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863 : VIPに... - 2013/11/16 23:35:48.94 5fZulIWjo 626/771

中将B「大将殿。少し宜しいでしょうか」

提督「なにかね」

中将B「先日、大将殿が仰られていた正義についてなのですが……私だけでは大将殿のお言葉を理解する事が出来ません。どうか、私を導いてもらえませんか」

提督「ふむ……」

中将B「お願いします」

提督「中将、お前にとって正義とは何だ」

中将B「世の悪を許さないモノと思っております」

提督「では、侵略は悪か?」

中将B「勿論です。侵略・犯罪・殺生は悪です」

提督「そうか……では、一つの物語を語ろう」

中将B「物語、ですか?」

提督「少しばかり空想の世界になってしまうが聞いてくれ。中将、世界樹という言葉を聞いた事があるか?」

中将B「いえ、申し訳ながらありません」

提督「世界に命を与えている大樹と考えてくれ。その世界樹は星を護り、大地命を与え、人々にとって掛け替えのない存在だ」

提督「だが、その世界樹が枯れかかっているという状況になったとしよう。そうすれば大地は死に、星も死ぬ。つまり、人々も死んでしまうという事だ」

中将B「大層な樹ですなそれは……」

提督「なに。前に読んだ書物に書いてあったものだ。実際には無い」

提督「そして、その樹をどうしても復活させなければならないのだが、そこで派閥が二つに分かれてしまった」

中将B「派閥が、ですか?」

提督「うむ。その死にゆく世界を蘇らせる為に世界樹に頼らない新しい世界の在り方を創ろうとする者と、死にゆく世界を蘇らせる為に世界樹を転生させ、芽から育て直すという二つの派閥だ」

中将B「なぜその二つの派閥に分かれたのでしょうか」

提督「両者共にデメリットが有るという事と、もう一つはお互いが相手のやり方では世界を救えないと知っているからだ」

中将B「ふむ……」

864 : VIPに... - 2013/11/16 23:58:50.53 5fZulIWjo 627/771

提督「世界樹に頼らない世界の在り方を創ろうとする改革派は、世界樹が再び枯れる事となっても影響の出ない世界を目指している。世界樹が必要なくなれば世界が死ぬ事もないからだ。そして、その為には世界中を死なせてから利用しないといけない。その為に世界樹を滅ぼそうとしている」

提督「そして、芽から育て直そうとしている保守派は、世界を安定させ、恵みをもたらし、命を与える世界樹が必要不可欠ゆえに、新しく芽から育て直す。その為には世界中をなんとしてでも死守しなければならない」

提督「改革派は今後の為に世界樹を死なせようとする。保守派は世界樹を芽から育て直す為に世界樹を護る。中将B、これはどちらが正しい?」

中将B「……………………申し訳ありません。私はどう考えて良いのか分かりません」

提督「そうか。では、改革派の立場で考えてみてくれ。今後、二度と世界を危機へ陥らせないようにする為に動く者として、未練がましく死にゆく樹にしがみ付く相手をどう思う」

中将B「ふむ……人類を滅ぼそうとしている悪に思えます」

提督「ならば、逆ではどうだ。世界の要である世界樹を殺そうとしている相手をどう思う」

中将B「……世界を滅ぼそうとしている悪に見えます」

提督「では中将B。どちらが悪でどちらが正義だ?」

中将B「……分かりません。どちらが悪でどちらが正義なのですか?」

提督「どちらも正義だ」

中将B「そんな馬鹿な! どちらかが正しくないはずです!」

提督「いいや。間違いない中将B。どちらも自分達が正義なんだ」

中将B「……どういう事でしょうか」

提督「改革派も保守派も『自分達が正しい』と思っているからこそ争っている。正義を掲げ、相手を悪と見なし、各々の正しい考えを相手にぶつけている」

中将B「…………」

提督「中将B、正義は悪と戦っているのではない。正義はまた別の正義と戦っているのだ」

中将B「また別の正義……ですか」

提督「人、立場、事情、時間……様々な要因はあるが、正義というものは変わっていくモノ。今でこそ戦争は正義だが、平和な世界となった時では、戦争は人と殺し合う悪と言われるだろう」

中将B「……そうなりますな」

提督「理解は出来たか?」

中将B「はっ! 私のような凡愚でも非常に分かりやすいご説明でした! ありがとうございます!」ピシッ

提督「お前は凡愚ではない。頑固なだけで正しき事を愛する良き人だ」

中将B「勿体無いお言葉です。──時に大将殿。先程の話はどちらが勝ち、どちらが間違っていたのでしょうか」

提督「改革派と保守派がそれぞれ勝った二つの物語だった。が、どちらも間違っていた故に人類は滅んでしまったよ」

中将B「…………なんと悲しい事でしょうか……」

提督「そういうものだ、中将B。『勝った方が正しい』というのは如何なる時でも当て嵌まるモノではないのだよ」

中将B「……心得ておきます」ピシッ

提督「うむ」

……………………
…………
……

873 : VIPに... - 2013/11/17 19:00:11.74 4rCuyNc/o 628/771

戦姫「……朝礼に私達も呼ぶとは何かあったのですか?」ピキピキ

ヲ級「…………」ウトウト

提督「ああ。すまない」

戦姫「いえ……まだ、なんとか、抑えれています」ピキピキ

(怖いのです……。戦姫さんが凄い殺気を放っているのです……)ビクビク

提督「……この鎮守府に居る艦娘も、少なくなったな。戦姫とヲ級を含めても九人か……三分の一以上も居なくなっているのだから当然だが……広くなったな、この鎮守府は」

全員「…………」

提督「そこで私は一つ我侭を言いたい。今回は金剛を除く全員を連れて行こうと思っている」

全員「!」

提督「これ以上、仲間が減っていくのが耐えれない者も居るだろう。そして私も、何回も皆を連れて行くのは心が痛む……。だが、金剛にはまだやってもらわなければならない事がある為、残ってもらう」

提督「これはほぼ私の勝手な我侭だ。異論を唱える者は遠慮をせず言ってくれ」

全員「……………………」

提督「……居ないのか?」

全員「…………」

提督「そうか……。お前達はどこまでも私に尽くしてくれるな。ありがたい事だ」

提督「出発は三日後とする。それまでの間、やり残した事がある者は悔いの無いよう終わらせよ。以上だ。各自、自由に行動して良し」

……………………。

876 : VIPに... - 2013/11/17 19:24:41.33 4rCuyNc/o 629/771

──パタン

提督「お前達は戻らないのか?」

戦姫「お話がありますので残りました」

ヲ級「!」コクコク

金剛「私もお話したい事がありマス」

提督「……そうか。ならば、まず戦姫から言ってくれ」

戦姫「はい。──最後の時まで、私達をこの鎮守府に置いてもらえないでしょうか」

提督「どういった理由だ」

戦姫「私達はこの鎮守府で生まれ育ちました。なので、この鎮守府で最後を迎えたいのです」

提督「……悪い事をしてしまったな」

戦姫「なにがでしょうか?」

提督「お前達の仲間もここで最後を迎えさせるべきだった」

戦姫「それは仕方が無い事です。そうすると、ここに居る艦娘達がどうなっていた事か……」

提督「……そうか。そう言ってくれるとありがたい」

提督「良いだろう。許可する」

戦姫「ありがとうございます」ニコ

ヲ級「♪」ギュー

提督「──次に金剛、話したい事とはなんだ」

金剛「えっと……」チラ

戦姫「……なんだ?」

提督「ふむ……。戦姫、ヲ級、すまないが二人きりにしてくれるか」

戦姫「了解しました」ピシッ

ヲ級「!」ピシッ

ガチャ──パタン

877 : VIPに... - 2013/11/17 20:18:48.47 4rCuyNc/o 630/771

提督「……さて、どういった話だ?」

金剛「私にやってもらいたい事、が気になりまシタ。もし準備が必要でしたら準備したいデス」

提督「あれか。あれは体の良い言い訳だ」

金剛「……へ?」

提督「お前と最後まで一緒に居たい。ただそれだけの為に言った」

金剛「え……? ぇえ? そ、それってどういう事なのですか……?」

提督「どうもこうも、そのままの意味で受け取ってくれ」

金剛「…………」

提督「どうした。今日はやけに勘が鈍いじゃないか」

金剛「こ、これは夢……ですか……?」

提督「頬を抓ってやろうか。いや、それよりもなぜそんなに信じれない」

金剛「だ、だって……私のこの想いが叶うなんて……」

提督「なら、どうすれば信用できる。愛を囁けば良いか?」

金剛「あ、愛……を……!」クラッ

提督「……本当にどうした金剛。大丈夫か」

金剛「大丈夫じゃありませんけど、大丈夫です……」クラクラ

提督「……おかしな日本語になっているぞ」

金剛「あう……あうあぅ……」

提督「……どうやらあまり頭が働いていないみたいだな。自室で落ち着いてこい」

金剛「そ、そうさせていただきます……」フラフラ

提督「……危なっかしいな。送っていこうか」

金剛「い、いえ!! 大丈夫です……!」ピシッ

金剛「それでは私はこれで……」ソソッ

ガチャ──パタン

881 : うっわぁ。変なところで区切ってた。 - 2013/11/17 20:42:34.02 4rCuyNc/o 631/771

提督「……大丈夫か、本当に」

……………………
…………
……

金剛「…………」ボー

瑞鶴榛名「…………」

榛名(あの、瑞鶴さん……お姉様は時々ああなるのでしょうか……)ヒソ

瑞鶴(ううん……あんな金剛さん初めて見たわよ……)ヒソ

榛名(何があったのでしょうか……)

瑞鶴(さあ……。でも、何か悩んでいるのは間違いないわよね……。じゃないと朝からあんな風にベッドに寝転んだりしないわよ)

榛名(心配です……)

瑞鶴(どうしたら良いのかしらね……)

榛名(どうしましょう……)

金剛「ぅーん……」パタパタ

瑞鶴(あ……足をバタバタって……なんだかちょっと可愛いかも)

榛名(……なんだかお姉様のイメージがちょっとだけ壊れたかもしれません)

瑞鶴(良い意味で?)

榛名(はい。良い意味で)

金剛「…………ぅー」ギュッ

瑞鶴(今度は枕を抱き締めたわね)

榛名(おまけに猫のように丸くなってます)

瑞鶴(これは相当深刻ね……)

榛名(でも、声を掛けにくいです……)

……………………。

882 : VIPに... - 2013/11/17 21:24:09.46 4rCuyNc/o 632/771

「あと三日、か……」

「それで、皆ともお別れなのね……」

「…………」

「でも、仕方のない事なのです……」

島風「そうだよね……私達がいつまでも居ると、その艦娘のベースとなった子が……」

「……一応聞くけど、皆はやり残した事あるの?」

「私は……うん。心残りがあるから行動に移すつもりだよ」

「私も……実はあります」

島風「私はどっちかって言うとあるけど、どうしてもって程じゃないなぁ」

「……やりたかった事は一杯あるけど、それは今出来る事じゃないから私は良いわ」

「じゃあ二人だけね。私は響と電に協力するわ!」

「でも、響は分かるんだけど、電は何が心残りなの?」

「司令官さんがここに着任してからずっと居ますので、やっぱり何かとお話したいのです」

「なるほどね! でも、お話だけで良いの?」

「はい。二人きりでのんびりとお話したいのです。今夜、行こうかなと思っていました」

「今夜ね! 邪魔しないようにするわ! ──あとは響だけど、私達に出来る事はある?」

「ん、実はもうやる事は決まってるんだ。大丈夫だよ」

「あら、そうなの?」

「うん。だから、言葉だけ貰っておくよ。ありがとう」

「な、何をするつもりなの?」ドキドキ

883 : VIPに... - 2013/11/17 21:36:28.58 4rCuyNc/o 633/771

「秘密」

「ケチー!」

島風「暁、そんなんじゃレディになれないわよ?」

「もう諦めてるから良いもん!」

「開き直っちゃってるのです……」

「響が何をするのか分からないけど、私達は応援してるからね!」

「はいなのです。響ちゃん、頑張って下さいね?」

島風「でも、最後には教えて欲しいなぁ」

「島風、良い事を言ったわ。私にも最後には響が何をしたのか教えてよね!」

「まったく……。これは困ったな」

「あ、今のなんだか司令官っぽい」

「うん。やぱり影響されてるみたいだね」

「その口調も響ちゃんになら似合っているのです」

「ふん。どうせ私には似合わないわよ」

「はわわわわ! そ、そういう意味じゃないのです!」

「分かってるわよ。ちょっとイヂワルしたくなっただけよ」

「あう……」

島風「この中で一番お子様なのは暁かもね」

「ふーんだ」

……………………
…………
……

900 : VIPに... - 2013/11/18 00:45:49.81 cSiiceQ6o 634/771

コンコン──。

提督「入れ」

ガチャ──パタン

「電です。お時間、よろしいでしょうか?」

提督「構わん。それにしても、珍しいな。電がこんな時間に訪ねてくるとは」

「金剛さんと一緒に秘書をしようとした時以来ですね」

提督「そうだな……。最近の事なのに、昔の事のように感じるよ」

「本当です。本当に、あっという間だったのです」

提督「ああ……」

「…………」

提督「…………」

「…………」

提督「……話があるのではなかったのか」

「えっ、あ、あの……そのぅ……」

提督「どうした。なんでも言ってみなさい」

「えっと……本当に、なんでも良いのでお話がしたいだけなのです」

提督「……うん?」

「私は最初から司令官さんと一緒だったじゃないですか。だから、なんて言えば良いのか分かりませんが……何か話したくなったのです」

提督「なるほどな。そう言われたら私も何かを話したくなってきた」

「本当ですか! 良かったぁ」

提督「飲み物を用意しよう。長く話しても良いように、な」

「ありがとうございます! あ、お手伝いしますね」

提督「ふむ。ではお湯を沸かしてくれ。沸騰しきるまで頼む」

「はいなのです!」

……………………。

901 : VIPに... - 2013/11/18 01:10:53.71 cSiiceQ6o 635/771

提督「金剛には及ばないが、どうだ?」

「とっても美味しいのです! このクッキーと一緒に食べると、苦いのと甘いのが混ざって不思議な美味しさになるのです!」

提督「それは良かった。遠慮はせず好きなだけ食べると良い」

「あ、それでしたら包み紙で貰ってよろしいですか? これで皆と一緒にお茶をしたいのです」

提督「電は仲間想いだな」

「ありがとうございます、なのです!」

提督「さて、何でも話してくれとは言ったが、いざとなると話すネタに困るな」

「そうですね……。話したいのに何も思い付かないのです……」

提督「まあ、自然と話す事になるだろう。今はティータイムを楽しもうか」

「はいなのです」

「そういえば、司令官さんはどうして甘い物がダメなのですか?」

提督「建前では『喉を焼くような感覚が苦手』という事にしている」

「建前……ですか?」

提督「人には言えない秘密があってな」

「言えない秘密、ですか」

提督「ああ」

「あの……お聞きしてもよろしいですか?」

提督「……最後だしな。絶対に誰にも言わないと約束出来るのなら話そう」

「約束します」

提督「うむ。良い目だ」

提督「ならば話そう。一番最初から話せるが……────私は普通の人間ではないのだよ」

「ほえ?」

提督「正確には色々と身体を弄られた人間だな。普通の人間よりも色々と強化されているが、デメリットとして特定状況下でしか糖分を補給出来なくなっている。今の私に糖分は劇薬にも等しい」

「そうだったのですか……」

提督「……信じるのか?」

「え? 司令官さんの言う事を信じるのはおかしいのですか?」

提督「いや……普通では信じられない内容だからな」

「でも、本当なのですよね?」

提督「うむ」

「でしたら本当の事なのです」ニコ

903 : VIPに... - 2013/11/18 01:37:40.92 cSiiceQ6o 636/771

提督「……お前も、私の事を深く信じてくれているのだな」

「はい! でも、それはお仲間さんなら皆同じだと思いますよ?」

提督「そうか。……本当に私は、良い艦娘を持ったな」ナデナデ

「えへへ」

提督「そうだな。そういえば私はお前達の事を何も知らなかったな。少しお前達の事を教えてくれないか?」

「はいなのです! 何が知りたいのですか?」

提督「お前たち第六駆逐隊の事について──」

……………………。

「──はっ! もうこんな時間なのです!!」

提督「ふむ。思ったよりも時間の流れが速いな。今日はもう寝なさい」

「はいなのです」

「──あ、お願い事があるのですが、良いでしょうか……?」

提督「なにかね」

「一緒におやすみしたいのです」

提督「甘えん坊だな。良いぞ」

「えへへ。では、この食器を片付けますね」

提督「私もやろう。二人でやれば早いだろう?」

「はいっ!」

……………………。

提督「これで良いか?」

「はい。温かくて、とっても安心出来るのです」

提督「そうか」

「なんだか司令官さん、お父さんみたいなのです」

提督「随分と若い父親だな私は」

「そうですね。でも、似合ってますよ?」

提督「……褒め言葉として受け取っておこう」

「えへへ……お父さん」

提督「なにかね」

「呼んでみただけなのです。──おやすみなさい、司令官さん」

提督「ああ、おやすみ──」

……………………
…………
……

904 : VIPに... - 2013/11/18 02:03:01.99 cSiiceQ6o 637/771

提督「──本日の朝礼は以上だ。各自、自由に行動して良し」

……………………。

「…………」

提督「今日は響か。どうした」

「ん、少し話したいな、と思って」

提督「ふむ。紅茶を淹れようか」

「ううん。それには及ばないよ。一つだけ確認したいだけなんだ」

提督「なにかね」

「司令官は、金剛さんを選んだんだね?」

提督「さて。それは車の中で話している事だ」

「ふぅん……やっぱりそうなんだね」

提督「何か確信でもあるのか」

「金剛さんがいつもと違うからね。廊下を歩いてる姿がなんだか雲の上を歩いてる様子だったよ」

提督「…………」

「それで、私が聞きたいのは金剛さんを選んだ理由なんだ。確かに金剛さんは秘書だから接する時間が多かったし、他にも色々と勝つ要素はあったと思う」

提督「ふむ……。それを聞いてどうする」

「どうもしないよ。ただ知りたいだけ。好きな人の好みを知りたいのはある意味当然だよ」

提督「…………」

「ダメかな」

提督「……分かった、言おう。だが、誰にも言うんじゃないぞ。流石にこれは恥ずかしい」

「勿論さ」

905 : VIPに... - 2013/11/18 02:26:51.24 cSiiceQ6o 638/771

提督「そうだな……」

「…………」

提督「…………」

「…………」

提督「好き、だからかな」

「────!」

提督「金剛には悪いんだが、理由が無い。好きになったから好き。それだけだ」

提督「あまり納得できないかもしれないが、本当に理由が無い。好き──ただそれだけで好きになったんだ」

「…………」

提督「これが金剛を選んだ理由だ」

「………………そっか」

提督「どうした。そんなに驚いて」

「ん……。司令官と同じ事を言う人が居てね」

提督「ほう」

「その人も、好きになった理由が好きだから、と言っていたよ。気付いたら目で追いかけていて、その人の事ばかり考えていて、好きになったらしい」

提督「不思議な事もあるものだな。まさか私と同じような者が居るとは」

「本当だね。びっくりしたよ」

提督「じゃあ、その人に伝えてくれ」

「うん?」

提督「ありがとう、とな」

「────」

906 : VIPに... - 2013/11/18 02:54:07.37 cSiiceQ6o 639/771

提督「頼めるか?」

「……うん。必ず伝えるよ」

「ありがとう司令官。スッキリしたよ」

提督「すまんな」

「ううん。理由を聞けて良かったと思うよ。──それじゃあ司令官、私はこれで失礼するね」

ガチャ──パタン

提督「……まさか響と同じ理由とはな」

提督「…………辛いだろうな、響」

……………………。

「ただいま」

「おかえりなさい響」

「どうしたの? 残るなんて珍しいじゃないの」

「昨日言っていた事を実行したんだよ」

「ほ、本当ですか!?」

島風「どうだったの?」

「うん、吹っ切れたよ。訊いて良かったと今は思ってる」

「な、何を聞いたの?」

「司令官の好みさ。それだけだよ」

「なんて答えてくれたのですか?」

「ん、それは言えない。司令官との約束だからね」

「それなら仕方がないわね」

「…………」

島風「あれ、今回は文句を言わないの?」

「司令官がそう言ったのでしょ? それなら仕方がないわ」

島風「素直なのか素直じゃないのか分からないね、暁」

「うっさい」

……………………
…………
……

907 : VIPに... - 2013/11/18 03:08:45.07 cSiiceQ6o 640/771

コンコン──。

提督「入れ」

ガチャ──パタン

榛名「こんばんは」

提督「……どうやら、何か真剣に話したい事があるみたいだな」

榛名「はい。元帥様──いえ、提督の事についてです」

提督「なんでも話そう」

榛名「ありがとうございます。──では、提督は今どちらにいらしてますか?」

提督「……遺体すら残っていない。深海棲艦の攻撃で文字通り消滅してしまった」

榛名「……そう、ですか…………」

提督「沖へ出て海へ還した時、深海棲艦の群れが後ろから現れてな。私を攻撃せず、元帥の遺体に戦艦が主砲を撃った。あれでは遺体は欠片も残っていないだろう」

榛名「深海棲艦の群れ、ですか」

提督「ああ。結構な数だった。だが、あんなにも同時に沸くものなのだな。正直驚いた」

榛名「……その深海棲艦の数、憶えていますか?」

提督「いや、暗くて分からなかったが、どうした」

榛名「もしかしたら、ですけれど……その深海棲艦達は、提督の艦娘だったのではないかと思いまして……」

提督「ふむ……」

榛名「でないと、生きている貴方ではなくて死体である提督を撃つ理由が分かりません」

提督「……なるほど。それなら分かる──が、それを証明する事は出来ない」

榛名「はい……ですが、そう思わせて下さい」

提督「どうしてだ。お前は元帥を慕っていただろう」

榛名「……原因は、提督さんです」

提督「…………」

榛名「提督さんは私を本当の艦娘のように扱ってくれました。それも提督のようにではなく、優しく、私達の安全を第一に……。それは、提督とは真逆でした」

榛名「姉妹艦を失った子達は、泣いていました……。誰も提督を恨むような言葉は言いませんでしたが、やっぱり良くない感情は持っていたと思います……。現に私も、大破した霧島を無理して進軍させて沈んでいった時は、提督に僅かながら不信感を抱いてしまいました……」

榛名「でも……それが当たり前になってくると、慣れてしまったのかその不信感も抱かなくなってしまったのも事実です……。もし私が深海棲艦になって刷り込みが無くなったら、真っ先に提督を討ったと思います……」

908 : VIPに... - 2013/11/18 03:20:30.06 cSiiceQ6o 641/771

提督「……そうか」

榛名「ですが、やっぱり私は提督の艦娘です。最後は、提督と一緒に居たかったです……」

提督「……すまない」

榛名「いえ。死に目にも遺体にも会えなかったのは確かに辛いですが、私はこれで良かったと思います。でなければ今頃、私はこうして元気にしていなかったでしょうね」

提督「…………」

榛名「提督さん、お願いがあります。明日、提督を海へ還した場所へ私を連れて行ってくれませんか? 私は、最後をその場所で過ごしたいです」

提督「……分かった」

榛名「ありがとうございます」ニコ

提督「……やはり、刷り直しだと分かっていたんだな」

榛名「いえ、本当に騙されかけました。提督さんが私の提督かもしれない、と思ったのは事実です。でも、どんなにそう思っても、やっぱり私の心の奥に居たのは提督──元帥様でした。そして、私を助けようとしたというのも提督さんと救護妖精さんを見ていて分かりました。ですから、私はその優しさに縋ってしまったのです」

提督「気を遣わせてしまった。すまない」

榛名「謝らないで下さい。むしろ私は嬉しいんです。短かったですが、本当に提督さんの艦娘になれた気がして……とても充実した生活でした」

提督「……そうか」

榛名「私のお話は以上です」

提督「私も、何も言う事は無いよ」

榛名「分かりました。──では提督さん、失礼しました」ペコ

ガチャ──パタン

提督「……本当、上手くいかないものだな…………」

……………………
…………
……

提督「……この辺りがそうだ」

榛名「…………ここで、提督が……」

提督「ああ……」

榛名「……………………」

提督「…………」

榛名「……はい、憶えました」

提督「……もう少し居るか?」

榛名「はい……。もう少し……もう少しだけ…………」

提督「……分かった」

……………………
…………
……

918 : VIPに... - 2013/11/18 23:33:42.37 cSiiceQ6o 642/771

コンコン──。

提督(最後の夜……さて、今日は誰が来たのだろうな……)

提督「入れ」

ガチャ──パタン

瑞鶴「…………」

提督「瑞鶴……」

瑞鶴「…………」

提督「……座って話そう。ソファとベッド、どっちが良い」

瑞鶴「………………ベッド」

提督「分かった」

ギシッ──。

瑞鶴「…………」

提督「…………」

瑞鶴「……もう、会えなくなるのよね」

提督「ああ……」

瑞鶴「どうしても、なのかな」

提督「どうしても、だ」

瑞鶴「そっか……」

提督「…………」

瑞鶴「やだなぁ……」

提督「私も……出来ればしたくない」

瑞鶴「…………」

瑞鶴「提督さん……我侭言っても良い?」

919 : VIPに... - 2013/11/19 00:02:24.17 Yk7ZF34oo 643/771

提督「なんだ?」

瑞鶴「……最後に、エッチな事とかしたい」

提督「…………それまた、どうしてだ」

瑞鶴「覚悟……したいから……」

提督「すまないが、それは出来ない」

瑞鶴「……やっぱり?」

提督「予想、していたのか」

瑞鶴「…………ん、金剛さんの様子を見ていたらね」

提督(これで二人目……よっぽどなのか……)

