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一方通行「フラグ・・・・・・だろォな」 垣根「ち・・・・・・くしょ・・・・・・う」【1】
――エリザリーナ独立国同盟・石造りの砦 即席野戦病院内
一方通行「・・・・・・ところでよ」
ヴェント「なに?」
一方通行「その"白いの"って呼び方やめろ。 あのうざってェ人妻を思い出す」
ヴェント「知らねぇよそんなの。 アンタ白いんだから"白いの"」
一方通行「チッ。 可愛げのねェ女だな、顔面ピアス」
ヴェント「じゃあその呼び方もやめてよ。 何故かはわからないけど、
"顔面ピアス"って名前と酷似してるキャラがいる気がする」
一方通行「あ? ンだそりゃ」
ヴェント「いや、何となくそんな気がして・・・・・・」
一方通行「ワケのわからねェ事を・・・・・・。 ・・・・・・ところでオマエ、
『神の右席』なンだってなァ? 今言ってたが」
ヴェント「それが何?」
一方通行「どの方向なンだ?」
ヴェント「方向? あぁ、そういうコトね。 『前方』よ、
言わなかったかしら? ていうかアンタやけに詳しいわね」
一方通行「ガブリエルなンてモンを拾っちまった以上、詳しくならざるを得ねェだろ。
あのアホ天使は『右方』が呼び出したンだろ?」
ヴェント「フィアンマ、ね。 ・・・・・・まぁそりゃそうか、学園都市の人間でも
天使なんて存在を追いかけていけば『神の右席』ぐらい知りうるわよね」
一方通行「もしそのフィアンマって野郎が生きてンなら、いつかは会わなきゃならねェ時が
来るンだろォな。 今そいつがどこにいるとか知ってるか?」
ヴェント「知らないわよ。 大体もう『神の右席』は崩壊したも同然の組織だし、
ローマ正教がフィアンマに対してどう処置をとるのかも私の知ったことじゃない」
一方通行「そォかよ。 『後方』にはもォ会ってきたンだがな」
ヴェント「えっ、アンタ、アックアに会ったの?」
一方通行「あァ。 ここに来る前にイギリスに行っててな、バッキンガム宮殿で会ってきた」
ヴェント「バッキンガム宮殿・・・・・・、ふん。 アイツらしいわ」
一方通行「ま、ならフィアンマは保留として・・・・・・、あとは『左方』か?」
ヴェント「『左方』のテッラ」
一方通行「そのテッラはどこにいる? ・・・・・・結構前に"人捜し"の仕事で
アビニョンに『投下』してンだがよ、もしかしてあれは・・・・・・」
ヴェント「アンタって結構あちこち飛び回ってンのね」
一方通行「昔は学園都市の操り人形の如く飛ばされまくってたからなァ。
無論、今は自分の意志だが」
ヴェント「私は実際に確認したわけじゃないけど、テッラならもう死んでるわよ」
一方通行「・・・・・・死ンだ? 殺されたのか?」
ヴェント「『C文書』の件でアビニョンにテッラがいて、その時に上条当麻もいたらしいの。
そこで交戦、その後行方不明。 で、結果は死んでました、と」
一方通行「三下の野郎もあン時いたのか!? ニアミス多すぎンだろ・・・・・・。
C文書ってのはどォでもいいが、まさか三下がテッラをぶち殺したなンて事もねェだろ」
ヴェント「誰がやったかは知らないけど、『粛清』とかって聞いてるから、
多分ローマ正教か『神の右席』が始末したんでしょ」
一方通行「・・・・・・チッ。 テッラが生きてたら『神の右席』コンプリート出来たのによォ。
しかしよく考えたらテッラには何の用もねェンだよな。
そいつが何か別の天使召喚に関わってたってンなら話は別だが」
ヴェント「あんなのが天使の召喚なんて出来るわけがないわ。 フィアンマレベルの魔術師じゃないと到底無理。
『御使堕し(エンゼルフォール)』みたいな偶然が起これば別だけどね」
一方通行「ここでも手掛かりを掴めなかったら、フィアンマに当たるしかねェって事か。
面倒極まりねェな、第三次世界大戦のトリガーを引いたヤツなンだろ?
素直に話を聞いてくれるとも思えねェ」
ヴェント「無理矢理にでも聞かせたらいいじゃない、アンタらならフィアンマくらいどうとでもなるでしょ」
一方通行「だといいがな。 どォやら『神の右席』で唯一の常識人はウィリアム、
っつゥかアックアだけのよォだからな」
ヴェント「あぁ!? 聞き捨てならないわね、私がその常識人のカテゴリに入ってないようだけど!?」ガルルル
一方通行「顔中にピアス付けてるよォな女が常識人なワケねェだろォが」クカカッ
ヴェント「このヴェントが意味もなくこんなことしてると思ってんの? これは魔術的な要素が
含まれていて、肉体に金属を突き刺すって関連性から『神の子』を十字架に―――」
一方通行「出た、『これには魔術的な要素が含まれて~』云々。 魔術師ってのはそれを言い訳にして
好き放題オシャレする人間の事なンですかァ? 『必要悪の教会(ネセサリウス)』の
露出狂もそォだったが」ケケケ
ヴェント「最後まで聞けよコラァッ!!!」
エリザリーナ「ちょっとヴェント。 ここは病室なんだからあまり騒がないでちょうだい」
ヴェント「私に指図してんじゃないわよ! ていうかコイツが悪いんだろうが!」
一方通行「はいはい静かにしろって。 ガキじゃねェンだからハシャぐンじゃねェよ」
ヴェント「アンタいつかぶっ殺してやるから・・・・・・」グヌヌ
風斬「エリザリーナさん、ちょっといいですか?」
エリザリーナ「どうしたの?」
風斬「治療用のこの・・・・・・、薬草? が、もう無くなっちゃったんですけど
どこかに予備とかありますかね?」
エリザリーナ「もう無くなってしまったの? ・・・・・・困ったわね」
ヴェント「それ、もうストック全部無いわよ。 元々珍しい種類の薬草だし、
この時期にはロシアじゃ手に入らないしね」
風斬「でもまだ怪我人が沢山いるんですけど・・・・・・」
一方通行「ツバつけときゃ治るだろ」
風斬「え!? わ、私のですか? それは、あの・・・・・・///」
一方通行「オマエのじゃねェよ、どォいうプレイだそりゃあ」
ヴェント「・・・・・・・・・・・・//」
一方通行「なンでオマエまで顔赤くしてンだよ?」
ヴェント「あ、アンタのせいで馬鹿みたいな想像したからよクソウサギ!」
エリザリーナ「参ったわね、あれは麻酔の効果も含まれてるから
身体に埋まった銃弾を取り出すのにも便利なのだけれど・・・・・・」
一方通行「・・・・・・・・・・・・チッ、仕方ねェ。 麻酔なら俺の能力で――――」
エイワス「ただいまー」ブゥン
エリザリーナ「!!?」ビクッ
ヴェント「!」
風斬「あ、」
一方通行「オマエ!! どの面下げて帰って来やがったンだコラァッ!!」ガァァァ
ヴェント「ここは病室よ? ガキじゃないんだから騒がないでよ」ププッ
一方通行「ぬ・・・・・・」
エイワス「どの面下げて、とは?」
一方通行「オマエが船突っ込ませたせいでこっちは一時大犯罪者になっちまってたンだよ」
エイワス「ふむ・・・・・・。 だが、一人は皆のために、皆は一人のために。 それが我々『天使同盟』だろう?
"私"の責任は、"我々"の責任なのだよ一方通行」
一方通行「死ねカス。 死ね」
エリザリーナ「あ、あなた今どこから・・・・・・?」
エイワス「私はどこにでもいるし、どこにもいない。 初めましてエリザリーナ。
ドラコ=アイワ・・・・・・、いや、もうこの名はここでは意味が無いらしいな」
風斬「はい、ここでは"エイワス"で通しても大丈夫ですよ」
エリザリーナ「・・・・・・初めまして、エイワス。 ・・・・・・なるほど、見ただけで分かるとはこういう事ね。
人間でもなければ天使でもない、もっと上位の存在・・・・・・・・・・・・」
エイワス「いやいや、そんな大したものではないのだがね。 だがしかし、今回は流石に大変だったな」
一方通行「情報操作とやらは成功したのか?」
エイワス「そこは大丈夫だ、問題ない、と思う。 今回の一件で我々の存在は
独立国同盟以外には知られていない、という記憶操作、いや歴史改竄を施した」
ヴェント「スケールデカ過ぎるでしょ・・・・・・」
エイワス「ただ改竄対象のプライベーティアとロシアの政治家の人数が多すぎてね。
どこかに見落としがないかの確認作業が多忙を極めたよ」
風斬「なんだか後ろめたいですけど、お疲れ様でした。 ありがとうございます」
エイワス「いたわってくれるのは君だけだよ風斬氷華。 惚れてしまってもいいか?
今の私だと百合になってしまうが、私は一向に構わん」
一方通行「俺が構うわクソボケ」
ヴェント「ねぇ、何その袋」
エイワス「うん? あぁ、これか」ガサッ
一方通行「ンだこりゃ、くっせェな」プ~ン
風斬「あ、これ!」
エリザリーナ「治療用の薬草だわ。 こんな大量に・・・・・・」
エイワス「うん? これが入用だったのかね? そうかそうか、それなら丁度いい。
帰り際に花を摘んでいたら"たまたま"これが視界に入ったものでね。
良かったら好きなだけ使ってくれ、我々には必要のないものだ」
一方通行「帰り際・・・・・・?」
エリザリーナ「ありがとう、本当に助かるわ」
エイワス「これでクルーザー衝突の件は帳消しに――――」
一方通行「ならねェよ。 少女やってる暇あったらここのヤツらに土下座でもしてろ」
エイワス「――――ふふ、手厳しいな君は」フフ
ヴェント「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
エイワス「ん? 私に見惚れているのかねヴェント?」
ヴェント「寝言は寝て言えよ。 ・・・・・・別に、アンタからあの"クソ魔術師"の匂いがしてくる
気がしてね。 鼻につくだけよ」
エイワス「匂い? おかしいな、帰り際にイギリスのコスメショップで購入したブランド物の香水を
使用しているのだが・・・・・・、そんなに匂うかね?」クンクン
一方通行「オマエここ戻ってくる間に観光旅行してンじゃねェよ!!」
ヴェント「あくまではぐらかす気なのね」
エイワス「私とアレイスターが実は同一人物ではないか、という君なりの推理かな。
ふふふ、面白い考え方だが、残念ながら的外れもいいとこだ」
ヴェント「! チッ、私の考えなんか全部お見通しってワケ?」
エイワス「今度ここへ我々が来る事があったら、アレイスターの首でも土産に持ってこようか?
その首を『彼』の墓前に捧げるのも、ふむ、まぁ悪くはないかもな」
一方通行「?」
風斬(『彼』・・・・・・?)
ヴェント「・・・・・・・・・・・・クソ野郎」ギリッ
エイワス「冗談だ。 気を悪くしたのなら詫びるよ、ヴェント」
一方通行「コイツとまともに会話出来ると思うな、放っとけよ」
エイワス「冷たいじゃないか一方通行。 そう邪険にしないでくれたまえ。
そんなことより、兵士たちの傷を癒さなくていいのか?」
エリザリーナ「そうね。 風斬、引き続き手伝ってもらえるかしら?」
風斬「はいっ!」ニコッ
――――――――――――――――――――――
エイワス「ミーシャ=クロイツェフと垣根帝督が見当たらないが?」
一方通行「あいつらならサーシャとワシリーサと一緒にいる」
エイワス「そうか・・・・・・。 ・・・・・・ふむ」チラッ
一方通行「? 何腕時計気にしてンだよ。 つかオマエそンなの持ってたのか」
エイワス「あぁ、これもここへ帰る際に――、」
一方通行「もォいい、もォわかった」
ヴェント「一つ、気になることがあるんだけど」
エイワス「伺おう」
ヴェント「なんでアンタみたいなのが人間と一緒に行動してるのよ?」
エイワス「マジレスすると彼らに一定の価値が見受けられたから、といったところかな」
ヴェント「価値・・・・・・?(マジレスって何の呪文かしら・・・・・・)」
エイワス「特に、君の隣にいる一方通行。 彼には眩いほどの秘められた価値がある。
価値観は人それぞれだが、私はそう感じて彼らを観察することにしたのだよ」
一方通行「俺を持ち上げたって何にもやらねェぞ」
エイワス「え、じゃあおだてるのはやめよ」
一方通行「見返り求めてたのかよ!」
エイワス「冗談だよ、冗談」クスクス
ヴェント「ふん、気に入らないわね。 神を気取ってるつもりかしら?」
エイワス「どうも私は神だと思い込んでいると言われがちだな」
一方通行「言動がそう思わせるンだろォが。 自覚しろ」
エイワス「先程も言ったが、私は私であり他の何者でもないよ。
神などというつまらない地位は必要ないし興味もない」
ヴェント「怪物のクセにそうやって買い物とかくだらない事を楽しんでるのもその理由?」
エイワス「その通りだ。 君たち人間がくだらないと思う行為こそ、私にとっては価値がある。
こうして長い間jkncsf顕ogpg、こほん、失礼。
長い間現出していると、そういう些細なことに興味を見出してしまうものだ」
ヴェント「ふーん・・・・・・。 私たち人間がそう思えるときは来るのかしら?」
エイワス「ホルスの時代を人類が迎えることが出来れば、或いはな。
私はこの時代の方が愉快だから好みなのだけどね」
一方通行(話についていけねェ・・・・・・)
エイワス「君は今でも科学を憎んでいるのか?」
一方通行「?」
ヴェント「・・・・・・・・・・・・」
エイワス「受け入れろとは言わないが、そうやっていつまでも引きずっていては
『彼』も浮かばれないと思うのだがね」
ヴェント「・・・・・・聖守護天使が、私に上から目線で説教?」
エイワス「そんなつもりではないよ。 ただ君がその事ばかり考えているから、つい」
ヴェント「プライバシーの侵害ってレベルじゃないわよ。 いちいち人の思考を
覗き見するなんて」
エイワス「覗いてもらえる程度の価値が君にはある、という事なのだが。
それでは駄目なのだろうか?」
ヴェント「私の価値は私が決めるコトよ、アンタが決めるコトじゃない」
エイワス「なるほど、面白い」
一方通行「散ってンなァ、火花」
ヴェント「そんなんじゃないわよ」
エイワス「ところで、一方通行」ヒソ
一方通行「あン?」
エイワス「もう誰かとフラグは立てたかね? ご存知のとおり私は出張っていたのでね。
もし何人かとのフラグを立たせているのであれば教えてほしいのだが」
一方通行「それを本気で聞く辺りがオマエのすげェとこだな。 立ってねェし立たせる気もねェよ」
エイワス「ケチるなよ、少なくとも二人くらいはフラグが成立しているのではないかね?」ニヤニヤ
一方通行「ンなわけねェだろ。 オマエフラグフラグうるせェンだよ」
ヴェント「何話してんの?」
一方通行「なンでもねェよ」
エイワス「・・・・・・・・・・・・ふむ」チラ
一方通行「オマエはさっきからなンで時間を気にしてンだ?」
グリッ
兵士「いってええええええええ!!!」
エイワス「おっと、失敬。 大丈夫かね?」
兵士「た、頼むよ・・・・・・俺足の骨折っちゃってるんだからさ。
(な、何だこいつ・・・・・・、ぼんやり光ってる・・・・・・?)」ズキズキ
エイワス「すまなかったね」ポンポン
兵士「だぁっ!! だから足叩くなってぇ!!」ズキン
一方通行「何くだらねェ事してンだオマエは」
エイワス「いやいや、ふふ」
ヴェント「それで、時間がどうかしたの?」
エイワス「うむ。 エリザリーナ」
エリザリーナ「何か用かしら?」
エイワス「ここにテレビはあるか? あれば少し見せてもらいたいのだが」
エリザリーナ「テレビ? それなら向こうにあるのが見えるでしょう?
・・・・・・・・・・・・まさか、」
エイワス「察しが良いな。 君も見ていくかね?」
エリザリーナ「・・・・・・そうね。 その方がいいでしょう」
エイワス「風斬氷華。 君もこちらへ」
風斬「? はーい」スタスタ
一方通行「なンだよ?」
エイワス「私の情報操作が正しく機能しているかどうか、テスト結果の発表だよ。
間もなくプライベーティアと独立国同盟の抗争に関するニュースが流れる」
一方通行「! そォいう事か」
風斬「私たちのことが流れたらどうしよう・・・・・・」オドオド
兵士「・・・・・・・・・・・・・・・・・・あれ?」
兵士「足の骨折が治ってる・・・・・・」
エリザリーナ「これ、テレビのリモコンよ」スッ
一方通行「あァ」
風斬「なんだかドキドキしますね・・・・・・」ドキドキ
ヴェント(私は別に見る必要ないわよね・・・・・・何でここにいるんだろ)
エイワス「垣根帝督達にも連絡しておいた。 彼らは別室で見るそうだ」
一方通行「垣根のヤツ、何やってンだ?」
エイワス「ふふ。 さぁ、そこまでは」
エリザリーナ「始まるわよ」
キャスター『――――――本日最初のニュースはエリザリーナ独立国同盟への侵攻事件の続報です。
えー、つい先ほど、プライベーティアと思われる軍隊と独立国同盟の抗争が鎮圧し、
プライベーティアの兵士は全員、国防省の意向で連邦軍によって一斉摘発されました』
一方通行「あれだけの数のプライベーティアを全員お縄にしちまったのか?
