※関連
最初: 美琴「す・・・好きです!!付き合ってください!!」上条「何やってんだ、御坂」
前回: 上条「引き続き!」美琴「大覇星祭!」垣根「アナウンスも俺!」心理「もうイヤ・・・」【前編】
垣根「さぁ!始まりました!大覇星祭、三日目!」
吹寄「アナウンスは今まで通り、垣根と吹寄でお送りします!」
いぇー!と観客席が湧く
普段ならそろそろ中弛みしてしまう期間だろうか
どうにかそれを防ぐために、二人が盛り上げなければいけなかった
上条「はぁ・・・昨日の美琴は可愛かったなぁ」
そんなアナウンスを無視して、上条はつぶやいていた
美琴「な、なによ急に・・・」
上条「当麻、早く入れて!なんて言われたらもう上条さんは・・・」
美琴「!言うな!」
ポカポカ、と美琴が上条の肩を叩く
あいたたー、なんて適当なリアクションを取りつつ、上条がパンフレットを眺める
上条「えっと・・・今日はあんまり出る種目はないか」
美琴「そうね・・・みんなも別行動だし、ヒマね」
美琴がため息をつく
今日は他のカップルは一緒ではなかった
さすがにずっと一緒だと飽きてしまう
そう垣根が言ったため、今日はカップルごとにバラバラになっている
もちろん、親もその中には含まれていた
上条「はぁ・・・美琴、なんか食べるか?」
美琴「朝ごはん食べたばっかだもん・・・お腹すかないわよ」
上条「ですよね・・・」
何もすることがない
それはかなり辛いことだった
美琴「とりあえず・・・観戦しましょう」
上条「そうだな・・・」
盛り上がりは見せるものの、やはり少し疲れているような観客席
上条「あぁ、あちぃ・・・」
陽射しが上条と美琴に降り注ぐ
競技場ではちょうど、竹取合戦が行われていた
黒子「はぁ・・・暑いですの」
炎天下の中
風紀委員である黒子はパトロールをしていた
削板「そうだな・・・」
ただし、今日は削板も一緒だった
それが唯一の救いであろうか
初春「・・・彼氏を連れてパトロールなんて、固法先輩が知ったら・・・」
黒子「あら、パトロール中にソフトクリームを食べる初春には言われたくありませんの」
黒子が初春を睨む
初春は優雅にソフトクリームなんて食べていた
削板「へぇ、パトロール中は飲食禁止なのか」
黒子「仕事ですもの・・・」
削板「・・・黒子は何か飲みたいか?」
黒子「いえ、わたくしは大丈夫ですの」
黒子が微笑みながら応える
健気だなぁ、と削板は感想を抱く
普通なら少しくらいいいか、と飲食もしそうなものだ
初春「はぁー・・・でも白井さん、何か食べないと体がもちませんよ?」
黒子「たしかに・・・それはありそうですの」
ただ歩いているだけでも、意外と栄養は失われていく
削板「少しくらいなら先輩も目をつぶってくれるさ」
黒子「では・・・少しだけ」
黒子も近くの自販機で飲み物を買う
さすがにわざわざソフトクリームなんかを買うつもりにはならなかった
削板「それにしても、風紀委員って給料とかはないんだよな?」
初春「はい、警備員と同じでボランティアですから」
黒子「風紀委員であれば多少印象は良くなりますが・・・正直、マイナスな面のほうが多いですの」
削板「マイナスな面?」
初春「はい、犯罪者からは恨みをかいますし」
黒子「それに、意外と普通の学生からもうっとうしがられますの」
削板「あぁ・・・厳しそう、って言われるのか」
初春「私達だって一応はただの学生なんですけどね・・・」
ソフトクリームを食べ終えた初春が応える
初春「でも、やっぱり規則を破る人がいるかぎり、風紀を守る人も必要です」
黒子「あら、初春にしてはまともですの」
初春「私は白井さんと違っていつでも真面目です」
黒子「・・・そうですの」
黒子が笑う
かなり引き攣った笑みだったが
削板「はぁ・・・しかし暑いな」
初春「この暑い中、競技は行われてるんですよね・・・」
黒子「熱中症で倒れる生徒が続出しそうですの」
飲み物を一口飲んでから黒子がつぶやく
削板「水分をしっかり摂れ、って言ってもやっぱりそういうのは出てくるんだよな」
黒子「めんどくさい、近くに水道がない・・・そんな理由が大半ですの」
初春「でも、お金がないっていう学生さんもたまにいるんですよ」
削板「・・・なんか上条みたいな学生だな」
黒子「えぇ、無能力者の方はあまり支援を受けられませんから」
黒子がため息をつく
この街では、学生に奨学金が支給される
高い能力者ほど、高い金額が支給されるシステムなのだ
黒子「ですが、正直超能力者の方はあまりにも多額すぎますの」
削板「あぁ、それは俺も思ってた・・・あんなに使えないし、他の人に回してほしいな」
初春「今、そういう運動も起きてるみたいですね・・・無能力者にもしっかり援助をしてくれ、って」
黒子「ですが、それがスキルアウトの軍資金になることが恐れられていますの」
スキルアウトだって無能力者の類に入る
今までは強奪した金を軍資金にしていた
それがもし奨学金が増えれば
削板「なるほど、金の得た方法自体は違法ではなくなるのか」
黒子「使い方も基本は自由ですから・・・スキルアウトの罪状が軽くなってしまいますの」
初春「もちろん、奨学金だけでもてるほどスキルアウトの装備は安くはありませんけど」
削板「そういう問題は大変だよなぁ・・・」
統括理事会も案外考えているのかもしれない
スキルアウトとただの無能力者の境目は曖昧なのだ
スキルアウトの中には、ごく稀に学校に籍を置いているものもいる
学校に通っていることになるため、それはスキルアウトではないという意見もある
逆に、真面目に学校に通っていても無能力ならばスキルアウトだ、という暴論もあったりする
削板「ホント、ややこしい問題が山積みだな」
削板がため息をつく
この街はゴチャゴチャとしすぎている
みんなに一律に奨学金を渡す、というのもやはり間違っている
高い能力を持っている者ほど実験に利用されてしまう
その分、奨学金を多くして文句を言われるのを防いでいるのだ
初春「とにかく、無能力者の人がお金をケチって熱中症で倒れるケースが一番多いんですよ」
黒子「もちろん、風紀委員でも簡単な水分補給用のスポーツドリンクは用意していますが・・・」
削板「もともと非営利目的の風紀委員で用意できるのには限度がある、か」
風紀委員の活動経費はかなりのものだ
その上、学生全員のスポーツドリンクなんてとても用意はできない
黒子「もう少し風紀委員の経費も増やしてほしいですの・・・」
初春「まぁ、支部にエアコンがあるだけマシですよ」
初春が苦笑する
風紀委員の支部は意外と恵まれている
飲み物や、簡単な菓子なら備え付けられているし、パソコンだって少しくらい私用で使っても問題ない
それを狙って入ろうとする連中もいるらしい
もちろん、そういう輩はすぐに厳しさに耐えられずやめてしまうが
削板「・・・黒子、あんまり無理はするなよ?」
少し削板は心配になってしまう
中々の過酷労働なのだ
自分の恋人なら心配にもなるだろう
黒子「えぇ、無理はしませんの」
削板「ウイーハルさんもな」
初春「あの、初春です」
暑い陽射しの中
三人はすぐにパトロールを再開することになる
テクパトル「・・・賑やかだな」
テクパトルはげんなりしていた
賑やか、というのも騒がしいとい意味だ
19090「テっくん!早く来て下さい!」
テクパトル「あぁ・・・」
御坂妹「待たせる男は嫌われますよ?」
テクパトル「分かってるよ・・・」
ミサカ達はクレープの屋台に向かっている
昨日も食べてなかった?なんてツッコミは無意味だ
それぞれ別の味を食べればいいじゃない!なんていうとんでもない思考回路の持ち主なのだ
20000「あー・・・並んでるよかなり」
10039「これは・・・結構待ちますね、とミサカは肩を落とします」
10033「暑いですね・・・」
ミサカ達に、容赦なく紫外線が襲い掛かる
別に美容に気を遣ったりはしない
それでも、暑苦しい陽射しの中にいたい、なんて考えはできないのだ
テクパトル「・・・木陰あるから休んでな」
テクパトルが木陰を指差す
ご丁寧にベンチまで用意されていた
14510「で、ですがクレープは・・・」
テクパトル「買いたいの教えてくれ、俺が並んどくから」
テクパトルがメモ帳を取り出す
そんなものを普段から持ち歩くあたり、意外と彼は几帳面だったりもする
御坂妹「・・・な、なんかテっくんがさりげなくカッコイイです・・・」
19090「さすがミサカの!テっくんです!」
13577「いちいち強調しないで下さい!とミサカはリア充を睨みます!」
17600「悪いなテっくん」
テクパトル「いいよ、俺は日焼けすんの嫌いじゃないし」
それは本当のことだった
彼は体を鍛えているし、日焼けするのもまた好きだった
ただ、今の状況ではさらにフォローした感じになる
何一つ嘘はなく、しかも勝手に株は上がる
まさに、天然誑しだ
御坂妹「ではお願いします、とミサカはメモ帳を渡します」
テクパトル「はいよ」
メモ帳にはそれぞれの注文が書かれていた
20000号の「テっくんのフランクフルト」という注文には無言で横線を引いたが
テクパトル「はぁ、しかしこの陽射しはヤバいよな」
テクパトルが眩しそうに空を見上げる
彼は陽射しに慣れているが、今競技に出ている学生の中にはあまり耐性がない者もいるだろう
テクパトル(・・・熱中症とか増えそうだな)
はぁ、とため息をつく
その息さえも暑く感じる
19090「・・・テっくん」
テクパトル「ん、美月か・・・どうした?」
19090「・・・美月も並びます」
テクパトル「?焼けるぞ?」
19090「で、ですが・・・」
19090号が俯く
顔が赤くなっている
テクパトル「ほら、顔も赤いし、辛いんだろ?」
19090「こ、これは照れているから赤いんです!」
テクパトル「そ、そうなのか」
ストレートに言われたら少し戸惑ってしまう
19090「一緒に並んでもいいですか?」
テクパトル「悪くはないけど・・・でも暑いだろ」
19090「・・・テっくんと話したいんです」
19090号がテクパトルの目を見つめる
彼女の瞳は本当に美しい
ずっと見つめていたら吸い込まれるのでは、と錯覚してしまうほどに
そんな純粋な視線でお願いされたら、断ることはできない
テクパトル「その代わり、辛くなったらすぐに日陰に行くんだぞ?」
19090「はい!」
陽射しに負けないほど
二人は熱かった
20000「かーっ!ホントあの二人は仲良しだね」
そんな二人を残りのミサカ達は見つめていた
17600「いいじゃないか、それが一番の幸せだ」
御坂妹「・・・なんだか、複雑な気もしますが、とミサカは・・・」
17600「そりゃそうだろ、テっくんは父親だからな」
17600号がケロリと応える
13577「・・・うらやましいです」
14510「ですが、ミサカ達では19090号には敵いませんよ」
20000「テっくんは19090号の内面に惚れてるからね、見た目しか同じじゃないミサカ達じゃ無理だ」
20000号が少し寂しそうにつぶやく
ミサカ達はかつて、その無力さを思い知った
テクパトルが19090号を失って落胆していたとき
彼女達はテクパトルを救えなかった
見た目が同じだけではテクパトルには見てもらえない
やはり、彼は19090号を愛しているのだ
彼女を、彼女だけを
それが本当に羨ましく、もどかしくもあった
御坂妹「・・・今更どうこう言うことではありませんね」
10039「・・・あの二人は本当に夫婦みたいです」
17600「・・・もしもあの二人が結婚したら」
17600号が少し不安そうにつぶやく
17600「ミサカ達はどうなるんだろうな」
沈黙が流れた
いつまでもみんなで暮らしたい
それは誰だって同じだ
だが、あの二人の幸せな生活の邪魔をしたくはなかった
14510「・・・ミサカ達だけで過ごすのはどうでしょうか?」
20000「・・・テっくんがいない生活、か」
20000号が考える
そんな生活、初めてではない
彼女達がテクパトルと出会う前はそうだったのだから
10033「・・・でも、ミサカはテっくんと一緒がいいです」
御坂妹「そんなこと、ミサカだって」
17600「・・・みんな同じだろうな」
17600「・・・テっくんは、どうなんだろうか」
テクパトル「お待たせ・・・間違ってないかな?」
テクパトルがクレープを持ってくる
結構時間がかかったようだ
その額には少し汗が浮かんでいた
19090「・・・?どうしました、みんな?」
19090号が首を傾げる
気のせいか、みんなが暗いのだ
17600「・・・なぁ、テっくん」
テクパトル「ん、なんだ?」
17600「もしも19090号と結婚したらさ」
17600号がつぶやく
ドキリ、とテクパトルの胸が弾む
19090号と結婚すると考えただけで、胸が高鳴ってしまうのだ
17600「・・・やっぱり、二人きりがいいか?」
テクパトル「・・・は?」
だからこそ、その問いは予想外だった
17600「・・・ミサカ達が邪魔になるかなと思ってさ」
テクパトル「お前・・・」
御坂妹「・・・ミサカ達はテっくんにお世話になっています、だからテっくんの幸せが一番なんです」
10039「・・・ミサカ達がいると邪魔なら、その・・・」
テクパトル「・・・なぁ、本気で言ってるのか?」
テクパトルが逆に尋ねる
その声はとても辛そうだった
テクパトル「本当に・・・そんなこと思ってるのか?」
14510「だって・・・」
テクパトル「・・・すまない」
テクパトルがいきなら頭を下げる
御坂妹「あ、いえ・・・」
テクパトル「俺は・・・まだ、信用されてはいないのか?」
17600「違う、信用しているからこそさ」
17600「テっくんは決して、自らミサカ達を捨てはしない」
17600「だがな、かつてそれで苦しんだだろう」
19090号が記憶を失ったとき
自ら、ミサカ達と離れるという選択肢を彼は見つけられなかった
今ももしそうだとしたら
それは、ミサカ達にとって辛いことなのだ
20000「・・・正直に言って、ミサカ達は受け止める覚悟があるよ」
テクパトル「・・・俺は、19090号が好きだ」
テクパトルが答える
テクパトル「それは変わらないし、他の誰にも恋愛感情は抱かない」
テクパトル「でもさ・・・だからって他の誰かが邪魔になるわけないだろ?」
テクパトル「ましてお前達なら」
テクパトル「大切な家族なら、邪魔になったりなんかしないさ」
20000「・・・ホント?」
テクパトル「あぁ、だって俺はみんなが大好きなんだ」
テクパトルが微笑む
家族というものが彼にはなかった
気がついたら組織にいた
そんな彼にとって
テクパトル「お前達だけが、唯一の家族なんだ」
テクパトル「それを捨てるわけあるまい」
17600「・・・よかった」
ぽつり、と17600号がつぶやいた
気のせいか、声が震えている
テクパトル「・・・みんな、おいで」
テクパトルがミサカ達を招き寄せる
テクパトル「俺は絶対、お前達を見捨てたりはしないさ」
みんなをぎゅっ、と抱きしめる
それは父親の温もりだった
ミサカ達がいつも感じている温もりだった
テクパトル「みんなも、俺と・・・その、一緒にいたいか?」
10039「当たり前です!」
御坂妹「もちろんですよ」
17600「・・・ちっ、陽炎が邪魔だな」
テクパトル「ははは・・・そうか」
テクパトルが笑う
こんな幸せ、彼にはもったいないかもしれない
でも、たとえもったいなかったとしても
テクパトルは、この幸せを手放すつもりはなかった
19090「ほら、早くしないとクレープがベタベタしますよ!」
20000「おっとあぶねぇ!」
日陰の中の小さなベンチで
テクパトルとミサカ達は、幸せな一時を過ごしていた
エツァリ「ショチトル・・・」
ショチトル「エツァリ・・・」
二人は悲しそうな表情をしていた
エツァリ「まさか、熱中症だなんて」
ショチトル「あぁ・・・信じられないよ」
エツァリ「はは・・・はしゃぎすぎたのが原因でしょう、すぐに良くなりますよ」
ショチトル「そうだといいな・・・」
エツァリ「大丈夫ですよ」
ショチトル「・・・熱中症だなんて情けない・・・」
ショチトル「お前、ホント情けないぞ」
エツァリ「えぇ、若干自覚はありますよ」
エツァリはベンチに横になっていた
ショチトルとぶらついていたら、急にめまいがしたのだ
無理は禁物ということで横になっているのだが
ショチトル「水分補給を怠ったからだぞ」
エツァリ「全く、面目ない」
ショチトル「・・・心配をかけるな」
はぁ、とショチトルがため息をつく
エツァリ「・・・しかし、まさか自分が」
ショチトル「みんな普通はそう言うんだよな」
エツァリ「・・・すいません」
エツァリが申し訳なさそうに謝る
ショチトル「ったく」
ショチトルがスポーツドリンクを差し出す
エツァリ「・・・なんだか、ショチトルに後光が差していますよ」
ショチトル「死ぬ前兆じゃないかそれ?」
エツァリ「」
あまりにもひどい返答
頭がクラクラとしたのは熱中症のせいではないはずだ
エツァリ「と、とにかく・・・安静にしていれば問題ありません」
ショチトル「いや、大有りだ」
不機嫌そうに答えるショチトル
その目は「せっかくお兄ちゃんと遊べると思ったのに、プンプン」と言っている
エツァリ「あの・・・一人で大丈夫ですから」
ショチトル「あぁもう!私はお前と一緒にいたいんだよ、それくらい察しろよ禿げ!」
エツァリ「は、禿げ・・・」
全く禿げていないのに
なんでそんな言われ方をしないといけないのだろう
エツァリ「・・・全力で安静にします」
ショチトル「それは安静とは言わないよな?」
エツァリ「それもそうですね」
エツァリが苦笑する
先程から、こんな会話を繰り返して時間をつぶしていた
エツァリ「も、もう少ししたら動けますよ?」
ショチトル「・・・はぁ、今日はトチトリも来るというのに」
エツァリ「え?」
ショチトル「あれ、言ってなかったか?」
エツァリ「待ってください!!聞いてませんよ!?」
ショチトル「ワーオ、伝達ミス」
エツァリ「軽く言わないでください!!」
ショチトル「とりあえず、昼前にはトチトリが着ちゃうから準備しとけ」
エツァリ「ひ、昼前ですか」
ショチトル「あぁ、文句があるか?」
エツァリ「い、いえ!!」
熱中症はほとんど治まっていた
だが、その代わり
なぜか謎の頭痛に、エツァリは襲われていた
エツァリ(はぁ、めんどうなことに・・・)
一方「・・・なンで黄泉川がいンだよ」
黄泉川「あれ、一方通行と番外個体じゃん」
番外「お、警備員の仕事?」
街中をふらついていた二人
そしたら、少し頑丈そうな警備服に身を包んだ黄泉川に出合った
一方「・・・くそ」
黄泉川「うわ、傷つくじゃんか」
番外「いやいや、一方通行はデートをジャマされたのがイヤだったんだよ」
黄泉川「なんだ、可愛いヤツじゃん!」
ニヤニヤ、と女二人がにやける
一方(・・・めンどくせェ)
どうして女と言うのはこうも冷やかすのが好きなのか
男である彼にはわからなかった
黄泉川「おっと、これからちょっと仕事だから・・・」
番外「うん、またね!!」
手を振って、黄泉川が駆けていく
乳が揺れているのってうらやましいな、と番外個体は思う
一方「・・・ちっ」
番外「なに?そんなにジャマされたのがイヤだった?」
一方「そンなンじゃねェよ」
一方通行がふてくされたように言う
彼は意外とこういうときは幼稚だ
すぐに拗ねるし、すぐに不機嫌になる
そういうときは、番外個体は甘えるようにしている
子供というのは、構ってもらえると喜ぶのだから
番外「ねぇ、ミサカはアナタと二人きりで嬉しいよ?」
一方「・・・そォかよ」
番外「じゃあ、あっちのクレープ屋さんに行ってみよう!!」
一方「・・・しゃあねェな」
番外個体の後を、一方通行がしぶしぶと歩く
杖をつきながらだが、どうにか必死についていく
一方(・・・にしても暑いな)
陽射しはさらに強くなっていく
そろそろ正午だろうか
一方「熱中症になるバカとかがいるンだろうな」
まさか、自分の友人がそうなっていたとは知らず
美鈴「ねー、パパ♪」
旅掛「なんだ、美鈴♪」
こちらのバカ夫婦は、一緒に街中を回っていた
若いころからまったく変わらないイチャつきっぷり
周りから見ても、まだまだ現役といった感じである
具体的になにが、とは言わないが
旅掛「あ、かき氷食べるか?」
美鈴「うん、食べる食べる♪」
イチャイチャしながら、イチャイチャと列に並び
イチャイチャ話しながら、イチャイチャクレープを受け取る
周りの学生が、なぜか冷めた目で見てくる
うらやましいのだろう
美鈴のような美人を、いかにも成金っぽい男が連れている
社会の縮図だ
金が全てだ
学生はそう思っているのだろう
旅掛「だが!!俺たちの間には本当の愛があるんだ!!!!」
美鈴「もう、パパったらー!」
バシバシ、と美鈴が旅掛の肩を叩く
旅掛「ははは!!昔に戻ったみたいだなぁ!!!!」
美鈴「パパ、あーん♪」
旅掛「あーん♪」
とても、中学生の娘を持つ夫婦とは思えない
初々しい二人の熱き親
そんな二人を、少し離れたベンチで見つめている者達がいた
テクパトル「・・・なにやってんだあの二人」
19090「あ、熱いですね・・・」
20000「テっくんと19090号よりも熱いね」
19090「!!テっくん、負けてはいられません!!」
テクパトル「あーー!!そういうのは競うもんじゃない!!」
御坂妹「あ、名言ですね、とミサカは適当に返します」
テクパトル「なんで投げやり!?」
17600「テっくんってたまにハイテンションだよな」
テクパトル「は、はぁ?」
そんな家族に
旅掛と美鈴も気づいていた
美鈴「あっれー?テクパトルくんじゃない」
旅掛「な、ハーレム!?」
テクパトル「ちげぇよ!!アンタらがみんなの親なのがよく分かったよ!!」
あーもう!!とテクパトルが頭を抱える
ミサカDNAはどうも突拍子のないことを言い出すのが好きらしい
旅掛「お、そっちの子達はみんな妹達かい?」
美鈴「へー・・・ホントにたくさんいるんだ」
御坂妹「はじめまして、お母様」
美鈴「えー、そんな堅苦しくなくていいよ」
旅掛「ダディー、マミー、でいいさ!!」
テクパトル「お父さん、お母さんにしような」
旅掛「」
10039「では、お母さんたちは何をされていたのですか?」
美鈴「ラブラブデート♪」
旅掛「いやぁ、久しぶりに若いころに戻ったみたいな気分だよ!」
14510「その歳でなおラブラブとは・・・」
17600「驚くべきバカップルだな」
20000「子供はもう作らないの?」
テクパトル「20000号、ちょっと黙れ」
旅掛「いやぁ、しかし暑いなぁ」
テクパトル「そうですね」
美鈴「ねぇ、テクパトルくんはなんで敬語なの?」
テクパトル「はい?」
旅掛「義理の息子なんだから、敬語じゃなくていいさ」
テクパトル「いや、礼儀は礼儀・・・」
旅掛「それは!!無意味だ!!」
旅掛「礼儀というのは相手にイヤな気持ちをさせないためのもの!!」
美鈴「でも、私達が敬語を使われてイヤな思いをするなら!!!」
旅掛・美鈴「それはむしろ無礼儀!!!」
テクパトル「みんな、クレープ食べたか?」
御坂妹「はーい」
13577「では、行きましょうか」
美鈴「あれ?」
旅掛「外したか」
テクパトル「・・・なんんでついてくるんですか・・・」
旅掛「・・・娘達がこの男になにかされないかを見張るためさ!!」
テクパトル「あのな・・・」
御坂妹「むむ、テっくんはそんな人ではありません」
19090「とても優しいですよ?」
20000「真面目だし」
17600「お父さんだし」
10039「礼儀はできてますし」
13577「家事もできますし」
14510「あなたと違うんです、とミサカは某総理大臣の迷言を真似してみます」
旅掛「美鈴ぅ・・・」ウルウル
美鈴「おー、よちよち」
テクパトル「はぁ・・・」
美鈴「あ、よかったら一緒に競技場戻らない?」
旅掛「お、そうしようそうしよう」
10033「では、レッツゴー」
ミサカDNAというのは、テクパトルをとことん振り回すらしい
溜め息をついてから、テクパトルも歩き出す
テクパトル「帰りたい・・・」
刀夜(・・・女性に道を尋ねられること3回)
刀夜(曲がり角で女性と危ない接触をすること4回)
刀夜(そのうち、胸に触れてしまったのが2回)
刀夜(母さんと間違えて他の女性の手を握ってしまったこと5回)
詩菜「あらあらまぁまぁ」
刀夜(母さんは、ご立腹です)
詩菜「刀夜さんはよっぽど私にヤキモチを妬かせたいのかしら、まぁまぁ」
刀夜「ち、違うんだ・・・」
詩菜「あら、なにか言いましたか?」
ニコリ、と詩菜が微笑む
刀夜(目が!!目が笑っていない!!)
