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蛇足 とあるフラグの天使同盟 肆匹目【前編】
590 : VIPに... - 2011/10/06 22:41:27.33 hDcHT+zJ0 253/481話は変わるが、このメジャーちゃんが残念でしょうがない。てっきり某帝督×初春のみたいに垣根に前に現れて情報を与えるチョイ役だけだと思ったら、てきなりデレデレなんて・・・・まあ、戯言なんだけど。
それにしても、オリアナ姉はマダー?いつまで俺はパンツのままでいればいいんだ・・・そろそろ脱ぐぞ。
602 : ◆3dKAx7itpI - 2011/10/07 19:15:06.69 5mrOp9/qo 254/481そんな>>1がやって来ました。こんばんわ、更新開始します。
>>590
返す言葉も無い……が、その辺はきちんと段階を踏んで進行させていくつもりです。
せっかく登場させたので最後まできっちりと、丁寧に活躍させていきたいと思っております。
大変貴重なご意見をありがとうございます。
今日はもしかしたら少し長めの投下になるやも知れません。
相変わらず話はあまり進みませんがのんびりと読んでやってください。
それでは、よろしくお願いします!
――――――――――――――――――――――
結局、その日は『アイテム』の四人とオルソラ、アンジェレネのシスターコンビ。
そしてヴェントが『グループ』のアジトで泊まる事に決定した。
神裂火織は自分の他に一人の仲間を学園都市に連れてきているらしく、その仲間を
迎えにいくついでに適当なホテルで過ごす事にしていた。
アックアは黄泉川の家へ帰ったのだが、なぜかヴェントはそうしなかった。
「…………………………」
冬の夜風が切り裂くように一方通行に吹き荒ぶ。
風が強いのは、一方通行がいる場所がやたらと高いせいだろう。
第七学区、"通称『窓のないビル』の屋上"。
一方通行は能力を使って空を舞い、そこでぼんやりと座り込んでいた。
屋上と言ってもこのビルは通称どおり窓も扉も無いので、最上部には
一切何もない殺風景な広場があるだけだが。
すぐ下のビル内部には、アレイスターを撃破してのうのうと学園都市統括理事長の
座に就いているエイワスがいるのだろうか。
しかし今は気にならない。自分の様子を見てようが見ていまいが、一方通行にとっては
さほど問題ではなかった。
「………寒いな」
白煙のように吐き出される自らの吐息を見ながら、一方通行は呟く。
この凍える程の寒さが丁度いいと彼は思った。
ここなら、目障りな干渉もなく静かに"頭を冷やせる"。
当然、彼が今考えているのは今日起きた垣根帝督との衝突。
腹の底から搾り出すように出てきた彼の言葉は、一方通行を熟考させるのに
十分な威力を誇っていた。
相手の想いを無下にするな、その心をもっとよく理解してやれ。
一方通行は思う。垣根帝督は相手の想いを尊重し、その心を理解した上で
常盤台中学の女学生の告白を断ったのだろうか、と。
だとしたら、垣根は一体どんな気持ちでそれを決断し、どんな言葉を贈ったのだろうか、と。
(……一体どォすりゃ女と"そォいうやり取り"が出来るンだ)
立場上、一方通行はこれまでの人生であらゆる体験をしてきたが、
彼はまだ"それ"に関しては未経験だった。
普通の人間なら誰もが一度は通るであろう"その道"を、彼はまだ歩んでいなかった。
神裂火織からイギリスへ来るよう言われ、それを承諾し且つ一端覧祭終了日まで
待っていて欲しいと頼んだのは、その未知の領域に少しでも触れて、理解してみたいという
彼の決意の顕れだった。
(好意の……その先。 クソッたれが、メシの時も絹旗に言ったが、俺は人間だ。
人間である以上、避けては通れねェ道だって言いてェのか………)
何度も何度も垣根の言葉を反芻していると、一方通行が見つめていた夜空の月に
ふと、不自然な形の影が浮かんだ。
その影は優雅に大空を飛び、一方通行が居る窓のないビルの屋上へとやって来る。
「……オマエか」
「umxnw貴方pzkkash」
ミーシャ=クロイツェフ。
夜はいつもベランダから月夜を眺めている彼女が、音もなく一方通行の傍に降り立つ。
背中から生えた大小様々の水晶の翼を収め、ぺたんと座り膝を抱える。
「イギリス行きの件については悪かったな。 しばらくの間俺はいなくなるが、
まァ風斬やフィアンマ達と上手く過ごしていてくれ」
「cmsjt御意dhueu」
普段のミーシャなら強引にでも彼と共にイギリスへ同行すると駄々をこねかねなかったが、
今回はおとなしく一方通行の帰りを待つ意向のようだ。
一方通行がどこへ行こうがそれが永遠の別離となるわけではない事を、ミーシャが一番よく
理解しているのかも知れない。
隣で一緒に月を眺めている大天使に、一方通行は言った。
「……オマエは、垣根が言っていた言葉の意味が理解出来るか?」
「……」
ミーシャは何も言わない。言ったところで、入り交じるノイズのせいで一方通行には伝わらないだろうが。
だが彼女は黙って頷いた。
「俺がもっと触れなきゃならねェものは……オマエがあの戦いの時にくれたものなのか?」
「………ldisj。 それは、分からない」
一方通行は思わず目を見開き、ミーシャの方へ首を動かした。
極稀にミーシャは今のようにハッキリと言葉を放つが、それはやはり極稀に
起きることなので一方通行はつい驚いてしまうのだ。
彼女が明確に言葉を発する条件には、もしかしたら彼女の強い想いが絡んでいるのかもしれない。
「でもxoirs、貴方なら絶対に理解できる。 cuq意志を持つ者ならば、誰zijwでも理解出来るものだから」
「………そォか。 オマエがそォいうなら、多分そォなンだろォな」
「………」
「………出会ってから最初は、俺がずっとオマエの面倒見てたのに、すっかり立場が
逆転しちまったな。 ……世話ばかりかけちまってる」
「構わない。 それが、私のfulo望みでもある」
「すまねェ……って、最近の俺は謝ってばかりだな。 謝りまくって、誤りまくってやがる」
「大丈夫。 私はいつでも貴方の傍にいるから」
既に時刻は午前〇時を回っている。
あと数時間経てば、学園都市は再び一端覧祭一色に染まるだろう。
今年の一端覧祭は一方通行にとって、とても特別なイベントになる。
彼はイギリス入国までに残された日をフルで活用し、少しでも前進してみせると決めた。
人間として、人間の男として、わずかでも進んでみる、と。
結局夜は眠れず、朝までミーシャと学園都市を一望していた。
――――――――――――――――――――――
夜。こっそりとベランダから飛び立つミーシャを、風斬氷華は黙って見送っていた。
(……イギリス、か。 これで三度目だよね……)
一端覧祭が終わったら、一方通行はイギリスへ発ってしまう。
それが今生の別れにはならないことは風斬にも理解できるが、それでも自分の心に
走る焦燥感を抑え切れない。
一方通行が前に進むことを決めた同じ日の夜、風斬氷華もまた決意を固めた。
(いつまでもグズグズしてたら……何にも始まらないよね。
私も一緒に……彼と一緒に行く。 呼ばれてなくたって、関係ない。
これは私が決めた事なんだから……)
一方通行とミーシャが眺めているものと同じ月を見据えながら、
風斬は薄く微笑んだ。
(人にばかり頼ってないで……自分の事は自分で決める。
これでいいんですよね? ………垣根さん)
――――――――――――――――――――――
黄泉川愛穂も芳川桔梗も打ち止めも番外個体もキャーリサも、そして先ほど帰ってきたアックアも
皆寝静まっているため黄泉川宅は暗闇に包まれているのだが、ある一室にわずかな光源が灯っていた。
それは騎士団長(ナイトリーダー)が握る携帯電話のディスプレイから放たれる光。
彼は声を潜めて英国女王であるエリザードと連絡を取っていた。
「――――以上が定時連絡の内容です。 現在の所、特に問題は発生していません」
『ご苦労だったな。 こっちも早い所お前達に帰国許可を出したいんだが……、
何ぶん「第一九学区事件」の余波の影響が大きくてな。 正直私一人では
捌ききれんからヴィリアンとリメエアにも手伝ってもらう形の総力戦になってしまっている』
「三派閥の中に動きが?」
『詳細は未だ不明だが、例の「黒い霧」に感化されたイギリス清教の魔術師が
相変わらず良からぬ事を企んでいるんだと。 「天使同盟」を結社全体で探っている報告も傍受してる。
学園都市にお前達以外の魔術師が入り込んでいる可能性は既に洗っているか?』
騎士団長はベランダに通じる扉のガラス越しに、雲に隠れた月を眺めながら言う。
「私とウィリアムで常時『網』を張っています故、現時点で魔術師の侵入は無いかと。
学園都市に『天使同盟』がいるところまで掴んでいる輩がいれば、街への侵入でなく
別の接触ルートを実行してくるはずです。 ……もっとも、私もアックアもバイトを
しながらの索敵ですので、正確性の保証はありませんが」
『ん? はっはっは、そうだったな』
朗らかな調子で笑うエリザードの声を聞いて、騎士団長は目を細めた。
「……何か?」
『いやいや、すまん。 まさかお前の口から「バイト」なんて言葉が
出てくるとは思わなかったんでな。 「騎士派」の長だったお前が
急に科学の街で肉体労働に励むというのは堪えるんじゃないか?』
「環境が急激に変化してしまいましたからね。 やはり慣れるまで
多少の時間が必要のようです。 ……ただ一つ、その件に関して
懸念事項が私の中で浮上しておりまして」
『?』
エリザードは無言で騎士団長に続きを促す。
「私やウィリアムはまだしも、この環境の激変にキャーリサ様が着いてこれているのか、
という点です。 我々は立場と経験上、『労働』という環境にはある程度慣れてはいますが、
キャーリサ様がどうなのかまでは把握しておりません。 あの方は街をうろちょろするだけで
何もしていませんから」
『キャーリサは問題ないだろう? あれでもイギリス軍の総大将を務める娘だぞ。
私はあの子をそんなヤワに育てた覚えはないがな』
「確かに今でもキャーリサ様の第二王女としての威厳は健在しております。
軍のトップとしての覇気も、一国の姫としての気高さも色褪せてはおりません。
しかし、」
騎士団長は一度言葉を切り、目線を少し上に向けて何かを思い出すような
仕草をしながら続ける。
「それでも、キャーリサ様は己が置かれている『現実』を無視する事は出来ないようで」
『………どういう意味だ? あのおてんば娘に何があった』
「緊急を要するような事の重大さはございません。 が、我々にとっては
些末に思えても、キャーリサ様にとっては頭を悩ませるに値する事なのかもしれない。
我々がバイトに励んでいる最中、キャーリサ様はよく我々が働く現場に来ては
からかうように嘲笑を浴びせてきます」
『……帰ってきたらあいつに庶民の労働の厳しさというものを叩き込まなきゃならんな』
「それも結構ですが、」
騎士団長は短くため息をつき、どこか憂いげな表情を浮かべながら言った。
「今日、いえ、もう昨日になりますか。 ……昨日の事です。
誰に言うでもなくポツリと、独り言のように呟いたキャーリサ様の
言葉がちょっと気になっていまして」
『ふむ?』
――――――――――――――――――――――
片方の耳は五和が利用しているバスルームから流れるシャワーの音を聞き取っていた。
そしてもう片方の耳に携帯電話を添えながら、神裂火織は予め取っていたホテルの一室で
電話先の相手が応答するのを待っている。
「……、」
『はいはい、ローラ=スチュアートさんなる者よ~』
「最大主教。 神裂火織です」
『はいな』
電話に出たのはイギリス清教の最大主教(アークビショップ)、ローラ=スチュアート。
通話とは言うが、しかし携帯電話の電源は入っていない。
神裂の携帯電話の裏面には簡単な作りの呪符が貼られている。この呪符の効果で
彼女は会話をしているのだ。イギリス清教の最大主教との会話、例えその内容が
些細な世間話でも、盗聴されたりでもしたら重大な問題に発展しかねない。
神裂は腰に携えていた七天七刀をベッドの上に置きながら言う。
「本日、学園都市にて『天使同盟(アライアンス)』の構成員、一方通行他、複数の構成員と接触しました」
『首尾良き流れね。 私の予想では、"既に奴が警戒したりて接触すら叶わぬと思うていたから"』
「は?」
『何にも無しよ。 それで?』
相変わらず言動の掴めない人だ、と何年もの間ローラの下で活動してきた
神裂が尚もそう怪訝に思いながら続ける。
「厳命に従い、『イギリス清教最大主教、ローラ=スチュアートの
下に喚問してほしい』という旨の報告を彼らに伝えて来ましたよ」
『して、返答は如何なりなの?』
「返答は応。 一方通行がイギリスへ発つ事を決めてくれました」
『うんうん!』
えらい分かりやすく満足のいったように声を上げるローラ。
『流石は超能力者のトップにして『天使同盟』のリーダー、話が早きて
とても助かりけるのよ。 ……あ、もしかしてもう既にここへ向かいているとか?』
「いえ、それが」
『?』
「最大主教の要請には応じる。 ただしイギリスへ向かうのは『天使同盟』
ではなく一方通行ただ一人だと……、それを条件にイギリス行きを承諾しました」
『ノオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!』
えらい分かりやすく不満を噴火させるように声を上げるローラ。
『火織ちゃん!!? 私の話を聞きたりていたのかしら!? 私が命じたのは
「一方通行、ミーシャ=クロイツェフ、風斬氷華、垣根帝督の以上四名を
私の下に呼び集める事」なのよ? まるで足らぬわ……!!』
「はあ、しかし―――」
『一方通行一人じゃ私が……げふんげふん、彼一人じゃ意味が無きだわ!!
何故に一方通行一人なの? もしや神裂、お前が妙な誘い文句でもほざいた
のではなきかしら!? 怪しき言動では疑われるのも道理というもの、だから
余計な回り道などせずにお前のそのエロき肢体で誘惑でもしてオトしてこいと
口を酸っぱくして言うたはず―――――』
「いいから聞けよ」
『はい……』
有無を言わさぬつもりで捲し立てたローラだったが、神裂のドスの聞いた一声で
ピタリと口を止めた。
この一連の会話だけ聞くとどっちが上司なのか分からくなる。
「まず一方通行が何故一人でイギリス行きを決断したのかは私にも分かりません。
ただ、魔術サイドに関わる事態に他の構成員を巻き込む事は避けたい、という
意図の発言をしてたような気がします」
『………………………、』
神裂の言葉に対するリアクションが帰って来なかった。ローラは無言で先を促す。
「それと、そもそもあなたの命令は一方通行、ミーシャ=クロイツェフ、風斬氷華、
垣根帝督を連れてくるようとの事でしたが、そもそもそれが困難である事も判明しました」
『と言うと?』
「四人の内、垣根帝督がどうやら何らかの事情で現在『天使同盟』から離脱しているようなんです」
『ふん? 離脱』
「垣根帝督の所在は一方通行達にも分からない、との事です。
ただいずれにせよ、彼は『天使同盟』とは別に行動を起こしているようですね」
『……。 それに関して一つ、聞きたき事があるのだけど』
「はい」
『"垣根帝督は今も、学園都市に居たるのかしら?"』
その質問の意味が理解できず、神裂は首を傾げた。
垣根帝督が『天使同盟』から離れている理由ではなく、なぜ彼が学園都市居るのか
どうかを聞いてくるのか。そこは然程問題ではないのではと思いつつも神裂は、
「一方通行達と接触する前に垣根帝督と会っているのですが、その時彼は
大きな荷物を提げていました。 これは個人的解釈ですが、垣根帝督は
恐らく学園都市からどこかへ出掛ける途中だったのだと考えられます」
『即ち、現在垣根帝督は学園都市におらぬのね? 間違いなく』
「確証はありませんが。 ……あの、それが何か?」
『気にせぬ事よ。 して、他に変化は?』
「……………」
神裂火織が考える『天使同盟』最大の変化。
それは言わずもがな、右方のフィアンマの加入。しかしそれをローラに
伝えてもいいものかどうか、神裂は一瞬だけ躊躇う。だが、
「……『天使同盟』に、新たに右方のフィアンマが加わっていました。
信じがたい事ですが彼らは既にフィアンマを受け入れている様子でした」
言った直後、神裂は迂闊だったかと己の発言を少しだけ後悔した。
もしこの報告を受けたローラ=スチュアートがフィアンマの加入をローマ正教や
ロシア成教に伝え、魔術サイドが一丸となって学園都市に居るフィアンマを捕らえる
方針を固めてしまったら―――――。
それはつまり、かの第三次世界大戦のような魔術サイドと科学サイドの総力戦のリプレイに
繋がるのではないか。もしそうなれば天使を救い、平穏な日常を手に入れた彼らの明日はどうなるか。
フィアンマ捕獲自体は魔術サイドとして正しい行為であり、真っ直ぐな正義を貫いていると言える。
しかし神裂の心境は複雑だった。曲がりなりにも神裂は『天使同盟』と共に楽しく過ごした過去がある。
その時に『天使同盟』が見せた笑顔を、彼女は忘れらない。天使という異形も異形の
存在と笑顔で過ごす彼らの日常を壊す権利など、神裂火織にはない。
そんな彼女の胸中を知ってか知らずかローラ=スチュアートは、
『……ふーん』
驚愕も困惑も動揺も含まれない、平坦な声色で返すだけだった。
これを受けた神裂が逆に困惑してしまうくらいに、感情の無い声だった。
「ふーん、て……。 念のため言っておきますが、これは冗談などではありませんよ?」
『分かりているわよ。 「天使同盟」ならそれくらいの所業、造作も無き事でしょう。
……総括すると、ミーシャ=クロイツェフ、風斬氷華、フィアンマは学園都市に、
垣根帝督は所在不明、一方通行のみが私の下へ。 如何ような結果に終わったのね?』
「……、はい」
『うーん……出来ればやはり全員招集が理想的なるのだけど、致し方なき事ね。
ご苦労様、神裂。 それと最後にもう一点、一方通行のイギリス行きは今から
五日後くらいに引き伸ばすよう頼みておいてもらえるかしら?』
「え? ……それは構いませんが、というか、一方通行自身がイギリス行きは
一端覧祭終了日まで待って欲しいと言っていたので問題ないと思います」
『そうなの? ……意外なるわね……。 分かりたわ、以降の行動はお前に一任する』
「了解しました」
一通りの報告を終え、神裂は携帯電話の呪符の効果を切った。
「……、」
だが神裂はそのまま、どこか腑に落ちないような表情を浮かべながら
携帯電話の真っ暗なディスプレイに視線を落とす。
彼女は今のローラとの会話の内容に、どこか違和感を覚えていた。
その違和感の正体。それを考えようとしたが、バスルームから五和が出てきたので
神裂はひとまず思考を中断させた。
――――――――――――――――――――――
同刻、ランベスの宮にて神裂火織と魔術的な通信を行なっていたローラ=スチュアートも
指で挟んでいた通信用の呪符を弾き、虚空に飲み込ませていた。
日本と違い、現在真っ昼間のイギリスの日差しを窓越しに見上げながら、彼女は口を開く。
「ミーシャ=クロイツェフ、風斬氷華、右方のフィアンマ……。
フィアンマは想定の範囲内なれど、まさか一方通行が一人で
行動に出たるとは……。 然様な人間とは思えぬのだけれど」
確認するように羅列したその名前は、神裂の報告で知った"学園都市に残る側"の構成員だった。
イギリスに来るよう要請し、それに応えた一方通行ではなく、一方通行の意向で
学園都市に残留する事になった『天使同盟(アライアンス)』の構成員。
(ひとまず、垣根帝督の所在は知りておきたい所ね。 出来れば、我がイギリス清教の
魔術師の目に届く範囲に居てくれたらありがたきなのだけれど……)
疲労とも呆れとも読めるようなため息をつき、ローラは呟いた。
「全く。 骨が折れそうな事になりけるわね」
――――――――――――――――――――――
「ぶぇっくしょぉいっ!!」
「何か暖かい飲み物を?」
「そんなんじゃねえよ。 ……誰かが俺の噂をしてやがるな」
黄金の鷹のモチーフが意匠された黒フードの魔術師の気遣いを断り、
垣根帝督は鼻下をさする。
ロシアの国際空港。垣根とドレスの少女を乗せた超音速旅客機は
学園都市からロシアの空港まで一時間も掛からずに到着していた。
時速七〇〇〇キロオーバーのスペックは伊達ではない。
ロシアはしんしんと雪が降っており、その景色を幻想的に彩っている。
飛行機から降りた垣根もその景色に一瞬見惚れるが、ロシアへ赴いたその目的を
思い出し、すぐに気持ちを切り替えた。
垣根は黒フードの魔術師に言う。
「俺はここから更に移動してエリザリーナ独立国に向かう。
どれくらい滞在するかは決めてねえが……仮に俺がお前らに
『俺が用を済ませてここに戻るまでお前らは空港で待機してろ』
……なんて事を言ったらどうする?」
「仰せのままに」
「チッ」
垣根は自分の荷物を乱暴に担ぐと旅客機の方へは一切振り向かず
早足で空港を後にした。
彼は『スクール』のリーダーだった時分、数多くの部下をあごで使う立場におり、
人を『使う』事には慣れているタイプだったのだが、セレマ教の魔術師だと主張する
黒フードの連中はどうも掴みきれなかった。
暗部の下部組織は自分の事を『上司』のような目で見ていたが、
黒フードの連中はまるで垣根を『王』として見ているような雰囲気。
垣根はそれがイマイチ気に入らなかった。
まぁ使えるものは使ってやると、気にすることをやめた垣根は
かつて『天使同盟』と共に(あまりにも無茶苦茶な手段で)訪れたエリザリーナ独立国同盟を目指す。
(『足』がいるな……。 適当にどこかで車でも掻っ払っちまうか)
そう考えて空港を出た先の道路に手頃な乗用車がないかと首を動かしていると、
「気分が悪いー……そして飛行機から降りた途端急激に体が冷えてきた。
なんか終わっちゃう感じ。 うー、私、もうすぐ死ぬのかなぁ」
「死ぬならよそで死んでくれ。 ここで死なれたら処理が面倒だ」
『今ちょっとでもお腹触られたら愉快で素敵なミックスジュースを胃袋から吐き出しちゃう☆』
と書いてあるような青ざめた顔でドレスの少女が垣根の後を追って来た。
言うまでもないが、旅客機を降りた途端に寒気を感じたのはここがロシアだからである。
「ここどこ? ロシアには到着したの? ちょっとトイレに
行かせて……、お腹の中で荒れ狂う怨霊達を全て吐き出してくるから」
「荒れ狂わせてんのはテメェだろうが。 ガキのクセにがぶがぶ酒飲み過ぎなんだよ。
お前、カンペキ泥酔状態で黒フードの野郎に頭から噛み付いたりした事覚えてねえのか?」
「知らない知らない知らない…………。 あー、しんどいわ。
ねえ、ちょっとバケツかビニール袋を持ってきてよ」
「ふざけてんだったら今すぐブチ殺すぞ。 何で俺がテメェの吐瀉物を
世話しなきゃならねえんだ。 ガキのくせに調子に乗って飲むからだよ」
「…………」
「………何だよ」
あーあーとゴーストタウンを徘徊するゾンビのような呻き声をあげていた
ドレスの少女の口が止まる。
まさか今ここで『開放(リリース)』する気かと危惧した垣根だが、ふと彼女の
顔を見ると明らかに不機嫌なそれになっていた。
「…………何か、あなたって全然違うわね」
「何が」
「『天使同盟(アライアンス)』として活動している時と、そうじゃない時とで。
第一位達と一緒に行動している時のあなたはとても楽しそうで、如何にも
歳相応の少年みたいな振る舞いをしてたわよ? でも今のあなたは違う、
何だか『スクール』として活動していた時のあなたに戻ったみたい」
それを聞いた垣根は隠す素振りも見せず舌打ちをしてみせた。
「テメェといると思い出しちまうんだろうな。 俺が暗部として、
上層部の駒としてせっせと働いてた犬の糞みてえな時分をよ」
「それって単純に、私と居ても楽しくないって事かな?」
「察しろよメス犬。 さっさと行くぞ」
「どこへ?」
体内に沈殿したアルコールを抜くように大きく息を吐きながらドレスの少女は尋ねた。
垣根は面倒くさそうに答える。
「エリザリーナ独立国だよ、お前も名前くれえは聞いた事あんじゃねえのか?
