1 : VIPに... - 2014/07/06 06:20:27.85 9Nk4pjf1o 1/224

提督「……………………」コックリコックリ

提督「…………む」

提督「いかん。眠ってしまっていたか」

窓から差し込む、少しばかり熱い日差しで温められた私の部屋。
そのせいで部屋全体が酷く心地良くて、つい目の前の仕事を放棄して夢の国へ旅立っていたようだ。

提督「……平和だ」チラ

ふと、窓の外を見る。
目に映るのは青い海と、それに負けないくらい蒼い空。
水平線に近付く程に白くなるそれらの下では、艦娘達が演習をしている。
まだ錬度が甘いが、全員の動きは初めて出会った頃よりも遥かに良くなっている。

提督「この瞬間だけを見れば、戦争をしているようには見えんな」

事務作業と居眠りで凝り固まった身体を解すように動かす。
ふむ。少し調子が悪いようだ。

提督「この平和が、ずっと続けば良いのだが……」

ポツリ、と柄にもなく零した弱気の言葉。
きっと何か夢を見ていたのだろう。この平和が、とても大切で幸せなものに感じられる。

提督「そうだな……いつ死んでしまうか分からない。それならば、この僅かな平和を噛み締めるのも悪くないだろう」

もう一度だけ、演習をしている艦娘達へ視線を数秒だけ落としてから仕事へ戻った。



──もう、亡くさないようにしなければな。



この時なぜか私は、そう思っていた──。

元スレ
瑞鶴「私は幸運の空母なんかじゃない」 金剛「?」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1404595227/

2 : VIPに... - 2014/07/06 06:21:13.84 9Nk4pjf1o 2/224

──コンコン

提督「入れ」サラサラ

ガチャ──パタン

金剛「テートクー! ニューフェイスが登場したヨー!」

提督「ほう。早朝に指示した建造が完成したか。やけに時間が掛かっていたな」

金剛「イエス! アバウトですが、六時間くらいデース!」

提督「基本的に時間が掛かる建造ほど大型のモノになると聞いているが、どうなる事かな?」

金剛「……鎮守府の財政を考えると怖いやら嬉しいやらデスね?」

提督「そうだ。まあ、成るように成るだろう。新しい子と顔合わせと行こう。皆も呼んでくれ」

金剛「演習をしている方々もデスか?」

提督「ああ。そろそろ切り上げさせても良い時間だろう。良い演習をしていた」

金剛「了解しまシタ! すぐに呼んで工廠へ向かわせマス!」ピシッ

提督「いや、そんなに急がなくても良い。汗も掻いているだろう、シャワーで流してから来るようにと伝えてくれ。私は先に工廠へ向かっておく」ギシッ

金剛「ハイッ!」

金剛「あ。でも覗きはいけませんヨ、テートクー?」ニヤニヤ

提督「どうやら吊るされたいらしい」

金剛「ソ、ソーリー! ジョークです!」ビクッ

提督「くくっ。分かっているさ」

金剛「アウッ……一本取られたネー……」

…………………………………………。

3 : VIPに... - 2014/07/06 06:31:48.84 9Nk4pjf1o 3/224

提督「──全員、揃ったな?」

加賀「はい。演習の皆さんも汗を流してこの場に居ます。ありがとございますね、提督」ソソッ

金剛「加賀ー! テートクの隣は私のポジションなんだからネ!」

加賀「ここは譲れません」

「それは私の台詞でもあるよ」

提督「喧嘩をする者は吊るす」

全員「…………っ!」ピシッ

提督「よろしい」

川内(相変わらず提督さんは人気者だね~)

建造妖精「じゃあ、お披露目するねー」

瑞鶴「──翔鶴型航空母艦二番艦、妹の瑞鶴です! 皆の足を引っ張らないように頑張るわね!」

建造妖精「えっへん! 改心の手応えだったよ!」

提督「よくやってくれた、建造妖精。感謝するよ」

建造妖精「えっへへー」

提督「私がこの鎮守府の提督だ。──幸運の空母とは縁起が良いな。これから宜しく頼む」

瑞鶴「私は幸運の空母なんかじゃないわ。一生懸命やってるだけ、よ」

提督「ほう。期待しているよ」

瑞鶴「ええ! ありがとね!」

提督「分からない事があれば私か加賀や金剛に聞くと良い」

提督「瑞鶴の部屋は金剛、加賀と同じ部屋にするから、これを機に仲良くなると良いだろう」

金剛「ハーイ! よろしくネー!」

加賀「これからよろしくお願いします」

瑞鶴「はい! よろしくお願いします!」

提督「それでは、すまんが私はこれで席を外させて貰う。金剛、加賀、後を頼む」

金剛「はいっ!」

加賀「承りました」

…………………………………………。

4 : VIPに... - 2014/07/06 06:42:10.43 9Nk4pjf1o 4/224

加賀「──ここが提督室。執務室と提督の部屋を一緒にしているからこう呼んでいるわ」

金剛「これで主要箇所は全部ネー。瑞鶴、憶えられまシタか?」

瑞鶴「うん。二人のおかげでバッチリよ!」

金剛「それは良かったデース!」

加賀「ええ。教えた甲斐があったというものね。何か質問とかはある?」

瑞鶴「……えーっと」

金剛「? どうかしまシタ? 言いにくい事デスか?」

瑞鶴「ちょっと、ね。提督さんの事なんだけど……」

加賀「何かしら」

瑞鶴「…………私が気にし過ぎなのかもしれないけど、提督さんって何で目が死んでるのかなって」

加賀「やっぱりね」

瑞鶴「やっぱり?」

金剛「この鎮守府に居る子、全員が初見でそれを思っていマース」

加賀「ただ、提督は普通にしているみたいよ。そういう人だと思ってくれると嬉しいわ」

瑞鶴「そうなんだ……」

金剛「イエス! 初めは慣れないかもしれまセンが、だんだんあの目が心地良くなってきマスよー」

瑞鶴「こ、心地良く?」

加賀「それは貴女だけだと思うわ」

金剛「エー……? なんだか吸い込まれそうになって、身も心も捧げたくなりまセンか?」

加賀「ならないわ。後半だけは同意するけれど」

瑞鶴「今さらっと、二人がとんでもない発言をしたように聞こえたんだけど……」

金剛「あー……」

加賀「…………」

瑞鶴「き、聞かなかった事にするわね」

金剛「まあ、いつかバレますし……」

加賀「……そうね。いつかは知られる事だもの。今知られても問題無いわ」

金剛「瑞鶴も、きっとすぐにテートクの魅力に気付くネ! 優しくて強くて……もう語り切れないくらいデス!」

加賀「そうね。提督以上に魅力のある人なんて、今後現れないと思うわ」

瑞鶴「は、はぁ……」

瑞鶴(……なんだか緩い鎮守府ね?)

5 : VIPに... - 2014/07/06 06:51:34.41 9Nk4pjf1o 5/224

ガチャ──

提督「…………」

瑞鶴「あ」

金剛加賀「ッ!!」ビクゥ

提督「…………」ジッ

金剛加賀「…………」ビクビク

提督「全部聞こえていたぞ」

金剛加賀「ごめんなさい……」ビクビク

提督「……そうだな。新人の前というのもある」

金剛加賀「…………」ホッ

瑞鶴「…………?」

提督「全員、私の部屋に入りなさい」

金剛「なっ!?」ビクン

加賀「……ダメでした」

瑞鶴(……何が起きるのかしら)

…………………………………………。

6 : VIPに... - 2014/07/06 07:01:59.85 9Nk4pjf1o 6/224

金剛「うぅ……」ブラーン

加賀「……思ったより恥ずかしいわね」ブラーン

瑞鶴「あ、あの……提督さん……?」

提督「何かね」

瑞鶴「な、なんで金剛さんと加賀さんを吊るしてるの?」

提督「罰だ。新人の前で色に溺れているような発言をしたからな」

金剛「うー……テートクー……テートクを好きになるのはいけない事なのデスか……?」

提督「そうは言っていない。時と場を弁えろと言っているんだ」

提督「瑞鶴、憶えておけ。私の鎮守府ではこうして罰を与える」

瑞鶴「は、はい!」ビクッ

瑞鶴(って、罰としては軽過ぎるような……?)

コンコン──。

提督「入れ」

金剛加賀「なっ!?」

ガチャ──パタン

「失礼しま──って、えぇ!?」

「これは……」

「おーっ!」

「はわわっ! お二人が吊られているのは初めて見たのです!」

「金剛さんは白! 加賀さんは黒でエロいわね!」

金剛「ぅー……」

加賀「まさか見られるなんて……そんな……」

提督「……暁、響、雷、電。何かあったのか?」

「ああ、ごめんよ。実はこれを持って来たんだ」

7 : VIPに... - 2014/07/06 07:13:03.21 9Nk4pjf1o 7/224

瑞鶴「掛け軸? えーっと、第六駆逐隊──すぱしーば?」

「спасибо。日本語の発音だとなんて書けば良いのか分からなかったから、なるべく近い言葉で書かせてもらったよ」

提督「ふむ……。すまないが、なんという意味なんだ?」

「せーのっ──」

「──ありがとう!」

「そういう意味よ、司令官」

提督「────」

瑞鶴(──へぇ。こんなに慕われてるのね)

「……あ…………お気に召さなかったかい、司令官……」

提督「いや、面食らってしまって声が出なかった」

提督「ありがとう。いつも私の為に動いてくれて、本当にありがとう」

「ひゃっ」ナデナデ

「ん……」ナデナデ

「あ……」ナデナデ

「はわわ……」ナデナデ

金剛加賀「!!」

8 : VIPに... - 2014/07/06 07:21:41.80 9Nk4pjf1o 8/224

提督「この掛け軸は部屋に飾っておこう。皆が書いたのかね?」

「絵と文字を書いたのは私だよ」

「私はこの花飾りを作ったの」

「私は材料を集めたわ!」

「仕上げは私がしました」

提督「そうか。皆が協力して作ったのだな」

「大切にしてよね?」

提督「勿論だとも」

「特に暁が喜ぶよ」

「ちょ、ちょっと響!」

「なんせ、考案と指揮をしたのって暁だもんね」

「暁ちゃん、すごく一生懸命だったのです」

「あ、あああ……バラしちゃって……もー!!」

提督「私は幸せ者だな」

「あっ……ぅ」

瑞鶴(顔、トマトみたいに赤いわね)

瑞鶴(なんだか可愛い……)

「暁、照れてる」

「照れちゃいけないって言うの響ぃー!?」

金剛「……私達、忘れられてマス?」ブラーン

加賀「かもしれないわね」ブラーン

提督「まだもう少し罰を受けていろ」

金剛加賀「はい……」

瑞鶴(ごめんなさい……私はすっかり忘れちゃってました……)

……………………
…………
……

9 : VIPに... - 2014/07/06 07:33:05.10 9Nk4pjf1o 9/224

金剛「え? 今日の出撃はキャンセルですか?」サラサラ

加賀「何かあったのかしら」サラサラ

提督「ああ。出撃で消費される資材を再計算してみた所、少しばかり厳しくなりそうだ。よって、本日は金剛を除いて午後から自由行動とする」サラサラ

瑞鶴「え、なんで金剛さんだけ?」

金剛「私は今日、秘書デース。だから、テートクの書類処理のお手伝いをするのデスよー」サラサラ

瑞鶴「なるほどね──って『今日』の?」チビチビ

瑞鶴(あ……金剛さんが淹れた紅茶、すっごく美味しい)

提督「なぜか一部の者達は秘書をやりたがっていてな。ローテーションを組んで一日毎に交代して貰っている」サラサラ

加賀「理由は分かっているでしょう、提督」サラサラ

提督「理解はしていても納得はしておらんよ」サラサラ

瑞鶴「あー……」

瑞鶴(たぶん、二人は提督さんと少しでも長く一緒に居たいんだろうなぁ)

加賀「そういう事よ」サラサラ

瑞鶴「……っていうか、加賀さんもお仕事をしているように見えるんだけど」

加賀「そうね。私は自分の意思でこの作業をしているの。──提督、こっちの書類は終了しました」スッ

提督「ありがとう、加賀。後は私達でやるから休憩していてくれ」サラサラ

加賀「いえ、まだ──」

金剛「む~……」ジー

提督「という事だ。金剛の仕事を取ってやらないでくれ」サラサラ

加賀「分かりました。……ごめんなさいね、金剛さん」

金剛「明日の秘書をチェンジしてくれるのなら許しマス」サラサラ

加賀「それは譲れないわ。今日の私みたいに書類処理は手伝って良いから」

金剛「それで手を打ちマース!」サラサラ

瑞鶴「……本当に秘書を奪い合ってるわね」チビチビ

10 : VIPに... - 2014/07/06 07:41:37.46 9Nk4pjf1o 10/224

瑞鶴「……………………」ジー

提督「…………」サラサラ

金剛「…………」サラサラ

瑞鶴「……ねえ、金剛さん」

金剛「? ティーカップが空になりまシタか?」

瑞鶴「えっと、秘書のお手伝い……してみたいなぁって」

金剛「!」ピタッ

加賀「…………」ジッ

提督「……………………」サラサラ

瑞鶴「あっいや! ダメだったら良いのよ!? ただなんとなく、私だけこうしてるのも悪いなって思っただけでね!?」

金剛「やりたいというのならば私は構いまセンが……」チラ

提督「金剛に任せる」サラサラ

金剛「ならばオッケーね!」

加賀「随分と簡単に決めるのね」

金剛「少しでもテートクに近付こうとしているのデス。テートクの魅力が多くの人に伝わるのはとっても嬉しい事ネー」

加賀「ライバルが増えるのに?」

金剛「それとはまた話が別デース。ライバルが居るのならばその頂点に立てば良い話デス!」

加賀「……強いわね」

瑞鶴(話がなんだか大きくなっていってるような……)

提督「本人の前で言う事かね」サラサラ

金剛「テートクは私と加賀の気持ちをもう知っているじゃないデスか」

加賀「そうね。何も問題は無いわ」

金剛「では瑞鶴、カムヒアプリーズ」チョイチョイ

瑞鶴「う、うん」

瑞鶴(海外の人って、皆こうなのかしら……?)

金剛「まず初めは書類の見分け方デス。左上のここに書類の種類がありますから──」

瑞鶴(……本当、強いと思うわ)

…………………………………………。

12 : VIPに... - 2014/07/06 07:53:08.05 9Nk4pjf1o 11/224

金剛「んーっ! テートク、終わりまシタ!」

提督「そっちも終わったか。ご苦労」

瑞鶴「つ、疲れたぁ……」

加賀「三人共お疲れ様」コクコク

金剛「では、書類を纏めておくネー!」

瑞鶴「……こんな大変な事をやりたがるなんて、どうかしてるわ…………」グッタリ

加賀「好いている人の為だったら、なんだって出来るものよ」モグモグ

加賀「ふぅ……金剛さん、また腕を上げたわね。とても美味しいビスケットだったわ。ご馳走様」

金剛「リアリー? 頑張って勉強した甲斐がありまシタ!」

瑞鶴「え、このビスケットって金剛さんが作ったの!?」

金剛「イエス! 紅茶に合うお茶請けがあると、ティータイムがとっても楽しくなるネー!」

瑞鶴「はー……なんでも出来るのね、金剛さんって」

提督「いや、そうでもないぞ」

瑞鶴「え?」

加賀「そうね。欠点は私も一つだけ知っているわ」

瑞鶴(どんな欠点なのかしら……?)

金剛「えーっと……実は、私はお料理が下手っぴなのデス」

瑞鶴「えぇ!? 嘘でしょ!?」

提督「金剛、その言い方には語弊があるだろう。お前は料理自体は上手だ。ただ、料理が英国式で人を選ぶ」

瑞鶴「? それって何か問題あるの?」

提督「英国料理は基本的に、野菜なども本来の食感が分からなくなるくらい茹でたりして、食材本来の味や食感を残さないほど加熱する。また、味付けもほとんど行わない」

瑞鶴「……え? それってどうやって食べるの? お塩とかソースとか自分で掛けるとか?」

提督「そうだ。自分で味を調えて食べるのが英国式だ」

金剛「それが美味しいのに……」

14 : VIPに... - 2014/07/06 08:01:36.31 9Nk4pjf1o 12/224

提督「ちなみに、私は卵と塩で虹色の物体が出来上がる」

瑞鶴「虹色って何それ!? 本当に食べ物なの!?」

提督「食べ物と思わない方が良い。あれは劇物としか言いようが無い」

提督「それと比べたら、金剛の作る英国料理も極上の美味さだ」

金剛「テートク……流石にアレと比べられると傷付きマス……」

提督「すまん……」

加賀(提督の料理、金剛さんは食べた事があるのね。羨ましいわ……)

瑞鶴「……ちなみに金剛さん、味はどうだったの?」

金剛「……………………」ビクッ

金剛「…………えっと……」チラッ

提督「少し興味がある。あの時は聞く余裕が無かったからな。どんな味だったんだ、金剛?」

金剛「その……名状し難い、酷く冒涜的な何かでシタ……」ビクビク

提督「私と同意見か……」

瑞鶴「逆に気になるわねそれ……」

提督「二度と作らんよ。誰に頼まれようと、あのような得体の知れない物質を作るのは犯罪行為に等しい」

加賀「卵と塩だけでどうやったらそうなるのかしらね……?」

金剛「私も不思議で堪りまセン。調理法は普通ですのに、秒単位でおかしくなっていってまシタ」

提督「さて、この話は終わりにして、遠征組を迎えよう。もう近くまで帰ってきているようだ」スッ

加賀「あら、本当。相変わらず目が良いのね」

金剛「まったくもって羨ましいデース」

瑞鶴(遠征組って、あの点の事……? なんであれで判別が付くの……?)ジー

金剛「私は書類を纏めてから迎えに行きマス。皆さんはお先に行ってあげてネー」

提督「ありがとう、金剛。では、行こう」

加賀「ええ」スッ

瑞鶴「えっと、色々と教えてくれてありがとう、金剛さん」

金剛「いえいえ~。また秘書の仕事をしたくなりまシタら声を掛けて下サーイ」

瑞鶴「き、気が向いたらね?」

ガチャ──パタン

金剛「ふんふふーん──あれ?」

金剛(この書類……?)パラッ

金剛(え、こっちも?)パラッ

金剛(……………………?)パラッ

金剛「……どういう事ですか、これは?」

……………………
…………
……

15 : VIPに... - 2014/07/06 08:05:39.67 9Nk4pjf1o 13/224

一旦ここまで。
たぶんまた後で来ますね。

31 : VIPに... - 2014/07/06 17:03:21.54 k8ANfyjYo 14/224

皆さんの思っている通りです。
前作は 金剛「テートクのハートを掴むのは、私デース!」瑞鶴「!?」 を書きました。
そのSSを読んでいるとちょっぴり楽しさが増すかもしれませんが、読んでいなくても大丈夫なように書くつもりです。
読んでいない方は無理して読まなくても問題ないはずなのでご安心下さい。

再開します。


金剛「テートクのハートを掴むのは、私デース!」瑞鶴「!?」
http://ayamevip.com/archives/43299654.html

32 : VIPに... - 2014/07/06 17:04:08.40 k8ANfyjYo 15/224

島風「でね! 不知火ったら放っておけば良いのにわざわざダメだししちゃったんだよ!!」

加賀(大問題ね……大丈夫かしら……)

天龍「まあ……あれは流石に俺でも言わねぇなぁ……」

龍田「お相手が温和な方だったから事無きを得たわ~。気の短い人なら沈められてたかも」

不知火「不知火に何か落ち度でも?」

瑞鶴(こ、この子の目、すっごく怖いんだけど……。駆逐艦じゃなくて戦艦じゃないの……?)

提督「大有りだ」ジッ

不知火「……す、すみません」ビクッ

提督「不知火、お前の言い分は正しい。だが、何も正しい事全てが正解という訳ではない事を覚えておけ」

不知火「……正しいのに正解ではない、ですか」

提督「そうだ。特に、今回の場合は無理矢理にでもやらなければならない作戦だった」

提督「私も不知火と同じように考えるが、総司令部の命令と聞いている。逆らう訳にはいかない時もあるんだ」

不知火「…………嫌になりますね」

提督「軍に就くという事は、そういう事なんだ。理解してくれ」

不知火「納得はしなくても構わないのですか?」

提督「構わん。ただ、時には折れる事も覚えてくれれば私は嬉しいよ」

不知火「覚えました。司令が喜んでくれるのであれば、私も喜んで覚えます」

龍田「あらあら~。不知火ちゃんは本当に提督の事が好きね~」

不知火「当然です」

天龍「まあ、提督の事を嫌いになる奴なんていねーよな!」

提督「そうでもない。私はどちらかと言うと上層部からは良く思われて──む?」

金剛「テートクー!」タッタッタッ

提督「金剛、何かあったか」

金剛「ハイ。とても大事なお話デス」

提督「そうか。何があった」

金剛「提督室でお話しまショウ。お仕事に関するお話デス」

不知火(チッ……。後で司令の部屋へ足を運ぶとしますか……)

提督「分かった。──天龍、龍田、島風、不知火、各自補給を済ませた後は自由行動だ。加賀と瑞鶴も自由にして良し。以上」

六人「ハイッ!」ピシッ

…………………………………………。

34 : VIPに... - 2014/07/06 17:15:24.37 k8ANfyjYo 16/224

提督「──それで、話とはなんだ」

金剛「この書類の事についてデス」スッ

提督「ふむ。私が処理した書類か──む」

提督「…………」パラパラパラ

金剛「お気付きになられましたか」

提督「……ああ。これは酷いな」スッ

提督「計算を何箇所も間違えている。このままでは総司令部から大目玉を食らう所だった」ビリッ

金剛「やっぱり……。私の見間違えでなくて良かったデス」

提督「よく気付いてくれた。お前が気付いてくれなかったら大変な事になっていたよ」ナデナデ

金剛「んー♪」ホッコリ

金剛「ハッ! 頭を撫でてくれるのは嬉しいデスが、今はもっと大事な事がありマス!」

提督「うん?」

金剛「……提督、最後に糖分を摂取したのは何日──いえ、何ヶ月前ですか?」

提督「…………すまない」

金剛「私の知っている限りでは三ヶ月前くらいです。どうか、お身体を大事にして下さい……」ジッ

金剛「私達は、提督が倒れている姿を見たくないです……。だから、だから──」ジワッ

提督「本当にすまなかった」ソッ

金剛「あ──涙……」ポロポロ

提督「顔が台無しになってしまう」フキフキ

金剛「……台無しにさせないで下さい」ギュゥ

提督「ああ……なるべく気を付ける」ポンポン

36 : ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/06 17:25:12.49 k8ANfyjYo 17/224

提督「本当、低血糖の身体は酷く面倒だ……」

金剛「それはただ、提督が小食で甘い物が嫌いなだけです。提督がしっかりと糖分を摂取してくれたら、こんな事にはならないです」

提督「あの喉が焼けるような感覚がどうしてもな……」

金剛「むぅー……」

提督「…………金剛、今からお茶会は開けるか?」

金剛「? はい。すぐにでも大丈夫ですけど」

提督「では、私が皆を呼んでくる。その間に準備を頼んでも良いか?」

金剛「ダメです。いつ倒れてしまうか分からないのですから、今すぐにでも砂糖を口に入れて下さい」

提督「お前の作ったお茶菓子で、皆と談笑しながら糖分を取りたい。その方が甘い物でもなんとか我慢できそうだ」

金剛「……………………」

金剛「もう……今日の提督は珍しく我侭ね」クスッ

提督「たまには、な。この平和をより噛み締めたいと思ったんだ」

金剛「分かりまシタ。ですが、テートクはここでジッとしていて下サイ。私が準備してから声を掛けてきマス」

提督「……そこは譲ってくれそうにないな」

金剛「勿論デス! それで倒れられては譲歩した意味も無くなりマス!」

提督「分かった。大人しく待っていよう」スッ

金剛「ぁ──」

提督「うん?」

金剛「……ごめんなさい。もう少し、このまま」ギュッ

提督「お前も、珍しく甘えてきているな」ナデナデ

金剛「えへー」ホッコリ

…………………………………………。

37 : ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/06 17:35:20.56 k8ANfyjYo 18/224

「何これすっごい美味しい!」

「サクサクのクッキーに、優しい甘さのクリームなのです」サクサク

「ハラショー。またお菓子作りに磨きが掛かってるね、金剛さん」コクコク

「はむ、むぐむぐ」モグモグ

島風「今まで食べた中で一番美味しいよー!」

不知火「暁、夢中になり過ぎです。もう少し落ち着いたらどうなの」コク

川内「まーまー。これは夢中になるのもしょうがないでしょー」サクサクサク

神通「川内、零れてますよ」フキフキ

那珂「センターのクッキーは頂い──」サッ

龍田「あら?」ソッ

那珂「……どうぞ」ビクビク

天龍「まあ、早いもの勝ちだよな」ゴクゴク

加賀「これならばいくらでも食べられそうね」ヒョイヒョイサクサク

瑞鶴「本当に凄いわね、金剛さん。皆大絶賛じゃないの」チビチビ

金剛「お気に召したようで私も嬉しいネ! カスタードクリームはたっぷり付けるのをお勧めしますヨー」

提督「…………」ペタペタ

川内「おー! 提督がクリーム付けてる!」

神通「あら、珍しいですね」

提督「そろそろ糖分を摂取しろと叱られてしまってな」サクッ

提督「……………………」

金剛「ハイ、どうぞ」スッ

提督「……助かる」ズズッ

島風「本当に提督って甘い物がダメだよねー」

提督「…………私としては、こんな喉が焼けるようなものを平然と食べられるお前達が凄いと思うよ」サクッズズッ

38 : ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/06 17:44:43.73 k8ANfyjYo 19/224

龍田「このジワァっと広がる感覚が良いのにね~。喉が潤うようだわ~」

那珂「無理はしないでね?」

加賀「私としては、むしろ甘い物が苦手──いえ、好き嫌いという事の方が不思議ね」サクサクサクサクサクサク

不知火「貴女は別格なので論外だと思うのですが」

加賀「頭にきました」ヒョイパクッ

不知火「!!! ふふ……不知火を怒らせたわね?」ニヤァ

提督「喧嘩をする者はお茶請けを没収する」

加賀「ごめんなさい不知火。一枚多く返します」ソッ

不知火「いえ、不知火にも落ち度がありました。すみません。──お代わりのお茶を注ぎますね」トポポ

加賀「ありがとう」

瑞鶴(て、手懐けてるわね……)

提督「……なあ、金剛」

金剛「ダメです。あと二、三枚は食べて下サイ。それとも、紅茶にお砂糖を入れた方が良いデスか?」

提督「…………頑張ろう」

金剛「ハイ♪」

瑞鶴「なんだか意外……」

「司令官は自分の非は認めるし、行動にも移すよ。普段はこうじゃないさ」

瑞鶴「へぇ……本当に良い人なのねぇ」チビチビ

ピタッ──。

瑞鶴「……え? な、なんで皆、私を見てるの?」

不知火「まさかとは思いますが」

「瑞鶴さん、司令官の事が」

加賀「異性として好き、とか」

瑞鶴「なぁッ!? ちょ、ええっ!? な、なななんでそうなるの!!?」

「慌てててすっごく怪しいわね!」

「はわわわわっ! しょ、初日で司令官さんを好きになられたのですか!?」

「お、大人……!」

「それはなんだかおかしくないかしら、暁?」

加賀「譲りません」

「司令官への愛や恋で負けるつもりはないよ」

不知火「どんなに人数が増えても、不知火は気持ちを沈めないわ」

金剛「テートクのハートを掴むのは、私デース!」

提督「……………………」

瑞鶴「ど、どうしてこうなったのぉ……」

…………………………………………。

39 : ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/06 17:54:57.08 k8ANfyjYo 20/224

瑞鶴「それで……えっと、提督さん? お話って何かしら……」

瑞鶴(お茶会が終わったら、皆を帰して私だけ残るようにって……物凄く嫌な予感しかしないんだけど……)

提督「なに。これは全員に聞いている事だ」

瑞鶴(え……全員って、提督さんを好きになった人全員って事!?)

