※関連
最初: 美琴「す・・・好きです!!付き合ってください!!」上条「何やってんだ、御坂」
前回: 上条「結婚指輪は!」美琴「給料三か月分!」心理「君への愛は」垣根「プライスレス!」【2】
上条「朝だぁぁ!!!」ググーッ
美琴「はぁ…朝日が眩しいわ…」
垣根「…眠いです…」
美琴「…垣根、なんかゲッソリしてるわね」
ショチトル「仕方ないだろう、どうせ昨晩はお楽しみだったんだろ?」
垣根「…否定はしない」
一方「…考えることは一緒ってことか」
客間に集まった一同は、窓から差し込む朝日に照らされながら談笑していた
上条「…削板達は昨日どうだったんだ?」
削板「おう、部屋で一緒にテレビ見てたぞ!!」
黒子「サッカーの試合がありましたの、素晴らしいスポーツマンシップを見ることが出来ましたの!!」
番外「あぁ…二人は純粋なんだね」
心理「はい、お茶が入りましたよ」
エツァリ「あ、ありがとうございます」
美琴「…そういえば、テクパトル達は?」
垣根「まだ起きてきてないな」
一方「…どォせ夜更かししてたンだろ」
上条「…なんかさ、あいつらがどんな顔して降りてくるのか楽しみだよな」
美琴「私たち、結婚しました!!とか言いながらだったりして」アハハ
ショチトル「それはそれでからかいがいがあっていいじゃないか」
垣根「ひゃはは!!みんなでファンファーレでも鳴らすか、海だけにな!!」
心理「何も掛かってないわよ」
黒子「…おや、足音が聞こえますの」
削板「来たな!!」
一方「…なンて言ってからかってやるかなァ」ニヤニヤ
垣根「まぁ、奥さんったら悪い人」ニヤニヤ
一方「いえいえ、あなたほどではないザマス」ニヤニヤ
番外(仲良しだねぇ…)
テクパトル「…おはよう…」ゲッソリ
一同「…」
19090「み、みなさんおはようございます!」ニコニコ
一同「…」
テクパトル「…おむすびが…食べたいんだな…」ゲッソリ
上条(なんか死に掛けてるぞぉぉぉぉ!)
一方「ど、どォしたンだお前…」
テクパトル「…ちょっと…な」
削板「ははは!!結婚おめでとう!!!」
19090「あ、ありがとうございます//」
テクパトル「…朝飯は…」
心理「まだ作ってないけど」
上条「…な、なんでそんなに疲れてるんだ?」
テクパトル「…尽きたんだ、何もかもが」
垣根「目が虚ろである」
テクパトル「…腰が痛い…」
番外「あー、なるほどね」
心理「お茶ならあるから、飲んでなさい」
テクパトル「…いただこう」
美琴「あ、でもそれまだ熱い…」
テクパトル「あっづーーーーー!!!!!」
一同(…バカだ…)
テクパトル「熱い、熱い熱い!!!」
エツァリ「だ、大丈夫ですか?お水を…」
テクパトル「…もう…遅い…」ヒリヒリ
エツァリ(やけどしましたね…)
テクパトル「…熱かった…」
19090「だ、大丈夫ですか?」
テクパトル「あぁ…なんとか」
19090「もう…テっくんは慌てん坊さんですね」クスクス
テクパトル「し、仕方ないだろ…こんなに熱いと思わなかったんだし」ゴクゴク
19090「…ちゃんと温くなってますか?」
テクパトル「あぁ、大丈夫」
19090「ならよかったです」ニコニコ
上条(…な、なんなんだあの二人…)
美琴(…いきなり二人だけの空間を作り出したわね)
一方(…つゥかよ、俺たちが邪魔みたいになってねェか?)
テクパトル「…なにジロジロ見てるんだよ」
ショチトル「いや、なんでもないよ」
削板「ははは!!さすが夫婦だ、仲良しで羨ましいぞ!!!」
テクパトル・19090「…まぁ…」カァッ
心理(可愛い夫婦ね)
上条「…でさでさ、プロポーズの言葉ってどんな感じだったんだ!?」
意気揚々と上条が問いかける
テクパトル「…なんでそういうことを聞くんだよ」
エツァリ「将来の参考ですよ」
垣根「そうそう、やっぱり男から…ってのはあるだろ!?」
一方「…冷やかしのタネにもなるしな」
削板「おぉぉぉ!!愛情をどうやって伝えたんだ、やっぱり根性で!?」
テクパトル「…なんでお前たちに教えなきゃならねぇんだよ…」
上条「そこをなんとか!!な、義理の兄からの頼みだし!!」
テクパトル「お前はまだ義姉さんと結婚なんてしてないだろ、だから関係ない」
上条「な、なんだよそれ!?」
美琴「あ、じゃあ私から聞いていいかしら」
テクパトル「中学生にはまだ早い」
美琴「な…なによ!!その中学生と結婚したロリコンのくせに!!この変態!!」
テクパトル「愛情に年齢なんて関係ねぇんだよ!!」
番外「うっひゃぁ、暴論だね」
黒子「…ちょっと引きましたの」
テクパトル「なんで!?」
垣根「なぁ、19090号」
19090「は、はい」
垣根「どんな風にプロポーズされたんだ!?」
19090「ミ、ミサカに尋ねるんですか!?」
上条「あれ、美月ちゃんじゃなかったのかな?」ニヤニヤ
19090「!?」
美琴「なになに?」
一方「ンだよ、その名前」
番外「もしかして、テクパトルがみんなには内緒でつけてた名前とか?」
心理「それでもって、二人だけの秘密だったとか?」
番外「あひゃひゃ!!今日日そんなベタはねぇよww」
一方「二人だけの秘密かよ、気持ち悪ィ」ゲラゲラ
テクパトル「…」
黒子「?どうしましたの?」
削板「も、もしかして図星だったのか?」
テクパトル「お前ら、ちょっと表に出ようぜ」
一方「…正直すまなかった」
テクパトル「…お前らは美月って呼ぶなよな」ムスッ
美琴「な、なんで?」
テクパトル「俺がつけてやった名前なんだから」
上条「でもさ、そんなこと言ったらみんな親がつけた名前だけど…」
テクパトル「さっきバカにしてたじゃねぇか」
一方「二人だけの秘密、ってのを言ってたンだよ」
番外「そうそう、名前は綺麗でいいじゃんか」
テクパトル「…ダメだ」ムスッ
ショチトル「はぁ、なぜダメなのかを簡潔に説明しろよ」
テクパトル「…ダメったらダメなんだよ、それしか言えない」
美琴「あ、もしかして愛している人の名前を呼んでいいのは自分だけ、とか?」
垣根「なんだよそりゃ、ねぇよwww」
テクパトル「…」
垣根「あ、図星ですか」
テクパトル「もうなんとでも言えよ…」ウッウッ
一同(な、泣いちゃったよ…)
上条「…それでさ、今日はもう帰るのか?」
垣根「ここにクジがあります」
美琴「…いや、当麻が訊いたのは…」
垣根「この中には、帰る、という選択肢と帰らない、という選択肢とメルヘン、という選択肢があります」
一方「…最後のが不安なンだけどよ」
垣根「さて…これを引いて、出た結果を選ぼうと思う」
エツァリ「…本当にその三種類なんでしょうね」
削板「そうだそうだ!!出来レースなんて御免だぞ!!」
垣根「怪しいと思うならお前たちが見てみろよ、ほら」
垣根がクジを差し出す
たしかにその三つの選択肢が書かれている
19090「あ、あの…」
垣根「はい、美月タン」
テクパトル「殺すぞ」
垣根「…19090号」
19090「あの…メルヘン、というのは具体的にはどのような…」
番外「そうそう、そこだけが不安だよね」
垣根「あぁ、これなら大丈夫だよ」
心理「メルヘンってのは…帰らない、ってこと?」
垣根「もっと言えば…今日、この近くで夏祭りがある」
ジャラジャラとクジを混ぜながら垣根が答える
その一言に、一同が耳をとがらせた
番外「そ、それ本当!?」
垣根「…無人島とは言っても、ここは観光地だ…定住民がいないってことは、逆にすればそれだけ好き放題土地が使えるってこと」
一方「…なるほどなァ」
上条(そ、そういうもんなのか?)
黒子(というより…なんでこの無人島、ここまで人気なんですの?)
削板(な、なにを言ってるか全くわからねぇ!!)
垣根「…夏祭り、打ち上がる花火、可愛い着物姿の女の子…ふと近づく二人の距離、林檎飴を頬張りながら仲良く屋台を回る夜…メルヘンだ…」ウットリ
ショチトル「なるほど…メルヘンなら、その夏祭りに参加するのか」
垣根「はい、誰が引く?メルヘンを絶対に当てろよな」
上条「…じゃあ俺が」
一同「お前はダメだ!!」
上条「」
エツァリ「…では…自分が」
エツァリがクジの入れられた箱に手を入れる
エツァリ(…少なくとも、学園都市にはまだ帰りたくありません…)
エツァリ(…となると、帰らない、もしくはメルヘンを引くべきです)
エツァリ(確率は…3分の2)
エツァリ「これです!!」
「帰らない」
エツァリ「…」
垣根「はい、帰らないね」
番外「…ねぇ、帰らないだったら夏祭りは…」
垣根「メルヘンだけだ、夏祭りは」
黒子「ということは…近くで夏祭りがあるにも関わらず行けないという生殺しですの?」
垣根「あぁ」
19090「…」
テクパトル「エツァリ…やっちまったな」
エツァリ「じ、自分のせいですか!?」
美琴「…」ウルウル
上条「美琴…仕方ないって、あとでエツァリにそげぶしとくから」
エツァリ「えぇ!?」
垣根「…はぁ、エツァリ…やっちまったな」
垣根がエツァリの手から「帰らない」のクジを受け取る
番外「…行きたかったな…着物とか用意できるはずだったんだよね…」
垣根「…あぁ」
美琴「…花火…見たかった…」
19090「結婚を決めてすぐの夏祭り…素敵だったでしょうね…」
エツァリ(な、なんか知りませんが罪悪感が…)
心理「…垣根」
垣根「…俺さ、最近マジック練習してるんだ」
上条「?何言って…」
垣根「ほら見てみろよ、この帰らないのクジがなんと一瞬で!!」
ぎゅっと手を握った垣根が、しばらくして手を開く
垣根「メルヘン、のクジに!!」
一同「か…垣根…」ジーン
垣根「ほらほら、だから夏祭り行けるんだぜ!!」アタフタ
一同(…帰らないのままなんだけど…)
垣根「だ、だからそんな泣くなよな!!ほら、着物の用意でもしようぜ!!な!?」
美琴「垣根…ありがと」
19090「ちょっと…見直しました」
垣根「へ、へへへ…そうかな」
エツァリ(…もう…自分はこういう立ち位置でいいですよ)
垣根「さぁ、そうと決まれば着物の用意だ!!」
一同「おー!!」
垣根「無人島なのに着物屋さんがあるのかって!?んなもんご都合主義なんだよ!!」
心理「まぁ、今時着物屋さんなんてどこにでもあるわよ」
ショチトル「夏祭りなんて去年の夏以来だな」
美琴「あはは、当たり前じゃない!」
黒子「着物を着るのも久しぶりですの」
削板「ははは!!そうだな、久しぶりだ!!」
上条「美琴、一緒に花火見ような!」
美琴「う、うん!!」
テクパトル「…美月、俺達も…」
19090「は、はい!」
番外「ねぇねぇ、一方通行はやっぱり焼きそば派?」
一方「俺はたこ焼き派だ」
エツァリ(…)
エツァリ(…よかったですね、みなさん)
垣根(てめぇがまとめんなよ)
上条「…さて、着物のレンタルは出来ましたが…」
一方「…誰が着付けすンだよ」
心理「女の子は私がしてあげるから…たぶん美琴や黒子もできるでしょ?」
黒子「もちろんですの」
エツァリ「男性ですと…垣根さんでしょうか」
垣根「あぁ?男は自分だけで着られるだろ」
上条「いや、難しいと思う…」
垣根「知ったことかよ」
19090「…では、ミサカ達は着付けをしてくるので」
番外「いやぁ、着付けは楽しいねぇ!!」
テクパトル(…俺達はどうすればいいんだよ)
垣根「…とにかく、俺達も着替えるぞ…そろそろ正午だ、ぼちぼち祭りも始まるし」
上条「あいよ…」
削板「おぉぉぉぉ!!なんだか楽しみになってきたぞ!!!」
一方「…めンどくせェ…」
上条「浴衣…ってさ、やっぱり男は黒だよな」
垣根「だよなぁ、男なら黒…」
削板「はっはっは!!赤の浴衣は熱いよなぁ、やっぱり男は熱くなきゃな!!!」
一方「…どっかの熱血馬鹿を思い出すな」
垣根「…それさ、法被じゃねぇか?」
エツァリ「…というか…それを夏祭りに着ていくんですか」
テクパトル「…削板…さすがにそれはないと思うぞ」
削板「そうか?俺らしくていいじゃないか!!」
上条「…でもさ、白井はそういうの…」
削板「黒子ならわかってくれるさ!!」
一方「…惚気かよ…」
上条「…削板以外は黒の浴衣だな?」
垣根「当たり前だろ…」
テクパトル「エツァリは白の浴衣も似合いそうだな」
エツァリ「それ、若干死に装束ですよね」
上条「…ところでさ、夏祭りって言ったらなんだろうな」
一方「…金魚すくいだろ」
エツァリ「自分はやっぱり花火が出てきますね」
垣根「盆踊りとか懐かしくないか?」
上条「あ、懐かしいな」
テクパトル「…個人的には…だけどさ、団扇で仰ぎながら歩くのが夏祭りってイメージかな」
削板「冬に行われる祭りじゃ無理だもんな」
垣根「…ようし、俺は浴衣着れたぞ!!」
上条「…お前は相変わらずだな」
垣根「これで斬魂刀があれば完璧だぜ!!」
一方「いらねェだろ、お前」
垣根「俺の刀の名前は未元物質…この世に本来存在しない素粒子を作り上げることが出来る」
エツァリ「…それで、開放するときの呪詛は?」
垣根「呪詛って言うな…そうだな、俺の未元物質に常識は通用しねぇ!!!とか」
テクパトル「まんまだな…」
削板「はっはっは!!愉快だなぁ!!」
垣根「…っていうかさ、誰だよあの漫画の話始めたヤツ」
一同「お前だよ」
美琴「…ねぇ、私って黄色の浴衣ばっかり着てない?」
心理「…あなた、電撃姫なんだからいいじゃない」
黒子「…心理定規は赤ですのね」
番外「黒子は紫か…なんかエロいね」
黒子「あら、番外個体は黒ですの?」
番外「ミサカのどす黒さにはピッタリだね」ケラケラ
心理「あら、あなたは本当は優しいじゃない」
番外「な、何言ってるの!?」カァッ
ショチトル「ふふん、私は今回は水色だ、幼さとグラマラスさを兼ね備えてみた!!」
19090「…ミサカは今回は淡いピンクです」
心理「…なんだか、こう言ったら失礼だけど…」
美琴「ちょっと地味なんじゃない?テクパトルにもっとグイグイ行かないと…」
19090「も、もう結婚が決まりましたので…//」
女一同(この幸せ者が…)
番外「…さーて、ミサカは先に男達の所に行ってやるかな!!」
黒子「あら、みんなで揃ってお目見えですの!!」
心理「…はぁ、最後は私の着付け、頼んでいいかしら」
美琴「うん、任せて」
美琴が心理定規の後ろに回る
そこからでもわかるほど、心理定規はスタイルが良い
美琴(…ショチトルとはまた違ったスタイルの典型ね…)
心理「どうしたの?」
美琴「…なんか、自信を無くすわ…」
19090「…お姉様、元気を出してください!!」
番外「そうそう、だってお母さんはおっぱい大きいじゃん」
美琴「そ、そうよね!!」
垣根「そうそう、元気出せよミコっちゃん」
美琴「…」
垣根「あ、心理定規は赤の浴衣か」
心理「…なんであなたがいるのよ」
垣根「なぜかって?そこに空間があるからさ」
ショチトル「まさか…私達が着替えている間にもいたとか…」
垣根「…いや、それはねぇよ」
黒子「…垣根さんは何やら…似合ってますの」
垣根「ひゃっはっは!!!そうだろ、男前だろイケメンだろ!!」
19090「あの、出て行ってもらえませんか?」
垣根「はぁ?お前ら全員着替えてるじゃねぇか」
ショチトル「何を言う、ここは女の聖域だ」
垣根「ちぇー…」
心理「もうすぐ終わるから客間で待ってなさいよ」
垣根「…分かった分かった」
エツァリ「審判!!今のは…」
一方「あァ…ロリを抱きしめてェ…」
上条「あぁぁ!!審判が自らの性欲を露わにしているぅ!!」
テクパトル「となると…逆転のチャンスだな」
削板「そうだな…最悪ペナルティーエリアからの一発ギャグが許される」
垣根「ただいまー…」
上条「あ、帰ってきた」
一方「あンまり暇だからフリンフォンしちまったじゃねェか」
垣根「そりゃすまなかったな」
上条「…っていうか、お前どこ行ってたんだ?」
垣根「女の子たちの聖域に」
エツァリ「ま、股の間の絶対領域ですって!?」
テクパトル「着替えてたんじゃないのか、あいつら」
垣根「心理定規以外は着付け終わってた」
上条「な、なぁ!!美琴は何色の浴衣だった!?」
垣根「さぁな、秘密」
上条「あぁぁ!!気になるぅ!!」
一方「…番外個体は黒だろ、どォせ」
垣根「そ、そんなこととは限らねぇしぃ!!黒とかなんで分かるんだしぃ!!」
一方(黒だな)
エツァリ「…ショチトルはセクシーなので来そうですよね」
テクパトル「…美月はなんだろうな…」
削板「黒子はちゃんと浴衣着れたかな…」
垣根「…心配するとこが違うぞ」
削板「あれ?」
垣根「…はぁ、浴衣着てると下手に座るのもな…」
上条「あぁ…形崩れるからな」
一方「…あァ?女共来たンじゃねェか」
エツァリ「おや、本当ですね」
美琴「じゃーん!!どう、似合ってる、当麻!?」
上条「…な、なんかお前らしい色だな…」
美琴「な、何よその反応…」
上条「で、でも可愛い…」ドキドキ
美琴「そ、そう?」ドキドキ
上条「こう…ぬがせたくなる魅力があるというか」ドキドキ
美琴「そ、そういうのってどうかと思うんだけど…」ドキドキ
垣根「なんなんだあいつら」
心理「さぁ?」
垣根「…お前は赤の浴衣か」
心理「可愛いでしょ」
垣根「…まぁな、メルヘンだ」
心理「何よそれ」
垣根「…さて…そろそろ始まる時間だな」
上条「そうなのか?まだ昼だけど…」
テクパトル「…昼からもう回るのか?」
垣根「あぁ、そっちのほうがいいだろ」
ショチトル「…でも、この時間から屋台なんて出てるのか?」
美琴「それに…花火のいい場所は取れなくても、この別荘から見れるでしょ?」
黒子「…そうですわね、今から行く必要性はあまりないような…」
垣根「…お前ら…何も分かってないな、祭りのこと」
一方「あァ?お前は知ってるのかよ」
垣根「当たり前だ…」
削板「おぉ、ぜひとも教えてくれ!!」
垣根「祭りとは…始まる前の人々の浮かれ具合と、終わった後の儚い雰囲気にこそ真髄がある」
心理「あぁ、兼好法師みたいね」
垣根「つまり、今から行くのは祭りが始まる前の楽しみを抱える人々を見て楽しむためだ」
上条「なんか…変わった理由だな」
垣根「…そうだな、たしかに普通の楽しみ方ではないが」
心理「…二人きりの時間を長くしたいってのもあるわね」
一方「…ま、そういう理由なら悪くねェか」
エツァリ「…では、行きましょうか」
上条「よし、美琴と二人きりか!!」
美琴「…綿菓子あるかな…」
テクパトル「俺は林檎飴があればいいや」
ショチトル「では、向かうか」
垣根「こっからすぐ行けるから…もう今から二人きりになるか」
削板「おう、いいな!!」
美琴「…じゃあ…行こうか、当麻」
上条「あ、あぁ」
エツァリ「行きますか」
ショチトル「…ふん、手くらいならつないでやるよ」
テクパトル「…さて、始めるか…俺たちのお祭りだ!!!」
垣根「おうともよぉ!!」
垣根「うっはー・・・人がかなり集まってるな」
心理「そうね・・・まだ祭は始まってないのに」
垣根と心理定規の二人は、屋台が並ぶことになるであろう大通りに来ていた
周りではあちこちでお兄さんやおじさん達が屋台を組み上げている
そんな簡単に出来るものなのか、と見ていると中々見事な手際で組み立てていく
垣根「すっげぇな・・・屋台ってあぁやって作れるんだ」
心理「組み立てるのに長い時間が掛かるのもあるんじゃない?あれはたまたまそこまで規模が大きくないだけで」
垣根「そうかな・・・」
心理「あ、あっちのは少し大人数で組み立ててる」
垣根「なんの屋台だろうな?」
心理「鉄板を運んでるから・・・焼きそばかお好み焼きじゃない?」
垣根「・・・なんかワクワクするよな、やっぱりこれを見て気持ちを盛り上げないと!」
心理「ふふ・・・だから早くここに来たのね」
垣根「当たり前だろ!」
ニコニコと笑いながら、垣根が近くで団扇を配っているお姉さんに近付く
垣根「すいません、二つ貰えないかな」
「は、はい!」
垣根の顔を見て顔を真っ赤にするお姉さん
イケメンってのは罪だな、と自ら思う垣根
垣根「暑い中大変だな・・・あんまり無理しないようにな」
「あ、ありがとうございます!」
垣根「じゃあ・・・これでジュースか何か買いなよ」
1000円札を無理矢理お姉さんの手に握らせ、垣根が微笑む
「そ、そんな・・・受け取れませんよ!」
いきなりの出来事にお姉さんはあたふたしている
垣根「じゃあ団扇が一つ500円だったってことにしておこうかな」
「でも・・・」
垣根「それじゃ俺はこれで・・・しっかり水分摂らないと、せっかくの美人が台なしだからな」
「!」
顔を更に真っ赤にしたお姉さんを見て、満足げな垣根
心理「はぁ・・・あなたね、せっかく二人きりになるチャンスだ!とか言ってたくせに自分は他の子をナンパ?」
垣根「別にナンパはしてねぇだろ、水分は大切だぜ?」
心理「見なさいよあの人・・・あなたに恋人がいるって分かって少し悲しそうな顔してるじゃない」
垣根「なんだ、まだこっち見てたのか」
お姉さんに笑顔で手を振りながら垣根が続ける
垣根「いいじゃねぇか、別にお前以外には興味ないんだから」
心理「私のことじゃなくて、あの人のことよ・・・私はあなたのそういうところを知ってるから構わないけど、相手からしたらあなたは初対面なんだから」
垣根「・・・そんな正論振り回されたら言い返せねぇ」
心理「・・・とにかく、もう今日はあんな風にちょっかい出したらダメだからね?」
垣根「・・・分かったよ」
心理「はぁ・・・なんか不安ね、そう返事しておきながらどうせすぐちょっかい出すんでしょ」
垣根「・・・ならさ」
ぎゅっ、と垣根が心理定規の手を握る
女性らしい柔らかな手だ
垣根「これならどこにも行けないし安心だろ?」
心理「・・・こんなことでごまかすつもり?」
垣根「まさか、ただ安心出来るのは確かだろ」
心理「・・・そうね、少しは安心したわ」
垣根「じゃあ色々見て回るか」
心理「えぇ」
テクパトル「・・・」
19090「・・・」
そういえば、初めてのキスとかはこういう気まずさを覚えるものだな
二人は全く同じことを考えていた
プロポーズをされた後の祭
相手をいつも以上に意識してしまう
というより、結婚したのだから今まで以上に特別なことをしなければ、という先入観に囚われている
テクパトル「なぁ・・・夫婦は祭でどういうことするのかな」
19090「恋人なら一緒に回るだけでいいんですけどね・・・」
テクパトル「・・・夫婦もそんなものかな?」
19090「・・・夫婦になったのは昨日ですから・・・全然分かりません」
テクパトル「・・・最初の壁がまさかこんなに早く訪れるなんてな」
19090「・・・と、とりあえず行きたい場所を決めてみませんか?」
テクパトル「あ、あぁ・・・それが一番最初かな」
19090「そ、それで…夫婦はこういうときどういった場所に…」
テクパトル「…わ、分からない…」
19090「こ、子供のために金魚すくいなんか…」
テクパトル「まだ子供いないだろ…」
19090「そ、そうでした…」
テクパトル「…どうすりゃいいんだよ…みんなは多分ベタな所に行ってるし…」
19090「…鉢合わせするのはイヤですね…」
辺りには既に大勢のカップルがいる
夫婦なのだから、他のカップルとは違うことをしてみたい
という、くだらない願望が二人を慌てさせる
テクパトル「…人のいない所に行くか…」
19090「そ…そうですね」
テクパトルに手を引かれ、19090号が少しずつ人気のないところに移動する
19090(…な、なんでよりによって森の方へ…)
テクパトル(あぁぁぁぁ!!!人気のない場所って言ったら森の方しかねぇよ!!さすが無人島だよ!!!)