背筋に悪寒が走る
本当に、怒ったときの女性は恐ろしい
詩菜「あらあら、私、近くに灰皿があったら迷わず手にとってしまいそう」
刀夜「お、落ち着いてくれ母さん!!」
刀夜が必死になだめる
詩菜「まぁまぁ、うふふ」
刀夜(だ、誰か助けてくれ!!)
こんなときに現れるヒーローなんて
上条「あれ、父さんと母さん?」
いた
刀夜「当麻!!それに美琴ちゃん!!!」
美琴「どうしたんですか、こんなところで?」
詩菜「あらあら、刀夜さんが女性にちょっかいを出したから・・・」
刀夜「ち、違うんだ!!」
上条「父さん、ラッキースケベはよくないよ」
刀夜「お前が言うのか!?」
美琴(これは遺伝なのね)
刀夜「そ、そうだ!!母さん、何か食べたいものは・・・」
詩菜「まぁ、私が食べ物でつれるとでも?」
刀夜「うっ!!」
上条「父さん、それはインデックスにしか効かないと思うけど」
刀夜「当麻!!君はあの子を食べ物でつったのか!?」
美琴「・・・へぇ、ふーん」
上条「あれぇ!?なんか美琴がヤキモチモードに!?」
美琴「べ、べつにヤキモチなんか・・・」
刀夜「と、当麻!!食べ物で女の子をつるのは・・・」
詩菜「あらあら、刀夜さんったら、自分のことは棚にあげて・・・」ニコニコ
刀夜「ち、違うんだ!!」
上条「美琴、俺が好きなのは美琴だけですよ?」
美琴「え、えへへ//」
刀夜「そっちはもう解決してるのか!!」
詩菜「刀夜さん」ニコニコ
美琴「お父さん、女性は怖いですよ?」
上条「美琴、そんなこと父さんはよく知ってるよ、誑しだから」
詩菜「まぁまぁ・・・」
刀夜「当麻ぁ!?火に油を注がないでくれ!!」
詩菜「火がなければ油は燃えないのよ?」ニコニコ
刀夜「ひぃっ!!」
上条「父さん、バイバイ」
刀夜「なんでそんなに哀れむような目を!?」
美琴「お父さん、骨は拾います」
刀夜「美琴ちゃんも!?」
詩菜「あらあら、もう準備はいいかしら?」
刀夜「あぁ・・・」
刀夜「不幸だ・・・」
ステイル「・・・君は本当によく食べるね」
ステイルは驚いていた
イン「うん、私は食べるの大好きなんだよ!!」
インデックスの無尽蔵の胃袋に
ステイル(前から大食いではあったが・・・)
イン「あ、たこ焼き!!」
ステイル(ここまでだっただろうか?)
イン「はむはむ!!」
ステイル「・・・はぁ、しかし・・・」
こうやって二人というのは久しぶりだろうか
なかなか仕事の関係上、会う機会がないのだ
最近では必要悪の教会も穏便になってきている
出来る限り殺しはしないように、と
ステイル(世界がいい方向に変わってきているのかな・・・)
イン「あー!!美味しかったんだよ!!」
インデックスが満足そうにお腹を叩く
ステイル「そうか、よかったよ」
イン「うん!ステイルといると楽しいなぁ・・・」
ステイル「!!」
ステイル「ちょ、ちょっとトイレに行ってきていいかい!?」
イン「?うん」
ステイル「イノケンティウス!!」
ステイルがイノケンティウスを呼び出す
あまり大きくするといけないので、ルーンのカードはかなり少なくして
イノ「あー、あちぃ」
ステイル「いや、君が一番そういうのには強そうだが」
イノ「それは間違いだ」
イノ「お前は、魔術師が近くにいてもなにも感じないか?」
ステイル「まさか、むしろすぐに気づくさ」
イノ「それと同じだ、炎を司る俺だからこそ」
ステイル「暑さには敏感、と」
イノ「そういうこと」
ステイル「ふーん」
イノ「あ、しょうゆうこと」
ステイル「なんだいそれは」
イノ「ていうかさ、なんで呼び出したの」
ステイル「あ、そうだった!!」
イノ(こいつバカだろ)
ステイル「インデックスといい雰囲気なんだ!」
イノ「あぁそうおめでとさんそれじゃ俺は帰るから」
ステイル「待って!!リア充が妬ましいのはわかるけども!!」
イノ「今、俺は、怒っていい」
ステイル「そ、それで・・・告白したいんだ」
イノ「おう、セッ○スか」
ステイル「な、なななななななななんでそういうことに!?」
イノ「お前、初心だな」
ステイル「バカにするなよ!!」
イノ「そうだな・・・普通に告白したらどうだ?」
ステイル「そ、その普通がわからないんだ・・・」
イノ「あれだ、お前といると楽しいんだ」
イノ「そして、俺はずっと楽しい日常を暮らしていきたい」
イノ「その真ん中には、君が必要なんだ」
ステイル「へぇ、素敵・・・」
イノ「なーんて言ったら基本は嫌われる」
ステイル「」
イノ「ねぇ、騙された?」
ステイル「黙ってくれ」
イノ「そうだな・・・好きだ、でいいと思うぜ」
ステイル「・・・そ、そんなシンプルでいいのかい?」
イノ「だってよ、愛ってのは始まったばかりのころは小さいもんだぜ?」
ステイル「あ、あぁ・・・そうだな」
イノ「そんなときから、いきなり愛を語ってどうするんだよ」
ステイル「そ、それは・・・」
イノ「いいか、愛とは語るためのものじゃない」
イノケンティウスが空を指差す
イノ「あの空を目指すためのものさ」
イノ「その時、背中に背負うものは少ないほうがいい」
イノ「愛の言葉なんて、重荷でしかないのさ」
ステイル「お、おぉ・・・」
イノ「わかるか、14歳」
ステイル「よし、行ってくる」
イノ「グッドラック」
イン「あ、おかえりなんだよ!」
ステイル「やぁ・・・待たせたね」
イン「ううん、全然!」
ステイル「・・・ねぇ・・・インデックス」
イン「?なに?」
ステイル「き、君に伝えたいことがあるんだ」
イン「・・・なに?」
インデックスが首を捻る
その顔を見つめるだけで、ステイルの胸は高鳴ってしまう
ステイル「そ、その・・・」
土御門「俺は、君が、好きなんだにゃー!!!!!」
ステイル「」
イン「あれ?つちみかど?」
土御門「にゃー、久しぶりだにゃー」
ステイル「ちょっと来い、土御門」
土御門「いやいや、お前がなかなかしぶって言わないから・・・」
ステイル「・・・僕はね、自分の口で伝えようと・・・」
イン「え?なになに?」
ステイル「な、なんでも・・・」
土御門「逃げるのか?」
ステイル「な・・・」
土御門「前もそうやって、お前は手放してしまっただろう」
土御門「まーた、なんでもない、気にしないでいい、そう言って逃げるのか?」
ステイル「・・・に、逃げてなど・・・」
土御門「垣根が言ってたぜよ、人生は一本道だって」
土御門「一本道なら、進は前だけ」
土御門「それ以外は、後ろしかないんだにゃー」
ステイル「・・・僕は・・・」
土御門「インデックス」
イン「?なに?」
土御門「こいつは、今前へ進もうとしている」
土御門「そして、その先にはお前がいるんだ」
イン「そうなの?ステイル?」
ステイル「・・・あぁ、そうだな」
ステイルがインデックスを見つめる
ステイル「インデックス、僕はずっと君を見つめてきた」
イン「?うん」
ステイル「そして、僕の目の前には・・・君しかいないんだ」
土御門(小萌先生発狂するぜよ)
ステイル「・・・僕は・・・君が・・・」
心理「はぁ、暑いわね・・・」
ステイル「」
ステイル「なんでこのタイミングで出てくるんだ?」
心理「あら、なに?なにかあったの?」
土御門「一世一代の告白だにゃー」
心理「あら、告白に人生かけてるようじゃ、その後辛いわよ?」
ステイル「だ、だから・・・」
イン「?告白なの?」
ステイル「」
ステイル「そ、そうだ!!僕は君が!!!」
ステイル「好きなんだ!!!」
土御門(おー、これはなかなかシンプルでいいぜよ)
心理(あらまぁ)
イン「?私も好きなんだよ?」
ステイル「じゃ、じゃあ!!」
イン「とうまやみことや、みーんな好きなんだよ!!」
ステイル「・・・ちょっと、木陰に行って来る」
イン「?」
ステイル「・・・イノケンティウス」
イノ「あー、ドンマイだな」
ステイル「・・・どうすれば・・・いい?」
イノ「いや、告白って一回で上手くいくほうが少ないんだぞ?」
ステイル「!?そうなのか?」
イノ「あぁ、俺なんか何度アタックしたことか・・・」
ステイル「誰に?」
イノ「火事の炎」
ステイル「そ、それはいいのか?」
イノ「いやぁ、いつの間にか消えてたんだ、彼女」
ステイル「消火されたんだな」
イノ「とにかく、めげちゃダメだぜ」
イノ「だって、インデックスはそこにいるじゃないか」
ステイル「あぁ・・・そうだ!」
土御門「あ、帰ってきたにゃー」
ステイル「君はまだいたのか・・・」
心理「はぁ、垣根はアナウンスだし・・・ヒマだわね」
イン「ねぇステイル、どういうこと?」
ステイル「いや、なんでもない・・・なにか食べるかい?」
イン「うん!!」
ステイル(上手くはいかなかったけど・・・)
ステイル(こういうのも、僕たちらしいかもな)
垣根「さぁ!!盛り上がっていきましょう!!」
わぁぁぁぁぁ!!と観客席も無理矢理テンションを上げる
三日目となると、なかなかテンションを維持できなくなる
吹寄「・・・垣根」
吹寄がマイクの電源を切って垣根に話しかける
今の競技はダンスだった
垣根「なんだよ?」
吹寄「しばらく休んでていいわよ・・・」
垣根「あぁ?でもやることねーし」
吹寄「彼女さんがいるじゃない」
吹寄が少し驚いたように言う
垣根は心理定規を溺愛している
きっと、今すぐにでも一緒に行動したいはずだ、そう思っていたから
垣根「でもさぁ、一緒にいてもやることねーよ」
吹寄「どうして?一緒に食事とか・・・」
垣根「あぁ・・・食事はもうちょいしたらな」
垣根が時計を見る
やっと11時を回ったころだった
垣根「それに、お前だけじゃ盛り上げられないだろ」
吹寄「・・・貴様、失礼ね」
垣根「だってそうだろ?」
吹寄「・・・まぁ、盛り上げようとしてくれてるのはありがたいけど」
吹寄が溜め息をつく
本来ならこれは、実行委員である彼女の役割だった
それを、赤の他人である垣根に任せるなんて
垣根「いいじゃねぇか、友達だろ?」
吹寄「そのセリフはこの場面では違うと思うわよ」
垣根「・・・でもさ、本当に楽しいよな」
垣根が笑う
垣根「中弛みはしてるけどさ・・・こういうほのぼのした日常は悪くないな」
吹寄「まるで、そうじゃない日常を過ごしてきた、みたいな言い方ね」
垣根「・・・あぁ、そうかもな」
吹寄「?どういうこと?」
垣根「なんでもねーよ」
吹寄「・・・どうでもいいんだけどさ」
垣根「あぁ」
吹寄「昨日、クラスメイトに付き合ってるのかって聞かれたわ」
垣根「なにが」
吹寄「私と貴様」
垣根「」
垣根「あ、そういう妄想をされてるのですか」
吹寄「殴るわよ」
吹寄「でも、たしかに少し彼女さんに構ってあげてる時間少ないんじゃない?」
垣根「そうかねぇ?俺としてはちょうどいいんだけど」
吹寄「・・・貴様の恋愛観はわからないわ」
吹寄が溜め息をつく
彼女だって、一応は恋するお年頃にあるのだろう
最も、そういうのとは対極にいるが
垣根「お前はもしかして構ってほしいタイプか」
吹寄「そんなこと聞いてどうするのよ」
垣根「俺には女がわかんないからな」
垣根が足を投げ出す
競技場では、選手達が踊っている
垣根「俺も、女に踊らされてるのかもな」
吹寄「・・・貴様は、女心とかよく分かってそうなんだけど」
垣根「まさか」
垣根「男と女ってのは、絶対に理解し合えないもんだぜ?」
吹寄「そうかしら」
垣根「あぁ、だからこそずっとそばにいて知ってみようとする」
垣根がつぶやく
彼だって、心理定規のすべてはわからない
いや、むしろわかっていることなどないのかもしれない
垣根「そんなもんだ、恋なんて」
吹寄「・・・だったら、なおさら彼女のそばにいるべきじゃない?」
垣根「知りすぎたらつまんねぇだろ」
吹寄「?どうして?」
垣根「知ってしまったら、そばにいる理由がなくなるからな」
垣根「知らないくらいがちょうどいいのさ、そして可能性に怯えるくらいが」
吹寄「・・・なんだか、難しい世界ね」
垣根「お前も恋すればわかるさ」
吹寄「恋・・・ねぇ」
垣根「お前、目つけてる男とかいないのか?」
吹寄「まさか、いるわけないでしょ」
垣根「じゃあ、近しい男とか」
吹寄「男友達・・・か」
吹寄が考える
まず思い浮かぶのはデルタフォースだろうか
なんだかんだ、仲はいいような気がする
でも
吹寄「うーん・・・上条は彼女がいるでしょ?」
吹寄「土御門は妹にぞっこんだし、青髪は論外よ」
垣根「すまん、青髪が少し哀れだ」
吹寄「かといって・・・他に男友達はいないわね」
垣根「あれ、俺は?」
吹寄「貴様も彼女いるじゃない」
垣根「ふーん・・・」
あれ、と垣根が気づく
垣根「それって、彼女いなかったらオッケーだったってことか」
吹寄「いや、ないわ」
垣根「えぇ・・・」
期待していたわけではないが
まさか、そうも冗談に真面目に返されるとは
垣根「お前・・・心理定規の爪の垢でも煎じて飲め、そして喉につまらせて死んじゃえ!!」
吹寄「なに言ってるの貴様?」
垣根「・・・でもさ、お前は絶対モテないよな」
吹寄「ちょっと殴っていいかしら?」
垣根「いやいや、だって真面目すぎるだろ」
垣根が苦笑する
垣根「見た目はそこそこ美人なのにさ」
吹寄「・・・さらに殺意が湧いてきたわ」
垣根「まぁ、心理定規の足元にも」
吹寄「ちょっと殴るわね」
垣根「・・・早く昼休みなんないかなー」
吹寄「彼女とデート?」
垣根「ま、そういうこと」
飲み物を口に含みながら垣根がうなずく
この暑さでぬるくなっているため、少し気持ちが悪かったが
垣根「お前も、恋するといいぜ」
吹寄「私はいいわ」
垣根「なんで?」
吹寄「・・・別にいいでしょ」
吹寄が顔をそらす
垣根「ふーん、俺に失恋してるからか」
吹寄「貴様はなに?どうしても私と貴様と彼女の三角関係を演出したいの?」
垣根「いやぁ、そうなると面白いな、と」
吹寄「性根腐ってるわね・・・」
垣根「・・・なぁ」
吹寄「なに?」
垣根「俺と心理定規って、ナイスカップルかな?」
吹寄「えぇ、周りから見てていらつくくらいに」
垣根「お、マジか!?」
嬉しそうに垣根がはしゃぐ
本当に心理定規が好きなのだろう
吹寄「・・・ほら、もう次が最後の種目よ」
垣根「おー、じゃあがんばります!!」
垣根がマイクのスイッチを入れる
垣根「午前、最後の種目だバカヤロウ!!!!!!!!!!!!!!!」
一同「いぇーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
垣根「こちらは面白い種目だ、なんと!!!!」
垣根「ウェイトリフティング!!!」
一同「お、おぉ!!!!!!???????」
垣根「えーっと、なんだこりゃ?テクパトルくーん、お客様の中にテクパトルくんはいませんかー?」
垣根がアナウンスで呼び出す
数秒後、どこからか空き缶が飛んできた
垣根「ふべぇ!!」
テクパトル「・・・大声で呼ぶんじゃねぇ・・・」
垣根「は、速さが足りてるぜ!!」
テクパトル「はぁ・・・いや、ちょうど競技場で観戦してたんだけどな」
垣根「はい、ウェイトリフティングについては彼が説明してくれます」
テクパトル「えー、自由参加、能力使用はなし」
テクパトル「デッドリフト、スクワット、ベンチプレスのMAX合計を競います」
テクパトル「自分の申告した重量で一発勝負、時間短縮のため失敗したら記録無しです」
垣根「ワーオ、ハードだね」
吹寄「というか・・・やる選手いるのかしら?」
テクパトル「俺は出る」
削板「俺も俺もーー!!」
そこからか、削板の声も聞こえる
他にも、物好きの学生が手を上げる
上条「へー、面白そうな競技やってんな」
美琴「うん、当麻も出たら?」
上条「お、俺!?」
観客席に戻ってきた上条もなぜか出ることになった
エツァリ「では自分も・・・」
ショチトル「熱中症は黙ってろ」
エツァリ「」
番外「アナタは?」ケラケラ
一方「・・・うるせェ」
ステイル「へぇ、僕もやってみようかな」
イン「がんばるんだよ!!」
テクパトル「さて・・・」
削板「使用できるのはグローブだけ、か」
テクパトル「重すぎると腰とか痛めそうだな」
そんな会話をしながら、二人はアップを始める
上条「なぁ、あの二人慣れてるよな」
ステイル「あぁ、勝てる気がしないね」
■■「どうして私は。ここにいるの」
土御門「にゃー、俺も一応がんばるぜよ」
テクパトル「まずはベンチプレス、か」
削板「・・・俺から行かせてもらおう!!」
用意されたベンチに、削板が寝転がる
削板「テクパトル、一応補助についててくれ」
テクパトル「おう」
傍らに、テクパトルが立つ
垣根「さぁ!!削板選手、170kgに挑戦です!!」
一同(いや、おかしいだろ・・・)
削板「エビバディワナビアボディビルダ!!!!!!!!!!!!!!!」
テクパトル「ライウェイッ!!!!」
削板・テクパトル「ベイベーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
上条(ごめん、俺はもう逃げ出したい)
ステイル(ベ、ベンチプレスって60kgくらいでやるものじゃないのかい?)