反ロシア勢力が周囲の小国を集めて形成した国家だ。 東ヨーロッパまで
パイプを繋げてる、同盟にしちゃ割と規模のでけえ国だよ」
「ああ、第三次世界大戦の中心になった地域だっけ? あんな国に行って
どうするの? 第一、他の国とは違って独立国は入国手続きが面倒なのは
あなたも知っているでしょ? 強引に入国するつもり?」
「あの国にゃ俺の『師』がいるんだよ。 他にも何人か知り合いがいるし、
独立国のトップともコネクションを持ってる。 どうにでもなるさ」
「師?」
聞きながらドレスの少女は垣根の表情を窺う。
彼は、どこか懐かしむような微笑を浮かべていた。
「俺に魔術のノウハウを叩き込んだバケモノ女だよ。 最後の方の訓練では
もうただの殺し合いになってたが、あの女なら魔力を失った俺に
力を取り戻させてくれるかもしれねえ」
――――――――――――――――――――――
視界に飛び込んできたそれを見てドレスの少女は目を丸くした。
「でっか。 何アレ、船?」
「最初"俺達"がここに来た時に使ったクルーザーだ。 ……あの様子だと
独立国のテーマパークと化しちまってるみてえだけどな」
雪の上であるにも関わらず危なっかしくない、スムーズな走行をする
軽自動車の中で垣根帝督とドレスの少女は言葉を交わした。
エリザリーナ独立国まで残り数キロという所まで彼らは進んでいた。
彼らが乗っている軽自動車は空港から少し歩いた場所の街で
ドレスの少女が『能力』を使い、"相手が快くプレゼントしてくれた車だった"。
もちろんエンジンをかけるキーもセットで。
まだ数キロ離れているにも関わらず独立国に城のように聳え立つクルーザーが見えたのは、
そのクルーザーがあまりにも巨大であったためだ。
周囲に船を停められるような埠頭はおろか、まず海がない。
クルーザーはまるで遠方の海から"飛んで"、"そのまま原野を突っ切り
街へ突貫したかのように"堂々と街に鎮座している。
……喩え話のようなシチュエーションだが、これが事実なのだから手に負えない。
いくつか存在する『天使同盟(アライアンス)』にまつわるエピソードの一つである。
「ま、大体想像はつくわ。 『第一九学区事件』なんてものを引き起こした連中だもん。
他所の国に巨船でお邪魔するくらいの芸当くらい平気でこなしそう」
旅客機で煽りまくった酒の影響もすっかり無くなったのか、
ドレスの少女はまるで宝箱を目前としたトレジャーハンターのように
高揚を抑え切れない様子の笑みを浮かべていた。
「……見えた、国境線だな。 エリザリーナにアポはとってねえが……
俺なら顔パスで入国できるかもしれねえな」
「スケールの大きい男になったわね。 それってつまり、今のあなたなら
入国の際にその国の大統領が満面の笑みで出迎えてくれるって事でしょ?」
「エリザリーナ独立国は俺達に借りがあるからな。 ……いや、その借りは
俺達が船で街を半壊させた事で帳消しになっちまったんだっけ?
まぁいいや、ワシリーサやサーシャがロシア成教の本拠地に帰ってなけりゃ
そいつらが適当に取り繕ってすんなり入国出来るだろ」
聞いたことのない名前がポンポン出てくる垣根の言葉を、ドレスの少女はつまらなそうに聞く。
「……にしてもテメェ、本当に着いてくる気か? 俺に同行して
何を期待してんのかは知らねえが、お前が着いてきても面白えもんは
多分無いぞ? 観光目的で来たって訳でもねえからな」
「旅客機の中で説明したはずだけど? あんな辛気臭い暗部の空気で
肺を汚すくらいなら、まだあなたと一緒に未知の領域へ足を踏み込んだほうが
面白そうだもの。 退屈なのよ」
「未知の領域……、俺、魔術についてお前に一通り説明したっけ?」
「マジュツ? 何それ美味しいの?」
「お前『天使同盟』は知ってるくせに魔術のことに関しては何も調べてねえんだな。
ま、法則そのものを理解するよりは組織の素性を理解する方が幾分か楽だろうけどよ。
魔術について理解するつもりがねえなら、俺の行動はお前のご期待に添えそうにもねえな」
「じゃ、その辺も説明してよ。 例え理解は出来なくても
退屈凌ぎくらいにはなりそうだし」
「退屈退屈って言うけどよ。 お前も『スクール』に居た頃と比べたら
ずいぶん変わっちまってんな。 少なくともあの時のお前はそこまで
何かを求めるような女じゃなかっただろ。 よっぽど今所属してる
組織がつまらねえと見える」
ドレスの少女はうんざりとした調子で息を吐き、助手席側の窓から
代わり映えのない白銀の風景を眺める。
「『スクール』も『クラッカー』も根は同じ『闇』なんだけどね、
どうも"気取ってる感"が否めないのよ。 『スクール』は暗部ではあるものの、
仕事の時以外は割と普通に少年少女してたじゃない? 誰かと街へ出掛けたり
気まぐれに買い物したり……。 でもね、『クラッカー』の連中はそうじゃない。
オフでも陰気くさいのよね。 私は別にあの連中と交流を深めようなんて気はないし、
『スクール』の皆も意図的にコミュニケーションを取ったりはしなかったけどさ」
垣根は少女の話に耳を傾けながら、積雪で不明瞭になってる道路を確認しながら
正確に車を走らせ続ける。
「でもあいつら、オフの時でも平気で仕事っぽい行動を取ってるのよね。
仕事の時でもそうでない時にでも、学園都市が抱える表沙汰には出来ない
案件に首突っ込んで、そうすることがステータスになってるみたいな雰囲気。
そうしない人間には『闇に適応出来ない上層部の犬』みたいな目を向ける。
犬はお前らの方だろうがって言いたくなるわよ。 あいつら、『第一九学区事件』
の発生を受けて上層部、いえ、統括理事長を出し抜ける要素がないかってそれこそ
犬みたいにくんくん鼻を鳴らして情報を嗅ぎまわってるのよ。 私はあんなの絶対イヤ」
「ふーん」
心底興味なさげに返事をする垣根を、ドレスの少女はジト目で睨んだ。
しかし自分も少しばかり喋りすぎた、と少女は最後にこう言って会話を終わらせた。
「誰でもいいから、暗部なんて上層部もまとめて潰してくれないかしら」
「……」
『天使同盟』なら或いは、学園都市の『闇』くらい一掃できるかも知れない。
そんな事を考えている内に垣根と少女を乗せた車はエリザリーナ独立国の
国境検問所へと到着した。
――――――――――――――――――――――
「止まれ、ここから先はエリザリーナ独立国の領土内だ。
パスポートの確認と、この車と荷物の検査をさせてもらう」
検問所から出てきた体格の良いロシア人が地面の雪を踏み鳴らしながら
垣根達の乗る車へ近づいて来た。
垣根は応じるために窓ガラスを降ろし、流暢なロシア語で話す。
「パスポートなら持ってないぜ」
「何? どういう………」
怪訝な視線をぶつけてきた男の言葉が不意に途切れた。
どうやら垣根の顔を見て何かを思い出したらしい。
「アンタ、もしかしてプライベーティアの時の?」
「大天使と愉快な仲間たちの一人だ。 よく俺の顔を覚えてたな、
出来ればその友好度に免じてパスポートの件は有耶無耶にしといて
ほしいんだけど」
「やっぱり『天使同盟』だったか! 驚いた、まさかもう一度
この国に顔を出してくれるとはな」
「本当に顔パス? さすが、やるじゃない」
軽く口笛を吹いて適当に賞賛してくる少女を無視して垣根は話を進める。
「あの船、撤去せずに使ってるんだな」
「アンタらがあの船を街にぶち込んでくれたおかげで、第三次世界大戦の影響で
心なし重苦しい空気だったこの国も少しずつ活気づいてきたんだよ。
今じゃあの船はレストランやパーティ会場に加え、ガキ向けのアトラクション
なんかも設けられた、東部にあるショッピングセンターみてえな状態になってる」
さらに元々、エイワスの用意したあの船にはカジノやゲーセン、子供なら
大勢でも泳ぎ回れるようなプールも存在する。外見も『天使同盟』が去ってから
大幅にリデコレーションしたのか、所々に色鮮やかな光が点灯しており、
これで艦砲や機銃などが無ければ完全にアミューズメント施設そのものだった。
クルーザーがなぜ武装されているのかは、この独立国が船を
国の防衛対策として取り入れたものだからなのだろう。
大柄の男は笑顔で気さくに話を続けた。
「もっとも、あん時はプライベーティアよりアンタらの方がよっぽど恐ろしい
襲撃者だとしか思えなかったがな。 それで、エリザリーナ様に用か?」
「エリザリーナ自体に用はねえが……ま、ここのトップだしな。
挨拶の一つくらいはしておいた方がいいか。 エリザリーナに
入国許可を貰ってきてくれねえか?」
「何か緊急の用事なのか?」
「まぁな。 "俺が緊急事態だ"」
垣根はそう言って自嘲気味に笑った。
大柄の男は事情を把握できなかったようだが、相手が国の恩人であるためか
エリザリーナに入国許可を貰えるよう話を通してくれるようだ。
男は一度検問所へ戻っていく。
と、ドレスの少女が検問所の方に視線を向けながらこう言ってきた。
「あなたって結構な冒険をしてるのね」
「俺だけじゃなく、お前が見たあの連中も一緒だよ。
しっかし予想以上にフレンドリーだったな。 普通パスポートを
提示しねえ相手をここまで受け入れる事はしねえだろ」
「詳しい事情は知らないけど、よっぽど信頼されてるんじゃないの?
それに一応出入国管理はきちんとしてるじゃない。 顔見知りで
恩人らしいあなたでもさすがに顔パスは出来ないみたいね」
程なくして垣根達が乗る車の前で閉じていた厳重そうな扉が
左右にスライドしていった。
検問所を見るとさっきの大柄な男が親指を横に振って『入れ』と指示している。
どうやらエリザリーナから許可を得る事が出来たようだ。
垣根は検問所の男に軽く手を振って車を走らせた。
『星の欠片』を巡る『天使同盟』が最後に訪れた国。
エリザリーナ独立国。
恐らくミーシャ関連で最も事態が大きく動いた、ある意味印象深いこの街に
垣根帝督は失った物を取り戻す手掛かりを得るため再び赴くのだった。
652 : ◆3dKAx7itpI - 2011/10/07 20:11:53.99 5mrOp9/qo 301/481今日はここまでです。
久々に結構な量を投下してしまいました。
書き溜めはまだまだ余裕がありますが、投下する時間が無いのがな~……。
今日はたまたま時間が空いてたのでこれだけ投下出来ました。
なんかもう色んな場面で色んなキャラが色々考えてて私自身が訳わかんなくなってますが、
頑張って終わりへ向かっていきたいと思います。いつになるやら。
次回からはまた一方通行パート。アンロック編、とでも言うべきでしょうか。
次回更新は三日以内。
それでは、今日もありがとうございました!
【次回予告】
「仮にもお前は大天使だろう? 歯も無いクセに爪楊枝で
口内を弄るなよ……。 信徒がこの光景を目の当たりにしたら
アイデンティティが崩壊しかねんぞ……」
『天使同盟(アライアンス)』の構成員・元『神の右席』の魔術師――――――フィアンマ
「逆に天使が爪楊枝でオッサンみてェに歯ァほじくる"神話"を元に
新たな魔術が生まれたりすンじゃねェの」
『天使同盟』のリーダー・学園都市最強の超能力者(レベル5)――――――一方通行(アクセラレータ)
「私とシスター・アンジェレネが今回の来訪に備えてたくさん買ってきた
トラベルセットの歯ブラシがございましたのに………」
元ローマ正教のシスター――――――オルソラ=アクィナス
「テメェェェェェェェそれはもっと早く言えやああああああ!!!!」
ローマ正教、禁断の組織『神の右席』の元一員――――――前方のヴェント
662 : VIPに... - 2011/10/07 21:03:38.70 5zIvmX620 303/481>>1乙!
クラッカーて描写されてたっけ?
黒夜とかがいるメジャーちゃんの組織だと補完したけど
675 : ◆3dKAx7itpI - 2011/10/09 18:08:00.49 UWW1cKHyo 304/481こんばんわ、更新を開始します。
>>662
クラッカーは当然私が勝手に考えた暗部の組織名ですが、
とりあえず今は詳しい事は言わずに名前だけポンと出しとこうかなと思って
詳細は省きました。心理定規が所属している暗部です。
ちなみにクラッカーはネットにクラッキングする意味のクラッカーではなく、
パーティなどで使用されるあのクラッカーの方です。
えー、今回からまた一方通行パート。そこに垣根帝督パートを挟んでいき、
さらにもう一人、カメラを向けるキャラが出てきますがそれはまたいずれ。
では、よろしくお願いします!
――――――――――――――――――――――
学園都市は一端覧祭の二日目を報せる朝の日差しに照らされていた。
朝の六時を少し過ぎた時間帯。
第七学区の『グループ』のアジト、とあるアパートメントの一室では
どこのご家庭でも聞けるであろうまな板と包丁が接触する心地の良い音が響いていた。
「ふっふふん、ふっふふん、ふっふっふ~ん♪」
普段は寝起きの瞼をこしこし擦って気怠そうにしているイギリス清教のシスター、
オルソラ=アクィナスが朝早くから一一人分もの朝食を作っていた。
一応このアジトには結構な量の食材が貯蓄されていたが、昨日の夜ご飯と
今回の朝食でほぼ全て消費してしまっているはずだ。
また買い出しにいかなければミーシャ辺りがごねるだろうな、と
結局まるで眠れなかった一方通行がオルソラの背中を見つめながら思っていた。
「あら、一方通行さん。 おはようございます」
「………あァ。 オマエ何時に起きてンだよ……」
と、一方通行の背後から物音がした。
肩が露出した状態のパジャマ、なんともあざとい寝癖がついた髪。
メガネ未装着の風斬氷華がポケーっとした顔で起床していた。
「ふぁ………、おはようございます。 ……あ!? お、オルソラさん、
あ、朝ご飯なら私が作りますからオルソラさんはゆっくりしてて―――」
「いえいえ、女子寮でも私が食事を用意する事が多かったですし、
風斬さんこそくつろいでいてもらって結構なのでございますよ」
そうではなかった。
朝、一方通行とその他の食事を用意する事で『人間としての生活感』を
肌で感じ、より人間らしく振る舞うための努力をするのが風斬の日課だった。
もちろん代わりに朝ご飯を用意してくれるオルソラの厚意はありがたいが、
客人にここまでしてもらうのも悪いと思う一方、生活習慣が乱れるのではないかという
恐れも若干抱いている。
(……で、でも人間らしさなら他の行動でも感じられるし、問題はないか……)
と、言うわけで風斬はオルソラの厚意に甘え、顔と歯を洗ってくると言って洗面所へ向かった。
無論AIM拡散力場の集合体である風斬に洗顔や歯磨きなど一切必要ないのだが、
これもまた彼女が目指す『人間らしさ』の一環なのだ。
ベランダでは大天使ミーシャ=クロイツェフがなぜか全身を乾布摩擦していたが、
一方通行はもう完全に無視する事に決めた。
出会った頃よりさらに幼い挙動になっていたと思ったら、たまにこういった年寄り臭い行動を
起こしたりと、どうも『第一九学区事件』後のミーシャは不安定さが否めない。
不安定。
(………)
そのワードに、わずかに不安を覚える一方通行だったが、玄関の扉が開かれた事で
その懸念はどこかへ霧散してしまった。
「早いな、お前ら」
「フィアンマさん。 おはようございます」
「オマエこそ、こンな朝早くからどこへ行ってたンだよ?」
「聞くに値せん、くだらん『確認作業』だよ。 ……そこで乾布摩擦を
しているバカに口止めされているんでな。 悪いが今は何も言えん」
「……ふン」
洗面所から出てきた風斬氷華に挨拶を受けたフィアンマは、軽く部屋の様子を窺う。
『アイテム』ガールズの麦野沈利、絹旗最愛、滝壺理后、そしてシスター・アンジェレネは床に敷いた布団で
四人仲良く抱き合って眠っていた。百合厨垂涎の光景だが当然フィアンマは何の感心も示さない。
その布団から弾き出されたように浜面仕上が部屋の隅っこで寝息を立てている。
彼はなぜか上半身に衣服を纏っていなかった。
熟睡してはいるがやはり寒いのか、両腕で己の体を抱くような体勢になっている。
フィアンマは改めてベランダにいる大天使、いや俗天使に目を向ける。
……ミーシャが乾布摩擦に使用している布、よく見ると浜面が来ていた
ジャージとインナーだった。恐らく寝ている間に剥ぎ取られたのだろう。
呆れたようにため息をつくフィアンマだが、天使から服を奪って浜面に
着せてやるという気遣いまではする気になれなかった。
ヴェントは最初、リビングのソファで寝ていたはずだが、現在彼女は
なぜか一方通行が使用しているベッドに移動していた。
どんだけ寝相悪いんだと一方通行もまたフィアンマと同じくため息をつく。
「もうすぐご飯が出来るのでございますが……まだ起きていない方もいらっしゃいますね」
「深夜まで騒いでたとかだろどォせ。 当分起きねェンじゃねェのか?
