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先頭: ほむら「キュゥべえをレイプしたらソウルジェムが浄化された」#01
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1 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/15 17:00:24.50 pCCsqoRAO 1252/1642

ほむら「4スレ目ですって……? とりあえず注意書きよ」

バカエロ
生える
誰てめえ
厨二病。

オリジナルな色々。

ほむら「あーあ、遂にまとめちゃったわ>>1」ホムゥ

まどか「ほむらちゃんのお話も、もうすぐ終わりそうだね」ウェヒヒ

マミ「少し寂しいかしら」マミーン

杏子「いーよいーよ、さっさと書くに越した事無いしな」モグモグ

さやか「さやかちゃんの活躍をお楽しみにね!」

キリカ「あ、注意書き足りてないよ」

過激な戦闘描写

織莉子「腕が良く無くなるのよね」

ゆま「ゆまが回復出来なかったら大変だよね!」

ガヤガヤワイワイ



QB「……やれやれ、賑やかなものだね」

QB「『キュゥべえをレイプしたらソウルジェムが浄化された』、愛称キュベレイ。ボクと契約して、新スレを読んでよ!」

ほむら「ほら、キュゥべえもこっち来なさい」ホムッ

QB「分かったよほむら」きゅっぷい

33 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/18 00:40:51.78 v10uP0rAO 1253/1642

――――満身創痍。

ほむら「生きてる……?」ズリズリ

マミ「何とか……お腹がスースーするわ……」ゲフッ

ほむら「あら、素晴らしい減量ね。羨ましいわ」ホムッ

マミ「貴女だって、腕二本ないじゃないのよ」フフッ

ほむら「ふふっ……」

マミ「あはは……」

ほむら「生きてて良かったわ」

マミ「ありがと。助けてくれて」

タタタ……

杏子「マミ! ほむら! 大丈夫か!?」

ほむら「なんとか」ホムッ

キリカ「身体の損傷が酷いね。ゆまの出番だ」

ゆま「任せて……むむむっ」ポワワー

ほむら「マミを先に頼むわね」

織莉子「あら……そう言えばあの魔法少女は?」キョロキョロ

さやか「――うわ、ひ、酷い」ビクッ

まどか「――っ」

ほむら「余り見る物じゃないわよ。気持ち悪いし」ホムッ

『おい、暁美ほむら……暁美ほむら!』テレパシー

ほむら「ん……? ユウリ、かしら?」

ユウリ?『ここだよここ! 拾ってほしいんだけど』

さやか「……ん?」ヒョイッ

さやか「――これ、ソウルジェムじゃない?」

ユウリ『おい、乱暴に扱うなよ! ソレが私なんだ!』

ほむら「えっ」

一同「ええぇぇぇぇぇぇ!!?」

34 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/18 00:42:17.62 v10uP0rAO 1254/1642

――――

ほむら「成る程。さっきのは結界の中だったからなのね」ホムッ

ユウリ『あぁ。実際は身体なんてないから……ソウルジェムとして存在するのが瀬戸の際さ。不便で嫌になる』

ほむら「でも、一体どうやって?」

ユウリ『お隣さんが力を貸してくれたんだよ。感謝しとけば?』

ほむら「お隣さんって……まどか……」

まどか「…………」

ほむら「グリーフシードになっても私を守ってくれているのね……」

ユウリ『ま、そういう訳。これで私も晴れて魔法少女って事』

QB「ふむ、比較的興味深いね。やはりキミは極めつけのイレギュラーだよ、暁美ほむら」

ほむら「そう。私には、貴女の方がイレギュラーに見えるけれどね」

QB「ボクが? キミらしくない見当違いだね」

QB「さて。今日の所は引き上げるとするよ。まどかとの約束を忘れた訳じゃないからね」スゥッ

ほむら「賢明ね…………っぅ」ズキッ

まどか「――ほむらちゃん!?」

さやか「アンタもマミさんも……そんなになってどうして戦うのよ」

マミ「自分の信じる何かの為に、かしら……イタタ」

ゆま「しゃべっちゃダメ……」ポワー

ユウリ『私ならもう少し速く治せるんだが……結界外ではどうにもならないわ』

織莉子「結界? なら……」

キリカ「もしかして、私の出番かな?」

35 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/18 00:43:09.88 v10uP0rAO 1255/1642

――――キリカ、小結界展開

ユウリ「やった! 身体戻った!」

ほむら「結界なら何でも構わないみたいね」ホムッ

ユウリ「こりゃ便利だ。ま、腕出しなよ」スッ

ホワン……

ほむら「貴女の世話になるのは二度目ね」フフ

ユウリ「まさか死んだ後に出会えるとは思っていなかったけど」ククッ

まどか「…………」

ほむら「まどか」

まどか「……何かな、ほむらちゃん」

ほむら「怖かったかしら?」

まどか「……それは」

ほむら「でも、これが魔法少女なのよ。血と、苦痛と、死にまみれている」

ほむら「だから……本当の事を言うと、貴女に拒否されたら私たちに強制権は無い」

ほむら「さやかも、安易な気持ちで契約はしないで」

まどか「……でも、そうしたらほむらちゃん達はやられちゃうよ」

ほむら「そうね……でも、貴女には私たちを見捨てて逃げる事も出来るわ」

ほむら「貴女はそんな事しない。けれど、そうしても誰も恨まない事は知っていてほしいの」

まどか「私、は……」

さやか「…………」

36 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/18 00:45:38.88 v10uP0rAO 1256/1642

――――まどか宅、深夜

まどか「…………」モゾ……

『突っ込む!』

まどか「……魔女と戦うのは、怖いよ」

まどか「みんなあんなにボロボロになって、死にそうになって……」

まどか「でも、ソレより……ほむらちゃんが怖かった」

まどか「呪いを振り撒くのが魔女なら……あの時のほむらちゃんは――」

タダイマカエッタゾーイ!

まどか「ん?」ガバ

知久「まどか、起きてるかい?」コンコンッ

まどか「パパ?」

ガチャッ

知久「良かった。ママを寝かせてあげたいから、手伝ってくれないかな?」

まどか「分かった……すぐ行くね」トテテ

――――玄関

詢子「うー……」グテー

タツヤ「マーマ、ねうー?」ベシベシ

詢子「むすこぉ……母はいたいぞー……」モゾモゾ

タツヤ「エヘァーイ!!」キャッキャッ

知久「コラコラタツヤ、駄目だよ。まどか、そっち持って」ヨイショ

まどか「うん」コラショ

37 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/18 00:47:03.28 v10uP0rAO 1257/1642

――――リビング

知久「ありがとう、まどか。ココア飲むかい?」コポポ

まどか「あ、うん」カタッ

知久「はい、熱いから気を付けてね」コト

まどか「…………」ズズ……

知久「……何だか元気が無いね。悩みでもあるみたいだ」ズズッ

まどか「……パパには分かるの?」

知久「そういう時のママとおんなじ顔をしているからね。パパで良かったら、話してごらんよ」

まどか「……パパはさ、誰か困ってる人がいて――その人を助けてあげたいけど、それはとっても恐い事で」

まどか「そういう時、どうする?」

知久「……いじめがクラスであったのかい?」ムム

まどか「あ、ううん。違うの、全然違う……でも、そういう状況」アセッ

知久「それならいいんだけど……でも、難しいね」

知久「助けたい、けど恐い。でも、まどかはどうだい?」

まどか「え?」

知久「助けなかったら、まどかはその後どう思う?」

まどか「私は……きっと後悔すると思う」

知久「そうだね。なら、やらずに後悔するのと、やって後悔するのと……どっちにしたって変わらないんだ」

知久「なら、まどかが選びたい方で良いんだよ。後悔が少ない方を選ぶべきだ……それが、目の前の壁だけなら尚更ね」

まどか「……うん、そうだね。ありがとう、パパ」ニコッ

知久「たまにはパパもカッコつけれたかな?」アハハ

まどか「もう、パパったら」アハハッ

62 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/19 00:50:50.97 +vH3kGgAO 1258/1642

――――自主休講

ほむら「あー……今日は学校無理だわー……」ダルー

マミ「だからって私の家に来なくても……」

ほむら「…………」ジー

マミ「?」キョトン

ほむら「心配だからよ。それ以外の何物でもないわ」ホムッ

マミ「……そうストレートに言われると恥ずかしいわね」テレリ

ほむら「身体の調子は?」

マミ「とりあえずは問題無いわ。ご飯だって食べられるわよ」フンス

マミ「ゆまちゃんもそうだけど、あのユウリって子……凄い魔力ね。半端じゃないわ」

ユウリ『当然さ。アタシはユウリなんだからな』

マミ「――びっくりしたわ。もしかして?」

ほむら「えぇ。指輪形態で一緒にいるわ」ホラ

ユウリ『不本意ながら物質系マスコットだ、宜しく』

マミ「もう大抵の事では驚かないと思っていたけど……これは流石にね」

ほむら「私も驚いているわ。でも……」ナデ

ユウリ『オイこら、くすぐったい』

ほむら「とても嬉しいの。奇跡は起こるって、知る事が出来たから」

ほむら「きっと、上手くいくわ。今度こそね」

ユウリ『オイオイ、何だか変わってないかアンタ。もちっと棘があったような……』

ほむら「色々あったのよ。貴女と別れてからもね」フフ

マミ「ユウリさんのお話も聞いてみたいわね」

ピンポーン

マミ「と、その前に来客ね」カタッ

63 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/19 00:52:22.40 +vH3kGgAO 1259/1642

――――黒と白とアリスのお茶会

ユウリ「シャバの空気は旨い」プハァ

キリカ「軽い結界でも顕現は出来るようだね。まぁ、その分弱くなってるみたいだけど」キィン――

ユウリ「しっかし器用なモノだな。半分魔女なんて、不安定じゃない?」

ほむら「私たちからしたら貴女の方が凄いの」ホムッ

織莉子「えぇ。祈りの原点が既に魔女、なんて例はなかなかありませんよ」

ユウリ「かね、やっぱり」ポリポリ

マミ「はい、お茶とお菓子よ」コトッ

織莉子「キッチンに行ったと思ったら……言ってくれれば用意しますのに」

マミ「お客さんのおもてなしくらいさせてほしいわ」クスッ

ほむら「あら、私たちは客じゃないわ。仲間よ」ホム

マミ「なら、尚更美味しいお茶をごちそうしなきゃ、でしょ?」

ほむら「それもそうね」ズズー

キリカ「飲むんかーい」ビシッ



ほむら「……ユウリは」

ユウリ「ん?」

ほむら「この紅茶を、『どの立場』で飲むの?」

64 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/19 00:53:49.69 +vH3kGgAO 1260/1642

ユウリ「……ふぅん。なかなか難しい問い掛けだ」フム

ユウリ「だけどな、暁美ほむら」

ほむら「…………」

ユウリ「こうやって話しているのだって、結界が無ければ出来ない事だ」

ユウリ「大体、こうやって出てきたのだって……その、アレだ」

ほむら「?」キョトン?

ユウリ「ほら、約束したろう? だから、その……」シドロモドロ

ほむら「?」キョトトン?

ユウリ「――死ね! もう死んでしまえ!」ガバッ!

ほむら「え、ええっ、ちょっ、まっ――」バタバタッ

マミ「三行で」ズズ……

織莉子「未来で、フラグ、立てた」ズズー……

キリカ「わーお」ズズー……

65 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/19 00:56:03.47 +vH3kGgAO 1261/1642

――――

ほむら「わ、分かったわ……とにかく、一緒に戦ってくれるのね?」ゼーハー……

ユウリ「そうだよ……当たり前だろうが」ゼハーゼハーー……

マミ「暁美さん、衣服の乱れ凄いわよ」

キリカ「見えてるよー」モグモグ

ほむら「見苦しいモノを見せたわ……で、ユウリ」

ユウリ「なにさ」

ほむら「それなら貴女の奇跡も使いたいのだけれど、良いかしら?」ホム

ユウリ「あぁ、あの盾から色々出してたヤツか。良いよ、やり方は知らないけど」

ほむら「手を出して……そう」スゥ

ほむら「『悠理』」パァッ

ほむら「……あら? 武器が出ないわね……?」ホム?

マミ「あら……」カァッ

キリカ「スレンダーだね、暁美ほむらは」

織莉子「少し胸囲が寂しいわ」

ユウリ「――はっはっは! こりゃあ傑作だよほむら! 自分の姿を見てみるんだって!」ゲラゲラ

ほむら「え?」チラ

ほむら「」

ほむら「」

ほむら「な、何よこの恰好ぉぉぉぉぉぉ!!?」カァァァッ

ユウリ「アタシの魔法装束だね……いやぁ、まさか服とは思わなかった……」ヒーヒー……

66 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/19 00:57:21.93 +vH3kGgAO 1262/1642

ほむら「こ、こんなのどうやって使うのよぉ……ほとんど裸みたいなモノじゃないのよ……」モジモジ

キリカ「いや正直裸より恥ずかしいよ?」

ユウリ「喧しいわ」

ほむら「お、恐らく決まった武器みたいな魔法が無いからこうなったのね……イル・トリアンゴロとか、魔法の使い方が頭に流れ込んでくるわ」シュンッ

織莉子「(あ、戻った)」

マミ「(よっぽど恥ずかしかったのね)」

キリカ「貧相な身体が余計にエロスを――」

ほむら「もう勘弁して……」ホムム……

67 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/19 00:57:48.53 +vH3kGgAO 1263/1642

――――学校、放課後の二人。

まどか「さやかちゃん、帰りどうする?」

さやか「……一応、マミさんのマンションに行こうと思ってるんだけど」

まどか「私もだよ。心配だもん」

さやか「……魔法少女の事もさ、真剣に考えなきゃ。そう思ってね」

まどか「……そうだよね」

さやか「ま、くよくよしてても仕方無い! 仁美、悪いけど先に帰るわー」

仁美「またお二人で……ほどほどにした方がよろしいですわよ?」ウフフ

さやか「それは絶対、間違いなく、勘違いだからね?」

68 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/19 00:59:41.70 +vH3kGgAO 1264/1642

――――マミ宅

さやか「で」

ワイワイガヤガヤ

さやか「なんですかねこの有り様はさー!! シリアスな気分で来たこっちの意見は無視ですかー!」

杏子「くっそ死ね! メタナイト死ね!」カチカチ

ユウリ「ははっ、いいね。もっと見せてよその顔!」カチカチッ

杏子「うぜぇ。ちょーうぜぇ!」カチカチ

ほむら「食らいなさい、ほーむらンバット!」ポーイ

杏子「ほむらぁぁぁぁ! それは投げるアイテムじゃねぇ――死んだ……おもむろに投げられたバットで死んだ……」ガクー

織莉子「遠くからPKサンダー撃ち込むだけの簡単な作業ね」PKサンダー!

まどか「スマブラしてる……魔法少女スマブラしてるよさやかちゃん」

さやか「夢も希望も無いよ……」

マミ「つい最近買っちゃったのよ」テヘッ

キリカ「だけど、大事だよ。魔法少女になったからといって、かつて自分が人間だった事を忘れてはいけない」

キリカ「ソレを忘れてしまったら、もうソレは魔法少女じゃない。ただの化物だ」

キリカ「だからコレでいいのさ。こうじゃなきゃ嘘だ」ククッ

ゆま「キョーコ、ひだり!」アワワ

杏子「なんでほむらそんなホームランバット引くんだよおかしいだろ!?」チクショー!?

ほむら「選ばれし者だからよ」ホムッ

まどか「……すごいね」アハハ

さやか「……まぁ、うん」ハハッ

84 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/20 01:09:38.04 2Jxh0dCAO 1265/1642

――――学校。放課後。

ほむら「さて、今日の授業終わり、っと……」

ほむら「(簡単過ぎて逆に間違ってないか心配なのよね……)」ホムゥ

さやか「おーい転校生、今日は暇?」

ほむら「一応予定は無いわ。上条恭介の件かしら?」

さやか「あ、まぁね」

ユウリ『あぁ……青いのの恋人だっけ?』

さやか「ばっ、ばかっ!?」カァッ

ほむら「まだよ」ホムッ

ユウリ『まだかー』

さやか「う、うるさいなぁもぅ……」カァッ

まどか「私も行っていい?」ティヒヒ

さやか「うん。ありがとね……仁美はどうする? 途中まで一緒に帰る?」

仁美「……いえ、私お稽古がありますので」

さやか「そっか。じゃあ、またね」

85 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/20 01:10:33.90 2Jxh0dCAO 1266/1642

――――道すがら

さやか「仁美が、ねぇ……やっぱ冗談でしょ?」

ほむら「それならどんなに良いか……」フゥ

さやか「んー、分かんないなぁ……ホントに好きならさ、さっき誘った時に来るんじゃない?」ンー

まどか「まぁね……そうかも」

ほむら「……これは仮定なのだけれど、もしかすると――酔っているだけなのかもしれないわね」

さやか「酔ってる、って?」

ほむら「自分は良家のお嬢様。日々学校とお稽古で、自分の時間なんて無い」

ほむら「そんな自分が、バイオリンの天才奏者に恋をした」

ほむら「そら。そんな自分は、悲劇のお姫様じゃないかしら?」

ほむら「そんな自分は、とても気分が良くないかしら。まるで物語の主人公の様に、人生に悲劇が満ちている様に見える」

ほむら「その実、生は温く、心は凡で、身は人なのに」

さやか「な、なるほど?」ン?

まどか「恋に恋してる、って事かな?」

ほむら「そうよ。他人から見れば、酷く滑稽。全く子供の恋愛だわ。年相応で良いんじゃない?」

さやか「――そんな言い方は、私、怒るよ」グッ

ほむら「……そう。だから、私は貴女が好きよ」

86 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/20 01:11:43.31 2Jxh0dCAO 1267/1642

さやか「へっ?」

ほむら「他人の為に自らの犠牲を厭わない。他人の為に怒り、悲しみ、涙する事が出来る」

ほむら「欠点を上げるなら、情熱的過ぎる事かしらね。生きる事にも、恋愛にも、正義にも、ね」

さやか「ちょっ、やめ、変な顔になるからっ」アワワ

まどか「さやかちゃんったら……」ウェヒヒ

ほむら「さやか。私はね、上条恭介も志築仁美も好きじゃないわ。あんまりね」

ほむら「何時の時間軸だって、二人は貴女を傷付ける……」ギリッ

ほむら「……それがこの時間軸で無いとしても、性根は変わらないから」

さやか「心配無いよ……私もさ、そうやって聞いていたら……覚悟? くらいは出来るからさ」

まどか「もう隠さなくなってきちゃったねさやかちゃん」ウェヒヒ

さやか「モロバレだしねぇ……アタシのプライバシーはどこだー……」ハァ

87 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/20 01:12:32.02 2Jxh0dCAO 1268/1642

――――病院

まどか「ちょっと……私こっちに」モジモジ

ほむら「(あぁ、トイレね)」ホムッ

ほむら「さやか、先に行ってて。私たちは後から行くから」ホムホム

さやか「あ、うん。分かった、恭介にCD渡しとかないといけないし……転校生、バイオリン持ってきてる?」

ほむら「盾の中よ」ホムッ

さやか「うん、じゃあ後でお願いね」テクテク

ほむら「待たせたわ」ホム

まどか「も、漏れちゃうぅぅ……」プルプル

88 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/20 01:13:10.06 2Jxh0dCAO 1269/1642

――――上条恭介の病室。

上条「…………」

上条恭介は自身の左手を見た。

何と役立たずなんだろうか。
動かす事叶わず、一生をこんな無様に過ごせと言うのか。

選ばれたんじゃないのか、自分は――

上条「くそっ……」

悔しさにソレを机に叩き付けようとも、痛みを感じる事は無い。

そんな殺伐とした雰囲気を塗り替えるように、さやかは扉を開けて部屋に入ってきた。

さやか「恭介、調子はどう?」

上条「さやかか……」

全く能天気そうで、羨ましい限りだ。
悩みなんて一欠片も持ってないだろう、その緩んだ顔に苛立ちを覚える。

さやか「恭介、これ新しいCD。今回はさやかちゃん自信あるよー」

またか。
もううんざりだ。

上条「さやかはさ――」

上条「さやかは、僕を虐めているのかい?」

さやか「え?」

上条「何で今でもまだ僕に音楽なんか聞かせるんだ。嫌がらせのつもりなのか?」

さやかの表情がみるみる変わる。
『そんなつもりじゃない』と、表情が物語っていた。

89 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/20 01:16:58.00 2Jxh0dCAO 1270/1642

さやか「だ、だって恭介音楽好きだから――」

音楽が好きだから。
そうだろうね。確かに好きだよ。だけどさ。

上条「もう聞きたくなんかないんだよ!!!」

さやか「ひっ!?」

上条「自分で引けもしない曲、ただ聞いてるだけなんて――!!」

くそ――くそっ!

上条「僕は――僕は!」

苛立ちをCDプレーヤーに向ける。
上条「こんな、手なんて!」

ただの棒の様な左腕で殴ると、それは呆気なく壊れてしまった。

まるで自分をあっさり否定されたようだった。

さやか「――っ」

さやかは恭介の左腕を咄嗟に抑える。
血は当然流れ出る。
だって、感覚は無いと言っても生きてはいるのだから。

さやか「――、――っ」

さやかは突然の事にパニックを起こす。
このように癇癪を起こす幼なじみは、見たことがないのだ。

上条「動かないんだ……もう、痛みさえ感じない――」

さやか「――大丈夫だよ、きっと何とかなるよ……諦めなければ、きっといつか――」

上条「諦めろって言われたのさ……っ!」

慰めようと必死なさやかを振り払う。
そんな同情は要らなかった。

90 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/20 01:17:25.54 2Jxh0dCAO 1271/1642

上条「もう演奏は諦めろってさ。先生から直々に言われたよ。今の医学じゃ無理だって」

上条「僕の手はもう二度と動かない。奇跡か、魔法でも無い限り治らない」

さやか「っ」

奇跡か、魔法――!

