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4スレ目
一方通行「フラグ・・・・・・だろォな」  垣根「ち・・・・・・くしょ・・・・・・う」【1】
一方通行「フラグ・・・・・・だろォな」  垣根「ち・・・・・・くしょ・・・・・・う」【2】
一方通行「フラグ・・・・・・だろォな」  垣根「ち・・・・・・くしょ・・・・・・う」【3】

5スレ目
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671 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/10 21:25:33.63 gLVN9GxVo 347/508



――――――――――――――――――――――


エリザリーナ独立国同盟の居住区にある簡素な作りのアパートの一室で、
垣根帝督は自作のルーンを眺めながら体を休めていた。


「・・・・・・ルーンの出来は問題ねえ、が・・・・・・。 いかんせん俺自身が使いこなせてねえんだよな。
 ・・・・・・・・・・・・痛っ。 クッソ・・・・・・あのババア、無茶苦茶やりやがって・・・・・・」


彼は少し前まで、元『殲滅白書』のシスター、ワシリーサと激しい戦闘を行っていた。
もちろん、戦闘といっても憎悪や見解のすれ違いによるガチバトルではなく、垣根帝督の
魔術の特訓という前提で行っていたものだ。


その際に、垣根帝督は自身の超能力『未元物質(ダークマター)』の使用を自分で禁止しており、
まずは魔術だけでワシリーサに挑んだわけだが、
そのワシリーサがまたとんでもないチート性能を誇っており、垣根は手も足も出なかった。


672 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/10 21:26:59.21 gLVN9GxVo 348/508



おかげで頭蓋骨にヒビが入るわ肋骨はバッキボキにへし折れるわ鼻の骨は折れるわ
なぜか片足の骨も折れてるわ整った顔が世界タイトルをフルラウンド戦い抜いたようなボクサーみたいになってるわ
魔術を使用した反動で全身の神経や血管がブッチブチに切れまくってるわで満身創痍もいいとこだった。


(もうコツは分かった。 今すぐにでもあのババアに再戦を申込みてえとこだが・・・・・・クソ。
 こんな体じゃもう一度殺されに行くようなもんだしな。 『未元物質』を使ってやりてえとこだが、
 『未元物質』に『魔術の法則』を組み込むのはまだ早い・・・・・・。 待つしかねえ、か)


本当ならすぐにでもワシリーサを捜し出して訓練場を兼ねている防空壕へ引っ張っていきたいとこだが、
今の垣根はベッドに横たわらせているその体を動かすのも億劫な状態だ。


と、昨晩から一睡もしていないので一眠りしようかと考えていたところに、




「ふぅ、疲れた疲れた。 自分自身に『よく働いたで賞』を授与させたい気持ちだよ、まったく」




673 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/10 21:28:08.93 gLVN9GxVo 349/508



突然、垣根の部屋に謎の声が響き渡った。
否、それは謎の声ではなく、もはや聞き慣れた鬱陶しい声だった。


「エイワス・・・・・・!? テメェ、急に人の部屋に入ってくんじゃねえよ!!」

「ん? 転移先の座標を間違えてしまったか、いやはやすまない。
 もしかして自慰中だったかね? だったら手伝おうか」

「胸クソ悪くなるようなキモい下ネタほざいてんじゃねえ」


『天使同盟』のジェネラルマネージャーにしてケテルとティファレトを繋ぐ道標、エイワスは
フラットな表情の中になぜか満足気な雰囲気を含み、垣根の部屋に顕現した。


「おやおや・・・・・・これは痛々しい。 大丈夫かね?」

「テメェに心配される筋合いはねえよ」


674 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/10 21:28:57.53 gLVN9GxVo 350/508



「いやいや、痛々しいとは君の身体的ダメージの事を指しているのではない。
 その・・・・・・、言いにくいが、そんな怪しげな札を真剣な眼差しで見つめる君の姿が痛々しいと思ってね」

「俺は中二病じゃねえ!! ・・・・・・ッ、痛っ・・・・・・」


咄嗟にツッコミを入れる垣根だが、口の中がさっきの戦闘でズタボロに切れているため
叫ぶとズキズキと痛みが走った。


「ふふ、冗談だよ。 お疲れだったな垣根帝督」

「相変わらずお見通しかよ。 つかお前、どこに行ってたんだ?
 ロシアに着いてからこっち、やたら消えていなくなってるみてえだけど」

「気にする必要はない、ちょっとした下準備、だよ。
 それにしても、フグ鍋とは大変に美味なのだな。 今度皆で食べよう」

「フグ鍋ぇ? テメェ観光旅行でもしてきたのか?」


どうやらこの金髪、どこかでフグ鍋を堪能してきたらしい。
下準備という言葉の真意があまり理解出来ない垣根だったが、なんとなく嫌な予感は感じた。


675 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/10 21:29:53.88 gLVN9GxVo 351/508



「それで、今日の魔術訓練は終了なのかね?」


全てを見透かしているエイワスは、さも当たり前のように垣根に問いかけた。


「・・・・・・やる気はあるが、体がこれじゃやるにやれねえんだよ」

「相手があのワシリーサではな、そうなるのも無理はあるまい。
 『殲滅白書』最強の女相手に生身で挑むなど、アドイボスリーパ無しで人修羅に挑むようなものだ」

「例えが分かんねえよ」


エイワスは垣根をジッと見つめ、フッと笑いこう言った。


「怪我さえ治れば、また彼女に挑むのだな?」

「全治五ヶ月並のこの怪我が今すぐ全回復するならな。
 本当なら病院行ったほうがいいんだろうが、面倒くせえ」


676 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/10 21:32:51.33 gLVN9GxVo 352/508



全身の骨を痛めておきながら病院へ行くのが面倒とは、垣根も垣根でどこかアホである。

すると、エイワスはあっさりと言いのけた。




「じゃあ治してあげよう」

「は?」




何を言い出したんだこの金髪オバケ、と垣根が呆けた表情を浮かべていると、
エイワスは袖口に手を入れ、ゴソゴソと何かを取り出した。


「テレレテッテテー♪ 『痛みとか何かそんなんを和らげる札』~♪」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


677 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/10 21:33:46.32 gLVN9GxVo 353/508



某ネコ型ロボットがひみつ道具を取り出した時に鳴る効果音を口ずさみながら
エイワスは袖からクリーム色の札束を高々と掲げた。
札の名前が適当にもほどがある。


「説明しよう。 この『痛みとか何かそんなんを和らげる札』とは―――」

「ヤッターマンの見過ぎだお前」


ドロンジョ様エロいよね、とエイワスはコホンと咳をして改めて説明する。


「この札は、痛みを和らげるというよりはごまかす、と言った方が正しいな。
 これを何枚か身体に直接貼り付ける事で、今感じている痛みを消すことが出来るのだよ」

「都合良すぎやしねえか? またお前お手製のとんでもアイテムかよ?」

「いや、これは本当に存在する治癒魔術の応用だよ。
 このロシアでも似たような魔具が使用されている。 私のコレはそれよりも強力だがね」


見た目はクリーム色で長方形、垣根が持っているルーン程の大きさの札だ。
不思議と暖かさが伝わってくるその札には、何語でもない、何か妙な文字が刻まれている。


678 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/10 21:35:06.59 gLVN9GxVo 354/508



「とりあえず、騙されたと思って使ってみたまえ」

「お前にそう言われると騙されたとしか思えねえんだけど」


そう言いつつも、垣根は『痛みとか何かそんな(以下略)』を受け取り、
着ている服を捲って適当に身体に貼り付けてみる。


すると、


「・・・・・・・・・・・・、? お? おお? マジかよこれ、すげえ」

「だろう? 私を詐欺師か何かと間違えてないかね君は」


679 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/10 21:35:57.42 gLVN9GxVo 355/508



いや、お前は間違いなく詐欺師だ。それも極悪の。


しかしそんな詐欺師から貰った『痛みとか(以下略)』は絶大な効果を秘めていた。
身体に貼りつけて数秒、ものの見事に垣根の身体から激痛が引いていくのがわかる。

垣根は痛みを確かめるように身体のあちこちをバシバシと叩いてみる。


「・・・・・・新たに加わる痛みまでは消せねえのか。 でもこれすげえな。
 さっきまで数ミリ動いただけで激痛が走ってたってのに」

「剥がしたら今まで蓄積していたダメージが一気に襲い掛かるがね」

「なんだよそれ、じゃあこれ剥がしたら俺死ぬんじゃね?」

「事が済んだら私が君を完全に回復してあげるから心配するな」


ともあれ、善は急げだ。
垣根はさっさと支度をし、デッキホルダーを忍ばせたジャケットを着込んで
再びワシリーサに挑むため気合いを入れる。


680 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/10 21:36:55.71 gLVN9GxVo 356/508



「一応、礼を言っておこうか?」

「今はいらんよ。 あとでたっぷり請求するからね」


さりげに怖いことを言ってくるエイワス。
だがそんな事が気にならないほど、この治癒魔術を用いた札はありがたい物だった。


「・・・・・・ところで、他の連中は今何してんだよ?」

「各々の詳細を聞きたいかね? 少し待ちたまえ」


エイワスはそう言って、二、三秒ほど目を閉じた後に告げた。


「一方通行、風斬氷華、レッサー、サーシャ=クロイツェフ、『前方』のヴェントは
 ロシア東部にある実験都市のショッピングセンターで買い物を楽しんでいるようだな」

「・・・・・・ああ、半公開型ARがふんだんに使われてるっつーあの商業施設か?
 ハッ、一方通行の野郎、女に囲まれても嬉しくねえだろアイツの性格じゃ」


681 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/10 21:37:45.65 gLVN9GxVo 357/508



「らしいな。 早くもうんざりといった表情を浮かべていて笑える」


そう言えるということは、エイワスはリアルタイムで一方通行達の行動を
監視しているのだろうか。本当にプライバシーもクソもないヤツである。


「ミーシャ=クロイツェフとエリザリーナは軍事施設にある彼女のオフィスにいる。
 ・・・・・・、ミーシャは寝ている、のか?」

「天使でも寝たりするんだな」

「・・・・・・いや、これは。 ・・・・・・・・・・・・、ふむ。 エリザリーナめ、"気付いた"な?」

「あ?」

「いや・・・・・・。 まぁ、現状はこんな感じだな」

「ワシリーサはどこにいる?」

「サーシャ=クロイツェフの居所を民間人に聞き回っている。
 一方通行は帰ってきたら彼女に殺されてしまうかもしれないな」


682 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/10 21:38:43.93 gLVN9GxVo 358/508



って事は、居住区辺りだな。と、垣根帝督は部屋を出ようとした。


「ちょっと待ってくれ。 私も次の"おつかい"まで暇なのだよ。
 だから同行させてほしい」

「ああ? 着いてきたってテメェの暇を潰せるほど面白いもんは出ねえぞ」

「何を言う」


エイワスは口を歪ませて笑みを作りながら言った。


「脆弱な人間が、それでも惨めに足掻いて力を欲するその姿。
 それ自体が私にとっては非常に愉快であり、この上なく価値のあるものなのだよ。
 君たちが役者なら、私はそれを上から眺める『観客』だ」


結局のところ、エイワスにとってはそれが全て。


"ホルスにすら至れぬ"人間が、滑稽に、惨めに、荒唐無稽に、愚昧に振る舞うその姿を見て
嘲笑い、そこから価値と興味を見出すことが趣味のような存在だ。


683 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/10 21:40:17.25 gLVN9GxVo 359/508



「・・・・・・言ってろ。 お前、いつかその脆弱な人間にブチ殺されるような目に遭うぞ」

「だから面白いのだと言っている。 私を殺せてしまうような人間が現れるその時まで、
 私は何にでも依存するし、何でも『棄てる』」


そう、『捨てる』。
例えば今、エイワスが『天使同盟(アライアンス)』のためにとある魔術師の『プラン』を崩すように。

価値と興味があればどんな瑣末な事でも『取り憑く』し、価値も興味も無くなればあっさりと『棄てる』。


「行こうか、垣根帝督。 君の魔術を見てみたい」

「邪魔すんじゃねえぞ」


エイワスは魔術師ではないが、"魔術師として振る舞う場合"に備えて『魔法名』を所持している。


エイワスが持つ擬似の魔法名は、『fibber800』。


その意味は『森羅万象を欺き、天地万物を嘲笑う観測者』。


結果的に自分が楽しければそれでいい。結果的に自分が愉しければそれでいい。


エイワスは垣根帝督と共に部屋を出た。
間もなくやってくる、愉しい愉しい『茶会』を待ちわびながら。


684 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/10 21:41:42.82 gLVN9GxVo 360/508



――――――――――――――――――――――


「よお、悪いけどまた付き合ってもらうぞ」


垣根帝督は居住区で走り回っているワシリーサをエイワスに捜し出させ、
あっさりと見つけて話しかけた。


「はぁ・・・・・・、はぁ・・・・・・。 か、垣根の坊や・・・・・・?」


ワシリーサは肩で息をしながら垣根の方を見る。
その美しい髪は乱れに乱れ、表情もまるで獲物を捜し求める肉食獣のそれだった。


「サーシャちゃんがいない・・・・・・、サーシャちゃんがいないのよぉぉぉ・・・・・・」


おーいおいおいおいと泣き崩れるシスター。
垣根は呆れながらも、無視してワシリーサの首根っこを掴む。


685 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/10 21:42:44.37 gLVN9GxVo 361/508



「帰ってきたらいくらでも相手すりゃいいじゃねえか。 ほら行くぞ」

「いや~~~んいやいやいやいやぁぁぁ!!! サーシャちゃんはどこぉ!!?
 どこにいるのよぉぉぉぉ・・・・・・・・・・・・、うええええええええええん!!」

「あーうるせえ! サーシャなら買い物に行ってるんだろ!!
 お前あの馬鹿でかい音量の船内放送聞いてなかったのかよ!?」

「か、買い物・・・・・・だと・・・・・・!?」


船内放送とは、レッサーが一方通行を招集するために行ったものだ。
部屋で休んでいただろう垣根にも当然それは聞こえていた。


「し、知らないわよそんなの!? 買い物って誰が!? 誰と!? どこに!?」

「サーシャが、一方通行の野郎と、ロシア東部の原野にあるショッピングセンターに」

「あ、一方通行・・・・・・!? あのクソウサギィィィ・・・・・・!!!!」


686 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/10 21:43:40.42 gLVN9GxVo 362/508



垣根に雪の上をずるずると引きずられながら、ワシリーサは怨念を込めた表情を浮かべる。
愛しのサーシャちゃんを誘拐しやがった罪は重い、とその手に力を込めた。


「誘拐じゃねえだろ・・・・・・、サーシャも合意の上で参加してんだよ。
 お前、よっぽど煙たがられてんじゃねえの?」

「・・・・・・煙たがられて、る?」


ワシリーサの中でブチり、と音がした。


そして、


「んなわけ・・・・・・、」


ワシリーサは体を強引に捻り、両手を組んでピストルの形を作って、


「ねえええだろこのバカタレがぁぁぁーッッ!!!」


687 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/10 21:44:35.41 gLVN9GxVo 363/508



垣根帝督の菊門に全力で浣腸をぶちかました。


「グアアアアアアアアッー!!?」


あまりの威力に垣根は二十メートル以上跳躍し、そのまま雪の上に頭から墜落した。


「勝手な事言わないでよ!! サーシャちゃんがそんな・・・・・・、まさか!!
 一方通行のクソ野郎に誑かされたか!? ちくしょう、あの凶悪ながらもイケメンなフェイスに
 ころりとイかされちまったかー!!!」


地面の上で泡を吹きながらビクンビクンと痙攣する垣根の事など放って、
ワシリーサはハンカチをキーッ!!と噛みながら涙を流していた。


688 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/10 21:45:51.70 gLVN9GxVo 364/508



と、その光景を見て腹を抱えながら震えて笑っているエイワスがワシリーサに言った。


「安心したまえワシリーサ。 今のところ、一方通行とサーシャ=クロイツェフとの間に
 築かれているフラグは微々たるものだ。 この先はどうなるかは分からんが、
 たかがショッピングで劇的にフラグが成立する可能性は低いだろう。 愚鈍だし」

「そ、そうかしら・・・・・・? ていうかフラグ立ってんの・・・・・・? うう・・・・・・。
 フラグなら私とサーシャちゃんとの間に立ってるフラグの方が強力なはずよ・・・・・・」

「"あのノート"さえあれば君とサーシャのフラグの関係が調べられるんだがな。
 やはりノートを失った損害は大きい。 ヒューズ=カザキリは怒らせたらまずいなぁ・・・・・・」


よよよ、と泣き崩れているワシリーサ。

うーん、と何かを考え込んでいるエイワス。

地面に落下してそのまま動かなくなってしまった垣根帝督。


周りの民間人は何がなんやら、といった様子だった。


689 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/10 21:47:57.12 gLVN9GxVo 365/508



「あのー・・・・・・、垣根、さん? ですか?」

「・・・・・・あ、あぁ・・・・・・?」


尻に手を添え目尻に涙を浮かべていた垣根の頭上から声が聞こえてきた。
見上げると、民間人であろう女性が携帯電話を片手に憐れみを含んだ表情で垣根を見下ろしていた。


「えっと、あなたに変わってほしいという連絡が入ってきて・・・・・・」

「俺・・・・・・に・・・・・・、うっ、ぐぐ・・・・・・貸せ・・・・・・」


垣根は携帯を受け取ると、冷え切った地面に転がったまま耳にそれを当てる。


「・・・・・・誰だよ」

『垣根か? 俺だ』


690 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/10 21:48:49.51 gLVN9GxVo 366/508



