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蛇足 とあるフラグの天使同盟 参匹目【前編】
453 : ◆3dKAx7itpI - 2011/08/27 19:32:32.67 18US/pyNo 193/418てなわけでこんばんわ、更新を開始します。
前回、あのフィアンマに一撃を浴びせるも結局『聖なる右』とかいう
とんでもチート魔術で撃破されてしまった絹旗。
滝壺はミーシャを捕獲(?)、そして絹旗はリタイア。
残るアイテムは二人。その内の一人の活躍を今日はお送りします。
では、よろしくお願いします!
距離は関係ない。
"振れば当たるのだから"、相手が地球の果てにいようが問題はない。
威力は必要ない。
"当たれば終わるのだから"、相手がどれだけ強固な守りに身を包んでいても問題はない。
それが『右方』を象徴する圧倒的な力。ミカエルが誇る、奇跡の右腕。
第三の腕、『聖なる右』。
武器。人数。間合い。速度。攻撃力。防御力。筋力。知能。それらは全て必要ない。
"振れば終わるのだから"。
相手が大能力者(レベル4)という超難敵だろうと、フィアンマは変わらず君臨する。
「……結局、使わされるハメになったか。 能力者についても勉強しなければならんが、
それ以前に学園都市で戦闘を行わんよう話を運ぶ話術も学ばんとな。
トラブルが起きるたびに魔術だの右腕だのを行使していてはこの街も俺様も保たん」
ゴボボッ……という、溶岩が沸騰して噴き出したような音がした。
フィアンマの右肩から生えていた異形の腕がのたうつように蠢き、虚空に溶け出し始めた音だった。
空中分解。絹旗最愛という高レベル能力者を一撃で粉砕する力を秘めるこの腕が未完成品というのだから手に負えない。
そして恐らく未来永劫、『聖なる右』が完成に至ることはないだろう。
しかしフィアンマはこの腕に対する執着を払拭していた。先の第三次世界大戦にて。
「さて、どう詫びようか。 露見してしまった右腕の件も含め、説明しなきゃならんか……」
トン、と。
フィアンマは極めて自然な動作で一歩足を踏み出す。
さらにもう一歩。二歩。三歩辺りで足は止まった。
それだけでフィアンマは目的地である、絹旗最愛が倒れ伏せている地点に
到達していた。戦闘場所から数百メートル以上も離れている地帯へ。
周囲に被害は無かった。右腕の攻撃による余波は皆無。
その気になれば第一〇学区を、地球を真っ二つに出来る『聖なる右』だが、
フィアンマは絹旗最愛だけを一点に攻撃するよう調節していたのだ。
以前の彼なら、まずあり得ない配慮だった。
フィアンマがいる場所から一〇メートルくらい先の歩道に、絹旗は居た。
「………」
ものすげえ恰好でぶっ倒れていた。
今時漫画でも見られないような、芸術的とも言えるような逆さの恰好で。
上半身は地面にめり込み、唯一露出している両足は誰が望んだサービスなのか、
これでもかというくらいに押っ広げ状態だった。下着なんてもう見える見えないの話じゃない。
ニットで出来たワンピースもところどころが破れている。今の絹旗を青年漫画雑誌の表紙に飾ったら
問答無用で成人雑誌コーナーに陳列されてしまうだろう。
その手のマニアから金が取れるような状態を維持し続ける気絶状態の絹旗を見た
フィアンマの心にもさすがに罪悪感が芽生えたのか、消えかかっていた右腕に命令を送り
軽く動かした。それだけで何故か離れた場所にいた絹旗の体がフィアンマの足元に引き寄せられる。
そして右腕は天に導かれるように虚空へと溶けて消えて行った。
「まぁ、何か言われたら『そんな服を着ているお前が悪い』の一点張りで
押し通すしかないか……。 戦闘が終わっても面倒事は尽きんな」
絹旗の体を担ぎ上げ、なるべく人目が無い道を選びながらフィアンマはその場を後にした。
フィアンマが絹旗最愛を撃破した事により、『アイテム』は残り二人。
麦野沈利と浜面仕上のみとなってしまった。
「この状態でどうやって第七学区までの道を尋ねようか。
どこかにマップが設けてあったりはせんのかな……」
それにしてもこのフィアンマという男。絹旗の洒落にならないくらいエロい恰好を見ても
何の反応も見せなかったところからして、一方通行と同じタイプの人間である事が窺える。
――――――――――――――――――――――
どうやら一方通行達と一緒に居たメガネの女の子、風斬氷華は
麦野沈利のお眼鏡に適ったらしい。メガネっ娘なだけに。
麦野にしては珍しく、彼女は妙に風斬を賞賛していた。
「一〇〇〇ポイントか……そういや俺、風斬の事何にも知らねえけど、
どういう能力者なんだろ? 一方通行や垣根帝督とつるんでるって時点で
やっぱ相当な実力の持ち主なのかなぁ」
かなり前の話、偽造パスポートを渡す際に一方通行と共にいた
如何にも臆病な雰囲気のメガネっ娘を思い出しながら浜面仕上は第七学区を歩いていた。
(まぁそんなことより、今の状況を知りてえな……滝壺も絹旗もどうしてるかな。
麦野は風斬を追ってるとして……。 俺は誰を捜せばいいんだ? 万が一垣根帝督に
出会っても俺一人じゃ到底捕らえられねえぞ……やっぱ妥当なところで赤髪の男か。
とりあえず電話してみるか……?)
そんな事を考えながら、浜面は空を見上げた。
透き通る青。まさに一端覧祭日和。毎年行われるこの催し物に
浜面はろくに参加した事なかったが、この一件が終わったら『アイテム』の皆と
色々街を回ってみてもいいかも知れない、と極めて日常的な事を思う。
(……スキルアウトやってた時分はこんな事思いもしなかったな。 戦争が終わって、
学園都市の内情も多少は落ち着いてきてんのかな)
ちらりと横に視線を投げる。このクソ寒い中、白い息に負けないくらい
白い目をした中年のオッサンと、その隣に居るやたらゴツい体格のオッサンが
交通整備の仕事に勤しんでいた。どっちも外人のようだ。
オッサン二人が白い目をしている理由は、その視線の先で人をバカにするように
ケラケラと笑っている帽子とサングラスをかけた女性にあるのだろう。
どうやら勤務中の二人をからかっているようだった。サングラスの女性は厚手のコートに
浜面じゃ手も出ないような高級そうなマフラーを着用している。
厚手のコート越しでも分かるスタイル抜群の肢体、帽子とサングラスで隠れていても
容易に想像出来る端整な顔立ち。浜面は思わず目を奪われる。
(おー……あの人も外人っぽいな。 帽子にグラサンって、どっかのセレブ女優とか?
一端覧祭って規模はデケえけどそんな人が来るような祭りじゃないはずなんだけどな)
一瞬、その女性がドラコ=アイワズかも知れないと脳裏をよぎったが、
浜面が出会ったドラコはもう少し幼く、もう少し巨乳だったはずだと考えを改める。
さてどこを捜そうかと気を取り直そうとしたら、
「いてっ」
浜面の後頭部に何かが当たった。数秒遅れて軽いアルミが地面を転がる音が聞こえる。
後ろを振り向くと地面には恐らく浜面に向けて投げられたのであろうコーヒー缶と、
「………」
「……あ、一方通行ッ!?」
道の曲がり角から顔だけ出している学園都市最強の怪物がいた。
浜面が自分の存在を確認したと同時、一方通行は素早く顔を引っ込める。
「あ! ……こ、この野郎、待て!!」
缶をぶつけられて憤っているわけではない。
単純に捜索対象の一人が見つかり、浜面はすかさず一方通行がいた曲がり角へ走ったのだ。
その際、道に転がるアルミ缶を拾ってしっかりとゴミ箱に投げ入れる。
角を曲がると、
「な、何だよ……どういうつもりだあいつ?」
二〇メートルくらい先に一方通行が佇み、こちらを見ていた。
浜面が追ってきている事を確認すると彼は手招きをし、さらに向こうへ走っていく。
杖を使用していないところから見ると、どうやら能力を使用しているらしい。
(あ、怪しすぎる………)
どう見ても。誰が見ても。子供が見ても分かる。
罠だ。
一方通行の行動は明らかに浜面を罠があるであろうポイントに誘いこむ動きだった。
これが命を懸けた暗部としての仕事なら浜面も追うか留まるか熟考しただろうが、
(とりあえず……乗ってみるか!)
正面から立ち向かえば自分のような小者など一瞬で葬り去れる実力を持った
第一位がこんなことをして一体何を企んでいるのか。
気味の悪い不安感とちょっとした好奇心を抱いて浜面は誘いに乗ることにした。
――――――――――――――――――――――
「……はぁっ、はぁっ……!! ここ、か……!?」
五分ほど追跡劇を繰り広げた頃、浜面は人気の少ない大型倉庫が立ち並ぶ区画に来ていた。
途中で一方通行を見失ったため若干焦ったが、この倉庫が並ぶ区画は何かを企み誰かを誘いこむには
うってつけの場所だった。
刑事ドラマ物で犯人を追い詰めるクライマックスシーンなどでよくこういう場所を見る気がする。
と、そこで浜面は不自然にシャッターが半開きになった倉庫を見つける。
(あからさま過ぎるだろ……こんな回りくどい事して、しかもこんな
誰もいねえようなとこに俺を誘き出してどうするつもりだ……?)
もしかしたら能力を使って派手に暴れ回るにはこういった人通りの少ない場所が
お誂え向きなのかも知れない、と浜面は対一方通行戦に発展する可能性を今更思い出し顔を青ざめる。
だが、浜面も第三次世界大戦の最前線を渡り歩いた男だ。ここで引き下がるという選択肢は無かった。
(俺に何かしようってんならあの大通りで俺を見つけた時点で後ろから仕掛けてたよな……?
いや、あそこはかなりの数の人間がごった返してたから控えたのか……?
やっぱりあまり目立つような事はしないようにしてるのか)
深呼吸をして呼吸を整える。白い息は一瞬で虚空に吸い込まれた。
(上等だぜ第一位……いや『天使同盟』! こっちも仲間が懸かってるんだ)
意を決して浜面は学園都市最強が潜んでいるであろう倉庫の一つに
向かっていった。
人間が一人通れる程度の隙間が開いたシャッターをくぐって内部に足を踏み入れる。
閑散とした倉庫だった。中は思ったよりも明るい、一〇メートルくらいの高さに並ぶ窓から日差しが差し込んでいる。
トラックが一台。そしてどう見ても使い物にならない大量の木材が山積みにされている。
事件現場の調査に使われそうな大きなブルーシート。恐らくは警備員で使っている物だろう。
そして、
「よォ、三下」
「お前……こんな所に俺を誘き出して、どういうつもりだよ」
言いながら浜面は周囲を注意深く観察するが、一方通行の仲間が大勢潜んでいて
袋叩きにされるというような事は無さそうだった。
倉庫の中央に堂々と佇む一方通行以外、"人のいる気配は無い"。
一方通行は無表情で言う。
「提案がある」
「内容次第だな」
浜面も険しい表情を維持したまま返事をする。
「俺達は何もしねェ、オマエ達『アイテム』には一切危害を加えねェ事を約束する。
だからおとなしく、一度俺達のアジトに来ちゃくれねェか? そこで茶でもしばいて
ゆっくり話し合おうか。 それならオマエらにとっても損はねェだろ?」
「……そんな気があるなら、始めから俺を見つけた時にそう持ちかけてきたはずだろ。
見え透いた芝居はやめようぜ一方通行。 お前、一体何を企んでるんだ。
『素養格付(パラメータリスト)』を使って何をしようとしている」
「だから……俺達はそンなモンに興味はねェって……言っても、今は無駄だろォな。
当たり前か、オマエにとっちゃ仲間と、『居場所』の存続が懸かってるモンなァ」
そこで倉庫内に電子音が響き渡った。
音源は浜面のポケット。彼の携帯電話が着信音を発しているのだ。
「………」
「どォぞ」
首を軽く動かし、一方通行は応答を許可する。
浜面がポケットから携帯電話を取り出し液晶画面を見ると、そこには見慣れた名前が表示されていた。
(麦野、か……)
一度だけ一方通行を一瞥した後、浜面は応答ボタンを押して携帯を耳に添えた。
「もしもし」
『浜面、テメェ今どこにいる?』
麦野の声は気のせいか、若干緊張の色が含まれている気がした。
浜面はじわじわと押し寄せる嫌な予感を必死で抑えながら返答する。
「えっと……今は第七学区の倉庫にいるよ。 一方通行と一緒にな」
『あぁ? 第一位? ……んだよ、あいつお前のとこにいるのか』
「?」
気のせいか、麦野の声色が少し残念そうな調子に聞こえた。
とりあえずそこには触れずに、浜面は会話を続ける。
「今、一方通行とちょっと話し合ってるんだ。
お前の方はどうなんだよ、誰か一人くらい捕まえたのか?」
捕まえた、という言い方に一方通行がピクッと反応した。
彼はここで初めて『アイテム』が『天使同盟』の"捕獲"作戦に取り掛かっている事を知る。
『いや、私もまだ収穫ゼロかな』
「そうか。 それで、何か用か? 途中経過の確認のための電話か?」
『いいや、ちょっとした報告だよん』
徐々に心臓の鼓動が早まるのを感じる。
良い報告か悪い報告かで言えば、明らかに後者である事が想像できた。
浜面がある程度の覚悟を決める前に、麦野は言う。
『絹旗がやられた』
「……な、にッ!? 絹旗が……!!?」
ドクン、と鼓動が一際大きく跳ね上がった。激しく狼狽する素振りを隠す事も出来ない。
当然、前方にいる一方通行は眉をひそめて怪訝な視線を浜面に送る。
彼の動揺っぷりの原因を推測するように。
それにしても、
「き、絹旗が……いや待てよ、あいつがそう簡単にやられるはずがないだろ!?
そんな事が出来そうな一方通行は今目の前にいるんだぞ!? ………まさか、
垣根帝督か……?」
絹旗最愛は大能力者(レベル4)の『窒素装甲(オフェンスアーマー)』を有する少女だ。
大気中の窒素を身に纏い鎧と化するその能力は、銃弾程度ではかすり傷も与えられない。
そしてその窒素の鎧は攻撃に転ずる際も威力を発揮する。窒素をまとった拳で打撃を喰らえば、
相手は致命傷を免れない。
そんな絹旗がリタイアしたという報告を、浜面は素直に信じる事が出来なかった。
『いいや、垣根帝督じゃないっぽいかな。どうやら戦闘中に私に電話してきたみたいでさ、すんげえ慌ててたよ。
「赤い髪の男は自分じゃ敵わない~」とか言ってて、その直後にズドン。 そのまま通話不能になった。
第一〇学区で何か騒ぎがあったって情報を傍受したから、多分そこじゃないかなー』
「あ、赤い髪の男って……あいつか。 長点上機に居た男……」
「チッ」
舌打ちが聞こえた。
見れば、一方通行が苛立つように地面に唾を吐いていた。このタイミングで
一方通行が憤る原因が浜面には分からなかったが、
(フィアンマの野郎……やりやがったか。 まァそォなるよォな気はしてたが……
クソッ、この状況で浜面にそれを報せる電話がかかってきたってのは面倒だったな)
麦野の声が聞こえ、浜面は再び携帯に意識を向ける。
『今更第一〇学区に向かっても無駄だろね。 絹旗はそいつに回収されてるでしょ。
ああそれと、滝壺なんだけど……お前滝壺に電話とかした?』
「い、いや……長点上機で別れてからはまだ……」
『滝壺のヤツも電話出ないんだけど』
ミシッ……と骨が軋む音がする。浜面が無意識に拳を握り締めている音だった。
「た、きつぼ……」
『あのメガネ女かチュニック着た"天使"ならまだあれだけど……
滝壺を"どうにかしたのが"赤髪野郎か垣根帝督ならちょっとまずいね』
もう喉は完全に干上がっていた。麦野の言葉など頭に入ってこなかった。
端から視界が赤く染まっていく。浜面は頭に昇る血をギリギリのところで留めていた。
473 : ◆3dKAx7itpI - 2011/08/27 19:58:34.09 18US/pyNo 212/418中途半端ですがここまでです。
このSSは相手の勝手な勘違いと『天使同盟』の自業自得でお送りしております。
そういうわけで、浜面クンがお怒りですが、彼は割と物分かりがいいので
恐らくは問題ないでしょう。
そして次回、垣根帝督の方にも動きが。
彼と一緒にいるミサカ一三五七七号の目の前に現れた人物とは……!?
みたいな感じです。
次回更新は三日以内。
それでは、今日もありがとうございました!
【次回予告】
「絹旗だけじゃねえよ!!! テメェら、もう能力なんて使えねえに等しい
滝壺にまで手ぇ出しやがって……何が狙いか知らねえが、目的のためなら
手段を選ばねえのかテメェら『天使同盟』ってのは!!!」
新生『アイテム』の構成員・無能力者(レベル0)――――――浜面仕上
「滝壺って……"こいつ"だろ?」
『天使同盟(アライアンス)』のリーダー・学園都市最強の超能力者(レベル5)――――――一方通行(アクセラレータ)
「……泡浮か? なんだお前、俺が病院に入ってからずっとそこで待ってたのかよ?」
『天使同盟』の構成員・学園都市第二位の超能力者『未元物質(ダークマター)』――――――垣根帝督
「(…………なぜ? とミサカは己の気持ちに違和感を覚えます。
撃てない。 そして緊急事態にも関わらず…………)」
御坂美琴のクローン体の一人――――――ミサカ一三五七七号
499 : VIPに... - 2011/08/28 04:25:11.05 gbiJ1gWLo 214/418ところで浜面はアックアに気付かなかったのか
あんな外人立ってたら一発でわかるだろ
507 : ◆3dKAx7itpI - 2011/08/29 22:28:42.89 H8u96ZqBo 215/418>>499
交通整備のバイトという事で、ヘルメットか何か被ってるでしょうから
浜面も現時点では気付かないという事にしてるんですが、ちょっと無理ありましたかね?
こんばんわ、更新を開始します。
浜面は絹旗最愛が撃破されてしまった事実を麦野から聞きました。
しかも滝壺にも連絡が取れないらしく、浜面は激しく動揺します。
そして同時に、一方通行の携帯にも電話がかかってきて……。
それでは、よろしくお願いします!