さやか「あるよ」

上条「何がだよ!」



さやか「――奇跡も、魔法も、あるんだよ」



上条恭介は、この期に及んで楽観的な言葉を吐く美樹さやかが――酷く鬱陶しかった。

上条「うるさい!」

さやか「きゃ――」

突き飛ばされたさやかを受け止めたのは――

ほむら「随分と荒れているわね、上条恭介」

――いつの間にかソコにいた暁美ほむらだった。

91 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/20 01:18:06.74 2Jxh0dCAO 1272/1642

――――

まどか「さやかちゃん……」

さやか「な、何だよー、何ともないって……」

気まずそうに頭を掻いて苦笑する美樹さやかが、とても不憫だった。

上条「暁美さんか……ゴメン、見ての通り今は気分じゃないんだ。手もこんなだしさ、ハハッ」

ほむら「逃げられると思って?」

上条「えっ?」

ほむらが上条の左手に、自分の同じ方の手を重ねる。すると、彼の傷は跡形も無く消えていた。

上条「なっ――」

ほむら「(ありがとう)」

ユウリ『どういたしまして、かな』

ユウリのソウルジェムから微弱な癒しの力を放っただけだったが、存外効果はあったようだ。
もっとも、彼の左手が動くようになるわけではないが。

上条「な、何だコレは……」

ほむら「コレで良いでしょう? バイオリンを持ってきたの。屋上で聞かせてあげるわ」

無表情でそんな事を言うほむらに上条恭介も流石に、凶暴に口を開いた。

上条「……さっきの話聞いてたんだろ。嫌みのつもりかい?」

ほむら「貴方の受け取り方次第じゃない? ところで、その左手は一生動かないの?」

ほむらがソレを指差して、意味深に問い掛ける。

92 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/20 01:19:16.77 2Jxh0dCAO 1273/1642

上条「――だから! もうバイオリンは弾けないんだって――」

ほむら「答えが違うわよ。私は『一生動かないのか』と聞いたの」

上条「……ふん。長い時間を掛ければ、芋虫程度には動くようになるさ。キミの手ぐらいにはね」

随分と棘がある。
無知故の蛮勇とは言え、久々に面白かった。

まどか「上条君、そんな言い方――!」

まどかに手をかざして制止を示すほむら。
ほむらの事だから何か考えがあるのだろうと、まどかは口を閉じる。

ほむら「へぇ。なら良いじゃないのよ。生活には困らないし」

上条「……君はよくよくと僕を知らないようだね」

ほむら「……ふむ。なかなかに鬱屈してるわね。苦労するわよ、さやか」

目の前の男に些か呆れを覚えながら、さやかに振り返る。

さやかは目を丸くして状況に流されるばかりだった。
優しい笑顔を送る。

ほむら「……上条恭介。貴方が学業を終えた、次の4月からで良いわ」

ほむら「どうやって朝食を食べるのかしら?」

上条は突然の、しかも意味の分からない質問に辟易する。
目の前の人物が、まるで分からない。

93 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/20 01:19:57.49 2Jxh0dCAO 1274/1642

上条「……そりゃあ、和食ならお箸で――」

ほむら「バカか、クソガキが」

上条まで目を丸くする。
おおよそ目の前の可憐な少女が使う言葉使いでは無かったから。

ほむら「はぁ……そういう話じゃないわ。貴方はそのご飯を、どうやって買ったの? お金は?」

上条「そ、そりゃあ仕事を始めているだろうし……」

ほむら「じゃあ、その仕事は何?」

上条「……さてね。もうバイオリンは弾けないから、分からないよ」

上条は調子を取り戻した。
今や二人の間には火花さえ見える。

いや、見えているのは上条だけだろう。
ほむらにとって、この問答は勝負にすらならないのだから。

ほむら「バイオリンが弾ければ、何か働き口があるのかしら?」

上条「……当然さ。僕なら、プロのバイオリニストにだって簡単になれるからね」

ほむら「傲慢ね」

上条「――何だと?」

94 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/20 01:23:43.91 2Jxh0dCAO 1275/1642

ほむら「傲慢だと言ったのよ。貴方より優れたバイオリニストなんて世界にザラにいるわ。それでもそうと言い張る、根拠は何?」

上条「だって、僕はそう言われて今まで――!」

ほむら「他人に言われるがまま、優越を甘受し、羨望を受けて世に憚る。それは構わないわ、でもね――」

ほむら「――それは、他人に見捨てられた時に全て失う……砂上の楼閣と、何が違うの?」

ほむら「『子供なのに』『若いのに』」

ほむら「貴方の評価は、所詮接頭語にコレが付く」

ほむら「貴方が年を喰って行くに連れて、評価はより現実を裁く」

ほむら「そうなっても、貴方は本当にバイオリンに愛されているのかしら?」

上条「う……」

ほむら「この世で一番偉大なのは農家よ。生に直結する彼らの仕事は、故に尊い」

ほむら「逆に言えば娯楽の類いなんて、切り捨てても生きる事は出来る。貴方は、自分のやっている事の評価が……他人に依存している事に気付いていないのよ」

95 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/20 01:24:21.24 2Jxh0dCAO 1276/1642

上条「……う、うるさいうるさい! 君みたいな普通の子に、僕の気持ちなんて分からない!」

上条「僕にはバイオリンしか無いんだ……そうやって生きてきたんだ!」

その言葉を待っていた、と言いたげにほむらは意地悪く笑った。

ほむら「ふーん……バイオリンしか無い、なんて言うのね。バイオリンの弾けない貴方に、価値なんてないと?」

上条「そうだよ! 所詮僕はそれだけなんだ……もう放っておいてくれよ!」

ほむらがまた後ろを振り返ると、怯える二人を見て取る事が出来た。
少し怖がらせてしまったようだ。

ほむら「まどか、車椅子の用意を……立ちなさい、上条恭介。立て」

恭介の身体を無理矢理に起こし、反抗するそれをあっさり車椅子に叩き込んでしまった。

96 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/20 01:24:53.23 2Jxh0dCAO 1277/1642

さやか「ほ、ほむら、何するのよ……?」

上条「何のつもりだよ……」

ほむらは自ら車椅子を押し、二人はおずおずと後を着いてきていた。
看護婦の視線は、この際無視だ。

ほむら「私、貴方の演奏を録画で見たのよ」

上条「……何時のだい?」

ほむら「一番最近のよ。率直な感想を言っていいかしら?」

上条「どうぞ。どう感じたのか僕も気になるさ」

この自信を、他に向けてほしいモノだ。

ほむらは屋上のドアを開いた。





ほむら「子供が玩具担いで遊んでる様にしか見えなかったわ」

97 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/20 01:25:24.94 2Jxh0dCAO 1278/1642

――――屋上。夕焼けがほむらを照らして淡く輝く。

上条「――はっ! よくもまぁ、そんな啖呵を切れるものだね」

鼻で上条恭介は笑う。

そんな彼に、ほむらは問い掛けた。

ほむら「上条恭介。貴方にとって、音楽って何?」

上条「僕にとって? そりゃあ当然得意な事さ。僕の手足と言っていい」

ほむら「そ。私はね――」

虚空からバイオリンが現れる。
最高級の魔法楽器、ストラディバリウス。

彼はある意味で幸運だ。
数百年使い込まれた道具と、幾千年使い込んだ担い手の奏でる旋律を――聴くことが出来るのだから。



ほむら「――命だと思うの」

弦が、言葉を発して――

98 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/20 01:26:35.08 2Jxh0dCAO 1279/1642

――――世界で一番美しかった、屋上。

ほむら「――ふう」

最後の音を空に放って、ほむらはその手を止めた。
楽器はただ主の為すままに奏でただけで。

だが。

上条「――、――――、――」

もはや過呼吸で倒れんばかりに、呼吸も儘ならない上条恭介。

どうやら天才の名は強ち間違いでも無いらしい。
感受出来るだけ、大したモノだ。

さやか「凄い……」

まどか「わぁ……」

そう。普通の反応はこうだ。

ほむら「上条恭介」

上条「――、――何だよ」

ほむら「どうかしら。貴方のお遊びよりかは、幾分か上手だと思うのだけれど」

上条「――っ」

ほむら「貴方、言ったわよね。バイオリンの出来ない自分に価値なんて無いって」

上条の車椅子に近づいて、人差し指を彼の額に突き付ける。

ほむら「違うのよ。貴方がバイオリンを弾けようが弾けまいが、私の劣化である時点で存在価値なんてない」

ほむら「貴方が勘違いしていただけで、貴方は始めから要らない人間なのよ」

上条「……君は、僕を虐めて楽しいのかい?」

涙を流さないのは評価しよう。

ほむら「虐める? まさか」

微笑して、ほむらは重く冷たい何かを上条に当てた



拳銃。

99 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/20 01:29:51.05 2Jxh0dCAO 1280/1642

上条「な――あ――」

余りの非現実感に、上条恭介は声を上げる事が出来ない。
ソレが玩具で無いのは、素人目にも明らかだった。

さやか「ほ、ほむらっ!!」

ほむら「価値が無いお前は、死んでも別に問題無いでしょう?」

ほむらがトリガーに指を掛けて――

さやか「や、止めてぇっ!!」

さやかがほむらを思い切り突き飛ばした。
ほむらはあっさり地面に倒されてしまう。

上条「さ、さやか――」

さやか「転校生……アンタ、マジだったろ……」

地に座り、さやかを見上げながら、ほむらは上条に語りかけた。

ほむら「ねぇ、上条恭介。貴方の病室は二度見たわ」

ほむら「花、服、CD。そのくらいしか無かった」

ほむら「来客の様子は無かった。見舞いにくる者なんて、いなかったのでしょう?」

上条「……最初は、みんな来ていたさ」

ほむら「でも皆興味を無くしていく。バイオリンを弾けない上条恭介なんて、自分たちと変わらないただの人間だから」

ほむら「当然と言えば当然。だって本当にそうなのだから」

ほむら「でもね」

ほむら「バイオリンを持たない貴方を、ずっと見ていてくれた人が居るんじゃないの?」

100 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/20 01:30:53.63 2Jxh0dCAO 1281/1642

上条「っ」

さやか「…………」

ほむら「貴方が貴方であるから。貴方が貴方であるだけで、尊いと知っている誰かがいるから」

ほむら「貴方は今ここにいるのよ」

ほむら「価値のある人間なんていない。人間なんて世界単位で見れば単なる破壊者に過ぎない、寧ろマイナスよ」

ほむら「故に、貴方が何者だろうと然したる違いは無い」

ほむら「……身を呈して貴方を守ったのは誰か。それをもう少し良く考えなさい」

ほむらはスカートを払って立ち上がった。

ほむら「私がこんなに怒っているのはね、貴方が、私の、大切な、親友を、蔑ろに、したからよ」

一語一語に自然に力が入ってしまう。

ほむら「私からすれば美樹さやかは、何物にも変えがたい宝を、それでも遥かに凌駕する価値があるわ」

ほむら「それを、努々忘れない事ね。行きましょう、まどか」

まどか「あ、うん……」

ほむら「さようなら、さやか。また明日、学校で」

101 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/20 01:31:46.73 2Jxh0dCAO 1282/1642

――――屋上、二人きり

さやか「……ふうぅぅぅ」ハァァ

上条「……暁美さんの言うことも、もっともだったね」

さやか「恭介……」

上条「酷い事をしてしまった……謝らせてくれないか、さやか」

さやか「あ、いや、うん。気にしてないし!」アハハー

上条「それと、ありがとう……さっきは、本当に嬉しかったよ」

さやか「いやー、ホントに危なかったし……夢中でさ」テヘヘ

上条「……あれ、本物だったのかな」ブルッ

さやか「間違い無く本物だよ……」

上条「……不思議な人だ。バイオリンだって、アレは――ありとあらゆる音楽家を集めたって敵わないよ」

上条「……僕は、小さいなぁ」ポロ

さやか「恭介……」

上条「僕は、僕はこんな……」ポロポロ……

さやか「……恭介」ギュウッ

126 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/21 01:00:30.92 My1W3DMAO 1283/1642

――――さやか、小雨の帰途。

さやか「雨、降ってきちゃった……折りたたみ傘持ってて良かった」バサッ

さやか「…………」テクテク

『貴方に、価値なんてない――』

さやか「……そんな事無い。アタシにとって、恭介は」

さやか「転校生の言葉も分かるけど……」

ほむら「けど?」ホムッ

さやか「どぅわはぁい!!?」ビクッ

さやか「……転校生、まどかと帰ったんじゃないの?」ジトー

ほむら「まどかはもう送り届けたわ。だから自宅に帰る途中」ホムホム

ほむら「で、けど何?」

さやか「……転校生の言うことは確かに一理あったよ。悲観ばかりじゃ駄目だって、確かにアタシも思ったし」



さやか「でも皆が皆、アンタみたいに強い訳じゃない」

さやか「アンタみたいな達観した生き方、アタシには出来ないよ。恭介だってそうに違いない」

さやか「アンタがアタシの事で怒ってくれたのは分かるけど……でも、アタシはアンタをそこまで知らない」

さやか「違和感が凄いんだよ、悪いけど。アンタの話だって、もしかしたら嘘かもしれないじゃん」

さやか「それにさ、私には隠し事してるみたい。分かっちゃうよ、そういうの」

127 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/21 01:01:42.77 My1W3DMAO 1284/1642

ほむら「……いやはや、やっぱり貴女は美樹さやかね」クスッ

さやか「な、何よ」ウグ

ほむら「それで良い。疑いなさい。ソレが思考となり、自然と貴女の道を拓いてくれる」

ほむら「私の言うままに行動していたら、きっと貴女はくすんでしまう……」

ほむら「だから貴女は貴女なりに、自分で感じたままに、自分が受け取った情報を噛み砕いて、自分の答えを見つけなさい」フフッ

さやか「……なら、私の答えは一つ」

さやか「私は、契約する。恭介の腕を治す……奇跡を起こしてね」

さやか「……元はと言えば、私には願いなんて無かった。願いが必要な人は他にいるのに、その機会を得たのは私」

さやか「不公平だよ、ソレは」

ほむら「ふむ、不公平……ね」

ほむら「ならさやか、貴女の願いは矛盾しているわ。不公平を唱いながら、不公平を行なっている」

128 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/21 01:02:32.05 My1W3DMAO 1285/1642

さやか「な、何で!」

ほむら「上条恭介の身体、腕以外はどうなのかしら? やっぱり、再起不能?」

さやか「い、いや……リハビリをすれば普通に動けるようになるけど」

ほむら「そうね。さっきも言ったけれど、生きるのに何の支障も無い」

ほむら「握手も、ハグも、キスも、セッ○スも出来る。おおよそ人と愛し合える身体は残っている」

さやか「せ、セッ○スって、ちょっと……」カァ

ほむら「真面目な話よ。貴女は先刻『不公平』と言ったわ。でもね」

ほむら「明日をも知れない病を抱えた者は沢山居るわ。それに対して、更に不公平だとは思わないのかしら?」

さやか「そ、そんな知らない人の為に、願いを使えないよ!?」

ほむら「ほら本音」ピッ

さやか「っ」

ほむら「貴女のソレは借り物の正義よ。真意、貴女は上条恭介を治したいだけ」

129 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/21 01:03:44.52 My1W3DMAO 1286/1642

ほむら「不公平だから? いいえ違う。他ならぬ貴女が、貴女自身の為に願うのよ」

さやか「……違う」

ほむら「上条恭介の腕が治って、元気になって、またいつもの生活に戻る。少しだけ距離が近くなった関係を、暫し楽しんで」

さやか「……違うよ」

ほむら「そんなささやかな幸せで貴女は満足出来る。本当にそうなのよ」

ほむら「だから、そんな小さな幸せすら奪われてしまえば、絶望しか目の前には広がっていない」

さやか「ちが――っ!」

ほむら「でも!」

さやか「っ」ビクッ

ほむら「……でも、ソレを悪いとは言わない。その幸せを邪魔できる者も、否定できる者もいない」

ほむら「でも私は知っているのよ……貴女の願いが、近い未来に奪われていくのを」

さやか「……ソレだって、恭介の幸せなら仕方無いじゃんっ――」

ほむら「上条恭介ではない。他の誰でもなく、貴女が――」



ほむら「幸せにならなくて、どうするのよ――!」

さやか「っ」

130 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/21 01:04:35.44 My1W3DMAO 1287/1642

ほむら「貴女は、自分に自信が無さ過ぎる。まどかもそう。かつての私もそうだったわ」

ほむら「確かに人には、幾許かの価値すら無いかもしれない――だけど、価値の無いものを肯定するのは人よ」

ほむら「貴女が貴女自身を信じれば、それでいい。他の誰も貴女には関係無い」

ほむら「ソレだけ知っていて、お願い」

さやか「転校――いや、ほむら」

さやか「……ありがとう。もう少し、考えてみる」

ほむら「貴女の良い所は、素直に相手を受け入れられる事よ。少し頑固だけれどね」クスッ

さやか「……へん。バーカ」

ほむら「バカで結構」フフン

さやか「……アンタって、ほんとバカ」クスッ

131 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/21 01:05:51.91 My1W3DMAO 1288/1642

――――学校、放課後

さやか「……今日は一人にして。考えたい事があるんだ」タハハ……

まどか「……うん、分かった。私もお使いがあるから、今日は一人で帰るよ」

さやか「あれ、ほむらは?」

まどか「杏子ちゃんに拉致られてたよ……『スマブラのリベンジだコンチクショウ!』って言いながら……」ウェヒヒ……

さやか「随分平和ですねぇ……魔法少女はフリーダムだよ全く……」ハァ

まどか「アハハ……じゃあ、また明日ね」バイバイ

さやか「うん、また明日」マタネ

132 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/21 01:07:38.42 My1W3DMAO 1289/1642

――――商店街、異様な雰囲気。

まどか「えーと、電池が無いんだっけ……電気屋さんってどこだったかな?」キョロキョロ

「あ、まどかおねーちゃん!」

まどか「え?」クルッ

ゆま「こんばんはだね。お買い物?」ニパッ

まどか「ゆまちゃん? 何で一人で?」

ゆま「キョーコ、ゲームで負けっぱなしでムキになっちゃってるの。うしろで見てるのもあきちゃったから、キョーコのおかし買っておこうと思って」エヘヘ

まどか「健気過ぎる……」ナデナデ

ゆま「んぅ……」ニヘッ

まどか「じゃ、せっかくだしお姉ちゃんとお買い物しよっか?」ニコニコ

ゆま「うん、お買い物お買い物――って、ソレは後かな」キッ

まどか「ゆまちゃん?」

ゆま「……魔女の口付け、回りにたくさん。色んな人がねらわれてる」ザッ

まどか「ホントだ。みんなに知らせなきゃ――」

「あらぁ、まどかさん?」ポンッ

まどか「っ」

仁美「こんな所でお会いになるなんてぇ……奇遇ですのねぇ」ウフフフッ

まどか「(――魔女の、口付け!?)」

ゆま「大人しくしよう。変に刺激しちゃうと大変かも」

仁美「ほら、まどかさんとそこの子も一緒に行きましょう?」

まどか「ど、何処に?」

仁美「とっても楽しい所ですわぁ――」



仁美「そう、とっても――」ニタァ

143 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/21 23:15:06.36 My1W3DMAO 1290/1642

――――薄暗い廃工場、心を犯す魔女結界。

仁美に案内されて辿り着いたのは、人気の無い埠頭の倉庫。
嘗ては一日中稼働していただろうその場所は、今は恐ろしい程に静かだった。

仁美「皆さんもうお揃いですのねぇ」

マリオネットの様に――力の入っていない不気味な動きで――彼女は人の輪に近寄っていった。

まどかがその後ろから覗き込むと、輪の中央にバケツがあった。
脇に、今まさに混入されようとする二種類の洗剤。

塩素系と酸性系だった。

まどか「――これ」

普段何気なく使っている物でも使い方によっては命取りになると、まどかは母親から良く教わっている。

ゆま「…………」

まどか「ダメ、それはダメ――っ!?」

咄嗟に止めようとしたまどかを、仁美が手を掴んで制止した。

144 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/21 23:15:41.63 My1W3DMAO 1291/1642

仁美「邪魔をしてはいけませんわぁ……アレは神聖な儀式ですのよぉ?」

まどか「だ、だってアレ危ないんだよ!? ここにいる人たち――みんな死んじゃうんだよ!!?」

だが、仁美はより一層表情を恍惚とさせた。

仁美「そう。私たちはコレからみんなで、素晴らしい世界に旅に出ますの。それがどんなに素敵な事か分かりませんか?」

仁美「生きてる身体なんて邪魔なだけ……鹿目さん、貴女も直ぐ分かりますわぁ……」

その演説染みた言葉に、魔女の口付けを受けた人たちから疎らに拍手が起こる。

――おかしくなってる。

まどか「――っ、離して!」

仁美「あら……それに、あちらには……既に旅に出られた方もおられますのに……」

仁美が指を指した先に、一つのドアがあった。



まさか、つまり、そういう事なのか。



ここに居たら、死んでしまう。

145 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/21 23:17:14.61 My1W3DMAO 1292/1642

まどか「――うぅっ!!」

脊髄が直接筋肉に信号を送ったみたいに、恐怖とは裏腹に身体は素直に動いた。

まどかは走ってバケツを奪い、ソレを窓に投げ付ける。
ガラスを突き破って、ソレは外に転がった。

そんなまどかに、生ける屍の様に近付いてくる人々。
まどかを外敵と判断した魔女に操られているのだろう。

ゆま「下がって、まどかおねーちゃん!」

ゆまが徒手にてそれらを一人一人飛ばしていく。
魔法少女の腕力であれば、一般人を片腕で突き飛ばすなんて事は朝飯前だ。

ゆま「生きてれば楽しい事も辛い事もたくさん。だけど、だからこそ死んじゃうのはダメなんだよ」

ここに集まった人々は、人並みに絶望を抱えていたのだろう。
だがそれも、彼女の前では霞んでしまう。

ゆま「死んだらそれまでなんだよ……逃げるのと一緒。そんなの、ゆまが許さない」

傷付けない様に戦うのも限度がある。
助けは既に呼んでいるが、若干間に合わないようだ。

まどか「きゃあぁぁっ!?」

ゆま「おねーちゃん!」

大柄な男に襲われていたまどかを、ソレを蹴り飛ばす事で救出する。

何処か、立て籠る場所は――

ゆま「――仕方ない。まどかおねーちゃん、あの部屋まで走って!」

146 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/21 23:17:53.29 My1W3DMAO 1293/1642

仁美が指差した、あの部屋。
見たくないモノもあるだろうが、そうも言っていられない。
まどかとゆまはソコに飛び込んで、扉に鍵を掛けた。

扉を殴る音に安心と恐怖を覚えながら、ゆまは薄暗がりの部屋を見回した。

力無く倒れる、人間の死体が織り重なっていた。

ゆま「まどかおねーちゃん、見ちゃダメ――――っっっ!!?」

まどか「……ゆまちゃん?」



死体があったのだ。
ゆまはソレを見た。
魔女の手にかかって死んだであろう、その死体を見たのだ。



魔女の結界が二人を包んで異界に招待する。

使い魔がゆまを連れ去ろうとして――弾けた。

ゆま「――、――――――!!!!!」

声にならない、割れんばかりの咆哮。




死体の中に、彼女の母親がいた。

147 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/21 23:20:13.46 My1W3DMAO 1294/1642

――――幼い激昂。

彼女の母親は、彼女を疎み、虐め、その心に深い傷を付けた。

しかし、それでも、子は母を求めるのだ。

いくら酷く扱われようが、子は母親を依り所にするのだ――

だから、彼女は助けた。

だというのに。

ゆま「――あぁぁぁ!! うぉぉぉぉっ!!」

細いマネキンの様な使い魔は、現れる端から粉砕されていく。
可愛らしい猫をあしらったその鎚は、今表情を改め――冷たい金属のソレへと変化していた。

無邪気な暴力から、故意の殺意へと力が変貌した証拠だった。

ゆま「はぁっ……はぁあぁっ!!」

使い魔では物足りない。
魔女は何処だ。今すぐその身体を吹き飛ばしてやる。

魔女「――――♪」

沢山の使い魔に囲まれて、いた。ソコに。

まどか「ゆまちゃん、落ち着いて、ゆまちゃんっ!」

使い魔の群れを掻き分けながら、自分の身体が傷付く事には気付かす、螺旋の様にソレらを抉って削り取る。

ゆまは本来戦闘向きの魔法少女ではない。

その癒しの力全てが、一心不乱の破壊に注ぎ込まれていて――酷く不安定。



それは、対峙している魔女にとって致命的だった。

148 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/21 23:21:25.75 My1W3DMAO 1295/1642

ハコの魔女。その性質は憧憬。

思い起こさせるは、全ての心的外傷(トラウマ)――

ゆま「あっ――」

魔女「――――」

魔女の表情は分からないが、まどかは魔女が――楽しんでいるように見えた。

ゆま「あっ、あああっ、あっ」

目が徐々に虚ろになっていき、ゆまの身体から力が抜ける。

虚空を見つめ、口から唾液を溢して、濁っていくソウルジェム。

全身が蠢動を繰り返して、一際強く跳ねて――緑の魔法少女は倒れた。

まどか「ゆまちゃん!!」

まどかが駆け寄ると、ゆまはうつ伏せのままブツブツと何かを呟いている。

ゆま「――――」

まどか「ゆまちゃん、しっかり……!!」

149 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/21 23:22:01.99 My1W3DMAO 1296/1642

――――

パパ、どうしたの?

やめて。

いたいよ。

いたい。

きもちよくなんてない。

やめて。

ママ、たすけて。

ママ?

