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――――――――――――――――――――――
「ぶぇぇぇーっくしょおおおおおおおおい!!!!!!!!
さぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶ」
船のラウンジに盛大なくしゃみが響いた。垣根帝督だ。
全身がびしょびしょに濡れており、服も下着も全て脱いでタオルを巻きつけている。
「っくちゅん! ううううううううううううううううううううう」
と、その隣で可愛らしいくしゃみを発したのはレッサーだった。
彼女も垣根と同じような格好で全身を携帯電話のマナーモードのように震わせている。
小さな地震が起きそうな勢いだった。
二人はチェアに腰掛け、目の前にあるファンヒーターで凍えきった体を温めている。
「・・・・・・もうこの辺、北極海に達してるよなぁ? まさかこの時期に
海へ落ちることになるとは思わなかったぜ・・・・・・」
歯をガチガチ鳴らしながら垣根が言う。
「海に放り込まれた瞬間、心臓が止まりましたよ・・・・・・いや冗談抜きで。
あのまま放置されてたらと思うと今でも背筋が凍ります・・・・・・。 現在進行形で凍ってるんですが」
一方通行によって実行された罰ゲームで、二人はミーシャに担がれそのまま海の空中散歩をしていたのだ。
何度も何度も上空から一気に急降下し、水面スレスレまで近付くというテーマパークのアトラクションみたいな
事を体験していた二人。だが一方通行は二人を本気で海に落とそうなどとは考えていなかった。
「zkkzrajsbn気合bmzpnaexad」
「お前のせいだよッッ!!!!!!!」
垣根とレッサーは口を揃えてミーシャに怒鳴った。
そんな天使によるドキドキアトラクションを繰り返していたら、ミーシャが加減を間違えてしまい
手を滑らせて、二人は本当に海へダイブしてしまうハメになったのだった。
現在は十一月の半ば、しかも北極海に面しているかいないかの海へ落ちてしまったのだ。
垣根が『未元物質(ダークマター)』の羽根で自分とレッサーを包みこんで助けていなければ、
本当に二人は海の藻屑になるところだった。
「cbhckgihaf謝々pufejthdyd」
「ったくよぉ・・・・・・。 まぁそもそも原因はあのクソ野郎がこんな罰ゲームを
マジで実行しやがった事にある。 あいつどこ行った?」
「一方通行なら先に部屋で休んでいるよ」
そう言って彼らのもとへ来たのはエイワスだった。
どうやら原典を読んでの暇潰しを終えたようだ。
「休んでるだと? フザケてやがるな、マジで殺さなきゃなんねえか」
「私は諦めません。 こんなところでめげていては、一方通行さんを
英国のために利用・・・・・・ゲフンゲフン、協定を結べなくなってしまいますからね」
「その異常なまでの根性を英国のために使うって考えはねえのか」
レッサーの独り言を聞いていた垣根がツッコミを入れる。
彼女はギクッ、という擬音が浮かんできそうな表情を浮かべていた。
「にゃ、にゃははははー・・・・・・。 聞いちゃいましたか?」
「協定だとか同盟だとかは、まずエイワスを通せよ」
「ん、私か?」
突然名前を出され、ポカンとするエイワス。
ミーシャは端っこの方で自身の能力を使い、二人の衣服を乾かしているようだ。
だがどうも上手くいっていないらしい。
「エイワスさんを通せって、あなたここのマネージャーか何かですか?」
「私は私だ、それ以上でも以下でもないよ。 それに私は君たち『新たなる光』の
目的などに興味はない。 力を貸して欲しいというなら一方通行に直接頼めばいいのでは?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
それを聞いたレッサーは黙りこんでしまった。
気のせいか、その表情は若干暗い。
だが、やがて彼女は俯いたままボソッと口を開いた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・たかが一国のために、こんな大きな力を持った勢力であるあなた達が、
頼み込んだだけで力を貸してくれるわけないじゃないですか・・・・・・」
「あ?」
次の独り言は垣根の耳には届かなかった。
何を言ったのかもう一度確認するため、彼はレッサーに声を掛けようとした。
と、その時。
「――――――――――――」
二人の衣服を乾かす作業をしていたミーシャの手がピタっと止まった。
それを見た垣根が何となく彼女に聞いてみる。
「どうした? ミーシャ」
ミーシャは何も答えない。ただ船の先端、いや、その先に広がる海をジッと見据えている。
そしてエイワスも、彼女に習うように先の景色を見ていた。
「何かありました?」
眉をひそめながらレッサーが尋ねる。
「・・・・・・ふ。 どうやら、到着するようだな」
「何? ロシアか?」
「そうだ。 一方通行と風斬氷華を起こさねば」
ついにロシア連邦へ到着すると、エイワスが言う。
垣根とレッサーは目を細めて遠くを見やるが、陸地など全く見えては来ない。
一体この二人はどんな視力をしているのかと、レッサーは驚いていた。
ただ垣根の思うところは少し違うようだ。
「・・・・・・それにしちゃ、ミーシャがあまりはしゃいでねえようだが?」
「だろうね」
「何があったんだ?」
「この先をずっと真っ直ぐ航行していればロシアへ辿りつくのだが・・・・・・。
なぜ私とミーシャがそれに気付いたと思う?」
突然妙な質問をしてくるエイワスに、レッサーは苦笑しながら、
「あなた達の事です。 どうせここからでも陸地が見えたのでしょう?」
「確かに確認できるが、我々が訝しんだのはそこではない。
――――――――音、だよ」
「音?」
レッサーは耳を澄ましてみるが、最高船速で走る船のエンジン音と、
それのせいで荒れ狂う波の音しか聞こえない。
「何か聞こえるのか?」
垣根が問う。その表情は真剣なものへと変わっていた。
エイワスはそんな彼を見て薄く笑い、こう答えた。
「銃声や爆発音、戦車のキャタピラの駆動音も聞こえるな。
微弱だが魔力も感知できる・・・・・・。 どうやら小さな紛争が起こっているようだ」
エイワスの言葉にレッサーは目を見開いた。
紛争。
この世のものとは思えない、科学と魔術が起こした第三次世界大戦の光景が
ハッキリと脳に浮かび上がる。もっとも、あれは紛争などというものではなかったが。
ミーシャもエイワスと同じものを見て、聞いているのだろう。
さっきから遥か先のロシアを見続け固まっている。
「ふーん、面白そうなことになってんじゃねえか」
垣根が心底楽しそうに笑みを浮かべる。
その表情はさっきまでの彼とはかけ離れていた。
既に垣根は"暗部"での自分へと、スイッチを切り替えている。
「嬉しそうですね」
「俺は第三次世界大戦に参加できなかったからな。
それにそろそろ鬱憤も溜まってきてた頃なんだ、嬉しくもなるだろ」
「でも紛争ですよ?」
「おとなしくさせればいいんだろ? 一体どこがどことやりあってんだ」
垣根帝督という男だけはこの『天使同盟』で唯一、普通の人間だと思っていた。
だがついさっき、レッサーは海で垣根の『未元物質』によって彼の背中から生える翼を目撃している。
やはりこの勢力に、普通の人間などいるわけがなかった。彼女は静かに悟る。
それにしても争いを前にして嬉しくなるという目の前の男は、
一体学園都市ではどのような生活を送っていたのか。
レッサーはうむむ、と唸りながら垣根帝督という人間の分析を試みようとしたが、
「俺は一方通行みてえな甘ちゃんじゃねえぞ」
先を越すように垣根にそう言われて、レッサーは分析を放棄した。
――――――――――――――――――――――
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・と、いうわけだ。 速やかに上陸準備を始めたまえ』
「チッ・・・・・・、面倒な事になってンな」
エイワスによる船内放送で目を覚ました一方通行は、服を着替え
簡単に荷物をまとめてラウンジに向かっている。
そこに、前方の部屋から誰かが出てきた。風斬だ。
「よォ、慌ただしい上陸になりそォだな」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
彼女は一方通行の顔を見ると、何故か頬を染めて視線を逸らした。
まさかエイワスからあんな話を聞いた後、密かにベッドの上で正座して彼を待ってたとは言えない風斬は、
一方通行が眉をひそめているのを見ると慌てたように口を開く。
「・・・・・・そ、そうですね! でも紛争だなんて・・・・・・どこが起こしてるんでしょう?」
「さァな。 エリザリーナ独立国同盟とロシア政府が何らかの理由で揉めて、
それが火種となってドンパチが始まっちまったって可能性がまず考えられるンだが・・・・・・」
ひとまず様子のおかしい風斬は放っておいて、一方通行達は適当に話しながら
ラウンジへと走っていく。
「・・・・・・もしかして、ロシア成教でしょうか?」
「それも可能性の一つだ。 案外サーシャ=クロイツェフが見つかったとかで、
また捕らえよォとでもして争いが起こってンじゃねェの?」
だがもしそうだとするなら、『天使同盟』は否が応でもその火中に飛び込まなければならない。
最悪、『天使同盟』でサーシャを匿い、ロシア成教と真っ向から敵対する事になる可能性もあるのだ。
あれだけ魔術結社と関わり、交流を深めた『天使同盟』だ。
一方通行や垣根、エイワス辺りはまだ戦えるだろうが風斬はミーシャはどうかと聞かれたら、
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「余計な心配すンな。 オマエはただ黙って俺に着いて来い。
オマエやガブリエルがヤバい目に遭うよォな事だけは絶対に避けてやる」
「・・・・・・。 はい」
一方通行には見えないように、風斬は微笑みを浮かべた。
――メガヨット『アライアンス』号 ラウンジ
一方通行「エイワスはどこだ?」
垣根「遅えよ」
風斬「あ、あの、状況は・・・・・・?」
レッサー「詳しくは分かりません。
ただエイワスさん達によると、ロシアの方から銃声やキャタピラの駆動音が
聞こえてくるそうですよ。 魔力も感知できたということから、
魔術結社とどこかの軍が一悶着起こしているみたいですね」
一方通行「軍だと・・・・・・? ロシア成教じゃねェのか」
垣根「ロシア成教? なんで」
風斬「サーシャさんが今もロシア成教から逃亡している身だとしたら、
それを発見したロシア成教の魔術師達が彼女を攻撃しているかもしれないんです」
レッサー「どうでしょ。 そうだとしたら結社内だけで事を収めるはずですし、
魔術結社が軍と協力してサーシャさんを追うだなんて考えられませんよ」
風斬「それは・・・・・・確かに・・・・・・」
垣根「サーシャってのは俺らの目的でもある。 そんなヤツが都合よく
魔術師や軍のやつらに追われてて、それを俺達が都合よく見つけた。
なんてことがあるか?」
一方通行「可能性は捨てきれねェだろ。 それにロシア政府とエリザリーナ独立国同盟が
やりあってても同じことだ。 俺達はどちらにも用がある」
レッサー「ま、どちらにせよ。 どうやら私達も戦場へ赴かなければならないみたいですね。
エイワスさんによるとこの先には海岸があって、街や村は全く無いそうです。
おそらくどっかの平原が戦場になってるんでしょう」
エイワス「これで全員揃ったようだな」
一方通行「エイワス。状況はどォなってやがる? それとガブリエルはどうした」
エイワス「彼女には先にロシアの海岸へと先行してもらった」
風斬「え!? ど、どうしてですか?」
エイワス「上陸のための下準備だ。 大丈夫、すぐに戻ってくるだろう」
垣根「で、ロシアさんとこの状況は?」
エイワス「私が口頭で説明するより、これを見てもらったほうが早いだろう」ピッ
一方通行「テレビ?」
レッサー「大きなテレビですね、いくらしたんですかこれ」
エイワスが壁に埋まるように備え付けられた大型液晶テレビの電源を入れると、
ニュース番組が写った。どうやらロシアにあるテレビ局らしい。
流れているテロップや表示される文字が全てロシア語だ。
垣根「おいおい、もしかして報道されてんのか?」
一方通行「じゃあ魔術結社は何も関わってねェって事か?
