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280 : VIPに... - 2013/11/01 18:27:34.71 PHrDHr2qo 470/771

ガチャ──パタン

提督「…………」チラ

戦姫「広いお部屋ですね。これなら快適に眠れそうです」

ヲ級「♪」

提督「…………」チラ

戦姫「どうかなされましたか?」

提督「なに。部屋を見渡していただけだ」シッ

戦姫(…………? 内緒話ですか……?)

提督(盗聴されている可能性が無いとは限らない。少し協力してくれ)

戦姫(! はい)

ヲ級(…………)コクコク

提督(まずは……)

提督「──ところで戦姫。この建物ならばどのくらいで破壊し尽くせる?」

戦姫「そうですね。大体……三十分といった所でしょうか」

提督「三十分か……。少し時間が掛かるな」

戦姫「申し訳ありません……」

提督「いや、折角ここまで侵入できたのだ。今すぐ準備に取り掛かれ」

戦姫「はい」

提督「お前も、逃げる準備をするんだぞ?」

ヲ級「!」コクコク

戦姫「しかし……宿はどうするのですか?」

提督「この総司令部の裏は山だ。野宿になってしまうが、一夜を過ごすくらいならばなんともないだろう」

戦姫「逃走ルートはどうなさいますか?」

提督「私達ならばこの高さから飛び降りても平気だろう」

戦姫「そうですね。では、準備に取り掛かります」

提督「うむ」

戦姫「…………」

ヲ級「…………」

提督「……………………どうやら盗聴されている心配はしなくて良いようだな」

戦姫「本当だったら大慌てでこの部屋に飛び込んでくるでしょうね」

戦姫「しかし、なぜこのような事を?」

提督「調べたい事がある。……暗くなるのは三時間後のヒトキュウマルマルだったな。その頃に起きて調べる物

があるから起こすぞ」

戦姫「はい!」ピシッ

ヲ級「!」ピシッ

……………………。

281 : VIPに... - 2013/11/01 18:43:08.86 PHrDHr2qo 471/771

提督「…………」スッ

戦姫「ん……」スッ

ヲ級「…………」スヤスヤ

提督「…………」ソッ

ヲ級「!」ピクン

提督「起きたか?」

ヲ級「♪」

提督「よし。では行こう。くれぐれも大きな声を出すんじゃないぞ」

戦姫「!」ピシッ

提督(今からでなくても構わなかったのだが……まあいいか)

……………………。

提督(あった。あの屋外消火栓だ。……下も電気は付いていないな)

提督「…………」チラ

戦姫「?」

提督(ここから飛び降りるぞ)ヒソ

戦姫(何を言っているんですか!? ここ五階ですよ!?)

提督(無理か……)

戦姫(当たり前です!)

提督(では、静かにしていろよ)

戦姫(え、ちょ、ちょっと──ひゃん!)ヒョイ

提督(絶対に声を出すな)タンッ

戦姫(~~~~~~~~~~~~!!?)ビクン

284 : VIPに... - 2013/11/01 19:04:35.13 PHrDHr2qo 472/771

スッ──。

戦姫(あ、あれ……降りた音がしなかった……?)

提督(念の為に、建物から見えないように窓の下で隠れていろ)タンッ

戦姫(……本当に人間ですか、あの方。なんで跳んで届くのですか……?)

提督(待たせた。行くぞ)

ヲ級「♪」ギュ

提督(良い子だ)タンッ

スッ──。

戦姫(……ところで、どうして外へ?)

提督(目の前にある消火栓だが、おかしいと思わないか?)

戦姫(…………いえ、特に……)

提督(昼間だから分かりやすかったが、こうも暗いと建物からでは非常に見えにくい。それと、明らかに奥行きがありすぎるんだ。人間一人くらいなら余裕で入れるくらいの奥行きがな)

戦姫(と、いう事は……地下ですか?)

提督(その可能性がある。調べてくるから少し待っててくれ)スッ

カパッ──スルスル──。

戦姫(……なんとも思わなかったけど、私は言われてから消火栓に気付いたのに、どうしてあの方は見えたのでしょうか)

提督「…………」クイクイ

戦姫(ん……あれは、来いという意味でしょうかね……?)スッ

提督(当たりのようだ。この壁を下ろす、っと)ガリガリ

戦姫(梯子……)

提督(降りるぞ。すまないが戦姫、降りる時に扉は閉めてくれ)

戦姫(はい!)ピシッ

……………………。

289 : VIPに... - 2013/11/01 19:22:05.42 PHrDHr2qo 473/771

提督(思ったよりも深いな。──む、地面か)

戦姫(普通の扉、ですね……)

提督(開けてみよう)

スッ──ソーッ…………。

提督(……気配がない。誰も居ないようだな──ッ!?)

提督「なんだ、これは……」

戦姫「ど、どうかなさいまし──なっ!?」

ヲ級「!!」

戦姫「これは……人間……ですよね……? なんですか、この奇妙なカプセルの群れは……緑色に光ってて気味が悪いです……」

ヲ級「…………」

提督「……二人共、私はこのカプセルの中に入っている人を見知っているんだが」

戦姫「…………奇遇ですね。私も見た事があります」

ヲ級「…………」コクン

提督「やはりか……私の見間違えではないようだな……この子はどう見ても──」

提督「──金剛、だよな」

293 : VIPに... - 2013/11/01 19:41:07.97 PHrDHr2qo 474/771

戦姫「ええ……。間違いありません。──こっちは電と言っていた子のようです」

ヲ級「!!」ビシッ

提督「こっちは瑞鶴か……」

戦姫「これは……」

提督「ああ、間違いない。艦娘の本体は、ここからやってきているようだな」

提督「詳しい事は調べてみないと分からない。何か資料がないか探してみよう」

パッ──!

提督「!」バッ

研究員「な、なんだお前達──ぐっ!?」ガシッ

提督「抵抗しなければ殺さない。分かったなら両手を上に上げろ。変な動きを見せたら殺す」ギリッ

研究員「!!」バッ

提督「そのまま私の質問に答えろ。嘘を付いていたら目を見れば分かる。その時は腕を一本貰う」

研究員「わ、分かった!」

提督「お前はここの関係者か?」

研究員「そうだ!」

提督「証拠を見せろ」

研究員「右ポケットだ! 私の白衣の右ポケットに証明書がある!!」

提督「…………」ゴソ

提督(……艦娘建造開発総責任者。ほう、良い情報源だな)

295 : VIPに... - 2013/11/01 19:55:49.93 PHrDHr2qo 475/771

提督「手荒な真似をしてすまなかった。私はつい最近、大将になった者だ」

研究員「はっ……! はっ……! あ、ああ……貴方があの……?」

提督「その証拠に深海棲艦も連れてきているだろう」

戦姫「…………」

ヲ級「?」

研究員「それは分かりましたが……どうしてここへ?」

提督「少々暇になったので、話に聞いていたこの場所へ足を運んでみたのだ。彼女達も一緒に連れてきたら何か新しく分かるかもしれなかったのでな」

研究員「ああ……」

提督「くれぐれも内密にしてくれ。実は許可を取っていないんだ」

研究員「そ、それは困りますよ! 勝手に入ってきては!」

提督「貴方は総責任者ですからね。この事がバレてはお互い困る。秘密としましょう」

研究員「む、むう……。分かった……」

提督「それにしても、素晴らしい施設ですね」

研究員「は?」

提督「見た所、これが艦娘の元ですか」

研究員「あ、ああ……そうです」

提督「宜しければ、色々と教えて頂けませんか? 深海棲艦を艦娘に戻す参考にしますので」

研究員「そ、それは……」

提督「なんだったら今ここで死体を一つ作っても宜しいのですが」

研究員「ほ、本当に貴方は海軍なのですか!?」

提督「勿論。特に今は亡き元帥殿には良くして頂いていました」

研究員「ぐ……! そういう事か……」

提督「理解が早いようで助かります」

研究員「……ここで話すのも疲れる。奥の部屋へ行こう」

……………………。

298 : VIPに... - 2013/11/01 20:13:32.27 PHrDHr2qo 476/771

研究員「……何が聞きたいんだね」

提督「とりあえずは、艦娘の詳細を。特に、表に出ていない情報が欲しいですね」

研究員「…………」

提督「…………」

研究員「……これから話す事は、私が漏らしたとは言わないでくれ」

提督「勿論です。ご安心ください」

研究員「…………艦娘とは、ここに置いてある少女達を原典に存在している……らしい」

提督「らしい?」

研究員「何せ当時の人や資料がほとんどが無くなっているんだ! 私達も試行錯誤なんですよ!」

提督「ふむ。それはどうしてですか?」

研究員「詳しくは分かりません……。今でも真実は闇に葬られたままです。突如、当時の研究員全員が殺され、重要な資料がなくなったと聞いています」

提督「ふむ。では、あのカプセルは何ですか?」

研究員「人体の老化、腐敗を止める装置だと思います……。どうやらあのカプセルに、適合した少女を入れると艦娘の原典として機能するようです……」

提督「それ以上の詳しい事は」

研究員「まだ分かっていません……。ただ、ここの少女達の魂を引用する事で、艦娘が建造で生れ落ちるという事は分かっています」

提督「なぜ少女なのですかね」

研究員「それもまだ詳しくは分かっていません……。ただ、男性の肉体ですと処置をする際に拒絶反応が起きるようで、女性しか使えないんです。少女だけという訳でもなく、大人の女性もあります」

提督「処置?」

研究員「所謂、人体改造です……。男性にやると悉く死んでしまうので、女性だけにしかしていません……」

提督「…………」

299 : VIPに... - 2013/11/01 20:22:51.96 PHrDHr2qo 477/771

提督「ふむ。では、深海棲艦については何か分かった事はありますか?」

研究員「いえ……残念ながら深海棲艦はほとんど何も分かっていないんです……。貴方が知っている事以上の情報は無いと思います……」

提督「そうですか」

研究員「日々、研究に研究を重ねているのですが、どうにも難解で……。処置の方法についても、本棚の下にあったメモ書きを参考にしてなんとか出来たのです……」

提督「ふむ……その資料を拝見させて頂いても良いですか?」

研究員「そ、それは……」

提督「ふむ……」ジッ

研究員「な、なんですか……?」

提督「いえ、どこから斬れば止血するだけで命だけは取り留めれるか──」

研究員「み、見せます!! 渡します!! だから、止めてくれぇ!」

提督「はい。よろしくお願いします」ニコ

戦姫(こいつらも外道だが、この方もとことん悪魔ですね……)

研究員「これです……」

提督「ふむふむ……」

提督(意味は良く分からんが、全体的な肉体の強化と痛覚の鈍化、後は特定の記憶を植え付ける……か……)

提督「この資料は複写ですか?」

研究員「え? あ、ああ……そうですけど……」

300 : VIPに... - 2013/11/01 20:23:17.65 PHrDHr2qo 478/771

提督「頂いてもよろしいでしょうか」

研究員「こ、困ります!! この情報が外に出回ったら大変な事になります!」

提督「これが有れば私の実験も捗ると思ったのですが……仕方がありませんね」チラ

研究員「!!」ビクッ

提督「右と左……あと上と下、選ばせてあげます」

研究員「ひっ!! わ、分かりました!! 差し上げます!!!」

提督「お優しいですね。感謝します」ニコ

戦姫(さすがに同情する……)

研究員「ほ、他に何を聞きたいんだ! もう艦娘に関する事は何も知らないぞ!」

提督「……おや、本当のようですね。では、私はこれにて失礼します」

研究員「…………」ホッ

提督「ああそうそう。ここで私と会った、話した、知ったという事は全て忘れてください。もし、この事を誰かに伝えた時は……」

研究員「つ、伝えた時は……」

提督「有刺鉄線を血管に通して引き抜きます」ニコ

研究員「あ、悪魔め……!」

提督「お互い様です。では、また機会がありましたらお会いしましょう。見知らぬお方」

……………………。

321 : VIPに... - 2013/11/02 00:14:12.56 qCrR2zLOo 479/771

ガチャ──パタン

提督「さて……やっとここまで戻ってきたな」

戦姫「はぁー……車の中も盗聴を考えないといけないのは疲れましたぁ……」

ヲ級「…………」グッタリ

提督「よくやってくれた二人共。ありがとう」ナデナデ

戦姫「はにゃ……」トロン

ヲ級「♪」ギュー

提督「色々とあって疲れただろう。ゆっくり休んでくれ」

戦姫「はい!」ピシッ

ヲ級「!」ピシッ

ガチャ──パタン

提督(……私も少し疲れた。あと一時間もすれば金剛が来るだろうが、それまでの間は寝ておくとしよう)

……………………。

324 : VIPに... - 2013/11/02 00:30:54.35 qCrR2zLOo 480/771

金剛「提督……?」

提督「ん……」

金剛「良かった……起きてくれました……」ペタン

提督「いかん……寝過ぎてしまったようだ」スッ

金剛「!」バフッ

提督「おぉ……?」

金剛「ダメです。寝ていて下さい」

提督「何も上に乗ってまで押さえつけなくても良いだろう……」

金剛「……寂しかった」スリ

提督「…………」

金剛「寂しかったです……」ギュ

提督「……そうか」ナデナデ

金剛「ん……」スリスリ

提督「やけに甘えるな」

金剛「一日以上、提督と離れ離れでした。だから提督分を充電しています」

提督(いつから私は成分と同じ括りに……)

金剛「ちゃんと提督が居ない間の報告をするので、その前に充電させて下さい……」

325 : VIPに... - 2013/11/02 00:43:44.61 qCrR2zLOo 481/771

提督「……分かった」ギュ

金剛「んっ」

提督「…………」

金剛「わ、わざとではありません……。本当に出ちゃった声です……」

提督「なら仕方がないか……」

金剛「あと……キスが欲しいです……」

提督「……本当に甘えているな」

金剛「キスをして下さったら、充電が終わります……」

提督「…………仕方がないな」

金剛「あはっ♪」スッ

金剛「ん……」

ちゅ……ちゅぴ…………ちゅぅ、ちゅく………………。

金剛「んっ……はぁ……」

金剛「は、ぁ……痺れるように、幸せです……」

提督「…………そうか」ナデナデ

金剛「本当に、幸せ……」スリスリ

……………………。

326 : VIPに... - 2013/11/02 00:53:25.61 qCrR2zLOo 482/771

金剛「──で以上です」

提督「ふむ。問題なくこなしてくれたようだな」

提督「……さて、そろそろ皆が来る頃だろうか」

金剛「そうですね……名残惜しいです……」スッ

提督「まったく……キスだけでは充電が終わらなかったな」

金剛「提督と肩を寄せ合うの、凄く心が温まりました」

コンコン──。

提督「ほら、離れて」

金剛「はーい」スッ

提督「入れ」

ガチャ──パタン

救護妖精「やあ提督。生きてるかい?」

提督「幽霊に見えるか」

救護妖精「ゾンビに片足突っ込んでるだろうに」

提督「検査か?」

救護妖精「そだよ。朝礼が終わったらするから、今日も提督は一日安静」

提督「……いつになったら働けるようになるのか」

金剛「元気になったらです」
救護妖精「元気になったらね」

提督「…………」

……………………。

327 : VIPに... - 2013/11/02 01:09:04.11 qCrR2zLOo 483/771

救護妖精「さあ、検査を始めるよー」

提督「…………」

救護妖精「いやー、凄かったねぇ。あんなに艦娘に囲まれる人は初めて見たよ。まず脈から計るねー」

提督「今日ばかりは言う事を聞いてくれなったな……」

救護妖精「整列の一言でビシッとしていたじゃないか」

提督「あそこまで言わなければならなかったのが問題だ」

救護妖精「良い事じゃないか。それだけ心配していたという証さ。んー、やっぱり脈が弱いね」

提督「…………」

救護妖精「それで、提督の事だ。何か話したい事があるんじゃないかい? はい、ちょっと眩しいよー」

提督「そうだな。聞きたい事がある」

救護妖精「なんだい? うーん。ちょっと疲れ気味っぽいねぇ」

提督「原典」

救護妖精「…………次は血液を抜くよ」

提督「カプセル」

救護妖精「……………………」

提督「無くなった資料と人」

救護妖精「………………………………」

提督「さて、そろそろ教えてくれても良いんじゃないか、ドクター」

救護妖精「……もう隠し事はできないようだね」

提督「やっと話してくれるようになったか」

救護妖精「できれば、ひっそりと暮らしたかったからねぇ。手詰まりになるまで話す気はなかったよ。はい、ガーゼ押さえてて」

328 : VIPに... - 2013/11/02 01:20:12.29 qCrR2zLOo 484/771

提督「という事は、これ以上はドクターでなければ分からないと?」

救護妖精「止めとくれ。私はドクターじゃないよ。……当時の研究者は私を除いてもう居ないし、資料も根こそぎ私がかっぱらった。死んだと錯覚させる量の血もばら撒いたし、他にも行方不明者も出しておいたが……まさか元帥は勘付いてたとはね。正直驚いたよ」

提督「一人称」

救護妖精「今は良いだろう? 『あたし』って言い難いよ」

提督「それにしても、よくバレなかったな」

救護妖精「一人称は違うし髪型も違う。当時は声がもっと暗かったし、喋り方もこんなにぶっきらぼうじゃなかったよ。気付かれなくて当たり前じゃないかいね。人間にとって妖精なんざ誰も似たようなもんだろ?」

提督「なるほどな。では、なぜ施設の人間を皆殺しにして資料を全部奪ったんだ?」

救護妖精「あれ以上、犠牲者を出したくなかったのさ。どうせ知ってるんだろう? 艦娘の素体は人間だっていうのを」

提督「ああ。素体にする為の資料も手に入れてきた」ガサ

救護妖精「……まだ残っていたのかい、その資料」

提督「本棚の下にあったメモを元に作られたそうだ」

救護妖精「ああ……無くしたと思ったメモ、そんな所にあったのかい……失敗したなぁ……」

救護妖精「ちょっと見せとくれ。…………ダメだね。完全に復元されてる。これじゃあ私のやってた研究も、全部元通りにされるのは時間の問題か……まいったなぁ……」

提督「今の所、その資料の内容くらいしか進んでいないそうだ」

救護妖精「ふぅん……案外遅いもんだね」

329 : VIPに... - 2013/11/02 01:34:23.92 qCrR2zLOo 485/771

提督「あと、なぜ施設自体は破壊しなかった?」

救護妖精「……可哀想だったからだよ」

提督「可哀想?」

救護妖精「まだ生きてるんだよ、あのカプセルの中に入ってる子達は」

提督「…………」

救護妖精「今更何を言ってるんだって話だけど、あの子達はなんの罪も無い普通の子達なんだ。カプセルから出すには意識が戻るまでに時間が掛かる。だけど殺したくない。……こんな中途半端な気持ちだからあのままにしちまったのさ」

提督「…………」

救護妖精「調整や精神面の管理は私がしていたから、全員、私が診ているんだよね。その時に色々と話したりもした」

救護妖精「そんなある日さ、いつものようにあの培養液へ入れようとしたんだよ。普通の子は嫌がったり怖がったりするんだよ。本能で分かるんだろうね。でも、その子だけは別でさぁ……なぜか、にっこり笑ってきたんだよ。まるで疑う事もなく、私を信用してるかのように……」

提督「…………」

救護妖精「初めてだったよ。自ら進んであの培養液に入る子なんてさ。私はそれで壊れちまったんだろうね……。その出来事で、私はあの施設を事実上のブラックボックスにすると決めた」

提督「職員全員を殺したのはなぜだ?」

救護妖精「全員、その出来事をなんとも思わなかったそうだ。手間が省けた程度の認識だったそうだよ」

提督「そうか……」

救護妖精「……私には、あの子達を生かすにはあれしかないと思った。現状、艦娘は必須だからね。殺される事はないから出来た」

330 : VIPに... - 2013/11/02 01:46:21.53 qCrR2zLOo 486/771

救護妖精「そっかぁ……ここまで解明されちゃってるのかぁ……」

救護妖精「……という事は、もう既に新しい犠牲者が?」

提督「……ああ」

救護妖精「はぁ……。何の為に私は逃げたんだか……」

提督「確かに犠牲者は出てきているが、それが最小限に抑えられているのもまた事実だ」

救護妖精「気休めは結構さ……」

提督「そして、これからその被害を無くす事もできる」

救護妖精「……何を言ってるんだい提督」

提督「あの研究者と資料、そして海軍の黒い部分を根絶やしにすれば、艦娘の技術は永遠に闇へ葬られるだろう」

救護妖精「何を馬鹿な事を……。どうやってそんな事をするんだい」

提督「あの大将共を殺すのは容易い。昨日でそれは充分に分かった。研究者共も全員集めてしまえばこっちのものだ」

救護妖精「……正気かい」

提督「勿論」

救護妖精「……………………」

提督「…………」

救護妖精「はぁ……ダメだねこりゃ。本気の目だ」

救護妖精「──さすがだね、ホムンクルス」

335 : VIPに... - 2013/11/02 02:08:38.87 qCrR2zLOo 487/771

提督「……やはりか」

救護妖精「おや、気付いていたのかい」

提督「その資料を見ればなんとなく、な」

救護妖精「それもそうか。それじゃあ提督──」

救護妖精「真実を話そうじゃないか」

提督「頼む」

救護妖精「ホムンクルス計画……。艦娘を造る前に、私達は人造人間と強化人間の両方を研究していたのさ。常人よりも優れた肉体を持ち、主人に逆らわない……そんな人間をね」

救護妖精「想像がつくだろうけど、人造人間は全くと言って良いほど進展がなかった。そりゃそうだよね。なんせ魂が無いんだ。どれだけ頑張ってもあれじゃあ肉の塊だよ」

救護妖精「そして、私が所属していた強化人間は、少しずつだけど確実に進んでいた。強靭な身体を持つ所までは大体順調に進んでいったよ。そこから海の上を滑れるような副産物も手に入った」

救護妖精「でも、大きな問題が残っていた。強化された人間はすぐに死んでしまうんだよ」

救護妖精「例え戦艦を沈めるとしても、一日やそこらで死んでしまうようじゃあ使い物にしにくい。だから、強化の度合いを下げていった。勿論、それに比例するように寿命は伸びた。けど、結局は数日で死んでしまう。試行錯誤を繰り返した結果。問題はあるけれど死なない素体が一人、出来上がった」

救護妖精「提督、貴方だよ」

提督「…………」

338 : VIPに... - 2013/11/02 02:18:30.28 qCrR2zLOo 488/771

救護妖精「身体能力は今までと比べて充分に良い結果が出た。けど、死に掛けの状態でないと糖分が摂取できない、身体が不安定といった問題を抱えていた。そこら辺りだったかな、人造人間側と一緒に研究を進めるようになったのは」

救護妖精「提督が見た培養液に提督を入れて、未完成ながらの成功例として様々なデータを取った。結果、私達のやり方は女性になら安定するという事が分かった」

救護妖精「確かに程々に安定して強化人間が作れるようになったけど、問題は強靭さだった」

救護妖精「人類としてはかなり上の方に位置するけど、提督には足元にも及ばない。どう調整してもそこから先に進まなくなった。けど、そこで人造人間側が面白い事をしていたんだ」

救護妖精「機械を人間の身体に取り付けて動かせるようにしていた。もうね、最悪な事にピンと来たよ。これらを組み合わせれば、兵器を身に付けた人間を作り出せるって」

救護妖精「本当にあいつらはやってくれたよ。失敗は結構したけど、兵器を扱える人間が誕生した。原理も仕組みも良く分からなかったけど、とにかく海の上で戦える人間が出来たんだ」

救護妖精「確かに不安定だったけど、成果は上々だったね。船としての駆逐艦を、人間サイズの女の子が撃沈したんだ。充分だったよ」

救護妖精「まさに生きた兵器。動かすのにロスが生まれる軍艦と、自分からノータイムで動かす軍艦、どっちが強いかなんてすぐに分かるもんさ。おまけに、兵器も実物と同じ性能だった」

救護妖精「だけど、そこにも問題は生まれる。素体が人間ベースだからね。身体をやられたら死んじまう。そこで、どうしようかと頭を捻った結果、ベースとなる人間は隔離して、その魂を原典に無機物を動かすのはどうかってね」

救護妖精「ここも私はあまり関われなかったけど、あのカプセルにベースの子を入れて、その子の魂を人工的に複製して、最終的には今と同じ造り方で生きた兵器が造れるようになった」

救護妖精「そこで、提督は要らなくなったんだよね。だって、艦娘は完成しちゃったんだもん」

340 : VIPに... - 2013/11/02 02:31:32.02 qCrR2zLOo 489/771

提督「だが、私はここで生きている」

救護妖精「そう。間抜けな話、ちょっとだけ情が沸いちゃって、それで逃がしちゃった」

提督「逃がした?」

救護妖精「今思えば、提督を逃がした時には壊れるちょっと前だったのかもしれない。だから逃がしたんだと思う」

提督「……元帥は気付いていたんだな」

救護妖精「気付いてたんだろうねぇ。あの人だけ施設に入り浸ってたから、顔を憶えてたんだと思う」

提督「ちっ。どうりでスムーズに士官学校を卒業できて早々と提督になり、今の地位にもなれた訳だ」

救護妖精「たぶん、使えると思ったんだろうね」

提督「……あの元帥のおかげでここまで来れたのも事実だから腹が立つ」

救護妖精「ああそうそう。艦娘に怪しまれてたよ。海の上を滑れる事について」

提督「…………どう誤魔化したんだ?」

救護妖精「あの靴を履いたら水に浮かべるよって実践させたら納得したよ。ただ浮かべるだけで、滑る事なんて出来ない靴で」

提督「感謝する」

救護妖精「良いさ。罪滅ぼしにもなりやしないんだ」

救護妖精「……あと、言わないといけない事がある」

提督「なんとなくは想像がついている。話してくれ」

救護妖精「…………提督さ、家族がどうだったか憶えてるかな」

341 : VIPに... - 2013/11/02 02:49:39.30 qCrR2zLOo 490/771

提督「いや、過去の事についてはほとんど思い出せない。父が私の父というのもいまいち実感できないくらいだ」

救護妖精「そっか……ごめんよ」

提督「構わない。そう思ってくれるだけで充分だ」

救護妖精「……じゃあ言うよ。提督の家族構成は、両親と提督、そして妹が二人だったんだ」

提督「…………」

救護妖精「ん、もう分かったようだね。……そう。あの瑞鶴って子、提督の妹だよ」

救護妖精「本当にさ、びっくりしたよ。深海棲艦を材料に艦娘が造れたっていうんだから。今でも信じられないくらいさ」

提督「なぜ造れたのか、分かるのか?」

救護妖精「さあね。そこら辺の詳しい事情は人造人間側の分野だ。私には良く分からないよ」

救護妖精「だけど……チラッと聞いた話によると、艦娘を造るには強い絆が必要だって言ってたね姉妹が多いのはそういう事なんだよね。例外はちらほらあるけど」

救護妖精「そして、提督の肉親に当たる艦娘は三人。大和、翔鶴、瑞鶴。この三人だよ」

救護妖精「だから、提督に魂が惹かれて深海棲艦から造れたんじゃないかな。記録によると、あの沈んだ深海棲艦からは艦娘の人工魂が出てこなかったみたいだし、深海棲艦に人工魂が残ってたのは確かだと思うよ」

提督「その人工魂が出てこなかった場合は、いずれまた深海棲艦として現れる可能性があるのか」

救護妖精「そうだと思うよ。じゃないと、今頃この海から深海棲艦なんて居なくなってるはずだし。あの国ももう滅亡寸前って話だし」

提督「あの国とは、大国の?」

343 : VIPに... - 2013/11/02 03:08:18.73 qCrR2zLOo 491/771

救護妖精「うん。何をやったんだろうか、艦娘の建造方法をうっかり外に持ち出した馬鹿が情報を盗まれたみたいだよ」

提督「そこの話は本当だったのか……」

救護妖精「どうやらちょっと知ってるみたいだね。じゃあ簡単に言うけど、大国だけじゃなく、この国以外はほとんど滅んでるよ」

提督「……どういう事だ」

救護妖精「どうやらさ、失敗続きの末、大事故が起きたみたい。敵の通信を傍受していた無線に、いきなり暗号も何も無しにメッセージが届いたのさ」

救護妖精「『これ以上この実験に手を出すな。これは我々を殺す──』ここでメッセージが途切れた。ほとんど直訳だけどね。物凄い速度で打ったモールス信号だったらしいよ」

救護妖精「その後、各国の通信が途絶えた。電波が悪いとかそんな話じゃないよ。まったく無くなったのさ」

救護妖精「まだ深海棲艦が少なかった頃さ、周辺の国を調査したみたいなんだけど、どこの国も人が消えてたみたい」

提督「…………」

救護妖精「神様なんて信じないけど、これは天罰だろうね。命を弄んだんだ。命を失って当然さ。この国も実は、結構な人が居なくなってるんだよね。神隠しって事で迷宮入りした大規模行方不明事件があっただろう?」

提督「あれか……」

救護妖精「それで、大混乱が収まってきた頃、深海棲艦がありえないくらい出現した。これは私の予測だけど、消えちゃった人みーんな深海棲艦になったんじゃないかな」

344 : VIPに... - 2013/11/02 03:28:00.90 qCrR2zLOo 492/771

提督「待て。それだとさっき言っていた人工魂の出てこない深海棲艦は全員それなのではないか?」

救護妖精「それは違うと思うよ。ありえないくらい出現した深海棲艦から結構な数の人工魂が出たみたいだから」

救護妖精「みんな、みーんな深海棲艦になっちゃった。そう考えても良いと思う」

提督「では……私たち海軍が戦ってる理由は三つになるのか」

救護妖精「かな? 一つは国民の不安をこれ以上大きくしない為。一つは深海棲艦を駆逐する為。もう一つは……」

提督「広大な土地と資源を手に入れる為……だろうな」

救護妖精「人類がほとんど居なくなった今なら、文字通り世界征服も実現可能だろうしね」

提督「おまけに、残っていれば技術も手に入る」

救護妖精「やる事がえげつないねぇ」

救護妖精「おっと、話が逸れちゃったね。提督の親父さんさ、なんで殺されたと思う?」

提督「やはり殺されたと見て良いのか……。なぜだ?」

救護妖精「提督の親父さんってさ、ものすっごい正義感の強い人だったんだよね。で、そんなだから艦娘の詳細を一切教えなかったんだ」

救護妖精「でも、そんなのいつかバレちゃうよね。しかも、よりにもよって自分の家族が艦娘にされたって知っちゃったんだ」

提督(ああ……だから戦姫は抱き付いて泣いていたと言っていたのか……。戦姫の事だ。愛していたという表現もどうせ家族のように愛してもらっていたという事だろう。翔鶴や瑞鶴も特に懐いていたという理由も分かる。母の写真だけだと思っていたが、本当はあの二人も映っていたのだろうな……)