ごめんなさい。

やめて。

いやだ。

たすけて。

おかあさん、おかあさん――














『大丈夫だよ、ゆま』

――キョーコ

150 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/21 23:23:31.03 My1W3DMAO 1297/1642

――――紅き幻影、烈火の如く。

まどか「杏子ちゃん、みんな!」

魔女は杏子の一撃で吹き飛び、ゆまをトラウマから開放した。
杏子はゆまを優しく抱き起こし、そして少し強く抱く。

ゆま「――キョー、コ?」

杏子「あぁ。アタシだ……ちと休め」

ゆま「わかっ、た……」

ソレだけ言って、ゆまの意識は落ちた。
杏子は手持ちのグリーフシードで、ゆまのソウルジェムを浄化する。

魔女「――――」

織莉子「精神に語りかける魔女ですか……少し面倒ね」

キリカ「私と織莉子の中に入って来るなんて、無粋極まりないね」

マミ「落ち着けば勝てない敵じゃないわ……気を引き締めましょう」

ほむら「杏子、アレは強敵よ。心をしっかり持って――」

ほむら「――杏子?」

見れば、佐倉杏子は肩を震わせていた。
彼女の槍が、強く嘶いている。

杏子「――あぁ、らしくない。私らしくない」

杏子「でもダメだ。お前は殺されなくっちゃあダメだ。他でもない、この私に」

槍を軽く回して構えた。




家族を失うのは、もう嫌だから――

158 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/23 12:22:55.97 7DE8dQlAO 1298/1642

――――魂の闘い。

ほむら「トラウマを想起させる魔女……私は後衛に回るわ!」

ほむらの盾から銃火器が召喚される。

杏子「アタシは前衛に回る……今のアタシなら、何だってぶっ倒せそうだ」

織莉子「距離を取って戦った方が良さそうですね……私たちも後衛に回ります」

キリカ「なら、佐倉杏子を全員で支援した方が良さそうだね……一番悪いパターンは全員がアイツに呑まれる事だから」

ほむら「それに、伏兵もあるわ」

杏子「あぁ、ソレでいい。行くぞ……まどか」

まどか「!」

杏子「ゆまを、頼む」

杏子が槍で地面を突き刺すと、ソコに紋様が浮かび上がった。

目を閉じ、幻惑魔法を自分に掛ける。
強烈な自己暗示によって、彼女はいつもより更に強い精神を持った。
それは狂信と表現しても注しささえないだろう。

キリカ「全開!」

織莉子「予見、リンクさせますわ!」

キリカの力によって杏子の回りの世界が緩やかになり、織莉子の力によってある程度の先見が可能になる。

ほむら「雑魚は任せなさい」

マミ「貴女は魔女だけ見ていればいいわ」

ほむらとマミが、凄まじい数の銃口を使い魔たちに向けた。

159 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/23 12:23:22.30 7DE8dQlAO 1299/1642

発砲と共に杏子は舞い上がる。

魔女「――――」

魔女は杏子を対象に、精神を蝕んだ。しかし――

杏子「外れだ」

杏子は二人いた。
いや、二人どころではない。
10も20もいて、とても一瞬では数え切れなかった。

杏子「この私は、私を除いて全て偽物……だけど、実体を持った幻想は、間違いなくお前を斬り裂く」

杏子「捌き切れるか――ロッソ、ファンタズマ!!」

一人の軍団が、魔女に襲いかかった。

魔女は当てずっぽうに力を使うが、杏子の本体には辿り着けない。

杏子「(来るのが分かっていればどうって事ない)」

予見、時間遅延、分身と三段構えの回避が杏子を守っていた。
使い魔は片っ端から凶弾に倒れている。

一人の杏子の槍が、魔女の入ったハコ――テレビを貫いた。

杏子「やったか!?」

160 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/23 12:23:54.37 7DE8dQlAO 1300/1642

だが、そのハコの中は空になっている。
殺意をもった気配を感じて頭上を見上げると、使い魔のほぼ全てがテレビを抱えていた。

ソレを大量に投下してくる。

ほむら「なっ!?」

マミ「こんなモノ、ティロ・フィナーレで――」

マミが大砲を連続召喚した辺りで、杏子と織莉子の脳裏に『敵の反撃』が過った。

杏子「気を引き締めろ!」
織莉子「気を引き締めて!」

降ってきたテレビ全てに、魔女は内包されていた。
分身を真似るとは、意外に学習能力があるようだ、なんて思う。

魔女「――!」

ソレらが、彼女らのトラウマを呼び起こした。

161 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/23 12:24:29.21 7DE8dQlAO 1301/1642

織莉子「ワタシは――お父様とは違う――」

ある者は泣き。

キリカ「下らない下らない――止めてくれ――ヘドが出る――」

ある者は悶え。

マミ「――いやぁぁぁぁぁぁ!!? 死ぬのはいやぁぁぁぁぁぁ!!」

ある者は叫び。

杏子「親父……お袋……モモ……」

ある者は崩れ落ち。

そして、ある者は――

ほむら「――――あ」

『私、鹿目まどか。ヨロシクね』
『私、行くよ』

『もうやだぁ……こんなの……』

『なんで……ワルプルギスの夜……倒したのに――!』

『キュゥべえに騙される前の、バカな私を……助けてくれないかな』

『私、魔女には、なりたくないよ……』

『……ありがとう、ほむらちゃん』

『あの……暁美、さん?』

『ほむらちゃん……私たち、どこかで――』

『ごめんね、ほむらちゃん』

『私、魔法少女になる』

『彼女は概念に成り果ててしまった。彼女の生きた証は、もう何処にも無い』



『キュゥべえ、キュゥべえなんでしょ!?』

『私のエネルギー好きにしていいから、早く契約してよ!』

『早く――』



『ほむらちゃん』

『うそつき』



『因果がバラけちゃったんだよ』



162 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/23 12:25:37.51 7DE8dQlAO 1302/1642

まどか「ほむらちゃん、みんなっ!!」

ほむら「――まどかぁっ!!」

まどか「ほむらちゃんっ!?」

全てを振り払うように、ほむらは声を振り絞って叫ぶ。

ほむら「私を呼んで、強く!」

まどか「ほ、ほむらちゃん?」

ほむら「もっと強く!」

まどか「――頑張って、ほむらちゃん!」

ほむら「――――っ!」

暗示の様で、洗脳にも感じたソレから開放される。

だが、他の四人のソウルジェムは濁る一方だ。
ほむらのソウルジェムも、かなり穢れている。

魔女「――――」

ほむら「一対一……分が悪すぎるわよコレ――っ!?」

と、ソコに割り込み――ハコを薙ぎ倒す蒼き光が射し込んだ。
魔女が纏めて吹き飛ばされる。

ほむらの目の前に降り立った、新しい舞台役者を――彼女は歓迎した。

ほむら「――いらっしゃい、このお伽噺の世界へ」




さやか「こんにちは、舞台はこっちで間違いないね?」

163 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/23 12:27:12.95 7DE8dQlAO 1303/1642

――――結界の外の人魚。

魔女の結界の前で、美樹さやかは足を止めた。
その足の傍らに、インキュベーター。

さやか「…………ここだね」

QB「あぁ。本当に願うのかい?」

さやか「うん。アタシの願いは――」

ほむら『不公平を唱いながら――』

さやか「……『完全な医療』だよ」

QB「ふむ。キミの望む完全な医療とは何だい?」

さやか「人間の医療技術を、治せない病気が無くなるまで発展させてほしい」

QB「それは……現段階で存在しているモノしか無理だね。未来まで因果を演算するとなると、流石のキミでも無理だよ」

さやか「ソレでいいよ……医療を必要とする全ての人に、完全な治療をあげられるんだね?」

QB「あぁ」

さやか「恭介の腕も、だよね?」

QB「もちろんだ。キミの以前の願いがそうだったね。何なら因果を上条恭介に手繰り寄せておこう。きっと彼はいの一番にその恩恵をうけるだろうね」

さやか「サービスありがとね……じゃ、早くやって」

QB「分かった。ここに契約は成立した――」

さやかの胸から、彼女の魂が抜き出される。
蒼く輝く、彼女の奇跡。

QB――「受け取るがいい。ソレがキミの運命だ」

さやか「コレが、アタシの魂――」

変身した彼女は、まるで正義の騎士のようで。

さやか「行くよ、アタシ」

164 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/23 12:28:17.17 7DE8dQlAO 1304/1642

――――人魚の魔女、見参。

さやか「うぉぉっ!!」

魔女に突進し、その依り代を剣で突き貫く。
魔女がさやかを汚染しようとするが――

魔女「!?」

さやか「何かモヤモヤするけど――とりあえず叩き斬る!」

魔女は狼狽する。

美樹さやかは比較的普通に、日々の幸せを受けて育った少女だ。
強いて挙げるトラウマと言えば上条恭介の件だが、ソレもついぞ解決してしまった。

精神に、割り込む隙間が無い。

魔女「――――!」

魔女は途端に逃げ腰になる。
不利な勝負はしないという、その姿勢は評価すべきだと思った。

ほむら「だが、逃がさないわ」

ユウリ「真打ち登場!」

魔女「!?」

ユウリは魔女の入ったテレビを掴み、地面に叩き落とした。
魔女は突然沸いた魔法少女に驚き、しかし揺るぎなく能力を行使した。

ユウリ「――温い温い! 私を染めたきゃその100倍は強く呪わないとねぇ!!」

ユウリはテレビに踵を落とす。
ひしゃげたソレを、茨の蔦がくるんだ。

コレで魔女は逃げられない。

ソレをユウリは蹴りあげた。

ユウリ「青いの、ほむら!」

さやか「分かった!」

さやかの背後に巨大な蒼色の魔方陣が現れ、ソコから幾つもの刀剣が剣先を煌めかせた。

さやか「いけっ!!」

魔方陣から剣が、絨毯爆撃の如く魔女に降り注ぐ。
針鼠のようになったソレを――

ほむら ユウリ「イル・トリアンゴロ!!」

――火葬して、魔女は事切れた。

172 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/24 00:44:11.71 xN5hCnxAO 1305/1642

――――消える結界と魔法少女たち。

織莉子 杏子 キリカ マミ「鬱だ死のう」

ほむら「起きろ」ハリセンパーン!

マミ「はっ、私は誰!?」マミンッ!?

杏子「強敵だった……」クッ

さやか「…………」ジトー

杏子「……はい、認めます。ぶっちゃけ不覚でしたぁぁぁぁ!!」ドゲザー!

織莉子「アレだけサポートしたのに……」チクチク

キリカ「時間遅延もあったのに……」グサグサ

杏子「いやマジでゴメン……何か出オチでゴメン……ちょっと頭に血が登っちまって……」ズーン

まどか「お疲れさま、杏子ちゃん。ゆまちゃんは……」

ゆま「…………」スヤスヤ

杏子「……良く眠ってんな」ナデッ

杏子「…………」ジッ

さやか「……何よ?」

杏子「……後悔は無いのか?」

さやか「無いね」

杏子「……そうかよ」ハハッ

杏子「いらっしゃい、このクソッタレな世界へ」

さやか「ほむらとそっくりな事言うんだね、アンタもさ」クスッ

杏子「私だけじゃねぇさ」

杏子「ここにいる全員が、だ」ニッ





ユウリ『拾えー!?』

173 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/24 00:45:15.62 xN5hCnxAO 1306/1642

――――日常へと。

まどか「さやかちゃん、今日は?」

さやか「放課後は魔女探しですよまどかさん」ニヤッ

まどか「一人で大丈夫なの?」

さやか「杏子が着いてきてくれるらしいから、まぁ大丈夫じゃないの?」

まどか「なら良さそうだね」ウェヒヒ

ほむら「まどかはどうするのかしら? 私は巴マミと行動するけれど」ホム

まどか「……しばらくは目立った魔女は出ないんだよね?」

ほむら「少なくとも強力なモノは出現しないと思うわ。現れても小物よ」

まどか「なら……私はほむらちゃんに着いてくよ。色々聞きたい事もあるし」ティヒヒ

ほむら「分かったわ。じゃあまた、さやか。杏子に良く教わりなさい」ホムッ

さやか「あいよー」

174 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/24 00:46:00.04 xN5hCnxAO 1307/1642

――――ゆまと杏子。

テクテク

ゆま「さやかおねーちゃん、遅いね」

杏子「アイツは学校があるからな。私らよりは忙しいさ」クスッ

ゆま「……」ズキッ

ゆま「…………ねぇ、キョーコ」

杏子「どうした、ゆま? 腹減ったのか?」ポリポリ

杏子「くうかい?」スッ

ゆま「いや、今はいい……」

ゆま「……キョーコは、ゆまを――虐めないよね?」ポツリ

杏子「勿論だ。何を急に――?」

175 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/24 00:46:30.65 xN5hCnxAO 1308/1642

――――神よ。存在するというなら、今すぐ首をくくって死に腐れ。

ゆまの鎚が杏子の額を掠める。
咄嗟に頭を引かなければ、脳震盪なんかでは済まなかっただろう。

杏子「お、おい――何をするんだよ、ゆま!?」

予想外の攻撃に、それでも反応した身体を恨めしく思い――しかしとりあえずは幸運に感謝する。

ゆま「――思い出したの」

杏子「ゆま――?」

ソウルジェムはさほど濁ってはいなかった。
なら、絶望している訳でも洗脳されている訳でもない。

そもそも、魔女の気配なんて無い。

ならコレは、ゆまの意思――?

ゆま「ママはやさしかったよ。ホントにやさしかったんだ」

ゆま「でも、パパは――ゆまと遊んじゃったの」

杏子「遊んだ――?」

遊んだ、とはどういう意図なのだろうか。
言葉通りなら何の問題も無いだろう。

ゆま「それから。ママがやさしくなくなったの」

ゆま「ママの大切なモノをとっちゃったから」

杏子「――――っ!」

――冗談だろう。

そう思って、しかし――虐待としてはポピュラーだと言う事実に思い当たる。

ゆまは笑顔だ――笑顔?

176 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/24 00:46:56.05 xN5hCnxAO 1309/1642

ゆま「大切なモノを無くしちゃうと、みんなおかしくなる」

ゆま「ゆまは何も悪くない。今なら分かるよ」

ゆま「キョーコ、ママみたい。大切なモノがあって、だから強くて優しい」

ゆま「だからきっと、キョーコもゆまをキライになる。いつかきっとキライになる。だってママもそうだった」

杏子「そんな訳ないだろ! バカな事を言わないでくれ……」

杏子がおずおずと伸ばした手は、拒絶された。

ゆま「今だって、さやかおねーちゃんの事ばっかり考えてた」

ゆま「ゆまはキョーコの事しか考えてないのに――!!」

二度目の鎚が振り下ろされる。
杏子は、それを見て、しかし避ける気になれなかった。

ゆまの最後の問い掛けは、確かに嘘じゃなかったから。

私は、ゆまよりさやかを優先しているのだろうか――?



――鎚は、剣に軽く止められた。

177 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/24 00:49:49.23 xN5hCnxAO 1310/1642

――――溜め息交じりの呆れ顔。

さやか「何やってんのよ、ゆま……」ハァー

ギリギリギリギリ……

ゆま「(ビクともしない!?)」

杏子「――さやか」

さやか「やめやめ。ゆまも杏子も……そんなの嫌でしょ?」

ゆま「さやかおねーちゃんには関係無いでしょっ!!」ググッ……

さやか「もう、意外に聞き分けない子だね。よっと」クルンッ

ゆま「わわっ!?」ヨロッ

さやか「ほーい杏子パース!」ポーイ!

杏子「わっ!」

ゆま「わぷっ」モフッ

さやか「ほら、抱きしめる! 子供が不安がってるんだよ?」モー

杏子「…………」ギュッ

ゆま「はな、はなしてっ!」バタバタッ

杏子「……離さないよ。離してやらねー」ギュー

ゆま「…………ウソだよ」

杏子「ウソじゃねー」

ゆま「ウソだよ」

杏子「ウソじゃねー」

ゆま「…………ごめんなさい」

杏子「構わねー」ギュムッ

さやか「うんうん! やはり仲良き事が美しきかな。さやかちゃん、今日もまた一人迷える子羊を救ってしまいましたなー!」ドヤァ

杏子「……何かにつまづいて転べバーカ」

さやか「ひどいっ!?」ガーン!

178 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/24 00:50:50.13 xN5hCnxAO 1311/1642

――――

ゆま「……もう大丈夫だよ」スッ

杏子「そっか。良かった」

さやか「前の魔女戦のダメージが治ってないみたいかな?」フムフム

ゆま「ゆま、もう何ともないよ?」

さやか「あー、違う違う。なんて言ったら良いかなー……心?が怪我してるんだよ。ちょっと来て――」



さやか「『治す』から」



杏子「――どういう事だ?」

さやか「ん? アタシの魔法だけど?」

さやか「ありとあらゆるモノを『癒す』力。キュゥべえから聞いた時は胡散臭かったけど、実際ゆまちゃんを見たら『あ、なんか魂っぽいの怪我してるわ』って分かったし」

杏子「……何を願った、さやか?」

さやか「『完全な医療』」

さやか「ほむらとおんなじだよ。私は恭介を救うために、他の全てもついでに助けただけ……ゆまちゃん、じっとしてね」ポワー

ゆま「んぅ……」

さやか「どう?」

ゆま「……なんだか、あったかい」

さやか「そりゃ上々」ニヘラ

179 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/24 00:51:47.57 xN5hCnxAO 1312/1642

杏子「……しかしそれは――相当な願いだろうに」

さやか「何か因果?凄いらしいよ、アタシ。うぉりゃー、さやかちゃんウルトラスペシャルベホイミー!」ポワワワン!

ゆま「――キョーコ大好きー!」ガバチョ

杏子「のわっ!?」ドサッ

ゆま「ゴメンねキョーコ、ゆまどうかしてたよ!」スリスリゴロゴロ

杏子「……幻惑魔法?」

さやか「さやかちゃんミラクルメディカリングだよ!」ドヤァ

杏子「……スゴいなおい」

杏子「(因果、か)」

杏子「(それは『さやか』としてか?――それとも)」





杏子「(――『人魚の魔女』としてか?)」

188 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/25 00:52:25.01 TUZyBxYAO 1313/1642

――――まどかサイド。

テクテク

まどか「…………」

ほむら「…………」

まどか「ほむらちゃん」

ほむら「何かしら?」クルッ

まどか「ほむらちゃんはさ、未来から来たんだよね?」

ほむら「えぇ、そうよ」

まどか「ほむらちゃんの話を聞いて思ったの」

まどか「ほむらちゃんは何でそんなに、こんな私に拘るの?」

ほむら「……それは前も言ったように、私の大切な友達だったからよ」ホムリ

まどか「……そうかな?」

ほむら「まどか?」

まどか「じゃあ、意地悪な質問するね」……ティヒヒッ

まどか「この道路を歩いてる私に、もし車がぶつかって――私が死んじゃったらどうするの?」

ほむら「そんな事にはならないわ。だって私がいるもの」

まどか「違うよほむらちゃん、例えばの話」フルフル

まどか「ほむらちゃんはその時、過去に戻るの?」

ほむら「当然よ」

まどか「なら、私が病気で死んだら?」

ほむら「過去に戻って病気の原因を取り除くわ」

まどか「――なら、私が寿命で死んだら?」

ほむら「――――っ」ビクッ

189 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/25 00:53:02.59 TUZyBxYAO 1314/1642

まどか「……一生、戻り続けるの?」

ほむら「私は……」

――どうするんだろう、その時。

まどか「……」クス

まどか「きっとね、ほむらちゃんは私を切り捨てるべきだったんだよ……ワルプルギスの夜を撃退できた周回でさ」

まどか「別れは必ずやってくるし、それが早いのもまた運命なんじゃないかな」

ほむら「……そんな仮定の話は好きじゃないわ」

まどか「例えば、私とほむらちゃんが違う高校に行ってさ……だんだん会わなくなってね、一年に一回くらいしか顔を会わさなくなる」

まどか「大人になって結婚して家庭を持って……そしたら、ホントに会えなくなる」

まどか「……ね? 他人が人生に絡んでくるのなんて、一生にしてみれば全然無いの」

まどか「だから、ほむらちゃんは……」

ほむら「まどか」

まどか「…………」

ほむら「私は生きるのが下手なの。失敗してばかりで、そもそも心臓が悪かったもの」

190 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/25 00:54:06.45 TUZyBxYAO 1315/1642

ほむら「だけど、貴女に出会ったのは――私の人生の中でも最高の成功だった」

ほむら「それをみすみす手放すなんてしたくない。私の唯一と言っていい、大切なモノを」

ほむら「貴女のいない私の人生は、既に価値も、意味も、何も無い」

ほむら「だから、私は後悔なんてしていないわ」ホムンッ!

まどか「……ほむらちゃんは弱いのか強いのか、時々分からなくなるよ」

ほむら「私は貴女の為なら幾らだって強くなれるわ」ホムホム

まどか「……でも、その『貴女』って誰?」



まどか「どの『鹿目まどか』?」



ほむら「――何を言っているの。貴女に決まっているわ」

まどか「ホントにそうなのかな……?」ウーン

ほむら「どういう事?」

まどか「ねぇ、ほむらちゃん。私は世界を救った変わりに、過去にも未来にも居なくなっちゃったんだよね?」

ほむら「インキュベーターの言葉通りなら、そうね」



まどか「なら、ほむらちゃんが帰ってきた過去に、なんで私がいるの?」



ほむら「――――」

確かに――そうだ。
全てのまどかは『円環の理』に収束してしまったはずだ。

なら、このまどかは――?

191 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/25 00:55:00.53 TUZyBxYAO 1316/1642

まどか「……最近ね、怖い夢ばっかり見るんだ」

まどか「自分が自分じゃない夢」

まどか「ほむらちゃんの話が本当なら、私は――」

まどかは――

まどか「ほむらちゃんがこの世界を構築した時に作られた――ただのデータなんじゃないかなって、そんな、夢」

ほむら「――そんなはず、無いわ」

ほむら「だって、貴女は今、生きているもの。それが何よりの証拠」

ほむら「それに、こう言ってはなんだけど……それならキュゥべえが気付くはずよ。魔法少女の素質が、あるはず無いんだから」

まどか「……そうだね。ありがとう、ほむらちゃん。話せて、ちょっと楽になったよ」ウェヒヒ

ほむら「そう、良かったわ。さぁ、早くマミの家に行きましょう?」クスッ

まどか「うん」ニコ

192 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/25 00:55:27.84 TUZyBxYAO 1317/1642

ほむら「(でも、確かにそうだ。まどかは存在してはならない……だから、まどかがここに居る意味があるはず)」

ほむら「(一番あり得そうなのは、私の願いが概念の一部を引き剥がした……かしら)」

ほむら「(そもそも、私の目的は何?)」

ほむら「(私の目的は、まどかが世界を改変した後――そのまどかをまた世界へ引き戻す事――っ)」ハッ

ほむら「(これか。違うのは)」

ほむら「(私は、何が出来るの――?)」

ほむら「(まどかを助ける事が、世界の唯一の存在理由では、無い――?)」

ほむら「……考えて答えが出れば苦労しないわね」ハァ

まどか「?」

193 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/25 00:57:58.91 TUZyBxYAO 1318/1642

――――マミ宅

ほむら「来たわよ」ホムッ

まどか「こんにちはー」

マミ「あら、いらっしゃい。紅茶でもいかがかしら?」ニコ

まどか「あ、頂きます」

QB「……キミたちか」きゅっぷい

まどか「キュゥべえだ。最近見なかったね」ウェヒヒ

QB「キミが寄るなって言ったんじゃないか。それは理不尽だよ」ハァ

ほむら「……ふむ。行き詰まった時は、アプローチに限るわね」チャキッ

まどか「ほむらちゃんっ!? 銃なんて危ないよ――?」

QB「ちょおま」パァン

まどか「ひっ」ビクッ

ほむら「ジャスト25002匹……そろそろ起きなさい」

「やれやれ、相変わらずキミは訳がわからないよ」ピョコンッ

QB(ベアトリクス)「お陰で予備ボディまで出す羽目になってしまったよ……全く、台風の如き迷惑さだね」モッチモッチ

マミ「紅茶持ってきたら白髪美少女がキュゥべえ食べてた時のショックをどう言い表したら良いのかしら私」

ほむら「笑えばいいと思うわ」ホムッ

208 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/26 00:41:38.18 +jdMOVZAO 1319/1642

――――集合、マミ宅

杏子「よーっす、こっちの見回り終わったぜ」バタンッ

ゆま「ただいまー!」

さやか「おじゃましまーす」

マミ「お疲れさま。今、紅茶でも容れるわね」フフッ

ほむら「あら、寄るのね」ホム

杏子「今はアタシらの家でもあるからな。寄る、じゃなくてただの帰宅だ」

まどか「お友達と一緒に住むのって、なんかいいよね」ティヒッ

キリカ「私も半分織莉子の家に住んでるようなモノだからなぁ……」

ほむら「そういえば、ご両親は?」

キリカ「さてね。不良娘の事なんぞ気にかけんさ」フゥ

織莉子「私が気にするわ」

キリカ「ありがとう、最高に十分だ」ニッ

ユウリ『ほむら、アタシも出たいんだ。キリカに結界を張ってもらっておくれよ……』

ほむら「でもソウルジェム穢れるのよ。悪いけど……」

キリカ「ノリの悪さはそのままかい、暁美ほむら」ニヤッ

パチンッ

ユウリ「ぷはぁっ、サンキューと言わせてもらうよキリカ!」ボンッ

209 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/26 00:42:55.06 +jdMOVZAO 1320/1642

ほむら「もう……」クスッ

キリカ「茶飲み友達は多い方がいい、そうだろう?」ニヒヒ

カチャ

マミ「あら、私が結界を張ってもいいのだけれど」

キリカ「巴マミの結界は草原じゃないか。室内には向いてないよ」

マミ「そうね……」マミーン

QB「やっぱり不思議な力だ……キミたちは揃いも揃ってイレギュラーだよ全く」ゴロゴロ

ほむら「だらけながら言われても説得力が無いわ」ホムッ

杏子「お……ようやくか」オッ

さやか「え、誰なのそちらの美人さんは?」ワァ

QB「さやかは洞察力に欠けているね。ボクはどう見たってキュゥべえじゃないか」っぷい

さやか「――え、えぇぇぇぇぇぇぇ!?」ガビーン!