こいつらのメシは置いといて、とりあえず俺達だけでも食うぞ」
「了解でございます」
風斬も朝ご飯の配膳を手伝い、五人は朝食にも関わらずそこらのレストランに出しても
問題ないような料理を食べながら一時の談笑を楽しむのだった。
――――――――――――――――――――――
――学園都市・第七学区 『グループ』の隠れ家
オルソラ「洗い終わったお皿はどこに置いておけばよろしいのでございましょうか?」
風斬「あ、そこの食器棚に全て収めてもらえれば……」
オルソラ「ここでございますね」カチャカチャ
風斬「ありがとうございます」
ガブリエル「lxdosa満腹ztmds」ゲェーップ シーハーシーハー
フィアンマ「仮にもお前は大天使だろう? 歯も無いクセに爪楊枝で
口内を弄るなよ……。 信徒がこの光景を目の当たりにしたら
アイデンティティが崩壊しかねんぞ……」
一方通行「逆に天使が爪楊枝でオッサンみてェに歯ァほじくる"神話"を元に
新たな魔術が構成されたりすンじゃねェの」
フィアンマ「そう、それこそがホルスの時代に基準となり……って、そんなわけないだろう」
一方通行(ノリツッコミも出来るのかこいつ……)
ヴェント「………、ん」
風斬「あ、ヴェントさん。 おはようございます」
ヴェント「………お腹空いたわ」
オルソラ「今ご用意するのでございますよ♪」
一方通行「オマエ今何時だと思ってンだ。 九時過ぎてンぞ」
ヴェント「うるせえな。 私、朝に弱いのよ」ゴシゴシ
フィアンマ「それが寝起きの素顔か。 珍しいもんを見せてもらった」
ヴェント「こ、のクズ野郎……!! まだ生きてやがったか」
フィアンマ「この現状で俺様が死ぬ意味がわからんのだが」
ガブリエル「!」ピクン
オルソラ「あら……気のせいか、外が賑やかになってきているのでございます」
一方通行「一端覧祭が始まったンだろ」
ヴェント「顔洗ってくるわ……。 洗面所どこ?」
風斬「あ、こっちです……」パタパタ
フィアンマ「一端覧祭とはどれくらいの期間開催されるもんなんだ?」
一方通行「俺もまともに参加したことねェからよくわからねェが、
二、三日で終わるはずだぞ」
風斬「あ、でも……昨日の特別講座に来てくれた生徒さんが言ってたんですけど、
統括理事長……っていうかエイワスさんが今年は七日間に期間を延長したらしいですよ」
オルソラ「それはまた、ずいぶんと長く催されるのでございますねー……」
フィアンマ「そこまで延長してやる事あるのか?」
風斬「何でもここ最近の学園都市って、『外』の評価が著しく低下しているみたいなんです……。
その生徒さんが言うには第三次世界大戦からそんなに日も経ってない内に、『第一九学区事件』なんて
世界を巻き込んでしまった大事件が起きたから、『外』の方達は『やっぱり学園都市は危険過ぎる』と
思い込んでしまったようで……」
一方通行「……」
フィアンマ「そういう方面にも迷惑をかけてるんだなお前ら」
オルソラ「あなたも第三次世界大戦で世界中にご迷惑をおかけしているのではございませんか?」
フィアンマ「……………………返す言葉が見つからん」
風斬「それで、少しでも学園都市のマイナスイメージ、街全体の信頼回復のために
今年の一端覧祭は特に賑やかに行っているみたいなんです。 期間を七日間に
したのも……少しでも『外』から学生さんを呼び寄せるために統括理事長自らが
全体的に指揮を執って進めているみたいですよ……」
一方通行「エイワスのヤツ、何を真面目に統括理事長やってンだ……」
フィアンマ「現状、この街は『学園都市』というより『楽園都市』だな」
ヴェント「………ん。 ねえ」シャカシャカ
風斬「……どうかしましたか? ヴェントさん」
ヴェント「適当に並んでる歯ブラシ借りたけど、良かった?」ゴシゴシ
一方通行「……………それ、俺のだぞ」
ヴェント「ぶぽぁ」ゴプッ
風斬「だ、大丈夫ですかヴェントさん……!? というか、一方通行さんの……だと……?」
ダダダダダダダダダダ………!!! ジャーッ バシャッ
ヴェント「………ッッ!! ……!!! …………ッ//////」ゼェゼェ
一方通行「バカだろオマエ」
ガブリエル「oskeq私lsrk使用fpsw」アセアセ
フィアンマ「『私の歯ブラシで良ければ使え』、だとさ」
ヴェント「いらんわぁ!! つかテメェ何だその歯ブラシ、噛み砕かれててブラシの部分がねえだろうが!!」
風斬「もう……本当に何でも食べちゃうんだから……」
ヴェント「て、ていうか……は、は、早く言えよこのクソ白髪ァ!!! あ、アンタ、ふざけんじゃないわよ!!」
一方通行「オマエが勝手に許可もなく取ったんだろォが」
ヴェント「寝ぼけてたから分かんなかったのよ!! ああ……どうすんのよチクショウ……///」
オルソラ「私とシスター・アンジェレネが今回の来訪に備えてたくさん買ってきた
トラベルセットの歯ブラシがございましたのに………」
ヴェント「テメェェェェェェェそれはもっと早く言えやああああああ!!!!」
フィアンマ「くだらん事でいちいち騒ぐな……鬱陶しい」
風斬(ぐぬぬ………)ワナワナ
ヴェント「………何よ」
風斬「い、いえ……」
――――――――――――――――――――――
オルソラ「本日は皆様、どのように過ごすご予定で?」
ヴェント「寝る」
一方通行「なァ、オマエもォウィリアムやフルンティングの事ニート呼ばわり出来ねェだろ」
ガブリエル「xbei用事alor一件cbur」ハイ
風斬「? 天使さんはどうするんですか?」
フィアンマ「俺様と天使は少し出掛ける」
一方通行「……さっきも思ったが、オマエら妙な事企ンでンじゃねェよな?」
風斬(わ、私も昨日それ思った………)
フィアンマ「……何も企んでなどおらんよ。 この天使を召喚したのは俺様だ。
お前らでは理解出来ん、俺様とこいつでしか話せん事もたくさんある」
一方通行「そォかよ。 ……ま、オマエと一緒ならガブリエルも無茶はしねェだろ」
フィアンマ「余計なフラグを立てるなよ。 ミーシャが無茶しても俺様は知らんぞ」
ガブリエル「rsmk心配lydirgt無用srrkh」
オルソラ「私はせっかくですので、シスター・アンジェレネと学園都市の見学ツアーに
参加してみるのでございますよ」
風斬「見学……ツアー?」
オルソラ「ええ。 昨日、フィアンマさんとここに来る途中に街の外から来た人のために
学園都市を紹介しながら街中を巡るバスがはしっていたものでございますから」
風斬「お、お二人だけで大丈夫ですか……?」
オルソラ「平気の平左衛門、でございます。 そのツアーには万が一の時に備えた……
じゃ、じゃ………じゃんぱー……めんと?」
フィアンマ「『風紀委員(ジャッジメント)』」
オルソラ「その方が同伴してくださるようでございますので」ニコッ
一方通行「……フィアンマ、一応オルソラとアンジェレネにも例の小麦粉霊装を作ってやってくれ」
フィアンマ「過保護だな」
一方通行「面倒事は事前に潰すに限るンだよ」
ヴェント「アンタはどうすんの、風斬」
風斬「え。 えーっと……私は……」
風斬(………一方通行さんと一緒にお出かけしたい。 ……昨日勇気を出して
誘ってみると決意したはず。 こ、ここで頑張らないと……!)
風斬「あ、え、えっと………その…………」
一方通行「あァー…………。 風斬、」
風斬「は、はい……?」
一方通行「今日は何か予定があンのか?」
風斬「あ……いや、えっと………ど、どうしてでしょうか……?」
一方通行「いや……………、」
一方通行「…………。 もしねェなら、俺と一端覧祭回ってみねェかと……思ったンだがよ」
風斬「へ?」
ヴェント「……あん?」
一方通行「あァーいや、予定があるなら――――」
風斬「無い!!!」
一方通行「ッ!?」ビクッ
風斬「…………ハッ! あ、いや、無いです! すごく暇です!」
一方通行「そ、そォかよ……。 だったら適当に散歩でもしねェか?」
風斬「は、はい!! 喜んで!」ペッカー
ヴェント「うおっまぶしっ。 アンタ堕天使化してるわよ」
風斬「あ、すみません………えへへ」テレテレ
ヴェント「……………」ムスッ
一方通行「…………………」フゥ
フィアンマ「出来たぞ。 持っていけ」スッ
オルソラ「感謝するのでございます」
フィアンマ「………念のため言っておくが、食うなよ?」
オルソラ「? 食べないのでございますよ。 これは霊装でございましょう?」
フィアンマ「そう説明したのに食った阿呆がいてな」
ガブリエル「?」キョロキョロ
一方通行「『うしろうしろ』って言われてる志村かオマエは」
オルソラ「では私は他の皆様が起床するまでここでお待ちしておりますので」
フィアンマ「じゃあ……行くぞ、ミーシャ」
ガブリエル「bmgre作戦uyyx決行spagt」フンスッ
一方通行「適当に準備して俺達も出掛けるぞ」
風斬「は、はい……!」ワクワク
ヴェント「…………けっ」
ヴェント「……、」
ヴェント(仕方ない、今日も"あそこ"へ行くしかないわね)
696 : ◆3dKAx7itpI - 2011/10/09 18:33:28.65 UWW1cKHyo 325/481今回はここまでです。
ていうか、いずれじゃありませんでしたね。次回からはフィアンマパートも追加します。
フィアンマパートというかミーシャパートですかね。
そして次回早速、二人が向かった先で話が進行していきます。
一方通行の方から誘うという風斬氷華とのデートも進行させていきますので、
どうかお付き合いお願いします。
次回更新は三日以内。
それでは、今日もありがとうございました!
【次回予告】
「ふっ、『問題ない』か……。 そのセリフを聞いたのも何年ぶりだろうな
ってミサカはミサカはお互いやんちゃだった過去を振り返ってみる」
『妹達(シスターズ)』の司令塔――――――打ち止め(ラストオーダー)
「いやお前と会うのは二度目なんだが」
『天使同盟(アライアンス)』の構成員・元『神の右席』の魔術師――――――フィアンマ
「また魔術師? 最近多いよねーそいつら。 ミサカ、魔術にはあんま
興味ないけど。 ………っていうかさ、最終信号のその喋り方は何?」
『妹達』第三次製造計画(サードシーズン)で作られた御坂美琴のクローン――――――番外個体(ミサカワースト)
「ullris経過hxpt」
『天使同盟』の構成員・水を司る大天使『神の力(ガブリエル)』――――――ミーシャ=クロイツェフ
722 : VIPに... - 2011/10/10 14:00:31.05 2MTd/TxD0 327/481そんなことより、、
>肩が露出した状態のパジャマ、なんともあざとい寝癖がついた髪。
>メガネ未装着の風斬氷華がポケーっとした顔で起床していた。
し、、下着は、、 下着は着けてるのか??パジャマの下はどうなってるんだ?ブラは付けてんのか??
おい>>1 そこのとこどうなんだよ 俺の人生に取って重要な点なんだよ。頼むから教えてくれよ。
737 : ◆3dKAx7itpI - 2011/10/11 18:53:58.94 o8kQ5oxio 328/481それじゃあ更新しちゃおうかな
ゴールデンタイム爆撃行きますです。
>>722
下着つけてなかったら痴女属性が付加されてしまうwww
肩が露出しているのはブラの紐もずり落ちてるからと思って下さい。
つまらんオチで申し訳ないです。
今回はフィアンマ・ミーシャパートです。
二人が向かった先は案の定打ち止めの下で……的な。
それではよろしくお願いします!
――――――――――――――――――――――
高級マンションに設けられているエレベーターの内の一つが
ワンフロアに到着するたびに動きを止めていた。
「kcruh不可解wcpgfl」
「不可解なのはお前の頭の構造だクソッたれ。 ……お前にエレベーター内で
待たせた俺様の失態か。 何でわざわざ全フロアのボタンを押すんだよ」
フィアンマはエレベーター室内の壁に背を預け苛立ちながら言った。
地震等で緊急停止した時に保守会社に連絡するための緊急スイッチを押そうとする
ミーシャを彼は慌てて制止する。
フィアンマとミーシャは第七学区のファミリーサイドという高級マンションを訪れていた。
4LDK。ここは学園都市に勤める教員のために建てられたマンションだった。
フィアンマとミーシャが訪れたのはファミリーサイドの二号棟。
ミーシャがエレベーターの各フロア停止ボタンを全て押してしまったため
わかりづらいが、彼らが目指すは一三階。
そこに住む黄泉川愛穂という教師兼警備員の部屋だ。
「俺様達がここに来るという連絡はしているのか?」
「yrsmi連絡nxah済anhz」
フィアンマの質問にミーシャは自分の携帯電話を開く事で応えた。
受信メールの画面には沢山の絵文字やデコレーションが施された
文面が並んでいる。
黄泉川の部屋の同居人、打ち止め(ラストオーダー)と呼ばれる
少女からのメールだった。
「相変わらず妙なメールだな。 文章の四割に『ミサカはミサカは~』という
言葉が使用されているとは。 というか何なんだあの女は? 特異な喋り方というか……。
お前はどうして今回の『作戦』の仲介者にラストオーダーを選んだんだ?」
フィアンマは打ち止めの事をほとんど知らない。
以前のすき焼きパーティでほんの数分出会っただけな上に、会話と言える会話は
交わさなかった。ただフィアンマの脳裏にはあの一風変わった語尾、というか
口癖みたいな言葉が鮮明に刻まれていた。
そんな彼女といつの間にかメル友になっていたミーシャは言う。
「tjsfm、eimuufxgjzgfcwn。 sbjmsnzkrfxradiybbuu」
普通の一般人はおろか、プロの暗号解読専門魔術師でも解析出来ない
謎の言葉を流暢に紡ぐ。
彼女の言葉を正確に理解できる者は恐らくこの世でフィアンマとエイワス、
アレイスター=クロウリーぐらいのものだろう。
簡単に訳すと『私の目的を漠然と理解し、かつ快く承諾してくれる人間という条件で
照らし合わせると打ち止めが一番適当だったから』、というものだった。
「それはラストオーダーが子供だからか? いや、そもそもラストオーダーは
お前のやろうとしていることを既にお前自身から聞いているんだったか。
知った上で協力するとは……それともこれから俺様達が行おうとしている事の意味が
よく理解出来ておらん可能性もある。 理解されても困るが」
「nswehxghszdtp……、iumsnbm」
「……なるほど、ラストオーダーと一方通行には何らかの繋がりがあるのか。
思えば確かにすき焼きの時、あの女は一方通行にやたら懐いていたな。
『一方通行に素敵なサプライズプレゼントを』という名目が含まれる今回の件、
ラストオーダーが協力的な姿勢を取っているのもそのためという訳か」
小さな電子音がようやく一三階に辿り着いた事を報せる。本来なら約一分で
到着する程度の速度なのだが、ミーシャのいたずらによって三分くらい掛かってしまった。
開いた扉の先にはこの二号棟に住んでいるのだろう教員の男性が待っていた。
彼は頭からフードをすっぽり被ったあまりにも怪しすぎる巨体を見て腰を抜かしそうになっていたが
フィアンマとミーシャは無視して彼の横を通り過ぎていった。
と、部屋へ向かう道中にフィアンマが思い出したように顔を上げる。
「そうそう、念のために調べておいたぞ、お前らが
『星の欠片』と呼ぶ『ベツレヘムの星』の残骸を」
「!」
「やはり欠片なだけあって、無茶苦茶な構造になってしまっていたな。
お前らから聞いた『槍』とやらが無理やり『侵入』していて更に歪んでいた。
それでも一応まだ俺様が作った要塞として存在しているらしく、
地上にいる俺様でも宇宙にある欠片に干渉することは出来た」
「ullris経過hxpt」
ミーシャは結果報告の発表を急かすように尋ねる。
対してフィアンマは極めて冷静だった。
「お前自身が不安定の枠からあと一歩抜け出せん理由も分かったよ。
お前らが『第一九学区事件』で行った一連の作業は、いわば『応急処置』だ。
あれではその場凌ぎは出来ても、お前という存在を確立させるには至らん」
彼は勿体ぶることもせず、何でもないようにあっさりと結論を告げた。
「という訳でお前には既に一度忠告しているが、この状況をどうにか
しなければ結局お前はいずれこの世から消滅してしまうという事だ」
――――――――――――――――――――――
「ふっ……来たか、ってミサカはミサカは声を潜めて笑みを浮かべてみる」
黄泉川宅のインターホンを鳴らすと(もちろんミーシャが連打した)、
フィアンマ達を出迎えてきたのは世界一小さなエージェントだった。
幼い顔に不釣合いの大きめな黒いサングラス。いつも羽織っている白衣は無く、
代わりにどこから持ってきたのか漆黒のビジネススーツを着ている。
が、その下は結局いつものワンピースなのであまりキマっていなかった。
その黒スーツの内ポケットには拳銃が収められていたが、
当然それは本物ではなく、グリップの部分を水に漬けるだけで補充が出来るという
学園都市製の水鉄砲である。
頭頂部のアホ毛をぴょこぴょこ揺らしながら小さなエージェントは
周囲を警戒しながらフィアンマに尋ねる。
「……尾行は? ってミサカはミサカは周囲を厳しく警戒しながら尋ねてみたり」
「……………。 ………、問題ない」
「ふっ、『問題ない』か……。 そのセリフを聞いたのも何年ぶりだろうな
ってミサカはミサカはお互いやんちゃだった過去を振り返ってみる。
一瞬の隙があの世への片道切符になる戦場でそのセリフを聞くたび、
ミサ……俺は安心して先陣を突っ切る事が出来たんだよなってミサカはミサカは
手招きをして中へ案内してみる」
「いやお前と会うのは二度目なんだが」
ちっちゃな手で二人に手招きをし、打ち止めは先に部屋へ向かっていった。
自分が普段住んでいる部屋なのにも関わらず、なぜか小さなエージェントは
壁に背を擦りつけながらカニ歩きをして、緊張の糸をピンと張りながら行動している。
フィアンマは彼女に怪訝な目を向けながらもとりあえず玄関で靴を脱いでいく。
と、ミーシャが挙動不審な打ち止めを追い抜いて先にリビングにお邪魔してしまった。
「お、おい!! ミサカ、じゃない俺の許可なしに勝手に突っ込むな!!