しかし国防省が出張ってきたってンならそいつらにも情報操作しねェといけねェが」
エイワス「国防省にももちろん施したが、何しろ膨大な人数だ。
チェック漏れが無いかどうかが問題なのだよ」
風斬「あ、映像が流れてますよ」
エリザリーナ「・・・・・・。 ここの魔術師たちの姿が映ってないわね」
エイワス「魔術師が映りこんでいては何かと面倒だろう?
独立国同盟の魔術師だけでなく、ロシア成教も同様に隠蔽してある」
キャスター『この映像は抗争中に突如発生した、原因不明の大爆発です。
連邦軍はプライベーティアが使用した兵器によるものであると推測し、
調査を進めており―――――、』
風斬「・・・・・・プライベーティアが使用した兵器って、これエイワスさんが・・・・・・」
エイワス「さすがにこれを無かったことには出来ないのでね、申し訳ないが
疑惑を全てプライベーティアに押し付けさせてもらった」
一方通行「同情・・・・・・はしねェけどよ、さすがに哀れだな」
ヴェント「アンタ、ロシアの国防相や参謀本部情報局がプライベーティアと繋がってるって知ってる?
ほぼ間違いなく今から国防相の記者会見が放送されると思うけど、
そこでプライベーティアから聞いたアンタ達のコト暴露されたらどうするのよ?」
エイワス「そこが一番のキモだ。 国防相にも情報操作を施したのだが、
果たしてしっかりと機能しているのかどうか」
風斬「も、もし『天使同盟』の事を世間に好評されたら、私たちどうなるんでしょう・・・・・・」
一方通行「もォその時は『天使同盟』五人で第四次世界大戦を開戦するしかねェな」クカカッ
キャスター『――――それでは、間もなく"GRU"の情報局長による、今回の抗争についての
記者会見が始まりますので映像を切り替えます。 御覧ください』
風斬「『GRU』?」
一方通行「オイ! 国防相じゃなくて参謀本部情報局じゃねェか!
コイツらにもちゃンと情報操作してンだろォな!?」
エイワス「もしかしたらかなりおざなりな結果になっているかもしれない。
正直GRUはあまり意識していなかった」
ヴェント「今からでも行って記憶改竄してきたら?」
エイワス「いや、こうなったら全てを受け入れ、楽しもうではないか。
せっかく振った骰子を途中で掴みとってしまっては興が冷めるというものだ」
エリザリーナ「よく楽しめるわねこの状況を・・・・・・」
風斬「は、始まりますよ」
マスコミ『モスクワ・タイムズです。 情報局長、今回の抗争で
エリザリーナ独立国同盟が秘密裏に所持している何らかの情報を
プライベーティアが手に入れ、世間に公表するとの事でしたが、
その情報は手に入ったのでしょうか?』
情報局長『いいエ。 全てデタらメデス。 我々ハ国防省の一部ノ方達と協力し、
ただ一方的にえりざりーナ独立国同盟へノ侵攻を決定したマデデス』
マスコミ『!? GRUと国防省の一部がプライベーティアを派遣した事を認めるのですね!?』
情報局長『は、はひ』
エリザリーナ「・・・・・・?」
ヴェント「何よ、あっさりゲロっちゃってるじゃない」
風斬「というより、何か変じゃないですかこのおじさん」
マスコミ『イズベスチヤです。 国民の声の一部に、抗争の際、プライベーティアと
独立国同盟の他にもう一つ"謎の勢力"が参戦しているとの声もありましたが、
それについては何かご存知ないですか?』
風斬「!」ゴクッ
情報局長『あ、あアイ。 なぞの勢力をわたシは知りまセン。 ア、イ。
例の大爆発も我々ガヤッタとしか思えエエませン。 そのようナ勢力は確認サレテません。
ハ、なのでそれもデタラめだお』
一方通行「完全に操り人形だこれー!!?」ガビーン
ヴェント「あっはははは! 何コレ、おっかしい」ァ '`,、'`,、
エリザリーナ「こ、これは大変な事になってるわね」
風斬「・・・・・・エイワスさん、これって」
エイワス「安心していい。 情報操作は無事、成功したようだ」
一方通行「どこをどォ見たらこれが成功なンだよ!? この情報局長のオッサン
完璧にクスリがキマってる常習犯みてェになっちまってるじゃねェか!!!」
ヴェント「あはははははは!」ァ '`,、'`,、
一方通行「笑いすぎなンだよオマエは!! どこがそンなにツボなンだよ!」
情報局長『ナオ、えりざりーナ独立国どーめーニハ怪しげな情報ナドは存在しませンデシタ。
ヨっテ、ググ、グ、全てノ非は我々にアルものとシ、ヴヴ、責任をトルものとして、
私は辞任ヲ考えテオリま――――――』
マスコミA『ふざけるなー!! 辞任したくらいでこれほどの責任がとれると思ってるのか!!』
マスコミB『国防相を出せ!!』
マスコミC『独立国同盟に対しては謝罪の一言もないのかー!!』
ギャーギャー ワーワー ヴオオオオオ
プツッ
『しばらくお待ちください』
エリザリーナ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
風斬「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
一方通行「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ヴェント「ひー・・・・・・ひー・・・・・・、あー笑った、ぷぷぷ」
エイワス「目先の問題はひとまず解決出来た、か」
一方通行「解決出来てンのかこれ・・・・・・」
風斬「あのおじさん、どうなっちゃうんですか・・・・・・?」
エイワス「彼がプライベーティアを秘密裏に動かしていたのは紛れもない事実だよ。
すぐに調べ上げられて身柄を送検、刑務所行きは免れんだろうな。
情報局長だけではない、国防省の一部の人間も芋づる式で同様の末路を辿るだろう」
エリザリーナ「これでプライベーティアは完全に消滅した、と?」
エイワス「そうならざるを得ないだろうな。 こんな事があっては存続も出来まい」
ヴェント「あの情報局長、完璧に目がイッてたわよ」ケラケラ
一方通行「ロシア連邦が大きく変化する瞬間を見たのかも知れねェな俺達は・・・・・・。
なぜか責任を感じちまうぜ・・・・・・」
【次回予告】
『何か急に垣根さんが『邪魔だから一方通行達のとこ行ってろ』、
とか言って無理やり! なーんか怪しいと思いませんか?』
―――――――――――魔術結社予備軍『新たなる光』構成員・レッサー
『彼も彼なりにこれから起こる事を理解しているのかもしれない。
私も少し手伝ってあげるとしようかな』
―――――――――――『天使同盟(アライアンス)』構成員・エイワス
『で、オマエの弟がなンだって?』
―――――――――――『天使同盟』のリーダー・一方通行(アクセラレータ)
『・・・・・・科学は、嫌い。 科学は、憎い』
―――――――――――ローマ正教、禁断の組織『神の右席』の元一員・『前方』のヴェント
『ほらよ、魔術師のお前らなら俺が作ったこれが何だかわかるんじゃねえか?』
―――――――――――『天使同盟』構成員・垣根帝督
『あらまぁ。 まさかこんなものが学園都市の能力者から飛び出してくるなんて』
―――――――――――元『殲滅白書』のシスター・ワシリーサ
『第一の質問ですが、これって・・・・・・』
―――――――――――元『殲滅白書』の魔術師・サーシャ=クロイツェフ
ロンギエ「エリザリーナさん」タッ
エリザリーナ「ロンギエ、ご苦労様」
ロンギエ「ちょっとお話が・・・・・・」
エリザリーナ「わかったわ。 皆、私はここを少し離れるから、よろしくね」
タッタッタッ・・・・・・
風斬「・・・・・・これで抗争の件は終わりなんでしょうか?」
エイワス「あとは国で勝手にやってくれるだろう。 我々がアクションをとる必要はない」
一方通行「はァ・・・・・・、なンか急に疲れが出てきた。 俺ァ寝るぞ」
ヴェント「私も休もうかしら。 寝てるところをこの抗争で邪魔されたから
まだ眠いのよね・・・・・・・・・・・・、ふわぁ~」ウーン
一方通行「風斬、オマエも少し休ンだらどォなンだ?」
風斬「あ、ありがとうございます。 でも私はもう少しここで皆さんのお手伝いをします」
一方通行「そォかよ、まァ好きにしろ。 なンかあったら起こしてくれ」カツッ カツッ
風斬「はい、お休みなさい」
レッサー「とーうっ!」バッ
一方通行「うおっ!? 急に飛び出してくンじゃねェよマセガキ!!」
風斬「あれ? レッサー、天使さん達と一緒にいたんじゃ・・・・・・?」
レッサー「なんか追い出されてしまいました!」
一方通行「はァ? 何やったンだよオマエ」
レッサー「何もしてませんよ! 何か急に垣根さんが『邪魔だから一方通行達のとこ行ってろ』、
とか言って無理やり! なーんか怪しいと思いませんか?」
一方通行「興味ねェ・・・・・・が、まァじゃあ一応様子見に行こ―――」
エイワス「放っておいてあげてはどうかな? 彼もたまには我々から離れ、
一人でいたいと思う時もあるだろう」
一方通行「ンだそりゃ? らしくねェ。 ま、そォいう事なら放っとくけどよ」
レッサー「はぁーまったく・・・・・・、あ。 風斬さん、私もそれ手伝いますー」
風斬「あ、うん。 ありがとうございます」
エイワス「・・・・・・・・・・・・ふふ。 上手くやれるといいが。
彼も彼なりにこれから起こる事を理解しているのかもしれない。
私も少し手伝ってあげるとしようかな」ブゥン
一方通行「あ? エイワスは?」
ヴェント「なんかブツブツ言いながら消えてったわよ」
――エリザリーナ独立国同盟・とある住居区前 大通り
一方通行「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」カツッ カツッ
ヴェント「ねぇ」
一方通行「あァ?」
ヴェント「アンタ何で杖ついてんの?」
一方通行「あァー・・・・・・、説明すンの面倒くせェな」
ヴェント「・・・・・・あっそ」
一方通行「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」ウーム
ヴェント「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
一方通行「・・・・・・頭をよォ」
ヴェント「?」
一方通行「ここ。 頭を拳銃でズドン、と撃たれちまったンだよ、昔」
ヴェント「へぇ。 アンタはそんなマヌケには見えないけど」
一方通行「まァ今思い返してみても確かにあン時の俺はマヌケだったなァ。
・・・・・・・・・・・・けどまァ、マヌケでよかった」
ヴェント「どういうコト?」
一方通行「俺がバカでマヌケだったから、あのクソガキを救えたンだ」
ヴェント「クソガキ? 子供を救うためにそんな障害を負ったってコト?」
一方通行「そンなところだ。 だから能力オフの時はこの杖が無いとまともに歩けねェンだよ」
ヴェント「能力・・・・・・、学園都市の科学によって引き出された力」
一方通行「よくご存知でいらっしゃる。 ・・・・・・そォいやオマエ、科学が嫌いなンだってなァ?」
ヴェント「! ・・・・・・エイワスとの会話を盗み聞きしてたの? 趣味悪いわよアンタ」
一方通行「すぐそこに俺もいたンだから聞こえてるに決まってンだろォが。
・・・・・・暇だから聞いてやる、なンで嫌いなンだ?」
ヴェント「そんなこと、アンタに話す筋合いはない」
一方通行「俺の過去バナ聞いといてそれはねェだろ」
ヴェント「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
一方通行「・・・・・・『彼』ってのが関係してンのか?」
ヴェント「私の過去なんかに興味あるの?」
一方通行「等価交換ってやつだ、俺の過去も少しだが暴露したンだ。
イギリスの時はほぼ全部ゲロっちまったがなァ。
だからオマエの過去も聞いとこォかなってちょっと思っただけだよ」
ヴェント「何が等価交換だ、アホらし」
ヴェント「何で私なのよ? サーシャとかワシリーサとか、エリザリーナだっていいじゃない」
一方通行「別に理由はねェけどよ、ただなンとなくオマエのが聞きてェと思ったンだ」
ヴェント「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
一方通行「・・・・・・言いたくなきゃ言わなくていいけどな」
ヴェント「・・・・・・科学は、嫌い。 科学は、憎い」
一方通行「『彼』ってのが科学になンかされたのか?」
ヴェント「・・・・・・弟が」
一方通行「? ・・・・・・」
ヴェント「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ここ、私が使ってる部屋」ガチャ
一方通行「いや、本当に言いたくなきゃ言わなく――――」
ヴェント「アンタが言ってきたんだろうが」
一方通行「・・・・・・・・・・・・」カツッ
パタン
――エリザリーナ独立国同盟・とある住居区 ヴェントの部屋
一方通行「・・・・・・なンもねェな」
ヴェント「いちいちうるせぇんだよアンタは」
一方通行(・・・・・・・・・・・・寒ィ)ブルル
ヴェント「・・・・・・・・・・・・」ポイッ カラン
一方通行「?」
ヴェント「・・・・・・・・・・・・」ポイッ カラン
一方通行「・・・・・・何やってンだ?」
ヴェント「何って・・・・・・アンタも寒いんでしょ? だから薪をくべてるんじゃない」ポイッ カラン
一方通行「このご時世に暖炉かよ。 ここ来る間にも
ファンヒーター使ってる部屋がチラチラ見えたが?」
ヴェント「・・・・・・・・・・・・」ポイッ カラン
一方通行「・・・・・・まァ別に、こォいうアナログな手法を否定したりはしねェけどよ。
機械使わねェのも科学嫌いから来てンのか?」
ヴェント「別に、そこまで意固地じゃないわよ私だって。 携帯電話とか使うしね。
・・・・・・・・・・・・それより座ったら? 立たれてるとうぜぇんだけど」ポイッ カラン
ヴェントに促され、一方通行は背後にあった簡素なベッドに腰掛ける。
薪をくべ終え、暖炉に火が灯ったのを確認したヴェントは暖炉から少し離れたところにある
チェアへと腰掛けた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ヴェントは両手を広げ、パチパチと雰囲気のある音を立てながら燃える炎を見つめている。
(おォ・・・・・・暖けェな。 暖炉ってのも悪くねェ・・・・・・、・・・・・・眠たくなってきやがった)
一方通行もその炎をボーッと見つめながらそんな事を考えていた。
・・・・・・話の途中に寝る気じゃないだろうなこいつ。
しかし、ついさっきまで一方通行たち『天使同盟(アライアンス)』は戦っていたのだ。
あれが戦いになっていたかどうかは別として、ロシアに(不法)入国していきなりの戦闘だ。
暖炉から放たれる、包まれるような心地良い暖かさを前にすれば睡魔が来てしまうのも無理はない。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
沈黙。暖炉でゆらゆらと動く炎を除いてこの部屋の時が止まったのではと錯覚してしまう。
このままでは本当に眠ってしまうと思った一方通行は、ヴェントに話を切り出した。
「・・・・・・で、オマエの弟がなンだって?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
何も答えないヴェント。やはり他人に話すことに抵抗があるのだろうか。
とはいえ、聞いていけと誘ってきたのは彼女である。
どうしようかと思考を巡らせていた一方通行は、部屋の隅の机に目をやった。
机の上には写真立てが一つ、淋しげにポツンと置いてあった。
「あ、・・・・・・」
「?」
一方通行がその写真立てを見ていることに気付いた途端、ヴェントが立ち上がり
いそいそと机に駆け寄り、写真立てをパタンと倒してしまう。
一方通行はその写真に写っていた人物までは見えなかったが、二人の人間が
写っていることだけは確認できた。
今にして気づいたが、この部屋には電気がない。何も無いなとは彼も思ったが、
まさかテレビはおろか電気すらないとは思わなかった。
ヴェントはゆっくりと歩き、再びチェアへ腰掛ける。
「・・・・・・私の弟は、科学によって殺された」
そして彼女は、かつて学園都市で上条当麻に話した過去を、学園都市最強の超能力者へ語り始めた。
――――――――――――――――――――――
――一方通行がヴェントの部屋に来た頃より、時間は少し遡る。
「・・・・・・こんなので大丈夫なのかよエイワスの野郎。 適当な情報操作しやがって」
垣根帝督はテレビをジッと睨みつけながら呟いた。
ここはエリザリーナ独立国同盟のとある場所にある軍事施設のオフィスだ。
『天使同盟』の各構成員が自由行動となり、垣根帝督はサーシャとワシリーサと共に
テレビのある部屋へ案内されてきていた。
なぜか一緒にミーシャ=クロイツェフもいる。その様子からして一方通行に追い払われたらしい。
そして特に理由はないがレッサーも垣根帝督に着いて行っていた。
「今のって明らかに情報操作と言うよりは人間そのものを操ってる感じでしたよね。
改めてエイワスさんの恐ろしさを確認しましたよ・・・・・・ロシアなだけに"おそロシア"って、あ痛っ!」
心底くだらないダジャレをほざくレッサーにチョップをかます垣根。
垣根帝督達はオフィスのテレビにて今回の抗争の結末をニュースで確認していた。
エイワスの『念話能力(テレパス)』もどきでニュースを見ろと連絡があったのだ。
「まぁでもこれでひとまず抗争は終了したと見ていいんじゃないかしらん?
後始末はエリザリーナがなんとかしてくれるっしょ」
「第一の質問ですが、そんな短絡的な考えでいいのでしょうか?