210 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/26 00:44:27.98 +jdMOVZAO 1321/1642

まどか「本当なんだよ……びっくりするよね」ティヒヒ

QB「まぁ、確かにこのボディは不便だからね。ボクも驚いたよ」ノビー、クテー

まどか「あー。キュゥべえ、おへそ見えてる。はしたないよ」アハハ

QB「衣服は着ているから問題ないじゃないか。訳が分からないよ」ペロンッ

さやか「アハハ……って、何でみんな目を反らしてんの?」ン?

ほむら「かんじざいぼさつぎょうじんはんにゃはらみったじ……」ブツブツ

杏子「主よ、私をお導き下さい……」ブツブツ

織莉子「キリカ」ダキッ

キリカ「分かってるよ織莉子」ギュムッ

QB「訳が分からなさ過ぎて怖いよ、真剣に」エェ……?

211 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/26 00:45:45.79 +jdMOVZAO 1322/1642

――――皆帰って、夜。キュゥべえ。

マミ「あら、キュゥべえ出かけるの?」ジャー……

QB「ちょっとね。身体が火照っているようだから、夜風に当たってくるとするよ」

QB「……しかし杏子たちは少し図々しいのではないかい? 洗い物の手伝いくらいなら、今のボクには出来るけど……」

マミ「構わないわよ。好きでやってるもの」クスッ

QB「そうかい。なら、ボクも気兼ねなく」カチャッ、バタム

マミ「ふふ、気を使ってくれているのかしら……」

杏子「あー、ゆまにも負けるー!?」

ゆま「キョーコ……ファルコン弱い……」

杏子「昔は強いキャラだったんだよ!」

マミ「ふふ……賑やかっていいわね」ニコニコ

212 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/26 00:46:43.90 +jdMOVZAO 1323/1642

――――マンション屋上

QB「風が気持ち良いね……」ソヨソヨ

QB「しかし……」ジッ

QB「この身体……違和感を感じもしない。まるで、元々この身体だったみたいだ」

QB「……これもイレギュラーなのだろうか。ならば、暁美ほむらは――ボクについて、ボクの知らない事を知っているのだろうか」



「さぁね」



QB「……盗み聞きは関心しないな、暁美ほむら。それにソレは貯水層だ。登る所じゃない」ムッ

ほむら「失礼、貴女がいきなり喋り出すものだから」

QB「ふむ、確かにそう言われればそうだ。謝ろう、暁美ほむら」

QB「なら、序でに質問させてもらおうか。キミは、ボクの何を知っている?」

ほむら「……貴女は、どう答えてほしいの――っと」スタッ

QB「ボクかい? ボクは……」

QB「……分からない」

ほむら「なら、私は『知らない』と答えるわ。知りたいと思わない事を、知る必要は無いわ」

QB「……じゃあ、何故キミはボクを殺していたんだい? 何故今ボクを殺さないんだい?」

ほむら「分かっているくせに」クス

QB「……なら少なくとも、ボクがこうなる事を知っていて――尚且つこのボクに用事がある……という訳だね?」

213 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/26 00:47:41.64 +jdMOVZAO 1324/1642

ほむら「ノーでは無いわね」

QB「……キミの目的は何なのか、ボクには皆目見当が付かないよ」

ほむら「そうね。でも、私にばかり気を向ける前に……貴女は他に考える事があるのではないのかしら?」クルッ

QB「何だって?」

ほむら「貴女自身の事すら良く分かっていないのなら、まずは『我思う、故に我在り』くらいから始めたら?」クスッ

ほむら「ではまた。良い夢を、キュゥべえ」ヒュンッ

QB「……ボクの事?」

QB「ボクは……一体何なんだ?」

214 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/26 00:48:31.90 +jdMOVZAO 1325/1642

――――次の日、放課後。病院。

上条「治るかもしれないんだ!!」ヤハー!

さやか「良かったじゃん、恭介!」

上条「何だか画期的な発見があったとか何とか……治療不可だった病気や怪我が、次々に解決してるらしいんだよ」

上条「ボクの手も動くようになるみたいでね……海外の先生が手術にくるんだ。実験も兼ねてるんだろうから、少し怖いけど……」グッ

さやか「ううん、きっと恭介なら大丈夫! 早く治して、バイオリンまた弾こ?」

上条「勿論さ! 暁美さんに負けてられないしね!」ムンッ!

さやか「アハハ。いやはや、ほむらも厄介な奴に目を付けられちゃったよー?」アハハハ

上条「手術が楽しみなんて、本当に変な気分だ……」ハハハッ

さやか「(この笑顔を見れただけでも、アタシにとっては奇跡)」

さやか「(アタシの願い、叶ったよ――みんな)」

234 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/27 01:32:42.51 EZyfOwZAO 1326/1642

――――委員長の魔女、出現

魔女「――――!」

さやか「みんな、あの旗を伝っていこう!」ダッ

キリカ「了解だ!」ギュンッ!

マミ「リボンで魔女を絡めとるわ! 隙を作って!」タタタ……

ィィィィィ……

織莉子「上から使い魔!……とバカ二人かしらね」アー……

ほむら「ィィィヤッホゥゥゥゥゥ!!」ズバァッ!

さやか「あの盾、サーフボードにもなるんだ……」

ゆま「空中を泳いでるよ……」ワー

マミ「(うわぁ)」

杏子「ヒャッハー!!」ズァッ!

まどか「槍もボードがわりにしてる……」ポカーン

ゆま「キョーコカッコイイー!」キャキャ

杏子「行くぜ!」ズバンッ!

まどか「さやかちゃん、カッコつけて!!」クワッ

さやか「お、おう!」コクッ

さやか「(杏子が槍に乗ったまま、使い魔たちとすれ違って断ち切ってるわ……お、魔女に突っ込んで……傷入ったか)」ワーオ

ほむら「決めるわよ!」ガシャッ!

さやか「(ほむらはむしろ楽しんでるだろアレ。空から螺旋と弧を描きながら落ちてきて……うわ、盾からめっちゃ武器出てきた!?)」

235 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/27 01:35:26.35 EZyfOwZAO 1327/1642

ほむら「一斉掃射――からの!」

さやか「(あー、魔女がズタズタだ……止めは何だー?)」

ほむら「『フェイルノート』!!」パシュン!

さやか「(弓矢か!……いや、まだだ!)」

魔女「――――!!」

マミ「――『ティロ・フィナーレ』!!」ズガンッ!

さやか「やった!マミさんのお陰で魔女が怯んだよ!」

ほむら「援護ご苦労!――吠えろ青龍、『冷艶鋸』!」ズバンッ!

さやか「(何かアレゲームでみた事あるよ!?……うわぁ、真っ二つだ)」

スタタッ

ほむら「ヘーイ」パンッ

杏子「イェーイ」パンッ

マミ「ハイタッチ……」

織莉子「私たちの意味って……」ガクリ

キリカ「大丈夫だよ織莉子。未だに喋ってすらない子だっているんだ」ポムッ

ユウリ『凄いアウェー感を感じる』ジェムーン

さやか「アタシゃその効果音の方がびっくりだよ……」ハァ

さやか「さやかちゃん、まだまだカッコつけちゃいますよ!」ドヤッ

ゆま「お疲れさま、さやかおねーちゃん」

236 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/27 01:36:39.69 EZyfOwZAO 1328/1642

――――放課後の帰り道、ほむらとまどか。

テクテク

まどか「魔女、何だか大した事なかったよね?」

ほむら「えぇ。少し考えているわ」ホム……

ほむら「確かに手強くはなっているのだけれど、さほどではない……む」ハッ

ほむら「薔薇園の魔女はまどか絡みかしら。お菓子の魔女はマミ絡み。もし、この仮定が真実ならば……」

ほむら「影の魔女は杏子……人魚の魔女、は――いや、これは考えないわ」ブンブンッ

ほむら「そして私がワルプルギス、かしら。ハコの魔女は……単に相性よね」ホムン

まどか「……まだ強い敵がいそうなのかな?」

ほむら「心配は要らないわ。私たちが結束すれば何者だって怖くない……ん」チリッ

ほむら「……使い魔の結界ね。持論を試してみるかしら。まどか、待っていて」ホムッ

まどか「お、置いていかれる方が怖いよほむらちゃん!?」アワワ

ほむら「ふふ……なら、私から離れないで」クスッ

237 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/27 01:37:58.55 EZyfOwZAO 1329/1642

――――使い魔の結界

使い魔「――――」

ほむら「出会っていきなりで悪いけど。『ラハット・ハヘレヴ・ハミトゥハペヘット』」ゴウッ!

使い魔「――……」グシャッ

まどか「わぁっ、剣が燃えてる……」

ほむら「脆い……そのまま燃え尽きなさい」クル

まどか「っ、ほむらちゃん! まだ動いてるよ!」

使い魔「……――!!」ガバッ

ほむら「温い」スパンッ

まどか「刀……? で、でもまだ動いてるよほむらちゃん!」

ほむら「あぁ、これでいいのよ」カキンッ

ほむら「『八丁念仏団子刺し』……精々無様に余生を歩きなさい。行きましょう、まどか」スタスタ

まどか「ま、待ってほむらちゃん!」タッ

使い魔「――――」ヨロヨロ

使い魔「――――」ヨロ

使い魔「――……」ドサッ

ほむら「(やはり予想は当たっているようね……なら次に気を付けなければならないのは――影の魔女)」

ほむら「(どうしたものかしら……)」

238 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/27 01:38:42.13 EZyfOwZAO 1330/1642

――――杏子とゆま、さやか。

さやか「使い魔だ、やっつけよう!」オー!

杏子「使い魔……か」

さやか「? どしたの?」キョトン

杏子「いや、何でもない。片付けちまうか、被害が出る前に……だろ?」ニッ

さやか「もちのろんさ!」エイオー!

ゆま「ゆまもやるよ!」オー

239 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/27 01:41:22.22 EZyfOwZAO 1331/1642

――――しかし余裕。

さやか「んー、さやかちゃん無敵!」ノビー

杏子「はは、まぁ使い魔だからな」ポリポリ

杏子「……ま、狩らないヤツもいるんだけど」

さやか「へ、どゆこと?」

杏子「使い魔を倒してもグリーフシードは出ないだろ? なら、ぶっちゃけ魔力の算出はマイナスだ」

杏子「……死んじまうからな、ソレは」

さやか「……だから、魔女になるまで待つって言うの?」ムッ

杏子「そういうやり方をしているヤツを否定してやらないでくれってだけさ。ソイツらだって死にたくない……他人が死ぬより自分が死ぬ方が、何倍も怖いからな」

さやか「ソレ、おかしくない? だって、魔法少女が戦わなかったら……普通の人らはみんな死んじゃうんだよ?」

杏子「……魔法少女だってな――」

杏子「――何の変哲も無い、ただの女の子なんだよ」

杏子「戦う力があるから戦わなきゃならない、なんてのは違う」

杏子「戦いたいと心から思った時に戦えばソレでいいんだ。だから、さやかも今のままでいい」

杏子「だけど、ソイツの生きる邪魔をしてやるな――っ」ハッ

さやか『グリーフシードが欲しいんでしょ。あげるよ、ソレ』

杏子「……いや、これは言わなくても分かってるか」ハハ

さやか「???」

ゆま「昔の話だね」クスクス

さやか「ちょっ、ズルいよ二人だけでさー! 未来から来たからってソレはズルい!」ウガーッ

杏子「ハハハッ」カラカラ

杏子「(そうだ。戦いたくなくなったら、止めればいい)」

杏子「(一度立ち止まるのも、さやかには必要そうだしな)」

杏子「全く、手間のかかるヤツだぜ」ヤレヤレ

さやか「なんだとぅ!?」ムキー!

252 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/28 08:21:34.58 Vgd7O1JAO 1332/1642

――――そしてまた放課後。

さやか「さて、今日は早いし……恭介のお見舞い行くわ」

まどか「あ、私も行くよ」

ほむら「ならご一緒させてもらおうかしら。経過も気になるし……手術は済んだんでしょう?」

さやか「みたいだけど、特に連絡は無いし……まぁ、一々言ってくるような話でもないけどさ」ウーン

さやか「ま、さっさと行くかね……仁美ー、ってアレ?」キョロキョロ

まどか「帰っちゃったのかな?」

ほむら「(……いや、こんな動きは無かったはずよ。何か……起こっているわね)」

さやか「仕方ないか。じゃ、CDショップ寄ってから病院行こ?」

まどか「うん」ウェヒヒ

253 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/28 08:22:06.39 Vgd7O1JAO 1333/1642

――――病院、上条恭介の病室。

さやか「恭介来たよー、さやかちゃんですよー!」バターン!

上条「お、来たのかいさやか」ヤァ

さやか「っ」ドキッ

まどか「あ……」

ほむら「(……考えうる限り、最悪かしらね。ソコはさやかの席よ)」





仁美「あら皆さん、奇遇ですわね」ニコ

254 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/28 08:23:59.50 Vgd7O1JAO 1334/1642

――――

さやか「仁美、どうしてここに?」

仁美「いえ。私お父様から、上条君の手術が成功したと聞いたので……是非お見舞いに向かいたいと思いましたの」

上条「志築さんのお父さんが、どうやら海外の先生と連絡をとってくれたみたいなんだ」ハハ

仁美「被験者を探しているという話を聞きまして……詳しく聞けば、上条君に条件が当てはまりましたから丁度良いかと思い、お父様に進言致しましたの」

さやか「へ、へーそうなんだ! 良かったね恭介!」アハハ

上条「あぁ、志築さんには感謝しているよ」ハハッ

仁美「運が良かっただけですのよ、上条君。神様は貴方を見ていて下さっただけなんです」ニコッ

さやか「っ」ズキン

ハハハッ

フフッ







さやか「あ、これCD。置いとくね?」

上条「あぁ、ありがとうさやか」

さやか「じゃ、慌ただしくて悪いけど、アタシほむら達と用事あるからさ。またね」

上条「あぁ、また。暁美さんも、いつでも歓迎するよ!」ニコ

ズキンッ

ユウリ『うわ。うわぁ』

ほむら「(――っっ、このバカ! バカじゃないの!? こないだの説教は幸せバカになった頭からすり抜けてしまったのかしら……)」クゥ……

ほむら「(……さやかが報われないのは今までもたくさんあったわ。でも――全て横取りされたなんて事は無い……)」

ほむら「(最悪なんてモノじゃないわよ、コレ……)」

まどか「さやかちゃん……」

さやか「行こっ、まどか!」ニパッ

ほむら「……そうね」

パタンッ……





仁美「…………」

255 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/28 08:25:19.35 Vgd7O1JAO 1335/1642

――――いつもの、マミの家へと向かう道。

さやか「…………」テクテク

まどか「…………」トテトテ

ほむら「…………」スタスタ








さやか「……キッツ」ボソッ

ほむら『杏子ぉぉぉぉぉぉぉぉ!! 早く来て杏子ぉぉぉぉぉぉぉぉ!!』テレパスィィィィアァァァ!

256 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/28 08:27:22.97 Vgd7O1JAO 1336/1642

――――マミ宅

さやか「…………」

マミ「…………」

ほむら「…………」

まどか「…………」

マミ『未だかつて無い、下手な事喋ったら死ぬ雰囲気じゃないのよ!?』マミンッ!?

ほむら『想定外よ。あの子の中である程度心の準備は出来てたみたいだから、ある程度は持ってるけど……あぁも露骨にやられるとは』

QB『どうしたんだい? 来るなり塞ぎこんで、正直訳が分からないよ』

ほむら『貴女も全く厄介な因果を引き寄せたモノね、キュゥべえ』ハァ

QB「成る程、そういう事かいさやか」ムクッ

さやか「あぁ?」ジロッ

まどか「(怖いよさやかちゃん)」タラー

QB「腕を治した事を彼に言えば解決するんじゃないのかい?」

さやか「アンタバカぁ? そんなん、どうやって信じるのさ……」イジイジ

QB「だって奇跡か魔法が無ければ治らなかった案件なんだろう? キミが魔法少女である事が何よりの証拠じゃないか」きゅっぷい

さやか「……ソレができたら苦労しないよ」ハァァ……

QB「望みを叶えたって言うのに、キミたちは不満がる……訳が分からないよ」ヤレヤレ

257 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/28 08:28:51.42 Vgd7O1JAO 1337/1642

ジワー……

ほむら「ほら、ソウルジェム濁ってきたわよ」コツン

さやか「あんがと……世話になっちゃってるね」

ほむら「そう思うなら早く立ち直りなさい。貴女が落ち込んでるのを見るのは嫌よ」ホムッ

さやか「サンキュ、ほむら」

……ダダダダダッ!

バタァァァン!

杏子「さやかは無事か!?」ゼーハー

さやか「……杏子?」ジト

杏子「良かった……大丈夫だったか」ホッ

ゆま「キョーコ、お疲れ」ンショ

マミ「背負ってきたの?」ハイタオル

杏子「アタシの方が速いからな」サンキュ

杏子「で、どうなってんだよ。詳しく聞かせてくれないか?」

258 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/28 08:30:30.00 Vgd7O1JAO 1338/1642

――――かくかくしかじか

杏子「なるほど。でもまだその仁美ってのが坊っちゃんを好きかどうかは分からないんだろう?」

ほむら「……統計よ」ホム

杏子「統計かー……そうか」ウーン

さやか「何でこうなるのよ……」ズン

杏子「……でも、確かに坊っちゃんは治ったんだろ? それは、お前の願いでもあったんじゃないか?」

杏子「そこが一番重要なんだろ? 違うか?」

さやか「……そう、だけどさ」

杏子「自分をしっかり持つんださやか。お前にとって魔法少女って何だ?」

さやか「……魔女を倒して、みんなを守る存在」

杏子「……なら、ソレ以外はオマケみたいなもんだ。気にしなくていい」

さやか「オマケって――!」

杏子「アタシも色々あったけど、今は今で凄く充実してる」

杏子「ソレで良いじゃん」

さやか「……でも」

杏子「アレだ、なら告白だ! 告白しかないぜ!」グッ

さやか「うぇっ!?」ドキッ

259 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/28 08:31:33.72 Vgd7O1JAO 1339/1642

杏子「とにかく当たってみなけりゃ結果は分からないぜ? ほむらの話を聞くには脈が無いことは無いんだろ?」

ほむら「え、えぇ……無くは無いけれど」

杏子「女は度胸だ。もしかしたら上手くいくかもよ?」ニッ

さやか「そ、そうかな」テレッ

杏子「あぁ。ほぼ毎日お見舞いに来てくれる人を意識しない訳がない。やってやれない事はないだろ」

さやか「いやでも、うーん……」ウググ

杏子「ま、ゆっくり考えろよ。マミ、お茶ー」グデン

マミ「はいはい」クスッ

まどか「(スゴいね杏子ちゃん)」ヒソヒソ

ほむら「(さやかマイスターと言っても過言ではないわね)」ヒソヒソ

杏子「さやかー、とりあえずスマブラしようぜー。気分転換に」

さやか「えぇぇ……まぁいいけど」

QB「……わけがわからないよ」エェー

マミ「(スマブラ買っておいて良かった……)」

304 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/29 01:07:35.43 bcjhGXQAO 1340/1642

――――放課後、校門前

さやか「(まどかは家の用事。ほむらは私用)」

さやか「一人かぁ……」ハァ

「よっ、遅かったな?」オッ

さやか「って、杏子!?」エェッ!?

杏子「どうせいじけてるだろうから様子を見に来たぜ」ヘヘッ

さやか「……悪いけど、アタシ今日は恭介のお見舞いに行くの。だから――」

杏子「そんじゃアタシも着いてく。別に構わないだろ?」

さやか「……まぁ、いいけど。今日、ゆまちゃんは?」

杏子「マミん家でキュゥべえと留守番だ。たまにはな」

さやか「……見張り?」ム

杏子「……頭冷えたお前は本当に冴えるな。まぁ、それも兼ねてんだろ」オォ

杏子「ま、そんな事より。行くんだろ?」

さやか「あ、うん。じゃあ着いてきて」

305 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/29 01:08:50.28 bcjhGXQAO 1341/1642

――――道すがら

さやか「…………」トボトボ

杏子「…………」テクテク

杏子「…………」ンー

杏子「……」フム

杏子「なぁさやか」

さやか「何よ」

杏子「お前、やっぱあの坊っちゃんの事、本気なのか?」

さやか「…………どうなんだろう」

杏子「どうなんだろう、って?」

さやか「この気持ちが何なのか、良く分からないのよ」

さやか「確かに恭介の側にいるのはすごく……心地好くてさ」テレッ

さやか「でも、それ以上を望みたいって訳じゃないと思う」

さやか「けど、その場所は誰にも取られたくないの」

さやか「それを、世間一般で恋って言うんじゃないの?」

杏子「いや、アタシには分からんわ」キッパリ

さやか「えっ」ズルッ

さやか「……つまり?」

杏子「恋だの愛だの考えるからややこしくなんじゃね?」

杏子「さやかの気持ちはさやかの気持ちであって、他の全てとは違う」

杏子「お前がやりたいように、為りたいようにやるのが一番だと思うんだけどな」

杏子「だから、見舞いなんだろ?」

さやか「そうだけど……いや、そうだね。それしかないよね」タハハ

さやか「せいぜいさやかちゃんは気合い入れて見舞いますかー!」エリャー!

杏子「気合い入れるのは病人のほうだがな」クックッ

306 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/29 01:10:07.03 bcjhGXQAO 1342/1642

――――病院、上条恭介の病室『だった』部屋

さやか「――――」

杏子「おい、どういう事だよ……誰もいないだと?」キョロキョロ



さやか「どうして?」

さやか「なんで?」




杏子「あの、ここの人は……?」

「あぁ、上条さん? 手術してからみるみるうちに元気になっていってねぇ……つい昨日退院したの」

「もう魔法でもかかったみたいにね。音楽の力なのかしらね」

杏子「そう、ですか。ありがとうございました」ペコッ

さやか「…………」

杏子「(さやかの願いの力が強すぎたのか? 坊っちゃんの治癒力まで引き上げたみたいだな……こりゃ大したモンだ、なんて言ってられねぇぞ)」

杏子「さ、さやか……?」

さやか「なんで」

さやか「なんでいないのよ」

さやか「なんで」

杏子「(――何か気の効いた言葉を掛けにゃマズいぞこりゃ……チクショウ、何も出てこねぇ!)」

杏子「(仕方ない、なるようになれ!)」ウガー!

杏子「さやか、急な退院だったのかもしれねぇぞ? とりあえずあの坊っちゃん家に行ってみようぜ。折角今日は見舞おうと動いてたんだからさ?」ナ?

