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一方通行「フラグ・・・ねェ」【1】
一方通行「フラグ・・・ねェ」【2】
一方通行「フラグ・・・ねェ」【3】
一方通行「フラグ・・・ねェ」【4】

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一方通行「フラグ・・・・・・なのかァ?」  風斬「そうですよ!」【1】
一方通行「フラグ・・・・・・なのかァ?」  風斬「そうですよ!」【2】
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一方通行「フラグ・・・・・・なのかァ?」  風斬「そうですよ!」【4】

3スレ目
一方通行「フラグ・・・・・・じゃねェだろ」  エイワス「まだそんな事を言っているのか」【1】
一方通行「フラグ・・・・・・じゃねェだろ」  エイワス「まだそんな事を言っているのか」【2】
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4スレ目
一方通行「フラグ・・・・・・だろォな」  垣根「ち・・・・・・くしょ・・・・・・う」【1】
一方通行「フラグ・・・・・・だろォな」  垣根「ち・・・・・・くしょ・・・・・・う」【2】


667 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/11 11:30:58.19 jWwx/rwjo 309/464



――――――――――――――――――――――




「・・・・・・・・・・・・空いてる部屋がねェじゃねェか」




一方通行は杖をつきながらエリザリーナ独立国同盟の軍事施設内を闊歩していた。


食事を終え、一旦解散となり今日のところは特にやることが無くなった一方通行は
コーヒーを飲んで小休止した後、適当に空いてる部屋を見つけ就寝するために居住区へ向かった。

しかしどこもかしこも既に民間人や怪我を負った軍人などで埋まっており、
結局居住区全ての部屋が埋まっていると悟った彼はさっきまで居た軍事施設へ戻ってきたのだ。

668 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/11 11:32:15.42 jWwx/rwjo 310/464



「あり得るのかよこンな事・・・・・・、一人一部屋で使ってるわけでもねェってのによォ。
 ・・・・・・まさか俺達の船が突っ込ンじまった時に部屋がいくつかぶっ飛ンじまったかァ?」


その通りだった。
一方通行達『天使同盟(アライアンス)』が乗ってきた巨大豪華クルーザー『アライアンス』号が
突っ込んだ際、民間人が使用しているいくつかの居住スペースが破壊されていたのだ。
民間人の被害者が一人も出なかったのは奇跡に等しい。

しかしそうと分かれば愚痴も言っていられない。自分で撒いた種というやつだ。
もっとも、船を突っ込ませたのはあの金髪の大馬鹿野郎であって、一方通行に全ての非があるわけでもないが。


「クソったれが・・・・・・。 どっか適当な部屋に押し入ってそこで寝るしかねェなァ」


となるとまず独立国同盟の民間人の部屋は無理だろう。
いきなり船で突っ込んできた輩を部屋へ歓迎してくれるわけがないし、一方通行もその気はない。

669 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/11 11:33:23.40 jWwx/rwjo 311/464



必然的に、顔見知りのいる部屋へ入れさせてもらう事になる。


「しかし誰の部屋へ行きゃァいいンだ? まずガブリエルは論外だろォ・・・・・・、
 アイツのとこにゃサーシャのヤツもいるし、何よりそこで寝るとなったら何されるかわかンねェ。
 というかまず女がいる部屋で寝るっつうのも気が進まねェしなァ」


しかしそれなら、残る部屋はあの男がいる部屋しかないのだが。


「垣根かァ・・・・・・、チッ。 背に腹は代えられねェってか」


垣根と二人きりになると考えただけでも吐き気を催す一方通行だったが、我儘は言っていられない。
自分の心を無理やり納得させ、垣根の部屋へ向かうために踵を返そうとした時だった。


「待てよ、さっきメシ食ったオフィスで寝ればいいンじゃね?」


別に普通の部屋じゃなくても就寝は可能だ。一方通行は人間が一人寝転がれるスペースが
あればどこでだって寝ることが出来る自信がある。

670 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/11 11:34:26.66 jWwx/rwjo 312/464



そうと決まればあんなメルヘンが寄生している部屋へ向かう必要はない。
一方通行はそのまま歩を進め、やがてさきほどのオフィスルームへ到着した。


そして扉を開けると、




「あら、一方通行。 どうかしたの?」




そこには独立国同盟を結成した『聖女』、エリザリーナがパソコンとにらめっこしながら事務処理を行っていた。


「・・・・・・・・・・・・チッ」


既に先客がいたことにガッカリした一方通行は毒づき、オフィスから出ようとしたが、


「待って。 眠れないの? 良かったらここで休んでいくといいわ。
 ココアを入れるから適当に座っててちょうだい」

「いや別に俺は―――」

「ココアを入れるから適当に座っててちょうだい」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


問答無用とはまさにこの事。一方通行はエリザリーナを睨むが彼女は気にも留めず席を立ち、
粉末状のココアをマグカップに入れ始めた。

671 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/11 11:35:32.12 jWwx/rwjo 313/464



一方通行は仕方なく好意に甘えることにした。その辺に無造作に置かれていたソファに座る。


「眠れねェっつゥか、部屋が空いてなかったンだよ」

「そう、すぐに部屋を確保すればよかったのに」

「まァいいけどよォ、自業自得みてェなとこもあるし」

「そこまで気を詰めなくてもいいのよ? 今は大切な客人として扱って―――あ、」

「! オイ」




ガタッと、ふいにエリザリーナが膝をついた。





672 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/11 11:36:32.61 jWwx/rwjo 314/464



一方通行は咄嗟に立ち上がり彼女の身体を支える。
ただでさえ顔色の悪い彼女の顔が、三倍増しくらいひどくなっているようにも見える。


「どォしたってンだ急に。 オマエがこンな風になったらマジで病気かなンかかと思っちまうだろ」

「ごめんなさいね・・・・・・。 ここ数日で色々な事が起こりすぎたから、
 後始末に追われっぱなしだったのよ。 少し疲れてるのかしら・・・・・・」


彼女が使用しているデスクには書類の山が二、三つ程ずらりと並べられている。
第三次世界大戦で大ダメージを負った独立国同盟に追い討ちをかけるがの如きプライベーティアの襲撃。
そしてそれにトドメをさしたのは『天使同盟』の来訪と言っても過言ではないだろう。

客人として自分たちをもてなすと言っていたエリザリーナだが、実際はそんな余裕などないはずだ。

673 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/11 11:37:33.53 jWwx/rwjo 315/464



「・・・・・・悪いな。 俺がワケもわからねェ連中を連れてきちまったばっかりに」

「あら、意外ね。 前にあなたがここへ来たときはそんな風に他人を
 気遣ってくれるような人には見えなかったけど」


そう言ってクスっと笑ってみせるエリザリーナ。どう見ても無理をしている。


「・・・・・・・・・・・・。 とりあえずソファに座れよ、見てらンねェ」

「ありがとう」


エリザリーナは一方通行の肩を借りてソファに腰を降ろした。

こうして至近距離で彼女の身体を見るとわかるが、本当に細身・・・・・・というにはあまりに生易しい、
痩せすぎな体つきをしている。一方通行も人のことは言えないが。

675 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/11 11:38:11.21 jWwx/rwjo 316/464



「・・・・・・別に気ィ遣ってるワケじゃねェよ。 そンな風に見えンのか?」

「そうね、前に見た時より雰囲気が変わっているように思うわ」

「そォかよ。 ・・・・・・まァ、俺も目ェ背けて生きてくわけにゃいかなくなっちまったからなァ」

「?」

「なンでもねェ。 ココア入れてやる」

「客人にやらせるわけには・・・・・・」

「黙って座ってろクソボケ」


制止しようとする彼女を放って、一方通行は代わりにココアを入れ始めた。
確かに以前の一方通行ならあり得ない行為かもしれない。

676 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/11 11:39:35.89 jWwx/rwjo 317/464



だが、彼もこれまでの旅で変わったのだ。第三次世界大戦の時とは比にならないほどに。


「・・・・・・国を背負うってのはどンな気持ちなンだ?」

「え?」


唐突な質問に思わず聞き返してしまうエリザリーナ。


「あンだけ大勢の人間を背負ってどォすンだ。 政府のやり方が気に入らなくて云々ってのはもォ聞いたが、
 なンでここまでしよォと思ったのか・・・・・・、ちょっと気になってよ」


彼女は逡巡するような仕草をとったが、やがて口を開いた。


「・・・・・・そんな事聞かれたのは初めてだわ。 そうね・・・・・・、私は別にこの同盟を立ち上げる際に
 大勢の人間を背負うなんて考え方はしなかったわ。 ただやれる事を、自分で出来ることを全てやってみようって、
 そう思って行動に移ったらいつの間にかエリザリーナ独立国同盟なんて大それた同盟が出来てただけよ。
 もちろん『魔導師』としての役目を果たすって意味もあったけど・・・・・・そこまで深く思いつめてはいないわ」

「・・・・・・そンなモンか。 ほらよ」

「ん、ありがとう」


一方通行はココアを入れたマグカップをエリザリーナに手渡し、彼女の隣に腰掛ける。

677 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/11 11:40:37.80 jWwx/rwjo 318/464



「あなただってそうなんじゃないの? 『天使同盟(アライアンス)』・・・・・・だったわよね。
 あなたはあの天使の事を背負ってあげようと考えてこの同盟を立ち上げたのかしら?」

「俺の場合は立ち上げたつもりすらねェよ。 ただちょっとした冗談で『天使同盟』だな、
 みたいな事言ったら風斬とガブリエルが本気にしちまいやがってよォ・・・・・・」

「どうしてそんな事を言ったの?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 別に、ただあいつらはこの世に、人間どもが蔓延るこの世に
 居場所がねェとか、そんな事を言ってたからよ。 だったら俺がその居場所を作ってやるって事で
 『天使同盟』なンて適当もいいとこな思いつきを発言しただけだ」

「そういう事よ。 私も同じ、路頭に迷っている人々に居場所を与えたかったから・・・・・・。
 だから結成したの、この同盟をね」

678 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/11 11:41:53.57 jWwx/rwjo 319/464



思えばこの二人は、同じ境遇、同じ立場だ。
『同盟』という名で組織を立ち上げ、活動している人間。

一方通行は当初、というか今でも『天使同盟』を組織などとは思っていないが、
エイワスの助力(?)も手伝い、今や立派な大組織に成り上がっている。


「同じったって規模が全然違うじゃねェか、俺ンとこは少数だが、オマエのはもう国だ。
 『天使同盟』はそンなでけェモンじゃねェからなァ」

「あら、同盟に規模も何も無いわ。 学校のクラスメート二人が何らかの目的、理想の
 一致で協力したり共に歩むことを決めたらその時点でそれも立派な同盟なのよ?」

「けっ、そォかよ」

「それに規模の話をしたら、あなた達の方が遙かに巨大じゃない。 何せ本物の大天使だもの、
 あなたはこの地球という星と、ミーシャがいるであろう天界をも背負ってると言っていいわ」

「シャレにならねェ冗談はやめろ」

679 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/11 11:42:40.00 jWwx/rwjo 320/464



「今のはロシアンジョークでも何でもなく、事実を述べたまでよ。
 あなた、その自覚があって?」

「星とか天界なンざクソ食らえだ。 俺ァあいつらがいればそれでいいンだ」

「あら、まぁ・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・。 チッ・・・・・・」


小っ恥ずかしさを払拭するように一方通行は熱々のココアをグイッと飲み、その熱さに吹き出しそうになった。


『あいつらがいればそれでいい』。つまり彼が望んでいるのは現状維持だ。

さっきの食事の時もベツレヘムの星の欠片についての情報を聞き出そうとしていたが、
有力な情報が手に入らなくても一方通行、及び『天使同盟』の面々は落胆した様子はあまり見られなかったように思う。

680 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/11 11:43:29.41 jWwx/rwjo 321/464



エイワスが言っていた、星の欠片を巡る旅はこれで終わるだろうというのはこの事を言っていたのかもしれない。
もうこれ以上の情報収集は行わず、あとは学園都市へ帰り天使を交えた騒がしい日常を過ごしていく。
一方通行はそう考えるだろうと予測してのエイワスの発言だったのではないだろうか。

もしそうなら、エイワスの予言は見事に的中したことになるが、結果はまだ分からない。


分かっているのは、大天使である彼女だけ。


「大変? 辛い? こんな同盟を立ち上げて後悔したことはある?」

「大変なンてモンじゃねェし死ぬほど辛いし、後悔なら現在進行形でしてるってンだ。
 だが・・・・・・、もうやめよォとは、不思議と思わねェンだよなァ・・・・・・。
 俺の頭も大概イカレちまったのかもな」

「でしょうね、あなたを見てるとそんな感じだわ。 なんだかんだで楽しそうにしてるもの」

「いちいち人の機嫌を窺ってンじゃねェよ」

「私も、あなたみたいに強かったら・・・・・・・・・・・・、・・・・・・」

「・・・・・・?」


エリザリーナの方を見ると、彼女は明らかに表情が沈んでいた。
俯き、マグカップを握り締め、その目は虚空を見つめているようで、『聖女』としての覇気が感じられない。

681 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/11 11:44:23.73 jWwx/rwjo 322/464




「・・・・・・・・・・・・オマエ本当に大丈夫か? もうさっさと寝た方がいいンじゃねェか」

「寝てなんかいられないわよ。 まだまだやることは沢山あるんだから・・・・・・」


そうは言っても彼女の様子をみる限りでは、とてもこの後仕事が出来るコンディションとは思えない。
このまま仕事を続けたら今度こそ倒れて病院行きになりそうな雰囲気だ。


「強がってンじゃねェよ。 放っといたら自殺でもしかねねェ雰囲気だぞオマエ」

「強がらなきゃいけない立場なのよ・・・・・・、先導者の私がもたついてたら、民間人に不安を植えつけてしまうわ」

「今のオマエの姿を民間人が見ても結局同じことだ、そンな事にまで頭が回らなくなってンのか」

682 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/11 11:45:02.20 jWwx/rwjo 323/464



とりあえず彼女の体調を回復させようとした一方通行は立ち上がり、エリザリーナに自分のジャケットを
羽織らせる。今にして気づいたがこの部屋は暖房機器が無い、どうりで自分がココアを飲むペースが速いと思った。


「ちょっと待ってろ」


そう言って一方通行はひとまずオフィスを出て行った。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




しばらくすると一方通行は何かを持ってオフィスに戻ってきた。

683 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/11 11:45:46.50 jWwx/rwjo 324/464



「それは・・・・・・」

「ファンヒーターだ、垣根の部屋からかっぱらって来た」


いきなり自分の部屋に入ってきた一方通行を見て、垣根は慌てて何かを隠していた気がする。
机の上で何かを書いていたようだが一方通行がさして気にしなかった。

ちなみに垣根の部屋にはヴェントの部屋にあったような暖炉が無かった。
まぁ彼なら自身の能力で寒さを防げるだろうと一方通行は適当に考え、許可もなしにファンヒーターを持っていった。


一方通行はコンセントの穴を見つけるとそこにコードを差し込み、ちょうどいい具合の温風が来るように
エリザリーナとファンヒーターの距離を調節してテキパキと準備をしていった。

自分たちがあの船で突っ込んだ時に電線なんかがやられているんじゃないかと一瞬頭をよぎったが、
居住区のあちこちで電気の光が漏れているところを見るとその心配はないらしい。
このオフィスだって電気やパソコンが付いているのだ。

684 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/11 11:46:42.58 jWwx/rwjo 325/464



ファンヒーターのスイッチを入れると、一分もしないうちに人工的で温かい風が出てきた。


「この部屋寒すぎンだろォ、これで暖まっとけ」

「・・・・・・・・・・・・あなたって世話焼きなのね」


第三次世界大戦の時、少ししかここにいなかった打ち止め(ラストオーダー)の安否を
いちいち確認してくれた彼女には言われたくないと思った。


「トップだからって張り切るのもいいけどよォ、時には休まねェといけねェって事くらい分かるだろォが」

「・・・・・・・・・・・・そうね。 でも、」

「強くなりたいとかそんなくだらねェ事考えなくていいンだよ。
 オマエはオマエだろォが。 強くならなくてもオマエにゃ大勢の人間が着いてきてる。
 それは俺も持ってねェ、オマエだけが持ってるモンなンだよ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


確かに自分は心も身体も弱いが、それでも着いてきてくれる人はいる。
自分でもそれは分かっていた、だから今日まで頑張ってこれたのだが、改めて言われると
それが更に重荷となりのしかかってくるような気がする。


「・・・・・・分かったわ、今日のところはもう休む。 でも、・・・・・・・・・・・・、
 こうして少しでも間を空けると、途端に張っていた糸が切れる気がして
 どっと力が抜けちゃうのよ・・・・・・」

「どンだけ根詰めてンだよ。 マジで死ンじまうぞ」


一方通行はドカッとソファに座り込み、深くため息をついた。

685 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/11 11:48:14.67 jWwx/rwjo 326/464



「あなたは姉さんとは全く逆の事を言うのね」

「あ? 姉さン?」

「『傾国の女』とも呼ばれている・・・・・・、フランス国家の軍師よ。 私の姉。
 姉さんは血反吐を撒いてでも国を率いていかなければいけない、それが国を背負うということだと
 考えているけど、あなたは逆。 端から冷静に見ているからそんな事を言えるのかも知れないけど」


フランス国家の首脳、または軍師とである彼女は、『傾国の女』と呼ばれている。
エリザリーナの姉であり、第三次世界大戦では第二王女のキャーリサとともにミーシャ=クロイツェフへ
デュランダルを片手に応戦した。


「休んでいろだなんて・・・・・・、そんな事言われたのいつ以来かしらね」

「民間人のヤツらだって言わねェだけでそう思ってるに決まってる。
 俺だって他人だからこンな事言ってるワケじゃねェよ」

686 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/11 11:49:19.79 jWwx/rwjo 327/464



「あら、私の事を想って言ってくれているのかしら?」

「・・・・・・・・・・・・だったらなンだ」

「優しいのね」

「こンなのが優しさだってんなら、世の中は善人で溢れかえってる」


だとしたら一方通行にとって『優しさ』とは何なのだろうか。

ミーシャや風斬に居場所を与えたことは、彼にとっては優しさではないのだろうか。
かつては殺しあった間柄の垣根帝督を受け入れたことは、優しさではなく何なのだろうか。

妹達(シスターズ)は?打ち止めは?番外個体は?義務?責務?気紛れ?

