまう怪物だ。遠慮など、必要であるはずがない。
実際、ミーシャは向かってくる『超電磁砲』を信じがたい反応速度で明後日の方向へ"蹴り飛ばした"。
美琴は背中の翼を慎重に操り、空中に『停滞』する。彼女の演算が極めて冷静に行われている証拠だ。
(ヤバい………私、普通に楽しんじゃってる)
今の美琴は強敵を前にして『オラわくわくすっぞ』と血湧く某サイヤ人状態だった。
かつて自分がここまで全力で演算を行い、戦闘を行った事などあっただろうかと美琴は思う。
この戦いを機に、自分はもっと"高み"へ昇っていけるかもしれない。
そんな事を想起させるこの状況に、勝ち気な性格の美琴の気持ちが昂るのは必然的と言っていいだろう。
もはや美琴の頭の中に『デモンストレーション』という建前は完全に消失していた。
――――――――――――――――――――――
お姉様がついに人間という領域を越えてしまった。
空中で停滞しながらガウンを着込んだミーシャを睨む美琴に対して、
白井黒子は二人のショー(という名のガチバトル)を呆然と見上げながら思った。
白井は今一度周囲の反応を確認してみる。
初春飾利と佐天涙子も白井と同じく、魂でも抜き取られたかのような
様子で美琴とミーシャの戦いを黙って見守っていた。
二人はこれまでも美琴の戦闘能力をあらゆるシチュエーションで目撃しているが、
それにしたって今回ほど壮絶な戦いを見たことは無かったらしい。
そしてそれは長い間美琴に付き添っていた白井も同じだった。
(『学芸都市』の一件でもロシアの『ウランの置物』の一件でもお姉様の活躍は
見事なものでしたの………。 それも当然、お姉様は学園都市の能力者の頂点、
レベル5の第三位、常盤台の『超電磁砲』。 どんな壁が立ちはだかろうと、
お姉様はいつもそのポテンシャルを活かし、苦難を乗り越えてきましたの)
白井は気付いていた。
先に行われた水分子の翼によるパフォーマンスを、美琴がしくじってしまった事を。
美琴がそのミスを帳消しにするために、ミーシャと協力して『ショー』を演じている事も。
それにしたって、と白井は改めて喉を鳴らす。
(今のお姉様はその時以上に自分の中に秘める潜在能力を発揮している……。
その点は流石、としか言い様がありませんの)
白井は視線を美琴から、芸術作品のような美しい翼を生やすミーシャに移した。
(それに対してあのミーシャという方は一体何なんですの………!?
正直認めたくはありませんが、明らかにあの方はお姉様の"全て"を上回っている。
多分、お姉様自身もそれに気付いてますの。 『水流操作系能力者』?
その程度のカテゴリに当て嵌める事が出来る実力じゃありませんわよ……!?)
今この場にいる大半の観客、そして能力者達はこう思っているのだろう。
『ガウンを着た能力者は学園都市の中でもかなりの実力を誇る能力者、
だから常盤台の「超電磁砲」と今のようにショーを演じる事が出来る』のだと。
しかし、そんなもんじゃないと白井は真冬のプールサイドであるにも関わらず
頬を伝う冷や汗を拭った。
ミーシャという『異形』を、人間だと思えない。いくら『水流操作系能力者』だと言っても、
質量二〇〇〇トン以上の水を易々と操る能力者など聞いた事が無い。
おまけに虚空から氷を生み出したり、美琴とは違って原理も作法も不明な飛行を行ったり。
背中から氷の翼を生やしたからって、あんな形状では人間は空を飛ぶ事など出来ない。
そしてトドメと言わんばかりに、ミーシャの頭上にはどういう仕組みで出現しているのかも
分からない光の『輪』。美琴の『超電磁砲』を片手で受け止めたりあっさりと蹴っ飛ばしたり、
もうやりたい放題もいいとこである。
初対面の相手に対してこの印象は抱きたくない白井だったが、彼女の目からしたら
ミーシャはもはや『化物』のそれだった。
では、ヒトで無ければミーシャは一体何なのか?
白井は上空で漫画のワンシーンのような戦いを展開する二人を見つめながらしばし思案した。
「……………………………………………天使?」
自分でも馬鹿だと思う言葉を口走ってしまった白井だが、その直後に
傍で忌々しげな舌打ちが聞こえたのを彼女は聞き逃さなかった。
舌打ちがした方に視線を配る。
そこでは赤い髪の男―――火野と名乗り、どうやったかは不明だがミスを犯した
美琴を救ってくれた男が、親指を噛みながら上空をきつく睨んでいた。
(…………? 憤ってらっしゃる?)
白井から見た火野―――フィアンマは、どう見ても憤りを感じている様子だった。
それもこのデモンストレーション自体に不満を抱いているという風ではなく、
まるで美琴とミーシャの『ショー』の展開に苛立ちを感じているようだった。
白井はフィアンマに話しかけようとしたが、突然発生した衝撃波に
身を竦めてしまいそれは叶わなかった。観客達がどよめきをあげる。
上空を見る。美琴とミーシャの戦いは更に激しさを増していた。この時点で白井も、
少なくとも美琴がデモンストレーションだという事を失念している点に気付いた。
「…………やりすぎだ」
誰にも聞こえないようにフィアンマが愚痴を漏らすが、白井の耳には届いていた。
確かに……、と白井も心の中でフィアンマに同意する。
いくらパフォーマンスとはいえ、美琴の方は恐らく本気でやりあっている。
これ以上続けたら美琴自身が、もしくは観客の中から怪我人が出てしまうかも知れない。
当然美琴もミーシャもその懸念事項に関しては疎かにする事はないだろうが、
念には念を入れた方がいいかもしれない。
この二人の戦いは、このプール会場を警護している『警備員(アンチスキル)』では阻止出来ない。
止めた方がいいだろうか?白井がフィアンマに相談を持ちかけようと改めて視線を彼に戻すが、
「あら?」
白井と目が合ったのはフィアンマではなく、彼の隣でショーを楽しんでいた打ち止めだった。
打ち止めも白井と同様にポカンといった調子で白井をジッと見つめてくる。
その愛くるしさに悶えそうになるが、その感情を上から塗り潰すように白井の頭に『不可解』が介入する。
フィアンマの姿は、もうそこにはなかった。
423 : ◆3dKAx7itpI - 2011/11/09 21:08:24.98 QGooWWTeo 223/504今回はここまでです。
相変わらず怪物なミーシャですが、いざこうして見ると御坂も大概おかしいような……。
ちょっとやりすぎた感が否めませんが、まぁさすがは第三位という事でご勘弁を。
超電磁砲を防ぐ事が出来る能力者はまだいますが、御坂は何も超電磁砲だけが能じゃないですしね。
次回、ようやくこの戦いに決着が着きます。果たして電撃姫は悪の怪人の野望を
打ち砕くことが出来るのか。次回もお楽しみに!
次回更新は三日以内。
それでは、今日もありがとうございました!
【次回予告】
「私はまだまだやれるわよ! アンタはどう? あー……えっと、これショーだったっけ。
……コホン。 そろそろ観念しなさい怪人! アンタの野望はここで砕け散るのよ!」
学園都市・常盤台中学の超能力者(レベル5)――――――御坂美琴
「命令名(コマンド)『演出』――――投下」
『天使同盟(アライアンス)』の構成員・水を司る大天使『神の力(ガブリエル)』――――――ミーシャ=クロイツェフ
「実に見応えのあるショーだった。 俺様は御坂美琴に対し、惜しみない賞賛を贈りたいと心から思う」
『天使同盟』の構成員・元『神の右席』の魔術師――――――フィアンマ
457 : ◆3dKAx7itpI - 2011/11/12 00:13:08.70 WjlXMN99o 225/504こんばんわ、更新を開始します。
対超電磁砲の話題についてですが、御坂に一方通行を想起させる事に何か抵抗があったので
描写は省きました。まぁ上条や一方通行、垣根や削板はちょっとイレギュラーですからね……。
今回でミーシャvs御坂の戦いに決着が着きます。
どんどんヒートアップしていく二人のバトルの結末やいかに。
それでは、よろしくお願いします!
――――――――――――――――――――――
肩で息をしながら大量の汗を拭い、美琴は地上を俯瞰する。
(……………、怪我人無し。 私の都合で怪我人なんて出したら最悪だしね)
地上の安全を確認した美琴は視線を正面に固定する。
そこには疲労困憊寸前の美琴とは違い、未だ悠然と空中で停滞するガウンのお化け、
ミーシャ=クロイツェフが片手で氷の剣を曲芸のように回転させていた。
(何ったる余裕っぷり……、こっちはもうヘトヘトだっていうのに。
どれぐらい戦ったっけ……何かもう一日中やりあってるような気がする)
実際は一〇分にも満たない時間だったが、美琴にはミーシャと対峙している時間が
無限にも感じられた。
認めざるをえない。
この相手は、間違いなく自分の力量を全てにおいて上回っている。
美琴はしかし悔しさを感じる事はなかった。
彼女の性格上、相手の実力が自分より上だと気付かされたら歯噛みの一つでもしそうなものだが。
(なんか………スカっとするのよね。 こいつとやりあってると。
第三位なんて肩書きには興味無いけど、それでもこいつに負けたら
格下げになってもいい、なんて思っちゃってる自分がいる)
自分の意志とは関係なく、自然に笑みがこぼれる。
良きライバル、なんて相手の都合も考えずに勝手にライバル認定などしては
失礼だと美琴は思うが、それでも彼女はミーシャに対してこんな感情を抱く。
感謝。世界は広い。第三位なんて、世界と比較したらちっぽけな物でしかない。
暗にそう教えられたような気さえした。
「私はまだまだやれるわよ! アンタはどう? あー……えっと、これショーだったっけ。
……コホン。 そろそろ観念しなさい怪人! アンタの野望はここで砕け散るのよ!」
建前上現在美琴はヒーローという事でそんなセリフを口にしてみるが、
息は絶え絶え場は上空、美琴のセリフは観客達にはあまり届いていなかった。
そんなボロボロのヒーローに対し、怪人ガウンお化けは、
「vlbudm決着iyutkfp」
右手に携えていた氷の剣を無に帰し、そのまま緩やかに右腕を天へ差し出す。
今度は一体何をやらかしてくれるのか。美琴が内心ワクワクしながら待機していると、
フッと。
昼間であったはずの大空が、ブレーカーでも落ちたかのように一瞬で闇に覆われた。
「ねーよ」
思わず口にしてしまった美琴。
いくら何でもこれはない。恐らく何らかの方法で学園都市の上層部と相談し、
演出で学園都市の最新技術を利用した人工的な夜空を展開したに違いない。
そんな無茶苦茶で筋が通らない推察をさせられるくらい、この夜空は不自然極まりなかった。
もはや初期に想定していた『相手は水流操作系能力者』という予測が迷子状態である。
(だって、空よ空!! 本物の! 青空を強制的に夜にするって、え? 何!?)