瑞鶴「絶対に提督さんと何かあったなーって思ったの。それで、自分の我侭を言うついでにって……。自分でも嫌な性格をしてると思うわ」

瑞鶴「そっかぁ……金剛さんかぁ……」

提督「……すまん」

瑞鶴「謝らないでよ……惨めになっちゃう……」

提督「…………」

瑞鶴「……私ね、金剛さんになら負けても良いかなって思ってるの。だって、金剛さんの提督さんへの想いは誰にも──ううん、想いだけじゃない。他にもいっぱい負けてない部分があるわ。だから、金剛さんになら負けても納得できるの」

提督「そうか……」

瑞鶴「だけどね、まだ時間があるじゃない。今晩で、提督さんの気が変わるかもしれない。私は、それに賭けようと思う」

提督「…………」

瑞鶴「だから……せめて一緒に寝たい、かな……」

提督「……言ってる事が滅茶苦茶だぞ」

瑞鶴「うん、分かってる。私って提督さんや金剛さんみたいに頭が良くないからさ、自分の今の気持ちをぶつけるしかないのよね」

瑞鶴「──最後まで諦めたくない。ただそれだけよ、私は」

提督「……そうか」

瑞鶴「あ、勿論提督さんは拒否しても良いのよ? 無理矢理って私、嫌いだから」

926 : VIPに... - 2013/11/19 00:30:54.80 Yk7ZF34oo 644/771

提督「…………」

瑞鶴「…………」

提督「……すまん。それは出来ない。私を好いている子と眠るのは、金剛に対する裏切りにしか思えない」

瑞鶴「……妹としても?」

提督「妹としてもだ」

瑞鶴「………………そっか」

瑞鶴「──うん、分かった! ありがとね!」

提督「…………」

瑞鶴「まあそうよねー。知らなかったとはいえ妹と寝ちゃったのも本当はおかしいし、逆にお兄ちゃんと恋人になりたいって思う妹も充分おかしいわよねー」

提督「……瑞鶴」

瑞鶴「まあ、そういう事で。金剛さんを大事にしてあげなよ? おやすみー!」

提督「…………」

ガチャ──パタン

瑞鶴「────はぁ……」ソッ

瑞鶴「……フラれちゃった」ズルズル…ストン

瑞鶴「仕方がないわよね……そうよ、仕方がないのよ……。私が勝てる要素なんて、無かったんだから……」

瑞鶴「提督さんの為に全身全霊を掛けれているのは金剛さんだし……私が勝ってたのは戦闘能力って点だけ……。身も心も負けてる私じゃ……到底無理だった話なのよね……。提督さんも、金剛さんに一番の信頼と特別な感情を置いてる……」

瑞鶴「これじゃ勝てないわよね……。一ミリも入り込む隙が無いや……」

瑞鶴「お茶の淹れ方とか、戦術の本とか……金剛さんに借りて一杯読んだのになぁ……一杯、一杯勉強したのに……」

瑞鶴「少しでも振り向いてくれるように……今よりも気を向けてくれるように……勉強したのに……。大好きな提督さんと会う時間を減らしてまで……頑張ったのに……」

瑞鶴「──あれ? 提督さんと会う時間を減らしてまで……?」

瑞鶴「────────ああ、そっか。私が勉強してる間、ずーっと金剛さんが提督さんの側に居たのよね……」

瑞鶴「自分を磨く事に集中しすぎて……提督さんの事、蔑ろにしちゃってた……」

瑞鶴「ダメだなぁ私……。今頃になってこんな事に気付くなんて……」

瑞鶴「未練たらたらだなぁ……私のバーカ……」

……………………
…………
……

930 : VIPに... - 2013/11/19 00:56:30.13 Yk7ZF34oo 645/771

提督「全員揃ったな。それでは出発しよう」

「え? あ、あの司令官さん、榛名さんと戦姫さんとヲ級ちゃんがまだですよ?」

提督「三人共、別の場所で最後を迎えたいそうだ」

「そっか……残念だね……」

提督「世の中、上手くはいかないように出来ているものだ。──さて、行くぞ」

「…………」ジー

提督「雷、どうした。鎮守府をそんなに見て」

「……もう少しだけ見ていたいの」

提督「暗くて分からないんじゃないのか?」

「…………よし! 見納めできたわ! 行きましょう司令官!」

提督「……ああ」

……………………。

「ねえ司令官。結局、司令官は金剛さんを選んだの?」

提督「……そうだが、なぜか皆分かっているようだな」

島風「まー……昨日一昨日の様子を見てればなんとなくねー。廊下ですれ違う度にいつもと違うんだもん」

「ふわふわしているというかなんというか……そんな感じでしたね」

瑞鶴「部屋だともっと酷かったわよ。ずーっと布団で考え事しながらゴロゴロしてたり枕とか掛け布団をぎゅーって抱き締めたり、なんか唸ったりしてたもの。まるで、周りの事が見えてないようだったわね」

「……何を言ったんだい司令官」

提督「一緒に居たいと言った。夢か何かだと疑っていたから愛を囁こうかとも言ったな」

「ふ、ふわぁ……」

「普段の司令官からは想像もつかない台詞ね……」

島風「提督が愛を囁こうかって……本当に意外だよね」

「もし私がそんな事を言われたら、金剛さんと同じになる自信があるよ」

瑞鶴(良いなぁ……)

931 : VIPに... - 2013/11/19 01:11:11.24 Yk7ZF34oo 646/771

「ね、ねえ。金剛さんとはどこまでやったの?」ドキドキ

提督「……本当に、お前達は私と金剛の事についてしか聞かないな。全員同じか」

島風「あ、やっぱり軽巡の皆もだったんだね」

提督「どうしてそんなに知りたいかね……」

瑞鶴「……私も気になるなぁ」

「私も」

提督「……分かった。全部話す。だが、運転している間だけだぞ」

……………………。

利根「おお提督殿」

提督「ご苦労、利根。変わりはないか」

利根「うむ! 何一つおかしな事はないぞ! ──ふむ、今回はこの六人か」

提督「ああ。すまないが、また夜まで頼む。那智にもそう言ってくれ」

利根「心得た!」

「……カプセルの中に私達が居るね」

「は、裸なのです……」

「エロいわね! でも、このカプセルが緑色に光ってるからエロく見えないわね!」

瑞鶴「こら、そういう事を言わないの」

「はーい」

島風「触っちゃダメ?」

提督「ダメだ。何が起きるか分からん」

島風「はーい」

提督「では、私は総司令部へ行く。また夜に会おう」

瑞鶴「提督さん」

提督「なにかね」

瑞鶴「──いってらっしゃい」ニコ

提督「…………ああ、いってくる」

……………………
…………
……

932 : VIPに... - 2013/11/19 01:12:29.27 Yk7ZF34oo 647/771

提督「旧式の軍艦はどうだ」

中将A「やはり艦娘と違って図体が大きいので母港を拡張しなければなりませんな。たった五隻で場所の確保に一苦労しました」

中将B「私の鎮守府も同じです。艦娘を二十人抱えていたのでその感覚でいましたが、想像以上に場所を取ります」

少将「おまけに大きいので動きが鈍く見えて仕方がないですね。あれでは深海棲艦相手に一撃で屠られてしまうでしょう」

中将B「動かすのにも人員が沢山必要です。艦娘の偉大さが本当に良く分かりますな」

提督「だが、海で戦う術はあれしか残されていない。深海棲艦は艦娘と同様急速に減り続けているが、それは外国と国交回復の兆しとなっている。その時に軍事力が無ければ、たかが一個大隊で我が国の制海権は奪取されてしまうだろう」

中将A「救いなのは過去の資料が残されているという事ですな。あれが無ければ今以上に試行錯誤で海に浮かんでいた事でしょう」

提督「うむ。比較的平和な今の内に錬度を上げておけ。いつ動かす事になるか分からんぞ」

中将A中将B少将「はっ!」ピシッ

提督「このままでは艦娘が全員消えるのも時間の問題だ。もし次の会議までに全ての艦娘が消えてしまったら、即時私に連絡、そして哨戒、索敵をせよ。どこから敵が来るか分からんぞ」

提督「中将Aは母港改装を各鎮守府に連絡し、改装させろ。この原案を基に中将Aが指示を与えてくれ。中将Bは士官学校に連絡し、教育方針を変えてくれ。鎮守府に務める人間を育てるのではなく、旧式軍艦に乗れる教育をさせろ。少将は旧式軍艦での戦略、戦術、戦法を探せ。それを纏めて私に提出しろ。添削した後、各鎮守府へ送る」

提督「以上。今回の会議は終了だ」

……………………
…………
……

946 : VIPに... - 2013/11/19 23:29:10.38 Yk7ZF34oo 648/771

提督「……今日で、金剛を除く全ての艦娘が解放されるのだな」

救護妖精「そうだねぇ……なんでまだ金剛だけ解放しないのかは聞かないでおくよ」

提督「ありがたい」

救護妖精「それにしても、やっぱり艦娘の時の記憶は無いみたいだね」

提督「当たり前だろう。引用元に記憶が戻ると大変な事になる」

救護妖精「そうだけどさ……。やっぱり夢は見たいでしょ?」

提督「……そうだな。世の中、上手くいかないように上手く出来ている」

救護妖精「本当にねぇ……」

救護妖精「あたしも、どうしよっかねぇ」

提督「どうした。何か困った事でもあるのか」

救護妖精「んー? だってあたしって本当は艦娘専攻の医者だからさ、艦娘が居なくなったらちょっとだけ困るんだよね」

提督「人間相手は出来ないのか?」

救護妖精「出来ない事はないけどさ、憶え直さないといけないから時間も掛かるだろうねぇ」

提督「私相手に診察をしていたように思うが」

救護妖精「提督はホムンクルスじゃん。既に構造が人間と違うよ」

提督「どれだけ違うのやら……」

救護妖精「内臓とか結構違うねー。神経系も弄られてて筋繊維もちょっとだけ違うよ」

提督「……私の身体の秘密を知っているのは救護妖精だけだったな?」

救護妖精「そだね」

提督「そうか。──実は、専属の医師を探しているんだ」

救護妖精「へぇ。やっと自分の身体を大切にしようと思ってきたの?」

提督「そんな所だ。だが、一つ問題があってな。私の身体は特殊だから普通の医師では対処出来ないだろう」

救護妖精「うん。そだね」

提督「その専属医師の枠が一つだけ空いているんだが、そこに座ってみる気はないか?」

救護妖精「その言葉を待ってたよ」スッ

提督「うむ。これからもよろしく頼む」スッ

救護妖精「あいよ。私からもよろしくね」ニギッ

提督「さて……地下へ行こう。皆が待っている」

救護妖精「……あいよ」

……………………。

947 : VIPに... - 2013/11/19 23:40:59.43 Yk7ZF34oo 649/771

救護妖精「…………準備、出来たよ」

提督「……皆、今までご苦労だった」

全員「…………」

提督「現時刻をもって、瑞鶴・島風・暁・響・雷・電の六名を除籍とする。今まで、ありがとう」

瑞鶴「……これで、お別れなのよね」

提督「……そうだ」

「もう、会えないのかな」

提督「出来ない……」

「長いようで、短かったのです……」

提督「私もそう思う……」

「明るく見送ってよね! 司令官!」

提督「お前はいつも元気だな、雷」

「最後まで一人前のレディとして扱ってくれなかったわね」

提督「今回だけはレディとして扱おう」

島風「もう頭を撫でてくれないの?」

提督「最後に、全員の頭を撫でようと思う」

那智「……………………」

提督「そうだったなぁ。お前達は皆、これが好きだったな」スッ

提督「一番の最初から今まで、ずっと世話になってきたよ、電。お前が私の初めての艦娘で良かったと思っている」

「わふっ……。私も、司令官の艦娘になれて良かったのです」ナデナデ

提督「持ち前の明るさで、駆逐艦の皆をいつも元気付けていたのは知っている。影ながら支えてくれて、それに頼っていた。助かったよ」

「良いのよ司令官。私に頼ってって言ったじゃない」ナデナデ

提督「あまりお前の速さを活かせなかったな。それでも、不満一つ言わず付いて来てくれた優しさと健気さには感謝している」

島風「初めて提督と会った時のかけっこ、怖かったけど楽しかったもん。あれだけでも私は貴重な体験が出来たと思うしねっ。出来ればもう一回したかったなぁ。またかけっこしようね?」ナデナデ

提督「うむ。──暁はいつも空回りしていたな。一人前のレディなんだからもう少し落ち着いたらどうだ?」

「一人前のレディ……。──ありがと! 気を付けるわね」ナデナデ

提督「駆逐艦の中で一番問題があったが、一番可愛がったのは響だったな。どうだった、私は」

「…………うん。好きな気持ちで一杯なのは今でも変わらないよ。この気持ちのまま最後を迎えるのは、ある意味嬉しいね」ナデナデ

提督「私の艦娘の中で一番努力していたのは瑞鶴だったな。視力を落としてまで夜遅く本を読んでいたんだろう?」

瑞鶴「…………なんで気付いてるのよ。視力もちょっとしか落ちてないのに」ナデナデ

提督「戦術は良くなっていたが索敵範囲が多少落ちていて、遠くの物を見る時に少し目を細めていたからな。天龍達と演習した時から気付いていたよ」

瑞鶴「──あはっ。ズルいなぁ……。そんな事を言われたら、もっと好きになっちゃうじゃない」ポロッ

瑞鶴「でも……気付いてくれてたのね。ありがとう、提督さん……」ポロポロ

提督「……皆、今までありがとう────」

カチン──。

……………………。

948 : VIPに... - 2013/11/20 00:02:27.11 zMreAUVgo 650/771

ヲ級「!」

戦姫「む……。消え始めたか……」

金剛「……お別れですネ」

戦姫「そうだな。最後にこんな美味しいお茶をご馳走してくれて感謝している。艦娘といえど感情を抑えれたのも、最初に出会った時の印象が良かったからかもな」

金剛「最初?」

戦姫「本気であの方を助ける目をしていた。だから私は、歯向かってくるお前を殺さないように撃ったのだ」

金剛「……やっぱり、あれは手加減していたのですね」

戦姫「お前は私と似ている。──もし生まれ変わるのだとしたら、親しい仲になりたいものだ」

金剛「私もです」

ヲ級「♪」コクコク

戦姫「この部屋で最後を迎えれた事を、あの方に礼を言っておいてくれ。──さらばだ」ピシッ

ヲ級「!」ピシッ

金剛「ご苦労様でした」ピシッ

スゥッ──。

金剛「……きっと、また会えますよね?」

……………………。

榛名「──あ、身体が……」

榛名「……もう、お別れですね。もう少し、この場に居たかった気もします」

榛名「提督、いらっしゃいますか? 私も、もうすぐ消えてしまうようです。最後に提督のお側に居られなくて、申し訳ありませんでした」

榛名「黄泉の国でお会いする事がありましたら、提督が良ければまたお側に置いてください」

榛名「榛名は、いつまでも待っていますから……」

榛名「そして……提督さん、ありがとうございました。私はきっと、提督と会ってみせます」

榛名「提督……今、逝きますね────」

スゥッ──。

……………………。

952 : VIPに... - 2013/11/20 00:25:02.69 zMreAUVgo 651/771

「! 消えてきたね」

「な、なんだか不思議な感覚なのです」

「そうね……全然怖くないわね。鎮守府に居る時みたい」

「笑顔で司令官とお別れできるわ! 素敵な最後じゃない!」

島風「…………」

瑞鶴「? 島風?」

島風「っ!!」ダッ

提督「!」トンッ

ガシッ──。

島風「ぉゔッ! ……えへへ。また負けちゃった」

提督「私の勝ちだな」

島風「提督には一生掛かっても勝てそうにないなぁ」ニコニコ

提督「満足したか?」

島風「うんっ!」

「まったく島風ったら……」

「島風ちゃんらしいのです」

「いいなーいいなー!」

「私も走り出せば良かったかな」

瑞鶴「くすっ……。──提督♪」ギュッ

全員「!!」

提督「む」

瑞鶴「腕なら良いでしょ?」ギュー

提督「……困った妹だ」

全員「!?」

瑞鶴「ふふっ。提督、だーいすきっ!」

スゥッ──。

提督「……逝ってしまったか」

救護妖精「……逝っちゃったね」

那智「い、妹……?」

提督「そうだ。私の妹らしい。──さあ、介抱するぞ」

救護妖精「あいよー」

那智「……………………」

……………………。

955 : VIPに... - 2013/11/20 00:54:06.46 zMreAUVgo 652/771

「なにかしらここ? まるでマンガの危ない実験室みたいね!」

「はわわわっ。難しそうな機械があるのです!」

「本当にどこかしら、ここ」

「この服、裸の上から着てるみたいだね」ジー

「!?」

島風「うーん……ちょっと走り難いかも」タッタッ

「は、破廉恥だから走るのを止めなさい!!」

島風「えー……」タッタッ

榛名「え、えーっと……?」

大和「……広い場所ですね」キョロキョロ

提督「…………」

提督(……なるほど。動くと尚更、写真と同じ顔をしている)

翔鶴「走ってる子、こけて怪我をしなければ良いのだけど……」

瑞鶴「…………」

提督「…………」

瑞鶴「……ここどこ? それと、貴方は誰よ」ジッ

提督「……………………」

翔鶴「ず、瑞鶴。あまり刺激しない方が良さそうよ……?」

瑞鶴「まさかとは思うけど、この服を着せたのは貴方?」

提督「……そうだ」

翔鶴「…………」ビクビク

瑞鶴「ふーん……? まあいっか。状況とか色々説明はしてくれるのよね?」

提督「ああ。だがその前にスープを飲んでおくように。身体が弱ってるだろうからな──」

……………………。

957 : VIPに... - 2013/11/20 01:14:02.02 zMreAUVgo 653/771

瑞鶴「私達が艦娘の、ねぇ」

翔鶴「本当なのでしょうか……?」

大和「どうでしょうかね。判断できる材料が少ないからどうとも……」

榛名「迷ってしまいます……。けど、なんだか優しそうなので信じれそうですね……」

「わ、私は信じますよ?」

「私もよ!」

「私も。この人の目は嘘を言っていない」

「信用するの早くないかしら!?」

島風「かけっこして私に勝てるのなら信じても良いよ!」

「それはどうなのよ……」

提督「……お前は本当にかけっこが好きだな」

島風「あれ? 私の事を知ってるの?」

提督「…………ああ、知っている。かけっこ──いや、ほとんど鬼ごっこだったが二回したな」

島風「おおっ! だったらかけっこしよ! 今すぐ!!」ワクワク

提督「…………」チラ

救護妖精「…………一回だけだよ」ハァ

提督「一回だけな」

島風「じゃあここからあの壁まで競争ね! 皆はどっちが勝つと思う?」

瑞鶴「この人」

「同じく」

那智「間違いなくこの方だ」

救護妖精「うん。競わなくても分かるねぇ」

島風「即答!?」ガーン

大和「元気ね。……こっちの男性の方かしら。男性の方は皆、走るのが速いですし」

榛名「え、えっと……私も同じ意見です」

「じゃあ私もこっちの人!」

「私もなのです。なんだか走るのがとっても速そうなのです」

「え? えっと……じゃあ私も……」

翔鶴「私もです……。なんだか、ただならぬ実力を持っていそうです……」

島風「全員なのぉ!? ……よーしっ!! 絶対に勝ってやるんだから!!」

瑞鶴「じゃあ私が合図するわね」

提督「頼んだ」

瑞鶴「よーい、どん」ポン

958 : VIPに... - 2013/11/20 01:14:31.24 zMreAUVgo 654/771

島風「っ!!!」ダッ

「はやっ!!」

提督「…………」タンッ

榛名「跳んだ!?」

瑞鶴「────」

島風「──ぉゔっ!?」

提督「……到着」ペタッ

島風「え……ええぇぇぇええぇぇええぇえぇ…………」

提督「私の勝ちだ」

島風「参りました……」ガクッ

「諦めたわね」

「あ、あんなに実力の差を見せ付けられたら諦めるのも当たり前なのです……」

島風「……あなた何者? この私がまったく歯が立たないなんて……」

提督「ある鎮守府の提督だ」

大和「司令官という立ち位置は運動が出来ないというイメージがありましたけど、素晴らしいですね」

提督「何分、普通より頑丈な身体を持っているのでな」

翔鶴「す、凄いですね……」

瑞鶴「……人間の限界とか超えてそうね」

提督「島風、私は身体が弱いから何度も付き合えないが、また許可が下りたら挑戦するか?」

島風「する!! あんな負け方は悔しいもん!!」

提督「良い返事だ。──さて、私は鎮守府へ戻る」

那智「提督、今日も連れて帰るのか?」

提督「うむ」

那智「なら起こしてこよう。少し待っていてくれ」

提督「頼んだ」

瑞鶴「……どっか行くの?」

提督「さっき説明したように、解放した子は皆、私の鎮守府へ匿っている。その為の移動だ」

瑞鶴「ふーん。じゃあ、私もついて行って良い?」

翔鶴「瑞鶴!?」

959 : VIPに... - 2013/11/20 01:14:58.67 zMreAUVgo 655/771

提督「……普通は疑わないか?」

瑞鶴「なんか信用出来るんだもの。良いじゃないの」

提督「姉が困っているように見えるな」

瑞鶴「あっ……。翔鶴姉はどうする? 私と一緒について行く?」

翔鶴「え、えっと……その……」チラ

提督「無理は言わない。二人で決めると良い」

翔鶴「じゃ、じゃあ……瑞鶴、どうして行こうと思ったの?」

瑞鶴「さっきも言ったけど、信用してるからよ。この人は私達を大切にしてくれるって分かるもの」

「それには私も同意だね」

「目を見れば分かるのかしら?」

「それもあるけど、後はさり気ない気配りとかかな。さっきから私達の事を観察しているように見えるけど、どこかしら温かみのある目線だと思う。特にあの島風って子を気に掛けてるけど、それはさっき走ったからじゃないかな。私達の身体は弱ってるって最初に言ったしね」

提督「……相変わらず勘が良いな」

「ふぅん……。私は前に貴方と会った事があるんだね」

提督「ああ。少しは知っているつもりだ」

翔鶴「……………………」

瑞鶴「翔鶴姉が嫌だって言うのなら、私は行かないわよ」

翔鶴「……本当に、ただ単に信用できるから、なの?」

瑞鶴「うん。雰囲気というかなんというか……よく分かんないんだけどね」

翔鶴「…………じゃあ、私も行くわね。瑞鶴を一人で放っておけないもの」

大和「私も行って良いかしら」

提督「……構わないが、どうしてだ」

大和「なんだかこの二人を放っておけなくて……。ただそれだけなんですけどね」

提督「…………分かった。前回の三人と一緒に連れて行こう」

……………………。

972 : VIPに... - 2013/11/20 03:42:51.55 zMreAUVgo 656/771

金剛「提督……」パタパタ

コンコン──。

金剛「!!」ガバッ

金剛「──どうぞ」

ガチャ──パタン

比叡「金剛お姉様! 遊びに来ました!!」

霧島「お元気ですか?」

金剛「────あ、ぅ、イエース! 元気デース!」

霧島「それは良かったです。今、お時間よろしいでしょうか?」

金剛「ハイ! オッケー デース」

比叡「間宮さんにお願いしてオーブンを貸して頂きました! 甘い紅茶と一緒に食べると美味しいらしいクッキーです!」

金剛「ワオ! ビタークッキーですか! 久々ネ!」

霧島「そのままでもいけますが、飽きたらこちらのバタークリームを付けて召し上がって下さい」

金剛「サンキュー マイ シスターズ! すぐにアッサムを淹れてきますネー!」

……………………。

金剛「うーん! ベリーベリー グッド ネ! ミルクティーととても合いマース!」サクサク

比叡「本当ですか!? よかったぁ……私達、クッキーを作るの初めてだったんですよ」

金剛「バッチリ デース!」

霧島「あ、本当です。凄く合います」サクサク

比叡「紅茶のおかげで引き立っていますね!」サクサク

金剛「ノー! どっちかが抜けてしまうとこの味は楽しめまセン! 両方あってこそのこの味デース!」

比叡「金剛お姉様……。ありがとうございます!」

金剛(このクッキー、全く砂糖を使っていないようデス! これならきっとテートクも食べられますネ!)サクサク

金剛(────あ……提督……。もう何日かすれば、私は……)

霧島「? どうかなされましたか、金剛お姉様?」

金剛「──いえ! なんでもありませんネ! 前にケーキを作った時の失敗を思い出しただけデース!」

比叡「へぇ……お姉様も失敗ってあるんですね」

金剛「勿論ありますヨー? ケーキはとってもシビアな料理なのデース! 少し工程を間違えるだけですぐにダメになりマース」

霧島「そうなのですか? 次はケーキに挑戦しようと思いましたけど、もっと勉強してからにしますね」

金剛「ハイ! 頑張って下さいね!」

金剛(ビタークッキーですか……提督が帰ってくるまでに焼いておきましょう!)

金剛「ありがとう、比叡、霧島」

比叡「いえ! お姉様が喜んでくれたようで何よりです!」

霧島「はい! 私達も嬉しいですよ!」

金剛(──そして、ごめんなさい…………)

……………………
…………
……

986 : VIPに... - 2013/11/21 23:31:14.30 fwAWgJHNo 657/771

金剛(今から焼けば、提督が帰ってくる少し前にクッキーが焼けマスね。そろそろ準備をしまショウ)

コンコン──。

金剛(あら、また比叡と霧島でショウか?)