同時に、一方通行の方にも異変があった。
彼のポケット。一方通行の携帯電話にも着信が来たのだ。
「………あァ?」
相手を確認するため画面を見る一方通行。
無表情だった彼の顔が一瞬で困惑一色に染まった。
どうやらよほど予想外の相手だったらしい。
しかし狼狽しきった浜面はそんな一方通行の変化に微塵も気が付かない。
『じゃあそういうことで、私は絹旗と滝壺の行方を追ってみるから。
お前は適当に一方通行をぶちのめしといてよ、んじゃ』
とんでもない無茶振りを言い残し、麦野は一方的に通話を切った。
携帯電話をポケットに収める浜面の表情は、俯いているため窺えない。
対する一方通行も電話先の相手との通話で浜面の様子に気づかない。
そして、
「あ、一方通行!!!」
「あン? あァ……ちょっと待ってろ。 ……、電話終わったか?」
「ああ、終わったよ……」
言いながら浜面はゆっくりと顔を上げる。
その表情は、何か重大な決意を固めたそれになっていた。
彼は大切な何かを守る時、大切な何かを救うと決めた時、決まってこの表情になる。
「何が俺達には手を出さねえ、だ……。 何が約束する、だ。
今の電話、内容はテメェも大体予想はついてんだろ」
「……その絹旗ってヤツの事ならこっちの落ち度だ、そこはきちンと―――」
「絹旗だけじゃねえよ!!! テメェら、もう能力なんて使えねえに等しい
滝壺にまで手ぇ出しやがって……何が狙いか知らねえが、目的のためなら
手段を選ばねえのかテメェら『天使同盟』ってのは!!!」
「……は?」
倉庫内に浜面の叫びが反響する。並の人間ならそれだけでたじろいでしまいそうな
気迫が込められていた。浜面はギリリ、と歯噛みする。
(やっぱちゃんと俺が着いていればよかった……。 クソッ、
自分の頭の悪さに腹が立ってくるな……)
だが一方通行の反応は意外にも、きょとんとしたものだった。
「滝壺?」
「そうだよ。 さっき麦野から聞いたんだ、滝壺も電話に出ねえって。
……この状況だ、お前らの中の誰かが手ぇ出してんじゃねえのか。
ちくしょう、第二位とかだったら最悪だぞ……」
拳を握りしめて震えている浜面に対し、一方通行は極めて冷静だった。
なぜなら、
「滝壺って……"こいつ"だろ?」
「………………え?」
一方通行は見せつけるように携帯電話を掲げて軽く振ってみせた。
こいつだろ、と言われて滝壺の死体でも運んでくるのかという最悪の可能性が
一瞬よぎるが、浜面の頭の熱は急激に冷めていった。
「あ、えっと……あれ? お前、誰と電話してんだ?」
「オマエの女だけど」
そこだけ聞くと三角関係の修羅場のワンシーンが連想されるが、当然そうではない。
一方通行は人の女を寝取るようなクソ野郎ではないし、浜面と滝壺がめでたく結ばれる瞬間を
彼は直接見届けている。
ただ単純に、滝壺が何かの用で一方通行に電話をかけてきているのだ。
「何で滝壺がお前の携帯番号知ってんだ?」
「パスポートの件でオマエの連絡先教えてもらった時に、ついでで交換してただろ」
「………あ。 そうだ、そんな事もあったな」
「オマエに電話かけても繋がらねェし、麦野も絹旗も繋がらねェって訳で
俺にかけてきたンだとよ。 ほら、」
そう言って一方通行は持っていた携帯を浜面に向かって投げた。
浜面は慌ててそれをキャッチする。
「も、もしもし!? 滝壺か!?」
『あ、はまづらだ。 何で電話繋がらないの?』
今最も聞きたい声があっさりと届いた事に浜面は心の底から安堵する。
電話先から聞こえる滝壺の声色からして、何か危険な目に遭っているという事は無さそうだった。
だが念には念を。浜面は彼女の安否を確認する。
「わ、悪い、俺もさっきまで麦野と電話してて………。
それより滝壺、お前は大丈夫なのかよ?」
『? なにが?』
「何がって……。 ……ん?」
かすかな異変に気付いた浜面は聴覚に意識を集中させる。
電話先、滝壺がいるどこかの場所からなのか、妙な音が聞こえる。
銃撃音と、壮大なBGMのようだった。
浜面はわずかに目を細め、
「…………滝壺、お前今どこで何してる?」
『え? 第三学区のアジトでテレビゲームしてるけど』
瞬間、浜面仕上は生を享けて以来一度もしたことのないようなズッコケリアクションを披露した。
ゴチュンッ!! というリアクションにしてはあまりに生々しい音が鳴り渡る。
浜面が盛大に頭からひっくり返った音だ。
さすがの一方通行もそれを見て『え、一人で何やってンのこの人……』的な表情を浮かべていた。
どうやら麦野が滝壺に電話をかけた時、滝壺はゲームに夢中で
着信に気が付かなかったらしい。頭を打って涙目になっている浜面に
その事で詫びてきた。
真っ赤になった額を涙目で撫でながら浜面は呆れた調子で言った。
「た、滝壺さん……? あなた今、どういう状況なのかわかってらっしゃる?」
『うん。 だから早くアジトに戻ってきてよ』
「いやあのね……。 ……お前、一人で居るのか?」
『んーん。 天使も一緒だよ』
浜面は目眩を引き起こしたようにその場で片膝をついた。
泣きそうなんだけど怒っているような、複雑で器用な表情を浮かべながら。
「天使って……お前あいつを捕まえたのか」
『捕まえたとかそんなんじゃないよ。 お友達になったんだ。
だから一緒に遊んでるんだよ。 天使ってばなかなかゲームが上手くて……』
「聞いてねえよ天界にお住まいの天使さんのゲームの腕前なんて!!
……ああー、でも良かった、その様子だと完全に無事っぽいな」
『何もされてないし、しないよ。 はまづら、あくせられーた達は
私達にひどい事はしないよ、絶対に。 だから大丈夫』
「いやたった今絹旗が撃破された報告を受けてるのですが……」
「その点は心配いらねェよ」
滝壺の代わりに返答したのは一方通行だった。
彼は浜面と滝壺の夫婦漫才を聞いてうんざりしながら、
「絹旗の生死は俺が保証する、命に関わるよォな怪我は絶対に負わせてねェ。
手ェ出しちまった点については後でちゃンと詫びるが、これだけは言える。
絹旗が接触したあいつは調子にのってバカをするタイプの人間じゃねェ」
「………」
『あ、天使が待ってるから電話切るね。 もうしばらくはここにいると思うから
はまづらも早く帰ってきてね。 それじゃあ』
「あ、ちょっと待っ―――」
浜面の言葉を遮るように、携帯電話から虚しい電子音が鳴り続けた。
――――――――――――――――――――――
「だーから、ちょっとその辺散歩してくるだけだっつってんだろ?
確かに安静にしてるよう言付けは受けてるが、外出禁止とは言われてねえし」
「ですが先ほどあなたが怪しげな小麦粉人形で交わしていた会話内容から察するに、
あなたが今外出をするのは大変危険な行為である、とミサカは事情もよく分からぬまま
とにかく外出をさせまいとあなたの腕を引っ張ります」
「痛え、痛えよクソボケ!! 何が引っ張ります、だ。 引きちぎれるだろうが!」
第七学区の病院内で揉め事が発生していた。
病院では偶に見られる患者とスタッフのちょっとした衝突だ。
病室内での煙草は禁止されているのに隠れて喫煙しようとする者、
決められた食生活習慣をお菓子等で乱そうとする者。様々である。
ただ今回、第七学区の病院内で起きたそれは、もっと些末な事だった。
「別に外に出て能力を無理やり使おうってんじゃねえんだからよ。
外出するだけで脳に負担がかかるような事するわけねえだろ。
いつまでも病院にいたら消毒液の匂いが体に染み付いちまう」
「そういう事ではなくて、詳しい話は存じませんが
あなたは今誰かに追われているのでしょう、とミサカは
スパイ映画のヒロインのようなセリフを口にします」
垣根帝督と御坂美琴。
正しくは垣根帝督と『妹達(シスターズ)』の一人。
御坂美琴の体細胞クローンであるミサカ一三五七七号は、病院の受付ロビー前で
押し問答を繰り広げていた。
「医者の言いつけは守っておくのが完治への第一歩です、
とミサカは紫電で威嚇しながらあなたを引き止めます」
「病院内で放電はやめとけ。 そんで医者の言いつけを破るわけじゃねえ
っつってんだろうが、ったく……クローンってのは聞き分けがねえな。
人間として生きるなら空気を読む力も会得しとけってんだよ」
「ですが、」
「ですがもテスラもコイルもねえんだよ鬱陶しい。 とにかく離せ、
こんな暇なところにいつまでもいられるかってんだ」
垣根は強引に歩を進めようとするが一三五七七号は
頑なに彼の腕を掴み、それを阻止しようとする。
しつこく食らいついてくるナース服姿のクローンにうんざりして垣根は彼女を睨むが、
一三五七七号のその鉄のような無表情にはわずかな変化も見られなかった。
「………あー、クソうぜえ。 分かったよ」
垣根は苛立ちながら頭を掻き、
「じゃあそこの正面玄関前の広場でゆっくりさせてくれ。
とにかく外の空気を吸いてえんだ。 そこだったらテメェも
俺を監視できるし、それで文句はねえだろ?」
「……そういことでしたら問題はありません、とミサカはあなたの腕を離します」
渋々了解してくれた一三五七七号はゆっくりと手を離し、垣根を解放する。
ここでもう一言くらい悪態をつきたい垣根だったが、彼女も彼女で彼の身を案じているのだ。
垣根もそれが分かっているからそれ以上文句は言わなかった、一三五七七号の気持ちを汲む。
「……ま、どうせ学園都市の空気もしばらく吸えなくなるしな」
「?」
垣根が呟くように何かを言っていた気がしたが、一三五七七号には聞き取れなかった。
かくして垣根は正面玄関から出てすぐの広場で喉でも潤そうかと思ったのだが、
「あん?」
広場に設けてあるベンチの前で一人の少女が佇んでいた。ベンチがそこにあるにも関わらず、である。
垣根は少女の顔を見て眉をひそめた。
知り合いだった。それも少し前に知り合ったばかりの、常盤台中学の一年生。
「……泡浮か? なんだお前、俺が病院に入ってからずっとそこで待ってたのかよ?
検査は長いだろうからもう帰っていいって言っただろ」
「………は、はい。 申し訳……ありません……」
一二月の風に黒髪のロングヘアを靡かせる泡浮万彬は、なぜか垣根と目を合わせようとしない。
その挙動もどこか落ち着きがなく、下腹部付近に添えた手をもじもじさせている。
「何だよ、まだ俺に何か用なのか?」
「……え、っと……。 少し、お話がありまして……」
「話? ……まぁいい、こんな娯楽もねえ場所でどうやって時間潰すか
考えてたところだ。 聞いてやるよ、何だ?」
「あ、あの……垣根さん」
途端に泡浮の顔つきが真剣そのものになった。
何か重大な話題でも持ち出してくるのかと垣根が訝しむ。
結論から言えば、『春』が垣根帝督を迎えに来た瞬間だった。
――――――――――――――――――――――
「ふむ? 何か…………」
病院の受付広場から垣根帝督と泡浮万彬のやり取りを遠目に見ていた
ミサカ一三五七七号はわずかに首を傾げて呟いた。
「………不思議な雰囲気です、とミサカは二人を包む空気を分析してみます。
どうやらミサカが懸念しているような事態は起きなさそうですね」
ここは彼に免じて空気を読んであげましょう、と小生意気な事を言い、
一三五七七号はフッと笑って(表情は全く変わっていないが)他の仕事に当たるため
静かに踵を返す。
と、
「こんにちわ♪」
「――――――――――ッ!!?」
"背後から突然声をかけられた"、と認識した瞬間にはもう既に
一三五七七号は腰に忍ばせていた護身用の拳銃に手を伸ばしていた。
病院内であるにも関わらず。人目がつく場所である事などお構いなしに。
後ろから、声をかけられただけで。
(どうして?)
一三五七七号は自分が行っている行動に疑問を感じる。
ただ声をかけられただけなのに、なぜ自分は拳銃を取り出している?と。
簡単だった。
その声に、"こびりついていたから"。
何が。
――――――――――――闇が。
「……………………どなたですか、とミサカは簡潔に質問します」
「くす、面白い口調ねそれ。 クローン特有のものなのかしら?」
一三五七七号が銃口を向ける先にいたのは、見た目一四歳くらいの少女だった。
「いつから病院内に? とミサカは重ねて質問をします」
「そんな質問に答える義務なんて私には無い。 私はあなたと会話する気も無いし、
あなたに危害を加えるつもりも、病院内の人間に牙を剥く事もしないわ、安心して」
銃口を向けられている事に全く物怖じしていない様子で、
少女は余裕の笑みを浮かべる。
そしてその時から既に、"一三五七七号の心境にある変化が訪れていた"。
拳銃を構える一三五七七号の手が小刻みに震える。
「撃たないでね? ていうか、"撃てないでしょ"?」
(…………なぜ? とミサカは己の気持ちに違和感を覚えます。
撃てない。 そして緊急事態にも関わらず…………)
一三五七七号の表情に変化はない。
が、胸から響く鼓動は明らかに速くなっていた。
("ミサカネットワークに繋ぐ気になれない"………?)
「ちょっとお話しない? 私もね、あなたに聞きたい事があるの」
少女の表情にも変化はない。
余裕の笑顔を崩さぬまま、まっすぐに一三五七七号の瞳を見つめる。
少女は言った。
「垣根帝督について……。 色々聞きたい事があるんだけど、時間貰えるかしら?」
528 : ◆3dKAx7itpI - 2011/08/29 22:52:41.23 H8u96ZqBo 236/418あ、会話する気無いって言っときながらお話しないはおかしいか。
ぬかったわ………。
というわけで、今日はここまでです。
この時点で浜面も今の状況があまりシリアスでない事を把握した事でしょう。
次回は本格的にvs浜面パートになります。オチが見え見えの結末をお楽しみくださいww
垣根のとこでも色々動きがありましたね。まぁ……こっちはあまり期待しなくてもいいです。
次回更新は三日以内。
それでは、今日もありがとうございました!
【次回予告】
「すまん。 事情も把握してねえのに熱くなっちまった。
元々お前らに突っかかったのは俺たちの方なのに……」
新生『アイテム』の構成員・無能力者(レベル0)――――――浜面仕上
「まァ、お互い見事に振り回されてるよなァ……"あいつに"」
『天使同盟(アライアンス)』のリーダー・学園都市最強の超能力者(レベル5)――――――一方通行(アクセラレータ)
571 : ◆3dKAx7itpI - 2011/09/01 10:35:44.35 e7naQbFAo 238/418
おおう………やっちまっただ。腸を患ってしまった………。
昨日から下痢便が止まらないでござるの巻。
そんな事情があっていつもより少し遅目の、朝の時間帯での更新となります。
『次回更新は三日以内』の保険がここで初めて効いた気がする……。
前回でミサカに近づいた謎の少女が誰なのかという議論(議論ってほどじゃないですが)がされてますね。
心理定規と心理掌握……、どっちも似たような能力で、似たようなキャラクターですがはてさて。
今回は浜面パートでお送りします。
それではお待たせしました、よろしくお願いします!
――――――――――――――――――――――
閑散とした倉庫の中で、浜面仕上はコホンと咳を一つ。
「あー……、まぁあれだ」
「……」
彼の前には相変わらず学園都市最強の超能力者、一方通行が君臨していた。
とりあえず浜面は彼から受け取った携帯電話を慎重に投げ返して、
「すまん。 事情も把握してねえのに熱くなっちまった。
元々お前らに突っかかったのは俺たちの方なのに……」
「まァ、お互い見事に振り回されてるよなァ……"あいつに"。
……とにかくこれで、滝壺の身の安全は確認出来たな?」
「ああ」
浜面仕上のマイスイートハニー、滝壺理后は無事だった。
というか無事すぎた。無事どころかあの天然女はよりにもよって
本物の大天使とテレビゲームをして遊んでいる始末だった。
基本、他人に対しては友好的である滝壺も今回ばかりはその人智を越えている、と浜面は呆れ果てる。
恐らく今頃、麦野にも本人から直接連絡が来ているだろう。
浜面が落ち着いた事を確認すると、一方通行は言った。
「と、言うわけで。 オマエも俺達のアジトに来てくれるな?」
「あ、あぁ……」
浜面は頷きかけて、
「ってそんなワケないだろ!! 滝壺は無事だったけど、こっちは
絹旗をやられてんだ! お前んとこの赤髪野郎にな」
「それも大丈夫だって言ったはずだぞ、絹旗も今頃は俺達のアジトに
連行されてるはずだ。 心配はいらねェよ」
「連行ってなんだよ、響きが全然穏やかじゃねえーッ!」
うがー! と捲し立てる浜面に一方通行は馬鹿にしたようなため息をつく。
もうこれ以上交渉しても拉致が明かないと判断した彼は、
「……じゃあ、おとなしく着いてくる気はねェンだな?」
「む、麦野も頑張ってんだ……、滝壺はアレだけど………仲間が
やられた以上俺もグズグズしてらんねえ。 悪いが、お前の方こそ
俺に着いてきてもらうぞ、一方通行」
互いに一歩も譲らない。交渉決裂だった。
そうなると気は進まないが、『強制連行』しか選択肢は無くなる。
だが相手は学園都市の超能力者(レベル5)、序列第一位の『一方通行(アクセラレータ)』だ。
浜面のような何の力も持たない無能力者が正面から攻めたって返り討ちに遭うだけ。
下手をすれば殺されるかも知れない。
『アイテム』は能力の他に多彩な"道具"を使って敵対者を翻弄する事を得意とする
組織だが、それも暗部だった頃の話。浜面が現在所持している道具は拳銃一丁のみ。
そんなものを一方通行に向けて使ったって、それこそ自殺行為も甚だしい。
(……ど、どうする)
対する一方通行は非常に有利な立場にいる。
既に電極チョーカーのスイッチはオン、彼はいつでも学園都市最強の能力を駆使出来る。
その気になれば目の前にいる雑魚など瞬殺できるし、そうしなくとも無力化する事くらいは容易い。
あらゆる運動量のベクトルを操作できる能力とは、そういうものなのだ。
だから一方通行は、ただ告げる。
「オイ三下」
「な、何だよ……」
「"後ろ……気をつけろよ"」
想定外にして予想外の言葉が白髪の悪魔の口から飛び出してきた。
一方通行の言葉に釣られて思わず振り向きそうになったが、その一方通行から出てきた
意外で不可解な言葉に警戒したのか、浜面の心臓が大きく鼓動を打ち彼の愚行を制止する。
背後。
確かに一方通行ならその場から一歩も動かず浜面に対して背後から奇襲をかける事は出来るだろう。
浜面も一方通行の能力の全てを把握しているわけではないが、何せあの麦野を第四位としてしまう
怪物だ。それくらいの事は造作もないと予想できる。
だが同時に浜面は思う。
背後から奇襲をかけるつもりなら、何故それを事前に忠告する?
一方通行という能力を使って何らかの方法で背後から一撃を加えるつもりなら
忠告などせずさっさと実行してしまえばいいのに。
これが第一位たる者の余裕の表れであると解釈するのは容易だが、浜面はそうとは思えなかった。
例えばこのシチュエーションが浜面仕上vsその辺のスキルアウトなら、浜面は
迷わず相手に向かって駆け出していただろう。
なぜなら相手の『背後に注意しろ』なんて言葉を真に受ける必要はないからだ。
どう考えても罠だろうし、例え背後に、本当に浜面にとって危険な何かが存在していたとしても
とりあえず前に進めばそれを回避できる可能性は飛躍的に上昇する。
相手も自分と同じ無能力者だ、雑魚同士の駆け引きに美しさも価値も存在しない。
ただそれはあくまで想定であって、現実問題、相手は最強の第一位。
最強にして、学園都市最高の頭脳を持つ能力者。
(……陽動? 事実? クソ、どういうつもりだこいつ……。
テロ事件の時は真正面から俺を叩きのめしたくせに……)
「俺に立ち向かうのは大いに結構。 だがなァ、これだけは言っておくぞ。
"オマエが後ろを振り向いた瞬間、この勝負は終わる"。 信じるか否かの
決定権はオマエにある。 空っぽの頭ァよォく振り絞って考えろよ」
一方通行の言葉に従った訳ではないが、浜面はその無い頭をフルに回転させて思考する。
『振り向けば終わる』。それはそうだ、あのレベル5を前にしてよそ見をするなど言語道断。
そのわずか一秒にも満たない隙で一方通行は浜面を血祭りにあげる事が出来るだろう。
ただ、浜面でさえ簡単に理解できる事を、なぜわざわざ口にするのか?