345 : VIPに... - 2013/11/02 03:40:18.81 qCrR2zLOo 493/771

救護妖精「で、当たり前だけど直訴したみたい。だけど、脅された。なんだったらカプセルごと素体を破壊してやろうかって。そんなこんなで親父さんは言う事を聞いてたみたい。……けど、沖ノ島海域の大規模戦闘の時、交換条件を出された」

提督「この海戦に勝てば三人は生きて返してやろう。といった所か」

救護妖精「正解。それで親父さんは艦娘全員を連れて……や、一隻だけ残ってたんだっけ──まあ、戦闘にいったんだよね。支援艦隊を結成し、向かわせて援護をしてやるからって言って」

提督「やる事がとことん下衆だな」

救護妖精「本当にね……。可哀想だよ……提督の親父さんは家族を取り戻したかっただけなのに……」

提督「戦艦一隻と空母二隻だ。もし成功させられたら損失は大きい上に、父がどう出てくるかも分からない」

救護妖精「理由はそんな所だったよ……。あの元帥から話を聞いていて、当時の私は大して興味を持っていなかったのが恥ずかしい……」

提督「それに関してはなんとも言えない。だが、今は違うだろう」

救護妖精「そりゃね……」

提督「だったら、協力してくれ」

救護妖精「……何にだい」

提督「さっきも言ったとおり、海軍の黒い部分──現在の大将共と研究員を皆殺しにする。そして、艦娘のベースとなっている人々を助ける」

救護妖精「……なに言ってるのさ。何を言ってるのさ!? 艦娘のベースとなった人を助ける!? それ、どうなるのか分からないんだよ!?」

救護妖精「まず間違いなく現存する艦娘は全員消える!! もしかしたら深海棲艦も消えるかもしれないけど、それは保障できない! もし深海棲艦が消えなかったら誰も深海棲艦に勝てない! この世は終わっちゃうのよ!?」

347 : >>346はミス。saga入れ忘れてた。 - 2013/11/02 03:42:34.73 qCrR2zLOo 494/771

提督「その可能性も考えてある。まず重巡を全員解放する。もしそれで深海棲艦から重巡が消えれば全員を解放すれば良い。もし重巡が一隻でも出てきたら、深海棲艦を全員駆逐してから解放すれば良い」

救護妖精「……なんで重巡なのさ」

提督「一番は私に付き従ってくれる艦娘に重巡が居ないという事。次に、空母や戦艦ほど火力は無いが、駆逐艦や軽巡のように小回りが利く訳でもないから、解放するのであればまだ重巡が一番マシという事だ」

救護妖精「…………もし深海棲艦が消えなかった場合、大将達はどうするの」

提督「アレらはどっちにしろ殺す。どう転んでも邪魔だ」

救護妖精「どうやって殺すのさ。バレるでしょ」

提督「バレない方法がある」

救護妖精「…………」

提督「…………」

救護妖精「……なんとなくやる事が分かったよ、悪党」

提督「ああ。私は悪党だよ」

救護妖精「まったく……反逆罪だよ?」

提督「バレなければ罪に問われんよ」

救護妖精「……それもそうだねぇ」

救護妖精「そっちは分かったけど、研究員はどうするのさ」

提督「アレらが死ねば、あの研究員達を動かせるのは私だけになる。地下にでも集めて皆殺しにすれば良いだろう」

救護妖精「……言う事が恐ろしいねぇ」

提督「悪党だからな」

救護妖精「オッケー。私はその案に乗る。もう既に何人も殺してるんだ。今更、殺しの片棒を担いでもなんともないさ」

提督「では、早速計画を開始しよう──」

……………………
…………
……

371 : VIPに... - 2013/11/02 17:48:09.02 qCrR2zLOo 495/771

開発妖精「おお? 提督さん、金剛さん、また何か作ってくれるの!?」ワクワク

金剛「ソーリー……今日は違うのデース」

提督「すまないが、今回は頼みがあって来た」

開発妖精「え、頼み? 珍しいね」

提督「物を造る事には変わりないが、少々特殊でね」

開発妖精「ふーん? でも物を造れるんでしょ!? いいよいいよ~何でも言って~!」

提督「電波を妨害する機械を造って欲しいのだが、できるか?」

開発妖精「へ? 電波を妨害する機械? たぶん造れるだろうけど、どうしたの一体」

提督「必要になってな」

開発妖精「ふーん……。使う場所と効果範囲とかはどのくらいが良いの?」

提督「使うのは何も無い海の上だ。効果範囲は……そうだな……できれば広い方が良いんだが、どのくらいなら造れる」

開発妖精「半径100メートルくらいなら」

提督「最低でも500は欲しい」

開発妖精「な、何気に難しい事を言ってくれるね……500かぁ……うーん……造れない事はないと思うけど……。でも、そんな物を使い続けてたら身体にどんな影響が出るか分かんないよ?」

提督「使用時間は三十分も無く、使うのは一度切りだが、ダメか?」

開発妖精「うーん……それだったらなんとか……」

提督「無理を言ってすまない」

開発妖精「良いって良いって。ただ、造った事が無い分野だからちょっと時間が掛かると思うよ?」

提督「三日以内に造ってくれるとありがたいのだが」

開発妖精「あ、そなんだ? それくらいなら余裕だねー」

金剛「装備でしたら一瞬で造っちゃいますものネ」

開発妖精「ふふん。そこは自慢なのだ!」

提督「では、良い品を期待しているよ」

開発妖精「はいよー!」

……………………
…………
……

374 : VIPに... - 2013/11/02 18:00:13.97 qCrR2zLOo 496/771

~提督室~

金剛「テートク」

提督「なにかね」

金剛「どうして電波妨害装置が必要なのですか?」

瑞鶴「電波妨害装置?」

提督「ああ、瑞鶴はその場に居なかったな。どうしても必要になってな」

瑞鶴「でも、そんなもの何に使うの? 使い道が全然思い浮かばないんだけど……」

提督「…………」

金剛「……テートク?」

瑞鶴「?」

提督「……今はまだ話せない」

金剛「いずれ、話してくれるのデスか?」

提督「ああ」

瑞鶴「もー……私達にまで秘密って何なのよ……」

金剛「今回ばかりは私も予想すらできまセン……」

提督「時が来たら、必ず話す」

金剛「……もう、仕方がないですね」

瑞鶴「ちゃんと話してよ?」

提督「ああ。ちゃんと話すよ」

提督(……その時は、お別れの時かもしれないがな)

提督「……ところで、今やっている仕事を半分だけ──」

金剛瑞鶴「ダメ」

提督「……本当に、私はいつになったら仕事が出来るんだ」

……………………
…………
……

380 : VIPに... - 2013/11/02 18:08:34.66 qCrR2zLOo 497/771

コンコン──。

提督「入れ」

ガチャ──パタン

「…………」

提督「どうした、響」

「………………っ」

提督「響」

「!!」ビクン

「っ」ピシッ

提督「話しなさい」

「ぅ……はい……」

「その前に司令官……聞いても引かないでもらえると……嬉しい……」

提督「…………分かった。言ってみろ」

「……独りは、終わると寂しかった」

提督「……………………」

「な、何か言ってくれるかな司令官……」

提督「いや……どうしてやったら良いものかと思ってな……」

「……できれば、なんだけど」

提督(嫌な予感しかしない)

「司令官……お願いして、良いかな……」

提督「……………………」

「指で……指で良いから……」

提督「……本当は、良くないと知っていて言ってるのか?」

「分かってるさ……でも、司令官が鎮守府から離れて寂しかったんだ……。だから、その寂しさを埋めようとしたのに……胸が痛くなるくらいに寂しくなって…………」

提督「…………」

「我侭を言ってるのは分かってるよ……でも……抑えきれないんだ……」

提督「……仕方がない、な」

「────! ありがとう、司令官……」

……………………。

410 : VIPに... - 2013/11/02 22:44:57.22 qCrR2zLOo 498/771

ベッドに腰掛けた私の膝上に、響が座る。

蝋燭の淡い光に照らされた、長い髪からチラリと見えるうなじ──それが、他の駆逐艦の子達には無い大人っぽさをどことなく醸し出している。

「……し、司令官」

顔の半分だけをこちらに向け、怯えが混じった蒼い瞳で私を捉えた。

「……………………」

いくら待っても、少女の口から続きが紡がれる事は無かった。

彼女が何を言おうとしているのかは分かっている。分かっているからこそ、こうして少しだけ不安になるような態度を取っているのだ。

単なるイタズラ心。普段では絶対に見せない、私の秘密。

響はそれに気付くだろうか。小さい子の中でも頭の回転が速い彼女ならば、私が本当はイタズラ好きだというのを見抜けるだろうか。

「司令官……」

響は、捨てられた子犬のようなか細い声で呟いた。普段の彼女では全く思いつかない、寂しさで一杯の声だった。

そろそろイジワルをするのも止めておこう。流石に可哀想に思えてきた。

そっと、抵抗すれば簡単に逃げれる程度の力で抱き締める。

彼女の不安を溶かすように、柔らかく、優しく、出来る限り身体を近付けて抱き締めた。

ビクリと身体を震えさせるも、響は一切の抵抗をしてこない。

むしろ、私に全てを任せるとでも言うかのように、身体を預けてきた。

それの返答に、強く身体を抱き締める事で示す。

『覚悟は出来ているのか?』

そういう意味を込めて、少し痛いであろう力で、この細い肢体を締め付けた。

「んっ……!」

当然、悲鳴が上がる。けれど、その悲鳴には甘く、熱っぽい色が混ざっていた。

「ひゃっ……ん」

大人の反応を示す少女。その少女の耳たぶを、いつぞやのお返しとばかりに唇で挟んだ。

「し、しれい……かん……」

舌先で突くたびに、少女の吐息は少しずつ荒くなっていく。

突くだけではつまらないと思い、時には舐めたり、吸ったりもした。

響は身体を震えさせるも、抵抗する素振りを一切示さず身体を私に預けたままだった。

あまりに無抵抗だったので、彼女を驚かせる事にする。

ガッチリと締め付けていた腕を解き、その代わりに服の下へ手を滑り込ませた。

「っ!」

予想外だったのかどうなのかは分からないが、響は息を呑み、一瞬だけ身体を強張らせた。

けれど、それも本当に一瞬の事。すぐに先程と同じように身体から力を抜き、されるがままの状態となった。

それにしても彼女の身体が熱い。風邪を引いているのでは、と思うくらいに熱く火照っており、少しだけ肌もしっとりと汗ばんでいるようだ。

ふと、一つの可能性が頭に過ぎった。

「さっきまで、自分で慰めていたな」

その囁きに、響はヒッと小さく悲鳴を漏らした。

「ああ、やはりか。通りで身体が熱いし、汗を掻いているんだな」

わざと言葉にして、辱める。

恐らく、彼女の顔は今まで見た事がないくらいに真っ赤になっているだろう。

そして、乱された心を立ち直らせる間を置かず、彼女の小さな丘と秘部へ手を伸ばした。

「あっ……!」

丘の頂点にはぷっくりと自己主張をした乳首が、布でガードしていない秘部は触れるだけでぬるりとした液体が手に付いた。

411 : VIPに... - 2013/11/02 22:45:29.23 qCrR2zLOo 499/771

「ほら、こんなになっている」

「っ……! ぃ……ぁッ!」

さするように胸の外周を撫で、触るだけでスジだと分かるソコは優しく撫で上げる。

響にとってはこれだけでも刺激が強いのだろう。身体をビクつかせながら声を殺している。

「それにしても、凄い濡れようじゃないか。たった数回だけ指で撫でただけなのに、もう手がびしょびしょだ」

「…………ッぁ! は、っん……!」

「なるほどな。下着を穿いていないのも頷ける。これでは下着の意味が無い」

「っィ!! ひ、は……ぁっ!」

「まあ……このままの状態でよくここまで来れたと思うよ。変態ではあるがな」

「~~~~~~っっ!」

軽く辱めるよう言葉を選ぶ。案の定、彼女は声になっていない声で啼く事となった。

「響はどこが好きなのだろうな?」

そこに追撃を掛けるべく、響の身体を確かめるようにまさぐった。

ここか──と問い掛けながら、一つ一つ確認していく。

まずは胸の外周を一本の指で円を描くようになぞった。

次に、その円の大きさを小さくしていき、固くなった頂点へ大きく迂回しながら近付ける。

指が乳首に触れそうになると円を大きくして、離していく。

「ぁ……あぁ…………」

残念そうな声が聴こえてきた。

しかしその声を無視して、今度はスジの通った秘部に添えた手を動かす。

盛り上がった部分を、胸と同じように外周をなぞって焦らした。

決して直接の性感帯に触れず、とことんズラシ続けてなぞった。

「はー……っ! は、ぁー……っ!」

そんな事を十分も続けていると、響の呼吸は深く、大きくなっていた。

心臓がバクバクと早鐘を打っているのも分かる。

しかし、彼女は手を出さない──いや、出させなくした。

途中で何度か手を押さえつけようとしてきたので、その度に触れる事すらせず放置。そんな事を何回も繰り返したので、彼女は手を出そうにも出せなくなった。

手を出したくなるほど焦らされ続けているが、手を出すと触ってもらう事すらなくなる。

物理的に拘束するよりも、こういった精神的な拘束の方が遥かにもどかしい。

その証拠に響の膣口からは愛液が溢れ出ており、一撫ででもすれば手の平全体がびしょびしょになるであろう量の汁だ。

そんな、健気に焦らされ続けた彼女に、耳元で囁いた。

「よく頑張った。ご褒美だ」

そう言ってスジに指一本、割れ目全体に沈み込ませるように押し付けた。

「────ゃぅっ!!」

甲高い嬌声で一啼き。

焦らしに焦らされた幼い恥丘には、触れるだけでも充分な刺激だったようだ。

指全体をゆっくりと動かし、固くなったクリトリスを痛くしないように撫で、指先で膣口をくすぐった。

同時に、ピンと張った乳首も捏ねるように弄んだ。

「~~~~ッ! っぃ……ひ、ぅ──!」

直接触りだしてから、押し殺した甘い悲鳴をずっと漏らしている。

そんな姿が可愛くて、もう少しイヂメようとした。その時に、

コンコン──。

と、ノックが部屋に響き渡った。

「────!!!」

響がビクリと身体を跳ねさせた。

私も一瞬驚いた──が、すぐに良い事を思いついた。

燭台の火を吹き消し、カーテンを閉めて準備を整える。

コンコン──。

「入れ」

「────ッ!?」

二度目のノックに対して、私は返事をして招き入れる事にした。

「提督、起きてる? って、寝てたのね……ごめん……」

扉が開くと、島風の声が薄いカーテンの向こう側から聴こえてきた。

「いや、構わない。すまないが、電気は付けないでくれ。寝起きは少し眩しい」

「はーい」

「ところで、こんな時間にどうした?」

そう言いつつ、止めていた手を動かし始めた。

「──────!!!」

蚊が囁いたのかと思える程の小さい悲鳴。その声の主は、今私に弄ばれている響だ。

412 : VIPに... - 2013/11/02 22:46:56.85 qCrR2zLOo 500/771

「んっとね。響がどこに行ったか知らない?」

「ッ!!」

「いや、知らない。どうかしたか?」

くすぐっている膣口に第一関節分だけ挿れて、ゆっくりと円を描く。

「こんな時間なのに響が居なくて、他の皆が不思議がってるの」

真っ暗だが、響が口を押さえたというのが分かった。

それに対して、膣の入り口をほぐしていた指を引き抜き、押さえている腕に手を乗せた。

「だから、提督なら知ってるかなーって」

フルフルと首を振る少女。その顔は、恐らく酷く困った表情を浮かべているのだろう。

「……響」

一言、島風にもハッキリと聴こえるように、膝の上の少女の名を呼んだ。

彼女は本日何度目かのビクつきで身体を跳ねさせた。

私の言っている意味が分かっているのだろう。首を先程と同じく横に振らせている。

「そうだな……思い当たる節はある」

そう言ってから、例えば私の膝の上とか──と、響にしか聴こえない小さな声で囁いた。

「~~~~~~…………」

それで諦めたのか、響が腕を下ろした。

下ろしたのを確認すると、私はまた指の先を膣へ挿れてほぐし始めた。

「食堂の方はどうだった? 喉が渇いて向かったのかもしれないぞ」

「────っ……っ!」

手で押さえるという保険が無くなった途端、響は身体に力を入れた。

必死になって声を出さないようにしているのが分かる。

事実、少しだけ潜り込ませている指先が締め付けられている。

「ううん。居なかったよ」

「そうか。食堂の方には居なかったか」

その締め付けに逆らい、指をほんの少しずつ沈み込ませる。

「────!!」

まだ少し固い、処女膜付近の肉壁をゆっくり少しずつ、痛くしないように掻き回す。

「なら、シャワー室はどうだった?」

「~~~~ッッ」

ビクビクと、身体を震えさせながら響は声を押し殺していた。

「そこにも居なかったよー」

「そうか。そこにも居なかったか」

膣が半ば痙攣しているように蠢いている。

バレるかもしれないというこの状況が、より性感を高めているのだろう。

私は、お腹側の膣壁を押さえながら指を根元付近まで挿し込んだ。

「────────っ!!!」

「化粧室にも居なかったのか?」

一気に膣が狭まった。指を痛いくらいにキュウキュウと締め付けてきて、少女はビクビクと痙攣させている。

それでもおかまいなしに、水音が鳴らないようほぐし続ける。

「うん。居なかった」

痙攣が止まるなく、響は声を殺し続けた。

「そうだな、私も少し探してみよう。島風は戻っておけ。入れ違いになっても困るだろう」

「────っ!! ッ! ~~~~!!!」

うねる肉ヒダを掻き分け、擦り続ける。

必死になって声を抑えて、その声を島風に届かせずにしている少女。

その幼気な姿が、とても可愛らしく見えた。

「はーい」

膝の上の少女とはまた違った幼気な声で返事をして、島風は帰っていった。

扉が閉まる音と共に、部屋に静寂が訪れる。

いや、正確には静かではない。甘ったるい熱を帯びた吐息が木霊していた。

「……っはぁ! は、ぁあぁぁ!」

それも長くは続かなかった。

一層強く膣が狭くなったと思うと、震えた声で、彼女は初めて艶かしい声を上げた。

身体は大きく痙攣しており、ほとんどの抵抗を示さなかった彼女の手は、私の腕を痛く握って快感に耐えているようだ。

それが十数秒続いた後、彼女は今まで通り身体を預けてきた。

ぐったりと、体力を使い果たしたように。

413 : VIPに... - 2013/11/02 22:47:39.10 qCrR2zLOo 501/771

「は……っ! はぁ……ぁ、っぅ……あぁ…………」

そんな表情を浮かべているのだろうと思い、マッチを手に取る。

しかし、片手は響の両手と膣で固定されていて動かせない。

悩んだ末、中指と小指で箱を挟み、人差し指と親指でマッチを摘んで火を点けた。

──む、箱が落ちた。まあ良いか……。

燭台に火を灯すと、響の顔がよく見れた。

顔は紅潮し、虚ろな目は空中を捉え、半開きになった口からはぬらりと光る唾液が光っている。

「響、大丈夫か?」

呼びかけてみるが、反応が無かった。……もう少しこのままにしていよう。

「……люблю…………я」

ロシア語だったのか、なんて言っていたのか分からなかった。

「うん? リュブリー、ビャ?」

聴き取れた部分だけを繰り返すと、その言葉に反応したのか、響はこっちへ──やはり半分だけ──顔を向けた。

虚ろな目はそのまま、ニコリと微笑み、

「Я……люблю те……бя…………」

ヤ・リュブリュー・ティビャ? と言った。

残念ながらロシア語は分からないが、何が言いたいのかはなんとなく分かった。

「──ありがとう、響」

自由に動かせる左腕で響を抱き、頬にキスをした。

それに満足したのか、彼女は目を閉じ、小さな寝息を立て始めた。

よほど疲れたのだろうな……。

「スパコイナイ・ノーチ」

彼女からすれば苦笑いをされるであろう幼稚なロシア語。

だが、腕の中の少女は、柔らかく笑ってくれた気がした──。


……………………
…………
……

442 : VIPに... - 2013/11/03 21:27:36.22 Ah3KN2S/o 502/771

「ただいま」

「あ、おかえりなさい!」

「もう、どこに行ってたのよ」

「心配したのです……」

島風「おかえりー。どこに行ってたの?」

「外だよ。夜の海を見たくなって、あちこち動き回ってた。何も言わずに行ってしまってごめんよ」

島風「あれ? 外なら私も行ったよ?」

「ん、そうなのかい? じゃあ行き違いになってたのかな……」

島風「そっかぁ」

「司令官にはこってり叱られてしまったよ。同じ部屋の人に何か言ってから出掛けるようにってね」

「とにかく、無事で良かったわ」

「ふぁ……安心したら眠くなってきちゃったのです……」

島風「それじゃあ、もう寝よっか」

「はいなのです」

「…………んー」

「ん、どうしたんだい雷」

「…………」ジー

「?」

「大人になったわね、響」ヒソ

「ッ!?」ビクン

「大丈夫よ、誰にも言わないから!」ヒソ

「…………」コクン

(雷……。初めて雷が怖いって思ったよ……)

……………………
…………
……

444 : VIPに... - 2013/11/03 21:38:08.72 Ah3KN2S/o 503/771

コツッコツッ──

提督(ん、こんな時間に誰だ? 響か島風……もしくは金剛か瑞鶴か?)

提督「入れ」

ガチャ──パタン

榛名「夜分遅く、失礼します」ペコ

提督「榛名か。どうした」

榛名「あの……眠れないので散歩をしようと思ったのですが、いつのまにかここへ……」

提督「ふむ……」

提督(暗示を掛けるのには丁度良いか)

提督「分かった。明かりを点けてくれ」

榛名「はい」

パチッ──

提督「ありがとう。──眠くなるまで雑談をしよう。私も寝付きが悪かった所なんだ」

榛名「提督さん、ありがとうございます!」

……………………。

445 : VIPに... - 2013/11/03 21:54:50.14 Ah3KN2S/o 504/771

提督「待たせた」カチャ

榛名「いえ、本当ならば私が淹れるべきですのに……」

提督「せめてこのくらいはさせてくれ。何もしてはいけないというのは苦痛だ」

榛名「はい……」

提督「今日はいつもと違う茶葉を使ってみたが、どうかね」ズズッ

提督「……………………」

榛名「そうなのですか? では、いただきますね」コクコク

榛名「──あっ、なんだかほんのりと柔らかい甘みがあります! 色はほとんど変わらないのに、茶葉でこんなに

変わるなんて──って、提督さん?」

提督「……………………」

榛名「え、え? ど、どうかしたのですか? そんなにうな垂れて……」

提督「甘かった……」

榛名「え……? 甘い……あっ!」

提督「甘いのは苦手なんだ……」

榛名「そういえば、提督さんは甘い物がダメでしたね……大丈夫ですか?」サスサス

提督「甘みも少なく……糖分は入っていないようだからなんとか……背中、さすってくれてありがとう……」

榛名「え、えっと……何か袋をお持ちしましょうか……」サスサス

提督「いや、だいぶ楽にはなってきた……。だが、水を持ってきてもらって良いかな……」

榛名「は、はい!」

……………………。

446 : VIPに... - 2013/11/03 22:06:30.42 Ah3KN2S/o 505/771

提督「……うむ。もう大丈夫だ」

榛名「良かった……。でも、あんなに仄かな甘みでもダメなのですね……」

提督「二度とこの紅茶は口にしないようにしよう」

榛名「その方が宜しいですね……こんなになるのですから……」

提督「手を貸してくれてありがとう」スッ

榛名「っ…………」ピクン

提督「…………」ナデナデ

榛名「はぅ……」ホッコリ

提督「最初と比べて、だいぶ怖がらなくなってきたようだな」ナデナデ

榛名「あ…………そういえば……」

榛名「あ、その……ごめんなさい……ほとんど反射的なもので……」

提督「いや、構わない。それだけ怖くなくなっているという事ではないか」ナデナデ

榛名「────ありがとうございます」ニコ

提督「……ここに居る限りは、もう怖がる事はない」ナデナデ

榛名「…………本当に、そうなのでしょうか」

提督「勿論だ」ナデナデ

榛名「ですが……提督が……いらっしゃい、ます……」

提督「榛名?」ナデ

榛名「あれ……頭が……ボーっと……」

榛名「して…………………………?」

榛名「……………………」

提督(薬が効き始めたか。では、始めるか──)

……………………。

447 : VIPに... - 2013/11/03 22:17:11.11 Ah3KN2S/o 506/771

提督(そろそろ薬が切れてくる頃だな)

提督「目を閉じろ。──おやすみ、榛名」

榛名「おやす、み…………」スッ

提督(さて……この子はベッドに寝かせて、私はソファで寝るとしよう)ヒョイ

榛名「…………」

提督(よいしょ……っと)ソッ

提督(さて……寝るか)スッ

榛名「──やだ」ガシッ

提督「む」

榛名「やだぁ……」

提督「……榛名?」

榛名「独りは……やだ……」

提督(……起きている、という事はなさそうだな。では、夢か何かか?)

提督(…………離してくれそうにないな……仕方がない……)

提督「…………」モゾモゾ

榛名「…………」ギュ

提督(……完全に逃げれなくなったな。もう諦めるか……)

提督「……おやすみ、榛名」

榛名「…………」スゥ

……………………
…………
……

448 : VIPに... - 2013/11/03 22:29:49.54 Ah3KN2S/o 507/771

榛名「ん…………」スッ

榛名(あれ……真っ暗……? ここ、どこ……?)モゾ

榛名「…………?」

榛名(私、何かを抱き締めてる……? なんだろう、これ……温かいけど、なんだかゴツゴツしてる)

提督「む……起きたか」

榛名「──え!? え、ええ!? ど、どういう事ですかこれ!? なんで、私……え……?」

提督「何も憶えていないのか?」

榛名「えっと…………。なんだか、寝惚けて抱き締めた記憶が……」

提督「それが私だ」

榛名「……えっと、つまり……眠ってしまった私を運んで、こうなったのでしょうか……?」

提督「正解だ」

榛名「ご、ごめんなさい!」バッ

提督「いや、構わんよ。カーテンを開けてくる」スッ

榛名「は、はい……」

シャッ──!

榛名「ん、眩しい……」

提督「簡単に説明すると、前と同じように眠ってしまった榛名をベッドへ寝かせたら抱き付いてきて離してくれな

かった。……不本意かもしれないが、一緒に眠らせてもらった」

榛名「ごめんなさい! 迷惑を掛けてしまって!」ペコ

提督「いや、構わんよ」

榛名「ですが……」

449 : VIPに... - 2013/11/03 22:38:35.01 Ah3KN2S/o 508/771

提督「……このまま…………」

榛名「え?」

提督「いや、なんでもない」

榛名(提督さんは、何を隠しているのでしょうか……)

コンコン──。

提督「入れ」

ガチャ──パタン

金剛「グッモーニング! テートクー!」

提督「おはよう金剛」

金剛「あれ、榛名も早いデスね。グッモーニング!」

榛名「おはようございますお姉様」

提督「機嫌が良いようだが、何かあったのか?」

金剛「ふふーん。とっても良いドリームを見たのデス!」

提督「ほう」

金剛「テートクと結婚して、子供を授かって、幸せな家庭を築いている夢でシタ!」

提督「…………」

榛名「…………」

450 : VIPに... - 2013/11/03 22:48:55.94 Ah3KN2S/o 509/771

金剛「なーんで黙っちゃうのデスか二人共!!」

提督「いや……驚いて何も言葉が出てこなかった」

榛名「私もです……。艦娘は子供を宿しませんよね……?」

金剛「ぶー。夢の中くらい良いじゃないデスか」

金剛「まあ、私としては子供が出来なくても、それはそれで色々と楽しめそうデスけどネ?」チラ

提督「朝から何を言っているんだ……」

榛名「お姉様……」

金剛「ふふっ。私はいつでもウェルカムですヨ?」

提督「いい加減に夢から覚めろ」コツッ

金剛「アウッ! ぅー……ごめんなさい……」

提督「分かれば宜しい」

榛名「…………?」

金剛「? どうしました榛名?」

榛名「いえ……。あ、あの……提督さん、変なお願いをしても良いでしょうか……」

提督「内容によるが、まずは言ってみろ」

榛名「先程お姉様を叩きましたけど、私にも同じように叩いてください」

金剛「…………?」

提督「何か悪い事でもしたのか?」

榛名「いえ……ちょっと気になってしまって……」

提督「…………不思議な子だ。──いくぞ」コツッ

榛名「…………? ……………………?」

451 : VIPに... - 2013/11/03 22:59:50.29 Ah3KN2S/o 510/771

提督「どうした」

榛名「いえ……まったく痛くなかったので……」

提督「当たり前だ」

金剛「提督は痛い事を絶対にしないデスよ?」

榛名「…………?」

提督「何やら大きく誤解されているようだ」

榛名「怒っているのに、痛く……しないのですか?」

提督「私は怒っていない。叱っている。感情的に人を傷付けるなんて事はせんよ」

榛名「……………………」

提督「本当だ。信用できないか?」

榛名「いえ……こんな世界もあるのですね、と思いまして……」

提督「ここは私の城だからな。私のやりたいようにやらせてもらっている」

金剛「そんなテートクが大好きデス!」ギュー

提督「……とうとう金剛も吊るされる事となるか」

金剛「えー……愛の表現もダメなのデスかー……?」

提督「時間と場所を弁えろと言っている」

金剛「はーい……」

提督「金剛」

金剛「はいっ!」ピシッ

提督「返事は延ばすな」

金剛「ごめんなさい……」

452 : VIPに... - 2013/11/03 23:08:36.36 Ah3KN2S/o 511/771

提督「まったく……良い夢を見て気分が良いのは分かるが、そろそろ皆も来る。いつものようにしていなさい」

金剛「はいっ」

榛名「……………………」

榛名(優しいのですね、提督……。────!)ハッ

榛名(あれ……今……?)