瑞鶴(いやいや! 私はまだ提督さんを好きになったっていう訳じゃなくて、ただ本当に良い人だなぁって思っただけであって! 響ちゃんが言ってた愛や恋っていう訳じゃ──)ブンブン

瑞鶴(──って『まだ』って何よぉ! これじゃあ好きになる予定があるみたいじゃないのよ!)ウアー

提督「……いや、その質問をする前に先に釘を刺しておこう。全員が瑞鶴が私にどうのこうのと言っていたが、その話ではない」

瑞鶴「──へっ? 違うの?」キョトン

提督「やはりそれ関連だと思っていたのか。違うから安心しておけ」

瑞鶴「う、うん……」

瑞鶴(……なんで少し残念に思ってるのかしら、私?)

提督「話とは、この鎮守府についてだ」

瑞鶴「この鎮守府の?」

提督「うむ。正直に言ってくれ。この鎮守府はどうだ?」

瑞鶴「えっと……本当に正直に言って良いの?」

提督「ああ」

瑞鶴「……………………」

瑞鶴「ぶっちゃけ、後ろから刺されないか不安……」ビクビク

提督「そう思わせてしまったか……すまない」

瑞鶴「え、え? なんで提督さんが謝るの?」

提督「私の艦娘の不祥事は私の責任だ。私の教育が行き届いていない証拠でもある」

40 : ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/06 18:04:42.89 k8ANfyjYo 21/224

瑞鶴「いやいやいや……それはまた別の話でしょ?」

瑞鶴「好きな人にライバルが現れるのは凄く嫌な事だもの。それは女として当たり前だと思う。……金剛さんはちょっと特別だと思うけど」

瑞鶴「それに、裏を返せば提督さんの事をそれだけ想ってるって事でしょ? それを折らせようとするのは金剛さん達の気持ちを蔑ろにしちゃう事にもなるわ」

瑞鶴「だから、教育が行き届いていないって思わなくて良いし、矯正しようとなんて思っちゃダメよ?」

提督「……………………」

瑞鶴「──あ……す、すみません!」ピシッ

提督「……なぜ謝って敬礼をした」

瑞鶴「上官であり私の指揮官でもある提督に生意気な事を言ってしまった事と、私個人の気持ちを押し付けようとしてしまったからです!」ビクビク

提督「いや、気にしなくて良い。敬礼も下ろせ」

瑞鶴「だ、だけど……」

提督「私が良いと言っている。下ろすんだ」

瑞鶴「は、はい……」オズオズ

提督「それと、今後も意見がある場合は言ってくれ。私はまだまだ若く、間違いも犯す。私が間違った方向へ進もうとしていたら正してくれないか」

瑞鶴「────────」

瑞鶴「ホント、提督さんって良い意味で上司って気がしないわ」クス

瑞鶴「ええ、任せて! もし提督さんが間違った方向に進もうとしたら、爆撃しちゃうんだから!」

提督「爆撃は勘弁願いたいが、頼む」

提督「それと、後ろから刺されるという事は無いから安心してくれ。そんな事をするような子達ではないよ」

瑞鶴「うん。提督さんがそう言うのなら信じるわ!」

提督「快適ではないかもしれないが、今後も私の力となってくれ」

瑞鶴「はいっ!」

…………………………………………。

41 : ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/06 18:20:44.59 k8ANfyjYo 22/224

──第一戦艦空母部屋前──

瑞鶴「……………………」

瑞鶴(は、入り辛い!!)

瑞鶴(よくよく考えてみれば、金剛さんと加賀さんって提督さんの事が好きなのよね……。その二人を差し置いて私が呼び出されて──って、何が起きるのか物凄く怖いんだけど!)

瑞鶴(ごめんなさい提督……。安心してくれって言われても怖いものは怖いです……)ビクビク

瑞鶴(で、でも……とりあえず入らないといけないわよね……)スッ

コンコン──。

金剛「ドウゾー」

瑞鶴(ええい! 成るように成りなさい!)

ガチャ──パタン

瑞鶴「え、えーっと……」

金剛「瑞鶴でシタか! おかえりデース!」

加賀「おかえりなさい」

瑞鶴「え、あれ? た、ただいま?」

加賀「? 何をそんなに驚いているの?」

瑞鶴「……ちょっと怖くて」

金剛「?」

瑞鶴「いや、あの……ほら、提督さんに私一人で呼び出されたでしょ? だから、二人にはあんまり良く思われてないかなーって……」

金剛「そんな事ないデース。テートクにこの鎮守府の事を聞かれたのでショ?」

瑞鶴「え? う、うん。よく分かったわね?」

加賀「恒例みたいよ。この鎮守府の第一印象を提督は進水した子に聞くみたいなの」

瑞鶴「そうなんだ……」

金剛「イエス! あ、瑞鶴のベッドは私の隣ですヨー。座ってお話しまショウ!」

瑞鶴「えーっと……うん」

42 : ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/06 18:40:57.84 k8ANfyjYo 23/224

加賀「なんだか混乱しているみたいだけど、どうかしたの?」

瑞鶴「…………えっと……」

金剛「もしかシテ、私達が瑞鶴を後ろから刺すのを怖がっていたりとかデスか?」

加賀「そんな訳ないでしょう──って、あら」

瑞鶴「…………っ」ビクビク

金剛「ソ、ソーリィ! まさか本当にそう思っていたと思わなクテ……!」

加賀「そんな事はしないから安心して良いわよ。メリットが絶対に生まれないもの」

金剛「加賀……それはメリットが生まれる場合は殺るって言ってるようなものデス……」

加賀「そうね。メリットが生まれるのならばそれも一つの手ね。それでも人を殺すなんて気が進まないわ」

瑞鶴「あの……凄く怖いんですけど……」ビクビク

金剛「加賀ー? 脅すのも程々にして下サイ。瑞鶴が完全に怯えてるじゃないデスか」

加賀「……………………」チラ

瑞鶴「っ!」ビクッ

加賀「……ごめんなさいね。ジョークのつもりだったのだけれど……。もうあんな事は言わないわ」

金剛「どう足掻いても印象はワーストでしょうネー……」

加賀「そんな……」ガクッ

瑞鶴(本当にジョークよね……?)

金剛「一体何の本を読んで身に付けたのデスか……」

加賀「……黙秘するわ」フイッ

瑞鶴(絶対にまともな本じゃない……!!)ビクビク

金剛「……………………」

金剛「んー……瑞鶴、ちょっとこっちへ来てくれマスか?」

瑞鶴「え? う、うん……」トコトコ

金剛「もっと近くにデース」チョイチョイ

瑞鶴「えっと……うん……」ソソッ

金剛「──捕まえまシタッ!」ギュゥ

瑞鶴「ひゃぁ!? こ、金剛さん!?」

金剛「んー♪ 小柄で可愛いデース」

瑞鶴「え、ちょ……ど、どういう事なの?」

金剛「なんだか怯えが抜け切っていないみたいデスから、こうすれば少しは落ち着くカナーと」ナデナデ

瑞鶴「ど、どういう理論なのかしら……」

43 : ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/06 18:55:53.97 k8ANfyjYo 24/224

瑞鶴(でも……確かに金剛さんにこうされるのって落ち着くわね)

金剛「私はテートクに抱き締められると、とっても落ち着きまシタ! だから、瑞鶴もこうやって抱き締められると落ち着くと思いまシテ」ナデナデ

加賀「待って。今のは聞き捨てならないわ。提督に抱き締められたですって?」

金剛「そうデスよー。辛い時にテートクに甘えてしまって、そうすると抱き締めてくれまシタ!」ナデナデ

加賀「……一歩リードされてしまったわね」

金剛「そんな事はないと思いマスよー? テートクは難攻不落ネー」ナデナデ

瑞鶴「……………………」

金剛「あら? 瑞鶴が大人しくなりまシタ」

瑞鶴「えっ、あ……なんだかすっごく気分が落ち着いちゃって……」

瑞鶴「えーっと、もうちょっとだけこうして貰って良いかしら」

金剛「ワーオ! 作戦は成功ネー! 良いですヨー!」

瑞鶴「……金剛さんって包容力もあるわねぇ」

金剛「そんな事はないデース。私はテートクの真似事をしているだけネー」

加賀「…………」ジー

金剛「? どうかしまシタか、加賀?」

加賀「いえ、金剛さんが少し羨ましいと思っただけですよ」

金剛「ホワイ? 私にデスか?」

加賀「ええ。私ではそんな風に落ち着かせる事は出来ないでしょうからね」

金剛「そんな事はないと思いマスよー? 加賀はクールだからそんな風に思っているネ!」

加賀「そうだと良いのだけどね」

金剛「では! 瑞鶴、加賀に抱き締められてみて下サーイ!」

瑞鶴「え」

加賀「金剛さん、それは五航戦の子が怯えるだけだと思うのだけど」

金剛「大丈夫デス大丈夫デス」

瑞鶴「え、えーっと……」ビクビク

金剛「ほらほら、いってらっしゃいネ」ソッ

瑞鶴「…………金剛さんがそこまで言うのなら……」

加賀「……………………」

瑞鶴「え、えっと……よろしく、お願いします」オドオド

44 : ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/06 18:56:20.78 k8ANfyjYo 25/224

加賀「…………」スッ

瑞鶴「…………」ビクッ

加賀「ぁ……」

瑞鶴(……ええい! ままよ!)ギュゥ

加賀「!」ビクッ

瑞鶴「…………!」ビクビク

加賀「……えっと、こうすれば良いのかしら」ナデナデ

瑞鶴「っ!」ビクン

加賀「ご、ごめんなさい」スッ

金剛「ダメ、加賀。そのまま撫で続けて下サイ」

加賀「でも……」

金剛「大丈夫デス」

加賀「……分かったわ」ナデナデ

瑞鶴「…………っ」ビクビク

加賀「…………」ナデナデ

加賀(まだ怯えているわ……もっと優しく──こう、かしら……)ナデナデ

瑞鶴「……………………?」ビク

加賀(難しいわ……どうすればこの怯えは収まってくれるのかしら……)ナデナデ

瑞鶴(あれ……怖くない?)

加賀(……震えが止まった?)ナデナデ

瑞鶴(何かしら……金剛さんとはまた違った何かが……)

加賀(これで良いのかしら……)ナデナデ

瑞鶴(……ぎこちない手つきだけど、これはこれで優しさが伝わってくる)

瑞鶴(なんだろ、さっきまで怖がってた私が馬鹿みたい)スリ

加賀(頬を擦り付けて……懐いてくれたのかしら)ホッ

…………………………………………。

45 : ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/06 18:56:49.01 k8ANfyjYo 26/224

提督「本日は濃霧の為、出撃と遠征を中止する。各自、自由に行動してくれ。以上」

加賀「提督、少し個人で演習をしたいのだけれど構わないかしら」

提督「うん? ああ、構わない」

加賀「ありがとうございます」

加賀「五航せ──瑞鶴」

瑞鶴「あ、は、はい!」

加賀「制空権争いが少し苦手なの。練習に付き合ってくれるかしら」

瑞鶴「────────」

瑞鶴「うん! 私こそよろしくお願いするわね!」ニコ

加賀「ありがとう、助かるわ」

金剛(ふふーん♪ 大成功ネー!)ニコニコ

提督(ほう、金剛が何かしたか。あの加賀が航空戦を苦手とする訳がない)

提督「…………」ポン

金剛「? テートク?」

提督「ありがとう、金剛」

金剛「──ノー。私はきっかけを用意しただけデス。あの二人が仲良くなったのは、二人自身が近付こうとしているからデス」

提督「だからこそ、だ」ナデナデ

金剛「えへへー」

「あーっ! 金剛さんが司令官に撫でられてるわ!」

加賀「…………」ピクッ

不知火「なんですって?」ジッ

「こいつは嫉妬せざるを得ないね。司令官、撫でて」

提督「何か良い事をしたらな。打算的なものでは撫でん」

不知火「難しいわ……」

瑞鶴「──あははっ」

瑞鶴(楽しいわね、ここって──)

……………………
…………
……

60 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/07 22:32:32.89 ioW9JaO1o 27/224

提督「──本日の出撃は以上だ、皆よくやってくれた。補給と入渠を終わらせてから各自自由に行動して良し。解散」

瑞鶴「あー……初めての実戦で緊張したわ……」

加賀「至近弾が一発あったと思うけれど、大丈夫なの?」

瑞鶴「あ、うん。掠り傷だから何も問題ないわ」

加賀「それでもちゃんと入渠しておくのよ」

瑞鶴「え……でも……」チラ

提督「何を遠慮している。例えどんなに小さな傷でも入渠しろ。それが原因で沈んだら、後悔してもし切れなくなる」

瑞鶴「えっと……はい」

不知火「今回の戦果は艦娘のデータ一つですね。少し楽しみです」

提督「いや、これは復元せんよ」

金剛「え?」

提督「これはそのまま本部へ送る。艦娘が不足している大将が居るとの事だ。その方に使って貰おう」

島風「初めて聞いたけど、そんなのあったんだ」

提督「ああ。今後も手に入れたデータは全て本部へ送る事になるだろう」

加賀「理由をお聞きしても宜しいでしょうか」

提督「正直、鎮守府の運営で四苦八苦している。これ以上艦娘が増えると管理しきれなくなる上、書類も増えて睡眠もままならなくなってしまうからな」

金剛「テートクならばあとワンハンドレッドは居ても余裕のような気がしますケド……」

提督「そうでもないぞ金剛。残念だが私はこの程度だ」

不知火「司令がそう仰るのなら仕方が無いですね」

瑞鶴「……………………」

瑞鶴(なんか、おかしいような……?)

…………………………………………。

61 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/07 22:33:00.48 ioW9JaO1o 28/224

「え? 司令官さんについてですか?」

瑞鶴「うん。聞いてみたら、電ちゃんが一番提督さんと付き合いが長いって聞いたの」

「私でよろしければお答えしますけれど、何かあったのですか?」

瑞鶴「ちょっとね。──提督さんってさ、艦娘が多過ぎて困ってたりしてたのかな」

「そういうお話は聞いた事がないのですが……」

瑞鶴「よねぇ……」

「……あの、司令官さんが困っているのですか?」

瑞鶴「ん、ううん。なんとなくそう思っただけよ」

「えっと……」

瑞鶴「ん?」

「あっ──! え、ええっと……」オロオロ

瑞鶴「?」

「な、なんでもないのです!」

瑞鶴(ああ、提督さんの事で言えない何かがあるのね)

瑞鶴「そっか。ありがとう、教えてくれて」

「お役に立てたのですか……?」

瑞鶴「うん。電ちゃんのおかげよ」ナデナデ

「わわっ──えへへ」ホッコリ

瑞鶴(怪しいわね……提督さんの事で隠し事なんて……))

…………………………………………。

62 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/07 22:33:28.14 ioW9JaO1o 29/224

不知火「瑞鶴さん」

瑞鶴「? えっと、不知火ちゃん……で合ってるわよね? どうしたの?」

不知火「はい、合っています。──司令がお呼びになられています。不知火はそれを伝えにきました」

瑞鶴「呼び出し? ……私、何かミスしちゃったのかしら」ビクッ

不知火「私には分かりません。ですが、羨ましい限りです」

瑞鶴「……えーっと?」

不知火「司令に呼び出される事が羨ましいです。正当な理由で会いにいけるではありませんか」

瑞鶴「────!? だ、だから私は提督さんの事が好きな訳じゃなくて!」

不知火「司令では不満だとでも言うのですか」ジッ

瑞鶴「ピィッ!? い、いや……そういう意味じゃなくて……そんな会ったばかりの人を、私は恋愛対象にしないって意味よ……」ビクビク

不知火「そうですか。……それでも、羨ましい」フイッ

瑞鶴「……どうして?」

不知火「司令の傍らには、いつも金剛さんと加賀さんが居ます。不知火では太刀打ち出来ません。……ええ。無理して会いに行っても、司令は私に目もくれないでしょう」

瑞鶴「そんな事はないと思うけど……」

不知火「気休めは結構です。職務では加賀さんに、疲れを癒しでは金剛さんに敵いません。私がいくら勉強をしても、努力をしても、二人はその間に先へ進んでしまっている」

不知火「私が彼女達に追いつく事は、出来な──」ハッ

瑞鶴「……………………」

不知火「……すみません。今のは不知火の落ち度です。どうか忘れてくれますか」

瑞鶴「ごめん。それは出来ないわ」

不知火「なぜですか」ジッ

瑞鶴「一生懸命がんばったら、何かの形で報われるの。例えそれが、自分が一番に望んだ事じゃなくてもね」

不知火「…………不知火には分かりかねます」

瑞鶴「私の勝手な考え方だけどね。だから、不知火ちゃんが努力している事を、私は忘れない。秘密にはするけどね」

不知火「まあ、それならば……」

瑞鶴「それじゃあ、私は提督さんのとこに行くわね」スッ

不知火「はい。不知火も失礼します」

タッタッタッタッ──。

不知火「……妙に説得力のある言葉でした。それ程の何かを経験してきたという事でしょうか」

…………………………………………。

70 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/08 21:51:24.83 awldDv+no 30/224

コンコン──。

提督「入れ」

ガチャ──パタン

瑞鶴「瑞鶴、出頭しました」ピシッ

提督「畏まらなくて良い。楽にしてくれ」

瑞鶴「は、はい……」

金剛「…………」

「…………」ソワソワ

瑞鶴(金剛さんと電ちゃんも居る……。一体なんで呼び出されたのかしら……?)

提督「さて瑞鶴。どうやら私に聞きたい事があるようだな」

瑞鶴「えっ! えっと……」チラ

「!」コクコク

瑞鶴「……ストレートに聞くけど、提督さんは私達に隠してる事があるの?」

提督「ああ、ある」

瑞鶴「教えて欲しいって言ったら、怒る……?」ビクビク

提督「怒りもしなかったら叱りもせんよ。むしろ、教える為にこの場へ呼んできた」

提督「だが、これから話す事は誰にも言わないように約束できるか? この事を知っているのは、この鎮守府において三人しか知らない。あまり口外されたくない事だ」

瑞鶴「う、うん。約束するわ」

提督「では話そう。──実を言うと、私はいつ倒れてもおかしくない身体をしている」

瑞鶴「────え?」

提督「正確に言うと、低血糖だ。血中糖度が足りなくなって倒れる症状というものだ」

提督「私の場合、甘い物を口にしにくいのと少食なのもあって余計にそのリスクが高くなっている」

瑞鶴「それって平気なの……?」

提督「定期的に糖分を摂取すれば問題ない」

71 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/08 22:11:45.87 awldDv+no 31/224

金剛「なんて言いながら、テートクは最近倒れかけたデス」

瑞鶴「え!?」

提督「……金剛」

金剛「ダメです。あれはテートクが悪いのですからネ!」

提督「……………………」

瑞鶴(提督さんがバツの悪そうな顔をしてる……。似合わない……)

(こんな顔の司令官さんは初めて見たのです……)

金剛「吐きそうになるのは分かりマスが、キチンと糖分は摂取して下サイ。でなければ本当にヴァルハラに連れ去られマス」

瑞鶴「えーっと……ヴァルハラはちょっと分かんないけど、とりあえず話を元に戻して良いかしら」オズオズ

金剛「ソーリィ……。本当に私はテートクの事になると周りが見えなくなる事がありマス……」

(それだけ司令官さんの事を大事に思っている証拠なのです。気持ちは電も分かります!)

瑞鶴「提督さん。提督さんが低血糖なのは分かったんだけど、どうしてそれを私に?」

提督「変に聞き回られると他の子達も気付く。それならばこっちから教えて釘を刺せば良いだろう」

提督「この事は今この場に居る三人しか知られていない事だ。絶対に言うんじゃないぞ」

三人「ハイッ!」ピシッ

瑞鶴「あと、もう一つ聞きたいんだけど良いかしら」

提督「どうした」

瑞鶴「今日、帰投した時に言ってた事も低血糖と関係があるの?」

提督「ああ。ある」

提督「私の我侭だ。これ以上艦娘を増やせば、間違いなく低血糖になる割合が増えていくだろう。もし倒れてしまった時、お前達は優しいから心配しれくれると思う。出来れば、そんなお前達の心臓に悪い出来事はなるべく排除したい。それが理由だ」

72 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/08 22:31:05.07 awldDv+no 32/224

提督「すまない、金剛、瑞鶴。私の身勝手で、お前達の姉妹を会わせる事が出来そうにない」

金剛「それは……仕方の無い事です」

瑞鶴「私はむしろ、翔鶴姉会わせてくれようとしていた事に驚いたわ……」

提督「お前達は確かに艦娘であり、人間ではない。だが、心のある人で違いない。出来るならば姉妹と一緒に居させてやりたいものなんだが……」

金剛「……そのお気持ちだけで充分です」

提督「…………」

金剛「たしかに、比叡や榛名、霧島と会えないのは寂しいです。けれど、それ以上に私は提督が無理をなされる方が悲しいです」

金剛「だから、そんなに辛そうにしないで下さい」

提督「……表情には出さないようにしていたつもりなんだが」

金剛「そんなの、私にはお見通しです」

提督「参ったな……ポーカーフェイスなのは自信があったというのに」

瑞鶴「……電ちゃん、分かる?」

「ごめんなさい……私には分からないのです……」

瑞鶴「よねぇ……」

金剛「テートクへの愛は負けないネ!」

提督「──瑞鶴、聞きたい事はもう無いか?」

瑞鶴「ん、うん。わざわざありがとう、提督さん」

提督「では繰り返しになるが、この事は誰にも言わないようにしろ」

三人「ハイッ!」ピシッ

…………………………………………。

73 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/08 23:00:37.89 awldDv+no 33/224

瑞鶴「──あ、不知火ちゃん」

不知火「あら、司令との逢瀬は終わったのですか?」

瑞鶴「ぶっ!? ちょ、ちょっと、逢瀬って!」

不知火「冗談ですよ」

瑞鶴「その割には本気の目だったように感じるけど……」

不知火「半分本気でしたので」

瑞鶴「……本当に色々と怖いわ、不知火ちゃんって」

不知火「褒め言葉として受け取っておきます。ところで、少しお聞きしたいのですが、良いですか」

瑞鶴「ん、どうしたの?」

不知火「司令と何を話していたのかが気になります」ジッ

瑞鶴(……嫉妬ってやつなのかしら? ともあれ、はぐらかさないと)

瑞鶴「えーっと……その……」

不知火「そんなに他人には言えないような内容でしたか」ジィッ

瑞鶴(確かに言えない事だけど! ──あ、そうだ)

瑞鶴「……実は昨日ね、秘書としてのお手伝いを経験させてもらったんだけど──」

不知火「なんですって?」

瑞鶴「ちょ、か、顔が怖いわよ……?」

不知火「……失礼しました。続きをどうぞ」

瑞鶴「それで、書き間違えてた所があったって本部から通達があったみたいなの。それが私のやった所で……」

不知火「…………あまり口にしたくない事でしたね。無理に聞いてしまってごめんなさい」

瑞鶴「ううん。大丈夫だから気にしないで?」

不知火「……………………」

瑞鶴「?」

不知火「いえ、出来た人だと思っただけです。では、不知火はこれで失礼します」スッ

瑞鶴「え、うん。またね?」

瑞鶴(私は、そんな良い人じゃないと思うんだけどなぁ……)

…………………………………………。

74 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/08 23:58:49.46 awldDv+no 34/224

救護妖精「話は聞いたよ。低血糖で倒れかけたんだって?」ジィッ

提督「……面目ない」

救護妖精「だーから健康診断を受けろって言っただろコラァ!! 提督が死んだら艦娘達はどんな気持ちになると思ってるのさ!!」

提督「返す言葉も無い……」

救護妖精「よーし決めた。これから毎週健康診断を受けて貰うからね!! 提督は信頼も信用も出来るけど、自分の身体の事になったら途端に信用できなくなるんだから!」

救護妖精「あと、まさかとは思うけどアッチの方はバレてはないよね?」

提督「それに関しては大丈夫だ。誰一人として気付いていない」

救護妖精「それなら良いんだけど、騙し続けるのも時間の問題だと思うよ」

提督「あとどれくらいか分かるか?」

救護妖精「それはあたしにも分かんないね。神のみぞ知る状態だよ」

提督「そうか」

救護妖精「案外ドライだね」

提督「覚悟はとうに決めている」

救護妖精「はぁ……本当、どうしてこうなるのかねぇ……」

提督「そうなる運命だったとしか言えないだろう」

救護妖精「そうだけどさぁ……」

提督「……この話はここまでにしておこう」

救護妖精「……そだね。考えても仕方ない事だよ」

救護妖精「それじゃあ、健康診断は週末の夕食後に行う事にしようと思うけど良い?」

提督「ああ。それで構わない」

救護妖精「ん。ちゃんと来なよ。あと、出撃も控える事」

提督「なるべくそうしよう」

救護妖精「あんまり信用できない言葉だねぇ……」

…………………………………………。

75 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/09 00:30:37.08 QOSqjIm+o 35/224

──アルフォンシーノ方面──

提督「──戦闘終了。皆、まだいけるか?」

金剛「もっちろんネー! まだまだ余裕デース!」

加賀「私もです。特に被害も受けていませんので、私も問題ありません」

天龍「俺は小破一歩手前って所だな。まだまだ沈まねぇよ」

龍田「私は天龍ちゃんが庇ってくれたおかげで無傷よ~」

島風「敵の攻撃が遅くて避けるのも楽だよね!」

瑞鶴「艦載機の子達も、まだまだいけるって言ってるわ」

艦爆妖精「次の敵はどこだい、俺の500kg爆弾がウズウズしているぜ」

艦攻妖精「サーチアンドデストロイ。サーチアンドデストロイ……」

艦戦妖精「敵に空母が居る時にしか仕事がないのー。暇なのー」

提督「よろしい。──加賀、瑞鶴、一時の方向に偵察機を飛ばせ」

加賀「分かりました」

瑞鶴「はい!」

瑞鶴(……敵、見えないんだけど……提督さんと加賀さんには見えてるのかしら)

加賀「敵を捕捉しました。空母ヲ級が二隻、戦艦ル級、軽巡ヘ級、軽巡ト級、駆逐ニ級が各一隻です。全て黄と赤のオーラを纏っているわ」

提督「瑞鶴も同じか?」

瑞鶴「ご、ごめんなさい! もう少し──今補足完了しました! 同じです!」

提督「よろしい。今後、空母は瑞鶴のみで出る事もあるやもしれん。訓練は怠るな」

瑞鶴「はい……」

提督「落ち込むな。加賀とは絶対的な経験の差がある。少しずつ実力を伸ばしていけば良い」

瑞鶴「──はいっ!」

77 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/09 01:20:41.07 QOSqjIm+o 36/224

提督「戦闘に入るぞ。──加賀、瑞鶴、艦載機を飛ばせ! 標的は空母ヲ級二隻だ!」

加賀瑞鶴「はい!」

提督「全艦隊、爆撃を回避しろ! ここで被害を貰っては倒せんぞ!」

──ドォンッ!