この疑問が浜面の頭からいつまで経っても払拭できないでいた。
「あァ、それともォ一つ」
「?」
一方通行から一切目を離さず、浜面は怪物の言葉を聞き続ける。
「さっきも言ったが、俺ァ極力手荒な事はしたくねェンだ。
絹旗の件はきっちり詫びるとして、麦野って女にも、滝壺にも」
「……」
「そして、オマエにもだ。 俺はここから一歩も動かねェし、
そォだな……能力だって使わねェよ。 事を穏便に運ぼォってンだ、
それくらいの制約が無きゃ話にならねェだろ?」
そして浜面は今度こそ耳を疑い、一方通行が電極チョーカーのスイッチを
切る仕草を見て目も疑った。
完全なる無抵抗。一方通行がチョーカーのスイッチを健在する敵の目の前で切るとは、そういうことだ。
じわりとした汗が全身を包む。ここまで無抵抗っぷりを見せつけられて、
それでも浜面の不安は解消されていなかった。むしろ増幅したと言えよう。
(考えろ……考えろ浜面仕上!! 一方通行は何が目的だ? どういうつもりで
能力を封じやがった……。 いくらなんでも、次にチョーカーのスイッチを
入れる前に俺が走ってそれを止める事くらいは出来るんだぞ……)
それが出来れば浜面仕上の勝利は確定したも同然だ。
浜面はスキルアウトとして活動してきた事もあり、その体格はそこらの
学生よりは出来上がっている。
ましてや大して鍛えてもいない細身の一方通行など、マウントポジションでもとれば
それでジ・エンドである。
だから浜面は考える。『一方通行が一切の行動をとることもせず、浜面仕上を無力化する方法』を。
(…………………………。 ……、……………待てよ。 一方通行は言った、
『"俺"はここから一歩も動かねェ』、『"俺"ァ極力手荒な事はしたくねェンだ』)
プラス、
(……わざわざ人が寄りつかなそうな場所に俺を誘き出した"理由")
浜面がある可能性に今更辿り着き、つい声を出したのと、"それ"は同時に起こった。
「まさか」
「くしゅんっ」
背後から。
一方通行が何度も警告した浜面仕上の"背後"から、何とも可愛らしいくしゃみが聞こえた。
(――――――最悪!!! "そっちのケースかよ"クソッたれ!!)
浜面仕上が"とある結論"に至ったのと、彼の背後からくしゃみのような
声が聞こえたのはほぼ同時だった。
浜面が至った、一方通行の警告の真意。無い頭を振り絞って考えたあらゆる可能性の一つ。
第三者。つまり一方通行の『仲間』がこの倉庫に潜んでいる可能性。
冷静を保っていればすぐに辿り着けそうな結論に、ここまで時間をかけて
至った自分の無能さに腹を立てる浜面。
彼が後ろを振り向く動作はひどく緩慢だった。そして、緩慢なのは浜面だけではない。
世界。浜面の目から観測出来る全ての世界がスローモーションのようになっていた。
故に、彼は自分の愚鈍さに腹を立てる余裕が生まれたのだ。
そして彼は知っていた。人間が死の寸前を迎える瞬間、周りの時間が全て
コマ送りのように鈍くなるという話を。
その時、人の頭にはこれまでの人生を全て振り返る事ができるように
いわゆる『走馬灯』が走るのだが、浜面仕上の頭にはそれは流れなかった。
(……俺、走馬灯すら流れねえ程つまんねえ人生は送ってないつもりなんだけどなぁ)
そんなくだらない事を考えられるほど、彼と彼の周囲の世界はスローだった。
そうこうしている内に、浜面は背後を振り返る。
そして、浜面仕上は見た。背後に潜んでいた何者かの正体を。
見て、そして――――。
「ごっ、があああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁ!!!!!!?」
突如として浜面に鋭い衝撃が襲いかかる。痛みは無い。ただ、表現し難い衝撃が
彼の、正確には彼の顔の部分に走った。
粘ついた水が地面にぶちまけられる音が倉庫内を支配する。
否、それは水ではなく血。
浜面は顔から大量の出血を引き起こしていた。
(が、あっ……!!? ち、くしょう……何だ……!?)
思わず顔を覆っていた手を離してみる。
掌には目を背けたくなるような量の血がべっとりとこびりついていた。
視界がボヤける。出血量は浜面が思っている以上に多いようだ。
と、そこに浜面仕上をこんな状態にしてしまった者が、"弱々しい声で話しかけてきた"。
「あ、あの……は、浜面さん……!? 大丈夫、ですか……?」
「う、ぐ……?」
優しさと癒しさに満ち溢れた声を聞き、浜面仕上は全身に鳥肌を立たせた。
つい甘えたくなくなるような、いつまでも耳元で囁き続けて欲しいと思えるような、そんな声。
彼の中で最も大切な滝壺理后という人間も可愛らしい声の持ち主だが、それとはまた別種の
心地良いエンジェルボイス。
浜面はその声を聞いたことがあった。
「お、お前………」
足元をふらつかせながら浜面は背後に居た者の姿を改めて確認するため顔を上げる。
まず視界に飛び込んできたのは、顔。まだ少しだけ幼さが残る、一〇〇人に聞いたら
二〇〇人が『可愛い』と答えるであろう整った顔立ち。
そこにメガネというアクセントが加えられていた。少しズレた位置で装着されているところが
キューティクルであざとい要素を底上げしている。
そして人は、顔というパーツさえ見ればそれが誰であるのかを理解できる生き物だ。
無論、それが既知の人物であるならばの話だが。
幸か不幸か、浜面はその女の子を知っていた。
「風斬……、だよなお前?」
「は、はい……。 あの、どうしてあなたがここに……?」
風斬氷華。『天使同盟』に咲き誇る美しき花。
だが浜面仕上の脳にインプットされている風斬氷華の姿と、
なぜか彼の背後にいた現在の風斬氷華の姿には齟齬が生じていた。
浜面はいつもとは違う風斬の姿を再確認するため、彼女の顔を見る。
ズレた位置のメガネ、あどけない顔、そこまではいい。
ただ一点、
「ぶふっ……!!」
風斬氷華の頭の上でひょこひょこと揺れる白いウサ耳を見た浜面は再び出血した。
無論、口からの吐血ではなく鼻から血が噴出する形で。
つまり最初の大出血も極度の興奮による鼻血だった訳だ。
風斬はおろおろしながら現状を把握する事に努める他ない。
(な、なな、何でよりによって……バニーガール!?)
そう。
浜面の背後に居た風斬氷華は、それはもう見紛う事なきバニーガール姿だった。
可愛らしく媚びっ媚びな動きで揺れるウサ耳バンド。
ピンク色の付け襟には蝶ネクタイがプラスされている。
浜面の位置からは確認できないが、風斬が着ている何かもうギリギリの黒レオタードの尻部分には
耳と同じくぴょこぴょこ動くウサギの丸い尻尾があるのだろう。
スラリと伸びるおみ足は網タイツで覆われていた。浜面的にはストッキングもアリなのだが、
水を弾きそうな若々しい風斬の太ももに網が食い込んでいる所を見ていると趣味嗜好が激変しそうだと浜面は思った。
網タイツ最高!と今すぐここで叫びたくなるくらいに。
「ぐ、ぅおおおおおおお………!!!」
「は、浜面さん……? 大丈夫ですか……?」
本気で心配してくれてる事が一発で分かる表情を風斬は浮かべる。
彼の鼻血を見て不安がっているのか、風斬は浜面の顔色を窺うため中腰の体勢になるのだが、
「ぬはあああああっ!!?」
レオタードの性質上、中腰で屈めば必然的に女性の胸は強調される。
しかも風斬氷華はバストの乏しい女性なら殺意すら抱きかねない程の、こぼれんばかりの巨乳だ。
そんな爆弾をこれでもかと言わんばかりに寄せられてはお年頃の浜面クンは耐えられない。
(し、しかもこの子……"そういうつもりでこの体勢をとってねえ"!!
あくまで俺の心配をしてくれてんだ……! いきなり鼻血を噴き出した
訳の分からねえキモい男を、純粋な気持ちで……!!)
その優しさに涙が流れそうになったが、流れるのは鼻血だけだった。
別に浜面はバニーガールフェチ、という訳ではない。
彼の場合、周囲の景色にそぐわない恰好というギャップが好みなのだ。
ラウンドガールやF1等のイベントで見かける、プールや水辺があるわけでもないのに水着というシチュエーション。
彼はそれがすこぶるお気に入りなのだ。
だからこの閑散としたボロっちい倉庫に巨乳のバニーちゃんがこんな至近距離にいれば、
浜面じゃなくても興奮するに違いないだろう。
(こ、この子から……風斬から視界を逸らさねえと……)
このままでは自分が風斬に何か間違いを起こしかねない。
そしてそうなれば一方通行に肉塊にされてしまう。
それを危惧した浜面はギュッと瞼を閉じて風斬から顔を逸らす。
同時に、浜面は一方通行の言葉を思い出した。
『"オマエが後ろを振り向いた瞬間、この勝負は終わる"』
浜面は振り向き、一方通行の顔を見る。
(やられた……)
学園都市第一位の少年は笑っていた。勝ち誇ったように。
嘲笑うように。見下すように。北叟笑むように。一方通行は笑っていた。
全ては計算通り。恐らく一方通行はこれだけのためにわざわざ浜面仕上を捜し回り、
風斬氷華をバニーガールに仕立て上げ、こんなお誂え向きの倉庫を見つけ出したのだろう。
確かにこれなら一方通行自身は手を下さず、浜面を無力化出来るかもしれない。
学園都市最高の頭脳が弾き出した結果がこれかよ、とかいうツッコミは置いといて。
ただ、浜面にも意地がある。『アイテム』の構成員として。男として。
「ナメるなよ……」
浜面は呻くように言いながら、鼻を拭って一方通行を睨む。
「浜面仕上を……」
言いながらも、
「『アイテム』の正規構成員、この浜面仕上を……」
言いながらも、彼の――――。
「ナメてんじゃねえぞ一方通行ァァァあああああああああ!!!!!!」
――――彼の首はしっかり風斬氷華の方に向いていた。
「ぐっはあああああああああああああああああん!!!!!」
これまでにない量の紅き噴水を撒き散らし、浜面仕上は屈した。
学園都市第一位の狡猾さと、風斬氷華のあまりにもエロ過ぎる肢体に。
彼は心の中で何度も唱える。『アイテム』の女の子三人に謝罪の言葉を
そして唱えながらもその視線はまだ風斬を捉えていた。
ローアングルから見る彼女の姿もまた素晴らしい、と浜面は表情筋が緩んでいくのを感じる。
「あ、一方通行……」
杖をつき、ツカツカと歩み寄ってくる白髪の怪物には目を向けず、
彼は最期の言葉を一方通行に贈る。
「感謝するぜ……」
「何に」
「テメェと出会えた……これまでの、全てに」
そして眠るように意識を失った浜面の顔は、この世の幸福を全て
身に受けたような、満足気な表情だった。
「…………アホだこいつ」
心の底から蔑むように、一方通行は言葉を吐く。
足元にある浜面の顔を足で軽く小突くが反応がない。しばらく目覚める事は無さそうだった。
「……いや、俺も同レベルのアホだな。 こいつをこォするためだけに
無駄な労力使っちまって……。 いつから俺はこンな暇な野郎になっちまったンだろォな」
「あ、あの……一方通行さん……」
「あン?」
顔面血塗れの浜面に若干引きながら、事情も何も全く分からない
バニー風斬が声をかける。
「これはその……一体どういう状況なんですか……? 着替え終わって出てきたら
何故か浜面さんがいて……、急に鼻血出して倒れちゃって……。
正直全くついていけないんですけど……」
無理もない。風斬視点から話を進めると、まず彼女は第七学区で一方通行と会い、
訳も分からぬまま地下街のゲームセンターへ連行された。
そこにあったプリクラマシンの中のコスプレグッズを拝借(無許可)。それを持って
しばらく第七学区を歩き回った。この間、二人の間に会話はほとんど無い。
そしてこの倉庫を見つけると一方通行は風斬を連れてそこに入り、
ゲーセンから持ってきたバニーガール用衣装と某宮殿から貰ってきたウサ耳バンドを
風斬に渡し、『着替えておけ』と有無も言わさず着替えを要求した。
一方通行の目的が全く分からない風斬は、それでも一応着替えを始めた。
もちろん周りに誰もおらず、一方通行も一人でどこかへ出掛けてしまった事を確認してからだ。
途中、倉庫の中に人が侵入してきた気配を察した。倉庫内に響く音を聞き、それが一方通行と
浜面仕上であると分かった時には首を傾げたが、とにかく彼女はこそこそと着替え作業に集中した。
露出が多すぎるバニー衣装は恥ずかしい上に非常に肌寒さを感じさせ、
見た目は単純だがいざ着ようとするとこれが思った以上に着替えにくい。
特に柔らかく豊満な胸を納める作業は苦戦を強いられた。
それでも仮に一方通行が自分のバニー姿を求めているのだとしたら、それも我慢できた。
そして着替えを終えて出てきたらこのザマである。
浜面仕上は意識を失い、一方通行は無表情で納得するだけだった。
596 : ◆3dKAx7itpI - 2011/09/01 11:05:04.27 e7naQbFAo 263/418ここまでです。
下の宣伝がちょっぴり煩わしいですが、仕方がないですね。
というわけで風斬氷華vs浜面仕上は風斬の圧勝という形で幕を閉じました。
バニーで釣るんだろと予想されていた方もいらっしゃいましたね、そりゃ分かりますよねー……
これがシリアスパートなら浜面も馬鹿みたいに鼻血出して喜ぶとかはしないでしょうが、
一応ギャグパートなのでこういう結末に。
しかし次回、何をどう間違ったのかがっつりシリアスパートが控えておりました。
しかもたった二人の会話なのにすっげえ長いの………
どうかお付き合いいただけたらと思います。
次回更新はちょっといつになるかわかりません。
体調次第ですが、出来るだけ早めに投下したいと思います。
では、今日もありがとうございました!
【次回予告】
「だって、なあ……。 組織とか仲間とか以前に、人間ってそんな簡単なもんじゃないでしょ」
新生『アイテム』の構成員・学園都市第四位の超能力者(レベル5)『原子崩し(メルトダウナー)』――――――麦野沈利
「そォかも知れねェな」
『天使同盟(アライアンス)』のリーダー・学園都市最強の超能力者――――――一方通行(アクセラレータ)
601 : VIPに... - 2011/09/01 12:22:46.72 EsXkyyrn0 265/418>>596乙そして風斬に感謝
腹を壊したとき、腸まで届く乳酸菌飲料。
特に、賞味期限切れ近くがお勧め。
615 : VIPに... - 2011/09/02 08:06:49.21 tqKi7zTIO 266/418久しぶりのごっがああああああ!!
>>1乙です
下痢……ま、まさか赤痢じゃないよね!?
628 : ◆3dKAx7itpI - 2011/09/03 20:53:47.45 /9CDii6oo 267/418オッレルスを天使同盟に加えたら賑やかな組織の中に
和やかさが生まれるんでしょうね……。天使同盟には『大人』成分が足りない気がする
こんばんわ、いつも沢山のレスをありがとうございます。
更新を開始したいと思います。
>>601>>615
私事にレスをいただきありがとうございます。
おかげさまで何とか回復の兆しが見えてきました。
前回、浜面とある意味撃破した風斬氷華。
これでフィアンマvs絹旗、滝壺vs(?)ミーシャ、風斬vs浜面が消化されました。
いよいよ壮絶なバトル……かどうかはともかく、リーダー格同士が相対します。
では一方通行と風斬氷華のシーンをちょこっとだけ入れて開始します。
よろしくお願いします!
「なンの事はねェよ。 先に手っ取り早くこのバカを潰しておきたかったからな。
たまたまこいつの知り合いらしい『くノ一』と会って、そいつから話を聞いたンだ。
浜面はバニーガールに目がねェってな」
「は、はあ……」
くノ一という、あまり聞きなれない言葉に眉をひそめながらも
風斬は一応納得したように返事をする。しかし、
「あれ? でも、………。 ……ま、まさか私がこんな恰好になったのって……」
「あァ、すまねェと思ってる。 こンなくだらねェ茶番にオマエを付き合わせちまった上に、
そンな恰好をさせちまった事は詫びる。 本当に済まなかった」
「え、じゃあ浜面さんをやっつけるためだけに私はバニーガールに……?」
「そォいう事だ、本当にすまねェな。 もォ今すぐ着替えてもらって構わねェ。
いつまでもそンな恰好してちゃオマエも面倒だろ」
「………」
別に謝ってもらわなくてもいい、と風斬は思った。
この恰好が浜面仕上を撃破するためだけのものだと言われても、憤慨はしなかった。
こんな露出の多い恰好をさせた事に一方通行が気を遣ってすぐに着替えろと言った事も、
また彼らしいと風斬は思う。
ただ、
「あ、あの……一方通行さん……」
「なンだ?」
予め用意しておいたのか、布製の袋に浜面を詰め込み、頭だけ口から出して
紐で縛りながら一方通行は応じる。
「……えっと、どう……ですか? この恰好……、………」
顔を真っ赤にしてもじもじと恥じらいながらもバニー姿の評価を問う風斬。
そんな今の彼女の姿を浜面が見たらマジで失血死してしまってもおかしくはないだろう。
けどやっぱり、一方通行は一方通行だった。
「どォって、別に」
「…………」
途端に風斬の表情が不満げなそれに変わった事に一方通行は焦った。
一瞬また泣かれるのかと思い、何とか取り繕おうとしたが、
「……バカ」
「?」
ボソッと何かを呟くと、風斬は物が散乱している所へ身を隠し着替え始めた。
明らかに怒っていたのだが、一方通行には原因が分からなかった。
袋の中に浜面を詰め終え、風斬が着替え終わるのを待つ。
一方通行の鈍感っぷりは今も当たり前のように健在だった。
その鈍感さが、後の"出来事"を起こす引き金になる事を一方通行が知る由はない。
(……さて、滝壺はガブリエルがいるから問題はねェか。 つか滝壺に面倒見てもらってる
ってのが正しいよな。 絹旗とかいうヤツはフィアンマがやりやがったらしいが、そォすると
残りはリーダー格の『原子崩し(メルトダウナー)』だけって事になるな……)
超能力者(レベル5)第四位、『原子崩し』を有する『アイテム』最強の女、麦野沈利。
どう考えても一筋縄ではいかない事は一方通行も承知していた。
長点上機学園で『アイテム』と接触した際、一番好戦的な態度をとっていたのも麦野である。
もちろんそれは仲間のためだろう。
だが同時に一方通行は違和感を覚えていた。あの時の麦野の好戦的な態度が、
一方通行にはどうも"演技っぽく見えてしょうがなかったのだ"。
ただ、あの状況でそんな演技をする必要性に疑問を感じる一方通行は
どう麦野と相対しようか熟考する。
(……俺が出向くしかねェよな。 あの女の目……、クソ気に食わねェが
あの目を俺は知っている。 浜面や絹旗を捕まえちまった以上、麦野を
無視するわけにもいかねェしなァ……)
先が思いやられるな、と一方通行は対麦野の展開を学園都市最高の頭脳の中で
何度も予想しながらため息をついた。
――――――――――――――――――――――
あの日ほど涙を流した事は無いな、と麦野沈利は思った。
第三次世界大戦。浜面仕上を殺すために単身ロシアへ乗り込んだ麦野は
程なくしてターゲットに接触、戦闘行動を開始する。
当然、その時も麦野は全力で浜面を抹殺する気だったが、肝心の浜面がそうではなかった。
当時の浜面仕上の精神はもう限界に達していた。自分を殺すためだけに、肉体のあちこちを
改造しまくった哀れな少女を目の当たりにして。
―――もういやだ。
そう言いながら戦闘放棄を望む浜面の顔は、今でも鮮明に思い出せた。
―――もうやめよう。俺達みたいな子供が、大人達の都合で殺し合うなんて絶対に間違ってる。
それは麦野も理解している事だった。だが、もう『アイテム』は崩壊している。
リーダー格の麦野自らが私情に走って手放した組織は、もう二度とやり直せない。
―――まだやり直せる。『アイテム』は、もう一度立ち上がれる。
だから麦野は耳を疑った。全てを裏切り全てを壊した自分を前に、まだやり直せると
力強く叫んだ浜面仕上の言葉を聞いて。
対浜面用に服用した『体晶』の副作用で既に肉体も精神もズタボロだった麦野は、
半ば流されるように浜面の意志を汲んだ。
戦争が終結し、学園都市に帰ってきた麦野沈利はとにかく涙を流した。
正規構成員の絹旗最愛の前で汚い地面に額を擦りつけ、懇願するように謝罪した。
こんな事をして本当にやり直せるのか、という猜疑心を拭えぬまま。
だが結果は麦野の予想を覆すものだった。
絹旗最愛は笑顔で麦野を迎え入れ、暗部として活動していた当時に散々利用されてきた
滝壺理后も、幾度と無く麦野に殺されかけた浜面仕上も、皆が笑顔で麦野を受け入れてくれた。
あれだけの事をし尽くした自分を、仲間達は許してくれた。
浜面がロシアで手に入れた『素養格付(パラメータリスト)』の件で彼ら四人も晴れて『闇』から抜け出すことが出来、
麦野達四人は新生『アイテム』として復活する事が出来たのだった。
「――――――………めでたしめでたし」
あれから約一ヶ月。一二月という本格的な冬が到来した今。
『アイテム』は問題なく活動を続けている。
「……………めでたし、めでたし」
本当に。
本当にそうだろうか?