独立国同盟でヴェントが抱く闇を一緒に支えることを約束した事も優しさからではないのなら、同情か?
今もこうしてエリザリーナの身体をいたわっている事実も優しさではないのなら、

彼が思い描いている優しさとは、一体―――――。

687 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/11 11:50:37.95 jWwx/rwjo 328/464



「・・・・・・優しいわよ。 そこまでされると、私だってたまには人に・・・・・・甘えたくなる――」

「自分に正直になって生きればいいじゃねェか。 自分にまで嘘つく必要はねェンだ」

「そうね。 じゃあ、ちょっとだけ・・・・・・、いい?」

「はいはいどォぞ」


エリザリーナは身体を傾け、隣に座っている一方通行の肩にコテン、と頭を預けた。


身を粉にして独立国同盟の人々のために頑張ってきた、戦ってきた。
そうしなければいけない、先導者とは、『聖女』とは、『魔導師』とは、そうあるべきである。
そう考えて生きてきたエリザリーナに、この一方通行というまるで違う領域で生きている男は
自分に正直になれという。

だったら今のこの状態が嫌だとは言わせない。

688 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/11 11:51:17.43 jWwx/rwjo 329/464



「・・・・・・少しでいいわ、このまま休ませてくれないかしら?」

「・・・・・・・・・・・・好きにしろ」

「・・・・・・それとあの時、あなたに独立国同盟の危機を救ってくれた事に対して礼を言ってなかったわね。
 助かったわ、ありがとう」

「なンの話だ」

「忘れているのならそれでもいいわ、私が勝手に礼を言っているだけだもの」


静寂がオフィスを包んでいく。
聞こえてくるのはパソコンからわずかに漏れている起動音だけだ。


「・・・・・・・・・・・・こんな風に人に身体を預けるのも随分久々だわ。
 こんなにも気持ちが良いものなのね」

「その相手が俺だってンだからなァ。 いい気分とは言えねェだろ」

「そんな事無いわ、あなたって・・・・・・不思議と落ち着く。 ・・・・・・・・・・・・、
 ねぇ、もしかしてあなた、他の女性にもこうしてあげてたりするのかしら?」

689 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/11 11:52:05.78 jWwx/rwjo 330/464



「?」

「そうだとしたら、あなたは罪深い男だわ。 いつか刺されて殺されるわよ?」

「何言ってンのかよくわかンねェが、この俺が刺されて殺されるよォな間抜けに見えンのか?」


見えます。


「くす・・・・・・、鈍い人」

「ま、た、それか・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


ピクピクとこめかみを震わせて表情を険しくする一方通行。もう認めろ。


「細身の女は好みじゃないかしら?」

「あ? なンだ急に」

「何でもないわ。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・、・・・・・・・・・・・・」


しばらくすると、彼女の方から静かな寝息が聞こえてきた。
よほど披露が溜まっていたのだろう、少しくらい動かしても全く目が覚めそうにない。


・・・・・・・・・・・・。


いや、『少しくらい動かしても全く目が覚めそうにない』に他意は無いのであしからず。

691 : 次回予告はここまでです。  ◆3dKAx7itpI - 2011/02/11 12:00:36.97 jWwx/rwjo 331/464




                          【次回予告】



『・・・・・・ん!? ルーン文字がいらねえ札とかもあんのか!?
 ふざけんなエイワスの野郎!! そんな大事な情報を「袋とじ」にしてんじゃねえよ!!』
―――――――――――『天使同盟(アライアンス)』の構成員・垣根帝督




『風斬かマセガキか、ヴェントの部屋か・・・・・・・・・・・・』
―――――――――――『天使同盟』のリーダー・一方通行(アクセラレータ)




『す、すみませ~ん。 ドアが開いてますよ~・・・・・・って、えぇーっ!?』
―――――――――――『天使同盟』の構成員・風斬氷華

711 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/13 02:34:09.89 D0FSw57ao 332/464



――――――――――――――――――――――


「くっそ、一方通行の野郎・・・・・・ふざけた真似しやがって・・・・・・」


垣根帝督は居住区のとある一室を使用していた。
適当に空き部屋を探していたら運良く一発で見つかったのだ。


そんな垣根の部屋には現在、暖房機器が一切存在しない。
氷点下を軽く突き抜けるこのロシアの地で暖もとらずに部屋で過ごすとは正気の沙汰ではないと思うだろうが、
これにはわけがある。


「あの野郎何だってんだ、いきなり部屋に入ってきたかと思ったらファンヒーターパクっていきやがって・・・・・・」


垣根が机に向かい、ある作業に没頭していると突如として一方通行が部屋に押し入ってきたのだ。
その作業を他人に見られたくなかった垣根は心臓が口から飛び出るのではないかというほど驚いた。

712 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/13 02:34:58.18 D0FSw57ao 333/464



必死で机の上にある『ソレ』を隠すが、一方通行は見向きもせず、


『これ持ってくからな、答えは聞いてねェ』


と、どこかのイマジンみたいなセリフを吐き、ファンヒーターを持って出ていってしまった。


「ちくしょう・・・・・・・・・・・・」


というわけで、現在垣根の部屋には暖房機器が無いという事だ。


しかしそれでは寒すぎて作業に集中出来ないため、彼は自らの能力『未元物質(ダークマター)』の白い無機質な翼を
身体に纏い、寒気を遮断していた。なんともシュールな光景である。

713 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/13 02:35:37.43 D0FSw57ao 334/464



だが一方通行にファンヒーターを盗られた事について垣根はあまり追求しなかった。
彼は今、そんな事にかまけている暇は無いのだ。


「・・・・・・えーと、ここのルーン文字は・・・・・・、・・・・・・これか。
 チッ、ワシリーサのヤツ、あとは自分で修正しろだと・・・・・・ふざけやがって」


垣根は食事の前に行っていた自作の『ルーン』の札の修正作業を行っていた。
食事が終わった際、密かにワシリーサに修正作業の手伝いをお願いしたのだが、


『その程度も自分一人で出来なければ魔術なんて使えないわよん♪
 ちゃんと出来たらお姉さんのところに持っておいで、垣根の坊や』


と言われ、断られたのだ。

714 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/13 02:37:04.45 D0FSw57ao 335/464



「・・・・・・まぁあの女の言う事にも納得できるが、あぁークソ面倒だなこれ!!
 あ、ここ間違ってるじゃねえか。 ・・・・・・ん!? ルーン文字がいらねえ札とかもあんのか!?
 ふざけんなエイワスの野郎!! そんな大事な情報を袋とじにしてんじゃねえよ!!」


垣根はエイワスから貰った専用魔道書――魔導書という言い方も大袈裟だが――、『冷蔵庫でも分かる、魔術の使い方講座』の
中間部分にあった袋とじをハサミでチョキチョキと切り、中身を見て激昂した。

ちなみにこの本、最後のページにも袋とじがあり、そこには数枚の美しいルーンの札が入っていた。
完全に某カードゲームのヴァリュアブルブックのノリである。


心を落ち着かせ、白熱電灯が照らす机に向かい続きを行う。
カリカリ、カリカリとひたすら無言で書き続けていく。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


何やってんだろうな俺は。
垣根は一心不乱にルーンを作り続ける自分を客観的に見る。

確かにこうして魔術で使用するアイテムを作るという行為は、学園都市の能力者には無縁だろう。
ましてや垣根帝督は学園都市の超能力者(レベル5)の第二位に君臨する男だ。
『未元物質』という反則的な能力を持っている彼に魔術など不要と言ってもいいだろう。

715 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/13 02:38:23.12 D0FSw57ao 336/464



しかし、垣根は作り続ける。


「・・・・・・・・・・・・科学の領域で留まってるだけじゃダメなんだ。 カテゴリは拡げていかなきゃなんねえ。
 知っちまったんだ、魔術ってヤツを。 見ちまったんだ、魔術ってヤツを。
 こんなもん知っちまったら、もう後には引けねえだろうが・・・・・・・・・・・・!」


脳だけで生きていた状態の自分を無理やり復活させたエイワス。
そして『天使同盟』という理解不能の組織に出会い、気付けば自分もそれに加わっていた。


その時点で魔術についての話は聞いていた。最初は半信半疑だったが、あの時から既に惹かれつつあったのかもしれない。



716 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/13 02:39:33.83 D0FSw57ao 337/464



エイワスに頼み、魔術のノウハウが書かれた本を受け取った。
そこからは山の斜面を転がるが如くだ。
暇さえあればルーンを作っていた。皆が寝静まったとき、タイミング良く一人になれた時。

間違いがないかどうか逐一確認しながら一生懸命作っていった。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


魔術にのめり込み始めた理由は三つある。


一つは、単なる予感。これから先、自身の能力だけでは太刀打ち出来ない何かが待っているかも知れないという
漠然とした、しかしどこか確信めいた予感。


一つは、一方通行の存在。彼は魔術を用いて打ち止めを救った。その話を聞いて垣根の魔術に対する執着が
更に加速していった。ある意味、一番垣根を魔術にかき立てているのは一方通行なのかもしれない。

垣根の前にはいつも一方通行の背中があった。第二位の『未元物質』では第一位の『一方通行』には敵わない。
ならば魔術で一方通行を超えようと思ったが、それも既に先を越されていた。
どんな時でも立ちふさがる彼に、垣根は単純な悔しさを胸に秘めていた。

717 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/13 02:40:15.17 D0FSw57ao 338/464



「あんなクソ野郎が使えるんだ・・・・・・、アイツに出来て俺に出来ねえわけがねえ。
 『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』とは違う、これなら俺にだって使えるんだ」


能力者が魔術を使えば身体に過負荷がかかり命を落とす危険がある事は承知している。
宗教防壁という術式を使用しないと、使用するたびに宗教毒で精神を蝕まれてしまう可能性があると
エイワスが渡してきた本には書いてあるが、そんなのは知った事ではない。

垣根はやると言ったらやるのだ。子どもっぽいとか、頑固者とか思われようが構わずにやる。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


そしてもう一つ。垣根帝督が魔術に固執する理由、魔術にのめり込む理由は。


「・・・・・・ここはもうちょっと丁寧に書いたほうがいいのかな。 省略しても問題ねえと
 ワシリーサは言ってたが・・・・・・。 もう少し工夫してみるか。
 明日、ワシリーサとサーシャにその辺りについて聞いてみよう・・・・・・・・・・・・」


単純に、魔術という世界が楽しかったからだ。

718 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/13 02:41:22.49 D0FSw57ao 339/464



全く体感したことの無い新たな領域へ足を踏み入れるというのは気持ちが高揚するというものである。
どれだけ手順が面倒でも垣根が作業を継続していられるのも、その何とも言えない楽しさがあるからだろう。

と、


「あん? 何だこりゃ・・・・・・」


冷蔵庫に白い翼が生えて飛んでいるというふざけきったカラーイラストが描かれたカバーを
何の気なしに取り外してみると、表と裏表紙にびっしりと小さな文字が並んでいた。
軽く流し読みしてみると、どうやらそれは『とある魔術』に関する情報のようだ。

最後に、この本の著者から垣根宛へメッセージが書かれていた。

719 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/13 02:43:10.90 D0FSw57ao 340/464






『こんなところにまで目を通すとは、君の知的好奇心と魔術に対する執着心には感服するよ。
 ここに書かれているのは、とある魔術の使用方法だ。 しかし、この魔術は非常に強力で
 極めて危険な魔術であり、能力者である君がこれを使用すれば、ほぼ間違いなく死に至るだろう。
 それでも興味本位でこの魔術がどういうものなのか、行使はしないもののどのような魔術なのか、
 知識として蓄えておきたいというのなら私に声をかけたまえ。 この魔術についての説明をしよう。
 その時、魔術に惹かれた君がこの魔術を行使せず我慢できる保証はないがね。
                              ―――――Draco=Aiwass』




「・・・・・・とある魔術、だと? どういうもんなんだよ」


メッセージを読み終えた垣根が改めて裏表紙に書かれている『とある魔術』の説明を読む。


それは―――――――。

720 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/13 02:44:15.46 D0FSw57ao 341/464



――――――――――――――――――――――


すやすやと眠っているエリザリーナをそっとソファに寝かせ、毛布をかけた一方通行はオフィスを出た。
さすがにこんな無防備な女性の横で眠りにつけるほど一方通行は図太くはないらしい。


「・・・・・・もう廊下で寝ちまうか」


そうも考えたがさすがにロシア連邦、建物の中とはいえ廊下で眠ってしまったらそのまま目が覚めなくなりそうな寒さだ。
試しに床に寝っ転がってみるが、あまりにも冷たくて素っ頓狂な声をあげて飛び上がってしまった。
この男は一人で何をやっているのだろう。


独立国に突っ込んだ『アライアンス』号の部屋で休もうとも考えたが、あの様子じゃ船内は無事とは思えなかった。
建造物の瓦礫が山のように甲板に崩れてきており、中に入ろうにもラウンジへの入り口はその瓦礫で埋まってしまっている。
それにここの民間人の居住スペースをぶち壊した船でのんびりと睡眠をする気にもなれない。

721 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/13 02:45:37.87 D0FSw57ao 342/464



サーシャはミーシャと共に同じ部屋で過ごしているだろうから入りにくい。
ワシリーサは今日会ったばかりな上に、あんな性格じゃ何をされるか分かったものではない。
サーシャにしか興味がないというような事は言っているが、それでも部屋を訪れる気にはなれなかった。

エリザリーナはさっき先程も述べたとおりの理由で却下。
垣根帝督はあんな事をした後では部屋に入れてくれないだろう。何かを隠していたようにも見えたし、
今は一人にしておいたほうが良さそうだ。

独立国同盟の民間人に頼み込んで部屋に入れてもらおうかとも考えたが、
船で突撃してきた自分を――正確には一方通行ではないが――歓迎してくれるとも思えない。

トイレはさすがに気が進まないので大浴場でもあればそこで夜を明かそうとも考えたが、
いざ行ってみると抗争で傷を負った患者たちでいっぱいだった。
船が破壊していった場所に病室も含まれていたらしい。

722 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/13 02:46:16.94 D0FSw57ao 343/464



「ちくしょうが・・・・・・エイワスの野郎、やっぱ一辺ぶち殺さなきゃダメだアイツは」


さて、そうなると残る選択肢は三つだ。


「風斬かレッサーか、ヴェントの部屋か・・・・・・・・・・・・」


外から吹いてきた風に身を震わせる一方通行。氷で出来た手で撫でられたかのような冷たさだ。


風斬氷華。レッサー。『前方』のヴェント。
どれも女性であるが、もはや我儘を言っていられる状況ではない。
早いところ身体を暖めないと本気で風邪を引いてしまいかねない寒さだった。