「……agegcmAOWJfungensbnsehhPJHbnufnxydnybrcmirdrbs……」
おまけにミーシャが何やら突然意味不明の言語をぶつぶつと呟き始めた。
美琴は小さいながらもクリアに聞こえるその不気味な声を耳にし、眉をひそめた。
言語が不可解だからではない。
美琴はこのような意味不明の声を、言語を、以前に聞いたことがあるからだ。
(これって……。 こんな呻くような感じの声を、『幻想猛獣(AIMバースト)』から
聞いた事があるような気がする………)
『幻想猛獣(AIMバースト)』。七月の下旬に発生した『幻想御手(レベルアッパー)事件』で
出現した、歪んだ科学の産物。
胎児の怪物のような姿をしていたあの『異形』も、今対峙しているガウンの怪物のように
頭上に天使の『輪』のような何かを浮かべていた事を美琴は今頃になって思い出す。しかし、
(でもこいつは『幻想猛獣』のような不安定で未完成な印象を受けない……。
え? っていうか今私が戦ってるこいつはもう人外確定なの?
まさか木山春生のようにまた誰かが『幻想御手』を使って……いやそんな事は。
というか、この夜空の現象……あの事件や戦争終結後にも起きてたような……?)
あれやこれやと考えている間にも、ミーシャは理解不能の言語を呪文のように紡いでいく。
そして、その声は美琴でも聞き取れる程に明確となっていた。
「大丈夫」
「ひっ、喋った!? え、え!? な……何が?」
「出力をufd一〇%まで低下jxutさせている。 当siyてない。 cxo演出」
「?」
言語は理解出来ても、その言葉の意味が理解出来なければ意味が無い。
出力を一〇%まで低下させ、尚且つ美琴に当てる事はしない。これは演出である。
そんな感じの言葉なのだろうかと思う美琴だったが、それにしたって意味がわからなかった。
一体何の出力を低下させているのか。当てる当てないの有無を伝えてきたという事は、
『何か』が飛んで来るのか。演出というからには、ド派手な必殺奥義でも繰り出してくるのか。
「え、あの……ちょっと怖いんだけど。 何? 何をするつもりなのかなー?」
無意識の内に引け腰になっている美琴の言葉を無視して、
ミーシャ=クロイツェフは天に指示を与えた。
「命令名(コマンド)『演出』――――投、」
「調子に乗りすぎだこのクソ野郎が」
どこからか第三者の声が飛んできたかと思った瞬間には、擬似の夜空が瞬いていた。
ただし、その色は『赤』一色で―――――。
――――――――――――――――――――――
急に視界が赤一色で染まったため、美琴は自分の身体のどこかから
大量に出血でもしたのかと危惧する。
視界を奪われた生物が取る行動は大抵が『防御』である。美琴は『赤』が視界を
占領した瞬間、無意識に目を瞑り、両腕を交差させ顔を護っていた。
直後、今度は視界ではなく聴覚が支配される。火山でも噴火したような凄まじい爆音によって。
目を閉じているため状況が把握できない。ただ感じるのは爆音の衝撃によって肌に伝わる空気の震動と、
理解不能の何かが、何かを『圧倒』してしまったという感覚のみ。
(ああああもうっ!!! 何よ何なの何なのよ! あのガウンのヤツが何か
意味不明な事を口走ったかと思ったら今度は赤い何かが割り込んできて……)
頭の中で焦燥を混乱がせめぎ合い、意識を刈り取られそうになるのを必死で堪える。
やがて美琴に届いたのは『静寂』という雰囲気と、真下にあるプールの水が荒々しく波立っている音。
この間も水分子による翼で見事に停滞している点から察するに、美琴は呼吸をするように容易に
翼形成の演算を行えている。
一方では冷静、一方では混乱と困惑と頭の中がハッキリ別れていた美琴が恐る恐る瞼を開いてみる。
まず視界に飛び込んできたのは第七学区の街並みだった。当たり前だ、現在美琴が居る場所は
高度一〇〇メートル前後の空中である。
いや、当たり前だと決め付けるには些かおかしな点がある。
さっきまで目の前で訳のわからない行動を取っていたはずの怪人が居ない。
そして恐らくはその怪人の手によって強制的に黒へと染められた空が、
今は何の変哲もない透き通った青に戻っている。
(………夢?)
そう思うのも無理はなかった。今の今まで自分が目の当たりにした全ての現象が、
現実は思えない奇想天外なものばかりだったのだから。
美琴は未だ困惑しつつも、翼を操ってゆっくりと高度を下げていく。
やがてプールと隣接してある更衣室の屋根が見え始めたが、そこに誰かが佇んでいた。
「あ、」
その人影は赤い。美琴がその赤い影を凝視しながら更に高度を下げていくと、
徐々にその輪郭が明確になっていく。
飛行のパフォーマンスでしくじった美琴を(多分)助けてくれた、あの赤い髪の男だった。
美琴は目を細めてその男の"右肩"に注目する。
彼の右肩に何か『蠢く赤い物体』が見えた気がしたが、美琴が注意深く観察しようと
した時にはその物体は最初から無かったように姿を消していた。
そしてその男も同じように、音もなく屋根の上から消え去る。
(黒子と同じ『空間移動系能力者』?)
美琴が疑問に思っていると、自分が地上まであと数メートルまでゆっくりと降下している事に気付いた。
眼下に広がる一〇〇メートルプールの水面は未だに波立ち、時折水飛沫が起こっている。
そのプールの水面に、
「ありゃ………?」
さっきまで自分と壮絶なバトルを繰り広げていたガウンの怪物が、溺死体のように
ぷかぷかと浮かんでいた。
つい数秒前まで人間離れした動きを見せていた怪物らしい迫力は微塵も窺えず、
事情を知らない人間が見たら本当に溺死体だと思ってしまうほどに身動き一つ取らない。
トン、と美琴は天から舞い降りた天使のような動作で緩やかにスタート台に足を乗せる。
同時に、観客席からさっきの赤い髪の男がゆっくりとプールに向かって歩き出し、軽く右腕を振るった。
その行動だけで、なぜかプールの中心で浮かんでいたガウンの怪物が彼の右腕に吸い込まれるように飛んでいく。
赤い髪の男は不気味なまでに黙り込んでいる観客に視線を集中されている事を気にも留めず、
「………素晴らしいショーだった」
「へ?」
端整な顔にいっぱいの汗を浮かべ、ひーこらひーこらばひんばひんと
短い間隔で荒い呼吸を繰り返している美琴に向かってこう言った。
「さすがは常盤台の『超電磁砲』。 "かねがね噂は耳にしていたが"、まさかここまで
素晴らしいパフォーマンスを披露してくれるとは。 いやはや、わざわざ常盤台中学に
足を運んで甲斐があったよ。 実に見応えのあるショーだった。 俺様は御坂美琴に
対し、惜しみない賞賛を贈りたいと心から思う」
本当にそう思っているのかどうか分からない平坦な声色で彼はそう言うと、
パチパチ……と気怠げに美琴へ拍手を送った。
その拍手の小気味良い音が、まるで催眠術を解くための目覚ましの役割を果たしたかのように、
「うわっ」
美琴の全周囲から爆発的な歓声が沸き上がった。観客達はフルラウンドで戦い抜いた
ボクサーを大いに称えるように、ある客は指笛を奏で、ある客は携帯電話を美琴に向けて
写メ機能のシャッターボタンを連打し、ある客は素直に拍手をしながら美琴に賛辞の言葉を送っていた。
「あ、え、えーっと…………あれー? ぶっちゃけ私は何もしてないような……」
美琴の呟きは鳴り止まない歓声によって羽虫のように吹き飛ばされる。
どうやらガウンの怪物をプールに沈めたのは美琴だと客は思い込んでいるようだ。
しかし当の本人にそんな記憶はない。
ガウンの怪物の首根っこを掴んでズルズルと引き摺りながらプールを出ようとする赤い髪の男。
美琴がチラリとその男に目を向けると、男もまた美琴の方を見て軽く片目を閉じてきた。
『とりあえず乗っかっとけ』
そう言われた気がした美琴は、ひとまず赤い髪の男に設問するのを後回しにし、
咳払いをして気持ちを切り替え、歳相応の明るい笑顔で観客の声援に応えるのだった。
こうして常盤台中学主催の能力実演ショーは、常盤台設立以来類を見ぬ大成功で幕を閉じた。 ………のか?
――――――――――――――――――――――
――学園都市・第七学区 常盤台中学 渡り廊下
フィアンマ「……いい加減に起きろこの馬鹿が」ゲシッ
ガブリエル「vitid痛spue」ムクッ
フィアンマ「ったく……見ろ、ここまで逃げてきたのにまだ周囲から痛い視線が送られてくる」
ガブリエル「?」キョロキョロ
フィアンマ「状況が把握出来ておらんようだな」
ガブリエル「ldut説明udk要求ahvu」
フィアンマ「説明しろと言いたいのは俺様の方だ。先のパフォーマンス、
お前も大体の事情を理解しての事だったんだろうが……」
ガブリエル「ornd肯定njce」ソウダヨ
フィアンマ「世界大戦の時もそうだったが、お前はとにかくやり過ぎなんだよ。
御坂美琴とかいう女もそのクチだったようだが、お前はあの女以上に
周りが盛り上がったらヒートアップする性格のようだな」
ガブリエル「jdi結果ydc」
フィアンマ「あのまま続けていたら御坂美琴が潰れてしまうところだった。
やむなく俺様が介入し、『右腕』でお前を沈めた。 それだけだ」
ガブリエル「xed何故pifn邪魔trakg」プンスカ
フィアンマ「黙れ」ゴスッ
ガブリエル「rusw痛dhyr」
フィアンマ「プールの水を操作して攻撃する所までは許容範囲だった。
この学園都市にはそういう能力者も実際にいたしな」
ガブリエル「……」
フィアンマ「しかし氷の現出や頭上の『輪』はやりすぎだ。 ……よし、
『聖なる右』はまだ行使出来るな……今日は調子がいいらしい。
打ち止めと番外個体にはあとで連絡するとして、さっさと逃げるぞ」
ガブリエル「byuy反省ladtr」ションボリ
フィアンマ「それと最後の『神戮』、もはや論外だ。 やはりお前を街の外に
出した俺様の容易な判断は間違っていたようだな」
ガブリエル「kxhy後生akry」ウルウル
フィアンマ「お前が涙目+上目遣いで許しを乞うても無駄だ、誰得だよ。
やはり大天使を安易に人間と接触させてはならんな……。
一方通行達にも厳しく言っておかなければ………」
ガブリエル「―――――、」ガブッ!
フィアンマ「ぐああぁ!!? くっ、噛み付くなこのクズ天使が!!
