※関連
最初: 美琴「す・・・好きです!!付き合ってください!!」上条「何やってんだ、御坂」
前回: 上条「好きと叫んでも!」美琴「心は遠く!」心理「貴方を呼んでも」垣根「振り向かず!」【1】
垣根「・・・遅いな」
会場の入口近くで、垣根は腕時計を確認しながら呟いた
横には上条とエツァリもいる
エツァリ「仕方ないですよ、女性に待たされるのは男の定めですから」
上条「いつもそうだよな・・・」
慣れないスーツに違和感を覚えながらも、出来るかぎりそれを表に出さないようにしている上条
エツァリ「やはり気になりますか?」
上条「ちょっとな・・・一番上のボタンまで締めたの初めてかもしれない」
垣根「ネクタイもつけたことなんてねぇだろ」
上条「一応はあるけどさ・・・」
首を締め付けられる感覚は気持ちが悪い
いつも制服を着崩すタイプの上条には辛いものだ
垣根「・・・そのうち慣れるさ、あんまり気にするな」
上条「お前は慣れてるみたいだな・・・」
垣根「まぁ、少しな」
エツァリ「・・・自分達がワインパーティーに参加してもいいのでしょうか」
話題を変えるため、エツァリがそんなことを言う
垣根「未成年でも参加くらいいいだろ」
上条「・・・飲むなよ」
垣根「・・・俺は大学生って言ってもバレないだろ?心理定規もそうだ」
エツァリ「・・・そうですね、自分達はごまかせないでしょうが」
上条「飲むのかよ・・・」
垣根「嗜む程度にな、浴びるようには飲まねぇよ」
笑いながら、垣根は髪を掻き上げる
サラリと茶髪が揺れるのがなんとも美しい
上条「・・・いいよな、垣根はこんな状況でも落ち着けて」
垣根「落ち着きってのは自然と生み出されるものさ、落ち着こうと思ってる間は内心焦ってる」
エツァリ「・・・尤もすぎる意見です」
上条「・・・俺の中の垣根のイメージが崩れていくよ・・・」
垣根「そんなもん、崩れたって構わねぇだろ」
ため息をついてから、もう一度腕時計を確認する
会場に着いてからすでに7分
女性の着替えが長いことは百も承知だが、ここまで待たされると苛々してしまう
垣根「・・・でも迎えに行くのは野暮だよな」
エツァリ「やはり楽しみは最後までとっておきたいですからね」
上条「美琴のドレス姿か・・・可愛いだろうな」
垣根「そうだな・・・御坂は白とか似合いそうだ、清潔感溢れてるし」
上条「・・・」
垣根「あぁ?なんだよ、驚いたような顔して」
上条「いや・・・お前って美琴のこと、そんな評価してたのかってさ」
垣根「あぁ、御坂は美人だし清潔だろ?ショチトルはグラマラスだから黒のドレスが似合いそうだ」
エツァリ「自分もそう思っていました」
垣根「あと、ショチトルにはネックレスなんか似合いそうだよな」
上条「あぁ、なんか分かるよ」
垣根「御坂はイヤリングかな」
エツァリ「いいですね・・・冷静な分析です」
上条「・・・美琴が聞いたら否定しそうだけどな」
垣根「あいつは自分が褒められまくるのを嫌がるからな」
上条「・・・よくご存知で」
垣根「女性ってのはデリケートだ、男より傷つきやすいし砕けやすい」
肩を竦めながら垣根が続ける
垣根「だからこそ優しく抱きしめてやらなきゃならない、強く抱きしめすぎると痛みに感じてしまうからな」
上条「・・・そうなのか」
エツァリ「垣根さんが言うと説得力がありますね・・・」
垣根「っと、お出ましみたいだぜ」
廊下の角を顎で差してから垣根が笑う
そこからは、まさに「天使」と形容するべき女性が歩いて来ていた
美琴は白のドレス
清潔感溢れる中にも、どこか色気を感じさせる
ショチトルは黒のドレス
溢れ出る色気だが、なぜか品がある
そして心理定規は赤のドレス
見慣れているはずだが、それゆえに余裕が感じられる
上条「・・・」
エツァリ「・・・」
あまりの美しさに、二人は息を呑んでいた
美琴「ごめん・・・お待たせ、当麻」
上条「・・・あ、あぁ!」
エツァリ「き、綺麗ですよショチトル・・・」
ショチトル「そうか?少し胸がきついんだがな」
エツァリ「でしょうね・・・」
上条「・・・美琴、めちゃくちゃ可愛いぞ・・・」
美琴「と、当麻こそカッコイイわよ!」
ショチトル「エツァリ、中々似合ってるじゃないか」
エツァリ「ありがとうございます・・・」
二組のカップルはそんなたどたどしい会話をしていた
それを苦笑しながら見つめるのは垣根と心理定規
垣根「・・・お前はいつも通り綺麗だな」
心理「ふふ・・・ありがとう」
垣根「イヤリングがいつもと違うな」
心理「少し変えてみたのよ、どうかしら」
垣根「ドレスと合ってるよ、コーディネートのセンスもさすがだな」
心理「・・・あなたも、やっぱりスーツが似合うわね」
垣根「ありがとう」
大人びた笑みを浮かべながら、垣根が心理定規の手を取る
垣根「お前らもしっかりエスコートしてやれよ」
上条「あ、あぁ」
エツァリ「行きましょうか、ショチトル」
ショチトル「あぁ」
美琴「・・・エスコートしてもらっていいかな?」
上条「もちろん!」
ぎゅっ、と手を握り締めてから会場の中へ向かう
そこはまさに映画やドラマの中の世界だった
紳士と貴婦人が溢れ返り、騒がしい会話などなく上品な「お話」だけが交わされる空間
息をするのもいけないのではないかと思うほどの荘厳さがあった
美琴「すごい・・・」
ショチトル「は、話してもいいのか・・・?」
垣根「あんまり騒がなければいいさ」
心理「そうそう、淑女であるように心がけなさい」
ワインの置かれたテーブルに向かった二人は、すぐに赤ワインをグラスに注いだ
しかし周りの誰もそれに何も言わない
やはり二人とも成人しているように見えるのだろう
垣根は身長が高く落ち着いた振る舞いだし、心理定規も見た目はまだ少女といった感じだが雰囲気はもう大人なのだ
むしろこの二人がワインを飲まないほうが違和感があるはずだ
上条「・・・俺達も行こうか」
美琴「うん」
垣根達の元に駆け寄り、適当な席に着く
立って交遊を深めるもよし、座って食事を取るもよし、といった感じだった
もちろん、立ったまま食事をする人はいない
ルールが決められているわけではないが、エチケットを弁えている人々が集まっているためか自然と規律の取れた空間になっている
エツァリ「・・・すごいですね、生のバイオリン演奏もあるみたいです」
心理「こういうパーティーには付き物ね」
垣根「・・・それにしても著名人の集まりだな、あっちの人はたしかIT企業の社長じゃなかったか?」
心理「あらホント・・・ニュースで見たわね、次世代型の通信手段を確立したとか」
垣根「・・・外では最先端なんだろうよ」
学園都市の中じゃむしろアンティーク認定なのにな、と垣根が笑う
上条「あ、あっちの人って政治家の・・・」
心理「ふーん・・・そんな人も休みはあるのかしら」
垣根「あるにはあるんだろ、家族と旅行なんて綺麗でいいじゃねぇか」
ワインを一口飲んだ垣根が満足げに頷く
垣根「いいな、しっかり管理されてたみたいだぜ」
心理「当たり前じゃない、適当に保存したワインを出すようなホテルじゃないんだから」
ショチトル「・・・私達は何を飲めばいいんだ」
垣根「あっちに外国から取り寄せたフルーツのジュースがあるぜ」
垣根が指差した場所には、たしかにそれらしきボトルがあった
ペットボトルではなくガラスのボトルだ
しかも何やらイギリスで作られたものらしく、英語の文章が書かれている
上条「・・・これは・・・グレープか」
美琴「うん、いい香・・・」
エツァリ「すごいですね・・・こんなに豪華なボトルに入れられたジュースは初めて見ました」
垣根「あんまりそういうことを言うなよ」
心理「そうよ、周りの人に笑われちゃうじゃない」
上条「ご、ごめん・・・」
垣根「・・・ところで何か食べたいものはあるか?」
美琴「うーん・・・って言っても、パーティーにはメニューなんてないから・・・」
垣根「それもそうだな」
指を鳴らして、ウェイターを呼ぶ
垣根「あなたのオススメを持ってきてもらえないかな」
「かしこまりました」
垣根「期待してるよ」
ニコリと笑ってから、垣根がまたワインを口に含む
心理「ふふ・・・慣れてるわね、素敵よ」
垣根「慣れてるっていうよりは知ってるって感じだな、こういう時にはこういう対応をすればいいって知識は十二分にあるのさ」
美琴「すごいわね・・・見直しちゃうわよ」
ショチトル「うちの誰かさんはさすがにそこまでは出来ないからな」
エツァリ「う・・・申し訳ありません・・・」
上条「仕方ないだろ・・・垣根はおかしいんだって」
美琴「でもさ・・・もう少し堂々としてもいいじゃない、当麻もエツァリさんも」
エツァリ「面目ないです・・・」
心理「あら、これから覚えていけばいいのよ」
上条「そ、そうだよな!」
美琴「はぁ・・・」
垣根「さてと・・・俺はちょっとテラスに出るかな」
心理「夜景が見たいの?」
垣根「あぁ、ここは見晴らしが良さそうだからさ」
心理「私も一緒に行っていいかしら」
垣根「もちろん」
垣根が心理定規の掌を取り、そこに優しくキスをする
冗談でやったのかもしれないが、とても似合っていた
上条やエツァリがやっても寒い空気になるだけだろうが
垣根「それじゃ、ちょっと席外すな」
美琴「う、うん」
エツァリ「ごゆっくり・・・」
スタスタと去っていく二人を見つめながら、四人はしばし固まっていた
上条「・・・なんなんだあの二人は・・・」
美琴「なんか・・・普段の二人じゃない・・・」
ショチトル「ここにきて垣根はキャラチェンジを狙ってるのか、そうなのか」
エツァリ「・・・いえ、元はあのような方だったのではないでしょうか」
遠くを歩くのは長身茶髪イケメンの垣根と、少し華奢だが美人で気品と色気溢れる心理定規だった
そのまま映画のメインにしてしまっても恥ずかしくないほどの美男美女と言える
上条「・・・なぁ、俺達も後でテラス行かないか?」
美琴「垣根達が帰ってきたらね・・・」
ジュースを飲みながら美琴が頷く
ショチトル「・・・しかし、前の三組旅行でも垣根と心理定規は一番最初にテラスに行かなかったか?」
エツァリ「そうだった気もしますね・・・」
上条「・・・あの二人はあの時も落ち着いてたな」
美琴「うん・・・垣根は相変わらずだけど」
ショチトル「・・・今頃あの二人はどんな会話をしているのかな」
エツァリ「きっと・・・素敵な会話をしているのでしょう」
垣根「見ろよ、こんなに空が綺麗に見える」
テラスに出た垣根が小さく笑う
月が美しく、その周りには無数の小さな輝きがあった
心理「綺麗ね・・・こんな夜景、学園都市からは中々見られないわ」
垣根「あそこは空が遠すぎるからな」
手すりから身を乗り出しそうな勢いの垣根は、楽しそうに空を見ている
心理「・・・思えば、あなたにファーストキスを奪われたのはテラスだったわね」
垣根「そうだったな・・・あの時は、本当にお前が愛おしかったのさ」
心理「あなたっていつも自分勝手よ」
垣根「仕方ないだろ、俺は俺がやりたいことしか出来ないんだ」
心理「振り回されてた私の身にもなりなさい」
垣根「・・・すまなかった」
心理「・・・謝ってほしいわけじゃないのよ」
手すりに背を預け、心理定規がワインを飲む
苦味が増している気がした
心理「・・・あなたに振り回されるのも嫌いじゃないし、それが心地好い時もあるの」
垣根「変わってるな」
心理「でもね・・・たまにあなたは遠くに行きすぎることがあるのよ」
垣根「こんなに傍にいるじゃねぇか」
心理「分かってないわね・・・」
首を振りながら、心理定規が垣根の目を見つめる
どうしてそんなに悲しそうな瞳をしているのだろうか
心理「覚えてるかしら・・・私があの時、あなたに言ったこと」
垣根「なんだよ」
心理「あなたが誰かを愛せるならそれは嬉しいこと・・・その相手が私だったらもっと嬉しい・・・ただそれだけって」
垣根「あぁ、覚えてるよ」
心理「あなたが幸せになれるのなら、私はどうなってもいいのよ」
寂しそうに笑いながら心理定規が続ける
心理「・・・最近はどんどんあなたが素敵になっていくわ、昔と違って無理に明るく振る舞わなくなった」
垣根「疲れただけさ、それに無理に明るくしなくてもあいつらは俺を俺として見てくれる」
心理「・・・どんどんあなたは素敵になるのよ」
垣根「・・・」
心理「あなたの幸せと私の幸せが同じ形ならどれほど嬉しいか・・・そんなことを何度も考えたわ」
垣根「同じ形さ」
心理「そうかしら」
垣根「誓うよ」
心理「・・・ホントはね、あなたを幸せにするのは私じゃなきゃいやよ」
ドキン、と垣根の胸が跳ねる
こんなふうに心理定規が独占欲を示すのは珍しい
心理「他の誰でもない、私が幸せにしたいの」
垣根「・・・幸せだよ」
心理「・・・あなたが誰かをを愛したら嫉妬しちゃうのよ、私だけを愛してほしい」
垣根「愛してるじゃないか」
心理「あなたの温もりを知ったから・・・もう孤独の冷たさの中には戻りたくないわ」
垣根「大丈夫だ」
ワインのグラスをそっと手すりの上に置き、心理定規を抱きしめる
垣根「こんなに手の届く場所にいるんだ」
心理「・・・私だけを抱きしめてくれる?」
垣根「あぁ」
心理「あなたはどこにでも飛んで行けるから・・・ちょっと不安よ」
垣根「お前を背中に乗せてるんだ、だったらいいだろ」
心理「・・・抱きしめていてほしいわ」
垣根「・・・分かったよ」
心理定規も子供だな、と垣根が笑う
いや、もしかしたら逆かもしれない
心理定規が子供でいられるのは垣根の前だけなのではないか
垣根「・・・見ろよ、手を伸ばせば届きそうな場所に星がある」
心理「・・・でも、どうしても届かないのよ、それを知ってるでしょう?」
垣根「だから手を伸ばすのさ、届かないと知ってるから・・・届かないと知りながら」
拳を握り締めながら、垣根が笑う
垣根「届かないから楽しいし、届かないから辛いんだ」
心理「・・・愛情の話?」
垣根「まさか、愛情はあんなに遠くにはないしあんなに美しくはないさ」
グラスを持ち直した垣根が心理定規の手を取る
垣根「よかったよ、たまにはこういう時間も必要だからさ」
心理「・・・えぇ、ありがとう」
垣根「キスでもしてやったほうがよかったかな」
心理「ううん、大丈夫」
垣根「そっか」
笑ってから、二人は会場に戻る
垣根(・・・愛情はあんなに遠くにはないし、あんなには美しくないさ)
垣根(それに)
ぎゅっ、と心理定規の手を強く握る
少し不思議そうな顔で心理定規が垣根を見つめる
それに笑みを返しながら、垣根は心の中で呟いた
垣根(もう俺は、届いたんだからな)
上条「お、お帰り」
垣根「おっす・・・夜景、綺麗だったぜ」
心理「星がよく見えたわよ」
美琴「星かぁ・・・当麻、行こう!!」
上条「あぁ」
美琴に手を引かれながら上条が歩き出す
ショチトル「・・・子供だな、綺麗な星空に釣られるなんて」
垣根「純粋でいいじゃねぇか」
笑いながら垣根がテーブルを見つめる
どうやら、まだ料理は来ていないみたいだ
垣根「・・・さて、俺達は優雅なひと時を楽しもうぜ」
心理「そうね・・・」
エツァリ(・・・というか、未だにこの雰囲気に慣れないのですが)
ショチトル(・・・早く美味しいものが食べたい)
垣根「・・・お前ら、少し落ち着けよ」
エツァリ「は、はぁ」
上条「・・・綺麗だな、星空」
美琴「うん」
手すりに腕をかけ、上条は空を見上げていた
そういえば、あの鉄橋からも綺麗に星が見えたよな、なんて思いながら
上条「・・・なぁ、美琴って好きな星座とかあるのか?」
美琴「?どうしたのよ、急に」
上条「いや・・・なんとなくさ」
美琴「そうね・・・でも、星は大好き」
上条「どうして?」
美琴「小さく見えるけど・・・みんな頑張って輝いてるから」
上条「・・・そっか」
妹達とも似ている、と上条は感じた
だからこそ、美琴は星が好きなのだろうか
上条「・・・俺さ、こんなに綺麗な星空を見たのって初めてかもしれないな」
美琴「私も」
上条「・・・」
ドレス姿の美琴は、本当に可愛らしかった
上条「・・・俺さ、美琴と付き合えて本当によかったよ」
美琴「な、なによいきなり!?」
上条「だってさ・・・こんなにいい友達と出会えて、こんなに幸せな毎日が暮らせて・・・もし他の誰かと付き合ってたとしても、ここまでは幸せじゃなかったと思う」
彼の知る限り、全ての女性を思い浮かべる
それでも、美琴に敵う相手はいないと思った
上条「だからさ・・・」
美琴「・・・」ウルウル
上条「な、なんで泣いてんだよ!?」
美琴「だって当麻がそんなこと言うから・・・」グスッ
上条「ま、待った待った!!別に別れ話じゃないし!!」
言い方が悪かったか、と上条が後悔する
美琴「そうじゃなくて・・・そんなこと言われると嬉しくなって・・・」
上条「う、嬉し泣きか・・・」
ほっ、と上条が安堵の息を漏らす
上条「・・・でもさ、普段はちょっと恥ずかしくて言えないから・・・こんな機会に言っておきたくて」
美琴「わ、私も当麻と付き合えて幸せよ!!」
上条「あぁ、知ってるよ」
美琴「・・・当麻でよかったわよ、ホントに・・・」
どこか遠くを見つめながら美琴が笑う
上条「・・・もしもさ、俺達が出会ってなかったら・・・どんなふうな人生になってたのかな」
美琴「出会ってなかったら・・・第一、私はもう生きてないわよ」
上条「・・・一方通行は、妹達を・・・まだ殺し続けてたのかな」
美琴「そうね・・・そしたら、そもそも垣根は一方通行に負けたりしなかったんじゃない?」
上条「あの二人ってなんで戦い始めたんだっけ?」
美琴「一番の理由は・・・垣根が打ち止めを狙ったからよ、たしか」
上条「そっか・・・そしたら、垣根も変わってなかったかもな」
美琴「・・・エツァリさんと当麻が戦うこともなくなっちゃうし・・・」
上条「そしたらテクパトルも・・・か」
美琴「・・・黒子は未だに私を求めてきそうね、そしたら」
上条「・・・全然違う人生になってたかもな」
もしかしたら、上条も今ほど誰かを守りたいとは思えなかったかもしれない
彼は守ることを続けてきたが、守られるということは珍しかった
それを叶えてくれたのは美琴だったから
美琴(・・・ホント、人生って不思議ね)
上条「・・・美琴、ありがとうな」
美琴「?何が?」
上条「いや・・・あの時、手を伸ばしてくれたのは美琴だった」
そしてそれを断ったのは上条だった
上条「・・・あの時の美琴、かっこよかったよ」
美琴「そ、そうかな?」
上条「あぁ・・・本当に、ありがとう」
美琴「・・・私ね、当麻に会えて本当によかったと思ってる」
上条の手を取って、美琴が笑う
昔はあんなにも遠かった彼が、今はこんなに傍にいる
それがどうしようもなく嬉しくて、美琴はついそれに甘えてしまうのだ
上条「・・・これからだって、もっと良くなるさ」
美琴「うん」
上条「・・・帰りましょうか」
美琴「そうね・・・そろそろ食事も届いてるかしら」
上条「あぁ、きっと」
手を握り合ったまま、二人は会場へと戻った
垣根「そして俺は言ったんだ・・・」
垣根「だが、俺の未元物質にその常識は通用しねぇ」
ショチトル「おぉ・・・」
エツァリ「な、なんてかっこいい決め台詞ですか・・・」
垣根「一方通行のヤツも焦ってやがった・・・そうだろうな、あいつの反射を破れるヤツなんてそうそうはいねぇ」
心理「よく言うわよ・・・結果的にはその未元物質の法則も読まれたんでしょ?」
垣根「あぁ、でもあいつの反射の壁に合わせれば攻撃は通るんだぜ?」
ショチトル「・・・他に決め台詞はないのか?」
垣根「そうだな・・・これが未元物質、異物の混じった空間、ここは・・・」
上条「・・・何してるんだよ」
垣根「おぉ、帰ったか」
美琴「・・・武勇伝でも語ってるの?」
垣根「別に・・・ただ食事がまだ来てないから暇つぶしにさ」
上条「・・・どうせなら、他の人と話してみたらどうだ?」
垣根「政治家に大会社の社長・・・有名な弁護士に活花の家元ときた、話なんて恐れ多くて出来ないな」
美琴「めんどくさいだけでしょ・・・」
垣根「・・・それを言うなよ」
上条「・・・食事はもう少しかな」
心理「作り置きじゃないから時間がかかるのよ」
美琴「そうそう・・・」
ショチトル「あー、ヒマだなぁ・・・」
垣根「はしたないぞ、そんなにだれるな」
エツァリ「・・・そうですね、せっかく服装をきめたのですから」
上条「そうそう」
イスに背を伸ばして座る上条
慣れないほどの礼儀正しい姿勢だが、なんとかもたせる
美琴「・・・なんか無理してるって感じね」
心理「えぇ」
上条「・・・」
両手を合わせ、膝の上にちょこんと乗せた二人の少女
垣根(・・・可愛いな、心理定規)
上条(これは・・・お上品ですよ)
美琴・心理「なにじーっと見てるのよ」
上条・垣根「なんでもない」
垣根「・・・お、来た来た」
ウェイターの一人が料理を運んできた
しかし、あまり量が多いとは思えない
おかず一品だけなのだ
上条「・・・な、なんか少ないな」
美琴「当麻・・・こういう料理は一品一品運ばれてくるのよ」
上条「そ、そうなのか?」
エツァリ「はい、よくオードブルやメインディッシュという言葉を聞くでしょう?」
上条「あぁ、もしかしてそれって出す順番のことだったのか・・・」
心理「・・・逆に聞きたいわ、今までなんだと思ってたのよ」
上条「こう・・・料理の種類だと」
ショチトル「・・・上条、さすがにそれはない」
上条「わ、悪かったな・・・」
垣根「まぁまぁ、これから覚えても遅くはねぇさ」
丁寧にフォークとナイフを握った垣根が笑う
最初の料理は野菜サラダだった
実際にはもっと細かい、「赤カブとセロリのなんたらかんたら」なんていう名前を説明されたのだが
上条がいちいちそんなことを覚えているわけがない
上条「・・・美味しいのか、それ?」
垣根「あぁ、食べてみな」
上条「・・・」
テーブルマナーなんて知らない上条は、とりあえず垣根の動きを真似ながらサラダを口に含んだ
上条「ん、美味しい」
味付けが濃いわけではない
だが、素材の味がしっかりと生きているためとても風味豊かだった
もう少し語彙があれば、自分はもっと素敵な言葉でこの料理を表せるのに、と上条は残念に思う
心理「よかったじゃない、口に合ったみたいで」
美琴「うん、美味しい」
ショチトル「もう少し味が濃くてもいいんじゃないか?」
エツァリ「いえ、この手の料理は味を濃くしすぎるとバランスが崩れますから」
ショチトル「そういうもんなのか?」
垣根「あぁ、たしかにそうだな」
心理「私はこういうヘルシーなのが好きね」
垣根「昔からそうだな、お前は」
心理「えぇ、お肌にも良さそうじゃない」
垣根「ビタミンは肌荒れを防ぐからな」
美琴(・・・この年齢からそんなこと気にして食事を選んでたんだ・・・)
ショチトル(だから心理定規の肌は綺麗に保たれてるのか・・・)
上条「心理さんって・・・意外と神経質だよな」
心理「あら、そう?」
上条「あ・・・いい意味でさ、細かいことにまで気を使ってるし」
垣根「なんだよ、人の女に手出そうとしてんのか」
上条「違うから・・・」
心理「・・・美容にこだわるのは女性として当たり前じゃない?」
美琴「そ、そうよね!」
ショチトル「やっぱり肌にいいものを食べないとな!」
垣根「・・・お前らな・・・」
エツァリ「おや、次の料理が運ばれてきましたよ」
垣根「次は・・・魚料理だな」
「こちら、オーロラサーモンのムニエルになります」
上条「オ、オーロラ・・・」
垣根「ムニエルですか・・・焼き具合は?」
「軽く火を通しておりますが、風味を崩さないよう細心の注意を払うようにしております」
垣根「ありがとう、期待してるよ」
柔和な笑みを浮かべ、垣根がウェイターにお礼を述べる
上条「なぁ・・・オーロラサーモンって?」
垣根「サーモンの種類だよ・・・脂がのってて美味いんだ」
美琴「でもオーロラサーモンってムニエルにするのね・・・カルパッチョ風にしたほうが合いそうなイメージなのに」
心理「一番重要なのはシェフの腕前よ、脂も焼きすぎず少し火を通せばさっぱりした味になるから」
垣根「そうだな、とりあえずこれは中々期待出来そうだ」
上条「・・・な、なんか別次元の話をしてる・・・」
ショチトル「諦めよう上条、私達には到底分かることはない世界なんだ」
エツァリ「・・・お三方はこういった雰囲気にも慣れていますね」
垣根「・・・お前もわりとテーブルマナーはしっかりしてるじゃねぇか」
エツァリ「一応、海原光貴に化けていた時期がありますから」
心理「海原もお金持ちだからね」
上条(もうやだ格差社会)
垣根「・・・うん、美味しいな」
美琴「ホント・・・どうやったらこんなに美味しく作れるのかな・・・」
ショチトル「それはシェフのさじ加減なんじゃないか?」
心理「そうね・・・長年の勘なのかもしれないわね」
エツァリ「どのタイミングでどの食材を入れるか、どの調味料を入れるかが体に染み込んでいるんでしょうね」
垣根「どんなジャンルでも、達人ってのは一般人には理解しがたい技術があるものだ」
上条「そ、そうだな!!」
美琴「・・・当麻、無理に話を合わせなくてもいいわよ?」
上条「う・・・」
垣根「仕方ないよな、お前は貧乏だから」
上条「言わないでくれよ・・・」
垣根「・・・こんな雰囲気のホテルっていいよな、やっぱり俺はこういう雰囲気が好きだ」
美琴「うーん・・・でもさ、恋人と来るには少し重いんじゃない?」
心理「あら、それを軽く感じられるようになったら大人なのよ」
美琴(私と同い年・・・よね?)
