※関連
最初: 美琴「す・・・好きです!!付き合ってください!!」上条「何やってんだ、御坂」
前回: 上条「立てば芍薬!」美琴「座れば牡丹!」心理「歩く姿は」垣根「ラフレシア!!」【1】
入口から水族館の中までは、いきなりエスカレーターで上がることになる
真っ暗、というわけではないがほとんど前が見えないほどの暗さ
そんなエスカレーターを上がりながら、垣根は考えていた
垣根(・・・そういや、心理定規と二人なんだよな)
いつもなら誰か別の友達が一緒にいるはずだった
デートと言ってもいつの間にかダブルデートになったりしていた
しかし今日はそんな心配もない
本当に二人きりなのだ
それを意識すればするほど、胸は高鳴ってしまう
家で散々二人きりなのに、なぜかデートだと特別に感じてしまうことがある
それは行動自体が特別だからか
それともデートの途中で見られる、愛している人の楽しそうな表情が特別だからか
どちらにしろ、それはとても垣根にとって嬉しいものだった
強く握り締めた手には、自分の鼓動が伝わっていないだろうか
もしも伝わっていたらかなり恥ずかしい
垣根「なぁ」
心理「何?」
声が返ってきただけで、なぜか顔が赤くなってしまう
一度変な風に意識してしまうと、それからずっと緊張するものだ
何をするにも相手がかなりの美人に見え、一日が最高なものになる
垣根はそういうものには強いと自負していた
そこら辺の女に迫られても、特に何も感じない
だが心理定規が相手ならばどうだろうか
答えなんて分かりきっている
先程から高鳴っている胸は何か
垣根「・・・なんかさ、ロマンチックだな」
心理「それはこれから決まるのよ、あなたの努力次第」
垣根「・・・なんだよそりゃ、プレッシャーになるじゃねぇか」
心理「・・・なんだか、今日は少し弱気なのね」
垣根「・・・弱気じゃねぇよ」
照れ隠しはまるで言い訳のよう
強い一言はまるで愛を囁く言葉のよう
何を話すにしても、垣根は緊張しなければならないのか
必死に頭を整理する
こんなの、ただのデートなんだと
今から告白しよう、なんていうわけではない
既に自分の物になっている彼女とのデート
一々緊張なんてしていたら心臓がもたない
なのに
垣根(・・・心理定規の手、柔らかいな)
どうでもいいことを感じ取っては頭が混乱する
自分から勝手に混乱しているのだから、誰に文句を言うことも出来ない
心理「ねぇ」
垣根「な、なんだよ」
いきなり話し掛けられたら驚いてしまう
デートというのは会話から成り立つものだ
普通の垣根ならば、そんなことも理解していただろう
だが今の彼は「普通」ではないのだ
垣根(・・・あぁ、こいつがいつもと違う格好してるから特別なのかもな)
ほんの少しの変化が、彼には大きな変化になる
ましてやそれが心理定規の変化ならば
垣根「・・・なぁ、さっき・・・あんまりその服似合ってないみたいに言っちまったよな」
心理「えぇ・・・正直、ちょっとショックだったのよ?」
垣根「いや・・・そのさ、たまにはそういうのもいいな」
心理「あら、それは気を遣ってるのかしら」
垣根「違う」
もうすぐエスカレーターは終わってしまう
ずいぶん長く感じたが、実際はわずか1分程度だ
エスカレーターの天井は深海をイメージしたようなライトアップに変わってきた
それでも、今はそんなことには気を向けていられない
垣根「似合ってる、お前はなんだって似合うんだ」
心理「あ、ありがとう」
心理定規が面食らったような声を出す
垣根のそんな必死な反応は初めてだった
いつもなら少しはにかみながら、優しく反応してくるはずだ
大人で紳士な彼なら
心理「ねぇ、何かあった?」
垣根「何もねぇさ」
心理「それにしては・・・なんだか、いつもと様子が違うわよ?」
垣根「久しぶりに二人きりだから緊張してるんだよ、察してくれ」
心理「あ・・・」
ぎゅっ、と心理定規が垣根の手を握る
垣根「なんだよ」
エスカレーターが終わってしまう
その先には恐らく、美しい魚達が泳ぐ巨大な水槽が広がっているのだろう
これからデートは本番だ
なのに、なぜかエスカレーターが終わってしまうのが嫌だった
刻一刻と終わりが迫って来る
まるでこのエスカレーターだけが、デートでいられる空間のように感じられる
心理「・・・私も」
ぽつり、と消え入りそうな声で心理定規が応える
実際、周りの客には誰一人聞こえていなかった
心理定規と他人である周りの客には
そんな中、垣根だけには
彼には、聞こえた
心理「私も、あなたと二人きりで緊張してる」
不安ではなく、嬉しさや恥ずかしさから来る震えを持った声が
垣根「・・・お前が楽しめるように努力するよ」
心理「・・・お願いしていいかしら」
垣根「当たり前だろ」
強く心理定規の手を引っ張り、エスカレーターから彼女を降りさせる
想像通り、目の前には大きな水槽が広がっていた
つい、ため息をついてしまう
なんと美しい光景なのだろうか
人間は海から生まれたとは、こういう理由から言われるのかもしれない
海の中に落とされると不安になるだろうが、水族館の中にいるとなぜか落ち着きさえ覚える
文明を築いたせいで海の中で暮らすのは怖くなったのかもな、と垣根は考える
だが少ししてそんな難しいことに思いを馳せるのは辞めた
目の前に広がっているのは哲学や理屈を並べて汚していい光景ではない
難しいことはテレビでよく見る学者にでも任せれば良いのだ
今は、ただこの美しい光景を楽しんでみるべきだ
心理「綺麗ね」
垣根「あぁ、なんだか俺達まで海の中にいるみたいだ」
心理「ふふ・・・そのままじゃない」
垣根「・・・こんなの目にして、難しい言葉は並べられねぇな」
心の底から感動しているのが分かる
水槽の近くには、「写真を撮らないで下さい」との注意書きがあった
フラッシュが魚に影響してしまうからだ
だがしかし、こんな美しい光景ならたしかに写真に収めてしまいたくもなるだろう
垣根「・・・見ろよ、小さな魚はやっぱり群れるもんなんだな」
心理「人間と同じよ、一人じゃ何も出来ないから・・・仲間を集めて動くのよ」
垣根「魚は損得勘定なんてしない、人間なんかと比べたら・・・」
そこまで言ってから、垣根が自分自身に呆れる
どうしてそう難しい方向に持っていってしまうのか
心理定規はただ、「仲良しな魚達」と言いたかったに違いない
なのに自分は難しい解釈をしてつまらない話をしてしまう
もしも自分がそれを聞かされる立場だったらどうだろうか
こんな幻想的な光景を目にしていても、一瞬にして熱が冷めてしまうだろう
申し訳ない気持ちになりながら、何気なく心理定規のほうを見る
視線がぶつかったということは、心理定規も彼を見つめていたのだ
心理「・・・なんだか、あなたらしい解釈ね」
クスクスと笑いながら心理定規が呟く
垣根「・・・悪い、こんな幻想的な光景には似合わなかったな」
心理「でもあなたには似合うわよ」
垣根「・・・」
心理「・・・ねぇ、あっちの大きな魚は何かしら」
垣根「あれはマグロだな」
心理「あら、マグロってあんな見た目だったのね」
垣根「・・・」
垣根が小さく笑う
心理定規がそんなことも知らないわけはない
ということは、場を和ませるためにわざわざそんな話題を振ってきたのだろう
そんな気遣いが今は嬉しかった
垣根「・・・マグロってたしか、泳ぎ続けないと死ぬんだっけ」
心理「泳ぎながら呼吸するのよね」
垣根「進まなければ待つのは死、か」
心理「なんだか上条君みたい」
クスクスと心理定規は笑うが、なぜか垣根は眉をひそめてしまった
なぜだか、彼女の口から他の男の名前が出たのが気に食わない
いつもなら軽く流せるはずなのに
心理「あらごめんなさい・・・デート中だったわね」
垣根「・・・別にいいんだよ、そんくらい」
心理「それにしてはかなり険しい表情ね」
垣根「悪いかよ・・・ヤキモチだヤキモチ」
心理「可愛い人」
垣根「ほら、次行くぞ」
垣根が再び歩き出す
次の水槽は鮫が泳いでいた
ここはかなりの迫力だ
鋭い目つきを見ると、さすが海のハンターだと頷いてしまう
心理「・・・私、海で泳いでて鮫が来たら、気絶する自信があるわ」
垣根「は?なんだよいきなり」
心理「あなたはどう?海ってたまにそんな風な不安に襲われること、ない?」
垣根「うーん、あ・・・でも船に乗ってる時、落ちたらどうしようってことならガキの頃は思ってたな」
心理「深い青って不気味ですもの、私は嫌よ」
垣根「・・・いや、水族館でそういう台詞は考えものだな」
心理「ここはいいのよ、だって安全ですもの」
垣根「・・・そうか?」
水槽のガラスに少し近づく
子供の頃は、このガラスが壊れたら中にいる魚達が自分を襲うものだと思っていた
実際、壊れることなんてありえないのだ
万が一そうなったとしても、魚達は水が無ければ行動出来ない
自分を襲いに来るなんて馬鹿馬鹿しい考えではある
垣根「もしかしたら、このガラスが割れるかもしれないぜ?」
心理「や、やめなさいよ・・・そんな冗談」
垣根「なんだ、そういうの苦手か」
心理「・・・あなた、ジョーズって映画知ってる?」
垣根「この水槽にはホオジロザメなんていないぜ」
心理「・・・あんな映画を知ってたら、多少は怖いのよ」
垣根「・・・そうか?」
水槽の中を泳いでいる鮫を見つめる
昔は怖くて直視出来なかったような気がする
だが今はそんなこともない
よくよく見てみれば、文字通り鮫肌というものが確認できる
あれで山葵をおろすんだな、と感想を抱く
その山葵が刺身の付け合わせになるのはなんともシュールだ
心理「ほら・・・あんまり近づかない・・・」
垣根「あ、ヒビ入ってる」
心理「!」
出まかせを口にするが、心理定規には中々効果があったようだ
手を握る強さが一段と強くなる
垣根「ははは・・・冗談だよ、悪いな」
心理「な、何よ・・・」
垣根「お前って意外と怖がりなところもあるんだな」
心理「・・・あなたと二人きりだと、なんだか弱気になっちゃうの」
垣根「俺に甘えたいからか?」
心理「分からないわよ」
垣根「・・・次、行くか」
心理「えぇ」
鮫に背中を睨まれている気がしたが、それを無視して先に進む
次は小さな水槽がたくさん並んでいるゾーンだ
熱帯魚やクラゲの子供、砂から顔を出したり引っ込めたりしているよく分からない魚
そんな物の中に、海蛇がいた
心理「・・・海蛇って、かなり強い毒を持った種類もいるのよね」
垣根「たしか地球で一番強い毒だったっけな」
心理「あら、そうだったかしら?」
垣根「・・・海蛇って不気味だよな」
心理「メデューサを思い出すわ」
垣根「あれはまた別の恐さがあるけどさ」
心理「・・・海で出くわしたくない生物の二番目ね」
垣根「そうだな」
心理「・・・あ、こっちは小さなカニがいる」
垣根「本当だな・・・なんだか笑えるくらい小さいな」
心理「昔はこういうの見てると、美味しそうって思ってたわね」
垣根「あぁ、あったあった」
心理「そんな夢のないこと・・・って今なら思うけど」
垣根「・・・お前にもそんな時代があったんだな」
心理「あら、私だって普通の女の子なのよ?」
垣根「・・・お前って昔から冷めてるヤツかと思ってた」
心理「・・・冷めてるかしら」
垣根「・・・クールってことだよ」
心理「子供の頃もわりとクールだったけど、内心はわりと普通だったのよ?」
垣根「へぇ・・・」
そんなことを話しているうちに、少し寂しさを覚える
垣根が心理定規と出会ったのは、すでに二人が「落ち着き出す」年齢の時だった
もしももっと早く出会えていたら
今とは違った心理定規を知れたのだろうか
今と違う心理定規の一面を理解出来たのだろうか
それがなぜか、とても悔しく感じられる
垣根「はぁ・・・お前ともっと早く出会ってればよかったな」
心理「何よいきなり?」
垣根「小さい頃のお前とか・・・知りたかったからさ」
心理「独占欲かしら」
垣根「んなつまんないもんじゃねぇよ・・・純粋な愛情から来る好奇心だ」
心理「好奇心・・・ね」
心理定規が目を細める
それなら、彼女だってもっとたくさんのことを知りたかった
垣根のことをたくさん、それこそその全てさえも
垣根「・・・くだらない愛情かな」
心理「あら、私は嬉しいわよ?」
垣根「・・・」
垣根が心理定規をじっと見つめる
彼女の澄んだ瞳には、彼の姿が浮かんでいる
それがとても愛おしい
今すぐにでも抱きしめたくなる衝動を抑え、垣根が彼女の手を引く
垣根「次はラッコのゾーンみたいだ、行こう」
壁に書かれた案内板をちらりと見てから歩き出す
心理「・・・ラッコ、ね」
垣根「なんだよ、ラッコは嫌いか?」
心理「ラッコが嫌いな人なんてあんまりいないわよ」
垣根「・・・ならなんでそんなに嫌そうなんだ」
心理「嫌なんかじゃないわよ」
心理定規がため息をつく
垣根には分からないのだろうか
いや、分かっているはずなのだ
ラッコのゾーンとなると、水族館のちょうど半分の境目になっている
急ぎ足で来たという理由もあるが、楽しいデートの時間が残り半分だと知らされるようなものなのだ
それが悲しくて、あまり進みたいと思えない
垣根「・・・じゃあ、ちょっと寄り道するか」
心理「寄り道?」
垣根「そっちのエスカレーターを下に行ったら、珍しい魚のコーナーがあるんだよ」
心理「あら、よく知ってるわね」
垣根「ちょうどニュースでやってたんだよ」
そんなことを言うが、本当は違った
いつか二人でデートをしたいと思っていたからこそ、事前に調べていたのだ
心理「じゃあ、そっちに行きましょう」
垣根「あぁ」
エスカレーターを下に下りると、面白い色をした魚が目に入った
しかも、何やら牙のような歯が生えている
心理「これ・・・ピラニアよね?」
垣根「あぁ、血の臭いに敏感なヤツらだよ」
心理「すごい・・・初めて見たわよ」
垣根「俺も生で見るのは初めてだな」
鮫とはまた違う恐ろしさがある
アマゾン川で泳いでいてちょっと怪我をしたら
それだけで、ピラニアが大群となって襲い掛かって来る
とは言っても、川の中で怪我をすれば傷口から・・・
なんて考えを、またしても垣根が途中で終わらせる
垣根(・・・科学側にいるとどうしても難しく考えちまうな)
本当は、彼が理屈っぽいというか物事を深く考える性格だからなのだが
心理「・・・あ、あっちにはピラルクがいるわ」
垣根「うっわ・・・ノッペリしてんなぁ」
大きな水槽の中に、長くて地味な印象の魚が入っていた
かなりの大きさだ
一緒に泳いでいいですよ、なんてサービスがあっても絶対に参加したくない
それくらい大きな魚だった
垣根「地球で最も大きな淡水魚だとよ」
心理「・・・ピラルクとピラニアって、名前が似てるわね」
垣根「生存してる地域も同じだしな」
心理「・・・アマゾン川って怖いのね」
垣根「その解釈は間違ってるぞ・・・」
心理「・・・あ、電気鰻がいるわよ」
心理定規がまた別の水槽の元に駆け寄る
こうして見ているとただの女子中学生だ
それを見て笑っている垣根も、ただの男子高校生に見えるのだが
垣根「・・・電気か、御坂みたいだよな」
心理「・・・」
垣根「あぁ悪い」
心理「・・・いいわよ、私もさっきは上条君の名前を出したし」
垣根「・・・御坂」
心理「上条君」
垣根「御坂!」
心理「上条君!」
垣根「・・・何やってんだろうな」
心理「はぁ・・・ヤキモチを妬かせようとするなんてくだらないわね」
垣根「あぁ・・・あ、放電した」
電気鰻の水槽の上には、何かメーターのようなものがついていた
どれほどの電流を放ったかが分かるようになっている
垣根「・・・なんかさ、電流を操る魚なんて卑怯だよな」
心理「一体どういう仕組みなのか気になるわよね」
垣根「・・・ビリビリしてるな」
電気鰻自体は感電しないことは今でも不思議に思ってしまう
垣根「っと・・・あっちには小さなクラゲがいるみたいだな」
心理「私、結構クラゲって好きなのよ」
垣根「プカプカしてるの可愛いよな」
心理「分かってくれる?」
顔を見合わせてから、二人が吹き出す
あまりにもおかしな会話だった
彼等のような人間が口にするような会話ではなかった
垣根「ははは・・・でもよ、たしかにクラゲはいいな」
心理「・・・優雅というか、自由というか・・・」
垣根「・・・見た目はちょっとグロテスクだけどな」
心理「フワフワしてるなんて、私達の心みたいね」
垣根「どこに落ち着くこともないもんな」
心理「・・・でも、その不安定なのが楽しいのかしら」
心理定規が垣根の肩に頭を乗せる
ちらり、垣根は辺りを見渡す
何組かのカップルはいるが、大して二人には注目していないようだ
それでよかった
垣根「・・・あんまり甘えすぎるなよ」
心理「あら、二人きりなんだからいいじゃない」
垣根「・・・構わないけどさ、俺だってさすがに疲れるもんなんだよ」
心理「男らしくないわね」
垣根「・・・自覚はある」
心理「でも、それもまた素敵よ」
垣根「・・・上上がるぞ、ラッコが見たい」
心理「あ、待ちなさいってば」
照れ隠しなのか、手を放して若干距離を置きながら歩く
心理「もう・・・そうやってすぐ先に行こうとするのね」
垣根「・・・ちょっとばかり先に行って、俺の背中を見せてやるよ!」
ニヤリ、と笑いながら垣根が振り返る
心理「・・・でもね、あなたの背中はいつも遠すぎるのよ」
垣根「おいおい、傍にいるんだからそんなことはねぇだろ」
心理「あるのよ」
垣根「・・・じゃあ仕方ねぇな」
垣根が立ち止まり、心理定規が隣に来るのを待つ
そしてその手を再び、優しく握る
垣根「これで文句ねぇんだろ?」
心理「えぇ、これなら安心よ」
垣根「はぁ・・・指輪までつけてるってのによ」
軽く悪態をついた垣根が、エスカレーターに足を踏み入れる
心理「・・・ねぇ、垣根」
垣根「なんだよ」
心理「今、楽しい?」
垣根「・・・楽しいよ、すごくな」
心理「そう」
短い会話だな、と垣根は笑う
その短い会話で愛が伝わるのならそれでも構わなかった
垣根「・・・ラッコってなんでこんなに可愛いんだろうな」
心理「さぁ・・・不思議よね」
ラッコのいる水槽の前で、二人はぽつりと呟いた
貝殻をおなかの上に乗せて必死で割ろうとしているラッコ
その姿に愛くるしさを覚えない人間がいるのだろうか
垣根「・・・あれさ、おなか痛くないのかな」
心理「・・・慣れてるんじゃないの?」
垣根「へぇ・・・」
心理「・・・可愛いわよね・・・」
垣根「・・・あぁ、可愛い」
ぽけーっとしながらラッコを見つめる
水の流れに乗って流されるラッコ
のらりくらりとしている丸っこいボディ
こりゃ御坂がいたら卒倒してるな、と垣根が鼻で笑う
心理「・・・ねぇ、あのラッコと私、どっちが可愛い?」
垣根「はぁ?何か言ったか?」
心理「・・・なんでもない」
垣根「・・・はぁ、もう最後か・・・」
イルカショーの行われる会場で、垣根は溜め息をついていた
水族館というのは、大抵最初と最後が面白い
遊園地のようにいろんなアトラクションがあるわけでもない
動物園のように、様々な生態の生き物がいるわけでもない
水族館の欠点はそこだろう、たしかにラッコやイルカ、カニなどの変り種もいるにはいるが、大抵は「泳ぐ」だけの魚だ
大きさ、形や種類は違ってもさすがにずっと見るのには堪えられない
象がでかいね、キリンは首が長いね、ライオンは迫力があるね、猿が鳴いてるよ!!という、一一変化のある動物園とは少し違うのだ
心理「・・・そうね」
よって、ラッコのあとは軽く流しながら見るだけだった
もちろん、いくらかは目を引かれるものもあったが