いい加減にしろ、お前のせいで人間が一人死ぬ所だったんだぞ!!」
ガブリエル「!」パッ
フィアンマ「ちぃ……歯も無いのに何で鋭い痛みが……」ズキズキ
ガブリエル「xsff謝罪uiaep」
フィアンマ「御坂美琴にか? ……いや、もうあの女とは。 というか、
あの女とその取り巻きとは二度と関わらん方が懸命だな。
打ち止めと番外個体とは後々連絡するとして、ひとまずここから――――」
美琴「ちょろっと~、何だかシリアスな雰囲気の所悪いんだけどさ」
フィアンマ「」
ガブリエル「qpty御免tuxnr」ペコッ
美琴「このままアンタらを帰すわけにはいか……、って何で頭下げてんのよアンタ」
白井「お姉様、やはり一度病院に行って精密検査を受けた方がよろしいのでは?
あんな戦闘をしたら『自分だけの現実』にも何らかの影響が……あら?」
初春「あー、いたいた! 火野さん、何で先に行っちゃうんですか~」
佐天「いや~それにしても本当に大盛況だったよねー。 御坂さん、かっこ良すぎました!」
美琴「え、う、うん……ありがと。 でもねえ……」
フィアンマ(……今すぐ『右腕』を行使してここからミーシャごと転移してもいいんだが、
先のパフォーマンスで俺様も割と目立ってしまっているからな……)ウーン
ガブリエル「………………」ペコペコ
美琴「いや、ていうか何でアンタはさっきから私に頭下げてんのって。
もしかして……謝ってたり、する?」
ガブリエル「―――――、」コクコク
白井「意外と律儀な方なんですのね」
フィアンマ(律儀というか、まずこいつの存在自体をもっと疑えよ。
翼とか輪とか……あれも演出だと思っているんだろうか)
美琴「いや、いいわよそんな謝らなくても……むしろ謝りたいのはこっちだし」
ガブリエル「?」チラッ
美琴「とりあえず、ごめんなさい。 そしてありがとうございました」ペコッ
ガブリエル「???」ハテ?
フィアンマ「何のつもりだ?」
美琴「アンタらのおかげで、今回の能力実演は成功したと言っていいわ。
私のミスを有耶無耶にしてくれたのもアンタらだし」
初春「さっき白井さんから聞いて驚きましたよ! 火野さんが
御坂さんを助けてくれたんですよね?」
フィアンマ「…………」
佐天「でもどうやって? あんな高い場所から一瞬で客席に御坂さんを引き寄せるなんて……」
白井「……あまり口にはしたくのない能力ですが、『座標移動(ムーブポイント)』の要領ですわね?」
フィアンマ(ムーブポイント……?)
美琴「アンタ、黒子と同じ『空間移動系能力者』でしょ? それもかなり高レベルな」
フィアンマ(またそれか、よく間違われるな)
美琴「あの時、アンタは空中にいる私の座標を計算してアポートしてくれた、そうでしょ?」
フィアンマ(座標……。 なるほど、『座標移動(ムーブポイント)』か)
美琴「だからアンタにも礼を言っておくわ。 ありがと、本当に助かった」
フィアンマ「気にするな。 では、俺様達はここで――――」
美琴「で、話 は 変 わ る ん だ け ど」ガッシィ
フィアンマ「く……」
美琴「アンタらには聞きたい事が山ほどあるのよ。 ちょろっとお時間よろしいかしら?」
フィアンマ「よろしくない、と言ったら?」
打ち止め「あ、こんな所にいたのねってミサカはミサカはミーシャ達まで
あの人みたいに迷子になったのかと内心呆れながら走ってみたり」トテテテ
番外個体「あれれー? もしかしてフィア……火野(笑)クン、修羅場ってたりしてますぅ?」ニヤニヤ
美琴「………………"あの二人についても"、ね?」ニッコリ
フィアンマ「(エイワス! 応答しろ、聞こえてるのか! エイワース!)」ブツブツ
ガブリエル「skitu談笑outw開始yrzm」
フィアンマ「談笑で済むかバカ野郎……」
美琴「テレポートして逃げたら許さないから」
フィアンマ「…………わかった」ハァ
482 : ◆3dKAx7itpI - 2011/11/12 00:46:43.69 WjlXMN99o 250/504今回はここまでです。
決着についてですが、これ以上やりあってても埒があきませんし、
互いが本気を出して戦ったら街が……という事でフィアンマに終わらせました。
つかフィアンマが同じ事二回言ってるシーンありますね、申し訳ありません。
次回は垣根帝督パートと、フィアンマパートをちょこっと。
フィアンマパートは面倒な話になりそうですが、よろしくお願いします。
次回更新は三日以内。
それでは、今日もありがとうございました!
【次回予告】
「言い方が悪くなるマスが、あなたの生き方はとても強欲だと私は思うデスマス。
能力と魔術、このどちらかの領域に立って人は生きていくものデスしょ。
どちらにも立たない人間の方が多いマスしょうが、才ある人間ならどちらか一方デス」
イギリス清教『必要悪の教会(ネセサリウス)』の魔術師――――――テオドシア=エレクトラ
「俺なりのケジメなんだよ。 魔術も能力も手にしてえって願望はな。
それが強欲だってのも自覚してる。 それでも俺は止まれねえんだ」
『天使同盟(アライアンス)』の構成員・学園都市第二位の超能力者(レベル5)『未元物質(ダークマター)』――――――垣根帝督
511 : ◆3dKAx7itpI - 2011/11/14 22:35:16.09 07UqiOaio 252/504こんばんわ、更新を開始します。
以前に風邪には気をつけてと言いましたが、その私が風邪を引いてしまいました。
哀れというか滑稽というか……明らかに他人から感染されたのですが。
皆様も本当に気をつけてください。
今回は垣根帝督パートと、最後にフィアンマパートを少し。
とりあえず考えをまとめた垣根帝督が行動に出ます。
それでは、よろしくお願いします!
――――――――――――――――――――――
うおおおおおガリガリに痩せこけた老婆が箒を片手に追いかけてくるううううう!!!、
なんて奇妙な叫び声を上げながら飛び跳ねるように起床した垣根帝督は朝から気分最悪だった。
「やっぱあのクソ変態女とは一度ケリつけなきゃならねえよな……」
ロシアの朝は日本のそれと比べて格別に冷える。
垣根は目を覚ましたものの、まだ包まった布団の中から脱することが出来なかった。
朝の八時を回ったところだった。
垣根は布団を纏ったまま芋虫のように床を這うと、片腕を伸ばして
部屋の隅に置いてあったファンヒーターを起動させる。
しばし間を置き、ファンヒーターが静かに恵みの暖を垣根に捧げてきた。
「よーし来た来た来た……………」
結局彼はエリザリーナ独立国同盟の居住区の空き部屋で一夜を過ごしていた。
昨夜の話し合いで『当面の目標は「未元物質」を取り戻すこと』という結論が下され、
垣根は夜遅くまで能力の演算を行っていたのだが、
「首尾は上々ってとこだな」
ロシアに来て最初の演算。思った以上に上手くいった。
『未元物質(ダークマター)』特有の白い無機質な翼が背中から現出する事こそ無かったものの、
大能力者(レベル4)程度の相手なら蹴散らせるくらいの能力は使用可能になっていた。
そもそも『未元物質』の演算自体は学園都市に居た頃から魔力の精製を比べて
滞ることなく順調に行えていたのだ。その点を考慮すると今回ここで能力を
引き出せるようになった事は何ら珍しくないのかもしれない。
しかし垣根帝督が安堵することはない。
ある程度『未元物質』は使えるようになってきたが、それによって魔力が精製出来る
という事はなかったからだ。
『「未元物質」と魔力の精製の因果関係』について考え、能力が戻れば魔力も戻ってくるのでは
と期待もそこそこに物は試しで魔術を使ってみようと実践してみたが、結果は変わらなかった。
「……」
昨夜、ドレスの少女に言われた言葉が垣根帝督の心に重くのしかかる。
『…………単純に垣根帝督が「能力者だから」、じゃないの? やっぱり』
学園都市で能力開発を受けた能力者は、魔術を使う事が出来ない。
厳密には、魔術を使おうとすれば魔術師と能力者のフォーマットの齟齬により
血管や神経に莫大な負荷がかかる。
既に能力者という『異能のセッティング』を施されている垣根帝督は
その上から新たに魔術という異能を組み込む事は出来ないのだ。
「……、」
それがどうした、と垣根は思う。
そんなルールなど、そんな常識など知った事ではないと、彼はファンヒーターに灯る
炎を見つめながら言い聞かせるように心の中でそう呟いた。
垣根帝督はその、『能力者は魔術を使えない』という常識以前の概念を
真正面から蹴り破った男だ。
彼は魔術を使ってた。疑いようもなく、彼は魔術を行使していたのだ。
本格的に使用し始めたのはここ、エリザリーナ独立国同盟でワシリーサと特訓を行った時。
そしてその特訓で培ってきた経験を『第一九学区事件』で余す事無く発揮した。
その際に抱えた負荷はいっそ殺してほしいと思える程苦しいものだったが、
それに見合った価値はあったと垣根は思う。
科学と魔術の力を有する存在として君臨出来るという事実に、垣根は何物にも変えられない価値を見出していた。
(だからこそ、もう一度取り戻さねえとな)
何事も手順を踏んでいく堅実さが大事だ。
とりあえずは目先の『「未元物質」を取り戻す』という目標から回収する。
今一度己の目標を確認した垣根は、そこで自分の腹が警報を発している事に気付いた。
「腹減ったな」
昨夜は急な来訪だったので独立国側が食事を用意できず(用意をしようとしてくれた事に驚いた)、
その辺の商店で購入したパンとスープで済ませていたのを思い出す。
どうやら垣根の腹はそれだけでは満足してくれなかったらしい。
垣根は億劫そうに立ち上がると、台所の冷蔵庫の中身を漁り始めた。
そこへ、
「グッモーニン"かっきー"!! 四男八女を相手に死闘を繰り広げながら
積んできた経験値を活かして作った特製モーニング定食(ロシアエディション)は
いかがデスマスかー!!」
「………子持ちのババアは朝からうるせえな」
金と銀が混じり合った髪を振り乱しながらノックもせずにハイテンションで
扉を開けたテオドシア=エレクトラは、垣根のナチュラルすぎるババア発言を受けて
とりあえずナイフとフォークを投擲しておいた。
「で、テメェは何でまだここにいるんだよ?」
「その言い様はないマスしょ。 私を呼んだのはあなたじゃんスか♪」
「呼んでねえ上に俺はテメェなんざ知らねえ。 俺が呼んだのはステイルだけだ、
お前も『必要悪の教会(ネセサリウス)』の魔術師らしいが、どこの所属だとかは
俺にとっちゃ重要じゃねえんだよ」
「私が作った朝ごはん、美味しい?」
「大変美味しゅうございます」
部屋を出てロシアの極寒を全身で浴びる事にまだ億劫さを感じていた垣根帝督にとって、
テオドシアからデリバリーで送られた朝食は非常にありがたかった。
しかもこれが大変美味で、わざわざ日本人である垣根に合わせてくれたのか、
ツヤツヤ炊きたて白米に鯖の塩焼き、絶妙な焼き加減の玉子焼きに色とりどりのサラダ、
豆腐入りの味噌汁に、どこから調達してきたのか納豆まで取り揃えているというまさにザ・朝食。
四男八女の人妻の実力は伊達ではないようだ。
「んな大量のガキを放置してママは魔女っ子やってますってか」
「ノンノン、女は一生家事やってろなんて時代はとっくに終わってマスぜボーイ?