まだトラップの有無の確認も終わらせてな……。 チィ! おい、
あの新人は危機感ってもんが足りてねえんじゃねえのか? ってミサカはミサカは
口に咥えている葉巻を噛みつけながら聞いてみたり」
言いながら打ち止めは人によって名称が変わるポリエチレン詰清涼飲料水
(別名チューペット、チューチューアイス、ポッキンアイス等)をギュッと噛み締める。
フィアンマは怪訝な目を呆れたような目にチェンジさせて、
「……ここはお前が住んでいる部屋だろう? 自分の住処に罠を張る人間など、
それこそ住処を転々とする国家スパイや魔術結社から雇われた『運び屋』
くらいのもんだろうに」
「はっ、相変わらずドライなやつだぜお前は……ってミサカはミサカは
微笑しながら肩をすくめてみたり。 ミ、俺が世界隔離暗躍機構『MNW』所属の
諜報活動員だって事は知ってるだろ相棒? ってミサカはミサカはウィンクしながら
尋ねてみる」
「お前は一体何を言っているんだ」
「ま、さすがのお前も『MNW』の詳細は知らねえだろうな、ってミサカはミサカは
コホンと咳払いをして前置きしてみる。 世界隔離暗躍機構『MNW』はイギリスの
情報局秘密情報部『MI6』みたいに国防情報本部や情報局保安部みたく協力機関と
連携して活動してる訳じゃねえ、その名の通り世界から隔離、世界の目を欺いて
秘密裏に活動している諜報機関なのだぜってミサカはミサカは掻い摘んで説明してみる」
ここの保護者はこの子供にどういう教育をしているんだろう、と
フィアンマは短くため息をついた。
だが『MNW』はあながちウソというわけでもなかったりする。
打ち止めの言葉にいちいち突っ込んでいたらそれだけで台本七冊分くらいの
会話パートが続くと危惧したフィアンマは、あえて打ち止めの『設定』に
乗っかって話を早々に切り上げる方針を固める。
「そうだったな、何せお前が所属している諜報機関は極秘中の極秘機関。
お前とコンビを組んだ事は幾度とあれど、しばらくの間離れているだけで
なぜか機関そのものの記憶を失ってしまう。 確か、『MNW』には関わった
人間の記憶を消すためだけの部署が存在しているんだったか」
「そういう事だぜってミサカはミサカはサングラスの位置を直しながら答えてみる。
ま、お前には悪いとも思っているさ。 世界隔離暗躍機構である俺の方がわざわざ
お前に近付いてトラブルに巻き込んじまうんだからなってミサカはミサカはお前の
苦労を勞ってみたり。 でも仕方ねえだろ?」
打ち止めはポリエチレン詰清涼飲料水をちゅーちゅー吸ってニヒルに笑った。
「やっぱ世界中どこを捜しても、ミサ……俺の相棒を務められるのは
お前しかいねえんだからなってミサカはミサカは口から紫煙を吐いて
最大級の信頼をアピールしてみる」
「いつまでも経ってもお前の性格は変わらんな、相棒」
相棒と呼ばれた事で打ち止めの瞳が一瞬だがキラキラ輝いたのをフィアンマは見逃さなかった。
そんなやり取りをしていると、リビングの方から誰かがこちらへ歩いてきた。
ここの同居人の一人である芳川桔梗だ。
「あら、天使だけじゃなくあなたも来ていたのね、いらっしゃい。
確かすき焼きパーティの時に一度会ってるんだけど、覚えて―――」
「ッ!!? クソッ、『ヤツら』が既に潜入してやがったか!!
ってミサカはミサカは内ポケットの拳銃を素早く引き抜いてみたり!」
言うやいなや、打ち止めは芳川の心臓目掛けて容赦なく水鉄砲の引き金を引いた。
そこから放たれた弾丸は的確に芳川の胸にヒットし、びっしょりと湿らせる。
「ふう……やはりどうあっても、俺の人生は『安泰』という言葉と無縁のようだ。
こっちだ相棒、着いてきな。 お前んとこの新入りも待ちくたびれてるぜって
ミサカはミサカは死体の処理は下部組織に任せつつ案内してみる」
死体とは先程仕留めた芳川の事なのだろうか。打ち止めは意気揚々に
ミーシャが既に入室している自室に入っていった。
ただ声をかけただけなのに銃殺され、胸元をびしょ濡れにされて
下着を露出するハメになった芳川は、
呆気に取られた表情でそれでも冷静にフィアンマへ話しかける。
「……………まぁ、あんな子だけれど、仲良くしてやって?」
「その点は心配いらんよ。 俺様はどうやらあの女と長い付き合いという設定らしいからな」
――――――――――――――――――――――
『さくせんしつ』と書かれた画用紙が貼られた部屋に入ってみると、
そこでは既にミーシャがなぜか正座で待機していた。
室内はいかにも女の子らしい雰囲気だった。ベッドには二、三個ほど
ぬいぐるみが無造作に転がっており、半開きになったクローゼットには
可愛らしい衣服が何着かぶら下がっていたが、あまり着込まれた様子はない。
ただ一点、そんな部屋にはそぐわない巨大なホワイトボードが部屋の違和感を演出している。
「んん? 誰この人」
打ち止めの声ではなかった。フィアンマが声のした方を向くと
ベッドで寝転がって漫画を読んでいる目付きの悪い少女がこちらを訝しむように見ている。
フィアンマに代わって打ち止めが彼を紹介した。
「こいつは俺の相棒、名をフィアンマ。 その規模を今もグングンと
世界に広げている大組織『神の右席』の元魔術師なのだぜって
ミサカはミサカは自慢気に紹介してみる。
今はフリーエージェントにして俺の右腕だけどな」
「また魔術師? 最近多いよねーそいつら。 ミサカ、魔術にはあんま
興味ないけど。 ………っていうかさ、最終信号のその喋り方は何?」
「いやその前に、何で俺様が『神の右席』に所属していた事実を知っている?」
「お前んとこの新入りである天使にメールで教えてもらったのだぜって
ミサカはミサカは暴露してみる」
ジロリとミーシャの顔を睨むフィアンマ。当の天使様は全く気に留めない。
もっとも、自分が魔術師、それも『神の右席』の魔術師であると露見しても
問題はないだろうと考えている彼はミーシャを責め立てるような事はしなかった。
代わりにフィアンマはベッドで気怠げに寝転がっている少女に尋ねる。
「"お前もミサカなのか"」
「まあね。 『番外個体(ミサカワースト)』、よろしく魔術師さん。
つーかアレか、最終信号ってばこの漫画読んで影響受けちゃったんだね」
言って番外個体は手に持っていた漫画を軽く振る。
表紙から察するに怪しげな仮面を付けた全身黒の衣服のエージェントが
機関の下で能力バトルを繰り広げるというもののようだ。
「現代の諜報活動員のトレンドは仮面だぜ?」
「ぬがぁーっ!!? 顔を隠せれば何でもいいって訳じゃないのね
ってミサカはミサカはちゃちいサングラスを投げつけながら歯噛みしてみる!!」
カシャーン、と勝手な都合で床に叩きつけられたサングラスは
ミーシャが拾って装着した。ハッキリ言ってものすごく不気味である。
スパイごっこに飽きたのか、打ち止めはいつもの口調でぶつぶつと呟く。
「それにしても何だか嫌な予感がするのってミサカはミサカは頭を抱えてみる」
「嫌な予感?」
聞き返したのはフィアンマだ。
フィアンマはなぜかミーシャから水鉄砲の銃口を突きつけられているが全く相手にしない。
「あの人がまた他の女とイチャついている悪寒がする……、ってミサカはミサカは
顎に指を添えてその可能性について考慮してみたり」
「うだー!! だからそういうジェラシー光線は禁止ってんだろ!!
第一位の事なんてどうでもいいのにミサカまで嫉妬してきちゃうからぁ!!」
「そんな事などどうでもいいからさっさと本題に入らせてくれないか?
ま、補足しておくと一方通行はお前の危惧する通り、『天使同盟』の女と
一端覧祭開催中の街を仲睦まじく歩き回るようだが?」
うおおおおおあああああああああ!!!! と打ち止めが髪の毛をガシガシと
掻き毟りながら獣のように吠える。
それに呼応するように番外個体もベッドに置かれたぬいぐるみにワンツーパンチを
何度も何度もぶちこむ始末だった。
「事情は知らんが今日はこちらを優先させてもらうぞ?
ミーシャとのメールでこっちの事情は把握しているんだろう?」
「ぬぅぅぅ仕方あるまい、ミーシャとの約束だもんねって
ミサカはミサカは呼吸を整えながら気持ちを切り替えてみる。
あ、番外個体にも今回の事を話してるんだけど大丈夫だよね?
ってミサカはミサカは一応確認をとってみたり」
「俺様は問題ないが、下手に他人に口外すれば"たちまち世界が混乱の渦に飲み込まれるぞ"?」
「だろうね。 ミサカ的にはそっちの方が断然楽しいんだけど、
口外はしないよ。 第一位の慌てふためく顔が今から楽しみだ」
そう言って笑う番外個体の顔は明らかな悪意で染まっていた。
しかしそういう顔など諸事情で見飽きているフィアンマは気にせず本題へ入る。
「まずはおさらいしておこうか。 現在、ミーシャ=クロイツェフと
『星の欠片』が置かれている危機的状況について」
758 : ◆3dKAx7itpI - 2011/10/11 19:20:32.04 o8kQ5oxio 348/481
Q. ミーシャ消滅って本編最終章で散々やったネタだろ。二番煎じかよ
A. 今回は少し事情が違うのです。その証拠に消滅の危機にあるミーシャ本人に
全く慌てた様子がありません。
一方通行と垣根帝督で行った『槍』が応急処置なら、今回のフィアンマの目的は仕上げです。
そんな感じで今日はここまで。ミーシャとフィアンマ、そして打ち止めが
どのような方法で星の欠片を安定させるのか。この結末はメチャクチャ先まで
お預けなのでまったりと待っててください。
次回は一方通行と風斬氷華のデートの様子をお届けします。
次回更新は三日以内。
それでは、今日もありがとうございました!
【次回予告】
「……今日も賑わってますね、一端覧祭」
『天使同盟(アライアンス)』の構成員・AIM拡散力場の集合体――――――風斬氷華
「(……………もしかして俺ァ、……照れて、ンのか?)」
『天使同盟』のリーダー・学園都市最強の超能力者(レベル5)――――――一方通行(アクセラレータ)
765 : VIPに... - 2011/10/11 19:46:56.57 Uo3KYTeAO 350/481乙!!
つまり右赤さんは芳川さんのブラ透け姿を見ても平然としてた訳か……
784 : ◆3dKAx7itpI - 2011/10/13 23:11:33.26 GpqQoGARo 351/481こんばんわ、更新を開始します。
>>765
あの場面でフィアンマが「うっひょーww」とか言って興奮したらそれはそれで
面白そうではあるのですが、私にそんなものを書く勇気はないです……ww
今回は一方通行パート。なんと彼から風斬を誘ってのデートとなったのですが、
どうもイマイチ良い雰囲気になれないようです。
それでは、よろしくお願いします!
――――――――――――――――――――――
あらかじめ誰かに仕組まれた企画と比べると、本物のデートというのは
とにかく大変だと思い知らされた。
(……チッ、街を歩くっつっても馬鹿正直に散歩するだけじゃ
楽しくねェよな……。 どォする、どォ行動するのが正解なンだ)
まさか自分のような人間がこんな壁にぶつかるとは思わなかった、
と一方通行は眉間にしわを寄せながら思った。
学園都市最強の超能力者、科学サイドだけでなく魔術サイドにもその怪物としての
凶悪さを伝えつつある『天使同盟(アライアンス)』のリーダー、一方通行は
第七学区の街を歩いていた。
彼の少し後ろには一方通行の後を健気に着いてくる少女、
風斬氷華の姿も見受けられる。
そう。現在二人は正真正銘デートの真っ最中だった。
しかもデートに誘ったのが風斬ではなく一方通行の方からだと言うのだから驚かざるをえない。
これを彼の知る人間が聞いたら腹を抱えて笑うか、冷や汗をかいてドン引きするか、
どちらかのリアクションを見せる事だろう。
普段の一方通行ならまずあり得ないそのシチュエーション、この光景。
一方通行自身も自覚はしているが、やはり慣れてない事などするものではないと
早くもギブアップ寸前である。
それでもやるしかない、と一方通行は思っていた。
昨夜の垣根帝督との一件で目が覚めた、とでも言うべきだろうか。
自分から動く事で気付ける事もあるかもしれない。そう信じて、
一方通行は風斬氷華を誘ったのだった。
「……今日も賑わってますね、一端覧祭」
「…………」
「………一方通行さん?」
「! あ、あァ?」
この違いは何だろう、と一方通行は思案する。
以前にもこういう状況はあった。黄泉川愛穂が執り行った『天使同盟逢引計画(エンジェルズ・スポット)』で
一方通行はデートを経験している。
もっとも、それは『天使同盟』内のみで行われたため、デート相手四人の内
一人が男、三人が人外という……、むしろ普通のデートとは比べ物にならない程の
経験値を彼は得ていた。
その際、一方通行は風斬ともデートをした。思えば彼女とのデートが
最もマシな部類に入る内容だったと一方通行は考える。
あの時のように振る舞えば今回も割と楽しく風斬と過ごせるはずなのだが……。
(わかンねェ……俺は何を悩ンでる? あの時の事を思い出せ…………、
あの時と同じよォに行動すりゃ問題はねェはずなンだ。
ガラじゃねェのは分かってる、でもやらなきゃならねェンだ、俺は……)
項垂れていた頭を上げる。一方通行の視界に入ったのは一組のカップルだ。
彼らは手を繋ぎ、目と目を合わせて笑顔で会話を交わしている。
「………………………」
一方通行は何に対して悩んでいるのかも分からず混乱する
頭の中を一度真っ白にリセットし、
「………え……?」
無言で。風斬に左手を差し伸べた。
「………これだけの人間が混み合ってたらはぐれちまう可能性もある。
そォならねェよォに手ェ掴ンどけ………、って事だよ」
彼らしからぬ厚意と行動に一瞬目を丸くしたが、やがて表情を綻ばせると、
「は、はい………!」
とびっきりの笑顔を見せながらそっと彼の手を握った。
「……………、」
「?」
「……いや、なンでもねェよ」
一方通行は風斬の手をしっかりと握りながらも、やはり困惑したままだった。
以前のデート計画でも一方通行はこうして風斬と手を繋いでいる。
あの時は確か風斬の方から手を出してきたはずだ。
そして今回は一方通行から率先して手を差し伸べた。
順序こそ違えど、それ以外は以前の時と全く変わらないシチュエーション。
隣には頬を染めながらも笑顔で並ぶ風斬の姿。
しかし一方通行の今の心境だけは、あの時とはまるで違っていた。
(……………もしかして俺ァ、……照れて、ンのか?)
周囲の目線が気になる。道行く人間全てが自分を見ているような気さえした。
視線を固定出来ない。風斬の顔をまともに見れない、よって彼の視線は
地面に降りたり空に飛んだりと落ち着きが無かった。顔も自然と険しくなってしまう。
実際、周囲に行き交う人々の一部は一方通行達の方を見ていた。
しかし端から見れば今の二人は『仲の良さそうな男女二人組がデートをしている』ではなく
『白髪で顔の怖い少年がか弱そうな女の子を路地裏に連れ込もうとしている』ようにしか見えなかった。
今日も一端覧祭という事で街は多くの学生達で溢れ返っているが、二人が行く先には自然と道が出来ている。
風斬に気付かれないよう静かに深呼吸をした一方通行は、
自分が今抱いている感情の正体の解析を保留して風斬に話しかけた。
「どこか行きてェ所はねェのか?」
「え、えっと………そうですね。 あ……昨日滝壺さんが言ってたんですけど、
セブンスミストが……営業を再開したらしい……ですよ……」
「そォか……。 じゃあとりあえずそこで適当に買い物するか」
緊張しているのか若干辿々しい風斬の言葉を受けて、
一方通行はひとまず、かつて自分が全壊状態にしてしまった衣服専門ショップへ
足を運ぶことにした。
――――――――――――――――――――――
『白髪立ち入り禁止』。『水マネキン立ち入り禁止』。
約一ヶ月前に全壊、一二月に晴れてリニューアルオープンした第七学区の
衣服ブランド店、『セブンスミスト』の入り口前に、そんな看板が立ち塞がっていた。
「…………………………………………………………………」
「し、白髪立ち入り禁止……、って。 あ、一方通行さんの事じゃないですよね……?」
看板の前で呆然と立ち尽くす二人。一方通行は思わず自分の髪を撫でていた。
幻想的なまでに透き通った、白い白いその髪を。
「…………学園都市にゃ俺以外にも白髪は存在するだろォが……、
この場合の『白髪』はどォ考えても俺を指してンだろォな」
「え……ど、どうして一方通行さんが、」
「おいおい、俺とミーシャとオマエで前にここへ買い物に来た事があンだろ。
その時、俺とミーシャが何をしでかしたかは忘れたとは言わせねェぞ」
「あ……」
そう。
そもそもセブンスミストがリニューアルオープンをせざるを得ない状況に陥った原因は
一方通行とミーシャ=クロイツェフにあった。
二人は些細な事で喧嘩を起こし(ミーシャはそのつもりはなかったようだが)、
一方通行もミーシャも一国を沈められる程の力を店内で存分に発揮。
学園都市最強と水を司る大天使に暴れられたらたかがビルの一棟など一溜まりもない。
当時はそこに風斬氷華も居合わせていたのだが、彼女はスタッフと客を全力で救助したため
出入り禁止リストには加わらなかったのだろうか。それを言うならミーシャもきちんと
救助活動をしていたのだが、それでも暴れすぎているのがまずかったか。
一方通行は外から店内の様子を軽く窺う。
何人かの店員がこちらを見ていた。その目は明らかな恐怖と動揺の色が浮かんでいる。
看板を無視して入店でもすれば即刻警備員が飛んできそうな雰囲気だった。
「……………どォする。 店員を全員締め上げてゆっくりと
買い物するなンて選択肢も取れるっちゃ取れるンだが」
「い、いえ………他を当たりましょう………」
「だよなァ……」
やや引きつった笑顔を浮かべながら風斬が再び一方通行の手を握ってきた。
(情けねェ……初っ端からスベってるじゃねェか。 やっぱ俺には
ハードルが高すぎたのかも知れねェな。 こンな何の変哲もない
日常の一環ですら………俺には)
早くも心が挫けそうになる一方通行。
確かに、デートをして店に到着し、そこで自分自身が出入り禁止であると
書かれた看板がありました、では三流以下のお笑いネタである。
ここで女性経験豊富な男性ならその看板をネタにして
笑いに昇華させて場を盛り上げる事も可能だろうが、
あいにく一方通行はそんなキャラではない。
若干テンションが下がり気味な一方通行の様子に見かねたのか、
風斬が柔和な笑みをしながら当たり障りないフォローを入れてくれた。
「私……地下街のアクセサリーショップに前から一度行ってみたいと思ってたんです。
良かったら着いてきてくれませんか………?」
「アクセサリーショップ……?」
地下街にそんな店などあっただろうかと記憶の本棚を探りながらも、
「あァ、分かった」
「あ、ありがとう……ございます」
二人は踵を返す。
その際、風斬は絶妙な動きで一方通行に体を密着させた。
一方通行が彼女の方を向くと風斬はほんのりと顔を赤らめながら時折チラッと
彼の様子を見ている。
非リア充勢が見たら今すぐ呪術を学ぶために魔術結社の門を叩きかねない程の良い雰囲気。
という訳で地下街に向かう道中。
一方通行は風斬の顔をまともに直視できなかった。
――――――――――――――――――――――
――学園都市・第七学区 地下街
一方通行「ここも人が多いな………」
風斬「そうですね……。 やっぱり一端覧祭の期間が引き伸ばされて
みんな嬉しいんでしょうか? 一週間文化祭やるみたいなものですし……」
一方通行(クソが……すれ違いざまに俺たちの方をチラチラ見てきやがる
ヤツがいる……。 何がそンなに珍しいってンだコラ……)イライラ
風斬「えーっと……アクセサリーショップはどこだったかな……」キョロキョロ
一方通行「……お、おい風斬」
風斬「はい?」
一方通行「オマエ……ちょっとくっつき過ぎじゃねェのか?」
風斬「す、すみません。 迷惑ですよね……」サッ
一方通行「いやそォいうンじゃねェけどよ」グイッ
風斬「あ……」
一方通行「ただ何となく歩きにくいンじゃねェかって思っただけだ」
風斬「そ、そうですか……。 でも、大丈夫ですよ……///」カーッ
風斬(おおお、う、うう、腕……腕組ん、で……る……///)
一方通行「で、その店はどこに…………。 あン?」
風斬「?」チラッ
禁書目録「あ、ひょうか! と、あくせられーただ!」
上条「んん? おお……久しぶり―――――って、何ィィ!!?」
風斬「お、お久しぶりです……!」
一方通行「ンだよ三下ァ、その驚愕っぷりは」
上条「い、いやいやだって、えっと、お前らついにそういうご関係に!?」
風斬「え………、あ! い、いえこれは………///」
禁書目録「ほう……」ニヤリ
一方通行「バカみてェな勘違いしてンじゃねェよ」
上条「え? 違うのか?」
一方通行「……………わかンねェ」
上条「は?」
青髪「おーいカミやん、勝手にどっか行かんといてや………、ん?」
上条「おお青髪、悪いな」
青髪「こちらのお二人さんは?」
一方通行「…………」ギロッ
青髪(ええええメッチャ怖……。 人が放つ眼光ちゃうやろこれ……)ビクッ
風斬「こ、こんにちわ……」ペコッ
青髪「うん、初めまして~(一発で見抜いたで、この子は臆病属性にメガネっ娘属性、
おまけに胸は特盛サイズ!! おっほ、萌え要素てんこ盛りやないか……!!)」ゴクリ
禁書目録「うわ、やらしい目付き……」ジト
青髪「え、いややなぁインデックスちゃん! 何を言うてんねん」
上条「あー、こいつはクラスメイトの青髪ピアス」
青髪「いやせめて本名で紹介したってや……」
風斬「か、風斬氷華です……」
青髪「よろしくなー風斬ちゃん!」ニヘラ
上条「で、こいつは一方通行(アクセラレータ)」
一方通行「…………」
青髪「よ、よろしくな~……(あくせられーたってどういう名前や? ……もしかして"あの"?)」
風斬「皆さんも地下街へ遊びに……?」
上条「まぁな。 俺のとこの学校、一端覧祭中でもあんま人来ねえし……
やる事ないから休憩もらったついでに遊びに来たんだ」
禁書目録「せっかくとうまと二人で街をお散歩出来ると思ってたのに、
このエセ関西弁の人が邪魔してきたんだよ!」
青髪「誰がエセ関西弁や! そんでもって別に邪魔しとらへんやろ!?」
上条「いや、正直邪魔。 お前その辺でナンパしてくるんじゃなかったのかよ」
青髪「ふん、カミやんの不幸属性が僕にまで感染ってしもうとるみたいや。
既に十数人に話かけとるのにちっとも釣れてくれへんし」
上条「ナンパの失敗を人のせいにすんじゃねえよ……」
青髪「カミやんも前までは僕らと同じ『側』の人間やったクセに……、
今では立派なリア充になり果ててもうて……ホンマいっぺん爆発せえや」
上条「だ、だから別に俺はそんなんじゃねえっつってんだろ!!