19090(も、もしかして森の中で…)カァッ
テクパトル(どうしようどうしよう!このままじゃエツァリと同類みたいに思われちまうぞ!!!)
19090(ま、万が一人が来ちゃったりしたら…)
テクパトル(そ、そうだ!!別に人気のない場所に行く必要はないよな、こう…家族連ればっかりの場所ならいいじゃないか、そうだ、俺達だって家族なんだし!!)
森の方へ向かっていた足取りを、急遽家族連れの多そうな場所へ向かわせる
19090「?あ、あの…」
テクパトル「お、俺達だって夫婦なわけだし…多分」
19090「?」
テクパトル「か、家族連れの中ならカップルっていうより夫婦って感じが味わえそうだろ!?」
19090「ふ、ふふふふふ夫婦!?」
テクパトル「あ、今更そこで焦るんだ」
19090「あ…そ、そうですね!!夫婦っぽく見えますね!!」
テクパトル「…でもさ、人が多すぎたらやっぱりあれだよな…」
19090「じゃ、じゃあやっぱり森の中…」
テクパトル「って違う違う!!!なんかおかしいぞそれはぁ!!!」
19090「お、落ち着いてください…」
テクパトル「…わかった、夫婦ってどこにいても夫婦だろ?」
19090「?」
テクパトル「…要は俺たちが一緒にいれればどこでもいいんだよ…」
19090「テっくん…」
テクパトル「…そうと分かれば…」
「あー、あそこのお兄ちゃんとお姉ちゃんラブラブだー!!!」
テクパトル「!?」
「ホントだー!!!恋人だー!!!」
19090「こ、恋人じゃなくて夫婦ですよ!!!」
「ちっ、リア充が」
「わーい、逃げろー!!!」
テクパトル「…あの餓鬼共…」
19090「テ…テっくん…?」
テクパトル「有象無象の区別なく…俺の弾頭は許しはしない」
19090(…どこかで聞いたセリフですね)
一方「…」
ロリが多いな、と一方通行は考えていた
しかも浴衣を着たロリだ
普段の子供っぽい服装を着ているのと違い、少し背伸びをして大人っぽい雰囲気を醸し出しているその姿は、ギャップというものをこれでもかというほど彼の脳内に叩きつける
番外「ねぇってば、聞いてるの?」
一方「…あァ?なンだよ」
番外「だからさ、まずはどこに向かおうかって…」
一方「そンなの知るかよ」
番外「あのさぁ…一応、あなたは彼氏でしょ?彼女を引っ張るのが男の役目なんじゃないの?」
一方「そンな役目を勝手に決めるンじゃねェよ」
番外「…で?結局どこに行くの?」
一方「ロリが一杯いるとこ」
番外「うっわぁ!!!なんでそんなこと言えるの!?彼女の前で!?」
一方「…見ろよ、浴衣着てるロリなンて七五三か夏祭りでしか見れねェぞ」
番外「…何それ…なんかちょっと幻滅…」
一方「あ、見ろよ、ロリが三人戯れてる」
番外「聞いてよ」
一方「…にしてもこンな所であンなに走ってたら危ないな」
番外「そうだね…まぁ子供は元気が取り柄だけどさ、ここって花火見るために結構段差があるし…」
走り回っているロリ
その中の一人が、足を段差にひっかけた
一方「…」
ポチリ、とチョーカーのスイッチを入れる
そして足元のベクトルを操作し、一瞬でロリを助け出す
「あ…お、お兄ちゃんありがとう」
一方「…怪我はねェか」
「うん、ありがとう!!」
一方「怪我しねェよォにな」
「うん!!!」
番外「…なんかアナタってさ、ロリに対するときが優しすぎるよね」
一方「あァ…浴衣姿のロリに触れちまった…もォ手は笑えねェな」
番外「ねぇってば」
一方「…しまった、どさくさに紛れて尻に触れるべきだったな…」
番外「いやだもう」
一方「…にしても、騒がしいところだな」
番外「垣根が言ってたじゃん、ここって観光地として有名だって」
一方「…これじゃゆっくりできねェな」
番外「…ねね、ミサカの浴衣姿はどう?」
腰をくねらせながら番外個体が尋ねる
一方「気持ち悪い動きすンじゃねェ」
番外「えぇ…なんか傷つくよ」
一方「…ンなことしなくても似合ってるンだからよ」
番外「うっわ、ここにきてツンデレ!?きもっ!!」
一方「てめェ、殴るぞ」
番外「人前で痛めつけるなんてなんてマニアックな趣味!?」
一方「今ちょっとカチンときた」
番外「…アナタは浴衣、似合うよね」
一方「…肌が白いからなァ」
番外「…よーし、じゃあ二人とも似合ってることだし、お祭りのど真ん中へ飛び込むか!!」
一方「…はァ?」
番外「盆踊り、参加するからね!!!」
一方「ふ、ふざけンな!!!」
削板「…あぁ、これが漢の浪漫だ!!!」
黒子「素敵ですの…」
二人は、男達が神輿を担いでいるところを見ていた
もちろん、まだ祭りの本番ではない
練習の段階で、あまり周りの人は注目していない
しかし、一度見てみれば分かるはずだ
その男達は、決して誰にも注目はされていない
周りではすでに屋台も組み立てられている
中にはもう商品を売り出している屋台もあるのだ
そのため、彼らに注目しているのは二人だけだった
おそらくはその男達だって、そんなことは分かっている
削板(それでも彼らは手を抜かない)
神輿の重さは相当なものだ
練習なら、担いだふりだけをしてみればいい
今から体力を使う必要はない
なのに
削板(そうだ…彼らは手を抜かない、きっと…きっと、本番で成功させるために!!!)
黒子(…努力を怠らない…素敵な精神ですの)
削板「…俺も担いでみたいな」
黒子「あら、飛び込み参加はいいと思いますの」
削板「そうなのかな?」
黒子「おそらくは」
削板「よーし、俺も参加させてくれ!!」
男達の中に飛び込んでいく削板
神輿を担いでいた男達は、笑顔で削板も迎える
黒子(ふふ…軍覇さんは本当に、熱い方ですの)
黒子(…ですが、それはとても心地いい熱さ…)
削板「おーい、黒子!!お前もやってみないか!?」
黒子「いえ、私は力不足ですから」
削板「そうか、じゃあそこから見守っててくれ!!!」
黒子「もちろんですの!」
汗水流す削板を見つめて、黒子が笑う
二人きりになる、という目的とは少し逸れているが
黒子(これもまた、私達の形ですわね)
眩しい夏の太陽は、そろそろ西へと傾き始めていた
エツァリ「・・・ショチトル、これからどうする」
ショチトル「そうだな・・・人混みの中は嫌いだ」
エツァリ「・・・いい加減、人混みに慣れたらどうだ」
二人がいるのは祭の屋台が並ぶ大通りを見下ろせる高台
花火を見るために用意されたのであろうその場所は、夕方の今はまだ賑わいはない
ショチトル「・・・嫌なものは嫌なんだ」
エツァリ「はぁ・・・無理に、とは言わないが・・・俺は祭を楽しみたいんだ」
ショチトル「・・・お前、昔はそんなにどんちゃん騒ぎ・・・好きじゃなかったよな」
エツァリ「ま、まぁ・・・変わったんだろう」
ショチトル「・・・私はお兄ちゃんと二人で静かに花火だけ見られればいいのに・・・」
エツァリ「ショチトル・・・」
ショチトル「なんてな、冗談だよ」
ケラケラと笑いながらショチトルがエツァリの肩を小突く
ショチトル「・・・私も屋台とか見て回りたいからな、まぁ人混みを避けながらだが」
エツァリ「・・・そうか」
ショチトル「・・・にしても、テクパトルが結婚だなんてな」
エツァリ「全く・・・」
人生ってのは分からないものだなぁ、とショチトルが呟く
かつてのテクパトルを知っている二人からすると、今の彼はあまりに変わっている
もちろんいいことなのだが、違和感を覚えることもたまにある
ショチトル「ほんの少し前までは愛情なんてくだらない、と鼻で笑っていただろうな」
エツァリ「・・・というか、正直彼が生きているとは思わなかったよ」
ショチトル「・・・ホント、人生は何が起きるか分からないな」
エツァリ「・・・幸せそうだった、本当に」
ショチトル「・・・あぁ」
自分達もいつか・・・そうは考えても、結局いつそうなれるかは分からないままだ
ショチトル「・・・まだしばらく、掛かるかな」
エツァリ「・・・そうかもしれないな」
ショチトル「お前は、美琴に未練とか無いのか?」
エツァリ「なんだいきなり」
ショチトル「・・・腹を割って話してくれ、お前の本当の気持ちが知りたいんだ」
エツァリ「・・・そうだな・・・彼女は確かに素敵な女性だ、それは今でもそう思うさ」
でも、とエツァリが続ける
エツァリ「・・・今は、お前が一番大切なんだ」
ショチトル「・・・本当に?」
エツァリ「あぁ・・・もしも世界にお前がいなかったら・・・俺は幸せになんてなれなかった」
自分を欲してくれる存在は、人生に於いて非常に重要だ
誰かが自分という存在を求めた時に、居場所という物が作られる
エツァリ「・・・感謝しているし・・・本当に満足している」
ショチトル「・・・私と出会えたことに、か?」
エツァリ「お前を愛せたことに・・・」
ショチトル「ふん、お前らしくもないまともなことを言うんだな」
エツァリ「・・・そうだな、こんなまっすぐな台詞・・・俺には似合わないか」
こんな台詞が似合うのは、きっと彼くらいだろう
そう思いながら、エツァリはショチトルの肩を抱き寄せる
ショチトル「・・・どうした?」
エツァリ「似合わないかもしれないが・・・だが、それでもこうしたい時があるものだ」
ショチトル「・・・勝手にしろ」
そっぽを向くショチトル
彼女の顔は、少し赤く染まっていた
上条「・・・人が多いな」
美琴「ホント・・・歩きにくくて仕方ないわ」
人混みを縫いながら、二人は屋台を回っていた
まだ祭は始まっていないのだが、屋台の中には既に営業を始めているものもある
稼ぐために必死だな、と上条は思っていた
美琴「・・・ちょっと、どこ見てるのよ」
上条「あぁ御免・・・屋台の人達も稼ぐために頑張ってるなってさ」
美琴「・・・ホントに?」
上条「いや・・・他に何があるんだよ」
美琴「・・・なんか向こうの浴衣の女の人見てた気がしたんだけど」
上条「み、見てない見てない!」
美琴「・・・まぁいいわよ」
上条(こんなに可愛い子が近くにいるのに目移りするわけないだろ・・・)
美琴「・・・何よ、ジロジロ見つめて」
上条「あぁいや・・・可愛いなと思って」
美琴「にゃっ!?」
上条「・・・なんか・・・ちょっとこう・・・」
手をワキワキと動かしながら上条が笑う
自然と顔が熱くなっていくのが分かる
上条「・・・こう、抱きしめたくなる可愛さってやつだな」
美琴「だ、抱きしめていいのよ・・・別に」
上条「さ、さすがに人前では・・・」
美琴「・・・そ、そうよね、あはは・・・」
何を言っているのだろうか
人前であることを気にしないで、あんなことを言うなんて
美琴(・・・アンタのせいなんだから)
自分が女の子になれるのは、上条の前だけだ
それ以外はなぜか肩肘張ってしまう
上条「・・・屋台は一応開いてるけど・・・やっぱり射的とか輪投げとかはまだだな」
美琴「ああいうのは暗くなって雰囲気が出てからじゃないと」
上条「そうだよな・・・でも今から何か食うのもな」
軽い物ならいいけど、と美琴も同意する
上条「・・・」
美琴「な、何よ・・・ホントにジロジロ見すぎ」
上条「・・・なぁ、人気ないとことか・・・行かない?」
美琴「ア・・・アンタ、何考えてんのよ!?」
上条「ち、違う違う!ちょっと抱きしめたいなぁと・・・」
美琴「だ・・・だからここでいいのよ」
ぎゅっと浴衣の裾を掴む
シワになっちゃう、と慌てて手を離すが
上条「じゃあ・・・失礼」
強く抱きしめられた瞬間にそんなことはどうでもよくなった
美琴「あ・・・つ、強く抱きしめすぎ」
上条「そう・・・かな」
回りの人達は二人に注目している
尤も、祭でカップルがいちゃつくことは珍しくもない
ただカップルの彼女が非常に整った顔立ちをしていたら話は別だ
羨ましそうな瞳で男達が上条を見つめている
美琴「・・・ねぇ、今日は・・・二人きりなんだね」
上条「あ、あぁ・・・二人きりだな」
美琴「・・・抱き合ったり・・・キスしたり出来るね」
上条「・・・いつもしてるじゃないか」
美琴「きょ・・・今日は二人きりなのね!」
上条「?あ、あぁ」
美琴「・・・鈍感」
上条「な、なんだよ・・・」
美琴「はぁ・・・二人きりってことに魅力感じないなんて・・・アンタ、一度垣根にメルヘンって物でも習いなさいよ」
上条「・・・なんで垣根が出てくるんだよ」
美琴「あ、もしかしてヤキモチ!?」
ニヤニヤとしながら美琴が上条の顔を覗き込む
上条「違うから!ほら、行くぞ!」
美琴「ひ、引っ張らないでよ!当麻ってば!」
垣根「はっくしょい!」
心理「ちょっと・・・大丈夫?」
垣根「あぁ悪い・・・誰かが噂でもしてんのかな」
心理「何非科学的なこと言ってるのよ・・・」
垣根「・・・にしても、こんな時間から屋台始めてるとこもあるんだな」
心理「そうね・・・少し早い気もするけど」
垣根「なんか食いたいものとかあるか?」
心理「私は特にないわ・・・あなたは?」
垣根「・・・綿菓子」
心理「綿菓子?あなたって結構子供っぽいのね」
垣根「んなこと知ってただろ」
言いながら、垣根が綿菓子の屋台を探す
しかしいくら辺りを見回しても、あるのは「軽食」の屋台だ
お菓子を売っていそうな屋台は見つからない
垣根「・・・まだ売りはじめてねぇみたいだ」
心理「後で買いましょう」
垣根「あぁ・・・そうだな」
ため息をついてから、垣根が近くにあったベンチに座る
心理「・・・ねぇ、二人きりっていいわよね」
垣根「あぁ、いいな・・・なんていうかさ、二人だけの世界がそこに生まれる感じがするよな」
心理「中々分かってるじゃない」
垣根「いつもは他人が周りにいるからこそ・・・二人きりという、他人の混じらない時間はより距離を縮めるもんだ」
心理「・・・あなたって、ホントに女心が分かってるわね」
垣根「どういたしまして」
心理「・・・ねぇ、だったら今私が何をして欲しいか・・・当ててみて」
垣根「・・・」
答えを口には出さず、その代わり垣根は心理定規の唇を奪った
少し嬉しそうに細まった心理定規の瞳が見える
吸い込まれそうな、美しい黒の瞳だ
垣根(・・・俺が映ってる)
自分だけが、彼女の瞳の中心にいる
優越感や幸福感が、体中を駆け巡るのが分かる
垣根(重症だな、こりゃ)
心理「・・・はぁ」
唇を放した心理定規が、息を吸い込む
心理「・・・よく分かったわね、あなたって女心をよく分かってるわ」
垣根「女心が、じゃなくてお前が思うことが・・・だけどな」
心理「・・・素敵」
垣根「どういたしまして」
足をプラプラとさせながら、垣根が空を見上げる
太陽はそろそろ西に沈もうかという頃だ
垣根「もう少しだな」
心理「えぇ・・・大通りに向かう?」
垣根「嫌じゃないか?」
心理「あなたと一緒ならどこでもいいわよ」
垣根「じゃあ・・・行こうか」
ベンチから立ち上がった垣根が心理定規の前にそっと掌を差し出す
垣根「エスコートは必要かな」
心理「ふふ・・・よくお分かり」
19090「・・・テっくん、これからどうしますか?」
とうとう、陽が完全に沈んだ
それを待っていたかのように屋台が明かりをつけはじめる
キラキラと輝くその明かりはまるで星にも見えた
テクパトル「そうだな・・・どうしようかな」
19090「美月は・・・そうですね、林檎飴が食べたいです!」
テクパトル「俺もまずは林檎飴かな」
好物の林檎飴を探して、テクパトルと19090号は歩き出す
周りのカップル達と自分達には、少し・・・しかし、大きな違いがある
テクパトル(夫婦・・・か)
それを考える度に、胸が高鳴る
テクパトル「美月、幸せだな」
19090「はい!」
彼女の眩しい笑顔を守りたい、とテクパトルは思っていた
そして今も思っている
テクパトル「・・・アクセサリーとか売ってないかな」
19090「お揃いの物を買いましょうね」
テクパトル「あぁ」
笑顔で会話を交わしながら、二人は林檎飴の屋台を探す
19090「あ、見つけました!」
テクパトル「ホントだ・・・意外と近くにあったんだな」
屋台には既に客が並んでいる
最後尾に並んだ二人
その何組か前には見覚えのあるカップルがいる
テクパトル(・・・削板と白井か)
話し掛けよう、なんてことは思わなかった
今は二人きりの時間を楽しみたかった
19090「テっくん、手を繋いでもいいですか?」
テクパトル「もちろん」
強く握られた自分の掌に目を落とす
テクパトル(これからはずっと)
手を握り合って生きていけるんだな、と思いながら
上条「…始まった」
祭りが始まるのは、何も「今から祭りを始めます!」というアナウンスがあるわけではない
ただ、周りの屋台に一斉に灯りがついて、なおかつどこからともなく盆踊りの音楽が聞こえてきたら始まり、といった感じなのだ
美琴「…なんか、ドキドキしてきた」
上条「…学園都市ではあんまりお祭りとかないからな」
美琴「そうね…ね、何から食べる?」
上条「…そうだな、まずは焼きそばかな」
美琴「…じゃあ、あそこで買いましょう」
焼きそばの屋台に並んだ二人は、ふと店員の顔を見る
上条「…」
さだのり「はいはい、一つ100円だからなー」
美琴(…なんなのあの人)
さだのり「はい次のお客さん…ってあれ?」
上条「…焼きそば一つ」
さだのり「あれ?」
上条「100円なんですよね、はい」
さだのり「あれ?」
上条「あぁうっとうしい!!!なんだよ、俺達だよ文句あるか!?」
さだのり「…な、なんで浴衣なんか着てエンジョイ…」
美琴「せっかくカップルで祭りに来たんだから…当たり前じゃない」
さだのり「これが…カップルか」
ちくしょう死ねよ、と悪態をつきながら店員が焼きそばを差し出す
さだのり「はい、100万円」
美琴「100円なんて安いわね」
さだのり「…あれ?」
上条「じゃあ、とりあえずそこらへんに座って食べるか」
祭りの客用に仮設されたベンチ
そこに座って、熱い焼きそばを頬張る
美琴「んーー!!やっぱり祭りで食べると違うわね!!!」
上条「はぁ…なんかさ、この盆踊りの音楽聞いてると落ち着くなぁ…」