第七学区にあるデパートの屋上から麦野は見ている方が胸を絞めつけられそうな儚い表情で街の景色を眺めていた。
自分は目的のためだけに滝壺理后をボロボロになるまで利用し続けました。
『アイテム』の中から裏切り者が出たため、自分はその構成員を粛清しました。
第二位という凶悪な敵に立ち向かった勇敢な構成員も、結局は負け犬だからと見捨てました。
仲間のためを思って自分に反抗してきた下っ端構成員を、自分は何度も何度も死の淵に追い詰めました。
以上の事は全て詫びます。ごめんなさい。泣いて謝りました。
なぜなら、自分も本心は皆と仲良く集まって楽しく過ごしていたいから。
皆は許してくれました。笑顔で。過去の事は全て洗い流して、こんな犬のクソ以下の自分を受け入れてくれました。
「……………」
自分が浜面達の立場なら、絶対に許しはしないと麦野は思う。
許すどころか、どの面下げて戻ってきたんだクソ野郎、と自らの『原子崩し(メルトダウナー)』で
頭を貫きぶち殺していただろう、と。
「だって、なあ……。 組織とか仲間とか以前に、人間ってそんな簡単なもんじゃないでしょ」
屋上のフェンスに腕を置き、物哀しげな表情で呟く麦野の言葉は、独り言にはならなかった。
「そォかも知れねェな」
「そだよ」
麦野の背後。
カツッ、という杖を地面に突く音と共に、その少年はゆっくりと彼女に近付く。
学園都市最強。
超能力者(レベル5)第一位。
一方通行。
「なーんか浜面とも連絡とれなくなってんだけど。 お前あいつに何かした?」
「まァ、あいつらしい散りザマだったな」
「殺したの?」
「ンなわけねェだろ。 幸せそォな顔でおネンネしてるぜ」
あっそ、と麦野は簡潔に返事をした。
「絹旗はやられちゃったし、滝壺は……天使と一緒だってさっき連絡入ったな。
そんで浜面もノックアウト、か。 あれ、残ってるの私だけじゃん」
「そのよォだな」
瞬間、一方通行の顔目掛けて一筋の閃光が迸った。
『原子崩し(メルトダウナー)』。正式名称は粒機波形高速砲。
『粒子』と『波形』の中間に位置する『曖昧なままの電子』を強制的に操り、
"留まる"性質を持たせた閃光で相手を容赦なく貫くレベル5第四位の能力。
一方通行はそのビームを、首を動かしてすんでの所で回避した。
「アブねェな、殺す気かオマエ」
「『原子崩し』を目視で避けてんじゃねえよ化物。 つか、お前ナメてる?」
「何が」
ここで初めて、麦野は後ろを振り返り一方通行を視界に収めた。
口調は荒々しいが、彼女の浮かべる憂いげな表情にはそぐわなかった。
「仮にも私は第四位だよ? そんなヤツのとこにおめおめと現れて、
能力の一つも使おうとしないなんて、バカにしてるとしか思えないんだけどにゃー」
「反射したらオマエが死ぬだろ。 俺ァ殺し合いにきたわけじゃねェ」
一方通行の言葉に麦野はうっすらと笑みを浮かべ、
「殺し合う気はないんだ?」
「……」
「"私もだよ"。 ……初めまして、レベル5第一位『一方通行(アクセラレータ)』。
私は第四位『原子崩し』の麦野沈利。 よろしくね」
本当に何の企みも抱かぬまま麦野は握手を求めて左腕を差し出すが、
自分の左腕を目を細めて凝視するとそのまま引っ込めてしまった。
調子を確かめるように左手を開閉する。
「……義手か」
「つか、義腕だね。 この右眼も玩具だよ。 笑えるでしょ?
お前の首にある電極チョーカーと同じ、私も自分の肉体を弄りまくって
人を殺しまくった。 これは学園都市の玩具として生きてきた名残なんだ」
つまらなそうにため息をつくと、麦野は背中をフェンスに預けて再び学園都市の景色に視線を投げる。
長点上機学園で出会った頃の面影がまるでない彼女の姿に、一方通行はわずかに違和感を覚えた。
「追撃が来ねェンだが?」
「殺し合いをする気はないって今言った。 ……何かね、思い出しちゃった。
暗部として活動してた時の事。……こうやってさ、他の敵対組織を追っかけては
殺すを繰り返してた時期もあったなー……って。
今の『アイテム』と『天使同盟』も似たような感じになってんじゃん。
ガラにもなく感慨にふけてたらさ、やる気無くなってきちゃったよ」
「……」
「こんな風に……ビルの屋上から景色を眺めるなんて、暗部の頃にやってたら
私、今頃頭を撃ち抜かれて殺されてるかもしれないね」
そう言って自嘲気味に笑う麦野の姿に、暗部の頃の面影は存在しなかった。
もっとも、その頃の彼女など一方通行は知る由もないのだが。
「………毒気抜かれちまった」
「猟奇的な沈利ちゃんを期待してた? ごめんねー」
予想していた展開とはかけ離れた方向へ進んでいく状況に呆れたのか、
一方通行は退屈そうに息を吐いて踵を返す。
例えばここ。昔の麦野なら背後を見せた一方通行に躊躇なく閃光を放っていただろう。
(そりゃ毒気も抜かれるわ)
離れていく一方通行を引き止めるように麦野は声をかけた。
「もう帰っちゃうワケ?」
「……暖を取るだけだ」
屋上の出入り口の扉の横に設けてある自動販売機の前で立ち止まると、
一方通行はポケットから嫌味のように分厚い財布を取り出してお札を取り出す。
散々動きまわって喉が乾いてしまったのか、彼は缶コーヒーを購入するつもりらしい。
「この前新発売した『首領(ドン)・シルキーブラック』はやめといた方がいいよ。
あれは缶コーヒー業界史上類を見ない不味さだった」
「もォ買っちまったよクソッたれが……」
一方通行が言うとおり、麦野が忠告するほんの一秒前にガコンッ、という
取り出し口に商品が落ちる音がした。
しょんぼりと肩を落とす第一位を後ろから見て麦野はクスクスと笑う。
そしてもう一度、取り出し口に商品が落ちる音がした。
「?」
「忠告やアドバイスはその遅れが命取りになる。 忠告なら正直に、
アドバイスなら的確に。 敵の前なら忠告はジェスチャー等、
助言なら簡潔に且つ一言で全てを把握できるような言葉を送れ」
「勘が鈍ったとでも言いたいの? 案外根に持つね第一位……、っと!」
突然何かを放り投げられ、麦野は反射的にキャッチしてしまう。
掌にじわじわと熱が伝わってきた。見ると、それはホットの缶コーヒーだった。
一方通行も不味いと忠告を受けた缶コーヒーを一口飲み、あからさまに顔をしかめながら
麦野の下へ再び歩み寄ってくる。
「……何のつもり?」
「俺はここまで丸くなりました……ってアピールのつもりだったンだが。
オマエもオマエで自分にそンな節があると思ってンじゃねェのか?」
「嫌味?」
「構ってちゃンぶってたのはオマエだろォが。 俺が後ろに居る事に気付いてて
あンな事言いやがって。 意外に甘えたがりなのかオマエ?」
「ブチ殺すぞ」
「牙の抜けた口で凄ンでも滑稽なだけだぞ」
ああ言えばこう言う白髪の怪物を睨みながらムスッとした表情を浮かべる麦野。
そんな彼女など無視して、一方通行は麦野が佇んでいる場所のすぐ隣に設けてあった
ベンチに腰掛ける。
麦野はあえて左手でプルタブを開けてみた。プシュッという小さな音。
すんなりと開ける事が出来た。もう義腕は完全に使いこなせている。
どうやら麦野が言った不味い缶コーヒーの銘柄ではないようだ。
「……牙が抜けたのは私だけじゃないでしょ」
「そォだな。 俺なンて、牙どころか爪すらすっぽ抜けてやがる。
人畜無害の可愛いクソ猫ってところか?」
「猫っていうか、ウサギじゃないのお前は」
「またそれか……。 つか、今はウサギネタやめてくれ。
ウチのメガネがなンでか知らねェがそれ関連で怒ってンだよ」
「ああ、あの子ね。 あいつ何なの?」
「天使だよ。 少なくとも俺にとってはな」
そんな会話をしながら、麦野は程良いタイミングを見つけると
一方通行の隣へ乱暴に腰を下ろした。
少しだけ驚いたが、一方通行はすぐに次の話題を提供する。
651 : ◆3dKAx7itpI - 2011/09/03 21:16:36.99 /9CDii6oo 289/418
以上です。毎度毎度中途半端なところで終わってしまって申し訳ありません。
今回出てきた缶コーヒーと名前が似ている商品が現実にございますが、
決してそのコーヒーをディスっているわけではないのであしからず……。
という事で始まりました、一方通行と麦野沈利。
確認してみたらこれ本当に長い……。一方通行と麦野のやり取りだけで
1スレ消費出来る自信あるで。需要はイマイチ無さそうですけどww
新訳二巻でこの二人の会話シーンがあり、個人的に歓喜したのですが短すぎワロタ。
でもあれこそが本来の二人っぽいですよね。
なので次回予告は無し。引き続き彼らの会話パートにお付き合いください、よろしくお願いします。
次回更新は三日以内。
それでは、今日もありがとうございました!
697 : ◆3dKAx7itpI - 2011/09/06 20:02:47.48 g1N6E856o 290/418こんばんわ、更新を開始します。何とか三日以内に間に合った……
ここの所少し忙しくて、間にあうかどうかヒヤヒヤしてました。
今回も一方通行と麦野のパートです。
意外にも需要あるよーという声があり安心した次第であります。
では早速参りましょう。よろしくお願いします!
「殺り合う気はねェっつったが……じゃあどォすンだ?
憎き『天使同盟』のリーダーはすぐ隣でコーヒー飲ンでやがるぞ。
……チッ、自分からリーダーとか言ってる時点でもォ終わりだな俺」
「んー……。 どうしよっかな」
明らかにやる気のない声だった。一方通行は麦野の態度にますます不信感を募らせる。
長点上機学園で会った時は好戦的な態度をとっていたはずだ。
しかしこの数時間ですっかりおとなしくなってしまったと言うか、麦野はさっきから
一般男性が見たら思わずドキッとしてしまいそうな儚げな表情ばかり浮かべている。
「何が気に食わねェンだ」
「あ?」
しかし一方通行は見抜いていた。
麦野がこのような状態になっている理由を。
「俺が浜面から大体の事情を聞いてる事はオマエも知ってンだろ?
『素養格付』をチラつかせて学園都市のクソ上層部共を黙らせて、
オマエらは日常を取り戻した。 その現状が不満なのかよ?」
「……それ、その『素養格付』を利用しまくってるお前らが言えたセリフじゃないでしょ」
「だからこそ聞いてンだろォが。 長点上機で俺と会った時に見せてた
オマエの好戦的な態度も演技なンだろ?」
「……ッ」
「気付くに決まってる。 オマエが暗に『気付いてくれ』ってアピールしてやがンだからな」
複雑な表情を浮かべる麦野とは対照的に、一方通行はしかめっ面を貼りつけていた。
どうやら麦野の忠告は本当だったらしい。購入した缶コーヒーが相当不味いようだ。
しばしの沈黙が続いた後、麦野の声がそれを破った。
「……たまにさ、」
「?」
「たまーにね、不定期に。 思い出すんだよ、あの日の事。
私がロシアで浜面、滝壺と和解して……学園都市に帰ってきて、
それで絹旗にも頭下げて謝ってさ。 晴れて『アイテム』が復活した時の事」
和解。
一方通行はその言葉を聞いてわずかに目を細める。
彼は『アイテム』内でのいざこざを一切知らない。
和解、という言葉を使うほどの重大な事態が発生したのだろうという事にも驚いた。
一方通行視点から見て、『アイテム』は皆が皆仲睦まじい関係なのだと思っていたからだ。
しかし一方通行が見ている『アイテム』は生まれ変わってからのもの。
それ以前の、『闇』の中で這いずり回っていた『アイテム』を一方通行は知らない。
だが、『天使同盟』というトンデモ組織ばかりに目が行くが、一方通行も未だに『闇』に身を置く立場。
組織内のいざこざは知らなくても、予想くらいはつけることが出来る。
「裏切りでも働いたか」
「ていうか、仲間殺しかな。 組織内に裏切り者が出てきてさ、
当時リーダーだった私が粛清したんだよ。 んで、尚も私に反抗してくる
ヤツがいたからそいつもブチ殺しちまおうって躍起になってた」
「暗部なら裏切りや仲間殺しなンざ日常茶飯事だろォが。
意外だな、オマエみてェのがそンな事で悩ンでやがるのか」
「悩んでんのかね、これって。 ま、少なくともあの時は
粛清する事こそが最善の方法だと思ってたし」
過去を話しながら、本当に自分は変わってしまったな、と麦野は思う。
自分の過去を、それもよりによって自分より序列が上で、今でも暗部の枠組みに留まる
一方通行に語るなど、暗部だった頃とかではなく『麦野沈利』という人間からは考えられない、
と彼女は自分を客観的に見る。
「結果、『アイテム』は崩壊……したんだけど。 浜面のバカがさ、
学園都市の『闇』に抗う事を決意したんだ。 おおよそ、ガタガタになった
私の哀れな身なりを見てそんな衝動に駆られたんだと思ったけど……。
あいつ、私が思った以上にバカ野郎でね」
「……」
「浜面だけじゃない、滝壺も、絹旗も。 皆が一丸となって『闇』に抗い、
『闇』から抜け出した。 血にまみれた私の手も取ってね。
……ねえ、お前はまだ『グループ』の一員なんでしょ?」
「一応な」
『アイテム』とは違い、一方通行は第三次世界大戦時に『闇』から抜け出す手段を
手にしてはいない。
ただ必死で打ち止めと番外個体を守り抜き、『回収』に来た暗部から逃れただけだ。
それだけでも充分過ぎる成果だが、結果一方通行は未だに『グループ』の構成員である。
だからこそ、麦野は一方通行を不思議に思う。
「だったら何で『天使同盟』なんて組織を立ち上げたの? 『第一九学区事件』なんて
ご大層な祭りまでやらかしてさ。 暗部への対抗勢力とか?」
「組織なンてご大層なモンを立ち上げたつもりはねェンだけどな。
気がついたらこれほどまでの規模に膨らンじまってたってだけだ」
「にしてはお前ら、楽しそうにしてるよね。 浜面から少し話聞いたし、それは分かる。
『闇』に居続けて尚、私らみたいに過ごしていけるのは何で?
お前が暗部の連中だってのは『天使同盟』も知ってるんでしょ?」
「………」
「……少し話が逸れたけど、まぁそゆ事よ。 何で『天使同盟』はお前を受け入れて、
何で『アイテム』は私を受け入れたのか。 三人の間ではもうその問題は解決してるようなんだけどさ、
私はまだどこかで納得してないみたい。 笑えるよね、自分が望んだ、自分の事なのに」
麦野は決して軽々しくこんな事を言っているのではない。
断腸の思いだった。
全くの他人である一方通行を相手にしても、断腸の思いでないと話せる事じゃなかった。
無論、こんな事は『アイテム』の前じゃ口が裂けても言えない。
「本当にこのままでいいのか。 この結末で納得してもいいのか」
麦野は膝に視線を落としながら、
「……未だに悩んでます、って事なのかな。 こんな事をグダグダと考えてたら、そりゃお前らを捕まえようなんて
気にはなれないわ。 こんな私の姿、あいつらには絶対見せらんないけどね」
そう言って、麦野は失笑した。
「……で、その不定期に来るお悩みのせいで乙女しちゃってたって訳かよ」
「うっさいな。 だから私はお前を捜してたんだよ」
「あァ?」
まだ温もりが残るコーヒーを一口飲んで、麦野は言った。
「体細胞クローンを二〇〇〇〇体もブチ殺したお前が、どうやって
今みたいな平穏を過ごしてんのかなって」
「! オマエ……」
「悪いけど、知ってるよん。 とある事情で夏頃に第三位と衝突しててね。
その仕事中にお前が『絶対能力進化(レベル6シフト)』とかいう腹が捩れる程
笑えるクソ計画の中心にいた事をね」
一瞬驚いた一方通行だったが、考えてみれば暗部の人間があの計画の
情報を入手するのは難しい事でもない、と思った。
八月の半ば頃、『絶対能力進化』計画関連施設が次々と襲撃を受けて破壊されているという話を彼は耳にしている。
その時は特に何も思わず、止めようともしなかったが、恐らく襲撃者の正体は第三位の御坂美琴だろうと一方通行は推測する。
そこで関連施設の上層部が暗部に御坂美琴の処分を要求、そこで出張ったのが『アイテム』だとしたら、
麦野沈利が『絶対能力進化』についての全貌を知っている事も納得できる。
そして麦野も、一方通行がそこまで推測出来る事を予測した上で続けた。
「まぁ相手はクローンだし? 言えば人形でしょ。 いくら殺したところで
少なくともお前みたいなヤツなら心も傷まなかったんだろうけどさ、
それでもお前はこうしてそれなりの平穏に身を置いている」
「……、」
「しかも暗部という足枷を付けたままね。 私がお前を捜してた理由は、
そんなお前を日常の世界に戻してる『天使同盟』ってのがどんなものなのか
気になったのと、どんな気持ちで日常を過ごしてんのか」
「……"また日常がどォとかいう話かよ"。 やっぱ暗部にいる、もしくは
居た人間ってのは無意識の内に光を求めてるモンなのか」
「かもね。 現に私は今の生活に満足してるし。 ……で、
"果たして本当に満足していいのか"。 っていう疑念の波が
不定期に私に迫ってきてるって事」
一方通行はそこで初めて露骨に表情を変えた。明らかに、嫌気が差している顔だ。
『平穏と日常に関する議論』。彼はミーシャ=クロイツェフと出会ってから、
いや天使と出会う以前にも何度かその議題について誰かと話をしている。
顕著な例を挙げるならロンドンでオルソラ=アクィナス、そしてアンジェレネにその件について話した時だろうか。
当時、一方通行は急激に場面が変わっていく『何の変哲もない日常』を体感し、精神的に追い詰められて自暴自棄になりかけた。
慣れない平和と津波のように押し寄せる好意に、『闇』に居過ぎた彼は耐えられなかった。
『絶対能力進化』の全貌を全く関係のないオルソラとアンジェレネに話し、自ら距離を置いた。
あの時の彼女たちの決断は、今振り返っても信じられないものだったと一方通行は思う。
胸に溜まる蟠りを打ち明ける今の麦野はあの時の一方通行で、それに対する今の一方通行はあの時のオルソラとアンジェレネの立場にいる。
すぐ隣にいる第四位の話を聞いて一方通行は確信した。
自信がないのだ。麦野は一転したこの現状を、自分の過ちを全て免罪にしてくれた仲間達と
過ごしていける自信が、麦野沈利には無い。
浜面仕上や滝壺理后、絹旗最愛には絶対に言えない事。
だから無関係である一方通行にそれを話す。
それまでの旅で絆を紡いできた『天使同盟』の面々には絶対に言えない事。
だから無関係であるオルソラやアンジェレネにそれを話す。
あの時の一方通行も現在の麦野沈利も、"掃き溜め"を探し求めていたのだろう。
無論、その掃き溜めに認定されてしまった無関係者はたまったものではないだろうが。
(リハビリだな。 その道を辿ってンのは俺だけじゃねェ。
この女もそォなンだ。 ……ったく、今度オルソラとアンジェレネに会ったら
土下座して謝らなきゃ済まねェレベルだろこれ……)
昔の自分を見ると不快感を覚える、という話があるが
今回の麦野の件で一方通行はそれを実感した。
「オマエはどォしてェンだ」
「わかんない。 何でよりによってお前なんかにこんな事話してんのかもわかんないし、
正直な話、何で浜面達が私を許してくれたのかも理解出来ない」
「……」
「もちろん許して欲しいとあの時は心の底から願ったし、実際に許してもらえた時は
本当に嬉しくて大泣きしちゃった。 でもさ、今言った疑念の波が押し寄せてくるって事は
多分私自身が免罪に対して納得してないんだと思う。 ふふ、意味わかんねえっつーの」
言葉では笑う麦野だが、表情は全く変化していなかった。
一方通行は理解する。掃き溜めなんてどこの馬の骨でも構わなかっただけだ。
一方通行がたまたまオルソラ達に打ち明けたように、麦野もたまたま一方通行を選んだだけ。
『天使同盟』の構成員の中で唯一、存在を知っていたからという瑣末な理由も或いはあるかも知れないが。
無糖ブラックの苦い一口を含み、一方通行は退屈そうに言った。
「イイじゃねェか。 オマエがどれだけのクソ野郎でも、
そンな人間が日常って枠に身を置いちゃならねェなンてルールは
ねェンだからよ」
「それはお前の見解でしょ?」
「そォだ。 俺はオマエの生き様を否定したりはしねェ。
オマエが俺に蟠りをぶちまけて何を期待してンのかは知らねェが、
俺はそォ答えるしかねェだろ」
それが、一方通行がオルソラ達から学んだものだった。
一〇〇〇〇人以上の人間を殺害した一方通行を、オルソラ達は受け入れた。
あろうことか、情愛に満ち溢れた抱擁までしてくる始末。
それは彼女たちが修道女という立場にいるから下せた決断であって、一方通行は決して聖人君子でない。
……と、少なくとも一方通行はそう考えている。
ここでオルソラのように一方通行が麦野を優しく抱き締めてやればあの時の再現が可能だが、
一方通行の性格上そんな事はほぼあり得ないし麦野も現時点ではそんな事を望んでいないだろう。
だから答えるしかない。『自分はお前の生き方を否定しない』、と。
「詳しいことは知らねェが、『アイテム』の連中はオマエを許したンだろ?