土御門(俺は100くらいでいいぜよ・・・っていうか帰りたい)
■■(女で出てるのは。私だけ。ふふふ)
垣根「おっと!!削板選手、見事成功!!!!」
おぉぉぉぉ!!!!と観客席から拍手が巻き起こる
美琴「な、なんかすごさがわかんない・・・」
美鈴「うーん・・・どうなんだろ?」
旅掛「すごいんじゃないか?」
イン「なんか、すごい形相なんだよ」
観客席のみんなは首を捻っている
テクパトル「さて・・・俺は180だ」
削板「180!?」
テクパトル「補助、頼むぞ」
プレートを足し、テクパトルがベンチに寝転がる
一方「ありえねェ・・・」
番外「すごいね・・・」
19090「テっくん・・・素敵です・・・」ウットリ
御坂妹「よく分からん世界だな、とミサカは垣根の真似をします」
14510「ですが、すごいのでしょう・・・」
テクパトル「・・・スクイーズ!!!」
テクパトルがベンチプレスを始める
しっかりとした軌道で、なんなくクリア
垣根「うっわ、すっげぇ・・・成功しましたよ」
吹寄「ねぇ、この異常な盛り上がりはなに?」
観客席から、おそろしいほどの声援が聞こえる
上条(・・・結局、俺は80kgだった)
ステイル(・・・僕は・・・失敗・・・)
■■(ふふふ。40kg成功)
テクパトル「いや、女で初めて、それで40kgか・・・」
削板「やるな、お前!!」
■■「それは。嬉しい」
垣根「えー、次はスクワットになりますね」
吹寄「な、なんか私には理解できないわ・・・」
削板「・・・200、行こう」
テクパトル「ほう・・・」
削板がプレートを用意する
削板(たしか、テクパトルは上半身は強かった・・・)
削板(だが反面、下半身は俺同程度)
削板(いや、場合によっては俺のほうが上だった)
削板「もらうぞ、この勝負!!!」
削板がバーベルをラックから外す
観客席が湧きあがる
常人では、それを持ち上げることすらできないのだが
美琴「うっわ・・・バーがしなってるよ・・・」
刀夜「あれは・・・失敗したら危なそうだな」
詩菜「まぁまぁ、いつも通うジムでも見たことない重さね」ニコニコ
美鈴「力持ちだねぇ」
旅掛「いやぁ、運動会でこれをやるとはな・・・」
削板「ホーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!」
息を吐ききってから、削板が体をしゃがませる
垣根「さ、さぁ!!成功するのか!?」
吹寄(す、すごい・・・なんか、私には入れない世界だわ)
削板「イェッパレー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
上条「あ、上げた!?」
ステイル(に、人間が扱う重さなのか・・・?)
テクパトル「いや・・・なかなかだな」
削板「ははは・・・やったぞ・・・俺は」
垣根「さぁ、テクパトル選手、何kgに挑戦しますか!?」
テクパトル「・・・200だ」
垣根「お、削板と同重量か」
削板(なるほど・・・俺よりあとにやる、ということは俺の記録に合わせて無理せずできるのか・・・)
テクパトル「じゃ、いくぞ」
テクパトルが試技を始める
やはり、なんなくクリアしてしまう
テクパトル「はぁ・・・暫定では俺がトップか」
削板「くっ・・・」
上条(ごめん、90が限界だった)
土御門(にゃー、110だったぜよ)
ステイル(また失敗・・・)
■■(60、なかなか)
垣根「さぁ!!みなさん、次で一位が決まります!!」
わぁぁぁぁ!!!!!と観客席から声が上がる
男達なら誰もが夢見たであろう世界
いや、そんなことはないかもしれないが
心理「あら、面白そうね」
美琴「あ、心理定規」
イン「どこ行ってたの?」
心理「ちょっと飲み物買いによ」
吹寄「最後の種目は・・・デッドリフト?です!」
垣根「さぁ、まずは削板選手が・・・」
テクパトル「待ってくれ、次は俺からだ」
削板「!!」
テクパトル「なに、スクワットはイーブンだったが・・・ベンチプレスでは俺のほうが有利な状況だった」
テクパトル「なら、俺が次は先にやって、お前と戦うべきだ」
削板「テクパトル・・・」
垣根「みなさん!!この熱き二人に拍手を!!」
一同「いぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
19090「テっくん・・・男の中の男です!」
13577「な、なにやら一番盛り上がっている気が・・・」
17600「一瞬で勝負が決まるからこそ、一瞬だけに集中できるのさ」
御坂妹「ずっと続く種目よりも盛り上がりやすいんですね・・・」
テクパトル(デッドリフト・・・か)
テクパトル(今、俺と削板差はわずか10kg)
テクパトル(・・・なら、きっと俺のデッドリフトより15kgほど重いものに挑戦する・・・)
テクパトル(・・・仕方ない、いちかばちかだ)
テクパトル「垣根、290だ」
垣根「は?」
吹寄「え?」
テクパトル「290kgだ」
競技場が一瞬静まり返った
そのあと、大きな歓声が上がる
美琴「290・・・ってどれくらい?」
美鈴「さ、さぁ・・・」
旅掛「やべぇなおい・・・」
刀夜「すごい競技だな・・・」ゴクリ
詩菜「あらあら、若いっていいわねぇ」ニコニコ
心理(結論が間違ってるわね、それ)
テクパトル「・・・いくぞ」
しっかりと腰を固め、テクパトルが息を吐く
彼のMAXは285kgだった
この重量は、トップビルダーの扱う重量と言っていい
それを5kg上回る重量
テクパトル(・・・行けるか?)
テクパトル(・・・いや、やってみせる!!)
テクパトルが拳を握り締める
バーベルシャフトの少しザラついた手触り
割れんばかりの拍手
熱い陽射し
どうして、外でこんなことしてんだ?なんて愚問はおいておく
今は、このバーベルを持ち上げるのが目的だ
テクパトル「行くぞ!!!!!!!!」
テクパトルが力を込める
上条「お、おい!!浮いたぞ!!」
ステイル「し、信じられない・・・」
■■(上がった)
土御門(うわぁ・・・信じられないにゃー・・・)
垣根「あ、上げました!!成功です!!!」
吹寄「記録、290kg!!!」
観客席から拍手が起こる
試技を全て終えたテクパトルが地面に転がる
テクパトル「はは・・・やったぞ」
削板「・・・すげぇな・・・根性がある!!」
削板が叫ぶ
楽しいのだろう
能力とか、序列とか
そんなものを気にしない真剣勝負が出来て
削板「悪いな・・・俺はさすがにお前の記録をかなり上回ることはできないが・・・」
削板「垣根、300kgだ」
削板「・・・テクパトルとはイーブンになるが、勝負はいつだってできるさ!!!!」
垣根「・・・いいのか?一人勝ちじゃなくて」
削板「勝ったらそれで御終いだ、ライバルがいてこそ高みは目指せる!!」
吹寄「わかりました・・・では!!」
バーベルが300kgにセットされる
これは、いくら削板とはいっても未体験ゾーンだった
彼のMAXは290kg、さきほどテクパトルがあげたのと同じ重量だった
削板(・・・それじゃ、どっちにしろ負ける)
ならば
削板「行くぞ!!!」
会場が静まり返る
誰もが、その試技に注目する
学生のほとんどは、ウェイトリフティングなんて知らない
重いものを持ち上げる、くらいの認識だ
だが
この勝負を見て、燃えないものがいるだろうか?
削板「あーー!!!!!!!!」
黒子「あ、間に合いましたの!!」
観客席に黒子がやってきた
風紀委員の仕事を少しだけ休み、削板の勇姿を見に来たのだ
上条「お、おい・・・上がらないぞ・・・」
土御門「にゃー・・・ムリなんじゃないかにゃー?」
■■「仕方ないと思う」
削板(くそっ・・・ここで終わりか・・・?)
黒子「軍覇さん!!!がんばってくださいな!!」
削板「!!!」
どこからか、愛する人の声が聞こえた
削板(・・・黒子の前で・・・)
ステイル「!!待て、動いた!!!」
エツァリ「あ、あれは・・・」
ショチトル「おかしいだろ・・・」
一方「マジかよォ・・・俺、20が限界だ・・・」
番外「それは弱いね」
削板「負けられるかよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!」
腕に、顔に、背中に
血管の筋が浮かび上がる
削板「根性ぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
テクパトル「あ、上げた!!!」
垣根「削板選手、成功!!!!」
吹寄「よって、勝者はテクパトル、削板、両選手です!!!」
観客席から拍手が聞こえた
試技を終えた削板は、地面に転がる
テクパトル「・・・下半身じゃ、敵わないな」
削板「・・・上半身はお前の勝ちさ」
勝負を終えた二人が握手をする
熱い陽射し
聞こえる拍手、愛する人の声
どれもが、気持ちよかった
垣根「午前の最後はかなり盛り上がりましたね!!」
吹寄「午後も、この盛り上がりでいきましょう!!」
観客席の人たちが昼ごはんへと向かう
美琴「二人ともお疲れ・・・当麻もね」
上条「あぁ」
テクパトル「はぁ・・・いい勝負だった」
19090「かっこよかったです!!」
黒子「軍覇さん、素敵でしたの!!」
削板「サンキュー!!!」
テクパトル「さて・・・昼飯だな」
削板「あぁ、おなか減ったな!!」
二人の勝者はレストランへ向かう
なぜか、途中でサインを求められたりもした
テクパトル(楽しかったな・・・)
削板(いやぁ、すがすがしい!!!)
テクパトル・削板(大覇星祭って、いいな!!!!)
吹寄「・・・はぁ」
吹寄は溜め息をついていた
理由は簡単
垣根の「恋をしろよ」発言だ
■■「どうしたの?」
吹寄「なんでもないわ」
もう一度溜め息をついてからスポーツドリンクを飲む
■■「・・・恋?」
ぶっ、と吹寄が吹き出してしまう
■■「図星」
吹寄「そ、そうじゃなくて・・・恋をしてるんじゃないのよ」
■■「恋をしたいの?」
吹寄「・・・なんでわかるの?」
吹寄が訊ねる
彼女は心理操作系の能力者だっただろうか?
■■「顔を見れば。すぐにわかってしまう」
吹寄「・・・まぁ、当たってるわ」
■■「恋なんて。したくてするものじゃないと思う」
吹寄「うん・・・そうよね」
二人は公園にいた
周りには何組かカップルもいる
そのどれもが幸せそうだった
吹寄「ねぇ・・・私は、真面目なのかな?」
■■「真面目。でもそれは悪いことじゃない」
■■が答える
吹寄「・・・そうかな」
垣根は言っていた
お前は堅すぎる、性格で損をしている、と
吹寄だって一応は女子高生だ
そんなことを言われたらショックでもある
■■「・・・きっと。吹寄は好かれるタイプだと思う」
吹寄「そうかしら?」
■■「うん。私は好きだけど」
■■が何気なく言う
吹寄「そっか・・・好かれるのかな」
■■「・・・もしかして」
吹寄「なに?」
■■「垣根のこと。好きなの?」
吹寄「・・・え?」
頭が混乱した
いや、なぜそうなるのか理解できなかった
■■「垣根に言われたんでしょ?」
吹寄「な、なんでわかるの!?」
■■「朝は様子はおかしくなかったから」
吹寄「あ、あぁ・・・だから昼間のうちに何かあったって・・・」
■■「そしたら。垣根が一番可能性が高い」
ふふん、と■■が笑う
実際その通りなのだが
吹寄「で、でも・・・垣根には彼女さんがいるわよ?」
■■「それと。あなたの気持ちは。まったく関係ない」
吹寄「ち、違うわよきっと」
■■「本当に?」
吹寄「・・・」
■■「もし。垣根に恋人がいなかったら」
■■「あなたはどうしてた?」
吹寄「・・・わからないわよ」
垣根「うん、そういうのは自覚は湧かないんだよ」
吹寄「」
吹寄「ど、どどどどどどどどど」
垣根「童貞ちゃうわ、か」
吹寄「どうしてここに!?」
心理「あら、こんにちは」
■■「あ、ライバルがきた」
吹寄「そんなのじゃないわよ!!」
垣根「お前、俺が好きなのか、そうかそうか」
ニヤニヤ、と垣根が笑う
吹寄「違う!!まったくもって!!」
心理「私は別に構わないわよ?あなたが垣根のこと、好きだとしても」
垣根「残念だけど、俺はこいつ一筋なんだよ」
心理「あら素敵」
吹寄「な、なんでそうなるのよ!?」
吹寄が殴りかかりそうな勢いで垣根に詰め寄る
垣根「あー、襲われるー」
吹寄「襲わないわよ!!!」
■■「垣根。あなたはプレイボーイ」
垣根「イェス、アイマム」
■■「それは。おかしい」
吹寄「ち、違うわよ!?本当に違うわよ!?」
心理「あら、でもうろたえてたじゃない」
吹寄「そ、それより!!どうして貴様はここに!?」
垣根「デート中だよ」
吹寄「デ、デート・・・そう」
心理「・・・あら、どうかしたの?」
吹寄「なんでもないわよ!!」
垣根「?なーんか怪しいぜお前」
吹寄「貴様のほうが怪しいわよ!」
スポーツドリンクを垣根に投げつける
垣根「あっぶねぇな」
垣根がパシン、と右手で受け止めるが
■■「なるほど。間接キスをさせようと」
垣根「あ、そういうこと?」
吹寄「違う!!!」
心理「垣根、愛してるわよ」
垣根「ん、俺も」
吹寄「!!人前でイチャつくな!!」
■■「あ、ヤキモチ」
吹寄「だから違う!!!!!!」
垣根「あーあ、しかしお前・・・なんでそんなに慌ててんの?」
吹寄「うるさい!!私は今■■と昼ごはん中なの、ジャマしないで!!」
心理「わかったわ、それじゃ・・・」
ぐい、と心理定規が垣根の腕に抱きつく
一瞬、吹寄の表情が固まる
垣根「おー、心理定規は可愛いな・・・」
吹寄「さっさと行けバカップル!!!!!!!!!!!!!!!!!」
吹寄「はぁ・・・はぁ・・・」
垣根たちを追い払い、吹寄が息を切らせながらスポーツドリンクに手を伸ばす
■■「・・・楽しそうだった」
吹寄「楽しくないわよ・・・」
吹寄が肩を落とす
なぜか、垣根が絡むといつもの調子と違ってしまう
■■「・・・恋。してないの?」
吹寄「わからないわよ・・・」
■■「・・・私は。吹寄は垣根が好きだと思う」
吹寄「・・・どうして?」
■■「素が出てる」
吹寄「・・・素?」
■■「垣根の前だと。気取っていない」
■■が空を見上げる
雲ひとつない青空だった
■■「きっと。垣根の前だと自然でいられるんだと思う」
吹寄「・・・そうかしら」
■■「うん」
少しだけ、沈黙が流れる
周りのカップルの笑い声がうらやましかった
吹寄「・・・もしかしたら」
先に口を開いたのは吹寄だった
吹寄「好きなのかもしれないわ」
そんなことを
彼女らしくもないことを
つぶやいてしまう
■■「うん。きっとそう」
吹寄「・・・でも、そうだとしても叶わない恋よ」
■■「初恋は。基本叶わない」
吹寄「そうなの?」
■■「たまに叶う人もいるけど」
■■が息を吐く
彼女の初恋も叶わなかった
右手だけで彼女を救ってくれた少年
初恋相手
彼は今、恋人を作り幸せになっている
それを、遠くから指を咥えて眺めていることしか出来ないのだ
■■「・・・でも。自分の気持ちを閉じ込めるか」
■■「それとも伝えて淡く散るか」
■■「それは。自分が決めること」
吹寄「・・・自分、が?」
■■「うん」
■■が頷く
彼女は、閉じ込めることに決めた
迷惑をかけたくなかったから
■■「あなたは。どうする?」
吹寄「・・・私は・・・」
どうすればいいのか
どうすれば
吹寄「・・・時間・・・かかりそうね、こういうのは」
■■「そうだと思う」
吹寄「でも、これが恋なのかしら?」
吹寄は恋なんてしたことがなかった
だからこそ、今の感情が何なのかも知らない
吹寄「・・・はぁ、難しいわね・・・」
■■「・・・垣根。呼んでみようか」
吹寄「え、どうやって?」
■■「携帯」
吹寄「」
吹寄「え、ちょっと待って?」
■■「番号。前に教えてもらったから」
吹寄「う、うそ?」
■■「待ってて。今から電話するから」
吹寄「ほ、本気!?」
■■「本気」
慌てる吹寄を無視して、■■が電話をかける
少しして、垣根がやってきた
一応心理定規も一緒である
垣根「なんだ、なんだよ、なんn」
■■「つまんない」
垣根「」
■■「それより。そっちの彼女さん」
心理「・・・なに?」
■■「私と。逃げて」
心理「いやよ」
■■「吹寄が。大事な話があるって」
垣根「あ?アナウンスの打ち合わせかなんかか?」
■■「本人に聞いて」
心理「・・・そういうことなら私もちょっとお暇するわね」
心理定規が垣根の横を通り過ぎる
心理「 」
何かをつぶやいて
垣根「あいよ」
垣根も、小声でそれに答える
垣根「・・・いやぁ、空が青いな」
垣根が空を見上げる
雲ひとつない、とても綺麗な青空だ
それは本当に眩しかった
吹寄「・・・あのね」
垣根「告白ならやめときな」
吹寄「!!」
垣根「そんなもん、断られただけ惨めになる」
垣根「・・・わかってるだろ、答えくらい」
垣根がどこか遠くを見つめる
そこは、心理定規が去った場所だ
垣根「俺はあいつ以外は選べないのさ」
垣根「わかってるだろ、それくらい」
吹寄「・・・えぇ、貴様達は仲がいいから」
垣根「だったらなおさらだ」