美琴「日本人の心って感じよね…」
番外「あ、そーれ!!あ、そーれ!!!」
一方「なンで俺が踊らなきゃならねェンだよ…」
上条「…見なかったことにしよう」
美琴「そうね、それがいいわ」モグモグ
560 : VIPに... - 2012/03/13 22:35:13.06 RI0n+B9Fo 462/823乙乙
一瞬
一方「あ、そーれ!!あ、そーれ!!!」
に見えて吹いたwww
>>560に答えて
上条「…な、なんなんだ…」
美琴「…た、楽しんでるわね」
上条「まぁ、番外個体は微笑ましいな…一方通行は似合わないけど」
番外「ねぇねぇ、あなたもやってよ!!」
一方「あァ?なンで俺まで…」
番外「適当に腕振るだけとか…ロリががっかりするよ」
一方「…」ピクッ
番外「あれ、知らないの?ロリの夢ってお父さんとのお遊戯だよ?」プププ
一方「…仕方ねェな」
一方「あ、そーれ!!あ、そーれ!!!」
一方「あァ?結構楽しいじゃねェか」
番外「でしょでしょ!?」
一方「あ、そーれ!あ、そーれ!!!」
一方「ヨヨイのヨイ!!!」
一方「あァ、いい汗かくゥ」
上条・美琴(な、何してるんだアイツ…)プププ
削板「わっしょい!」
黒子「わっしょい!」
二人は、神輿を担ぐ集団の中にいた
周りには屈強な男達がいる
しかし、二人の情熱は彼等のそれに負けてはいない
祭の醍醐味とも言える神輿を見るために、たくさんの観光客が大通りに集まっていた
削板「いやぁ、楽しいな!」
黒子「・・・中々重いですの」
削板「ははは!祭を盛り上げよう!」
掛け声を掛けながら二人は練り歩く
どこからか聞こえる太鼓や笛の音
それに合わせて神輿を上下させる
黒子「・・・軍覇さん、このあとはどうされますの?」
削板「そうだな・・・黒子は屋台とか回りたいのか?」
黒子「ぐ、軍覇さんとならなんでもいいですの」
削板「ははは!それは嬉しいな!」
笑いながら、削板が黒子の頭を撫でる
片手で神輿を担ぐのは非常に危険だが、彼の根性の前では神輿の重さなどなんということはない
彼一人でも持ち上げられそうなものだ
黒子「ひ、人が見ていますから・・・」
削板「黒子はあんまり人前で撫でられるのは嫌か?」
黒子「い、嫌ではありませんの!」
大声を出した黒子の方に、一気に男達が注目する
あんな大きな掛け声の中でも女性の高い声はよく通るようだ
「ははは!姉ちゃん、若いなぁ!」
「俺なんかいっつも母ちゃんに手を引っ張られてるよ!」
「俺は尻に敷かれてるな!」
「姉ちゃんみたいな可愛い子がいたら、さぞかし満足だろうな!」
黒子「そ、そんなことは・・・」
削板「もちろん!黒子がいれば何もいらない!」
「よっ、兄ちゃん威勢がいいな!」
「最近の若いのにも根性があるヤツはいるんだなぁ!」
削板「当たり前だ!俺は愛と根性の男だからなぁ!」
「よーし、若い二人の今後の幸せを願って!」
「もう一練り歩き、行くか!」
一同「おー!」
削板「ははは!まだ当分二人きりにはなれそうにないな!」
黒子「ふふ・・・そうですわね」
黒子が苦笑しながら、削板の顔を見つめる
彼の楽しそうな顔が見られるなら、少しくらい二人きりじゃない時間があってもいいかもしれない
エツァリ「・・・ショチトル、随分楽しんでるな」
ショチトル「ふぁっふぇ、ふぉんふぁふぃふぉふぃふぃふぃふぉふぉふぁ」
エツァリ「分かったから、とりあえず口の中のタコ焼きを飲み込め」
ゴクン、と喉を鳴らしたショチトルがもう一度エツァリに答える
ショチトル「だってこんなに美味しいものがあるんだぞ!?これを食べないなんてもったいない、人生の多くを無駄にしてしまう!」
エツァリ「・・・さっきまで人混みが嫌だと言っていたくせに」
ショチトル「・・・なんだよ、私とデートは嫌だって?」
エツァリ「だ、誰もそんなことは言っていない」
ショチトル「・・・ほら、タコ焼き」
爪楊枝に刺したタコ焼きを差し出すショチトル
エツァリ「はぁ・・・」
ぱくっとくわえるエツァリ
たしかにタコ焼きは美味しい
お祭りで食べている、というだけで美味しさは二倍にも三倍にも膨れ上がる
まして好きな人にあーん、としてもらえたのだからその美味しさは格別だ
エツァリ「・・・美味しいもんだな」
ショチトル「ふふん!いまさらこの美味しさが分かったか!」
エツァリ「・・・でも俺は焼きそばのほうが」
ショチトル「焼きそば!?分かってないな、あんなものはおやつだ!」
エツァリ「タコ焼きもおやつだ」
ショチトル「あ、あっちに射的あるからやろう」
エツァリ「話を逸らすな・・・まぁいいか」
トコトコ、と射的の屋台に向かう
段に並べられた様々な商品
それを見事倒すことが出来れば獲得出来る
シンプルながら盛り上がる屋台だ
ショチトル「一回200円・・・か」
エツァリ「やってみるか」
ショチトル「狙うはあの仮面ライダーのお面だ!」
エツァリ「・・・お前は仮面ライダーにハマったな」
ショチトル「・・・駄目でしたー」
エツァリ「・・・なぜ当たらないんだ?」
ショチトル「お前もやれば分かる!なんか知らないけど照準が定まらないんだよ!」
エツァリ「そんなわけないだろ・・・」
200円支払い、エツァリが射的を始める
だが中々どうして、上手く商品には当たらない
エツァリ「な・・・なぜだ?」
ショチトル「ははは!お前だって当たらないじゃないか!」
エツァリ「くっ・・・こうなったらどっちが先に当てられるかやってみるか!?」
ショチトル「よしきた、やってやんよ!」
火花を散らす二人
その反対側の屋台では偶然にも、別のカップルが輪投げをしていた
19090「あう・・・また外れました」
テクパトル「・・・もう諦めたらどうだ?」
19090「ま、まだ・・・あと一回だけ!」
テクパトル「・・・」
19090号が狙っているのはゲコ太の人形だ
そしてその人形の周りにはたくさんの輪っかが落ちている
つまり、それだけ外しているということだ
19090「・・・狙いを定めて・・・」
えいっ!という可愛い掛け声と共に19090号が輪っかを投げる
だがやはりそれも外れてしまう
19090「・・・狙いは悪くないはずなんですが・・・」
テクパトル「力が入りすぎてるんじゃないか?」
19090「だ、だってあのデザインの人形は初めて見ました!是非とも欲しいんです!」
テクパトル「・・・はぁ」
テクパトルが気まずそうに頭を掻く
まだそれほど客は並んでいないが、それでも自分達以外の客もいる
その客たちと同時に輪投げをしているのだが、いつまでも屯しているわけにはいかない
何よりゲコ太の人形を必死に欲しがるほど幼くはない二人だ
周りの客の、些か苦笑にも見える笑顔が辛い
テクパトル「・・・おじちゃん、一回やるよ」
「はいよ、彼女のために頑張りな」
19090「彼女じゃないです、奥さんです!」
「ははは、そうかいそうかい」
屋台のおじさんは冗談だと思っているのだろう
だがしかし、それは一応事実だ
テクパトル「・・・」
輪っかを受け取ったテクパトルが目を細める
彼は別に輪投げなんて興味ない
他の景品もよく分からない人形やストラップばかりだ
中にはキャラメルなんかもあるが、やはりそれも彼には必要ない
テクパトル(・・・だとすれば、俺が見るべきはあのゲコ太の人形だけだ)
周りの邪魔な物を視界には入れない
入れる必要もない
ゲコ太の人形と一対一
手に握った輪っかは全部で五つ
テクパトル「・・・」
一つ目を無言で投げる
惜しくも、あと数センチというところで外れる
19090「あ・・・惜しい・・・」
テクパトル(・・・笑ってやがる)
ゲコ太の人形が、笑っている
ニコリと釣り上がった口角
子供達を虜にする可愛らしい笑顔
だが、今のテクパトルにとってそれは嘲笑の表情に見えた
「掛かって来いよ」
まるでゲコ太はそう言っているかのようだ
テクパトル「・・・」
二つ目は、軽くゲコ太の服を掠る
19090「!こ、この距離で当てるなんて・・・」
テクパトル(乱数調整だ)
風はない
腕の振り、力の入れ方は一定にしている
目視での距離確認は完璧
後は実際に投げて細かい誤差を修正するだけだった
そして今までの二回の投擲
それで誤差は修正される
テクパトル「・・・」
三つ目の輪っかが、ゲコ太の体を捉えた
綺麗に頭から嵌まった輪っかは、ゲコ太獲得の印
19090「や・・・やったぁ!」
テクパトル「・・・ざっとこんなもんかな」
19090「ありがとうございます、テっくん!」
テクパトル「あ、あぁ」
19090号のあまりの喜び様にテクパトルが少し面食らう
テクパトル(そんなに欲しかったのか・・・)
19090「♪」
テクパトル「・・・じゃ、次は林檎飴でも買うか」
19090「はい!」
一方「…あァ、疲れた」
番外「はぁ・・・盆踊りってずーっと踊ってるもんなんだね」
一方「ンなわけあるか…時々休憩も挟むだろォが」
番外「あ、そうだね」
一方「…これからどォすンだよ、てめェが盆踊りに夢中だったせいで何も考えられなかったじゃねェか」
番外「アナタだってめちゃくちゃ楽しんでたじゃんか!!!」
一方「…うるせェな」
番外「ほーら、強く言い返せない!!ミサカだけの責任じゃないしぃ!!!」
一方「…で、これからどォする」
番外「そうだね…」
祭りはまだ始まって20分ほどだ
長く踊っているつもりだったのだが、そうでもなかったようだ
一方「…とりあえず屋台回るか」
番外「えー、ベタだなぁ」
一方「なら他に何があるンだよ」
番外「分かった分かった、ミサカの母性に溺れたいんだね」
一方「言ってねェ」
番外「さーて!!じゃあまずは型抜きでもしますか!」
一方「…なンでそれが一番最初なンだよ」
番外「だって勝負出来るじゃん!」
一方「…なンだそれ」
番外「アナタとどっちが勝つか対決するんだからね!!」フフン
一方「…くだらねェ…」
型抜きの屋台に並んだ二人は、前の客の動きを確かめる
一方(…あの枠線通りに型を抜けばいいのか)
番外(ま、ミサカは余裕勝ちだね)
一方(…)
一方通行はあまり娯楽には詳しくない
おそらく、型抜きなんてしたことがないだろう
一方(だが見たところ…あれは力の入れ具合の問題だ)
力量のベクトルを読み、その細かい調整を行う
彼にとっては朝飯前だ
一方「…負けたら三べン回ってワンな」
番外「よーし、乗った!!」
一方「…」
目の前にあるのは、崩れやすい飴
力の加減を間違えれば、すぐに壊れてしまう
一方(…ここには力を入れるな)
ベクトル、というのは物の力に関しても深い関わりがある
つまり、一方通行にとってこの種目はかなり簡単な部類だ
一方「はン、こンなもンミスるわけ…」
番外「どぅわぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」
一方「」ビクッ
パキッ
一方「あァァァァァァ!?てめェ、何いきなり大声出してンだよ!?壊れたじゃねェか!!!」
番外「だってミサカも失敗したしぃ!!!」
一方「ふざけンな、こっちは今までノーミスだったンだよ!!」
番外「へ、へぇ…でもまぁ、壊したんだから今のは引き分けだね」
一方「ちっ…今度大声出したらその口縫ってやるからな」
番外「…よし、次こそ真剣勝負だ!!!」
一方「…」
番外「あ、そーれ!!!」
一方「だから大声出すンじゃねェ!!!!!!」
番外「もう、アナタもへたくそじゃん」
一方「…どこかの誰かが馬鹿みたいに大声出したせいだ」
二人の目の前には無残に砕けた飴が数個
番外「…ちぇー、お金の無駄だったね」
一方「…時間の無駄でもあったなァ」
番外「そう?ミサカは結構楽しかったけどな」ケラケラ
一方「…そォかよ」
ふん、と息を吐いてから一方通行が空を見上げる
もう太陽は沈んでいるはずなのに、まだ空は薄明かりが灯っている
どこからその灯りが漏れているのか、一方通行には分からないが
一方「…花火まではまだ時間がありそォだな」
番外「そうだね…とりあえず、他の屋台も回ってみる?」
一方「…あァ」
現代的なデザインの杖を突きながら歩く一方通行
本当は一応、普通に歩けるまでは回復しているのだが
一方(…このハンデは、こいつらを背負っていくうえで必要だからな)
番外「?どしたの?」
一方「なンでもねェよ…」
一方(…つゥか人混みの中って歩きにくいもンだな…)
垣根「・・・あちこちにカップルがいるな」
心理「お祭りですもの、当たり前よ」
手を繋ぎながら歩く二人
途中、盆踊りを踊る一方通行を見て死ぬほど笑った
それに屋台で焼きそばとタコ焼きを買った
垣根「・・・だがまだまだ!まだ18時だ、花火まであと2時間!」
心理「そうね・・・金魚すくいでもしてみる?」
垣根「おう、そうするか」
金魚すくいの屋台にたどり着いた二人
すると、垣根が別の屋台を見つけた
垣根「あ、かき氷!」
心理「・・・あなた、食べたいの?」
垣根「あれ、お前ってかき氷嫌いだったっけ?」
心理「嫌いじゃないわよ・・・特別好きでもないけど」
垣根「お前の分も買ってくるからさ!」
心理「ちょっと、金魚すくいは?」
垣根「かき氷買ったらするって!何味がいい?」
心理「・・・イチゴ」
垣根「了解!」
嬉しそうに駆けていく垣根
その背中を見て、心理定規が苦笑する
心理(まだまだ子供ね)
そういう少年っぽいところも好きなのだが
心理「さて・・・」
金魚すくいを始めようか、と前を見た心理定規
その肩を誰かがトントン、と叩いた
心理「?」
「よー、お姉さんもしかして一人ー?」
ニヤニヤと笑いながら話し掛けてきたのは、あまり冴えない感じの若者だ
髪の毛を染めて、ピアスを付けている
学園都市の中にいたら明らかに「スキルアウト」と言われそうなタイプの人間だ
心理「だったら?」
「俺達と一緒に遊ぼうよー!」
心理「・・・」
その若者の後ろには何人かの男と、若い女が二人
いかにも遊んでいます、といったオーラが出ている
心理「・・・お断りするわ」
「あぁ?なんでだよ、一人で寂しいだろぉ?」
心理「寂しくないわよ、あなたみたいなのに哀れまれたほうがよっぽど惨め」
「こっ・・・このガキ、こっちが下手に出てたら・・・!」
ガッ、と肩を強く捕まれる
周りの客達は見て見ぬ振りだ
それはまぁ、こんな面倒なのとは関わりたくないだろう
心理(はぁ・・・面倒だけど能力・・・)
垣根「・・・見ちゃった見ちゃった、見ちゃったよん」
「あぁ?」
心理「あら垣根、もうかき氷買ってきたの?」
垣根「シロップ多めにしてもらえた!」
見て見て!とかき氷を自慢する垣根
だが、その手に握られたかき氷を若者が手で払う
垣根「」
「お前、こいつの知り合いか?」
垣根「か・・・」
「だったらちょうどいいや、この子貰うからそこんとこよろしくねー!」
ぎゃはは!と笑う若者達
だがその言葉は、垣根の耳には入っていない
かき氷が地面に落ちた
優しい屋台のおじちゃんが「シロップ多めにしといてやるよ、あんちゃん」と渡してくれたかき氷が
心理定規に喜んでもらおうと急いで運んできたかき氷が
垣根「・・・」
「なんとか言えよ・・・」
垣根「ナメてやがるな」
「あぁ?」
垣根「よほど愉快な死体になりてえとみえる」
若者の肩を掴み、垣根が睨みつける
「な、なんだよ・・・やろうってのか!?」
垣根「・・・俺はな、別に心理定規に声を掛けられたことにムカついてんじゃねぇ」
心理(あ、違うのね)
垣根「・・・かき氷を無駄にされたことがムカつくんだ、一つ200円、二つでいくらか分かるか」
「な、なに・・・」
垣根「いくらでしょうか」
若者の足の甲を踵で踏み付け、垣根が尋ねる
「い、いてぇ!何しやがる・・・」
垣根「いくらか聞いてんだよ三下」
「400円だろ、それがなんだよ!」
垣根「400円だ・・・てめぇ、400円払えよ」
「だからなんで・・・」
垣根「あぁ、無理なら構わねぇ・・・その代わり、10分400円のバイトしてくれ」
「は・・・」
若者が首を傾げた
それと同時に、突然体が宙を舞った
「ごぶぅ!」
垣根「かき氷はな・・・日本人の心なんだよ、シャリシャリした食感、頂上に掛かった甘いシロップ!それはまるで冬の訪れを知らせる初雪の富士山!」
垣根「溶かして食べるもよし、一気に食べて頭の痛みを楽しむもよし!てめぇはそんなかき氷を叩きつけやがった!どこにかって?地面にだよ!」
「て、てめぇ・・・調子乗るな・・・」
垣根「お前達・・・祭をナンパの道具にしてんじゃねぇよ!自分達がブサイクだからって雰囲気で女誘ってんじゃねぇ!」
「お、お前だって・・・」
ブサイク、と言おうとした若者の口が止まる
よくよく見れば、垣根はかなりのイケメンだ
街の女の子に「この男性をイケメンと思いますか」と言いながら垣根の写真を見せれば、全員が「メルヘン」と答えるだろう
それくらいメルヘンなのだ
そして、そんな垣根の彼女である心理定規もまた美人だ
かなりの美人だ
「・・・お、俺が悪かった・・・」
垣根「400円」
「・・・」
ブルブル、と震えながら若者が500円玉を差し出す
垣根「ちっ・・・さっさと失せろ」
「あ、あの・・・お釣りは」
垣根「あるわけねぇだろうが!」
「ひっ!」
恐れをなした若者達が、走って逃げていく
心理「ちょっと、怒りすぎ」
垣根「・・・お前をナンパしようなんてな、ムカつくんだよ」
心理「あら、それには怒ってないんじゃなかったの?」
垣根「お、怒ってねぇし!ちょっとムカついただけだし!」
心理(可愛いわね)
垣根「・・・まぁいいや、500円貰ったしもう一回かき氷買ってくる!」
心理「はぁ・・・行ってらっしゃい」
嬉しそうに駆けていく垣根の背中を見つめながら、心理定規は苦笑していた
心理(あれ・・・デジャヴュ)
上条(私、上条当麻は不幸な少年…でしたが)
美琴「ねぇ、次はあっちの屋台行きたい!!」グイグイ
上条(とうとう、その不幸ともおさらばした気になってしまいますよ!!)