「誰にすっかな・・・・・・、どいつもこいつもすンなり入れてくれるよォなキャラじゃねェだろ・・・・・・」


こうして選択肢があるだけでもありがたいとは思えないのだろうかこの男は。


「チッ・・・・・・。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・、・・・・・・・・・・・・」


やがて考えをまとめた一方通行はカツンと床に杖をつき、軍事施設を後にした。

723 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/13 02:47:34.95 D0FSw57ao 344/464



――――――――――――――――――――――


風斬氷華はエリザリーナ独立国同盟の居住区にいた。


「じゃあこれ、本当に貰ってもいいんですか?」

「ああ、持って行きな。 こっちにゃまだストックは沢山残ってんだ」

「ありがとうございます!」


彼女は居住区の外で独立国同盟の民間人から大量のコーヒーを貰っていた。
何か温かい飲み物が欲しいと思った風斬は外に出てコーヒーか紅茶でも売ってないかと
探し回っていたのだ。彼女に温かい飲み物が必要なのかどうかについて語るのは野暮だろう。


725 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/13 02:48:25.78 D0FSw57ao 345/464



そこへ独立国同盟の民間人、男女数人が集まってきてありがたい事に粉末状のコーヒーを
わざわざビン詰めにしてプレゼントしてくれたのだ。


「あんたにゃウチの兵士達が世話になってるからなぁ。 聞いたぜ? 治療を手伝ってくれたんだろ?
 噂はあっという間に広まっててさ。 あんた、兵士たちの間じゃかなり評判良かったぞ?」


と、二十代後半くらいの民間人の男はいたずらっぽく笑いながら言う。


「あ、いえ、そんな・・・・・・、お役に立てて光栄です」

「礼儀が正しいのねぇ、今時居ないよこんな子。 アンタも見習いな!」

「この子は女の子じゃねぇか・・・・・・俺が見習ってどうすん―――、いてて! つねんなよっ!」


隣にいるのは恐らくこの男の母親だろう。風斬に柔和な笑みを見せた六十代くらいの女性は
男の太ももを強くつねり折檻した。その光景に思わずクスっと笑ってしまう。

726 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/13 02:49:53.05 D0FSw57ao 346/464



「じゃあ私はこれで。 コーヒー、本当にありがとうございました!」

「ゆっくり休みなさいねぇ~」


男の母親は再び柔和な笑みを浮かべ風斬に手を振って見送ってくれた。


(みんな優しい人でよかったぁ・・・・・・、船の件で恨まれてるかと思っちゃったけど、
 こんなに沢山飲み物もくれて・・・・・・。 来てよかったかな、ロシア)


風斬だけなぜか白い息が出ていないことに若干不思議がっていた民間人達だが、
それでも自分を暖かく受け入れてくれた事に喜びを隠せない。


居住区で確保――――風斬の場合はこの辺に住んでいる民間人が提供してくれたのだが――――した部屋が見えてきた。

そこで彼女はふと自分の部屋の隣へ目をやる。

727 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/13 02:50:38.01 D0FSw57ao 347/464



「うん?」


隣の部屋のドアがほんの少しだけ開いていたのだ。
独立国同盟の居住区は全てが『風除室』となっており、扉が二重で構成されている。

だが風斬が見ているその部屋はガラス製の扉も内側の木製の扉も両方開いていたのだ。


(あれじゃ冷たい風が入っちゃうんじゃ・・・・・・、言ってあげないと)


雪で足を滑らせない様に気をつけながらトテトテと歩を進める風斬。
左手に持っているコーヒー入りの瓶が入ったビニール袋がガサガサと揺れる。


「す、すみませ~ん。 ドアが開いてますよ~・・・・・・って、えぇーっ!?」


思わず声をあげてしまい咄嗟に口を押さえる。

その部屋には、


「え・・・・・・・・・・・・、エイワスさん?」




『天使同盟』のジェネラルマネージャーにして世界最強の疫病神、エイワスが爆睡していた。




728 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/13 02:51:54.35 D0FSw57ao 348/464



(い、いつの間に帰ってきてたんだろ・・・・・・、ていうかもしかして寝てる!?)




エイワスが寝ている。




エイワスを知らない者がそれを聞いても『だからどうした』と思うだろう。
人間であれ動物であれ、生物には基本的に睡眠欲というものがある。
そのエイワスだって時には眠ることもあるだろう、とエイワスを知らない者なら誰でもそう思うだろう。


しかし、結論から言うとこれは異常事態だ。『あのエイワス』が就寝している。
これを『天使同盟』の構成員に聞かせたら驚愕では済まないリアクションをしてくれるだろう。

ついにくたばったかと歓喜さえするかもしれない。酷い話だが。

730 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/13 02:53:23.67 D0FSw57ao 349/464



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・し、失礼しま~す」


ともあれ、このままでは室内が冷えてしまうと思った風斬は小声で断り、
エイワスが使用している部屋へと入っていった。


(・・・・・・本当に寝てるのかな。 何かの罠だって可能性も十分にあるわけで・・・・・・、
 というかその方がむしろ自然というかそうじゃなければ不自然というか不気味というか・・・・・・)


散々な事を言いながら抜き足差し足忍び足で室内に入る。
だが風斬の言う事ももっともで、こうして無事に部屋へ入ることが出来た事が既にエイワスらしくない。
エイワスがただそこにいるだけで何かが起きているのがこの世の摂理なのだ。

大女優も裸足で逃げ出す洗練された『寝たフリ』をかましている可能性だって否定出来ない。
いや、この場合はエイワスが寝たフリをしているという前提を置いて行動するのが自然、常識である。


(・・・・・・・・・・・・室内に変わった様子は無し。 でもエイワスさん、絶対寝たフリだよねこれ・・・・・・。
 見た感じは本当に寝ているようにしか見えないけど、あのエイワスさんだもん。
 こんな隙だらけで無防備な姿を晒すわけないし・・・・・・。 あ、寝顔すっごい綺麗・・・・・・)

731 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/13 02:54:20.07 D0FSw57ao 350/464



エイワスの寝姿はまさに明眸皓歯、眉目秀麗。『美しい』以上の表現が必要なのだが言葉が見当たらない。
それくらいに整った姿だった。

ぼんやりと金色に輝く全身。衣服なのか肉体の一部なのかも分からない、見た目はシルクの数千倍は
手触りが良さそうな服。頭からミルキーウェイのように流れる金髪は、少しエイワスの顔にかかっており、
それがまた端麗さと妖艶さを兼ね備えている。

この姿を一枚の絵に描き起こしたら、それだけでルーヴル美術館とメトロポリタン美術館が
その絵を巡って戦争を起こしかねない。レオナルド・ダ・ヴィンチがこのエイワスを目にしていたら
モナ・リザなど放ったらかしで筆を振るっただろう。


そこまで言えるほどに、とにかく睡眠しているエイワスは綺麗だった。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はっ」


つい見惚れてしまっていた風斬が正気に戻る。
もしかしたら自分の姿に見惚れてボーッとしている風斬を観察し、愉しんでいるかもしれない。
エイワスはそういうくだらない事に全力を尽くす存在だ、いつの間にか掌で踊らされているのだ。


(ここにいたらされるがままだ・・・・・・、布団をかける必要もないだろうし、
 邪魔しちゃいけないから早いとこ自分の部屋に戻ろう)


懸命な判断だ。広いとは言いがたい室内でエイワスと二人きりという状況が
どれだけ危険で魅了的な雰囲気に包まれているか、早く気付いて何よりだ。

732 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/13 02:55:55.14 D0FSw57ao 351/464



風斬はどこの忍よりも粛々とした動きで踵を返し、百八十度ターンをしようとした。

しかし、風斬のターンはすぐにピタリと止まってしまう。


「ん?」


何かが視界に入った。いや、のちの事を考えると視界に『入ってしまった』と言ってもいい。
或いは視界に『入れることが出来た』、だろうか。




(な、なんだろあれ・・・・・・。 ノート?)





733 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/13 02:56:50.14 D0FSw57ao 352/464



エイワスは肘をついて寝ているのだが、その肘は小さな木製の机についている。
その机の上に、何かノートのような物が置いてあるのだ。


「・・・・・・・・・・・・」


別に風斬がそれを確認する必要はない。十中八九、そのノートはエイワスの私物であり、
勝手に見てしまってはいくらエイワスでも怒ってしまうだろうと彼女は考える。
ただエイワスの場合、何をしたって怒りを顕にする事など考えられないが―――。


「・・・・・・・・・・・・」


しかし恐ろしきかなエイワスから放たれる謎の魅力。否、風斬から湧き上がる知的好奇心。

734 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/13 02:57:50.08 D0FSw57ao 353/464



(・・・・・・なんだろあのノート。 すごい気になる・・・・・・)


気にしてはいけないと理解はしている。風斬氷華という女の子は本来、
そんな風に人の私物を勝手に漁ったり覗き見たりはしない、良識ある人工天使だ。

だが今回ばかりは『惹かれる』。とにかく引っ張られる。
エイワスの私物であろうそのノートから溢れでている『魔』と言っていい魅力。


(ちょ、ちょっと見てみるだけ・・・・・・)


定番のセリフを吐き、風斬はどこぞの暗殺一家の如く、暗歩でノートへ近づいていく。暗殺術などどこで覚えたのか。
気配を完全に抹殺し、エイワスの様子を窺いながらゆっくり、ゆっくりと。

735 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/13 02:59:29.58 D0FSw57ao 354/464




そして、



(とった!)


『取った』なのか『盗った』なのかはともかく、風斬はそのノートを手にし、そのまま後ずさっていく。

家具などにぶつかることもなく、何かにつまづいて転んでしまうこともなく、風斬は見事に
目的のノートを手にしたまま、エイワスを起こすことなく部屋から脱出する事に成功した。

ミッションコンプリート。総合評価SSSである。


「何で私、こんなことしてるんだろう・・・・・・。 最低です」


エイワスの部屋の扉を静かに閉じ、後から湧き出てきた罪悪感に苛まれる風斬。
泥棒紛いの事をしてしまった事を悔いているようだが、エイワスだってそれより酷い事を
いくつも行ってきているのだ。これくらいなら見逃してくれてもいいのではないだろうか。


扉の前で意味のない謝罪の意を込めた礼をし、彼女は自分の部屋へ戻っていった。

737 : 次回予告はここまでです。  ◆3dKAx7itpI - 2011/02/13 03:05:20.59 D0FSw57ao 355/464




                          【次回予告】



『・・・・・・・・・・・・? フラグ、アーキテクト・・・・・・、・・・・・・?』
―――――――――――『天使同盟(アライアンス)』の構成員・風斬氷華




『部屋に入れろ、どこも空き部屋がねェンだ。 このままじゃ凍えちまう』
―――――――――――『天使同盟』のリーダー・一方通行(アクセラレータ)




766 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/14 07:47:31.15 FxEExcVBo 356/464



――――――――――――――――――――――


部屋に戻った風斬はぷはーっと大きくため息をつき、へなへなとその場でしゃがみ込んだ。


「これは・・・・・・・・・・・・」


ついさっきエイワスの部屋から『拝借』してきた謎のノートを見つめる。
見た目は普通の大学ノートと遜色ないノートだった。
某人気漫画の黒いノートとかだったらどうしようかと思ったが、周りに死神がいない事を
確認した風斬はホッと安堵する。どういう心配してんだこの子は。

大学ノートと違う点といえば、そのノートは可愛らしい桃色で染められていた。
表表紙も裏表紙も、どういう染料を使えばこんなに鮮やかな桃色に出来るのかと思うほど綺麗だった。

そして表紙にはこう書かれていた。

767 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/14 07:48:23.96 FxEExcVBo 357/464







『Flag Architect Record Note』





「・・・・・・・・・・・・? フラグ、アーキテクト・・・・・・、・・・・・・?」


表紙にはホログラム仕様の箔押しでそう書かれてあった。


フラグ。


フラグ建築士という意味だろうか?だとしても風斬にはイマイチ理解し難い言葉だった。
フラグを建築するとはどういうことなのだろうか。

768 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/14 07:49:16.90 FxEExcVBo 358/464



「建築関係の資料か何かかな? エイワスさんがそういうお仕事をしてて、
 そのために必要な物だったりしたらどうしよう・・・・・・、本当にいけない事しちゃったな・・・・・・」


アレが仕事なんかしているわけがないだろう。


「でも『フラグ』って・・・・・・、何だか妙に引っかかるなぁ」


フラグとは簡単に説明すると『ある目的を達成するための条件』である。
元々はコンピュータ用語の『フラグ』から転じていった言葉で、今では様々な用法で使用されている。


「・・・・・・・・・・・・よぉし。 中身、拝見!」


ここまで来たらもう言い訳は出来ないと半ばヤケになった風斬は、
アヒル座り――通称女の子座り――で見つめていたノートを床に置き、バッと勢い良く捲った。

769 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/14 07:50:14.59 FxEExcVBo 359/464



「・・・・・・あれ? なんだろうこれ。 何か書いてある」


風斬の目に最初に飛び込んできたのは、普通のノートに見られる横罫線入りの真っ白なページではなく、
ノートの外装を同じ桃色のページだった。

ノートの見返しの部分と最初の数ページが桃色で染められており、そこには表紙のタイトルと同じ
ホログラム仕様の箔押しで文字がズラリと並んでいる。


「・・・・・・、『HOW TO USE IT』。 使用方法・・・・・・、全部英語かぁ。
 えぇーっと・・・・・・・・・・・・」


どうやらそこにはこのノートの使い方が記載されているようだ。ますます某ノート漫画とカブる。

全て英語で記載してあるため、風斬は翻訳しながら読んでいく。
彼女の場合、翻訳する必要はないのだろうが、長らく日本の学園都市にいた影響からか、
日本語で読むことが自然になっているようだ。

770 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/14 07:51:04.67 FxEExcVBo 360/464



・このノートに名前を書かれた人間が『対象者』となる。


・このノートに選ばれた『対象者』はフラグ成立の際、このノートに
 その時の詳細と『パラメータ』が書きこまれていく。


・このノートは全て自動で書記されていく。


・ノートの所有者は『対象者』にはなれない。


・『対象者』の名前はこのページの隣のページに書き込まなければならない。
 その際、『対象者』の名前はこのノートの所有者にしか認識できない。


・このノートの所有権を他の人間、または人ならざる者へ移すことは出来ない。


・・・・・・etc。

771 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/14 07:51:34.02 FxEExcVBo 361/464



「・・・・・・・・・・・・、・・・・・・・・・・・・他にも色々書いてあるけど、所有者にしか
 有益にならない情報ばっかりだなぁ」


一通りルールを読み終えた風斬は『HOW TO USE IT』の次のページに目をやる。


「『The name of the subject』・・・・・・、ここに『対象者』の名前を書くのかな。
 ・・・・・・本当だ、私にはただの空白にしか見えない」


所有者しか『対象者』の名前が見えないというルール通り、
風斬にはそのページを見ても『The name of the subject』の文字しか見えなかった。

どのような細工で所有者しか見えないようになっているのか、何とも不思議なノートだ。
そしてこのノートの所有者はどう考えてもエイワスだろう。

772 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/14 07:52:11.24 FxEExcVBo 362/464



「変なノート・・・・・・。 何に使うんだろうこれ?」


誰かが得をしたり損をしたりするような怪しげなノートではないようだ。
さすがエイワスの私物だけあって、これはエイワスにしか理解出来ない物なのかも知れない。

しかし風斬はこのノートのあるルールが気がかりだった。


「この・・・・・・、『このノートに選ばれた『対象者』はフラグ成立の際、このノートに
 その時の詳細と『パラメータ』が書きこまれていく』ってルールは何なんだろう。
 自動書記で書かれていくなんて凄いなぁ・・・・・・」


恐らく『The name of the subject』のページを捲ったら、そこにパラメータとやらが
書き込まれたページになっているのだろう。

773 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/14 07:52:58.86 FxEExcVBo 363/464



風斬は一瞬次のページを捲ることを躊躇したが、ここまで見てしまったらあとはなるようになれ、だ。


「何か書いてあるかな・・・・・・」


ゆるりとした動作で『The name of the subject』のページを捲った。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