垣根「言葉は形がないものだ、それを伝えることで無理矢理形を持たせてしまう」
垣根「だがな、一度形を持ってしまえば、それはときとして砕けることもあるんだ」
垣根「形を持たせなければ砕けることもなかったのに」
垣根がつぶやく
どこを見つめているのか
吹寄にはわからなかった
垣根「同じ未来を見つめるのが恋人かもしれない」
垣根「見つめあうのが恋人かもしれない」
垣根「真逆を見つめるのが恋人かもしれないし」
垣根「過去を見つめるのが恋人かもしれない」
垣根「でもな、それらにはたった一つだけ共通点があるのさ」
吹寄「・・・なに?」
垣根「それらは全て、自分の恋人がどこを見つめているのかが分かってるのさ」
垣根「分かるか?自分の恋人がどこを見つめているかなんて、考えるまでもない」
垣根「勝手に分かるんだよ」
吹寄「・・・そう」
垣根「お前は、今俺がどこを見つめているのか分からないだろ?」
吹寄「・・・そうね」
吹寄が寂しそうにつぶやく
垣根「だったら、俺たちはお似合いじゃないのさ」
垣根「言っておくがな、俺は責任を感じて心理定規と付き合ってるんじゃない」
垣根が人差し指を立てる
垣根「あいつが好きだから付き合ってるのさ」
垣根「別れたら辛い思いをさせるからとか」
垣根「そしたら自分が悪者になるとか」
垣根「そんな理由で一緒にいるんじゃない」
垣根「愛してるから一緒にいるのさ」
吹寄「・・・愛している?」
垣根「お前には分からないだろ」
垣根が苦笑する
吹寄の感情は、まだ名前を持っていない
咲いてしまった花を摘むのは、心が苦しい
なら、まだ蕾のうちに刈り取るべきだ
垣根「分からないんだろ?まだ」
吹寄「・・・えぇ」
垣根「それは別に愛情なんかじゃないさ」
垣根がつぶやく
本当は、それが愛情だと知っているのに
知っているが故に
彼女を騙してでも
辛い思いをさせないために
垣根「お前は俺を愛してるんじゃない」
垣根「そう、錯覚して」
吹寄「違うわよ」
吹寄の声が
垣根の言葉を遮った
吹寄「これは愛情よ、今分かったわ」
吹寄が答える
垣根の目を見つめて
彼が今、どこを見つめているのか知りたいから
吹寄「私は・・・」
垣根「やめてくれよ」
吹寄「どうして!?」
垣根「咲いてしまえば・・・その美しさは確かになるのさ」
花が咲く前に
蕾を刈り取らなければ
垣根の心も傷ついてしまう
水を与えればより輝いて
光を浴びれば色づいて
そんな花を刈り取るのは
垣根「苦しいからな」
吹寄「・・・垣根」
垣根「悪いな、俺は心理定規が好きだ」
垣根「・・・お前の気持ちは嬉しいよ、心理定規だってそれは認めてくれる」
垣根が立ち上がる
何処を見ているのか
結局、吹寄には分からない
そしてこれからも、分かることはないだろう
垣根「でもな、俺はその花に水をやることはできない」
垣根「両手に花を持ってしまって、一体どうやって水をやる?」
垣根「片方の花を捨てるしかないのさ」
垣根「その捨てた花に、いつか雨が降り注ぐことを祈りながら」
垣根「自分の選んだ花に水をやることしかできないのさ」
吹寄「・・・分かってるわ、それは」
吹寄がうつむく
こんな感情、初めてだった
もう、花は咲いてしまう
垣根「・・・お前はいいヤツだ」
垣根「美人だし、性格は少し堅いけど・・・そこだって魅力的さ」
垣根「落ち着いていて、でも暗くはなくて」
垣根「バカやるときははじけられる」
垣根「いい女じゃねぇか」
吹寄「・・・」
垣根「俺が知ってる中で、二番目に魅力的だ」
吹寄「・・・一番目は?」
垣根「言わずもがな」
垣根が笑う
吹寄にだって分かっていた
吹寄「・・・ごめん、付き合わせて」
垣根「いや、楽しかったよ・・・久々にメルヘンだった」
吹寄「?」
垣根「なんでもねぇよ」
吹寄「・・・そろそろ始まるわね」
垣根「あぁ」
吹寄がその場を去ろうとする
気のせいか
少し、目が潤んでいる
垣根(・・・バカかお前)
垣根(その涙じゃ、花は咲かせられないぜ)
いつかきっと
誰かが水を与えるだろう
ならば、それまではどうするのか
雨が降り注がなければ
彼女の愛は枯れてしまう
心理『泣かせたらダメよ』
垣根(難しい注文だよな)
垣根「吹寄」
垣根が吹寄の名前を呼ぶ
吹寄が立ち止まる
垣根「俺には何もできないさ、水を与えることは無理だ」
そっと近づいて
垣根「でもな」
そして、その体を抱きしめる
たった、一度だけ
垣根「道端に捨てたままにしておくほど、薄情じゃねぇんだ」
吹寄(・・・あったかい)
初めてだった
こんなに温もりを感じたのは
親と話すときも
友達と話すときも
こんな温もりは感じなかった
垣根「ほれ、綺麗な花壇には移してやった」
垣根「あとは誰かが花を咲かせるだけさ」
吹寄「・・・貴様、プレイボーイって言われるでしょ」
垣根「いや、メルヘンとは言われるな」
ケラケラ、と垣根が笑う
吹寄「・・・ありがと、なんとか立ち直れたわ」
垣根「・・・そうかい」
垣根だって辛かった
友達が、辛い顔をするのは
■■「長かった」
■■が木陰から出てくる
吹寄「あ、聞いてたの!?」
心理「はぁ・・・垣根」
垣根「はいはい、すまんねぇ」
垣根が心理定規を抱きしめる
■■「やっぱり。プレイボーイ」
吹寄「それには同感よ」
垣根「じゃ、行こうか」
■■「競技が始まる」
心理「そうね」
四人が歩き出す
ふと、吹寄が心理定規に訊ねる
吹寄「ねぇ、心理定規さん」
心理「あら、何かしら?」
吹寄「あなたは・・・垣根のこと、なんでも分かるの?」
心理「えぇ、一応」
吹寄「じゃあ・・・今彼は何を思ってるの?」
心理「い、今?」
心理定規が少し顔を曇らせる
吹寄「あ、もしかしたら・・・」
心理「・・・言っていいの?」
垣根「・・・」
■■「教えて」
心理「はぁ・・・じゃ、言うわよ」
吹寄(すごいな・・・本当に分かるんだ)
心理「吹寄のおっぱい、柔らかかったな」
吹寄「」
■■「」
垣根「てへっ☆」
少し暑い陽射しの下
その陽射しで枯れないように
誰かの花は咲いていた
吹寄「貴様!!!やっぱり変態よ!!!」
垣根「あっれー?顔が赤いよ・・・ってぐばぁ!!」
心理「あら、妬けちゃうわね」
■■(なんか。賑やか)
垣根「・・・いってぇ」
垣根は放送席でつぶやいていた
おでこをさすりながら
吹寄「・・・き、貴様が悪いのよ」
垣根「なぁ、初恋相手にはもう少し・・・」
吹寄「黙れ!」
吹寄が怒鳴る
気のせいか少し顔が赤い
垣根「なぁ、お前ホントに俺のこと・・・」
吹寄「黙れと言ってるでしょ!」
垣根「うわぁ!」
オデコアタックがまたヒットする
いくら垣根でもこの一撃はきつかった
吹寄「貴様・・・私に告白されたからって浮かれるなよ!」
垣根「浮かれてねぇよ!てか俺は心理定規一筋だし!」
吹寄「!わ、分かってるわよ!」
また吹寄が垣根に攻撃をくらわせようとする
垣根「ちくしょう!」
間一髪でかわしては鬼ごっこ
それが続いていた
そんな二人の後方では心理定規と■■がため息をついていた
心理「なんなのかしら、あの二人」
■■「仲がよさそうなのにまったく妬けないなんて。不思議」
心理「はぁ・・・彼女としてはあんまり見逃したくはないんだけど」
だが、あの二人は正直浮気をしそうではなかった
吹寄「あぁもう!貴様なんか嫌いよ!」
垣根「えぇ!?ここにきていきなりのツンデレ!?」
吹寄「違う!」
垣根「あぁ!オデコアタックはらめぇぇぇ!」
心理「・・・あ、スポーツドリンクいる?」
■■「ありがとう」
騒がしい二人とは対照的に、こちらは平和だった
心理「・・・よく飽きないわね、あの二人も」
■■「吹寄は楽しそう」
心理「・・・そうなのかしら」
心理定規がため息をつく
自分の恋人が他の女性と仲良くしている
それは嘆くべきだろうが
心理「なんか、ホントに妬けないわね」
■■「そうやって。油断してたら奪われる」
心理「なんで七五調なの?」
■■「・・・楽しそう」
垣根「・・・っと、ついたな」
そうやって鬼ごっこをしているうちに競技場にたどり着いていた
吹寄「はぁ・・・このケリはいつかつけるわ」
垣根「できるもんならやってみな」
ベロベロバー、と垣根がバカにする
そういう行動が吹寄をイライラさせるのだが、彼は気づいていない
吹寄「・・・いつか絶対貴様をぎゃふんと言わせるわ」
垣根「はいはい」
適当に受け流しながら垣根が進む
垣根「じゃ、心理定規と■■はまたな」
■■「うん。また」
心理「浮気は・・・ないと思うけどダメよ?」
垣根「ないない」
ヒラヒラと手を振りながら垣根が去っていく
その少し後ろをしかめっつらで吹寄が追い掛ける
垣根「思ったよりも早く帰ってきちまったな」
周りを見渡してから垣根が言う
まだ他のメンバーはやって来ていなかった
吹寄「競技開始まであと20分はあるわよ」
垣根「へぇ、早く来すぎたか」
垣根が体を伸ばす
普段の彼なら勝手にマイクを使って騒いだりしただろうが
垣根(ま、今はやめときましょうかね)
吹寄「・・・」
垣根「・・・」
沈黙が流れる
吹寄(や、やっぱり気まずいわね)
今更ながら、告白しなければよかったかな、と後悔する
垣根「なぁ、吹寄」
吹寄「!な、なに!?」
いきなり声を掛けられて、吹寄が慌てる
垣根「もう一回おっぱい触らせて」
吹寄「・・・」
無言で垣根にオデコアタックをくらわせる
垣根「痛い!なにこの威力!?」
吹寄「貴様!セクハラで訴えるわよ!」
垣根「だって!なんか気まずいんだもん!」
ヒリヒリするオデコを押さえながら垣根が叫ぶ
吹寄「だからってそんな話をするな!」
垣根「えー」
ブーブー、と垣根が頬を膨らませる
吹寄「ったく・・・貴様は胸フェチか」
垣根「いえ、声フェチです」
吹寄「ちょっと黙れ」
吹寄が垣根を睨みつける
なぜこんな男に惚れてしまったのか
それは彼女にも分からなかった
吹寄「・・・ねぇ、垣根」
垣根「なんだよ」
吹寄「・・・私は・・・まだ貴様のことを思っていていいのかな?」
垣根「あぁ、俺は構わないぜ」
ケラケラ、と垣根が笑う
垣根「ただ、いつか他にいい男が現れるはずだ」
吹寄「・・・そうかな」
正直、垣根より素敵な男が現れる気はしなかった
バカで、下品で、突拍子がなくて
なぜかそんな垣根に、吹寄は引き寄せられたのだ
吹寄「・・・」
垣根「なぁ、そんなに思い詰めることじゃないぜ?」
吹寄「・・・そうかな」
垣根「あぁ、俺は別にお前に思われ続けても構わないんだからさ」
吹寄「・・・そういうところは優しいのね」
吹寄がため息をつく
本当に、垣根は無自覚なところで優しかった
上条とそこらへんは似ている
垣根「まぁ、どうしても狂いそうだって言うならどうにかしてやるけどな」
吹寄「どうやって?」
垣根「うーん・・・いいヤツ紹介したりとか」
吹寄「・・・私は恋がしたいんじゃないのよ」
垣根「でもよ、俺を得ることはできないんだぜ?」
垣根が呆れたように言う
垣根「目の前にほしいものがありながら、それでも手を伸ばせないなんて辛すぎるだろ」
吹寄「それはそうだけど・・・」
垣根「だったら別のなにかを欲したほうがよっぽど利口だぜ」
垣根がスポーツドリンクを飲みながら言う
たしかに、そちらのほうがいいのかもしれなかった
でも
吹寄「・・・貴様は・・・私のことはあんまり分かっていないのね」
そんなこと、出来るわけがなかった
垣根「あぁ、俺はお前に相応しいヤツじゃないからな」
分かるわけがないのさ、と垣根がおどける
分かってほしい
吹寄はそう思っていた
だがそれは叶わない願いなのだ
だったらそれを求めても苦しいだけだろう
吹寄「・・・失恋って辛いのね」
垣根「あぁ、そりゃそうだろうな」
一口、スポーツドリンクを口に含む
少し苦い気がした
垣根「今まで見つめ続けていたものを見失うんだからな・・・かなりきついだろ」
吹寄「・・・ねぇ、イヤじゃないの?」
垣根「なにが?」
吹寄「・・・こんな話、しててもつまらないでしょ?」
垣根「いや、俺はいろいろ楽しいぜ」
ニヤリ、と垣根が笑う
垣根「人間の、特に女の感情っていうのは複雑なもんなんだ」
垣根「俺はそれを出来る限り知ってみたい」
吹寄「なんで?」
垣根「誰かのことを理解できるってことは、自分自身も理解できるようになるってことさ」
垣根が人差し指を立てる
少し長くなるが、と前置きをする
垣根「人間は結局、誰かを完全に理解することはできないんだぜ?」
吹寄「それは当たり前じゃない」
垣根「ではなぜ?」
垣根が問いかける
なぜか、答えは簡単だ
吹寄「自分を知っているのは自分自身だけでしょ?他人が知ることはできないからよ」
垣根「だから、なぜ?」
吹寄「な、なぜって・・・」
少し言葉に詰まってしまう
一体、垣根は何が言いたいのだろうか
垣根「簡単に言うとな、主観が入ってしまうからなんだ」
吹寄「主観?」
垣根「あの人があんなふうに思っていたらいいな、とか」
垣根「自分はこんなふうに思われていてほしいな、とか」
垣根「そんな余計な感情が入り込んでしまうのさ」
吹寄「・・・なるほどね」
感情というあやふやな物を知ろうとするときに、別の感情が入ってきてしまう
その入ってきた感情だって、本当は何なのかも分からない
垣根「誰かの心を知るってのは本当に難しいのさ」
吹寄「・・・その通りかもしれないわね」
垣根「そして、もしも誰かの心を知ったとしたら」
垣根「それはとても素晴らしいことなんじゃないか?」
吹寄「・・・貴様は、私のことも知ってみたいの?」
垣根「お前だけじゃないさ、上条や御坂・・・いろんな友達のことを出来る限り知ってみたい」
垣根が笑う
彼は、意外とロマンチストなんだな
吹寄はそう思った
いつもふざけてばかりいるイメージだったが
吹寄「・・・貴様って、本当にプレイボーイね」
垣根「いや、なんでそうなるんだよ?」
吹寄「分からないところがさらにプレイボーイよ」
吹寄がそっぽを向く
垣根「あぁ?なんなんだよお前・・・」
吹寄「・・・貴様、誰に対しても知りたい、知りたいなんて言うの?」
垣根「言っとくけど、エロい意味じゃないからな」
吹寄「分かってるわよ」
吹寄がため息をつく
一体、この男はなんなのか
ロマンチストだと思ったら急に馬鹿げていたり
そうだと思った途端、今度はかなりの真面目な雰囲気になったりもする
決まった一つのキャラクターを演じ続けるのではなく
その時に応じて様々なキャラクターを演じ分けられる
吹寄「貴様、俳優にでもなってみたら?」
垣根「顔がいい、って言いたいのかよ?」
吹寄「訂正、お笑い芸人にでもなってみたら?」
垣根「バカにしてんだろ」
はぁ、と垣根がため息をつく
垣根「お、そろそろ始まるのか」
気がついたら、選手達がぞろぞろと戻ってきていた
吹寄「えぇ、始めるわよ」
吹寄がマイクのスイッチに手を伸ばす
その電源を入れる前、小さくつぶやいた
吹寄「やっぱり、私はまだ貴様が好きみたい」
垣根「そりゃ光栄だ」
二人が小さく笑う
そうしてから、マイクをつける
ハウリングがしてから、スイッチが入ったようだ
垣根「さぁみなさん!」
吹寄「午後の部が始まりました!」
観客席が湧く
暑い日差しは相変わらずだった
今まで通りのアナウンス
少しだけ、変わった二人
垣根(まったく・・・)
垣根(ホント、大覇星祭は面白いな)
上条「お、始まった」
観客席で上条はつぶやいていた
隣に美琴はいない
彼女は、次の種目に出場するのだ
上条「・・・でも、変わった種目だよな」
バンブーダンス、なんて普通はやらないだろう
上条「・・・あ、入ってきた」
選手が入場してくる
垣根「みなさん!!これから始まるのはバンブーダンスです!!」
吹寄「音楽に合わせてバンブーダンスをします!!」
上条(そ、それのどこが面白いんだろう)
上条が首を捻る
正直、面白くなさそうだ
上条「・・・あ、美琴ーー!!」
美琴の姿を列の中に見つけ、上条が手を振る
その声は美琴に届いたようだった
美琴「当麻ーー!!!」
周りの選手の目など気にせず、美琴が手を振る
食蜂「はぁ、恥ずかしくないの?」
美琴「な、なによ!!」
食蜂「笑えるわね、彼氏に手を振る超電磁砲」
美琴「ケンカ売ってんの?」
バチバチ、文字通り美琴が火花を散らす
食蜂「あら、うらやましいのよ」
美琴「・・・バカにしてるでしょ」
食蜂「してないわよん☆」
美琴「はぁ・・・まぁいいわ」
食蜂「今はくだらないことで言い争ってる場合じゃないわ」
二人が真剣な眼差しになる
視線の先には二本の竹
美琴「・・・なんの曲かしら?」
食蜂「さぁ?」
どうせ、垣根の選曲だろう
美琴「はぁ・・・変な曲じゃないといいわね」
食蜂「どうせヘンな曲よ」
ブツブツと文句を言いながらも二人は並ぶ
垣根「えー、この種目ではいつまで引っかからずにリズムに合わせられるかを競います」
吹寄「引っかかったり、リズムからずれたりしたらアウトです」
垣根「そこらへんは審判員が判断します」
垣根「では・・・」
垣根・吹寄「ミュージック、スタート!!!!」
曲が流れ始める
「CARMINA BURANA」だ
美琴(お、おそっ!!)