ショチトル(心理定規は本当に中学生の年齢なのか?)
上条「・・・なぁ、心理さんって本当に俺より年下なのか?」
上条が少し怪訝そうな顔で訊ねる
心理「さぁ、私は正確な戸籍がないからわからないのよ」
美琴「でも見た目は私と同い年くらいよね」
ショチトル「・・・そうだな、高校生ではないだろう」
心理「でもそんなこと言ったら、上条君だって年齢は分からないじゃない」
上条「いや・・・戸籍はあるしさ」
心理「戸籍が偽造されたものかもしれないわよ?」
上条「うーん・・・」
心理「だったら年齢なんてどうでもいいじゃない、私は私なんだから」
垣根「そういうこった、こいつは大人びてるからそういう疑問が浮かぶだけさ」
エツァリ「・・・あなたも高校生の年齢とは思えないですけどね」
垣根「あぁ?なんでだよ、ピチピチじゃねぇか俺」
美琴「・・・身長高いもんね」
ショチトル「日本人で180あるなんて恐ろしいぞ」
垣根「いるもんだろ、結構」
上条「いいよな・・・どんな服でも似合いそうだ」
上条がじっとスーツ姿の垣根を見る
どこかの雑誌の表紙を飾っても問題ないほどの似合いようだ
垣根「・・・でもな、俺ってあんまりスーツは好きじゃねぇんだ」
エツァリ「では何が好きなのですか?」
垣根「着ぐるみ、出来ればクマかウサギ」
美琴「か、可愛い・・・」
垣根「お前に言われても嬉しくねーよ」
ワインを飲みながら垣根が顔をしかめる
美琴「なによ・・・着ぐるみが好きなんて可愛い趣味じゃない」
垣根「それを可愛いと思うのか、いまどきのヤツは」
アンタだって十分いまどきの若者よ、と美琴が返す
恐らくこの会場にいる中ではかなり若いほうだろう
垣根「・・・ん、あっちは独り身の女性かな?」
上条「ホントだ・・・どっかのお嬢様とかかな」
エツァリ「綺麗な方ですね」
女一同「・・・」
垣根「なんだか社交性はあるみたいだな」
上条「有名な人なのかな?」
垣根「・・・どっかのお嬢様なら知れてるんだろ」
学園都市の中にいるせいで、上条達は外のことには疎い
政治家や大企業の社長などはニュースで見ることが出来るが、その娘などだったらお目にはかかれない
エツァリ「・・・お一人でパーティーなのでしょうか」
垣根「さぁ?どうだろうな」
上条「・・・でも本当に綺麗だな・・・」
美琴「・・・それはよかったわね」
垣根「・・・俺達も挨拶したほうがいいかな」
心理「して来れば?」
エツァリ「・・・ですが、いきなり我々のようなものがいきなり話に行くのも・・・」
ショチトル「いいじゃないか、美人なんだから心も綺麗なんじゃないか?」
美琴「そうね、きっとそうよ」
上条「・・・な、なぜに不機嫌なんですか?」
心理「あら、自分の彼氏が他の女性を綺麗と言ってたらいやなのは決まってるでしょ?」
垣根「あくまで女性として美しいと言ってるのさ、お前は俺が芸能人に美人だって言う度に嫉妬するめんどくさい女かよ」
垣根が指を鳴らしてウェイターを呼ぶ
垣根「あちらのお嬢さんは?」
「はい、彼女のお父上が活花の家元の・・・」
垣根「ふーん・・・ってことは後取りになるってことか」
「さようでございます」
垣根「あのお嬢さんに飛びっきりのワインをプレゼントしたんだ、お願いしていいかな」
「かしこまりました」
頭を下げたウェイターがそのお嬢さんの元へと向かう
心理「あなたね・・・そうやってどんどんフラグ建てるんじゃないわよ」コソッ
垣根「まぁ見てなって」コソッ
ウェイターがお嬢様に声を掛け、ワインのボトルをプレゼントする
驚いたような顔をするお嬢様、そしてそのウェイターが垣根の座っている席を丁寧に指す
垣根「・・・よしきた」
垣根が、なぜか上条の腕を肘でつつく
上条「?なんだよ・・・」
垣根「あのお嬢様に向かって微笑んでみな」
上条「?」
言われるまま、上条がそのお嬢様に微笑んでみる
顔を赤くしたお嬢様は、上条に頭を下げてからなにやら恥ずかしそうに手を揉んでいた
上条「なぁ、なんであの人は赤く・・・」
美琴「・・・当麻・・・」
ショチトル「やってしまったな・・・」
上条「は、はぁ?」
心理「垣根・・・」
エツァリ「あなたは・・・」
垣根(ひゃっひゃっひゃ!!上条にまた一つフラグが建ったなぁおい!!)
美琴「・・・垣根、あとでちょっとお話しましょう」
垣根「」
心理(さよなら垣根)
上条(な、なんだったんだ?)
エツァリ(・・・気づかない上条さんも問題ですね)
垣根(アイルビーバック)
垣根「はぁ・・・美味しかったな」
美琴「うん、とっても」
上条「なんか緊張してあんまり味わえなかった・・・」
心理「あなたもこういう雰囲気に慣れたほうがいいわよ」
上条「慣れろって言ってもな・・・」
上条が腕を組んで困ったような表情をする
エツァリ「たしかに簡単には慣れませんよね」
上条「あぁ・・・なんか俺とは住む世界が違う気がするよ」
垣根「お前もいつかは金持ちになるかもしれねぇぞ?」
上条「ないない・・・」
心理「あら、ないとは言い切れないわよ」
上条「そうかな・・・」
はぁ、とため息をついてから上条が美琴をちらっと見つめる
美琴「?どうしたの?」
上条「いや・・・なんでもないよ」
美琴もこういう雰囲気には慣れているようだ
自分も早く慣れなければ、と上条は心に決める
垣根「さて・・・そろそろ帰ろうか」
上条「あぁ、風呂にも入らないといけないからな」
エツァリ「そういえば、お風呂はどちらにあるのでしょうか」
垣根「部屋にあっただろ」
ショチトル「まさか・・・お前達のいる前で着替えないといけないのか?」
垣根「脱衣所くらいあるって」
呆れたように笑ってから垣根が立ち上がる
「いかがでございましたか?」
垣根「あぁ美味しかったよ・・・シェフにも伝えててもらえるかな」
「かしこまりました」
ウェイターはにこりと笑って去っていった
美琴「・・・垣根っていざという時の礼儀はしっかりしてるのね」
心理「当たり前じゃない、私が選んだ男性よ?」
上条「・・・俺の知ってる垣根はもっと馬鹿みたいなことをして喜ぶ人間だった」
垣根「てめぇぶち殺すぞ」
心理「はいはい、こんな素敵な会場でそんなこと言わないの」
ショチトル「じゃあ帰ろうか」
美琴「・・・当麻のフラグがまた増えちゃった」
上条「それは事故だろ・・・」
垣根「ほら、さっさとしろよ」
上条「あぁ」
垣根「やっぱり自分達だけの空間ってのはいいな!」
ゴロン、とベッドに転がりながら垣根が満足げに笑う
上条「はぁ・・・ホントだよ」
美琴「普段の自分でいられるもんね」
エツァリ「周りの目を気にしないでいいですからね」
心理「・・・さて、誰から風呂に入る?多分ユニットバスだけど」
上条「ユニットバスか・・・ゆっくり湯舟に浸かりたかったんだけどな」
垣根「明日のホテルは温泉がある、我慢しろよ」
エツァリ「では自分から入りましょうか」
美琴「・・・そうしてもらえると助かるわ」
心理「待って、先に入られたら隠しカメラとか仕掛けられるかも」
エツァリ「」
美琴「で、でも後で入られたらなんか・・・」
心理「残り香を楽しまれそうよね・・・」
エツァリ「心理定規さんまでボケないで下さい・・・」
心理「真剣に言ってるの」
エツァリ「」
上条「じゃあショチトルも一緒に入ればいいんじゃないか?」
ショチトル「私が?」
垣根「でもよ、なんだかんだショチトルだって変態だぜ?協力しそうじゃねぇか」
ショチトル「なんと的確なツッコミだ」
上条「いやいや否定しろよな!」
美琴「・・・ショチトル、お願いだからそんなことはやめてね」
心理「まぁ仕掛けてもいいけど、その事実が明るみに出たら生きて帰れなくなるから」
エツァリ「しませんよそんなこと・・・」
ため息をついてからエツァリが脱衣所へ向かう
ショチトル「では私も行ってくる」
美琴「ごゆっくり」
ショチトル「ほぅ、風呂場でやってこいと言いたいんだな」
美琴「ち、違うわよ!」
垣根「あーはいはい、どうでもいいからスムーズにしてくれよ」
手をヒラヒラと振りながら鬱陶しそうに垣根が言う
ショチトル「・・・の、覗かないでね・・・?」
垣根「そういうのは心理定規とか御坂みたいなヤツが言わなきゃ意味ないからな」
ショチトル「ちっ、死ねよ・・・じゃあ行ってくる」
垣根「最初の呟きを撤回してほしかった」
上条「・・・でさ、俺達は何する?」
美琴「テレビ見るにも中途半端な時間よね・・・」
垣根「・・・俺、ちょっと飲み物買ってくる」
上条「?こんな高級ホテルに自販機とかあるのか?」
垣根「あるんだよ、金持ちだって喉は渇くだろ」
肩を竦めた垣根が部屋から出ていく
豪華な廊下の先に、少し開けた休憩スペースがあった
そこにはタバコの灰皿やソファー、自販機や雑誌などが置かれている
しかし普通のホテルの休憩スペースと違い、あまりにも清潔感が溢れている
垣根「・・・にしても、中の飲み物まで高級なんだな」
よく見る缶コーヒーではなく、外国からの直輸入の商品のようだ
そこまでして高級感を出す必要があるのか、と垣根は呆れながら財布を取り出した
垣根(・・・コーヒーに350円も出すかね、普通は)
一方通行だったら喜んで出しそうなものだが
垣根「はぁ、高いもんだな」
そう呟きながらまずは100円玉を入れる
しかし、カチャリと音がしてすぐに100円玉は返却口から出てきた
あぁ、たまにあるなと思いながらすぐにもう一度お金を投入する
そしてまた戻ってくる
垣根「・・・」
財布の中にある別の100円玉に変え、投入する
帰ってくる
垣根「は・・・ははは!!!いいじゃねぇか・・・俺をナメてやがる・・・」
青筋を浮べた垣根が、さらに別の100円玉に変える
また帰ってくる
アイルビーバックと言ったあのターミネーター宜しく戻ってくる
垣根「おぉぉぉぉ!!」
ここまできたら、今更お札には変えられない
これは垣根・・・いや、人間と機械の戦いだ
かつて冷蔵庫に勝利したことのある垣根だ、きっと自販機に勝てるはず
垣根「飲めよ・・・飲み込めよぉぉぉ!!」
ガチャン、という音が垣根の心に重くのしかかる
垣根「は・・・ははは!!そうか、てめぇの役割は・・・!!」
クルン、と100円玉の表裏をひっくり返して投入する
垣根「そういうことか!!」
ガチャン、と戻ってくる
垣根「はぁぁぁぁぁぁ!!!!????」
イライラしながら、先に10円玉を入れる
すんなり入った
垣根「よし・・・やっと大人しくなりやがった・・・」
表示は「10円」
あと340円入れなければならない
垣根「俺に勝とうなんて100年早いんだよ・・・」
垣根が100円玉を入れる
ガチャン、と帰ってきた
垣根「あぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!」
つい自販機を蹴りたい衝動に駆られる
しかし、ここは紳士になるべき場面のはずだ
垣根「いいぜ・・・10円玉から入れてやるよ」
カチャリ、と10円玉を投入する
そして帰ってくる
垣根「なんでだよぉぉぉぉぉぉ!!!???」
自販機に手をつき、垣根がうなだれる
表示はわずかに10円
残りの340円を入れなければコーヒー一本も買えないのだ
垣根「・・・俺は・・・こんな機械に負けるのかよ・・・」
あったか~い、という表示がやけに冷たかった
並べられたコーヒーやジュースの缶が垣根を笑っている
垣根「・・・なんで・・・なんだよ・・・」
美琴「・・・何してるのよ、アンタ」
垣根「!?御坂・・・」
突然、後ろから声が掛けられた
まだドレス姿の美琴が立っていた
美琴「・・・私もジュース買いたくなったのよ」
垣根「・・・ダメだ、この自販機はもうダメなんだ」
ふっ、と垣根が笑う
垣根「・・・俺がいくら金を入れてもダメなんだ、10円しか入らない」
美琴「・・・何言ってるのよ」
垣根「・・・」
美琴「アンタがどの種類を買おうとしてるのかは分からない・・・でも、今10円は入ってるんでしょ!?」
垣根「・・・あぁ」
美琴「その10円がどんな気持ちでアンタを待ってると思ってるのよ!?」
垣根「!!」
美琴「0じゃない・・・アンタは、あと340円を入れなきゃならないのよ!!可能性はまだ残ってるのよ、諦めちゃダメ!!」
垣根「だったら・・・お前がやってみろよ・・・」
美琴「・・・いいわよ」
美琴が垣根の手から100円玉を受け取る
美琴「簡単よ、こんなの」
ポン、と美琴が硬貨を投入した
そして戻ってくる
美琴「・・・」
垣根「・・・ほら、な?」
美琴「い、一回で諦めるわけないでしょ」
もう一度、投入する
しかしそれでも戻ってくるのだ、決して受け入れられることはない
垣根「・・・」
美琴「・・・」バチン
垣根「おい、火花が散ってるぞ」
美琴「いいのよ・・・こういうダメな子にはお仕置きを」
垣根「学園都市の外で能力を使用するな」
アンタも使ったでしょ、と美琴が答える
だがたしかにホテルの中で強力な電撃を撃つのはまずいだろう
美琴「・・・もう一つ、方法があるわ」
垣根「どんな」
美琴「・・・蹴るのよ」
トントン、と美琴が靴を鳴らす
垣根「蹴るってお前・・・」
美琴「ちょっとあっち向いてて、さすがにドレス姿で蹴り入れるのは見られたくないから」
垣根「フワァイ!?」
美琴「・・・下着見られそうだし」
垣根「むしろぜひとも見せてください!!」
美琴「黙れこのスケベ!!」ガンッ!!
垣根「ごっ・・・」
美琴のパンチを腹に食らった垣根がその場にへばりこむ
美琴「さーて、垣根にお仕置きもしたし・・・」
クルン、と美琴が回転する
あぁ、手馴れてるなと垣根は笑った
そして
鈍い音がした自販機が、ヴィーンと変な音を立てて正しい活動を始めたのだった
上条「・・・」
心理「・・・」
美琴と垣根は飲み物を買いに行っている
エツァリとショチトルは風呂だ
つまり、部屋の中にはこの二人だけになっている
気まずい、と上条は思っていた
心理定規は持ってきた雑誌をパラパラと捲っている
心理「ねぇ」
上条「は、はい」
心理「何か話してよ、さすがに気まずいじゃない」
昔のお小遣い稼ぎを思い出しちゃうし、と意味の分からないことを心理定規が呟く
上条「な、何かって・・・」
心理「そうね・・・あなたの思う私のイメージとか、そんなことでいいわよ」
上条「心理さんのイメージ?」
心理「えぇ、あなたにとっては私はどんな友達?」
上条「そうだなぁ・・・」
うーん、と唸りながら上条が考える
上条「・・・心理さんはとにかくミステリアスなんだよな・・・」
心理「そうかしら、結構普通に接してるはずだけど」
上条「いや・・・だから普段がミステリアスなんだよ」
心理「たとえば?」
上条「それだよ・・・その年齢と性格のギャップだ」
心理「年相応じゃないってこと?」
上条「あぁ・・・なんか落ち着きすぎだよ」
心理「落ち着いてるのは今まで生きてきた中で培ったものよ」
上条「言葉遣いも大人びてるし・・・」
心理「総じて、老けてるって言いたいわけ?」
上条「ち、違う違う!!」
慌てて上条が首を振る
上条「その・・・とにかく、なんか大人好きな男には堪らないんじゃないかな、結構スタイルもいいしさ」
心理「でも胸はそこまで大きくないわよ?」
上条「いやいや・・・華奢だから、なんかこう目立つんだよ」
心理「あなたって、私を色目使って見てたのね」
上条「だから違うんだって・・・」
心理「冗談よ」
雑誌を捲りながら、心理定規がふと顔を上げた
心理「ねぇ、あなたってインドア派?アウトドア派?」
上条「?アウトドアかな」
心理「他人に頼まれごとをすると、断れないタイプ?」
上条「は、はぁ」
心理「英語より国語のほうが得意?」
上条「・・・一応、英語よりはマシかな」
心理「悩み事を他人に打ち明けるタイプ?」
上条「いや・・・って言いたいけど、美琴には頼るようにしてるよ」
心理「ふーん・・・あなたって、私と相性いいのね」
上条「・・・」
上条「はい?」
心理「雑誌の相性診断よ、あなたは実直で真面目な好青年タイプですって」
上条「い、今ので判断してたのかよ!?」
心理「えぇ」
上条「あの・・・なんでそれで相性の話に?」
心理「私は不思議な小悪魔タイプなんですって」
上条「当たってるよ・・・」
心理「それで、その二つのタイプは相性がいいみたい」
上条「・・・はぁ」
心理「・・・ねぇ、感想とかコメントはないのかしら」
上条「ない・・・っていうか、別にそんなので相性なんて判断するモンじゃないって」
心理「あら、もしかしてお説教が始まるのかしら」
上条「・・・い、いや」
心理「ふふ・・・あなたって面白いわ、垣根と正反対よ」
上条「そうかな?」
心理「えぇ、垣根はクールで大人でしょ?」
上条「まぁ・・・今日のあいつはそうだったかな」
心理「あなたは熱血で、いい意味で子供っぽいわよ」
上条「・・・いい意味、か」
心理「えぇ、羨ましいくらいにね」
上条「・・・でもさ、垣根って心理さんにお似合いだよな」
心理「私もそう思ってるわ」
上条「・・・にしても、美琴と垣根・・・遅いな」
心理「一緒にいいことでもしてるんじゃないのかしら」
上条「い、いいこと!?」
心理「冗談よ・・・ほら、帰ってきたみたいだし」
コツコツ、と足音が聞こえてくる
ガチャリ、とドアが開けられた
垣根「・・・ただいま」
心理「お帰り、遅かったわね」
美琴「ちょっと自販機が故障してたのよ」
上条「お前・・・まさか、あれしてないだろうな?」
垣根「回し蹴りだろ、こいつしやがったぞ」
美琴「な、なんで言うのよ!!」
上条「したんだな!?」
心理「美琴・・・はしたないわよ」
美琴「だ、だって私もジュース飲みたかったんだもん!!」
上条「言い訳をしない!!」
美琴「う・・・」
垣根「・・・まぁ、おかげで買えたからいいけどさ」
垣根が心理定規にコーヒーを差し出す
心理「あら、私の分も買って来てくれたの?」
垣根「あぁ、夜に飲むのはイヤか?」
心理「いいわよ、大丈夫・・・」
エツァリ「飲むですって!?」
ショチトル「そんなマニアックなプレイをしているとは想像もしていなかったぞ!!」
いきなり、バーン!!と脱衣所のドアが開けられた
美琴「あ、あがったんだ」
エツァリ「・・・?何の話だったんですか、見たところ・・・」
上条「コーヒーだけど・・・」
垣根「お前ら・・・長風呂だったな」
ショチトル「ちっ・・・飲むってそういうことかよ、正しい意味で使え」
上条「むしろお前が間違ってるからな!!」
エツァリ「風呂場がイカ臭くても気にしないでください」
一同「ヤったんだな」
垣根「ほら、次は上条と御坂だぜ」
美琴「い、一緒に入るのね・・・」
心理「恋人なんだからいいじゃない」
上条「まぁ・・・そうだな」
溜め息をついてから、二人が風呂場へ向かう