提督「ところで金剛、手に持っている書類を見せてくれ」

金剛「仕事をしてはいけませんヨ?」

救護妖精『洗脳が完全って訳でもないんだよね。急に洗脳が解けたり、違和感が生まれて本当の提督を思い出す艦娘とか居るみたい』

榛名(……もしかして)

提督「私宛の機密書類があるかどうかの確認だ」

金剛「それなら……。はい、どうぞ」

救護妖精『洗脳できた艦娘は一部の提督にしか渡されてないよ──当時の大将とか、元帥とかにしか』

榛名(私の、本当の提督は……)

提督「……ふむ。特に無いようだな。残念だ」

金剛「もう……提督はしっかりと身体を治してくだサイ」

提督『世の中には、知らない方が良い事もある』

榛名(このお方……?)

……………………
…………
……

453 : VIPに... - 2013/11/03 23:09:17.66 Ah3KN2S/o 512/771

提督「──との事で本日は進める。異論がある者は手を上げてくれ…………居ないようだな。それでは、か……くじ……────」

ガクン──

金剛「提督!?」

瑞鶴「提督さん!?」

金剛「──島風! 救護妖精を呼んできて!!」

島風「はい!!」

金剛「瑞鶴は砂糖を!!」

瑞鶴「分かったわ!」

金剛「他の人は救護妖精が来た時に邪魔にならない場所へ移動!!」

全員「はい!」

金剛(後はベッドへ運んで、いつでも寝かせれるようにしておけば……!!)

……………………。

救護妖精「……うん。低血糖だろうね、これ」

金剛「やっぱりですか……」

救護妖精「んー、これ以上できる処置が無いね。やったの誰?」

金剛「私ですが……」

救護妖精「適切な処置だと思うよ。提督は良い秘書を持ったねー」

金剛「ありがとうございます。それより……提督は大丈夫なのでしょうか」

救護妖精「本当に良い秘書だねぇ……。問題ないよ。このまま起きなかったら同じように口に砂糖を突っ込んだら良いさ」

救護妖精「まあ、起きるまで私が側に居るから安心していな」

金剛「はい。お願いします」ペコ

全員「…………」ペコ

救護妖精(本当に好かれてるねぇ。どっかのしぶとかった誰かとは大違いだ)

……………………。

454 : VIPに... - 2013/11/03 23:09:50.15 Ah3KN2S/o 513/771

提督「ん……」

金剛「!! 提督、起きたのですね!」

提督「…………どうやら皆に迷惑を掛けてしまったようだな。すまない。そしてありがとう」

金剛「良かった……目を覚ましてくれて……」

提督「そう簡単に死なんさ。だから泣くな」

金剛「はい……はい……っ!」

救護妖精「んー……良い雰囲気のところ悪いんだけどさ、提督、一つ良いかな」

提督「なにかね」

救護妖精「寝不足と疲労と糖分不足が原因っぽいんだけどさぁ……なんでなのかな?」ニコ

提督「…………」

救護妖精「疲労はまだ分かるんだけどさぁ……? どうして寝不足っぽい症状も出てるのかなぁ……?」

提督「……なぜだろうな」

救護妖精「ちゃんと休めやこらぁぁあ!!! どーせまたなんか個人的な理由で寝不足になったんでしょうが!!」

(わ、私のせいなのかな……)ビクビク

榛名(私が昨日、遅くに押しかけたから……)ビクビク

提督「……すまん」

救護妖精「こんなんじゃいつまで経っても治りやしないよ!!」

提督「善処する……」

救護妖精「信用できないね! 監視役が必要なんじゃないかな!?」

金剛(秘書として監視役を……)

瑞鶴(監視役になったら私もずっと一緒に……)

(監視役になれたら、司令官ともっと長く……)

榛名(その役に私がなると、あの疑問も解けるのでしょうか……)

提督「冗談はやめてくれ。それこそ心労が溜まる」

救護妖精「それもそうだよね」

四人「!!」ガーン

救護妖精「まあとにかく、一日中寝るくらい休みなよ」

提督「なんとかしてみるよ。ありがとう」

救護妖精「はいよ。じゃあまたね~」

……………………
…………
……

473 : VIPに... - 2013/11/04 19:40:55.92 LxWjxs4Oo 514/771

コンコン──

救護妖精「はいはーい。どうぞー」

ガチャ──パタン

榛名「あの……こんにちは」

救護妖精「うん? あーこんにちは。どしたの?」

榛名「あの……元帥様──提督の容態はどうなのでしょうか……。あれから結構な時間が経ちましたけど、何も音沙汰がありませんでしたので……」

救護妖精「あー……」

救護妖精(そろそろ限界かねぇ……)

救護妖精「んー……なんて言ってやったら良いかなぁ……」

榛名「……もしかして、もう目を覚まさない、とか……」

救護妖精「…………あながち間違ってないね」

榛名「え……」

救護妖精「無理だね。あれはもう」

榛名「そんな……。ど、どうしてですか……?」

救護妖精「衰弱しきってたから、かね。本当は生きてる事自体がおかしいくらいだったんだよ」

榛名「……………………」

救護妖精「……遺言を貰ってるけど、聞くかい?」

榛名「遺言…………はい……お願いします……」

救護妖精「『お前の主は別に居る。それは自分で見つけろ』だってさ。無責任な最後だったよ」

474 : VIPに... - 2013/11/04 19:53:45.91 LxWjxs4Oo 515/771

榛名「…………それ以外には何か、仰っていましたか……?」

救護妖精「いや、その言葉を最後にポックリと。遺体も本人の希望で海に還したよ」

榛名「そんな……死に目にも会えないだなんて……」

救護妖精「……貴女みたいな艦娘はいくらでも見てきたけど、幸運だとは思うよ」

榛名「幸運……? なぜ……? なぜですか……! 私は、提督を失ったのに……!!」

救護妖精「遺言で言ってただろう? 自分の提督を見つけろって。それってつまり、本当の提督は生きてるって事じゃないか」

榛名「でも……それでも……私が今まで付き従っていた提督は……提督が…………」

救護妖精「こればっかりは特殊過ぎて、あたしもアレコレとは言えないけどさ……。落ち着いたら自分の心を見つめてみると良いよ。そこに答えはきっとあるからさ」

榛名「自分の……心…………?」

救護妖精「前にも言ったけど、あたしが知っている洗脳は完全じゃない。貴女みたいに、違和感が生まれるんだったら心のどこかに本当の提督の姿があるんじゃないかな」

榛名「本当の…………提督………………」

救護妖精「心を落ち着けたいんだったらこれを飲むと良いよ」スッ

榛名「…………これは……?」

救護妖精「精神安定剤。効き目は強くないけど、今の貴女ならこれでも充分だろうね。摂り過ぎてもあんまり支障はないけど、一日に服用は一回のみ。心が不安定の時以外は使わない事。あと、間違っても他の人に渡さない事。良いね?」

榛名「……はい」

救護妖精(まあ、本当は砂糖と小麦粉の粉なんだけどね)

476 : VIPに... - 2013/11/04 20:06:58.09 LxWjxs4Oo 516/771

救護妖精「今飲むと良いかもしれないね。はい、水」スッ

榛名「…………はい」ソッ

榛名「……………………」コクン

救護妖精「すぐには効果は出ないけど、だからと言って二回も飲んじゃダメだよ?」

榛名「はい……。…………? ……甘いですね、これ?」

救護妖精「飲みやすいように砂糖も混ぜてるからね」

救護妖精「それじゃあ、ゆっくり休んでな。貴女は私らの提督と違って精神が弱ってるんだ。理由は違えど、休まないとあの提督みたいに治るもんも治りやしないよ」

榛名「……はい」

救護妖精「──ああ、そうだ。良い事を思いついた」

榛名「良い事……ですか?」

救護妖精「榛名さんや、提督と一緒に寝てくれるかい?」

榛名「寝る…………。────っ!?」ビクン

榛名「な、なな! 何を!?」

救護妖精「そっちの寝るじゃないよ。何を想像してんだい……」

榛名「ぅ……」

救護妖精「どうせあの提督の事だ。まともに寝やしないだろうから、一緒に寝てやってくれって事だよ」

榛名「……でも…………」

救護妖精「今は一人になりたいっていうのならそれで構わない。けど、心の傷を癒すのは人の温もりだっていう事を憶えておくと良いよ」

榛名「人の……温もり、ですか……」

救護妖精「そ。医学的にはちょっと意味分かんないんだけど、なーんでか人って、心を許してる相手に抱き締められると心の傷が癒えるの早いんだよねぇ」

榛名「そう、なのですか…………」

救護妖精「そういう事。なんだったらここで休んでっても良いから、後は好きにしなー」

榛名「はい……。ありがとうございます……」ペコ

榛名(人の…………あのお方の、温もり……)

……………………
…………
……

477 : VIPに... - 2013/11/04 20:23:25.11 LxWjxs4Oo 517/771

コンコン──

提督「入れ」

ガチャ──パタン

榛名「失礼します……」

金剛「……榛名、どうかしまシタか? 顔色が悪いデス」

榛名「……大丈夫ですよ、お姉様」

瑞鶴「本当に大丈夫なの? 声にも元気が無いじゃない」

榛名「ご心配、ありがとうございます」

榛名「……今回は、皆さんにお願いがあって来ました」

金剛「榛名がお願いなんて珍しいデスね? 何デスか?」

榛名「あの……提督さんと寝させて下さいませんか……?」

金剛「なぁっ!?」

瑞鶴「ちょ、ちょっと!? 何を言ってるのよ!」

榛名「あ、あの……睡眠という意味ですよ……?」

金剛「ああ……そういう意味だったのですね……」

瑞鶴「うーん……」

金剛「私は構いませんよ?」

瑞鶴「え? そ、それなら私も……」

提督「……そもそも、どうして私と一緒に寝たいと思った」

榛名「少し、心が不安定になる事がありまして……。救護妖精さんが、休むなら提督さんと一緒に寝てくれないか、と……」

金剛「なるほどネー。榛名、私からもお願いしマス。テートクを寝かし付けて下サイ!」

提督「…………」

478 : VIPに... - 2013/11/04 20:34:12.51 LxWjxs4Oo 518/771

金剛「提督、さっきから寝る気が無いみたいですし」ジッ

提督「だからなぜ分かる……」

瑞鶴(寝てなかったんだ……)

金剛「耳栓を付けていないじゃないですか! これを機に、しっかりと寝てください!!」

提督「……分かった」

金剛「あ、でも……えっちな事はいけませんよ?」

榛名「し、しません!!」

提督「信用されていないのかね……」

瑞鶴(……本当に凄いわ、金剛さん)

金剛「ジョークですヨー♪ ほらほら、二人共寝ちゃって下サイ!」

榛名「は、はい……あの、提督さん、失礼しますね……?」モゾモゾ

提督「……ああ」モゾモゾ

瑞鶴(羨ましい……)

金剛「~♪」

榛名「あの……」コソ

提督「なにかね」コソ

榛名「抱き締めてもらっても……構いませんか……?」

提督「…………分かった」ソッ

榛名「ぁ……」

榛名(温かい…………。刺さった氷の棘が溶けていくみたい……)

榛名「もっと……」ギュゥ

提督「…………」ギュッ

榛名(こんなに温かい気持ちになるのは……なぜでしょうか……。薬のおかげ……?)

榛名(それとも……本当に、このお方が……私の提督だから……?)

榛名(ダメ……眠くて頭が働かない……)

榛名(心地良い、です…………)

提督「……………………」

……………………

479 : VIPに... - 2013/11/04 20:47:22.57 LxWjxs4Oo 519/771

榛名「ん……」

提督「起きたか」

榛名「ぁ…………おはようございます……」

金剛「よく眠れまシタか?」

榛名「ん、くぁ……。はい……とても心地良かったです……」グシグシ

瑞鶴「顔、洗ってくる?」

榛名「はい……そうします……」

提督「こけないように」

榛名「はーい……」トテトテ

金剛「ふふっ」ニコニコ

瑞鶴「やけに機嫌が良いわね。どうしたの?」

金剛「榛名も、テートクの良さが分かってくれたのカナ、と思いまして」

瑞鶴「そうだろうけど……なんだか私は微妙な気分……。金剛さんは嫌じゃないの?」

金剛「私ですか? 私はこんなに素敵な人が、色々な人に知られるのは嬉しいデス! ──あ、でも簡単に譲る気はありませんけどネー?」

瑞鶴「私は逆だなぁ……。独り占めしちゃいたくなる……」

金剛「ンー……。そこは人によって違いますからネー……」

480 : VIPに... - 2013/11/04 21:06:35.89 LxWjxs4Oo 520/771

提督「私のどこが良いのやら」

金剛「優しい所」

瑞鶴「頼れる所」

金剛「格好良い所」

瑞鶴「大事にしてくれる所」

金剛「というより、全部です」

瑞鶴「うん。金剛さんと同じ」

提督「…………」

榛名「ふぅ……。提督さんは好かれていますね」

提督「不思議なくらいだよ」

榛名「でも、気持ちは良く分かりますよ。私も、凄く素敵なお方だと思っています」

提督「……………………」

榛名「……こう言うのは、本当はダメなのですけど……私の本当の提督が、貴方だったらって思ってしまうくらいに……」

提督金剛瑞鶴「!」

榛名「……なーんて。ごめんなさい、冗談です」ニコ

提督「…………そろそろ昼時だな。食堂へ行こう」

金剛瑞鶴「はいっ」

提督「行くぞ、榛名」スッ

榛名「──はいっ」ギュ

瑞鶴(ぅー……)

……………………。

481 : VIPに... - 2013/11/04 21:30:00.17 LxWjxs4Oo 521/771

コンコン──。

提督「入れ」

ガチャ──パタン

榛名「榛名、出頭しました」

提督「うむ。今日は重要な話があって呼んだ」

榛名「重要なお話……ですか?」

提督「……以前、時が来たら話すと言っていた内容だ」

榛名「!」

提督「そろそろ、話しても大丈夫だろうと思ってな」

榛名「……はい。覚悟は出来ています」

提督「単刀直入に言おう。榛名は、本当は私の艦娘だ」

榛名「…………っ! やっぱり、なのですね」

提督「……鎮守府の提督となった暁には、艦娘が一隻、総司令部より送られる制度を知っているか?」

榛名「噂程度には聞いた事があります……けど、実際に見た事はありません」

提督「それも無理はない。普通はその送られてきた艦娘しか知らない事だ。詳しい事は電に聞くと良い。あの子がその艦娘だ」

提督「そして、榛名は手違いで私の所へ来た艦娘だ」

榛名「手違い……ですか?」

提督「総司令部に所属している妖精が、間違って戦艦を造ってしまった。これはたまにある事なのだが、その場合は特に功績を挙げた提督へ送られる事となるのだが……その送り先をここへしてしまったそうだ」

榛名「──確かに元帥様が仰っていました。総司令部の建造妖精は腕は良いがたまに大きなミスをする、と」

487 : VIPに... - 2013/11/04 22:22:12.55 LxWjxs4Oo 522/771

提督「そして私は正直、混乱した。士官学校では不真面目にしていたが、駆逐艦だと聞いていたのに戦艦が来ている事。少ない資材でどうやって戦艦を運用するのか、と悩んだ。それとも、不真面目にしていた私に対する罰なのかと思うくらいにな」

提督「何かの手違いかと思って総司令部に問い合わせてみると、その通りだったよ。初期に戦艦を動かすのは難しいだろうという事でお前は総司令部に引き取られる事となった。……その時の榛名は嫌々だったな。その後、何があったのかは分からないが……元帥殿の手に渡っていたようだな」

榛名「……救護妖精さんが仰っていました。艦娘の刷り込みを、洗脳によって刷り直す技術があると……」

提督「なるほど。総司令部で記憶を消され、そして元帥殿に送られた、か」

榛名「確かに、元帥様にお会いした時の事がほとんど思い出せません……。きっと、その洗脳によるものなのでしょうね……」

提督「……元帥殿から、お前が私の初めての艦娘だと聞かされた時は驚いたよ。まさかこんな偶然があるのか、と」

榛名「本当に、凄い偶然です」

提督「これも運命なのだろう」

榛名「運命……」

提督「提督と艦娘は何かしらの絆があると聞いた事もある。もしかしたら、今回はその絆によって再び巡り会えたのかもしれないな」

榛名「絆……」

提督「私から話せる事はこれだけだ。後は、榛名の思ったように行動すると良い。──もし、私の艦娘として一緒に戦ってくれるというのであれば、手厚く歓迎する」

榛名「お願いしても、よろしいでしょうか」

提督「……私が言うのもおかしい話だが、即答か」

榛名「いけませんでしたでしょうか……」

提督「いや、嬉しいよ。戻ってきて欲しいと願っていたからな」

榛名「はい! 私も嬉しいです!」

榛名「──その言葉だけでも、私は救われた気持ちになります!」

提督「……………………」

……………………
…………
……

494 : VIPに... - 2013/11/05 01:23:34.97 ZOhB3/SKo 523/771

提督「ダメか?」

救護妖精「良いよ」

金剛瑞鶴「!!」

提督「やっと出撃の許可が下りたか……」

救護妖精「糖分もこの間ので摂取してたし、疲労も結構取れてるみたいだしね。そろそろ動かないと、上にどやされるでし

ょ?」

提督「分かってくれているようで助かるよ。昨日、催促の書類も来ていた」

救護妖精「出撃するのは良いけど、病み上がりなんだから無茶しちゃダメだかんね」

提督「善処する」

救護妖精「本当に善処してくれたら良いんだけどねぇ」

救護妖精「まあ、ほどほどにねー。あたしも効率良く糖分が摂取できる方法を探してみるよ」

提督「ありがとう。頼んだ」

救護妖精「これがあたしの仕事だからねー」

金剛「お願いします」ペコ

瑞鶴「お、お願いします」ペコ

救護妖精「あいあい。じゃあ、お大事にねー」

ガチャ──パタン

救護妖精「……そろそろ、か。私も何か出来たら良かったんだけどね……」

495 : VIPに... - 2013/11/05 01:35:26.10 ZOhB3/SKo 524/771

コンコン──

救護妖精「うん? はいはいどなた?」

ガチャ──パタン

榛名「こんにちは」

救護妖精「やあ。どうしたんだい」

榛名「刷り込みの事でお世話になりましたので、お礼を言いに来ました」

救護妖精「んー? ああ、あの事ね。そんなに気にしなくて良いのに」

榛名「いえ、本当にありがとうございました」ペコ

救護妖精「まあ……あの時の貴女って死にそうな顔してたしね。助けれたのならあたしもやった甲斐があるってもんさ」

榛名「死にそうな……。そんな顔でしたか?」

救護妖精「うん。もうね、世界の終わりだー死んでやるーって顔だった」

榛名「……確かにそうだったかもしれません」

救護妖精「と、まあ、もう大丈夫みたいだね。目が全然違うよ」

榛名「はい!」

救護妖精「それじゃあ、貴女もお大事にね」

榛名「ありがとうございました」ペコ

救護妖精「あいあい」

ガチャ──パタン

救護妖精「……これで、本当に良かったんだよね」

……………………
…………
……

496 : VIPに... - 2013/11/05 01:45:43.51 ZOhB3/SKo 525/771

戦姫「──珍しいですね。提督が私達を呼ぶなんて」

ヲ級「♪」ギュー

提督「ああ。準備が整ってきたからな。そして、お前達に汚い仕事を頼みに来た」

戦姫「なんでしょうか?」

提督「以前会った、あの大将共を残らず駆逐してほしい」

戦姫「……それは、文字通りの意味でしょうか」

提督「ああ。言い換えると殺してほしい」

戦姫「理由をお聞きしても宜しいでしょうか」

提督「艦娘を──いや、艦娘のベースとなった者を救う為だ」

戦姫「……あの地下で見つけた子達ですね」

提督「ああ。そして、二度とこのような事が起こらないように、関係者と施設を全て消す」

戦姫「しかし、どうやって助けるのですか?」

提督「あのカプセルから解放してやれば助かるらしい。そして、それと同時のその艦娘は消えるそうだ」

戦姫「! それは、深海棲艦もでしょうか」

提督「そこは分からない。消えるか留まるか、運試しに近い。だが、もし留まるというのであれば、私が海軍の指揮を執っ

て駆逐する」

戦姫「……私達も、駆逐されるのでしょうか」

提督「そこはお前達次第だ。もし私達に牙を向けるのであれば、人々は排除する為に動くだろう。だが、共存してくれるの

であれば危害を加える事もない」

戦姫「…………」

497 : VIPに... - 2013/11/05 02:00:10.77 ZOhB3/SKo 526/771

提督「甘いというのは分かっている。だが、解体するという手もある」

戦姫「解体……?」

提督「あくまで憶測だが、深海棲艦は艦娘と比べて性能の優劣程度しか違いがない。という事は、解体を施す事で普通の人

間になる可能性だってある訳だ」

戦姫「……盲点でした。確かに、解体する事でどうなるかは分かりませんね」

戦姫「ですが、もし解体できない場合は……」

提督「その時はその時だ。残った者で静かに暮らすという選択肢もあるだろう」

戦姫「貴方も一緒、ですよね?」

提督「……恐らくそうなる」

提督「私は、これが終われば独りになる。それは間違いないだろうからな」

戦姫「それはありません。世界が貴方を独りにするというのなら、私達は貴方の傍に居ます」

ヲ級「!」コクコク

提督「……ありがとう」

戦姫ヲ級「!」ピシッ

戦姫「貴方の目的に、私達は力を貸します。存分にお使い下さい」

ヲ級「!」

提督「本当に、ありがとう……」

提督「──早速で悪いが、出掛けよう。お前達の母港へ行って、作戦指示を与える」

……………………
…………
……

498 : VIPに... - 2013/11/05 02:14:57.32 ZOhB3/SKo 527/771

大将A「沖ノ鳥島海域……一体どれほどの艦娘が沈んだというのか」

大将B「うむ。まったくもって静まる気配もない」

大将C「しかし、あの新参には困ったものだ。こんな時に体調不良で倒れているなどと……」

大将A「だからお前を呼んだのだ。あの数を相手にするのには数か質が必要だ。その条件を満たしているのはお前しか居ない」

大将B「私が総司令官を務める。大まかな指示は出してやるから、それでなんとかしてくれるか」

大将C「……畏まりました」

加賀「全艦隊の配備が終了しました」

大将B「宜しい。では、出撃だ」

……………………。

羽黒「た、大破しました……も、もう……耐えれません……!」

加賀「……撤退命令が出されなかったわ。ごめんなさい」

羽黒「そんな……そんなぁ……!」

ドッ──!

羽黒「加賀さん!! 危ない!」

ボゴンッ!

羽黒「っぁ……ぁあ…………し、ずむ……」

加賀「────」

羽黒「加賀さん……大丈夫だったかしら……? ああ……もう何も……何も見えない…………」

チャプン…………。

加賀「……十五隻目」ギリ

……………………。

499 : VIPに... - 2013/11/05 02:28:39.14 ZOhB3/SKo 528/771

「……ここまでのようね。周囲に味方はゼロ。敵は五隻……。あーあ……」

ドォン!

「あ──ガァ……ッッ!!! どこ……? 司令官……どこ…………? もう、声が聴こえないわ……」

……………………。

ガァンッ──ゴドンッ!

天龍「クッソ! 龍田! 大丈夫か!?」

龍田「あはは……目をやられちゃったみたい……」

天龍「──ちっくしょう!! 敵は……まだウジャウジャと……」

龍田「天龍ちゃん……? どこに居るの……? 声が聴こえないよぉ……」

天龍「龍田!! おいたつ──」

ガドンッッ!!

天龍「イ、ぎぃぁ!! ……………………ちっ……これじゃ前にも後ろにも進めねーな……。龍田、わりぃ……先に逝くぜ…………」

龍田「天龍ちゃん……? 天龍ちゃん…………? ………………あれ……? 天龍ちゃんの戦う姿が見える…………よかったぁ……」

チャプン……チャプン……。

……………………。

「ぅあ゙っ!! っく……大破、だね……」

「響ちゃん、後ろに下がって下さい!! ここは私が前に出るのです!」

「電も中破しているじゃないか……何を──!!」

バァンッ──!!

「────あ」

「電……? そん、な…………」

「ぁ…………次に生まれてくる時は……平和な世界だと、良いなぁ…………」

ちゃぷん…………。

「あぁ……ああぁぁアあぁァアああぁァあァああ────ッッッッッ!!!!!!」

……………………。

500 : VIPに... - 2013/11/05 02:45:17.17 ZOhB3/SKo 529/771

加賀「……戦闘、終了しました」

大将B「結果を報告せよ」

加賀「観測されていた深海棲艦472隻の内、469隻の撃沈を確認。残り3隻は逃げられてしまいました。こちらの被害は小破134隻、中破72隻、大破51隻、轟沈32隻です。…………充分な戦果と言えるでしょう」

大将B「ふむ。大金星といった所か」

大将A「さて、帰りますかな。いつまでもこんな小島の上に居ては心が落ち着かん」

大将C「そうですな」

加賀「──いえ、まだ帰れそうにないようです」

大将B「なに?」

加賀「敵、十時の方向から多数。……全員、黄色のオーラ──フラグシップです」

大将C「なんだと!?」

大将B「……数は」

加賀「詳細はまだ確認できてませんが、ざっと50隻は居ます」

大将A「……迎撃ですな」

大将B「うむ。全艦隊、迎撃体制を取れ」

加賀「全艦隊……大破している子もでしょうか」

大将B「当たり前だ。浮き砲台でも構わん。とにかく撃て」

加賀「分かりました」

加賀「弾薬が無いものはどうしましょうか」

大将B「盾となれる。最前線へ立たせろ」

加賀「…………分かりました」

大将A「私は本土へ連絡を入れよう」

……………………。

501 : VIPに... - 2013/11/05 03:09:19.33 ZOhB3/SKo 530/771

戦姫「敵は弱っている。今が叩き込むチャンスだ! 良いか! あのお方の指示は絶対に守れ!!」

戦姫「まだいけると思ったらもう危ない! もう危ないと思ったらいつ沈んでもおかしくない! 中破した者は最前線には出ず後方から支援せよ!! 大破した敵は後回しにしろ!! 敵を沈めるのではなく、戦力を削る事に重視しろ!」

戦姫「戦艦主砲斉射後、艦載機を飛ばせ!! 撃てぇええ!!」

ドォンドォンドォンドォンッ──!!

……………………。

大将A「クソッ!! なぜだ!! なぜ無線が繋がらない!!!」

大将B「無線が繋がらない……? まさか妨害電波か?」

大将C「あの距離では妨害電波も意味を成さんだろう!! 故障ではないのか!」

潜水ヨ級(…………真後ろとはいえ、結構でかい妨害装置持ってるのに空気だな私)チャプチャプ

加賀「……敵の砲撃を確認。衝撃に備えて下さい」

大将B「馬鹿な……この距離だぞ」

ドガァッ!! ゴゴンッ!!

加賀「…………ピンポイントに、戦艦へ……」

大将B「……艦載機は発進しているな? 空爆で敵を攻撃しろ」

加賀「……ダメです。制空権、完全に取られました」

大将A「では特攻だ。爆弾ごと突っ込んでやれ」

加賀「了解。──ダメです。悉く撃ち落されています」

大将B「戦艦のほとんどが沈み、空母は事実上無力となったか……。空母部隊も壁となれ」

加賀「…………分かりました」

……………………。

502 : VIPに... - 2013/11/05 03:14:34.17 ZOhB3/SKo 531/771

大将B「……ここまでか」

加賀「残る艦娘は私一人……。敵多数に大破中破を与えましたが、撃沈とまではいきませんでした。指揮をされているかのような動きでしたね」

大将A「…………」

大将C「い、いやだ……死にたくない!! 死にたくないんだぁ!!!」

戦姫「──またお前達の顔を見る事になるとはな」スッ

大将B「また……? ほう、あの若造がこれを……」

戦姫「悪く思うな。これもあのお方と我々……そして艦娘の犠牲となっている者達の為なのだ」

大将A「……ふん。だが、私達を殺して良いのかな? 私達を殺せば、艦娘に戻る方法が永遠に分からなくなるぞ?」

戦姫「…………」

大将A「戻りたいのであれば私達を殺さずにおかなければならんだろう。それでも──」

戦姫「やかましい」

ダァン──ッ!!

大将A「ぃ────」

どちゃっ……。

大将C「ひぃっ!」

戦姫「今現在で戻る方法など無いというのは分かっている。そんな言葉で懐柔できると思ったのが間違いだったな。まあ、もう聴こえていないだろうが」

大将C「な、なななんでお前が私達を殺しにきたんだ!! 目的はなんだぁ!!」

戦姫「喋る必要などない」ダァン

大将C「ぎ────」ドチャ…

503 : VIPに... - 2013/11/05 03:16:55.13 ZOhB3/SKo 532/771

戦姫「残るは貴様だけだ」

大将B「……殺すのは構わん。だが、一つ教えてくれ。お前の艦隊に指示を出していたのは、あの若造か?」

戦姫「そうだ。敵を倒す事よりも自分が沈まない事を優先しろという指示だ。私達はそれに従ったに過ぎない」

大将B「そうか……。懐かしいのう……私も艦長を務めていた頃はそうであったな……」

戦姫「…………」

大将B「いつから使い捨てるようになってしまったのか……。それでは疲弊する一方だというのに……。扱うものが艦娘になっても、それは変わらなかった……」

加賀「…………」スッ

戦姫「邪魔だ」

加賀「ここは通しません」

戦姫「貴様には艦載機も砲も無いように見えるが」

加賀「通しません」

大将B「よい、加賀。私達の負けだ」

加賀「…………通させません」

戦姫「…………」

大将B「もうよい。お前はよく頑張ってくれた、加賀」ナデナデ

加賀「…………っ!」

戦姫「……………………」

大将B「今まで道具のように扱ってきた私を慕ってくれて、ありがとう」ナデナデ

加賀「……っぁ…………あぁぁ……」ポロポロ

大将B「……若造に伝えてくれ。艦娘達を頼んだ、と」

戦姫「……必ず伝えよう」チャキッ

大将B「……ありがとう、加賀」

加賀「いえ……私は……充分に救われました…………」ポロポロ

戦姫「…………」

ダァンッ──!