心理「・・・それにしても、まだ正午にもなってないのね」
腕時計をみると、ちょうど11時半
イルカショーは20分間のため、これが終わって外に出る頃にちょうど正午といったところか
垣根「・・・昼飯も考えないとな」
心理「・・・今はイルカショーを楽しみましょうよ」
じっと、イルカの水槽を見つめる
つぶらな瞳のイルカが、まるで自分を見つめているかのように錯覚してしまう
それほど、イルカというのは可愛らしいものだ
ずっと自分を見ていて欲しいと思うほどに
心理「見て・・・トレーナーさんに相当懐いてるわね」
垣根「そりゃそうだろうな」
トレーナーが笛を吹くだけで、ジャンプをしたり宙返りをしたり、立ったまま後ろに泳いだりする
人間なんかよりよっぽど利口なものだ
垣根「・・・あぁいうのを見てるとさ、動物も馬鹿には出来ないよな」
心理「ふふ・・・むしろ、動物のほうが人間よりも純粋よ?」
垣根「そうかもしれねぇ」
エサをもらえるから、トレーナーに褒めてもらえるから
それだけでよくもあそこまで頑張れるものだ、と考えると自然に拍手してしまう
子供に混じって拍手をするのはなんとも照れくさいが
垣根「・・・ほら、お手伝いさん募集してるぜ?」
心理「いいのよ、子供達がこんなにも手を上げてるんだから」
垣根「そうか」
心理「・・・ねぇ、垣根」
垣根「なんだよ」
トレーナーに当てられた子供が嬉しそうにはしゃいでいる
きっと、イルカに間近に近づくのが初めてなのだろう
心理「・・・私達も、あんな時代があったのよね」
そんな純粋な子供たちを見つめながら、なぜか寂しそうに呟く
垣根「・・・あったのかもな、きっと」
心理「覚えてる?そんな昔のこと」
垣根「忘れてるかもな」
心理「・・・そうよね、私も覚えてないもの」
垣根「でもさ、お前と出会ってからのことは覚えてるけど」
心理「それはもう、昔のこととは言えないじゃないの」
垣根「それもそうだな」
心理「・・・ありがと、垣根」
垣根「あ?何がだよ」
心理「ほら、子供達が頑張ってるわよ」
垣根「おぉ、やるじゃねぇか」
心理「・・・ねぇ、垣根」
垣根「なんだ?」
心理「・・・あの子供達みたいな純粋な瞳を・・・私は、もう一度手に入れられるかしら」
垣根「・・・」
イルカに指示を出している子供達
あんなにも純粋な笑顔があるのか、と驚くほどに幸せそうな顔をしている
長い人生を歩んで、穢れを知ってしまってはあんな表情はできないだろう
垣根「・・・何言ってるんだよ」
それでも、垣根は応える
別に純粋な瞳なんかじゃなくても構わないから
そこに自分が映っているなら、それでいいのだから
垣根「俺は、お前の瞳が好きだ」
垣根「・・・綺麗だからな、世界のどんな宝石を集めた輝きにも勝ってる」
心理「・・・そう?」
垣根「あぁ・・・」
垣根「・・・だってさ、俺が虜になってるんだからよ」
心理「あなたって・・・ホント、素敵よね」
イルカのショーから目を放し、隣にいる垣根を見つめる
横顔を見る限り、彼は今の言葉を聞いていたようだ
目の前にある頬は真っ赤に染まっている
それがなぜか愛おしい
心理「垣根」
垣根「なんだよ」
心理「私を見て」
そんな言葉を今まで何度口にしただろう
しかし何度口にしても、彼女の愛情が満ちることはなかった
むしろ更に垣根を欲してしまう
垣根「・・・イルカショー、見てるんだよ」
心理「ごめんなさい、でも私だけを見ていて欲しかったの」
垣根「・・・仕方ねぇな」
心理定規と視線がぶつかった瞬間、垣根の思考が停止する
彼女の幸せそうな笑顔にクラリと理性が揺れる
イルカショーを見られたのが嬉しかったのか
違う、垣根と二人でいられることが嬉しいのだ
垣根「・・・そんなに楽しいのかよ」
心理「あら、当たり前じゃない」
垣根「・・・お前はホント、気楽だな」
心理「気楽?どうしてそうなるのよ」
垣根「・・・こんな時間をただ純粋に幸せだと感じている」
心理「幸せ以外の何なのかしら」
垣根「・・・幸せだな」
少し考えてから垣根が苦笑する
闇の中から這い上がった彼に、もうそんな難しく考える必要はない
幸せな日常は、ただの幸せなのだ
心理「・・・あなたの幸せが壊れそうになったら、私が守ってあげるから」
垣根「お前には力がねぇだろ」
心理「力なんて無くても守れるわよ」
垣根「・・・そうかい」
ふん、鼻を鳴らす垣根
嬉しそうに見えるのは決して気のせいではないだろう
心理「・・・垣根、ありがとう」
垣根「・・・どういたしまして」
何に対しての感謝なのか
考える必要があるだろうか
こんなに同じ気持ちを抱えているのに
心理「あら、ショーが終わったわよ」
いつの間にか、トレーナーがイルカを一カ所に集めていた
すぐに餌をもらったイルカが満足そうにして水の中へ戻っていく
垣根「もったいねぇ・・・しっかり見とけばよかったな」
心理「いいんじゃない?こういうのも私達らしくて」
垣根「そういうもんか?」
心理「・・・ほら、帰りましょう」
垣根「あぁ」
体を起こしてから垣根が首を鳴らす
垣根「・・・すまなかったな、最後の最後にちょっと無駄しちまった」
心理「あら、素敵な無駄じゃない」
垣根「・・・これからどうする?昼飯はいつものレストラン・・・」
心理「言ったでしょ、普段とは違うデートがしたいのよ」
垣根「・・・じゃあどこにするんだよ」
心理「ハンバーガーとかどうかしら」
垣根「・・・お前がハンバーガー食べるのか?」
似合わない、と垣根が感想を抱く
だがそんなイメージはあくまで周りが勝手に作り上げたものだ
心理定規だってそういうのを食べることもあるのかもしれない
垣根「とにかく、出ようか」
心理「えぇ」
垣根が先導する形で水族館の外に出る
垣根「うっわ、寒い・・・」
水族館の中にいたから忘れていたが、まだ外は寒さの残る気温なのだ
あれでも、しっかりと暖かい空調になっていたんだな、と感心してしまう
それを感じなかったのは海の生き物に囲まれていたからか
心理「・・・寒いわね」
垣根「手、繋いでいいぞ」
心理「ありがとう」
ぎゅっと垣根の手が握られる
人の温もりとは不思議なもので、簡単には消えることは無い
たとえ手が冷えていても、なぜか温もりを感じることもある
精神的なものなのだろう、と感心しながらも道を歩く
垣根「・・・なぁ、本当にハンバーガーでいいのか?」
心理「それは、私が怒り出しそうなのを心配して?」
垣根「お前ってジャンクフードとか得意だっけ?」
心理「苦手かどうかわからないわ、あんまり食べないから」
垣根「・・・これで苦手だったら、俺が食べることになるんだろうな」
心理「あら、ずいぶんと並んでるわね」
大手チェーン店のハンバーガーショップ
その店舗の前で、心理定規は外に貼られているメニューをじっと見つめていた
春だからなのだろうか、「桜バーガー」なんてのが売り出されているようだ
どうせ材料に桜海老でも使われているのだろう
そんな分析をしてから、桜バーガーは候補から除外する
垣根「・・・そうだな、俺はテリヤキバーガーでいいかな」
心理「あら、一つでいいの?」
垣根「お前がハズレを引いた場合のためだよ・・・」
心理「いいのよ、自分の食べたいものを食べなさい」
垣根「・・・テリヤキバーガーとチーズバーガーでいいかな」
心理「なんだか適当な選び方ね」
垣根「ジャンクフードだろ?んなもんどれ選んでも同じだろ」
心理「そんなことないわよ、ちゃんと味付けも・・・」
垣根「こんなもん、冷凍食品とフリーズドライのオンパレードだろ」
心理「・・・そういう裏事情は言わないで欲しいわね」
垣根「そりゃすまなかったな」
心理「・・・私は普通のハンバーガーと・・・」
垣根「・・・二つ頼むのか」
心理「・・・これ、何?」
垣根「あぁ、こりゃサラダだよ」
心理「サラダってプラスチック容器に入ってるもの?」
垣根「・・・スーパーとかでよく見るだろ」
心理「そうだけど・・・普通、皿に乗っているものじゃないの?」
垣根「ジャンクフードだって」
心理「・・・美味しいのかしら」
垣根「だから、どうせ冷凍保存した食材でも使ってるんじゃねぇの?」
心理「・・・安いものを提供するにはそれしかないのよ」
垣根「・・・あんまりそういうのって健康によくなさそうだよな」
心理「・・・ねぇ、お願いだからそんなつまらないことを言わないで」
垣根「最近の学生が太ってるのはそういう理由か?」
心理「・・・はぁ、とりあえず頼みましょう」
垣根「あぁ」
列に並び、前の学生たちを見つめる
どうやら大学の昼休みの間に買いに来ているようだ
垣根「・・・なんでわざわざ昼飯にこんなもん食うんだろうな」
心理「いつも食べるわけじゃないんじゃ・・・」
そこまで言って、心理定規が口をつぐむ
学生の一人が携帯クーポンをかざしているのが見えたからだ
心理「・・・前言撤回するわ、やっぱりかなりの頻度で利用しているようね」
垣根「・・・はぁ、俺だって普段はこんな店なんて来ないぞ」
心理「・・・私も来ないわよ」
垣根「あぁ寒いな寒いな」
ポケットに手を突っ込んだ垣根が息を吐く
まだ白くなる辺り、春は先なんだろうと考える
心理「・・・ほら、私達の番よ」
垣根「あぁ、わかってる」
アルバイトの女性は垣根の顔を見て少し不思議そうにしている
彼はわりと有名人で、こんな店に来るような人間でないということも知られている
垣根「・・・たまに食いたくなるときがあるんだよ、お嬢さん」
「は、はい」
垣根「こいつとこいつとこいつとこいつ、一つずつ」
わざわざ商品名を口にするのも面倒だ
メニュー表を指差して適当に注文する
「お待たせいたしました」
少ししてから、商品が渡される
ビニール袋の派手なデザインがなんとも鬱陶しい
心理「ありがとう、寒いけど頑張ってね」
「あ、ありがとうございます!!」
社交辞令ともとれるような挨拶をしてから、二人が背を向けて歩き出す
垣根「・・・公園でハンバーガー頬張るなんて、俺たちのキャラじゃねぇぞ・・・」
心理「あら、あなたはいっつもこんな感じじゃないの」
垣根「・・・いっつも、か」
心理「ほら、テリヤキバーガーとチーズバーガー、あなたのよ」
垣根「・・・うっわ、見ろよこれ・・・包装紙にまで汁がベットリついてやがる」
心理「相当濃い味みたいね」
垣根「ジャンクフードだからな」
心理「あら、私のはそうでもないわね・・・」
垣根「・・・サラダもそれだけで200円か」
心理「いいじゃない、お金なんて腐るほどあるんだから」
垣根「・・・じゃあ、いただきます」
心理「いただきます」
丁寧に手を合わせてからハンバーガーを頬張る
テリヤキのタレが少し邪魔臭いが、なんとか我慢する
垣根「・・・もう少し髪が長かったら、俺は苦戦してただろうな」
心理「ちょっと、ほっぺたについてるわよ」
垣根「あぁ?どこだよ」
心理「こっち向いて」
心理定規がハンカチで垣根の頬を拭く
なんだか母親みたいだな、と思いながらも垣根が礼を言う
心理「・・・あなたも、たまに子供っぽいところがあるわね」
垣根「それもまた魅力だろ」
心理「・・・そうだけど」
垣根「ならいいじゃねぇか」
心理「・・・それにしても、こんな平凡なデートは初めてね」
垣根「お前のためにいつも肩肘張ってたからな」
心理「気遣いなんていらないのに」
垣根「・・・でもさ、オシャレなデートにしたいじゃねぇか」
心理「それはわかるけど・・・でも、デートで肩肘張ってどうするのよ」
垣根「仕方ないだろ」
心理「・・・ほら、もう少し気楽にいきなさい」
垣根「・・・お前、ほっぺについてるぞ」
心理「あら、どこ・・・?」
垣根が心理定規の頬を指差す
垣根「取ってやるからハンカチ貸せよ」
心理「・・・えぇ」
少し顔を赤くした心理定規がハンカチを渡す
垣根(・・・なんだよ、こんな平凡なデートなのにな)
心理定規の頬を拭いてから、なぜか垣根は彼女に笑い掛けてしまった
垣根(・・・それなのに、こんなに幸せなもんなんだな)
垣根「・・・はぁ、たまにはジャンクフードも悪くはないな」
心理「でしょ?私の選択も間違ってはいなかったわ」
垣根「・・・でもさ、やっぱり俺はレストランのほうがいいな」
心理「私もそう思うわ・・・さすがに毎回これを食べてたら太りそう」
サラダの残り一口を食べた心理定規が顔をしかめる
ちょうどレタスの苦い部分が当たったようだ
心理「・・・それに、少し味付けが合わないわ」
垣根「だから言ったじゃねぇか」
心理「マンネリを回避するためにしか使えなさそうね」
普通は、マンネリを回避するには高いレストランに行く
普段はジャンクフードのほうが当たり前だ
だが二人は金持ちなため、そんなことは分からない
垣根「・・・で?これからは」
心理「・・・予定がないまま出てきたから・・・困るわよね」
垣根「・・・ゲーセンじゃなかったか、行きたいの」
心理「でもデートで行くような場所じゃないんでしょ?」
垣根「お前が行きたいなら構わないさ」
ハンバーガーの袋を公園のごみ箱に捨て、垣根が水道で手を洗う
染み付いたタレの匂いは風呂に入らないととれそうにないが
心理「それじゃ、お願いしていいかしら」
垣根と同じように手を洗いながら、心理定規が呟く
特に行きたい場所が無いのだから、どこに行っても大差ない
垣根「・・・たしか、この近くにあったはずだ」
心理「よく知ってるわね」
垣根「・・・ちょっとな」
美琴がよく荒らしているゲーセンなのだそう
しかし、デート中に他の女性の名前を出すとまたくだらない喧嘩が始まりそうだ
それだけはなんとしても避けたかった
垣根「ちょうどいい公園に来たってわけだ」
心理「なら行きましょう、結構楽しみなのよ」
垣根「ゲーセン、初めてじゃないだろ」
心理「でもあまり行かないから」
垣根「・・・そっか」
ゲーセンに行かないとは中々珍しい、と思われるだろう
心理定規は中学生の年齢だ
むしろ毎日ゲーセンに行ってます、と言われたほうが自然でもある
そんな彼女がそういった平凡な日常を暮らせていなかったのは悲劇と言うべきだろう
垣根「・・・だったら」
心理「?何か言った?」
垣根「なんでもねぇ、行くぞ」
ぐい、と強引に心理定規の手を引っ張る
垣根(・・・俺達のせいで無くなった日常なら、俺が送らせてやる)
垣根(・・・無くしてしまった時間以上の幸せな日常を)
ゲーセンというのはどうしてこうもうるさいのだろうか
こんな時に一方通行のような能力だったら便利だろう、と垣根が眉をひそめる
もちろん、垣根にも騒音に対抗する方法はある
音波が通常の物理法則に従わないよう、未元物質を精製すればいい
彼は決して、二次的な現象を操ることは出来ない
「翼」を作ったら、偶然そこを通った「光」が殺人光線になることから分かる
しかし、逆を言えば一度経験したなら、どういう物質を生み出せばどういう二次的現象が起きるか分かるのだ
ちなみに音波を阻害したいならば空気中に細かい未元物質の粒子を撒き散らせばいい
とは言っても、その粒子の種類は限られているが
心理「・・・なに難しい顔してるのよ」
垣根「あぁ、悪い」
そんなことはどうでもよかった
とにかく、二人は今からそのうるさいゲーセンで遊ばなければならない
義務ではないのだが、せっかく来たなら楽しんで帰らなければ損なのだから
垣根「で、お前はまず何をして遊びたいんだよ」
心理「・・・クレーンゲームとかどうかしら」
垣根「・・・あれ、金の無駄遣いもいいとこだぜ」
ゲーセンには様々なゲームがある
レーシングゲーム、シューティングゲーム、音ゲーやエアホッケー
それらで遊ぶなら文句は無い
金を払えば、必ず楽しめるから
だがクレーンゲームだけはそうではない
中にある商品だって、上手くやれば他で買うことが出来る
金を払って取れなかったらイライラが募るだけだ
しかも、クレーンの操作をする時間なんて1分も掛からない
その間に楽しみを見つけるのは、さすがに垣根には不可能だ
だからこそ、たまにテレビでやっているクレーンゲームの達人には感心するし呆れてもしまう
垣根「・・・なぁ、なんでクレーンゲームなんだよ」
心理「あなたはクレーンゲームに嫌な思い出でもあるの?」
垣根「いや・・・無いけどさ」
心理「ならいいじゃない、大体ゲーセンに来た時点でお金の無駄遣いなんだから」
つまらない現実を突き付けてから、心理定規がどのクレーンゲームにしようか吟味を始める
中の商品は実に様々だ
マスコットのぬいぐるみ、何かのアニメのフィギュア、安物の香水やバッグ、ラジコン
さらに小型の物にはお菓子を取るものもある
衛生的には大丈夫なのだろうか、と気になって仕方がない
心理「あ、これとかどうかしら」
垣根「あぁ?・・・なんでゲコ太なんだよ」
心理「美琴が大好きじゃない」
垣根「俺はあのファンシーお嬢様じゃねぇんだ」
心理「じゃあ私にラジコンでも取れって言うの?」
垣根「・・・」
想像してみる
ゲコ太のぬいぐるみを抱き抱え、少し寒そうにソファーに座るパジャマ姿の心理定規を
中々いいのではないか
保護欲と性欲を同時に掻き立てられそうだな、と垣根は心の中で生唾を飲む
一方、ラジコンを取ったら
家の中にある本や雑誌、箱なんかでコースを作ってラジコンを走らせる心理定規
それはそれで何か可愛さもあるが、決して見たいものではない
普段の心理定規を知っている垣根ならばなおさら
垣根「・・・でもさ、ゲコ太ってなんか・・・可愛くないよな」
心理「あら、私は結構可愛いと思うけど」
垣根「・・・」
クレーンゲームの中でにっこり微笑んでいるゲコ太を見る
こんなのが、真っ暗な夜道に向こうから歩いて来たらどうだろうか
きっと背中から翼を生やして瞬く間に逃げるはずだ
しかしカエルということもあり、恐らくこの未確認生命体はジャンプが出来るはずだ
そうなるとかなり上空に逃げなければ・・・
心理「始めるわよ」
垣根「・・・俺、なんか最近おかしいかもしれない」
心理「あなたは元からボケだったじゃないの」
垣根「・・・根はただのイケメンだと思ってたのにな」
心理「はいはい・・・で?これってどうやって操作するのよ」
垣根「そのボタンでまずは横の位置を合わせる」
心理「あら、こうやって動かすのね」
垣根「・・・なんで押しっぱなしなんだ」
心理「?」
心理定規は未だにボタンから手を放していない
つまり、クレーンは一番端っこでガシャンガシャン音を鳴らしているのだ
擬人化するなら「これ以上はいけないよぉ//」なんて言ってそうな状況
垣根「・・・手を放さないとそいつは止まらないんだ」
心理「あら・・・そうなの」
垣根「おかしいな・・・お前、そんな常識も無かったっけ」
心理「学園都市製だから、心の中で念じれば止まるのかと思ってたわよ」
垣根「んなわけねぇだろ・・・」
心理「とりあえず、続きもやるわよ」
垣根「今度は奥行きを合わせるボタンだ」
心理「・・・こういうことね」
上手くアームを動かすが、さすがに端っこのラインには何もない
垣根「で、最後に高さの調節だ」
心理「あら、わざわざ高さも調節するのね」
垣根「箱に入った商品は下までアームを持っていったほうがいいらしいな」
心理「・・・へぇ」
垣根「でもゲコ太のぬいぐるみみたいに紐が頭の上から出てるヤツは、そこにアームを引っ掛けたほうがいいんだよ」
心理「難しいわね・・・」
一度目のアームは空振りだった
それは仕方ないだろう
練習だったと割り切り、二回目に挑戦する
心理「・・・ここかしら」
垣根「ちょっとずれてる気もするな」