食蜂(こ、このテンポは・・・)
ゆっくりと、竹が動かされる
美琴「おっと!!」
足が危うく引っかかりそうになる
なんとか飛びきったが
食蜂「この曲じゃやりにくいわねぇ・・・」
美琴「で、でも他のチームはどんどん失敗してるわね」
まだサビの前田だ
だが、それまででほとんどのチームが脱落していた
垣根「残っているのは、三校だけです!!」
心理「あら、そんなに落ちたのね」
観客席で心理定規はつぶやいていた
放送席を見つめながら
吹寄「さぁ!!勝つのはどの学校でしょうか!?」
心理(よかった、吹っ切れた・・・のかしら)
吹寄の目は迷っていなかった
どうにか整理をつけたのだろう
心理(・・・ごめんなさいね、でも私は垣根だけは譲りたくないのよ)
他の何を失ったとしても
彼だけは失えなかった
心理(だから、あなたには辛い思いをさせるわ)
心理(憎んでもらって構わないもの)
吹寄「!残るは二校!!」
垣根「さぁ、サビです!」
独特の、そして有名なあのフレーズがやってくる
美琴(よし、来た!)
食蜂(きっ・・・きついわねぇ・・・)
二人が顔をしかめたそのとき
最後の相手校が引っかかった
垣根「そこまで!!」
吹寄「勝者は、常盤台中学!!」
わぁぁぁぁ!!!と観客席が盛り上がる
上条「よっしゃぁ!!」
美鈴「おー、勝ったんだ!」
上条「あ、二人とも」
旅掛「いやぁ、飲み物買いに行ったら見そびれちまったぜ」
上条「の、飲み物・・・」
美鈴「くーっ!!おかげで美琴ちゃんの勇姿を見逃しちゃった!」
旅掛「一生の不覚だ!!」
上条「あ、あはは・・・」
上条が苦笑する
上条(・・・にしても、ホント暑いな)
上条が二人の買ってきた飲み物に目をやる
たしかに、この暑さでは水分補給がかなり必要になるだろう
上条「ホント、熱中症で倒れる人が増えそうですね・・・」
美鈴「そうだねぇ・・・」
旅掛「そういう選手はどうすんだろうな」
上条「あぁ・・・たぶん」
上条「風紀委員が見るんじゃないでしょうか?」
黒子「はぁ・・・」
黒子は溜め息をついていた
ここは風紀委員の臨時支部
たくさんの熱中症になった生徒が運ばれてくる
削板「あ、また来たぞ」
初春「つ、次から次へときますね・・・」
黒子「まったく・・・」
運ばれてきた選手のほとんどが、水分を補給しなかったのが原因だ
しかも、お金がもったいなくて飲み物買いませんでした、らしい
黒子(自分の体のほうが大事でしょうに)
そんなことを考えながらも、一応は介抱する
削板「・・・大変だな」
初春「そんなこと言ってられませんよ」
削板「・・・そうだな」
削板が周りを見回す
かなりの数の選手が寝ていた
あちこちで、風紀委員が走り回っている
彼らまで倒れたりはしないだろうか
黒子「・・・この援助を当たり前、と受け取っている学生がほとんどですの」
ポツリと黒子がつぶやく
黒子「こちらは別に感謝されたくてやっているのではありませんが・・・」
初春「早くしろ、って言われたらさすがにカチンときますよね」
二人が苦笑する
削板「そんなヤツがいるのか?」
黒子「えぇ、結構いますの」
初春「もう慣れましたよ」
削板「・・・そいつら、根性がねぇな」
削板が顔をしかめる
彼は正義と愛と情熱の男だ
そういう理不尽は許せない
黒子「まぁ、熱中症で余裕がなくなっているんですのよ」
初春「薄れた意識でわざわざ気を遣うのは無理ですから」
削板「でも、感謝は大切だよな・・・」
削板「・・・そっか」
大変だな、と削板が感心する
彼だって、わりと人助けはしている
しかしそれはあくまでしたいからしているのだ
風紀委員は、仕事という義務のため、嫌なことでもしなければならない
そんなことを、文句一つ言わずに行うなんて
削板「二人は・・・すごいな」
黒子「そんなことないですの」
初春「削板さんのほうがすごいですよ」
削板「え、俺が?」
削板が首を捻る
心当たりはなかった
黒子「こうやって、手伝いに来てくださってますの」
削板「そりゃ当たり前だろ?」
黒子「それを当たり前、と言えるのが軍覇さんの素晴らしいところですの」
嬉しそうに黒子が笑う
削板「うーん・・・特別なことかな?」
初春「私達は仕事だからですけど・・・」
黒子「軍覇さんは、自ら率先して行われていますもの」
削板「それはお前たちもそうだろ?」
削板が逆に訊ねる
風紀委員は、自分から志願したものが入る
二人だって、別に誰から言われたわけでもなく
自分の良心に従って志願したはずだ
黒子「・・・まぁ、たしかにそうかもしれませんの」
初春「少し自惚れてるみたいですけどね」
初春が苦笑する
削板「いや、自信を持っていいぞ?」
黒子「そうですの・・・あ、はいはい!!」
黒子が選手から呼ばれた
そうも、スポーツドリンクを欲しているようだ
削板「・・・大変だな」
初春「それでも、私達はやるんです」
削板「あぁ、そうだな」
立派な態度だな、と削板は思う
並大抵の学生では勤まらないだろう
彼女達は、それほど正義感が強いのだ
削板「あ、ところで」
初春「はい」
削板「ウイーハルさんは仕事、しなくていいのか?」
初春「初春です」
テクパトル「はぁ」
19090「?テっくん、どうかしましたか?」
テクパトル「いや・・・なんでも」
テクパトルは溜息をついていた
しかし、今までのように疲れから来るものではない
安堵からきたものだ
他のミサカたちは、今買い物に行っている
テクパトル「なんか・・・」
テクパトルが19090号を見つめる
やっと、二人きりになれたのだ
テクパトル「嬉しいな、二人きり」
19090「ふぇっ!?」
テクパトル「あぁ、幸せだ・・・」
愛する人と二人きり
普段は他のミサカが「イチャイチャしないでください!!」なんて言ってくる
そんなことも、今はない
19090「ふ、二人きり・・・」
テクパトル「あぁ、二人きりだ」
ニコリ、とテクパトルが微笑む
テクパトル「・・・なぁ、美月」
19090「は、はい!」
テクパトル「競技場、戻ろうか」
19090「・・・」
テクパトルは一刻も早く、競技が見たかった
彼は運動とかスポーツが大好きだ
見るのも、そして実際に行うのも
19090「・・・テっくん」
テクパトル「ん、なんだ?」
19090「その・・・こういう雰囲気のときは、二人でスイーツとかを食べたいです」
テクパトル「え、そういうものか?」
テクパトルが少し驚いたように言う
彼からしたら、そちらのほうがおかしいような気もした
だって、運動会の途中なのに
テクパトル「・・・ま、まぁお前がそっちのほうがいいなら」
19090「ありがとうございます!!」
19090号が嬉しそうに笑う
テクパトル(本当は競技が見たいけど・・・)
19090号の笑顔はまぶしかった
テクパトル(これも、悪くないか)
幸せな時間を、二人は過ごしていた
垣根「あぁ・・・終わった・・・」
垣根が溜め息をつく
どうにか三日目が終了したのだ
吹寄「・・・お疲れ」
吹寄がスポーツドリンクを差し出してくる
もう夜の6時だ
垣根「・・・な、なんか気色悪い」
吹寄「貴様・・・いったいどれだけ私を怒らせれば・・・」
ワナワナ、と吹寄が震える
垣根「はい、タンマー・・・俺はこれから彼女とデートなの!!」
吹寄「なんだ、そうなの」
吹寄が少し驚いたように言う
垣根「だからオデコは勘弁」
吹寄「・・・」
垣根「じゃあなー」
垣根が手を振って走っていく
残された吹寄は溜め息をついていた
吹寄(・・・分かってるわよ)
届かないことは、分かっている
なのに
吹寄(好きだったって分かった途端、辛いものね)
垣根「おいすー」
心理「あら、早かったわね」
垣根「そうか?」
心理「もう少し吹寄さんと話し込むかと思ってたわ」
クスクス、と心理定規が笑う
垣根「あぁ・・・それがよかったか?」
心理「あら、そしたらヤキモチ妬いちゃうわよ」
垣根「そりゃ、嬉しいな」
ははは、と笑ってから垣根がキスをする
心理「・・・ありがと」
垣根「じゃ、行こうか」
二人が手を繋ぎあって歩く
一方、吹寄は一人で歩いていた
吹寄「はぁ・・・」
夜になったとはいえ、街はまだ暑かった
こんな時間、普段は出歩けない
ただ今は大覇星祭中なのだ
周りには学生がたくさんいた
その中を彼女は歩いているのだ
吹寄「・・・寂しいわね」
こんなにも暑い夜なのに
なぜか、彼女の心は寒かった
吹寄「・・・はぁ」
なんで、こんなにも辛いのだろうか
■■も言っていた
初恋とは叶わないものだと
吹寄「・・・どこか、入ろうかな」
ふらふらと入ったのは、小さな本屋だった
吹寄(・・・こんなとこ・・・入ってどうするのかしら)
そんなことを思いながらも体は勝手に入って行った
そしてそこで見つけてしまった
垣根「えー、この本あんま面白くないぜ?」
心理「あら、そうなの?」
全ての原因を
垣根「あれ?吹寄?ストーキングか?」
吹寄「なっ!!違うわよ!!」
心理「あら、偶然なの?」
吹寄「そ、そうよ!!」
必死に吹寄が説明する
垣根「で、なんでふらついてたん?」
吹寄「そ、それは・・・」
そんなこと、言えるわけがなかった
まさか、失恋のショックでふらついていました、なんて
吹寄(こ、こうやって話すのは自然にできるんだけどね・・・)
心理「・・・もしかして、失恋のショック?」
吹寄「ど、どうして分かったの!?」
垣根「あー、そうなの?」
垣根が首を傾げる
吹寄「あ、そ、その・・・」
心理「・・・ねぇ、垣根」
垣根「はいはーい」
垣根がいったん席を外そうとする
吹寄「あ、ちょっと!!」
垣根「こういうのは心理定規が得意なんだよ」
手を振って、垣根が少し離れる
吹寄「あの・・・ごめんなさい」
心理「仕方ないわよ、初恋相手なんでしょ?」
少ししてから
二人は会話を始めた
吹寄「・・・私・・・気づいてしまったのよ」
心理「好きだったことに?」
無言で吹寄がうなずく
心理「・・・彼、本当に素敵よね」
クスクス、と心理定規が笑う
吹寄「・・・ホント、バカなはずなのにね」
吹寄も苦笑する
なぜか、人を惹きつける魅力があって
そして、それに二人は惹かれたのだ
心理「・・・どんなところが好きなの?」
吹寄「そ、そうね・・・明るいところかしら」
心理「あら、私もよ」
吹寄「でも、ときどきとてもカッコイイでしょ?」
心理「えぇ、ときどきね」
ときどき、を強調して二人が笑う
吹寄「・・・そんなところかな」
心理「・・・そうなのね」
吹寄「・・・きっと、これからも・・・しばらくは好きだと思うわ」
吹寄が苦笑する
なぜだろうか
気づいてしまったのだ
昨日まではただの友達だったのに
ほんの小さなきっかけで、彼女は気づいてしまった
一度あふれ出した思いは止まることはなく
そして、止めることもできず
心理「・・・仕方ないわよ」
心理定規がうなずく
二人の中にある感情は同じなのだ
ただ、それが届いたか否かの違いだけだ
吹寄「・・・どうしたら、忘れられるかしら」
心理「無理よ、気づいたのなら」
吹寄「・・・そっか」
吹寄が溜め息をつく
いったい、あれから何度溜め息をついただろうか
吹寄「・・・失恋って、辛いものね」
心理「・・・そうかもしれないわね」
私はしたことがないけど、と心理定規が苦笑する
それが、とてもうらやましかった
吹寄「・・・私らしくないわね」
心理「恋をすれば、人は変わるのよ」
吹寄「いい方向に?」
心理「・・・それは決まっていないわ」
吹寄「・・・そうね」
そんなこと、吹寄には分かっていた
彼女は良くない方向へ傾きそうだったから
いっそ、拒絶されればよかったのに
吹寄(・・・垣根は、本当にバカよ)
垣根「おーっす、終わったか?」
心理「・・・タイミング最悪ね」
吹寄「貴様・・・空気を読めと言われない?」
垣根「言われます」
垣根がケラケラと笑う
吹寄はこんなにも苦しんでいるのに
彼は、笑っている
吹寄(まったく、無責任ね)
吹寄が少し垣根を睨みつける
垣根「なぁ、どうせ叶わないんだから忘れたほうがいいぜ?」
吹寄「そんな簡単に言わないで・・・」
垣根「そういうもんか?」
垣根には分からなかった
やはり、女心は難しい
垣根「・・・あ、三人で飯でも行くか?」
心理「あら、いいわね」
吹寄「・・・遠慮しておくわ」
その申し出を、吹寄は断った
垣根「あ?なんか用でもあんのか?」
吹寄「ちょっとね」
垣根「なんなら少しくらい待つけど?」
吹寄「ううん、いいわよ」
吹寄が本屋から出て行く
吹寄「長くなるもの」
そうつぶやいて
垣根「・・・はぁ、フォロー失敗か」
心理「誰のせいよ」
心理定規は、垣根を睨んでいた
吹寄(・・・誰かに相談したいわね)
吹寄は一人、歩いていた
モヤモヤとした気持ちは残ったままだ
吹寄(ダメよ!!とりあえず、気持ちをしっかりと!!)
そんなことを考える時点でしっかりとはしていないのだが
そんなことには気づかない
吹寄「・・・はぁ」
吹寄「・・・あれ」
視線の先に、少し見覚えのある背中が
いや、かなり見覚えのある背中があった
上条「次はどこ行く?」
美琴「そうね・・・レストラン?」
上条「でも、まだ少し早くないか?」
クラスメイトであり、苦悩の種だった
吹寄「上条・・・」
上条「あれ、吹寄?」
美琴「あ、こんばんはー」
吹寄「こんばんは・・・こんなところで何してるの?」
上条「あ、不純異性交遊とかではなく!!」
吹寄「貴様が不純なのは百も承知よ」
上条「理不尽だ!!」
美琴「・・・吹寄さん、なんだか悲しい顔してません?」
美琴がポツリとつぶやいた
吹寄「・・・分かる?」
上条「え、何かあったのか?」
上条が真剣な顔つきになる
彼は、友達が困っているのを見過ごせない性格だ
もちろん、吹寄も友達なのだ
上条「なにかあったなら相談のるぞ?」
吹寄「・・・いや、上条には無理だと思うわ」
吹寄が溜め息をつく
上条は今、とても幸せなのだ
恋人と付き合い、幸せなカップル生活を送っている
そんな彼に吹寄の気持ちは分かるはずなかった
美琴「・・・でも、話すだけでも変わりますよ?」
吹寄「・・・そうかな」
吹寄の心が揺らぐ
全く関係のない二人になら、話してもいいような気がした
吹寄「・・・失恋したのよ」
上条「」
上条「ごめん、もう一回」
吹寄「失恋したのよ」
上条「えぇぇぇぇぇぇぇ!!!???」
美琴「当麻・・・失礼よ」
上条「い、いや!!マジで!?」
吹寄「なに?私が恋の一つでもしたらいけないの?」
上条「いやいやそうじゃないけど!!」
上条はかなり驚いていた
今まで、吹寄は全くそんな素振りを見せなかったからだ
上条「だ、誰なんだ?」
吹寄「・・・笑わないでよ?」
上条「あ、あぁ」
上条がうなずく
吹寄「・・・垣根よ」
美琴「え、垣根ってあの垣根ですよね?」
吹寄「えぇ、そうよ」
上条「マジかよ・・・」
吹寄「・・・まぁ、無理だとは分かっていたけど・・・やっぱり断られるのは辛くてね」
吹寄が苦笑する
それはそうだろう
面と向かって「付き合えない」と言われるのはかなりダメージが大きい
美琴「・・・そうだったんだ・・・」
上条「大丈夫か?吹寄?」
吹寄「大丈夫・・・って言いたいけどね」
今の吹寄の表情を見れば分かるだろう
かなりきているようだ
美琴「・・・辛い・・・ですよね?」
吹寄「あ、勘違いしないで?垣根を奪おうなんては思ってないわよ」
上条「それは分かってるよ」
吹寄は誠実な人間だ
彼女が、まさか誰かから恋人を奪おうなんて考えるわけがない
上条「・・・こ、こういうときどうすればいいのかな?」
美琴「そうね・・・慰めても・・・辛いだけよね」
二人がヒソヒソと話す
後ろでは、吹寄がずっと溜め息をついている
上条「・・・と、とりあえず・・・」
上条が提案する
それは、あまりにも関係ないことだった
上条「飯・・・食うか?」
吹寄「・・・はぁ、なんで居酒屋なの?」
美琴「当麻・・・ジジ臭い」
上条「近かったんだよ!」
吹寄「・・・はぁ」
美琴(さ、さっきから溜め息ばかり・・・)
上条(これは、思った以上に心の傷は深そうですよ!?)
美琴(よ、よし!お母さんがいつも悲しいときに飲んでるものを!)
美琴が何かをオーダーした
上条「?なんだこれ?」
美琴「お母さんがいっつも飲むのよ」
吹寄「?なにこれ?」
美琴「辛いときとか悲しいときに、私の母が飲むんです!」
吹寄「そう・・・ありがと」
吹寄が美琴から杯を受け取る
上条(?気のせいか、ちょっと焼酎臭かった・・・)
吹寄「プハーッ」
上条「」
上条「美琴!!」
美琴「な、なに!?」
上条「それ、名前何だよ!?」
上条が美琴のオーダーした謎の飲み物を指差す
美琴「さ、薩摩白波・・・」
上条「焼酎じゃねぇか!!!」
美琴「えぇっ!?」
上条「おい、吹寄!」
上条が吹寄を見つめる
目がとろけている
顔は火照っている
おまけに、なんかブツブツつぶやいている
上条「出来上がっんじゃねぇか!!」
吹寄「はぁ・・・私だってね・・・」
吹寄「垣根と付き合いたかったわよ!!」
バン!!と吹寄がテーブルを叩く
上条「ふ、吹寄?」
吹寄「あぁん!?」
上条「ひぃっ!!」
上条がつい怯えてしまう
今の吹寄は、完全に野獣だった
吹寄「あーそうよ!!ちょっとくらい恋したっていいじゃない!!」
グビッ!!と吹寄が一杯飲み干す
吹寄「何よ!!彼女とイチャイチャしちゃってさ!!」
美琴「ふ、吹寄さん・・・」
吹寄「しかも何抱きしめたりしてきてんのよ!!!!!!!!!!」
吹寄「うぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
上条(ガ、ガチ泣き!?)
吹寄「おっぱい柔らかい!?」
美琴(か、垣根そんなこと言ったの?)