金剛「どうぞー」

ガチャ──パタン

瑞鶴「お邪魔するわね」

金剛「!!」

瑞鶴「あら、どうしたの?」

金剛「──いえ、なんでもありませんよ」

瑞鶴「ふぅん……?」

金剛「それよりも、どうしたのですか? こっち側は艦娘の寮ですヨ?」

瑞鶴「知ってるわよ。私はこの部屋を見てみたかったの」

金剛「ホワィ? なぜこの部屋のなのデスか?」

瑞鶴「ここ、前の私も使ってた部屋なんでしょ?」

金剛「────」

瑞鶴「ああ、そんな顔しないで? 別にどうこうするつもりは無いわ。……ちょっと、気になったのよ」

金剛「気になった……のですか?」

瑞鶴「うん。どんな感じだったのかなーってね。ついでに、面白い事とかないかなーって」

金剛「……面白い事?」

瑞鶴「そう邪険に扱わないで。あの人の顔を見たら、前の私がどれだけ大切にされてたのか分かるわよ」

金剛「…………」

瑞鶴「で、その子は私と同一人物でありながら別人だったんでしょ? 私の魂をなんとかかんとかって聞いたわ。だから、この部屋とかに来たら何か思い出すのかなって思ったの」

金剛「…………」スッ

瑞鶴「? そのベッドがどうしたの?」

金剛「瑞鶴──艦娘の貴女が使っていたベッドがそれデス」

瑞鶴「これが……ね」ソッ

988 : VIPに... - 2013/11/21 23:41:57.32 fwAWgJHNo 658/771

瑞鶴「…………」ポフッ

金剛「…………」

瑞鶴「……………………」

金剛「……何か、思い出しましたか?」

瑞鶴「…………ううん、何も。ただ単に寝心地の良いベッドって感想しかないわ」

金剛「……そう、ですか…………」

瑞鶴「やっぱりダメかぁ……」

金剛「……やっぱり?」

瑞鶴「うん。結構悲しそうな顔してたからさ、記憶が私に戻ったりしたら、あの人は喜ぶのかなーって思って」

金剛「…………」

瑞鶴「まあ、そんなに都合の良い話なんてないわよね。ごめんね、お邪魔しちゃって」スッ

金剛「……どこかに行くのですか?」

瑞鶴「行くって言うより戻る、ね。翔鶴姉と大和さんが部屋で待ってるから」

金剛「…………」

瑞鶴「それじゃ、バイバイ」

ガチャ──

金剛「──また!」

瑞鶴「?」

金剛「……また、来ても良いですから」

瑞鶴「…………」

瑞鶴「うん。また来るわね」ニコ

──パタン

金剛「…………」

金剛「……………………」ポフッ

金剛「……心、痛いです」ギュ

金剛「…………」

金剛「クッキー、作りに行きましょう……」スッ

ガチャ──パタン…………

……………………。

989 : VIPに... - 2013/11/21 23:54:40.80 fwAWgJHNo 659/771

金剛(もう少しで焼き上がるネ! 後は冷ませば完成デス!)

金剛「~♪ ~~♪」

提督「ん、ここに居たのか」

金剛「ふえぁ!? て、てて提督!? もうお帰りになられてたのですか!?」

提督「ついさっきな。どこに居るのか少し探した程度だ」

金剛「……お出迎え出来なくてごめんなさい」

提督「それは義務ではない。お前が鎮守府で待ってくれている事が私の幸せだ」

金剛「う……て、提督……そんな恥ずかしい事を真顔で……」

提督「嫌だったか?」

金剛「──私も幸せですっ!」ギュッ

金剛「てーとくぅー♪」スリスリ

提督「甘えるのは結構だが……時間と場所を弁えた方が良いんじゃないか?」

金剛「え?」

間宮「あ、あはは……」

金剛「────ご、ごめんなさい!!」バッ

間宮「えーっと…………お邪魔しちゃいました?」

金剛「そんな事ありません! ──あ、ク、クッキーが焼けましたので、もう出て行きますから!!」

間宮「ふふっ。冗談ですよ。仲睦まじくて、見ていて心が温かくなりました」

金剛「あう……あうぁうあぅぁぅぁぅ……」

……………………。

990 : VIPに... - 2013/11/22 00:07:19.49 umsHAw1bo 660/771

金剛「とても恥ずかしかったです……」

提督「そういう事もあるだろう。私はあんなに狼狽える金剛を見て満足した」

金剛「ぅー……イヂワルですよ提督……」

提督「うむ。私はいぢわるが大好きだ」

金剛「それが提督の本性なのですね……」

提督「嫌いになったか?」

金剛「……その言葉もイヂワルです。分かってて言ってますよね?」ギュッ

提督「勿論」ナデナデ

金剛「もう……」スリスリ

提督「ところでクッキーを作っていたようだが、妹達への物か?」

金剛「提督への物ですよ?」

提督「私に?」

金剛「はい。砂糖を使っていないクッキーです。比叡と霧島からヒントを貰いました! これなら提督も食べられると思

ったです!」

提督「……わざわざ私の為に?」

金剛「提督と一緒に楽しみたかったからです。提督の為だけではなく、私の為でもあるのです」

提督「…………」ナデナデ

金剛「~♪」スリスリ

金剛「てぇーとくっ」ニパッ

提督「…………」ピタッ

金剛「?」

提督「…………」ギューッ

金剛「わっ──。んー♪」スリスリ

金剛「提督……私、今幸せです」

提督「私もだ」

金剛「あと何日ですか?」

提督「……明日にしようと思っている。いつまでもお前を残していると、間違いなく疑われる事となる。そうなると、総司令部地下の存在も危うくなるだろう。そして、別の鎮守府でも無理に出撃させる者が現れるかもしれない……」

金剛「……そう、ですか」

提督「だから、今日は一日中一緒にいよう」

金剛「やった!」

金剛「──あ、でもそれでしたら今から寝ないといけませんよね? 夜に運転する訳ですから」

提督「そうだな。一緒に寝てくれるか」

金剛「勿論です!」

991 : VIPに... - 2013/11/22 00:19:30.35 umsHAw1bo 661/771

提督「火を灯していてくれ。私は部屋を暗くする」ツカツカ

金剛「はーい」

シャッ──パチン……。

金剛「提督ー、こっちでーす」

提督「ああ、お前の姿が見えるよ」ツカツカ

金剛「えへへー……」

提督「…………」モゾモゾ

金剛「火、消しますね」

フッ……。

提督「……真っ暗だな」

金剛「まるで、私達の未来みたいですね」

提督「まったくだ。一筋の光すら見えん」

金剛「……どうして、こうなったのでしょうかね」

提督「神が居たとしたら、随分と性格の悪い奴だな」

金剛「提督は神を信じないのですか?」

提督「生憎とな。事実、私は艦娘と深海棲艦の命を大量に屠っている。概念だけで言うならば私は歴史上最悪の殺戮者だろう。こんな者を、神が放っておく訳がないだろう?」

金剛「……確かにそうですね。平和の神がダーインスレイヴを片手に提督へ襲い掛かってもおかしくありません」

提督「間違いなく、ヴァルハラへは逝けないな」

金剛「う……。それでしたら私もヴァルハラ逝きを蹴って提督について行きます」

提督「ほう。どこまでも付いて来てくれるのか」

金剛「例え神に縛られようと、必ず抜け出してついて行きますよ」

提督「嬉しい限りだ」

金剛「……待ってますからね?」

提督「いつまでだ?」

金剛「いつまでも」

提督「案外すぐに逝ってしまうかもな」

金剛「それはダメです。ちゃんと天寿を全うして下さい」

提督「仮に私が別の女性を愛したらどうする」

金剛「……遠くで見守ります。危ない時だけ、助けに現れますね」

提督「重病だな」ナデナデ

金剛「不治の病ですものね」スリスリ

提督「…………」

金剛「…………」

提督「──離れてくれるなよ?」ギュ

金剛「──勿論です」ギュ

……………………
…………
……

992 : VIPに... - 2013/11/22 00:32:46.15 umsHAw1bo 662/771

利根「おお提督殿! 今回は早いのう」

提督「ご苦労、利根。……色々と事情があってな」

金剛「…………」

利根「ふむ。事情があるのならば仕方がなかろう」

利根「ああ、そうそう。あの島風という子が提督殿とかけっこしたがっておったぞ」

提督「ふむ……。許可が下りた時に勝負するとしよう」

提督「さて……私はそろそろ行く」

金剛「……テートク」

提督「金剛はここで待っててくれ。また夜になったら来る」

金剛「…………はい」

利根(ふむ)

……………………。

利根「金剛、といったかの?」

金剛「え? ハイ。私は金剛ですケド、貴女は利根さんでよろしかったでショウか」

利根「うむ! ちと聞きたい事があったので話し掛けた。隣、良いかのう?」

金剛「ハイ……」

利根「失礼する。──我輩は人を探るのが苦手なので単刀直入に聞くが、お主は提督殿と何かしら特別な関係なのかのう?」

金剛「……凄い観察眼デスね。その通りデス」

利根「我輩はそれしか能がない。まあそれはさておき、後悔はしておらんのか?」

金剛「……していマス。ケド、覚悟も出来ていマス」

利根「ほう?」

金剛「私が我侭を言えば、沢山の艦娘や深海棲艦が苦しい思いをしマス。私はそんなの、嫌デス。それに……テートクの望む事は私のやりたい事でもありマス」

金剛「私は戦う為に生まれてきたのに、テートクは私を──私達を道具として扱わず、一人の人間として扱ってくれまシタ。これだけでも幸せな事なのに、もっと大きな幸せも貰っていマス。これ以上の幸せを望むのはバチが当たるというものデス」

利根「ふむ。立派な考えじゃな」

金剛「全然立派ではありまセン。今でも、どうにかしてテートクと離れ離れにならずに済む方法を探していマス」

利根「お主はよっぽど提督殿が好きみたいだのう。我輩も気に入っている故、少しばかり嫉妬してしまうぞ」

金剛「ふふっ。テートクの良さがどんどん広まっていマース! 嬉しい限りデス!」

利根「その考え方もかなり珍しい。お主の事も気に入った!」

金剛「今から私達はフレンド ネー!」

利根「うむうむ! 良い友を持てたわ!」

金剛(──提督……あと、もう少しなのですね…………)

……………………
…………
……

993 : VIPに... - 2013/11/22 00:44:38.67 umsHAw1bo 663/771

提督「引継ぎの内容は以上だが、意見のある者は居るか。……………………居ないようだな。各々の役割をしっかりと確認しておく事。解散」

少将「……大将殿、お一つ宜しいでしょうか」

提督「なにかね。何か意見があったのか」

少将「いえ、先程の議論ではなく、大将殿のご退任についてです」

中将A中将B「!」

少将「大将殿の手腕はとても素晴らしいものと思えます。我が国としても失うのには非常に惜しいはずです。どうしてもご退任なされるのでしょうか」

提督「この考えは変わらん。今の私は病を患った老人のようにいつ死んでしまうか分からない。少将の言うようにどれだけ役立てたとしても、死んでしまうと今以上に大変な事になる。死に損ないはとっとと身を引くべきだ」

少将「……しかし」

提督「感情論も大事だが、それに振り回されるのも良くないぞ少将」

少将「…………はい」

提督「これからの未来を切り開いていくのはお前達だ。私ではない」

提督「恐らく、私が退任してからお前達は苦労し、お互いの意見をぶつけ合うだろう。だが、そのぶつけ合いが争いではない事を祈る。お互いの意見を第三者の視点で考え、そして判断してくれ」

中将A「……それでも決着が付かなかった場合はどうするのでしょうか」

提督「どうしても決着が付かないのならば、この国が滅ぶだけだ。以前話した、世界樹の物語のようにな。お前達ならきっと上手くやってくれるだろう」

中将B「確証があるのでしょうか?」

提督「いいや全く無い。私の勘だ。私は未来など分からんからな」

中将A「……まったくもって不思議なお方ですな」

提督「よく言われるよ。──では、最終確認として最低でもあと一回はここへ来る。その時までに各担当する引継ぎをしっかりと進めておけ」

……………………
…………
……

8 : VIPに... - 2013/11/22 01:26:12.66 umsHAw1bo 664/771

金剛「……とうとう、この時が来てしまいましたね」

提督「ああ……」

金剛「提督、胸が張り裂けそうです」

提督「私もだが……覚悟は出来たのではないのか?」

金剛「出来てますよ。でも……痛いものは痛いです」

提督「そうか……少しでも楽にさせれたら良いのだが」

金剛「……こればかりは難しいですね」

救護妖精「……準備、出来たよ」

提督「分かった。私が合図をしたら……最後の一仕事を頼む」

救護妖精「……あいよ」

金剛「……もう、ほとんど時間は残されていませんね」

提督「そうだな……。何もかも、消えてしまうのだな」

金剛「そうです……。あんなに提督の事を想っていた瑞鶴と同じように、私も提督の事を忘れてしまいます……。しかも、その『私』は私ではなく、私に似ている『誰か』です……」

提督「…………」

金剛「……提督。約束を憶えていますか?」

提督「ああ、憶えているよ。最初はしっかりと寝る約束だったな」

金剛「あの後、しっかりと寝ましたか?」

提督「結局、三時まで仕事をしていたな」

金剛「やっぱり……。早速約束を破ってたのですね」

提督「だが、途中で仕事を辞めて寝たぞ。最低でも三時間は寝るべきだと判断した」

金剛「もう……。始めっから無茶をしていたのですね。……約束は守ったと見做します」

提督「ありがたい。──次に約束したのは、金剛の姉妹艦を見つけるというものだったな」

10 : VIPに... - 2013/11/22 01:39:37.89 umsHAw1bo 665/771

金剛「提督はしっかりと、比叡、榛名、霧島と逢わせてくれました」

提督「艦娘として逢わせてやりたかったのが心残りだ」

金剛「いいえ。榛名は悲しい結果になりましたが……比叡と霧島は争いに身を置く必要のない状態で逢わせてくれました。二人でも妹達が苦しい思いも悲しい思いもしなくて良かったのは、とても嬉しかったです」

提督「そう言ってくれるとありがたいよ」

提督「次の約束は、瑞鶴によって破る形となってしまったな」

金剛「でも、その後はずっと話してくれました」

提督「最後を除いて、な」

金剛「その最後もちゃんと話してくれたではありませんか。約束はしっかりと守ってくれました」

金剛「その次の約束は、まだ言ってもらってませんでしたね?」

提督「ああ。強い面はもう知っているだろうから省く」

提督「私の弱い面は、自分勝手で、尚且つ自分の命を軽視している点だ。こう見えても、私は死にたがりなのだよ」

金剛「……まったくそうは見えませんね」

提督「一緒に出撃していたのがその証拠だ。砲雷撃戦に巻き込まれて死なないだろうか、と心の底ではいつも思っていた。最初に資源を最大量で建造したのも、さっさと死にたかったからだ。戦力乏しく艦娘共々海の藻屑となったら、誰も自殺とは思わんだろう?」

金剛「まったく何を考えていたんですか……。…………でも、そのおかげで私達は出会えました」

提督「ああ。あの感情も一概に悪いと言えないと思っている」

金剛「ぅー……。それはなんだか納得出来ません……」

金剛「──あ……次の約束は、守れませんね……」

提督「お前は沈んでいないじゃないか」

金剛「でも……沈むのと変わらないじゃないですか……」

提督「戦姫を相手にしても沈まなかったのは、評価出来るんじゃないのか?」

金剛「あれはわざと沈めなかったらしいです……」

提督「……そうか。だが、結果的にお前はここまで来て沈まなかった。約束は守られているよ」

金剛「……はい!」

11 : VIPに... - 2013/11/22 01:51:58.50 umsHAw1bo 666/771

提督「次の約束だが……アレはどう判断するべきだろうな」

金剛「ちゃんと守ってくれたと私は思っています」

提督「そうなのか?」

金剛「しっかりと私達を頼ってくれましたし、出来る限り無茶はしなくなってくれました。私、あの時は本当に怒っていたのですよ?」

提督「鬼気迫る中、優しさがあったな。あのビンタは二重の意味で痛かった」

金剛「心にも、ですか?」

提督「心にも、だ。あの時から私の心は動かされ始めたのかもしれないな」

金剛「ふふっ。ビンタをした甲斐がありました」

提督「その後の約束はしっかりとこなしたよな?」

金剛「寝ていたと思ったらいきなり目が覚めるのですから、ビックリしましたよ?」

提督「疲れが取れたという証拠だ」

金剛「もう……」

提督「榛名に関したあの約束は、無効という事で良いのかな?」

金剛「はい。榛名は消えてしまうまで生きました。──提督のおかげです」

提督「いや、あれはバレていたようだ。本人の意思の強さのおかげだ」

金剛「……まったく気付きませんでした」

提督「妹に一枚やられたな」

金剛「……この問題をすぐになんとかするという約束は、しなかった方が良かったかもしれません。早過ぎます……」

提督「……仕方がない事だ。成るように成ってしまった」

金剛「そう、ですよね……」

提督「…………」

金剛「…………」

金剛「約束、全部守って下さいましたね」

提督「金剛も、な」

12 : VIPに... - 2013/11/22 02:04:17.91 umsHAw1bo 667/771

金剛「私のはたった一つじゃないですか」

提督「たかが一つ。されど一つ。約束を守った事には変わりない」

金剛「……沢山、約束していましたね」

提督「そうだな……」

金剛「……もう、約束が出来ないのですよね」

提督「ああ……もう、出来ないな……」

金剛「……提督、それでも一つだけ、約束してください」

提督「……なんだ?」

金剛「消えるまで、私の手を握って下さい」

提督「そんな事で良いのか?」

金剛「そんな事、ですか……?」

提督「──ほら」ヒョイッ

金剛「わ、わっ!」

那智「!!!」

金剛「て、提督……?」ドキドキ

提督「こちらの方がよろしいのでは? お姫様」

金剛「──はい!」ギュッ

提督「…………」ジッ

金剛「…………」ジッ

那智「……………………」フイッ

スッ──ちゅ……。

提督「…………」スッ

金剛「……逝きましょう」

提督「……………………ああ」

13 : VIPに... - 2013/11/22 02:33:19.01 umsHAw1bo 668/771

 カチン──。

 硬いボタンを押す音が聴こえた。それは、腕の中で微笑んでいる少女の終わりを告げる音──。

「……消え始めましたね」

 チラリと自分の足を見ながら、寂しそうに彼女はそう言った。

 白く細く長い綺麗な足は、既に足首から先が消えてしまい、膝小僧は薄っすらと半透明になっている。

 その進行は止まる事をしらないように、ゆっくりと蝕んでいた。

「提督」

 呼ばれたので金剛の顔へ向くと、彼女は笑顔を作っていた。

 痛々しかった。彼女を解放を止めたい衝動にも駆られた。

 だが、それは許されない。ここまで来て、最後の最後で足を止めるのは許されない。

「どうした?」

 だから、私も無理矢理に微笑んで彼女の透き通った灰色の瞳を見詰めた。

 その瞬間、悲しそうな顔をされる。どうやら彼女にはお見通しらしい。

 けれど、すぐにその表情を痛々しい笑顔に変え、彼女は言った。

「ありがとうございました」

 ズキン、と胸に痛みが走る。

 言って欲しくなかった言葉。お別れを告げる、胸に刺さる言葉だった。

 それは少女も同じなのだろう。目の端に、宝石のように光る粒が姿を現した。

「私、最高に幸せです」

 また、胸に痛みが走った。今度はさっきの比ではない。

 彼女が楽しかったであろう出来事──。

 彼女が嬉しかったであろう出来事──。

 彼女が幸せであったろう出来事──。

 思い当たる節が、いくらでも思い浮かんだ。

 そのどれも、もう与える事は出来ない。貰う事すら出来ない。

 彼女の身体は、もう腰の辺りまで消えてしまっている。残された時間は、あと僅かしかない。

「……………………」

 何か言わないと──。

 そう思えば思う程、頭が働いてくれない。

 飴玉が詰まったビンを逆さにしても出ないように、言いたい事や伝えたい事が、ここぞという時に出てきてくれない。

「…………」

 ほら、彼女は待ってくれている。私の言葉を待っている。何をボーっとしているんだ早くしろ。

 気持ちは焦るばかりで、逆に言葉は全く出てきてくれない。

 いつも偉そうにしている癖に、自分がこういう状況に陥ったら何も出来ないのか。

「……金剛」

 やっと出てきた言葉は、彼女の名前だった。

 陳腐なんてものですらない。まだ三流芝居の言葉の方が遥かに気の利いた言葉を紡げている。

 なのに、もう胸の辺りまで消えてしまっている少女は、笑顔になってくれた。溜まっていた涙は、決壊したかのように溢れている。

 ……なぜだ。なぜこんな一言でそんなに喜んでくれるんだ。

「最後が、提督の腕の中で良かった」

 もう、首も半分以上透けてしまっている。何をすれば良いのか分からない。何と声を掛けてやれば良いのか分からない。

 そんなどうしようもない馬鹿な私──。そんな馬鹿な私にも、一つだけ思い浮かんだ事があった。

「────っ!」

 許可も、前触れも、何もしなかった。そのせいか、金剛はとても驚いた顔をしている。

 奪うような、触れるだけの軽いキス──。

 私の知っている中で、彼女が一番幸せそうにしていたのがキスだった。そんな安直な考えで、私は唇で唇に触れた。

「──あはっ」

 さっきよりも輝かしい笑顔で、彼女は笑ってくれた。

14 : VIPに... - 2013/11/22 02:33:46.69 umsHAw1bo 669/771

「ありがとうございます、提督──」

 その笑顔も、もうほとんど見えやしない。ハッキリと見える部分は、もう……無い。

 だが、私の愛した少女が心の底から喜んでくれているのだけは分かった。

 そして──


 ──さよなら。


 その言葉を最後に、腕の重みが無くなった。

 手を握っても、腕を動かしても、何も抵抗が無い。

「……金剛」

 …………………………………………。

 愛した少女は、何も答えない。答える事すらも、出来ない。

「────っ!!」

 胸が痛む。

 耐えれない程、痛い。

 その場で膝を突く。固く握った拳を振り上げ、そのままコンクリートの床を殴った。

 殴った拳が痛い。だが、胸の痛みと比べるとなんでもない。

 目の前が滲む。視界がぼやける。

 守れなかった悔しさが、心を占めていた。

「……提督」

 救護妖精が話し掛けてきた。

「金剛、助けてあげな」

 ぼやけて良く分からないが、どうやら『金剛』の方へ指を差しているらしい。

 フラフラと、その言葉に従って『金剛』の入っているカプセルの前に立った。

 培養液は排出され、カプセルは既に開いている。中で倒れている『金剛』を、少しだけ見詰めた。

 けれど、培養液を吐かす為にすぐ処置に入る。

 吐かすのはもう慣れた。半ば作業的にその処置をし始めた──のだが。

「ァハッ! ケホッ──!!」

 少し吐かせた所で、彼女は培養液を自ら吐き出した。

 それに少しだけ驚いたが、すぐに背中を擦った。

「ぁ……う…………」

 粗方吐き終わったのか、弱々しい呼吸と共に『金剛』は目を薄っすらと開いた。

 金剛よりも長い髪を掻き分け、目に髪が入らないようにした。

 まったく同じ顔で、まったく同じ色の髪で、まったく同じ灰色の瞳の少女が、私を捉える。

 虚ろな目をしているのに、私をしっかりと捉えていた。

 何かを伝えようとしているようにも見える。

 なので、少しだけ耳を近付けてみた。

「…………………………て、いと……く…………」

 その半開きの口から、信じられない言葉が出てきた。

「────金剛?」

 少女の名で呼び掛ける。

 けれど、さっきの一言で力尽きたか、少女は瞼を落とした。

 細く、小さな呼吸で、彼女の身体は上下している。

「提督? どうしたのさ」

 救護妖精が聞いてきたが、彼はそれに反応出来なかった。

「金剛……」

 呼び掛けても、彼女は反応しない。

 しかし、彼の中で一つの光が見え始めた。


 ──希望という名の、一筋の光が。


……………………

…………

……

44 : VIPに... - 2013/11/22 22:15:40.69 umsHAw1bo 670/771

金剛「…………」

提督「…………」

金剛「……あの」

提督「なんだ?」

金剛「…………ここ、どこデスか。それに、なぜ私はこんな格好なのデスか」

金剛「──貴方は、誰デスか」

提督「────」

金剛「な、なんですか?」

提督「……いや、なんでもない。救護妖精、説明を頼んだ」

救護妖精「え? ちょ、ちょっと提督!」

提督「私は、この間の子達を連れて帰る」

救護妖精「待ってってば! どうしたのさいきなり!!」

提督「…………察してくれ」

救護妖精「だから、分かんないんだってば!」

提督「頼む……」

救護妖精「…………。ああもう……分かったよ」

提督「……すまない」ツカツカ

ガチャ──パタン

金剛「……どうしたのですか、あの人」

救護妖精「まあ、なんとなくは分かるんだけど、予想とは違ってたというかなんというか」

那智「同感だ。私も手厚く介護すると思っていたのだが……」

救護妖精「どうしたんだろうね……一体……」

金剛「…………?」

……………………。

45 : VIPに... - 2013/11/22 22:16:54.59 umsHAw1bo 671/771

金剛「……………………」

救護妖精「まあ、信用できないよね」

金剛「……可能性はある、という程度で留めていても良いデスか?」

那智「構わん。私も最初は信じていなかった」

金剛「貴女はどうして信じたのデスか?」

那智「最初は……まあ、負けたからというのがあったが、あの方の行動を見ていれば信用に足る人物だと思えた。それだけだ」

金剛「負けたって何をしたのですか……」

那智「勝手に外に出るなと言われたので反抗した。それを実力で捻じ伏せられただけだ」

金剛「捻じ伏せ……」

那智「攻撃を全て受け流され、頭を撫でられた」

金剛「……ホワッツ?」

那智「そのままの意味だ。その後、もう一悶着あったが……あれは屈辱だった」

救護妖精「それから急に大人しくなったよねぇ。借りてきた猫みたいにさー。最初から解放された内の一人だし、提督の事が気に入ったんだねぇ」

那智「……八つ裂きにされたいか?」

救護妖精「おーこわ」

ガチャ──

提督「では、私はこの子達を連れて行く」

「鎮守府、楽しみね!」

島風「ここよりももっと広い場所でかけっこ出来るなんて嬉しいよ!」

「貴女、本当にそればっかりね……」

「元気の証拠なのです」

「私も楽しみにしているよ」

──パタン

提督「那智。利根と一緒に…………その子を頼む」

那智「了解しました」ピシッ

提督「敬礼は必要無いといつも言っているだろう」

那智「……すみません」

提督「癖なのは分かるが、私はお前の上司でもなければお前は私の部下でもない。あまり人に敬礼はしない方が良い」

那智「はい……」

46 : VIPに... - 2013/11/22 22:17:45.76 umsHAw1bo 672/771

提督「……では、車を取りに行く。お前達はここで少しだけ待っててくれ」

「はーい! 待ってるわね、提督!」

「いってらっしゃいなのです、提督さん」

ツカツカツカ──…………。

那智「利根はどうしている?」

島風「爆睡してるわよ。提督はいち……いちべき? …………チラッて見るだけだったね」

那智「またか……。まったく警戒心の無い……。それと、それは一瞥というんだ」

島風「いちべつ、ね! ありがとう!」

「つまり、利根さんはそれだけ那智さんの事を信頼してるって事じゃないのかな」

那智「私には怠けているようにしか見えないな」

「そう? 結構途中で起きてるわよ、利根さんって」

那智「ほう?」

「私達が音を立てたら一瞬だけ起きて、すぐに寝てるわ!」

那智「……ふん。そういう事か。サボるのが上手い奴め」

「それって褒めてるの?」

那智「半分だけな」

「ふーん……?」

救護妖精(さて、そろそろスープが出来る頃かな)