今回の抗争には一応ロシア成教も絡んでいますし、私たちにも責任が・・・・・・」
「サーシャちゃんはそーんな難しい事考えなくていいの♪
何かあったら私が全部なんとかしてあげるから、ね?」
まだ不安が拭えないサーシャに対してワシリーサが軽い調子でそんな事を言った。
確かに短絡的といえば短絡的だが、一応エイワスの情報操作は成功しているようなので
垣根もレッサーもそんなに心配はしていなかった。
あとはのんびりと独立国同盟で過ごせばいい。
「さてさて、これからどうしましょうか? あなた達『天使同盟』はサーシャちゃんに御用が
あるのよねぇ? そこの天使について。 今からでも情報収集、始めちゃう?」
ワシリーサはどこかワクワクした様子で垣根に尋ねる。
「いや、それは一方通行の仕事だ。 俺はミーシャがどうのこうのとか、
そういうのにはあんま興味ねえんだよ。 サーシャへの質問タイムは
抗争の後始末が一段落ついてからでも遅くはねえだろ」
それを聞いたミーシャがどこかホッとしたような仕草を見せたのは気のせいだろうか。
「あらそう? じゃあお姉さん、その時を楽しみにしてるわね☆
でも、それならどうする? この国を観光でもしてみる?
観光するほど賑わった国じゃないけど、それでもいいなら案内しちゃうわよ?」
「ここでお世話になっている立場の人間が言うことじゃないですよ、それ」
サーシャの厳しいツッコミにワシリーサはテヘッ☆と舌を出して見せる。
「そうだな・・・・・・」
垣根はこれからの行動を考える。
「私はご飯が食べたいですね。 数時間前から何も食べていませんし、
何か適当につまめる食べ物でもありませんか?」
「第一の回答ですが、恐らく食事はここでの後処理が全て終わってからになると思います。
客人にもてなす料理となると時間もかかりますし、それより先に優先しなければならない
仕事が多数ありますから。 全てはエリザリーナ次第ですが」
そうですか・・・・・・、とレッサーが悄気る。
今この瞬間も民間人達はあちらこちらで忙しそうに走り回っていた。
未だ戦場に残っている兵士の回収作業。兵士達の治療。軍事活動の書類手続。etc。
そんな状況ではさすがに自分たちが客人とはいえ、先に食事をするのは忍びない。
レッサーはグウグウと鳴る腹をさすりながらも、グッと我慢した。
「rgnszcnuigpn奇妙waknm衣装cfhgbdvvefoe」
「?」
ミーシャはと言うと、さっきからサーシャの身体をジロジロと観察し、
ノイズ混じりの声でブツブツと何か言い続けている。
サーシャの変態的・・・・・・、もとい、個性的な衣装に興味があるのだろうか。
サーシャは戸惑いながらもそんなミーシャの様子を見ていた。
「ところで、これは俺の個人的な興味なんだが、」
ふと、垣根が会話を切り出した。相手はサーシャとワシリーサだ。
「なぁに? 垣根の坊や。 私たちに興味があるのかにゃん?」
ワシリーサはウインク混じりに身体をくねらせてきた。
しかし垣根はそういう意味で話しかけようとしていたわけではないらしく、
「いや別にそういうところに興味があるんじゃねえよ。
お前らって魔術師なんだろ? もちろん魔術とか使えるわけだよな?」
「第二の回答ですが、一応数種類の魔術を会得しています」
「そっか。 おいレッサー」
垣根は『鋼の手袋』の調整を行っているレッサーに声をかける。
「はい? なんですか?」
「お前ちょっとここから出て行け」
「はい。 ・・・・・・、は!?」
突然の退出しやがれ発言に思わず間抜けな声が出てしまうレッサー。
一体どうしたというのだろうか?
「な、なんですか突然!? 出て行けって、私があなたに何かしました!?」
「いや別にそういうわけじゃねえんだがよ、お前がいたらちょっと邪魔なんだ」
「なにが邪魔だって言うんですか!! 別に何もしたりしませんよ!」
「『天使同盟』について、いや、ミーシャについて大事なお話があんの、コイツらに。
だからお前は邪魔。 一方通行達のとこ行ってろ。 以上」
「ぬう・・・・・・・・・・・・」
ミーシャについての大事な話と言われてしまうと、部外者であるレッサーは何も言い返せない。
しかし今更レッサーを部外者呼ばわりするのは無理があるような気もする。
「ミーシャについては一方通行さんに任せるんじゃなかったんですか?
さっきと言ってることが違うじゃないですか」
「そう思ったが、俺個人からも聞いてみてえ事があるんだよ」
気付けば、垣根の表情はやたら真剣なそれとなっていた。こうしてみると整った顔立ちである。
レッサーは少し考え、仕方なく一歩引くことにした。
「まったく! 仕方ないですねえ、出ていけばいいんでしょ出ていけば!」
「あぁ、一方通行にでも構ってもらえよ」
「私を子供扱いすんなー! ふん!」
レッサーは立ち上がり、ドアを荒々しく閉めて出て行った。
そしてこの部屋に残っているのは、垣根帝督、ミーシャ、サーシャ、ワシリーサの四人だけ。
「第二の質問ですが、一体どうしたというのですか?」
サーシャは当然の疑問を垣根に尋ねた。
ミーシャの事について聞きたい事があるという理由でレッサーを追い出すのはあまりにも不自然である。
「あんま人には知られたくねえ事だからなぁ。 無理矢理でも出ていってもらわなきゃ困るんだよ
特にレッサーなんかは、すぐ人に喋りそうな雰囲気のガキだしな」
「なーんかワケありな感じねぇ。 お姉さんで良ければ何でも相談に乗っちゃうわよ?」
他人には知られたくない事。だがミーシャやサーシャ、ワシリーサは部屋から追い出さない理由。
それは一体何なのかとサーシャが考えていると、垣根はコートの懐を探り始めた。
「お前らが魔術師だってのはわかった、まぁ前から聞いてはいたが。
特にお前、ワシリーサ・・・・・・でいいんだよな? お前は相当の使い手と見たぜ」
「おだてたってサーシャちゃんは渡さないわよん?」
「そうじゃねえし、いらねえよ。 ・・・・・・・・・・・・ん、あった。
ほらよ、魔術師のお前らなら俺が作ったこれが何だかわかるんじゃねえか?」
目的の物を懐のポケットから取り出し、目の前のデスクに置く垣根。
「ミーシャはもう知ってるよな?」
「wscxpdemzdbr既知ubseshfdksip」
そう聞かれ、コクリと頷くミーシャ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・あらまぁ。 まさかこんなものが学園都市の能力者から飛び出してくるなんて」
「・・・・・・第三の質問ですが、これって・・・・・・」
サーシャがそれを"一枚"手に取り、垣根に確認する。
「ルーンの札・・・・・・、ですね?」
垣根帝督が密かに心中で決めていた『覚悟』が今、解放されていく。
【次回予告】
『好きなんでしょ? 一方通行さんの事が』
―――――――――――魔術結社予備軍『新たなる光』構成員・レッサー
『でも一方通行さんは他に好きな人がいるかも・・・・・・』
―――――――――――『天使同盟(アライアンス)』構成員・風斬氷華
『英数字では『K』で表すルーン文字なんだけど、ここの文字の角度が他の文字と比べてずれているわね』
―――――――――――元『殲滅白書』のシスター・ワシリーサ
『私はルーンに関してはあまり知識は無いのですが、この札から流れてくる魔力に乱れが
あるかどうかくらいはわかります。 ・・・・・・あ、ここ、必要な文字が抜けていますよ』
―――――――――――元『殲滅白書』の魔術師・サーシャ=クロイツェフ
『rtjhbef完璧ohjferv完璧ojvdsbd駄目gcfy完璧nhfegf駄目bfcg駄目ihydi駄目qodcv駄目posof完璧bsfavbkh』
―――――――――――『天使同盟』構成員・ミーシャ=クロイツェフ
『ふっざけんじゃねえぞ・・・・・・魔術師ってのはこんなクソ面倒な下準備してんのかよ・・・・・・』
―――――――――――『天使同盟』構成員・垣根帝督
――――――――――――――――――――――
「――――――と、言うことがありまして。 全く、垣根さんのくせに・・・・・・」
と言ってブツクサと文句を言っているのはレッサーだ。
彼女は隣に座って"バイカル"というロシア産のハーブドリンクを飲んでいる風斬に
オフィスでの顛末を愚痴の如く語っていた。
ここはエリザリーナ独立国同盟にある石造りの砦の内部で、野戦病院の代わりとして使用されている
学校の体育館くらいの広さの部屋だ。
一方通行とヴェントが部屋から出て行き、エイワスもその場から消えたのでこの部屋にいるのは
大勢の兵士と看護師、そして風斬とレッサーだけだ。
二人は看護師の仕事の手伝いとして兵士たちの治療を行っていた。
そしてついさっきその作業が終わり、二人はその辺にあったイスに座り休憩をしている。
「まぁまぁ。 垣根さんは垣根さんで何か考えがあるんですよ。
ほら、垣根さんって序列第二位だからすごく頭がいいんですよ?
私たちでは考え得ない何かがあるんでしょう、きっと」
とりあえず垣根に対してのフォローをしながらレッサーをなだめる風斬。
こういうところはさすが『天使同盟』の良心、といったところだ。
「第二位とか言われてもよくわかりませんけど、なーんか引っかかるんですよねー。
言ってることがどこかチグハグだったし、それと・・・・・・、」
「それと?」
「・・・・・・あ、いえ。 私もそれ飲んでみようかな」
「うん、美味しいですよこれ。 ハーブが効いててさっぱりしてます」
『それと、垣根帝督から魔力に似た何かを感じた』、と言おうとしたレッサーだったが、
学園都市の能力者である彼から魔力が漏れるわけがないと思い、言うのをやめておいた。
レッサーは看護師から風斬と同じドリンクを受け取り、それを一気に煽る。
「ぷっはー! やっぱ仕事のあとの一杯はたまりませんなー!」
「くすっ。 なんだかサラリーマンみたいですよ、それ」
まぁよくそんな表情が出来るなと思うくらい可愛らしい笑顔を見せて笑う風斬。
先ほどの抗争での鬼畜っぷりはどこへやら。
――――先ほどの抗争と言えば。
「あ・・・・・・。 レッサー」
「はい?」
「あの、・・・・・・あの時はごめんなさい」
「ほぇ?」
突然頭を下げて謝ってきた風斬に、キョトンとするレッサー。
さっきまで普通に話していただけなので尚更驚く。
もしかして今飲んでいるドリンクに何か変な物でも入っているのだろうか?
それともさっき垣根が自分を追い出した理由に、風斬が一枚噛んでいる?
それっぽい理由を頭の中で挙げてみたが、どれもイマイチピンとこない。
「あの、風斬さん? どうしたんですか急に」
「プライベーティアの抗争の時・・・・・・私、レッサーにひどい事言っちゃって、」
見ているこっちが申し訳なくなるほど、申し訳なさそうな顔をする風斬に
レッサーはどう対応していいのか困ってしまう。
(抗争の時・・・・・・? なんか言われたっけ?)
思い出そうとしても全く心当たりがない。
レッサーはそれでも必死に思考を巡らせていると、風斬はほんのりと顔を赤く染め、
詳細を話してきた。
「あの時ですよ・・・・・・えっと、れ、レッサーがその・・・・・・、一方通行さんと
一緒にいる時・・・・・・私、・・・・・・うー・・・・・・」
「・・・・・・? ・・・・・・・・・・・・、あ、もしかして私が一方通行さんに抱きついて飛んでたあれ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
コクコクと黙って頷く風斬。その顔はさらに紅潮していた。
抗争時、空を飛べないことを理由に一方通行と文字通り抱っこにおんぶしてもらっていたレッサーを見て、
風斬は若干ながらレッサーに対して強く当たってしまったのだ。
しかしあれはレッサーがちょっとした悪戯心で挑発していた事にも原因があるわけで、
風斬だけに非があった出来事ではないだろう。
そう思ったレッサーは、
「やだなぁ風斬さん。 あんなの私、全然気にしてませんよ。
ていうかあれは全面的に私が悪いっていうか、ああやって怒ってる風斬さんを見るのが
楽しかっただけですから、にひひひ」
そう言って小悪魔のように笑ってみせた。
「え・・・・・・、からかってたんですか? ただ単に?」
「はい」
「・・・・・・・・・・・・もうっ!」
「えへへ」
思わず頬を膨らませて怒る風斬。これが人間じゃなくAIM拡散力場の集合体が見せる
仕草だと言うのだから驚きである。
「しかし風斬さん。 あれは明らかに私に嫉妬してましたよねぇ?」
「え・・・・・・?」
「じゃなきゃあなたみたいに優しい人が、あんな風になるわけないじゃないですか」
意地の悪そうな笑顔で問い詰めてくるレッサー。どこかの第一位とは違い、
彼女は風斬の気持ちをすぐに理解出来ていた。
「好きなんでしょ? 一方通行さんの事が」
「あ・・・・・・、え、えっと・・・・・・それは・・・・・・」
「それはぁ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
注意して見てみないとわからないほど微妙にだが、風斬の首は縦に動いた。
「えぇっ!? 本当に好きなんですか!? 私、冗談で言ったつもりだったのに!」
「・・・・・・・・・・・・本気で怒りますよ?」
「ウソです、ごめんなさい」
彼女を怒らせたらどうなるかなんて抗争の時に十二分に分かっている。
普段はおとなしい女の子ほど、怒ったら怖いものだ。
「いやーしかし、へぇ~、ふ~ん」
「な、なんですか・・・・・・」
まじまじと風斬の顔を至近距離で見つめるレッサーは、どこか楽しそうだ。
楽しそうと言っても、それは『からかいがいがありそう』といったベクトルの楽しそうであって、
どうも素直に応援してくれそうにはない雰囲気がバシバシと伝わってくる。
「なんであんな凶暴で狂暴で猛悪で乱暴で粗暴で横暴で暴戻で獰猛で僭越で僣上な人が好きなんですか?」
「あ、あんな人でも温和で温厚で親切で柔和温順で思いやりがあって面倒見がよくて良心的なところがあるからです!」
「でも一方通行さん、あなたの気持ちにこれ~~~~~ぽっちも気付いていませんよ?」
「そ、そんな事は分かってます。 だから頑張ってるんです!」
「頑張ってるってどんな風にですか?」
「え、えっと・・・・・・・・・・・・」
どう頑張っているのかと聞かれて言葉が詰まってしまう風斬。
ここ最近はとんだハプニング続きでなかなか一方通行に接近できないでいる彼女は
彼に対してアプローチをかけられないでいる。
それを知ってか知らずかレッサーは、
「やっぱりもっと積極的に近付かないと何も進展しませんよ?」
「そうですよね・・・・・・、それはいろんな人から指摘されてますし」
「早く自分の物にしないと、他の人に取られちゃいますよ?」
「う、うぅ・・・・・・」
「私とかに、ね」
「え!? れ、レッサー、あなた・・・・・・」
「冗談ですよ、うけけ」
ポカポカと叩いてくる風斬を軽くいなすレッサー。
・・・・・・本当に冗談ならいいのだが。
「もっと他にイイオトコがいるんじゃないですか? 風斬さんほどのスタイルなら、
その辺の男なんてヒョイっと釣れると思いますけど」
「・・・・・・・・・・・・私、人間じゃないんですよ?」
「む・・・・・・、それは、すみません」
レッサーはつい失言してしまった自分に叱咤する。
「いえ大丈夫です。 化物な自分はもう受け入れましたし、そして・・・・・・、
こんな化物でも受け入れてくれたのが一方通行さんで、その一方通行さんが
たまたま男性だっただけであって・・・・・・」
「ほうほう、付き合ってくれる男性はもう一方通行さんしかあり得ない、と」
「そう、なのかなぁ~と思ってるだけで、でも一方通行さんは他に好きな人がいるかも・・・・・・」
それはないから安心していい。
「でも一方通行さんは異性を好きになるような人間には見えないんですけどね~。
ていうかそれ抜きにしても人間とは思えないんですけど」
「え、それって一方通行さんは男の子が好きって事?」
「いいいいやいやそうじゃないですよ! 話を飛躍しすぎです!」
自分の知らないところでガチホモ疑惑がかけられそうになっている事など、
今の一方通行は知る由もないだろう。
「あの人ってどこか、他人を避けてるような雰囲気があるんですよね」
「確かに最初はそうだったんですけど、二回目のイギリス旅行の時から
だんだんそういう感じは無くなってきてるんですよ」
ちゃっかりイギリス訪問を『旅行』と言っちゃってる辺り、風斬ものんびり屋さんである。
しかし後半の寛容的になってきた一方通行の話は確かに納得出来る部分があった。
「でもやっぱり、自分の前に立ちはだかってくる敵とかには容赦ないですけどね・・・・・・」
「そりゃあそうですよ、風斬さんやミーシャさんを守ってあげなくちゃいけないって
彼はきっと思ってるんでしょうから」
レッサーにそう言われてまたも顔を赤くする風斬。