グイグイと上条の手を引っ張る美琴
彼女が目指しているのは、輪投げの屋台だ
上条「…輪投げか、運はあんまり関係ないし…」
美琴「ふふん、私が絶対に勝つんだから!!」
上条「…勝つ?」
美琴「…勝負よ勝負!!!私と!!!」
上条「あのー…カップルで勝負なんてする必要ないんじゃないでせうか?」
美琴「…だってさ、そうでもしないと盛り上がらないでしょ!?」
上条「分かった分かった…で、欲しい景品とかあるのか?」
美琴「私は…あっ」
19090「♪」
テクパトル「よかったな、ゲコ太が手に入って」
19090「はい!!」
美琴「ゲ…ゲコ太の人形…」ジーッ
上条(…目が…マジですよ、美琴さん)
美琴「ね、ねぇ!!」
テクパトル「ん…?なんだ、義姉さんか」
19090「お二人も楽しんでますか?」
上条「あぁ…」
浴衣に団扇、というテクパトルの服装を見て上条がふと思う
上条(…こいつ、酒持ってたら完璧に飲んだくれのオッサンだな)
テクパトル(…どうせ飲んだくれのオッサンっぽいとか思ってるんだろうな)
美琴「そ…そのゲコ太の人形、どこで手に入れたの!?」
19090「あっちの輪投げにありましたよ」
美琴「!!まだあった!?」
テクパトル「あぁ、いくつかあったはずだが」
美琴「よし、当麻行くわよ!!!」
上条「ま、待った待った!!あの人形ならどっかで売ってるかも…」
美琴「あれは非売品よ、私の知識をナメないで!!!」
上条「えぇぇぇぇぇ!?」
テクパトル「上条…仕方ないんだ、それがミサカだ」
上条「えぇぇぇぇぇぇ!?」
19090「ふふん、美月はテっくんに取ってもらいましたから」
ぎゅっとテクパトルの腕にしがみつき、「羨ましいですかー」という呪詛を送る19090号
美琴「か、彼氏に取ってもらうなんてオマケ付き!?」
19090「むむ、旦那様です!!」
テクパトル「…あのな義姉さん、今行けば多分…」
美琴「当麻、私のために取ってよ!!!」
上条「いやいや!!ちょっと待って、俺そんなに輪投げ得意じゃ…」
美琴「取るまでずっとやらせるからね!!!」
上条「はぃぃぃぃ!?」
テクパトル「…上条、義姉さんのためだ…」
19090「…お義兄様、頑張ってください!!!!」
上条「…美琴、お金は持ってるだろうな…」
美琴「ねぇ、テクパトルが払ったの?」
テクパトル「当たり前だろ」
美琴「当麻、払ってちょうだい!!!」
上条「なんでそこで対抗意識を燃やしちゃうかなぁ!?」
19090「お義兄様、頑張ってください!!!!」
上条「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
美琴「…よし、まだ残ってるわね!!!」
輪投げの景品の中には、しっかりゲコ太人形が残っている
上条「…マジで俺が取るんですか…」
美琴「…当麻に…取ってほしかったのになぁ…」シュン
上条「そ、そんな演技…」
美琴「当麻に…取ってほしいなぁ」ウワメヅカイ
上条「よーし、やってやるから見てろよな!!!」
美琴「やったぁ!!」
料金を払い、輪っかを受け取る
上条(落ち着け…一回で上手くいくほうがおかしいんだ)
そんなことを考えながら、輪っかを放る
それは、ゲコ太人形の体を見事捉えた
上条「…あ、あれ?」
美琴「や…やったぁ!!一発よ、すごいじゃない!!!」
上条「あ…あぁ…」
上条(でもなんか…ちょっと負けた感じがするよ、何かに…)
上条「…よかったな、ゲコ太人形貰えて」
美琴「うん!!」
ニコニコ笑いながら、美琴がゲコ太人形を抱える
ちょうど胸に抱ける程度の大きさの人形だ
上条(羨ましいぞゲコ太…)
美琴「あ、ダメ!!ゲコ太は私のだからね!!!」
上条「あ、いや…」
じっと見つめていたのはそういう理由ではないのだが
上条「…そうだ、これからまた何するか考えないとな」
美琴「うーん…射的でもやってみる?」
上条「お、定番だな」
美琴「私もあれ、あんまりやったことないのよね」
上条「よーし、じゃあどっちが多く景品取れるか勝負してみますか!!!」
美琴「いいわよ!!負けないんだからね!」
射的の屋台に駆けていく二人
そんな二人は知らない
少し前まで、その屋台でとある二人のアステカ人が名勝負を繰り広げていたことを
エツァリ「…ふん、ショチトルも下手なままだな」
ショチトル「…お前こそ」
上条と美琴が射的の屋台にたどり着く数分前
片手に射的用の銃を持った二人は正面から睨み合っていた
エツァリ「…とりあえず、引き分けということでいいか」
ショチトル「…構わない」
狙っていた的の周りには無数の弾
どれもが外れていた
エツァリ(…通常の銃とは使い勝手が違ったか)
ショチトル(ちっ、私のハートを射止めたエツァリでも的は射てなかったか)
エツァリ「…それはそうと、これからどうする」
ショチトル「せっかくだし、向こうの太鼓を聞きに行きたい」
エツァリ「太鼓?」
首を傾げたエツァリ
その耳に、確かにどこからか太鼓の音色が飛び込んでくる
エツァリ「…中々風情があるな」
ショチトル「どんちゃん騒ぎということさ」
エツァリ「・・・太鼓か、見て楽しいものなのか?」
ショチトル「男達が太鼓を叩く・・・それは日本男児のあるべき姿ではないだろうか」
エツァリ「いや・・・日本男児は太鼓を叩かなきゃいけないのか?」
ショチトル「とにかく、見に行くぞ」
手を引かれるまま、エツァリが太鼓の元へと向かう
そこでは
削板「はっ!はっ!」
黒子「中々・・・難しいですの!」
二人の友人が太鼓を叩いていた
エツァリ「・・・何やってるんだあの二人・・・」
ショチトル「・・・削板はともかく、黒子まであんなことをするなんてな」
削板「ふぅ・・・いい汗かいたな!」
黒子「楽しいものですわね・・・次は盆踊りに行きましょう!」
削板「お、いいアイディアだな!」
ショチトル「おーい、二人とも」
黒子「?あら、ショチトルとエツァリさん」
削板「お前達も太鼓を叩きに来たのか!?」
エツァリ「あ、いえ・・・」
ショチトル「太鼓を間近で見てみたくてな」
黒子「なるほど・・・どうでした、私達の太鼓は」
ショチトル「なんというか・・・魂が篭っていたよ」
削板「ははは!嬉しいこと言ってくれるじゃないか!」
エツァリ「・・・あの、お二人はずっと太鼓を叩かれていたのですか?」
黒子「まさか・・・太鼓は先程からですの」
エツァリ(よかった・・・流石にずっと太鼓をしているわけじゃ)
削板「さっきは神輿を担いでたんだ!」
黒子「あちらもかなり面白かったですの」
エツァリ(やっぱりこの二人は根本的に間違ってる・・・)
ショチトル「だがずっと参加するのは大変だろ、屋台なんか回ってみたらどうだ」
エツァリ「そ、その通りですよ!」
削板「うーん・・・屋台って何があった?」
ショチトル「いや、それを見るのも楽しみだからな、内緒だよ」
黒子「・・・では少しだけ回ってみますの」
削板「お前達も一緒に回るか?」
エツァリ「いえ、自分達はお邪魔になりそうですから」
クスクスと笑いながらエツァリが答える
花火が始まるまでは、カップル二人きりでいたいものだ
わざわざ友達と回り続ける必要はない
黒子「では・・・行きましょうか、軍覇さん」
削板「じゃあ二人とも、また花火が始まってからな!」
ショチトル「黒子、削板がはぐれないように見張っとけよ」
黒子「ショチトルこそ、エツァリさんが他の女性にちょっかいを出さないように見張っていて下さいな」
ショチトル「ふん・・・じゃあまた後でな」
黒子「えぇ」
手を振って、二組のカップルが分かれる
エツァリ(・・・俺は常に変態でいると思われているのか、心外だな・・・)
エツァリ(あ、あの人おっぱい大きいな)
テクパトル「…義姉さんたちは今頃輪投げで楽しんでるだろうな」
19090「そうですね…」
林檎飴を頬張る二人は、遠巻きから盆踊りを見ていた
テクパトル「…なぁ、美月」
19090「はい、なんですか?」
テクパトル「…盆踊りって、なんで盆踊りって言うのかな」
19090「多分…本来は盆のあたりに踊っていたのではないですか?」
テクパトル「…でもさ、盆に踊る必要ないだろ?」
19090「あ、それもそうですね…」
テクパトル「…盆踊り…か」
うーん、と唸りながらテクパトルがしばし考える仕草を見せる
やがて、ゆっくりと立ち上がり盆踊りの列へ向かう
19090「あ、踊るんですか?」
テクパトル「おう、お前も踊るか?」
19090「はい!!」
テクパトル「あ、そーれ…あ、そーれ」
19090「あ、そーれ!!あ、そーれ!!!」
テクパトル「…なぁ、俺はなんでこんなことしてるんだろ…」
19090「?楽しくないですか?」
テクパトル「あ、いや…楽しいけどさ」
盆踊りの列の中で、テクパトルはため息をついていた
テクパトル(…なんか…恥ずかしい)
19090「よよいのよい!!」パンッ!
テクパトル「…手を叩くタイミングとかあるんだな」
19090「?ないですよ?」
テクパトル「ないのかよ」
19090「楽しめればいいんです、盆踊りは!!!」
テクパトル「…楽しむ…かぁ」
周りの客たちはみんなたしかに楽しんでいるように見える
テクパトル「…そうだな、踊る阿呆にならなきゃな…」
テクパトル「よよいのよい!!!」
一方「あァ?何してンだお前」
テクパトル「」
番外「あれれ、お二人さんも盆踊り?」
19090「…お二人もですか?」
一方「…いや、さっきまでは踊ってたンだけどなァ」
テクパトル「な…なんでお前たちがいるんだよ!?」
一方「だからさっきまで踊ってたンだって」
番外「しっかし…へぇ、テクパトルも踊るもんだねぇ」ニヤニヤ
テクパトル「こ、これは…ほら、美月のために!!」
19090「ですが…テっくんも結構楽しんでましたよね?」
テクパトル「おうっ!?」
一方「はン、俺たちの中で一番の年長者がこれじゃな」
番外「全く、情けないね」
テクパトル「…み、みんなだって踊ってるし」
一方「あ、そーれ…とかよく言えるよなァ」ゲラゲラ
番外(アナタだって言ってたけどね)
テクパトル「…こ、これは…」
テクパトル「そ、それより一緒に踊りましょ!!!」
一方「ふざけンな」
テクパトル「…はぁ、せっかく二人きりだったのにな」
19090「でもいいじゃないですか、こうやって四人で踊れるんですから」
一方「…また俺も踊るのか」
番外「あ、そーれ!!」
二人のミサカと一人のアステカ人、一人の怪物が盆踊りを踊っている
彼らを知っている人からすれば、シュールすぎる光景だ
一方「…番外個体、あンま大声出すな」
番外「あれ、さっきはアナタも大声出してたじゃん」
一方「…」
テクパトル「こうなりゃ自棄だ!!!」
19090「おー!!!」
テクパトル「あ、そーれ!!!」
19090「あ、そーれ!!!」
番外「はい、ここで手を叩いて!!!」
テクパトル「よよいのよい!!!」
一方「…」
番外「ほら、アナタも!!!」
一方「…」
一方「よよいのよい…」
垣根「…世界はー広いなー大きいなー!!」
心理「…ねぇ、かき氷ってどうしてこんなに懐かしい感じがするのかしらね」
垣根「そうだなぁ」
先がスプーンのようになっているストローを使いながら二人がかき氷を頬張る
心理「…それ、メロン味?」
垣根「いや、青汁」
心理「…あなたって昔から青汁よく飲むわよね」
垣根「健康的だろ」
心理「…そうね、でも青汁ってかき氷には合わないわよ」
垣根「…お前のはイチゴだよなぁ…」
心理「…あげないわよ」
垣根「あぁ、心理定規は優しいなぁ!!!」
心理「あげないわよ」
垣根「あーん!!!」
心理「あげないってば」
垣根「あーん、あーん!!!」
心理「…」
心理「あーん…」カァッ
垣根(へっ、おちたな)
垣根「…いやぁ、かき氷ってほっこりするよな」
心理「…屋台で買うのと自分で作るのではやっぱり何かが違うわね」
垣根「だよな、雰囲気が大切だ」
心理「…あ、あっちにフランクフルトがある」
垣根「…フランクフルト…?」
心理「えぇ、あなたも食べたくない?」
垣根(…あれを心理定規が咥えるのか…)
心理「んっ…大きいわね…」
心理「は、入らない…」
心理「くふっ…んっ…」
垣根(お、おぉ…)
心理「ねぇ、聞いてる?」
垣根「なぁ、心理定規」
心理「なに?」
垣根「俺は、お前が嫌なら無理にとは言わないからな」
心理「?」
垣根「…あ、やべぇ…頭にキーンってきた!!」
心理「急いで食べるからよ…」
垣根「くーっ!!暖かい物でも飲めば治るんだろうが熱いから飲みたくねぇ!!!」
心理「何よそれ…落ち着いて食べないからよ」
垣根「仕方ないだろ、これは生理現象だ」
心理「ゆっくり食べれば問題ないのよ…ったく」パクッ
心理「…」フルフル
垣根「…なに震えてるんだよ」
心理「な…なんでもないわよ…」ウルウル
垣根「なんで涙目なんだよ」
心理「…なんでもないから…」
垣根「…なぁ、なんで頭を押さえてるの?ねぇ、なんで?」
心理「…からよ」
垣根「さぁ、大声でワンモアプリーズ」
心理「…頭にキーンってきたからよ…」
垣根「…」
垣根「えぇ…ゆっくり食べれば問題ないんだろ」キリッ
心理(うざ)
垣根「…さて、花火まであと30分ほどか…」
心理「…そろそろ広場に向かう?」
垣根「…みんなと見るのか…」
心理「あら、私と二人きりがいいのかしら」
垣根「出来るならな」
心理「ふふ…だったら、そうしようかしら」
垣根「…」
しばし考えるような仕草をして、垣根がぽんと手を打つ
垣根「俺達しか行けない場所、あったな」
心理「思い出してくれた?最近行ってなかったから」
垣根「あぁ、思い出した思い出した…花火見るには特等席だろうな」
心理「あなたの腕の中なら、いつでも特等席よ」
垣根「限定席じゃねぇか」
心理「いいから…そろそろ、行きましょう?」
垣根「はいはい…人のいない所に行ってからな」
心理「えぇ」
上条「…そろそろ花火始まるな…」
美琴「…そうね」
ゲコ太の人形を抱え、美琴が空を見上げる
昼間からずっと晴れの天気だ
幸い、雲一つなく花火にはうってつけの天気である
上条「…楽しみだな、みんなと見るか?」
美琴「…きっとさ」
上条「?」
美琴「みんなも、二人きりで見ると思うのよ」
上条「そうかな?削板とかはみんなと見たがりそうだけど」
美琴「み、みんな二人きりがいいと思うけどなぁ!!!」
上条「…あ、もしかして俺と二人で見たいからそういうことを言うんですか?」
美琴「…悪い?」
上条「いやいや」
可愛いヤツだな、と上条が美琴の手を握る
上条「ほら、二人きりになれるとこ、行こうぜ」
垣根「・・・始まるな」
心理「・・・えぇ」
腕時計を確認した垣根が、空を見上げる
パン、と破裂音がしたと思ったのも束の間、空に美しい花が描かれる
垣根「ワーオ、綺麗なもんだな」
心理「・・・ねぇ、早くとっておきの場所に行きたいんだけど」
垣根「っと、忘れてた」
そっと心理定規を抱き上げ、翼を広げる
心理「ふふ・・・なんだか久しぶり」
垣根「お姫様、今日は星も綺麗ですよ」
心理「他には何が綺麗?」
垣根「花火が」
心理「・・・そう、それは楽しみ」
垣根「じゃあ・・・行くか」
冗談の会話を交わしてから、二人が空へと向かう
高い所から見下ろして初めて分かったが、祭の屋台というのは中々明るいものだ
垣根「・・・下を見ても中々の美しさだな」
心理「派手ではないけど、趣がある明るさね」
垣根「学園都市のネオンなんかよりはよっぽど風情があるじゃねぇか」
心理「あ、花火が上がったわよ!」
ドン、という音が先程よりも近づいた気がする
実際、空を飛んでいるのだから近づいたのだが
心理「・・・綺麗」
垣根「日本の花火は消えた後の静寂を楽しめるからな・・・外国のは派手だがそういう美しさが今ひとつだな」
心理「・・・あ、あなたの翼が花火の色に輝いてる」
垣根「色を反射してるからな」
心理「へぇ・・・とっても綺麗」
垣根「・・・そうか、よかった」
心理「…綺麗ね、垣根」
垣根「あぁ」
空の彼方で体を寄り添わせる男女が二人
上条「…綺麗な花火だな」
美琴「…うん」
そして、地上で体を寄り添わせるのは二人
団扇で軽く顔を仰ぎながら、空を見上げる
美琴「…色んな色彩を放ってるわね…」
上条「…そういや、授業で炎色反応とか習った気が…」
美琴「…ねぇ、こういうときにくらいロマンチックな話にしてくれない?」
上条「わ、悪い」
美琴「…あ、ナイアガラ!!ちゃんと用意されてたんだ!!」
上条「ん?あぁ、本当だ…」
美琴「…綺麗」
綺麗だな、と上条も思う
オレンジ色に照らされた美琴の横顔
それを、この距離で見ることが出来るのは彼の特権だ
上条「…本当に」
ドドーン、と花火が鳴る
美琴「?何か言った?」
上条「…いや、なんでも」
聞こえなくてよかった、と上条が顔を赤らめる
美琴「ねぇ、なんて言ったのよ」
上条「だからなんでもないって」
美琴の頭を撫でて、どうにか誤魔化す
美琴「…何よ、教えてくれていいじゃない」
上条「あー…こっ恥ずかしいことですから」
美琴「余計に気になるわね…」
上条「あ、また打ちあがった!!」
美琴「…綺麗」
花火の欠片が空を舞うのも、美しかった
はらはらと崩れていく、真っ赤な花びら
上条「…なんかさ、花火を見てると夏って感じがするよな」
美琴「…そうね、でもまだ夏休みって始まったばかりよね」
上条「…こちとら本当はまだ補習がある身ですよ…」
美琴「…よかったの?ここに来ても」
上条「明日には学園都市に帰るだろうから…いいんじゃないかな、そのあとは地獄の宿題祭りですよ」
美琴「…私も手伝うからね」
上条「…お願いします」
ショチトル「…結局、なぜかみんな集まってしまったな」
一方「…なンでお前らもこの広場に来てるンだよ」
19090「…ここなら花火が一番綺麗に見えるからですよ」
削板「ははは!!そうだな、ここは確かに綺麗に見えるな!!!」
番外「あーあー、せっかく一方通行と二人きりだったのになぁ…」
エツァリ「自分だってそう思いますが…」
黒子「…いいではないですか、別に二人きりで見てもあまり変わりませんの」
テクパトル「…ちっ、お前たちとだとあんまりハメ外せないよな…」
一方「あァ?お前、19090号と二人だったとしたら何するつもりだったンだよ」
テクパトル「別に…」
大広場に集まった一同は、ベンチに座って空を見上げていた
ちなみに、ベンチといっても縦にいくつも並べられた、特設ステージの一部だ
ステージの上では男達が太鼓を叩いている
削板「おぉ!!これはいいな、花火の音と太鼓が同時に楽しめる!!」
ショチトル「ほほう、中々風情があるな」
テクパトル「…ちくしょう、酒でも飲んで盛り上げてやるからな!!!」
一方「あひゃひゃ!!いいじゃねェか、俺にもよこせよ!!」
番外「新宿デパート!!!」
三人「あひゃひゃひゃ!!!!」
19090(テっくんが壊れました)
上条「…なぁ、美琴」
そっと美琴の茶色い髪の毛を撫でながら、上条が耳元で囁く
美琴「ん、なぁに?」
上条「…俺さ、すっごい幸せだよ」
美琴「うん、私も」
上条「…昔から不幸だとは思ってたけど…こんな幸せが手に入ったなら、プラスな人生だよな」
美琴「なに言ってるの、これから私がもっと幸せにしてやるんだから!!!」
上条「はは、よろしくな」
美琴「…?ねぇ、あれって何かな」
上条「?あれ?」
美琴が空を見上げている
そこには、何かが浮かんでいた
上条「…あれって…垣根じゃないか?」
美琴「そうだけど…なんか、こっちに向かって来てない?」
上条「…こっち?」
グルリと回りながら、なぜか垣根は二人の元に落ちてきている
上条「…な…なんでぇぇぇぇぇ!?」
時は遡る
垣根「うっひゃー、綺麗綺麗!!」
心理「…本当に綺麗ね」
垣根「…ん?あれ上条達だな」
心理「あら、花火じゃなくて下を見てるなんてあなた…」
垣根「くーっ!!イチャイチャしやがって!!しかも上条のヤツなんか御坂に耳打ちしてやがる!!」
心理「いいじゃない、別に恋人なんだし」
垣根「ひゃはははは!!!俺はなぁ、リア充が大嫌いなんだよぉ!!!!」
心理(あなたもリア充よね)
垣根「世界の不幸な方々から、俺に力が届いてる!!!リア充砕けと轟叫ぶ!!!」
心理「…やめなさいよ、それより花火…」
垣根「いざ…参る!!」
翼を縮め、地面に向けて急降下
心理「ちょ、ちょっと…!?」
垣根「これが未元物質メテオじゃぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!」
心理「きゃぁぁぁああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」
そして
上条「お、落ちてきてるのか!?」
美琴「で、でも垣根は笑って…」
垣根「顔は笑ってるぅぅぅ!!!!」
心理「た、助けてぇぇぇぇぇ!!!」
上条「な、なんでぇぇぇぇ!?」
垣根「喰らえ、未元物質メテオ!!!!」
美琴「当麻、下がって…」
上条「いや、美琴は俺が守る!!!」
美琴「//」
垣根「イチャイチャすんじゃねぇよ!!!」
上条「そ、そんな理不尽な油断!?」
心理「の、のいて二人ともぉぉぉぉ!!!」
美琴「心理定規もいる…」
垣根「あ、止まれない」
四人「あぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
その日、上条当麻は三度目の死を迎える
上条「…一つ聞いていいか」ボロッ
垣根「なんだよ」
上条「…なんで俺達に突っ込んできたのか」
垣根「…」
垣根「腹が立ったからかな」
上条「てめぇ、ぶん殴るぞ」
美琴「…あのね、垣根…」
垣根「なんだよ」
美琴「…腹が立ったから、で花火を邪魔されるなんて…私は許せないんだけど」
心理「私だってそう思ってるわよ」
上条「…心理さんもかなり迷惑だよな」
心理「えぇ…ごめんなさいね、うちの垣根が」
垣根「いつからお前のものになったのか」ケロッ
心理「あぁ?」
垣根「すいません」
上条「…はぁ、もう花火終わっちゃったぞ…」
垣根「…あれ、マジで」
美琴「あー!!最後の大きな一発、楽しみにしてたのに!!」
上条「…垣根…」
心理「はぁ…垣根」
美琴「…垣根の馬鹿」ウルッ
垣根「…あ、あれ?俺のせい?」
心理「えぇ、そうよ」
垣根「…」
さっと、土下座の体勢に入る垣根
垣根「色々と、申し訳ありませんでした」
美琴「許さない」
垣根「」
上条「…垣根、どうするんだよ…美琴怒ってるぞ」
垣根「…そ、そうだ!!!誰かが録画してるかもしれない!!!」
美琴「録画で見る花火なんてね、クリームなしで食べるショートケーキみたいなもんなのよ!!!」
垣根「がぁぁぁぁぁぁん!!!!!!!!!!!!!」
心理「口で言ってどうするのよ」
垣根「…それじゃ…俺は、なんのために未元物質メテオを…」
上条「腹が立ったからだろ、あぁ?」
垣根「…さて、祭りももう終わりだな」
上条「誤魔化すんじゃねぇよ」
垣根「…後の祭りなんだよ、祭りだけに」
心理「…上手くないから」
美琴「…三日三晩呪うからね」
垣根「ちっ、三日三晩か…」
心理(何日ならいいのよ)
垣根「…あのさ、本当に…悪かった」
美琴「いいわよ…その代わり、学園都市でなんか美味しいもの奢ってよね」
垣根「あ、あぁ!!」
美琴「三日三晩」
垣根「ちっ、三日三晩か…」
上条(なんなんだよ三日三晩って)
心理(知らないわよ)
垣根「…じゃ、みんなと合流するか…」
上条「あぁ、そうだった…」
美琴「…今日は早く寝て、明日には学園都市に帰りましょうね」
垣根「おう」
祭が終わって、一同は垣根の別荘に帰ってきた
風呂に入り、何もせずにすぐに寝た
そんなものだ、大体祭で騒いだ後には体力など残っていない