一瞬、風斬の頭にある三角柱の動きがピタリ、と止まる。
風斬自身もまるで蛇に睨まれた蛙のように身動きひとつとれなくなっていた。




「な・・・・・・何、これ・・・・・・・・・・・・!!?」




思わず絶句してしまったAIM拡散力場の集合体の目に飛び込んできた光景とは――――。

774 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/14 07:53:41.34 FxEExcVBo 364/464



〈NAME〉『ミーシャ=クロイツェフ』

F:☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
L:☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
P:☆


〈NAME〉『風斬氷華【ヒューズ=カザキリ】』

F:☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆〈MAX〉
L:☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
P:☆☆☆☆☆☆☆


〈NAME〉『Owner』

F:☆☆
L:☆
P:☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆〈MAX〉

775 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/14 07:54:20.95 FxEExcVBo 365/464



〈NAME〉『垣根帝督』

F:☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
L:☆☆
P:☆☆


〈NAME〉『レッサー』

F:☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
L:☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
P:☆☆☆☆☆☆


〈NAME〉『最終信号【ラストオーダー】』

F:☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆〈MAX〉
L:☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
P:☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

776 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/14 07:54:49.87 FxEExcVBo 366/464




〈NAME〉『番外個体【ミサカワースト】』

F:☆☆☆☆☆
L:☆☆☆☆☆
P:☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


〈NAME〉『黄泉川愛穂』

F:☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
L:☆☆
P:☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


〈NAME〉『芳川桔梗』

F:☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
L:☆☆☆
P:☆

777 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/14 07:55:26.96 FxEExcVBo 367/464



〈NAME〉『キャーリサ』

F:☆☆☆☆☆☆☆
L:☆☆☆☆☆☆☆
P:☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆〈MAX〉


〈NAME〉『オルソラ=アクィナス』

F:☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
L:☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
P:☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆〈MAX〉


〈NAME〉『アンジェレネ』

F:☆☆☆☆☆☆
L:☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
P:☆☆☆☆☆☆☆☆

778 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/14 07:56:24.60 FxEExcVBo 368/464



〈NAME〉『アニェーゼ=サンクティス』

F:☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
L:☆☆☆
P:☆☆☆☆☆☆☆☆☆


〈NAME〉『アガター』

F:☆☆
L:☆☆☆☆☆
P:☆☆☆☆☆☆


〈NAME〉『カテリナ』

F:☆☆
L:☆☆☆☆☆☆
P:☆☆☆☆☆☆

779 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/14 07:56:51.87 FxEExcVBo 369/464



〈NAME〉『ヴェント』

F:☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
L:☆☆☆☆☆☆
P:☆☆☆☆☆☆☆☆


〈NAME〉『エリザリーナ』

F:☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
L:☆☆☆☆☆☆
P:☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


〈NAME〉『サーシャ=クロイツェフ』

F:☆☆☆☆☆☆☆
L:☆☆☆
P:☆☆☆☆☆☆☆

780 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/14 07:57:59.57 FxEExcVBo 370/464





「これがパラメータ・・・・・・!? 何これ・・・・・・、どういう事なの・・・・・・」




風斬が見たページは、前の桃色ではなく普通の白い横罫線入りのページになっていた。


だが普通のノートと決定的に違う点は、ルールにもあったようにパラメータと思われる情報がぎっしり記載されている点だ。
聞いたことのある名前ばかりが並んでおり、『F、L、P』という謎のアルファベットと、
その三種のグラフがまるで何らかのポイントのように表示されている。

更にページを捲っていくと、名前に該当する人物との出会い、現在までの経緯等、
詳細なデータが閲覧できるようになっていた。G.Iの『人生図鑑』のようなノートだ。
書き込まれている文字はなぜか不自然に、陽炎のように揺れている。自動書記で書かれた文字だからだろうか。

781 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/14 07:58:49.73 FxEExcVBo 371/464



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


パタン、と。

風斬はノートを閉じた。その表情はまるで他人の日記帳を興味本位で覗き見し、
そこに衝撃的な出来事が書いてあった時のような、呆然自失といったものだ。


「あ、一方通行さん・・・・・・、オルソラさん、と・・・・・・?」


一体どんな情報を見てしまったのか。風斬の全身を駆け巡ったショックは想像以上に大きいようだ。


無論、他人のプライベートが事細かく記載されているようなノートとわかったら
風斬はそれを面白がってみるような事はしない。
そうと分かり、直ぐ様ノートを閉じようとしたときにたまたま『ソレ』が視界に入ってしまったのだ。

782 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/14 07:59:27.69 FxEExcVBo 372/464



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・相思相愛なのかな」


どこを見ているのかも分からないような、怒っているのかも悲しんでいるのかも分からないような表情で
風斬は固まったままピクリとも動かない。

そしてじわじわと、『こんなノート見なければよかった』という後悔の念が彼女の心を侵食していくのに
そこまで時間は掛からなかった。


その時だった。


「・・・・・・・・・・・・風斬。 いるかァ?」

「ひゃああっ!!!?」


突然耳に入ってきた亡霊のような声に風斬は飛び上がって悲鳴をあげた。

783 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/14 08:00:17.25 FxEExcVBo 373/464



「は、は、えっ!!?」

「俺だ。 なンかあったのか」

「あ、一方通行さん・・・・・・!?」


風斬の部屋にやってきたのは一方通行だった。突然の来訪者に風斬はしばらく無言で
扉をジーッと見つめて動かなかった。というか、動けなかった。


「・・・・・・・・・・・・」

「オイ、風斬? どォかしたのか」

「・・・・・・はっ。 い、いえ、なんでもないです!」

「部屋に入れろ、どこも空き部屋がねェンだ。 このままじゃ凍えちまう」

「えっ!? へ、部屋に・・・・・・。 あ、いや、はい。 わかりました」

784 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/14 08:00:50.80 FxEExcVBo 374/464



風斬が部屋で一人でいるときにやってきた一方通行。彼は部屋へ入れろと言う。

どこかで聞いたことのあるシチュエーションだと思ったが、これはロシアに来る前に
エイワスが風斬に聞かせた妄想、もとい幻想とほぼ同じ内容ではなかったか。


(でも今回は・・・・・・・・・・・・)


そう、今回ばかりは正真正銘の現実だ。エイワスの幻想でもなんでもない。
しかし一旦思い出してしまうとあのエイワスが語ったあられもない話の内容が
グルグルと頭を回り、顔が真っ赤に染まってしまう。


「い、いい、今開けますから!」


それでも風斬は彼を招き入れる事にした。
ずっと彼と一緒にいると決意しているにはしているが、やはりあんなノートを見てしまったあとだと
焦燥感が出てきてしまう。


風斬は桃色のノートをベッドの下に素早く隠し、鍵を解除して扉を開けた。

786 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/14 08:06:54.80 FxEExcVBo 375/464




                          【次回予告】



『・・・・・・なんだかあまり楽しそうじゃないなと思ったので、つい・・・・・・』
―――――――――――『天使同盟(アライアンス)』の構成員・風斬氷華




『ンだァ? オマエの部屋で楽しく可笑しくはしゃぎ回る一方通行さンが見てェのか?』
―――――――――――『天使同盟』のリーダー・一方通行




810 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/14 21:23:01.84 FxEExcVBo 376/464



ロシアの清々しいほどの寒気に当てられてふるふる震えながら扉の前で待つこと数分。
ようやく鍵が解錠される音が聞こえた。


「お、お待たせしましたっ」

「どけっ」

「あうっ」


扉を開けるや否や、一方通行は風斬を押しのけ部屋の中へずかずかと入り込んできた。
そして部屋の隅に置かれていたファンヒーターを発見すると素早い動作でファンヒーターの前に迫り、
屈んで暖をとる。

811 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/14 21:24:01.76 FxEExcVBo 377/464



「はァ・・・・・・、うー寒」


手をスリスリと擦りながら一方通行は人類が作り出した暖房機という文明の利器に感謝する。
暖炉も悪くないと思っていたが、やはり現代人の一方通行にはファンヒーターの方が相性が良いらしい。


「それにしても、どうしたんですか? 空き部屋が無いって・・・・・・」


風斬はある意味で危険なノートが隠されたベッドの下にチラチラと視線を送りながら尋ねる。
成人雑誌をベッドの下に隠している思春期の男性のような仕草だ。


「ちと出遅れちまってよ、うろちょろしてたらいつの間にか何処も彼処も予約済みってなァ。
 自業自得と言やァ自業自得だが、・・・・・・ったく、クソ面倒くせェ」

「そうでしたか・・・・・・、・・・・・・そ、それで私の部屋に?」

812 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/14 21:25:21.67 FxEExcVBo 378/464



「あの三択ならオマエだろォ、ていうかあン中じゃオマエが一番まともだ」

「・・・・・・三択」


三択の内一人は風斬だとして、残りの二人はあのノートに書かれていた女性の誰かだろうか。
風斬は思考を巡らせつつも自分の部屋を選んだ理由が理由なだけにどこか納得できないでいた。
ほんの少しだけムスッとしている。


「・・・・・・まァ、無理やり押しかけてきた俺に非はあるが、嫌なら出ていこォか?」

「あ、え、いや、ダメです。 ここにいていいですよ」

「ダメですってなンだよ・・・・・・俺を閉じ込めるつもりかオマエ」


つい妙なことを口走ってしまった。まだ気が動転している証拠だ。

813 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/14 21:26:08.57 FxEExcVBo 379/464



一方通行はファンヒーターで暖をとっているため、風斬に背を向けている状態だ。
その細身ながらもどこか大きく見える背中を風斬はジッと見つめる。


「・・・・・・・・・・・・。 あ、そうだ、コーヒー淹れましょうか?
 さっき独立国同盟の方々に沢山もらっちゃったんです」

「あっそ、じゃあ淹れてくれ」

「は、はい。 ・・・・・・」


何だか素っ気ない。そんな気がした。

一方通行は基本、誰に対してもこうだったのだが最近は言動に思いやりがあるようにも見えてきていた。
だが相変わらず自分に対してだけは素っ気ない、そんな気がしてならない。


小さなキッチンに置いてあった電動ポットを使ってコポコポとコーヒーを淹れる。
せっかく二人きりになれたというのに、どこか居心地が悪く感じられた。


「あの・・・・・・、どうぞ」

「ン」


こちらの方を見ることなくマグカップを受け取る一方通行。
風斬もベッドに腰掛けちょびちょびとコーヒーを飲む。

814 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/14 21:27:09.53 FxEExcVBo 380/464



「あの・・・・・・」

「あァ?」


沈黙に耐え切れなくなった風斬はとりたてて話題があるわけでもないのに一方通行に話しかけた。


「えと・・・・・・、お、美味しいですか?」

「コーヒーか? まァ悪くねェ」


出た、『悪くねェ』。一方通行の飲食物に対する評価はいつもこれだ。

ここで『オマエが淹れてくれたモンなら泥水でもブルーマウンテンに匹敵するぜェ』くらいの
気の利いたセリフが言えればいいのだが、生憎彼はそんな性格ではない。

815 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/14 21:28:04.43 FxEExcVBo 381/464



「そ、そうですか・・・・・・」

「あァ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


おかしい。一方通行と二人きりなった自分はこんなに気まずい雰囲気になるものだっただろうか?

もしかしたら一方通行は自分の事をあまり好いてくれていないのかもしれない。
皆と一緒にいるときは仕方なく自分とも会話をしてくれているだけで、
実際はあまり相手にしたくないと思われているのかも知れない。


元々あまり物事をポジティブに考えられない風斬は、しなくてもいい心配ばかりしてしまっていた。

どうしようかと思っていた時、ふいに一方通行が声をかけてきた。

816 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/14 21:28:46.07 FxEExcVBo 382/464



「落ち着いてコーヒーも飲めねェのかオマエは。 さっきからソワソワしやがって」

「え、あ・・・・・・すみません」

「やっぱ俺なンかがいちゃ欝陶しいか?」

「そんなことはありませんよ、そんなことは・・・・・・」


そう、そんなわけがない。
むしろ今のこの状況は風斬にとっては『嬉しい』という気持ちのカテゴリに当てはまる。

けれど、


「・・・・・・一方通行さんは、私がいたら居心地悪くないですか?」


聞かなくてもいいこといちいち聞く自分に嫌気がさす。

817 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/14 21:30:15.38 FxEExcVBo 383/464



「はァ?」

「あ、いえ、・・・・・・なんだかあまり楽しそうじゃないなと思ったので、つい・・・・・・」

「ンだァ? オマエの部屋で楽しく可笑しくはしゃぎ回る一方通行さンが見てェのか?」

「そういうわけじゃないんですけど・・・・・・」

「オマエといて居心地悪いなンて思ってたらオマエの部屋に来るわけねェだろォが」

「! ・・・・・・そ、そうですか」


それを聞いて顔を綻ばせる風斬。分かりやすい表情の変化が彼女の可愛らしさを如実に表している。
だがそれも一瞬で、またすぐ表情が沈んでいってしまった。


「相変わらず意味のわからねェ、小せェ事を気にしてンなァオマエは。
 それがオマエだって言うなら別に口は挟まねェけどよ、俺とオマエはこォいう感じでいいだろ。
 長ェ付き合いってわけでもねェが、今更ぎこちなく会話するってのも変だろォが」

「そうですね、・・・・・・ありがとうございます」

「礼言うところじゃねェよボケ」


と、鼻で笑いながら一方通行は風斬の方に体を向け直す。
自分と二人でいることに対してさして気にしていない事と、やっとこっちを向いてくれた事で
風斬は心の中で少しだけ安堵した。

818 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/14 21:31:36.15 FxEExcVBo 384/464



「なんだか今日は色々大変でしたね。 無茶な方法でロシアに(不法)入国するし、
 プライベーティアと交戦する事になっちゃうし、船が街に突っ込んじゃうし、
 エイワスさんのせい・・・・・・というかおかげでロシア政府は大変な事になっちゃうし・・・・・・」

「こンなモンで音ェあげてたら明日持たねェぞ」

「はい、でも大丈夫です。 頑張ります・・・・・・」

「そォかよ」


会話が途切れ、二人はコーヒーを一口飲む。
さっきとは違いこうして会話が途切れてもあまり気まずさを感じることがなかった。

そして風斬はここぞとばかりに一方通行に質問をした。


「あのー・・・・・・、ちょ、ちょっと聞きたいことがあるんですけど・・・・・・」

「ンだよ」


改まって問いかけてくる風斬に、一方通行は眉をひそめながら応じる。

819 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/14 21:32:22.63 FxEExcVBo 385/464





「えっと、その・・・・・・一方通行さんって彼女とかいたりしますか?」




瞬間、一方通行は某有名俳優の如くコーヒーを思いっきり吹き出した。


「きゃあっ!? だ、大丈夫ですか!?」

「ぐはっ、ゲホッゲホッ!! ・・・・・・ぷァ、いきなり何言い出しやがンだオマエ!!
 ふざけてやがンのか!!?」

「ご、ごめんなさいごめんなさい!!」


凄まじい勢いで謝る風斬に気圧され、一方通行毒づきながらも口を拭う。
人生でそんな事を言われるのは初めてであり、彼もよほど驚いてしまったようだ。

820 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/14 21:33:39.53 FxEExcVBo 386/464



「クソが・・・・・・。 で、なンだって?」

「あの・・・・・・彼女とかいたりするのかなって」

「分かってて聞いてンんならブッ殺すぞ。 この俺にそンなのがいると思ってンのかァ?」

「いても不思議じゃないと思いますけど・・・・・・」

「本気で言ってンのかオマエ? 愉快な頭の構造してンなァ」


チッ、と舌打ちをしてガリガリと頭を掻く一方通行。
いかにも不機嫌です、といった雰囲気だがそれはそれで彼らしいなと風斬は思った。


「それで・・・・・・・・・・・・、どうなんですか?」

「今のやり取りでわかンないンですかァ? いねェよ、ったく・・・・・・」

「ほ、本当に?」

「しつけェな。 何か俺に彼女が出来るよォな心当たりでもあンのか」


そう聞かれれば『心当たりがありすぎる』というのが正直なところだ。
さっきのノートの内容が真実ならば、彼は何人もの個性的な女性と交流を持っている。

その中にはもちろん風斬自身も含まれているのだが、遺憾千万、他のメンツが魅力的だ。
若干ながら焦燥感にかられてしまうのも無理はない。

821 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/14 21:34:48.65 FxEExcVBo 387/464