垣根といいお前といいどうしてすぐそっちに話持ってこうとすんだよ!」
青髪「なあ、お二人さんもそう思うやろ? カミやんとインデックスちゃん、
甘々のベッタベタで、見せつけてきとると思わへん?」
風斬「……そうですね。 でも、すごくお似合いだと思いますよ」ニコッ
上条「か、風斬……!」アセアセ
禁書目録「……何で動揺してるの、とうま」ジトーッ
一方通行「………オマエらこそ、そォいうご関係じゃねェかよ」
804 : ◆3dKAx7itpI - 2011/10/13 23:37:28.74 GpqQoGARo 371/481今回はここまでです。
中途半端な上にいきなり台本形式たぁいい度胸してます。
青髪ピアスはさりげに結構このSSに出演している気がします。
今回で四度目くらいだったでしょうか。
例によって上条とインデックスも登場しましたが、結局ダブルデート的なアレかと
思われるでしょうが、その辺は空気読ませますのでご安心を。
一方通行パートはもうちょっとだけ続きます。
次回更新は三日以内。
それでは、今日もありがとうございました!
【次回予告】
「仮にオマエがやってるそのゲームを極めても、そのノウハウを現実で活かすのはナンセンスって訳だ」
『天使同盟(アライアンス)』のリーダー・学園都市最強の超能力者(レベル5)――――――一方通行(アクセラレータ)
「あははー、そらそうや。 そんな考えは画面越しの二次元キャラにしか通用せえへんで」
上条当麻のクラスメイト――――――青髪ピアス
「恋のライバルは多ければ多いほど道が険しくなるものなんだよ」
禁書目録を司るイギリス清教のシスター――――――インデックス
「それは…………そうかも知れないね」
『天使同盟』の構成員・AIM拡散力場の集合体――――――風斬氷華
812 : VIPに... - 2011/10/14 10:20:52.34 vfFYFbRIO 373/481>一方通行パートはもうちょっとだけ続きます
超長編ですか?
821 : ◆3dKAx7itpI - 2011/10/15 18:41:38.31 /75Dcswfo 374/481こんばんわ、テトリスの発売日が待ち遠しい>>1です。
今日も頑張って更新しようと思います。
>>812
アンロック編の風斬コースは一番短いんじゃないかと思います。
詳細はまた後日という事でご了承をば。
今回も一方通行パートをお送りします。
上条とインデックス、そして青髪ピアスに出会い、ひとまず挨拶をする二人。
イマイチ上手くいかない一方通行は無事にデートを成功させる事が出来るのか。
それでは、よろしくお願いします!
上条「だー……。 そ、そういやお前らは買い物か何かしに来たのか?」
禁書目録「何でわざとらしく話題をシフトさせるのとうま」ジロッ
上条「いやそのあのえっと別にわざとじゃないっつーか」アセアセ
青髪「うーん……分岐点がイマイチ把握出来ん……」ピコピコッ
風斬「………? 青髪さんは何をやってるんですか?」
青髪「ん? あ、これ? いわゆるギャルゲってヤツやね、知らん?」
風斬「ぎゃる……げ? ゲームですか……?」
青髪「恋愛シュミレーションゲームってヤツや。 何人かのヒロインがおって、
自分が主人公の視点になって女の子を攻略していくゆうゲーム」
一方通行「! ………………」
風斬「へえー……、そういうゲームもあるんですね……」
青髪「まぁ女の子はあんまこういうゲームはせえへんもんなぁ」
風斬「あ、でも怪物を狩って自分で武器作る系のゲームは私……結構得意なんですよ」
青髪「へえー、君みたいな子でもああいうのやるんやな。 作業ゲー的な」
一方通行「何人かの女の中から一人選ンで攻略するって事か?」ズイッ
青髪「えっ、う、うん。 ビックリしたぁ、君の方が食いついてくるとは……」
一方通行「もっと詳しく話せ」
青髪「え、何? 興味あるん? 何や、案外話せる人やん君ィ」
一方通行「勿体ぶってねェでさっさと説明しろ」
青髪「わ、わかったから睨まんといて……(つか風斬ちゃんが彼女ちゃうの?
よく女連れでギャルゲに食いつけるなぁこの人………)」
上条「……で、風斬」ヒソヒソ
風斬「何ですか……?」
上条「どういう経緯があって一方通行とデートしてんだよ?」
風斬「え……。 で、デート、に、見えます……か?///」
禁書目録「それ以外の何でもないんだよ! 私もちょっと気になるかも」ニヤニヤ
風斬「う、うー………んと。 私もちょっと驚いたんですけど、」
上条「うんうん」ニヤニヤ
風斬「今日の朝、一方通行さんが一緒に街へ出掛けようって誘ってくれて……」
上条「おおおお……! あの一方通行が……!?」
禁書目録「ものすごい進展なんだよ!」
風斬「そ、そうかな……えへへ……」テレテレ
上条「ど、どうなんだ……? 楽しんでるのか?」
風斬「私はすごく楽しいです……、彼と一緒にお出かけ出来るだけで嬉しいですし……」
上条(ちくしょう、惚気やがって……!)
禁書目録「あくせられーたの方は?」
風斬「それが一方通行さん……何だかいつもと様子が違ってて……」
上条「と、いうと?」
風斬「………。 そういえばさっき、垣根さんの名前が出てきましたけど……」
上条「ん? ああ、昨日会った時にちょっとからかわれてな」アハハ
風斬「………その影響なのかもしれません」
禁書目録「……? ていとくと何かあったの……?」
風斬「……掻い摘んでで良いのでしたら、少しだけお話します……」
上条「ああ、頼むよ」
青髪「………で、選んだ選択肢や自分の行動によって好感度が上下するわけやね。
中には多くのフラグを立てな仲良くなれへんキャラもおるわけや」
一方通行「…………フラグ……!」ピクッ
青髪「そそ。 この場合は主に恋愛フラグやな」
一方通行「具体的にどンな状況があるンだ」
青髪「せやなー……。 ベッタベタなところやったら、ヒロインがこう、
不良とかに絡まれるイベントがあるやん? そこでヒロインを
救出したりすると好感度が上がったり恋愛フラグが立ったりするなぁ」
一方通行「……それは前に金髪クソ野郎から聞いたが、どォして
人助けしただけで恋愛フラグなンかが成立するンだよ」
青髪「え、当たり前やん。 自分がピンチの時に颯爽と現れて助けてくれる男やで?
惚れっぽい女の子やったらそれだけで確定や。 そうじゃなくても、その人助け
イベントをきっかけに繋がりが出来て、そこから発展したりするもんやろ?」
一方通行「………それが本来の、正しいコミュニケーションだとでも言うのか?」
青髪「ん、まぁそういうもんやろ……人との繋がりなんて。 まぁこれはゲームやから、
現実やったらこう上手くはいかへんやろうけどな。 ギャルゲのノウハウを活かして
リアルの女の子を口説くゆー漫画もあるけど、それも所詮漫画やしなぁ」
一方通行「仮にオマエがやってるそのゲームを極めても、そのノウハウを現実で活かすのはナンセンスって訳だ」
青髪「あははー、そらそうや。 そんな考えは画面越しの二次元キャラにしか通用せえへんで。
リアルの恋愛は酷なほどに難しい。 せやから僕はいつまで経っても彼女が出来ひんねん……
君みたいなリア充……言うたら悪いか、彼女がおる君とは違うてな」
一方通行「………彼女?」
青髪「風斬ちゃんがそうなんやろ?」
一方通行「オマエにはそォ見えンのか」
青髪「そう見えるも何も、僕が君らんとこ来た時仲良ぉ手ぇ繋いでましたやん。
風斬ちゃんも君とおってえらい幸せですオーラ放ってるし。
ホンマ羨ましいわ……。 でもあの子、たまに立体映像みたいにブレるのは何なん?」
一方通行「……………」
風斬「……そんな訳で、垣根さんとは今ちょっと疎遠になってまして……」
上条「うーん、一方通行と垣根が喧嘩ねえ……。 絶対巻き込まれたくないな……」ゾクッ
禁書目録「二人とも、バカなんだね」
風斬「え……?」
上条「お、おいインデックスさん……? それはちょっと―――」
禁書目録「二人共、心の奥底ではそんな事わかりきってるはずなんだよ。
ひょうかの話ではていとくはあくせられーたに相手の気持ちを蔑ろにしてる
って言ってるけど、あくせられーただってそれは自覚してるんだと思う」
上条「……………」
風斬「そう、なのかな………」
禁書目録「それに、捲し立てたていとくの方が出ていっちゃうってのがよく分かんないんだけど、」
風斬(それは垣根さんが能力と魔術を取り戻そうとして……。
でもそんな事この二人に言ったら絶対心配しちゃうだろうし……)
禁書目録「そんな事でていとくが怒るって事は、ていとくにもそれに酷似した
事態がここ数日の間にあったんだと思う。 だからていとくは、
自分に言い聞かせるようにあくせられーたに捲し立てたんだよ、きっと」
上条「複雑だな……」
禁書目録「でも同じ男の子のとうまなら分からなくはないでしょ?」
上条「それは、まぁ……」
風斬「それで、つまり……?」
禁書目録「あくせられーたは今、勇気を持って一歩を踏み出してるんだと思う。
真剣に相手の心に近付いて、触れてみたいって思ってるのかも」
上条(一方通行の生い立ちは知らないけど、第一位ってだけで人生が大幅に歪んじまってんだろうな。
俺の右手に関する事みたいに……。 あいつの場合、人の心に触れる機会があまりなかったのかな)
風斬「それを……私に……?」
禁書目録「うん。 だからあくせられーたは多分、緊張してるんだよ」
風斬「彼が……?」
禁書目録「あくせられーたの事をあまり知らない私でもそれは分かる。
困惑してるのを隠してるんだよ。 ……ほら、男の子って
変なところで意地を張ったりしちゃうでしょ? ねえ、とうま?」チラッ
上条「う、うるさいな……」
風斬「………………」
禁書目録「だから今日は思う存分、あくせられーたと一緒にいてあげて」
風斬「私なんかが……支えになれるのかな……?」
禁書目録「ふふ、そんな事言って。 さっきあんなに仲睦まじそうに
腕組んでたでしょ。 ひょうかも本音は彼の傍にいたい気持ちで
いっぱいなんじゃないのかな?」
風斬「う…………///」
上条「あはは、図星か」
禁書目録「私はひょうかを応援してるんだよ!」
風斬「うん……ありがとう、二人共……」ニコッ
禁書目録「あ、ところで、」
風斬「?」
禁書目録「あくせられーたの周りに、他の女の子とかは居たりするのかな?」
風斬「うん……結構、いると思う………」
上条「へえー……すげえなあいつ」
禁書目録「………」ジロッ
上条「な、何でしょうか……」
禁書目録「苦難の道を辿る事になるかもしれないんだよ」
風斬「え、私が………?」
禁書目録「恋のライバルは多ければ多いほど道が険しくなるものなんだよ」
風斬「それは…………そうかも知れないね」ゴクッ
禁書目録「ひょうかの気持ち、すっごく良く分かるんだよ!
私もここまで歩み寄るのにどれだけ苦労したか……」
上条(何だろう、なぜか胸にグサグサ刺さる何かが………)
禁書目録「どんな女の人がいるの?」
風斬「そ、それはまぁ………色々かな」アセアセ
禁書目録「? とにかく退いちゃダメだからね! これでもかってぐらい、
積極的にアプローチしまくるんだよ! 私はそうしたもん!」
風斬「う、うん……! やってみる……!」グッ
上条(女の子がこういう話してる時ってすごく居辛いんだよなー……。 向こう行こ)コソコソ
青髪「例えばここ、このシーンな。 会話進めてったら
選択肢に入るんやけど、君ならどの選択肢を選ぶ?」
一方通行「…………この状況なら二番目の選択肢が無難じゃねェのか?」
青髪「ちゃうねんな~、正解は四番目の『徒歩で向かう』、や。
このルートの女の子は過去に電車の中で痴漢行為を受けてんねん。
それ以来電車での移動は苦手になってしもうてな、主人公はそれを
知ってるワケやから洋服店まで徒歩で向かうて選択肢を選ぶんが正解なんや」
一方通行「この女の過去なンざ俺は知らねェぞ……」
青髪「あ、ホンマや。 あははは」
上条「何やってんだお前ら?」
青髪「いやぁ、何か一方通行クン、意外にもこういうギャルゲに興味あるみたいでな?
せやから僕が今ちょっとどういうゲームなんかっちゅーのを教えてあげてんねん」
上条「……………マジで?」
一方通行「……興味っつーかよ、こォいう人とコミュニケーションを取る事を
重要視して進行するゲームが少し珍しいと思っただけだ」
上条「割とポピュラーだけどな。 俺はあんまし興味ねえけど」
青髪「何なら貸したろか? 僕こういうゲームなら結構な数持ってるし」
一方通行「それには及ばねェよ。 俺がこンなゲームを真剣にやってたら
ついに狂っちまったかと周りがクソうるさそォだからな」
上条「はは、そんなことないと思うけど」
青髪「ま、必要あらへんよな……あない可愛い子が居てるんやし」
一方通行「………………」
青髪「ていうかカミやん、インデックスちゃんとどっか行こうとしてたんちゃうの?」
上条「ああ、俺たち今日朝飯食ってねえんだよ。 だからどっかで適当に
済ましちまおうかなと思って。 地下街にも結構飲食店あるだろ、
前にインデックスと風斬で行った事あんだけど、インデックスが
また行きたいって言い出してな……」
青髪「じゃ僕も行く~♪」
上条「来んなよ鬱陶しいから」
青髪「ちょ、マジで言うてんの? 何や……最近カミやんも冷とうなってきてへん?」
上条「俺もってどういう意味だよ。 ……土御門?」
青髪「そうや。 あいつ最近付き合い悪いと思わへん? ここ数日、
全然僕らの誘いに乗ってへんし。 つかそもそも一端覧祭前日
に学校来たのを最後に、あいつ来てへんよな?」
上条「そうだなー、電話かけても出ねえし。 何か急用でも出来てんじゃねえか?」
青髪「なんやなんや、もしや義妹と二人で旅行にでも行ってるんとちゃうか~」
上条(……魔術サイドで何かあった、とかかなぁ……)
一方通行「………。 そろそろあの暴食シスターにメシ
食わせねェとオマエが食われちまうンじゃねェのか」
上条「ん?」
禁書目録「とうまー! もうお腹ペコペコなんだよ!! 朝から何にも
食べてないなんて……普段の私ならあり得ないかも……」
上条「あー、はいはい。 お前らはどうすんだ?」
一方通行「……まァついでだ、俺たちも――――」
風斬「あ……じゃあ私達はここで失礼しますね」
一方通行「あ? イイのかよ、あの暴食シスターともっと一緒に居なくて」
禁書目録「……一応言っておくけど、私にはインデックスっていう名前が
あるんだからね? 前にファーストフード店で名乗ったよね?」
青髪「何や、風斬ちゃんも一緒にくればええのに」
禁書目録「え……、じゃああなたも来るの?」
青髪「そんな露骨に嫌そうな顔せんでええやん!」
上条(…………………、ふむ)キュピーン
一方通行「?」
上条「上条さんとした事が、すっかり失念していたのですよ」
風斬「?」
上条「俺たちが今から行く店、既に三人で予約してるから一緒にメシ食えないんだよなー」
禁書目録「え? …………、はっ」キュピーン
青髪「何をワケの分からん事言うとんねん、何で朝メシ食うのにわざわざ予約なんか―――」
禁書目録「そう言えばそうだったんだよ! だからひょうか達は残念だけど………」
風斬「あ、そうなの……? なら早く行った方が……」
禁書目録「ごめんね。 また一緒にお話しよ?」
風斬「うん……またね」ニコッ
青髪「え? どゆこと?」
上条「じゃ、またな二人共! おら早く来いよ青髪、間に合わなくなっちまうだろ!」
青髪「え? ああ、空気読めゆう事? そんならこの場合は―――げふぅ!?」ドコッ
禁書目録「口にするのは野暮ってもんなんだよ!」
青髪「シスターやったらもっと優しゅう接してや……」ガクッ
一方通行「……………なンだってンだ? あいつら急に」
風斬「じ、じゃあ早く私達も行きましょう……!」ギュッ
一方通行「ン、あァ……。 オマエ店の場所わかってンのか?」
風斬「はい……すき焼き屋に向かう時に必ず見かけてたので……」
一方通行「そォか。 じゃ、さっさと行くぞ」
風斬「はい」
――――――――――――――――――――――
それは、あまりにも出し抜けだった。
一方通行と風斬氷華の仲睦まじいデートをいつも通りに眺めていたエイワスが、
ふとこんな事を呟いたのだ。
「おかしい」
窓のないビル、内部の設置されているビーカー型の生命維持槽の中からエイワスと
同じように、一方通行と風斬の様子を退屈そうに眺めていたアレイスターが
怪物の発した何気ない一言に反応する。
「どうした」
「……アレイスター。 君に一つ尋ねたい」
「答えられる範囲でなら。 ……珍しいな、あなたが他者に対して何かを
尋ねるなど。 この現象自体が既に何らかの前触れとさえ思える」
「私について尋ねたい。 私はどこかおかしくないか?」
「ふむ、答えられる範囲で答えると言った手前、その言葉を取り消すわけにもいかない
からな。 率直に返答させてもらうと、あなたはもう何もかもがおかしいよ」
「そうではない」
またどうせいつもの下らない俗なやり取りが始まるのだろうと思い、
思いながらもそれに付き合う姿勢を見せたアレイスターだが、エイワスの
表情は何時になく真剣だった。
表情自体はいつものエイワスと変わらない、フラットなそれだ。
しかしその何を考えているのかまるで読めない表情から、今回は
漠然とした感情のようなものを読み取れるような気がアレイスターにはした。
不安を抱いている、まではいかなくとも、何か重大な―――"アクシデント"に気付き、
それが具体的にどういったアクシデントなのかを頭の中で整理しているような。
「……どうした?」
アレイスターは再度尋ねる。
「……どうした、と聞かれたらどうもしない、と現状では答えるしかないのだが。
しかし何かがおかしい。 それも私の中の、何かがおかしいのだよ。
構成上私という存在が『不安』を抱く事は基本的にあり得ないが……、それでも
予感めいた何かを感じる事はある。 『第六感』と言う表現が正しいかな?