……………………。

47 : VIPに... - 2013/11/22 22:19:17.76 umsHAw1bo 673/771

救護妖精「いやぁ、それにしても短かったようで長い生活だったねぇ」

那智「まったくな。だが、次でもうここでの生活はしなくて良くなる」

金剛「……あの」

那智「なんだ」

金剛「訊きそびれていたのデスガ、あの人が私を避けるようにした理由って何なのでショウか」

那智「……………………」

救護妖精「あー、うん……まあ、ねえ?」

那智「私に振るな」

救護妖精「えー……私が言わないといけないのー……?」

那智「私はほとんど知らない。後はお前しか居ないだろう」

救護妖精「でもねぇ……」

金剛「無理にとは言いまセン。どうしてもダメでしたら諦めマス」

救護妖精「うーん……まあ、説明は私に一任されてるし、いっかなぁ」

那智「正直に言うと、私も気になってる。ある程度の予測は付くが……」

救護妖精「んー……なら、提督には言わないでよ? きっと気にしちゃうから」

金剛「分かりまシタ」

救護妖精「んっとね。まずなんだけど、さっき言った艦娘っていうの憶えてるよね?」

金剛「はい」

救護妖精「で、各提督は艦娘を一人だけ秘書に就けるんだけどさ。提督の秘書が、艦娘の金剛だったんだよね」

金剛「私……ですか」

救護妖精「違うよ。貴女とは似て非なる存在。……まあ、色々あって、その秘書が提督に恋しちゃってねぇ」

金剛「え」

那智「…………」

48 : VIPに... - 2013/11/22 22:19:45.92 umsHAw1bo 674/771

救護妖精「そのアタックの末、提督と晴れて赤い糸で結ばれました。──でも、現実は残酷でねぇ。秘書の艦娘は貴女を解放する時に消えたのさ」

金剛「私を……解放したカラ?」

救護妖精「それが二人の望みでもあったみたいだしね」

金剛「望み……? どうしてデスか。せっかく結ばれたのに、どうして離れ離れになる事を望んだのデスか?」

救護妖精「それは私には分からないね。そこまで詳しい事は知らない。……ただ、やらないといけない事だったのは確かだよ」

金剛「…………」

救護妖精「貴女を解放しないと、沢山の艦娘の金剛が苦しい思いをする。だからじゃないかな」

金剛「……………………」

金剛「……他に、方法は無かったのデスか?」

救護妖精「無いね。あったらそれをやってるよ」

金剛「そう、ですか……」

救護妖精「あ、自分のせいだーとか思っちゃダメだかんね。これは仕方の無い事だったんだからさ」

金剛「…………」

救護妖精「……まあ、それだけは頭に置いといてよ。あたしも眠いから寝るねー。あそこにベッドがあるから、好きに使っちゃってー」テテテ

ガチャ──パタン

金剛「…………」

那智「…………」

金剛「…………」

那智「……どうした。ベッドで寝ないのか?」

金剛「いえ……。すみません、寝ますネ……」トコトコ

那智「……………………」

……………………
…………
……

61 : VIPに... - 2013/11/24 22:09:07.04 w8HpxKyWo 675/771

金剛「…………」ボー

利根「うん? そんなに出口を見てどうした。出たいのならばもう少し我慢せい」

金剛「あ……いえ、あの人が中々来ないなぁと思いまシテ」

利根「今日は恐らく来ぬぞ?」

金剛「え? どうしてデスか」

利根「毎日来るという訳ではないからのう。この総司令部に用事がある時だけ来ているようじゃ」

金剛「そうデスか……」

利根「どうした? 気になるのか?」

金剛「……少し。私はまったく身に覚えのない事ですケド、あの人はそうではありませんよネ?」

利根「我輩も話を聞いただけでよくは知らん。じゃが、那智の奴が言うには恋仲らしいのう」

金剛「…………」

利根「金剛。お主、なぜ気になっておる?」

金剛「そりゃ……元は恋人でシタ、と言われて何も思わないなんて事はないデス」

利根「ふむ。好奇心か」

金剛「それとはまた違いマス。……でも、なんて言えば良いのか分かりまセン。寂しいような、悲しいような……とにかく、良く分からないデス」

利根(ふぅむ……。流石にまったく検討が付かん。どういうモノなのじゃ?)

金剛「あと……なんだか可哀想と思いまシタ」

利根「可哀想?」

金剛「ハイ。相思相愛のまま離れ離れになってしまうナンテ、可哀想デス……」

利根「…………」

金剛「それでしたら私は──」

利根「それはやってはイカン」

金剛「…………」

利根「お互い傷付くだけで誰のためにもならん。お主がどうしてそう思ったのかは知らんが、それだけは止めておいた方が良い」

金剛「……………………」

利根「…………」

金剛「ハイ……」

利根「まったく……」

……………………。

63 : VIPに... - 2013/11/24 22:26:30.26 w8HpxKyWo 676/771

金剛「…………」ジー

那智「……飽きないのか?」

金剛「一応は……」

那智「ふむ……」

金剛「…………」

那智「…………」

金剛「…………」

那智「……少し訊いても良いか」

金剛「? なんでショウか」

那智「お前は、なぜそんなにあの人が気になっているんだ。ただ単に恋人だったからと聞いただけの反応だとは思えないが」

金剛「…………」

那智「それとも、恋人になりたいと思っているのか?」

金剛「………………いえ……」

那智「ハッキリしないな。もっと自分の考えを持っている奴だと思っていたのだが」

金剛「……私も、こんな気持ちは初めてデス。自分の事なのに自分の事が分からないナンテ……」

那智「……人は自分の事は良く分かっていない、という言葉もある。それでえはないのか?」

金剛「…………分からないデス」

那智「……そうか」

金剛「──え?」

那智「ん、どうした」

金剛「…………」ジッ

那智「……なんだ?」

金剛「……………………いえ。ごめんなサイ……なんでもありまセン……」

金剛「…………」ジー

那智(また出口を……。本当によく待てるな)

那智(……ずっとここで見張りと世話をしている私や利根も似たようなものか?)

金剛「…………」

金剛(あの人の事を考えると、とても不思議な気持ちになります。可哀想で、怖くて、優しそうで、悲しそうで──。沢山の感情がグルグル掻き混ざってます……)

金剛(私はあの人の事を知らない。なのに、なぜこんな気持ちになるのでしょうか……)

金剛(…………やっぱり分かりません。私はあの人の事を何も知らないのですから当たり前ですけど……)

金剛「はぁ……」

那智「…………」ジッ

金剛(恋人、ですか……)

那智「……………………」

……………………
…………
……

64 : VIPに... - 2013/11/24 22:34:36.33 w8HpxKyWo 677/771

金剛「!」

利根「おお、提督殿。──なんじゃ、その空箱は?」

救護妖精「提督、終わったの?」

提督「ご苦労、二人共。──この空箱は後で説明する。そして、残念だがまだ終わっていない。海軍から身を引けるのはもう少し先になりそうだ」

救護妖精「そっか。頑張ってね」

利根「我輩達にも手伝える事があったらなんでも言ってくれ。出来る限り協力しようぞ」

提督「ありがたい。頼らせてもらうよ」

金剛「あ、あの!」

提督「──なにかね」

金剛「私も、手伝いマス!」

提督「そうか。その時は頼む」

金剛「────ぁ」

提督「なにかね」

金剛「い、いえ……何も、ありまセン……」

提督「……そうか」

金剛「ハイ……」

提督「さて、この施設の破壊の話を──」

ガチャ──パタン

那智「提督殿、来られたのですね」

提督「目を覚ませてしまったか。すまない、那智」

那智「いえ、大丈夫です。──それよりも、この施設を破壊すると仰っていましたが、どのように?」

提督「焼ける物を全て焼く。機械は文字通り破壊してしまえば良いだろう」

救護妖精「うげ……。ホルマリン漬けにしてるアレも焼くの……?」

提督「勿論だ。下手な処分をして再開されると困る」

救護妖精「まあ、そうだよねぇ……」

提督「今回は書類を運ぼう。この空き箱に詰めてくれ」

……………………。

65 : VIPに... - 2013/11/24 22:35:08.07 w8HpxKyWo 678/771

那智「……む」

那智(……困った。重くて不安定になりそうだな……)

利根「どうした那智。重くて持てぬと申すか?」

那智「馬鹿にするな。この程度、何も問題など、無い」フラッ

利根「……無理はせん方がよいぞ?」

那智「無理などしていない」フラッ

提督「那智、その箱を下ろせ」

那智「…………」

提督「…………」ジッ

那智「……分かった」ドサッ

提督「よろしい。代わりにこっちの箱を持ってくれ。──運ぶぞ」ヒョイ

那智「……………………むぅ」ヒョイ

利根「うむうむ。素直が一番じゃ」

那智「うるさい」

利根「那智は損をする性格じゃのう」

那智「余計なお世話だ」

利根「もっと素直になれば、提督殿も応えてくれよう」

那智「…………………………………………」

那智「……考えておく」

利根(お、少し素直になりおった)

提督「さあ、運ぶぞ」スタスタ

金剛「…………」トコトコ

金剛(一緒に作業をしているのに……物凄く疎外感がします……)

金剛(私……本当にここに居て良いのでしょうか……?)

……………………。

72 : VIPに... - 2013/11/26 04:51:28.42 xHsj0Pkso 679/771

提督(満月の明るさに加えて無風か。これは綺麗に燃えてくれそうだ)

金剛「…………」ソッ

金剛「あの──」

提督「なにかね」

金剛「ひゃぅ!? きき、気付いていたのデスか!?」

提督「ああ。──それよりも、何か用か」

金剛「あ、えっと……何かお手伝い出来ないかな、と思いマシて……」

提督「特に無い。今日は燃やして消えるのを待つだけだ」

金剛「…………あの、見ていても……良いデスか?」

提督「寝なさい。朝に起きれなくなるだろう」

金剛「が、頑張って起きますカラ!」

提督「寝不足の状態で妹達の前に出るつもりか?」

金剛「う……」

提督「心配させたいというのならば話は別だが、その場合は無理矢理にでも寝付かせる」

金剛「ど、どうやってデスか?」

提督「…………」ジッ

金剛「──っ」ビクッ

提督「言わなければ分からないのならば、言うが」

金剛「…………」ビクビク

提督「……………………」

金剛「ぅ……」ビクビク

提督「…………」

73 : VIPに... - 2013/11/26 04:55:32.40 xHsj0Pkso 680/771

提督「……すまない。怖がらせてしまった」フイッ

金剛「…………?」

金剛(今……後悔したような顔をしてました……?)

提督「寝なさい」

金剛「……あの」

提督「…………」

金剛「…………」

提督「……寝なさい」

金剛「…………はい」

提督「…………」

金剛「…………」

金剛「……ごめんなさい」

トボトボ……。

金剛「……あの」

提督「なにかね」

金剛「…………おやすみなさい」

提督「……ああ、おやすみ」

提督「……………………」

シュッ──ボッ──

提督「…………」

……チリッ

提督「…………」

チリチリッ──

提督(さすが古びかけた本。すぐに燃えてくれる)

金剛「…………」ソッ

提督(……それにしても、物陰に隠れているようだが、どうして金剛は帰らない。大方、救護妖精に私と『金剛』の事情を聞いたのが原因だろうが……)

提督(……一度、言うべきか。お前の気にする事ではない、と……)

提督(…………そうしよう。その方が良い)

……………………
…………
……

74 : VIPに... - 2013/11/26 05:00:05.12 xHsj0Pkso 681/771

カリカリ──。

提督「…………」

提督(……朝礼の時間になっても誰一人来ないのは、寂しいものだな。……いずれ慣れる、か)

コンコン──。

提督「…………」

提督「入れ」

ガチャ──パタン

金剛「お、おはようございます」

提督「金剛か。なにかね」

金剛「えっと……秘書のお手伝い、したいなぁと思いまシテ……」

提督「問題無い。私一人で片付けれる」

金剛「で、でも大変ですよネ?」

提督「以前と違って前線に出る訳ではない。このくらいで丁度良い」

金剛「う……。ほ、ほら! 二人でやれば貴方もやりたい事が──」

提督「今の私にとっては、これがやりたい事だ。それに金剛、お前もやりたい事が出来なくなるのではないのか」

金剛「……これが、私のやりたい事デス」

提督「妹達を放っておいてまでか」

金剛「う……」

提督「家族は大事にしろ。良いな」

金剛「……はい」

ガチャ──パタン

提督「…………はぁ」

……………………。

76 : VIPに... - 2013/11/26 05:06:18.08 xHsj0Pkso 682/771

コンコン──。

提督(また金剛か?)

提督「入れ」

ガチャ──パタン

瑞鶴「やっほー。遊びに来たわよ」

提督「私は忙しいのだが」

瑞鶴「なら手伝うわ。良いでしょ?」

提督「翔鶴や大和はどうした。仲が良いと思っていたのだが」

瑞鶴「二人は寝てるわね。私達、夜遅くまでお話してたもん」

提督「お前は寝なくて良いのか?」

瑞鶴「なんか目が覚めちゃってね。だからここに来たの」

提督「……何も手伝える事がない、と言ったらどうする」

瑞鶴「じゃあここに居させて? 仕事を見てる姿が見たいから」

提督「面白いか?」

瑞鶴「全然。──だけど、そうしたいと思ったの」

提督「……好きにするが良い」

瑞鶴「はーい。ソファ借りるわね」ポスッ

提督「…………」カリカリ

瑞鶴「ねー、何してるの?」

提督「仕事だ」

瑞鶴「そんなの見たら分かるわよ。どんなお仕事って事よ」

提督「旧帝国海軍が使っていた艦船に関する報告書の確認と、追加の指示の確認だ」

瑞鶴「良く分かんない」

提督「……そうか」

瑞鶴「あ、今の言葉もう一回言って?」

提督「…………そうか」

瑞鶴「なんだろ。それ懐かしい気持ちがする」

提督「……瑞鶴」

瑞鶴「なに?」

提督「紅茶を淹れてみないか?」

瑞鶴「紅茶? 淹れた事なんて無いわよ?」

提督「ダメか」

瑞鶴「うーん……まあ良いけど……」

……………………。

78 : VIPに... - 2013/11/26 05:11:03.96 xHsj0Pkso 683/771

提督「…………」

瑞鶴「何これ美味しくない……。だから言ったでしょ? 淹れた事が無いって」

提督「すまなかった」

瑞鶴「なんでいきなり紅茶を淹れろって言ったのよ。いつも紅茶でも飲んでたの?」

提督「そんな所だ」

瑞鶴「ふぅん……」

提督「…………」ズズッ

瑞鶴「……でも、飲んでくれるんだ」

提督「紅茶を飲みながらの方が捗るからな」

瑞鶴「こんなに不味くても?」

提督「たまには良いだろう」

瑞鶴「……ふーん」

提督「どうした」

瑞鶴「なんでもないわ。じゃあ、ちょっと寝るわねー」

提督「……そこで寝るのか」

瑞鶴「そうだけど……。ベッドでも貸してくれるの?」

提督「そのつもりだ。ソファは寝心地が良くないだろう」

瑞鶴「……ちょっとだけ驚いた。優しいのね」

提督「優しくはないが、冷たい血を流しているとは思っていない」

瑞鶴「私が優しいって思ってるだけよ。勝手にそう思うくらいは良いでしょ?」

提督「……そうだな」

瑞鶴「──それじゃ、ベッドありがとね。眠たくなったら隣に入ってきても良いからねー」モゾモゾ

提督「…………」

瑞鶴「……少しくらい反応しても良いんじゃないかしら。女としての自信が無くなっちゃう」

提督「そんな事にはならないから安心して寝ると良い」

瑞鶴「つまんない返答……」

提督「…………」

瑞鶴「おやすみなさーい」

提督「おやすみ」

提督(……そんな都合の良い展開なんて無い。諦めるのが一番だ……)

……………………。

79 : VIPに... - 2013/11/26 05:17:40.48 xHsj0Pkso 684/771

瑞鶴「ん……」

提督「…………」カリカリ

瑞鶴「くぁ……。おはよー……」クシクシ

提督「起きたか」

瑞鶴「今何時ー……?」

提督「十二時だ」

瑞鶴「そろそろお昼ねー。一緒に食べる?」

提督「キリが良い所までやってから行く。先に行っておくが良い」

瑞鶴「もー……仕事熱心ね」

提督「悪いか」

瑞鶴「ううん。良い事だと思うわよ。じゃあ、私待ってるわね」

提督「…………」

瑞鶴「悪い?」

提督「……いや、翔鶴や大和を放っておくのかと思ってな」

瑞鶴「あー……。ちょっと様子見てくるわね」

提督「ああ」

……………………。

80 : VIPに... - 2013/11/26 05:28:49.22 xHsj0Pkso 685/771

コンコン──。

提督「入れ」

ガチャ──パタン

瑞鶴「ただいまー」

金剛「ハ、ハーイ……」

提督「……………………」

瑞鶴「あ、何よその顔。帰ってきたのがそんなにおかしい?」

提督「それもあるが、一人増えているように見えるのだが」

瑞鶴「うん。ここのドアの前で何か物凄く悩んでたの」

提督「……そうか。そして、何か用かね」

金剛「え、えっと……」

提督「…………」

金剛「い、一緒にご飯なんてどうでショウか」

提督「……キリの良い所になったら食堂へ行くつもりだ。どれくらい掛かるか分からん」

金剛「そう、デスか……」

瑞鶴「もう。それくらい良いじゃないの。ほらほら、行くわよ」グイッ

提督「あ、こら!」

瑞鶴「ちゃんと栄養を取らないと仕事も出来ないわよ。ほら立った立った」グイグイ

提督「…………」

金剛「ぁ……」

瑞鶴「ん、どうしたの二人共?」

81 : VIPに... - 2013/11/26 05:38:43.99 xHsj0Pkso 686/771

提督「……いや、なんでもない…………」

金剛「わ、私もデス」

瑞鶴「どうもないって顔じゃないじゃない。ほら、言いたい事があるのなら言う。それで少しはスッキリするでしょ?」

提督「…………」

金剛「…………」

瑞鶴「ほら、まずは貴方から」

提督「……………………懐かしくてな」

瑞鶴「明らかに懐かしいじゃなくて悲しそうな顔だったじゃないの……。本当にそうなの?」

提督「ああ……」

瑞鶴「ふーん……? 金剛さんは?」

金剛「私もデス……。それと、なぜかは分からないのデスが、何か取られたような気がしまシタ……」

瑞鶴「取られた……? 金剛さんも良く分からない事を言うのねぇ……」

瑞鶴「で、さ。ちょっと訊きたい事が出来たんだけど良いかしら」

提督「内容による。まずは言ってみてくれ」

瑞鶴「さっきさ、悲しい顔をする一瞬だけ目に光が宿ってたけど、それも懐かしくてなの?」

提督「自覚していないから何とも言えん」

瑞鶴「そっか。何があったのか分からないけど、何かあったら言ってね? 力になるから」

提督「……憶えておく」

瑞鶴「うんうん。──それじゃあ、食堂に行きましょ!」

……………………。

82 : VIPに... - 2013/11/26 05:47:11.03 xHsj0Pkso 687/771

コンコン──。

提督「入れ」

ガチャ──パタン

「提督さん! 遊びに来たわよ!」

「あの、もしかしてお忙しいですか?」

島風「私、かけっこしたいな!」

「提督さん一位、島風二位の独占順位になるのが目に見えてるわよ」

「提督、良いかな」

提督「かけっこは出来ないが、雑談には付き合える。それで良いか?」

「勿論よ!」

島風「私も異議なーし!」

提督「なら、紅茶を淹れてくる。少し待っていなさい」

……………………。

「美味しいのです。苦味と甘みが一緒になって、チョコレートみたいなのです」コクコク

「うん。甘いお菓子と一緒だと、紅茶に砂糖は入れないくらいが丁度良いね」カリカリ

「そう? どっちも甘い方が美味しいわよ」コクコク

島風「私も紅茶に砂糖を入れない方が良いかなー」カリッ

「暁だけお子様ね!」コクコク

「お子様言うなぁ!」

提督「楽しみ方は人それぞれだろう。気にする事はない」ズズッ

「ほら! 提督さんもこう言ってるじゃない!」

「ん、ごめんよ。──ところで、提督はどうしてお菓子に手を付けないんだい?」

提督「私は甘い物が苦手だからな」

「好き嫌いは良くないわよ?」

提督「いや、私の身体は糖分を受け付けないらしい。一種のアレルギーだと思ってくれ」

「大変なのです……」

提督「もう慣れたよ。だから、私はあまり運動してはいけないんだ」

「だから最初に会った時、許可が必要って言ってたんだね」

提督「そういう事だ」

83 : VIPに... - 2013/11/26 05:58:03.20 xHsj0Pkso 688/771

島風「んー……じゃあかけっこはいいや」

提督「許可が下りたら構わん」

島風「よく分かんないけど、提督にとって運動するのって危ないんでしょ? だったら私はかけっこしたくないな」

提督「……優しいな、島風」

島風「そんな事ないよー。私は人を危ない目に合わせたくないだけだもん」

提督「そう言えるのは立派だ」

島風「んー…………ありがと?」

提督「うむ」

「でも、不思議ね? お砂糖を摂っちゃダメだなんて」

提督「世の中には水がアレルギーの人間も居るらしい。そう考えたら糖分が受け付けられないというのも不思議ではなかろう」

「お水がダメな人が居るのですか!?」

「それは……すぐに死んでしまうんじゃないのかな」

提督「あくまで聞いた話だ。真実かどうかは知らない。だが、その人は果汁百パーセントのジュースか牛乳を一日でコップ三杯までしか飲んではいけないらしい」

「たったの三杯だなんて……」

島風「私は絶対に耐えれない自信がある」

「大抵の人はそうだと思うわよ?」

提督「世の中には色々な人が居るという事だ」

「私も茄子が苦手なのはアレルギーだったりは……」

提督「ないな」

「ないね」

「ないわね!」

「好き嫌いよね」

島風「好き嫌いね」

「はわわわわ……。皆イジワルなのです……」

提督「茄子が苦手な子でも美味しく食べられるように間宮に伝えておく。好き嫌いは克服しような、電」

「うぅ……はいなのです……」

「──あら。紅茶が切れちゃったわ」

提督「新しく淹れてこよう。……まだ飲みたい子は居るか?」

全員「はーい!」

提督「全員だな。では今度は少し多めに作ってこよう」

……………………。

108 : VIPに... - 2013/11/26 23:49:43.69 xHsj0Pkso 689/771

コンコン──。

提督「入れ」

ガチャ──パタン

金剛「お邪魔しマス……」

提督「金剛か。なにかね」

金剛「あの、やっぱりお手伝いをしようと思って来まシタ」

提督「妹達はどうした」

金剛「事情を話したら三人共納得してくれまシタ。今度は大丈夫デス」

提督「……そうか」

金剛「あの……ダメ、デスか?」

提督「…………」

金剛「…………」

提督「……なら、少し話し相手になってくれ。休憩をしようと思っていた所だ」

金剛「──はいっ!」

提督「金剛、紅茶は淹れられるか?」

金剛「得意デス! 提督さんは紅茶がお好きなのデスか?」

提督「ああ。執務中には紅茶を欠かさない程にな」

金剛「ワオ……相当ですネ……。──すぐに淹れてきマス! 少し待ってて下サイ!」

提督「期待しているよ」

……………………。

109 : VIPに... - 2013/11/27 00:14:09.76 VC3RhkFKo 690/771

金剛「! この茶葉、質の良い茶葉デスね」コクコク

提督「ああ。紅茶に少し縁があってな。茶葉は出来るだけ良い物を使うようにしている」ズズッ

金剛「このクッキーも美味しいデス。甘みが無いのに、なぜかとっても優しい味がします」サクサク

提督「……まあ、な」

金剛「どうかなさいまシタか?」

提督「いや、なんでもない」

金剛「…………?」

提督「ところで、どうしてそんなにも私を気に掛ける」

金剛「…………」

金剛「それは……その……」

提督「理由にも因るが、基本的には怒らないから安心したまえ」

金剛「ハイ……。えっと、その……ですね? なぜか気になるというか……放っておけないというか……。そんな感覚がするのデス」

提督「……ふむ」

金剛「救護妖精からも少しお話を聞きまシタ。ケド、それだけが理由ではありまセン。もっと別の、良く分からない何かが私を動かしていマス」

提督「良く分からない何か、か」

金剛「ハイ……。残念ながら、私にはそれが何なのか分かりまセン……。漠然としていて、自分でも不思議なのデス」

提督「……そうか」

金剛「予想は……付きますケド……」チラ

111 : VIPに... - 2013/11/27 00:36:48.49 VC3RhkFKo 691/771

提督「それは本当の気持ちではない。人は異常な状況下では相手の言葉を信用しやすい。それ以外、情報が無いからな。お前も恐らくそれが原因だろう」

金剛「そう、なのでしょうかネ……」

提督「そういうものだ。だから、艦娘の金剛が私と特別な関係であった事は気にしない方が良い」

金剛「……貴方は、それで良いのデスか?」

提督「覚悟の上で解放した。受け入れている」

金剛「…………」

提督「だから、私の事を気に掛ける必要はない。お前はお前で好きなように生きろ」

金剛「私の好きなように……」

提督「そうだ。お前と私の関係は、少しの間だけ一緒の鎮守府に居た……それだけだ」

金剛「それは違います!」

金剛「私は貴方が居なければ、ずっとあの場所であのままの状態でした。貴方は、私にとって恩人です」

提督「だが、新しい生活を始めれば、自然と離れていく。私も少しばかり疲れたからな。ひっそりと暮らしたいのだよ」

金剛「……そこに、私が居てはいけませんか?」

提督「お前が妹達を放っておけるとは思えんな」

金剛「ぅ……」

提督「そこの所はどうする気だ」

金剛「……説得しようと思っていました」

提督「ほう。説得か。残された者は悲しむぞ」

金剛「…………」

112 : VIPに... - 2013/11/27 00:58:14.25 VC3RhkFKo 692/771

提督「そもそも、なぜ私に拘る? お前にとっての私は変態提督程度のものだと思っていたのだが」

金剛「だって……気になるのです……」

提督「気になる?」

金剛「なぜかは分かりません……。でも、私は誰かに言われたからではなく、私自身が貴方を気にしています」

金剛「根拠なんて、無くても良いじゃないですか……。私だってこんな気持ちになるのは初めてです……。そう思うのは、ダメですか……?」

提督「…………ダメではない。が、振り回されるなよ」

金剛「……はい!」

金剛「────あ……」

提督「なんだ?」

金剛「いえ……私は、自分の好きなようにすれば良いのですよね?」

提督「そうだ。自分の好きな事をして良い」

金剛「なら、今の私のやりたい事を手伝って貰って良いでしょうか」

提督「内容に因る。まずは言ってみなさい」

金剛「私は、貴方の秘書と同じ事をしたいです」

提督「…………なぜだ?」

金剛「この気持ちを確かめる為です。本物なのか、それとも人の言葉に惑わされたものなのか──」

金剛「──愛情に似ている、この気持ちを」

提督「……好きにすれば良い」

金剛「では──!」

提督「だが、私は非協力的に接する。何かをするのは自由だ。それにも付き合おう。だが、私から何か助言をする事はないと思え」

113 : VIPに... - 2013/11/27 01:19:38.13 VC3RhkFKo 693/771

金剛「充分です!! ありがとうございます!」

提督「……礼を言われるような事をしたつもりはないのだがな」

金剛「私にとっては、それだけでも有り難い事なのです」ニコニコ

提督「…………そうか」

金剛「お仕事はまだ残っていますよね? 新しく紅茶を淹れてきます!」スッ

提督「……………………」

金剛「あ……ダメでしたか?」

提督「……いや、構わない」

金剛「やった! では、少々お待ち下さいね!」タタッ

提督(……金剛は金剛、という事か。あの明るさにはどうしても押されてしまうな……)