だったらそれで話は終わりだろ。 あいつらに混じって、オマエも残りの人生を
謳歌すればイイじゃねェか」
「……」
「………って、"俺はそォ言われた"、世話焼きのクソシスターにな。
開き直れって訳じゃねェが、いつまでもズルズル引きずられる方が
『アイテム』の連中にとってもウザいだけじゃねェのか」
やっぱそういうもんなのかなぁ、と麦野はボーッと空を見上げるが、
その視線は空ではないどこか遠くを見ているようにも窺えた。
一方通行やその他の人物とは違い、麦野沈利はどこかドライだった。
沈んだ表情で悩んだり、一方通行のように八つ当たりをするでもなく、
彼女は自分の中の悩みを冷静に処理出来るタイプの人間らしい。
その冷静さをなぜ『あの時』に発揮出来なかったのか。麦野は今でもそれを悔やんでいる。
暗部の頃には上手く出来なかった感情のコントロールは、仲間達との交流によって
容易になってきていた。麦野が抱える自責の念は決して軽いものではないが、
それを表に出さず、他人の意見を聞き、それと照らし合わせて分析する事が、今の彼女なら出来る。
「考えすぎだったのかな」
「恐らくな。 もっと気楽でイイんじゃねェか? ウチの天使なンかすげェぞ、
わずかな期間で人間界に馴染んで好き放題やりやがってるからな。
あのクソ天使……あァー、言ってたらだンだン腹立ってきた」
口ではそう言いながらも、表情は笑っていた。
一方通行のその表情を見て、麦野は思う。
『アイテム』が生まれ変わってから、自分は一度でもこの少年のように自然に笑っただろうか?、と。
「ていうか、お前みたいなヤツでも笑うんだね」
「あ? ……俺今笑ってたか?」
いつか本当に、自分の意志で心の底から笑顔になれる日が来たら、
その時が本当の『日常』を謳歌している時なのかもしれない。
麦野はそんな事を考えながら微温くなったコーヒーを一気に飲み干した。
「私も笑ってみるよ」
「……」
「わざとらしく笑うんじゃなくて、いつか本当に心の底から笑って、
笑顔を浮かべて、あいつらの度肝抜かしてやるの」
「あ、そォ。 オマエのにこやかな顔なンて想像出来ねェが、勝手に頑張れ」
適当に激励すると、一方通行もコーヒーを一気に完飲した。
(そういう意味じゃ、まだ『アイテム』は生まれ変わってないのかもね)
浜面達三人とはどこか別の場所に佇んでいた。
彼らの前でも今まで何度か笑ってみせたが、それが虚勢であると自覚した時、
自分が彼らとは違う所にいると麦野は感じてしまった。
「一応礼は言っておくかな。 ありがと」
「そりゃどっちに対する礼だ?」
「ん? ……コーヒー奢ってもらった方♪」
にひひ、と意地の悪い笑顔で返す麦野に対し、『修行が必要だな』と一方通行は悪態をついた。
しかし曲がりなりにも笑顔で礼を言うという行為が、麦野沈利という少女に精神的変化が
起きている証でもあった。もちろん、良い傾向で。
716 : ◆3dKAx7itpI - 2011/09/06 20:30:14.97 g1N6E856o 308/418ちょっと短いですが今回はここまでです。
麦野が抱く蟠りは一応ここで一区切り、続きはまた後という事になります。
が、この二人のパートはもうちょっとだけ続くんじゃ。肝心の話をまだしていないので……
それとどうやらフィアンマの方にも動きが見られるようです。
次回更新は三日以内。
次の更新も間に合わせてみせますので、お待ちください!
それでは、ありがとうございました。
【次回予告】
「……エイワス?」
新生『アイテム』の構成員・学園都市第四位の超能力者(レベル5)『原子崩し(メルトダウナー)』――――――麦野沈利
「現在の、アレイスター=クロウリーに代わる新統括理事長。 そンでもって
『天使同盟』の一人、『素養格付』の名目を使ってふざけた事をしでかした
張本人、オマエらがドラコと呼ンでる怪物。 それがエイワスだ」
『天使同盟(アライアンス)』のリーダー・学園都市最強の超能力者――――――一方通行(アクセラレータ)
「ふん、どうやら今度こそ。 "正真正銘のお出ましだな"」
『天使同盟』の構成員・元『神の右席』の魔術師――――――フィアンマ
719 : VIPに... - 2011/09/06 20:38:37.86 OWu+7axC0 310/418フレンダェーー!! フレンダは悪くないよ かまちーが悪いんだよ
743 : ◆3dKAx7itpI - 2011/09/08 20:15:59.25 oX85JfBro 311/418そ、そうか………これでこのSSではフレンダ死亡が確定してしまったんですね
これはフレンダファンに対する配慮が足りなかったです、謝々。
しかし今後の展開を考慮するとフレンダには申し訳ない事に死んでいただかなければならんのだ……
こんばんわ、更新を開始します。
前回、一方通行と麦野がある程度打ち明けました。今回は天使同盟vsアイテム編の終了まで……いけるかなぁ
そしてフィアンマパートではまさかの登場人物が。
それでは、よろしくお願いします!
――――――――――――――――――――――
「で、話は変わるんだけど」
手で握っていたアルミ缶をひょいと投げて、それを器用に『原子崩し』で
撃ち抜き消滅させた麦野は話題を変える。
「結局さ、あの『素養格付』の件はどういう事なのかね?」
(……やっぱその話題で来たか。 当然だな)
沈利ちゃんのお悩み相談室のコーナーが終わってしまえば、次に飛んでくる話題はそれしかない。
『素養格付(パラメータリスト)』。
学園都市が秘密裏に保有していたこのデータこそが、滝壺理后の治療、そして麦野沈利と『アイテム』の再結成に繋がった。
つまり『アイテム』にとっては命綱のようなものなのだ。
『アイテム』と暗部、学園都市上層部の間だけが『素養格付』の存在を知る事で
天秤は均衡を保っていたのだが、それを『天使同盟』という訳の分からん組織が勝手に、
しかも文化祭という大イベントに利用されては『アイテム』が黙っているはずもない。
もちろんそれは仲間に対して空元気で振る舞っていた麦野沈利も同じだ。
不定期に駆られる自責の念の話は別として、彼女は本気で『アイテム』の事を想っている。
なので『アイテム』の存続危機が迫れば当然黙ってはいないのだが。
「仮に俺が今ここで真実を全て話して、オマエはそれで納得すンのか?」
「それこそ聞かせてくれなきゃ分かんないよ。 私としても疑問点はいくつかある。
浜面がお前に『素養格付』の事を漏らしちまった、でもお前は一切口外していない。
百歩譲ってそれは信じても、じゃあドラコ=アイワズとかいうクソ野郎はなぜ
『素養格付』の事を知ってやがった?」
「……、」
「それともう一つ。 詳細こそ明かされていないものの、実質『素養格付』の情報は
学園都市全域に出回っちまったも同然だ。 にも関わらず、なぜ暗部や学園都市の
上層部に何の動きも見られないのか。 発覚してしまえば『素養格付』なんて
ただのゴミデータになる。 下手すりゃ学園都市全ての学生が上層部に殴りこみよ。
そうなる前に私達『アイテム』を消すくらいの暗躍がなきゃおかしいっしょ」
『素養格付』には学園都市の生徒には内密で行われた、能力者としての素質調査結果がまとめられたリストがある。
内容は簡潔に言うと"『素養格付』を見ればその生徒がどれだけの能力者に成長するか事前に分かる"というもの。
例えば学生Aと学生Bの二人の無能力者が漏洩してしまった『素養格付』を閲覧する。
学生Aの欄には『将来的に必ず超能力者(レベル5)になれる素質を持つ無能力者』と書かれていた。
学生Bの欄には『どれだけ能力開発を行っても絶対に開花しない素質ゼロの無能力者』と書かれていた。
学生Aは歓喜するだろう。今まで自分が無能力者である事にコンプレックスを抱いていれば、
その喜びはさらに増す。これからも能力開花の努力をしていくに違いない。
しかし学生Bはどうだろうか?彼が無能力者であることに何のコンプレックスも抱いてなければ
大した情報ではないかも知れないが、そうでなければ絶望の底に沈むだろう。
今まで必死になって能力を開花させる努力をした場合、それは一切無駄でしたと言われたも同然である。
これが学生Aと学生Bだけに限った話ならそんな大した事態には発展しないかもしれない。
例え学生Bが自暴自棄になって『素養格付』の存在を口頭やネットでばら蒔いても
鼻で笑われてあしらわれるか、最悪上層部や暗部辺りに消されるのがオチだ。
しかし、『素養格付』の存在が学園都市に住むほとんどの人間に発覚してしまったら。
学園都市の土台が根元から崩れていく事になる。身を粉にして努力をしてきた大勢の学生は
統括理事会や上層部に対して猛反発、ひどい場合は内戦発生にまで及ぶ可能性だってある。
そうなった時のためのマニュアルがもしくは存在するかもしれないが、それはあくまで最後の手段。
学園都市は今の現状を維持していく事をベストとして考えているため、『素養格付』がもし漏洩してしまったら、
という前提すら冗談にならないのだ。
それをあろうことか、
(我らがエイワス様は文化祭の宣伝文句に使用しちゃいました、だからな。
正直『アイテム』の連中が怒り狂って俺達を殺しにかかろォとしない事が奇跡だ。
まァそれはこいつらが冷静な判断を下したのと、『素養格付』に対する街の動きがねェのと、
『天使同盟』とかいう謎すぎる集まりを警戒したからこそなンだろォが)
「ドラコ=アイワズってのはお前らの仲間なんでしょ?
浜面と滝壺も会ったって言ってたし、聞けばそいつはパツキンの
ねーちゃんみたいだね」
「……俺としちゃオマエら『アイテム』がどォにかしてあいつを引きずり出して、
そのままブチ殺してくれるってのがベストだったンだが。
……まァいくらなンでもそりゃ他力本願すぎるか」
「浜面もドラコは怪物以上の存在とかどうとか言ってたけどさ、何者なの?」
「…………………」
言ってもいいものだろうか、と一方通行は思考する。
仮にエイワスの全てを説明したとして、果たして麦野は納得、いや理解出来るのだろうか。
麦野は暗部の組織のリーダーとして活動していた少女だ。エイワスが暗部の最奥部に位置する
アレイスターの『プラン』の核であると言えば、そこはわかってもらえるかもしれない。
だが具体的にどう説明すれば麦野の頭にすんなりと情報をインプットする事が出来るのか。
学園都市最高の頭脳を持つ第一位もさすがに苦悩せざるを得ない。
(エイワスの野郎は今の俺の状況も高みの見物決め込んでやがンだろォか)
現在、学園都市を事実上掌握しているのは学園都市統括理事長代理のエイワスだ。
あの地球外生命体は学園都市で秘密裏に稼動している『滞空回線(アンダーライン)』を玩具のように利用して
下界の人間たちの暮らしを(興味深いもの限定で)観測していると言っていた。
そして今までの流れから察するに、エイワスは『天使同盟』の構成員は常に観測していると思われる。
それが『滞空回線』を用いてなのか"エイワス自身"による観測なのかは些末な問題だ。
エイワスの事を話すか否か、それに対して悩んでいる事もお見通しなのだろうと思うと
一方通行は麦野に悟られないよう忌々しげに小さく舌打ちした。
(どこまでなら喋ってもイイかの線引きが難しいところだが、『アイテム』は
浜面の情報で既に『天使同盟』の存在と内情をほぼ全て把握してやがる。
エイワスにとって不都合な情報提供が行われよォとすりゃその前に間違いなく
あの野郎は『制止』のために何らかの形で介入してくるはずだ。 ここで俺が
全部ゲロっちまおうかと考えている時点でそれが無いって事は……)
つまり現時点では特にエイワスにとって支障はない会話だという事になる。
そしてこんな事を考えている時点で自分がエイワスの都合を考慮していると分かり、
一方通行の苛立ちは募る一方だった。
これでは本当に『天使同盟』も学園都市もエイワスに牛耳られている事になる。
一方通行はそれがとにかく気に入らなかった。
エイワスに対抗出来る『抑止力』。いっそ自分がそうなれればとも考え始めていたら、
「黙ってないで何とか言ったらどうなのかにゃー?」
ぎゅむ~っと。
麦野が一方通行の白い頬を餅のように引っ張ってきた。
鋭い痛みで思考が中断されてしまう。
「やふぇろ」
「とか言いつつも手を払ったりはしないんだ? お前も私と同類だね。
パーソナリティ変わりすぎ」
そう言われてムッと来たのか、いたずらっ子のように笑う麦野の手を適当に払う。
「オマエ、どォいう神経してンだ。 一応オマエらにとって俺は
敵対組織の親玉みてェなモンだろォが」
「べっつにー。 何かお前って思ってたよりも話しやすかったから。
昔のお前ならソッコーで私を殺そうとしてたんじゃない?」
「チッ」
何だか急に馴れ馴れしくなってきた麦野を無視して一方通行は再び思案を巡らせる。
『アイテム』の目的はドラコ=アイワズに関する情報の提供。ただこれのみ。
どういう訳か垣根帝督の話題には触れないところからして、少なくとも麦野は
垣根帝督の事は保留にしていると推測できる。
『素養格付』の件についてはもう遅い。宣伝文句として利用された以上、
今更パンフレットを回収したところで意味はない。
そしてそのパンフレットが学園都市中に出回り、しかし何一つ異変が生じない点から察するに、
恐らく『アイテム』にはもう―――――。
「……もォ、オマエらは安定してンだろォな」
「あん?」
面倒くさそうに頭を掻くと、一方通行は短く息をついて言った。
「エイワス」
「……エイワス?」
「現在の、アレイスター=クロウリーに代わる新統括理事長。 そンでもって
『天使同盟』の一人、『素養格付』の名目を使ってふざけた事をしでかした
張本人、オマエらがドラコと呼ンでる怪物。 それがエイワスだ」
これは断腸の思いでも、苦渋の決断でもない、と一方通行は思った。
これ以上『天使同盟(アライアンス)』の存在を、少なくとも『アイテム』に
隠し通す必要はないと彼は判断した。
『アイテム』ならきっと大丈夫。
『天使同盟』などとは比べ物にならない"繋がり"を持つ彼女たちなら、きっと大丈夫だと。
一方通行は判断したのだった。
――――――――――――――――――――――
「だったらその浜面とかいう男も、既にアジトに運んであるんだな」
『は、はい……。 まだ目を覚まさないので何とも言えませんが、
多分大丈夫だと思います。 なぜか分からないですけどすごい幸せそうな
寝顔をしてらっしゃいますし……』
「俺様ももうすぐそちらに向かう、…………と言いたいところだが。
さてどうしたもんかな。 風斬氷華、学園都市の外壁と隣接する
エリアは全て把握しているか?」
高さ五メートル以上、厚さ三メートル程という堅牢な作りで聳え立つ学園都市と『外』を
隔てる外壁をつまらなそうに見上げながらフィアンマは風斬氷華に尋ねた。
今ここに風斬はいない。フィアンマの手には小麦粉を練って作った簡易通信用霊装が
あった。これを使用してもう第七学区のアジトに到着しているらしい風斬と連絡をとっているのだ。
風斬は若干慌てながら彼の質問に答える。
『え、えーっとですね……! 第二学区、第三学区、第一〇学区、第一一学区
第一二学区、第一三学区、第一四学区、第一七学区、第二〇学区、第二一学区。
……あ、あと第二三学区もだったかな……』
「チッ、多すぎる」
迷子だった。まだ学園都市の地理を把握しきれていないフィアンマは
第七学区を目指して適当に歩いていたのだが、街の外壁に辿り着きいい加減面倒になってきて
風斬に道を訪ねていたのだ。
若干回復してきた『聖なる右』による空間移動術式で適当にひゅんひゅん飛び回ろうとも思ったが
使用制限がある以上効率は悪いし、一端覧祭開催中という事もあり街のあちこちに巡回している
『警備員(アンチスキル)』に道を尋ねる手もあったが、"背中に背負っている荷物"が原因で
話しかける前に怪訝な目をされる始末だった。
だったらもうその辺にいる学生や教員に尋ねようと思った矢先に、フィアンマは外壁にたどり着いてしまったのだ。
『それなら外壁から「外」に通ずるゲートを管理してる警備員の方に聞いてみたらどうです……?