電話先の声は現在ショッピング中の一方通行だった。


「テメェ・・・・・・かよ。 痛ゥ!! ぐっ、クッソ・・・・・・」

『なンだオマエ、まだ怪我が痛むのか?』


怪我の方はエイワスの不思議アイテムでどうにかなっており、
ケツ穴に喰らった新たなダメージが原因なのだが垣根は説明する気も失せた。


「放っとけ・・・・・・。 で、何の用だよ。 つかお前買い物してるらしいじゃねえか」

『あン? エリザリーナから聞いたのか』

「いや、エイワスから」

『エイワスの野郎、戻ってきてンのか? じゃあ死ねっつっとけ』

「あぁ。 それで用件はなんだよ? 俺は今忙しいんだよ」


691 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/10 21:49:33.83 gLVN9GxVo 367/508



未だにズキズキと痛むホールを押さえながら垣根は一方通行の言葉を待つ。


『大した用じゃねェンだが、オマエなンか欲しいモンあるか?』

「テメェの命かな」

『それは自力で奪いに来い。 ついでにオマエが欲しいモン買ってこよォと思ってな』

「じゃあ・・・・・・あれ、なんか痔に効きそうな薬買ってこい・・・・・・」

『はァ? オマエ痔なの? ケツをちゃンと拭かねェからそォなるンだよアホ』


まぁ実際は痔でもなんでもないのだが、あながち間違っていない、穴だけに。
垣根は適当に考え、一方通行に告げる。


693 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/10 21:53:18.93 gLVN9GxVo 368/508



「別に欲しいもんなんてねえよ・・・・・・。 あぁーそうだ、じゃあ適当に服買ってきてくれよ。
 俺ストックほとんど無えんだよな」

『服、か。 丁度いい、今から洋服店行くとこだ。 ていうかオマエ暇なら今すぐ飛ンで来いよ。
 コイツらの相手すンのマジ疲れるンだ、少し負担しやがれ』

「知るか、俺だってあんなヤツらの相手すんのなんかゴメンだ。 ていうか忙しいっつってんだろ。
 行けねえよ、そんな遠いところまで。 あと俺金持ってねえからテメェで払っとけ」

『チッ、言われるまでもなく金は俺持ちだクソったれ。 他には?』

「んー、何か適当に漫画雑誌とか?」

『漫画ァ?』

「だってここ娯楽少なすぎんだろ。 なんか日本のコミックとか買ってこいよ適当に。
 ドラゴンボールとかありきたりなのはもう読んでるからいらねえぞ」

『オマエでも漫画とか読むンだな・・・・・・。 ていうか本とか面倒なンですけど。
 ただでさえ荷物多いンだぞこっちは』

「知らねえっての。 オマエの性格からして女に囲まれての買い物ってのは地獄でしかねえだろうな。
 いい気味にもほどがある」


垣根はよろよろと立ち上がりながら意地悪く笑って言った。
ただしケツをさすりながらなので何とも格好がつかない。


694 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/10 21:55:46.85 gLVN9GxVo 369/508



「そういやお前どうやって電話かけてきたんだよ?
 この電話、民間人の女が持ってきてたぞ」

『クルーザーに備え付けの電話あっただろ? そこにかけて民間人に電話出させたンだよ。
 で、適当にそこらの人間の携帯番号教えてもらってそいつの携帯にかけて、
 「垣根って名前のいかにもチャラ男ですって感じの男にこの電話渡せ」って言ったンだ』


垣根は携帯電話を渡してきた民間人の女性をギロリと睨む。
なぜ睨まれているのか分からない女性はオドオドとするだけだった。
というかよくそのヒントだけで分かったな。


『他にはもォ無ェな?』

「ねえよ。 地獄を楽しんでこいクソ野郎」

『帰ってきたら覚えとけよオマエ・・・・・・』


むしろ帰ってきたら速攻で逃げた方がいいのは一方通行の方である。ワシリーサ的な意味で。


695 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/10 21:56:50.14 gLVN9GxVo 370/508



「じゃ、切るからな」

『オイ待て』

「ああ?」



『怪我、さっさと治せよメルヘン野郎』



最後にそう言い捨てて、一方通行は電話を切った。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


垣根は携帯のディスプレイを忌々しげに見つめ、民間人の女性に乱暴に投げ渡した。


697 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/10 21:58:14.96 gLVN9GxVo 371/508



「垣根の坊や!」


と、背後からワシリーサがさっきまでの陰鬱な雰囲気など無かったかのように
腰に手を当てて明るく声をかけてきた。


「ワシリーサ、テメェ・・・・・・! ちょっとケツ貸せコラ、同じ痛みを味わわせてやる」

「**ルプレイもキライじゃないけど、今は特訓でしょ? ほらほら、行くわよん♪」

「んだお前? さっきまでサーシャちゃーんとか言ってたクセによ」

「エイワスが特訓に付き合ってくれたらサーシャちゃんの生下着(脱ぎたて)をくれるって言ったの。
 それを聞いちゃあこのサーシャ=クロイツェフファンクラブ会員ナンバー000000000001の私もやる気が出るってモンよ!!
 生着替え写真に加え生下着・・・・・・、私のサーシャちゃんコレクションはもうホクホクよん☆」


垣根は軽蔑を含んだ視線をエイワスに送る。金髪の怪物はただ笑みを浮かべるだけだ。
というかワシリーサはしっかりと生着替え写真の件を覚えていたのだが、垣根はどうするつもりなのだろうか。


698 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/10 21:59:33.89 gLVN9GxVo 372/508



「サーシャが可哀想でしょうがねえな。 まぁ俺には関係ない、さっさと行くぞ」

「怪我は大丈夫なのかにゃーん?」

「それは心配ない。 今回は私も同行させてもらう」

「ほほう・・・・・・」


指を顎に当てニヤリと笑うワシリーサ。何を企んでいるのやら。


「しっかしペース早いわねぇ。 ホントに大丈夫かにゃん?
 ちょっとくらいは手加減しようか?(本当言うと前回のも手加減してたんだけど)」


699 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/10 22:00:21.63 gLVN9GxVo 373/508



「いらねえよ。 鉄は熱い内に打てって言うだろ。 やっとコツを掴んだんだ。
 とりあえず今からする特訓で魔術の基礎訓練は終わらせるぞ」

「言うねぇ言うねぇ。 そういう熱血も嫌いじゃないわ♪」


一向は今はもう誰にも使われていない防空壕跡地へと向かう。


「そういやエイワス。 一方通行から伝言だ」

「?」

「『死ね』」

「んー? ふふ、心当たりが"ありすぎる"な」


垣根帝督は宣言通り、魔術の基礎訓練を終える事が出来るのだろうか。


701 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/10 22:08:27.37 gLVN9GxVo 374/508




                          【次回予告】



『チッ。 オマエだってノリ気じゃなかったクセによォ、ちゃっかり買い物してンじゃねェか。
 なァ~にが『キューティクルな小悪魔ピアス(はぁと』だ。 案外こォいうの好きなンだなァ』
―――――――――――『天使同盟(アライアンス)』のリーダー・一方通行(アクセラレータ)




『ちょ、勝手に人が買ったモン見てんじゃねぇよテメェ!!!/////』
―――――――――――ローマ正教、禁断の組織『神の右席』の元一員・『前方』のヴェント




『ああああの、第二の私見ですが別に試着はぁぁぁ・・・・・・』
―――――――――――元『殲滅白書』の魔術師・サーシャ=クロイツェフ




『うーん、私もベイロープたちにお土産買ってこっかな・・・・・・』
―――――――――――魔術結社予備軍『新たなる光』の構成員・レッサー




『・・・・・・、・・・・・・・・・・・・。 ・・・・・・マジなの?』
―――――――――――『天使同盟』の構成員・風斬氷華




736 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/12 20:17:20.65 qR4FN9mAo 375/508



――――――――――――――――――――――


「適当な服に・・・・・・、漫画か。 ○ルゴ13全巻買っといてやるか」


垣根帝督との会話を終え、一方通行は携帯電話の電源ボタンを押した。


現在、一方通行はロシア東部の原野のど真ん中にある実験都市、超大規模のショッピングセンターにいる。

ここは街全体が半公開型AR式のタッチパネルで覆われている構造であり、
至る所に商業関係の情報が二十四時間流れ続けている。信号、標識、横断歩道なども全てこれで賄われているのだ。

そのタッチパネルを使用して商品カタログを閲覧したり、調べたい情報を検索したりも出来る。
表示される情報が個人によって変わるのも特徴的だ。


ドーム球場六五〇個分の広大さを誇るこのショッピングセンターは、中心にメインとなる巨大商業施設が
並んでおり、それを囲むようにホテルや免税店が立ち並んでいる。巨大商業施設内は生活必需品が集中するブロックと、
娯楽、嗜好品等が集まったブロックの二つに別れている。


今、一方通行がいるのは巨大商業施設の娯楽・嗜好品ブロックの一角だ。


737 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/12 20:18:26.72 qR4FN9mAo 376/508



「しっかし・・・・・・、呆れるくらい広いなこの街は・・・・・・。
 なるほど、『保安員』みてェな人間が必要になるわけだ」


『保安員』はこのショッピングセンターに設けられた制度であり、
店員がこの街の治安維持要員を兼ねて活動をしている。万引きや迷子のトラブルを中心に対処しているのだ。

ちなみに、一方通行がここへ来る遥か前にこのショッピングセンターに訪れた某レベル5の見解だと、
ここの『保安員』は学園都市の『警備員(アンチスキル)』をモチーフにしているのだろう、との事。


一方通行、風斬氷華、レッサー、サーシャ=クロイツェフ、ヴェントの五人は
現在進行形でここでのショッピングを楽しんでいるのだが――その内二名ほどはノリ気ではないようだが――、
このショッピングセンター、入場の際に専用のIDが必要だった。


一方通行は心底面倒くさそうにため息をつきながらも、自分と他の四人たちのIDを新規登録し、
全員分のアカウントを作成してあげた。


「一方通行さーん! 早く早くー! 置いていきますよ~」

「あァー、もォ是非置いてってくださァーい」


一方通行は杖をついていない方の腕で彼女たちの購入した品物入りの買い物袋をガサリ、と持ち直して
ため息をつきながら彼女たちのあとに着いて行くのだった。


738 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/12 20:19:19.63 qR4FN9mAo 377/508



――ロシア東部の原野 実験都市・ショッピングセンター とある洋服店


風斬「わぁ~、すごい・・・・・・。 見たことない服がいっぱい」ワァーオ

レッサー「ふんふん、ここもなかなかいい品揃えですね。 夏の頃と比べると
     更に種類豊富になってますなぁ」

サーシャ「第一の私見ですが、やはり周りの視線が気になりますね・・・・・・」モジモジ

ヴェント「・・・・・・・・・・・・」ハァ

一方通行「・・・・・・・・・・・・」ハァ

レッサー「さーてーと、・・・・・・お! サーシャさん、ちょっとこれ見てみそ」

サーシャ「?」トテトテ

レッサー「どうでしょうこれ? あどけなさが残るあなたにはこういう可愛らしい感じの
     服が似合うと思うんですけど」

サーシャ「・・・・・・おお。 ろ、露出が少ない・・・・・・」


739 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/12 20:20:13.51 qR4FN9mAo 378/508



風斬「あ、それ可愛いですね・・・・・・! 試着してみたらどうです?」

サーシャ「え、あ、試着は別に――」

レッサー「そうですね。 すみませーん!」

店員「いらっしゃいませ、どのようなご用件でしょう?」

レッサー「ちょいとこの子に試着させたいんですけど、いいですか?」

サーシャ「い、いやあの・・・・・・///」アワアワ

店員「もちろんです。 どうぞ、試着室にご案内いたします」

サーシャ「ああああの、第二の私見ですが別に試着はぁぁぁ・・・・・・」ズルズル

風斬「私たちも行きましょう」スタスタ

レッサー「にっひひひ、私のファッションセンスに狂いは無いのです!」スタスタ


740 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/12 20:20:56.45 qR4FN9mAo 379/508



一方通行「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

ヴェント「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

一方通行「・・・・・・なァ。 俺もォマジで帰っていいかなァ?」

ヴェント「一人だけ抜け駆けなんてさせると思うの?
     アンタから私を誘っておいてそれはねぇだろアホ」

一方通行「チッ。 オマエだってノリ気じゃなかったクセによォ、ちゃっかり買い物してンじゃねェか。
     なァ~にが『キューティクルな小悪魔ピアス(はぁと』だ。 案外こォいうの好きなンだなァ」ガサゴソ

ヴェント「ちょ、勝手に人が買ったモン見てんじゃねぇよテメェ!!!/////」アタフタ

一方通行「いや別にオマエが買ったモンだと思って言ったンじゃねェけど?」ニヤリ

ヴェント「あ・・・・・・・・・・・・///」

一方通行「オイオイ、これがいわゆる『ギャップ萌え』ってヤツですかァ?
     『神の右席』だろォが魔術師だろォが、中身はちゃンと女の子なンだなァ」ニタニタ

ヴェント「くぅ・・・・・・!! 死ねクソうさぎ!! ざけんなクソ・・・・・・///」グヌヌ


741 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/12 20:22:00.04 qR4FN9mAo 380/508



店員「こちらでございます。 ごゆっくりどうぞ」スタスタ

風斬「絶対似合ってますから・・・・・・心配ないですよ。 終わったら声かけてください」

サーシャ「うぅー・・・・・・///」プルプル

レッサー「おお、やはり試着室の中も半公開型ARがあるんですねー・・・・・・。
     んじゃ、行ってらっしゃいサーシャさん!」シャッ

サーシャ「か、勝手に閉めやがった・・・・・・。 はぁぁ・・・・・・」ガクッ

レッサー「うーん、私もベイロープたちにお土産買ってこっかな・・・・・・」キョロキョロ

風斬(・・・・・・あれ? 一方通行さんとヴェントさんは? ・・・・・・あ、)キョロキョロ




一方通行「別にバカにはしてねェだろ、いいンじゃねェ? 小悪魔キュートなヴェントちゃンってのも悪くねェ。
     多分どっかに需要あるだろ、ギャハハハハハ!!!」ヒーッヒッヒ

ヴェント「テメェ面貸せコラァ!!! そんなつもりで買ったんじゃないわよ!!
     クッソこいつ・・・・・・、このハンマーで頭叩き割ってやろうかぁ!!!」ゴトン

店員「お、お客様、他のお客様に迷惑となりますので・・・・・・」オロオロ


742 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/12 20:23:01.61 qR4FN9mAo 381/508



ヴェント「うるせぇんダヨ!!」メメタァ

店員「きゅう」パタン

一方通行「面倒な事してンじゃねェよクソボケ!! 保安員がいるって
     ここに入る前に説明しただろォが!! あーあー、完全にノビてンぞこれ・・・・・・」

店員「」ピクピク

ヴェント「テメェのせいだろうが!! 散々バカにして・・・・・・!!!」ワナワナ

一方通行「だからバカになンかしてねェってのに・・・・・・聞き分けのねェ女だな。
     ちったァ女の子っぽく振る舞えば可愛げがあンのによォ」

ヴェント「か、かわ・・・・・・!?///」

一方通行「あン?」

ヴェント「何でもねぇよクソ・・・・・・」プイ


743 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/12 20:23:42.00 qR4FN9mAo 382/508



風斬「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」ジー

レッサー「・・・・・・とか、それとあの辺にあるコートなんか
     軽そうでこれから来る冬には良くないですか? ・・・・・・ねぇ、風斬さん?」

風斬「あ、え? はい? そ、そうですね、ギャザリングはしっかりと確認したほうが・・・・・・」アセアセ

レッサー「いや誰もゲームの話はしてませんから。 ・・・・・・何見てんです?」チラッ

風斬「あ。 いや別に・・・・・・」

レッサー「・・・・・・・・・・・・むぅ。 あんにゃろ、何やらヴェントさんとじゃれあってますねぇ」マジマジ

風斬「う、うん・・・・・・。 ・・・・・・一方通行さん、誰とでも仲良くなっちゃうなぁ」ショボンヌ

レッサー「むー。 これはまた強力なライバルが現れた感じですか」

風斬「へ? ライバル・・・・・・?」

レッサー「強敵と書いて『とも』とも読みます。 まぁ一方通行さんを堕とすのは私なのですが♪」ニヤリ

風斬「・・・・・・は?」


744 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/12 20:25:00.15 qR4FN9mAo 383/508



レッサー「いやぁ、風斬さんには申し訳ないのですが、私も一方通行さんに惚れちゃったクチでして」ケケケ

風斬「え・・・・・・」ゴゴゴ

レッサー「あの、後ろの『ゴゴゴ』がジョジョみたいなフォントになってるんですけど。
     まぁ、というわけなので、ライバル同士仲良くしていきましょう、風斬さん」ニタリ

風斬(・・・・・・あ、あぁ。 レッサーのいつもの冗談だよね・・・・・・、うん)