私という存在をcudyq……、現出する際に組み込んでいるプログラムに問題が発生したか」
「馬鹿な」
アレイスターのそれはとてもその発言が信じるに値するものではないため驚愕した
『馬鹿な』ではなく、冗談も休み休み言えというニュアンスの『馬鹿な』だった。
「あなたという存在を現世で維持させる事がどれだけ困難であるかは
あなた自身が一番良く分かっているはずだろう? 世界中に流布されている
AIM拡散力場の浸透率にわずかな乱れが発生しただけで現出が出来なくなるし、
その性質上常に乱れが発生するAIM拡散力場の浸透率を常に"先読み"し、自身
の身体を維持し続けるために最適なAIMを再構成する自動制御プログラムが
あなたの中に組み込まれているはずだ。 ……まさか、かの『第一九学区事件』
で立ち上げたバックアップデータにそれを組み込む事を忘れたと言うんじゃないだろうな?」
「それこそ君自身が一番熟知しているのではないかね? 『プラン(笑)』の
保険としてバックアップを作成したのは君だろう。 あのデータの中に
AIM拡散力場の浸透率を計算するプログラムは組み込まれていたよ」
「この場面で私の『プラン』を嘲笑する必要性はあったのか?」
「私自身の存在を維持する事に関しては何ら問題は無い。 私が保証するよ、
私の存在をな。 それにしてもやはり、君からでは私の状態を探るために
私に介入する事は不可能のようだな」
「この肉体ではな。 人間としての基本的な機能は取り戻しつつあるが……、
それでもまだ魔術や科学技術を駆使するまでには至らない。
もっとも、あなたの蛮行によって肉体の再生進行度は多少飛躍したようだが」
以前にエイワスがアレイスターの肉体を『修理』するために稼働させている
生命維持装置を無理やり調整した事により、アレイスターの身体は予定よりも
早く回復している。その時の『苦しみ』を思い出しながらアレイスターは
食って掛かるが、しかしエイワスは乗ってこなかった。
余談だが、調節の際アレイスターは世に知られる事こそないが、無呼吸世界記録を大幅に塗り替えている。
「ふむ、」
エイワスは得心いかぬ様子を残しながらも頷くと、アレイスターに尋ねた。
「アレイスター」
「何だ?」
「私が覚えたこの漠然とした予感、身体を構成するプログラムに起きた不具合でないなら、
それよりもっと深く、"より根本的な部分に"何らかの異常事態が発生しているのかもしれない」
「……馬鹿な」
今度こそ、信じるに値するものではない発言に対する『馬鹿な』だった。
反論しようとしたアレイスターだが、思わず喉を詰まらせてしまった。
エイワスの言う"根本的な部分"。核。その本質を表す言葉である『それ』を
口にする事をアレイスターは躊躇った。
「しかし、まさか。 それこそあり得ないだろう」
「調べてみる価値はあると思うがね? 『第一九学区事件』でも"濃度"を極めて
薄くして君が降ろしたアレだ。 私の存在を決定づける究極のブラックボックス」
アレイスターは隠す素振りも見せずエイワスに対して舌打ちをする。
エイワスが送ってきた合いの手に、彼はもう応えざるを得なかった。
「…………………、『ラプラス』」
それは学園都市最重要機密コード、暗部の最奥部に位置する『ドラゴン』ですら
霞んでしまう最強のブラックボックス、究極の機密コード。このコードの存在を
知る者は学園都市でも、いや世界中に範囲を広げてもアレイスターとエイワスしか居ないだろう。
そのコードの存在を秘匿するために『プラン』や『ドラゴン』が存在していると言っても大言壮語ではない。
――――――――『ラプラス』。
後にエイワスは己が不得要領な予感の正体に気付くが、その頃にはもう手遅れだった。
852 : ◆3dKAx7itpI - 2011/10/15 19:17:12.62 /75Dcswfo 404/481
ここまでです。
人間としての基本的な力は取り戻しつつあるとか言ってるアレイスターが
既に人の領域を越えた偉業を成し遂げてる件について。
……まぁご愛嬌という事で。
さて、相変わらず空気読み過ぎの上条の計らいでデート続行となった
一方通行と風斬氷華。このまま楽しくデートが出来るでしょうか。
そして最後に突然やってきた行間天使エイワス。風邪でも引いたのでしょうかね。
次回更新は三日以内。フィアンマパートをお送りします。
それでは、今日もありがとうございました!
【次回予告】
「ミサカは何のことやらさっぱりわかんなかった、ってミサカはミサカは
ミーシャから受け取った"あのメール"の文面を見ながら肩をすくめてみる。
……まさか『これ』がミーシャを助ける解決策になるの?」
『妹達(シスターズ)』の司令塔――――――打ち止め(ラストオーダー)
「…………確かに、ミサカにもよくわかんないな。 何これ、『還る』?」
『妹達』第三次製造計画(サードシーズン)で作られた御坂美琴のクローン――――――番外個体(ミサカワースト)
「そう、一度"還る"。 いや、再び"堕とす"と言い表すのが正しいか」
『天使同盟(アライアンス)』の構成員・元『神の右席』の魔術師――――――フィアンマ
862 : VIPに... - 2011/10/15 20:51:23.24 azfp96e80 406/481なに?エイワスがラブプラス?
866 : VIPに... - 2011/10/15 21:51:04.61 nDMrElVF0 407/481ラブプラスかと思って二度見した
871 : VIPに... - 2011/10/16 02:46:03.54 ggjS7TJA0 408/481乙!!
とりあえずラプラスがラブプラスに見えたのは俺だけじゃ無くて安心した
にしても一方さんがギャルゲか……感慨深いものがあるな。
885 : ◆3dKAx7itpI - 2011/10/18 07:32:01.36 hbiCuwXio 409/481なみのりで有名なあのポケ○ンとか解凍ソフトとかならともかく、
まさかラブプラスで来るとはwwまぁでも、こういうお話なら普通
ラブプラスを連想しますよねえ。私は未プレイですが、興味はあります。
そんな訳で面白いレスに感謝している>>1です。
勤務時間の都合上で朝っぱらからの更新となります。
今回はフィアンマ&ミーシャパートを。星の欠片を安定させるために
フィアンマが提示したとんでもない秘策とは……?的な感じで
それでは、よろしくお願いします!
――――――――――――――――――――――
「―――――詰まるところ、方法が雑過ぎたという訳だな。
まぁ、対アレイスターという極限の状況下でここまでの処置を
施せただけでも大したもんだが、それでもやはり、これでは
ミーシャ=クロイツェフ自体の安定には至らんという事だ」
流暢に言葉を紡いでいたフィアンマは一度だけ息をつき、
「結論を言うと、そう遠くない内にミーシャ=クロイツェフは別位相へ
強制退場させられてしまうという訳だ。 ………ここまでで何か質問は?」
「一から一〇まで分かんない、ってミサカはミサカは首を傾げてみたり」
「右に同じー。 そもそもミサカ達は『第一九学区事件』の事を
あまり知らないからね。 そこで寝転がって漫画読んでる大天使様に
関わるデカい事件が起きた程度にしか認識していない」
そしてその認識だけで十分だし、と番外個体は付け加える。
フィアンマは軽い挙動で頭を掻き、思い切りため息をついた。
(理解出来んのも無理はない、か。 これは魔術サイドの領分、いや、
もはや魔術も科学も越えた領域の話と言っても過言ではないからな)
フィアンマは打ち止めと番外個体の私室でミーシャ=クロイツェフと『星の欠片』、
宇宙空間を今も夢遊病のように漂っている『ベツレヘムの星』の残骸の関係について
より分かりやすく、理解出来るように説明した。つもりだった。
しかし残念なことに打ち止めと番外個体という、科学サイドの中でも
また稀有なクローン体にはフィアンマの熱弁は届かなかったようだ。
番外個体がミーシャの腕から流れる皮膚代わりの布の一部を弄りながら言う。
「でもまぁ、要するにその『星の欠片』を何とかしないとこの天使様が
この世から消えちゃうって事でしょ? 結局、『第一九学区事件』の
二番煎じって訳だ。 だったらその時に解決した方法をもう一度用いればいい」
「そうはいかん」
フィアンマは指でホワイトボード用のマーカーを回しながら静かに反論した。
「さっきも言ったが、垣根帝督は俺様が『ベツレヘムの星』に施した
防御術式の性質を『禁書目録』の知識を借りて解析、数値化している。
その数値から逆算して『星の欠片』を破壊せず、かつ太陽に巻き込まれんよう
儀式場を隔離させるために必要な魔力を弾き出した。 そしてその魔力を
垣根帝督が生み出した『未元物質(ダークマター)』で作り上げた『槍』に込め、
一方通行の能力による超規模の投擲で事を収める事が出来たんだ」
こういう感じでな、とフィアンマはマーカーの先端部でホワイトボードをとんとんと叩く。
そこには魔術師が書いたにしてはやたら数字の羅列が多い、何らかの計算式があった。
『星の欠片』やその位置関係、『槍』の説明用にイラストまで描かれている。
余談だが、フィアンマは絵がそこらのプロが裸足で逃げ出す程上手かった。
「それで解決したんじゃないの? ってミサカはミサカは疑問をぶつけてみる」
打ち止めが健気に手を挙げて質問をする。
フィアンマはミーシャに向けてマーカーの先を指し示しながらそれに応じた。
「『星の欠片』はな。 だがミーシャ本人が安定していなければ同じ事だ」
お前もちゃんと聞け、とフィアンマは足元で寝転がるミーシャを爪先で小突き
説明を続ける。
「『槍』という外部からの干渉に対し『星の欠片』はどうにか適応したものの、
ミーシャ=クロイツェフが追いついておらんと言えばいいのか。 昨夜、軽く
『星の欠片』の状態をチェックしてみたが『槍』は刺さったまま欠片は健在していた。
当たり前と言えば当たり前なんだが…………」
「宇宙にある欠片をどうやって調べたの? ってミサカはミサカは更に疑問を投げてみたり」
「『ベツレヘムの星』は俺様が作ったんだよ。 『槍』さえ無ければ、俺様が
欠片の座標を正しく認識できれば大気圏内に引っ張ってくる事も出来ん事はないがな。
下手に動かせばこいつが消えるし、欠片が大気圏の熱に耐え切れん可能性もある。
一度大気圏をくぐっている分、防御術式の耐久力が著しく低下しているだろうからな」
『ベツレヘムの星』、十字教に縁のある様々な物品を寄せ集めて完成した要塞は、
未だにフィアンマが掌握している状態にある。 要塞のほとんどが力を失い北極海に崩れ落ちても、
一部、欠片さえ残っていればフィアンマはどこに居てもある程度操る事が出来る。
かつて一方通行率いる『天使同盟(アライアンス)』はロシアから次の目的地に行く際、
右方のフィアンマに接触する意向をほぼ固めていた。
今にして思うとその判断は正しい、というより必然的だったのかも知れない。
もしロシアでミーシャ=クロイツェフの限界が訪れず、そのまま
フィアンマに出会える形となっていたら。
結果的に、アレイスター=クロウリーと戦うなどという空前絶後な道を辿らなくても済んだかもしれない。
(………そうならんように、エイワスかアレイスター辺りが"細かく調節していたんだろうがな")
急に黙りこんでしまったフィアンマを怪訝な目で見てくる打ち止めと番外個体に気付き、
フィアンマは改めて現状打破のための策を説明する。
「つまり、『槍』という異物の干渉にミーシャ自身が適応しきれておらんのだよ」
「『星の欠片』と、この天使様は相互関係にあるって事?」
番外個体の言葉にフィアンマは無言で頷く。
「正確には相互作用か。 ただし、科学サイドでいう『基本相互作用』などとは
仕組みからして違うだろうがな」
「粒子と粒子が相互作用力で引き合って衝突する現象とは関係ないの?
ってミサカはミサカは質問してみたり」
「残念だがそこに『オカルト』が加わることになる。 魔術サイドの要素がな。
相互作用力など存在せん、ミーシャと『星の欠片』は言わば魂で繋がっている。
精神的な繋がりを得てこの天使は現世に留まっているという訳だ」
「魂の定義って?」
「それは俺様にも分からん。 人によって解釈は違うし、
魔術でも科学でも説明出来んものの一つではあるな」
逸れそうになった話題をフィアンマは咳払いで引き戻す。
「ミーシャ=クロイツェフが『槍』という異物の力を取り入れる形で適応しなければ、
こいつの身体の中に『未元物質』から流れる不安定な魔力が溜まり続けるだけで、
いずれ飽和状態から消滅に至ってしまう」
自身の存在が消えてしまうという危機的状況に置かれているにも関わらず、
ミーシャ=クロイツェフは変わらずのんびりと漫画の読書に耽ていた。
『第一九学区事件』の際もミーシャ=クロイツェフは終始消滅の危機に晒されていた。
一方通行達も、最終的にはミーシャ自身も、ミーシャの消滅を食い止めるため
ボロボロの身体に鞭を入れながら戦い抜いた。
しかし今回に関してはミーシャは全く危機感を持っていない。
この部屋に来る前にもフィアンマから消滅の危機について軽く聞いていたが、
特に慌てふためいたり直接的な行動に出る事はなかった。
仮に今、ここに事情を全て知った一方通行が居たら心底不思議がるだろう。
しかし当然、どうせ消えるなら最後まで自分の好きに過ごそうと諦めているのではない。
実を言うと今回は以前の状況ほど深刻ではないのだ。
それは消滅の危機に瀕しているミーシャ自身が一番よく分かっていた。
さっきからずっとフィアンマが率先して現状の説明を行っているため
消滅の回避策を立案したのも彼だと思われがちだが、今回の事態の解決策を
思いついたのは他でもない、ミーシャ=クロイツェフだった。
以前の戦いで皆に助けてもらったミーシャは、今度は仲間の手を煩わせまいと
一人でこの危機を乗り越える事を決意したのだ。
……が、具体的にどうすればいいのか頭が回らなかったため(それも現在の『星の欠片』に
適応出来ていない影響かもしれん、とフィアンマは推測していた)、結局フィアンマや
打ち止めに力を借りている点についてはご愛嬌ということで。
「でもこんなに落ち着いてるって事は既に何らかの解決策は用意してあるんだよねえ?」
番外個体の言葉を受けてフィアンマは薄く笑った。
ミーシャ=クロイツェフが立案した消滅回避作戦。
その概要をホワイトボードにすらすらと書き連ねていく。
「俺様も最初にこの天使から解決策を聞いた時は耳を疑ったよ」
「ミサカは何のことやらさっぱりわかんなかった、ってミサカはミサカは
ミーシャから受け取った"あのメール"の文面を見ながら肩をすくめてみる。
……まさか『これ』がミーシャを助ける解決策になるの?」
打ち止めは既にその解決策を傍受していた。
『神の右席』、右と炎と奇跡を司る最強の魔術師でさえも
『耳を疑った』と呆れさせる常識はずれの解決策。
概要を書き終えたフィアンマが最後に軽くペン先を押し付ける。
ホワイトボードに書かれた文字と絵を追って番外個体の視線が左右に泳ぐ。
彼女の顔がみるみる訝し気なそれに変わっていった。
「…………確かに、ミサカにもよくわかんないな。 何これ、『還る』?」
「そう、一度"還る"。 いや、再び"堕とす"と言い表すのが正しいか」
フィアンマは言いながら視線を下に向けた。
ミーシャ=クロイツェフが読書をやめ、ジッとこちらを見つめていた。
それを確認したフィアンマは極めて冷静に、しかしハッキリと告げた。
「近日中に、この世界で再び『御使堕し(エンゼルフォール)』を起こす」
魔術サイドの人間が聞けば泡を吹いて倒れそうな事を、フィアンマは科学の総本山のド真ん中で堂々と言い放った。
「ミーシャ=クロイツェフが『肉の器』で待機している間に、俺様が
『星の欠片』に干渉してミーシャを安定させる。……それが
成功すれば本作戦のファーストステップはクリア出来るんだ」
――――――――――――――――――――――
エリザリーナ独立国同盟。
ロシア政府の方針に賛同出来ない独立国が集結して形成された同盟国。
『エリザリーナ』は独立時の立案者である聖女、エリザリーナから頂いている。
この国で起きた最近の出来事を挙げるとすれば、ローマ正教他各勢力が引き起こした
第三次世界大戦と、突如として『情報の提示』を要求してきたプライベーティアとの抗争がある。
プライベーティアとの抗争はロシア政府に著しいダメージを与えた。
もちろん第三次世界大戦でも大打撃は受けているが、プライベーティアの件に関しては
ダメージの色合いが違っていた。
汚職。
ロシア連邦軍参謀本部情報総局、通称『GRU』の軍情報部長及び一部の局員が
エリザリーナ独立国同盟にプライベーティアを派遣した事実が発覚したのだ。
国民の目を盗み秘密裏に保有していた非公式部隊を、明確な理由も提示せず
独立国に進行させた事実は大きな波紋と政府に対する不信感を生む結果となった。
ロシア政府は直ちに当時の情報局長に引責の処置を施し、この事件に関わっていた各局員全てを
解雇している。その時の情報局長は何やら様子が普通ではなかったとの声も相次ぐが、
真偽の程は未だ不明のままである。
斯くして収束の道を辿ったプライベーティア襲撃事件。件をきっかけにロシア政府と
独立国同盟の関係も少しだけだが良好的になってきているようだ。
そしてロシア政府と独立国同盟の関係を回復させた最大の要因は、
プライベーティアの進行を防ぎ、世界は知る由もないが情報局の汚職を
"見事に暴いた"とある小組織。
『天使同盟(アライアンス)』。彼らがこの国に訪れた際に突っ込ませた巨大クルーザーは、
今やロシアで知らない者はいないほどの、ちょっとした観光スポットになっていた。
「何かイメージとは違うわね、この独立国。 独立国って言うくらいだから
どこもかしこも軍備基地でどこを見ても軍人がいて、殺伐とした空気で
満たされてると思ってたわ。 第三次世界大戦の舞台にもなった場所だし」
「何だお前。 健気に国際情勢とか集めるキャラじゃなかっただろ」
「そりゃあれだけ大きな戦争が起きれば世界に向ける目も少しは変わるわよ」
白い息を吐きながら積雪を踏みしめ、独立国の居住区を歩く垣根帝督とドレスの少女は
互いに湯気を立てるホットドッグを食べながらそんな会話を交わしていた。
道を歩いているとたまに住民が垣根に笑顔で挨拶をしてくる様子も見られ、その度に
ドレスの少女はくすくすと笑みをこぼし、垣根は鬱陶しそうに目を細めるのだった。
ちなみに二人が食べているホットドッグ、どこで購入したのかというと――――――。
「さっきこのホットドッグを買ったケータリングカー、私の眼が腐ってないのなら
どう見ても『Alliance』ってスプレーで殴り書きしてあったと思うんだけど。
あと意味は分からないけどなぜか"マネキンっぽい似顔絵"も」
「……………………………………」
言われて、垣根は腹痛を引き起こしたような苦い顔をした。
『星の欠片』を探すために『天使同盟』の一行が飛行機でロシアに向かおうとした時、
それが偽造である事を指摘され搭乗出来なくなった経緯がある。
エイワスの提案でロシアへは船で行く事に決まり、学園都市には港が無いため
神奈川の港まで移動する足が必要となった。
そこで垣根と一方通行は学園都市統括理事会のメンバー、親船最中の協力を経て
一台の軍用トラックをレンタルする事が出来たのだ。垣根帝督は街に軍用トラックを走らせるのは
まずいと考え、あらゆるトンデモ技術を駆使してケータリングカーに改造してしまった。
そのケータリングカーは船に乗せていたため現在独立国にあるのは不思議ではないが、
そう言えば回収するのを忘れていた、と垣根はホットドッグを購入する際にふと思いだしたのだ。
当時はミーシャ=クロイツェフの暴走もあり、その後は歴史を歪ませかねないアレイスターとの
大戦争が勃発したためすっかり失念していたが、親船最中はともかくその傍らにいた秘書の小男は
果たして許してくれるのか、と垣根は懸念するがあまり深くは考えなかった。
「とは言え、まさかロシアの独立国であんな使われ方をされるとは思わなかったけどな。
まぁ元が軍用トラックっつっても今はケータリングカーだから正しい運用方法なんだが、
あの調子じゃ今更返せなんて言っても無駄だろうな」
「…………本当、聞けば聞くほど『天使同盟』って楽しそうな集まりよね。
参入条件はあるの? 私も加わりたいなぁ、暗部よりよっぽど面白そう」
さりげなくとんでもない発言をするドレスの少女を無視して垣根は雪を踏んで歩んでいく。
そのケータリングカーはすっかり独立国の移動型ファーストフード店として重宝されている様子だった。
『天使同盟』が突入させた巨大クルーザーも今や立派なテーマパーク。
『天使同盟』が訪れた事でこの国にも馬鹿にならない損害が発生したが、
彼らの来訪による影響は何もかもが悪い方向へ進んでいる訳でもなさそうだ。
少なくとも、第三次世界大戦の頃と比べたら国全体が活気が溢れているように思える。
と、垣根がなるべくポジティブに現状を考えていると、ドレスの少女が話題を切り替えてきた。
「それで、お目当てのエリザリーナはどこにいるのよ。
さすがに寒すぎて外気に触れるのがしんどくなってきちゃったんだけど」
「前に来た時は軍事施設の一つにオフィスを構えてたんだがな。
さっき聞いた話じゃ今は普通に居住区に建てた事務所で
働いてるらしい。 もらった地図が正しけりゃもうすぐ到着するはずだ」
地図を片手にそんな事を言っていると、その事務所らしき建造物が前方に見えてきた。
独立国同盟立案者が執務をこなしているそこは、某国のホワイトハウスを
もう少し小さくしたような、小金持ちが勢いで建てた別荘ほどの大きさのオフィスだった。
(正直エリザリーナに用はねえんだが……、入国させてもらった以上
挨拶の一つでもしとかねえと悪いしな)
垣根はひとまず目的の魔術師二人の捜索を置き、隣を歩くドレスの少女を
一瞥してエリザリーナが居るオフィスへ足を運んだ。
906 : ◆3dKAx7itpI - 2011/10/18 07:57:14.37 hbiCuwXio 430/481今日はここまでです。
さて、フィアンマがこれまたクソ面倒な事を言い出しました。
『御使堕し』がミーシャ安定化にどう繋がるのか、それが判明するのは
吐き気がするくらい先ですので気長に待っていただけたら幸いです。
最後、垣根帝督パートに入ってしまいましたね。
次回はしばらく垣根の物語をお楽しみ下さい。
次回更新は三日以内。
それでは、今日もありがとうございました!