心理「奥行きは・・・横から見ればいいのよね」
垣根「分かってるじゃないか」
心理「・・・高さは、紐を狙ったほうがいいかしら」
垣根「ぬいぐるみは箱と違って安定しないからな、そっちのほうがいいと思うぜ」
心理「・・・ここ」
心理定規がアームの位置を決定する
降りていったアームは、ゲコ太ぬいぐるみの紐に引っ掛かった
だがあと一歩で落ちる、というところでその紐からアームがすり抜けた
心理「あら・・・」
垣根「・・・もうちょいだな、次やったら取れると思うけど・・・」
心理「やるわよ、取るに決まってるじゃない」
垣根「・・・お前って意外と負けず嫌いなんだな」
心理「・・・」
集中しているのだろう、垣根の言葉に返事をせずにゲームを再開する
今度は完璧な位置にアームが降りた
もちろん、目当てだったゲコ太ぬいぐるみも手に入る
垣根「やったじゃねぇか」
心理「・・・取れたわね」
垣根「初めてにしてはかなり上手だったな」
心理「初めてってわけじゃないのよ・・・ただ、あんまり慣れてないだけ」
垣根「へぇ」
心理「・・・はい」
垣根「は?」
心理定規がゲコ太のぬいぐるみを垣根に差し出す
持っていてくれ、という意味なのだろうか
垣根「なぁ、俺は荷物持ちじゃ・・・」
心理「違うわよ、これはあなたの分」
垣根「・・・は?」
心理「今度はあなたが私の分を取ってちょうだい」
垣根「いや・・・俺、こんなぬいぐるみ貰っても嬉しくないんだけど」
心理「・・・私からのプレゼントも嬉しくないのかしら」
垣根「・・・それは嬉しいけどさ」
心理「だったらいいじゃない、交換しましょうよ」
垣根「はぁ・・・分かったよ、待ってろ」
垣根が一回分の金を入れる
角度と位置を確認してから、すぐさま完璧な位置を弾き出す
科学側の人間はこういったことが出来るから便利だ
魔術側は日常にあまり知識を活かせないようで、大変とも聞く
垣根「・・・ほれ、取れたぞ」
心理「・・・あなた、テレビ番組にでも出られるんじゃない」
垣根「俺はあそこまでクレーンゲームに誇りは持てない」
心理「・・・もしかして、かなり練習した時期があったとか?」
垣根「こんなもん、ちょっとした計算・・・ってお前は心理操作系だったな」
心理「あなたみたいな天才と一緒にされたら流石に堪らないわよ」
垣根「それは悪かったな・・・ほら、ゲコ太」
心理「・・・そっちのゲコ太にはシルクハットが付いてるわね」
垣根「デザイン違いなんだろ」
心理「お揃いじゃないのは少し残念ね」
垣根「でも違ったほうが面白みもあるからな」
心理「・・・そうね」
垣根「じゃあ次は・・・パンチングマシンでもやってみるか」
心理「たしか、能力の強さでスコアが決まるのよね」
垣根「あぁ、そうだ」
心理「・・・私がやったら一番になっちゃうんじゃない?」
垣根「お前ってLEVEL4くらいだもんな」
心理「そこら辺の能力者には負けないわよ」
自信に満ち溢れた会話をしながら、心理定規がパンチングマシンの前に立つ
だがすぐに愕然とした
横に貼られているハイスコア表
そこにある、一位の名前は「御坂美琴」
超能力者、その中でも三番目の人間
そして彼女の親友でもある女子中学生の名前
心理「・・・あの子、こういうの好きそうですものね」
垣根「・・・すげぇな、上から10個全部御坂の名前じゃねぇか」
心理「はぁ・・・さすがにモチベーションが下がったわ」
垣根「・・・前人未踏の記録なんだろうな、この記録を破れたらあなたは今日からヒーローだ!だってよ」
心理「・・・あなた、やってみたら?」
垣根「おいおい・・・そりゃ御坂に悪いだろ」
心理「いいじゃない、あの子もまた一つ楽しみが増えるわよ」
垣根「・・・俺の記録を破る楽しみ、か」
しばし考えてから垣根が金を入れる
スコア表全てを自分の名前で埋め尽くすことも出来る
だが流石にそれは大人気ない
垣根「・・・これって能力発動しながらのほうがいいのかな」
心理「さぁ・・・そうしてみたら?」
垣根「・・・」
翼を出すのはまずいため、かなりセーブして能力を発動する
恐らく一方通行と垣根のような、かなり上位の能力者でなければ感知出来ないほどの微妙な変化
しかしその本質に気づけば、絶望してしまうほどの圧倒的な能力
垣根(・・・だがまぁ、そんな能力でも一方通行には敵わないんだよな)
少し胸糞が悪くなる
自分と一方通行ならば、正面からぶつかって敗北するのは自分なのだ
能力の特異性から言えば、むしろ自分のほうが上なのに
垣根「・・・ちっ、ちょっとムカついた」
勢いよく拳を振るなんて必要はない
このパンチングマシンは能力の強さを簡単に測れる物なのだ
だからこそ女子中学生である美琴が上位全てを独り占め出来る
適当に壁を殴る感覚で、垣根がマシンを殴った
表示されたのは当然、ハイスコア
それも美琴の記録さえ霞むほどの記録だった
周りの客や店員は口をぽかんと開けている
無理もない、目の前の少し柄の悪い青年があの「超電磁砲」の記録を破ったのだから
だが垣根の顔を見た人間は全員、納得したような表情を浮かべた
「あぁ、垣根なのか」と
心理「おめでとう・・・でも美琴が少し可哀相になるわね」
垣根「破られない記録なら、あいつはいつまでも挑戦するさ」
ヒラヒラと手を振りながら、垣根が別のマシンに移動する
垣根「・・・な、なんだこりゃ」
学園都市にもこういうものがあったのか、と我が目を疑いたくなる
血液型と生年月日を入力すれば、相手との相性がどうか分かる
いわば占いのような物
垣根「・・・」
心理「あら・・・こんな非科学的な物もあるのね」
垣根「きっと心理学とか生物学の知識が満載なんだろうな」
冷静に考えればそんな気がする
4月生まれはしっかりしていて、3月生まれは甘えん坊
そんな迷信じみたことを真面目に研究している学者もいると聞く
心理「・・・でも運命的な物なら、むしろ非科学的なほうが素敵よね」
垣根「運命と宿命は違うんだよ」
心理「それで?これの前で立ち止まったっていうことは、多少なりとも興味があるのよね?」
垣根「・・・そりゃ恋人との相性が分かるって言われたらな」
心理「・・・なんだかんだ、気になっちゃうわよね」
垣根「・・・やってみるか?」
心理「でも、生年月日知ってるの?」
垣根「・・・」
心理「私、昔の戸籍なんて覚えてないわよ?それにこっちにはそもそも正式な戸籍も無いし」
垣根「俺も・・・そういえば無いんだよな」
心理「それじゃこれは出来ないわね」
少し残念そうにしながら、二人がシューティングゲームの前に移動する
垣根「・・・銃の扱いならお前のほうが慣れてるよな」
心理「本物ではないけれどね」
垣根「・・・はぁ、やってみるか」
心理「・・・引き金を引くのとリロードだけの簡単な操作ね」
垣根「そんくらいシンプルなほうがこっちとしてはありがたいな」
座席について、何か特殊なゴーグルを付ける
ゴーグル、というと彼を思い出しそうになるが頭を振って無理矢理思考から追い出す
今は二人だけのデートなのだ、関係ない人間のことは考えたくない
垣根「・・・これ、3Dなんだな」
心理「中々迫力があっていいんじゃない?」
ゴーグルを掛けた心理定規が微笑む
なぜかそれがかなり似合っていた
垣根「・・・で?どういうルールか分かるか?」
心理「敵を撃つんじゃないみたいね」
垣根「・・・あぁ、飛行機のパイロットな設定なんだな」
心理「今から不時着をする、しかし障害物となる建物が多数・・・」
垣根「銃でそれらを破壊して、安全な滑走路を確保しろ」
心理「・・・ねぇ、シューティングゲームってプレイヤーは大抵正義なはずよね」
垣根「・・・ただの破壊行動じゃねぇかよ」
心理「・・・まぁ、ゾンビが現れたなんていうよりはよっぽど現実味があるけど」
垣根「こんなゲームに現実味なんて必要ないのにな」
心理「・・・ほら、文句言ってる暇があるなら集中しなさい」
既にゲームは始まっている
すごいスピードで景色が流れる映像が目に入る
垣根「・・・これ、苦手なヤツは絶対に酔うよな」
心理「そうね・・・映画とかの演出でたまにあるけど、なんだか背中が寒くなる時もあるわ」
そんな会話をしながら、的確に建物を破壊していく
ゴジラはこういう気分で建物を破壊していたはすだ
邪魔だから薙ぎ倒す、至極簡単な理由から
垣根「・・・てかさ、普通不時着には建物のない平地を選ぶよな」
心理「ゲームにそんな常識は通用しないのよ」
垣根「・・・それは俺に当てつけで言ってるのか」
心理「あら、そんなわけないじゃないの」
垣根「・・・あ、しくじった」
心理「ちょっと、あなたが失敗したら私にまで被害が来るのよ」
垣根「・・・協力プレイは仲間のミスを、もう一人が取り戻すもんなんだぜ」
心理「言い訳してないで、自分のミスは自分で取り返してちょうだい」
垣根「分かったよ」
出来る限り、ゲーム画面に集中する
何を真面目にゲームしているのだろうか
そんな当たり前の疑問が浮かぶが、それがしたいからゲーセンに来たのだ
だったら、真剣にゲームをしなければならない
垣根「・・・ちっ、中々難しいじゃねぇか、これ」
心理「ふふ・・・ガンシューティングだけならあなたに負けない自信があるのよ」
垣根「・・・」
垣根がその言葉に眉をひそめる
負けず嫌いというわけではないが、そういう挑発的な態度をされるのは好きでない
よって、彼が今するべきことはただ一つ
これから先、ノーミスでクリアすること
垣根「はっ・・・やってやるよ」
心理(・・・よかった、楽しめてるみたいじゃない)
垣根「心理定規、てめぇこそミスしてんじゃねぇぞ」
心理「安心して、こういうのは慣れてるんだから」
垣根「上等だ!」
二人が真剣な顔つきでゲームに没頭する
まさか、心理定規が彼のことを心配していたなんてことには気が付かない
垣根「はぁ・・・結局、お前はノーミスでクリアか」
心理「あなたもあの一回だけだったじゃない」
垣根「・・・お前、本当にあのゲーム、初めてだったんだろうな?」
心理「言ってるでしょ」
垣根「・・・なんか納得いかねぇ、上手すぎる」
心理「慣れてるの、ああいうのに」
垣根「あぁそう・・・次はどれがしたい?」
心理「・・・これ」
心理定規が指差したのは、有名な太鼓を使った某ゲームだ
垣根「・・・いいけど、やり方知ってるか?」
心理「これは割と有名でしょ?クレーンゲームと違って全部やり方も同じだし」
垣根「じゃあやってみるか」
バチを持って、二人が太鼓の前に構える
例の真っ赤な顔と青ざめた顔のマスコットキャラクターが出てくる
「曲を選択しろよ」みたいなことを言ってくるため、何にするか考える
どうやら二曲遊べるらしい
まさかいい点数を取ったらもう一曲遊べたりしないよな、と垣根が考える
心理「何にする?私はもう決めたけど」
垣根「・・・アップテンポなほうがやりやすいよな?」
心理「まぁ、一般的にはそうなんじゃないのかしら」
垣根「ならそれでいいか」
垣根が選んだのは「ONLY MY RAILGUN」
心理定規が選んだのは「サウダージ」
垣根「・・・それ、アップテンポなのかよ」
心理「・・・あなたのその選曲、私に喧嘩売ってるのかしら」
垣根「別に御坂が大好きなわけじゃねぇよ」
心理「また美琴の名前出してるわね」
垣根「はぁ・・・ほら、始まるから画面見ろよ」
心理「・・・分かったわよ」
バチを構える二人
中々シュールな光景なのだが、残念なことにそれを披露したい友達は周りにいなかった
垣根「・・・嘘だ、俺が失敗しまくるなんて嘘だ」
心理「・・・あなたってリズム感はあるはずよね」
垣根「・・・違う、ドンとカッを逆にしてやってた」
心理「あなた、やり方知らないんじゃない」
垣根「・・・つい」
心理「・・・まぁいいわ、どうせ一曲出来たところで大して変わりはないんだから」
ふん、と息を吐いてから心理定規がある一角を見つめる
そろそろ時間も遅くなってきた
やってきたのは13時だったのに、様々なゲームをしているうちに4時間も経っていたのだ
となると、最後にカップルでするものは
垣根「・・・プリクラか」
心理「ベタだけど、それがいいじゃない」
どうしてプリクラのボックスはこうも狭いのか、と垣根はいつも疑問に思っていた
男女の仲ならいいが、ただの友人だったり、同性が相手だと困ってしまう
何しろ必然的に顔が近づいてしまうのだから
小さな画面に全員の顔を写すためには仕方ないのだろうが、そこはもう少し配慮してほしい
と、本当にいつも疑問を抱いていたのだが
垣根(今は・・・悪くないかもな)
近づいている心理定規の顔を確認して、少し頬を緩めてしまう
必然的に距離が近づいている、と言い訳だって出来てしまう
心理「・・・ねぇ、こうやって近づいてると緊張するわよね」
垣根「そうか?付き合ってるんだから当たり前じゃねぇの?」
心理「・・・プリクラって、撮ったことほとんどないもの」
垣根「俺もほとんどない」
心理「あなたは撮ってそうなルックスだけど」
垣根「ルックスで中身まで決めるなよ・・・っていうかそれはこっちの台詞だ」
心理「ふふ・・・いいんじゃない?意外と初心なカップルも」
垣根「・・・なんか嫌な言い方だな」
心理「ほら、しっかり笑いなさい」
垣根「・・・作り笑いは苦手なんだよ」
心理「私といる時の自然な笑顔で構わないのよ?」
垣根「お前といる時、ね」
垣根がふと考える
いつもの自分というのはどんな表情をしていただろうか
しかめっつら、無表情、笑顔、泣き顔
そんな喜怒哀楽を浮かべられるのは、心理定規がいたからなのかもしれない
垣根「・・・なぁ」
心理「なに?」
垣根「・・・俺に喜怒哀楽をくれたのはお前なのかな」
心理「・・・どういうこと?」
垣根「お前と付き合ってから、自分の気持ちに素直になることが多くなったんだ」
撮影時間が近づいてくるが、それでも垣根は続けた
垣根「・・・怒りたい時に怒って、笑い時に笑って・・・自分の心に嘘つかないで、素直に表現出来ることが」
デートの最中もそうだった
恥ずかしければ顔が赤くなる
緊張すれば手が震える
そんな当たり前の反応、昔の垣根にはなかった
いつも何かを背負い、地面を這いずり回っていた彼には
垣根「だからさ、お前のおかけで・・・俺はこうやって人間らしくいられるんだ」
心理「・・・あなたは、私と出会った時からずっと人間らしかったわよ」
垣根「そこにも結局お前がいたんだ」
心理「・・・子供の頃から、素直だった可能性は?」
垣根「素直だったら・・・あんな人生は歩まなかったさ」
心理「・・・」
垣根「だがお前に会って素直になれたから・・・また正しい道を歩くことが出来てる」
プリクラの機械というのは便利だ
多少の表情なら変化させることが出来る
笑顔にすることや、困惑したような表情にすること
そんなことまで出来てしまう
人間の表情とは安っぽいものだ
無理矢理作ることが出来るし、それを疑ってしまうこともある
だがかつての垣根には表情さえ無かった
ずっと同じような表情をしていた
垣根「・・・俺は無理矢理笑顔を浮かべないし、無理矢理嫌な表情を作ることもしない」
垣根が心理定規の目を見つめる
そこに映った自分の表情
それが紛れもない「笑顔」だったことが、なぜだか無性に嬉しかった
そんな笑顔をくれたのは
彼に表情をくれたのは
垣根「・・・俺が幸せでいられるのは」
心理「・・・!」
心理定規の背中に、優しく腕が回される
突然のことに顔が赤くなってしまう
そのまま、垣根に唇を奪われた
撮影音が鳴った
しかしそれは高鳴っている鼓動に掻き消されてしまう
垣根「・・・お前なんだ、心理定規」
ぎゅっと抱きしめながら、垣根が心理定規に語り描ける
垣根「だからさ・・・だからさ」
垣根「・・・俺の傍にいてくれよ、ずっと」
デートが終わるのはなぜか寂しいものだ
それが永遠の別れでないことは誰にでも分かっている
けれども、それは悲しいのだ
楽しかった幻想的な一日が終わってしまうから
心理「・・・当たり前でしょ」
だったら、次の一日がもっと幻想的なら
その次の日が、さらに素敵な一日なら
心理「私だって、あなたの傍から離れたくないもの」
きっと、人生が幸せになるのではないだろうか
垣根「・・・お前、顔真っ赤になってたんだな」
ゲーセンからの帰り道、プリクラを見つめながら垣根は笑っていた
心理「いきなりされたんだから、当たり前じゃない」
垣根「目も大きくなってるし・・・驚いてたんだな」
心理「・・・まさか、プリクラの中でキスされるなんて・・・」
垣根「いいだろ、わりとどのカップルもしてることだよ」
心理「・・・ねぇ、垣根」
垣根「なんだ」
心理「星が綺麗よ」
垣根「はぁ?星?」
垣根が空を見上げる
だがまだ時刻は17時半
冬ならまだしも、今はそろそろ春になろうかという季節なのだ
さすがにまだ星は浮かんでいない
垣根「・・・」
どこかに星があったのか、と垣根がしばらく空を見つめていると
何か柔らかいものが自分の頬に当たった
ビックリして心理定規の顔を見る
真っ赤になっていた
プリクラに映っているのと同じくらい真っ赤に
夕日が沈みかけている
垣根の横顔もそれに照らされて赤くなっていた
でも、もしも今が真昼だったとしても
彼の横顔は赤かったはずだ
心理「帰りましょう、垣根」
垣根「・・・あぁ」
自然と手を繋ぐ二人
長く伸びた影は、やがて夜の闇に飲み込まれた
だがそこを歩く二人は、決して紛れることのない輝きを持っている
心理「ね、星が綺麗だったと思わない?」
垣根「・・・あぁ、とびっきり綺麗な星だったな」
彼女なりの照れ隠し
それが可愛くて、つい垣根は声を出して笑ってしまう
心理「?何よ」
垣根「あぁいや・・・なんでもないんだ、気にするなよな」
心理「・・・」
垣根「・・・もしもあれが星だったならさ」
心理「?」
垣根「・・・だったらどうして、こんなに強く輝けるんだろうな」
デート編おしまい
これから筋トレですので少々お待ちを
胸とか背中の日はテンションが上がる
一方通行の能力名は、そのまま「一方通行」
ベクトル変換はあくまで付加的な能力であり、その本質は事象の解析や逆算である
しかし、日常生活ではどちらかといえばサブである「ベクトル変換」を重視している
今はチョーカーがなければ能力さえまともに使えないが、大した苦労はしていない
ベクトル変換、そして彼の能力の素晴らしかった点は「自動制御」だと言える
生活する上で必要ある物以外のベクトルを、全てデフォで「反射」に設定していた
皮肉なことに、それらは物理現象には有効だが「憎しみ」や「嫉妬」など、心理的なものには通用しない
当たり前のことだが、そのようなものには一定の「法則」なんてものが存在せず、それを操ることなど出来るわけがなかった
もちろん、心理操作系の能力であれば別だろうが
つまり、彼の能力は「危害」を反射することは出来ても彼に向けられる「敵意」を反射することは出来なかった
学園都市最強
それはつまり、様々なスキルアウトや興味半分のチンピラにとっては格好の標的だった
芸能人を蹴って、それを自慢話にするのと同じだ
しかしそれとの決定的な違いは、成功するか否かだった
一方通行の能力は全てを反射するのだから、決して自分に危害が加わることは無かった
そんな生活を繰り返して、彼は誰からも手を差し伸べられることなく闇へと堕ちていった
いや、誰かは手を差し伸べようとしたのかもしれない
しかしその「救いの手」も「彼を呼ぶ声」も
全てを反射してしまっていたのだ
もしも人の感情にさえベクトルが存在していれば