愛する子供を養うためなら語尾に星つけて媚びまくる構えデスマス☆」
あっそ、と素っ気ない返事をしながら垣根はこれまた程良い味の濃さに調整された
味噌汁を啜る。
テオドシアはというと、垣根が持ってきたバッグを勝手に漁って彼自作のルーンの札を
見てはふむふむと博識っぽく頷いていた。実際、彼女は博識なのだが。
『必要悪の教会』所属のエキスパート、テオドシアは垣根が作ったルーンを見て、
「これステイルが作ったルーンのパクりデスしょ」
「うるせえ! パクリじゃねえよ参考にしたんだよだから似通ってんですぅ。
俺は魔術を使ってたが、魔術に関する知識はほとんどねえからな。
ま、一時期は『禁書目録』の知識を頭にぶち込むなんて無茶もやらかしたが」
「うへえ、そんな事したらイギリス清教が黙っちゃいないと
思うマスけど……。 ふーん………」
テオドシアはルーンの束をトントンと机の上で整えて、
垣根のバッグに戻しながらこう尋ねた。
「どうして垣根は魔術にそこまでこだわるマスか?」
「あん?」
納豆から引く糸と戦いながら垣根はテオドシアの方に首を向ける。
「あなたは学園都市の能力者デスよね? 私も以前仕事で学園都市に
行った事があるマスけど……。 能力者が魔術にこだわるなんて
話、聞いた事がないデスよ」
「だろうな。 能力者が魔術を使うと下手すりゃ死ぬ、それを分かってる
能力者がいたら尚更使いたくねえと思うだろうよ。 例え能力よりも
利便性の高い法則だと分かってても、付きまとうリスクが高すぎる」
「ハイリスクローリターンな人生がお好みとか?」
「まさか。 俺はこう見えても堅実な人生を歩みたいと思ってんだぞ?
つか魔術が使える時点でハイリターンじゃね? ……そんなヤツが
何で暗部なんてクソッたれな『闇』に浸ってたんだって話だけどな」
そう言って垣根は自嘲気味に笑うが、テオドシアは茶化したりはしなかった。
「言い方が悪くなるマスが、あなたの生き方はとても強欲だと私は思うデスマス。
能力と魔術、このどちらかの領域に立って人は生きていくものデスしょ。
どちらにも立たない人間の方が多いマスしょうが、才ある人間ならどちらか一方デス」
「……、」
「どちらでもない、曖昧な立ち位置を維持する事は非常に大変デス。
自分が立っている足元が見えなくなると、その人間はすぐに
堕落してしまう。 光でもない闇でもない『虚無』へと、ね」
「脅しか?」
「忠告マス。 そういう人間を私は沢山見てきましたデスよ。
私が見たケースは大体『日常か魔術か』の天秤に踊らされてマスしたが」
己の立場の確立。
これは蔑ろにされがちだが、非常に重要な事だ。立場の認識は即ち自己の認識。
自分が一体何者なのか、自分とは何なのか、その点を自分自身が理解していなければ
人は大した時間もかけず壊れてしまう。
日常に生きる人間はほとんどがこれを無意識に実行出来ている。
それは日常で暮らす人間が優れているのではなく、自己を確立させるという事が
"当たり前"だからだ。
しかし、魔術ないしは科学の領域に触れ、関わり、得た人間は違う。
途端に日常という枠組みから切り離され場合によってはそれだけで自身を見失ってしまう。
明確な非日常。今まで普通にやってきた事が出来なくなる。普通じゃ出来ないような事が
呼吸をするように容易に行えてしまう。
それでも己の立場をきちんと理解出来る者が現在も能力者や魔術師として生きているのだが、
「あなたは、どちらの領域にも立つつもりマスか?」
「そうだよ」
垣根の返答には一切の迷いがなかった。
「自慢じゃねえが、俺は学園都市第二位の超能力者だ。 あのクソ野郎
程じゃねえにしろ、学園都市の中でも最強クラスの能力者なんだよ」
「……、」
「そんな俺がある日、魔術という領域に足を踏み入れた。 第二位の俺がだぞ?
まぁここまでは第一位のあの野郎も実行している事だがな。 しかし俺は更に、
魔術の知識の宝庫でもある『禁書目録』にまで手を出しちまった。
ほんの少しの間とはいえ、俺はあの時ほぼ全ての魔術を把握しちまったんだ」
学園都市第二位という科学サイドとして大きなステータスを誇っている垣根帝督が、
『禁書目録』という魔術サイドにおける禁断の知識を手に入れた。
「俺なりのケジメなんだよ。 魔術も能力も手にしてえって願望はな。
それが強欲だってのも自覚してる。 それでも俺は止まれねえんだ」
「という事はあなたはまた『禁書目録』を得ようとしている、と?」
「あの知識が戻ってくるんならベストだが、さすがにそこまで高望みはしちゃいねえ。
あのクソシスター共もうるせえしな。 通常の魔力が戻るってとこで妥協しといてやる」
「にゃるほど。 あなたはなかなか面白い人デスマスねえ」
クスクスと笑うテオドシアを横目に、垣根は彼女お手製の朝食を食べ終えた。
その後、適当に洗顔や着替えをし終えると、
「つー訳だ。 お前も魔術師なんだろ? ちょっと俺の『未元物質』を
完璧に取り戻す作業に貢献しやがれ。 俺と勝負しようぜ」
「そんな街中で『決闘(デュエル)しようぜ!』みたいなノリで
言われても……。 …………こう見えても私、結構強いマスよ?」
突然の垣根のバトル宣言に、しかしテオドシアは動じるどころか
結構ノリノリで賛同してきた。
「と言ってもワシリーサほどじゃねえだろ? テメェなんざ生身で充分そうだ」
「はい、あからさまな死亡フラグありがとうございマース」
――――――――――――――――――――――
――学園都市・第七学区 常盤台中学 食堂
打ち止め「何にしよっかなー、ってミサカはミサカは豊富過ぎる
メニューを前にクラクラしながらお昼ご飯を選んでみたり♪」ピョコピョコ
白井「あーもうマジでカワユスなぁ。 動くたびに揺れるアホ毛がヤバい」ジュルリ
初春「アホ毛ちゃんの可愛さに悶えるのは結構ですが、
せめて自分のキャラくらいは維持してくださいよ」
佐天「いやそれにしても常盤台中学の食堂メニューはハンパじゃないね。
ウチとは格が違うよホント。 まず食券制じゃない時点で差が出てる」
美琴「とりあえず今日は私の奢りだから、みんなじゃんじゃん頼んじゃって」
佐天「マジっすかみこっちゃん!?」
美琴「誰がみこっちゃんよ」
初春「さすが御坂さん! 太っ腹です!」
美琴「最近気にしてるから腹に関するキーワードは避けて……」
白井「さすがはお姉様、その懐の広さにわたくしは改めてお姉様に―――」
美琴「あ、黒子は奢らないわよ。 アンタはここの生徒だし」
白井「――――そんなお姉様も素敵ですわ……」シュン
打ち止め「じゃ、じゃあお姉様のお言葉に甘えてミサカはミサカは
この食堂で一番高い料理を注文してみる!!」
番外個体「そういう一番高い料理って案外大したもんじゃなかったりするんだけどね。
じゃ、ミサカは無難にハンバーグ定食にするね、"お姉様"。 けけけ」
美琴「…………………」
ガブリエル「umry要求etycx」ビッ
フィアンマ「…………オムライス定食とステーキ定食(×5)、ビーフカレーに
常盤台特製親子丼、一端覧祭限定『フルコンボだ丼』、」
美琴「ちょっと! 食べ過ぎなんじゃないのいくら何でも!?」
フィアンマ「俺様は紅茶だけでいい。 このアホがそれだけ食いたいそうだ」
ガブリエル「………」ジー
美琴「わ、わかったわよ」タジッ
白井「にしても、今日は一日楽出来て気分が良いですの」
佐天「白井さんと初春は今日は非番なんだよね?」
白井「明日も非番ですの。 まぁ、第一七七支部に風紀委員の
体験講習に来る方とかが居なければの話ですけど………」
初春「そうですよー、この常盤台の能力実演をこの目で見るためなら
例え強盗事件が発生したって休みをいただきます」
初春「あ、そういえば御坂さ―――」
番外個体「お姉様はあの人達とちょっと折り入った話があるみたいだから
放っておいてあげた方がいいんじゃないかなぁ? ひひっ」
美琴「……」ギロッ
番外個体「おっと、怖い怖い」
打ち止め「意地悪な事言わないのってミサカはミサカは注意してみる!」プンスカ
白井(本当に仲悪いんですのねこの姉妹達は……)
佐天(お姉さんがお姉様って呼んでるのがどうしても気になるなぁ……)
美琴「……………それで、」
フィアンマ「……」
美琴「聞きたい事が山ほどあるんだけど」
フィアンマ「何だろうな、心当たりはないんだが」
美琴「そうね。 まずはあの二人の事について」
フィアンマ「知らんよ」
美琴「アンタねえ……」
フィアンマ「いや悪いが、俺様は本当に何も知らん。 あの二人が
お前のクローンだという事以外はな」
美琴「………! やっぱり……、」
フィアンマ「どういう経緯で製造され、どういう目的で世に放り出されたのか、
俺様は何も知らんし興味もない」
美琴「あの二人、私は見た事ないんだけど」
フィアンマ「そうか」
美琴「どう考えても普通の『妹達』とは違うわよね。 個体差もあるし」
フィアンマ「『妹達』? お前のクローン体はそういう総称なのか」
美琴「……」ギロッ
フィアンマ「だから本当に何も知らんと言っているだろうが」
美琴「だったら何でアンタはあの二人と一緒にいるのよ」
フィアンマ「成り行きだよ。 詳しい事情は長ったらしいので割愛させてもらう」
美琴「私はその割愛された部分について聞きたいのよ!」
フィアンマ「本人達に聞いたらどうなんだ? あの二人が
話せば俺様も補足していってやってもいい」
美琴「………」チラッ
打ち止め「ごっはんーごっはんー、まっだかな~♪」
ガブリエル「tusur同意vxot」
番外個体「ここにいる生徒見てると、何だか無性にそいつらを"汚したくなる"衝動に駆られない?」
佐天「駆られない」
白井「よ、汚すとはどういう意味で……?」ゴクリ
初春「食いつかないでくださいよ……」
536 : ◆3dKAx7itpI - 2011/11/14 23:05:32.76 07UqiOaio 277/504今回はここまでです。
垣根帝督がえらいわかりやすくフラグを立てている頃、
常盤台中学では何だか暗い展開が……。
まぁせっかくクローンの二人と対面出来たのでこういう話してみようかなと
考えました。本筋には関係ないのですぐ終わります、ご安心を。
次回はフィアンマパート……ていうかもう御坂パートと言った方が正しいかもしれませんね。
次回更新は三日以内。
それでは、今日もありがとうございました!