戦姫「…………」

どちゃっ…………。

戦姫「……想像以上に、堪えるものがあったな」

戦姫「──総員、帰るぞ!」

……………………
…………
……

524 : VIPに... - 2013/11/05 21:49:30.38 ZOhB3/SKo 533/771

金剛「テートクー」

提督「どうした」

金剛「瑞鶴、今は居ませんよネ」

提督「化粧直しに行ったからな」

金剛「今、二人っきりデスよね?」

提督「そうだな」

金剛「……ちょっとだけ、甘えさせてもらっても良いですか?」

提督「まだ明るいぞ」

金剛「だってー……最近、夜に足を運んだら誰かが居るみたいじゃないですかー……」

金剛「朝は演習。お昼は出撃。夕方は三人で書類の処理。夜は誰かと一緒に。これではいつまで経っても二人きりになれません」

提督「…………」

金剛「だから、こういう時でないと何も出来ないです……。これではお仕事に身が入りません……」

提督「……それもそうだな」

提督「分かった。今だけ甘えて良いぞ」

金剛「やったっ!」

金剛「ふふ……♪」ススッ

提督「よしよし」ナデナデ

金剛「んぅー♪」ニコニコ

526 : VIPに... - 2013/11/05 21:59:09.34 ZOhB3/SKo 534/771

金剛「提督っ」ギュ

提督「おっと」ソッ

金剛「あぁー……久し振りに抱き付けた気分です……」ホッコリ

提督「そうだったかな」

金剛「以前は隙があればすぐに抱き付きましたからねー」スリスリ

提督「どこまで私を好いているんだ……」

金剛「どこまでも、です。それよりも提督……口が寂しくなりました。失礼しますね……?」スッ

提督「…………」スッ

金剛「ん……」チュ

提督「……いつか、辛い目に遭うぞ」

金剛「提督になら、何をされても構いません」スリスリ

提督「盲目だな」

金剛「その上、聞く耳も持っていません」スリスリ

提督「さらに病気だ」ナデナデ

金剛「それは恋の病ですね」スリスリ

金剛「──さて! 充分に堪能しました! そろそろ瑞鶴も帰ってくる頃でしょうねー」

コンコン──。

提督「噂をすればなんとやら。──入れ」

528 : VIPに... - 2013/11/05 22:10:13.07 ZOhB3/SKo 535/771

ガチャ──パタン

瑞鶴「ただいまー」

金剛「おかえりなサーイ瑞鶴。──では、私もお化粧を治してきますネー。十分もすれば戻ってきマース」スッ

提督「うむ」

瑞鶴(なんで時間を……?)

金剛「瑞鶴ー」

瑞鶴「ん、なに?」

金剛「…………」チラ…スッ

瑞鶴(? ……提督さんを見て…………指を口に……)

瑞鶴「────!!」ハッ

金剛「それでは! いってきマース!」

ガチャ──パタン

瑞鶴「…………」モジ

瑞鶴「あの……提督さん……」

提督「……分かった。おいで」

瑞鶴「──うん!」ギュッ

提督「それと、今日は大事な話がある」ナデナデ

瑞鶴「大事な話?」

提督「そう。だから、今夜ここに来なさい──」

……………………
…………
……

529 : VIPに... - 2013/11/05 22:19:32.12 ZOhB3/SKo 536/771

コンコン──。

提督「入れ」

ガチャ──パタン

戦姫「──む」

金剛「あら、珍しいですネ?」

瑞鶴「本当。どうしたの?」

戦姫「彼と話したい事があったのだが……また夜に来ます」ピシッ

提督「いや、こっちから呼びに行こう。それまで待機していてくれ」

戦姫「はい。畏まりました。それでは」

ガチャ──パタン

瑞鶴「……いつも以上に真剣な顔だったわね。提督さん、本当に良かったの?」

提督「構わん。大方の予想はつく」

瑞鶴「ふぅん?」

金剛「……………………」

提督「どうした、金剛」

金剛「あっ……いえ、なんでもありません」

提督(……ふむ)

530 : VIPに... - 2013/11/05 22:30:25.51 ZOhB3/SKo 537/771

提督「──よし、今日の書類はこれで終わりだな」

瑞鶴「えっ。もう? 私も終わっちゃったんだけど」

金剛「三人でやっていますからネー。私はあと一枚デス」

提督「いつもありがとう二人共。そんな二人にご褒美がある」ツカツカ

金剛瑞鶴「ご褒美?」

提督「外に置いている……」ガラッ

提督「これだ」スッ

瑞鶴「……箱?」

提督「中身は…………」カパッ

金剛瑞鶴「!!」

金剛「ア、アイスクリーム!」キラキラ

瑞鶴「本当に良いの!?」キラキラ

提督「うむ。ここ数日、二人は私の代わりに頑張ってくれていたからな」コトッコトッ

瑞鶴「わぁー……! わぁー……!!」キラキラ

金剛「全然溶けていないという事は……わざわざドライアイスを!?」キラキラ

提督「ああ。凍傷を起こさないように木製の容器を使っているが、充分に注意しなさい。ほら、スプーンだ」

金剛瑞鶴「いただきます!」パクッ

金剛「~~~~~~っ!」

瑞鶴「やっぱりアイスクリームって美味しいー……!」

金剛「冷たくて甘いだなんて……もう最高です!」

瑞鶴「どうしてこんなに美味しいのかしら……!」

提督「喜んでもらえたようで何よりだ」

提督(少しでも楽しんでくれ……もう少しで、お前達とは離れ離れになってしまうだろうからな)

……………………
…………
……

532 : VIPに... - 2013/11/05 22:42:28.21 ZOhB3/SKo 538/771

コンコン──。

提督「入れ」

ガチャ──パタン

瑞鶴「瑞鶴、出頭しました」

瑞鶴「あの……話って何?」

提督「瑞鶴の秘密についてだ」

瑞鶴「私の?」

提督「先日、私は総司令部に行っただろう。そこで、見てはいけないものを見た」

瑞鶴「見てはいけないもの?」

提督「艦娘のベースとなった子達が、培養液入りのカプセルに浮かんでいた」

瑞鶴「……え? ど、どういう事?」

提督「全ての艦娘はベースとなる人間が居て、その人間の魂をコピーしたものが艦娘の魂だと思ってくれ」

提督「そして瑞鶴。それに関わっていた人物に聞くと、お前と私は兄妹だったようだ」

瑞鶴「────え」

提督「訳があって私は昔の記憶がほとんど無い。だからお前の姿を見ても気付かなかった」

提督「全てを話す事はまだ出来んが、今話せるのはこれだけだ」

533 : VIPに... - 2013/11/05 22:56:41.64 ZOhB3/SKo 539/771

瑞鶴「…………ご、ごめんなさい……ちょっと頭が混乱しちゃって……」

提督「気持ちは分かる」

瑞鶴「えっと……艦娘の基となっているのが普通の人で……私の基となっている人が、提督さんの妹……?」

瑞鶴「な、なんなの……それって……何の冗談……?」

提督「……事実だ」

瑞鶴「じゃ、じゃあ……私って……偽者なの……?」

提督「どうして偽者と思ったのかは分からないが、偽者とは言えないだろう。本人の魂を基にして艦娘という情報を上乗せしているだけだ」

瑞鶴「そう、よね……。私の、提督さんへの想いが、偽者だなんて事、ないわよね……?」

提督「それもまた、本物だろう」

瑞鶴「──うん。そう……そうよね……。────すぅ……はぁー……」

瑞鶴「……………………うん。ちょっと落ち着いた」

提督「大丈夫か」

瑞鶴「うん。大丈夫よ」

瑞鶴「でも……そっかぁ……だからかぁ」

提督「うん?」

瑞鶴「んっとね。私、提督さんがお父さんとかそんな感じがするなーって思ってた事があったの。それって、提督さんが私のお兄さんだからなのかって思ったら、なんだか納得しちゃって」

534 : VIPに... - 2013/11/05 23:11:25.45 ZOhB3/SKo 540/771

提督「…………」

瑞鶴「うん。無理矢理納得していたけれど、これでスッキリしたわ! ありがとう、話してくれて」

提督「……思ったよりもすぐに立ち直ったな」

瑞鶴「深海棲艦から艦娘に戻ったり、海軍の黒い部分とかを聞いたからかしら……。なんだかそういうのに耐性が付いちゃったみたい」

提督「ふむ……」

瑞鶴「あ、でも、私は提督さんの事をお兄さんなんて言わないからね? だって、この好きって気持ちは本当なんだもん。……でも、提督さんがして欲しいって言うのなら、お兄さんって呼んでも──」

提督「……今からではとてつもない違和感がある。それと、皆の前でそう呼んだら大変な事になりそうだから止めておこう」

瑞鶴「はーい。──でも、兄妹かぁ……禁断の愛ね」

提督「艦娘は子供を成さないんだから禁断でもなんでもないのではないか?」

瑞鶴「あ、それもそうね……。ふふっ。良い事聞いちゃった!」

提督「良い事?」

瑞鶴「だって、これからは甘えるのに我慢しなくても良いじゃない! お兄さんなんだから、ね!」ギュッ

提督「おっと」ソッ

瑞鶴「ふふっ……だーいすき……」スリ

提督「……よしよし」ナデナデ

……………………。

535 : VIPに... - 2013/11/05 23:33:12.61 ZOhB3/SKo 541/771

提督「──満足したか?」

瑞鶴「もうバッチリ! ありがとね!」

提督「それでは寝ようか」

瑞鶴「はーい。おやすみっ」チュ

提督「む」

瑞鶴「えへへー」

ガチャ──パタン

提督「……やはり、心が痛いな」

……………………。

提督「──さて、報告をしてもらおう」

戦姫「はい。指示通り、一人も沈む事なく全て殲滅しました。戦果をご確認されますか?」

提督「いや、お前も心が痛む所があったのだろう。言わなくても良い」

戦姫「……見抜いておられましたか」

提督「どことなく哀愁が漂っていたのでな」

提督「よくやってくれた。お前達の働きのおかげで助かったよ」

戦姫「ありがとうございます。──それと、大将Bという男から伝言を預かっています」

提督「伝言? なんだ」

戦姫「艦娘達を頼む、と一言」

提督「……殺すのは間違いだったのかもしれないな」

537 : VIPに... - 2013/11/05 23:44:53.74 ZOhB3/SKo 542/771

戦姫「…………」

提督「だが、情報が漏れる可能性も無きにあらず。徹底的に情報を葬るのであれば、いずれ消さなければならなかったか」

戦姫「……………………」

提督「どうにも……上手くいかないな」

戦姫「上手くいっていない……のですか?」

提督「人を殺さなければならないという手段に出ている。……お前達は勿論、沈んだ艦娘達も痛い思いをした。それに、この事があの子達に知られれば、私から離れていくだろう」

戦姫「…………それは、仕方がない事です。何かを成す為には何かを犠牲にしなければなりません」

提督「そうだな……。何かの犠牲の上に、何かが成立している。苦手だよ、私は」

戦姫「優しいのですね……」

提督「甘いだけだ。──いや、偽善もあるな。上に立つという事は、そういう事なのだからな」

提督「ところで、傷付いた深海棲艦達はどうしている。修理する技術はあるのか?」

戦姫「時間が経てば回復します。今頃、母港でゆっくりと休んでいる事でしょう」

提督「そうか……良かった」

戦姫「……ありがとうございます」

提督「うん? 私は感謝されるような事をした憶えはないが」

戦姫「仮にも私達に指示を与えてくださった事。そして、私達を気に掛けてくださった事は、とても嬉しいですよ」

提督「……そうか」

戦姫「はい」

提督「……ご苦労だった。皆にも労いの言葉を掛けていたと伝えてくれ」

戦姫「……はい!」

……………………
…………
……

548 : VIPに... - 2013/11/06 00:23:19.40 wN4i1E+jo 543/771

>>545
加賀さんは大将Bの秘書艦娘です。
加賀さんが初めて大将Bの下へ来てからずっと秘書を務めています。
提督とは違って大将Bのやり方は艦娘を道具として扱っていますけど、加賀さんはそれに対して納得できてしまっている(艦娘は所詮戦う為の道具という認識を自分でも持っている)ので、可愛がってもらえないという不満も抑えて付き従っていました。
最後に加賀さんが『救われた』と言っているのはそういう過去があるからです。
こういうのも書いていきたかったし、書いた方が読んでる人も加賀さんの言葉の意味が分かるけど、現実のお仕事をしないといけないからね……。時間が無いのだよ……。

555 : VIPに... - 2013/11/06 01:34:33.93 wN4i1E+jo 544/771

提督(書類はこれで全部、か。やはり出撃や演習等をすると増えるな──ん、機密書類……という事は……)

……………………。

提督「──今日の方針は以上だ。質問のある者は手挙げて発言しろ。……………………居ないようだな。では、最後に重要な情報を言う」

提督「…………私を除く大将全員の消息が不明らしい」

全員「……………………」

提督「よって、総司令部を指揮出来る者は私を除いて居なくなった……との事だ」

金剛「え……それでは……」

提督「事実上、私が海軍を動かす事となった。面倒な話だ。十数年前までは海軍大臣や軍令部長など、様々な役職が在ったというのに……」

「……司令官。それはもしかして、最高司令官になったという事かな」

提督「事実上は、な。最高司令官は今でも天皇陛下だ。だが、天皇陛下自らが海軍を動かす事は無い」

提督「よって、これからは総司令部にも足を運ぶ事が多くなるだろう。そして、先程も言ったようにこれから数日の間、総司令部へ篭らなければならないだろう。私が居ない間、この鎮守府を護ってくれ」

全員「はい!」

提督「だが、勘違いはするな。私は現状、海軍の頭となっているが、こんなものに興味は無い。むしろ迷惑だ。適任者が居ればそいつに押し付けて、私はこの鎮守府を護る事に専念する」

提督「以上。各自、持ち場へ行け」

全員「はい!」

……………………。

556 : VIPに... - 2013/11/06 01:52:11.88 wN4i1E+jo 545/771

金剛「──提督、いってらっしゃい」

瑞鶴「気を付けてね」

救護妖精「あたしが居るから安心しなー」

金剛「ハイ! 提督の事、よろしくお願いしますネ!」

瑞鶴「すぐに無茶をしちゃうもんね」

救護妖精「あっはっはっ。確かにねぇ」

提督「……やはり信用されてないな」

金剛「こういう所だけは信用しまセン」

瑞鶴「油断も隙もないじゃないの」

救護妖精「一回、ベッドに縛り付けようか?」

提督「…………行こうか」

救護妖精「あいあい」

金剛瑞鶴「行ってらっしゃいませ!」ピシッ

ブロロロロロロ…………。

金剛「……なぜでしょうか。物凄く胸騒ぎがします……」

瑞鶴「うん……。前もこんな気持ちだったわよね……」

金剛「本当に、心配です……」

瑞鶴「……行きましょ。提督さんが帰ってくるまで、この鎮守府を護らないと……」

金剛(……提督)

……………………
…………
……

570 : VIPに... - 2013/11/06 13:52:41.78 wN4i1E+jo 546/771

提督「他の大将殿はまだ奮戦している可能性がある。──無線が繋がらない? 故障の可能性もある。彩雲を沖ノ鳥島へ飛ばせ。総司令部を若輩である私一人で動かすのはとても無理だ。各中将少将のリストアップを頼む。過去の総司令部の働きも確認したい。データを用意しろ。──予算案や軍政? 用意してもらったデータを参照して作り上げるから待て。──各提督の報告書が来ている? 後回しだ。まずは上に立てる人間を選出する。私一人ではとても無理だ。──各部署からの報告書……それは会議室へ部署別に置いていけ」

救護妖精「忙しいねぇ……」

提督「ついこの間まで士官学校に居た人間にやらせる事ではないな。だから人の上に立つのは嫌いなんだ」

救護妖精「こんな所に居たら過労で倒れちゃうよ……あたしが付いて来て正解だったね」

提督「ああ。もし私の身体に異変が起きたら頼む」

救護妖精「あいよ」

提督「あと、あの事もな」

救護妖精「────あいよ」

救護妖精「でも、嫌がってる割に板に付いてるね?」

提督「知らん」

……………………。

571 : VIPに... - 2013/11/06 14:10:12.53 wN4i1E+jo 547/771

救護妖精「さて提督、ここは誰も来ないよ」

提督「来るとしても時間が掛かるだろうな」

救護妖精「じゃあ、話してもらっても良いよね? ただの看護として連れてきた訳じゃないんでしょ?」

提督「ああ。私は施設について何も知らない。カプセルから艦娘のベースとなった子を助ける為に連れてきた」

救護妖精「なーるほどねぇ。それにしても酷いもんだね、何も言わずに連れてくるなんてさ」

提督「できるだけ自然について来て欲しかった。万に一つでもバレられたくないからな」

救護妖精「まあ、それなら仕方がないっか。──で、いつ潜り込むの?」

提督「明日だな。準備もしなければならない」

救護妖精「あいよ」

コンコン──。

救護妖精「さて、仕事の時間みたいだよ」

提督「そうだな。しばらくの間、拘束されるとしよう」

……………………。

572 : VIPに... - 2013/11/06 14:23:20.00 wN4i1E+jo 548/771

提督「……やっと一段落ついたな」

救護妖精「私も手伝う事になるなんてねぇ……あー疲れたわー……」

救護妖精「にしても、やけにゴマをすってくるのが多かったねー」

提督「やるのも頷ける。良い印象を与えておけば昇格しやすいからな」

救護妖精「じゃあ、提督には逆効果?」

提督「当然だ。私にとっては悪い印象しか与えんよ。そんな事をするくらいなら仕事でしっかりと結果を残して欲しいものだ」

救護妖精「くっくっ。本当だねぇ」

提督「さて、ちょっと責任者さんに会ってこよう」

救護妖精「へぇ。知ってるんだ?」

提督「ああ。以前来た時にバッタリと」

救護妖精「あーあ。可哀想に」

提督「本当にな」

……………………。

573 : VIPに... - 2013/11/06 14:43:00.47 wN4i1E+jo 549/771

提督(ここが奴の自室か)

コンコン──。

研究員「どうぞ」

ガチャ──パタン

提督「やあ、はじめまして」

研究員「!!!」ガタッ

提督「現在、臨時で私がこの総司令部を指揮しています。以後、お見知りおきを」スッ

研究員「…………っ! ……はじめまして。私は艦娘建造開発総責任者を務めている」

提督「そうですか。では、貴方に折り入って頼み語とが御座います」

研究員「……なんでしょうか」

提督「明日の夜、あの場所へ全研究員を集めてほしいのです」

研究員「全員……? どうしてまた……」

提督「全員に知ってもらいたい事がありましてね。……ここでは詳しくは言えませんが、艦娘と深海棲艦について非常に良い情報が得られました」

研究員「──ほ、本当ですか!!」

提督「静かに。誰かに聞かれたらマズイ」

研究員「す、すみません……」

提督「そういう訳でして……明日、あの場所で全員を集めて欲しいのです。皆さんの意見も聞きたいですしね」

研究員「は、はいっ」

提督「では、また明日に──」

……………………。

574 : VIPに... - 2013/11/06 15:06:27.42 wN4i1E+jo 550/771

提督「──七人。これで全員ですか?」

研究員「はい。間違いありません!」

提督「ふむ。では話しましょう。皆さん、席に着いて下さい」

提督「これは私の鎮守府で分かった事なのですが、深海棲艦を艦娘に戻せる可能性が高い方法を発見しました。その方法なのですが、その前に深海棲艦は艦娘を憎む理由から話しましょう」

提督「なぜ彼女達は艦娘達を憎むのか。私は最初、それは羨望や過去の自分の姿に嫉妬しているからと思っていました。皆さんも同じだったと思います。ですが、それは違うという事が先日、判明したのです」

提督「憎しみ自体は本能的なものでしたが、それにも理由がありました。それは、深海棲艦が艦娘に戻る為の魂を収集しているという事です」

提督「そして、その魂を一定数以上集めた深海棲艦をベースに建築を行うと、艦娘に戻るという結果が三回、立て続けに発生しました」

提督「その資料をお渡しします。それでは皆さん──」ガサッ

提督「──さようなら」ガチリ

ドンドンドンッ──!

研究員「────え?」

ドンドンドンッ──!

研究員「な……? なんだ……これは……?」

提督「ご覧の通りですよ」バラッ…ジャキッ

提督「残念ですが、本当の目的はこっちです」

研究員「ひ、人殺し……!」ガタガタ

提督「ああ。私は人殺しだ。それがどうした。──そして、なぜお前を残したか分かるか?」

研究員「…………っ!」ガタガタ

575 : VIPに... - 2013/11/06 15:29:36.02 wN4i1E+jo 551/771

提督「それはだね、お前の命と引き換えに情報を聞き出す為だ。私はここにある資料を独り占めしたい……。だから、ここ以外に資料やそれに関する物があるかどうかを聞きたい……。どうなんだ?」

研究員「は、話せば命は……命は……!!」

提督「ああ、そこら辺に転がった肉塊のようにはしないと約束しよう。だが……嘘や喋らなかった場合は……」ガチリ

研究員「だ、出していない!! 必ず出さないようにと徹底されている!!」

提督「ほう。やはりか」

提督「あと……お前、今まで艦娘のベースにしてきた人間の数はいくつだ?」

研究員「へ……? た、たしか……十三……いや、十五……あ、ああ……十五だ──」

提督「そうか」

ドンドンドンドンドンドンッ──!!

研究員「ぎ、ぁ──!?」

提督「では」バラッ…ジャキッ

ドンドンドンドンドンドンッ──!!

研究員「がぁッ! ぎ、が──ぁが……!!」

提督「十五だ」バラッ…ジャキッ

ドンドンドンッ──!!

研究員「──ぁ、ぎ…………」

提督「約束通り、他の奴らと同じにはしなかった。そのまま苦しんで死ぬが良い」

576 : VIPに... - 2013/11/06 15:49:11.90 wN4i1E+jo 552/771

ガチャ──パタン

提督「──さて、それではカプセルを解放しよう、救護妖精」

救護妖精「…………本当に殺しちゃったんだね」

提督「ああ。これで私も、立派な人殺しだ」

救護妖精「……………………」

提督「もう後には戻れない。……進もう」

救護妖精「……そうしよう。もう、私達は後戻りできないよね……」

提督「では、まずはこのカプセルに閉じ込められている子達を解放しよう」

救護妖精「ん……。確か、重巡の子だけだったよね」

提督「ああ。頼む」

救護妖精「……よっと。この子とこの子と………………よし、これで全員だね。…………やるよ」

提督「…………」

ガチン──…………。

救護妖精「──提督、培養液を吐かせて」

提督「分かった」

……………………。

577 : VIPに... - 2013/11/06 16:11:09.44 wN4i1E+jo 553/771

提督「これで全員か……」

救護妖精「そういえば、この子達はどうするの? 勢いで助けちゃった感があるんだけど」

提督「鎮守府に帰るまではここで安静にさせた方が良い。一度でこんな人数も運べん上に、安易に表へ出してしまうと危険だ」

救護妖精「ん、了解。食料とかはどうする? 絶対に胃が衰弱してるよ」

提督「ここに居る間は非常食のスープ類だな。数字を誤魔化した上でかっぱらってくる」

救護妖精「……なんか慣れてない?」

提督「昔からある手口だろう。現場さえ押さえられなかったら分からんよ。幸い、過去のデータを見る限りではたまに数が合っていない事もあるから、管理もずさんだ」

救護妖精「……よく調べてるねぇ」

提督「大量の報告書やデータを用意させたのもそれが理由だよ。……心底しんどかったがな」

救護妖精「無茶するね本当に……」

提督「無茶をしなければならないほど危険なものに首を突っ込んでいるんだ。仕方がない事だ」

救護妖精「まったく……損な役だねぇ…………」

提督「ありがとう」

救護妖精「褒めたんじゃないよ」

提督「労いの言葉だろう?」

救護妖精「……やれやれ」

……………………
…………
……

602 : VIPに... - 2013/11/07 01:01:54.39 Tv7gdA8Qo 554/771

トントン──トン──。

救護妖精「──おかえり」ガチャ

パタン──

提督「…………」ドサッ

救護妖精「結構持ってきたねー……これ大丈夫なの?」

提督「……問題が無かったから頭が痛い」

救護妖精「へ?」

提督「あのジジイ共……大切な非常食を個人の理由で使っていたようだ」

救護妖精「……どゆこと?」

提督「詳しくは私も分からん。……調べれば足が付くだろうが、どうやら何日かに一度、非常食を十人分ほど持ち出し

ていたようだ」

救護妖精「…………」

提督「備蓄倉庫の警備連中は賄賂を貰って見逃していたようだったから、私も同じ事をしてきた。元帥や大将でしか分

からない事もありますでしょう、などとほざいていたな。危うく蹴り倒す所だった」

救護妖精「ま、まあ……これで食料の問題はなんとかなるんだよね?」

提督「なんとか……な」

提督「しかし、そんなに長くは持たないだろう。できればさっさと私の鎮守府へ送ってやりたい」

救護妖精「そうだねー」

救護妖精「……それとさ、本当に全員、殺しちゃったの?」

提督「ああ。特に最後の一人には苦しんで死んでもらった」

救護妖精「何やったのさ……」

提督「聞かない方が良い」

救護妖精「手足を切断する手術もしている私にそれを言う?」

603 : VIPに... - 2013/11/07 01:16:23.49 Tv7gdA8Qo 555/771

提督「釈迦に説法だったか。──肩、肘、手首、太腿、膝、足首に計十五発の弾丸を撃ち込んだ。動く事は叶わん。血

が流れ切って死ぬまで傍観してやった」

救護妖精「また惨たらしい事を……。呪われるよ?」

提督「構わん。返り討ちにしてくれる」

救護妖精「……冗談に聞こえないよ」

提督「そうか。──あの部屋は燃やすのが一番だな」

救護妖精「人を燃やしたら臭うよ。──埋め立てたらどう?」

提督「ダメだ。資材を運んで行く時にバレる。──では溶かすか」

救護妖精「そんな危険な劇薬を大量に手に入れたらバレるって。──穴掘って埋めるのは?」

提督「時間と労力が掛かり過ぎる」

提督「……面倒だな、死体の処理は。──資料だけ全部燃やして封鎖するか」

救護妖精「それしかないよねぇ……」

提督「準備をしておく」

救護妖精「……それにしても、随分と平然としているね。普通なら吐いたり震えてたりするもんだよ?」

提督「自分がホムンクルスだと知ってから、色々と吹っ切れてな。今なら大抵の事をやれそうだよ」

救護妖精「…………」

提督「……さあ、この話は終わりだ。私はこれを持っていくから、外の様子を見てきてくれ。あと、地下にガスバーナ

ーと水はあったよな──」

……………………。

604 : VIPに... - 2013/11/07 01:29:23.06 Tv7gdA8Qo 556/771

救護妖精「──提督、配分し終わったよー」

提督「全員に行き渡ったか。……案外大変だな、こういうのも」

救護妖精「本当だねぇ……。けど、やりがいがあるよ。あの時は助けれなかったからさ」

提督「……そうか。お前は二回目なのか」

救護妖精「……今度こそ、助けれるんだよね?」

提督「上手くやれば、な」

救護妖精「頼んだよ、提督」

提督「私こそ頼む」

古鷹「あの……」

提督「どうした、おかわりか?」

古鷹「いえ、そうではなくて。……えっと、現状が理解できないのですけど、教えてもらっても良いです?」

那智「特に、どうして私達が布切れに包まれているのかとかな」

救護妖精「……説明が面倒そうだね。頼んで良い?」

提督「男の私が説明しても納得しにくい所があるだろう。任せた」

救護妖精「なっ! わ、私は騙すのは得意だけど、説明自体はそこまで得意じゃないんだよ! それに、この子達を助けようって言い出したのは提督じゃないか!」

那智「どっちでも構わん。さっさと言え」

提督「……なら、私が説明しよう」

……………………。

605 : VIPに... - 2013/11/07 01:43:21.69 Tv7gdA8Qo 557/771

最上「ふぅん……ボク達が艦娘に、ねえ」

摩耶「なーんかよくワカンネーけどよー、助けてくれたって考えて良いのか、これ?」

足柄「良いんじゃないかしら? 本当だったらこの変な機械の中で、意識も無いまま一生を過ごす事になったのかもしれないでしょう?」

加古「じゃあ、あたし達の恩人って事かー!」

青葉「ではでは! 取材をしても宜しいですか!」

衣笠「どこにそんなものがあるのよ……」

提督「──それと、お前達を匿う為に私の鎮守府へ来てほしい。だが、一度に運べる人数は限られている。詰めれば十人くらいはいけるだろうが、相当長い時間、窮屈な思いをする。六人くらいが限界だと思ってくれ。そして、一日に何回も運べるわけではない。六人ずつ、話し合って決めてくれ」