吹寄「いいでしょ別に!!こっちは大きすぎて肩凝ってんのよ!!」
上条(ろ、論点がずれて・・・)
美琴「そ、それ自慢!?」
吹寄「なによ!!自慢なんかじゃないわよ!!」
美琴「ひぃっ!」
吹寄「そうよ・・・どうせ私は地味よ・・・」
上条(な、泣き出した・・・)
吹寄「大体ね!!あんなにしょっちゅう絡まれたらそりゃ気にもなるわよ!!」
美琴「あ、それは分かるかも」
吹寄「やってられっかよちくしょう!!!!」
また吹寄が一杯飲む
上条「お、おい・・・」
吹寄「なに!?真面目なキャラだからなに!?」
吹寄「恋したらダメなの!?実行委員には恋する権利なし!?」
吹寄「あぁもう!!!!」
吹寄「私はね!!垣根にめちゃくちゃにされたかったわよぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!!!」
上条「な、なに言ってんだよ!」
吹寄「あーー!!!!!!!!腹立つ!!!!!!!!!!!!!!!」
吹寄「悪い、これから彼女とデート」
吹寄「ミサイル撃つぞゴルァ!!」
美琴(こ、怖い・・・)
吹寄「何よ・・・好きだったのに・・・」
上条(コ、コロコロキャラが変わる・・・)
吹寄「垣根の胸の中はあったかかったわよ!!!!!!!!!!!!!!!」
吹寄「その温もりで一人楽しめってかぁぁぁぁ!!??」
上条「下ネタはダメ!!!」
吹寄「・・・上条、ちょっとお会計頼むわ」
上条「・・・は、はい?」
吹寄が席から立ち上がる
美琴「ど、どこ行くんですか!?」
吹寄「決まってるでしょ・・・」
吹寄「垣根のとこよ・・・」
上条「」
吹寄「今のテンションなら何も怖くないわ!!」
ぐい、と最後の一杯を飲み干す
上条(い、一升・・・)
吹寄「・・・行ってくるわ」
吹寄「私は!!!!!!!!!!愛の伝道師!!!!!!!!!!!!!!!」
いいぞ姉ちゃん!!!となぜか周りの客が囃し立てる
美琴(あ、あわわわわわわ!!!)
垣根「・・・なんだか、ヤな予感がする」
心理「え?」
二人は、街中をふらついていた
垣根「こう、悪寒が走るんだよ」
心理「風邪でもひいた?」
垣根「いや、こう・・・」
吹寄「垣根ぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
垣根「そう、その時僕は思ったんです」
心理「避けないと直撃するわよ」
吹寄「シカトしてんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!!!!!!」
吹寄が恐ろしいスピードで垣根に突っ込んだ
ダンプよりも重いかもしれない
垣根「ぶべぇ!!!!」
心理(あ、目が死にそう)
吹寄「心理定規さん、いえ、心理定規さん!!!」
心理「言い直した意味・・・ってあなた酒飲んだわね?」
心理定規が顔をしかめる
かなり酒臭かったのだ
吹寄「このプレイボーイ借りるわよ!」
心理「あら、襲わないでね?」
吹寄「!!その手があったか!!!!」
心理「やめて」
吹寄が垣根を猛スピードで引っ張っていく
少しして、上条と美琴がやってきた
上条「心理さん!!」
心理「あら、どうしたの?」
美琴「吹寄さんが来なかった!?」
心理「あぁ、垣根を引っ張っていったわよ」
上条「マジかよ!?」
美琴「お、追うわよ!!!」
三人がすぐに吹寄を追いかける
吹寄「こらこらどけやぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!」
垣根を引きずりながら、吹寄は近くの公園へ向かっていた
すれ違う人が恐ろしいものを見たような表情をする
実際恐ろしかった
垣根(靴底から・・・火花が・・・)
吹寄「ついた!!立て!!」
吹寄が無理矢理垣根を目の前に立たせる
垣根「わたくしなーにされるんざましょ?」
吹寄「ちょっと歯をくいしばれ!!」
吹寄がグーを握る
垣根「お、おいちょっと待て!!」
吹寄「ライダーキック!!!!!!!!!!!!!!」
垣根「蹴りかよ!?」
吹寄「ほりゃぁぁぁ!!!!!!!!!!」
吹寄の蹴りが炸裂した
公園のベンチに
垣根「うわ、痛そう・・・」
吹寄「・・・」ウルウル
垣根「全然可愛くないからな」
刹那
拳が、垣根の鳩尾にヒットした
垣根「ふぎゃぁ!!」
吹寄「よく聞け!!」
吹寄が腕を組む
上条「い、いた!!」
美琴「垣根が地面に突っ伏してるわ!!」
心理「なんでベンチがひしゃげてるのかしら」
吹寄「私はなぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」
吹寄「垣根が大好きなんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
美琴(な、なんて大胆な!)
上条(すげぇ・・・男気溢れてます)
心理(なんかちょっと悔しいかも)
吹寄「分かる!?どれほど好きか!?」
垣根「い、いえ・・・」
吹寄「板チョコくらい好きなんだよ!!!!!!!!!!!!!」
垣根「お前の冷蔵庫には常に何個も板チョコが入ってんのかなぁ!?」
吹寄「一個もない!」
垣根「好きじゃねぇだろ!!!!!」
吹寄「黙って聞けぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
上条(う、うるせぇ)
美琴(すごい剣幕・・・)
心理(私は板チョコ大好きよ)
吹寄「抱きしめられたら死にそうなんだよ!!!!!」
吹寄「抱きしめられたら胸が苦しいんだよ!!!!!!!!!!!!!!!!」
吹寄「なんで生半可な気持ちで抱きしめたんだよぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
垣根「な、なんかスイマセン!?」
吹寄「謝んじゃねぇ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
垣根「なんで!?」
吹寄「私はなぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
吹寄「貴様の幸せが一番なんだよぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
垣根「は、はい」
吹寄「貴様が心理定規と一緒にいると笑顔になるのも!!!!!!!!!!!!!」
吹寄「心理定規を愛しているのも!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
吹寄「よぉぉぉぉぉぉく知ってるよ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
上条(な、なんて暑苦しい・・・)
美琴(よ、酔ってる・・・)
心理(・・・なんか、ヤキモチ妬きそう)
吹寄「私がどんだけお前を見てたと思う!?」
垣根「知るかよ!!ってかお前って・・・」
吹寄「・・・だからなぁ・・・お前が幸せでいられるなら・・・」
吹寄「・・・私は・・・お前を諦めるよ・・・」
垣根「・・・」
上条(・・・吹寄・・・)
美琴(あれ、なんだか涙が・・・)
心理(・・・吹寄さん・・・)
吹寄「だから約束しろ!!!!!!!!!!!!!」
吹寄「お前は、誰よりも、世界中の誰よりも幸せになれ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
吹寄「そして、世界で一番バカだった私を笑え!!!!!!!!!!!!!!!!」
吹寄「私は、お前の笑顔を見ていられれば幸せなんだよ!!!!!!!!!!!!!!」
吹寄「今までだってそうだった!!!!これからだってそうだろう!!!!!!!!!!!」
吹寄「届かなくて何が悪い!?届けようとして何が悪い!!!!!?????」
垣根「吹寄・・・」
吹寄「心理定規と幸せになれ!!!!!!!!!決して浮気なんかするな!!!!!!!!!!!!!!!」
吹寄「これほど私を苦しめたんだ!!!!!!!!!!!!他の女性を苦しめるなよ!!!!!!!!!!!!!!!!」
吹寄「そして、自分を苦しめるな!!!!!!!!!!!!」
吹寄「分かる!?ねぇ分かる!?」
垣根「は、はい」
上条(・・・吹寄・・・)
美琴(うぅっ・・・)グスン
心理(・・・なんだか、悪いわね・・・)
吹寄「お前の幸せのためなら、私はなんだってやってやるわよ!!!!!!!!!!!!!!」
吹寄「遠くで指でも咥えて見ててやるわよ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
吹寄「悲しいわよ苦しいわよ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
吹寄「正直、心理定規が憎いわよ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
心理(!!)
上条(お、おい・・・)
美琴(もう・・・辛いわ・・・)ウルウル
吹寄「そして、貴様も憎いわよ!!!!!!!!!!!!!!!」
吹寄「私が憎んでる者同士お似合いなんじゃないの!!!???」
吹寄「とにかく!!!!!!!!!!!!私はもう貴様のことなんて忘れてやるわよ!!!!!!!!!!」
垣根「あ、あぁ・・・」
吹寄「感謝しろよ!!!!!!!!!!!???????????」
美琴(ちょっと・・・ハンカチ貸して・・・)ズピーッ!
上条(それ俺のTシャツ!!!!)
心理(・・・垣根、どうするの?)
垣根「・・・知ったことかよ」
吹寄「あぁ!?」
垣根「知ったことかよ!!てめぇの気持ちなんざわかんねぇし分かるつもりもねぇよバーカ!!!!!!!!!!!」
吹寄「!!」
垣根「憎いだ好きだ感謝しろだぁ!!!!!!??????」
垣根「こちとら自分の幸せで精一杯よぉ!!!!!!!!!!!!!!」
垣根「お前の事情なんて知ったことかよ!!!!!!!!!!!!!!!!」
垣根「憎いんだったら殴ってみろよ!!!!!!!!!!!!!!」
垣根が吹寄に近づく
拳を振りかぶれば、普通に届く距離だ
それは、抱きしめられる距離でもある
垣根「好きなんだったら抱きしめてみろ!!!!!!!!!!!」
吹寄「!!!!!!」
上条(垣根!)
美琴(うぅ・・・)チーン!!
心理(・・・垣根)
垣根「そんな覚悟もねぇくせに!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
垣根「強がったりするんじゃねぇよ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
垣根の声が夜空に響く
吹寄「・・・強がってる?」
垣根「あぁ、そうだね強がってるね」
吹寄「な、なに言って・・・」
垣根「だったら泣けよ」
吹寄「・・・」
垣根「泣くのが弱さか?」
垣根「違うね、それは強さだ」
垣根「悲しみを捨てるために泣くんだ」
垣根「ずっと同じ場所で立ち止まるのではなく」
垣根「明日へ進むために」
垣根「それは強さだ」
吹寄「・・・」
垣根「ほれ、強がるのは得意なんだろ?」
垣根がニコリと笑う
少しだけ、悲しそうに
彼の腕には、もう心理定規が抱かれている
背中には、心理定規が背負われている
彼は、吹寄制理を抱きしめることはできない
垣根には、できない
吹寄「・・・私は、泣いていいのかしら」
垣根「俺が許してやるよ、その代わり最後にしな」
吹寄「・・・ちょっとだけ、抱きしめてもらっていいかしら?」
垣根「あー・・・」
垣根が心理定規を見つめる
抱きしめていいか、と
心理(仕方ないわね・・・)
コクリ、と心理定規が頷く
垣根「オーケー、これも最後な」
吹寄「そっか・・・」
吹寄が、垣根の胸の中に寄りかかる
吹寄「だったら、ずっと泣いていたいわね」
垣根「そいつは勘弁」
吹寄「分かってるわよ」
美琴(だったらずっと泣いていたいわね)
美琴(うぅ・・・)グスン
上条(な、泣きすぎですよ・・・)
吹寄(・・・ホント、あったかいわ)
吹寄が目を閉じる
なんで、この男はこんなにも暖かいのだろうか
吹寄(そうよね・・・)
彼女は、優等生だった
成績ももちろんだが、しっかりとした性格をしていて
学級委員タイプの人間だった
そんな彼女は、誰にも女性としては見られていなかった
対カミジョー勢力なんて言われて
そう、あの上条さえも敵わないと
そんな風に言われていた
吹寄(初めてだったのよね)
そういう、優等生とかそんな目ではなく
一人の女性として見られたのは
バカではないのかと思うくらい
垣根は無防備で
そして、純粋で
そんな優しさが、そんな愚かさが
吹寄には居心地がよかった
吹寄「・・・垣根」
垣根「はーい」
吹寄「・・・どうせ、胸が柔らかいとか考えてるんでしょ?」
垣根「なんだ、俺の考えてること分かるのか」
吹寄「・・・やっと分かるようになったわよ」
垣根の胸の中で、吹寄が笑う
吹寄「・・・遅すぎたわね」
垣根「たとえ早く分かってたって、俺は心理定規を選んでたさ」
吹寄「それも分かってる」
垣根「・・・そうかい」
はぁ、と垣根が溜め息をつく
なまじ、吹寄も魅力的だから
それでも、彼の目には心理定規しか映っていなかった
そんな自分が
少しだけ、薄情に思えた
吹寄「・・・ねぇ」
垣根「なんだよ」
吹寄「貴様にさ、してほしいことがあるんだ」
垣根「キスとかはダメだぜ?」
吹寄「そんなこと頼まないわよ」
垣根「じゃあ、なんだ?」
吹寄「・・・一度だけ、頭を撫でてくれないかしら?」
垣根「そんなことか?」
垣根が訊ねる
吹寄「いいのかしら?」
垣根「そうだな・・・」
今度は
心理定規のほうは見ない
見なくたって、聞かなくたって
垣根には分かるから
心理定規の気持ちが分かるのだ
垣根「しゃあねぇな」
そっと
吹寄の頭を撫でる
優しく、宥めるように
吹寄「・・・これも、最後なのね」
垣根「最初で最後だな」
吹寄「・・・時間が止まればいいのに」
垣根「そしたら未来にゃ進めないぜ」
吹寄「垣根」
垣根「なんだよ」
吹寄「好きよ、大好き」
垣根「さっきも聞いた、そして俺はそれには応えられない」
吹寄「分かってるわよ、だから泣いてるんじゃない」
垣根「そうだな・・・」
吹寄「・・・分かってるわよ・・・それくらい」
涙が止まらなかった
本当は、もっと早く泣き止みたかったのに
ずっと抱きしめられているのは辛かったから
なのに、涙は溢れてくる
吹寄「バカ・・・バカ・・・」
垣根「・・・」
こんなにも愛しているのに
気持ちは決して届かない
吹寄「どうして・・・優しくなんかしたのよ・・・」
吹寄「・・・どうして抱きしめたりするのよ・・・」
吹寄「・・・貴様はバカよ・・・大バカよ・・・」
垣根「・・・心配するな、自覚はある」
吹寄「・・・うっ・・・」
垣根の胸の中で、吹寄の肩は震えている
美琴(当麻ぁ・・・)
上条(よしよし)
心理(・・・辛いわね、私も垣根も)
垣根(・・・悪いな)
その震えている肩を
彼は抱きしめられない
抱きしめるべきなのは彼ではない
いつか現れるであろう誰かだ
彼ではない
垣根(はぁ、女の涙は嫌いだ)
吹寄「・・・悪かったわ、長くなって」
そっと吹寄が体を離す
垣根「まだ泣きたいんじゃないか?」
吹寄「・・・それでも、いつかは離れなくちゃ」
垣根「そうだな」
垣根が苦笑する
吹寄「・・・ありがとう、泣いたらスッキリしたわ」
垣根「その涙は俺のせいだろ?」
吹寄「それもそうね」
吹寄が笑う
目には、まだ少し涙が浮かんでいる
垣根「・・・お前はいいやつだからさ、きっともっと素敵なヤツに出会えるさ」
吹寄「そうね、私を選ばなかったことを後悔させてやるわ」
垣根「頼むぜ」
垣根「・・・送るか?」
吹寄「・・・そうしてほしいけど、彼女を待たせたらダメでしょ?」
吹寄が心理定規のほうを見つめる
垣根「・・・そうだな」
吹寄「・・・ありがと、やっぱり貴様はバカよ」
垣根「褒め言葉か?」
吹寄「そうだと思ってて」
垣根「・・・じゃあ、また明日な」
吹寄「明日か・・・気まずくなりそうね」
垣根「そりゃ困るな」
垣根が笑う
気まずい雰囲気は苦手なのだ
吹寄「・・・私の胸は柔らかいのよね」
垣根「?なんだよいきなり?」
吹寄「なんでもないわ」
吹寄がくるりと踵を返す
吹寄「おやすみ、また明日ね」
垣根「おう、いい夢を」
吹寄「ありがと」
吹寄が歩き出す
上条「・・・垣根」
垣根「なんだよ、お前らいたのか」
美琴「垣根ぇ・・・アンタ、いいヤツよ・・・」
心理「・・・よかったの?私で」
垣根「当たり前だろ、お前だけだ」
ケラケラ、と垣根が笑う
垣根「・・・帰るか、心理定規」
心理「そうね」
心理定規が垣根の横に並ぼうとする
しかし、今日はなぜか垣根が一歩先に進む
心理「?どうしたの?」
垣根「なーんでもねーよ」
垣根がおどける
しかし
心理(・・・だったらなんで、声が震えてるのよ)
彼の声は震えていた
垣根(並んで歩いたら、泣いてるとこ見られちまうからな)
垣根(・・・やっぱ)
垣根(女の涙は嫌いだな)
吹寄「おやすみなさい」
吹寄は、寮で布団の中に入っていた
少し暖かい布団の中
吹寄(・・・でも垣根のほうがあったかいわね)
そんなことを考えてしまう
とても優しくて
そして、届かなかった彼
吹寄(・・・でも)
垣根が言っていた
泣くのは最後だと
彼女は、その約束を守りたかった
吹寄(好きな人との約束よ、守るに決まってるでしょ)
小さく笑ってから、吹寄が眠りに着く
幸せな夢を見たいな、なんて
そう思いながら
夢の中でも、やはり垣根は心理定規を選んだ
彼女を選んではくれなかった
それが、嬉しかった
やっと自分は垣根のことを分かったんだと
やっと
吹寄(私が幸せになる夢なら・・・)
吹寄(目覚めたときが辛いもの)
だったら
彼女が幸せになる夢なんて見れなくてもいい
ただ
吹寄(垣根が幸せになる夢なら、覚めたっていいけどね)
本心とは裏腹なことを思いながら小さく笑って
吹寄は目を閉じた
黒子「・・・かなり遅くなりましたの」
初春「・・・熱中症だからって・・・さすがにいつまでもいられるのは困りますね・・・」
削板「ホントにいるんだな・・・」
三人は、風紀委員の支部から帰っていた
もう夜遅いだろうか
空には星が浮かんでいる
黒子「晩御飯、食べて帰りますの?」
初春「あ、お願いします!」
削板「よし、ここでいいかな」
削板が適当な居酒屋に入る
別に酒を飲むわけではないので問題ないのだ
なぜか、店内は湧いていた
削板「?賑やかだな」
普段は警備員や教師などしか来ないだろう
今は大覇星祭中なので賑わっている
だが、それにしてもかなり盛り上がっている
削板「なにかあったのかな?」
黒子「分かりませんの」
カウンター席に薩摩白波の開き瓶が置いてあった
削板「ま、いいや・・・何頼む?」
黒子「わたくしは・・・焼肉定食で」
初春「あ、私もそれで」
削板「俺は牛丼でいいかな」
三人が注文をする
少しして、運ばれてくる
黒子「はぁ・・・やっと食事ですの」
削板「なんか、こういう仕事のあとの食事ってめちゃくちゃ美味く感じるんだよな」
初春「あぁ、分かります分かります!」
黒子「じゃあ・・・」
削板「おう!!」
三人「いただきます!!」
手を合わせて、三人は晩飯を始める
彼女達は知らない
あと少し早く来ていたら、あの騒動に巻き込まれていたなんて
吹寄「・・・ん、朝ね」
吹寄が目を覚ます
朝の6時
ちょうど、いつもの起床時間だ
吹寄「はぁ・・・なんか頭が痛い」
それは焼酎を飲んだからなのだが
まぁそこらへんの記憶はない
あったら自己嫌悪に陥るだろう
吹寄(・・・えっと)
昨日のことを思い出す
垣根に告白して、振られて
吹寄(う、イヤな思いでしかないわね・・・)
はぁ、と吹寄が溜め息をつく
しかし、昨日の暗い気持ちとは違う
なぜか少しすがすがしかった
吹寄「さて!!今日から心機一転よ!」
パン!!と顔を叩いて気合を入れる
朝食を済ませ、しっかりと顔や歯の手入れをする
彼女は健康には人一倍気を使っている
美顔ローラーとか、そんなレベルではない
規則正しい生活
垣根が見たら「あー、こりゃ付き合うヤツは大変だな」なんて言いそうなほどに
吹寄「よし、バッチリ!!」
化粧なんてしない
そんなことをしなくても整った顔立ちだ
それに興味もなかった
吹寄さんは優等生なのだ
吹寄「じゃあ、行きますか!!」
バン!!と勢いよく部屋のドアを開く
垣根「ふべぇ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
変な声が聞こえた
聞き覚えのある声だ
というか、昨日も聞いた
吹寄「あれ?垣根?」
垣根「ドアの攻撃とは・・・不覚だ・・・」