提督「──生きているか! 被害を報告しろ!」

金剛「私は無傷ネ! 向かってきた艦載機を全部撃墜したデース!」

加賀「私も回避しました。問題ありません」

瑞鶴「私の方にも艦載機は飛んできませんでした! 大丈夫です!」

天龍「いてて。天龍中破、直撃しちまった。ちょっとだけ後ろに下がるぜ」

龍田「私には攻撃が来なかったから無事よ~」

島風「あんな攻撃、私には当たらないんだから!」

提督「よく耐えた! 加賀、瑞鶴は攻撃の報告をしろ!」

瑞鶴「瑞鶴艦載機、攻撃を回避されました!」

加賀「私の方は軽巡ヘ級に庇われました。庇ったヘ級は撃沈。第二波状攻撃隊の子達の攻撃は空母ヲ級への至近弾に終わりました。」

瑞鶴(……そっか。何も攻撃を一斉にしなくても良いのよね。波状攻撃で確実に攻撃を当てに行くって方法があるのか)

提督「上々だ。続いて金剛、戦艦ル級へ斉射しろ!」

金剛「オーケー! 全砲門、ファイアー!」

金剛「──シット! 命中はしましたが損傷は浅いデス!」

提督「戦艦の反撃がくるぞ! 敵の砲撃に備えろ!」

ヒュッ──

瑞鶴「──え」

ガァン──!!

瑞鶴「あっ、ぐ……ッ!?」

金剛「瑞鶴!!」

提督「中破したか。瑞鶴は下がれ! 沈まない事だけを考えろ!」

瑞鶴「……提督さん。私はもう艦載機の発着艦が難しいわ。だから、囮艦になるからその間に──」

提督「下がれ。命令だ」

瑞鶴「ッ!」ビクッ

瑞鶴「は、はい……」

提督「帰ったら説教をする。必ず生きて帰るぞ」

瑞鶴「……はい」

78 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/09 01:25:27.54 QOSqjIm+o 37/224

結局、その戦闘で私は何の役にも立たずして終わった。
攻撃をする事も出来ず、囮となって敵を引き付ける事も許されなかった。
龍田さんは敵の駆逐艦を大破に追い込み、島風ちゃんは残りの軽巡を一撃で沈めてた。
加賀さんは第二次攻撃隊で金剛さんが弱らせた戦艦と空母を沈め、MVPをその手に収めた。
戦闘の最中、大破した駆逐艦は私を狙って砲撃をしてきた。
愚図の私はそれに気付かず、棒立ち。咄嗟に提督さんが私を引っ張ってくれたおかげで、事無き事を得た。
同じ中破のはずの天龍ちゃんなんて、その砲撃を見て反撃にと駆逐艦を撃沈させ、龍田さんと駆逐艦一隻の共同戦果。

瑞鶴「……………………」

私は、何が出来たんだろう……。
艦載機を飛ばす事も出来ず、ただ皆を見守る事しか出来なかった。
それどころか、提督さんを守る立場にあるはずなのに、逆に提督さんに助けられてしまったし。

──私は、この艦隊に要らないんじゃないかしら──

下手すれば、提督さんが死んでいたかもしれない。
このまま海の底へ沈んでしまいたい。本気で、そう思った……。

…………………………………………。

86 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/09 19:47:51.09 AmsIt/Jvo 38/224

瑞鶴「瑞鶴、入渠を終え出頭しました……」

提督「うむ。──さて、説教をされる理由は分かっているな」

瑞鶴「はい……。役立たずな上、提督さんを危険な目に遭わせてしまったからです……」

提督「違う。そんな事はどうでも良い」

瑞鶴「……え? だ、だって……」

提督「空母の本分はアウトレンジからの攻撃と、多数の敵に甚大なる被害を与える事が出来るという事だ。それを可能とする艦載機の発着艦が出来なくなってしまえば、空母は攻撃に参加できなくなるのは当然だろう」

瑞鶴「その空母の本分、私は出来てなかったわよね……」

提督「あの戦闘はな。だが、全員が全員毎回必ず戦果を挙げ、必ず攻撃を避けられると思うか?」

瑞鶴「出来ない……と思う」

提督「そう。そんな事が出来るのならば戦争にはならない。ただの虐殺となるだろう。ミスは誰でも起こすものだ。そのミスは、指揮をしている私の責任でもある」

提督「あと、どうやら自分が足手纏いだと思っているようだが、お前はまだ経験が浅いだろう。失敗を糧にして成功を増やせば良い。それに、あの戦闘以外ではしっかりと戦果を挙げているのを忘れていないか?」

瑞鶴「あ、あれは敵の本隊じゃなかったし……」

提督「だからどうした。あれらは本隊を守る艦隊だ。それを倒さずして敵本陣を叩ける訳がないだろう」

瑞鶴「……………………」

提督「先程も言ったが、お前はまだ経験が浅い。これからゆっくりと伸ばしていけば良いだろう? 焦って沈んでしまったらそこで終わりだ」

瑞鶴「……なんで、怒らないの?」

瑞鶴「私は提督さんに沈まない事を考えろって言われたのにも関わらず、沈みかけた……。あの時もし提督さんが引っ張ってくれなかったら、私は沈んでた可能性もあったのに……」

瑞鶴「ううん、それだけじゃない……。提督さんだって死んじゃうかもしれなかった……。私は、もう少しで取り返しのつかない事を…………」

提督「それは確かに良くない事だったが、大元の原因は私にある」

瑞鶴「そんな事──!!」

提督「錬度の低いお前をあの海域に連れ出したのは誰だ。演習と多少の実戦しか経験のないお前を深く考えず連れ出したのは誰だ。下手をすれば轟沈させてたかもしれないのは誰だ」

提督「艦娘は己が原因で轟沈する事はまずない。全ては指揮をしている提督が原因だ」

瑞鶴「私がボーっとしていたのが悪いのに……私が鈍いからああなったのに……どうして提督さんは……」

瑞鶴「……叱ってよ…………じゃないと、私……苦しいよ」ジワ

提督「必要ならば叱ろう。だが、そうでないのならば私は叱らん」

提督「そして、その苦しいと思っている気持ちは絶対に忘れるな。その気持ちは人を伸ばす大切なモノだ」

瑞鶴「うん……うん……! 忘れない……絶対に、忘れない……!」ポロポロ

提督「そう思ってくれたのならば私もこう言った甲斐があったというものだ。ほら、涙拭くぞ」ソッ

瑞鶴「んっ……ありが、と……」ポロポロ

87 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/09 20:19:49.38 AmsIt/Jvo 39/224

提督「お前はよく頑張ってくれている。最近、加賀と訓練をしているのは知っているぞ」ナデリ

提督「あの加賀や金剛だって、ここへ来た当初はミスもしていたんだ。誰だって通る道だよ」

瑞鶴「え……加賀さんだけじゃなくて、金剛さんも……?」

提督「ああ。泣き止むまで語ろうか?」

瑞鶴「…………うん」

提督「それでは、少しだけな。──金剛はここへ来た当初、私が一緒に出撃しているのは危ないと思っていたそうだ」

提督「だが、その時の金剛も経験が無くてな。尚且つ他に艦娘は電しか居なかった。二番目に来たのだよ、金剛は」

提督「初の出撃で敵と交戦中に、後方から奇襲しようとした敵が居た。そして、二人はそれに気付かなかった」

提督「なんとか事無き事を得たが、それから金剛は私が共に出撃する事の意味を見出したそうだよ」

提督「そうだな。その時から金剛は私に懐いてくれている。轟沈していたかも知れない状況だったからな。吊り橋効果というものだろう」

提督「次は加賀か。加賀は……初めは上手くやっていっていたな」

提督「だが、あいつはプライドが高い。敵艦から直撃弾を貰ってしまった時なんて、私の命令に背いて囮艦となったくらいだ」

瑞鶴「それって……」

提督「そう。お前と同じだ。そして、同じように私が無理矢理に引っ張って後ろに下がらせたが、至近弾を貰っていた──あの時の砲撃は戦艦だったな。流石に肝を冷やされた」

提督「加賀がお前を放っておけず色々と構っているのは、過去の自分と似ているからだろう」

瑞鶴「……意外。金剛さんも加賀さんも、そんな経緯があったんだ……」

瑞鶴(だから、あの二人は提督さんに想いを寄せているのね)

提督「……お前が言わんとしている事は分かる。そういう事だ」

瑞鶴「…………じゃあ、さ」

提督「うん?」

瑞鶴「私も、金剛さんや加賀さんと同じになるかも……ね?」

提督「……………………」

瑞鶴「まだどうなるかは分かんない。けど、ちょっと気になり始めてるのはホント」

提督「……あまり現を抜かすなよ?」

瑞鶴「うん。頑張る」ニコ

提督「──さて、涙も引いたみたいだな」スッ

瑞鶴「ぁ……」

瑞鶴(もうちょっと、傍に居たかったな……)

88 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/09 20:40:43.19 AmsIt/Jvo 40/224

提督「さて、ここからが本題だ。瑞鶴、お前は下がれと言われたのにも関わらず、囮艦になろうと命令を背きかけたな?」

瑞鶴「え」ビクッ

提督「私はお前達を轟沈などさせんぞ。例え、どんな状況だろうとな。それは覚えておけ」

提督「というわけで──お仕置きだ」ヒュッ

瑞鶴「ピィッ!?」ギュムゥ

グイッ──

瑞鶴「きゃあああああああああああああッ!!?」ブラーン

瑞鶴「ど、どうしてあの流れからこうなるのよぉ!? 流石に酷くない!!?」

提督「反省が足りないようだ」クイクイ

瑞鶴「ちょっ! た、高くなって──やだああああああああ!!!」

提督「そもそもここへ呼んだ理由は説教だと初めに言っただろう。忘れていたな」

瑞鶴「ああッ! わ、忘れてた……!!」

提督「……素直でよろしいが、吊るす時間は増やすからな」

瑞鶴「嘘でしょぉぉお!!? もうヤダアアッ!!!」

…………………………………………。

金剛「瑞鶴、悲鳴を上げてるネ……」ビクビク

加賀「あれは……耐え難い羞恥です……」ビクビク

……………………
…………
……

91 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/09 21:11:42.82 AmsIt/Jvo 41/224

提督「ふむ……」サラサラ

コンコン──

提督「入れ」

ガチャ──パタン

瑞鶴「提督さん、少し良いかし──どうしたの?」

提督「何がだ」サラサラ

瑞鶴「や、ちょっと悩んでるように見えた気がしたから」

提督「ああ……すまん。ここ最近、資材の消費が目に見えて増えてきたからな」サラサラ

瑞鶴「え……そうなの?」

提督「敵も強くなってきているのが原因だろうな。今の我々では少し相手にするのが厳しいのかもしれん」サラサラ

瑞鶴「それで被弾が増えて、消費する資材も増えてるって事?」

提督「そうだ。以前は被害も想定の範囲内だったのだが……ここ最近は何かと上手くいっていないな」サラサラ

瑞鶴「えっと、大丈夫?」

提督「なんとかする。それよりも、何か用事があったんじゃないのか?」

瑞鶴「あ、うん。金剛さんも加賀さんも入渠に時間が掛かるみたいだから、私が秘書のお仕事をしようと思って。二人から許可は貰ったわ」

提督「ありがたい事だ」

瑞鶴「どういたしましてっ。それで、何からすれば良いの?」

提督「まずはこっちの束から処理してくれると助かる。その内容は瑞鶴も分かるだろう。もし少しでも不安に感じたら私に聞いてくれ」サラサラ

瑞鶴「うん。分かったわ!」スッ

瑞鶴(えっと……資材入手消費報告書ね。あら、先月のも載って──え!? こんなに!? 結構使うものなのね……って)

瑞鶴「提督さん? これって、毎日付けてたら月末に纏めてやる必要はないんじゃ……」

提督「何が起きるか分からんからな。いつでも余分に物資を貰えるように敢えて月末に纏めるようにしている」サラサラ

瑞鶴「それってやっちゃダメなんじゃ……」

提督「勿論だ。出来ればこのような虚偽申告はあまりしたくない。今月はまだする必要がないから、最後のページにあるメモ通りに書いていってくれ」サラサラ

瑞鶴「うん」

瑞鶴(えっと……これね。これをそのまま書いていって……っと)カキカキ

瑞鶴(へぇ……正確な数字は初めて見たけど、一日にこれくらい入ったり出たりするんだ……ん?)

瑞鶴「……………………」

瑞鶴(この日から資材の消費量が明らかに増えてる……)

瑞鶴(……ええ。この日はよく覚えているわ……だってこの日は──)

──私がこの鎮守府にやってきた日──

瑞鶴(もしかして、私が原因でこんなに……? ──ううん。資材の消費で多いのは出撃と入渠での使用……でも、明らかに入渠の数字が大きくなってる)

瑞鶴(どこかで聞いた事がある。幸運は、不運と釣り合っているって……。じゃあ、幸運の空母って言われてて、実際に皆と比べて被弾が明らかに少ない私は、どこから幸運を……?)

瑞鶴(提督さん、さっき被害が増えてきたって言ってたわね……もしかして──)

瑞鶴(──私が、皆の運を吸い取ってる?)

…………………………………………。

96 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/10 00:51:32.87 dzk2ZItro 42/224

瑞鶴「…………」トボトボ

不知火「あら、どうかしましたか?」

瑞鶴「あ……不知火ちゃん。ごめんね、ちょっとあんまり良くない考えが頭を巡ってて……」

不知火「良くない考え、ですか」

瑞鶴「うん……。あのさ、もし良かったらなんだけど、ちょっと話を聞いて貰っても良いかしら」

不知火「構いませんよ。あまり聞かれたくない話でしたら空き部屋で話しますか?」

瑞鶴「お願いして良いかしら……」

不知火「分かりました。すぐそこの部屋ですので付いてきて下さい」トコトコ

瑞鶴「ありがとう……」トボトボ

カチン──ガチャ──

不知火「どうぞ。この部屋は誰も入ってきませんので安心して下さい」

瑞鶴「……うん」トボトボ

不知火(何があったのか知らないけれど、これは相当弱っているわね)

──パタン──カチン

不知火「どうぞ。お好きな場所へ腰掛けて下さい」

瑞鶴「ありがと……」ポフッ

不知火「…………」スッ

不知火「単刀直入に聞きますが、何があったのですか?」

瑞鶴「……………………」

不知火「誰にも口外しません。望むのならば司令にも黙っておきます」

瑞鶴「……提督さんにも黙ってて貰えると嬉しいわ」

不知火「分かりました。この話は私達二人だけの秘密にしましょう」

瑞鶴「ありがとう……」

97 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/10 00:51:59.71 dzk2ZItro 43/224

不知火「……………………」

瑞鶴「……えっと……不知火ちゃんは、幸運とか不運とかどう思う?」

不知火「幸運と不運? 考えた事もありません。ですが……そうですね。良い事があれば悪い事もある、という程度は思っていますよ」

瑞鶴「そっか……。じゃあ、すっごく運が良い人が居たら、どうしてだと思う?」

不知火「それはその星の下で生まれた人なのでは? もしくは、前世というものがあるのならば、とても良い行いをしていたとか」

瑞鶴「……他人の運を吸い上げて幸運になってるって、どうかな」

不知火「なるほど。確かにその考えもアリだとは思いますよ」

不知火「いえ、その考えは今までした事がありませんでしたけど、言われてみれば幸運の者の傍には不運な者が居る気がしますね」

不知火「話にしか聞いた事がありませんが、とある駆逐艦は敵味方が全滅するような状況でも生き残ったという話があります。爆弾が降ってきても不発弾だったりと、色々な噂話がありますね。一部の者からは死神と呼ばれているとか」

瑞鶴「死神、か……」

不知火「あくまでそういう噂話ですけれどね」

不知火「──む。すみません。そろそろ私の入渠時間が近付いていますので失礼します」スッ

瑞鶴「あ……ごめんね?」スッ

不知火「構いません。私が持ち掛けた話です」

瑞鶴「ありがとう、不知火ちゃん……」

不知火(……本当、何を思い詰めているのかしらね。話の内容も何に悩んでいるのか分かりませんでしたし)

瑞鶴(幸運の人の傍には不運の人が居る……。死神……)

…………………………………………。

104 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/10 21:24:00.84 XzPyuicTo 44/224

金剛「エー、本日の演習はいつもと比べて少し違いマスので注意して下さいネー」

「なになに? 新しい事?」ワクワク

天龍「また対空砲火持久レースとかじゃないよな……」

龍田「対空砲火は私達、苦手だものね~」

瑞鶴「対空砲火持久レースって……色々な意味でしんどそうね」

金剛「ナント! 開発妖精が演習用魚雷の開発に成功しまシタ!」

「それ本当!?」

「ハラショー。これで水雷戦隊の私達も活躍できるね」

「もーっと頑張れるようになるわ!」

「後で開発妖精さんにお礼を言いに行くのです!」

天龍「おお……!」

龍田「あらあら~。天龍ちゃんったらすっごく嬉しそう」

金剛「こっちもペイント弾になっているネ。破裂すると水飛沫が上がりますカラ物凄く目立ちマス」

加賀「まだ試作段階らしいから、使ってみた感想も私と金剛さんに報告をお願いね。纏めてから妖精さんと提督へ伝えるわ」

金剛「今回の班分けは少し特殊デース。艦種や数による戦力差を敢えて作った上での演習となりマス」

金剛「第一班は瑞鶴を旗艦とし、天龍、龍田、雷、電の五人デス」

金剛「第二班は私を旗艦とし、加賀、暁、響の四人デス」

加賀「第一班は数が一隻多いけれど、決定的な打撃力は低めね。第二班は逆に数は少ないけれど、戦艦と空母の強力な攻撃が揃っているわ」

天龍「おいおい……これ俺達の班がすげぇキツくねぇか……?」

金剛「そうでもないデース。これは私達にとっても厳しいものがありマス」

金剛「第一班は雷撃距離まで近付ければ一発逆転が見えてきマス。バット、もし近付く事が出来ずに中破以上の被害を受けてしまえば勝利は遠のくでショウ」

加賀「逆に第二班は近付かれたら非常にまずいわ。いくら戦艦や空母といえど、魚雷をまともに受けてしまっては一溜まりもないもの。近付く頃にはこちらも被害が出ているから雷撃にはあまり期待出来ないというものもあるわ」

瑞鶴「えっと、第一班は避けたりダメージコントロールを優先して機を狙う。第二班は迅速に敵を倒さないといけないって事?」

金剛「イエス! ちなみに、演習だからといって轟沈レベルのダメージを自ら受けに行くのはノーなんだからね、天龍」

天龍「もう絶対にしねー……。あの後、提督にこっぴどく叱られたからな……」

龍田「ついでに吊るされてたわね~」

「天龍さんは意外と可愛い下着だったわね」

天龍「ばっ! 何言いやがるんだお前!?」

金剛「ハイハイ。早く演習を始めないとテートクに叱られるネ。でないと、私がテートクに代わって吊るしますヨ」

加賀「許可は貰っているわ」

天龍「うげっ……は、早く始めようぜ!」

105 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/10 21:39:14.07 XzPyuicTo 45/224

金剛「では、所定の位置に着いてカラ五分間の作戦会議をして演習開始デース!」

天龍「──って言ってもなぁ。どうやって戦うよ? 相手は金剛と加賀だぜ?」

瑞鶴「加賀さんの方は私がなるべく抑えるけど、完全には無理だと思う。それよりも金剛さんが問題ね」

「私達よりも射程が長い上、威力も抜群なのです」

「避け続けるなんてちょっと無茶な話よね。金剛さんって私達の中で一番強いし」

龍田「そうね~。演習でも実戦でもほぼ確実に当てているもの」

瑞鶴「……あっちの航空戦力を抑えつつ、金剛さんに全力で攻撃を叩き込むのはどうかしら」

天龍「それは向こうも対策をしてくるだろうな。それに、金剛は対空砲撃もしっかりとこなすぜ? 艦載機の事はあんまり分からねーけど、制空権争いをして疲弊した後だと数が足りなくないんじゃないか?」

瑞鶴「本当、神頼みしかないんじゃないかって思うわ……」

「司令官さんの事ですので、必ず勝てないなんて事はしないと思うのですが……」

「あと、瑞鶴さんを守りきらないといけないのも確かよね。雷撃戦に入るまでのメイン火力だもの」

龍田「それだったら輪形陣が前提よね~。でも、それだと砲撃はともかく雷撃があまり期待が出来なくなっちゃいそう」

天龍「じゃあ複縦陣かなぁ。でも、どっちにしろ運任せか? 気合避けは嫌いじゃねーけどさぁ……」

瑞鶴(……制空権は取られない程度に力を入れて、雷撃戦になんとか押し込む方法…………)

瑞鶴(艦の数自体はこっちの方が多いんだから、それを生かせるような何かがきっと──)

瑞鶴「──あ」

「? 何か思いついたのですか?」

瑞鶴「……ねえ、この演習って攻めるのはどっちだと思う?」

天龍「そんなの向こうだろ? 俺達は雷撃距離になるまで耐えなきゃなんねーんだし」

「防戦になる方が不利なのは当たり前よね?」

瑞鶴「じゃあさ、こっちが攻める状況を作るのはどうかしら?」

「──え?」

…………………………………………。

106 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/10 21:53:58.30 XzPyuicTo 46/224

金剛「──そろそろ五分が経ちマス。演習開始の砲撃を撃つ前に、作戦の再確認をするネ」

加賀「陣形は複縦陣。私が制空権を取れなくても取られないようにするから、金剛さんは気兼ねなく砲撃に集中。まず不安要素の瑞鶴を落としてから制空権を奪取。その後は天龍と龍田から確実に一人ずつ中破以上にしていけば良いのよね」

「私と響は雷と電を頑張って狙うわ。中破以上の被害を与えたら残った方に攻撃を向ければ良いのよね?」

金剛「イエス! 相手は耐える事を第一に考えるはずデス。だったら確実にヒットさせて雷撃戦になる前に戦力を削り切りまショウ!」

加賀「たぶん、相手は砲撃をあまり考えないでしょうね。軽巡で戦艦や空母に大きな被害を与えるのは難しいもの。だから瑞鶴の艦載機と、四人の雷撃を頼りにしてくるはず」

「私達は砲撃重視。もし輪形陣で来られて制空権が危なくなったら対空機銃を撃つ。これで負けないわよ」

金剛「その時はよろしくお願いしマスね、暁、響」

「了解」

「任せて。絶対に負けないんだから!」

金剛「もし特攻を仕掛けてきても、落ち着いて迎撃をすれば良いネ! では、演習始めるヨ!」

「……………………」

(──そう簡単にいくかな)

金剛「スタート!!」ドンッ

パァンッ──!

金剛「加賀、艦載機を発艦して下さい! 制空権を取られないでヨ!」

加賀「大丈夫よ。皆、優秀な子達だもの」

加賀「──演習艦隊補足。複縦陣のようね」

金剛「グゥーッド! これで制空権は取られないネ!」

加賀「…………? 何かがおかしいわ」

金剛「どうしまシタ?」

加賀「敵の艦載機の発艦が遅すぎる。もう相手の対空範囲に入ったというのに、どうしてこんな──」ハッ

加賀「──やられたわ。金剛さん、空に注意して」

金剛「────え?」

107 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/10 22:08:24.83 XzPyuicTo 47/224

「ちょ、ちょっと!? 完全に制空権を取られてるじゃないの!! どうして!?」

加賀「……相手は完全に対空装備で待ち構えてたみたいね。対空射撃で消耗した所を瑞鶴の戦闘機でほとんどが撃墜。こっちの爆撃は期待できないわ……」

金剛「こ、この数は流石に──っ! 暁、響! 防空射撃デス!」ドンドンッ

「む、無理無理ぃ! この数は無理よお!!」タンタンッ

「ウラーッ!」タンタンタンッ

金剛「ダメッ! 全員、舵を切って!」

「きゃあああああっ!!」

ドォォンッッ──!!