羽黒「あの……その前に一つ、よろしいでしょうか……」

提督「なにかね」

羽黒「私達は……本当にあなた方を信用しても良いのですか……?」

提督「どう答えても不信感が残るだろう。何をすれば信用してくれるか言ってくれ」

三隈「……いくらなんでも、投げやりではありません?」

提督「それが一番手っ取り早い方法だ。私自身、この場でお前達を信用させる術は無い」

利根「ならば、我輩が先行しようではないか。そして見定め、帰ってくる。その内容を皆に伝えれば良いだろう?」

提督「構わんが、危ういと考えないのか」

利根「ふふふ。我輩は人を見る目はある……と、勝手に自負しておる。お主は信用に値する者と見た」

提督「そうか。では頼む」

利根「うむ! 任されよ!」

606 : VIPに... - 2013/11/07 01:43:55.13 Tv7gdA8Qo 558/771

筑摩「──利根姉さんが行くのなら、私も行きましょう。利根姉さんを一人にする訳にはいきません」

提督「そうか。では二人だな」

愛宕「ちょっとちょっとぉー! トントンと話が進んでるけれど、本当に大丈夫なの? もしかしたらって事もあるじゃないのよ」

高雄「私も愛宕に同意します。どう動くにも危険過ぎます」

利根「ふむ? だからこそ我輩達が行くのであろう?」

愛宕「それが危険って言ってるのよぉ……」

利根「なに。案ずるでない。我輩はこの者を信用しておる!」ポン

提督「不思議な奴だ」

利根「それはお主もだろう。ここまですんなりと信用できる人間はそう居らぬぞ?」

提督「…………」

羽黒「わ、私は……少し怖いです……」

鳥海「私も少し……」

鈴谷「そう? 良い人そうじゃーん?」

熊野「……なんだか、危険を感じますの」

提督「と言っているが?」

利根「お前達もすぐに我輩の言っている意味が分かるだろう」

提督「……頑固だな」

利根「うぬ。そうだぞ」

提督「まったく……。──では、最初に利根と筑摩の二人が私の鎮守府へ行く。それで良いな? それから、勝手に外へ出るのを禁ずる。各自、外へ出る時は必ず私に一言声を掛けなさい」

鈴谷「はーい! もし勝手に外に出たらどうすんのー?」

提督「吊るす。恥ずかしいと思えるくらいの高さでな」

全員「!?」

提督「まあ……お前達はそんな事をしないだろうが、一応な」

摩耶「ほ、本気か……?」

提督「うむ」

那智「……ふん。脅しだろう。誰がそんなものに屈するか。出口はこっちだな。勝手に出させてもらう」スタスタ

607 : VIPに... - 2013/11/07 01:44:23.74 Tv7gdA8Qo 559/771

提督「────」タンッ

提督「誰が許可した」スッ

那智「なっ!? う、上から!?」

青葉「い、今、人間ではありえない跳び方をしましたよね……?」

鈴谷「何今の!? すっげーかっこいい!!」キラキラ

救護妖精「あーあ……」

那智「ちぃっ!」ブンッ

提督「…………」ペシッ

那智「!!」ヒュヒュッ

提督「…………」ペシペシッ

那智「…………っ!!」ヒュッバヒュッ

提督「…………」ペシン

青葉「おおー……マンガみたいですねー……。くぅ~! カメラが無いのが悔しいです!! というより速くて良く分かりませんでしたけど何が起きたんですか!!」

利根「まず右ストレートを軽くあしらわれ、ニ連続ジャブをするも弾かれたのう。フェイントの膝蹴りには反応せず、そこからの蹴りを叩き落としおった。うむ、見事じゃ」

羽黒「あの……右手しか動いていないように見えましたけれど……」

利根「無論、右手だけでやってのけていたからのう」

摩耶「本当に何者だ、あいつ……」

熊野「そんな事よりも、あんな布キレを纏っているだけですのに、蹴りなんて……破廉恥よ!」

那智「く……っ!」ブンッ

提督「…………」ガシッ

那智「!! ────くぅ……!!」ググ

提督「……どうやらよほど吊るされたいらしい」ジッ

那智「ヒッ──」

608 : VIPに... - 2013/11/07 01:44:52.00 Tv7gdA8Qo 560/771

バサッ──ヒュルッ──ギュッ

利根「おお、上着で目隠しをして、その上着ごと縛り上げたか。天晴れ天晴れ」

那智「は、離せっ!!」バタバタ

提督「離せと言われて素直に離す阿呆がどこに居る」ヒュッ─ビィン

利根「おお、あんな場所に縄を引っ掛けるフックがあったのか! 気付かなんだぞ!」

提督「…………」グイグイ

那智「あ……ぁぁあ!! や、止めろ!! みひぇ、見えてしまうだろ!!!」ブラーン

救護妖精「噛んだね」

青葉「噛みましたね。おおー、これはスキャンダルですよー! いくら低くてもこのアングルからだとバッチリです!」

那智「!!!! み、見るな……見るなぁ!!!」バタバタ

提督「…………」

那智「こ、この……! 私は辱めなどには屈しないぞ!!」

提督「そうか。もっと高くしなければならないか」グイグイ

那智「ひぃっ!? やだ、やだぁぁ!!!」

提督「…………」ジッ

那智「っっ!!」ビクン

提督「…………」

那智「う……うぁ……!」ビクビク

提督「……お望みとあらばまだ高くするが」

那智「わ、分かった!! 勝手に外に出ない! 出ないからぁ!!!」

提督「うむ」スルスル

那智「あ………………う、うぅ……」ペタン

青葉「えー……もう終わっちゃうんですかー……?」

救護妖精「珍しいね。いつもはちゃんと謝るまで吊るしてるのに」

青葉「今回もそれで良かったと思いますのに……」

提督「この子は私の部下ではない。そこまで酷な事はせんよ。本当はこんな事をしたくなかったが、やらなかった場合は本当に外に出られかねないからな」ホドキホドキ

利根「今のはコヤツが悪かろう。勝手に出れば吊るすと言うておったし、手を出したのもコヤツじゃ。……まあ、お主は自身に見えぬよう計らっておったから、実際に花園が見えたのはオナゴだけじゃろう」

609 : VIPに... - 2013/11/07 01:45:20.68 Tv7gdA8Qo 561/771

提督「……よく見ているな」

利根「我輩は周りを見るのは得意じゃからのう」

那智「ほ、本当に見てないんだな……?」

提督「うむ」

那智「……はぁ~~~~…………」

青葉「心底、安心したって感じの安堵ですね」

救護妖精「まあ、そりゃあ見られたくないでしょうよ」

青葉「それにしても、こんなに面白いイベントがありましたのに、どうして皆は静かなんでしょうかね?」

提督「ただ単に怯えているか引いているかなだけだろう」

提督「それよりも、時間があまり無い。出来ればすぐに出発したい。利根、筑摩、ついて来てくれ」

利根「うむ! ワクワクするのう!」

筑摩「は、はい……」

提督「そう怯えないでくれ。よほどの事をしない限りあんな事はせんよ」

筑摩「……外に出るのは、よっぽどですか?」

提督「下手したら大混乱と共にお前達全員が実験体にされる可能性もある」

救護妖精「ああー……そうなったらどうするの?」

提督「……言わせないでくれ」

救護妖精「……ごめんよ」

提督「では行こう。────ああ、言い忘れていた。そこの板を張り付けてある部屋には入らない方が良い。入ったらトラウマを抱えるだろう。そして、機械には触らないでくれ。その子達も助ける為には準備が必要だ。良いな?」

全員「はいっ!!」ピシッ

提督「…………」

救護妖精「くっくっくっ。どこに行ってもこうなるんだねぇ提督」

提督「なぜだ……」

……………………。

610 : VIPに... - 2013/11/07 01:45:52.32 Tv7gdA8Qo 562/771

監守「──お? やあ新元帥。車なんか乗っちゃって。お出掛けかい?」

提督「一度、鎮守府に帰ろうと思ってな。あと、元帥になるつもりはない」

監守「おいおい……まだ総司令部は混乱してるんだぜ? あまり居なくならないでくれよ」

提督「色々な仕事を放り出してまで来たんだ。あと、艦娘達に電報の送り方を教えておかなければな。他にもやらなければならない事が山ほどある。あっちもこっちも大忙しだ」

監守「身体が一つじゃ足りそうにないなぁ」

提督「出来れば、あと五つは欲しいよ」

監守「ははは! それは贅沢ってもんだ。──おっと、急いでるんだったな。今開けるぜ」

監守「にしても、なんだその箱? やたら大きいな」

提督「必要な書類のコピーだ。早くこの総司令部を動かせる人物を選定せねばならん。そしてその仕事の割り振りも考えなければならないからな。向こうに着いてもこれと睨めっこだよ」

監守「ご苦労なこって。俺にはそんな事は出来そうにねぇや」

提督「一度経験してみるのも良いかもしれないぞ?」

監守「冗談は止してくれ。──んじゃま、いってらっさーい」

……………………。

提督「……顔を出して良いぞ」

モゾモゾ……。

利根「──ふぅ。動かぬようにするのは存外に辛いものじゃ」

筑摩「はい……動きたくてウズウズしました……」

利根「それにしても、先程の監守はやけにフレンドリーであったが、友人か何かなのか?」

提督「いや、誰に対してもあんな感じだ。仕事を娯楽と間違えていそうな節もあって頭が痛くなるよ」

利根「……苦労していそうじゃのう」

提督「苦労をするのはこれからだ。──まあ、お前達は向こうに着いたらのんびりすると良い。少し飛ばすぞ」

……………………。

630 : VIPに... - 2013/11/07 20:19:05.81 Tv7gdA8Qo 563/771

提督「──着いた。ここが我々の鎮守府だ」

利根「ほー。ここがそうであるか。……意外と普通じゃのう」キョロキョロ

提督「何を想像していたのかね」

利根「対艦砲や対空砲がびっしりと並べられ、地面には地雷、海中には機雷を。しかしひっそりと可愛らしい花を育てているという意外な一面でもあるのかと思うておったのじゃが」

提督「残念だが一つも当て嵌まっていない」

利根「残念じゃのう……」

筑摩(普通で良かった)ホッ

……………………。

金剛「…………」

利根「うん?」

筑摩「…………」

瑞鶴(また自分の艦娘以外の女の子を連れてきてる……)

金剛「提督。帰ってきたから抱き付こうと思いましたが、どういう状況ですか、これ」

提督「そう睨むな。私の部屋で説明する」

金剛「むー…………」

……………………。

金剛「艦娘のベースとなった子……ですか。私達はそういう風に成り立っていたのデスね」

瑞鶴「…………それで、どうしてここに連れてきたの?」

提督「今の所ここが一番管理しやすく安全だからだ。……すぐにとは言わないが、新しい住居も与えて自由に暮らせるようにもしていくつもりだ」

金剛「それって大丈夫なのデスか? 消えた艦娘と同じ顔をした人が街中を歩いていたら騒ぎになると思うのデスが」

提督「人というものはその人のイメージというもので人を認識している。艦娘特有の艤装も無く、雰囲気も多少ながら違い、カプセルに入っていたせいで髪も全員長い。海から遠く離れた場所で服装も変えれば他人の空似としか思われんよ」

瑞鶴「そんなものなのかしら……」

提督「そんなものだ。有名人が私服と帽子を被るだけで気付かれないのと変わらん」

瑞鶴「あー、なるほどね」

金剛「イエス! 納得しまシタ!」

提督「すまないが、明日は二人に鎮守府を案内してやってくれないか? その間に私は総司令部の面倒事を考えておきたい」

瑞鶴「面倒事?」

提督「ああ。総司令部を動かす人間の選出や予算や軍政、他にも色々とな」

金剛「…………あの……」

提督「なにかね」

金剛「ヘルプしても……良いデスか? お役に立ちたいデス……」オズオズ

提督「ふむ……」

金剛「…………」ドキドキ

提督「……………………よし、頼む」

金剛「──ヤッタァ!」

筑摩「そんなに喜ばしい事なのですか?」

金剛「一日もテートクと離れ離れだったのデス! 一緒に居られるのはハッピーな事デース!」ダキッ

瑞鶴(あ……良いなぁ……)

631 : VIPに... - 2013/11/07 20:19:33.08 Tv7gdA8Qo 564/771

提督「金剛」

金剛「!!」ピシッ

提督「客人の前で抱き付かないように」

金剛「はい……」

利根「ふむふむ。よく躾けられておるようじゃ」

瑞鶴「金剛さんが提督さんの手伝いをするのなら、私が二人を案内するわね」

利根「うん? お主は一緒に居らんでも良いのか?」

瑞鶴「だって私はそういうの考えるのが苦手だもん。適材適所、よ」

利根「なるほどのう」

提督「では、今日は寝るとしよう。部屋を案内する」

……………………。

提督「鍵はこれだ。あと、夜は明かりを点けた状態ではカーテンを開けないでくれ。敵に砲撃されかねないからな」

利根「うむ。心得た!」

提督「では、私はこれで失礼する。何かあればさっきの部屋へ来てノックをしてくれ。──おやすみ」

利根「よい夢を」

筑摩「おやすみなさい」

ガチャ──パタン

筑摩「…………」キョロキョロ

利根「うん? どうした筑摩?」

筑摩「いえ……初めて入った部屋って見渡したくなりませんか?」

利根「うむ。その気持ちはよーく分かるぞ! 私も入った瞬間に見渡してしまった」

筑摩「相変わらず利根姉さんは見る事が得意ですね。気付きませんでした」クス

利根「なに。我輩はいつ筑摩に抜かれてしまうかヒヤヒヤしておる」

筑摩「もうっ、利根姉さんったら」

利根「それにしても、ここは心地の良い場所じゃな」

筑摩「この部屋ですか? 確かに落ち着きますけれど……」

利根「いや、この鎮守府じゃ。明るく温かい気持ちで溢れておる」

筑摩「そう、なのですか? 私には良く分かりませんでした……」

利根「ハッハッハッ! 筑摩もこのような雰囲気を感じ取れるようにならねばな」

利根「──ここは、大切にされておる人達で一杯なのじゃろう。実際に会わずともそれが分かる」

筑摩「利根姉さんがそう言うのであれば、そうなのでしょうね」

利根「何を言っておる。筑摩は筑摩で判断をせぬか。我輩の言葉を鵜呑みにするでない」

筑摩「はーい」

利根「うむ! それでは寝ようかのう。明日が楽しみじゃ!」

筑摩「はい。なんだか私も楽しみになってきました」

???『隣に駆逐艦がぁ!!? ──ぁいだァ!!? ご、ごめんってばー!!』

利根「……なにやら騒がしい奴が居るようじゃな」

筑摩「なんなのでしょうか……」

……………………
…………
……

660 : VIPに... - 2013/11/08 17:46:14.90 Rz6xto7Lo 565/771

コンコン──。

提督「入れ」

ガチャ──パタン

瑞鶴「提督さん、今良い?」

提督「どうした、こんな夜中に」

瑞鶴「一緒に寝たいんだけど……ダメ?」

提督「構わん。私も丁度寝る所だ」

瑞鶴「ホント!? やったぁー!」

提督「本当に嬉しそうにするな。お前達は」

瑞鶴「むー……」

提督「……なぜ不貞腐れる」

瑞鶴「二人っきりの時はあんまり……他の子の話はして欲しくない」

提督「…………」

瑞鶴「ヤダもん……」

提督「……悪かった。今度から言わないようにする」

瑞鶴「ありがとね♪」ギュー

提督「よしよし」ナデナデ

瑞鶴「んー♪」ギュー

662 : VIPに... - 2013/11/08 18:06:22.96 Rz6xto7Lo 566/771

提督「ほら、寝るぞ」

瑞鶴「はーいっ」

瑞鶴「今日は寒いわねー」モゾモゾ

提督「……寒いか」モゾモゾ

瑞鶴「うん、寒い」

提督「…………なら、温めないとな」ギュ

瑞鶴「──うん!」ギュ

瑞鶴「…………」ドキドキ

提督「…………」

瑞鶴「…………」ドキドキ

提督「…………」

瑞鶴「…………?」

提督「…………」

瑞鶴「……あれ?」

提督「ん?」

瑞鶴「…………」

提督「…………」

瑞鶴「……もういい」ムスッ

665 : VIPに... - 2013/11/08 18:28:12.18 Rz6xto7Lo 567/771

提督(ああ……そっちの意味で温めて欲しかったのか……。失敗したな)

提督「……今日はこれで許してくれ」チュ

瑞鶴「ん、ちゅ……。…………もう……しょうがないわね」

提督「気難しい妹を持ったものだ」

瑞鶴「……嫌?」

提督「嫌ならこうして抱き締めていない」

瑞鶴「でも、一人の女の子として愛してはいないわよね?」

提督「それは……」

瑞鶴「ん、ごめん。ちょっと意地悪しちゃった。──でも、いつかぜーったいに振り向かせるんだから。覚

悟していなさいよ」

提督「覚悟しておこう」

瑞鶴「よろしいっ」

瑞鶴「──それじゃ、おやすみなさい」

提督「おやすみ──」

提督(今度……それと、いつか、か……)

……………………
…………
……

666 : VIPに... - 2013/11/08 18:51:47.77 Rz6xto7Lo 568/771

コンコン──。

提督「入れ」

ガチャ──パタン

利根「やあ提督! 我輩だ!」

筑摩「お邪魔します」

瑞鶴「提督さん。全部回ってきたわよ」

提督「ふむ。案内が終わったか」

利根「うむ! 案内は瑞鶴が丁寧にしてくれた! 良い場所ではないかここは! のう、筑摩!」

筑摩「はい。艦娘の皆さんも私達を歓迎してくれて、沢山お話もしました。貴方は皆さんを愛し、愛されているのですね」

金剛「もっちろんデース! この鎮守府で、テートクがライク オア ラブでない艦娘は一人も居まセーン!」

利根「艦娘の者達からその思いは充分に伝わってきた! 素晴らしい場所じゃなここは!」

提督「気に入ってもらえたようで何よりだ」

利根「これならば皆に良い言葉を伝えれよう!」

金剛「皆……というと、また総司令部へ行くのデスか?」

利根「うむ。我輩と筑摩は言わば偵察じゃ。我輩は一目で信用できたが、他の者はそうでなかったからのう。だが、提督と付き従う者達の姿を我輩達が伝えれば多少は信用するじゃろうて」

提督「そういう訳だ。すまないが、また向こうへ行く事となる」

金剛「ぅー……また寂しい思いをする事になるのデスね……」

提督「これも必要な事だ。なに。すぐになんとかしよう」

金剛「……約束デスよ?」

提督「また約束か。お前と果たせていない約束はこれで六個目だな」

金剛「あ、ちゃんと憶えてくれていたのデスね!」

提督「お前こそ、忘れていないだろうな」

金剛「一言一句憶えていマース!」

瑞鶴(…………ものすっごく気になる……)

提督「では、そろそろ行こう」

……………………
…………
……

667 : VIPに... - 2013/11/08 19:14:05.70 Rz6xto7Lo 569/771

提督「…………なんだ、この書類の山は」

職員「あ、あの……昨日より全ての鎮守府から艦娘が消えたとの報告がありまして……」

提督「なに? 消えただと?」

職員「はい……。緊急事態という事で大将をお呼びしようかと思いましたが、監守の話を聞いて、お戻りになるまでお待ちしようと判断しました」

提督(ふむ。詳しくは書類を見てからの判断になるが、解放した艦娘は消えたようだな)

提督「……これは緊急事態など生温いものではない。国の命運を左右する問題だ。以後、このような大きな問題はすぐに連絡をするように」

職員「は、はい! 申し訳ございません!」

提督「下がって良い」

職員「本当……申し訳ございませんでした……。失礼しました……」

ガチャ──パタン

救護妖精「──ちゃんと艦娘は消えたみたいだね」

提督「ああ。あとは、この書類のどこかに深海棲艦からも重巡が消えたという報告がないかを探さなければな」パラパラパラパラ─スッ

救護妖精「この書類の山から……? 骨が折れるとかそういう問題じゃないよ?」

提督「読むだけだ。そう時間も掛からん。どうせ中身はほとんど同じだ」パラパラパラパラ─スッ

救護妖精「いや……捲るんじゃなくてちゃんと見ようよ……」

提督「うん? ちゃんと見ているが」パラパラパラパラ─スッ

救護妖精「え?」

提督「──む。この報告書が深海棲艦について記述している」スッ

救護妖精「は?」

672 : VIPに... - 2013/11/08 19:39:18.05 Rz6xto7Lo 570/771

提督「……ふむ。敵の重巡も見掛けなくなったという報告だな。──救護妖精、どうやら良い方向へ転がっているらしい」

救護妖精「…………」

提督「どうした」パラパラパラパラ─スッ

救護妖精「いや……確かに私が強化とか担当したけどさ……ここまで人間離れするもんかねぇと思って……」

提督「だからこそこのデメリットだ。糖分は死に掛けなければ摂取できない上、幼き頃のほとんどの過去を忘れている」パラパラパラパラ─スッ

提督「私が憶えている過去は、甘味が好きだったという事と、誰か大切な人を守れなかったという二つだけだ」パラパラパラパラ─スッ

救護妖精「……ごめんよ」

提督「謝ってくれるな。私は現状でも満足している。むしろ、そのデメリットだけでこれだけの事ができるようになったんだ。ありがたい事だ」パラパラパラパラ─スッ

救護妖精「ポジティブだねぇ……」

提督「素直な感想だ」パラパラパラパラ─スッ

救護妖精「……言っとくけど、提督っていつ死んでもおかしくないんだからね? 糖分ってそれだけ大事なんだよ? それも、歳を取れば歳を取るほどその確率が高くなるんだからね」

提督「分かっているよ」パラパラパラパラ─スッ

救護妖精「だけど……」

提督「普通の人間となんら変わらん。普通の者こそいつ死ぬか分からない。確かに私は確率的には高いだろうが、そんなものに怯えていたらまともに生きる事さえ出来んよ」パラパラパラパラ─スッ

救護妖精「……強いねぇ」

提督「強くはない。自分の死に無関心なだけだ。憶えている過去で、大切な人を守れなかったという想いがやたら強くてな。その時点で私は負けているんだ」パラパラパラパラ─スッ

救護妖精「よくは分からないけど……私の目から見ると提督は強いよ」

提督「……そうか」パラパラパラパラ─スッ

提督「──よし。他にも深海棲艦の重巡が消えたという報告は三件あった。これからもそのような報告が増えていくだろう。これは決まりと言って良いな」

救護妖精「はやっ!」

提督「こっちの書類の山には用は無い。後はそっちの書類を見ながら軍政や予算などを考えるか。その後で地下へ行くぞ」

救護妖精(……本当は提督一人で総司令部はなんとかなるんじゃないのかな)

……………………。

673 : VIPに... - 2013/11/08 19:53:19.41 Rz6xto7Lo 571/771

利根「──というのはどうじゃろうか」

ガチャ──パタン

提督「全員居るか?」

利根「おお提督! 全員居るが、その前にちと話を聞いてもらえぬだろうか!」

提督「どうした」

那智「話に聞くと、あの出入り口では見つかる可能性もあり、何かと不便らしいじゃないか。だったら、別の通路を作ってみるのはどうだろう、という話になってな」

筑摩「あの建物の近くは山がありますよね? 利根姉さんによると人の手が加わっていないみたいですので、そこならば一目に触れずここから出られるのでは、と」

提督「なるほど。だが、まずこのコンクリートを破壊しなければならない。そこから延々と穴掘り作業だぞ。面倒な事だが、大丈夫なのか?」

鈴谷「何も無いこの場所でダラダラするよりは遥かに有意義じゃん? むしろやらせてくれないかなー」

救護妖精「汚れてもシャワーはあるしねー。提督が鎮守府に戻ってる間に色々とここを調べたけど、穴を掘るくらいならなんとかなると思うよ。資材もあの昇降機から持ってこれるしね」

提督「……なら、頼んでも良いか?」

加古「まっかせてー! くぅ~! 身体を動かすのは好きなんだよねー!」

古鷹「加古は本当に身体を動かすのが好きよね。ここでも青葉と一緒にあちこち歩き回ってたし」

青葉「色々と救護妖精さんに止められてしまいましたけどね……」

救護妖精「これでも極力自由にさせたつもりだよ」

提督「では、その方針でやろう。後で資材を持ってくるが……その前に、コンクリートの壁はどうにかせねばな」ツカツカ

救護妖精「ハンマーで壊せば良いんじゃない?」

674 : VIPに... - 2013/11/08 19:53:48.87 Rz6xto7Lo 572/771

提督「何回も叩いてはバレる可能性がある。やるなら一撃でだ。──ふむ。たしか、こっちの方角が山だったな」スッ

救護妖精「えっちょ……まさ──」

提督「シッ────!!」ヒュッ

ビキャアァッ──!!! ────パラパラ……。

提督「…………よし」

救護妖精「『よし』じゃないわこの馬鹿がぁ!!!!」スパァンッ!

提督「……痛いじゃないか」

救護妖精「ぅうるっさい!! 本当ならハリセンで済ませんわぁ!! 提督、アンタ自分の身体の事分かってんの!? 糖分を滅茶苦茶使うような真似してんじゃないよ!!!」

提督「バレるよりかは良い」

救護妖精「寿命を縮めるよりかは遥かにマシだわ!!!」

那智「……今、掌底突きでコンクリートを破壊したよな?」

利根「本当に規格外じゃのう……」

青葉「那智さん、今のご感想を一言」

那智「……あの方に手を出した自分を殴りたい」

青葉「反撃されたら確実に一撃必殺でしたね」

……………………。

提督「では、全員来るのだな?」

救護妖精「みたいだね。利根と筑摩の言葉を信じてくれたみたい」

提督「そうか。ありがとう利根、筑摩」

利根「なに。我輩は思った事をそのまま言っただけじゃ」

筑摩「私もです。貴方やあの場所を悪く言うのは少し難しいくらいですよ」

青葉「私はもう今からワクワクしているくらいです!」

提督「今日はこっちに泊まる事となる。出発は明日の夜だ。それまでに誰が行くのかを決めてくれ」

全員「はい!」

提督「では、私は戻る。救護妖精、すまないが──」

救護妖精「分かってるって。この子達の体調管理は任せておきなー」

提督「頼んだ。また明日来る」

……………………
…………
……

687 : VIPに... - 2013/11/09 00:24:19.35 xDlbTjNyo 573/771

職員「──はい。確かにお預かりしました」

提督「リストに載せた提督達によろしく頼む」

職員「はい。……それにしてもお仕事が速いですね。たった三日、それもお一人で予算や軍政、それに総司令部の新しい大将の候補を見定めるなんて……」

提督「おかげで睡眠不足だよ。元帥殿はあの場所で死体すら上がってこず、他の大将殿は死亡が確認され、右も左も分からない私が総司令部を動かす事になるとは……。他に誰か適任者が居ないとは頭が痛くなる」

職員「でも、助かりました。大将が居なければこの国はどうなっていた事か……」

提督「何も変わらんよ。私以外の誰かが同じ事をしていただろう」

職員「そんな事はありませんよ。大将だからこそ出来た事です」

提督「言葉だけ頂いておこう。──私は少し休むよ」

職員「畏まりました」

提督「それと私は今夜、鎮守府に戻る。何かあったらそっちへ電報を送ってくれ」

職員「え……は、はい……」

提督「理由が必要なら話す」

職員「えっと……その…………お、お願いしてもよろしいでしょうか……?」

提督「──あの鎮守府でやらなければならない事がまだまだ沢山ある。総司令部も大事だが、あの近海や私の艦娘を護るのも私の仕事だ。片方にだけ力を注ぐ事は私には出来ん」

職員「なるほど。……しかし、今の間だけは他の者にあの近海を護らせる方が良いのでは……」

提督「そこは私の我侭だ。その問題は目を瞑ってくれると嬉しい」

職員「……はい。今の考えは無かった事にしておきますね」

提督「うむ。では下がって良い」

職員「はい。失礼しました」

ガチャ──パタン

提督(これが権力者に許された『無理を通す』というものか……)

……………………
…………
……

688 : VIPに... - 2013/11/09 00:32:41.51 xDlbTjNyo 574/771

少将「──失礼しました」

ガチャ──パタン

提督「……ふぅ」

救護妖精「お疲れ様、提督。さっきの人で最後だったよね」

提督「ああ。面倒だった」

救護妖精「お茶飲む?」スッ

提督「頂こう」ズズッ

救護妖精「それで、役に立ちそうなのは居たの?」

提督「なんとか三人ほど、な」

救護妖精「三人かー……大丈夫そう?」

提督「動かすだけならば問題ないだろう。慣れてくれたら私はひっそりとするよ」

救護妖精「本当にそんな事できるの?」

提督「この身体は便利だな」

救護妖精「ああ……そういう事ね……」

提督「私は気に入った場所に居たいからな。ここは私の場所ではない」

救護妖精「普通なら元帥になれるのに、それをわざわざ蹴るなんてねぇ……。とことん分からない人だよ」

提督「自分でも良く分かっていないからな」

救護妖精「まったく……」

……………………
…………
……

690 : VIPに... - 2013/11/09 00:42:46.48 xDlbTjNyo 575/771

提督「……本当にたった二日で開通させるとは」

利根「暇であったからな。ついついやってしもうた」

那智「一応、出入り口は隠せるように草などでカモフラージュしておいた。簡単には見つからないだろう」

救護妖精「いやー……本当に凄いよね。普通なら筋力とか衰えてるはずなのにさ。我ながらとんでもない強化を施しちゃったって思ってるよ……。この分ならもう食べ物は固形物でも大丈夫なんじゃないかなぁ」