鼻頭を抑えながら垣根が立ち上がる
垣根「・・・おはよう」
吹寄「おはよう、なんでいるの?」
垣根「いや、アナウンスの打ち合わせでもしようかと」
吹寄「それだけ?」
垣根「一応メンタルは大丈夫か見に来ました」
吹寄「・・・なによそれ」
垣根「ヤンデレ化は困るので」
垣根「でも、元気そうでよかった」
吹寄「はぁ、失恋相手の顔を早々見るとはね」
垣根「俺は昨日、心理定規と熱い夜を過ごしました」
吹寄「・・・貴様、バカにしてるの?」
ビキビキ、と吹寄が青筋を浮べる
垣根「うーん・・・とりあえずさ」
吹寄「何よ?」
垣根「ほっぺたについた歯磨き粉を落として来ようか」
吹寄「!!」
恐ろしい速度で吹寄が部屋に帰る
垣根(あ、帰った)
そして数秒後
吹寄「お待たせ!!」
ドアが思い切り開かれた
垣根「ふべぇ!」
デジャヴ
吹寄「・・・」
垣根「・・・なぁ、なんか話せよ」
吹寄「話せないわよ、さすがに昨日の今日で」
垣根「えー、友達だろ?」
吹寄「はぁ・・・」
垣根「・・・ま、いろいろあったからな」
垣根が苦笑する
吹寄「・・・でも、もう振り返らないわよ」
垣根「さっすがおっぱい吹寄」
バキィ!!と垣根の頭蓋から音がする
吹寄のオデコがヒットしたのだ
かなり痛いだろう
垣根「・・・お前の彼氏になるヤツは苦労するな」
吹寄「大きなお世話よ」
青筋を浮べながら吹寄が先に進む
垣根「・・・ま、元気そうだな」
吹寄「空元気かもしれないけどね」
垣根「強いじゃねぇか、それでも」
吹寄「・・・そうね」
吹寄「心理定規さんは許してくれてるの?」
垣根「あぁ、お前にヤンデレ化されたら困るって」
吹寄「だから何よそれは・・・」
垣根「なんでもない」
二人が競技場へ向かう
限りなく近く
でも、決して重なることはない歩幅で
垣根「・・・なぁ、辛くなったら相談しろよ?」
放送席で、垣根が吹寄につぶやく
吹寄「・・・優しくされたら、もっと好きになるわよ」
垣根「だから最終手段として」
お前のことは嫌いじゃないし、と垣根が付け足す
吹寄「そうね・・・分かったわ」
垣根「ま、そういうこと」
マイクの電源を入れる
四日目、折り返しの日だ
観客席はすでに満員
選手達も、準備を終えている
垣根「・・・吹寄、行くか」
吹寄「えぇ」
ニヤリ、と二人が笑う
最高の友情がそこにはあった
垣根「大覇星祭四日目!!!!」
吹寄「始まります!!!!!!!!!!!!!!!!」
観客席から、今まで以上の声援が上がった
上条「はぁ・・・四日目ともなると種目が尽きるな・・・」
美琴「そうよね・・・」
二人はため息をついていた
競技場ではなぜかカバディが行われていた
もちろん、普段のテンションならちょっとつまらないな、くらいで済んだのかもしれない
しかし今日の二人は違った
昨日の夜遅くまで吹寄の騒動に巻き込まれてしまったのだ
上条「あーあ・・・でも吹寄は元気出たみたいだな」
上条が放送席を見る
そこにはいつも通りのアナウンスをしている吹寄がいた
もちろん隣には垣根もいる
美琴「なんだかんだあったけど・・・上手くいったみたいね」
上条「あぁ・・・立ち直れたのかは分からないけど」
上条が苦笑する
美琴「・・・疲れちゃったから昨日はできなかったね」
上条「あ、あぁ・・・そういえばそうだな」
美琴「今日は・・・ね?」
上条「も、もちろん!」
周りの観客に聞こえないように、静かに話す
美琴「うふふ・・・//」
上条「なんか幸せそうですね」
美琴「当麻♪」
上条「美琴♪」
二人は幸せなカップルだ
本当に幸せなカップルなのだ
吹寄「さぁて・・・少しはアナウンスしなくていいわね」
吹寄が少し体を伸ばす
垣根「・・・ほれ、スポーツドリンク」
垣根がそっとスポーツドリンクを差し出す
吹寄「・・・なに?なんか優しいと気味が悪いんだけど」
垣根「言っとくけど、俺は女性には優しいんだよ」
吹寄「・・・一応女性としては見てくれてるのね」
垣根「まぁ心理定規が一番だけどな」
垣根が笑う
心理「あら、嬉しい」
垣根「」
いきなり後ろから声が掛けられた
垣根「な、なんだいたのかよ」
心理「浮気の匂いがしたものでね」
垣根「しないって、俺はお前だけが好きなんだぜ?」
垣根が心理定規にキスをする
心理「・・・嬉しいわよ、嬉しいんだけど」
垣根「あぁ?」
吹寄「・・・」
垣根「あ」
垣根が何かに気づいたようにつぶやく
垣根「わ、悪い」
吹寄「いや、いいんだけど・・・貴様、よく放送席でそうもイチャつけるわね」
はぁ、と吹寄がため息をつく
垣根「恥じてないもん」
吹寄「・・・ねぇ、一応私はまだ傷ついてる途中なんだけど」
心理「・・・でも私たちには気を遣うなって言ってたじゃない」
吹寄「そ、それはそうだけど・・・」
少し吹寄がどぎまぎとする
垣根「じゃあいいだろ?心理定規、むちゅちゅのちゅー」
心理「そういうのはやめなさい」
吹寄「・・・貴様・・・私をよほど怒らせたいようね」
吹寄が青筋を浮かべる
垣根「だってさ、ここで俺と心理定規が遠慮したらしたでお前は辛いだろ?」
吹寄「それはそうだけど・・・」
垣根「ほれ、ならいいだろ?」
吹寄「で、でも!」
なんだか悔しい
失恋しただけならまだしもその相手が目の前でイチャイチャしてるなんて
吹寄「・・・と、とにかく・・・もうちょっとそっとしておいて!」
心理「あら、意外とわがままね」
吹寄「それは百も承知よ!」
垣根「お前・・・泣いてんのか?」
吹寄「泣いてないわよ!」
心理「まぁ、しばらくは落ち着いてあげる」
心理定規が垣根の隣に座る
心理「・・・ただし、私はあなたには譲らないから」
吹寄「わ、分かってるわよ・・・」
垣根「なぁ、なんか危ない雰囲気じゃないか?」
心理「あなたを思ってるからよ」
吹寄「私は別にいいんだけど・・・」
はぁ、と吹寄がため息をつく
彼女はそこまで垣根とイチャイチャしたいわけではない
多分、ない
心理「・・・とりあえず、このややこしい三角関係をどうにかしないとね」
垣根「いや、吹寄は別に整理ついてるんだろ?」
吹寄「まぁ・・・一応はね」
心理「なんだ、そうなの?」
少しつまらない、といった感じで心理定規がため息をつく
吹寄「・・・心理定規さん、あなた結構・・・性格悪いわね」
心理「・・・あ、あら・・・そんなことを面と向かって言うなんて・・・あなたもなかなか」
吹寄「まぁ、私はそこまでじゃ・・・」
垣根(うっへぇ・・・これだから女の子は怖いなぁ)
垣根は冷や汗をかいていた
女の戦いは怖い
垣根「・・・俺は心理定規一筋なんですけど」
心理「あら、信じてるわよ?」
ニコ、と心理定規が笑う
なぜか少し引き攣っていたが
垣根「なぁ、吹寄もそれは分かってるんだよな?」
吹寄「まったく・・・その、少し言いすぎたわよ」
心理「はぁ・・・私も、なんかバカみたいだったわ」
垣根「・・・なぁ、俺はこの先ずっと吹寄さんと心理タソのこういったヤキモチ対決に巻き込まれるの?」
吹寄「別にヤキモチなんて妬いてないわよ」
心理「垣根、元はと言えばあなたが巻いた種よ」
垣根「俺は悪くないだろ・・・」
垣根が肩を落とす
競技はまだ終わりそうにない
こういうタイミングで終わってくれたら最高なのだが
吹寄「・・・とにかく、放送席は一応関係者以外立入禁止なのよ?」
心理「あら・・・そんなに垣根と二人だけでイチャイチャしたいのかしら」
垣根「俺はあなた様だけを愛していますから!」
吹寄「人前でイチャイチャするな!」
吹寄が垣根にオデコアタックをくらわす
垣根「えぇ!?俺だけ!?」
吹寄「当たり前でしょ!」
垣根「な、なんか昨日のことがあってから吹寄さんはバイオレンス・・・」
吹寄「・・・殴るわよ?」
垣根「・・・怖い」
心理「まぁ、立入禁止なら帰るしかないわね」
心理定規が立ち上がる
垣根「帰っちゃうの!?俺をおいて!?」
心理「吹寄さんがいるから心配ないでしょ」
垣根「やだ!なんでそんなにラブコメにしようとするの!?」
心理「あら、刺激のある毎日は素晴らしいわよ?」
垣根「待って!刺激が強すぎたらウサギは死んじゃうの!」
心理「あなたはウサギじゃないから大丈夫よ」
手を振りながら心理定規が去っていく
残された垣根は戸惑っていた
垣根「あ、あの・・・」
吹寄「・・・そ、それはまだ貴様のことは・・・ちょっと好きだけど」
垣根「あ、ここでデレるんですか」
吹寄「だからって、二人のジャマなんかしないわよ」
垣根「はぁ」
吹寄「それに昨日泣きまくったおかげでかなり整理もついたし」
垣根「ふーん・・・なんか開き直り?」
吹寄「貴様・・・本当に私を怒らせるのが上手ね」
吹寄が拳を握る
グーだ
垣根「こらこら、俺は初恋相手だろ?」
吹寄「別に恋なんかじゃないわよ!」
垣根「あれれー?好き、大好き、なんて言ってたのはどこの」
吹寄「二回死ね!」
吹寄が拳を振りかざす
垣根「ひぃっ!危ないだろうが!」
吹寄「なんで避けるのよ!」
垣根「あぁもう!素敵なラブコメで十分だ!」
吹寄「貴様は脳天気ね!」
垣根「なんでだよ!?このくだらない人生、真面目に生きたら損だよ!?」
吹寄「こんなののどこがよかったのよ昨日までの私!?」
垣根「過去を全否定!?」
ぎゃーぎゃーと二人が騒ぐ
昨日のあんな騒動なんか忘れて
普通の友達に戻っていた
テクパトル「はぁ・・・なんという幸せだろう」
19090「テっくん♪」
テクパトルは感動していた
17600号が「たまには二人きりにさせてやるよ」と言って他のミサカの世話を引き受けてくれた
昨日に引き続き、今日も二人きりなのだ
テクパトル「今日はどこ行くか?」
19090「そうですね・・・テっくんは競技を見たいんですよね?」
テクパトル「お前に合わせるよ」
テクパトルが微笑む
19090「で、では一緒にかき氷を食べましょう!」
テクパトル「かき氷?いいけどなんで?」
19090「あのキーン!という感覚を二人で味わってみたいのです!」
19090号が拳を握り締める
テクパトルには分からないが、何か興味があるのだろう
テクパトル「了解、そうしようか」
19090「♪」
幸せな時間
このカップルが一番、大覇星祭を満喫しているかもしれない
エツァリ「・・・トチトリ、久しぶりです」
トチトリ「よっ、元気そうじゃないか」
ショチトル「・・・お前も相変わらずで安心したよ」
トチトリ「いやぁ、学園都市はやはり空気がまずいな」
そんなことを大声で言う
たしかに、少し淀んではいるのだが
ショチトル「そういうこと言ったら刺されかねないぞ」
エツァリ「いえ、ないですからね」
トチトリ「すっかりこちらの住人だな、二人とも」
トチトリが笑う
彼女も今では魔術からは距離を置いている
正確にはあの組織から、だが
そもそも組織自体壊滅してはいた
ただ、やはり残党などが名を引き継いで後継となる組織を作っていたりもする
そういうめんどくさいやり取りが続く世界なのだ
トチトリ「こちらは組織はあまりないみたいだな」
エツァリ「昔は暗部がありましたが・・・今は」
学園都市は一つの大きな組織と言ってもいいだろう
その中で対立する派閥もあるが、基本は統括理事会に従っている
なのでいくつも組織がありすぎてゴチャゴチャ、ということにはならない
そこは魔術側よりも楽なのかもしれなかった
トチトリ「そういえばエツァリは普段の顔に戻ったのだな」
エツァリ「えぇ、こちらでもずっと」
トチトリ「やはりそちらのほうがしっくりくる」
トチトリが嬉しそうに笑う
海原の顔をしていたときはぶつくさと文句を言っていたような気がする
顔で選んだ、とか女に取り入る、とか
ショチトル「とりあえず移動しようか」
トチトリ「そうだな」
アステカ出身の三人は
競技場へ向かった
垣根「・・・なぁ」
吹寄「分かってる、ヒマなんでしょ」
垣根「あぁ・・・」
今は綱引き、紅白対抗戦が行われていた
ベタな種目だがそれゆえに盛り上がっている
つまり、垣根達が無理に盛り上げなくてもいいのだ
アナウンスとしてはヒマになってしまうため複雑だった
垣根「日常会話でもしようか」
吹寄「あら、貴様に出来るの?」
垣根「とりあえずおっぱいを揉ませてください」
吹寄「やはり貴様には無理ね」
吐き捨てるように吹寄が答える
吹寄「第一、貴様は声フェチだって言ってなかった?」
垣根「心理定規フェチ、かな」
吹寄「惚気はやめなさい」
はぁ、とため息をつく
垣根「ヤキモチか?」
吹寄「だから整理はついたのよ」
垣根「ホントにか?」
吹寄「気を遣われて距離を置かれたら辛かったかもしれないわ」
垣根「じゃ、今まで通りに友人でいいだろ」
吹寄「・・・ちょっと残念だけどそれでいいわよ」
垣根「こりゃフラグを残していきますねぇ」
吹寄「・・・初恋が叶わないのがどれほど辛いか」
マイクを切って吹寄が言う
垣根「俺の初恋相手は心理定規だもん」
吹寄「・・・なぜだがムカつくわ」
垣根「なに?やっぱりヤキモチ?」
吹寄「貴様・・・私で遊んでるでしょ」
垣根「遊ばれたいのか?」
吹寄「・・・」
無言で垣根の椅子を蹴り飛ばす吹寄
垣根「な、なんかヤンキーになってないか?」
吹寄「私は至って真面目よ?」
垣根「俺の知ってる真面目ってものには椅子を蹴り飛ばす、は入ってないんだけど」
吹寄「貴様の知識は狂ってるもの」
悪びれた様子もなく吹寄がそっぽを向く
垣根「てめぇ・・・揉むぞ」
吹寄「貴様に揉まれるほど遅くはないわ!」
垣根「あぁ!?俺が遅い!?俺がスロゥリィ!?」
吹寄「そうよ!」
垣根「冗談じゃねぇぞぉぉぉぉ!」
垣根が吹寄の後ろに素早く回る
吹寄「な、ほ、本気!?」
かつては黒子の胸を揉んだこともあったような気がする
彼は意外とそういういたずらを行うのが好きだ
相手のかなりうろたえたリアクションというのは面白い
垣根「ほれ!」
プニ、となんとも豊満な胸を揉む
心理定規、美琴、黒子に続き通算四人目の被害者だろうか
吹寄「・・・」
垣根「あ?リアクション無しか?もしかして感じた?」
垣根が吹寄の顔を覗き込む
真っ赤だ
ただし、照れている感じの真っ赤ではない
これは
吹寄「分かったわ、貴様に恋してたなんて絶対勘違いだったと」
怒っているときのものだ
垣根「ふ、吹寄さんはおっぱい大きくて素晴らしい・・・」
吹寄「失せろ垣根!」
何度目かのオデコアタックが炸裂する
垣根「またかよ!?」
体が宙を舞った
あの破壊力はどこから生まれるのだろう
絶対おかしいよ、と垣根が涙ぐむ
吹寄「ふん、貴様なんかに惚れるわけがないわよね、そうよ」
垣根「・・・自分の愛を否定だなんて、悲しい子」
吹寄「・・・なにか言った?」
垣根「ひぃっ!!失恋した吹寄さんはバイオレンス!?」
吹寄「いつまでそのネタを引っ張るつもりよ!」
吹寄が垣根にスポーツドリンクを投げつける
過去は過去
今は今
それが吹寄制理だ
吹寄「まったく・・・それより、なかなか今は盛り上げる必要がないわね」
垣根「なーんか、俺たちまで中弛み?」
吹寄「私はしてないけど」
垣根「聞いたー?みなさん聞いたー?中弛みしてるみなさん聞いたー?」
吹寄「あ、終わったみたいね」
綱引きが終わったらしい
垣根「次は・・・あ?なにこの魂の叫びって競技?」
吹寄「あぁ、何か一言叫ぶ競技よ」
垣根「ワーオ、シンプルかつバカ」
吹寄「・・・私も叫んでこようかしら」
垣根「ストレス発散にはいいかもな」
二人が立ち上がる
垣根(へへへ、俺の叫びを聞け!)
吹寄(あーあー、声の調子はいいわね)
上条「へぇ、叫ぶ競技か」
美琴「ねぇ、やってみない?」
上条「いいな」
削板「これこそ!!俺の競技だ!!」
黒子「わたくしも行きますの!!」
一方「・・・やろォじゃねェか」
番外「ミサカもー」
エツァリ「では自分も」
ショチトル「私も行こうかな」
トチトリ「ついでに私も」
■■「私の叫びは。天まで届く」
テクパトル「俺も行こうかな」
御坂妹「ではミサカを代表してミサカが」
17600「がんばれよ」
20000「スカっとするのを頼むぜ」
垣根「さーて、始まりました!!魂の叫び!」
吹寄「ただ叫ぶ、それゆえに点数などありません!!」
垣根「マイクも使わず、空へと放て!!」
吹寄「あなたの思いをぶつけてみせろ!!」
上条(よし、俺は美琴への愛を叫ぶ!!)
垣根「まずは上条選手!!!!!!!!!!!!!!!!!」
上条「美琴ーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
上条「愛してるーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
ひゅー、と観客席から冷やかしの声が飛んで来る
垣根「さぁ、御坂選手!!」
美琴「う、うん!!!」
美琴「私だって!!!!!!!!!!!!!!!!!」
美琴「負けないくらい愛してるわよ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
さらに、冷やかしの声が高まる
垣根「いやぁ、すがすがしいほどのイチャつきぶりでした!!」
吹寄(はぁ・・・風紀が乱れるわ)
エツァリ「では自分が」
エツァリ「変態ではありません!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
エツァリ「たとえ変態だとしても、それは変態という名の紳士です!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
垣根「はい、次は誰?」
吹寄「汚らわしい」
エツァリ「」
ショチトル「では」
トチトリ「私達の叫び」
ショチトル「エツァリぃぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
トチトリ「お兄ちゃん!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
ショチトル・トチトリ「私を食べてぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
エツァリ「」
垣根「ご覧の通り、エツァリは変態です」
吹寄「汚らわしい人種ね」
垣根「はい、次ー」
削板「こんじょぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
黒子「ジャッジメントですのぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
垣根(暑苦しいが、これも叫びだな)
吹寄(本当はこういう趣旨よね)
テクパトル「愛してるぞぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
17600「テクパトルぅぅうううううううううううううううううううううううう!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
19090「//」
20000「17600号がボケにはしった」
御坂妹「しかもスベりました、とミサカは観客席の素っ頓狂な顔を見ながら苦笑します」
一方「俺は!!!!ロリが!!!!!!!!!!!!!!!!!」
一方「大好きだァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
番外「そんな!!!!!!!あなたが!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
番外「大好きだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
垣根「いやぁ、これはいい競技ですね」
吹寄「次は・・・■■選手!!」
■■「ふふ。私の出番」
■■が競技場の中心に立つ
なぜか観客席は盛り上がっている
彼女はかなり人気者になったようだ
■■「私は」
■■「いつでも。後ろにいる」
シーン、と静まり返る場内
叫んでいないのに
なぜか、その声は遠くまで響いた
垣根「つ、次は俺な!!!」
垣根が競技場へと出る
垣根(あれ、心理定規も叫ぶのか・・・なら)
垣根「心理定規ォォォォォォ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
垣根「ずっとそばにいろよなぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
心理「あら素敵」
吹寄「バカップルね」
ひゅーひゅー、と観客席から口笛が聞こえる
垣根「次は吹寄選手!!!」
吹寄「じゃあ、行くわよ」
吹寄が息を吸い込む
少し上下する胸に目が行くのは男の性だ
吹寄「垣根ぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
上条(おぉ!?)