頭の中の三角柱が『もう疲れた・・・・・・』と言っているのが聞こえてきそうなほど激しく動いている。
と、ここで今度は風斬の方からレッサーへ質問をする。ベストタイミングな話題のシフト。
「ところで何でレッサーは私たちに着いてきてるんですか?」
「え・・・・・・? やっぱりお邪魔でしたか?」
「いえ、全然構わないんですけど・・・・・・どうしてかなーって思って」
レッサーが『天使同盟』に着いてきたのは二度目のイギリスから帰るときの事だ。
いつの間にか今は独立国同盟のオブジェと化しているクルーザー『アライアンス』号に乗っていて、
そのままここまで一緒に同行している。
「・・・・・・最初に言ったじゃないですか。 皆さんのお手伝いがしたいって」
「どうして私たちを手伝おうと思ったんですか? 船で会ったのが初めてなのに、
事情も知らないで私たちに貢献したいだなんて、なんだかおかしな話じゃないです?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
意外と鋭いところを突いてくる風斬だが、彼女の表情からは悪意は一切窺えない。
全く悪気もなく聞いてきているのだろうが、それが逆に堪えてしまう。
もうこれ以上は騙し通せないし、垣根帝督やエイワスには気付かれている事も考慮し、
レッサーは風斬の目を見ながらゆっくりと口を開いた。
「・・・・・・・・・・・・全部ウソですよ。 あなた達に貢献したいだとか、
何でも手伝いたいとか、全部全部、何もかも虚言です」
「え・・・・・・・・・・・・?」
レッサーはハーブドリンクが入ったコップをギュッと握り締め、
『天使同盟』最後の良心的存在である風斬に自分の真の目的を語り始めた。
――――――――――――――――――――――
独立国同盟の軍事施設のオフィスで、垣根はイスに座りながら
静かに彼女たちの様子を見ていた。
「・・・・・・ふうん。 これって結構珍しいタイプのルーン文字ね。
見たことない文字もいくつかあるわ。 まさかあなたが考案したの?」
「いや、そのルーン文字とやらは俺は一切知らねえ、ただ真似て書いただけだ。
文字の意味を知らねえといけねえルールとかあるのか?」
「いいえ別に、この程度の魔術ならそこまで知識がなくても使用は可能よ。
しっかりと正確に手順を踏めば、ね。 ・・・・・・って、ちょーっと待った」
「第一の質問ですが、あなたは魔術師になりたいのですか?」
「サーシャちゃあん! 私がしようとした質問を横取りしなーいの♪
この泥棒猫ぉ~、うりうり~☆」
「ちょ・・・・・・頬を擦りつけてこないでください、真面目な話をしてるんですから」
垣根帝督は誰にも口外せず、自分ひとりで内密にルーンの札を作っていた。
その事実を知っているのは『天使同盟』の中でもエイワスとミーシャ=クロイツェフのみである。
ワシリーサを凄腕の魔術師だと悟った垣根は、誰にも口外しない事を約束させ、
自作のルーンの札をレビューしてもらっていたのだ。
「どうせこういうのって文字が間違ってたり、魔法陣? ってのが乱れてたりしたら
使えねえんだろ? どうだ? どっか変なとこがあったら教えて欲しいんだが」
「そうねぇ・・・・・・。 文字や魔方陣自体は間違っていないけど、どこもかしこも雑だわ。
これじゃ魔術を使用する際の魔力の精製が無駄に大変になるわよん?」
「魔力の精製・・・・・・? ちっ、やっぱワケわかんねえなオカルトは・・・・・・」
垣根はエイワスから密かに受け取っていた『冷蔵庫でも分かる、魔術の使い方講座(著:ドラコ=アイワズ)』を読み、
自分が一人になった時などに黙々とルーンを作成していた。
このふざけたタイトルの書物によれば、能力者でもルーン文字や魔方陣を書くだけなら身体に負担はかからない、
と記述してあったので何のためらいもなく書き続けていたのだ。
「あの、第一の質問に答えていただきたいのですが、あなたは魔術師になりたいのですか?」
同じ質問をしてきたサーシャに垣根は舌打ちをしながら、
「・・・・・・別に魔術師になりてえワケじゃねえよ。 ただちょっとだけ、使ってみてもいいかと
思っただけだ」
適当にあしらうようにそう答えた。
「一つ聞いてもいいかしら? 能力者のあなたが魔術を使用したらどうなるかは知ってるのかにゃん?」
「それはもう散々聞いた、下手すりゃ死ぬんだろ?」
「!?」
それを聞いてサーシャが目を見開く。前髪で隠れてよく見えないが。
「それを覚悟しているのに、『ちょっと使ってみたい』程度の気持ちで魔術を使うというのは
みょ~~~~~な話じゃないかしらぁ?」
「・・・・・・別に何でもいいだろ。 俺の個人的な好奇心だよ」
「そ。 ま、あまり深入りはしないけどにゃーん」
ワシリーサはいつもの調子で話題を終わらせ、ルーンの札をまじまじと眺め続ける。
「あ、おいミーシャ。 お前も一応見てみてくれよ、天使様の意見を聞いてみてえな」
言って、垣根はルーンの一枚をミーシャに渡す。
ミーシャはロシアで放送されている子供番組を見てキャッキャと楽しんでいたのだが、垣根の頼みを聞くと
すぐにテレビ鑑賞をやめ、ルーンを受け取った。
「―――――――――――――――」
「どうだよ?」
「――――――――、tecdebfbagrt此処ohrfg逆nfede十二度sxpxjd修正vvihvwdfdbv」
ミーシャはジェスチャーを混じえ、垣根に何かを訴えている。
サーシャとワシリーサも彼女のジェスチャーをよく見ながら彼女の言葉を理解しようとする。
「なんだ、なんて言ってんだ? 何かおかしいところがあったのかよ?」
「・・・・・・あぁ、なるほど。 そういう意味のジェスチャーね。 天使がなんて言っているのかは
私には分からないけど、ほら、ここ。 英数字では『K』で表すルーン文字なんだけど、
ここの文字の角度が他の文字と比べてずれているわね。 ・・・・・・大体十二、三度ほどかしら。
ていうかよく見たら普通に文字の書き方ミスってるのもあるじゃない」
「何!? その程度のズレでもダメなのかよ!? お前が言ってた雑ってのはこういう事か?」
「第一の解答ですが、その通りです。 補足説明しますと、あなたの作ったルーンの札は
文字の書き方に若干の乱れが見られ、書くべき場所や角度、向かい側の文字に対しての
距離が所々間違っています。 これでは魔力精製が上手くいかず、発動自体出来ない可能性もあります」
それは素人が見ても、資料頼りの垣根が見てもほとんど分からないほどのミスだった。
ワシリーサは『この札も間違ってる文字がある。 あとこの札、ここが虫食い文字になってるわよん♪』と、
ぽいぽい垣根に投げ渡してくる。
サーシャもミーシャと共に作業を手伝い、
「第一の私見ですが、この札から流れてくる魔力に乱れがあるかどうかくらいはわかります。
・・・・・・あ、ここ、必要な文字が抜けていますよ」
と、次々にミスを指摘してきた。
特にミーシャとワシリーサのチェックは凄まじかった。
誰がどう考えても見出せないであろうわずかな文字の乱れや角度を素早く指摘していった。
『ここの文字と文字の距離が〇.〇二ミリ違う』と言われた時には思わず笑ってしまったくらいだ。
「ふっざけんじゃねえぞ・・・・・・魔術師ってのはこんなクソ面倒な下準備してんのかよ・・・・・・」
垣根がミスを訂正していきながら漏らした愚痴に、ワシリーサが答える。
「魔術にも色々あるけど、ルーンの札を使った魔術は特に下準備を入念にしなきゃいけない類の魔術よ?
これよりもっと簡単で扱いやすい魔術もたくさんあるのに、にゃんでこのルーンを選んだの?」
「これしか知らねえんだよ。 魔術は他にも色々見てきたけど、これ書くだけですっげえ楽じゃん、
って思ってこれにしたんだ。 まさかこんな針穴に糸を通すような精密さを求められるとは思わなかったぜ・・・・・・」
『ルーンは書くだけで使えるからすっげえ楽』という理由での選択はいかにも垣根帝督らしい。
だが本来、彼は一方通行に次ぐ頭脳の持ち主なのだから、効率を考えた場合、もっと簡単な魔術が
ある事に気付いていてもおかしくはないはずだ。
そして垣根はもちろんそれに気付いていた。だが、
「それにそういうもっと簡単な魔術ってよ、いわゆる『殺傷力』がねえだろ。
俺にとってはそれがなきゃ何の意味もねえんだよ」
「第二の質問ですが、あなたは誰かに魔術を行使するために魔術を会得したいのですか?」
「そういう状況になった時に備えて、だ。 俺たちはコイツを連れてんだぞ?
魔術の一つや二つ使ってでも守らなきゃなんねえんだよ」
ミーシャを指差しながら垣根はデスクの上に散らばった大量のルーンの修正作業を続けていく。
ワシリーサは先ほどの垣根の発言に疑問を持った。
「天使を守るためなら、あなたが本来持っている超能力で守ればいいじゃない。
何も命をかけてまで魔術を会得する理由にはならないんじゃないのかにゃん?」
「俺の勝手だ。 それに上手くいけば俺の『未元物質(ダークマター)』の法則に
魔術をぶち込めるかも知れねえ・・・・・・。 そうすれば俺は・・・・・・」
魔術を使いたい本当の理由をさりげなくごまかしてブツブツと喋り続けながら
作業をしている垣根の姿に、ワシリーサは生まれたての魔術師の姿を見る。
「なんだかお母さんになった気分、きゃっ///」
「第三の質問ですが、何言ってんですか急に」
うふふうふふ、と不気味に笑いながらひたむきにガリガリと文字を書き連ねていく垣根の姿を眺めるワシリーサ。
垣根は修正し終えたルーンの札をどんどん三人に投げ渡していく。
「あ・・・・・・凄い、たった一度修正箇所を指摘しただけで正確に直してしまうなんて」
「この子はまだ素材よ。 知識を加えていけば加えていくほど、輝いていくのよさ・・・・・・」
「口調が乱れていますよワシリーサ」
「rtjhbef完璧ohjferv完璧ojvdsbd駄目gcfy完璧nhfegf駄目bfcg駄目ihydi駄目qodcv駄目posof完璧bsfavbkh」
「おいミーシャ、お前のやってる事はわかったが、ミスのある札をいちいち俺の顔面に叩きつけるのはやめろ」
ミーシャはミスのない札をデスクに、修正が必要な札を垣根の顔に投げつけて仕分けていた。
「修正箇所は私が垣根の坊やにレクチャーするから、サーシャちゃんと天使は仕分けをしてちょうだいな♪」
「第二の回答ですが、了解しました」
「yyhbeuffwrws御意wbcysehrdfsi完璧phjiff駄目bvhu駄作ghrg糞mxvcfe塵fhewd」
「なんとなくだが、テメェのレビューが酷くなっているように聞こえるぞミーシャ」
文句を言いながらも垣根は作業を続けていく。顔には出さないが、彼はこの状況を楽しんでいた。
異国の魔術師との交流がこんなに楽しいものだとは、第二位でも予想できなかったのだ。
その楽しさは、二度目のイギリス訪問の時に気付くことが出来た。
そしてそれを気付かせてくれたのは、あの憎たらしい第一位であって――――――。
「ふむ、頑張っているようじゃないか、垣根帝督」
面倒なのがやってきてしまった。
ふと、オフィスで声がしたかと思うと、"それ"は既にルーン作成に勤しんでいる垣根の背後に立っていた。
「え、エイワス!? 急に出てくるんじゃねえよ」
「わぁお♪ あなたがエイワスね? 初めまして、ワシリーサよ」
「だ、第四の質問ですが・・・・・・い、今、どこから・・・・・・・・・・・・?」
「初めまして、ワシリーサ、そしてサーシャ=クロイツェフ。 挨拶もそこそこに、
私も垣根帝督の作業を手伝おうではないか」
「ねぇ、あなたに色々聞きたいことがあるんだけど」
「作業をしながらでも出来る話なら、なんなりと。 ワシリーサ」
そんなエイワスを、垣根はジロリと睨む。
冷蔵庫が翼を生やし羽ばたいているというナメきったカバーイラストの書物を握り締めながら。
【次回予告】
『最初から素直に『イギリスがピンチの際は助けてください』って頼めば、力を貸してくれたんですか・・・・・・!?
貸してくれないでしょう・・・・・・!? あなた達はそれどころじゃないですもんね・・・・・・!』
―――――――――――魔術結社予備軍『新たなる光』構成員・レッサー
『・・・・・・ううん、きっと大丈夫』
―――――――――――『天使同盟(アライアンス)』構成員・風斬氷華
『・・・・・・面白いわね。 じゃあ教えてよ。 どうだった、私の悲しい悲しい昔話は?
お涙頂戴の感動ヒストリーよ、ゴールデングローブ賞くらいにはノミネートされるかしら?』
―――――――――――ローマ正教、禁断の組織『神の右席』の元一員・『前方』のヴェント
『オマエのその膨らみまくった反吐みてェな憎悪の塊を俺にも寄越せっつってンだ』
―――――――――――『天使同盟』のリーダー・一方通行(アクセラレータ)
「テメェ・・・・・・エイワス、これすっげえ面倒くせえ魔術じゃねえかよ。
何が手軽で簡単、だ。 この本、適当に書いたんじゃねえだろうな?」
「『冷蔵庫でも分かる、魔術の使い方講座』かね? 適当なはずあるものか、
能力者である君の体への負担を極力抑えるためのノウハウを丁寧に記載したものだぞ」
「第一の私見ですが、それでルーンの魔術を選択したのですね」
納得したように言うサーシャ。
「その通り、魔術師の第一歩と言ってもいい。 そのための書物だ
この本があればその辺にいる一般人でも三日で立派な魔術師になれる」
すなわち垣根が貰った本はこの世に存在するどの『原典』よりも扱いやすい、
ある意味魔術の常識を根本から覆してしまう代物だ。
「さすが『法の書』を伝えた聖守護天使だわ。 どうやらモノホンのエイワスのようね」
「第二の私見ですが、信じられません・・・・・・。 ですが、纏っている雰囲気がそうだと言っていますね」
「照れるじゃないか、そんな恐縮せずに、犬のように扱ってくれたまえ」
「犬!? 第五の質問ですが、何故に犬なのでしょうか!?」
「いやぁ、君の首についているリード付きの首輪をみてつい連想してしまってね。
ふむ、噂には聞いていたがかなりぶっ飛んだファッションセンスじゃないか」
「くぅ・・・・・・、あなた達だけには突っ込まれないと思っていたのに・・・・・・」
でもエイワスだけには言われたくない、とサーシャは服と肉体の境界線がないエイワスを見てそう思った。
「つっても、結局は体に負担はかかっちまうわけだ。 完璧に抑えることは出来ねえんだな」
「我儘を言うものではないよ垣根帝督。 このようなメンバーの助力がある以上、
君が魔術師になれる可能性はほぼ一〇〇パーセントと言っても過言ではないのだから。
ただし、我々が行うのはあくまで手助けだけで、結局のところルーンを完璧に作成するのは
君の役割だ。 せいぜい頑張りたまえ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
全てのルーンの修正が終わった頃には、すっかり夜になってしまっていた。
垣根はその場でデスクに突っ伏して『腹減ったぁ・・・・・・』と弱々しく呻く。
あまりにも指摘が細かすぎて、途中で垣根がぶち切れてしまったがエイワスに一蹴され、
その後は黙々と作業をしているだけだったのだが、遂に修正作業は終了したのだった。
「そろそろ食事の時間かしらね。 もちろんあなた達も食べていくでしょう?」
「いいのかね? いや申し訳ないな、ではお言葉に甘えて頂こうか」
「最初からそのつもりだろうがクソボケ」
「第六の質問ですが、ミーシャも食べていきますよね?」
「sfcuwczicrpg勿論hnziwregfycc」
垣根はうーんと思い切り蹴伸びをし、四人と一緒にオフィスを後にする。
後に待ち受けている恐ろしい試練の事など、何も知らないで。
――――――――――――――――――――――
「―――と、いうわけです。 真の目的だなんて、そんな大仰な言い方はしません。
単純にあなた達を、まぁ細かく言うと一方通行さんを、我が英国のために利用しようとしただけです。
スパイとは・・・・・・ちょっと違うけど、『天使同盟』程の力を持った組織を手中に
収めれば、国にとっても大きなアドバンテージになりますしね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
何でもないように、レッサーは淡々と語った。
既に一方通行とエイワス、垣根帝督に自身の目的はバレてしまっているわけだからと、
レッサーは『天使同盟』をイギリスに貢献してもらうため利用することを企んでいた事を
風斬氷華にも全て包み隠さず暴露した。
二人がいる大広間には未だに多くの兵士と看護師がいる。
兵士は怪我の治療に専念するために寝床に入りっぱなしで、看護師は看護師で
慌ただしく走り回っていた。
そんな中、風斬とレッサーだけは話の途中に看護師から貰ったホットレモンティーの
入ったティーカップを両手で包みこみ、パイプ椅子に座って休憩していた。
「なはははー・・・・・・、幻滅しちゃいました? 怒っちゃいました?
