先頭: ほむら「キュゥべえをレイプしたらソウルジェムが浄化された」#01
前回: ほむら「キュゥべえをレイプしたらソウルジェムが浄化された」#05
ほむら「……まさかの3スレ目ね。2スレ目でも言った気がするけれど」ホムゥ
ほむら「さて、注意点よ。増えていってるのは気にしないで」
バカエロ
生える
誰だお前
厨二病
ほむら「で」ホム
オリ解釈
オリ設定
ほむら「それから」ホム
オリキャラ注意
ほむら「このくらいかしら。うわー……地雷にしか見えないわ……」ホムン……
ほむら「まぁそれは置いといて……」コホン
ほむら「『キュ――』」
QB「『キュゥべえをレイプしたらソウルジェムが浄化された』、通称キュベレイ。ボクと契約して、新スレを読んでよ!」きゅっぷい!
ほむら「貴様ぁぁぁぁ!!」ホムゥゥゥゥ!!
さって、こっから先は要注意だよ。
※未来編以上のオリキャラ祭
※世界観すら『もしもこうだったら』
※ほむら脇役
※名前が付くオリキャラもいるよ!
QB「それでも良いなら……プロローグに入るとしようか」
――――最後の日
紫「…………」
マフラーを外し、戒めを解くほむら。
羽は禍々しい物に成り果て、白かったあの頃には戻れない。
ほむら「……まどかの力も、今は無い」
たくさんの魔法少女が――生きて、死んだ。
その何れもが、尊かった。
磨り減っていくかと思われた私の心は、今も確固たる現実を見据えている。
それは、些細な変化で――ただ、少しだけ回りを見回しただけ。
ほむら「――懐かしいわね」
左手に、自在の盾。
時を舞う、翼なき鳥。
砂時計を回そうとして、その手が止まる。
ほむら「みんな……」
未来に生きた魔法少女たちの事が、脳裏に蘇ってきて。
私のする事は、その全ての否定。
ほむら「――違う」
ほむらが以前にこの未来から時間跳躍した時は、考える暇も無かった。
身心共に疲労困憊し、そこに突如現れた希望。
ほむらは無我夢中で時を戻ったのだ。
だが、今は余裕がある。
救いがあると知っていたから。
ほむら「私のコレは――肯定よ」
まどかを救う。
それ故に、世界全てを救う。
そうでなければ、私は許されないのだから。
――ふと、違和感。
ほむら「まどかを助ける……?」
盾を見た。
そう、これは時を駆ける力。
だが、私がまどかを救う為に手に入れた力は、限定的なモノで――
そう、確か――一ヶ月しか時間跳躍が出来ないのだ。
幾ら跳ぼうと、病院のベッドより昔には帰れな――
ほむら「っっ!!?」
違和感。
違和感違和感違和感違和感違和感違和感違和感違和感
違和感違和感違和感違和感違和感違和感違和感違和感
違和感違和感違和感違和感違和感違和感違和感違和感
違和感違和感違和感違和感違和感違和感違和感違和感
違和感違和感違和感違和感違和感違和感違和感違和感
違和感違和感違和感違和感違和感違和感違和感違和感
圧倒的違和感。
この盾は何だ。
この力は何だ。
コレは――『誰』を助ける為の力なんだ?
ほむら「――――っん」
生唾を飲み込む。
前回、きっと私は間違えたんだ。
だから許されなかった。
何だ?
私が本当にしなければならない事は何だ?
何を識らなければならない――
思い出せ……掠れた記憶に、何かのヒントは無かったか――
織莉子『分からないわ。ただ、遥かな過去……だって事しか知識が入って来なかったわ』
ほむら「――遥か、過去」
過去へと戻る――そうだ、それが私の力。
――インキュベーター?
ほむら「っ!?」
視線を感じて振り返る。
そこには何もいなかった。
そう、もう、誰もいないのだから。
私だけ。
人の形をしているのは私だけなのだから。
ほむら「……覚悟を、決めなきゃ」
世界に。
そして、全ての魔法少女に。
ほむら「私は――戦う!」
そして、時を舞い戻る。
深く、深く――
人類始めての魔法少女が生まれるより前に――
インキュベーターがこの星に来た時間まで――
ほむら「(――何、これ。時間の……壁?)」
戻ろう、戻ろう。
そう思って、戻れない所まで来た。
時間の歪みで、吐きそうで、早く跳びきってしまいたい。
ほむら「この先に、何かあるのね――!!」
ほむらの翼が強く羽ばたき、空間を捻じ曲げる。
パラドックスか、はたまた別の何かか――何であれ、『暁美ほむら』はこの先の世界に受け入れられないのだろう。
ほむら「――喧し、い」
喧騒が聞こえる。
壁にヒビが出来た。
ほむら「私は、私は――っ!」
『理』のグリーフシードが、ほむらを後押しする。
ほむらは――時空の壁を突き抜けた。
『インキュベーターは優しい夢を見るか』
――過去より過去の過去編、開幕
――――過去より過去の過去、市街地。
ほむら「――はっ」ガバッ
ほむら「う……どうやら気を失っていたみたいね……頭がガンガンする」ホムゥ……
ほむら「――ん?」ハッ
ほむら「ここは……街?随分近代、というか未来的だけれど」キョロキョロ
ほむら「この地面は――どうやら道路のようね。土が道路の下にあるみたいだし、舗装……?」コンコンッ
――ゥゥン
ほむら「ほむ?」クル
車「――ゥゥン」
ほむら「跳ねられるーっ!?」ホムーンッ!?
スルッ
ほむら「……アレ?」ポカン
ほむら「すり抜けた?」
――――散策
ほむら「……どうやら私は思念体の様なモノになっているようね」
ほむら「世界の妥協、ってところかしら」
人々「」ガヤガヤ
ほむら「しかし進んだ技術ね……過去に来たはずなのだけれど」
ほむら「(しかし、今まで見てきた未来とも合致しない……どういう事?)」
ほむら「人からも見えてないみたいだし、弱ったわ……コミュニケーションが取れないとなると、情報収集が大変ね」ホムゥ
ほむら「って言うか……」ムゥ
女「」
女「」
女「」
女「」
ほむら「美少女まみれ……男は?」
女「ねぇ、ベアトー。今帰り?」ヤッホー
ほむら「っ」クルッ
ベアトリクス「うん、そうだけれど」っぷい?
女?「なら、俺らと返りに喫茶店行こうぜ」
ベアト「うーん。申し訳ないんだけれど、ボクは今日晩御飯作らなきゃいけないから……」
女「あ、それじゃ仕方ないか」
女?「チックショー……じゃまた今度な!奢るから!」
ベアト「ありがと、じゃあね」トテトテー
ほむら「……インキュベーター?という事は、ここはキュゥべえの母星って訳?」
ほむら「時空を突き破る感覚は、もしかしてソレ?……帰れるのかしら」
ほむら「……いや、インキュベーターに着いていけばいいわね。追わないと」タタッ
――――ここがキュゥべえのハウスね!
ベアト「ただいまー」
「あー、お帰りなさい、お姉ちゃん!」パタタタ
ほむら「お邪魔します……って見えてないけれど」ホム
ほむら「……妹?」
ベアト「ただいま、ハンネ。今日は楽しかったかい?」
ハンネ「んー……クラスの男の子とケンカしちゃった!」アハハー
ベアト「なんだって、それは良くないよ。原因は何だい?」ムムッ
ハンネ「……えとね」ウグ
ベアト「怒らないから言ってごらん?」ナデリ
ハンネ「……お姉ちゃんの事」
ベアト「へ?」
ハンネ「お姉ちゃんは女の子なのに、男の子みたいな言葉遣いで変だって言われたの」グスン
ベアト「……それで怒ってくれたんだね。でも良いんだ、ボクは気にしないから……怒らなくていい」ヨシヨシ
ハンネ「でも、お姉ちゃん変じゃないもん……」シュン
ベアト「……ごめんね」
ほむら「……イマイチ状況が呑み込めないわ」ホムッ
――――キュゥべえの私室
ほむら「ふむ、インキュベーターの世界にも学校のようなモノがあるのね」フム
ほむら「……教科書?」ペラ
ほむら「――日本語で書かれている……どういう事?」ペラ
ほむら「……歴史や保健体育、社会とかの教科書無いかしら」ゴソゴソ
ベアト「弱ったなぁ……」ガチャ
ほむら「ほむぅっ!?」ビクンッ
ほむら「(――マズイ、この状況は本が浮いているようにしか見えないはず)」
ベアト「……」ボフッ
ほむら「ベッドに倒れこんだ……どうやら本も一緒に感知されなくなっているようね」ホッ
ほむら「でも肝が冷えるわ……図書館みたいな場所があれば、何か分かるかもしれないわね」ホム
ベアト「……」
ほむら「考え事かしら……」
ほむら「(外の美少女と比べても抜群に目を引く容姿……ふむ)」ホム
ほむら「美人には悩みが多いっていうしね、うん」ホムホム
――――晩御飯のようです。
父「――――」ハハハ
母「――――」アラアラ
ベアト「――――」アハハ
ハンネ「――――」モー……
ほむら「……」チラ
ほむら「和気藹々とした家族のようね。あのインキュベーターとは思えないわ」
ほむら「ここからどうやって宇宙のエネルギーって話になるのかしら……」ハァ
ほむら「しかし……父親?かしら。明らかに女性に見えるのだけれど――」
ほむら「まさか」タラー
――――夜
ベアト「……」スゥスゥ
ほむら「良く眠っているようね……本を拝借しましょうか」ペラ
ほむら「――性別?」
ほむら「男性型と女性型……?なになに……」
ほむら「――なんとまぁ」ホウ
ほむら「基本的に性別が無いのね。男性器と女性器を合わせ持っていて……その中で、男らしいのと女らしいのに分かれてるの」
ほむら「……みんなフタナ――いやいや考えない事にしましょう」ブンブン
ほむら「ふむふむ……優勢遺伝子に寄る進化……?」
ほむら「なるほど、見た目が美しくなるような遺伝子が優先的に残ってしまうのね」
ほむら「模様でアピールする昆虫とかも多いし、妥当な進化なのかしらね」
ほむら「……ん?という事は、両性って事も合わせて――余り繁殖力が強くないって事かしら」フム
ほむら「確かに、この技術力なら種族単位の死亡率が減るはず。故にかしら」
ほむら「……ん?『純女性』?」
ほむら「……たまに普通の女が生まれるのね。男でない辺り、遺伝子の強さを感じるわ」
ほむら「インキュベーターは……」ゴソゴソ
ほむら「純女性だったわ。まぁ知っているのだけれど」
ほむら「……なるほど、純女性は他人を強烈に引き付けるのね……数が少ないのも、それに拍車を掛けているのかしら」
ほむら「確かに……レイプしたらレイプされ返されるけど、唯一反撃がないから……いけないわね、思考回路がヤられてきたみたい」ハァ
ほむら「……」チラ
ベアト「……」クゥクゥ
ほむら「パジャマには触れるのに本体はすり抜けるって……」ホムゥ……
ほむら「因果に影響を与える事は出来ないって訳ね……厄介だわ」
ほむら「『観測されなかった事柄は、起こっていない』って事かしらね……シュレディンガー万々歳だわ」
ほむら「疲れた……寝ましょう」グゥ
――――朝、登校
ベアト「行ってくるよ」トテテ
ほむら「……」タタッ
ほむら「……人間と変わらないわね。あんまり」ホムッ
ベアト「はっはっ……待たせたね」タタタ……ピタッ
「おっ。今朝も早いな、ベアト」ヨッ
ベアト「おはよう、茜」ヤア
茜「相変わらずよそよそしいな。名前で呼んでくれよいい加減ー」ブーブー
ベアト「『陽子』より呼びやすいからね」バッサリ
茜「友人が冷たい……」ハウゥ……
茜「ま、いっか。行こ?」
ベアト「うん」
ほむら「(……でもフタナ――おっとっと)」ホムリ
――――学校、校門前。
茜「あ、そういやベアト……リボン変えた?」
ベアト「あぁ、うん。母がオシャレしろって煩くてね。変かい?」ファサッ
茜「いいんじゃない?」
ベアト「そうかな……ボクとしては少し派手じゃないかと思っていたんだけれど、キミが言うならそうだろう」テレリ
茜「何付けてもベアトなら似合うっつーの」
ベアト「ふふん」ドヤァ
茜「あ、今アタシの触れてはいけない琴線に触れたよアンタ――このぅ!」ガバッ
ベアト「わっ、アハハ、くすぐったいじゃないか、ハハッ――」ケラケラケラ
ほむら「……来る時間、間違えたかしら」ホム
ほむら「ん?」ホムン?
「ベアトちゃんだ!」
「ベアトちゃーん!」
「ベアトリクスさん……いつ見てもお美しい」
ほむら「あ、その他大勢に囲まれた」
ほむら「……美少女美少女美少女……正直自信を無くすわ。フタナ――なんだろうけど」ホムゥ……
ベアト「お早う、みんな」ニコ
茜「ほらほら教室に行けないだろ、退いた退いた」ワッサワッサ
――――授業中、静かな校内。図書室。
ほむら「…………」ペラ
ほむら「インキュベーターたちの技術は高いけれど、どの書物にも感情エネルギーの事なんて書かれていない」フム
ほむら「まだ発見されていない……と言う事かしら。長居になるのは嫌ね」コトン
ほむら「……地理。これは都合良いわね」ペラ
ほむら「――これが、インキュベーターの星?」
ほむら「(形が、寸分違わず地球だわ……大陸の形も同じ)」
ほむら「……どういう事?ただの偶然――にして出来すぎね」
ほむら「地球を作り替えた?……インキュベーターが?」
ほむら「謎は深まるばかりね……ここは日本に当たる場所みたい」
ほむら「――言語までそっくり」ワオ
ほむら「私たちは悉くインキュベーターの模倣だったのねぇ」フムフム
ほむら「……しかし社会の仕組みは私たちと大きく変わらない。いや、故にかしら」
ほむら「……まるで人間みたい」
――――ほうかごっ!
ベアト「ようやく終わったね……」ノビー
茜「こらこら、そんなはしたない事しないの。可愛い女の子なんだから」メッ
ベアト「余計なお世話さ。ボクは男の方が良かったよ」ハァ
茜「付いてないだけじゃん。気にしない気にしない」アハハー
ベアト「バッ、公衆の面前で何を言っているんだいキミは!?キミの方がよっぽどはしたないよっ」カァァッ
茜「ジャパニーズジョークっすよ、独逸の人にゃ伝わらぬかー」テヘッ
ベアト「そんな日本のジョークは聞いた事も無いよ……しかもドイツよりこっちのが長いしボク」ハァ
ワイワイガヤガヤ
茜「おっ、早く帰らないとヤバいんじゃん?」
ベアト「うぐ」ギクッ
茜「ファンクラブが集まってきたみたい……よっ、ニクいねっ!」アッパレ!
ベアト「何時でも変わってあげたい所さ……ハァ」
ほむら「どこー、キュゥべえどこー!?」キョロキョロアセアセ
――――ファンクラブは撒きました。
ベアト「きゅっ、ぷいー……久しぶりに走った様な気がするよ」ハァハァ
茜「ベアトはギャグマンガの主人公になれる素質があると思う」ケラケラ
ベアト「『実はファンクラブのみんなは一回刺されただけで死ぬぞー!』みたいな感じかい?」ヤレヤレ
茜「その一回は普通致命傷だからね?当たり前だからね?」ネ?
ほむら「…………」ゼェゼェ
茜「――っと、んじゃアタシはこっちだし。またね」
ベアト「うん。バイバイ」フリフリ
茜「ん」テクテク
ベアト「……さてと、ボクも早く帰ろうかな」トテトテ
ほむら「…………」
ほむら「(……驚く程感情に溢れているわ。インキュベーターは嘘を吐いていたのね)」
ほむら「ん……待って。このインキュベーターは魔法少女ではない……って事は?」
ほむら「これから魔法少女になるのよね……多分。とすれば、インキュベーターにとってのキュゥべえが現れなければならない筈……」
ほむら「ソレとも別の形で……?下手に未来を知っているのも厄介ね」ホムゥ
ほむら「……こんな日常を享受していたのね。幸せそうで羨ましいわ」ホム
――――日常の断片。幸せのベアトリクス。
ベアト「むむむ……」タラタラ
教師「ちょっと難しかったかな。誰かこの問題分かるか?」
茜「(ドンマイ)」
――――
ベアト「子供の頃にやった記憶があるよ。手を回して『パン工場~』って……」キャイキャイ
茜「え……」
女「いや無いよ。それは無いよ」
ベアト「二回言った!?」ガビンッ
――――
ベアト「お弁当作ってきたよ」
茜「者共、群がれー!」
男1「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
男2「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
男3「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
ベアト「なにこれこわい」
ほむら「(『男』も美少女よ?)」ホム
――――
ベアト「もむもむもふっ」カリカリカリ
茜「(メロンパン食ってる……)」
女「あぁ……これが『萌え』なのね」ブワッ
男「貝になりたいね」
――――
ハンネ「むむぅ……」ガックリ
ベアト「姉より優れた妹などいない事の証明だね」エヘンッ
ハンネ「ルークしか無い……ポーンすら全滅って……」
ベアト「ナイトはしっかり使わなきゃダメだよ」
――――そして非日常へ。
ベアト「ごちそうさまでした、と」パンッ
ハンネ「今日の晩ごはんも美味しかったよ、お姉ちゃん」ニパッ
母「いつもゴメンね。助かってるわー」
ベアト「構わないよ。好きでやっているしね」カチャカチャ
ほむら「……平和過ぎるわね。堪能してる分、こっちは何も言えないけど」シーハー
父「……お、これは凄いんじゃないか。みんな、テレビ見てみろ」オォ
ベアト「?……どうしたの父さん」
ハンネ「……エネルギー?良く分からないや」?