風斬「も、もう。 からかわないでくださいよ・・・・・・」

レッサー「んー? ふふふ。 ・・・・・・・・・・・・あ、ところで風斬さん」

風斬「ん?」



レッサー「・・・・・・例の話、一方通行さんに全部ぶっちゃけてみました」



745 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/12 20:25:44.17 qR4FN9mAo 384/508



風斬「例の話? ・・・・・・、・・・・・・・・・・・・あ、イギリスの?」

レッサー「はい・・・・・・」コクン

風斬「・・・・・・それで、どうでした?」

レッサー「・・・・・・あ、一方通行さん。 イギリスの力になってくれるって・・・・・・」

風斬「! でしょ? そうでしょう? ・・・・・・ふふ、良かったですね!」ニコッ

レッサー「はい、ありがとうございます」グスッ

風斬「一方通行さん、ああ見えても困ってる人は放っておけない人だと思うんです。
   おせっかいって言ったら悪いんですけど・・・・・・、とてもいい人なんですよ」

レッサー「・・・・・・そうですね」

風斬「うん」

レッサー「だから、そういうところに惚れたわけなのですが」


746 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/12 20:26:27.18 qR4FN9mAo 385/508



風斬「うん。 ・・・・・・・・・・・・、・・・・・・」

レッサー「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

風斬「・・・・・・、・・・・・・・・・・・・。 ・・・・・・マジなの?」

レッサー「えらくマジです」ニヤッ

サーシャ「あの、第三の私見ですが、着替え終わりました」ボソボソ

風斬「ほ、本当に・・・・・・?」

レッサー「本気と書いてほんきです!」

風斬「そりゃそうでしょ・・・・・・ってツッコんでる場合じゃないやいっ!」

レッサー「ノリツッコミ・・・・・・」

風斬「そ、そんなぁ・・・・・・、どうすれば・・・・・・」オロオロ


747 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/12 20:27:16.03 qR4FN9mAo 386/508



サーシャ「あのー」

レッサー「どっちが先に一方通行さんをモノにするか、競争ですよ!」

風斬「ううう・・・・・・そんな・・・・・・、勝てっこないですよ・・・・・・」ガクッ

レッサー「おやおや、早くも戦意喪失ですか?」

風斬「だって・・・・・・レッサーは可愛いし・・・・・・」

レッサー「お世辞は結構ですよ♪ でも風斬さんほどではないです。
     一方通行さん、あなたのグラマラスなボディにぞっこんみたいですし」

風斬「え・・・・・・///」

レッサー「うーむ。 これは私もせくしぃっぷりに磨きをかけないと
     風斬さんに盗られちゃいますかね」クネッ

風斬(本気なのかなぁ、レッサー・・・・・・。 ・・・・・・でも、)

風斬「でも・・・・・・一方通行さんのフラグの数、半端じゃないですよ?」

レッサー「フラグ?」


748 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/12 20:28:43.65 qR4FN9mAo 387/508



風斬(あのノートを見る限りでは・・・・・・)

風斬「一方通行さんとフラグ立ってる女性の方、少なくとも十八人くらいいますよ・・・・・・」

レッサー「じゅ、十八人!? なんですかそれ!! 一方通行さんって"たらし"!?」

風斬「そ、そんなんじゃないですよ! ただちょっと、あの人無意識に女性と関係を持っちゃう人で・・・・・・」

レッサー「天然たらしか・・・・・・、なんて面倒な・・・・・・」

風斬「い、良い人だからそれは仕方ないんです・・・・・・!」

サーシャ「おーい」

レッサー「でもそんなんじゃ、ライバルは増えてく一方ですよぉ?
     早いとこモノにしないと、誰かにひょっこり持ってかれちゃいますよ」

風斬「そう・・・・・・、ですかね。 はぁぁ~・・・・・・・・・・・・」シュン


749 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/12 20:29:47.87 qR4FN9mAo 388/508



一方通行「・・・・・・はいはい、以後気をつけますゥ」ケッ

オーナー「本当にお願いしますよ! こういう事されると店の信用に影響するんですから・・・・・・!」

店員「」シーン

ヴェント「ちょっと小突いただけじゃないのよ・・・・・・ったく」ブツブツ

オーナー「ハンマーで頭ぶっ叩く行為のどこが小突いただけだと言うんですか!!
     はぁ・・・・・・。 では、失礼します。 ごゆっくりどうぞ」スタスタ

一方通行「・・・・・・・・・・・・。 チッ、オマエのせいで早くも目ェつけられたじゃねェかよ」

ヴェント「アンタが悪いんでしょ。 人のプライベートにいちいち土足で踏み込みやがって」

一方通行「ンだよ。 買ったモン見られンのってうぜェか?」

ヴェント「うざいに決まってんでしょ。 アンタそんな事もわかんないの?」

一方通行「こォいう形で買い物なンかした事ねェからな」

ヴェント「・・・・・・アンタ、デートとかした事ないの?」


750 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/12 20:31:44.03 qR4FN9mAo 389/508



一方通行「デートォ? 俺が?」

ヴェント「その・・・・・・彼女とかと」

一方通行「彼女(笑)。 いると思うか? 俺にそンなのがよォ」

ヴェント「・・・・・・ま、いるわけないわよね。 アンタみたいなクソ野郎に」

一方通行「よォく分かってンじゃねェか。 俺と伴侶になりてェなンて女がいるンなら連れてこい。
     真っ先にいい病院を紹介してやるぜ」ケラケラ

ヴェント「・・・・・・。 アンタ、いつか殺されるわね」

一方通行「またそれか。 なンなンだよ」




風斬「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」ハァ

レッサー「まぁまぁ、元気出して。 頑張っていきまっしょい!」

風斬「もう・・・・・・・・・・・・」


751 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/12 20:32:45.70 qR4FN9mAo 390/508



サーシャ「おーいってば」

レッサー「・・・・・・・・・・・・」

風斬「・・・・・・・・・・・・」ハァ


サーシャ「がおーっ!!!」ムキーッ


レッサー「ッ!!?」ビクゥ

風斬「ひゃっ!?」ビクッ

サーシャ「着替え終わったって言ってるじゃないですか・・・・・・」シクシク

風斬「あ、あ、ごめんなさい!」アタフタ

レッサー「す、すみません。 つい話し込んじゃって・・・・・・」タハハ

サーシャ「第四の私見ですが、あなた達の話は全て聞こえてましたよ。
     補足説明しますと、どうやらあなた達は相当彼に入れ込んでいるようですね・・・・・・」

風斬「ひぅぅ・・・・・・。 あ、あの、是非とも内密に・・・・・・」

サーシャ「・・・・・・だったらもう無視しないでください」グスン

レッサー「いや~、なははは。 すみません。 それじゃあ出てきてください」


753 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/12 20:41:25.20 qR4FN9mAo 391/508




                          【次回予告】



『髑髏のランプをくださいな。 純粋で真っ直ぐな少年を黒い炭に変えてしまう、炎を噴き出す髑髏のランプを』
―――――――――――元『殲滅白書』のシスター・ワシリーサ




『(ま、ず―――っ!!? あの化物ババアを呼び出すんじゃねえのか!?)』
―――――――――――『天使同盟(アライアンス)』の構成員・垣根帝督




『はい、こちら天使同盟デリバリーヘルスです。 当店は自慢の可愛い女の子を・・・・・・』
―――――――――――『天使同盟』の構成員・エイワス




775 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/13 19:12:31.45 JRafuJwlo 392/508



サーシャ「だ、第一の質問ですが・・・・・・、どうでしょうか?」テレテレ

風斬「わぁ・・・・・・! すっごく似合ってますよサーシャさん!」

レッサー「うーん、バッチリですね! やはり私の目に間違いはない!」フンスッ

サーシャ「そ、そうですか・・・・・・?」テレテレ

風斬「それ・・・・・・、とりあえず購入決定ですね」

レッサー「ほい、このカゴに入れといてください。 おーい一方通行さん、
     このカゴ持ってくださいよー」


一方通行「あァ? 誰に指図してンだこのクソガキ・・・・・・」イライラ


レッサー「ほら、持った持った!」グイッ

一方通行「ぐ・・・・・・、クソ、俺は杖ついてンだぞ・・・・・・」ヒョイ

ヴェント「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」スタスタ


776 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/13 19:13:12.29 JRafuJwlo 393/508



サーシャ「あ、一方通行・・・・・・。 第二の質問ですが、どうですかこれ?」

一方通行「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」ジトー

サーシャ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」ドキドキ


一方通行「・・・・・・もォちょっとコイツ本来のあどけなさを出してェところだな」


サーシャ「?」

レッサー「なぬー!? 私のファッションセンスに文句つける気ですか!?」ガルルル



一方通行「サーシャのイメージに合わせて服選ンでンだろ? だったらこれじゃハデすぎる。
     サーシャはおとなしいイメージだが、だからっつってこンなど派手な服じゃ
     オーバーすぎるンだよ。 そォいう意味じゃワシリーサのセンスはぶっ飛ンでンな。
     そォだな・・・・・・、とりあえず袖口は手の指がちょっと出てる感じの、大きめサイズの服がイイな。
     袖から少しだけ出てる指と、大きめのぶかぶかなサイズがあどけなさを演出する。 
     そンでもって他の部分は少し露出を増やす。 その露出ポイントがアクセントになるンだ。
     春、夏、秋モノは露出多めで、冬は順当にサーシャの雰囲気ごと包みこむよォな暖かみのある服がイイ。
     今から本格的に冬に入るだろ? マフラー買っとけ。 顎と口を隠すように巻いておけば
     コイツの可愛らしさを演出出来ンだ。 それと下の方だがあえて短いスカートをチョイスして・・・・・・」ペラペラ


777 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/13 19:13:53.80 JRafuJwlo 394/508



サーシャ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

風斬「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」ポカーン

レッサー「あ、あのー・・・・・・。 もしもし?」

ヴェント「コイツの変なスイッチ押してんじゃないわよ・・・・・・」

一方通行「ンで、靴下は・・・・・・。 あァもォ面倒くせェ、ちょっと待ってろ。
     あ、今言った衣服は全部カゴにぶち込ンどけ、いいな」タッタッタ

サーシャ「は、はい・・・・・・」

風斬「あ、あの・・・・・・どこにいくんですか?」


>ちょいと携帯かけてくるゥ


風斬「・・・・・・行っちゃった」

ヴェント「逃げたんじゃねぇだろうなあの白いの・・・・・・」

レッサー「まさか一方通行さんがファッションにうるさい人だとは・・・・・・」

サーシャ「えーと・・・・・・これと、これと・・・・・・・・・・・・」ポイ ポイッ


778 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/13 19:14:37.34 JRafuJwlo 395/508



一方通行「まずはランダムに番号プッシュして・・・・・・」ピポパポポピ


prrrrrrrrrrr・・・・・・ prrrrrrrrrrrr・・・・・・ prr


『はい、こちら天使同盟デリバリーヘルスです。 当店は自慢の可愛い女の子を・・・・・・』


一方通行「ふざけてンじゃねェよ、エイワス」

エイワス『おや、君かね一方通行』

一方通行「どォせ分かってたンだろ」

エイワス『ふふ。 それで、どうしたと言うのかな? すまないが今こちらは少し忙しくてね、
     出来れば手短に頼みたいのだが』

一方通行「『必要悪の教会(ネセサリウス)』の女子寮あンだろ。 そこの番号教えろ」

エイワス『・・・・・・、・・・・・・・・・・・・ふむ、なぜ?』


779 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/13 19:15:30.31 JRafuJwlo 396/508



一方通行「ちょっとアニェーゼのヤツと話がしてェ。 アイツ、ファッションにうるさかっただろ」

エイワス『なんだ、そういう事か・・・・・・』

一方通行「?」

エイワス『いや、なんでもないよ。 後ほど、メールにて電話番号を送る』

一方通行「メール? オマエ俺のアドレス知らねェだろ」

エイワス『「歩くエシュロン」とは私のことだぞ? 理解しているだろう?』

一方通行「チッ。 ・・・・・・じゃ、送っとけよ」

エイワス『ああ、待ってくれ一方通行。 私も買ってきて欲しい物があるのだが』

一方通行「オマエは転移能力でいくらでも欲しいモンが手に入るだろ。 じゃあな」ピッ


780 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/13 19:16:11.75 JRafuJwlo 397/508



ピロリロリン♪ ピロリロリン♪ メールが届いたよってミサカはミサカはお知らせしてみたり!


一方通行「早ェよ!! 電話切って一秒しか経ってねェっつーの・・・・・・」ピッ




『"************"
 
 電話をかけても無駄だと思うがね』




一方通行「・・・・・・? どォいう意味だこりゃ。 まァいい、かけてみるか」ピピッ


prrrrrrrrr・・・・・・ prrrrrrrrrrrrr・・・・・・ prrrrrrrrrrr・・・・・・ prrrrrrrrrrrrr・・・・・・


一方通行「・・・・・・・・・・・・」

一方通行「・・・・・・・・・・・・・・・・・・出ねェ」ピッ

一方通行「なンだ? あいつら全員揃ってどっかに出掛けてンのか? こことイギリスの時差を考えても
     あっちも朝だよなとっくに・・・・・・。 ・・・・・・?」

一方通行「チッ、まァ仕方ねェか。  つかさっきは少し語りすぎちまったな・・・・・・
     ほどほどにしとかねェとアイツら図に乗りそうだ」タッタッタ


781 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/13 19:17:01.77 JRafuJwlo 398/508



風斬「あ、おかえりなさい・・・・・・」

一方通行「あァ。 ・・・・・・・・・・・・オイ、なンですかァこの多数のカゴに積まれた衣服のエベレストは」

サーシャ「第一の解答ですが、あなたに指定されたものと一致するような衣服をカゴに入れただけです。
     補足説明しますと、この店舗の商品の約三十パーセントがこのカゴに積まれています」

一方通行「この店潰す気かオマエら。 周りの視線がさらにひでェ事になってやがる・・・・・・」ゲンナリ

レッサー「あ、これ私が買う分ですので、よろしくお願いしまーす」ドカッ

一方通行「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

風斬「あ、あの・・・・・・ごめんなさい。 これ、私が欲しい服なんですけど・・・・・・」ドカッ

一方通行「・・・・・・千手観音でも全部持ちきれねェ数だぞこれ・・・・・・、袋にまとめても」

サーシャ「第五の私見ですが、確かにあなたが指定した衣服は私に似合っているかもしれません。
     補足説明しますと、試着はしてませんしする気もありませんから何とも言えないですけど」

一方通行「試着? ンなモンここにあるAR使ってやりゃいいじゃねェか」ピピピッ


782 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/13 19:17:52.41 JRafuJwlo 399/508



サーシャ「え・・・・・・?」

一方通行「・・・・・・、・・・・・・・・・・・・ほらよ。 例えばこの服をオマエが着たらこンな風になる。
     ってな具合で、AR使えばバーチャルで試着後の自分の姿が表示されるよォに
     設定できるンだよ。 洋服店とかこれデフォで用意されてるシステムだぞ?」

サーシャ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

レッサー「あー、そういやそうでしたね。 すっかり忘れてました」ナハハハ

サーシャ「こ、こんなシステムあるなら最初から言え・・・・・・・・・・・・!!!」ワナワナ

レッサー「ま、まぁまぁ抑えて抑えて! いやぁホント、すみません」

風斬「へぇ~・・・・・・、ちょっと私もやってみようかな」ピピッ

レッサー「風斬さん、下手したら下着姿のあなたが表示されるから注意するんですよ?
     情報隔離レベルはきちんと設定しておいたほうがいいです」ピッピッ

風斬「わ、わかりました・・・・・・!」ピピピ


783 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/13 19:18:33.02 JRafuJwlo 400/508



ヴェント「いつまで買い物してんのよ・・・・・・ったく」ハァ

一方通行「・・・・・・ン? オマエは何も買わねェのかよ」

ヴェント「いらないわよ別に。 服なんて着れりゃ何だって構わない」

一方通行「・・・・・・、せっかくだから色々試着してみろよ」ピッピッ

ヴェント「ちょっと、何勝手なことしてんのよアンタ」

一方通行「ほらよ、これとかどォだ。 今の時代、ロングスカートってのはあンま需要無ェけど、
     オマエくれェの身長なら結構似合ってンぞ。 柄はチェックとかどォだ?」

ヴェント「・・・・・・、に、似合って、る・・・・・・か? これ・・・・・・///」ジー

一方通行「オマエ、ボトムスはパンツ系よりスカートのが似合ってンな。
     ミニスカにスパッツとか入れて組み合わせてもイイ感じになりそォだが・・・・・・。
     ワンピースとかも似合いそォだが今の時期だとさすがにな。 まァでも買っとけ」ピッ


784 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/13 19:19:27.88 JRafuJwlo 401/508



ヴェント「あ、オイ・・・・・・」

一方通行「丈は・・・・・・普段は膝下くらいがいいか。 オマエよく見りゃ綺麗な足してやがンだから、
     ちったァ足見せる服着た方がいいぞ? トップスは・・・・・・。 オマエ、結構スタイル良いから、
     ラインが見えるよォなモンならなンでもいいンじゃね? これとか・・・・・・、これもか」ピッ ピッ

ヴェント「し、知らねぇよ・・・・・・そんな事言われても」

一方通行「じゃあ黙って見とけ。 さすがにその真黄色の服だけじゃ味気ねェだろ。
     ・・・・・・あァ、もしかしてそれも魔術的な意味合いがあンのか?
     だったら強要はしねェが・・・・・・」