常識的に考えれば
垣根「だが俺に常識は通用しねぇ!」
ババーン、と効果音を鳴らしながら(削板協力による)垣根が男を集めた
上条「・・・なんだよ、こんな夜中に」
垣根「はっはっは!今が何時か分かるか、えぇ!?」
テクパトル「深夜2時だ、よい子じゃなくても大抵寝てる時間だ」
エツァリ「というかなんですか・・・いきなり深夜にメールで起こすなんて」
削板「何かするのか、垣根?」
垣根「まぁな」
一方「・・・くだらねェことだったらぶン殴るからな」
上条「・・・で、何をするんだ?」
垣根「お前達、女の寝顔ってのをどう思う」
削板「・・・?どういう意味だ?」
垣根「そのままの意味だ」
テクパトル「・・・まぁ、無防備な美月の寝顔は可愛いかな」
エツァリ「ショチトルはあぁ見えて寝顔がかなり子供っぽいんですよ」
上条「美琴の寝顔は正しく天使だ!」
垣根「・・・誰も嫁自慢しろなんて言ってねぇ」
テクパトル「・・・で、それをなんで聞くんだよ」
垣根「単刀直入に言おう・・・自分の女以外の寝顔を見てみたいと思ったことは」
一方「ねェよ」
削板「なんか申し訳ない感じがするからな・・・」
エツァリ「自分はたまにならありますよ」
上条「頻度があるのかそれ」
垣根「・・・いいか、無防備な寝顔はとてもいいもんだ、寝相も加わる」
テクパトル「で?」
垣根「今から一人一人、寝顔を見て回る」
上条「ま、待った!なんだよそれ!?」
垣根「寝起きドッキリじゃないから安心しろ」
上条「出来ねぇよ!」
エツァリ「ほほう・・・中々面白そうですね」
一方「・・・場合によっては弱みを握れるかもしれねェな」
ニヤニヤ、と笑う二人
削板「駄目だ駄目だ!間違って起こしたら可哀相じゃないか!」
上条「そうだそうだ!それに美琴の寝顔を他人には見せたくない!」
垣根「・・・なぁ、上条・・・心理定規ってな、寝てるとき胸元とか開けてるんだ」
上条「・・・なに?」
エツァリ「ショチトルは結構大胆なパジャマで寝てますからね・・・」
一方「番外個体はオリジナルの少し先の体だろォが、てめェ興味ねェのかよ」
上条「だ、だけど・・・なんか美琴に悪いし・・・」
垣根「気にするな、あいつらには気づかれたりしねぇよ」
エツァリ「そうですよ、バレなければ問題ありません」
削板「根性がないな、そんなプライバシーの侵害なんて!」
垣根「・・・そうか?友達を深く知るには寝顔も見たほうがいいと思うけどな」
削板「・・・なに?」
垣根「よく同じ釜の飯を食った仲、って言うだろ・・・つまりなんでも知らなきゃ真の友達とは言えない」
削板「な、なるほど・・・確かに一理あるな」
上条「ないない!ないからお前は俺の味方でいてくれよ!」
垣根「なぁ、テクパトル」
テクパトル「俺は妻帯者だ」
垣根「・・・19090号の寝顔、俺達にも見せてくれよ」
テクパトル「なんでだよ・・・」
垣根「お前の嫁さんだろ?それにあいつ、かなり可愛いし」
テクパトル「そ、そうか?」
一方「まァ確かに・・・性格だけなら心理定規と並ぶくらい良さそうだよなァ」
エツァリ「・・・落ち着いていますし、あんなお嫁さんなんてそうはいませんね」
テクパトル「ま、まぁ俺が選んだ女だしな」
垣根「な、その素晴らしい嫁さんの寝顔くらい拝ませてくれよ、な?」
テクパトル「・・・絶対に忘れることを約束しろ」
垣根「いいだろう」
上条「えぇ!?おだてられただけで許しちゃうのかよ、嫁の寝顔が見られるんだぞ!?」
テクパトル「いやまぁ・・・減るもんじゃないし、美月もそういうのは嫌がらないタイプだし」
削板「上条、お前はみんなと友情を深めたくないのか!?」
上条「それとこれとは・・・」
垣根「仕方ないな、なら俺今から御坂を襲って・・・」
上条「わ、分かった!分かったから襲うな!」
垣根(ちょろいな)
垣根「さて、まずは御坂の部屋からな」
上条「・・・はぁ、なんでこんなことに」
一方「オリジナルのパジャマってだせェよな」
上条「か、可愛いだろ!?」
テクパトル「いや、子供っぽい」
エツァリ「まぁ・・・その純粋さも御坂さんの魅力ですが」
削板「ははは!一方通行が服のセンスについてツッコむとはな!」
一同「お前が一番アウトだ」
上条「・・・入るぞー」
静かにそう言ってから、上条がドアを開ける
とは言ってもここは元々、上条と美琴の客室だ
垣根「お、寝てる寝てる」
テクパトル「・・・隣にお前のためのスペースが開けてあるあたり、義姉さんはお前と寝ていたいんだろうな」
上条「美琴・・・ごめんな」
一方「・・・寝顔は番外個体に似てるな」
削板「なんか、思ったより普通だな」
エツァリ「超能力者、とはいってもまだ中学生ですからね」
垣根「・・・めんどくさい体裁とか繕わなくていいからな、寝てる時は」
上条「・・・次、行くか」
垣根「あぁ」
垣根「次は白井だ」
削板「黒子の寝顔ってどんな感じだっけ」
一方「あァ?お前ら一緒に寝たことねェのかよ」
削板「あんまりない、寝顔なんてまじまじ見ないだろ?」
一同(純粋なヤツ)
テクパトル「ま、入るか」
エツァリ「ですね」
静かにドアを開け、ベッドに近づく
上条「・・・な、なんだこの服・・・」
テクパトル「・・・ネグリジェだな」
一方「・・・こンな格好で寝るか、普通」
削板「?昨日もこれだったぞ」
エツァリ「あ、あなたはそれで何もしなかったんですか」
削板「何をするんだ?」
一同(純粋なヤツ)
垣根「・・・だがまぁ、寝顔は可愛いもんだな」
削板「黒子だからな!」
上条「・・・次、行くか」
垣根「あぁ」
垣根「次は番外個体だな」
一方「あいつは・・・な」
エツァリ「?」
一方「・・・」
無言のまま、一方通行がドアを開ける
ベッドの上では、アオザイを着た番外個体が布団を蹴飛ばして寝ていた
垣根「・・・寝相悪いな」
テクパトル「・・・ミサカの中で一番だらしないかもしれないな」
上条「なんていうか・・・将来の美琴、こうはならないで欲しいな」
一方「・・・あンまり言うな」
エツァリ「まぁ・・・寝顔は無邪気ですね」
上条「一応俺達の中では最年少だからな」
削板「そういえばそうだな」
垣根「・・・次、ショチトルな」
エツァリ「はい」
上条「・・・お邪魔します」
小さく告げてから、上条がコッソリとドアを開ける
ショチトル「あん!あ、あぁっ!」
一同「」
ショチトル「ダ、ダメ・・・お兄ちゃん、あぁんっ!」
一同「」
ショチトル「い、いや・・・そんな所に突っ込んだら・・・お、おおき・・・い・・・っ!」
一同「」
ショチトル「あ、ダメ・・・イっちゃう!あぁぁぁっ!」
そっと上条がドアを閉める
上条「なんで一人でヤってたんだ」
一方「知らねェよ」
削板「・・・黒子もたまにしてる」
テクパトル「お前もさすがにあれくらいは知ってたか」
エツァリ「可愛いでしょう?」
上条「生々しさ全開でなんかイヤだったよ!」
垣根「・・・次、19090号な」
テクパトル「あぁ」
テクパトル「入るぞ・・・」
テクパトルが先頭に立ち、こっそり部屋に入る
19090号はスヤスヤと寝息を立てていた
テクパトル「あぁ可愛い」
一方「今一瞬、お前が限りなく変態に見えた」
上条「・・・美琴と同じだと思ってたら、全然違うな」
削板「19090号は安らかって感じだな、御坂は嬉しそうだった」
エツァリ「確かに・・・雰囲気が違いますね」
19090「・・・テっくん・・・」
テクパトル「ん、寝言か・・・」
19090「子供は・・・何人くらいがいいですか・・・?」
テクパトル「」
一同「ワーオ」
19090「ふふ・・・美月も愛してますよぉ・・・」
テクパトル「」
一同「ヒューヒュー」
ぎゅっ、と布団を抱きしめる19090号
それは一体何の代わりなのだろうか
テクパトル「つ、次は最後だな!」
一方「もうちょい見てたら将来設計語りそォだな、こいつ」
削板「なんか愛されてるな、テクパトル!」
テクパトル「あぁもう!次だ次!」
垣根「最後は心理定規か」
上条「・・・まぁ、ぶっちゃけ美琴の次に期待してる」
エツァリ「心理定規さんって寝相はどうなんですか?」
垣根「いいはずだ」
テクパトル「・・・ならまぁ、いつもの心理定規かな」
ガチャリとドアを開け、一同がベッドに向かう
削板「・・・なんか、ただの女の子だな」
エツァリ「・・・ビックリしました、いつもの女性らしさは・・・」
上条「いや、可愛いんだけど・・・大人っぽい雰囲気じゃないな」
垣根「こいつ、御坂と同年代だからな」
テクパトル「そういやそうだったな・・・」
心理「・・・垣根・・・」
垣根「こいつも寝言か」
心理「あなた・・・いつも・・・勝手に出ていくでしょ・・・」
垣根「・・・」
上条「・・・垣根、心理さんにあんまり心配掛けるなよ」
垣根「か、掛けてねぇし」
心理「・・・必ず戻って来てくれるから・・・いいんだよ・・・?」
エツァリ「なんか、口調が違いますね」
垣根「たまにこんな感じだけどな」
一方「自分の前だけで、とかか?あァ?」
心理「・・・でも・・・どこにも行かないで・・・」
垣根「・・・」
ぎゅっ、と心理定規が枕の端を握る
心理「・・・怖いんだから・・・」
垣根「・・・行かないさ、こんな近くに居場所があるんだから」
心理定規の頬に軽くキスをして、垣根が一同を見渡す
垣根「・・・ま、今日は解散かな」
上条「あぁ」
削板「垣根、心理定規の傍にいてやれよ!」
垣根「お前は白井に・・・まぁいいや」
エツァリ「自分は今からショチトルと一回戦です」
テクパトル「宣言するな・・・俺はもう寝たいかな」
上条「俺も」
一方「明日は朝一で帰るンだったな」
垣根「あぁ、テクパトルは家族に結婚報告しないといけないだろ?」
テクパトル「あぁ」
垣根「・・・じゃ、みんなお休み」
上条「お休み」
静かになった部屋の中、垣根が心理定規の寝顔をじっと見つめる
しばらくすると、その綺麗な瞳がパチリと開かれた
垣根「・・・やっぱり起きてたのかよ」
心理「・・・なんか騒がしかったから」
垣根「・・・いつから?」
心理「あなた達が私の寝顔鑑賞会してる頃にはとっくに」
垣根「・・・悪いな」
心理「別に、減るものじゃないから」
垣根「・・・なぁ」
心理「・・・なに?」
垣根「ってことはさ、さっきのは寝言じゃないんだよな」
心理「・・・別にいいでしょ」
ぷいっ、とそっぽを向く心理定規
垣根「・・・なぁ」
心理「・・・なに?」
垣根「信じてくれ、俺はどこにも行かない、行きたくもない」
心理「・・・」
垣根「俺にはお前が必要だ、それを置いてどこかに行くわけないだろ」
心理「・・・信じていいかしら」
垣根「あぁ」
心理「・・・ねぇ、垣根」
垣根「なんだよ」
心理「こっち来て、夜はやっぱり冷えるから」
垣根「・・・はいはい」
呆れたように笑ってから、垣根が心理定規の隣に寝転がる
垣根(・・・こんなに小さいこいつの腕の中・・・か)
垣根(でもな心理定規、そこだけが俺の居場所なんだからな)
垣根「さぁ!目覚めたか野郎共!」
一同「おう!」
垣根「申し訳ないが、朝飯はバスの中で食べようじゃないか!」
上条「まぁ・・・テクパトルのことがあるからな」
黒子「あら、上条さんも補習があるのではなくて?」
上条「ま、まぁ」
番外「ミサカも、上位個体が寂しがるからね」
ショチトル「・・・学園都市もやはり恋しくなるな」
削板「ははは!そうだな!」
美琴「垣根、ありがと・・・なんだかんだ楽しかったわ」
垣根「今度奢ってやるからな、お詫びに」
美琴「約束よ!」
垣根「あぁ」
19090「・・・緊張しますね、みんなが認めてくれるでしょうか・・・」
テクパトル「大丈夫だ、心配するな」
一方「・・・ご祝儀って幾らくらいなンだろォな」
心理「一万円にしたら?」
美琴「二万円くらいにしたら?」
垣根「ご祝儀はわ・た・し、みたいな!」
一同「それはねぇよ」
垣根「・・・じゃ、帰るか」
バスに乗り込んだ一同が、もう一度垣根の別荘を見つめる
美琴「またみんなで来たいわね」
上条「あぁ」
エツァリ「きっと来れますよ」
削板「その時は、もっと長くいたいな!」
一方「あァ」
垣根「じゃ、出発するか!」
垣根がマイクを握って、拳を突き上げる
垣根「俺達の帰る場所、学園都市にレッツゴー!」
一同「イェー!」
お祭編終了
テクパトル「・・・」
19090「・・・」
二人は神妙な面持ちだった
垣根の別荘から帰ってきてすぐ
自宅のドアの前で悩んでいた
テクパトル・19090(どうやって伝えれば・・・)
いきなり結婚しました!なんて言ってもおかしいだろう
だが、さりげなく伝えるのは難しい
テクパトル「・・・と、とりあえず」
鍵を取り出し、ドアを開ける
家に入ってから考えても遅くはない、という考えだったが
ミサカ一同「二人とも、ご結婚おめでとうございます!」
パンパン、と鳴り響くクラッカーで迎えられるなんて考えはなかった
テクパトル「な、なんで知って・・・」
14510「番外個体がネットワークで流してくれました!」
20000「いやぁ、とうとうプロポーズまで行ったかぁ!」
御坂妹「正直、そろそろかなとは思っていましたが」
12345「おめでとうございます」
テクパトル「イギリス勢もいたか・・・ありがとう」
どうやって伝えよう、なんて悩みは一瞬で吹き飛んだ
10039「とりあえず、部屋でじっくり話を聞かせて下さい!」
10033「ほら、入った入った!」
テクパトル「ま、待てって・・・」
ミサカ達に引っ張られるようにしてテクパトルと19090号はリビングに向かった
19999「どんなプロポーズだったのさ!?」
11116「はい、再現してください!」
10398「指輪はいつ!?」
19090「え、あ・・・」
13577「こらこら、あんまり質問責めにしたら可哀相ですよ」
御坂妹「本当におめでたいですね」
19090号はしばらく、質問責めに遭っていた
テクパトル(・・・みんな祝ってくれてるみたいでよかった)
ソファーの上から、その光景を見つめるテクパトル
そんな彼の元に17600号が近づく
17600「おめでとう、テっくん」
テクパトル「ん?あぁ、ありがとう」
17600「・・・よかった、テっくんもやっと19090号と結ばれたか」
安心したよ、と17600号が笑う
テクパトル「・・・あぁ」
17600「?どうした」
テクパトル「・・・いや、お前には悪いなって」
17600「なぜ」
テクパトル「・・・お前って俺のこと・・・好きだったんだろ」
17600「まぁ、昔の話さ・・・それに嘘じゃなく、テっくんを幸せにできるのは19090号だけだからな、二人の幸せは誰より嬉しいよ」
テクパトル「ありがとよ」
17600「・・・しかし、美月って名前をみんなにバラすとは思わなかったな」
テクパトル「げ、番外個体はそんなことまで・・・」
17600「安心しろ、そこはミサカがみんなを説得しといた」
テクパトル「助かる・・・恩に着るよ」
17600「あぁ」
アレイ「・・・テクパトル、おめでとう」
テクパトル「ん?あぁ、アレイスターか」
アレイ「まさかこんなに早く君が落ち着くとはな」
テクパトル「いや・・・俺もちょっと前までは思ってなかったさ」
アレイ「これからは父親だけではなく、夫としても頑張らなくてはな」
テクパトル「お前が言うか・・・まぁ、そうだな」
ローラ「全く、今日はめでたい日なりてよ」
テクパトル「・・・」
テクパトル「なんでお前がいるんだよ」
ローラ「てへっ☆」
テクパトル「・・・はい、アッサムでよかったかな」
ローラ「おや・・・普通にもてなされるとは思わなくてよ」
テクパトル「安心しろ、熱いとかいうオチはない」
ローラが紅茶を口に含む
本当に、客人として歓迎してくれているようだ
テクパトル「で、なんでアンタがここにいる?」
ローラ「学園都市統括理事長と直接話がしたくて」
アレイ「安心したまえテクパトル、今回はイギリス清教関係ではない」
テクパトル「そういうことか・・・」
ローラ「おや、いいのかしら?もしかしたら私が嘘をついているやも知れぬのよ?」
テクパトル「だったら敵の本拠地に一人で来るわけないだろ」
ローラ「正確には護衛が二人いるのだけど・・・インデックスに会いに行きたいと駄々をこねたから」
テクパトル「そりゃ難儀だな」
ローラ「・・・」
テクパトル「なんだよ」
ローラ「ブラックマンの件で、私に恨みでも抱いていると思っていたりてよ」
テクパトル「・・・別に、直接美月を傷付けられたわけじゃないし」
ローラ「だがお前の義理の姉は人質に使ったのだが」
テクパトル「・・・まぁ、そんなこともあったが・・・今ここでいさかいを起こす必要はないだろう」
ローラ「ずいぶん利口な男ね」
アレイ「・・・さすが私の弟子だ」
テクパトル「ちげぇ」
ローラ「お前はブラックマンの事件の時も随分頭がキレるとは思っていたが・・・」
テクパトル「別に、卑怯なことが得意なだけさ」
紅茶を飲みながら、テクパトルが二人を睨みつける
テクパトル「・・・イギリス清教最大主教、アンタはこいつの正体に気づいているんだろ」
ローラ「なにやらさっぱり」
テクパトル「・・・冗談はやめろ」
アレイ「なに、私の正体が知れたところで何も問題はない」
テクパトル「・・・言っておくが、我が家では平和に頼む」
ローラ「そうね、しばらく世話になるのだし」
テクパトル「・・・やっぱりそうか」
ローラ「!じゃあ、いいということなの!?」
テクパトル「断ったら国際問題なんだろ・・・」
ローラ「やったぁ!宿代が浮かせられるなんて幸運なりけるのよ!」
テクパトル「ただそのおかしな日本語はやめろ、ミサカに移る」
ローラ「」
19090「なるほど、そんな理由で・・・」
ローラ「お前達には怨まれる立場かもしれないわね」
御坂妹「・・・まぁ、お姉様も無事だったようですし」
20000「しばらく、ってどれくらい泊まるの?」
17600「一週間か?」
ローラ「今日だけなりてよ?」
テクパトル「あ、なんだ」
アレイ「相変わらず日本語がおかしいな」
ローラ「こ、これは高貴なる階級の正しい言葉だと・・・」
テクパトル「直せ」
ローラ「」
ローラ「…ふん、それにしても…義理の家族と一緒に暮らすというのは中々酔狂なりけるのよ」
テクパトル「そんな言い方をするなよ」
ローラ「…少し、嫌になったりはしないの」
テクパトル「…血の繋がりがないのにずっと一緒にいられるってのは、それだけ愛情があるからだろ」
ローラ「…」
テクパトル「それにさ、俺は美月や他のみんなのいる家が好きだ、誰か一人が欠けてもこの家はダメなんだよ」
御坂妹「さすがテっくんです!!」
アレイ「ふふ…羨ましいものだな」
テクパトル「お前だって、そのうちの一人だからな」
アレイ「…分かっている」
ローラ「…全く、随分と馴れ馴れしい愛情に縋るようになったものよ、アレイスター」
アレイ「そう言いながら、本当は君も羨ましいのではないか?」
ローラ「…そんなことはないのよ」
テクパトル「アンタ、最大主教だからって色々疲れることもあるだろ」
20000「今日一日くらい、みんなで遊んで嫌なことを忘れちゃおうぜ!」
ローラ「い、いや…私は統括理事長と…」
19090「じゃあ、まずはお買い物に!」
ローラ「え、えぇ!?」
テクパトル「…肉は…牛がいいかな」
19090「そうですね…」
13577「えー、今日は豚シャブがいいです!!」
御坂妹「この熱い時期に…」
20000「ミサカはテっくんのソーセージがいいな、無理ならセロリたんの」
テクパトル「…最大主教、アンタは」
ローラ「そうね…ヘルシーさでは鶏肉かしら」
10039「えー…鶏肉は皮がネチャネチャしてます…」
ローラ「そう?歯ごたえは抜群であるけれど?」
14510「…イギリスミサカ達は?」
11116「ミサカ達も鶏がいいです!!」
19999「はははーは、ミサカ達はイギリス育ちだから豚なんて食べられないねー!!」
テクパトル「…お前はムハンマドか…まぁいい、鶏肉と牛にするか」
13577「…豚…」ウルウル
テクパトル「…ぶ、豚も買うからな」
13577「名前はぴーちゃんです!!」
テクパトル「飼育するのかよ!!??」
テクパトル「…そうだ、帰りにクレープでも食べて帰るか」
10033「あ、いいですね!!」
御坂妹「甘いものは太ってしまいますよ」
19090「う…」
テクパトル「…お前たちは少しくらい太っても…」
ローラ「ふ、ふふふふふ太る!?太ってしまうの!?」
テクパトル(…必死だな)
ローラ「…わ、私は遠慮するわ…」
アレイ「なに、少しくらいなら問題ないだろう」
ローラ「う…」
12345「そうですよ、ローラも一緒に食べましょうよ!!!」
ローラ「わ、分かったのよ…」
テクパトル「…太るぞ、最大主教」
ローラ「」
テクパトル「ただいまー」
19090「テっくん、料理は美月に任せてください!」
御坂妹「おやおや、もう新妻風を吹かせてますね」
10398「羨ましいかぎりですよ」
19090「そ、そうですか?」カァッ
20000「へっへーん、可愛いやつぅ!!」
17600「じゃ、旦那様はゆっくりリビングで酒でも飲みな」
テクパトル「…いいのか、美月?」
19090「はい!!」
テクパトル「…じゃ、アレイスターも飲むか?」
アレイ「そうさせてもらおう」
テクパトル「…最大主教、アンタは酒飲めるか?」
ローラ「…いいのよ、私は」
テクパトル「なんで?酒は苦手か?」
ローラ「…お前はどうしてそうも私に普通に接するの?お前の義理の姉を傷つけた人間たるのよ?」
テクパトル「…だから言っただろ、アンタは今は客人だ」
ローラ「…」
テクパトル「…それに、なんだかんだイギリスのお偉いさんだろ?これからイギリスのミサカ達に優しくしてくれるように媚び売っとかないと」
ローラ「…変わったヤツ」
テクパトル「どうだ、飲まないか」
ビールの缶を掲げるテクパトル
しばし、ローラはそれをじっと見つめていたが、やがて口を開いた
ローラ「…出来ればワインがよいのだけれど」
テクパトル「あぁ、これはすまなかったな」
冷蔵庫に向かい、中からワインを取り出す
テクパトル「白でよかったかな?」
ローラ「…すまないわね」
アレイ「なに、この男は他人に対していつもこうだよ」
テクパトル「…人を誑しみたいに言うな」
10033「え、テっくんはミサカ誑しじゃないですか」
14510「そうですよ、今まで何人のミサカが…」
19090「…テっくん、浮気したら美月はグレますからね」
テクパトル「う、浮気なんてしないって!!!」
19090「ならよかったです!」ニコニコ
一同(…新婚ホヤホヤだなぁ…)
テクパトル「…お、中々飲めるくちだな」
ローラ「もちろん、これでも淑女なりけるのよ」
アレイ「よく言う…中身はどす黒いぞ」
ローラ「おや、お前が言うセリフではないわね」
テクパトル「…そう考えれば、俺たちは似た者同士だな」
アレイ「…そうだな、我々は似ている」
ローラ「…ふん、お前達などまだまだまともなほうよ」
テクパトル「…そうだ、17600号も飲んでみるか」
17600「そうだな、ミサカも酒は好きだ」
御坂妹「あー!!ダメですよ、飲んだら!!」
11116「そうだそうだ!!」
19999「未成年飲酒だ!!」
17600「何を言う、ミサカ達は年齢なんてないだろ?だから19090号もテっくんと結婚できたし」
ミサカ一同「う…」
17600「じゃ、いただくぞ」
アレイ「お酌しよう」
17600「おう、悪いな」
テクパトル「…でさ、美月と結婚するって決められた時はそりゃあ嬉しかったもんだ!!」
ミサカ一同「おぉ!!」
テクパトル「俺が結婚しよう、とプロポーズした!!」
アレイ「ふむふむ」
テクパトル「美月は、はい、と答えた!!
