1 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/21 16:32:09.18 F25Xy5fYo 1/411



このSSは、とある魔術の禁書目録に出てくるキャラクター、一方通行(アクセラレータ)を中心とした
もうあまりほのぼのとは言えない感じの二次創作物です。



一方通行「フラグ・・・ねェ」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1285654962/

一方通行「フラグ・・・・・・なのかァ?」  風斬「そうですよ!」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1289310136/

一方通行「フラグ・・・・・・じゃねェだろ」  エイワス「まだそんな事を言っているのか」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1294928027/

一方通行「フラグ・・・・・・だろォな」  垣根「ち・・・・・・くしょ・・・・・・う」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1295564748/

一方通行「フラグだと? って事ァ」  レッサー「私はあなたが好きって事です♪」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1298041227/

一方通行「そンなフラグはヘシ折ってやる」  ヴェント「・・・・・・あ?」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1300453744/

一方通行「いいか、フラグってのはなァ」 ガブリエル「vbhti素敵apfrgt」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1303132992/




上記のスレからの続きとなっています。もしお暇でしたら、ご一読を。


以下、留意点など。


・投下は基本的に三日以内です、多分。そしてかなり気まぐれに投下するので質悪いです。
・第三次世界大戦は終結。その後のお話です。
・キャラ崩壊しまくりな上に、設定も弄りまくっています ←これ一番重要、ご注意ください。
・地の文が多めになってきました。
・誤字脱字のバーゲンセール。発見した方は厳しく指摘してやってください
・書き溜めはありますが恐らく速攻で尽きます・・・・・・


元スレ
とあるフラグの天使同盟
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1305963129/



【関連】

1スレ目
一方通行「フラグ・・・ねェ」【1】
一方通行「フラグ・・・ねェ」【2】
一方通行「フラグ・・・ねェ」【3】
一方通行「フラグ・・・ねェ」【4】

2スレ目
一方通行「フラグ・・・・・・なのかァ?」  風斬「そうですよ!」【1】
一方通行「フラグ・・・・・・なのかァ?」  風斬「そうですよ!」【2】
一方通行「フラグ・・・・・・なのかァ?」  風斬「そうですよ!」【3】
一方通行「フラグ・・・・・・なのかァ?」  風斬「そうですよ!」【4】

3スレ目
一方通行「フラグ・・・・・・じゃねェだろ」  エイワス「まだそんな事を言っているのか」【1】
一方通行「フラグ・・・・・・じゃねェだろ」  エイワス「まだそんな事を言っているのか」【2】
一方通行「フラグ・・・・・・じゃねェだろ」  エイワス「まだそんな事を言っているのか」【3】

4スレ目
一方通行「フラグ・・・・・・だろォな」  垣根「ち・・・・・・くしょ・・・・・・う」【1】
一方通行「フラグ・・・・・・だろォな」  垣根「ち・・・・・・くしょ・・・・・・う」【2】
一方通行「フラグ・・・・・・だろォな」  垣根「ち・・・・・・くしょ・・・・・・う」【3】

5スレ目
一方通行「フラグだと? って事ァ」  レッサー「私はあなたが好きって事です♪」【1】
一方通行「フラグだと? って事ァ」  レッサー「私はあなたが好きって事です♪」【2】
一方通行「フラグだと? って事ァ」  レッサー「私はあなたが好きって事です♪」【3】

6スレ目
一方通行「そンなフラグはヘシ折ってやる」  ヴェント「・・・・・・あ?」【1】
一方通行「そンなフラグはヘシ折ってやる」  ヴェント「・・・・・・あ?」【2】
一方通行「そンなフラグはヘシ折ってやる」  ヴェント「・・・・・・あ?」【3】

7スレ目
一方通行「いいか、フラグってのはなァ」 ガブリエル「vbhti素敵apfrgt」【1】
一方通行「いいか、フラグってのはなァ」 ガブリエル「vbhti素敵apfrgt」【2】
一方通行「いいか、フラグってのはなァ」 ガブリエル「vbhti素敵apfrgt」【3】


2 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/21 16:33:12.16 F25Xy5fYo 3/411



                   【超今更の登場人物紹介・『天使同盟』の構成員】


【一方通行(アクセラレータ)】


本作の主人公にして『天使同盟(アライアンス)』のリーダー。第三次世界大戦終結後、大天使ミーシャ=クロイツェフになぜか好かれてしまい、
その後の生活はほぼミーシャと共に過ごしている。すき焼き屋で風斬氷華とフラグを立てると同時に
『天使同盟』を結成。酒の勢いとノリで結成したこの組織が、後に全世界を揺るがすとんでもない同盟になることは、
その時の彼には予想も出来なかった。ちなみに、この本作では結構な数の女性とフラグを立てている。


【ミーシャ=クロイツェフ】


『神の力(ガブリエル)』。本作のヒロインにして『天使同盟』の顔。第三次世界大戦終結後、
なぜか一方通行に懐いてしまい生活を共にすることになる。身長ニメートル以上、
全身をすべすべとした白の布で覆い、顔のパーツを全て凹凸で再現しているその姿はまさに異形。
しかし彼女の仕草にはどこか可愛らしい一面も見られる。ような気がする。一方通行からはガブリエルと呼ばれている。


【風斬氷華(ヒューズ=カザキリ)】


『天使同盟』の清涼剤にして唯一、常識を持ち合わせている女の子。でも最近はそんな事なくなってきた。
すき焼き屋の一件で一方通行に特別な感情を抱く事になる。キレるとエイワスですら手が付けられなくなる。
アルコールが入ると脱衣属性が追加される上に酒癖の悪さは天下一品。
基本的には誰に対しても敬語で、レッサー以外には『さん』付けで名前を呼ぶ。ミーシャの事は『天使さん』。
超絶鈍感クソ野郎こと一方通行相手に唯一『女性』を意識させた女傑。最もフラグらしいフラグが立っている。


【エイワス】


『天使同盟』のジェネラルマネージャーにして最強の聖守護天使。霊的存在。銀河系宇宙の悪鬼。
アレイスター=クロウリーに必要な知識を全て授けた大馬鹿野郎。ある時は巨乳のパツ金ねーちゃん。
シリアスパートもそうだが、特にギャグパート時のエイワスは全宇宙最強の存在。出来ない事がない。
『天使同盟』結成に興味を持ったため、垣根帝督というお土産を手に彼らに接触した。
その瞬間、『天使同盟』の命運は決まってしまったのかもしれない。ドラコ=アイワズという偽名をよく使う。
男にもなれるらしいが、現時点でそのような描写はなく、また需要もない。


【垣根帝督】


学園都市第二位の超能力者(レベル5)、『未元物質(ダークマター)』。イケメンホストかぶれ。
現時点では彼が最後の『天使同盟』構成員である。イジラれ役。すぐ死ぬ。
本作で最も死亡フラグを積み重ねてきている男。しかしそれらを全て跳ね除けている彼は
実は不死身なのではないかと囁かれている。あとすぐ死ぬ。でもたまに本気でかっこいい一面を見せる。
一方通行とのデートにおいて自らの心の内を暴露。以降はミーシャを守るために彼らと行動を共にする。
実は彼、この本作で三人ほどちゃんとしたフラグを立てている。


4 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/21 16:48:18.37 F25Xy5fYo 4/411



――――――――――――――――――――――


断続的に続く低い震動にもそろそろ慣れてきた頃だった。


ステイル=マグヌスと神裂火織、そしてヴェントはほぼ同時に"ある異変"に気づく。


「・・・・・・。 なんだ・・・・・・?」


ステイルは辺りを見回す。彼の目に映るのは相変わらず、崩れ落ちた数々のビルや
『回収部隊』のファイブオーバーと『未元物質(ダークマター)』の仮面の兵士達。
そしてその軍勢の死屍累々。

それ以外に異変が起きている所などなかった。
にも関わらず、ステイルは漠然と"変化している空間"を感じ取っていた。

彼は口に咥えていた煙草を指で挟み、それを魔術によって炎剣へと変える。
その炎剣を振るい、こちらに迫ってくる『回収部隊』を薙ぎ払う。
背後から鼓膜が吹き飛びそうな轟音を吐き出しながらファイブオーバーがガトリングレールガンを
射出してきたが、ステイルは辛うじてそれを避けると返す刀で炎剣を振るって撃破した。


5 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/21 16:49:17.58 F25Xy5fYo 5/411



周囲にいる神裂とヴェントを見ると、やはりステイルと同じように
戸惑いを隠せないという表情を浮かべていた。


(何かがこの学園都市の一角に入り込んできている・・・・・・? だが何が?
 人間・・・・・・特に魔術師なら僕らでもそれを察知できるはずだ)


ステイルが抱いた違和感は、白の絵の具を溶かした水の中にどす黒い墨を一滴垂らしたような、
そんなニュアンスのものだった。
白い水がこの学園都市という世界なら、黒い墨はその外部から滲むように入り込んできた"何か"。

しかもその黒い墨は、じわじわと拡散していってるような気さえした。
だが三人は漠然とそう捉えているだけで正体までは見当もつかない。

ジュバッ、と物が溶ける音がした。
ファイブオーバーが頭から真っ二つに焼き切れる。
中の仮面の兵士ごと左右に開いて倒れたファイブオーバーの先にいたのは垣根帝督だった。


6 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/21 16:50:23.80 F25Xy5fYo 6/411



「・・・・・・これで何匹目だ?」

「・・・・・・・・・・・・知るかよ。 いちいち数えてたら・・・・・・、キリ、ねえぞ・・・・・・」


ステイルが言葉を投げかけるも、垣根は返事をすることさえ億劫そうだった。
全身は魔術の使用の反動による自分の血で真っ赤に染まっており、『回収部隊』から受けた攻撃は彼を確実に衰弱させていた。
誰の目から見ても、これ以上の戦闘続行は不可能判断できる。

神裂が顔をしかめて垣根に忠告する。


「・・・・・・能力者が魔術を使用すれば死に及ぶ危険があると、イギリスであれほど注意したのに・・・・・・。
 その上これほどの長時間の戦闘、もうこれ以上は危険すぎます。 あなたは下がっていてください」

「うる、せえな・・・・・・、つか馬鹿かよテメェは。 ヤツらの狙いはこの俺なんだぞ?
 俺が戦線離脱したところで・・・・・・、あいつらはストーカーみてえに俺を追ってくるだけだ」


7 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/21 16:51:48.36 F25Xy5fYo 7/411



「しかし・・・・・・」

「なぁに、まだ俺は戦えるさ。 "こいつ"でな」


と、話し込んでいるうちに。気付けば『回収部隊』は一〇〇以上の数で垣根達の周囲に出現していた。
彼ら四人で相当の数を撃破したはずだが、一体あと何体相手にすればこの地獄は終わるのか。
しかし垣根の表情には焦燥でも諦めでもなく、今まで隠していた手品の種を披露する時のような
意地の悪い笑みが浮かんでいた。

そして彼は呟く。


「えーっと・・・・・・。 世界を構築する五大元素の一つ、偉大なる始まりの炎よ」
                   (MTWOTFFTOIIGOIIOF)


それを聞いたステイルの心臓が跳ね上がる。まさか、と彼は周りに潜む『回収部隊』の事など
気にもかけず垣根の言葉を聞き続ける。


8 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/21 16:53:03.26 F25Xy5fYo 8/411



「それは生命を育む恵みの光にして、邪悪を罰する裁きの光なり。
                (IIBOLAIIAOE)
 それは穏やかな幸福を満たすと同時、冷たき闇を滅する凍える不幸なり。
                (IIMHAIIBOD)
 その名は炎、その役は剣。
     (IINFIIMS)
 顕現せよ、我が身を喰らいて力と為せ」
         (ICRMMBGP)


神裂の目も驚愕によって見開かれた。彼女は垣根がぶつぶつと呟いている言葉の意味を知っている。
そしてステイルもその言葉の意味を知っている。いや、知っているどころの騒ぎではない。
その言葉は、その呪文は、ステイル自身も戦闘時に頻繁に口にする呪文だ。

『未元物質』の兵士が翼を広げて垣根に突進してくる。
それを合図にするように、垣根は咆哮してその名を叫んだ。




「『魔女狩りの王(イノケンティウス)』!!!!!」




9 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/21 16:54:46.11 F25Xy5fYo 9/411



垣根が叫ぶと同時、彼のすぐ側で局地的な爆風が発生した。
不可思議の法則を含むその爆風は飛び込んできた『未元物質』の兵士を
片っ端から薙ぎ払い、そして垣根自身も吹き飛んでしまう。


垣根の魔術によって出現したそれは、人の形をしていた。
それは真紅に燃え盛る炎に包まれており、その炎の中にはドロドロの黒い重油のような塊が蠢いている。
しかし完璧に行使出来てはいないのか、時折その形が歪む様を確認できた。


『魔女狩りの王(イノケンティウス)』。
それはステイル=マグヌスという炎の術式を操る魔術師が最も得意とし、最強の切り札でもある
魔術だった。


「ば、かな・・・・・・」


ステイルはそんな自分の切り札をも行使してしまった"能力者"に対し、一種の畏怖すら抱いた。
ルーンの基礎魔術だけならまだいい。炎剣も、何らかの措置があれば能力者でも使用できるかもしれない。


10 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/21 16:56:43.05 F25Xy5fYo 10/411



だがこの『魔女狩りの王』だけは話が違いすぎる。その辺の素人が、その辺の魔術師でも、
ここまで容易く扱えてしまうような安い魔術ではない。
ステイルは自身以外の者が顕現させたイノケンティウスを見て、激しい違和感を覚えた。


ゴッッ!!と、鈍器を物凄い勢いで射出する音が背後から聞こえた。
さっきから一人黙々と『回収部隊』を殲滅しているヴェントの『女王艦隊』が
氷で構成された巨大な錨を発射している音だった。

ヴェントは口から大量の血を吐き出しながらイノケンティウスを操る垣根を、呆れた目で見ながら問いかける。


「アンタ、魔術師だったの? 学園都市から来た能力者だって自分で言ってたじゃない」

「・・・・・・今日付けで、能力者兼魔術師だクソったれ・・・・・・。 ゲホッ・・・・・・!!!
 今みてえに・・・・・・血反吐ぶちまけながら必死で習得したんだぞ? スゲーだろ・・・・・・。
 まぁ・・・・・・、このイノケンさんは今日が初めてだけどな、まぁまぁの出来だろ? "センセイ"」


そんな言葉でステイルに声をかける垣根の視線は、もうステイルの方を向いていなかった。
どこを見ているのか分からないほどに彼は焦点が定まっていない。
その目からもダラダラと血が涙のように溢れ出しており、地についている足は酒に酔ったかのように
フラフラとあちこちに移動している。


11 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/21 16:58:53.72 F25Xy5fYo 11/411



こんな状態になっても戦い続ける垣根の闘志を見た『回収部隊』達から、息を呑む声が漏れた。
完全に垣根に気圧されている。
もはや『未元物質』の仮面でどう演算しようとも、今の垣根を討ち倒す手段が得られなかった。

もちろん神裂やヴェントはその隙を見逃さない。天草式の女教皇は手に携える七天七刀で
『未元物質』の兵士を斬り倒していく。三人の魔術師は垣根から『未元物質』の性質を説明されている。
なので仮面や黒のコスチュームの僅かな隙間を縫って確実に敵を斬り伏せていく事が出来るのだ。


「―――――『唯閃』」


独自の呼吸法で魔力を精製し、極限にまで強化した肉体から織り成す最強の抜刀術は、
魔力という未知の法則に対応出来ていない仮面の兵士を一瞬で戦闘不能にしてしまう。

ヴェントはさらに簡素な作業で『回収部隊』を駆逐していった。
霊装の力で呼び出した『女王艦隊』の砲台から氷の錨を射出する。
正確に『未元物質』の仮面に命中させ、確実に『回収部隊』の数を減らしていった。

もちろん、『回収部隊』もただ受けに回っているだけではない。
仮面の兵士は『未元物質』による魔術とはまた違う未知の法則で攻撃を仕掛けるのだが、
最悪なことにあちらには『未元物質』のオリジナルにしてスペシャリスト、垣根帝督がいる。


12 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/21 17:00:10.23 F25Xy5fYo 12/411



事前に『未元物質』の情報を得ていた魔術師たちはこの短時間で物の見事に『未元物質』に対応し、
大勢の『回収部隊』を前に完璧な立ち回りで応戦しているのだ。


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおォォッッ!!!!!!!!」


垣根の叫びに応じるように、彼の呼び出したイノケンティウスが激しく燃え盛る。
その怪物が腕を振るうだけで炎剣とは比較にならないほどの爆熱が発生し、
建造物の位置や地形などを考慮した完璧な陣形を展開しているはずの『回収部隊』を
その地形ごと焼き払っていく。

垣根のイノケンティウスを見て呆けていたステイルもようやく我に返り、
自らが第一九学区に仕込んだルーンを使用して同じようにイノケンティウスを顕現させる。
一体でも驚異であるイノケンティウスが、更に追加でもう一体。


超能力者と魔術師が織り成す、灼熱の魔王の二重奏。


もはや『回収部隊』は為す術がなかった。戦意を喪失し動きが緩慢になるが、
垣根帝督は容赦をしない。


『星の欠片』消滅まで残り三〇分も無くなった頃、『回収部隊』はついに垣根の前に現れなくなった。


14 : 次回予告はここまでです。  ◆3dKAx7itpI - 2011/05/21 17:07:56.14 F25Xy5fYo 13/411




                          【次回予告】



『あるんだよ、俺にはまだ"とっておき"ってやつがな・・・・・・。 ロシアで・・・・・・、
 魔術訓練合格祝いとかでエイワスのヤツから貰ったもんがあるんだが・・・・・・。
 こいつを使えば俺はまだ魔術で暴れられる・・・・・・あいつらを駆除出来るんだ』
―――――――――――『天使同盟(アライアンス)』の構成員・垣根帝督




『ofugcnbkshg蹂躙jvdngjr続行fjkcnbg』
―――――――――――自我の崩壊と堕落が渦巻く悪魔・ミーシャ=クロイツェフ




『・・・・・・ったく、天使でも悪魔でも、そのやンちゃっぷりは変わンねェな。
 おとなしくしてろ』
―――――――――――『天使同盟』のリーダー・一方通行(アクセラレータ)