美琴(何を叫ぶのかしら!?)
心理(見ものね)
吹寄「胸揉むんじゃねぇよ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
垣根「」
吹寄「あー、スッキリした」
垣根に何かいろんなものが投げつけられる
土御門「俺たちの最後の砦を!!!」
青ピ「まさか垣根がダークホースやったなんてなぁ!!!!」
小萌「そういうのはダメなんです!!!!」
■■「セクハラ」
垣根「・・・それでも僕は、やってない」
吹寄「やったわよ」
心理「さて・・・私ね」
心理定規が立ち上がる
最後の一人だ
心理「はぁ、あまり大声を出す柄ではないけど・・・」
こういう機会にやってみるのもいいか、と心理定規が息を吸う
上条(心理さんの叫びか)
美琴(なに言うのかな)
心理「はぁ・・・」
ちょっと息を吐き
そして、叫ぶ
心理「ちょっと垣根とラブコメ出来て胸がデカイからって調子に乗るんじゃねぇよ新参者ぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
心理「泥棒猫はシュレディンガーの刑よ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「かっけーっす姉さん!!!!!!!」
「惚れました姉さん!!!!!!!!!!!!!!!!」
あちこちからそんな声が聞こえる
吹寄「こんな競技、しなければよかったわ・・・」
垣根「あぁ、俺も今はそう思ってる」
吹寄「・・・次は?」
垣根「つまんない競技、もうやる気でない」
吹寄「・・・スポーツドリンク、いる?」
垣根「サンキュー・・・」
この競技での被害者はこの二人だろう
そっと、溜め息をついた
黒子「さて・・・」
初春「競技に行ったと思ったらもう帰って来たんですか」
削板「空間移動ってすごいよな」
黒子「まだまだ仕事は山積みですの・・・」
風紀委員の支部
黒子は目の前の学生達を見ていた
たくさんの熱中症患者だ
削板「まったく・・・あれほど水分補給は呼びかけてるのにな」
黒子「それで減るなら苦労しませんの」
黒子がスポーツドリンクを開ける
ただで飲み物がもらえる、ということで冷やかしにくる生徒もいた
初春「大抵は削板さんを見たら逃げますけどね」
削板「?ウイーハルさんに驚いてるんだろ?」
初春「・・・もうそれでいいです・・・」
黒子「・・・少し疲れましたの」
はぁ、と黒子が椅子に座る
気のせいか、少し顔が赤い
削板「なんだ、もしかして熱中症か?」
削板が黒子に近づき、スポーツドリンクを渡す
黒子「えぇ・・・そうかもしれませんの」
削板「お大事にな」
黒子「ですが、ここで休むわけには・・・」
削板「黒子!!!」
削板が黒子の言葉をさえぎる
削板「俺は!!この周りの学生は知らない!!!!!!!!!!!!」
黒子「は、はい」
削板「でも、知らない学生にでさえ治ってほしいと思っている!!!!!!!!!!!!!」
黒子「え、えぇ」
削板「ましてや愛しているお前なら!!!!!!!!!!!!!!!」
削板「なおさら治ってほしいのさ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
黒子「」ズキューン
初春(白井さんってこういうタイプに弱いんですね)
削板「絶対安静だ!!!!いいな!?」
黒子「はいですの・・・」
どこか虚ろな瞳で黒子が返事をする
それは、熱中症のせいではないだろう
黒子「で、ですが仕事は・・・」
削板「俺がやってやろう!!!」
削板が胸を叩く
それから少しして
たくさんの熱中症患者は帰っていった
治ったらさっさと帰りたくなるのだ
削板「ははは!!!!!!!!!!治ってよかったな!!!!!!!!!!!!!!!!」
この人が五月蝿いから、だ
ステイル「なにやら、競技場が騒がしいな」
少し競技場から離れた公園
そこでステイルはつぶやいていた
そのときちょうど「魂の叫び」が行われていたのだが
彼が知るわけはない
イン「ねぇステイル!!!」
ステイル「ん、なんだい?」
イン「なんかしようよ!!!」
ステイル「なんかって・・・」
ステイルは困っていた
傍から見たらデートだろう
男女が二人きりで仲良く公園のベンチに座っている
なかなかに魅力的なシチュエーションだ
だが、ステイルはあいにくそういうのは詳しくない
ステイル(本当なら・・・こう、デザートとか食べるべきなんだが)
ステイルはそれは違う、と考える
なぜならインデックスはすでにたくさん食事を取っているからだ
本人曰く「朝飯にもならないんだよ!!!」って言っているが
食べた量は恐ろしかった
書き連ねるのもイヤになるくらいに
イン「?どうしたの?」
ステイル「いや、なんでもないよ」
ステイルが苦笑する
どうすればいいのか
かと言ってイノケンティウスを呼んだら
「自分で決めな、お前の恋だ」
なんて言うに決まっている
ステイル「何しようかな・・・」
イン「ステイル、そこは男らしくすぱ!!っと決めてほしかったんだよ」
ステイル「そ、そうかい?」
少しステイルは焦ってしまう
嫌われたかな、と
イン「でも、私も特にしたいことはないし・・・」
ステイル「うーん・・・」
ステイルはそもそも娯楽に興味なんてない
趣味はなんですか?と聞かれたら
「異端審問です」
と答えてしまいそうな人間だ
好きなものはタバコ、インデックス
それだけだ
カラオケ、と言ったら「あのうるさいところか」
で済ませるし
ゲーセン、と言ったら「あのうるさいところか」
で済ませてしまう
つまり、彼は年齢相応ではないのだ
妙に大人びたところはあるし、身長だって大きい
ときどき幼いところもあるが、それもあまり見せはしない
イン「ねぇ、聞いてるの?」
ステイル「あ、あぁ」
イン「じゃあ、なんて言った?」
ステイル「え、えっと・・・」
聞いてなかった
さきほどから何かインデックスがしゃべっていた
それは分かっている
しかし、考え事をしているときは周りの声はなかなか聞こえない
それでも聞いていた、と言った以上は答えなければならない
ステイル「あ、あの雲がおいしそうに見える、って」
昔
インデックスはそんなことを言っていた
それをふと思い出して
イン「あ、ちゃんと聞いてたんだ!!」
嬉しそうにインデックスが笑う
ステイル「・・・あぁ」
同じだった
あの頃と
ステイルに完全記憶なんてない
なのに、あの日が何日だったか、何時だったか
空にどんな雲が浮かんでいて、どんな話をしていたか
そして
イン『あの雲、美味しそうなんだよ!!!!!!!!!!!!!!』
そんなありきたりな台詞だって
覚えていた
なに一つ忘れずに
ステイル「・・・君は変わらないな」
イン「?何が?」
ステイル「いや、なんでもないよ」
苦笑しながらステイルが答える
彼にはどうしようもなかった
記憶を消したのは彼だ
それを取り戻すことはできない
だからこそ、今はこうして向き合っている
過去のインデックスではなく
今のインデックスと
イン「ねぇ、何するの?」
ステイル「そうだな・・・」
とりあえず、タバコを取り出す
ニコチンとタールのない世界は地獄
それが彼の座右の銘だった
イン「あ!!吸っちゃダメなんだよ!?」
ステイル「い、いいだろう!?」
イン「ダメなんだよ!!」
インデックスがタバコを箱ごと取り上げる
ステイル「あぁ・・・」
ショボーン、とステイルが顔をしかめる
イン「いぃ!?タバコは癌の発生を進めるんだよ!?」
ステイル「そ、それは医療書の知識かい?」
イン「常識なんだよ!!!!」
イン「まったく、ステイルは少し目を離したら・・・」
ステイル「す、すまない」
どうもインデックスには強気に出られない
そう、あの教師と同じで
小萌「あー!!!神父さん、またタバコを!!」
そう、あの教師と
ステイル「え?」
イン「あ、こもえなんだよ!」
小萌「シ、シスターちゃんがタバコの箱を持っているんです!?」
ステイル「あぁ、それは僕・・・」
小萌「あなたがすすめたんですね!?」
ステイル「え、えぇ!?」
イン「ステイルがタバコを吸っているなんて面白くないシャレなんだよ!!!」
ステイル「な、何を言っているんだい!?」
小萌「人にまですすめるだなんて・・・」
ステイル「い、いえ!!違うんです・・・」
小萌「神父さん!!」
ステイル「は、はい」
小萌「先生は心配なのですよ!?それ以上吸い続けたらあなたはいずれタバコの神様になっちゃうんです!!」
ステイル「僕は子供じゃないからそういう脅し文句は・・・」
小萌「先生からしたら子供なのです!!」
すごい剣幕で小萌が迫る
イン「ねぇ、こもえはどうしてここに?」
小萌「そ、それは・・・」
イン「なんだかタイミングがいいんだよ」
インデックスが小萌を睨む
歳では小萌のほうが上なのに、インデックスが見下ろす形になっている
面白いな、とステイルは場違いなことを考える
イン「もしかして」
イン「ステイルを追いかけていたの?」
小萌「ち、違うんですよ!?誰も神父さんとシスターちゃんが仲良くしててヤキモチなんて・・・」
イン「やっぱり!!」
ステイル(な、なにかめんどうなことになったな)
イン「ステイルは私の友達なんだよ!?」
小萌「ど、どう見ても二人はカップルさんなのです!!」
ステイル「えぇ!?」
小萌「先生としては見逃せないのですよ!!」
イン「なんで!?」
小萌「そ、それは不純異性交遊だからです!!」
イン「不純じゃないんだよ!!」
二人の女性?がにらみ合う
どう見ても子供同士のケンカだが
ステイル「き、君たち・・・」
イン「ステイルは黙ってて!!」
小萌「そうなのです!!」
ステイル「は、はい!!」
ステイルが少し冷や汗をかきながら返事をする
女性というのは怖い
魔術なんかよりもずっと
ステイル(女性とは・・・難しいな・・・)
■■「結局。吹寄はあのあと垣根に復讐したのね」
放送席に一人のお客さんがいた
影が薄い人だ
なんて名前だっけ?と垣根は首を捻る
知っていた気もするが
吹寄「まぁ、おかげでスッキリしたわ」
■■「私も。失恋したときはそうだった」
■■が遠い目をする
彼女が失恋したのはいつだっただろうか
イヤなことは早く忘れる主義なのだ
正確な日にちは覚えていない
ただ、冬の寒い日だったのは覚えている
上条「俺さー、彼女ができたんだ!!!」
そんなことを、上条から聞かされた
■■「・・・彼女?」
上条「あぁ、前々から好きだったんだけどな!」
それから延々と話を聞かされた
彼女はあの超電磁砲であること
自分を助けようとしてくれたこと
かなり自分を愛してくれていること
そして
上条「ホント・・・不幸だらけだったけどさ」
上条「今、幸せだよ」
彼が幸せだということ
それを知ったとき
彼女は恋を失った
いや、捨てたのだろうか
■■「おめでとう。死ねリア充」
上条「そ、それひどくないか!?」
土御門「いやー、そうだったのかにゃー」
青ピ「へぇ、カミやん・・・」
上条「うわぁ!?」
■■「当然の。報い」
上条「た、助けて!!」
それから、長い時間が経った
■■「忘れるのには。時間がかかった」
吹寄「・・・上条のことを?」
■■「違う」
垣根「じゃあなにを」
■■「自分の中に生まれた感情を」
■■「忘れてしまうのには時間がかかった」
■■「今となっては。あれがなんだったのか分からない」
吹寄「・・・そうなの?」
垣根「・・・そっか」
■■「ねぇ、垣根」
■■が垣根を見つめる
その目は少し怒っているようだった
■■「私は。あなたが憎い」
垣根「・・・なんで?」
■■「私の友達を。吹寄を泣かせたから。憎い」
吹寄「・・・」
■■「でも。吹寄はあなたに恋をした」
■■「それは。とてもいい経験だったと信じてる」
■■「それだけは。お礼を言いたい」
■■「ありがとう」
垣根「・・・お前に礼を言われる筋合いはねぇよ」
■■「だとしても。私はお礼を言いたかった」
■■「そして。殴り飛ばしたい」
吹寄「ひ、姫神・・・」
■■「垣根」
垣根「なんだよ」
垣根が答える
少しだけ、辛そうな顔をして
垣根「・・・なんか、言いたいのか?」
■■「・・・吹寄があなたを好きだったことを覚えていて」
吹寄「・・・」
垣根「なんで?辛いだけだろ」
垣根が顔をしかめる
それはとても辛いことだ
忘れてほしいはずだ
垣根「吹寄は今忘れようとしている」
垣根「なら、俺も忘れなきゃならないだろ」
■■「それ。違う」
■■が垣根を見つめる
垣根には分からない
彼は、失恋したことがない
だから、分かるわけがないのだ
■■「吹寄は。もしかしたらいつか誰かを好きになるかもしれない」
垣根「・・・」
■■「でも。そしたら今の気持ちを忘れてしまう」
■■「吹寄は忘れてしまうの」
垣根「だから俺に覚えとけってか」
はん、と垣根が鼻で笑う
そんなこと、できなかった
■■「そう。だけど。それに答える必要はない」
垣根「あぁ?」
■■「そして。それに縛られる必要も」
垣根「何が言いたいんだよ」
■■「・・・吹寄を犠牲にしたのよ。あなたは」
垣根「そりゃ分かってる」
■■「だったら。忘れないで」
■■「垣根。あなたは心理定規だけに愛されていたのではないと」
■■「吹寄だって。あなたが好きだったと」
■■「そして。幸せになって」
■■「吹寄があなたに抱いた思いの分まで」
■■「あなたは。幸せになる義務がある」
垣根「そして、権利もな」
垣根が笑う
吹寄「・・・姫神、ありがとう」
■■「当たり前のこと」
■■が席から立ち上がる
いつまでも放送席にいるわけにはいかないからだ
■■「ねぇ。垣根」
垣根「なんだよ」
■■「覚えていてね」
垣根「忘れられないさ」
垣根が真っ直ぐと前を見つめる
■■は振り返ったりしなかった
■■「忘れたら。もう取り戻せないから」
垣根「お前は忘れたのか?」
■■「えぇ。忘れた」
垣根「そうか」
■■「じゃあ。吹寄」
吹寄「なに?」
■■「あなたはできたら。忘れないでほしいな」
そう言って
■■はその場を去った
垣根「はぁ、忘れたほうが楽なのにな」
吹寄「・・・でも、姫神の言うことも一理あるわよ」
垣根「でもよ、俺はお前には前に進んでほしいんだぜ?」
吹寄「安心しなさい、私もそのつもりだから」
吹寄がスポーツドリンクを口に含む
少しだけ、生ぬるかった
垣根「・・・悪いな」
吹寄「だからなんで貴様が謝るの」
垣根「おっぱい揉んで」
吹寄「それは土下座しても足りないわね」
垣根「・・・なぁ、辛くないか?俺にはわからないけど」
吹寄「そうね・・・でも」
吹寄「伝えてみて、よかったのかも」
垣根「そうか?」
吹寄「貴様がどれだけ彼女に惚れているのかも分かったし」
垣根「ま、それはたしかによかったかもな」
ケラケラ、といつものように垣根が笑う
吹寄「・・・ありがとう」
垣根「なにが?」
吹寄「・・・貴様に恋をできて、よかったかもしれないわ」
垣根「失っただけ辛い思いもしただろ」
吹寄「そうね」
垣根「おっと、競技が変わるぜ」
垣根がマイクを握る
次は障害物競走のようだ
吹寄「・・・でも、案外こうやって友達としてやってるほうが楽しいかも」
垣根「俺もそう思うよ」
二人がマイクを握り締める
垣根「・・・よし、行くか吹寄!」
吹寄「えぇ!!」
垣根「目の前の障害なんのその!!」
吹寄「越えてみせるわ目の前を!!!」
垣根「目指すはゴールと感動を!!!!!!!!!!!!!」
吹寄「障害物競走!!!!!!!!!!」
二人のアナウンスは息がピッタリだった
やっぱり、こいつとは友達がいいなと垣根は笑っていた
■■(はぁ。熱く語ってしまった)
■■は一人で観客席に座っていた
障害物競走が始まり、観客席は盛り上がっている
■■(・・・恋か)
彼女だって恋をしていた
でも、それはもう思い出せない過去のことだ
上条当麻
彼に救われて、どれだけ彼女の人生が変わったであろうか
彼に救われて
彼女の心はどれだけ動いただろうか
叶わないかも、とは思っていた
しかし、叶うかも、とも思っていた
だからこそ
彼に恋人ができたときいたとき
心は音を立てて崩れた
寮では泣きじゃくった
声などあげず
ただひたすらに
それからしばらくは塞ぎこみそうにもなった
失ってこそかけがえのないものになるのかもしれない
かけがえのないものは失う運命にあるのかもしれない
彼の右手は、彼女の幻想さえも壊してしまったのだ
彼女を救ってくれたあの右手は
そのときは、彼女を傷つけた
辛くて、憎くて
そして何より情けなくて
たとえばもっと早く伝えていれば
たとえばあの時出会っていなければ
たとえば今からでも遅くないなら
そんなくだらない可能性を
ただただ追い求めてしまっていた
それも、昔のことだ
いつしか、彼のことをなんとも思わなくなってしまった
仲良しの友達
クラスメイト
いつも話す友人
昔は、それ以上を求めていたのに
なぜか、いつの間にかそれに甘んじてしまった
彼を抱きしめたいとも思わなくなり
彼女の恋は、いつの間にかなくなっていた
■■(いつからだったかな)
恋が終わったのは
それは始まるときは輝かしく
そして、終わるときはあっけなく
彼女の心の中にあったはずのそれは
空のどこかへ消えていった
彼女には翼はなく
もう、それを拾い集めることは叶わなかった
■■(・・・なんだか感傷的になってしまった)
■■が苦笑する
こんなことを思い出しても、もう胸は痛まない
上条が美琴といるのを見ても
いつの間にかなにも思わなくなった
それが当たり前になったのだ
まるで、最初からそうだったかのように
だからこそ
その恐ろしさを知っているからこそ
■■(吹寄。あなたは忘れないで)
彼女には忘れてほしくなかった
彼女は忘れたりしなくても
きっと前に進めるから
弱い自分と違って、強い彼女は
■■(お願い)
忘れたらいけないことがある
吹寄にとっても、彼女にとっても
それはあったはずだ
彼女は忘れた、そして取り戻せないのなら
■■(あなたは。忘れたらいけない)
一番の親友である彼女には
覚えていてほしかった
失恋なんて、おかしな言葉だと彼女は思っていた
失うためには、一度得なければならない
彼女は、得る前にそれを終わらせたのだから
失恋ではないのだ、と
■■(言うなれば・・・終恋かしら)
そっと、笑う
自嘲の笑みか、それともそれ以外か
垣根「おっと!!!転びました、がんばれ!!!」
吹寄「こら!!そういうことは言うな!!」
■■(大丈夫だから。あなたは強いから)
きっと、彼女は前に進めるから
彼女が進みたかった未来へ
■■(大覇星祭。楽しいな)
まだまだ、四日目
折り返しである
971 : ◆G2uuPnv9Q. - 2011/08/13 12:38:48.81 h9JEQobs0 809/809とりあえず新スレはこちら
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1313206497/
三日をきったのは気にしない
今週は月曜と明日しかバイトがなかったからだ
それだけ
続き: 19スレ目 上条「まだまだ続く!」美琴「大覇星祭!」垣根「アナウンスはMeダヨ!」心理「誰よ」
※編集中です。近日中に公開します。