【次回予告】
「……ああ、"俺もだよ"。 テメェ、エリザリーナじゃねえな?」
『天使同盟(アライアンス)』の構成員・学園都市第二位の超能力者(レベル5)『未元物質(ダークマター)』――――――垣根帝督
「ちょっとちょっと、話が違うじゃない。 あなたとエリザリーナは
知り合いなんじゃなかったの? これ、今すぐ牢獄に連れてかれて
尋問を受けるなんて展開になってもちっとも不思議じゃない雰囲気なんだけど」
『クラッカー』の構成員・『心理定規(メジャーハート)』の能力者――――――ドレスの少女
「…………ロシアの煙草は吸った事がなかったな。 よく考えれば
僕が普段嗜んでいる煙草はロンドンのBTI製の物と日本製のものばかりだ。
機会が巡ったと思って違う銘柄を試してみるのもいいか………」
イギリス清教『必要悪の教会(ネセサリウス)』の魔術師――――――ステイル=マグヌス
931 : ◆3dKAx7itpI - 2011/10/20 23:05:13.64 FBh3TGTEo 432/481こんばんわ、更新を開始します。
御使堕しについて様々な意見が出てきていますが、
とりあえず精神入れ替えが起きないよう願ってくれww
あれが起きたらすごい面倒だから防がないとダメでしょうに。
……まぁそんな都合の良い方法なんて無いと思いますが。
さて、フィアンマが御使堕しの副作用をどうするかは一先ず置いといて、
今回は垣根帝督パートを。ロシアで魔力を取り戻す手掛かりは掴めるのでしょうか。
それでは、よろしくお願いします!
オフィスだというのに、大仰な門が設けられてあった。
門前にいた軍人と二、三言葉を交わした垣根は門を開けてもらい、
オフィス内へ入っていく。
エリザリーナが居る部屋を目指していると、廊下に数人の男女がいた。
外人だったが、どうもロシア人の雰囲気ではない。
がっしりとした体格に黒のサングラス、黒のスーツを着込んでいる男たちは
さながら大統領も護衛するSPのようにも見えた。
そしてそのガードマン達の中に、
「お、久しぶりだな」
「?」
随分と細身の女性が男達を引き連れており、垣根はその女性に気軽に挨拶をする。
わずかに落ち窪んだ瞳、少々度が過ぎた細身のライン、頭から流れる美しい金髪。
この独立国同盟を立ち上げた聖女の特徴である。
エリザリーナ。
"少なくとも垣根帝督は、彼女をエリザリーナだと思って声をかけたのだが"。
「あなたは?」
「あん? 俺だよ、垣根帝督。 一方通行達と前にここ来ただろ。
お前とはあんま話しなかったけど、忘れてますなんて言われちゃ少しショックだぜ」
ちっとも落ち込んだ表情を浮かべず垣根は言う。
が、すぐにある違和感を彼は覚えた。
確かに目の前にいる女性はエリザリーナの容姿をしている。
しかしその服装は白のゆったりとした荘厳なドレス。腰には何やら神々しい剣が携えられている。
垣根が見たエリザリーナは他の市民と同じく簡素なダウンに身を包んでいたが……。
「失礼ですが、存じませんね」
「……ああ、"俺もだよ"。 テメェ、エリザリーナじゃねえな?」
わずかに声を低くした垣根帝督を警戒したのか、女性の周囲にいた護衛の男たちが
彼女の身を挺するように垣根の前に立ち塞がる。
垣根の隣で暇そうにしていたドレスの少女が不満げに顔をしかめた。
「ちょっとちょっと、話が違うじゃない。 あなたとエリザリーナは
知り合いなんじゃなかったの? これ、今すぐ牢獄に連れてかれて
尋問を受けるなんて展開になってもちっとも不思議じゃない雰囲気なんだけど」
「……知り合い? あなた達、エリザに用があるのですか?」
「エリザ……?」
ドレスの少女の言葉に過敏な反応を見せたのは、やはり護衛に囲まれる女だった。
彼女は護衛に下がるよう命令し、垣根達の前に一歩寄ってくる。
「だとするなら、エリザが言っていた私達以外の客とはあなた達の事なんですね」
「………誰だお前? あの女の姉か妹か?」
「姉の方ですよ。 フランスの国家運営を執り行っている……と、
まぁエリザが歓迎する客なら口にしても問題はないでしょう」
「フランス国家の首脳? その妹にして姉ありってか。
姉妹そろって国のトップに立ってやがるんだな」
エリザリーナに似た容姿の女は『傾国の女』と呼ばれる、実質フランスのトップに位置する聖女だった。
第三次世界大戦時、『傾国の女』もまたイギリスの『王室派』であるキャーリサと共に
大天使ミーシャ=クロイツェフと熾烈な戦闘を繰り広げている。
腰に携えている剣は『デュランダル』と言う赤と金を基調としたフランスに伝わる聖剣の霊装だ。
『傾国の女』は表情を変えず話を続ける。
「でもまさか、あなた達のような少年少女がエリザにご用だなんて……。
かのプライベーティア襲撃の件はあなた達も関わっていた、とか?」
「そういやそんな事もあったな。 言っておくが、ロシアの情報総局に関しては
俺は何もしてねえし何も知らねえから、ここで尋問したって無駄だぞ」
「ていうか私はそんな事件に関わってもないけどね」
いくら姉妹だからってここまで似るものなのか、と場違いな事を思いながら
垣根は言う。
服装と髪型を揃えたら本当に見分けがつかなくなるほどにこの姉妹はそっくりだった。
双子だと言われても素直に信じてしまうくらいに。
「お前みてえな大物がなんでここに来てんだよ? 大した護衛も引き連れずに
首脳なんて立場の人間が堂々と国のトップと謁見してもいいもんなのか?」
垣根の失礼な物言いに護衛の男たちが忠告しようとしたが、
『傾国の女』は軽く手を挙げてそれを制止する。
「軍師として独立国同盟のトップであるエリザリーナに謁見を求めたのもありますが、
ただ単純に、妹であるエリザに顔を見せに来たという意味もあるんですよ。
かの世界大戦で不本意ながらもエリザに『貸し』を与えてしまいましてね。
それに、"例の『暴徒』の件"について私から提供しておきたい情報があったので」
「あん?」
そんな事を日本に住む垣根達に言っても理解出来ないか、と判断した『傾国の女』は
彼らの横を通り抜けながら一礼した。
「個人的な見解ですが、久々に会ったエリザの顔はいつもの思い詰めたような
陰鬱な表情ではなかった気がします。 ……あなた達との出会い、
エリザの中で何かが変わったのでしょうか?」
「知らねえな。 だが、変わったんだとしたら変えたのは俺じゃなく一方通行だろうよ。
それに関して一言礼を言いてえなら学園都市に足を運んでみろ。 あの街は今、
フランスの首脳だろうが地球外生命体だろうが誰でもウェルカム状態だからな」
「?」
イマイチ理解出来ない彼の言葉に一瞬キョトンとする『傾国の女』だが、
すぐに表情を戻して『では、エリザによろしくお伝え下さい』と言い残し
護衛の男たちと共にオフィスから去っていった。
ドレスの少女が彼女たちを見送りながらポツリと呟く。
「ロシアといいフランスといい……色々な所と繋がってるのね、あなた達」
「フランスは知らねえよ。 ここで『手掛かり』が掴めなかったらイギリスにも行かなきゃならねえな」
やがて垣根達はエリザリーナの居る部屋の扉をノックし、中へ入っていった。
――――――――――――――――――――――
「久しぶりね」
「つっても、一ヶ月も経ってねえだろ」
今度こそ本物のエリザリーナに会えた垣根は軽く言葉を交わしながら室内へ入る。
ドレスの少女もキョロキョロと室内の様子を窺いながら彼に続いた。
エリザリーナ。この独立国同盟を立ち上げた『聖女』にして魔術師。
否、彼女は『魔導師』という、魔導書を解読しそれを弟子に伝えるカテゴリの人間だ。
魔導師は自分が教えを伝えた魔術師を部下にするというが、実際このオフィスにいる
エリザリーナ以外の軍人の中にも魔術師が何人か存在している。
「国境警備隊から話は聞いてたけど、本当にあなただけなのね。
一方通行やその取り巻きは来れなかったのかしら?」
「諸事情でな。 つかあいつらがここに来る理由は
ねえんだよ。 俺が来たくて来ただけだ」
『天使同盟』はエリザリーナに色々と世話になっている。
独立国に滞在する間の部屋の割り当てや、ミーシャが衰弱している時は
常に彼女が面倒を見てくれた。
船で半ば急襲するかのように入国するふざけきった手段を実行した『天使同盟』は
すぐその場で拘束されて尋問を受けてもおかしくない状況だったのだが(彼らを拘束出来るかどうかは別として)、
その辺の事情もエリザリーナが取り繕ってくれた事によって事なきを得、国民達に取り囲まれるような
事も避けられたのだ。
プライベーティア襲撃直後の事だというのに、とにかくエリザリーナは尽くしてくれた。
『天使同盟』にとって彼女は聖女である前に恩人だと言っても過言ではないだろう。
そんなエリザリーナが垣根の隣にいるドレスの少女を見てわずかに首を傾げる。
「その子も話には聞いてるわ………、でも一応確認しておくけど、
彼女の前で『天使同盟』に関する話はしてもいいのよね?」
「垣根帝督の許嫁です。 以後お見知りおきを」
「吐き気を催すような冗談を言ってんじゃねえよ」
「『天使同盟』に関する話はしてもいいのよね?」
二人の漫才など一切無視でエリザリーナは再度聞き返す。
ドレスの少女は自己紹介も程々に、長机を挟む形で設けられていた
高級そうなソファに腰を下ろした。
「私は『天使同盟』の構成員じゃないし何の関わりも無いけれど、
この垣根帝督とは陰気臭い繋がりがあるのよ」
「お前さ、本当に暗部が嫌いなんだな」
言いながら垣根も少女の隣に座った。
エリザリーナは事務机を離れてコーヒーカップを三つ用意し、
コーヒーメーカーを稼働させる。
「とりあえず、遠路遥々この国へまた来てくれてありがとうと言っておくわ」
「遠路遥々と言っても、一時間ちょいで来れたけどね。 あ、コーヒーはお構いなく」
「へえ、お前ってそういう気遣いとか出来る女なんだ」
ズムッ!!! と少女に思い切り足を踏まれた垣根は悶絶するが、エリザリーナは気が付かない。
程なくして淹れたてのコーヒーを配膳すると、彼女は本題へと移った。
「それで? 『天使同盟』ではなくあなた個人がここにやって来た
理由は何なのかしら? まさか観光旅行という訳でもないでしょうけど」
「観光旅行ねえ。 俺たちが突っ込ませたあの船、あと少し発展させれば
外部からの来客を目一杯見込める観光スポットになるんじゃねえの?」
「ああ、あれね。 驚いたかしら? 元々信じられないくらいに
よく出来ていたから、改修作業は容易だったわ。 あれを元手に
観光方面の推進計画を提案して開発を進めたら、独立国同盟なんて
仰々しい名前じゃなく、立派な一国として栄える事が出来る日が来るかも」
エリザリーナは冗談で言ったつもりなのだろうが、心なしかその暗い瞳に
活気溢れる輝きがちらついていた。
………案外本気であの船を活用して国を発展させようとしているのかも知れない。
エリザリーナはコーヒーを一口含み、改めて話題を切り出す。
「それで、ここへ来た理由は?」
「ああ、単刀直入に言わせてもらうぜ」
垣根帝督はカップを机の上に置き、数瞬だけ目を閉じて、
「魔術が使えなくなった。 俺が魔術を取り戻せる方法を知りたい」
――――――――――――――――――――――
買い溜めしておいた煙草のストックが切れてしまった。
「…………ロシアの煙草は吸った事がなかったな。 よく考えれば
僕が普段嗜んでいる煙草はロンドンのBTI製の物と日本製のものばかりだ。
機会が巡ったと思って違う銘柄を試してみるのもいいか………」
ステイル=マグヌスはモスクワに居た。
彼は十字教旧教三大宗派の一つ、ロシア成教の内部組織である
『殲滅白書』の本拠地で最後の煙草を名残惜しそうに味わっている。
先日のロシア成教襲撃の件で、ステイルの上司である最大主教(アークビショップ)、
ローラ=スチュアートから"一応"その後の経緯を調べてきて欲しいという依頼を受けて
極寒の地に足を運んで来た訳なのだが―――――。
「ああああああああああああ悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい
ぐやじぃぃぃぃぃぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!」
「……………………第一の質問ですが、一体いつまでそうハンカチを噛み締めてるつもりですか」
ステイルの傍には二つの『赤い影』があった。
一人はまるでサンタクロースのような赤と白を基調とした修道服に身を包み、
周囲の目など気にもせずハンカチを引き千切らん勢いで噛み締めながら雪が積もった
冷たい地面を転げ回っている。
一人はその修道女と同じく赤い外套を上から羽織る事で、その下に着込んでいる
端から見ればどう考えても変態的嗜好を彷彿とさせるスッケスケのワンピース型下着(のような衣服)と
黒のベルトで構成されている拘束服が目立たないようにしていた。
ワシリーサ。
サーシャ=クロイツェフ。
二人共ロシア成教の『殲滅白書』に所属する魔術師だった。
内のワシリーサは自称『殲滅白書最強の修道女』と謳っているが、その実力は折り紙つき。
例え相手が司教という立場の上司だろうが背中から天使の翼を生やすメルヘン超能力者だろうが
ワシリーサは変わらず君臨できる力を持っている。
そんなワシリーサがついこの間、サーシャ=クロイツェフ共々ロシア成教に
突如奇襲をかけてきた侵入者に完膚なきまでに叩きのめされた。
「うううううううううううう………………!!! ちくしょうちくしょうクソッたれええええ!!!!