彼は、自分に対する全ての感情を反射していただろう
もちろん、感情にベクトルは存在しなかった
この世の中が全て同じ人間だったとしても、感情は同じにはならない
ある人物のクローンを作ったところで、生活態度や暮らす環境によって、結局は「個性」が生まれる
個性が生まれれば、それに伴った他人と異なる「感情」が生まれる
同じ人間だから、同じ感情ではないのかと思う人もいるだろう
だがそれはあり得ない
一方通行がそう断言できる理由がある
彼は、20000ほどの「同じ人間」を見てきた
そのうちの半分以上は、彼の手で葬ってしまった
10031人の「同じ人間」を殺したが、なぜか彼女達は少しだけだが違う感情を抱いていた
尤も、本当に些細な、普通の人間なら見逃してしまうほどの微々たる違いだったが
それに一方通行が気づいたのは、彼が人の感情というものに一段と敏感だったからだろう
一方(・・・同じ人間でも同じ感情を持ったヤツはいない・・・か)
番外個体と打ち止め
彼の傍で暮らしている二人の「同じ人間」は、全く正反対の性格をしている
あれを見てしまえば、「同じ人間のクローンだったら同じ人間なんでしょ」とは言えなくなってしまうだろう
むしろ「クローンを持つご家庭って大変なんですね」と哀れみさえ覚えるはずだ
一方通行はその二人によく振り回されている
特に、その中でも高校生くらいの見た目をした、目つきの悪い下品なほうに
はァ、と溜め息をついてから目の前にいる少女を見つめる
彼女もまた「同じ人間」とも言えるだろう
ただし、例の二人とは少し違う
中学生ほどの見た目・・・というより、中学生だ
一方通行は彼女を「オリジナル」と呼んでいる
そう、彼女の名前は御坂美琴
例の「同じ人間」の素体である
美琴「・・・ねぇ」
一方「なンだよ、話し掛けンな」
美琴「・・・アンタってめちゃくちゃ無愛想ね」
仕方ねェだろ、と一方通行が顔をしかめる
なんで彼女が目の前にいるのかというと、一方通行は今上条の寮にいるからだ
ちなみに、上条は「補習地獄」真っ最中で、番外個体は病院で調整を受けている
本来なら四人で楽しい団欒を過ごしたかったのだ、偶然にも都合が合わなかったのだ
それでも一方通行はヒマだったため、ついここに来てしまった
狭い部屋だ、と思いながらもそれを顔に出さないように気をつける
どうして美琴がここにいるのか、なんて疑問もどうでもいい
だって半同棲だから
美琴「・・・私、アンタと二人になるとなんとなく緊張するのよ」
一方「・・・なンでだよ」
美琴「なんか・・・こうやって二人でいるのが不思議じゃない」
一方「・・・」
一方通行はそんな話に大して興味は無い
美琴が未だに彼を苦手としているのはなぜか
かつて、自分を巻き込んだあの悲劇に一方通行が関わっていたからか
自分の妹達を、実に10031人も殺害した彼が怖いのか
いや、違うのだ
一方「・・・てめェ、なンで俺といるのがイヤなンだよ」
美琴「・・・だって、私の義理の弟になるじゃない」
一方「・・・あァ・・・」
そうか、と一方通行が納得する
義理の弟が友人で、でも自分よりも年上
なんという複雑な関係だろうか
一方「・・・なァ、オリジナル」
美琴「・・・その呼び方、なんとかしなさいよ」
一方「はァ?てめェはオリジナルだろォが」
美琴「・・・私には御坂美琴ってちゃんとした名前があんのよ、前も言ったでしょ」
一方「・・・」
またこの話か、そう一方通行は呆れた
彼が美琴のことをオリジナル、と呼ぶたびにこの話になる
彼からしたら、当たり前の呼び方なのだ
彼女は妹達の「オリジナル」
その印象が、一番強い
呼び方を変えるなんて、簡単には出来ない
一方「・・・ならなンて呼べばいいンだよ」
美琴「・・・御坂、でもいいし・・・義姉さんでもいいし」
一方「御免だな」
美琴「・・・なんでよ」
一方「理由なンてあるかよ、てめェは一生オリジナルだ」
美琴「・・・」
美琴が無言で一方通行を睨みつける
今は彼のことを恨んではいないし、感謝すらしている
だがその呼び方だけはどうしてもいただけない
美琴「・・・ねぇ、呼び方変えてよ」
一方「・・・いいじゃねェか、オリジナルでよォ」
美琴「・・・そうやっていっつも誤魔化すじゃない」
頬を膨らませるような表情
よく、打ち止めが見せるものだ
やはり姉妹なんだ、と感じさせられる
美琴「・・・なにジロジロ見てんのよ」
一方「・・・お前は打ち止めそっくりだな」
美琴「姉妹なんだから当たり前じゃないの」
一方「・・・そォだな」
美琴「・・・ねぇ、最近打ち止めと番外個体はどう?」
一方「うるせェくらいに元気だ」
美琴「そう・・・あのね、お母さんがヒマが出来たら遊びに来なさいって」
一方「・・・」
母親、父親、家族
そんなものが自分に出来るとは信じられなかった
しかし、現実はそこにある
一方「・・・ありがとよ」
美琴「?何か言った?」
一方「・・・なンでもねェ」
美琴(・・・にしても、会話がないわね)
一方通行と二人きりというのは、一番緊張するし気を遣うシチュエーションだった
会話が全くないのだ、壊滅的に
かといって癒されているから会話がいらない状況なのか、というとそうでもない
ただ単に共通の会話がないのだ
性別は違う、年齢も違う、趣味も違う
服の話なんて出来ないだろうし、ゲコ太の話も興味がなさそうな人間だ
ちなみに、意外と一方通行は女物の服には詳しかったりする
下手をすれば、そこら辺の女子以上の情報量だ
つまり、オシャレに若干疎い美琴よりはよっぽど詳しい
美琴「・・・ねぇ、アンタ何してんの?」
一方「・・・携帯弄ってンのが見えねェのかよ」
美琴「・・・そうじゃなくて、なんで携帯弄ってるのかって話」
一方「携帯は弄るためにあるンだろォが、部屋に飾るためじゃねェ」
美琴「はぁ・・・なんで一々そうやって厭味ったらしく言うわけ?」
一方「てめェにはそンくらいしないと覚えてもらえなさそォなンでな」
美琴「・・・鶏と一緒にしないでよ」
一方「卵産ンで人の役に立つだけ鶏のほォがマシだろ」
美琴「ア・・・アンタ!さすがにそれは失礼でしょ!」
一方「ンなことでマジギレすンな、鬱陶しい」
美琴「う・・・」
あぁ、話し掛けたりするんじゃなかった、と後悔する
会話が無ければ寂しいが、会話をしたら喧嘩になる
結局この男とは反りが合わないのだ
一方「・・・垣根の野郎に連絡してンだよ」
美琴「か、垣根?なんで」
一方「・・・お前と二人きりなンて堪えられねェからな」
美琴「・・・それはこっちの台詞よ」
一方「ほらみろ、お前だって垣根がいたほォがいいンだろ」
美琴「・・・あれ?もしかして気遣ってたの?」
一方「勘違いすンなよ・・・垣根のヤツがヒマだって言うから」
美琴「アンタ・・・ツンデレなんて今日日流行らないわよ」
一方「鏡見ながら言ってみろ」
美琴「それで?なんで垣根はヒマなのかしら」
一方「心理定規が出掛けてるンだと」
美琴「・・・一緒に出掛けてるんじゃないのね」
一方「・・・さすがに化粧品買いに行くだけなンて垣根もイヤなンだろ」
美琴「化粧品・・・心理定規、そんなものわざわざ買いに行くのね」
一方「お前はもうちょっとそォいうのに気使え」
美琴「なんで?私、化粧なんてしないもん」
一方「だから・・・ちっ、もォいい」
美琴「何拗ねてるのよ」
一方「・・・垣根がこっちに来るみてェだ」
美琴「へぇ・・・ま、垣根が来てくれたら話も弾むわよね」
一方「これでてめェみたいな三下と二人きりじゃなくなるな」
美琴「うるさいわよ、ツンデレさん」
一方「てめェのほォがツンデレだろ」
美琴「・・・」
一方「・・・」
火花を散らす視線
どうして仲良く出来ないのか、それとも仲良しだから喧嘩するのか
どちらにしろ、今部屋に険悪な空気が流れているのは事実なのだ
が
垣根「よぉ!邪魔しに来たぜ!」
一人の男の登場によって、いくらかその空気も和んだ
美琴「早かったじゃない」
垣根「速さを極めようぜ」
一方「本当にヒマだったンだな」
垣根「だってさ、学校は休みだし心理定規は出掛けてるし」
美琴「・・・アンタ、他に友達いないの?」
垣根「お前らが一番の親友なんだよ」
キリッ、と垣根が決める
しかし二人はそれを無視して各々の行動に移る
美琴は上条と、一方通行は番外個体と携帯でメールのやり取りをする
そもそも一方通行は何をしに来たんだろうか、と垣根が疑問に思う
垣根「お前らさ、もう少し会話をしようとか努力はしないのかよ」
一方「・・・こンなヤツと共通の会話なンか・・・」
垣根「さっきメールで、オリジナルと何話せばいい?って聞いてきたのはどこのどいつだ」
一方「て、てめェ!」
美琴「あ、なになに?もしかして番外個体とメールしてたんじゃなくて垣根に相談のメールしてたの?」
一方「ウ、ウソついてンじゃねェよ!」
垣根「じゃあ俺の受信ボックスを開示・・・」
一方「おォォォ!」
垣根「冗談だから落ち着け・・・まぁ、そういうことだしわりとこいつはお前と話がしたかったみたいなんだよ」
美琴「なら素直に話し掛けてくればいいのに」
垣根「お前との共通の会話なんてないんだ、仕方ないことさ」
一方「・・・悪いかよ」
美琴「ううん、ちょっと嬉しいわよ」
垣根「さて・・・上条もいない、番外個体も、もちろん心理定規もいない」
美琴「・・・そうね」
垣根「珍しいよな、学園都市の上位三人が集まったんだ」
一方「この三人だけで学園都市の戦力の半分くらいになるンじゃねェのか」
垣根「そうだな、そこら辺の国の軍隊なら潰せるレベルだからな」
美琴「はぁ・・・私がいなくても、アンタ達二人だけで学園都市の戦力の半分以上なんじゃない?」
垣根「そりゃ過大評価すぎねぇか?」
一方「・・・俺の能力は今制限があンだよ、さすがに全盛期には及ばねェ」
垣根「よく言うぜ、むしろ今のほうがやべぇじゃねぇか」
美琴「?何の話よ?」
一方「なンでもねェよ」
垣根「・・・御坂の能力も応用なら完璧なんだけどな」
美琴「超電磁砲もあるけど・・・でもアンタ達は格が違いすぎるわ」
一方「・・・オリジナルの能力なンて効かねェしな」
美琴「う・・・言わないでよ・・・」
垣根「決まった法則で動くってのは、逆に言えばその法則をどうにかされちまったら使えないってことだからな」
美琴「この世の物理法則自体をいじれる人間がそう何人もいるわけないでしょ」
一方「・・・俺と垣根、例外で上条くらいだな」
垣根「・・・上条は物理法則をどうこうしてるわけじゃねぇだろ」
美琴「・・・一方通行の能力と垣根の能力ってどっちのほうが強いのかしら」
一方「俺だろ」
美琴「うっわ・・・すごい自信ね」
垣根「・・・一方通行の能力はベクトル操作だ、なら俺はその隙をつけばいい」
一方「・・・未元物質にはある程度の法則性がある、それを含めて再演算すればこいつの能力のベクトルも計算できる」
垣根「ただしこいつだって対策を練らないわけじゃない、威力と威力でぶつかれば互角になるな」
一方「だが、こいつが新しい物質をどンどン作れば・・・一々演算しねェといけねェンだ」
美琴「な、なんか信じられない世界ね」
垣根「・・・なんで友達の家に来てまでこんな話しなきゃならないんだよ」
一方「・・・知るかよ、オリジナルに文句言え」
美琴「な、なんで私一人の責任なのよ!?」
垣根「・・・なぁ、御坂」
美琴「な、何?」
突然垣根が真剣な表情になる
テーブルに頬杖をついているものの、どこかしら真面目な雰囲気を漂わせていた
垣根「お前・・・さ」
美琴「・・・」
つい、ゴクリと唾を飲んでしまう
一体、こんな重たい雰囲気で何を話すのか
垣根「世界に俺と一方通行の二人だけしか男がいなかったらどっちと付き合う?」
美琴「どうせそんなもんだと思ってたわよ・・・」
一方「はァ?なンだよその質問」
垣根「暇つぶしだよ、大体友人との会話なんてこんなもんで十分なんだよ、株価の話とかアメリカ大統領の人気の秘密とか話したいか?」
一方「・・・ンなこと言ってねェだろ」
美琴「・・・アンタ達だったら・・・か」
美琴が腕を組んで考える
もちろん、上条には遠く及ばない二人だが
美琴「だったら、一方通行かな」
一方「は?」
垣根「え」
美琴「・・・そりゃツンツンしてて無愛想だけど・・・なんだかんだ、番外個体は大切にしてるでしょ?」
一方「あ、あァ」
美琴「・・・自分の大切な人をしっかり守るって素敵じゃない」
垣根「待て待て!!俺だって心理定規めちゃくちゃかっこよく守ってるんだけど!?」
美琴「なんか・・・垣根はカッコイイけど、チャラいし遊んでそうで」
垣根「」
美琴「浮気が不安になりそうだし、それにアンタみたいな人間だと自分がたまにふさわしくないんじゃないかって考えちゃいそう」
一方「垣根、これは褒められてンだ」
垣根「なんだ・・・なんなんだこの敗北感!?」
美琴「・・・一方通行はもう少し愛想よくすれば、素敵なのにね」
一方「うるせェな・・・」
垣根「顔が赤いでちゅよー」
一方「てめェ、死にてェのかよ」
垣根「あぁ?上等だコラ」
美琴「・・・ねぇ、垣根って心理定規の次に誰が好きなの?」
垣根「俺か・・・好きってのはどういう意味でだ?女としてか、人としてか」
美琴「・・・そうね、付き合うんだったら誰がいいのかって話・・・やっぱり姫神さん?」
垣根「・・・付き合う・・・か、だったら吹寄だな」
美琴「え・・・なんか意外」
一方「・・・なンでだよ、巨乳なンてうざってェだけだろ」
垣根「そう思ってるのはお前だけだ」
一方「・・・で?なンでなンだよ」
垣根「あいつならしっかりしてそうだし・・・姫神は上条のことが好きだったんだから、それは尊重したいだろ?」
美琴「あぁ・・・そういう理由ね」
垣根「一方通行はどうなんだよ?」
一方「二番目は打ち止めだな」
垣根「やっぱりな、クソロリコンモヤシ」
一方「表出ろよ」
垣根「・・・御坂はどうなんだよ」
美琴「え、私?」
一方「オリジナルは・・・エツァリのクソ野郎か?」
美琴「うーん・・・」
垣根「エツァリはねぇだろ、御坂って意外と痛いの嫌そうだし」
美琴「何の話よ・・・」
一方「・・・誰なンだよ、俺たちに聞いて自分はスルーってのは無しだぜ」
美琴「うーん・・・そうね、当麻以外なら・・・」
上条「・・・不幸だ」
春休み
暖かい陽射しが差し込むこの陽気な季節に、なして僕はこんなに重いカバンを抱えているのでしょうか
なぜならそこに宿題があるから
しかもドッサリと
上条は不幸な人間だ、3学期にもとある事件に巻き込まれ、しばらくの間イギリスにいたりした
そのため、出席日数が恐ろしいほどギリギリだったのだ
それを補うための宿題なのだから、彼は拒むことが出来ない
拒めば今度は土御門たちを先輩として敬わなければならない
上条「・・・ま、美琴に手伝ってもらえばいいか」
そんなことを言いながら自分の部屋のドアを開ける
なにやら中が騒がしいのが気になるが
美琴「だったら、削板と付き合うわね」
上条「」
垣根「あー、やっぱり気が合いそうだからな」
一方「へェ・・・お前、意外と熱血が好きなンだな」
美琴「そういうわけじゃ・・・あ」
上条「み、みみみみみみみ美琴!!落ち着いてくれ、なんでそうなるんだよ!?俺たちめちゃくちゃ愛し合ってただろ!?」
垣根「よぉ、お帰り」
一方「邪魔してるぜェ」
上条「お前らはあとで話を聞こう、どういうことだ美琴!?」
美琴「か、勘違いなんだってば!!」
上条「どういう勘違い・・・お、俺たちが愛し合ってると思ってたのは俺だけだったのか!?」
美琴「あぁもう!!そっちじゃなくて!!!」
上条「お、驚いた・・・そういう話だったのか」
垣根「いいタイミングで帰ってきたな、お前」
一方「そォいうとこもヒーローだぜ」
上条「・・・で、なんでここにお前達がいるんだよ?」
垣根「御坂といけない遊びをしていました」キリッ
一方「ヒマだったから来ただけだ、垣根は途中参加だけどなァ」
美琴「・・・当麻、お疲れ様」
上条「あぁ・・・そうだ、垣根」
垣根「ちっ・・・なんだよ」
上条「宿題・・・お前、学校今日来てなかったから」
垣根「・・・宿題なんていらねぇな」
上条「いや、しっかりやろうぜ」
上条が自分のカバンの中から垣根の分の宿題を取り出す
垣根「・・・補習とかご苦労様だな」
上条「全くだよ・・・色々あったから出席日数ギリギリだしさ」
垣根「それはお前が悪いんだよ」
上条「あぁわかってますよ俺が悪かったってことくらいは!!」
美琴「・・・当麻、めげないで」
上条「あぁ・・・美琴のそういう激励だけが俺の栄養だ!!」
垣根「・・・なんだよ、こんなのすぐ終るじゃねぇか」
上条「・・・お前、頭いいよな」
垣根「超能力者だからな・・・」
一方「・・・ンだよ、こンなしけた問題やってンのかよ」
上条「し、しけたって・・・」
垣根「・・・つうかさ、こんなのならやる必要ないよな」
上条「・・・そ、そうなのか?」
一方「・・・1+1を復習すンのと一緒だろォが」
美琴「まぁ例えはあれだけど・・・たしかにそうよね」
上条「はぁ・・・仕方ないだろ、俺たちの学校は三流ですよ!!」
垣根「いや、それ以下だろ」
上条「言ったな!!クラスのみんなに言ってやる!!」
垣根「あぁそう」
興味なさそうに垣根が美琴をじーっと見つめる
しばらく、ずっと見つめていると美琴が少し顔をしかめた
美琴「何よ・・・顔に何かついてる?」
垣根「いや、そうじゃなくてさ」
上条「・・・も、もしかして見惚れてたとかじゃねぇだろうな」
垣根「若干それに近いかな」
上条「はぁ!?」
一方「修羅場ってヤツか」
美琴「ど、どうしたのよいきなり?」
垣根「・・・お前ってさ、美人だよな」
美琴「はぁっ!?」
垣根「・・・化粧必要ないって結構すげぇと思うけど」
上条「ま、待て待て!!なんでそんな話になったんだ!?」
垣根「・・・だってさ、野郎三人の中に女一人ならそりゃ目に入るだろ」
美琴「そ、そうだけど・・・」
垣根「うーん・・・髪も綺麗だし、肌もみずみずしい・・・」
ずいっ、と垣根が美琴に顔を近づける
一瞬、キスをされるのではないかと疑ってしまうほどに
美琴「な、何よ?」
垣根「うーん・・・上条、お前よく御坂みたいな美人捕まえたよな」
上条「捕まえたってなぁ・・・」
垣根「・・・胸は今は小さいが・・・美鈴さんの娘なら将来性もある」
美琴「そ、それが?」
一方「ちっ・・・胸なンていらねェよ」
垣根「・・・となると、ほぼ完璧じゃねぇか」
上条「・・・」
垣根「性格がもうちょいおしとやかだったらなぁ・・・」
美琴「ア、アンタに言われたくないわよ!」
上条「垣根、あんまり美琴にちょっかい出すなよ」ムスッ
美琴「え・・・」
垣根「ちょっかい?素直にお前の彼女褒めてるだけだぜ?」ニヤニヤ
上条「・・・」
一方「垣根、やめろ」
垣根「いいじゃねぇか、上条君は素敵な可愛い彼女を手に入れましたとさ、ってことのまとめだぜ?」
上条「垣根、心理さんって可愛いよな」
垣根「あぁ?てめぇが語るんじゃねぇよ」
上条「ほら見ろ!!お前だって自分の彼女が褒められたら・・・」
垣根「俺は俺の理屈で動いてんだよ!!」
上条「知るかよ!」
美琴「ま、まぁまぁ・・・」
垣根「・・・はぁ、クッソ・・・ヒマだなぁ・・・」
一方「・・・つゥかよ、この四人で出来ることなンてあンのかよ」
上条「そうだな・・・共通の趣味とかないのか?」
垣根「ねぇよ・・・ファッションの話だとお前達二人は疎いだろ」
美琴「・・・う、疎くなんかないわよ」
垣根「私服ダサイくせに」