残された四人はしばし無言を貫いていた
エツァリ「やはり、あのお二人もするんでしょうね」
沈黙を貫いたのは変態の一言だった
垣根「・・・さぁな」
心理「・・・あなた達よりは早くあがるはずよ」
ショチトル「ちっ・・・さすがに三回戦は時間が掛かったか」
垣根「むしろ三回戦やったことに俺は引いている」
心理「・・・最低ね、あなた達」
エツァリ「そういう女性に限って夜中はアンアンよがるんですよ」
心理「黙りなさいよ変態」
エツァリ「」
垣根「・・・で、俺達は何する?」
ショチトル「・・・そういえば、何もやるもの持ってこなかったな」
エツァリ「ヤったらどうですか?」
垣根「バーカ死ね」
心理「・・・トランプとかないの?」
垣根「ねぇよ・・・明日はプールで遊ぶんだろ?だったら今日は遊ばなくてもいいじゃねぇか」
ショチトル「・・・まぁ、そうだな」
エツァリ「少し残念ですね」
垣根「それともなんだよ、野球拳でもやろうってか」
エツァリ・ショチトル「ぜひ」
垣根(ダメだこいつら)
心理「・・・しないわよ、そんな破廉恥な遊び」ハァ
エツァリ「そんなこと言って、意外と人前で脱いだりすることに興味とかあるんじゃないですか?」
心理「あぁ?」
エツァリ「すいません」
垣根「・・・なんかねぇのかよ、適当に暇をつぶせるもの」
ショチトル「いつどこゲームやるか?」
垣根「なんだよそれ」
ショチトル「いつ、どこで、誰が、なにをした・・・っていうのを紙に順番に書いていくんだ」
心理「あぁ、たしか自分が書いたのは折り曲げて隠すのよね」
エツァリ「暇つぶしの典型ですね」
垣根「・・・一回だけやってみて判断するか」
ショチトル「よーし、紙を用意っと」
垣根「まずはいつ、からか・・・」
ショチトル「書き終わったら右隣に渡すんだぞ」
エツァリ「どうぞ・・・次はどこで、ですね」
心理「・・・やっぱり、ある程度ふざけたほうがいいわよね」
垣根「誰が・・・か」
エツァリ「・・なにをした、っていうのは一番重要ですね」
垣根「・・・よーし、出来た!!」
ショチトル「・・・うっわ、誰だこの最初書いたの・・・」
心理「・・・最低」
エツァリ「では読み上げていきますか」
垣根「俺からな」
垣根「二日前、公衆便所で、アレイスターが、寝た」
心理「・・・公衆便所を書いたのは誰かしら」
ショチトル(・・・私だ)
エツァリ「次は自分ですね・・・西暦1年、放送席で、ミッ(自主規制)が、ハハッ!!と笑った」
心理「・・若干合ってるわね」
垣根「・・・次、ショチトル」
ショチトル「イった後、あなたの胸の中で、ンニョロペギュール星人が、死んだ」
エツァリ(何があったんですか)
垣根「心理定規」
心理「明日、ラブホテルで、ハイパーメダロッターが、セッ○スをした」
垣根「・・・」
ショチトル「どういう意味だ、それ」
エツァリ「さ、最後のところをもう一度・・・」
心理「黙って」
エツァリ「はい」
垣根「・・・ダメだ、このゲーム楽しくねぇよ・・・」
ショチトル「・・・私もそう思ったよ」
美琴「ん・・・はぁっ・・・」
上条「はぁ・・・」
風呂場の壁に背中を預けながら、二人は荒い息を鎮めようとしていた
なんだかんだ言って、二人は性欲盛んなお年頃である
一緒に風呂に入れば、ただでさえそういうことになる可能性のほうが高い
しかも少し前にエツァリとショチトルもしたらしく、それを想像するだけでムラムラとしてしまったのだ
結果として、二人もそういう行動に移ってしまったのだった
上条「・・・あがりますか」
美琴「・・・弄りあっただけでおしまい?」
上条「だってゴムないしさ・・・」
美琴「そうよね・・・って待って、ショチトル達はどうしたのかしら?」
上条「・・・生でしょうか」
美琴「ま、まさかぁ・・・」
上条「あいつらが愛撫だけで終わると思うか?」
美琴「・・・」
順序って大切だ、美琴はそう思った
垣根「お、帰ったか」
上条「おっす・・・」
心理「・・・遅かったじゃない」
美琴「そ、そんなことないわよ?」
エツァリ「・・・恥ずかしがることはありません、自分達も同じですから」
垣根「それはそれで恥ずかしいことだな」
ショチトル「失礼だぞ」
垣根「・・・てかさ、マジでお前らもヤったのかよ」
上条「と、途中までは」
垣根「うっわー、風呂がどんどんイカ臭くなるぜ」
心理「じゃあ、私は先に入ってくるわね」
垣根「あぁ」
美琴「・・・え、一緒に入るんじゃないの?」
心理「いやよ、ユニットバスなんて狭くて二人では入れないわ」
垣根「お前らとは違うんだよ」
一同(・・・なんてことだ・・・)
心理「・・・はぁ」
ザー、と流れるシャワーの音を聞きながら、心理定規は溜め息をついていた
風呂場の匂いは気にしたら負けだ、と言い聞かせる
心理(・・・そう言えば、今日はあんまり旅行らしいことをしなかったわね)
実際はそうでもないのだが、彼女にとって旅行とは「記念写真を撮る」とか「友達とくだらない話をする」ということなのだ
珍しいところになんていつでも行けるし、お祭りだって時期を合わせればどうにでもなる
だが友人との大切な時間はその時しかない
心理(・・・私があがったら、次は垣根が入るのね)
そのあとはみんなが顔を合わせることになる
ワインパーティーなんかと違って自分を繕う必要もない
いつも通りの自分のままでいられるのだ
心理「・・・ふふ、楽しみね」
体にシャンプーをつけながら心理定規が笑う
美しい白い肌と、泡のコントラスト
大抵の男なら魅了できるその体を、しかし今の彼女は誰にも見せるつもりはなかった
心理(・・・垣根以外には、だけど)
上条「・・・いいのかよ、一緒に入らなくて」
垣根「いいっての、狭いし」
ベッドに転がった垣根がめんどくさそうに答える
先ほどから、ずっとその質問をされる
彼からすれば、むしろ友人が同じ部屋にいる状況で恋人と風呂に入るほうが信じられない
美琴「・・・なんか、結構ドライよね・・・」
垣根「なにが」
ショチトル「お前達だよ、たしかに愛し合ってるけど・・・」
エツァリ「情熱的というよりは静かというか・・・」
垣根「アホか、太陽はずーっと空に上ってるわけじゃないんだぜ?月のほうが長く空にいられる」
上条「な、なんのことだよ・・・」
垣根「・・・それにな、俺達の間には別にそういうもんは必要ないんだよ・・・」
美琴「・・・なんか大人っぽいわね」
垣根「あぁ、大人さ」
美琴(うっわー・・・なんかムカつく)
ショチトル(・・・ケツでも蹴り上げてやろうか)
エツァリ(やめなさい)
上条「・・・なぁ、垣根」
垣根「なんだよ」
上条「お前はさ・・・心理さんのこと、守りたいって思うか?」
垣根「はぁ?」
上条「いや・・・守られたいか、守りたいか」
垣根「傍にいたいな、それ以外はどうだっていいさ」
上条「・・・あのさ」
上条が手を揉みながら訊ねる
何か恥ずかしいことでも訊ねるつもりなのだろう
上条「・・・俺も、やっぱりこの体質があるから・・・時々、一人で突っ走ることもあるんだ」
垣根「よーく知ってるよ」
上条「・・・俺が一人で傷ついたら・・・美琴は悲しむんだ」
美琴「当麻・・・」
垣根「で?」
上条「でも、俺は美琴に重荷を背負わせたくないって思うし・・・」
何を言ってるんだろう、と考えながらも上条は続ける
今の「大人な」垣根にならこういう話を真剣に出来る
そんな気がした
垣根「んだよ、いきなり真面目な話になりやがって」
体を起こし、垣根が首を鳴らす
垣根「それで、自分はどっちにすればいいのかって聞きたいのか」
上条「というより・・・垣根ならどうするのか、ってさ」
垣根「俺か、俺は決まってるぜ」
上条「・・・どうする?心理さんに話すか、それとも一人で戦って・・・傷ついて帰ってくるか」
垣根「あいつが泣かない結果を選ぶ、それだけだ」
上条「・・・どうして」
垣根「先に話せばあいつが一緒に背負おうとする、とか後で一人で傷ついて帰って来たらあいつが悲しむ、とか・・・そんな心配なんて一々してられねぇよ」
呆れたように言いながら、コーヒーを口に含む
垣根「そんなくだらない理由で、あいつには泣いて欲しくない」
上条「・・・そっか」
垣根「お前だってそうだろ、御坂が泣いてるのより笑ってるほうが嬉しいはずだ、笑顔を作るのは御坂自身だがその笑顔を守るのはお前だぜ、上条」
ビシッと上条を指差しながら垣根が答える
垣根「そういうこった、一々こんな恥ずかしいこと言わせるなよ」
エツァリ(・・・と、時々この人はカッコイイですね・・・)
ショチトル(濡れた)
美琴(と、当麻ってば・・・//)
垣根「・・・つうか、心理定規のヤツ意外と遅いな」
上条「そりゃ、女の子だし・・・」
エツァリ「・・・遅いですね」
垣根「遅いよな、もう20分は経ってる」
美琴「いや、女なら普通はそれくらい・・・」
垣根「いくらなんでも遅い」
エツァリ「もしかしたら倒れているかもしれませんよ」
垣根「もしくは、風呂場で一人・・・」
エツァリ「・・・」
垣根「・・・」
上条(なんでこの二人は唾を飲んだんだ?)
垣根「よーし!!心理定規は、俺が守る!!」
エツァリ「お供しましょう!!」
美琴「ま、待ちなさいって!!」
上条「まさか脱衣所まで行くつもりか!?」
垣根「あったりまえよ!!」
美琴「アンタ・・・」
垣根「ひゃははは!!心理定規の風呂上りの姿だぜ、そりゃ見たいよな!?」
エツァリ「も、もちろん!!」
ショチトル「最低だな」
垣根「どうだ上条、お前も覗き・・・心理定規の安否を確認に行かないか!?」
上条「い、行かないから!!」
垣根「あーあー!!もしかしたら心理定規のあんなところやこんなところも見られるかもしれないのになぁ!!」
上条「あ、あんな・・・」
美琴「当麻ぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」
上条「ち、違うんだってば!!そういうのはダメだから!!」
垣根「あぁそうかい!!じゃあ行こうぜエツァリ!!」
エツァリ「はい!!」
勢い良く脱衣所へ歩を進める二人
垣根(ふふんだ!!心理定規がもしもセクシーな格好してたら、エツァリのやつぶん殴って俺一人で堪能するんだもんね!!)
エツァリ(友人の恋人の裸を見るというのは背徳感が素晴らしい・・・)
ガチャリ、と脱衣所のドアを開けると
心理「・・・聞こえてるんだけど」
バスタオルを巻き、髪を後ろでまとめた心理定規がいた
垣根・エツァリ「あ」
心理「・・・」
一瞬の出来事だった、垣根やエツァリでさえ反応できないほどに
心理定規は手元にあったドライヤーを掴んだ
この時点で、まだ二人の目は心理定規の体に巻かれたバスタオルしか捕らえていなかった
セクシーな鎖骨なんて少しも目に入っていない
心理「・・・」
次の動作は、そのドライヤーを振りかぶるというものだった
一瞬、本当に一瞬だ
少し膨らんだ胸の辺り・・・しかし、どうやらすでに下着はつけていたようだ・・・を視線が捉えたのはその時
心理「・・・」
さらに次で、心理定規はドライヤーをエツァリの顔面に投げつけた
エツァリ「ごふっ・・・」
エツァリの視線が心理定規の鎖骨を捕らえるより先に、ドライヤーがエツァリの鼻を捕らえた
そのまま後ろに倒れ、エツァリはノックダウン
垣根「あ・・・」
心理「垣根、あなたってたまにそういうところがあるから素敵だけど・・・」
そして、最後の動作は垣根の胸元に前かがみになって飛び込み、突きを放つというものだった
心理「でも、それとこれとは別よ?」
垣根「み・・・」
前かがみになって
垣根「見えたっ!!!!!」
心理「・・・」
ガァン!!という音を立てて、垣根の体が脱衣所から飛び出してきた
上条「おわっ!!」
美琴「か、垣根・・・それにエツァリさんも倒れてるわ!!」
ショチトル「な、何が・・・」
心理「はぁ・・・今日も平和は守られたのね」
満足げな声を上げたのは心理定規だった
垣根の胸倉を一度踏んづけてから、心理定規は悠々と脱衣所から出てきた
勝ち誇ったような顔と、少し恥ずかしそうな表情が妙に色っぽい
心理「あら、ごめんなさい・・・はしたないところ見せちゃったわね」
美琴「・・・あ、ううん・・・」
ショチトル「・・・」
上条「・・・」
心理「ったく、この二人は昔から覗きが好きね・・・」
上条「あの、心理さん」
心理「なに?上条君」
上条「その・・・」
上条「下着、思いっきり透けてますけど」
心理「」
美琴「・・・」
ショチトル「」ビクンビクン
上条当麻
彼はその日、三度目の「死」を迎えることになる
心理「・・・ごめんなさいね、上条君」
上条「あぁ、いや・・・」
美琴にぶん殴られた上条は頬を摩りながら苦笑していた
心理定規の下着が透けているのを少し見てしまった
それだけで思い切りぶん殴られたのだ
美琴「・・・当麻のスケベ」
上条「あのな・・・不可抗力だろ、それに心理さんの下着とか興味ないんだよ」
心理「ちょっと、それは私に失礼ね」
上条「あ、いや!心理さんが可愛くないとかってわけではなく!」
美琴「なによ!浮気者、最低!」
上条「だから・・・美琴にしか興味ないんだって」
美琴「そ、そんなことでごまかしたって・・・」
上条「ホントだからさ」
上条が美琴を強く抱きしめる
途端に、美琴の頬が林檎のように赤くなる
心理「あら羨ましい」
ショチトル「妬けるな」
上条「なら二人もしてもらえよ」
心理「残念なことに、垣根は今風呂なのよ」
上条(心理さんのタックルからの回復が早かったな)
ショチトル「エツァリはドライヤー攻撃によってのびてる」
上条「・・・そうだな」
ショチトル(むしろご褒美だろうがな)
美琴「・・・ほら、エツァリさん・・・起きて」
エツァリ「ん・・・御坂さんじゃないですか・・・」
美琴「あ、起きた・・・」
エツァリ「・・・!心理定規さんは!?」
心理「あら、おはよう」
エツァリ「ぶ、無事でしたか」
心理「ふふ・・・あなたみたいな男にバスタオル姿を晒すわけないでしょ?」
エツァリ「う・・・」
ショチトル「まぁ、上条には晒したんだがな」
エツァリ「な、なんですって!?」
上条「いやいや!偶然だってば!」
エツァリ「またそうやってラッキースケベを!」
上条「ラッキースケベ!?」
ショチトル「くだらん・・・私はちょっと歯を磨いてくるよ」
美琴「?お菓子とか食べないの?」
ショチトル「あ、いや・・・今日はいいや」
上条「なんで?せっかくたくさん買ってきたのに」
エツァリ「ショチトルは最近少し太って・・・」
ショチトル「エツァリ、言うな」
泣きそうな表情をしながらショチトルは洗面所へ向かった
ショチトル「・・・お湯じゃないと冷たいよな」
お湯が出るようにしてから、ショチトルが歯を磨き始める
垣根「・・・って冷たっ!」
ショチトルがお湯を出したために、いきなりシャワーの温度が下がった
いやいや、いつの時代の古いホテルだ、なんて言うことは出来ない
こういうホテルに限って細かいとこまでは気が回っていない時もある
垣根「ちっ・・・誰かお湯使ってるな」
垣根が少しシャワーの温度を上げる
垣根「・・・しかも勢い弱いし」
勢いも強め、どうにか使えるレベルに戻す
垣根「ちっ・・・ちゃんと風呂に入ってるヤツのことくらい考えろよな・・・」
少々いらつきを感じながらも垣根が体を洗い出す
ショチトル「ん・・・歯磨きの間にもお湯出しっぱなしはダメだよな」
環境保全というヤツだ、とショチトルが笑う
いいことをしたつもりなのだろう、水道を止める
たしかにお湯は止まったのだが
垣根「って熱い熱い!」
ショチトルがお湯を止めたからか、いきなりシャワーの温度が元に戻る
先程垣根はシャワーの温度を上げたのだ、つまり今の彼に掛かっているのはお湯というより熱湯だ
しかもシャワーの強さも元に戻ったため、勢いよく体に熱湯が掛かる
顔にもバシバシとお湯が当たるため、手探りでシャワーを止める
ヒタヒタと髪から雫が滴る
垣根「・・・は、ははは・・・」
今日は災難によく遭う
自販機といいシャワーといい、彼は電化製品とか生活製品に縁がないようだ
垣根「いいぜ・・・ナメてやがるな、よほど愉快な死体になりてぇと見える」
腰にバスタオルを巻き、風呂から脱衣所に向かう
すぐさまパジャマに着替え、洗面所に移動した
ショチトル「ん?ふふんー、んん」
垣根「・・・」
歯ブラシを動かすショチトルがいた
こいつが元凶か、と垣根は肩を落とす
垣根「あのな・・・人が風呂に入ってる時にお湯を使うな」
ショチトル「ふふんふ?」
垣根「なんでだ?じゃねぇよ!常識で考えろよ!」
ショチトル「はは、ほへほははふはははひ、ほほほふひひはふふほふひへへ」
垣根「だが、俺の未元物質にその常識は通用しねぇ・・・じゃねぇよ!なんだそのだっせぇ台詞!」
垣根「って俺じゃねぇか!」
ショチトル(ベタなノリツッコミだな)
垣根「あのな・・・てめぇのその歯磨きのせいで、俺がどれだけ・・・」
ショチトル「ガラガラーペッ!!」
垣根「聞けよ!!」
ショチトル「そんなことより、早く部屋に行こうぜ」
垣根「・・・聞けよ・・・」
ショチトル「泣くなよベイビー」
上条「・・・ん?おかえり」
垣根「・・・お前らはお前らで俺に内緒で菓子食べてるしよ!!」
美琴「な、内緒じゃないわよ?」
垣根「どう見ても勝手に食べてるよな!?」
心理「あなたも食べればいいじゃない」
垣根「マリー・アントワネットだ!!」
心理「え?」
垣根「なんでもないです」
エツァリ「・・・さて、みなさんも揃いましたし・・・明日の計画を立てませんか?」
上条「っと、そうだな」
美琴「今日はあんまり計画を立ててなかったからグダグダだったもんね・・・」
垣根「・・・たしか、ここのホテルにはプールがあったよな」
心理「えぇ、そこで遊ぶ?」
美琴「もちろん!!水着持ってきたし」ワクワク
上条「でもさ・・・それだけで一日は潰せないだろ?」
垣根「明日までは福岡か・・・やっぱり、ホークスの本拠地に・・・」
心理「だから、そんなただのドーム見ても面白くないわよ」
垣根(全国の野球少年涙目)
ショチトル(デジャブか、これが)
エツァリ「となりますと・・・遊園地とかでしょうか」
垣根「あぁ、スペースワールドか」
上条「なんだそれ?」
心理「宇宙がテーマの遊園地だったかしら、ジェットコースターなんかにも結構星とかの名前がつけられてるのよ」
垣根「ザターン、とかタイタン、とかな」
美琴「へぇ・・・」
垣根「ザターンはすげぇよな、時速130kmで高さ65mから落下だぜ?」
心理「フワってした感触がたまらないわよね、落ちる時」
上条「なんだ、二人は行ったことあるのか」
垣根「ないけど」
上条(あ・・・あれ?)