私が…………この私がこんな不覚を取るだなんてえええ……………………」
「第一の私見ですが、確かにあなたは『殲滅白書』の中でも最強を名乗っていい程の
実力者ですが、今回ばかりはどうしようも無かったかと思われます。
補足説明しますと、あの『黄金』系のボスやイギリス清教の聖人までもが為す術なく封殺され――――」
「違う違う違う違う違う違うそうじゃない!!!! そうじゃないのよサーシャちゅわ~ん…………」
尚も己の失態に悔やみながら雪の上を転がり回るワシリーサ。
その際にサーシャの下半身を下から覗き込むという隙のなさを見せるがあっさり蹴り飛ばされて、
現在修復中の現象管理縮小再現施設の外壁に派手な音を立てて激突する。
修復作業を行っていたロシア成教の修道女にものすごい勢いで睨まれたが、
ワシリーサは無視してめそめそ泣きべそをかきながらよろよろと立ち上がった。
「違うのよ…………、そうじゃないのよ…………」
「第二の質問ですが、だったら何に対してそこまで悔やんでいるのですか」
尋ねられ、ワシリーサは本当に一瞬だけシリアスな表情に顔を塗り替えて言った。
「サーシャちゃんを守れなかった………………」
「……………、」
自分がカンペキ過ぎる敗北を喫した事など、ワシリーサにとっては瑣末事にも程があった。
ただ一点、世界で一番、恐らくサーシャの両親よりも彼女を可愛がっていたワシリーサにとって、
そのサーシャも守れず地に伏してしまった事が何よりも悔しかったのだ。
実際、ワシリーサもサーシャも、その時居合わせていた神裂火織もレイヴィニアもその部下も、
襲撃を受けたロシア成教の魔術師も全員、不可解さを覚える程に"無傷のまま意識を断絶させられていただけなのだが"、
ワシリーサにとってはそれもまたどうでもいい事だった。
サーシャ=クロイツェフを危険に晒してしまった。
「上司失格よ……。 『サーシャちゃん命』を宣言する身なら、
私が粉々にされようともサーシャちゃんを守るべきだったのに……………」
「わ、ワシリーサ………」
どんな時でも場所でも状況でも、己が信念を歪ませぬあの変態修道女が
何時になく本気で落ち込んでいるっぽい。
初めて目の当たりにするワシリーサの気息奄々な様子に、サーシャはどうリアクションをすればいいのか
分からないでいた。
「自分の大事な部下も守れない上司なんて生きてる価値ないのよ……。
表では可愛い可愛い言いながら部下を愛してたって、いざこういう
緊急事態となるとその部下ほっぽり出しで瞬殺されてちゃギャグにもならないわ……」
「そ、そんな事はありません!!」
突然声を張り上げたサーシャに、ワシリーサは目を丸くした。
「だ、第二の私見ですが……確かにワシリーサは見るに耐えない変態女です」
もっと……もっと罵って……とハンカチを口元に押し付けながら
極々小さな声で呟くワシリーサに気付かぬまま、サーシャは続ける。
「でも……それでも、私はワシリーサを信用しています。 『殲滅白書』の組織の構成上、
心から信頼出来る同僚などほとんどいませんが……。 それでも、私は結局……、
ワシリーサだけは本当に頼りにしているんですから……」
「さ、…………」
サーシャちゃああああん!!! と奇声にも似た大声を放つワシリーサ。
サーシャは一瞬抱きつかれるかと危惧したが、ワシリーサは膝をついて
感涙するだけで特に何の変態行為も行わず、サーシャの予想は裏切られた。
「ふふ…………、やっぱり。 私が世界で愛しているのは神でも天使でもなく
サーシャちゃん。 あなた一人だけよ………」
「だ、第三の私見ですが……面と向かってそう言われるとその、照れるので」
そう言って赤面するサーシャの姿にワシリーサは危うくキュン死するところだった。
口から抜け出そうとする魂を慌てて中に仕舞い込む。
結局のところ、なんだかんだでサーシャとワシリーサは固い絆で結ばれているのだ。
例えどんな強敵が立ち塞がろうが、果ては世界が滅びようが、二人の絆が崩壊する事はない。
そういう事でこの話は綺麗に一件落着。
…………というところで、二人の茶番をくっだらなそうに眺めていたステイルが
紫煙を吹かしながら割って入った。
「信頼出来る上司を持つ事は魔術サイドにおいても非常に有益で重要な事だが、」
「?」
何かを言おうとするステイルの言葉をサーシャは待つ。
しかしステイルは言葉ではなく、ジェスチャーで表現した。
『ワシリーサが口元に寄せているハンカチをよく見てみろ』、と。
「…………………ワシリーサ? そのハンカチは、」
「え?」
ワシリーサが手に握っているハンカチは、ハンカチにしては少々デザインが懲りすぎているように思えた。
それはハンカチにしては珍しい縞模様で、素材も普段ハンカチにはあまり使われないシルクのように見える。
形もハンカチにしてはどこか歪で、ちょうど人が履いたらぴったりフィットしそうな具合の形状である。
そこまで考えたサーシャはおもむろに自分の下半身の様子を確認するために手で軽く触れてみた。
ていうか、ワシリーサが握っているその布は、どう見てもサーシャがさっきまで
履いていたはずのローライズパンティーです本当にありがとうございました。
「剥がされた時点で気付けよ。 というかどうやって盗んだんだこの状況で……」
「いやん♪ バレちゃった!? どさくさに紛れて私の頭の中にある
魔術的知識をフル活用して盗っちゃいましたー! 魔術っていうのはさ、
本来こうして何でもない事に使うのが一番だと思うのよ、私。
昨今、魔術を用いた争いがあちこちで勃発しているけど、みーんなが私のように
平和的に魔術を使用すれば世の中から争いや諍いは消えて世界は平和に――――」
この日、サーシャ=クロイツェフの全力全開による『第二次ノアの洪水』が
発生したのは言うまでもない。
957 : ◆3dKAx7itpI - 2011/10/20 23:39:10.69 FBh3TGTEo 458/481今回はここまでです。
エリザリーナに会うまでにどんだけ時間掛かってんのかと。
ずいぶんお待たせしましたがようやく本題に入れそうです。
今回、『傾国の女』がゲストとして出演しました。
特に理由は無いですが……この姉妹似てるなあと思って出してみただけです。
そして相変わらずのサーシャとワシリーサ、ステイルも登場し、
垣根を助力してくれる……かなぁ。
次回は一方通行パート。風斬とのデートは次で終わりです。
次回更新は三日以内。
それでは、今日もありがとうございました!って、もう次スレの季節か……
【次回予告】
「だから私は……相手の機嫌を窺ってぴりぴりしてる今のあなたより、
今まで通りの……ちょっと無愛想で不器用だけど、優しいあなたの方が好きです」
『天使同盟(アライアンス)』の構成員・AIM拡散力場の集合体――――――風斬氷華
「……………そォかよ」
『天使同盟』のリーダー・学園都市最強の超能力者(レベル5)――――――一方通行(アクセラレータ)
974 : ◆3dKAx7itpI - 2011/10/22 18:58:07.19 05otTio5o 460/481こんばんわ、更新を開始します。
蛇足 とあるフラグの天使同盟 伍匹目
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1319277226/
次スレを立てました。よろしければ次もどうぞお願いします。
今回は一方通行パート……ですが、ちょっと最初にステイル達の話を。
しかしワシリーサの影響力は異常、この女話題を全部掻っ攫っていきやがった……
では、よろしくお願いします!
――――――――――――――――――――――
最後の一本を吸い終えたステイルはどこかに煙草を販売している
商店か自販機は無いものかと考えを巡らせながらゆっくりと立ち上がる。
遠くに赤い修道服を着た女の土左衛門が転がっていたが、彼は無視した。
(それにしても最大主教め。 今更『殲滅白書』本拠地を洗っても
エイワスに関する情報が出てくるはずがない事は分かっているクセに……
一体どういうつもりなんだ)
このロシア成教襲撃事件の主犯は間違いなくエイワスだろう、とステイルは推測している。
ロシア成教の大半の魔術師達。サーシャ。ワシリーサ。神裂火織。『明け色の陽射し』。
これらを全てひとまとめに相手取り、尚且つ一蹴してしまうという化物じみた戦績を弾き出すのも
学園都市でアレイスター相手にまともに相対していたエイワスなら容易だろう、と。
そして何より襲撃犯がエイワスだと確信付ける要因に、最大主教であるローラからの情報があった。
ロシア成教を襲った魔術師は、クイトと名乗っていたのだという。
それは学園都市で上条当麻とインデックスに接触した魔術師の名と一致していた。
さらに『第一九学区事件』ではエイワス自身がステイルに向けて『クイト=エイワス』だと
示唆するような発言をしている。
以上の情報を整理するとやはりエイワスがロシア成教を襲撃した犯人だ、と
ほぼ断言できるのだが―――――。
(だからと言って僕達のような"所詮人間では"何も行動を起こせないし、
ロシア成教にエイワスの情報を提供したところで更なる混乱を招くだけ……か)
ステイルはロシア成教にエイワスの情報を提示しなかった。
サーシャとワシリーサはあの怪物の存在を知っているが、その二人の証人が居たとしても
ロシア成教がエイワスの存在をまともに信じてくれるとは思えなかったからだ。
しかもそれ以前に、ステイルはエイワスの存在を懇切丁寧に口頭で説明できる自信がなかった。
一体あれはどういう生物なのか、そもそも生物なのか、明らかにアレイスターとも
関わりを持っているあの金髪の怪物の情報を提示したら、安定の方向へと進みつつある
魔術サイドが足元から崩れていく――――そんな身震いしてしまうような悪寒さえする。
こんな調子にさせられている事自体にも歯噛みしたが、結局ステイルという
一介の魔術師では。否、人間というちっぽけな生き物ではエイワスの存在、思考など
到底理解出来ないんだと実感せざるを得ないのだ。
そんな風にステイルが考えていると、
「?」
未だに頬を紅潮させながらどうしようもない変態だった己の上司に憤慨していた
サーシャの携帯電話がブルブルと振動し、
「いやー、お疲れ様デス」
ステイルの背後から女性の声が飛んできた。
サーシャは携帯電話を取り出し応答し、ステイルは後ろを振り向いて
声をかけてきた女性に応じた。
「……状況は?」
そう聞かれた見た目四十路前の、銀と金が混じり合った髪が流れる女性は首を横に振った。
「サーチ術式、魔力探知霊装、etc……。 襲撃犯の魔術師の痕跡を探る
あらゆる方法を試したのデスマスが、全く進展ナシデスねえ。
イギリス清教の追跡部隊を総動員で動かしているというデスのに収穫ゼロとは、
こりゃ相手は相当の手練に違いありませんデスしょ」
女性は口元に笑みを浮かべながら疲れきったように息を吐く。
彼女はテオドシア=エレクトラという、ステイルと同じイギリス清教、
『必要悪の教会(ネセサリウス)』の魔術師だ。
今回のロシア成教への調査にイギリス清教から派遣されたのはステイルだけでなく、
テオドシアと、イギリス清教の魔術師捜索専門部隊も同行していたのだ。
テオドシアは調査報告を続ける。
「私達のような下っ端魔術師の前にわざわざロシア成教の総大主教サマが現れて
襲撃犯の特徴を色々とお話してくれたマスが、全身を白のローブで包んだって
だけじゃあさすがに………。 総大主教サマもすっかり参っていたようデスし。
これ以上捜索を続けるのならローマ正教辺りの協力も必要デスね」
(……学園都市にいる"あの子"にまで捜索の協力要請が行き届いてしまえば
必然的に魔術サイドはクイト……エイワスの存在を知ることになる。
気に食わないが、それだけは避けた方がいいだろうね)
これではまるで自分がエイワスを擁護しているようだ、とステイルは思わず舌打ちをした。
「どうしマス? ここの事は他のイギリス清教とロシア成教の魔術師に任せて、
私達は『カドゥケウス』の件に当たってみるマスか?」
「……『カドゥケウス』についてはまだ事態が何も進展していない。
アレを追いかける時間は残っているし、そもそもアレは神裂火織の
管轄だったはずだ。 だから僕達は一旦本部に戻って――――――」
と、ステイルとテオドシアが総括をしているところへ不意に声がかけられた。
さっきまで電話――――いや、今も通話中らしいサーシャ=クロイツェフだった。
「第一の私見ですが、ステイル=マグヌス。 ちょっとよろしいですか?」
「ん? なんだい?」
サーシャは示すように手に握った携帯電話を軽く振り、
「アライア………こほん、"例の連中"の一人である垣根帝督がエリザリーナ独立国同盟に
来ているようです。 補足説明しますと、あなたが今ロシアに来ている事を
伝えたら私とワシリーサも一緒に、あなたも独立国に来てほしい、と言っているようですが」
――――――――――――――――――――――
――――もちろん今回のデート、と判断していいのかどうか微妙な、二人きりのお出かけは楽しい。
風斬氷華はそう思っていた。
その気持ちに嘘はない。でも―――。
「んー…………。 あ、これなんてどうですか……? 可愛くないですかね?」
「あァ、かなりイイセンいってんじゃねェか?」
風斬氷華が示すハート型のクリスタルをあしらったペンダントを見て
一方通行は納得するように頷きながら返事をした。
風斬は少々照れを顕しながらも首元にペンダントを近づけ、ガラスに映る自分の姿を確認する。
二人は第七学区の地下街にある露店へ足を運んでいた。
彼らがやってきた露店は小規模なもので、アクセサリー以外にもいつ使うのかイマイチ分からない
ドリアンスメルのアロマキャンドルや、学園都市ではそこまで需要のない灰皿(人の口から舌が出ているという
キワモノなデザイン)など種類は豊富なものの、少なくとも女子高生等が好んで立ち寄る雰囲気の露店ではなさそうだった。
風斬が手にしているアクセサリーは並んでいる品物の中でもかなりまともな部類といえる。
「オマエ、こォいう店に興味があったのか?」
「学園都市ってこういうお店があまり無いじゃないですか、だから珍しいなーと思って………」
「そォかよ。 なら他にこンな感じの店がねェか探しておいてやる」
「あ、ありがとうございます。 …………」
そんな会話を続けながら、ひとまず保留という形で風斬は手に取ったアクセサリーを
元の棚に置く。
彼女はしばらく視線を配らせ、ピンときた物を手にとっては次々と一方通行に評価を求めた。
「これなんてどうです? 私にはちょっと派手かもしれませんけど……」
「確かにオマエの風貌にゃそぐわねェかもな。 装飾は抑えめのモンでイイだろ」
「じゃあこれは……」
「オマエがサングラスとか勘弁してくれ。 ヴェント辺りが笑い転げそォだ」
「じゃ、じゃあこの………、欠けたハートのペンダントとか……ど、どうですか?
ざ、残念ながら……ペアで付けないとあまり意味が無いアクセサリーっぽいですけど……」
「オマエがそれがイイってンならそォしろよ。 片方は俺がつけてやる」
一方通行は面倒臭がる素振りも見せず、丁寧に風斬に対応する。
今までの彼なら『どォでもイイ』、『さっさと決めて次行くぞ』、『もォこの辺に並ンでンの全部買っちまえよ』等、
気怠そうに言葉を吐き捨てていたかもしれない。
誰の目から見ても明らかな心情変化。
しかしその変化は実に良い傾向であった。きちんと相手の考えている事を把握し、理解し、
当たり障りの無い最適な返答を選択して口に出す。
それが一方通行にとっての、垣根に対する、そして女性に対するそれなりの誠意だった。
垣根帝督の言葉は、一方通行に確かな変革を齎している。
禍々しくも刺々しくもない、今の一方通行になら誰でも普通に接してきてくれるかもしれない。
そんな彼を傍に、風斬氷華は。
「………………………」
「………ン? どォしたンだ、買ってかねェのかよ?」
実に浮かない表情をしていた。
落ち込んでいるでも疲れているでも気分を害しているでもない、
ただ、どこか納得のいっていない、わずかに不満気な表情。
「あの………一方通行さん」
「なンだ? 今度はどンなアクセサリーを――――」
現在進行形で神経を尖らせながら相手の機嫌を窺っている一方通行も
すぐに風斬の妙な雰囲気に気がつく。
頬に一筋の汗。どこかで間違えたか? 一方通行の脳裏にそんな危惧がよぎる。
風斬の視線が一方通行の紅い瞳を真っ直ぐに射抜く。
別に睨んできている訳でも無いのに、一方通行は思わず一歩後退りそうになった。
「一方通行さん………ちょっと無理してますよね?」
「あァ? 何言ってンだ、俺はこれでもそれなりにこの買い物を楽しンで―――」
「ウソつき」
ドクン、と一方通行の左胸から一際大きな鼓動が伝わってきた。
彼は困惑の表情を隠せない。その表情を固定したまま風斬の様子を改めて窺ってみる。
風斬の顔は、ほんのわずかに寂しそうで、淋しそうで。
悲しそうで、哀しそうだった。
――――もちろん今回のデート、と判断していいのかどうか微妙な二人きりのお出かけは楽しい。
一方通行は手を繋いできてくれるし、笑顔ではなくとも気持ち明るい表情で
会話を持ちかけてきてくれる。
自分のワガママにも面倒臭そうな素振りも、退屈そうな様子も見せず、
相手の事を心から考えて応対してくれている。尽くしてくれている。
だから、とても楽しいし、とても嬉しい。
風斬氷華はそう思っていた。
その気持ちに嘘はない。でも―――。
「ご、ごめんなさい急に………。 でも一方通行さん、絶対無理してますよ……」
「何を根拠にそンな事が言えるンだよ」
風斬は俯き、おどおどしながらも思っている事をハッキリと伝える。
「垣根さんが言ってた事………気にしてますよね?」
「ッ」
反論しようとした一方通行だったが、息が詰まって言葉を発せなかった。
まるで『反論する余地なんかない、その通りだろ』と自分自身に言葉を
阻害されたような感覚を覚える。
図星だった。誰にでも射抜ける、あまりにも大きすぎる図星。
「今の一方通行さん……全然自然じゃないです。 それで、気にしてるのかなって……」
「自然じゃない……? 俺の自然体ってのはどォいうモンなのかオマエには分かるのかよ」
言った直後に少し喧嘩腰になってしまっている自分の発言を悔やむ一方通行。
すぐにフォローをしなければと思考を巡らせる。
だが風斬氷華はさらに追い打ちをかけてきた。
「今の自分の言葉も取り消そうとしてますよね………?」
「ッ………。 いや、そンな事はねェよ」
「隠さなくても……いいですよ。 ……あなたの自然体というのが
どういうものか分かるか、って言われたら……分かりますと答えます」
俯いたまま風斬は視線だけを上に向け、視線があちこちに泳いでいる一方通行の目を見て言った。
「だって私は……ずっとあなたと過ごしてきたんだもん。
だからわかる……、それが……根拠ですよ」
「……………」
一方通行は何も言い返せない。あまりにも真剣味を帯びた風斬の瞳を直視出来ない。
相手の気持ちを理解する事に関しては、風斬は一方通行よりも数倍上手(うわて)のようだ。
「あなたと一緒に過ごしてきた時間は……打ち止めちゃんや番外個体さんより
短いかもしれませんけど……。 それでも私は私なりに……あなたの事を
理解しているつもりです。 あの、何だか偉そうな物言いになっちゃって
本当に申し訳ないんですけど…………、」
風斬は一度視線を下に落とし、意を決してその視線を再び彼の瞳に向けた。
「『自分』を……捨てないでください」
「……」
どんな言葉が飛んで来るかと身構えていた一方通行は完全に意表をつかれた。
面食らった彼に構わず、風斬は続ける。
「た、確かに垣根さんが言っていたことも正しいと思います……。
相手の気持ちをちゃんと理解する事はとても大事ですけど……、
それで一方通行さんが自分を捨てちゃったら本末転倒というか……」
「……俺は俺のままでイイとでも言いてェのか」
「は、はい……」
「だがそれじゃ、俺は変われねェンだよ。 垣根が言ったよォに、
俺は確かにどこかで相手の心情を蔑ろにしていた傾向があった、……と思う。
だから今まで通りの俺じゃダメなンだ。 これまでもそォして生きてきた。
打ち止めを守るために俺は過去の腐りきった俺を捨ててきた。 そしてこれからも―――」
「だ、だったら……!」
突然声を大きくした風斬の言葉に一方通行の言葉が遮られた。
995 : ◆3dKAx7itpI - 2011/10/22 19:15:32.57 05otTio5o 481/481誘導のため、少しだけ余裕を残してこのスレでの投下を終了します。
続きは次スレにて投下しますので、よろしくお願いします。
では、4スレ目(通算13スレ目?)を応援してくださった方に最大級の感謝を込めて。
ありがとうございました!
蛇足 とあるフラグの天使同盟 伍匹目
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1319277226/
いつも通り、埋まる気配無ければ私の方で埋めておきます。
次スレ
蛇足 とあるフラグの天使同盟 伍匹目