……………………。

金剛「♪」ニコニコ

提督「…………」ズズッ

提督「……………………」ジッ

金剛「あ、あれ……? お口に合いませんでシタか?」

提督「金剛、そっちの紅茶を飲ませてみろ」

金剛「え……」

提督「……やっぱりな。お前、自分のは出涸らしを使っているだろう」

金剛「な、なぜ分かったのですか……?」

提督「なんとなく、な」

金剛「うぅ……」

提督「これからは使えなくなるまで出涸らしを使え。無論、私のもだ」

金剛「ハイ……」

提督「分かれば宜しい」カリカリ

金剛「…………」

提督「…………」カリカリ

金剛「…………」ウズウズ

115 : VIPに... - 2013/11/27 01:39:08.02 VC3RhkFKo 694/771

提督「……なにかね」

金剛「私も何か手伝いたいデス」

提督「そうか。何が出来る」

金剛「え!? え、えーっと……………………書類整理、デスかね……?」

提督「…………」

金剛「ほ、他に何か出来そうな事があったら仰って下サイ!」

提督「……いや、それで構わない。やりたいのならば頼もう」

金剛「────! はいっ! 喜んでやらせて頂きマス!」

提督「…………」

金剛「あ、そういえば……貴方の事はなんてお呼びすれば良いでしょうか」

提督「好きにしてくれ。私は特に拘っていない」

金剛「では、テートクとお呼びしますね」

提督「……………………ああ」

金剛「やった! ──テートク、この書類ってどのように分ければ良いのデスか?」

提督「左上に担当部署の名前が書いてある。それの通りに分けてくれ」

金剛「ハイ!」

提督「…………」カリカリ

金剛「~♪」テキパキ

……………………。

提督「ふむ。終わったか」

金剛「……あれ?」

提督「なにかね」

金剛「いえ……もっと時間が掛かるものだと思っていましたノデ……」

提督「拍子抜けした、と」

金剛「ハイ」

提督「こういう日もある。次もこうなる訳ではない」

金剛「──はいっ! 今後も頑張りマス!」

提督「……ああ、頼む」

……………………
…………
……

144 : VIPに... - 2013/11/27 23:18:55.15 VC3RhkFKo 695/771

コンコン──。

提督「入れ」

ガチャ──パタン

瑞鶴「こんばんは、提督さん」

提督「瑞鶴か。どうした、こんな時間に」

瑞鶴「提督さんに会いに来たのよ」

提督「……そうか」

瑞鶴「迷惑だったら言ってよ? 私、バカだからそういうのよく分かんないのよ」

提督「迷惑ではないから安心しておけ」

瑞鶴「……艦娘の私も同じ事してた、とか?」

提督「…………ああ」

瑞鶴「正直なのね」

提督「故に馬鹿を見るがな」

瑞鶴「良い事じゃないの。私、そういうバカは好きよ」

提督「……そうか」

瑞鶴「あ、異性として好きって意味じゃないからね? 勘違いしちゃダメよ?」

提督「そうか」

瑞鶴「……なんで少しホッとした感じになってるのよ」

146 : VIPに... - 2013/11/27 23:39:37.61 VC3RhkFKo 696/771

提督「救護妖精にお前と私の関係を訊けば分かる」

瑞鶴「救護妖精さん?」

提督「私以上にお前と私の関係を知っている。私が知らない真実も知っているだろう」

瑞鶴「ふーん……? いまいち納得できないけど、明日になったら聞いてみるわね」

瑞鶴「ところで、一緒に寝て良い?」

提督「……会いに来た理由はそれか」

瑞鶴「そうよ。ねぇねぇ、一緒に寝ましょ?」

提督「断る」

瑞鶴「女の子の誘いを断るの?」

提督「私は心に決めている者が居る。だから無理だ」

瑞鶴「へぇ……結構意外ね」

提督「私とて人だ。恋くらいする」

瑞鶴「ふぅん」ニヤニヤ

提督「……なんだ、その反応は」

瑞鶴「なんだか嬉しくなったの。なんでかは分からないんだけどね」

提督「……そうか」

瑞鶴「まあ、そういう事なら仕方がないわね。また今度の機会にするわ」

提督「機会は無いと思うがな」

瑞鶴「あら、いつ提督さんの気が変わるか分かんないじゃないの。その時が来るまでゆっくり気長に待つわ」

提督「…………」

瑞鶴「じゃあおやすみ、提督さん」

提督「……ああ、おやすみ」

ガチャ──パタン

提督「色々と、心が痛むな……」

……………………
…………
……

147 : VIPに... - 2013/11/27 23:57:39.09 VC3RhkFKo 697/771

救護妖精『ん? 艦娘の金剛の部屋?』

救護妖精『んー……まあ、なんとなく理由は分かるけど、無理はしないようにね。紙に書くよ。……ほい、これだよ』

金剛(ここが『金剛』のお部屋デスか……)スッ

金剛(──っと、今は誰も使っていないのでシタね)

ガチャ──パタン

瑞鶴「──え?」

金剛「え?」

瑞鶴「どうしたのよ、こんな所に来ちゃって」

金剛「あ、あれ……?」

瑞鶴「ああ、もしかして金剛さんもこの部屋で手掛かりが見つかると思って来たの?」

金剛「そうですけど、瑞鶴もデスか?」

瑞鶴「うん。私はダメだったけどね」

金剛「そう、デスか……」

瑞鶴「そっちが金剛さんの──違った。艦娘の金剛さんが使ってたベッドよ」スッ

金剛「ありがとうございマス。──って、なぜ知っているのですか?」

瑞鶴「私、艦娘の金剛さんに会ってるのよ」

金剛「!」

瑞鶴「と言っても、私は邪魔だったみたいだけどね」

金剛「邪魔?」

148 : VIPに... - 2013/11/28 00:19:12.19 ko+4+1lBo 698/771

瑞鶴「んーとね、艦娘の金剛さんは艦娘の私を大切な人のように扱ってたみたいなの。私がここに来た時、物凄く悲しそうな顔をしていたわ」

瑞鶴「そんな大切にしていた人と見た目や声がまったく同じ別人が来たら、そりゃあ悲しむわよね」

金剛「……あの」

瑞鶴「なーに?」

金剛「その人の知っている事を、教えてもらって良いでしょうか」

瑞鶴「私よりも提督さんに聞いた方が良いと思うわよ?」

金剛「テートクは教えてくれませんでした。そして、救護妖精も……。だから、今この鎮守府で頼れるのは瑞鶴しか居ないのです。お願いします」ペコッ

瑞鶴「……頭、下げないでもらって良いかしら」

金剛「ですが……」

瑞鶴「良いから」

金剛「……はい」スッ

瑞鶴「私ね、金剛さんに頭を下げられるのが嫌なの」

金剛「そうなのですか?」

瑞鶴「まあ、実は良く分かってないんだけどね。なんか嫌なの」

金剛「は、はあ……」

瑞鶴「あと……悪いんだけど私も何も知らないの。せいぜい、人が良いってくらいしか分かんなかった」

金剛「人が良い……ですか」

瑞鶴「うん。本当にそれくらい……。ごめんね、役に立てなくて」

150 : VIPに... - 2013/11/28 00:45:00.18 ko+4+1lBo 699/771

金剛「いえ、何も知らなかったので嬉しいです。ありがとうございます」

瑞鶴「それより、いつまでそこで立ってるの? ベッドにでも座ったら良いじゃないの」

金剛「……いえ、私はこのベッドを使う資格はありません」

瑞鶴「?」

金剛「このベッドは……艦娘の金剛が使う為のベッドです。テートクも、私が使うのを良くは思わないでしょう」

瑞鶴「…………」

金剛「だから、私はこの部屋を見て回るだけで充分です」

瑞鶴「……ほーんと、貴女には敵わないわ」

金剛「え?」

瑞鶴「ううん。独り言よ。気にしないで」

金剛「はぁ……」

瑞鶴(敵わない、か……。なんでだろ。そう思った事も、少しだけ悲しい気持ちになったのも、どうしてかしらね)

金剛「……この本は、瑞鶴の物デスか?」

瑞鶴「ん? 違うわよ。たぶんこの部屋を使ってた人のだと思う」

金剛「そうですか。……随分と偏った種類の本ですネ?」

瑞鶴「そうなの? ──うわ。海上戦術と気遣い心配りって本ばっかり」

金剛「おまけに物凄い栞の数デス……」

瑞鶴「すっごい読み返したのね……」

151 : VIPに... - 2013/11/28 01:05:49.38 ko+4+1lBo 700/771

金剛「なぜこんなに偏ってるのでショウか……」

瑞鶴「さあ……」

金剛「海上戦術は分からなくもないデスガ……」

瑞鶴「それ以外の本は本当にどうしてあるのか分からないわね……。──あ、紅茶の本がある」

金剛「あ、本当デス」

瑞鶴「……これも随分と栞が多いわね」

金剛「よっぽど勉強していたのでショウね」

瑞鶴「頑張るわねぇ……」

金剛「関心しマス」

瑞鶴「でも……」

金剛「どうしまシタ?」

瑞鶴「この本見てると……なんだか辛い」

金剛「…………?」

瑞鶴「私、この本と何か縁でもあるのかしら」

金剛「……読んでみると、何か分かる事があるかもしれまセンよ?」

瑞鶴「そうね。今度読んでみる」

金剛「私も、この海上戦術という本が気になりマス」

瑞鶴「……よくそんなものに興味が沸くわね」

金剛「自分でも不思議デス……」

……………………
…………
……

177 : VIPに... - 2013/11/29 18:56:06.98 lJQ8B2bOo 701/771

金剛「~♪」

「ん、金剛さん?」

金剛「ハイ、響! 今日も良い天気ネー!」

「随分と機嫌が良いみたいだけど、何か良い事でもあったのかな」

金剛「クッキーが上手く焼けたデース! 今日のクッキーは会心の出来ネー!」

「へぇ。金剛さんってお菓子を作れるんだね」

金剛「イエス! 紅茶のお茶請けに甘い物は欠かせまセーン」

「あっちに向かっているという事は、提督と一緒に食べるのかな?」

金剛「そうですヨー。頭を使うお仕事をしていますから、糖分の補給は大事デース」

「……残念なお知らせがあるんだけど、提督は甘い物が食べられない体質だよ」

金剛「──え?」

「部屋の皆と一緒に遊びに行った時、本人から直接聞いたんだ。アレルギーみたいなものだと思ってくれって言ってたよ」

金剛「…………ありがとうございます、響! お礼にこのクッキーを差し上げます!」スッ

「え? でもこれは……」

金剛「ノープロブレム! とても良い情報を下さいました! これはそのお礼デース!」

「……良いのかな?」

金剛「ハイ! ──味は保障しマース。お茶請けにいつも作っていますからネー。何かクッキングしてほしいお菓子があれば何でも言って下サーイ! 私が作れる物なら何でも作るヨー!」

「う、うん」

金剛「それでは! グッバイ響!」タタタ

「…………」

(無理をしてるって分かるよ、金剛さん……)

……………………。

178 : 余ってたのに気付かなかった。ちくせう。 - 2013/11/29 18:57:02.52 lJQ8B2bOo 702/771

提督「それでビタークッキーを作ってきた、と」サクッ

金剛「ハイ! 作るのは初めてですケド……どうでしょうか。お口に合いますか?」

提督「……ああ、美味いよ」

金剛「やった!」

提督(──まったく同じ味だよ、金剛…………)

金剛(あまり美味しくなかったようですね……。もっと頑張らないと……)

……………………
…………
……

182 : VIPに... - 2013/11/29 19:26:52.00 lJQ8B2bOo 703/771

金剛「テートク、そろそろ二時になりますケド、お身体は大丈夫デスか?」

提督「……ふむ、もうそんな時間か。金剛、今日はもう寝なさい」

金剛「テートクが眠るのならば私も寝マス」

提督「キリの良い所まで終わらせてから寝る」

金剛「では、私も付き合いますネ」

提督「比叡や榛名、霧島が寝ずに待っているかも知れんぞ」

金剛「あの三人には事情を話していますから大丈夫デス」

提督「そうか。では命令だ。寝なさい」

金剛「な、なぜデスか!?」

提督「健康に関わる。お前が体調を崩しでもすれば、皆が心配するだろう」

金剛「う……」

提督「分かったか」

金剛「…………」

提督「…………」

金剛「……それでも、起きていマス」

提督「どうしてだ」

金剛「テートクがちゃんと寝るかの確認デス。体調管理も仕事の内デスよ」

提督「……………………」ジッ

金剛「っ」ビクッ

提督「もう一度言う。寝ろ」

金剛「あ、あの……」

提督「なんだ」

金剛「ごめんなさい……」ビクビク

184 : VIPに... - 2013/11/29 19:59:40.73 lJQ8B2bOo 704/771

提督「…………」

提督「……すまない」ポン

金剛「っ!」ビクン

提督「怖がらせてしまった」ナデナデ

金剛「…………」ビクビク

金剛「…………?」

提督「良いから、今日は寝なさい。……少し、一人で考え事もしたい」スッ

金剛「……はい…………ごめんなさい……」

提督「お前は何も謝らなくて良い。私が悪い」

金剛「…………」

提督「おやすみ、金剛」

金剛「………………はい。おやすみなさい……テートク……」

ガチャ──パタン

提督「……さっさと気持ちを落ち着けたらどうなんだ、私よ。あの子には何の罪も無いだろう……」

……………………。

金剛「…………」

カチャ──ソッ

榛名「あ、おかえりなさいませ金剛お姉様」

金剛「──え?」

霧島「待ちくたびれましたよ。さあ、一緒に寝ましょう」

比叡「私、お姉様の隣が良い!」

霧島「また一緒に寝るつもりですか? 本当に金剛お姉様が好きですよね」

185 : VIPに... - 2013/11/29 20:22:03.72 lJQ8B2bOo 705/771

金剛「……なぜ三人共起きているのデスか?」

榛名「金剛お姉様を放っておいて寝るなんて出来ません」

比叡「気合入れて起きていました!」

霧島「そういう事です」

金剛「三人共……」

比叡「一番必死に眠気を抑えていたのは霧島だったよね」

霧島「ちょっ! 恥ずかしいですから言わないで下さい!」

榛名「ふふっ。顔が真っ赤」

霧島「は、榛名まで……!」

金剛「──あはっ。待たせちゃってごめんネ? 今日は四人で寝まショウ!」

比叡「本当ですか!?」

榛名「比叡お姉様、声が大きいです」

比叡「っとと……」

霧島「それよりも、順調に進んでおられますか?」

金剛「へ? 何の話デスか?」

霧島「お昼に言っていた、記憶を取り戻すという話です」

金剛「ぁー……。いまいち成果が現れないデス」

榛名「そうですか……。」

金剛(姉思いの妹を持てて、私は幸せデス)

金剛(……そうデスね。今度、テートクと一緒に寝てみまショウ。それで何か思い出せるのなら──)

金剛「…………?」

金剛(私、なぜこんなにも焦っているのでしょうか……?)

……………………
…………
……

186 : VIPに... - 2013/11/29 21:20:21.89 lJQ8B2bOo 706/771

コンコン──。

提督「入れ」

ガチャ──パタン

金剛「テートクー!」

提督「……どうした。やけに機嫌が良いようだが」

金剛「間宮さんがスコーンを作ってくれたのデース!」

提督「……ほう」

金剛「お仕事の手を一旦止めて、ティータイムしまショウ! ね? ね?」

提督「…………」

金剛「──あ、ダメ……でしたか?」

提督「……いや、丁度休憩に入ろうと思っていた所だ」

金剛「ナイスタイミング! 早速紅茶を淹れてきマスね!」

提督「ああ……」

……………………。

金剛「ん~! おいしいっ! やっぱりクリームティーは一番ネー!」

提督「本当に好きだな」

金剛「ハイ! 特にこのクロデッドクリームなんて濃厚で最高デス!」サクサク

提督「……プレーンも美味いぞ」サクサク

金剛「そうなのデスか? では……」サクサク

金剛「……………………」

提督「どうした」

金剛「い、いえ……えっと……その…………」

提督「甘みが無くて食べられない、か」

金剛「うぅ……ハイ……。まったく砂糖が入っていないスコーンをプレーンでは……」

187 : VIPに... - 2013/11/29 21:29:05.81 lJQ8B2bOo 707/771

提督「……悪かった」

金剛「私は素直にジャムとクリームを付けて食べマス……」

金剛「……ところで、テートクは本当に砂糖がダメなのデスか?」

提督「ああ。アレルギーみたいなものと思ってくれ」

金剛「それって……身体は大丈夫なのデスか?」

提督「無事ではない。私は常に低血糖という症状と隣り合わせだ」

金剛「あ、聞いた事がありマス。目の前が緑色の世界になって倒れるのデスよね?」

提督「…………」

金剛「あれ……違いまシタか?」

提督「……いや、私の場合はそれで合っている」

金剛「?」

提督「詳しい事は救護妖精に聞くと良いだろう。病気の専門家だからな」

金剛「は、はい……」

金剛「……あの、もしテートクが低血糖で倒れたら、私がしっかりと介抱します。だから、安心していて下さい」

提督「…………」

金剛「…………?」

提督「……ああ、その時は頼むよ」

……………………。

188 : VIPに... - 2013/11/29 21:29:34.53 lJQ8B2bOo 708/771

救護妖精「低血糖時の応急手当?」

金剛「ハイ。知っているつもりデスガ、間違っていたら危ないので確認しにきまシタ」

救護妖精「ああ、提督が低血糖だからだね?」

金剛「ハイ」

救護妖精「じゃあ教えておくね。無いだろうけど、あたしが居ない時はお願いするよ」

救護妖精「意識があったらブドウ糖……はそんな簡単に手に入らないだろうから、角砂糖六個くらいを飲み込んでもら

ったらそれで良いよ。でも、意識が無い場合はその角砂糖を磨り潰して、水に溶かさず歯茎と唇の相手に塗りこんでお

く。十分から十五分くらい経っても回復しないようだったらもう一回同じ事をしたら良いよ」

金剛「その際は頭を少し垂れさせるべきでシタっけ」

救護妖精「一応はね。だけど、提督に対しては絶対にだよ。提督は意識が戻った時に吐く可能性があるから、喉に吐瀉

物が詰まったら危ないからね」

救護妖精「あと、なんで飲み込ませなくても良いかは知ってる?」

金剛「口の粘膜で糖分が吸収できるカラ、ですよネ?」

救護妖精「うん正解。大丈夫みたいだね」

金剛「合っていてホッとしまシタ……」

救護妖精「うろ覚えの知識で対処するのが一番危険だからね。確認するのは良い事だよ」

金剛「ありがとうございました」ペコ

金剛「──ところで、低血糖の時って緑色の世界になって倒れるのはなぜデスか?」

救護妖精「んー? 必ず緑色って訳じゃないよ」

金剛「そうなのデスか?」

救護妖精「ブドウ糖の不足によって脳に障害が出るから、その時によって変わったりもするし、個人差もあるよ。人に

よっては紫っていう人も居るし何も変わらないっていう人も居るしね」

金剛「…………」

救護妖精「どしたの? なんか難しい顔しちゃって」

金剛「い、いえ。なんでもありません」

救護妖精「ふーん? ま、応急手当が終わったら必ず私を呼ぶんだよ。応急手当はあくまで緊急手段なんだからさ」

金剛「ハイ。その時はお願いしマス」

救護妖精「あいよ。他に聞きたい事はあるかい?」

金剛「今の所はありまセン。また知りたい事が出来たらお訪ねして良いデスか?」

救護妖精「良いよー」

金剛「ありがとうございます! ──では、失礼しマス」

救護妖精「またねー」

ガチャ──パタン

金剛(……緑色の世界になるって、どこで知ったのでしょうか? …………思い出せません)

……………………
…………
……

220 : VIPに... - 2013/12/01 14:59:26.21 X0BSBW2Po 709/771

瑞鶴(昨日、救護妖精さんに私と提督さんの事を聞くの忘れてた……。ダメだなぁ私……なんでこんなに忘れっぽいのかしら……)

コンコン──。

救護妖精「はいよー」

ガチャ──パタン

瑞鶴「失礼します」

救護妖精(んー……なんだか嫌な予感がするねぇ……)

瑞鶴「私と提督さんの事について、聞きたい事があるの」

救護妖精(予感的中。どうして嫌な予感って当たるんだろうねぇ……)

救護妖精「貴女と提督がどうしたっていうのさ」

瑞鶴「提督さんが、救護妖精さんなら知ってるって言ってたの」

救護妖精「ああ……これは言い逃れ出来ないってやつだね……。しょうがない……話すよ」

救護妖精「単刀直入に言うと、貴女と提督は兄妹なのさ」

瑞鶴「……はぁ!?」

救護妖精「ついでに言うと、大和が貴女達の母親」

瑞鶴「え、っちょ……えぇええ!?」

瑞鶴「いやいやいやいや! それっておかしいじゃないの!」

救護妖精「うん? 何がおかしいの?」

瑞鶴「だって、私はお兄ちゃんやお母さんが居るだなんて知らないわよ!? 生き別れか何かなの!?」

救護妖精「そう思って良いよ。詳しい事は言えないけど、ちゃんと血は繋がってる。それはあたしが保証する」

瑞鶴「えええぇ…………」

瑞鶴(────って、ああ……だから『異性としての好きじゃない』って言った時にホッとしてたのね)

221 : VIPに... - 2013/12/01 15:00:02.88 X0BSBW2Po 710/771

救護妖精「貴女達は複雑な事情を抱えてるからねぇ……。本当はもっと複雑な関係だよ」

瑞鶴「……どんなの?」

救護妖精「艦娘の瑞鶴と提督は兄妹と知らずに片方が恋をしたり、深海棲艦となった後でも艦娘として復活したり、敵である深海棲艦と仲良くなったり、深海棲艦となった母親を殺しかけたり──」

瑞鶴「ごめん。話についていけないからもう良いわ……」

救護妖精「だと思った」

瑞鶴「……とりあえず、提督さんと私は兄妹っていうのは間違いないのよね?」

救護妖精「うん。そだよ」

瑞鶴「……翔鶴姉は?」

救護妖精「貴女のちゃんとした姉だよ」

瑞鶴「そう……良かったぁ……」

救護妖精「今までずっと姉と思っていた相手が姉じゃなかったらちょっと心にくるものがあるもんね」

瑞鶴「そうならなくて良かったわ……」

救護妖精「とりあえず話せる事はそれくらいだけど、何か質問とかある?」

瑞鶴「……今の所は無いわね。何かまた疑問に思ったら聞いて良い?」

救護妖精「良いよ。話せる事ならね」

瑞鶴「ありがと」

救護妖精「で、身体の調子とか大丈夫?」

瑞鶴「うん。それは大丈夫なんだけど、所々、なんだか頭に引っ掛かる事とかあるのよね」

救護妖精「引っ掛かる?」

瑞鶴「うん。提督さんが懐かしいような、知らないはずなのに知ってるような、そんな不思議な感覚」

救護妖精「…………」

瑞鶴「これって何かの病気なの?」

救護妖精「……いや、病気じゃないよ。それはデジャヴって言ってね、人ならば誰でも起きる事だよ」

救護妖精「大体は知っているのに忘れているとか、似たような体験と重ねちゃってるとか、ただ単なる勘違いとかだね」

222 : VIPに... - 2013/12/01 15:00:42.60 X0BSBW2Po 711/771

瑞鶴「ふぅん?」

救護妖精「まあ、そういう事もあるって程度に思っていたら良いよ」

瑞鶴「はーい」

救護妖精「他には何かある?」

瑞鶴「ううん。ありがとね」

救護妖精「はいよ。何か異常があったらすぐに言いに来るんだよ」

瑞鶴「うん。分かったわ。──それじゃあ、失礼するわね」

救護妖精「あいよー」

ガチャ──パタン

救護妖精「……原典の少女に記憶が移ってる? まさか。そんな事をしたら、記憶がゴチャゴチャになってるよ」

救護妖精「でも……本当にそうだとしたら……? …………これは、ちょっと詳しく調べないといけないね──って」

救護妖精「ああぁぁぁ……。そうだった……。資料は全部燃やしちゃったんだ……。一回は目を通すべきだったなぁ……」

……………………
…………
……

230 : VIPに... - 2013/12/02 02:32:26.37 oizVNKlto 712/771

金剛「テートク、そろそろ二時デス」

提督「ふむ。今日はここまでにしておこう」

金剛「はい。お疲れ様デス」

提督「ああ、お疲れ様」

金剛(……今日も何も変化がありませんでした…………。何かが出掛かっている感じがするのに、出てきません……。

どうすれば良いのでしょうか……)

金剛(早く……早くしなければならない気がします。何か嫌な感じが、全身を襲ってきて……怖いです…………)

提督「…………」

金剛「……あ、あの……テートク。一つ我侭を言わせて下さい」

提督「…………」

金剛「今日……今日だけ、今日だけで良いですから、一緒に寝させて下さい……」

提督「…………」

金剛「不安に押し潰されそうです……。何か……とても怖い何かが、私に纏わり付いてきているのです……だから……

……」

提督「…………」

金剛「……テートク?」チラ

提督「…………」ズル

金剛「────────え?」

ドサッ──……。

金剛「……テートク?」

金剛「────テートク!! テートク!? どうしたのですか!?」ユサユサ

提督「…………」

金剛「まさか……低血糖……? 砂糖──! 確か提督の懐に──あった!」ゴソゴソ

金剛(砂糖を塗り込んだら救護妖精を呼んでこないと──!)