上条「でもさ、夜に行くのはどうなんだろうな」
心理「あら、そもそも午後の5時には閉園するのよ?」
上条「え、そうなのか」
垣根「だから、プールは夜にしようぜ」
エツァリ「夜のプール・・・ですか」
ショチトル「卑猥な響きだな、カルキに混じった淫らな匂い・・・」
美琴「やめて・・・なんかイヤになってくるから」ハァ
エツァリ「・・・となりますと、午前はそのスペースワールドで遊ぶことになりますね」
垣根「そうだな」
心理「その後はプールね・・・なんか素敵」
美琴「うん、優雅な旅行って感じよね」
上条「そうだな・・・今までの貧乏生活からは想像も出来ませんよ!!」
垣根「プールってだけではしゃぐなよ、ガキか」
メモ帳にスケジュールを書き込みながら、垣根が呟く
垣根「・・・さて、大体は決まったな」
上条「何時に起きればいいんだ?」
垣根「とにかく、早く起きるぞ」
美琴「なかなかハードね・・・」
上条「・・・ま、明日は朝早くなるしさっさと寝て・・・」
垣根「あぁ?まだ寝ないぜ?」
上条「な、なんでだよ?」
美琴「何かするの?」
垣根「もちろん、恋の話や趣味の話、あと他にも・・・」
上条「マジかよ・・・」
ショチトル「・・・ちゃんと寝たいんだよ」
エツァリ「そうですよ・・・」
垣根「うるちゃいうるちゃい!!」
心理(・・・なんでそのキャラになったのよ)
上条「・・・まさか、徹夜とか言わないだろうな・・・?」
美琴「そ、それはさすがに・・・」
垣根「いいぜ!!徹夜だ徹夜!!」
上条「いやだぁぁ!!!」
垣根「はっはぁ!!夜はまだまだ続くんだよ!!」
部屋の電気を消した垣根が、全員を一つのベッドの上に集めた
修学旅行のような夜が始まる
垣根「さーて、何の話をしようか」
上条「寝させてくれよ・・・」
心理「・・・諦めましょう」
はぁ、と心理定規がため息をつく
エツァリ「・・・では恋の話などを」
垣根「じゃあベタに、今の芸能人の中で誰が好きか話そうぜ」
美琴「かなりベタね」
ショチトル「・・・まぁ、他にはないからな」
垣根「俺は・・・柴咲コウかな、ああいう凛としたって感じの女性が好きだ」
上条「ふーん・・・俺は綾瀬はるかみたいなほのぼのしてそうなのがいいかな」
エツァリ「自分は断然深田恭子タイプですね」
美琴「うわ・・・なんか三人の趣味が出てるわね」
上条「だってさ・・・一緒にいて落ち着くヤツがいいだろ?」
美琴「それは分かるけど・・・」
垣根「甘いな、ほのぼのしてるヤツに限って性格悪いんだよ」
上条「な、なに言ってんだよ!?大人な女性なんて結局はツンツンしてるだけじゃねぇか!」
エツァリ「その点、妖艶な女性は・・・」
上条・垣根「一番危ないんだよ!」
エツァリ「な、なぜですか!?」
上条「お前達は分かってない、ほのぼの=優しいなんだ!」
垣根「違うな!ほのぼのなんて悪く言えばマイペースだ!」
エツァリ「そうですよ、いっつもマイペースな女性というのは相手にするのが大変です!」
美琴(・・・初春さんとかはそういうタイプかな)
垣根「だから!女性なら自分のことを考えてくれる大人な女性がいいんだよ!」
エツァリ「ですから!あまりに相手が大人すぎると女性の未熟さが露呈してしまってイヤになりますよ!」
上条「そうだそうだ!」
エツァリ「その点!深田恭子・・・」
垣根「だから!一番それがまずいんだよ!」
美琴「・・・なんか熱く語ってるとこ悪いけど」
垣根「なんだよ、邪魔すんな」
心理「私達も一応、好みの男性のタイプとか語りたいんだけど」
垣根「うるせぇ!お前が好みの男の話なんてしてたら妬けるだろうが!」
心理「スタイリッシュにツンデレね」
上条「・・・っていうか・・・あんまりこんな話しても意味ないよな」
上条が呆れたようにため息をついた
垣根「・・・ったくよ・・・じゃあ他に何について話すんだよ」
ショチトル「・・・そうだな、好きなプレイについてとか」
垣根「やめろ」
心理「はぁ・・・じゃあ、あなた達の理想のプロポーズの場所について語りなさいな」
上条「理想のプロポーズ?」
心理「私達だってそろそろそういうことを考えてもいいんじゃないかしら」
ショチトル「そうだな・・・思い出の場所があるヤツはそういうところがいいんだろうけど」
美琴「だったらあの公園かな・・・あのベンチで、指輪を渡されたら・・・//」
上条(覚えておこう)
垣根「俺は・・・あの鉄橋でいいかな」
心理「ふふ・・・あそこが思い出の場所だから?」
垣根「・・・まぁそうなるな」
上条「なんだよ・・・なんか二人だけの秘密みたいだな」
垣根「うるせぇ、お前らみたいなガキの恋とは違うんだよ」
上条「ガキだって!?」
ショチトル「まぁまぁ、大人の恋愛なんて汚れてるだけだ」
上条・垣根「お前が言うな!」
エツァリ「・・・自分はやはりアステカでプロポーズしたいですね」
心理「故郷だから?」
エツァリ「それもありますし・・・ショチトルと出会った場所でもありますから」
ショチトル「たしかに、あそこは故郷だし・・・大事な場所だな」
上条「そっか・・・やっぱり故郷は大切だよな」
自分も生まれは学園都市じゃないんだよな、と上条は考える
美琴と上条の実家はたしか近所だが
上条「・・・引っ越したばっかりなのかな」
美琴「でも当麻の家って昔の家のままよね?」
上条「・・・いや、昔の記憶なんてないからさ・・・中々実家って実感は湧かないんだよな」
エツァリ「色々大変ですよね、上条さんも」
上条「記憶を無くしたなんて実感もないからな・・・」
垣根「当たり前だろ、人間が生まれる前を知らないのと同じくらい当たり前だ」
上条「・・・でもまぁ、美琴と知り合った過去の俺はよくやったよな」
心理「・・・よくよく考えたら、一番格差があるのはあなた達よね」
美琴「うーん・・・一応私は常盤台の生徒だから・・・」
エツァリ「・・・上条さん、一体あなたは何をしたんですか・・・」
上条「忘れましたよ・・・」
垣根「常盤台の、しかもこんな美人を手込めにするなんて相当だよな」
ショチトル「全くだな」
美琴「・・・でも、垣根と心理定規の出会いも結構信じられないわよね」
上条「たしか・・・同僚だったんだっけ?」
垣根「あぁ、まぁな・・・」
心理「でもこの人、最初は私なんかに興味なかったみたいよ?」
垣根「当たり前だろ・・・大体、俺は元は年上好きだったんだ」
一同「・・・へ?」
垣根「・・・なんだよ、その反応」
エツァリ「・・・自分とショチトル、上条さんと御坂さんの年齢差はそれぞれ2歳程度ですよね?」
ショチトル「・・・垣根と心理定規って、3歳以上離れてるよな?」
上条「っていうか・・・テクパトル達の次に年齢差はあると思うけど」
美琴「・・・てっきり、垣根ってロリコンなんだと思ってた」
垣根「待てコラ、心理定規は別にロリじゃねぇだろ」
ショチトル「だが、年齢差は中々じゃないか」
上条「・・・心理さんはどう思う?」
心理「垣根はロリコンじゃないわ、多分」
垣根「多分ってなんだよ!」
美琴「・・・でも、あのロリコンで有名な一方通行さえ番外個体に・・・」
垣根「番外個体は生まれた年月的にはまだ赤ん坊だよな!?せめて一方通行を超えたくはないんだよ!」
上条「超える超えないじゃないだろ・・・」
ショチトル「・・・いやいや、大体垣根はロリコンだ」
垣根「違うからな!」
美琴「・・・心理定規はギャップのある女だから、ロリにもなるし大人にもなるし・・・」
心理「・・・なんか、褒められてるように聞こえて果てしないけなし方よね」
上条「いや・・・でも心理さんはそうだからさ」
心理「・・・垣根、私はロリなのかしら」
垣根「俺はロリコンじゃない!大体そんなこと言ったら上条だって!」
上条「なんだよ!俺は別に・・・」
垣根「貧乳好きじゃねぇか!」
美琴「ひ、貧乳じゃないわよ!」
垣根「貧乳だろうが!年相応だとか言い訳してんじゃねぇよバーカ!最近の女は胸がだんだんでかくなってきてるんだよ、お前は時代に取り残されてるんだ!」
美琴「な、なによ!貧乳じゃないわよ!」
エツァリ「い、いえ・・・貧乳とまではいかない、微乳ですね」
美琴「微乳!?そんなにダメな胸かしら!?」
ショチトル「そこまで怒るな、微妙な加減で美しい乳の略だ」
美琴「そ、そういう意味なの?」
垣根「・・・しかしまぁ、揉み心地は良さそうだ」
エツァリ「感度はどうなんでしょうか」
美琴「アンタ達・・・二人ともぶっ飛ばすわよ」
垣根「揉ませてくれよ!」
美琴「ふざけんなぁぁぁ!」
上条「許さないぞてめぇ!」
垣根「ちっ・・・感度いいんだろうな」
美琴「そんなこと言うなぁぁ!」
エツァリ「いいんですか!?いいんですか!?」
ショチトル「いいのか!?お前、めちゃくちゃ感度良さそうだよな!」
垣根「マジか!?」
心理「あら、そうなの」
上条「だ!か!ら!美琴は別にそんなこと・・・」
美琴「そ、そうよ!そんなこと関係ないじゃない!」
心理「・・・ねぇ、やっぱり男性は胸が弱い女の子が好きなのかしら」
美琴「な、なんでそんなこと聞くのよ」
心理「私、あんまり胸は弱くないのよ」
上条「な、なにぃ!?」
エツァリ「胸が弱くないですって!?」
ショチトル「もったいないな、私は愛撫みたいな生温いのじゃ感じられないが」
垣根「てめぇら!心理定規の体について知ろうなんてすんなよな!」
美琴「・・・でも、胸以外に弱い場所があるなら大丈夫よ」
心理「なら大丈夫ね」
エツァリ「どこが、どこが弱いんですか!?」
垣根「てめぇ!聞くんじゃねぇよ!」
心理「どこか・・・知りたい?」
ずいっ、と心理定規がエツァリの横に移動する
エツァリ「ひぃっ!?」
心理「じゃあ・・・あなたが試してみたら?」
垣根「待て待て!お部屋が真っ暗で先が見えないですがなんかヤバいことになってるだろ!?」
ショチトル「エツァリ!何をどぎまぎしてやがる!」
エツァリ「な、なんだかシャンプーの香が果てしなくエロ・・・じゃなかった偉くまずいんですよ!」
垣根「心理定規ォ!浮気かてめぇ!?」
心理「冗談よ、エツァリ君に体を許すわけないじゃない」
上条「おわぁ!?なんでそう言いながら今度は俺に近づいてきたんですか!?」
美琴「ちょ、ちょっと!当麻に手を出さないでよね!」
心理「あら、出さないわよ?」
垣根「ちくしょお!上条、てめぇ心理定規に手を出すなよな!」
上条「俺は悪くねぇだろうが!」
垣根「知らないなぁそんなこと!御坂!」
美琴「な、なに・・・ってふぁぁ!?」
上条「ま、待った!なんか美琴がセクシーな声を上げてますが!?」
美琴「ちょっと!どこ触ってんのよ!?」
ショチトル「暗闇で友人の彼女を襲うだと!?」
美琴「襲われてないわよ!」
垣根「ふっへっへ!胸を揉ませていただいていますよ!」
上条「揉んでるだと!?」
美琴「揉まれてないわよ!ちょっと突かれただけよ!」
上条「突かれたのかよ!垣根、てめぇぶっ飛ばすぞ!」
心理「垣根、やめなさいよ」
垣根「ははは!修学旅行の夜といえばこういうエロいイベントも必要だろ!」
上条「修学旅行じゃねぇよ!」
垣根「細かいことは気にするな!」
エツァリ「そうですね、乱交プレイと行きましょう!」
一同「黙れ変態」
エツァリ「」
垣根「・・・世の中にはまぁ、色々な法則がある」
垣根が語り出したのは「暗黒物質」についてだった
「ダークマター」という繋がりで彼はそれをかなり気に入っている
メルヘンだから、という理由もある
上条「・・・暗黒物質って、たしか授業で聞いたことはあるな」
ショチトル「なんなんだ、真っ暗闇の物質か?」
心理「理論上は存在する物質・・・よね」
垣根「例えば・・・そうだな、光の速さより速い乗り物があれば、時間の経過は遅くなるって話を知ってるか?」
エツァリ「たしか、浦島太郎現象ですよね」
垣根「その光の速さを超える乗り物だって、ある意味じゃ暗黒物質だ」
心理「・・・そうかしら?あれはもう発見されたんじゃなかったの?」
垣根「まぁ細かいことはともかく・・・理論上の存在を定義付ければ新たな現象を説明できる」
上条「でもさ・・・暗黒物質ってなんで考え出されたことなんだよ」
垣根「銀河の重さが足りなかったからさ」
エツァリ「・・・はい?」
垣根「銀河の回る速さから、銀河の重さを計算出来るんだが」
美琴「よくよく考えたら・・・それ自体が途方もない話よね」
垣根「だがしかし、実際の銀河の重さはそれに全く足りなかった」
上条「銀河の重さをどうやって測ったんだ?」
垣根「計算だよ・・・実際は銀河の重さなんて測れないから、その計算自体が間違ってたかもしれないんだよ」
上条「・・・だったら暗黒物質なんて存在しないかもしれないじゃんか」
垣根「あぁ、だが一応理論上は存在してるのさ」
垣根が呆れたように答える
机の上だけで作り出された法則なんかに意味はあるのか、と悪態をつく
垣根「でも夢は広がるだろ?光を反射しない物質、未だに見つかっていない未知の物質!」
ショチトル「うーん・・・それにときめくあたり、お前は科学の人間だな」
垣根「なんだよ、お前達はワクワクしないのか?」
ショチトル「あまり、な」
美琴「・・・暗黒物質の中には星なんかも含まれてるのかしら」
垣根「さぁな・・・ただ、感情も暗黒物質と言えるだろうな」
上条「感情?」
垣根「理論上は存在させることにより人間という存在を定義付けている」
上条「・・・そういうもんかな」
美琴「なんか・・・かなりメルヘンな話になってるわね」
エツァリ「・・・感情とは暗黒物質、ですか」
ショチトル「なにやら新曲みたいだな」
垣根「・・・新曲ってなんだよ」
ショチトル「シングルの題名みたいじゃないか」
エツァリ「全く違いますよ」
上条「・・・はぁ、なんか難しい話になっちまったな」
垣根「・・・俺の話はどうでもいい、他になんか面白い話はないのかよ」
上条「うーん・・・」
心理「・・・そうね、じゃあ私の小さな頃の話を」
一同「・・・はい?」
心理「あれは私がまだ・・・幼稚園生の頃だったかしら」
上条「あ、語り出すんだな」
心理「私・・・こう見えて、結構病弱だったのよ」
一同「見たまんまだけども」
心理「もちろん、重い病気じゃないんだけど・・・よく風邪になったりしたわね」
ショチトル(風になったのか)
エツァリ(違いますよ)
心理「幼稚園や小学校の頃は・・・よーく休んでたわね」
垣根「それ、サボりじゃねぇのか」
心理「違うわよ・・・」
上条「そ、それで?」
心理「その時、いーっつも届け物を届けてくれる人がいたのよ」
美琴「あ、もしかして男の子!?」
心理「えぇ」
垣根(ちっ)
上条「・・・もしかしてさ、その男の子って垣根だったとかか!?」
心理「違うわよ、大体そんなことがあったなら垣根が覚えてるはずでしょう」
垣根「そうだそうだー」
エツァリ(なんで幼児退行してるんですか)
心理「・・・あれは、私が幼稚園の年長組の頃だったわね」
美琴「うんうん!!」
ショチトル「早く早く!!」
男一同(女って・・・他人の恋愛の話とか好きだよな)
心理「・・・はぁ」
あの時、私は雑誌を読んでたのよ
言っておくけどサボってたわけじゃなくてね
でも、そうしてるといつも決まった時間にある男の子が来るのよ
「こんにちはー!!」
心理(・・・また来た)
正直鬱陶しいとも思ってたのよ、当時はあんまり他人と話すのが好きじゃなかったし
垣根「なんだよ・・・早く話せって!!」
上条「気になるだろ!!」
エツァリ「も、もしかしてその後恋に堕ちたとか!?」
女一同(男って・・・)
心理「・・・また来たの」
「だってさー、先生が届けろって!!」
その子が持ってくるのはいつも給食のパンだったのよ・・・
そんなもの一々持ってくるのもどうかと思って、いっつも適当にあしらってたのよ
心理「はぁ・・・分かったわ、いつもありがとう」
「いやー!!でもさ、お前の家ってなんか綺麗だな!!」
心理「・・・別に」
子供の頃の家なんて全然覚えてないんだけどね・・・人との話したことはよく覚えてるくせに
心理「・・・ねぇ、あなたってどうしてそうやっていつも来るのよ」
「・・・この家に来たらお前に会えるじゃんか!!いーっつもお前休むしさ!!」
垣根「だぁぁぁぁ!!なんて純情なんだぁ!!」
上条「男だよ、幼稚園生でも男だなぁ!!」
エツァリ「素晴らしいですね!!」
心理「・・・でも、私ってそういう大声出すタイプって好きじゃないのよね・・・」
垣根「あ、そうなの」
心理「・・・なんで私に会いたいのよ」
「うーん・・・なんでだろ?」
心理「はぁ・・・」
「あのさぁ、お前ってやっぱりイケメンってのが好きなのか?」
心理「何よそれ」
「知らないの?最近、隣町の幼稚園の男が人気なんだぜ!!」
心理「ふーん・・・」
「かきなんとか君だってさ」
心理「何よ、フルネームで覚えなきゃ意味ないじゃない」
「でさ、そのかきなんとか君がイケメンなんだって」
心理「・・・そう」
上条「かき・・・なんとか?」
エツァリ「・・・垣根さん、あなたって心理定規さんと小さい頃から近所だった・・・とか?」
心理「そうかもね、なんか昔見たことあるし」
垣根(知らねぇよ・・・)
「・・・それでさ、お前はどうなのかなーって思って」
心理「知らないわよ、見たことない男のことで一々騒げると思う?」
「すっげぇ!!お前ってなんかすっげぇ!!」
心理「・・・あぁそう」
当たり前でしょ、とも思ってたわね
周りの子より一人の時間が多かったんだから
「・・・なぁ、なんでそんなに大人びてるの?俺達まだ幼稚園生だぜ?」
心理「・・・それで?なんで一々私のところに来るのよ」
「あれ、答えてなかったっけ?」
心理「はぁ・・・」
「・・・俺さ、そろそろ引っ越すんだ」
心理「ふーん・・・どうして?」
「お父さんが仕事で異動になったんだってさ」
心理「・・・それは残念ね」
別に残念なんて思ってはなかったわ、そこまで興味のある相手じゃなかったから
垣根「いやだぁぁ!!俺の彼女ってこんなに魔性だったの!?」
美琴「今更ね・・・」
心理「それで、どうして・・・」
「告白に来たんだ!!」
心理「・・・ごめんなさい、無理よ」
「・・・え?」
心理「私・・・あなたみたいなタイプは苦手なの」
「・・・な、なんで?」
心理「うーん・・・私って静かなイメージじゃないかしら」
「そ、そうだけど・・・」
心理「うるさい人は苦手よ・・・ごめんなさい」
「」
垣根「・・・で?」
心理「おしまいよ」
一同「・・・は?」
心理「私はモテるの、そういう話よ・・・あと垣根にちょっとヤキモチを妬かせてみたかったの」
一同(・・・そういえば、この人の昔話は昔からそうだった・・・)
垣根「・・・しゃあねぇな・・・誰か他に話はねぇのか」
上条「・・・じゃあさ、この前の俺の出来事を聞いてもらっていいか?」
心理「えぇ、いいわよ」
上条「・・・この前、ある女の子がスキルアウトに絡まれ・・・ってなんで呆れてるんだよ」
ショチトル「・・・いや、続けてくれ」
美琴「当麻・・・」
上条「な、なんだよ・・・」
垣根「・・・続けろよ」
上条「でさ、その女の子を助けたんだけど・・・」
エツァリ「・・・だけど?」
上条「実はその子、能力者でさ」
垣根「まぁ、学園都市なら当たり前だけどな」
上条「それで、自分がスキルアウトを倒せるはずだったのにって逆ギレされたんだよ・・・」
エツァリ「それはひどいですね・・・」
心理「あら、別に助けは要らなかったって言いたかったんじゃないの?」
上条「そうだけど・・・ってなんで美琴は呆れたような顔してるんだ」
美琴(わ、私も前はそんな感じだったわね・・・)
垣根「・・・で、それで終わりか」
上条「いや・・・それがさ」
美琴「ま、まだ何かあるの?」
上条「その子に次の日また会って・・・」
ショチトル「ほう・・・」
上条「でさ、またその子スキルアウトに絡まれてて・・・」
エツァリ「ま、またですか?」
上条「んで・・・今度は放っておいたんだ」
美琴「うん、そこはそれが正解よね」
上条「まぁ・・・そうだろ?」
心理「で、どうなったのよ」
上条「・・・なんで助けないんだよ、って逆ギレされた」
垣根「はぁ・・・?」
上条「昨日は助けたじゃないかってさ・・・」
美琴「で、でもその前の日には助けたら文句言われたんでしょ?」
ショチトル「大変だな・・・」
上条「・・・んで、一応助けたんだけどさ・・・」
エツァリ「けど?」
上条「・・・そしたら、なんかさ・・・八つ当たりされたんだよ」
垣根「はぁ?なんで?」
上条「いや・・・スキルアウトが自分を狙ってるのが気に食わないって・・・」
心理「いわゆるDQNね」
美琴「・・・それで、その子とはどうなったのよ」
ムスッとしたまま美琴が訊ねる
上条「いや・・・それっきり」
美琴「なーんだ、そうなんだ!!」
心理「あら、嬉しそうじゃない」
美琴「ま、まぁいいじゃない・・・」
ショチトル「・・・というか、私はそろそろ寝たいんだが」
エツァリ「たしかに・・・もう12時を回りましたよ」
上条「・・・どうすんだよ、流石に俺も眠いんだけど」
垣根「・・・分かったよ、寝るか」
心理「よかったわ・・・おやすみなさい」
上条「おやすみ・・・」
一同がそれぞれのベッドに移動した
スースーと寝息が響く部屋の中
垣根はまだ眠れずにいた
垣根「誰か起きてるか」
美琴「・・・残念なことに私は起きてるのよね」
垣根「御坂か・・・なんだよ、眠れないのか」
美琴「別に・・・ただあんまり眠る気にならないのよ」
垣根「それを眠れないって言うんだ」
美琴「・・・ねぇ」
垣根「なんだよ」
美琴「・・・アンタは当麻のこと、どう思う?」
垣根「あぁ?まさかてめぇ、ホントは上条のこと好きじゃなかったり?」
美琴「そんなわけないでしょ・・・」
垣根「じゃあなんでそんなこと聞くんだよ」
美琴「・・・当麻のこと、どんな風に評価してる?」
垣根「何度も言ってるだろ、理想のヒーローだ」
美琴「初めて聞いたわよ」
垣根「・・・あいつみたいに正義を貫く馬鹿、今の時代には珍しいな」
美琴「・・・そうよね、私も初めて会った時はびっくりしたわよ」
垣根「・・・あんな正義振り回すヤツ、昔の根性漫画じゃなきゃ見られないよな」
美琴「そうそう、リアルでいるなんて思えない・・・ってそういうことを聞いてるんじゃなくて」
垣根「あぁ?じゃあ何について聞きたいんだよ」
美琴「・・・当麻の不幸体質についてよ」
垣根「不幸体質?」
美琴「うん・・・当麻って、このままずっと不幸なのかな?」
垣根「そうかもな」
美琴「・・・ずっと不幸だったら・・・どうなるんだろ」
垣根「・・・どうなる、か」
頭の中であらゆる不幸を思い描く
まず大学に合格しないのだろう、合格しても単位が足りずに留年だ
留年も一年では済まないだろう、ギリギリまで留年するはずだ
就職だってままならないだろう、そしてやっと決まった就職先でも様々な失敗をするはずだ
はずだ、としか言うことは出来ない
「そんな不幸なんて起きないかもしれない」からではない
「そんな小さな不幸で終わるわけはないかもしれない」からだ
垣根「・・・下手すれば死ぬかもな、すぐに」
美琴「し、死ぬ!?」
垣根「事故にあったり、病気になったり・・・まぁ誰にだってある可能性なんだが」
美琴「そ、そうよね!?」
垣根「だが上条は通常の人間と比べてそういうことになる可能性が無駄に高い」
美琴「う・・・」
垣根「事故をかわしたら、その先の道で通り魔に襲われる、なんてこともあるような不幸体質だ」
美琴「い、いやよそんなの!」
垣根「俺に言われても困るが・・・でもその不幸を本人はそこまで重荷には感じてないみたいじゃないか」
美琴「本当に・・・そうなのかな」
垣根「何が言いたいんだよ?」
美琴「・・・も、もしかしたら重荷に感じていて・・・でも弱音を吐けない性格だから我慢して・・・」
垣根「お前・・・」
美琴「そうだったら・・・力になってあげたいからさ」
垣根「・・・大丈夫だろ」
美琴「なんでそんなこと言えるのよ・・・」
垣根「男には重荷を背負い続けるだけの力がある、女と違ってな」
美琴「・・・そんなのって言い訳じゃない」
垣根「そうか?女に悩み事を吐くのは男として情けないもんだ」
美琴「女としては、相談してほしいものなのよ」
垣根「・・・そういうもんかね」
ふん、と垣根が鼻を鳴らす
心理定規もそう思っているのだろうか
垣根「・・・で、お前はどうしたいんだよ」
美琴「だ、だから!!当麻の不幸体質をどうにか少しでもよくしてあげたくて・・・」
垣根「ならやめとけ、お前にはどうすることも出来ないしそんなことをする必要もない」
美琴「なんでよ!?今まではなんとか生きてこれたけど、当麻は・・・」
垣根「自分の好きな相手のことくらい信じてみろよ」
美琴「・・・好きな相手だから心配なのよ、今日だっておみくじでよくないの引くし・・・」
垣根「はぁ?それで心配になったとか言うんじゃねぇだろうな」
美琴「・・・いっつも、不幸だ不幸だって言ってるから・・・」
垣根「くっだらねぇ・・・」
美琴「なによ・・・」
垣根「上条が不幸だとは言ってもそれがイヤだとは言ったことないだろ」
美琴「あるわよ」
垣根「あれ?」
美琴「・・・ねぇ、アンタって結構幸運なほうじゃない」
垣根「どこが」
美琴「力があって、好きな相手と付き合えて・・・」
垣根「上条だってそうだ」
美琴「それだけじゃない!!アンタはお金だってあるし、それに・・・」
垣根「何が分かるんだよ・・・お前は何も分かっちゃいない」
美琴「あ・・・ご、ごめん」
垣根「いいか、俺だって不幸だと思う経験はしてきた、暗部には堕ちるし仲間は失うし一方通行には負けるし・・・」
溜め息をついてから垣根が続ける
垣根「・・・上条だって、たしかに不幸だ・・・俺達と違って日常の中でもよく不幸が起きるし、事件にだって巻き込まれる」
垣根「だからって、他の人間が全員幸せじゃないんだぜ」
美琴「・・・でも当麻は不幸なのよ」
垣根「他人と比べて、か」
美琴「・・・」
垣根「そうだろうな、他人に比べて成績は悪い、他人と比べて事件に巻き込まれる・・・でもな、それは上条当麻としては当たり前の生活だ」
美琴「・・・不幸が当たり前なんてかわいそうよ」
垣根「そうやって言い訳をされて、憐れまれて・・・そっちのほうが可愛そうだ」
美琴「・・・当麻は幸せになってるのかな」
垣根「お前がいればいいんだろ、そんなの察してやれよ・・・」
美琴「・・・うん、ごめんね」
ゴソゴソと美琴が上条のベッドに移動する
垣根(ったくよ・・・どいつもこいつも真面目になりやがって)
お前が一番そうだ、と言われそうだが別に垣根は気取ってるわけではない
ただこういう場所に来ると自然に引き締まるだけだ
垣根(・・・にしても、御坂は御坂でよく上条のこと考えてるんだな・・・)
垣根(・・・そりゃそうか、恋人だからな)
目を閉じて、心理定規の顔を思い浮かべる
彼女に不満などないし、ずっと愛し続けたいとも思う
垣根(・・・だが、俺は心理定規のことをそこまで深く考えていたか?)