それとも呆れましたか? そうですよね、呆れちゃいますよね、
私たちみたいな弱小の魔術結社予備軍が、あなた達、みたいな次元の違う
組織を手中に収めようと考えてたなんて、片腹痛いってやつですよねー」
あははー・・・・・・と、表面上では明るく振舞ってはいるが、明らかに彼女は沈んでいる。
それをごまかすようにレッサーは湯気がたっているティーカップに口をつけ、レモンティーを飲み続けた。
「・・・・・・・・・・・・うん」
「?」
「怒ってるよ」
レッサーの話を聞いて、風斬が抱いた感情は『怒り』であるらしい。
それを聞いてティーカップに映る自分の顔を見ながら苦笑した。
「あはは・・・・・・、怒ってます、か」
「うん」
「まぁ、当然ですよね。 自分の力はなくて、あくまで『他』の力で
国を守りたいだなんて言っちゃってるんですから。
上条当麻の時もそんな感じで結局失敗しちゃったっけなー」
「・・・・・・・・・・・・」
「笑っちゃいますよね、『お前はそうやって他人の力を借りなきゃ自分の国も守れないのか?』
って感じですもん。 寝言は寝て言えとはまさにこの事! いやはや、自分で言ってて虚しいですよ。
ホント・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 虚しいし、」
レッサーは一拍間を空けて、
「情けない」
はぁ、とため息をついてティーカップを口につけるレッサー。
そのティーカップにはもう、レモンティーは入っていないというのに。
「あ、あれ、もう飲み干しちゃいましたか・・・・・・」
何か言葉に詰まるたびにレモンティーを飲んでごまかしていたレッサーだが、
それが空になった今、どう行動をとればいいかわからないでいるようだ。
「ねぇ、レッサー」
落ち着かない様子のレッサーに、風斬は優しく諭すような声で話しかける。
レッサーは彼女が真っ直ぐこちらを見ていると気づくと、思わず目を逸らしてしまう。
「私、さっき怒ってるって言いましたよね?」
「えぇ、そりゃそうでしょう。 だって―――」
「そう、何で最初からそう言ってくれなかったのかなって、
だから怒ってるんですよ」
「―――――、え?」
最初からそう言え、とはどういう意味だろうか?
レッサーは風斬から放たれた予想外の言葉に呆気に取られてしまった。
「最初からって・・・・・・、会った時から『私はあなた達を利用するために近付きました、
よろしくお願いします』と言えってことですか? 冗談キツイですね~」
あくまで茶化す風に笑いながら言うレッサーだが、風斬の真剣な表情は変わらない。
あまりにも違うテンション差にレッサーの表情はますます暗くなっていく。
「利用とかそんなんじゃなくて・・・・・・、レッサーは私たちにイギリスのために
力を貸して欲しいって、そう思って着いてきたんでしょう?」
「は、はい。 そうですよ?」
「じゃあ何で最初からそう言ってくれなかったんですか?」
「な、何でって・・・・・・・・・・・・」
まぁ、一理ある。
最初から素直に、前口上など述べずにさっさと自身の目的をぶちまけてしまえば話は早かったかもしれない。
『どうかその力を、イギリスへの貢献のために使わせてください』、とか。そういうニュアンスで
頼んでしまえば、何も再びロシアの地に足を踏み入れる必要は無かったかもしれない。
だが、しかし―――――。
「・・・・・・最初から言えば、力添えをしてくれたんですか?」
「・・・・・・・・・・・・」
「最初から素直に『イギリスがピンチの際は助けてください』って頼めば、力を貸してくれたんですか・・・・・・!?
貸してくれないでしょう・・・・・・!? あなた達はそれどころじゃないですもんね・・・・・・! 私たちみたいな
その辺に転がってるような魔術結社の成り損ないなんかに構ってる暇、ありませんよね・・・・・・!!」
「レッサー・・・・・・」
風斬からはレッサーの表情は窺えないが、ティーカップを持つ手が震えているところを見ると、
容易に彼女の心中を察することが出来た。
「エイワスさんにも言われましたよ、『イギリスがどうなろうと私は全く興味がない』って・・・・・・。
あなただって、あなた達だってエイワスさんみたいにハッキリ言ってくれれば・・・・・・!!」
「・・・・・・それだけでした?」
「・・・・・・?」
「エイワスさんが言った事、それだけでしたか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
プライベーティアとの抗争時、エイワスはレッサーにこんな事を言ったはずだ。
『・・・・・・我々のような強大な力を秘めた集団が、
たかがイギリス一国のために力添えなどしてくれるわけがない、か』
『ッ!』
『果たしてどうかな? 今の彼、一方通行ならわからんぞ?』
『・・・・・・で、でも』
『たしかに私にとってはイギリスがこの先どうなろうと、
言ってしまえばこの星がどうなろうと全く興味はないが―――』
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
『―――彼はおそらく、そうは思わないだろう』
エイワス個人としては、本当にイギリスの行く末など興味はないのだろう。
出会ってからまだそんなに長くはないが、それは分かる。”アレ"は本当に別次元の存在だ。
だが彼なら、
「・・・・・・あ、一方通行さんなら、力を貸してくれるかも、って・・・・・・」
「うん、私もそう思います。 彼ってほら・・・・・・、あぁ見えて結局『お人好し』なところあるから」
そう言って風斬はクスクスと笑う。
「でも、一方通行さんは学園都市の超能力者で・・・・・・、イギリスだとかああいう国には本来無縁に
近い立場の人間じゃないですか」
「・・・・・・ううん、きっと大丈夫」
「え・・・・・・?」
風斬は飛び切りの笑顔を振りまいて、
「一方通行さんは国境なんか超えて、すぐにレッサーのところに駆けつけてきてくれるんですから!
もちろん一方通行さんだけじゃないですよ? ・・・・・・私だって天使さんだって、垣根さんだって。
エイワスさんも嫌だと言っても無理やり引っ張って行きますから、安心してください・・・・・・!」
グッと小さくガッツポーズを決めた。何だそりゃ、五点くらい入るのだろうか。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ、あれ」
相手からの反応を待っていたのだが、レッサーはポカンとこちらを見つめたまま固まってしまっている。
その間もガッツポーズは解いていないのだが、そろそろ恥ずかしくなってきた風斬の顔がみるみる赤くなっていった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ぷっ」
「?」
「あははは! なんですかそれ? 何でガッツポーズ? 意味分かんないですよ」
「うぅ・・・・・・なんか間違えたのかな」
頬に両手を添え恥じらいながら呻く風斬を見て、レッサーはひたすら笑った。
周囲の目が微妙に訝しんでいる様子だったが、お構いなしに彼女は笑った。
それに釣られて、風斬も笑う。
「ふふふ、風斬さんって変な人ですね」
「へ、ヘンじゃありません・・・・・・!」
「くす。 ・・・・・・でも、」
「?」
「・・・・・・ありがとうございます、なんだかスッキリしました」
そう言って、レッサーも風斬に負けないくらいの笑顔を振りまいて見せた。
「二人とも、エリザリーナ様が帰ってきたわ。 多分あなた達に食事を振舞ってくれると思うから、
食堂に行ってきたらどう?」
と、何やらクスクスと笑い合っている不気味な美少女二人に、独立国同盟の看護師が話しかけてきた。
「あ、はい。 すぐに向かいます、わざわざすみません」
風斬は看護師に礼を言い、レモンティーを一気に飲み干した。
「慌てなくてもいいですから、あとで一方通行さんにも相談したらいいと思いますよ」
「・・・・・・受け入れてもらえるでしょうか? 私なんかが・・・・・・」
「大丈夫です、私が保証します。 一方通行さんがダメって言っても
私がOKなら良いんです! だから安心してください」
『天使同盟』の裏番長はそう言ってパイプ椅子から立ち上がり、椅子を畳んでいく。
確かに、『アライアンス』号に勝手に乗り込んだレッサーをあっさり迎え入れてくれたのは一方通行だ。
自分が尻込みしているだけで、もしかしたら割と普通に承諾してくれるかも知れない。
しかしそれでも、本当にこんな世界をも飲み込めてしまいそうな巨大で強大な組織が、自分たちのために動いてくれるだろうか。
やはり、一抹の不安は拭いきれない。
「さ、行きましょうレッサー。 私もお腹空いちゃいました」
「・・・・・・あなたはお腹とか減らないんじゃ?」
「あ、・・・・・・こ、こういうのは雰囲気です、雰囲気! 私、空気の読める女性を目指したいんです」
ふーん、とせせら笑ってからかうレッサー。そして、
「風斬さんはちょっと先に言っててください、私もすぐに向かいますので」
「? そうですか・・・・・・? でも、」
「空気の読める女性を目指してるんでしょ?」
「・・・・・・。 わかりました、じゃあ皆で待ってますね!」
風斬はニコッと笑って病院の大広間から出て行った。
「・・・・・・・・・・・・『皆で待ってる』、かぁ」
正直、風斬があと数秒自分の前に居られたら危なかったかもしれない。
「お人好しなのは一方通行さんだけじゃないですね、風斬さん。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・本当に、ありがとう」
彼女はまだ、人前で涙を流すことに慣れていない。
――――――――――――――――――――――
――私の弟は、科学によって殺された。
とあるテーマパークの、とあるアトラクションの試運転で悲劇は起こった。
アトラクションのマシンが誤作動を起こし、理論上では考えられない事故が発生した。
絶対に安全だと言われていた技術なのに。
人に笑顔を与えるために生まれてきた機械なのに。
与えられたのは、血濡れの絶望だけだった。
二人の姉弟が犠牲になった。姉弟はすぐさま病院に運ばれたが、治療は困難を極めた。
まず、身体の肉体的損傷は治療できても、意識を取り戻すための血が足りない。
輸血が必要だった。でも、『B型のRh-』という血液型は、病理学的視点から見ても非常に珍しいものであり、
一刻を争う中でそんな血液を姉弟二人分も用意するのは不可能と言ってよかった。
・・・・・・事実、不可能だった。
『・・・・・・お姉ちゃんを、お姉ちゃんを助けてください。 お願い・・・・・・します』
そんな弟の必死の願いは叶った。結論を言えば、姉弟は助かった。
なんとか輸血に必要な量の血液を入手することが出来て、一命を取り留めたのだ。
しかし助かったのは姉弟の内、一人だけ。姉の方だけだった。
姉弟は、科学によって道を閉ざされた。これから先、暖かくて明るい未来が待っていた二人の道を、
科学は無慈悲にも閉ざしてしまった。
お姉ちゃんを助けてください。そう願い続けた弟は、結局見殺しにされた。
科学は、嫌い。科学は、憎い。
口癖のように、呪文のように、姉は繰り返し繰り返し言い続けてきた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・その姉が、私。 でしたとさ」
めでたしめでたし、なんて言葉が続くはずもない。
ここはエリザリーナ独立国同盟の居住区にある一室。元『神の右席』所属の前方のヴェントが使用している部屋だ。
現在、部屋には主のヴェントともう一人、学園都市最強の超能力者(レベル5)であり、『天使同盟(アライアンス)』の
リーダーでもある男、一方通行(アクセラレータ)がいる。
部屋には電気もない、テレビも無い、冷蔵庫も電子レンジも、エアコンも存在しない。
部屋に明かりを灯しているのは、暖炉でゆらゆらと揺れる暖かくて柔らかい炎だけだ。
ヴェントの部屋はかつて一方通行が住んでいた高級マンションの部屋よりも、もう二段階くらい殺風景だった。
あるのは申し訳程度に並べられた箪笥に、浴室、簡素なベッド、そして部屋の隅にポツンと置かれている木製の机だけ。
まるでこの部屋も『科学が嫌い』だと訴えかけてきているようだった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
一方通行は彼女の過去をただ黙って聞いていた。口も挟まず、腰掛けているベッドから微動だにせず、
ただただ、黙って彼女の話を聞いていた。
「今の話、上条当麻に話したらなんて言ったと思う?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・どォせ、甘ちゃン一直線な事言われたンだろ?」
「その医者だって私の弟を死なせたくなかったかに決まってる。 そのアトラクションの乗り物だって、
悲劇を生むために作られたモンじゃない。 私の弟がどんな気持ちでお姉ちゃんを助けて下さいって
言ったのか考えてみろ。 私の弟はその時、世界で一番凄いことをした。 そんな弟の気持ちを
私が泥で塗りたくってどうするんだ。 私の幸せを誰よりも願っていた弟が、科学に復讐して
喜んでくれるわけがない。 私の生き方は間違ってる。 ・・・・・・・・・・・・笑えるでしょ?」
「ハッ、三下らしい」
一方通行は組んでいた足を入れ替えながらからからと笑う。
ヴェントは舌先から流れ出ている鎖を弄りながらため息をつく。
「私はこう言ったわ。 どんな言葉を投げかけられようとも、私の道は私で決めた。
今ここで話を聞いたばかりのアンタに説教される筋合いはありません、・・・・・・ってね」
腰掛けているチェアをほんの少し前後に揺らしながら、過去の戦いを思い出すように
ボーッと炎を見つめて、ヴェントは言った。
「・・・・・・アンタなら、なんて言う?」
「あァ?」
「アンタなら、もしあの日に私と対峙していたのがアンタだとして、
私の話を聞いてどう言うのかしら?」
もしも九月三〇日に一方通行がヴェントと出会い、その話を聞いたとしたら。
そんな『if』を尋ねられた一方通行は、少しだけ思考する素振りを見せ、答えた。
「・・・・・・もし俺が九月三〇日のあの日にオマエと会っていたら、十中八九オマエと俺は敵対してる。
だからオマエの話なンざ右から左。 即座にミンチでハイ終了、だな。
むしろ三下が言ったことの方がまだマシっつーか、三下のがよっぽどイイこと言ってンじゃねェの?」
「あっは。 そっか、アンタは確かにそういう人間っぽい。
もっとも、私と『敵対』なんてしてたらその瞬間アンタは糸の切れた操り人形状態よ」
後半は意味がわからなかったが、ヴェントは笑った。
恐らく予想していた通りの答えが返ってきたからだろう。
「まぁ別に、誰かに分かって欲しいとか同情して欲しいとか言う理由で話してるわけじゃないしね。
アンタみたいなシンプルで分かりやすい返答のほうが却って気持ちいいわ」
「あァ。 だがよ、今のはあくまで『if』、もしもの話だろォが」
「そうよ、それが何?」
「九月三〇日じゃねェ。 今こォして現実に、俺はオマエの話を聞いたぜ?
それに対しての俺の返事はまだオマエに送ってねェ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
九月三〇日の一方通行なら、問答無用でヴェントに攻撃を仕掛ける。
ならば、『今』の一方通行ならヴェントの話にどう答えるのか?
「・・・・・・面白いわね。 じゃあ教えてよ。 どうだった、私の悲しい悲しい昔話は?
お涙頂戴の感動ヒストリーよ、ゴールデングローブ賞くらいにはノミネートされるかしら?
ここ、ロシアだけど」
「恨めよ」
「え?」
今度は、ヴェントの予想とは違った答えが返ってきた。
「科学を嫌えよ、科学を憎めよ、科学を恨めよ。 嫌って嫌って、憎ンで憎ンで、恨ンで恨ンで、
怨ンで怨ンで、ドロッドロの闇の闇の、そのまた更に奥底の闇まで沈めばいい」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ふん。 そう来た、か」
そう言いながら、ヴェントは膝を抱えて丸まり、ジトッと一方通行を睨む。
「・・・・・・それで、闇の闇まで沈んで、闇と同化して消えちまえ、ってところかしら?」
「話は最後まで聞けよ。 せっかちな女は可愛げがねェぞ」
一方通行を睨むヴェントの目付きがますます鋭くなる。
この男は自分に対していちいち可愛げがないとかうるさいことを言ってくる。
「そォだな、闇の奥底まで沈んだら・・・・・・何が生まれてきた?」
「生まれるも何も、変わらないわ。 私の胸にはいつでも科学に対する『憎悪』と言う名の
どす黒い塊がへばり付いてるだけよ」
「だろォな。 しかもその塊は、オマエ一人じゃとても背負えねェシロモンだ」
と、一方通行はベッドから腰を上げて立ち上がり、身体を丸めているヴェントの前まで歩いてきた。
「・・・・・・何よ」
「その塊、俺にも寄越せ」
「・・・・・・・・・・・・。 ・・・・・・はぁ?」
何言い出したのこの人、と言わんばかりの声と表情でヴェントは一方通行の顔を見上げる。
一方通行はその不気味ながらも綺麗に透き通った紅い眼で彼女を見下ろしながら更に続けた。
「オマエのその膨らみまくった反吐みてェな憎悪の塊を俺にも寄越せっつってンだ。
いや、なンなら全部俺に丸投げしちまっても構わねェ」
「アンタいきなりナニ言っちゃってんの? 何かの魔術にアテられて頭でもイッちまったか?」
「ほざくなメスガキ。 ンじゃその手は一体なンなンですかァ?」
「え? あ、・・・・・・・・・・・・?」
気付けば、ヴェントはいつの間にか一方通行の方へほんの少し、手を向けていた。
誰が見ても綺麗だと言わざるをえない、そんな綺麗で小さな手を、彼に向かって差し出すかのように。
「な、によコレ・・・・・・、アンタ私に何をしたのよ?」
「なンにもしてねェよクソボケ。 オマエから勝手に手ェ出してきたンだろォが」
ヴェントからすれば一方通行が自分の身体を操ってそう仕向けさせたようにしか思えなかった。
こんな事は初めてで、それはまるで、自ら彼に救いを求めているような―――――。
「―――――ッ! ・・・・・・言ってることは・・・・・・!!!」
ヴェントは咄嗟に手を引っ込め、顔を埋めてしまう。
自分が一体何をしているのか分からなくなり、混乱している。
そして、
「言ってる事は真逆でも、本質はあの偽善者野郎と一緒だろうが!!!」
室内に、彼女の悲痛な叫び声が反響した。
「ふん、上手いことやったわね!! あぁやって話術巧みに私を誘導して、
私が無意識に手を伸ばしたから『それが、お前が助けを求めてる証拠だ』とか
言い出すんでしょう!!? 結局同じじゃない!! アンタだって私が間違えてるって
言うんでしょ!? だったら答えは同じよ! 私の生き方は私が決める!! この胸の
『憎悪』の塊だって、一生私が抱えていくのよ!! 誰がアンタなんかに・・・・・・!!