父「精研……精神エネルギー研究グループが新型の技術開発に成功したみたいだな……」マジマジ
母「それって確か、テレビで話題のオカルト集団じゃない」フン
父「いやいや母さん。彼らはそのオカルトを科学しているんだよ。僕らもエンジニアとしては学ぶ所が多い」フムフム
ほむら「――、――っ」
ベアト「えーと何々……『精神エネルギー研究グループは、先日魂の固着化に成功』」
ベアト「『固着化されたソレを便宜的にソウルジェムと名付けた』」
ベアト「『ソウルジェムは発生の際、非常に巨大なエネルギーを発生させる』」
ベアト「『これによって』……?」
父「『これによって、無数に存在したであろう他の世界線と情報伝達、因果の書き換えを可能とした』」
父「『これがもたらすのは、願望の実現である。その願望が実現している世界から、その情報を抜き取り、現実に対応した形で上書きする』」
ハンネ「???」
父「タイム理論は難しいからね。つまり、この世界はたくさん存在している可能性があるって事さ」
母「んー……もっと噛み砕いて?」
父「例えば、母さんは今日洗濯したかい?」
母「いや、今日は雨が降りそうだったからしていないわ」
父「うん。でも降らなかったね。ここで可能性として、もしかしたら降らないかもしれないと思って、洗濯物を干した母さんのいる世界が構築されるんだ」
ベアト「なるほど……つまり、このソウルジェムって言うのを使えば、干し損ねた洗濯物を干し終わった状態に出来るんだね」
母「え、お母さんショボい」ショボン
ハンネ「ショボくないよっ」ギュー
母「ありがとー」モギュー
ベアト「凄い技術だね……ん、『なお、その際叶えられる願望にも限界がある』」
ベアト「『多数の人間に影響を与える可能性のあった者は、そうでない者より因果の増幅が見られる』」
父「将来大人物になりそうな人程、大きな願いが叶えられるって事だろうね」
ベアト「なんだ、それじゃボクなんかが願っても意味が無いじゃないか」ハァ
父「いやいや、自分に自信を持つべきだよ。ベアトリクスはこの父さんの娘なのだからね」
ベアト「『願望を叶える力の事を、便宜的に因果力と名付けた』」
ベアト「『因果力の測定は精神エネルギー研究グループが既に確立させた技術である』」
ベアト「『政府は因果力の高い人間を求めている』……」
父「……成る程。大きな願望が叶えられる人を探して、奇跡を起こすんだね」
ベアト「奇跡?」
父「技術革命だって奇跡だし、中東の方の戦争が無くなっても奇跡だろう?――これは世の中が変わるぞ」ワクワク
ベアト「ふーん……『因果力の高い人間が、国の要求する願望を実現した場合は、生活面での一生涯の保障を約束する』」
ベアト「『第一被験者――』?」
TV「では、実際スタジオに起こし頂きました――明智十兵衛武政さんです」
ベアト「わぁ、カッコイイ人だな」
司会『十兵衛さんは代々軍の家系で、――大名の子孫となります。素晴らしい家系ですね』
十兵衛『いや、ま、七光りだけどな』ハハ
司会『で、願いは何を?』
十兵衛『最強になる、だな』
司会『最強……ですか?』
十兵衛『願いには大別して二種類ある。『概念系』の願いと『物質系』の願い』
十兵衛『物質系の願いは簡単で『~~が欲しい』とか、そんな感じの願い。まぁ、願えば大抵思った通りに叶う』
十兵衛『それに比べて概念系の願いは何が叶うか正確に分からない分、強力な願いになる可能性があるからな』
十兵衛『俺の願いは概念系って訳さ』
司会『成る程、では次の質問――』
ベアト「へぇ……難しいんだね」
父「みたいだね。『なお、副産物として願いに応じた小さな情報書き換えを行える』」
父「『ある程度エントロピーの減少を無視しているので、熱力学の法則が覆る可能性がある』」
ベアト「『無から有を生み出す、これを精神エネルギー研究グループは『魔法』と呼び――』」
ほむら「対象者を『魔法少女』と名付けた――」
――――侵食
ベアト「お早う」ヤァ
茜「よ」ヨッ
ベアト「昨日の速報見たかい?」
茜「うん。何か凄いよね、願いが叶うって」ホー
ベアト「うーん……ボクは特に叶えたい願いも無いんだけれどなぁ」
茜「ま、私ら庶民には関係無いってね」タハハ
ほむら「(……しかし、魔法少女になってしまえば魔女化が付きまとう)」
ほむら「……構造の欠陥から、私たちをモルモットにしたのかしら」ホムム
――――学校、昼休み
ベアト「ごちそうさま。今日のおかずはちょっと失敗しちゃったな……」アリャ
茜「弁当のおかずに求めるレベルを遥かに越えてると思うけどね」モグモグ
ピンポーン
ベアト「昼放送?珍しいね」ン?
放送『政府からの重大な発表があります。黒板のモニタシステムを起動して、テレビ回線に切り替えて下さい』
茜「ん?なんだなんだ?」カタッ
パチパチ、カチッ
ブウンッ
茜「付けたけど……おい、みんな見てみろ!」
「なんだ?」
「どしたの?」
ベアト「……魔法少女の話なのかな?」
ほむら「何ですって……?」
――――画面の向こうの魔女たち。
司会「――ハイ。皆さま方、本日は大変重大な発表がございます!」ニカッ
司会「先ずはゲストの紹介です!願望実現システムを開発した、精神エネルギー研究グループの皆さんです!」バッ
「マイクを……ありがとうございます」パシッ
「これをご覧になられている皆さま、日々良き人生を過ごしておられるでしょうか」
渚「私、渚響と申します。精神エネルギー研究グループのリーダー、させていただいております」ペコッ
渚「我々は先日世界に願望実現システムの開発を発信致しました」
渚「と同時に、全国で『因果力』の大きい人物の創作を開始すると申し上げもしました」
渚「だがしかし、それは杞憂に終わったのです」
渚「『因果力』の説明は後ほどあるでしょうが、こちらは対象になるべき者を既に把握しております」
渚「そも『因果力』が強大になるための条件は二つです」ピッピッ
渚「『年齢』と『如何にその人間が多数に影響を与えるか』」
渚「年齢は単純なモノです。若ければ若い程良い」
渚「若い人には未来がある。その未来の可能性の分だけ因果力は膨れ上がります」
渚「しかし、若すぎてもいけません。赤子などになると可能性が分岐する以前の問題になりますから」
渚「こちらは大体14~18までの若者となりますね」
渚「世界中の対象者を探すにしても、条件としては広すぎて……我々も手をこまねいていました」
渚「――しかし、そこで二番目の条件が我々に光を与えました」
渚「そう――我々ほど世界に影響を与えた者たちはいない!……私たちの因果力は絶大でした」
渚「私たちは国からの庇護を約束され、各員それぞれが願いました。みな、出番だ」
「は、はいっ!わ、私の願いは『強大な因果力を持った人のデータの収集』ですっ!」
「わたくしの願いは『世界中の人々に、願望実現システムが与えられますように』です」
「俺――いや、わ、わたくしめの願いは『システムの迅速な普及』であります!」
「俺の願いは『戦争の根絶』……この世界に神はいない――が、俺と、仲間と、画面の前の貴様がいる!」
「僕の願いは『技術革命』です」
「私の願いは『医療の発展』ですぅー」
渚「と言う訳でございます。他にも多数願わせて頂きましたが、それは後ほどの資料をご覧下さい」
渚「役所へ行けば、自分が対象者かどうか分かるようになっています。また、その際対象者でない方には『願望器』を差し上げる事になっております」
渚「おい」
「はいです。このぬいぐるみはメンバー秀逸のデザインです。これが願望器の役割を持つです」
「このぬいぐるみに願いを言って、その願いが可能ならば『それはキミの魂を懸けるに値するのかい?』って喋るです」
「ダメだったら『申し訳ないが、キミの素質では……』とお茶を濁すです」
「前者の質問に肯定を返せば成功です。願望器は捨てていただいて結構です」
「……ぬいぐるみが可愛いのは趣味です」
渚「――と言う訳です。それでは世界中の皆さん、良き魔法少女ライフを!」
――――教室
ベアト「へぇ、凄いね」
茜「――早く行かなきゃ」フラ
「そうだな」ユラ
「行こう」ガラッ
ベアト「えっ、みんな……授業は?」ビクッ
放送『本日の午後は休校になりました。生徒先生の皆さんは役場へと向かいましょう』
ほむら「昨日の今日で――」クッ
ほむら「――軽々しく願うからこうなる!」
ほむら「――しかし、このままでは……ヘタに性別が統一されている分、全滅も有り得るわ」
ほむら「……私には何も出来ない。とりあえずはキュゥべえに着いていきましょう」
ベアト「待ってよ、ボクも行くからさ――」タタッ
――――ごった返す役所
ほむら「狭い……」ホムギュッ
ベアト「お父さん?お母さん、ハンネまで」
父「急に仕事が休みになってね」ハハ
母「テレビを見たのよ」
ハンネ「多分お姉ちゃんと理由一緒だよっ」
ベアト「もう貰ったのかい?」
ハンネ「うん、これっ」バッ
ぬいぐるみ「きゅっぷい!」
ほむら「……モロにインキュベーターじゃない。なんだか懐かしいわ」
――――その日の夜。世界中が書き換えられる夜。
父「ベアトリクスは何をお願いするんだい?」
ベアト「うーん……どうしようか」ウムム
母「別に私たち、恵まれてない訳じゃないものね」
ハンネ「私は――お菓子食べ放題なんてどうかな?」キラキラ
父「こらこら、一度しかない願いなんだからもっと大事に使いなさい」メッ
ハンネ「はーい……じゃあ何にしよう?」ウーン
父「私は決めてあるよ。『家族を守れる強い父でありたい』……どうかな?」
ぬいぐるみ「それはキミの魂を懸けるに値するのかい?」
父「よしよし、大丈夫みたいだ。もちろんだよ」フウ
ぬいぐるみ「キミの願いはエントロピーを凌駕した!」パァッ
父「くっ……ふう、これがソウルジェムか。綺麗なモノだ」シゲシゲ
母「じゃあ私は『子供達を幸せに出来る母でありたい』……かな?」ウフフ
ぬいぐるみ「それはキミの魂を懸けるに値するのかい?」
母「当たり前よ」
ぬいぐるみ「キミの願いはエントロピーを凌駕した!」パァッ
母「ワオ、パパのとは色違いね」
ベアト「……じゃボクは――『誰も不幸になら『無』い世界』を望むかな」
ぬいぐるみ「それはキミの魂を懸けるに値するのかい?」
ベアト「うん」コクリ
「キミの願いはエントロピーを凌駕した!」パァッ
ハンネ「んーと、『家族みんなずっと一緒』!」
ぬいぐるみ「それはキミの魂を懸けるに値するのかい?」
ハンネ「とーぜんっ」ドヤッ
ぬいぐるみ「キミの願いはエントロピーを凌駕した!」パァッ
父「まぁ、こうなると思っていたよ」ニッコリ
ベアト「特にお願いなんて無いしね……」
母「私の願いは既に叶っているしねー」
ハンネ「?」
母「家族みんなが健やかに。それが一番だから、ね」ニコ
ハハハハ――
ほむら「…………」
ほむら「……とても見ていられないわ」
――――魔法少女の日常。断片。
ベアト「あれ?お父さん仕事は?」
父「実は機械技術が急発展してね。仕事は全て機械がやれる様になってしまったんだ」
ハンネ「点検は?」
父「点検をやるロボットがいるんだ……仕事をしなくて良いのは有り難いんだけど、ね」
ほむら「食いっぱぐれるのではないの?」
――――
ベアト「貨幣制度の撤廃だって!?」ビックリ
母「だって全部機械でやるのだから、私たちは何もしなくていいでしょう?」
母「バイオテクノロジーも発展したようだし、食料にも困らないわ」
父「争う原因が無くなってしまったんだねぇ」~♪
ハンネ「パパギターうまーい!」キャッキャッ
父「昔取った杵柄さ」ドヤッ
ほむら「原始に返っているような気がするわ」
――――
ベアト「人間は趣味に没頭出来て良いね……」フゥ……
茜「でも学校はあるよ」グデー
ベアト「まぁ最低限の学は必要だろうしね。全く、大人より子供が大変だなんて」ハァ
茜「そだね」ハァ
ベアト「ところで、茜は何を願ったんだい?」
茜「アタシ?アタシは……恥ずかしいんだけど、言わなきゃダメ?」モジモジ
ベアト「ボクはキミに教えたのだけれどね」チラ
茜「あー、うー……あのさ、私男型じゃん?」
ベアト「うん」
茜「ちょっとばかし括れがイマイチだから『スレンダーになりたい』って……」カァ
ベアト「――ハハッ、それは茜らしいや!」ケラケラ
茜「わ、笑ってられるのも今の内だけなんだから!ほら見ろ!目に焼き付けろアタシの括れをな!」バサッ
ベアト「――なんと」
茜「…………どうよ」
ベアト「これは――なんと言うか――魔的だね。いや、美しいよ」サワッ
茜「ひうんっ!?」ビクッ
ベアト「ふむ――ふむ……」ツツ、フニッ
茜「あ――はっ――くぅ――」ピクンッ
ベアト「いや、素晴らしいよ」タンノウ
茜「そ、そりゃどうもぉ!」カァァッ!
ほむら「…………ほむほむしそうだわ」
――――
ベアト「先生、何でまだ教師してるんですか?」
教師「趣味だ」
教師「若い子を育て、良き考えを持った人になってもらうのが先生の生き甲斐なのさ」キリッ
茜「本音は?」
教師「ぶっちゃけヒマだから」ダルン
生徒一同「台無しだよ!?」ガビーン!?
ほむら「台無しよ……」ホムン
――――
ベアト「お母さんも仕事しなくてよくなったから、ご飯作らなくなっちゃったよ」
母「家事をやってくれるロボットもいるらしいけど、そこくらい母をやらせてほしいわ」アハハ
ハンネ「ママのゴハン大好き!」ギュー
母「ありがとー」ムギュー
父「父さんも家事をバリバリ手伝うぞー」バリバリー
ベアト「やめて!」
ほむら「やめなさい!」
――――そして来たる未来。
ベアト「おはよ、みんな……」ネムネム
父「お早う、ベアトリクス。ベアトリクスも気を付けなければいけないよ」クイッ
ベアト「何?テレビ……?」
父「家を出てすぐに気絶する人が増えているみたいなんだ。原因はソウルジェムらしいけど」
ベアト「なになに……ソウルジェムから身体が遠ざかると、体調を崩します?」
ベアト「常に持ち歩いておきましょう……指輪やネックレスに変化させる事も出来ます?」
ベアト「物騒だね。ボクは持ち歩いていたから大丈夫だったけれど」ワァ
父「最初の頃はみんなそうさ。だけどもう慣れてきてしまったんだろうね」
ベアト「ボクは……これでいいかな?」パァッ
母「あら、チョーカー?可愛らしいわね」アラアラウフフ
ベアト「カッコイイって言ってもらえる方が嬉しいのだけれどね」テレリ
ハンネ「おはよー……」ネムネム
父「ハンネも気を付ける――」
ほむら「……情報規制が入っているわね。一体どうなってしまうの……?」
――――学校、ホームルーム
ベアト「勉強にも意味を見いだせなくなってきたよ……」っぷい
茜「意味がある事の方が、世の中少ないもんさ」ハハ
ほむら「……研究グループはもう気付いているのでしょうね。ソウルジェムの欠陥に――ん?」ホム?
「ちょっと失礼して宜しいかな?」カタッ
茜「はい?……誰だお前?」
「やっぱり拙者が誰だか分からぬでごさるな、拙者大勝利でござる!デュフッ、デュフフッ!」ニタニタ
ベアト「もしかして……杏奈さん?」
杏奈「!!気付かれたでござるか!拙者大変驚きでござる、フォカヌポゥ!」フォカヌポゥ!
茜「……あー、あの隅っこの地味子か」ポンッ
杏奈「『もう』地味子じゃないのでござる!拙者の名は杏奈唯でござるよ!」プンプンッ
ベアト「『もう』?」
杏奈「拙者願ったのでござるよ。『美人になりたい』と――ほら、美人でござろう!」ドヤッ
茜「……ふむ。ベアトにケンカを売るとは2光年速いな」ニヤリ
ベアト「キミはニビシティでボーイスカウトをやるべきだよ、茜」
茜「ベアト」
ベアト「オーケーだ」
杏奈「む?」
茜「黒髪ロング」
杏奈「如何にも」
ベアト「巨乳」
杏奈「イエス」
茜「肉付きの良い尻」
杏奈「その通り」
ベアト「太もも」
杏奈「自慢でござる」
茜「ムチムチ系だな……ベアトとは違った意味で美人、ってかエロいわお前」ズバッ
杏奈「な、なんですと!?」フォカヌポゥッ!?
ベアト「……っていうか、多分あんまり前と変わってないと思うのだけれど」
杏奈「いえ、拙者は変わったのでござる。憧れのベアトリクス殿にこうやって話しかける自信が持てた――ヤバいニヤけてきたでござるるる」ピィィィィィ――
茜「落ち着け地味」
杏奈「せめて人間扱いして下され!?」エフッ
ベアト「具体的に変わった事って?」
杏奈「メガネをコンタクトに代えたでござる」キリッ
茜「……それ、願い関係なくね?」
杏奈「――ヌポゥ!?」
ベアト「アハハ……よろしくね、杏奈」
杏奈「――っ、よ、よろひくおねふぁっす!」プルプル
茜「落ち着けコミュ障」
杏奈「こここコミュ障ちゃうわ!」ヌポゥ!
ほむら「新ジャンル『キモエロ』……」ホムゥ
ほむら「いやでも確かに、何かゴスっぽいミニスカからはみ出す肉がエロいのは分かるわ」
ほむら「身長高いし」ホム
――――
ベアト「と言うか杏奈って最近来てなかったような覚えがあるんだけれど」っぷい
杏奈「あぁ、それは……何もやらなくて良くなったから日がな1日vipに潜ってたのさ」
茜「うわ、オタかよ」ヒキッ
杏奈「失礼な。ネットサーファーと呼びたまえよ」ムッ
ベアト「……喋り方変わった?」
杏奈「……実はさっきまでは緊張していて、つい母国語が出てしまったでござる。いや、実に失敬」タハハ
茜「わかりやすい奴だよな、お前」ヘェ
杏奈「ヌポゥ!?」
ほむら「良く見ると赤髪ショートのギャルギャルした茜もなかなかエロ――」
ほむら「……なんだか無くなってた煩悩が帰ってきているような気がするわ」ホム
――――放課後、帰途。
ベアト「みんな用事でボク一人か……」テクテク
ガヤガヤ
ベアト「ん?何だか騒がしいぞ?」トコトコ
ほむら「これは――!?」
少女1「この――謝れよっ!!」ガキンッ!
少女2「アンタこそ!」バキンッ!
ベアト「魔法少女同士のケンカだ……ど、どうしよう――武器持ってるし、危ないよ……」オロオロ
ほむら「確かに容易に想像できるわ――って、キュゥべえ!?」
ベアト「や、止めるんだっ!」バッ
ほむら「せ、せめて変身しなさいっ!そこの奴らもやってるでしょ!」アセアセ
少女1「あぁ?」
少女2「関係『無』いのは黙ってろよ!」
ベアト「う……ダメだよ、戦うなんて危ないよっ!」ブルッ
少女1「退かないならオマエからだ――」ヒュンッ
ベアト「え――(剣?)」
ほむら「斬られる――っ!?」
キンッ!