『(・・・・・・何、あれ・・・・・・? 私と、一方通行さんと、天使さん以外に・・・・・・"何か居る")』
―――――――――――『天使同盟』の構成員・風斬氷華




48 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/22 18:14:17.26 OT7UuePSo 14/411



『回収部隊(アンチツヴァイ)』が垣根たちの前に姿を現さなくなっても、
彼らはしばらく警戒を解くことはなかった。

そして完全に『回収部隊』の気配がしなくなった事を察知した四人は
それぞれの武器を収めて一息つく。さっきまでの雰囲気とは一転、
彼らのいる一角はずっと続いている震動を除けばすっかり静けさを取り戻していた。


「垣根帝督!!」


初行使であるイノケンティウスをいきなり実戦で使用した垣根は、既に身も精神もズタボロだった。
顕現させたイノケンティウスを消した瞬間、垣根は抵抗することなく地面に倒れ伏せる。
ステイルは焦燥しながら垣根の側に駆け寄った。


「垣根」

「・・・・・・ああ? あ、ああ・・・・・・んだよ、張り合いのねえヤツら。
 まだ何匹か残ってんだろうが・・・・・・どこいった?」

「怖じ気づいたんじゃないの? さっきまでのヤツらの勢いが止まってる。
 多分、アンタが魔術を使用するって点がよっぽどイレギュラーだったんでしょうね」


49 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/22 18:15:28.29 OT7UuePSo 15/411



やれやれ、とヴェントはため息をついて目についたビルの瓦礫に座り込む。
その崩れたビルの頂上には神裂がいた。聖人である彼女の視力は八.〇。
肉眼でも一キロメートル程度先の景色なら鮮明に視界に収めることが出来る。

その馬鹿げた視力を用いて、神裂は周囲を見張っていたのだが。


「・・・・・・どうやら、本当にもう『回収部隊』が攻めてくるという事は無さそうですね。
 垣根帝督の話では敵の数は一五〇〇。 まだ数百程度の勢力くらいは残っていそうですが・・・・・・」

「一方通行や風斬氷華。 ミーシャ=クロイツェフやアレイスター=クロウリーの状況は?」


ステイルが新たな煙草を吹かしながら質問する。


「私達ほどの魔術師が同時にここで戦闘を行いましたからね。
 この辺一帯はそれはもう見通しのいい景色になっていますよ。 
 ・・・・・・ただ、やはり私が視界に収められる限界の範囲にはまだ建物が残っています。
 申し訳ありませんが、一方通行達の様子までは確認できません」

「おいおい、お前・・・・・・どんだけ視力良いんだよ・・・・・・。 やっぱ・・・・・・、
 年季が入ってると視力も鍛えられるもんなのかぁ・・・・・・?」

「私は聖人だっつっただろこのド素人が。 もう一回『唯閃』ぶちかまされてえか?」


50 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/22 18:16:16.56 OT7UuePSo 16/411



ぴくぴくとこめかみを引きつらせながら神裂は腰の七天七刀に手をかける。
しかしそれを見ても垣根はただ弱々しく笑うだけで、何の行動も起こさなかった。
予想外のリアクションに神裂の顔が曇る。


「・・・・・・本当に大丈夫ですか? 垣根帝督。 ミーシャの捜索は一旦中止して
 今すぐにでも病院に向かった方がいいと思います。 私の知人にも一人、
 能力者でありながら魔術を使う者がいますが、あなたほど甚大な反動を被っている姿は見たことがありません。
 女子寮で魔術の話をしたときにあなたはやたら魔術に関して食いついていましたが、その事で
 ルチアがえらく心配していましたよ? 『あの男は必ず無茶を起こす』、と。 ・・・・・・その通りでしたね」

「・・・・・・・・・・・・あの小姑、そんな事言ってたのかぁ・・・・・・」


浅い呼吸を繰り返しながらヘラヘラと笑う垣根に、魔術師の三人は呆れるしかなかった。
こんな見るも無残な姿になってまで、なぜ彼は魔術という力を使って戦うのか。

ステイルがその事について言及してみようかと思っていると、


「さて、と」


51 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/22 18:16:54.64 OT7UuePSo 17/411



ガバっと。急に垣根は仰向けの体勢から勢い良く体を持ち上げた。
突然の行動に三人は目を点にする。


「・・・・・・急にどうしたの? 魔術の使い過ぎで頭やられちまったか」

「まだ仕事が残ってんだろうがよ。 『回収部隊』はまだ全滅してねえ」


どうやら彼は『回収部隊』の残存勢力を全て殲滅する気でいるらしい。
身体中から血を滴らせている状態で無茶を起こそうとする垣根に、三人の魔術師は『とある少年』の姿を重ねる。


「・・・・・・あなたがこれ以上の戦闘を続けるのは無謀を通り越して馬鹿です。
 残りの勢力が出てきたら私達で応戦しますから、あなたはここからどうにかして
 脱出し、急いで病院に向かって――――――」

「・・・・・・『回収部隊』のクソどもは・・・・・・、この第一九学区の地下にいる」


52 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/22 18:17:49.31 OT7UuePSo 18/411



神裂の忠告を遮って垣根は言った。


「まだ多分、一〇〇以上の勢力が地下で蠢いてんだ。 ・・・・・・ゴキブリみてえにな。
 気持ち悪い、そんな害虫共は駆除しなきゃならねえ・・・・・・、あいつらが出てきた原因も
 俺にあるしな。 テメェらが出しゃばる必要はねえんだよ」

「だがその体でどう戦うんだ? 君の『未元物質』とやらはアイツらには通用しないんだろう?
 まさかまだ魔術を使って戦おうだなんて言うつもりじゃないだろうね」

「あるんだよ、俺にはまだ"とっておき"ってやつがな・・・・・・。 ロシアで・・・・・・、
 魔術訓練合格祝いとかでエイワスのヤツから貰ったもんがあるんだが・・・・・・。
 こいつを使えば俺はまだ魔術で暴れられる・・・・・・あいつらを駆除出来るんだ」


焦点の定まってない、虚ろな目で垣根は薄く笑う。
彼の言っている事が理解出来ない一同だったが、垣根がおもむろにズボンのポケットから
取り出した『それ』を見て、ステイルは戦慄した。


53 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/22 18:18:22.78 OT7UuePSo 19/411



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・垣、根。 それは・・・・・・・・・・・・!?」

「さあな。 名前とかは知らねえが・・・・・・これで魔術が使えるんだろ?」


ステイルの顔にどっと汗が吹き出る。
垣根帝督が今まさに手で弄んでいるそれは、かつての第三次世界大戦の首謀者が使用していた霊装。




「・・・・・・・・・・・・『自動書記(ヨハネのペン)』の・・・・・・、遠隔制御霊装・・・・・・!!?」




ステイルが干上がった喉で何かを叫んだが、もう遅かった。
何も知らない垣根帝督はその霊装に魔力を込める。


そして――――――。


54 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/22 18:19:30.10 OT7UuePSo 20/411



――――――――――――――――――――――


ここでひとまず『一方通行』、という人物像について再確認しておきたい。
その少年は一体どのような人物か?


一方通行を知っている人間に彼のイメージを聞けば、恐らく大半は『恐怖』、『暴虐』、『化物』など
あまり良くないイメージを抱いていることだろう。
彼と親しい関係を持つ人物に聞けば『お人好し』、『根は優しい』など意外な一面を持っている人間だという
イメージも抱いているかもしれない。

だが今回は彼の内面にではなく、外見について復習しておきたい。


「ofugcnbkshg蹂躙jvdngjr続行fjkcnbg」

「ぐ、がッ・・・・・・!!!」


ミーシャ=クロイツェフという『悪魔』による翼の攻撃で吹き飛ばされる一方通行を、
あろうことか風斬氷華は遠くかに佇んで見ているだけという愚行を犯していた。
天使でさえ、人間がどれだけ束になっても敵わない存在だというのに、今一方通行が
相手にしているのは天使の暴走、悪魔だ。


55 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/22 18:20:30.30 OT7UuePSo 21/411



学園都市の技術で作られた人工天使、風斬氷華は本物の天使にも負けず劣らずの力を秘めている。
そんな彼女と学園都市最強の超能力者、一方通行が共闘することでようやく悪魔の足元に辿りつけるかどうか
といったところだ。


しかし風斬氷華は戦闘に参加し、一方通行と共に悪魔と戦う事も忘れてポカンとした表情を浮かべていた。
彼女の目は、常に悪魔ではなく一方通行の方に向かっている。


「・・・・・・っく。 風斬、何やってンだ!!?」

「・・・・・・あ、え、・・・・・・す、すみません!」


一方通行がボーッと突っ立っている風斬に吠えた。
別に怒っているわけではない。悪魔を相手に同じ場所に留まり続けるという行為が
危険過ぎるため、警告しているだけだ。

しかし風斬は怒鳴られたにも関わらず、そのまま悪魔と交戦する一方通行を視線で追う。


(・・・・・・・・・・・・気のせい、じゃないよね?)


56 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/22 18:21:17.03 OT7UuePSo 22/411



風斬氷華が抱く一方通行の外見のイメージは『白』だった。
外見年齢にそぐわない白い髪、雪のように綺麗な白い肌。そして今も背中から生やしている白い翼。

人物によっては『黒』のイメージもあるかもしれない。彼が戦闘時に現出させる黒翼は
見る者全ての眼球に焼きつくほどの印象を与える。


(一方通行さんは気付いていない? そんな、だってあんなに・・・・・・)


だが、今現在の風斬の目に映っている一方通行は、いつもと少し様子が違っていた。
もちろんその白い肌は相変わらずだが、頭髪に違和感を感じる。


たまに、ほんの一瞬ではあるが、彼の頭髪が『赤』、もしくは『紅』色に見える時がある・・・・・・気がするのだ。


一方通行の眼は確かにいつも紅く輝いているが、頭髪は違う。赤ではないはずだ。
しかも風斬の目に映っている赤は、頭髪が染まっていくというようなものではなく、
『"別の赤い何か"が一方通行と重なり、ブレて、その時少しだけ確認できる』、というものだった。


57 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/22 18:22:15.24 OT7UuePSo 23/411



「あ、一方通行さん・・・・・・!」


どう考えても気のせいではない事を確信した風斬は一方通行に声をかけるが、
悪魔の放つ神の如き猛攻に応じるだけで精一杯なのか、返事は返ってこない。
風斬自身も本当はこんなところでおとなしくしてないで一方通行に加勢するのが一番なのだが、


(・・・・・・何、あれ・・・・・・? 私と、一方通行さんと、天使さん以外に・・・・・・"何か居る")


そう、風斬がさっきからずっと見続けているのは、実は一方通行ではなかった。
かと言って、それはミーシャでもない。

何かが居る、としか表現しようがなかった。黒いもやもやとした煙のような・・・・・・影のような、
そんな不明瞭な"何か"が確実にこの場にいる。
人ではない、しかし獣でもなければ自分のようなAIMの塊でもないし、天使や悪魔でもない。

ただ、それは真っ赤な髪で真っ赤な眼を持っており、それ以外は『黒』で統一されている。これだけはハッキリと確認できた。

しかもそれは、


(天使さんとの戦闘が始まった頃から・・・・・・? 詳しくは分からないけど、さっきからずっと、)




その黒と紅の何かは、まるで一方通行の影であるように、彼の背後にぴったりと寄り添っていた。




58 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/22 18:23:18.39 OT7UuePSo 24/411



悪魔の掌が一方通行に照準を向ける。
その瞬間、既に悪魔の攻撃は放たれていた。

速い、とかそういうレベルで表現出来る速度ではなかった。目視して回避できる攻撃じゃない。
予兆や勘を利用して避けるという手も使ってみたが、なぜか悪魔の攻撃はそれらを全て予想して計算し、
確実に一方通行に攻撃が当たるように設定しているとしか思えなかった。

『神の力(ガブリエル)』は伝達の御使い。予兆、勘などといった第六感をデコイとして加工し、無効化させる。
そして放たれる攻撃は、結局五感を頼って回避しなければならないのだが。


「く、っそ・・・・・・!!!」


一方通行は第六感を捨て、ベクトル操作を使用して周囲の空気を常に感知している状態を保つ。
その空気の流れから読み取れる微妙な変化を察知し、悪魔の攻撃を避けるという手段に出たのだが
それでもギリギリだった。悪魔の放つ未知の攻撃は何度も彼の体を掠める。ダメージは確実に蓄積されていった。


59 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/22 18:23:57.31 OT7UuePSo 25/411



「oaguc滅xapqoub」
「pyvbs終vmergi」
「cmsbk続行vmpneb」

(来るッ・・・・・・!!!)


が、悪魔が仕掛けてきたのは掌からの放射ではなく、背中から伸びる黒紫の水晶。
一〇〇以上に及ぶ禍々しい翼が一方通行の息の根を止めようと全方位から襲いかかってくる。
目を見開く一方通行の視界が闇一色に染まった時、


ガガガギャギャギャッッ!!!! と悪魔の翼を更に包みこむように
光の翼が黒紫の水晶を屠っていった。


「ごめんなさい、出遅れました」


風斬はそのまま悪魔に向かって飛翔し、悪魔の顔面に飛び蹴りを浴びせた。
音速以上の速度慣性が付与された蹴りをまともに喰らった怪物はそのまま数百メートル以上も吹き飛んだ。
何棟ものビルを薙ぎ倒しながら地面を転がる悪魔を見て、風斬は悲痛の表情を浮かべる。


60 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/22 18:24:44.50 OT7UuePSo 26/411



「あの、一方通行さん・・・・・・」

「なンだ?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


風斬は舐めるように一方通行の全身を見る。見られている本人は何がなんやらという顔をしている。
今の一方通行にはあの不気味な『影』は見当たらない。気のせいではないはずだが、とりあえず一方通行に
悪影響のようなものは出ていないようだ。


と、不意に一方通行の前から風斬の姿が消えた。遅れて地面が噴火したような音が耳に飛び込んでくる。


「風斬ッ!!」


61 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/22 18:25:28.09 OT7UuePSo 27/411



爆発音がした方を向くと、ビルの瓦礫と一緒に風斬がぐったりと倒れていた。
反対側に首を向けるとそこにはついさっき風斬に蹴り飛ばされたはずの悪魔が不気味に佇んでいた。


「oduxfjw残存勢力defjjwa一gtsnbv」


悪魔が地面を踏み込んで風斬に向かって突進する。踏み込まれた地面は深く陥没した。
一方通行は背中の白い翼を前面に盾のように展開して悪魔の前に立ち塞がり応戦する。
翼に触れるか触れないかのところで急停止した悪魔は掌を天にかざした。

バキバキバキッ!!!、と氷が軋むような音を上げて虚空から翼と同じ素材の剣が出現した。
一秒もかけず出現させたその水晶を手でつかみ、一方通行に天の一撃を振り落とす。
第一位の展開した白の翼が濡れた和紙のようにあっさりと引き裂かれたが、


「fkgjgms消失vkgtjwvm」


そこに一方通行の姿は無かった。破れた布団から飛び出たように白い羽根が宙に舞っている。


62 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/22 18:26:15.53 OT7UuePSo 28/411



背中に強い衝撃が走った。怪しく輝く悪魔の翼が粉々に砕かれていた。
悪魔が首を後ろに回そうとするが、その前に頭を何者かに掴まれてしまった。


「・・・・・・ったく、天使でも悪魔でも、そのやンちゃっぷりは変わンねェな。
 おとなしくしてろ」


一方通行は悪魔の頭を掴んだまま腕力のベクトルを操作して思い切り振りかぶった。
悪魔の頭が地面に激突し、ゴム鞠のように跳ねる。
それで終わりではない。一方通行は白の翼を聖剣のように変形させ、追撃を仕掛ける。

即座に体勢を整えた悪魔がすかさず反撃に出ようとするが、前方から強い力を感じた。
見ると、先ほど戦闘不能にしたはずの人工天使が眩く輝く剣を握ってこちらに飛翔している。
片方の手に携える剣で一方通行を、もう片方の掌で風斬氷華に放出攻撃を実行しようとしたが、数瞬遅かった。


「叩き込めェェ!!!!!!!」


風斬の剣が悪魔の体を斜め一直線に切り裂くのと、一方通行の翼が悪魔の背に突き込まれたのは同時だった。


63 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/22 18:27:14.76 OT7UuePSo 29/411



前後からの尋常ではない威力を挟み撃ちで喰らった悪魔は体をガクガクと痙攣させる。
そのまま吹き飛ぼうにも前と後ろには一方通行と風斬氷華がいるためなかなかその場から離脱できない。

キリキリ・・・・・・と二つの力が更に深く切り込まれていく。膨張していくエネルギーに耐えられなくなった悪魔は、


「fxnpsqi散mmclvkv」


自身の体の中にある、かつて『天使の力(テレズマ)』と呼ばれるエネルギーだった"どす黒い"オーラを
全て周囲に爆散させた。
墨より黒く、闇より深い黒の衝撃波は一方通行と風斬を巻き込み、周囲数キロに渡って広がっていった。


「が・・・・・・ァ・・・・・・ッ!!?」

「きゃっ!!」


64 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/22 18:27:59.74 OT7UuePSo 30/411



風斬の方は間に合った。悪魔がエネルギーを拡散させる寸前に一方通行は風斬の体を押して突き飛ばしたのだ。
ベクトル操作によって風斬の体は恐らく爆破の範囲内から逃れることが出来たはずだ。
しかし一方通行自身は間に合わなかった。翼を展開させて身を守ったにも関わらず体を襲ってきた衝撃は
全身の骨が砕け散らないのが不自然なくらいの威力だった。

地面を何度も跳ねた一方通行は口から大量に血を吐き出し、気道を確保する。
遠くのほうで轟音が鳴り響いてきた。風斬と悪魔が激突しているのだろう。



(はァ・・・・・・ちくしょう、今までも何度もあの馬鹿とじゃれ合ってきたが・・・・・・
 いざこォして本気でやりあってみると、改めてあいつの化物っぷりを再確認出来たな。
 ・・・・・・だがあいつを"倒す"必要はねェンだ。 あいつを・・・・・・救えれば・・・・・・)