詳しくは知らねェが、魔術ってのをニュースやら何やらに報道すンのは
マズいって事くらいわかるぞ」
エイワス「まぁ、とりあえず耳を傾けてみてはどうかな」
コメンテーター『・・・・・・そういうわけで、日本でかつて『萌え』という言葉が流行ったのですが、
現在ロシアでは『蕩れ』という言葉が同じ意味として流行しているんですね。
その辺りについても今後、ロシアの文化がどう流れていくのか、日本に影響され、
同じような道を辿っていくのか、注目したいところですね』
キャスター『そうですねー。 ・・・・・・さて、次は先程の所属不明の軍による
エリザリーナ独立国同盟への襲撃事件の続報です。 えー、先ほど入りました
情報によりますと、この所属不明の部隊はなおもエリザリーナ独立国同盟への
侵攻を続けており、何らかの情報提供を要求している、とのことです』
風斬「所属不明の部隊・・・・・・?」
一方通行「・・・・・・」
エイワス「・・・・・・ふ」
キャスター『えー、現段階ではまだどのような情報を要求しているのかまでは把握できていない、と』
コメンテーター『今回の襲撃は学園都市との間で行われた第三次世界大戦の影響であると考えられます。
恐らくこの部隊が、エリザリーナ独立国同盟が所持しているその何らかの情報の存在を、
第三次世界大戦が行われた際に気付いたのではないかと推測できます』
キャスター『そのエリザリーナ独立国同盟が所持している情報、というのは?』
コメンテーター『そこまでは私も分かりませんが、恐らく彼らの存在を
脅かすような何かではないかと考えられます。 ロシア政府が極秘裏に進めている
計画の詳細が書かれた書類であるとか、または独立国が驚異的な兵器を所持していることが
この部隊に発覚してしまったとか』
キャスター『ここまで公に事を起こすほどの何かがエリザリーナ独立国同盟にはある、ということでしょうか?』
コメンテーター『でなければこんなことにはならないでしょう。 それに現場には一切のテレビカメラが無い。
情報だけはこうしてどんどん送られてくるというのに、放送が出来ないという状況です。
恐らくどこかから報道規制がかけられているんでしょう。 政府からとは考えにくいのですが・・・・・・』
キャスター『彼らは一体どこの部隊なのでしょう? 送られてきた写真を見る限りでは・・・・・・、
えー、はい、この写真ですね。 この写真を見る限りではどう見てもロシア軍なのですが』
コメンテーター『ロシア政府は軍の派遣について完全に否定しています。
"プライベーティア"ではないかという声も国民の中から出ていまして、
そうなるとやはり政府はロシア軍に責任を問う形となるわけでして・・・・・・』
エイワス「・・・・・・と、まぁこういうことだ」ピッ
風斬「エリザリーナ独立国同盟が襲撃されてるって、ど、どうして・・・・・・!!?」
レッサー「プライベーティア・・・・・・?」
一方通行「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
垣根「プライベーティアってなんだっけ。 俺も聞いたことある気がするんだけど」
一方通行「プライベーティアってのは確か・・・・・・、ロシア軍の中にある空白の部隊だ」
レッサー「空白の部隊・・・・・・? どういう事ですか?」
一方通行「西欧を中心にネットで軍事経験があるやつを募集してンだ。
ただ単に『人殺しがしてェ』って人間をな」
風斬「ひぃぃ・・・・・・」ガタガタ
一方通行「そォやって集まってきたやつらで出来上がった部隊は軍規に縛られる事がねェ。
だから敵対する勢力がありゃそいつらに好き放題攻撃して金を稼ぐ、
確かそォいうやり口に連中だって聞いたことがある」
垣根「思い出した、私掠船だな。 中世時代じゃ確かプライベーティアっつう軍事制度があって、
敵国の船を襲って金品巻きあげて、敵国を財産難にさせると同時にその奪った金で
テメェの国の財産を潤すって制度だ。 ようは海賊だよ、海賊」
レッサー「海賊ですか? このご時世に?」
エイワス「今は海賊ではなく、先ほど一方通行が言った空白の部隊として活動をしているんだ。
第三次世界大戦でも、浜面仕上と滝壺理后が集落で攻撃を受けている」
一方通行「あいつらが?」
風斬「そ、そんな恐ろしい部隊が、あの国を攻撃してるんですか・・・・・・?」
レッサー(私から言わせりゃプライベーティアより『天使同盟』の方が千倍は怖いんだけどね)
垣根「何でエリザリーナ独立国同盟が襲撃されてんだ? 俺は世界大戦の時はいなかったから
独立国同盟にゃ詳しくねえ。 その国が何かやらかしたのか」
一方通行「いや、独立国同盟とプライベーティアに接点は無かったはずだ」
レッサー「でも実際に今攻撃を受けているじゃないですか」
一方通行「・・・・・・確かさっきのニュースで、プライベーティアは独立国同盟に何かの情報公開を
要求してる、みてェな事を言ってたな」
エイワス「情報公開だけではない、提供しろという要求もあったようだ。
プライベーティアがそんな目的で活動するのは非常にイレギュラーだな」
風斬「情報って何の事なんでしょうか・・・・・・?」
垣根「政府が絡んでんじゃねえのか。 元々エリザリーナ独立国同盟って
ロシア政府のやり方が気に入らねえから出来た国なんだろ?」
一方通行「だからっつって政府があンな強引なやり方で独立国同盟を攻めるか?
世界大戦からまだそンなに日は経ってねェってのに、また戦争紛いな事をやらかす程
ロシア政府だってバカじゃねェだろ」
エイワス「・・・・・・幸いなのは、この事件がロシア内部でしか報道されていないということだな。
どうやら日本やアメリカ、中国などにもまだ情報は渡っていないようだ」
レッサー「それが何か?」
エイワス「少し考えればわかる事だと思うがね? プライベーティアと争っている"組織"。
ある程度の情報は流れてくるが、テレビ放送はされないという妙な報道規制。
これらのピースを繋げていけば自ずと答えは出てくる」
レッサー「"組織"・・・・・・? 対抗しているのは独立国同盟では、」
一方通行「世界大戦直後・・・・・・、! まさか、」
風斬「ま、魔術・・・・・・?」
エイワス「半分正解、と言ったところだな。 恐らくプライベーティアの連中は、エリザリーナ独立国同盟に
魔術に関する情報の公開、提供を要求しているのだろう」
レッサー「!」
一方通行「魔術ってのは誰でも知ってるモンなンじゃねェのか。
何で今更情報公開を要求するンだ?」
エイワス「一部のロシア兵が学園都市への再攻撃を行うために魔術師を取り込もうとしているのかもしれない。
それに中には魔術の事など微塵も知らない人間もいるだろう。
魔術師を味方につけるだけでも戦力は大幅に上がるからな。 ・・・・・・だが、
プライベーティアは本来このような形で紛争を起こす連中ではないのだけどな」
垣根「そういうヤツらが世界大戦中に魔術の存在に気付いたってのか?」
エイワス「"魔術"という概念には気付いてはいないだろうな。 だが、
常識では考えられない不可思議な力を行使する人間がいる、程度の認識は
既にしていると考えていい」
一方通行「プライベーティアの誰かが魔術師が使う魔術を目撃したって事か」
風斬「そうじゃなくてもベツレヘムの星とか、もしかしたら天使さんまで
見られてるかもしれませんね・・・・・・」
レッサー「・・・・・・なるほど。 恐らくは"黄金の腕"でしょうね。
あれは世界各地で目撃されています。 その情報をもとに、
ネットで不可思議な力の入手をエサにして仲間を募れば今の状況も頷けます」
風斬「黄金の腕って・・・・・・?」
エイワス「君はあの時、一度現世から離脱したから見ていないのだろう」
一方通行「・・・・・・で、もォ半分は?」
エイワス「やはり、彼女に関しての情報ではないかな?」
風斬「もしかして、天使さん・・・・・・? 魔術と同様に、天使さんの事も・・・・・・?」
レッサー「なるほど。 可能性としてはむしろそっちのほうが高そうですね。
あれだけ大勢の人間の前で暴れまくったわけですから」
垣根「何をやったんだよあのアホ天使・・・・・・。 あー、俺も参加したかったな、三次大戦」
垣根「ま、つまり今エリザリーナ独立国同盟は大ピンチって事か」
レッサー「結論から言えばそうなるでしょうね。 独立国同盟にいる
魔術師達も出張ってるんでしょうか?」
エイワス「恐らくは」
一方通行「独立国同盟にも普通の軍人はいるだろ。
わざわざ魔術師を出張らせるような危険な真似するか?」
エイワス「エリザリーナ独立国同盟の戦力は今、世界大戦の影響で大幅に削減されている。
魔術に関する情報の提供にもなると、ロシア成教の魔術師も参戦している可能性が高い」
風斬「あ、あの、サーシャさんって、独立国同盟にいるんですよね?」
レッサー「その可能性が高いというだけで、確実にいるという保証はありませんよ」
風斬「で、でもそこにサーシャさんがいたとしたら、この戦いに・・・・・・」
垣根「まぁ、巻き込まれてるわな。 それこそ確実に」
一方通行「サーシャってのは魔術師ン中ではどれくらいのレベルなンだ」
エイワス「少なくとも軍人相手に討たれるような手練ではないと思うがな。
恐らく彼女は一人ではないだろうしね」
垣根「『殲滅白書』から抜けたんだろ? そんなヤツに味方がいんのか?」
レッサー「いますよ。 独立国同盟のトップ、エリザリーナさんは
今でもサーシャさんの味方でいてくれていると考えられます。
それと・・・・・・・・・・・・・・・・・・・、」
風斬「それと?」
レッサー「えーっと、誰だったかな。 右方のフィアンマが独立国同盟を襲撃して来た時に、
もう一人味方の魔術師がいたんですよ。 あ、味方かどうかは判断出来ませんが、
フィアンマに立ち向かった時点で敵ではないと思うんですけど・・・・・・」
一方通行「誰だそいつは」
レッサー「ちょっと待ってください。 なんて名前だったっけなぁ・・・・・・」ウーン
エイワス「"彼女"が今でもエリザリーナ独立国同盟にいるかどうかは半々の可能性だと思われる。
いたとしても、属性が修正されたこの世界で戦力になるかどうか・・・・・・」
垣根「?」
一方通行「・・・・・・とにかく、俺達はこれからどォする?」
エイワス「それを決めるのは君だろう? リーダー」
一方通行「オマエ、俺をリーダーだの何だの言って面倒くせェ事は全部押しつけてねェか?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・俺も人のこと言えねェけどよ」
風斬「わ、私はあなたに着いて行きますから!」
垣根「はいはい妬ける妬ける。 お前が指示出さねえってんなら俺が決めるぞ」
エイワス「そういう事だ。 君に一任するよ一方通行」
一方通行「・・・・・・ホントに俺に任せていいンだな?」
レッサー「個人的な要求を言わせていただきますと、私は独立国同盟を支援したいですね。
魔術に関する情報漏洩を止めることは勿論、あの国には世話になってますから」
一方通行「ンな事ァ分かってンだよ。 あの国はとりあえず救う」
レッサー「それを聞いて安心しました、さすが私が見込んだ男!」
一方通行「図に乗ンな。 救うにゃ救うが、やり方も俺が決めるぞ」
レッサー「え?」
垣根「さーて、準備運動でもしてくるかね」スタスタ
レッサー「え? え?」
エイワス「私も参加しようかな。 "来るべき戦争"に備えて体を動かしておかないと」
レッサー「What?」
風斬「・・・・・・死人が出ませんように」ボソッ
レッサー「今なんて?」
一方通行「このまま戦場に乗り込ンでプライベーティアの連中を皆殺しにする。
実にシンプルで分かりやすい、最も俺達に適した作戦だ」
レッサー「マジで言ってます?」
一方通行「マジで言ってます」
レッサー「か、風斬さんはそれでいいんですか!?」アセアセ
風斬「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」コク
レッサー「ええ~・・・・・・、こう、もっとしっかり作戦を立てた方がよくないですか?