「おいおい、危ねぇだろ」
少女1「(止められた……)」
少女2「オマエも邪魔をする気か!」ブンッ!
ほむら「(槍を突いた――いや)」
バラッ
少女2「――槍が」
ほむら「(薙刀……かなりの業物ね)」
「あ、それ槍だったのか。てっきり薪かと思って割っちまったわ」ヘラヘラ
「で、まだやるかい?」ゴォッ――
少女1「……ちっ」ダッ
少女2「くそ、冷めた……」ダッ
「ふん、『最強』には程遠いな」
ベアト「あ、あ……」トサッ
「大丈夫か?」スッ
ベアト「う、うん。ありがとう」
ベアト「――アナタは」
「あ、俺?」
十兵衛「明智十兵衛武政、気軽に十兵衛って呼んでくれよ」ニッ
132 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/09/29 01:17:30.56 bo/v1O5AO 863/1642投下終了。
言い忘れてたけどQB=バカエロフラグだからね。
名前の読みだけ投下しとく。
ベアトリクス・クヴァンツ
ハンネ=ローレ・クヴァンツ
茜洋子(あかねようこ)
杏奈唯(あんなゆい)
渚響(なぎさひびき)
明智十兵衛武政(あけちじゅうべえたけまさ)
――――帰宅
ベアト「ただいまー……」ポケー
父「お帰り、ベアトリクス」
ベアト「分かったー」ポケー
父「……?」
ハンネ「お姉ちゃん、ゴハン食べる?」
ベアト「分かったー」トテトテ
母「む」ピキンッ
ほむら「無視して部屋行ったわよ……惚れた?」ホム
母「恋ね」キリッ
父「え、マジかい?」
母「マジよ」
――――その夜、ほむら
ほむら「やはりインキュベーターは嘘を吐いていた」
ほむら「……だがしかし、インキュベーターは嘘を吐けない」
ほむら「どういう事……あのインキュベーターとこのインキュベーターは別物だというの?」
ほむら「しかし、有用な情報だわ」
ほむら「インキュベーターは感情エネルギーを加工する技術があったが、感情が無い為に人間に白羽の矢を立てた――これはダウト」
ほむら「よくよく考えれば、自分達で利用出来ないモノを開発する道理が無いわ」
ほむら「しかし……このままでは」
――――視点を俯瞰へと。とある研究所、十兵衛
十兵衛「渚さん、何か分かったか?」
渚「……魂を体内に戻すのは不可能、としか」
十兵衛「マジかよ……とんだ悪魔の発明だな、オイ」
渚「だがしかし画期的である事は間違いない――!」
十兵衛「うっかりソウルジェムが無くなっちまえば死ぬがな」
渚「くっ――」タジ
十兵衛「……ま、対策は出来るんだし。気にする程ではないと思うが」
渚「身につけていれば大丈夫……今はソウルジェムが原因で仮死する人もいない」
十兵衛「アンタんとこのデータバンクのお陰で大事にならずに済んだしな」
渚「彼女は人間よ、そんな言い方しないで」
十兵衛「さてな。アンタはこれを――ソウルジェムを見てもさ」
十兵衛「同じ事が言えるかい?」
渚「――っ」
十兵衛「言えないだろう?俺は言える」
十兵衛「俺は『最強』だからな」
――――休日。みんなで遊びに。
杏奈「久方ぶりに外に出たよ」ノビー
茜「運動しろオタク」
杏奈「オタクじゃない!」ガウッ
ベアト「…………」ボーッ
杏奈「……ベアトさんはずっとあんな調子だし」ハァ
茜「止めとけ。ベアトは高嶺の花だ、落ちた時は洒落にならんからね」ポムッ
杏奈「……うっせ、半年romってたんだよ。こっちはね」
杏奈「いや、ここはポイントを稼ぐでござる!ベアト殿!」タタッ
ベアト「……杏奈、どうしたんだい?」クル
杏奈「その方、何かお悩みのご様子。宜しければ拙者にお話し下され」ヌポゥ
ベアト「……ちょっと人を探していてね――」
――――
杏奈「その人を探しているんだ」フム
ベアト「ちゃんとお礼を言えなかったしね」
茜「そんな奴なら噂になってそうだけど……」ムム
杏奈「特徴は?」
ベアト「長い黒髪をポニーテールにしていて、薙刀を持った黒い服の魔法少女」
杏奈「不審者じゃないですかやだー!?」ヤダー!?
茜「ま、それだけ奇抜ならすぐ見つかるんじゃないの?」タブン
――――
茜「一時間前の自分を恨む」グッタリ
杏奈「全然手がかりが無い……」ハァ
ベアト「もうこの街にはいないのかもしれないね……」っぷい……
「――もし。もし、そこ行くお人ら」
ベアト「ん?」クルッ
「失礼致す。拙者、この御仁を探しているのですが……ご存知でござるか?」ペラッ
杏奈「な、仲間を見つけたでござるよ!」パアァッ
ベアト「この写真――十兵衛」ハッ
「ご存知でござるか!?」ガシッ
杏奈「ご存知も何も、拙者たちもこの者を探している最中でござる」フォカヌポゥ!
「これはまた奇遇な事でござるな……貴殿も侍の家系であらせられるのか?」
杏奈「……へ?」キョトン
「む、これは失礼仕った」キリ
四郎「某、早苗四郎正宗と申す者にござる。十兵衛殿と、この都に馳せ参じたのだが……」
茜「はぐれたって訳ね」
四郎「誠に情けない話でござるが、否とは申せないでござる」シュン
杏奈「うわー……ガチ士族かよ鬱だ死のう」ウワァ……
茜「死ねオタク」
杏奈「引き止めてよ!?」ガーンッ
――――
ベアト「――という訳なんだよ」っぷい
四郎「十兵衛殿らしいでござる……」ハハ
茜「そっちは?」
四郎「十兵衛殿には些か放浪癖が有りもうしてな……」ハァ
杏奈「人は多い方が越したことはないよ。一緒に探した方がいいんじゃないかな」
四郎「……?」
杏奈「ゴメン、私武士でも何でもないの……止めてそんな目で見ないでぇぇぇ」ブンブン
四郎「?」
茜「コイツバカだから気にしないで」
――――探索中。急速に科学化した都市。
ベアト「キミも魔法少女?」
四郎「察しの通りでござる。と申すか……今世界中で魔法少女でない人間は居らぬでござる」
茜「……何故そんな事が言えるの?」
四郎「拙者は十兵衛殿の付き人でござる。故に、十兵衛殿を通して情報が耳に入るのでござる」
杏奈「付き人が付いてないって……」エー
四郎「耳が痛いでござる……」シュン
茜「ふーん……って、アレなんだろ?随分人が集まってるけど」ピッ
四郎「まさか……」ダッ
ベアト「あっ、待ってよ」タタッ
杏奈「人ごみ嫌いなんだけどなぁ……」
茜「良いから走れ引きこもり」グイグイ
杏奈「現在進行形でアウトドアしてますぅー!!」ズルズル
――――人ごみ
キャーッキャーッ!
四郎「間違いない、十兵衛殿でござるな」
ベアト「何で分かるんだい?」
四郎「結構な有名人なのでござるよ。見た目も凛々しく有らせられますによって」
グイグイ
四郎「し、失礼仕ります――お通て下されー!」
「何よコイツ」
「割り込んでんじゃないわよ!」
十兵衛「――おぉ、四郎か!探したぞ?」ハハ
四郎「それは拙者の台詞でござるよっ!お探し申し上げました……」ホッ
十兵衛「手間を掛けた。いや、済まなかったな」
十兵衛「では、みんな生憎だが、用事があるんでな……またな!」ジャアナッ!
「はーいっ♪」
「またね十兵衛さまー!」
茜「……アイドル気取りかよ、バッカみてー」ケッ
杏奈「イケメン滅べ……あ、壁殴り代行ですか?3時間お願いします」モシモシ
ベアト「わぉ……」ポケー
――――
十兵衛「いやー悪い悪い。のんびりしてたら人が集まってな」ハハハ
四郎「全く……」スッ
四郎「十兵衛殿」ボソ
十兵衛「……何かあったか?」
四郎「渚殿から、ソウルジェムについての経過報告でござる」
十兵衛「かーっ、親父がやりゃあいいのによ……『隠居したい』なんて願ってなけりゃ叩きだしてやる所だぜ」ヒソヒソ
ベアト「あっ、あのっ!」
十兵衛「ん……お前はあん時の」チラ
ベアト「こっ、この間は助けてくださり、ありゅ、ありがとうございましたっ」ペコー!
茜「(噛んだ……)」アーア
杏奈「――――そう言う意味かよ」ハッ
十兵衛「お、良いって良いって。気が向いただけだからな」ケラケラ
十兵衛「四郎、その件は急ぐか?」
四郎「火急を要するにござりまする」
十兵衛「そうか、じゃあ仕方ねぇな……よし」ガサゴソ
十兵衛「ここで会ったのも何かの縁だろ。端末のアドレス交換しようぜ」スッ
ベアト「えっ、へぇっ?」ドキンッ
杏奈「いやいや待てよjk。会っていきなり、はいそーですかって訳には――」
ベアト「あ、はい――ボクの端末ですっ!」スッ
杏奈「ちょっ」ガーンッ……
十兵衛「お、サンキューな。ほら四郎も」ピピッ
四郎「拙者、未だにこれの使い方が分からぬでござるよ……」
十兵衛「んじゃ貸せ。時代に追い付けなきゃ、立派な侍にゃなれないぜ?」ピピッ
四郎「面目無い……」シュン
茜「……なぁ、アタシとも交換してよ。それから、アソコでプラトーンしてるバカも」ピッ
杏奈「プラトーンじゃない!」クワッ
茜「バカを否定してほしかったよアタシは」ヤレヤレ
十兵衛「おっ、良いぜ……完了だ」ピッ
十兵衛「……そうだ、お前ら――ソウルジェムに変わった事は無いか?」
ベアト「え……いや、特に無いけれど……無いですけど」カァ
茜「研究者か?」
十兵衛「俺か?いや、ソイツらの上司……小間使いって所だな」ハァ
杏奈「ソウルジェムねぇ――?」
杏奈「(色が変になってる……何これ封印解けた系?)」ン?
ほむら「…………」
――――解散。杏奈宅
杏奈「イケメン死ね……チクショー」ボフッ
杏奈「やっぱアレかー……リア充とはオーラ力の差がでるよなー」
杏奈「向こう絶対ビルバインだわ。私じゃ頑張ってもボチューンが限界だわ」ウヘェ
杏奈「……あーもやもやする。こんな時はvipでクソスレ立てるに限るわー……ん?」カチカチッ
杏奈「何だこのスレ……『キモいモンスターやっつけたったった』?」カチッ
杏奈「……ハイハイワロスワロス。こんなん現実にあるわけないし」
杏奈「……え。何か体験談たくさんあるんだけど。こわー」
杏奈「……魔法で武器――防御服――へぇ、成る程。魔法少女って、みんな強くなってるのか」
杏奈「やってみよ」パァッ
杏奈「おおっ、憧れの黒ゴス!デュフフッ!」クルリ
杏奈「武器……武器?」ジャラッ
杏奈「えー、鎖とか無いわー……SMとか興味無いわー」ジャラリ
杏奈「でも……ちょっとカッコイイかも」ニヘラニヘラ
――――十兵衛サイド
渚「――と言う訳ね」
十兵衛「ソウルジェムに奇妙な濁りか……分かった。引き続き研究を頼む」
渚「後、気になる事が……」
十兵衛「何だ?」
渚「ウチの子、いるでしょ?」
十兵衛「……あぁ、データ収集の人か」
渚「えぇそう。あの子が最近ね、変だって」
十兵衛「何がだ?」
渚「……理解できる魔法少女のデータが、少なくなってきているって」
十兵衛「?……そりゃ日々誰か死んでるだろうから、それでだろ?」
渚「有り得ないの。魔法少女になった副次効果として、健康な身体と寿命の獲得は説明したでしょう?」
十兵衛「ま、確かに……なら原因は?」
渚「分からないから気になるって訳。要観察よ」ハァ
十兵衛「確かに気になるな……ま、頼むわ」
渚「貴方は?」
十兵衛「俺は現場主義者なんだ。悪いね」コツコツ
――――学校
ベアト「ハァ……」ポケー
茜「すっかり骨抜きね」
杏奈「うん……」ショボン
茜「……あー、なんだろ」ポリポリ
茜「あんなチャラ男に渡すくらいなら、アタシはアンタの方がいいと思うよ」ナデリ
杏奈「……マジレス?」ウルッ
茜「うん。アンタ、頑張ってるから、好きかな」
杏奈「え゛」
茜「そのキモい勘違いを止めれば更に」ハァ
杏奈「すんませんっした……よっし!!ベアト殿ー!!」ズダダダッ!
茜「……ばーか」クスッ
ベアト「どうしたんだい?」
杏奈「用事が無ければ話しかけてはならないでござるか?」ニパー
ベアト「そんな事はないけれど……」フゥ
杏奈「(とは言えコレは精神にクるモノが……こっちを見てほしいなぁ)」ズキズキ
茜「そういや、皆勤のアイツ来てねぇな……何か知らない?」
女「え?そうね……休むなんて珍しい子だし、どうしたのかしら?」
茜「病気かねぇ……」
ほむら「全く……っ!!?」バッ
ザワッ――――
ベアト「――なに?」
茜「何だ、ここ」
杏奈「――え、マジ?」
――――奇妙な空間の中。怯える者達。
「何ここ……気味悪い」
「ひっ、何よコレ……」
クラスメイト達の困惑の声が聞こえてくる。
彼女達を包んだのは、不安定な空間。
彼女達は知らず、そして暁美ほむらは知っている空間。
ほむら「魔女の結界――やはり、遅かれ早かれこうなるのね」
物陰から、使い魔が這い出してきて、少女達を取り囲む。
ベアト「な、何?なんなんだいコレは!?」
茜「寄るな、あっちいけっ!」
だが、混乱するクラスの中、一人冷静な者がいた。
杏奈「(まず小さいのが来る……スレに書いてあった通りだ――なら!)」
茜「お、おいバカ何する気よ!?」
杏奈「落ち着けよ唯……怖がるな……私は変わったんだ……変わった。変わった――」
杏奈が指輪をソウルジェムへと戻し、クルリと一回転する。
其処には、漆黒のドレスを身に纏った魔法少女が顕現した。
長い鎖を手に、使い魔に立ち塞がる。
杏奈「……この後ろにデカいのがいるんだ。ソレを倒せば、この空間から外に出られる――」
ほむら「――ある程度は、知っているのね」
ベアト「あ、杏奈?」
怯えるベアトリクスを――
杏奈「下がってて」
自分の後ろへと。
使い魔「――――」
マネキンの様な使い魔たちが一斉に襲いかかってくる、が。
杏奈「怖くないっ!」
鎖を振り回し、鞭の様に叩き付けてソレを砕いていく。
ある程度接近された当たりで、鎖を頭上で振り回し出した。
手に鎖が巻き付き、籠手となる。
杏奈「あんまりスマートじゃないけど」
その右腕で、最後の一匹を殴り消した。
杏奈「……やれるモノだったんだ」
佇む彼女に、みな萎縮している。
茜「杏奈……?」
杏奈「みんな、行こう。早くここから出なきゃ」
振り返った時に見せた表情をみて、茜は思った。
あぁ――コレが彼女の本当なんだろう、と。
――――魔女の結界、深奥
杏奈「――いた。親玉だ」
杏奈は鎖を前に構えて、魔女――今はその呼び名すら知らぬ――と対峙する。
ベアト「な、何アレ……」
茜「グロ……オマケにデカい」
魔女は空からノコギリを落としてきて、それを杏奈は鎖で叩き落としていった。
杏奈「うわっ――ヤられる……前に!」
杏奈が必死に願うと――虚空から現れた幾つもの鎖が魔女を縛り付ける。
杏奈「鎖縛(バインド)――」
それは魔女を逃がさない。
そして――
杏奈「粉砕(シャッター)!」
鎖が爆ぜて、魔女ごと粉々になった。
魔女は死に、結界は消えて――そこに一つの『種』が残った。
杏奈「……なんだコレ?」
ほむら「……グリーフシード、ね」
ほむらの呟きは、彼女らには届かない。
この先起こりうる絶望すら、伝える術がないのだから。
――――学校、校庭
杏奈「よーし、倒せたな」ホッ
杏奈「みんな、大丈夫だった?」クルッ
一同「」ザワ……ザワザワ……
杏奈「え、何これ拙者わけがわからないでござるよ……」ビク
茜「ま、何はともあれ助かっ――」
キャーッ!!!