しかし風斬は意を決して一方通行に次々と質問を投げかけた。
レッサーから言われた『もっと積極的に』を心に刻んで。


・・・・・・積極的の方向性が若干歪んでいる気がしないでもないが。


「心当たりっていうか・・・・・・、その、例えば・・・・・・」

「例えばなンだよ、勿体ぶらずに言いやがれ」

「い、イギリスでの事とか・・・・・・」


一方通行は考える。イギリスでの出来事といえば。

822 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/14 21:35:31.92 FxEExcVBo 388/464



「・・・・・・イギリスには二度行ってンだろ、どっちの事を言ってやがンだ?」

「二度目の、『必要悪の教会(ネセサリウス)』の女子寮にお世話になった時です」

「あァ・・・・・・、ついこないだの事じゃねェか。 それがどォした?」

「・・・・・・・・・・・・お」

「お?」

「お、オルソラさんと結構仲良さそうにしてたじゃないですか」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


そうだったか?と一方通行は自身の記憶回路にアクセスしてみる。

確かに数多くのシスターがいた中で、オルソラ=アクィナスと一緒に過ごしていた時間は多かった。
女子寮に来て最初に出会った人物であり、オルソラの天然っぷりにやたら振り回されていた感は否めない。

823 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/14 21:37:43.08 FxEExcVBo 389/464



「・・・・・・そンな風に見えたかァ?」

「は、はいっ」


風斬の視線がキョロキョロと忙しなく動いている。
いつの間にか彼女は正座をしており、膝に置いた手の動きがやたらソワソワしていた。
どうやら割と本気で一方通行とオルソラの関係が気になっているようだ。


(・・・・・・・・・・・・。 ハッ、面白ェなコイツ。 つかなンでオルソラがここで出てくるンだ?
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ったく、しょうがねェ)


風斬に見えないように一方通行は笑みを浮かべた。意地の悪そうな笑みを。


(さっきも少し元気が無かったみてェだし、ここはいっちょ俺がからかって
 コイツをいつもの調子に戻してやるか)


完全にそこらの悪戯小僧の発想だった。だがこれも彼なりの励まし方なのだろう。

824 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/14 21:38:56.64 FxEExcVBo 390/464



一方通行はわざとらしくコホン、と咳をたて表情を窺えないように軽く俯く。
第一位様はこんな演技も出来るのか。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・?」


明らかに訝し気な表情を浮かべる風斬。一方通行が急に黙りこんでしまい
不安になっているようだ。彼が次に何を言い出すのかが怖くてしょうがないと言った様子だ。


「悪いな風斬、前言撤回だ」

「え?」

「コイツは誰にも言ってねェし、言うつもりもなかったンだがなァ。
 どォやらオマエは薄々感づいてるよォだし、言ってもいいかもなァ」

「え・・・・・・、え・・・・・・?」


風斬の頭にある三角柱がブレイクダンスを踊っている。人間で言う、『動悸』の状態だ。
体がぷるぷると震え、もうこれ以上は聞かない方がいいと耳を塞ごうとするが、
それより早く一方通行が決定打を放った。




「付き合ってンだ、俺とオルソラ。 一緒に買い物言った時にコクられてよォ」




風斬の内部で踊り狂っていた三角柱の核が、ピタリと動きを止めた。

825 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/14 21:40:49.61 FxEExcVBo 391/464



念の為に記述しておくが、一方通行とオルソラ=アクィナスは恋人関係ではない。
オルソラはどう思っているのかは定かではないが、少なくとも一方通行は現時点で
彼女に対してそのような感情を―――信じられないことに―――抱いていないのだ。


これは一方通行の演技である。完全なる嘘、虚言、虚説、架空、出鱈目純度一〇〇だ。


一方通行的にはここで風斬が『えぇー!? 本当にそういう関係だったんですか!? 驚きですー』
といったニュアンスの反応を示してくれると予想し、そうなったらそこで速攻ネタばらし。
『騙すなんて酷いです~!!!』と叱られるという流れで締めくくられてお終いというシナリオだ。


オルソラをダシに使ってとんでもない嘘をついたことで怒られてしまうだろうが、
それでも風斬が明るくなってくれるなら、という一方通行なりの優しさだった。

827 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/14 21:42:27.52 FxEExcVBo 392/464



しかしこの男、学園都市最強にして最高の頭脳の持ち主なのだが、学園都市最大のバカである点が
玉に瑕であって、今回ばかりは脚本の内容がマズすぎた。


「ぎゃはは、驚いたかァ? 驚愕のあまり声も出ませンって・・・・・・、・・・・・・あン?」


なかなか反応が帰ってこないので一方通行は風斬の方をチラリと見てみた。

彼女は完全にフリーズしていた。時が止まっていた。思わずDIOがいるんじゃないかと
室内をキョロキョロと探してしまうほど、風斬は露いささかも動かなかった。


「・・・・・・・・・・・・おォい、風斬さァン? どォしちゃったンですかァ?
 電池でも切れやがったか? 充電しなきゃなンねェか? おいィ?」


彼女の目の前で手を振りまくってみるが一向に動く気配がない。
超至近距離まで接近してみても結果は同じだった。いつもなら『きゃあっ』とか
『ひいっ!?』とか言って一歩後退るのが通例なのだが。

829 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/14 21:43:51.35 FxEExcVBo 393/464



「オイ、マジで壊れちまったかァ? 風斬、返事をしやがれ。
 クソッ、一体全体何がどォなってやがる・・・・・・エイワスの仕業か?」


いつものようにエイワスに責任転嫁する一方通行だが、それは考えにくいと自分で否定する。
エイワスは食事前から帰ってきていないし―――実は隣の部屋にいるのだが―――仮にこんなことをして
エイワスに何のメリットがあるのかが分からない。

『天才バカボン』から『天才』と『ボン』を抜き取ったような男、一方通行は
風斬から身を離し、ジトーっと彼女を見つめる。


(・・・・・・まさかコイツ、本気で今の話を信じちまったってのかァ?
 すぐ嘘だとバレると踏ンでたが・・・・・・、仕方ねェ)


これ以上は埒が明かないと、一方通行は風斬にネタばらしを実行しようとした。

832 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/14 21:46:08.43 FxEExcVBo 394/464



その時、ようやく風斬が声を出した。


「・・・・・・・・・・・・ふっ、・・・・・・うぅっ・・・・・・」

「? あ?」


何か、呻くような声が聞こえた気がした。
呼吸器官でもイカれちまったか?と、一方通行は風斬の顔を覗き込むように動いた。


「ぐっ・・・・・・、うう、・・・・・・ふぅぅぅ・・・・・・ぐすっ、」

「???」

「ふぇ・・・・・・、うううう・・・・・・ぐすっ、うえぇぇぇん・・・・・・」

「!!!??」


泣いていた。風斬氷華は泣いていた。
完璧に、間然するところがないほどに、風斬氷華はその澄んだ瞳から涙を流していた。
正座を崩し、女の子座りになり、天井を仰いで、赤ん坊のように泣いていた。

そんな彼女を見て、学園都市の第一位はひどく動揺した。目をむき、全身からどっと冷や汗が出てくる。

837 : 次回予告はここまでです。  ◆3dKAx7itpI - 2011/02/14 21:52:43.20 FxEExcVBo 395/464




                          【次回予告】



『一方通行、君は一回死んだほうがいい』
―――――――――――『天使同盟(アライアンス)』の構成員・エイワス




『・・・・・・・・・・・・そォだな、死ンだほうがいい』
―――――――――――『天使同盟』のリーダー・一方通行




『・・・・・・・・・・・・ぐずっ、うゆ・・・・・・』
―――――――――――『天使同盟』の構成員・風斬氷華



869 : やられた!エラー表示の罠・・・・・・。 ごめんなさい ◆3dKAx7itpI - 2011/02/15 22:11:38.35 zY60tOO9o 396/464



「うわあああああああああん・・・・・・、ぐすっ、ひぐっ・・・・・・、うえええええええええん」

「か、風斬・・・・・・!? どォした? なぜ泣く!?」

「ううううううううう・・・・・・ぐすっ、うう・・・・・・うわあああん・・・・・・」

「なンだってンだ・・・・・・!? 風斬・・・・・・しっかりしろ!」


お前がしっかりしろ。垣根辺りからそうツッコまれそうな言葉だ。


「ふぇぇぇん・・・・・・、えぐ、・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・、くしゅんっ」

「え!? 風邪ひいてンのか!?」

「・・・・・・・・・・・・、うあああああああああああああん・・・・・・」

「あああああああ・・・・・・風斬ィ・・・・・・」

870 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/15 22:12:52.87 zY60tOO9o 397/464



打ち止め(ラストオーダー)だってこんなに泣いたことはない。というか彼女は
基本的に泣いて感情表現をすることが極めて少ない女の子だ。

そして一方通行もここまでストレートに泣かれた経験がない。
学園都市が誇る最高の頭脳に『相手に泣かれた場合』の対処法が存在していなかった。


ポロポロと宝石のように綺麗な涙を流し、その豊満な胸元を湿らせて、尚も泣き続ける風斬。
そんな彼女を見て明らかにおろおろとする一方通行の姿を黄泉川や芳川辺りが見たら
腹を抱えて笑っているだろう。

それほどまでに一方通行は動揺していた。こんな彼の姿は極めて珍しい。
そのまま動物愛護団体に絶滅寸前の希少動物として保護されてもおかしくないレア度だ。


そして一方通行のあまりの鈍感、いや愚鈍っぷりに神すらも呆れ果てたのか、彼を更に
絶望の淵へ追い込むかのような事態が発生した。

871 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/15 22:13:38.15 zY60tOO9o 398/464






「・・・・・・まったく。 一体何事だこの騒ぎは、これではとても快眠など出来んよ」




その声にビクリ!!と体を強ばらせる一方通行。
恐る恐る振り返ると、一方通行のすぐ後ろに『銀河系宇宙の悪鬼』がいつの間にか佇んでいた。


「え、エイワス・・・・・・・・・・・・!!!?」

「・・・・・・んん? おやおや、これはこれは・・・・・・」


仮に『世界一意地の悪い顔決定戦』という大会があり、それに出場させれば間違いなくブッチギリで
一位になれそうな表情を浮かべていたのは、一方通行からしたら食事前から行方不明、風斬からしたら隣の部屋で熟睡していたエイワスだった。

872 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/15 22:14:52.75 zY60tOO9o 399/464



「うあああああん・・・・・・・・・・・・、うええええええええん・・・・・・」

「これは・・・・・・至極愉快な状況じゃないか。 どうしたのかね彼女は」

「ち、違う・・・・・・これは・・・・・・。 お、俺は悪くねェ!! 何も悪くねェ!!」


ファブレ公爵家の一人息子のような見苦しい言い訳をする一方通行に、第一位としての威厳は見受けられなかった。
そしてそんなダメ男を見るエイワスの視線は、路地裏の生ゴミを見るかのようだった。


「泣ーかしたー泣かしーたー♪ 一方通行が泣かしーたー♪」

「小学生かオマエは!!! つかいつ帰ってきたンだよ!? 今まで何してたンだ!?」

「一方通行。 今まで私がどこにいたか、今まで私が何をしていたか、」


エイワスは態々と一息吸って、言い放つ。


「そんな些々たる事は全く以てどうでもいい。 都合よく話題をすり替えようとするなど、
 愚かさも極まったな、一方通行。 第一位として、いや、それ以前に一人の男として
 恥ずかしくないのかね? こんなか弱い少女に涙を流させるとは」

「ぐ・・・・・・く・・・・・・!!」


反論の余地など皆無。ぐうの音も出ないとはまさにこの事。
一方通行はただエイワスの顔を悲痛な表情で見つめる他なかった。

873 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/15 22:16:02.40 zY60tOO9o 400/464



「こんな事になってしまった顛末を拝聴しようか」


未だにわんわんと泣き叫ぶ風斬を横目に、エイワスは蔑んだ目で一方通行を見下しながら言う。
その視線だけで押し潰されそうな今の彼の、なんと見窄らしい事か。


「て、顛末もクソもねェ・・・・・・! 風斬が何故かやたらに俺とオルソラの仲を気にしててよォ、
 その上どこか暗い雰囲気だったからちょっとからかって元気付けてやろォかと思って
 『俺とオルソラは付き合ってる』って冗談言っただけだ・・・・・・! そしたら急に・・・・・・」

「ふむ、考慮する価値もない。 極めて王道な茶番というわけだ」


もちろんエイワスは顛末を聞き出すまでもなく、この状況の理由を把握していた。
しかし敢えて一方通行にそれを吐かせる事で彼の様子を見ていたのだが、どうやらひどく落胆したようだ。

874 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/15 22:17:05.41 zY60tOO9o 401/464



「茶番だと!? 俺はただ風斬を―――」

「元気付けようとした、だろう? その結果がコレなわけだが、
 それに対しての異議の申し立てはあるかね? 一方通行」

「・・・・・・・・・・・・ッ、・・・・・・・・・・・・!!」


あるはずもなかった。
風斬を元気付けようとした結果、彼女は『理由はともあれ』泣いてしまっているのだ。
一方通行の非があることは確定的である。

一方通行はそっと風斬に近付き、諄々と諭すように言った。


「風斬・・・・・・、あれは冗談だ。 俺とオルソラは付き合ってなンかいねェ。
 俺がそンな男に見えるか? 見えねェだろ? 嘘なンだよ、エイワスが言ったよォに、
 ただの茶番なンだ。 オマエがちょっと元気なかったからよ、驚かせてやろォと思って・・・・・・。
 い、いや、言い訳はしねェ。 すまなかった、こいつは完全に俺の失態だ」

「・・・・・・・・・・・・ぐずっ、うゆ・・・・・・。 ・・・・・・?」

875 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/15 22:18:26.47 zY60tOO9o 402/464



風斬がほんの少し、チラッと一方通行の顔を見る。
メガネを上げて涙を拭っているため若干見えにくいが、それでも彼女の表情は窺えた。

瞳をゆらゆらと涙で濡らし、眉を八の字に曲げて悲しんでいる風斬の表情を見て、
一方通行の闇の奥底にある『良心』にナイフで抉られる感覚が走った。


(・・・・・・ノートを見たな、風斬氷華。 だが『最後のページ』を見る前に
 こうなってしまったようだな。 ・・・・・・まったく、実に愉快だよ君たちは)


悟られぬようにくつくつと笑うエイワス。やはり風斬がエイワスの部屋に入ったとき、
エイワスは寝てなどいなかったのだ。


「ううう・・・・・・ぐすっ。 ・・・・・・ウ、ソ? ・・・・・・ひっく」

「あァ、嘘だ。 すまねェ、悪かったと思ってる。 だから泣く必要はねェンだ」


普段の一方通行なら絶対に浮かべないような、優しい優しい笑顔で風斬の頭をゆっくりと撫でる。
鼻をすすってはいるが、風斬の慟哭も徐々にではあるが収まってきているようだ。

876 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/15 22:19:56.01 zY60tOO9o 403/464



「本当に悪かった。 許してくれ、風斬」

「・・・・・・ひっく、・・・・・・ぐす。 ・・・・・・ホント、に、ウソ?」

「嘘だ。 あンなのは嘘っぱちだ。 そしてこれは本当だ、信じてくれ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ぐすっ、・・・・・・」


一方通行は風斬の頭を自分の胸に優しく抱き寄せ、撫で続けた。


(・・・・・・こ、これは間違いねェよな? こォやって撫でてやりゃ落ち着いてくれるよな?
 打ち止めン時もこれでいつも宥めてたし・・・・・・、クソ、わからねェ。 正しいのかこれで・・・・・・)

『最初からそれが出来ていればこんなことにはならなかったものを・・・・・・』

『!!』

877 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/15 22:20:52.47 zY60tOO9o 404/464



ふいにエイワスが例の『念話能力(テレパス)』もどきで一方通行の頭の中に話しかけていた。


『なぜ、あんな虚言で風斬氷華が悲しんだか、君はわかるかね?』

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・わからねェ』

『愚鈍が。 それが原因で彼女は涙を流したのだよ』


いつもより一層厳しいエイワスの口調に、しかし一方通行は反論しない。


『もし、仮に君とオルソラ=アクィナスが交際している事が事実だとしたら、彼女は―――』

『・・・・・・・・・・・・、なンだよ?』



『―――――、彼女は君が何処かへ。 そうだな、イギリスにでも定住してしまうのではと考えたのだよ。
 そうなってしまったら『天使同盟(アライアンス)』はどうなる? 今でこそこうして風斬氷華は世界を回っているが、
 彼女の居場所は君が与えた『天使同盟』であると同時に、学園都市でもあるのだよ。
 君が何処かで定住などしてしまえば、彼女は居場所が無くなってしまうだろう』