一方通行は乱れた呼吸を整え、戦闘音が鳴っている方を見やる。


(・・・・・・待ってろよ)


口元の血を拭い、戦場へ駆けるために一歩踏み出したところで、


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


65 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/22 18:29:03.46 OT7UuePSo 31/411



一方通行は動きを止めた。今すぐにでも風斬の援護に向かわなければならないのだが、
第一位の怪物はそれよりこの"違和感"を優先した。

また、あれだ。あの粘つくような視線が一方通行を突き刺している。
一方通行はゆっくりと後ろを振り向くが、そこに映ったのは無残な姿に成り果てた街並みだけだった。
相変わらず視線は感じる。さっき感じたものよりも強く感じる。

『監視』、という雰囲気の視線ではなかった。どちらかと言えば『観察』の方が近い。
何者かは知らないが、上から見られているような高圧的な視線に彼は不愉快そうな表情を浮かべる。
この視線と似たようなものを感じたことがあった。あの金髪の怪物も、こんな目で自分を見ていた気がする。


(・・・・・・あの野郎と同類の何かか? 考えられねェが・・・・・・)


そのまましばらく一方通行は動きを止めて周囲を警戒したが、結局何かが現れるというような事は無かった。
しかし、彼を見つめる視線はより一層強くなっていた。息遣いまで聞こえるような気さえした。


遠くから聞こえてくる轟音が激しくなった。一方通行は視線の正体についての考察は一度放棄し、
悪魔と交戦を続ける風斬を助けるために背中から翼を噴出させて飛翔する。


『ゲーム』開始から一時間四〇分が経過していた。
一方通行は果たして気がついているのだろうか。


自分が噴出させている背中の白い翼が、根元から徐々に黒く染まっていっている事に。


66 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/22 18:30:23.82 OT7UuePSo 32/411



――――――――――――――――――――――


第一九学区の地下通路は迷路のように入り組んだ構造になっていた。
普段は下水道として使用されているのだが、住人がいなくなった今では機能していない。


代わりに、第一九学区の地下には『回収部隊(アンチツヴァイ)』の残存勢力がいた。
ファイブオーバーに搭乗している『未元物質(ダークマター)』の仮面をつけた兵士で構成された
対第二位専用特殊部隊。

地上でほぼ全ての勢力が垣根帝督他、魔術師によって殲滅されたため
今地下に残っているのはわずか一〇〇と少し。最初の一五〇〇に比べたら何とも頼りない数まで減っていた。


(・・・・・・どうなっている。 予定と違うじゃないか。 大体、・・・・・・)


その残存勢力の中に、ファイブオーバーに乗り込んでいない仮面の兵士がいた。
彼は地下通路の壁に背を預け、精も根も尽きたような顔でしゃがみこんでいた。
この兵士は一番最初に『回収部隊』として垣根帝督と接触した男だった。


67 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/22 18:31:25.42 OT7UuePSo 33/411



男は手に持っているGPSに似た機械の画面を睨みつけるように見つめる。
何度も同じスイッチを押し、何度も地上の状況を確認したが、結果は同じだった。
全滅。実際はまだこの地下に勢力は残っているため全滅という表現は正しくないが、
たった一人の少年を討つだけの任務にも関わらず『回収部隊』の勢力は著しく低下している。

全滅という表現は、そういう意味では正しいかもしれない。


(・・・・・・大体、なんだあれは。 未知の法則だと・・・・・・!? 『未元物質』を行使する
 超能力者が・・・・・・未知の法則を手に入れているとは・・・・・・ワケがわからない。
 上層部から送られた資料にはあんな力についての説明は記載されていなかったぞ・・・・・・。
 我々が使用している『未元物質』でも対応出来ない法則・・・・・・)


男は頭をバリバリと掻き乱し、手に握っていたGPSを乱暴に叩きつけた。
GPSが粉々になった音が地下通路に反響し、周りのファイブオーバー達がこちらを向いてくるが、
彼は微塵も気にしない。


(クソったれ・・・・・・!!! それになんだ、あの妙な連中は・・・・・・!!
 『魔術師』・・・・・・だの何だのとほざいていたが・・・・・・やはりそうなのか)


68 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/22 18:32:20.97 OT7UuePSo 34/411



男は聞いたことがあった。この世界には科学だけでは解明できない、いわゆる『オカルト』と呼ばれる
法則が蔓延っている勢力があると。
それは魔術と呼ばれ、近い未来、この学園都市は全勢力を動員してその勢力と戦争を起こそうとしていると。

先日の第三次世界大戦はその前哨戦のようなものだと、聞いたことがあった。


(その戦争が・・・・・・この状況の事だとでも言うつもりか・・・・・・ふざけている・・・・・・!!!)


垣根帝督の討伐は断念しよう。男はハッキリと心に誓った。
もはや『未元物質』を以てしてもファイブオーバーを出撃させようとも、あの男には通用しない。
垣根帝督だけではない、彼の周りには今、意味不明のイレギュラーが複数存在している。
しかもそいつらは全て垣根帝督の味方だ。イレギュラーにイレギュラーが重なるというこのふざけきった茶番。

付き合う道理はなかった。任務を果たせなければ『回収部隊』は"上"から何らかの処罰を受けるだろうが、
知った事ではなかった。 地上に出て嬲り殺されるより、まだこの地下で息を潜めていたほうがいい。

そう思っているのは彼だけではない、他の『回収部隊』の構成員も全員が同じ気持ちだった。
彼らは地上の騒ぎが完全に収まるまで、金輪際ここから動かないと覚悟を決めた。


69 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/22 18:33:14.65 OT7UuePSo 35/411



実際、その判断は正しいだろう。前述したとおり、今回の任務はあまりにもイレギュラーが過ぎる。
"ただの学園都市第二位"なら恐らく彼らは任務を遂行出来ていたはずだ。
しかしまず最初に発生したイレギュラー、垣根帝督が『魔術』という力を行使し、『回収部隊』を
大幅に撃破してしまったこと。

そしてもう一つのイレギュラー、垣根帝督を援護する魔術師達の出現。
こんな不運が重なってしまっては任務の遂行など到底不可能だ。


だから、


「ん?」


天井から砂埃が落ちてきたかと思った次の瞬間、直径数メートルもの光の柱が
地下通路を貫き、『回収部隊』の残存勢力の何十パーセントかを一瞬で蒸発させ、
地上の方から獣のような咆哮が轟き、


その咆哮が垣根帝督のものだと知った時、男は今度こそ垣根帝督という少年に関わった事を後悔した。


71 : 次回予告はここまでです。  ◆3dKAx7itpI - 2011/05/22 18:44:56.13 OT7UuePSo 36/411




                          【次回予告】



『ぎ、ぎゃは、ぎゃはァはははっはははははははは!!!!!! が、ァ・・・・・・!!
 か、け、警告・・・・・・ッ、 "第禁章第二節"・・・・・・!!!! ぐ、ぅ、「自動書記」に
 正体不明の法則が介入・・・・・・、ただ、ちに・・・・・・、』
―――――――――――『天使同盟(アライアンス)』の構成員・垣根帝督




『(ふ、ざけンじゃねェぞ・・・・・・!! 『天体制御(アストロインハンド)』だったか・・・・・・、
 宇宙空間にある星を動かす馬鹿げた魔術は使えねェンじゃなかったのかよ!?)』
―――――――――――『天使同盟』のリーダー・一方通行(アクセラレータ)




『あ、一方通行さんから・・・・・・離れてください!! これ以上彼に付き纏わないで・・・・・・!!!』
―――――――――――『天使同盟』の構成員・風斬氷華




『命令名「一掃」――――――投下』
―――――――――――自我の崩壊と堕落が渦巻く悪魔・ミーシャ=クロイツェフ




109 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/24 19:11:50.36 Pe+S46b2o 37/411



――――――――――――――――――――――


「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
 おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
 おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!!」


特撮映画に登場する怪物でも、こんな咆哮は出さない。
学園都市全域に響き渡るその号哭は、信じられないことに人間の喉から発せられている声だった。
人間の喉の機能にも限界はある。だがこの咆哮はそんな限界などぶち破って発せられているとしか思えなかった。


学園都市第二位の超能力者。垣根帝督は全身から激しく出血を起こしながら尚も叫び続ける。


「あ、ァああああああああァァァあああァァァァああああああああああああァァァあああああ!!!!!!!!」

「ぐ、ぅ・・・・・・!!! よせ、垣根帝督!!!」


垣根の近くにいた魔術師、ステイル=マグヌスが必死に叫んで彼を止めようとするが、
一〇万三〇〇〇冊という大容量の原典の知識が頭に流れ込んでいる垣根の前では、
ステイルの叫びも小鳥のさえずりにしかならなかった。


110 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/24 19:13:02.17 Pe+S46b2o 38/411




『自動書記(ヨハネのペン)』。魔道図書館『禁書目録(インデックス)』に仕掛けられたその魔術に
外部から干渉出来る禁断の霊装を握り締め、垣根は狂ったように魔術を連発していく。
垣根の眼球は真っ赤に輝いていた。その眼球には魔方陣が浮かび上がっており、
目と連動して動く魔方陣と同時に、辺り一帯の空間に大きな裂け目が発生していた。


その裂け目から射出される光の柱、『竜の息吹(ドラゴンブレス)』は容赦なく地下に潜んでいた
『回収部隊』を塵にしていく。『回収部隊』は地下約五〇〇メートルという深度に位置していたが、
『竜の息吹』の前ではその程度、壁にすらなっていなかった。


「こ、こんな・・・・・・まさか・・・・・・どうして・・・・・・!?」


その光景を神裂火織は体を震わせながらしばし呆然と眺めていた。
かつて、彼女はステイルと共に目の前の光景を見たことがある。インデックスという、同じイギリス清教に
所属する仲間が放った『竜の息吹』で、とある悲劇が起きた。

その悲劇が、また繰り返されるとでもいうのか。


111 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/24 19:13:49.74 Pe+S46b2o 39/411



「ステイル!!!」

「分かっている・・・・・・!!!」


『自動書記』状態の垣根の前ではステイルも神裂もただの雑魚同然と化してしまうが、
だからと言ってこのまま彼を放置するわけにもいかない。
特にステイルにとってはあれほど忌々しい霊装も存在しない。


「あなたも!!! 垣根帝督を止めてください!!」

「・・・・・・遠隔制御霊装。 そうか、フィアンマの野郎が使ってたのと同じ・・・・・・!!!」


神裂に声をかけられたヴェントは『女王艦隊』の砲身を全て垣根に向ける。
だが意味があるとは思えなかった。魔道図書館の全ての知識を手に入れた化物の前に、
通常の魔術で対抗出来るとは考えられなかった。


実際、その通りだった。垣根は口元を三日月のように引き裂き、狂気の笑みを浮かべながら、


112 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/24 19:14:52.35 Pe+S46b2o 40/411



「ぎ、ぎゃは、ぎゃはァはははっはははははははは!!!!!! が、ァ・・・・・・!!
 か、け、警告・・・・・・ッ、 "第禁章第二節"・・・・・・!!!! ぐ、ぅ、『自動書記』に
 正体不明の法則が介入・・・・・・、ただ、ちに・・・・・・、」


ガシャアアアアアアアアン!!!!!!、というけたたましい音が炸裂した。
垣根が背中から一二枚、数百メートル以上もの『未元物質』の翼を現出させた音だった。
しかもその翼は、いつもの『未元物質』とは異なっていた。


「ぎ、ぐ・・・・・・ごぼっ。 だ、第禁章第一九節・・・・・・!!!! 『聖ジョージの聖域』に
 不可思議の法則の介入を・・・・・・か、確認・・・・・・!!! 受諾、許可、融合を・・・・・・、を、お、
 おおおおあああああああああああああああああああああああああッッッ!!!!!!」


『未元物質』の翼はこの世の全ての光を飲み込んだのかというように発光する。
太陽が地上に舞い降りてきたかと錯覚するほどの光を放つ翼に、三人は目を背ける他なかった。


「喰らえええええええええええええええええええええッッ!!!!!!!」


三人の魔術師はあまりの光量に目を疑うことすら出来なかった。

ただ確実に分かったことは、垣根が現出させた背中の一二枚の翼から、
一斉に『竜の息吹(ドラゴンブレス)』が発射されたことだけだった。


113 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/24 19:15:50.41 Pe+S46b2o 41/411



冗談のような光景だった。


垣根帝督が背中の翼から放った『竜の息吹』が、四方八方に飛んでいく。
一閃でも宇宙空間まで到達出来る射程距離を持つ殺人光線が、ステージレーザーライトのように
無茶苦茶な方向へと射出されていく。
ビルや地面が閃光によって無と化していく。そしてそれらは瞬時に光り輝く白い羽根へと変化した。

ステイルや神裂、ヴェントが『竜の息吹』で消し飛ばなかったのは奇跡でしかなかった。
咄嗟の判断でその場に伏せた事で辛うじて難を逃れていた。


(・・・・・・学園都市は・・・・・・!!?)


ランダムな方向へ射出された『竜の息吹』によって学園都市そのものが吹き飛んでしまったのではないかと
ステイルは顔に冷や汗を浮かべながらゆっくりと伏せた顔を上げる。

そして彼は更に驚愕する。

あらぬ方向に飛んでいった『竜の息吹』は、第一九学区周域に展開されている光のカーテンに衝突すると、
それを貫くことなく霧散してしまった。


114 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/24 19:17:39.09 Pe+S46b2o 42/411



(馬鹿な・・・・・・!? 全てを無に帰する『竜の息吹』を完全に無効化しているだと・・・・・・!?
 ・・・・・・なんなんだあの壁は。 出現した時から分かってはいたが、とても十字教の知識だけで
 説明できる代物じゃない・・・・・・)


"生きる時代が違う"ステイルには、自分の目で見た光景が到底理解出来なかったが、
今はとりあえずあの光のカーテンのおかげで学園都市の他学区にまで被害が及ぶことはないと
前向きに考え直す。

と、


「ひ、ひ・・・・・・ひぃ・・・・・・!!!!」


垣根帝督がいる場所の向こう側から、そんな悲鳴のような声が聞こえた。
『竜の息吹』の乱射が止まった雰囲気を察知して、三人は声のした方を見る。
そこには彼らを襲撃した仮面の兵士、『回収部隊』の一人が四つん這いになって
必死に垣根の前から姿を消そうとしていた。


「ば、化物・・・・・・!!! 頼む、もう我々は貴様に一切関わらないと誓う!!
 だから見逃してくれ・・・・・・頼む・・・・・・!!!」


115 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/24 19:18:38.47 Pe+S46b2o 43/411



その男は最初に『回収部隊』として垣根帝督に接触した仮面の兵士だった。
あの『竜の息吹』の連射から逃れたところを見ると、かなりの運を持っているようだ。

しかし、『回収部隊』の生き残りはもう彼を含めても残り僅かだった。残りの『回収部隊』は
垣根の『竜の息吹』で数秒も経たず瞬殺されている。残りの勢力が今どこにいるのか、
地下で生き埋めになっているのか、確認をする暇などあるわけがなかった。


「頼む・・・・・・!!! 私の方からも貴様には今後一切関与しないよう
 他の暗部にも手配しておく・・・・・・! そうなれば貴様はこの学園都市での平和な生活を
 約束されたようなものだ、だから私に攻撃するのは・・・・・・!!」


小悪党のテンプレみたいなセリフを吐き続ける男を、垣根は血のように赤い魔方陣が
浮かんだ目で見つめる。その顔には大量に撒き散らされた血反吐と、


「頼む・・・・・・!!」


116 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/24 19:19:12.27 Pe+S46b2o 44/411



魔道図書館の知識を全て手に入れた『魔神』だけが浮かべられる笑みが貼りつけてあった。


「だ、『未元物質』の法則の合算に成功・・・・・・。 新たな術式を・・・・・・構、成。
 ・・・・・・第、禁章、・・・・・・最終節・・・・・・、『父よ、御手に私の霊を委ねます』。
 完全発動準備完了・・・・・・」

「や、やめろ・・・・・・、やめろおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!」




「これが『未元物質(ダークマター)』だ。 ・・・・・・垣根帝督をナメるなよクソども」




垣根帝督の右手から真紅の芯が通った純白の光線が発射された。


『ゲーム』開始から一時間四五分。


学園都市に、垣根帝督という名の魔神が圧倒的に君臨していた。


117 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/24 19:21:17.58 Pe+S46b2o 45/411



――――――――――――――――――――――


間一髪だった。
悪魔と交戦している一方通行と風斬氷華は突然飛んできた謎の光の柱を間一髪のところで避けていた。
光の柱は街の建造物を薙ぎ払い、瞬く間に灰にしていく。

灰になった建造物が淡く輝く『光の羽』と化した。
あまりにも儚く、そして美しく輝く無数の羽を見た二人は思わず天使を意識してしまう。
風斬は無数の羽の内の一つを手に取ろうとして、


「触るなァ!!!」


突然、一方通行が怒号を発した。
風斬はビクッと肩を震わせて掌に乗る直前だった羽から遠ざかる。


「ご、ごめんなさい・・・・・・」

「・・・・・・いや、すまねェ。 だがこの羽には一切触れるな。 今は
 悪魔との戦闘に意識を集中させろ」

「? ・・・・・・は、はい」


118 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/24 19:23:24.70 Pe+S46b2o 46/411



それは一方通行にも分からなかった。なぜだかは分からないが、本能が語りかけてくる。

『この光の羽には絶対に触れてはならない』、と。

さっきの猛獣のような雄叫びは誰の声だったのか、光の柱はどこからの攻撃だったのか、そしてこの羽は何なのか。
第一位の脳に次々と疑問が湧きでてきたが、一方通行はそれらを全て払拭した。
今はそんな原因不明の現象を気にかけている場合ではない。


ジャキャッッ!!!! と甲走った音が鳴った。
かつてミーシャ=クロイツェフという名で呼ばれていた『悪魔』の背から生えている
黒紫の水晶の翼が二人に向けられた音だ。

メチャクチャに荒らされまくった地上は、もはや足の踏み場もない。
三者は空中戦を繰り広げていた。

一方通行は首元にある電極チョーカーのバッテリーの調子を確かめる。まだ充分残量があるが、決して油断は出来ない。
悪魔を相手にバッテリーの節約などをしていてはあっという間に死に至ってしまう。
能力は常に全開で、全力で戦わなければ"天使"は救えない。


