いつもと何も変わりない部室
いつものように、いつもの場所で彼女は本を読んでいるかのように見えた
「どうした?」
居眠りでもしているのだろうか、口元を注視すると、微かに光る液体が見える
「眠ってるの?」
この状態を見て、起きていると言うやつは少ないと思うが
一応「そうみたいだな」と返しておいた
今日は天気も良い、程良く暖かい
眠くなるのも仕方ないというものだ
「俺も少し寝るかな」
そう言い、彼女の横にイスを並べる
「なにしてるの?」
「見てわかるだろ、ベッドを作っているんだ」
「うん、それはわかるけど、なんでそこに?」
「枕があるからな」
呟くように言い、俺はお手製ベッドに寝転がり、枕に頭を乗せた
元スレ
由比ヶ浜「ねえわきのん」雪ノ下「……」比企ヶ谷「おい脇ノ下、返事くらいしろよ」雪ノ下「……」
http://viper.2ch.sc/test/read.cgi/news4vip/1431507486/
なかなか寝心地が良い枕だ
俺は口元を再度注視した
そろそろだろうか、よだれが零れ落ちるのは
タイミングを見計らい、あくびのフリをし、大きく口を開け……
「ちょ、ちょっと待って!絶対これおかしいし!」
クソ、早くしないと零れ落ちてきてしまう
「あとで聞く、今は眠い」
「その今が大変なことになってるし!」
うるさいやつだ、おっと時間だ
「そんなこと言われても……ふぁ~あ」
タイミングはばっちりだった
狙い通り彼女のよだれが俺の口の中に吸い込まれた
うまい、その一言に尽きた
少し甘いようで、体温で丁度良いぬるさだ
そして、微かなアーモンド臭……ん?
飛び上がり、彼女を揺するが、起きない
それどころか、支えてないと崩れ落ちそうにだらんとした身体……
「おい、こいつ死んでるんじゃないか……」
「なに言ってんの?」
「だってこれ……」
支えている手を離すと、途端に彼女は床に崩れ落ちた……
「わ、私、先生を呼んでくる!」
そうだ、すぐに大人を呼んで……いや、この尻の感触はまさか
「いや、待て、待ってくれ!」
慌てて止めに入る
ドアの前で仁王立ちする気分だ
「でも早くしないと……」
どうする、正直に言うか……どうするか……
「ねえ、どうしたの?」
もう、言うしかない……
「履いてないんだ」
「え?」
「パンツ、履いてないんだ、このままだとノーパン女子高生殺害事件と新聞に書かれてしまう」
「う、うん……」
「だから、お前のパンツを代わりに履かせてやってくれないか?」
「そう、だね……わかった」
バカで良かった、そう呟きながらパンツを脱ぐ姿をムービーに収める
へえ、意外と薄いんだな
「脱いだよ……」
なぜ報告を……いや、これはチャンスだ
「よし、よくやった、早く貸してくれ」
「う、うん、わかった」
伝わる温もり
少し湿っているだろうか
たまらず匂いを嗅ぐ
「ちょ、なんで匂い嗅いでるし!」
このツッコミにハッとした
まずい、まずいぞ
「その、なんだ……」
出てこい、出てこい言い訳!
「えーっと、ほら、他人の匂いは俺が吸い込んでから履かせてやろうかと思ってだな」
苦しいか……?