金剛「うぅ……このペイントの付き具合から、中破は確定デス……」

加賀「私も飛行甲板に直撃……そんな、まさか……」

「わ、私と響は大丈夫みたいだけど……や、やばくない……?」

「金剛さんと加賀さんに攻撃を集中させたみたいだね……かなりマズイよ」

金剛「これだと半分の砲塔は使ってはいけまセンね……でも、まだ戦えるネ!!」ドンッ

金剛「くっ……! 天龍に瑞鶴を庇われてしまいまシタ……! きっと天龍もまだ──」

金剛(──なぜ、まだあんなに艦載機が上空を飛んでいるのデスか?)

金剛「シット! 第二次攻撃が来ます! 全員、回避して下サイ!」

「またぁ!? もうやだぁああ!!!」

ドォンッッ──!!

加賀「……良かった。金剛さんを守れた。私は充分に大破状態だと思うわ。後はお願いね?」

金剛「加賀……。ありがとうございマス──必ず、必ず勝ってみせマス!」ジャキッドンッ

金剛「くぅ……! 今度は龍田に庇われました……! 最低でもあと一回は航空攻撃が来ます! 空には気を付けて下サイ!」

ドン──ドォンッ────

…………………………………………。

108 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/10 22:24:02.53 XzPyuicTo 48/224

コンコン──。

提督「入れ」

ガチャ──

金剛「テートクー!」

提督「……どうしたお前達。演習が終わったのならペイントを落としに──」

加賀「私達ではどちらが勝利を収めたのか判断が付きませんでした。ですので、提督にご判断して貰おうと」

提督「なるほどな」チラ

金剛「ぅー……」大破

加賀「…………」大破

「こ、これでも頑張ったんだからね!」小破

「…………」小破

瑞鶴「ここまで当たったのは初めてかも……」大破

天龍「どっちだ? どっちなんだ?」大破

龍田「天龍ちゃん、そんなに焦っちゃダメよ~」大破

「わくわく」小破

「どきどき」中破

提督「……引き分けはダメか?」

金剛「やっぱりデスかー……」

瑞鶴「引き分けかぁ……」

提督「演習風景を見ていたが、中々面白い戦い方をしていた。あれに勝敗を付けるのは困難だ」

提督「詳しく言うならば、戦術では瑞鶴達が一歩上回り、対処は金剛達に分があった」

「司令官さんは本当によく見てくれているのです」

提督「ああ。演習の開始がなぜか少し遅れていた事もな」

天龍「っ!!」ビクゥッ

提督「お前達はしっかりと成長している。それだけでも私は嬉しいよ」

金剛(ベリィグッド!)グッ

瑞鶴(やった!)ニコ

加賀(やりました)クス

(ハラショー。頑張った甲斐があったよ)ニヤ

提督「すまないが、私の答えは引き分けだ。それで我慢してくれ。──それよりも、早く着替えてきなさい。着替え終わったら自由行動して良し」

全員「ハイッ!」ピシッ

…………………………………………。

109 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/10 22:38:45.00 XzPyuicTo 49/224

──第一軽巡洋艦部屋前──

コンコン──

龍田「どうぞ~」

ガチャ──パタン

瑞鶴「失礼します」

天龍「お? 瑞鶴じゃねーか。どうしたんだ?」

龍田「あらあら~さっきの演習についてかしら?」

瑞鶴「──二人に教えて欲しい事があって来たの」

天龍「俺達に? って言っても、軽巡の俺達に教えれる事なんてあるのか?」

龍田「まあまあ、まずは座りましょう? ずっと立っているのはしんどいでしょう?」スッ

瑞鶴「ありがとう」ソッ

龍田「それで、教えて欲しい事って何かしら? 提督さんの好みなら金剛さんの方が知っているわよ~」

瑞鶴「……それはちょっと知りたいけど、また後で」

瑞鶴「教えて欲しい事は、味方の庇う良い方法なの」

天龍「へ?」

龍田「どうしてそれを知りたいのか、教えてもらっても良いかしら」

瑞鶴「今日の演習を見て思ったの。中破しても、空母はやれる事があるって。加賀さんが金剛さんを庇わなかったら、こっちの勝ちは間違いないと思ったわ。状況によっては空母でも、例え中破していようと戦況を変えられるって思ったの」

龍田「なるほどねぇ……それで、よく味方を庇う私達に教えて欲しいって思ったのね?」

瑞鶴「うん。──私は、もっと皆の役に立ちたいの。今までの出撃でも、私が庇えば取り逃さなかった敵も多いわ。だから、お願いします」

龍田「……私は構わないと思うけど、天龍ちゃんがなんて言うかしらね~?」

天龍「……………………」

瑞鶴「天龍、お願い。私は、傷付いた人が更に傷付くのを見逃せないの」

天龍「……痛いぞ?」

瑞鶴「被弾する痛みは私も分かってるつもりよ」

天龍「だけどなぁ……お前は空母なんだから──」

瑞鶴「お願い!」ペコッ

天龍「う……あ、頭を下げんなって! ほら、教えるから、な?」

瑞鶴「ありがとう……!」

龍田(あらあら~天龍ちゃんは陥落されちゃったわね~)

天龍「えーっとだな。まず、こういうのは経験がモノを言うんだ。だから、まずは敵の動きを常に見て大体の予備動作を──」

……………………
…………
……

110 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/10 22:53:36.11 XzPyuicTo 50/224

天龍「いってててて……大破か……」

提督「帰るぞ」

天龍「おい!? 目的地はあとちょっとだろ!? ここまで苦労して来たんだからさ! 俺は大人しく後ろに下がってるからこのまま進んでくれよ! 資源だって無限じゃねーだろ!?」

提督「馬鹿を言うな。間違いでも轟沈したら後悔してもし切れなくなる」

提督「資源なぞいくらでもくれてやる。時間とやり方次第で手に入る資源と、一度沈めば二度と帰ってくる事の出来ないお前達を比べるなんて事は出来ん。仮に同じ名前の同じ艦を迎え入れても、それはお前達じゃない」

天龍「くっそぉ……俺が被弾しなかったらゴールは目前だったのに……」

提督「天龍を中心として帰るぞ。私達の仲間を絶対に沈めさせるな」

全員「ハイッ!」ピシッ

瑞鶴(敵の動き……予備動作……砲撃するタイミング……)

提督「……………………」

…………………………………………。

金剛「アァゥッ!! あ、危なかったデス……! 損傷は軽微! まだまだいけマス!!」

提督「無理だけはするなよ、金剛」

金剛「もっちろんネー! 全砲門、ファイアー!!」

瑞鶴(どの艦が狙われるか……敵の視線はどこを向いているか……。あと、もう少し……)

…………………………………………。

島風「お゙ぅ!? び、びっくりしたぁ……。当たるかと思ったよー……」

提督「島風、あまり無理をするんじゃない。いくら速いと言っても、あれほどの砲弾を撃ち込まれると流石に危険だろう」

島風「はい……。ちょっと調子に乗っちゃってました……」

瑞鶴(──少し、分かった気がする。次は実践を……あれ? でも、これって────)

…………………………………………。

111 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/10 23:09:30.88 XzPyuicTo 51/224

提督「──瑞鶴、偵察機を飛ばせ」

瑞鶴「うん。分かったわ。──提督さん、一つ試したい事があるの」

提督「ここ最近、敵を観察していたな。何か掴めたのか?」

瑞鶴「……バレてたのね」

提督「何を考えているのかは分からんが、お前の事だ。悪い事ではないだろう。やってみろ」

瑞鶴「うん──!」

瑞鶴(成功するかは分からない。けど、シミュレートはずっとやってきた。だから、後は実践だけ──!)

瑞鶴「──敵を捕捉しました! 空母ヲ級、戦艦ル級が二隻、軽巡ホ級、雷巡チ級が一隻! 陣形は単縦陣です!」

提督「厳しいな……。加賀、瑞鶴、まずはル級を狙え。お前達ならば制空権は取れる」

加賀瑞鶴「はいっ!」

ブゥゥゥン……

加賀「制空権、確保しました。そのままル級へ艦載機で攻め落とします」

瑞鶴「私は向かって左を狙うわ!」

加賀「分かったわ。私は右を落としに掛かるわ。でも、少しだけ左のル級へ援護するわね。艦爆だけでは流石に厳しいと思うから」

瑞鶴「ありがとう! 全機爆装、準備でき次第発艦! 目標、向かって左のル級! やっちゃって!」

ドォォォンッッ!!

瑞鶴「!」

加賀「ル級一隻が小破。一隻が大破炎上。あれはもうすぐにでも沈むわ」

112 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/10 23:23:26.43 XzPyuicTo 52/224

提督「一隻仕留め損なったか……流石に上部装甲が硬い」

金剛「テートク! 既に目標を補足しているネ!」

提督「よろしい。──金剛、撃てぇ!」

金剛「バーニング──ラァアブ!!」ドォンッ

ガァンッッ!!

瑞鶴(今──!)

金剛「なんて硬さ……! 命中弾で中破までしか与えられなかったデス!」

ル級「…………」ジャキン

提督「反撃がくるぞ! 砲撃に備え──!」

ドォンッ!

ル級「カッ……!?」

提督「────────」

提督「金剛! 第二射いけるか! 敵が怯んだ!」

金剛「え──あ、は、はい! ファイアー!」ドォンッ

ドォォンッ!

金剛「……ル級、艦橋に直撃。撃沈しまシタ」

提督「よくやった二人共! 続いて川内、神通、那珂、ホ級とチ級を狙い撃て!」

川内「は、はい! ──てーっ!」ドンッ

神通「よく……狙って……!」ドンッ

那珂「どっかぁーん!」ドンッ

ドパァンッ!

瑞鶴(チ級が反撃してくる──!)

提督「チ級が反撃──……いや、考えなくて構わん! 加賀、瑞鶴、爆装の準備は出来たか!」

ドォォンッ!

加賀「なっ──はい!」

瑞鶴「あと十秒で完了します!」

提督「よし。加賀の目標は中破したホ級! 瑞鶴は空母二隻! 全力で叩き込め!!」

…………………………………………。

113 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/10 23:29:06.13 XzPyuicTo 53/224

…………………………………………。

天龍「おっ、おかえり!」

龍田「おつかれさま~」

提督「出迎えご苦労。近辺に異常はなかったか?」

天龍「おう! まったく問題無かったぜ!」

提督「よろしい。では、各自補給と入渠を済ませ次第自由にして良し」

提督「だが瑞鶴、お前は後で私の部屋に来なさい」

瑞鶴「え……? は、はい……」

提督「では、解散」

金剛「……テートク?」

加賀「…………」

…………………………………………。

114 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/10 23:29:52.53 XzPyuicTo 54/224

コンコン──

提督「入れ」

ガチャ──パタン

瑞鶴「瑞鶴、出頭しました」

提督「…………」

瑞鶴「あの……提督さん? 私、何かミスとかしちゃってた……?」ビクビク

提督「──瑞鶴、どうして分かった」

瑞鶴「え?」

提督「どうして深海棲艦の攻撃をするタイミングが分かった」

瑞鶴「え……? だって、ずっと観察をしてたら何となく分かるようになって……」

提督「……………………」

瑞鶴「え……え……? わ、私、何かおかしい事でも言った……?」

提督「……一応、私も直前ならば砲撃のタイミングは分かる」

瑞鶴「で、でしょ? あー、びっくりし──」

提督「だが、攻撃のタイミングに爆弾を落として怯ませるなどという芸当は、私は絶対に出来ん」

瑞鶴「…………え?」

提督「爆弾が落ちるまでの時間を考えれば当然だ。私も一瞬の直前までは見て分かる。どうしても予備動作があるから分かる事だ。あの天龍や龍田でもそうだろう」

提督「だが、瑞鶴は何を見て攻撃を予測した」

115 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/10 23:30:43.07 XzPyuicTo 55/224

瑞鶴「えっと……本当に感覚。次はどの敵が攻撃するって分かるっていうか、なんていうか……」

提督「……未来予知、か?」

瑞鶴「いやいやいや! そんな不思議な能力じゃないって! ずっと観察していたから分かる事よ!?」

瑞鶴「提督さんだって、たまに私達が何を言おうとしているかとか分かってるでしょ? それと同じよ。むしろ、私はそっちの方が凄いと思う」

提督「それはある程度お前達の事を理解しているつもりだから分かる事だ。……いや、もしかして艦娘ならば深海棲艦の行動を理解出来るのか?」

瑞鶴「私、深海棲艦の考えてる事とか全然分かんないけど……」

提督「……本当にどういう事だ」

瑞鶴「私は提督さんの悩んでいる事がちょっと分からないわ……」

提督「……相手の行動を予測出来るという事は、相手を理解していなければ出来ないものだ」

提督「例えば、私に付き従ってくれている艦娘の事はある程度予測出来る。これは共に暮らし、共に戦ってきたから分かる事だ」

提督「故に、初めての相手には予測が出来ない。今まで理解してきた何かしらの類似点があるのならば話は別だが、見ている限り奴等に規則性はあまり無い。いや、何かしらの規則はあるのかもしれないが、それが分かるのであれば今こうして戦争になどなっていない」

瑞鶴「うん……確かにランダムな要素が強いわよね──あっ」

提督「そうだ。ランダムを見切るなんて事、普通では出来ない事だ」

瑞鶴「え、あれ……? なんで私、分かってるのかしら……」

提督「分からん。お前は何をしたんだ?」

瑞鶴「だから何も──」

瑞鶴「……………………」

提督「……どうした?」

瑞鶴「ねえ……さっき提督さん、相手を理解していないと予測が出来ないって言ってたわよね……?」

提督「…………ああ」

瑞鶴「人間や艦娘の誰にも理解されない深海棲艦……それを理解する私って──」







瑞鶴「──深海棲艦、なの?」







……………………
…………
……

123 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/11 22:25:45.57 OBA6dya3o 56/224

提督「…………」

救護妖精「……ふぅん」カチャ

提督「どうした。何か異常でも出てきたか」

救護妖精「異常だらけな身体の癖に何言ってるんだいまったく。──提督、最近悩み事とかあるでしょ。免疫力が落ちてるよ」

提督「……健康診断でよくそこまで分かるな」

救護妖精「妖精を舐めるんじゃないよ。そのくらい分かるさ。で、悩み事があるのなら相談に乗るよ。ちなみに言っておくけど、艦娘は子供を宿さないから諦めな」

提督「……………………」

救護妖精「突っ込みが無いとは……こりゃまた大きな悩みみたいだねぇ……。それとも、本当に艦娘に恋したの?」

提督「後者ではない。少し繊細な内容だから言うべきかどうか悩んでいる」

救護妖精「口は堅いつもりだよ」

提督「知っている。本人からは許可を貰っているが、お前自身がどうか──と思っている。だが、私自身ではどうにもならない事だから非常に悩ましい」

救護妖精「ふぅん……? まあ、あたしをビックリさせるのは一筋縄じゃいかないよ。医者は色々と耐性が付くものさね」

提督「そうか。私は深海棲艦になってしまった、と言ってもか?」

救護妖精「……碌でもない冗談を言うんじゃないよ」

提督「悪かった。外で待たせているから呼んでも良いか?」

救護妖精「あいよ」

ガチャ──

提督「瑞鶴、入ってきて良いぞ」

瑞鶴「うん……」スッ

──パタン

救護妖精「瑞鶴だね。何があったんだい」

瑞鶴「えっと……物凄く馬鹿げてる話、なんだけど……」チラ

提督「……深海棲艦の取る行動が分かるようになってしまったらしい」

124 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/11 22:26:20.49 OBA6dya3o 57/224

救護妖精「……はい?」

瑞鶴「わーん! やっぱりこうなるじゃないのぉ!」

救護妖精「あー……今のじゃよく分からなかったんだけどさ、つまりどういう事?」

提督「誰にも理解されていない深海棲艦の行動を予知レベルで分かるようになっている。まるで、長い間共に接してきた友のように行動が分かるようだ。事実、砲撃するタイミングに合わせて艦爆で攻撃するという事もしてみせている」

救護妖精「えー……何それ……」

救護妖精「……確かにそういうのって本能レベルの行動でもない限り分かんない事だし、相手があの深海棲艦ともなれば予測する事なんて有り得ないものだけど」

瑞鶴「……………………」ビクビク

救護妖精「…………まあ、一応検査してみるよ。血とか粘膜とか取るから待ってな」ゴソゴソ

提督「頼んだ」スッ

救護妖精「ちょい待ち提督。提督のももう一回取るから」スッ

提督「なぜ私のまで……」

救護妖精「女の子一人に痛い思いをさせる気かい? あと、さっきの検査でちょーっと分かりにくい所があったのを思い出したよ」フキフキ

瑞鶴「冷たっ」ピクン

提督「取って付けたような理由だな……」

救護妖精「良いから大人しく採取されてな。ほれ、血を抜くよ」プスップスッ

瑞鶴「……凄い。痛くない」

提督「素人の意見で悪いが、良い医者だと私は思っている」

救護妖精「はい、お喋りは一旦中止。口開けて。粘膜を取るから」スッ

瑞鶴「ぁーん……」

提督「…………」

救護妖精「ん、終わり。十分もしたら終わるから待つなり暇を潰してくるなりしてな」ガチャガチャ

瑞鶴「……怖いからここに居たい。提督さんは……部屋に戻っちゃうの?」チラ

提督「私もここに居よう。血を抜かれて少しフラついている」

救護妖精「嘘付くんじゃないよ。いくら提督でもあの量じゃ貧血起こさないのは、あたしがよーく知ってるんだからね」クルクル

瑞鶴「いくら提督さんでもって……提督さん、そんなに身体弱いの? これっぽっちも想像出来ないんだけど……」

救護妖精「本来ならいつ倒れてもおかしくないような身体だよ。なのに平然と動くもんだから訳が分からないのさ。現代医学の敗北だねぇ」カチカチ

救護妖精「…………ごめんよ。ちょっと集中するから、何か用事があったら肩を叩いてくれるかい」

提督「分かった」

125 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/11 22:26:47.73 OBA6dya3o 58/224

瑞鶴「……ねえ、なんでそれでも私達と一緒に出撃してるのよ?」ジッ

提督「お前達を前線に送り出しているのにも関わらず、私一人が安全な場所で指揮を取りたくないだけだ」

瑞鶴「なんて理由よもう……」

瑞鶴(そういう理由、嫌いじゃないけどね……)

瑞鶴「──って、よくよく考えたらおかしくないそれ?」

提督「何がだ」

瑞鶴「出撃よ出撃! ……提督さんさ、艦娘じゃないのにどうやって海の上を滑ってるのよ?」

提督「今更か」

瑞鶴「あんまりにも当たり前のようにごく自然と滑ってて、他の人達も何も言わないんだから逆に気付かないわよ……」

提督「そうか。──その秘密はこの靴にある」コンコン

瑞鶴「靴……? なんの変哲も無い靴にしか見えないわよ?」

提督「開発妖精特性の靴だ。これで海の上でも浮く事が出来る」

瑞鶴「なんでそんな物を持ってるのよ……海軍学校で貰える物とかなの?」

提督「察しが良いな。その通りだ」

瑞鶴「……………………えっ!? それって指揮官も一緒に出撃を推奨してるって事!?」

提督「そんな訳ないだろ。飾ってあったから聞いてみれば、過去にこの靴を履いて艦娘と共に出撃した人物が居ると聞いてな。それで開発妖精に作って貰ったという流れだ」

瑞鶴「へぇ……」

瑞鶴(……浮くだけで滑るのは出来ないんじゃないの? それとも、そういう機能も付いているのかしら?)

提督「……………………」

瑞鶴「……………………」

提督「……さて、少し暇になるな」

瑞鶴「ん、んー……じゃあ、ちょっとだけ甘えさせて貰っても良い?」

提督「唐突だな。どうした」

瑞鶴「…………やっぱり不安だからさ。私は深海棲艦なのかどうかって。……だから、心を落ち着けたいの」

提督「……そうか。何をすれば良い」

瑞鶴「あ……め、迷惑だったら言ってよ? 嫌なのにして貰うのは、私もヤだから……」

126 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/11 22:27:41.30 OBA6dya3o 59/224

提督「よっぽどのものでもない限りそれは無い。安心して言うと良い」

瑞鶴「……ありがとっ」

瑞鶴「それで、して欲しいのは……膝枕」

提督「ふむ。そうか」

瑞鶴「い、嫌だった……?」ビクッ

提督「いや、少し意外だっただけだ。──ほら、ベッドへ行くぞ?」ツカツカ

瑞鶴「う、うん!」ドキン

提督「……何を想像したのかは聞かないでおく」

瑞鶴「うわー……し、しっかりバレちゃってた……」

提督「まあ良い。のんびりしていると検査が終わるぞ」スッ

瑞鶴「お邪魔します!」ソッ

提督「…………」ナデナデ

瑞鶴「ひゃんっ!」ビクン

提督「む、すまん」スッ

瑞鶴「あっ──び、びっくりしただけだから! そのまま続けて!」

提督「そうか」ナデナデ

瑞鶴「んぅ……♪」ホッコリ

提督「気持ち良さそうな声を出しているなぁ」ナデナデ

瑞鶴「うん。凄く気持ち良いし、すっごく安心できるわ」

提督「そのまま寝てしまいそうだな」ナデナデ

瑞鶴「……良いの?」

提督「検査が終わるまでなら構わん」ナデナデ

瑞鶴「ありがとっ。──ここ最近、疲れてたから嬉しい」

提督「すまない」ナデナデ

瑞鶴「出撃とかで疲れたんじゃないわ。自己訓練で疲れてただけ、よ……」

瑞鶴「ん……もう眠たくなってきちゃった……」ウツラウツラ

瑞鶴(私、こんなに寝付きは良くないはずなんだけどなぁ……)

提督「そうか。良い夢を見ろよ」

瑞鶴「ん……おやすみなさい──」

瑞鶴(提督さんが傍に居るから……かしら────)

救護妖精「……………………」

救護妖精(嘘でしょこれ……?)

…………………………………………。

131 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/12 18:13:38.06 DS/MwfE1o 60/224

救護妖精「提督ー、終わったよー」ヒョコッ

提督「ん、終わったか」

瑞鶴「すー……」

救護妖精「あや、寝ちゃったんだね。そのまま寝かせておいたらどう?」

提督「ああ。そのつもりだ。──ところで、検査の結果を教えて貰っても良いか」

救護妖精「まあそれは瑞鶴が起きてからで。今は提督も休みな」

提督「私はまだ仕事が残っているのだが、放っておけと?」

救護妖精「そう言ってるんだよ。やっぱり疲労とかのせいか血中糖度とか免疫力とか他にもヤバイ数字だらけだったから、いい加減にしないとドクターストップ掛けるよ。その前に、ちょっと糖分摂りな。金剛さんの茶菓子ならなんとかいけるみたいだし」

提督「……………………」

救護妖精「あと、仕事の話も耳に挟んでるよ。特に金剛さんと加賀さんは書類処理の手伝いに積極的なんでしょ? 提督でしか判断できない部分は置いて貰って、後は確認だけすれば良いじゃないかい」

提督「……非常に申し訳ない気持ちになる」

救護妖精「じゃあ倒れて艦娘全員から心配されたいのかねぇ」

提督「……………………仕方が無い、か……」

救護妖精「はぁ……。なんでもかんでも一人で抱え過ぎだって。ちょっとは人を頼っても良いんじゃない?」

提督「…………その話は置いておいて、私はこの通り動けない。すまないが、連絡を頼まれてくれないか」

救護妖精「あいよ。そのくらいならお安い御用さ。二人はどこ? 部屋? 提督室?」

提督「私の部屋で健気に待っていてくれているだろう。そっちに居なかったら自分達の部屋に居るはずだ」

救護妖精「あいあい。それじゃあ、行って来るよー」

カチャ──パタム

瑞鶴「ん~……」

提督「……………………」ナデナデ

瑞鶴「ん……すぅ……」

…………………………………………。

132 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/12 18:44:23.58 DS/MwfE1o 61/224

救護妖精「──という訳で、提督をちょっと無理矢理にでも休ませたいんだけど良いかな」

金剛「私はオールオッケーです! 本当にテートクは無茶ばかりする人なんだカラ……」

加賀「私も異論は無いわ。金剛さん、早速この山を切り崩しましょうか」スッ

金剛「ハイ! テートクの負担を少しでも減らすデース!」スッ

救護妖精(……本当に良い子達だねぇ。いや、提督だからここまで良い子になったって言うべきかね?)

金剛「サンキュー救護妖精! テートクは縛り付けてでも休ませて下さいネ!」

加賀「よろしくお願いします」

救護妖精「あいよー。じゃあねー」

──パタン

救護妖精「ふぅ。さて、戻るとするかねぇ」

不知火「あら、救護妖精さんこんにちは」

救護妖精「ん? やあ不知火。元気にしているかい」

不知火「はい。不知火は特にこれといった不調はありません。──ここに貴女が居るという事は、司令に何かあったのですか?」

救護妖精「ああ、ちょっと半分ドクターストップを掛ける事にしたよ。健診でちょーっと危ない数字が出てきたからねぇ」

不知火「危ない数字……」ピクッ

救護妖精「今のところ命に別状は無いから安心しな。その戦艦も射殺しそうな眼光を落ち着かせてね。危ない人にしか見えないよ」

不知火「……自覚はしているのですが直し方が分かりません」

救護妖精「鏡を見て、優しい目の練習をすれば良いんじゃないかな。いつかは出来るようになるだろうし、出来なくても今よりは良くなるでしょ」

不知火「今日から練習してみます。──ところで、司令のお見舞いをしに行っても迷惑ではありませんか?」

救護妖精「寝てもらってる間に色々と検査するから、また今度にしてくれるかい」

不知火「そうですか……残念です」

救護妖精(……なんだ。ちゃんと弱々しい顔も出来るじゃん。単に気を張り過ぎてるだけっぽいねぇ)

救護妖精「じゃあお詫びに良い事を一つ教えてあげる」

不知火「? なんでしょう」

救護妖精「たまには気を緩めたり心の底から甘えたりしてみな。じゃあねー」

不知火「そ、それはどういう──!」

救護妖精(後は自分で気付きな。私は提督と違って厳しいからねぇ)

救護妖精(……いや、提督もわざと教えてないって所か。気付いていないはずがないしねぇ。お節介だったかな)

133 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/12 19:11:09.66 DS/MwfE1o 62/224

救護妖精「──ん」

島風「へっへーん! 私には誰も追いつけないよー!」タタタッ

天龍「こらっ待て! 俺の髪飾り返せ!!」ダダッ

島風「良いでしょー! 代わりに天龍に私のリボン付けてるんだから! バニーガールみたいでかーわいいー!」

天龍「なっ……! か、可愛くねーし! 良いから返せ!」

龍田(私はいつもの天龍ちゃんの方が良いわね~)

救護妖精「…………」スッ

ガッ──!