垣根(・・・綺麗な言葉を並べてるだけだったかもしれねぇな)
垣根(・・・いや、どうでもいいじゃねぇか、それが俺の出来る愛情表現だ・・・)
垣根(あーあ、俺って不器用)
垣根「にょわっはっは!!おはようみんな!!」
朝の6時、垣根は一人一人の布団を奪って嬉しそうに笑った
上条「な、なんだよ・・・」
垣根「朝だ!!見ろ、太陽が眩しいぜぇ!!」
ショチトル「もうちょっと寝かせろよ・・・ただでさえ寝るの遅かった・・・」
垣根「だらしないんだよ!!大体今日は遊園地に行くんだろうが!!」
美琴「別にまだ大丈夫よ・・・」
垣根「ならんならん!!」
エツァリ「・・・なんでそんなにハイテンションなんですか、昨日は真面目に・・・」
垣根「昨日は昨日!!昨日の風は今日には吹かないんだよ!!」
上条「なに言って・・・」
心理「垣根、布団を返して」
垣根「やっだよーん!!ていうかさっさと起きて支度しろ・・・」
心理「・・・返せ」ゴゴゴ
垣根「」
垣根「なぁ・・・さっさとしないと朝飯も食えないぜ?」
心理「いいでしょ・・・」
上条「・・・心理さんって、もしかして朝弱いのか?」
垣根「あれだろ・・・どうせ枕が変わったから眠れないとか」
美琴「そんなにデリケート・・・かもね、見た目からして」
ショチトル「色白だからな」
エツァリ「病弱なイメージですからね」
心理「うるさいわね・・・ジロジロ見ないでよ、眠れない・・・」
垣根「むっはー!!」ジロジロ
心理「・・・」ゴスッ
垣根「おふっ・・・」
上条「か、垣根ぇぇ!!」
美琴「・・・心理定規、まだ寝るつもり?」
心理「あと5分・・・10分・・・30分くらいならいいわよね?」
上条「な、なんで伸ばすんだよ」
心理「・・・眠いのよ」
美琴「・・・じゃあ、私達は準備始めましょうか・・・」
ショチトル「そうだな」
エツァリ「・・・ところで、心理定規さんはスッピンでよろしいのですか?化粧にはそれなりに時間が掛かるはずですが・・・」
上条「あぁ、もしかしてあれか?移動に使うバスとか電車の中で化粧・・・」
心理「・・・上条君、あなた今なんて言った?」
上条「電車とかの中で化粧・・・」
心理「ダメね・・・あなた何も分かってないわ、化粧の化の字は化けると書くのよ?人が見ている前でそんなことできると思う?」
上条「あ、いや・・・」
心理「そんなのね、謎の怪盗とかヒーローなんて言われている人が平気で人前で変身してるのと同じなのよ?」
美琴「なんかよく分からない例えね・・・」
心理「いい?化粧に使われるものの中には匂いがきついものもあるのよ、そんなのを他人が乗っている公共の乗り物の中で使うなんて女として・・・・いえ、人間として最低といえるのよ?そういうことをする女は外だけを磨けばいいと思ってるのよ、平気で人前で大口開けて笑ったり足を開いたりするような女よ・・・化粧っていうのはね、必要最低限のものだけを施して自分を少しだけ昇華させるものなのよ、そして内面もその外見に見合ったように磨いて見せようという向上心を生み出すものよ、外だけを磨いて中身が伴っていないなんて、ワイングラスに注がれた苦汁のようなものなのよ、分かるかしら?分からないわよね、私のことをそういうふうな女性と一緒にしたあなたには分からないわよね?」
上条「ごめんなさい」
美琴(なんか・・・心理定規が怖い)
ショチトル(・・・クラスで敵に回したらいけない人ランキング第一位だな、こりゃ)
エツァリ(・・・というか、そんな理論が女性の間にはあるのですか)
心理「・・・仕方ないわね、今からちゃっちゃと化粧は終わらせるから」
上条「あ、あぁ」
垣根「ある朝、俺が目覚めると股間のティンペットが暴れていた・・・」
垣根「いや!!な、何するのよイッキ君・・・はぁっ!!」
垣根「へっへっへ!!カリンちゃん、いいだろ・・・」
心理「・・・もしかして、さっき頭を叩いたせいでおかしくなったのかしら」
美琴「もう重症ね」
上条「・・・垣根、目を覚ませ」
垣根「はっ!!ここはやっぱりヘルシングのエッチな想像のほうがよかったか!!」
ショチトル「ダメダメ、そういうのじゃなくてもっとムーミンとか・・・」
心理「終わったわよ」
上条「は、早いな」
心理「えぇ・・・早くしないといけないんでしょ、あと30分もすれば出かけるみたいだし」
美琴「うん、そうだけど・・・」
テクテク、と心理定規はなぜかまたベッドに向かう
上条「な、何・・・やってんだ?」
心理「おやすみなさい・・・」
一同「アンタも寝ぼけてるのかおい!!!」
垣根「・・・朝ごはんはパンか・・・」
上条「そういう言い方は貧しく聞こえるからやめようぜ・・・」
ショチトル「・・・そうだな、パン以外にも美味しそうなスープやらどっかのジャムなんかもあるし」
心理「・・・愛情のない料理なんて明日のない明後日と同じよ・・・」
美琴「ほら・・・ちゃんとしなさいよ」
エツァリ「というか、一日眠れなかっただけで目の下にクマが出来てますよ?」
心理「うるさいわね・・・ヤンデレとかに見えていいんじゃないの?そうでしょ雄豚」
エツァリ「ブヒー」
上条「心理さん・・・口が悪くなってるぞ」
垣根「あーあーちくしょう・・・誰だよ寝ないで徹夜とか言ってたやつは」
上条「お前だろ」
垣根「・・・ダーメだ、腹が減らない・・・」
ショチトル「じゃあもう向かうとするか?」
垣根「・・・頼むぜ・・・」
美琴「はぁ・・・ったく」
美琴「こんなんで大丈夫かしら?」
垣根「・・・このスペースワールドは八幡製鐵所の後に作られたんだ」
心理「・・・ちなみに、ここは宇宙だからね、決して地球じゃないんだから」
垣根「あぁそうだな・・・スペースワールドだもんな」
心理「そうよ・・・もしかしたら宇宙人に会えるかもね」
上条「おーい・・・」
一同はスペースワールドに辿り着いていた
バスの中で、垣根と心理定規はうたた寝をした
しかしやはり眠気はとれなかった
エツァリ「・・・もうすぐ開園時間ですよ」
ショチトル「・・・だから、二人ともしっかり目を覚ませ」
美琴「おーい・・・」
垣根「・・・なぁ心理定規、最近抱いてやってないよな」
心理「そうね・・・」
垣根「なんならここでやらないか」
心理「あら・・・破廉恥ね・・・」
上条「って待て待て!」
エツァリ「やるんですか!?こんな所でやっちゃうんですか!?」
ショチトル「い、いいな!やってくれよ!」
垣根「・・・やっぱいいや、眠い」
エツァリ「ね、寝ぼけて言ってたんですか」
美琴「・・・あ、開園したわよ!」
垣根「おぉマジか・・・なんか人がかなり多いんだが」
上条「そりゃGWだからな」
心理「あぁ・・・そういえばそんな季節だったわね」
美琴「これは・・・はぐれたりしそうね」
垣根「携帯の電源はつけとけよ・・・」
言いながら、垣根がフラフラと人混みに入っていく
頼りない足取りは眠気のせいだろうか
上条「お、おい!」
垣根「なんだようるせぇな・・・」
美琴「ちょっと!?そんな適当に歩いたらはぐれるわよ!」
垣根「あぁ適当に歩いてないから大丈夫・・・」
上条「あぁもう!待てってば!」
残りの5人も人混みの中に駆け込む
そして、結局バラバラになってしまった
垣根「・・・すまなかった、マジで後悔してる」
美琴「・・・なんか、もうこの旅行では当麻と二人きりにはなれそうにないわね」
垣根「・・・俺、昨日はショチトルと二人だったんだけどよ」
美琴「私はエツァリさんとだったわ」
垣根「・・・そうだ、携帯携帯・・・」
美琴「連絡ならもう取ったわよ」
垣根「なんだ・・・上条はどこだった?」
美琴「人混みに流されて遠く・・・ショチトルと一緒みたい」
垣根「あれか、カップル交換か」
美琴「・・・さすがにこの人混みでは動けないわね」
垣根「どうする?」
美琴「垣根と二人で楽しんでくれ、って言われちゃった」
垣根「しゃあねぇな・・・せっかく金払って来たんだから遊ばないわけにはいかないし」
美琴「・・・遊ぶって言っても・・・こんなに混んでるわよ?」
垣根「それでもいくつかアトラクションに乗るくらいは出来るはずだ、行こうぜ」
垣根が美琴の手を掴む
美琴「あ・・・」
垣根「あぁ?俺に手捕まれるのがイヤか?」
美琴「・・・はぐれないためには仕方ないわね・・・いいわよ別に」
垣根「まぁ今は俺が上条だと思えよ」
美琴「無理に決まってるでしょ・・・」
垣根「まずは何に乗りたい?やっぱザターンみたいな派手なのがいいよな!」
美琴「うーん・・・でもあれってかなり人気なんじゃ・・・」
垣根「列に並ぶのもまた楽しみ!」
ビシッと垣根が親指を立てる
美琴「はぁ・・・仕方ないわね」
垣根「・・・まずはザターンだよな」
美琴「よりにもよって人気なのから行くのね」
垣根「当たり前だろ、ここは敢えてだよ」
美琴「なにがどう敢えてなのよ・・・」
垣根「あれだ、みんなきっと混んでると思って並ばないはずだからな!!」
美琴(どうかしら・・・)
垣根「・・・世間一般はクズだ、人が多いところに集まろうとする群集心理が働いてやがる」
美琴「・・・ほら、やっぱり混んでるわね」
垣根「・・・クソがぁ!!なんだよこの列は!!」
美琴「・・・並ぶんでしょ?」
垣根「並びたくないでござるの巻」
美琴「はいはい・・・ってきゃっ!?」
垣根「あぁ?どうしたんだよ」
美琴「・・・だ、誰かが私のお尻触ってるのよ・・・」
垣根「・・・なんだと?」
美琴「・・・捕まえた!!」
美琴がバシッ、と痴漢の手を捕まえる
垣根「・・・」
美琴「・・・なんでアンタの手なのかしらね」
垣根「・・・あれだ、ちょっと魔が差した」
美琴「どっかに周りの被害を気にしないでいい広場は無いかしら」
垣根「ごめんなさいごめんなさい」
美琴「・・・アンタね、今度そういうことしたら心理定規に言いつけるわよ」
垣根「いや違うんだよ・・・こんな混んでるだろ、体が押されるんだ」
美琴「まぁ・・・たしかにそうね」
寿司詰めというのはまさにこのことだろう
これでは触られてるのか手が当たっただけなのかさえ分からない
垣根「・・・悪気はなかったんだよ、すまん」
美琴「いいわよ別に・・・」
垣根「お尻触られても平気なんて、ミコっちゃんったら破廉恥!!」
美琴「なにか言った?」
垣根「すいませんもうしません」
美琴「・・・にしても、本当に混んでるわね」
垣根「・・・はぐれないようにしないとな」
垣根が美琴の手を強く握る
美琴「・・・なんか心理定規に申し訳ないんだけど」
垣根「俺だっててめぇみたいなヤツには興味ねぇんだよ」
美琴「・・・言うじゃない」
垣根「・・・やめようぜ、今は喧嘩してるときじゃない」
垣根「よっしゃあ!!やっと俺達の番だ!!」
美琴「へぇ・・・結構頑丈なセーフティーね」
二人の体にはシートベルトと、上から下ろすセーフティーが掛けられていた
垣根「まぁ、これが一番危険なコースターだからな」
美琴「それもそうね」
「みなさん、今日はこの宇宙探検にお越しいただき・・・」
美琴「あ、なんか面白いアナウンスね!」
垣根「スペースワールドでは名物だな」
美琴「そうなの?」
垣根「あぁ、ジョークを混ぜたアナウンスは面白いよな」
美琴「・・・動くみたいよ!!」ワクワク
垣根(・・・こういうところは心理定規と違ってガキだよな)
美琴「?なによ、アンタは騒がないの?」
垣根「ほら、ちゃんと前見てないともったいないぜ?」
美琴「う、うん」
美琴(・・・なんか、当麻と違ってあんまり楽しんでるって感じじゃないな・・・)
垣根「・・・スタートしたぁぁぁ!」
美琴「はやぁぁぁい!」
一瞬にして時速は100kmを超えた
レールを走るコースターが縦になる
空に向かって打ち上げられるそれはまるでロケットのように感じられた
垣根「すげ・・・」
しかし、頂上に達したコースターはすぐさま下に向かって落ちていく
地面にぶつかるのでは、と錯覚にさえ陥る
さらにジェットコースター特有のフワリとした不気味な感触
それが心地好く感じられるのはなぜだろうか
セーフティーが無ければ無重力状態になって飛んでいくのだろう
美琴「ふわ・・・」
まともな感覚が戻ってきた頃には、既にコースターは止まっていた
垣根「・・・すっげぇ、すっげぇなおい!」
美琴「すごいわよね!?落ちる瞬間の感覚とかヤバかったわよ!」
垣根「あぁ!あの落ちていくスリルは堪らないな!」
美琴「ホントホント!」
セーフティーを係員が外すが、その間も二人の興奮は止まらない
ぎゃあぎゃあと騒ぎながら手足をバタバタとさせる
美琴「なんだかんだ言ってアンタも楽しんでたんだ」
垣根「当たり前だろ!もう一回、もう一回乗ろうぜ!」
美琴「ま、また並ぶの?」
垣根「当たり前だ!行こうぜ御坂!」
美琴「で、でも他のアトラクションに・・・」
垣根「ははは!あの素晴らしい愛をもう一度!」
美琴「いやぁぁぁ!」
垣根「・・・乗りすぎた」ウプッ
美琴「もう・・・酔ってるじゃない」
垣根「酔ってなんかねぇよ・・・ちょっと吐き気がするだけだ・・・」
美琴「それを酔ったって・・・ってちょっと!!なんで口元を押さえて・・・」
垣根「オォオォエェアァエェオォエェアァェェオォ・・・」
美琴「きゃー!!口から未元物質を出しながらアンインストールを歌ってるわ!!」
上条「・・・美琴は垣根と二人・・・か」
携帯のメールを確認しながら上条が溜め息をつく
なんというか、どっかの誰かがカップル交換を無理矢理引き起こしてるような気もする
上条(・・・その幻想も殺したかった・・・)
心理「どうしたのよ」
上条「あ、いや」
上条の隣にいるのは心理定規だった
上条(・・・ってことは、エツァリとショチトルは二人なのか・・・いいなぁ)
心理「ちょっと、なにボケーッと突っ立ってるのよ」
上条「・・・なんかその台詞、昔の美琴を思い出すな」
心理「?」
上条「・・・美琴には垣根と楽しんでもらうようにしたけど・・・やっぱり気がかりだなぁ・・・」
心理「いいじゃない、美琴は浮気なんて出来る人間じゃないわ」
上条「垣根は?」
心理「ふふ・・・浮気をしたらどうなるか分かってるから」ゴゴゴ
上条(この人怖い)
心理「・・・ほら、だからあなたがエスコートしてよ」
上条「だってさ・・・心理さんってなんかそういうの苦手そうだし」
心理「そういうのって?」
上条「ほら・・・絶叫マシンとか」
心理「わりと好きだけど、どうして?」
上条「病弱で色白なお嬢様ってイメージだし」
心理「イメージってのは先走りするものよ、ほら」
心理定規が上条の手を握る
傍から見てたらただの浮気ものだぞ、と溜め息をつく
こんな光景、クラスメイトなんかに見られたらおしまいだ
上条「・・・心理さんって、結構ガード低いよな」
心理「なによいきなり?」
上条「こうやって普通に手繋いでくるしさ」
心理「それはあなたを信頼してるのよ」
上条「なんで?」
心理「垣根が褒めてた人だから、あなたは」
上条「そこが基準なんだな・・・」
心理「いいから早く」
心理定規が向かっているのは「タイタン」と呼ばれるジェットコースターだ
ちなみに「タイタン」というのはギリシア、ローマ神話に出てくる「ティーターン」のことだ
ヘーリオスやプロメーテウスなども「ティーターン」と呼ばれることがある
オリュンポス12神よりも古の神とされているのだが、科学側の上条はそんなこと知らない
上条「・・・これはザターンと違ってそれほど早くはないんだな」
心理「その変わりベタなジェットコースターを味わえるのよ、ザターンは一瞬で終わりでしょ?」
上条「へぇ・・・でも縦ループはないんだな」
心理「横ならあるけど、縦はヴィーナスじゃなきゃないわよ」
上条「妙に詳しいな・・・」
心理「この三つがスペースワールドでも大人気のコースターなのよ」
上条「へぇ・・・」
心理「さっきからそればっかりね・・・もう少しリアクション取りなさいよ」
上条「ど、どんな風に?」
心理「さぁ?」
そんなくだらない会話をしながら、二人はタイタンの列に並んだ
上条(タイタンの列に並ぶって・・・なんか言い方がおかしいけどな)
心理(言わないの)
上条「・・・それにしても、心理さんってこういうのって好きなんだな」
心理「えぇ、これでもまだ子供ですもの」
上条(いやいや・・・)
心理「それに、あなたとなら楽しめそうじゃない?」
上条「そ、それはどういう!?」
心理「あなたって不幸でしょ?だから頂上でマシントラブルとか、手荷物が飛んでいくとか、最悪脱線事故とかあるかもしれないもの」ケロッ
上条「・・・そういうのって、不謹慎ですよ」
心理「あら、そうかしら」
上条「・・・なんかさ、心理さんって一言一言が男をドキドキさせるよな」
心理「もしかして私のこと好きになっちゃった?」
上条「・・・いや、そうじゃないけどさ」
心理「なによ、つまらないわね・・・もしエツァリ君だったら面白い反応してたはずなのに」
頬を膨らませながら、心理定規がつまらなそうに呟く
上条(・・・しっかし、こりゃたしかに美人だよな)
こうやってマジマジと彼女を見つめる機会はほとんどなかった
改めて見てみると、本当に綺麗なのだ
見た目だけならば美琴よりも上の類かもしれない
上条(・・・というか、俺は今この人と二人きりか・・・)
あまりにレベルが違いすぎて涙が出てくる
美琴と付き合いだしてすぐも、ルックスの差で泣いたことはあったが
心理「なにジロジロ見てるのよ」
上条「あ、いや・・・」
心理「はぁ・・・あらかた、自分と違ってルックス面でも上の上だって言いたいんでしょ?」
上条「そ、それは傷つく言い方だ・・・」
心理「否定しないってことは当たってたのね?」
上条「・・・まぁそうなんだけどさ、美琴と付き合いだしたときもそうだったよ」
心理「あの子は可愛いものね」
上条「それに、人気も高いだろ?結構人助けとかしてたみたいだし・・・それに学校ではお手本の生徒だったんだ、あいつ」
心理(・・・あなたも人助けはするでしょう)
上条「・・・俺もさ、昔先生に美琴は努力の塊だ、だからお前も努力しろって言われたよ」
心理「あら、授業で引き合いに出されるほどなのね」
上条「そんな美琴が彼女だなんてさ・・・なんか夢見たいだよ」
心理「夢だったりして」
上条「ごめん、そういうのって不安になるからやめてください!!」
心理「・・・そういえば、上条君と美琴と初めて会ったのは遊園地だったわね」
上条「そうだったな・・・あの時はただの美男美女カップルだと思ってたよ」
心理「私たちのこと?」
上条「そうそう・・・でもあの時はまだ付き合ってなかったんだよな」
心理「えぇ・・・あの時は垣根が帰ってきてすぐだったのよ」
上条「・・・つまり、お帰りのお祝いって感じか?」
心理「そういうこと」
上条「・・・あのとき二人と出会ってなかったらどうなってたんだろうな」
心理「もしもなんて考えないことよ、人生には一つの確率しかないんだから」
上条「・・・そうだな」
心理「ちなみに、私は初めて二人を見たときは羨ましいって思ったわね」
上条「羨ましい?なんで?」
心理「あんなに幸せそうな恋人なんて初めて見たから」
上条「ふーん・・・あの時から心理さんは垣根と付き合いたくてしょうがなかったのか?」
心理「べ、別にそういうわけじゃないけど・・・」カァッ
上条(図星だな)
心理「・・・ほら、前進んだわよ」
上条「あ、あぁ」
上条がゆっくりと進む
しかし、進んだと言ってもすぐに自分達の番が回ってくるわけではない
あまりにも退屈なため、前に並んでいるカップル達は手を繋いだり何か話したりして時間を潰している
おそらく、上条達の後ろに並んでいるカップルもそうしているのだろう
上条「・・・俺達はどうしますか?」
心理「あら、私とイチャイチャしたいのかしら」
上条「そ、そういうわけではないですよ!?」
心理「いいわよ、別に」
上条(・・・い、いいのか!?いやいやよくねぇだろこれは!?)
心理「ほら、手は繋いでるんだから・・・」
上条「ってうわぁ!?」
パッ、と上条が手を放す
よくよく考えればただの女友達と手を繋いだ時点でおかしいのだ
ここから浮気の始まり、なんていうエッチな展開は期待していない
そんなことにはなってほしくもないが
心理「・・・失礼ね」
上条「あ、いや!!こういうのってダメじゃないですか!!」
心理「あなたって真面目ね・・・」
上条「純情だと言ってほしかった・・・」
心理「本当に純情なら女の子と手を繋いでもなんら違和感なんて覚えないはずよ」
それもそうだな、と妙に納得してしまう
上条「・・・でも、これはやっぱりダメでしょう」
心理「・・・分かったわよ、あなたが嫌がることを無理矢理しても気まずいだけだから」
はぁ、とつまらなそうに溜め息をつく心理定規
そんなことを言われてもダメなものはダメなのだ
上条「・・・そういうことばっかりしてると垣根に愛想尽かされるぞ・・・」
心理「そんなことないわよ、第一こういうことは垣根だってしてるもの」
上条「そういう問題じゃない気がするんだけどな・・・」
心理「・・・本当は垣根と二人がよかったのよね・・・」
上条「俺だって美琴と二人が良かったんだよ・・・」
心理「・・・お互い、なんだか大変よね」
上条「これが不幸ってやつだよ・・・」トホホ
心理「あら、私と二人きりなんて世の中の男なら羨ましがるはずよ?」
上条「どこから来るんだその自信は・・・」
心理「世の中はそんなものよ」
上条「あぁそう・・・」
心理「呆れてるのが見て取れるわね」
上条「・・・あ、進んだ」
心理「・・・昨日もあなたと二人だったわね」
上条「そうですね・・・俺は美琴と二人がよかったよ」
心理「・・・それを私の真ん前で言うとはなかなかの度胸ね」
上条「・・・ほら、乗ってる人たち楽しそうだ・・・」
心理(ダメね、現実逃避しだしたわ)
上条「・・・あ、次には俺達も乗れそうだな」
心理「本当ね・・・ねぇ、乗ってるとき手繋いでもいいかしら?」
上条「?いいけど、どうして?」
心理「べ、別にいいでしょ・・・」
上条「・・・もしかして、怖いのか?」
心理「・・・そ、そうじゃなくてね、いつも垣根とこういうのに乗るときは手を繋いで怖くないように・・・じゃなかった、ラブラブでいられるようにしてるのよ」
上条「怖いんですね」
心理「・・・うん」
上条「好きなんじゃないのかよ、絶叫マシン」
心理「好きなんだけど怖いのよ」
上条「な、なんだよそれ・・・」
心理「こう、怖いもの見たさみたいなものよ」
上条「いや・・・それとこれとは別だろ」
心理「なによ、こういうのを怖がる女の子は可愛いでしょ?」
上条「恋人じゃないならめんどくさいだけです」
心理「・・・じゃあいいわよ、手なんて繋がなくて」ウルウル
上条「泣くほどなのか!?」
心理「・・・垣根だったら、いつも優しく繋いでくれるのに・・・」グスン
「見て、あの彼氏さん彼女泣かせてるわよ・・・」
「本当に恋人か?なんか格差がありすぎるべ」
「だよねー」
上条(・・・世界なんて嫌いだぁぁぁ!!)
心理定規の手を握りながら、上条が涙目になる
上条(とにかく、手を繋げば問題ないんだろう!!)ギュッ!!