誰がアンタなんかに渡すもんか!!! 知ったような口を聞くな!!!」
ヴェントの吠えるような激昂に動揺を見せることなく、一方通行は静かに言った。
「あーあーうるせェ。 きゃんきゃん喚くのは勝手だがよォ。
・・・・・・オマエだって俺の事わかってねェだろ」
「・・・・・・?」
「オマエだって、俺の事なンざ一つも知らねェだろ」
「・・・・・・だから何? アンタの事を、アンタの素性を知ったら何か変わるの?
アンタは学園都市から来た能力者、一方通行でしょ? それだけよ!!」
「いいや、それじゃァ五十点だな。 とても完璧な解答とは言えねェ」
「・・・・・・知らねぇよ、そんなコト。 アンタが何者かなんて、それだけ分かってりゃいいでしょ・・・・・・」
震えた声で一方通行を突き放すヴェント。完全に顔を膝に埋めたその仕草が『もう出て行け』と訴えている。
「俺は学園都市の超能力者(レベル5)、序列第一位の一方通行だ」
一方通行はヴェント真っ直ぐ見据えながら、自身の立場を言い放った。
暫く沈黙が続いたが、やがてヴェントはほんの少しだけ顔を覗かせて一方通行を睨み上げる。
「レベル5・・・・・・? 序列第一位・・・・・・? ・・・・・・だから知らないっつってんでしょ。
アンタが学園都市の第一位だから何だって言うのよ」
「わかンねェのか」
「勿体ぶってんじゃないわよ、何が言いたいの?」
「学園都市は科学の街だ、どこを見ても科学、科学、科学。 科学=学園都市って公式が
生まれていてもおかしくねェくらいに科学狂いの街。 それが学園都市だ」
「言われなくても知ってるわよそんなコト。 だから私はあの日、ついでに学園都市を潰そうと・・・・・・」
「そンな学園都市では能力者の開発を年がら年中行ってる。 総人口二三〇万人の中で、
レベル5に辿りつけたヤツはわずか七人。 そして俺はそのレベル5の第一位なンだよ」
「自慢話ならよそですればい―――――、」
「学園都市の最高技術を、最高の科学技術を凝縮し、完成したのがこの俺だ。
オマエが恨ンでやがる科学ってのは、つまり俺にも当てはまるンだ」
「―――――――――――」
ヴェントは一瞬、自分の耳を疑った。
今目の前にいるこの男が、科学の集大成?
自分が憎んで憎んで憎みまくった科学の頂点が、目の前にいるこの男?
「だからそこまで科学を憎むってンなら、まずは俺を憎めよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「『罪を憎ンで人を憎まず』って言葉があるが・・・・・・、この場合は
『科学を憎ンで俺も憎め』、だな」
そう言って一方通行は苦笑する。自分でも言っていることが可笑しいと自覚しているからだ。
しかし、それでも、一方通行はヴェントに声をかける。
「・・・・・・世の中にゃ科学のおかげで幸せになれたり、科学のおかげで毎日を笑顔で暮らせてる人間もいるンだ。
オマエの言い分もわからねェとは言わねェが、科学と共に生きてるヤツらは見逃してやってくンねェか。
それでオマエが納得出来るはずがねェって事は分かってる。 だからよ、科学を、つまりは俺を憎ンで
それで終いって事で手を引いてもらうわけにはいかねェか?」
「・・・・・・そんなんで私が納得すると思ってるのかしら?」
「納得出来ねェなら、納得するまで説得する」
「・・・・・・・・・・・・憎しみの対象を全てアンタに向けろって言ってんの?」
「あァ、そォいうこった」
一方通行はどこか照れくさそうに頭をポリポリと掻きながら、
「オマエが抱えてる憎しみ、この一方通行が全て引き受けた」
ヴェントの眼前にその白すぎるほど白い左手を差し出してきた。
その行為はかつて第三次世界大戦で、一方通行がとあるクローン体に行ったものと酷似していた。
あれはそのクローン体同様、一方通行にとっても勇気のいる行動だったが、
今の一方通行には、その勇気が有り余るほど秘められていた。
「・・・・・・オマエが望むってンなら、俺ァオマエの弟の墓にも行ってやる」
「?」
「オマエの弟の墓前で下げる価値もねェ俺の頭ァ下げてこォ言うンだ。
『俺がオマエの姉ちゃンを泣かせた科学です! 唾でもなンでも天国から吐き捨てて
俺にぶちまけてください!』・・・・・・ってなァ。 クカカッ、どォだ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
くす、と小さな笑い声が聞こえた。きっと、気のせいじゃない。
「何ソレ。 アンタやっぱ頭おかしいわね」
「頭おかしくなきゃ第一位なンざ務まらねェンだよ」
「意味分かんない。 ・・・・・・ふん」
ガシッと、ヴェントが一方通行の細い左手を掴みとる。
そしてそのまま倒れこむように一方通行の胸に頭を預けた。
「それでもやっぱり、アンタに私のどす黒い塊を全て渡すわけにはいかない。
・・・・・・・・・・・・だから」
「あァ」
「私とアンタで、一緒に抱えていくって事で・・・・・・、とりあえずは妥協してあげるわ」
「・・・・・・まァ、それでいいってンなら俺もそれでいい」
「今の吐き気がするほどくだらないご高説がどこまで本気なのか、見せてもらうわよ」
そのままギュッと、ヴェントは一方通行の胸に顔を押し付け、彼の肩をそっと掴んだ。
(・・・・・・今まで散々鈍感鈍感言われ続けたが、もォ言わせねェぞ)
恐らく周りが言ってくる自分への『鈍感』だという言葉は、こういう時の状況で
何もしない一方通行の事を言っているのだろうと、一方通行は考える。
彼がその答えに辿り着いただけでも勲章モノだが、まだ足りない。
(つまりは、俺にゃ女に対する『気遣い』ってのが足りねェンだろ?)
限りなく正解に近いが、そうではない。だがそこまで行けばあとは自然に解ろうものなのだが・・・・・・。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・オイ、そろそろ部屋出ねェか? メシとか食わなきゃいけねェだろ」
「・・・・・・私に指図してんじゃねぇよ。 アタマ叩き割られたいの?」
「チッ・・・・・・」
ヴェントは一方通行の胸板に顔を埋め、彼の肩を掴んだまま動こうとしない。
風斬氷華は一方通行に対してもっと積極的に接しなければ己の気持ちに気付いてくれないと
読んでいたが、残念。少なくともこうしてヴェントのようにゼロ距離まで密着してもまだダメなようだ。
と、そこで一方通行がアクションを取る。
彼はヴェントの頭にそっと手を乗せ、優しく、柔らかい動作で撫で始めた。
(あのクソガキはこォしたら喜ンでたし、恐らく間違いはねェだろ)
打ち止め(ラストオーダー)とヴェントを一緒くたにしてどうする。
だが、確かに間違いではないのだが、あともうワンステップ欲しいところである。
静かに燃ゆる暖炉の炎、それによって灯りはあるものの、まだ薄暗い室内。
今の二人の状況、そしてすぐ側には簡素ながらもちゃんとした作りのベッド。
メシなんか食ってる場合じゃねえ、である。
(・・・・・・・・・・・・どォすりゃいいンだ。 やっぱわかンねェ。
三下辺りに聞きゃなンかわかンのかねェ)
「・・・・・・・・・・・・、ん」
「?」
「・・・・・・そろそろエリザリーナが戻ってくる頃かしらね。
多分、アンタ達も呼ばれてる。 そろそろ行くわよ」
言って、ヴェントは一方通行から離れて暖炉の火を自慢の風魔術でフッと消した。
「・・・・・・なんで出会って間もないアンタにあんな話して、私の憎悪を一緒に抱える
なんて結託しちゃったのかしらね。 私もどうかしてたのかしら」
「出会った時間だとか期間だとか、ンなモンはどォだっていいンだよ。
俺たち『天使同盟』は結成してまだ一ヶ月経ってねェのにあの有様だぞ」
「なるほど、今のは妙に説得力あるわね」
「ンじゃ、行くかァ。 腹減ってしょうがねェ」
一方通行は杖を引き出し、カツカツと歩いて部屋を出て行く。
(・・・・・・頭撫でられた時はどうなるかと思ったじゃない。 白いののクセに。
上条当麻といい白いのといい、なんなのよ学園都市の人間は・・・・・・・・・・・・)
部屋が薄暗かったおかげで自分の顔が紅潮している事に気付かれずに済んだヴェントは、
静かにため息をつき、一方通行の後を追って部屋を出た。
そんな彼女の表情は、写真立てに飾られていた写真に写っている、二人の内の一人の少女と全く同じ笑顔だった。
【次回予告】
『あァそォだな、サーシャ。 オマエ、ガブリエルが喋ってる事とかわかるか?』
―――――――――――『天使同盟(アライアンス)』のリーダー・一方通行(アクセラレータ)
『なぜ天使さんがこの世に顕現していられるかは最初のイギリス訪問の時に
予測はついていますよ。 多分、ベツレヘムの星はまだ空中を漂っているんだろうって』
―――――――――――『天使同盟』構成員・風斬氷華
『隠しといてそれを必死に探す俺達を見て楽しんでるんだ』
―――――――――――『天使同盟』構成員・垣根帝督
『でも確かに気になりますね。 それが本当なら、誰が隠してるんでしょう?』
―――――――――――魔術結社予備軍『新たなる光』構成員・レッサー
『fmsyzbdmjr合掌zdwydpbdwh』
―――――――――――『天使同盟』構成員・ミーシャ=クロイツェフ
『確かにおかしな話ね、儀式場の破壊はともかく、ベツレヘムの星は
もう北極海で海の藻屑になってしまっているわ。 それなのになぜ・・・・・・?』
―――――――――――エリザリーナ独立国同盟の中心的人物・エリザリーナ
『第三の質問ですが、その原因を突き止めるためにここへ来たわけですね?』
―――――――――――元『殲滅白書』の魔術師・サーシャ=クロイツェフ
『・・・・・・・・・・・・ふふーん。 お姉さん分かっちゃった♪』
―――――――――――元『殲滅白書』のシスター・ワシリーサ
――エリザリーナ独立国同盟・とある軍事施設 オフィスルーム
エリザリーナ「・・・・・・・・・・・・」ハァ
ガチャ
風斬「ここ・・・・・・でいいのかな?」チラッ
エリザリーナ「あら、いらっしゃい」
風斬「あ、どうも。 ここで食事するんですか?」
エリザリーナ「食堂も埋まってて空いてる部屋がここくらいしかないのよ。
書類やらなんやらで散らかってるけど、見逃してちょうだい」
風斬「いえ、全然気にしてませんから! ありがとうございます」
垣根「うらぁ、晩飯に呼ばれて来てやったぞ」ガチャ
風斬「あ、垣根さん」
ガブリエル「ddnatcntum氷華amjnytdjrk」ガバッ
風斬「きゃっ、もうっ。 いい子にしてましたか?」ナデナデ
垣根「完璧にペット扱いだなミーシャ」
サーシャ「失礼します」
ワシリーサ「今日はここで食事なの? なんだか雰囲気無いわねぇ」
エリザリーナ「我儘言わないで」
風斬「そういえばエイワスさんは・・・・・・?」
垣根「ん、ここに行く途中に消えた。 すぐ戻ってくるとか言ってたぞ」
風斬「そうですか・・・・・・」
垣根「エイワスの野郎、ロシアに来てからなんか落ち着きがねえよな。
あっち行ったりこっち行ったり」
風斬「なんだか忙しそうにしてますよね。 何か企んでるんでしょうか?」
サーシャ「第一の質問ですが、あと来ていないのは誰ですか?」
垣根「一方通行の野郎とあの変な魔術師女、それだけか」
レッサー「私を普通にスルーするなぁ!」ガチャン
風斬「レッサー、もういいんですか?」
レッサー「はい! 私は今この時より、新生レッサーとして生まれ変わったのです!」ドン!!
ワシリーサ「なんだか楽しそうねぇ。 何かあったのかにゃん?」
レッサー「もう何時までもウジウジしていられないんです!」
垣根「何だコイツ」
風斬「くすっ」ニコッ
一方通行「ここかァ?」ガチャ
ヴェント「早く入れよ」ゲシッ
一方通行「痛っ」ドテッ
サーシャ「・・・・・・第二の質問ですが、お二人は一緒にいたんですか?」
風斬「!?」
レッサー「むむ?」
一方通行「ってェな、何しやがる・・・・・・。 で、今なンか言ったかオマエ」
サーシャ「えぇ、ですから――――、」
ヴェント「こんなのと一緒にいるわけないでしょ!! 馬鹿なこと言わないでよ」
サーシャ「失礼しました」
ワシリーサ「ふふーん? にゃーんか怪しいわね、あなたがそんな取り乱すなんて」ニタニタ
一方通行「おいヴェント、オマエ何言ってやが――ぷぎゅ!?」グシャ
ヴェント「テメェは黙ってろよ・・・・・・!!?」グリグリ
垣根「おーおー、来て早々踏みつけプレイを鑑賞出来るとはな。
ディナー前のサプライズかよ?」ケラケラ
ガブリエル「――――――――――――」ナデナデ
一方通行「撫・・・・・・でてねェ、で助けろ・・・・・・!!」ゲシゲシ
レッサー「(大丈夫ですよ風斬さん! 分はまだあなたにあります!)」ヒソヒソ
風斬「(う、うーん・・・・・・・・・・・・)」シュン
エリザリーナ「ヴェント、そろそろ離してあげなさい」
ヴェント「ふん」ヒョイ
一方通行「"そろそろ"ってなンだよ!? こォなった瞬間止めろってンだ!」ウガー
ヴェント「ん? エイワスは来ないの?」
垣根「以下略」
一方通行「アイツはまたフラフラフラフラ・・・・・・何やってンだか」
ワシリーサ「どうするの? 先に食べちゃう? あ、食べちゃうって言うのは―――」
サーシャ「性的な意味でなく、ですね」
ワシリーサ「さっすがサーシャちゃん! よく分かってるわぁ♪」
一方通行「エイワスを女にしたよォなヤツだなオマエ・・・・・・、いやアイツも女なンだっけ?」
プライベーティアとの抗争が終わり、『天使同盟』が独立国同盟に到着して数時間。
ようやく落ち着きを取り戻した面々は朝から全く摂っていなかった食事を摂ることにした。
場所はエリザリーナがよく使用している軍事施設のとあるオフィスルーム。
食堂はどっかの誰かさんが突っ込ませたクルーザーが原因で避難していた国民が使用しているため、
空きがここしかないとのことらしい。
「失礼します」
「どうぞ、適当に机の上に並べていって」
「了解しました」
恐らくエリザリーナの部下の一人なのだろうロシア人の女性が、パッと見豪勢な料理を並べていく。
各々は適当な席に座っていた。
一方通行が座っている席の左右にはヴェントと風斬がいる。垣根の両隣はレッサーとワシリーサ。
ミーシャとサーシャは隣同士で座り、何か話をしている。会話など出来ないだろうに。
「おー、これって全部ロシア料理か?」
「簡単な物しか用意出来なくて申し訳ないわね」
目の前に並べられた湯気をほかほか立たせているロシア料理に舌つづみを打つ垣根。
エリザリーナは簡単な物しか用意出来なかったと言うが、それでも十分な種類と量のご馳走だった。
「wbdggmessk最高jrzispfani」
「あぁ、ミーシャ、涎が」
料理を前にして早くも興奮状態のミーシャはだらだらとみっともなく涎を垂らす。
それをせっせとハンカチで拭うサーシャ、どう見ても母娘です本当にありがとうございました。
それを見たワシリーサもミーシャに習って涎を垂らすが、彼女の場合は違う意味で出ている涎な気がする。
しかも拭いてもらえなかった。
「さ、これで全部よ。 好きなだけ食べてちょうだい。 おかわりも多分あると思うけど・・・・・・」
「utuwipjdsn合掌yihmwzmtid」
「え?」
「fmsyzbdmjr合掌zdwydpbdwh」
「??」
「手を合わせていただきますしやがれって事だろ。 コイツ変なとこで律儀なンだよ」
あぁ、そういうことか、とエリザリーナは手を合わせて食事を始めた。
他の面々も『なんだか合掌しなきゃいけない空気』を察知し、それに習う。
「んー! 美味しいです!」
「第三次世界大戦の時はファーストフードとかしか食べてないですからね。
ロシア料理ってこんなに美味しかったんですねー・・・・・・」
「まァ、悪くねェ」
「ryngdhbxym美味uhgwwznmyf絶品kgdjpwjzci」
「第三の質問ですが、ミーシャ。 素手で食べるならフォークやスプーンを持つ意味が
ないのでは・・・・・・?」
「やばい、めっちゃ美味え。 これなんて料理?」
「それはコトレータっていう、まぁカツレツみたいなものね。
はい、サーシャちゃん、あーん♪」