ローラ「ひょっほぉww」
テクパトル「あとはなし崩しに決まったんだよ、いやぁ!!!」
17600「…まぁ入籍ってのは出来ないが、世間的に認めてもらえればいいだろうな…学園都市では戸籍のないヤツなんて珍しくもないし」
アレイ「そうだな、ここで暮らす分には問題なかろう」
テクパトル「だよな、そうだよ」
酒が入ったからか、若干上機嫌なテクパトル
17600「しかし、19090号もよくオーケーしたな」
19090「あ、愛していますから…//」
12345「ワーオ、幸せですね」
テクパトル「まぁな」
ローラ(…アレイスター、お前はいつの間にかこんな家族を手に入れていたのね…)ハァ
アレイ(…)
19090「じゃあ、いただきまーす!!」
一同「いただきまーす!!」
19090号の手料理に、一同ががっつく
テクパトル「あぁ、美味いな…」
10039「さぁ、奥さんの料理はどうですか!?」
テクパトル「だ、だから美味しいって…」
御坂妹「はい、それを本人に!!」
19090「え、え?」
テクパトル「…美味しいよ、美月」
19090「は、はい」
20000「さらにそこで愛している、と!!!」
テクパトル「お前ら遊ぶんじゃねぇ!!!」
アレイ「…騒がしいだろう、いつもこんな感じだ」
ローラ「…そうね、騒がしすぎて耳が破裂するやもしれないわ」
13577「…も、申し訳ないです」
ローラ「…でも、少し羨ましくもあるわ」
テクパトル「…アンタ、結婚とかしないのか?」
ローラ「出来ると思う?無理なのよね…」ハァ
テクパトル「…家族とかは」
ローラ「いない」
テクパトル「寂しい人生だな」
ローラ「むっきー!!それを面と向かって言うなんて失礼極まるのよ!!!」
17600「ふっ、これだから独身処女は」
ローラ「お前はどうなんじゃぁぁ!!」
10033「きゃー、行けず後家がキレましたー」
19999「きゃー、不幸が移るのさー」
20000「ふふん、ドンマイ独り身!!!」
ローラ「あぁもう!!しつこいのよ!!!」キー!!
アレイ「…楽しそうだな」
ローラ「な、なにが?」
アレイ「…いや、なんでもない」
テクパトル「…」
ローラ「そ、それより!!新婚さんはどうなのかしら、この初の手料理は!!」
19090「//」
御坂妹「きゃー、幸せそうですね!」
テクパトル「…まぁ、な」
苦笑しながらテクパトルが料理を口に運ぶ
これが毎日食べられるのだな、と思うと感慨深い
テクパトル「ふひー、食った食った…」
御坂妹「じゃあ、お風呂にどうぞ」
テクパトル「ん、俺からでいいのか」
ローラ「私はシャワーだけだから最後でも問題なきことよ」
テクパトル「じゃ、入ってくるな」
10398「はい、19090号もですよ」
19090「な、なぜですか?」
10033「いやいや、夫婦は一緒に風呂に入るものですよ」
20000「そうそう、そしてあわよくば風呂の中で…」
テクパトル「お前らなぁ…」
アレイ「…だがまぁ、効率はそちらのほうがいいかもしれないな」
ローラ「若いとは素晴らしきことよ」クスクス
テクパトル「…完全に遊んでるだろ…」
17600「ほら、入った入った」
テクパトル「…分かったよ」
19090「では、お先に…」
ミサカ一同「パンパカパーン!!!」
ローラ「パーンパーカパーン!!!」
テクパトル「あぁうるせぇ!!!」
アレイ「…どうした、ローラ=スチュアート」
ローラ「…なんでもない」
縁側に座ったローラは、一人月を見上げていた
家の中では風呂からあがったテクパトルと19090号が他のミサカ達を風呂に入れようと奮闘していた
ローラ「…お前は、いつからそんなに温い人間になったのかしら」
アレイ「…そうだな、いつからだろうか」
ローラ「覇気が削がれたものよ」
アレイ「…だが、これはこれで心地いいものだ」
ローラ「…そうね、私も悪くはないと思う」
はぁ、と短いため息をつく
ローラ「…それでも、私にはここは暖かすぎるのよ」
アレイ「…」
ローラ「…明日には帰らなければならない…たった一日だけの付き合い、されどそれは…今まで築いてきた中で一番深い関係だったのかもしれない」
アレイ「…君は、結局のところどうしたいのかね」
ローラ「…なんでもない、明日には帰る…どうせあやつらも私のことなんてすぐ忘れるわ」
今までだってそういうやつらばかりだったから、と付け加える
アレイ「…悲しいものだな」
ローラ「慣れた」
テクパトル「あぁもう!!アレイスター、お前から風呂入ってくれ!!」
アレイ「…あぁ」
静かな夜だ、とローラは笑った
先ほどまであんなに騒がしかった家だとはとても思えない
夜の1時、風呂を終え眠りについたミサカ達
もちろん、彼女達の話し声なんて聞こえない
ローラ(…静か、ね)
普段なら気持ちのいい静寂のはずだ、だがなぜかこの家ではそれが悲しかった
ローラ(…)
ローラ、と呼んでくれた相手がいた
最大主教、とかローラ様、ではなく
ただ一人の人間として彼女を見てくれた相手が
ローラ(…アレイスター、私はそんな人間なのかしら)
誰かの優しさに甘えていいような、そんな人間なのか
ローラ(…そんなこと、どうでもいいのよ)
明日になれば、もう帰るしかない
駄々をこねて帰らない、なんてわけにはいかない
ローラ(…)
明日にならなければいいのに、そう思いながらローラは目を閉じた
ただ、無情に時計の針の音は響く
ローラ「…世話になったわね」
テクパトル「ん、もう出るのか」
翌朝
仕事に行こうか、と食事を取っていたテクパトルが驚いたように言う
出かける準備などできている、というようなローラ
もう帰るつもりなのだろう
ローラ「…みんなによろしく伝えておいて」
テクパトル「…あぁ」
ローラ「…すまなかったわね、本当は迷惑だったなんてことは分かっていたりて…」
テクパトル「そうでもなかったさ」
ローラ「…」
テクパトル「お前はさ、たしかに汚い人間だとは思うし…それに、過去には何度か許せないことをしたこともある」
テクパトル「でもな、少なくとも昨日のお前はただの優しい女性だったんだ」
ローラ「…それが、演技だったとしたら」
テクパトル「素敵な演技だったなって褒めてやるところさ、それほどまでにアンタの笑顔は素敵だった」
ローラ「…」
あぁ、とローラは納得がいった
たしかに、この男は人間誑しかもしれない
ローラ「…それじゃ、お前も元気でな」
テクパトル「あ、これ」
ローラ「…?」
テクパトルが差し出したのは、一枚の手紙だった
ローラ「…読んでもいいかしら」
テクパトル「あぁ、あいつらからの手紙だ」
ローラ「…」
手紙、懐かしい響きだろう
ローラ「…どれどれ」
便箋になど入れられていない、ただメモ帳を丁寧に折っただけの簡単な手紙
ローラ(ふふ…本当に、粗末なものね)
書かれていたのは、たった一言
「いってらっしゃい」
ローラ「…これ、いつ準備したのか分かる?」
テクパトル「昨日の夜だよ、お前が風呂に入ってる間にあいつらがさ」
ローラ「…そう」
テクパトル「…俺にはさ、アンタがどういう人間かは分からない、今だってもしかしたら演技なのかもしれない」
ローラ「…」
テクパトル「でも、だったらなんだってんだよ?俺はアンタがいて面白いと思ったし、あいつらだってそうだった…だったらさ、アンタには感謝しなきゃいけないんだ」
ローラ「…私だって、感謝しているのよ」
テクパトル「…そっか」
ローラ「…楽しかった、人生の中で五本の指に入るほどに」
テクパトル「これから、もっと思い出を増やせばいいさ」
ローラ「…」
テクパトル「俺達は…待ってるよ、ずっと」
ローラ「…くだらないわね、私をなんだと思ってるの?」
テクパトル「…最大主教さ、イギリス清教のトップだ」
ローラ「そう、身分を弁え…」
テクパトル「でも、今のアンタはローラ=スチュアートだ」
ローラ「…」
テクパトル「そろそろ時間だろ、行けよ」
ローラ「…」
しばし手紙を見つめていたローラが、玄関に歩を進める
ローラ(…くだらない、わね)
馴れ合いなんて御免だった
でも
もしもそれが、馴れ合いではなくただの、純粋な気持ちの表れなら
ローラ「…テクパトル、だったわね」
テクパトル「あぁ」
ローラ「…」
ローラ「行ってきます」
テクパトル「おう、行ってらっしゃい」
アナウンスが流れる飛行機の中
小さいテレビでは、面白い番組をいくつも放送している
神裂「…やはり、日本といえば剣道ですね」
神裂は剣道の試合をテレビで見ていた
ステイル「…全く、最近も相変わらず物騒な世の中だ」
ステイルは、世界的なニュース番組を見ていた
ローラ「…」
そしてローラは、ただぼーっと窓の外を見ていた
神裂「そういえば最大主教…昨日はどちらに?」
ローラ「…友達の所に」
ステイル「あなたに友達なんてものがいたとは」
皮肉交じりにステイルが呟く
ローラ「…そうね、でもあれは友達よ」
ステイル「?」
ガサゴソ、とローラがポケットを探る
中から出したのは一枚の手紙
テレビでやっているどんな番組よりも、彼女にとっては大切なもの
ローラ「…本当に、面白い一日だったわ」
神裂「…それは?」
ローラ「…内緒」
クスクス、と笑ってから再びそれをポケットにしまう
機内のアナウンスは、ローラの鼻歌を掻き消すには十分だった
テっくん家にローラがやってきた編、終了
ゴーグル(あぁ・・・またこれっすか)
ゴーグル男が目覚めると、いつもの光景がそこにあった
無意識のまま、彼に抱き着くフレンダ
寝ている間に抱き着いてくるのが、どうも彼女にとっては当たり前らしい
ゴーグル「フレンダさん、起きて下さい」
軽く背中を叩く辺り、彼は優しい人間だろう
だがその優しい叩き方では、フレンダは目を覚まさない
ゴーグル(・・・まぁこれもいつも通りっすね)
はぁ、とため息をつく
フレンダ「んん・・・」
ゴーグル「あ、起きましたか」
フレンダ「むにゃぁ・・・」
ゴーグル「あ、起きてないんすか」
フレンダ「・・・?あ、おはよう・・・」
ゴーグル「おはようございます」
目を擦りながら、フレンダがじっとゴーグル男の顔を見つめる
フレンダ「また抱き着いたりして・・・」
ゴーグル「いや、あなたですよ」
フレンダ「・・・ていうか・・・また私の寝顔見てたの?」
ゴーグル「・・・違います」
ぷいっ、とそっぽを向く
半分呆れ、半分照れ隠しだ
フレンダ「ねぇ、見てたんでしょ」
ゴーグル「・・・なんでフレンダさんの寝顔なんか」
フレンダ「私が美女だから、男なら見たくなってしまう訳よ!」
ゴーグル「世の中で数人しかいないと思いますよ」
フレンダ「ひっどい・・・」
ゴーグル「・・・起きますか」
フレンダ「うん」
眠いな、と思いつつも二人がリビングに降りる
ちなみになぜ同じ布団に寝るのか、なんてゴーグル男は疑問に思っていた
前に何度かフレンダに、別の布団を買おうと提案したことはあった
なぜか「嫌だ!」の一点張りで断られてしまったが
ゴーグル「・・・そういえば、今日はみなさん用事があるみたいでしたね」
フレンダ「あぁ、そうだった・・・」
ゴーグル「となると俺達は留守番っすね」
フレンダ「せっかくいい天気なのに・・・出掛けられないなんて不幸な訳よ」
ゴーグル「いいじゃないっすか、明日も晴れるみたいですし」
フレンダ「分かってない・・・今日の晴れは、明日にはもう来ない訳よ!」
ゴーグル「いや、出掛けたいだけなんでしょ?」
フレンダ「違う!今日の太陽を浴びてみたい訳よ!」
ゴーグル「はぁ、なんか意味分からないっすね」
フレンダ「・・・ヒマ」
つまらない、といった感じでフレンダが地面に寝転がる
スカートを着ているため結構危なっかしいのだが、なぜかパンツは見えない
絹旗直伝のガードらしく、それが微妙に残念なゴーグル男だったりする
ゴーグル「ほらほら、はしたないっすよ」
フレンダ「・・・あ、パンツ見たかったの?」
ゴーグル「ち、違いますよ」
図星だったが、それよりだらしないことをされるのは嫌だった
垣根や心理定規から礼儀の大切さを習った彼には、だらしない行動なんて出来ない
フレンダ「・・・いいじゃん、アンタしかいないんだし」
ゴーグル「はぁ・・・で、朝飯はどうしますか?」
フレンダ「うーん・・・麦野も作ってくれてればいいのにさ」
ゴーグル「そんな素敵なイベントは流石にないっすよ」
ははは、と笑ってからゴーグル男が冷蔵庫の中身を見る
ゴーグル「・・・鮭と鯖缶・・・ばっかりですね」
フレンダ「・・・鯖缶、食べる?」
ゴーグル「気持ちだけで十分っす」
バタン、と冷蔵庫を閉じる
朝から鯖缶なんて食べたくはない
もちろん、嫌いなわけではないのだが
ゴーグル「何か買ってきましょうか」
フレンダ「・・・留守番はどうする訳よ」
ゴーグル「いや、フレンダさんが留守番してて下さいよ」
フレンダ「はぁ!?なんで、意味わかんない!」
ゴーグル「なんでキレてるんすか・・・」
フレンダ「・・・だって一人じゃ寂しいし」
ゴーグル「・・・すぐ帰ってきますよ」
フレンダ「・・・」
フレンダが少し唇を噛みながら、ゴーグル男を見つめる
甘えるようなその仕草は、可愛らしい彼女には非常に似合っている
ゴーグル「・・・」
可愛いなぁ、としばらく見とれるゴーグル男
フレンダ「?どしたの?」
ゴーグル「あ、いや・・・そういう仕草してると可愛いなぁって」
フレンダ「!?な、なに言ってるかわかんない訳よ!」
ゴーグル「はいはい・・・じゃあ、俺は行ってきますか・・・」
フレンダ「ダメ!絶対に行ったらダメ!」
服の袖を引っ張り、フレンダがゴーグル男を引き止める
ゴーグル「な、なんすか・・・」
フレンダ「・・・寂しい」
ゴーグル「・・・」
彼女が寂しがり屋なのはよく知っていた
そして、彼がいないと特に寂しがるということも浜面から聞いていた
ゴーグル「分かりましたよ・・・まぁ食パンくらいはあるでしょうし」
フレンダ「やったぁ!」
本当は、ゴーグル男はご飯を食べたかったのだが
ゴーグル(まぁこの笑顔が見られるなら問題ないっすね)
フレンダ「・・・でもさ、食パンなんてあったかな?」
ゴーグル「・・・はい?」
フレンダ「だって昨日の夜、滝壺がお腹減ったって言って食パン食べまくってた訳よ」
ゴーグル「・・・マ、マジですか?」
フレンダ「うん」
それはヤバい、と焦る
確かに、見回しても食パンはないようだ
白米を炊いてくれているわけもない
つまり
ゴーグル「・・・食べるものが・・・ない」
フレンダ「・・・鯖缶・・・食べる?」
ゴーグル「・・・それはいいっす」
ミーンミーン、とどこからか蝉の鳴き声が聞こえる
学園都市には虫なんていない、と考える人もいるようだがそれは間違いだ
自然を守ろう、という意見も多く、公園などは比較的緑が多い
空気も機械で管理されていて綺麗なため、虫などはむしろ暮らしやすい環境である
が
夏の蝉の鳴き声は風物詩であると共に、うざったいものベスト3に入るものである
ゴーグル「・・・暑いっすね」
フレンダ「・・・脱げって言いたいわけ?」
ゴーグル「違いますよ・・・」
クーラーを付けても、差し込む陽射しの暑さは和らぐことはない
ゴーグル「・・・そうだ、氷ってありましたかね」
フレンダ「?あったけどなんで?」
ゴーグル「かき氷作るんすよ」
フレンダ「あ、食べたい食べたい!」
ゴーグル「・・・かき氷製造機ってありましたっけ?」
フレンダ「あったと思うけど?」
ゴーグル「じゃあ、作りますか」
氷を持ち出し、かき氷製造機の中に突っ込む
ゴーグル「いきますよ」
フレンダ「うん」
ガガガガガ、と音を立てて、かき氷が作られていく
もちろん屋台で売っている物には敵わないが、自分達で少し食べる分には十分だ
ゴーグル「・・・シロップありますか?」
フレンダ「たしか・・・昨日浜面が買ってきてた、今度お祭りで屋台開くからって」
ゴーグル「いや、それ使ったらまずいっす」
フレンダ「たくさんあるし、一個くらいくすねても大丈夫な訳よ!」
ゴーグル「はぁ・・・」
嬉々としてフレンダがシロップを持ってくる
苺味の、ベタなシロップだ
ゴーグル「はい、どうぞ」
フレンダ「・・・?」
ゴーグル「食べないんすか?」
フレンダ「じ、自分のは自分で作るからアンタが食べて・・・」
ゴーグル「フレンダさん、暑くないんですか?」
フレンダ「あ、暑いけど・・・」
ゴーグル「ならどうぞ」
フレンダ「・・・あ、ありがと」
なぜだか顔を赤くしながら、フレンダがかき氷を受け取る
ゴーグル(・・・暑いんですかね?)