……………………。

231 : VIPに... - 2013/12/02 02:33:18.26 oizVNKlto 713/771

救護妖精「……ねえ、砂糖は塗りこんだんだよね?」

金剛「はい……。そろそろ十分経ちます……」

救護妖精「……一応確認しておくけど、提督はお酒飲まないよね?」

金剛「え? はい……そうですけど……」

救護妖精「なら、これが使えるね」スッ

金剛「注射……ですか?」

救護妖精「そ。グルカゴン注射。砂糖を塗りこむよりもこっちの方が確実なんだよ」ソッ

救護妖精「昔は結構手に入ってたんだけど、最近はちょっと入手が難しくてね。これが搬入されたのは最近なんだよ」

スーッ

金剛「……大丈夫、ですよね?」

救護妖精「前よりも症状がちょっと深刻だからなんとも言えない。今回は血糖値が低過ぎる」

金剛「そん、な……」

救護妖精「どうしてこんなに血糖値が低くなっても動けてたのかが分からないくらいだよ。……もし回復しても、後遺

症は覚悟しなよ」

金剛「────────」

232 : VIPに... - 2013/12/02 02:34:09.87 oizVNKlto 714/771

 前に本で、血糖値が低くなり過ぎた時の後遺症を読んだ事がある。

 低血糖での昏睡で数時間が経過すると、脳に浮腫が出来たり、その他の後遺症、植物状態、最悪死ぬ事もあると──。

 以前は軽口を叩いていた救護妖精も、今回は真剣な表情で提督を診察している。

 それは、事の重大さを物語っていた。

『悪い夢であれば良いのに』

 ──今回も、そう思った。

 現実の私はベッドの上でうなされていて、傍では提督が優しく頭を撫でてくれているはずだ。

 そして、起きると提督がほんの少しだけ柔らかく笑ってくれて、おはようの挨拶を交わす──。そんな、なんの変哲もない日常が始まるはずだ。

 早く起きなきゃ……。この悪い夢から、早く醒めなきゃ……。

 だけど、どんなに強く思っても、夢からは解放されなかった。

 現実──。その言葉が、とても重い。

 彼が死んでしまうかもしれないという現実は、私にとって支え切れないほど重い。

「ぃ……ぁ…………っ!」

 胸が鋭利な刃物で刺されたかのように痛い。頭もガンガンと鐘を鳴らされているようだ。

 目の前が霞み、重力を失い、耳鳴りで何も聴こえず、自分がどこで何をしているのかが分からない。

 不安と恐怖が、私を押し潰そうとしている。

 ヤダ……怖い……助けて…………! 提督……! 助けて……!!

 世界が回る。

 身体に衝撃が走る。

 意識が遠ざかる。

 何もかもが分からない。私は今、どうなっているのだろうか。

 助けて……。助けて下さい…………提督……。

 助けて…………助けて……………………。


 ──真っ暗な闇の中、自分の姿が見えた気がした────。


……………………
…………
……

233 : VIPに... - 2013/12/02 02:34:37.30 oizVNKlto 715/771

提督「…………む」

救護妖精「起きたみたいだね、提督」

提督「……また倒れてしまったのか、私は」

救護妖精「そう。ついでに、隣の子もね」

提督「…………」チラ

金剛「…………」

救護妖精「救護室まで運べないから、隣に寝かせたよ。悪く思わないでよね」

提督「それは構わない。が、金剛はどうして倒れた」

救護妖精「それが……完全に原因不明なんだよね。いきなり倒れた。検査しても何も異常なんて無いし……」

提督「……そうか」

救護妖精「とりあえず一日様子見てみようと思ってる。後で救護室に運んでくれても良いかな」

提督「…………」

提督「いや、今から運ぼうか」

救護妖精「バカ言ってるんじゃないよ。提督だってさっきまで倒れてたじゃないか。とにかく安静にしな」

提督「だが──」

救護妖精「ドクターストップ。今回は血糖値が下がり過ぎてるんだから、検査でオッケー出せるくらいまで回復してからにする事だね。それに、口の中もまだ甘いんじゃないの? 気分悪そうじゃん」

救護妖精「嫌かもしれないけど、命に代えなんてないんだから二人でベッドを使いなよ? こんな深夜に人を起こすなんて出来ないんだから」

提督「……分かった」

救護妖精「あと、丁度良いから瑞鶴についても言っておくね」

提督「瑞鶴? 何かあったのか」

救護妖精「どうせ提督なら気付いてるんだろうけどさ、瑞鶴はどうやら艦娘の時の記憶が少しあるみたいだよ」

提督「……やはりか」

救護妖精「もしかして、金剛もそうなの?」

提督「恐らくな」

救護妖精「……そっか。ねえ、もしかしてあの二人は艦娘の魂が──」

提督「いや、それはないだろう」

救護妖精「なんでさ?」

提督「整合性が無い。もし本当にあの『金剛』や『瑞鶴』だとすれば、どうして私の事やこの鎮守府の事を忘れている」

提督「全ての魂の中から艦娘にとって必要な知識や経験だけを蓄える、という方がまだ納得出来る」

234 : VIPに... - 2013/12/02 02:35:28.45 oizVNKlto 716/771

救護妖精「そうだよね……そんな都合の良い事、起きる訳ないよね……」

提督「期待をすれば、いつか絶望する。それならば、最初から諦めていた方が随分と精神衛生が良い」

救護妖精「…………」

提督「私なりの処世術だ。悪く思わないでくれ」

救護妖精「……納得はしないよ」

提督「ああ……」

金剛「ぅ……」

救護妖精「!」

提督「どうやら、金剛の心配は要らないよう──だ……?」

金剛「…………」ギュ

救護妖精「…………」

提督「……金剛、起きているのなら放せ」

金剛「提督……ていと、く……」ギュゥ

提督「…………」

救護妖精「……うなされてるみたいだね」

金剛「ヤダ……嫌です…………私は────です……」カタカタ

提督「……………………」

救護妖精「提督、抱き締めてやりなよ」

提督「…………」

救護妖精「人助けだと思ってさ。このままは可哀想だよ」

提督「………………………………」

金剛「っぅ……! ゃ、だ……!」カタカタ

提督「………………仕方が無い……な」ソッ

金剛「…………っ!」ビクッ

金剛「……っぁ…………あぁ……」

金剛「……………………」スゥ

235 : VIPに... - 2013/12/02 02:35:56.25 oizVNKlto 717/771

救護妖精「……ん。落ち着いたみたいだね」

提督「そうみたいだな」

救護妖精「心労、なんだろうねぇ……。お互いさ」チラ

提督「…………」

救護妖精「提督、辛いのならちゃんと周りに頼るんだよ?」

提督「……ああ」

救護妖精「あと、開発が全然進まなくてごめんよ……」

提督「気にするな。そう簡単に作れる物ではない」

救護妖精「……ありがと」

提督「話は変わるが、私はこのまま寝ても問題無いのだな」

救護妖精「ん。むしろそのまま寝るのをお勧めするね。ゆっくり休みなよ」

提督「……ああ」

救護妖精「それじゃあ、私は戻るね。ごゆっくりー」

提督「…………」

ガチャ──パタン

提督「……本当、近頃のお前は金剛に似ているな」ナデナデ

金剛「んぅ……」

提督「…………はぁ。私も寝るとしよう……」

……………………
…………
……

243 : VIPに... - 2013/12/02 23:39:53.62 oizVNKlto 718/771

金剛「……ん」スッ

金剛(…………あれ? どこデスかここ……)モゾ

金剛「…………?」

金剛(誰かに抱き締められているみたいデスね。……落ち着くという事は、抱き締めている人はテートクでショウか)

金剛「……提督?」

金剛(え……? なぜ私がここに。私は、あの時──)

提督「む……」

金剛(──ああ……きっと、そういう事なのですね。では、少しだけ我慢しましょう)

提督「……起きたか、金剛」

金剛「おはようございます、テートク」

提督「おはよう」スッ

金剛「あ……」

提督「どうした」

金剛「あ、いえ……」

金剛(もう少し、抱き締めて欲しかったですケド、いつまでもこうしている訳にはいきませんからネ)

金剛「明かりを付けてきマス。少々お待ち下さサイ」モゾモゾ

パチン──。

金剛「…………時間は、マルゴマルマルですネ」

提督「────」

金剛「? どうしまシタ、テートク? なぜそんなに驚いているのデスか?」

提督「……………………」

金剛「…………」

244 : VIPに... - 2013/12/02 23:59:14.86 oizVNKlto 719/771

提督「……金剛、いつも私達は何の仕事をしていたか言ってみろ」

金剛「最近は書類整理だけでしたね。──少し前は、この鎮守府の運営をしていました」

提督「お前がこの鎮守府に来たのは何番目だ」

金剛「最後ですね。──それとも、二番目……電の次と言った方が良いでしょうか」

提督「…………」

金剛「…………」

提督「……夢、か?」

金剛「現実ですよ、提督」

提督「だが……」

金剛「提督。私、言いましたよね」


──私の魂に刻まれます。


金剛「ってね」

提督「…………金剛、こっちに来い」

金剛「はい」ソッ

提督「っ!」ギュッ

金剛「──っつ! あはっ。痛いですけど……嬉しいです……」

提督「……金剛」

金剛「……提督」

245 : VIPに... - 2013/12/02 23:59:43.31 oizVNKlto 720/771





おかえり──。


──ただいま。




249 : VIPに... - 2013/12/03 00:13:15.50 6x68i+t2o 721/771

……………………。

提督「すまない。みっともない姿を見せてしまった」

金剛「貴重な姿を見れて嬉しいです」

提督「しかし……一体どういう事なんだ? もう、帰ってこないと諦めていたのだが」

金剛「……私もよく分かりません。ただ分かっている事は、私は提督の知っている『金剛』ではない、という事です」

提督「……どういう事だ?」

金剛「確かに、提督に仕えた時の記憶はあります。けど、それも完全という訳ではないようで、思い出そうとしても思い出せない部分が沢山あります」

金剛「提督と約束した事、私を愛してくれた事、提督の胸の中で最後を迎えられた事──。特に大事な部分は憶えていますけど……それ以外はあまり……」

提督「…………」

金剛「言ってしまえば、提督と一緒の日々を過ごした記憶のある別人……そう言ってしまう方が合っていると思います。現に、ここ数日の記憶もしっかりと有ります」

金剛「記憶は本物でも、身体は別人です……。提督が私をどう扱うか……それで変わってくると思います」

提督「……………………」

金剛「……提督。提督は、私をどう扱ってくれますか……?」

提督「考える必要もない」

金剛「…………」ビクッ

提督「さっき言っただろう。おかえり、と」

金剛「────提督ーっ!!」ギュッ

提督「…………」ナデナデ

金剛「~♪」スリスリ

金剛「──あっ。でも……本当に良いのですか? 私、身体は完全に別人で、中身も半分は別人なのですよ……?」

提督「I don't mind that everyting is a lie. As long as love me forever.」

金剛「────!」

提督「例え全てが嘘でも構わない。お前が私を愛している限り、永遠に。……金剛の言ったものを捩っただけだが、これでどうだ?」

金剛「……惚れ直しましたっ」ギュゥ

提督「嵌って抜け出せそうにないな」

金剛「とっくの昔からそうなってますっ」

提督「くくっ。そうだったな」

……………………。

252 : VIPに... - 2013/12/03 00:32:08.93 6x68i+t2o 722/771

救護妖精「……マジで?」

金剛「リアリー。全部ではありませんが、思い出しましたヨー」

救護妖精「はー……。そんな事ってあるんだねぇ……。本当に驚いたよ……」

提督「私もだ。本当に夢かと思った。だが、一応念の為に検査をしてくれないか」

救護妖精「おやおや。過保護だねぇ?」ニヤニヤ

提督「愛する女性を守るのは当然だろう」

救護妖精「……真顔で言われると返し辛いね。……まあ、なんともないだろうけどやっておくね。お昼前には終わると思うから、その時まで借りておくよ」

提督「頼んだ」

金剛「テートク、私が居ない間に無理はノーなんだからネー!」

提督「うむ。お前もしっかりと検査されてこい」

金剛「はいっ!」ピシッ

救護妖精(……ま、一番心配だった提督が治ったみたいだし、いっか)

救護妖精(──生きる目的、見つけたんだね)

……………………
…………
……

253 : VIPに... - 2013/12/03 00:49:18.33 6x68i+t2o 723/771

提督「……うむ。素晴らしい」

少将「ほ、本当ですか!」

提督「ああ。これならば私がもう居なくても問題無いだろう」

少将「……とうとう、この日が来てしまいましたね」

中将A「寂しいものがありますな……」

中将B「本当に退役なされるのですか?」

提督「ああ。私のような死に損ないはとっとと消えるべきだ」

中将B「そうでございますか……」

提督「中将A、中将B、少将。これからのこの国を頼んだぞ」

中将A「何を仰っていますか。我々は海を護るだけですよ」

提督「くくっ。そうだったな」

中将B「これからの海軍も、大将殿の意思を潰えないようにしていきます」

提督「思想は時代と共に変わる。私に囚われ過ぎて大事なモノを見失うのではないぞ」

中将A中将B少将「はっ!」ピシッ

提督「では、これから頼むぞ、新大将の三人よ。──会議はこれで終わりだ。以後、新大将の三人に任せる」

少将「──大将殿。最後にお一つ宜しいですか?」

提督「なにかね」

少将「軍縮についてですが、多数の鎮守府が廃棄される事となります」

提督「それがどうした」

少将「その内の一つを、貰って頂けませんか?」

254 : VIPに... - 2013/12/03 01:05:43.17 6x68i+t2o 724/771

提督「……どういう事だ」

中将A「私達のささやかなプレゼントだと思って下さい」

中将B「大将殿が居なければ、私達は大事なものに気付く事もありませんでした。そのお礼です」

少将「これがあの鎮守府の土地の権利書です。既に手続きは済ませておきました」

提督「……あのような広い土地をどうしろというのかね」

少将「それは大将殿がお決め下さい。……あの鎮守府に、何か思い入れがあるのですよね?」

提督「……隠していたつもりだったが、どうして分かった?」

中将A「勿論、私達も同じだからです」

中将B「特に大将殿は艦娘を大事にしておられたと耳にしています。そこまで知れば、想像するのは容易です」

提督「……やられた。私もまだまだ若いという事だな」

提督「ありがたく頂こう。鎮守府内の物資はどこへ運べば良い」

中将B「下の書類に記載してあります」

提督「分かった。……そうだな。残りの余生は海を眺めて暮らすとしよう」

中将A「まだまだお若いのですから旅をしてみるのも良いでしょう」

提督「そうだな。考えておく」

提督「……三人共、ありがとう」

……………………
…………
……

256 : VIPに... - 2013/12/03 01:27:41.25 6x68i+t2o 725/771

利根「燃やすのはこれで最後かのう?」

提督「ああ」

那智「……本当にグロテスクだな、これは」

救護妖精「無理しないでね。気持ち悪くなったらすぐに言いなよー」

金剛「だ、大丈夫デス……」

提督「……一緒に付いているから、絶対に無理をするんじゃないぞ」

金剛「──はいっ!」

那智「…………」

利根(まだ諦め切れないのか、那智よ)ヒソ

那智「……煩い」ボソッ

提督「──これを燃やせば、この世に残っている艦娘の製造資料は無くなるな」

救護妖精「え? 大国には残ってるんじゃないの?」

提督「大将権限で密かに大国の様子を探らせてみた。その結果、大国の一部にクレーターのような爆発した跡があると判明した。その場所は海に面しており、近くには飛行場や造船設備もあったとの事だ」

救護妖精「……それって」

提督「奪われた艦娘製造を行った基地と考えて良いだろう。……もうこの世に残っている製造資料は、目の前にある物だけだ」

救護妖精「じゃあ……私の悲願は……」

提督「達成されるという訳だ」

救護妖精「…………ありがとう、提督」

提督「皆のおかげだ。私一人の功績ではない。──さて、最後の一仕事をしよう」

救護妖精「──うん」

……………………。

257 : VIPに... - 2013/12/03 01:50:08.72 6x68i+t2o 726/771

金剛「うぅ……」ヨロヨロ

那智「ふん。軟弱者め」

金剛「あんなモノ……見ていて平然と出来るくらいなら軟弱なままで良いデス……」

提督「紅茶でも飲むか?」スッ

金剛「イタダキマス……」コクコク

提督「…………」ナデナデ

金剛「ん……少し、楽になりました……」

提督「うむ」ナデナデ

那智「……………………」

救護妖精「あー……やーっと終わったよ……」グッタリ

提督「ああ、終わったな。艦娘の存在自体はこれからも語られるだろうが、その内、曖昧になって伝えられる事となるだろう。もう、憂う必要はない」

救護妖精「後は、この鎮守府に残ってる子達の新しい住居を与えるって仕事くらいかねぇ」

提督「そうだな。……だが、それも中々に難しいものだ」

利根「うむ。何しろ、ごねている者とその姉妹しか残っておらぬのう」

提督「その中の一人が何を言う」

利根「じゃから言っておるじゃろう。提督殿の近所に住まわせてくれるだけで良いと」

提督「……そうだな。いっその事、ごねている全員をここに住まわせるのも良いかもしれないな」

全員「!!」

那智「それは本当か!?」

利根「えらい食いつきようじゃな……」

提督「この鎮守府の土地の権利書を退役祝いとして頂いた。……が、ここで住むには些か広すぎる。どうだ?」

那智「住まわせてくれ。しっかりと働く」

救護妖精「私も専属医師として住み込みで良いかな?」

利根「住み込み……。うむ。我輩も家政婦として住み込みで働きたい」

金剛「わ、私もです!」

提督「金剛はダメだ」

金剛「──え?」

258 : VIPに... - 2013/12/03 01:50:35.81 6x68i+t2o 727/771

提督「お前は住み込みではなく、ここで私と一緒に住んでくれると嬉しい」

金剛「そ、それって……」

提督「……私の籍に入ってくれないか?」

金剛「────」

提督「…………」

金剛「……は………………」

提督「…………」

金剛「────はいっ! 喜んで!!」ギュウ

提督「幸せにし続けるよ」

金剛「はいっ! はいっ!!」

那智「…………」ズーン

利根「……まあ那智よ。今夜は朝まで酒に付き合ってやるから、の?」

救護妖精「まったく……場所を弁えなよ提督」

……………………
…………
……

259 : VIPに... - 2013/12/03 01:51:04.47 6x68i+t2o 728/771

提督「──という訳で、これ以上ごねるのならばこの鎮守府で私と一緒に暮らしてもらう」

「じゃあ、ごね続けるね」

「私もごねるわ!」

「はいなのです」

「それで手を打つわ」

島風「やったー!」

川内「いいねそれ!」

神通「川内、嬉しそうね」

那珂「神通もねー」

天龍「ふふ……ふふふふふ……!」

龍田「あらぁ。あらあらぁ。とーっても良い案ねぇ」

瑞鶴「良い感じじゃない。私もごねるわね」

翔鶴「瑞鶴が良いのでしたら私もそれで構いません」

大和「そうですね。私もごねましょう」

利根「我輩は昨日、言ったのう」

筑摩「利根姉さんから聞きました。姉さんの珍しい我侭ですので、賛成します」

那智「利根と同じだ」

妙高「那智ったら我侭なんだから」

足柄「まあ、ここなら良いんじゃないかしら」

羽黒「わ、私もです」

霧島「私もそれが良いと思います」

比叡「お姉様が居る所に比叡在り! 私もここで気合、入れて、住みます!」

榛名「私も構いません。けど、気合を入れて住むってどういう事なのですか比叡お姉様……」

提督「……ごねていた者どころか、その姉妹も全員納得してしまったな」

金剛「この鎮守府は広いデスから、大丈夫ネ」

提督「何が大丈夫なのやら」

金剛「えへへー」

金剛「……賑やかになりますね」

提督「ああ。あの時のように、な」

……………………
…………
……

260 : VIPに... - 2013/12/03 01:51:34.54 6x68i+t2o 729/771

コンコン──。

提督「入れ」

ガチャ──パタン

瑞鶴「やっほー。遊びに来たわよー。──って、ここは全然変わらないのね」

金剛「やっぱり、あのままの方が落ち着きますからネ」

提督「何より、思い入れがあるからな」

瑞鶴「ふーん……」

提督「それより、こんな時間にどうした」

瑞鶴「夜・這・い」

金剛「なぁっ!?」

瑞鶴「冗談よ。単純に妹として遊びに来ただけよ」

金剛「っ!」ギュゥ

瑞鶴「……どうしたのよ、提督さんを抱き締めちゃって」

金剛「い、妹だからといっても、提督は渡しまセン! というか、提督の妹だったのデスか瑞鶴は!」ギュウゥ

提督「……金剛、少し痛い」

瑞鶴「……前々から思ってたんだけどさ、金剛さんって提督さんとすっごく仲が良いわよね。あげないわよ?」

金剛「────!!」

261 : VIPに... - 2013/12/03 01:52:24.80 6x68i+t2o 730/771

金剛「テートクのハートを掴むのは、私デース!」ギュゥ

瑞鶴「!?」

金剛「絶対に渡しまセーン!!」

瑞鶴「えっ……ちょ、ええぇえ!!? ほ、本気で!? 提督さんも良いの!?」

提督「掴む所か、既にガッチリと掴まれている」

瑞鶴「はぁっ!? いつの間に!?」

提督「……艦娘の時から、だな」

瑞鶴「ちょっ……」

金剛「私は食いついたら放さないんだからネ!」ギュゥゥ

瑞鶴「…………ええええぇぇぇぇぇぇ……」

金剛「ぅー……」ジッ

瑞鶴「…………」ニヤ

瑞鶴「まあ、妹って立場を利用すればいくらでも──」

金剛「提督は絶対に譲りませんからネ!! 胃と心と身体で繋ぎ止めマス!!」

瑞鶴「…………」ニヤニヤ

提督「金剛、冷静になれ。完全にからかわれているぞ」

金剛「──ハッ!」

瑞鶴「いやぁ、良いもの見れたわ。爆弾発言も頂いちゃったし。胃と心と『身体』で繋ぎ止める、ねえ?」ニヤニヤ

金剛「う、ぅぅ……」

提督「離れないから安心しろ」ナデナデ

金剛「ぁ……ハイ!」

瑞鶴「ふふっ……」

瑞鶴(なんだろ……心のどこかで、こうなるのを望んでいた自分が居る……)

提督「ずっと一緒だ」ギュ

金剛「約束ですよ」ギュ

瑞鶴(二人共、幸せそう……)

提督「ああ、約束だ」

金剛「提督の約束なら安心です!」

瑞鶴(──ああ。一つ思い出した事があるわ)

提督「約束は、これからも破らないよ……」

金剛「私も、絶対に破りません……」

瑞鶴(私、二人のこの笑顔が見たかったのね)

瑞鶴「────幸せにね、二人共」




──── 金剛「テートクのハートを掴むのは、私デース!」瑞鶴「!?」 ────


273 : VIPに... - 2013/12/03 02:03:05.89 6x68i+t2o 731/771

終わりました。ここまで読んで下さった方々、お疲れ様です。


■あとがき的な何か
本来書く予定の無かったグッドエンドです。故に、色々とご都合主義な面々が……。
この物語は初めからルートは金剛のみで考えていました。瑞鶴へのルートもちょっとだけ考えましたけど、どうしても金剛で進めたかったので金剛ルートでやりました。
響はまだ子供なので論外として、