ニュースにも取り上げられてるような事態ですし、派手に登場したら
天使の存在まで漏洩しちゃう可能性だって・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
エイワス「余計な心配だよレッサー。 ミーシャは服を着せて姿を隠す、いつものことだ。
それに私はこう見えても情報操作が得意でね、情報漏洩の心配はまず無いと思っていい」
レッサー「・・・・・・聖守護天使のあなたがそれを言うのでしたら、それは間違いないのでしょうね。
頼もしいんだか恐れるべきなんだか・・・・・・」
一方通行「オマエはどォする?」
レッサー「・・・・・・"微力"ながら、お手伝いさせていただきます!」フンスッ
一方通行「そォかよ。 じゃ、飛ぶから俺の背中にでもくっついてろ」
風斬「えっ」
レッサー「飛ぶ?」
エイワス「我々『天使同盟』は"偶然にも"全構成員が飛行能力を所持している。
君が置いてけぼりにならないよう、一方通行に乗れということだ。
まさか今更、我々が飛べるとう事実に対して驚愕したとは言うまいね?」
レッサー「・・・・・・ま、まさか。 そりゃそうですよね、天使を引き連れているような
方々ですもん。 むしろ飛べないほうがおかしいっていうか・・・・・・」
エイワス「くく、その意気だ。 せいぜい頑張りたまえ」
レッサー(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 ベイロープ、フロリス、ランシス。
どうやら私は一足先に人類が未だ開拓していない領域に足を踏み入れるようです)
エイワス「飛行機があるじゃないか」
レッサー「心を読むなー!! あと人類は普通、自分の力だけで空は飛べないんですぅー!」
と、突然船に衝撃が走る。船体が大きく揺れ、乗員が慌ててバランスをとった。
垣根「なんだ!?」グラグラ
一方通行「やつらの攻撃か・・・・・・!?」グラグラ
風斬「!!」キッ
レッサー「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!」ゴクッ
ガブリエル「aaiygbtpcg只今aicpghrwpe」ヤッホー
一方通行「オマエかよッッ!!!!」ズコー
エイワス「ミーシャ、もう少しゆっくり着地してくれ」
ガブリエル「ffdyuyzrbr謝々pturuhkfjm」メンゴメンゴ
【次回予告】
『一方通行のヤロー! 私を置いてけぼりにして先に飛んでいくなんて~!』
―――――――――――魔術結社予備軍『新たなる光』の構成員・レッサー
『よォ・・・・・・、オマエはエリザリーナ独立国同盟側の人間か?』
―――――――――――『天使同盟(アライアンス)』のリーダー・一方通行(アクセラレータ)
『この様子じゃまず間違いなくロシア成教の魔術師も参加してるだろうな!
・・・・・・ほら見ろ、あれとかそうじゃねえのか!?』
―――――――――――『天使同盟』の構成員・垣根帝督
『こんな雪の上で倒れちゃって・・・・・・、風邪とか引かなければいいんですけど・・・・・・』
―――――――――――『天使同盟』の構成員・風斬氷華
『cmrayhrkrr航路zhfjrcmzyc作成jbhithuirhrtb』
―――――――――――『天使同盟』の構成員・ミーシャ=クロイツェフ
『ゴミ掃除、といったところか。 全く、通常ならこんな人間どもに振舞う力ではないのだがね。
・・・・・・・・・・・・消え去れ』
―――――――――――『天使同盟』の構成員・エイワス
垣根「で、上陸の下準備とやらは出来たのかよ。 つか具体的に何をしたんだ?」
ガブリエル「cmrayhrkrr航路zhfjrcmzyc作成jbhithuirhrtb」
エイワス「間もなく到着する海岸に、氷で巨大な坂を作ってもらっていたのだよ」
風斬「さ、坂・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?」
レッサー「すっごいイヤな予感がします!! すっごいイヤな予感が!!」
一方通行「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・オイ、この船、更にスピードが上がってねェか?」
エイワス「それはそうだろう。 我々が飛ぶ前にまずこの船を飛ばすのだから。
その坂を使って、こう・・・・・・飛行機の滑走路の要領でな」
一方通行「」
風斬「」
垣根「」
レッサー「」
エイワス「この船が出せる最大のスピードで走っている。
その辺の戦闘機くらいなら楽に追い越せる程だ」
垣根「まさかそのまま独立国同盟に突っ込むんかよ?」
風斬「国が滅びる・・・・・・」
エイワス「そんな事にはならんよ。 海岸から独立国同盟まではかなりの距離があるからね」
一方通行「じゃァなンでこの船を飛ばす必要があンだよ!?」
エイワス「どうやら戦場は海岸近くにまで広がっているらしい。
まずはこの船そのもので敵を蹴散らし、我々も出撃する」
レッサー「味方まで巻き込まれますよそれ」
エイワス「そうならないためにも我々がしっかり働くのだろう?」
一方通行「結局オマエが好き放題やってるだけじゃねェかクソッたれ!!」
風斬「信じられない速度が出てますよこれ・・・・・・」ゴオオオオオオ
垣根「あ、おい」
レッサー「? ・・・・・・、あ」
ガブリエル「uhrbfzykfi到着kwhifypgmk」
一方通行「なンてでけェ坂だ・・・・・・」ボーゼン
風斬「こ、これ本当に飛んじゃいますよ!!」
エイワス「では各自、幸運を祈る。 グッドラック」
一方通行「チッ、こォなりゃなるよォになれだ!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
遊園地にあるジェットコースターの、最初の登り坂を思い浮かべればいい。
ミーシャの力で作り上げた氷のそれが海岸へ向かうように伸びている。
巨大なクルーザーで渡る事を考慮し、その坂はとてつもない道幅と大きさを兼ね備えており、
もはや坂というより一つの陸地になっていた。
「! この音・・・・・・」
一方通行の耳に音が届いた。今のは恐らく銃声だろう。
他の構成員も気付いたのか、皆表情が引き締まっている。間もなく戦闘開始だ。
「垣根」
「指図すんな」
一方通行と垣根帝督は顔を見合わせ、勢い良く甲板から跳躍した。
まずは二人が先行し、様子を見るということらしい。
そしてついにメガヨット『アライアンス』号は氷の坂に到着した。
船体が空へ登っていかんばかりの勢いで大きく傾いていく。
「レッサー! しっかり捕まっててください!!」
「一方通行のヤロー! 私を置いてけぼりにして先に飛んでいくなんて~!」
「ふふ。 では私は整備室へと向かう。 ミーシャ、しっかり頼むぞ」
「degygjkkbmsw承知gssmanmbjkww」
甲板から立ち去るエイワスを見届け、ミーシャも背中から鋭い音をたて、巨大な氷の翼を生やした。
風斬もレッサーを支えながらヒューズ化し、紫電を放つ大小様々な翼を現出させる。
そして坂を登り切り、『アライアンス』号は宙を舞った。
船が空を飛ぶ、というのはこの時代じゃ見慣れたものだが、それはあくまで飛行船の話。
完全に海を走るために作られたクルーザーが空を飛ぶなど、前代未聞の出来事だろう。
「ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!」
レッサーが悲鳴をあげる。だがそうしながらも彼女はその手に『鋼の手袋』をしっかりと構え、
恐らく信じられないほどの衝撃で着陸するであろうこの船から飛び立つための準備をしていた。
風斬とミーシャは既に空中へと飛び立っていた。皆が皆、見事にレッサーの事をスルーしている。
その風斬は、驚愕の表情を浮かべていた。
「あ、あれは・・・・・・!!」
彼女が見たものは、まさに戦場。
雪に覆われた白銀の平原で、人間という人間が皆、銃器を手に戦っていた。
「チッ、なンでこンなとこまで戦火が広がってンだ!! 独立国はまだまだ先にあるンだろ!?」
「それだけ大規模な紛争に発展しちまってるって事だろ!! この様子じゃまず間違いなく
ロシア成教の魔術師も参加してるだろうな! ・・・・・・ほら見ろ、あれとかそうじゃねえのか!?」
一方通行と垣根は空中で叫びながら会話をしていた。
陸に着いてからまだ僅かしか進んでいないというのに、既にそこは立派な戦場と化していた。
平原のあらゆる場所に軍人らしき人間と、そうでない人間とがいる。
一方通行と垣根の真下に軍服を着た兵士と妙な格好をした、垣根が魔術師じゃないかと疑った人間が対峙していた。
「どうすんだ?」
「決まってらァ!!」
一方通行は背中に接続している四つもの竜巻を最大まで回転させ、
上空から恐ろしい速度で急降下した。
音速を越えているためか、ソニックブームが発生している。
そしてそのまま、一方通行は二人の間に割って入るように地面へ"墜落"した。
そこらのミサイルより数倍もの威力がありそうな衝撃波が発生し、クレータを作り上げる。
その際、彼はベクトル操作を行い魔術師らしき人間には一切の衝撃波が伝わらないような調節をする。
「ッッ!!?」
魔術師らしき人間が驚愕の表情を浮かべた。
自身の目の前に人のようなミサイルが飛んできたかと思ったら、さっきまで目の前にいた
プライベーティアの男が地面と並行して吹き飛んでいるのだ。
しかもなぜか、自分には全くのダメージや衝撃がやって来ない。
「よォ・・・・・・、オマエはエリザリーナ独立国同盟側の人間か?」
爆心地に人が立っている。まさか"これ"が落ちてきたのか?
魔術師らしき人間はいきなりロシア語で話しかけられ、困惑を隠しきれていないようだ。
「プライベーティアのヤツだってンなら・・・・・・」
そう言って、"それ"が魔術師らしき人間に腕を向ける。
相手は訳がわからないまま咄嗟に言葉を放った。
「お、俺はエリザリーナ独立国同盟の人間だが、魔術師じゃない!!」
だんだんと雪の粉塵が晴れてくる。
そこには白い髪に悪魔のような紅い目をした化物が立っていた。
背中にはどういう原理なのか、四つの竜巻が狂ったように回転している。
「そォか」
化物はそれだけ言うと、ダンッ!!と跳躍し、その場から消えてしまった。
独立国同盟の男はその場にヘナヘナと腰を落とすことしか出来なかった。
(やっぱ魔術師じゃねェ人間も混じってやがるンだな)
一方通行は再び上空へと飛翔し、戦況を確認する。
至る所で戦闘が行われているが、サッと見た感じでは魔術を使っている人間は見当たらない。
ここにサーシャ=クロイツェフがいるのではないかとも考えたが、どうやらこの近辺にはいないようだ。
(垣根は・・・・・・?)
先に行ってしまったのかと思ったが、見ると地面に白い軌跡が尾を引いていた。
垣根は『未元物質(ダークマター)』の翼でその身を包み、追尾ミサイルの如く
凄まじい移動速度でプライベーティアの連中を蹴散らしているようだ。
まるで白い繭が弾丸となって飛び回っているようだ。
「ふン。 ・・・・・・さて、次だ次」
瞬間、一方通行は上空から瞬間移動したかのようにパッと姿を消していた。
「遅えんだよ!!」
垣根帝督は自身の能力、『未元物質』でプライベーティアの連中を次々と撃破していた。
自分の体を翼で覆い、敵の攻撃から身を守ると同時に攻撃も出来るような形態で、
全くの無傷でスコアを伸ばしている。
「なんなんだよこれは!? ヤツらの新型兵器か!?」
プライベーティアの男は半狂乱になりながら白い弾丸に向かってマシンガンを連射する。
だが、異常なまでの速度で飛び回る垣根帝督にそんなものが当たるはずもなく、
運良く当たったとしてもあっさりと弾が弾かれてしまう。
「これで六匹目、と」
横から声が聞こえたかと思ったら、次の瞬間にはプライベーティアの男の意識は断絶していた。
こめかみに勢い良く垣根が激突したのだ。こめかみと言っても、白い弾丸の大きさだと頬にも顎にもダメージが伝わる。
何かが折れるような音と共に男は回転しながら飛んでいく。吹き飛ばされた男の首の骨が折れた音だった。
翼を広げ、その姿を表す垣根帝督。
その様子を見ていた独立国同盟の魔術師は、天界から天使が舞い降りたのかと錯覚した。
「あ、あなたは・・・・・・?」
「あぁ? 『天使同盟(アライアンス)』だ、よろしくー♪」
軽い口調で答える垣根に、魔術師の女は眉をひそめる。
が、すぐにその表情は変わる。彼女は目を皿のように見開いていった。
「どうした? お嬢さん」
「な・・・・・・、え・・・・・・?」
口をパクパクさせながらブルブルと体を震わせる独立国同盟の魔術師。
垣根が上を向くとそこには、
「っひゃあああああああああ!! すごいです!! 私今、空を飛んでますよおおおお!!」
レッサーの叫び声と共に、豪華クルーザー『アライアンス』号が垣根の遥か上空を通りすぎていくところだった。
「何だあれは!? 何が起きてやがるんだクソッたれ!!!」
プライベーティアの兵士が空を見上げながら叫ぶ。
さっきまでここは"平和な戦場"だったはずなのに、今ではとんでもないサプライズが連続している。
いきなりミサイルが飛んできたかと思ったら、向こうでは訳の分からない白い繭が味方を次々と吹き飛ばし、
空を見たらクルーザーが"飛行"している。
「・・・・・・!? クソッ!!!」
兵士は慌ててその場から離れるように全力疾走する。
どうやらあの船、飛んでいるわけではないようだ。その証拠に、どんどん高度を下げている。
もしかして、何らかの方法で海から"ジャンプ"して、ここまで飛行してきたというのだろうか?