【次回予告】
「『第三次製造計画』……? 司令塔……?」
学園都市・常盤台中学の超能力者(レベル5)――――――御坂美琴
「さーて、これどこまで話してもいいもんなのかね」
『妹達(シスターズ)』第三次製造計画(サードシーズン)で作られた御坂美琴のクローン――――――番外個体(ミサカワースト)
「dtiuo美味fydte」
『天使同盟(アライアンス)』の構成員・水を司る大天使『神の力(ガブリエル)』――――――ミーシャ=クロイツェフ
「ぎゃあああああああ!!!? み、ミーシャさん!!! 私の花は食べ物じゃないですよー!!!」
第一七七支部所属の風紀委員(ジャッジメント)――――――初春飾利
570 : 20001 - 2011/11/16 01:46:46.58 JIna3nqDO 279/504そんなことより打ち止めの話しようよ!って、ミサカはミサカはこっそり自分を支援してみる
571 : VIPに... - 2011/11/16 02:16:55.89 LG/I7zRS0 280/504>>570
一方通行主役のSSでここまで上位個体の影が薄いのも珍し…くもないか、原作でもそんな感じだし
とミサカは上位個体へ反旗を翻します
他の妹達も出ないかなー
572 : VIPに... - 2011/11/16 18:59:40.29 muJfOhlko 281/504そういや槍投げた時に妹達とお話しする約束してたしな
575 : ◆3dKAx7itpI - 2011/11/16 23:26:19.96 3XBahJAeo 282/504>>571-572
他の妹達の件も忘れてはいませんぜ。
という訳でこんばんわ。更新を開始します。
今年も残りわずかとなってきました。このSSが今年中に終わるかと問われれば……、…………。
さて、今回は常盤台中学で美琴と打ち止め、番外個体を中心とした
お話が展開されます。『天使同盟』どこいったって感じですが、このお話は
今回の投下で終わるのでご安心ください。
それでは、よろしくお願いします!
美琴「……またあの『実験』が始まったとでもいうの?」
フィアンマ「実験?」
美琴「私の……クローン体を量産するっていう」
フィアンマ「ほう。 いいのか、俺様の前で学園都市の『闇』に
関わるような話をしても」
美琴「アンタだって知ってんでしょ? 諸々の事情は」
フィアンマ「さっきも言ったが、経緯と目的は知らん」
美琴「言わなきゃダメ?」
フィアンマ「これも先ほど言ったが、興味がない」
美琴「……アンタもある意味、どうかしてるわ」
フィアンマ「出会ったばかりの人間に対する発言とは思えんな」
美琴「…………ごめん」
フィアンマ「構わん。 事実、俺様はどうかしていたしな」
美琴「?」
フィアンマ「俺様とその実験に因果関係を持たせたいらしいな」
美琴「クローンの二人に加え、ガウンを着たあんな怪物まで
引き連れてきたんでしょアンタ。 そりゃ疑うわよ」
フィアンマ「……そりゃもっともだ」
美琴「…………ねえ、ちょっと」
打ち止め「?」
番外個体「……。 なぁに、お姉様?」
美琴「……………」
美琴「"久々に会ったんだしさ"、ちょっと姉妹水入らず
でお話しない? 積もる話も色々あるだろうし」
番外個体(おおっと、こいつは予想外。 まさかお姉様の方から接触を試みてくるとはね)
打ち止め「うん、良いよ! ってミサカはミサカはお姉様に抱きついてみる!」ギュッ
美琴「うわっ、と! ……まんま私の小さい頃の姿ね」
番外個体「お姉様がお呼びなんで、ちょっと外すけどいいかにゃん?」ガタッ
白井「………………ええ、ごゆっくりどうぞ」
初春「(……仲直り出来るといいですね)」ボソッ
佐天「(そうだねー)」ヒソヒソ
フィアンマ「なら俺様は帰らせ――――」
美琴「アンタはここにいなさい」ガシッ
フィアンマ「……………」
ガブリエル「dtiuo美味fydte」モシャモシャ
初春「ぎゃあああああああ!!!? み、ミーシャさん!!!
私の花は食べ物じゃないですよー!!!」
佐天「た、大変! 初春が、初春の『核(コア)』がぁぁ!!」
白井「こ、コア……?」
美琴「アンタ達は何なの?」
打ち止め「ミサカは打ち止め(ラストオーダー)だよって
ミサカはミサカは初めてまともに会えたお姉様に挨拶してみる!」ニコッ
番外個体「ミサカも一応お姉様のクローン体だけどさぁ、製造した実験は
『量産型能力者計画』とはまた少し違うんだよね~」
美琴「え……!? だって私のクローン体はあの実験でしか、」
番外個体「『第三次製造計画(サードシーズン)』の番外個体(ミサカワースト)。
初めまして、よろしくねお姉様♪」ケケケ
打ち止め「ミサカは『妹達』の司令塔の役割を担っているの、って
ミサカはミサカは簡単にミサカの事を説明してみたり」
美琴「『第三次製造計画』……? 司令塔……?」
番外個体「さーて、これどこまで話してもいいもんなのかね」
打ち止め「付け加えると、ミサカはミサカネットワークを管理している
管理人みたいなものかなってミサカはミサカは補足してみたり」
美琴「じゃあアンタが製造番号二〇〇〇〇なの?」
打ち止め「ううん、ミサカは二〇〇〇一号だよってミサカはミサカは訂正してみる」
フィアンマ(二〇〇〇〇人以上も御坂美琴のクローンがいるのか……?
想像しただけで身震いする現実だな……滑稽すぎて)
美琴「……アンタは?」
番外個体「このミサカにナンバリングは無い。 だから番外個体なんだけど、
ちょっと考えたらすぐにわかるんじゃないのこの程度」
美琴「……アンタ、さっきから思ってたけど、ずいぶん私に対して突っかかってくるわよね」
番外個体「お姉様さえ居なきゃこのミサカが製造されてクローンとしての
現実と対面するという苦しみを味わう事もなかった。 だから
ミサカはお姉様を恨んでる……なんて言ったらどうする?」
美琴「!! ……ぅ……」
番外個体「けけけ、冗談冗談♪ 今更出てきたオリジナルに恨みも何もないよん」
打ち止め「……お姉様、大丈夫? ってミサカはミサカは
お姉様の顔を見つめながら心配してみる」
美琴「……アンタみたいなちびっ子に心配されるほどヤワじゃないわ」
番外個体「他に聞きたい事ないの? 例えば―――」
美琴「?」
番外個体「第一位の一方通行の事、とかさ」
美琴「…………ッッ!!!」ギリッ
打ち止め「…………」
フィアンマ(マジで帰りたいんだが)
美琴「やっぱりその『第三次製造計画』とかいうのも
一方通行が関わってるって事?」
番外個体「まあね。 でもその計画は事実上凍結状態になってるけど」
美琴「?」
番外個体「第一位が何のアクションも起こさないから」
美琴「どういう事……?」
打ち止め「もうあの人はミサカ達の実験に関与する事はないの、
ってミサカはミサカは結論を述べてみる」
美琴「一方通行が実験を放棄してるって事?」
番外個体「『第三次製造計画』は少し趣向が違うんだよ」
美琴「?」
番外個体「言ってもいいけど、これ聞いたらお姉様、頭こんがらがっちゃうかもよ?」
美琴「………」
美琴「聞かせて」
番外個体「『第三次製造計画』は統括理事会の思惑から外れた一方通行と、
そこにいる上位個体、最終信号への対策として立案した計画」
打ち止め「あの人はね、ミサカ達『妹達』を一生守っていくって誓いを
心の中で立ててるのってミサカはミサカは説明してみる」
美琴「……、…………? ………は?」
番外個体「ほらね、もう訳わかんなくなってきてる」
美琴「あ、一方通行が……あのクローン体を守る?」
番外個体「第一位がそう決めた以上、あの人は何が何でもそれを貫き通す。
でも統括理事会としてはその状況は面白くない」
美琴「ちょ、ちょっと待って………」
番外個体「そこで立案されたのが『第三次製造計画』。 現存している『妹達』を
守ると決めた一方通行の心をへし折る、ただそれだけのために
生み出された計画。 このミサカはその計画の始発点って事」
美琴「……………………」
打ち止め「でも『第三次製造計画』の真の目的に、既存の『妹達』を全て抹消して
その計画で作り出した新たなクローン体でミサカネットワークを形成しようと
いう企みがあったのってミサカはミサカはバックログを閲覧しながら説明してみたり」
美琴「何よ、それ……。 そんなの私、聞いてないわよ」
番外個体「そりゃそうでしょ。 『闇』に関わってないお姉様がこんな情報を
得られる訳がない。 四六時中第一位の周囲の情報を洗ったりしてりゃ
手に入れる事が出来るかもしれない情報だけどね」
美琴「でも……一方通行は、」
番外個体「真っ向から反発したよ。 自分を殺しにきたこのミサカをも
助けたり、挙句の果てにはこのミサカに『五月計画』の要領で
新たな演算パターンを取得させて計画そのものを台無しにしようと
したりね。 けけっ、今思い出してもあの時の第一位の真顔は笑えるよ」ケタケタ
美琴「………統括理事会相手に真正面から反抗してるって事? 今の一方通行は」
打ち止め「あの人はミサカ達を守るためにボロボロになりながら頑張ってくれたの、
ってミサカはミサカはあの人のいない所で感謝をしてみたり」
美琴「……感謝?」
打ち止め「お姉さ―――」
美琴「感謝って、何? あの化物に? アンタらクローンは感謝してるっていうの?」
番外個体「別にミサカは感謝なんてしてないけど」
美琴「この事、他の『妹達』は知ってるの?」
打ち止め「うん……、ってミサカはミサカは恐る恐る頷いてみる」
美琴「……あれだけ好き勝手に『妹達』を殺しておきながら、何のつもりか
知らないけど残りの『妹達』を守るって決めて、その事にアンタは
感謝してるって事?」
打ち止め「……」
美琴「冗談やめてよ……」
番外個体「まぁ、そうなるよねえ」
美琴「そんなの、勝手過ぎるでしょうが!! そんな事で今までやってきた
事が帳消しになるとでも思ってんの!? そんな簡単な問題じゃない!!