120 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/24 19:27:37.95 Pe+S46b2o 47/411



そして風斬氷華の体にも限界が訪れ始めていた。それも当然、天使とずっと交戦していた一方通行や、
本来行使出来るはずのない魔術を無理を押して使用し続けた垣根に隠れて目立っていないが、
実は『天使同盟(アライアンス)』の中で最も熾烈な戦闘をしていたのはこの風斬氷華という人工天使だった。

まず最初に戦った相手が魔術サイド最強の魔術師、アレイスター=クロウリーだというのが不運だった。
一回戦で為す術も無くボロボロにされ、そこからヴェントという魔術師の援護を得てアレイスターと連戦。
そのまま休む間もなく暴徒と化した天使、『悪魔』との戦い。

本来ならば彼女の体はとっくに結晶化し、この世から消え去っていただろう。そんな彼女を支えているのは
ミーシャ=クロイツェフという『仲間』を救いたいという一心だけだった。


風斬は隣にいる一方通行に目を向ける。彼女は先ほど、一方通行の身に起きている異変を目撃していたのだが、


(・・・・・・やっぱり、気のせいじゃない)


一方通行を凝視していると、ふとした所で彼の全身が黒い霧に包まれたようになり、紅い眼と紅い髪だけが
怪しく発光しているという姿になる。まるで映画のフィルムの合間合間に違う彼の姿のコマを入れたような現象。
おまけに、彼の背中から生える純白の翼と、頭上に出現している輪がどんどん黒ずんできているのが確認できた。

・・・・・・一方通行本人が全く気付いていなさそうなのが、その異変の不気味さを際立たせる。


だが今は気にしていられない。とにかく目の前にいる悪魔の中から天使を救い出さなければならない。
しかも今回は第三次世界大戦の時のように後方のアックアや上条当麻の支援は一切存在しない。
一方通行と二人で、たった二人で悪魔を討ち、天使を救い出さなければならないのだ。


121 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/24 19:28:42.41 Pe+S46b2o 48/411



「・・・・・・もォすぐだ。 俺達grlならaojdやれる」

「はい」


キッと表情を引き締め、手に携える剣をしっかりと握り、二人は悪魔に突進しようとした。

だが、


「・・・・・・kadiwbefuzwrktawpyrdhwANCTDGwgjiebdzdfspbPQNXkefjfpuwamyib・・・・・・」


それは今までにない言葉だった。いや、あまりにもノイズが混じりすぎて言葉なのかどうかも
判断できないが、


「sdkfhg夜の召喚をdoimadej実行・・・・・・」


一方通行と風斬の背中に、氷点下を彷彿とさせる悪寒が走った。
彼らは瞬時に悪魔の行っている事を理解する。


空が瞬いた。


気がついた時には、学園都市の空に『夜』が訪れていた。


122 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/24 19:31:50.85 Pe+S46b2o 49/411



予兆すら無かった。あるとしたら、悪魔が凹凸だけで表現されている口を動かして呟いていた言葉だけだろうか。
学園都市の空を覆った夜は、空に向かって大量の黒い塗料をぶちまけたように一瞬で拡がっていった。


「xjbyrsturyyjgjrpusegikpfauntiuzefkxcttzmnffiunjb・・・・・・、」


その夜空に、魔方陣をいくつも重ね合わせたような光の放物線が浮かび上がる。
更にその上空で、キラキラと何かが瞬いていた。


それは、星。


(ふ、ざけンじゃねェぞ・・・・・・!! 『天体制御(アストロインハンド)』だったか・・・・・・、
 宇宙空間にある星を動かす馬鹿げた魔術は使えねェンじゃなかったのかよ!?)


確かにそう、エイワスがそんな事を言っていた気がする。
だが現にこうして『天体制御』は使用された。使えないのではなかったのかとエイワスに
クレームを突きつけている暇など無い。


123 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/24 19:32:49.97 Pe+S46b2o 50/411



だがここで一方通行はある事に気付く。この『天体制御』によって星の位置は大きく変化したのではないか。
だとしたら、太陽に接触しつつある『星の欠片』は、消滅の危機を逃れたのではないか。
悪魔の気紛れによるこの大魔術で、天使の消滅というバッドエンドを迎えずに済んだのではないか、と。


そんな一方通行の脳裏を過ぎった甘い考えは、すぐに吹き飛ばされる事になる。


「命令名『一掃』――――――投下」


馬鹿だ、と一方通行は自分を殴り飛ばしたくなった。
あの夜空の瞬きを忘れたとは言わせない。あれはかの第三次世界大戦時、天使と交戦した際に
ミーシャ=クロイツェフが放った、一方通行の『反射』をも軽々と突き破る究極の天罰。


神戮。半径二、三キロ程に設定された領域に、灼熱の炎の矢が一方通行と風斬氷華を殲滅するために降り注がれる。


124 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/24 19:35:41.16 Pe+S46b2o 51/411



そう、仮にこの『天体制御』で『星の欠片』の消滅が免れたとしても、


「あ、・・・・・・」

「風斬ィィィィィィィィィィィィィィィィ!!!!!!!!!!!」


自分たちが死んでしまっては元も子もないのだ。


一方通行は何かを考える前には、既に風斬に向かって飛翔しそのまま彼女を抱きとめて地上へ向かっていた。
風斬を下にして覆い被さるような体勢になる。そして一方通行の背中に、地上に、容赦なく流星群が叩き込まれた。

『反射』では神戮に対抗出来ない。ならばせめて、と一方通行は地面に手をつけベクトルを操作する。
背中にミサイル並の塊が数千万以上降り注いでも、地殻が捲れ上がろうと、せめて風斬だけは守ろうと
地面から決して剥がされぬように必死でベクトルを操った。

白い翼を最大まで展開するが、それでも全ての攻撃を防ぐことは出来なかった。
痛みにもがく余裕もない。奥歯が砕けるんじゃないかという程に彼は歯を食いしばって風斬を守る。


125 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/24 19:36:33.39 Pe+S46b2o 52/411



やがて、神戮は終わった。後に残ったのはロシアの時と同じ乱暴に耕されたような街の風景と、
風斬に覆い被さったまま動かなくなった一方通行だけだった。


「あ、・・・・・・一方通行、さん・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・怪、我は・・・・・・ねェかよ・・・・・・?」


瞳に涙を浮かべて至近距離にある一方通行の顔を見る風斬。彼は既に瀕死の状態へと追い込まれていた。
それでも悪魔は一切の容赦をしない。対象が完全に消滅するまで、何度でも神戮を叩き込む。


「第yj二波fard攻pdpc撃bh準備開始。 zgirbb『一掃』wt再投kosuvs下kcfmまでryhacf残りcghfj三〇秒uijbhwjzwgaj」

「・・・・・・・・・・・・ッ」


風斬は息を呑んだ。悪魔が放ったあまりにも無慈悲な言葉にではない。
上に覆い被さっている一方通行越しに見える夜空が再び瞬いたから、でもない。

覆い被さっている一方通行のすぐ後ろ。




そこに、風斬が先程からずっと目撃している紅い髪と眼をした黒い影が、こちらを見て笑っていたからだ。




126 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/24 19:37:51.81 Pe+S46b2o 53/411



「あ、一方通行さん、後ろ・・・・・・!!」

「krcswe風斬・・・・・・、いいovwfかァ、よく聞psvけ・・・・・・」


黒い影は吐き気を催すほどの醜悪な笑みを浮かべながら一方通行を抱きしめるようにまとわりついている。
影の頭部・・・・・・だろうか。そこに当たる部分から流れる紅い髪が、一方通行の頭に重なっている。
それを伝えようとした風斬だったが、一方通行の弱り切った声に遮られた。


「ggz俺の・・・・・・事は、wm捨て置け・・・・・・。 kik次にあいrzeつがd『星』dpをjs降らせgfたらdtmfe
 すぐにここから抜け出してtr悪魔をhxtbgrf連れて攻撃の範囲yc外xaからyk脱出fwgwndしろdxyg・・・・・・」

「・・・・・・? え・・・・・・?」


何を言っているのかほとんど聞き取れなかった。なぜ今ここで、一方通行の言葉にノイズが走る?
風斬は一方通行にまとわりつく紅と黒の影を睨みつける。


「俺はmdrgiいい、死ンでも・・・・・・nfiqwpあのクソapfjhry天使さえ救えれば・・・・・・。
 だから・・・・・・オマエはofcs行け・・・・・・」

「あ、一方通行さんから・・・・・・離れてください!!」


127 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/24 19:39:11.03 Pe+S46b2o 54/411



風斬はもう一方通行の言葉など聞いてはいなかった。自分は死んでもいいからお前だけは、
みたいなことを言っていた気がするが冗談ではない。

一方通行の言葉がおかしくなっているのは全て黒い影のせいだと決めつけ、風斬は影に向かって憤慨する。


「離れて・・・・・・!!! これ以上彼に付き纏わないで・・・・・・!!!」


黒い影は風斬の言葉に取り繕わなかった。『知った事か』、と暗に言われているような気がした。
風斬は黒い影から一方通行を引き剥がすように彼の細い体を力強く抱きしめる。
一方通行の背中の翼と頭上の輪は、ほとんど黒一色に染まっていた。

そして、


「命令名『一掃』――――――投下」


夜空の瞬きが一層強くなる。無慈悲に生命を狩り取る星の雨が、一方通行にトドメを刺そうと降り注いできた。
それでも、風斬は最後まで一方通行から離れようとはしなかった。


128 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/24 19:39:56.69 Pe+S46b2o 55/411



「か、ざきり・・・・・・・・・・・・」

「一方通行さん、私・・・・・・」


風斬は何かを伝えようとしたが、それは叶わなかった。神戮が炸裂し、凄まじい爆発音が学園都市に響き渡る。
神戮は容赦なく接触した対象物を粉々に破砕し、呆気なく無に帰してしまった。




ただし、神戮が炸裂したのは地上から遥か遠く。一〇〇〇メートル以上の上空で起きていた。




「・・・・・・・・・・・・!! ・・・・・・、・・・・・・・・・・・・。 え・・・・・・?」


129 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/24 19:40:35.15 Pe+S46b2o 56/411



ギュッと瞼を閉じていた風斬は恐る恐る目を開ける。
自分の体の上にいる一方通行に目立った変化はない。ボロボロの瀕死状態とはいえ、五体満足だった。
彼にまとわりついていた忌々しい黒い影も、今だけは姿が見当たらない。

しばらくして、上空から何かが降ってきた。それは赤い瓦礫だった。元がなんなのか分からないほど
原型を留めず粉々に破壊されている。神戮によって砕けたものが落ちてきたのだろう。

でも、何が?悪魔の放った神戮は、地上に居る一方通行と風斬を始末するために放ったものであるはずだ。
神戮は上空で炸裂していた。風斬は一方通行を抱えたままゆっくりと体を起こして空を見上げる。


夜になっていたはずの空が、真っ赤に染まっていた。


神戮を発動した悪魔も、何事かと空を見上げている。その真っ赤に染まった空はまるで
複雑な模様のようにも見え、それはゆっくりと動いているのが確認できた。


130 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/24 19:41:48.59 Pe+S46b2o 57/411



だがそれは、模様などではなかった。よく見るとその赤い何かは人工物だということが分かる。


「何・・・・・・あれ・・・・・・?」

「・・・・・?」


妙に静まり返った雰囲気を怪訝に思った一方通行も、浅い呼吸を繰り返しながら空を見上げた。
彼の視界に映ったのは、赤いハンググライダーのような航空機の大群と、その隙間から見えるわずかな夜空。


そして、上空から拡声器でも使っているのか。妙に響く大きな声が聞こえてきた。




『防御術式でガチガチにコーティングした「グリフォン=スカイ」が一撃で粉々だし。
 まったく・・・・・・母上にどー言い訳すればいいの。 これ一機でいくらすると思ってるんだ』




おてんばな小娘が放つような、独特の声だった。その声を、一方通行と風斬は聞いたことがあった。


164 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/26 22:58:53.86 Ptx+XsDNo 58/411



真っ赤な航空機に誰かが立っている。その人物は、極めて当然な行動だと言わんばかりに
何の躊躇もなく航空機から飛び降りた。

そして、


ゴシャアアアアアアッ!!、という痛烈な打撃音と共に、悪魔の頭に容赦ない一撃を浴びせた。
不意の一撃を喰らった悪魔は一直線に地上に吹き飛び地面に激突する。
悪魔に攻撃した何者かが、一方通行達の下へふわりと降り立った。


「・・・・・・・・・・・・オ、マエ・・・・・・」

「あーあー、いい男が台無しだし。 てゆーか何なのその『黒い翼』は。
 実はお前、天界から追放された堕天使でしたなんてオチじゃないだろーな」


その"女"の服装は各所に赤いレザーがあしらわれた、一見ボンテージとも思える燃えるように真っ赤なドレスを着込んでいた。
髪は金髪。豪快な笑顔を浮かべるその顔は非常に整った顔立ちだ。
手には宝石の欠片のようなものが握られており、そこから閃光の剣が伸びている。
さらにそのドレスにも、飾りのように同じ閃光の剣が一〇本ほど腰から後方へと流れている。

カーテナ=セカンド。その欠片。英国王室に代々伝わるその霊装を操れるものなど、限られていた。


165 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/26 22:59:45.95 Ptx+XsDNo 59/411





「き、キャーリサ・・・・・・さん・・・・・・?」

「おー、久しぶりだな風斬。 ・・・・・・って、お前も翼か。 何、流行ってるの?
 今度母上にお願いして私に天使の知識をご教授願おうかな」




英国『王室派』の第二王女、キャーリサ。
『天使同盟』として最初に訪問したイギリスで出会った、かけがえの無い仲間がそこにいた。

キャーリサは手に持つカーテナをひゅんひゅんと振り回し、意地の悪そうな笑顔で言った。


166 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/26 23:01:13.34 Ptx+XsDNo 60/411



「ここに来たのは私だけじゃないの。 ほれ、」


ピッと人差し指を空に向けるキャーリサに釣られて、一方通行と風斬は上を見る。
更に一人、いや二人の人影がゆっくりと地上に降りてきているところだった。

一人はいかにも英国紳士のような出で立ちの中年の男。もう一人は屈強な肉体に、馬鹿げたサイズの
大剣を肩に担いでいる。


「・・・・・・ウィリアムに、フルンティングのオッサン・・・・・・?」

「なぜわざわざ霊装の名で呼ぶ。 以前に『騎士団長(ナイトリーダー)』という役職名を名乗っただろうが」

「久しいのである、『天使同盟』」


英国『騎士派』のトップに君臨する『騎士団長』。そして元『神の右席』所属の魔術師、後方のアックア。
どれもこれも少し前にあったばかりの顔ぶれだったが、なぜか非常に懐かしく思えた。


167 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/26 23:02:45.17 Ptx+XsDNo 61/411



呆気にとられる一方通行と風斬を無視して騎士団長は尋ねる。


「英国を出てからの『天使同盟』のその後や、一方通行の背にある"黒翼"・・・・・・。
 君達とアレイスター=クロウリーの関係、そしてこの現状・・・・・・。
 聞きたいことは山ほどあるが、それは全て後日聞かせてもらおう。 キャーリサ様、どうします?」

「んー・・・・・・、とりあえずお前たちは散れ。 相手は天使だ、いくら『グラストンベリ』で
 私達を強化しよーと天使相手じゃ大した意味はないし。 なんか"手紙"に書いてあっただろ、
 垣根帝督とかいう男を援護するために勢力を分散させろって。 敵は天使やアレイスターだけじゃ
 無さそーなの」

「了解」

「了解しました」


キャーリサの言葉を受けた騎士団長とアックアは素早く移動し、一方通行達の前から姿を消した。
と、急に目の前の地面が爆発する。そこには背中の翼を禍々しく展開させた悪魔が膨大な殺気を放ちながら佇んでいた。


「お前たちは・・・・・・まだ戦えるの? だったら共同戦線だし」

「は、はい・・・・・・!」


168 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/26 23:04:43.40 Ptx+XsDNo 62/411



予期せぬ助っ人に歓喜の笑みを見せながら風斬が応える。
キャーリサがどの程度の実力を持っているのかは知らないが、さっきの悪魔への攻撃からして
充分に頼れる存在だと理解できた。


「天使・・・・・・いや、あれは悪魔か。 悪魔の神戮は上空に敷いた大量の『グリフォン=スカイ』で
 どーにかするしかないの。 一応あれでも盾にはなる、神戮の軌道さえ逸らせりゃ投下範囲外に
 避難できる猶予くらいは生まれるだろーし。 『グラストンベリ』については説明する必要ないか」

「・・・・・・オマエ、なンでここに・・・・・・?」

「そーいう話は全部後だ。 どーやらのんびりと茶を飲みながら会話するよーな暇は
 お前らのとこの可愛い悪魔ちゃんが与えてくれそーにないの」


キャーリサは空いていた手にもう一本カーテナの欠片を握りながら言う。


「うさぎ。 お前が何であの天使にそこまで執着するのかわからないけど・・・・・・、
 あんな状態になったミーシャ=クロイツェフでも救いたいんだろう?」


169 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/26 23:05:46.55 Ptx+XsDNo 63/411



一方通行は応えることも頷くこともしなかった。しかしそれがキャーリサへの返答になっていた。


「ふふ。 少し嫉妬するし」


そんな言葉と同時、キャーリサは地を蹴って一瞬で悪魔の懐へと飛び込む。
悪魔も新たな敵の出現に戸惑うことなく、冷静に、端的に状況を把握した。
新たな障害が出現したなら、ただそれを破壊すればいいだけの事。


ズンッッッと低い震動が起き、第二王女と悪魔が激突する。
かつての戦争でミーシャ=クロイツェフと対峙した経験を持つ彼女だからこそ、こうして
堂々と悪魔にも立ち向かっていける。


「一方通行さん・・・・・・」

「・・・・・・オマエが言ってた、『皆が支えてくれてる』って言葉。
 なるほど、実際目の当たりにしてみると、ありがたみがまるで違うな」


171 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/26 23:06:36.76 Ptx+XsDNo 64/411



一方通行は白から黒に変色した翼を爆発させるように展開し、再び戦闘態勢に突入した。
風斬もそれに習い、いつの間にか消滅していた雷光の剣を掌に現出させてしっかりと握る。


「obvj行くぞllawh」

「はい。 ・・・・・・ッ!?」


風斬はギョッとした表情で一方通行の方に視線を向ける。
聞き間違いだと思いたかったが、やはり今の一方通行の声にはノイズが混じり込んでいた。


そしてやはり、彼の背後には例の黒い影が、一方通行と同調するように重なって――――。


『ゲーム』開始から一時間四八分。悪魔が発動した『天体制御』の影響で『星の欠片』の消失時間は不明。


ついに、この舞台にすべての役者が揃った。


終焉の時は近い。


173 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/26 23:08:53.73 Ptx+XsDNo 65/411



――――――――――――――――――――――


知識の海に飛び込んだような感覚だった。そこに身を沈めるだけで、森羅万象全ての知を得ることが出来ると確信した。
味わったことのない感覚だった。全身を駆け巡る細胞と神経の一つ一つが研ぎ澄まされていく感覚。
出来ない事などもう何も無い。今の自分は最強にして最高。究極。無敵だと思えた。

これが、『禁書目録』。

ロシアでの魔術訓練で見事に合格した垣根帝督は、エイワスから褒美としてある霊装を受け取っていた。
エイワス曰く、それを使えば自分の望む全てのものが得られるとの事。


「ハッ・・・・・・、ハッ・・・・・・はぁ・・・・・・」


その通りだった。この『自動書記(ヨハネのペン)』の遠隔制御霊装は凄まじい効力を秘めていた。
仕組みなどは一切知らないが、ダイヤル錠・・・・・・とでも言えばいいのか。リング状の液晶には
数字ではなくアルファベットが羅列してある。

そいつを少し回すだけで、頭の中にあらゆる魔術の知識が、色濃い知識が、滝のように流れてくる。
知識だけではない、その魔術の使い方、応用、効果、知りたいと思った情報は即座に脳にインプットされていった。


174 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/26 23:09:53.29 Ptx+XsDNo 66/411



でも、情報が絶え間なく焼き付いていくその脳が、


ドロドロと、濃硫酸に浸したかのように溶けていっている気がして。


・・・・・・・・・・・・毒?