フレンダ「ーっ!」
ゴーグル「?あ、もしかしてキーンってしてますか?」
フレンダ「うるひゃい!」
ゴーグル「あっはは!呂律回ってないじゃないですか!」
フレンダ「しょんなことにゃいもん!」
ゴーグル「ははは!あっはは!」
げらげら、とゴーグル男が笑い転げる
普段の彼ならこんなことで爆笑したりはしない
だが夏の暑さというのは人を弱らせるものだ
フレンダ「アンタもキーンってなっちゃえ!」
スプーンに乗せたかき氷を、無理矢理口に突っ込まれる
ゴーグル「ひゃうっ!?」
いきなりそんなことをされたら、頭だって痛くなる
ゴーグル「あぁぁぁ!」
フレンダ「にゃっはっは!ざまぁみろ!」
ゴーグル「このぉ!」
ゴーグル男が、仕返しだと云わんばかりにかき氷を食べさせ返す
フレンダ「ひゃんっ!?」
ゴーグル「あっはっは!」
フレンダ「にゃぁぁぁ!」
ゴーグル「うわぁ!?」
そこから始まるのは、互いの頭を痛くさせる戦い
さっきも言ったように、夏の暑さは人を弱らせる
二人の思考力は小学生並になっていた
夏って怖いね
ゴーグル「・・・なんであんなことしてたんすかね」
フレンダ「・・・今更だけど、謝る訳よ」
ゴーグル「俺こそすいませんでした・・・」
しばらくかき氷戦争を楽しんだ二人は、並んで床に寝転がっていた
ひんやりとしたフローリングの感触がかなり心地好い
ゴーグル「・・・しかし暑いですね」
フレンダ「・・・風鈴とかないかな・・・」
ゴーグル「そんな古典的な物で何するんすか」
フレンダ「気持ち、涼しくなる訳よ」
ゴーグル「気持ちの問題っすか」
はぁ、とため息をついてからゴーグル男がテレビをつける
夏休みシーズンだからか、子供向けの番組が多いように感じる
ゴーグル「・・・」
フレンダ「なんか面白くない訳よ」
ゴーグル「そりゃ昼間にゴテゴテのバラエティーなんてしないっすよ」
フレンダ「・・・」
ゴロゴロ、とフレンダが転がる
ゴーグル男にぴったりとくっついてから、ニコニコと笑う
ゴーグル「あの・・・暑いんすけど」
フレンダ「うっわ・・・私の愛情表現をスルーなんて」
ゴーグル「・・・愛情表現だったんすか」
フレンダ「うん」
ゴーグル「・・・」
気まずい雰囲気になってしまった
ファーストキスを済ませた後、特に二人の間には進展はない
ゴーグル「・・・フレンダさん、その」
フレンダ「私のこと好き?」
ゴーグル「は、はぁ?」
フレンダ「私は・・・アンタのこと、好き」
ドキン、とゴーグル男の心臓が跳ねる
最初は鬱陶しかったフレンダの愛情が、今ではすっかり温かく感じられる
ゴーグル「・・・俺も好きっす、ただ・・・まだもうちょっと待ってくれませんか」
フレンダ「・・・」
ゴーグル「・・・なんか、もうちょっと・・・時間を掛けたいんです、俺達出会ってそんなに経ってないですし・・・」
フレンダ「じゃあさ、予約はしててもいい?」
ゴーグル「予約?」
きょとん、としたゴーグル男の唇を、フレンダが優しく奪う
奪う、とはいうものの優しく触れるようなキスだったが
フレンダ「・・・私、待つからさ」
ゴーグル「・・・そんなこと言われたら、堪らないっすね」
フレンダ「ホント?」
ゴーグル「はい」
フレンダ「えへへー!」
嬉しそうに笑いながら、フレンダが立ち上がる
ゴーグル「?なんすか?」
フレンダ「喉乾いたから飲み物取ってくる、何がいい?」
ゴーグル「じゃあビールで」
フレンダ「・・・あのさ、昼間からビールなんて休みのサラリーマンじゃないんだから」
ゴーグル「いいじゃないっすか」
フレンダ「はぁ・・・ま、今日は特別に」
ゴーグル「くはーっ!この一杯!」
フレンダ「・・・アンタさ、よくそんな苦いもの飲めるよね」
ゴーグル「ビールの美味しさが分かったら、大人になれるんすよ」
フレンダ「ビールの美味しさって何?」
ゴーグル「だ、だから・・・あれっすよあれ、こう・・・あれっすよ」
フレンダ「ゴーグルも結局子供な訳よ!」
ビシッ、と人差し指を立てたフレンダが笑う
ゴーグル「・・・言葉じゃ説明出来ないんすよ」
フレンダ「はいはい、要は雰囲気で飲んでるんでしょ」
ゴーグル「・・・否定出来ないのが悲しいっすね」
グルグルと缶を回しながら、ゴーグル男がテレビのチャンネルを変える
どこかの島で大規模なお祭りがあったそうだ、花火も上がっていたらしい
フレンダ「いいなぁ、お祭りかぁ・・・そういえば今日もお祭りあるよね」
ゴーグル(・・・ってあそこに映ってるの垣根さんと心理定規さんじゃないっすか)
フレンダ「・・・ねぇ、二人で行ってみない?浜面と滝壺はどうせ二人だろうし、絹旗と麦野はそれぞれ好きな人と行くだろうし」
ゴーグル(・・・なんであんな所にいたんでしょうか)
フレンダ「ねぇってば」
ゴーグル「あぁ、なんすか?」
フレンダ「だから、二人で今日のお祭り・・・行かない?」
ゴーグル「いいですけど・・・浴衣とかないっすよ?」
フレンダ「・・・そこは妥協する訳よ」
ゴーグル「・・・祭ですか・・・そういえば行ったことないっす」
フレンダ「初詣とかならあるけどね」
ゴーグル「今までは行けるような状況じゃなかったですからね」
フレンダ「・・・そう考えたら、今って幸せな訳よ」
ゴーグル「幸せ・・・ですか」
うーん、とゴーグル男は唸る
幸せなのか、と問われれば幸せだが、これが最上級の幸せではないはずだ
つまり、これからもっと幸せになれば今はそこまで幸せではなかった過去になる
ゴーグル「ややこしい」
フレンダ「?何が?」
ゴーグル「あ、いや・・・こっちの話だから気にしないでいいっすよ」
フレンダ「ふーん・・・」
ゴーグル「・・・皆さん何時くらいに帰ってくるんすかね」
フレンダ「みんな・・・今何してるんだろ」
ゴーグル「浜面さんと滝壺さんはデートでしょうね」
フレンダ「麦野は買い物だと思う」
ゴーグル「絹旗さんは海原なんとかさんとデートでしょうね」
フレンダ「あ、そうそう」
全て憶測なのが頼りないが、友達だからといって一日の行動を把握しているわけでもない
ゴーグル「・・・このまま、夜まで誰も帰ってこなかったら・・・」
フレンダ「・・・お、お祭りは行くから!」
ゴーグル「後で留守番してなかったってバレたら麦野さんに殺されますよ」
フレンダ「・・・」
ゴーグル「・・・」
実際に麦野に殺されたことのある二人にしか分からない恐怖が、そこにある
ゴーグル「…まぁ、大丈夫でしょうね」
フレンダ「だといいね」
ゴーグル「・・・結局、帰ってきませんでしたね」
時刻は夕方の5時
今から祭の会場に向かわなければならない時間だ
フレンダ「・・・っていうかさ、きっとみんな帰ってこないで直接祭に行くんじゃないかな」
ゴーグル「あ、その発想は無かったっす」
ポリポリ、と頬を掻きながらゴーグル男が笑う
フレンダ「・・・じゃ、私達も行かない?どうせ留守番なんてしなくても問題ない訳よ」
ゴーグル「そうっすね・・・鍵掛ければいいでしょう」
フレンダ「行こう、この祭の花火ってちょっとした噂があるんだ!」
ゴーグル「?なんすかそれ」
フレンダ「手を繋ぎながら、一緒に花火を見た二人は結ばれるって訳よ!」
ゴーグル「うわ、少女趣味」
フレンダ「でもホントみたいなんだから!」
ゴーグル「はいはい・・・俺はそういうのには興味ないっす」
呆れたように返事をして、ゴーグル男が上着を羽織る
夏ではあるが、夜になれば冷える時がある
そのために一応持っておくのだ
フレンダ「・・・とりあえず、面倒なヤツに会わなければいいんだけど」
ゴーグル「垣根さんとかっすか」
フレンダ「うん」
ゴーグル「大丈夫じゃないっすか?垣根さんもさすがに短期間で二回も祭には行かないでしょうし」
フレンダ「?垣根って祭、行ってたの?」
ゴーグル「・・・まぁ」
苦笑いを浮かべ、ゴーグル男が玄関に向かう
フレンダ「あ、待ってよ!」
ゴーグル「早くしないとおいていきますよ」
フレンダ「意地悪ぅ!」
ゴーグル(・・・あぁ、そういや)
垣根「あぁ?ゴーグル馬鹿じゃねぇか、それにフレンダ」
フレンダ「・・・や、やっほー・・・」
ゴーグル(この人に常識なんて通用しないんだった・・・)
心理「奇遇ね、あなた達もお祭りに?」
ゴーグル「・・・はい」
会場に向かってすぐ、垣根とばったり出くわしてしまった
ゴーグル「・・・お二人もですか」
垣根「祭ってのは何度来ても飽きないよな!」
心理「それはあなただけよ・・・美琴も呆れてたわよ、よく飽きないわねって」
垣根「あぁ?じゃああいつらはなんなんだよ!」
ビシッ、と垣根が指差した方向には
テクパトル「・・・林檎飴がまた食べられるなんて嬉しいな」
19090「テっくんは本当に林檎飴が好きですね」
垣根「見ろよ!あいつらだって祭が好きなんだ!」
心理「林檎飴が好きなんじゃない?」
ゴーグル「・・・最悪だ」
フレンダ「じゃ、じゃあ私達はあっちに・・・」
垣根「おぉ?なんだなんだ、だったら俺達もお邪魔しちゃおうかなぁ!」
ゴーグル「ちょっ!?」
心理「垣根・・・」
垣根「いいだろ、だってお前達別に恋人じゃないしぃ!」
心理(あ、遊んでるわね)
フレンダ「・・・だ、だけど・・・」
垣根「それとも何かな、ゴーグル馬鹿はフレンダと二人きりじゃなきゃダメな理由があるのかなぁ!?」
ゴーグル「な、ないっす」
フレンダ「ゴーグル!」
ゴーグル「あ、いや!そういう意味じゃ・・・」
垣根「デートなのか?あぁなんだ、じゃあ邪魔しちゃ悪いなぁ!」
ゴーグル「デートじゃないっすよ・・・」
フレンダ「・・・」
垣根「はぁ?じゃあなんで・・・」
フレンダ「・・・ゴーグルの馬鹿」
ゴーグル「は、はい?」
フレンダ「最低、鈍感、ニブちん!」
ゴーグル「えぇ!?」
フレンダ「ふん!」
怒ったような表情で、フレンダがスタスタと歩いていく
ゴーグル「ちょっと、フレンダさん!」
フレンダ「ついて来ないで!」
ゴーグル「っ…」
心理「・・・垣根」
垣根「お、俺のせいじゃないし・・・」
心理「垣根」
垣根「」
テクパトル「あーん」
19090「あーん//」
垣根「・・・あぁ、そういや聞いたことあるな・・・」
心理「この祭の花火って、確かに二人きりで見たらロマンチックでしょうね」
ゴーグル「・・・で、フレンダさんは多分・・・俺とそれを見たかったんです」
垣根「なんで?」
ゴーグル「・・・俺と結ばれたいから、です」
フレンダが去ってから10分程経っただろうか
垣根達と座って話をするゴーグル男は、我ながら何を言っているのか分からなくなっていた
ゴーグル「・・・自惚れみたいに聞こえるかもしれないですけど、フレンダさんは俺が・・・好きなんです」
心理「自惚れじゃなくて事実じゃない」
19090「テっくん、あーん」
テクパトル「あーん・・・うん、美月に食べさせてもらうと美味しいな」
19090「//」
垣根「なのに、お前は俺の冷やかしに負けてこれはデートじゃないと言い張ってしまった」
ゴーグル「・・・申し訳ないことしちゃいましたよ・・・」
垣根「馬鹿だな、お前」
心理「あなたのせいよ」
垣根「・・・でもさ、別にフレンダだってキレてはないだろ」
ゴーグル「はぁ・・・だといいんすけど」
垣根「元気出せよ」
テクパトル「美月、愛してる」
19090「み、美月もです!」
ゴーグル「・・・はぁ・・・」
垣根「お前ら空気読めよ」
テクパトル・19090「?」
フレンダ(ゴーグルの馬鹿!)
頬を膨らませながら、フレンダは歩いていた
何人かの軟派な男が声を掛けてきたが、一睨みで制した
フレンダ(・・・そ、そりゃ・・・確かにデートではないけどさ)
女の子としては、嘘でもいいからデートだと言ってほしい時もある
フレンダ「・・・」
絹旗「あれ、フレンダじゃないですか」
フレンダ「あ、絹旗・・・」
海原「あぁ、たしか・・・フレンダさんでしたね」
フレンダ「・・・?」
絹旗「海原さんですよ、フレンダ」
フレンダ「あー!絹旗が狙って・・・」
絹旗「超窒素パンチ!」
フレンダ「ごはぁっ!」
海原「?」
フレンダ「・・・こんな所で何してる訳よ」
絹旗「何って、超決まってるじゃないですか」
海原「二人でお祭りを楽しみたくて」
フレンダ「・・・デート?」
絹旗「え、あ・・・!」
海原「ははは、そうだと嬉しい限りです」
絹旗「ーっ!?」
あたふたしだす絹旗
それを見て、フレンダがため息をつく
フレンダ「・・・絹旗、こういう男はいいと思う訳よ」
絹旗「な、何の話ですか!?」
フレンダ「・・・別に」
海原「フレンダさんはお一人なんですか?」
フレンダ「・・・本当はゴーグルと来たんだけど、ちょっと」
絹旗「もしかして・・・また喧嘩したんですか?」
フレンダ「だ、だって・・・」
フレンダが事のいきさつを話した
絹旗「・・・でも、それは別にゴーグルの非でもないですよね」
海原「確かに、フレンダさんの気持ちも分かりますが」
フレンダ「・・・私だって分かってる訳よ、自分が悪かったってことくらい」
絹旗「なら謝ればいいじゃないですか」
フレンダ「い、今更言っても・・・」
海原「・・・ですが、仲直りをしないままではお祭りの間、寂しいのではないですか?」
フレンダ「・・・」
困ったような表情のフレンダを見て、海原が苦笑する
海原「大丈夫ですよ、フレンダさんが真剣に謝ればきっと分かってもらえます」
フレンダ「うん・・・分かった」
絹旗「フレンダ、超頑張ってください!」
フレンダ「うん、絹旗もね!」
絹旗「わ、私は・・・」
海原「ははは、ではまた」
絹旗の手を握り、海原が歩き出す
フレンダ(・・・いいなぁ)
垣根「・・・しっかし、屋台のフランクフルトって焦げがひどいよな」
心理「あら、それもまた良さの一つなんじゃないかしら」
テクパトル「美月、あーん」
19090「あーん」
テクパトル(・・・美月がフランクフルトを頬張る・・・か)
19090「ん、口にケチャップが・・・」
テクパトル(口元を拭う仕草がなんとも・・・)
ゴーグル「・・・そういえば、心理定規さんってフランクフルトとか好きなんですか?」
心理「あら、お祭りに来たなら食べたいものじゃない?」
ゴーグル「でもイメージと遠いっす」
心理「あなたね・・・私のイメージを勝手に決め付けたらダメよ」
ゴーグル「は、はぁ」
心理「そんなんじゃ女の子に嫌われちゃ・・・」
垣根「お、おい・・・」
心理「あっ・・・」
ゴーグル「・・・いいっすよ別に、どうせ俺はフレンダさんを怒らせちゃいましたよ・・・」
垣根(見ろよ!いじけた!)
心理(わ、私のせいじゃないからね!?)
垣根(今のは明らかにお前だよ!)
心理(ふぇっ!?)
テクパトル「美月、可愛いぞ・・・」
19090「あっ・・・そんなに強く抱きしめられたら・・・」
心理「・・・あなた達、頼むから空気を読んで・・・」
ゴーグル「いいっすよ・・・俺の問題なんて気にしないでください」
垣根「・・・あ、いいこと思い付いたかもしんない」
心理「・・・何?」
垣根「つまりさ、フレンダはお前と一緒に花火見たかったんだろ?」
ゴーグル「多分そうっす」
垣根「なら簡単だ、お前が一緒に花火に誘うんだ」
ゴーグル「・・・」
ゴーグル「お、俺がっすか!?」
垣根「あぁ!」
フレンダ「・・・謝る、かぁ」
なんと言って謝ればいいのだろうか
フレンダ「・・・」
浜面「あれ、フレンダじゃんか」
フレンダ「?浜面・・・滝壺もいる訳よ」
滝壺「フレンダもお祭りに来たんだ」
フレンダ「・・・まぁ二人はいると思ってた」
浜面「・・・ゴーグルは?一緒じゃないのかよ」
フレンダ「・・・色々あって」
浜面「ま、まさか!お祭りでつい調子に乗ったゴーグルはフレンダについに手を出して・・・」
フレンダ「結局アンタは下衆な訳よ」
浜面「じょ、冗談だって!」
フレンダ「冗談でもゴーグルを悪く言わないで!」
浜面「ひっ!?」
滝壺「大丈夫、私はそんなはまづらを応援したいと思う」
浜面「あくまで要望なんですね分かります!」
フレンダ「・・・でもいいな、二人は」
ぽつり、と寂しそうに呟くフレンダ
浜面「?何がだよ」
フレンダ「・・・お互いがお互いの居場所って感じがする」
滝壺「・・・」
フレンダ「滝壺にも居場所が出来たんだ・・・って思ったらさ、本当に嬉しいし羨ましい訳よ」
浜面「・・・お前」
フレンダ「・・・私もさ、ゴーグルとそういう風になれたらなぁ、なんて思ってるのにさ」
滝壺「なれるよ、フレンダ」
フレンダ「あはは・・・そう上手くはいかない訳よ」
浜面「あ、諦めんなよフレンダ!」
ぐっ、と浜面が拳を握る
浜面「確かにちょっと、お前達は不器用だし・・・ちょっとぎこちない時もあるけどさ!」
浜面「でも、お前達はお前達じゃないか!他人の真似とかしないで、自分達の方法で上手くやればいいんだって!」
フレンダ「・・・私の方法?」
浜面「だからさ、俺と滝壺を羨ましがる必要なんてないんだよ、だってお前の幸せを作れるのはお前だけだし、お前の幸せを味わえるのもお前だけなんだからさ!」
フレンダ「・・・なんか、浜面が言っても説得力に欠ける訳よ」
浜面「う・・・悪い」
フレンダ「ううん、なんか元気出てきた!」
滝壺「頑張って、フレンダ」
フレンダ「うん、滝壺もありがと!」
笑いながら、フレンダが駆けていく
滝壺「・・・はまづら、かっこよかった」
浜面「・・・」
滝壺「?はまづら?」
浜面(ゴーグル、フレンダを頼むぞ)
ゴーグル「・・・花火に誘う、ですか」
一人、ゴーグル男は考えていた
なんと言って誘えばいいのか
既に花火の時間は近づいてきている
早くしなければ、二人で見ることが出来ない
ゴーグル(・・・)
それに、もしもフレンダが傷ついていたらどうすればいいのか
ゴーグル「俺は・・・」
フレンダ「ゴーグル!」
ゴーグル「!」
向こうから、手を振って走ってくるのは
ゴーグル「フレンダさん・・・」
フレンダ「はぁ・・・はぁ・・・」
ゴーグル「ど、どうしたんすか・・・そんなに慌てて」
フレンダ「・・・謝りたかったから」
ゴーグル「謝る?」
フレンダ「・・・ゴメン、デートなんて約束じゃなかったのに・・・」
ゴーグル「・・・こちらこそすいませんでした、その・・・」
ゴーグル男が手を差し出す
ゴーグル「今から、デートってことじゃダメっすか」
フレンダ「・・・?」
ゴーグル「二人で花火を見たら、結ばれるんでしょ」
フレンダ「アンタ・・・噂を信じてみたいわけ?周りと同じことがしたいわけ?それとも花火が見たいわけ?」
口を尖らせながら、フレンダが尋ねる
怒っているのではなく、恐らくは照れ隠しだ
でも
いつまでも気持ちを隠していては伝わらない
だから
ゴーグル「俺は」
彼は、伝える
ゴーグル「俺はただ、フレンダさんと手が繋ぎたいだけです」
フレンダ「・・・」
ゴーグル「・・・」
強く手を握り合った二人は、空を見上げていた
綺麗な花火が、空を彩っている
近くから垣根の声が聞こえる
ちなみに、テクパトル達も同じ場所から花火を見ていた
だが二人はそんなことには気づいていなかった
周りになんて、気が向かなかった
フレンダ「綺麗、今まで見たどんな花火より」
ゴーグル「・・・なんでですか」
フレンダ「・・・わかんない、でもすっごく綺麗な訳よ」
ゴーグル「・・・俺もそう思います」
フレンダ「・・・ゴーグル、私さ」
ゴーグル「・・・言わないでいいですよ、俺だって多分同じっす」
フレンダ「!」
ゴーグル「・・・時間を掛けて、ゆっくり進めばいいじゃないですか」
ゴーグル男が理想としていたのは、垣根と心理定規のようなカップルだった
いつも傍にいて、言葉にしなくても互いの気持ちが通じ合う
そんなカップルだった
でも、それは理想であって彼になれる物ではなかったのかもしれない
なら、なんだと言うのだろうか
ゴーグル「・・・言葉にしなくても、俺は・・・いいんす」
フレンダ「で、でも・・・」
ゴーグル「・・・俺には似合わないですから」
それに
ゴーグル「・・・そんなこと、伝えなくても・・・伝わればいいなって思うんですよ」
フレンダ「・・・そっか」
ゴーグル「・・・」
夜になると、夏でも肌寒い
自分の着ていた上着の中に、無理矢理フレンダを包ませる
ゴーグル「・・・あったかいっすね」
フレンダ「うん」
ゴーグル「・・・フレンダさん」
フレンダ「なに?」
そっ、と唇に暖かい物が触れる
それは、花火なんかよりよっぽど美しく、熱い感情
ゴーグル「・・・いつか、もしフレンダさんが言葉として聞きたいって思ったら、そう言ってください」
フレンダ「・・・」
ゴーグル「その時までに、最高の言葉を考えておきますから」
フレンダ「私が言うまで、ずっと考えてくれるの?」
ゴーグル「はい」
フレンダ「・・・なら、いつまでも言わない」
ゴーグル「・・・」
フレンダ「アンタから、言って欲しいからさ」
ゴーグル「あはは・・・そりゃいいっすね」
フレンダ「・・・なんかさ、幸せだな」
ゴーグル「・・・俺もです」
フレンダ「・・・ね、ゴーグル」
ゴーグル「なんすか」
フレンダ「これからもさ、傍にいてくれる?」
ゴーグル「当たり前じゃないっすか」
垣根もきっと、こんな気持ちで心理定規に思いを伝えたのだろう
ゴーグル「だってここが俺の居場所なんですから」
麦野「あぁ畜生!」
麦野沈利は、不幸というか恵まれていない女だ
暇つぶしとして祭に来た
それが間違いだったのだ
周りを見ればカップル、カップル、カップル!