さやか「……そだね。行ってみよっか」

杏子「おう。顔も見ずに帰るのも、アタシが癪だしな」ホッ

307 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/29 01:13:14.91 bcjhGXQAO 1343/1642

――――恭介宅玄関前、もう夕暮れ。

杏子「おいおい、坊っちゃん家でかいな……」

さやか「昔はそんな事も無かったんだけどね。恭介は割りと稼ぐから……」

杏子「……そりゃいけねぇな。ガキの頃に金の大事さを知っとかなきゃ、いつか首をくくるぜ」

さやか「アンタが言うとスゴい説得力あるわ」ハハ

――――、――、――、――。

杏子「お、コレ坊っちゃんが弾いてんのか?」フム

さやか「うん、恭介の音だ」

杏子「分かるのか?」ヘェ

さやか「ずっと、聞いてるから」

杏子「悪くないな……ほむらにゃ負けるが」ン

さやか「規格外と比べないでよ」アハハ

さやか「……うん、何かバカらしくなっちゃったな!」タハハッ

杏子「何がだ?」

さやか「悩んでるのが。ほら、恭介はあんなに楽しそうにバイオリンを弾いてるんだよ」

杏子「いや、分からんけど」ポリポリ

さやか「そうなの。それで、何だかとっても満足出来たの……アタシ、ただもう一度――恭介の曲を聴きたかっただけなのかも」クスクス

杏子「……そりゃ、大した願いだな」ククッ

さやか「もうちょっと聞いてよっか」

杏子「会わないのかよ?」オイオイ

さやか「いーの。もう遅いし」エヘヘ

杏子「(幸せそうな顔しやがって。こっちの気も知らねぇでさ)」ハハ

308 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/29 01:14:28.57 bcjhGXQAO 1344/1642

――――物事には裏と表がある。

杏子「……お、終わったみたいだな。で、どうする? 帰るのか?」

さやか「そうだね……ちょっとパトロールしよっか?」

杏子「さやかが構わねぇならいいが……無茶すんなよ?」

杏子「なら早く行くか。あんまり人の家の前にいるのも変だしな――」

ガチャッ

杏子「ん?」

さやか「――――え」





仁美「さやかさん? どうしてこちらに?」

309 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/29 01:15:32.64 bcjhGXQAO 1345/1642

さやか「ひ、仁美こそ……なんで恭介の家に……?」

杏子「(おいおい、おいおいおいおい!?)」

仁美「その、私は――」








仁美「先程まで、上条君にバイオリンを聞かせてもらっていましたの」フフッ





え?

じゃあなに?

さっきまでアタシは。

恭介が仁美の為に弾いていた曲を。

盗み聞きしてただけってわけ?



さやか「そう。恭介退院したの知ってた?」

仁美「? えぇ、昨日聞きましたわ」キョトン

さやか「そっか。恭介、調子どうだった?」

仁美「病み上がりですから、万全とはいかないようですわ。仕方の無い事ですけれども」

さやか「ソレでも上等だよ。なら、今日はいいか……アタシは帰るとするよ」

杏子「さやか!?」

仁美「……さやかさん、そちらの方は?」

さやか「うーん、友達?」チラ

杏子「ソレでいいけど……いやそうじゃなくてさ!」

さやか「――じゃね!」ダッ!

杏子「お、おい待てよさやかっ!」ダダッ!

仁美「あ――行ってしまわれましたわ」

仁美「……さやかさん」

310 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/29 01:17:05.63 bcjhGXQAO 1346/1642

――――小雨。

さやか「…………」タタッ……

杏子「おい、止まれ! さやか、止まれ、ってぇっ!」ガシッ!

さやか「――――っ」

杏子「っ。お前、泣いて――」

さやか「雨だよ」

杏子「――そうなのか?」

さやか「うん。だから泣いてない。私は泣かないんだ」

杏子「……さやか」ギュウッ

さやか「……アタシ、バカみたい。いや、バカなんだ」

さやか「アタシの場所、無くなっちゃう――」

杏子「……今日はちと休め。温かいご飯を食べて、温かい風呂に入って、暖かい布団でぐっすり寝るんだ」ナデナデ

さやか「無理だよ、そんな気分じゃないよ……」フルフル

杏子「雨で身体が冷えちまってる。そういう時は、普段より気持ちも落ち込んじまうんだ」

杏子「――そうだ、おまじないをしてやるよ」ポワン

さやか「……何?」

杏子「ぐっすり眠れるおまじないだよ。頭を整理するには、すっきりしなきゃならないだろ?」

杏子「とりあえず、明日だ。色々考えるのはそれからにしようぜ、な?」ニッ

さやか「……うん、そうする」

杏子「(厄介な事になってきたな……チクショウ)」クッ

325 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/30 01:21:11.15 WDNznVNAO 1347/1642

――――その晩、マミ宅。

杏子「――というわけなんだが」

マミ「それはまた……どうしましょう」オロオロ

ほむら「うーん……とりあえずフォローはしておくけど、期待はしないで」ホムムゥ……

杏子「いっそアタシの魔法で……」

ほむら「ダメよ杏子」

杏子「分かってるよ……言ってみただけだって」

ほむら「人の気持ちだけはどうにもならない事よ。志築仁美だって、別に悪という訳ではない……まぁ、些か頭が回るとは思うけれど」

ユウリ『魔女になっちゃったらどうするのさ?』

ほむら「その時の為の、まどかのグリーフシードよ……使わないに越した事はないけど」

ユウリ『失敗した時の保険も用意、か。強かだな、暁美ほむら』

ほむら「そうでなければ意味が無いからよ」ホム

326 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/30 01:22:22.56 WDNznVNAO 1348/1642

――――翌日、朝、登校。

テクテク

さやか「…………」

まどか「…………」

ほむら「ほら、シャンとなさいさやか」ポンッ

さやか「ほむら……」

ほむら「おはよう、二人とも」ホムッ

まどか「おはよう、ほむらちゃん」

さやか「おはよ……」

まどか『ほむらちゃん、さやかちゃんは一体……?』テレパシー

ほむら『ほむほむしかじか』テレパシー

まどか『困ったね……』

まどか「(何とかさやかちゃんの力になれないかな……)」

仁美「おはようございます、皆さん」ペコリ

まどか「あ、お、おはよー仁美ちゃん」ウェヒヒ

ほむら「おはよう」

さやか「……おはよう、仁美」

仁美「…………?」

まどか「アハハ……さやかちゃん、今日調子悪いみたいなんだ。あ……」

ほむら「(む、上条恭介が登校してるわね。もう少し休んでいればいいものを)」チラッ

さやか「…………」ジッ

仁美「…………」

327 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/30 01:23:55.93 WDNznVNAO 1349/1642

――――授業中

早乙女「はい、では皆さん自習!」パタンッ

ほむら「ふぅ……」

ほむら「ん」チラ

ほむら「(さやか、まだ落ち込んでるわね……放課後まではまだ時間があるし、杏子に任せる前に何か手を打てないものかしら……)」ホムム

「……なぁ、暁美さん?」ヒソッ

ほむら「――何? 中沢君」クルッ

中沢「何かさ、美樹元気ないみたいだけど……何かあったの?」

ほむら「何故貴方が気にしているの?」ホム?

中沢「俺だけじゃないよ……クラス皆が不思議がってる。あの美樹を見て気付かない訳ないだろ?」ヒソヒソ

ほむら「……ちょっと人間関係のいざこざがあっただけよ」ホムッ

中沢「いざこざ……」フム

中沢「ふむ」チラ

恭介「――――」

中沢「ふむふむ」チラ

さやか「…………」

中沢「成る程な」フムフム

ほむら「……何が?」

中沢「上条絡みだろ?」

ほむら「――そうよ。でもどうして?」

中沢「美樹が毎日せっせと上条の見舞いに行ってたのは皆知ってるさ。まだ、付き合ってなかったのかい?」

ほむら「そうよ。ただの幼なじみ、らしいわ」ホムゥ

328 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/30 01:25:20.38 WDNznVNAO 1350/1642

中沢「……成る程なぁ。なら志築さんも一枚噛んでるな」フム

ほむら「――何故?」

中沢「上条が話していたよ。手が治ったのは手術のお陰で、その手術が出来たのは志築さんのお陰だってね」ヒソヒソ

ほむら「……確かにそうよ」

中沢「うーん、でもソレだけならこうはならないだろうから……志築さんは上条に惚れてるのか? そしてソレを美樹は知ってる……って辺りかな?」ドウ?

ほむら「……貴方なかなかね。探偵にでもなれるんじゃないかしら」ヘェ

中沢「推測の域を出なかったけど、どうやら当たりのようだね」

中沢「ソレにしても、アイツも罪な奴だぜ」ヤレヤレ

ほむら「あら、貴方はそんな事無いの?」ニヤ

中沢「冗談は止してくれ。生まれてこの方、浮いた話は一つもないんだ」ハハハ

中沢「じゃあ、君の悩みは美樹の事だったのか」

ほむら「――何でそこまで分かるの?」

中沢「……気付いてないかい? 顔に出ているよ、『手詰まりだ、誰か何とかしてくれ』ってさ」

ほむら「……気を付けるわ」

中沢「そうした方がいい。美樹も気にするだろうし」

中沢「よし、俺も一枚噛まさせてもらうよ……上条にちょっと発破掛けてみるわ」ククッ

329 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/30 01:26:10.02 WDNznVNAO 1351/1642

ほむら「(そういえば、同性からの接触は試みた事無かったわ……)」

ほむら「協力してくれるの?」

中沢「そんな大した事は出来ないよ。ただ、少しだけ話をするくらいさ」

ほむら「……ソレでも、私たちにとっては有り難いわ。でも貴方に得も何も無いわよ?」

中沢「チッチッチ、暁美さんは男って者を知らないみたいだね」

中沢「モテない男は、モテる奴が羨ましいんだよ。そんだけさ」ニッ

330 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/30 01:29:03.28 WDNznVNAO 1352/1642

――――放課後。少女たちが戦う裏で。

中沢「しっかし、上条もズルい奴だぜ」

中沢「金は有って当然、才能も有って当然、オマケに女に困らない、ってか……しかも女は良妻候補ときたもんだ」

中沢「恵まれてるなぁ、全く……」ハァ

中沢「ま、ぼやいても始まらんし、当事者に比べれば些細な事か……一番当事者のアイツがのほほんとしてんのが何か腹立つな」

中沢「さて――おーい上条! 今日コレから暇かー?」ガタッ

上条「中沢? 今日は特に用事は無いけど……」

中沢「ならマック行こうぜ。快気祝いに奢ってやるよ」ヘヘッ

上条「お、いいね。ビッグマックを奢る覚悟は出来たかい?」ニッ

中沢「財布の貯蔵は十分だ」フンッ

上条「そりゃあ楽しみだ」ハハッ

331 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/30 01:30:09.22 WDNznVNAO 1353/1642

――――ボーイズトーク

中沢「まぁ食えよ」モグモグ

上条「病院食ばかりだったから、ジャンク物がスゴく美味しいよ。ありがとう中沢」モグモグ

中沢「いやいや、良いって事よ……でだ、上条」

上条「……? なんだい?」

中沢「美樹とはドコまでいったんだ?」ニヤニヤ

上条「さやかと? いやいや、さやかとはそんなんじゃないよ」ハハハ

中沢「(あ、ダメだこりゃ。話にならん)」アララ

中沢「おいおい。お前、毎日献身的に見舞いに来てくれたのに……俺なら惚れちまうぜ?」ン?

上条「さやかは幼なじみだからさ。特に深い意味は無いよ」

中沢「……そうかな?」

上条「中沢?」

中沢「お前にとっては美樹が居て当たり前なんだろうけど、ソレは本当にそうなのか?」ニィ

上条「と言うと?」

中沢「美樹に告白しようと思う」

上条「っ!」

332 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/30 01:31:38.21 WDNznVNAO 1354/1642

中沢「家に誘ってな。菓子でも食いながら談笑して、いいタイミングで」

上条「へ、へぇ……」

中沢「美樹って結構イイ身体してるしな、そのままベッドに押し倒す」

上条「――中沢っ!」ガタンッ!

中沢「座れ上条、回りの迷惑だ」ジロッ

上条「――くっ」ドスンッ!

中沢「なに、美樹は優しいし、押しに弱そうだからな……頼み込めば落ちるさ……で――」

中沢「――お前は今、何で怒った?」

上条「何で、って、当たり前だろ!」

中沢「声を落とせ上条、お前の悪い癖だ……思い通りにならないとスグに癇癪を起こす」ヤレヤレ

上条「……そりゃあ、幼なじみを無下に扱われるのは嫌に決まってるだろ?」

中沢「恋愛なんてこんな物だろ。ヤるかどうか、そういう形だってあるさ」

中沢「お前は、そうやって一生美樹を縛り付けるのか?」

中沢「お前は、美樹とは他人なんだよ……俺と何しようが、関係無い。違うか?」

上条「……ボクは」クッ




中沢「ま、冗談なんだか」フゥ

333 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/30 01:33:03.27 WDNznVNAO 1355/1642

上条「――はい?」

中沢「美樹の件は冗談だ。心配すんなよ上条」ニヤニヤ

上条「すいません店員さん。マックポーク5つ追加でお願いします。この野郎の奢りで」

中沢「けっ、上条のそういうとこは尊敬するよ全く」ククッ

上条「謝罪と賠償を要求するよ全く……」ハァ

中沢「ま、でも……お前はもうちょっと機微になるべきだわな。女に対してさ」

上条「……かなぁ」ウーン

中沢「今度何か機会が有ったら、真剣に考えてみろよ。損はしないだろ?」

上条「……まぁね。頭には置いとくよ」

中沢「よろしい。はぁ……モテない男に慣れない事させやがって。お前のせいでクラスの雰囲気が暗くなるんだからな」

上条「え?」キョトン

中沢「コイツ気付いてねぇよチクショウ」

中沢「(しかし、何だよ……美樹にも全然ワンチャンあるじゃねぇか。あんま心配する事でも無いんじゃないか、暁美さん)」

360 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/31 14:34:37.22 7R9xK0dAO 1356/1642

――――女の闘い。とあるカフェにて。

さやか「二人で話したいなんて珍しいね、仁美」

仁美「えぇ。大事な話ですの」

さやか「大事な話……」



ほむら「(心配で着いてきてしまったわ)」コソコソ

ほむら「(フォロー役に杏子は呼んでおいたけど……)」ホムッ



仁美「実は私……上条君の事、ずっとお慕いしておりましたの」

さやか「……そう。恭介も隅に置けないね」ハハ

仁美「……あまり驚かれませんのね」

さやか「そんな気はしてたからね……」

仁美「ふうん……でも、さやかさんはどうですの?」

さやか「アタシは……別に」

仁美「嘘ですわね」キッパリ

さやか「っ」ビクッ

仁美「さやかさんだって、上条君をお慕いしているはずですわ」

仁美「……私、上条君に告白しようと思いますの」

さやか「そ、そう」フルッ

仁美「でも、それは明日の話。今日一日は、さやかさんにお譲り致しますの……さやかさんにはその権利がありますから」

さやか「えっ……今日?」

仁美「さやかさんは自分の――本当の気持ちと向き合えますか?」

さやか「…………」





「なにしょげてんだよ」ポム

さやか「えっ?」

仁美「貴方は……」

ほむら「(ナイス! その空気読まなさは貴女にしか出来ないわ!)」ホムホムッ!

杏子「洒落た店だなぁ……何が美味いんだ、ここ?」

さやか「アンタ……なんで」

杏子「とりあえず適当に注文するかな」ハハッ

361 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/31 14:36:45.09 7R9xK0dAO 1357/1642

――――

杏子「わぁ……」ペカー!

さやか「えっ、ちょっ、杏子何ソレ」ヒキッ

仁美「スゴいトッピングですわ……」

杏子「美味そうなもん全部のせたからな!」ドヤァ

さやか「それ、何て言って注文したのよ……」ハァ

杏子「えーと、『ベンティアドショットヘーゼルナッツバニラアーモンドキャラメルエキストラホイップキャラメルソースモカソースランバチップチョコレートクリームフラペチーノ』だっけ」ハハッ

仁美「う」ウワァ……

杏子「いっただきます!」モグモグ

さやか「……」クスッ

杏子「んで、お前は何でさやかをいじめてた訳?」ギロッ

さやか「え」

仁美「そんな事ありませんの」

杏子「端から見りゃそう見えたっつってんだよ……下らねぇ内容だったら、お嬢ちゃんただじゃ済まさねぇぞ」モグモグ

さやか「そ、そんなんじゃないんだって! あのね――」

362 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/31 14:37:50.82 7R9xK0dAO 1358/1642

――――

杏子「……ふぅん、そういう事かい」モグモグ

ほむら「…………」ドキドキ

杏子「アンタ、賢いな」

仁美「……何故そうお思いになられますの?」

杏子「何となくさ……しかし今日一日ねぇ」チラ

さやか「…………」ウゥ

杏子「(さやかは話にならねぇな……じゃ、とりあえず)」

杏子「お前、さやかに一日猶予をやったのは何でだ?」

仁美「それは、正々堂々としていたいからですわ。私はあくまでさやかさんの友達ですもの」

杏子「ふぅん。じゃあさ、さやかがあの坊っちゃんに告ったらどうなると思う?」

仁美「それは、きっと受け入れられるて思いますわ。私では、さやかさんと過ごした時間には敵いませんもの」

杏子「ほう……」フム

杏子「…………」ウーン

さやか「きょ、杏子……?」

杏子「ふむ」ウン

杏子「ダウト」ギロッ

仁美「……私が、そう思っていないと?」キッ

杏子「いいぜ、別に本当と言い張ってもさ」フン

杏子「ま、もしそうなら……もう止めれば? 告白するのなんてさ」

仁美「……何ですって?」

363 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/31 14:39:46.55 7R9xK0dAO 1359/1642

杏子「だってそうだろう? 先に告白されたら負けると思ってるのに、正々堂々とか言いながら敵に塩をくれてやる」

仁美「て、敵だなんて――」

「敵だよ」ヒョコッ

さやか 仁美「わぁっ!?」ビクッ

ほむら「(わお)」

キリカ「恋愛は闘いだよ。命を掛けて奪い奪われるモノさ。だから容赦なんて必要ない」

仁美「誰ですの、貴女は――」ドキッ

クイッ

キリカ「キミは恋愛というものを少し甘く見ているようだね。良くも悪くも……凡人なのかな」フフッ

仁美「ち、ちかっ……顔が近いんですのよ!」ワタワタ

杏子「あぁ悪い。友人だ」モグモグ

キリカ「全く、恩人の為に動いているんなら言ってくれれば良いんだ。私も少し後悔しているんだ」モグモグ

杏子「食うなよ」

キリカ「良いじゃないか、こんなにふざけた容量なんだからさ」

364 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/12/31 14:41:26.48 7R9xK0dAO 1360/1642

杏子「……ま、そういう事だよお嬢ちゃん。アンタの言うことが本当なら、アンタは負けても構わないって事になる」

杏子「そんな気持ちなら、最初っから止めてくれって事だよ。付き合えなくても別に構わないんだろ?」

仁美「そ、そんな事は――」

キリカ「そんなつもりは無いんだろう、佐倉杏子」モグモグ

杏子「あぁ、だろうな。だから嘘だって言ったんだ……なぁ、面白い話をしようか」

杏子「人が勝負を仕掛けてくるのは、勝算がある時だけだ」

杏子「アンタは今、この話をさやかにしても――告白しないか、失敗すると打算してるのさ」

仁美「そんな――っ!」ガタッ

キリカ「違うのかい? てっきり私はそうだとばかり思っていたんだ」

さやか「仁美……?」

仁美「違いますの、さやかさん……」

杏子「本気なら、そうさ。そして――本気じゃないなら身を引けよ。覚悟が足りないよ、お姫様」

キリカ「居ても立ってもいられない程に恋い焦がれるものだろう。君の落ち着きは評価に値するよ。愚鈍とも言えるがね」

仁美「私は……」

杏子「私らの価値観を押し付けようとは思わない。だけど、さやかを無理矢理舞台にあげようとするのは好きじゃねぇな」

キリカ「時間をかけて育む愛もある……キミはね、告白するのに許可を取るべきじゃなかったね」

仁美「……私、塾がありますの。失礼致しますわ」スクッ

杏子「志築仁美」

仁美「……何ですの?」

杏子「お前も、今一度考えろ。真剣にな」

仁美「……失礼致しますの」

379 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2012/01/01 01:09:54.02 5tsNTHuAO 1361/1642

――――仁美が帰って

ほむら「…………」ツカツカ

杏子「お、ほむら」ヨォ

キリカ「ヤッホー。遅かったね」エヘヘ

さやか「ほむらまで……みんなどうして」

ほ杏キ「偶然」キリッ

さやか「……嘘だって分かってほしいくらい嘘だね」

ほむら「さやか、どうするの?」

さやか「どうって……」

ほむら「志築仁美は、拙いなりに宣戦布告をしてきたのよ。それに対して貴女は、どうするのかと聞いているの」

さやか「アタシは……別に、何もしない……」グッ

杏子「…………」フム

さやか「アタシは別に恭介をどうにかしたい訳じゃない……アタシの場所があるなら、恭介と仁美が付き合おうと構わない」

キリカ「二番で満足だとでも!?……こりゃあ驚きだ、やっぱり恩人の愛は良く分からないよ」

さやか「――確かに辛いよ。辛くない訳ないよ……でも、恭介の幸せの邪魔は出来ないよ……何より、アタシはソレを願っていたんだから」

杏子「……変な所ばっかマミに似やがって……自己犠牲は美徳とは限らないよ」

さやか「それでも、コレを曲げたら自分が自分で無くなっちゃう……コレを望んだのはアタシなんだ、ただ知らなかっただけで」

380 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2012/01/01 01:10:20.50 5tsNTHuAO 1362/1642

ほむら「……後悔はしないのね?」

さやか「後悔なんてしっぱなしだよ。だからもう気にしない」ハハ

さやか「ゴメンね、心配かけてさ」

杏子「…………」

ほむら「……貴女からは何かあるかしら」

ユウリ『お。そうだね……』

ユウリ『手を伸ばせる時に手を伸ばさないと、遠くに行ってしまうからな。ソレだけ頭に置いときな、青いの――いや、さやか』

さやか「……うん。分かった」

ほむら「……送ってあげて、杏子」

杏子「合点だ」

381 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2012/01/01 01:11:14.07 5tsNTHuAO 1363/1642

――――杏子とさやか、影への帰途。

さやか「…………」

杏子「……元気出せって。まだ坊っちゃんが受けるとも限らないだろ?」ポンッ

さやか「……仁美、綺麗だし」ハハ……

杏子「何言ってんだ、さやかだって負けてないぜ」ニッ

さやか「アンタから見て、でしょ。信用ならないわ」

杏子「おろ、手厳しいな」タハハ

さやか「……そもそも魔法少女だしね、アタシ。人並みに生活なんて出来やしない」

さやか「魔女を倒す毎日――そう、アタシはただ魔女を倒す事しか出来ない」

杏子「そんな事無いさ。さやかは何だって出来る。それこそ、魔法少女なんだからな」パキッ

杏子「くうかい?」スッ

さやか「……いや、今は良いや――」

ズッ――

杏子「(結界――!?)」

さやか「わざわざ、魔女から、来てくれた――!!」

382 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2012/01/01 01:12:06.58 5tsNTHuAO 1364/1642

――――祈る魔女とすがる影。

細く高い崖の上、白と黒しか色が存在出来ない空間に、二人は引き摺り込まれた。

崖の岬には、魔女――祈りを捧げる少女のようにも見える――がいる。

さやかは不敵な笑みを浮かべて変身した。

さやか「あぁ――殺そう。魔女なら、殺していいから」

使い魔の数も魔女の性質も知らず、そんな事関係無いと言わないばかりに――彼女は突貫する。

杏子「バカ、待て!」

杏子が止める間もなく、さやかは影の触手に取り囲まれた。
ソレを二刀の剣で薙ぎ払い、前へ前へ――鋭い接敵を繰り返す。

さやか「えやぁぁぁっ!!」

一息で魔女に飛び掛かり、その首に剣を当て――斬れない。

さやか「なっ――ぐっ、あぁぁぁぁぁっ!!」

その僅かな隙に使い魔の触手が大量に殴りかかった。
吹き飛び、空に打ち上げられるさやか。

杏子「さやかっ!」

杏子が飛び上がり、さやかを優しく受け止め着地する。

杏子「無茶すんなバカ!」

さやか「――ほっといてよ」

さやかは忠告を無視して再び駆けた。
使い魔は容易く断てるが、魔女は不自然な程に強固で。

影の魔女、その性質は『独善』。
彼の魔女を倒すには、黒き絶望を知らねばならない。

そして――

さやか「はっ、はぁっ……」

さやかは庇護のお陰で、彼女の絶望はそこまでに至っていなかった――

383 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2012/01/01 01:15:00.14 5tsNTHuAO 1365/1642

――――

さやか「くぅっ!?」

杏子「くそっ……!」

二人は、倒れる事の無い魔女と、尽きる事の無い使い魔たちに疲弊していた。

杏子「(ほむら――まだなのか?)」

テレパシーで送った救援要請は届いているはず。
なら、耐えるだけでいい。

しかし――

ほむら『杏子、聞こえる!?』

杏子『漸くか……魔女が手強い、早く来てくれ!』

ほむら『それが――』

杏子『――何だって?』

ほむらの伝えた現実は残酷だった。
強力な結界に阻まれて、侵入するのに時間が掛かると言うのだ。

ほむらならそれでも容易くやって除けるだろうが、今は一分一秒が命に関わる。

時間を稼がないと――

さやか「――うわぁぁぁぁぁぁ!っっっ!」

杏子「さやかっ!?」

さやかは舞い上がり、空中に青色の魔法陣を展開する。
その魔方陣は幾つも、さやかの突進する道に配置されていた。

足元のソレを強く蹴り、魔方陣を通り抜ける度に加速して――さやかは弾丸の様に魔女に斬りかかる。

轟音と衝撃波。
しかし魔女は健在で、使い魔はさやかに食らい付く。

だが、さやかは止まらない。
狂ったように剣を何度も何度も叩き付けた。

384 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2012/01/01 01:15:44.16 5tsNTHuAO 1366/1642