『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

878 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/15 22:22:16.85 zY60tOO9o 405/464



エイワスは少し嘘をついた。
実際は風斬は一方通行がどこかへ消えてしまうのではと考えたのではない。




もっと単純に、もし一方通行が自分ではない誰かと――――――。




『そんな彼女の気持ちも考慮せずにそんな嘘を・・・・・・。 一方通行、君は一回死んだほうがいい』

『・・・・・・・・・・・・そォだな、死ンだほうがいい。 一回で足りればいいが』


一方通行は深く反省した。深く深く、反省した。
今も自分の胸の中で嗚咽している風斬を傷つけてしまった事に、大いに反省した。

自分で同盟宣言をしておきながらこのザマ、一方通行は自分で自分を絞め殺したくなった。

879 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/15 22:23:22.97 zY60tOO9o 406/464



「・・・・・・風斬」

「・・・・・・っく。 ぐすん・・・・・・」

「風斬、前にも言ったとおりだ。 俺はオマエを置いてどこかに消えたりしねェ。
 絶対に、誓って、オマエを置いてけぼりにしたりしねェ。 あァ、誓うぜ。
 エイワスにも聞かせてンだ。 嘘偽りなく、堂々と言える」

「確かに。 聞き届けたぞ」

「他のやつにも言える。 オマエだけじゃねェ、ガブリエルも、垣根の野郎も、
 絶対に置いていったりしねェし、『逃さねェ』。 約束する」

「一人、忘れていないか一方通行?」

「オマエは置いてったってすぐ来るンだろォが」

「ふふ、相違ない」


気付けば、風斬の嗚咽は止んでいた。

880 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/15 22:24:28.79 zY60tOO9o 407/464



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・風斬?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」




「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ぐすっ。 じゃあ、・・・・・・特別に許してあげます」




すっかりクセになってしまったのか、例の如く風斬は頬を膨らませながらそう言った。
側でエイワスが『いい話だ、感動的だな。 だが―――』とか言いながらデジイチで二人の姿を連写しているが、
そんな事は今の二人は全く気にしていなかった。

881 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/15 22:27:25.50 zY60tOO9o 408/464



「すまねェ」

「・・・・・・、ぷい」


謝ってくる一方通行に対して、風斬はそっぽを向いてしまう。


「う、ぐ・・・・・・。 ・・・・・・ごめンなさい」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・ふふっ。 ぐすっ。 冗談、です。 もう許すって言ったんですから、謝らないでください」

「・・・・・・あァ」


心の底から安心した。一時はどうなることかと、一方通行は緊張と焦りで心臓が握りつぶされそうになっていた。

それでは、という事で一方通行は風斬を胸から離そうとするが、グイッと彼女は再び胸に顔を寄せた。

882 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/15 22:28:33.66 zY60tOO9o 409/464



「ど、どォした?」

「も、もうちょっとだけこうしててもいいですか・・・・・・?」

「いや、もういいだろ――――」

「・・・・・・・・・・・・ダメ?」

「どォぞ」


全パーツが揃ったエクゾディアより攻撃力の高い風斬のうるうる上目遣いに、
さすがの鈍感通行もほんの少し粛然としたようだ。渋々彼女の要求を受け入れる。


「・・・・・・・・・・・・、?」


ふと、風斬がエイワスの方へ視線を向けるとエイワスは手に何かを持って指を差していた。
よく見るとエイワスが持っているそれはいわゆる『カンペ』というやつであり、そこには、

883 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/15 22:29:23.75 zY60tOO9o 410/464





『さぁ、風斬氷華。 ここでキスをするんだ。 何ならそれ以上の情事に至っても構わんよ?
 そうなったら私は音も無く、この部屋から消え去ろう』




「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ッ!」


ボンッ!と風斬の顔が真っ赤に染まる。接吻をしろと轟き叫ぶ(カンペが)。
一方通行に動揺を気付かれぬよう慌てて彼を取り繕う。


「どォかしたか?」

「い、いい、いえ。 何でも・・・・・・な・・・・・・」

884 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/15 22:30:17.35 zY60tOO9o 411/464



様子がおかしい風斬を見てきた一方通行の顔が非常に近い。
危うく本当に"してしまいかねない"状況になってしまった。

チラッとエイワスの方へ向き直すと、エイワスは明らかに動揺している風斬の様子を見て愉しんでいた。
そんなエイワスにムカっときた風斬がとった行動は、


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「あ? オイどォしたンだよ風斬」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


スッと一方通行から身を離し、スタスタと歩を進めてベッドの前に行くとその身を屈ませる。


「?」


885 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/15 22:31:08.97 zY60tOO9o 412/464



何をしてンだコイツは、と一方通行が訝しむ。
やがて風斬がベッドの下から何かを取り出してきた。例の桃色ノートだ。


「なンだそれ?」


「もう、こんなものに振り回されたりしないです」


「! 待ちたまえ風斬氷華、話せば分か――――」




珍しく慌てたように風斬に声をかけるエイワスだが、時既に遅し。
風斬は自身の力で雷光に似た光をノートに向けて撃ち込んだ。




「何やってンだ・・・・・・? なンでそのノートを燃やした? てかなンだよそれは」

「さぁ。 私にも分かりかねますが・・・・・・、ふふ。 きっとイケナイ物だと思います」


そう言って彼女は満足気に、百点満点の笑みを浮かべた。

それはもう紛う方無き、『天使』の笑顔だった。

886 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/15 22:32:30.05 zY60tOO9o 413/464



(作成するのに苦労したのだがな・・・・・・、あのノート)


誰が見ても気付くことはないだろうが、エイワスは少しションボリしていた。


ちなみに、燃えゆくノートの最後のページにはこんな事が書かれてあった。






『このノートこそが虚空、幻想。 己の真実だけを見極めよ。
 ノートの幻想に囚われているようでは、己が抱く愛は貫けぬと考えるべし。
 ――――すべての男女の関係は、星の関係である』







887 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/15 22:33:35.47 zY60tOO9o 414/464



風斬がこのノートの最後のページを見ていたら、今の状況はまた違うものになっていただろうか。
しかしもう、後の祭り。十秒も経たないうちにノートは完全に燃え尽きてしまった。


「灰も残らねェとは・・・・・・、なンだったンだよ? 今のノート」

「君に話してもしょうがない事だ。 まぁいいだろう、では私はこれで―――」

「・・・・・・逃がしませんよ? エイワスさん」


冷たく、鋭く、突き刺さるような声で風斬は言った。


「・・・・・・まだ何か用が? もう君も満足しただろう?」

「予備、こっちに渡してください・・・・・・」

888 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/15 22:34:29.79 zY60tOO9o 415/464



「?」

「まだもう一冊か二冊くらいあるんでしょう? あのノート。
 それを全部渡してください」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 ふふふ、本当に信用がないな私は。
 しかし風斬氷華、これだけは言っておくがもうノートはこの世に、」

「渡せ」

「はい」


ごそごそと懐をまさぐり、エイワスは風斬に全てのノートを手渡した。
その瞬間、風斬は躊躇ゼロでノートを瞬殺する。

889 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/15 22:35:28.34 zY60tOO9o 416/464



「わ、私の気持ちをあんな物で惑わせて、自分だけ愉しもうだなんてひどいことです!
 もしまた似たような物を作ったりしたら、あなたもさっきのノートと同じ末路を迎えますからね!」

(なンか知らねェが怖ェ・・・・・・)

「心得た。 反省しているよ、もう二度とあんなノートは作らん」

「もう・・・・・・本当にお願いしますよ。 私は真剣なんですから!」

「心得たと言った、許してくれたまえ。 検討を祈るよ、風斬氷華」


その言葉を最後に、エイワスは風斬の部屋から姿を消した。


「なンだったンだ・・・・・・・・・・・・」


話の展開についていけなかった一方通行だが、それでもこれで何とか解決したと見做し、
ドカッとベッドに腰掛けて深い深いため息をついた。

891 : 次回予告はここまでです。  ◆3dKAx7itpI - 2011/02/15 22:40:56.81 zY60tOO9o 417/464




                          【次回予告】



『ンなモンどォしよォもねェだろ、生きてる以上寝っ転がってたらちったァ動くわそりゃ』
―――――――――――『天使同盟(アライアンス)』のリーダー・一方通行(アクセラレータ)




『いやあの・・・・・・、動かれたらその、こ、擦れて・・・・・・』
―――――――――――『天使同盟』の構成員・風斬氷華




917 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/16 22:38:52.97 Qr3JR/FIo 418/464



愚鈍通行が引き起こした騒動もひとまず収まり、室内に再び静寂が戻る。
事態は収拾したとはいえ、もはや一方通行はこの部屋に居るつもりはなかった。

許してくれたとはいえ、さすがに自分のような男と一緒に夜を明かしたくはないだろう。


「・・・・・・ンじゃ、俺ァここらで御暇させてもらうぞ」

「え!? だ、ダメです、今日は・・・・・・ここにいてください」

「オマエ正気か? 俺はオマエを泣かせたンだぞ?」

「出ていったら泣いちゃいます」

「・・・・・・・・・・・・」

「ふふっ」

918 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/16 22:39:48.31 Qr3JR/FIo 419/464



コイツ本当は天使じゃなくて小悪魔なンじゃねェか、と一方通行は辟易した。
彼はすっかり涙を流す女の子に弱くなってしまっていた。マイナス耐性のパラメータが付いた。


「汚ェぞ・・・・・・、バカみてェに泣きやがって。 ナケワメーケかオマエは。
 ・・・・・・いやまァ、全面的に俺が悪いのは間違いねェンだけどよ」

「涙は女の武器って・・・・・・言いませんか?」

「まさか全部計画通り、とか言わねェだろォなァ?」

「さすがにそこまでの演技は出来ません・・・・・・、嘘だったからいいですけど、
 あの時は本当に驚いたんですからね」

「はいはい、悪ゥござンした」


だが結局風斬は一方通行に自分の気持ちを気付いてもらえていなかった。
その気になればエイワスはあそこで風斬の本当の気持ちを暴露出来たのだろうが、
エイワスは気遣ってくれたのだろうか?

919 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/16 22:40:39.18 Qr3JR/FIo 420/464



「ていうかよォ」

「?」

「なンでオルソラだったンだ? 俺にそォいう関係の女はいねェが、
 それでも俺たちが出会った女は結構多いじゃねェかよ」

「えっと、それはオルソラさんだけ何だかパラメータがずば抜けてて・・・・・・」

「パラメータァ?」

「あっ、いえ、なんでもないです・・・・・・」


うっかりノートの事を喋りかけてしまう風斬。無理やりな笑顔を作りごまかしている。


「ワケわかンねェ女だな・・・・・・。 ・・・・・・、そろそろ寝よォぜ、もう〇時まわっちまってる」

「そうですね、明日も色々お手伝いしなきゃいけませんし・・・・・・。
 ・・・・・・え、えっと、どうしましょう?」

「どォしましょうって何がだよ」

「いや、あの・・・・・・・・・・・・、ね、寝る場所」


風斬は顔を赤く染め、もじもじしながら尋ねる。
しかしまぁよく顔が紅潮する娘だな。

920 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/16 22:41:45.90 Qr3JR/FIo 421/464



「寝る場所? ここだろ? 俺は出ていっちゃダメなンだろ?」


こうなったら外で寝ることも厭わないと考えていたが、風斬に制止されてしまったため
結局ここで寝るしかないのだ。


「ここですけど、べ、べ、ベッドは一つしかないですし・・・・・・」

「ベッドで寝りゃいいじゃねェか。 何言ってンだオマエ?」

「そ、そうですよね! それしかないですもんね!」

「あァ、俺は床で寝るからよ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

921 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/16 22:42:50.19 Qr3JR/FIo 422/464



そう言うと一方通行はそこら辺に置いてあった毛布を一枚手に取り、
ゴロンと床に寝っ転がってしまった。

まぁこれは鈍感とかでもなんでもなく、当然と言えるだろう。
そういう関係でもないのにベッドで一緒に寝るという選択肢は一方通行でなくても選びがたいはずだ。


しかしこの時、風斬はレッサーの言葉を反芻していた。




『やっぱりもっと積極的に近付かないと何も進展しませんよ?』




レッサーだって頑張っているのだ、自分だってここで頑張らなければ彼女にあんな啖呵をきった自分は何なのかという事になる。
風斬はありったけの勇気を振り絞って一方通行に話しかけた。

922 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/16 22:43:41.36 Qr3JR/FIo 423/464



「あ、一方通行さん・・・・・・」

「なンだよ」

「きょ、今日は随分寒いですよね」

「ロシアだかンなァ」

「・・・・・・・・・・・・だからそんなところで寝てると風邪ひいちゃいますよ」

「ファンヒーターがあンだろォが」

「私も、ベッドで一人だと、あの・・・・・・風邪ひくかも」

「AIM拡散力場の集合体が風邪なンざひくわけねェだろ」

「ひ、ひきますよ! 夏風邪こじらせたことあるもん・・・・・・」

「そォなのか?」

「は、はい・・・・・・、だから・・・・・・・・・・・・」

923 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/16 22:44:47.19 Qr3JR/FIo 424/464




「きょ、今日は一緒にベッドで寝てくれませんか・・・・・・・・・・・・?」



どう考えても誘ってます、本当にありがとうございました。

一方通行は寝返りをうって風斬の方を見る。彼女は目を閉じ俯きながらわずかに震えていた。
彼はしばらくそのままの状態で動かなかったが、やがて、


「ンじゃ仕方ねェな。 ベッドで寝るぞ」


別になんでもないといった表情で一方通行は起き上がり、ベッドまで歩き布団に潜り込んだ。


「さっさと来い、俺ァもう眠たくてしょうがねェンだ」

「は、はひ・・・・・・・・・・・・」


よろよろとした足取りで風斬もベッドに近付き、一方通行が作ってくれた
もう一人分のスペースの中に潜り込んだ。

924 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/16 22:45:48.56 Qr3JR/FIo 425/464



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

(・・・・・・・・・・・・うわわわ、どど、どうしよ・・・・・・どうすれば・・・・・)


現在、風斬氷華はベッドの中にいる。その目的はもちろん就寝のためなのだが。
彼女は今、それどころではない状態にあった。


「・・・・・・何もぞもぞ動いてやがる」


風斬の目の前、すぐ隣には一方通行という名の男が同じくベッドに潜り込んでいた。
彼は風斬に背を向け、窓がある壁の方を向いて寝っ転がっている。
つまり、風斬の眼前には一方通行の白い白い後頭部の頭髪があるわけだが。

925 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/16 22:46:42.41 Qr3JR/FIo 426/464



(こ、こんな近くに・・・・・・、ちょっとこのベッド小さいんじゃないですか・・・・・・?)