美琴「何よ!?」
垣根「・・・だってさ、小学生みたいなセンスしてるじゃねぇか」
美琴「そんなことないわよ!!」
一方「いや、今日日フリフリのスカート着てる女子中学生とかねェよ」
美琴「な、なんで?可愛いじゃない」
上条「そ、そうだ!!美琴が着てればなんだって可愛い・・・」
垣根「・・・上条、お前一瞬どもったな」
上条「い、いや・・・」
美琴「まさか・・・当麻もダサイと思ってたの!?」
上条「そ、そんなことないですよ!?」
一方「素直に言ってやったほォがいい、お前の私服はダサいンだよ」
美琴「何よ!!アンタだって前はウルトラマンみたいな服着てたじゃないの!!」
一方「ありゃ研究所からの無料支給品だったンだ、わざわざ買いに行くのが面倒だったから着てただけだ」
美琴「い、言い訳じゃないの!!」
垣根「・・・御坂、お前もう少し雑誌とか読もうぜ」
美琴「よ、読んでるわよ!?今月号はちょっとストーリーの展開が急だったけど・・・」
垣根「漫画雑誌じゃねぇよ」
上条「美琴・・・お前は何を着ても可愛いからな!!」
美琴「う、うん//」
垣根「あぁうぜぇ!!目の前でいちゃつきやがって!!」
一方「無視しとけ」
垣根「・・・はぁ、ちくしょう・・・なんでこんな偏ったメンバーなんだよ」
上条「知るかよ・・・」
垣根「御坂、脱げよ」
美琴「イヤよ」
垣根「ちっ・・・一方通行、なんか面白い話でもしてくれよ」
一方「そォだな・・・じゃあ俺の昔話だ」
垣根「お、いいじゃねぇか」
美琴「昔話かぁ・・・小学生の頃とか?」
一方「あァ」
上条「待ってくれ、それは暗い話か?」
一方「・・・」
上条「そうなんだな、そうなんだろそうに違いないの三段活用!!」
一方「・・・始めるぞォ」
上条「ストーップ!!暗い話なんてされて堪るか!!」
垣根「じゃあ明るい話のあるヤツ、手を上げろ」
垣根「はーい!!」
上条「一人コントならよそでやれよ」
垣根「・・・はぁ、御坂脱げよ」
美琴「だから、イヤだって言ってるでしょ」
垣根「・・・なぁ、上条・・・お前って今まで何人にフラグ建てたんだよ」
上条「知るかよ・・・」
一方「こいつは男にまで建てるからなァ」
垣根「え、マジ?ひくわー」
上条「はぁ・・・そういうのはねぇよ」
美琴「・・・ねぇ、番外個体の調整っていつまで掛かるの?」
一方「今日一日だ」
美琴「え・・・な、なんか長いわね」
上条「もしかして何かあったのか?」
一方「ちげェよ、あの馬鹿ずーっとサボってたからその分を今日で取り返さないといけねェンだ」
上条「あぁ・・・そういうこと」
垣根「・・・心理定規は今頃化粧品売り場で嬉々として商品を見つめてるな」
上条「心理さんは買い物か・・・」
垣根「あーあー、ヒマだヒマだ!!」
美琴「・・・じゃあ、何かする?」
垣根「なんだよ、何かあんのか?」
美琴「うーん・・・何かないかしら?」
垣根「それを探してる途中なんだよ」
上条「・・・春休みだな」
垣根「なんだよいきなり」
上条「ほら、昔はよく長い休みになったらみんなで旅行とか行ったじゃないか」
垣根「テクパトル君が仕事を始めたのでもう無理でーす」
美琴「・・・そうよね」
一方「・・・つゥかよ、テクパトルの家はどォなったンだ?」
垣根「上手く出来たはずだけど」
上条「・・・まだ一度も行ってないな」
美琴「・・・引っ越してもう一週間だっけ」
上条「そうそう・・・」
垣根「・・・行ってみるか」
垣根がゆっくりと体を起こす
美琴「い、行くって今から?」
一方「・・・どォせ他にはすることもねェンだからな」
上条「・・・アポ無しでも誰かいるだろ」
垣根「そういうフラグを建てるなよ」
美琴「・・・じゃ、じゃあ行ってみましょう」
御坂妹「いぬ、こっちに来なさい、とミサカは猫じゃらしを振りながらいぬを呼んでみます」
10033「若干複雑ですね・・・とミサカはそんな10032号を見つめながら感想を漏らします」
14510「・・・羨ましいです、10032号だって微弱な電波を発しているはず・・・とミサカは冷静になって考えた分析結果を口にします」
ピンポーン
20000「誰か来たよ」
17600「勧誘だったら追い払え、不審者から逃げてきた子供だったらミサカに言ってくれ」
13577「言ったらどうなるのですか、とミサカは首をかしげて訊ねてみます」
17600「その不審者とドンパチやるのさ」
19090「そ、そんな不穏なことを言わないでください・・・」
10039「はぁ、ではミサカが行ってきますね・・・とミサカはめんどくさそうにしながらも玄関へ向かいます」
10039号が玄関のドアを開ける
ちなみに、とても綺麗なそのドアの外側には「テっくんとみんなのお家」といういかにも可愛らしい表札が飾られている
10039「どなたですか・・・ってお姉様!!」
美琴「やっほー」
上条「悪いな、いきなり」
10039「お義兄様まで・・・それに垣根と一方通行・・・」
垣根「はーっはっは!!チャイム連打をしようとしたのに、その前に住人が出てきてしまったぜメーン!!」
一方「こりゃ残念だったな」
垣根「どうすんだよ相棒!?」
一方「そォだな・・・とりあえず、中に入ってイタズラでもしちまおうかァ!!」
垣根「性的イタズラ!!」
一方「ロリに限る!!」
10039「17600号、不審者が来ましたー」
垣根「おいおいおいおい!!!違うっての、俺たちはジョークで言ってんだってば!!」
17600「・・・なんだよ、せっかく持ってきたのによ」
垣根「なんで銃を持ってきてるんだ・・・」
上条「よ、よぉ・・・邪魔していいかな?」
17600「・・・まぁ構わないけど、少しまだ片づけが終ってないぞ」
美琴「そうなの?でももう一週間になるんじゃ・・・」
17600「正確には二週間になるほうが近いのさ」
肩をすくめながら、17600号と10039号が四人を家へと案内する
垣根「よぉ、元気してるか」
13577「あ、垣根・・・!!お姉様、お元気でしたか!?」キラキラ
美琴「うん、みんなも元気だった?」
御坂妹「もちろん、元気ですよ、とミサカはいぬに猫じゃらしを与えてからお姉様に駆け寄ります」
上条「あぁ、ちゃんとそいつ飼ってたんだな」
御坂妹「出番がなかっただけです、とミサカは若干きわどいネタを使ってみます」
一方「・・・にしても、でけェ家だな・・・」
14510「ア、一方通行!!最近はいかがお過ごしでしたか!?とミサカは胸の高鳴りを抑えながら訊ねてみみゃす!!」
一方「噛ンでるぞ」
10033「や、やっぱりいつ見ても真っ白ですね!!とミサカも意味不明な褒め言葉を述べてみます!!」
20000「ふひひ!!セロリたんハァハァ!!」
一方「てめェは近づくな・・・」
19090「今テっくんを呼んできますね」
美琴「あれ、今日は仕事じゃないんだ?」
19090「はい、休みですよ」
上条「ふーん・・・って垣根、どうした?」
垣根「誰も俺のことなんか見てないのさ、俺が太陽を見上げているのに、太陽は俺が空を仰いでることさえ気づかない」
上条(・・・拗ねてる)
テクパトル「・・・来るなら来るって言ってくれよな・・・」
二階から降りてきたテクパトルは、非常に不機嫌そうだった
上条「わ、悪い・・・」
一方「なンだよ、都合でも悪かったか」
テクパトル「あぁ最悪だね・・・」
17600「気にしないでくれ、休日を寝て過ごしたかったらしい」
美琴「ね、寝てって・・・アンタ、この子達の相手してないの?」
10039「ち、違いますよ!!いつも相手をしてくれていて・・・」
御坂妹「仕事が終った後も、すぐに帰ってきてミサカ達のご飯を作って・・・」
20000「それからオ○ニーして」
17600「しねぇよ、いっつも迷惑掛けてるから、休日くらいはミサカ達が家事をするって決めてるんだ」
垣根「へぇ・・・完全オフだったってわけか」
テクパトル「ふぁぁ・・・あぁ、そういうことだよ・・・」
大きなあくびをしながら、テクパトルがいぬに近づく
テクパトル「えっと・・・いぬの散歩にはもう行ったのか?」
御坂妹「もちろん、行きましたよ」
美琴「ね、猫なのに散歩・・・」
一方「変わってンなァ」
14510「いいえ、それこそが愛情です!」
テクパトル「・・・今何時だっけ・・・」
美琴「昼の4時よ」
テクパトル「あぁ・・・夕方の4時か・・・」
美琴「アンタの感覚だともう夕方なのね・・・」
テクパトル「あれ、番外個体と心理定規は?」
一方「番外個体は今日調整だ、心理定規の野郎は買い物だとよ」
垣根「んで、ヒマだったから最初は上条の部屋にいたんだけど・・・」
一方「狭い暗い臭いの三拍子揃ってたンでこっちに来たンだよ」
美琴「暗いと臭いは違うわよ・・・」
上条「あぁもう!!狭くて悪かったなぁ!!」
19090「あ、あんまり大声は・・・」
テクパトル「いいよ・・・もう俺の休日は終りましたとさ」
垣根「いやー、しかしいい家になったな」
テクパトル「それは感謝してるよ・・・暮らしてみると、ホントに快適だ」
一方「・・・そりゃ、こンだけでかけりゃな」
13577「ミサカ達ものびのびと暮らしています」
10039「テっくんのおかげです!!」
テクパトル「はいどうも・・・」
垣根「・・・なぁ、なんかすることないか?ヒマなんだよ」
テクパトル「散歩でもどうだ、自宅まで」
垣根「素直に帰れって言えよ、そしてヤだよ」
テクパトル「ちっ・・・」
上条「ほ、ほら!!久しぶりに美琴と妹達の時間だし・・・」
テクパトル「そうだな、一方通行もそうだし・・・だから上条と垣根は帰れ」
上条「いやいや!!ここまで歓迎されないものなのか!?」
御坂妹「お義兄様、テっくんはお疲れなんですよ?とミサカはいぬを撫でながら呟きます」
20000「へっへーん、まぁミサカがフェラチオの一発や二発してあげればすぐ元気になるけどね」
10033「そ、そんなことを一方通行の前で言わないでください!!」
14510「そうですよ、エッチぃです!!」
20000「にゃーっはっは!!だからどうした!?」
17600「・・・テっくん、ビールが冷蔵庫にあるぞ」
テクパトル「あぁ、サンキュー・・・」
垣根「・・・その冷蔵庫もていとうこにしてやろうか!!」
テクパトル「あぁ?」ジロリ
垣根「冗談ですから睨まないで」
美琴「へぇ・・・この猫、あんまり電磁波を嫌がらないのね」
御坂妹「猫ではないです、いぬです」
美琴「いや・・・どっからどう見ても猫よ?」
上条「あぁ・・・そいつの名前がいぬ、なんだよ」
美琴「ね、猫なのにいぬ・・・」クスクス
上条(あ、姉妹でユーモアセンスは一緒なんだな)
御坂妹「いぬは賢いです、お手もお座りも出来ます」
美琴「へぇ・・・いぬ、お手!!」
いぬ「?」
美琴「・・・出来ないじゃないの」
御坂妹「ふん、ミサカにしか懐いていませんから、お姉様なんかにはしませんよ」
美琴「な、何よそれ!?」
御坂妹「いぬ、お手」
いぬ「にゃー!!」
御坂妹「おぉよしよし」
美琴「な、なんでアンタの言うことは聞くのよ!?」
垣根「・・・御坂、そこまでムキになんなよ」
美琴「きーっ!!」
14510「一方通行、御肩をお揉みしましょうか?とミサカは肩を回しながら・・・」
10033「それはミサカの役目です!!とミサカは強引に14510を引き剥がし・・・」
20000「その隙に!!ミサカのバキュームフェ・・・」
一方「うるせェ・・・打ち止めの5倍はうるせェ」
上条「・・・なぁ、御坂妹」
御坂妹「なんですか?とミサカはいぬにじゃれながら訊ねます」
上条「俺もいぬにお手させていいか?」
御坂妹「ふふん、出来るものなら、とミサカはふんぞり返ってみます」
テクパトル「10032号、パンツが見えてるからやめなさい」
御坂妹「テっくんのエッチ、そこまでミサカの淫らな太ももおよび絶対領域が見たいのですか、とミサカは・・・」
テクパトル「間に合ってます」グビグビ
御坂妹「・・・ビールを飲みながら拒絶されると底知れない敗北感を覚えますね、とミサカはスカートの裾を直しながら肩を落とします」
上条「いぬ、お手」
いぬ「にゃー!!」
上条「おぉ、いい子いい子」
御坂妹「!?な、ななななななんでいぬがあなたにお手をするのですか!?」
上条「うーん・・・俺も昔からいぬを知ってるからかな」
御坂妹「そ、そんな・・・」
美琴「いいなぁ・・・」
上条「いぬ、美琴にもお手してやってくれないか?」
いぬ「にゃー!!」
美琴「!!当麻、いぬがお手してくれた!!」
御坂妹「!?」
上条「おぉ、ホントに頭いいんだなこいつ!!」
13577「う、嘘でしょう・・・10032号にしか懐いていなかったいぬが!!」
テクパトル「・・・上条の優しさに本能で気づいたな」
御坂妹「いぬがぁ!!いぬまでもがミサカを捨てましたぁぁぁ!!」
17600「泣くな、別に捨てられてもないだろう」
御坂妹「いぬは浮気なんてしないと信じていたのに!!」
19090「そ、そんなつもりじゃないですよ、いぬは・・・」
御坂妹「あなたがいぬについて語らないでください!!」キッ!!
19090「ひぃっ!?」
一方「・・・くっだらねェ、猫にそこまで細かい感情があるかよォ」
御坂妹「あります!!コミュニケーション能力が大幅に欠けているあなたよりは少なくとも!!」
一方「てめェ、ぶち殺すぞ」
垣根「・・・御坂、よかったじゃねぇか」
美琴「に、肉球がプニプニしてる・・・」
上条「そりゃ、猫だからな」
20000「あんっ・・・お、お義兄様のここはガチガチなんだね・・・」カァッ
上条「なに一人コントしてるんだ」
テクパトル「・・・なぁ、お前達いつ帰るんだよ」
垣根「心理定規が帰ってきたら」
テクパトル「ここには来ないだろ」
垣根「あぁ、ここに来てるってさっきメールで連絡したんだよ」
テクパトル「・・・さらに騒がしくなるのか・・・」ハァ
上条「その・・・すまなかったな、急に来ちまって」
テクパトル「・・・今更謝られてもどうしようもないさ」
ビールを飲んだテクパトルが、顔をしかめる
テクパトル「・・・炭酸が抜けてる」
19090「テっくん、飲みすぎは肝臓に悪いですよ?」
テクパトル「わ、分かってるって・・・」
美琴「あはは、なんだか夫婦みたいな会話ね」
19090「!!」
御坂妹「・・・テっくん、顔がにやけてますよ」
10039「・・・鼻の下が伸びてますよ」
20000「勃起してるよ」
テクパトル「20000号、減点な」
20000「ま、待って!!今の流れだとそうなるじゃん!!」
テクパトル「・・・言っておくけど、にやけてないし鼻の下も伸びてない」
垣根「・・・いぬ、こっちおいでー」
いぬ「?」
垣根「ダメだこいつ、上条と10032号のいうことしか聞かねぇ」
一方「おいいぬ」
いぬ「?」
一方「来いよ」
いぬ「」
いぬ「にゃ、にゃー・・・」
御坂妹「一方通行!!いぬをいじめるのはやめてください!!」
一方「ちっ・・・いじめてねェし」
19090「ふ、夫婦・・・お、夫と妻ですよ!?」
垣根「そうだな」
一方「そォいやさァ、うちのさいが・・・」
垣根「・・・サイ?君の家、サイがおんの?」
一方「ことわらいでもおるやろォがさいは」
垣根「コアラはおらんかね?パンダとか」
一方「うちは動物園ちゃうぞ」
垣根「違うんかいな」
一方「さい言うたらうちの嫁はン」
垣根「嫁はん?」
一方「妻、家内、ワイフ、女房」
垣根「仰山おんねー」
一方「一人や」
19090「・・・?」
垣根「ちっ・・・で?お前の番外個体がどうした」
一方「俺のってのが引っかかるけどな」
美琴「・・・なんなのよ?」
一方「・・・猫飼いたいって言い出してよ」
上条「うーん・・・でも、お前の家ってマンションだろ」
一方「あァ・・・だからよ、どうすればいいか相談したかったンだよ」
御坂妹「そうですね・・・」
垣根「シカトしとけ、あいつって気まぐれそうじゃねぇか」
一方「・・・そォなンだけどよ・・・」
10033「・・・いいですね、そこまで愛されている番外個体」
14510「そんな愛すべき女性がいれば・・・ミサカ達に振り向くわけがありませんよね・・・」
20000「はぁ、オチンチンペロペロしたい」
テクパトル「20000号」
20000「この流れだとミサカの役目じゃんか!!」
17600「流れを断ち切るのも勇気だぜ」
19090「そ、そうですよ?」
一方「・・・お前らに相談した俺が馬鹿だったよ」
垣根「バーカ」
一方「あァ?なンだよ、俺より演算能力の低い垣根帝とくン」
垣根「お前、俺を怒らせた」
一方「なンだよ、火山が大噴火か?あァ?」
垣根「うるさーいなんてね!!」
一方「火山が大噴火ァ」
上条(・・・仲良しだな、こいつら)
美琴「・・・猫だったら、マンションでも飼えるんじゃない?」
一方「誰が世話すンだよ・・・」
上条「番外個体は?」
一方「あいつが世話すると思うか?」
20000「すぐ飽きそうだね」
御坂妹「そうなったら我が家で引き取りますよ、とミサカは・・・」
テクパトル「あぁもう!!それは絶対にダメだからな!!」
垣根「・・・一方通行も色々大変だな」
一方「・・・わがままなヤツが二人いるからなァ」
上条「・・・一方通行、頑張れよ」
美琴「私の妹だから可愛いでしょ」
一方「あァ?」
10039「お姉様ったら冗談キツイですよ」アハハ
美琴「ちょっとイラってきたわよ」
上条「ま、まぁまぁ!!喧嘩はやめようぜ!!」
テクパトル「賛成だ・・・っていうか静かにしてくれ」
17600「みんな、テっくんはお疲れなんだ」
ミサカ一同「はーい」
御坂妹「では、そろそろ夜ご飯を・・・」
垣根「はぁ?まだ4時半だぜ」
一方「お前ら、時計ずらしてンのか?」
13577「いえいえ、我が家ではいつもこの時間から準備をしますよ?」
テクパトル「・・・こいつらだと時間が掛かるのさ」
御坂妹「丁寧に作っていると言って欲しいですね」
テクパトル「・・・丁寧に作った結果がこの前の丸焦げハンバーグか」
御坂妹「ごめん、アンタのために必死に作ったんだけど・・・焦げちゃった」
20000「御坂・・・いいんだよ、俺はお前も一緒に食べちゃいたい」
御坂妹「やん//」
上条「何やってるんだ」
御坂妹「おそらくお姉様とお義兄様が体験したであろうことの再現です」
上条「し、してないしてない!!」
美琴「わ、私そんなに料理苦手じゃないもん!!」
一方「へェ・・・」
美琴「う、疑ってるわね・・・ならいいわよ!!!」
美琴「今日は私が作ってあげるから!!」
一同「お、おぉ・・・」
美琴(・・・とは言ったものの)
新しいキッチンの前で、美琴は腕を組んでいた
もちろん、自分の料理の腕が不安だからではない
何を作ろうか考えているのだ
リビングがそこから見えるが、何人かの妹達と一方通行はじっとキッチンを見つめている
視線がぶつからないようにして、チラチラと今いるメンバーを確認する
ちなみに、そろそろ心理定規もここに来るらしい
美琴(・・・当麻の好みは分かるけど・・・他のみんなって何が好きなんだろ)
よくよく考えれば、今いるメンバーの好みなんて分からない
洋食がいいのか和食がいいのか、濃い味がいいのか薄い味がいいのか
それさえも分からないのだ
わざわざ名乗りを上げてしまった以上、いいものを作らなければならない
美琴(・・・そうね、肉じゃがとかどうかしら)
妹達に家庭の味を贈ってあげたい
そう考えたのだが、すぐさまそれについて深く考えてしまう
美琴(・・・テクパトルもよく作るかな?)
