1 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/18 22:23:13.40 dNiEP72yo 1/408



このSSは、とある魔術の禁書目録に出てくるキャラクター、一方通行(アクセラレータ)を中心とした
もうあまりほのぼのとは言えない感じの二次創作物です。



一方通行「フラグ・・・ねェ」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1285654962/

一方通行「フラグ・・・・・・なのかァ?」  風斬「そうですよ!」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1289310136/

一方通行「フラグ・・・・・・じゃねェだろ」  エイワス「まだそんな事を言っているのか」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1294928027/

一方通行「フラグ・・・・・・だろォな」  垣根「ち・・・・・・くしょ・・・・・・う」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1295564748/

一方通行「フラグだと? って事ァ」  レッサー「私はあなたが好きって事です♪」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1298041227/

一方通行「そンなフラグはヘシ折ってやる」  ヴェント「・・・・・・あ?」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1300453744/


上記のスレからの続きとなっています。もしお暇でしたら、ご一読を。


以下、留意点など。


・投下は基本的に三日おきです、多分。そしてかなり気まぐれに投下するので質悪いです。
・第三次世界大戦は終結。その後のお話です。
・キャラ崩壊しまくりな上に、設定も弄りまくっています ←これ一番重要、ご注意ください。
・地の文が多めになってきました。
・書き溜めはありますが恐らく速攻で尽きます・・・・・・



元スレ
一方通行「いいか、フラグってのはなァ」 ガブリエル「vbhti素敵apfrgt」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1303132992/



【関連】

1スレ目
一方通行「フラグ・・・ねェ」【1】
一方通行「フラグ・・・ねェ」【2】
一方通行「フラグ・・・ねェ」【3】
一方通行「フラグ・・・ねェ」【4】

2スレ目
一方通行「フラグ・・・・・・なのかァ?」  風斬「そうですよ!」【1】
一方通行「フラグ・・・・・・なのかァ?」  風斬「そうですよ!」【2】
一方通行「フラグ・・・・・・なのかァ?」  風斬「そうですよ!」【3】
一方通行「フラグ・・・・・・なのかァ?」  風斬「そうですよ!」【4】

3スレ目
一方通行「フラグ・・・・・・じゃねェだろ」  エイワス「まだそんな事を言っているのか」【1】
一方通行「フラグ・・・・・・じゃねェだろ」  エイワス「まだそんな事を言っているのか」【2】
一方通行「フラグ・・・・・・じゃねェだろ」  エイワス「まだそんな事を言っているのか」【3】

4スレ目
一方通行「フラグ・・・・・・だろォな」  垣根「ち・・・・・・くしょ・・・・・・う」【1】
一方通行「フラグ・・・・・・だろォな」  垣根「ち・・・・・・くしょ・・・・・・う」【2】
一方通行「フラグ・・・・・・だろォな」  垣根「ち・・・・・・くしょ・・・・・・う」【3】

5スレ目
一方通行「フラグだと? って事ァ」  レッサー「私はあなたが好きって事です♪」【1】
一方通行「フラグだと? って事ァ」  レッサー「私はあなたが好きって事です♪」【2】
一方通行「フラグだと? って事ァ」  レッサー「私はあなたが好きって事です♪」【3】

6スレ目
一方通行「そンなフラグはヘシ折ってやる」  ヴェント「・・・・・・あ?」【1】
一方通行「そンなフラグはヘシ折ってやる」  ヴェント「・・・・・・あ?」【2】
一方通行「そンなフラグはヘシ折ってやる」  ヴェント「・・・・・・あ?」【3】


2 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/18 22:24:12.54 dNiEP72yo 2/408



                   【超今更の登場人物紹介・『天使同盟』の構成員】


【一方通行(アクセラレータ)】


本作の主人公にして『天使同盟(アライアンス)』のリーダー。第三次世界大戦終結後、大天使ミーシャ=クロイツェフになぜか好かれてしまい、
その後の生活はほぼミーシャと共に過ごしている。すき焼き屋で風斬氷華とフラグを立てると同時に
『天使同盟』を結成。酒の勢いとノリで結成したこの組織が、後に全世界を揺るがす
とんでもない同盟になることは、その時の彼には予想も出来なかった。ちなみに、この本作では結構な数の女性とフラグを立てている。


【ミーシャ=クロイツェフ】


『神の力(ガブリエル)』。本作のヒロインにして『天使同盟』の顔。第三次世界大戦終結後、
なぜか一方通行に懐いてしまい生活を共にすることになる。身長ニメートル以上、
全身をすべすべとした白の布で覆い、顔のパーツを全て凹凸で再現しているその姿はまさに異形。
しかし彼女の仕草にはどこか可愛らしい一面も見られる。ような気がする。一方通行からはガブリエルと呼ばれている。


【風斬氷華(ヒューズ=カザキリ)】


『天使同盟』の清涼剤にして唯一、常識を持ち合わせている女の子。でも最近はそんな事なくなってきた。
すき焼き屋の一件で一方通行に特別な感情を抱く事になる。キレるとエイワスですら手が付けられなくなる。
基本的には誰に対しても敬語で、レッサー以外には『さん』付けで名前を呼ぶ。ミーシャの事は『天使さん』。
超絶鈍感クソ野郎こと一方通行相手に唯一『女性』を意識させた女傑。最もフラグらしいフラグが立っている。


【エイワス】


『天使同盟』のジェネラルマネージャーにして最強の聖守護天使。霊的存在。銀河系悪鬼。
アレイスター=クロウリーに必要な知識を全て授けた大馬鹿野郎。ある時は巨乳のパツ金ねーちゃん。
シリアスパートもそうだが、特にギャグパート時のエイワスは全宇宙最強の存在。出来ない事がない。
『天使同盟』結成に興味を持ったため、垣根帝督というお土産を手に彼らに接触した。
その瞬間、『天使同盟』の命運は決まってしまったのかもしれない。ドラコ=アイワズという偽名をよく使う。


【垣根帝督】


学園都市第二位の超能力者(レベル5)、『未元物質(ダークマター)』。イケメンホストかぶれ。
現時点では彼が最後の『天使同盟』構成員である。イジラれ役。すぐ死ぬ。
本作で最も死亡フラグを積み重ねてきている男。しかしそれらを全て跳ね除けている彼は
実は不死身なのではないかと囁かれている。あとすぐ死ぬ。でもたまに本気でかっこいい一面を見せる。
一方通行とのデートにおいて自らの心の内を暴露。以降はミーシャを守るために彼らと行動を共にする。
実は彼、この本作で三人ほどちゃんとしたフラグを立てている。


37 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/20 21:23:51.47 znxtMwqJo 3/408



白鎧の怪物と最強の修道女が激突する。その衝撃は目視できる程の球状の衝撃波が発生するほどだった。

砲弾のような速度で放たれるワシリーサの右ストレートが、垣根帝督の身を守る『未元物質』の鎧越しに痛烈なダメージを肉体に与える。
返す刀で繰り出した垣根帝督の前蹴りが、ワシリーサの着る赤い修道服の上からでも分かる引き締まった脇腹をごっそりと抉る。

両者はそのまますれ違い、一旦距離をおいた。
ポッカリと欠落した部分が出来上がったワシリーサの脇腹から尋常ではない量の出血が起きている。
それでも、ワシリーサは不敵な笑みを崩さない。

『未元物質』の鎧で身を包み、完全に無敵状態であるはずの垣根帝督が口から吐血する。
ワシリーサの放った右ストレートが肺に深く入り込み、深刻なダメージを負わせていた。


ワシリーサは『何もかもが赤い騎士』と赤い馬を絶対安全な距離まで退かせていた。
万が一にも垣根の攻撃に巻き込まれて赤い騎士がやられるような事になれば、
今も轟音を放ちながら君臨している擬似太陽も綺麗サッパリ消失してしまうからだ。

もはや『三騎士』程度では、今の垣根帝督には傷一つ負わせる事は出来ない。
だからワシリーサは自身の肉体を魔力で強化し、その肉体のみで戦う事を選択した。


38 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/20 21:24:49.24 znxtMwqJo 4/408



一方の垣根は腰に巻いてあるズタボロになったジャケットからルーンを取り出すと、
詠唱破棄を行い魔術による攻撃を放った。
これによって彼の身体のどこかに出血が起こっているのだろうが、白の鎧に包まれた今の姿では
それを確認することも出来ない。


(これって手で払ったりガードしたりしてもダメなのかしら?)


この魔術訓練での垣根の合格条件は『ワシリーサに魔術による攻撃を当てる事』。
しかし垣根の魔術攻撃を手や足で防いだり弾いたりしてもいいのかどうかは議論されていない。

ともあれ、限界まで集中力を高めた今のワシリーサならこんなショボい魔術攻撃など
防ぐまでもない。彼女は軽い動作で垣根の放った魔術を避ける。


と、回避行動を見計らって垣根の背中にある"五枚"の翼がドバァッ!!!とワシリーサに襲いかかってきた。


(目ェ潰れてるんじゃないの!? さっきの魔術攻撃といい、どんだけ正確に私の位置を把握してんのよ~!)


39 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/20 21:26:22.89 znxtMwqJo 5/408



極限状態にある今の垣根は、六枚の内の一枚の翼を『エコーロケーション』を行使するための
超音波発生機に変化させている。
よって、これだけ素早い動きで行われる戦闘の最中でも、『エコーロケーション』によってワシリーサの位置を
一寸の狂いもなく完璧に把握していた。


ズギャギャギャギャギャ!!!と五枚の翼が地面に深く突き刺さる。
それだけでこの地下防空壕跡地がぐらぐらと揺れ、軽い地震が起きた。
しかし肝心の手応えがない。ワシリーサは翼を避けて垣根の懐に侵入していた。


瞬間、垣根の身を覆う白の鎧が一斉に光を放ち、彼を中心に大爆発を起こした。
暗部での抗争でも使用したことのある、『未元物質』の応用だ。


左フックをこめかみに入れようとしていたため、その爆発でワシリーサの左腕が吹っ飛んでしまった。
だが彼女はその事にも怯まず、すかさず垣根の顔面にハイキックをぶち込む。


「―――――――――ッッ・・・・・・!!!」


40 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/20 21:27:13.66 znxtMwqJo 6/408



その攻撃で鼻の骨が折れ、苦痛に顔を歪める。
魔術による攻撃すら軽減できる特製の『未元物質』越しにダメージを与えてくるこの修道女は、本当に人間なのかと疑ってしまう。


垣根は翼から烈風を巻き起こし、ワシリーサとの距離を離した。が、その時、


「一本足の家の人喰い婆さん―――――」

「!?」


ワシリーサが突然口ずさみ始めた。それはあの『バーバ・ヤーガ』を呼び出す時に口ずさむ、二度と聞きたくない言葉。


垣根は直ぐ様『エコーロケーション』用の翼に意識を向ける。
ここであの妖婆に出てこられてはワシリーサに魔術攻撃を当てる事が困難になってしまう。


超音波を発し妖婆の姿を捜していると、すぐ近くから声が聞こえた。


「うっそぴょーん♪」


メギィッ、という音と共に垣根は腹の辺りにじわりとした鈍痛を感じた。
ワシリーサが瞬間移動のように素早く垣根の懐に飛び込み、みぞおちに肘鉄を喰らわせていたのだ。


41 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/20 21:28:39.50 znxtMwqJo 7/408



(・・・・・・こんのクソババア!! 俺の意識を散らせるためにくだらねえウソつきやがったな!?
 それに見事に引っかかってる俺も俺だけど・・・・・・。 情けねえ・・・・・・!!)


肘鉄に次いで飛んできたハイキックが顔にブチ当たり、地面を転がりながら垣根は心の中で自身に叱咤する。
ワシリーサは『未元物質』の翼が放つ超音波を撹乱させるために『バーバ・ヤーガ』を呼び出すと見せかけ、
そのまま自分の姿を見失った垣根に攻撃するという作戦を実行したのだ。


「一本足の家の人喰い婆さん――――」

(クソったれが・・・・・・!!!)


またしてもあの呼び声。今度こそ妖婆を召喚するのか、それともフェイクか。
ワシリーサはここにきて、垣根に対して心理戦を持ち込んできた。


42 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/20 21:29:54.12 znxtMwqJo 8/408



『未元物質』から放たれる超音波をより拡大させ、地下空間全域の状況を把握すれば打破出来るのだが、
今の垣根にはそんな演算をする余裕は無かった。せいぜい自身を中心に半径一〇〇メートル程度の範囲までしか
超音波による恩恵を受けられない状態だった。

ワシリーサ一人を相手にするならそれで十分だ。ワシリーサが超音波の届かない範囲に出ても、
自分は何もせず相手が飛び込んでくるのを待てばいいし、ワシリーサが髑髏のランプやらなんやらで
遠距離攻撃をしてきても『未元物質』の鎧でダメージを著しく軽減できる。

しかし相手が『増えてしまう』と途端に垣根の負担は重くなる。
本当に妖婆を呼び出して二人で攻めて来ると分かりきっているのなら対応できるが、
それがフェイクだった場合、居もしない妖婆の位置を確認する作業で隙が生じてしまうのだ。

さっきはその隙を突かれて手痛いダメージを負ってしまった。
見かけでは分かりにくいが、ワシリーサから受ける攻撃と『未元物質』を無茶な演算で行使し続けているため
垣根の体力はもう限界などとっくに通り越しているのだ。


長期戦や心理戦などに構っている暇も余裕もない。短期決戦、これしか生き残る道は無かった。


43 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/20 21:30:43.38 znxtMwqJo 9/408



(こうなりゃ賭けだ、ちくしょう!)


垣根帝督は腰に巻いているボロボロのジャケットに手を伸ばし、ゴソゴソとルーンを取り出していく。


「幸薄く誠実な娘のために力を貸してくださいな♪」


真っ赤に染まった地下空間でワシリーサは唄い終わると、二〇メートル程先でふらふらと佇んでいる垣根の方を向いた。


「さてさて、今度はちゃんと婆さんは出てきてくれたかな?」


そんな戯言など無視して垣根はワシリーサに背を向け、潰れた喉にムチを入れて雄叫びをあげる。


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!!!!!!」

「!」


44 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/20 21:31:52.57 znxtMwqJo 10/408



長期戦に持ち込もうと考えていたワシリーサの一瞬の油断をついて、

"垣根帝督は自身の身体を覆い尽くしている白の鎧も、チューブ状に変化させていた翼も引きぬいて、翼を爆発的に肥大化させた"。
これまでにない、深海にまで届きそうな光を放ちながらその翼は伸びていく。


計一二枚、一〇〇メートル以上の大きさにまで膨れ上がった無機質な純白の翼は、あっという間にワシリーサを取り囲んだ。
垣根はワシリーサに対して背を向けていたため、彼女を閉じ込めたその複数の翼は綺麗な球状の牢のような形になっていた。


(ヤバ、一切の隙間なし。 ここで烈風とか出されたら私バラバラになるんじゃね?)


と、


ここで垣根は妙な声を耳にする。
この世の物とは思えない、その悍ましい『叫び声』を、彼は一度聞いたことがある。


45 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/20 21:32:57.27 znxtMwqJo 11/408



(・・・・・・・・・・・・人喰いババアかッ!!?)


気付いたときには、既に千切れた影を纏った『バーバ・ヤーガ』が垣根の目と鼻の先まで接近していた。
現出させている全ての『未元物質』の翼をワシリーサを捕える牢に回しているため、エコーロケーションを
行うことが出来ない。




だから、『バーバ・ヤーガ』が繰り出した手刀は、垣根の腹を容赦なく突き破る。




「か、は。 ぁ・・・・・・」


ワシリーサは二度目の歌の時、本当に妖婆を召喚していたのだ。
その時には既に垣根はある『賭け』の準備していたため、超音波に意識を向けられなかった。


46 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/20 21:34:23.75 znxtMwqJo 12/408



一二枚の翼が渦を巻くように形状を変化させて出来上がった『未元物質』の白い球状の牢の中から、
ガンッ、ゴンッ、と鈍い音が連続して響いてきた。


(あああもう!!! 何これ、どうやってもぶっ壊せない!!
 どんだけ頑丈な作りにしてあんのよ、さっきまでとはまるで硬度が違う・・・・・・)


視力が機能しなくなりそうなほど発光している牢内で、ワシリーサはなんとか脱出を試みようと
何度も何度も牢の壁に攻撃していた。

外界からこれといった物音が聞こえてこない。
まさかとは思うが"本当に"呼び出した『バーバ・ヤーガ』が垣根に止めを刺したのだろうか?