心理(・・・痛い)
上条「・・・なぁ、このジェットコースターって・・・足につけるセーフティーだけなんだな」
心理「そうね、下手して滑ったらお空の彼方なんじゃないかしら」
上条(・・・不安だ)
ジェットコースターの最後尾の車両
一般的に一番怖いといわれる車両に二人は乗っていた
それが幸運なのか不幸なのかは分からない
ただ、一つ言えることは二人の心臓は恐怖と期待で押しつぶされそうということだ
心理「しっかり手・・・繋いでなさいよね」
上条「は、はぁ」
心理「つり橋効果であなたに惚れても仕方ないわよね?」
上条「困ります」
心理「どうしてよりにもよって一番後ろなのよ・・・」ブルブル
上条「じゃ、じゃあもう降りれば・・・」
心理「降りれないわよ・・・」
スタート10秒前、というアナウンスが流れる
今更リタイアなんて無しだろう
それに周りの乗客のボルテージも最高潮だ
ここでリタイアすれば空気の読めない客になってしまう
心理「・・・上条君、あなた怖くないの?」
上条「・・・正直めっちゃ怖いんです」
心理「な、仲間ね」
ハハハ、と乾いた笑いを浮べる二人
そして、ジェットコースターは動き出した
いきなりの上り坂なんて心臓に悪い
しかも、他の乗客が目の前でどんどん斜めになっていくのだ
ジワリジワリと自分達の番を待つ、まるで処刑台に上らされるかのような恐怖だ
前の客が落ちては来ないだろうか、コースターが逆走しないだろうか、というイヤな想像をしてしまう
最前列の車両が頂上に差し掛かった
ゆっくりとその車両が、坂の向こうに消える
そこで一旦止まるのはお決まりだろう
最前列は下を向きながらずーっと止まっているという状況だ
そして一番後ろは・・・
上条「・・・これ、動き出したらどんどんスピード上がるよな・・・」
心理「恐ろしいスピードで頂上を過ぎることになるわね・・・」
上条「・・・カタカタ言ってる・・・」
一番後ろが怖いといわれるのは、頂上地点を一番速いスピードで通過するからだ
そして、もっとも他の車両より遠心力が掛かってしまう
心理「・・・怖いわね」
ギュッと握られた手は、なぜか安心感を与える
恋人がジェットコースターに乗るとさらに愛が深まる、そんなことを信じてしまいそうなほどに
上条「・・・で、出来れば美琴と乗りたかった・・・」
心理「垣根・・・私を守って・・・」
シュワルツェネッガーがターミネーター2のラストシーンであの高熱の炉の中に降りていくときに掴んでいた鎖と同じような「カタカタ」という音
しかし彼らが飛び込むのは重力の狂った世界だ、決して灼熱の炉ではない
上条「う、動いたぁぁぁぁ!!!!!!!!!」
心理「きゃぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!」
目をつぶるとさらに恐怖が増す、という話を聞いたことがあるだろうか
それを馬鹿正直に信じた二人は目を開けたままでいた
グングンと迫る前列の車両、そして地面
上条(・・・こ、これは中々スリルが・・・この後の横回転もすごい怖そうだ・・・)
チラリ、と上条が隣を見る
心理「」
上条(あ、気絶してる)
上条「・・・もしもーし」
心理「・・・はっ」
心理定規が目を開けると、そこはベンチの上だった
いつの間にかジェットコースターから降りていたようだ
いや、もちろん気を失っている間に勝手に体が歩いたわけではないだろう
上条「やっと起きた・・・肩貸しながら歩いたこっちの身にもなってくれよな・・・」
心理「・・・私、気を失ってたのね」
上条「まぁ・・・そうみたいだった」
心理「ごめんなさいね・・・はしたないところ見せたわ」
上条(いや・・・目をつぶって寝てるみたいだったけどな)
心理「なに?」
上条「あぁいや・・・もう大丈夫かな、ってさ」
心理「まだ腰が抜けてるわ」
上条「・・・はい?」
心理「歩けないの、膝は笑ってるし」
上条「じゃあなんで乗ったんだよ・・・アンタ地味に天然だろ」
心理「・・・う、うるさいわよ」
上条「はぁ・・・大体な、怖いなら素直に怖いって言えばいいものを・・・」
心理「で、でも面白いのよ!!」
上条「気絶してたら面白いもなにも・・・ってあれ?」
上条が視線を前方に移す
彼らが座っているベンチの向かいには、お化け屋敷のようなものがある
もちろん、その中も宇宙人が出てきたりするのだが
上条「・・・あそこに並んでるの・・・美琴と垣根だ!!」
心理「!?垣根ぇ!!」
バン!!と心理定規が駆け出す
上条(こ、腰が抜けてたんじゃなかったのか・・・)
垣根「・・・あぁ?心理定規の声がした」
美琴「気のせいじゃ・・・」
心理「垣根!!やっと見つけたわ!!」
垣根「お、なんだよ近くにいたのか・・・」
心理「よかった・・・もう一緒に回れないかと思ったわよ」
美琴「!!当麻!!当麻がいる!!」
垣根(ガイルがいる)
上条「よかった・・・美琴にやっと会えました・・・」
美琴「当麻ぁ・・・なんだか久しぶりな感じがする」ウルウル
垣根「・・・心理定規、なんかグッタリしてないか?」
心理「上条君に無理矢理ジェットコースターに乗せられたのよ・・・」
上条「はぃぃ!?アンタが乗りたいって・・・」
垣根「上条・・・てめぇやりやがったな!!」
上条「違うんだってば!!」
垣根「許さねぇ・・・てめぇは俺を怒らせた!!」
美琴「ねぇ当麻、一緒にコースター乗りましょうよ!!」
上条「あ、あぁ」
心理「あら、四人で回ったら楽しいんじゃないの?」
美琴「ふ、二人きりになりたいの!!」
垣根「やーの!!僕はミコっちゃんと二人がいーの!」
美琴「黙りなさい」
心理「・・・そうね、二人きりがいいならそうしましょう」
美琴「じゃあ、やっとカップル元通りってことね!!」
垣根「じゃあまたな」
上条「おう」
エツァリ(・・・今頃、みなさんはカップルで仲良くやっているのでしょうか・・・)
エツァリは肩を落としていた
今、彼は「一人で」ベンチに腰掛けている
ショチトルはいない、どこかにいるのだろうが彼とは一緒ではなかった
エツァリ(・・・まさか、一人でこんな所に残されるとは・・・)
周りのカップル達が羨ましく見える
別にエツァリが独り身なのではないが
エツァリ(・・・ショチトル・・・どこにいるのですか・・・)
こうして一人でいると、とても悲しい
辺りには見渡す限りのカップルや家族連れ
対するエツァリは一人だけ
世界が自分を貶しているように思える
エツァリ「・・・携帯で連絡を取りましょうか」
ポケットから携帯を取り出す
ショチトルは機械が苦手だが、最近やっと最新式の携帯をまともに使えるようになった
エツァリ(・・・鍛錬の成果でしょうか)
ふふ、と笑いながら彼女に電話を掛ける
ショチトル(・・・どうしようかな)
ショチトルは一人だった
彼女のグラマラスな体は男の目を引くらしく、何人かの男からナンパされてしまった
そういうのは英語で話して乗り切ったのだが、それもそろそろ限界だろうか
ショチトル(・・・お兄ちゃん・・・どこなのかな・・・)
はぁ、と自然に溜め息がついてくる
ショチトル(・・・こんなみんなの前に放置されるなんて寂しい・・・)
ショチトル(・・・待て、公衆の面前で放置・・・?)
ビクン、とショチトルの肩が跳ねる
ショチトル(・・・そ、そういえば・・・さっきから男ばかりが話しかけてくるが・・・もしかして、そういうプレイだったりするのか?)
ショチトル(遊園地総出で私を・・・お兄ちゃん・・・)ビクンビクン
ショチトル(・・・ま、また男の人が近づいてきた・・・)
「ねぇ、君もしかして一人?」
ショチトル「ひ、一人じゃない・・・」
「ちっ・・・なんだよ」
ショチトル(あぁ・・・見下したような目で去っていく・・・)ビクンビクン
ショチトル(ダ、ダメだ・・・もう下半身が・・・)ビクンビクン
震えるショチトルのポケットの中で、携帯が震えた
ショチトル「・・・お、お兄ちゃん!」
急いで通話を始める
エツァリ『あぁ、ショチトルか?』
ショチトル「お兄ちゃん・・・」
エツァリ『』
ショチトル「・・・もう・・・お兄ちゃんがいなくて寂しいよ・・・」
エツァリ『ま、待て!!どういう状況だ!?』
ショチトル「寂しさが興奮に・・・あぁっ・・・」ビクンビクン
エツァリ『今すぐそっちに行く、GPSで探すから動くなよ!!』
ショチトル「はぁ・・・はぁ・・・」
エツァリの声を聞いただけで下半身が熱くなる
周りの客達は大して気にも留めていないようだが、今のショチトルはすごいことになっていた
エツァリ「ショチトル!!大丈夫か!?」
ショチトル「お兄ちゃん・・・」ビクンビクン
エツァリ(うっわぁ、興奮するぞコレは)
ショチトル「お兄ちゃん・・・」
エツァリ「な、なんだ?」
ベンチに腰掛けたショチトルの体はビクリと跳ねている
顔は真っ赤になり、何かを欲しているように見えた
ショチトル「もうダメだ・・・お兄ちゃんに放置されたって考えただけで・・・」
エツァリ「お、落ち着け!ここは遊園地だ、さすがに・・・」
ショチトル「・・・ダメ?」
ウルウルと潤んだ瞳で見つめられたエツァリは、胸が高鳴るのを感じた
このままでは理性が無くなってしまう
エツァリ「だ、だが・・・」
ショチトル「トイレなら・・・誰にも見られない」
エツァリ「待て!避妊具を持ってきてはいない・・・」
ショチトル「大丈夫・・・入れなければいいんだから」
エツァリ「」
パキン、と理性が割れる音がした
こうなったらもう止まることは出来ない
大体、トイレの中で恥部を晒け出すのは当たり前ではないだろうか
それならばその少し先までやってしまっても構わないのではないか
誰かが「変態」だと笑っても関係ない
二人の間にはたしかに愛があるのだから
ショチトル「お兄ちゃん・・・私、もうグショグショだ・・・」
エツァリ「わかった、行こうかショチトル」
ショチトル「お兄ちゃん・・・」
エツァリがショチトルの手を取る
そして、二人は男子トイレに向かった
上条「・・・」
美琴「・・・」
ドキドキと心臓が脈打っている
それは恐怖からか
二人は今お化け屋敷にいる
お化け屋敷と言っても、出てくるのは宇宙人やらエイリアンやらのSF的なものだが
だがそれだけが胸の高鳴りの原因なのだろうか
いや、きっと違う
暗い通路を、二人は手を握り合いながら歩いていた
この旅行で、初めて二人きりになったといえるだろう
それが胸を高鳴らせているのだ
美琴「当麻、なんか緊張してるみたい」
上条「美琴だって・・・」
美琴「うん・・・当麻と二人きりなんだもん、緊張してる」
上条「そ、そっか」
恥ずかしい沈黙が流れる
聞こえてくるのは不気味な効果音と、互いの呼吸、そして自分の鼓動だけだ
上条(二人・・・なんだよな)
ここのアトラクションは全て機械だ、人間がエイリアンに扮しているわけではない
つまり、本当に二人きりなのだ
上条「美琴、キスしていいか?」
美琴「にゃっ!?」
上条「あ、いや・・・ごめん」
上条が少し恥ずかしそうに空いている手で髪を掻きむしる
美琴「・・・い、いいわよ」
上条「い、いいのか?」
美琴「ちょっとびっくりしただけだから」
美琴が上条の肩に頭を乗せる
上条は美琴より背が高いため、上から美琴の唇を塞ぐ形になる
美琴(あ・・・)
ぐっ、と顎の下に上条の指が入り込む
そのまま、半ば強引に唇を奪われた
美琴(あったかい・・・)
上条(美琴・・・なんだかいい匂いがします)
美琴「・・・ぷはっ!」
あまりに熱烈なキスだったため、息をするのを忘れていた
上条「わ、悪い・・・」
美琴「当麻・・・キス下手になったんじゃない?」
上条「そ、そうか!?」
美琴「ふふ・・・冗談」
上条「あ、焦るからそういうのはやめてくれよな・・・」
美琴「・・・でも嬉しかった、当麻とキスしたの久しぶり」
上条「いや・・・そうでもないだろ」
美琴「う・・・いつも近くにいたいのよ、それくらい察しなさいよね!」
上条「ご、ごめん」
美琴「もう・・・」
上条「・・・」
もう一度、上条がキスをする
今度は触れるような優しいキスだ
美琴「な、なに?」
上条「察してみました」
美琴「・・・馬鹿」
ギュッ、と美琴が上条の手を握る
美琴「ほら、早く出ないと後の人達が来ちゃうから」
上条「あぁ、そうだな」
周りには様々な仕掛けがあるのだが、そんなものに目を奪われることはない
今は互いの姿しか視界には入らなかった
上条「・・・美琴、このあとはどこ行く?」
美琴「観覧車があったでしょ、あれに乗りたい!」
上条「あぁ、分かったよ」
アトラクションの外に出た二人はとても幸せそうな表情で観覧車に向かった
係員は不思議そうな顔で見ていたが、それも気に留まらなかった
垣根「・・・で、お前はまだ酔ってるのかよ」
垣根がため息をつく
上条と美琴がお化け屋敷・・・というかエイリアン屋敷に入ったため、必然的に二人は別のアトラクションに向かうはずだった
しかし心理定規はまだ気持ちが悪いらしく、ベンチで休んでいた
心理「ごめんなさい・・・」
垣根「あ、いや・・・別に責めてるわけじゃねぇよ」
心理定規の隣に座って、垣根が優しくその肩に手を回す
心理「なに?」
垣根「なんだよ、俺はお前の肩に手を回すのも許されないのか?」
心理「そうじゃないけど・・・」
垣根「だったらいいじゃねぇか、俺と二人きりになりたかったんじゃないのかよ」
心理「・・・よく分かったわね」
垣根「お前の考えてることならな」
心理「ふふ・・・嬉しいわ」
垣根「それで・・・大丈夫か?なんか飲みたいものとかないか?」
心理「大丈夫・・・まだ気分悪いけど」
垣根「ったく・・・俺と乗った時はそんなにならなかったのにな」
心理「・・・隣があなただったら大丈夫なのよ」
垣根「ん?なんか言ったか?」
心理「なんでもないわ」
ベンチに背を預けた心理定規がゆっくり目を閉じる
垣根「眠いのか?」
心理「違うわ・・・ちょっと疲れただけ」
垣根「なんで疲れたんだよ?」
心理「上条君と二人だったのよ?気を遣っちゃうじゃない」
垣根「そうなのか?」
心理「・・・なんかね・・・彼は素直だから、こっちも優しくしちゃうのよ」
垣根(絶対虐めてただろ)
心理「なによ」
垣根「なんでもねぇよ」
目の前を歩く客を目で追いながら、垣根がぶっきらぼうに答える
垣根「・・・で?わがままな姫様の気分はいつになったら優れるんだよ」
心理「そうね・・・まだダメっぽいわ」
垣根「はぁ・・・せっかくの遊園地なのにお前とはアトラクションを回れずに終わるのかな」
心理「う・・・」
垣根「だー!ゴメンゴメン!違うんだって、責めてるわけじゃないんだよ!」
手を振りながら、必死に垣根がフォローする
心理「・・・本当に?」
垣根「あぁ・・・悪かった、言い方がきつかったよ」
心理定規の頭を撫でながら垣根が笑う
心理「悪いと思ってるなら、キスしてちょうだい」
垣根「おいおい・・・こんな場所でかよ」
心理「いいじゃない・・・それとも私とキスするのはイヤなのかしら」
垣根「んなわけないだろ」
心理定規の柔らかい髪の後ろに、垣根が手を回す
サラサラとした手触りに少しだけ心が揺らぐ
胸の高鳴りを抑えながら、心理定規の唇をそっと奪う
奪う、というより受け取ると言ったほうがいいかもしれない
垣根「・・・これで満足か?」
心理「えぇ・・・素敵なキスだったわ」
クスクスと心理定規が笑う
周りを歩くカップル達も、ついその二人に釘付けになっていた
心理「あら、ずいぶん目立ったみたいね」
垣根「お前が綺麗だからじゃないかな」
心理「あなたが素敵だからよ」
幸せそうに笑いながら、二人はもう一度唇を重ねた
こういう遊園地デートも悪くはない、と垣根は思った
ショチトル「・・・はぁっ」
男性用のトイレ、その個室でショチトルは荒い息を吐いていた
エツァリ「・・・こんなことをしてしまうなんて俺はもうお終いだ・・・」
賢者になったエツァリはため息をついていた
偶然、他の利用者がいなかったからよかったようなものだ
ショチトル「なにを落ち込んでいる、これから出なければならないんだぞ」
エツァリ「それは問題ない」
めんどくさそうに答えながら、エツァリがトイレから外に出る
ショチトル「なんでだよ」
エツァリ「さっき俺達が入ってきてから、誰かが入ってきた気配はなかったからな」
ゆっくりとエツァリが辺りを見回す
エツァリ「よし、大丈夫だ・・・誰もいない」
ショチトル「はいよ」
ショチトルもその後についていく
が
上条「トイレトイレ・・・」
ショチトル「あ」
上条「あ」
運悪く、不幸な少年がやって来てしまった
エツァリ「か、上条さん!?」
上条「な、なんでショチトルが男子トイレから出てくるんだよ!?」
エツァリ「ま、待って下さい!あなた、御坂さんとは・・・」
美琴「当麻・・・!?ショチトル、なんでアンタそんな所から出てきたのよ!?」
エツァリ(最悪だ・・・)
エツァリが気づかなかったのだが、上条と美琴は普通にトイレに近づいて来ていた
ショチトル「なんだ、上条もトイレか」
上条「俺はちょっと手が洗いたかっただけ・・・じゃなくて!なんでお前がそっちから出て来たんだよ!?」
ショチトル「?なにかおかしいか?」
上条「お前がおかしいよ!」
ショチトル「まったく・・・私が男子トイレを使ったらいけないのか?」
美琴「いけないのよ!」
エツァリ「まぁまぁ・・・ここで再会したのも何かの」
上条・美琴「縁なんかじゃないから!」
ショチトル「この中で私が何してようが関係ないだろう」
上条「・・・何してたんだよ」
エツァリ「ア、アレですよ・・・」
美琴「アレ?」
エツァリ「・・・その、アレ・・・」
ショチトル「愛撫だ」
上条・美琴「」
ショチトル「ん?愛撫くらい知ってるだろう、相手の・・・」
美琴「アンタ達!!ここは遊園地なのよ!?」
ショチトル「あぁ、それがなんだ?」
上条「モラルってもんを持てよ!!あのな、そういうことはこういう場所でやって・・・」
エツァリ「・・・上条さん、それは聞き捨てなりませんね」
上条「は?」
ショチトル「公という空間とプライベートという空間、ここには明らかなる隔たりがある」
エツァリ「しかし、外でそういう行為に及ぶことは非常にその隔たりを薄めるのですよ」
ショチトル「分かるか?他ではできないことだ、私達は何も快感を得たかったのではない」
エツァリ「ただ、神が作ってしまった個という存在と衆という存在の壁を打ち破りたかったのです」
美琴「言い訳しないの」
上条「はぁ・・・お前ら、結局アトラクション乗らないでそういうことしてたのか?」
ショチトル「あぁ」
美琴「ちゃんと乗りなさいよね・・・」
ショチトル「エツァリの上になら乗ったぞ?」
上条「お前らなぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
ショチトル「冗談だ」
上条「・・・とりあえず、お前達は俺達と回ろうか」
美琴「えっ・・・?」
上条「な、なんで死にそうな顔になってるんだよ・・・」
美琴「な、なんで一緒に回るのよ!?別に別々で・・・」
上条「いやさ・・・こいつらほっといたらまたエロいことするだろうし・・・」
ショチトル「よく分かってるな」
上条「分かりたくなかったな・・・」
美琴「・・・アンタ達のせいで二人きりになれなかったのよ・・・」ブツブツ
エツァリ「そ、その・・・申しわけありません」
美琴「・・・私と当麻で仲良くデートの予定だったのに・・・」ブツブツ
ショチトル「ごめんな、美琴」
美琴「どうしてアンタ達はそうやっていっつもいっつも迷惑を・・・」ブツブツ
上条「み、美琴・・・いいタイミングでまた二人きりになろうな?」
美琴「ホント!?」
上条「あぁ、約束するよ」
美琴(よっしゃぁぁぁぁ!!!!)
ショチトル(めっちゃ輝いてるな)
垣根「・・・どうだよ、気分は」
心理「まぁまぁってところかしらね」
垣根「アトラクションを回る気分にはなるか?」
心理「・・・遠慮したいわ、まだ少しフラフラするもの」
垣根「飯は」
心理「食べられるわよ、大丈夫」
垣根「そうかい」
ベンチに腰掛けてから、既に1時間近く経ったのではないか
心理定規の体調が戻るまでずっとそうしていた
ようやく、動けるレベルには回復したらしい
垣根「・・・思えば、お前は朝から睡眠不足気味だったからな」
心理「それが大きな理由よ・・・」
垣根「・・・ってことは、間接的な原因は俺にあるのか?」
心理「えぇ、そうね」
垣根「ごめんなさい」
心理「いいわよ・・・ほら、ご飯にしましょう」
垣根「あぁ」
遊園地の中にあるレストランを適当に探す
ある程度混んではいるが、どうにか入ることが出来そうだ
垣根(そういやあいつらは飯食ったのかな・・・)
友人の顔を思い浮かべながら垣根が心理定規の手を引く
そして、レストランの中へと入った
上条「・・・はぁ、やっと飯だ・・・」
そこにはその友人がいた
ショチトル「・・・お兄ちゃん、私も食べてみてはどうだ?」
エツァリ「ショ、ショチトル・・・」
美琴「?お兄ちゃんってどういうこと?」
エツァリ「な、なんでもありません!!!」
心理「あらあら・・・みんなお揃いね」
上条「あれ?二人も来たのか」
美琴(・・・も、もしかして二人きりになれないフラグ!?)
垣根「おうよ・・・さすがにアトラクション回る気にもなれなくてさ」
エツァリ「自分達も、あまりこういうのは合わないようです」
心理「それは残念ね・・・」
上条「そっか・・・かなり混んでるから結構移動も面倒だもんな」
垣根「どうする?昼飯食い終わったらもうホテルに帰るか」
美琴「えっ・・・」
垣根「なんだよ・・・てめぇ、上条と二人きりになりたいんだろ?」
美琴「そ、そうだけど・・・せっかく遊園地に来たのに・・・」
垣根「・・・水着で上条にセクシーアピール、それが効くとは思わないか?」ボソッ
美琴「」ピクッ
心理「・・・まぁ、私も別に構わないわよ」
ショチトル「私はむしろプールがありがたいな」
エツァリ「自分もですね・・・女性の水着は美しいですから」
垣根「・・・で?御坂はどうする」
美琴「いいわよ・・・帰ればいいんでしょ帰れば!!」
垣根(ちょろいな)
上条(・・・美琴の水着姿、久しぶりに見るな)
心理「さぁ、そうと決まればさっさとご飯を済ませちゃいましょうよ」
垣根「あぁ」
上条(一体どうしてこうなったんだ・・・)
上条は必死に冷静さを取り戻そうとしていた
遊園地で食事を済ませ、一同はホテルに帰ってきた
その最中は特に変わったことはなかった
垣根と心理定規はバスの中で睡眠を取り、エツァリとショチトルは外の景色を楽しんだ
上条と美琴はプールを楽しみにしていた
そして、今はホテルのバスルームにいる
目の前には全裸の美琴
恥ずかしそうに、大切な部分を手で隠している
水着に着替えよう、ということなのだが美琴が選んだ水着は一人だと着るのが難しいらしい
よって、上条が着せてあげることになったのだが
上条(隠す素振りが可愛いぞ!)