海岸からこの兵士がいる場所までの距離はおよそ二キロだ。常識では考えられない。
兵士は無線を取り出し、仲間に呼びかけた。
「オイ!! 戦況を伝えろ、何がどうなってるんだ!?」
『こっちが聞きてぇよ!! 南西にある山の方を見たか!?
背中から竜巻を生やした化物が俺達の味方を片っ端から薙ぎ払ってやがった!!』
背中から竜巻?兵士はほんの少し考え、一つの予測を立ててみる。
「魔術師か・・・・・・?」
『んなわけねぇだろ!! 俺は魔術だのなんだのは全く知らねぇが、それでもわかる。
あれは魔術だとか兵器だとか、そんな陳腐なモンじゃねェよ!!』
「でも独立国同盟の連中だろ? チッ、だとしたら何で今まで出撃させなかったんだ・・・・・・!!?」
『連中の様子を見る限りじゃ、化物は独立国同盟側じゃねぇぞ!
恐らくどこかの国の政府が送り込ん・・・・・・うっ、ぎゃああ――――』
「ッ!!? オイどうした、オイ!!」
無線の向こう側にいる男の悲鳴が聞こえる数瞬前、遠くで雷鳴のような轟音が聞こえた。
そちらを見てみると、巨大な水晶で出来た孔雀のような雷光の帯が、兵士を、戦車を、軍用ヘリを、
その帯から放たれる雷撃で蹂躙していた。
「なんだありゃ、翼・・・・・・か? 夢でも見てんのか俺は・・・・・・」
口を開いたまま、しばし呆然と自分たちの戦力が削がれていく光景を見つめる兵士。
すると、突然その雷光の翼が消え去った。
「?」
兵士は何が起きたのか理解できず、そのままボーッと立ち尽くしていると、
「ご、ごめんなさ~い・・・・・・」
可愛らしい女の子の声が聞こえた。
振り向く暇など無い。その声の主の姿を見る事もない。
兵士の体に強烈な衝撃が走り、そのまま倒れ伏せてしまった。
「こんな雪の上で倒れちゃって・・・・・・、風邪とか引かなければいいんですけど・・・・・・」
不安そうにその兵士を見ていた人工天使は、やがてふわりと体を浮かせて戦場に戻っていく。
「うわっ、うわわわわ! お、落ちる~~~!!」
メガヨット、『アライアンス』号の甲板。
レッサーは手に持つ『鋼の手袋』を床で支え、着陸の衝撃に備えた。
海岸からもうニ、三キロは飛行し続けただろうか。間もなく船は白い平原へ着陸する。
・・・・・・異常なまでの速度で助走をつけていたとはいえ、どうやってニ、三キロも飛行し続けられたのか。
それにしても、着陸。とてもクルーザーに使う言葉とは思えない。
その時、上空で軍用ヘリをシューティングゲームのように落としまくる一方通行の姿を発見した。
「一方通行さぁ~~~~ん!!!」
「!」
レッサーの叫びは一方通行に届いたようだ。彼はこちらを見て、
「ッ! 着陸すンのか・・・・・・、俺に捕まれ!!」
「は、はい!」
一方通行が船に向かって飛んできた。
レッサーは『新たなる光』の中でも驚異的な跳躍力を誇る魔術師だ。
若干の高所恐怖症ではあるが、彼女が装備している『尻尾』型の霊装は
空中でのバランス制御の一役買ってくれる代物である。
高所恐怖症、さっきのクルーザー跳躍時はよくぞ耐えたものだ。
「しゅわっち!」
「うおっ!?」
その『尻尾』を巧みに操りながら一方通行との距離を調節し、
一方通行が甲板に降り立つ前にレッサーは大ジャンプをして彼に抱きつくようにしがみつく。
(そォいやコイツ、イギリスの時もピョンピョン跳ね回ってやがったな)
一方通行は慌てて彼女の体を支え、船から離れていった。
「助かりました~~! どうしようかと思ってたんですよぉ」
「顔をこすりつけてくンな!!」
頬をグリグリと押し付けながら甘えた声を出すレッサーにイラつきながらも、
一方通行はしっかりと彼女を落とさぬよう打き抱え飛んでいる。
そして、
「うおおおっ!!?」
「きゃあああああああああああ!!!?」
「どわあああああああああああああああああああ!!!」
独立国同盟側の人間やプライベーティアの悲鳴が響き渡る。
百七十メートルを超える巨大なクルーザーが、ロシアの雪原に着陸した。
鼓膜が爆発するんじゃないかというような凄まじい轟音と共に、
平原に無数の亀裂が走り、積もっていた雪が純白のカーテンを作り、地面がめくれ上がる。
「クッソ、これじゃ前も後ろも見えやしねえ」
垣根帝督は船の着陸地点からすぐ近くの場所にいた。
彼の足元には三人のプライベーティアが意識を失い倒れている。
着陸時に発生した雪のカーテンで視界は最悪の状態になっていた。
「とりあえず船を追いかけねえとな。 にしても、何で減速しねえんだあの船」
垣根は『未元物質』の翼を広げ、船を追うように飛んだ。
もちろん、そうしている間にも彼はプライベーティアの軍人を作業的な感覚で叩き伏せている。
「あん?」
ふと、垣根に影が覆い被さった。
彼が上を見ると、
「って、おいいいいいいいいいいいいいいい!!!」
恐らくプライベーティアが乗っていたものだろう。
多砲塔戦車が垣根に向かって飛んできていた。
それをかろうじて避ける。多砲塔戦車はそのまま地面を跳ねるように転がり、
車体は粉々に砕け散っていった。中の操縦士は無事だろうか。
「あっぶねえなクソ!! 誰だよこんなもん投げてくんのは!?」
ギロリ、と垣根が後ろを振り向くと、少し離れたところで、
「rrtcfwejfog謝々kgoyvbbfurgt」
戦闘機や戦車を三、四機程持って、ジャグリングをしているミーシャ=クロイツェフがそこにはいた。
どうやら雪の粉塵のせいで垣根がいることに気がつかなかったようだ。
彼女の周りにはかなりの数のプライベーティアがゴミのように転がっていた。
もちろん、今のミーシャは例のフードが付いたポンチョのような服を着ている。
「ったく・・・・・・、お前も船を追え! 多分追いかけりゃ独立国に着くんだろうよ!」
「obpf承知mmrghir」
ミーシャは背中から氷で出来た巨大な翼を生やし、勢い良く地面を踏み込んで飛んだ。
その踏み込みだけで地面が深く陥没してしまっている。
あっという間に低空飛行している垣根を追い越し、相変わらずの超スピードで大地を"航行"する『アライアンス』号を追いかけた。
「なんつースピードだ・・・・・・、あれが天使か。 改めて化物なんだと思い知るな。
・・・・・・、ってありゃ? なんだよあれ」
垣根が『アライアンス』号の船尾を見ると、何やら左右二箇所から炎が吹き上がっている。
「まさか、ブーストエンジンみてえなやつか!? 改造しすぎだろエイワスのヤツ・・・・・・」
なぜ海岸から約ニキロも飛行し続けることが出来たのか。
なぜ着陸後も船が減速しないのか。
それはエイワスの手による(魔)改造が原因だった。
『アライアンス』号は雪の上を滑るように走り続ける。
「うむ、問題なし。 順調だな」
整備室での作業を終えたエイワスは、満足気な表情を浮かべ、甲板へと足を運んでいた。
エイワスは整備室で『アライアンス』号に設備した二個の特製ブーストエンジンに
火をつける作業をしていたのだ。
着陸後、速度を維持して大地を走っていけるようにエイワスが事前に準備していたようだ。
一体いつの間にそんなものを用意していたのか。船を買った時からだろうか。
『聞くがいい、『天使同盟』の諸君。 船はこのまま走行を続け、
エリザリーナ独立国同盟へと赴く。 この船に着いていけばいずれ辿りつくだろう』
エイワスが謎の念波で各構成員に指示を出す。
その間も『アライアンス』号は地面を抉りとりながら、雪を波飛沫のように巻き上げ爆走している。
あちこちから怒号や悲鳴が聞こえているが、エイワスはまるで気にしない。
『ミーシャ、コースの角度変更の際はよろしく頼むよ』
「hrohro御意xyytrwgj」
一通り必要事項を伝えたエイワスは、おもむろに左右の腕を横へ広げ、両手をパッと開いた。
「ゴミ掃除、といったところか。 全く、通常ならこんな人間どもに振舞う力ではないのだがね」
そう言ってエイワスはゆっくりと目を閉じる。
「・・・・・・・・・・・・消え去れ」
瞬間、ロシアの平原から色が消え去った。
「ッッ!!?」
一方通行の背中におぶさるようにしがみついていたレッサーは反射的に耳を塞いだ。
両手で塞いでしまったためにずり落ちそうになるが、一方通行が支えてくれているおかげで
上空から落下してしまうハメにはならなかった。
なぜ彼女が耳を塞いだのか。
それは突然の光がロシアの平原を包んだ数秒後、無数の核弾頭が同時に着弾したかのような
現実とは思えない爆音が発生したからだ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ッッ!!!」
一方通行も自身のベクトル能力を使用し、爆音が耳に届く前に全ての音を『反射』するよう設定していた。
にもかかわらず、彼の鼓膜はビリビリと震えていると錯覚した。
鼓膜だけじゃない、全身が、大地が、空気が、この平原にある全てがその衝撃波で震えている。
「ほんの三パーセントほどの力を出しただけだが、・・・・・・うむ。 これで半分以上は片付いただろう」
そんな中、天使の力をも軽く上回る大爆発を引き起こした張本人、エイワスは
何事もなかったかのような表情で甲板に堂々と立っていた。
風斬氷華は一瞬、地球が粉々に砕けてしまったのかと錯覚した。
「な、何・・・・・・・・・・・・・・・・・・・? 今の爆発・・・・・・」
突然世界が白一色に染まったかと思ったら、直後に考えられない程の大爆発が起きた。
平原に積もっていた雪は、目測でも半径数キロ辺りまで一瞬で蒸発してしまった事がわかる。
爆破の際の煙も、雪の粉塵も、巻き上がる暇すら無い。
辺りの視界が元の色へと戻っていく。そこで風斬が見たものは、
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!!」
何も、無かった。雪は蒸発したどころの騒ぎではなかった。
平原はまるで刈り取られたかのようにポッカリと『消失』してしまっていた。
エイワスお手製の『峡谷』が出来上がっている。
「エイワスの野郎、ロシアを滅ぼすつもりかクソッたれ!!!!!」
不意に風斬の後方から叫び声が聞こえた。一方通行だ。
彼の背中にはレッサーもいる、彼女の顔は青ざめていた。
「あ、一方通行さん!」
「どォいう状況だ!? プライベーティアはともかく、
独立国同盟の連中まで消し飛ンじまったンじゃねェだろォな!?」
それを聞いて風斬も顔を青くする。
地上にいた人間たちはどうなった?