ほむら「黄色い声ね、随分」
「すっごい!今のどうやったの?」キャイキャイ
「カッコイイ……」ポケー
杏奈「わっ、わっ……拙者特に何もアババババ……」アワワワ
茜「途端にこれだよ」ハァ
ベアト「……」ムム……
茜「どした?」
ベアト「あのお化けは何だったのだろうと思ってね……」
茜「確かに。何だかこう――」
茜「――嫌なモノを見せられた気分だ」
――――
杏奈「魔法の使い方は――」
「ふんふん」
「へぇ……そんな方法が……」
杏奈「コレでとりあえず身を守れる筈だよ」
杏奈「(何とか落ち着いて話せているでござるが……フォカヌポゥ……)」ビクビク
「……私、杏奈さんに守ってもらいたいなー、なんて」キュッ
「あっ、こらアンタ!ズルいよ!」グイグイ
杏奈「(根暗の私がこんなリア充な訳がない)」
ベアト「一躍ヒーローだね」ハハ
茜「まー、ねぇ」ケッ
――――淀む街
杏奈「――何だか様子が変だ」
学校は解散となり、帰る途中の道での発言だった。
茜「イヤな感じがそこら中を包んでる……」
魔法少女となった彼女たちが本能的に感じる、相反する者の存在。
ベアト「確かに――みんな、何か聞こえたよ!」
ベアトリクスが誰かの叫び声を聞き取る。
しかし、二人にはそんなモノを感じる事は出来ていない。
茜「……私には何も聞こえないけど?」
杏奈「――固有魔法かもしれない……ベアトさんはもしかしたら、遠くの人と話せる力があるのかも」
杏奈「何て言ってるの?」
ベアト「ま、待っていてくれないかな……」
ベアトリクスが小さな声に、必死に耳を傾ける。
強く、強く念じる――
『死にたくない――助けて!!』
ベアト「――誰かが助けを求めている!!向こうだよ!」
ベアトリクスが指差した方向には、確かに淀んだ空間が感じられた。
杏奈「……よし、行こう。誰かが助けを待っている」
三人が結界へと入っていく。
恐れは薄く、しかし想いは真っ直ぐに。
ほむら「(私たちはみんなテレパシーが出来ていたのに……?)」
ほむらも、それに続いた。
――――結界内
杏奈「どう、魔法は?」
杏奈が二人に問いかけた。
杏奈が鎖を魔法としたように、二人の手にも奇跡が握られていた。
茜にはレイピア。
如何にも普通の武器だったが、一方ベアトリクスの魔法は――その普通からかけ離れていた。
杏奈「歯車……?」
ベアトリクス「一応、盾にはなるみたいだ」
ベアトリクスの傍らに浮遊する、大小二つの歯車。
とても武器とは思えない異質なソレを、しかし彼女は心強いと感じた。
――――魔女。
使い魔を蹴散らして、彼女らは魔女の元へと辿り着いた。
その足元に、倒れる魔法少女を見る。
杏奈「茜、あの人を!」
茜「分かってるよっ」
茜がその魔法少女を抱えて後ろに下がった。
息はあるが、とても無事には見えない。
ベアト「ひっ、このっ!」
魔女が飛ばしてきた針を、歯車を盾にして遮るベアトリクス。
その僅かな時間で、杏奈は魔女を鎖で縛り付けた。
杏奈「鎖縛粉砕!」
巻き付いた鎖が破裂して、魔女に致命傷が刻まれる。
杏奈「茜は!?」
茜「いるよ」
安全な場所に魔法少女を置いてきた茜が、細剣で魔女を真っ二つにして――その魔女は消滅した。
グリーフシードが落ちてきて、杏奈はそれを拾った。
価値は、まだ知らない。
ホッとした三人に、異変。
――結界が、解けない。
見れば、先ほど魔法少女を避難させた物陰に、また魔女が現れていたのだ。
杏奈「――まさかお前!」
杏奈はその魔女に向かって、怒りをぶつける様に鎖を叩き付けた。
助けた魔法少女を――殺されたと、そう思ったから。
そして彼女は、その魔法少女を殺した。
――――ベアトリクス宅
ベアト「……と言う訳なんだ。父さん達も気を付けて」
父「ふむ……なら、僕も魔法を練習してみるかな」
母「あら、私はもう使いこなしてるわよ」トントントン
ハンネ「わー……包丁が勝手に千切りしてるー……」ポカーン
父「気を付けなければいけないね……不思議とニュースにもならない」フム
父「何も無ければいいんだが……」
ほむら「…………」
――――学校。放課後
杏奈「……さてと、送るよベアトさん」カタッ
茜「私は送ってくれないんだ」ニヤニヤ
杏奈「……? 送るに決まってるだろ?」キョトン
茜「……あっそ」
ベアト「ありがとう。じゃあ、お願いしようかな」ニコ
杏奈「い、いつでも守るでござるからな!」ハ、ハハッ
茜「…………」ムゥ
――――ベアトリクス、帰宅
ベアト「ありがとう、杏奈」
杏奈「あんまり外に出ない方がいいよ。まだ変な感じ、いくつかするし」
ベアト「分かっているよ」
杏奈「うん……じゃ、次は茜の家に行こうか」クル
茜「アタシは大丈夫だと思うんだけどなぁ……」
杏奈「何かあってからじゃ遅いだろう。ほら、行こ」グイッ
茜「あ、こら、手離せバカ」カァ
杏奈「だが断る。この後見回りもやる予定があるしね」スタスタ
茜「この……バーカバーカ!」ズルズル
ベアト「……すっかり仲良しだね」クス
ほむら「杏奈……彼女もまた、マミのような変わり種ね」ホム
――――家
ベアト「ただいま……って、誰もいないや」キョロキョロ
ベアト「……なんだか一人の方が怖いや」ブルッ
ベアト「……そうだ、ハンネだって危ないし――迎えに行こうかな」
ベアト「歯車……よし、出せる。お化けに出会っても逃げるくらいなら……」グッ
ベアト「大丈夫……杏奈だってお化けを倒して回ってるんだ。ボクにだって……」
ベアト「行こう」
ほむら「……止められないのがもどかしいわね」
――――ハンネの学校。不穏。
ベアト「このイヤな感じ……まさか」
背筋に薄ら寒いモノを感じながら、ベアトリクスは妹の通う学校に辿り着いた。
異様な気配を放つ校門を跨ぐと、そこは異世界。
ベアト「――お化けがいるんだね!」
ほむら「魔女の結界……」
ベアトリクスは確信を持って、敷地内へと入っていった。
妹を心配する余り、自分の身を省みずに。
――――結界内
ベアト「ハンネー!いるのかい、いたら返事をしてくれないかー!」
結界を歩きながら、妹を探すベアトリクス。
だがしかし、生徒の一人すら見つける事が出来ない。
ベアト「……お化けを倒せば消えるんだろうけど、ボクには厳しいだろうし」
その時、目の前の壁が開いた。
まるで彼女を深く招き入れるように。
そこに、ハンネがいた。
ベアト「ハンネ!」
ハンネ「――お姉ちゃん!」
ほむら「バカ、罠よ!!」
ベアトリクスはハンネに駆け寄り、その身を抱き締めた。
幸い、ハンネに怪我は無く――そして不幸な事に、出口は閉じる。
ベアト「――なっ」
驚きすら、遅い。
気付けば彼女たちはマリオネットの群れに囲まれていた。
ほむら「なんて迂闊なの、キュゥべえは……」
ほむらの悪態も、彼女には聞こえない。
聞こえるのは死の足音だけ。
ベアト「あ……あぁ……」
後ずさるにも、回りをすっかり囲まれてしまって其れすら叶わない。
どうしよう。
どうしようどうしようどうしよう。
ハンネ「お姉ちゃん――!」
袖を引かれる感覚で、ベアトリクスは集中を取り戻した。
混乱している場合では、ない。
マリオネットが一斉に飛び掛かってきた。
到底、捌ききれない数が、だ。
ベアトリクスは遮二無二、歯車に向かって力を加えた。
頭に浮かんだ言葉――祈りを、強く叫ぶ。
ベアト「ヴァルプルギス・ナハト!」
大きい歯車に重なる様にして、小さい歯車が噛み合った。
そして、敵対する者から――『敵対』を奪う。
ほむら「――へぇ」
彼女の祈りは『誰も不幸にならない世界』。
彼女の介する場所で、不幸を振りかざすのは赦されない――
マリオネットらに戦意はある。殺意もある。
だが、『戦えない』。『傷付けられない』のだ。
ベアト「や、やった……?」
ベアトリクスは回りを見て安心し、そして回りを見て焦った。
――勝てない。
戦う事を止めるのは可能だが、それは勝ちには繋がらない。
ハンネ「お姉ちゃん――!」
怖がる妹の声が、彼女の思考を掻き乱した。
逃げようにも囲まれてしまっていて、彼女を囲むマリオネットの輪は徐々に狭まって来ている。
ベアト「――いやだ、寄るなっ!」
そう叫んで――そしてマリオネットは砕け散った。
ベアト「え――?」
「よぉ、ベアトリクスだったか」
薙刀が、辺りの全てを切り裂く。
使い魔も例外無く、消滅した。
十兵衛「厄介な事になってるみたいだな」
薙刀を肩に担ぎ上げ、黒い魔法少女は結界を切り裂いたのだった。
――――消滅する結界
十兵衛「無事みたいだな」ホラ
ベアト「……何でここに?」アリガト
十兵衛「うーん……ま、調査かな」
ベアト「そう。しかし助かったよ……ハンネ、もう大丈夫だ」ギュ
ハンネ「――そうだ、みんなが!」ハッ
ベアト「みんなって、学校の?」
十兵衛「あぁ、それなら心配なさそうだが?」ホレ
ほむら「結界が消えたから、囚われてた人たちが解放されたようね」ホム
ハンネ「あぁ、良かったぁ……」ヘタッ
ベアト「今日は帰ろう。先生を探そうか」
ハンネ「うんっ」
カツン――
十兵衛「ん?」ヒョイッ
ほむら「グリーフシードの事は、彼女もまだ知らないようね」
十兵衛「これは……?」シゲシゲ
ベアト「それかい?それは、あのお化けが倒された時に落とす変な石だね」
十兵衛「ふぅん……持ち帰ってみるかね」スッ
十兵衛「送ろう。お前はどうやら戦闘向けの魔法少女じゃなさそうだしな」
ハンネ「あ、あの」
十兵衛「生徒を集めてくれないか。『最強』が護衛してやるよ、気分が変わるまでな」ニッ
――――全員漏れなくお届け致しました
十兵衛「ここがお前んちか。最後になったが、これで全員か」ンー……
ベアト「ありがとう。ほら、ハンネも」
ハンネ「ありがとう、十兵衛お姉ちゃんっ!」ペコッ
十兵衛「良いって。気が向いただけだしな……ん?」ピクッ
――ジュウベエドノー!
十兵衛「よう、今日は早かったな」ケラケラ
四郎「洒落は止して下され……すぐ居なくなるのは止めて頂きたく存ずるでござるよ……」ゼェハァ
十兵衛「はいよ。じゃ、またな」クルッ
ベアト「十兵衛……キミは、アレと戦うのかい?」
十兵衛「……仕事ならな、やんなきゃならねぇな」ハァ
ベアト「なら、この辺りをパトロールしている魔法少女がいるから……話を聞いてみたらどうだろうか」
ベアト「キミも知っている、杏奈という人だよ」
十兵衛「ほう……いい情報だ。活用させてもらう。行くぞ四郎」タッ
四郎「お、お待ちになって下されー!」ダッ
ほむら「嵐の様な奴ね、十兵衛とやらは――ん?」ピクッ
ほむら「(『ジュゥべえ』――?いやまさか)」
ハンネ「カッコイイ人だったね」ワー……
ベアト「ボクもそう思うよ」エヘヘ
ベアト「(きっと、生き方が格好いいから――そう見えるんだろうな)」
――――パトロール中、杏奈
杏奈「粉砕!」グシャッ!
魔女「――……」
杏奈「よし……大分慣れてきたみたいだ」ヒョイッ
杏奈「しかし、この石はなんだろう……どれも似たような形をしているし、ソウルジェムみたい」
「確かにな」
杏奈「っ!?」ジャラッ
十兵衛「お、おいおい待てよ。俺は化け物じゃねぇ……武器を納めて話し合おうぜ」
杏奈「……アンタらか。何の用?」チャリッ
四郎「この辺りの怪物を倒している御仁が居ると耳にして、参った次第にござりまする」
四郎「しかし、本当に杏奈殿でござったか……些か見掛けない間に、良き表情になりましたな」
杏奈「……ま、あんなのと戦ってればね」
十兵衛「どうなんだ。化け物について、何か知らないか?」
杏奈「……倒すとコレを落とす。共通点はそれだけだったよ」スッ
十兵衛「ふむ……やはりこの石に何か秘密がありそうだな」
四郎「研究所に回してみるでござるか?」
十兵衛「あぁ、何か分かるかもしれんしな……いやスマン、手間を取らせたな」
杏奈「別に……じゃ、私は見回りがあるから」バッ
四郎「……あの様に拙者も人を守りたいものでござる」
十兵衛「俺らは俺らでやる事があるだろ?先ずは報告だ」
四郎「御意でござる」
――――学校
ベアト「今日もパトロールかい?」
杏奈「うん。あの化け物はどうやら自分で増えるらしい。同じのを何体か見たんだ」
ベアト「ボクも手伝えたらいいのだけれど……」
杏奈「危ないから……その気持ちだけで嬉しいよ、ありがとう」ハハッ
ベアト「頑張って……じゃあ、また明日」タタッ
杏奈「うん、また」フリフリ
杏奈「……」クスッ
茜「随分普通に話せてるじゃないすか杏奈さんよ」ズイッ
杏奈「茜……フォカヌポゥ」ハァ
茜「無理して言うなよ」ハハ
杏奈「…………」
茜「どうしたの、らしくないじゃん」ポンポン
杏奈「余裕が――無いんじゃないかな。私、多分」
――――帰り道
ベアト「今日も真っ直ぐ帰らなきゃ……ん?」プルルッ
ベアト「端末が……?」カパッ
端末『俺十兵衛、今お前の後ろにいるの』
ベアト「?」クルッ
十兵衛「よっ。よく会うな」ヤァ
ベアト「あ、あっ」カァッ
十兵衛「送ろうか?」
ベアト「あ、いやあの……お願いするよ」パァッ
十兵衛「合点承知の助だ」ニッ
――――
ベアト「(な、何を話せばいいんだろうか)」ドキドキ
十兵衛「…………」チラ
ベアト「あわわ……」カァッ
十兵衛「(白い髪……赤い目。ベアトリクスは――)」
十兵衛「なぁ、お前は何を願って魔法少女になったんだ?」
ベアト「ボクかい?ボクは『誰も悲しむ事の無い世界』だけど……」
十兵衛「――へぇ、意外だ。てっきり持病を治したのかとばかり思ってた……お前、アルビノだろ?」
ベアト「あ、分かる人には分かるんだね。そうだよ」
ベアト「そうか、そういう手もあったね」
ベアト「でも、今は医学も発展したから……普通に過ごせてるし」
ベアト「確かに、嫌な事もたくさんあったけれど……それは昔の事だよ」
ベアト「今は凄く幸せだから……そのボクが更に何かを望むのは、おかしい気がして――」
ベアト「だから――『悲しい』のは誰だって辛いって、知っているから」
ベアト「それが無くなれば、きっとみんな幸せになれるんじゃないかなって」
ベアト「そうなれば、ボクはそれだけで満足だって――思ってしまうのでした」クスッ
ほむら「――――っ」
十兵衛「…………」
十兵衛「……そうか」フム
十兵衛「おい、ベアトリクス」ガシッ
ベアト「へっ、な、何だい?」カァァッ
十兵衛「気に入った、もっとお前が知りたい!」
ベアト「え、えぇっ!?」ドキーン!
十兵衛「またお前と話したい……連絡するから、その時は付き合ってくれよな?」ニッ
ベアト「つ、つきあっ!?」パニック
十兵衛「ま、でも今日はとりあえず……」
ほむら「あ、もう着いてたわ」ホム
ベアト「あ。……ありがとう。送ってくれて」
十兵衛「易い御用だ。むしろこっちからお願いしたいね」
ベアト「あわわ……ま、待ってるよ。連絡」
十兵衛「あぁ、また『明日』な」
十兵衛「じゃな」バッ
ベアト「…………ラッキー、なのかな?」っぷい!
ほむら「……インキュベーターに、一瞬まどかが重なったわ」
ほむら「インキュベーターは……本当に悪なのかしら」
――――夜、0時。ベアトリクス私室。
ベアト「……んー」ゴロゴロ
ベアト「『また明日』……か」ポケーッ
ベアト「……えへへ」
プルルッ
ベアト「端末……十兵衛からだ」ピッ
端末『よ。迎えに来たぜ』
ベアト「はぁっ!?」ガバッ!
ほむら「え、バカじゃないの?バカじゃないの?」スタスタ
ほむら「ん」ヒョイッ
ほむら「外にいるし……」ウワァ
ベアト「え、ちょっ、まさか」タタッ
――――玄関
ガチャッ!
ベアト「……ホントだ」ポカーン
十兵衛「ちゃんと言ったぜ。『明日』迎えに行くってな」ニッ
ベアト「こんな夜中に、一体何処へ――」
十兵衛「おいおい、夜しか出来ないだろ?」パチンッ
十兵衛「これは、な?」ニパッ
ほむら「(望遠鏡……?)」
ベアト「それは……?」
十兵衛「星を見に行こう。二人で」
母「はいちょっと待ちなさーい」パンパン
ベアト「――お母さん」ビクッ
父「お父さんもいるぞ」
十兵衛「ご両親ですか。私、明智十兵衛武政と申します。以後、お見知り置きを」ビシ
母「嫌でも覚えたし忘れないわよ」フーン……
母「で、我が娘を夜中に連れ出すあなた」
母「何様?」ピッ
十兵衛「私は、私以外の何者でもございません」
父「夜は危ないし、こんな時世なのだけれどね」ハァ
十兵衛「ご心配無く。腕っぷしには些か自信がございます」
十兵衛「ベアトリクスさんを傷つける様な輩には手加減致しません」
母「私の娘を連れていけるのは、世界で最高の人間だけよ?」
十兵衛「その点に着いてもご心配無く。私、こう見えても『最強』である事は保障出来ますので」
母「ふーん……ま、なら様子を見てやってもいいけど」フン
父「母さんが良いなら、僕に口出しは出来ないね」ハハ
父「しかし我が娘ながら凄い人を連れてきたねぇ……武士の方とは」ウンウン
十兵衛「恐縮です」
母「え、何それ詳しく」
父「ほら、テレビでやってた――」ボソボソ
母「」ハッ
母「どうぞどうぞウチの娘を宜しくお願いします!――やったわよパパ、玉の輿よ!」キャッホイ!
ベアト「……母さん」マッカ
十兵衛「さて、ご両親の了解も得た所で……」ニッ
ベアト「うぐー……」ウルッ
十兵衛「行きましょうか、姫」パチンッ
ベアト「わっ……服が」ヒラヒラ
十兵衛「プレゼントさ。ほら、掴まれ――飛ぶぞ!」ダンッ!
ベアト「わわわっ――い、行ってきます!」バイバイッ
母「ホテル行くならメールしなさいよー」フリフリ
ベアト「バカー!!バカ親ー!!」
ほむら「…………」ハッ
ほむら「追わなきゃ」ダッ
母「……芯の強そうな子だったわね」
父「それでいて奔放としている。ベアトリクスに足りない所を全部持ってる子だと思ったよ」
母「はぁぁ……我が娘もそんな年か……」ガックリ
父「久しぶりに呑むかい?」ハハ
母「いいかも。軽くだけどね」ウフフ
――――小高い丘
十兵衛「ほら、着いたぞ」スタッ
ベアト「わぁ、ここ……本当に星が良く見えるね」ワァ
ほむら「」ヒュー、ヒュー
ほむら「(見失うかと思った)」グッタリ
十兵衛「よっ……と。ほら、覗いてみろよ」ホラ
ベアト「どれ――凄い」ドキン
十兵衛「だろ?宇宙には、俺らを引き付ける何かがあるんだ」ゴロンッ
ベアト「……十兵衛?急に寝転んでどうしたんだい。キミは見ないのかい?」
十兵衛「俺はこれでいい」スッ
十兵衛「こうやって、空に手を伸ばすとさ……星に手が届きそうだと思わないか?」ハハッ
ベアト「…………」クスッ
ゴロンッ
十兵衛「ベアトリクス?」
ベアト「ボクも、キミと同じ物を見たいな」
十兵衛「……そうか。そうだな」
ほむら「……私も失礼するわ」ゴロンッ
ベアト「…………綺麗だね」
十兵衛「あぁ、最高だな。幾ら見ていても飽きない」
十兵衛「あの空が大好きだ。何も分からないモノが、頭の上にあるってだけでワクワクしてくる」ヘヘッ
ベアト「ふーん……確かに、そうかもしれないね」
十兵衛「……でも、それもいつか無くなってしまうかもしれないんだ」
ベアト「……?どうして?」
十兵衛「……難しい話だ。デートには野暮だから、しない」ニッ
ベアト「でっ!?」ドキッ!