響「逆さ吊り」

……響はまだ子供なので道徳的に宜しくなかったので、提督に恋をして行動も起こした女の子の一人として扱いました。
瑞鶴ではない理由は、金剛が艦娘として普通だからです。
普通に提督を愛し、普通に提督の為に動き、普通に提督に身と心を捧げた少女なので、金剛のルートにしました。
妹心から来る恋愛とか大好物ですけど、普通の少女が頑張って非日常で動いていくのを書きたかったので……。

本来のエンディングも書いていきますが、何かご質問などがありましたら遠慮なくどうぞ。
だが、本来のエンディングは今日投下するかは未定ですのでご了承下さいませ。

286 : VIPに... - 2013/12/03 06:05:31.67 6x68i+t2o 732/771

今更感が半端無いけど、まだ完結ではないのです。勘違いさせたのならばゴメンよ。

トゥルーエンドは書きますし、その後日談も書く……かもしれない。

323 : VIPに... - 2013/12/04 21:21:01.45 2XI1T3vDo 733/771

ちょびっとだけ投下します。
ちなみに、>>72よりルートが変わります。結構サクサク進むと思いますので、ボリュームは無いかも。

324 : VIPに... - 2013/12/04 21:21:30.70 2XI1T3vDo 734/771

提督(満月の明るさに加えて無風か。これは綺麗に燃えてくれそうだ)

金剛「…………」ソッ

金剛「あの──」

提督「なにかね」

金剛「ひゃぅ!? きき、気付いていたのデスか!?」

提督「ああ。──それよりも、何か用か」

金剛「あ、えっと……何かお手伝い出来ないかな、と思いマシて……」

提督「特に無い。今日は燃やして消えるのを待つだけだ」

金剛「…………あの、見ていても……良いデスか?」

提督「……………………」

金剛「お傍に居たいのデス……」

提督「……寝なさい。朝に起きれなくなるだろう」

金剛「が、頑張って起きますカラ!」

提督「…………」

金剛「…………」

提督「……少しの間だけだぞ」

金剛「──ハイッ!」

提督「あと、眠たくなったら正直に言う事。良いな」

金剛「はいっ」

325 : VIPに... - 2013/12/04 21:23:12.76 2XI1T3vDo 735/771

シュッ──ボッ──

提督「…………」

……チリッ

金剛「…………」

チリチリッ──

金剛「……すっごく簡単に燃えていきますネ」

提督「何せ古びた本だからな。脆くなっているのだろう」

金剛「……近くに寄って良いデスか?」

提督「救護妖精から私と『金剛』の事を聞いたからか」

金剛「…………ハイ」

提督「それは気にするな。お前はお前だろう」

金剛「でも、私も気になるのデス。貴方を放っておけない、そんな気持ちがありマス」

提督「…………」

金剛「…………」

提督「……好きにすると良い」

金剛「──ハイッ!」

……………………
…………
……

326 : VIPに... - 2013/12/04 21:23:47.19 2XI1T3vDo 736/771

カリカリ──。

提督「…………」

提督(……朝礼の時間になっても誰一人来ないのは、寂しいものだな。……いずれ慣れる、か)

コンコン──。

提督「…………」

提督「入れ」

ガチャ──パタン

金剛「おはようございます!」

提督「金剛か。なにかね」

金剛「秘書のお手伝いをしに来まシタ!」

提督「……妹達はどうした」

金剛「まだ寝ていマス。ここに行くと書き置きもしてきたデス」

提督「……そうか」

金剛「──あの後ですね、考えたのです」

提督「何をだ」

金剛「私のこの奥底に眠っている何かを、です」

提督「…………」

金剛「考えれば考えるほど、貴方が浮かんできました。顔、行動、感情……全てが貴方に関するものでした。その中に、おかしなモノもあったのです」

提督「おかしいもの?」

金剛「えっと、その……貴方と口付けを交わしている姿、です」

提督「…………」

327 : VIPに... - 2013/12/04 21:24:35.18 2XI1T3vDo 737/771

金剛「詳しい事は憚りますけど、実際に体験したかのような記憶でした。でも、それっておかしいですよね」

提督「ああ。私は勿論、お前も私へ接吻した事など無いはずだ」

金剛「だから、私はこう思ったのです。──これは、前の『私』が経験した記憶なのではないか、と」

提督「……可能性はある」

金剛「ですよね!」ズイッ

提督「…………」

金剛「私は、前の『私』の記憶を取り戻したいです。このまま放っておくのは私も気分が悪いですし、何よりも貴方が救われません。なので、協力して頂けませんか?」

提督「……何をさせる気だ」

金剛「憶えている限りで良いです。貴方の知っている『金剛』と同じ事を、私にして下さい。思い出せるかもしれません」

提督「思い出さないかもしれないだろう」

金剛「その時はその時です。思い出すかもしれないのですから、やってみるべきだと思います」

提督「…………」

金剛「ダメ、ですか……?」

提督「……試してみる価値はあるだろう」

金剛「────!! ハイッ! まずは何からすれば良いでしょうか!」

提督「書類整理からお願いする。左上に担当部署が書いてあるから、それの通り分けてくれ」

金剛「ハイ! ──あ」

提督「どうした」

金剛「何か飲み物を用意しまショウか。その方が集中出来ると思いマスよ」

提督「……なら、紅茶を淹れてくれるか。いつもそうして貰っていた」

金剛「ハイッ! 少し待ってて下サイ!」

金剛「──あ、そういえば、なんてお呼びしまショウか?」

提督「……お前ならば私をどう呼ぶ」

金剛「え? ええと……テートク……ですかネ?」

提督「…………ならばそれで良い。そう呼んでくれ」

金剛「は、はい……」

……………………。

336 : VIPに... - 2013/12/05 03:39:09.49 hMIrHRjro 738/771

金剛「どうぞ、テートク。おかわりデス」スッ

提督「うむ」ズズッ

金剛「♪」コクコク

提督「……………………」ジッ

金剛「あ、あれ……? お口に合いませんでシタか?」

提督「金剛、そっちの紅茶を飲ませてみろ」

金剛「え……えっとぉ……その…………」

提督「お前、自分のは出涸らしを使っているだろう」

金剛「な、なぜ分かったのですか……?」

提督「なんとなく、な」

金剛「うぅ……まさかバレるとは思いませんでシタ……」

提督「……健気だな」

金剛「いえ、私がテートクと同じ紅茶を飲んでいるのがおかしいのデス。本来ならば私はこんなに良い紅茶を飲める立場ではないと思いマス」

提督「秘書の特権だ。ここではそうなっている。これからは使えなくなるまで出涸らしを使え。無論、私のもだ」

金剛「ハイ……」

提督「……気を遣ってくれるのは嬉しいが、私はお前と同じモノを飲みたい。それが一番の理由だ」

金剛「──ハイッ!」

提督「素直で良い子だ」

金剛「ありがとうございますっ。──あ、もしかして艦娘の私もそうだったのデスか?」

提督「ああ。似たような会話をしたよ」

金剛「この調子デスね! もっともっと同じになれるよう頑張りマス!」

提督「記憶を取り戻すのが本来の目的だろう」

金剛「あ。そうでシタ。でも、薄っすらとこのようなやりとりをしたような気はしマス」

提督「そうか。このまま、戻ってくれるとありがたいな」

金剛「きっと戻りますよ。きっと──」

……………………。

337 : VIPに... - 2013/12/05 03:39:38.29 hMIrHRjro 739/771

コンコン──。

提督「入れ」

ガチャ──パタン

瑞鶴「やっほー。遊びに来たわよ──って、金剛さん?」

金剛「おはようございマス瑞鶴」

提督「私は忙しいのだが」

瑞鶴「何よ、金剛さんは居るじゃないの」

提督「金剛は私の仕事を手伝ってくれている。断じて遊んでいるのではない」

瑞鶴「むー……。じゃあ、仕事をしている姿が見たい」

金剛「……それって面白いのデスか?」

瑞鶴「あら、面白いわよ。金剛さんが私の立場だったらどう思う?」

金剛「……………………納得しました」

提督「…………」

瑞鶴「でしょ?」

提督「……好きにするが良い」

瑞鶴「はーい。ソファ借りるわね」ポスッ

金剛「瑞鶴の紅茶を用意しますので、少しお待ち下サイ」スッ

瑞鶴「ん、ありがとね」

提督「…………」ズズッ

瑞鶴「……ねえ、提督さんって紅茶が好きなの?」

提督「執務をしている時は必ずと言っても良いほど口にしている」

瑞鶴「相当ねそれ……。うーん……紅茶かぁ」

提督「どうした。興味でもあるのか」

瑞鶴「今興味が沸いたわ」

提督「……そうか」

瑞鶴「あ、今の言葉もう一回言って?」

提督「…………そうか」

瑞鶴「なんだろ。それ懐かしい気持ちがする」

提督「…………」

瑞鶴「んー……紅茶の淹れ方、金剛さんに教えてもらおうっと」スッ

提督「…………」

提督(……僅かながら記憶がある、か)

……………………。

338 : VIPに... - 2013/12/05 03:40:21.96 hMIrHRjro 740/771

瑞鶴「ん……?」

提督「起きたか」

瑞鶴「あれ……私、いつのまに寝ちゃってたの?」クシクシ

金剛「一時間くらい前デス。なんだか幸せそうな顔をしていましたケド、何か良い夢を見ていたのデスか?」

瑞鶴「んー……よく分かんない。ただ、あったかい夢だった気がするわ」

金剛「炬燵の中で丸くなっていたトカ」

瑞鶴「もう。私は猫じゃないわよ。──そうねぇ。心があったかくなる夢だったと思う」

金剛「良い夢だったようですネ」ニコ

瑞鶴「うん。──って、もう十二時じゃないの。二人共、そろそろお昼にしたらどう?」

提督「構わないが、お前達の妹や大和を放っておくのか」

金剛瑞鶴「あ」

金剛「すみません。少しマイシスターズの所へ行ってきマス」

瑞鶴「私もちょっと様子を見てくるわね」

提督「ああ」

……………………。

339 : VIPに... - 2013/12/05 03:40:51.69 hMIrHRjro 741/771

コンコン──。

提督「入れ」

ガチャ──

瑞鶴「ただいまー」

金剛「ただいま戻りまシタ」

榛名「お邪魔します」

霧島「お邪魔しますね、提督」

比叡「提督、ご飯ですよー!」

翔鶴「失礼します」

大和「お仕事の調子はどうですか、提督?」

──パタン

提督「……………………」

瑞鶴「どうしたのよ? なんだか物凄く不思議そうな顔してるけど」

提督「いや、予想外だった」

比叡「それよりも早く食堂に行きませんか提督! 私、もうお腹がペコペコですよ!」

提督「もう少し待ってくれ。あと少しでキリの良い所になる」

榛名「はい。お待ちしますね」

提督「しかし、お前達が来るのは意外だな」

霧島「そうでしょうか? ……確かに、どこか近寄り難い雰囲気ではありましたけど、そこまで意外だったのでしょうか」

提督「自分で言うのもおかしいとは思うが、あまり好ましくは思われていないと思っていたからな」

翔鶴「少し怖いイメージがありますけど、タイミングが掴み辛かったのは確かです」

提督「気軽に来てもらって構わない。そこの瑞鶴のようにな」

瑞鶴「……なんだか私、邪魔者扱いされてる?」

提督「仕事をしている時に『遊びに来た』などと言うのは瑞鶴しか居ないだろう」

瑞鶴「だって、他に良い言葉が無かったんだもん……」

大和「瑞鶴、あまり提督を困らせてはいけませんよ」

瑞鶴「はーい……」

提督「…………特に困っているという訳ではないから安心しろ」

瑞鶴「──うん! ありがとね!」

提督(……親子、か。私も昔はこうであったのだろうか……)

……………………。

340 : VIPに... - 2013/12/05 03:41:22.65 hMIrHRjro 742/771

コンコン──。

提督「入れ」

「提督さん! 遊びに来たわよ!」

「あの、もしかしてお忙しいですか?」

島風「私、かけっこしたいな!」

「提督さん一位、島風二位の独占順位になるのが目に見えてるわよ」

「ん、金剛さんも居るね。もしかして忙しかったかな」

金剛「えっと……」チラ

提督「……丁度休憩を挟もうとしていた所だ。かけっこは出来ないが、雑談には付き合える。それで良いか?」

「勿論よ!」

島風「私も異議なーし!」

金剛「ハイ。それでは紅茶を淹れてきマスので、少し待っていて下さいネ」

「はいなのです」

「手伝っても良いかしら」

金剛「あら、暁はお利口デスね」

「お子様扱いしないでー!」

「そう言うと益々お子様に見えるよ、暁」

「う、うー……!」

提督「……ほら、大人しく待っていたら砂糖菓子を出してやるから静かにしていなさい」

……………………。

341 : VIPに... - 2013/12/05 03:42:00.01 hMIrHRjro 743/771

「美味しいのです! 苦味と甘みが一緒になって、とっても美味しいチョコレートみたいなのです!」コクコク

「うん、凄く良い組み合わせだね。甘いお菓子と一緒だと、紅茶に砂糖は入れないくらいが丁度良いね」カリカリ

「そう? どっちも甘い方が美味しいわよ」コクコク

島風「私も紅茶に砂糖を入れない方が良いかなー」カリッ

「暁だけお子様ね!」コクコク

「お子様言うなぁ!」

提督「楽しみ方は人それぞれだろう。気にする事はない」ズズッ

金剛「そうデース。好みは人によって違いますネー」コクコク

「ほら! 提督さんも金剛さんもこう言ってるじゃない!」

「ん、ごめんよ。──ところで、提督はどうしてお菓子に手を付けないんだい?」

提督「私は甘い物が苦手だからな」

金剛「そうなのデスか?」

「好き嫌いは良くないわよ?」

提督「いや、私の身体は糖分を受け付けないらしい。一種のアレルギーだと思ってくれ」

金剛(一応、甘い紅茶も控えておきまショウ)

「大変なのです……」

提督「もう慣れた。だから、私はあまり運動をしてはいけないんだ」

「だから最初に会った時、許可が必要って言ってたんだね」

提督「ああ。そういう事だ」

島風「んー……じゃあかけっこはいいや」

提督「許可が下りたら構わん」

金剛「え……? い、良いのですか……?」

島風「んー……よく分かんないけど、提督にとって運動するのって危ないんでしょ? だったら私はかけっこしたくないな」

提督「……優しいな、島風」

島風「そんな事ないよー。私は人を危ない目に合わせたくないだけだもん」

提督「そう言えるのは立派だ」

金剛「島風は人を思いやれる優しい子デス」

342 : VIPに... - 2013/12/05 03:42:27.31 hMIrHRjro 744/771

島風「……ありがと?」

金剛「ハイ。褒めていマスよ」

提督「うむ」

島風「えっへへー」

「でも、不思議ね? お砂糖を摂っちゃダメだなんて」

提督「世の中には水がアレルギーの人間も居るらしい。そう考えたら糖分が受け付けられないというのも不思議ではなかろう」

「お水がダメな人が居るのですか!?」

金剛「それって生きていけるのデスか……?」

提督「あくまで聞いた話だ。真実かどうかは知らない。だが、その人は果汁百パーセントのジュースか牛乳を一日でコップ三杯までしか飲んではいけないらしい」

「たったの三杯だなんて……」

島風「私には絶対に耐えれないね」

「大抵の人はそうだと思うわよ?」

「運動が好きな人は、特に辛そうだね」

提督「世の中には色々な人が居るという事だ」

「私も茄子が苦手なのはアレルギーだったりは……」

提督「ないな」

「ないね」

「ないわね!」

「好き嫌いよね」

島風「好き嫌いね」

金剛「ダメですよ電」

「はわわわわ……。皆イジワルなのです……」

提督「茄子が苦手な子でも美味しく食べられるように間宮に伝えておく。好き嫌いは克服しような、電」

「うぅ……はいなのです……」

「──あら。紅茶が切れちゃったわ」

金剛「次のを用意してありマス。少し待っていて下さいネ」

提督「準備が良いな、金剛」

金剛「これだけの人数が居れば、すぐに無くなるのは目に見えていまシタ。今度は今飲んでいる紅茶と違いますカラ、また違った楽しみがありマスよ」

島風「本当!? 金剛さんって凄いのね!」

「紅茶のスペシャリストだね」

金剛「サンキュー。褒められるのはくすぐったいネー」

提督「今後も紅茶を頼むよ」

金剛「ハイ! 任せて下サーイ!」

……………………。

350 : VIPに... - 2013/12/05 23:13:20.30 hMIrHRjro 745/771

「──とっても美味しかったわ!」

「ありがとう。お礼はちゃんと言えるし」

「幸せな気分になれたのです」

島風「ありがとねー!」

「ダスビダーニャ」

提督「ああ、またな」

金剛「グッバイ」フリフリ

──パタン

金剛「……テートク、一つよろしいでしょうか」

提督「何かね」

金剛「さっきのお話の件についてです。砂糖がダメという事は、テートクは低血糖なのですか?」

提督「ああ。そうだ」

金剛「これからは懐に砂糖を常備しておきます」

提督「ほう。応急手当を知っているのか」

金剛「唇と歯茎の間に塗り込むのですよね?」

提督「知っているようだな。ならば安心だ。……だが、低血糖の応急手当を知っているとは思わなかった。どこでそんなものを知ったんだ」

金剛「えっと……テートクに教えて貰った記憶があります」

提督「私に、か」

金剛「よく憶えていないのですが、何かを食べている時に教えて貰ったような……」

提督「……そうだな。今度、間宮にスコーンを作って貰おう」

金剛「ほ、本当ですか!?」

提督「ああ。濃厚なクロデッドクリームとジャムも付けてな」

金剛「私スコーン大好きです! ありがとうございます!」ギュッ

提督「こらこら。はしゃぐ気持ちは分かるが、少しは抑えてはどうだ」

金剛「テートク、大好きです」スリスリ

提督(……出来れば、その言葉は記憶が戻ってから言って欲しかったな)

……………………。

351 : VIPに... - 2013/12/05 23:13:50.24 hMIrHRjro 746/771

コンコン──。

提督「入れ」

ガチャ──パタン

瑞鶴「こんばんは提督さん、金剛さん」

金剛「こんばんは瑞鶴」

提督「瑞鶴か。どうした、こんな時間に」

瑞鶴「二人に会いに来たのよ」

提督「……そうか」

金剛「私達に、デスか?」

瑞鶴「うん。少し暇だったのよね」

瑞鶴「あ、迷惑だったら言ってよ? 私、バカだからそういうのよく分かんないのよ」

提督「迷惑ではないから安心しておけ」

瑞鶴「……艦娘の私も同じ事してた、とか?」

提督「…………ああ」

金剛「…………」

瑞鶴「正直なのね」

提督「故に馬鹿を見るがな」

瑞鶴「良い事じゃないの。私、そういうバカは好きよ」

金剛「!!」

提督「……そうか」

瑞鶴「あ、異性として好きって意味じゃないからね? 勘違いしちゃダメよ?」

提督「そうか」

金剛「…………」ホッ

352 : VIPに... - 2013/12/05 23:14:32.75 hMIrHRjro 747/771

瑞鶴「……金剛さんは分かるんだけど、なんで提督さんも少しホッとした感じになってるのよ」

提督「救護妖精にお前と私の関係を訊けば分かる」

瑞鶴「救護妖精さん?」

提督「ああ。だが簡潔に言うと、お前と私は兄妹だ」

瑞鶴「……は?」

金剛「……え?」

提督「後の事は救護妖精に聞いてくれ。私の知らない真実も知っているだろう」

瑞鶴「いやいやいやいや……。どういう事なの?」

金剛「私も全く分かりません……」

提督「お前達と同じように、私もあの実験の被験者だ。私に昔の記憶がほとんど無いように、お前達も同じようなものなのだろう」

金剛瑞鶴「…………」

提督「今はそういうものだと納得してくれ」

瑞鶴「……うん、分かった」

金剛「はい……」

瑞鶴「で、話は変わるんだけどさ、妹だったら一緒に寝ても良いのかしら?」

金剛「!?」

提督「断る。私には金剛が居る」

金剛「提督!? ス、ストレート過ぎませんか!?」

瑞鶴「あー、やっぱり?」

金剛「やっぱりって気付いていたのですか!?」

瑞鶴「うん。なんとなくね」

金剛「……いつからですか?」

瑞鶴「最初から。気のせいだと思ってたんだけどね」

金剛「…………」

瑞鶴「まあ、そういう事なら邪魔は出来ないわね。じゃあおやすみ提督さん、金剛さん」

提督「……ああ、おやすみ」

金剛「お、おやすみなさい……」

ガチャ──パタン

提督(色々と、心が痛むな……)

金剛(……瑞鶴はライバルですかね? テートクの妹がライバルとは……むむむ……)

……………………
…………
……

373 : VIPに... - 2013/12/07 22:55:49.35 kAOR1dc1o 748/771

瑞鶴「…………」コロコロ

瑞鶴「……金剛さんが艦娘の時、提督さんと恋人だった、かぁ。あ、いや、艦娘の金剛さんが、か」

瑞鶴「でも……絶対に艦娘の『私』も気が有ったわよねぇ……。私だって気になってるんだもの」

瑞鶴「むー…………どうだったのか気になるー……」コロコロ

瑞鶴「……まあ、私が気にしても仕方がないのは分かってるんだけどね──って、あら、この部屋に本ってあったのね。気付かなかったわ」

瑞鶴「……何かすっごい栞が挟まってるわね。どれだけ読み返したのよ……」ソッ

瑞鶴(……ちょっと読んでみましょうかね)

瑞鶴「…………なんで海上戦術と気遣い心配りって本ばっかりなの? ──あ、紅茶の本もあるわね」

瑞鶴「紅茶……」

瑞鶴(そういえば、提督さんって紅茶が好きだったわよね。何か役に立ちそうなのとか載ってるかしら)ペラ

瑞鶴「……………………」ペラ

瑞鶴(……あれ? この部分知ってる。おかしいわね……紅茶なんて淹れた事ないわよ……?)

瑞鶴「……ふむふむ。なるほどね。こういう淹れ方をすれば、より美味しくなるのね……」

瑞鶴(でも、なんでかしら……。この本、読んでいくとどんどん辛くなってく……)

瑞鶴「紅茶、ね……今度淹れてみようかしら……。いやでも、絶対に美味しくないんだろうなぁ……むー……」

……………………
…………
……

374 : VIPに... - 2013/12/07 22:56:29.75 kAOR1dc1o 749/771

瑞鶴「えーっと……次はこうしてっと……」ジー

「ん、瑞鶴さん?」

瑞鶴「──あら、響じゃないの。どうしたの? お菓子でも取りに来たのかしら」

「そんな所だよ。間宮さんに何かお茶請けみたいな物を分けて貰いに来てみたんだ」

瑞鶴「お茶会でも開くの?」

「うん。紅茶と一緒にお話をするよ」

瑞鶴「へぇ。響って紅茶が淹れれるのね」

「ただのティーバッグだよ。誰でも出来るものさ。金剛さんや瑞鶴さんみたいにそうやって茶葉からやるものじゃないさ。瑞鶴さんは紅茶の勉強かな?」

瑞鶴「うん。ちょっと作りたくなってね。飲んでみる?」ソッ

「ん、スパスィーバ。いただきます」コクコク

瑞鶴「…………」ドキドキ

「──うん。美味しいよ。ティーバッグとは比べ物にもならない」

瑞鶴「金剛さんの紅茶とどっちが美味しい?」

「それは金剛さんかな。経験の差だと思うよ」

瑞鶴「やっぱりかぁ……」

「瑞鶴さんは紅茶を淹れ始めてどれくらいなんだい?」

瑞鶴「これが初めてだけど、どうしたの?」

「初めて……」

瑞鶴「?」

「いや、ただ単に私も本格的に淹れた事があるんだけど、雲泥の差があるから……ちょっとね」

瑞鶴「あら、響も淹れた事があるの?」

「うん。だけど、ティーバッグの方がずっと美味しかった。だから、初めてでここまで美味しく出来るのなら充分凄いと思うよ」

瑞鶴「なんだか照れるわね。ありがとっ」

「正直な感想だよ」

瑞鶴「でも、私は本を読みながらやっただけよ。響もこれを読みながらやれば同じように出来ると思うわ。丁寧に分かりやすく書いてくれてるわよ、これ」

「へぇ……。今度、借りても良いかな。また挑戦したくなったよ」

瑞鶴「良いわよ! お互い頑張りましょ」

「スパスィーバ。じゃあ、私は間宮さんに会ってくるね」

瑞鶴「ええ。またねー」

……………………
…………
……

375 : VIPに... - 2013/12/07 22:56:59.51 kAOR1dc1o 750/771

金剛「テートク、そろそろ二時になりますケド、お身体は大丈夫デスか?」

提督「……ふむ、もうそんな時間か。金剛、今日はもう寝なさい」

金剛「テートクはどうするのデスか?」

提督「キリの良い所まで終わらせてから寝る」

金剛「では、私も付き合いますネ」

提督「比叡や榛名、霧島が寝ずに待っているかも知れんぞ」

金剛「あの三人には、今夜テートクの部屋にお泊りするかもしれませんと伝えてマース」

提督「……そうか。どんな反応をしていた」

金剛「比叡は複雑そうな顔をしてたネ。榛名と霧島は応援してくれまシタ」

提督「応援はまだ分からないでもないが、比叡に何があったんだろうな」

金剛「比叡もテートクの事を少し気に入っているみたいデスので、きっとそれが原因だと思いマス」

提督「……意外だな。そんなに接していないのだが」

金剛「何を言っているのデスか。この鎮守府にテートクの事が気になっていない人なんて居ませんヨ?」

提督「……………………」

金剛「嘘だと思うのでしたら聞いてみても良いのではないでショウか」

提督「……なんとなく想像が付いたから止めておくとしよう。だが、金剛の口からその言葉が出てくるとは思わなかったな」

金剛「テートクの良さが広まってくれるのは私にとってもハッピーな事デース! こんなに素敵な人を放っておける方が分からないデス!」

提督「…………」

提督「言葉だけ受け取っておこう。──さて、さっさとキリの良い所まで進めるとしようか」

金剛「ハイ! 体調管理も仕事の内デスからネー。テートクは放っておくといつまでもお仕事をしていそうで不安デス」

提督「…………」

金剛「……テートク?」

提督「──いや、言葉に詰まっただけだ。何も反論出来なかったからな」

提督(憶えていないようだが、考える事は『金剛』と同じ、か……)