いきなり手の平返して『妹達』を守るなんて決めたからって、そんな……!!」
フィアンマ「……ちょっといいか?」
番外個体「ん?」
フィアンマ「一方通行が『妹達』を殺したというのは? それが『実験』なのか?」
番外個体「夏頃に行われたんだっけ。 二〇〇〇〇人の『妹達』をブチ殺して
『絶対能力者(レベル6)』に昇格出来るかっていう愉快な実験だよ」
フィアンマ「なるほど。 つまり一方通行が殺したのは製造されたクローン体なのか」
美琴「クローンだから殺してもいいって言いたいの……!?」
フィアンマ「落ち着け。 そんな事は言っておらん」
美琴「……」
打ち止め「ミサカ達はあの人の事を許した訳じゃないよって
ミサカはミサカは補足してみたり」
美琴「……?」
打ち止め「あの人がミサカ達にひどい事をしてきたのは揺るぎ無い事実。
ミサカはミサカも含め、『妹達』全員がその事を許す事はない、
ってミサカはミサカは真剣な面持ちで述べてみる」
美琴「だったら、」
打ち止め「でも、あの人がこの先ずっとミサカ達を守ると誓ったのも
また揺るぎ無い事実。 ミサカ達はそんなあの人の気持ちを
尊重する、あの人がミサカ達を守るというなら、死ぬまで
その誓いを貫いてもらうってミサカはミサカは改めて決心してみる」
番外個体「おお怖っ。 くたばるまでお人形の世話しなきゃならないなんて、
あの人も難儀なモンを抱えちゃってるよねえ、けけけ」
美琴「……人形だなんて言わないで……」
番外個体「……こりゃ失礼」
ガブリエル「glut腹lzpl痛aqpir」グギュリュリュリュルルル
初春「あはハは! この星でない物ヲ口にしたリスるから!
言ってオキますけど、あなたもう生キテ帰れませんよ」カタカタカタカタ
佐天「やはりこうなったか……。 初春の花は対象を『中』から食い尽くす」
白井「……念のため確認しますけど、これコントですわよね?」
美琴「……………」
打ち止め「……お姉様、大丈夫? ってミサカはミサカは心配してみる」
美琴「……………」
美琴「クローンのアンタに心配されちゃ世話ないわね」
番外個体「どう? お姉様、現実ってモンの味は」
美琴「………胃もたれで吐きそうだわ」
番外個体「あひゃひゃひゃ、結構結構」
美琴「……アンタ達は、それでいいの?」
打ち止め「うん。 それがミサカ達の総意だからってミサカはミサカは頷いてみる」
美琴「…………悪いけど、」
フィアンマ「……」
美琴「それでも私があのクソ野郎を許す事は、永遠に無いわ。
もちろんアイツの気持ちを汲むなんて事も、絶対にない」
番外個体「そうこなきゃ。 あっさりと和解しましたなんて都合のいい展開は
ミサカ的にも面白く無いしね。 もっとドロドロしていこうよ」
打ち止め「……」
美琴「でも、」
打ち止め「?」
美琴「私がアンタを……、ええっと、打ち止めだっけ? 私がアンタ達を否定する事も、しないわ」
番外個体「それってこのミサカも含まれてる?」
美琴「……そりゃそうよ」
番外個体「あらら、案外甘ちゃんだねえお姉様(オリジナル)ってのも」
美琴「そう言いたきゃ言えばいいわ」
打ち止め「……ありがとうお姉様ってミサカはミサカは笑顔で感謝してみる!」ニコッ
美琴「………はぁ、何かもう一気に疲れが増したわ」ゲンナリ
フィアンマ(結局俺様までこの話を聞いた意味はなんだったのだろうか)
美琴「……そうだ、まだ一つ納得出来ない事があるんだけど」
番外個体「お? なになに、どす黒い展開ならミサカ好みなんだけど♪」
美琴「ど、……」
打ち止め「?」
美琴「ど、どうして私のクローン体のクセに、アンタそんなに胸がデカいのよ!?」
番外個体「……………、はあ?」キョトン
打ち止め「それには激しく同意してみるってミサカはミサカはけしからん
胸を見せつけてくる妹に敵対心を向けてみたり!!」ガルルル
番外個体「そんなの、ミサカだって女の子だもん。 "女なら胸が出て当然なんじゃない?"」モニュモニュ
美琴「ていうかアンタの風貌が気に入らないのよ!! 全てにおいて私より大人っぽいっていうか……」
番外個体「どうせクローン作るならオリジナルが持つ要素をどれでもいいから越えてみたい、
なんてクソどうでもいい願望が実現してんじゃないの? ミサカにはわかんにゃーい♪」
美琴「ぐぬぬ……、どうしてアンタそんなに性格悪いのよ……」
番外個体「黒い時のお姉様を参考に作られたからです」
美琴「さらっと嘘つくなー!!! 私は信じないわよそんなの!!」
白井「あ、あの……お姉様?」
美琴「はっ!?」
佐天「何だかずいぶん盛り上がってますねー」
番外個体「いやね、何かお姉様がミサカの胸に嫉妬―――」
美琴「しとらんわっ!!」
初春「まさか私のお花と『対話』する事で侵食を防ぐだなんて……」グスッ
ガブリエル「utxpo勝利qytdnf」ケプ
フィアンマ「……何をやってるんだお前らは……」
白井「お姉様、お話はもういいんですの?」
美琴「………うん」
佐天「御坂さん?」
美琴「ごめん。 もう大丈夫だから」ニコッ
白井「そうですの? それならいいのですが……」
佐天「(何だか御坂さん、吹っ切れたって感じですね)」ヒソヒソ
白井「……、」
フィアンマ「じゃあ俺様だけでも先に帰っていいな?」
美琴「今度はアンタに話があるんじゃい」ガシッ
フィアンマ(ええい面倒な女だなこいつは……)
佐天「あ、ご飯来たみたいですよ! ほらほら、初春も元気出しなって!
花なんてまた咲かせればいいじゃん、ね?」
初春「咲かせればって……」
打ち止め「ミサカはみんなで『いただきます』がしたい! って
ミサカはミサカは挙手をして提案してみる!」
599 : ◆3dKAx7itpI - 2011/11/17 00:01:01.30 UbDf0xWao 305/504今回はここまでです。
御坂がフィアンマはその場に居させたのは一人で打ち止め達の話を聞く勇気がなかったからです。
あともう一つ、もちろんミーシャの正体を言及するためですが、それは次回で。
そして次回はさらに、ようやく主人公の一方通行が出てきます。
この人かなり出番無かったな……次はどの女の子と過ごすのでしょうか。
次回更新は三日以内。
それでは、今日もありがとうございました!
【次回予告】
「まァ、ンな事はどォでもイイ。 ……今日はどォすっかな」
『天使同盟(アライアンス)』のリーダー・学園都市最強の超能力者(レベル5)――――――一方通行(アクセラレータ)
「………私達、初めましてでしたっけ?」
天草式十字凄教徒の少女――――――五和
「それ……私も今思いました。 どこかでお会いしたような………?」
『天使同盟』の構成員・AIM拡散力場の集合体――――――風斬氷華
644 : VIPに... - 2011/11/18 06:52:20.39 A9digc2DO 307/504ガブリエルのアルファベットの羅列
「mtjgah天使jmptwg」
このアルファベットってなんか意味や法則あんの?
適当??
650 : ◆3dKAx7itpI - 2011/11/19 11:49:18.85 AEWRhGSxo 308/504ちょ、ちょっと待ってくれ……この支援レスの多さは何ですか
いえ大変嬉しい気持ちでいっぱいなのですが、改めて御坂美琴という
キャラクターの人気ぶりに驚嘆させられました。さすがは本家ヒロインキャラの一人。
>>644
適当です。小ネタでもたまには挟もうかという考えも浮かびますが、
そんな事してる暇があったら少しでも物語を進めようという考えが
優先されるので、やはり基本的には適当です。
そんな訳で、今日はお昼の更新です。
今回はフィアンマパートのまとめと、一方通行パートへの移行部分をお送りします。
それでは、よろしくお願いします!
――――――――――――――――――――――
フィアンマ「…………ふん」
美琴「?」
フィアンマ「……オリジナルとクローンが顔を合わせれば必然的にこうなる」
番外個体「ん?」
打ち止め「……」
美琴「そうね、そりゃそうよ。 個人的にはもう少し早く会いたかったかな」
フィアンマ「打ち止め」
打ち止め「ん……」
フィアンマ「一応この話題に決着がついたとはいえ、御坂美琴はひどく混乱した。
詳しい事情は俺様にもまだわからんが、御坂美琴に対し一方通行と
お前らの関係について打ち明けるとそうなる事は理解していただろう」
打ち止め「……」
フィアンマ「御坂美琴の混乱ぶりが見たいとお前が望んでいるはずがないのは
俺様にも分かる。 ならばなぜ、お前は常盤台中学に足を運んで
御坂美琴に会いたいなどと提案した? お前なりのけじめか?」
美琴「……! アンタがここへ連れてきたんじゃないの?」
フィアンマ「俺様が? なぜそう思う?」
美琴「アンタも一方通行やこの子達と繋がりを持っているから、よ。
この子達と私を会わせるためにアンタが連れてきたんだと……」
フィアンマ「何度でも言おう。 俺様は今の今までお前らの『実験』に関する
情報を持ち合わせておらんかった。 これで証明出来たかな?」
美琴「…………迂闊だったわ」
フィアンマ「案ずるな、口外などせんよ」
番外個体「無関係者がどうしてそんな事を聞くのかな?」
フィアンマ「素朴な疑問だ。 答えたくないのならそれで構わん」
打ち止め「……わかってたよ、ってミサカはミサカは素直に認めてみる」
美琴「……」
打ち止め「でも……例えお姉様の迷惑になるとわかってても、ミサカは
お姉様に会いたかったの、ってミサカはミサカは……、……」シュン
美琴「……」
番外個体「手間のかかる上司ですこと」
美琴「……さっきも言ったでしょ」
打ち止め「?」
美琴「私はアンタ達を否定したりしない。 ……一度は否定したけど、
私は私の『妹達』を受け入れる、だからもう大丈夫だって」
打ち止め「……」
美琴「また機会があったら、一緒に遊びましょう?」ニコッ
打ち止め「う、うん! ってミサカはミサカは満面の笑みで頷いてみる!」
フィアンマ「……強いな、お前らは」
美琴「私と、"私達"だもん。 ヤワな精神なんて持ち合わせてないわ」
番外個体「ミサカは遠慮願いたいけどね~」
美琴「アンタとはまたいつか『タイマン』でお話したいわねえ……」ゴゴゴ
番外個体「胸大きくして出直してきな、お姉様」ケケケ
――――――――――――――――――――――
美琴「さて、そろそろアンタにも話を聞いておかないとね」
フィアンマ「手短にな」
美琴「じゃあ単刀直入に聞くけど、アンタらは何?」
ガブリエル「?」モグモグ
フィアンマ「学園都市に住む善良な一般市民だ」
美琴「悪いけど私はシリアスとギャグは弁えたい主義なの」
フィアンマ「どの口がそんな事を言うんだか。 今の俺様のセリフのどこにギャグ要素が?」
美琴「善良かどうかは置いといて、一般市民な訳ないでしょ」
フィアンマ「人を見かけで判断するなと親から教わらんかったのか?」
美琴「……この際、アンタについては言及しないわ。 ただ、」
ガブリエル「tudxm奪取pbccyr」ヒョイパク
打ち止め「あー! ミサカのミサカのハンバーグ勝手に取るなーっ!!」
美琴「この『水流操作系能力者』……、こいつは何者?」
フィアンマ「化物」
美琴「でしょうね」
フィアンマ「こいつこそ深く追求せん方がお前のためだぞ」
美琴「お互いの秘密は共有するのがフェアってもんじゃない?」
フィアンマ「そう来たか。 俺様はお前らの素性など知るつもりはなかったんだが……」
ガブリエル「yts美琴」
美琴「へ? あ、今……私の名前呼んだ?」
ガブリエル「vxjt連絡aqwv交換lsgdd」スッ
美琴「え? なになに? 携帯なんて出されても……」
フィアンマ「……連絡先を交換しよう、と言っている」
美琴「あ、アンタこいつの言葉が分かるの? って、ごめん。 目の前で失礼な事言って……」
ガブリエル「jcg無問題rydx。 xgte再戦uyy希望dfs」
フィアンマ「『またいつか熱いバトルをしようぜ』、……だそうだ。
お前いつからそんな熱血キャラになったんだよ」
美琴「う、う~ん……」
フィアンマ「まぁ、いいんじゃないか? クローンを受け入れたお前なら、
或いはこいつとも上手く付き合えるかもしれんぞ? そうだな、
俺様とこいつの素性を知りたいのならこの機会は甘受しておけ」
美琴「…………どういう意味よ、それ」
ガブリエル「uyidj再戦lxpit」シュッ シュッ
美琴「やる気満々でシャドーしてくんな! 二度とやりたくないわよ、次やったらホントに
死んじゃいそう……。 えーと、メアド交換って事ね? 別にいいわよ、ほら」パカッ
ガブリエル「?」
美琴「赤外線でお互いの連絡先を交換するの。 ……ええい、ちょっと貸しなさい。
自分の携帯電話の操作方法くらい把握しておきなさいよ」ピピッ ピッ
ガブリエル「……」
美琴「はい、これでオッケー。 別にいつでもメールくれていいわよ。
……アンタなら気晴らしに丁度いい相手かもしれないし」
ガブリエル「chet御意ldyt」
フィアンマ「俺様からも少し聞きたい事がある」
美琴「何よ」
フィアンマ「あの背中から翼を生やした時のパフォーマンス。 なぜ失敗した?