(だとしたらこの白い翼が崩壊しなければおかしいわ・・・・・・、完全に意識を断たれても尚
 現出させ続けられるようなシロモノなら話は別だけど)


ワシリーサの推測は当たっていた。
確かに『未元物質』を現出させている垣根本人の意識が断たれたり、本人が死んだりすれば
『未元物質』は否応なく消えてなくなってしまう。


47 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/20 21:35:29.91 znxtMwqJo 13/408



つまり今外にいるであろう垣根は、まだ意識をしっかりと保っているという事になる。


そんな垣根帝督は、妖婆に腹を貫かれてもその皺だらけの顔を見ながら笑っていた。


「ざ、・・・・・・んねん、だったなあ・・・・・・」


掠れた声でそう言う垣根は、自分の腹を貫いている妖婆の腕を『未元物質』の鎧のせいでぐちゃぐちゃになった
両手でつかみ、これ以上余計なことをさせまいと試みた。
妖婆がその気になれば満身創痍の垣根の腕など容易に引き千切る事が出来るだろうが、
あくまでもワシリーサに呼ばれた『人形』である妖婆にそこまでの判断は下せない。


垣根は自分の真後ろにある牢の中で暴れているワシリーサに言った。


「よお・・・・・・聞こえてんのかババア」

「むむ!? 垣根の坊や? 悪いんだけど声が掠れまくっててあなたが何を言ってるのか分からんちん」

「この訓練の・・・・・・終了条件なんだけどよお」


48 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/20 21:36:56.09 znxtMwqJo 14/408



『未元物質』で構成されている白の鎧を全て解除してしまったため、こうしている今も
垣根は『赤い騎士』の擬似太陽熱で身を焦がしている。

しかし構わず、垣根は続けた。


「テメェ、に・・・・・・魔術による攻撃を当てれば・・・・・・俺の勝ち、だった・・・・・・よなぁ」

「・・・・・・・・・・・・うんうん。 聞き取れた。 そのとおりよ、それが何?」





「"気付けよ、マヌケ"」


垣根の言葉に首を傾げるワシリーサは、そこで違和感に気付いた。
ゆっくりと、僅かずつではあるが牢内の発光が無くなっていっている。




そして、ワシリーサの全身からドッと汗が吹き出た。




49 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/20 21:37:56.87 znxtMwqJo 15/408



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・か、垣根ちゃん。 これは一体何ザマス?」


牢内の様子がくっきりと見える程度に発光が収まったところで、ワシリーサは改めて牢内を見回す。
一二枚の翼で構成されたその牢の壁には、『未元物質』には本来あり得ない物があった。


「マジで・・・・・・賭けだったわ。 あん時テメェがこの怪物ババアなんか呼ばずに
 俺を一方的にボコボコにしときゃ勝負は着いてたんだ」


ワシリーサが顔を青ざめさせながら見ている光景。それは、


「これが『未元物質』と魔術の応用だ・・・・・・クソ野郎」




『未元物質』の翼の裏にびっしりと貼り付けられた、何百枚という数のルーンの札だった。




50 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/20 21:38:36.06 znxtMwqJo 16/408



垣根は渾身の力を込めて目の前にいる『バーバ・ヤーガ』を蹴り飛ばす。
咄嗟にワシリーサが妖婆に指示を送ろうとしたが、牢内のルーンに意識を向けていたため後手に回ってしまった。


「チェックメイト」

「さ、サーシャちゃ~~~~~~~ん・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」




「人間ってのは、何分くらい『焼けば』食べ頃になるんだろうな」




垣根は言い終えると、ありったけの魔力を込めて真後ろの牢内にあるルーンを発動させた。


51 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/20 21:40:12.78 znxtMwqJo 17/408



『未元物質』の牢内に、獄炎の渦が狂ったように吹き荒れた。


「うぎゃあああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!!!!!!!」


ワシリーサは女性特有の甲高い悲鳴を上げながら牢内でのたうち回る。
さっきまで垣根に対して行っていた灼熱攻撃を、今度は自身が身を持って体験するハメになってしまった。
自らが呼び出した『赤い騎士』による擬似太陽熱の影響は受けないワシリーサでも、
相手からの魔術による影響までは無視、というわけにはいかない。

それでもワシリーサならここから形勢逆転できる方法を見つけることが出来るだろうが、勝負は既に決している。





『ワシリーサに魔術による攻撃を当てる事』。
学園都市第二位の超能力者(レベル5)、垣根帝督は見事に元『殲滅白書』最強のシスター、ワシリーサから勝利を得ることが出来た。





52 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/20 21:41:48.02 znxtMwqJo 18/408



程なくして、地下空間の頂上に浮かんでいた『赤い騎士』の擬似太陽が消えた。
ワシリーサが『赤い騎士』の現出を維持できなくなったのだろう。
それとほぼ同時に地面に転がっていた『バーバ・ヤーガ』も姿を消した。


それらを確認すると、垣根帝督は『未元物質』の翼を収める。と、いうよりはもう体力的にも精神的にも
限界を超えて限界だったのだろう。自分の意志とは関係なく、『未元物質』は霧散していった。

そして力無く垣根帝督は糸の切れた操り人形のようにその場に倒れ込んだ。
垣根の身体は見るに耐えない凄惨な状態になっていた。全身の皮膚と肉が巨大な彫刻刀で思いっきり抉ったように
捲れあがっており、それによる出血に加え最後の魔術の使用の際の大量出血。

さらに『赤い騎士』による超高温熱風によって負った火傷で、捲れあがっている皮膚という皮膚が熟れ過ぎた果実のように
じゅくじゅくに腫れ上がり、着ていた衣服などもはや見る影も無くなっている。


まさに満身創痍、半死半生。こんな状態で戦っていた垣根には賞賛というより理解に苦しむ、という感想の方を抱いてしまう。
実際、現在の垣根の心臓はその活動を停止していた。


54 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/20 21:42:48.67 znxtMwqJo 19/408



「ああ、いかんなこれは」


今までずっとそこにいたのかと言いたくなるほど、この訓練を観賞していたエイワスは
パッと垣根の下に移動していた。


「いやあ、人間ここまで酷い姿に彩られるものなのだな。 今の垣根の姿を風斬辺りが見たら
 昏倒してしまいかねん。 ふふ、それはそれで愉快だが」


洒落にならない冗談を口走りながらエイワスはそっと垣根の頭に手を近付け、
ボヤーっとした謎の光を当てる。頭からゆっくりと手を移動させ、身体、腕、脚と。
そして脚からまた頭まで、とその手を往復させていった。治療を行っているのだろう。


すると、異様に焦げ臭い香りが立ち込める地下空間に、女性の呻き声が聞こえてきた。


「・・・・・・ち、ちょっとエイワスぅ・・・・・・。 私も治してよぉ・・・・・・」

「ワシリーサ、生きていたのか。 そのまま死んでいれば面白かったのに」

「あのねえ・・・・・・」


56 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/20 21:45:43.69 znxtMwqJo 20/408



冗談みたいな光景だった。
ワシリーサは顔とわずかな上半身だけを残し、あとは全て骨だけの状態で焼け焦げていた。
一体これでどうやって生命活動をしているのか。不死身にもほどがある彼女には呆れる他ない。


「水を弾くような美しい君の柔肌も、そこまでこんがり焼かれると見てられんな」

「うるせー・・・・・・マジで死ぬかと思った。 垣根の坊やったら、私を殺すつもりかっつーの」

「君が言える事かね、それ」


くすくすと二人は笑い合い、激闘の後の静けさを満喫する。
なんでこの状況で笑ってられるのだろう。今、一人の若い少年がデッドオアアライブを彷徨っているというのに。


「その子は無事?」

「無事なわけがないだろう。 だが必ず復活させてみせる。 垣根帝督のしぶとさは
 君も十分に理解しているだろう?」

「そうね、素敵」


その後はしばらく沈黙が続き、エイワスは垣根の治療に専念した。


59 : 次回予告はここまでです。  ◆3dKAx7itpI - 2011/04/20 21:53:21.70 znxtMwqJo 21/408




                          【次回予告】



『おめでとう、垣根帝督。 君は見事、この訓練の合格条件をクリアした。
 君はもう、立派な魔術師だよ』
―――――――――――『天使同盟(アライアンス)』の構成員・エイワス




『へへ・・・・・・やったぜクソったれが・・・・・・!!! ざまあみろチクショウ・・・・・・!!!』
―――――――――――『天使同盟』の構成員・垣根帝督




『(見てあれ、派手には喜ばないけどすんごい嬉しそう。 ぷぷっ、可愛いww)』
―――――――――――元『殲滅白書』のシスター・ワシリーサ




89 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/22 23:50:21.34 yjyq2a+/o 22/408



――――――――――――――――――――――


『よォ』


声がした。もう幾度と無く耳にした、聞けば聞くほど鬱陶しい少年の声だった。
なぜか妙に響き、こもった声質で耳に届くのだが、なんとか言葉は聞き取れる。


『よかったなァ、生きてて。 あンだけ暴れるだけ暴れといてその本人はこォしてぐっすり安眠中ってンだから、
 世の中はつくづく平等じゃねェよな。 植物状態だって聞いたが・・・・・・オマエ本当にこのまま目ェ覚まさねェつもりか?』


しゃり、しゃり、という何かを裂いているような、切っているような音も聞こえてきた。
りんごの皮を刃物で剥いている音だろうか?この少年が自分のすぐ側でりんごを剥いている。

だとしたら考えられるのは今自分は病室のようなところにいて、この少年は
自分を見舞いに訪れ、りんごの皮を剥いているという事だろう。ベタだがそれが今考えられる状況で最も可能性が高い。


しかしこの少年はさっきこんな事を言った。
『植物状態だって聞いたが・・・・・・』。一体誰が植物状態だというのか。


90 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/22 23:51:16.46 yjyq2a+/o 23/408



考えるまでもない。


『・・・・・・・・・・・・なァ』


少年の声がわずかに震えている。




『・・・・・・・・・・・・起きろよ、垣根』




やはり。


やはり今眠っているのは、少年の声を聞いているのは、自分だったか。


91 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/22 23:52:02.64 yjyq2a+/o 24/408



『あと少しだったンだ・・・・・・あと少しで、アイツを救う事が出来たンだよ。
 オマエの想いを無駄にはしたくねェ。 だが俺はオマエの頼みを聞いてやれなかった。
 すまねェと思ってる。 だからよォ、起きてくれよ。 起きて、俺に土下座で謝らせてくれよ』


この少年が何を言っているのか分からない。
アイツとは誰だ。救うとはどういう事だ。自分に頭を下げてまで謝りたいというこの少年は何を考えている。


『・・・・・・皆、消えちまった』


要領を得ない。皆とは誰だ。消えたとはどういう事だ。


なぜ、この少年は涙声でこんな事を言っている?


92 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/22 23:52:45.07 yjyq2a+/o 25/408



『でも、まだ手はあるンだ。 ――――――を、――――――を、そして――――――を救える方法が』


聞こえない。言葉の一部分が、そこだけが意図的に切り取られたように、耳に届かない。
肝心な部分だけ聞こえないというのはなんとも歯痒い。


『――――――なら多分放っといてもいずれまたひょっこり顔を出してくるに違いねェ。
 ・・・・・・・・・・・・――――――だが、学園都市にAIMに詳しい研究員が一人いるらしくてな、そいつに当たってみよォと思う。
 で、問題の――――――なンだが、こいつはまた俺達で呼び出すンだよ。 ――――――に会いに行こう。
 そいつならきっと方法を知ってるはずだ。 シメあげてでも聞き出して、――――――をまた呼ぼう。
 ・・・・・・どォだ? 希望が出てきただろ? 可能性なンざ漁ればいくらでも出てくンだ。 楽勝なンだよ。
 そしたら俺達は、またやり直せる。 オマエもそォ思うだろ? こォなったら泥啜ってでも足掻いてやろォぜ』


学園都市?研究員?呼び出す?希望?


何を伝えたいのか分からない。足掻くとはどういう事だ。何かに失敗したのだという事は薄々分かるが、
もう少し具体的に内容を聞かせてほしい。


それとも、


内容を理解出来ない自分のほうがおかしい、のか?


93 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/22 23:54:31.83 yjyq2a+/o 26/408



『・・・・・・話聞いてンのかよ、このメルヘン野郎が』


聞いている。しっかりと聞く努力はしている。
だからもっと、具体的に、一から順に説明してほしい。


『・・・・・・・・・・・・それとなァ、』


どうやら話題が変わるらしい。少年の声はどこか呆れたような感じになっていた。
今度は何だ。

というか、なぜ自分は一向に目を覚まさない?


『インデックスのヤツが泣いてたぞ。 自分のせいでオマエがこンな目に・・・・・・ってな。
 オマエ、女は泣かせちゃマズいだろォよ、俺も人の事言えねェけどな。
 目ェ覚ましたら会いに行ってやれよ。 とりあえず謝って、ブン殴られろ』


94 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/22 23:55:45.83 yjyq2a+/o 27/408



そう言って少年は失笑し、――恐らく――りんごの皮を剥いていく。


ちょっと待て。


インデックス?・・・・・・目次?
誰だ、人間なのか、人の名前にしちゃ少しおかしい気もする。

そして自分がそのインデックスという何者かを泣かせたという。身に覚えがないのだが。
そもそも誰なんだ。会ったことのない――これも恐らく――人間を泣かせるとは、自分が一体何をしたというのか。

そして『インデックス』という言葉は、前に聞いたことがある。あの金髪の怪物から。
『インデックス』という言葉を覚えておけ、だったか。そんな事を言われた気がする。


この少年の口からもインデックスという言葉が出てきたが、何か関係があるのだろうか?
全く分からない、情報が断片的すぎて整理のしようがない。


95 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/22 23:56:42.01 yjyq2a+/o 28/408



『・・・・・・・・・・・・なァ、垣根』


そもそもここは本当に病室なのか。だとしたらおかしい、おかしすぎる。


『俺達、またやり直そォな』


というのも、さっきまで自分は――――――。


96 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/22 23:57:11.84 yjyq2a+/o 29/408





『そンでオマエの願い通り、また皆で集まって、バカしよォな』




"ついさっきまで俺は、ロシアで、ワシリーサとの魔術訓練をしていたはずで"――――――。




――――――――――――――――――――

――――――――――――――――――

――――――――――――――――

――――――――――――――

――――――――――――

――――――――――

――――――――

――――――

――――

――




97 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/22 23:58:08.88 yjyq2a+/o 30/408



――――――――――――――――――――――


――エリザリーナ独立国同盟・地下にある防空壕跡地


ワシリーサ「・・・・・・おおースッゲ。 服まで完璧に復元出来るのね、どーいう仕組みなワケ?
      魔術じゃないわよねえ? だって魔力を感じなかったし」

エイワス「この世界の言葉で表現するのは難しいな。 まあ、瑣末な事だ。
     あまり気にしないでおきたまえ。 頭痛の種になるぞ」

ワシリーサ「ふーん。 にしても見事に元の垣根ちゃんに戻ってるわね。
      これって医術業界を根底からぶっ飛ばす事になってると思うんだけど」

エイワス「『オシリス』に蔓延る人間はどうにも"既存の法則"という楔が魂を貫いている傾向にあるからな。
     ルールの構成法が根本から異なる『ホルス』でも医術という概念は生き残るだろうが・・・・・・
     その更に奥深く、私が立っているような深層の位置だとそういう概念も必要なくなる」

ワシリーサ「スケールの大きい発言ですこと、おほほほ」


98 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/22 23:59:11.09 yjyq2a+/o 31/408



エイワス「事実を述べたまでだよ。 要は原始時代と現代の違いのようなものだ。
     時代が変われば、それによって世間や人間の生活の風潮も変わっていく。
     今の世の中に、わざわざ煙草に火をつける時に火溝式や紐錐式を用いて
     着火する人間などいないだろう?」

ワシリーサ「あなたのそれはそういう概念なんか超えちゃってると思うんだけど」

エイワス「それが私だ。 私は私以外の何者でもない。 私は時代に左右される事はないし、
     『概念』という統括的な意味には当てはまらない。だからこそ、
     私は古い時代である『オシリス』も好きなのだがね。 あれだよ。 懐古厨だよ懐古厨」

ワシリーサ「じゃーアレだ、あなたは『ブラック・ホワイト』より『赤・緑』をこよなく愛するタイプなのね?」

エイワス「いや、あのシリーズは別け隔てなく愛しているが」

ワシリーサ「やってんのかい・・・・・・」


99 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/23 00:00:14.63 LPnFXlsHo 32/408





垣根「・・・・・・・・・・・・、ん」モゾッ




ワシリーサ「お、目覚めたか? もう少し寝顔見てたかったなぁ~、結構可愛いから」ウヘヘ

エイワス「垣根帝督、気分はどうかね?」

垣根「・・・・・・目が覚めたら化物二匹が俺の顔を見下ろしていた。
   これで気分爽快スッキリお目覚め、ってな事になると思うか?」

エイワス「元気そうでなによりだ」ニコッ

ワシリーサ「よかったにゃー、あなた、さっきまで死んでたのよん?」

垣根「もう死には慣れたぜ」

エイワス「人智を超えた発言だな。 愉快だぞ垣根帝督」

垣根「ほざいてろクソ野郎。 ・・・・・・・・・・・・っていうか、」


100 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/23 00:01:25.07 LPnFXlsHo 33/408