「こんな騒がしかったら食事なんて出来ないわよ・・・・・・」
各人様々な反応を見せながら、ロシア料理を楽しんだ。
――エリザリーナ独立国同盟・とある軍事施設 オフィスルーム
エリザリーナ「・・・・・・それで、あなた達は今後の予定はあるの?」
一方通行「あン? あー・・・・・・、どォすっかな」モグモグ
風斬「とりあえずサーシャさんから色々お話を聞きましょうよ」
サーシャ「第一の私見ですが、答えられる程度の質問であれば承りますが恐らく力にはなれないと思いますよ」
ガブリエル「―――――――――」グァフグァフ
垣根「ていうか何で俺たちロシアまで来たんだっけ?」モグモグ
レッサー「えーっと・・・・・・」ムグムグ
ワシリーサ「サーシャちゃんに用があって来たんでしょ?」パクパク
一方通行「あァそォだな、サーシャ。 オマエ、ガブリエルが喋ってる事とかわかるか?」
サーシャ「第一の回答ですが、彼女の言語はノイズが酷すぎて私でも理解できません。
補足説明しますと、ジェスチャーや雰囲気などで何を伝えたいのかはある程度把握出来ますが、
それは皆さんも同じ事だと思います」
垣根「そうだな」
一方通行「そォか、ありがとよ」モグモグ
サーシャ「いえ。 ・・・・・・・・・・・・」
風斬「・・・・・・・・・・・・」パクパク
レッサー「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」モギュモギュ
サーシャ「・・・・・・・・・・・・。 あの、第四の質問ですが、他には?」
一方通行「あ?」
サーシャ「他に質問とかないんですか?」
一方通行「いや、もォ別に・・・・・・・・・・・・」
レッサー「えぇーっ!!?」ブフォ
風斬「ちょ、ちょっと、何言ってるんですか一方通行さん!!!」
一方通行「?」
サーシャ「だ、第五の質問ですが、あなたはそれだけを聞きに遠路遥々ロシアの地へ?」
ヴェント「そんだけならエアメールとかで十分だろうが・・・・・・」
風斬「ちょっと待ってください!! まだ重要な案件が残っているんです!!」アタフタ
一方通行「なンかあったっけ?」ガツガツ
垣根「知らねえな」ムシャムシャ
エリザリーナ「ま、まぁそんなに慌てなくても、私たちはいつでもあなた達の話を聞くわよ?」
レッサー「一方通行さん・・・・・・ついにボケちゃいましたか」オヨヨ
一方通行「ンだと!? 誰に言ってンだオイ!!」
風斬「あなたに言ってるんですよ一方通行さん!! "ベツレヘムの星の欠片"の件は!?」
一方通行「あァ!!? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・、あ」
垣根「あぁ、そうだそうだ、それ聞かねえとダメだろ」ハハハ
レッサー「ハハハじゃないでしょう、全くこれだから能力者は・・・・・・」
ワシリーサ「ベツレヘムの星・・・・・・? あの空中要塞?」
ヴェント「・・・・・・なるほど、なんとなくわかったわ」
一方通行「そもそもオマエら、第三次世界大戦で召喚されたガブリエルが
最後はどォなったか知ってるか?」
サーシャ「第二の回答ですが情報は耳にしています。 消滅したはずですよね?」
一方通行「そォだ、消滅した。 はずなのに今もこォしてコイツは
幸せそォに大飯食らってやがる」
ガブリエル「xakpscbdea幸福mhstfunfyp」ガツガツ ズゾゾゾゾゾゾ
エリザリーナ「ええ、見事に食い散らかしてるわね」
サーシャ「第六の質問ですが、その原因を突き止めるためにここへ来たわけですね?」
風斬「はい、そうなんです」
ワシリーサ「・・・・・・・・・・・・ふふーん。 お姉さん分かっちゃった♪」
レッサー「え? まだ何も話してませんけど・・・・・・」
ワシリーサ「ベツレヘムの星にはミーシャ=クロイツェフを召喚するために組み込まれた術式が
設けられていたわ。 確か右方の部分にあった儀式場ね。 しかし、何らかの理由によって
儀式場の『門』を司る支え、・・・・・・柱かにゃ? それが破壊された事によって
ミーシャは顕現する力を失い、消滅した。
にも関わらず、今もこうしてこの世に顕現しており、あなた達『天使同盟』に接触、
世界各地を回って原因を探っていたが見つからず、次に目指したのがロシアでした・・・・・・。
と、簡単に言うとこーんな感じになるんじゃないのかにゃーん?」ペラペラ
風斬「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」ポカーン
一方通行「ふざけた女だと思ってたが、・・・・・・この狸が」
ワシリーサ「ウサぴょんに言われたくないポコ♪」
サーシャ(普段からこんな真面目だったら尊敬出来るのに・・・・・・)
ヴェント(私が説明しようと思ったのに・・・・・・)
エリザリーナ「確かにおかしな話ね、儀式場の破壊はともかく、ベツレヘムの星は
もう北極海で海の藻屑になってしまっているわ。 それなのになぜ?」
一方通行「なぜ? はこっちのセリフだ。 なンでこのアホ天使が顕現出来ているのか、
それを聞きに俺達はここに来たンだよ」
エリザリーナ「結論から言うと、わかるわけがないわ」
一方通行「ですよねー」
風斬「なぜ天使さんがこの世に顕現していられるかは最初のイギリス訪問の時に
予測はついていますよ。 多分、ベツレヘムの星はまだ空中を漂っているんだろうって。
儀式場の一部を残した『ベツレヘムの星の欠片』が」
サーシャ「第二の私見ですが、なるほど、それで欠片ですか」
一方通行「あーそういや、どォやって空中を散歩してるとか、人工衛星の監視網を掻い潜っているかとかは
誰かが特殊な術式を使用しているって考えも出てたな。 ていうか俺達は魔術に
詳しくねェから、それで一応結論付けてたンだがな」
ヴェント「誰かって誰よ? そんな儀式場を隠すような真似、誰が何の得があってするの?」
一方通行「だからそれを調べに来たっつってンだろォが、聞いてた?」
ヴェント「んなコトここに来たって分かる訳ないっつってんだよ白いの」
一方通行「知恵ェ貸せって事だろォが、ンな事もわかンないンですかァ!?」ガタッ
ヴェント「はぁ!? それが人に物を頼む態度!? 悪いのは顔つきだけじゃなくて育ちもかよ科学野郎が!!」ガタッ
エリザリーナ「はいはい喧嘩しない」ハァ
レッサー「でも確かに気になりますね。 それが本当なら、誰が隠してるんでしょう?」
垣根「どーせエイワス辺りだろ。 隠しといてそれを必死に探す俺達を見て楽しんでるんだ」バクバク
風斬「あり得そうだから困るんですけど・・・・・・、けどこの件に関してだけはエイワスさんは
何もしていないと思うんですよね」
垣根「なんでそう言えるんだよ」
風斬「根拠はないですけど・・・・・・なんでだろ、何となくとしか・・・・・・」
垣根「ハッ、なんだそりゃ」
風斬「ごめんなさい・・・・・・」
一方通行「・・・・・・船でここに向かう途中に、俺はガブリエル本人が隠してるンじゃねェかと考えた事がある」
ワシリーサ「天使が?」
レッサー「あぁ、なんか言ってましたねそんな事。 たしかエイワスさん曰く、ミーシャさんには
まだこの世でやらなきゃいけない事があって、それまで顕現し続けるために
ベツレヘムの星の欠片を隠してるとかなんとか」
サーシャ「第七の質問ですが、ミーシャがやり残していることとは?」
一方通行「それが『天使同盟』が抱えてる最大の謎だ。ガブリエル本人に聞いても
なぜかこの件にだけはうンともすンとも言わねェし、それを聞き出すために
サーシャに会いに来たンだが、そのサーシャも言語が理解出来ねェと来た」
サーシャ「第三の私見ですが、力になれなくてすみません」
一方通行「責めてるわけじゃねェし、オマエが謝る理由は何一つねェよ。
こっちが勝手に期待膨らませてただけだ」
サーシャ「あ、ありがとうございます・・・・・・」
ワシリーサ「いやん。 ウサぴょんったら優しいのね、これは強力なライバルの出現か・・・・・・!?」
風斬「・・・・・・・・・・・・」
ヴェント「・・・・・・・・・・・・」
ヴェント「で、やり残してるコトって何よ? そこの犬みたいにメシ食い散らかしてる化物」
ガブリエル「――――――――――――」ムシャムシャ
風斬「どうも、あまり人には言いたくない事らしくて・・・・・・」
ヴェント「埒明かないわね、だったらもうコイツがしたいコトし終えるまで待ってりゃいいじゃない」
垣根「結局はそうなる訳よ。 あ、ヤベ、あの金髪女と口調被った」ズズズ~
一方通行「それしか手がねェンならそれでもいと思ってンだよ俺は。
もォ正直ベツレヘムの星がどォとか、いい加減面倒になって来ちまってなァ」
ワシリーサ「現状でも十分楽しそうだものねぇ、あなた達って」クスクス
垣根「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」ゴクッ ゴクッ ピタッ
風斬「? 垣根さん?」
垣根「・・・・・・だが、楽観視出来る状況でもねえはずだぞ」
エリザリーナ「?」
一方通行「・・・・・・オマエもエイワスが船で言ってた事が気になってンのか」
レッサー「何か言ってましたっけ? あの人って常に意味深な発言してるからなぁ」
風斬「『我々の星の欠片を巡る旅は、今回で終わりを迎える』・・・・・・、でしたよね?」
一方通行「あァ」
エリザリーナ「そうなの? ロシアが最後の旅ということ?」
垣根「ヤツが言うにゃあそうらしいぜ。 なんかそんな気がするとか言って」
風斬「ロシアで星の欠片が見つかるかどうかはわからないけど・・・・・・みたいな
ニュアンスの事を言ってましたよね。 あの人がそういうと何だか本当にそうなりそうで・・・・・・」
ヴェント「星の欠片が見つかったらアンタらの目的は全て達成された事になるの?」
一方通行「テレビゲームで言うところの『エンディング』は迎えた事になるな。
そっから先の裏シナリオ、『エクストラエピソード』まではいかねェが」
ワシリーサ「とりあえず発見できたら安泰、といったところかしら」
一方通行「どこにあンのかは皆目見当がつかねェけどな」
風斬「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」チラッ
ガブリエル「――――――――――――」ングング プッハー
【次回予告】
『星の欠片を見つける事くらいなら何とかなるんじゃないかしらん?』
―――――――――――元『殲滅白書』のシスター・ワシリーサ
『よくわかんねえけど、ミーシャみてえな天使が精製する魔力ってのは他のと質が違うって事か』
―――――――――――『天使同盟(アライアンス)』の構成員・垣根帝督
『・・・・・・「星の欠片から漏洩している魔力の感知」・・・・・・』
―――――――――――ローマ正教、禁断の組織『神の右席』の元一員・『前方』のヴェント
『ろ、漏洩・・・・・・?』
―――――――――――『天使同盟』の構成員・風斬氷華
『俺の胸で良けりゃあ貸してやンよ』
―――――――――――『天使同盟』のリーダー・一方通行(アクセラレータ)
『冗談は名前だけにしてください』
―――――――――――元『殲滅白書』の魔術師・サーシャ=クロイツェフ
サーシャ「・・・・・・以上、ですか?」
一方通行「あァ、今のが『天使同盟』の活動内容と理由だ。 何か意見は?」
ヴェント「まったくもってふざけてる」
垣根「正解」ハハハ
エリザリーナ「・・・・・・少なくともこの国でしてあげられる事はないわね。
空にあると言っても地球は広すぎるし、ベツレヘムの星は探せないわ」
サーシャ「第一の私見ですが、私にはミーシャの言語は理解できませんし、」
ワシリーサ「天使の真意もわかりません、これが結論よ」
垣根「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
レッサー「手掛かりゼロですかー・・・・・・」ハフゥ
一方通行「ま、予想は出来てたけどな」
サーシャ「第二の私見ですが、エイワスを待って議論を交わせば新たな活路が見えてくるかもしれません」
一方通行「あいつをアテにはしねェ。 どこまで本当なのか分かりゃしねェからな」
エリザリーナ「・・・・・・・・・・・・、そういえばさっき政府の集まりに参加してた時の事なんだけど」
風斬「?」
エリザリーナ「小耳に挟んだだけだから真偽はわからないけど、学園都市が
放っている気象衛星が結構前から何らかの不具合を起こしているらしいわよ」
垣根「学園都市製っつうと・・・・・・『ひこぼしⅡ号』か」
一方通行「ハッ、"気象衛星"ねェ・・・・・・。 笑わせる」
垣根「確かにな」
エリザリーナ「?」
ワシリーサ「でもでも、星の欠片を見つける事くらいなら何とかなるんじゃないかしらん?」
風斬「え!」
ガブリエル「――――――――――」ピク
一方通行「何?」
サーシャ「第一の質問ですが、何か方法があるのですか?」
ワシリーサ「大天使を召喚出来るほどの儀式場よ? それはもう膨大な魔力が精製された事でしょうね。
そんなものがまだ『欠片』でも残っているのなら、必ず魔術師たちに感知されるわ。
でも感知されず未だこの星を彷徨っているのはさっき話に出たとおり誰かが星の欠片を術式で隠蔽しているから」
レッサー「はい、それは私たちも把握している情報です」
ワシリーサ「でね、ここにいる魔術師たちならわかると思うけど、天使が生み出す魔力ってとても独特なのYO。
例えばね、今この世に存在する魔術師は、水属性の魔術を上手く行使出来ない状態にあるわ。
ここにいる天使が『水』を司る天使だから、彼女がその力を全部吸い取っちゃうのね。
それが大天使特有の魔力たる所以なわけなんだにゃん」
風斬「え? でも私、水の槍を使ってる魔術師を見かけましたけど、抗争の時に」
一方通行(水の槍・・・・・・? どっかで見たことがあるよォな気がすンな)
ワシリーサ「それは多分、天使との距離があまりにも離れてたせいだと思うわん。
距離が近ければ近いほど、吸い取られる量も多いのよ。
実際、あの時のヴォジャノーイの魔術はかなり弱体化していたしね」
サーシャ「第三の私見ですが、私の魔術もかなり弱体化していました」
垣根「よくわかんねえけど、ミーシャみてえな天使が精製する魔力ってのは他のと質が違うって事か」
ワシリーサ「はい、よく出来ました。 そういう事よ、だから星の欠片に残っている魔力も
天使のそれと同じ性質の魔力のはずよ。 魔術師ならそれは一発で嗅ぎ分けられるわ」
一方通行「魔術師じゃねェから教えろ、何が言いてェ?」
ヴェント「・・・・・・『星の欠片から漏洩している魔力の感知』・・・・・・」
風斬「ろ、漏洩・・・・・・?」
レッサー「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・、!!」
レッサー「ペカーン!」ヒラメイタ!
一方通行「効果音を口で言うヤツ初めて見たぞ・・・・・・」
レッサー「わかりました! 星の欠片に施され――――、」
エリザリーナ「星の欠片に施されている術式で星の欠片の視認、発見は出来なくても、
そこから漏れ出している天使特有の魔力までは隠蔽出来ない・・・・・・。
その魔力が漏れ出しているポイントを見つけ、その周辺を隈なく調べていけば
自ずと『ベツレヘムの星の欠片』はその姿を現す・・・・・・というわけね?」
ワシリーサ「さすがは『魔導師』エリザリーナね、花丸をあげちゃうわ」
レッサー「泣いていいですか?」
一方通行「俺の胸で良けりゃあ貸してやンよ」クケケッ
レッサー「何でそういう事が平気で言えるんですかあなたは・・・・・・///」
垣根「しっかしそんな方法があったとはな、言われてみりゃ簡単な方法じゃねえか」
サーシャ「第四の私見ですが、でもそれ言うのとやるのとじゃまるで難易度が違いますよね?」
ヴェント「そうね。 本体のベツレヘムの星は上空三〇〇〇メートルまで上昇してるんだから、
星の欠片もその辺、いやそれ以上の高度に存在していると見て間違いはないんじゃないかしら。
視認できないソレから漏れてる魔力の感知なんて骨が折れるなんてもんじゃない」
一方通行「なンかこォ・・・・・・ビビッと一発で感知出来るよォな魔術はねェのか?