能力が暴走してしまいそうだ、というかした
麦野(あぁぁぁ!キスなんかしやがってよぉぉ!)
ファーストキスさえまだな麦野にとって、それは羨ましくも刺激の強い世界だった
せめて、一緒にいてくれる男さえいたら・・・
青ピ「あれ、麦野さんやんか!」
麦野「!」
青ピ「よかったー!土御門と一緒に来る予定やったんやけど、あいつドタキャンしてなぁ・・・」
青ピが笑いながら近づいてくる
麦野「あ、青髪君!」
青ピ「?」
麦野「ファ・・・」
麦野「ファーストキスとかしてみない!?」
青ピ「」
上条「暑い・・・」
美琴「太陽には休日なんてないのよ・・・」
照り付ける日光、それを下から跳ね返すコンクリートジャングル
俺たちゃ進化した猿なのに、未だにジャングルさ迷ってらぁ、と笑えてくる
上条「・・・こうも暑いとさ、なんもやる気が起きないよな」
美琴「そうね・・・」
二人は今、昼食の買い出しに向かっている
陽炎が浮かぶ目の前には進みたくないのだが
上条「はぁ・・・ん?なんかあっちに人だかりが出来てる」
美琴「・・・ってあれ、警備員の車両じゃない?」
上条「・・・なんかあったのかな」
日本人には野次馬根性が眠っているらしい
というより、沢山の人間が一カ所に集まっていたら行きたくなるのが人間の性だ
上条「行ってみるか!」
美琴「うん!」
黄泉川「犯人に告ぐ!諦めて投降するじゃんよ!」
メガホンを片手に叫ぶ女性、彼女を上条は知っている
上条「あれ、黄泉川先生・・・」
黄泉川「ん・・・?上条じゃんか、どうした?」
上条「そりゃこっちの台詞ですよ・・・」
美琴「・・・銀行強盗ですか?」
黄泉川「そう、しかも面倒なことに人質を取ってる」
上条「人質・・・?」
「あ、窓際に誰か立ってるぞ!」
黄泉川「!人質か!」
「み、皆さん!騒がないでください!」
明らかに、犯人に言わされているような雰囲気で男性が叫ぶ
「警備員の皆さんも、お願いですから立ち入らないで・・・ひぃっ!」
頭の後ろには、真っ黒な何かが突き付けられている
「お前らぁ!」
もう一人の男が、顔を出す
覆面を被っていることから分かるが、それは犯人の一人なのだろう
「いいか、逃走用の車両を準備しろ!探知機なんて付けても無駄だ、人質も一緒に運ぶんだからな!」
黄泉川「くっ・・・大人しくお縄につくじゃんよ!」
「ははは!人質のことを考えろよな警備員!」
犯人の一人が、今度は若い女性を窓際に立たせる
「た、助けてください!」
「うるせぇ!お前も逃走用の車両を用意するように言え!」
「ひっ・・・!」
黄泉川「卑怯なヤツらじゃんよ・・・」
上条「だ、大丈夫なんですか?」
美琴「・・・でも厄介ね、中の状況も分からないから下手に手が出せないし・・・」
黒子「お待たせいたしました、風紀委員の・・・ってお姉さま!?」
美琴「黒子!アンタもこの事件の担当に?」
黒子「そうですが・・・お姉さまはなぜここに・・・」
上条「偶然通り掛かってさ・・・それより、どうするんだよこの状況」
黒子「・・・今は犯人側の要求を飲むしかないでしょう」
黄泉川「くっそ・・・逃げられたら面倒なのに・・・」
「お、おい!まだ人質がいるみたいだ、若い男だ!」
野次馬の一人がビルの窓際を指差す
黄泉川「ちっ、まだ人質がいるじゃん!」
垣根「怖いよー!助けてー!」
一同「」
垣根「殺されちゃうよー!!」
「おらおら!!お前ら、人質の命が惜しければ車を用意しろ!!」
垣根「とっびきり速いのをなぁ!!」
垣根・強盗「ぎゃーっはっは!!!」
黄泉川「…垣根がなんであそこにいるじゃんよ…」
黒子「し、知りませんの…」
美琴「…で、でも他の人質はどうしようもない状況なのよ!?」
上条「そうだ、垣根はどうでもいいけど民間人が心配だ!!」
黄泉川(こいつらの友情って…)
黒子「…出来れば、中にいる垣根さんにも協力を願いたいところですが…」
美琴「…さすがに携帯で連絡なんてまずいわよね」
黄泉川「くっ…ここで指を咥えることしかできないじゃん!」
上条「…どうかな」
美琴「ど、どういうこと?」
上条「…垣根なら、この状況をどうにかしてくれる…あいつには常識が通用しないんだから!!!」
一同「お、おぉ!!」
垣根「ぷっひー、おなか空いた」
「うるせぇ、人質は黙ってろ!!!」
垣根「なぁ、お菓子とかないの?プッカとかでいいからさ」
「うるせぇって言ってんだろ!!死にたいのか!!」
垣根「死にたいって言ったら殺してくれるのか?」
「え、あ…いや、その…」
垣根「うっそだよーん!!!死にたいわけないだろーが!!」ベロベロバー
「こ、こいつぅ!!!」
「…やっちまったな、とうとう…」
「強盗なんて…あぁ、俺達って悪いやっちゃなぁ!!!」
垣根「…でもよ、人質取るなんて中々あくどいな」
「…こうでもしないと、俺達無能力者は食っていけねぇのさ…」
垣根「ふーん、で、プッカとかないの?」
「ねぇよ!!あったら俺達が食べてるよ!!!」
垣根「…お前ら、そんなに貧乏なのか」
「…奨学金なんて貰えないんだよ、まともに学校も行ってないからな…」
垣根「…イジメられてるのか…」
「無能力者だからだよ!!」
垣根「ぷっひー、おなか空いた」
(こいつ人の話聞いちゃいねぇ)
上条「…だが待て、いくら垣根でも…人質が他にいる状況で暴れられるわけはない…」
黒子「…そ、そういえばそうですわね」
美琴「あれ…?ってなるとさ、かなりヤバイんじゃないの?」
黄泉川「…中に偵察要員を送りたいところだが…入口にすぐ監視役がいる可能性もあるじゃん」
黒子「…私も、空間移動でむやみやたらに入ることは出来ませんの」
美琴「…そうなったら、どうすれば…」
黄泉川(…犯人側の要求を飲むか…?)
「お、おい!!さっきの男がまた!!」
黄泉川「!!窓際に垣根が…」
垣根「プッカが食べたいよぉぉぉぉぉぉ!!!!」
「あ、てめぇ!!勝手に叫んでんじゃねぇよ!!!」
「俺だってプッカ食べてぇよぉぉぉ!!!」
「お、お前もノるんじゃねぇ!!!」
垣根「あぁぁぁぁぁ!!!!俺の股間が未元物質ァァァァァ!!!!!!!!!!」
一同「」
黄泉川「…もしかしたら、案外大丈夫かもしれないじゃん」
上条「いやいや!!明らかに大丈夫じゃないですからね!?」
垣根「・・・はぁ、今何時なんだ?」
「・・・人質は静かにしてろよ」
垣根「人質?人質である前に、俺はお前の友達だろ」
「ちげぇよ」
垣根「あー・・・そういや今日は昼間に面白そうな番組してるんだった」
「あぁ、笑わなきゃいけない学園都市だろ、知ってるぜ」
垣根「なぁ、お前らテレビ付きの携帯持ってねぇの?」
「俺達は貧乏なんだよ!」
「んな携帯持ってるかよ!」
垣根「なんかすまん」
垣根「・・・他の人質はどうするんだ」
「他の、ってまるで自分が特別みたいな言い方するな」
垣根「だって俺だぜ?特別に決まってるだろ、俺はオンリーワン」
「・・・」
垣根「・・・なぁ、なんでお前達はこんなことしてるんだよ?」
「・・・今から言うことは全く嘘なんだが、話していいか」
垣根「あぁ、構わない」
「・・・俺にはさ、彼女がいるんだ・・・本当に愛してる彼女が」
「・・・そいつ、若いのに癌を患ってさ・・・治療には金が掛かる」
垣根「あぁ」
「・・・俺と彼女は置き去りでさ・・・頼れる親なんていないんだ」
「俺は生憎無能力者・・・奨学金なんかじゃとても治療費なんて払えない」
「・・・彼女だってただのLEVEL1だ・・・それも、癌になってからまともに学校にさえ通えてねぇ・・・どうやってそんな俺達が稼げるって言うんだよ」
垣根「・・・まさか、彼女を助けるためにか?」
「・・・あいつのためなら、俺はどんなことだってするよ」
うぅ、という呻き声が周りから聞こえる
強盗犯の仲間はもちろん、人質も何人か泣いていた
垣根「・・・癌だけに、悪性な理由だな」
「上手くないからな」
垣根「だがな!そんなのは嘘なんだろぉ!」
「な、なぜバレた!?」
垣根「はっはぁ!最初に嘘だって言ってたからなぁ!」
「・・・」
垣根「・・・」
「・・・」
垣根「・・・」
「・・・」
垣根「・・・」
垣根「暇だから俺の話を聞いてもらっていいか」
「あぁ」
垣根「・・・俺はな、メルヘンって言葉が好きなんだ」
「メルヘン?あの夢物語的な意味のメルヘンだよな?」
「なんかお前に似合わないな」
垣根「人を見た目で判断するな、まぁメルヘンってのは素敵な言葉だが・・・」
垣根が腕を組み、考えるような仕草をしようとする
腕を縄で縛られていたため、それは叶わなかったが
垣根「・・・メルヘンって、美味しそうな響きだよな」
「・・・」
垣根「・・・」
「・・・」
垣根「・・・」
「そういうこと言われたらさ、腹が減って仕方ないだろ」
垣根「悪い、プッカが食べたくなるな」
「あぁ」
垣根「実はさ」
「あぁ」
垣根「お洒落の洒って、酒じゃないんだぜ」
「え、マジで?」
垣根「あぁ、これって結構いろんな人が勘違いしてるけどさ」
「へぇ…」
垣根「お前も知らなかっただろ」
「あぁ、知らなかった」
垣根「だろぉ!?はっは、俺ってやっぱ天才!!!」
「っていうか、オシャレを漢字で書けるってのも知らなかった」
垣根「…」
「…」
垣根「…」
「…」
垣根「…」
「…」
上条「…どうすんだよ、なんだかんだ膠着状態だぞ…」
黄泉川「…きっと、人質はストレスが溜まってるじゃんよ…」
美琴「…となると、やっぱり強行突破しか…」
黒子「ですが…ヘタをすれば、人質が危ないですの」
上条「…中の垣根と連絡さえ取れればなぁ…」
黄泉川「そうだな…ん?」
黒子「あ、あれは垣根さん!?」
美琴「ま、また窓際に…」
垣根「ぷーるるん、ぷるん!!!!ふぁーみふぁーみふぁー!!!!!!!」
一同「」
垣根「おんぷちゃぁぁぁぁぁん!!!!!!!!!!!!!!!!!そのおんぷちゃんの紫色の髪の毛に顔をうずめて、クンカクンカってしたいよぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!!」
一同「」
垣根「ふぅ」
「おいてめぇ!!人質がおんぷちゃんに手出すんじゃねぇよ!!!」
垣根「はぁ!?むしろおんぷちゃんは人質的なシチュエーションが大好きなんですぅ!!」
「え、マジで?」
垣根「うっそー!!!!」
「てめぇ、殺す!!!!」
一同「」
垣根「…暇だから、定規戦争をしようと思う」
「…定規がないんだが」
垣根「なに言ってんだよ、ここはオフィスビル…定規の一つや二つあるだろ」
「あ、ここに二つあったぞ」
「こっちにはペンもあった」
垣根「よーし、じゃあフィールドはこの机な、金属製で相性よさそうだ!!」
「っと、お前も手縛ってたら出来ないな、外すから待ってくれよ!」
垣根「おう!!」
上条「いや待て…垣根はなんだかんだ頭が切れる、トイレに行きたい、とかいってあの手を縛ってた縄をほどくかもしれない!!」
黄泉川「なるほど、そして見張りを昏倒させて携帯で連絡を取ってくれるかもしれないじゃん!!!」
美琴「そうね…垣根ならやってくれるわ」
黒子「…早くしないと、人質の心には深い傷が残ってしまいますの…」
一同(…事は一刻を争う…)
垣根「よーし、この机から落ちたら負けな!!」
「ミサイルショットは?」
垣根「ありに決まってるだろ!!」
犯人一同「おぉぉぉぉぉ!!!!」
垣根「…いくぜ、俺はこの軽くて機動性に優れた定規だ!!!」
「じゃあ俺はこの重くて防御に優れてる定規ぃ!」
「俺はこの鉄製で攻撃に優れた定規ぃ!!」
垣根「心理定規!!」
「は?」
垣根「…」
「…」
垣根「…」
垣根「…いくぜ、まずは俺からの攻撃だ!!」
ボキッ
垣根「…」
「あ、あーあ…ペン折っちゃったよ」
「お前…怒られるぞ…」
垣根「お、俺のせいじゃねぇし!!お前らの方が犯罪者だし!!!」
「…」
垣根「…」
「…次、俺の番な」
垣根「オッケー」
上条「…そろそろ、正午か…」
黒子「…事件発生から、実に3時間…」
美琴「…中は…どうなってるのかしら…」
黄泉川「…くそ、私は無力じゃんよ…中では、きっとたくさんの人質が怯えてる…」
上条「先生は悪くないですよ、こうやってしっかり…」
黄泉川「慰めはよしてくれ、上条…」
美琴「…」
垣根「あー!!!負けたーー!!!」
「ははは!!!俺の勝ちぃ!!」
「でもさ、定規戦争ってやりすぎると机が削れるんだよなぁ…」
垣根「っといけねぇ、そうだったな…」
「仕方ない、机が傷ついたらいけないからな…」
垣根「だな」
「じゃ、また手縛るから腕を後ろに…」
垣根「はっはぁ!!!騙されたなぁ!!」
「な、なにぃ!?」
垣根「これは、俺の作戦だったんだよ!!こうすれば俺は手が解放される!!」
「そ、そんな馬鹿な…!!」
垣根「そして見ろ…定規戦争をしていたお前達は、自然と拳銃から手を放してしまった!!」
「!!」
「は、はははは!!だからなんだよ、お前一人で俺達全員相手にしようってのかぁ!?」
垣根「あぁそうだな、普通の人間ならそんなことはしない、この人数に喧嘩で勝てるわけがない…常識的に考えてな」
垣根「だが、俺の未元物質にその常識は通用しねぇ」ファサファサ
「な…なんだその翼は!?」
垣根「…教えてやろうか、これが俺の能力…」
垣根「未元物質だ」
「ダ…ダークマター…だと!?」
「か、かっけぇ!!なんか知らないが俺の厨二心をくすぐる響きだ!!」
「ち、ちくしょう…しかも背中から白い翼まで生やしやがって!!このメルヘン野郎!!!」
垣根「心配するな、自覚はある」
「か…」
「かっけぇぇぇぇ!!!」
垣根「…さぁ、掛かってこいよ」
「く、くそっ!!俺だって負けられないんだよ、ちくしょぉぉぉぉ!!!」
垣根「甘いな」ファサファサ
「ぐぁぁぁぁっ!!!」
「な、なんだ今の風はぁ!?」
「う、ウソだろ…今の一撃で…」
垣根「おいおい、言ったはずだぜ…俺の未元物質には常識が通用しねぇ、既存の物理法則、この世の常識…そういうものに縛られず、独自の法則に従って、独自の世界を作り出してしまう能力だ」
「か、かっこよすぎるぜますます!!!」
垣根「…教えてやる、お前達と俺の差を」
「ちっ、俺達には能力があって、お前には能力があるってことだろうが!!」
垣根「いーや、違うんだよ」
「な、なら何が違うんだよ!?」
垣根「…お前達と俺とでは、そもそも次元が違うのさ」
垣根「…敵を叩きのめすにはどうすればいいか、お前達はこう言うだろう…強力な武器を用意し、それを敵に向けて構え、そして引き金を引く、と」
「ま、まるで俺達の思考が丸見えのようだ!!」
垣根「だがな、俺はこう答える…俺が、そう望めばいいと」
垣根「だとすれば、そうなるんだよ…俺がてめぇ達に憎しみを向けた時点で、勝敗が決まっちまう」
「!!」
垣根「…さて、教えてやろうか…新しい世界というヤツを」
垣根「これが未元物質、異物の混じった空間」
「な、なんだ…この輝きはぁ!!!」
垣根「ここは、てめぇ達の知る場所じゃねぇんだよ」
上条「!!お、おい!!」
美琴「窓ガラスが割れた…!?」
黄泉川「くそ、まさか犯人が発砲したのか!?」
黒子「となれば、もうここで地団駄を踏んでいるわけにはいきませんの!!」
美琴「私も協力するわ!!」
黒子「お、お姉さま…」
美琴「説教なら後で聞くから!!!」
上条「…ど、どういうことだ?犯人たちは全員倒れてる…」
美琴「…まさか、仲間割れ…?」
黒子「…!上から大きな音がしましたの!!」
黄泉川「行くじゃんよ!!!」
垣根「…どうした、お前達のプッカに対する愛はそんなものか!?」
「くっ…あのサクサクとした外側、それからお口一杯に広がるあのチョコ!!」
「俺達は…まだ、プッカを諦めたわけじゃない!!」
上条「!!か、垣根…!!!」
美琴「!人質はみんな無事よ!!」
垣根「…あぁ?お前達、来たのかよ」
黄泉川「垣根、よくやってくれた!!あとは…」
垣根「ふざけんな、こっちは真剣勝負の真っ最中なんだよ」
黄泉川「?な、なにを言って…」
「うるさい!!警備員如きが邪魔をするなぁ!!!」
黄泉川「!」
「舞い散れ未元物質ァ!!!」
垣根「…」
負けないで
垣根「あぁ、分かってる…」ガサゴソ
上条(あ、あれは…?)
黒子(プッカ…!?)
美琴(なんでポケットに直接プッカを入れてるのよ…)
垣根「さぁ、行こうぜ、心理定規ォォ!」パクッ
「な、なんだ!?」
垣根「こいつは…この光は…」
垣根「俺の、輝きだぁぁぁぁぁ!!!ダークマター!!!!!!!!!!!!!!!」
一同(お前だけじゃねぇか)
垣根「…で、俺まで手錠を掛けられてるわけだが」
黄泉川「当たり前じゃんよ、あんなに暴れてたら一時拘束するのが基本」
美琴「…まぁ、人質は全員無傷だったわね…」
垣根「…それで、あいつらは」
黄泉川「銃刀法違反、強盗容疑、拉致…色々重なるじゃんよ」
上条「…でも、人を殺めなくてよかったよ」
垣根「…」
「…あーあ…捕まったな」
「ははは…これで、俺達の人生も終わりだ…」
垣根「よぉ」スタスタ
「…あぁ、お前か…ありがとよ、お前が俺達を止めてくれたから…もしかしたら、俺達もこんな結末を望んでたのかもな」
垣根「なに言ってるんだよ」
「?」
垣根「こんなのは結末なんかじゃねぇ、まだ通過点だ」
「!!」
垣根「罪を悔い、そして正しい道に再び進めば…きっと、お前達はもう一度人生をやり直せる」
「お前…」
垣根「ほらよ、これはお前らへの花向けだ」
「こ、これは…」
垣根「じゃあな」
「…ぷ…」
「ぷっちょ…」ウルウル
上条「…そういえばさ、なんで垣根は人質になってたんだ?」
垣根「…なんでか、知りたいか」
美琴「うん、アンタの能力ならあんな人数、なんとでもなったでしょ」
垣根「…色々あったんだがな、一番の理由は…」
垣根「暇だったからだよ」
上条「…は?」
黒子「そ、そんな理由で…」
垣根「…それにな、あいつらの人生を変えられることになったんだし、これでよかっただろ」
美琴「…まぁ、そうね…」
垣根「あ、そうだ」ガサゴソ
垣根「プッカ、食べるか?」
一同「いらない」
ていとくん人質編、終了
続き: 上条「結婚指輪は!」美琴「給料三か月分!」心理「君への愛は」垣根「プライスレス!」【4】