ワシリーサ「うにゅ?」

垣根「全然訓練の内容覚えてねえんだけど・・・・・・」

エイワス「無理もない。 あれだけ盲滅法まがいな魔術の使用を行ったのだからね。
     私がいなければ君は今頃閻魔大王と天国地獄の判決を喰らっていただろう」

垣根「・・・・・・ああ、その辺は覚えてる。 俺は『未元物質(ダークマター)』に魔術の法則を・・・・・・」

ワシリーサ「訓練内容はどこまで思い出せるかにゃーん?」

垣根「・・・・・・視力が無くなって・・・・・・いきなりクソ熱い風が吹いてきて・・・・・・
   そっからはもう覚えてねえな。 つか目ぇ見えてんじゃん俺」

エイワス「私が治癒しておいた。 目が見えなくてはやはり何かと不便だろうからな。
     『盲目』は君が背負う必要のないリスクだ。 サービスだよ、サービス」

垣根「?」

ワシリーサ「ごめんね垣根ちゃん。 私、ちょっとばかしヒートアップしすぎちゃった」テヘペロ

垣根「俺が望んだ事だ、構わねえ。 つか『坊や』は卒業かよ?」

ワシリーサ「さっすがにもうあなたのことを坊や呼ばわりは出来ないわよ」ニコッ

垣根「・・・・・・・・・・・・待て、っつー事は」


101 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/23 00:02:42.45 LPnFXlsHo 34/408





エイワス「おめでとう、垣根帝督。 君は見事、この訓練の合格条件をクリアした。
     君はもう、立派な魔術師だよ」




垣根「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

ワシリーサ「い、言っておくけどこれは所謂『試合に勝って勝負に負けた』みたいなものなんだからね!
      私はまだ全然やれたんだから、そこんとこ勘違いしないでよねっ!///」

エイワス「ワシリーサ、ツンデレの使いどころを間違えているぞ」

ワシリーサ「あ、ありゃ。 そう?」

垣根「お、俺。 勝ったのか?」

エイワス「いや、結果的には君はぼろ負けしているが、合格条件は満たしたという事だ」


102 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/23 00:03:40.87 LPnFXlsHo 35/408



垣根「・・・・・・じゃあ、俺は魔術をお前に・・・・・・」

ワシリーサ「めっさ熱かったにょろ!! 死ぬかと思ったわよマジで!!」ウガー

垣根「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

垣根「・・・・・・・・・・・・は、・・・・・・はは」




垣根「・・・・・・・・・・・・やった・・・・・・!!!」グッ




垣根「へへ・・・・・・やったぜクソったれが・・・・・・!!! ざまあみろチクショウ・・・・・・!!!」プルプル

ワシリーサ「(見てあれ、派手には喜ばないけどすんごい嬉しそう。 ぷぷっ、可愛いww)」ボソボソ

エイワス「(恐らく私たちがここにいなかったら跳ね回って歓喜しているだろうな)」クスクス


103 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/23 00:05:06.96 LPnFXlsHo 36/408



垣根「すっげえ・・・・・・俺、やったのかよ・・・・・・!! よし・・・・・・!!」プルプル

ワシリーサ「(あ、見て! ちょっとだけ泣いてる! やべ、マジ可愛いんですけどwww)」ジュルリ

エイワス「(超能力者という点を除けば、彼は一人の少年だ。
      達成感という喜びがしみじみと全身を駆け巡っているのだろうな)」

垣根「へへ・・・・・・やったやった・・・・・・! ははは・・・・・・! ・・・・・・・・・・・・あ、///」

ワシリーサ「・・・・・・・・・・・・」ニヤニヤ

エイワス「ふふ、可愛らしい一面もあるじゃないか」ニヤニヤ

垣根「あ、いや、クソ、何でもねえよ・・・・・・/// こんなもんまだ通過点だろうが」プイッ

ワシリーサ「可愛すぎワロタwwwwwwww ねえ、ギュってしていい?」ハァハァ

垣根「近づいたらまた焼き殺すからな」サッ


104 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/23 00:06:20.43 LPnFXlsHo 37/408



エイワス「いやしかし、本当に見事な成果だったよ。 見事に私を満足させてくれた」

垣根「死ね、テメェのために頑張ったんじゃねえよ。 ・・・・・・、・・・・・・・・・・・・・・・・・・」キョロキョロ

ワシリーサ「どったの?」



垣根「・・・・・・、オイ。 あのクソったれの第一位はどこいった?」



ワシリーサ「第一位? ユーアーナンバーワン?」

エイワス「一方通行がここにいるわけないだろう。 いられたら困るのは君じゃないか」

垣根「・・・・・・そりゃそうだ。 じゃあアレは夢か・・・・・・?」

ワシリーサ「どんな夢を見てたの?」


105 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/23 00:07:12.78 LPnFXlsHo 38/408



垣根「・・・・・・・・・・・・・・・・・・いや、もう覚えてねえ。 ただあの白髪が何か言ってたような夢だったんだが・・・・・・」

エイワス「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

垣根「まあいい。 それじゃさっさとこんな焦げ臭え地下からおさらばしようぜ」

ワシリーサ「私も帰ろっと♪ 朝のサーシャちゃんのベッドに今日こそ侵入して一緒に添い寝するんだから!
      まずは最大の防壁であるミーシャをどうするかだが・・・・・・突撃あるのみッッ!!!」ズドドドドドド

垣根「オイ、ちょっと待て」

ワシリーサ「む?」ピタッ

垣根「・・・・・・ありがとな」

ワシリーサ「いいってことよん♪ 私も久々に気持ちいいバトルが出来て満足だからね!
      じゃ、お大事に。 サーシャちゃん成分補給しにいってきまーす!!」ダダダダダッ

垣根「ブレねえなぁアイツ・・・・・・・・・・・・」

エイワス「さて、垣根帝督。 約束のプレゼントだが」


106 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/23 00:09:47.05 LPnFXlsHo 39/408



垣根「ん? ああ、そういや俺が訓練合格したら何かくれるっつってたな。 何だよ?」

エイワス「私が君に渡した魔術講座の書物を覚えているかね? 冷蔵庫がカバーの」

垣根「覚えてるに決まってんだろクソが。 なんだよあのナメきったカバーイラストはよ」

エイワス「そのカバーを外すと私からのメッセージが添えられているのだが、目は通したか?」

垣根「『とある魔術の』とかどうとか言うヤツか? 使ったら死ぬ可能性があるとかって書いてあったな。
   もしかしてプレゼントってのはそれの使用方法の伝授か?」

エイワス「ほぼ正解だ。 君ならあるいは使いこなせるかもな。 受け取りたまえ」スッ

垣根「・・・・・・何だコレ? 砂時計? じゃねえよな・・・・・・なんだ?」ジロジロ

エイワス「ふふ、喜びたまえ。 それには君が求める全てが詰まっている」


107 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/23 00:11:46.40 LPnFXlsHo 40/408



垣根「『霊装』ってやつか? どうしろってんだこんなもん・・・・・・」

エイワス「使用方法は戻りながら説明しようか。 では行こう」スタスタ

垣根(歩いて戻るとか、こいつがやると違和感あるな・・・・・・)スタスタ

エイワス(・・・・・・さて。 垣根帝督は"それ"で私をどこまで愉しませてくれるかな? くく・・・・・・)


垣根「あー・・・・・・そういや」

エイワス「?」

垣根「俺、今回の訓練で"とっておき"使ってねえと思うんだけど。 もったいねえことしたな」

エイワス「・・・・・・"魔女狩り"?」

垣根「そうそう。 あ、じゃあついでに聞きてえんだけどよ――――・・・・・・」


108 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/23 00:13:39.49 LPnFXlsHo 41/408



――――――――――――――――――――――


ロシア連邦、エリザリーナ独立国同盟に『天使同盟(アライアンス)』が来訪してから三日目の朝。


学園都市最強の超能力者にして『天使同盟』のリーダー、一方通行は特にやることもなく、行く宛もなく、
自らがカスタマイズした杖をつきながら独立国同盟の居住区を適当にぶらついていた。


相変わらず街の民間人達は自分に向かって陽気に挨拶をしてくる。
すっかり自分たちは街の住人として受け入れられているらしい。


「おはよう、一方通行。 今日は何をしてくれるんだい?」


冷え込んだ朝の気温の中、白い息を吐きながらそう話しかけてきたのは名前も分からぬ民間人の青年だった。


109 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/23 00:14:41.45 LPnFXlsHo 42/408




「別に。 俺達はオマエらにサプライズを毎日提供しなきゃなンねェ義務でもあンのか?」

「あはは、それもそうだ!」


あははは、と笑いながら青年は手を振って去っていった。
なんともまぁ、まるで田舎のご近所さんのように親しげに話しかけてくるものだ。

一方通行という少年の本当の正体を知らないからあんな気さくに振る舞えるのか。
例え知っていても、今のように気軽に声をかけてきてくれるのか。


(たかがプライベーティアを追い払ってやっただけであそこまでフレンドリーに接してくるモンかァ?
 ・・・・・・船を"押し付けて"やったことに恩義でも感じてンのか、だとしたらお人好しにも程があらァな)


一方通行はポリポリとダルそうに頭を掻きながら止めていた歩を再び進める。


110 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/23 00:16:29.81 LPnFXlsHo 43/408



今のところ、他の『天使同盟』のメンバーは見かけていない。
風斬氷華や垣根帝督はまだ自分の部屋で寝ているのだろうか。時刻は午前七時を迎えようとしている。
垣根はともかく風斬辺りはそろそろ起床していてもおかしくない時間だ。

ミーシャ=クロイツェフは今日もエリザリーナが使用しているオフィスにいるのだろうか。
それともサーシャ=クロイツェフの部屋?ミーシャはここに来てすっかりサーシャと打ち解けていたような気がする。
昨日から体調が優れないようだったが、今日は大丈夫だろうかと一方通行は少しだけ大天使に気を配る。

エイワスは・・・・・・どォでもいいな、と一方通行はあっさり思考を放棄した。
アレは放っておいても勝手にあちこちで誰かを不幸にしているような疫病神だ。止めようがないし、
止める気もない。


商店街を歩いていると街の人々の会話が耳に入ってくる。
内容といえばやはり昨日の『ハッキング』についてだった。他に話すことはねェのか、と一方通行は心の中だけで呆れた。


・・・・・・そういえば今日はエイワスが昨日の『ハッキング』事件の真の目的を明らかにするといっていた日のはずだ。
当時はあまりにも勝手で横暴すぎるその行為に憤慨していたが、かなしいかなその怒りも今ではすっかり鎮火してしまっていた。
まあその時が来ればエイワスが自ずと話しだすだろう、と一方通行は楽観的に考えた。


111 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/23 00:17:34.27 LPnFXlsHo 44/408



レッサーやサーシャ、エリザリーナやワシリーサ、そしてヴェントも、今のところは見かけていない。

こうして女性陣を思い浮かべていくうちに一方通行は昨晩の露天風呂騒動を思い出してしまった。
あれはいくらなんでもやりすぎた。元はといえば垣根帝督が原因なのだが、それにしたって
軽いノリで便乗してしまった一方通行も十分に非はあるといえよう。


(・・・・・・まァ、たまにはあァいうバカ騒ぎも悪くねェかもしンねェけど。
 やっぱ垣根の野郎は一発ぶン殴っとかなきゃ気が済まねェな)


そんな事を考えながら適当に歩いていると、後ろから声がかかった。


「白いの」


振り返ると、そこには元『神の右席』の一員である魔術師、ヴェントがいた。
ただし、


「オマエか。 ・・・・・・なンだよその格好」

「・・・・・・べ、別に」


ヴェントの格好は一方通行がすっかり見慣れたあの『神の右席』仕様の真黄色ない服ではなく、
女の子なら誰でも着そうなブラウンカラーのロングスカートと、細身で白いダウンジャケットを纏っている。
髪の毛は降ろしてあり、顔中に留められていた銀色のピアスも、未だに留めているとはいえその数は極少数だった。
舌先には例の鎖がジャラリと音を立ててぶら下がっている。水晶の十字架は確か『女王艦隊』の霊装だったか。

『神の右席』に所属していた頃の彼女しか知らない人間が見たら一体何事だと驚愕するだろう。
ピアスと霊装が無ければ完璧に普通の可愛い女の子にしか見えない。


113 : 次回予告はここまでです。  ◆3dKAx7itpI - 2011/04/23 00:24:15.98 LPnFXlsHo 45/408




                          【次回予告】



『hrggdlm貴方cpfkegfj』
―――――――――――『天使同盟(アライアンス)』の構成員・ミーシャ=クロイツェフ




『ガブリエル、珍しいな。 オマエ一人かよ』
―――――――――――『天使同盟』のリーダー・一方通行(アクセラレータ)




『(ああ~ちくしょう・・・・・・、なんで私、昨日アイツに"あんなコト"したんだろ・・・・・・。
 うわああああ思い出しただけで叫びそうになるううううううううう!!!!)』
―――――――――――ローマ正教、禁断の組織『神の右席』の元一員・『前方』のヴェント




『い、愛しのって・・・・・・』
―――――――――――『天使同盟』の構成員・風斬氷華




155 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/24 15:40:46.49 aQSXvtR2o 46/408



「なンつゥか、すっかり大人しくなっちまったよなァ」

「朝からそんな悪態つけるなんて、ホントいい性格してるわねアンタ」

「いやいや、そォいう意味で言ったンじゃねェよ」

「?」

「似合ってるなと思っただけだ」


そう言われて、ヴェントはほんのりと頬を赤らめて忌々しげに視線を逸らした。
出で立ちを褒めただけなのになぜこんな態度をとられたのか分からない一方通行は眉をひそめる。
今日も第一位様の鈍感っぷりは絶好調のようだこのクソったれが。


「あ、あのさ・・・・・・」

「あン?」


156 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/24 15:41:51.06 aQSXvtR2o 47/408



ヴェントは目を逸らしたまま何かを言いかけるが途中で言葉を切った。
一方通行はそんな彼女に気も遣わず言葉の続きを催促する。


「ンだよ。 言いたい事があンならさっさと言いやがれ」

「いや、あの、き、昨日・・・・・・」

「昨日? ・・・・・・あァ、風呂での事なら俺も反省してるっつゥの。
 さすがに女湯に侵入するのはマズかっ―――――」

「そっちじゃねえよ。 ・・・・・・そ、その後の」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・アレなら別に気にしてねェから気ィ遣わなくていいぞ」

「気にしてないってどういうコトよ・・・・・・」

「?」

「な、なんでもない。 それより今から私、朝食摂るんだけど・・・・・・よかったらアンタも、」


157 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/24 15:42:34.47 aQSXvtR2o 48/408



一方通行は首を傾げた。どうも今日のヴェントは少し様子がおかしい。
いつもならまず開口一番にぶちぶちと毒づいてくるのが彼女の性格なはずだが、
今日はどこか顔を赤く染め、言葉も何か言いにくそうな、途切れ途切れというか、
言葉にするのを躊躇いがちというか、はっきりしない様子だった。

そして朝食の誘い。今日は一日くらいキャラを変えてみようかとでも考えているのだろうか、
と一方通行は適当に推測する。


(・・・・・・・・・・・・風邪でもひいてンのかコイツ?)


当然、あの一方通行がヴェントの気持ちに気付くことはない。
別にそれが悪いというわけでもないのだが、もう少し考えてやってもいいものだと思う。


「メシは起きてから部屋で適当に食ったから遠慮しとく」

「・・・・・・・・・・・・あっそ」


158 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/24 15:43:51.83 aQSXvtR2o 49/408



ヴェントはそう言ってドン!とわざとらしく一方通行にぶつかりながらスタスタと朝食を摂りに行った。
なンなンですかァ・・・・・・?と、一方通行は彼女の後ろ姿を睨みながら舌打ちをする。

朝からご機嫌ナナメなヴェントちゃんの後を追う甲斐性もない第一位は白いため息をつき、
特にやることがないからやはり朝食の誘いに乗っておけばよかったか、と若干後悔しながら歩き出した。


そのまましばらく適当に散歩していると、大きな広場に行き着いた。
広場というよりは雪原だろうか、この辺一帯だけ居住区特有の建造物がなく見渡すかぎり白銀の雪原だった。

見るとその雪原では何人かの子供たちが朝から元気に雪合戦をしている。
雪が積もれば雪合戦は日本だけではないらしい、ロシア人の子供たちは防寒着を着込んでキャーキャーはしゃぎながら
そこら中にある雪を丸め、ターゲットに向かって勢い良く雪玉を投げつけていた。


「・・・・・・平和なモンだな」


一方通行はそんな光景を見て苦笑し、その辺にあったいい具合の形の岩を見つけて座り込んだ。
学園都市に長く居たため、こうして雪合戦というテレビのニュース番組でしか見たことのない遊びを
その目で見るのは初めてだった。


159 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/24 15:44:48.34 aQSXvtR2o 50/408



(クソガキをここに連れてきたら真っ先に走りまわって騒ぐンだろォな・・・・・・)


今度暇が出来たときにでも打ち止め(ラストオーダー)や番外個体(ミサカワースト)らを連れて
独立国同盟に遊びに行こうかと考え始めていると、


「hrggdlm貴方cpfkegfj」

「?」


独特のノイズが混じった声。聞き間違えようのないあの大天使の自分を呼ぶ声が後ろから聞こえてきた。


「ガブリエル、珍しいな。 オマエ一人かよ」


『水』を司る大天使、ミーシャ=クロイツェフはいつものポンチョ風の衣服を着て
ゆっくりと一方通行の方に歩いてきた。


160 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/24 15:45:35.77 aQSXvtR2o 51/408



――――――――――――――――――――――


「あのクソもやし・・・・・・人がせっかく誘ってやってんだからおとなしく来ればいいだろうが・・・・・・」


ブツブツと独り言を言いながら、ヴェントは朝から営業している店を捜して居住区を歩いていた。

つい先ほど、居住区で出会った一方通行を朝食に誘った彼女だが、
一方通行がつれない返事をして拒否してきたのだ。


そもそも、今までのヴェントなら異性の人間を食事に誘うという行為すらしなかっただろう。
『前方』のヴェントを知る人物がこの事実を耳にすれば自分の聴覚器官がイカれたのかと思うかもしれない。
だがこれも、ヴェントが『天使同盟』という怪しいことこの上ない集団に出会ってからの彼女の変化を示しているのだ。


「クソが・・・・・・なんでこの私があんなクソ白髪のために愚痴らなきゃなんないのよ。
 あークソ、クッソムカつく!!」


161 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/24 15:46:17.47 aQSXvtR2o 52/408



ガン!と、『クソ』をいう女の子らしからぬ単語を四回くらい言いながら道端に置いてあったアルミ製のゴミ箱に蹴りを入れた。
通りかかったランニング中の女性がビクッ、と怯みながら顔を青くしている。


そんな女性とは対照的に、さっきまで絶賛憤慨中だったヴェントはなぜか顔を赤くしていた。


(ああ~ちくしょう・・・・・・、なんで私、昨日アイツに"あんなコト"したんだろ・・・・・・。
 うわああああ思い出しただけで叫びそうになるううううううううう!!!!)