……………………
…………
……

376 : VIPに... - 2013/12/07 22:57:26.19 kAOR1dc1o 751/771

コンコン──。

提督「入れ」

ガチャ──パタン

金剛「テートクー! ただいまー!」

提督「おかえり金剛」

金剛「ありがとうございますテートクー! スコーン大好きです!」ギューッ

提督「お気に召したかな」

金剛「勿論です! 間宮さんの所におつかいなんて何かと思ったら、とっても嬉しいサプライズなのです! お仕事の手を一旦止めて、ティータイムしましょう! ね? ね?」

提督「…………」

金剛「──あ、ダメ……でしたか?」

提督「……いや、余りのはしゃぎっぷりに驚いていただけだ」

金剛「あ……あうぅ…………」

提督「まあ、そこまで強請られたら断る訳にもいくまい。紅茶の用意をしてもらって良いか?」

金剛「テートクのいぢわる……」

提督「ああ、私はイタズラ好きだぞ」

金剛「もー……。私は紅茶を淹れてきます!」フイッ

提督「ああ、頼んだ」クス

……………………。

377 : VIPに... - 2013/12/07 22:57:59.30 kAOR1dc1o 752/771

金剛「ん~! おいしいっ! やっぱりクリームティーは一番ネー!」

提督「本当に好きだな」

金剛「ハイ! 特にこのクロデッドクリームなんて濃厚で最高デス!」サクサク

提督「……プレーンも美味いぞ」サクサク

金剛「そうなのデスか? では……」サクサク

金剛「……………………」

提督「どうした」

金剛「い、いえ……えっと……その…………」

提督「甘みが無くて食べられない、か」

金剛「うぅ……ハイ……。まったく砂糖が入っていないスコーンをプレーンでは……」

提督「……悪かった」

金剛「私は素直にジャムとクリームを付けて食べマス……」

提督(好みも同じ、か……)

……………………
…………
……

401 : VIPに... - 2013/12/10 19:06:12.65 qKILR08vo 753/771

金剛「テートク、そろそろ二時デス」

提督「そうか。今日はここまでにしておこう」

金剛「はい。お疲れ様デス」

提督「ああ、お疲れ様」

金剛「…………うーん……」

提督「どうした」

金剛「いえ……テートクとの記憶なのデスが、最近新しい事が全然思い出せなくテ……。他にやっていない事はないデスか?」

提督「あるにはある。が、それは既に出来ない事が多い」

金剛「艦娘にしか出来ない事、とかデスか?」

提督「そういう事だ」

金剛「では……他には何も無いのデスか……?」

提督「ある」

金剛「ではそれを──」

提督「ダメだ」

金剛「──え?」

提督「こればかりは出来ない。お前も快く思わないものだ」

金剛「……どんなものなのでしょうか」

提督「聞かない方が良い」

金剛「どうしても、ですか?」

提督「…………」

金剛「…………」

402 : VIPに... - 2013/12/10 19:32:12.22 qKILR08vo 754/771

提督「……良い気分にはならないぞ」

金剛「覚悟の上です」

提督「……そうか。なら言おう。肌を重ねる事だけはやっていない」

金剛「…………え?」

提督「二度は言わん。そういう事だ」

金剛「…………」

金剛「……………………」

金剛「…………………………………………」

提督「だから聞かない方が良いと言っただろう……」

金剛「あ、あのー……」

提督「なんだ」

金剛「……良いですよ? その、えっちな事……」

提督「…………」

金剛「ほ、ほら! もしかしたらそれで思い出すかもしれないじゃないですか!」

提督「…………」

金剛「それにほら、私の嫌という訳ではありませんし……テートクも気持ち良くなれますよ?」

提督「…………」

金剛「……ダメですか?」

提督「…………」ズル

金剛「──え?」

──ドサッ

……………………。

403 : VIPに... - 2013/12/10 19:51:53.72 qKILR08vo 755/771

提督「……すまん。迷惑を掛けた」

救護妖精「……意識が戻るの早いね。あたし来たばっかりなんだけど」

提督「……どのくらい時間が経っている」

金剛「えっと、五分も経っていないと思いマス」

提督「……そうか。ありがとう、金剛…………」

金剛「あ、あの……顔色が悪いようですけど大丈夫なのですか……?」

救護妖精「ほい提督、バケツ」スッ

提督「…………」スッ

金剛(ぁー……まだ口の中に砂糖が残っているのですね……)

~提督がバケツに嘔吐しました。これより、吐瀉物の処理に入ります~

救護妖精「よくあれだけ我慢出来たね」

提督「汚すと後が大変だからな……」

金剛「テートク、紅茶を飲みマスか?」

提督「頂こう……」チビチビ

金剛(ああ……相当辛いようですね……)

提督「……うむ。少し楽になった。ありがとう金剛」

金剛「お役に立てたのなら嬉しいデス」

救護妖精「まあ、症状が軽いみたいで良かったよ。特に問題もなさそうだしね」

金剛「良かったぁ……」ホッ

救護妖精「んじゃあ、後は若い者に任せるとしようかね。あんまり激しく動くんじゃないよ。お大事にねー」

ガチャ──パタン

404 : VIPに... - 2013/12/10 20:17:58.23 qKILR08vo 756/771

提督「……事の経緯でも話したのか?」

金剛「いえ、特には……。どうして気付いたのでしょうか……」

提督「ただ単なる冗談だと思いたいが、真実は彼女のみぞ知る、か……」

金剛「流石に訊くなんて事は出来ません……」

提督「時々、救護妖精の考えている事が全く掴めない事があるよ」

金剛「私はほとんど分からないです……」

提督金剛「…………」

提督「……深くは考えないようにしておこう」

金剛「それが良いですね……」

金剛「えっと、それと……えっちな事はどうしますか……?」

提督「…………」

金剛「…………」ドキドキ

提督「……お前の記憶が戻ったら、な」

金剛「──はい。きっと戻してみせます」

提督(…………)

……………………
…………
……

405 : VIPに... - 2013/12/10 20:42:45.27 qKILR08vo 757/771

提督「……うむ。素晴らしい」

少将「ほ、本当ですか!」

提督「ああ。これならば私がもう居なくても問題無いだろう」

少将「……とうとう、この日が来てしまいましたね」

中将A「寂しいものがありますな……」

中将B「本当に退役なされるのですか?」

提督「ああ。私のような死に損ないはとっとと消えるべきだ」

中将B「そうでございますか……」

提督「中将A、中将B、少将。これからのこの国を頼んだぞ」

中将A「何を仰っていますか。我々は海を護るだけですよ」

提督「……そうだったな」

中将B「これからの海軍も、大将殿の意思を潰えないようにしていきます」

提督「思想は時代と共に変わる。私に囚われ過ぎて大事なモノを見失うなよ」

中将A中将B少将「はっ!」ピシッ

提督「では、これから頼むぞ、新大将の三人。──会議はこれで終わりだ。以後、新大将の三人に任せる」

少将「──大将殿。最後にお一つ宜しいですか?」

提督「なにかね」

少将「軍縮についてですが、多数の鎮守府が廃棄される事となります」

提督「それがどうした」

406 : VIPに... - 2013/12/10 21:24:45.29 qKILR08vo 758/771

少将「その内の一つを、貰って頂けませんか?」

提督「……どういう事だ」

中将A「私達のささやかなプレゼントだと思って下さい」

中将B「大将殿が居なければ、私達は大事なものに気付く事もありませんでした。そのお礼です」

少将「これがあの鎮守府の土地の権利書です。既に手続きは済ませておきました」

提督「……あのような広い土地をどうしろというのかね」

少将「それは大将殿がお決め下さい。……あの鎮守府に、何か思い入れがあるのですよね?」

提督「……隠していたつもりだったが、どうして分かった?」

中将A「勿論、私達も同じだからです」

中将B「特に大将殿は艦娘を大事にしておられたと耳にしています。そこまで知れば、想像するのは容易です」

提督「……やられた。私もまだまだ若いという事だな」

提督「ありがたく頂こう。鎮守府内の物資はどこへ運べば良い」

中将B「下の書類に記載してあります」

提督「分かった。……そうだな。残りの余生は海を眺めて暮らすとしよう」

中将A「まだまだお若いのですから旅をしてみるのも良いでしょう」

提督「そうだな。考えておく」

提督「……三人共、ありがとう」

提督(…………もう誰も戻って来ない鎮守府を、か……。戻ってきたように見える分、余計に心が痛むな……)

……………………
…………
……

407 : VIPに... - 2013/12/10 21:26:08.63 qKILR08vo 759/771

提督「…………」

金剛「テートク、何か悩んでいるようですケド、どうしまシタ?」

提督「……ごねている者達をどう説得しようかと悩んでいてな」

金剛「ぁー……アハハハ…………」

提督「まったく。どうして私に拘るのか……」

提督(この鎮守府で暮らしていた者と大和、翔鶴は分かるが……利根と那智が離れるのを嫌がる理由がいまいち分からん。……大体の予想は付いているが)

提督「いっその事、ごねている全員をここに住まわせるのも手か」

金剛「──え!? そんな事出来るのですか!?」

提督「退役祝いとしてこの鎮守府の土地を頂いてな。出来ない事もない」

金剛「とても良い事じゃないですか! それでいきましょう!」

提督「だが、それは私が艦娘に関する情報を持っていると公言するようなものだ。艦娘と同じ姿、声をしている者が元鎮守府に一箇所で固まっていれば不審に思われるだろう」

金剛「ああ……確かに……。むー……身寄りの無い人を引き取ったとすればどうでショウか?」

提督「それでもあまり変わらないだろう」

金剛「デスよねー……」

提督「──うん?」

金剛「どうしまシタ?」

提督「この鎮守府の周辺の空き家を見ているのだが、昨日と比べて数が増えている事に気付いてな」スッ

金剛「えっと……あれ、本当デス。昨日まで一件でシタのに」

提督「移住をする季節ではあるから、いずれ空くとは思っていたが……いきなり十件近く空くとはな」

金剛「まあ、ここはどっちかと言えば田舎デスからね。深海棲艦が居なくなった今では戦争も無くなりまシタし、もっと都会の方へ移るのは当たり前なのでショウ」

提督「ふむ……皆を集めてくれるか?」

金剛「ハイ」

……………………。

408 : VIPに... - 2013/12/10 21:26:36.42 qKILR08vo 760/771

提督「──さて、これでどうだろうか」

川内「うーん……」

龍田「…………」

利根「確かに近いが……」

那智(これが妥協点か……?)

「ヤダ」

提督「響達はまだ幼いからこの鎮守府で住んでもらう。その年で自立させるのはマズイと気付いた。すまない」

「あ、そうなのね」

「良かったのです!」

島風「やったー!」

(お子様なのも案外バカに出来ないわね……)

天龍「おいズルい! 俺達もここで暮らしたいんだぞ!」

提督「遊びに来るのは構わん」

天龍「む……それならまあ……」

提督「これで納得してくれないと、どうしようも出来ない」

神通「……仕方がないようですね」

利根「むう。提督殿の事は気に入っておったのじゃがのう」

提督「私もこれ以上は譲歩出来ん」

龍田「それなら仕方が無いわね~。ここに遊びに来ても良いのなら私は良いわよ~」

那珂「私もそれなら良いかなぁ」

大和「……まあ、それなら」

瑞鶴「仕方ないわねぇ。それで妥協するわ」

提督「話は纏まったな。では各自、引越しの準備をしておきなさい」

瑞鶴「……ところで、金剛さんはどうなるの?」

提督「まだやって貰わなければならない事がある。しばらくは住み込みで働いてもらう事になるだろう」

瑞鶴「良いなぁ……」

龍田「…………」

川内「むー……」

榛名「じゃあ、私達もですか?」

提督「お前達は金剛の姉妹だからな。希望を出すのならば終わるまでここで住むのも構わん」

比叡(良し!)グッ

川内「ずーるーいー!」

龍田「流石に私もそれは寛容できそうにないわ~」

瑞鶴「私も抗議に出るわよ」

那智「私も納得できない」

利根「うむ」

提督(……振り出しに戻った)

……………………
…………
……

414 : VIPに... - 2013/12/12 17:52:25.58 eEap9igho 761/771

提督「……ふう」

金剛「なんとか納得してくれましたネ……」

提督「ああ……。疲れた」

金剛「お疲れ様デス」ソッ

提督「……抱き締めてきてどうした」

金剛「なんだか、急に愛おしくなっちゃいまシテ」スリスリ

提督「……そうか」ナデナデ

金剛「ん……落ち着きます」スリスリ

提督「……金剛」

金剛「はい。何でしょうか?」

提督「一つ、変な質問をするが良いか?」

金剛「? はい」

提督「金剛、お前は金剛だよな」

金剛「は、はい……?」

提督「…………」

金剛(テートクが何を言いたいのか分からないです……。私は私以外なんでもないですし……もしかして、艦娘の『金剛』かどうかという意味なのでしょうか……?)

金剛「えっと……」

提督「…………」

金剛(いえ、テートクがそんな事を訊くはずがないです。テートクなら自分の目で確かめて自分で判断します)

金剛「その……」

提督「…………」

金剛(……ダメ。どういう意図があるのか分からないです……)

金剛「……ごめんなさい。テートクが何を言おうとしているのか分からないです……」

提督「…………そうか」

金剛「でも! ……もし、私が艦娘の『金剛』という意味で言ったのでしたら、私は分からないです」

金剛「最近、本当に新しい事は何も思い出せないのです……。だんだんと、本当に私はテートクの知っている『金剛』なのかどう分からなくなってきました……」

金剛「こんな私は……テートクにとっては、別人なのかも、しれません…………」

提督「……………………」

金剛「…………」

415 : VIPに... - 2013/12/12 17:53:14.79 eEap9igho 762/771

提督「……お前は、私の事をどう思っている」

金剛「それは……愛しています。ご迷惑かもしれませんが……」

提督「好きな理由は、どうしてだ」

金剛「…………」

提督「…………」

金剛「……………………」

提督「……………………」

金剛「……分かりません。テートクの事を思い出している内に、いつの間にか好きになっていました」

提督「いつの間にか、か」

金剛「ごめんなさい……」

提督「謝らなくて良い。なんとなく、そんな気がしていた」

金剛「…………」

提督「一つ、確認しておきたい事がある。──金剛、お前は私を愛しているんだな?」

金剛「はい。絶対です」

提督「…………」

金剛「っあ……ごめんなさい……。そんな事を言っても信用出来ませんし、テートクが傷付いて──」

提督「いや、充分だ」

金剛「テートク……」

提督「……そういえば、お前と交わした特別な言葉で、まだ言っていないモノがあったな」

金剛「…………?」

提督「I don't mind that everything is a lie. As long as love me forever.」

金剛「──え? テ、テートク……それって……意味、分かっているです、よね?」

提督「ああ、勿論だ。……まあ、お前が言った言葉を少し捩ったものだがな」

金剛「でも……なぜ……なぜですか? 私は貴方の求めている金剛ではありません……記憶をちょっと貰った、姿形がそっくりの別人です……」

提督「確かに別人だろう。だが、それは身体面での話だ。精神面は、私の知っている金剛だと思っている」

金剛「…………」

提督「私が愛したのは『金剛』そのものだ。容れ物である身体は、さほど問題視していない。言い換えるならば、姿が変わってしまっても愛せなくなる事はない」

金剛「テートク……」

提督「私が認める。お前は、私の知っている金剛だ。何もかもが嘘でも構わない。お前が私を愛していると言ってくれるのなら、私はそれで良い」

金剛「……それ以外、全て嘘でも……ですか?」

提督「ああ。私はそれだけで充分だ」

金剛「…………」

提督「…………」

416 : VIPに... - 2013/12/12 17:54:24.82 eEap9igho 763/771

金剛「身体が偽物です」

提督「些細な事だな」

金剛「心もほとんど偽物です」

提督「それがどうした」

金剛「これ以上、思い出さないかもしれませんよ」

提督「今のお前で充分だ」

金剛「……貴方を、私の魂に刻んでも良いですか?」

提督「とっくに刻まれているんじゃないか?」

金剛「…………」

提督「…………」

金剛「……負けました」

提督「このやりとりで勝ったのは初めてだ」

金剛「嬉しいですか?」

提督「お前をお前と見れて嬉しいよ」

金剛「……テートク」

提督「どうした」

金剛「──大好きです」

提督「──私もだ」

コンコン──。

提督「……入れ」

金剛「え、あ、ちょっと──」

ガチャ──パタン

瑞鶴「やっほー。遊びに来たわよー。あら、金剛さんが先客のようね」

金剛「…………」

金剛(もうちょっと、テートクと甘い会話をしたかったです……)

瑞鶴「……なんだか落ち込んでるけど、私お邪魔だったかしら」

金剛「い、いえ! 大丈夫デス!」

瑞鶴(ああ、やっぱり邪魔しちゃったみたいね)

417 : VIPに... - 2013/12/12 17:54:51.37 eEap9igho 764/771

提督「それより、こんな時間にどうした」

瑞鶴「夜這いって言ったらどうする?」

金剛「全力で阻止しマス」

瑞鶴「金剛さん怖いってば……」

金剛「瑞鶴には言わないといけないデスね。宣言しておきマス」ギュ

提督「…………」

瑞鶴「何を?」

金剛「テートクのハートを掴むのは、私デース!」

瑞鶴「!?」

金剛「瑞鶴には絶対に譲りませんからネー!」

瑞鶴「…………」ニヤ

瑞鶴「……宣戦布告っていう事で良いのかしら?」

提督「お前、前に邪魔は出来ないとか言っていなかったか」

瑞鶴「あの場の邪魔は出来ないって言っただけよ。諦めるなんて一言も言ってないわ」

金剛「やっぱり貴女はライバルですネ……」

瑞鶴「ふふん。今は提督さんの心は金剛さんに向いている見たいだけど、隙を見せたら攫っちゃうからね」ニヤニヤ

金剛「何があっても繋ぎ止めてみせマス!」ギュゥ

瑞鶴「まあ私は、第二夫人でも全然良いんだけどね?」ニヤニヤ

金剛「テートク! この国はそんな制度を認められていないネ!!」

提督「一夫多妻をするつもりはない。そもそも瑞鶴は私の妹だろう」

瑞鶴「ちぇー」

提督「あと金剛。お前、からかわれているだけだぞ」

金剛「……なぁッ!?」

瑞鶴「ふふっ。必死になってる金剛さん、可愛かったわよ」

金剛「ずーいーかーくー!」

瑞鶴「まあまあ。提督さんを取るっていうのは冗談だから、ね?」

金剛「それとこれとは話が別デス!」

瑞鶴「あらあら」

瑞鶴(……なんだか違うような気もするけど、二人が幸せそうならそれで良いわね)

金剛「大体、瑞鶴は──」

瑞鶴(艦娘の私の望んでた事、ちゃんと叶ったみたい)

金剛「そもそも──」

瑞鶴(幸せにね、二人共──)

金剛「ちゃんと聞いていマスか瑞鶴ー!」





──── 金剛「テートクのハートを掴むのは、私デース!」瑞鶴「!?」 ────


418 : VIPに... - 2013/12/12 17:56:54.87 eEap9igho 765/771

これにてトゥルーエンドは終わりとなります。
ここまで読んで下さった方々、私のオ○ニーに付き合ってくれてありがとうございます。

ここからは質問やら何やらに答えていこうと思いますので、どうぞお気軽に書き込んでいって下さい。

474 : VIPに... - 2013/12/19 16:45:01.17 jJdWouZko 766/771

軽く書いたので投下します。真面目に蛇足程度なのであまり期待しない方が良いかもね。

475 : VIPに... - 2013/12/19 16:45:55.40 jJdWouZko 767/771

瑞鶴「…………」チビチビ

翔鶴「…………」コクコク

大和「…………」コクコク

提督「…………」ズズッ

金剛(何を話せば良いのか分からないというのは理解できマスが、とても家族の団欒とは思えまセン……。本当に紅茶を飲んでいるだけデス……)

提督「……ここに住みだしてからそろそろ半月は経つが、この元鎮守府には慣れたか?」

翔鶴「は、はい……」

大和「……と、とても良い場所だと思います」

瑞鶴「ここって良いわよねー。鎮守府自体もこの部屋も。まさに我が家って感じ」

提督「……ふむ。金剛はどうだ?」

金剛「……私も瑞鶴と同じ意見デス。初めて来た時から知らない場所とは思えませんでシタ」

瑞鶴「あ、やっぱり金剛さんも?」

金剛「ハイ。空気と言いマスか雰囲気と言いマスか……よくは分からないですケド、ここはとても大事な場所だと思っていマス」

提督「……そうか。そう言ってくれるとありがたい」

瑞鶴「…………」

翔鶴「…………」

大和「…………」

金剛「…………」

提督「…………」

金剛(か、会話が続きまセン……)

476 : VIPに... - 2013/12/19 16:46:28.02 jJdWouZko 768/771

コンコン──。

提督「入れ」

金剛(誰でも良いデス! この気まずい空気を何とかして下サイ!)

ガチャ──パタン

「あれ、お邪魔だったかな」

金剛(……こう言うのもアレですケド……響は大人しいデスから期待は出来ないネ……)

提督「いや、構わない。どうした」

「単純に遊びに来ただけだよ。一家の団欒中かな? それにしては空気が重いようだけど」

提督「何を話せば良いのか分からなくてな。さっきからこんな感じだ」

「勿体無いね」トコトコ

「よいしょ」ポフッ

金剛瑞鶴「え」

翔鶴大和「!」

提督「……なぜ私の膝の上に座った」

「座りたかったからだよ。あと甘えたいから。ほら、抱き締めて」

提督「……何を言っているんだ。ほら、降りなさい」

「ヤダ。しっかり愛でてくれないと降りない」

瑞鶴「ちょっとちょっと! 何それ! ずるいわよ! 私だってまだ身を寄せた事すらないのよ!?」

翔鶴「確かに、私も甘えた事がありません」

金剛「テートクの正妻は私デス!」

大和「どうして論点がそこになるのかしら……?」

477 : VIPに... - 2013/12/19 16:46:54.87 jJdWouZko 769/771

瑞鶴「私だって甘えたいけど我慢してるっていうのに、他の子が甘えてるのなんて見逃せないわよ」

翔鶴「瑞鶴と同じです。私達はお兄さんの膝に乗った事すらないのに」

金剛「私は単純に嫉妬していマス」ヂー

大和(金剛さんは置いておいて、二人はまるで子供ね……)

提督「そういう事だ響。降りなさい」

「むう……仕方が無いね」スッ

金剛「…………」ギュ

「なんだい、金剛さん?」

金剛「変な事をしないようにする為デス」ギュー

「賢明な判断だね」ソッ

金剛「…………? 手を握ってどうしまシタ?」

「あったかいね」

金剛「……ええ」

瑞鶴「……なんか、提督さんと金剛さんの子供みたいで微妙な気分」

金剛「こ、子供……?」

翔鶴「まだ姉妹の方が近くない……?」

大和「流石にこれくらいの子供を持つには若過ぎると思いますよ」

「おかーさん」

金剛「!」

「おとーさん」

提督「…………」ピクッ

金剛「……ダメです。なんか母性本能が」ギュー

提督「…………」ナデナデ

478 : VIPに... - 2013/12/19 16:47:55.84 jJdWouZko 770/771

瑞鶴「何あれ……凄い羨ましい……」

翔鶴「私達も言ってもらうとなると、おねーちゃんになるのかしら?」

大和「そうなると私は、おばーちゃんですね……」ズーン

翔鶴「そ、そういう意味ではなくて!」

提督「父の話によると大和の年齢は四十八になるはずだが、半分の数字でも通用するな」

瑞鶴「うんうん。私達の姉って言われても違和感無いわよね」

翔鶴「む、むしろ、そっちの方がしっくりしますよ!」

金剛「そもそもグランドマザーと呼ぶのには無理がありマス」

大和「貴女達が良い子で嬉しいわ……」ナデナデ

瑞鶴(あー……こういうのされると、やっぱりお母さんなんだなぁって思うわね)

金剛「っと、響の紅茶も用意しますネ。ちょっとだけ待っていて下サイ」スッ

「あれ、私を放して良いのかい」

金剛「その時は響だけお茶菓子抜きデス」ニコ

「紅茶の淹れ方を教えてもらっても良いかな」

金剛「ハイ。勿論デス!」

瑞鶴「お茶菓子の魅力には勝てなかったのね」

大和「女の子は甘い物が大好きですものね」

翔鶴「はい。甘い物が嫌いな女の子は居ませんよね」

大和「そういえば、甘い物といったら──」

提督(……ふむ。あの重々しい空気が消えたな。後で響にお礼を言うとするか)

提督「…………」チラ

提督(青いな……空。どこまでもどこまでも青くて、少し前まで戦争をしていたとは思えない青さだ)

提督(電、金剛、雷、響、瑞鶴、神通、川内、那珂、暁、天龍、龍田……皆、良くやってくれた)

提督(暁、響、雷、電……もう憶えていないのだろうが、この掛け軸はずっと飾っておくぞ)チラ

「…………」ニヤ

金剛「どうしました、響?」

「ううん。なんでもないよ」

瑞鶴「? 外なんて眺めてどうしたの、お兄ちゃん?」

提督「いや……ただ単に思っていただけだ──」

提督「──平和だな、とな」

479 : VIPに... - 2013/12/19 16:58:37.14 jJdWouZko 771/771

以上で蛇足終了です。
加賀さんと大将Bの話も書いてみたいと思ったけど、流石にあれこれと書き出すといつまで経っても終わらない気がしたので止めました。
これが本だったら全部書いてたかもね。

それでは、ここまで読んで下さってありがとうございました。
また会う事がありましたら読んで下さいな。

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