そういえば、レッサーが言っていた気がする。常人が原典の知識を得ると、毒に侵されると。


「ご、ぼっ・・・・・・・・・・・・」


バシャシャシャシャ・・・・・・と、壊れた蛇口のように口から血を吐き続ける。
垣根の全身は真っ赤に染まりきっていた。どこからの出血なのか分からないほどに
彼の体は紅に染まっていた。


「・・・・・・。 垣根、その霊装をこっちに渡すんだ」


175 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/26 23:11:27.66 Ptx+XsDNo 67/411



極めて険しい表情のステイルが何かを言っているが、垣根にはもう聞こえない。聞き取れない。
脳が完全に原典による汚染にやられている。まともな思考も出来なくなっていた。
廃人になっていないほうが不自然なくらいに、垣根は『禁書目録』を行使し過ぎた。

ステイルは憤怒していた。同時に、心配もしていた。人の身である垣根帝督が原典を使用したことによる汚染侵食度も気になったが、
それ以上にステイルは"とある少女"の方が気掛かりでならなかった。

インデックス。垣根帝督が持っている霊装を使えば、彼女の体に深刻な負担が生じて意識不明になってしまう。
前例があるからそれは知っていた。第三次世界大戦時、遠隔制御霊装を右方のフィアンマが使用したことによって
彼女は散々な目に遭っている。


「・・・・・・垣根帝督」

「・・・・・・・・・・・・れで、・・・・・・倒・・・・・・」

「?」


ステイルの言葉は届いていない。代わりに、垣根は何か独り言をブツブツと呟いていた。
目から、耳から、鼻から、口から、ダラダラと血を垂れ流しながら独り言を呟く彼の姿は異様としか言えない。
視線もどこを向いているのか分からない。そもそも視力が機能しているのかも分からないような状態に見える。


176 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/26 23:12:57.47 Ptx+XsDNo 68/411


ステイルは注意深く彼の言葉に耳を傾けてみる。


「・・・・・・・・・・・・この、力があれば・・・・・・守れ、る。 う、ぅ・・・・・・倒せ・・・・・・る・・・・・・。
 だから、・・・・・・謝ってるだ、ろ・・・・・・・・・・・・。 "さっきからうるせえなこのガキ"・・・・・・」

「何だ? 何を言っている」

「・・・・・・守らなきゃ、俺」


瞬間、垣根は勢い良く『未元物質』の翼を展開させ飛翔し、あっという間にその場から姿を消してしまった。


「垣根!! クソッ・・・・・・!!!」

「ステイル、あなたは垣根帝督を追ってください。 後始末は私達でつけておきます」

「後始末?」


気がついた時には、ステイル達の周囲には『回収部隊』の残存勢力が姿を現していた。
垣根帝督の『竜王の殺息(ドラゴンブレス)』から奇跡的に逃れたのだろう。
彼がいなくなった瞬間に現れたところから見ると、『回収部隊』は本来の目的を棄て、魔術師に狙いを切り替えたらしい。


「彼の事、よろしく頼みますよ。 事はあの子にも関わっているのですから」

「・・・・・・分かっているさ」


言って、ステイルも垣根を追うためにその場を後にした。
残ったのは神裂火織とヴェントだけ。たった二人で残りの『回収部隊』を相手にしなければならない。


177 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/26 23:14:09.44 Ptx+XsDNo 69/411



神裂火織は七天七刀を構えなおし、『回収部隊』との最後の戦闘に備える。
目で確認できるファイブオーバーは五機。恐らくまだどこかに残存勢力が潜んでいるはずだ。
チラリと横にいるヴェントを見る。彼女はじっと夜に装飾された空を見上げていた。


「・・・・・・あれも、アンタらが呼んだお客さん?」

「?」


神裂もヴェントに習って空を見上げる。さっきまでの不気味な黒とは一転、
現在の空は赤く染まっていた。

否、それは染まっているのではなく、空中に赤い絨毯を敷いたように流れている。


「・・・・・・あれは、『グリフォン=スカイ』!? イギリスの攻城戦用移動要塞がなぜ学園都市に・・・・・・?
 まさか、『王室派』まで動いているというのですか? この『天使同盟』が発端の件で・・・・・・」

「『天使同盟』の影響力くらい、アンタも知ってるんじゃないの?」


178 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/26 23:15:19.60 Ptx+XsDNo 70/411



言われるまでもなかった。神裂火織もヴェントも、『天使同盟』という世界の価値観を根本から
ひっくり返しかねない馬鹿げた組織と直に接触している。
彼らなら、例え英国王族だろうがなんだろうが動かせても不思議ではないと思わせる何かを持っている。

もしかしたら、『神』すら微笑むかもしれない。神裂は自分でも馬鹿な考えだと思ったが、
彼女の知らないところでその考えは的中することになる。


と、


「おい!!!」

「ッ!?」


一瞬の隙を突いてファイブオーバーの数機がガトリングレールガンを発射してきた。
神裂火織は聖人である。垣根帝督達と合流する前にもこの『回収部隊』と何度か交戦したが、
このガトリングレールガンは聖人の肉体を持つ神裂にすら手痛いダメージを負わせる威力を持ち合わせていた。

常人がガトリングレールガンを浴びれば数瞬も経たず肉片になる威力だ。
それを耐え切れる神裂も化物といえば化物だが、それでも無傷というわけにはいかなかった。
よって、今この瞬間の攻撃は避けきれないと覚悟を決め歯を食いしばったのだが、


179 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/26 23:16:27.46 Ptx+XsDNo 71/411



「ゼロにする」


コココココン☆ と、何とも間抜けでコミカルな音が聞こえた。
信じ難い事に、神裂の頭にガトリングレールガンの連射が直撃した音だった。
遅れて、直径一メートル近い金属砲弾が神裂の足元に重厚な音を立てて落ちる。


「?」

『?』


神裂も、そして『回収部隊』も呆気に取られてポカンとしてしまう。
他のファイブオーバーが慌てて、今度はヴェントに照準を向けてガトリングレールガンを発射するが、


「それは先ほど"ゼロにした"はずだが?」


結果は同じだった。ヴェントの頭に直撃した、戦車なら三、四台程度縦に裂いて爆砕出来る威力の金属砲弾は
ヴェントの頭を吹き飛ばすことなく、虚しい音を立てて地面に転がる。
あまりに不可思議な現象を前に次のアクションが起こせない『回収部隊』がもたついていると、


180 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/26 23:17:41.69 Ptx+XsDNo 72/411



ガシャンッ!!! と、ファイブオーバーの数機がまとめて薙ぎ払われた。
とてつもない力で振るわれた何かによって、ファイブオーバーは不自然な形で歪んでしまう。


「ソーロルムの術式・・・・・・、やはりあなたでしたか。 騎士団長」

「こんな形で貴女に再会するとはな。 女教皇(プリエステス)」


神裂の背後から現れた金髪の男、騎士団長は柔和な笑みを浮かべながら悠々と歩いて来る。
彼が発動した『ソーロルムの術式』によってガトリングレールガンの攻撃力が無効化されていたのだ。

そして、ついさっきファイブオーバーをまとめて吹き飛ばした大剣を担ぐ男を見て
ヴェントは大きく目を見開き驚いた。


「・・・・・・はぁ? アンタ、アックア? 何でアンタまでこんなところに来るのよ」

「む?」


アックアは周囲を警戒しながらヴェントの方に歩み寄る。
前方のヴェント、後方のアックア。この学園都市という科学の街で、元『神の右席』は
奇妙な邂逅を果たした。はずなのだが、


181 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/26 23:18:41.35 Ptx+XsDNo 73/411



「何者だ貴様? なぜ『後方』としての私の名を知っている?
 ・・・・・・女教皇と一緒である所をみると、貴様も天草式の魔術師であるか?」

「アンタ何言ってんの? 私よ、前方のヴェント。 ・・・・・・ま、別に忘れててもいいけど」

「・・・・・・ふむ? 確かにその舌先にぶら下がっている鎖や耳に取り付けてある銀のピアスは
 『神の子』を十字架に縫い止める『釘』の属性、あの子が好んで使っていたものであるが・・・・・・」

「何よ?」


ふーむ・・・・・・とアックアにしては珍しい、顎に手を添えて首を傾げながら物を考えるという仕草をする。
そんな彼の様子を神裂も騎士団長も物珍しげに眺めていると、


「いや、しかしだな。 私の知っている前方のヴェントは"こんなに可愛さ溢れる少女"ではないのであるが。
 ヴェントと言えば見ている方もキツいほどの濃い化粧に、属性の関係上仕方が無いとはいえ女っ気のない
 真黄色の衣服。 そして声をかける者全てに等しく罵詈雑言を浴びせるという何とも憎たらしい少女であって、
 決して貴様のような『異性に恋してイメチェンしてみました』みたいな、そんな格好はしておらゴボォッッ!!?」


メリッ!!グチャァッ!! と、あまり聞きたくない音が鳴り響く。
手に持っていた有刺鉄線付きのハンマーを、顔真っ赤なヴェントが思い切りアックアの頭に叩き込んだ音だった。


182 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/26 23:19:49.89 Ptx+XsDNo 74/411



――――――――――――――――――――――


(・・・・・・あれって、イギリスのクーデターの時に見た移動要塞だよな・・・・・・!?
 グリフォン=スカイだったか。 なんであんな物が学園都市に・・・・・・?)


上条当麻は第一九学区の外周をなぞるようにぐるりと走っていた。
上空にはキャーリサ達が引き連れた攻城戦用移動要塞がカラスの群れのように
学園都市の空を横断している。

そしてその空は、今は『夜』に切り替わっていた。


(『天体制御(アストロインハンド)』・・・・・・、なんであの天使の術式が今ここで起きてんだよ!?
 まさか第一九学区じゃ大天使が暴れまわってるってのか!? ちくしょう、何だか想像以上に
 洒落にならない事態になってるじゃねえか!!)


ぜぇぜぇと荒い呼吸を繰り返しながら上条はひたすらに光のカーテンの側を駆け抜ける。
もちろん、何の目的もなく彼は走っているのではない。

上条当麻の前方、そこには銀髪のシスターが上条と同じように全力疾走していた。
彼はインデックスを追うために走り回っているのだ。


183 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/26 23:20:50.10 Ptx+XsDNo 75/411



「はっ・・・・・・はっ・・・・・・! おい、待てよインデックス!!」

「とうま、急いで!!」


インデックスが急に上条の側を離れて走りだしたのは、突然第一九学区から飛び出してきた
『光の柱』を見てからだった。
上条はその光の柱を見て悪寒が走っていた。あれは確か、第三次世界大戦でフィアンマが使用していた
『自動書記』の魔術の一種だったはずだ。

つまり今、第一九学区にいる誰かがあの忌々しい遠隔制御霊装を使用しているということになる。

しかし、


(・・・・・・だったら何でインデックスの体に何の異変も起きねえんだ? 今のインデックスには
 確か『首輪』の保護がないから『自動書記』が外部から干渉されたらインデックスは意識を
 失っちまうはずなんだけど・・・・・・)


それが理由で彼は戦場であるロシアに単身で乗り込んだのだ。
だからこそ、第一九学区で誰かがあの霊装を使用しているというのにインデックスに
何の異変も生じないというのはおかしな話だった。


184 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/26 23:21:49.91 Ptx+XsDNo 76/411



次々と湧き上がる疑問に上条が頭を抱えていると、


「居た!! あの人なんだよとうま!!」

「!?」


インデックスはある場所で足を止め、光のカーテンの向こう側を見て指を差す。
上条がそちらの方に視線を向けた瞬間、ゴォッッ!!! と何かが凄まじいスピードで彼らの前を横切った。

その人影の背中からは、純白の天使の翼が生えていて。


「・・・・・・今の、もしかして天使か!?」

「違うんだよ、"彼"からは『天使の力(テレズマ)』は感じなかった。 ・・・・・・でも今の人が
 私の中の一〇万三〇〇〇冊からどんどん情報を引き出してる・・・・・・!!」


インデックスの声は震えていた。見れば、彼女の碧眼には涙が溜まっていた。


185 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/26 23:23:07.46 Ptx+XsDNo 77/411



「・・・・・・止めないと・・・・・・」

「インデックス・・・・・・」

「あの人の思考が、少しだけど私の頭にも流れてくる。 ・・・・・・あの人は
 一〇万三〇〇〇冊の原典の力を使って大切な何かを守ろうとしてるんだよ・・・・・・。
 でも、こんなの絶対間違ってる・・・・・・。 大切なものを想う強い気持ちがあるなら
 こんな魔道書に頼らなくても絶対に守れるのに・・・・・・!!! このままじゃあの人、
 『原典』の毒に侵されて・・・・・・私のせいで・・・・・・死んじゃうんだよ・・・・・・」


インデックスは光のカーテンに手をついて項垂れた。
表情は見えないが、ぽたぽたと彼女の瞳から雫が零れているのが窺える。


(・・・・・・馬鹿野郎)


上条当麻はギュッと右手を握り締め、さっき横切った誰とも知らぬ人間に
静かに怒る。

インデックスを泣かせた事による怒りだけではない、何かを守るという強い信念を持ち合わせていながら
『原典』というくだらない代物を使って我が身を省みず、という方法をとった事に怒っているのだ。


186 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/26 23:24:06.02 Ptx+XsDNo 78/411



(バッカ野郎が・・・・・・!!)