島風「お゙ぅっ!?」ビッタァン!

天龍「うおっ! すげえ音したぞ……?」

龍田「あら~、綺麗な三回転半」

救護妖精「廊下を走るんじゃないよ。誰かにぶつかって怪我したらどうするんだい」

天龍「いや……足引っ掛けるのも充分怪我しそうなんだが……」

救護妖精「島風は別。ちょっと痛い目に遭って危なさを覚えてもらうつもりだよ」

島風「それ酷くない!?」ガバッ

救護妖精「それじゃあこれからは人が通る狭い場所で走らない事だね。で、怪我はしてない? 打ち身とかで痛い場所はある?」ソッ

島風「……一応どこも痛くないけど」

救護妖精「ん。なら良し。元気なのは良いけれど、危ない事はするんじゃないよ」ポンポン

救護妖精(まあ、艦娘だからあの程度で怪我する訳ないけどね。艦娘同士ならたぶん怪我するだろうけど)

島風「足引っ掛けられた後で優しくされるのって、なんか微妙な気分……」

救護妖精「それじゃあ、あたしは行くよ。その子のお守りは任せたよ天龍」トコトコ

天龍「お、おう? 任せとけ?」

救護妖精(ちょっと心配になる返事だねぇ……)

龍田「大変よね~。色々と」

救護妖精「まったくそうだねぇ。良い事だよ」チラ

救護妖精(……へぇ。天龍と島風、結構仲良さそうじゃないかい。島風は構って欲しくて悪戯をしたって所かねぇ?)

134 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/12 19:30:35.00 DS/MwfE1o 63/224

「あ、あの……何か凄い音がしましたけど、何があったのですか?」ヒョコッ

「まるでアザラシを力の限り床に叩き付けたような音と声だったよ」

「なんでそんな具体的なのよ……」

「あ、島風と天龍さんが居るから、きっと二人が遊んでた音じゃないかしら?」

救護妖精「当たらずとも遠からずって所だねぇ。元気かい、第六駆逐隊の四人達?」

「はいなのです。救護妖精さんもお元気ですか?」

救護妖精「あたしが元気じゃなかったら医者として間違ってると思うねぇ」

「お医者さんでも風邪とかはひくものよ。身体には気を付けてね?」

救護妖精「それはあたしの台詞だよ。あと、その言葉も提督に投げ付けてやってくれるかい」

「本当にね。私達の心配をしてくれるのは嬉しいけど、自分の身体も大切にして欲しいって切に思うよ」

救護妖精「まったくだよ。──それじゃあ、元気にやりなよ」

「はーい!」テテテ

「うん。島風達と遊んでくるよ」トコトコ

「失礼します、なのです」テクテク

「…………」ヂー

救護妖精「……うん? あたしの顔に何か付いてるかい?」

「そんな事ないわよ。──色々と大変だと思うけど、頑張ってね?」ニパッ

救護妖精「────────」

「じゃあねー!」タタッ

救護妖精(……まさかとは思うけど──いや、そんな事はない、か。あの子の正確を考えたら、ああ言うのも不思議じゃない)トコトコ

救護妖精(思い出しそうになるねぇ……あの笑顔はやっぱり、私を壊しかねないよ)

救護妖精「…………」チラ

救護妖精(……………………皆、楽しそうな顔してるねぇ……。昔と今、どっちが幸せだったのかね?)

救護妖精(まあ……それは考えても仕方が無い事か。どっちにしろ救われないんだからさ……)

135 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/12 19:47:44.81 DS/MwfE1o 64/224

川内「──でさ、提督と夜戦をしたらどうなるのかなって思ったのよ! やっぱり凄いのかなって!」

神通「もしするとしても、照明灯は欲しいかなって思います」

那珂「えー? 暗い方が見えないし良いんじゃないー?」

神通「だって……見えた方が色々とやりやすいでしょう?」

那珂「そうだけど、やっぱり照明灯は……ねぇ? やっぱり怖いし……ね、川内?」

川内「私は夜戦が出来ればそれで良いかな! だってさ、スッキリするし! いや、やっぱり提督と一緒に夜戦したいね!」

神通「もう……川内ったらそればっかり……」

那珂「本当に夜戦が好きだよね、川内って」

救護妖精「まだ日も落ちていないのになんちゅう話をしてるんだいアンタらは……」

神通「あら、救護妖精さん。こんにちは」ペコ

那珂「こんにちはーっ」

川内「こんにちはっ。──何って、夜戦だよ?」

救護妖精「……隠語を使うのは良いけど、まだ幼い子も居るんだからちょっとは自重しなよ」

三人「?」

救護妖精「あと、子供は出来ないから望んでいるとしたら諦めな」

川内「えーっと……?」

神通「子供……? あっ……!」

那珂「何の話だろ……?」

神通「あの……救護妖精さん。隠語などではなく、本当に言葉通りの意味で私達は話していたんです……」

救護妖精「……かなり紛らわしい言葉選びだったねぇ。録音して聞かせてやりたいくらいだったよ」

神通「本当にすみません……!」

二人「?」

救護妖精「まあ、次から気を付けてくれれば良いよ。金剛とか加賀が聞いたら問い詰められるからさ」

神通「はい……」

川内「……どういう事?」

那珂「那珂ちゃんもちょっと分かんないー」

神通「部屋で説明するから、一旦この話は終わりにしましょう?」

川内「よく分かんないけど、神通がそういうなら……」

那珂「…………! ああ、そういう事! た、確かに危ないね……金剛さんと加賀さんに聞かれるのは……」ビクビク

救護妖精「まあ、そっちの意味でもやりたくなったら、しっかりと身体を清潔にしてからするんだよ」トコトコ

那珂「ぶっ!」

神通「し、しませんって!」

川内(あ、あー……そういう事ね……)

136 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/12 20:00:23.30 DS/MwfE1o 65/224

救護妖精(ほーんと、賑やかな鎮守府だねぇここは。平和そのもので、本当に戦争をしているとはちょっと思えないよ)

救護妖精(まあ……表向きが平和なだけで裏が思いっきり危ないんだけどねぇ……。提督と瑞鶴にはなんて説明しようか……)

救護妖精「…………はぁ……」

救護妖精(救われないねぇ……誰も彼も……)

救護妖精(本当、どっちが幸せでどっちが不幸だったのかなんて分かりやしないよ……)

救護妖精(……憂鬱になるねぇ…………)スッ

ガチャ──パタン

提督「む、帰ってきたか」

救護妖精「ん。──瑞鶴はまだ寝ているのかい?」ヒョコッ

救護妖精「……………………」

瑞鶴「すぅー……すぅー……」ギュゥ

提督「この通りだ。私を抱き枕か何かと勘違いしているらしい」

救護妖精「……あたし、邪魔だった?」

提督「いや、正直に言うと困っていた。……そろそろ起こしても良いか?」

救護妖精「…………んー、丁度良い機会だから一緒にそのまま寝ちまいな。起きたら話すよ」

提督「……金剛と加賀が仕事をしているというのに、私が寝るのは心が痛む」

救護妖精「今まで無理をしてきたツケだと思いな。あたしはちょっと研究するから、起きたら肩を叩いてくれるかい」

提督「研究? 何の研究をしているんだ?」

救護妖精「どっかの誰かさんの低血糖が改善される薬」

提督「是非とも研究に没頭してくれ」

救護妖精「現金だねぇ……まあ、喉から手が出るほど欲しいのは分かってるけど、まずはその甘い物嫌いを直す事だね」

提督「……………………」

救護妖精「あと、提督も横になって布団を掛けてやりな。眠った後は触った感覚よりも体温が下がってるものなんだよ」

救護妖精「それじゃあ、私は一つ向こうの部屋に行くよ。ゆっくりと休みなよ、提督」トコトコ

カチャ──パタン

提督「…………」モソモソ

瑞鶴「んぅ……ふぁ…………くー……」

提督「…………」ナデナデ

瑞鶴「ん……ていと、くさん……」

提督(……起きた後が大変そうだ)

…………………………………………。

138 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/12 22:08:09.01 DS/MwfE1o 66/224

瑞鶴「ん……」パチ

瑞鶴(……あれ? なんかちょっと暗い……何かが被さってる?)

瑞鶴(あと……なんだろ、この抱き心地の良いこれ……。それより、私はなんで寝てたんだっけ……?)

瑞鶴(────あ)ハッ

瑞鶴(私、提督さんに膝枕して貰ってたんだっけ……! と、いう事は……)チラ

提督「……む。起きたか」

瑞鶴「あ、えっと……お、おはよ?」

提督「もう夕方だな。ゆっくりと眠れたか?」モゾ

瑞鶴(や、やっぱり提督さんだったー!!)

瑞鶴「あ、えぁ……う、んぃ……っ!?」

提督「……混乱しているようだが、大丈夫か?」

瑞鶴「え、と? ど、どどうして私、提督さんと……?」

提督「…………」

瑞鶴「や……本当の事を言っても良いから……ちょっとは予想付いてるし……」

提督「……瑞鶴が私の首辺りにしがみついたと思ったら、そのまま引き倒されて現在に至る」

瑞鶴「……………………」

提督「……………………」

瑞鶴「……うん…………なんか薄っすらとそんな憶えがある……」ズーン

提督「まあ……おかげで私も少し眠れた」

瑞鶴「……迷惑だった?」

提督「微塵にも思っておらん。むしろ、寝た直後の人はここまで体温が高くなるのかと知れて良い機会だと思った。流石に少々驚いた」

瑞鶴「提督さんが驚くって……そんなに?」

提督「ああ。風邪でもひいたのかと思ったくらいに熱かった。話には聞いていたが、体験した事はないのでな」

瑞鶴「へぇ……」

提督「それよりも、そろそろ離してくれると助かるのだが」

瑞鶴「……あっ!!」パッ

瑞鶴「…………は、恥ずかしい……」

提督「お互い様だ」

瑞鶴「……全然そんな風に見えないんだけど?」

提督「ポーカーフェイスは得意でな。内心は酷く焦っていた」

瑞鶴「……くすっ。珍しく説得力が無いわね」

瑞鶴「──あ、そういえば……検査の結果はどうだったの……?」

提督「まだ聞いていない。瑞鶴が起きるまで待っていた」

瑞鶴「…………あの、ごめんなさい……」

提督「謝るな。おかげで少し眠れたと言っただろう?」

瑞鶴「でも……」

提督「瑞鶴」

瑞鶴「ぴゃいっ!」ピシッ

提督「私が良いと言っている。それでも異を唱えるか?」

瑞鶴「ご、ごめんなさい……!」ビクビク

139 : 余ってたのでもう一個 ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/12 22:08:47.73 DS/MwfE1o 67/224

提督「よろしい」ポンポン

瑞鶴「ん……」

提督「──救護妖精を呼んでくる。ほんの少し時間が掛かるから、その間に顔を洗っておけ」

瑞鶴「え゙っ……は、はい!」

瑞鶴(え、え!? まさか涎の後とか付いてる!?)タタッ

瑞鶴「…………」ジッ

瑞鶴「……何もないじゃない。洗うけど……」ジャー

瑞鶴(でも、確かに顔は洗いたかったから良かったわ。──って、あれ?)

瑞鶴(ただ呼んでくるだけで、時間なんて掛からないわよね……?)

瑞鶴「────ああ、なるほど」

瑞鶴(気、遣ってくれたんだ……)

瑞鶴「……ありがと、提督さん」

…………………………………………。

140 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/12 22:40:43.99 DS/MwfE1o 68/224

救護妖精「んじゃ、単刀直入に言うね」

瑞鶴「…………っ!」ビクビク

救護妖精「なーんにも反応が出てこなかったよ」

瑞鶴「え……?」

救護妖精「だから、何にも反応が出てこなかったんだってば。瑞鶴は正真正銘の艦娘。これは間違いないよ」

瑞鶴「じゃ、じゃあ……深海棲艦の行動が読めるっていうのは……」

救護妖精「さあ? それはあたしには分かんないよ。予想とかしか出来ないねぇ」

提督「その予想とは?」

救護妖精「んー。ただ単に、そういう能力を持ったんじゃない?」

救護妖精「ほら、たまに人間でも居るでしょ? 本物の霊媒師とか占い師とかさ。たまにああいう風な、頭の神経が別のチャンネルに繋がっちゃう人も居るんだよ」

救護妖精「それは艦娘も同じ。何をやったのかは知らないけど、何かが原因で瑞鶴の頭の中にあるチャンネルが深海棲艦の行動理念とかと繋がっちゃったんじゃないかな?」

瑞鶴「あの……別のチャンネルに繋がるって何?」

救護妖精「一言で言うなら、種族や生命を超えた相手の理解、通信とかかねぇ。犬や猫がなんて言ってるのか分かる人って言った方が分かりやすいかな? たまに会話までしちゃう人も居るけど」

瑞鶴「なんとなく分かったような……」

救護妖精「まあ、そういう事なんじゃないの? とりあえず検査をして深海棲艦の反応が欠片も出てこなかったんだから深海棲艦だーなんて悩む必要はないよ。むしろ喜びな。それだけ敵を妨害出来るって事は、それだけ提督や他の子達に貢献できるってもんだろ?」

瑞鶴「あ、確かに……。そう考えると凄く良いかもこれ……」

救護妖精「これで瑞鶴の悩みは解決として、次は提督。再検査」

瑞鶴「え」

提督「…………」

救護妖精「意味不明な数字が出たから、ちょっと精密検査するよ。ホント、どういう身体してんの?」

提督「そう言われてもな……」

瑞鶴「え……えー……」

救護妖精「そんでもって、瑞鶴は部屋に戻っておく方が良いよ。提督を素っ裸にするから」

瑞鶴「ちょっ!? な、なななんで!?」

救護妖精「精密検査するんだから当たり前でしょ……。それとも、見たいの?」

瑞鶴「え、ぁ……う……」

瑞鶴「…………し、失礼しましたぁー!!」

ガチャ──バタン!

救護妖精「顔真っ赤にして出て行っちゃって、初心だねぇ」

141 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/12 22:50:33.18 DS/MwfE1o 69/224

提督「……それで、瑞鶴に秘密の話でもあるのか?」

救護妖精「流石は提督。察しが良いね」

救護妖精「──大真面目な話だよ。さっきは瑞鶴にああ言ったけど、本当は違う」

提督「…………」

救護妖精「本当は、深海棲艦の反応が薄っすらと出てきたんだよ」

提督「……薄っすらと?」

救護妖精「そう。私もこんなの初めてだけど、これだけは言える」

救護妖精「瑞鶴は艦娘であり深海棲艦でもある」

提督「……原因は分かるのか?」

救護妖精「いいや。分かんない。だから提督に質問をするよ。過去に瑞鶴が沈むような怪我をした事はある?」

提督「いや、無い。大破はあれど、そのような事は一度もなっておらんよ」

救護妖精「……じゃあ、瑞鶴を建造する時に、深海棲艦のパーツを使ったとかは?」

提督「無いはずだが、建造妖精に聞いてこよう」スッ

救護妖精「他に有り得そうな原因は思い付かないから、たぶん建造で何かあったんだと思う」

提督「聞いてきたらここへすぐに戻ってくる。その間に、他に考えられそうなものがあったら考えておいてくれるか」

救護妖精「あいよ。いってらっしゃい」

ガチャ──パタン

救護妖精「……おかしいのは、瑞鶴だけじゃないんだけどね」

救護妖精「なんで艦娘と同じ反応が出てくるんだい、提督──」

…………………………………………。

146 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/13 21:33:17.45 njvEhmAdo 70/224

提督「建造妖精、少し良いか」

建造妖精「おー、提督ー。どうしたのー? 何か建造ー?」

提督「いや、今回は建造ではない。瑞鶴を建造した時の事で知りたいことがある」

建造妖精「?」

提督「建造する際、何かおかしな事はなかったか?」

建造妖精「おかしなことー? いつも通りだったよー」

提督「どんな細かい事でも構わない。ほんの少しでも変だと思った事はないか」

建造妖精「んー…………──あ、そういえば。なんかさ、ちょーっと変な鋼材が混ざってたよー」

提督「変な鋼材?」

建造妖精「うん。ものすっごく溶接しにくい鋼材ー。捨てちゃおうかと思ったけど、提督が資材少なくて苦しんでるのは知ってるからなんとか使ったよー」

提督「そうだったのか。ありがとう。──ちなみにだが、溶接しにくい以外に何かおかしい点はあったか?」

建造妖精「んんー……。そうだねー。なんか、他の鋼材と比べてやけに硬かったかなー? それくらいだよー」

提督「……そうか。ありがとう」スッ

建造妖精「あれ、もう行っちゃうの?」

提督「忙しくてな。すまない」

建造妖精「いいよいいよー。またねー」フリフリ

提督「…………」フリフリ

…………………………………………。

148 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/13 22:00:40.75 njvEhmAdo 71/224

ガチャ──パタン

救護妖精「! おかえり。どうだった?」

提督「建造をする際、異様に硬くて溶接しにくい鋼材があったそうだ。それが瑞鶴に使われているとまでは分かった」

救護妖精「……もしかしたら、それが深海棲艦の一部かもしれないね」

提督「可能性はある。ここ最近、総司令部も資材を様々な場所から掻き集めているらしい」

救護妖精「大いに有り得るねぇ……」

提督「……救護妖精、一つ聞きたい。瑞鶴はこのまま放っておいても問題ないのか?」

救護妖精「たぶん、だけどね。今までなんの問題もなくやってこれたんだ。バレなければ大丈夫だと思うよ」

救護妖精「だから、この情報は私たち二人だけの極秘情報にしておこうよ。いつどこで知られるか分かったもんじゃない」

提督「ああ、そうしよう。私達も極力この話はしないようにしよう」

救護妖精「うん。それが良いよね」

救護妖精「……あと、提督」

提督「どうした」

救護妖精「……………………」

救護妖精「──ちゃんと糖分摂りなよ。それだけさ」

提督「……ああ。戻ったら金剛に頼んでおく」

救護妖精「次倒れたら口に漏斗を突っ込んで砂糖水を注ぎ込むかんね」

提督「全身の毛が逆立つな、それは……」

救護妖精「じゃなかったらもうちょっと米とかを食べる事だね。少食だから無理かもしんないけどさ」

提督「まったく……不便なのか便利なのか分からん身体だ」

提督「──では、私は仕事に戻る。金剛と加賀に全てを押し付けてしまうのは心が痛む」スッ

救護妖精「あいよ。身体は大事にしなよ」

提督「善処しよう」

提督「ああ、そうだ。再検査の口裏合わせは何にすれば良い?」

救護妖精「あたしの検査ミスで、疲労以外は問題無かったっていう事にしといてくれるかい」

提督「分かった。では、失礼する」

ガチャ──パタン

救護妖精「……まあ、聞けないよね。これは、私だけの秘密にしておくとしよう──」

……………………
…………
……

150 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/13 22:31:47.36 njvEhmAdo 72/224

ガチャ──パタン

提督「今戻った」

金剛「! ハァイ、テートクー! お身体はどうだったのデスか?」

提督「救護妖精が珍しくミスをしていたみたいでな。何も問題がなかったそうだ」

加賀「おかえりなさいませ。……書類はまだ残っています。すみません」

提督「いや、よくやってくれた。少しでもやってくれたのならば有り難い」

「プリヴィエート。こっちの書類が私達では分かりそうにないものを纏めたものだよ」

不知火「おかえりなさいませ。他に何か出来る事はありますか?」

提督「それで充分だ。ありがとう」

瑞鶴「……提督さん」

提督「うん?」

瑞鶴「本当に何も問題がなかったの?」ジィ

提督「ああ」

金剛「……なんだか嘘っぽいデース」

「司令官、怒らないから正直に言って」

提督「…………本当は疲労以外は問題がないと言われた」

金剛「やっぱり! 何も問題がないだなんておかしいと思いまシタ!」

「じゃあ、司令官は先に身体を休めるかい?」

不知火「添い寝は不知火が担当しても──」

加賀「譲れません」ジッ

151 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/13 23:01:21.73 njvEhmAdo 73/224

提督「添い寝は却下だ。それと、書類を片付け終わってから休む。私にしか処理できない書類はこれだな?」スッ

加賀「はい。──あと、提督は夕食をもう終わらせたの?」

提督「いや、まだだ。もう少しで食堂も閉まるから、このまま──……まさか、お前達」

金剛「ア、アハハ……」

「…………」クゥー

不知火「…………」フイッ

瑞鶴「……私は食べる事自体を忘れていたわ」

提督「人に体調管理をしろと言っているというのに、お前達がそれでどうする……」

金剛「だってー! いつもはテートクと一緒に食べているネ!」

加賀「提督が居ないとご飯が美味しくありません」

「ほら、早く行こう司令官」クイクイ

提督「……………………」

ガチャ──

提督「……まったく。…………急ぐぞ」グッ

タンッ──!

金剛「ちょっ! テートク速過ぎデス!!」タタッ

不知火「────! もうあんなに遠く……」タタッ

加賀「流石ね。提督には絶対に敵わないわ。色々な意味で」タッ

瑞鶴「何あれ……提督さんって本当に人間……?」

金剛「瑞鶴ー! 何してるデース!!」

瑞鶴「い、今行くー!」タッ

…………………………………………。

152 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/13 23:15:57.99 njvEhmAdo 74/224

提督「……ふむ。書類はこれで一応終わりか」

提督(それにしても……まさか金剛達だけでなく全員が私を待っているとは……。嬉しい事だが、こそばゆいな)スッ

提督「…………ふむ……」パラパラ

提督(修正する必要はなさそうだな。あの子達も成長したという事か)

提督(……もう、私が居なくなっても鎮守府を運営出来るか? いや、それはまだ──)

コンコン──。

提督(──うん? 誰だ?)

提督「入れ」

ガチャ──パタン

瑞鶴「……提督さん、こんばんは」

提督「どうした。各自部屋に戻れと言ったはずだが」

瑞鶴「ちょっとお願いがあって……」

提督「そうか。なんだ?」

瑞鶴「夜風、当たってたんだけどさ……夜の海を見てたら胸が苦しくなって、その……落ち着きたくなって……」

提督「…………」

瑞鶴「それで気付いたら、ここに……」

提督「……やはり、まだ不安か」

瑞鶴「そりゃ、ね……。まだ完全には受け止め切れてないんだもの……」

提督「……そうか。頭を撫でるので良いか?」

瑞鶴「…………隣……」

提督「うん?」

瑞鶴「……提督さんの隣で眠りたい」

提督「……………………」

瑞鶴「ダメなら、諦めるけど……」

提督「…………」

瑞鶴「…………」ビクビク

提督「……今から言う事を守れるのならば良し」

瑞鶴「! 守る!」

提督「まだ何も言っていないんだが……」

153 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/13 23:16:42.68 njvEhmAdo 75/224

瑞鶴「守るからっ!」

提督「……一つ、この事は内緒にしておく事。バレたら私に合わせろ。あの四人にバレたら特に大変だ」

提督「二つ、大人しくする事。もし破ったら即刻廊下に放り出す」

提督「この二つだ。守れるか?」

瑞鶴「うん! うんうん!」コクコク

提督「……物凄い笑顔で頷いているな」

提督(! 目の端に涙……これは嬉し泣きか)

瑞鶴「だって、本当に心細かったんだから……! 提督さんと救護妖精さん以外に相談できなかったんだから!」

提督「……そうだな。悩みを共有できないのは辛い事だ」ツカツカ

提督「火を付ける。瑞鶴は明かりを落としてくれ」シュッ

瑞鶴「はいっ!」

パチッ……

提督「見えるか」

瑞鶴「えっと……なんとか」ソロソロ

提督「それと、狭くても文句は言うなよ」モゾモゾ

瑞鶴「充分広いじゃないの……」ソッ

瑞鶴「……………………」タジッ

提督「どうした」

瑞鶴「や……自分から言った事だけど、一緒のベッドで寝るのって恥ずかしい事だったって思って……」

提督「やめるか?」

瑞鶴「ヤダ!」

提督「どっちだ……」

154 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/13 23:17:17.62 njvEhmAdo 76/224

瑞鶴「…………よし。五航戦、瑞鶴……入ります!」ソソッ

提督(そこまで気合を入れる必要はあるのか……?)

