あかり「ホームで電車を待つよぉ」
元スレ
あかり「電車に乗るよぉ」
http://viper.2ch.sc/test/read.cgi/news4vip/1431746007/
夜だった
全く静かだった
あかりちゃんは高岡駅にいた
ホームは地方都市ながら広かった
だけど人はまばらだった
時折停車する特急電車が
日本第二の都市圏から連れてきた
この北側の日本の何処へと行くのかわからない大勢の人を乗せて
東の方へと走っていく
あかりちゃんはベンチで座っている
あかりちゃんは電車を待つ
暗く
静かだった
僅かばかり進めば田畑や自然の広がる街だった
あかりちゃんは静けさの中
眠りに落ちてしまった
あかりちゃんは膝の上にある鞄を抱いたまま
ゆっくりと浅く短い眠りの中に入っていった
あの日乗り遅れた電車の事を思い出す
あかり「あれ?さっきまで夜だったのに明るいよぉ」
櫻子「あかりちゃん!」
あかり「櫻子ちゃん!?」
櫻子「あかりちゃんもお出掛け!?」
あかり「いや・・・その、あかり・・・」
櫻子「?・・・どうしたの?様子がおかしいよ?」
あかり「さっきまで夜で・・・それで電車を待ってて・・・」
櫻子「???」
櫻子「変なあかりちゃん!まだお昼だよ!駅のホームではあるけどさ!」
あかり「そ、そうだよねぇ・・・あはは・・・あかり夢でも見てたのかなぁ・・・!」
櫻子「そうだよ、あかりちゃん!きっと寝ぼけてたんだよ!」
櫻子「さっきお昼になったばかりだからこんなに明るいのに!」
あかり「そ、そうだねぇ・・・」
櫻子「あかりちゃんも電車でおでかけかぁ・・・」
櫻子「偶然だね!」
あかり「偶然だよぉ」
櫻子「私はこれから――にいくんだけど、あかりちゃんは?」
あかり「あ、あかりは・・・」
櫻子「あかりちゃんは?」
あかり「あかりは・・・――にいくんだよぉ・・・」
櫻子「私と一緒だ!」
あかり「そ、そうだよぉ」
櫻子「じゃあ一緒に行こうか!」
あかり「・・・・・・・・・・・・う、うん!」
あの日乗り遅れた電車を思い出す
夢の中で
そこには櫻子ちゃんがいて
だけどあの日あの時そこにいなかった
あかりがいた
あかりはあの日櫻子ちゃんとこうして
駅のホームで会ってはいない
だけど今
過去の櫻子ちゃんがそこにいて
あかりはあの日いなかった駅のホームにいた
あかりは何故かそこにいた
お昼だった
――季節は初夏だった
あの日乗り遅れた電車を思い出す
夢の中で
そこには櫻子ちゃんがいて
だけどあの日あの時そこにいなかった
あかりがいた
あかりはあの日櫻子ちゃんとこうして
駅のホームで会ってはいない
だけど今
過去の櫻子ちゃんがそこにいて
あかりはあの日いなかった駅のホームにいた
あかりは何故かそこにいた
お昼だった
――季節は初夏だった
どうして・・・?という疑問も
夢だから
という結論で済ませた
あかりちゃんと櫻子ちゃんは電車をまつ
やがて小さな体を揺らす律動が響き
駅のホームへと電車が入ってきて
その扉を開けた
体を揺さぶるゴトゴトと響く電車の律動を感じて
うっすらと汗ばんできたこめかみのあたりの汗を感じて
あかりちゃんはその妙な幻の
夢の中の電車に足を踏み入れる
電車の中にはいつもどおりまばらに人がいた
通勤や通学の時間にならなければ
混むということをしらない電車立った
あかりちゃんと櫻子ちゃんは
並んで座った
あかりちゃんは違和感を覚えながらも
体を座椅子に沈めた
他の客は置物のように動かなかった
櫻子「あかりちゃんは学校では――」
櫻子ちゃんがお喋りをする
あかりちゃんはそれに応える
夢の中の世界だからそれはきっと