その疑問を待っていたかのようにエイワスからの念波が届いた。
『安心したまえ。 この辺りの地上にいたプライベーティアは全て"下"へ運んでいる。
もちろん、独立国同盟の人間は避けて攻撃しているぞ』
風斬が空中から峡谷の遙か下へ目を向けると、確かに無数のプライベーティアが倒れている。
しかもどうやら全員生きているようだ。
そしてよく見ると、ところどころに大地が残っている部分もあり、そこには取り残された
独立国同盟の人間があ然としていた。
『殺さずに、となるとこれが適切かと思ってね。 今のを連発し、
私が全て片付けても良いんだが、どうするかね?』
「この星が持たねェよクソボケ!! もっと地球に優しい方法で始末しやがれ!!」
『相変わらず我儘だな君は。 まぁ、そういうところも好感が持てるのだが』
「あァ?」
『好き、ということさ♪』
「戯れ言抜かしてねェでさっさと働けクソ野郎!!」
一方通行は口論を終えると、船を追って飛んでいった。
風斬も峡谷に運ばれた人間が無事だと分かり、ホッと息を吐いて後に続いた。
大部分の平原が消し飛んでしまったとはいえ、ここはロシアという広大な土地。
先ではまだ、紛争は続いている。
【次回予告】
『お前も独立国同盟の人間なんだろ? 国まで送ってやるよ』
―――――――――――『天使同盟(アライアンス)』の構成員・垣根帝督
『レッサー。 何なら私があなたを打き抱えてもいいんですよ? いや、そうしましょう』
―――――――――――『天使同盟』の構成員・風斬氷華
『まぁぶっちゃけると、私はこうして一方通行さんに抱いてもらえるのが嬉しいだけなので、
ここから離れる気は一切ありませんけどね~~~♪』
―――――――――――魔術結社予備軍『新たなる光』の構成員・レッサー
『いい加減にしろよ、俺のどの辺に鈍感の要素があるってンだ!?』
―――――――――――『天使同盟』のリーダー・一方通行
『それで、その第三の勢力の詳細は?』
―――――――――――エリザリーナ独立国同盟の中心的人物・エリザリーナ
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・今のはビビった。 マジで超新星が起きたのかと思ったぜ」
「pszsfetugjre極大ddweejyjkyp魔力fgewfgru放射gjgergheig」
垣根とミーシャもまた、あの大爆発を目の当たりにしていた。
ドッと冷や汗をかいたが、どうやらこれでも死人が出ていないらしい。
二人は先程のエイワスによる念波を受信し、状況を把握していた。
「エイワスのヤツ・・・・・・、天使がチンケに思えるほどのぶっ飛び野郎だな」
「phrthurthoj救助ppvmgfirfgherig」
「あ?」
ミーシャが地上を指差し、何かを言ってきている。
「・・・・・・。 地上に取り残された独立国同盟のヤツらを助けてやろう、とか。
そんな事を言ってんのか?」
「ihirthiroh肯定laartgvdssl」
「・・・・・・まぁ、あのままじゃアイツら帰れねえもんなぁ」
仕方ねえ、と垣根は地上へと降りていく。ミーシャもそれに続いた。
「よぉ。 平気かよ?」
「な、何が起きたんだ・・・・・・? 辺り一面が真っ白になったかと思ったら、
地面が消えてて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「悪いな、ウチの仕業だ」
恐らく独立国同盟側の人間であろう男は足を震わせながら垣根に問いかける。
「ウチの仕業? あんた達、一体・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「お前も独立国同盟の人間なんだろ? 国まで送ってやるよ。
おーいミーシャ、コイツも頼むわ」
「oghotpyhtrh了解ssdtrgfdyv」
「み、みーしゃ?」
「おっと、いけねえ。 いや、別にもういいか」
ミーシャはその巨大な翼に大勢の人間を乗せてやって来た。
翼に乗っている独立国同盟の人々は戸惑いを隠せないでいる。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・天使?」
「独立国同盟に着いたら説明してやるよ、俺達もそこへ向かってるんだ。
あ、そうそう。 背中から竜巻生やしたバカとか、メガネかけてる天使もどきとか、
地上を爆走してるふざけた船も全部俺たちの身内だ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
目の前にいる純白の翼を生やした男から次々と出てくる言葉が何一つ理解出来ない。
そんな彼が唐突に、質問をしてきた。
「ところでよ。 お前、サーシャ=クロイツェフって魔術師を知らねえか?」
エリザリーナ独立国同盟。
ロシア政府のやり方に納得できず、独立した小国の集まりで形成された国家。
第三次世界大戦時はこの国を中心に双方が争ったといっても過言ではなかった。
そして現在。そんな独立国は、慌ただしい雰囲気に包まれていた。
突然のプライベーティアの襲撃。彼らが要求してきた魔術と"謎の生命体"についての情報の譲渡。
ただでさえ、第三次世界大戦の影響で独立国の戦力は削がれているというのに、
千は超えようかという数のプライベーティアが攻撃してきたとなれば対策に追われるのも無理はない。
大勢の独立国の国民がドタドタと走り回っている。
大量の書類を運んでいる者、担架に運ばれてやってくる者、様々だ。
独立国のとある軍事施設で、この国家を築き上げた聖女、エリザリーナは頭を抱えていた。
(プライベーティアへ対抗するだけで手一杯だというこの時に、
今度は平原で謎の大爆発・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)
側近のロンギエという大男から聞いた情報によると、
独立国から数十キロ離れた平原で大規模の爆破現象が起こったらしい。
プライベーティアの連中が核弾頭でも使用したのかと思ったが、核反応は確認されていないようだ。
(半径数キロにも及ぶ爆破・・・・・・私達の勢力の仕業じゃないわね)
エリザリーナはホワイトボードに貼りつけられている独立国周辺の地図に赤のマグネットを置く。
爆心地とされる平原の場所だ。
(まだここからだいぶ離れた地域だけど・・・・・・、これを行った何者かが
ここまで来る可能性を考慮すると・・・・・・)
とてもじゃないが、太刀打ち出来ない。
兵器による爆破なのか、あるいは魔術、それとも第三の勢力による仕業か。
様々な可能性が浮かび上がり、目眩を起こしそうになるエリザリーナ。
このまま戦況が進んでいけば、いくら"彼女達"が奮闘してもこの国が落とされる可能性は十分にある。
そこへ、
「エリザリーナさん!!!」
エリザリーナの側近の一人、ベラッギという名のこれまた大男が作戦室に飛び込んできた。
「・・・・・・どうしたの? 良いニュース? 悪いニュース?」
ウンザリといった表情でベラッギを見るエリザリーナ。
普段でも調子が悪そうな彼女の顔色が、更に悪化した。
「・・・・・・どちらかと言えば良いニュースなのかもしれません」
イマイチはっきりしない言い様に、エリザリーナは眉をひそめる。
「何があったの?」
「先程の爆破の原因が判明しました。 プライベーティアによるものではなく、
どうやら第三の、謎の勢力が引き起こした爆破のようです」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
第三の勢力。
そう聞いてエリザリーナは僅かに安堵する。
もしもプライベーティアの仕業だとしたら、そんな戦力を持つ軍隊には
とてもじゃないが立ち向かえなかった。
現在、独立国同盟側についていてくれる"彼女達"でも、応戦できるかどうかといったところだったのだ。
「それで、その第三の勢力の詳細は?」
「そ、それが・・・・・・、どうにも我々の兵の証言が要領を得なくて・・・・・・」
「?」
「何でも、背中から翼を生やした連中が次々とプライベーティアを撃破しているようでして」
「・・・・・・何ですって?」
翼と聞くと真っ先に連想するのが天使だった。
第三次世界大戦の時に現れた、圧倒的な力を持つ大天使。
『神の力(ガブリエル)』。
「見間違い、とかじゃないわよね?」
「その辺りもよく分かっていないようです」
プライベーティアを撃破しているということは、とりあえず敵ではないようだ。
徐々にではあるが、彼女の心にも余裕が生まれ始めていた。
何が目的なのかはわからないが、国境に攻められる前にプライベーティアを鎮圧出来るかもしれない。
「先程の爆破、私達の部隊への被害は?」
「ゼロです」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?」
爆破が起きた平原にも独立国の兵や魔術師が何人もいたはずだ。
聞いただけだが、半径数キロにも及ぶ爆破が起きていながら、自分たちの味方だけ
被害がゼロとはどういう事なのか。
エリザリーナが訝しんでいると、今度はロンギエが作戦室のドアを乱暴に開いてきた。
「エリザリーナさん!! ご報告が!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・今度は何」
「第三の勢力についての情報なのですが、」
「それはもうベラッギから聞いたわ」
しかしロンギエは『いえ、』と首を横に振り、
「それが、その第三の勢力が・・・・・・く、クルーザーでこちらに向かって走ってきていると・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」
エリザリーナは『ロシア語でおk』と言いそうになったのをグッとこらえた。
それは言うなれば、怪奇現象。
「もう少し派手に暴れさせてくれてもいいだろうに。 まぁ、独立国同盟に到着するまでは
あまり事を荒立ててはならないという一方通行の意見も理解できるが、これでは味気ないというものだ」
エイワスは腕を組み、船首で佇んでいた。
メガヨット、『アライアンス』号はなおもロシアの大平原を順調に走っている。
もちろん、大平原ということでここは紛れもなく『陸地』なのだが、船は走っている。
異常な光景だった。
船が陸地を走っていることが、ではない。
船が通りすぎると同時、なぜかその周辺にいた人間が、音もなく倒れていっているからだ。
「・・・・・・潮岸の部屋で土御門達にやった"アレ"か」
その様子を上空三百メートルくらいのところから見ていた一方通行はボソリと呟く。
一方通行が学園都市の暗部、『グループ』の構成員として活動していたとき、
学園都市統括理事会の一人、潮岸に『ドラゴン』についての詳細を聞き出そうとした事がある。
そして、唐突に、『ドラゴン』というコードネームを冠した存在、エイワスが現れたのだが、
その時エイワスは潮岸の部屋にいた一方通行以外の人間を全て何らかの力で昏倒させてしまった。
その力の範囲を拡大しているのだろうか、次から次へとプライベーティアの軍人のみが
まるで船に魂を吸い取られているかのように倒れていく。
一方通行にはあの豪華クルーザーが呪いの幽霊船のようにも思えた。
「あれもエイワスさんの仕業なんですか?」
「あァ。 そンでもってあの力の効果範囲に入っていないプライベーティアの連中は
俺達が始末しろって事だろ。 ったく、最初からあァすりゃいいだろォが」
一方通行に問いかけてきたのはレッサーだ。
彼女は今、一方通行にいわゆる『お姫様抱っこ』の形で支えられている。
背中におぶさろうとしたが、一方通行が誤って背中に竜巻を発生させ、レッサーを吹き飛ばてしまってからは
この体勢でということになった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
そんな二人の様子をジト目で見つめているのは風斬氷華だ。
いや、今の彼女の状態だと『ヒューズ=カザキリ』という呼称が正しいのだが、
風斬はその呼び名を少し嫌がっているので、ここでは『風斬氷華』と明記させていただく。
ヒューズ化した彼女の瞳と頭上に出現している天使の輪は虹色に美しく輝いている。
髪の色も茶色がかった黒からエイワスに負けないくらいの金髪へと変色していた。
が、そのジト目のせいで今はあまりその瞳を窺うことは出来ない。
・・・・・・パワーアップして髪の色が金髪になるという設定はどこかで聞いたことがあるような気がしないでもないが
ここではスルーしておく事にする。
「どォしたンだよ、風斬」
そのまま睨み殺そせそうな、否、見つめ殺せそうな勢いで視線をぶつけられたら
何なのかと尋ねたくもなるというものだ。
一方通行はキョトンとした表情で風斬に聞くと、
「レッサー。 何なら私があなたを打き抱えてもいいんですよ? いや、そうしましょう」
「む?」
レッサーは一瞬、風斬が何を言ってるのか分からないといった表情を見せたが
すぐに理解し、ニマーっと口の端を引きつらせて、
「いえいえ、結構です。 女性であるあなたにブタより重い私を持ってもらうわけにはいきません。
一方通行さんは自身の能力で負担をゼロに出来るわけですから、何の問題もないでしょ?」
「じゃあこうしましょう。 あなたは地上に降りてプライベーティアを抑えてください。
皆が皆、空中での戦闘ですと何かと効率が悪いと思いませんか?」
風斬がとびっきりの笑顔で提案してきた。ハッキリ言って怖すぎる。
「相手はかなり大勢ですよ? それを私一人で地上で戦えと?」
「戦闘機や軍用ヘリは私達で落としますし、あなたに何かあったら
私達が全力でフォローしますから」
「船を追いかけないと独立国同盟に辿りつけないと分かって言ってます?
私があんな馬鹿げた速度で走る船に追いつけると思ってるんですか?」
「じゃあレッサーは船に乗ってください。 エイワスさんもいますし、
ある意味一番安全な場所ですよ? あのクルーザー」
「まぁぶっちゃけると、私はこうして一方通行さんに抱いてもらえるのが嬉しいだけなので、
ここから離れる気は一切ありませんけどね~~~♪」
「・・・・・・あ、一方通行さんに迷惑かけないでください」
「迷惑じゃないですもん、ね~?」
「ぐぬぬ・・・・・・」
「ふふん」
グニャ~と、この場の空気が歪んだ気がした。というか実際歪んでるんじゃないのかこれ。
「鬱陶しいからあんまくっつくな」
力強く身を寄せてくるレッサーに呆れの感情が混じったため息を吐く一方通行。
気のせいか、風斬の背中から生えている雷光の翼が肥大化している。
レッサーでは話にならないと、風斬は一方通行の方を見て話しかけた。
「あ、一方通行さんもそんなんじゃ戦いにくいでしょう?」
「確かにやりにくいが、しょォがねェだろ。 コイツは飛べねェンだから」
「そうですよ。 私はあなた達と比べたら遙かに力のない低級魔術師なんですから」
「で、でもですね・・・・・・!」
「俺の事はいいから、さっさとプライベーティアを片付けて船に追いつくぞ」
話し込んでいるうちにエイワスが乗ったクルーザーはとっくに姿を消してしまっていた。
もっとも、船が抉り取った地面の跡を辿っていけば簡単な話だが。
「むぅ~~~~~、もうっ!! 知らないですこのウサギバカ!!!」
「な・・・・・・ンだとォ!!?」
ヒマワリの種をたっぷり貯蓄したハムスターのように頬を膨らませた風斬は、
そのまま恐るべき速度で虹色のベイパーコーンのようなエフェクトを出現させながら飛翔していった。
「ちょ・・・・・・待てよコラァッ!! 誰がウサギバカだ!!