うぎゃあああああああああ!!と、まるで過去の黒歴史を思い出して悶える人のように
ヴェントは亜麻色の可愛らしいショートカットをぐしゃぐしゃと掻き乱しながら絶叫する。
顔を青くしていたランニング中の女性がその速度を大幅に上げて走り去ってしまった。


(キャラじゃねえよなぁ・・・・・・違うよなぁ。 あんなのは、あんなのヴェントじゃねえよな・・・・・・。
 わざと相手に嫌悪感を抱かせ、無意味に挑発して、誰が相手だろうがとりあえず初対面の挨拶は『消えろカス』、
 これがヴェントってキャラじゃなかったのかよぉぉぉ・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 ・・・・・・・・・・・・いやでも、
 『天罰術式』はもう私には必要のないもので、いやいやでもでも天罰術式が必要ないのは白いのの前だけであって、
 ・・・・・・・・・・・・まぁつまり、白いのと居る時だけは素直な私? みたいな・・・・・・・・・・・・、って)


162 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/24 15:47:19.40 aQSXvtR2o 53/408



「な、ナーニ言っちゃってんだろね私は! ああああもう誰かあの白いのを殺せええええ!!!!」


ドゴンッッ!!!と、今度はひと際大きな打撃音が響き渡った。
羞恥心と混乱で思考回路がむちゃくちゃになったヴェントがさっき蹴っ飛ばしたアルミ製のゴミ箱に
踵落としをぶち込んだ音だった。落石事故にでもあったのかというほどにゴミ箱は見事に変形して潰れてしまっている。
中身がほとんど無かったのが幸いだ。『俺が何をしたんだよ・・・・・・』というゴミ箱の悲壮感漂う声が聞こえてきそうだった。


ぜー・・・・・・ぜー・・・・・・と荒く真っ白な息を吐きながらヴェントはキョロキョロと周囲を見渡す。
彼女がいる道はあまり人気が無かったためか、ゴミ箱を潰してしまった事で責められるという事はなさそうだ。

もっとも、今の彼女に文句をつけられる人物がいたら是非見てみたいところだが。


「だ、ダメじゃないですか・・・・・・公共の物を壊したりしたら・・・・・・」

「あ・・・・・・!!?」


163 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/24 15:47:58.60 aQSXvtR2o 54/408



いた。今のヴェントにきちんと注意出来る人物が。


「おはようございます、ヴェントさん」

「・・・・・・・・・・・・テメェか、"堕天使"」


ヴェントは自分のやった行いに対して注意をした人物をギロリと睨んだ。

風斬氷華。『天使同盟』の清涼剤だ。

彼女は昨日も巻いていたマフラーにダウ○コート、そして見ただけで暖がとれそうなふんわりとした手袋に
学生が着ていそうないつもの制服のロングスカートを履いヴェントに困り顔が含まれた笑みを送り返した。


164 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/24 15:48:27.00 aQSXvtR2o 55/408



「お一人ですか・・・・・・?」

「だったら何だよ、テメェこそ愛しのあくせられーたちゃんと一緒に朝の雪景色を眺めながら
 散歩ついでのデートとかしないの?」

「い、愛しのって・・・・・・」


言われてポッと顔を紅潮させる風斬の、なんと可愛らしい乙女な事か。

そんな彼女の様子を見てヴェントはしばし無言だったが、やがてプイッと視線を逸らしながら言った。


「・・・・・・・・・・・・今からご飯食べるんだけど、一緒にどう?」

「え・・・・・・、あ、はい! 私もちょうど朝ご飯を食べようと思ってたんです!」


ヴェントが三、四年くらい修行しないと浮かべることが出来なさそうな一〇〇点満点の笑顔を浮かべて、
風斬氷華はヴェントの隣にとてとてと小走りしながら並んだ。


165 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/24 15:49:36.44 aQSXvtR2o 56/408



――――――――――――――――――――――


「サーシャさーん!! 今日も朝から可愛いお顔立ちですこと! にっひひひ、
 そのポケーっとした面構えはイケナイ狼辺りに需要ありそうですよねぇホント♪」

「・・・・・・第一の私見ですが、あなた段々ワシリーサに似てきてますよね」


と、朝から黄色い大声を出して元気いっぱいな女の子はイギリスにある魔術結社予備軍
『新たなる光』の構成員、レッサーだ。
彼女は普段どおりのコスチュームを身に纏い、ミニスカの中から霊装である『尻尾』が伸びている。

そして朝っぱらからセクハラまがいな発言を受けたのは元『殲滅白書』の魔術師、サーシャ=クロイツェフだ。
昔ワシリーサに見立ててもらった拘束具のような服に赤い外套を着込んでいる金髪の彼女は
昨晩自分の部屋に招いて一夜を共にしたはずのミーシャ=クロイツェフがいなくなっている事に気付いて
独立国同盟の軍事施設辺りを歩きながら捜しているところだった。


166 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/24 15:50:26.56 aQSXvtR2o 57/408



「第一の質問ですが、今朝はミーシャを見かけましたか?」

「ミーシャ? 見てないですよ~、どっか適当にほっつき歩いてるんじゃないですかね?」


本物の大天使の行方に『どっか適当にほっつき歩いている』という返事が出来るのも、
レッサーが他より少し『天使同盟』と過ごしている期間が多いからだろうか。
普通なら考えられない返答だ。


「昨日一緒に寝たのですが、今朝起きたら既に姿が無くて」

「心配しなくても大丈夫ですよ、あんまり遠くに行ってたら一方通行さんかエイワスさん辺りが気付くでしょうし、
 どっか他の魔術結社がミーシャを狙って襲撃してきたなんて事になってたら、それこそ『天使同盟』が出張るでしょ」

「・・・・・・まぁ、あなたの言う事にも一理ありますが」

「そういえば昨日ショッピングセンターで買った服、ここに届いてますかねえ?」

「第二の私見ですが、『買った』ではなく『買わせた』が正しいと思います」

「ノンノン、『買ってくれた』が正解ですよ♪ あ、私の場合は『愛しのレッサーちゃんに買ってあげた』、
 が正解ですかね~。 なんちって、みゅふふふ」


167 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/24 15:51:02.38 aQSXvtR2o 58/408



何かワケの分からないことを口走るレッサーは本当に朝から元気溌剌だった。
昨日露天風呂であれだけ騒いだというのに、彼女の体力は底なしだ。


「第三の質問ですが、あなた達はいつまでロシアに滞在するつもりなんですか?」

「あなた達って?」

「いや、『天使同盟』・・・・・・」

「なんでそれを私に聞くんですか? 私じゃなくて一方通行さんとかに聞いたほうが早くないです?」

「・・・・・・ああ、そうでした。 あなたは『天使同盟』ではないのでしたね」

「ま、じきに正式なメンバーとして迎え入れられるでしょうけどね♪」

「第四の質問ですが、なぜ?」

「そりゃだって、私は(多分)リーダーである一方通行さんと将来を約束した仲ですから」


168 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/24 15:53:08.35 aQSXvtR2o 59/408



これを一方通行に聞かれていたらまたいつものように拳骨の一発でも放られていただろう。
サーシャはやれやれとため息をついて質問する。


「第五の質問ですが、・・・・・・それ本気で言ってるんですか?」

「んん~どーでしょ。 あはははは」


レッサーの発言はいつも突拍子も無い事ばかりで、サーシャもイマイチ彼女の真意が掴めないでいた。
こういう適当なところがレッサーの欠点であり、同時に良いところでもあるのだろうか。


と、ここでサーシャが不意にレッサーの肩を掴んでその歩を止める。


「おっとと・・・・・・どうしたんですか?」

「シッ、声を出さないでください。 ・・・・・・・・・・・・、・・・・・・なんだか妙な気配がしませんか?」

「?」


169 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/24 15:53:51.03 aQSXvtR2o 60/408



レッサーは石造りの砦の廊下を軽く見渡すが、とくに何も感じなかった。
すれ違う人は皆、朝早くからせっせと仕事をしている軍人や民間人だけだ。


「気のせいじゃないです?」

「いや・・・・・・、第三の私見ですが私には分かります。 この粘つくような視線・・・・・・、
 そしてじわじわとやってくるこの胸騒ぎ・・・・・・・・・・・・」


人差し指を唇に当てながらサーシャは小声で呟きつつ周囲の警戒を怠らない。


そして、


「・・・・・・・・・・・・"ヤツが来る"」

「は? あの・・・・・・サーシャさん、昨日からその探偵みたいなキャラが妙に気に入ってるみたいですけど――――」


170 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/24 15:54:21.48 aQSXvtR2o 61/408



と、昨日のショッピングセンターの飲食店での一件について話題を出そうとしたところで、
その『ヤツ』が二人の元へ陸上の金メダリストも裸足で逃げ出す速度で向かってきた。




「サーシャちゅわあああああああああん!!! おっはよおおおおおおおおおおおお!!!!」



「うわあああああああああやっぱりかこの変態シスターァァァァァァああああああああああ!!!!!」

「あ、ワシリーサさん、おはよ―――――」


レッサーが涎を零しながら猛スピードで接近してくるワシリーサに挨拶をしようとしたときには、
既にサーシャを『誘拐』して廊下から跡形もなく消え去っていた。

彼女が走り去った後、廊下に風速五〇m/s級の突風が突き抜けていった。


「――――うございます。 ・・・・・・・・・・・・ブレないなぁ、相変わらず」


171 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/24 15:55:33.45 aQSXvtR2o 62/408



――――――――――――――――――――――


ミーシャ=クロイツェフは一方通行が座っている岩の側まで歩み寄ると、
ポツリと何かを言い始めた。


「hkgvhafe雪vghityhdfa」

「あァ?」

「pavvmw戦争yheridv」

「・・・・・・ハッ、相変わらず、何言ってンのかわかンねェなオマエは」


思えば、こうしてミーシャと二人きりで居るのは久しぶりだなと一方通行は思いふけた。
最初にこの天使と出会った時は事情を話せる人物が風斬氷華くらいしかいなかったため
三人で過ごす事が多かったように思う。

しかしそこからあの金髪の怪物が現れて『天使同盟』を引っ掻き回し、
さらに学園都市から復活してやってきた第二位の超能力者が現れて『天使同盟』は更に賑やかになった。


172 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/24 15:56:28.36 aQSXvtR2o 63/408



そして二度のイギリス訪問、ロシアへの訪問、黄泉川愛穂達との交流。
気がつけば、『天使同盟』の周りには数多くの人間たちが集まってきていた。


「大きくなったよなァ・・・・・・『天使同盟』も。 オマエ、覚えてるかァ?
 『天使同盟』が誕生したのは学園都市にあるボロっちィすき焼き屋だって事」

「htrbnfdk勿論aqqpgh」

「あンなの、単に酒の勢いで俺が口走っただけの同盟だったってのによォ・・・・・・
 気がつきゃこンな大規模な組織に発展しちまって・・・・・・いや、俺ァまだ組織だなンて
 思っちゃいねェが、こォなっちまったらもォ認めざるを得ねェかもなァ」

「――――――、」

「それにオマエも変わったよな。 最初の頃と比べるとずいぶン人間らしくなっちまった。
 俺としてはその方が楽でいいけどな。 オマエ、最初はメシ食う前の合掌でガラスとかブチ割ってたンだぞ?
 あンな頃と比べるとオマエも立派に適応してきてるよな」


173 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/24 15:57:22.01 aQSXvtR2o 64/408



懐かしいな・・・・・・、と一方通行は『天使同盟』が結成された時期の思い出に浸る。
普段の彼なら過去の事を思い出してほんの少しでも感傷的になるような事は無かった。

しかしもうここまで来ると、たまにはこうして懐かしき過去に思いを巡らせるのもいいか、
と一方通行はふとそんな事を思ったのだ。
目の前に広がるミルクの海のような雪原の景色がそれを手伝っているのかもしれない。


「eobmdwg貴方vnutefkhp」


ミーシャは一方通行の隣でしゃがみ込むと、ジッと彼の顔を見つめてきた。
一方通行は彼女の方を見ずに言う。


「・・・・・・今ここにゃオマエしかいねェから言うけどよ。
 いつの間にか、俺には大切なモンが、守りてェモンが増えたよ。
 ・・・・・・増えすぎたくれェだ」


失笑しながら、一方通行は他の皆の前では絶対に言えないような事を言い出した。


174 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/24 15:58:24.82 aQSXvtR2o 65/408



最初は、ただ打ち止め(ラストオーダー)という一人の少女さえ守れればそれでいいと思った。
彼には最初、守るべきものなど無かったのだから。

しかしその内、黄泉川愛穂や芳川桔梗、番外個体(ミサカワースト)、学園都市に住む光の住人。
風斬氷華や『天使同盟』、今まで出会った数多くの魔術師達。


そして、


「オマエもな、ガブリエル」

「――――――、」

「ったくよォ・・・・・・いつから一方通行はこンなに丸くなっちまったンだァ?
 今更そンな事言うのもおかしいけどよォ・・・・・・・・・・・・。 でもまァ、
 偽善だろォがなンだろォが、何かを守るってのも悪くねェンだよな」


それを教えてくれたのはあのツンツン頭の無能力者であり、そして自分の心に残っていたわずかな『善』でもあった。


175 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/24 15:59:18.57 aQSXvtR2o 66/408



「・・・・・・たまにはオマエと二人で駄弁るのも悪くねェな」


一方通行とミーシャはしばしの間、子供たちの雪合戦を眺めながら談笑を続けた。
談笑と言っても一方通行が一方的にミーシャに話しかけているだけの形だったが。


「いいか、フラグってのはなァ―――――」

「vbhti素敵apfrgt」


天使と人間の交流。そこだけ聞くとなにやら大事な雰囲気にも思えるが
二人が交わした言葉は何ら変哲もない、他愛のないものだった。


一頻り会話をした一方通行は短くため息をつき、ミーシャに尋ねる。


176 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/24 16:00:30.49 aQSXvtR2o 67/408



「もォちょっとしたら、一旦学園都市に帰るぞ。 『星の欠片』探しは
 その後でまた再開する。 行き先はまだハッキリとは決まってねェが・・・・・・。
 だから今のうちに、ここでやりてェ事やっとけ。 何がしてェ?」


一方通行が聞きながらミーシャの顔を見る。
その顔は相変わらずマネキンのように無表情だったが、気のせいか少しだけ、


微笑んでいるようにも見えた。


「konmdbh雪jopgfm子供gjirgewg」

「あァ? ・・・・・・オマエ、さっきから雪合戦やってるガキが気になってたのか?」


177 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/24 16:01:29.21 aQSXvtR2o 68/408



ミーシャが指を差す方向には、雪原で走り回りながら雪玉を投げつける子供たちの姿があった。
もしかして彼女もああやって雪合戦をして遊びたいのだろうか、と一方通行は考える。
この大天使はたまにこういう子供っぽい一面を見せるのだ。


普段の一方通行ならあんな風にハシャいで雪合戦をやるなどという結論には至らなかっただろうが、
今の彼の心境を考えるとミーシャの要望に答えるであろうことは一目瞭然だった。


「・・・・・・・・・・・・たまにはハメ外してみるのも悪くねェかもな。
 よし、俺と雪合戦で勝負だ」

「pthrjbsv勝負iscusfegf」


そう言って一方通行とミーシャは勢い良く雪原の中心部へ駆け出した。
そんな二人はまるで、幼馴染の子供同士のような仲睦まじい関係に見えた。


179 : 次回予告はここまでです。  ◆3dKAx7itpI - 2011/04/24 16:09:47.94 aQSXvtR2o 69/408




                          【次回予告】



『私はあの人の・・・・・・一方通行さんにとって必要な存在になりたいんです。
 そうすることで私も彼の側にいられますし・・・・・・例え彼が振り向いてくれなくても、そうなれればそれでいいかなって・・・・・・』
―――――――――――『天使同盟(アライアンス)』の構成員・風斬氷華