多分そこなら詳しく道を教えてもらう事が出来ると思いますけど……』
(……この荷物と一緒にか)
背中からずり落ちそうになった荷物――――絹旗最愛を、体勢を整えて元の位置に戻す。
フィアンマは第一〇学区で『アイテム』の構成員、絹旗最愛を撃破していた。
大能力者(レベル4)の『窒素装甲(オフェンスアーマー)』も、『聖なる右』の前では
障子に貼られている和紙のようなものだった。
特に外傷が見当たらない、見た目中学生かそれ以下の少女を背負って街をうろうろするのは
フィアンマにとっては多少の抵抗があったようで、一刻も早く絹旗を連れてアジトへ戻りたいと
思っていた彼は、
(まぁいい。 何か聞かれたら『連れが文化祭ではしゃぎすぎて眠ってしまった』とか
適当に言い訳をしていればごまかせるだろう)
「垣根帝督とミーシャ=クロイツェフは」
『垣根さんはなぜか連絡がとれなくて……天使さんも同じです』
「わかった。 一度そちらへ戻ってミーシャを捜してみる」
連絡を終えるとフィアンマは人形を懐に収めた。
その時チラッと後ろを確認するが、絹旗は眠ったように気を失ったままだ。
フィアンマは疲れたように息を吐く。彼は元々そんなに身体を鍛えている方ではない。
いくら絹旗が小柄な女の子とはいえ、人間一人を背負ったまま歩き回るのは彼にとっては
結構しんどい事なのだ。
「さて、」
少し周囲を見回すと外壁のある部分に一つだけ、高速道路の料金所ゲートに似た
出入口を発見した。もし地図を見せてもらえたら、その時に学園都市の区域を
全て頭に叩きこんでしまおうと考えながらゲートに向かう。
(………………………………)
と、ゲートまで残り一〇メートル辺りのところでフィアンマの足が止まった。
同時に思考も一瞬止まる。
ゲートにはそこを管理する警備員がいた。学園都市は内部から外出するという行為に
関しては非常に厳しい管理体制が敷かれている。それ故、『外』へ繋がる出入口に
警備員の一人くらいいても全く不自然ではないのだが、
「……、」
フィアンマが見据えるゲートにいたのはその警備員一人だけではなかった。
もう一人、いや二人が警備員と口論になっているようだ。
雰囲気から察するに学園都市の中へ入る際の手続き云々でモメているようだが、
"フィアンマにとって重要なのはそこではなく、警備員と口論をしている二人"。
「ふん、どうやら今度こそ。 "正真正銘のお出ましだな"」
呟くように言ったフィアンマの言葉は届かなかったが、人の気配を感じたのか
二人の内の一人が彼の方を向く。
向いて。
そして、目を剥いた。
「――――――――"う、右方のフィアンマ"……………!!?」
フィアンマを見た瞬間に恐怖がせり上がってきたのか、
その声はひどく震えていた。
今まで散々危惧してきた存在。魔術師が、学園都市に来訪してきた。
――――――――――――――――――――――
どういう仕組みなのか、空中に浮かぶ複数のモニターをそれぞれ眺めながら
学園都市"本来の"統括理事長、魔術師アレイスター=クロウリーは
液体に満たされたビーカーの中から街の様子を眺めていた。
「止めなくてもいいのか?」
「んん?」
第七学区、窓のないビルと呼ばれる建物の内部にはアレイスターの他にもう一人、
地球外生命体が居た。
言わずもがな、エイワス。触れることすら躊躇われる美しい金髪を指ですくいながら、
エイワスはアレイスターが浮かぶビーカーに背を預けて寛いでいた。
「一方通行が麦野沈利にあなたの存在を明かしているが」
「それがどうしたのかね」
「あなた自身にその自覚は無いのかも知れないが、『天使同盟』という
馬鹿げた組織の一構成員という立場に留まっているあなたは
今現在も学園都市の最重要機密要素だ。 私が"この状態でなければ"
とっくに阻止している事態だが―――――、」
「アレイスター」
アレイスターの言葉を遮り、エイワスは首だけ動かして地に堕ちた魔術師を見る。
「君にとってはそうであるのかもしれないが、いいか? もう私に
存在価値など無いと言っても過言ではない」
「と、言うと」
「私の存在が明らかになる。 その対象が麦野沈利だろうがそこらの
一般人だろうが何も変わらないよ。 むしろ麦野沈利なら歓迎だろう。
私は既に『アイテム』の構成員と接触している。 しかし現状は何も変わらん。
この私がいつまでも学園都市の闇の最奥部に潜む『プラン』の核だと言って
危険視、または敵視される時代はとうに終焉を迎えているという事だ」
「……、」
「そんな所で引き篭っていないで、君も少しは成り行きを真剣に眺めてみないか?
生命維持装置が思った以上によく働いているじゃないか。 この調子なら近日中にでも
動けるようになるだろう。 今回のアイテムとの接触も私の存在の露呈も、
君だから驚く事態なのかもしれないが、私という『個』の存在にもはや価値はない」
それがエイワスの持論。
時代の流れと共に己の価値観が砂城のように崩れ、無に帰していく。
気紛れにこの惑星を一瞬で消し飛ばせるような化物じみた自分の存在価値が
無くなっていく。
エイワスはそんな事ですら、だからどうしたと言い捨てる事が出来る。
価値も興味も無いものにいつまでも執着する必要はない。
エイワスはその対象に自分すら含めていた。
「―――――そしてそれは、『天使同盟』も含まれる」
「何?」
エイワスはゆっくりと立ち上がると、いつの間にか手に持っていた
一冊の本をアレイスターに見せびらかすように掲げた。
一般小説程度の厚さがあるその本は、何の装飾もイラストも無い真っ白な本だった。
ただ、表紙に『Extra Episode』と綴ってあるだけの、何の変哲もない本。
「それは?」
「それは?」
「"とある位相"に置かれている書物の一つだ。 中には何の面白みもない
物語が綴られている。 私は"蛇足"と呼称しているがね。
その位相には他に何冊もの本が置いてあるが、私程度の権限では
まだ閲覧することも、いや触れることすら叶わんのだよ」
「……何の話をしている? その本の内容とは何だ?」
「"今"だよ。 今進行しているこの時代こそ、蛇足なのさ」
アレイスターにしては珍しく、眉間に皺を寄せる表情を浮かべた。
考察しているとかではなく、単純にエイワスの言っている言葉の意味が掴めないからだ。
そんな彼をからかうようにエイワスはクスっと笑ってみせて、
「この物語は言わば"下拵え"のようなものだ。 私はもっと多くの可能性を観測したい。
私が心の底から愉しいと思えるような、そんな素敵なお話があるのならば、観てみたいとは思わないか?
………ん? 下拵えという役割があるという事は、この物語も一概に"蛇足"とは言えないか」
普通の人間が聞いても、普通ではない人間が聞いても全く理解の出来ない言葉だったが、
長い間エイワスを追い求め研究してきた狂気の魔術師だけは今の言葉だけで意図が掴めたようだ。
「……まったく、俗っぽいというか人間臭いというか。 私があなたに"アテられたように"、
あなたも人間のそれに影響を受けているんじゃないのか?」
「そうかな」
「どうりであなたがこの頃、多世界解釈に夢中になっているわけだ。
『シュレディンガーの猫』ならぬ『シュレディンガーの一方通行』か。
まさか彼が複数の物語の相対状態に位置しているとでも?」
「私も驚いたが、事実なのだから受け入れるしかあるまい?
残念ながら人間である君には証拠を提示しようがないが、
もうすぐ私はあらゆる世界を観測できる状態になる」
フッと息を吹きかける。それだけでエイワスが手に持っていた白い本が
虚空に消え去った。
「まぁ観ていればいい。 頃合いだ………、"そろそろ閲覧できる本の数が増えていくさ"」
766 : ◆3dKAx7itpI - 2011/09/08 20:42:16.82 oX85JfBro 334/418こ、ここまでです…………
全然話進んでないわ次回予告のキャラも前と同じだわで散々な更新でした。
いやーマジで話進まないですね、ごめんなさい。私にもう少し時間があればまだ投下出来るのですが……
今度こそ、次でアイテム編は終わります。絶対。
そして次でフィアンマの前に現れた二人も出てきます。ご期待ください!
次回更新は三日以内。
それでは、今日もありがとうございました!失礼します
【次回予告】
「仮に『アイテム』に何かがあったら、『天使同盟』も出張る。
……余計な世話かもしれねェが、今回はそれで手を打ってくれねェか」
『天使同盟(アライアンス)』のリーダー・学園都市最強の超能力者(レベル5)――――――一方通行(アクセラレータ)
「何それ、お前が私らを守ってくれるの? カッコイー。
いつから学園都市最強の怪物はそんな王子様キャラになっちゃったわけ?」
新生『アイテム』の構成員・学園都市第四位の超能力者『原子崩し(メルトダウナー)』――――――麦野沈利
「(俺様が目的ではない……? いや、不思議ではないか。 何も魔術サイド
全体が一丸となって俺様を追っているわけでもない。 むしろ俺様の捜索に
励んでいる魔術師の方が少ないか? それにこの二人……)」
『天使同盟』の構成員・元『神の右席』の魔術師――――――フィアンマ
771 : VIPに... - 2011/09/08 21:05:59.49 xppKz+9E0 336/418エイワスはゲームとかの√分岐を全部見れるようになるってことか
783 : VIPに... - 2011/09/09 00:52:40.65 HOv8AHSSO 337/418エイワスは今CG回収してる気分だろうなとか思ったww
793 : VIPに... - 2011/09/10 01:53:53.56 7Od6v/Tb0 338/418規模が違うだけでエイワスさんのやってることは俺らと同じなのか。
802 : ◆3dKAx7itpI - 2011/09/10 18:11:35.55 /Tl6gSTNo 339/418>>783
あー、この例えいいですね。そんな感じで解釈していただけると
気軽に読み進める事が出来るかと思いますww
こんばんわ、更新を開始します。
いつも沢山のレスをありがとうございます、って結構これ言ってますけど、マジで励みになっています。
今回で一応アイテムとのゴタゴタは終幕です。
フィアンマが出会った魔術師(って言っていいのか……?)との絡みを含め、
次のお話に移行していきます。
では、よろしくお願いします!
――――――――――――――――――――――
唇に人差し指を当てながら、麦野沈利はうーんと唸っていた。
「まぁ、そのエイワスが学園都市統括理事長に就いて、学園都市の上層部に
何らかの圧力を加える。 それによって『素養格付』の件が悪い方向に
街中に広まっていくのを防いでるんだろうってのは分かったんだけどさ」
どこから持ってきたのか炭酸カルシウムと石膏で形成された白い棒で
デパートの屋上の地面に怪しげな落書きをしながら、
「その、魔術ってのがイマイチよくわかんないんだけど」
「……オマエも戦争の時はロシアに居たンだろ? だったら
能力や科学じゃ説明のつかねェ現象を何度か目撃してるはずだ」
ベンチに腰掛けながら退屈そうに話す一方通行の言葉に、
麦野は落書きの手を止めないまま返した。
「黄金の空とか、それこそ『第一九学区事件』とか? あれは確かに
私も理解出来ない現象だったけど。 ま、要するにこの世界には
超能力以外のもう一つの法則が存在してるって事か」
「そォいう事だ。 偉そォに説明してる俺も魔術の全てを知ってる訳じゃねェ。
ほンの一握りの部分を知っただけだ。 ……もっとも、今重要視すべき
『素養格付』の件とは全く関係のねェ話なンだけどな」
一方通行は麦野沈利にほぼ全てを説明した。そう、ほぼ全て。
今回の『素養格付』の事、エイワスの存在、そこから連鎖して『天使同盟』発足の大体のあらまし、
魔術という、科学以外のもう一つの概念の事。
普段ここまで流暢に喋る事のない一方通行は喉を潤すために二本目の缶コーヒーを口にしていた。
地面に屈んで子供のように落書きをしまくる麦野。よく見るとその落書きは胡散臭いゴシップ雑誌に
載ってそうな奇妙な魔方陣だった。
「で、ここに鍋を置いていかにもそれっぽい材料放り込んで………。
うっけっけっけっけとか笑いながら鼻の長いババアが具材を煮込むんでしょ?」
「ベタすぎンだろそのイメージ。 実際の魔術もォ少し派手で見栄えがあったぞ。
まァ、アレイスターレベルの魔術師じゃねェと派手で強力な魔術は使えねェだろォけどな」
「ふーん、ていうかアレイスターって魔術師だったのか。 これってさりげに超重要機密事項なんじゃない?
……あ、じゃあさ。 お前と一緒にいたあの赤い髪の男って、」
「魔術師」
「やっぱそうか。 まとってる雰囲気違いすぎると思ったんだよね」
意外というか何というか、麦野は魔術の存在をすんなりと受け入れていた。
もっとも彼女本人も言った通り、麦野は第三次世界大戦や『第一九学区事件』で
超常的現象を目の当たりにしているため、魔術という法則が存在するという話はある程度納得のいくものなのだろう。
長い間二人きりで話していたため、空は夕焼けに包まれつつあった。
麦野はそんな赤色の空をぼんやりと眺めながら話題を戻す。
「…………なら、『素養格付』の件に関しては問題無いって事でいいのね?」
「確実な保証はねェがな。 なンせ相手がエイワスだ、何もかもを丸投げにして
今この瞬間に学園都市を見捨てるなンて事をしても不思議はねェ」
「もし仮にそうなって、『アイテム』の存続が難しい状況になったら、」
「暗部はオマエらを再び『闇』に引きずり込ンで使い捨ての道具にしよォと
するだろォが、その点は心配いらねェだろ。 オマエら『アイテム』はそンなヤワじゃねェ。
『アイテム』はオマエ一人じゃねェ事くらい、オマエが一番よくわかってンだろ」
それにもう、『アイテム』は『素養格付』に振り回される必要は無いんじゃないかと
一方通行は思った。
彼自身も思った通り、事実『アイテム』は既に安定領域に入っている。
『素養格付』を街中にばら撒くという愚行を上層部や『アイテム』が行う事は考えられない。
麦野自身の葛藤もこの一時で解消した以上、『アイテム』は不滅だろう、と。
それから、
「今回オマエらを振り回したのはエイワスだが、それを止められなかった
俺にも多少の責任はあると思ってる」
「?」
「仮に『アイテム』に何かがあったら、『天使同盟』も出張る。
……余計な世話かもしれねェが、今回はそれで手を打ってくれねェか」
一方通行の言葉に麦野は一瞬目を丸くした。
そして我慢できなくなったように吹き出して笑うと、
「何それ、お前が私らを守ってくれるの? カッコイー。
いつから学園都市最強の怪物はそんな王子様キャラになっちゃったわけ?」
「王子様っつっても、白馬じゃなくて白髪だけどなァ」
そんな冗談を言い合いながら学園都市の化物二人はケラケラと笑い合った。
以前なら考えられない、血と泥に塗れ果てた者同士の談笑。
「あー……可笑しい。 でもまぁ、お前らみたいなバックアップが
付くってんならそりゃ嬉しい特典かもね。 よろしく頼むよ、王子様(笑)」
「冗談で言っただけだろ、その呼び方はやめろマジで」
そして今度こそ、第一位と第四位は固い握手を交わすのだった。
――――――――――――――――――――――
『聖なる右』は発動できない。絹旗最愛との戦いで行使し、
空中分解を引き起こしてしまった。
「まぁ、問題はなかろう」
ゆっくりと、一歩ずつフィアンマは学園都市の外壁にあるゲートへと近づいていく。
一目で看破できた。ゲートにいる魔術師の二人は第三の腕を使わなくとも撃破できると。
それは驕りや傲慢などではなく、経験から判断できた。
魔術サイドのトップクラスに位置するフィアンマだからこそ、相手の実力は見て取れる。
経験から、相手がどのような状態であるのかもすぐにわかる。
だから、
「……?」
ゲートにいる二人の魔術師。一人はガクガクと震えながらひどく怯えているだけで、
もう一人はポカンとした表情でこちらを見ているだけ。
フィアンマの姿を確認して戦闘態勢を取らないどころか、"敵意すら向けて来ない"。
二人の様子に彼は激しい違和感を覚えた。
「な、なな……何であんな人が学園都市に……?」
恐怖で身体を支配されてしまった魔術師が誰に言うでもなく疑問を唱えた。
違和感。
この二人が本当にフィアンマが目的で学園都市にやってきたのなら、
"なぜフィアンマが学園都市に居る?" などという疑問は生まれないはずだ。
(俺様が目的ではない……? いや、不思議ではないか。 何も魔術サイド
全体が一丸となって俺様を追っているわけでもない。 むしろ俺様の捜索に
励んでいる魔術師の方が少ないか? それにこの二人……)
フィアンマは尚も歩きながらゲートへ近づき、改めて二人の容姿を確認する。
(『右方のフィアンマ』を確保するに当たって、こんなヤツらを派遣するはずがない)
彼がそんな疑問を抱くのも無理はない。なぜなら、
「お前ら、ローマ正教のシスターだろう?」
ゲートで立ち往生をしていた二人は、修道服に身を包んだ女だったからだ。
フィアンマに指摘され、怯えていた方の少女が小さく悲鳴をあげた。
少女はもう一人の連れの背中に隠れて悪魔を見るような目でこちらの様子を窺っている。
ゲートを管理する警備員は何が何やらと首を傾げていた。
そしてもう一人のシスターは、
「まぁ、………。 まさかこのような場所であなたのような方とお会いする事になるとは
思いもしなかったのでございますよ」
「そりゃこっちのセリフだ」
あまりに呑気な言葉に、フィアンマもつい流れるようにツッコミを放ってしまった。
二人に戦闘を行う意志が無いと判断すると、フィアンマも殺気を抑えて
追い詰めるような足取りを止める。
「シスターがこの街に何の用だ?」
「それこそ、私達のセリフなのでは? なぜあなたがこの街にいるのか、
私達は皆目見当もつかないのでございますよ」
思わず閉口してしまった。今自分が放ったツッコミをカウンターの如く
返してきたシスターを睨むが、彼女のニッコニコ穏やかスマイルは微塵も崩れない。
とりあえずフィアンマはこの二人の目的を軽く考察してみる。
(……ローマ正教のシスター。 いや、今はイギリス清教の配下にあったか。
…………待てよ、イギリス清教のシスターという事は………)
フィアンマは昨日、一方通行達から聞いた『天使同盟接触済みリスト』を思い出しながら、
ゲートを管理している警備員には聞こえないよう小声で尋ねてみた。
「お前ら『天使同盟』に用があるのか?」
「え、……ど、どうして『天使同盟』の事を……?」
「やはりな」
言われてハッと口を抑える臆病シスターだったが、既に遅かった。
「あなたも『天使同盟』の皆様と何か繋がりが?」
「繋がりどころか……、まぁいい」
げんなりとした調子で息を吐くと、フィアンマはゲートにいる
警備員に話しかけた。
「こいつらが何か問題を起こしたのか?」
「あぁ、いや。 そういう訳じゃあないんだけどな………。
このお二人が中に入りたいっていうから許可証の提示を求めたんだ。
でもこの二人、どうやら許可証を持ってないらしくてな」
通常、学園都市の『外』から訪れた人間は街へ入る際『許可証』なるものを提示しなければならない。
それを申請するためには学園都市が連携している相応の機関で直接許可を求めるか、
あるいはネットでの申請も受け付けている。
が、二人は魔術サイドのシスターだ。そもそも学園都市へ入る際に許可証などというものが
必要である事を知らないのも致し方ない。
……もっとも、最初から学園都市へ向かう事が目的であるならその辺に関して事前に調べておくのが
普通というものだが、遙か上空からゲートを通り越して学園都市に来訪したフィアンマは
人のことは言えない、と口にすることはなかった。
「許可証……。 あぁ、そういえば以前、上条さんと初めてお会いしたときに
そんなものが必要だと言われたような気がしないでもないのでございますよ」
「そ、それを早く言ってくださいよシスター・オルソラ……! どうするんですか……?」
オルソラと呼ばれた、修道服の上からでも確認できる爆乳を持つシスターは
『じゃあ今ここで許可証を~』とか言って警備員を困らせる。
臆病シスターの方は相変わらずフィアンマを見もせずオルソラの背中に隠れるだけだった。
口論というか、オルソラのあまりのマイペースぶりに辟易するだけの警備員は
どうしたもんかと頭を掻くだけで口論にすらなっていない。
その光景を見て呆れたフィアンマは二人の間に割って入った。
「拉致が明かん、とりあえずこいつらを入れるだけでも叶わんのか」
「そりゃ無理ってもんだ。 『第一九学区事件』以来、学園都市のセキュリティも
さらに強化されちまってる。 おいそれと許可証も持ってない外部の人間を
中に入れちまえば俺の首が飛んじまうよ」
「まぁ……。 首が飛ぶのはよろしくないのでございますよ。
シスター・アンジェレネ、ここはこのおじ様に免じて出直すという事で……」
「そ、そんなぁ………」
「いやおじ様って……」
アンジェレネと呼ばれた小柄なシスターと同調するように、警備員も
『俺、まだ二〇代前半なんだけどなぁ……』とがっくり肩を落とした。
というかこのオルソラというシスター、第三次世界大戦を引き起こした張本人である
フィアンマを前にしても全く物怖じをしない。
フィアンマを知らないという事はないだろうから、『天使同盟』という後ろ盾があるから
安心しきっているのだろうか、とフィアンマは適当に推測する。
しかし今のフィアンマからすれば、びくびくと怯えるアンジェレネより
堂々と構えているオルソラの態度の方が若干ながらありがたいと思えた。
今の彼はもう、畏怖の対象である必要は無いのだから。
「……………」
フィアンマはしばらく思考を巡らせて、
「おい」
「ん?」
「学園都市の統括理事長に直接連絡を取ってみろ」
名案が浮かんだ。ただし、この案は『天使同盟』の構成員であるフィアンマだからこそ
取れる手段だった。
学園都市統括理事長に直接許可を求める。げに恐ろしきかな、この学園都市という
街を牛耳っている統括理事長ですら『天使同盟』の構成員なのだからぶっちゃけもうこの街終わってね?