自問自答なんだとあかりちゃんは思っていた
だけどあかりちゃんは目の前の櫻子ちゃんに対して
丁寧に一つ一つ応えていた
あの日乗り遅れた電車
電車は走る
櫻子「ねぇあかりちゃん」
あかり「なぁに櫻子ちゃん」
櫻子「あかりちゃんは何か後悔してる事ってある?」
あかり「・・・え?」
櫻子「例えばだよ」
あかり「あかりは・・・・・・」
櫻子「・・・何かあるの?」
あかり「どうしていきなりそんなこと・・・」
櫻子「うーん、どうしてだろうね・・・」
あかり「・・・・・・・・・」
櫻子「だけどそれはきっと」
あかり「うん」
櫻子「聞いておかなければならない事だから」
あかり「・・・うん」
櫻子「だから・・・」
だからこれは自問自答だと思う
あかりちゃんはそう思って
口を開く
あかり「あかりは・・・」
櫻子「・・・・・・・・・」
櫻子「私の事で赤座あかりは悩みを持っている昔から今も」
あかり「あかりは・・・」
櫻子「全部わかってるよあかりちゃん」
あかり「・・・・・・・・・」
櫻子「あかりちゃんは・・・・・・」
あかり「・・・・・・・・・」
櫻子「こ れ が 夢 だ と で も 思 っ て る の ?」
あかり「・・・え?」
あかり「・・・・・・・・・え?」
櫻子「あかりちゃん」
あかり「・・・・・・ぁ」
櫻子「あの日乗り遅れた電車」
あかり「・・・・・・・・・」
櫻子「あれにあかりちゃんも乗っていたのなら・・・」
あかり「・・・・・・・ぁ・・・ぁあ」
電車の律動があかりちゃんの覚醒を叩きつける様にして引っ張り出す
あかり「ぶっひええええええええええええええええええ」
あかりちゃんは大声を上げて起きて
自分が今、夜のホームで電車を待っていたという状況を
周囲の光景で思い出す
あかり「ぶ、ぶっひぇー・・・あかり凄い夢を・・・」
あかり「すごい夢を・・・」
あかり「あかりは・・・」
あかり「あかりは・・・」
あの日乗り遅れた電車の夢を
あかりは時折見る
だけどあかりちゃんは覚醒してしまう
あの電車が目的地に着くことはない
あかりちゃんはいつも置いてけぼりにされる
あかりちゃんが欲している結末を
あの夢は辿ってくれない
櫻子「こ れ が 夢 だ と で も 思 っ て る の ?」
その言葉を
あかりちゃんはいつも疑っている
もしかしたらあれは本当に夢じゃなく
いつかなにかの瞬間に
あの電車は永遠に
あかりを乗せて
行ってしまうのかもしれない
まだその時期じゃないのかもしれない
あかりは・・・いつか・・・
あかり「あかりは・・・」
向日葵「夢でまた櫻子に会ったと・・・」
あかり「そうだよぉ」
向日葵「でもそれはただの」
向日葵「夢ですわ」
あかり「わかってるよぉ・・・」
向日葵「赤座さんが気にかける事はないのです」
あかり「でもあかりは・・・」
向日葵「いいですか、赤座さんこれは赤座さんの問題じゃないんですわ」
あかり「・・・・・・・・・」
向日葵「幼馴染でもない赤座さんの問題では・・・決して・・・」
あかり「・・・・・・今日はもう帰るねぇ・・・ありがとう・・・」
向日葵「・・・・・・ええ、わかりましたわ」
あかり「それじゃあ」
向日葵「あ、赤座さん待ってくださいまし」
あかり「向日葵ちゃん?」
向日葵「良い精神病院を見つける事をおすすめしますわ」
あかり「・・・・・・」
向日葵「櫻子と会っているなんて戯言をもう吐かないためにも・・・」
あかり「さよならだよぉ」
いつだってそうだった
向日葵ちゃんはあかりに対して上品に
酷く社交性をもって
あかりが櫻子ちゃんの話をするのを
心の奥底で憎んでいた
綺麗に包装された悪意を
僅かばかりあかりに寄越した