ベアト「…………」モジモジ
十兵衛「ベアトリクス?」ン?
ベアト「んっ!」ギュッ、ピトッ
十兵衛「(――近い)」ドキ
ベアト「キミは、ボクの事を知りたいって言ったろう?」
ベアト「ボクも――キミを知りたいと思うのは、迷惑かい?」
十兵衛「――いや、迷惑じゃあ、ないが」
ベアト「なら、ボクは……キミの、話を、聞きたい……」カァァァッ
十兵衛「……あんまり面白くないんだぜ?」
ベアト「キミの話なら、何でもいいんだよ」クスッ
十兵衛「そうかい」ハハッ
ほむら「口から砂糖がザンラザンラ出てるんだけど」ザラザラー
――――
十兵衛「じゃ、何から話すか……」
十兵衛「熱力学の法則ってあるだろ?」
ベアト「うん」
十兵衛「暖かい物は勝手に冷えるが、その逆は無い……って事だな。簡単に言えば」
十兵衛「つまり、宇宙からはエネルギーが無くなっていってるんだ。徐々に、な」
ベアト「ふむ」
十兵衛「だとしたら、最後に残るのは……冷えきってしまった、真っ暗な宇宙だけ……」
十兵衛「それは、ちょっと寂しい」グッ
ベアト「……十兵衛は、案外ロマンチストなんだね」フフッ
十兵衛「バカな。俺は現実的にリアリストだよ」ハハ
十兵衛「ま、でももしかしたら――いや、だからこそ」
十兵衛「宇宙のどっかにある、進んだ文明の惑星、そこの生き物が――エネルギーを集めてるかもしれねぇかもな」
ベアト「ほら、やっぱり」クスッ
十兵衛「笑い事じゃないぞ。もしかしたら俺たちの知らない所で、宇宙人がエントロピーを凌駕してるかもしれねぇ」
ベアト「エントロピー?」
十兵衛「あぁ。簡単に言えば、木を育てるエネルギーと、ソレを燃やして得られるエネルギーは等価じゃねぇ」
十兵衛「エネルギーにする段階で、既にロスがあるんだ」
十兵衛「だから、エネルギーを増やすには……少ない何かで莫大な何かを、エネルギーとして得なければならない」
ベアト「へぇ……でも、それならボクたちでも何とかなりそうじゃないのかな?」
十兵衛「……何故そう思うんだ?」
ベアト「だって、ボクたち魔法少女は無から有を産み出してる……」
ベアト「これは、エントロピーを凌駕しているんじゃないのかい?」
十兵衛「確かに……」ハッ
十兵衛「(そうだ……確かにおかしい)」
十兵衛「(簡単に言ったが、理論的に『エントロピー』とは絶対に凌駕出来ない物だ)」
十兵衛「(とすれば、俺たちは何かマイナスの物を得なければならないはずなんだが……)」ハテ
ベアト「十兵衛?」ヒョイッ
十兵衛「――済まない。しかし、確かにそうだな」
十兵衛「俺たちは……エントロピーを凌駕したのだろうか?」
――――しばらく。
ベアト「……んっ」ムクリ
十兵衛「冷えてきたな……そろそろ帰るか?」スッ
ベアト「……そうだね。惜しいけれど」ノビー……
ベアト「ん……アレは?さっきは気付かなかったけれど」
ほむら「丘の下に……沢山のキュゥべえ人形が捨てられてる?」
十兵衛「あー、願望器の廃棄所かもな。使い終わったら必要ないしな」
ベアト「たくさん……ボクはまだ持ってるんだけれど」パァッ、ポムッ
十兵衛「お、奇遇だな。実は俺もだ……収納魔法は便利だと思うよ」パァッ、ポフッ
ベアト「へぇ、キミのぬいぐるみは黒い子なんだね」カワイイ
十兵衛「初期型だからなぁ……デザインも適当だったんだとよ」
ベアト「……ここには何匹の子が捨てられてるんだろう」ジッ
十兵衛「さぁな……この街の人口が25000人だから、そのくらいだろうな」
ベアト「……ボクの子も、みんなと一緒にいた方が嬉しいのかな」ギュッ
十兵衛「……かもな。置いていくか?」
ベアト「……うん。そうする」コクリ
十兵衛「じゃあ俺も。またな、『ジュゥべえ』」トサッ
ベアト「ジュウべえ?」
十兵衛「俺の分身だからな。それと発音が違う。『ジュウ』じゃなくて『ジュゥ』だ」
ベアト「ふーん……じゃあボクのは『ベアトリクス』かな」
十兵衛「うーん、何かそんなハイカラな感じじゃないと思うんだが……」ウーン
ベアト「そうかな……なら、何か良い名前を付けてあげてよ」ハイ
十兵衛「ベアトリクス……クヴァンツ……クヴァンツってどっちだ?」
ベアト「キミは博識だね。『Q』だよ」
十兵衛「B……Q……B――お、こりゃいいぜ」
十兵衛「『キュゥべえ』、なんてどうだ。俺とお前をもじってるんだ」ドヤッ
ベアト「ネーミングセンスの無さは良く分かったよ」クスッ
十兵衛「なんとっ!?」ガァンッ!
ベアト「――でも、それがいいや。さよなら、『キュゥべえ』。ありがとうね」トサッ
ベアト「…………」
ベアト「帰ろ、十兵衛」ニコ
十兵衛「はいよ」
ほむら「ようやくイチャイチャも終わりかしら」フゥ
ほむら「しかし25000匹もいるって気持ち悪いわね……今ので25002匹になったし――」ハッ
ほむら「……偶然よね」
ほむら「しかし綺麗な星空ね……オリオン座もはっきり見えるもの」
ほむら「……オリオン座?」
――――学校、放課後
ベアト「……また一人か」ハァ
ベアト「杏奈は増えている化け物の退治をしてるみたいだし、茜はソレに着いていってるし……」
ベアト「……欠席する人も増えているみたいだ」
ベアト「警察も動いてるみたいだけど、犯人は見つからないし……」
ベアト「お化けのせいで行方不明になる人たちも増えた……」
ベアト「……こんな世界は、望まなかったんだけどなぁ」ハァァ……
ほむら「…………」
――――帰り道
ベアト「…………」トボトボ
ベアト「変な声が、町中から聞こえてくる……きっとお化けがいるんだ」ブルッ
ベアト「ボクたちに隠れて……ん?」ピクッ
ジュウベエドノー!
ベアト「この声は……」タッ
ベアト「四郎?」
四郎「むっ……これはベアトリクス殿。奇遇でござるな」ペコリ
ベアト「また十兵衛を探しているのかい」クスッ
四郎「如何にも……いやはや、情けない所をお見せ致し申した」タハハ……
ベアト「構わないよ。良ければ、ボクも一緒に探そうか?」
四郎「いえ、それには及びませぬ。拙者の役目でもありますによって」
ベアト「あー、言い方が悪かったね」ズイッ
四郎「(ち、近いでござる)」ドキッ
ベアト「ボクも探したいんだ。いいだろう?」ニコッ
四郎「――――」
ベアト「四郎?」キョトン
四郎「え、えぇ、そこまで申されるなら構いませぬ。拙者も手が足りていないのは事実でござる」シドロモドロ
ベアト「うん。じゃ、探そう」
四郎「(……拙者、今まで立派な侍になる事ばかり考えて、色恋沙汰などとは縁が無かったでござる)」
四郎「(いやしかしそのような事は関係無いでござる)」
四郎「(美しい――そう、ベアトリクス殿はきっと美しいのでしょうな)」
ベアト「ほら、行こう?」
四郎「畏まったでござる」
四郎「(拙者が立派な侍になった暁には、そういった事も考えなければならないでござるな)」
四郎「(しかし……)」チラ
ベアト「…………」テクテク
四郎「(良く見れば実に見目麗しい人にござる……)」ポーッ
四郎「はっ、いかんいかんでござるよ」パンパンッ
ベアト「?」
ほむら「とんだ魔性の女ね……」ホム
――――
ベアト「いつもこうやって歩きで探しているのかい?」テクテク
四郎「その通りでござる。十兵衛殿は端末に連絡を送りましても、なかなか受け取ってくれぬもので」テクテク
ベアト「あはは、大変だね。でも、確かに彼女らしいや」アハハ
四郎「同感でござる。探すのにも、些か慣れてきたでござるしな」
ベアト「……そういえば、なんでキミは十兵衛を探すんだい?」
四郎「拙者らは、精神エネルギー研究所に関わっている者にござる」
四郎「現場の魔法少女の状況をリサーチして、研究所にデータを差し上げる役目があり申す」
ベアト「へぇ……凄いんだね」オォ
四郎「……別段、誉められる物ではござらぬよ」ハァ
ベアト「どうして?」
四郎「…………余り口にするのは憚られるのでござるが、十兵衛殿の願いをご存知で有らせられるか?」
ベアト「『最強』……だよね」
四郎「ご名答でござる」
四郎「我々は武士の家系でござるが、その中でも十兵衛殿は位の高い家系に有らせられる」
四郎「そして、そのような環境では覇権争いも激しいのでござる」
四郎「願いによって、十兵衛殿は爆弾の様な扱いを受けたのでござる」
ベアト「……確かに、『最強』は邪魔。って事かい?」
四郎「そうでござる。幸いと申すか……十兵衛殿には権力欲が無く、仕方ないと笑って飛ばしておられましたが……」フゥ
四郎「それでこんな末端に……精神エネルギー研究所も、今となっては不要な物と考えられているのでござる」シュン
四郎「だが拙者は、決して主である十兵衛殿を見限らないのでござる……」
四郎「いずれあの方は大成する器にござる……それに、今まで受けた数々の恩義に尽くさんは侍に非ず……」
四郎「拙者にとって、十兵衛殿はかけがえのない者でござるからな」
ベアト「……なかなか難儀だね。そうだ、ちょっと待ってて」タタッ
四郎「ベアトリクス殿?どちらに行かれるでござるか?」
アイスフタツー
カシコマリマシター
ベアト「はい。頑張れって気持ちを込めて、アイスクリームを奢ってあげよう」ドヤッ
四郎「そんな……わざわざ拙者などの為に――」
ベアト「いいからいいから。ほら」スッ
四郎「で、では失敬して……頂くでござる」
四郎「…………?」シゲシゲ
ベアト「どうしたんだい?」キョトン
四郎「……拙者、生憎甘味を余り食さないものにて、この様な物はどこを食めば良いのか……」ウムム……
ベアト「わぉ、お侍っぽいね。それは上から下まで全部食べられるよ」クスッ
四郎「なんと、取っ手まで食えると申すか……なかなかに面妖な」パクッ
四郎「――――冷たいでござる」キーン……
ベアト「そりゃあそうさ、四郎は変な所で子供みたいだね」ナデ
四郎「っ」ビク
ベアト「……四郎?」ナデリナデリ
四郎「…………」
四郎「かもしれないでござるな……」ペロペロ
ほむら「あー……フラグ立ってるんじゃないのコレ……?」ホムゥ……
――――
四郎「(ベアトリクス殿はとても優しいでござる)」
四郎「(ただ優しいだけではごさらん。包み込むような温かさを持っておられる……)」
四郎「(懐かしき感覚……まるで母上の様な……)」
四郎「(――いけない。母上の事を考えると、今でも涙を溢しかねないでござる)」
四郎「(拙者は立派な侍になるのでござる……)」
四郎「(……ベアトリクス殿は、拙者の母上になれるお方なのだろうか?)」
ベアト「ねぇ、四郎?」ズイ
四郎「はひっ!?」ドキンッ
ベアト「変な四郎……ねぇ、キミの願いは何だったんだい?」
四郎「拙者の願い……でござるか?」
四郎「……拙者は未熟故『立派な侍になりたい』、と」
四郎「見てくだされ……ご覧の通り、拙者は女性型にござる」
四郎「故に若干の差があるでござる。若い世代の者はそんな物には拘らぬでござるが……」
四郎「上はそうでもござらん……」クッ
ベアト「……まだキミは良いよ。みんなと同じなのだからね」ハァ
四郎「ベアトリクス殿?」
ベアト「ベアトで良いよ。堅苦しいだろう?」クスッ
四郎「では、ベアト殿。その言い種ですと――もしや貴女は」
ベアト「うん、純女性だよ」
ベアト「ボクはみんなと、体つきからして違う」
ベアト「遺伝子の異常で――いや、特別なのかもしれないけれど、白い髪に赤い目」
ベアト「そして欠けたこの身体……」
ベアト「子供の頃はコンプレックスにまみれていたよ。今だって、なれるなら――せめて女性型だっていい、なりたいさ」グッ
四郎「……では、ベアト殿はそれをお願いになられたので有らせられるか?」
ベアト「ううん。ボクの願いは『誰も不幸になら『無』い世界』……それを、欲しがったんだ」
四郎「……如何様な考えがあって?」
ベアト「ボクが性別を変えたいと、願うのは確かに簡単だろう」
ベアト「だけれど、それは今までのボクの否定に他ならない」
ベアト「それは……今までそんな事を苦にせずボクを育ててきた両親への侮辱だ」
ベアト「ボクは今、人並みに幸せだから……それ以上はいらないんだ」
ベアト「だから……その『人並み』でない事が辛いって、知っているから」
ベアト「みんなから、そんな思いが無くなればいいって、そう願ったんだ」
ベアト「……変だろう?」アハハ……
四郎「そんな事、無いでござる」ガシ
ベアト「四郎?」
四郎「ベアト殿は立派でござる。拙者も、是非見習いたいでござるよ」
ベアト「……な、なんか照れるよ」テレリ
四郎「――さて、何だかやる気が出てきてしまったでござる!」ガッバァ!
ベアト「行くかい?」スクッ
四郎「勿論にござる!さぁ、十兵衛殿を探しに参りましょう!」ガシッ
ベアト「わわっ、ゆっくり走ってくれないかい――」タタッ
ほむら「これ、大丈夫なのかしら……」タタタッ
――――発見
四郎「居たでござる!」ビシィッ
ベアト「ようやく……だね……」ハァハァ
十兵衛「お、四郎……とベアトリクス?」
四郎「一緒にお探ししてくれていたのでござるよ」
十兵衛「そうか、ありがとうな。ベアトリクス」ニッ
ベアト「あ、うん。ど、どういたしまして」テレッ
四郎「……む」ピクッ
十兵衛「――――」ハハハ
ベアト「――――」テレテレ
四郎「(ベアト殿のあの様子……まさか)」
四郎「(……そうでござるな。普通なら、そうでござる)」
四郎「(いや、しかしお似合いでござるな。文句は無いでござるよ)」
四郎「…………」ズキッ
ほむら「……ちょっと、これは」
――――帰途
四郎「十兵衛殿」
十兵衛「なんだ?」クル
四郎「十兵衛殿は、ベアト殿の事を如何様にお考えで?」
十兵衛「…………凄い奴?いや違うな……」
十兵衛「守ってやりたい……かな。そうだ、それだな」カァ
四郎「そうでごさるか……」フム
四郎「拙者の見立てではベアト殿は十兵衛殿に惚れ込んでいるでござるよ」
十兵衛「ば、バッキャロウ!柄に無いことを言うんじゃねぇ!」カァッ
四郎「日頃の仕返しでござるよ」ハッハッハ
十兵衛「部下が謀反してくるんだけど……」ガックリ
四郎「(これで良いのでござる。拙者はまだ未熟ゆえ)」
四郎「(きっとこの感情も、拙者を強くしてくれるに違いないでござる……)」フッ
十兵衛「――おい、四郎!!アレ!!」ダンッ!
四郎「何でござるか――研究所がっ!!?」ダッ!