警備員はフィアンマの言葉を受けて口角を歪ませながら驚く。
「おいおい無茶言うな。 俺みたいな警備員の端くれが学園都市のトップ様に
直接連絡なんて取れるわけないだろ。 その前に統括理事会のメンバーを
経由しなきゃ話にならないし、統括理事会に連絡を取るだけでも相当苦労―――」
途端、警備員の口が止まった。
口は止まったが、開いたままだ。警備員は管理所内にあるパソコンの画面を
凝視したまま凍ったように固まっている。
「どうした?」
「な、な、…………!? な、何で……!?」
目の前の光景が信じられないと言わんばかりに大袈裟に目を擦るジェスチャーをする警備員。
どうやらパソコンの画面内で何らかの作業が自動で進行しているらしい。
しばらく画面とにらめっこをしていた警備員が腰を抜かしたように椅子の背もたれに寄りかかった。
「あ、アンタら……えっと。 オル……オルソラ=アクィナスさん、でいいのかな?」
「はい。 私がオルソラでございます」
名前を呼ばれ、元気よく返事をするオルソラ。
「で、こちらの小さいお嬢さんがー……アン、ジェレネちゃん?」
「そ、そうですが……」
まだ名乗ってもいないのに名前を呼ばれおどおどしながら応えるアンジェレネ。
フィアンマは退屈そうに息を吐いた。
「どうなんだ」
「し、信じられない……。 現在進行形で二人の立ち入り許可の申請が通りやがった……。
しかも超VIP待遇、おまけに学園都市統括理事長直々のサイン入りで。 アンタら一体どこの何者なんだよ!?」
「イギリス清教のシスターでございます」
日曜の一八時半から始まるアニメの第一声のような調子で答えられ、
思わず引き笑いをしてしまう警備員。
この様子と警備員の言葉から察するに、どうやら二人の学園都市への立ち入りが
許可されてしまったようだ。意味もなくVIP待遇で。
しかも統括理事長自らの許可だ。前例の無い事態に警備員の態度も豹変してしまう。
「あ、えっと……こほん。 数々の失礼なお言葉、まことに申し訳ありませんでした!!
オルソラ様とアンジェレネ様の通行を許可致します! しばしお待ちを!」
警備員のマニュアルに掲載してしまいたくなる程のキチッとした姿勢になると、
青年は二人のVIP様をお通し致すため管理所の機材を操作して駅の改札口に設けてあるような
小さな扉を開放する。
「ええーっと……これはもう通ってもよろしいという事なのでございましょうか?」
「もちろんでありますっ!! どうぞごゆるりとお寛ぎくださいませ!!」
冷や汗を流しながら返答する警備員に頭を下げて礼をしたシスター二人は
こうして堂々と(というか"まんまと")学園都市内へ入る事が出来たのだった。
背中からずり落ちそうになる絹旗の身体を元の位置に戻しつつ、
フィアンマは自分たちの様子をどこからか見ていたのだろう統括理事長様を
睨むように空を仰いだ。
(やりたい放題だな。 俺様も人の事は言えんが)
視線を戻し、フィアンマは物珍しげに街の様子をキョロキョロ見回すシスターに目を向ける。
だが実際そうしているのはオルソラだけであって、アンジェレネは肉食獣に食われる寸前の
草食動物のように相変わらず赤い髪の怪物に怯えているだけだった。
そして怯えながらも、アンジェレネはフィアンマに話しかける。
「あ、ぅ……あの。 あ、あなたが通してくれたんです……か……?」
ただ質問をしているだけなのに、アンジェレネの言葉は命乞いのようにも聞こえた。
「俺様ではない。 この街をシメてるクソ野郎の仕業だ、……気にするな」
「それでもあなたを通して私達は学園都市に入ることが出来たのでございましょう?
だったらきちんとお礼はさせていただくのでございます」
ありがとうございます、とかつて魔術サイド全体に混乱と絶望を叩き込んだ
魔術師に対して、オルソラは素直に頭を下げた。
アンジェレネもしばし逡巡したが、やがてオルソラと同じように礼をする。
礼をされた当の本人は非常にやりにくそうな態度を取るしかなかった。
ひとまず彼女たちの目的を聞いてみる。
「それで、何しにこんな街へ来たんだ」
「いえ、そんな大それた用事は無いのでございます。
ただ単に遊びに来ただけ。 それだけの事でございますよ」
「?」
「あ、あ……一方通行さんという方と、そのお友達に会いに来ただけです……」
一方通行達に会うために遊びに来た。
その言葉に一切の虚言が無い事は、出会って数分のフィアンマでもすぐにわかった。
そして改めて『天使同盟』の人脈の幅広さ、影響力に驚かされる。
829 : ◆3dKAx7itpI - 2011/09/10 18:34:55.74 /Tl6gSTNo 362/418オルソラ達がフィアンマを知っているのは、彼はあれだけの事を起こした魔術師なので
顔写真くらいは現状なら出回ってるんじゃないかなって思ってそういう設定にしました。
逆にフィアンマは何となく雰囲気と服装でローマ正教のシスターだろうなと判断したのと、
いちいち自己紹介させるのが面倒だった私のワガママが入っております、申し訳ないです。
そんなこんなで今日の更新はここまでです。
急な登場で困惑した方もいるでしょうが、物語的にこの二人は学園都市に
来てもらわないと困るので登場させました。
ここから先はまた色々とカオスになりますが、どうかよろしくお願いします。
次回更新は三日以内。
それでは、今回もありがとうございました!
【次回予告】
「テメェ、こんなところで油売ってる場合じゃないわよっ!!!」
ローマ正教、禁断の組織『神の右席』の元一員――――――前方のヴェント
「あ、油だと!? 貴様、交通整備のバイトがどれだけ大事な役割を担っているのか
知らないのだろう! 実際にやってみなければわからないが、これが結構やり甲斐のある―――」
ローマ正教、禁断の組織『神の右席』の元一員――――――後方のアックア
869 : VIPに... - 2011/09/12 18:13:14.01 yOzAy04U0 364/418なんかこのスレのヴェントさんぽい画像を見つけた。イメージができなかった人にはお勧め
ttp://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=21694339
「許可?知らん、俺の管轄外だ」
877 : PIXIVはじめました@SS速報タグ - 2011/09/12 21:03:42.14 BFWvCCEO0 365/418PIXIVはじめました@SS速報タグ
バレたか。もっと早く報告できればよかったのですが、あんまりあっちコッチ宣伝するのも何だしと気が引けてました。
いつも楽しく読ませていただいてます。>>1の書くSSは皆いいキャラしてるので、ついついネタ絵を描いては投下していました。
これからもひっそり応援してます。
そろそろ怒られそうなんで、本編と関係無い絵は自重します。
880 : ◆3dKAx7itpI - 2011/09/12 23:08:19.88 bkVY6xRoo 366/418>>869
ひゃっはー素ヴェント可愛すぎるぜ!!今書きためしてる場面もちょうどヴェントのターンだし、
俄然気合いが入ります!
>>877
イラスト支援も当然嬉しいので、是非よろしくお願いします。
こんばんわ、夜遅いですが更新開始です。
今日はまた一段と支援が多くてすごく嬉しい……。ありがとうございます。
今回はまず最初にフィアンマパートをちょこっとやって、それから予告の右席コントを。
右席ばっかりですねこうしてみると。なんで左方死んでしもうたんや……
それでは、よろしくお願いします!
「一方通行か。 どうだろうな、『天使同盟』は現在取り込み中なんだが」
「そ、それはどういう事ですか……? というか、あ、あなたが
どうして一方通行さん達の事情を、その……知っているんですか……?」
いくら何でもテンパリすぎだろ、とフィアンマは心の中で呟く。
確かにフィアンマは世界中をメチャクチャに掻き回した張本人だが、
改善が進みつつある今の魔術サイドならばフィアンマはそれほどの脅威ではないはずだ。
オルソラのように堂々たる態度を取っていればいいのに、とフィアンマはため息をつきながら思った。
「………俺様もその一部になったという事だよ。 『天使同盟』の構成員、フィアンマだ」
「え゛っ」
もんのすごく嫌っそうな声を出したのはもちろんアンジェレネだった。
さっきまでフィアンマに対してびくびくおどおどしていたクセに、
臆病なのか大胆なのかよく分からない性格だとフィアンマはアンジェレネの第一印象を捉える。
「露骨に嫌そうな声を出すなよ。 気持ちはわからんでもないが」
「ということは『天使同盟』にまた愉快なお仲間が増えたという事でございますね?
ふふ、だったら例えそれがあなたのようなお方でも私、自分の事のように嬉しいのでございますよ」
このオルソラという女は菩薩五二位の『妙覚』の位に達しているのか、と
フィアンマは心底呆れ果てる。
アンジェレネのようにわずかでも嫌悪感を顕にするのがフィアンマを知る者の態度というものだが、
この様子だとオルソラはもうフィアンマに対して敵意も何も感じていないらしい。
だがそれも当然。オルソラはかつて一方通行の血に塗れた過去を全て知りながら、
それでも一方通行を受け入れ、抱擁し、終いにゃあんな事までしちまったシスターなのだ。
そんな彼女の前に今更第三次世界大戦の引き金を引いた男が現れても、オルソラの感情は
わずかも波立つ事はない。
別に何でもかんでも赦し受け入れるのがシスターという訳ではなく、
オルソラ=アクィナスという人間がそういう性格なのだ。
「念の為に聞いておくが、俺様を捕らえにローマ正教……じゃない、
イギリス清教から遣わされたという訳ではないんだな?」
「私達ではあなたを捕らえる事など、どう足掻いたって出来ないのでございます」
「報告は?」
「し、したところで魔術サイドが再びパニック状態になるだけです……!
ただでさえ『第一九学区事件』でてんやわんやな状態なのに……」
それを聞いて、自分など所詮その程度しかないかとフィアンマは自分で自分に苦笑する。
同時に、世界はそうでなくてはならないとも思った。
「ちょうどアジトに帰るところだ。 ……俺様で良ければ案内してやらんでもないぞ」
「それは助かるのでございます! 是非ともよろしくお願いするのでございますよ。
街へ来たのはいいのでございますが、道などはやはり全く分からないので……」
「……道。 あぁ、」
何かを思い出したようにフィアンマは踵を返してゲートへ逆戻りしていった。
ハンカチで汗を拭う警備員の青年に管理所のガラス越しにノックをすると、
「一つ尋ねたい。 ここは何学区だ? それとこの街全体の地図を見せてほしい」
「は? 第二学区だけど……アンタ学園都市の人間じゃないのか?
……あ、もしかしてアンタもあの女の子二人みたいに……」
「上空から来訪するVIPがどこにいる」
適当にごまかしてフィアンマは渡された地図を見る。
現在地は第二学区、第七学区へはただまっすぐに北へ向かえば辿り着ける位置だった。
数秒見つめただけで学園都市の地理を全て把握したフィアンマはオルソラ達の下へ向かい、
「さっさと行くぞ。 俺様の手に……って、今は右腕は行使出来んのだったな。
やむを得ん、徒歩での移動になるが構わんな?」
「は、はい………」
「あの、ところで背中に背負ってる女の子は一体?」
フィアンマと会った時から不思議に思っていたのか、
オルソラとアンジェレネはジーッとフィアンマの背中で眠る絹旗を見つめる。
「お前らと同じだよ。 こいつも大事なお客様だ」
――――――――――――――――――――――
いくら戦争の最前線を戦い抜いてきた傭兵だろうが元『神の右席』の魔術師だろうが
英国のお嬢様を守る護衛兵だろうが、
突として頭に某格闘ゲームに出てくるチャイナ娘の236+K(空中可)の如き飛び蹴りをかまされては対処出来ないものだ。
「ごっはぁっ!!?」
「う、ウィリアム!!?」
旧友である元『騎士派』の長、騎士団長(ナイトリーダー)と共に交通整備のバイトに
励んでいたウィリアム=オルウェル――――後方のアックアは二、三回転くらいしながら地面を転がった。
端から見ても頑丈そうなガタイをしている男が急に吹き飛び、周囲の人々も思わずざわめく。
アックアが吹き飛んだ原因は、前述の通りいきなり飛び蹴りを喰らったため。
「ぐ、ぅ……。 おのれ、ここ最近の平和過ぎる日常に身を置いていたとはいえ、
この私が反応も出来ぬとは……不覚である」
一体どこの不届き者だ、とアックアはよろよろと立ち上がりながら
周囲を見渡す――――までもなかった。
後方のアックアの、"前方"。 二メートルくらい先の位置に立っていた
それを見て彼はすぐにこいつだなと判断する。
大正解だった。
「アックア!!!」
「……いきなりふざけた真似をしてくれるな、ヴェント」
前方のヴェント。
アックアと同じく元『神の右席』の魔術師が肩で息をしながら彼を見下ろしていた。
「……?」
と、アックアはヴェントの容姿を見て眉をひそめる。
『神の右席』時代に施していた過剰なまでの化粧が無いすっぴんフェイスはさすがに
見慣れてきたアックアではあるが、彼が不思議に思ったのはそこではない。
服装はいつものダウンジャケットに可愛らしいデザインのロングスカート(飛び蹴りをした際に思い切りめくれていた)。
そこまではいいのだが、彼女の舌先にはぎらりと輝く銀の鎖と、その先で揺れる十字架があった。
耳にも普段以上に取り付けられた銀のピアス。おまけに右手には有刺鉄線付きハンマーという徹底ぶり。
詰まる話、ヴェントはほぼ完全に戦闘状態を整えていた。
彼女は感情を剥き出しにしながらアックアに向かって叫ぶ。
「テメェ、こんなところで油売ってる場合じゃないわよっ!!!」
「あ、油だと!? 貴様、交通整備のバイトがどれだけ大事な役割を担っているのか
知らないのだろう! 実際にやってみなければわからないが、これが結構やり甲斐のある―――」
「すっかり平和ボケしやがってこの水ゴリラが……!! いや、私も人の事は言えないんだけど。
――――ッ、そんな事よりアンタ、今すぐ来なさいよ!」
ぶっとい腕をヴェントに掴まれ、半ば強引に連れていかれるアックア。
後ろの方でなんかオッサンが『おいウィリアム!! バイトはどうするんだバイトは!?』
とか喚いているがどうしたのだろうか。バイトが好きなのだろうか。
ヴェントの手を振りほどき、彼女のただならぬ様子を感じ取ったアックアは
すぐさま"後方のアックア"の顔つきに戻りヴェントに尋ねる。
「率直に聞くのである。 ……何があった?」
「フィアンマが学園都市に居る」
「―――――、」
自分の耳を疑ったが、しかしヴェントの言葉は疑わなかった。
彼女がフィアンマをネタに冗談を言うような人間でない事はアックアでも分かる。
同じ組織に所属していた彼だからこそ分かる。
「桔梗から聞いたのよ、こないだのすき焼きの時にフィアンマもいたって。
名前までは知らなかったようだけど、桔梗が言ったそいつの特徴が
フィアンマにぴったり一致してたわ。 赤髪の、魔術師」
「…………『必要悪の教会(ネセサリウス)』のステイルという名の魔術師である可能性は」
「雰囲気がどことなく私やアンタに似てたって言ってたわ。 それだけで
断定するのも早計かも知れないけど、ほぼ間違いない。
大体、ステイル=マグヌスがあの場にいる理由なんか無いでしょ?」
アックアは皆ですき焼きをつついたあの日の事を思い出してみる。
ほんの一瞬だが、彼はどこか懐かしい気配をあの時に感じていた。
それが気のせいではないとしたら。
「………今更なにが目的でヤツが学園都市に?」
「知らないわよ。 でも桔梗の話ではフィアンマのクズ野郎、一方通行達と一緒にメシ食ってたって……。
どう考えても『天使同盟』が絡んでるわよ。 だからあいつらのアジトに行って一方通行を問い詰めてやるのよ!」
叫び、グッと拳を握り締めるヴェント。
実際にフィアンマと再会してどうするかは、この時点では彼女はあまり考えていなかった。
ただ一つ、会ったらまず一〇〇発くらいぶん殴ってやろうとだけは決心していた。
アックアも内心に思うところは色々あったが、
それ以前に憤慨しながらもどこか楽しそうなヴェントに若干困惑していた。
第七学区、本来は『グループ』の隠れ家である『天使同盟』の巣窟に
ぞろぞろと人が集まっていく。
『アイテム』、シスター、『神の右席』。
そして、"もう一人"。
――――――――――――――――――――――
――学園都市・第七学区 → 『グループ』の隠れ家へ
麦野「……うん。 うん、じゃあよろしくね」スタスタ
一方通行「……」カツッ カツッ
麦野「………」ピッ
一方通行「滝壺は来れそォか?」
麦野「うん。 お前んとこの天使様も連れてくるってよ」
一方通行「……世話ばかりかけちまってンな」
麦野「あーあ。 天下の第一位様も本当に丸くなったもんだね」
一方通行「放っとけ」
麦野「絹旗と浜面もお前らのアジトにいるの?」
一方通行「多分な」
麦野「そう。 少なくとも……絹旗にはちゃんと説明しないとなー」
一方通行「魔術、か?」
麦野「そだよ、じゃないとあの子だけ置いてけぼりでしょ」
一方通行「……まァ、面倒臭がってもいられねェしな」
麦野「そういやこの追いかけっこでさ、絹旗はお前を狙ってたみたいだけど」
一方通行「あァ?」
麦野「心当たり……あるんじゃないの?」
一方通行「ねェよ。 まずその絹旗と会ったのは今日が初めてだしな。
何だかわからねェが、オマエの方こそ絹旗が俺を追う理由を知ってンじゃねェのか」
麦野「………」
一方通行「黙秘するタイミングじゃねェだろ」
麦野「ま、嫌でも会うんだし。 本人に直接聞いてみたら?」
一方通行「悪いがそォさせてもらうぞ」
麦野「……しっかし『天使同盟』。 天使、ねえ……」
一方通行「別に信じなくてもイイけどな」
麦野「戦争の時に出現したって話は聞いたけど、抽象的な意味での天使かと思ってた。
まさか正真正銘の天使だなんて思わないでしょ。 てか本物の天使って何?」
一方通行「同じだよ。 これから嫌でも会うンだ、自分の目で確かめろ」
麦野「そうさせてもらおっかな♪」
一方通行「……随分とゴキゲンじゃねェか」
麦野「別に? 普通だけど」
一方通行「そォかよ」
麦野「そうだ、『未元物質』……垣根帝督も来るの?」
一方通行「さっき風斬から連絡が入った。 垣根もこっちに戻ってきてるらしい。
……なンか風斬の様子が少しおかしかったが、問題はないはずだ」
麦野「ふーん」
一方通行「殺すのか?」
麦野「まさか。 もうそんな事したって何も取り戻せない」
一方通行「…………助かる」
麦野「これで貸し借りナシね」
一方通行「……そォだな」
麦野「あ、ここ?」
一方通行「あァ。 ま、適当に寛いでいけよ」
麦野「暗部のアジトで寛げって言われてもなぁ」
――学園都市・第七学区 『グループ』の隠れ家
一方通行「戻ったぞ」
麦野「お邪魔しまーす」
絹旗「む、麦野! と、……………」ジロ
一方通行「………」
風斬「お、おかえりなさい一方通行さん……!」パタパタ
麦野「……なんでこいつ、エプロン装備してんの?」
浜面「麦野! 無事だったのか!?」
麦野「まぁね」
フィアンマ「…………おい一方通行、」
一方通行「よォ、オマエもご苦労サマだっ―――――」
オルソラ「お帰りなさい、一方通行さん♪」ニコッ
アンジェレネ「お、お邪魔してますっ!」ドキドキ
一方通行「……………………………………………………………………………………」
風斬「す、すみません一方通行さん。 さっき連絡した時にオルソラさんと
アンジェレネさんが来た事も伝えようとしたんですけど……」
オルソラ「ちょっとしたサプライズの提供として、内緒にしてもらってたのでございますよ」
アンジェレネ「そのサプライズはどうやらバッチリ成功したみたいですよ、シスター・オルソラ……!」
一方通行「」
浜面「なあ一方通行。 このシスターさん達は何なんだ?」
麦野「本物のシスター? すげ、初めて見たよ。 お前らこんなのとも知り合いなの?」
オルソラ「初めまして、私はイギリス清教のオルソラ=アクィナスと申します」ペコッ
アンジェレネ「お、同じく。 アンジェレネです」ペコッ
麦野「ん、あぁどうも。 麦野沈利です。 イギリス清教か、聞いた聞いた。
えと、十字なんたらかんたら……三大宗派の一つでしょ?」
オルソラ「左様でございます」
浜面「何それ? 何で麦野がそんな事知ってんだ?」
麦野(一方通行が言ってた『世話焼きシスター』ってこいつらの事かな?)