その言い方じゃまるで俺がウサギに心酔してるウサギマニアみてェに聞こえるだろォが!!」
「一方通行さん、あなた周りから鈍感だって言われません?」
「またそれか!! いい加減にしろよ、俺のどの辺に鈍感の要素があるってンだ!?
このまま落としてやろォかオマエ!」
そうやってギャーギャーと口論している間も、一方通行は背中の竜巻で
空を飛んでいるプライベーティアの戦闘機を粉砕し、
レッサーはお姫様抱っこされたまま、器用に『鋼の手袋』を使用して彼の背中の竜巻を『掴み』、
軍用ヘリをたたき潰している。
科学と魔術が交差した、見事なコンビネーションだった。
「一方通行さんの・・・・・・・・・・・・・・・・・・・バカー!!」
「ぎゃああああああああああああああああああああ!!!」
「一方通行さんの・・・・・・・・・・・・・・・・・・・鈍感ヤロー!」
「ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!」
「一方通行さんの・・・・・・・・・・・・・・・・・・・女たらしー!!」
「ごっ、がああああああああああああああああ!!!?」
二回、三回の話ではない。
ロシアの原野に、立て続けに轟音が響き渡った。
風斬による、翼から放たれる雷撃だ。
正確には『放電に似た現象』であって、雷撃ではないのだが、
その説明不可能の力が荒れ狂うように唸り、地殻をめくりあげていく。
プライベーティアなど、ゴミ同然のように蹴散らされてしまっていた。
「ぐすん・・・・・・、人が・・・・・・、あ、いや、私は人じゃないけど・・・・・・。
・・・・・・私がどんな思いであんな事を言ってるかわかってないんです、あの白髪」
「く、クソッ!! なんだよこの女は!」
地上に降りた涙目の風斬をプライベーティアの男がサブマシンガンを零距離で
彼女の胴体に撃ちまくる。
しかしどういうわけか、彼女には全くダメージが無い。
薄いバリアのようなものが放たれる銃弾を彼女の身から防いでいるのだ。
「ボウリングの時・・・・・・一生愛するなんて言ってくれたくせに・・・・・・。
無自覚で言ったんだとしたら、一方通行さんは本当に罪作りな人です」
「・・・・・・な、なんだお前。 何かあったのか?」
あまりに悲しげな表情をする風斬を見て、プライベーティアの男は
思わずトリガーから指を離してしまった。
周りにいた自分の部隊は、自分を残して全て目の前の風斬に殲滅させられたのだが、
それでも彼女の表情を見ると、攻撃する気が削がれてしまう。
「・・・・・・彼があんまり鈍感なものですから、それでちょっと、」
「何? 彼氏・・・・・・か?」
「か、彼氏っ!? い、いいいえいえ、そんなんじゃないですよ!!」
バヂヂヂヂヂッッ!!!と、背中の翼を振り回しながら否定する風斬。
プライベーティアの男は思わず身を屈んでしまう。
「彼氏ってわけじゃないんですけど・・・・・・でも、どうなんでしょう。
なかなか心の距離が近付かないっていうか・・・・・・あの、分かってくれますか? この気持ち」
「・・・・・・そうだな。 俺もガキの頃、そんな事もあったっけ」
「あなたに私の何が分かるって言うんですかー!!」
「ぎゃああああああああああああああああ!!!?」
翼を振るい、風斬は目の前の男を薙ぎ払った。数キロは飛んでいってしまっただろうか。
完全に情緒不安定に陥った風斬は、現在この世で最も近づいてはいけない危険な存在へと変貌していた。
くすん、と鼻をすすり、口を尖らせた彼女は地面と並行して低空飛行をする。
「き、来た!!」
「撃てえええええええええええ!!!」
プライベーティアの一部隊に突っ込んできた人工天使に無我夢中で銃を撃つ軍人達。
中にはゲームに出てくるロケットランチャーのような兵器を担ぐ者もいた。
「それにしてもレッサーってば、あんなに一方通行さんにベタベタくっついて・・・・・・。
なんなんですかあれ、あんな事したって一方通行さんは何とも思わな・・・・・・・・・・・・・・・・・・・、
いや、あれくらい積極的じゃないとダメなのかなぁやっぱり・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
なんかブツブツ言ってる人工天使は雨のように飛んでくる弾丸など全く気にせず、
低空飛行の体勢のまま翼を大きく横へ広げて、プライベーティアを片っ端から吹き飛ばしていった。
奇跡的にそれを避けたプライベーティアの一人が、すかさず反撃に移る。
「この・・・・・・バケモノがあああ!!!」
「ば、バケモノで何が悪いんですかーー!!!」
「あ、いや、すんまっせええええええええええああああああああああああああ!!!!!!!」
迂闊な発言をしてしまったばっかりに、プライベーティアの軍人はこんがりウェルダンにされてしまう。
そして風斬は空を見上げ、プライベーティアが操縦しているのだろう戦闘機やヘリを確認すると、
両手に翼と同じ材質で構成された剣を現出させて軽く振った。
それだけで、数十機はあろう戦闘機とヘリが操縦士を残して"みじん切り"になった。
上空から多くのプライベーティアの操縦士が落ちてくる。
落ちてくる系のヒロインどころの話ではない。その光景は凄惨たるものだった。
風斬は落ちてくる操縦士の方を見向きもせず、翼から光を放つ鱗粉を撒いた。
すると、なぜか落下していた操縦士全員がふわり、と速度を落とし、ゆっくりと地面へ降りていった。
「な、なんだ・・・・・・?」
プライベーティアの操縦士はポカンとした表情で風斬を見る。
「あ、アンタが助けてくれたのか・・・・・・? ていうか何で急に戦闘機が粉微塵に・・・・・・」
風斬を囲むように全ての操縦士が地面へ降り立った。
彼女の表情は依然として暗いままだ。
「・・・・・・さっき、レッサーにはひどい事言っちゃったかな・・・・・・。
私の勝手な言い分で彼女を不快にさせちゃってるかも・・・・・・」
「な、なぁ。 戦闘機をやったの、アンタなんだろ?
それなのに、どうして俺たちを―――、」
「あああもう!! 私のバカバカバカバカーーーーー!!!!」
「あああああああああばばばばばばばばばばばばばばばばばばば!!!!!!!」
結局、無事だった操縦士は全員彼女の攻撃で意識を失ってしまった。
画面の右下に表示されている風斬の無双撃破数は二〇〇を超えていた。
今回はここまでとなります。
風斬さんがちょっとアレになっちゃってますね、大丈夫でしょうか。
いつか彼女もキチンとフォローしてあげたい次第でございます。
ところで皆さんはPSPの『とある』はご購入の予定なのでしょうか?
たくさんのキャラクター達が出ていて賑やかですね。
次回更新はいつも通り三日以内に。
今回もここまで読んでくれた方に最大級の感謝を。
ではまた!
【次回予告】
『サーシャって『殲滅白書』から抜けて、お前らロシア成教に追われてたんだろ?
それって今でも続いてんのか?』
―――――――――――『天使同盟(アライアンス)』の構成員・垣根帝督
『cbfjwoejrog索敵jgrtjhto開始bfeithg』
―――――――――――『天使同盟』の構成員・ミーシャ=クロイツェフ
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・? な、なんですかあれ・・・・・・!?』
―――――――――――『天使同盟』の構成員・風斬氷華
『『霊装』を修理したのか? 一部分どころか、一隻だけとはいえ完全に操作出来ているじゃないか』
―――――――――――『天使同盟』の構成員・エイワス
『・・・・・・ロシア成教の魔術師じゃないですよ』
―――――――――――魔術結社予備軍『新たなる光』の構成員・レッサー
『・・・・・・誰だアイツ』
―――――――――――『天使同盟』のリーダー・一方通行(アクセラレータ)
『分かってるわよ、いくらネット募集の即席軍隊だからって、
船首にいる"バケモノ"みたいなのが集まってくるわけないもの。
だから聞いてみたのよ』
―――――――――――ローマ正教、禁断の組織『神の右席』の元構成員・『前方』のヴェント
垣根帝督とミーシャ=クロイツェフもまた、エイワスが乗る船を見失っていた。
見失ったといっても、先ほども述べたように船が削りとっている地面の跡を追えば問題はないが。
「はぁ。 どんだけいるんだよプライベーティアってのは・・・・・・。
やってもやってもゴキブリみてえに沸いてきやがる」
「ohrohehcxa無双hthktohjth」
垣根は大きくあくびをした後、『未元物質』によって構成された白い翼を広げ、
船を追うために上空へと飛翔した。
ミーシャも思い切り地面を踏み込み、垣根に続く。
「この辺にはもういねえみたいだけど、この先にまだヤツらがいるんだろ?」
「khyohrhehrg肯定bmbmgre銃声ojovdvsff感知ytdfighrfg」
こくこくと頷くミーシャ。彼女の背中に生えている氷の翼には
エイワスの大規模爆破攻撃によって地上に取り残された独立国同盟側の人々が大勢乗せられていた。
「それにしても、学園都市の人間がなぜ我々の味方を?」
聞いてきたのはミーシャの翼に乗っている内の一人、奇抜な格好をした魔術師の女だ。
垣根はアクロバティックに飛び回りながら彼女の質問に適当な調子で答える。
「別に俺達は学園都市から派遣された増援部隊とかじゃねえぞ。
俺達は俺達で別に目的があるからな。 ミーシャが言わなきゃお前らなんて助けてねえよ」
「ミーシャ・・・・・・。 ミーシャ=クロイツェフ、『神の力(ガブリエル)』・・・・・・。
なぜ、大天使がまだこの世に顕現しているの・・・・・・?」
「説明するのが面倒くせえ。 エリザリーナって女に事情は全部説明するつもりだから、
気になるならあとで聞いてみろよ。 あと、俺達のことをロシア成教のお偉いさんとかに
チクったりしたら俺達は容赦なくロシア成教をブッ潰すからな、そのつもりで」
彼女はロシア成教の魔術師らしい。
この魔術師の話によると、プライベーティアの襲撃の際、彼らの目的が魔術と"謎の生命体"、
正確にはミーシャ=クロイツェフに関する情報の要求だったため、
急遽ロシア成教とエリザリーナ独立国同盟が手を組み、応戦することになったようだ。
「しかしミーシャの存在までプライベーティアにバレちまってたとはな、
クソ面倒な事になってんじゃねえか」
「もはや情報漏洩の拡大は止められないレベルにまで達してるわ。
各魔術結社にも悪影響が及ぶことを考えると・・・・・・」
「ま、でもその辺は問題ねえんじゃねえ?」
「え?」
「ウチに改造コードをフルに使用したようなチート野郎がいやがるからな。
そいつがチョチョイと情報操作してくれるみてえだし、大丈夫だろ」
垣根の言っている事が半分も理解できなかった魔術師の女だが、
それでもなぜか、自分でもよく分からない安堵感が心に芽生えていた。
「そんなことより、さっきの話はマジなんだろうな?」
「あぁ、サーシャ=クロイツェフでしょう? 恐らく彼女も
この原野のどこかでプライベーティアと交戦してる。
・・・・・・正直、我々ロシア成教としては気乗りしないのだけれど。
今の状況を考えるとそうも言っていられないのよ」
『天使同盟(アライアンス)』がロシアに来た目的の一つ、サーシャ=クロイツェフ。
魔術師の女の話によれば、彼女もこの戦場でプライベーティアと戦っているらしい。
どこかで戦っている一方通行達にもそれを伝えようとしたが、連絡手段が無い。
まぁ恐らくはエイワスがサーシャの存在に気付き、伝えてくれていることだろう。
というより、もう既にあっさりとサーシャを見つけ、拉致、もとい、同行させていてもおかしくないと言える辺りが、
エイワスらしいといえばらしいのだが・・・・・・。
「どうやらまだ誰も見つけてねえみたいだな。
ミーシャ、索敵とか出来るか?」
「cbfjwoejrog索敵jgrtjhto開始bfeithg」
エイワスからの連絡が無いので、多分そうなのだろう。
垣根はミーシャにサーシャの捜索を頼み、続けて魔術師の女に質問する。
「サーシャって『殲滅白書』から抜けて、お前らロシア成教に追われてたんだろ?