顔を真っ赤にして、チラチラと上条の様子を伺う美琴
その羞恥の表情が堪らない
いきなり抱き着いて驚かせたくなってしまう
美琴「・・・早く着せなさいよ」
上条「下くらいなら自分で着られるだろ?」
美琴「か、隠せなくなるじゃない!」
上条「いいじゃんか、恋人だろ?」
美琴「う・・・アンタ、見たいだけなんじゃないの?」
上条「いやいや・・・」
スッ、と上条が美琴の太ももに触れる
美琴「なっ・・・!?」
スベスベとした肌の感触
適度に引き締まったその太ももは、健康な学生の象徴だった
上条「いいよなぁ・・・自販機蹴って鍛えたのか?」
美琴「はぁっ・・・ちょっと、触り方がやらしい・・・」
上条「ん?」
スーッ、と上から下に滑らせるようにして撫でる
美琴「んっ・・・は、放しなさいよ・・・水着着られないじゃない」
上条「あ、あぁ」
手を放すと、少し恥ずかしそうにしながら美琴が水着の下を着はじめた
上条(・・・は、早くしないと・・・)
次は心理定規が水着に着替えると言っていた
垣根に手伝いを頼まなかったということは一人で着られるのだろう
上条「・・・!?」
次に美琴が水着の上を差し出す
しかし、今まで美琴が愛用していたようなフリフリの水着ではなかった
深紅、セクシーさを引き出すための色の水着
上条「な、なんだよこれ!?」
美琴「い、いいでしょ!?」
上条「周りの男に注目されたらどうすんだよ!?」
美琴「だ、だって当麻は大人っぽい女性が好きなんでしょ!?」
上条「そ、そうだけど・・・」
美琴「・・・アンタが喜んでくれると思ってわざわざ買ったのよ」
上条「」
あぁ、自分はなんて幸せ者なのだろうか
頭をハンマーで殴られたような衝撃を上条は感じていた
上条「俺のためにわざわざ買ったのか・・・」
美琴「そ、そうよ・・・」
上条「・・・可愛いな、お前」
美琴「い、いいから早く着せなさいよ!」
上条「あぁ・・・」
スーッ、と手を伸ばす
可愛らしい胸が自然と目に入る
上条(落ち着け・・・触れてはならない・・・)
そう思いながらも、掌は自然と胸に伸びる
美琴「あぅっ・・・」
上条「・・・い、一回だけ・・・」
美琴「ダ、ダメだってば・・・あっ!」
上条「・・・気持ちいいんだろ?」
美琴「や、やめてって・・・」
上条「でも体はピクピクしてますよ?」
美琴「う・・・」
顔を俯かせるが、それが真っ赤に染まっていることは隠せない
上条(これなら・・・)
イかせられる、と上条が思った時
心理「何してるのよあなた達」
上条・美琴「!?」
いきなりバスルームのドアが開かれた
上条「心理さん!?何いきなり・・・」
心理「あら・・・お楽しみ中だった?」
美琴「ち、違う・・・んっ!」
心理「へぇ、美琴ったら意外と可愛い声出すのね」
美琴「な、なに・・・」
上条「も、もうちょっと待っててくれよ!すぐ・・・」
心理「いいわよ、一緒に着替えちゃえば早いんじゃない?」
上条「・・・は?」
心理「私も着替えるから、いいでしょ?」
上条「ダメダメ!」
そうなったらまずい、と上条が慌てて首を振る
心理「なら早くしなさいよ・・・ショチトルと私が待ってるんだから」
上条「は、はい」
バタン、と荒々しくドアが閉められる
恐らく心理定規は急かすためにあんなことを言ったのだろう
美琴「・・・ほら、とりあえず早く着させてよ」
上条「・・・あぁ」
すっかり熱の醒めた二人は、そのあと何事もなかったかのように着替えを済ませた
上条「・・・女ってさ、Tシャツ脱ぐのに時間掛かるのかな」
プールサイドで上条は悪態をついていた
部屋からプールまで移動するのはもちろん徒歩だ
さすがにその間も水着でいるわけにはいかない
よく使う、水着の上にTシャツとズボン作戦を取ったのだが
女子達はまだやって来ない、ロッカールームで上と下を一枚ずつ脱ぐだけなのに
エツァリ「・・・そうですね、たしかに遅いです」
垣根「・・・水着が一緒に脱げちゃったとかじゃねぇのか」
上条「なんだよそのベタな展開・・・」
垣根「・・・ウォータースライダーもあるんだな、室内なのに」
上条「外にもあるみたいだな・・・ホントにホテルかよ」
気を紛らわすためにプールを観察する
下手な市営プールなんかより立派なものだ
ウォータースライダーはもちろん、人工的に波を起こすプール、さらにはビーチパラソルまである
外では日焼けを楽しむ若いカップルもいた
上条「・・・垣根はどうする?やっぱり心理さんと二人か?」
垣根「うーん・・・お前らと一緒でいいかな、どうせ遊ぶなら」
エツァリ「自分もそれがいいですね・・・ウォータースライダーで競争、なんていうのに憧れますから」
上条「あぁ、いいなそれ」
ははは、と三人が笑う
こんな会話をする季節か、というとそうでもない
このホテルに来なければこんな会話なんてしなかっただろう
上条「・・・にしても女子は・・・」
美琴「・・・悪かったわね」
突然、上条が後ろから抱きしめられる
上条「おわっ!い、いつの間に・・・」
美琴「私が先に脱ぎ終わったから・・・」
エツァリ(言い方がエロいですよ御坂さん)
上条「そっか・・・っていうか、抱きしめられたらまずいんですが」
美琴「な、なんでよ・・・それより、似合ってるかな?」
真っ赤な水着を少し不安そうに美琴が指差す
上条「あぁ、似合ってる」
美琴「よかった!」
垣根「へぇ・・・子供子供って思ってたけどわりとそういうのも似合うんだな、見直したぜ御坂」
美琴「なんかアンタが素直に褒めると怖いわ」
エツァリ「素敵ですよ、御坂さん」
美琴「ごめん、見ないでもらえる?」
エツァリ「」
ショチトル「そんな冷たいことを言ってやるなよ」
垣根「お、お前も来たか・・・」
ショチトルは黒い水着だった
彼女は非常にグラマラスなのだが、さらにそれが引き立っている
もうダイナマイトなんてものではない
上条「お前は相変わらず派手だな・・・」
ショチトル「んん?なんだ、挟んでほしいのか?」
上条「誰もそんなこと言ってないから・・・」
エツァリ「素敵ですよ、ショチトル」
ショチトル「ありがとう・・・お前も中々似合ってるな」
エツァリ「赤いトランクスみたいなものですが」
上条「あれ、お前は赤だったのか」
垣根「俺と上条は黒だな」
美琴「男にとっては無難な色よね」
垣根「他にいい色もないからな」
心理「あら、あなただったらどんなのでも似合いそうだけど?」
垣根「お、来たか・・・」
後ろから聞こえた声に垣根が振り返った
彼の予想では、心理定規は赤や黒といったセクシーな水着を着ているはずだった
彼女は大人な魅力を持っているため、今まではそれを全面に押し出していたのだから
しかし
垣根「な!?」
今日の彼女は違った
男一同「白だと!?」
心理「あら、清楚でいいんじゃないかしら」
ふふふ、と心理定規が笑う
本来、白とは一番清楚な色である
純粋無垢なお嬢様が着ていそうな水着だ
しかし心理定規が着るとどうだろうか
彼女の真っ白な肌と一体になるため、ぱっと見た感じは肌の一部にさえ感じられる
さらに華奢とはいっても中々グラマラスな彼女の体によって、純粋さの中にセクシーさが溢れていた
大人っぽい感じと子供っぽい感じが共存しているのだ
垣根「か、かかかか可愛いじゃねぇかよ!なんだそれ!?」
心理「たまには大人っぽさを捨ててもいいと思ったのよ」
美琴「な、なんて色気なのよアンタ・・・」
上条「・・・」
美琴「!?ちょっと、当麻!見とれないの!」
上条「あ、いや・・・美琴が着てたらもっと可愛いだろうなってさ」
美琴「!」
心理「あら、私と美琴の体を重ねてたのかしら」
エツァリ「中々マニアックなプレイですね、上条さん」
心理「ごめん、あなたは見ないでちょうだい」
エツァリ「」
ショチトル「しかし・・・本当にすごい色気だな」
心理「あなたこそすごいわよ?」
ショチトル「ふん・・・体の柔らかさなら私が上だが、雰囲気なら明らかにお前が上だろう」
上条「でも一番可愛いのは美琴だよな」
垣根「ちっ、惚気かよ」
エツァリ「さて・・・みなさん揃いましたし、何かしましょうか」
上条「まずはウォータースライダー行こうぜ!」
美琴「いいわね!」
心理「ふふ・・・じゃあ行きましょう」
垣根「おうよ」
ウォータースライダーのいいところは様々だが、一番の長所は恋人と体を密着させながら滑れることだろう
きゃー、なんて言いながら怖がる女の子を抱きしめながら滑るのだ
上条(よーし!!俺は美琴とイチャイチャしながら滑る!!)
そして、上条はそんな男の夢を叶えようとしていた
美琴「?どうしたのよ、ニコニコして」
上条「いや・・・なんでもないよ」
ウォータースライダーの出発点
周りにはそれほど客もいない、ほとんど二人きりに近かった
美琴「・・・にしても、中々高いわね」
上条「それに長いし・・・」
周りをビニールで覆われたウォータースライダーだ、これなら周りの目を気にせずに密着できる
上条(よっしゃぁぁぁ!!待ちに待った二人きりの・・・)
垣根「おーおー、長いなこのウォータースライダー」
上条「・・・邪魔だからどっか行ってくれ」
心理「失礼ね」
ショチトル「ふむ・・・二本しかウォータースライダーはないのか」
エツァリ「では自分達が後で・・・」
垣根「いや、俺たちでいいよ」
ショチトル「いいのか?」
垣根「あぁ」
美琴(・・・なんとなく嫌な予感がするわ)
上条「じゃあ先に滑らせてもらうな」
若干の不安を感じながらも、上条が美琴と一緒にウォータースライダーの入口に向かう
かなりの長さがあるため、中々時間が掛かりそうだ
ショチトル「どっちが先に着くか競争するか?」
上条「望むところだ!」
心理「はしゃぎすぎて怪我しないようにね」
エツァリ「大丈夫ですよ」
美琴「じゃあ行きましょう!」
美琴が上条の膝の中に体を入れる
すっぽりと綺麗に収まった美琴の体を、上条は優しく抱きしめる
上条「よし!じゃあ・・・」
ショチトル「スタート!」
二組のカップルが勢いよくスタートを切った
垣根「・・・速いな、もう見えなくなった」
心理「コースが曲がりくねってるから仕方ないわよ」
垣根「さて・・・俺達も行くか」
心理「?まだスタートしたばかりじゃない」
垣根「だからだよ」
コキコキ、と首を鳴らしてから垣根がスタート地点に移動する
垣根「速さってもんをヤツらに教えてやるんだ」
心理「・・・ぶつかるわよ」
垣根「砕けるか、それとも生き残るかさ」
手招きをしながら垣根が答える
心理「・・・もしかして、私も?」
垣根「お前と滑らなきゃ意味ないだろ」
心理「怪我したくないんだけど」
垣根「させないって」
心理「はぁ・・・ちゃんと守ってよね」
諦めた心理定規が垣根の膝の中に移動した
垣根「にしても中々いいアングル・・・」
心理「いいから、早く」
垣根「分かった分かった」
ため息をついてから、垣根が勢いよくスタートを切った
上条「は、速い速い!」
美琴「ちょっ・・・曲がりきらないわよ!」
壁がビニールだからよかった、と二人は冷や汗をかいていた
急な下り坂でスピードがかなり出ている
さらにきついカーブのせいで二人の体はグルングルンと回っていた
怪我をしないように上手く作られてはいるが、少しでも気を抜けばひっくり返ってしまいそうなコースだ
美琴「当麻、しっかり掴んでてよね!?」
上条「当たり前だろ!」
今はコースのどこにいるのか、それさえ分からない
ちなみにまだ4分の1程度なのだが
上条「これならエツァリ達もかなり苦戦してるだろうな」
美琴「なら少しでも差をつけて・・・」
猛スピードの滑降を続けていたが、ふと美琴があることに気づいた
美琴「・・・後ろから誰かが来てる」
上条「はい?」
美琴「・・・レーダーに反応があるのよ」
上条「ま、まさか別のお客さんか!?」
美琴「それなら入口の垣根達が注意するはず・・・」
上条・美琴「垣根!?」
垣根「はははは!ひゃっほー!」
心理「いやぁぁぁぁ!」
二人の後ろから聞き覚えのある叫び声が聞こえてきた
垣根「滑る間に自然と濡れていく愛する人の体、それを抱きしめることによって火照る自分の心!吊橋効果も相まって二人の愛情はより一層深まる!滑って行ったその先には、幸せという名の終着駅が待っている、それがウォータースライダーなんだよ!」
上条「ちょ、なんでお前まで来てるんだよ!?」
美琴「私達がまだ滑り終えてないってことくらい分かってたでしょ!?なんで・・・」
垣根「そこにウォータースライダーがあったからだよ!」
上条・美琴「答えになってないから!」
垣根「ははは!後から滑った俺達に追いつかれるなんてなぁ!」
ぎゅっ、と心理定規の体を抱きしめた垣根
その体が、上手く上条達を避ける
上条「こ、このスピードで体をコントロール・・・」
垣根「速さが足りないんだよぉぉ!」
ビュオン、という不気味な音を鳴らしながら垣根は上条の前に出た
そう、信じられない体のコントロールによって前を行っていたはずの上条を追い抜いたのだ
垣根「あばよ!俺は先に行かせてもらうぜ!」
美琴「ちょ、ちょっと・・・」
心理「止めてぇぇぇぇ!」
上条「お、おい・・・心理さんが」
垣根「ひゃっはー!!!!」
美琴「き、聞いてるの垣根!?」
垣根「ははは!これが俺の速さなんだよ!」
意味の分からないことを言いながら、垣根はカーブの向こうに姿を消した
上条「心理さん泣いてなかったか・・・?」
美琴「!当麻、前!」
上条「おわぁぁぁぁ!」
気を抜いた上条の体が、後ろ向きになる
上条「まずっ・・・」
美琴「にゃぁぁぁぁ!」
そして後ろ向きのまま、二人は更にスピードを増していった
垣根「にゃっはっは!!俺達が一番だ!!」
ウォータースライダーの出口、そこはもちろんプールだった
その中ほどで垣根は誇らしげに腕を組んで笑っていた
周りのおしとやかな女性達がなぜか拍手をしているが、ツッコんではいけない
心理「・・・なんでこんなに速いのよ・・・」ブルブル
垣根「それが!!速さなんだよ、心理定規ォ!!」
心理「・・・あ、ショチトル達が来たわよ」
エツァリ「ゴールしましたよ!!」
ショチトル「よっしゃぁ!!まだ上条達は来てない・・・」
垣根「遅い!!遅すぎるぞお前達!!」
エツァリ「!?か、垣根さん!?」
ショチトル「馬鹿な、どうしてここに!?」
垣根「がっはっは!!俺達がここから滑ってきたのに気づかないとはなぁ!!」
未だ上条達が滑降中のウォータースライダーを指しながら垣根が笑う
エツァリ「そんな・・・上条さん達は!?」
垣根「追い抜いたのさ!!」
ショチトル「そ、そんな技術が・・・!?」
ショチトル「・・・やるな垣根」
垣根「ははははは!!誰も俺に追いつけない!!」
エツァリ「・・・それはそうと、上条さん達が来ませんね」
心理「まだ滑ってるのかしら」
垣根「・・・いや、来たみたいだな」
四人が耳を済ませると、上条と美琴の悲鳴が聞こえてきた
上条「おわぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
美琴「な、なんで後ろ向きなのよぉぉぉ!?」
垣根(・・・来るか)
そっと四人が遠ざかる
すごいスピードで降りてくる二人だ、ぶつかったら一溜まりも無い
エツァリ「・・・!!」
上条「ぎゃぁぁぁ!!!」
美琴「にゃぁぁぁぁ!!」
ボーン、と勢い良く飛び出した二人はそのまま水面に叩きつけられようとしていた
上条(こ、このままじゃプールの底に美琴がぶつかる!!)
すっと手を伸ばし、上条は美琴を抱きしめた
美琴「えっ・・・」
心理「!!」
ゴチーン!!という漫画のような馬鹿げた音を立てて、上条の頭が底に当たった
しかし、どうにか美琴は守りきれたらしい
上条(あ・・・意識が・・・)
クラクラと揺れる頭が、さらに揺れている水面を捉えた
美琴「当麻、当麻ぁ!!」
垣根「うっわ・・・こりゃ痛いぜ」
ショチトル「暢気に言っている場合じゃない、早くプールサイドに引っ張っていけ!」
エツァリ「そ、そうですよ!!」
垣根「はいはい・・・」
上条(くっそ・・・体が動かない・・・)
美琴「当麻ぁぁぁぁ!!」
心理「・・・意識が無くなったみたいね」
垣根「とにかく、運ぶぞ」
心理「ほら・・・美琴ったら泣かないの」
美琴「うぅ・・・」グスン
上条「・・・う・・・」
後頭部の鈍い痛みに顔をしかめながらも、上条はゆっくりと目を開けた
誰かが心配そうに彼の顔を覗き込んでいる
上条「美・・・」
心理「あらよかった・・・目が覚めた?」
上条「・・・あれ、なんか美琴にしては声が澄んでるな・・・」
心理「・・・あのね、そんなこと美琴が聞いたら怒るわよ」
上条「・・・なんで心理さんなんだよ?」
心理「失礼するわね、私だったらいけないの?」
プールサイド、というよりもそこにあるビーチパラソルの下
そこに上条は寝ていた
上条「美琴は?」
心理「今タオルを取りに行ってるわ、あの子ってばかなり焦ってたわよ」
上条「タオル?」
心理「水に浸してあなたの頭を冷やすんですって」
上条「他のみんなは?」
心理「念のため美琴についていったわよ、あの子本当に泣きそうだったんだから」
上条「そっか・・・」
心理「それで、一番冷静でいられる私が残ったってこと」
上条「地味に自慢が入ってますね」
心理「それよりどうなのよ、まだ痛む?」
上条「うーん・・・多分コブになってるかもな」
心理「ほら、ちょっと後ろ向いてみて」
上条「?」
言われるがままに上条が後ろを向く
心理「あらホント・・・ちょっとコブになってるわ」
上条「やっぱりか・・・どうりでジンジンすると思ったよ」
心理「大丈夫?」
上条「!?」
心理定規が優しく上条の後頭部をさすり始めた
別にいやらしい行動ではないのだが、なぜか上条はドキドキとしてしまった
上条「な、何してるんですか!?」
心理「あら、介抱よ」
上条「違うだろ絶対に!!!」
心理「ほら騒がないの・・・」
上条「う・・・」
心理「全く・・・ごめんなさいね、垣根があなた達を混乱させたのも原因の一つよ」
上条「いや・・・心理さんは悪くないですよ」
心理「・・・垣根を止めなかったのは私の責任でしょ」
上条「だ、だから心理さんは悪くないんだって!!」
心理「いいのよ、とにかく友人を介抱するのは当たり前でしょ?」
上条「・・・そ、そうだけどさ」
後頭部に触れている優しい掌に、つい意識を集中してしまう
上条「・・・あの、今美琴が来てしまったら勘違いされてしまいそうですよね?」
心理「あら、そんなことないわよ」
上条「でもさ・・・」
心理「・・・なに?もしかして私の母性に溺れたいのかしら」
上条「お、溺れるのは御免ですよ」
先ほどまで水の中をプカーッと漂流していたのだ、今はそんな言葉を聞きたくない
心理「・・・それにしても遅いわね、みんな」
上条「・・・たぶん、美琴が泣いてるのかもな」
心理「はぁ・・・本当にそうかもしれないわね」
上条「・・・」
心理「・・・」
ずーっと頭を撫でられているというのは気まずいものだ
かといってそれを特別に意識しているような素振りをしてしまうと更に気まずくなる
上条「・・・心理さんってさ」
心理「なに?」
上条「看護師さんとか似合ってるかもな」
心理「いきなりなによ?」
上条「・・・いや、こういうのとか得意そうじゃんか」
心理「・・・あのね、ナース姿の私を想像するのは勝手だけど」
上条「してませんから!!」
心理「・・・それで、少しもよくならない?」
上条「うーん・・・あんまり変わらない・・・」
心理「そっか・・・私じゃやっぱりダメよね」
上条「!!い、いやいや!!心理さんの介抱は最高ですよ!!!」
美琴「・・・へぇ、そういうこと」
上条「」
心理「あら、お帰りなさい」
上条「み、みみみみみ美琴さん!?」
美琴「そうだったんだ・・・へぇ、心理定規の介抱が受けたくて怪我したわけ、へぇ」
上条「か、勘違いなんだってば!!」
垣根「・・・上条、あの御坂を救ったのは演技だったのか・・・」
ショチトル「すごいな上条・・・」
エツァリ「気づきませんでしたよ」
上条(こ、このタイミングで帰ってくるか!?)
美琴「・・・心配して損したわよ、馬鹿」
上条「えっ?」
ぎゅっ、と美琴が上条を抱きしめる
先ほどまでの怒ったような表情から一転して、本当に安心したような表情を浮べていた
上条「あ、あの・・・」
美琴「・・・本当に心配したんだから」
上条「」
上条(こ、この緩急差はなに!?めちゃくちゃ恐ろしい緩急!?)
美琴「分かってるわよ・・・ちょっとタイミング悪く私達が帰ってきただけでしょ?」
上条「わ、分かってたのか?」
美琴「当たり前でしょ・・・」
目を潤ませながら、美琴が答える
上条「な、なんで泣いてるんだよ・・・」
美琴「・・・アンタが気失うから」
上条「そ、それはその・・・」
美琴「馬鹿みたいよ・・・私を庇わなきゃ、アンタはそんなに怪我しなかったのに」
上条「・・・え、え?」
垣根「はぁ・・・上条、お前御坂がどんだけ心配したか知らないだろ」
ショチトル「まぁ、頭ぶつけて気絶すれば心配もするよな」
エツァリ「・・・そうですよ、本当にあなたは・・・」
上条「・・・美琴」
美琴「なによ・・・」
上条「・・・たしかにさ、俺はお前を庇って怪我したのかもしれないけど、お前は怪我してないじゃないか」
美琴「!!!」
上条「俺が庇ってなかったら、お前も怪我してただろ?それに比べたらこんな痛みなんともないよ」
美琴「」キュン
ショチトル(な、なんてイケメンなんだ!!)
エツァリ(この人に・・・自分はかつて勝負を挑んだのですか!!)
心理(あら、羨ましいくらいラブラブね)
垣根(チンポジが気になる)
上条「だからさ、泣く代わりに介抱してほしいんですけど」
美琴「メ、心理定規の介抱のほうがよきゃったんじゃないの!?」アタフタ
上条「噛んでる噛んでる」
垣根「・・・甘いな、お前達」
ポン、と垣根が上条の肩に手を置く
上条「あぁそうだ垣根」
垣根「はい」
上条「俺達がバランス崩したのは、元はといえばお前の登場で集中が途切れたからなんだけど」
垣根「・・・心理定規、一緒に波のプール・・・」
心理「行ってもいいけど、まずは謝りなさいよ」
垣根「ショチトルぅ!!一緒に俺とエンジョイプレイしないか!?」
ショチトル「まずは謝れ」
垣根「・・・」
エツァリ「・・・」
垣根「すいませんでした」
エツァリ(え?)
上条「はぁ・・・いいよ別に、俺だって責任はあるし」
垣根「ま、御坂の介抱があれば大丈夫だろ」
上条「じゃあお前達はもう行くのか?」
ショチトル「あぁ・・・先に行って待ってるよ」
上条「死亡フラグを建てるな・・・」
心理「上条君・・・もしも、もしも何かあったら電話してね」
上条「そういうのもやめてくれ」
垣根「ミコっちゃん、上条のこと頼んだぜ」
上条「そんな呼び方するな!!」
エツァリ「お大事に、上条さん」
上条「美琴、タオル貸してもらっていいか?」
美琴「うん、冷やしてあげようか?」
上条「サンキュー、愛してるよ」
美琴「//」
エツァリ「」
ショチトル「ほら、行くぞ唐変木」
上条「・・・はぁ、それにしても最近心理さんがやけにちょっかい出してくるな・・・」
美琴「あぁ、たしか垣根にヤキモチ妬かせたいみたいね」
上条「ふーん」
美琴「って、アンタもちょっかい出されてるの?」
上条「?もってどういうことだよ」
美琴「私もなんだかんだちょっかい出されるのよね」
上条「・・・心理さんってさ、やっぱり魔性だよな」
美琴「うん、でもたまにちょっとめんどくさいわよね」
上条「・・・そんなこと言うなよ」
美琴「も、もちろんイヤなわけじゃないわよ!?心理定規は優しいし・・・それに大人だから好きなんだけど、ちょっかいは・・・」
上条「ま、まぁたしかにうざったい時はあるけどな」
美琴「う、うん」
心理「・・・そ、そうなの?」
上条・美琴「」
心理「わ、私のちょっかいって・・・不愉快だったの?」ウルウル
上条「えぇぇぇぇ!?なんでここにいるんですか!?」
美琴「か、垣根は!?」
心理「・・・上条君の調子がよくなったら来てくれって伝言を・・・言いに・・・」
上条「そ、そうだったのか!」
美琴「あ、あははは!!冗談よ心理定規、その・・・」
心理「・・・不愉快・・・だった?」
美琴(な、なんでこんな泣きそうな顔になってるの!?)
上条(ど、どうして?)
心理「そうよね・・・結局、私とあなた達は友達って言っても他人ですものね・・・」フルフル
上条「そ、そんなこと・・・」
心理「いいのよ・・・私の能力は人の心の距離を操るものよ・・・今までだって、いろんな人との距離を測ってきたわ・・・」
美琴「そ、その・・・」
心理「・・・あなた達も・・・結局、私から離れるのね・・・」
上条(そ、そうだよな・・・心理さんって暗部にいたみたいだし・・・)
美琴(そこがどういう所かは分からないけど・・・きっと、友達なんて作れる状況じゃなかったのよね)
上条「心理さん、たしかに距離ってのは開くこともあるけどさ・・・縮まることもあるんだ」
美琴「・・・そうよ、なにも離れるだけじゃないわよ」
心理「で、でも・・・」
上条「・・・誰だって、離れたり近づいたりを繰り返すけど・・・それが友達なんだよ」
心理「か、上条君・・・」
上条「・・・心理さんはちょっと友情に不器用なだけなんだよな」
美琴「そ、そうそう!!こういうイタズラとかも愛情表現なのよね!?」
心理「・・・?こういう?」
美琴「え・・・い、今落ち込んでるのも演技なんじゃないの?」
心理「」
上条「み、美琴!!」
美琴「ち、違ったの!?てっきり腹黒心理定規が出てきたのかと・・・」
心理「美琴、ちょっとこっち来てくれない」
美琴「な、なんでそんな物陰を指差し・・・」
心理「来い」
美琴「はい」
上条「み、美琴・・・さん?」
心理「ちょっとだけ借りるわよ、上条さん」
上条「さ、さん!?」
美琴「と、当麻ぁ!!」
上条「あ、謝ったほうが・・・」
そんなことを言っている間に美琴は物陰に連れて行かれた
上条(だ、大丈夫なのか?)