『・・・・・・・・・・・・アンタそれ、『好意』っていうよりもはや『崇拝』じゃないの?』
―――――――――――ローマ正教、禁断の組織『神の右席』の元一員・『前方』のヴェント




『mvgjib攻撃方法csaqpgih変更ncfhugfg』
―――――――――――『天使同盟』の構成員・ミーシャ=クロイツェフ




『翼で攻撃したらもォ雪合戦じゃねェだろボケ!!』
―――――――――――『天使同盟』のリーダー・一方通行(アクセラレータ)




『せめて人前で着られるような服じゃねえと困るんだよなー。 ちゃんとそこんとこゴフォォッ!!!?』
―――――――――――『天使同盟』の構成員・垣根帝督


217 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/26 21:05:54.22 OY7zS2s5o 70/408



――――――――――――――――――――――


運良くというか何というか、普通に考えて朝の七時から営業している喫茶店などそうそう見つかるわけがない。
ないのだが、二人にとっては今日は朝からラッキーデーだったらしい。


「ああ、船くれた人のお仲間さんかい? うれしいよねえ。 私も昨日は立食パーティに参加したクチでね、
 街の人達はみーんなあなた達に感謝してるのよ? プライベーティアのバカどもも追っ払ってくれたし」


そう言って、居住区の商店街にポツンと建っていた喫茶店で働く四十代くらいのおばさんは
まだ開店前の準備中であるにも関わらず、風斬氷華とヴェントを店内へ招き入れてくれたのだった。


「あ、あの、ありがとうございます・・・・・・。 何だか無理言っちゃって・・・・・・」

「何でアンタが気ィ遣うのよ。 店主が入れって言ってきたんだから堂々と入ればいいの」


218 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/26 21:06:47.60 OY7zS2s5o 71/408



ヘコヘコとテーブル席に着く風斬とは対照的に、ヴェントは有言実行堂々とふんぞり返って
風斬の向かい側の席に座った。
本当に、"白いの"以外の人物の前ではいつも通りに振る舞うヴェントの態度が微笑ましい。


「え、えと・・・・・・コーヒーと・・・・・・この、ハムカツサンドを・・・・・・」

「同じの」


適当に注文すると店主のおばさんは笑顔で応対してくれた。
キッチンに引っ込んで注文の品を用意する。

で、そこから華やかなガールズトークが展開されていくのかと思うだろうがそんな事はなく、
さっきからどこか不機嫌なヴェントの様子を風斬がオドオドしながら窺うだけだった。


「あ、あの~・・・・・・」

「何よ」


219 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/26 21:07:31.25 OY7zS2s5o 72/408



一緒に買い物をして、自分の秘密を打ち明けて、風呂で裸の付き合いをするまでに至ったのに、
二人きりという状況になるとやはりまだギスギスした雰囲気のままだ。というかヴェントが一方的に不機嫌なだけなのだが。

このままではマズい、と風斬は精一杯の勇気を振り絞って会話を続けようと努力する。


「何かあったんですか・・・・・・? あ、いやその、なんだか機嫌悪そうなんで・・・・・・」

「別に。 ・・・・・・アンタがいちいち私の御機嫌取りしなくていいわよ。
 アンタのせいでこんなにイライラしてるわけじゃないんだから」

(やっぱりイライラしてるんだ・・・・・・)


程なくして注文したハムカツサンドと湯気と共に香ばしい豆の香りを放つコーヒーが二人の元に置かれた。
『いただきます』と風斬は律儀に手を合わせてパクパクと食べ始める。
ヴェントは目の前のハムカツサンドには目もくれず、ぶすーっとした顔でガラス張りの壁から外の景色を眺めていた。


「食べないんですか?」

「意外と食い意地張ってんのね、堕天使のクセに」


220 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/26 21:08:23.90 OY7zS2s5o 73/408



ほっぺたを膨らませてハムカツサンドを頬張る風斬を見てヴェントは言った。
ジッとこちらを見つめてくる風斬に苛立ちを感じ始めたが、やがて根負けし、
舌先に取り付けてある鎖と霊装を外してヴェントも食事を始める。

そして今度はヴェントの方から話を切り出してきた。


「アンタってさぁ、」

「?」

「何で白いののコトが好きなワケ?」


ゲホッゲホッっと喉にハムカツサンドを詰まらせて咳き込む風斬。
慌ててコーヒーを飲むが、ホットであることを失念していたのか『熱ッ!』と舌を出して涙目になってしまった。
眺めているだけでも飽きない女の子だ。


221 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/26 21:08:54.28 OY7zS2s5o 74/408



「バカでしょアンタ」

「うう・・・・・・、それより、その話はもうしたような気がするんですが・・・・・・」

「今度は真面目に聞いてんの」

「前のは真面目に聞いてくれなかったんですか・・・・・・」


風斬はあからさまに悄げてみせた。感情表現豊かなAIM拡散力場の集合体を見て、ヴェントは少しだけ笑う。
そして風斬はヴェントの質問に答えた。


「好きっていうより・・・・・・ただずっと一緒にいたいって気持ちのほうが強いんです。 もちろん、『天使同盟』の皆とも」


222 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/26 21:09:38.57 OY7zS2s5o 75/408



「『好き』とどう違うってのよ? そういうのを好意って言うんでしょうが」

「それならそうなんでしょうけど・・・・・・、私はあの人の・・・・・・一方通行さんにとって必要な存在になりたいんです。
 彼が今最も欲してるような存在に私はなってあげたいんです。
 そうすることで私も彼の側にいられますし・・・・・・例え彼が振り向いてくれなくても、そうなれればそれでいいかなって・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・アンタそれ、『好意』っていうよりもはや『崇拝』じゃないの?」

「そ、そうでしょうか・・・・・・? あ、でも普通に一方通行さんと二人でまた遊びたいなって思う事もあるんですよ?」

「あの白髪にアンタと同じような気持ちを抱いてる女は一人や二人じゃないってコトは分かってんでしょ?」

「は、はい・・・・・・。 でも私は別に彼を束縛したいとか、そういう考えは無いですし・・・・・・
 ちょっとヤキモチ焼いちゃいますけど、それは実のところ、それほど気にしてはいないんです」


昨日のショッピングセンターの一件であれだけ取り乱していたくせに、とヴェントは思ったが口には出さなかった。
風斬氷華は色々な考えを巡らせてはいるが、どうやら根本的な部分はブレていないらしい。

一方通行と、『天使同盟』の面々とこれからも共に過ごしたい。
AIMという魔術視点から見たら不可思議な概念で構成されたこの化物は、とても芯が強いようだ。


223 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/26 21:11:03.39 OY7zS2s5o 76/408



「んじゃアレか、テメェは白いのがその辺で女誑かしてるのを見守りながら、
 いつか自分に振り向いてくれたらいいなと。 そういう考えか」

「は、はい・・・・・・。 い、いや、一方通行さんはそんな人じゃないですけど・・・・・・」

「バーカ」

「うう・・・・・・・・・・・・」

「後手に回ってどうすんダヨ。 テメェ昨日もショッピングセンターで後手に回ってることを嘆いてたじゃねえか。
 あの白いのはどこに出しても恥ずかしくねえ世界一の鈍感クズだ。 あんなゴミ野郎をそれでも振り向かせてえってんなら
 もっとアンタから攻めていかなきゃ駄目だろうが」


ボロクソに言われている一方通行に、しかし風斬はフォローを入れずヴェントに問いかけた。


「同じような指摘を何度も受けてます・・・・・・、具体的にはどうしたらいいのか・・・・・・いえ、
 どうしたらいいのかは・・・・・・その・・・・・・なんとなく分かってるんですけど・・・・・・」


224 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/26 21:11:55.29 OY7zS2s5o 77/408



俯きながら顔を紅潮させ、風斬はもじもじしながらヴェントの顔をチラチラと見る。


「ぐ、具体的には・・・・・・例えばヴェントさんなら、どうやって・・・・・・?」

「え・・・・・・? 私? ・・・・・・・・・・・・し、知らねえ・・・・・・」


同じように顔を赤くして視線を外の景色に投げるヴェントの仕草に首を傾げる風斬。
過去に何か男関係でのいざこざでもあったのだろうか、と適当に想像してみる。
そういえば昨日、ヴェントは一方通行と何やらジェットコースターに乗って遊んだとか何かそんな話があった気がしたが、
もう昨日の話は思い出として記憶のアルバムに仕舞い込んでおこうと風斬は一人決意した。


「・・・・・・ま、頑張れば」

「は、はい! 頑張ります・・・・・・! ありがとうございます」


別に礼を言われるような事はしていないのだが、ヴェントは照れ臭そうにハムカツサンドを口に放り込む。
風斬もある程度ヴェントと会話が出来たことで気を良くしたのか、その後は終始ニコニコしながら
朝食を摂り終えるのだった。


225 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/26 21:12:46.69 OY7zS2s5o 78/408



そして互いにコーヒーをすすりながら、ヴェントが一言。


「で、アンタら今日はどうすんの?」

「ノープランです・・・・・・。 あ、でも今日はなんかエイワスさんがお話があるって言ってたような」

「ああ、例のハッキングがどうこう言うヤツね。 アンタらも大変よね、
 あんな化物に毎日振り回されてるんじゃ身が持たねえだろうに」

「確かに大変ですけど、慣れれば楽しめますよ? 毎日刺激的で面白いし・・・・・・
 メンバーも愉快ですから、苦痛を感じたことはありません」

「アンタも所詮、アイツらと同じ化物だってコトね」

「・・・・・・・・・・・・あの、ヴェントさんはこれからどうするんですか?」


不意に質問され、コーヒーを飲んでいた手の動きがピタっと止まる。

確かにヴェントも『天使同盟』と同じく、特に目的もなく独立国同盟に居座る日々が続いていた。
『天使同盟』にはミーシャ=クロイツェフに関する情報を収集するという漠然とした目的があるが、
『神の右席』から外れた今のヴェントにはそれすらない。


226 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/26 21:13:57.23 OY7zS2s5o 79/408



そしてヴェントは思う。『天使同盟』はいつまでもここにいるわけではない。
近いうちにここを発ち『星の欠片』を探しにどこかの魔術結社や魔術師と接触するのだろう。

つまり、こうして風斬氷華と一緒に食事をしながら喋ったり、あの超能力者がしてくれた『闇を共に支える』
という約束も、ハッキリしないまま有耶無耶になってしまうという事になる。


「・・・・・・・・・・・・、特にやることもないわね。 ここに居続ける理由も無いし、
 バチカンに帰ったって"私に『居場所』なんて無いし"、『神の右席』はもう解体されたし。
 はは、このままだと私、いわゆる『ニート』ってヤツになっちゃうわね」


一応プライベーティア戦でも彼女は第一線で戦ってくれたし、独立国同盟に元とはいえ『神の右席』という
最上級クラスの魔術師が居るというだけで大きなアドバンテージにはなっているのだが。


「それなら・・・・・・」


風斬は少し言葉を選ぶように口を止め、そしてヴェントに笑顔でこう言った。




「ヴェントさんも私たちと・・・・・・、一緒に過ごしませんか?」




それにしても、今日のロシアは心地のよい快晴に見舞われている。


227 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/26 21:14:45.77 OY7zS2s5o 80/408



――――――――――――――――――――――


「あの人たちってプロの雪合戦の人かな?」

「ばかだなーお前、雪合戦にプロなんかねーよ」

「でもあの二人すごいよー・・・・・・雪玉が全然見えない」


そんな話をしながら、独立国同盟に住む小学校低学年くらいの男女の子供たちは
漫画やアニメから飛び出してきたキャラクターのような怪物二人の壮絶な雪合戦を遠くで見物していた。

ひと際大きなクリーム色のフードを頭からすっぽり被った身長ニメートルくらいの怪物が
背中から生えた氷の巨大な翼を振るうだけで、夥しい数の雪玉が宙に浮かび相手めがけて飛んでいく。
そのまま雪原と同化しそうなほどに白い少年が大地を踏み込むだけで雪の結晶で出来た巨大な壁が出現し、
相手からの雪玉攻撃を難なく防ぐ。


228 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/26 21:15:59.46 OY7zS2s5o 81/408



「甘ェンだよ、そンなンで俺に勝とォなンざ一〇〇年早ェぞ三下ァ!!」

「frgkreov手数hjbotr増加dsyuyferg」

「うォッ・・・・・・!」


ズオオオオオオッッと渦を巻くように自身の周囲に雪を展開しているのは
言わずもがな、大天使ミーシャ=クロイツェフだ。
彼女は更に膨大な量の雪玉を一秒もかけず作成し、容赦なく白い少年に向かって放つ。

そしてその白い少年、一方通行は背中に四本の竜巻を接続し、空を飛び回りながら
時には回避し、時には雪玉を『反射』して抵抗していた。
チョーカーにスイッチを入れている辺り一方通行も本気なのだろうが
本気でやらなければこの雪合戦、相手がまた本気だからマジで殺される可能性があるのだ。


「無駄だ、いくら攻撃に『魔力』を注いだって、『反射』は出来なくても逸らす事ぐれェなら造作もねェンだよ」

「mvgjib攻撃方法csaqpgih変更ncfhugfg」

「翼で攻撃したらもォ雪合戦じゃねェだろボケ!!」


230 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/26 21:16:46.32 OY7zS2s5o 82/408



音速並のスピードで振るわれる氷の翼を強引に身体を捻って回避する。
今のが当たっていたら一方通行もタダじゃ済まなかっただろうが、これでもミーシャにとっては
ただの『じゃれ合い』なのだから手に負えない。


と、そこで二人が繰り広げる雪合戦という名の戦場に、悠然と歩きながら近付く者が現れた。


「よう一方通行。 お前ら朝っぱらから何ガキみてえな事やってんだよ」

「・・・・・・オマエか」

「帝督kvueg」

「お? ミーシャ、お前今俺の名前呼んだか?」


さくさくと雪を踏みしめながら歩いてきたのは垣根帝督だった。
相変わらずの軽装だったが、彼は寒くないのだろうか。


231 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/26 21:18:03.33 OY7zS2s5o 83/408



「オマエ・・・・・・なンかやけに綺麗だなその服。 新調でもしたか?
 さっき買ったばかりですみてェな雰囲気がプンプンするンだが」


一方通行の指摘にほんの少し動揺する垣根帝督。
彼の着ている服は早朝に行ったワシリーサとの激しい戦闘によってズタボロになり、
治療の際にエイワスがついでで彼の衣服も『復元』させたために新品同様に見えるのだ。

垣根は努めて平静を装い、一方通行に答える。


「いつまでも同じ服着てらんねえだろ。 つかお前俺の服ちゃんと買っといたんだろうな?」

「あァ? あァ~・・・・・・どォだったかな」

「ふざけてんじゃねえぞテメェ。 おつかいもまともに出来ねえガキか。
 ま、オマエのファッションセンスでチョイスした服なんざまともに着られるもんじゃねえだろうけどな」

「やれ、ガブリエル」

「せめて人前で着られるような服じゃねえと困るんだよなー。 ちゃんとそこんとこゴフォォッ!!!?」


ペラペラと上機嫌で喋る垣根の顔面に、ミーシャの雪玉攻撃がクリティカルヒットした。
なんとも間抜けな体勢で派手に転ぶ垣根を見て、遠くに『避難』していた子供たちが盛大な笑い声をあげる。
それに釣られてミーシャもガクガクと体を震わせた。これは彼女が笑っている時の仕草だ。


232 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/26 21:19:18.54 OY7zS2s5o 84/408



「懐かしいなその笑い方。 オマエ最近笑ってなかったンじゃねェの?」

「――――――――――、」


ミーシャは首を横に振る。


「pxmbve露天風呂cfjoe愉快dhdhn他mlvgr多数pobk」

「あンだって?」

「テ、メェらぁぁぁ・・・・・・・・・・・・!!!」


ゆらりとした緩慢な動きで起き上がる垣根は憎悪に満ちた表情を浮かべていた。
そして顔や髪の毛からドサドサと雪を落としながら彼はニヤリと笑った。


233 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/26 21:20:16.09 OY7zS2s5o 85/408



「そういやミーシャ、テメェにゃ昨日の露天風呂で世話ンなってんだよなぁ・・・・・・、
 あん時の報復、今ここでキッチリやってやんよ」

「さっすが第二位サマ、心の器が小さくいらっしゃる」


そう言って一方通行はケタケタと笑う。それがこの雪合戦第三の参加者を迎え入れる合図となった。


「テメェもここで雪原の一部にしてやるよ、一方通行ァァァァァあああああああああ!!!!」

「ハッ、来いよ! こォいうのは数が多けりゃ多いほど混沌として面白くなるってモンだ!!」

「dfgherig再開fjguth」


学園都市の第一位と第二位、そして天界より降臨せし大天使の三名による
雪合戦レベル一〇〇が幕を開けた。

『未元物質(ダークマター)』で構成された六枚の翼を展開して不可思議な法則で攻撃する垣根。
その法則をあっさりと解読し、難なく『ベクトル変換』で反撃する一方通行。
それら二人の攻防を正面から叩き潰し、圧倒的に君臨するミーシャ=クロイツェフ。