青葉「ちなみに、利根さんだけずーっと笑いながら掘っていましたね」

利根「だって楽しかったであろう?」

熊野「楽しいものですか。開通するまでずっと土で汚れていましたわ」

青葉「と、二番目に頑張っていた子が申しております」

熊野「ばっ──! こ、こら!! 言わないで下さる!?」

提督「皆、良くやってくれた。というわけで、こんな物を持ってきた」スッ

利根「箱? なんじゃ? 甘味か?」

提督「良く分かったな」

全員「!!」

提督「中身はアイスクリームだ」

全員「!!!!」

利根「な、なんと!! それは真か!?」

提督「ああ。私はこういう事しか出来ないからな」

羽黒「い、良いのですか?」

提督「一人につき一つだけだがな」

愛宕「充分よー! はぁ~……頑張ったかいがあったわぁ……」

救護妖精「……こんな場所なのに、皆喜んでるね」

提督「どこにでも希望はあるというものだ」

救護妖精「提督も、希望は持っても良いんじゃない?」

提督「……私の場合は楽観になるだけだ。いつも通りで居るのが一番良い」

救護妖精「はぁ……艦娘の問題よりもこっちの方が苦労しそうだよ……」

提督「…………」

……………………
…………
……

691 : VIPに... - 2013/11/09 01:05:11.50 xDlbTjNyo 576/771

提督「──以上が今月の軍方針という事になる。異論がある者は手を挙げて発言せよ。……………………居ないようだな。では、今回の会議はこれで終了とする」

……………………。

救護妖精「会議は終わったみたいだね。お疲れ」

提督「まったく……発言をしない奴らばかりで困る」

救護妖精「それだけ提督のやり方で文句も何も無いって事じゃないかな」

提督「さあな。自分で考えを述べれなかったらいつまで経っても私は離れる事が出来ないのだが」

救護妖精「やっぱ提督は人の上に立つのが似合ってるって」

提督「断る。私は自分の場所に居るのが良い」

救護妖精「勿体無いなぁ……」

コンコン──。

提督「入れ」

ガチャ──パタン

職員「失礼します。大将、本日のお仕事は終わりましたか?」

提督「先程の会議の内容を書き留めれば終わりだが、どうした」

職員「あの……大将が元帥になるつもりはないと耳に入っていますが、どうも大将が元帥になるかどうかの賭けが流行っているようでして……」

提督「下らんな……」

職員「ですが、私としてもなぜ元帥になられないのかと不思議に思っています。その理由をお聞きしても宜しいでしょうか」

提督「それはこの救護妖精がよく分かっている事だ。私は身体が弱い。いつ死んでもおかしくない。そんな人間が元帥となっていきなり死んだら困るだろう。それが理由だ」

職員「お身体が優れないのですか?」

提督「ああ。こればかりはもう受け入れるしかないようでな。いつ死ぬかも分からない程だそうだ」

職員「そんな事情がありましたか……。すみません、なんだか言わせてしまったみたいで……」

提督「元より隠す気は無い。聞かれたら答えていたよ」

提督「それよりも、今日も鎮守府へ戻る予定だ。他に用事が無いのならばその準備をするが、良いか?」

職員「し、失礼しました!」ピシッ

提督「うむ」

ガチャ──パタン

提督「……立場上、一番偉いとはいえ、どうしてこう怖がられるかね」

救護妖精「もう運命だと思いなよ」

……………………
…………
……

705 : VIPに... - 2013/11/09 23:17:53.43 AVwO1VgIo 577/771

提督「さて……明後日で重巡の最後の六人を連れて帰る訳だが、その前にやっておきたい事がある」

利根「ふむ? なんじゃ?」

提督「先に六人、解放しておきたい」

那智「世話や説明をしろという事か」

提督「そういう事だ。私がやるよりも怖がらせなくて済む」

羽黒「でも……貴方を信用するかどうかの問題ですから……その、そこは貴方がなされた方が……」

提督「ふむ……。羽黒はその方が信用しやすいか」

羽黒「は、はい……。やっぱり、見ず知らずの人に連れて行かれるのは怖いですから……。それでしたら、どんな人なのか

を見定めれる期間は欲しい……と思います……」

提督「なるほど。確かにその通りだな。助言感謝する、羽黒」ナデナデ

羽黒「ひゃんっ!」ビクッ

提督「む、すまん」スッ

羽黒「──あ、い、いえ……その……ちょっと驚いただけでして…………あの……」

提督「うん?」

羽黒「…………撫でてもらって、良いですか……?」

提督「うむ」ナデナデ

羽黒「はぅ……」ホッコリ

707 : VIPに... - 2013/11/09 23:35:42.22 AVwO1VgIo 578/771

妙高(あら……なんだか羨ましい……)

足柄(あらあら。あんなに気持ち良さそうにしちゃって)

筑摩(結構意外かしら。もっと怖がると思っていましたけれど)

利根「提督よ、我輩も何か良い事をしたら撫でてくれるかのう?」

救護妖精「ストレートだねぇ」

利根「これが我輩の性分よ」

提督「状況にも因るが、撫でてくれと言われれば私は撫でる」

利根「ふむ。では、少しばかりお願いしてもよいか?」ススッ

提督「ほれ」ナデナデ

利根「ぉ…………」

提督「…………」ナデナデ

利根「……………………」

提督「…………」ナデナデ

利根「ぉぉ…………」ホッコリ

利根「こ、これは……なんとも珍妙な……。ここまで抗い難いとは……」

提督「満足か?」スッ

利根「うむ! 大変良いものであった!」

那智「……………………」ジー

提督「那智、お前もしようか」

那智「な、なぜ私に言う」

提督「さてな。なんとなくだ」

那智「…………ふん」

提督「そうか。──それでは、今回は水上母艦と一部の戦艦を解放しよう」

那智(む…………)

救護妖精「なんで戦艦?」

提督「深海棲艦の戦力を削る為だ。出来れば一気に戦力を減らしたい所だが、食料の調達と車に乗せれる人数、そして私が

往復できる回数の都合もある」

救護妖精「なるほどねー」

提督「そうだな……。戦艦はこの四人で頼む」

救護妖精「あいよー」

那智「……………………」

……………………。

711 : VIPに... - 2013/11/09 23:53:31.22 AVwO1VgIo 579/771

比叡「う……こ、ここは?」

霧島「どこ、でしょうか……予測すら付きません」

長門「む……」

陸奥「あら……?」

千代田「千歳お姉……無事?」

千歳「うん、大丈夫だけど、どこかしら……ここ……」

救護妖精「はい、説明お願いね提督」

提督「これを何回も言わなければならないのは少しばかり辛いな」

羽黒(あの……あまりに当たり前のように身体を拭いていってましたけど……もしかして私達も……?)

妙高(…………たぶん)

足柄(でも、男というよりも医者みたいな感じだったわよね。なんかこう、やらしさがないっていうか)

筑摩(で、でも……少し恥ずかしいですね……)

羽黒(確かにそうですけど……どうして拭き始めてから今まで誰も何も思わなかったのでしょうか……)

足柄(だって……あんなに自然と普通に触られても……ねぇ?)

那智「……ふん」

利根「何を拗ねておる那智よ」

那智「何がだ」

利根「ほれ、機嫌も悪くしておる」

那智「私は元からこうだ」

利根「ほう」ニヤ

那智「……何を考えている貴様」

利根「なに。我輩だけの秘密だ」ニヤニヤ

那智「ちっ……」

……………………。

712 : VIPに... - 2013/11/10 00:13:21.69 4ya6TxlLo 580/771

長門「納得がいかん」

提督「ほう。何に納得がいかないのかね」

長門「お前が私達を助けるメリットが無い」

提督「メリットがなければいけないのか」

長門「いけないという訳ではないが、それは共に長き時間を過ごした者にのみ与えれるものだ。見ず知らずのお前では信用に足りん」

提督「尤もな意見だ。私も今ここで信用してもらおうとは思っていない」

長門「ほう。ならばどうするというのか」

提督「どうもしない……と言っては嘘になる。だが、私から何かをしようとは思っていない。私はそこに居る六人にしてやった事と同じ事をするだけだ」

長門「ほう。お前達もここから助けられた……と言われたくちか」

利根「うむ。実際に目の当たりにするまではどう助けるのか知らなんだが、助けるの意味も今回で分かった」

比叡「あのー……どういう意味でしょうか」

利根「そこのカプセルに入っている者を取り出し、飲んでしまっている液体を吐かせ、そして身体が冷えぬよう暖を取らせておった。まさしく救助と言えるじゃろう」

千歳「…………あの、それってもしかして……私達の身体を触ったって事?」

提督「ああ、そうだ」

千代田「な、なんですって!? この変態……!! 千歳お姉の身体に触るなんて!!!」

霧島「ど、どうして貴女達はそれを黙って見ていたのですか!?」

羽黒「その……あまりに自然というか普通といえば良いのか……。手際が良かったのでむしろ関心してしまったと言いますか……」

利根「先程も言うたが、まさしく救助と言えるものじゃった。医者に裸体を見せるのと変わらぬ」

陸奥「それは貴女達の言い分じゃないの。私はちょっと嫌よ」

713 : VIPに... - 2013/11/10 00:29:30.39 4ya6TxlLo 581/771

利根「そうは言うてものう……。そこに浮かんでおるオナゴよりは遥かに良いと思うが」

長門「それはそうだが、その救助はお前達がやっても良かったんじゃないのか?」

足柄「水を吐かせる所からもう無理って思っちゃったわねぇ……。あの二人のようにスムーズには出来ないと思うわ。で、その手際の良さに見惚れている内にもう終わっちゃってたわ」

救護妖精「そういや提督もかなり簡単に吐かせてたね。そんな知識、どこで手に入れたのさ」

提督「海で溺れた人間を救助した際、水を吐かせる必要がある。士官学校で教えられた事を憶えていただけだ」

救護妖精「へぇ。士官学校ってそんな事も教えるんだ」

長門「……その理由は分かった。話を戻すが、私はまだ納得していない。お前に何のメリットがある」

提督「こじ付けで良いのなら一つだけメリットがある」

長門「ふん。やはりあるのではないか」

提督「私の中の『助けたいという欲』が満たされる。それがメリットでどうだ?」

長門「……ふざけているのか?」

提督「大真面目だ。これ以外にメリットと呼べるものは無い」

長門「…………。そうか、どうしても言わないか。ならば──」スッ

長門「少し痛めつけさせてもらう。殴り合いなら負ける気はしないぞ」

提督「断る。デメリットしかない。それに、救護妖精が許可してくれんだろう」

長門「ふん。逃げるのか」

提督「好きに考えたまえ」

715 : VIPに... - 2013/11/10 00:50:09.46 4ya6TxlLo 582/771

長門「──なら、好きにさせてもらう」ダッ

長門「ふん──!」ビッ

提督「…………」ペシッ

長門「!」バッ

提督「…………」

長門「……まさかこうも簡単にいなされるとは思わなかった」ジリ

提督「そうか」

那智「あれでは無理だな」

救護妖精「経験者は語るねぇ」

利根「しかし、良いのか? 激しい運動は禁じておるのじゃろう?」

救護妖精「あのくらいの動きならまあ。それに、どうせすぐに決着が付くしね。ちょっとスープを用意してくるから、誰か手伝ってくんない?」

羽黒「は、はい。私が行きます」

救護妖精「ありがと。──ああそうそう長門さんとやら」

長門「今は話し掛けるな」

救護妖精「アンタはあのカプセルの中に一番長く入ってたんだから、無茶したら身体に響くよ。適度な所で諦めな」

長門「ふん。この長門が諦めるだと? 馬鹿馬鹿しいな。確かに身体は本調子ではないが、これはハンデだ」

救護妖精「まあ、私達はスープを作ってくるから、それまでの間に終わらせてねー」

長門「…………」

長門(……たしかに隙が無い。腕を後ろに自然体で立っているが、あの状態から私の拳を払える技量を持った相手……。よほど無理な体勢でもない限り攻撃は効かないか……。だが、相手は反撃をする様子が無い)

719 : VIPに... - 2013/11/10 01:03:23.35 4ya6TxlLo 583/771

長門(なら──)ダッ

長門「ハッ!」ビュッ

提督「…………」タンッ

長門「そこだ!!」グルン─ブンッ

提督「…………」グッ─ストッ

長門「!!!」バッ

提督「…………」スッ

長門「……なんだ今のは」

提督「ただ乗っただけだ」

利根「ほほう。足払いで空中に逃げた相手に、そのまま後ろ蹴りとは見事。あれならば普通は避けれまい」

那智「だが、ニ撃目の足へ乗られたな。まさに屈辱の回避だ」

長門「……なら、どうして反撃をしなかった。絶好の機会だっただろう」

提督「闘う意思など毛頭無い。お前の我侭に付き合っているだけだ」

長門「なんだと……?」

提督「反撃を望むのなら一度だけしてやろう」

長門「馬鹿にするか貴様……」ギリ

長門「良いだろう。その一撃で私を負かせるのならば、お前の言っている事を信用しても良い」

那智「プライドの高い女だ……。私とよく似ている」

利根「そのプライドをバキバキに折られるのも似ておるのう」

那智「全くだ。どんなに足掻こうと、私はあの方に勝てないだろう」

724 : VIPに... - 2013/11/10 01:21:01.09 4ya6TxlLo 584/771

長門「…………」ジリ

提督「…………」

長門(コイツが何をしようが与えれる攻撃をせねばならない……。いや、当たらざるを得ない状況に持ち込めばどうにでも出来るはずだ。相手の反撃は一度……ならば、掴んでからの殴り合い。仮にどんな場所へ攻撃されようと、私は怯まん!)

長門「…………!」バッ

利根「掴みに掛かったか!」

長門「もらった!」グッ

長門「────なっ」スカッ

利根「おお。これはなんと……」

長門(ど、どこだ? 右……左……後ろ……居ない……?)キョロキョロ

提督「…………」スッ

陸奥「長門さん! 後ろ!!」

長門「な──」バッ

提督「…………」ポン

長門「に…………?」ナデナデ

提督「…………」ナデナデ

長門「…………ふ」ナデナデ

長門「──ざけるなぁ!!!」ブン

提督「…………」ペシッ

長門「らあぁッ!!」ビッブンッヒュッ

提督「…………」ペシペシペシッ

長門「ちゃんと闘え!!」ブンッ

提督「しっかりと反撃したではないか」ペシッ

長門「なんだと!?」ヒュッ

提督「頭を撫でただろう」ペシッ

長門「それのどこが反撃だ!!」バッ

提督「お前が一番分かっていると思うが」ヒョイ

長門「…………ッ!!」ギリ

726 : VIPに... - 2013/11/10 01:41:18.89 4ya6TxlLo 585/771

提督「…………」ジッ

長門「…………」

提督「…………」ジッ

長門「ぅ……ぐ…………」

提督「…………」ジッ

長門「……どうやって後ろに回り込んだ。どこにもお前は居なかったぞ」

提督「上だ」

長門「あの体勢で跳んだのか!?」

提督「正確には横に跳んでからお前の背後に向かって跳んだ」

長門「……お前、本当に人間か?」

提督「よく言われる」

長門「………………何回だ」

長門「何回、私を倒せた」

提督「お前が行動する度に倒せただろう」

長門「…………」

提督「…………」

長門「……負けだ。お前の言った事は信用する。そして、私を好きにするが良い」

那智(本当に訳の分からない方向にプライドの高い奴だ)

提督「じゃあ好きにしろ」

729 : VIPに... - 2013/11/10 01:55:41.27 4ya6TxlLo 586/771

長門「なんだそれは……」

提督「そのままの意味だ。好きにしろ。制限は付けるが、その中であれば自由にしていれば良い」

長門「……その制限はなんだ」

提督「お前達が外に出ると大混乱が起きるから勝手に出るな。それだけだ」

比叡「あ、あのー……」スッ

提督「なにかね」

比叡「勝手に、という事は……貴方に申し出れば良いのでしょうか」

提督「うむ。姉と似て察しが良いな」

比叡霧島「!!!」

比叡「お姉様を知っているのですか!?」

霧島「でも……金剛お姉様はそのカプセルの中に……」

提督「艦娘としての金剛が私の秘書として鎮守府を護ってくれている。いつも良くしてくれている」

比叡「貴方の鎮守府に……」

霧島「金剛お姉様が……」

比叡霧島「私、行きます!!」

提督「榛名も居る。きっと二人も喜ぶだろう」

比叡「榛名も……!」

霧島「榛名お姉様も……」

救護妖精「おーい。スープ出来たよー」

提督「その前に……スープが出来たみたいだ。先に食事を済ませておけ」

比叡霧島「はいっ!」ピシッ

提督「…………」

731 : VIPに... - 2013/11/10 02:08:40.44 4ya6TxlLo 587/771

長門「む……」フラッ

提督「おっと」ヒョイ

長門「なっ!? 何をする!」ジタバタ

提督「暴れるな。落ちる」

長門「離せば暴れる事もない!!」バタバタ

提督「……大人しくしろ」ジッ

長門「ぅ…………わ、分かった……」

提督「あれだけ派手に動いたんだ。そうなって当然だろう。これはその結果だと思え」

長門「……恥ずかしい」

提督「それもお前が暴れた結果だ」

長門「…………受け入れる……」

提督「素直でよろしい」

那智「……………………」ジー

利根「ほう」ニヤ

那智「……なんだ」

利根「いやいや、なんでもない」

那智「…………ちっ」

……………………。

733 : VIPに... - 2013/11/10 02:17:50.67 4ya6TxlLo 588/771

陸奥「あの……長門さん……」コクコク

長門「ん? どうした」

陸奥「ごめんなさいね……。勝負に水を差しちゃって……」コクコク

提督「…………」スッ

長門「んくっ。……いや、構わない。あれはどうであれ私が負けていた」

陸奥「でも……」

長門「構わないと言っている」

提督「…………」スッ

長門「んぐっ……」

長門「それよりも……なぜお前が私の世話をしているんだ」

提督「なんとなくな」スッ

救護妖精「身体が弱ってるのにあんなに動くからだよ。他の子も皆飲んでるし、自業自得。諦めな」

長門「あむ……。だが、これは……その……」

救護妖精「恥ずかしいとか言っても説得力無いよ。あんた蹴り放ったじゃん。あれと比べたら背中を預けて口にスプーンを運ばれるなんて可愛いものだろう?」

長門「あれは闘いだったからだ。闘いの中ならば特に気にする事はない」

那智「必要だからか」ズズッ

提督「…………」スッ

長門「んっ……。そうだ」

那智「お前とは気が合いそうだ」

提督「那智と通ずる何かがありそうだな。勝気なのも似ている」スッ

那智「私はあそこまで諦め悪くない」ズズッ

長門「んむ……。お前もこいつと一戦交えたのか」

那智「ああ。お前と全く同じ結果だった」

長門「……ここまで完敗なのも初めてだ」

提督「ほら、これで最後だ」スッ

長門「あむ……。…………すまない。ごちそうさま」

提督「これに懲りたらもう無茶をするな」ナデナデ

長門「むぅ……」

734 : VIPに... - 2013/11/10 02:35:25.62 4ya6TxlLo 589/771

救護妖精「随分と大人しくなったねぇ」

陸奥「うん。私もそれは思ったわ」

長門「……逆らってはいけないという感情が占めていてな」

那智「非常に良く分かる。私も始めはそうであった」

長門「ほう? では今のお前はどうなんだ?」

那智「畏怖は勿論だが、それ以上に尊敬もある」

利根「あと、それともう一つ大きな感情があるようじゃがな」

那智「喧嘩を売っているのか?」

利根「何も隠さんでも良かろう」

那智「……ふん」

長門「…………?」

提督「深くは考えなくて良い」ナデナデ

長門「う、うむ……」

提督「──では、仮眠室のベッドに運んでくる」ヒョイ

長門「わっ……」

那智「…………」

陸奥「……今更だけど、長門さんがお姫様抱っこされるのって初めてじゃない?」

長門「…………うむ」

陸奥「どんな感じがするの?」ワクワク

長門「その………………恥ずかしいと同時に、何かこう……胸にモヤモヤとした感覚が……」

陸奥「……よく分からないわ」

長門「私だって分からないんだ……。今日は初めてが多すぎて少し戸惑っている……」

提督「行くぞ」スタスタ

長門「わっ! い、いきなり歩き出すな」

提督「知らん。お前は早く横になって休め」スタスタ

長門「う……分かった……」

那智「……………………」

陸奥「……本当、長門さんがあんなに言う事を聞くなんて初めてね」

救護妖精「…………」

救護妖精(艦娘のベースとなった子……全員が偽者の記憶だから辛いなぁ……)

……………………
…………
……

754 : VIPに... - 2013/11/10 22:44:29.94 4ya6TxlLo 590/771

提督「艦娘、深海棲艦が急速に消えているという異例の事態が発生しているのは知っているな」

少将「はい。私の鎮守府でも同じ現象が発生しています」

中将A「私もだ。一体何があったのでしょうかね……」

中将B「右に同じく。……おかげで戦力はガタ落ちですよ」

提督「知っての通り、私は艦娘の数が絶対的に少ない。そのせいか私自身の目で確かめれない状況だが、ここまで多くの報告が集まっているのも事実。実際に、消えた艦娘は皆同じのようだ」

提督「重巡、水上母艦、軽空母、潜水艦は全滅。戦艦は金剛、榛名を除く八隻。軽巡、駆逐艦は半数。空母は加賀と飛龍の二隻。これが現在確認されている被害だ」

提督「今の所消えている艦娘は私が所持している艦娘以外という関連性以外、見つけられない。他に何か気付いた者は居ないか」

中将B「もしかすると、ですが……特に戦力の高い艦娘が優先的に消えていないでしょうか」

提督「私もそれを思った。だが、いまいち納得が出来ない。戦力の高い艦娘が優先的に消えるのであれば、戦艦や空母は全て居なくなっているはずだ。そして、駆逐艦でも特に戦力の高い島風や雪風、夕立……軽巡では球磨と名取は消えたが長良は消えていない。安易に戦力の高い艦娘だけとは思い難い」

少将「では艦娘ではなくて深海棲艦側に何かがあるのでしょうか? 報告によると、深海棲艦も艦娘と同じように消えているようですし」

提督「残念だが私ではその関連性が見つけれない。何か分かったら私に報告をしろ」

中将A「……ここまでくると、もはや世界が艦娘や深海棲艦を消しに掛かっているように思ってしまいますね」

提督「それはそれで結構だが、そうなると他国の事で心配になる」

中将A「他国……ですか?」

755 : VIPに... - 2013/11/10 23:10:19.69 4ya6TxlLo 591/771

提督「現状、深海棲艦が海に蔓延っているおかげで我々の国は侵略されていない。だが、艦娘や深海棲艦が居なくなる事でこの国は他国に怯える事は無い。……どちらに転んでも痛いのだよ」

少将「ですが、我が国は負けません! 大和魂は必ずや勝利を導くでしょう!」

提督「そのような根拠の無い理論は嫌いだ」

少将「大将! その言葉は──!」

提督「では少将。艦娘六隻で百隻の深海棲艦を沈めれるか」

少将「それは…………」

提督「大国を相手にするという事はそういう事だ。士気を高めるのは素晴らしい事だ。だが、勝てない戦を勝てない戦法で挑むのは愚の骨頂と知れ」

提督「そして、その戦法によって生み出される被害と未来も考えろ。──例えば中将A、お前は錬度の低い駆逐艦を犠牲に戦っているな?」

中将A「はっ。効率良く敵を落とせる戦術だと思っております」

提督「確かに戦術面では良い。だが、戦略面ではどうだ」

中将A「…………と、言いますと」

提督「深海棲艦は無限と思わせる程に多い。いつまで続くのか分からない非常に長期的な戦いだが、果たしてその戦術でいつまで戦える」

中将A「…………申し訳ありません。私では答えれません」

提督「良い。戦術面ではお前のやり方は非常に良い。だが、戦略的な面で見るとやってはいけないやり方だ。そのようなやり方では必ず疲弊してくる。その内、艦娘が足りなくなって戦えなくなる」

提督「中将A、戦いとは勝つ事だけではない。退却も重要だ。戦線が保てれるのならば無理に押し進めなくても良い。無理に推し進めた分、必ずツケが返ってくる。疲弊した戦力では敵の精鋭を倒す事などできないだろう」

中将A「……はい。そのよな経験を一度しております」

759 : VIPに... - 2013/11/10 23:35:46.25 4ya6TxlLo 592/771

提督「ふむ。では今の話はよく分かってくれると思う。我々の国はただでさえ小さい。そんな国が、使い捨てなどしていれば必ず足りなくなる。視野を広く持て中将A。先の事を見据えて行動せよ」

中将A「はっ! 有り難いお言葉、感謝します!」ピシッ

少将「…………」

提督「少将はまだ納得できないかもしれない。だが……そのような考え方もあると思ってくれたまえ。我々だけが特別ではないのだ」

少将「……納得は出来ませんが、憶えておきます」

中将B「少将! 貴様そのような事が言える立場か!!」

提督「よい中将B。私はこのように情熱的で怖いもの知らずの彼を気に入って招き入れた。──だが、このままお咎め無しでは他の者に示しがつかない」

少将「いかなる罰も受け入れます」

提督「良い言葉だ。──では少将、お前には三日間、私とチェスをしてもらう」

少将「……は? どうしてでしょうか」

提督「お前は戦いの腕は良いが、大事な部分を分かっていない。その三日間でその大事な部分に気付けなかった場合、この場へ呼ぶ事は無くなる」

少将「……了解しました」

提督「ただ呼ぶ事が無くなるだけではない。永遠に呼ぶ事が出来なくなるという意味でもある事を心得よ」

少将「な……!」

中将B「大将……それはいくらなんでも……」

提督「このくらい、こなしてもらわねばここへは留まれぬよ。それと、私の見込み違いでなければ少将はこの課題をクリア出来ると思っている。失望させるなよ、少将」

少将「──受けて立ちます!!」

提督「良い返事だ」

中将B「…………」

提督「正義というものは、人によって変わってくるものだ中将B。そこは憶えていて欲しい」

中将B「……深く考えてみます」

提督「うむ」

提督「こんな若造だが、三人共、私を──そしてこの総司令部を支えてくれ。上からの目線ですまないが、少しばかりこの若造に付き合ってくれないか」

……………………
…………
……

764 : VIPに... - 2013/11/11 00:01:07.35 MD8A4934o 593/771

救護妖精「残った艦娘は軽巡と駆逐艦が半分。そして戦艦二隻と空母の大半、か……だいぶ少なくなってきたねぇ」

戦姫「あと、もう少しなのですね」

ヲ級「♪」スリスリ

提督「ああ。……すまない。お前達の提督にはなれなかったよ」

戦姫「いえ、それはもう叶っています」

ヲ級「!」コクコク

提督「む?」

戦姫「沖ノ鳥島海域にて一度、貴方は私達に指示を与えて下さいました。あれは、何よりも喜ばしい事でした」

戦姫「あの時、分かったのです。私達は『もう一度、艦娘の時と同じように提督と共に戦いたかった』と。貴方は、しっかりと提督として私達を扱って下さったじゃないですか」

提督「だが、私は海へ出ていない」

戦姫「それが普通です。普通、提督が指示を与えて艦娘がそれを遂行する。艦娘は、それに喜びと幸福を感じる。──それは、提督を失い、深海棲艦となった私達では得られる事の出来ない喜びです。艦娘の当たり前──その当たり前だからこそ、その時が来るまで気付きませんでした」

救護妖精「…………」

戦姫「きっと貴方の艦娘も、指示を与えたら喜びませんか?」

提督「…………なるほど。確かに心当たりがある」

提督「だが、お前達は本当にあの一度きりで満足したのか?」

戦姫「満足とは言えませんが、充分です。艦娘を解放するという話と、あの作戦指示を聞いた時には受け入れていました。例え私達が消える事になろうと、私達を艦娘のように扱って下さるこの方について行こう、と」

提督「……消えてしまった仲間は、どうだった」

戦姫「夏に降った雪のように消えていきましたが、その子達の最後は笑顔でしたよ。普段から笑わない子も、笑顔で消えていきました」

765 : VIPに... - 2013/11/11 00:15:35.22 MD8A4934o 594/771

提督「寂しくはないのか」

戦姫「勿論、寂しさもあります。けれど、羨ましい気持ちもあるのです。あの子達は苦しまず、笑顔で深海棲艦という枷から解き放たれたのですから」

提督「……そうか」

戦姫「……これから、どうするおつもりで?」

提督「艦娘に真実を話す」

救護妖精「……まだちょっと早くない?」

戦姫「私もそう思います。どうして解放が先ではないのでしょうか」

提督「……私の我侭だ。最後は、艦娘達に嫌われて終わりたい」

救護妖精「嫌われてってそんな……」

提督「私は彼女達をも利用して人を殺している。解放する直前で話しても、ただの逃げだ。彼女達には、考える時間も与えてやりたい」

戦姫「……最後まで話さないという選択肢は無いのでしょうか」

提督「それは出来ない。それこそ彼女達の心を蔑ろにしている。……私を信じてくれているのだからな」

救護妖精「…………」

戦姫「…………」

提督「では……話しに行こう────」

……………………。

766 : VIPに... - 2013/11/11 00:33:53.51 MD8A4934o 595/771

提督「……今から、お前達に言わなければならない事がある」

全員「…………」

提督「薄々気付いている者も居るかもしれないが、なぜ私が艦娘と同じ顔をした少女を匿っているか、についてだ」

金剛「…………」

提督「ハッキリと言おう。この世界に残された人類は、もはやこの国だけと言っても良いだろう」

瑞鶴「へ……? ど、どういう事?」

提督「艦娘というものは、元は人間だ。詳しい事は省くが、元となった人間の魂を複製して艦船に宿らせる。それが艦娘だ」

「……それは、私達はその人達の偽者って事なのかな」

提督「偽者ではあるが、お前達の心は本物だ。そこは勘違いするな。──そして、その艦娘を製造する方法が一つの大国に渡り、そして大国の実験は失敗した。そのせいか、この世界の人間はこの国以外で確認されていないそうだ。そして、艦娘の沈んだ姿である深海棲艦が蔓延した」

天龍「ちょ、ちょっと待ってくれ! いきなり色んな事を言われても訳がわかんねーって! 俺達が倒してきた深海棲艦は、本当は艦娘とか人間だって言うのか!?」

提督「そうだ。だが、失敗によって人間が深海棲艦になったかどうかは分からない。艦娘が深海棲艦になるのは事実だ。実際にこの鎮守府に居る戦姫と空母ヲ級は、実際に艦娘の時の記憶を持っている」

榛名「私達は今まで……同族を殺してきたのですか……」

提督「それに関しては否定しておく。人に危害を加える悪霊を祓うのと変わらん。深海棲艦になった時点で、艦娘とは似て非なる存在だ」

提督「──前置きはここまでにしておこう。私は、そうして生まれてきた艦娘や深海棲艦を放っておく事が出来ない。だから艦娘の基となった子を助け、ここへ匿った。……それによって、それに対応した艦娘や深海棲艦は消えていったそうだ」

提督「そして、全ての艦娘を解放する為に、私は今までお前達を利用し、真実を隠し、そして人をこの手で殺した」

全員「…………っ」

金剛(提、督……?)