家庭の味、といえばテクパトルが作っている可能性もある
美琴「ねぇテクパトル、昨日はなんだったの?」
テクパトル「あぁ、昨日は鍋だったよ」
美琴「ふーん・・・」
昨日が鍋、となると今日は肉じゃがというのもいただけない
似たような物を二日連続で食べさせられるのは意外ときつい
美琴(・・・当麻には昨日、チャーハンを作ったし・・・)
垣根「ちなみに俺達は昨日、ハンバーグだったからな」
一方「なンだよ、お前の家もか」
垣根「お、お前ん家もか・・・気が合うな」
御坂妹「いいですね、ハンバーグ・・・」
10039「お姉様、ハンバーグがいいです!!」
美琴「こらこら、そこの二人は昨日食べたばかりなんだから」
14510「そうですよね・・・」
19090「・・・そ、そんなにガッカリしなくてもいいじゃないですか」
テクパトル「はぁ・・・今度俺が作ってやるよ」
17600「お、そりゃマジか」
13577「ありがとうございます!!」
20000「アイラブユー、テっくん!!」
テクパトル「はいはい・・・ちなみに俺達はなんでも食べられるから、気にしないでくれよ」
美琴「ふーん・・・」
テクパトル「あ・・・ただ、エビはあんまり使わないでくれ」
美琴「?アレルギーでもあるの?」
テクパトル「いや・・・あんまり好きじゃない」
上条「なんだ、テクパトルってエビ苦手なのか」
テクパトル「こう・・・噛んだ時の食感が」
垣根「あぁ、たしかにちょっと苦手なヤツはいるかもな」
一方「・・・肉がいいな」
美琴「そういうのは愛する番外個体に頼みなさいよ」
一方「あいつ料理作れねェンだよ」
美琴「・・・苦労するわね」
御坂妹「・・・それで、何を作るんですか?」
10033「ミサカ達にお姉様の料理を思う存分奮ってください」
美琴「・・・そんなに大層なものは出来ないわよ」
14510「・・・そ、そうなんですか?」
美琴「えっと・・・オムライスとかどう?」
17600「うん、いいんじゃないか?」
テクパトル「オムライスか、みんな好きだもんな」
御坂妹「そ、そそそそそそんな子供っぽいものは好きじゃないですから!!」
10039「お、おおおおおおお姉様ったら子供っぽいですね!!」
美琴「・・・」
美琴「そっか、じゃあオムライスは無し・・・」
13577「あ、あぁぁぁぁぁぁ!!でも垣根と一方通行はオムライスが食べたいんですよね!?」
垣根「はぁ?」
13577「お、お願いします・・・」ボソッ
垣根「や・・・」
13577「・・・」ナミダメウワメヅカイ
垣根「・・・」
垣根「あぁあぁオムライスが食べたいなぁ、空の雲が全部オムライスに見えるなぁ!!」
美琴(・・・垣根、頑張ったわね)
上条「じゃあオムライスだな」
美琴「そうね・・・じゃ、作るからみんなはゆっくりしてて」
19090「手伝いましょうか?」
美琴「いいからいいから」
19090号を手で制して、美琴が食材を準備する
美琴(・・・そういえば、この大人数のを作らないといけないのね)
妹達にテクパトル、上条と垣根、一方通行に自分
更にはそろそろ合流する心理定規の分までを作らないといけないのだ
美琴「えっと・・・この食材って、全部使っていいの?」
テクパトル「あぁ、いいよ」
美琴「・・・それにしても、ずいぶん買い込んでるわね」
テクパトル「この人数じゃ仕方ないんだ・・・」
御坂妹「いぬ、今日のご飯はあなたにはあげられませんよ」
14510「!!いつもこっそり、ご飯を分けていたのですか!?」
10033「道理で10032号だけ懐かれてるわけですね!!」
御坂妹「そんな理由じゃないですよ、ねー」
いぬ「?」
上条「・・・ほ、ほら!御坂妹が一番最初にいぬに会ったんだし、一番懐くのは仕方ない・・・」
ミサカ一同「仕方ないなんてことはありません!!」
上条「ご、ごめん!」
垣根「・・・美琴、美味しいの作ってくれよ」
美琴「!?な、なに呼び捨てしてんのよ!!」
垣根「いいじゃねぇか、たまには」
一方「おい美琴、頼むぜェ」
美琴「な、何言ってるのよ」
テクパトル「美琴、頼むぞ」
美琴「あぁもう!!なによ、冷やかし!?」
上条「こらこら、御坂・・・怒らないの」
美琴「み、御坂!?」
上条「ははは!!たまには昔の呼び方するのも面白いだろ」
垣根「そういやお前たち、昔は御坂って呼んでたな」
上条「そりゃ付き合う前から美琴って呼ぶことはないだろ」
垣根「そうか?俺は付き合う前から心理定規って言ってたけど」
上条「それは当たり前だろ」
10039「・・・お姉様、今の進行状況はどうですか?」
美琴「まぁまぁよ・・・みんなは玉子、固めがいい?」
ミサカ一同「とろける感じで!!!」
美琴「あ、やっぱり?私もそうなのよ」
テクパトル「さすがは姉妹だな」
17600(・・・ミサカは固めがいいんだけどな)
上条「・・・俺も柔らかくていいかな」
一方「俺もそれでいいけどよォ・・・肉はねェのか?」
美琴「ないわよ」
垣根「俺はお前の卵が食べたいな」
美琴「・・・」
垣根「ごめん、だから包丁の切っ先をこっちに向けないで」
美琴「・・・あんまりそういうネタ、好きじゃないわよ」
垣根「上条、お前が言ってみて」コソッ
上条「み、美琴の卵が食べたいな」
美琴「//」
垣根「ほれ見ろ!!やっぱりお前は相手の問題じゃねぇか!!」
美琴「さーて、作るわよ!!」
垣根「あ、シカトですか」
上条「・・・心理さんもそろそろ来るんだよな?」
垣根「あぁ、もうそろそろ・・・」
ピンポーン
垣根「お、来た来た」
テクパトル「はぁ・・・騒がしくなるな」
垣根「お出迎えに行ってくるぜ」
御坂妹「いってらっしゃい」
垣根「はいはーい」
心理「あら、あなたがお出迎え?」
垣根「よぉ、めちゃくちゃいい家・・・」
垣根がそこで言葉を止める
心理定規の両手には化粧品の入った買い物袋が握られていた
しかも5つ
垣根「・・・てめぇ、全部でいくらした」
心理「2万位」
垣根「あのなぁ!!浪費と消費は違うんだよ!!」
心理「てへっ」
垣根「て、てへっじゃねぇよ!!そんな顔赤くして片目粒って頭小突いて若干上目遣いにしても全く効かねぇよ!!」
心理「ちょっと同様してるじゃない・・・失礼するわよ」
心理定規がテクパトル宅に侵入する
侵入、というのは言い方もおかしいが家主の了承をその場では得てないのでそうなるのだろう
心理「・・・あら、みんなおそろいね」
御坂妹「久しぶりですね」
心理「猫?可愛いじゃない」
御坂妹「いぬ、ですよ」
心理「あぁ、いぬなのね・・・美琴は?」
上条(すげぇ、納得しやがった)
垣根「キッチンでエプロンを着ながら料理中です」
美琴「やっほ・・・あ、危なかった!!」
心理「あら、何か作ってるの?」
美琴「・・・で、でもちょっと人数分作らないといけないから同時進行で・・・」
一方「焦がすなよ」
美琴「わ、分かってるわよ!!」
心理「あら、私も手伝うわよ」
美琴「で、でも・・・」
心理「いいから、エプロンって余ってる?」
19090「は、はい・・・」
垣根「・・・心理定規もオムライス作りに参戦・・・か」
テクパトル「・・・そうだな」
13577「・・・その、なんですね」
心理「美琴、ちょっとマヨネーズ入れると美味しいわよ」
美琴「そ、そうなの?」
心理「卵とマヨネーズを混ぜると少しふんわりするのよ」
美琴「へ、へぇ・・・」
上条「・・・心理さんって、エプロン似合うな」
垣根「だろ」
上条「・・・しかも料理得意だし」
17600「・・・そういうの苦手そうなのにな」
10039「・・・心理定規って、欠点あるんですか?」
垣根「そうだな・・・金遣いが荒い」
一方「致命的だな」
上条「あぁ、致命的だ・・・だが」
一同がキッチンを並べる
常盤台のお嬢様であり、学園都市のマスコットでもある御坂美琴
クールで美人だが、なぜかエプロンも似合う心理定規
そんな二人が、真剣な顔で料理をしている
その光景は、もう何かの小説のようだった
上条「はぁ・・・」
一同「・・・綺麗ですね」
美琴「・・・心理定規ってなんでも出来るのね」
オムライスを作りながら、ふと美琴が呟く
心理「そんなことないわよ」
美琴「・・・そう?」
心理「あなたは能力が高い、優しくて見た目も可愛いじゃない?そんなあなたが劣等感を抱く必要はないわよ」
美琴「・・・でも、心理定規はすごいわよ」
美琴が少しだけ手を休める
美琴「美人で料理が出来て・・・落ち着いてて、優しくて・・・それで、垣根を一途に愛してる」
心理「・・・美琴、あなたもしかして自分に自信を無くしてる?」
美琴「だ、だって・・・」
美琴が俯いてしまう
心理「・・・だとしたらそれはくだらないことよ」
美琴「くだらない・・・かな」
心理「あなたの人生は、あなただけがレールを敷ける・・・邪魔になる砂利を除けることには誰にでも出来るけど、走るのはあなただけよ」
美琴「・・・でも、私はあんまり自分が好きじゃないのよ」
心理「・・・安心しなさい、あなたはとっても素敵じゃない」
美琴「・・・そうかな」
心理「あなた、上条君が大好き?」
美琴「うん、大好きなんてレベルじゃないくらい」
心理「そんな上条君が愛してる女性なのよ、あなたは」
美琴「!」
心理「・・・それとね、私なんかと比べたらダメよ」
コンロのスイッチを切り、オムライスを皿に乗せていく
その間も心理定規は話を続けた
心理「・・・私ね、あなたに憧れてるの」
美琴「私に?」
心理「・・・あの子達」
心理定規がリビングでくつろいでいる妹達を見つめる
全員、美琴と同じ見た目をしている
本当に、寸分違わぬ容姿
見分けがつけられるのはテクパトルだけだろう
心理「あなたは、自分の妹として認めてあげているじゃない」
美琴「当たり前じゃない、私の妹なんだから」
心理「それが素敵なのよ」
美琴「?どうして?」
心理「・・・正直、私があなたと同じ立場だったら気持ち悪いと思うわ」
美琴「・・・」
心理「自分と同じ顔、同じ身長、同じ体・・・そんな人間が一万近くいるのよ」
美琴「・・・冷静に考えたら、怖いことなのかもしれないわね」
心理「・・・私だったら、そんなクローンを妹とは認めたくないわよ」
美琴「・・・あの子達は」
心理「分かってる、それに私もあの子達は大好きよ?でもね、自分の立場だったら・・・あなたみたいに優しくは接することが出来ないはず」
美琴「・・・そんなことないわよ、心理定規ならきっと」
心理「言ったでしょ?自分のレールを敷けるのは自分だけ・・・あなたが私のことを想像するのは自由だけど、それは決して現実とは相容れないのよ」
美琴「・・・」
心理「だから、あなたは私なんかと比べたらダメ」
美琴「・・・なんかじゃないわよ」
心理「なに?」
美琴「こんな話をして、自分を傷つけてまで私を元気づけてくれた・・・アンタは優しい人間よ」
心理「・・・美琴」
美琴「私、心理定規が大好きよ」
オムライスを見つめながら美琴がぽつりと呟く
二人で作った物なのだと思うと、自然と笑みがこぼれる
美琴「だから、自分をそんなにダメな人間みたいに言わないで」
心理「ふふ・・・あなた、優しいわね」
美琴「アンタもね・・・さて!みんな、出来たわよ!」
上条「お!待ってました!」
垣根「やっと出来たか・・・待ちくたびれたな」
一方「・・・肉は入ってねェンだろ」
美琴「我慢しなさい」
テクパトル「みんな、手を洗ってきなさい」
ミサカ一同「はーい!」
上条「・・・俺達も手、洗って来るか」
テクパトル「みんなについていけば洗面所だ」
垣根「あいよ」
一方「はァ・・・ちくしょォ、肉が食いてェな」
心理「あら、不満ならあなたの分は捨てるけど?」
一方「食べますゥ」
美琴「もう・・・アンタってもっと感謝の気持ちを持ったほうがいいわよ」
一方「うるせェな・・・」
テクパトル「そうだぞ一方通行、わざわざ自分のために作ってくれたんだから」
一方「全員の分を作ったついでじゃねェか」
美琴「うわ・・・無愛想」
心理「・・・これだから薄情な男は嫌いよ」
一方「てめェに嫌われてもイヤじゃねェンだよ」
垣根「おい、一方通行!手洗おうぜ!」
一方「今行くから待っとけ」
心理「・・・やけに垣根とは仲良しね」
一方「・・・」
テクパトル「いいじゃないか、仲良しなヤツがいるのは」
美琴「・・・ねぇ、アンタは手・・・洗わないの?」
テクパトル「キッチンで洗うからいいよ・・・」
19090「ただいま・・・あー!テっくん、また新しい缶を開けましたね!?」
テクパトル「いいだろ・・・せっかくの休日なんだからさ」
19090「いけません!体を壊したらどうするつもりなんですか!?」
テクパトル「な、なんか今日はやけに厳しいな」
19090「お姉様がいる前で、しっかりミサカが躾しているところを見せなければならないんです!」
美琴「あはは!躾られてるの、テクパトル?」
テクパトル「俺はいぬじゃねぇ・・・」
御坂妹「ふいー・・・?テっくん、手を洗いましょうよ」
テクパトル「分かってるって・・・」
テクパトルがしぶしぶキッチンに向かう
身長の高い彼は、少ししゃがまないと水道で手を洗えない
かといって彼の身長に合わせたら、他の全員が不便してしまう
結局、彼が妥協しなければならなかったのだ
テクパトル「はぁ・・・」
心理「あら、ずいぶん疲れてるみたいね」
テクパトル「分かるか・・・?」
20000「そりゃそうだよ、みんなが来なけりゃ今頃19090号とギシアンだったのにね」
17600「避妊はしろよ」
テクパトル「違うからな・・・上条、ちょっと納得したような顔をするな」
上条「なんだ、違うのかよ」
19090「きょ、今日はそんなことしませんよ!」
14510「今日は、ですか」
13577「へぇ、いつかはしたんですね」
19090「あ・・・いや!ち、違いますよ!?」
一方「慌てることでもねェだろ、付き合ってンだから」
御坂妹「・・・一方通行も番外個体とよくするんでしょうね」
20000「な、なにぃ!?」
14510「一方通行!ミサカも是非!」
10033「いえいえ!ここはミサカが!」
一方「しねェよ」
御坂妹「なんだ、セッ○スレスですか」
心理「こら、女の子がそんなことをあんまり口にしたらダメよ」
御坂妹「ですが、事実は事実・・・」
心理「それともなにかしら、もしかしてエッチなことに興味でもあるの?」
御坂妹「!20000号と一緒にしないで下さい!」
垣根「・・・なぁ、いつになったらオムライス食べていいんだ?」
美琴「もう食べていいわよ?」
垣根「マジか!いただきます!」
一方「いただきます」
上条「お、一方通行も普通に挨拶したな」
一方「黄泉川がうるせェンだよ、しっかり礼儀は弁えろってな」
ミサカ一同「いただきます!」
心理「いただきます」
テクパトル「義姉さん、ありがとうな」
美琴「どういたしまして!私もいただきます!」
心理「私も作ったんだけど」
上条「心理さん、ありがとうな」
心理「どういたしまして」
垣根「お!美味いじゃねぇかよ!」
13577「玉子がフワフワですね!」
10039「テっくんの男らしい料理とはまた違った魅力があります!」
テクパトル「あぁ、繊細だな」
美琴「よかった・・・」
心理「私と美琴が作ったのよ?美味しいに決まってるじゃない」
垣根「すげぇ自信だな」
上条「でも実際に美味しいんだから文句ないけどさ」
一方「・・・あァ、美味い」
テクパトル「・・・そうだな」
19090「で、でもミサカはテっくんの料理も大好きですよ!?」
御坂妹「ミサカだってそうですよ!」
13577「テっくんの料理はテっくんにしか作れませんよ!」
テクパトル「あぁ、ありがとうな」
美琴「・・・みんな、本当にテクパトルが大好きなのね」
14510「・・・それは、まぁ」
一方「いいじゃねェか、家族なンてそう簡単に作れるもンじゃねェンだからよ」
テクパトル「あぁ、俺だって今の生活にかなり満足してるさ」
心理「・・・でも、本当に大変よね」
垣根「こんな大人数の世話なんて俺には無理だな」
テクパトル「やってみれば分かるけど、みんなが笑ってくれるのはかなり嬉しいもんだよ」
上条「その嬉しさがあるから世話し続けられるんだな」
テクパトル「あぁ」
オムライスを頬張りながら、テクパトルが笑う
19090「・・・テっくんがいなかったら、ミサカ達はもっと退屈な日々を過ごしていたはずです」
17600「そうだな、それは違いない」
10039「・・・ありがとうございます、テっくん」
20000「まぁ・・・こう言うのは恥ずかしいけどさ、ミサカもテっくん大好きだぜ」
テクパトル「な、なんだいきなり?」
美琴「いいじゃないの、ちょうどいいタイミングだったんだし」
上条「そうそう、新居も建てて、テクパトルに感謝する気持ちも強まったんじゃないか?」
一方「・・・テクパトル、てめェあンまり妹達にちょっかい出すなよ」
テクパトル「出してねぇよ・・・」
20000「嘘、この前の暑い夜は無かったことにするの!?」
テクパトル「そんなの無かったからな」
心理「はぁ・・・ごちそうさま」
垣根「ごちそうさま・・・意外と御坂も料理上手かったんだな」