こんな化物三人が、こんな風に暴れてしまえば、図らずも人が集まってくるものだ。


234 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/26 21:21:04.90 OY7zS2s5o 86/408



――――――――――――――――――――――


「・・・・・・今なんつった?」

「いえ、あの、ですから・・・・・・私たちと一緒に過ごしませんかって・・・・・・」

「私に『天使同盟(アライアンス)』に入れっつってんの? アンタ」

「も、もしよろしければですけど・・・・・・」


視線をあちこちに泳がせながら風斬はそんな事を言った。


対するヴェントはというと、手に持ったコーヒー入りのマグカップを置くことも忘れ、
口を開けたままポカンとした表情を浮かべて固まってしまっている。

彼女たちがいる喫茶店の店主が皿を洗う音だけが、店内に流れるBGMとなっていた。


236 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/26 21:21:46.10 OY7zS2s5o 87/408



「本気で言ってんならアンタも大概おかしいわ。 大体そんな簡単に
 所属できるモンなのかよ『天使同盟』って」

「え、基本誰でもウェルカムだと思ってますけど・・・・・・」

「裏カジノの店長かアンタは。 ・・・・・・つかそんなんでいいのかよ、
 テメェらみたいなとんでもない組織がそんな簡単に他人を受け入れてさぁ」

「私はそんな大きな組織とは思ってません・・・・・・というより、
 一方通行さんがそんな風に考えてないんで、大丈夫だと思います」


なんて楽観的な、とヴェントは深く溜息をつく。
目の前にいるぽや~っとした少女、風斬氷華は本当に自分の言っている事が分かっているのだろうか、と。


実際、『天使同盟』という組織はとてつもなく強大で恐ろしい組織になっている。
学園都市トップ2の超能力者に、天使を模したAIM拡散力場の集合体、もはや別世界に生きている金髪の聖守護天使、
そして『天使同盟』の顔とも言える本物の大天使『神の力(ガブリエル)』。


237 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/26 21:22:49.52 OY7zS2s5o 88/408



そんなぶっ飛んだ人員で構成されているこの組織に、たかが一魔術師が加わってどうするというのか。


そんな風に考えるヴェントの返答は、当然のものだった。


「断る」

「えぇ~・・・・・・・・・・・・」

「えぇ~、じゃないわよアホ。 なんでアンタらみたいな化物集団に私が加えられなきゃいけないのよ。
 それならまだ『神の右席』を再結成した方が・・・・・・・・・・・・、いやそれよりはマシかもしんないけど。
 ともかく嫌。 ゼッタイ嫌。 第一、アンタが良くても私が良くてもあの白いのとかが断るでしょうが」

「そ、そこは私も頑張って説得しますから・・・・・・!」

「いやそこまで必死に勧誘する意味がわからないんだけど。 とにかく私が嫌って言ったら嫌なの。
 悪いけど、人員を増やしたいってんなら他を当たってくれないかしら」

「・・・・・・そう、ですか・・・・・・・・・・・・」


シュン・・・・・・と、どうやら風斬はヴェントに断られた事に本気で落ち込んでいるようだ。
ヴェントは別に何も悪いこと、いやむしろ正しい事を言っているだけなのだが、
アヒル口を作って悄げているメガネの少女を見ると、どうも後ろめたさを感じてしまう。


239 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/26 21:38:26.78 OY7zS2s5o 89/408




                          【次回予告】



『つかガブリエルよォ、雪玉で攻撃しねェと雪合戦になンねェっつっただろォが』
―――――――――――『天使同盟(アライアンス)』のリーダー・一方通行(アクセラレータ)




『テメェも来いよ風斬。 俺と手を組んで一方通行の野郎を沈めねえか?』
―――――――――――『天使同盟』の構成員・垣根帝督




『・・・・・・どうせなら私は天使さんと一緒に遊びます。 天使さん、私も一緒に混ぜてもらっていいですか?』
―――――――――――『天使同盟』の構成員・風斬氷華




『まったく・・・・・・くだらないコトやってるわね・・・・・・』
―――――――――――ローマ正教、禁断の組織『神の右席』の元一員・『前方』のヴェント


240 : 次回予告はここまでです。  ◆3dKAx7itpI - 2011/04/26 21:38:55.34 OY7zS2s5o 90/408




                          【次回予告】




『ちぃ! さっすが大天使、私の華麗なる不意打ちを見切ってましたか!』
―――――――――――魔術結社予備軍『新たなる光』の構成員・レッサー




『朝から何を騒いでいるのかと思えば・・・・・・案の定、あなた達だったのね』
―――――――――――エリザリーナ独立国同盟の中心的人物・エリザリーナ




『ミーシャぁぁぁ・・・・・・!! 助けてください~~~・・・・・・・・・・・・!!』
―――――――――――元『殲滅白書』の魔術師・サーシャ=クロイツェフ




『ちっ!! 何の騒ぎかと見に来たのが間違いだったわ!! まさかミーシャまでいるだなんて・・・・・・!』
―――――――――――元『殲滅白書』のシスター・ワシリーサ


280 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/28 19:05:29.55 o4JK3iZCo 91/408



ヴェントは胸糞悪そうに舌打ちをし、手に持っていたマグカップを口元に寄せる。
コーヒーを飲んでいるときに風斬の方を見るが、相変わらずしょぼくれていた。


(仮に私が『天使同盟』に入ったら、ますます白いのが振り向いてくれる可能性が減るでしょ。
 コイツそこんとこ分かって言って・・・・・・・・・・・・、って! 何考えてんのよ私は!!
 私がいたところでコイツと白いのがどうなったりとかしねえだろうが!!)


あわわわわ・・・・・・と片手を団扇にして顔を扇ぐヴェントを見て風斬は首を傾げた。
そしてヴェントはゆっくりとマグカップを置き、コホンと咳払いをして言う。


「・・・・・・・・・・・・ま、考えといてあげてもいいけど」


なぜか上から目線だった。


281 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/28 19:06:15.05 o4JK3iZCo 92/408



「ほ、本当ですか・・・・・・?」

「考えとくだけよ! まずあり得ない話だけど・・・・・・」

「ありがとうございます! 絶対ヴェントさんも『天使同盟』に入れてみせますから」

「必死過ぎて怖えよ。 何が目的だ何が」


パァァっと表情を綻ばせる風斬に、ヴェントも思わず苦笑してしまう。

『0930』事件の時には必死で目の前の少女を始末しようと考えていたというのに、
人生とは分からないものだ、とヴェントは少しだけ物思いにふけた。


その後、しばらく二人で他愛もない話をしていた時だった。


突然、ズズゥゥゥン・・・・・・!!!という重低音が鳴り響いた。
彼女たちがいる喫茶店もわずかだが揺れている。


282 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/28 19:06:50.61 o4JK3iZCo 93/408



「あら・・・・・・なんだか騒がしいわねえ」


キッチンからひょっこりと顔を出してそう言ったのはこの店の店主のおばさんだ。
しかしそこまで気にしていないのか、小さな揺れが収まると同時にさっさと開店準備に戻っていった。


「なんだろう・・・・・・? 今ちょっと揺れましたよね?」

「天使が貧乏揺すりでもしてんじゃねえの」


ヴェントの冗談を無視して風斬は店の出入口の扉を開けて外の様子を確認する。
しばらく同じ方角をボーッと見ていた風斬が、心なしかワクワクした表情を貼りつけて店内に戻ってきた。


「なんだかあっちの方で雪が沢山『浮いてます』! 一方通行さん達かも・・・・・・!」

「いやなんでそんな楽しそうなのアンタ。 ・・・・・・・・・・・・、行ってみる?」

「はい!」


283 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/28 19:07:36.78 o4JK3iZCo 94/408



というわけで二人は騒ぎの中心へと足を運んでみることにした。
店主のおばさんに代金を支払おうとすると、『まだ開店前だからお金はいらないよ』と笑顔で無料にしてくれた。サービス精神が旺盛すぎる。

申し訳なくなった風斬がお金を払おうとするが、『タダより安い物はねえよ』と
ヴェントがそれを阻止し、二人は結局お金を払わず店を後にしたのだった。


道中、ふとヴェントが風斬に話しかけてきた。


「・・・・・・ねえ」

「?」

「・・・・・・その、アレだ。 ・・・・・・誘ってくれてアリガトね」

「あ・・・・・・、デレた」

「ああァッ!!?」

「ひいいい、じょ、冗談です・・・・・・!!!」


科学を憎む魔術サイドの魔術師と、科学技術を凝縮して作られた人工天使。


そんな二人はまるで、どこにでもいるような仲睦まじい友達同士のようにも見えた。


284 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/28 19:08:26.40 o4JK3iZCo 95/408



――――――――――――――――――――――


やっぱり、こうやって皆と一緒に騒いで遊ぶのは面白い。


「二人まとめて死ねェ!!」


一方通行が『私』と帝督に雪玉を叩きつけてくる。
彼は背中から噴出する竜巻を利用して常に雪をキープしている状態にあった。


「遅えよ第一位!! このまま十月九日の続きでもおっ始めるかあ!!?」


私と帝督は一方通行の攻撃を避け、帝督は背中の『未元物質』を使って
地面にある大量の雪を津波のように巻きあげていく。


285 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/28 19:09:32.32 o4JK3iZCo 96/408



十月九日の事はエイワスから聞いているので知っている。
なんでも、学園都市に潜む『暗部』と呼ばれる組織の抗争があったようで、
そこで一方通行と垣根帝督が一騎打ちをしたらしい。

理由は聞いていないが、多分『喧嘩するほど仲が良い』というアレだと私は思う。違うかな。

そして帝督だが、彼の様子から察するに恐らくある程度の魔術を習得したのだろう。
彼から並々ならぬ魔力を感じる。おめでとう、と伝えたいけどそれも叶わないのが悔しい。


「余所見してンじゃねェぞガブリエル! 特大の雪玉でも喰らってろォ!!」


一方通行が元気玉みたいな大きさの雪を私に向かって投げつけてきた。
彼にしては珍しく、こういう遊びを純粋に楽しんでいるようにも見える。
とりあえず私は一方通行が投げてきた大きな雪玉を指一本で破壊し、事なきを得る。


楽しいな。


286 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/28 19:10:17.39 o4JK3iZCo 97/408



すごく楽しい。そして何よりも、彼が、一方通行が私と楽しく遊んでくれるのがとても嬉しい。


私は背中の翼を振るい、そのまま一方通行と帝督に攻撃を仕掛けた。


「ッ!? 早え・・・・・・こうして対峙してみると天使ってのは恐ろしいな」

「つかガブリエルよォ、雪玉で攻撃しねェと雪合戦になンねェっつっただろォが」


そうだった、失敬。つい夢中になってしまっていた。
なぜだか急に、私の中の攻撃性が高まってしまった。


・・・・・・・・・・・・。


どうしてだろう。


「おーい、一方通行さーん!」


287 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/28 19:10:51.69 o4JK3iZCo 98/408



声が聞こえた。この声は氷華の声だ。遊びに来てくれたのだろうか。


「風斬じゃねェか。 どォした?」

「どうしたじゃないですよー・・・・・・、あなた達が暴れてるから建物が揺れちゃってますよ?」

「テメェも来いよ風斬。 俺と手を組んで一方通行の野郎を沈めねえか?」

「・・・・・・どうせなら私は天使さんと一緒に遊びます。 天使さん、私も一緒に混ぜてもらっていいですか?」


断る理由がない。私は快く了承し、首を縦に振った。
氷華はこちらに向かって走り出し、雪原の雪をせっせとかき集めて一方通行と帝督に投げつける。


288 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/28 19:11:33.18 o4JK3iZCo 99/408



「風斬ちゃンよォ、俺を敵に回して後悔すンじゃねェぞ?」

「こうなったらテメェら三人まとめてミンチにしてやる」

「二人とも、空を飛ぶのは卑怯ですよ~・・・・・・!!」


氷華はそう言いながらも笑顔で雪玉を投げつけていく。
しかし上空にいる二人には届かなかったため、『覚醒』して彼女も飛び始めた。


「まったく・・・・・・くだらないコトやってるわね・・・・・・」


別の人物の声がした。そちらを向くと、・・・・・・ヴェントだろうか。
昨日の露天風呂の時にチラッと見たがやはりあの独特の化粧や『ウリエル』の属性を司る衣服を身に纏っていないと
その姿に違和感を覚える。けど、今の方が可愛らしいとは思う。


289 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/28 19:12:28.39 o4JK3iZCo 100/408



ヴェントは空にいる私の姿を見上げると、フンとそっぽを向いて適当なところに座り込んだ。
彼女は雪合戦に参加しないのだろうか?残念だ。


背中からエーテル?に似た物質で構成された翼を生やして空を飛ぶ風斬は
普段の怖ず怖ずとした雰囲気は見受けられず、活発に遊んでいる。
何か良い事でもあったのだろうか、彼女が嬉しそうだと私も嬉しい。


「きゃっ! 冷た~い・・・・・・」

「ざまあねえな、所詮は学園都市製の人工天使かよ」

「油断してていいのかメルヘン野郎」


氷華に雪玉を当てて優越感に浸っている帝督の頭に、一方通行が思いっきり雪を浴びせた。
雪崩のようなその攻撃はあっという間に帝督を飲み込み、地面へ流していく。

私はとりあえず帝督が落っこちた場所に追加攻撃を送った。


290 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/28 19:13:27.70 o4JK3iZCo 101/408



と、不意に私の背後から何者かの攻撃が飛んできた。
事前に気配を感じていた私はその攻撃を難なく回避する。


「ちぃ! さっすが大天使、私の華麗なる不意打ちを見切ってましたか!」


振り向くと、そこにはイギリスで出会った魔術師、レッサーがいた。
彼女は手に『鋼の手袋』を構えている。


「レッサー、おはようございます」

「おはようございます風斬さん。 なんだか騒がしいと思ったら、楽しそうな事やってるじゃないですか」

「来いよマセガキ。 オマエも雪の藻屑にしてやる」

「それを言うなら海の藻屑で・・・・・・しょっ!」


291 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/28 19:14:25.94 o4JK3iZCo 102/408



『鋼の手袋』で掴んだ雪を勢い良く一方通行めがけて投げるが、彼の『反射』能力であっさり防御されてしまう。

しかもその反射された雪が、なぜか私のところに―――――。


「ハッ、さすがに能力アリじゃ俺に分があり過ぎるかァ?」


私はふるふると頭を振って付着した雪を払い落とす。

この雪合戦にレッサーも参加し、戦場はますます賑やかになってきた。
彼女は『天使同盟』と一緒に行動している時も、みんなを盛り上げてくれる元気な人間だった。
こういうのを・・・・・・『ムードメーカー』というのだろうか?