ヴェント「・・・・・・別に。 私はもう『神の右席』じゃないし、黄色ってのも『神の火(ウリエル)』の属性だから
     黄色なだけで・・・・・・。 だからこれにこだわってるワケじゃないわ」

一方通行「『神の火(ウリエル)』、ねェ・・・・・・。 やっぱ『神の力(ガブリエル)』みてェなヤツなンかな。
     ・・・・・・まァいい。 そンじゃオマエも適当に選べ」

ヴェント「わ、わかったわよ・・・・・・」ピッ


785 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/13 19:20:44.03 JRafuJwlo 402/508



――――――――――――――――――――――


と、一方通行の出費が大変な事になっている頃。


垣根帝督も大変な事になっていた。彼の場合は出費ではなく出血が、だが。


「・・・・・・っく」


ガクン、と膝から崩れ落ちる。やはり魔術を使用した際の反動によるダメージは
どうにもならないようだ。


「クッソ・・・・・・!! おいエイワス、お前の不思議パワーで魔術使った時の
 俺への反動をどうにか出来たりしねえのかよ」

「何か勘違いしているようだが、私は万能ではない。
 漫画やアニメみたいに何でもかんでも都合よくデメリットを消せるわけがないだろう」


786 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/13 19:21:32.40 JRafuJwlo 403/508



チートの塊が何を常識的な事を言っているのか。


エイワスは垣根帝督から少し離れたところで佇んでいた。
垣根の魔術訓練に同行したエイワスだが、特にアドバイスや助力をしてくれることもなく、
ただ後ろで彼の訓練風景を眺めているだけだった。


「もう身体への負担の事は諦めたら? そればっかりは垣根の坊やが魔術を使う以上、
 一生付き合っていかなきゃいけない障害みたいだし」


真っ赤な修道服を着たシスター、ワシリーサは『一本足の家の人喰い婆さん』の魔術で現出させた
『臼』の上に腰掛けて、足をプラプラさせながら暇そうに言った。


「一日に何度も出来るような訓練じゃないわよ、これ?
 それでもいいなら私はさっさと始めちゃいたいんだけどにゃん♪」

「・・・・・・分かってる。 今回でルーンの魔術の訓練は終わらせるぞ」


そう言って、垣根は懐に忍ばせているデッキホルダーからルーンを取り出し、
丁寧に呪文を唱えた。


787 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/13 19:22:23.53 JRafuJwlo 404/508



「ほうほう、呪文の詠唱はもう問題ないわねん。 んじゃ、目標は『この私に魔術の攻撃で一撃を喰らわせること』。
 遠慮しないで、攻撃できると思ったらズドン! と、かましちゃってオッケーよ☆」

「ふふ、君に一撃を喰らわせる、か。 ずいぶん厳しい目標じゃないか、ワシリーサ」


魔術による攻撃で一発当てるだけなのだから簡単だと思うかもしれないが、これは非常に辛いクリア条件だ。

なにせ相手が『殲滅白書』最強のシスター、ワシリーサ。
彼女は一体どこにそんな力を秘めているのか疑問に思うほどの怪力や、
十八番でもある魔術、『一本足の家の人喰い婆さん』で容赦なく大勢の敵を殲滅できる圧倒的な武器を持っている。


『殲滅白書』最強、は彼女がそう自負しているだけだが、実力は本物だ。
そんな彼女に一撃を喰らわせる事など、『未元物質(ダークマター)』使用禁止状態の垣根帝督に可能だろうか。


788 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/13 19:23:13.07 JRafuJwlo 405/508



「行くぞ」

「カモォン♪」


その言葉を合図に、垣根帝督は地を蹴ってワシリーサの元へと駆けていった。
彼女との接触まで、残り四十メートルといった距離。

ワシリーサは素早くこちらに向かってくる垣根を見ても慌てずに、童女のような声で歌う。


「一本足の家の人喰い婆さん――――」


789 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/13 19:23:47.00 JRafuJwlo 406/508



垣根の表情が険しくなる。あの馬鹿げた性能を持つ老婆を出される前に決着をつけたかったが、
戦闘を開始した時のワシリーサとの距離を考慮し忘れていた。


「幸薄く誠実な娘のために力を貸してくださいな♪」

「テメェの・・・・・・・・・・・・、」


走りながら、垣根は大きく息を吸って、


「どこが誠実なんだよコラァッ!!!」


垣根帝督はワシリーサとの距離が残り十メートルを切ったところで、魔術によって現出させた『武器』を
しっかりと握り締め振りかぶった。


790 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/13 19:24:45.32 JRafuJwlo 407/508



「一本足の家の人喰い婆さん」


ワシリーサは掌を上に向け、ワイングラスを持つようにその手の指をゆるりと曲げた。


(ま、ず―――っ!!? あの化物ババアを呼び出すんじゃねえのか!?)


垣根の目論見では、まずワシリーサの前に彼女が召喚する『一本足の家の人喰い婆さん』、
あの不気味な出で立ちの老婆を自身の魔術の『武器』で叩き斬るつもりだったのだが、


「髑髏のランプをくださいな。 純粋で真っ直ぐな少年を黒い炭に変えてしまう、炎を噴き出す髑髏のランプを」


ワシリーサの手に、いかにもオカルトチックな頭蓋骨が音もなく現れる。
その髑髏の目の穴はまるで中に蠢く炎がいるようで―――。


「クソッ!!」


791 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/13 19:25:55.36 JRafuJwlo 408/508



ドガァァッ!!!と、彼女が手に持つ髑髏のランプから紅蓮の焔が噴き出した。
炎が噴き出るというより、それはもはや爆破に等しかった。

どう考えてもその爆発範囲はワシリーサ本人をも巻き込んでしまっているのだが、
どうせ彼女は無傷なのだろう。


これをまともに喰らってしまったら、垣根の顔など一瞬で黒炭になってしまうだろう。
髑髏のランプから噴き出た炎が引いていく。


「およよ?」


意味不明の言葉を発するワシリーサ。
見ると、目の前にいた垣根帝督の姿が綺麗サッパリ消失している。


しかし、それはワシリーサの攻撃で垣根が木っ端微塵になってしまったのではなく、


792 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/13 19:26:53.17 JRafuJwlo 409/508



「――――――、下か」


言って、ワシリーサが地面に目を向けると垣根帝督は既に『武器』を薙ぎ払う体勢に入っていた。
すんでのところで垣根は身を大きく屈め、髑髏のランプの攻撃を避けていたのだ。
そしてこのまま垣根の攻撃を喰らえば、ワシリーサの綺麗で美しい二本の足が見るも無残に『焼き斬れる』だろう。


だがワシリーサは垣根の薙ぎ払い攻撃を、余裕綽々といった跳躍であっさりとかわした。


「チッ」


攻撃をかわされ、垣根帝督は舌打ちをする。
前回の訓練でボロボロにされた時のダメージなど微塵も感じさせない軽やかな体捌きだ。
さっそくワシリーサにあと一歩で攻撃が届く、という段階まで来ている。


793 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/13 19:27:34.29 JRafuJwlo 410/508



(・・・・・・ホント、おっそろしい成長速度だにゃん。 一瞬とはいえ私が対象を見失うなんて)


二十メートルほど上空から降下しながら、ワシリーサは垣根を観察する。
彼は降りてくるワシリーサを待ち構えんと、その手に握りしめた『武器』を構えていた。


(しかも最初に現出させた魔術の『武器』を難なく維持し、魔術の使用回数を節約してる。
 それによって身体への反動も減って・・・・・・、一石二鳥って事かぁ)


垣根は前回の訓練でただフルボッコにされただけではない。
完膚無きまでに叩きのめされた中で、しっかりと学習していたのだ。


「一本足の家の人喰い婆さん―――」


落下しながら、ワシリーサは口ずさむ。


「少年を焼き殺すには、髑髏のランプが足りませんわ。 二つ、三つ、いいえ、たぁくさん♪」

「あ?」


瞬間、垣根帝督の周りに。否、この地下空間の所々に髑髏のランプが出現した。
彼女が手に持っている髑髏とは違い、それらはふわふわと宙に浮いている。


794 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/13 19:29:08.70 JRafuJwlo 411/508



「ふむ、眼福眼福。 ロシア民話を引用した魔術をこうも沢山見られるとはね」


エイワスはどこから持ってきたのか、やたら豪勢な背もたれ付きの椅子に座り、
二人の訓練の様子を優雅に眺めていた。


「しかしワシリーサめ、結構本気でやっているじゃないか。
 これではさすがに垣根帝督が可哀想に思えてくる」


と、言いつつも絶対に助太刀やアドバイスは送らないのがエイワスだ。
そんな事をしたら自身がしらけてしまうし、助太刀など垣根が断るだろう。


そんな垣根は天井を見て、目を皿のように開いて驚愕していた。


「・・・・・・・・・・・・!!? いねえ・・・・・・!?」


そこら中にうじゃうじゃと現れた髑髏のランプに驚いているのではない。


795 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/13 19:29:55.90 JRafuJwlo 412/508



ついさっきまで地面に落下しようとしていたワシリーサの姿が、ふっと消えてしまっていたのだ。


垣根はキョロキョロと辺りを見回し彼女を探すが、やはりどこにも見当たらない。
そうしている間にも多数の髑髏が垣根に向けて照準を定めている。


『けろけろ、けろけろ。 こっちだよーん♪』


どこからか、声が聞こえた。ワシリーサの声だ。


「クッソ、隠れてねえで出てこいババア!!」

『けーろけろけろ。 ここまでおーいでー』


人を小馬鹿にするように笑いながら、ワシリーサは垣根を困惑させる。
髑髏の照準が定め終わったようだ。このままあの爆破攻撃を受ければ、垣根はあの世行きのチケットを手に入れてしまうだろう。


(出し惜しみしてる場合じゃねえ!!)


796 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/13 19:30:46.86 JRafuJwlo 413/508



垣根は懐からルーンを数枚取り出し、『詠唱破棄』を用いて即座に魔術を発動させた。
その攻撃により周りの髑髏のランプが次々と爆破、霧散していく。

その隙に垣根は髑髏のランプの包囲網から走って抜け出し、ワシリーサの行方を追う。
魔術を使った際の反動で口や耳から出血したが、構わずに彼は走った。


と、そこで垣根はこの防空壕跡の地下空間に似つかわしくない、妙な物を発見した。




「・・・・・・・・・・・・なんだありゃ。 ・・・・・・カエ、ル?」




797 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/13 19:31:30.69 JRafuJwlo 414/508



垣根の視線の先には、体長三、四センチ程度の蛙が喉をひくひく動かしながらこちらをジーッと見ていた。
見た目は普通のアマガエルのように見える。ただし、その体色は『赤』だった。


「・・・・・・テメェ、ワシリーサか・・・・・・!?」

『けろっ、見つかっちったけろ~』


ベタすぎる口調で蛙はぴょいんぴょいんと微笑ましい動きで飛びながら垣根から離れていく。
しかし、その小さな体躯からは想像の出来ない跳躍力であり、一飛びでゆうに三十メートルも前へ飛んでいる。


(あれも魔術なのか・・・・・・? デタラメすぎんだろあのクソババア・・・・・・)


人が蛙に化けるなど、絵本やゲームの世界だ。
しかしワシリーサの魔術は大体が『ロシア民話集』をモデルにしているため、なんら不思議はない。デタラメではあるが。


垣根は予想以上にすばしっこい蛙の動きに翻弄されていた。
素早い上にあんな小さな体では、攻撃など当てられるわけがない。

しかもクリア条件は『ワシリーサに魔術での攻撃を当てること』、だ。
適当に小石などを蹴って当てても訓練終了とはならない。


798 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/13 19:32:46.90 JRafuJwlo 415/508



垣根帝督は仕方なく蛙の追跡を諦め、周りで自分を焼き殺そうとしている髑髏のランプを
全滅させることにした。


「うざってえ・・・・・・!」


ルーンを使い、手に持っている『武器』を振るい、次々と髑髏を破壊していく。
反動で頭から流血し始めているが、かまっている暇など無い。


だが、この髑髏は破壊すると爆発する仕組みになっているらしく、
至近距離で爆発させると垣根自身にもダメージが伝わってしまった。


(距離を調節しねえと・・・・・・)


目の前にある髑髏から二、三歩後ずさり距離を取る。


と、


「ん?」


799 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/13 19:33:57.47 JRafuJwlo 416/508



トン、と背中になにか軽くぶつかった。
まさかと思って振り向くと、そのまさかとしか言い様がなかった。


ワシリーサの呼び出した髑髏のランプが目から強烈な光を放ち、今にも炎を噴き出す瞬間だった。


「―――――――ッッ!!?」


垣根はほぼ無意識で髑髏のランプの頭上を越えるように後方転回――いわゆるバク転――する。
華麗な軌跡を描いて飛んだ垣根は、鮮やかに髑髏のランプの炎を避けることに成功した。

そしてすかさず『武器』を前に突き出し、髑髏に貫通させて破壊した。
その際の爆発も垣根は素早いバックステップで回避している。絶好調だ。


(まだあと数個残ってやがるな・・・・・・、とりあえず速攻でこの骸骨どもを片付けて――)


800 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/13 19:34:53.36 JRafuJwlo 417/508



が、


「とーうっ☆」

「げはぁッ!!?」


垣根が行動に移る前に、突然横からワシリーサが垣根の横っ腹にトゥーキックをぶち込んできた。
さっきまでは蛙の姿だったはずだが、彼女はいつの間にか元の姿に戻っている。


「油断大敵ぃ! って、おおう・・・・・・」


801 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/13 19:35:35.20 JRafuJwlo 418/508



「ぐっ・・・・・・」


ズザザザッ!!、と足を踏ん張ってなんとか蹴りの威力を殺す垣根。
彼は横腹にきた彼女のキックをしっかりと腕でガードしていた。


「むゆ~ん。 かなりやるようになったわねぇ、髑髏のランプも通用しなくなってきてるし・・・・・・」

(信じ・・・・・・られねえこの女。 ガードしたのに肝臓までダメージが届いてやがる・・・・・・!!)


コイツの両親、ゴリラなんじゃね?、と垣根がジロリとワシリーサを睨むが、
既に彼女の姿は消えていた。


802 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/13 19:36:45.44 JRafuJwlo 419/508



「またカエルかよ? 芸のねえ野郎だな」

『ごめんけろ。 けろ今度はもっといい物見せてア・ゲ・ル☆ けろ』


ザリ、と地面を踏む音が聞こえた。
垣根が後ろを振り向くと、二十メートルくらい先のところで元の姿のワシリーサが両腕を広げて目を閉じていた。

すると、まだ地下空間に残っていた髑髏のランプが一斉に爆破し、無へと帰した。


「何のつもりだテメェ、手加減とか抜かすんじゃねえだろうな。
 俺は常に全力で来いっつったはずだぞ」

「わぁーかってるってーの☆ 髑髏のランプはあなたには通用しないみたいだし、
 私も次の手で攻めさせてもらうわよーん」


ワシリーサは両腕を開いたまま、静かに口を開いた。


「ねぇ、一本足の家の人喰い婆さん――――」


803 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/13 19:38:22.99 JRafuJwlo 420/508



何かを尋ねるかのような口調で、ワシリーサは声を出す。


(今度こそあの化物を呼び出すのか・・・・・・?)