美琴「何度も言ってるじゃない」
上条「美琴はいつも作ってくれてるんだよ」
心理「愛妻弁当ね」
美琴「あ、愛妻・・・//」
御坂妹「・・・いいですね、仲良しカップルは!」
14510「ちっとも羨ましくなんかないですけど!」
垣根「羨ましいんだろ!あぁ!?」
一方「・・・ごちそうさまァ」
上条「はぁ・・・悪かったな、急に邪魔して」
テクパトル「まぁ・・・楽しかったから良しとしておくよ」
広い玄関で、テクパトルは五人と話していた
番外個体の調整が終わったらしく、それをきっかけにして切り上げるになったのだ
心理「ありがとう、みんなにも宜しく伝えててね」
美琴「みんなのこと、頼んだわよ」
テクパトル「任せてくれ、じゃあ気をつけて」
上条「お休み」
テクパトル「あぁ、お休み」
垣根「はぁ・・・もう夜になっちまったな」
一方「当たり前だろォが」
上条「・・・見ろ、めちゃくちゃ月が綺麗だ!」
美琴「ホントだ!手が届きそう!」
一方「はァ?届くわけねェだろォが」
美琴「・・・アンタってホント、ロマンチックのかけらもないわね」
一方「なンだよ」
心理「いいじゃない、逆にロマンチックな一方通行のほうが不気味よ」
上条「それは言えてるな」
一方「お前ら・・・喧嘩売ってンのか」
垣根「にしても、本当いい夜だな」
月を見上げながら垣根が呟く
先程美琴が言ったことも馬鹿には出来ない
月が綺麗に写っているため、本当に手が届きそうに感じる
垣根「・・・なぁ、上条」
上条「なんだ?」
垣根「もう寮に帰るのか?」
上条「あぁ、宿題がテンコ盛りだからな」
心理「あら、美琴と二人きりになりたいからじゃないの?」
上条「う・・・」
一方「・・・俺はこっちの道だからよ」
美琴「あ、そっちの道なんだ」
一方「あァ」
垣根「じゃあ、気をつけてな」
一方「誰に言ってンだよ」
上条「お前はもう、いつでも能力が使えるわけじゃないんだからさ」
一方「ンなことは俺が一番よく分かってるンだよ」
心理「まぁ、とにかく気をつけて帰りなさいよね」
一方「じゃあな」
美琴「じゃあね」
一方「・・・そォだオリジナル」
美琴「はぁ・・・なに?」
一方「番外個体がてめェに会いたがってた、ヒマが出来たら遊びに来いよ」
美琴「はいはい・・・」
一方「・・・じゃあな」
美琴「私、御坂美琴って名前だから」
一方「ンなこと知ってるに決まってンだろォが」
美琴「・・・じゃあね、あんまり遅く帰ったらダメよ」
一方「じゃあな、御坂」
美琴「!」
一方「オリジナルのくせにあンま俺の心配してンじゃねェ!」
中指を立ててから、一方通行が走り去る
能力を使っているようだ
上条「・・・あいつって、結構恥ずかしがり屋だよな」
美琴「うん」
垣根「・・・っと、俺達もこっちになるから」
上条「じゃあ・・・また今度な」
心理「美琴、避妊はしっかりしなさいね」
美琴「な、なに言ってるのよ!?」
垣根「じゃあな・・・いい夜を」
上条「た、互いに」
心理「あら、私達はそんなことしないから」
手を振りながら、二人が上条達の元を離れる
残された二人は、しばし見つめ合っていた
美琴「・・・ね、手・・・繋いでいい?」
上条「当たり前だろ?」
美琴「じゃあ・・・」
ぎゅっ、と美琴が上条の手を握り締める
上条「・・・美琴は甘えん坊だな」
美琴「・・・アンタにだけ」
上条「・・・分かってるって、他のヤツにも甘えてたら上条さんは嫉妬に狂ってしまいます」
美琴「そ、そっか」
握り締めた手を、握ったり緩めたりする
何度も手を繋いできたがこの胸の高鳴りには恐らく慣れることはないだろう
上条「・・・帰りましょうか」
美琴「うん」
手をブラブラとさせながら寮へ向かう
上条「はぁ・・・やっぱり我が家は落ち着くな」
美琴「そうね・・・テクパトルの家のほうが大きいのに」
上条「あ、それは言ったらダメです」
美琴「・・・当麻の匂いがするわよね、この部屋」
上条「美琴さん・・・ちょっと変態チックな発言」
美琴「そ、そういう意味の匂いじゃないわよ!」
上条「じゃあどういう意味なんですか」
美琴「・・・当麻が暮らしてるって雰囲気の部屋ってこと」
上条「ふーん・・・具体的に」
美琴「なんかいろんな物が割と適当に置かれてて・・・」
上条「それは褒めては・・・ないですよね」
美琴「しかも宿題が山積みになってて」
上条「明日になったらやろうって決めてるんです!」
美琴「そんな言い訳をした結果終わってない宿題もあって」
上条「バレてる!?」
美琴「・・・垣根から借りたのか知らないけど、ベッドの下に漫画押し込まれてるし」
上条「う・・・本棚に入らないんですよ」
美琴「その中にエロ本とかないでしょうね」
上条「ないない!それだけは絶対にありません!あったとしても垣根のいたずらであって俺の故意ではありません!」
美琴「・・・まぁ、故意じゃないならいいわよ」
上条「よ、よかった」
美琴「それでね、こんな当麻の暮らしてる匂いがする部屋って素敵じゃない」
上条「素敵かな?」
美琴「うん・・・なんか安心する」
上条「へぇ・・・」
上条が首を捻る
彼には分からないものの、女の子というのはそういうものなのだろうか
上条「・・・美琴、風呂から入るか?」
美琴「うーん・・・それより先に宿題終わらせない?」
美琴が時計を確認する
まだ夜の6時になったばかりなのだ、さすがに風呂に入るには早い
上条「というか・・・美琴さんに宿題を手伝ってもらうのが当たり前になってしまいましたね」
美琴「だって早く終わらせないと当麻・・・」
美琴がため息をつく
自分の彼氏が留年した、なんて流行らない冗談だ
そしてそんな冗談が実際に起きる手間でもある
だとしたら、そうならないように手伝うのが恋人の役目というものではないか
上条「はぁ・・・先生もかなりたくさん出したんだな」
美琴「なんか言い方がエロいわよ」
上条「ん?どこがどんな風に?」
美琴「い、言わなくたって分かるでしょ!」
上条「いやいや、上条さんは馬鹿なので・・・って待て待て!電撃はダメだから!」
美琴「エッチ!変態!」
上条「なんだよ!言い出したのはお前じゃないか!」
美琴「そ、そうだけど・・・」
上条「はぁ・・・とりあえず宿題、終わらせないと」
上条がプリントを広げ、そして顔をしかめた
小萌の欠点を一つだけあげるとしたら、宿題があまりに難しいことだ
もちろんそれも生徒のことを思ってなのだから文句は言えないが
上条「・・・これを春休みの間に終わらせるのか」
美琴「余裕よ余裕」
上条「・・・美琴さん、いえ美琴先生」
美琴「そうね・・・仕方ない、手伝ってあげるわよ」
上条「美琴先生万歳!大好きだぜー!」
美琴「わ、分かったから静かにしなさい!」
上条「なぁ、美琴」
美琴「なに?」
コタツの代わりに部屋の中央に置かれたテーブル
二人が肩を並べて宿題をしていた
しかしさすがに上条も飽きてきたらしい
上条「なんか、ちょっとしたゲーム性を持たせながら勉強したいんですが」
美琴「具体的にはどんな風に?」
上条「俺が自力で一問解く度に、美琴が一枚脱ぐとか」
美琴「却下、大体それじゃ私に得がないじゃないの」
上条「・・・その代わり、俺が手を借りる度に一回美琴さんの頭を撫でて差し上げましょう」
美琴「な、撫で・・・」
美琴が頭の中で二つを天秤に掛ける
結果として勝ったのは・・・
美琴「うぅ・・・アンタずるいわよ!全部復習のプリントだったらアンタが有利に決まってるわよね!」
上条「ははは!化学は得意なほうなんだよ!」
美琴「にゃあ・・・」
美琴はすでにパンツ一枚になっていた
胸を手で隠しながら、顔を真っ赤にしている
上条「・・・にしても、まさか美琴さんがノッてくるとは思いませんでした」
美琴「だってアンタが不利だと思ったんだもん!」
上条「あ、ここも出来た」
美琴「嘘!?」
上条が指差している問題を美琴がチェックする
たしかにそれは正解していた
簡単な問題、と美琴は感じるが上条にとっては大きな進歩なのだ
上条「さて、残りはパンツだけでしたよね」
美琴「ほ、ほら!こういうのって健全な高校生と中学生がしたら・・・」
上条「まぁまぁ、美琴さんはエッチな中学生ですから」
美琴「そんな・・・!」
上条が無理矢理美琴のパンツを剥ぎ取る
上条「やっぱりゲコ太の柄なんですね」
美琴「うぅ・・・いいでしょ別に!」
上条「可愛いな、美琴」
美琴「!?」
上条が美琴の頭を撫でた
それだけで思考が溶けていく
あぁ、やっぱりそういうことになるわよね、と美琴がため息をつく
でもそれは決してイヤなことではなかった
ゴーグル男はいくつか、女に対して疑問を抱いている
まず、女はなぜ長い買い物が好きなのか
彼にとって買い物はほしい物を手に入れるための手段であって目的ではない
次に、女はなぜくっついてこようとするのか
これにはある誤解があるのだが、全ての男がそうされるわけではない
ゴーグル男が幸せなだけだが、本人にそんな自覚はなかった
そして最後の疑問
なぜ女は、出掛ける時に一人で行動出来ないのか
トイレに行くときでさえ、誰かと一緒でなければ気がすまないらしい
買い物なんてなおさらだ
そして、ゴーグル男もまたそのせいで今ショッピングセンターにいる
彼をつれてきたのは誰か、といえばアイテムの女性全員だ
ちなみに、隣では浜面が肩を落としている
ゴーグル男と同じ不満を抱えているのだろう
ゴーグル「・・・めんどくさいっすね」
浜面「あぁ・・・なんなんだよ、なんでこんなに時間掛かるんだよ!?」
冬から春に季節が変わったため、服を買い換えたいと言われた
それには何の不満も無い
というか、それが当たり前なので不満を言えるはずもなかった
ゴーグル「滝壺さんが服を買いたいなんて珍しいですね」
浜面「そうだな、ちょっと珍しいけど・・・」
ゴーグル「・・・さすがにジャージじゃないですよね」
浜面「・・・俺には保証できないな」
ゴーグル「・・あ、絹旗さん」
絹旗「超いいのを見つけました!!じゃーん!!」
ゴーグル「・・・超がつくほどのミニスカですね」
浜面「・・・お前、そういうの大好きだよな」
絹旗「ほらほら、見たいですか?見たいですよね!?見せませーん!!」
ゴーグル「そういうのって、軽い女っぽく見えますよ」
絹旗「これだから童貞は超キモイんですよ」
ゴーグル「・・・浜面さんはどう思いますか?」
浜面「子供が無理して大人っぽくしようとしてるみたいな感じだな、心理定規の姉ちゃんを見てみろよ・・・いないけど」
絹旗「あぁもう!!超理解が足りません!!」
ゴーグル「・・・あ、麦野さんもっすか」
麦野「・・・一応二人にも見てもらおうと思って」
浜面「へぇ・・・お前ってジャケットとか着るんだ」
麦野「・・・ちょっとしたイメチェンよ」
ゴーグル「でも似合ってますよ、麦野さん」
麦野「そう?ありがとう」
浜面「これで意中のあいつも落とせるな」
麦野「・・・いないわよ、そんなの」
絹旗「きーっ!!いいですよ、二人を唸らせる超可愛い服を選んでみせますから!!」
浜面「いや、春にふさわしい服装・・・」
絹旗「待っててくださいね!!」
ゴーグル「・・・行っちゃいましたね」
麦野「絹旗もまだまだ子供ね」
ゴーグル「・・・麦野さんはそれだけっすか?」
麦野「まさか、ちょっと来てみただけ」
ゴーグル「あぁ、それじゃあ他のも選ぶんですね」
麦野「私、あんまりジーパンは好きじゃないのよね」
ゴーグル「?なんでっすか、似合いそうなのに」
浜面「ダメダメ、こいつ脚太い・・・」
麦野「浜面」
浜面「」
ゴーグル「・・・あ、滝壺さんとフレンダさん」
滝壺「じゃじゃじゃーん」
浜面「・・・滝壺、なんでまたジャージなんだ?しかもピンク・・・」
滝壺「だって私の制服だよ?」
浜面「いやいや!!もう少し胸元を強調しているような服装だと俺も喜べるんだけどな!!」
滝壺「はまづら、エッチ」
浜面「あぁそうだよ!!男なんてみんなエッチだ、なぁゴーグル!?お前だって滝壺が胸元強調してたら興奮・・・」
ゴーグル「フレンダさん、ちょっと短すぎないっすか?そのショーパン」
フレンダ「ふっふーん!!私の脚線美で男を虜にしてみせる訳よ!!」
ゴーグル「いや、そこまでは・・・」
フレンダ「見よ!!このニーハイ、そしてそこから溢れる太もも!!」
ゴーグル「・・・なんか、軽そうっす」
フレンダ「はー・・・これだから童貞はキモイ訳よ」
麦野「フレンダ、たしかに脚見せすぎよ」
フレンダ「だって私は脚細いもーん」
麦野「フレンダぁぁぁ!!!」
ゴーグル「ま、まぁまぁ・・・麦野さんは胸がでかいじゃないっすか」
浜面「そうだろ!?やっぱり女は胸だよ!!」
滝壺「はまづら最低」
浜面「えぇ!?滝壺さんがなんだかお冠!?」
ゴーグル「・・・フレンダさん、もう少し露出減らしましょうよ」
フレンダ「あ、なになに!?俺だけのフレンダがみんなに見られるのはイヤとか!?」ニヤニヤ
ゴーグル「はぁ・・・それでもいいっすから、もう少し・・・」
フレンダ「ば、ばばばばば馬鹿じゃないの!?アンタのもんじゃないし!!」
ゴーグル「いや、だから妥協してそういうことで」
麦野「ゴーグル君、フレンダは脚を見せないと他に見せるところがないのよ」
ゴーグル「は、はぁ」
滝壺「フレンダは胸が控えめだもんね」
フレンダ「うっわー!!カチンときた訳よ!!」
ゴーグル「中々古い表現ですね」
浜面「なぁ滝壺・・・もう少し、セクシーな服装を・・・」
滝壺「だって、そしたらはまづら、鼻血噴出すもん」
浜面「いやいや!!それに堪える練習をするために・・・」
麦野「じゃあ私がエッチな服でも着てやろうか」
浜面「遠慮しとく!!」
麦野「あぁ!?なんでだよ!?」
浜面「なんで怒ってんだよ!?」
フレンダ「ねぇゴーグル、あれはどうかな?」
ゴーグル「・・・誰か、助けてください・・・」
フレンダ「じゃーん!!これとかどう!?」
ゴーグル「・・・はいはい、可愛いですからもう帰りましょうよ・・・」
絹旗「浜面!!見てください、これなら超大人っぽいですよね!?」
浜面「・・・だから短すぎるんだよ」
ゴーグル「露出が多い=セクシー、じゃないっすよ」
絹旗「そんなこと言いながらチラチラ見てるじゃないですか、ほらほら」ピラピラ
浜面「おぉぉぉ!!滝壺、俺に力をぉ!!」
滝壺「はまづら、頑張って!」
ゴーグル「・・・はぁ、春物ですよ?そんな露出が高かったら寒いんじゃないっすか?」
フレンダ「そんなこと、やってみなきゃわかんない訳よ!!」
ゴーグル「・・・あなた、馬鹿って言われたことないっすか?」
フレンダ「うっわひどい・・・」
麦野「・・・それより、アンタ達は買わないの?」
浜面「俺か・・・」
ゴーグル「いいっすよ、別に持ってるんで」
フレンダ「あれ・・・でもゴーグルの前暮らしてた場所ってまだあるの?」
ゴーグル「・・・」
ゴーグル「買いますよ、買いますとも」
フレンダ(開き直った訳よ)
ゴーグル「えーっと・・・これとこれと・・・」
フレンダ「・・・ね、ねぇ」
ゴーグル「ん、なんすか?」
ゴーグル男は男性用の服を見ていた
もちろん、自分が着るのだから
フレンダ「そんなにポンポン決めたら面白くない訳よ・・・もっと、これにしようかあれにしようかって・・・」
ゴーグル「服なんて楽に着れればそれでいいっす」
フレンダ「つまんない!!なんでパーカーとダボダボのズボンばっかりなの!?そういうのは黒人が着てるのが似合う訳よ!!」
ゴーグル「う・・・服なんて自己満足の世界じゃないっすか」
フレンダ「ジーパンとかチェックシャツとか!!もっと年相応のヤツを着るべきな訳よ!!」
ゴーグル「・・・そうっすね、じゃあこれで」
フレンダ「だからパーカーばっかりじゃつまらないの!!」
ゴーグル「・・・だって浜面さん見てくださいよ」
浜面「うーん・・・やっぱりリングとかも必要だよな」
滝壺「はまづら、ゴテゴテしすぎ」
麦野「これだからスキルアウトあがりは・・・」ハァ
絹旗「どこぞのヤクザみたいですね」
浜面「う、うるせぇ・・・」
ゴーグル「あれよりはマシでしょ?」
フレンダ「そ、そうだけど・・・」
ゴーグル「・・・フレンダさん、選んでくださいよ」
フレンダ「うーん・・・これは?」
フレンダが指差しているのは、最近人気沸騰中のブランドのジャケットだ
ゴーグル「いや・・・こういうのこそ、外国人が着てるほうがいいっすよ」
フレンダ「私外国人だもん」
ゴーグル「・・・アンタが着るわけじゃないんですから」
ゴーグル男がそのジャケットをじっと見つめる
垣根なら、あるいは似合うかもしれない
そう考えると、垣根は非常に恵まれているのだ
ゴーグル「はぁ・・・俺はルーズな格好のほうが楽でいいです」
フレンダ「うーん・・・でもあんまりルーズすぎるとだらしなく見える訳よ」
ゴーグル「実際だらしないですから」
フレンダ「・・・結局、パーカーとダボダボのカーゴばっかり買う訳よ」
ゴーグル「いいでしょ別に・・・」
浜面「滝壺、おそろいのネックレス買おうぜ」
滝壺「うん、いいよ」
麦野(ちっ・・・リア充が)
絹旗(・・・海原さんってオシャレですよね・・・私も超オシャレにしないと!)