絹旗「挨拶も超構わないんですけど、そろそろこの縄解いてもらえませんかね?」
フィアンマ「お前ならそんな拘束、すぐに破れるんじゃないのか?」
絹旗「超解いてもいいんですか?」
風斬「も、もちろんです……! 気付かなくて申し訳ありません……!」
絹旗「むんっ」ブッチィ
アンジェレネ「わ、す、すごい……」
麦野「絹旗、お前結局そこの赤髪魔術師にコテンパンにされたのか」ケラケラ
フィアンマ「!? お前今―――」
絹旗「む……超心外です、笑わないでくださいよ。 というか、マジュツシ?」
浜面(マジュツってどっかで……ロシアだっけ?)
フィアンマ「お前、何で俺様が魔術師であると?」
麦野「ん? そこで化石みてえに固まってる白髪から聞いた」
フィアンマ「…………俺様が魔術師だという事実がある程度発覚しても問題ない段階まで来ているようだな」
オルソラ「麦野さんも晩ご飯はご一緒するのでございますよね?」
風斬「あ、私もう『アイテム』の皆さんの分までご飯の準備しちゃってますけど……」
麦野「あー、だからエプロン着てたんだ。 じゃ、お言葉に甘えて」
オルソラ「了解なのでございますよー」ニコッ
麦野(乳でけえなこのシスター……。 ちっ、私よりでけえ)
浜面「つか、俺の縄も解いてもらえると助かるんだけど……」
風斬「あ、ごめんなさい……!」シュルシュル
浜面「おお、悪いな……。 (って、胸近いよ風斬さん! そしてデカい……!!)」ゴクッ…
絹旗「だから浜面は超浜面なんですよ。 滝壺さんに言いつけますから」
浜面「当たり前のように読心してんじゃねえよ!」
風斬「?」
903 : ◆3dKAx7itpI - 2011/09/12 23:38:12.77 bkVY6xRoo 389/418急に台本形式になったりと安定しませんねこのSS……
そんな感じで、今日の更新はここまでです。
中途半端なのはもはやご愛嬌という事で一つ……
次回からはしばらくこの調子で日常が続きます。そう、ヤツが来るまでは……
台本形式も長い事続きますのでお付き合いください。
次回更新は三日以内。
それでは、今日もありがとうございました!
【次回予告】
「あ、あ、一方通行さんにその、真相も聞かなきゃならないので!」
元ローマ正教のシスター――――――アンジェレネ
「その真相というのは……"例の"?」
『天使同盟(アライアンス)』の構成員・AIM拡散力場の集合体――――――風斬氷華
「なンで通じ合ってンだよオマエら……」
『天使同盟』のリーダー・学園都市最強の超能力者(レベル5)――――――一方通行(アクセラレータ)
「いい? 今後、私の事は"滝壺様"と呼ぶんだよ?」
新生『アイテム』の構成員・大能力者(レベル4)『能力追跡(AIMストーカー)』――――――滝壺理后
939 : VIPに... - 2011/09/14 21:45:15.65 WMxI4KL/0 391/418レッサーのタイトル>>366より
>「ヴィリアン様、心配には及びません。私は未来永劫、貴方の側に使えると心に決めております。
>事が済んだら、必ず貴方の元へ帰る事をここに誓わせていただきたい」☚(ここ重要)
ウィリアムェ…………お前、騎士の誓いを忘れたんか………………
941 : ◆3dKAx7itpI - 2011/09/14 22:40:12.90 Ls1mHmMTo 392/418>>939
ホントにねえ……何をやってるんだかですよねえ……
でもヴィリアンはいつでも帰りを待ってくれていますよ。
こんばんわ、更新を開始します。
つーかもうこれ次スレ立てなきゃダメじゃないですかー!
更新が終わったら次スレ立てますんで、お待ちくださいね。
では、アジトに集まりつつある個性豊かなキャラによるほんの僅かな日常をどうぞ。
よろしくお願いします!
一方通行「……………………」
風斬「あの……そろそろ再起動してください……」
一方通行「……わかってる」ハァ
フィアンマ「この愉快で珍妙な光景はきちんと目に焼き付けたか?」
一方通行「とりあえずな」
オルソラ「驚かせてしまったようで、申し訳ないのでございます」
一方通行「構わねェよ、サプライズはあのクソのおかげで慣れてンだ。
……まァとにかく、久しぶりだなオマエら」
オルソラ「はい」ニコッ
アンジェレネ「お久しぶりです……!」
風斬「せっかく遊びに来てくれたのに、いきなり晩ご飯の用意を
手伝わせてしまって……」
オルソラ「いえいえ、お料理は好きなのでむしろ喜んで手伝わさせていただいてるのでございますよ」
アンジェレネ「私もです!」
一方通行「アンジェレネ、ちょっとキャラ変わったかァ?」
アンジェレネ「え?」
一方通行「初めて会った時なンかオマエ、俺見てすぐ隠れてたろ」
アンジェレネ「も、もう大丈夫なのです! 私は生まれ変わったのだ……!」グッ
一方通行「あっそ」
フィアンマ「しかしただ遊びに来ただけとは笑わせる」
一方通行「ン? ……そォいや、今ここにはフィアンマがいるが?」
オルソラ「ええ、彼にここまで案内していただいたのでございますよ。
改めてありがとうございました」
アンジェレネ「ありがとう……ございました」ジトッ
フィアンマ「言いたくもない礼をいちいち言わんでいい」
一方通行「そォじゃなくて、イイのかよ? 一応こいつ魔術サイドから―――」
オルソラ「私はイギリス清教にそのような言付けは受けておりませんので♪」
一方通行「……そォかい。 すまねェな」
アンジェレネ「いえ、問題ないです」
風斬「アニェーゼさんやルチアさんは来ていないんですか?」
アンジェレネ「なんと……女子寮のみんなには秘密でここの来たのです。
お忍びというやつです」
一方通行「はァ? ンな事してイイのかよ?」
オルソラ「多分既に、女子寮の皆さんは大騒ぎしているのでございますよ、ふふ」クスッ
風斬「あ、あはは……オルソラさんって結構大胆なんですね……」
アンジェレネ「そ、それに、それにですね……!」
一方通行「あン?」
アンジェレネ「あ、あ、一方通行さんにその、真相も聞かなきゃならないので!」
フィアンマ「?」
一方通行「真相?」
オルソラ「シスター・アンジェレネ、真相とは?」
アンジェレネ「むむ、シスター・オルソラがそれを言いますか……!」ジー
オルソラ「?」
一方通行「訳わかンねェっての」
風斬「…………アンジェレネさん」
アンジェレネ「はい?」
風斬「その真相というのは……"例の"?」キュピリーン
アンジェレネ「!」
一方通行「なンで通じ合ってンだよオマエら……」
アンジェレネ「その通りです……!」
風斬「そ、その件は私も気になっていたんです……頑張りましょう!」
アンジェレネ「はい!」
オルソラ「えーっと、フライパンはどこに……」
風斬「あ、そこの戸棚に入ってますよ……」
フィアンマ(何ともまぁ……本当に愉快な光景だな。 愉快を通り越して
不気味とさえ思えてしまう)
麦野「おーい」
一方通行「ン?」
麦野「そろそろ科学サイドにも出番をちょうだいよ」
浜面「シスターさんと盛り上がるのもいいけどよ、俺達蚊帳の外じゃねえか」
絹旗「正直、超居心地悪いんですけど」
一方通行「そォだったな、オマエらにも色々話さねェと」
浜面「つか一方通行!! テメェさっきはよくも―――」
一方通行「よくも?」
浜面「――――素晴らしい体験をさせてくださったな!! ありがとうございます!!」バッ
絹旗「何でそこで超お礼なんですか、何となくわかりますけど。 超キモいですね」
麦野「そうそう、だからこいつはキモいんだよ」
浜面「何で総叩き食らわなきゃならねえんだよ! 別に俺のせいじゃねえ!」
一方通行「つーかよォ、三下」
浜面「な、何だよ」
一方通行「オマエが発情すンのは勝手だが、それで風斬に手ェ出したら
オマエの皮ァ引き裂いて肉団子にして女王サマに献上すっからなァ」ギロリ
風斬「?」
浜面「わ、分かってるよ……(なんつー眼光……。 やっぱこの二人ってそういう関係なのか?)」
ガチャッ
ガブリエル「cxotrnhx帰宅zpooejg」
滝壺「お邪魔します」
一方通行「来たか」
風斬「あ、おかえりなさい天使さん」
ガブリエル「!!?」ササッ キョロキョロ
一方通行「急に妙な動きすンじゃねェ、どォした?」
オルソラ「まぁ、大天使様……お久しぶりなのでございます」
アンジェレネ「お久しぶりです……!」ペコッ
ガブリエル「msrgj説明pinfg要求nznjetj」
フィアンマ「そのシスター二人は遊びにきてくれたようだぞ」
ガブリエル「eusmv歓喜naowut」キャッキャッ
アンジェレネ「わぷっ!? きゅ、急に抱きつかないでくださ~い……!」ギュム
フィアンマ「幼児だな、まるで」
一方通行「オマエもそォ思うか。 あの事件以来、こいつ今まで以上に
ガキっぽくなってンだよ。 天使にも幼児退行とかあンのか?」
フィアンマ「いや、それは俺様も知るところではないが……、……………」
一方通行「なンだよ」
フィアンマ「…………、特に気にする必要もあるまい」
一方通行「ならイイけどな」
フィアンマ(………一応後で『星の欠片』の状態をチェックしておくか……)
滝壺「あくせられーた、天使は特に問題を起こさなかったよ」
一方通行「そォか、借りが出来ちまったな」
滝壺「大丈夫、気にしないで」
風斬「天使さんの事、本当にありがとうございました」
滝壺「お礼はいいよかざきり、……それより何だかいい匂い」スンスン
オルソラ「大量に四角いお肉を見つけたので焼いているのでございますよ」
フィアンマ「サイコロステーキって言うんだよそれ」
滝壺「そうなんだ。 えっと、」
オルソラ「オルソラ=アクィナスでございます」
アンジェレネ「あ、アンジェレネです(何だかポワポワした人だなぁ)」
滝壺「私は滝壺理后、よろしくねおるそら、あんじぇれね」
フィアンマ「何でシスターがこんな所に居るのかとか、疑問は持たんのか」
滝壺「あくせられーた達のお友達でしょ? だったら私も友達」
フィアンマ(妙な女だな)
一方通行(つか自己紹介の流れ多すぎだろ……まだやらなきゃならねェ状況になったりすンのか?)
麦野「滝壺、お疲れ様」
浜面「お前よく天使と一緒に過ごせたりしたな……」
絹旗「あれが例の大天使ですか。 何だか超マネキンっぽいですね」
滝壺「…………………」
麦野「確かに人形っぽいねー。 でもこうして間近で見ると作りモンなんかじゃないって事がわかるわ」
浜面「な、すげえだろ? 俺達は一回会ってるもんな滝壺」
滝壺「………」
浜面「………滝壺?」
絹旗「? 滝壺さん?」
麦野「おいどうした、さっきからジッと私達を凝視して」
滝壺「違うでしょ?」
浜面「は?」
滝壺「違うよね?」
麦野「違うって何がよ、もっと具体的に言えっつーの」
絹旗「どうしたんですか滝壺さん?」
滝壺「"それ"」
絹旗「え?」
滝壺「………滝壺さん、じゃないでしょ?」
絹旗「え? え?」
浜面「何だ? 何言ってんだ滝壺?」
滝壺「みんな、誰に向かって口を聞いてるの?」
麦野「……………?」
滝壺「いい? 今後、私の事は"滝壺様"っと呼ぶんだよ?」ニヤリ…
浜面「」
麦野「」
絹旗「」
一方通行「オイ、今の聞いたか風斬」
風斬「は、はい……どうしたんでしょう滝壺さん? 何だか禍々しいオーラが……」
フィアンマ「長点上機で見た時はこんな女には見えんかったがな」
浜面「……………は、はは。 あははは、な、何言ってんだよ滝壺」
絹旗「あの、アレですか? 滝壺さん流の超ジョークというヤツですかね?」アハハ
麦野「滝壺……お前一体どうしたってんだよ」
滝壺「ねえ、天使」クルッ
ガブリエル「?」ムシャムシャ
アンジェレネ「あー! 天使様、さりげなくつまみ食いしないでくださいー!」ピョンピョン
滝壺「私は勝者だもんね?」
ガブリエル「……? kkrgjn肯定mcshklk」シランケド
一方通行「勝者?」
浜面「おい滝壺、お前さっきから何訳の分かんねえ事―――」
滝壺「えいっ」ムギュ
浜面「ぷぎゅッ!?」ベシャ
麦野「は、浜面の軽い頭を……足で踏んだだと……?」
浜面「軽いの部分いらねえだろ!!」
絹旗「ちょ、ちょっと本当に超どうしちゃったんですか滝―――」
滝壺「……」クルッ
絹旗「―――壺様」
滝壺「結果発表~」ワー
ガブリエル「jbzqugp発表gxbsew」パチパチパチ
風斬「わかってましたけど、やっぱり滝壺さんとも仲良くなっちゃってますね……」
一方通行「当たり前のよォにガブリエルと戯れる滝壺も相当だけどな」
浜面「け、結果発表って……?」
麦野(ヤバ、まさか滝壺のヤツ―――)
滝壺「まずはきぬはたね」
絹旗「え? わ、私ですか? ていうか超何の事やら……」
滝壺「きぬはたは今回の"天使狩り"で何ポイント獲得したのかな?」
絹旗「ッ!!」ギクッ
浜面(あ………まさか、)
麦野(やっぱりか………)
絹旗(確かあの時………)
麦野『一方通行は一〇〇ポイント!!! 垣根帝督は五〇ポイント!! ドラコ=アイワズは一億ポイント!!!
残りはオマケだ、チュニックっぽい服着た二メートルくらいの『天使』は三〇ポイント!
赤い髪の男は一〇ポイント!! 終始ビクビクおどおどしてた巨乳メガネは一ポイント』
麦野『"一番多くポイントを取得したヤツは『アイテム』構成員に対する強制命令権を贈呈する、以上ッッ!!!"』
滝壺「我が問いに応えられぬかきぬはたよー」
絹旗(ぐぬぬ……!!)
絹旗「………ゼロポイントにございます、滝壺様」
フィアンマ(なるほど、大体把握した。 ……悪く思うな怪力娘)
一方通行(えげつねェな……)
滝壺「次、むぎの」
麦野「わ、私はアレじゃん! 一方通行とデパートの屋上で、」
滝壺「イチャついておったのか」
麦野「え? あ、そうそう」
一方通行「オイ」
風斬(デパートの……)
オルソラ(屋上で……)
アンジェレネ(イチャついていた……?)
ガブリエル「vxnw尋問qrgbv開始xmgrm」ジャキッ
フィアンマ「やめんか」ゲシッ
麦野「だから実質私は一〇〇ポイントゲットじゃないの?」
滝壺「はっはっはー、ぬかしおるわい」
一方通行「なンなンだあのキャラ」
フィアンマ「ひどい棒読みだしな」
滝壺「第三学区のアジトに連行する事で捕獲は成る、むぎのが言った事ではないかの」
麦野「ぐ……それは……」
滝壺「よってゼロポイント」
麦野(ちくしょう……!! 私が余計な事言わなきゃ……)
滝壺「最後、はまづら」
浜面「お、俺はアレだよ。 途中で諸事情により気を失っちゃったから、」
滝壺「私以外の女の子のバニー見て興奮しちゃったから?」
浜面「な、なぜそれを!!?」ギクッ
滝壺「阿呆、カマ掛けじゃ」
浜面「ピンポイントすぎるだろぉぉぉぉぉ!!?!?」
滝壺「というわけで浮気性のはまづらもゼロポイント」
絹旗「…………」
滝壺「で、私は天使を第三学区のアジトに連行している。 方法はどうあれね。
だから私には三〇ポイントが付与されている」
滝壺「よって優勝はこの私。 私はその他『アイテム』のみんなに
何でも言う事を聞かせられるんだよ」
一方通行「それで女王サマとして振る舞ってンのか? オマエらしくねェな」
滝壺「一回でいいからこういうのやってみたかったんだ」ニコッ
麦野(まさか滝壺が隠れドSだったとは………!!)
一方通行「まァオマエが女王サマになろォがそれは勝手だがよ、今は置いとけ。
とりあえず今回俺達の間で起きた騒動の総括をしなきゃならねェだろ?」
浜面「! そうだ、『素養格付』の事……」
麦野「私はもう聞いてる。 お前らもちょっと落ち着いて聞いてくれる?」
絹旗「超了解です」
滝壺「うん、わかった」
958 : VIPに... - 2011/09/14 22:52:56.05 /1X1FLdn0 415/418やれやれ、昔八人目になった滝壺が麦野を虐待するスレがあったけどそのスレの影響?
あのスレの浜面珍しくかっこよかったけど・・・ボソ
969 : ◆3dKAx7itpI - 2011/09/14 23:07:08.65 Ls1mHmMTo 416/418
ここまでです!
>>958
すみません……どこかのスレと展開被ってたでしょうか?
なるべくそうならないようには気をつけていたのですが……
結局、滝壺的にはちょっとしたおふざけだったって訳よ。
たまにはハッチャケたいと思う時も、彼女にだってあるんじゃないかなと思って。
さて、次スレも立てたなきゃなりませんし、今日はこの辺で。
次回もこんな感じで続くと思います。
次回更新は三日以内。
それでは、今日もありがとうございました!
【次回予告】
「iosm協力kzue要求aiqj約束」
『天使同盟(アライアンス)』の構成員・水を司る大天使――――――ミーシャ=クロイツェフ
「チッ、わかっている。 今のお前との約束を反故にしたら
何をされるか分からんからな。 明日にでもラストオーダーと
合流して、作戦会議でも何でも開けば文句はないだろう?」
『天使同盟』の構成員・元『神の右席』の魔術師――――――フィアンマ
「むぎのが私達から一歩退いてたの、私気付いてたから。
でももう大丈夫だよ。 私達は普通に暮らしてもいいの。
私はむぎのが戻ってきてくれて、本当に嬉しかったから」
新生『アイテム』の構成員・大能力者(レベル4)『能力追跡(AIMストーカー)』――――――滝壺理后
「……ぐすっ、良かった。 本当に……超良かっ……」
新生『アイテム』の構成員・大能力者『窒素装甲(オフェンスアーマー)』――――――絹旗最愛
975 : ◆3dKAx7itpI - 2011/09/14 23:18:23.23 Ls1mHmMTo 418/418新スレです。
蛇足 とあるフラグの天使同盟 肆匹目
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1316009458/
ちょっと早かったですかね?ごめんなさい
次スレ
蛇足 とあるフラグの天使同盟 肆匹目