しかし、そうであろうがなかろうが、垣根帝督のやる行動は決まっている。
彼はルーンを取り出し、魔術を発動する。出血や痛みの代償を支払って使用したそれは、遠距離攻撃。
魔力の塊が何かを言いかけているワシリーサの元へ一直線に飛んでいく。

それを追うように垣根は地を蹴った。
自身で出した魔術が通った後をたどるように、自分も『武器』を握って走っていく。

遠距離攻撃を避けられても自身で攻撃する、という典型的だが効果的な攻撃方法だ。


しかし、それらが届く前にワシリーサは言葉を終えていた。


(ここまでかな)


それを遠目で見ていたエイワスも、訓練の終了を静かに悟った。


804 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/13 19:39:17.68 JRafuJwlo 421/508



「ねぇ、一本足の家の人喰い婆さん」




「小屋に向かう時に出会う、あの『黒い騎士』はなぁに?」




本当に、本当にその声は幼い純粋無垢な幼児が単純に疑問を話している時のような声だった。


垣根はワシリーサが何を言っているのかわからず、走りながらも怪訝な顔を浮かべた。
間もなく、垣根の遠距離攻撃がワシリーサに直撃する頃だ。


そして、垣根は確かに聞いた。パカラッという、まるで馬の蹄が地面を蹴るような音を。


805 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/13 19:40:29.29 JRafuJwlo 422/508



「?」


そして、垣根は確かに見た。いつの間にやらワシリーサの隣に現出していた、黒い馬に跨った黒い騎士を。


(なんだ? あの真っ黒な騎士は・・・・・・? またコイツが呼び出して―――)


垣根は最初、黒王号に乗ったラオウがゲスト出演してきたのかと思った。
しかしよく見ると、黒い馬も黒い騎士もどこか西洋風の装備を着けており、黒い騎士はその手に禍々しい黒のオーラが
揺らめく剣を握っていた。

そして、突如出現した『何もかもが黒い騎士』が一体どのように攻撃を仕掛けてくるのか考察する間もなく
彼らがいる防空壕跡の地下空間に、




『夜』が訪れた。




これにて、本日二度目の訓練は終了。


807 : 次回予告はここまでです。  ◆3dKAx7itpI - 2011/03/13 19:47:04.36 JRafuJwlo 423/508




                          【次回予告】



『この私に否定形はない』
―――――――――――ローマ正教、禁断の組織『神の右席』の元一員・『前方』のヴェント




『どこの女王サマだオマエは』
―――――――――――『天使同盟(アライアンス)』のリーダー・一方通行(アクセラレータ)




834 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/14 22:25:34.68 Jcbnw7aWo 424/508



――ロシア東部・実験都市 ショッピングセンター とある洋服店


店員「あ、ありがとうございました~ (す、すげえ・・・・・・ブラックカードなんて初めて見た・・・・・・)」


          ガチャ


レッサー「いやー、かなり買い込んじゃいましたね!」マンゾクー

一方通行「・・・・・・買ったのは俺だけどな」フラフラ

風斬「あの・・・・・・お金、本当によかったんですか? 合計金額見てびっくりしたんですけど・・・・・・」

一方通行「なンでもねェよ、あンくらい。 ・・・・・・だがそォ思うなら少しは自重しろ」フラフラ

サーシャ「第一の私見ですが、あなた今、すごい面白い事になってますよ」

一方通行「・・・・・・買い物袋の持ち過ぎで、拡がった翼のようになっているこの状態の事か」フラフラ

ヴェント「おい、なんでこっち寄ってくんのよ。 さっきからフラフラと・・・・・・、
     アンタ酔ってんの?」


835 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/14 22:27:07.22 Jcbnw7aWo 425/508



一方通行「見てわかンねェンですかねェ!? こンだけ荷物持ってりゃ能力使っても多少はフラつくわ!!
     演算が面倒くさすぎてなァ!」

風斬「能力を使ってるんですか? やっぱり私も荷物持ち手伝った方が・・・・・・」

一方通行「・・・・・・チッ、構わねェよ。 こンだけ多かったらこの先何個増えよォが変わらねェ」

レッサー「さっすが第一位! 人としての器が大きくいらっしゃる!」ヘヘー

一方通行「オマエが買ったモンは今すぐここで投げ飛ばしちまっても構わねェな?」ギロリ

サーシャ「第二の私見ですが、預かり所でその荷物を置いてきてはどうでしょう」

一方通行「分かってる。 ついでに郵送サービスでこれら全部まとめて独立国同盟に送ってもらう」

レッサー「じゃあここらで休憩しましょう。 皆さんそろそろお腹が空いてきてるんじゃないですか?」

サーシャ「第一の解答ですが、少し空いています」

一方通行「船であンだけメシ食らったクセに・・・・・・」


836 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/14 22:27:52.76 Jcbnw7aWo 426/508



風斬「私はまだ平気ですけど・・・・・・」

ヴェント「空いてない」

一方通行「俺も平気だ」

レッサー「じゃ、そこのお店でフレンチでもいただきましょう」

一方通行「オイ、俺たちに選択権は無ェのかよ」

サーシャ「では一方通行、荷物をよろしくお願いしますね」

一方通行「オイ」

風斬「あ、じゃあ私も一方通行さんに・・・・・・」

レッサー「いいからいいから! 風斬さんも先に行ってましょうよ!」グイッ

風斬「あああ・・・・・・・・・・・・」ズルズル


837 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/14 22:28:49.88 Jcbnw7aWo 427/508



一方通行「あンのマセガキ・・・・・・!! ・・・・・・チッ、まァいい」フラフラ

ヴェント「おい」チョイチョイ

一方通行「あァ? 服引っ張ンじゃねェよ。 つかこの紙袋の山からよく俺の服の部分を見つけられたな」

ヴェント「こっち。 荷物預けるとこ」スタスタ

一方通行「あ? あァ・・・・・・いや知ってるけどな」フラフラ


風斬「あ、あれ? ヴェントさんは・・・・・・?」

サーシャ「第二の解答ですが、一方通行に着いていってましたよ?」

レッサー「ぬぅ!? まさかヴェントさんまで!? ええい、先を越されてたまる―――」

店員「いらっしゃいませー、何名様でしょうか?」

レッサー「ちぃ・・・・・・! 五人です、二人は後から来ます」


839 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/14 22:30:46.32 Jcbnw7aWo 428/508



一方通行「ていうかよォ」

ヴェント「あ?」

一方通行「こンな科学技術まみれのショッピングセンターにいて、オマエ大丈夫なのかァ?」

ヴェント「・・・・・・アンタさ、私を『科学アレルギー』か何かと勘違いしてない?」

一方通行「別にそこまでは言ってねェだろ」

ヴェント「確かに今でも科学は憎いし、嫌い。 でもね、そこにこだわってばかりじゃ
     今の世の中は生き辛いだけなのよ。 私だってテレビくらい少しは見るし、
     最近になって携帯電話も使い始めてるのよ、ほら」サッ

一方通行「ふーン」

ヴェント「・・・・・・まぁ、それでも確かにこの商業施設は気に入らないけどね。
     何よここ、あっちもこっちも画面だらけで目が疲れちゃう」


840 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/14 22:32:11.53 Jcbnw7aWo 429/508



一方通行「その辺はまだ対策が出来てねェからなァこの街は。
     そォいう意味での実験都市なンだが」

ヴェント「ふん・・・・・・」

一方通行「ところでオマエ、なンで俺に着いてきてンだよ。
     荷物預ける場所くらい知ってるっつっただろォが」

ヴェント「私がどこを歩こうが何をしようが、私の勝手でしょ」

一方通行「そりゃそォだが。 ・・・・・・・・・・・・えーと、確か託児所の近くにあったよなァ・・・・・・」キョロキョロ

ヴェント「・・・・・・アンタ、随分な財布扱い受けてるけど、それでいいの?」

一方通行「あ?」

ヴェント「ここまでのアンタの出費考えれば分かるでしょ。 このままじゃアンタ、
     ここから帰る頃にはすってんてんになってるわよ」


841 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/14 22:33:15.21 Jcbnw7aWo 430/508



一方通行「レベル5の財力ナメンなよオマエ。 その気になりゃその辺の店舗二、三は買い取れる」

ヴェント「アンタ金持ちなんだ?」

一方通行「このブラックカードが目に入らぬか。 ・・・・・・あァクソ、取れねェ」ゴソゴソ

ヴェント「でもアンタって金でブイブイ言わせるような人間じゃないわよね」

一方通行「あったり前・・・・・・、・・・・・・いや、俺も結構金遣い荒い方かもしンねェ。
     ここ来るときに個人所有の航空機買ってるしな・・・・・・」ブツブツ

ヴェント「?」

一方通行「しっかし、オマエでもこォいうショッピングとか来るンだな」

ヴェント「アンタが無理やり誘ったんだろうが!」

一方通行「いやァ、ホントに来やがるとは思わなかったンだよ」


842 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/14 22:34:03.44 Jcbnw7aWo 431/508



ヴェント「・・・・・・ま、まぁ、アンタがあんだけ頼み込んで来たわけだし? 私も仕方なくって感じで・・・・・・」

一方通行「そこまで懇願はしてねェよ」

ヴェント「な、なによ・・・・・・。 私は来ないほうが良かったってか?」

一方通行「いや、来て欲しかったけど」

ヴェント「な・・・・・・・・・・・・///」

一方通行(人数は少しでも多い方がいいからな。 ガブリエルとエリザリーナは仕方ねェとして、
     垣根の野郎は何やってやがンだ・・・・・・? アイツいねェとすげェやりづらいンだよここ・・・・・・。
     エイワスとワシリーサは別に来なくていいが)

ヴェント「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

一方通行「どォした? 顔赤いぞ、風邪でも引きやがったか」

ヴェント「う、うるせぇ・・・・・・・・・・・・///」プイッ

一方通行「・・・・・・? お、やっと着いたか」


843 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/14 22:35:41.43 Jcbnw7aWo 432/508



そうして適当に話しながら歩き回っている内に、一方通行とヴェントは託児所に到着した。


このショッピングセンターに設けられている託児所は、やはりこの街に比例して非常に規模が大きい施設だ。
毎日数多くの買い物客が来訪してくるこの街だが、その中にはやはり子供連れの客もいる。
この街で多種多様な商品を見て回ろうと思うと、やはりどうしても大人より先に子供が疲れてしまうのだ。

そんな親子連れの客のために用意されているのがこの託児所。
通常のデパートなどにも託児所が設けられていたりするが、ここのは前述したとおり規模が違う。
もはや一つのテーマパークと化しているのだ。


動物を模した乗り物やジャングルジム、滑り台など定番な遊具は当たり前。
ゲームセンターや、小さな映画館――子供向け劇場版アニメしか上映していない――、
終いには各店舗をぶち抜くように用意されているジェットコースターまである始末だ。
小規模の遊園地より出来がいいテーマパークかもしれない。


「こンな作りじゃ却ってガキが帰りたがらなくなンじゃねェのか・・・・・・?」


844 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/14 22:37:12.73 Jcbnw7aWo 433/508



思わずそう口走った一方通行だが、確かに、言った側から子供の泣きじゃくる声が
彼の耳に届いた。まだここで遊んでいたいと駄々をこねる子供と、困り果てた親が視界に入る。

こういった、親からしたら面倒な事態になる事を避け、あえてここに子供を預けない親もいるそうだ。


(あのクソガキにこの託児所の事言ったら真っ先に連れてけ連れてけのオーケストラが始まるだろォな・・・・・・)


いや、打ち止め(ラストオーダー)はそこまで子供でもないと思うんだが・・・・・・・・・・・・。


と、さっきから一言も話しかけてこないヴェントを不思議に思い、一方通行が彼女を見てみると、


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


なにやらヴェントの顔色が悪くなっていた。濃い化粧で顔色がなかなか窺えないが、
それでも多少青ざめてる事が分かる。


845 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/14 22:38:26.68 Jcbnw7aWo 434/508



「オイ、どォした。 腹でも下したか?」

「・・・・・・べ、別に」


女性に対して非常に汚らわしい言葉を平気で投げかける一方通行にも大したリアクションを見せず、
ヴェントはただ俯いて生返事をするだけだった。これは明らかに様子がおかしい。


(・・・・・・・・・・・・。 ・・・・・・! アレ、か?)


一方通行は託児所の天井を見上げる。


846 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/14 22:39:07.84 Jcbnw7aWo 435/508



そこには、この託児所に用意された巨大なジェットコースターがあった。
マシンがカタカタカタカタ・・・・・・、とコースを上り、マシンに乗っている子供たちは既にキャーキャーと騒いでいる。


一方通行はヴェントの部屋で聞いた、彼女の過去を思い出していた。


ヴェントには幼い頃、弟がいた。最新の科学技術で設計されたテーマパークのアトラクションに乗り、
そこでまさかの事故が発生。その時に彼女は弟を失っている。
ヴェントが科学を憎むようになったのは、確かそれが原因だったはずだ。


彼女は、この目の前にあるジェットコースターマシンを見て、その時の事を思い出しているのだろうか。


「・・・・・・・・・・・・さっさと行くぞ」


彼らは託児所に用があるわけではない。荷物を預かってくれるサービスを行っている施設に用があるのだ。
ただそこへ行くために託児所を通らなければならなかっただけだ。


847 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/14 22:40:13.59 Jcbnw7aWo 436/508



そんなわけで一方通行は大量の紙袋をガサリと揺らし踵を返すが、ヴェントは一向に動こうとしない。


「・・・・・・、オイ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「見たくもねェモンを見る必要はねェよ」

「・・・・・・ちょ、ちょっと。 ちょっと待って」


ヴェントはそう言って、轟音を響かせながら走るジェットコースターマシンを凝視し続けていた。
やはりどう考えても過去の出来事を思い出している。


「・・・・・・私が弟と乗ったアトラクションも、こんな感じだったわ」

「そォかよ」

「どうしてあんな危険な物に乗れるのかしら」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・行くぞ」


848 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/14 22:41:13.39 Jcbnw7aWo 437/508



さっさとレッサー達が待っている飲食店へ行かないとうるさそうだ。
一方通行は上を見つめたまま固まっているヴェントを無理やり連れていこうと腕を掴もうとしたが、


「・・・・・・ねぇ」

「あァ?」




「・・・・・・・・・・・・あれ、乗ってみたい」




一方通行はとりあえず自分の耳を疑ってみた。
バッテリーの調子がおかしいのか、ジェットコースターが走る音が邪魔になり、彼女の言葉を聞き間違えただけなのか。
しばらく閉口した後、一方通行は聞き返してみる事にした。


849 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/14 22:42:10.34 Jcbnw7aWo 438/508



「・・・・・・なンだって?」

「ジェットコースター。 乗ってみたいっつったのよ」

「・・・・・・オマエ、なァ」

「わかってるわよ。 あんだけ科学が嫌いだの憎いだのほざいてたクセに、
 何をトチ狂った事言ってんだこの女、とでも思ってんでしょ?」


別にそこまで思いはしなかったが、しかし一方通行は驚いていた。
『このジェットコースターを粉々に破壊してやりたい』、とかならまだ分かる。いやそんな事言われても困っていたが。

しかし『ジェットコースターに乗ってみたい』、と言い出すとは思わなかった。
一体どういう心境の変化なのだろうか?


「でもよォ、さっさと風斬達と合流しねェとうるせェぞ。 特にあのマセガキが」

「一回くらいなら大丈夫でしょ」


若干だが口調が強くなっている。どうやら彼女の中で決心がついてしまったようだ。
こうなったら梃子でも動かないだろう。


850 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/14 22:43:58.22 Jcbnw7aWo 439/508



しかしそうまでしてなぜ乗りたがるのか。
彼女は未だに気分の悪そうな顔色をしている。そこまで思いつめるのならさっさとここから
離れるのが得策だと思うのだが・・・・・・。


「マジで言ってンのか」

「・・・・・・アンタ、昨日私に言ったわよね」


ヴェントはジェットコースターのコースを見上げたまま、一方通行に話しかける。


「私が抱えてるどす黒い憎悪の塊を、自分も一緒に抱えてやるって。
 ・・・・・・アレ、嘘でしたとか言わないわよね?」

「さすがにあンな事で嘘つくほど俺は腐ってるつもりはねェよ」

「それなら・・・・・・。 それならアンタと二人なら、多分乗れる」


昨日、一方通行はヴェントの過去を聞き、確かに約束した。


ヴェントが抱えている科学への憎悪も、嫌悪も、一緒に抱えてやる、と。


その言葉に嘘偽りは無い。その場の雰囲気やノリで適当なことを言ったのではない。
ヴェントが科学の事で何かに苦しんでいるなら、それを解決する術を探し出すつもりだし、
彼女が『科学の頂点』と言っても過言ではない一方通行に死ねと命じてきたら・・・・・・、その時はその時だ。


851 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/14 22:47:44.57 Jcbnw7aWo 440/508



そして一生をかけてでも、ヴェントが抱える歪んだ塊を払拭してやる。
一方通行はそう考えていた。そう考えられるほど、精神的に大きく成長していた。


だから、


「乗るわよ」

「ちょっと待てよ、なンで俺まで―――」

「この私に否定形はない」


ヴェントは振り向き、一方通行の真っ赤な目を見て断言した。


「私がやると言った事はやるの、絶対に。 否定だけは認めていない。
 ・・・・・・だから、アンタも一緒に乗るの、アレに。 私が乗れって言ってるんだから」

「どこの女王サマだオマエは」


一方通行は深くため息をつき、頭を掻こうと思ったが、両手が荷物で塞がっているためそれは叶わなかった。


852 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/14 22:48:57.04 Jcbnw7aWo 441/508



しかし、否定形はないと来たか。
一方通行は今までも女性のワガママに散々付き合わされてきたが、ここまできっぱりと
従わさせるような物言いをする女には出会った事が無かった。

・・・・・・いや、一人だけ。ある意味ヴェントと似たように面倒なワガママを言ってくるクソガキがいたか。

しかし一方通行も甘いところがあるのか、結局女性のワガママは断れないのだった。
昨日、ヴェントとあんな約束をしたばかりなだけに、余計に拒否出来ない。


「アンタの言う通り、上条当麻の言う通り、いつまでもこのままの生き方じゃダメかもしれない」

「・・・・・・・・・・・・」

「私は弟が喜ぶ事なら何だってする。 ・・・・・・あの日、弟は私がワクワクしながら
 アトラクションが動くのを待っている姿を見て、とても嬉しそうだったわ。
 姉バカと言われても仕方ないかもしれないけど、私にはそう見えたのよ」


853 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/14 22:50:00.95 Jcbnw7aWo 442/508



クスっと、自分で自分に失笑しヴェントは言う。


「私がこれに乗ったら、弟も喜んでくれるかしら?」

「・・・・・・・・・・・・。 ・・・・・・・・・・・・、ハッ」


一方通行は鼻で笑ってヴェントに背を向けた。


「死人に感情表現求めてンじゃねェよクソボケ」


荷物置いてくるからそこで待ってろ、と一方通行は託児所の広場から出て行く。


854 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/14 22:51:15.60 Jcbnw7aWo 443/508