瑞鶴(人を……殺した……)

767 : VIPに... - 2013/11/11 00:46:05.03 MD8A4934o 596/771

提督「お前達も、いずれ消えてしまうだろう。だから、これからは各自好きなように行動してくれ」

提督「端的に言うならば、深海棲艦は元々艦娘であると知っていながら、私はお前達に深海棲艦を沈めさせ続けてきた。そして、艦娘解放の障害になる者は全て殺してきた」

提督「私をどう思っても構わない。殺しても構わん。私はお前達にそれだけの事をしてきた。だが、殺すに当たって条件がある。私を殺した際は、解放した子の全てに普通の暮らしが出来るようにしてくれ」

提督「──以上だ。色々な情報を叩き付けられて混乱している者も居るだろう。その者は自分の部屋へ戻ってゆっくり考えてくれ」

全員「…………」

提督「…………」

神通「……すみません、提督」スッ

提督「なにかね」

神通「少し……部屋へ行って考えてきます……。よろしいですか……?」

提督「うむ。他の者も神通と同じであれば部屋へ戻れ。私に断りを入れる必要は無い」

全員「…………」

ガチャ──ゾロゾロ……──パタン

金剛「…………」

提督「金剛は戻らなくて良いのか? それとも、私に話でも?」

金剛「……提督に、聞きたい事があります」

提督「なにかね」

金剛「提督は、必要だから人を殺したのですよね」

提督「ああ。艦娘が二度と造られる事のないように、な」

768 : VIPに... - 2013/11/11 00:59:14.02 MD8A4934o 597/771

金剛「やっぱり……。──では、私達に話さなかったのも、私達を気遣ってですよね」

提督「…………」

金剛「沈黙は肯定と取りますよ」

提督「……そうだ」

金剛「最後に一つ。──提督は、約束は破りませんよね?」

提督「死なない限りは、約束は守る」

金剛「でしたら、私のやる事は一つです。提督、銃を貸して下さい」

提督「分かった」スッ

金剛「……あと、目を瞑って下さい」チャキ

提督「…………」スッ

金剛「……提督…………」

769 : VIPに... - 2013/11/11 01:16:30.40 MD8A4934o 598/771

──ちゅっ

提督(──は?)

金剛「…………」スッ

提督「……どういう事だ?」

金剛「I don't mind that everthing is a lie. As long as I love you forever. ──たとえ全てが嘘でも構いません。私が貴方を愛している限り、永遠に──私はこう言いました」

提督「…………」

金剛「ですので、私は何もかもが嘘でも構わないんです。私が貴方を愛している──それだけで、私は貴方について行きます」

提督「…………」

金剛「…………」

提督「馬鹿だな」

金剛「死んでも治りません」

提督「私はこれから死ぬかもしれないぞ」

金剛「地獄の底でもお供します」

提督「何も残らないぞ」

金剛「私の魂に刻まれます」

提督「それすらも消えるぞ」

金剛「提督を愛した事実は残ります」

提督「…………」

金剛「…………」

提督「……また負けたな」

金剛「また私の勝ちです」

提督「なぜ拳銃を借りた?」

金剛「ささやかな仕返しです。お返しします」スッ

提督「……そうか。殺されるかと思ったよ」スッ

金剛「大成功ですね」ニコ

提督「やられたよ」

金剛「……では提督、ご褒美が欲しいです」

提督「何が良いのかね」

金剛「耳、お借りしますね」スッ

金剛「────────」ヒソ

提督「……分かった。あいつには内緒にしてくれよ?」

金剛「はい。分かってますよ」ニコ

提督「……あとは、皆の意見を聞くだけだな」

金剛「……大丈夫ですよ」ギュ

提督「……そうか」ナデナデ

金剛「大丈夫……大丈夫です────」ギュゥ

……………………
…………
……

770 : VIPに... - 2013/11/11 01:38:07.78 MD8A4934o 599/771

瑞鶴「一日考えたけど、私達が言える事は少ないわ。だから、提督さんに聞きたいの」

提督「なんでも言ってくれ」

瑞鶴「……提督さんは、どうしても人を殺さないといけなかったのよね?」

提督「そうだ。二度と艦娘が造られないようにな」

瑞鶴「次に、私達に黙っていたのも、私達を思っての事よね?」

提督「そうだ」

瑞鶴「だったら、私達が言える事は一つね」

瑞鶴「──ついて行くわよ。私達は皆、提督さんについて行く」

提督「…………そうか。金剛と同じだな」

「当たり前よ司令官! 私達は司令官に骨抜きにされちゃってるんだもの!」

龍田「雷ちゃんの言う通りよ~。良い意味でも悪い意味でも、ね?」

提督「まったく……お前達は馬鹿だな」

島風「そんなの、あの時から分かってる事でしょ!」

川内「提督が攫われた時かぁ。なんでだろうね。懐かしい感じがするよ」

榛名「……提督は攫われたのですか? 想像付きませんね……」

「あの時は本当にビックリしたのです」

「金剛さんが一番大変だったね。焦燥していたし」

金剛「ぅー……それだけショックだったのデース……」

榛名「くす……金剛お姉様らしいですね」

金剛「笑わないでくだサイ!」

提督「……何はともあれ、私は命拾いした。ありがとう、皆」

提督「──今日はもう遅い。各自部屋に戻って休んでくれ。後の事は明日話そう」

……………………
…………
……

789 : VIPに... - 2013/11/11 23:40:53.95 MD8A4934o 600/771

コンコン──。

提督「入れ」

ガチャ──パタン

金剛「提督、お休みの途中にすみません。今、宜しいですか?」

提督「構わん」

金剛「良かった。──昨日のご褒美を受け取りに来ました」

提督「そうだな。……本当に良いのか?」

金剛「勿論です」

提督「今度こそ、消えたくなくなるぞ」

金剛「大丈夫です。私の魂に刻まれますから」

提督「……本当に好きだな、その言葉」

金剛「提督への愛ほどではありません」

提督「まったく……本当に、お前は私が好きだな」

金剛「はい! それはもう!」

提督「……火を点けよう」

金剛「はい──」

……………………。

790 : VIPに... - 2013/11/11 23:43:10.98 MD8A4934o 601/771

「あ、ん……んちゅ、はぁ……んっ」

 以前と同じく薄闇の世界──。

 その中で、彼女と私は淫らな水音を出していた。

 お互いの口内を犯し、舌を絡み合わせる──。時にはその舌や唇を甘噛みしてイタズラもした。

「はぁ……ぁ、はぁ…………」

 前と同じく唾液を交換し合った私達の口は、初めてキスをした時と同じく銀の橋が出来上がっていた。

「ふふ……今日は、こんな物を持ってきました」

 その銀糸を満足気に眺めつつ、金剛は自分の胸の間に手を入れた。

 そこから取り出された物は、華奢な少女の小さな手にも収まる一つの小瓶──。それはどう見ても、瑞鶴に渡したあの小瓶と同じ物だ。一つ違う点を述べるなら、中身が一切減っていない、新品の状態だという点だろう。

 しかし、なんて場所に挟んでいるんだ。

「もう一つはお前が持っていたのか」

 胸の間に差し込んでいた事も踏まえ呆れたように言うと、彼女はにんまりと悪戯っ子の笑みを浮かべてきた。

 嫌な予感しかしない。

「最後は、提督と激しく愛し合いたいです」

 最後──。その言葉は非常に重々しい。

 なにせ間違っていない。私達がこうして肌を重ねるのも、きっとこれで最後になるだろう。

 最後だから、最高に激しくまぐわいたいという事か。

 コルクで栓をされた小瓶。そのコルクを引き抜くと、彼女は小瓶の口を唇へ当てた。

 が──何を思ったのか、中身を全て飲み干してしまった。

「……金剛?」

 苦味を堪えているのだろう。ギュッと瞼と手と唇を固く結び、震えている。

「あは……全部、飲んじゃいました……」

 目の端に涙を蓄えた少女。その表情は、どことなく不安に思っているようにも見える。

 いや、不安でない訳がない。一口──しかも三人で分けた量であれほどの効果だ。一瓶全て飲み干せばどうなるかなんて想像すら出来ない。

「何をやっているんだ……。ほら、口を開けろ。舐め取ってやる」

『私も以前と同じようになるから寄越せ』

 そういう意味だというのは、金剛ならば容易に想像が付くだろう。なにせ、今更舐め取っても何も意味が無いのだから。

 彼女は柔らかい笑みを浮かべ、目を瞑った。

 無防備で華奢な身体を抱き寄せ、今日で何回目かになるキスをする。

 舌を絡ませ、口内の粘膜を舐め上げ、歯の裏側さえもなぞる、窺う事のない、お互いを求め合うようなねっとりとしたキス──。

 今回の味は苦いが、私が唯一味わう事のできる甘いモノだ。充分に堪能させて貰わなければ。

 だんだんと身体が火照り、頭がくらくらしてくる。

 金剛に至ってはキスだけでは我慢ができないようで、身体を擦り付けてきている。

 水音が鳴る度に、同じ場所からくぐもった甘い吐息も聞こえる。

 背中を撫でるだけで、彼女の身体はビクリと跳ねた。同時に、とんがった甲高い声も出していた。

 どちらからともなく、口を離す。その頃には金剛の口内からはとっくに苦味が無くなっており、お互いの息は荒くなっていた。

 潤んだ瞳、紅く火照った頬、軽く汗ばんだ肌──。

 性に対してあまり関心の無い私でも、その姿は扇情的に思えた。

「──だめ、です……。提督、ごめんなさい……!」

 先に謝られてから押し倒された。

 私が仰向けで彼女が私の腰に座る形。以前繋がった時と同じく、女性上位の体勢だ。

「はぁ……! は、ぁぁあ……っあ、んぁ…………」

 我慢する事が出来ないのか、はたまた別の意味があるのか──金剛は熱くなっている股間を私の股間へ擦り付けている。

 艶めかしく動く腰はゆっくりと大きく、私の性器に血を溜めさせているようにも思えた。

「ていと、く……もう、良いですよね? ね?」

 金剛のその質問は、質問として意味を成していなかった。

 私の返答を聞くまでもなくズボンを下ろされ、男性の象徴が空気に曝け出された。

 その私のソレを、愛おしそうに撫でる少女。

 腫れ物を扱うかのように触れるその細い指が、少しばかり気持ち良い。

「元気が一杯です……んっ」

 息が掛かるくらいに顔を近づけ、チロリと一舐めしてきた。

「こら、汚い」

「提督のです。汚くありません」

 舌先で確かめるようにしていた動きが、その言葉と共に変化した。

 キャンディを舐めるように竿全体を舐め上げ、唾液でぬらぬらと光りだした。

 今度は亀頭部分をチラチラと舐めている。特に感覚の鋭いそこは、ザラザラとした舌の感触で、ビリッと電気のようなものが走った。

「あはっ……固いのに弾力があって、とてもビクビクしています……。こんな暴れん坊さんは、押さえ込まなければなりませんね……? ──あむ」

 遠慮がちに口を開いた少女は、一瞬の躊躇も無く先端を咥えた。

「ん……んん、ん…………」

 止めようかと思った時には既に、半分ほど呑み込まれていた。

 膣とはまた違った、生温かく柔らかい感触が襲ってくる。不意に彼女の頭を掴みたくなる衝動に駆られたが、それをなんとか抑えている内に、彼女は全てのモノを口の中に収めていた。

 喉奥に当たっているのか、先端が何かに当たっている。その状態で舐められ、裏筋に強烈な快感が走った。

 口の中の空気を抜いているのが良く分かる。私のモノ全体が柔らかい肉に包まれ、舌で攻められているからだ。

「んっぐ……」

「ぐっ──!?」

 突如、その攻め方が変わった。柔らかくねっとりとしていた口内が急に狭くなったのだ。

 口内の形どころか、舌のざらつきの一つ一つまでも分かるんじゃないかってくらいに、強く吸われている。

 そのせいで、今度は我慢が利かなかった。上半身を起こし、彼女の頭を両腕で包んで抱き締めた。

791 : VIPに... - 2013/11/11 23:44:15.99 MD8A4934o 602/771

「んぅ……! ん、んふ……ん…………」

 それに一瞬だけ驚いたようだが、金剛はそれを皮切りに舌の動きを激しくした。

 裏筋だけでなく、亀頭、根元、カリ──全てを余すところ無く擦り上げ、押し付け、甘噛みも駆使して私を攻め上げる。

 声を抑えてはいるが、歯がギシギシと鳴りそうなほど食い縛っても声が漏れる。

 その声に喜びを感じているのか、特に声が大きく漏れたカリの部分への攻撃が中心となった。

 あまりの快感に身体全身が強張る。腕も抱き締めているというよりは締め付けているのではないかというくらいに力が入ってしまった。

 極力、痛くならないように抑え付けているが、その抵抗はどれ程のものなのだろうか。少なくとも、頭を全く動かせていない様子から相当な力が入ってしまっているのは分かる。

 それが流石に痛かったのだろうか、金剛の攻めが緩くなった。

 口の中は元の柔らかい状態となっており、舌も優しく触れるような動きになっている。

 余裕が生まれたので私の力も少し抜けたが、柔らかくも大きな快楽が襲う事となる。

 苦にならない、真綿で首を絞められているような、純粋に気持ちの良い快楽──。

 少しばかり呆けてしまう程に、それは心地の良いものだった。

「ん、ふ……まらでふよ……ひゃんと、出ひてくだはいね……?」

 半分、何を言っているのか分からない言葉で語り掛けた後、もう一度あの強烈な快楽が襲ってきた。

 いや、さっきのよりも強く荒々しい、強制的に絶頂へ導かそうとしているものだった。

 気の抜けていた私はモロにその攻めを受けてしまい、軽く悲鳴を上げた程だ。

 キュウキュウと痛いくらいに締め付けられ、背骨に氷の柱でも突き刺されたかのような耐え難い感覚に、またもや金剛の頭を締め付けてしまった。

 口の中の空気がほとんど無くなっているのだろう、先程から空気が細く狭い道を通る──膨らませた風船を指でなぞるような──音が聴こえる。

「あ、が……! ぐ、ぅ──!!」

 そんな強烈な快感に、免疫の少ない私が抗う術は無かった。

 グツグツと湧き上がる射精感を察知して必死に抑え込もうとしたが、それは彼女の舌技でいとも簡単にこじ開けられてしまった。

「────────ッッぁ!!!」

 尿道から彼女の喉へ快楽の塊が迸っていくのが分かる──。

 その快楽の塊を受けた金剛は、あろう事か受け止めるだけに留まらず、むしろ吸い出そうとしてきた。

 性器をストローか何かのようにして、中に入っている精液を吸い出している──。その追い討ちは、絶頂を迎えた私をもう一度果てさせる事となった。

 身体が痙攣したかのように震える。

 こんなに私を愛してくれている少女の口に欲望の塊を吐き出している背徳感が、それを増長させた。

 この前とは比にならないくらいの量が出た、と確信出来るほど精液を吐き出した。

 彼女の口一杯に広がった白濁としている液体は私の性器全体に広がっているのだ。確実に大量と言えるものだろう。

「ん、ちゅ……ちゅぅ……ちゅう…………ちゅぅっ……」

 勿体無い──そう言いたいのか、少女は尿道に残った精液を吸い出している。

 果てたばかりで敏感のそこは、それだけで淡い快楽が滲み出てきた。

「んふ……は、ぁ…………ごちそうさま、です……」

 結構長い時間を掛けて吸っていた金剛。

 肉棒から口を離し、見上げてきたその顔は、とても幸福に包まれた顔をしている。

「……無理をして飲まなくても、良かったんだぞ」

 ──書物でしか知らないが、精液は苦く、青臭く、とても飲み込めるようなものではないらしい。

 なのに、どうしてこの少女はソレを一滴残さず飲み込めたのだろうか。

「欲しかったから、です……はぁっ……」

 トロンと蕩けた笑顔で、金剛は答えた。

「愛しい提督の、精液が……子供の元が、お腹一杯になるくらい、欲しかった、です……。大好きな提督、ですから……。全然、嫌じゃないですよ……?」

 真っ直ぐ私を見つめる目──欠片も嘘偽りのない本心の言葉──。

 その言葉で、私の中で何かが動いた。

「……では、私もお前を満足させなければな」

「え……? ──きゃっ!」

 先程とは逆に、今度は私が金剛を押し倒した。

「私をあれだけ攻めたんだ。勿論、覚悟は出来ているよな?」

 自分でも口角が上がっているのが分かる。

 金剛ならば私がイタズラ好きだというのを前で分かっているだろう。だから、一切隠さずにいぢめる事にした。

「うつ伏せになって、お尻を上げるんだ」

「ん…………はい」

 素直に言う事を聞く少女。

 丸見えになった鮮やかなピンクの肉壷からは蜜が溢れ出しており、今にも私を欲しがっているように見える。

「どうやら金剛のココは、私を欲しがっていて仕方がないようだな」

「はい……。前みたいに、いっぱい──いっぱい突いて欲しいです……」

 辱めるつもりだったのだが、どうやら逆効果のようだ。

 少女はトロトロになっている淫靡な秘所を恥ずかしげもなく私に見せつけ、誘惑している。

 蝋燭の光でテラテラと輝くソコを自分の指で広げ、トロンとしている灰色の瞳で私を見詰めているのだ。

 愛おしい気持ちで一杯になり、私は少女に覆い被さった。

 期待したような顔をしていたので、頬を撫でて軽く焦らす。

 それも失敗に終わり、とても心地良さそうな笑みを浮かべている。

 しかし、その笑みも良く見ると艶かしい雰囲気がある。触れた頬は汗でしっとりとしていて熱く、息も荒く熱っぽい。

「挿れるよ──」

 添えるように、花園の入り口へ肉棒を当てる。

 触れた瞬間、金剛の身体がビクリと震えた。期待をしているのか恐れなのかは分からないが、表情を見る限りでは期待が大体を占めているようだ。

「ん──くぅんっ!」

 挿れた瞬間、以前とまったく違うと分かった。

 前は少し固かった肉壁が柔らかくねっとりと締め付け、前よりも熱くなっている。

 それに、前よりもなぜか気持ち良さが強い。キュウキュウに締まっているのは確かだが、それ以上に何か心が満たされている気がする。

 けれど、その考えもすぐに吹き飛び、金剛の秘所に集中する。膣の肉が、私のソレを呑み込まんと吸い付き、蠢いていて、ゆっくりと押し進んでいくと、簡単に沈んでいく。

「ぁー……っあ……あぁぁ……っ」

 奥へ入っていく感覚が良いのか、金剛は小さく痙攣しながらも私を受け入れていった。

792 : VIPに... - 2013/11/11 23:44:58.16 MD8A4934o 603/771

 たっぷりと時間を掛けて、金剛のお尻と私の腰をくっつけた。

 奥の奥まで届いているのが自分でも分かる。突き挿れられている少女は分かっているのかいないのか、シーツをギュッと握り締めて、荒く深い呼吸を繰り返している。

 挿れた時と同じくゆっくりと引き抜こうとするが、咥え込んで放さないとでも言うかのように放してくれない。それでも無理に腰を引くと、肉棒から背骨を通って脳に直接快楽が送られてきた。

 電気のようにビリビリと痺れそうな快感──。それだけで、果ててしまいそうだった。

 少しだけ昂ぶった情欲を治めてから、再度金剛の中へと侵入する。

「……っぁ! ──ぁあ……ぅんっ!」

 再び電気が走り快楽の虜にされそうだったが、その金剛の嬌声に少しだけ引っ掛かった。

 確認する為に、また引く。

「ぁぁ……はぅ……んっ! は、ぁ……」

 ギリギリまで引き抜いた所で、ぐちょぐちょの奥へまた沈み込ませる。

「んん……っぅ! ひ……ぁぁ……ぁあっ──は、あぁぁ……」

 ……なるほど、金剛の弱い所が分かった。

 トロトロの肉壷から程々に引き抜き、声になっていない声を上げた所で止める。

 そして、その部分を突き刺すように、鋭角で肉棒を押し付けた。

「きゃぅッ!? ひ、やぁあ!! あ、あぁぁっ──か、ひ、ぁ……っ!!」

 反応は一気に変わった。

 締め付けている程度だった膣は痛いくらいに締め上げ、その部分を突く毎に少女は甲高い悲鳴で啼き続けている。

 砂糖や蜂蜜よりも格段に甘い嬌声が、止め処なく溢れ出る愛液の音が、この部屋に響き渡る。

 瞼をギュッと閉じ、身体は痙攣させ、握っている拳も固く閉じられているのが分かる。

 前はこんなにも乱れなかった。媚薬で欲情し切った身体と、弱い所を攻められ続けてこうなっているのだろう。

 何度も何度も注挿を繰り返す。

 私自身も気を抜けば果ててしまうくらいになっており、もはや意地で堪えているだけだ。

 だが、その意地もそろそろ限界が近付いてきた。

 ドロドロと熱く爆発しそうな欲望が、もう既に根元までせり上がってきているのだ。

 さっきから絶え間なく啼き続けている金剛。もう少しその姿を見ていたかったが、そろそろ終わりにさせた方が良いだろう……。

 そう思い、少しばかり小振りなお尻を掴み、今まで攻めていた部分とはまた違った甘い声を出していた場所──蜜壷の最奥へと一気に貫いた。

「──ひゃぅっ!? ぁ、あああぁ……ぁあー……! は、ぁあー……っあぁー……!」

 グリグリと押し付けるように、一番奥を突いたまま腰を動かす。

 痙攣しながらも絡み付いてくる肉壁が、とても気持ち良い。いつまでもこうしていたいと思える程だ。

 けれど、それは長く続かなかった。根元まで来ていた欲望は、もうカリ付近まで来ている。

 限界だ──。そう思って、金剛の華奢な身体にピッタリとくっつき、強く抱き締めた。

 抱き締めた影響なのか、膣がまた痛いくらいに締め上げてきて、私は我慢するのを止めた。

「あぁぁ──ッッ! ────っぁ、ぁぁぁあああッッッ!!!」

 今までで一番大きな甘い悲鳴を上げて、金剛も果てた。

 ドクンドクンと、まるで血液を送り出す心臓みたいに精液を吐き出す。

 自分でも、こんなに出るものなのかと思うくらいの量が出ている。射精が止まらない。

 絶頂が長い──。頭の中に直接麻薬を突っ込まれたかのような感覚だ──。

 ────長い長い射精が終わり、やっとまともな思考が出来るようになった頃には、とんでもない疲れが身体に圧し掛かってきた。

 金剛はまだこっちへは戻ってきていないようで、虚ろな目でぐったりとしている。

 私は、彼女が落ち着くまでこのまま抱き締めておく事にした──。



「──てぇ……とく?」

「目が覚めたか」

 金剛が起きたのは、半刻ほど経ってからの事だった。

 あのままの体勢では辛いだろうと思って横になったのは良いが、それでも一切反応を示さなかったので少し不安になっていた。だが、それも杞憂で終わったようだ。

「私……? ──あ、私……提督と…………」

 最後の方は小さくて何を言っているのか分からなかったが、大体の予想はついた。

「──えへへ」

 子供のように、無邪気な声で笑ってくれた。

 その笑い方が妙に愛おしくて、ついつい腕に力を入れてしまった。

「ん……ずっと、抱き締めてくれていたのですね。嬉しい……」

 そっ、と手を重ねてくれる金剛。

 優しく、柔らかく、私の凍り付いてしまった心を溶かすかのような、慈愛に満ちた温かみ──。

 その手は、体温だけではない、そんな温かみが確かにあった。

「──ありがとう」

793 : VIPに... - 2013/11/11 23:45:30.51 MD8A4934o 604/771

「え?」

 本当にポロリと、零れ落ちた言葉。当然、金剛は戸惑った。

「あの、提督?」

 少女が説明を求めてきている。けれど、私はそれに答えなかった。少しだけ困らせたかったからだ。

 その代わり、少しだけ腕に力を込める。

 言葉の無い返事──。勘の良い彼女はこの意味に気付くだろうか?

「あのぅ……?」

 今まで聴いた事のない、困った声。どうやらこの子は気付かなかったようだ。

 それでも良い──いや、それが良い。わざわざ消えたくなくなるような事をする必要はない。

 彼女は消えても良いように、覚悟を決めて今夜この部屋を訪れたのだ。それを踏み躙るのは良くない事だ。

 だが、ヒントがコレだけでは些か酷いというものだろう。

「秘密だ」

 耳元で、もう一つのヒントを与えた。これで気付いてくれないのであれば諦めよう。

「…………?」

 いつもの勘の良い少女はどこへ行ったのやら、今日はとことん気付いてくれない。

 きっと疲れていて頭が回らないのだろう。いや、もしかしたらまだ頭の中が空中を散歩している気分なのかもしれない。

 私は諦めて、これ以上ヒントも答えも出す事なく終わらせる事にした。

「んぅ……? ──あっ」

 金剛が身じろぎをした事で、繋がっていた金剛と私の部分がズルリと抜けてしまった。

「あ、あぁぁ……こ、これは……」

 さっきの困った声に焦りを加えたような声を、抱き締めている少女が零した。

 一体、何があったのだろうか?

「せ、折角の提督の子種が……溢れちゃってます……。うぅ……止まらないです……。お腹一杯だったのに、どれだけ出ていっちゃうですかぁ……」

 ……どうやら零れたのは声だけではないようだ。

 腕の中の少女は悲しそうな声をあげている。

 まったく……本当にお前は私の事が好きなのだな……。

「ぅー……」

「ほら、代わりにキスをしてやるから」

「ほ、本当ですか!?」

 金剛はすぐに機嫌を直して身体ごと振り向いてきた。

 本当は金剛が落ち着いたらキスをしようとしていたので、代わりでもなんでもなかったりする。

「ほら」

「ん──ちゅっ」

 軽い、触れるだけのキス。たったそれだけだが、薄闇に浮かぶ愛おしい少女は満足気に顔を綻ばせてた。

 ……三つ目のヒントになってしまったが、気付く様子がない。本当に今の金剛は頭が回らないようだ。

「今日は毛布を掛けて、このまま寝てしまおう。こんなにクタクタになったのは久し振りだ」

 本音はこのまま放したくないからなのだが、それも言わないでおこう。

「はい……。私も、ずっとイキっぱなしでクタクタです」

「む? いつからイッていたんだ?」

 少し気になったので聞いてみた。金剛が果てたのは最後の一度ではなかったのか。

 金剛は頬を軽く引っ掻きながら眉をハの字にして、口元だけ笑いながらこう言った。

「口で奉仕している時に軽く三回程……。あと、先っぽだけ挿れられてから終わるまでずっとです。気を失うかと思いました」

 ……あの長い間ずっとか。道理で愛液が止まらない訳だ。

 快楽も延々と続けば地獄と聞いた事があるが、まさにそれだったのではないだろうか。

「でも、凄く幸せです。あんなに激しくしてくれて、あんなに愛してくれて。そして今、こうして抱き合っています。もう、幸せで死んじゃうかもしれないくらいです」

 さっきのハの字と違って、今度はとても落ち着いた、穏やかな表情でそう言った。

 心配しなくても良さそうだ。彼女が満足してくれているのなら、それで私も幸せな気持ちになる。

「──それでは、そろそろ寝ようか」

 でも、もう少しだけ強く抱き締めておいた。もっと、彼女を感じていたかったから。

「────はいっ」

 春の太陽を思わせる明るい笑顔で、金剛も抱き締めてきてくれた。

 ああ……心が満たされる……。こんなにも幸せな気持ちになったのは初めてではないだろうか……。

 そっと目を閉じると、一気に睡魔が襲ってきた。

 こんなにも早く意識が落ちるのも、初めてだな──。

 腕の中の愛おしい少女の優しさを、温もりを感じながら、私の意識は夢の世界へと旅立っていった────。


……………………
…………
……

797 : VIPに... - 2013/11/12 03:26:11.83 oeEYDgjwo 605/771

提督「……さて、これで詰みだ」コト

少将「…………」

提督「戦力が強いからと言って、簡単に重要な駒を進め過ぎだ」

少将「……助言、でしょうか? 最終日だからといって……」

提督「独り言だ。気にするな。そら、再戦だ」

少将「…………」

提督「時に少将。素手同士の人間が百人居たとしよう。その中から五十人ずつの二勢力に分かれて戦ったとする。どっちが勝つと思う」

少将「……この会話になんの意味があるのでしょうか」

提督「意味など無い。ただの雑談だ。さあ、答えてみろ」

少将「…………強い者が多い方が勝ちます」

提督「うむ。正解だ。ならば、負けた側の視点で語れ。お前ならば次に戦う時、どうする」

少将「武器を手にして戦います」

提督「うむ。ならば、その戦いで負けた側に立つと、お前ならばどうする」

少将「……相手よりも強い武器を揃えます」

提督「そうきたか。ならば、武器は相手と同じ物しか揃えれなかったらどうする」

少将「錬度を高めます」

提督「ふむ。では、相手も同じ錬度で戦いの準備をしてきた。どうする」

少将「それは……決着が付かないのではないでしょうか」

提督「いや、しっかりと付く」

少将「……………………」

提督「…………」

少将「戦い方……いえ、戦術や戦略を駆使すれば勝てる、でしょうか」

提督「その通りだ。──さて、雑談はここまでにしておこう。続きをするぞ」

少将(戦術や戦略……)

……………………。

798 : VIPに... - 2013/11/12 03:38:00.06 oeEYDgjwo 606/771

少将(ちっ……! またナイトがビショップに倒された…………ええい、そんなもの気合で迎撃すれば良かろう……!)コト

少将(それに対してこっちのビショップはあまり役に立っていない……いや、役に立てないよう牽制されている……)

少将(確かに私は戦術や戦略が苦手だが……どうしてここまで違いが出る? 一度くらい勝ててもおかしくないだろう……)コト

少将(まったく同じ駒だというのに、どうして……。────!!)ハッ

少将(まったく同じ……?)

少将(…………さっき、この人が言ったな。人数も武器も錬度も同じ勢力が戦っても、しっかり決着が付く、と……)

少将(戦術や戦略によって結果は変わってくる。勿論、それは戦い方も含めてだ)

少将(先日、この人と中将Aが話していたな……。中将Aが戦術的に戦っていて、戦略的に考えているのがこの人……じゃあ、私はなんだ……? 戦略……いや、そんな高尚なものじゃない。戦術……いや、それも違う気がする。戦術とは戦闘の手段を考えるものだ。なら……私は、戦法か?)