部屋を提供された身に余る言葉を吐き、まじまじと一方通行の頭を見つめ続ける風斬。
しかし独立国同盟の皆さんに文句をいうつもりはないが、それにしてもこのベッド、確かに小さい。


一人の人間がベッドに入ってちょうどぴったりスッポリサイズといった大きさであるが故に、
こうして二人で入るともう密着せざるを得なくなるのだ。
もっとも、こうして二人も入って寝るために作られたベッドではないのだろうが。


しかしそんな度胸がない風斬は、一方通行からほんの少し身を離して横になっている。
あと数ミリ後ろに動いたら落ちてしまうような状態だ。

926 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/16 22:47:35.94 Qr3JR/FIo 427/464



「落ち着きがねェな、なンだってンだよ?」

「ああ、あ、いやあのごめんなさい。 ちょっとでも動いたら落ちちゃいそうで・・・・・・」

「だったらもっとこっち寄ればいいだろォが」

「あう・・・・・・、は、はい・・・・・・」


わずかでも寄れば完全密着状態になるというのに『もっと寄れよ』宣言。
完全に誘ってやがると思うかも知れないが、一方通行に限ってそれはなかった。

しかしこのまま寝てしまえば朝目覚めたら確実に落っこちている事は間違いないため、
風斬はごくりと生唾を飲んで深呼吸をしたあと、ズイっと一方通行の方へ身を寄せた。


・・・・・・こういうイベントは漫画やアニメでも見るが、普通男女逆じゃないだろうか。


「し、失礼します・・・・・・」


927 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/16 22:48:18.97 Qr3JR/FIo 428/464



むにゅ、と。 一方通行の背中に奇妙な感覚が走る。


「あ?」

「えっ?」

「・・・・・・・・・・・・チッ。 あァー・・・・・・仕方ねェか、クソ」

「え? ・・・・・・あ、・・・・・・///」


奇妙な感覚の正体は、学園都市でも違う意味で一、二位を争うであろう風斬のビューティフルな胸だった。
『当ててんのよ』ではなく、『当てざるをえないのよ』状態である。うん、これは彼の言うとおり仕方がない。

にしても男が見たら死ぬほど羨ま・・・・・・けしからんシチュエーションであるというのに舌打ちとは何事か。


「・・・・・・・・・・・・」

「ひゃっ、あ、あんまり動かないでください・・・・・・」

「あァ? ンなモンどォしよォもねェだろ、生きてる以上寝っ転がってたらちったァ動くわそりゃ」

「いやあの・・・・・・、動かれたらその、こ、擦れて・・・・・・」


完全にエロゲだこれ。

928 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/16 22:49:49.24 Qr3JR/FIo 429/464



風斬のいやに艶めかしい吐息が一方通行のうなじにかかる。


「ンぎ・・・・・・っ!」

「ど、どうかしましたか?」

「いや・・・・・・、なンでもねェからあンま息すンな」


無茶難題を言う一方通行。もっともAIM拡散力場の集合体が呼吸をする必要があるのかどうかと言われたら、
恐らくはないのだろうが、それでも彼女は今まで一応呼吸をして生きてきているのだ、癖のようなものである。


(あァー・・・・・・これじゃ寝るに寝れねェじゃねェか、クッソ・・・・・・)


929 : 申し出てどうする・・・・・・。 正しくは言う、です。 すみません  ◆3dKAx7itpI - 2011/02/16 22:51:03.55 Qr3JR/FIo 430/464



体勢を整えるためにもぞりと動く一方通行。そうする度にすぐ後ろから『ん・・・・・・』だの『あぅ・・・・・・』だの
囁くような色っぽい声が聞こえてくるのだが、彼はひたすらに耐えた。神の領域に達しているとしか思えない。


風斬は風斬で位置調節のため微弱に一方通行が動くたびに彼の背中で胸が擦られ、眠れないでいた。


(ひぅ・・・・・・、な、なんか変な感じ・・・・・・)


これはまずい、非常にマズイ。これ以上『コト』が進展したらこの物語は伏線放ったらかしで幕を閉じてしまうため
風斬の理性には是非とも頑張っていただきたいところである。

そして彼女もこのままこうしていたらどうなるかわからないと危惧したのか、
少々荒っぽくなっていた呼吸を整え、とりあえず何か話題を持ち掛ける事にした。

930 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/16 22:52:00.59 Qr3JR/FIo 431/464



「あ、あの・・・・・・一方通行さん」

「・・・・・・ンだよ」

「えっと、ロシアでの用が済んだら今後、私たちはどうする予定なんですか?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


風斬は現時点で考えられる最も無難な案件を一方通行に尋ねた。


「・・・・・・そォだな。 今のところ存在するアテと言やァ・・・・・・、フィアンマか」

「フィアンマ・・・・・・、『神の右席』の魔術師ですよね」


ロシアでも有力な情報は得られなかったため、『天使同盟(アライアンス)』はとにかく僅かな手掛かりでも
すがるしかない。一方通行が次に考えていたアテは、ミーシャ=クロイツェフを召喚した張本人との接触だった。

931 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/16 22:53:17.84 Qr3JR/FIo 432/464



「ただフィアンマがどこにいやがるのかは皆目見当がつかねェ。 クソ忌々しいが、またエイワスに
 探してもらう他ねェかもなァ。 ・・・・・・会ったところで有力な情報が手に入るとは思えねェが」

「・・・・・・でもそれだとエイワスさんが言ってた、"星の欠片を巡る旅はロシアで終わる"って言葉は
 無視する事になっちゃいますよね・・・・・・」


"星の欠片を巡る旅はロシアで終わる"。仮にこのエイワスの言葉が真実であると言うのなら、
『天使同盟』はフィアンマを探すこと無く旅を終え、学園都市に帰るはずだ。


「別にあンな野郎の言葉を真に受ける必要はねェだろ。 俺たちがどォするかは俺たちが決めるンだ」

「そうですね・・・・・・、うん。 今までだってそうしてきましたもんね」


しかしフィアンマに会いに行くというのは、正真正銘星の欠片についての情報を手に入れるため"だけ"であり、
イギリスや今回のロシアのように楽しいものにはなりそうもない。

そもそも一方通行たちはフィアンマが生きているのかどうかすら分からない。
もしかしたらその辺の雪山で野垂れ死にしている可能性だってあるのだ。


そう考えると、一方通行はフィアンマ接触にあまり意欲的になれなかった。

932 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/16 22:54:26.58 Qr3JR/FIo 433/464



やはりエイワスはそういう意味で、あんな事を言ったのだろうか。
もはやベツレヘムの星の欠片を追う必要はない、と。そう考えての発言だったのか。

一番の懸念事項である、アレイスター・クロウリーも何のアクションもとってこない。
やはり、ロシアで終わりなのだろうか。


「・・・・・・まァ、焦る必要はねェわな」

「?」

「フィアンマを探すのは別にいつでもいいってこった。 現状でも何も起きちゃいねェし、
 ガブリエルのヤツもすっかり人間界に馴染ンでやがる。 脳天気だと言われりゃ返す言葉がねェが、
 もう別にこのままでもいいンじゃねェかって・・・・・・、正直言うが、思ってンだよ」

「一方通行さん・・・・・・」

933 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/16 22:55:32.06 Qr3JR/FIo 434/464



「ガブリエルが絡ンだ何かが起きりゃ俺は動くが、そォいうのが無けりゃ別にいいンじゃねェか?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・そうは思わねェってンならまた考えるけどよ」

「ううん。 あなたがそう言うなら、私もそれでいいです」

「別に無理して俺に付き合う必要はねェンだぞ。 例えばさっき言ったフィアンマの件だって、
 相手が相手なだけに今まで通り面白おかしくってわけにもいかなそォだしな。
 オマエらが危険な目に遭うと面倒だから、嫌なら嫌で―――――」



「私は、ずっとあなたと一緒にいたいです」



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「あなたがフィアンマに会いに行くというのなら、私も会いに行きますし、
 あなたが天界へ行くというのなら、私もそこへ行きます。
 あなたが地獄に堕ちるというのなら、私も地獄の底まで堕ちていきます」

934 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/16 22:56:20.16 Qr3JR/FIo 435/464



「オマエ・・・・・・・・・・・・」

「さっき言ってくれたじゃないですか、『絶対に置いていったりしねェし、逃さねェ』って。
 あれは嘘じゃないんでしょう?」

「・・・・・・・・・・・・当たり前だろォが」

「だったら、私はずっとあなたの側にいます。 ずっと・・・・・・」


そう言って、風斬は一方通行を優しく全身で抱きしめた。
この世の物とは思えない、不思議で幻妖な、しかし包まれるような暖かさがあった。

彼女から香る甘い匂いが一方通行の鼻腔をくすぐる。普段の彼なら振り払うところだろうが、
今回ばかりは一方通行は抵抗しなかった。


「・・・・・・わァーったよ、勝手にしろ」

「はい、勝手にします」

935 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/16 22:57:28.42 Qr3JR/FIo 436/464



壁のほうを向いている一方通行に、それでも風斬はにっこりと笑ってみせた。


そして風斬はその全身で彼を感じながら、数分もせずにすやすやと安らかな寝息をたてた。


(・・・・・・・・・・・・・・・・・・クソったれが)


こうして抱きしめられた事など、人生でたった一度しか無い一方通行は、


(もっと・・・・・・女の気持ちってのを考えた方がいいのか俺は。 ガラじゃないなンて言ってる場合じゃねェか?
 コイツの気持ちを無視して俺はコイツを泣かせちまって・・・・・・。 ・・・・・・コイツの気持ちってなンだ?)


人生で初めて、『女性』の気持ちをきちんと考えるという、大きな大きな成長を成し遂げた。


(俺がどこかに行っちまうのを恐れてる・・・・・・とか言ってたな、エイワスの野郎は。
 それは分かるが・・・・・・、クソ。 風斬の本当の気持ちなンて分かるか、俺は読心能力なンざ持ちあわせてねェぞ)


そこが分かったとき、それがゴールになるのだが。


(・・・・・・他の女たちにも、もう少し優しくしてやりゃいいのか・・・・・・?
 あァちくしょう、わかンね。 ・・・・・・・・・・・・寝よ)


そしてこの日、初めて、ほんの僅かに、淡く、淡く、『女性』を意識したのだった。



『天使同盟(アライアンス)』のロシアでの一日は、こうして終わりを迎えた。

937 : 次回予告はここまでです。  ◆3dKAx7itpI - 2011/02/16 23:04:43.29 Qr3JR/FIo 437/464




                          【次回予告】



『・・・・・・・・・・・・・・・・・・ガキに礼言われる事なンざ俺がいつしたってンだァ?』
―――――――――――『天使同盟(アライアンス)』のリーダー・一方通行(アクセラレータ)




『さて、と・・・・・・。 ワシリーサはどこにいやがんだ? 起きてんだろうなあのババア・・・・・・』
―――――――――――『天使同盟』の構成員・垣根帝督




『あなたは善人なんですか? それとも悪人なんですか?』
―――――――――――元『殲滅白書』の魔術師・サーシャ=クロイツェフ




961 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/18 22:49:12.93 M5zsFO4Eo 438/464



――――――――――――――――――――――


エリザリーナ独立国同盟の朝は早い。


午前四時過ぎには既に独立国同盟の至る所で民間人が活動を始めている。
今回はプライベーティアとの抗争の後ということもあって、尚更だ。


鳥のさえずりが心地良く聞こえて~だとか、そんな朝らしい朝ではないにせよ、
ロシアの空から降り注ぐ柔らかで暖かな日差しが、学園都市最強の男に差した。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ン、ァ・・・・・・」


いかにも鬱陶しいと言わんばかりの表情で一方通行は爽やかな朝を演出してくださった太陽様をギロリと睨み、
布団を乱暴に引き寄せ日差しを拒絶する。

962 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/18 22:50:32.05 M5zsFO4Eo 439/464



このまま二度寝と洒落込もうとした時、ふと違和感を感じた。


(あ・・・・・・? ンだこの・・・・・・、甘い匂いは)


自分が包まっている布団の中で、なぜか甘美な香りがする。
この布団が何か特別な素材で出来ており、そこから香っているのかと思ったが、
一方通行はその次の違和感で全てを思い出した。


(なンだこの、やけに柔けェ物体は・・・・・・、スライム? マシュマロ・・・・・・? ・・・・・・)


「うお・・・・・・・・・・・・っ!!!?」


ガバァッ!!と、勢い良く跳ね起きる一方通行。
その狂ったように白い右手には、見事に隣で涎を垂らしながら可愛らしい寝顔で寝入っている
風斬氷華のパーフェクトな――右胸の――マシュマロマンが鷲掴みにされていた。

963 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/18 22:51:37.72 M5zsFO4Eo 440/464



(チッ!! なァにやってンですかァ俺ァ・・・・・・・・・・・・)


バッとその手を離し、彼女を起こしてしまっていないか確認をする。
風斬は昨晩、泣き疲れたせいもあってか、今なら多少の事では起きなさそうな様子だった。


「ふゥ・・・・・・、ったく・・・・・・」


安堵なのか呆れなのか分からないため息をつく。決して賢者にジョブチェンジしたわけではないので勘違いしないように。


「・・・・・・・・・・・・六時前、か。 思った以上に眠れなかったな」


意識が無くなったのが〇時過ぎなわけだから、実質五時間強睡眠出来ているのだ。
かなりの疲れがあっただろうが、それだけ寝られれば十分ではないかと思えなくもない。

964 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/18 22:52:32.31 M5zsFO4Eo 441/464



風斬を蹴り落とさないように慎重にベッドから降りていく。
よく見てみると―――疚しい意味ではなく―――風斬はいつの間にかパジャマの姿になっていた。
いつの間に着替えたのかと思ったが、よく考えたら彼女は虚数学区の住人であるため
気分によっていつでもドレスチェンジが出来るのだ。


(便利なモンだな)


大して感心もせずに一方通行は思った。
無事にベッドから降りられた彼は、顔を洗い、歯を磨き、第三次世界大戦の時に着ていた
白のダウンを来て杖をつきながら扉を開け、外に出た。




と、そこで急に何かが一方通行にドン、とぶつかってきた。




「あァ?」

「あ、ごめんなさ・・・・・・。 あー!」

「?」


ぶつかってきたのは五、六歳くらいのロシア人の男の子だった。
さらに続いて同じぐらいの歳の男の子と女の子が走ってくる。

965 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/18 22:53:34.75 M5zsFO4Eo 442/464



「船のお兄さんだ!」

「はァ?」


いきなりそんな事を言われ、キョトンする第一位。
船のお兄さんとは一体何なのか、『歌のおにいさん』と同じようなニュアンスなのだろうか。

しかし生憎、一方通行にNHK番組出演のオファーは来ていない。と、なると、


「あのでっかいお船もってきたの、おにいさんでしょー?」


ちんまりとした金髪の少女が尋ねてくる。でかいお船と言えば、


「・・・・・・クルーザーの事かァ? 正確には持ってきたのは俺じゃねェが、
 まァ乗ってきた事には違いねェな」

966 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/18 22:56:05.38 M5zsFO4Eo 443/464



「やっぱりそうだ! あの光ってるお姉さんが言ってたとおりだね!」

「うんうん! お礼言わないと!」


そう言って三人の子供たちは一方通行の前にきちんと並び、




「「「ありがとーございました!」」」





967 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/18 22:57:22.63 M5zsFO4Eo 444/464



ペコリと礼をしてキャッキャとハシャぎながら走り去っていった。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ガキに礼言われる事なンざ俺がいつしたってンだァ?」


意味が分からない出来事に一方通行はすっかり面食らってしまった。


それにしてもあの超巨大豪華クルーザー『アライアンス』号がどうかしたのだろうか?
てっきりあの子供たちからクルーザーの話が出たとき、『なんてことをしてくれたんだ』と
罵声を浴びせられると身構えていた一方通行だが、結果は真逆だった。

子供たちは何やら嬉しそうに年相応のニコニコとした可愛らしい笑みを浮かべており、
走り去って行く時も『はやくはやくー!』と、まるで楽しい何かがその先に待ち受けているかのような、
そんなテンションだったように思う。


「・・・・・・・・・・・・とりあえず行ってみるか」


風斬も起こして一緒に向かおうかとも思ったが、寝ているところをくだらない理由で起こしてしまうのも
悪いと思った彼は、そのまま一人で杖をつきながら無茶苦茶に荒らされた居住区へ向かうことにした。

968 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/18 22:58:43.00 M5zsFO4Eo 445/464



――――――――――――――――――――――


エリザリーナ独立国同盟、朝六時前。


学園都市の超能力者、序列第二位の垣根帝督は居住区の一室で朝を迎えた。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・はぁ。 こんなもんか」


結局彼は一睡もせずに作業を続けていた。
イメージカラー『白』の化物が自分の部屋のファンヒーターを持っていってしまい、
寒さを凌ぐために『未元物質(ダークマター)』の翼で寒気を遮断し続けていたため、
若干ながら体に疲れが残っていた。


「あー肩も痛えし首も痛えし、おまけに頭もふらふらしやがる。
 結局朝までやり込んじまったか、何必死になってんだかなぁ・・・・・・俺」

969 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/18 22:59:52.32 M5zsFO4Eo 446/464



やたら固い椅子から立ち上がり、うーんと思い切り蹴伸びをする。
肩の調子を確かめるためにグイグイと回し、首を二、三回コキコキと鳴らす。


何やら外が騒がしかった。といっても何か事件が起きての喧騒といった様子ではなく、
どちらかと言えば何らかの素敵なサプライズが起きたときのような歓喜の騒ぎだ。


「んん? 何かあったのか? ガキのハシャぎ声も聞こえてきやがるが・・・・・・」


気怠そうに頭をポリポリと掻く。その際に肘にくっついていた自作の『ルーン』が一枚落ちていった。
右手の側面も黒ずんでおり、作業をしていた机の上には山のようにルーンが盛られている。