エイワスはさほど興味が無さそうだったが、私は是非これからもレッサーとも過ごしていきたいと考えている。
・・・・・・いや、過ごしたかったが正解だろうか。


・・・・・・・・・・・・こんなにも楽しい時間も、もうすぐ終わる。
嫌だ、こんな時間が永遠に続けばいいのに。


292 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/28 19:15:28.28 o4JK3iZCo 103/408



「そりゃー!」

「甘ェよマセガキ、オマエのチンケな魔術じゃ俺に雪玉一つ当てる事も出来ねェよ!
 ・・・・・・ていうかヴェント、オマエも一緒にやらねェか?」

「やんないわよバカ。 アンタちょっとガキっぽいわよ、キャラ変えたの?」

「・・・・・・ま、たまにはいいと思ってな。 オマエと同じだよ」

「私は何にも変わってねえっつってんだろこのクソウサギがぁぁ!!!」


激昂したヴェントは舌先に付けている霊装をジャラリと揺らす。
瞬間、雪原の中央から氷で出来た『女王艦隊』の帆船の一部がと飛び出してきた。
雪原を突き破って出現したソレは、船体の側面に取り付けてある氷の砲身の照準を一方通行に向ける。


「お、オイ。 雪合戦ってのは相手に向かって雪玉を――――」

「『雪』も『氷』も似たようなモンだろぉ? 覚悟しろ!!」


ズドドドドド!!!という爆音が連続して鳴り響き、空気を震わせた。
氷で構成されたニメートル程の大きさの錨が、容赦なく一方通行の肉体を粉々にしようとする。


「こんにゃろ、こんにゃろ! 逃げんな白いの!」

「うっぜェェェェ!! ナニ急にムキになってンだこの女ァ!」


ヴェントも意外と子供っぽいところがあるのだなと思った。
私も人の事は言えないが、でも楽しかったら何でも良い。


293 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/28 19:16:29.62 o4JK3iZCo 104/408



「朝から何を騒いでいるのかと思えば・・・・・・案の定、あなた達だったのね」


独立国同盟産のふっかふかなコートに身を包んでそう言ってきたのはエリザリーナだった。
彼女には本当に世話になっている。
『天使同盟』でも何でもないただの人間であるというのに、私の事を親身になって考えてくれた。


「おはよう、ミーシャ。 今日は元気そうね」

「vmfegri元気pxeya百倍iteqhg」


挨拶をしてきたエリザリーナに、私はサムズアップをして応えた。
ちなみにこのサムズアップというジェスチャーは、一方通行と初めて『ファミリーレストラン』という
飲食店へ行ったときにいた、青い髪の少年がやっていたのを見て覚えたものだ。


エリザリーナはホット専用の缶コーヒーを片手に微笑を浮かべながら皆の雪合戦を
遠目で眺めている。


294 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/28 19:17:12.96 o4JK3iZCo 105/408



と、その時にまたしても声がした。私に助けを求めるこの声は―――――。


「ミーシャぁぁぁ・・・・・・!! 助けてください~~~・・・・・・・・・・・・!!」

「ちっ!! 何の騒ぎかと見に来たのが間違いだったわ!! まさかミーシャまでいるだなんて・・・・・・!」


ロシアに来て私と色々楽しい会話をしてくれたサーシャ=クロイツェフだ。
そのサーシャを脇に抱えて私を畏怖の目で見上げている修道女はワシリーサ。

私は前に一度、サーシャの肉体を器にして現世に降りたことがある。
あの時は本当に迷惑をかけた、謝罪したいが・・・・・・・・・・・・それももう叶わない。
でもそんな事もあってか、サーシャは私に対してまるで姉妹のように接してきてくれた。
一緒に私のスケッチブックを見たり、『殲滅白書』に居た頃はどういう活動をしていたのかという話を聞いたり・・・・・・。
サーシャのお話はいつも聞くのが楽しみだった。


「ミーシャ、ワシリーサを何とかしてください・・・・・・!」


295 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/28 19:18:11.33 o4JK3iZCo 106/408



私はそんな『親友』を助けるために、上空から一気に下降してワシリーサに飛び蹴りを喰らわせた。


「ぎゃふっ!!」


ワシリーサ程の魔術師なら、今の攻撃など簡単に避けることが出来るはずだが、
あえてこんな風にわざと喰らってくれる辺り、彼女もノリが良くて愉快な人間だ。

でも、サーシャに過度な猥褻行為を働くのはダメ。


「痛い・・・・・・痛い・・・・・・痛いィィィィいいいいいいい!!!」

「ミーシャ、ありがとうございます。 ・・・・・・これ、皆さん雪合戦をしているのですか?」

「tibvvn肯定cxzgjoj」


痛い痛いと喚くワシリーサを無視し、サーシャは私に寄り添いながら雪合戦の様子を眺める。


「・・・・・・第一の私見ですが、私もやってみたいです」

「rvbrgn参戦aqqwi歓迎eovbsv」


296 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/28 19:19:03.69 o4JK3iZCo 107/408



もちろん、断る理由などない。
私がビシッと指を差すジェスチャーをすると、サーシャは少女相応の笑顔を浮かべて
戦場に駈け出していった。


「うがあああああああああ!!! テメェら覚悟は出来てんだろうなぁ!!?
 念仏唱える準備しとけよクソどもがあぁぁ!!!」

「うわぁ、垣根さんが復活しましたよ!」

「埋めろ埋めろォ、コイツ氷漬けにして博物館に進呈してやろォぜ」

「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・クソ、『女王艦隊』もうニ、三隻くらい呼び出すか」

「ちょっとヴェントさん、ぶっちゃけその船ジャマなんですけど」

「第二の私見ですが、くれぐれも居住区に被害が及ばない程度に暴れてくださいね」


エリザリーナとワシリーサは参加しないのだろうか。
やはりこういう時にはしゃがないのが大人の女の基本なのか・・・・・・うーむ。


「ワシリーサ、あなたも少しは自重しなさい。 昨日露天風呂で散々セクハラ働いたでしょ」

「スキンシップだも~ん。 ・・・・・・でも、こうして無邪気に走りまわるサーシャちゃんも素敵だわ・・・・・・」


297 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/28 19:20:02.14 o4JK3iZCo 108/408



エイワスが居ないが、あれはどこにでも居てどこにも居ない存在だからいいのかな。
それともエイワスは、『私を待っている』のだろうか。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。




とにかく、これで全員揃った。




エリザリーナは相変わらず缶コーヒー片手に呆れるように笑みを浮かべて佇んでいる。


ワシリーサは楽しそうに笑いながら遊びまわるサーシャを見て、恍惚な表情を浮かべている。


そんなサーシャはレッサーに向かって雪玉を健気に投げつけている。


298 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/28 19:20:53.73 o4JK3iZCo 109/408



レッサーもそれに対抗して『鋼の手袋』で圧倒的物量の雪を散弾のように巻き上げている。


ヴェントは本当に『女王艦隊』の一部を三隻までに増やし、凄まじい手数で空中の標的を撃ち落とそうとしている。


氷華は巨大な氷の錨を涙目になりながら必死で回避している。


帝督は一方通行の操る竜巻に飲み込まれて、コマのように回転しながら地面に叩きつけられている。


―――――そして彼は。一方通行は。


「オイどォしたガブリエル。 もォ降参か? まだ終いにゃ早ェぞ、来いよ」


普段あまり見せない屈託の無い笑顔を私に向けて、手を差し伸べて来た。


299 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/28 19:21:34.15 o4JK3iZCo 110/408



嬉しい。


嬉しい。


笑いたい。


私も彼のように、皆と同じように笑いたい。


ふと、私は視線をよそに向ける。


エイワスがいた。誰もまだエイワスの存在に気付いていない。


エイワスは。


クラアトの召使は。




皆とは違う、冷笑を浮かべながらロシアの空を、いや、『星』を見上げていた。




300 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/28 19:22:21.05 o4JK3iZCo 111/408



ああ。


待って。


待ってほしい。


一方通行fatghが、彼が私を呼んxoqmでいる。


私も彼を呼んでいる。


もう一度、最期にもう一dawhe度だけ。彼の手の温もりをfst感じたkliugい。


ああ、でも。




―――――――――keoghtumここfhewまで、irghか。




301 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/28 19:23:30.19 o4JK3iZCo 112/408



――――――――――――――――――――――


間もなく午後二時を迎えるこの学園都市。
封鎖された第十九学区は住人の移動が全て終わっているため、不気味なほどの静けさに包まれていた。


そんな街にただ一人、ポツンと立っている『人間』、アレイスター=クロウリーは誰に言うでもなく呟いた。






「さあ、始めようか『天使同盟(アライアンス)』。 愉快で残酷な、『時代』の命運を懸けたショウタイムを」






303 : 次回予告はここまでです。  ◆3dKAx7itpI - 2011/04/28 19:30:52.01 o4JK3iZCo 113/408




                          【次回予告】



『ここが「天使同盟」の正念場だ。 さて、どうするかね一方通行?
 ミーシャ=クロイツェフを救うために「立ち上がるのか」、「立ち塞がるのか」』
―――――――――――『天使同盟(アライアンス)』の構成員・エイワス




『昨日言ってたのはこォいう意味か!! オマエ、ガブリエルがあンな事になるのが分かってたンだな!?』
―――――――――――『天使同盟』のリーダー・一方通行(アクセラレータ)




『「星の欠片」のある場所がそんなに前から分かっていたのなら、どうして教えてくれなかったんですか・・・・・・!?
 あなたが最初から私たちに伝えていれば、もっと早く対策を打てたかもしれないのに・・・・・・!!』
―――――――――――『天使同盟』の構成員・風斬氷華




『アレイスター・・・・・・だと・・・・・・!?』
―――――――――――『天使同盟』の構成員・垣根帝督




340 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/30 23:02:59.48 Ez54bxd9o 114/408



――――――――――――――――――――――


午前八時前。ロシア連邦のエリザリーナ独立国同盟で、
突如として異変が発生した。


「・・・・・・・・・・・・ガブ、リエル?」


一方通行は背に四つの竜巻を接続して宙に浮かびながら天使の名を呼ぶ。
彼の表情は不思議な物を見つめるように眉をひそめていた。

彼の他に雪原にいた風斬氷華、垣根帝督、レッサー、サーシャ=クロイツェフ、
ヴェント、エリザリーナ、ワシリーサも、ミーシャ=クロイツェフの異変に気付き彼女を見たまま固まっている。


「jovgrbae、fgjvnvs、aqio、epioryevns」

「?」


341 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/30 23:04:04.21 Ez54bxd9o 115/408



ノイズだらけの声を発しながら、ーシャは両手で頭を押さえつけてフラフラと揺れている。
全身がガタガタと震えており、誰が見ても今の彼女は『異常』だということが理解できた。
人語とは思えない言葉を、口を型どる凹凸をもごもごと動かしながら呻く彼女を見て、
一方通行は地上に降りて駆け寄った。


「どォしたオマエ? どっか具合悪いのか? やっぱ昨日あンだけハシャいだ無理が祟って―――――」

「ぐ、う、うgggggg、gggggggg――――」


ドンッ!!と、肉を打つ鈍い音が鳴った。
ミーシャが邪魔な障害物を押しのけるように、そのまま一方通行の胸を叩いた音だった。

柔らかい雪の絨毯に尻餅をつく一方通行。幸い彼に大したダメージは無かったようだが、
ミーシャが見せる初めての行動に呆然とした表情を貼りつけていた。
そのまま立ち上がらない一方通行を心配して風斬が彼を介抱する。


342 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/30 23:05:02.19 Ez54bxd9o 116/408



「あ、一方通行さん、大丈夫ですか・・・・・・? ・・・・・・天使さん、一体どうして―――」


プツンと、何か細い糸が切れたような音が聞こえた気がした。


そして、




エリザリーナ独立国同盟に、ロシアに、否、世界に轟かせるように、
ミーシャ=クロイツェフは尋常ではない音量の絶叫をその口から上げた。





343 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/30 23:06:10.90 Ez54bxd9o 117/408



ビリ――ビリビリバリ―――ピシピシ!!!!と、そこら一帯の空気が激しく振動しているのが伝わる。
その衝撃だけでミーシャを中心に、彼女周辺の地面が陥没した。
なおも雄叫びをあげるミーシャの声に、その場にいた全員はたまらず両手で耳を塞ぐ。
ヴェントが呼び出した三隻の『女王艦隊』が大きな亀裂を走らせて崩れていった。


「なん・・・・・・だよ急に!! どうしちまったんだこのクソ天使は!!」


垣根は『未元物質(ダークマター)』を利用してミーシャの絶叫を完全に遮断しようと試みたが、
それでも鼓膜が揺さぶられてその苦痛に顔を歪めている。
一方通行は聴覚器官に響く痛みを堪えながら首元のチョーカーのスイッチを切り替え、
衝撃と音を"受け流しながら"再びミーシャの下へ歩み寄った。


「オイどォしたガブリエル!! 何を急に叫びだしてやがる!?」


なんとか彼女に近付いて事態を収めようとしたが、もはやミーシャには一方通行すら見えていないのか、
先ほどと同じように乱暴に腕を振って一方通行を薙ぎ倒してしまった。
『反射』の設定にミーシャを入れていなかったため、一方通行は背中から地面へ倒れる。


そして皆が呆然とする中、ミーシャは背中から氷で出来た一〇〇メートル以上の大きさの翼を一気に広げ、
ぐしゃぐしゃになった地面を思い切り踏み込み、大空へと飛翔してしまった。


344 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/30 23:06:53.97 Ez54bxd9o 118/408



ミーシャが飛び立った衝撃で雪原の地殻は大きくめくれ上がり、そこら中に雪と土の破片がばらまかれる。
彼女がいた地点は大規模のクレーターが出来上がっており、危うく近くにいたエリザリーナがバランスを崩して倒れてしまうところだった。
ワシリーサが咄嗟にエリザリーナの体を支えていなければ怪我をしていたかもしれない。


ミーシャは一瞬で独立国同盟の空から姿を消し、辺りは水を打ったような静けさに包まれた。


程なくして居住区の方からざわざわと喧騒が起こり始めた。
あれだけの悲鳴と爆音が鳴り響いたのだ、当然といえば当然である。

そしてその喧騒で我に返った一同は慌てて一方通行の近くへ集まってきた。
風斬が再度声をかけてくる。


「だ、大丈夫ですか・・・・・・?」


345 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/30 23:07:56.99 Ez54bxd9o 119/408



「・・・・・・・・・・・・なンだ、なンだってンだクソったれ。 ガブリエルはどこに行った?」

「分かりません、もう天使さんの姿も見えませんし、何がどうなってるのか・・・・・・」


一方通行は仰向けで倒れたその上半身を起き上がらせ、周囲を見渡す。


酷い有り様だった。
自分たちも大人げなく暴れまわっていたとはいえ、最低限周りに被害が及ばないよう配慮はしていた。
もちろん、さっきまで無邪気にはしゃいでいたミーシャもそうだっただろう。

しかし今の雪原はまるで空からミサイルでも撃ち込まれたかのような光景に成り果てていた。
ミーシャがいた地点のクレーターの周囲には深い亀裂が刻み込まれており、中には断層がズレている所まであった。
捲り上げられた土と雪が混ざり合い、雪原は奇妙に染色されている。

一方通行達の雪合戦を楽しげに見物していた三人の子供たちも、今は涙目になりながらガタガタと震えていた。


346 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/30 23:08:49.67 Ez54bxd9o 120/408



「ちくしょう・・・・・・急にどォしたってンだアイツ。 大体どこに向かって・・・・・・」


心を落ち着かせようと懸命に努めていた一方通行だが、それでもやはり呼吸がじわじわと荒くなっていくのが分かる。
嫌な予感。前から感じていた虫の知らせがここに来て正体を現してきたのではと、最悪の可能性が頭をよぎる。

そして彼以外、誰も口を開かない。なんと言ったらいいのか分からないでいるようだ。
ミーシャがどうして急に錯乱したのか、飛んだ後はどこに向かったのか。皆目見当も付かない。


しかしここで、エリザリーナが深刻な表情を浮かべながらポツリと言った。


「・・・・・・・・・・・・『彼女』なら、全てを説明してくれるんじゃないかしら?」


エリザリーナは誰を見るでもなく、真っ直ぐと視線を『彼女』に固定させていた。
他の一同もエリザリーナの視線を追うように顔を向ける。


347 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/30 23:09:28.33 Ez54bxd9o 121/408



そこには、




「うむ、どうやら愉しい時間は終着点に至ったようだ。 混乱しているのは分かる、
 だから約束通り、私が皆に全てを説明しようと思う」




金色の長髪。ゆったりとした白い装束。喜怒哀楽の全てを同時に浮かべたような、しかし極めてフラットな表情。
美しいその裸足で極寒の雪原の地を何でもないように踏みしめながら、ソレはゆっくりとこちらに歩いてきた。


348 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/30 23:10:31.54 Ez54bxd9o 122/408



「・・・・・・エイワス」

「ここが『天使同盟(アライアンス)』の正念場だ。 さて、どうするかね一方通行?
 ミーシャ=クロイツェフを救うために『立ち上がるのか』、『立ち塞がるのか』」


その言葉を聞いて、一方通行は激昂しながら迷うこと無くエイワスに向かって走りだした。


「エイワスゥゥゥゥゥゥゥゥゥううううううううううううう!!!!!!!!!!!」


いよいよ、この物語は佳境を迎える。
人間界に降臨し、人間界に留まった稀有な大天使、ミーシャ=クロイツェフから全てが始まったこの物語は、
一方通行という名の少年を中心に歯車を回して、どこで止まるのだろうか。




ヒトと天使が交差する時、物語は始まる―――――。




349 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/30 23:11:13.77 Ez54bxd9o 123/408



――エリザリーナ独立国同盟・荒れ果てた雪原


一方通行「昨日言ってたのはこォいう意味か!! オマエ、ガブリエルがあンな事になるのが分かってたンだな!?」ガシッ

エイワス「私の胸ぐらを掴んでいきり立つ事で君の気が収まるのなら、いくらでもそうすればいい」

一方通行「・・・・・・・・・・・・ッッ!!!」ググッ

風斬「一方通行さん、落ち着いてください・・・・・・」

一方通行「風斬・・・・・・でもコイツは・・・・・・!!」

風斬「あなたが取り乱していたら何も始まりません・・・・・・!!」

一方通行「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

エイワス「・・・・・・・・・・・・」


350 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/30 23:12:01.99 Ez54bxd9o 124/408



一方通行「・・・・・・・・・・・・チッ、わかった」パッ

エイワス「理解が早くて助かるよ」

一方通行「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」ギロッ

エイワス「さて・・・・・・どうしたものか。 私の口からペラペラと説明してもいいのだが
     君たちも聞きたいことが山ほどあるだろう? 君たちの質問に全て答える形式に
     した方が状況を整理しやすいのではないかな?」

一方通行「そォだな」

エイワス「では、承ろうか」

一方通行「・・・・・・ガブリエルはどこに行った?」

エイワス「学園都市だよ」

垣根「・・・・・・?」


351 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/30 23:12:47.26 Ez54bxd9o 125/408



風斬「が、学園都市・・・・・・? どうしてそんな急に・・・・・・」

サーシャ「第一の私見ですが・・・・・・、あなた達は元々学園都市からここへ来たのですよね?
     ならば単純にミーシャは学園都市に『帰った』のでは・・・・・・」