瑞鶴「……………………」モソモソ

瑞鶴「……ぁ」ピトッ

提督「どうした」

瑞鶴「……あったかい…………」ギュ

提督「私の体温は低い方だったと思うが」

瑞鶴「ううん。身体じゃなくて、心があったかいの」

提督「心、か」

瑞鶴「うん……。まるでお父さんみたい……」スリスリ

提督「この歳で瑞鶴みたいな娘を持っていたら色々な意味で凄いな」

瑞鶴「じゃあ、お兄ちゃんになるのかしら」

提督「そっちの方がまだ近いだろう」

瑞鶴「お兄ちゃん、かぁ……。ふぁ……安心したら眠くなってきた……。さっきまで恥ずかしかったのに……」ウトウト

提督「日頃の疲れが溜まっているんだろう。ゆっくり寝ると良い」ナデナデ

瑞鶴「うん……おやすみ…………提督さん……」

瑞鶴「……………………すぅ……」

提督(随分と寝付きが良いな。それだけ信用されているという事か)

提督(さて、私も寝るとしよう。火を消すか)フッ

提督(……妹、か。私にも妹が居たらこんな感じなのか?)ナデナデ

提督(いや、居たとしても私には懐かんか)

提督「おやすみ、瑞鶴──」

……………………
…………
……

161 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/14 23:40:12.45 Bnxa3OyUo 77/224

提督「…………」パチ

提督(朝か。──む)

瑞鶴「すぅー……」ギュ

提督「…………」ムクッ

瑞鶴「むー……」ギュゥ

提督「……………………」

提督「起きろ」ユサユサ

瑞鶴「ふぁ……?」パチ

瑞鶴「んぅー……? あれ……提督さんが私のベッドに……?」ボー

提督「まだ半分夢の中に居るみたいだが、金剛が来る前に色々と準備をしておけ」ポンポン

瑞鶴「金剛さん……? ──はっ!」ビクッ

提督「目は覚めたか?」

瑞鶴「う、うん……! えっと、洗面台借りて良い?」パタパタ

提督「ああ。あんまり焦るなよ」

瑞鶴「はーい!」

…………………………………………。

提督「──以上だ。何か質問はあるか? ……………………無いようだな。では、遠征組は十分後、出撃組は十五分後までに船着場へ待機しておくように」

ガチャ──ゾロゾロ──パタン

金剛「あら? 瑞鶴は用意しないのデスか?」

瑞鶴「うん。今日の出撃内容をもう聞いてるから、先に用意しちゃったの。……そういえば、いつも金剛さんと加賀さんは一緒に出てこなかったわよね。何かしているの?」

加賀「ええ。出撃までの間に書類の整理をしているの」スッ

金剛「こうすると、後が少しだけ楽になるネー」スッ

提督「ありがたい事だよ」スッ

金剛「それよりも……今日の瑞鶴はなんだかストレンヂです。何かテートクとあったデスか?」

提督「早起きなだけだろう」

瑞鶴「うん。昨日はお昼に寝ちゃってたから、たぶん早く起きちゃったんだと思う」

加賀「女の勘が告げています。ライバルとして一歩先を行かれたような気がするわ」

金剛「私もデース。本当に何も無かったデスか?」ジー

提督「無駄口を叩くのならば追い出す」

三人「!」テキパキ

提督(……女の勘というものは怖いな)

…………………………………………。

162 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/14 23:40:43.66 Bnxa3OyUo 78/224

──カレー洋西方海域──

提督「……何も出ないな」

金剛「変ですネー……結構ディープな場所まで来たと思うのデスが……」

提督「──む」

加賀「! 霧が出てきましたね」

瑞鶴「え……妖精さんの観測機じゃ晴れそうだったのに……」

提督「何事も完璧という事は難しい。こういう事もあるだろう。帰るぞ」

天龍「ここまで来たのに帰っちまうのか?」

龍田「霧が深くなると敵に会っても分からなくて先制攻撃を受けちゃうかもよ~?」

島風「あー、そっかー……。仕方ないねー……って──!」

天龍「お、おおおぉ!? 一気に霧が濃くなってきたぞ!? ほとんど見えねぇ!」

提督「……嫌な予感がする。すぐに反転しろ。いつも以上に注意して進め」

全員「はいっ!」ピシッ





潜水カ級「…………」チャプン





瑞鶴「?」クルッ

提督「どうした、瑞鶴」

瑞鶴「……今、何か居たような?」

提督「…………何も見えんが、注意するに越した事はない。これより厳戒体制に入れ。何が居てもおかしくないぞ」

…………………………………………。

166 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/15 22:32:17.01 pfPbSXzno 79/224

 辺り一面、白い濃霧に覆われた海域──。

 僅か十数メートル先が見えないという濃い霧の中、私達の艦隊は慎重に進んでいた。

「……本当に酷い霧ね。これでは偵察機を飛ばしてもあまり意味を成さないでしょう」

「まったくだ」

 神経を研ぎ澄ませ、各々が周囲を索敵する。

 提督も普段以上に注意しているらしい。いつも以上にキツイ目で霧の向こうを見回っている。

「うぅー……服もジメッとしてきまシタ……」

「金剛」

「ッ!! す、すみません!」

 いや、普段以上なんてものではないようだ。全神経を索敵に回しているように伺える。

 その証拠に、金剛さんがほんの一言ボヤいただけで警告をした。

 提督さんが『嫌な予感がする』と言っていたように、私も背筋にピリピリとした悪感を感じる。

 得体の知れない、悪夢のような何か──。そんな気持ちの悪い雰囲気が、私の身体に突き刺さっている。

 時間が経つにつれ心臓は早鐘を打っていき、頬には霧が原因ではない汗が流れていく。

 波と私達のゆっくりと滑る音以外が聞こえない、先の見えない海。不気味以外の表現が無いくらいだ。

 私の中の不安は、どんどん大きくなっていくばかりだった。

「……提督さん、何も見えない?」

 その不安を少しでも解したくて、提督さんに言葉を掛ける。

「何も見えん。瑞鶴はどうだ」

「私も何も見えないわ」

 必要最低限での会話。

 おかげで、私の不安は小さくなる事は一切なかった。

 何かが見えるのならば良い。例えそれが敵である深海棲艦であっても、それは今の不安を拭ってくれる要素になる。

 今はそれすら無い。まるで、私達七人が異世界に紛れ込んでしまったかとすら思ってしまう。

 私から一番遠く──霧で少し白く姿を濁らせた島風を少し視界から外すと、居なくなってしまったのではないかと怖くなってしまうくらいだ。

 何も無い、何も変化が無いというのは恐怖を生む。

 例え強大な敵が目の前に現れるよりも、それは怖い。

 掴もうとしても掴めなく、辺りを見回しても自分しか居なく、燃料が尽きるまで進んでも何も無い──。

 それは、海の底へ沈んでしまうよりも怖いと思う。

 もう一度、島風へ目を向ける。そこには一生懸命に周囲を索敵している少女の姿が変わらずあった。

 ただそれだけの事でも、怖い要素の一つが消える。

 その傍に居る天龍と龍田さんの表情も、余裕があまり無いように見える。

 二人も私と同じなのだろうか。このベットリと纏わりつくような、不気味で黒い不安を感じているのだろうか。

「……あまり意味が無くとも艦載機を発艦させましょうか」

「いや、戻ってこれなくなる可能性が高い」

 加賀さんの表情はあまり変わらない。けれど、焦っているのは明白だ。

 この濃霧の中で艦載機を飛ばしても、戻れなくなってしまうかもしれないと思うのは当然だ。あの加賀さんがそれを考えられないはずがない。

「電探、今度開発しまショウ」

「ああ」

 その提案には私も賛成だ。

 今までこんな霧を体験していなかったというのと、提督さんの索敵範囲が異常に広いという点で電探を作ってこなかったツケがここで払われるとは思わなかった。

 こんなに不安になってしまうのであれば、電探の一つや二つを持っておきたくなる。

 ──その電探も何も反応が無かったら、もっと怖いかもしれないけれど。

 そう思いつつ、ほんの数秒前に確認した左舷に目を向ける。


 そこには、海面を進んでいく、円錐状の、波が見えた──。


「金剛さん! 避けて!!」

 言うが早いか、その言葉の直後に轟音が鳴り響く。鼓膜を破らんとする爆音。その中に、金剛さんの悲鳴が混じっているような気がした。

167 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/15 23:10:00.38 pfPbSXzno 80/224

 待ちに待っていた変化──。

 その変化は、最悪の変化だった。

「──金剛!!」

 高く上がった水飛沫がある程度収まってから、提督さんの声が大きく発せられる。

 ──けれど、その声に反応するはずの……提督さんを誰よりも愛していると言っても過言ではない人の、声が聴こえてこない。

 虚空へと吸い込まれた金剛さんへの言葉。

 その言葉に返事をしたのは──砲撃の音と、幼い悲鳴声だった。

「ひゃぁあっ!?」

 金剛さんの時と同じく、大きな水柱が空へ向かって穿たれる。

 当たってはいないようだけど、至近弾……! このままではいずれ直撃弾が来てしまう!

 なんで……!? なんで姿は見えないのに撃ってこれるの!?

「全員、面舵を切れ! 天龍、龍田、島風! 砲撃が来た方向へ斉射しろ! そのまま離れるぞ!!」

「おい!? こっちも撃ったら正確な位置がバレるぞ!?」

「もう遅い!! 奴らは我々の軌跡を見て撃っているようだ!!」

 軌跡──! まさかそれで判断してくるなんて……!!

 いつも気にしていない、私たち艦娘の海の足跡──。私は過去に今日ほど、この軌跡の存在を恐ろしく思った事は無かった。

「くっそがぁぁあ!!!」

 まずは天龍が砲撃を開始した。

「隠れていないで、出てきなさい……」

 次に、龍田さんも座った目で砲撃しているのが見えた。

 相当怒っているのが見て取れる。

「島風! 砲撃戦、入ります!!」

 島風も見えない敵を撃つ為、小さい主砲を撃った。

 けれど、返ってきた音は金属が破壊し合う音ではなく、水を叩く音。三人の砲撃は、敵に当たらなかったようだ。

 そこで一つ疑問が浮かんだ。三人?

 私達の艦隊で砲撃が出来るのは四人のはず。天龍と龍田さんと島風と……。

 …………金剛さんは……?

「提督さん! 金剛さんは!?」

 魚雷の爆発とさっき島風の付近へ弾着した影響で海がうねり、霧と相まって金剛さんの姿が見えない。少なくとも、立っていない事だけは確かだ。

 まさか置いていくつもりなんじゃ……!! いや……沈んだ、とか……?

「金剛は私が担いで行く! まだ沈んではいないから安心しろ!」

 そんな私の不安を察知した提督さんは、海へ片膝を突いて金剛さんを抱き上げた。

 姿が見えてホッとしたと同時に、恐怖が私を支配する。

 いつも太陽のように明るく、真面目な時は凛々しい金剛さん。そんな彼女は今、提督さんに抱えられている。

 ぐったりとした肢体には力が入っていないのが一目で分かる。

 手も、足も、首も、だらりと海へ落ちていきそうになっていて、轟沈一歩手前だったのだと思うと背筋に寒気が走った。

「何をしている瑞鶴! 次の砲撃が来るかもしれんぞ!!」

 そう言われてから、私はその場で立ち竦んでいる事に気付いた。

 慌てて艦隊の進んだ方へ向き、全力でその場を離れる。

 その直後、敵の砲弾が今さっき私の居た場所へ着弾した。

 冷や汗が垂れる。それと同時に、提督さんへ心の中で感謝した。私が被弾しなかったのは、提督さんのおかげだ。

「……提督、発艦許可を。このまま黙って見ている訳にはいきません」

 お互いに当たらない砲撃を繰り返して数分、未だに見えない敵のせいか、加賀さんが痺れを切らした。

「駄目だ」

 それを、提督さんが一言で制す。

「私からもお願いするわ! 発艦許可を出して!」

 加賀さんの言葉で、私の我慢が出来なくなってしまった。

 提督さんが発艦許可を出さない理由なんて分かりきっている。

 この状況下で艦載機なんて発艦したら、空中衝突は免れないだろう。それに、例え運良く衝突しなくても帰ってこれるとは思えない。

 だから、艦載機を使うのは最終手段だ。打つ手が無くなった時にしか使えない。

168 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/15 23:43:36.14 pfPbSXzno 81/224

「駄目だ」

 再度、同じ言葉で、同じ口調で、許可は得られなかった。

 天龍も、龍田さんも、島風だって見えない敵と戦っているというのに、何も出来ないのが悔しい。

 それよりも、何よりも、我が子のように優しく大事そうに抱えられている金剛さんが羨ましくて、自分を噛み殺したいくらい情けなかった……。

「ぐぁッ!?」

「っぅ──!!」

 そして、訪れる必然。天龍と龍田さんが被弾してしまった。

 この砲弾の雨の中、いつまでも当たらない訳がない。むしろ、今まで当たらなかった事の方が奇跡なんだから。

「くっそぉ!!! 提督、俺は中破したけどまだまだいくぞ!!」

「私も……大破したけど、まだ……!!」

 ズキン、と痛みが胸に刺さる。

 鋭利なガラスが胸の中に突然現れたかのような痛み──。

 こんなにも皆が頑張っているのに、私は何も出来ない……。

 霧さえ──この霧さえ無ければ艦載機を使えるっていうのに……!!

 私はこの霧を睨み付け、心の底から憎んだ。

「……仕方が無い」

 この時初めて、私は提督さんの切羽詰った顔を見たと思う。

「全艦、全速で戦闘を離脱しろ!! 私が殿を勤める!」

 そして、私は初めて提督さんの言っている意味が分からなかった。

「バッ! 何言ってやがるんだよ提督!?」

「殿が一番危ないんだよ!? 殿は私がやるから提督は安全な場所に行ってよぉ!!」

「流石にそれは許容できません!」

 各々が異を唱える。

 あの加賀さんですら声を荒げて抗議に出ていた。

 そりゃそうだ。私だって言葉が喉に詰まっていなければ文句の一つでも言っている。

「加賀、金剛を頼んだ!」

 けれど、提督さんはそれを聞き入れない。

 近くに居た加賀さんへ、押し付けるように金剛さんを託そうとしている。

「馬鹿を言わないで下さい! いくら提督と言えど、深海棲艦の攻撃をどうするつもりですか!!」

 艦娘でさえこれだけの被害を受けるというのに、生身の人間である提督がどうしようと言うのか。

 私達はどれだけ傷付いても時間と資材があれば回復できる。最悪、沈んだとしても代わりの船なんていくらでも造れる。

 けれど、提督さんは別だ。提督さんは人間で、たった一人しか居なくて、私達が唯一命令を聞く存在だ。

 比べるどころか、天秤に掛ける事すら痴がましい。

「早くしろ! 上官命令だ!!」

「死のうとしている提督の命令は聞けません!!」

 言い合う二人。お互いに一歩も譲る気配は無い。

 そんな、たった数秒──たった数秒の言い合いで、状況は一変する事になる。

 最初に加賀さんが何かに気付いて飛び出した。敵の砲弾が飛んでくる方へ、提督さんと金剛さんの盾となるように、飛び出したのだ。

 そこで私も気付いた。提督さんへ真っ直ぐ伸びている円錐状の波──雷跡が──。

 私も飛び出すように、二人へ手を伸ばそうとする。

 ──そこで、金剛さんを襲った爆音と水柱で、二人の姿は目の前で消えてしまった。

「……────?」

 耳がキンキンとしていて、自分がなんて言ったのかすら分からない。

 爆発の影響なのか、それとも私の頭が狂ってしまったのか、音が何も聴こえない。

 膨大な量の水が海を叩き付けているはずなのに、聴こえない。

「────?」

 やがて水飛沫が収まりだし、爆発に巻き込まれた三人が姿を現した。

 そこに立っているのは一人だけ──ボロボロとなった加賀さんだった。

 金剛さんは既に気を失っていて、加賀さんが庇った提督さんも──

「あ……あぁぁあああ──!!」

 ──白い軍服を赤く染めて、倒れていた。

169 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/16 00:27:04.47 RtG3901/o 82/224

「提督さん!!」

 私はすぐに提督さんへ駆け寄って抱き起こした。

 何度も、何度も声を掛けても反応が無い。

 ──死んでしまった?

 不意に、そんな事を思い浮かべるも、すぐさまその考えを振り払う。

 提督さんがこんな所で死ぬ訳がない……そんな事、絶対に無いんだから……!

「ぅ……」

「────っ!」

 呻き声がした。けれど、すぐに落胆してしまう。

「どうなり……ました、か……?」

 目を覚ましたのは、金剛さんだった。

 爆発する瞬間に、提督さんに抱き締められて庇われた彼女が目を覚ましただけだった。

「金剛さん!! 提督さんは!?」

 言ってから、自分の愚かさに気付く。

 ああ、なんて酷いんだろう私は。今目が覚めたばかりの金剛さんに、提督さんの安否を聞いているなんて。

 それどころか、提督さんではなく金剛さんが目を覚ました事に落胆した。

 私は、最低だ……。

「……息、しています……大丈夫」

 それなのに、金剛さんは私へ笑顔を作って微笑んでくれる。

「────────」

 その笑顔を見て、私の中で何かが壊れた。

「瑞鶴……提督は無事……?」

「……………………」

 加賀さんの問い掛けに答える事なく、私は空を見上げる。

「────!! おい、マズイぞ! 霧が晴れてきやがった!! このままじゃ──!」

 ああ──本当だ。霧が薄くなっている。

 ──じゃあ、大丈夫よね?

「……現時刻をもって、司令官を変わります」

 そうね、敵も見えてきた。大丈夫だ。

「…………瑞鶴?」

 普段は凛々しい人の、弱々しい声が耳に入ってくる。

 それを無視し、私は砲弾の雨を降らせている敵へ弓を構える。

 まずは──あれが良い。中央の、白くて長い髪の敵が良い。

「──いってらっしゃい」

 右手を離し、爆撃機を飛ばした。

 猛スピードで飛んで行く爆撃機。目標は、中央最前線で踏ん反り返っているアレだ──。

 結果は既に見えていた。

 そして私の予想通り、敵の艦載機は一機も飛んでおらず、また、敵も空を一切警戒していなかった。

 すぐに、爆撃音が鳴り響いた。

 それの影響で、全ての砲撃も止まる。

「──命令よ。私を残して撤退して」

 初めて、私は皆へ命令をした。

 砲撃の音が止んだ今だからこそ、チャンス。

 今の内に戦線を離脱すれば、帰れる可能性が高くなる。

「…………馬鹿を言わないで! 貴女一人を置いて撤退だなんて出来るわけないでしょう!」

 当然、こういう言葉が飛んでくる。

「戦況は最悪。提督さんを含めて全員が沈んでもおかしくないわ。けど、私がここで食い止めれば、皆が助かるのよ」

「だからと言って──!!」

「それとも、加賀さんは提督さんを失いたいの?」

 その一言で、加賀さんの言葉が切れる。

 そう。私達にとって一番大事なのは提督さん。それを駆け引きに出せば良い。

 再度、私は弓を構えた。

170 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/16 00:36:58.22 RtG3901/o 83/224

「だ、だけど──!」

 そして、また一つ爆撃音が私達の耳に入ってきた。

「霧が完全に晴れる前に行動して。──提督さんを死なせたくないのならばね」

「……………………」

 もう、誰も私に反論できなかった。

「──全艦、全速を以って戦線を離脱!! 私達の提督さんを死なせるな!! 行けッ!!」

 まるで怒鳴りつけるかのように出した指示──。

 皆が何かを言いながら、この戦線を離れていく音が聞こえる。

 そして──。

 ドォン──ッ!!

「……させないわよ」

 逃げていく皆へ追撃をしようとした敵へ、爆弾を落とす。

 攻撃をするタイミングの少し前に被弾をすれば怯む。そうすれば、時間くらいならば稼げる。

 相手も馬鹿じゃない。それしきの事で全艦が攻撃を止める訳がない。

 段々、私の攻撃する感覚も短くなっていく。

 そして、段々と私へ撃ってくる砲撃も増えてきた。

「──ダメよ」

 けれど、私達の仲間と提督さんへの攻撃は、一切許さない。

 攻撃をしようものならば容赦なく爆撃をしていった。

 ──やがて、敵の攻撃は私へ集中する事となった。

「…………全艦載機、発艦」

 霧も完全に晴れてきている。敵も全て見えてきた。

 ────へぇ。三十隻は居るわね。

 そして、完全に避ける事が出来ない多数の砲撃が私を襲う。

「……か、はっ!!」

 飛行甲板への直撃弾もある。これじゃあ発着艦はもう出来ないだろう。

 ああ、良かった……先に全ての艦載機を発艦させておいて……。

 ──これならまだ戦える。

 敵は砲を、私は上空から爆弾を──構えた。

「……そうよ、提督さん────」

 ポツリ、と私は呟く──

「──私は幸運の空母なんかじゃない────」

 届く事の無い──

「──私は、幸運な空母でした」

 最愛の人への言葉を──。


……………………
…………
……

172 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/16 00:58:33.48 RtG3901/o 84/224

提督「────────!!」ガバッ

金剛「!! ──テートク!!」

加賀「……おはようございます」

提督「……………………」キョロ

提督「……どうして私はここに居る」

提督「金剛」

金剛「…………」

提督「加賀」

加賀「…………」

提督「天龍! 龍田!」

天龍龍田「…………」ギリッ

提督「島風!!」

島風「っ……!」ビクッ

提督「────おい」

全員「…………………………………………」

提督「──瑞鶴はどこだ」

提督「不知火、瑞鶴はどこに居る」

不知火「……不知火には、分かりません」

提督「川内、神通、那珂……瑞鶴はどこだ」

三人「…………」

提督「暁! 響! 雷! 電! 瑞鶴はどこに居るんだ!」

「わ、私は知らない……」ビクッ

「わた、私もよ!」

「っ! っ!」コクコク

「…………」フイッ

提督「……上官命令だ。知っているものは言え」

加賀「…………私が、言います……」スッ

提督「言え。全てを包み隠さず」

加賀「……瑞鶴は……………………瑞鶴は、まだ……あの海域に居ます……」

173 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/16 01:14:44.87 RtG3901/o 85/224

提督「…………!!」バッ

金剛「ダメッ──!!」ガシッ

提督「放せ金剛! 私はあの海域に戻るぞ!!」グッ

金剛「無理です!」

提督「何を馬鹿な事を言っている! 今からすぐにでも戻れば──!!」ググッ

金剛「もう遅いんです!!」

提督「……………………」

金剛「提督……気付きませんか……?」

提督「…………」

金剛「日付を……日付を、見て下さい……」

提督「…………」チラ

提督「……二日…………?」

提督「どうして二日も時間が過ぎている……?」

加賀「本来ならば……死んでいてもおかしくなかったそうです」

加賀「救護妖精が頑張ってくれたのと、提督の身体が強かった事、そして……」

加賀「瑞鶴が……撤退する私達への攻撃を、全て防いだから…………」

提督「……どうしてだ」

加賀「……………………」

提督「どうして瑞鶴が犠牲艦になった!? 私は全員に戦線を離脱しろと命じただろう!!」

提督「どうして……あいつは命令を背いたんだ……!」ギリッ

金剛「提督……」

提督「……分かっている。そうしなければ、全員が沈んでいたと……分かっている」

提督「八つ当たりをしてしまった……すまない……」

174 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/16 01:28:15.56 RtG3901/o 86/224

カチ、コチ、カチ、コチ──。

提督「……補給と入渠は、済ませているか」

金剛「補給は終わっています……けど、入渠は全員、まだです……」

加賀(……気付いていなかったなんて、相当なショックを受けているのね…………)

提督「全員、私に付きっ切りになってくれていたのか……ありがとう」

提督「……傷を負っている者は入渠を済ませろ。ゆっくりで構わん。普段よりもどれだけ時間を掛けても良い。最善の状態に仕上げろ」

金剛「提督、まさか──!」

提督「そういう訳ではない」

金剛「…………」ホッ

提督「……準備が出来次第、出発。旗艦は金剛、続いて加賀、天龍、龍田、島風──以上の五隻とする」

加賀「提督……?」

提督「あの時の艦隊で、あの海域へ行くぞ──」

提督「──瑞鶴へ、花を添えに────」

……………………
…………
……

182 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/16 23:50:21.95 qiVxUvxHo 87/224

加賀「……入渠、終わりました」

提督「加賀で最後の入渠だったな。早速出発……といきたいが」

島風「…………」コックリコックリ

提督「もう夜も遅い。明日の早朝に出発を変更しよう」

島風「──はっ! ね、寝てませんよ!?」ビクン

提督「いや、今日の所は休んでしまおう。私もまだ気持ちの整理がついていないようだ。また瑞鶴のようになってしまわないようにしよう」

五人「……………………」

提督「……すまない。失言だった。──今日は解散だ。各自、しっかりと休息を取れ」

…………………………………………。

コンコン──

提督(む。こんな時間に誰だ……? 金剛か加賀辺りだろうか)

提督「入れ」

ガチャ──パタン

不知火「夜分遅くに失礼します」

提督「珍しいな。どうした不知火」

不知火「お会いしたくて訪問しました。──明かりが消えていますが、もしかして眠られていたのでしょうか」

提督「いや、ベッドに入った所だ」

不知火「そうでしたか。好都合です。司令、ベッドに腰掛けるようにして貰っても良いでしょうか」スタスタ

提督「どうした。相談でもあるのか」スッ

不知火「……ある意味では相談かもしれませんね」チョコン

提督「なぜ私の前に座る。隣でも構わん」

不知火「いえ、こちらの方が楽です」ソッ

提督「待て」

不知火「はい」ピタッ

提督「お前は何をしようとしている」

不知火「奉仕をしようとしています」

提督「必要ない。自分の部屋へ戻れ」

183 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/17 00:10:42.77 6/B07a0Bo 88/224

不知火「不知火は、司令の行き場の無い感情を受け止めようと思って来ました」

提督「必要ないと言っている」

不知火「不知火のような愚か者でも、今の司令が悩み、苦しみ、自分を責めているくらいは分かっています。私は、それを取り除きたいと思っています」

提督「……それだけか?」

不知火「…………黙秘権はありますか」

提督「どうしても言いたくないというのならば黙っていて構わん」

不知火「……イジワルですね」

提督「……………………」

不知火「もう一つの本心は、これを機に司令と肉体関係を築こうと考えています」

不知火「そうでもしなければ……司令は私へ振り向かないでしょうから」

提督「肉体関係を持てばどうにかなると思うのは早計ではないか?」

不知火「傷心している今こそがチャンスと判断しました」

提督「……お前は正直だが、損をする性格だな」ナデナデ

不知火「司令に嘘を吐くなど、私の中では死刑に値する事ですから」

提督「そんな正直者の不知火に慕われて喜ばしいよ」

不知火「なら──」

提督「だが、それとこれとは話が別だ。私はそういうのを求めていないから部屋に戻りなさい」

不知火「……ご命令とあらば」

提督「命令でなければ聞けないのか」

不知火「…………本当に意地が悪いです」

提督「そういう人間だよ、私は」

不知火「──今日の所はこのくらいで引き下がります。ですが、また付け入る隙があると思いましたら誘惑に来ますね」

提督「出来れば大人しくしていて欲しいものだ」

不知火「それは出来ない相談ですね。──おやすみなさいませ」ペコッ

提督「ああ、おやすみ。良い夢を見ろよ」

不知火「司令に頭を撫でてもらいましたからね。良い夢を見れそうです」

ガチャ──パタン

提督「……なるべくいつも通りの調子にしているつもりだったが。私もまだまだ若いな……」

…………………………………………。

184 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/17 00:32:17.51 6/B07a0Bo 89/224