とにかくここで立ち止まっている暇はない。
上条はインデックスに早く今の馬鹿野郎を追うぞ、と声をかけようとして、


「・・・・・・上条当麻?」

「え?」


光の壁の向こうから、自分を呼ぶ声が聞こえた。
上条とインデックスは壁の向こう側から声をかけてきた人物を見て目を丸くする。


「す、ステイル!!? 何でお前、どうやって第一九学区に入ったんだよ!?」


上条の問いに赤い髪の魔術師は答えなかった。
ただ彼は肩で息をしながら、意識を失う事なくピンピンしているインデックスを
唖然とした表情で凝視するだけだった。


189 : 次回予告はここまでです。  ◆3dKAx7itpI - 2011/05/26 23:35:29.18 Ptx+XsDNo 79/411




                          【次回予告】



『いや・・・・・・なんかさ、昨日俺とインデックスが晩飯食おうとした時に訪ねてきたんだよ。
 クイトって名前の魔術師が。 全身真っ白のローブ着てたから顔とかは見てないんだけど』
―――――――――――学園都市の無能力者(レベル0)・上条当麻




『クイト・・・・・・? ・・・・・・・・・・・・で、その魔術師は君たちに何の用件で現れたんだ』
―――――――――――イギリス清教『必要悪の教会(ネセサリウス)』の魔術師・ステイル=マグヌス




『・・・・・・「汝の欲する所を為せ。 それが汝の法とならん」。 ・・・・・・この言葉の真意に辿り着かない限り、
 たかが超能力者が・・・・・・私の、「セレマ」の意志を引き継げるものか!!!』
―――――――――――学園都市統括理事長・アレイスター=クロウリー




『一方通行は間もなく「ホルス」に足を踏み入れる。
 そこから先がどうなるかは私にも分からないと言っているのだよ。
 くくく・・・・・・どうだろうアレイスター。 わくわくしてこないかね?』
―――――――――――『天使同盟(アライアンス)』の構成員・エイワス




227 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/28 16:59:35.94 Ke7nglJHo 80/411



今頃インデックスは垣根帝督が『自動書記』の遠隔制御霊装を使用した事によって
第三次世界大戦時のようにぐったりと意識を失っていると思っていた。
だが彼女の側には上条当麻がいつでも居る。ステイルからすればそれはそれで腹ただしい事だったが、
彼がいるからインデックスについては任せておけると思っていた。

だからこそ、今自分の目の前で、自分と同じように肩で息をしているインデックスを見て
ステイルは呆気にとられるしかなかった。


「・・・・・・な、ぜ。 君は無事なんだ・・・・・・?」

「・・・・・・私のことなんてどうでもいいんだよ。 それより早くあの人を、
 私の原典の渦に飛び込んでいる彼を・・・・・・」

「ステイル、『自動書記』の遠隔制御霊装を使ってるのは誰なんだ!?
 あの霊装は俺が『幻想殺し』でぶち壊したはずなのに・・・・・・!!」


光のカーテンを挟んで会話をする三人。こうしている間にも垣根帝督は
原典の毒に侵されながらどこかへ移動している。

そんな彼の想いは、耐えず断片的にインデックスの頭の中に流れ込んでいた。


228 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/28 17:00:31.67 Ke7nglJHo 81/411



「・・・・・・止めないと、絶対に・・・・・・!!」

「あ、おい!」


目元の涙をゴシゴシと拭い、インデックスは再び走りだした。
上条は制止しようとするがその前にステイルに聞いておかなければならないことがある。


「上条当麻、」

「おいステイル、何だってまたあのクソったれの霊装が使われてんだよ!?
 さっき飛んでたあいつは何者なんだ? どこの魔術結社の魔術師なんだ!」

「・・・・・・君が知る必要はない。 なぜだか分からないが、あの子は無事だった。
 それなら僕は彼を止めることだけに専念できる」

「知る必要はないってなんだよ!!! インデックスに関わることなんだぞ!!」


ダンッ!! と右手で光の壁を叩きながら激昂する上条。
相変わらず、右手の『幻想殺し』に反応して壁が壊れるということはなかった。

ステイルは煙草を吹かしながら努めて冷静になり、上条に返答する。


229 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/28 17:01:56.60 Ke7nglJHo 82/411



「あの子の頭の中に、霊装を使っている者の思考が漏れているはずだ。
 後日、あの子から直接聞いてくれ。 僕の口からは何も言えない。
 色々と面倒な事になりそうなんでね。 というか、むしろ僕のほうが
 聞きたいくらいだよ。 どうやってあいつはあの霊装を・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・ッ!! ・・・・・・第一九学区で今なにが起きてんだ?
 まだ夕方前後だってのに夜になってるのはそこに天使がいるからなんだろ?
 もしかして誰かがそこに天使を呼び出して学園都市を攻めてきたとかか!?」

「・・・・・・今は全てを説明している時間はない」


ステイルの冷たく突き放すような言葉に上条は歯噛みする。
もはや自分たちは、少なくともインデックスは無関係ではなくなってしまったというのに。
尚もこの一連の騒ぎに一切関われない自分自身に腹がたつ。

垣根帝督を止めるためにその場を後にしようとしたステイルが、上条に尋ねた。


「一つ聞きたい。 前日・・・・・・いや、ここ数日でもいい。
 君とあの子のどちらか、或いは両者に何か変わったことはなかったか?」


230 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/28 17:02:52.39 Ke7nglJHo 83/411



「? どういう意味だ?」

「今、遠隔制御霊装を使っている彼はほぼ完全に『禁書目録』を掌握している。
 あそこまで干渉してあの子に何の異変もないというのはあまりに不自然だ。
 あの子自身に"何らかの処置を施しでもしない限り"は、ね」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 ・・・・・・、あ」


上条は自分たちの日常に介入してきた異変が無かったかと記憶を巡らせていると、
ある出来事を思い出した。あれは確か昨日だったか、突如として自分達の前に現れた謎の人物。


「・・・・・・クイト、だっけ」

「?」

「いや・・・・・・なんかさ、昨日俺とインデックスが晩飯食おうとした時に訪ねてきたんだよ。
 クイトって名前の魔術師が。 全身真っ白のローブ着てたから顔とかは見てないんだけど」

「クイト・・・・・・? ・・・・・・・・・・・・で、その魔術師は君たちに何の用件で現れたんだ」


ステイルはあからさまに訝し気な表情を作ってみせる。
全身を白のローブで包んだ顔も見せない魔術師など、どうぞ怪しんでくださいと言っているようなものだ。


231 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/28 17:03:57.87 Ke7nglJHo 84/411



上条は慎重に当時の出来事を思い浮かべながら話を続ける。


「そいつはインデックスの頭にある一〇万三〇〇〇冊の魔導書に用があってきたって言ってた。
 なんでも、フィアンマが使った遠隔制御霊装の負担の後遺症? みたいなのが残ってるから
 それを治療しに来たって・・・・・・。 治療しないと後遺症によるが脳に至ってインデックスが
 死んじまう・・・・・・みたいなことも言ってたと思う」

「・・・・・・・・・・・・後遺症?」


何の話だ、とステイルは頭に疑問符を浮かべる。
遠隔制御装置を使用された事によってインデックスの体に重大な負担が掛かる事は
ステイルも理解しているが、後遺症などという話は聞いたことがない。

口をはさむ前に、上条は更に話し続けた。


「俺は当然だけど、インデックスもそんな話は聞いたことないって言ってた。
 クイトは『イギリス清教の中でもトップクラスの秘匿情報』だって言ってたっけ。
 えっと・・・・・・、ろ、ローラ? って人とクイトしか知らされてない情報だって」

「待て、ローラ? イギリス清教?」

「ああ、クイトってイギリス清教の魔術師なんだってよ。 新入りの。
 お前は知らないのかな?」


232 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/28 17:04:58.49 Ke7nglJHo 85/411



知らないどころの騒ぎではなかった。ステイルは妙な頭痛を感じる。
イギリス清教?ローラ=スチュアート?トップクラスの秘匿情報?クイト?新入り?

上条が何を言っているのかさっぱり理解出来なかった。ボケているのかと疑った。
目の前にいる東洋人の男はさっきから何を言っている?


「・・・・・・それで、治療したのか」

「ああ、すげービックリしたよ。 クイトがいきなり自分の手をインデックスの頭に
 "直接挿し込んでさ"。 なんか脳を弄って毒を取り除くって。 あ、治療は成功したぞ。
 インデックスも喜んでたし、魔導書も全て揃ってるって言ってたからな」

「・・・・・・その治療というのは、魔術を使用して?」

「うん。 確か『貸出無料(アカシック・フリー)』だったっけ。
 クイトにしか使えない魔術なんだって。 インデックスの毒を治療するためだけに
 生み出された魔術らしいけど・・・・・・・・・・・・って、ステイル? おい、どうしたんだ?」


ステイルは危うく目眩で昏倒するところだった。目の前に敷かれた光のカーテンに思わず感謝する。
もしこの壁が無ければステイルは今頃、眼前にいるツンツン頭の大馬鹿野郎を骨も残さず焼き尽くしていたかもしれない。

上条の話を一通り聞き終えたステイルの結論は、


233 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/28 17:06:09.03 Ke7nglJHo 86/411



「上条当麻、とりあえずこれだけは言っておこう。 イギリス清教にクイトなどという名の
 魔術師は存在しないし、『最大主教(アークビショップ)』しか把握していないような情報が
 一魔術師に伝えられるわけがないし、『貸出無料』なんてふざけきった名前の魔術も存在しないし、
 そもそも『禁書目録』の毒があの子自身を侵すはずがないだろうがこのクソったれがッ!!!!」

「え・・・・・・、え・・・・・・・・・・・・?」


ステイルは短くなった口の煙草を乱暴に投げ捨て、深くため息をつく。
そのため息には明らかに『呆れ』の意が含まれていた。


「騙されたんだよ君たちは。 そのクイトとかいうクソ詐欺師にね」

「そ、そんなはず・・・・・・、だってインデックス自身が言ってたんだぞ!?
 『なんか頭がスッキリしたかも』とかって!! そ、それに・・・・・・
 そう、だからこそ遠隔制御霊装を使われてもインデックスはああやって意識を失わずに
 済んでるんじゃないのか? クイトの治療が無ければ今頃インデックスは・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」


ステイルは未だにクイトを擁護する無能力者の言葉を右から左に受け流しながら
この状況を整理していく。


234 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/28 17:07:17.63 Ke7nglJHo 87/411



(・・・・・・だが確かに、その『貸出無料』とかいうふざけた魔術は本物のようだ。
 僕もこの目でしっかり見ている、遠隔制御霊装を使われても健康な状態を
 維持しているあの子を。 『自動書記』の干渉を悟られないため・・・・・・か?
 だとしたらクイトの正体は垣根帝督・・・・・・? いや、そもそも垣根はどうやって
 あの遠隔制御霊装を手に入れたんだ。 一つは目の前のウニ頭が第三次世界大戦時に
 破壊している。 もう一つの霊装は今も『最大主教』が保管して・・・・・・・・・・・・、)


ドクン、と。ステイルの心臓が一際大きく跳ね上がった。
顔からじわじわと脂汗が滲んでくるのがわかった。

『最大主教』、ローラ=スチュアートとクイトだけが知るトップシークレット。
それは嘘だ。間違いない。本当なのは、ローラとクイトが"繋がっている"ということ。


(垣根帝督は学園都市の人間だ。 恐らくクイトとして接触したのは垣根じゃない・・・・・・)


ならばそれは誰か。その時、ステイルの脳裏にはとある人物の顔が浮かび上がっていた。
『天使同盟』と接触した際、イギリス清教と協定を結ぶとか言ってローラと接触した『天使同盟』の構成員。


235 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/28 17:08:20.50 Ke7nglJHo 88/411



(・・・・・・・・・・・・・・・・・・エイワス・・・・・・・・・・・・!!!)


あの超次元存在ならやりかねない。出会った期間はごく短いが、それでもステイルは確信した。
垣根帝督に遠隔制御霊装を渡したのは間違いなくあのとんでもチート野郎だと。


「す、ステイル・・・・・・?」

「お人好しもそこまでいくと罪だよ、上条当麻。 ・・・・・・遠隔制御霊装の事は僕に任せておけ。
 君はさっさとあの子を連れてここから離れるんだ」

「え、ちょ、おい!!!」


ステイルは言うだけ言うと、一目散に駆け出した。
後方から上条が何かを叫んでいたがステイルは無視してひたすら走り続けた。

ステイルは忌々しげに舌打ちをする。

この遠隔制御霊装の件の被害者はインデックスでも、ましてやまんまと騙された上条当麻でもない。

間違いなく、霊装を使っている本人。垣根帝督だったのだ。


236 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/28 17:09:32.51 Ke7nglJHo 89/411



――――――――――――――――――――――


アレイスターはひどく取り乱していた。どうしてここに来て、このタイミングで、と歯噛みする。
この戦いで『天使同盟』の連中を全て再起不能にし、後は歪み果てた『プラン』の修正をのんびりと行えば
それで全てが解決していたはずだった。

だがしかし、そこで"本命"である『セト』が『天使同盟』に肩入れをしてしまっては元も子もない。
虚数学区の方ならまだ修正可能範囲だった。しかし今、一方通行に"憑いている"のは間違いなく本物の『王』だ。


『セト』。アレイスター=クロウリーが最も崇拝している神は、この時だけは一方通行に微笑んだらしい。


「・・・・・・あなたは、最初からこうなることが分かって・・・・・・?」

「あれほどの存在だ。 むしろ今まで気がつかなかった君がおかしいのだよアレイスター。
 私という存在を目の当たりにしておきながら、神の意向を予測出来なかった君に非がある。
 なるほど、ならば『セト』が一方通行という純粋な存在に憑いた点も頷ける。 そうだろう?」


エイワスの背中から生えている光輝の翼がアレイスターを襲う。
その速度は二〇世紀最大の魔術師と謳われたアレイスターですら、目視出来ないものだった。
先程までのエイワスとはまるで動きが違う。今までは遊んでいたのかというほど、エイワスの攻撃は
凄まじいものになっていた。

よって、エイワスの翼はアレイスターの体を容赦なく引き裂く。


237 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/28 17:10:17.75 Ke7nglJHo 90/411



「が、ァァァああああああああああああああああああああああ!!!?」

「さて、どうするかね? このままだと君が開いた『セレマ教』は超能力者である一方通行が
 引き継ぐことになりかねんぞ? くく、万が一にでもそうなれば愉快極まりないのだがな」


自分の体から出る血飛沫を顔に浴びながらアレイスターはエイワスの顔を睨む。
全身を覆うように展開していた絶対不可侵術式も、もはや役に立たないほどに弱体化していた。


「・・・・・・『汝の欲する所を為せ。 それが汝の法とならん』。 ・・・・・・この言葉の真意に辿り着かない限り、
 たかが超能力者が・・・・・・、私の『セレマ』の意志を引き継げるものか!!!」

「『セト』がいる」

「・・・・・・・・・・・・ッ!!」

「確かに君の目指す『神浄』はその他からしてみれば大いなる意志かもしれない。
 だが、私から言わせれば『神浄』など所詮はそんなものだ。 超能力者、魔術に関しての
 知識が全く無い人間でも『セレマ』の意志に辿りつける。 そうなれば面白いとなぜ理解しない?
 もっと発想を柔軟にしてみたまえ」


ふざけるな、とアレイスターは苦痛に顔を歪ませながら言う。普段の彼からは考えられない状態だった。
学園都市で、世界で、どれだけ大きな事が起きようともアレイスターの計画にヒビが入る事はなかった。
どれだけのイレギュラーが発生しようと、『プラン』自体の修正が困難になろうと、アレイスターは
必ず自分の計画を成就出来ると確信していた。


238 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/28 17:11:22.61 Ke7nglJHo 91/411



今回も、『天使同盟』などというふざけきった集団を潰せばそれで終わるはずだったのに、
なぜ自分がこんな目に遭わなければならない?

口からボタボタと血を垂らすアレイスターを見ながら、エイワスは薄く笑う。


「もしかすると、今日この日こそが時代の節目なのかもしれないな。
 これは私でも予想できん事だ。 『セト』の恩恵を受けた一方通行が
 天使を救い、そしてどう行動するか。 人類を『ホルスの永劫』へ導くのは
 君でも私でもなく、学園都市に住む一人の少年でしたというオチでも私は構わん」

「・・・・・・わ、私が五〇年以上の時を費やして生み出した『一方通行』が・・・・・・」

「そう。 一方通行は間もなく『ホルス』に足を踏み入れる。
 そこから先がどうなるかは私にも分からないと言っているのだよ。
 くくく・・・・・・どうだろうアレイスター。 わくわくしてこないかね?」


だがそれは、決して一方通行本人の意志ではない。
このまま彼が『セト』の恩恵を受けて次の時代に突入しても、それは操り人形が人形師の意志で
時代に放り投げられた事と同義だ。

アレイスターにはエイワスの心中が理解できなかった。
エイワスの言葉にいいように翻弄され、さっきまで互角だった戦いもこうして劣勢に立たされている。
このままでは『プラン』どころか、今この場でエイワスに殺されてしまう可能性も大いに考えられた。
かつて自分の目の前に降臨し、あらゆる知識を授けてくれた聖守護天使が、今は自分に牙を剥いている。


239 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/28 17:12:39.51 Ke7nglJHo 92/411



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


思考を放棄したくなった。どうしてこうなったのかが分からない。
どこで躓いたのか。『天使同盟』を敵に回したことか、エイワスを作ってしまったことか、
学園都市を創立したことか、イギリスの片田舎で生き延びてしまったことか。

それらのどこかで自分は『セト』に見限られ、こんな状況に陥ってしまったというのか。


「学園都市の能力者は・・・・・・所詮『駒』だ」

「?」


アレイスターは呼吸を整え、魔術によって地面から生えている渦を巻いたような造形の塔の上で
悠然と佇んでいるエイワスを空中で見上げながら続けた。


240 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/28 17:13:20.97 Ke7nglJHo 93/411



「どういうわけか知らないが、一方通行という駒に『セト』が一時的に肩入れしているだけに過ぎん。
 事が終われば『セト』は星幽界に還る。 私はそこからまたやり直せばいい」

「そうか。 ならば『駒』は『駒』で徹底すべきだったな。
 君の作った駒がなまじ人間なだけに、意志を持つ駒は時に謀反を起こす」

「?」

「ほら、」


エイワスが顎を軽く動かして示す。アレイスターはゆっくりとエイワスが示した方向に首を動かした。

その時点では、アレイスターの視界に映ったのは天地がひっくり返ったように荒れ果てた第一九学区の景色だけだったが、
やがてそこから何かがこちらに猛スピードで飛んでくるのが分かった。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・垣根、帝督・・・・・・?」


それが自分が作り上げた『第二候補(スペアプラン)』だと理解したときには、


既にアレイスターの頭の左半分が消し飛んでいた。


241 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/28 17:16:31.09 Ke7nglJHo 94/411



――――――――――――――――――――――


エイワスから貰ったダイヤル錠のような霊装を使ってからずっと、頭の中に幼い少女の声が響いていた。
『そんな物を使わなくてもあなたは大事な人達を守れる』、『私のせいであなたが傷ついてしまうのが我慢ならない』。
こんな感じの言葉が、垣根帝督の頭に繰り返し反響する。

垣根はこれまでの人生で、これほど慈愛に満ちた声を聞いたことがなかった。

この声の主が誰なのかは分からない。だがこの声の主は、嘘偽りなく垣根の事を『想っていた』。
原典の毒に蝕まれていく自分を、本気で心配してくれていることだけは、意識が朦朧としている垣根にも理解できた。


だがそれでも、垣根帝督は止まらなかった。


(・・・・・・守る、守る・・・・・・守る。 居場所を、あいつらを、学園都市を、全て・・・・・・。
 これだけの力があれば守れる。 何もかも、この声の女も、全部、全部、全部、全部、全部、全部)


原典の毒は確実に垣根の脳に浸透していた。通常、人間が原典に触れると一瞬で廃人と化してしまう。
中身をチラッと見ただけでも、頭が破裂しそうな激痛が走る。そんなものを使い続けたら、数分も経たない内に
死に至るのが当たり前の原典だ。

垣根の場合はそれより酷い。彼は一〇万三〇〇〇冊という数の原典の毒をモロに浴びている。
フィアンマは汚染を『聖なる右』で抑えこんでいたが、垣根にそんな芸当は不可能だ。


242 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/28 17:18:18.46 Ke7nglJHo 95/411



にもかかわらず、彼はひたすらに戦っていた。『死』という究極の概念と必死に戦っていた。
原典の汚染に付き合っている暇など無いと、垣根はこの世の誰もが成し遂げられない事を
現在進行形で行っていた。