これはある意味、ヴェントに舞い降りた千載一遇のチャンスなのかもしれない。
たかがアトラクションの一つや二つ、そんな入れ込んでまで乗る事ないだろうと思う人もいるかもしれない。

だが、ヴェントにとってこれは最大の挑戦と言っても誇張ではないだろう。


だが今、彼女には心強い味方がいる。
自身の科学に対する憎悪も嫌悪も、苦しみも全て一緒に背負ってやると言いのけたあの男。
突如として巨大なクルーザーと共に現れた、科学の集大成。


(・・・・・・まだ信じたわけなじゃない。 あの白いのの言葉を。
 鵜呑みになんてしない。 ・・・・・・けど今、あの男のがどこまで本気なのか試してみるならここしかない)


やはりまだ、一方通行を心の底まで信用しているわけではないが、
彼の言葉が真実なのかどうか少しでも知れるというのなら。

そして上条当麻の言葉通り、少しでも自分の生き方を弟のために変えられるのなら。


まずは目の前にある子供向けのちゃちなアトラクションくらい、乗ってみるのもいいだろう。


857 : 次回予告はここまでです。  ◆3dKAx7itpI - 2011/03/14 22:58:09.54 Jcbnw7aWo 444/508




                          【次回予告】



『手ぇ繋いでたら恋人同士なのかよ? だったらフォークダンス踊ってるペアも恋人になるのかよテメェの中じゃ?
 あぁ、それじゃ男同士でも女同士でもカップルが成立しちゃうわねぇ? テメェその年で同性愛に興味あんのか
 あーこりゃ将来が楽しみだわ、そうだろこのクソガキ!!』
―――――――――――ローマ正教、禁断の組織『神の右席』の元一員・『前方』のヴェント




『ガキを泣かしてンじゃねェよ、更に居辛い状況になっちまったじゃねェか!! 大人気ねェにも程があンぞオマエ!!』
―――――――――――『天使同盟(アライアンス)』のリーダー・一方通行(アクセラレータ)




878 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/15 21:39:41.02 8eevnv13o 445/508



そういうわけで、一方通行は荷物預かりサービスにて彼女たちの狂った量の買い物袋を全て預け、
再びアミューズメントライドがある託児所に戻ってきた。

彼はヴェントの要望通り、ジェットコースターに一緒に乗ってやろうと思ったのだが。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


二人は託児所の広場の端でボーッと立ち尽くすだけだった。
乗るならさっさと乗れ、と言いたくなるかもしれないが、少し考えてみてほしい。

もしここが、この場所がそこらにある割と有名な遊園地やテーマパークだったら、
二人は迷うことなくジェットコースターが目的で出来ている人の列に並んでいただろう。




しかし、ここは託児所である。託児所とは、平均年齢五、六歳くらいの男女の子供が
親が買い物を終えるまで暇をせず遊べるようにと設けられた施設だ。




879 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/15 21:40:41.29 8eevnv13o 446/508



「・・・・・・・・・・・・なァ」

「な、なによ」

「マジで乗るンすかコレ? やっぱやめといた方がよくねェ?」

「わ、私に否定形はな―――」

「いやそれはもォ聞いたけどよォ」


ジェットコースターがキャッキャとはしゃぐ子供たちを乗せ、コミカルなメロディと共にカタカタと前進し始めた。
残りの子供たちも次に乗車するために列を作り出している。
一方通行とヴェントが乗るのなら、もうそろそろ並んだほうがいいわけだが・・・・・・。


「いやァ、ちょっときつくないですかァコレ」

「何よ。 アンタ、こういうガキ達と乗るのが恥ずかしいとか言うんじゃないでしょうね」

「オマエはどォなンだよ」

「・・・・・・へ、平気よ。 こんなの全然、じゃがいもだと思っておけばいいのよ」


880 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/15 21:42:01.43 8eevnv13o 447/508



二人はただ楽しむためにジェットコースターに乗るのではない。

これはヴェント自身が抱くアトラクションへのトラウマを払拭するための大事な事でもあるし、
上条当麻や一方通行の言葉に耳を傾け、かつて起きた悲劇をいつまでも引っ張る自分を
少しでも変えてみよう、という彼女の確固たる決意を示すための行動だ。


だから、これが託児所の『遊具』であるという羞恥心などにかまけてる場合ではない、のだが。


「やべェ、周りの視線がより一層凄まじい事になってやがる」

「ちくしょう・・・・・・、こんなところで躓いてる場合じゃないのよ!!」


ヴェントはおもむろに一方通行の手を掴むと、ずかずかと歩いて子供たちの列に加わった。
周囲の子供たちの視線は白髪の悪魔と顔面ピアス女に否応なく集中する。


881 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/15 21:42:37.11 8eevnv13o 448/508





「みてみてーあの人、頭まっしろけ!」

「あのおねーさん、なんでベロにキーホルダーつけてるの?」

「俺の友達のおかあさんがあのおねえちゃんみたいに耳とかベロにいっぱいなんか付けてるよ!」

「うそー!? すげー、こえ~」




色んな人種の子供たちが、色んな国の言葉でヒソヒソと二人のことについて囁いている。
いや、もはや囁いているというレベルの騒ぎではなくなっていた。
風船を手渡している可愛らしいキャラクターの着ぐるみなど放ったらかしで、子供たちは二人の元に集まってくる。


882 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/15 21:44:26.24 8eevnv13o 449/508



もっとも、託児所という大抵は子供しかいないような場所に明らかな大人が、
それも一人は頭真っ白けのウサギオバケ、一人は近寄ることさえ躊躇ってしまう顔中ピアスだらけの女。
子供が興味本位で彼らに注目するのも仕方がない事だった。


「・・・・・・恨むぞオマエ」

「知らねぇよクッソ・・・・・・!」


子供たちは若干警戒しているのか、二人を凝視するものの、話しかけては来なかった。
託児所に設置されているベンチに座っている老婆――恐らく子供の保護者だろう――も、
どう考えても普通ではないこの二人に群がる自分の子供にどう声をかけたらいいか困惑しているのが分かる。


と、子供の一人が恐る恐る声をかけてきた。ロシア語だったため、現地の子供であることが分かる。


「ねぇ、おにいさんとおねえさんもジェットコースター乗るの?」


一方通行は目一杯の睨みをきかせ、重圧だけで子供を追い払おうとするが、
そのロシア人の子は純粋無垢な心ゆえか、彼の睨み殺すような表情にも臆しなかった。


883 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/15 21:45:18.78 8eevnv13o 450/508



「これ、こども用につくられた乗り物だよ? いいの?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「ねぇ、おにい――――」

「このお姉さンがどォしても乗りてェって言うから仕方なく俺も付き合ってンだよクソガキ」

「!?」


忌々しげに、しかし丁寧なロシア語で子供に返事をする一方通行。
隣で自分の手を握っているヴェントの握力が心なしか増加している気がする。メキメキいってる。


「ふたりはこいびとどうしなのー?」


今度はアジア系の小さな女の子が話しかけてきた。
彼女の言葉を聞いてヴェントの顔が真っ赤になる。


884 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/15 21:46:08.59 8eevnv13o 451/508



「そう見えんのか・・・・・・? あぁ・・・・・・!?」

「で、でもおててつないで――――」

「手ぇ繋いでたら恋人同士なのかよ? だったらフォークダンス踊ってるペアも恋人になるのかよアンタの中じゃ?
 あぁ、それじゃ男同士でも女同士でもカップルが成立しちゃうわねぇ? アンタその年で同性愛に興味あんのか
 あーこりゃ将来が楽しみだわ、そうだろこのクソガキ!!」


うわーん!と、女の子は泣き出して走り去ってしまった。
あまりのヴェントの迫力に周りの子供達も若干怯え始めている。


「ガキを泣かしてンじゃねェよ、更に居辛い状況になっちまったじゃねェか!! 大人気ねェにも程があンぞオマエ!!」

「子供で悪かったわねぇ!! ったく、ガキは何の躊躇いも無しにこの私に話しかけてくるから鬱陶しくてしょうがないわ」

「つかいい加減手ェ離せよ」

「離したらアンタ逃げるだろうが」


885 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/15 21:47:18.76 8eevnv13o 452/508



ますます手を握りしめる力が強まっていく。痛みで表情を歪ませる一方通行だったが、
これも彼女の心から来る不安の表れだと思うと無理やり振り解くことも出来なかった。

そんな二人に怯えながらも、二人と同じようにジェットコースターが帰ってくるのを待つ子供たち。
子供たちの列に混じっている二人は、言うまでもなく浮きまくりだった。


そして、


「来やがったぞ」

「・・・・・・・・・・・・、」


某放送局の子供向け番組のエンディングで流れそうなリズミカルな曲と共に、ジェットコースターマシンは
発進位置まで舞い戻ってきた。笑顔でマシンからわらわらと子供たちが降りてくるが、
一方通行とヴェントの険しすぎる表情を見た途端、何だコイツら・・・・・・といった顔に変わっていく。


886 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/15 21:48:32.33 8eevnv13o 453/508



「よォ。 諦めるなら今だぞ」

「行くわよ」


意を決してヴェントはマシンに向かって歩を進めた。しっかりと手を握られているため、
一方通行も引っ張られるようにマシンに向かっていく。

ジェットコースターの係員のお姉さんが、明らかに困惑した表情を見せながら
英語で二人にベルトの着用を促し、このジェットコースターについての説明をペラペラと話してくる。


「あー・・・・・・、エイワスと浜面のバカと滝壺でデートした時の事思い出すわ。
 よく考えたらあの時ジェットコースターがトラウマになっててもおかしくなかったよなァ俺・・・・・・」

「は? アンタあんな化物とデートする趣味あったの?
 ていうかデートなんてしたことないって言ってたじゃない」

「ありゃ彼女と、って聞いてきたから否定したンだよ。
 それ抜きにしてもエイワスとのあれはデートというか拷問だったがな」


一方通行達の後列にいた子供たちもわいわい騒ぎながらそれぞれの席に着いていった。
ちなみに一方通行とヴェントは最前列だ。席が二つ、隣同士で接続されている至って普通のタイプの座席である。


887 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/15 21:49:34.17 8eevnv13o 454/508



隣にいるヴェントの呼吸がだんだん乱れ始めてきているのが窺える。
一方通行の手を握る力は更に強くなり、ふるふると小さく震えていた。


「・・・・・・やっぱやめといた方が良かったンじゃねェか?
 今からでも言えばベルト外してくれるだろ」


心配する一方通行の言葉に、それでもヴェントは小さく首を横に振った。
意地でもこの苦難を乗り越えてみせるという意志を見せながらも、彼女の口からは
小さくこんな言葉が漏れていた。


「・・・・・・・・・・・・何かあったらどうしよう・・・・・・」


まず周りの人間には聞こえない声量で、隣にいる一方通行すら注意しないと聞き取れないような声量で
ヴェントは抑えきれない不安を吐露していた。


888 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/15 21:51:02.04 8eevnv13o 455/508



「オイ、ヴェン―――」

『それでは、発進しまーす♪ いってらっしゃい!』


係員のお姉さんが見事なネイティブ発音でジェットコースターの発進を見送った。
再び広場にコミカルなBGMが流れ、二人を乗せたマシンは緩やかに前進していく。


「オイ」

「?」


そんな中、一方通行が前を見据えたままヴェントに声をかけてきた。


「そンな不安げな顔すンじゃねェよ。 こォなったらせっかくだから楽しンでいけ。
 オマエの弟も、オマエのそンな顔なンざ見たくねェだろ」

「アンタ・・・・・・」

「何かあっても俺がいるから心配はいらねェ、必ず守ってやる。
 ・・・・・・つっても、こンなガキ向けのアトラクションじゃスリルもクソもねェだろォけどなァ」


889 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/15 21:51:41.37 8eevnv13o 456/508



と、意地の悪そうな笑い方をする一方通行を、ヴェントは見つめていた。
彼の言葉はヴェントの不安を払拭させる事が出来たのだろうか。


「・・・・・・ふん、何格好つけてんの? 白いののクセに」

「うるせェ、カッコなんかつけてねェよ」


ヴェントは彼に気付かれないように、歳相応の少女の笑顔を浮かべながら
彼の手に指を絡ませる形で握りしめた。


「・・・・・・・・・・・・、一応、礼は言っておくわ。 ・・・・・・ありがと」

「へいへい、どォいたしまして」


後列の子供たちがキャーキャー騒ぐ中、マシンは山なりのレールをゆっくりと進んでいく。
ヴェントのアトラクションに対する不安は、一方通行によって何とか緩和出来たようだ。


890 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/15 21:52:31.34 8eevnv13o 457/508



マシンはただひたすら、下りの傾斜に向かって緩やかに進んでいく。
今は上りのレールのちょうど中間地点まで来ただろうか。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


一方通行とヴェントは、互いの手を握りしめたまま
無言で天まで運ばれていく。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


マシンは、ひたすら、ゆっくりと上りの傾斜を登っていく。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


891 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/15 21:53:12.77 8eevnv13o 458/508



ゆっくりと、カタカタカタカタ・・・・・・、と音を鳴らしながら、
山なりのレールの最高所までノンストップでマシンは前進していく。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・、何か、長くね?


「・・・・・・・・・・・・おいィ、えらい時間かかってンなこれ」

「わ、私さ」


ヴェントが震えた声で話しかけてきた。握ったその手の力はまたしても強くなり、
さっきまで収まっていた震えが再び怒っている。


892 : ×=怒っている ○=ぶり返している すみません。  ◆3dKAx7itpI - 2011/03/15 21:55:03.05 8eevnv13o 459/508



「なンだよこンな時に。 言っておくが途中下車は出来ねェぞ」

「ち、ちち、違う。 そうじゃねぇよ・・・・・・」

「あァ? ・・・・・・なンなンですかァ?」


ヴェントの表情は明らかに変わっていた。
さっきまでの過去の出来事に対する不安の表情ではない、それは一方通行の言葉で何とか払拭できた。
かと言って、科学の技術で構成されたこのマシンに対する憎悪といった表情でもない。


「わ、私、あの、さ」

「なァにキョドってンだァ? 便所でも行きたくなったか?
 ンじゃもォここでしちまえよ」


デリカシーゼロの最低発言にもまともにツッコミを入れる事なく、
ヴェントは意外な事実をカミングアウトしてきた。


893 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/15 21:56:30.29 8eevnv13o 460/508





「わ、私・・・・・・過去の事故の事とか、そういうの関係なく・・・・・・。 そう、
 あの時、弟と乗った時、いや"搭乗した瞬間"って言うのが正しいのかしら・・・・・・・・・・・・」

「?」

「死ぬほど苦手になったのよ・・・・・・、こういう絶叫系マシンが・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」




そう、ヴェントの表情は明らかに『恐怖』で染まっていた。

彼女は過去に起きた事件でこういうアトラクションが完全にトラウマになってしまったのだが、
その事故とは関係なしに元々こういったスリルマシンが極度に苦手なのだという。

幼少時、アトラクションに乗る前はワクワクしていたとさっき言っていたはずだが、
どうやら搭乗した瞬間にマシンの恐ろしさを直感で悟り、苦手になってしまったらしい。


894 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/15 21:57:41.33 8eevnv13o 461/508



「ちょ、オイ。 オマエ何を今更―――」

「こ、こここ、これ、子供向けのアトラクションじゃなかったのかよ・・・・・・!!
 さっきから高く登っていくだけで全然下り傾斜が見えてこないじゃない・・・・・・!」

「確かにバカみてェに長ェな・・・・・・、つか元々苦手ならなンで乗ろォだなンて、」

「ついでに絶叫系マシンが苦手なのも克服してみようと思って・・・・・・うう」

「だから過度に怯えてやがったのか!! しかしもォ降りられねェぞ・・・・・・。 ――――、ン?」


と、ヴェントと言い合っている内に周りの景色が一辺した。


「・・・・・・・・・・・・な、なン・・・・・・だと・・・・・・!!?」

「ちょ、ちょちょ・・・・・・、何、なんで・・・・・・!?」


隣にいるヴェントはもはや完全にキャラが崩壊してしまっていた。
いつもの強気な態度はどこへやら、完璧なまでに臆病なか弱い女の子へとジョブチェンジしまっている。
そしてそんな彼女の変化にも、一方通行は大して驚けなくなっていた。


895 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/15 21:59:00.89 8eevnv13o 462/508



無理もない。




今、一方通行達の視界に映っている景色は、どう見ても透き通った青空だからだ。




この託児所のジェットコースターのレーンは、なんと託児所の高い高い天井を突き抜けて設置されており、
乗らなければ気付けないのだが、上りのレーンの最高所はビル三〇階分に相当する高度だった。

このショッピングセンター、建造物はすこぶる多いのだがあくまで『ショッピングセンター』としての
体裁のため、立ち並ぶ多くのビルはせいぜい五階分ほどしかない。

一方通行がレッサーやサーシャと最初にこの街へ到着した時、見えていたレールはこれの事だったのだ。


(あン時は適当に言ったつもりだったが・・・・・・、まさかマジで託児所のジェットコースターだったとはな・・・・・・)


897 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/15 22:00:04.51 8eevnv13o 463/508



つまりこのジェットコースターに乗ればこのショッピングセンターを俯瞰出来る、という事になる。
上り傾斜の最高所は大体九〇メートル前後、といったところか。 どこが子供向けなんだこれ。