カチャ──パタム

「あっ、帰ってきたわ!」

「おかえりなさい、なのです」

不知火「あら、まだ寝ていなかったのね」トコトコ

「勿論だよ。非常に興味深いんだから」

「で、ど、どうだったの?」ドキドキ

島風(皆、ませてるなー)

不知火「陥落どころか何も出来なかったわ。やっぱり、この身体がいけないのかしら」ペタペタ

島風「そうかなー?」

不知火「あら、何か確信でもあるの?」ポフッ

「そうだね。司令官なら好きになってくれたら、相手がどんな体型だろうと愛してくれると思うよ」

不知火「けれど、やはり出る所は出ている方が有利じゃないかしら。金剛さんや加賀さんのように」

「挟めるしね!」

「ぶっ!?」

島風「雷ー……直接過ぎない……?」

「そう? 暁が昨日手に入れた本なんて──むぐっ」

「ダメダメダメダメ! 言っちゃダメェ!」

不知火「非常に興味深いわ」

「暁、その本を出して」

「うぅ……私も、少し……」チラチラ

島風「私も気になる……!」

「~~~~~~~~~~~~っ! ……はぁ…………分かったわ。見せれば良いんでしょ……」ゴソゴソ

「これよ」スッ

島風「? 思ったよりも普通の表紙だね?」

不知火「見えにくいわ。月明かりの下で見ましょう」ソソッ

「…………」ソソッ

「こういう雰囲気ってエロいわよね」ソソッ

「今日ばかりは雷の意見を全面的に肯定するよ」ソソッ

島風「わくわく」ソソッ

185 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/17 00:44:26.99 6/B07a0Bo 90/224

「こういうのはね、普通の表紙をしていても中身が凄いのよ。──だいぶ遅い時間だから、静かにね?」パラ

「!! はわわっ。も、目次にもえっちな言葉が……!」ドキドキ

「ハラショー。非常に興味のある単語が並んでるね」

「私はこの『イクってどんな感覚なの?』っていう特集が気になるわっ」

不知火「非常に非常に興味がそそられるわ」ワクワク

島風「私は触ってもくすぐったいだけだから、たぶん分かんないんだろうなぁ。興味はあるけどねっ」

「わ、私もきっと分からないと思います……でも、気になりますっ」

「じゃあ、開くわよ……わっ」パラリ

「絵が……! 絵が付いているのです……!」ドキドキ

「凄いわっ。こんなに仰け反ってるっ」

不知火(私と同じね。少し親近感が沸くわ)

(私とは少し違うみたいだね)

島風「わー……なんか体勢だけなら痛そう……」

「こ、こんなに仰け反っても痛くならないくらい気持ち良いんじゃないかしら……? たぶん……」ドキドキ

不知火「そうね。全身が性感帯になったみたいな感じになるもの」

「あら? なんだか凄く良い発言」ヂー

「け、経験者……!?」ドキドキドキ

島風「不知火、進んでる……!」

「月明かりでも顔が真っ赤なのが分かるよ」

不知火「…………顔から火を噴きそうになるからやめて……」

「え、えっと……説明が書かれていますので、読んでみましょう……!」

「あら、初めの頃と比べて大分積極的になったわね、電?」ニヤニヤ

「はぅぅ……恥ずかしいよぉ……」

不知火「……………………」ジッ

186 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/17 00:45:14.46 6/B07a0Bo 91/224

不知火「……すみません。不知火はそんな気分ではなくなったわ。寝るわね」スッ

「え?」

(……これは良くないね。瑞鶴さんが沈んでしまったから、暗くなるのを防ぐ為にこうやって餌を出したというのに……)チラ

(何があったのかしら……? 響と一緒にこういう話になるように持っていったのに……)

島風「…………ごめん。私もそういう気分じゃなくなったから寝るね」スッ

(これは……本に何か書いてあったな……)チラ

「…………暁ちゃん、ありがとうございました、なのです」スッ

「……………………」ギリッ

「……………………」フイッ

「────ぁ……」

『私たち女性の絶頂──イク感覚とは、死ぬ時の感覚に最も近い感覚であり、それは────』

(……なるほどね。確かに、これは失敗した)チラ

(…………瑞鶴さん。瑞鶴さんは、この海のどこに居るんだい……?)

……………………
…………
……

197 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/19 16:40:03.89 owzBtyRAo 92/224

提督「……本日は一回の出撃を除いて休みとする。金剛、加賀、天龍、龍田、島風を除いて自由にして良し。五人は時間を掛けて構わん。万全の準備をして船着場へ来るように。以上だ」

金剛(テートク……やっぱり元気が無いデス……。デリケートなお話デスから、いつものように接する事も出来まセンし……)

「──発言しても良いかい、司令官」スッ

提督「許可する。どうした」

「一人で背負い込まないでね。私達はいつでも司令官の味方で、いつでも司令官の為に行動するつもりだから」

提督「…………」

「…………」

提督「……ああ。私一人で背負い切れなくなったら、お前達を頼ろう」

加賀「背負い切れなくなる前に頼って貰っても良いかしら」

川内「そうそう! 無理をするのは駄目なんだからねー!」

提督「……そうだな。その通りだ」

提督「ありがとう、皆。私は、お前達の司令官であれて幸せだ」

…………………………………………。

開発妖精「……んー?」

建造妖精「どうしたのー?」

開発妖精「ねえねえ、アレ何だろ?」

建造妖精「アレって何ー?」

開発妖精「ほら、海に浮かんでる──あ、沈んだ」

建造妖精「なんか一瞬だけ見えたよー。なんだろあれー?」

開発妖精「母港に近付いてきてたように見えたけど、気のせいかな」

建造妖精「ゴミじゃない?」

開発妖精「ゴミだったらいきなり沈まないでしょうよ」

建造妖精「じゃあ何だろねー?」

開発妖精「んー、ちょっと気になるから潜ってみようか」

建造妖精「おおー、行動的だねー」

198 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/19 17:11:26.57 owzBtyRAo 93/224

開発妖精「最近は建造も開発も無いしね。暇だし身体も鈍ってくるし、良い運動だよ」テテテッ

建造妖精「私も行くよー」テテッ

開発妖精「えーっと……確かここら辺だったかな?」キョロキョロ

建造妖精「底は見えないねー」ジー

開発妖精「よーし、潜ろう! シュノーケルよーし! レッツゴー!」ピョーン

建造妖精「行こー行こー!」ピョン

ポチャン──

開発妖精(んー。やっぱりというかなんというか、少し潜るだけじゃあよく見えないなぁ)

建造妖精(おおー、船着場の底ってこんな風になってたんだー。思ったよりも海草とかボコボコした岩で一杯だねー)

開発妖精(──おおっ!! 錆付いてるけどなんか鋼材落ちてるじゃん! ねえねえ!)チョンチョン

建造妖精(ん、なになにー? 指差してるけど──おおっ!? 鋼材じゃん! 錆びてるけど)

開発妖精(拾いに行こう! 提督さんきっと喜ぶよ!)スッスッ

建造妖精(うんー? ……ふむふむ。拾いに行きたい、と。賛成だよー。提督さん喜びそー)グッ

開発妖精(それじゃあ拾いに──うひゃぁ!?)ビクゥ

建造妖精(え、どしたの? なんか凄い慌ててる)

開発妖精(アレ! アレ!!)ビシッ

建造妖精(また指差してる。何が──にゅおおぉ!?)ビックゥ

開発妖精(あれって深海棲艦!? 逃げよう!! 襲われるかも!)ゴボゴボ

建造妖精(ま、待って! 静かにしよう! 気付かれたら危ないってー!)シーッ

開発妖精(うっ……た、確かに静かにしないとマズイかも……。ま、まだ気付かれてないよね……?)チラ

開発妖精(……………………)

建造妖精(ちょっ、だからといって止まるのも駄目でしょー! ほら、早く陸に上がるよ!)グイッ

開発妖精(え……? あれって……もしかして……)バッ

建造妖精(ちょっとおおおおおおおおおおおお!!? なに近付いちゃってるのおおおおおおぉぉ!?)バッ

開発妖精(!! やっぱり……これ、深海棲艦だけど違う)

建造妖精(こんな傍にまで来たら危ないってばー!! ほら、早く上が──え?)

建造妖精(……ねえ、あの服って)チラ

開発妖精(やっぱり建造妖精もおかしいって思った。これは──)

開発妖精(いや、どうしてこんな所に……そんな事よりも、どうして深海棲艦みたいな帽子を……?)

建造妖精(……良く分かんないけどさ、どうする、建造妖精?)スッスッ

開発妖精(え、ええ……? 引き揚げようって言ってる? ……マジで?)スッスッ

建造妖精(あー。やっぱり引き揚げるべきだよねー。よーし! 私は足を持つから、開発妖精は腕をお願いねー!)グッ

開発妖精(完全に引き揚げる気だ……。何か考えがあるのかな……? とりあえず、私は肩辺りを持とう)ググッ

建造妖精(……あ、あれ? なんか上手く伝わってない? まあ、いっか)

…………………………………………。

199 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/19 17:40:56.57 owzBtyRAo 94/224

開発妖精「ふぅー……。とりあえず工廠の中に連れて来たけど……」

建造妖精「うんー?」

開発妖精「……どうするの」

建造妖精「え、私!? ってか、何も考えてなかったのー!?」

開発妖精「うぇえ!? 建造妖精が引き揚げようって言ったんじゃなかったの!?」

建造妖精「……どうする? っては聞いたつもりだったけど…………」

開発妖精「…………」

建造妖精「…………」

開発妖精「……とりあえず、本当にどうする? 提督さんに報告した方が良いんだろうけど……」

建造妖精「……私、言うの怖い。言わないのも怖いー……」

開発妖精「私もどっちも怖いんだけど……」

建造妖精「どうする……?」

開発妖精「どうしよう……?」

建造妖精「……一先ずは修理とかしよっかー。ボロボロなのは可哀想だよー……」

開発妖精「……うん」

…………………………………………。

提督「全員、集まっているようだな」

金剛「……ハイ。万全の準備が出来ていマス」

加賀「持っているユリは供花かしら。少し量が多い気がするけれど、何か理由があるの?」

龍田(まさか、提督さんは瑞鶴さんが好きだったとかかしら……?)

提督「艦娘全員と私の数だけ用意した。流石に十四本は多いかもしれんが……瑞鶴も、寂しくない方が良いだろう」

龍田(……浅はかな考えをしちゃった自分を殴りたいわねぇ~)

提督「そろそろ出発しよう。改めて言うが、旗艦は金剛で……────」

島風「? 提督、どうしたの?」

提督「……………………」ジッ

天龍「ん……? あれ、なんだこれ? 水の跡?」

金剛「まるで何かを引き揚げたかのような跡デスね? 工廠へと続いているようデスが……」

提督「行ってくる。待機していろ」タンッ

加賀「……何度見ても、本当に人間なのかと疑いたくなるような速さと動きね」

島風「なんであの距離を一足飛び出来るのかなぁ……。私でも出来ないよ……」

金剛「……あれが出来たら生物として異常デスよ、島風」

…………………………………………。

200 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/19 18:11:08.37 owzBtyRAo 95/224

提督「邪魔をするぞ」

二人「ッ!!」ビックゥ

建造妖精「て、提督さん!? どどどどしたの!?」

提督「少し気になる事が──」

開発妖精(あ、やばい。見つかった……)ビクビク

提督「…………おい」

二人「はっはいぃいぃいぃぃぃぃ!!!」ビクンッ

提督「どういうことだ、これは……?」

建造妖精「あああのえとこれはそのですね!?」ガタガタ

提督「…………答えろ……」

開発妖精「ひゃいぃ!?」ビクゥ

提督「何をした……何を知っている……」

建造妖精「わ、わわ私達は何も知らないよぉ!!?」ガタガタガタ

提督「ならなぜ……ここに──」

提督「──深海棲艦の姿をした瑞鶴が居るんだ…………?」

開発妖精「ほ、本当に何も知らないよ!! 私達はただ船着場の底から引き揚げただけで……!!」ビクビク

提督「船着場の、底だと?」ジィ

建造妖精「提督さん怖い怖い怖い!! その目怖いよぉ!! 瞳孔が開いてるってばぁ!」ガタガタガタ

開発妖精「何か沈んだのが、見えたから! それで──! ひ、引き揚げたらボロボロの姿だか、だから! 可哀想って思って!!」ビクビク

提督「…………」スッ

二人「ひぃッ!?」ビクンッ

提督「…………」ソッ

瑞鶴「……………………」ピクン

提督(……生きている。だが、どうしてこんな姿に…………)

瑞鶴「…………ぁ」

提督(深海棲艦は、艦娘の成れの果てという噂は本当だったのか……)

提督「……建造妖精、開発妖精」

二人「ハイィッ!!」ピシッ

提督「この事については一切の口出しを許さん。無かった事にしろ。これに関しての雑談も禁ずる」

二人「ハイッ!!」

提督「もしお前達から情報が漏れたと発覚した場合は……生皮を剥いだ身が重油ドラム缶に沈む事となる」

二人「ハイッ! ここでは何もありませんでした!!」

提督「よろしい。では、職務に戻れ」

二人「ハイッ!!」タタッ

提督(……さて、今日の出撃は中止にせねば。救護妖精へまた負担が掛かるな……)

…………………………………………。

201 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/19 18:40:37.84 owzBtyRAo 96/224

救護妖精「──で、こっそりここへ連れてきたと」スッ

提督「ああ。この状態では誰彼構わず見せる訳にもいかない」

救護妖精「その五人は混乱していたでしょうに……」カチャン

提督「初めはそうだったな。だが、私の表情から何かを察してくれたらしい。特に理由を聞く事もなく大人しく従ってくれたよ」

救護妖精「愛されてるねぇ」ペタペタ

提督「ありがたい事だ。──それよりも、瑞鶴は大丈夫なのか」

救護妖精「……あんまり言いたくないんだけどさ、分からない」

提督「そうか……」

救護妖精「傷とかその具合から考えて、沈んでもおかしくなかったと思う。工廠の妖精の話からすると意地でここまで帰ってきたんだろうけど……。今は、なんらかのショックで眠ってるんじゃないのかな」

提督「……なんであれ、帰ってきてくれたのは喜ばしい事だ。例え深海棲艦になったとしても、私の知っている瑞鶴には変わりない」

救護妖精「……………………」ギリッ

救護妖精「……提督、一つ良いかな」

提督「なんだ」

救護妖精「このまま、さ……瑞鶴が記憶を無くしたり、言葉が話せなくなってたりしたら……どうする?」

提督「────────」

救護妖精「提督の事を忘れちゃってたり……人形みたいに感情や言葉を失ってたら……どうする……?」

提督「…………その可能性が、あるのか……」

救護妖精「……………………」コクン

提督「……………………」

救護妖精「…………」

提督「……変わらん。私は、それでもあの瑞鶴と思って接する」

提督「感情や言葉を失っているのならば、それを踏まえた上で生活をしよう」

救護妖精「……提督の事を忘れてたら?」

提督「その時は……新しく、もう一度思い出を積み重ねていこう」

提督「この子が深海棲艦となったとしても、例え敵になってしまったとしても、私は最後までこの子の提督であろう」

救護妖精「……どうやっても、敵対しかしなかったらどうするのさ」

提督「……………………その時は、私がこの手で葬ろう。瑞鶴がこうなってしまったのは、私の責任なのだから……」

瑞鶴「…………っ」モゾッ

提督救護妖精「!」

202 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/19 18:48:20.30 owzBtyRAo 97/224

提督救護妖精「!」

瑞鶴「……………………」ボー

提督「……瑞鶴」

瑞鶴「!!」ビクン

瑞鶴「!」チャキン

提督「っ……!」

救護妖精(機銃を向けて、目から青いオーラ!? 駄目だってこれは!!)

救護妖精「提督! 逃げて!!」

提督「…………」

瑞鶴「……………………?」

救護妖精(……撃たない?)

提督「……私は、お前に殺されても仕方が無い事をしてしまった」

瑞鶴「…………」

提督「許してくれなど言わない。怨むのならば怨んでくれ。ただ、怨みで殺すつもりならば少しだけ待ってくれないか」

救護妖精「さっきと言ってる事が違うじゃないか提督!! 何ボーっと突っ立ってるのさ!?」グイグイ

瑞鶴「……………………!」ソッ

救護妖精(え……機銃を下ろして、オーラも消えた……?)

203 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/19 18:48:47.94 owzBtyRAo 98/224

瑞鶴「────」ニパッ

ギュゥ──

救護妖精「…………えぇ……?」

瑞鶴「♪」スリスリ

提督「……許してくれるのか」

瑞鶴「!」フルフル

瑞鶴「ぁー……ぇ、ぁぇ……?」

提督「……言葉が」

瑞鶴「…………? …………っ?」オロオロ

提督「いや……喋れないのなら構わない。──私達の事は分かるか?」

瑞鶴「!」コクコク

提督「……そうか。ならば、先に言わなければならないな」

提督「──おかえり。よく、私の所へ戻ってきてくれた」ギュッ

瑞鶴「!」

瑞鶴「…………」ジワッ

瑞鶴「~~~~~~!」ポロポロ

提督「そして、すまない……。お前をこんな目に合わせてしまった」

瑞鶴「────!」ブンブン

提督「いや、私の責任だ。だから、後で何らかの形で詫びさせてくれ。頼む」

瑞鶴「……………………」コクン

提督「それと、皆を逃がしてくれてありがとう。全員、無事に帰投している。瑞鶴のお陰だ」ナデナデ

瑞鶴「!」

瑞鶴「…………♪」

提督「瑞鶴も嬉しいか。ああ……私も、お前が帰ってきてくれて心の底から嬉しいよ……」ギュ

瑞鶴「…………!」コクン

救護妖精(……紙とペンを持ってきたけど、これって必要なかったのかな)

…………………………………………。

211 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/21 22:23:46.15 YiTZ2Tsto 99/224

提督「身体の方はどうだ? 何かおかしかったりするか?」

瑞鶴「…………」カキカキ

瑞鶴『うん。特に何もないわよ』スッ

救護妖精「ヲ級っぽい頭のそれと喋れなくなった事を除いたら問題なし、か……。一応、精密検査はするけどね」

瑞鶴『お願いします』

提督「後は……金剛達にどう説明するかだな」

救護妖精「言いにくいよねぇ……。自分達を守ってくれた艦娘が深海棲艦っぽい見た目になりました、なんてさ……」

瑞鶴『私もそれはちょっと……』

救護妖精「ああそうだ。頭のそれ、外したら良いんじゃない? それだったら目の色が金色になったくらいしか違わないしさ」

提督「……外せるのか、それ?」

瑞鶴「…………?」スポン

瑞鶴「!?」ビクン

瑞鶴「……………………」ワナワナ

提督「……外した本人が一番驚いているようだな」

救護妖精「なんというか……自分の身体の一部だけど認めたくないような認めなきゃいけないような顔してるね」

提督「……一先ず、これで瑞鶴さえ良ければ金剛達の前に姿を現しても問題は無いという事になるな」

瑞鶴『私も構わないけど……大丈夫かしら……? ちょっと怖いんだけど……』

提督「金剛達ならば受け入れてくれるだろう。むしろ、瑞鶴が帰ってきてくれた事に喜ぶ姿が目に浮かぶ」

瑞鶴『言われてみれば、確かにそうよね』

救護妖精「それじゃあ行ってやりな。あたしはちょっと資料とか探したり検査とかするからさ」スッ

提督「そうさせて貰おう。いつ頃戻ってくれば良い?」

救護妖精「今度は前と違って項目が多いから明日で良いよ。どうせ終わるのなんて深夜か朝方になるだろうしさ」

提督「……本当、苦労を掛けてしまうな」

救護妖精「何言ってるんだい。あたしは元々、生物方面に精通していた妖精だよ。これもやりたい仕事の内さ」

提督「感謝する」

救護妖精「良いよ良いよ。それよりも、早く皆を安心させてやりなー」トコトコ

提督「ああ。──では、行こうか」スッ

瑞鶴「!」コクン

救護妖精「あー、念の為に言っておくけど、あんまり頭のそれを皆に見せるんじゃないよ」

提督「時期を見て少しずつ話していくつもりだ。安心してくれ」

救護妖精「提督が言うのなら大丈夫だろうね。じゃあ、お大事にー」

…………………………………………。

212 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/21 22:51:40.13 YiTZ2Tsto 100/224

提督「──今日は、お前達に重要な知らせがある」

金剛(出発が無くなったと思ったら今度は各自部屋でスタンバイ……次は重大なお知らせ、デスか……)

加賀(何があるのかしらね……。少し怖いわ……)

提督「重要な事とは、瑞鶴の事だ」

全員「────!!」

提督「本日の出発が無くなった事は皆も知っている事だろう。その理由を言おう──」

提督「──入れ」

金剛「……え?」

ガチャ──パタン

瑞鶴「……………………」オドオド

加賀「!! ……瑞鶴? 本当に瑞鶴なの……?」

瑞鶴「!」コクコク

天龍「お、おい……本当に瑞鶴なのか……? どうして、ここに……?」

川内「皆の話じゃ、沈んだって……」

金剛「…………」フルフル

提督「……全員、今この時だけ羽目を外して構わん」

金剛「──瑞鶴ーッ!!」ギュゥ

瑞鶴「!!?」ビックゥ

金剛「良かったです!! 無事で本当に良かったです!」ギュゥゥ

瑞鶴「…………!」ワタワタ

加賀「バカ……。心配したのよ……?」ソッ

島風「帰ってきてくれたんだねー! 良かったよぉ!」ギュー

天龍「心配させやがってよぉ……! ぐすっ……何日、も帰ってこねぇし、よぉ……!」

龍田「あーもう……天龍ちゃんったら顔がくちゃくちゃよ」ソッ

「瑞鶴さん、おかえりなさい! それに、龍田さんも嬉し泣きしてるわよ。はい、ハンカチ」

「お、お化けじゃないわよね……?」ビクビク

「……プリヴィエート。無事で良かったよ」

「おかえりなさい、なのです!」

213 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/21 23:31:20.18 YiTZ2Tsto 101/224

不知火「……驚きです。絶望的な状況と聞いていましたが……流石ですね」

那珂「…………」ポカーン

川内「那珂は状況が良く分かっていないみたいだね……? おかえり、瑞鶴さん!」

神通「おかえりなさいませ。……確かに、私も状況がうまく飲み込めていません。ほら那珂、おかえりなさいって言いましょう?」

那珂「お、おかえりなさい……? 幽霊じゃ、ないよね……?」

瑞鶴「~~~~……」

金剛「? 瑞鶴……?」

提督「瑞鶴は、あの戦闘の影響で言葉を発する事が出来なくなったんだ」

金剛「え……そんな……」

提督「その為──金剛、島風、少し瑞鶴を放してやってくれ」

金剛「ハ、ハイ……」ソッ

島風「…………?」スッ

瑞鶴「…………!」カキカキ

瑞鶴『ただいま、皆!』スッ

提督「声が戻るまでは、こうやって筆談を取る形になる。あと、何らかの影響でか瞳の色も変わってしまっているが、気にしないでやってくれるか」

「あ、本当! 金色になってる!」

「なんだか、外国の方みたいなのです」

金剛「……………………」

金剛(でも……なんだかいつもの瑞鶴とちょっと違うような……?)