ゴーグル「・・・はぁ、服は買い終わりましたね」
浜面「よし、じゃあ帰ろ・・・」
麦野「次は・・・何見る?」
絹旗「バッグとかどうですか?」
フレンダ「あ、私も見たーい!」
滝壺「バッグ・・・私もほしいな」
ゴーグル「ちょ、ちょっと・・・」
フレンダ「ん、なに?」
ゴーグル「・・・服を買うって言ってここまで連れてこられたんですけど」
フレンダ「うん、買ったじゃん」
麦野「で、これからバッグを見るのよ」
浜面「あぁもう!!これだから女の買い物は面倒なんだよ!!」
絹旗「別についてこなくてもいいんですよ」
滝壺「二人はどこかで時間でも潰してて」
ゴーグル「は、はぁ」
フレンダ「じゃあ、行こう!!」
女四人がバッグ売り場へと向かう
残された男二人は肩を落とした
ゴーグル「・・・そういえば」
少しして、ゴーグル男が先に口を開いた
ゴーグル「浜面さんと滝壺さんってなんで付き合いだしたんですか?」
浜面「あぁ、そういえばお前は知らないんだっけ」
ゴーグル「・・・タイプ的にはそこまで気が合いそうじゃないのに」
浜面「俺が滝壺を、命を懸けて守ったことがあったんだよ」
ゴーグル「へぇ・・・」
ゴーグル男が驚いたような顔をする
浜面は見た目的には遊んでいそうなタイプだ
スキルアウト、鼻にまでピアスを空けている、色黒
正直、他人のことなんてほっておいて自分だけ先に逃げそうなタイプなのに
ゴーグル「浜面さんって、意外と優しいんすね」
浜面「そうか?」
ゴーグル「・・・俺達なんかよりは、よっぽどまともっすよ」
近くの自販機でコーヒーを買いながら、ゴーグル男が言う
彼の人生に比べれば、マシなものだったのだろう
もちろん浜面も人を手に掛けたことはあるが
ゴーグル「・・・でも、滝壺さんがそれで惹かれたとは・・・」
浜面「元々、滝壺は俺に優しくしててくれたし・・・こう、二人だけの世界が出来てたんだよ」
ゴーグル「あ、なんかちょっとイラってしましたよ今」
浜面「・・・それでさ、いつの間にか付き合うことに・・・」
ゴーグル「いつの間にかってなんすか、どっちから告白したんですか?」
浜面「あぁ、俺だよ」
ゴーグル「へぇ・・・どんな風に?」
浜面「気になる!?やっぱり気になるよな!?」
ゴーグル「ま、まぁ」
浜面「・・・あれは、ロシアから帰ってきてすぐだった」
ゴーグル「そもそもロシアに行ってたんですね」
浜面「滝壺、聞いてほしいことがあるんだ」
滝壺「・・・バニーさんの素晴らしいところ?この前も聞かされたよ、はまづら」
浜面「違うんだ、今日は・・・ちょっと特別なんだよ」
滝壺「特別?」
浜面「・・・俺達さ、ロシアとか・・・色々な苦境を一緒に乗り越えてきただろ?」
滝壺「うん、そうだね」
浜面「・・・それで分かったんだ、俺が今一番守りたいものが」
滝壺「守りたいもの?」
浜面「・・・昔は、友達とか仲間とかプライドとか金とか・・・そういうもんを守ろうとしてた」
浜面「でもさ、何一つ守れなかったんだ・・・なんでなのか今まではずっと分からなかったんだ」
浜面「・・・お前を守り抜いて、やっとそれが分かったんだ」
滝壺「どうしてだったの?」
浜面「・・・今までは・・・全部、結局自分が一番だったからなんだよ」
滝壺「自分が?」
浜面「・・・友達や仲間は、自分が楽しめるから守りたかった・・・プライドなんて自分を高く見せるためのものだし、金だって遊ぶために・・・自分がいい思いをするために守ってたに過ぎないんだよ」
滝壺「・・・うん」
浜面「守りたいものを守るとか言って・・・結局、俺は最終的には自分が一番可愛かったんだ」
滝壺「・・・はまづら、みんなそうだよ」
浜面「あぁ、だからそれに疑問を感じたことも無かった・・・そして、もしもずっと疑問に感じなかったら、俺はそこらへんのヤツと同じような人生を、同じような形で、同じようにして過ごしてたと思う」
浜面「・・・でも、でも俺はお前に出会えたんだ、自分よりも大切な人間に」
滝壺「!」
浜面「・・・初めてだ、自分が命を投げ出してまで守ってみたものは・・・お前が守れるなら、自分が死んでもいいって思った」
浜面「不思議だよな、出会ってそんなに経ってない、それまではただの赤の他人で、俺と正反対の人間を・・・そんなにも守りたいって思ったんだ」
滝壺「はまづら・・・」
浜面「・・・俺に誰かを守ることを教えてくれたのはお前だ、滝壺」
滝壺「・・・」
浜面「そして・・・これからも、ずっと守り続けたい」
浜面「だから・・・だから、俺の声も、手も、心も、何もかもが届くところに居て欲しいんだ」
滝壺「・・・それだったら、とっておきの場所があるよ、はまづら」
浜面「・・・どこだ?」
滝壺「それはね、はまづら」
滝壺「・・・はまづらの、すぐ隣」
浜面「なんてことがあったんだよ!!」
ゴーグル「・・・なんか、うそ臭いっすね」
浜面「いや、ホント・・・滝壺に確認してみてもいいけど」
ゴーグル「はぁ・・・そりゃ、仲良しなわけっすよ」
浜面「あ、やっぱり仲良しに見える?見えるに決まってるよな、そうだよな!!」
ゴーグル「・・・浜面さん、辺りに幸せ振りまくのはいいですけど・・・あとからいざ拾おうって思ったときに大変っすよ」
浜面「え、何が?」
ゴーグル「・・・でも羨ましいっす、そんなに守りたいものがあるなんて」
浜面「お前だって、フレンダを命がけで守ったじゃないか」
ゴーグル「・・・そりゃ、そうっすけど」
ゴーグル男が溜息をつく
もしも浜面と滝壺のように上手くいけば、今頃フレンダとゴーグル男はめでたくカップルだったわけだ
しかしそうはなっていない
つまり、浜面達は特例なのであり決して当たり前なのではない
ゴーグル「・・・フレンダさん、あんまりそのこと言うと嫌がるんすよ」
浜面「い、嫌がるって・・・せっかくお前が命張って守ったのにか?」
ゴーグル「顔真っ赤にして腕振り回して、恥ずかしいから言うなって・・・よっぽど俺みたいな人間に守られたのが恥ずかしいんでしょうね」
コーヒーを飲みながら、ゴーグル男が溜め息をつく
浜面「・・・ゴーグル、お前・・・」
ゴーグル「なんすか?」
浜面「・・・フレンダにさ、一回冗談でもいいから好きです、付き合ってくださいって言ってみな」
ゴーグル「いやっすよ、断られるの見え見えじゃないっすか」
浜面「どうかなぁ・・・」
ゴーグル「・・・何が言いたいんすか」
浜面「フレンダ、結構お前のこと好きみたいだけどな」
ゴーグル「は?」
フレンダ「ねぇねぇ麦野、これってどう思う?」
麦野「少し持ち歩くには大きいんじゃないの?」
フレンダ「そうかな?結構いいと思うけど・・・」
絹旗「高校生が何若作りしてるんですか」
フレンダ「中学生の背伸びよりはよっぽどマシな訳よ」
絹旗「超うぜぇ・・・滝壺さんはどうですか?」
滝壺「・・・これ」
麦野「・・・エナメルバッグ・・・」
フレンダ「ねぇ、ジャージに合わせる必要は・・・」
滝壺「これがいい」
麦野「まぁ、アンタがいいならいいけどさ・・・」
フレンダ「さて・・・じゃあ決まったし、二人を呼びに行かないと」
滝壺「そうだね・・・でも、どこにいるのかな」
麦野「あっちのベンチ、見えるでしょ?」
滝壺「あ、ホントだ」
フレンダ「じゃあ私、呼びに行ってくるから」
滝壺「私も」
絹旗「それじゃ、ここで待ってますから」
滝壺「うん、ちょっと待っててね」
滝壺「・・・?何か話し込んでるみたいだね」
フレンダ「どうせ、男の話すことなんてエッチな・・・」
浜面「フレンダ、結構お前のこと好きみたいだけどな」
ゴーグル「は?」
滝壺「は、はまづら・・・」
フレンダ「」
浜面「お、滝壺!バッグは見終わった・・・」
滝壺「はまづらの馬鹿、そういうのって最低」
浜面「え、えぇ!?」
ゴーグル「あぁ、フレンダさんも来た・・・」
フレンダ「いやぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!にゃぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!」
ゴーグル「ちょ、ちょっと!!どこ行くんすか!?」
フレンダが信じられない速度で走っていく
垣根がもしもここにいたら、「速さこそがうんたらかんたら」と喜びそうなものだが、今はそんなに笑える雰囲気ではない
ゴーグル「な、何まずかったですかね?」
滝壺「ゴーグルは悪くないよ、悪いのははまづらだから」
浜面「な、なんで!?」
滝壺「自分の恋は上手くいっても、他人のそういうのにムダに口出しするんだね」
浜面「い、いやいや!!好きってのは決して恋愛感情ではなく!!」
ゴーグル「・・・あーあ、どっか行っちゃいましたよフレンダさん・・・」
浜面「わ、悪い・・・」
ゴーグル「・・・そんなに俺のこと好きって勘違いされたのがイヤだったんすかね・・・」
滝壺「ねぇ、ゴーグル」
ゴーグル「はい、なんですか?」
滝壺「フレンダを追いかけて」
ゴーグル「あ、いや・・・今俺が行ったらまずいんじゃ」
滝壺「行って」
ゴーグル「は、はい!!」
ゴーグル男がフレンダの駆けていったほうへ走る
残された浜面は、怯えるように滝壺を見つめていた
浜面「あ、あの・・・」
滝壺「はまづら、当分キスは禁止ね」
浜面「えぇ!?」
絹旗「・・・フレンダ、なんか走ってますね」
麦野「・・・ゴーグル君も走ってるわね」
単発ネタ
377 : SS寄稿... - 2011/12/17 21:12:24.33 wpScwUA6o 325/801ゴーグルもふもふしたい
>>377 おかしな趣味の持ち主だ
多分クリスマス辺りからバイトで多忙ですので、長い話は投下できませんので
なので、とりあえず単発リクエストを久々にしようかと
5レスくらいで終れそうなお題ならなんでもいいので、とりあえず>>1に助けを下され
「ていとくんが短小になる」「ていとくんが冷蔵庫に逆戻り」「むしろ世界中の冷蔵庫がていとくん」とかそういうので
おねげぇしますだ、なにとぞこのかっぺに案を・・・
出来れば長い話も投下しますけれども
では
379 : SS寄稿... - 2011/12/17 21:49:25.42 WE5wDw6DO 327/801>>1乙である。
過去スレ確認するのが面倒臭いのでフレメアがどういう扱いか忘れたけど
ゴーグル、フレンダ、フレメアでデート?をする。
的なので。
フレンダ「・・・はぁ、なんであんな風に逃げちゃったんだろ」
ショッピングセンター
浜面達がいるのと違う階にフレンダは辿り着いていた
フレンダ(・・・でも浜面が悪い訳よ)
心の中で言い訳をしながら、トボトボと歩く
どうして素直になれないのだろうか、と自問自答も繰り返す
ゴーグル男が嫌いなわけではない
むしろ
フレンダ(・・・むしろ、好きな訳よ)
そう思うだけで、体中が熱くなってしまう
認めるのが恥ずかしいのか、その感情がくすぐったいのか
フレンダ(・・・ゴーグルは、私のことなんてそんな目で見てないよね)
いつも、少しずれた考え方をされてしまう
好き、というのは友情と受け取られる
一緒に寝るのは信頼しているからと思われる
ずっと一緒にいるのはゴーグル男に気を遣っていると勘違いされる
どんなアプローチをしても、それは意味がなかった
暖簾に腕押しとはまさにこのことだ、とフレンダが自嘲する
フレンダ「はぁ・・・」
ため息をついてから、近くにあるベンチに腰掛ける
春休みなのだから、学生もたくさんいる
彼女一人が目立つことはなかった
だから、きっとゴーグル男が追ってきていたとしても、自分を見つけられるはずは
ゴーグル「あ・・・やっと見つけましたよ」
なかったはずなのに
フレンダ「・・・なに?」
ゴーグル「・・・急に走り出すから、ビックリしました」
おどけたように、ゴーグル男が肩を竦める
フレンダをあまり傷付けないようにしている
そんな気遣いがバレバレな辺り、ゴーグル男は不器用だ
しかし不器用なりにフレンダを喜ばせてくれる
ゴーグル「あの・・・浜面さんも悪気があったわけじゃないっすよ」
フレンダ「分かってる・・・分かってる訳よ」
ゴーグル「・・・だから、あんまり怒らないで下さい」
フレンダ「怒ってなんかない」
ゴーグル「・・・じゃあなんで逃げ出したんすか」
フレンダ「それは・・・」
ゴーグル「・・・あの、一つ確認していいっすか」
フレンダ「・・・うん」
ゴーグル「・・・俺、迷惑ですかね」
フレンダ「・・・なんでそんなこと聞く訳よ」
ゴーグル「・・・もしかしたら、迷惑なのかと思って」
フレンダ「迷惑なんかじゃない」
ゴーグル「・・・そうっすか」
安心したように笑ってから、ゴーグル男がフレンダの横に座る
ゴーグル「・・・嫌われてるのかって不安になっちゃいましたよ」
フレンダ「嫌いなわけ・・・ないじゃん」
ゴーグル「・・・あんな反応されたら、誰だって疑いますよ」
フレンダ「それは・・・その」
ゴーグル「・・・フレンダさん、なんか困ってるんすか?」
フレンダ「・・・」
フレンダがゴーグル男をちらりと見る
彼は本当に、心配したような表情を浮かべている
今なら、少しくらい素直になってもいいのかもしれない
フレンダ「アンタにさ・・・」
ゴーグル「?はい」
フレンダ「アンタに対して抱いてる感情がなんなのか、分からなくなってきた訳よ」
ゴーグル「・・・それは友情じゃなくてですか?」
フレンダ「うん」
ゴーグル「親愛・・・いや、同族愛とか?」
フレンダ「・・・もしかしたら」
そう、あくまでこれはもしかしたら、仮定の話
別に断言できるわけではないのだから
可能性の一つを述べるだけなのだから
フレンダ「・・・愛情、かもしれない訳よ」
ゴーグル「・・・それは、異性としてってことですか」
フレンダ「・・・」
無言で、フレンダが頷く
ここに来るまでどれ程時間が掛かっただろう
ゴーグル男がなんと返事をするか
確認するのさえ怖かった
ゴーグル「・・・その、ここまで親しくした男が俺だけだからじゃないっすか?」
フレンダ「・・・わかんない」
ゴーグル「他の男性と関わってみたら、きっと俺なんてくだらない男に感じるはずっす」
フレンダ「そうかもね」
ゴーグル「それに・・・フレンダさんと俺じゃそもそも釣り合わないっす」
フレンダ「・・・うん」
ゴーグル「・・・だ、だからそうじゃないと思います」
フレンダ「・・・違う、のかな」
ゴーグル「・・・」
ゴーグル男が考える
フレンダは、自分を好きだと言ってくれている
その「好き」という言葉には様々な意味がある
それが一体、どの「好き」なのかが分からないのだ
愛情ならば、異性に対するそれならば
ゴーグル男は、それをやめさせたかった
あるいは認めたくなかったのだろう
ゴーグル「・・・俺は・・・フレンダさんは素敵だと思いますよ」
ゴーグル「優しいし、わがままなのも可愛いかもしれないですし・・・」
フレンダ「・・・」
ゴーグル「でも・・・俺はそんな人間じゃないっす、別に取り柄もないし」
フレンダ「でもさ」
フレンダがゴーグル男の目を見つめる
そういえば最近、こうして見つめ合うことが多くなった
それはなぜなのか
フレンダ「・・・私を、私だけを守ってくれた訳よ」
ゴーグル「あ、あれは・・・」
フレンダ「言い訳なんてされたくない」
ゴーグル「・・・言い訳なんてしてないっすよ」
フレンダ「取り柄がない、優しくない、釣り合わない・・・そんな言い訳なんてしないで、私が嫌いだって素直に言えばいいじゃん」
ゴーグル「嫌いなんかじゃないっすよ」
フレンダ「嘘ばっかり・・・いつもそうやって私と距離置いて、自分は近付かないようにしてる」
ゴーグル「・・・それは、触れるのが怖いからです」
フレンダ「・・・どうせ、本当は・・・私が迷惑なんじゃないの?」
ゴーグル「・・・フレンダさん、俺がそう言えば・・・俺を諦めるんすか」
フレンダ「・・・うん」
ゴーグル「あなたが迷惑だって言えば、俺に対する感情がなんなのかなんて悩まなくなりますか」
フレンダ「うん」
ゴーグル「はぁ・・・」
頭を掻きながら、ゴーグル男がため息をつく
ゴーグル「・・・やっぱり、無理っす」
フレンダ「・・・何が?」
ゴーグル「フレンダさんのことを嫌いだなんて言えませんよ」
フレンダ「!」
ゴーグル「・・・命懸けて守ったじゃないっすか・・・あ、死んでますけどね」
フレンダ「・・・ホント?」
ゴーグル「大体、嫌いだったら俺はすぐに逃げてます」
フレンダ「ホントに嫌いじゃない?」
ゴーグル「・・・その、距離を置いてたことは謝ります・・・でも、やっぱりフレンダさんが俺に抱いてるのは恋愛感情じゃないと思いますよ」
フレンダ「・・・」
ゴーグル「きっと、ただ兄弟に抱くような漠然とした感情なんすよ」
フレンダ「・・・漠然と、かぁ・・・」
ゴーグル「・・・」
フレンダ「・・・ねぇ、ゴーグル」
ゴーグル「はい」
フレンダ「今日のことはさ・・・一旦忘れてほしい訳よ」
ゴーグル「・・・一旦?」
フレンダ「アンタともうちょっと一緒にいて、それで答えが出たら・・・アンタに伝えたいから」
ゴーグル「・・・なんか、ずいぶん時間掛かりそうっすね」
フレンダ「し、仕方ないじゃん!」
ゴーグル「・・・出来れば早く答え、出して下さいね」
フレンダ「・・・だ、だからさ・・・私の感情がもし恋愛感情だったら・・・」
ゴーグル「振りますよ」
フレンダ「な、なんで!?」
ゴーグル「いや、なんでって・・・今は別にフレンダさんに対して恋愛感情なんて抱いてないですから」
フレンダ「うっわ・・・冷める訳よ・・・」
ゴーグル「・・・だから、もし恋愛感情だったら俺好みの人になれるよう頑張って下さい」
ケラケラと笑いながら、ゴーグル男が立ち上がる
ゴーグル「・・・でも」
フレンダ「でも?」
ゴーグル「・・・俺、わりとフレンダさんのこと、可愛いと思います」
フレンダ「な、何言ってるのよ!」
ゴーグル「さ、帰りますよ・・・みなさん待ってますから」
フレンダ「う、うん・・・」
フレンダもゴーグル男を追うようにして歩き出す
フレンダ「あ・・・ねぇ、ゴーグル」
ゴーグル「なんすか?」
フレンダ「・・・手、繋いでもいい?」
ゴーグル「・・・まぁ、いいっすよ」
フレンダ「ありがと」
顔を真っ赤にしながら、フレンダが手を握り締める
フレンダ(・・・違う訳よ、ゴーグル)
フレンダ(私は・・・もうとっくに、アンタに対して抱いている感情が分かってる)
フレンダ(だから・・・今回のは、アンタに対する猶予なの)
フレンダ(私がこれからアンタに色々、優しくして・・・それで、絶対アンタをその気にさせるから)
フレンダ(・・・絶対、アンタから告白させてやるから)
フレンダ(今は・・・告白しても受け入れられる自信がないから)
フレンダ(だから・・・だから、今回はちょっと先延ばしにする訳よ)
フレンダ(・・・)
ゴーグル「・・・フレンダさん」
フレンダ「うん、なに?」
ゴーグル「・・・俺って、やっぱり冷え症っすね」
フレンダ「はぁ・・・こんな時にまで何言ってる訳?」
ゴーグル「・・・フレンダさんと手繋いでるとめちゃくちゃあったかいっす」
フレンダ「でも私、そんなに体温高くないよ?」
ゴーグル「・・・フレンダさん」
フレンダ「だから何?」
ゴーグル「・・・呼び捨てにしてみていいっすか」
フレンダ「いいけど・・・アンタが誰かを呼び捨てにするのって初めて聞くかも」
ゴーグル「フレンダ」
フレンダ「・・・な、なんかちょっと緊張する」
ゴーグル「・・・俺もっす、やっぱりフレンダさんで」
フレンダ「うわ・・・男らしくない」
ゴーグル「仕方ないっすよ、呼び捨てにするなら口調まで変えないといけないっすから」
フレンダ「・・・ゴーグル」
ゴーグル「・・・なんすか」
フレンダ「・・・だ、大好き」
ゴーグル「は、はぁ!?何言ってんすかいきなり!?」
フレンダ「あっはは!引っ掛かった引っ掛かった!」
ゴーグル「じょ・・・冗談っすか」
フレンダ「なに?もしかして期待してた?」
ゴーグル「いや・・・さっきの今でマジかと思っただけっす」
フレンダ「顔、赤い訳よ」
ゴーグル「赤くないっす」
フレンダ「赤い」
ゴーグル「・・・手放しますよ」
フレンダ「あぁゴメンゴメン!そんなに怒らないでってば!」
ゴーグル「・・・フレンダさん、冗談キツイっす」
フレンダ「・・・ちょっとだけ本気なんだけど」
ゴーグル「・・・あ、みなさんいましたね」
フレンダ「ホントだ・・・手、放したほうがいい?」
ゴーグル「・・・」
ゴーグル男が少しだけ手元を見つめる
少ししてから、肩を竦めて笑う
ゴーグル「いいっすよ、いつもこんな感じなんですから」
そんなことを言いながら
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