「・・・・・・ったくよォ、これのどこが子供向けアトラクションなンですかァ?
 小せェ遊園地にあるジェットコースターよりよっぽどスリルあンじゃねェか」

「ふざ、ふざけんなよクソ・・・・・・!! アンタこれ子供向けだって言ってたじゃないのよ・・・・・・!!」

「いや実際子供向けに作られたモンだろ。 ただいくらなンでもやりすぎだな、見ろよ」


後ろではこれが初の搭乗だったのか、何人かの子供がわんわんと泣き叫んでいた。
泣いている子供を見て不安に駆られたのか、他の子供達も親の名を叫び助けを求めている。
こんな乗り物を繰り返し乗って遊んでいる子供は相当度胸があるのだろう。


898 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/15 22:01:34.18 8eevnv13o 464/508



「まァ、あくまでこの街は『実験都市』だからなァ。 大方、ガキがどれくらいのスリルを
 求めてンのか、こォやって試験的にコースの調整してンじゃねェの?」

「託児所に来るガキがこんなスリル求めてるわけねぇだろうがぁぁ!!!!!!!!」


もっともな意見を高度八〇メートル辺りで声を大にし、ヴェントは叫んだ。
自分たちよりも大人なヴェントのパニクった叫びを聞いて、後列の子供たちも更に泣き喚く。


一方通行は冷静に、後方を眺めながら子供たちの様子を見ていた。
万が一、億が一に混乱した子供が暴れてベルトがぶっ壊れるなんて事があれば終わりだ。
そんな普通に考えたらあり得ない悲劇も一応考慮し、一方通行は電極チョーカーのスイッチをオンに切り替える。


「すげェな。 この高さでも馬鹿みてェに喜ンでるガキもいるぞ。
 ほら、あの後ろから四列目の―――――」

「んなもん見てられるわけねぇだろ!!! どうすんのよ!? 落ちるわよこれ!? 落ちる・・・・・・!!」


乗客がギャーギャーと騒いでいる間に、ジェットコースターマシンはついに最高所の地点へ引き上げられた。
カタカタ・・・・・・カタン、とマシンの車輪音が止まる。聞こえてくる音は子供たちの叫び声と上空から吹いてくる風だけだ。


899 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/15 22:03:07.43 8eevnv13o 465/508



「ねぇ、ちょっと・・・・・・何でこれ先のレーンが無くなってんのよ・・・・・・!?」

「無いわけねェだろ。 下りの角度が結構急みてェだからそンな風に見えるだけだ」

「ホント・・・・・・? ねぇ、ホントに・・・・・・?」

「コースが途中で途切れてるジェットコースターなンか作るわけねェだろォが。
 ンな怯えまくる事ァねェよ。 ったく、オマエ自分のキャラ設定地上に置き忘れてきちまったンじゃねェか?」


一方通行の言う通り、このジェットコースターの下りの落下角度はジャスト一〇〇度。
有名なジェットコースターは世界各地に存在するが、それでも落下角度一〇〇のコースはなかなか存在しないだろう。
いくら実験とはいえこれはさすがに子供向けだと胸を張って言えるアトラクションではなかった。


「た、助けてよ白いのぉ・・・・・・」

「助けるも何も別になンも起きてねェだろォが。 別に事故ったりしねェって」

「く、ぅ・・・・・・・・・・・・」


自分の手を握っているヴェントの手がじっとりと汗ばんでいるのが分かる。
一方通行はやれやれ、とため息をついてヴェントに言った。


900 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/15 22:04:16.45 8eevnv13o 466/508



「そこまで極度に怖がらなくていいだろ」

「何でアンタは平気なのよぉ・・・・・・!!」

「弟の分まで楽しめよ。 そのために乗ったンだろ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・わ、分かってるわよ」


ヴェントはふーっと深く息を吐いて気持ちを落ち着かせた。
後列の子供たちのテンションも色んな意味で最高潮に達していた。


そして、


「来るぞ」

「い、や―――――――――」


901 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/15 22:05:27.10 8eevnv13o 467/508





落下角度一〇〇という恐ろしい下り傾斜へ、マシンは轟音を鳴り響かせながら爆走していった。




ギュオオオオオオオオオオオ!!!!、とマシンは約一五〇キロという猛スピードでコースを駆け巡っていく。
途中のカーブでは後列の子供が心配になるほどのGがかかった。


「きゃああああああああああああああああ!!!!」

「おおおお・・・・・・なかなか迫力あるじゃねェか! エイワスの時ほどじゃねェが、
 ショッピングセンターにある乗り物にしちゃ上出来だァ!」


無邪気な子供のようにスリル満点のジェットコースターを楽しむ一方通行の姿はなかなかお目にかかれない。
彼はエイワスと浜面仕上、滝壺理后と共にこういったスリルアトラクションマシンに乗っているが、
あの時はエイワスの誰も望んでいないサプライズのせいでベルトを破壊され、楽しむどころではなかった。


902 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/15 22:06:31.55 8eevnv13o 468/508



そんな事もあってか、純粋に身体にかかるGを楽しむ一方通行だったが―――――。


「きゃあああああああああああああああああ!!!! いやああああああああああああああああああああ!!!」


さっきから一方通行の鼓膜を突き破らんと、女の子らしく叫びまくっているのは言うまでもなくヴェントだ。


目尻に浮かんだ涙を流しながら、彼女は片手で一方通行の手を、片手で首もとにあるベルトをギュッと握り締め、
振り落とされないように必死に踏ん張っていた。設計上振り落とされるような事はあり得ないのだが。

当然だが、彼女は口を開いて絶叫しているため、舌先の霊装付きチェーンが後ろになびいてしまっている。


「いやあああああああああああああああ!!! あ、一方通行、助け・・・・・・!!!」

「うるっせェンだよオマエはさっきからァ!!!」


そんなこんなで、ヴェントは気を失ったりすることなく、見事に最後までマシンに乗り続けていられたのだった。
さりげに彼女は一方通行の名を呼んだのだが、彼の耳には届かなかった。


904 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/15 22:12:50.25 8eevnv13o 469/508




                          【次回予告】



『楽しいと思ったンなら素直に笑えばいいし、
 それが出来ねェンなら俺がオマエを笑顔にしてやる。 そンだけだ』
―――――――――――『天使同盟(アライアンス)』のリーダー・一方通行(アクセラレータ)




『少しだけ、期待しといてあげる』
―――――――――――ローマ正教、禁断の組織『神の右席』の元一員・『前方』のヴェント




909 : VIPに... - 2011/03/15 22:18:13.70 c/w8D736o 470/508

直角は90度なので100度だと裏返りますよと言ってみても構いませんか。
そりゃヴェントも泣き叫びますよ。

914 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/15 22:23:28.03 8eevnv13o 471/508

>>909
脳内で適当に角度調整しといてください。
こういう適当なところがあるからいつまで経っても成長しないんだろうな・・・・・・

ごめんなさい

936 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/17 22:02:53.10 BZFhL1eSo 472/508



スリル満点のジェットコースターを思う存分楽しんだ一方通行は現在、
ショッピングセンターのトイレの個室の前で佇んでいた。


「・・・・・・・・・・・・オイ、いい加減出てこいよ」


もちろん、一方通行は腹を下してしまい猛烈な便意に襲われたため急かしているのではない。
そもそも彼が今いるトイレは、女性専用のトイレだ。


「いつまで泣いてンですかァ? ガキじゃあるめェしよォ」

「・・・・・・ぐすっ、泣いてねぇよクソったれ・・・・・・」


一方通行の目の前にあるトイレの個室からは、さっきからしくしくと嗚咽する声が聞こえてきていた。
その声の正体は言わずもがな、元『神の右席』の魔術師、ヴェントである。


937 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/17 22:03:57.83 BZFhL1eSo 473/508



彼女はジェットコースターマシンが終点に到着した後、顔を両手で覆い隠しながら全速力で下車し、
近くにあった化粧室を見かけるや否やそのまま個室に閉じこもってしまったのだ。

その後はただ、個室の中ですんすんと鼻をすするだけ。
後から追いかけてきた一方通行が呼びかけても個室から出てくる気配は微塵も感じられない。


彼らが乗ったジェットコースターは確かに子供向けに作られた物とは思えないほどのスリルと迫力だったが、
俗に言う『ループ』や『コークスクリュー』、『四次元』など、ジェットコースター特有のギミックは無かった。
傾斜と速度以外は至って普通のジェットコースターだったのだが、絶叫系アトラクションが大の苦手な
ヴェントには相当堪えたらしい。


「まァよく頑張ったじゃねェか。 立派立派」

「うるさい・・・・・・、やっぱり科学なんて大嫌い・・・・・・ぐす」


一方通行は短く息を吐いてポケットから携帯電話を取り出す。


938 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/17 22:04:52.97 BZFhL1eSo 474/508



「・・・・・・・・・・・・」


『不在着信:93件』


全て風斬氷華の携帯電話からだった。
と言っても恐らくは風斬ではなく、レッサー辺りが彼女の携帯からかけまくったのだろう。

確かに、彼女たちに荷物を置いてくると言ってから既に二〇分以上が経過している。
半公開型ARによるショッピングセンターの見取り図がある以上、迷ってましたでは言い訳できない。


(面倒くせェ事になってンな・・・・・・クソ)


いい加減、ヴェントを元に戻さないといつまで経っても風斬達に合流できないと悟った一方通行は
さっさと出てくるよう彼女に呼びかける。


939 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/17 22:05:51.03 BZFhL1eSo 475/508



「うるっさいわね・・・・・・分かってるわよ。 つーか女子トイレに平気で入ってくんじゃねぇよテメェ・・・・・・」


と、毒づきながらも彼女の入っている個室から鍵が解除される音が響いた。
一方通行がドアの前から退くと、ヴェントは顔を隠しながらよろよろとした足取りで個室から出てきた。


「なに顔隠してンだオマエ?」

「・・・・・・め、メイクが・・・・・・」


どうやら涙を流しすぎてメイクが崩れてしまったようだ。
そんな顔を見られたくないからか、ヴェントは大きな鏡の前に移動し、手でシッシッと出て行くよう促してきた。


「別に気にすることねェだろ。 スッピンでも俺は構わねェけどな」

「アンタが構わなくても私が構うの。 先行ってなさいよ」

「出た所で待ってるからな」


意地の悪いことは言わず、一方通行は素直にトイレから出て行った。
ヴェントは彼が出て行った事を確認すると鏡で自分の顔を凝視する。

確かに少しだけメイクが崩れていたが、目元の黒がちょっと滲んでいるだけで、すぐに修正できる範囲だった。


940 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/17 22:07:05.63 BZFhL1eSo 476/508



程無くして、ヴェントが化粧室から出てきた。明らかにしょぼくれている。


「お疲れさン」

「ふん」


いつも通りに振る舞おうと強気な態度を見せてはいるが、やはりどこか迫力が無かった。
このショッピングセンターに来てからの短時間に、色々な事がありすぎたからだろう。


「楽しかったか? ジェットコースター」

「二度と乗らない」

「そォかよ。 まァいいンじゃねェの、それでも」


941 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/17 22:08:17.73 BZFhL1eSo 477/508



「・・・・・・・・・・・・」

「少しは胸の中のモヤモヤも消えたか?」

「・・・・・・・・・・・・かも、ね」


もういいから行くわよ、とヴェントは一方通行の手を取ってずかずかと歩き出した。
杖をついている一方通行は急に手を引っ張られてコケそうになってしまう。

一方通行はひたすら前を見て歩いて行くヴェントを睨みつけながら、


「ちょっと待てコラ。 もう手ェ繋ぐ必要はねェだろォが」

「いちいちうるさいっつってんでしょアンタは。 このヴェントが仕方なく手を繋いであげてるんだから、
 感謝の一つくらいしたらどうなの? 光栄に思うべきだわ」

「仕方なくって・・・・・・」

「アンタ杖ついてるから、歩幅合わせて歩くのが面倒なんだよ」


942 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/17 22:09:04.03 BZFhL1eSo 478/508



ヴェントは一切こっちを見ずに、一方通行の意志など無視して歩を進めていく。
さっきまで死にそうな顔をしていたくせに、と一方通行はうんざりとした表情を浮かべた。


さて、風斬達にここまで遅れた理由をどうつけようかと、その学園都市最高の頭脳をフル回転させて思考していると、


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ねぇ」

「あン?」


急にヴェントは歩く速度を弱め、普段の歩調で歩き始めた。
と同時に、振り向くことなく一方通行に声をかける。


「アンタは、楽しかった?」

「さっきのジェットコースターの事か?」

「それもそうだけど・・・・・・、その、あれよ」

「?」


943 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/17 22:10:08.10 BZFhL1eSo 479/508



何か言いたげに、しかし言おうかどうか逡巡しているように見える。
一方通行はヴェントと手を繋いだまま、とりあえず彼女の言葉を待っていた。


時間にしたらわずか数秒だが、ヴェントは迷った挙句彼に言った。


「アンタは・・・・・・私とこういう風に過ごしてて、楽しかった?」


決してこちらとは目を合わさず、何とも照れくさそうな仕草を見せながら
ヴェントは目を泳がせつつ一方通行に尋ねた。


「・・・・・・・・・・・・楽しかったか。 って言われてもなァ」

「・・・・・・正直に答えろよ」

「ンじゃその前に、オマエはどォだったンだよ?」

「え?」

「俺とこォして遊ンでて、オマエは楽しいか? 正直に答えたら俺も答える。
 等価交換ってなァ。 こンな時くらい平等にいこォぜ」

「質問に質問で返してんじゃねぇよクソ野郎・・・・・・」


944 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/17 22:11:10.07 BZFhL1eSo 480/508



ヴェントはしばらく押し黙っていたが、やがて観念したように息をついて
一方通行の顔をキッと睨みながら答えた。


「正直、ジェットコースターとかああいう乗り物にはもう本当に乗りたくないんだけど、」

「あァ」




「楽しかったわよ、アンタがいたから。 引きずりまくってた過去も怨念も、
 少しは軽くなった・・・・・・・・・・・・、かも知れないわね」




ふん、とヴェントはイジケたように一方通行から顔を逸らす。


945 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/17 22:12:33.85 BZFhL1eSo 481/508



ヴェントにとって、これは非常に勇気の要する言葉だっただろう。
彼女は決して軽くしてはいけないと思っていた。胸に秘める過去の悲劇を、科学に対する憎悪を。

しかし、一方通行とこうして過ごしてみると、言い訳のしようもなく、ごまかしようもなく、
ヴェントの心にずっしりとのしかかっていた蟠りがスゥっと、コーヒーに入れた砂糖のように消えていくのがわかった。


だがそれを言葉にして認めてしまうと、いずれは自分の命を代償にしてまで救ってくれた
弟との思い出まで消えてしまいそうで、ヴェントは暗々裏にそれを恐れていた。


「アンタがいなきゃ絶対にあんなもん乗らなかったしね。 二度と乗りたくはないけど・・・・・・、
 白いのと一緒ならたまにはいいかな、くらいには思ってるわよ」

「・・・・・・そォかい、そいつは光栄だな」


946 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/17 22:13:55.79 BZFhL1eSo 482/508



それでも、ヴェントは言葉にした。口にして伝えた。今の自分の正直な気持ちを、
自分と一緒に闇を抱えてやると言ってくれた、目の前にいる白い白い少年に。


この男と一緒にいれば、思い出まで忘れることはない。
なぜならこの男も、自分の思い出を背負ってくれているから、と。

しかしあと一歩、何かが足りない気もした。


「それで、アンタはどうなのよ」


改めて一方通行に問いかける。自身の気持ちは伝えた、では彼はどうなのか。


「・・・・・・まァ、楽しいっちゃ楽しい、な」

「何それ。 ハッキリしろよ男のクセに」

「うるせェよ、いつもの調子に戻ったからって図に乗ってンじゃねェ。
 ていうかなァ、オマエ一つ間違ってるぜ」

「あぁ?」


947 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/17 22:15:01.30 BZFhL1eSo 483/508



自分の素直な気持ちを吐露したというのに、一体どこをどう間違えているというのか。
ヴェントはイライラしながら彼の言葉を待った。




「『楽しかった』、じゃねェだろ。 『楽しい』、だ。 オマエが本当にそォいう気持ちになったンなら、
 それは『楽しかった』じゃなくて『楽しい』、だろ? 勝手にここで終わらせンじゃねェよ。
 無理やり俺を付き合わせといて、勝手に終わらせるンじゃねェ。 こっから先も『楽しい』は続くンだ。 ていうか、」




ジッと一方通行の顔を見つめて話を聞くヴェントに、彼は続けて言った。


「俺がオマエもこれからも『楽しませてやる』。 普段みてェな憎たらしい笑顔じゃなくて、
 いつか俺が、オマエを本当の笑顔にしてやる。 あのオマエの部屋にあった写真みてェになァ」

「・・・・・・!」


見ていた。見られていたのか。


一方通行は昨日、ヴェントの部屋に入った時に部屋の机の上に飾ってあった写真立てを発見している。
ヴェントは速やかにその写真立てを伏せたが、まさかあの時に写真までしっかりと見られていたとは。


948 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/17 22:16:40.72 BZFhL1eSo 484/508