――――ベアトリクス宅
ベアト「ただいまー……ってどうしたんだい、皆テレビを見て?」キョトン
父「ベアトリクス、お帰り。大変みたいだよ」クイッ
ほむら「――――っ!」
ベアト「『精神エネルギー研究所で事故か?大量の化け物――?』」
――――精神エネルギー研究所、混沌とした結界
十兵衛「これは……あの化け物の巣か?」
研究所に昔の近未来的な風貌は無く、今やそこは魔女の結界が重なり合う異界だった。
四郎「禍々しい気配を幾つも感じるでござるよ……十兵衛殿、如何致すか?」
四郎が魔力を太刀に変えて、主の傍らに着く。
十兵衛「研究所の皆が心配だ……探索するぞ――むっ」
遠くでの戦闘音を僅かに聞き、十兵衛はそれだけを頼りに駆け出した。
四郎もそれに続き、二人は呪いの中へと潜っていく。
まだ絶望を知らずに。
――――深部
十兵衛「ちっ、雑魚ばっかじゃねぇか、よっ!」
薙刀の一振りで、使い魔が斬り裂かれた。
大分潜ったはずではあるが、未だに人を見ない。
四郎「十兵衛殿、あれを!渚殿でござる!」
四郎が指した方向に、渚と研究員の一人がいた。
渚は倒れ、研究員は魔法で使い魔を必死に追い払っている。
十兵衛「良かった、生きてたか――おらぁ!!」
十兵衛が気を放つと、使い魔が内側から爆発した。
研究員は二人の姿を認めて、ぐらりと地に付してしまう。
十兵衛「お、おい大丈夫か、しっかりしろ!――っ?」
研究員たちに近寄った十兵衛は驚きを隠せなかった。
生きているのだが――今にも死にそうな顔で。
十兵衛は側に座り、穏やかな声で話しかけた。
十兵衛「どうした、何があった?」
研究員「……あぁ、明智十兵衛武政か」
研究員は少しだけ十兵衛を見て、また視線を上に戻した。
誰に話しかけるでもなく、呟く。
研究員「俺たちの発明は世界を照らす光のはずだった……」
研究員「……だが違った。世界の歪みは――俺たち自身だった」
研究員「俺は、魔法少女にはなれなかった――」
研究員「……すまない、俺はもう――」
研究員は自らのソウルジェムを掲げて、そしてソレを拳ごと地面に強く叩き付けた。
血まみれになる手と、砕けるソウルジェム。
――研究員は動かなくなった。
十兵衛「おい――おい!?しっかりしろ!――渚、一体これはどういう事なんだ!?」
十兵衛が渚を見る。
力なく、しかし彼女はしっかりと目を見た。
渚「私たちは、世界を滅ぼしたのよ……」
渚「……これを見て。あなたの持ってきてくれたモノについて調べた結果よ。端末にデータも入ってるわ……持って行って」
渚は懐から一つの端末と書類の束を取り出し、十兵衛に渡した。
十兵衛「これは……?」
渚「あなたなら、きっと絶望せずに受け止められる……だって、『最強』ですもの……」
彼女は笑っていた。
気がかりだった事を成し遂げた様な、安心した顔。
十兵衛は書類に目を通し始め――表情が徐々に歪んでいく。
四郎「十兵衛殿、それは一体――」
十兵衛「見るな!!」
四郎「っ」
十兵衛「……いや、スマン。だが、機密事項だ。お前に話すにしても、少し時間をくれ」
四郎「……御意」
四郎は命を受けて下がり、周囲の警戒に当たる。
運良く、使い魔は辺りに感じないようだ。
十兵衛は書類を読み進めていく。
十兵衛「こんな――こんな事が――」
手が震える。
膝が笑う。
背筋が凍りつく――
渚「ね?」
十兵衛「っ」
不意に掛けられた、色気さえ感じる声に――畏怖を感じた。
彼女はソウルジェムを差し出している。
渚「ねぇ十兵衛」
渚「ころして」
――――
砕くのは簡単だった。
四郎「十兵衛殿、如何いたし――渚殿……」
十兵衛「…………」
亡骸を抱え上げた。
酷く――酷く軽い。
十兵衛「俺が……殺した」
四郎「――何故」
十兵衛「殺さなければ――コイツは望まない死を迎えるから」
十兵衛「だから俺に『殺せ』と――」
十兵衛は、既にモノに成り下がってしまったソレを抱えて泣いていた。
無力だ。
『最強』であっても、かくも無力。
自分には壊す事しか出来ない――
なら、せめて。
十兵衛「――行くぞ四郎」
四郎「どちらへ?」
十兵衛「『魔女』を――弔いにいくのさ」
そして彼女は一歩、踏み出した。
人類の代表として、絶望への道を。
――――十兵衛、街中を行く。
十兵衛「…………」
十兵衛「(『魔女』に『グリーフシード』……か)」
十兵衛「一応マスコミは謎の事故って思っているが……」チッ
十兵衛「俺は……人殺しだな」クッ……
「……十兵衛かい?」
十兵衛「っ」クルッ
ベアト「やっぱり……キミはこの辺りを彷徨く癖があるね」クスリ
ほむら「……雰囲気が違うわ。もしかして」
十兵衛「あ……はは、そうみたいだな」ポリポリ
ベアト「どうしたんだい?キミらしくないね」
ベアト「ボクで良ければ話してご覧?」ニコ
十兵衛「――――」
十兵衛「おぉ、サンキュー。困ったら相談するわ」ハハ
ベアト「うん」ニコリ
十兵衛「(しかし……俺はどうすればいい?)」
十兵衛「(真実を世界中に話して、それから世界はどうなる?)」
十兵衛「…………」
ベアト「……十兵衛?」
――――魔女の結界、半壊
杏奈「ふん」
魔女の亡骸を踏み潰し、杏奈は結界を砕いた。
彼女が今まで倒した魔女は、大小合わせて両手では数えきれない。
彼女を強くしたのは、一重に実戦経験と――希薄な恐怖感。
魔法少女と言う存在に対する、客観的な安心が彼女を支えていたのだ。
「いやぁ、今回もお見事でしたね!」
「私、憧れちゃいます!」
杏奈「あぁ、ありがとう」
愛想笑いも得意になった。
そう、こうなる事が望みだったはずだから。
杏奈「(……本当にそうか?)」
美しくなりたかった。
醜い自分が嫌いだった。
何で?
杏奈「(私は――)」
最近は色々と考える。
端末に向かっても答えは出ないと知ってからは、電源すら点けていない。
杏奈「……そうだ。逃げるのは――もう止めにしよう」
臆病だった。
自分を信用出来なかったから。
だが今はどうだ?
私は、それなりに『人間』だと、そう思える。
「どうしたんですか、杏奈さん?」
杏奈「いや……なに、独り言さ」
茜「随分大きい一人言だね」
杏奈「茜……」
杏奈が声に吊られて目線を上に上げる。
茜が、高台に座って杏奈を見下ろしていた。
飛び降りて、綺麗な着地。
「わ、あの子だよ……」
「杏奈さんに馴れ馴れしいのよね……」
茜「けっ」
内緒話なら、もう少し音量を落としてほしいモノだ。
茜は杏奈の目の前に立ち、杏奈の目を見た。
茜「アンタさ、無理し過ぎだよ」
杏奈「……かもしれない、でござるな」
笑顔が、くすんで見えた。
――――邂逅
十兵衛「……街は危険だ。帰った方が良いぜ、ベアトリクス」
ベアト「……どういう事かな?キミは……何かを知っているの?」
変に鋭い、と十兵衛は苦笑した。
隠しきれない不安が滲み出ているのだとすれば、自分の何と未熟な事だろうか。
そんな時、遠くから大勢の人の気配を感じた。
杏奈「ベアトリクス――と、アンタ……か」
十兵衛「あ?……あぁ、ベアトリクスの友達だったよな。何だよゾロゾロと、お山の大将か?」
以前までの彼女を微かに覚えていた十兵衛は、その様子にちぐはぐなモノを感じた。
「あ、アレ……最初の魔法少女じゃないかしら?」
「最強だって……何だか杏奈さんの表情、ヤバくない?」
取り巻きの声は小さく、喧しい。
ベアト「な、何なんだい……あ、茜!これは一体――」
茜「良いから黙って聞いてるんだ、ベアト」
茜は複雑な表情をしていて、内なる感情を読み取る事は出来ない。
杏奈「ベアトリクスさん」
杏奈が口を開いて、その場が凍てつく様に静まりかえった。
それだけの力が、ソレに込められていたから。
杏奈「こんな場で何を、と思うかもしれないが、聞いてくれ」
杏奈「私は貴女が好きです」
ベアト「――――な?」
突然の告白に、思考回路が追いつかない。
そんなベアトリクスに宥める様に彼女は続けた。
杏奈「……いや、でも、答えは分かっているつもりなんだ」
ベアト「ど、どうして――ボクなんだい?」
杏奈は、過去を懐かしむ様に記憶を吟味する――
杏奈「キミは覚えていないかもしれない。だから、キミは分からなくていい――」
知れば、優しい彼女の事だから――きっと考え過ぎてしまうだろう。
自分だけが知っていれば、それでいい。
『ねぇ、キミはこのクラスの人かい?』
『あ……は、はい……何か……?』
『ボクはベアトリクスって言うんだ。転校生なんだよ』
『そ、そうなんですか』
『良かったらボクと仲良くして、お友達になってよ!』
『――――』
ずっと背景だった。
誰とも関わらないし、誰も関わってこない。
でも、それはそれで辛かった。
変えたかった。
でもその時の自分は、自分に自信を持てなくて。
『わ、私なんかより、あの人たちの方が……』
ずっと後悔していた。
変われるチャンスをみすみす手放してしまった。
あんな人を、自分は求めていた筈なのに。
杏奈「ただずっと――君を見ていたい」
ベアト「杏奈――」
ベアトは困り果て、回りを見渡した。
視線は泳ぎ疲れ、やがて十兵衛に辿り着く。
十兵衛「…………」
十兵衛の険しい顔に気付けるのは、今この場にいない四郎ぐらいのモノだろう。
それほどに、感情を押し殺していたのだから。
ベアト「ボクは――」
ベアト「――ゴメン」
――――
空気が張り詰めていた。
十兵衛「…………ふん」
取り巻きの目線が、ベアトリクスを刺している。
茜が堪らず声を掛けそうに――
杏奈「うん、知っているよ」
ベアト「え――?」
申し訳なさそうに俯いていた顔を、驚いて上げてしまう。
微笑んでいた。
杏奈「きっと君は次に『キミは大事な友達だ』って言うよ」
ベアト「――――っ」
杏奈「ありがとう。自分勝手に付き合ってくれて」
杏奈が漆黒に染まったソウルジェムを掲げて、魔法少女へと変身する。
ざわめきが場を支配した。
杏奈「今度は別件だ……」
穏やかな顔が、酷く歪む。
鎖を鳴らして、彼女は十兵衛に対峙した。
十兵衛「……何のつもりだ?」
杏奈「戦え、私と。決闘だ」
余りにも、突拍子。
十兵衛は思わず、高く笑ってしまった。
十兵衛「はっ――ハハハハッ!!お前が?俺と?」
それは余りに無謀だろうと、馬鹿げていると、そう感じて笑う。
が。
杏奈「――――黙る気になったか、『最強』?」
十兵衛「――へぇ」
虚空から現れた鎖が、十兵衛の足元を深く抉った。
十兵衛「(――なかなか)」
十兵衛は、願いの通り――自己の唯一を望む。
その道を阻んでくれるかもしれないソレに――心が、踊ってしまった。
十兵衛「だが、ダメだな」
杏奈「何が、だ」
十兵衛「だってお前――」
いや、しかし無粋。無粋極まりない――
しかし……だから、これくらいなら――
十兵衛「お前、もう魔力が無くなりそうじゃねぇか。『グリーフシード』を使えよ」
ほむら「――――知っている。確定ね」
不可解な事を聞いて、眉を潜める杏奈。
杏奈「『グリーフシード』……?」
十兵衛「あの化け物……『魔女』を倒した時に落とすアレだ。それをソウルジェムに当てると浄化されるんだ」
杏奈「…………嘘じゃないみたいだな」
杏奈は自分のソウルジェムにグリーフシードを幾つも当て、そしてソレは輝きを取り戻す。
杏奈「……私の学校で待つ。準備に時間はいるか?」
十兵衛「今すぐおっぱじめても構わねぇぜ」
ベアト「十兵衛!?……杏奈も!」
杏奈「ゴメンね、我が侭でさ」
以前の雰囲気が、今は微塵も無くなってしまっていて。
ベアトリクスは事ここに至って漸く、彼女がすっかり変わってしまった事に気付かされてしまった。
杏奈「仕掛けておいて悪いが、なら三時間後だ」
十兵衛「随分弱腰なんだな」
杏奈「済まないね。生憎こちとら庶民なモノで、な」
杏奈が背を向けて去り、それに取り巻きが続いて――こちらを見て悩み、向こうに着いていった茜が最後に居なくなった。
ベアト「十兵衛……」
十兵衛「……アイツも何か、思う所があるんじゃねぇの」
遠くから、従者の声が聞こえてくる。
十兵衛「……ったく、今日は空気を読んでくれたのかねぇ、四郎よ」
何気無く、天を仰ぐ。
明るい空から、見えない――星の光が届いている気がした。
――――杏奈と茜、そして取り巻き。
杏奈「…………」スタスタ
「あ、杏奈さん。何処へ……?」タタタッ
「待って下さいー……」タッタッ
杏奈「身辺整理だよ。万が一があってもいけないしね」
「杏奈さん、あんな白いやつなんかより、私は――」
杏奈「それ以上は言わない方が良いよ。君も私も困るから」
茜「おい、止まれ馬鹿」グイッ
杏奈「……時間が無いんだけど、茜」
茜「何でこんな馬鹿げた事するんだよ。意味なんか無いだろ?」
杏奈「…………」
杏奈「はは……全くだ」ヘラッ
茜「っ」
パンッ――
「キャ――」
杏奈「――痛いな」
茜「訳わかんねぇ事してるからだ、反省しやがれってのよ」
杏奈「……諦めたいんじゃないかな、多分」
茜「諦める?」
杏奈「いくら頑張っても無駄なんだって分かれば、諦めも付くから――」
杏奈「きっと私は自分を完膚無きまでに潰してほしいんだ」
杏奈「でも、もし私に隙を許すようなら――」
杏奈「殺してでも、奪い取る」
茜「――ベアトはモノじゃないんだぞ!」
杏奈「分かっている。こんな世の中になっているからこそ、彼女を――例え世界が滅ぼうとも、守れる力が無ければダメなんだ」
杏奈「それに……『あのね』――」
茜「――っ?」
杏奈「…………」チラ
「…………?」
杏奈「……いや、何でもないよ。何でも、無い――」グッ
茜「杏奈……?」
――――杏奈、自宅。
杏奈「さて、片付いた……」ハァ
杏奈「ハードディスクの中身はとっくに消したし」ハハハ……
杏奈「思えば、あの時端末を弄らなきゃこんな事になってなかったかも」
杏奈「『グリーフシード』ねぇ……そういう名前なんだ、コレ」ジャラッ
杏奈「浄化に使うモノか……だとしたら、このシステムは上手く出来てると思うや」ククッ
杏奈「ソウルジェムに、良く、似ているし――ね」
杏奈「――泣くな。私」
杏奈「私は――正しいんだ、きっと」
杏奈「間違ってるって言うなら、誰か――」
――殺してくれ。
――――学校、校庭
ベアト「やっぱりこんなのダメだ、何の意味も無いよ!」
ベアトリクスが、十兵衛の服を掴んでいた。
手には震え。
十兵衛「そうは言うがな、ベアトリクス。奴さんは本気だぜ?」
四郎「杏奈殿が……俄には信じ難いでござる」
十兵衛「正直な所、俺もだ。アイツは見たところ内向的に見えたんだがな」
「それは心外」
割り込む声に十兵衛が顔を上げると、そこには鎖の魔法少女が立っていた。
後ろに取り巻きたちと、茜を連れている。
十兵衛「へぇ、お互い観客が多いもんだ」
杏奈「同感だよ」
二人はそれぞれ微笑し、十兵衛は薙刀を構えた。
杏奈「君らが先に来てたんだ。罠でも張っちゃいないだろうね?」
鎖を強く握って、杏奈は無いだろう罠を警戒する。
十兵衛「んなしょうもない事しやしねぇよ、ハハッ!」
軽く笑って『杏奈の方にしか向いていない』十兵衛に歯噛みした。
強いが故に、分かっていない――
杏奈「それは大層スポーツマンな事で」
杏奈「私は罠を張っていたけどね」
十兵衛「――――っ!!?」
十兵衛の足元から鎖が無数に現れ、その体を縛り付けた。
両腕にソレが食い込み、薙刀を取り落とす。
ベアト「十兵衛!?」
四郎「十兵衛殿!」
もがくが、なかなかに固い。
練度は相当なモノだった。
十兵衛「見掛け通り、卑怯な奴だぜ……」
解く方法も無いわけではない。
だが、相手もソレを分かっているだろうから、敢えて動かなかった。
杏奈「卑怯?」
十兵衛「ぐあっ……」
鎖が十兵衛を更に強く締め付ける。
杏奈「なら今の罠が、ベアトリクスを襲っていたらどうなる?」
十兵衛「っ」
杏奈「お前は強いけど、経験が足りないんじゃないか。甘ちゃんだよ」
杏奈「化け物達は手加減なんてしてくれないし、卑怯な技だって使い放題だ」
杏奈「そしてね――」
杏奈の手の鎖が真っ直ぐに連なり、剣となった。
それを構えて、杏奈は照準を十兵衛に合わせる。
杏奈「油断は死に繋がるのさ」
剣に魔法が篭り、赤色の刃がソレを修飾した。
杏奈「『天の鎖』――!」
振り抜かれたソレから、刃だけが十兵衛に襲い掛かって――
十兵衛「――『零閃』!!」
当たらずに霧散した。
不可視の、無数に放たれた斬撃が走ったかの如くに。
十兵衛を縛る鎖も、役割を放棄してバラバラに斬り裂かれていた。
杏奈「流石」
十兵衛「……使ったのは初めてだぜ。『最強』の技だ……振らず、斬らず、抜かず――裂く」
杏奈「デタラメだなぁ。奇跡か魔法でも無いと、そこまで因果をねじ曲げられないだろうね」
軽口は、強がり。
それを、杏奈は自分でも分かっている。
十兵衛「加減出来んぞ」
杏奈「加減したら殺すよ」
ベアトリクスが息を呑むのと同時に、二人の魔法はぶつかりあった。
ベアト「――――やめてよ」
彼女の小さな声を掻き消す様に、鎖と薙刀が擦れ合う金属音ばかりがその場に響く。
観客は、見ている事しか出来なかった。
――――
十兵衛「…………」
十兵衛は薙刀を前に構え、動かない。
撃ってこい、と謂わんばかりの様子だった。
杏奈「……嘗めるな」
鎖を振り回し、上段から力任せに叩きつける。
防御しようが、彼女の得物は硬く柔らかい――しなり敵を打つのだ。
が。
十兵衛「柔い!」
鎖が薙刀との接触点から、まるで液体の様にあっさり斬れる。
切断面が、十兵衛の身体を避けた。
十兵衛が薙刀を振り上げたまま、身体を翻して接近し、ソレを振り回した。
旋風が巻き起こる。
十兵衛「――へぇ、やるもんだ」
杏奈「くっ……」
手を巻き付けた鎖が、その豪を辛うじて受け止めた。
軋む音が、悲鳴に聞こえる。
杏奈「鎖縛――」
虚空から伸びてきた鎖な束が、しかし十兵衛を捉えられない。
邪魔なモノは切り裂き、その他は相手にせず。
徹底した蹂躙だった。