上条には遠くから声を聞くしかできない
しかし、なにやら面白い会話が聞こえている
美琴「な、泣かないでって・・・ごめん」
心理「ほ、本当に・・・私のこと好き?」
美琴「大好き大好き!友達だもん!!」
心理「でも・・・信じてくれなかったじゃない」
美琴「ちょっと疑っただけよ・・・でも、心理定規のそういうイタズラもアンタのいいところじゃない、可愛いし」
心理「!!!ホント?」
美琴「だから、これからも友達よ?」
心理「うん!!」
上条「あ、お帰りなさい」
美琴「お待たせ」
心理「・・・と、友達・・・」ドキドキ
上条・美琴(なんだこの可愛い子)
心理(・・・フレンド・・・)ドキドキ
垣根(・・・フレンダ・・・)ムラムラ
上条(どこから来た)
上条「なんで垣根まで来たんだよ・・・」
垣根「心理定規の泣いている声が聞こえたからさ!」
心理「な、泣いてなんかないわよ」
垣根「まぁ嘘はおいといて・・・エツァリとショチトルを二人にしてやりたくてな」
心理「あら、あの二人を二人きりにしていいのかしら」
上条「そ、そうだって!二人きりなんかにしたら・・・」
垣根「安心しろ・・・俺はあいつらを信じる、きっとバレないようにヤると」
美琴「なんか信じることが間違ってるわよね」
垣根「まぁ・・・つまり俺も暇だから来たんだよ」
上条「暇だからってな・・・」
心理「そうね・・・せっかく上条君と美琴が二人きりになれるはずだったのに」
美琴「いや、心理定規がいるから結局二人きりじゃないのよ」
心理「あら、私が邪魔だって言いたいのかしら」
美琴「そういうわけじゃないけど・・・」
上条「ほら・・・邪魔とかじゃなくて二人きりじゃないってこと」
心理「それって邪魔ってことよね」
垣根「・・・仕方ないだろ、俺達だって二人になりたいんだぜ?」
美琴「なら二人もどっかに行けば・・・」
垣根「だがなぁ・・・波のプールにはエツァリとショチトルがいるんだ」
美琴「流れるプールは?」
垣根「あそこはいやだ、俺は流されたくなんかない人間なんだよ!」
美琴「なによそれ」
上条「じゃあ遊具がたくさんあるプールは?」
垣根「あそこは子供が遊ぶべき場所だ、俺みたいな男が行く場所じゃないだろ・・・」
心理「となると・・・真面目に泳ぐ、あの競泳プールかしらね」
垣根「あんな場所に行けるかよ!みんな目を輝かせてるぜ、金持ちのくせにスポーツも出来るとかどんだけだよ!?」
美琴「金持ちがスポーツ出来ないってどんなイメージなのよ・・・」
垣根「だからさ・・・結局ここが一番なんだ」
ビーチパラソルの下に四人が集まるのは中々窮屈だ
しかもご丁寧というか、太陽は綺麗に輝いている
屋内プールに逃げ込めばいいのだろうが、ゆっくり上条を寝かせられるのはここしかなかったのだ
美琴「・・・じゃあ仕方ないわよね」
上条「はぁ・・・二人きりにはなれないか」
垣根「ちっ・・・それはこっちの台詞だ」
上条「なんだよ・・・お前さっきから美琴の水着チラチラ見やがって!」
垣根「はーぁ?見てねぇよ、お前こそ心理定規の水着チラチラ見てんじゃねぇかよ!」
上条「はぁ!?見てねぇからな!」
垣根「嘘つくな!そういやお前の理想のタイプって年上のお姉さんタイプだったよな!?心理定規も年上じゃないけど中々お姉さんタイプだもんな!」
美琴「ちょっと・・・あんまり大声出さないでよ」
心理「そうそう、あくまで高級ホテルの中のプールなんだから」
垣根「うるせぇ!男が曲げちゃいけないのは臍と腰と信念なんだよ!」
上条「美琴!水着姿のお前のそばに他の男を置いてはいられないんだよ!」
美琴「え、あ、うん」
垣根「心理定規!てめぇの瞳を見つめていいのは俺だけだ!」
心理「あら素敵」
上条「だから!お前はどっか行け!」
垣根「ふざけんな!俺がどっかに行ったら心理定規の水着姿を堪能するつもりだろ!」
上条「んなわけねぇだろ!俺は美琴に釘付けなんだからな!」
垣根「はー!?そんな見るとこない体のどこがいいんだよ・・・」
上条「言ったな!美琴の体の魅力が分からないなんてお前はまだまだだな!」
垣根「はん!てめぇこそ、心理定規という最強の魅力を目の前にして何も感じないなんて笑えるな!」
上条「美琴のほうが魅力的なんだよ!」
垣根「ふざけんな!」
心理「はいはい、答えの出ない討論はそこまでにしましょう」
美琴「そうよ・・・好みの違いってのがあるじゃない」
二人が、自分の恋人の腕に抱き着いて宥める
垣根「・・・いい柔らかさだ」
心理「?」
上条「中々いい感触だ・・・」
美琴「アンタ達ね・・・」
垣根「・・・だがな、俺達だってここ以外に行く場所はないんだよ」
上条「仕方ないな・・・」
心理「はぁ・・・ったく、二人とも独占欲が強すぎるのよ」
美琴「そうそう・・・ヤキモチ妬いてくれるのは嬉しいけど、喧嘩はダメよ」
垣根「・・・」
上条「・・・」
美琴「な、なによ?」
垣根「お前らが独占欲について語るとはな」
上条「・・・心理さんも中々独占欲すごいよな」
心理「なによ、垣根を独り占めしたいなんて思ったことないわよ」
垣根「」
上条「いやいや・・・」
垣根「俺は常に心理定規を独り占めしたいんだけどな」
心理「そんなこと、面と向かって言わないでよ」
美琴「あ、心理定規赤くなってる!」
心理「うるさいわね・・・」
体育座りになって、心理定規がため息をつく
美琴「・・・にしても、ここじゃ何も出来ないわね」
心理「そうなのよ・・・ここには何もないから」
垣根「何を言う!輝く太陽が浮かんでいるじゃないか!」
心理「それだけじゃ日に焼けるだけよ・・・」
上条「そういえば今日はかなり陽射しが強いな」
心理「・・・焼けるのはイヤよ」
垣根「なんでだよ、お前はちょっとくらい焼けてもセクシーだと思うぜ」
心理「あら、水着の跡が付いた私なんてイヤでしょ?」
垣根(・・・日焼けで水着の跡が付いた心理定規・・・)
美琴「・・・なにぼーっとしてるのよ」
垣根「いい、すごくいいじゃないか日焼けした心理定規!」
心理「なに言ってるのよ・・・」
呆れたようにため息をつきながら、心理定規がプールを見つめる
お金持ちらしい、上品な水着を着た「方々」が上品に遊んでいた
もちろん、金持ちだとしても家族連れや夫婦なのだ、結局は泳いだり体を日に焼いたりするだけなのだが
それが妙に上品に見えるのが不思議で仕方ない
心理「・・・こんな所に、私なんかがいていいのかしら」
垣根「あぁ?」
ポツリ、と呟いた心理定規のほうを見ながら垣根が首を捻る
心理「・・・幸せそうよ、みんな」
垣根「なんだよそりゃ」
心理「・・・あんな幸せそうな笑顔、私には眩しすぎるわよ」
上条「心理さん・・・」
垣根「なら安心しろ!お前も幸せだろ、だったらここにいていいはずだ」
心理「でも・・・」
垣根「あー!今の幸せで足りないならもっと幸せにしてやる、お前が笑って過ごせるまで俺は幸せにし続けてやる、だからそんなくだらないことで悩むんじゃねぇよ!」
心理「!」
垣根「いいか!お前の居場所は俺の隣だ、俺が明るい世界にいるって決めたからにはお前にもその場所にいてもらうからな!」
心理定規の顔を指差しながら垣根が笑う
心理「・・・な、なんて自分勝手な・・・」
美琴「でもまぁ・・・垣根らしいわね」
上条「はぁ・・・心理さんもナイーブだな」
心理「私が図太く見える?」
上条「いやいや・・・見えないけどさ」
心理「そういえば、ショチトル達はまだ波のプールで遊んでるのかしら」
垣根「そうだな・・・俺達も波のプール行きたいな」
上条「俺もそろそろ遊びますか・・・」
美琴「もう大丈夫なの?」
上条「あぁ、ちょっと頭ぶつけただけだったし」
垣根「じゃあ行くか」
上条「おぅ!」
エツァリ「・・・ショチトル、そんなにハマったのか?」
ショチトル「あぁ!!」
浮き輪に捕まり、プカプカと浮かびながらショチトルは笑っていた
波を人工的に起こすプール、そんなものはもちろんアステカ系統の魔術結社にいた頃は体験できなかった
しかも、そもそもそこまでプールに行ったことがなかったためショチトルにとっては新鮮そのものなのだ
ショチトル「自然現象である波を人間が作り出すんだぞ!!」
エツァリ「まぁ、たしかに不思議なものだが・・・」
風呂場で腕を上下に動かしただけでも波のようなものは起きる
それを非常に大規模で起こせば可能なのではないか
ショチトル「・・・はぁ、上下の運動が気持ちいいぞエツァリ・・・」
エツァリ「そういう言い方をするな・・・」
ショチトル「・・・しかし、さすがに何もしないで浮かんでいるだけだと飽きるな」
エツァリ「今頃か・・・俺はしばらく前から気づいていたぞ」
ショチトル「ん?上条達が来たな」
エツァリ「おや、本当ですね」
ショチトル「・・・もう敬語か」
エツァリ「条件反射ですよ・・・」
垣根「よー、どうだった二人きりの時間は」
ショチトル「いざとなると退屈なものだぞ」
垣根「あぁ?」
プールサイドからショチトルを覗き込みながら、垣根が訊ねていた
上条「・・・にしても、遠くから見てると本当にすっごいよなお前達・・・」
エツァリ「?なにがですか?」
美琴「まぁ、たしかに見た目は美形だからね・・・」
ショチトル「見た目も、だろ」
心理「・・・さて、私達もお邪魔していいかしら」
上条「い、いいのかな」
エツァリ「・・・まぁ、どうぞ」
美琴「お邪魔しまーす」
垣根「邪魔するぞ」
ゆっくりとプールに浸かった四人が幸せそうに笑う
上条「はぁ・・・冷たい・・・」
心理「気持ちいい・・・」
エツァリ(今の心理定規さんエロいですね)
美琴「ふにゃ・・・プカプカする・・・」
垣根「あぁ、メルヘンだぜ」
上条「・・・でもさ、人が多いからここで泳ぐってのは無理だよな」
ショチトル「そうなんだよ、かといってずーっと浮かんでてもヒマだし」
エツァリ「それが一番の問題ですね・・・」
垣根「・・・もうそろそろ17時か・・・」
心理「明日の計画でも立ててみる?」
上条「ここで?」
心理「えぇ、波に揺られながら幻想的なプランを」
美琴「明日は長崎だっけ・・・」
垣根「出島行こうぜ出島」
上条「明日はあんまり一箇所に留まりたくはないな・・・」
垣根「えー、オランダ物産館は?」
美琴「お土産買ったらすぐ帰るわ」
垣根「ちっ」
エツァリ「長崎の風景を楽しみながら散歩したいですね」
垣根「ぶらり旅か・・・ま、悪くは無いな」
ショチトル(ぶらりってエロい表現だよな)
心理(どこが)
上条「・・・はぁ、それにしても旅行って一日が短く感じるよな」
ショチトル「それはあるな」
美琴「今日も、あと夜ご飯食べて風呂入ったら終わりだもんね・・・」
エツァリ「・・・明日で最後ですね、明後日はもう朝には帰りますし」
垣根「そうだな」
心理「修学旅行も、こんなふうなのかしら」
上条「どうだろうな・・・」
美琴「・・・さて、そろそろあがりましょ?」
上条「ん、もうあがるのか」
垣根「しゃあねぇな・・・帰るか」
コキコキ、と首を鳴らしてから垣根が空を見上げる
たしかにもう陽は傾いている、そろそろ夜ご飯の時間だろう
垣根(・・・学園都市のみんなは、何してるんだろうな)
ふとそんなことを考えてから苦笑してしまう
垣根(どうせ、くっだらないことしてるんだろうけど)
心理「ちょっと垣根、早くあがるわよ」
垣根「あいよ」
垣根「あー・・・いい湯だった」
ユニットバスじゃなければ最高なのだが、と垣根は頭を拭きながら考えていた
風呂上がり
一瞬だが一日の疲れから解放され、素の自分に戻る瞬間だ
垣根「・・・ただいま」
部屋の中に入ると、ベッドの上で美琴があぐらをかきながらテレビを見ていた
垣根「あぁ?他のヤツらは」
美琴「飲み物買いに行ったついでにお土産見てるみたい」
垣根「土産?ホテルで買うのかよ」
美琴「高級なお菓子とかも必要でしょ?」
垣根「土産は心が篭ってなきゃ意味がないんだよ」
美琴「そうかもしれないけど、でも高い物は喜ばれるのよ」
垣根「ちっ・・・反論出来ねぇな」
美琴「・・・にしても、アンタと二人きりになる時間が長いわね」
垣根「今回の旅行か?」
美琴「そうそう・・・当麻と二人きりになりたいのに」
垣根「そりゃお互い様だろうが」
美琴の言葉に眉をひそめながらも、垣根がドライヤーを取り出す
髪を伸ばしている彼にとって、それは必需品なのだ
美琴「・・・乾かすの?」
垣根「あぁ」
美琴「・・・乾かしてあげようか」
垣根「はぁ?なんでだよ」
美琴「・・・いいから、乾かしてあげるわよ」
無理矢理垣根の手からドライヤーを奪い、美琴がスイッチを入れる
垣根「なんだよ・・・なんか企んでるのか?」
美琴「・・・別に」
鼻を鳴らしてから、美琴が垣根の髪を乾かし始める
別に何かを企んでる様子はなく、ただ丁寧に髪を乾かしているようだ
垣根「・・・ったく、なんなんだよ」
美琴「・・・アンタってさ」
垣根「なんだよ」
美琴「第二候補ってヤツだったのよね」
ポツリ、と美琴が呟く
冷たい、というよりも意図的に感情を押し殺したような声だった
垣根「あぁ、知ってたのか」
美琴「一方通行に聞いたことがあるのよ・・・アンタ、一方通行がプラン通りに進まなかった時のための・・・」
垣根「代理だったのさ・・・もしかしたら、妹達を殺す実験をさせられたかもしれないな」
美琴「・・・」
美琴の手の動きが止まった
垣根「熱いだろ、ちゃんと動かせ」
美琴「・・・うん」
ドライヤーの音に掻き消されそうなほどの小さな声
自分のクローンが殺された実験なんて、思い出すのも嫌なはずだ
垣根「だったらなんでそんな話を始めたんだ」
美琴「・・・アンタならどうしたか、聞きたかったの」
垣根「もしかしたら、一方通行と違って辞めていたかもしれないってか?」
美琴「・・・」
垣根「だったらそれは間違いだ・・・いや、むしろ俺はその実験を何がなんでも完遂させたはずだからな」
美琴「どういうことよ」
垣根「俺が一方通行に戦いを挑んだのは第一候補になるためだ、もしも妹達を殺し続けて第一候補になれるなら・・・俺は明らかにそれをしていた」
美琴「そんな・・・!」
垣根「そんなことのために妹達を殺せたか、って?殺せたさ、昔の俺なら」
今はもちろん違う、と付け足した上で垣根は話す
垣根「・・・俺はあの時、どうしても第一候補にならなきゃいけなかった」
美琴「・・・どうして」
垣根「理由はどうだっていい・・・とにかく、そのためならなんだってするはずだった」
打ち止めを狙ったのも、ピンセットを奪ったのも、結局は手段に過ぎなかった
垣根「・・・だから、一方通行よりも俺のほうがお前にとっちゃ恨むべき相手だったかもな」
美琴「・・・」
垣根「・・・今は・・・心理定規のために生きていられるが、昔は違った」
美琴「ねぇ、アンタは・・・私のことどう思う?」
垣根「妹達のことか」
美琴が驚いたような表情になる
今の言い方なら、「美琴を女として」どう思うかに聞こえるほうが普通だ
なのに目の前の男は自分の尋ねたかったことを言い当てた
美琴「・・・私がDNAを提供しなければ、あの子達は生まれなかった」
垣根「そして死ななかった」
美琴「・・・あの子達も、当麻も・・・他のみんなも、あの実験では誰もが被害者だって言うのよ」
垣根「なるほど、ならそれでいいんじゃないか?」
美琴「・・・でもね・・・たまに、自分が許されてよかったのかって思うのよ」
垣根「・・・」
超能力者ってのは大変だ、と垣根がため息をつく
それであるというだけで実験に利用され、更には周りから距離を置かれる
垣根「・・・人間は誰だって後悔を抱えている、小さなものは朝飯の献立から・・・でかいものは命に関することまで」
美琴「うん・・・」
垣根「お前が悩むのは間違いじゃない、むしろ悩まないのは人間じゃなく猿だからな」
美琴「・・・」
上条とは違うことを言うんだな、と美琴は笑う
上条なら「過去のことをいつまでも思っちゃいけない」と言うはずだから
垣根「・・・お前の場合、たまたま一番でかい悩みが妹達のことだったんだ、過去を引っ張るっていうよりは・・・」
美琴「その誰もが抱える悩みが・・・私の場合は妹達だった、か」
垣根「あぁ、そうだ」
美琴「でもさ・・・やっぱり、私も加害者だと思うのよ」
垣根「加害者か・・・」
美琴「・・・ねぇ、私って馬鹿かな?」
垣根「・・・いつまでも同じことで悩むからか?」
美琴「あはは・・・当麻に聞かれたら、怒られちゃうから・・・今しか聞けなくてね」
垣根「だから髪乾かすなんて言い出したのか」
美琴「うん」
垣根「・・・同じことで悩むってのは、そのことを真剣に受け止めてるからだろ」
美琴「・・・」
垣根「だったらお前は加害者なんだ、自分で認めちまったんだ」
冷たい現実だが、と垣根が言う
知らない間にDNAを使われたという点では被害者であるが、妹達の立場からすれば加害者にもなる
垣根「・・・でも、お前は罪人じゃない」
美琴「!」
垣根「過ちを認めて、ずっとそれを背負ってきたなら・・・罪人とは言えないさ・・・あいつらにとっては、たった一人のお姉さんだ」
美琴「・・・綺麗事じゃない、結局は」
垣根「綺麗事じゃなきゃお前の曇った心を晴らせないだろ」
美琴「・・・アンタってさ、どっか当麻に似てるわよ」
垣根「そうか?惚れちまいそうなのか?」
美琴「それは無いから安心して」
ドライヤーのスイッチを切って、美琴が垣根の目を見つめる
美琴「ありがとう、ちょっとすっきりした」
垣根「・・・」
ふと気付いたのだが、美琴の髪も濡れていた
垣根の前に上条と二人で入っていたが、まだ乾かしていなかったのだろうか
垣根「髪」
美琴「ん?あぁ・・・ちょっと面白い番組してて、それ見てたら乾かすの忘れてたのよね」
垣根「乾かしてやるよ」
美琴「い、いいわよ・・・」
垣根「お返しだ、ありがたく受け取るもんだぜ」
美琴「・・・」
少し迷うような表情だったが、やがて大人しく従った
垣根「・・・お前ってさ、常盤台の中じゃお姉さまって呼ばれてるんだろ」
美琴「なによいきなり?」
垣根「上条にとっては恋人・・・つまり、あんまり年下の女の子として扱われたことはないんだよな」
美琴「それが?」
垣根「・・・いや、なんかお前って妹みたいだなって思ってさ」
美琴「アンタ妹いたの?」
垣根「違う違う、でも感覚的には近いだろ」
美琴「・・・だから髪乾かしてくれてるの?」
垣根「別に」
美琴「・・・ねぇ、アンタはやっぱり心理定規と結婚するわよね?」
垣根「あぁ、お前は上条とだろ?」
美琴「でもさ・・・やっぱり結婚したら色々大変よね、仕事とか」
垣根「仕事か・・・」
美琴「アンタは・・・引く手数多よね」
垣根「でもなぁ・・・能力に頼った人生ってのはよくないと思うんだよな」
美琴「ふーん・・・じゃあどんな仕事がいいのよ」
垣根「そうだな・・・」
腕を組み、垣根が色々と考えてみる
垣根「・・・なんでも相談を請け負う・・・とか」
美琴「な、なにそれ」
垣根「相棒は心理定規だぜ?心のケアなら俺も得意だしさ」
美琴「でも・・・それって儲かるのかしら」
垣根「・・・さぁ」
美琴「ダメじゃない・・・」
垣根「・・・さて、もう乾いただろ」
美琴「・・・ありがと」
ドライヤーを置いた垣根が、美琴をじっと見つめる
垣根「それにしても」
美琴「?なに?」
垣根「お前って、あの美鈴さんの娘だよな」
美琴「当たり前でしょ・・・」
垣根「・・・なんであの胸のDNAは消えたんだ?」
美琴「・・・」
美琴「・・・言いたいことはそれだけ?」ゴゴゴ
垣根「」
上条「あぁ・・・まだこの時期は夜になると冷えるよな」
ホテルのお土産屋で、上条はそんなことを言っていた
さすがに半袖は寒かっただろうか
心理「あら、だらしないわね・・・」
隣にいるのは心理定規だ、よくもまぁドレスで寒くないものだ
エツァリ「・・・にしても、様々なお土産がありますね」
ショチトル「やっぱりお菓子がいいかな・・・」
上条「う・・・かなり高いな」
心理「へぇ・・・材料が豪華なのね」
パッケージを確認した心理定規が、それを持ったまま歩き出す
上条「か、買うのか!?」
心理「あら、ダメかしら」
上条「ダメだって!!そんな高いの・・・」
心理「・・・ダメ・・・かな?」ウルウル
上条「な、涙目上目遣いでも騙されませんからね!!」
心理「ちっ・・・」
上条(なんだか怖い)
心理「・・・あら?」
エツァリ「おや、これは・・・」
心理定規があるお土産を手にした
イケメンの背中に翼の生えた「ていとくんストラップ」と翼の生えた冷蔵庫、「ていとう庫」ストラップだ
ショチトル「ど、どこかで見た気がするな」
上条「な、なんだこれ・・・」
いくらストラップが好きな若者でも、これは買わないだろう
なんというかシュールを通り越して意味が分からない
エツァリ「・・・しかも、中々売れているみたいですね」
ショチトル「本当だ・・・かなり減ってるな」
上条「キモカワイイとかいうやつか・・・?」
心理「・・・」
ショチトル「ま、こんなもの買っても誰も喜ばないさ」
エツァリ「そうですね、他にお菓子とか見ましょうか」
上条「あぁ・・・って、心理さん?」
心理「わ、私・・・」
心理「これ・・・ほしい」
三人「」
心理「・・・」ドキドキ
ていとくんストラップ「俺の未元物質に常識は通用しねぇ!!」キリッ
心理「!!ボイスも付いてる!!」
上条「あ、あの・・・」
ていとくんストラップ「これが未元物質、異物の混じった空間!!」キリッ
心理「し、しかも・・・なんだか顔にもいくつかパターンがある!!」
ショチトル「おーい」
ていとくんストラップ「もう一度ここで絶望しろコラ」キリッ
心理「・・・」ドキドキ
エツァリ「な、なんで赤くなってるんですか」
心理「て、ていとう庫のほうは・・・」
ていとう庫「俺のチルドに高温は通用しねぇ!!」キリッ
心理「」ズギューン
心理「店員さん、これ7つずつちょうだい」
上条「お、おい!?」
心理「やっぱり8つずつ」
上条「おーい!?」
続き: 上条「好きと叫んでも!」美琴「心は遠く!」心理「貴方を呼んでも」垣根「振り向かず!」【3】