それって今でも続いてんのか?」
「な、なぜあなた達がそんなことを・・・・・・?」
「俺達の情報網ナメんなよ。 で、どうなんだ」
「・・・・・・捕獲後の処置は未定だけど、我々もサーシャ=クロイツェフを連行するために
彼女を捜索してたの。 彼女の逃亡を援助したワシリーサも同様に」
「それで? (・・・・・・ワシリーサ?)」
「エリザリーナ独立国同盟にいた彼女を発見した我々は、すぐさま彼女を連行しようと
独立国同盟のトップ、エリザリーナに交渉を求めたのだけれど・・・・・・」
「・・・・・・そこにタイミング悪く、プライベーティアの襲撃があったってわけだ。
いや、この場合だとタイミング良く、だな」
やはりサーシャ=クロイツェフはエリザリーナ独立国同盟にいたようだ。
『天使同盟』の読みはズバリ的中していた。
「にしてもこの数だ。 プライベーティアの連中、よっぽどミーシャにお熱みてえだな」
「jktoyhrohrbd照vvghirg」
「照れるところじゃねえよ」
頭をポリポリと掻きながら照れる(照れているように見える)ミーシャに
ツッコミを入れる垣根。
プライベーティアにしては異常とも言える今回の動員数。
独立国同盟を支援するだけじゃなく、結局は自分たちのためにも
プライベーティアは鎮圧する必要が出てきていた。
船を追いかけながらも地上にいるプライベーティアの軍人や戦車、
同じ高度で飛んでいる戦闘機などを作業的な感覚で撃破していく垣根とミーシャ。
ミーシャの背中に乗っている大勢の魔術師や独立国の兵隊たちも援護しながら敵を討っていく。
その時だった。
「あん? 何だありゃ」
「nkpjkyohjr強烈vheirgh魔力gnigerig感知pbxfwertj」
「あ、あれは・・・・・・!?」
垣根帝督、ミーシャ=クロイツェフ、そして独立国同盟側の人々が見たものは――――。
遙か東の方で、踊り狂ったような水と白い無機質な翼がプライベーティアを
撃破していく様子が見られた。
「あ、あれ。 天使さんと垣根さんかな」
風斬氷華はどこまでも白い―――大部分はエイワスが"消失"させてしまったが―――平原に
一人佇んでいた。
周りには煙をあげている戦車や軍用ヘリ、そしてプライベーティアの兵隊たちが転がっている。
八つ当たりと言ってもいい攻撃でプライベーティアを無力化していった彼女は、
我に返り、完璧に意識を失った軍人達一人一人に謝罪をしている最中だった。
「はあー・・・・・・、何やってんだろな私。 最低です・・・・・・」
自分のやった行いを後悔し、深く反省する。
しかしここまでやって死者を一人も出していない彼女の功績は賞賛に値するというものだろう。
『アライアンス』号がロシアの地へ"突貫"してから、数十分が経過しようとしていた。
最初は耳を劈くほどの銃声や爆音が鳴り響いていたこの戦場も、今はだいぶ落ち着いてきている。
一〇〇〇は越えようというプライベーティアを、この短時間で四分の三にまで鎮圧してしまった『天使同盟』。
彼らが戦うとなると、もはや一国でも相手にならないかもしれない。
「あとでレッサーにちゃんと謝らないといけませんね。 ・・・・・・とりあえず、
天使さんと垣根さんの所へ合流しなくっちゃ」
と、その前に。
風斬は周りに転がっている兵隊たちを全員、炎上している戦車の付近へと運んだ。
「これで風邪引いたりはしないかな・・・・・・。 本当にごめんなさい」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・う、ぅ・・・・・・」
呻く軍人に深々と頭を下げる風斬。
その姿はさっきまでのバケモノの如き姿の面影はない、
どこまでも他人想いな女の子であった。
彼女は垣根帝督とミーシャ=クロイツェフの元へ合流するために翼を広げた。
そして飛翔したのだが、彼らに合流する前に風斬の動きがピタリと止まった。
見開かれた彼女の視線の遙か先には、
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・? な、なんですかあれ・・・・・・!?」
学園都市製の人工天使、風斬氷華が見たものは――――。
一方通行とレッサーは相変わらずの速度で走り続ける『アライアンス』号に追いついていた。
船の状況はというと、プライベーティアの軍用ヘリが船に近付き攻撃しようとするのだが、
接近したと思った次の瞬間にはヘリは軌道を乱し、蚊取り線香にやられた蚊のように落ちて行くのだ。
エイワスが潮岸の件で使用した、例の謎パワーである。
「最強じゃないですかあれ、どうなってるんですかね?」
「知るか、アイツに関してはマジで考えるだけ時間の無駄ってモンだ」
そんな謎パワーでフラフラと寄ってきたヘリを竜巻で破壊しながら
一方通行とレッサーは上空で船の様子を見ていた。
『おや、一方通行。 他の構成員はいないのか?』
「どっかで道草食ってンだろ。 それより独立国同盟はまだかよ、
もォ数十分くらいはドンパチやってンぞ」
『確かに、思ったよりも遠いな。 だがもうすぐ見えてくるはずだ』
「バッテリーの残量に気ィ使わなきゃいけねェ俺の状況も考えろよ。
もォあと数秒程度しか残ってねェぞ」
「え、バッテリー切れたらもしかして、」
「落ちる」
「早く!! 早く船へ降りてください!!」
レッサーに急かされるまでもなく、一方通行は緩やかに絶賛爆走中の船の甲板へと降りた。
そしてお姫様抱っこをしていたレッサーを乱暴に投げ捨てる。
「ぷぎゅっ」
「チッ、ここまで戦闘が長引くとは思わなかったからな。
そォいうわけで、あとはオマエらに任せても構わねェな?」
「お疲れ様だったな。 バッテリーの充電をして、ゆっくり休みたまえ。
まぁ、またすぐに出撃してもらうことになるのだろうがな」
こちらの方をちらりと見て言うエイワス。
船の速度と真冬という季節とロシアという場所が原因で、吹きすさぶ風は針で突き刺すような痛みを与えてくる。
一方通行はさっさと部屋に戻ってホットコーヒーでも飲もうと考え、踵を返そうとしたが、
「ッッ!!?」
「きゃっ!?」
「うん?」
突然、『アライアンス』号を追いかけるようにボコボコと地面が盛り上がったかと思ったら、
凄まじい音を共に地面の中から何かが勢い良く飛び出してきた。
雪と土が混じったものが『アライアンス』号の甲板に振りかかる。
「チッ!」
「え、きゃっ――」
一方通行は咄嗟にレッサーの上に被さるように彼女の身を包み、雪と土の弾丸から庇おうとした。
が、その弾丸が甲板から一瞬にして消え去る。エイワスが何かをしたのか、右手を軽くこちらへ振るっていた。
そして、突如として地面から飛び出してきたものは、
「ほう、これは美しい。 なかなかよく出来ているじゃないか、
『霊装』を修理したのか? 一部分どころか、一隻だけとはいえ完全に操作出来ているじゃないか」
エイワスが独り言を呟いているが、一方通行達は気にも留めず右舷に視線を移す。
そこには水晶、否、氷のような半透明の物質で構成された帆船が、『アライアンス』号に並ぶように
雪の上を滑って航行していた。
「!! この船・・・・・・!」
「知ってンのか!?」
レッサーが驚愕しつつも冷静さを保っていられたのは、この船を知っていたからのようだ。
全長は一〇〇メートル超、『アライアンス』号より少し小さい程度の巨船だった。
魔術特有の圧迫感が一方通行の胸に伝わってくる。恐らくこの船もまた、魔術によって構成された船なのだろう。
「女王艦隊」
「何?」
エイワスが一方通行に紹介するようにこの船の名を呼んだ。
女王艦隊。
艦隊という割には他に同じような船が見当たらないのだが、地面に潜んでいるのか。
「いや、完璧な形で現出させる事が出来るのが一隻までなのだろう。
他の船が地面の下に潜んでいるということはないと思われる」
一方通行の心を見透かしたかのようにエイワスが補足を入れる。
「さすがにこれはプライベーティアの所有物じゃねェよな?
ロシア成教の魔術師が引っ張り出してきたンかよ?」
「・・・・・・ロシア成教の魔術師じゃないですよ」
一方通行が振り向くと、レッサーは無言で氷の帆船に向けて指をさした。
帆船の甲板辺りをよく見てみると、誰かが立っているのが分かる。
「・・・・・・誰だアイツ」
その人物は、舌をペロッと出してそこに留めているピアスと、そこから腰の下辺りまで
伸びた細い鎖と氷で作られたような十字架を見せつけるようにしていた。
十九世紀頃のフランス市民がよく着ていたような服装だが、その色は全身が黄色という何とも奇妙な服だ。
だが一方通行が視線を釘付けにされたのは、その顔。
顔の至る所にピアスが取り付けられており、目元には京劇のようなケバ・・・・・・ゲフンゲフン、濃い化粧。
まるで意図的に他人から嫌われようとしているかのようなその顔は、
しかし一方通行はその顔を見て少し驚きはしたものの、不思議と嫌悪感を抱くことはなかった。
氷の帆船は『アライアンス』号に寄り添うように近づいてきた。
甲板に君臨しているキレンジャーに向かって、『天使同盟』のジェネラル・マネージャーが挨拶をする。
「初めまして、『前方』のヴェント。 おっと、失礼、今はもう『神の右席』所属の
魔術師ではなかったね。 初対面でいきなり失礼を働いてしまい申し訳ない」
「・・・・・・アレイスター・クロウリー? じゃないわよね」
「似てるかね? だが、違うな」
エイワスの姿を見てアレイスターではないかと疑うその女の名は、ヴェント。
元『神の右席』所属の魔術師であり、組織では『前方』を象徴していた存在。
九月三〇日、彼女はたった一人で学園都市を襲撃。ものの数十分で警備員(アンチスキル)の約七割という
人数を、かつて彼女の最大の武器であった『天罰術式』で戦闘不能へと追いやった。
学園都市で上条当麻に敗れ、その後は息を潜めていたが、
第三次世界大戦時に同じく『神の右席』の『右方』を司るフィアンマと激突、
その時にレッサーの前でこの『女王艦隊』を一部だが披露している。
そんな、ヴェントという魔術師が一方通行達を睨みつけながら問いかけてきた。
「・・・・・・何者なの? アンタ達」
「あ、あのー! 私のこと覚えてませんかね? ほら、独立国同盟で
フィアンマと争ったときに私もいたんですけど、」
「知らない。 で、そこの白いのは?」
あっさりと流されてしまったレッサーが項垂れている。
そして自分の事について聞かれた白いのは、
「・・・・・・とりあえず独立国に着いてから話し合わねェか?