アンテナを張る要領でよォ」
エリザリーナ「あるにはあるけど、そもそもその魔力が漏れている場所がわからないのよ」
ワシリーサ「そ、だから難易度はベリーハード以上だけど、不可能ではないってことよん♪」
風斬「で、でも・・・・・・・・・・・・」
サーシャ「?」
風斬「でも・・・・・・それで見つけられるならエイワスさんがとっくに見つけてると思うんですけど・・・・・・。
あ、いや皆さんの意見を否定するような言い方で申し訳ないんですが・・・・・・」
垣根「いや、お前の言うとおりだろ」
一方通行「あの野郎、やっぱ星の欠片を自分でとっくに見つけてて、
俺達がひーひー言いながら探してンのを見て楽しンでるだけかもな」
ガブリエル「―――――――――――――」モグ・・・モグ・・・
ワシリーサ「どうあれ、私たちからあなた達にプレゼント出来る情報はそれくらいよ」
ヴェント「そういうコト。 さ、帰った帰った」
一方通行「ふざけンな、悪いがしばらくはここに居させてもらうぞ?」
ヴェント「は、はぁ? なんで―――」
エリザリーナ「私は構わないわよ。 色々手伝ってほしい事もあるから」
ヴェント「―――ちょっと、何勝手な、」
エリザリーナ「私はこの国の最高責任者よ?」ニコ
ヴェント「ちぃ・・・・・・」プイ
――――――――――――――――――――――
風斬「ごちそうさまでした、とても美味しかったです」
ガブリエル「tmeasyys満腹aeffpjen」ゲェーップ チッチッ
エリザリーナ「はいお粗末さま。 ・・・・・・五十人分の食料を平らげた上に
器用に爪楊枝まで使うなんて、恐れ入るわね大天使は」
一方通行「ちったァ遠慮しやがれこのクソ天使・・・・・・」
垣根「ふー、食った食った」
サーシャ「ごちそうさまでした」
ワシリーサ「さぁて、食後のデザートにサーシャちゃんでもいただき、ぎゃあ!?」ゴチン
サーシャ「第五の私見ですが、冗談は名前だけにしてください」
レッサー「いやー、ロシア料理ってのも悪く無いですね」
ヴェント「ていうかもうこんな時間じゃない、いつまで喋ってたのよ私たち」
ワシリーサ「言われてみれば、なんだか眠くなってきちゃったわ・・・・・・」ファーア
エリザリーナ「今日のところは解散ね。 皆、ゆっくり休んでちょうだい。
何かあったら呼ぶから、その時はよろしく頼むわよ」
風斬「わかりました。 あ、私たちはどこで寝ます?」
垣根「適当でいいんじゃねえの」
エリザリーナ「空いてる部屋があったらそこを勝手に使って構わないから。
どこでもどうぞ」
一方通行「至れり尽くせりだなァ、そンな余裕あンのかよ?」
エリザリーナ「その分働いてもらうって言ったでしょ。 それじゃあ、お休みなさい」
ガブリエル「eupmsipy貴方ghjsihej」
一方通行「オマエらは先に休ンでろ。 俺ァちょっとコーヒー探してくる」ガチャ
風斬「あ、はい。 じゃあお先に・・・・・・」ガチャ
レッサー「あなた、船でもコーヒーばっかり飲んでましたよねぇ。
たまには違うものでも飲んだらどうです? ロシアのジュースは美味しいですよ?」
一方通行「放っとけ」
垣根「俺は先に寝てるからな。 ・・・・・・」ガチャ
サーシャ「あの・・・・・・、ミーシャ」
ガブリエル「hntcjhdy何ejesjuyd」クルッ
サーシャ「第二の質問ですが、よければ私の部屋に来ませんか? もっとあなたのお話を聞きたいです」
ガブリエル「―――――――――――――」ウーン・・・
一方通行「行けよ、せっかくのお誘いだァ。 オマエもたまには『天使同盟』から離れてみろ」
ガブリエル「bzgsngwr了解huhsibte」コクン
サーシャ「ありがとうございます」
ワシリーサ「こ、これは・・・・・・マジでサーシャ×ミーシャなのか・・・・・・!!?
これを私はどう受け止めれば・・・・・・、し、しかしサーシャちゃんが
良ければ私はそれで・・・・・・。 で、でも・・・・・・」ブツブツ
サーシャ「第六の私見ですが、気味の悪いことを言ってないでワシリーサも早く休んだらどうです?」
――――――――――――――――――――――
どうして、もっと楽しいお話をしないんだろう?
食事の時間は本当に楽しい。
それはイギリスでも学園都市でも変わらなかった。
ロシアの料理もすごく美味しかった。
でも、みんなが話している事はあまり楽しいお話じゃなかった。
シスター達との食事の時みたいに、もっと面白おかしく騒げばいいのに。
みんな、『入り口』の話ばっかり。
私のために真剣にお話をしている事はわかる。
『彼』もずっと、私のために国中を渡ってくれている。
他の仲間達も、そう。
でもね、いいんだよ?
もう、そんなに難しい事を考えなくていいんだよ?
もう時間は無いのだから。
間に合わなくなってしまったのだから。
私の我儘のせいで、時間はもう無くなってしまった。
ごめんなさい。
『クラアトの召使』の言う通りだった。
多分、みんなと遊んで回れる国はロシアが最後。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
嫌だなぁ。
まだみんなと一緒に遊んでいたいなぁ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
還りたくないよ・・・・・・。
――十一月某日。
このにっきもいつまでかけるだろうか。
きょう私は、ロシアのえりざりーなどくりつ (わすれた。 ごめんなさい) にきた。
ふねが国にはいってみんなおどろいてた。
ところで、ここさいきんはいそがしかったのでございます。(これはオルソラのものまね、すごく似ている)
だからこうして記録をかくのは久しぶりになる。
文字もさいしょのころと比べたらかなり書けるようになってきた。
ここにくるまでに、いっぱいトモダチが出来ました。
えりざりーなでもトモダチが出来ました。
えりざりーな。
サーシャ=クロイツェフ。
ワシリーサ。 この人間はおもしろい。
べんと。
人とのつながりをたくさん持っておくといい、とエイワスが言っていたのは守れています。
しょくじをいただきました、ありがとうございます。
サーシャが口をふいてくれた、どうしたんだろう?
ていとくんはうまいうまいと言いながら食べました。私のものまねです。
途中で、お話が面白くなくなりました。
次はもっと面白くしていく。って思ったけどもう次はない。
エイワスがひみつにしていてくれてた事が、もうほぼみんなにバレてしまいました。
アクセラレータ。アクセラレータは私の味方でいてくれるはず。
ひょうかも、ていとくんも、エイワスも、味方なはず。
だから、私があの魔術師を止めないと。
それと、なんだか悩んでいるようだけど、れっさーはとっくに私たちのトモダチ。
それが伝えられなくてざんねん。でもれっさーはもうトモダチ。
今日のところはこれでおしまい。もっとしっかり文章がかけるようにならなければ。
今日はサーシャのおへやで泊まる。色々話す。さよなら。
居住区のとある一室、サーシャが使用している部屋の窓からぼんやりと光が漏れていた。
「第一の質問ですが、何を書いているのですか?」
床に寝そべって何かをカリカリ書いているミーシャに声をかけるサーシャ。
するとミーシャは慌ててソレを身体で覆い隠し、ヒラヒラとした腰の布のような部分に仕舞い込んでしまった。
まさかそんなところに収納スペースがあったとは。
「あ、見てはいけないものだったでしょうか? でしたらすみません」
「kgvjsfewifg平気jkbgheosjg」
ミーシャは大袈裟に手を振るジェスチャーをし、謝ってきたサーシャを気遣う。
もはや普通の人間と遜色ない仕草だ。サーシャは思わずクスっと笑みを零す。
「・・・・・・、そうだ。 第二の質問ですが、こんなものがあるのですが食べてみますか?」
「――――――――――」
言って、サーシャが木材で作られた高級そうな机の引き出しから取り出したのは、一枚の薄い板状の何かだった。
「第一の私見ですが、これ、『ガム』って言うんですけど・・・・・・、確か好きでしたよね?
私の中にいた時に気に召してたような記憶があるのですが・・・・・・。
補足説明しますと、私はあまり好きではありません、合成物の塊を口に含むという行為はどうも抵抗がありまして」
「jgfweif頂戴pddncewf」
ミーシャはちょこんと手を出してガムを要求してきた。
サーシャがその掌にガムを乗せると、ミーシャは包み紙を外しもせずガムを口に放り込む。
紙まで食べてしまって大丈夫だろうかと思ったが、さっきの食事の時に
食器をいくつか一緒に食べていたところを見ると、包み紙くらいなら大丈夫だろうと考えることが出来た。
「第三の質問ですが、美味しいですか?」
「hkeofjcvsbb甘vochsdvbhr」
モムモムとガムを口の中で味わいながらなぜかサムズアップを決めるミーシャ。
やはり大天使として顕現している今も、ガムはお気に入りの食べ物らしい。
一方通行と出会った時期は欲することがなかったのだが、これはミーシャが段々と
元の位階へ近付いている証拠なのだろうか。それは彼女にしかわからない事だ。
「第二の私見ですが、すごく感情豊かになっていますね。 とても天使とは思えない・・・・・・。
これも、『天使同盟』の彼らと一緒に過ごしてきた事による影響なのでしょうか?」
それでもやはり、ミーシャと通常の会話を行うことはほぼ不可能に近いため、
このサーシャの言葉はただの独り言になってしまった。
ミーシャは口をモゴモゴ動かしながらサーシャの顔をジーッと見つめている。
「第三の私見ですが、いつもワシリーサがいつの間にか部屋の中に入っているから困っていたのですが、
あなたが一緒なら安心ですね。 ・・・・・・まぁ、別にワシリーサを本気で嫌がっているわけでは
ないのですが。 勝手にベッドに入ってきて変なことをしてこなければ別にいいんですけど・・・・・・」
ワシリーサは毎晩毎晩、あらゆる方法を使ってサーシャの部屋に侵入してはサーシャを困らせているらしい。
サーシャはワシリーサの猥褻行為について愚痴をこぼしていくが、ミーシャにそんな事言ってもしょうがないと思う。
それでもミーシャはサーシャの愚痴を黙って聞いていた。話の二割も理解出来ていないかもしれないが、
うんうんとたまに相槌をうつジェスチャーも混じえ、彼女の話を聞いていた。
なぜなら、ワシリーサの話をしている時のサーシャはとても楽しそうだったからだ。
ミーシャが望んでいた楽しいお話とは、こういう事を指すのだろう。
「kfewfjvmbl許可qqacgfefgbj」
「拝見させていただきます。 ・・・・・・こ、これは」
突然、ミーシャが絵を見せるからあっちを向いていろという仕草を行い、サーシャがそれに習ってから五分後、
呼ばれたのでさっそくミーシャ画伯の作品を観賞してみる事にした。
そこに描かれていたのは『天使同盟ヒストリー』と言っても過言ではない、これまでの彼らの軌跡を
描いたものだった。スケッチブック数十ページにも及ぶ超大作だ。
「第四の質問ですが、これは垣根帝督ですよね? 見たところ場所は空港のようですが・・・・・・、
なぜ垣根帝督は『大きなプレゼントボックスから顔だけを出している』という描写なのですか?」
「snadhjgg贈物sahfeifhg」
サーシャが見ている絵には、垣根帝督と思われる人物がプレゼント装飾された箱から顔だけ出しており、
それをエイワスが持ち上げて笑っている。一方通行らしき人物がそれを見て怒りを顕にしており、
風斬氷華であろう人物が何か困った表情を浮かべていた。
(・・・・・・・・・・・・・・・・・・カオスすぎる・・・・・・)
ミーシャ画伯の作品は人間であるサーシャにはちょっと理解し難いものだったが、
とりあえず楽しくてしょうがなかったんだろうなという想いはこの絵から伝わってくる。
一体どこに所持しているのか、描かれている絵は全てクレヨンによるものだった。
「次は・・・・・・、おや。 これは随分と家庭的な雰囲気の場所ですね。
頭からドリルが生えた少女や信じられないくらい目付きの悪い少女・・・・・・、
炊飯器の上に乗って坐禅を組んでいる女性と眠っている女性・・・・・・。
これはまた混沌とした状況ですが・・・・・・」
これは恐らく黄泉川愛穂の家に来たときの描写だろう。
頭からドリルが生えた少女は打ち止め(ラストオーダー)だと思われる、あの見事なアホ毛が
ミーシャ画伯には天元突破したドリルに見えたのだろう。
残りの目付きの悪い少女、炊飯器で坐禅を組む女、眠っている女については語るまでもない。
「次・・・・・・。 む、かなり豪華絢爛な場所になりました。 ちょっと難解ですね。
やたら豪華なドレスを着込んだ女性が沢山います・・・・・・。 おや、これは
一方通行でしょうか? なぜ彼の頭からウサギの耳が生えているかは分かりかねますが。
彼と睨み合っている女性もまるでお姫様・・・・・・、第五の質問ですが、これバッキンガム宮殿ですか?」
食事の時に彼らの大体の経緯は聞いており、イギリスのバッキンガム宮殿に行ったという話もあったはずだ。
サーシャは改めて絵を見直し、豪華な服を着ているのが全員英国の姫であることを認識した。
汗をだらだらと掻きながら呆れたような表情を浮かべている中年の男は誰だろうか。
それと、青い服を着た・・・・・・恐らくこれはゴリラだろう。なぜこの宮殿にゴリラが?とサーシャは訝しむ。
動物園から逃げてきたのがここへ迷い込んだというような事でもあったのだろうか?
「第四の私見ですが、王族でもお構いなしなんですね、あなた達は・。 次は・・・・・・、おお。
これは私も寄ったことがあるのでわかります、『必要悪の教会(ネセサリウス)』ですね?」
次にサーシャが見た絵には、大勢のシスターが描かれていた。
一方通行が皿でジャグリングを披露し、横にいるやたら巨乳の金髪シスターが拍手をしている。
小柄で三つ編みをしているシスターが袋のようなものを投げ飛ばしており、以上に底が高い靴を履いたシスターが
プロ野球選手の如く杖を構え、それをホームランしようとしている絵もあった。
・・・・・・隅のほうで黒髪の女侍に滅多切りにされている垣根帝督の絵があるが、何かあったのだろうか。
「これは人間には到底理解出来ない絵ですね・・・・・・。 でも、」
サーシャは柔和な笑みを浮かべながら言う。
「第五の私見ですが、本当に・・・・・・、楽しそう」
鼻歌でも歌いながら意気揚々にこの絵を描き上げているミーシャの姿が、容易に想像できた。
「第六の私見ですが、彼らと一緒に過ごす事はあなたにとってとても有意義なものなのですね」
「jfcdsowpd最高qoguzxvj」
ミーシャは満足そうに頷く。
「くす。 ・・・・・・、あ。 まだ沢山絵がありますね」
一通り『天使同盟ヒストリー』を見終えると、そこから先はスケッチブック一ページにつき
一人の人物が描かれていっている構成になっていた。まるで写真のアルバムのようだ。
ミーシャはその人物の特徴を上手く捉えており、世辞にも絵が上手いとは言えないが、
誰のことを描いているのかはすぐに分かる。
「第七の私見ですが、不謹慎な話になりますけど、これを魔術結社が絡んだ美術館などに持っていけば
とてつもなく貴重な献品として扱われるでしょうね・・・・・・。 何せ本物の
大天使の視点から描かれた人間の絵なのですから」
もちろんサーシャにそんな事をする気持ちはない。あくまで例え話だ。
「・・・・・・・・・・・・? ・・・・・・、あ・・・・・・」
パラパラとスケッチブックをめくっていく内に、サーシャはある事に気がついた。
最初のうちは『天使同盟』の構成員が描かれていたが、途中からほぼ全て同じ人物の絵が続くようになっていた。
「第六の質問ですがこれ・・・・・・、残りのページは全部一方通行ですか?」
「gkerpg照pfutyudvh」
そう尋ねると、ミーシャは両手を頬に当てて身体をくねくねしだした。照れているのだろうか?
顔は紅潮していないし表情も相変わらずマネキンの如く無表情なので判断が難しいが、恐らくそうなのだろう。
後半の絵は一方通行の絵しか無かった。
クレヨンで描かれた事によってその絵にはより一層の暖かみが生まれている。
やたら悪者っぽく目付きの悪い描かれ方をしている一方通行の絵はとても微笑ましい。
「第八の私見ですが、これはもう恋する乙女と相違ありません。 よっぽど好きなんですね彼のことが」
「qgtiherwgnv当然dmcnbiticn」
「・・・・・・神に操られるだけの人形とも言われてる『天使』がそんな感情を持つなんて・・・・・・、
『天使同盟』は・・・・・・いや、彼は一体何者なのでしょう」
何をしたら天使がこうも変わってしまうのだろうか?一方通行という学園都市の能力者は一体何をしたのか?
第三次世界大戦が終戦した後に聞いた話だが、学園都市の能力者が今目の前にいるミーシャ=クロイツェフと
戦闘をしたらしい。これは恐らく一方通行の事だろう。
その時に何かがあったのだろうか?当事者でないサーシャにはこの程度の予想しか出来ない。
「学園都市の能力者がこうも我々魔術結社の領域に足を踏み入れ、人脈の輪を拡げていく・・・・・・。
一方通行という人物"に"惹かれているのか、一方通行という人物"が"惹かれているのか・・・・・・。
なるほど、第九の私見ですが何だか少し彼に興味が湧いてきました」
「horjodfb好敵手gvernew出現dhbpsckpmq」
「え? 第七の質問ですが、今何か言いましたか?」
「――――――――――――――」
「だ、第八の質問ですが、なぜ私を凝視してくるのですか・・・・・・?」
のっぺりとした無表情の顔が至近距離で自分の顔を凝視してくるのは恐怖でしかない。
何か失言をしてしまったのだろうかとサーシャは焦りを感じ、話題を変えることにした。
「・・・・・・第九の質問ですが、もっとお話を聞かせてくれませんか?
補足説明しますと、あなたが楽しいと思った事なら何でもいいんです」
「pgorjg了解nvgrhg」
『御使堕し(エンゼルフォール)』という摩訶不思議な偶然から出会った、人間の少女と大天使。
ミーシャが描いた絵を眺めながら、彼女たちは夜遅くまでぼんやりとした明かりが灯る部屋で談笑し合った。
そんな二人の姿は、やはり母娘にしか見えず、とても微笑ましいものだった。
どちらが母で、どちらが娘なのかはここでは語らないでおこう。
【次回予告】
『どォしたってンだ急に。 オマエがこンな風になったらマジで病気かなンかかと思っちまうだろ』
―――――――――――『天使同盟(アライアンス)』のリーダー・一方通行
『ごめんなさいね・・・・・・。 ここ数日で色々な事が起こりすぎたから、
後始末に追われっぱなしだったのよ。 少し疲れてるのかしら・・・・・・』
―――――――――――エリザリーナ独立国同盟の中心的人物・エリザリーナ
続き
一方通行「フラグ・・・・・・だろォな」 垣根「ち・・・・・・くしょ・・・・・・う」【3】