「笑えるな、漫画家かよ俺は。 風呂入ったら二、三枚くらいルーンが浮かんでくるんじゃねえの?
 トーン貼りの作業してて風呂に入ったらトーンが湯船に浮かんできたって話を聞いたことがあるしなぁ」


そう言って、自分に苦笑する垣根。それにしてもこの男、独り言が多すぎやしないか。

970 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/18 23:01:09.17 M5zsFO4Eo 447/464



「居住区の騒ぎも気になるが・・・・・・、まぁいいや。 さっそく『コイツ』を試してみようかね」


垣根は机の上だけではなく、その周辺にもゴミのように散らばっているルーンをせっせとかき集め、
『冷蔵庫でも分かる、魔術の使い方講座』の付録として付いていた数個のデッキホルダーにセットする。
彼が作成したルーンは既に一〇〇〇枚に達しようとしていた。


「『決闘者(デュエリスト)』かよ俺は・・・・・・。 これで腕に変な機械がついてたら完璧だな」


着込んだジャケットの裏にびっしりと装着されたデッキホルダーは、さながら王国編のバンデッド・キースのようだ。

付録のデッキホルダーはルーンの取り出しが容易に行えるような設計になっており、
"例え急遽戦闘になってしまった場合"や、"大勢の敵と戦闘になった場合"でもすぐに魔術を発動できるような仕組みになっている。
手に取りそのまま使用するタイプのルーンや、予め貼りつけて使用するタイプのルーンなど、
カテゴリによってホルダーを選択し使用できるようになっていた。

その様だけ見ると、垣根帝督は立派な魔術師に見えなくもなかった。


「さて、と・・・・・・。 ワシリーサはどこにいやがんだ? 起きてんだろうなあのババア・・・・・・」


そしてロシア到着から二日目、垣根帝督の最大の試練が幕を開ける。

971 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/18 23:02:15.49 M5zsFO4Eo 448/464



――――――――――――――――――――――


「くあァ・・・・・・・・・・・・ンァ、眠ィ・・・・・・」


一際大きなあくびをした一方通行は例の船が突っ込んであるポイントへと向かっていた。


他の『天使同盟』の各々の様子を見ようとも思ったがすぐに面倒な気になりそれをやめ、
彼は一人で朝から騒がしい居住区を歩いていた。リーダー失格である。


居住区では一方通行を抜き去るように子供たちが元気に走って行ったり、
彼の姿を見て何やらボソボソと噂をしているような民間人の様子も見られた。

ただ、その様子は悪い意味ではなくまるで有名人が街を歩いていて、

972 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/18 23:03:28.25 M5zsFO4Eo 449/464




『あれってもしかしてあの人じゃない!?』

『ホントだ~! 本物だよ本物!』



と、どこか囃し立てるような雰囲気に見える。


(・・・・・・・・・・・・周りの目線がウザくてしょうがねェ。 やっぱなンかあったな)


だが民間人の様子からして、何か悲劇が起きたような感じではない。
中には普通に商売をしている民間人もいたし、軍人は軍人で走りまわる子供たちを
叱っていたりと、至って平和な光景だ。


昨日あんな事があったばかりだと言うのに、独立国同盟の人間は逞しいなと
一方通行が少しだけ感心していると、

973 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/18 23:04:28.88 M5zsFO4Eo 450/464






「おはようございます、一方通行」





ふいに後ろから声をかけられた。


「オマエか」

「はい。 サーシャ=クロイツェフです」


緩いウェーブがかった金髪で、その瞳は前髪で隠れて見えず、下着と相違ない素材と黒いベルトで出来た
拘束服を着用し、その上から赤い外套を羽織り、リード付きの首輪を装着している元『ロシア成教』の戦闘修道女、
サーシャ=クロイツェフだった。

974 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/18 23:05:55.46 M5zsFO4Eo 451/464



周りの民間人に比べてあまりにも薄着な彼女の出で立ちに、一方通行は目を細めて言う。


「・・・・・・オマエ、寒くねェのか? ロシアの地でそンな格好たァ、マゾ子ちゃンなンですかァ?」

「第一の解答ですが、長年この格好で生活しているため何の問題もありません。
 補足説明しますと、これは決して私が好んで着用しているわけではなく、あくまで
 ワシリーサの指示で着用しているだけですので」


そうは言っても彼女の小さな口から漏れる白い吐息と、わずかに震えている指先を見たら
とても強がりにしか見えないし、聞こえなかった。


「他に着るモンねェのかよ?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・第二の解答ですが、あるにはあるのですが・・・・・・、
 その、あまりこれと変わらないというか・・・・・・・・・・・・」


ロシア成教から逃亡する際にワシリーサから渡された自作のカナミンスーツを見たときは
本気であの女をぶち殺してしまおうかと考えたものだ、とサーシャはため息をつく。
ようはサーシャはああいったゲテモノ・・・・・・と言ってはあれだが、そういった服しか持っていなかった。

975 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/18 23:07:49.84 M5zsFO4Eo 452/464



「変態コスプレ嗜好な飼い主を持つと、ペットも大変だなァ」

「第三の解答ですが、私はあの変態のペットなどではありません」

「嫌々でも着てンじゃねェか。 飼い主に忠実な証だァ」

「第四の解答ですが、アレは力業で無理やり着せてくるのです。
 補足説明しますと、私は毎回毎回抵抗の意志を見せています」

「オマエだって女なンだろォ? ちったァオシャレしてェとか思わねェのか?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・第五の解答ですが、その気がないわけでもありません」

「ふゥン・・・・・・・・・・・・」


一方通行は何かを考えているかのような仕草を見せながら歩を進めていく。
サーシャもそんな彼と並ぶようにテクテクと歩いていた。

976 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/18 23:08:52.96 M5zsFO4Eo 453/464



「・・・・・・・・・・・・第一の質問ですが、」

「あン?」


と、今度はサーシャの方から質問をしてきた。


「あなたは善人なんですか? それとも悪人なんですか?」

「は?」

「昨晩、私は部屋でミーシャ=クロイツェフと夜を明かしました。
 あぁ、補足説明しますと、今朝起きたら既にミーシャの姿がなかったので
 彼女の現在位置は答えかねます」

「とンでもねェチャレンジャーだな。 『天使同盟』を代表して表彰するぜ」


今までどんな困難にも立ち向かってきた一方通行だが、それでもさすがにあの大天使と
二人きりで一夜を過ごそうとは思えなかった。

977 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/18 23:10:24.59 M5zsFO4Eo 454/464



ミーシャと一緒にロシアから学園都市へ帰った時、彼は何日かミーシャと
『グループ』の隠れ家で共に過ごしたが、あれは地獄としか言えなかった。


「・・・・・・第一の私見ですが、楽しかったですよ」

「何?」


あの化物と『楽しく』同じ部屋で過ごせる方法があるというのなら是非とも伝授していただきたいものだ。
一方通行はサーシャの言葉の続きを待つ。


「・・・・・・ミーシャから口止めをされているので詳しくは語れませんが、
 彼女はあなた方と、特にあなたと共に過ごしてきた時間をとても楽しそうに話してくれました」

「直接会話したってンじゃねェだろ?」

「第六の解答ですが、確かにそういった意味でのコミュニケーションはとれませんでしたが、
 それでも彼女のあなたに対する大きな好意を確認することは容易かったです」

978 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/18 23:11:24.83 M5zsFO4Eo 455/464



「・・・・・・ハッ。 ここ、喜ぶところかァ?」

「第七の解答ですが、素直に喜んであげてはどうでしょうか」


サーシャはミーシャの想いを代弁するように語る。


「補足説明しますと、ミーシャはもっと・・・・・・、もっともっと、あなたと触れ合いたい、
 分かり合いたいと願っています。 本来『天使』とは神に造られ、神に操られるだけの
 傀儡人形・・・・・・。 にも関わらず、彼女はあなたと共にこの世界で生きていきたいと。
 第二の私見ですが、私も彼女と話をしてそう思っているのだと解釈しました」

「・・・・・・・・・・・・わかってンだよンな事ァ」

「第三の私見ですが、天使に心を芽生えさせ、この世界に留まりたいと思わせるあなたは・・・・・・、
 ある意味ではとんでもない悪人なのかもしれませんね」

「はいはい」


そんな事はいちいち言われなくても理解している、と言わんばかりに
一方通行をその話題を切り上げた。

979 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/18 23:12:43.61 M5zsFO4Eo 456/464



「生意気な事を言って申し訳ありませんでした」

「ガキは生意気なくらいがちょうどいいンだ」

「第二の質問ですが、そういうあなたは大人なんですか?」

「・・・・・・・・・・・・、ガキだな」


一方通行にとって大人と子供の境界線はどこなのだろうか。
自分自身でもそれは分からないでいた。


「第三の質問ですが、独立国同盟での一日はいかがでしたか?」


サーシャはとりあえず、といった様子で話題を変えた。

980 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/18 23:13:55.36 M5zsFO4Eo 457/464



「どォって言われてもまだ分かるわけねェだろォが。
 第三次世界大戦の時はどいつもこいつも忙しくてのンびりしてらンなかったしよ。
 今だってそォじゃねェか。 エリザリーナのヤツも後処理に追われて・・・・・・・・・・・・、
 ・・・・・・アイツちゃンとしっかり休ンだンだろォな」

「?」


昨晩、多忙を極め体に疲労を蓄積し過ぎて死にかけていた独立国同盟のトップ、エリザリーナ。
一方通行の計らい―――お節介とも言う―――で半ば無理やり彼女を休憩させたが、
今は何をしているのだろうか。


「オイ、今日はエリザリーナを見たか?」

「第八の解答ですが、朝の五時過ぎには既に部下を連れて居住区に向かっていました」

「調子はどォだったンだ、またフラついてたりしてなかったか?」

「第九の解答ですが、『こんなに休息をとったのはいつ以来かしら』などと言っていました。
 補足説明しますと、恐らく彼女も昨夜はゆっくり休んだものと思われます」

981 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/18 23:15:53.67 M5zsFO4Eo 458/464



「そォかよ」

「第四の質問ですが、やたらとエリザリーナの事を気にかけるのですね?」

「・・・・・・チッ。 あいつが多忙に追われた原因に俺らも含まれてンだよクソったれ」

「第四の私見ですが、見かけによらず世話焼きなのですね」

「オーケーオーケー、喧嘩売ってンだなそォなンだろ?」


一方通行は杖を軸にし、器用にサーシャの小ぶりな尻へ小突くように回し蹴りを放った。
突然の攻撃に対処出来なかった彼女はミルクのように白い雪へ顔から突っ込んで倒れる。


「ぷへっ」

「そのまま雪と一体化しやがれ」

982 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/18 23:16:44.06 M5zsFO4Eo 459/464



「ううううう、冷たい・・・・・・」

「平気なンだろォ? この辺の寒さにゃ慣れてるらしいから」

「第十の解答ですが、寒さに慣れているとはいえ全身を雪に突っ込ませるほど私はバカではありません」


そう言ってサーシャは腰に備え付けてあったL字の釘抜きを一方通行の杖にゴツン!と当てる。


「ぐおっ!?」


ステーンと転ぶ間抜けな第一位を見て、サーシャはニヤリと笑ってみせた。
そんな二人のやりとりを見て周りの民間人達もクスクスと笑う。


「・・・・・・イイ度胸してるじゃねェかサーシャちゃンよォォ・・・・・・、
 ここで第四次世界大戦をおっ始めてもいいンだぜェェ・・・・・・?」

「第十一の解答ですが、一発は一発です。 ・・・・・・第五の私見ですが、
 あなただって雪に突っ込んだらそのまま同化してしまいそうなほど白いですね」


ふんす、と鼻を鳴らしてL字の釘抜きをギラリと光らせる。
この生意気なガキにお仕置きをしてやろうと一方通行もヨロヨロと立ち上がった。

983 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/18 23:18:20.52 M5zsFO4Eo 460/464



「いいぜェ、愉快なオブジェにしてやンよ」

「第五の質問ですが、私が酷い目に遭えばワシリーサが黙っていませんが、よろしいですか?」

「そンな時だけ上司を頼んのかよ!!?」

「む、言われてみれば・・・・・・、それでは情けないですね」


ちょっと遊びが過ぎました、とサーシャが釘抜きを腰へ戻した。


「第六の質問ですが、あなたはこれからどこに?」

「第一の解答だが、なンかさっき独立国同盟のガキどもが船がどォこォって騒いでたからな。
 なンかあったンだろォから様子を見に行くンだよ」

984 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/18 23:20:31.99 M5zsFO4Eo 461/464



「第七の質問ですが、他に連れはいないんですか?
 補足説明しますと、私は朝の挨拶とのたまって抱きしめてくるワシリーサに会いたくないので
 彼女の部屋には訪れず一人で居ます」

「第二の解答だが俺もそンなモンだ。 わざわざ叩き起こして連れてくほどの騒ぎでもねェしなァ」

「第八の質問ですが、いちいち真似しないでくれませんか?」

「第三の解答だが、こンな喋り方面倒なだけだろォ。 何? キャラ作ってンですかァ?」

「むきーっ!」


突然キレだしたサーシャは再び釘抜きを装備するとブンブンと一方通行に向かって乱暴に振り回してきた。
一方通行はカラカラと笑いながら難なく彼女の攻撃を避けていく。


こうして見ると二人はまるで仲の良い兄妹のようだ。

985 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/18 23:22:33.55 M5zsFO4Eo 462/464



「にしても、結構遠いな・・・・・・。 案外広いンだなこの国」

「第六の私見ですが、船自体はもう見えるはずなんですけどね」

「オマエも船を見に行くのか?」

「第十二の解答ですが、その通りです。 補足説明しますと、私もあなたと同じく
 この騒ぎが少し気になったもので」

「騒ぎっつっても至って平和なモンだけどな・・・・・・、何があったってンだ」

「第十三の解答ですが、何でもあなた方が突っ込ませた船で催し物をしているらしいのですが」

「催し物だァ?」


そんな話はもちろん一方通行は耳にしていない。
独立国同盟の居住区をブチ壊しにしたあの船でイベントをやっているなど、
思いつくものと言えば謝罪会見くらいのものだ。

986 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/18 23:23:55.67 M5zsFO4Eo 463/464



何にせよ、そんな事を率先してやるであろう人物は、


「・・・・・・・・・・・・どォせエイワスのクソ野郎だろ」


そう、エイワスくらいのものだろう。
あの聖守護天使は自分が楽しければ他人の不幸をも酒の肴にしてしまうド外道だ。
昨晩の風斬事件がいい例である。

風斬の部屋から出た際に出会った子供たちの言葉にも『光ってるお姉さん』というワードがあった。
光る女などどこの銀河系を探してもエイワスしかいないだろう。


「これ以上コトを荒立てやがったらあの野郎・・・・・・、タダじゃおかねェ」

「見えてきましたよ」


サーシャが遠方に向かって指を差した。一方通行がそちらに目を向けると、
昨日独立国同盟に突っ込んだほぼそのままの形で、『アライアンス』号が見えていた。

988 : 次回予告はここまでです。  ◆3dKAx7itpI - 2011/02/18 23:32:32.41 M5zsFO4Eo 464/464




                          【次回予告】



『捜した捜した、捜したよん。 オイ、ちょっと付き合えよ変態女』
―――――――――――『天使同盟(アライアンス)』の構成員・垣根帝督




『サーシャちゃんは返してもらうわよ!! このド悪党がああああああああああ!!!』
―――――――――――元『殲滅白書』のシスター・ワシリーサ




『っぷは。 いやー朝からこんなどんちゃん騒ぎってのも悪く無いですね!
 ささ、一方通行さんもいっちゃってください! よっ! 独立国同盟の救世主・・・・・・あ痛ッ!!?』
―――――――――――魔術結社予備軍『新たなる光』の構成員・レッサー




『肉塊にされなかっただけでもありがたく思えこのマセガキ。 一体全体どォいう事なンだァこりゃ?』
―――――――――――『天使同盟』のリーダー・一方通行(アクセラレータ)




『補足説明しますと、このグリルチキンすごく美味しいですよ』
―――――――――――元『殲滅白書』の魔術師・サーシャ=クロイツェフ



続き:5スレ目
一方通行「フラグだと? って事ァ」  レッサー「私はあなたが好きって事です♪」【1】


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