ここまでのお前の実力から見て、あの場面で急に調子を崩すのは不自然だろう」
美琴「………………」
フィアンマ「………ま、これも答えられんのなら別に―――――」
美琴「たまたまよ」
フィアンマ「?」
美琴「たまたま演算をミスしただけ。 あの翼の現出はかなり演算処理が難しいし。
パフォーマンスとはいえ、あんな大勢の前でやるとなると私だって緊張するって事」
フィアンマ「そうか」
美琴「………………………………」ハァ…
フィアンマ(…………さて、と)スッ
白井「お姉様ぁ♪ さあ、わたくしが『あ~ん』した差し上げますので、
このオムライス一口いかがですの?」
美琴「…………」
白井「お姉様?」
美琴「いらないっつーの」コツン
白井「あ痛っ。 んもう……お姉様のいけず。 ……あら? 火野さんとミーシャさんは?」
美琴「へ?」クルッ
美琴「あ、あいつら逃げやがったぁぁぁぁぁ!!! しかもあのデカブツの方は
しっかりご飯全部食べてるし!! この短時間で!!」
――――――――――――――――――――――
「『御使堕し』が発動したらまた連絡する。 お前の仕事はそこからが本番だ」
「了解! ってミサカはミサカは敬礼しながら返事をしてみる。
……それと、もうミサカ達を置いて逃げたりしたらダメだからねって
ミサカはミサカは二人に忠告してみたり!」
「あーあ、今日はもう疲れちゃった。 シャワー浴びてさっさと寝よっと」
「cjgh御休tiup」
フィアンマは打ち止めに最後の念を押すと、踵を返してファミリーサイドを後にした。
ミーシャも打ち止めと番外個体に手を振りながら彼の後に着いて行く。
結局フィアンマは御坂美琴に魔術の法則についてや『天使同盟(アライアンス)』の事に関しては
一切何も話さず、『聖なる右』を行使してミーシャと共に常盤台中学から逃走した。
関わらせなくてもよい方法があるなら、それに従った方がいい。散々無茶をやらかしたからといって、
その流れで全てを暴露してしまう必要はない。
美琴は当然納得がいかなったようで、何度も何度も打ち止めや番外個体に詰め寄っては
ミーシャやフィアンマの『力』について言及してきたらしいが、二人はのらりくらりと
それをかわした。というか打ち止めも番外個体も彼らの力の詳細は知らないのだ。
御坂美琴。打ち止め。番外個体。彼女達が再び出会える日は訪れるのだろうか。
「もう夜か……。 つまらん事に時間を割きすぎたな」
学園都市は今日の一端覧祭の後片付けをしている所だった。
明日はどのような工夫を凝らして集客効果を高めようか。明日はどの学校に行ってみようか。
学生や『外』からやってきた人間達は、確約されている明日に胸を膨らませながら帰路についている。
「そうだ、ちょっとお前の持っている携帯電話を貸せ」
「nxftj了解aqejl」
「……、…………。 よし、これでいい」
「?」
フィアンマから手渡されたミーシャの携帯電話。その本体の裏面に
奇妙な文字が走った札が貼られていた。
「打ち止めを含めた作戦遂行時、『ヤツら』にお前の携帯電話を渡さねば
ならんだろう? それを貼っておけば"あっち"からでもメールの送受信が
可能になるようにしておいた。 ただし、通話機能は削除させてもらったがな」
「……」
「念のためだ、気にするな。 ……それより、」
フィアンマは周囲に目を配りながら話題を変える。
「祭りは充分に楽しんだか?」
「dkge満足uopsr」
「だろうな、今日のお前ははしゃぎ過ぎた。 ……まぁ目を瞑って
おいてやるよ。一方通行への報告も今回は見逃してやる」
フィアンマは今日だけで何度も使用してしまった右腕の調子を確かめながら言う。
「だから約束は守ってもらうぞ。 しばらくお前は外出禁止だ。
どこか人目のつかん場所に引きこもってアストラル化する準備でもしておけ」
「choute御意erttfp」
普段のミーシャならここで駄々の一つでもこねていただろうが、そうはしなかった。
フィアンマの外出禁止令にミーシャは納得したように頷いて了承する。
『御使堕し(エンゼルフォール)』。
これよりフィアンマはその大魔術の準備に取り掛かる。
この大魔術は別位相に位置する天使の魂を人間界へ引き摺り下ろすという
いかにも魔術らしい魔術なのだが、発動した際に世界全土へ大きな影響を引き起こす。
天界より引き摺り下ろされた天使の魂はランダムで(『御使堕し』を実行する魔術師のレベルが高ければ
入り込む人間の指定も可能)人間界の人間の魂を"追い出し"入り込む。
それによって天使は人間の肉体を手に入れ活動することになるのだが、追い出された人間の魂はと言うと
これもまた不特定多数の人間の魂を追い出し、その肉の器に入り込むのだ。
この入れ替わり現象、セフィロトの樹という抽象的概念上で発生するため精神の移動は座標的に起こらない。
そして『御使堕し』は天使を上位セフィラから下位セフィラへ強制的に引き摺り下ろすため、
その影響で一〇のセフィラが形成する『四界』が歪んでしまうリスクがある。
ローマ正教の『神の右席』で四界の乱れに気付いていたのはフィアンマだけだった。
フィアンマはミーシャに尋ねる。
「お前の魂の移転先は本当にサーシャ=クロイツェフでいいんだな?」
「srfexwbafm……、uhkrgpestm」
「まぁそれが無難だろうな。 一度あの女の肉体を器としている以上、
またお前の魂が入り込む事になってもある程度の耐性が付いているだろうし。
……しかし今回の『御使堕し』には問題点がいくつかある」
「?」
お前も大体は理解しているだろうが、と前置きして、
「まず、早い段階でお前には一度元のセフィラに帰ってもらわねばならん。
お前が位置するセフィラは『イェソド』だったか。 帰る際も慎重に帰らねば
またこの世界の属性が乱れてしまうかも知れんから充分に注意しろ」
「yjfcu承知nnffrj」
「それと、お前の魂に追い出されたサーシャ=クロイツェフの魂の処遇。
ここを上手くせんと、かの『御使堕し』のように世界全土に影響が及んでしまう。
魂なんて定義が曖昧なものを保護する……、いくら俺様でも成功率は高くない。
まるで気が進まんが、エイワス辺りに協力を要請するハメになるかもしれん」
今回、この大魔術を発動させるにおいてフィアンマは人間の魂の入れ替わりを
どうにかして阻止しようと考えていた。
それにはミーシャの魂→サーシャの器→サーシャの魂→他の人間の器という経緯から『サーシャの魂』を
他の人間の器に移動させないようにしなければならない。
それは『御使堕し』という大魔術を根本から塗り替えす大偉業だ。歴史上、そんな事を成し遂げた
魔術師は一人として存在せず、それ以前に試みようと思った魔術師もいない。
「現在、恐らく空席になっている『イェソド』にサーシャ=クロイツェフの魂を
保管しておくという手もあるが……危険過ぎる。 セフィロトの樹を管理している
連中に感づかれたら面倒だしな。 『マルクト』を経由してクリフォトの『バチカル』か
或いは『アクゼリュス』にでも隠して……いや、ダメか。 俺様のミカエル程度で
干渉できる領域じゃない。 セフィラとなると『黄金』系の連中がより詳しいが、
まさか俺様が直々に協力を要請する訳にもいかんしな。 他に何か手は………」
隣で何やらぶつぶつと独り言を呟くフィアンマに、ミーシャは耳を傾けなかった。
ミーシャの意識は既に一方通行に向いている。
フィアンマと打ち止めで行うこの大規模な"サプライズ"。それを一方通行に贈った時の
彼の喜ぶ姿をミーシャは早く見たくてしょうがない気持ちで一杯だった。
――――――――――――――――――――――
一端覧祭の三日目。一方通行がイギリス清教のローラ=スチュアートと謁見するまで残り四日。
昨日、風斬氷華と思いきり遊び倒した一方通行は少し遅い時間に起床した。
時刻は午前一〇時を過ぎている。
「…………誰もいねェのか」
第七学区の『グループ』のアジトで目を覚ました一方通行は部屋の様子を窺うが、
人の気配が無かった。人の気配はおろか、"天使の気配"も感じられない。
どうやら『天使同盟』の面々、『神の右席』、シスターの二人、『アイテム』の連中は
どこかへ出掛けているらしい。
散らかった衣服等を見る限り、この部屋を未だに根城として利用している『アイテム』は
麦野沈利と絹旗最愛の二人のようだが、彼女達は他に住処が無いのだろうか。
一方通行は寝ぼけた頭を覚醒させるために冷蔵庫から買い置きしておいた缶コーヒーを取り出す。
(……さて、今日はどォすっかな。 予定じゃガブリエルを連れて街を歩くつもりだったンだが……)
ここ最近ミーシャ=クロイツェフに構ってやれなかった一方通行なりの優しさだった。
昨今、フィアンマと共に行動するようになっていたミーシャは、それはそれで満足そうで、
その事が一方通行には少しだけ――――、
「………ねェよ」
頭に浮かんだ考えを自ら否定し、一方通行は缶コーヒーを一気に飲み干す。
と、そこで彼の携帯電話が机の上で振動し、床に落ちてしまった。
一方通行は面倒くさそうに携帯を拾い上げると着信していたメールをチェックする。
風斬氷華からだった。
『おはようございます一方通行さん、そろそろ起きましたよね?