今は何かとゴタゴタしてるしよ。 それと先に断っておくが、
俺達はプライベーティアじゃねェぞ」
「分かってるわよ、いくらネット募集の即席軍隊だからって、
そこの船首にいる"バケモノ"みたいなのが集まってくるわけないもの。
だから聞いてみたのよ」
バケモノみたいなのはそれを聞き、微小を浮かべるだけだった。
――――――――――――――――――――――
「・・・・・・あの氷の船、オマエの仕業じゃねえよな?」
「kgjergex否定vnsdkwrfjg」
垣根帝督とミーシャ=クロイツェフは前方約八〇〇メートル先にある『アライアンス』号と、
それに並んで航行している、地面から飛び出してきた氷の帆船を見つめながら飛行していた。
「あれは恐らく『女王艦隊』だ。 ヴェントという名の魔術師が
繰り出したものだと思われる。 私も実際に見るのは初めてだが、話だけは聞いていた」
ミーシャの翼に乗った魔術師である女は、そう説明した。
ちなみにこの魔術師はさっきのロシア成教の者ではなく、独立国同盟の魔術師だ。
「魔術師が出したのか? じゃあ一応敵じゃねえって事になるのか」
「ヴェント程の魔術師が援護してくれるというなら、
エリザリーナ独立国同盟の安全は保証されたようなものだ」
「そんなにすげえの? そのヴェントってやつ」
「並の魔術師では一〇〇〇人が束になったって敵いはしない実力を持つ魔術師だ」
「ふーん。 ・・・・・・・・・・・・」
大して興味ありません、と言いたげな素振りで垣根は氷の帆船を見続けている。
彼が興味を持ったのはヴェントという魔術師よりむしろ『女王艦隊』と呼ばれる魔術の方だろう。
「ま、とりあえずさっさと船に追いつくか。 ミーシャもそいつら乗せてたら
思う存分暴れられねえだろ?」
「ojkofgwf平気vnnegerug」
「・・・・・・すまない、私達のせいで君たちのような強力な戦力の
足を引っ張る形になってしまった」
「馬鹿かお前、元々は俺達っつーか、エイワスの馬鹿が原因でこうなったんだろうが」
「しかし・・・・・・、」
「あーもう、うぜえって。 いいから行くぞ、振り落とされんなよ」
そう言って垣根は飛行速度を上げて飛んでいった。
ミーシャも翼の形を複雑に変形させ、乗せている人間たちが落ちないように
しながら垣根の後を着いて行く。
――――――――――――――――――――――
「すごい・・・・・・、水晶かな? 氷・・・・・・?」
そして風斬氷華も、数百メートルは離れているであろう距離で
ヴェントが現出させた『女王艦隊』を確認していた。
周りにはまだ数名のプライベーティアの部隊がいたが、背中から小さいものでも数十メートル、
大きいものになると百メートルは越える翼を生やし、
両手にもまた、数メートルは優に越える巨大な剣を両手に持っている天使を前に
完全に戦意を喪失してしまっていた。
・・・・・・数メートルとか数十メートルとか曖昧な表現ばかりだが、
彼女はAIM拡散力場の集合体であるため、大きさが安定せず計り知れないという言い訳をさせてほしい。
「あの様子だと敵・・・・・・ではないみたいだけど、何なんだろう。
またエイワスさんが何かしたのかなぁ」
『天使同盟』では何かおかしな事が起きた場合、とりあえずエイワスのせいにすることが
お決まり、というかお約束になっている。
そんな理不尽な暗黙の了解、いや不文律といってもいい規則でも、エイワスなら、
『常に私に対して猜疑心を抱く、か。 実に興味深い。 今までもそういう事はあったのかも知れないが、
疑われることに対しては私はそんなに気にしていないよ。 気にする価値もないからね。
それと、『女王艦隊』を呼び出したのは私ではないのであしからず』
と、こんなニュアンスの事を言ってくるに違いない。
ていうか実際に言ってきた。お得意の念話能力(テレパス)のような力で。
「・・・・・・了解しました」
風斬は短くため息をつき、既に戦意喪失している地上の残存部隊を片付け(容赦なし)、
殺人的な加速で二隻の船を追いかけていった。
「・・・・・・エイワスさんの仕業じゃないとなると、多分あれは魔術によるもの。
つまり魔術師・・・・・・・・・・・・、また女性の匂いがします!」
どんぴしゃ。
氷の帆船には魔術師の女、ヴェントが乗っている。
女性は勘が鋭いというが、これはもはや予知能力(ファービジョン)といっても過言ではない。
さっきまでの反省心はどこへやら、ここに来て風斬氷華のキャラクターが
『嫉妬深い女』にシフトチェンジしつつあるような気がする。
ともあれ、彼女はあっという間に船の目前まで接近していた。
ここらでちょっと回想突入。
――――――――――――――――――――――
「もうダメだ!! あと数分もしないうちにあのクルーザーは独立国に突っ込んでくる!」
「そうなったらもうこの国はお終いだ・・・・・・! せっかく長い年月を掛けてエリザリーナさんが
築きあげてきた国家だというのに・・・・・・・・・・・・・・・・・・クソッ!!」
独立国同盟の作戦室の一つにいた兵士は、悔しさを吐き出すように木材で出来た長机に
思い切り拳を叩きつけた。置かれていたマグカップが振動し、中のコーヒーが波打つ。
他の兵士たちもどうすることも出来ない自分の無力さに歯噛みするしかない。
「しかし、第三の勢力は我々の味方なのでは!?」
「分かるもんか! プライベーティアの目的を知って、便乗してきただけかもしれん」
「だがあれほどの爆破を起こせるほどの連中だ、その気になればいつでもこの国を・・・・・・」
「交渉の場になるであろうこの国を消し飛ばしてどうする、
ヤツらは狡猾なのさ。 きっと情報を取れるだけ取って地図からここを消すつもりだ・・・・・・」
もはや為す術がない独立国同盟。
頼みの聖女、エリザリーナも『少し考えさせて欲しい』と側近の二人を連れて出て行ったきりだ。
この国が滅びれば、自分たちは再びロシア政府が蔓延る国へ戻ることになる。
絶望と顔にでも書いてそうな表情を皆が浮かべていた。
――――その時だった。
「私の出番が来たようね!!!」
作戦室の扉をもぎ取らん勢いで開け放ったのは、一人の女魔術師。
全身を黄色い衣服で包み、その顔には多数のピアスが留められている。
「あ、あなたは・・・・・・!」
「話は全て聞かせてもらったわ!! ヤツらが走らせている船に近づいて、
コンタクトをとってきてあげる。 味方ならこっち側に引き込めばいいし、
敵なら・・・・・・・・・・・・・・・・・・、ふん。 私がチョチョイと蹴散らしちゃうわよ!」
「し、しかしいくらあなたでもたった一人では・・・・・・」
「私を誰だと思っているのかしら?」
「そ、それは・・・・・・」
「そうッ!! 私の名はヴェント!! 元『神の右席』にして、
今はこのエリザリーナ独立国同盟に君臨する、最強の守護神なのよ!!!」
某海賊漫画ならここで彼女の後ろに『ドンッ!!』という効果音が書かれているだろう。
ヴェントは見様によっては美乳、見様によっては貧乳な胸を張り、勇ましい顔つきで言い放った。
「おお・・・・・・」
「おおお・・・・・・・・・・・・!!」
「ヴェ、ヴェント様!!」
「我らが守護神!!」
「エリザリーナ独立国同盟の裏の女王!!」
鳴り止まないヴェントコール。
彼女はフフン、と得意げな表情を作り、
「第三の勢力。 首を洗って、待ってろよ☆」
似つかわしくないウィンクをカメラ目線で決めて、戦場に赴いたのであった。
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と、いうわけでヴェントは現在、一方通行たちの前に現れ―――――
「んなわけねぇだろぉがあああああああああ!!!!!
私のキャラを勝手に改変してんじゃねええええええええええええええ!!!!」
――――――た訳ではないらしい。
「違うのかね? 意味合いとしては間違っていないと思うのだが」
「誰が独立国同盟の裏の女王よ!! そして守護神でもない!
別にこの国がどうなろうが知ったこっちゃないけど、まぁ居心地は悪くないし、
たかがゴロツキの軍人共に魔術だの天使だのの情報を渡したくなかっただけよ。
それと、よく分からない雰囲気を漏らしてるアンタや、天使を見ておきたかっただけ」
ニュアンスとしては合っている気がしないでもないが、
とにかく彼女は『天使同盟』に敵意を向けているわけではないようだ。
「べ、別に独立国がどうなろうと知ったこっちゃないんだからねっ!
私はただプライベーティアの連中が余計な情報を手に入れるのがちょっと癪なだけで、
だからたまたま利害が一致しただけなんだから、勘違いしないでよねっ!
そ、それに、こっちに向かってる天使とかをちょっと見ておきたかっただけだし!」
「私のセリフに気色悪い補正を入れないでよ!!」
エイワスがヴェントのキャラ設定を歪ませようとするが、彼女がギリギリのところで制止した。
レッサーと同じく、ヴェントまでもが『天使同盟』色に染まってしまうのは避けなければ
魔術サイドは危機的状況に陥ってしまう。頑張れ。
「・・・・・・ンで、そのツンデレヴェントちゃンは―――、」
「ツンデレじゃねぇっつってんだろうがぁ!!!」
彼女がツンデレという言葉を知っていることに驚きだ。
バチカンにも伝わっている文化なのだろうか。ツンデレが文化なのかどうかはさておき。
「―――ヴェントは独立国同盟側の魔術師なのか?」
改めて一方通行が質問する。
「どちらかといえば、ね。 人がせっかく優雅に眠っていたというのに、
三次大戦なんて大きな戦争が起きた後でも懲りないものね、人間は」
と、彼女が質問に答えると同時、『女王艦隊』の帆船の甲板に
軍用ヘリから放たれた対戦車ミサイルが飛んできた。
「ヴェントさん!」
レッサーが咄嗟に『鋼の手袋』を構えるが時既に遅し。
ヴェントを巻き込んで帆船の甲板は派手な音と共に爆炎をあげていた。
「死ンだか?」
「んなわけないでしょ」
一方通行の背後から声がする。ヴェントだ。
彼女は恐ろしいスピードで『アライアンス』号の甲板へと飛び移っていた。
「見事な身のこなしだな」
エイワスが全く感情の込められていない賞賛を贈る。
「対戦車ミサイルかよ。 人に向けて撃つモンじゃねェな」
一方通行はニヤニヤ笑いながら言う。
彼は今、バッテリーを温存しているため戦うことが出来ない。
ほんの数秒だけなら最強のレベル5になれるが、彼は動かない。
「・・・・・・やっぱり、どうも科学は好きになれないのよ。
そう簡単に割り切れるほど、私は単純じゃない」
誰にも聞こえないような声で、ヴェントは呟く。
異常な速度で走り続けているクルーザーの甲板に立っているため、
一方通行達には先程から強烈な風がぶつかってきていた。
そんな中で、一方通行は異質な風を感じた。
「!」
気がつけば、ヴェントの右手に有刺鉄線が巻き付かれている
一メートルほどのハンマーが握られていた。
プライベーティアの軍用ヘリはミサイルを撃ってきた機体の他に、
もう四機ほどが飛んでいる。
「援護はしねェぞ、ていうか出来ねェ」
「いらないわよ、そんなもん」
ヴェントは手首を微妙に動かした。それに応じてハンマーも僅かに角度を変える。
その直後だった。
「きゃっ!」
「ッ!」
隣で煙をあげていた氷の帆船から爆発があった。
否、それは爆発ではなく、帆船から放たれた砲弾だ。
直ぐ側からの砲撃音に、レッサーが短い悲鳴をあげる。
それは見事に軍用ヘリの一機に命中し、ヘリとしての形が無くなってしまうほど変形した機械の塊は
どす黒い煙を吐き出しながら落下していった。
「錨、か?」
「ふうん、よく見えたわね」
氷の帆船から放たれた砲弾の正体は、約三メートルほどの巨大な錨。
帆船と同じような、透明の材質で構成されたものだ。
音速並の威力で放たれ、爆散してしまったそれを捉えていた一方通行に、
ヴェントはほんのわずかに感心する。
そんな錨が直撃してしまったのだ、ヘリの操縦士は間違い無く死んでいると思われるのだが、
なんだかここまで死人ゼロで来てしまったからか、後味が悪い。
「知らないわ、そんな都合」
誰に向けて言っているのかもわからない言葉を言いつつ、
ヴェントは次なる対象に向けて『女王艦隊』を操る。
今回はここまでです。ちょっとだけ多めな投下でしたかね。
さて、ヴェントが出てきました。この子はどう『天使同盟』に絡ませるか悩みましたね。
で、悩んだ結果、『前方通行(一方通行×ヴェント)』でいこうかなと考えてますが・・・・・・え、需要ないですか?
いやいや、あるはずです。
次回更新はいつも通りだと思います。
四スレ目までこれたのも皆さんのおかげです。本当にありがとうございます。
四スレ目もどうかよろしくお願いします。
【次回予告】
『違うよ、ぜんぜん違うよ』
―――――――――――『天使同盟(アライアンス)』の構成員・エイワス
『えーと・・・・・・、どこかでお会いしましたか?』
―――――――――――『天使同盟』の構成員・風斬氷華
『なんだなんだ、随分賑やかになってんじゃねえか』
―――――――――――『天使同盟』の構成員・垣根帝督
『おっと、失敬失敬』
―――――――――――魔術結社予備軍『新たなる光』の構成員・レッサー
『ojvsdjgher同行ipdsnvdtkhr』
―――――――――――『天使同盟』の構成員・ミーシャ=クロイツェフ
『・・・・・・・・・・・・。 くしゅんッ』
―――――――――――ローマ正教、禁断の組織『神の右席』の元一員・『前方』のヴェント
『オマエ、もしかして寒いのか?』
―――――――――――『天使同盟』のリーダー・一方通行(アクセラレータ)
続き:4スレ目
一方通行「フラグ・・・・・・だろォな」 垣根「ち・・・・・・くしょ・・・・・・う」【1】