それは勝負だったが、しかし杏奈は『採点される側』だった。
杏奈「くそぉ……」
全力で得物を叩きつけようとも、それを難なく往なす敵。
敢えて受けてやっているという態度。
――気に入らない。
怒りに任せて鎖を振り回し、そしてその愚行に罰がめり込んだ。
十兵衛の薙刀の腹に殴り飛ばされ、杏奈は全身を強く打ち付ける。
杏奈「がっ――」
口から血を吐き、それによって内蔵の危機を理解した。
崩れ落ちる。
十兵衛「呆気ないな」
顔だけを動かして、薙刀の魔法少女を見上げた。
随分と余裕なようで、その様子が悔しい。
身体を必死に起こす。
痛覚は遮断し、身体を治癒しながら、彼女は立った。
十兵衛「おぉ、全治3ヶ月ってくらいにはかましたんだが……やるねぇ」
杏奈「――――」
手を、抜かれている。
まだ、これでも。
黒い感情に、魂が堕ちていくのが分かる。
冷たく暗いソレを――解き放った。
杏奈「――遊ぶなぁぁぁぁっっ!!!」
十兵衛「な――」
観客からざわめきが起こり、それは『結界の中』に響く。
ほむら「これは――(キリカと同じ?)」
杏奈「はぁ――はぁ――」
息も荒く、杏奈は武器を構えた。
不思議と――この中なら負ける気がしないのだ。
月の亡い、真っ暗な夜の砂漠で。
――――サバク、砂漠、鎖縛、裁く。
ベアト「ここは――」
ベアトリクスは辺りを見回して、それが化け物の結界に良く似ている事に気付く。
十兵衛「な、魔女か!?しかし、一体どこから――っ」
禍々しい気配を、正面から感じた。
見れば其処には杏奈唯。
だが、魔法少女というよりは――
杏奈「何を考えてるの?」
意識はあるようで、とりあえず安心する。しかし――
杏奈「さぁもっとヤろう。ここならもっと戦えるはずだよ」
杏奈が手を上げて、そして夜の空が艶やかな黒色に染まった。
天を埋め尽くす、鎖。
「あ、あれ――」
「私たちも危ない!?」
取り巻きの悲鳴が聞こえるが、彼女には聞こえていないようだ。
十兵衛「――お前ら全員、固まれぇぇぇっ!!」
杏奈「天の――」
十兵衛の咄嗟の呼び掛けに、ある程度取り巻きたち――ベアトリクスや茜、四郎を含む――が一ヶ所に集まった。
杏奈「――鎖」
空から鎖が、針となって降り注ぐ。
十兵衛「ぬおぉぉぉっ!?」
薙刀を頭上で、全力を持って回転させた。
薙刀は巨大化していて、背後の観客を守るのに十分な盾となっている。
杏奈「……えい」
焦点の合わない目で、彼女は手を下ろした。
その瞬間、凄まじい質量の鎖が十兵衛の薙刀を軋ませる。
茜「――おい、杏奈!私らも居るんだぞ!?」
茜の叫びも耳に入っていないようで、構わず魔法を振りかざしていた。
ベアト「……もう我慢できないよ。ボクが止める」
四郎「ベアトリクス殿!?」
ベアト「だってこのままじゃ、誰か大怪我しちゃう――」
軽い音がして、ベアトリクスの頬が叩かれる。
呆気に取られて見れば、茜が手を振り抜いた格好で止まっていた。
茜「怪我?」
茜「ベアトは、アイツらの戦いが怪我だの何だので済むレベルだと思ってんの?」
ベアト「茜……?」
少し、痛い。
茜「いつまでも、いつまでもさ――」
肩を掴んで、揺さぶられて、彼女は訴えかけた。
茜「お姫様じゃないんだよ、アンタはさ!」
ベアト「……分かっているよ、でも!」
その時、会話に割り込む様にして、十兵衛がベアトリクスに向かって叫んだ。
十兵衛「止められるのか、ベアトリクス!?」
鎖の雨は未だ止まず、杏奈の取り巻きは縮こまってしまっている。
ベアト「――出来る」
十兵衛「ならやってくれ!もう勝負なんて言ってる場合じゃねぇ――」
十兵衛「アイツ、ヤバいぞ!」
茜の手を引き剥がし、ベアトリクスは魔法少女へと姿を変えた。
傍らには、大小の歯車。
ベアト「もう、やめよう。戦う事に、意味は無いから――」
ベアト「ヴァルプルギス・ナハト!」
歯車が噛み合って、そして全ての暴力が動きを止めた。
四郎「なんと――これがベアトリクス殿の魔法でござるか!」
杏奈「アれ――あレ――?動カなイ――?」
鎖が力なく砂漠に横たわり、杏奈は不思議に思った。
力が入らないのだ。
目の前の敵を倒さなければならないはずなのに。
十兵衛「お、おいベアトリクス!?俺も動けないんだが!?」
ベアト「……そういう魔法みたいなんだ」
十兵衛「――オッケー上等、やってやらぁぁぁっ!」
十兵衛がベアトリクスの魔法の拘束を、『最強』で強引に断ち切った。
杏奈へと飛び込み、そして――
杏奈「あ――」
強かに薙刀を打ち付けた。
杏奈は倒れて、結界は緩やかに溶けていく。
――校庭の砂は、砂漠ほど輝いてはいなかった。
――――
十兵衛「ふう……なんとか、か?」
十兵衛が冷や汗を拭い、一息吐く。
大丈夫、魔女には為っていない。
ベアト「なんとか、かな。十兵衛」
ベアトリクスが声を掛けたのをきっかけに、取り巻きの堰が切れた。
「あ、ありがとうございました……」
「まさか杏奈さんがあんな事をするとは思わなくて……」
十兵衛「……そうか」
十兵衛はソレらを僅かに見て、呆れた。
ソレらが、強者に群がる者の目をしていたから。
四郎「お見事でござる、十兵衛殿」
十兵衛「……あんま誉められたもんじゃねぇよ」
地面に横たわる杏奈の隣には、茜だけ。
グリーフシードの予備は一応ある。
後で彼女に分け与えなければ。
十兵衛「庶民じゃねぇのも……割りと大変なんだぜ?」
杏奈「……私は」
茜「返り討ちだバカ」
痛む身体を無理矢理起こして、杏奈は回りを見回した。
取り巻きは、もう取り巻いていない。
杏奈「それは、そうだよね」
杏奈「あぁ、楽になったや」
自分のソウルジェムを見た。
可笑しい程に、真っ黒。
茜「……どしたの、それ」
杏奈「……はは、やっぱり」
自嘲気味に笑って、杏奈は勢い良く立ち上がった。
周囲から驚きの声が疎らに上がる。
茜「……杏奈?」
杏奈「茜――」
「じゃあね」
その時、茜は酷い焦燥感に刈られた。
今、この手を掴まなければならないと、感じた。
茜「まって――」
伸ばした手はすり抜け、彼女は飛び立ってしまった――
十兵衛「お、おい待て!?」
ベアト「十兵衛?」
意外に速く、彼女は世界に隠されてしまう。
悪戯と呼ぶには悪魔的な、ソレ。
十兵衛「アイツを探せ――間に合わなくなるぞ!」
――――公園
杏奈「…………」
ベンチに座って、暮れ行く空をぼんやり眺めていた。
流れる雲が、羨ましい。
茜「――いた」
黄昏る彼女を最初に見つけたのは、やはり茜だった。
茜は端末に手を掛ける。
茜「アタシ……うん、居た。場所は――」
茜「ヤバい事ってのが何なのかは知らないけど、何ともないみたいよ……じゃ、切る」
端末は十兵衛に繋がっていた。
杏奈の身に危険が迫っている、とだけ聞いていたが故の連絡。
だが、それより大事なのは彼女で。
茜「心配かけんなよバカ」
杏奈「……茜か」
茜「隣、座るよ」
近くに座った。お互いの体温を感じる程度の、距離。
杏奈「…………」
茜「…………」
沈黙が降りてくる。
ソレを打ち破る為に、茜は丁寧に言葉を探した。
茜「……頑張ったね」
杏奈「……はは。下らない事に、だけど」
茜「ううん、下らなくなんかない」
茜「アタシはそう思ってる」
杏奈「でもダメだよ……私じゃダメなんだ」
茜「そんな事、ない」
杏奈「…………」
茜「アタシね、アンタは凄いと思う」
茜「アンタは変わろうと頑張ってた。嫌な事や苦手な事でも」
茜「アタシは、嫌な事全部やらずに生きてきた」
杏奈「はは、茜らしいや」
茜「だってそうじゃん?面倒だし、イライラするし、楽しくないし」
茜「――だから、そんなのと向き合って、真剣に戦ってるアンタが――」
茜「……ちょっと、好きかも」
杏奈「……そう」
杏奈は微かに笑った。
茜「……スルーですかぁ」
頬を膨らませて、茜は可愛らしく抗議を訴える。
杏奈「……それは、気のせいにした方が良いよ」
茜「何でよ」
杏奈「きっと、もう持たないから」
遠い目で、杏奈は夕暮れをみていた。
茜「杏奈……?」
杏奈「結局、最初からできる奴が一番なんだ」
杏奈「そういう奴が中心だし、それはずっと変わらないんだ」
杏奈「願ったところで覆らない」
茜「杏奈……?ねぇ杏奈!?」
肩に手を置いて気付く。
感覚が無い。
杏奈「戦ってる内に、色んな人と出会ったんだ」
杏奈「その中で、どうしても信じられないモノを見た事があるんだ」
杏奈「それは私をずっと悩ませていたけれど、それも今日で終わり」
杏奈がソウルジェムを手のひらに乗せて、大事そうにソレを掲げた。
もう、ただの黒い石。
杏奈「茜、君は私を許してくれる?」
茜「どういう事……アンタ、何を――」
杏奈「私はね……間違っていたんだ」
杏奈「間違っていた間違っていた間違っていた間違っていた間違っていた間違っていた間違っていた間違っていた間違っていた間違っていた間違っていた」
杏奈「間違って、いた――」
彼女のソウルジェムはグリーフシードへと生まれ変わって、魔女に成り果てた――
――――砂漠の結界。
茜「な……なに、これ?」
茜は見覚えのある、夜の砂漠に立っていた。
目の前にいるのは、巨大な異形の化け物。
茜「ひっ――」
それは、嫌悪。
その魔女は、一際異質な雰囲気を纏っていた。
両手両足をもぎ取られている裸の人間の様で、皮膚は炎で炙られたように、爛れている。
顔に凹凸こそ見て取れるが、口のような穴が空いているだけで、瞼は焼けてしまってまるで溶接されたようだった。
ソレが虚空から伸びる鎖に雁字絡めにされていて、宙吊りになっている。
まるで、解体された肉のよう。
茜「なによ……何なのよ、これ……」
茜は恐怖に後退り、微動だにしない『杏奈の身体』に小声で語りかけた。
茜「杏奈、これヤバいよ……逃げよ?」
そして、気付く。
茜「杏奈――?」
ぐらり、とソレが倒れて――
茜「――杏奈!?」
飛び付く様に身体を支えて、そして現実が彼女に絶望を叩き付ける。
茜「(死んで――)」
バカな。
有り得ない。
茜「杏奈、杏奈!!冗談キツいって、起きてよ――杏奈ぁ!!」
思わず声を上げるが、彼女はもう何も答えない。
もう、何も。
背後の魔女が、蠢きだす。
茜「……お前か――っっ!?」
魔女「――、――――、――!!」
茜が再び魔女を見ると、ソレは激しく痙攣していた。
気が狂ったように頭を振り回し、鎖の擦れる音が酷く煩い。
口のような穴は醜い叫び声を上げ、そして回りの空間に大量の文字が浮かんだ。
全て同じ文章。
『KILL ME』
――――十兵衛
十兵衛「ここか――って、これは……」
十兵衛たちが連絡先へと向かって、しかしそこには結界があるだけだった。
十兵衛「――冗談だろ」
十兵衛の心を、焦燥感が覆っていく。
負けてやれば良かったんじゃないか?
決闘を受けなければ良かったんじゃないか?
ベアトリクスと会わなければ――
ベアト「十兵衛?」
十兵衛「っ」
ベアトリクスが、呆然とする十兵衛に声を掛ける。
無邪気なソレが、心を締め付けた。
四郎「お早く参ろう、お二人の身が気掛かりでござる」
四郎が結界へと入っていく。
その先に誰がいるのかも分からずに、きっと化け物を倒すだろう。
十兵衛「……あぁ、行こう」
いや、もしかしたら別の魔法少女かもしれない――
そんな淡い期待すら持てず、彼女は結界に入っていった。
ほむら「あぁ……可哀想に。彼女の思いは実らなかった」
ほむら「理想の自分に為りきれず、他人の為に戦って――その身を滅ぼす」
ほむら「そう、彼女は……酷くさやかに似ている――」
――――
ベアト「茜!」
茜「――ベアト、杏奈が!」
ベアトリクスは結界に入ってすぐ、茜を見つける事が出来た。
茜は、眠ったように動かない杏奈の身体を抱えている。
四郎「あれは……」
その奥に、醜悪な怪物を見つけ、四郎は魔力を太刀に変えた。
いつ襲って来ても撃退できるようにと構えたソレは、しかし意味を成さない。
四郎「……かかってこないでござるな」
怪物は身体を痙攣させるばかりで、別段危害を加える様子は無いようだ。
ほむら「間違い無い……杏奈ね」
彼女を縛る鎖が、彼女自身をその場に押し留めているようにも見える。
『KILL ME』の文字が痛々しい。
ベアト「杏奈、どうしたんだい杏奈!!?」
友人の身体に駆け寄り、必死にソレを揺らして目を醒まさせようとした。
無駄だというのに。
十兵衛「……無駄だベアトリクス、ソイツはもう目覚めない」
ベアト「な――何を言っているんだい、十兵衛……助けてあげてよ!」
ベアト「キミなら出来るだろう、最強なんだろう――?」
すがる様なその言葉を、しかし十兵衛は振り払わなければならなかった。
十兵衛「すまない……俺には、何も出来ない……」
肩に担いだ薙刀を回して、『魔女』に構える。
十兵衛「一つ出来る事があるとするなら、それは――殺してやる事だけなんだ……っ」
茜「――アンタ、何を知ってるのさ。何を隠してるんだ、答えろ!!」
四郎「十兵衛殿……?」
ほむら「…………」
十兵衛の――見た目より凄く小さな――肩が震えていた。
十兵衛「……魔法少女は、身体的には既に死んでいるんだ」
十兵衛「ソウルジェムに移された魂が、身体を動かしているだけ」
真実を話していく。
話す事で、許しを乞おうとしている。
ベアト「な――何を言ってるんだ十兵衛……わけがわからないよ」
十兵衛「故に、ソウルジェムが身体から遠く離れてしまえば――ソレが死ぬのは当然なんだ」
十兵衛「それを代償に、俺たちは願いを叶えられた」
十兵衛「だが、死んだ人間が動き続けるのは不自然――奇跡だ」
十兵衛「俺たちが生きているのは、ソウルジェムの魔法のお陰で――そしてソウルジェムは魔力を使う程濁っていく」
彼女たちは今、扉の前に立っているのだ。
四郎「――確かに。して、其れが如何様な事を引き起こすのでござるか?」
十兵衛「……ソウルジェムが黒く染まると、『魔法少女』は『魔女』へと変わる――ソウルジェムはグリーフシードに変化して、魔女を産むんだ」
十兵衛「あの……化け物の事だ」
ベアト「っっ!?」
茜「――じゃあ、アレは」
茜は魔女を見た。
醜く蠢くソレが――
茜「杏奈――?」
十兵衛「ソウルジェムは魂だ……故に、絶望によっても濁っていく」
十兵衛「失敗、挫折、敗北、苦悶、死別、失恋、不幸、悲哀――その全てが……俺たちにとって致命的なんだ」
十兵衛「そして、魔女になってしまえば、もう戻る事は無い――」
茜「――なん、だって?」
十兵衛「それを薄々勘づいていたんだろうな……杏奈は」
魔女とその結界は、その人間の全てだ。
ほむら「…………」
四肢の無い身体。
自由の無い身体。
醜い身体。
醜い自分。
縛り付けられた身体。
縛り付けられる自我。
死にたい。死ねない。
誰か殺して。
誰も居ない暗い砂漠で。
ほむら「人間らしいと言えば人間らしい……誰も傷つけようとしない辺り……彼女は本当に、心から優しかったのね」
ほむら「だから、人を殺してしまっていたと言う事実が、彼女を苦しめていた」
十兵衛は薙刀を振りかぶった。
十兵衛「俺に出来るのは――」
茜「――やめろ」
そして、それで、魔女の身体を、真っ二つにした。
十兵衛「――殺してやる事だけだ」
茜「――やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
――――消える結界
ベアト「……こんな、こんなのって無いよ……あんまりだよ」
ベアトリクスは涙していた。
自分の背負った運命にではない。
戦っていた彼女の気持ちを考えると――泣かずにはいられないのだ。
茜「……クソッ!」
十兵衛「俺たち魔法少女は、願いの後にも奇跡を起こし、魔法を使う……」
十兵衛「……奇跡は他の因果線から奪ってきたモノだ。だから、この世界に因果が増える」
十兵衛「書き換えられた因果の後に、書き換えられる前の因果の残骸が溜まっていくんだ」
十兵衛「それが世界に歪みを産む。絶望に変わる」
十兵衛「エントロピーは、けして凌駕されない……希望の分だけ、俺たちは絶望しなければならないんだ……」
茜が十兵衛の胸ぐらを掴んで、壁に押し付けた。
明確な怒りを、表して。
茜「何なんだお前は、何様のつもりなんだ……事情通ですって自慢したいのか?」
茜「何でそう得意気に喋ってられるんだ……杏奈は私らの友達だったんだぞ……」
茜「それに、お前の話が本当なら――杏奈が死んだのは、お前のせいじゃないか!!」
十兵衛「っ」
十兵衛の身体が、僅かに震えた。
彼女にだって分かっているのだから。
茜「お前のせいだ、お前のせいだ、お前のせいだ!!」
茜「杏奈が絶望したのは、全部お前のせい――」
ベアト「やめてよ、茜!!」
ベアトリクスが、責め続ける茜を遮った。
彼女は耳を塞いでいる。
茜「……アンタも、分かってるんでしょ?」
ベアト「……ボクが」
ボクのせいだ。
ボクが彼女を拒絶したから。
ボクが、杏奈を殺したようなモノなんだ――
十兵衛「……ベアトリクスが気に病む事じゃない」
茜の手を払い、ベアトリクスの肩に手を置いて――小さなソレを必死に捕まえた。
茜「よく言うな……お前、それでも人間かよ」
十兵衛「……勿論、違う」
十兵衛「俺も、お前も……な」
その場に、冷たい風が吹いた。
皆のソウルジェムは、少しずつ濁っていっている。
十兵衛「……だが、まだやれる事はある――決心は着いた。四郎、行くぞ」
だが、返事が無い。
十兵衛「四郎?」
四郎は、ただ話を黙って聞いていた。
どんなに噛み砕いても、彼女の中では結論が一つしか出ない。
四郎「ソウルジェムが魔女を産むのなら……みな自害するしか無いのでござる――拙者も、皆の者も!!」
太刀を構えて、力なく立って――目に涙を湛えていた。
彼女が信じた正義は、得てして間違いだったと気付かされてしまったのだから。
十兵衛「……まだ、死ぬには早い」
四郎「――なんと?」
十兵衛「俺たちは確かにソウルジェムが濁れば死に至るだろう。だがな」