私は今日はオルソラさんとアンジェレネさんの二人と一緒に街に出掛けます。
ヴェントさんは朝起きたらいませんでした。 「アイテム」のお二人はそれぞれ
別行動を取って出掛けるそうです。 ミーシャさんも朝から見かけてません。
フィアンマさんも結局帰ってきてないようでした。
朝ごはんを作っておきました。 お口に合わなかったらごめんなさい』
「…………、」
『P.S. アクセサリー、楽しみにしています』
メールの文面を目で追った後、一方通行は思わず苦笑した。
ここまで平和的で日常的なメールを自分に送ってくる人物など、打ち止め以外にいただろうか、と。
「にしても、フィアンマの野郎が帰ってねェだと……?」
『アイテム』やヴェント、オルソラやアンジェレネ、風斬氷華は問題ないとして、
一方通行が気になったのはミーシャとフィアンマだった。
ミーシャ=クロイツェフは昨夜、一人でこのアパートに帰ってきた。
やたら傷んだ彼女のガウンについて言及するも『内緒』的なニュアンスで
人差し指を口の添えるだけで、ミーシャは何があったのか話してくれなかった。
その事に一方通行は若干嫌な予感を覚えるが、フィアンマが付いている時点で
問題ないと思っていた。
しかしそのフィアンマが昨夜から帰ってきていない。
(……………出遅れた感が拭えねェな。 やっぱガブリエルには俺が付いてた方が良かったか?)
別にフィアンマを疑うわけではないが、同時に心の底からの信頼も寄せてない。
それが今の一方通行とフィアンマの距離だった。
フィアンマは一方通行以上に『やりたい放題』を地で行える力を持っている。
仮にフィアンマがミーシャと共謀して何かをしでかそうとしていたら、それを一方通行が止める事は不可能だ。
(……、)
しかし一方通行は思考を放棄した。
何かをやらかそうとしているのであれば、勝手にすればいい。
今更あの二人が良からぬ事をしようとしても、この世界には必ずそういった悪事を食い止める
『抑止力』のようなものが存在する。一方通行は夏頃に、それを嫌というほど実感している。
そして二人がやろうとしている事が悪事でなければ何の問題もないし、
あのミーシャ=クロイツェフが口を割らないという事は、恐らくそうなのだろうと
一方通行は結論付ける。それはミーシャに対する信頼あっての判断だった。
それが今の一方通行とミーシャ=クロイツェフの距離。
「まァ、ンな事はどォでもイイ。 ……今日はどォすっかな」
神裂火織に『一端覧祭が終わるまでイギリス行きは待っていてくれ』と言った手前、
やっぱ暇になったんでイギリスに行きましょう、なんて展開はどうも締まりが悪い。
一方通行はベランダに出て街の様子を一望する。
三日目に差し掛かった一端覧祭は盛り上がる一方で、昨日よりもさらに賑わっているように見えた。
昨夜にオルソラから聞いた情報によると、なんでも『常盤台中学のイベントが物凄い事になっていたらしい』との事。
その影響もあるのかも知れない。
(一人で出歩くのはあまり気が進まねェが……)
一方通行はキッチンに置いてあった風斬お手製の朝食を食べ終えると、
白を基調としたジャケットに着替え、億劫そうな調子で杖をつきながら玄関の扉を開いた。
やる事が見つからないのなら、外へ出て見つけてくればいい。
気分転換も兼ねて彼は雑踏の中に身を置く事にした。
――――――――――――――――――――――
風斬氷華は筐体のディスプレイと睨めっこをしながら闘志の炎を燃やしていた。
「あ、あと一発……!! あと一発撃ち込めば私の勝ち………!!」
対するアンジェレネは手元にあるレバーと複数のボタンに四苦八苦しながら、
「あわわわわわ……! し、シスター・オルソラ!! 遠くから
見てないで私の"ロボット"をサポートしてくださいよ~……!」
援護を要求されたオルソラ=アクィナスはパソコンに不慣れな人がキーボードを
人差し指でツンツン突付くような動作でボタンを押して、
「えーと……。 まぁ、アンジェレネさん。 こことここのボタンを
同時に押したらどこからともなく味方ロボットが現れるのでございますよ」
彼女の言うとおり、オルソラが操る白いロボットの眼前に下半身をキャタピラに改装した
ロボットがキュラキュラと音を立てて発進していく。
しかしアンジェレネが操作するロボットはオルソラからかなり距離があり、
オルソラが呼び出したタンクロボットの援護はあまり意味を成さなかった。
ただひたすらステップを踏み続けるだけで無駄にブーストゲージを消費する
アンジェレネのテンパリロボットに、風斬は容赦なく特攻を仕掛ける。
「狙い撃ちます……!」
「あああ~……やられた。 このロボットは伊達じゃないって言ってたのに……」
風斬氷華とオルソラ=アクィナス、アンジェレネは三人で第七学区のゲームセンターに
足を運んでいた。
昨日、オルソラとアンジェレネは一端覧祭の一環である『学園都市見学ツアー』に
参加したのだが、どうやら思ったより退屈なものらしかった。
『もっと楽しい環境で科学を体験してみたい』というワガママ娘のアンジェレネちゃんの要望に
応える形で風斬氷華はゲームセンターをチョイスしたのだが、
「あの……アンジェレネさん。 今更こんな事を言うのも恐縮なんですけど……、
ゲームセンターで遊ぶだけなら学園都市じゃなくても体験出来ますよ……?」
「そ、そうですけど! 昨日の見学ツアーはどこか真面目過ぎるというか……。
『風紀委員(ジャッジメント)』の方々の働きぶりには感激しましたが……。
『外』からの来訪者にも科学の力のアプローチが体感出来る、みたいなものを
期待していたんです……」
「私は充分に堪能させていただいたのでございますけど……。
でもこういうピコピコのような娯楽も素敵でございますね」
という訳でもう一戦! とせがむアンジェレネにクスっと笑みをこぼす風斬は
お札を両替しようと一旦席を立った。そこへ、
「あ、本当に居た」
両替を終えて戻ってきた風斬から小銭を奪うように掴んだアンジェレネが
筐体に小銭を投入しようとしたが、突然かけられた声によるその動きが制止される。
キョトンとしたのは風斬だけで、オルソラとアンジェレネは声の主に対して普通に接した。
どうやら知っている間柄らしい。
「こ、こんにちわ」
「お久しぶりですアンジェレネさん」
「まぁ、これはこれは……天草式十字凄教の五和さんではございませんか」
「オルソラさんも、お久しぶりです。 ……で、そんな二人のシスターが
ゲームセンターで何をやってらっしゃるんですか? ハッキリ言って
場違い感が凄まじいというか……浮きまくってますけど」
黒い髪は肩辺りまで伸びていた。目元はほのぼのとした印象を与える二重まぶた。
暖が程よく取れそうなジャケットに膝上ほどの長さがあるパンツを履いている。
アクセントは首に巻いているマフラーだが、配色が少し風変わりだった。
それは天草式十字凄教徒ならではの、生活用品や衣服の組み合わせを利用して
魔術的な効果を含ませるための配色である。
天草式十字凄教徒が一人、彼女の名は五和といった。
「女教皇様(プリエステス)に少しだけお話は伺ってましたが……、
本当に二人だけで学園都市に来ていたんですね」
「あのー……」
と、風斬氷華が『友達と遊んでいたら自分は知らないその友達の友達が急にやってきて何だか居辛い』
みたいな雰囲気を醸しながら恐る恐る五和に声をかけた。
「は、初めまして……。 風斬氷華です」
「へ?」
「あ、五和さん。 風斬さんは私達のお友達なんです」
「ああ、すみません申し遅れました。 私、天草式十字凄教に所属しています、五和と申します」
風斬も五和もまるで『水飲み鳥』のようにペコペコと頭を下げまくる。
しかしここで二人は息を合わせたように動きを止め、互いに目を合わせると、
「………私達、初めましてでしたっけ?」
「それ……私も今思いました。 どこかでお会いしたような………?」
「…………」
「…………」
「…………ま、まぁでしたら改めましてと言う事で! あはは」
「そ、そうですね……! よろしくお願いします、五和さん」
あははえへへと何が可笑しいのか分からないがとりあえず笑っとこう的な
笑顔を見せる二人を見比べて、『何だか似てるなこの二人……』と密かに思うアンジェレネであった。
681 : ◆3dKAx7itpI - 2011/11/19 12:28:26.04 AEWRhGSxo 339/504今回はここまでです。
フィアンマは御使堕しのリスクをどうにかして削除しようと考えていますが、
そんな都合の良すぎる方法が果たしてあるのかどうか。ていうか今後の展開の
話になりますが、ぶっちゃけ御使堕しがどうのこうののくだりは必要ないかも……。
ちなみになぜか御使堕しの効果にオリジナル要素が含まれていますが、
気にしないでください。物語に関わる事はありません。
次回は一方通行パート。再びアンロック編になるのですが……、
アンロック編の中でも次のはかなり長い話になります。どうかお付き合いいただけたらと思います。
次回更新は三日以内。
それでは、今日もありがとうございました!
【次回予告】
「ハッ、ご愁傷様ァ。 大凡、物珍しい学園都市の文化祭に飛び入り参加して
はしゃぎ回ってる間に溜まってた疲れが表に出てきたってところだろォが」
『天使同盟(アライアンス)』のリーダー・学園都市最強の超能力者(レベル5)――――――一方通行(アクセラレータ)
「………私が何?」
英国三派閥の一つ『王室派』第二王女――――――キャーリサ
続き
蛇足 とあるフラグの天使同盟 伍匹目【後編】