ワシリーサ「それなら飛翔する前に彼女が錯乱した理由が説明できないわよ、サーシャちゃん」

サーシャ「あ・・・・・・」シュン

一方通行「ガブリエルは何しに学園都市へ向かったンだ?」

エイワス「うむ、・・・・・・ま、これも十中八九、」


エイワス「アレイスター=クロウリーを討つつもりだろう」


一方通行「!!」

風斬「え・・・・・・」

垣根「アレイスター・・・・・・だと・・・・・・!?」

レッサー「・・・・・・・・・・・・!」

ヴェント「アレイスター=クロウリー・・・・・・・・・・・・」ギリッ


352 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/30 23:13:48.49 Ez54bxd9o 126/408



エリザリーナ(・・・・・・そういう、事か。 ならば『時代を変えんとする者』というのは・・・・・・)

一方通行「なンでガブリエルがアレイスターのクソ野郎なンざ相手にする必要があンだ?
     アレイスターが『プラン』だかなンだかの計画遂行のためにはガブリエルが邪魔だったってンなら
     とうの昔に何らかの手段でガブリエルに牙を剥いているはずだろォが」

エイワス「その牙を剥いたというのが、今日なのだよ。 それまでは手が出せなかった、
     君たち『天使同盟』と、私というイレギュラーが突発的に発生していたからね。
     だがそれも今日で全て終わりだ。 準備は全て整った」

垣根「準備だと? テメェ、アレイスターのクソったれと裏で何をしてやがる?」

エイワス「私はアレイスターとは今、敵対関係にある。 私も一応『天使同盟』だからね」

垣根「答えになってねえよ」

一方通行「オマエはアレイスターの『プラン』の主軸じゃなかったのかよ? 裏切ったのか?」

エイワス「裏切るも何も、私は彼に『属した』覚えなどない。
     アレイスターの手から、クラアトの手から離れた今の私は・・・・・・そうだな、
     アラジンに最後の願いを叶えてもらったランプの魔人みたいなものだよ」

レッサー「あ、あのー・・・・・・話がぶっ飛び過ぎて意味が分からないんですけど、
     『プラン』って一体なんですか?」

エイワス「残念ながらその質問に答える時間は残されていない。
     そもそもアレを全部説明しようとしても、この世界では表現できない言葉がありすぎるのでな」


353 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/30 23:15:07.31 Ez54bxd9o 127/408



一方通行「アレイスターが学園都市からガブリエルに何らかのアクションを起こしたのか?」

エイワス「そうではない。 ミーシャが学園都市へ向かったのは彼女自身の判断だ。
     もっとも、ミーシャもほぼ本能的にとった行動ではあるがな。
     今の彼女にはもはや自意識などほとんど残ってはいまい」

風斬「そんな・・・・・・・・・・・・」

垣根「自意識が残っていないってのはどういう事だ? なんでアイツは急に暴走しやがったんだ」

エイワス「それは、」


エリザリーナ「・・・・・・間もなく、『星の欠片』が消滅して、ミーシャが元の『位階』へ戻るから。
       恐らく肉体と自我の維持が困難になってきているのよ」


垣根「何?」

一方通行「『星の欠片』が消滅するだと・・・・・・!?」


354 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/30 23:15:50.71 Ez54bxd9o 128/408



サーシャ「第一の質問ですが、そんな事になったらミーシャはこの世界から消え去るのでは・・・・・?」

エイワス「そういう事だ」

一方通行「ちょっと待て、なンでエリザリーナがそンな事を知ってる?
     大体まだ『星の欠片』がどこにあるのかなンて分かってねェンだぞ」

エイワス「『星の欠片』の居場所は既に私が把握している」

一方通行「!?」

垣根「・・・・・・!」

風斬「ど、どこにあるんですか!? 私たちはずっとそれを探し続けてきたのに・・・・・・」

エリザリーナ「・・・・・・・・・・・・『星の欠片』は今、宇宙空間を漂っているわ」

垣根「う・・・・・・」

一方通行「宇宙にあるだと・・・・・・!? 『星の欠片』が? なンだそりゃ!?
     『星の欠片』ってのは宇宙まで飛び出せるよォなモンなのかよ!?」


355 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/30 23:16:40.74 Ez54bxd9o 129/408



ワシリーサ「エリザリーナ、あなた知ってたの?」

エリザリーナ「いいえ、私も昨日初めて知ったわ。 最初はただの勘でしかなかったけど
       エイワスがそれを確信づけた・・・・・・」

一方通行「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

エリザリーナ「ごめんなさい。 私も本当はもっと早くあなた達に知らせようとしたのよ。
       けど・・・・・・・・・・・・、本当にごめんなさい」

垣根「なんで教えなかったんだ? 時間はいくらでもあっただろうが」

エイワス「自分をそこまで責める必要はない、エリザリーナ。
     彼女には私から口止めをしておいた、それだけの事だ」

一方通行「・・・・・・エイワス、オマエはいつから『星の欠片』の在り処を知っていた?」

エイワス「学園都市から船で出発する時には既に宇宙にあるのだろうと漠然と思っていた。
     そしてアレイスターが先に発見したことにより、それが事実であると分かったのだ」


356 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/30 23:17:24.81 Ez54bxd9o 130/408



レッサー「え、えっと・・・・・・アレイスターはミーシャをこの世から消し去ろうとしているんですよね?
     だったらどうして『星の欠片』を見つけた時にさっさと破壊しなかったんですか?
     あれを破壊すればミーシャもこの世に居続けることは出来なくなってしまうと思うんですけど」

エイワス「その日から今日までの間、私があらゆる手段を用いてそれを阻止していたからだ」

一方通行「・・・・・・オマエが今までずっと、ガブリエルを守り続けてきたって事かよ」

エイワス「そんな大言壮語な事はしていないけどな。 私も私で勝手に動き回っていたし」

風斬「・・・・・・・・・・・・どうして、」

エイワス「?」

風斬「『星の欠片』のある場所がそんなに前から分かっていたのなら、どうして教えてくれなかったんですか・・・・・・!?
   あなたが最初から私たちに伝えていれば、もっと早く対策を打てたかもしれないのに・・・・・・!!」

ヴェント「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

エイワス「まあ、当然の疑問ではあるな」

垣根「答えろよ、まさかギリギリまで内密にしてる方が自分にとっては面白いからとかほざくんじゃねえだろうな」

エイワス「ふふ、それも一理あるが・・・・・・」

一方通行「・・・・・・・・・・・・」ギリッ

エイワス「そうだな、仮に私が『星の欠片』の在り処に気付いた時点で君たちにそれを打ち明けたとしよう。
     その場合、君たちはまず何をするかね?」


357 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/30 23:18:41.08 Ez54bxd9o 131/408



風斬「何って・・・・・・どうやって『星の欠片』を守って天使さんが消えないようにするか、とか・・・・・・」

エイワス「そう。 まず君たちは如何にして『星の欠片』を保護するか、その方法を考案していくだろうな。
     いや、学園都市第一位と第二位、そして私の製造ライン上で生み出された風斬氷華の知識を
     持ちあわせていけば考案どころか即実行に移せたかもしれない」

サーシャ「だ、だったら尚の事・・・・・・」

エイワス「しかしそれをアレイスターが黙って見ていると思うのか?」

ヴェント「・・・・・・あのクソ野郎は、学園都市外の情報も逐一把握している、と?」

エイワス「そういう事だ。 さすがに世界中の出来事全てとまではいかないだろうが、
     それでも我々『天使同盟』の行動は最優先で追っていただろう。
     今はやることをあらかた終えて手が余った私がカバーしているから心配はいらないがな」

一方通行「つまり『星の欠片』の在り処を知ったオマエがすぐに俺達にそれを伝えて、
     俺達が対策を練って実行しよォとすればアレイスターは必ず俺達を阻止しよォとした、って事か?」

エイワス「ああ、そしてそれは私のシナリオには無いイベントだ。 そうなってしまっては困るのでね」

垣根「テメェの言うその『シナリオ』ってのはもう完成してんのかよ?」


358 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/30 23:19:39.96 Ez54bxd9o 132/408



エイワス「勿論だ、後は物語に沿って演じるだけ・・・・・・」

一方通行「・・・・・・オマエの作ったシナリオに踊らされて動けってのか」

エイワス「ミーシャ=クロイツェフを守るためだ。 利害は一致しているはずだが?」

一方通行「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

ヴェント「でもそれだと何で天使がアレイスターをぶち殺しに向かったのか説明できないじゃない」



エイワス「簡単なプロセスだ。 このまま旅を続けていけば、君たちはいずれ自力で『星の欠片』を
     発見するに至るだろう。 そうなれば君たちは必ず『星の欠片』を保護しようとする。
     しかしアレイスターはそれを見過ごしはしない。 必ず『天使同盟』を滅ぼすために
     何らかの策を講じてくる。 すなわち君たちが『星の欠片』、言い換えれば
     ミーシャ=クロイツェフのせいで命の危機に脅かされる。 ミーシャはそれを拒否する。
     そうなる前に、『星の欠片』がどうにかなる前にアレイスターを始末しようと考える。
     ・・・・・・・・・・・・つまり、」


風斬「・・・・・・て、天使さんは私たちをアレイスターから守るために・・・・・・!!?」


359 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/30 23:21:10.79 Ez54bxd9o 133/408



ワシリーサ「『天使』って魔術的には神に造られた人形のような物よ?
      あんな風に感情的になる事自体おかしいのに、わざわざ人間のために
      体を張ってアレイスターを討ちに行くなんてあり得るの?」

エイワス「何を今更。 まず天使という存在が今までのように人間側につき、共に行動していた自体が既にあり得ん。
     ミーシャは自我を手にしている。 あれはもう完全なるイレギュラーだ」

サーシャ「・・・・・・第二の私見ですが、私にはわかります。 それがミーシャ=クロイツェフという天使なんです」

垣根「ま、確かにあのバカならやり兼ねねえな」

一方通行「・・・・・・・・・・・・・・・・・・バカ野郎」

風斬「一方通行さん・・・・・・」

一方通行「バカ野郎が・・・・・・っ!!!」ギリリッ

垣根「・・・・・・そりゃお前、誰に対する『バカ野郎』だ?」

一方通行「・・・・・・『両方』に決まってンだろクソったれ・・・・・・」


360 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/30 23:22:00.49 Ez54bxd9o 134/408



レッサー「・・・・・・ところで『星の欠片』はなぜ消滅するんですか? あれにはあらゆる要素から
     儀式場を守るための強固な防御術式が施されてるはずです。
     デブリや人工衛星ごときにぶつかったところで壊れる事はないと思うんですけど」

エイワス「太陽」

一方通行「!」

風斬「!」

垣根「!」

エリザリーナ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

エイワス「このまま『星の欠片』が宇宙に滞在していれば、星の軌道に乗っている
     太陽に飲み込まれてしまう。 いくら協力な術式を行使していようが、
     『歳月の船』の航行を止めることなど出来んよ」

風斬「太陽・・・・・・、そんな・・・・・・そんなのどうやって・・・・・・」


361 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/30 23:22:59.73 Ez54bxd9o 135/408



ワシリーサ「『天体制御(アストロインハンド)』は? あれなら太陽を移動させて
      『星の欠片』を守ることだって出来るんじゃないのかにゃん?」

エイワス「今のミーシャ=クロイツェフはひどく衰弱している。 とても『天体制御』を
     使用できるコンディションではない。 ただでさえ、第三次世界大戦時に
     『天使の力(テレズマ)』を奪われているからな。 それに無闇矢鱈と太陽を
     動かしてしまっては地球に悪影響を及ぼす可能性もある。 ミーシャも恐らくその可能性を考慮しているだろう」

ヴェント「天界より地球を優先する天使か・・・・・・、それはもう天使じゃなくて、限りなく天使に近い人間じゃないの」

エイワス「言い得て妙だな」

サーシャ「な、何か手は残されていないのですか・・・・・・?」

エイワス「無い。 私とて、さすがに『ラー』の意志を歪めたりは出来ないからね。
     普通ならここで『天使同盟』の物語は終焉を迎えている」

垣根「チッ・・・・・・」

風斬「そ、んな・・・・・・・・・・・・」ドシャ

レッサー「か、風斬さん! しっかり・・・・・・・・・・・・」

風斬「う、うう・・・・・・ううぅ・・・・・・・・・・・・」ポロポロ

エリザリーナ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


362 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/30 23:24:07.33 Ez54bxd9o 136/408



一方通行「・・・・・・・・・・・・具体的には」

エイワス「ん?」

一方通行「『星の欠片』が太陽に飲み込まれる具体的な時間だ。 いつだ?」

レッサー「あ、一方通行さん・・・・・・? そんな事聞いてどうするんですか?
     もしかして何か対策が・・・・・・?」

風斬「え・・・・・・・・・・・・」グスッ

エイワス(・・・・・・これだから面白いのだよ、君は)

エイワス「そうだな・・・・・・完璧な時刻は分からないが、日本時間の夕刻前までに対処しなければ間に合わんだろう」

垣根「今ここは午前八時だよな? だったら学園都市は真っ昼間だぞ」

風斬「人が沢山活動してる時刻ですね・・・・・・それに夕刻前なら、あと二時間くらいしか・・・・・・」


363 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/30 23:24:48.75 Ez54bxd9o 137/408



一方通行「・・・・・・二時間ありゃどォにかなる」

サーシャ「だ、第二の質問ですが、一体どうするつもりなのですか?」

一方通行「さァな。 太陽なンざ相手にした事ねェからどォすりゃいいかなンてさっぱりわかンねェよ。
     だがなァ、だからってここでボーッとガブリエルが消えるのを待つなンて間抜けな事もするつもりはねェ」

ヴェント「・・・・・・・・・・・・」

エイワス「では、どうする?」

一方通行「とりあえず今、俺達に出来る事があるだろォが」

垣根「分かってるじゃねえか、俺もそのつもりだぞ」

風斬「え、・・・・・・どうするんですか・・・・・・?」



一方通行「とりあえず学園都市に戻ってアレイスターのクソ野郎を粉々にする。 まずはそれしかねェ」



364 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/30 23:25:32.51 Ez54bxd9o 138/408



エイワス「くくく・・・・・・やはりそうでなくてはな」

エリザリーナ「ほ、本気なの・・・・・・!? 私は詳しく知らないけれど、もし学園都市にいるそのアレイスターが
       私の知っているアレイスターなのだとしたら・・・・・・」

一方通行「知った事か。 学園都市統括理事長サマだろォが稀代の大魔術師サマだろォが、
     "アレイスターはこの俺を怒らせた"、それだけの話だ」

垣根「オーケー、テンション上がってきた」

ヴェント「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

風斬「一方通行さん・・・・・・・・・・・・ぐすっ」

一方通行「言っただろ? 何が起きよォが絶対に俺は"オマエらを逃さねェ"ってなァ。
     ガブリエルも運が悪いぜ、なンだってこの俺に着いてきちまったンだか。
     ・・・・・・でもな、」


一方通行「絶対にガブリエルは守ってみせる。 アレイスターだろォが太陽だろォが
     『天使同盟』に楯突くクソは誰であってもぶち殺すンだよ。 簡単な話だ」


365 : ◆3dKAx7itpI - 2011/04/30 23:27:16.72 Ez54bxd9o 139/408



エイワス「決まりだな」

風斬「うう・・・・・・ひっく・・・・・・ぐす」

一方通行「だからもォ泣くな。 大丈夫だから。 今までだってどォにかなったンだ。
     今回だってどォにかなる。 してみせる。 俺達はずっと一緒だ。
     ・・・・・・そォ約束したはずだが、何か間違ってるか?」

風斬「・・・・・・・・・・・・・・・・・・いいえ・・・・・・!」グスッ

一方通行「ウチのバカ天使を救いに行くぞ」

風斬「はい・・・・・・!」スクッ

エイワス「(思わぬところで、新たに得た玩具を披露するチャンスが巡ってきたな、垣根帝督)」

垣根「(黙ってろクソ野郎。 俺から言わせりゃテメェもアレイスターも同列なんだよ)」

エイワス「ふふふ・・・・・・」

垣根(・・・・・・アレイスター。 思えば俺はあいつのクソったれな計画を潰すために
   暗部で活動してたんだ。 まさかこのタイミングでその機会に恵まれるとはな・・・・・・)


367 : 次回予告はここまでです。  ◆3dKAx7itpI - 2011/04/30 23:36:20.15 Ez54bxd9o 140/408




                          【次回予告】



『・・・・・・・・・・・・私は、一緒には行けません。 皆さんとはここでお別れです』
―――――――――――魔術結社予備軍『新たなる光』の構成員・レッサー




『・・・・・・事が済ンだら、迎えに行く』
―――――――――――『天使同盟(アライアンス)』のリーダー・一方通行(アクセラレータ)




『・・・・・・・・・・・・・・・・・・その必要はないわよ』
―――――――――――ローマ正教、禁断の組織『神の右席』の元一員・『前方』のヴェント




『必ず無事で・・・・・・。 ミーシャにも必ずよろしく伝えておいてください・・・・・・!!』
―――――――――――元『殲滅白書』の魔術師・サーシャ=クロイツェフ




『ま、せいぜい頑張ってきてねー♪』
―――――――――――元『殲滅白書』のシスター・ワシリーサ




『一段落着いたら連絡をくれると嬉しいわ。 それじゃあね』
―――――――――――エリザリーナ独立国同盟の中心的人物・エリザリーナ




続き
一方通行「いいか、フラグってのはなァ」 ガブリエル「vbhti素敵apfrgt」【2】


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