さやか「アハハ、アハハハ!! 簡単! その気になれば、痛みなんて消しちゃえるんだ!」

さやか「だって、人間じゃないから――!」

だが、魔女も反撃を行なって。
さやかが魔女から生えた樹木の枝に押し潰される。

杏子「――っ!」

杏子がその枝を斬って斬って叩き斬った。

傷だらけのさやかを抱き抱える。

杏子「さやか、今は無理に――がはっ!?」

使い魔が杏子の身体を打ち、地面に強かに身体を――さやかを庇うように背中から――ぶつけた。

さやか「……ま、だ」

よろけながら、青の魔法少女は立ち上がる。
だが、傷を癒しきるまでは動けない。
気付けば、回りは使い魔に囲まれ、一斉にさやかに襲い掛かり――

さやか「っ――杏子……?」



――杏子がさやかを抱き締めて、さやかは傷付く事は無かった。

385 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2012/01/01 01:18:21.55 5tsNTHuAO 1367/1642

だがしかし、ソレは――彼女が肩代わりしたに過ぎない。
杏子の背中に、大量の使い魔が噛み付いていた。

さやか「バカ――アタシならすぐ治るのに!」

杏子「なら、アタシを治してくれよ……出来るだろ?」

さやかには杏子の顔と、上半身と、その背景しか視界に入っていない。

杏子が微笑んでいる後ろで、触手が暴れていた。
蛇の頭のような先端が、何度も何度も――肉を引きちぎっている。

――喰われていた。

さやか「――何で治らないのよ、何で!!」

さやかが杏子を治すより早く、使い魔たちは餌に群がるピラニアの如く、杏子の背中を食い荒らしていく。

杏子「なぁ、さやか」

さやか「呑気に話してる場合じゃ――」

杏子「今は、お前と話すより大事な事なんて無いよ」

肉の千切れる音がする。

杏子「お前は、自分を、何も出来ないちっぽけな奴だと思っているかもしれない」

骨が削られる音もする。

杏子「でも、そんな事は無い。お前は凄い奴だ」

身体を食い尽くしたのか、杏子の腕の皮膚の下に――触手が潜り込んでいた。

杏子「みんなお前が大好きだ。お前は愛されてる――アタシも、さやかを気に入ってる」

さやかには見えないが、杏子の防御魔法が――さやかに見える部分だけは取り繕っていた。

無傷な様に見えて、皮の下には何も無い。

少しずつ、ハリボテになっていく佐倉杏子。

魔法で身体を支えるのも限界が来ていて――――

386 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2012/01/01 01:21:00.70 5tsNTHuAO 1368/1642

――――結界外、ほむら達。

織莉子「早く! どうにかして結界を破りませんと!」

ほむら「――ダメ、何の因果が働いているのか皆目見当がつかないわ……」

ほむらが無力に拳を叩き付けた。

キリカ「一体どうすれば……」

ゆま「キョーコ……っ!」

マミ「……因果に関われる何かは無いの?」

ほむら「――これと、ユウリ!」

ユウリ『はいよ!』

ユウリの魔力が、ほむらの取り出したナイフに宿る。
舞台で踊る、『主演の短刀』だった。

かつて世界の主人公である事を望んだ、『未来』の少女の奇跡。

ソレが因果に亀裂を入れる――

387 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2012/01/01 01:21:38.25 5tsNTHuAO 1369/1642

――――

さやか「もういい、分かったから――」

さやかの涙を、空っぽの手で拭う。
使い魔は遂に杏子の中身を喰らい、皮の裏に張り付いた赤い菱形の魔法を噛み砕いていった。

杏子「さやかは、一人じゃない――」

最後に笑って、彼女の胸を蛇が喰い破った。
大きく空いた口には、佐倉杏子のソウルジェムが――

さやか「――――」

ソレを咄嗟に掴む。
拳に鋭い歯が食い込むが、痛くない。



痛くあって、堪るか――!



杏子「だから、負けるな――絶望に――な」

杏子の最後を喰らおうと、使い魔が一斉にそのソウルジェムへと――至れない。

さやか「杏子に――触れるなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

怒号が――使い魔を弾き飛ばす。

さやかの周囲には、複数――青色の魔方陣が展開されていた。

杏子「ほら――来た、ぞ」

結界が砕ける音と共に、魔法少女たち――いや、仲間が――彼女たちを護るように飛び込んでくる。

388 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2012/01/01 01:22:05.79 5tsNTHuAO 1370/1642

ほむら「二人とも――杏子!? ゆま、お願い!」

ゆま「キョーコ!」

ゆまの癒しの祈りが、杏子の失われた中身を補填していった。

さやかの傍らに、マミとキリカ、そしてユウリ。

さやか「アイツ、硬いよ」

マミ「……美樹さん、貴女――いえ、野暮な事ね」

キリカ「良いね、好きな目だ」

ユウリ「……くくっ」

黒き絶望を知る。

ソレは、そこにいる『魔女』たち三人には、酷く易き事だった。

389 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2012/01/01 01:22:33.87 5tsNTHuAO 1371/1642

――――

終わりは呆気なかった。
半魔女化したキリカが使い魔もろとも魔女を斬り裂き、十字架に魔女を縛り付け――火葬されるソレをマミが撃ち抜いただけだった。

さやか「杏子……っ」

杏子「……生きてるな、お互い」

杏子はさやかに笑いかけた。

杏子「だろ?……みんな、お前を大事に思ってるんだ」

杏子「だから、自分を信じれなくたっていい。だけど、さやかを信じるアタシを信じてくれよ」

さやか「分かっ、た……」

杏子「泣くなバカ。バーカ」

さやか「何よ、バカ、バーカ」

杏子「くふっ」

さやか「ははっ」

ほむら「(一件落着、かしらね。この精神状態なら、何かよっぽどの事が無い限り大丈夫ね)」

ほむら「(上条恭介の件で落ち込む事もあるでしょうけど、絶望するほどには至らないわね)」

ほむら「よし、祝勝会よ! マミの家で!」

マミ「えっ、待って聞いてな――」

反対意見は無視しよう、民主主義だし。




そして魔法少女たちは、穏やかな帰途に着いた――

398 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2012/01/02 07:04:23.31 ehU8xMaAO 1372/1642

――――早朝、登校。

まどか「さやかちゃん、大丈夫?」

さやか「あー、うん。心配かけたね。もう元気バリバリさやかちゃんですよー!」フンス!

まどか「良かったぁ……何かあったの?」ニコ

さやか「いや何、自分を心配してくれる人がいるってのは心強いなって。そんだけ」ヘヘッ

ほむら「調子良さそうで何よりね」ホムッ

さやか「お、ほむら。昨日はありがとね」

ほむら「貴女たちが無事で良かったわ。くれぐれも気を付けて……貴女を失うなんて、もう御免よ」ホム

さやか「ありがとうね、ほむら」スッ

ほむら「……貴女から握手を求められるなんて――私としても冥利に尽きるわ」ガシッ

さやか「へへっ」ニッ

ほむら「ふふ」ククッ

まどか「ふふっ、仲良しだね二人とも――って、ほむらちゃん。指輪光ってるけど?」

ほむら「――これは。回りに人は居ないわよね」キョロキョロ

さやか「な、何コレ?」

ほむら「……ありがとう、さやか」ポワン

ほむら「『爽』」

さやか「アタシの剣?」

ほむら「貴女は、私を認めてくれたのね。嬉しいわ」ニコ

399 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2012/01/02 07:05:23.34 ehU8xMaAO 1373/1642

さやか「あ、みんなの武器使ってたのはそういう訳なの?」

ほむら「そうでもあるわ。そして私が一人で戦っていない事の証明でもある……」

さやか「ふーん、みんなほむらを信用してるんだ」

ほむら「有難い事よ、本当に」フフ



まどか「――ほむらちゃん、アレ」

ほむら「何かしらまどか――む」

さやか「仁美と恭介……一緒に登校かぁ」

ほむら「さやか?」オロオロ

さやか「男が出来たら親友はそっちのけかぁ……一途なんだから」ハハ

まどか「……平気?」

さやか「ちょっとアレだけど、ね」

400 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2012/01/02 07:06:17.10 ehU8xMaAO 1374/1642

――――仁美。

上条「ありがとう、志築さん。まだ通学も慣れないから助かるよ」ハハハ

仁美「いえいえ、このくらいお安いご用ですのよ」ニコニコ

上条「…………」

中沢『お前はもうちょっと機微になるべきだわな』

上条「(しかし……)」

仁美「上条君」ジッ

上条「な、何だい志築さん(ち、近い)」タラリ

仁美「今日の放課後、是非お話ししたい事がありますの……お時間、ありますか?」

上条「――それは」

仁美「今は言わせないで下さいますか……少し、気恥ずかしいので」テレッ

上条「(……こういう事だよな、中沢)」

401 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2012/01/02 07:06:51.93 ehU8xMaAO 1375/1642

――――ホームルーム。中沢。

中沢「おはよーっす」ガラッ

「お、中沢」

「よっす。早いな」

中沢「気分だったんだよ、珍しくね」チラ

中沢「(お、美樹元気そうじゃん。コレでクラスも元通りかね)」ホッ

上条「中沢……ちょっと良いかな?」ガシッ

中沢「お、上条。俺も気になってたから丁度良いや。ツレションと洒落こもうぜ」

上条「下品だよ」ハァ

中沢「構うか。さっさと行くぜ」

402 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2012/01/02 07:07:34.08 ehU8xMaAO 1376/1642

――――男子サンクチュアリ。

中沢「は、はぁぁぁぁぁっ!?」

上条「しっ、声が大きいよ……」

中沢「え、何ソレ確実に告白じゃん……どうするんだよ」

上条「ボクは……真剣に考えるよ。でも、話を聞いてみない事には何とも……」

中沢「――あぁもう。で、美樹とは何かあったのか?」ポリポリ

上条「? 特に何も無かったけれど?」

中沢「……どういう事だ?」ン?









天井繋がりの向こう側。

さやか「…………」

403 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2012/01/02 07:11:26.93 ehU8xMaAO 1377/1642

――――放課後

ほむら「さて、帰りましょうか――ん?」クルッ

ほむら「さやかが居ない? 用事でもあったのかしら……」ホムム

中沢「暁美さん、ちょっと良いかな?」

ほむら「中沢君?」

中沢「実は――」カクカクシカジカ

ほむら「――それは何時の話!?」ガシッ

中沢「わっ……今朝のホームルーム前だけど――もしかして」ハッ

ほむら「さやかも今朝トイレに行っていた――コレは、マズいかもしれない」クッ

ほむら「まどか!」

まどか「な、何かなほむらちゃん!」

ほむら「さやかを探しに行くわ。貴女の心当たりを当たってみる――着いてきて!」ガシッ

まどか「わわっ、うん!」

中沢「――暁美さん!」

ほむら「――何?」クル

中沢「…………頑張ってくれ」

ほむら「ありがとう。一番の声援だわ」ダッ

まどか「さやかちゃん――」タッ



中沢「……ただ事じゃないな。美樹の失恋が、そんなに厄介な事になるのか……?」

中沢「……何かデカい事をしてるんだろうな、暁美さん達は。ならやっぱり、『頑張れ』で正解だよな」

中沢「さて……脇役は帰るかね。主役にはなりたいが、上条を見てるとソレもどうかと思うねぇ」ハァ

404 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2012/01/02 07:11:53.62 ehU8xMaAO 1378/1642

――――一人、一人。一人。

上条「――――」

仁美「――――」

















さやか「(やっぱり、だよね)」

さやか「(……コソコソして、アタシカッコ悪いな)」

405 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2012/01/02 07:13:47.07 ehU8xMaAO 1379/1642

――――使い魔の結界

ほむら「こんな時に使い魔なんて――」クッ

まどか「――ほむらちゃん、あそこ!」

ほむら「――さやか、無事!?」ダッ

さやか「……あぁ、ほむらか。大丈夫、使い魔はアタシが倒したよ」

ほむら「傷だらけじゃないのよ……極力ダメージを抑える為にも、私たちを頼りなさい」

さやか「何か、戦いたくてさ」ハハ

ほむら「そう……気は晴れたかしら?」ハァ……

さやか「いまいち……かな」ポフッ

ほむら「さやか? 私の胸には感触を楽しむ程容量は無いのだけど……」ホムッ

さやか「いいから貸してよ……」ギュッ

まどか『今のはデリカシー無いよほむらちゃん』テレパシー

ほむら『場を和ませようと、身を削ったギャグだったのよ……』テレパシー……

さやか「……仁美、告白してたよ」

ほむら「……ソレで?」ナデナデ

さやか「成功みたい。仲良さげに話してたよ」

さやか「もしかしたら、って思ったんだけど……やっぱり無かったわ」

406 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2012/01/02 07:14:14.27 ehU8xMaAO 1380/1642

ほむら「……後悔してる?」

さやか「ううん、ちょっとへこんだだけ……ほむら」

ほむら「何かしら?」

さやか「アンタ、暖かいね」

ほむら「……お役に立てたようで、何より」クスッ

まどか「(さやかちゃん……)」

407 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2012/01/02 07:16:13.37 ehU8xMaAO 1381/1642

――――まどか宅、夜半。

まどか「(何だか、眠れないや……)」ガチャッ

まどか「ママ、まだ起きてたんだ」

詢子「そりゃこっちのセリフだよまどか。どうした、眠れないのかい?」

詢子「なら、私と一緒に呑むかい?」ククッ

まどか「アハハ……私にお酒はまだ早いよ。ココアが精一杯の背伸びかな」ティヒヒ

詢子「出来た娘だよ、全く」ハハ

まどか「座るね」スッ

詢子「おう」グビッ

詢子「で、悩みは何だ?」プハァッ

まどか「……分かっちゃうよね、ママには」ティヒヒ

詢子「自分の娘だからねぇ……分からなかったら、そりゃ母親じゃない」ウン

まどか「……友達が失恋しちゃって、凄く落ち込んでるの」

詢子「ほう、青春だねぇ」ホゥ

まどか「その子、何をするにも自棄になっちゃってて……傷付くのも構わずに」

詢子「それはいけないねぇ……失恋なんかはリカバリーが大事だ。それをさっさと糧にして次に行くのが一番いいからね」ウンウン

まどか「友達もみんな精一杯慰めてるんだけど、すぐまた落ち込んじゃうの……」ウーン

詢子「うーん、ソレばっかりは本人の問題だから……難しいと思うよ」ヤッパリ

まどか「何か良い案は無いかな……」

408 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2012/01/02 07:18:38.84 ehU8xMaAO 1382/1642

詢子「そうだねぇ……」フム

詢子「とにかく傍にいてやりな。一緒に笑って、一緒に泣いてやるのが良いんじゃないかい」

詢子「そんで間違いそうになったら、止める役になってあげるんだよ」

詢子「変わりに、まどかが間違ってあげてもいい」

まどか「……間違うって、難しいよ」ウーン

詢子「そうかもな。でも、今しか出来ないよ」

詢子「この歳になるとねぇ、小さな失敗も許されやしない。間違うなんてもっての他だ」

詢子「だからこそ、まどかには出来る……アンタは良い子に育った、アタシが保証するよ」

詢子「だから、間違う事に怯えないで……しっかり行動しな。そういう事だよ」

まどか「うん……うん。ありがとう、ママ。私、私なりにやってみるね」カタッ

詢子「その意気だ。頑張れ娘」ハハハ

まどか「ありがと、ママ。お休みなさい」ニコ

詢子「あぁ、お休み……まどか」グビッ

トントントン……

詢子「(上がったな)」プハッ

詢子「……失恋の話をする雰囲気じゃなかったんだけどね」

詢子「まどか……アンタは一体何をやっているんだろうね。母としては気になるけれど……」

詢子「誰しも経験する子供の秘密……ってのとはちと違うみたいだし」

詢子「……不甲斐ないねぇ、母親としてさ」

詢子「……怪我すんなよ、まどか」

434 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2012/01/03 10:35:39.80 DpvjsXHAO 1383/1642

――――朝、登校。

ほむら「おはようまどか……さやかは?」ホム?

まどか「今日はお休みするって……心配だよ」

ほむら『杏子』

杏子『任せとけ』

ほむら「心配しなくていいわ。彼女のサポートは任せて」ニコ

まどか「私も何か出来る事、無いかな」

ほむら「……きっと彼女にとっては、その気持ちこそ嬉しいと思うわ」

ほむら「そうね……彼女が道を違えそうになったら正してあげてほしい。ソレできっと大丈夫なはずよ」ホム

まどか「……うん、分かったよ」コクッ

435 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2012/01/03 10:36:08.87 DpvjsXHAO 1384/1642

――――さやか宅。

さやか「(学校行きたくないとか……子供か、アタシは)」モゾモゾ

さやか「(布団の中でくるまってるのがお似合いだよ……アタシにはさ)」

さやか「(……ちゃんと祝福しなきゃって、分かってるんだけどな)」

『いつまでしょげてんだ?』

さやか「ん?」ムク

シャッ

杏子『よ』

さやか『杏子……』

杏子『出掛けようぜ。話でもしながらな』

436 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2012/01/03 10:37:30.45 DpvjsXHAO 1385/1642

――――道すがら。

さやか「…………」テクテク

杏子「辛そうだな」

さやか「……ま、ね」

杏子「他人の為に願いを使うってのはそういう事だからな……客観的に見たらお前が損をして、他人が特をする」

杏子「ソレを目の当たりにしちまえば、そりゃ考える事もあんだろ」シャリッ

杏子「くうかい?」

さやか「いや、リンゴはいいや」

杏子「最近誰も受け取ってくれねぇんだよな……」シュン

さやか「(あ、ちょっと可愛い)」

437 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2012/01/03 10:39:05.69 DpvjsXHAO 1386/1642

――――教会

さやか「教会……?」

杏子「元アタシん家だ」

さやか「え、キリスト教徒だったの?」ワァ

杏子「日本は無宗教だからな、珍しいのは分かるよ」

杏子「親父は神父でね」

さやか「へぇ、でも何でこんなに荒れて……コレじゃ使えないじゃん。別に新しい教会があるとか?」

杏子「いや、もうココは使われてないし……親父はもういない」

さやか「え……それって」

杏子「ま、座りなよ……ほら、こっち来い」チョイチョイ

さやか「ん」スッ

杏子「……やっぱこの目線だよな」ククッ

さやか「?」

杏子「前もこうやってお前と話したんだ。その時は、私はあっちでお前に説教をしてたよ」

杏子「でも、良く考えりゃこっちの方がしっくりくるって事に気付いたんだ」

さやか「前ってその……」

杏子「……そうだな、お前じゃない『さやか』だ」

さやか「魔女になった私、か……正直、ソレを知ってるから頑張れてる気がするよ」ハハ

杏子「魔女になんてなりたくないから、か?」

さやか「そりゃあね。幾らなんでもさ」

さやか「……で、私に話すのは何?」

杏子「アタシの昔話さ。まだ魔法少女に成り立ての、な」

438 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2012/01/03 10:39:44.69 DpvjsXHAO 1387/1642

――――

杏子「……って訳さ。アタシの願いは、家族を殺しちまった」

杏子「質素でも生きる方法はいくらでもあった。指を指されても死にはしなかった」

杏子「でもアタシは甘えたんだ。そして親父はそれを許さなかったんだろう」

杏子「敬虔な親父には、まさしくアタシ自身が魔女だったのさ……」

さやか「杏子は……それを後悔していないの?」

杏子「後悔していた。だけど今は違う」

杏子「あの経験が無ければ今の私も無い」

杏子「不幸も不運も、理不尽すら糧にして前に進むんだよ。そういう奴を――見たから」

さやか「それは、ほむらの事?」

杏子「……歪み、傷付き、目を反らし、逃げ、戦い、負けて――しかし折れずにアイツはここにいる」

杏子「アイツは――本当は何にも出来ない臆病者だったと、ほむら自身から聞いた」

杏子「成る程、だからこそアイツは戦えるんだと思ったよ」

杏子「がむしゃらにやるしかないから――その点、アタシらは恵まれたモノさ。そうだろ?」

さやか「……そうだね。アタシの悩みなんて、ちょっとした事だし」

杏子「お前にとってデカけりゃ、それは大きいよ。卑下する事は無い」

439 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2012/01/03 10:42:22.67 DpvjsXHAO 1388/1642

さやか「杏子は、何でここまでアタシを構うの?」

杏子「……アタシは、アンタのお陰で思い出せたんだ。正義の味方をやってたあの頃をね」

さやか「正義の味方……か。何だか、今聞くとチープな感じ」フフッ

杏子「笑うなよ……アタシだってちょっとは気恥ずかしいんだからさ」カァ

さやか「そっか……じゃあ杏子はアタシの正義の味方さんだね!」ニコッ

杏子「う」

さやか「杏子がこうやってアタシを見てくれてるの、分かるよ……だから、アンタはアタシの正義の味方」

杏子「ほむらも忘れてやるなよ。お前の事、すっげー気にしてるからさ」

さやか「うん。杏子とほむら……それに皆が居てくれる。アタシ、元気になれそうだよ」ヘヘッ

杏子「そりゃいいや」

さやか「仁美も……友達なんだ。アタシの我が侭で関係が壊れちゃうのはおかしいよ」

さやか「うん、さやかちゃん頑張っちゃいますよ!」テヤー!