あかりはそれを無視していたけど
それはきっと人の在り方の当然あるべき感情なのだと
思った
あかりは櫻子ちゃんのことが好きで
櫻子ちゃんはあかりのことが好きだったから
そうして遠い所にあるだれかの心と共に
櫻子ちゃんの夢への誘いで
あかりはきっと
色々なものを見過ごしていた
あかり「あかりがこれからすることは・・・」
あの日乗り遅れた電車を最後までいくことでしかなかった
あかりは・・・
櫻子「そうしてまたここに来たわけだ」
あかり「そうだよぉ」
櫻子「行先は知ってるの?」
あかり「・・・ううん」
櫻子「もう戻れないとだけ言っておくよ」
あかり「うん」
櫻子「それでもあかりちゃんは」
櫻子「いいの?」
あかり「・・・・・・」
櫻子「もう戻れなくても」
櫻子「いいの?」
あかり「・・・・・・・・・」
あかり「嫌だよぉ」
櫻子「・・・・・・」
あかり「あかりは」
あかり「もちろん帰りたいよぉ」
櫻子「・・・・・・・・・」
あかり「それでも」
櫻子「!」
あかり「それがあかりの中の櫻子ちゃんの」
あかり「のぞむことなら」
あかり「あかりはこの電車に乗っていくよぉ」
櫻子「そう・・・」
あかり「あの日あかりが乗り遅れた電車」
櫻子「・・・・・・・・・」
あかり「櫻子ちゃんだけ先に行かせてしまって」
あかり「ごめんねぇ」
あかり「だけどあかりも今乗ったから」
あかり「だから」
櫻子「あかりちゃんはそれでも自分よりも私に付き合うの?」
あかり「・・・うん」
あかり「それがあかりの心だから」
櫻子「・・・・・・・・・」
あかり「・・・・・・・・・」
櫻子「・・・・・・・・・」
あかり「・・・・・・・・・」
櫻子「そうだよね・・・」
あかり「・・・うん」
櫻子「あかりちゃんはそういう子だからね」
あかり「うん」
櫻子「私もそれを知っているから」
あかり「うん」
櫻子「だからきっと私もまだあかりちゃんに夢の中で会えるんだ」
櫻子「あかりちゃんが私を思ってくれるから」
あかり「あかりは・・・」
櫻子「あかりちゃん」
あかり「なぁに?」
櫻子「まだこの電車は目的地につかないんだ」
あかり「うん」
櫻子「だからそれまで踊ろうよ狭い車内だけどさ」
あかり「・・・・・・うん!」
電車の外はいつの間にか夜だった
車内の座席を照らす
古くて黄色っぽい光と
月光が満ちている
あかりちゃんと櫻子ちゃんは互いに手をとって
踊り出す
狭い車内ではあるけど
それを感じさせない程
優雅に舞う
あかりちゃんと櫻子ちゃんは踊り続ける
ワルツを
北へと向かう電車は
車内灯が照らす範囲だけが世界だった
外は真っ暗だった
そうして北へ向かって
暗闇の中踊り続けて
そうやってある時突如世界を覆った光に
あかりちゃんと櫻子ちゃんは包まれた
あかりちゃんの人生はそこで閉じた
あの日の櫻子ちゃんを
あかりちゃんは追っていった
電車正面ライトに照らしだされたあかりちゃんは
月光の下で蝶のように舞っていたという
駅のホームで目を瞑り笑みを浮かべて
優美に一人踊るあかりちゃんを
そこにいた何人かの人が目にしていた
その最後の瞬間
舞った先はホームに滑り込んできた電車のライトの中だった
精神科での診察の帰りだったという
向日葵「・・・・・・・・・」
もう戻らない物が
向日葵ちゃんの世界に二つあった
だけどもう重ならないはずだった二つの心――
あかりちゃんと櫻子ちゃんの心は
そうやって再び重なった
向日葵「・・・・・・!」
――櫻子と踊る為には自分ですら捨てること
向日葵ちゃんは口を強く結ぶ
あかりちゃんが望んだのは
いつでも櫻子ちゃんと
「ワルツを踊る事だから」
おわり