少将(私は艦娘の士気を高めて突撃させ、そうして敵を倒してきてここまでやってきた……。それに間違いはないはずだ。だが、戦術的にはどうか……戦略的にはどうか……)

少将(戦術的……そう。今この人にチェスで負けているのが戦術的に負けているという証拠。では戦略的にはどうだ? もっと広く戦を見れば……)

提督『──では少将、お前には三日間、私とチェスをしてもらう』

少将(そうだ……そもそもなぜ、この人は私にチェスを……)

少将(…………!! この戦いは、盤上だけのものではない? ではもっと広く……もっと広い視野で……)

少将(────そうか。そういう事か。そういう意味だったのか)

提督「……どうした、少将。手が止まっているぞ」

少将「…………大将殿。今、大将殿の問いに答えても良いでしょうか」

提督「ほう。なんと答える」

799 : VIPに... - 2013/11/12 03:48:26.98 oeEYDgjwo 607/771

少将「大将殿が私に期待した答えは『艦娘と深海棲艦、味方も敵も戦力が同じ』という事ですね?」

提督「その通りだ」

少将「そして、このチェスと同じように、戦い抜けば艦娘は強くなり、そして倒されれば戦力から消えてしまう。けれど、ただ倒すだけでは強くなれない。例え強くても活かせなければ勝つ事が出来ない」

提督「ほう」

少将「大将殿が期待していた答えは『敵味方はどちらも特別でない、一つの戦力』という事。そして、気付いて欲しかったものは、このチェスの駒と同じく『いくら強い駒を持っていようと、それが活かせなければ勝つ事が出来ない』という事ですね」

提督「──おめでとう。概ね正解だ」パチパチ

少将「概ね、ですか?」

提督「答えはそれで構わない。だが、気付いて欲しかったものは『どんな戦力・戦況でも、詰みでなければやり方次第で勝ちを見出せる』という事だ。本当はチェスでも囲碁でも将棋でもなんでも良かった」

少将「……何度チェックを掛けられても、チェックメイトを取れば勝てる、という事ですか」

提督「大まかに言えばそうなる。そこに加えて味方を大事にしてくれれば、お前はこの軍で最も爆発力のある将となるだろう」

少将「────はい! 大将殿! 大変有り難いご指導、感謝します!!」ピシッ

提督「うむ。お前の首を刎ねずに終わって良かった」

少将「ほ、本気だったのですか?」

提督「残していれば我が国にとって癌となるからな。だが、初めにも言ったように、少将はこの課題をクリア出来ると思っていた。刎ねる事はまず無いと思っていたよ」

少将「はは……大将殿には敵いませんね……」

提督「私は、私の秘書に負ける事があるがな」

少将「……なんと」

提督「まったく。提督思いの子を貰ったよ」

提督「そんな子達が消えていくのが、私は悲しい……」

……………………
…………
……

800 : VIPに... - 2013/11/12 03:58:40.43 oeEYDgjwo 608/771

提督「さて、お前達も知っての通り、既にほとんどの艦娘を解放した。残っているのはほぼお前達だけだ」

金剛「という事は……」

提督「そうだ……」

提督「──今度は、お前達の原典が解放される番となってしまった」

全員「…………」

提督「お前達は皆、非常に提督思いの良い子ばかりだ。私の自惚れだが、二度と会えなくなってしまうのは心苦しいと思ってくれている者も居るだろう。だが、このまま放置する事はできない。賽は投げられている。この中の誰かが、解放──いや、消えなければならない」

瑞鶴「消えちゃう……」

提督「よって、まずは志願制にしようと思っている。……酷なやり方ですまない」

全員「……………………」

提督「今回の人数は二人だ。……誰か、居るか」

全員「…………」

提督「…………」

全員「……………………」

提督「…………」

全員「………………………………」

提督「…………居ないようだな。では、仕方がな──」

龍田「……はい」スッ

提督「龍田……」

龍田「いえ~……。だって、誰かが申し出ないと……提督さんは困っちゃうでしょ~……?」

龍田「でしたら……私は志願しちゃいます。なるべく提督さんを困らせたく、ないもの……」

801 : VIPに... - 2013/11/12 04:07:28.92 oeEYDgjwo 609/771

天龍「だ、だったら!! 俺も志願する!」

提督「天龍も……良いのか?」

天龍「へっ! 俺だって龍田と同じだ。提督が困るってんなら、俺が立候補してやるよ」

天龍「……普段、他の奴らと比べてあまり役に立てなかったんだ。これくらい、役に立ちたいんだよ……」

天龍「──あと、龍田一人だけじゃあ心配だからな! 俺が付いていてやらないと!」

提督「……ありがとう、天龍。龍田、良い姉妹を持ったな」

龍田「私の自慢の天龍ちゃんですもの。ありがとうね、天龍ちゃん」

天龍「ふふん。俺と龍田はいつも一緒だ!」

提督「本当、ありがとう……」

龍田「あ~、でも、一つだけ我侭を言って良いかしら」

提督「なんだ?」

龍田「提督さんの~、キスが欲しいな~」

全員「!!」

金剛(な……)

瑞鶴(なんですって!?)

(…………)

提督「……分かった。最後だからな」

天龍「あ、ちょっ……! ズリィぞ龍田だけ!! 俺にもしてくれよ!?」

金剛瑞鶴「!!!」

提督「天龍もか。意外だな」

天龍「ふん! 俺だって空気くらいは読めるんだぜ? ……でも、最後くらいは……な?」

提督「そうだな……分かった」

金剛瑞鶴「…………!!」

龍田「うふふ……天龍ちゃんと一緒~」スッ

天龍「う……は、恥ずかしいな……」スッ

802 : VIPに... - 2013/11/12 04:31:23.21 oeEYDgjwo 610/771

提督「……準備は良いか?」

龍田「は~い。いつでもどうぞ」スッ

天龍「お、俺もだ……! 来るなら、来い!」スッ

提督「今までありがとう、龍田、天龍」チュ─チュ

龍田「……へ?」

天龍「お、おでこ?」

龍田「唇じゃないの~……?」

提督「……残念ながら、唇は特別な相手にだけする事にしたんだ」

金剛瑞鶴(…………誰?)

龍田「あら……あらぁ……」

天龍「…………ちっ。それなら仕方ねーな」

提督「すまない」

龍田「良いのよ~。なんとなく分かってたもの~。──あー、すっきりしたぁ~」

天龍「俺はスッキリとはしていないけどな。教えてくれよ。誰なんだ?」

提督「それは解放する当日になったら教えよう。私にも羞恥心くらいはある」

天龍龍田「はーい……」

提督「解放は明日だ。それまでの間、ゆっくりと休んでいてくれ──」

……………………
…………
……

820 : VIPに... - 2013/11/12 23:46:50.25 oeEYDgjwo 611/771

金剛(特別な相手……一体誰なのでしょうか……)スッ

金剛「…………」

金剛(いえ、訊くのは野暮というものですね……。それに、明日は天龍や龍田が居なくなってしまいます。今夜提督を訪ね

る権利は、あの二人にあるです。シャワーを浴びて寝てしまいましょう)スタスタ

……………………。

瑞鶴(提督さんの特別な人……気になる。相手は誰? 金剛さん? 響ちゃん? それとも別の誰か? …………私だった

ら……嬉しいなぁ)スッ

瑞鶴「…………」

瑞鶴(でも……誰なのかを聞いた所で、私はどうするつもりなんだろう……。すっきりしたいだけ? ……ううん。私を選

んでくれていないって分かっちゃったら、私、どうなるか分かんないわね……。でも、もし私だとしたら……?)

瑞鶴「……………………」

瑞鶴(……ダメダメ。さっきから同じ考えがループしてる。シャワーでも浴びて寝よう。それに、天龍や龍田が提督と一緒

に居たいって思ってるかもしれないんだし……。──うん、そうしよう!)スタスタ

……………………。

「…………」スッ

(……金剛さんか瑞鶴さん、どっちかなんだろうね。大穴に大穴で私……という可能性もあるかもしれないけど、それは

夢の中の話だね)

(それに、天龍さんや龍田さんが来るかもしれない。私がその時間を奪っては……。──うん、シャワーでも浴びよう)

トテトテ

……………………。

821 : VIPに... - 2013/11/13 00:02:48.74 3/RfeVNEo 612/771

ガラッ──。

シャー……。

(あれ? こんな時間に誰か来てるのかな)

金剛(あら、また誰か来ましたネ)

瑞鶴(こんな時間に……普段からこんなにシャワー室って使われてるのかしら?)

「……隣、失礼するね」

金剛「その声は響ですか。こんな時間にどうしたデスか?」

「ん、ちょっと眠れなくてね。シャワーで身体を温めようと思ったんだ」

瑞鶴「ふぅん。私達と同じね」

「二人もなのかい?」

金剛「そうデス。私と瑞鶴も眠れなくてシャワーを浴びてマース」

瑞鶴「うんうん」

「不思議な事もあるものだね。三人一緒なんて」

金剛「理由なんて色々とありマース」

金剛「──特に、私達三人はそうですよネ?」

瑞鶴「……そうね。私達三人は、ね」

「なるべくバレないようにしていたのだけど……まさかバレていたとはね」

瑞鶴「いやぁ……バレバレだと思うわよ?」

「……え?」

金剛「何日か前を境に、響の様子が変わりましたものネー」

瑞鶴「うんうん。急に雰囲気がちょっと大人っぽくなったっていうか、なんというか」

(絶対にあの日の事だ……。そうか……だから雷はあの夜に……)

822 : VIPに... - 2013/11/13 00:18:38.11 3/RfeVNEo 613/771

瑞鶴「変わったといえば、金剛さんもなんだか変わったわよね。幸せそうにしてるっていうか……」

金剛「んー……私も変わったと分かりましたカー……。確かに、とっても幸せな事があったデス」

「……差支えがなければ、聞いても良いかな」

金剛「んー……。……………………シークレット デース! こればかりは言う訳にはいきまセーン!」

(司令官絡みだね、絶対)

瑞鶴(絶対に提督さんと何かあったわね)

金剛「ただ、一つだけ言うのなら……私は、提督と離れ離れになる覚悟が出来ました」

瑞鶴(え?)

金剛「──さて! 私のシャワータイムはここまでデース。お先に失礼しマース」

(別れる覚悟が出来た……? それってつまり、司令官は金剛さんを選ばなかったという事……なのかな?)

瑞鶴(……どうなんだろう、今の言葉。金剛さんの考えてる事っていまいち分からないのよね……)

(でも……)

瑞鶴(もしかしたら……)

瑞鶴(私達にもチャンスはある……のかな)

……………………
…………
……

823 : VIPに... - 2013/11/13 00:33:57.60 3/RfeVNEo 614/771

天龍「おお、すっげぇ……なんだこれ……」

提督「機械には触らないでくれよ? 何が起きるか分からないからな」

龍田「は~い。天龍ちゃんの事、見張っておくわね~」

天龍「うぐっ……触りたくなったから何も言えねぇ……」

利根「やあ提督! そちらの二人はどうしたんじゃ?」

提督「二人は天龍と龍田。私の鎮守府で頑張っていた良い子だ」

利根「ほほう。提督が褒めるという事は、それだけの事をしてきたのかのう」

天龍「別に……俺達は基本的に遠征をしていただけで、出撃はあまりしてないぜ?」

龍田「あとは哨戒くらいかしら~」

提督「遠征や哨戒も立派な仕事だ。出撃ほど目立ちはしないが、同等の仕事でもある」

利根「ほう。そうなのか」

提督「遠征は鎮守府を運用する資材を集める仕事だ。これが何と何も始まらない。そして哨戒は、出撃している時に母港を護る役割だ。空き巣を狙われて帰る母港が無くなったらどうしようも出来ない」

利根「なるほどのう。うむ! お主達は立派な仕事をしておるではないか! もっと胸を張ったらどうじゃ?」

龍田「本当はもっともーっと役に立ちたかったって言えばいいのにねー、天龍ちゃん?」

天龍「うっせえ!」

龍田「ふふっ。怒っちゃやーよ」

提督「では三人共、夜になったらまた来る。それまでの間はここの事を頼んだ」

……………………
…………
……

825 : VIPに... - 2013/11/13 01:18:41.23 J+Lumwglo 615/771

提督「──いまや艦娘の数は三十にも満たさない。これは深刻な問題だ。よって、私は旧式の軍艦を使おうと思っている」

中将A「それしかないでしょうな」

少将「私も異論はありません」

中将B「私もです」

提督「よし。では試験的にお前達三人に旧式の軍艦を持ってもらいたい。構わないか?」

少将「私達三人ですか? 大将殿はどうなさるおつもりで?」

提督「噂でも知っていると思うが、私は身体が弱い。それ故に、私がいつまでも海軍の指揮をしていては、元帥三名の事故と同じ轍を踏む事となる。これから先はお前達三人が主役となって海軍を動かす事となるだろう。今回はその為だと思ってくれ」

全員「はい!」

提督「では、その内容について話し合おう。まず軍艦の種類などだが────」

……………………。

提督「──さて、今回の解放する子はこの四人だな」

救護妖精「天龍、龍田。今までありがとね」

天龍「……ああ。俺はいつでも良いぜ」

龍田「私もよー。覚悟は出来てます」

提督「────天龍」

天龍「はいっ!」ピシッ

提督「お前は最初、死ぬまで戦わせろと言っていたな」

天龍「え? あ、ああ……」

提督「あの時は叱ったが、お前のその勇気と気力は見事だった。あれは正直、羨ましくも思ったよ。そして、主に駆逐艦の皆を引率して遠征に出掛けていたな。あの時の駆逐艦の子達は、皆笑顔でお前について行っていた。戦闘では敵わない部分を遠征で補おうとしてくれていたのは良く分かっていたよ」

天龍「…………」

提督「龍田」

龍田「はいっ」ピシッ

提督「お前も天龍と同じく、危なっかしい戦い方をしていたが、自分よりも能力面で格上の敵を倒す事についてはお前の右に出る者は居なかった。それを止めさせたのは、お前の身体を思っての事だと──まあ、これはお前ならば気付いていただろうな。……傷付けば痛い。そして、私もお前達が傷付く姿は見たくなかった。今まで、我侭に付き合わせてすまなかった。そんな私を慕ってくれて、私は幸福者だ」

龍田「…………」

827 : VIPに... - 2013/11/13 01:30:37.46 J+Lumwglo 616/771

提督「……天龍、龍田、両名を現刻をもって鎮守府から除籍とする」

提督「二人共、今まで私の為に必死になってくれて、ありがとう──」

天龍「──ああ! 俺達はここで消えちまうけど、提督も頑張れよな!!」

龍田「私達はお先に地獄で待ってますね。──大好きですよ、提督さん」

天龍「俺も大好きだぜ提督!」

提督「ああ。ありがとう、二人共……」

救護妖精「…………」カチッ

天龍「お、おお……足が……。本当に消えてってらぁ……」

龍田「随分とゆっくりなのねぇ」

提督「…………」ポン

天龍「……提督」ナデナデ

龍田「提督さん……」ナデナデ

提督「…………」

天龍龍田「────今まで、ありがとう」

スゥッ──。

提督「…………」

提督「…………」スッ

那智「……逝ってしまったか」

提督「ああ…………」

那智「貴方も、悲しい顔をするのですね」

提督「……生憎と、鉄仮面ではないのでな」

救護妖精「…………私はこの二人を介抱するから、提督は……」

提督「……ああ。天龍と龍田を介抱する」

……………………。

828 : VIPに... - 2013/11/13 01:48:54.43 J+Lumwglo 617/771

提督「…………」

天龍龍田「…………」タジ

天龍(お、おいなんだこいつ!? 逆らったら大変な事になるって頭ん中で警報が鳴り響いてんだけど!?)ヒソ

龍田(奇遇ね、天龍ちゃん……。私、この人には絶対に頭が上がらないと思うわ~……)ヒソ

提督「……天龍と龍田だな」

天龍「そ、そうだ……けど……」

龍田「な……何かし──何でしょうか……?」

提督「…………」

提督「いや、確認しただけだ。……直にスープが出来る。それが飲み終わったら状況を説明しよう」

天龍(なんだ……? 一体こいつは何なんだ……?)

提督「ああ、それと」

龍田「は、はいっ!」

提督「…………無理をして敬語を使わなくて良い。話しやすい口調で話してくれ」

天龍「お、おう……?」

龍田「…………?」

提督「…………」

提督(……初めて出会った時と少し違うが、ほとんど変わらない……か)

提督「……………………」

……………………。

829 : VIPに... - 2013/11/13 02:02:53.49 J+Lumwglo 618/771

天龍「へぇー……俺達が艦娘のベース、ねぇ」

龍田「現実味の無い話ね~……」

北上「そう? あたしは結構信じちゃうかもね」

五十鈴「私は信用できないわね。ていうか、何? こんな布切れを女の子に着させるとか、変態か何かなのアンタ?」

救護妖精「人によって体型が全然違うから、こういうものしか用意できなかったんだよ」

五十鈴「貴女に言ってないわ。私はコイツに言ってるの。見た所、ここで一番偉いんじゃないかしら?」

提督「そこの救護妖精が言ったように、そういう物しか用意出来なかったんだ。鎮守府に来ればまともな服を用意する」

五十鈴「ふん。どうだか。そうやって言い包めて好き放題しそうなんだけど」

提督「…………」ジッ

救護妖精(あーあ……大丈夫かなこの子……)

五十鈴「どうなのよ。言ってみなさいよこの変態」

天龍「おい……止めておいた方が良いと思うぞ……」

那智「私からも警告しておく。それ以上暴言を吐かない方が良い」

五十鈴「はぁ? なんでよ。こんな変態の言う事を聞くくらいならここにずっと居た方がマシだと思うけど?」

龍田「私も止めておくけど、後の事は知らないわよ~?」

五十鈴「ふん。別に良いわよ」

提督「そうか。ではそのようにしよう。全ての子を助けた後にこの施設を完全に破壊し、簡単には見つからないよう出口を全て埋めるのだが、残念だ」

五十鈴「……へ? ちょ、ちょっと! どういう事!?」

那智「どうもこうも、先程から説明を受けていただろう。話を聞かなかったのか?」

五十鈴「あんなもの信用出来る訳ないでしょ!!」

北上「はーい。あたしは信じる派でーす」

天龍「俺もだな。この人はなんだか信用できる」

龍田「私も~。これでも結構疑り深い性格だと思ってたんだけどな~。この人の言ってる事は簡単に信用しちゃった」

五十鈴「う、嘘でしょ……?」

提督「どう思うかはお前の自由だ。推奨はするが、来る来ないも自由だ。お前がこの地下で一生を過ごしたいと思うのならそうすれば良いだろう」

五十鈴「……勝手に出てやる」

831 : VIPに... - 2013/11/13 02:13:43.56 J+Lumwglo 619/771

那智「私ともう一人の見張り件監視役が見逃さんぞ。その場合は縛ってでも外に出さない」

提督「それでも無理矢理外に出た場合は……説明したように大混乱などが起きる前にお前を処分する事となるだろう」

五十鈴「ふ、ふん! そんな事、出来る訳が──」

提督「…………」

五十鈴「な、い………………?」

提督「…………」ジッ

五十鈴「──ひっ!?」ビクッ

那智(やっと気付いたか)

提督「もう一度だけ言おう。どうするかは、全てお前の自由だ」

五十鈴「…………ご、ごめんなさい……」ガタガタ

提督「何に対して謝っている」

五十鈴「暴言を吐いて……信用しなくてごめんなさい!!」

提督「そんな事はどうでも良い。信用出来ないのは当然だ。それと、こんな状況なら暴言の一つでも吐きたくなるだろう」

五十鈴「え……? え…………?」ビクビク

提督「……すまない。少し気が立っていた」スッ

五十鈴「っ! …………?」ナデナデ

提督「…………」ナデナデ

五十鈴「…………」ナデナデ

提督「……さて、前回助けた子達を鎮守府に案内しよう」スッ

那智「…………すまん、私には掛ける言葉が見つからん」

提督「……その言葉だけで充分だ。ありがとう」

……………………
…………
……

845 : VIPに... - 2013/11/15 22:09:55.86 RTIXBGNGo 620/771

提督「……また、嫌な日が来てしまった」

全員「…………」

提督「その言葉だけでもう分かってくれていると思う。……今回も、志願制だ。だが、人数は特に定めない。志願する

者だけにしよう」

神通「あ、あの……提督」スッ

提督「なにかね」

神通「今の今まで聞けませんでしたけど……天龍さんと龍田さんは…………最後、どうでしたか?」

提督「…………」

神通「ごめんなさい……でも、どうしても気になりました……。二人は、私達のルームメイトでもありましたから……



提督「……『今まで、ありがとう』と、一言。最後まで私に気を遣って、笑顔で去って逝ったよ」

神通「そう、ですか……。笑顔で……」

提督「…………」

神通「──では、私が志願します。龍田さんが仰っていたように、誰かが志願しなければなりませんから……」

提督「……分かった」

那珂「……だったら、私も志願するよ」

川内「それだったら私もだね」

提督「お前達もか……」

那珂「だって、私達はいつも一緒だったもんね」

川内「うんうん。時々離れて任務をしていた事もあったけど、大体は一緒だったしね。誰か一人が行くのなら、私達も

行くよ」

提督「…………分かった。──今回は、川内、神通、那珂の三人だ」

……………………。

846 : VIPに... - 2013/11/15 22:11:02.06 RTIXBGNGo 621/771

「……またお仲間さんが消えてしまうのですね」

「仕方が無いわ……。これ以上、艦娘が苦しまないようにするにはこうするしかないんだもの……」

島風「辛いなぁ……。もう、あの天龍さんも龍田さんも居ないんだよね……」

「そして、今度は残った軽巡の皆が……その後は、私達も……」

「……響、このままで良いの?」

「……なにがだい?」

「もうこの際だから言っちゃうけど、司令官の事が好きよね、響」

「何を言ってるのよ雷。そんなの皆でしょ?」

「恋してるって意味よ、暁」

「え!? ちょ、ちょっと本当なの響!?」

「……そうさ。私は司令官に恋している。紛れも無い事実だよ」

「やっぱりでしたか」

島風「私にはまだ恋っていうのが分かんないのに……響、早いね」

「ど、どういう所が好きになったの?」ドキドキ

「優しいから、ですか?」

島風「それとも、お父さんみたいに頼れるから?」

「ん……それがね……」

「──分からないんだ」

「へ?」

「気付いたら、好きになっていた。最初は変な人って思っていたんだけど、気付いたら目で追いかけていて、気付いたら司令官の事ばかり考えていて、気付いたら……司令官を好きになっていたんだ。どうしても理由を付けるなら、好きになったから好き……なのかな」

「じゅ、純粋です! 純粋な愛の気持ちなのです!」キラキラ

島風「好きだから好き、かぁ……。私もそうなのかなぁ……?」

「人の言葉に振り回されるのは良くないと思うわ! 自分の気持ちは自分で確かめるものよ!」

島風「むー……」

「雷の言う通りだよ島風。自分の気持ちは自分でハッキリさせなきゃね」

「……それ、響にも言えないかしら?」

「私はこの好きって気持ちさえあればそれで良いよ。好きだから好き……私はこれを気に入ってる。特別理由をつける必要もないと思うよ」

「それよりも雷、これで良いのかって、どういう事だい?」

「最後に司令官と色々としたいんじゃないかって事よ」

847 : VIPに... - 2013/11/15 22:11:39.24 RTIXBGNGo 622/771

「…………」

(色々……? 一緒に食事とかかしら?)

「ん……それは勿論そうなんだけどね。ちょっと思う所があるから考えてる所なんだ」

「思う所?」

「こればかりは言えないから秘密だよ」

(なるほど。そういう事ね)

(あー……なんとなく分かっちゃったのです。でも……私達の身体って、まだまだ子供……ですよね?)ペタペタ

島風(響は本当に早いなぁ……。嫉妬しちゃう)

(言えない事……? ──はっ! もしかして、一緒にお風呂……とか……!?)アワアワ

「だから、何か行動を起こすにしても、もうちょっと考えてからにするよ」

「……要らないお節介だったわね。ごめんね?」

「ううん。雷は私を思ってくれて言ってくれたんだから、むしろ嬉しいよ」

「──話は変わるけど、今日は皆で一緒の布団に入って寝ないかい?」

「あっ、それ凄く良いと思うのです!」

「私も賛成よ!」

島風「うんうん! 早速床に布団を敷くね!」

「あ、こら! ……もう、仕方がないわね……」

(……司令官と、どうしたいか……か)

(…………どうしたいんだろうね、私は……)

……………………
…………
……

848 : VIPに... - 2013/11/15 22:12:13.24 RTIXBGNGo 623/771

救護妖精「……準備完了。いつでもいけるよ」

川内「……いよいよだね」

神通「はい……。ここで提督や、皆ともお別れですね……」

那珂「短かったねー……」

提督「お前達とも、ここでお別れだな……」

川内「……提督、最後に私達からお願いがあるんだけど、良いかな」

提督「なにかね」

神通「提督はお優しいですから、私達に最後の言葉を贈ろうと思っていませんか? ……もしそうであれば、その言葉は仕舞っていて欲しいんです」

那珂「提督が余計に辛いもんね……」

川内「別れは綺麗にサッパリと! 私達は、いつも通りにして別れようと思うんだ」

提督「……いつも通り?」

那珂「そう。いつも通り、提督の艦娘としてね! ──これが、私達の最後のお仕事ですから!」

提督「……………………分かった。いつも通りにしよう」

提督「──川内、神通、那珂。三人に仕事を与える。……消え逝く自分達の魂を、導いてやってくれ。これは最重要任務である」

川内神通那珂「はいっ!!」ピシッ

救護妖精「…………」カチン

川内「おお……消えていってる……」

神通「でも、なぜでしょうか……。まったく怖くないです」

那珂「むしろなんだか安心出来るよねー。ふっしぎー」

提督「……川内、神通、那珂」

那珂「なーにー? 提督ー?」

提督「──今まで、ありがとう」

川内「──うん! 私こそありがとね! 楽しかったよ!!」ピシッ

神通「はい……。とても、とても嬉しかったです」ピシッ

那珂「さよーならっ!」ピシッ

スゥッ──。

救護妖精「……逝っちゃったね」

提督「ああ……」

那智「……逆に堪えそうだが、良かったのか?」

提督「頼み事をした事が無かった三人の頼み事だ。……出来るのなら、叶えてやるべきだ」

那智「……不器用だな」

提督「まったくな……」

那智「貴方もだ」

提督「……ああ」

……………………
…………
……

849 : VIPに... - 2013/11/15 22:13:15.28 RTIXBGNGo 624/771

提督「…………」

川内「…………」

神通「…………」

那珂「何ここー? 何これー? 怪しい実験場みたいだよー!」

川内「……那珂、静かにした方が身の為だと思うよ」

那珂「えー、どうしてー?」

神通「この方が、ただならぬ雰囲気を持っているからですよ」

那珂「ふーん? はっじめましてー! 自称だけど、アイドルの那珂ちゃんだよー! よっろしくぅー!」

提督「……ああ、はじめまして」

那珂「ところでー、ここはどこですかー? あと、なんでスラム街の子が着てそうな服を私達は着てるのー?」

提督「それらについては追々説明しよう。腹も空いているだろうから、今スープを用意している。それからで良いか」

那珂「はーい! わっかりましたー!」

神通「あの……うるさくしてしまってごめんなさい……」

提督「構わんよ。あまりにも耳障りと感じたら吊るす」

川内那珂「吊るす!?」ビクゥ

提督「ああ吊るす。ここに居る者達の目の前で晒し者になるように吊るす」

川内那珂「し、静かにします!!」ピシッ

提督「…………」

神通「川内……なぜ貴女も?」

川内「や、怖いから……。私もなんだかんだで寝言とかうるさいしね……」ビクビク

神通(怖い……? むしろ優しそうに見えるけど……)

那智「寝言がうるさいのは困る。その時は私も制裁しよう」

川内「ひぃっ!?」

提督「さすがにそこまでやると可哀想だ」

那智「……すまない」

川内(こ、この人も怖い……!!)ビクビク

……………………。

850 : VIPに... - 2013/11/15 22:13:43.71 RTIXBGNGo 625/771

川内「ふぅん? じゃあ、私達がその艦娘の素なんだ?」

提督「信じなくても構わない。私は信じさせる何かを持っている訳ではないからな」

那珂「私は信じるよー」

神通「はい。私もです」

川内「私も私もー!」

提督「…………」

那智「随分と鵜呑みにするな。どういう心境だ?」

川内「えー、だってこの人すっごい真面目に話してるし。胡散臭くもないしね」

神通「はい。目を見れば分かります。何を考えているのかは良く分かりませんが、嘘を吐いていないというのだけは分かります」

那珂「私は楽しそうだから!」

那智「お前の理由は凄まじく不純だな」

那珂「えー? 人生は楽しんでなんぼだよー?」

提督「……そうだな。人生は、楽しんでこそ意味がある。私もそう思うよ」

那珂「ほらー」

那智「……ちっ」

川内「その話は良いんだけどさ、私達ってそんなに外に出ちゃ危ないの?」

提督「ここでは、な。遠く離れた場所ならば問題無いだろう」

神通「それが、私達を貴方の鎮守府へ連れて行く理由ですか?」

提督「厳密には違うが、そう考えてもらって良い」

那珂「じゃあそういう事で決まりだねっ! 那珂ちゃん、今からでも楽しみだよー!」

提督「期待する程ではないだろうが、楽しんでくれると私も嬉しい」

川内「私達が楽しむと貴方が喜ぶの? なんだか不思議な話だねー」

神通「でも、その心配はしなくても大丈夫だと思います。私も楽しみにしていますから」

川内「へぇ。神通がそう言うのって珍しいね」

神通「はい。自分でも少しびっくりしています」

那珂「那珂ちゃんねー、ちょっと眠たくなってきたんだけど、どこで寝たら良いのー?」

救護妖精「マイペースだねぇ那珂は。そっちに仮眠室があるから、そこで寝なー」

提督「…………」

……………………
…………
……



続き
金剛「テートクのハートを掴むのは、私デース!」瑞鶴「!?」 #05


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