杏子「おう、ソレでこそだ」ニッ

455 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2012/01/06 23:12:12.04 EMXOmOLAO 1389/1642

――――杏子と別れた帰り道、夕暮れ

さやか「こんな時間まで引っ張り回してくれちゃって……」

さやか「楽しかったな。杏子と遊ぶの」クスッ

さやか「何か気も晴れちゃった感じかなー……最近テンションの上がり下がり激しいなー、アタシ」ハハ

さやか「んー。らしくないけど、公園で休憩でもしてこっかな。もう少し、今日を楽しんでいたいし」

456 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2012/01/06 23:13:02.63 EMXOmOLAO 1390/1642

――――夕暮れの公園。人気は亡い。

さやか「誰もいないなぁ……ま、子供は帰ってる時間だしね――って」

さやかが視界の端に、綺麗に掃除されたベンチを見つける。
そこには――

さやか「あのベンチに居るの――仁美と恭介?」

――上条恭介と志築仁美が居た。

上条は座り、仁美がその前に立っている。
肩に手を置いた仁美の背中を見つめて、さやかは立ち尽くしていた。

さやか「(……帰ろうかな)」

踵を返すべきかと迷うが、それでは今までのままだと思い留まる。

さやか「(私は恭介の幼なじみで仁美の親友……よし、声をかけても不自然じゃないよね)」

勇気を出して、一歩踏み出した。
その音で、上条恭介はこちらに気付く。

上条「さやか――」

仁美は気付いていない。

故に――強引に上条恭介の唇を奪った。

さやか「――――」

目の前で突然起きた出来事に絶句するさやか。

その接吻は10秒程、水音を立てて終わった。

仁美「――こんな時にさやかさんの名前を呼ばないで下さい。デリカシーがありませんわよ」

457 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2012/01/06 23:13:43.88 EMXOmOLAO 1391/1642

言葉の節に棘はあったが、彼女の顔は紅潮している。
手を愛しの人の頬へと這わせ、暫しの恍惚に浸っていた。

上条「い、いや誤解なんだ。後ろを見てくれないかい?」

仁美が怪訝に感じて振り向くと、其処には美樹さやかが力無く立っている。

仁美「っ」

やり場の無い気持ちを抱えた彼女が、気だるい様子で口を開いた。

さやか「……仁美さぁ」

仁美「――何ですの?」

黒い感情を含んだ声にも退かず、仁美は強めに返す。

さやか「アタシと恭介の関係、どう思う?」

仁美「……羨ましいと思いますわ。大した努力も行動も無しに、上条君の隣に居られるんですもの」

仁美「私からすれば、親友であると共に、最大の恋のライバルですの」

強い目で、仁美は言い放った。

さやか「じゃあ、仁美は恭介に何をしてあげたの?」

仁美「ですから、私は上条君の為に口添えを――」

さやかが強く地面を踏みつける。
轟音と共に、その地面がひび割れた。

仁美「っ!?」

458 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2012/01/06 23:14:22.89 EMXOmOLAO 1392/1642

さやか「ソレで? ソレなんだね。ソレが仁美の強みなんだよね」

上条「さ、さやか?」

様子がおかしく見える幼なじみに、上条恭介は声を掛ける。
だが、時は既に遅かった。

さやか「仁美が知らないのは仕方ないよ。だからさ――」

魔法少女の服を身に纏い、鋭利な刃を持ったさやかが――既にソコにいたから。

さやか「――ここで仁美が死ぬのもさ、きっと仕方ないよ」

さやかはその殺意を、高く掲げて振り下ろした――――

459 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2012/01/06 23:14:51.25 EMXOmOLAO 1393/1642

――――鹿目まどか。

悲鳴が、聞こえた。

おおよそ学校から帰る、いつもの時間には相応しくない――ソレ。

まどか「仁美ちゃん――!?」

聞き覚えのある声に、まどかは走った。
声の元、人気の無い公園の中へと。

460 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2012/01/06 23:17:15.97 EMXOmOLAO 1394/1642

――――

仁美「ひっ、ひっ――」

さやか「あっちゃあ、外しちゃったかぁ……」

さやかが強く斬り付けた場所は、深く抉れていた。
常人が受ければ弾け飛んでしまうだろう、一撃。

上条「さやか、一体何を――!?」

さやか「恭介もそう……自分を不幸だと思うばかりで、アタシの事なんて見てくれなかった」

恭介「――――っ」

上条に剣先を突き付けるさやか。
そこに、乱入者が現れた。
さやかの右手に抱き着き、その凶刃の動きを止めようとしたのは――まどかだった。

まどか「さやかちゃん、何してるの!!?」

さやか「まどかか……悪いけど邪魔しないで」

さやかが軽く振り払うと、まどかはあっさり尻餅を付かされてしまう。

腰の抜けて立てない仁美に、今度こそとさやかは剣を振り下ろした。

まどか「――だめぇっ!!」

だが――仁美を庇うように、まどかは飛び込んだのだ。

さやか「――っ」

その切っ先はまどかの額を捉えて――

「ダメだよ、さやか」

――『歯車』に防がれた。

QB「まどかを傷付けてはいけないよ。君の為にもならないだろう?」

さやか「キュゥ、べえ?」

461 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2012/01/06 23:17:42.45 EMXOmOLAO 1395/1642

キュゥべえが腕に携えている小さな歯車が、さやかの剣と競り合って金属音を立てている。

さやかから徐々に力が抜け、彼女は今一度周囲を見回した。



泣きじゃくる志築仁美。
庇う鹿目まどか。
突然現れたキュゥべえ。




怯える上条恭介。

さやか「……コレが、アタシの願いか」

変身を解き、さやかは覚束無い足取りでその場を後にした。

引き止める者は――

まどか「さやかちゃん!」

さやか「――ゴメン、一人にして」

――鹿目まどかだけだった。

462 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2012/01/06 23:18:56.32 EMXOmOLAO 1396/1642

――――公園。赤く染まり、しかし血ではなく。

仁美「あ、あぁ……」

仁美は張り詰めた緊張の糸を切って、意識を失った。

まどか「仁美ちゃん!?」

QB「大丈夫だよまどか。志築仁美は気絶しているだけだろう」

白いツインテールを揺らしながら、彼女は歯車を消す。

まどか「ありがとう、助かったよキュゥべえ……でも、ソレは?」

キュゥべえはバツが悪そうに頭を掻いた。

QB「……実はボクにも良く分かっていないんだ。多分、キミたちと契約する時の応用だと思うんだけれど」

まどか「(思い出した訳じゃないんだ……ほむらちゃんに言って――そうだ、ほむらちゃん!)」

さっきまでは夢中で気付かなかったが、即座にほむらに連絡を取る。

まどか『ほむらちゃん!』

ほむら『――何かしら?』

まどか『さやかちゃんが、さやかちゃんが――』

詳細を完結に伝えると、テレパシー越しにほむらの不安が伝わってきた。

ほむら『分かったわ。こっちも総力を挙げてさやかを探すわ……キュゥべえの話は、後で詳しく聞くから』

まどか『早く!』

急がなければ、さやかに何があるか分かったものではない。
不安はまどかの中で徐々に大きくなっていった。

上条「い、一体さやかはどうしたんだ……何がどうなってる……?」

上条が仁美の身体を起こしながら、ふと呟く。

まどかは、無性にその頬を張りたくなったが、ぐっと堪えた。

でも、一言だけ。

まどか「上条君は悪くないよ。でも原因は、上条君だからね」

言い残して、彼女も走った。

後に残されたのは、舞台に上がろうとした一般人と――大根役者だけだった。

463 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2012/01/06 23:21:03.70 EMXOmOLAO 1397/1642

――――電車。夜。

遠くに行きたくなって、彼女は電車に乗った。

車両の中には彼女と、その対面に座る二人の男だけ。

その男たちの身なりは派手で、軽い言葉の言い回しとふざけた会話の内容――ソレが、彼らをホストだとさやかに認識させた。

耳障りな声が聞こえてくる。

「――言い訳とかさせちゃダメっしょ。稼いできた分はさ、全額きっちり貢がせなきゃ」

「女ってバカだからさ……ちょっと金持たせとくと、すぐに下らねぇ事に使っちまうからなぁ」

先輩風の男が得意気に話していた。

もう一人の男が相槌を打つ。

「いやー、ホント女は人間扱いしちゃダメっすね。犬か何かと思って躾ないと。アイツもそれで喜んでるし……顔殴るぞって言えば大抵は黙りますもんね」

最初の男が億劫そうに再び口を開いた。

「けっ……ちょっと油断するとすぐ付け上がって籍入れたいなんて言い出すからなぁ。お前みたいなキャバ嬢が10年も20年も同じ額稼げる訳ねぇだろうがって。身の程弁えろってんだ、なぁ?」

話を振ったようだ。

「捨てる時もホントウザいっすよねー……その点、ショウさんはその辺上手いから羨ましいっすよ。俺も見習わないとなー」

何だか、無性に悲しくなった。
私は、こんなモノを守りたくて魔法少女になったのだろうか。



さやか「ねぇ、お兄さんたち。その女の人の話、聞かせてよ」

464 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2012/01/06 23:22:34.15 EMXOmOLAO 1398/1642

死んだような目をした少女がいきなり話しかけてくる。
それが気味悪かったのか、男たちは子供を諭すような口調になった。

「お嬢ちゃん、中学生? 夜更かしは良くないぞ」

そんな形だけの気遣いなんていらなかった。

彼としては、心からの気遣いだったのだが――伝わらなければ意味が無い。

さやか「その女の人さぁ、アンタの事が大切で、喜ばせようと頑張ってたんでしょ?」

さやか「それなのに犬と同じなの?」

さやか「ありがとうって言わないの?」

さやか「役に立たなきゃ捨てちゃうの?」

男たちの表情は読み取れなかった。

「この子……知り合い?」

「いや、知らねっす。しかし、危ないっすね確かに」

さっきまでの暴言の数々が嘘みたいにナリを潜めていた。

――子供に聴かせる話ではないと、彼らが思ったからだ。

さやか「ねぇ、この世界って守る意味あるの?」

さやか「アタシ、何の為に戦ってたの?」

さやか「答えてよ……でないとアタシ――殺しちゃうよ?」

さやかのただ事では無い様子に、ショウと呼ばれた男が答える。

電車を降りるまでの、行き掛けの駄賃みたいなモノだと思っての行いだった。





ショウ「――お嬢ちゃんは、世界を守っているのかい?」

465 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2012/01/06 23:26:20.01 EMXOmOLAO 1399/1642

さやか「そうだよ。アタシがいなきゃ、アンタだって死んでるんだ」

無表情のさやかに対して、ショウは微笑している。

ショウ「そうかい。いつもありがとさん」

さやか「……ふざけてんの?」

ショウ「まさか! 俺は至極真面目だよ」

ショウ「……でも、お嬢ちゃんが貰えるのはコレくらいしかない」

さやか「っ!」

ショウ「知ってるかいお嬢ちゃん。世界を守ってるのは君だけじゃない。スーパーのおばちゃんだって、警察官だって、売春婦だって、俺だって――世界を守っているんだぜ?」

ショウ「君に惣菜は作れないし、犯罪者を逮捕出来ないし、男を満足させられない」

ショウ「何でお嬢ちゃんだけが特別だと思うんだ?」

さやか「だって、アタシは……」

言い淀むさやか。
それもそうだろう。何故なら相手は会話のプロと言っていい。

だが――彼には敵意など無く、ただ子供に言い聞かせているだけで。

彼自身も、自分らしくない事をすると、思う。

だけど、彼が見てきた女に――さやかの様に純粋に正しさを追い求めようとする目を持った者はいなかったから。

ただソレだけの気まぐれだった。

466 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2012/01/06 23:27:16.18 EMXOmOLAO 1400/1642

ショウ「そしてな……この世の誰もが、正しく評価されない。どれだけ頑張っても、満足のいく結果には辿り着けないんだ」

ショウ「だから何処かで諦める。妥協する。ソレを何て言うか……お嬢ちゃんは知ってるかい?」

さやかは首を横に振る。

ショウ「『大人』って言うのさ。とてもつまらない、自分の意思を明らかにする事すら儘ならない……やるせない立ち場さ」

自嘲気味に、ショウは笑ってみせた。

ショウ「俺は歌手になりたかったんだ。歌を歌うのが大好きでね……だが今はコレだよ。ホストなんだぜ、お兄さんは」

さやか「……さっきの話聞けば分かるよ」

ショウ「そっか……歌には自信があったし、実際オーディションでは一番だったんだ」

ショウ「だけど、太ったおっさんのプロデューサーとやらが何て言ったか分かるか?」

語りかけて、首を振らせる。

ショウ「『歌声は並みだけど、顔は悪くないからアイドル路線で行こう』。そう言ったんだ」

ショウ「俺はブチキレたね。椅子も机も蹴り倒してソコを後にしたよ」

467 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2012/01/06 23:28:11.60 EMXOmOLAO 1401/1642

さやか「……ソレはどうなのよ」

ショウ「分かりやすく言ってあげないと、女はいつも理解できないよな……『君の献身はどうでもいいけど、身体はイイから付き合おう』、って言われたらどうだ?」

さやか「……ぶっ殺すわ」

ショウ「だろー?」

彼はゲラゲラと笑った。

電車はとっくに駅に着く時間なのに、ソレは走り続けている。

「ショウさん、着かねぇっすね」

ショウ「そうだな。ま、遅れてんだろ。丁度良いさ」

ショウ「そういやお嬢ちゃん、女の話が聞きたいって言ってたよな?」

さやかが怪訝な表情で首を縦に振った。

ショウ「良いぜ、ある女の話をしてやるよ。先に言っとくな」

ショウ「俺は『女』ってのが心底嫌いだ」

「えっ」

ショウ「ホモじゃねぇよ! 距離を取んなよ泣くぞ!?」

さやか「…………で?」

ショウ「あ、あぁ。すまないな……ある日、一人の女が来てな」

ショウ「その女は羽振りの良い客だったよ。オマケに来店も多かった。俺も良い客が付いたと喜んだよ」

468 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2012/01/06 23:28:59.56 EMXOmOLAO 1402/1642

ショウ「そんな時、昔のダチに会ってな。もちろん男だぜ?」

ショウ「ソイツは白髪まみれになってた。何でも仕事の残業がキツいんだとか。ま、良くある事さ」

ショウ「でも残業すりゃ金は入る。だから、買い物でもしてストレス発散しろよって言った訳だ」

ショウ「そしたらソイツ、『うちの財布は嫁さんだからな』ってニヤケながら言うんだよ。ちょっと羨ましかったな、相手がいるのは」

ショウ「でもある日気付いたのさ」



ショウ「客とダチの名字が同じだった」



さやか「それって……」

ショウ「察しがいいねお嬢ちゃん。その通り、客はダチの妻だった」

「アレはマジ胸くそ悪かったっすよねー」

ショウ「そうだな。でな、お嬢ちゃん。俺もそんなん嫌だからさ、客に言ったわけよ。『いつもありがとう、でもお金大丈夫?』ってな」

ショウ「そしたらソイツは『大丈夫大丈夫、夫がたくさん稼ぐから』ってあっけらかんと言いやがった」

ショウ「夫が自分の為に稼ぐのは当たり前だとか、その上うちの夫はここがダメだとか、そう言うわけだ」

ショウ「俺は何も言えなくなったね。何も話したくなくなった」

469 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2012/01/06 23:29:48.62 EMXOmOLAO 1403/1642

ショウ「女なんてな、自分の事ばっかりだ。それ以来、来た客には全員確認したが……ドイツもコイツもろくでもない」

ショウ「自分本位で、他人は自分よりみんな下。そういう生き物なんだよ」

ショウ「押し付けがましい行動と、自己満足の繰り返し」

ショウ「全く嫌になる。本当は辞めたいぜこの仕事」

「ですよね。分かるっす」

さやか「……辞めればいいじゃん」

ショウ「ほら、お嬢ちゃんもやっぱり女だな。少し頭を使えば分かるだろう……働かない男はどんな扱いを受ける?」

ショウ「女とは違ってな、差別されても誰も助けてくれない。それが男だ」

「マジ不公平っすよね」

ショウ「昔は確かに女は可哀想な扱いだったようだが、今は真逆さ。理性的でない分、なお質が悪い」

ショウ「さて、ここでお嬢ちゃんに質問だ……お嬢ちゃんは、『女』か?」

470 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2012/01/06 23:32:35.98 EMXOmOLAO 1404/1642

さやか「アタシ、は……」

恭介のお見舞いして……でもソレは恭介の事を考えてしたの?

いや、きっと自己満足だったんだ。

現に恭介は嫌がってた。

勝手に契約して、勝手に治して、勝手に絶望して、八つ当たりしてるだけだ。

誰かの為なんて嘘だった……最初から全部自分の為に願ってたんだ――――



さやか「はぁ、はぁっ……」

さやかの呼吸が不安定になる。
心配そうに、名前の分からないホストはさやかの背を擦った。

「ショウさん、言い過ぎっすよ」

ショウ「……いやなに、年を喰うとな。若い子には間違ってほしくないと思うんだよ」

苦笑いするホストの顔は、今だけ少年のようだった。

電車が着く。

ショウ「お嬢ちゃん。自分の信じる事ばかり見るのは、女って奴の悪い癖だ」

ショウ「客観的に自分を見つめてみなよ。そうしたら、自然とどんな悩みも解決できる」

ショウ「……ま、それが『諦め』や『失望』だったりするかもしれない。そうやって『大人』になるのさ」

ショウ「頑張れ、若者」

軽い応援を置いて、二人の男は電車を降りた。
彼らは歩き、『結界』から抜け出す。

さやか「……『失望』や『諦め』、か」

既にさやかは、結界に包まれていた。
彼らが出られたのは、単に助言の対価。

さやかは駅のホーム、ソコの椅子に深く腰掛けた。



誰もいない、駅で一人。

471 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2012/01/06 23:33:28.94 EMXOmOLAO 1405/1642

――――そして彼女を守る者たち。

ほむら「――既に結界が張られている!?」

ほむらがその事実に驚きを隠せない。
具現化しているユウリが、それを確実にしていた。

ユウリ「あぁ。アタシが身体を構築出来るくらい、この辺りは現実染みた異界だ」

杏子「手分けするぞ……一刻も早くさやかを見つけるんだ!」

ゆま「分かったよ!」

マミ「コレだけいれば、直ぐに見つかるわよ……見つかるに決まってる」

織莉子「……位置までは予知できませんね。幸いと言って良いのでしょうか」

キリカ「恩人……今度はヘマしないよ」

全員が魔法少女の礼装を身に纏う。

まどか「ほむらちゃん……」

ほむらは不安そうな彼女の頭を撫でた。
心配する事は無いから、待っていなさい――そう伝えるソレ。

ほむら「行きましょう――見つけたら各自連絡を!」

472 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2012/01/06 23:34:31.63 EMXOmOLAO 1406/1642

――――探索、刻一刻と磨り減る魂

ほむら「使い魔が街に湧き出している……この街の約半分を包み込む程の結界だなんて」

ほむら「早く見つけないと、手遅れになるわ。街の人も、さやかも――」





杏子「使い魔は……あの仁美ってのに似てる――って事は、結界の深部はダンスホールか?」

杏子「ソレっぽい感じになってきたら良く探さないと……待ってろ、さやか――」





マミ「使い魔が多い……苦しい戦いになりそうね」

マミ「しかも強い――出来るだけヒット&アウェイを心がけましょう」





キリカ「恩人――分かるよ、まだ魔女にはなっていない。あの時の私と同じだ」

キリカ「間に合えよ、私」





ゆま「さやかおねーちゃん、ダメだよ」

ゆま「キョーコを泣かせたら、許さないから――」





織莉子「――っ、この予知は!?」

織莉子「美樹さやかが魔女になる映像……」

織莉子『皆さん、聞いて――!』




ユウリ『大丈夫だよ、もう見つけた』

ユウリ『あぁ、場所は――この辺りだ。今発した魔力を追いなよ』

ユウリ「……さて」

ユウリ「慣れない役回りを引いたなぁ……」

さやか「…………」

473 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2012/01/06 23:35:25.61 EMXOmOLAO 1407/1642

――――最初に辿り着いたのは、魔女。

さやかは駅のホームの様な場所で、ベンチに腰掛けていた。
まだギリギリ人として存在しているが、使い魔が跋扈している所を鑑みるに――恐らく長くない。

ユウリ「よう、あんまり面識は無いけど……迎えにきたよ」

遠慮がちに隣に座った。

こういうのは佐倉杏子の役目だろう、と溜め息を吐く。

さやか「……悪いね、手間かけさせちゃって」

俯くばかりで、表情は見えなかった。
ユウリはどうしたものかと手を遊ばせる。

ユウリ「……とりあえず、結界を消してみないか? 使い魔まで湧いてる――お前だって、それは嫌なんじゃないか?」

さやか「……いいよ、もう、なんでも」

投げやりな態度に少し苛立つが、自分だって無茶をやった事を思い出して、その熱は冷めた。

474 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2012/01/06 23:36:41.43 EMXOmOLAO 1408/1642

ユウリ「どうでもいい、って事はないだろ……いや、魔女になりそうな時ってのは『そう』なるか」

しかし贅沢な悩みだと思う。
何があれ、思い人は生きているのだ。
ソレ以上に何を望むというのだろうか。

ユウリ「ま、そうまで言うなら……いっそ魔女にでもなってみたらどうだ? アタシだって本質は魔女だ。オススメはしないけどね」

さやか「……アンタバカじゃないの。魔女になったら、もう戻れないじゃん――」

ユウリ「何だ、そんな事を気にしていたのか」

軽く笑うユウリに、さやかは言い知れない違和感を覚えた。

始めて顔を上げ、ユウリを見る。

ユウリ「何の為に暁美ほむらが鹿目まどかのグリーフシードを手に入れたと思ってるんだよ」








ユウリ「お前が魔女化しても、また戻せるからだろうに」











475 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2012/01/06 23:37:23.03 EMXOmOLAO 1409/1642

そうか。

そうだったんだ。

つまり、ほむらは。

あれだけ私を大切にしてくれていたほむらさえ。

私を信じてはいなかった――

さやか「――――」

子供のように、情けなく泣いた。

泣き声を上げる度に、ソウルジェムは黒く濁る。

ユウリ「お、おいどうした!?」

誰も私を信じてなかった。

何も出来ないと信じていた。

報われないと信じていた。



ほむらも、杏子も、まどかもマミさんも織莉子もキリカもゆまもユウリも――



さやか「みんな……だいきらい……」

最後の言葉は、幼い怨嗟。

彼女の魂は、砕けて。

人魚だけが、ソコに居た。

514 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2012/01/08 01:12:58.47 k99QWoGAO 1410/1642

――――コンサートホール。指揮者と演者、そして観客と部外者。

ユウリ「――何だここは」

そこは薄暗い音楽堂だった。
舞台の中央に、鎧を身に纏った魔女がいる。

魔女は項垂れ、ピクリとも動かない。

ユウリ「……どういう事だ」

魔法少女は絶望の果てに魔女へと変貌するはずだ。
なのに――あの魔女は魔女になってさえも絶望している様に見える。

その時、喧しい音を立てて光がホールを照らした。

ユウリ「――おい、冗談だろ?」

広大なコンサートホールの席は、観客によって埋め尽くされている。

――緑色の、使い魔によって。

右を見ても、左を見ても、その使い魔は席に行儀よく座っていた。

ユウリ「――――」

圧倒的な物量。
コレだけの使い魔とあっては、流石の自分も無傷では済まないかもしれない。
刺激を与えない様に、様子を伺う。

指揮者がタクトを振り始め――厳かな音楽がホールを埋めていった。

人魚は、小さく踞っている。
彼女の世界にすら、彼女の居場所は無かった。

彼女の死体は、舞台の脇で椅子に座って――小さなスポットライトに照らされていた。

515 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2012/01/08 01:13:32.56 k99QWoGAO 1411/1642

――――そして来るべき邂逅。

ユウリ「……来たか」

魔法少女たちが、ホールの入口を開いて入場してくる。
魔女を見た杏子は、声を出さずに涙を流した。

杏子「すまないな、さやか……私はまた、お前を守れなかった――」

ほむら「いえ、まだよ」

ほむらは強い瞳で魔女を捉える。
いよいよ正念場とあって、彼女の目には――その名の如く炎が宿っていた。



――絶対助ける。



マミ「熱くなってはいけないわよ、二人とも」

織莉子「幸い使い魔も魔女もこちらには興味が無い様子……一度出直すのも手ですが――」

ユウリ「迎えに来させたみたいで悪い」

キリカ「仕方ないよ。君は結界から出るとジェムになってしまうんだからね」

一旦引くか、このまま続行するか。

この規模の魔女を逃がすと大惨事になるのは、火を見るより明らかだ。

ゆま「……さやかおねーちゃんは、今泣いてるよ」

幼い一言が、一同の心に突き刺さる。
魔女は音楽を聞きながら、小さく身体を縮めていた。

516 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2012/01/08 01:14:00.91 k99QWoGAO 1412/1642

杏子が深く考え込む。

杏子「……なぁほむら。確かお前の話してくれた過去の魔女に――鎧武者の魔女が居たな」

ほむら「――えぇ、確かに……っ、成る程。そういう事ね」

マミ「自我の様なモノを持った魔女もいた……その事実は確かね」

ほむら「……やってみるしか――キリカ、まどかを迎えに行ってくれないかしら」

キリカ「……何をするんだい?」

ほむら「呼びかけるのよ。魔女にだって意思は有った。なら――ソレが伝わらないはずが無い」

ほむら「この結界から、さやかだけを引きずり出すのよ」

517 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2012/01/08 01:14:53.82 k99QWoGAO 1413/1642

――――キリカ、疾走中。コンサートホール。

ほむらが結界の中を一周、見回した。
その複雑怪奇な様相に、一抹の感動を覚える。

ほむら「杏子、見て……さやかの結界、いつもとは全然違うわ」

杏子「コンサートホールにしてはあの緑のがいるし……ダンスホールにしては厳粛な雰囲気だな」

ほむら「結界は心の現れ……彼女はこの短い期間で、複雑に心を成長させていたのね……」

ほむら「……それがアレなんて、悲しいけれど」

ほむらは人魚を見る。
ライトが照らしているのは指揮者と観客ばかりで、人魚は暗い影の中だった。

ほむら「自分の心を、他人に侵食されて……無力に震えている。一体、彼女を絶望させたトリガーは何?」

ユウリ「――トリガー……まさか」

ユウリがハッとした表情になる。
彼女が最後に言い残したのは何だ?