彼が原典の毒で死に至らない理由は誰も分からないだろう。本人にも分からないはずだ。
ただ彼は、『天使同盟』という自分の居場所を守りたいの一心で行動している。
『想い』だの『信念』だの、そんな曖昧なもので汚染に耐えられるわけがないのだが、そうとしか言い様がない。


垣根帝督は、もうほとんど本能の赴くままに動いていた。


(・・・・・・・・・・・・、見つけた)


空爆を数百回ほど受けたような第一九学区をひたすら飛翔していると、垣根の眼前に『目標』が見えた。
それは学園都市の人間を玩具のように扱う者。かつて自分自身の学園都市の『絶望』を見せつけてきた者。

それは、自分の居場所である『天使同盟』の存在を脅かす者。


「・・・・・・ア、レイ・・・・・・スター・・・・・・」


243 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/28 17:19:18.78 Ke7nglJHo 96/411



掠れた声で何かを呟いた垣根は、手に握っている『自動書記』の遠隔制御霊装のダイヤルを回す。
なぜか背中の『未元物質』が輝き始めた。科学の結晶であるはずの物質が、霊装に反応した。
『未元物質』と魔術の応用。垣根帝督は『禁書目録』と『未元物質』を組み合わせて使用するという
前人未踏の行為を安々とやってのけた。


そして『未元物質』の翼から放たれた『竜王の殺息(ドラゴンブレス)』が、アレイスターの顔を掠める。
エイワスとの熾烈な戦闘で防御術式を大幅に消費していたため、アレイスターは垣根の攻撃に即座に対応出来なかった。

結果、アレイスターの顔の左半分はごっそりと削り取られてしまった。


「・・・・・・!?」

「・・・・・・・・・・・・アレイスター」


尚も垣根は止まらない。完全に致命傷を負ったはずのアレイスターが未だに生きていることに何の疑問も持たず、
垣根はアレイスターに向かって吠えた。




「アァレイスタァァァァァァァあああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」




244 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/28 17:21:00.34 Ke7nglJHo 97/411



超能力は使わなかった。魔術には頼らなかった。
垣根は血が滲み出るほど右手を握り締め、渾身の力を振るってアレイスターを殴り飛ばす。
地面から生えた塔に殴り飛ばされたアレイスターにそのまま馬乗りになり、一発、二発、何発も拳を放り込む。


「く、ゥァァァあああああああああああああああああああ!!!!!!!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ッ」


アレイスターもどうにかして抵抗しようとしたが垣根の力は予想以上に強く、なかなか引き剥がせない。
垣根は一心不乱に半分になったアレイスターの顔を殴り続けた。その姿はまるで駄々をこねる子供のようにも見えた。

何発殴ったかも分からなくなった頃、ようやく片腕が自由になったアレイスターは
魔術なのかも分からない未知の力を放って垣根帝督を吹き飛ばす。垣根はそのまま一〇〇メートル以上地面を転がっていった。

ドシャッ! と何かにぶつかる。垣根帝督を追って全力で走ってきたステイルだった。
彼は垣根のクッションになるように転がってきた垣根を両手で抱き止める。


「ぐっ・・・・・・! 垣根、しっかりしろ!!」

「が、は・・・・・・・・・・・・ァあ・・・・・・」


アレイスターの攻撃によるものなのか、垣根の脇腹は"爆ぜていた"。
皮膚が張り付いた肉が飛び散り、彼の脇腹から夥しい量の血が溢れ出している。


245 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/28 17:22:35.65 Ke7nglJHo 98/411



「ふ、危なかったなアレイスター。 今そこにいる君が『ホムンクルス』ではなかったら
 惨めに寿命を延ばしてまで維持していた『君』は死んでいたぞ?」


顔の半分を失い、垣根帝督に何十発も殴られボロボロになったアレイスターを、
エイワスは無数に立ち並ぶ塔の上から文字通り見下して嘲笑っていた。
そんな嘲りなど無視してアレイスターはよろよろと立ち上がる。

遠くの方には垣根帝督がいた。今にもアレイスターに飛び掛からんとしているが、
それを背後に居るステイルによって抑えられている。


「よせ、垣根帝督! これ以上『禁書目録』を酷使したら・・・・・・」


興奮した獣のように暴れ回る垣根を羽交い締めにしてどうにか抑えているが、
垣根はステイルの事など見向きもせず、ひたすら前方にいる魔術師に向かって叫び続けた。


「テメェさえ、テメェさえいなけりゃこんな事にはならなかったんだ!!! 何で邪魔すんだよ!?
 どうして人間をゴミみてえに扱えるんだ、どういう神経してたらそんな事が出来るんだよ!!?
 テメェにそんな権限があんのか!! 学園都市の統括理事長だぁ? 知らねえんだよそんなもんは!!!」


246 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/28 17:23:42.38 Ke7nglJHo 99/411



それは『原典』の毒ではない。
垣根帝督の胸中にへばりついて蓄積していた、彼自身の毒。彼が学園都市で見た闇、絶望。
暗部という不安定な居場所に居ついて知った、この世のものと思えぬ『負』。
垣根はアレイスターが生み出したそんな『毒』を、ここにきて一気に吐き出した。

そして、


「どうして俺の居場所までテメェに奪われなきゃなんねえんだ!!! 何でテメェの『プラン』に従って
 生きていかなきゃならねえんだよ!! 俺が一方通行に・・・・・・あいつらに出会ってから、俺はずっと
 あいつらの側にいた。 あいつらは笑ってた。 いつもいつも笑ってた。 俺も笑った。 楽しくて、
 楽しくてしょうがねえから心の底から笑った。 笑えたんだ!! そんなあいつらの笑顔まで、何で
 テメェに奪われなきゃなんねえんだよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」


唾と血糊をまき散らしながら垣根は激昂する。今まで溜まっていたアレイスターへの憎悪が
爆発した瞬間だった。
対するアレイスターは、何も答えない。自分に向かって恨み辛みを吐き出す垣根を黙って見据えるだけだった。

気がつけば、垣根の瞳からは血に混じって涙が流れていた。
アレイスターに対する怒りをぶつけても結局あの魔術師には何にもならない理不尽さに。
あまりにも非力過ぎる自分の力に。ようやく手に入れた安息の場所を守れもしない悔しさに。


247 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/28 17:25:28.11 Ke7nglJHo 100/411



「・・・・・・俺はただ・・・・・・あいつらとこれからも一緒にいたいだけなのに・・・・・・
 何でこんな目に遭わなくちゃならねえんだよ・・・・・・・・・・・・」


それは、アレイスターの『プラン』というレールに乗せられて失意と絶望の道を辿らされた
学園都市の住人の胸中を代弁した言葉だった。
普通に暮らしていきたい。ただそれだけを願うのに、なぜ血が流れるのか。なぜ誰かが涙を流さなければならないのか。

ありったけの毒を吐き終えた垣根はさっきまでの興奮から一転、糸の切れた操り人形のように
おとなしくなってしまった。背後にいたステイルがまさか、と焦燥したが彼はまだ息をしている。

やがて、アレイスターはゆっくりと半分になった口を開いた。


「・・・・・・君が『天使同盟』と共に笑顔で幸せに暮らしたいと願っているように、
 私にも全てを棄ててでも成し遂げたい願いがあるのだよ」


言いながら、彼は右手に『衝撃の杖(ブラスティングロッド)』を握ると、ゆっくりと先端部を
一〇〇メートル以上先にいる垣根帝督に向けた。
ステイルの表情に更なる焦りが追加されるが、今ここで動けない垣根を捨て置いて逃げる事は出来ない。


248 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/28 17:26:26.99 Ke7nglJHo 101/411



「願いと願いがぶつかれば、それは大きな渦となる。 その渦中では様々な思惑がぶつかり合い、
 噛み合い、喰いちぎり合い、屠っていく。 今ここで起きている事も、その一環に過ぎないんだ」


垣根はアレイスターの言葉など聞いていなかった。既に原典の汚染によって意識を失いかけている。
このままでは垣根もステイルもアレイスターの一撃で葬り去られてしまうところだが、
そんな様子を金髪の怪物が黙って見ているはずもなかった。


ゴゴォォォンッッ!!!!!! という轟音が鳴り響く。
エイワスが指を軽く下に向けただけで、偽装された夜空から音速の三〇倍以上の速度の天災が
アレイスターの胸を貫いた。

胸に歪な形の穴を空けたアレイスターは膝から崩れ落つ体を杖で支えながら歯を食いしばる。


「・・・・・・エイワス、"貴様"・・・・・・・・・・・・!!」

「ここから消えろ、ステイル=マグヌス。 垣根帝督を連れて」


249 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/28 17:27:31.09 Ke7nglJHo 102/411



言われるまでもなくステイルは垣根に肩を貸し、彼を支えながらその場を後にしようとする。
だがその時、彼は一歩を踏み出す前にエイワスを親の仇を見るように睨みつけた。


「・・・・・・君が垣根に渡したんだろう? 『自動書記』の遠隔制御霊装を」

「だったら?」


エイワスは否定しなかった。そんな瑣末事を知られたところで何の問題も無いと言いたげな、
憎たらしい表情を浮かべるだけだった。もしかしたら垣根に遠隔制御霊装を渡していることすら
忘れているかもしれない。


「君のせいで垣根帝督は死の淵に追いやられ、君のせいで本来無関係だった上条当麻は巻き込まれ、
 君のせいで・・・・・・僕が一番大切に想っているあの子は涙を流しているんだ」


250 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/28 17:28:02.38 Ke7nglJHo 103/411



ステイルが口に咥えている煙草の先端が異様に激しく燃え盛っていた。
まるで彼の憤りを如実に表しているかのように。


「アレイスターはどうなろうが構わないが・・・・・・、出来れば君はここで朽ち果ててくれると
 僕としてはとても嬉しいんだけどね」

「そうか。 ならばステイル、君が私を討てばいい」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・ふふ、さあ行きたまえ。 『茶会』はもうすぐ幕を閉じるぞ」


クソ、とステイルは毒づくと垣根を連れて今度こそその場を後にした。
残ったのは依然として冷笑を浮かべる聖守護天使と、目を覆いたくなるほどに
無残な姿で、しかし未だ健在している世紀の大魔術師だけとなった。


252 : 次回予告はここまでです。  ◆3dKAx7itpI - 2011/05/28 17:33:27.84 Ke7nglJHo 104/411




                          【次回予告】



『・・・・・・・・・・・・イン、デックス・・・・・・・・・・・・?』
―――――――――――『天使同盟(アライアンス)』の構成員・垣根帝督




『!! う、うん。 そうなんだよ、私がインデックス。 分かる・・・・・・?』
―――――――――――『禁書目録』を司るイギリス清教のシスター・インデックス




『・・・・・・・・・・・・いい加減にしろよテメェ!!!!
 お前の事なんかこれっぽっちも知らない。 お前が一体どんな"魔術師"で、どんな人生を送ってきたかなんて、
 "他人だった"俺には分からない。 けど、そんな霊装なんか使わなくったって守れるものはあるんだ!!』
―――――――――――学園都市の無能力者(レベル0)・上条当麻




291 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/30 23:34:04.60 QDba7KYho 105/411



――――――――――――――――――――――


エイワス達が居た場所から離れてそのまましばらく歩いていると、
不意に垣根がステイルの腕を振り払った。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・アレイ、・・・・・・スター・・・・・・」

「垣根、意識が戻ったのか?」


あれだけ原典を開き、閲覧し、行使したにも関わらず、垣根帝督は意識を取り戻していた。
いや、意識はあるにはあるが未だ朦朧としている。相変わらず目の焦点は合っていないし
血塗れの口から漏れる言葉は耳を澄まさなければ聞き取れないほどに不明瞭だった。

だがそれでも自分の足で歩けている限り、いよいよ垣根も化物だとステイルは背筋を凍らせる。
彼も長い期間魔術サイドに身を預けているが、あれほど原典を使用して尚生きている例は聞いたことがなかった。


「霊装を僕に渡せ。 あの仮面の軍隊も出てくる気配がないし、
 それ以上原典を酷使する理由はない」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・、駄目、だ」


292 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/30 23:34:51.01 QDba7KYho 106/411



弱々しい声だったが、それでも強い意志が窺えた。
どうやら遠隔制御霊装を使ってまだ何かをやらかそうとしているらしい。

これ以上原典を行使し続ければ待っているのは掛け値なく『死』。
魔術サイドに属し、『自動書記』と正面から相対したことのあるステイルだからこそ分かることだった。

口で言っても無駄だと悟ったステイルは半ば強引に垣根の手から霊装を毟り取ろうとしたが、
『未元物質』の翼で突き飛ばされてしまった。断固として霊装を手放さないつもりらしい。
『禁書目録』の全知全能を手に入れ、原典に"魅せられた"かと危惧したステイルだったが、
垣根の表情を見る限りではそんな様子ではなかった。


彼の表情はまるで、一種の覚悟を決めたかのような―───―。


「ステイル!!」


と、そこで不意に遠方からステイルを呼ぶ声が聞こえてきた。
声のした方を見るとそこは既に第一九学区の端。光のカーテンが敷かれている場所だ。

そのカーテンの向こう側で、上条当麻とインデックスがこちらを不安げに見つめていた。


293 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/30 23:35:29.70 QDba7KYho 107/411



「ステイル、そいつか!? 『自動書記』の霊装を使ってるやつは!!」

「・・・・・・まったく、相変わらず最悪のタイミングで出くわすね君は。
 とっととここから去れと確かに言ったはず――――――」

「お願い!!! もうやめて!!」


ステイルと上条の会話に割り込んで叫んだのは白い修道服を着たシスターだった。
インデックスは光の壁に手をつけながら必死で垣根に声をかける。


「それが一体どんな霊装なのか、あなただって知らないわけじゃないでしょ・・・・・・?
 そんな物を使わなくったって、大切なものは守れるんだよ! あなたが何かを
 必死に守ろうとしているのは分かってる。 あなたの想いはその霊装を通して
 ほんの少しだけど私にも伝わってるから・・・・・・・・・・・・」


垣根は自分が話しかけられている事にすら気付いていなかった。
視界はぼやけ、聴覚は機能しているのかどうかもわからない。耳からも大量に出血しているため、
耳の穴の中で血が固まって音が聞き取りにくくなっているのかもしれない。


294 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/30 23:36:12.70 QDba7KYho 108/411



でも、それでも、目の前にいる誰かが自分の事を本気で心配してくれてる事だけは分かった。
そして垣根はふと、エイワスの言葉を思い出す。


『「禁書目録(インデックス)」、という言葉を覚えておくといい。 "アレ"は今も学園都市に存在しているだろう』


「・・・・・・・・・・・・イン、デックス・・・・・・・・・・・・?」

「!! う、うん。 そうなんだよ、私がインデックス。 分かる・・・・・・?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・インデックス・・・・・・」


295 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/30 23:37:20.38 QDba7KYho 109/411



呪文のように何度も銀髪の修道女の名を呼ぶ垣根に、ステイルと上条は眉をひそめて訝しむ。
上条は『遠隔制御霊装を使っておきながら、なぜこの男はインデックスを知らなかったのか?』と疑問に思った。
ステイルは『なぜ学園都市に住む人間がインデックスという言葉を知っている?』と頭を悩ませた。

答えはどちらも、『垣根帝督が科学サイド人間だから』、で説明できる。
インデックスという言葉だけは知っている。なぜならそれは科学サイドでない存在から耳にしているから。
インデックスが何なのかは知らない。なぜなら彼は科学サイドの人間だから。

困惑する二人を無視して、インデックスは諭すように垣根に話しかける。


「あなたはもう充分に戦ったんだよ・・・・・・。 だからお願い、もうこれ以上私の魔導書のせいで
 傷つかないで・・・・・・・・・・・・。 私のせいで誰かが苦しむなんて、もう沢山なんだよ・・・・・・」


ポロポロと大粒の涙を流しながらインデックスは懇願した。
正直、今の垣根帝督の姿は見ていられなかった。あらゆる箇所からの夥しい出血。
汚染の影響からか目は虚ろで、そのおぼつかない足取りはゴーストタウンを徘徊するゾンビのようにも見える。

誰がどう見たって、今の垣根は三途の川に片足を突っ込んでいる状態だった。


296 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/30 23:39:40.13 QDba7KYho 110/411



だが例え棺桶に収まる寸前の状態でも、垣根帝督は


「・・・・・・・・・・・・すまねえ、な」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!」


そう言って、笑うだけだった。
ただしその笑みは邪悪なものでも、嘲笑でもない。

普段の彼からは想像もつかない、優しい、少年のような柔和な笑みだった。


「ど、うして・・・・・・・・・・・・?」

「もう・・・・・・手に入れちまったから。 あいつらを、あのクソボケ共を守れる方法が・・・・・・。
 誰だかは知らねえが、お前のおかげで・・・・・・俺は居場所を守れる。 だから・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・いい加減にしろよテメェ!!!!」


垣根に向かって吠えたのは上条だった。
ミシ・・・・・・と右手から軋む音がするほど拳を握り締め上条は激昂する。


297 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/30 23:42:05.77 QDba7KYho 111/411



「お前の事なんかこれっぽっちも知らない。 お前が一体どんな"魔術師"で、どんな人生を送ってきたかなんて、
 "他人だった"俺には分からない。 けど、そんな霊装なんか使わなくったって守れるものはあるんだ!!
 インデックスを、こんな小さな女の子を泣かせなくても守れる方法があるんだよ!! 『自動書記』を
 ほいほい使いこなしちまうほどの強さがあるなら、魔道書なんかに頼らなくたって他の道を示せるはずじゃねえか!!!」

「・・・・・・、」

「そんな数ある可能性を全部放棄して、泣いてまでお前を止めようとするインデックスの意志も無視して、
 それでもまだそんなくだらねえオモチャに頼って大切なものを守ろうって言うんなら・・・・・・!!!
 まずはそのふざけた幻想を・・・・・・・・・・・・、・・・・・・・・・・・・ッッ!!! クソッ!!!!」


ゴッ!! と上条は異端の力が宿るその右手を思い切り不可思議な光の壁に叩きつける。
もちろん"『幻想殺し』程度"では、この強固な壁はビクともしない。
目の前にいる"自分と同じような馬鹿野郎"を、本当なら今すぐぶん殴ってやりたいのに、
それが出来ない非力で無力な自分が腹ただしくてしょうがなかった。