提督「各々で話したい事もあるだろう。本日の鎮守府の職務は全て無しとするが、羽目を外し過ぎないようにな。あと、瑞鶴も身体に負担を掛け過ぎないように」

全員「はい!」

瑞鶴『はい!』

…………………………………………。

214 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/22 00:01:44.35 oALnMlKjo 102/224

川内「──それじゃあ、皆おやすみー!」ブンブン

神通「提督、金剛さん、加賀さん、瑞鶴さん、おやすみなさいませ」ペコリ

那珂「おっやすみー! 夜更かしは駄目なんだからねー!」キラッ

ガチャ──パタン

金剛「オーゥ……いつの間にか日付を跨ぎそうデース」

提督「ふむ。夜も深くなる時間だ。今日はここまでにしておこう」

加賀「そうね。瑞鶴、部屋に戻りましょうか」

瑞鶴「!」ビクン

提督「すまない。今夜、瑞鶴は予定が入っているんだ」

金剛「あー……アイスィー……。そういう事ですか……」チラ

加賀「…………」ジッ

瑞鶴『ごめんなさい……』オズオズ

金剛「うーん……悔しいデスが、私は折れマス。ちゃんと優しくして上げて下さいネ、テートク?」

加賀「提督ならばその点は安心ですが……まさか一番最後にやってきた瑞鶴に負けるだなんて……」シュン

瑞鶴「…………?」

提督「……そういう意味ではない。ただ単に傍で寝たいという希望を叶えるだけだ」

瑞鶴「? ────!!?」ビクン

金剛「そ、そうなのデスか? 私はてっきり……でも、それも結構悔しいですネ……」

加賀「破廉恥な自分を叩きたいです」フイッ

瑞鶴『……何を考えてるのよ、二人共…………』

金剛「アハハ……。で、では! 私達はこれで失礼しマス!」ササッ

加賀「大丈夫よ。もしそのような関係になったとしても、私は自分を抑えられるわ」ススッ

金剛「ごゆっくりネ~!」

ガチャ──パタン

瑞鶴『いったい何を言っ』カキカキカ

瑞鶴「…………」

瑞鶴「……………………」ズーン

提督「まったく、あいつらは……」

瑞鶴「…………」チラ

提督「とりあえず寝るとしよう。明日は朝一で救護妖精の検査結果を聞きに行くぞ」

瑞鶴『はーい』

瑞鶴「! …………」ジー

提督「どうした?」

215 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/22 00:21:18.95 oALnMlKjo 103/224

瑞鶴『……二人の言ってた変な事、するの?』オズオズ

提督「身体も万全の状態でないのに何を言っているんだお前は……」

瑞鶴「!!」

瑞鶴『それって快復したら良いって』カキカキ

瑞鶴「……………………」

瑞鶴「…………」サッ

提督「……なぜ隠した」

瑞鶴『ひみつ!』

提督「……そうか」

瑞鶴「っ!」コクコク

提督「しかし、本当にこんな事で良かったのか? もっと他にもあっただろう」

瑞鶴『これじゃないとヤダ』

提督「…………そうか」

瑞鶴『提督さんは、ヤだった?』

提督「嫌という訳ではない。年頃の女の子が簡単に男と寝床を共にするのは良くないと思っているだけだ」

瑞鶴『私は提督さんだから良いのよ? そんなに硬いと離れられちゃうわよ』

提督「……………………」ジッ

瑞鶴「っ!」ビクッ

瑞鶴『ごめんなさ』カキカ

提督「……すまない」ギュゥ

瑞鶴「────?」

提督「私も変わるよう努力する……だから、離れてしまうなどと言わないでくれ。私は、お前達を沈めてしまうのだけはやりたくない……」

瑞鶴「……………………」

216 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/22 00:40:35.09 oALnMlKjo 104/224

瑞鶴「────」スリスリ

提督「……だから、お前も絶対に自らが犠牲になるような事はしないでくれるか」スッ

瑞鶴『うん。そんなに辛そうな顔をされたら、もう出来ないわ』

瑞鶴『あと、離れるって言うのは愛想を尽かされるって意味だったんだけど……』オズオズ

提督「…………」

瑞鶴「…………」

提督「……少し、その手の話に弱くなっていたようだ」フイッ

瑞鶴『あはは……。でも、それだけ沈めたくないって意志があるのは良い事だと思うわ』

提督「……ありがとう。少しは気が楽になる」

瑞鶴『じゃあ、気が楽になった所で寝ちゃう?』

提督「そうしよう。火を付けたら明かりを落としてくれ」

シュッ──パチン

瑞鶴「…………」トコトコ

ピタッ……

提督「どうした、入らないのか?」

瑞鶴「……………………」コクン

瑞鶴「……っ」スッ

提督「そんな端っこでどうする。落ちるだろう」グイ

瑞鶴「!!」ドキン

瑞鶴「…………っ」ドキドキ

提督「……放さないからな」

瑞鶴「っ! っ!」コクコク

提督「──もう日も替わる。火を消して寝るぞ」

フッ──

217 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/22 01:01:38.82 oALnMlKjo 105/224

 火を消して、周囲が真っ暗となった私の部屋──。その私の寝床には、珍しく来客が身を預けている。

 今その姿を見る事は叶わないが、腕の中の少女はどんな表情をしているのだろうか。

 人は、視界を奪われると、他の感覚が研ぎ澄まされると聞く。

 暗闇になってからすぐに、瑞鶴の小さい息遣いが聴こえてきた。

 私が抱き寄せた事で密着している小柄な身体からは、心臓の早い鼓動も感じられる。

 鼻腔をくすぐる石鹸の匂いも、普段の私のベッドでは絶対に嗅ぐ事のない甘く柔らかいものだ。

 そっと、腕の中に収まった瑞鶴の頭を撫でる。

 彼女はピクリと反応して身体を強張らせるも、すぐに力を抜いて私のされるがままになった。

 そのまま私は彼女の髪を指で梳くように撫で続ける。そうされるのが気持ち良いのか、声を出す事が出来ない少女は頬を私の胸へ摺り寄せて返事をした。

 懐いた猫のようだ──。

 ふと、そんな考えが頭に過ぎる。

 彼女がこの鎮守府に来た初日は、私の事をどことなく警戒しているような節があった。

 その後も私を恐れていたり、私を理解しようと接してきたりしていて、今ではこうやって自ら私と眠りに就きたいと言ってきている。

 嫌な事はそれなりにハッキリと言えるようなのもあって、やっぱり猫らしい。本物の猫と違うのは、気まぐれでも自由奔放でもない事くらいか。

 そう思うと、猫のようだと思うのは少し違うかもしれない。懐き方が猫と言う方が合っている。

 私に撫でられてから一分も経たない内に、瑞鶴の動きが鈍くなって体温が高くなってきているのに気付いた。

 ああ、この体温の高さは知っている。救護室で瑞鶴にしがみ付かれた時に味わった熱さだ。

 次第に、寝息も聴こえてくるようになってきた。深く、そしてゆっくりとした呼吸音に合わせて肩が上下に動いている。

 ベッドに入ってから僅かだと言うのに、瑞鶴は本当に寝付きが良いな。少し、羨ましくも思える。

 それとも、こうして頭を撫でられると瑞鶴は眠くなってしまうのだろうか? 今度、時間が空いた時にでも試してみよう。

(──む?)

 しかし、その考えはどうやら違うらしい。

 瑞鶴が眠りに落ちたと思っていたら、ゆっくりと彼女は上体を起こしたのだ。

 撫で方が悪かったのか、それとも別の意図があるのかは分からないが、非常にゆったりとした動きをしている。

 何をする気だろうかと思い、そのまま黙って手も出さないでおく。すると、彼女は私の腹の上に腰を落として馬乗りの姿勢を取った。

 私の鳩尾辺りに両手をそっと乗せ、滑らせるように私の肩へと指が登っていく。

 ……いったい何をする気なのやら。金剛と加賀に言われて、その気になってしまったのだろうか。

 その可能性は少なからずある。そして、それはあまり良くない事だ。

 瑞鶴の身体は今、病み上がりの状態に等しい。ほとんど轟沈していたようなものなのだ。いくら艦娘と言えど、その状態からすぐに回復する訳がない。

 けれど、私は拒絶出来なかった。

 大人しく寝ろ、と言いそうになったが、先程の瑞鶴の言葉を思い出してしまう。

 ──そんなに硬いと離れられるわよ。

 それはつまり、彼女はそうなる可能性を示している。

 今回の出来事で臆病になってしまった私は、離れてしまわれないようにしたい、と思っている。


 ──それが間違いだったのかも知れない。


 首に手を添えられたかと思うと、少女は変貌した。

「────ぁッ!?」

 両手で私の首を掴み、気道を完全に塞いでくる。その身は黄のオーラを纏い、左目からは青い炎のようなものが漏れ出すように発生していた。

 冗談や悪戯などではないと、すぐに分かる。

 手に込められている力は相当なもので、引き剥がすには相当な力が必要だ。それも、彼女の腕をへし折らんとするような力が。

 ほぼ反射的に、瑞鶴の腕を掴んだ。それでも、彼女は放さない。

 私を殺そうとしているのは本当だろう。

 力ある深海棲艦特有の黄オーラ。そして極少数だけ発見された、その中でも更に凶悪な性能を持った証の青い炎のような目を宿している。

 救護室で一瞬だけ見せた、あの姿だ──。

「アンナニ ワタシタチヲ シズマセナイト イッテオキナガラ……アナタハ ワタシヲ シズマセタ」

 ドス黒い、怨みや怒りを含んだ声が目の前の少女から発せられる。

「ドウシテ? ドウシテ ワタシハ アンナニモ イタイオモイヲ シナケレバナラナカッタノ?」

 腕に込められた力は更に増している。気道は完全に塞がれ、首の骨も軋んでいる音が鳴っている。

「ダカラ アナタニモ オナジクルシミヲ オシエテアゲル シンデシマウ クルシミヲ……」

 目の前の少女は、口角を上げてそう言った。

 死ぬ苦しみ──それは生きている者には永久に分からない。

 けれど、こうして殺そうとしてくる程には苦しいのだろう……。

 それを私は彼女に与えてしまった。体験させてしまった。

 だから、私は彼女の全てを受け入れなければならない。あの時に瑞鶴が機銃を向けても何もしなかったのは、その為だ。

 瑞鶴は敵になった訳ではない。私を怨んでいるだけだ。その怨みを晴らそうとして、ああして──こうして殺そうとしている。ただそれだけなのだ。

 だから私は受け入れた。だから私は受け入れる。だから私は殺されても良いと思っている。

 彼女にはその権利がある。私に殺されたこの少女に殺されても、何も文句など言えやしない。

 ──何よりも、悲しそうに涙を流しながら殺そうとしている彼女を、私は止める事などできない。

 ああ……意識が薄れてきた。目の前が霞んできている……。脳へ送られる血液も止まってしまっているのか、これは……?

 ……そうだな。どうせ死んでしまうのであれば、最後に彼女が喜んでいた事をしよう。

 私は瑞鶴を掴んでいた腕を放し、そのまま左手を少女の頭に乗せて、優しく撫でた。

 こんな事をしても、怨みが増えるだけかもしれない。私への憎悪が大きくなるだけかもしれない。

 けれど、もしこれで少しでも怨みが薄れてくれるというのならば、良いな……。

 ほんの一瞬、彼女の力が緩んだように感じたが、すぐに再び力が込められる。

 限界だ……そろそろ、お別れのようだな……。

(ごめんな、瑞鶴……。そして、私に付き従ってくれた皆、すまない……)



 最後に、彼女へ笑顔を見せた所で、ゴキンという嫌な音と共に私の意識は途絶えた──。



218 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/22 01:03:07.28 oALnMlKjo 106/224

瑞鶴「……………………」

瑞鶴「ナンデ……?」

瑞鶴「ナンデ、ソンナ……顔ヲ……」

瑞鶴「首……変ナ音が……」

瑞鶴「ワ、わタ……私…………?」

瑞鶴「ア…………ぁアアアあァぁああアぁああああああッッ──!!?!」

…………………………………………。

219 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/22 01:21:42.33 oALnMlKjo 107/224

金剛「────ッ!!」ガバッ

加賀「すぅー……すぅー……」

金剛「……提督?」スッ

カチャ──パタン

金剛「嫌な予感がします……提督の身に何かが……?」タッタッ

金剛「瑞鶴には違和感がありました……。まさか……瑞鶴が提督に……?」タッタッ

金剛「──いえ、そんな事ある訳がありません。私の考え過ぎです。……そうであって下さい」タッタッ

金剛「…………っ」ザッ

金剛「……………………」スッ

コンコン──

金剛「…………」

コンコン──

金剛「……………………」

金剛「……返事がありません。失礼します!」

ガチャ──

金剛「提督、瑞鶴……明かりを点けますよ」

パチン──

金剛「……瑞鶴?」

瑞鶴「────金剛、さん……わ、私……」

金剛「……どうして、瑞鶴は提督の上に乗っているのですか」

瑞鶴「どうしよう……どうしよう……!」

金剛「どうして、提督は目を覚まさないのですか」

瑞鶴「わた……私が……」

金剛「…………」ツカツカ

瑞鶴「この手で……提督さんを──」

金剛「──答えなさい、瑞鶴。そうすれば、命だけは助けてあげます」グイッ

瑞鶴「お願い、金剛さん……私が、私じゃなくなる前に……」

金剛「答えなさい!!」

瑞鶴「お願いだから……私を縛って……それで、早く救護妖精さんを……早く……お願い……!」

金剛「…………っ!」グンッ

ダァン──ッ!

瑞鶴「か、ハ……ッ!?」

金剛「……今はそれで置いておきます。ですが、何かあった場合はこんな事では済みませんからね」グイッ

瑞鶴「うぁ……ん、うん…………」ズルズル

金剛「救護妖精の所へ行きますよ。貴女を今一人で放置する訳にはいきません」

瑞鶴「ありが、とう……コホッ」フラッ

金剛「お礼を言われる筋合いもありません。艤装があれば今ここで立てなくなるまで撃っています。──行きますよ」グイッ

…………………………………………。

223 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/22 01:40:22.66 oALnMlKjo 108/224

救護妖精「……………………」スッ

金剛「……どう、なのでしょうか」

救護妖精「脈はそれなりに正常。呼吸もしている。瞳孔もちゃんと開くね。ここまでは普通の人と変わらない」

救護妖精「簡単な検査だから何とも言えないけど、何も問題が無いように見えるね。……何したのさ、瑞鶴」チラ

瑞鶴「…………」

救護妖精「……それと、そんなに鎖でぐるぐる巻きにされて痛くないの?」

瑞鶴「…………」

金剛「…………」ツカツカ

ヒュッ──ガッ!

瑞鶴「──ぁぐっ!」ドサッ

救護妖精「ちょっ!? 頭を蹴るのは良くないってば!」

金剛「答えなさい。貴女は何をしたのですか」グイッ

瑞鶴「ごめ、なさい……」

金剛「そんな言葉が聞きたいのではありません。何をしたのかを聞いているのです」

救護妖精(……本気で怒ってる。一周回って冷静な状態でキレちゃってるよこれは……)

瑞鶴「首、手を掛けて……力を入れて…………嫌な音がした……」

救護妖精「首……? まさか、頚椎を──!?」

金剛「こんな風にですか」ガッ

瑞鶴「────ぁッ!?」

金剛「こうして、提督の首を折ったのですか?」ギリッ

救護妖精「駄目だってば金剛さん!! 殺すのは絶対に駄目だよ!!」

金剛「安心して下さい。絶対に殺しませんから」スッ

瑞鶴「──ケホッ! カハッ! は、ぁ……はぁ……」

金剛「ああでも、拘束したままドラム缶に詰めて海を漂わせるのも良いかもしれませんね」

救護妖精「だから、そんな事をしちゃ──!!」

提督「──そうだ……そんな事は、してはいけない…………」

金剛「!!」バッ

救護妖精「提督……意識、戻ったんだ」

瑞鶴「…………」

金剛「提督! お身体は──お身体は無事なのですか!?」

224 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/22 02:02:33.64 oALnMlKjo 109/224

提督「首が痛むだけだ……。それよりも、瑞鶴を放してやってくれ」

金剛「いけません! 何をするか分からないのですから──」

提督「頼む、金剛」

金剛「う……」タジッ

提督「…………」

金剛「……おかしな動きを見せたら、どんな手を使ってでも止めますからね」

ジャラジャラッ……

提督「瑞鶴」

瑞鶴「ッ!!」ビクッ

提督「傍へ来てくれるか」

瑞鶴「え、と……」チラ

金剛「……何を見ているんですか。私は、貴女が変な事をしようとしたら止めるだけですよ」

瑞鶴「……ありがとう」トコトコ

提督「…………」

瑞鶴「…………」ビクッ

提督「そんなに怖がらないでくれ。私は怒ってなどいない。ただ、気になる事があるだけだ」

瑞鶴「…………?」

提督「あの時に意識はあったのかという事と、なぜ殺すのを躊躇ったのか、という事が知りたい」

金剛「…………」

救護妖精(殺すのを躊躇した……?)

瑞鶴「……………………」

提督「教えてくれるか?」

瑞鶴「……提督さんを殺そうとした時、私はちゃんと……意識はあったわ。私の意思で、私は提督さんを……殺そうと、首を絞めた」

金剛「……………………」ジッ

提督「すまない……。私がお前を沈めさせてしまったばかりに……」

金剛(沈ませた……?)

瑞鶴「でも! 私にも、分からないの……。提督さんのせいじゃないって……あれは仕方が無い事だったんだって……私が自分から犠牲艦になりに行ったんだって、分かってるのに……」

瑞鶴「なのに……あの時の私は、提督さんを凄く怨んでた……。あんなの、私じゃないって……思いたいくらいに……」

提督「人は、そんなに簡単に割り切れるものではない。いくら仕方が無い事だったからだと言っても、あの判断は私のミスだ」

提督「敵の攻撃を減らしつつ撤退しようなどど考えず、ただ全力で逃げれば良かった。そうすれば、こんな事にはならなかったかもしれない」

瑞鶴「そんなの、分からないわ……。そうしたとしても、状況が変わったとは言えないじゃない……」

提督「それでも、お前を沈めてしまったのは私の責任だ。だから、瑞鶴が私を怨む正当な理由はある」

瑞鶴「…………そんな、事──」

提督「そう思ってくれ。司令官とはそういうものだ」

瑞鶴「……はい」

225 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/22 02:20:42.55 oALnMlKjo 110/224

提督「次に、なぜ殺すのを躊躇った? あの時のお前は本気で私を殺そうとしていたように見えたが、なぜだ?」

瑞鶴「それは……あの時、提督さんに頭を撫でて貰ったら、訳が分からなくなっちゃったの……」

提督「訳が分からなく?」

瑞鶴「今まで一緒に過ごしてきた事とか……褒められて嬉しかった事とか、怖くても優しい事とかを思い出して……自分が何をしているのか分からなくなっちゃったの……。それで、気付いたら…………」

提督「……そうか」

瑞鶴「提督さん……ごめんなさい……」

提督「謝るな。お前は、何も間違った事をしていない」

金剛「…………!」

瑞鶴「だって……私は提督さんを──」

提督「自分を殺した相手を怨むのは当然だ。死とだけ言えば簡単だが、そのときの苦しみと痛みは生きている私達では分からないものだ」

提督「自分の身体が壊れていき、目の前のモノが判らなくなり、手や足……身体の末端から感覚を失い、そして自分自身が消えていく虚無感──。そんな苦しみと恐怖を与えてくる相手を許せる方がおかしいものだ」

救護妖精「…………」ギリッ

提督「だから、お前は何も悪くない」

瑞鶴「……………………」ジワッ

瑞鶴「……私は、提督さんを殺そうとしたのに……どうして、許してくれるの?」ポロポロ

提督「許しを請う立場なのは私の方だ。瑞鶴を殺して、そんな風にしてしまったのは私が──」

瑞鶴「違うよ……違う……そんな事ないんだから……私が……私が…………」

提督「そんなに追い詰めるな。命があるだけ有り難い。──救護妖精、首が痛むが検査をして貰って良いか」

救護妖精「──え、ああ、う、うん……すぐに取り掛かるよ」

救護妖精(死ぬ時の苦しみと恐怖、か……それを具体的に言えるって事は──)スッ

金剛(……提督は瑞鶴を許すどころか、有り難いだなんて……何か事情があるようですが…………)

金剛(私の怒りと苦しみは、どこへ向ければ良いのでしょうか……?)

…………………………………………。

241 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/22 23:48:07.48 s//YkrSno 111/224

救護妖精「……結果を先に言うよ」

提督「ああ。覚悟は出来ている」

救護妖精「頚椎損傷──症状は軽いのが幸いだね。主に足の付け根辺りから下だけが麻痺しているみたいだよ」

金剛「え……? それって……」

救護妖精「……そうだよ。提督は、もう二度と自分の足で立つ事は出来ない」

瑞鶴「二度、と……」

救護妖精「脊髄の神経は再生しないし、再生させる事もできない。だから、現在の医学じゃ絶対に治る事がない。……出来る事は、足が動かない状態でも暮らしていけるようなリハビリをするくらいしかないよ」

金剛「う、そ……。一生、ですか……?」

救護妖精「……一生だよ」

金剛「絶対に、治療できないのですか……?」

救護妖精「……出来ないね」

金剛「そん、な……」

瑞鶴「……………………」ペタン

提督「……そう、か。救護妖精でも無理……か……」

金剛「…………わた──」

瑞鶴「──私が、提督さんの足になるわ」

提督「瑞鶴……」

金剛「……………………」

瑞鶴「提督さんをこんな身体にしちゃったのは私だから……だから、私が提督さんの足になる」

金剛「……貴女には任せられません。私が提督の足の代わりになります」

瑞鶴「でも──!」

金剛「今回のような事がまた起きたらどうするつもりですか」ジッ

瑞鶴「う……」

金剛「それに……もし、もう一度こんな事が起こった場合……今度こそ私は貴女に何をするか分かりません」

瑞鶴「…………はい」

242 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/22 23:48:36.72 s//YkrSno 112/224

提督「金剛」

金剛「はい」ピシッ

提督「敬礼は良い。下ろせ。──そして、その役は瑞鶴に任せたいと思っている」

金剛「────え……?」

瑞鶴「な、何を言ってるの……?」

救護妖精「……正気?」

提督「ああ、正気だ」

金剛「……理由が、あるのですよね? 伺っても良いですか」

提督「……………………」

金剛「…………」

提督「……そうだな。もう隠すのは辞めておこうか──」

提督「──私は死にたがりなんだよ、金剛」

金剛「死にたがり、って……」

提督「一緒に出撃しているのがその証拠だ。砲雷撃戦に巻き込まれて死なないだろうか、と心の底ではいつも思っている。最初に資源を最大量で建造したのも、さっさと死にたかったからだ。戦力乏しく艦娘共々海の藻屑となったら、誰も自殺とは思わんだろう?」

提督「……私には、生きる目的も理由も無い。かと言って、自殺する理由も無い。ならば、死んでしまう状況を作り上げれば良い」

金剛「…………」

提督「その為に海軍学校からの誘いを受けた。その為にあの靴を使って共に出撃してきた。その為に──あの時、殿をやると言った」

金剛「……どうして…………?」

提督「理由は言っただろう。私は、生きる目的も──」

金剛「そこではありません!! どうして私達を置いて一人で死のうとしているのですか!? 置いていかれる私達の気持ちを考えなかったのですか!?」

提督「私は自分勝手な愚か者だよ。勿論、置いていかれるお前達の事も考えた。が、それを理解した上で死のうとしている」

提督「だが、お前達は死なせない。死の苦しみを味わわせるなど絶対にやらせはしない。私が死ぬ事で悲しむとしても、解体を施して長く生きていけば癒える傷だ」

金剛「…………そう、ですか……」

243 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/22 23:49:34.07 s//YkrSno 113/224

提督「幻滅しただろう? 私は、お前達が想像している強くてなんでも出来る提督ではない。ただ自分勝手で、そして弱い提督なんだ」

瑞鶴「……だから、私を傍に置くの?」

提督「本音を言えばそうだ。だが、もう一つの本音として瑞鶴の意見を尊重したいとも思っている」

金剛「……私には、分かりません。どうして死にたいと思うのか、どうしても分からないです……」

提督「理解できなくても仕方が無い。元より、理解されると思っていないから今まで黙っていた」

金剛「生きる目的も理由も無い、ですか……」

金剛(私が……生きる理由になれるのならば……──いえ、こんな汚い感情でなろうとするのは痴がましいですね……)

金剛(でも──)

金剛「──死なせません」

提督「…………」

金剛「私は、提督を死なせません。提督が私達を──私を死なせないと言いました。それならば、私も提督を死なせません」

提督「金剛……」

金剛「だから、私は食い下がります! 瑞鶴に何があったのか詳しくは分かりませんが、何かの間違いで提督を亡き者にしようとする人と二人にさせる訳にはいきません!」

瑞鶴「う……」

金剛「提督、どうしても瑞鶴を傍に置いておくと言うのならば──」

金剛(提督の生きる理由に、私はなれなくても良いから──)

金剛「──どうか、私も傍に置いて下さい!」

提督「……瑞鶴が私を殺そうとすれば、金剛が止めるという訳か」

金剛「そうです。これだけは例え提督の命令でも従いません」

提督「……………………」

金剛「……………………」

瑞鶴「…………」オドオド

244 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/22 23:50:09.07 s//YkrSno 114/224

救護妖精「……あーもう! なーに物騒な事を言ってるんだいアンタらは!」バァンッ

瑞鶴「ひっ!?」ビクッ

救護妖精「特に提督! 今回は提督の味方なんてしないからね!! 金剛さんは提督の傍に居なさい! 何があってもだよ!!」

金剛「え、えっと……はい」

救護妖精「あとさ、提督! 医者の前で死にたいだのなんだのって言うんじゃないよ! そんなの私が許すと思ってるのかい!?」

提督「…………」

救護妖精「運が悪かったね提督! 私は絶対にそんなのを許さない! 何回も拾った命を粗末にするんじゃないよ!!」

瑞鶴「…………っ」ビクビク

救護妖精「そして瑞鶴!!」

瑞鶴「ぴゃいっ!?」ビクンッ

救護妖精「…………」

瑞鶴「…………っ?」ビクビク

救護妖精「……明日の朝、救護室に来る事。提督と金剛も知って欲しいから、来るんだよ」

救護妖精「──深海棲艦の怨みだとかなんだとか、ちゃんと説明するからさ」

提督「……何を知っているんだ」

救護妖精「ここでは言わないよ。聞きたきゃ一回寝て頭を冷やしてから救護室に来るんだね」テクテク

提督「…………」

救護妖精「じゃあ、後は川の字で寝るなり何なりしな。金剛、頼んだよ」

ガチャ──パタン

245 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2014/07/22 23:51:12.28 s//YkrSno 115/224

金剛「…………」チラ

瑞鶴「ひっ……」ビクッ

金剛「……提督」

提督「どうした」

金剛「瑞鶴は、理由があって提督に手を掛けたのですよね」

提督「ああ。正当な理由だ」

金剛「……明日になったら、教えてくれますか?」

提督「話そう。約束する」

金剛「……分かりました。約束ですからね」

提督「ああ」

金剛「では、今回は私も大人しくします。──ただ、不安なのには変わりありませんので二人を監視させて貰います」

提督「言いたい事は分かった。許可しよう」

金剛「ありがとうございます。提督と瑞鶴には悪いのですが、私が二人の間を取ります。良いですね?」

瑞鶴「っ!」ビクッ

金剛「……どうなのですか、瑞鶴」

瑞鶴「そ、その……乱暴な事……しないのなら……」ビクビク

金剛「貴女がおかしな事をしないのならば、私も提督と神に誓って手を出しません。もし再び提督に手を出そうものなら……その時は貴女の口に35.6cm砲を突っ込んで水平線の向こうへと散って貰います」

瑞鶴「そ、そんな! 私もやりたくてあんな──!!」

金剛「返事は『はい』か『いいえ』のどちらかしか聞いていません」ジッ

瑞鶴「はいぃっ!」ビクゥッ

金剛「……よろしいです。では、眠りに就きましょう」

提督(明らかに私の影響を受けているな……。私が怒っている時はこういう風に見えるのか)

…………………………………………。



続き
瑞鶴「私は幸運の空母なんかじゃない」 金剛「?」【後編】


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