ユウリ「『みんな、だいきらい』……」

ほむら「え?」

ユウリ「アイツは最後にそう言ったよ……アタシが『ほむらはお前を助ける為に、鹿目まどかのグリーフシードを――』」

ほむらがユウリの肩を掴む。
ユウリは少し驚き、ほむらと目線が合う。

518 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2012/01/08 01:15:38.53 k99QWoGAO 1414/1642

ほむら「――ソレを言ってしまったら、魔女になるに決まっているじゃないの!」

ユウリ「……遅かれ早かれ魔女にはなっただろ。後から知るのも、先に知るのも然したる違いは無い」

ユウリ「ソレとも何だ。最初から『お前は必ず失敗するだろうから予め用意はしてある』と言うべきだったのか?」

ほむら「それは……」

ユウリ「どうやったって、お前がした後ろめたい事は消えない。てっきり私は既に話していると思っていたが」

ほむら「…………」

ほむらが肩から手を下ろす。

確かに、彼女に伝えなかったのは私だ。
彼女が知らないままでワルプルギスの夜を越えられれば、ソレが一番良いとさえ思っていた。

その結果がコレならば、気遣いや優しさに意味など――

杏子「止めろ。今はそれより前を見なきゃならねぇだろうが」

杏子の言葉で意識を戻す。
そうだ。何にせよ、こうなったからには最善を尽くすのみだ。

キリカ「――連れてきたよ」

まどか「……みんな」

主演女優の登場となるのだろうか。
鹿目まどかは、その脆い身体と強い意思で立っていた。

519 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2012/01/08 01:18:59.41 k99QWoGAO 1415/1642

――――

ほむら「まずはまどかを魔女に近付けるわ。ここからでは距離があるから」

ほむら「護衛は私と杏子、織莉子にゆま」

三人が頷く。

ほむら「私と杏子で、さやかが暴れた場合のまどかの守護。織莉子はまどかと共に回避に集中して。ゆまは、もしも負傷出た時の保険……貴女がいれば、杏子は無理が出来るから」

ほむら「キリカとマミ、ユウリは周囲に気を張っていて。いつアイツらが襲ってくるか分からないもの」

マミ「任せて……使い魔なんて、薙ぎ払ってやるわ」

ほむら「頼もしいわ……頑張って」

ほむら「要は魔女の核を浄化すれば良いの。ソレは私がやる……魔女が大人しいなら、容易いでしょう」

ほむら「その後はさやかの身体を回収して、暴走するだろう人魚の魔女を倒して終わりよ」

ほむら「まどかの声が届けば、或いはあっさり助けられるかもしれないわね」

ほむらのソレは気休めだったが、それでも彼女らを鼓舞するには十分だった。

ほむら「行きましょう」





「…………」

その彼女たちを、コンサートホールのライトの上から見下ろす影。

赤い髪を揺らしている『何か』が、ソコにいた。

520 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2012/01/08 01:19:38.29 k99QWoGAO 1416/1642

――――静かに、観客席の間の道を行く。

まどか「アレがさやかちゃんだなんて……」

観客は随分と大人しく、魔法少女たちが魔女に近付くのをただ傍観していた。

ほむら「信じ難いでしょうけれど、真実よ……貴女の力を借りるわ」

まどかはつい先刻のさやかを思い出す。



あの時、志築仁美に襲い掛かった彼女の顔は――涙でくしゃくしゃになっていたのだ。



まどか「こんな事、したくなかったはずなんだ……さやかちゃんは」

まどか「さやかちゃんが帰ってこれないなんて、そんなの私が許さない――」

ほむら「いい意気よ、まどか……そうよ、私たちは貴女を見ているの」

ほむらの足元の床に書かれた『Look at me』の文字が痛々しい。

ほむら「例え貴女が絶望したって、必ず助けてみせるから」

ほむらがステージの上に足を掛けた瞬間、突然演奏が止んだ。

魔法少女たちを、嫌な沈黙が支配する。

杏子「(……ほむら)」

ほむら「(見られているわね)」

だが、何か仕掛けてくる様子も無い。
まどかの回りを四人が護衛しながら、彼女は魔女と対峙した。

真剣に、語りかける。

まどか「さやかちゃん、私だよ! まどかだよ……分かる?」

521 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2012/01/08 01:20:30.43 k99QWoGAO 1417/1642

織莉子「…………んっ」

生唾を呑み込み、全員が全神経を周囲に張り巡らせていた。

魔女「――――?」

反応があった。
魔女はその身体を起こし、真っ直ぐに見つめて――凄まじい轟音で音楽が奏で始められた。

指揮者「――、――!!」

まどか「えっ――」

まどかの声は掻き消され、魔女の興味は演奏に向く。

そして観客は、一斉に魔法少女たちに飛び掛かった。

ほむら「――迎撃!!!」

「「「「「「応!!」」」」」」

先駆けにマミの火線が使い魔に切れ目を付けて――会場は戦場になる。

盛大なダンスパーティーが開催されたのだ。

522 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2012/01/08 01:21:14.69 k99QWoGAO 1418/1642

――――無勢に多々々々々々々々勢。

杏子「うらぁっ!!」

杏子が使い魔を斬り払い、その残骸を地面に叩き付ける。
休む間もなく二体の使い魔が飛び込んできて、ソレを横薙ぎに始末した。

――死角から、一体。

杏子「――っ」

ゆま「キョーコ!」

ゆまがソレを殴り潰す。

全方位から襲い掛かる使い魔を相手にするのは簡単ではないのだ。

マミ「『ティロ・フィナーレ』!」

半魔女化したマミが、無量の大砲を構えて発砲――使い魔を撃砕して、空を火薬色に染め上げる。

マミ「――まだ来る!?」

キリカ「任せなよ!!」

キリカの至大な爪が、射線を掻い潜った使い魔たちを斬殺した。

それならばと足元から沸き上がってくる使い魔たちを、ユウリが蹴散らす。

ユウリ「『コルノ・フォルテ』!!」

牡牛が使い魔たちに突進し、その藁人形のような身体をバラバラにしていった。

まどか「さやかちゃん!! さやかちゃん、聞いて!!」

魔女「――♪」

魔女はまどかの呼び掛けには答えず、使い魔たちが奏でる楽曲に夢中になってしまっている。

523 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2012/01/08 01:22:42.69 k99QWoGAO 1419/1642

使い魔「――――!」

使い魔がまどかを狙って駆けてくる。

ほむら「させないわ!」

ほむらの左肩から雪白の如き翼が生えて、盾から奇跡が零れ落ちた。

大量の槍が、壁を作る。

一人で大軍。そう表現するのが妥当だった。

使い魔たちは、その一本一本が必殺の槍衾に突き刺さって爆ぜる。

ほむら「『作楽』!!」

ほむらが杏子の奇跡を振るうと、その槍全てが拡散して使い魔を射抜いていった。

まどか「さやかちゃん――」

魔女「――!」

まどか「えっ――」

魔女は叫び続けるまどかを『邪魔』に感じる。
故に、その大剣が振り下ろされるは必然。

杏子「――バカ野郎!」

杏子が槍でソレを受け止めた。
強く軋んで折れそうな身体を、必死に支える。

魔女が振り払って、彼女の身体は地面に叩き付けられた。



ソコに一斉に襲い掛かる使い魔――!



杏子「しまっ――」

ほむら「杏子――!?」

だが、使い魔は佐倉杏子に飛び掛かる前にその身を裂かれていた。



上から飛び降りてきた『魔法少女の様なモノ』が、その手に持った槍で斬り裂いたのだ。

524 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2012/01/08 01:25:08.08 k99QWoGAO 1420/1642

「…………」

杏子と『ソレ』の目線が合う。
だがしかし、杏子は愕然とする事しか出来なかった。

杏子「――な、何だよお前!?」

赤い髪の『ソレ』は紅の礼装を身に纏い、槍を片手に持っていた。

顔の半分は仮面で覆われ、もう半分から覗くのは――佐倉杏子のソレと瓜二つ。



佐倉杏子の前に舞い降りたのは、明らかに『佐倉杏子』だった。



差異があるとすれば、その槍。
十字を模した刃に、伸縮する――鞭の様な持ち手。

「――――!」

『ソレ』が槍を振り回し、観客を薙ぎ払う。

ほむらがその意味を感じ、歓喜に震えた。

ほむら「杏子、貴女――お手柄よ」

杏子「な、何だ?」

「…………」

『ソレ』はじっと杏子を見ていた。
「早く立ち上がれ」と言わんばかりに。

ほむら「貴女は既に、さやかの中で重要なファクターになっていたのよ――きっとソコの、仮面の貴女は彼女の心の一部」



ほむら「――使い魔よ」

525 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2012/01/08 01:26:11.63 k99QWoGAO 1421/1642

「…………」

使い魔と呼ばれた彼女は、佐倉杏子に背を向ける。
着いてこい、と言っているような背中だった。



『正義の味方』の使い魔。その性質は『届かぬ理想』。



彼女が心の奥底で救いを求めたが故に産み出された、唯一無二の使い魔。

杏子「……はは、さやかは私をこう思っていてくれたのかい」

仮面の使い魔に敵意は感じない。

なら、やろうか。

杏子「行けるのか?」

使い魔は首を縦に振る。

ソレを合図に、二つの紅色は緑の使い魔に突っ込んだ――

550 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2012/01/09 01:49:38.17 +zHUAvSAO 1422/1642

――――駆け抜ける二振りの紅。

杏子「退けっ!」

「…………!」

二人の佐倉杏子が戦場を紅く染め上げていった。

緑の使い魔たちを圧倒するが、それでも数に阻まれてしまう。
魔女には意地でも近付けさせないといった様子だ。

ほむら「良く分かっている……『ドゥリンダナ』!」

ほむらが使い魔を名剣で斬り払いつつ、その様子を分析する。

ほむら「魔女がやられてしまえば自分たちが存在出来なくなると知っている……ふふ、現実より物分かりが良い、じゃない!」

語尾に力を乗せて、まどかを襲おうとする使い魔を両断した。

杏子を模した使い魔が現れて多少楽にはなったが、それでも無尽蔵に沸き出すソレを相手に魔法少女たちは少しずつ疲労していく。

魔女「――――」

魔女が飛ばしてくる車輪も、直撃すれば致命傷は免れないだろう。
そんなギリギリの状態で彼女たちは戦っているのだ。

まどか「さやかちゃん――」

ほむら「やはり、私たちの声では届かないの――?」

QB「いや、届くよ」

まどか「っ、キュゥべえ?」

まどかの足元に突然現れる白髪の少女。
彼女の紅い目は、鹿目まどかに誘いを掛ける。

551 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2012/01/09 01:50:09.28 +zHUAvSAO 1423/1642

QB「ボクと契約すればいい。そうすれば、美樹さやかを元に戻す事なんて造作もないだろう」

まどか「……ホントだね?」

まどかの目付きが一点して変わった。
死すら厭わないといった、強いソレに。

マミ「ダメよ鹿目さん――あぁぁっ!!?」

余所見をした僅かな隙を、使い魔は見逃さない。
マミの右目に、使い魔の手が突き刺さっていた。

マミ「――ガァッ!!」

マミがソレを蹴り飛ばす。
彼女の魔女化は、今や籠手だけでなく首まで鎧となって侵食していた。
キリカも同様に、シルクハットにマント。そして背中を翼の様に彩る爪の数々が、限界の近さを物語っている。

ほむら「まどかっ!」

まどか「このままじゃみんなやられちゃうよ……そうなるくらいなら!」

ほむら「しかし……っ」

ほむらは必死に思考の渦に飛び込でいた。
回りの状況から、今までの経験や知識から、より有効である手段を模索しているのだ。

ほむら「――、待ちなさいまどか! まだ案がある!」



そして思い当たる、魔女の性質に。

552 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2012/01/09 01:51:53.95 +zHUAvSAO 1424/1642

楽団の使い魔たちは未だに不快な音色を流し続けている。

過去の彼女は、ソレを本当に楽しそうに聞いていた。

ほむら「――私は、何と間抜けな勘違いをしていたのか」

一瞬の閃きに、思わずほむらの口角は吊り上がる。

ほむら「ゆま、織莉子――あの喧しい奴らを吹っ飛ばして!」

突拍子も無い指示に、狼狽える織莉子。

織莉子「――し、しかしソレをしたら魔女が余計に暴れてしまうのでは!?」

ゆま「わかった!」

織莉子「え、待って――あぁもう、分かりました!」

二人はほむらを信じて演奏家達を鏖殺する。
戦闘向きでは無いらしく、その身は脆かった。

ほむらはまどかの手を掴み、演奏台の方へと駆ける。

魔女「――、――!!?」

歯車が飛んでくるが、時間停止によって全て命中せず。
まどかを抱き抱え、翻り、ほむらはその舞台に立った。

まどか「ほむらちゃん、一体何を――」

ほむら「『ストラディバリウス』!」

まどかを下ろしたほむらは、盾から愛用のバイオリンを取り出す。

魔女の大剣がほむらに振り下ろされ――止まった。



ほむらが、ソレを奏でているから。



考えれば当然だろう。
日本人に話しかけるには、日本語が一番効率がいい。

そして、魔女と彼女を繋ぐ言語は音楽を置いて他に無いのだから――

553 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2012/01/09 01:52:51.53 +zHUAvSAO 1425/1642

――――高山流水、暁美ほむら。

魔女「――――」

ほむら「――――」

キリカ「魔女の動きが――」

ユウリ「――止まった?」

斬撃や銃撃の音が飛び交う中でも、その音楽は全ての魂に響いていた。

ほむら「……まどか、呼び掛けなさい」

まどか「――分かったよ、ほむらちゃん!」

使い魔たちが上空を埋め尽くし、ほむらに雨の様に降り注ぐ。

だがしかし、それは『正義の味方』に薙ぎ払われて消滅した。

「…………」

半分覗いた表情からは、心地好さを感じ取れる。

ほむら「(私は動けないわ。後はお願い――)」

テレパシーで味方に後を託して、暁美ほむらは一心不乱にバイオリンをかき鳴らした。

――今までの思いを、全てぶつけるように。



まどかは一歩前に出て、魔女と見つめ合った。

まどか「さやかちゃん、もう帰ろう? ここは誰もいない、寂しいよ」

魔女「…………」



魔女『――まど――か』

554 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2012/01/09 01:56:14.19 +zHUAvSAO 1426/1642

まどか「さやかちゃん!? 私の事、分かるんだね!」

魔女『――わた――みて――たし――して』

まどか「なに、さやかちゃん……話してみて……怖がらないで」

傷付いた友人に、優しい声を。
まどかは魔法少女に非ず、しかし魔女を癒していた。



魔女『わたしをみて――わたしをあいして――』

まどか「私を見て……私を、愛して――」



まどかの頬を、涙が伝う。
彼女は、たったソレだけを望んだだけだったというのに――

ユウリ「もう持たねぇぞ……っ」

杏子「そっちで何とかしろっ、壁張るのもしんどいんだ!」

杏子とユウリ、マミとキリカがバリケードを作っている。

その後ろでゆまが皆の傷を癒し、紅の使い魔はほむらの音楽に聞き入っていた。

ほむら『私は貴女を見捨てたりしない!』

魔女『――――。』

ほむら『私だけじゃない。みんなが――貴女を待っている』



ほむら『――貴女は、愛されている!』



ほむらの演奏は言葉となって、魔女の魂へと伝わる。
その演奏が色を持つならば――美しい蒼色を描いていただろう。



魔女『……わたし、かえり――』

バリケードが破られた。
緑の使い魔が雪崩れ込んできて――それは魔女に飛びかかる。

555 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2012/01/09 01:57:01.98 +zHUAvSAO 1427/1642

キリカ「なっ!?」

織莉子「どういう事――」

魔女は暴れ、それらを振り払おうとするが――

ユウリ「……染まっていく?」

魔女「――、――、――……」

魔女の回りを躍り続ける使い魔。

魔女は再び此方に敵意を向けていて――

ほむら「ちっ――」

ほむらは左手を離し、顎だけでバイオリンを一瞬支えた。
杏子の方向に向かって手を振り、またバイオリンを構え直す。

杏子が咄嗟に掴んだ、ほむらから投げられた物は――指輪。

ほむら『私では彼女を浄化出来ない。頼んだわよ』

杏子「――分かった!」

杏子と紅の使い魔が、残された力全てで使い魔の群れに突撃した。

使い魔の海を掻き分けて――飛んでくる車輪を避ける。

杏子「さやか、目を覚ませ!」

使い魔によって暴走させられる様は、酷く滑稽で。



そして彼女は、その剣を突き刺した。強く、強く。

「――、――」

彼女の『理想』へと。

556 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2012/01/09 01:58:02.73 +zHUAvSAO 1428/1642

杏子「――、お前!」

ステージの壁に磔にされた『正義の味方』が、真っ赤な血を吐き出す。

致命傷は免れない。

魔女は自分の憧れを――失ってしまったのだ。

失ってしまったと、思っているのだ――

「――――!」

最後の力を振り絞って、紅の使い魔は――自分の槍を杏子に向かって投げる。

「――一人ぼっちは、寂しいもんな」

杏子「――――っ」

剣に腹を裂かれながら、彼女は魔女に向かって笑いかけた。

酷く懐かしい、ソレ。

「行きなよ」

『自分』が、語りかけてくる。

「――行け!」

後悔するなと、背中を押す。

杏子は震える手で、その槍を掴んだ。

その瞬間――

杏子「――っ」

――身体中に流れ込んでくる魔力が、彼女の傷を癒す。魔力を増幅させる。

そして、勇気を与える――!

杏子「――サンキュ」

彼女は、既に消滅していた。



二本の槍が、舞台を最高に盛り上げる。

杏子「あぁぁぁぁ!!!」

背後から、仲間の援護。

使い魔はまだ多く、傷付く身体。

痛くない、それは嘘だ。

だけど今ぐらいは、せめて今だけは――痛みなんて消してしまえ。

前に行く事以外、考えるな――!

557 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2012/01/09 01:58:54.66 +zHUAvSAO 1429/1642

使い魔を斬り裂いて進む。

進む。

進む!

進む進む進む進む進む進む進む進む進む!

杏子「――はぁっ!!」

二槍が音楽に合わせて舞い踊っていた。
流れるような緋色は紅蓮の如く、焔を纏って突き進む。

そして――抜けた。

魔女へと一気に接近した杏子が、その鎧を叩き割る。

腹部に、さやかの魂があった。

QB「まさか――そんなバカな」

杏子「帰ってこい、さやかぁぁぁぁぁっ!!」

手にした指輪をソレに叩き付ける。




急速に浄化されたグリーフシードは――かつての輝きを、取り戻した。

576 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2012/01/10 16:48:57.95 VrmfioGAO 1430/1642

――――杏子の手の中に。

杏子「――やった、のか」

杏子は蒼く輝くさやかのソウルジェムを手に入れた。

二度の落葉を越え、ようやく念願叶う。

彼女の感情を、歓喜が支配して――

ほむら「バカッ、離れなさい!」

魔女「――!――!!」

魂を失い、純粋な呪いのみの存在となった人魚が暴れだす。
彼女の放った斬撃は、幾千もの切断を杏子に与えた。

杏子「くっ!?」

咄嗟に自らのソウルジェムと、さやかのソウルジェムを持った手に防壁を張る杏子。

――ソレ以外は、千切れて溶けた。

頭も、足も、腰から下も、全て。

杏子に残ったのは胴体と腕一本のみで――その身体は崩れ落ちる。

細切れになった肉片が、辺りに飛び散った。

577 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2012/01/10 16:49:39.92 VrmfioGAO 1431/1642

ゆま「キョーコッ!?」

ゆまから甲高い悲鳴が上がる。
至近距離で散弾を受けるより酷く、粉々になった杏子。

だが、彼女は魔法少女だ。

キリカ「まだ生きてるよ!」

魔女は滅茶苦茶に車輪を飛ばしている。
それを遅延させ、辛くも回避しながらキリカは魔女へと接近した。

佐倉杏子の残骸――胴体に直結した片腕が動き出す。
ソレは地面を殴り付け跳ね上がった。
手で体操の様に跳躍する様は不気味だったが、そうも言っていられない。

キリカ「キャッチだ、佐倉杏子」

キリカが胴体を受け止め、一気に後退する。
ゆまは今かと待ち構えていた。

キリカ「ほら、直せるかい?」

ゆま「きまってるよ!」

ゆまが手をかざすと、失われたパーツがみるみる生えてくる。
グロテスクなソレから、魔法少女たちは目を反らした。

演奏を終えて、まどかを抱き抱えたほむらが傍らに降り立つ。

魔女は暴れ、それに巻き込まれた使い魔が次々と潰されていた。

578 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2012/01/10 16:51:31.96 VrmfioGAO 1432/1642

ほむら「……さて、仕上げよ。あの魔女を倒せば、晴れて私たちの勝利」

マミ「しかし、手強いわよ? 作はあるの?」

ほむら「こうなると火力で押すくらいしかないわ……目、大丈夫かしら?」

マミの右目はリボンで応急処置されていた。
視界は半分失われているだろう。

マミ「心配ないわよ。戦闘に支障はないわ」

ほむらは仲間を一頻り見る。

身心共に疲弊したまどか。
今も杏子の手の中にいるさやか。
半魔女化が限界に近付きつつあるマミとキリカ。
ソウルジェムの汚染も気にせず凄まじい力で杏子を修繕するゆま。
それを補助する織莉子。
魔女の様子に悠々自適のユウリ。



そして蘇る――杏子。

579 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2012/01/10 16:52:19.88 VrmfioGAO 1433/1642

ゆま「――終わった!」

杏子「手間かけたな、ゆま」

ゆまの、杏子に対して強烈に特化された癒しの祈りは――彼女を迅速に回復させる。

両手に異なる槍を持ち、ほむらの隣へ立った。

杏子「さて、ここまで来たな」

ほむら「えぇ……さやかは?」

杏子「ここに……指輪、返すな」

ほむら「正直不安だったのよ、これ外すの」

ほむらは小さく笑う。
左手にソレをはめ直し、愛おしそうに撫でる。
まだその指輪は容量を余していた。

使い魔は狼狽し、その様子が魔女を刺激して叩き潰され続ける。
魔法少女たちが無事なのは、単に動いていないからだ。

ほむら「さぁ、行きましょう。さやかの身体を蘇生させなければいけないわ……死んでしまってから随分時間が経ってしまっているから」

ほむらが時間を停止させ、皆と手を繋いで阿鼻叫喚の音楽堂を歩き――仲間の亡骸まで辿り着く。

椅子に座って黄泉を旅する彼女。

眠っていると錯覚する程に、彼女の身体は綺麗だった。
秀麗と言っていい顔の、しかし表情には哀切に溢れている。
頬を伝った涙の痕が、いやに物悲しかった。

ほむら「解くわよ」

全員が頷く。
ほむらが時間停止を解除し――

580 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2012/01/10 16:58:50.53 VrmfioGAO 1434/1642

――た矢先に、さやかの身体は地面から生えた緑色に絡み付かれた。

織莉子「っ!?」

暗緑の使い魔たちがさやかの身体を弄び――連れ去ろうと試みる。

杏子「――このぉっ!!」

キリカ「触るなっ!!」

当然その使い魔たちは例外無く惨殺されるが、それは当然魔女の目に止まる。

魔女は――自分自身を斬りつけようと、大きく――その巨大な、巨大な大剣を振りかぶった。

躊躇いなんて無い。
何故なら、彼女にとって一番憎かったのは。
彼女にとって一番殺してしまいたかったのは。

他ならぬ、正義の味方になれなかった――自分自身だったのだから。

迅雷の如き速さで振り下ろされたソレを、マミが大砲二丁で受け止める。
強力に練り上げたその武具も、一撃で皹が入る程に激しい一撃。

マミの身体が本人の意思を無視して悲鳴を上げた。

マミ「あっ――ぐぅぅっ……!!」

彼女のソウルジェムが危険な程に深く闇色に染まっていく。
足元から堕ちていく感覚が、マミの魂を支配する。

それでもなお、巴マミは折れなかった。

581 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2012/01/10 17:00:04.49 VrmfioGAO 1435/1642

ほむら「マミ――」

マミ「早く逃げましょう……コレの相手は、今は無理よ――」

だが逃げると言っても、回りは使い魔に囲まれている。

容易ではない。しかもその上に、魔女の体が歪んで変わっていった。

より強く、より速く、効率的に殺戮を行う身体へと。
結界の空間が使い魔を貪り、魔力を凝縮させて。

大剣を肩に担ぎ、小さく鋭くなったその身で魔法少女らの眼前に立つ。

キリカ「――いやはや、私は嫌な思い出しかないんだが」

織莉子「同意よキリカ。さて、どうしましょうか……」

仮面のさやかとの、二度目の邂逅だった。



続き: ほむら「キュゥべえをレイプしたらソウルジェムが浄化された」#10


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