298 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/30 23:46:22.33 QDba7KYho 112/411



「とうま・・・・・・」

「ちくしょう・・・・・・何でだよ!!! それを使い続けたらどうなるか分かってるんだろ!!?
 死ぬんだぞ!!! テメェが大切なものを守って、死んで!!! 残された人が喜ぶとでも
 思ってんのかよ!! お前の想いは絶対に間違っちゃいない、でもやり方が間違ってる!!
 俺は今までそんな馬鹿を沢山見てきた!!! 目ェ覚ませよヒーロー!! お前はこんなところで
 死んでいいような人間じゃねえだろうがぁ!!!!」

「・・・・・・、は・・・・・・」


ふらふらと、今にも倒れそうな挙動で垣根は歩み始めた。
上条とインデックスがいる方向とは全く逆の方向へと。


「ま、待って・・・・・・お願いだから待って欲しいんだよ・・・・・・」

「く、ゥ・・・・・・!!! ステイル!!! その馬鹿の目を覚ましてやってくれよ!!
 俺じゃ・・・・・・俺なんかじゃ駄目だ。 舞台に上がれもしない"脇役"じゃ、そのヒーローを
 止められねえ・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・くっ・・・・・・」


299 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/30 23:48:10.96 QDba7KYho 113/411



もはやステイルにはどうしたらいいか判断出来なかった。
本来の彼なら例えここで垣根を殺してでも霊装を奪う選択をとっていただろう
だが同時に、本来絶対に間違っている方法で大切なものを守るという垣根の意志が、ステイルにはよく理解できる。

かつて彼が、最も大切な存在であるインデックスを、最低な方法で守り続けていた過去があるからこそ、
ステイルは垣根をあと一歩のところで抑止出来ずにいた。
垣根に対する怒りと共感がステイルの胸中でせめぎ合う。


上条とインデックスの叫びを背で受けながら、垣根は虫のさえずりのような小さい声で言った。


「・・・・・・・・・・・・『汝の欲する所を為せ、それが汝の法とならん』」

「な、に?」


その言葉を聞いてステイルは息が詰まった。なぜ科学サイドの人間が『法の書』に記されている言葉を知っているのか、と。
垣根はエイワスが所持していた『法の書』に目を通したことがある。そこに書かれていた言葉の意味がわからず、
その時はすぐに思考を放棄した。


300 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/30 23:49:32.10 QDba7KYho 114/411



だが、


「・・・・・・今なら、分かる気がする。 あの言葉の、意味・・・・・・が・・・・・・、・・・・・・ごぼっ・・・・・・!!」


垣根は口から大量の血を吐き出した。それを見たインデックスが思わず短い悲鳴を上げる。
涙を流しながら青ざめているインデックスに向かって、垣根は最後にこう告げた。


「ごめんな・・・・・・。 ありがとう、インデックス」


そして二度と、垣根はインデックス達へ目を向ける事はなかった。
ステイルも壁の向こうで捲し立てている彼らを名残惜しそうに見るが、『幻想殺し』でも壊せない
壁が立ちはだかっていてはどうすることも出来ない。彼はゆっくりとした足取りで垣根に近付く。


301 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/30 23:50:37.20 QDba7KYho 115/411



「・・・・・・ステイル。 俺を、一方通行と・・・・・・ミーシャのところへ連れてけ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・どうするつもりだ」

「"守る手段"は・・・・・・俺が肩入れしてやる。 だから"実行"は・・・・・・あのクソ野郎に託す。
 ・・・・・・一〇万三〇〇〇冊ってのはすげえなぁ・・・・・・この絶望的な状況に、光明を照らしてくれやがった」

「何か方法があるのか?」

「ああ。 ま、これで失敗したら・・・・・・そん時はインデックスの前でお前が俺の首を飛ばせ」


ステイルはしばし思考した。その気になれば恐らく垣根帝督から無理やり霊装を奪える。
そうすれば垣根がこれ以上死に近付くことはないし、インデックスもきっと安心してくれる。

あの子がまた、笑顔に戻ってくれる。そう考えたステイルは、


302 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/30 23:51:27.80 QDba7KYho 116/411



「分かった、・・・・・・手を貸そう。 君を一方通行の下へ連れて行く」

「いい、のかよ?」


苦渋の決断だった。ステイルは自分とはこれほど馬鹿で愚かな男だったのか、と自覚する。
だが、それでも、


「その代わり、全てが終わったら君を一〇万三〇〇〇発ぶん殴らせろ」

「おいおい、そんなに殴られたらイイ男が台無しになっちまう」


今だけはこの男に助力しようと、断腸の思いで決意する。


『ゲーム』開始から二時間が経過。本来なら『星の欠片』はとっくに消失しているであろう時間。


垣根帝督は仲間を守るため、命を賭けて前へ進む。


303 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/30 23:53:03.15 QDba7KYho 117/411



――――――――――――――――――――――


ズズン・・・・・・と派手な震動が起きた。
垣根帝督とステイルが立ち去った後、その場にあったいくつもの塔が大地に飲み込まれていった。
巨大なマンホールのようにポッカリと口を開けていた第一九学区の地面に、新たな足場が出現する。


「・・・・・・まあ、こんなものか。 気分はどうかねアレイスター? 必要なら小休止を挟もうか?」

「・・・・・・・・・・・・必要ない。 くだらん気遣いをどうもありがとう、我が守護神よ」


ドーム一個分ほどの大きさに広がった新たな大地に、エイワスとアレイスターが乗り込む。
エイワスは普段どおりの佇まいだったが、アレイスターは明らかにいつもと異なっていた。

エイワスとの戦闘でいつも着用している緑色の手術衣はボロボロになり、身体中に出来た裂傷から
じわりと血が滲んでいる。胸には雷に貫かれたような大きな穴が空いており、穴の周囲は軽く焦げていた。
アレイスターの顔は半分消し飛んでいる。垣根帝督の『竜王の殺息』という究極の不意打ちを喰らった事によって。

これでまだ動けるというのだから不思議でしょうがない。だが注目すべきはそんな所ではなかった。


アレイスターの表情。いつもの感情が読めないフラットな表情は、今や見る影もない。
エイワスに対して向けられるは、明らかな『憎悪』、『憤怒』。そして、


304 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/30 23:55:48.07 QDba7KYho 118/411



「『嫉妬』か。 このまま七つの大罪でもコンプリートしてみるか?
 君のように意志が強力な人間では、煉獄でも浄化出来ないかも知れんがね」

「"それも挑発か"?」

「忠告だよ。 まさかとは思うが、このまま私が君を見捨てるだなんて可能性に
 縋っているのではないだろうな? 安心しろ、"それはない"」


それは、何があってもここからアレイスターを逃がすつもりはないという、
エイワスからの宣戦布告だった。
『天使同盟』の面々がこれを聞いていたら、下手をすればアレイスターに同情していたかもしれない。
エイワスの口から出る『絶対に逃がさない』という言葉の恐ろしさがどれほどのものか、少なくとも
『天使同盟』のリーダーはよくご存知だろう。


アレイスターはふぅー・・・・・・と大きく息をつく。
顔が半分無くなっているため、呼吸をするたびに彼の口元から奇妙な音が聞こえていた。

その半分になってしまった顔で、アレイスターは微笑を浮かべる。
この時、初めてエイワスは不可解そうな顔を見せた。


305 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/30 23:57:24.49 QDba7KYho 119/411



「どうやらあなたは本気で『天使同盟』側につくつもりのようだ。
 私のことも、ここで殺してしまってもそれはそれで一興だと考えているのだろう」

「ならばどうする?」

「覚悟を決めたよ、エイワス」


ズグンッッッ!!!!!! と空間がひどく歪む音がした。
アレイスターの周囲にある景色が別の絵の具をそれぞれ混ぜ合わせたようにぐにゃりと渦を巻いている。


そして、アレイスターは歌うように呟いた。






「――――――――Perdurabo093」






306 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/30 23:58:56.08 QDba7KYho 120/411



その言葉を聞いたエイワスの表情は、信じられないことに『驚愕』一色に染め上がっていた。
アレイスターが放った言葉は呪文でも呪詛でも何でもない。

魔術師なら誰もが持っている『魔法名』。アレイスターの『Perdurabo093』の意味は『我、耐え忍ばん』。


アレイスター=クロウリーは学園都市創設以来、初めて"純粋なる魔術師"として君臨した。


「"久しぶりだな"、エイワス。 私は『黄金夜明(S∴M∴)』所属の魔術師、アレイスター=クロウリーという者だ」

「っ。 くく・・・・・・」


次にエイワスが浮かべた感情は『歓喜』と『追慕』だった。
かつてエジプトに訪れていた若りし頃の、言ってしまえば"全盛期"のアレイスターを前に、
エイワスは体を駆け巡る震えを感じた。

遅れて、大地がズズズズズズズ・・・・・・!!!! と震え始めた。
まるでエイワスの歓喜の震えに呼応するように。大地が、地球という惑星が魔術師アレイスターの
再帰を祝福しているかのように。


307 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/31 00:00:24.43 yRnDv3tco 121/411



黄金の輝きを放つオーラを纏うアレイスターは、エイワスとは対照的に極めて無表情だった。
そして間髪を入れず先制攻撃を放つ。


「ソロモン七十二柱序列第一〇位、『ブエル』の召喚を実行する」

(・・・・・・ッ。 半物質化"魔法"―――――)


エイワスはすかさず反撃に出ようとしたが、一瞬早くアレイスターの攻撃が始まった。
ブエルの召喚を実行したアレイスターの背後に、星が現出する。
否、それは星ではなく、五つの触手を持った星型の『異形』だった。

続けて、ゴキィィィィィィン!!!!!!! と甲走った音が鼓膜を貫く。
まるで不可視のナイフでケーキをブロック状に切り取ったように、空間そのものが"ズレた"。
ここまでの一連の流れは、一秒にも満たなかった。

ズレた空間の範囲内には、エイワスの上半身も含まれていた。
エイワスは出遅れた事を悟ると一言、普段の調子で呟く。


「ああ。 "いかんなこれは"」

「隔離しろ」


切り取られた空間が虚空に取り除かれた。


空間の"切り取り"に巻き込まれたエイワスの上半身は、雪が溶けるような静けさと共にこの世から綺麗サッパリ消失した。


308 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/31 00:02:09.62 yRnDv3tco 122/411



――――――――――――――――――――――


キャーリサは第三次世界大戦でミーシャ=クロイツェフと交戦した経験がある。
今と同じように大量のカーテナ=セカンドの欠片を装備して、本物の大天使と
互角に渡り合うほどの激戦を繰り広げた。

結果としては敗北した、と言えるかもしれない。カーテナの力を最大限に使用しても
ミーシャには傷ひとつ負わせることは敵わなかった。

だが問題はそこではない。彼女の数ある経験値でも目を見張るのは、天使と交戦して生き残ったという結果だ。
いくらカーテナで天使長としての力を肉体に降ろして強化したところでキャーリサは生身の人間だ。
ただの『人間』が真っ向から『天使』と衝突して生き残るなど、もはや"あってはならない"と言っても過言ではない。
だがキャーリサは見事にその偉業をやってのけた。


だから、今回の対悪魔も生き残る自身はあった。


こうして、実際に悪魔という未知の存在と真正面から衝突するその瞬間までは。


(こ、いつ―――――――!!?)


309 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/31 00:03:41.58 yRnDv3tco 123/411



鞭が空気を破裂させる音が鳴り響いた。だがそれは鞭ではなく、悪魔が振り抜いた蹴りによる音。
ただの蹴りが音速以上の速度で飛んでくる。そこに悪魔自身の攻撃力が加算されることによって、
カーテナ程度では軽減しきれないほどのダメージがキャーリサを襲った。

五〇〇メートル以上後方へ吹き飛ばされたキャーリサはそれでも素早く体勢を整えなおす。
そのタイムラグですら悪魔相手には命取りなのだが、キャーリサは何も一人で悪魔と相対しているわけではない。


「qpohn回避pofkogis行動」

「はああああああああああああああああああッッ!!!!!!!」


雷鳴にも似た轟音が鳴ると同時、悪魔の頭に閃光の一撃が振りかかる。

風斬氷華。学園都市で作られたAIM拡散力場の集合体にして科学の人工天使が、
"大切な友達を救うために大切な友達に容赦なく光剣の矛先を振るう"。
キャーリサはこの人工天使と共同戦線を張る事で、辛うじて悪魔との戦闘を続行できていた。


風斬と悪魔の剣と背中の翼が幾度と無く交錯する。断続的に発生する空気の震えを感じながら
キャーリサは口元の血を拭い、周囲を見回した。


310 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/31 00:04:37.00 yRnDv3tco 124/411



(・・・・・・・・・・・・、うさぎは・・・・・・?)


キャーリサが共同戦線を張っているのは風斬氷華だけではなかった。
学園都市最強の超能力者にして、ある意味この騒動の一番の原因とも言える少年、一方通行。
その華奢な背中から漆黒の双翼を生やす怪物が、さっきからこの戦闘に参加していないことにキャーリサが気付いた。

悪魔との戦闘は世界大戦の時と内容がほぼ同じだった。ギリギリのところで拮抗しているものの、
徐々にではあるが確実に体力と命を消耗し続けているのはキャーリサ達だけだ。悪魔に対しては
致命的なダメージはやはり与えられない。

風斬もこのまま悪魔と戦っていればいずれ深刻な一撃を喰らい、戦闘不能に陥ってしまう。
だから今だけは、一人でも多くの戦力が欲しいところだった。


「風斬! あのうさぎが居なくなってるの! どこに消えた!?」

「え・・・・・・!? さっきまで一緒に戦っ・・・・・・きゃああっ!!!!」

「クッソ・・・・・・!!」


会話中も風斬は悪魔への警戒心を解くことはなかった。にもかかわらず一体どこに隙があったのか、
悪魔は恐ろしい反射速度で風斬の猛攻を突破すると返す刀で黒紫の翼を振るい、風斬を退ける。


311 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/31 00:05:28.17 yRnDv3tco 125/411



(この野郎・・・・・・、これが悪魔か。 天使の時より攻撃性が増してるし。
 大戦時には『帰還』という目的があったが、今のミーシャにはそれがない。
 ただ単純に目に映るものは皆殺しにするだけの暴走ロボット・・・・・・。 むしろタチが悪くなってるの)


天界から追放された暴徒の首が不気味に回る。悪魔の視線の先にはキャーリサが居た。
自我を失った悪魔に、イギリスで『王室派』と過ごした楽しい数日間の記憶など存在しない。

故に、背中の翼は慈悲の欠片も見せずキャーリサに照準を合わせる。


(チッ! まだ回復が―――――)


ガクガクと自分の意志とは関係なく震える膝を何とか動かそうとするが、まるで言う事を聞かない。
風斬もキャーリサを援護しようとボロボロの体を起こそうとするが、アレイスターとの連戦が祟って
なかなか次の行動に移れないでいた。
ここで走馬灯でも走り出したら笑ってやる、とキャーリサが覚悟をきめたところで、


水を打ったような静寂。原因は、電池切れでも起こしたかのような悪魔の突然の停止だった。


312 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/31 00:06:49.93 yRnDv3tco 126/411



「・・・・・・・・・・・・?」

「あ・・・・・・」


風斬が思わず声を漏らす。悪魔の背後、一〇〇メートル以上に渡って伸びている水晶の翼で確認しにくいが、
彼女は確かに見た。悪魔の背後にゆらりと、まるで影のように佇む彼の姿を。


「うさぎ! お前どこ行って――――・・・・・・・・・・・・、・・・・・・!?」

「あ、・・・・・・・・・・・・一方、通行・・・・・・さん・・・・・・」


風斬とキャーリサは悪魔という、ただでさえ異形過ぎる存在を目にしているというのに、
二人は『この世のものとは思えない存在』を見る目を悪魔の背後に送っていた。
悪魔は振り向かない。キャーリサに目掛けて翼を構えたまま、時間が凍りついたように動かない。

悪魔の背後に居たのは、さっきまで行方をくらましていた一方通行。
ただし、


313 : ◆3dKAx7itpI - 2011/05/31 00:08:52.98 yRnDv3tco 127/411





「・・・・・・なんだ、あの黒いのは。 うさぎ、お前・・・・・・"その化物はどこから連れてきたの"」




一方通行の頭上。いや、もはや彼の全身を覆うように漂うその黒い影。
それは彼以上に怪しく輝く紅い眼を持ち、頭部と思われる部分からは血よりも紅い髪が流れていた。

そしてその口はまるで、夜空に浮かぶ真っ赤な三日月のように引き裂かれていた。
その三日月が不気味に形を歪ませる。三日月から満月のように真ん丸になったその大きな口は、
そのまま彼を頭から飲み込んで――――――。


「やめ、て・・・・・・・・・・・・・・・・・・やめて・・・・・・!!!!」


人工天使の声が悲鳴が反響した。


黒い"神"は、応じなかった。


315 : 次回予告はここまでです。  ◆3dKAx7itpI - 2011/05/31 00:17:09.63 yRnDv3tco 128/411




                          【次回予告】



『でも、天使によって引き起こされたものじゃない・・・・・・。 天使より、もっと上位の・・・・・・・・・・・・』
―――――――――――『禁書目録』を司るイギリス清教のシスター・インデックス




『・・・・・・・・・・・・なんだ、このふざけた現象は。 もはや天使を救うとか、そんな話ではなくなっているぞ。
 クソッ、エイワスめ・・・・・・。 手紙に書いてあった『十字教の終焉』とはこの事を指していたのか・・・・・・!?』
―――――――――――イギリス清教『必要悪の教会(ネセサリウス)』の魔術師・ステイル=マグヌス




『ちょ、ちょっと待ってよ。 これ、体から魔力が漏れていってない?
 この黒い霧、私達の体からどこかに魔力を運んでやがるわよ』
―――――――――――ローマ正教、禁断の組織『神の右席』の元一員・前方のヴェント




『この世に現存する全ての魔術師を滅ぼし「神」という源を「浄化」し、神に隷属するオシリスの時代が終わる』
―――――――――――世界最強最悪の大魔術師・アレイスター=クロウリー






続き
とあるフラグの天使同盟【2】


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