「あ、アンタ・・・・・・!」

「あァーはいはい、勝手に見たことは謝りますよォ。 つかアレはオマエのミスだろォが。
 ・・・・・・まァとにかく、そォいう事だ。 楽しいと思ったンなら素直に笑えばいいし、
 それが出来ねェンなら俺がオマエを笑顔にしてやる。 そンだけだ」


楽しいと思ったのなら素直に笑え。


この言葉を、一方通行は自身にも言い聞かせた。彼も人のことは言えない。

『天使同盟(アライアンス)』の面々と共に過ごす事を楽しいと思っている彼も、
まだどこか素直な笑顔にはなれないでいるのだから。


言いたいことだけ言うと、一方通行は繋いでいた手を解き、表情を固まらせているヴェントの横を通りすぎて
カツカツと杖をつきながら歩いて行った。

ハッとして、ヴェントも慌てて彼を追いかける。


949 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/17 22:18:04.51 BZFhL1eSo 485/508



「・・・・・・アンタってお人好しなの? それとも偽善者?」

「お人好しでもなけりゃ偽善者でもねェし、聖人君子でもなきゃ天使でもねェ。
 ・・・・・・他人の気持ちにも気付けねェ、ただの愚鈍なバカ野郎だ」


一方通行は舌打ちをしながら、自分を戒めるように言う。

彼も彼で、あの昨晩の風斬の件を未だに引きずっているのだろう。
なかなか相手の真の気持ちに気付けないでいる自分に嫌悪し、二度目のイギリス来訪の時も
過去の出来事に心を引きずられた。


そういう意味では、一方通行とヴェントは似たような共通点があった。


「・・・・・・なら、その愚鈍でクズでゲス野郎なアンタに言ってあげるわ」

「いやそこまで戒めてはないンですけど」


950 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/17 22:19:00.88 BZFhL1eSo 486/508



ヴェントはさっさと進んでいく一方通行の隣に並んで歩きながら言った。


「少しだけ、期待しといてあげる」

「・・・・・・ご期待に応えられるよう、せいぜい頑張らせていただきますゥ」


少しだけ、という含みのあるヴェントの物言いには理由があった。

彼女はまだ少し、あと一歩のところで、数値にすれば残りの一、二パーセントだけ、
まだ彼を信じてはいなかった。


951 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/17 22:19:50.18 BZFhL1eSo 487/508



それは、やはり長年『神の右席』として科学への憎悪を糧に戦ってきた経歴があるからなのだろう。
科学サイドの頂点とも言える一方通行を、まだ完全には信じる事は出来ないでいた。
一方通行が自分に言ってくれた言葉が、どこまで本当なのかを。


そして、それを確かめる方法はある。一方通行が、ヴェントの事をどう想っているのか、
"半ば強引ながらそれを確かめる『魔術』"が一つだけ存在する。


しかし、今の彼女にはもうその魔術は使えない。


「急ぐぞ。 オマエと話してる間にも一〇回くらい着信が来てやがった」

「ねぇ、もう面倒だからこのままロシアに帰らない?」


信じたいのだが心の底でまだ疑う自分の気持ちにイライラしながらも、
ヴェントは一方通行と共にひとまず風斬達が待っている飲食店へと向かうのだった。


954 : ミスった・・・・・・  ◆3dKAx7itpI - 2011/03/17 22:29:22.88 BZFhL1eSo 488/508




                          【次回予告】



『―――その時は、私が君を殺すよ。 垣根帝督』
―――――――――――『天使同盟(アライアンス)』の構成員・エイワス




『役にも立たねえオモチャは"棄てる"に限るってか』
―――――――――――『天使同盟(アライアンス)』の構成員・垣根帝督




『なんだか私、超プレッシャーなんですけど?』
―――――――――――元『殲滅白書』のシスター・ワシリーサ




978 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/18 21:47:33.69 t9Ghw2KNo 489/508



――――――――――――――――――――――


パキッ・・・・・・。


ギキッ、パキン。


スッ、スッ。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


ペキッ。




「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?」





979 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/18 21:48:20.62 t9Ghw2KNo 490/508



ゆっくりと、少しずつ。視界を覆い隠していた闇に光が差してくるのが分かった。
自分は今、瞼を開こうとしている。


「・・・・・・、・・・・・・・・・・・・う、・・・・・・」


声は出る。だが必死になって搾り出さなければ声が出せないほど、自分は衰弱しているようだ。
それでも、自分が生きているという事実は確認できた。


パキャッ。


また変な音が聞こえた。

自分から少し離れたところからその妙な音は耳に届いてくる。
音の正体を確認するために首を動かそうとするが、少しでも動かすと鈍痛が走り行動を阻害してくる。


「・・・・・・・・・・・・ふむ、こんなものか?」


980 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/18 21:49:05.69 t9Ghw2KNo 491/508



その声の主は、何かを確認しているようだった。
不気味で、しかし美しく、心に染み渡るような透き通った声だ。


「う・・・・・・、ぐ、ぁ・・・・・・・・・・・・」

「うみゅ?」


次は変な声が聞こえてきた。
遠くからその声は聞こえ、その主はどうやら今、こちらに向かって歩いてきているようだ。
砂利を踏むような歩行音がザッザッと地面を伝って自分に届く。


砂利。


そういえばここは、エリザリーナ独立国同盟の地で使用されていた、防空壕の跡地だったか?


981 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/18 21:50:03.39 t9Ghw2KNo 492/508



「お、」

「く・・・・・・、なん、だ」

「おおおお! 起きた起きた! おっはよ~!」


寝覚めの時にはあまり聞きたくないような、明るく欝陶しい女の声。

知ってる。だんだん意識もハッキリしてきた。自分はこの女の声を知っている。


「・・・・・・ワシリーサ、か」

「ピンポンピンポーン♪ 大正解だにゃーん」


目を開けると、そこには手を腰に当て仁王立ちで自分を見下ろすシスター、
ワシリーサがニコニコと明るい笑顔を見せつけていた。


「おはよう、垣根帝督。 気分は如何かな?」


垣根はなんとか右方向に首を動かすと、そこには女の子座りで
何か手作業に没頭している聖守護天使、エイワスの姿が確認出来た。


982 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/18 21:52:58.25 t9Ghw2KNo 493/508



垣根帝督は事の顛末を全て思い出した。


そう、垣根はワシリーサとエイワスを連れ、二度目の魔術の実践訓練を実行していたのだ。
もちろん、魔術の訓練を行うのは垣根帝督自身である。


内容は前回よりはかなり善戦出来たはずだ。
何度かワシリーサの攻撃を喰らってはしまったものの、それで戦闘不能状態に陥ることはなく、
防戦一方という展開にもならず、こちらからも果敢に攻めていけた展開だったはずだ。


「大丈夫ぅ? 起き上がれる?」

「・・・・・・ああ」


ワシリーサは気を遣って手を差し伸べてくるが、垣根は首を横に振って拒否の意を示す。


983 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/18 21:54:02.60 t9Ghw2KNo 494/508



(・・・・・・それで、どうなった?)


ワシリーサが髑髏のランプによる連続攻撃を仕掛けてきたが、垣根帝督はそれを初見で看破。
髑髏のランプを次々と破壊し、蛙の姿になって逃げ回っていたワシリーサを引きずり出すまでは出来た。

そして垣根は魔術による多重攻撃をワシリーサに放った。それが当たれば合格、といった内容だったが―――。


「あ。 おい、どうなったんだよ」

「にゃにが?」

「訓練。 俺の攻撃をテメェに当てりゃ終了だっていう条件だっただろうが」


スムーズに言葉を紡ぐことが出来、垣根は若干驚いて喉の調子を確かめるように手を添える。


984 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/18 21:55:33.94 t9Ghw2KNo 495/508



見れば、身体の節々に痛みはあるものの、致命的と言えるような傷は見当たらなかった。
全身至る所に乾いた血の跡が残ってはいるが、こうして生きている以上出血多量で死んでしまったという事はない。

ただ、垣根が着ている衣服はズタボロの血だらけだったが。


「・・・・・・また、駄目だったって事か」

「かなり惜しいところまでいったのだがね。 十分に健闘したんじゃないか?
 まぁ、私が賞賛の拍手を送った頃には君は意識を失ってしまったからね」


エイワスが手元で何か精密作業をしながら適当に言う。


「そうそう、随分健闘したと思うわん♪ 私に『騎士』の『黒』を使わせたのだから」


985 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/18 21:56:28.45 t9Ghw2KNo 496/508



騎士。黒。この二つのワードに垣根は眉をひそめる。


そうだ。確か自分が魔術の多重攻撃を仕掛けた時、ワシリーサはいつの間にか
不気味な黒い騎士と馬を呼び出していた、気がする。


そうしたら急に、この地下空間に『夜』が訪れて――――。


「・・・・・・ならこれは、あの騎士にぶった斬られた痕ってワケか」

「メンゴメンゴ! やっぱりどうも手加減出来なくてねぇ」

「いらねえっつってんだろ」


垣根の衣服は左肩から右腰辺りにかけて、一直線に刃物で斬られたように裂けていた。

裂けていた、というよりは引き千切られていたという言い方が正しいだろう。
鋭利な刃物ではなく、刃こぼれした鋸で無理やり引き裂かれた感じが見て取れる。


986 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/18 21:57:22.86 t9Ghw2KNo 497/508



そして恐らく、いや間違いなく、その一撃で垣根は沈んだのだろう。


「・・・・・・チッ。 何が惜しいんだよ」

「いやマジでいいセンいってたわよ? そこらの魔術師よりはセンスあるんじゃないかしら」

「以前とは違って今度はべた褒めだな。 アメとムチってか?」

「そういうのあんまり得意じゃないし、飴と鞭ならお姉さん、鞭の方が好みだわ♪」


その鞭でサーシャちゃんに思いっきり引っ叩いてもらえれば、あぁ・・・・・・、とワシリーサは
頬を赤らめて悶えている。そろそろこの変態にはついていけなくなってきた。


「あぁ、ついでに言っておくが、君の攻撃はワシリーサには届かなかったよ。
 しっかりと確認しておいたから安心するといい」

「そいつはどーも」


987 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/18 21:59:32.03 t9Ghw2KNo 498/508



分かりきっている事をいちいち説明してくるエイワスをジロリと睨む垣根。
攻撃が当たっていればワシリーサもちゃんと告達してくるだろう。
彼女はそんな事をひた隠しにするようなタイプの人間ではない。


「明日の朝」


と、エイワスが相変わらず手作業をしたまま口を開いた。


「明日の朝、ワシリーサとの魔術訓練を行いたまえ。
 そこで決着をつけるんだ。 今回の訓練を見て大体理解した」

「は? 何で明日の朝なんだよ。 俺は今からでも行けるぞ。
 俺が受けた傷も全部テメェが治したんだろ?」

「今日はもうやめておきたまえ。 ・・・・・・三度目の正直、という言葉くらい耳にした事があるだろう。
 そうだな・・・・・・。 明日の朝の実践訓練でワシリーサに一太刀すら浴びせる事が出来なかったら――――」


エイワスはピタリ、と手作業を中断し、薄く笑みを浮かべながら垣根の宣告した。


988 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/18 22:00:15.03 t9Ghw2KNo 499/508





「―――その時は、私が君を殺すよ。 垣根帝督」




チッ、と垣根は殺害予告を受けても忌々しげに舌打ちをするだけだった。
すぐ側にいたワシリーサはエイワスの言葉に驚いてヒュウ♪と口笛を吹いていた。


「既に二度もワシリーサと対峙し、二度目には善戦することが出来た君が、
 それでも三度目にワシリーサを追い詰めることが出来ないのであれば、あとはもう
 何度やっても同じことだ。 君はそれでも魔術から足を洗いはしないだろうが、
 無様に足掻く君を見ても興が冷めるだけだ。 そんなことになるくらいなら私が自身の手で消す」

「どこまでも自分勝手な野郎だな。 役にも立たねえオモチャは"棄てる"に限るってか」

「今の君にはそんな感情を抱いてはいないよ。 だがこれ以上足掻くつもりなら、
 君はただのガラクタだ。 ゴミはゴミ箱へ、人間なら誰もが実行している事ではないかね?」


989 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/18 22:01:39.61 t9Ghw2KNo 500/508



「言ってくれるじゃねえか。 テメェに感情なんてねえだろうがよ」

「まぁ、君を復帰させたのも私だしな。 三度目の実践訓練が失敗に終わったら、
 その時は責任を持ってアレイスターに君を『返却』するとしようか」

「・・・・・・!!」


アレイスターの名を耳にした途端、垣根の表情が憎悪に満ちた鬼のような顔に変貌する。
またあのクソったれの"魔術師"の玩具にされるために学園都市へ舞い戻るなど、冗談ではない。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・いいぜ」


990 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/18 22:02:17.51 t9Ghw2KNo 501/508



「ん?」

「殺れよ。 明日の朝、俺がワシリーサに一撃も喰らわせられなきゃ、
 そん時はまた俺を脳みそにでも冷蔵庫にでも何でもしてアレイスターのクズに差し出せ」

「男に二言は無いぞ?」

「分かってんだよクソボケが」


垣根はゆっくりと立ち上がり、体中に付着した土や砂を手で払う。
勝手にポンポンと話を進められたワシリーサは、わざとらしく指を唇に当てうーん、と唸って、


「なんだか私、超プレッシャーなんですけど? でも悪いけど、やっぱり手加減はしないわよ?
 手加減なんてしたら多分、エイワスが私を殺しちゃうでしょ?」

「ふふ、いやいや・・・・・・そんな。 恐れ多い・・・・・・・・・・・・くく」


再び手作業を始めるエイワスの表情からは、何を考えているのか見当もつかなかった。


991 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/18 22:03:24.14 t9Ghw2KNo 502/508



エイワスの気紛れかもしれない言葉を、垣根は受諾した。
明日の朝、ワシリーサに一太刀浴びせる事が出来なければ、垣根帝督は死ぬ。

厳密には『死』というより再び脳だけにされて生かされる、と言ったほうが正しいが
そんなものは垣根とっては『死』も同然だった。死んだほうがマシとすら思っているかもしれない。

真面目な話、垣根帝督を殺せる人間などこの世に数人といないかもしれない。
彼の所有する能力、『未元物質(ダークマター)』はそこらの兵器などでは傷一つ負わせられない代物だ。


しかし、彼を殺すと宣言したのはエイワスだ。
この金髪の怪物なら、恐ろしいことに垣根帝督など呼吸をするかの如くあっさりと、容易く始末してしまうだろう。


しかし、


(面白え・・・・・・)


992 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/18 22:04:22.05 t9Ghw2KNo 503/508



垣根帝督は胸から込み上げてくる高揚感を抑えきれずにいた。思わず笑みがこぼれてしまう。


(そんくらいのリスクが無きゃやる気出ねえよなぁ。 アレイスターのクソったれの下に戻るくらいなら
 それこそ死んでもワシリーサに一発ぶちかましてみせる。 俄然やる気になれるってもんだ)


これで決まった。


明日。明日の朝が垣根帝督の運命の別れ道だ。
垣根はそこら辺に散らばっていたルーンを拾って地下空間から出ようとした。


「ああ、垣根帝督」

「あ?」


993 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/18 22:05:29.88 t9Ghw2KNo 504/508



と、エイワスが不意に垣根に話しかける。


「明日の訓練を見事にクリアしたら、それなりの報酬を君に授けようと思っているよ。
 魔術にお熱な君にはうってつけの代物を、ね」

「報酬・・・・・・? テメェなんざにプレゼントもらっても嬉しくもねえんだがな。
 何をくれるんだよ?」

「それは明日のお楽しみだ」


垣根はエイワスの手元に目線を向けて、


「・・・・・・・・・・・・、それか?」


994 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/18 22:06:38.91 t9Ghw2KNo 505/508



垣根が指したのはエイワスがさっきから手元で作業をしている妙な物体だ。
最初、垣根が意識朦朧の中で聞いたパキッ、だのペキッ、だのといった音の正体である。

よく見るとエイワスはその物体・・・・・・石だろうか?それを彫刻刀のような刃物で
巧妙な手さばきで削っている。


「ん? コレの事を指しているのか?」


エイワスは垣根に見せつけるようにそれを手に持って軽く掲げる。
パッと見ではそれは『十字架のような物』に思えた。


995 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/18 22:07:14.49 t9Ghw2KNo 506/508



「この十字架は君のために用意してるわけではないよ。 これは私の自己満足を満たすために作っているだけだ。
 君にはこんな『霊装』よりもっと素晴らしい物を用意しているから、楽しみにしていたまえ」

「・・・・・・ふん、せいぜい期待しとくぜクソ野郎」


ワシリーサに『また明日な』、と手を振って垣根は地下空間を後にした。


「ちゃんとサーシャちゃんの生着替え写真用意しといてよー!!!」


明日、訓練をクリア出来なければ垣根は死ぬという話を聞いているはずなのだが、
ワシリーサはやはり相変わらずだった。


996 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/18 22:08:06.35 t9Ghw2KNo 507/508

次回予告は次スレにて投下いたします。

では、このスレでもお世話になりました。
6スレ目へのご案内は少々お待ち下さい。

997 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/18 22:11:02.08 t9Ghw2KNo 508/508



垣根「・・・・・・次スレでも生き残ってやるさ」

http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1300453744/



続き:6スレ目
一方通行「そンなフラグはヘシ折ってやる」  ヴェント「・・・・・・あ?」【1】


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