「なるほど、さすが紳士だね!」
バカで良かった……
俺はその香りを肺一杯に吸い込む
なんて幸せな気分なんだろうか
勃起、そう、勃起している今
このパンツを手放すのが惜しい
「なあ、ブルマ持ってないか?」
我ながら名案だと思った
「一応あるけど……えっと、はい」
「ありがとう」
俺は動かない彼女にブルマを履かせてやった
パンツは、鞄だ
「じゃあ私、先生呼んでくるね」
そう言い、バカは教室を飛び出した
今しかチャンスはない
俺は横たわる彼女を全裸にし、踊った
もちろんソーラン節だ
こうすることで彼女は死後の世界でも地位を保っていけるのだ
そうして踊り続けること15分
俺は彼女と合体した
この教室内で、この瞬間、俺たちはアダムとイブであった
さらに20分が経った頃、バカは一人で戻ってきた
「いやー、ちょっと世間話が長引いちゃって……テヘッ」
ペロッと舌を出す姿、いつもなら可愛いと思ったのかもしれないが
今はそんな気分じゃなかった
なぜなら、この横たわる彼女の死……
それが俺に重くのしかかっていたからだろう
「っていうかこの部屋、変な臭いしない?」
えっ?
やばい、気付かれたか?
いやしかし窓は全開にしたんだ、気付かれるはずがない
「さっきお前が脱いだパンツの臭いじゃないか?」
「ちょ、ひどいし!」
というか、なにしに行ったんだこいつ
俺たちは話し合うことにした
死体のこと、凶器のこと、犯人像、二人の将来のこと、飲みかけのコーヒーのこと……
「これは、殺人……でいいんだよな?」
「そうだと思うよ、だって自殺するような子じゃないし」
その通りだ
誰よりも美しく、強く、頭の良い彼女が自殺するとはとうてい思えない
「凶器は、なんだろうな」
「うーん、わからないよ」
「俺もだ、見当も付かない」
謎は深まるばかりだ
「というか、なんで死んでるって気付いたの?」
青天の霹靂とも言える発言だった
そうだ、俺はあの時なにかを……
そう、アーモンド臭、アーモンド臭だよ!
「問題です、アーモンド臭のする毒物といえば?」
「青酸カリ!」
「正解!」
「つまりこのコーヒーカップに青酸カリを仕掛けた犯人がいるんだね!」
「その通り!か?」
「ちょ、なんでいきなり疑問系になるし!」
先入観は捨てろ、そういつも授業で習っているじゃないか
そうだ、何も青酸カリはコーヒーカップに入れなければならないものではない
そうか、わかったぞ!
「今、パンツ履いてないだろ?」
「なんで知ってるし!変態!」
「それこそがこの殺人事件を解く鍵なんだよ!」
俺の推理はこうだ
まず今日の一時間目が体育だったこと
そして、授業内容はプール
バカはバカだから制服の下に水着を着てきた
しかし、パンツを忘れてしまったのである
こんなことは誰にも言えないし、パンツを貸してくれる友人なんて……
いや、いるかもしれない
そう、その貸してくれるかもしれないのが、この横たわっている彼女だ
そう思ったバカはヘラヘラと彼女に近づきこう言う
「うへへ、パンツ貸してよ、忘れちゃってさぁ」
間違いないだろう
ここまでは完璧な推理のはずだ
ここからが大事なところだ
恐らく、彼女はパンツを貸すのを断った
なぜなら、自分が履くパンツがなくなるからだ
当然とも言える
貸してくれないことに逆上したバカは、イスで思い切り彼女の頭を殴っ
殴ってはいない、そう、首を絞め……た跡もないから、首は絞めてない
そうだ、最近バカは毎日桃を食べていた気がする
それで、桃の種の中身を集め、彼女に飲ませたのだ
そしてパンツを奪い、何食わぬ顔でここへ戻ってきた
そして今に至るということだ
「お縄になっちまいな!」
俺は自分の完璧な推理に至福の感情を覚えながら、バカに吐き捨てるように言った
「ち、違う私じゃない……」
動揺してるのが丸わかりだ
「まあ、自首すれば多少罪は軽くなるだろう、あとはお前の良心に任せる」
一仕事終え、俺は彼女の座っていた椅子に座る
バカのやったことがどうでもよくなるくらい、いい天気だ
俺は近くにあったコーヒーカップに手を伸ばし、飲む
すぐ側で横たわる彼女の味がした気がした……
完