十兵衛「延命出来ない訳じゃない――」
十兵衛「真実を世界中の魔法少女に報せるのは不安だったが、今回ので心は決まった――」
絶望の中でも、確かに彼女は強くあった。
十兵衛「全てを伝えるんだ。こんな事――起こって良いはず、無いんだからな」
――――
ほむら「友人を助ける事が出来なかったと、茜は知ってしまった」
ほむら「自分では彼女の心の支えになれなかったと」
ほむら「彼女は――杏子に似ていた」
ほむら「これから一体どうなるのかしら……魔法少女の行く末を、インキュベーターは知ってしまった」
ほむら「魔法少女と魔女……切っても切れないその因果を――どうやって解決するのかしら」
ほむら「もしかしたら、私が知らなければならないのは――ソレなのかもしれない」
ほむら「貴女たちがどういう回答を出すのか……私はここで見守る事しか出来ない」
ほむら「……インキュベーターは泣いていた」
ほむら「彼女は――そう」
ほむら「本当に、まどかに似ている――」
――――世界に向けての、放送。
『みなさん。私は最初の被験者、明智十兵衛武政です』
『今日はみなさんに、大事なお話があります』
『魔法少女の未来についてです』
『魔法少女は、魔法を使う事でソウルジェムを濁らせます』
『ソウルジェムが濁り、黒く染まると……それは魔女と言う化け物になり、魔法少女は死を迎えてしまうのです』
『魔女になってしまった魔法少女は、もう元に戻る事は……ありません』
『その上、ソウルジェムは絶望によっても濁ります。些細な心の揺らぎですら、我々にとっては命に関わります』
『しかし、我々にも取れる対策はあるのです』
『魔女を倒す……かつて魔法少女だったモノは、死ぬとグリーフシードという物を落とします』
『これをソウルジェムに当てると、グリーフシードの穢れを吸ってくれます』
『グリーフシードが穢れきると、それがまた魔女を生んでしまうので、素早く砕いて下さい』
『生まれたての魔女は、グリーフシードを落としません……グリーフシードを落とすのは、一つ以上の命を喰らったモノだけなのです』
『ただ、魔女は強い。しかし、もう一つだけ方法はあります』
『それは、ソウルジェムにソウルジェムを当てる事……』
『ソウルジェム同士が悲しみを分かち合う事で、お互いに穢れを受け取る事が出来るのです』
『一時しのぎにしかなりませんが、それでも助かる命はあるはずです』
『この事実を知った精神研究所のメンバーは……みな、魔女になってしまいました。皆さんの怒りをぶつける場所は、既に無い』
『私たちは今、重要な局面に立っているのです』
『願わくば、絶望に負けないで――』
――――放送局、放送後
十兵衛「……スタッフのみんな、お疲れさん」カタッ
スタッフ1「明智さん……今のは本当なんですか……?」ブルッ
スタッフ2「それなら、それなら俺らは……」ズゥゥ……
カツンッ
スタッフ2「!」シュウゥ……
十兵衛「ほら、言った側から絶望するんじゃねぇよ……これは礼だ。お前の絶望、少し貰い受けよう」ニッ
四郎「十兵衛殿」ザッ
十兵衛「出迎えご苦労。さて、やる事は山積みだぜ」
四郎「これを知った人々は……余計に絶望するではないでござるか?」
十兵衛「……比較的絶望しやすいのは子供だ。大人はあぁ見えて絶望に慣れている」
十兵衛「だが親は子を守り、子は親に守られる事で絶望を和らげるだろう」
十兵衛「子供が絶望して死ねば、親も諸とも絶望するだろうから、それ以外に道は無いし……な」
十兵衛「友と悲しみを分かち、家族と支え合って、他人を慈しめば、人はまだ戦えるんだよ」
十兵衛「だから、俺たちはそれを守らなきゃあならない」
十兵衛「……親父と話すのは、久しぶりだな」
四郎「十兵衛殿……」
――――ベアトリクス自宅
TV「――――」
父「これは……厄介だね。ベアトリクスの元気が無かったのは、これのせいかな」フム
母「アナタ……どうしましょ。私……」フルフル
父「大丈夫さ」ポム
父「僕たちが、娘たちをしっかり支えてあげれば良い」
父「ハンネに話すのは、お母さんに任せたよ。僕はベアトリクスと話してくるから」グッ
母「……分かったわ。確かに、私たちが凹んでいても始まらないものね」
――――ベアトリクス私室
父「ベアトリクス、入るよ?」カチャ
ベアト「……父さん」
父「隣、座っていいかい?」
ベアト「……うん」コクッ
父「随分と落ち込んでいるみたいだけれど……良かったら、話してごらん」ポスッ
ベアト「……友達が『魔女』になっちゃったんだ」ウルッ
父「……そうか、ベアトリクスは十兵衛君と仲が良かったね。彼女から、先に詳細を聞いているんだね」
ベアト「父さんも見ただろう?魔法少女は絶望すると――」
父「俄には信じがたいけれど、ベアトリクスの様子からするに……真実らしいね」
ベアト「――ボクが、殺したんだ。彼女を……」ググッ
父「……詳しく、聞かせてごらん?」
――――
ベアト「…………」
父「……なるほどね。その、杏奈って言う子が――」
父「ふむ」
父「杏奈ちゃんは、自分の不甲斐なさに押し潰されてしまったんだろうね」
父「人間、生きていれば良くある事さ」
父「自分に出来る全てをやって、だけど壁を越えられない」
父「自分の限界を見て、心が折れてしまう」
父「それに折り合いを着けて生きるのが、大人なんだ」
父「杏奈ちゃんはきっとベアトリクスの事を恨んだりしていないよ」
父「杏奈ちゃんはやれるだけの事をやって、失敗したんだから」
父「ただ、高すぎる壁を見てしまっただけなんだろう」
父「何故こんな事に挑戦していたのだろうか、と思うくらい」
父「人間って言うのはね、生きる事に価値を見出だせないと死んでしまうんだ……心がね」
父「きっと杏奈ちゃんだって……そうだったんだと思うよ、父さんはさ」
ほむら「……だから彼女は、魔女になっても誰も傷つけようとしなかった」
――――十兵衛、押し潰されるソレ、とある会議室
十兵衛「どういう事だ、親父!!それに官僚の皆さんも!!」バンッ!
親父「声を荒げるな、娘よ」
十兵衛「……百歩譲って、事実を知って尚隠蔽していた事は堪忍してやってもいい……だけどな」
十兵衛「このふざけたプランは何だっ!!」ドンッ!
ザワザワ……
真宵父「まぁ落ち着きたまえよ、十兵衛君。君はまだ若いからね……分からないかもしれない」ニコ
十兵衛「真宵さん……アンタって人は――っ」
真宵父「我々上流階級の者は生き残らねばならんのだよ。人々を導く為にね」
十兵衛「……だから弱者を食い物にするのか?」キッ
真宵父「遅かれ早かれ、君の宣言で魔女は増えるよ」フフ
真宵父「それを刈らなければ、貴重なソウルジェムが失われてしまうし、倒せばグリーフシードを落とす」
真宵父「誰も困らないだろう?」ニィッ
十兵衛「ならこれは何だ」パサッ
『新規出生者の確保、及び教育』
真宵父「我々は種族として増えにくいのは知っているでしょう。これからの世代を担う若者を保護したいのは当然ですよ」ハハハ
十兵衛「良く言う……魔法少女の依り代が欲しいだけだろうが……」ギリィッ
真宵父「我々の希望になるのですよ。それはとても名誉な事でしょう?」
十兵衛「そうやって飼い殺すつもりか?」
真宵父「……ふむ、平行線ですね。売り言葉に買い言葉では、会議も進むに進めませんよ」ヤレヤレ
十兵衛「――この野郎!」ジャキンッ!
真宵父「おやおや……やはり随分と血の気が多いですな、明智殿?」クックックッ
親父「得物を下ろせ、十兵衛」
十兵衛「だが親父!!」
親父「十兵衛!!」クワッ
十兵衛「っ」
親父「決断せねばならぬ時が来ているのだ……ソレを、分かれ」
十兵衛「……俺は、反対だからな。四郎、引き上げるぞ!」ガタンッ
四郎「御意」スッ
バタンッ!!
真宵父「やれやれ……あれが『最強』だと言うのだから始末に終えない。でしょう、明智殿?」
親父「我が娘には厳しい躾をしてきた故、正義感は一人前だ」
親父「だが若い」
真宵父「確かに。さて、皆さん一時解散としましょう」パンパンッ
――――会議室のあった大きな建物、談話室
十兵衛「チクショウ……」ガンッ
四郎「十兵衛殿……」
十兵衛「……確かに正論だろう。だが、納得はいかねぇ……」
「何に納得がいかないのかしら、十兵衛?」ファサッ
四郎「……何奴」ザッ
四郎「(黒く長い髪に整った顔、細身の身体……見掛けぬ顔でござるよ)」
十兵衛「……真宵か」ハァ
四郎「お知り合いで?」
十兵衛「あぁ、腐れ縁だ……」
真宵「まだ水城って呼んでくれないのね。私は悲しいわ、十兵衛」スルッ
四郎「なっ」カァ
十兵衛「一々絡み付くのを止めれば考えてやるよ」グイッ
真宵「あらあら、その様子だとお父様にやり込められてしまったようね」ニヤッ
十兵衛「やかましいわ」チッ
真宵「ねぇ十兵衛、貴女が私のモノになるなら……私がお父様に進言してあげても良いのだけれど」
十兵衛「御免被る」
真宵「あはっ」ゾクッ
真宵「貴女ってそう。どうやっても手に入らない」
真宵「私の欲しいモノなんて、全て手に入るはずなのに、貴女はそう上手くいかないのよ」ホゥ……
十兵衛「それが普通なんだよ、真宵」
真宵「せっかく『最高のモノを自分のモノにしたい』と願ったのに……貴女はその上を行くもの」
真宵「欲しいわ……貴女、本当に」クスッ
十兵衛「変わっちまったな……お前も」
真宵「あら、それは違うわ」
真宵「貴女が、まだ子供なだけよ」フフッ
十兵衛「けっ……失礼するぜ」ツカツカ
四郎「じゅ、十兵衛殿!待って下されー!」ダッ
真宵「ふふっ、早苗の一族とつるんじゃって……本当に変わった奴」フフッ
真宵「でも……良い事思いついちゃったわ」クスクス
365 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/10/22 15:41:25.19 RjPmTenAO 975/1642投下終了。
読みは真宵水城(まよいみずき)。
この子は名前ちょっと考えた。
――――ベアトリクス、実際の世界。
ベアト「…………(街が、五月蝿いな)」
ベアト「来たよ、茜」
茜「……よ、ベアト。ま、どっか座るか」ハァ
――――公園
ベアト「……話って?」
茜「……小耳に挟んだ事を伝えたくてね」
茜「近々、魔女狩りが始まるって噂だ」
ベアト「それは……?」
茜「徒党を組んで魔女を倒し、グリーフシードを蓄えていくんだってさ」
茜「……杏奈が死んだ後にさ、杏奈の部屋に上がる機会があったんだ」
茜「アイツ端末オタクだったからさ、すっげーマシンだったのよ。アイツの端末」
茜「でも、全部データは消されててね……一つだけ、アイコンがあった」
ベアト「……それは?」
茜「『情報交換』って名前のテキストファイルだった」
茜「中には、とあるアドレスと、自力で調べた魔女の特徴なんかが書かれていた」
茜「アドレスは掲示板に繋がった。そこは杏奈と似たような奴等が、絶望に負けずに頑張ってた」
茜「アイツ、結構凄い奴だったらしいよ。アタシが死んだ事を伝えたら……みんな悲しんでたよ」
ベアト「…………」
茜「そこで聞いた話なんだ。実際、リアルでも私に声を掛けてきた奴がいたし、間違いない」
ベアト「……気は乗らないけど、誰かがやらなきゃならないんだよね……」
茜「だけど、本題は別」
茜「気を付けなよ、ベアト。世の中にはね、人の命なんてどうでもいい奴が沢山いるんだから」
ベアト「どういう事だい?」
茜「……ソウルジェムを奪う奴らがいる」
ベアト「――まさか」
茜「実際に会った事はないけどね……会ったら殺されるし」
ベアト「怖いね……」ブルッ
茜「……アタシはね、生きるためなら何だってする。杏奈の分まで、生きてやるんだ」スック
ベアト「茜?」
茜「次に会った時は……もしかしたら、ね」
ベアト「――何を考えているんだい、茜!?」
茜「生きる事だよ、ベアト」
茜「忠告はしたからね……アンタも、生き残れよ」ダンッ!
ベアト「茜……」
ほむら「……当然ね。生き残る為には魔女を狩るか、魔法少女を狩るかしかない」
ほむら「ピックジェムズ……かしらね」
ほむら「しかもソウルジェムは使い終わった後に魔女を産む。一個で二度美味しい……」
ほむら「……まさか、同士討ちで全滅なんて……無いわよね」
――――ハンネの最初の旅。最後の旅。
ハンネ「お化けになっちゃう……よく分からないけど、怖いよぅ……」カタカタ
ハンネ「でも、お父さんもお母さんも大丈夫だって言ってたし……うん」
ハンネ「みんな色々やることあるみたいで居ないし……寂しいよぅ」
プルルルッ
ハンネ「あ、電話……」トテテ
カチャッ
ハンネ「もしもし、クヴァンツですけれど……」オズオズ
『ハンネちゃん。ハンネちゃんね――お願い、助けて』
ハンネ「――琴音ちゃん?ど、どうしたの、何があったの!?」ガバッ
『お母さん――』プチッ
ハンネ「琴音ちゃん、琴音ちゃん!?」
ハンネ「……何かあったんだ」ブルッ
ハンネ「怖いっ……けどっ……友達が困ってるんだ……っ」グッ
ハンネ「い、行くよ!私だって――魔法少女なんだからっ!」ダッ
――――友の家。玄関前
ハンネ「……あれ?特にお化けの結界があるわけじゃないんだ?」
ハンネが勇んで来たものの、そこは比較的静かなモノだった。
時折聞こえるのは、彼女の友人の小さな声。
ハンネ「……?『聞こえろ』っ!」
ハンネが耳に手を当てると、小さな音が増幅されて聞こえた。
『やめて』
『ごめんなさい』
『ゆるして』
『たすけて』
『しにたくない』
ハンネ「――――ひぃ」
腰が抜けて、立てなくなってしまう。
確かに、この中で、友が助けを呼んでいたのだ。
ハンネ「……怖くないぞ、怖くないよ!」
震える足を叩いて、無理にでも立ち上がる。
ハンネ「武器……かっこいい武器!」
彼女が魔力を込めると、イメージ通りの得物が現れた。
確かに格好は……良いだろう。
ハンネ「こないだ映画で見たもんね……行こう!」
ハンネ=ローレは『対戦車ライフル』を担いで玄関のドアを蹴破った。
――――家の中
ハンネ「えーいっ……って、あれ?」
蹴破ったのにも関わらず、中はやけに静かだった。
奥の扉がゆっくり開く。
琴音の母が顔を出した。
琴音母「あらぁ、ハンネちゃんじゃない。どうしたのかしらぁ?」
ハンネ「おばさん……あれー?」
外から感じたのは確かに異変だったのに、中は驚く程日常だった。
琴音母「遊びにきたのかしらぁ?」
一般家庭にしては少々長めの廊下を歩いて、ハンネに近寄ってくる。
その時、ハンネは気付いた。
――おかしい。
琴音母「――あらぁ、それ、なぁに?」
対戦車ライフルを突き付け、ハンネは接近を許さなかった。
突き動かしたのは、純粋な恐怖。
ハンネ「おばさん……なんで?」
琴音母「何がぁ?」
ハンネ「普通――『玄関』に反応するはずだよ」
玄関は蹴破られて粉々になっている。
ここが日常だというなら、この非日常に反応すべきなのだ。
そうでないと言う事はつまり――
琴音母「――あらあらホントぉ。大変だわぁ……お転婆さん、ねっ!!」
斧が、ハンネの頭があった場所を通り抜けた。
ハンネはそれをがむしゃらになって避け――腰を抜かす。
ハンネ「あ――あわぁ」
琴音母「あらぁ……避けちゃダメじゃないの……ソウルジェムに当たっちゃったら意味無いのよぉ?」
ニタニタと笑って、その『魔法少女』は床に刺さった斧を引き抜いた。
玄関側に立たれてしまい、退路は無い。
ハンネ「ひっ、ひぃっ!」
思考が上手く回らなくなって、ハンネは狙いも定めずライフルの引金を引いた。
轟音と共に、砂ぼこりが舞う。
ハンネ「――に、逃げなきゃ!」
奥の部屋へと逃げ込み、扉を閉めて鍵を掛けた。
魔法少女にとって、そのような施錠は意味を為さないが――
ハンネ「うぅぅ……」
ライフルを構えておく事は出来る。
動悸が速まる中、ハンネはか細い声を聞いた。
「ハンネ……ちゃん……?」
ハンネ「――琴音ちゃん!?」
薄暗い部屋の中に、その少女は倒れていた。
弱りきって、今にも消え去りそうなソレ。
ハンネ「どうしたの、しっかり!」
琴音「ハンネちゃん……ゴメンね……」
ハンネが『異様な事』に気付く。
ハンネ「――琴音ちゃん、琴音ちゃんのソウルジェムは?」
彼女はソウルジェムを身に付けていなかったのだ。
ハンネ「どこに――?」
琴音母「こ、こ」
ハンネ「っ!!」
音も無く背後に現れる、魔法少女。
その手には、ソウルジェム。
琴音母「あーあ、汚れちゃったわぁ……綺麗にしないとぉ」
自らのソウルジェムに、娘のソウルジェムを当てて――穢れを押し付ける。
声は無いが、ハンネには――悲鳴が聞こえた。
ハンネ「――おばさん、なんでこんな……なんで意地悪するの?そんなおばさんじゃ無かった――」
琴音母「だって、子が親の為に生きるのは当然でしょぉ?」
わけがわからなかった。
だってハンネの両親は、ハンネを守ってくれているから。
琴音「お母、さん……やめて……わたし……しに、たく、ないよ……」
母親は、そんな我が子に優しく微笑みかけた。
琴音母「大丈夫よ」
「魔女になったら、ちゃんとブチ殺してあげるからぁ」
少女のソウルジェムは、砕けて魔女を産む。
琴音母「やったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!これでまだ生きられるわぁ!!」
歓喜する雌と。
ハンネ「あ――――」
呆然する少女が、それを見た。
ハンネ「(助けて――助けて、お姉ちゃん――)」
――――そしていつかはワルプルギス。
ベアト「茜……なんでこんな事になってしまったんだろうか……」
ベアト「――ハンネ?」
遠くから、聞き覚えのある声を拾う。
彼女の魔法の一つ、念話能力の恩恵だった。
ベアト「嫌な予感がする……こっちか!」
大きな歯車を呼び出し、それの上に飛び乗る。
歯車は彼女を乗せて、空を駆けた。
ほむら「まさか――」
――――結界。
魔女「――――!」
琴音母「ぎゃっ!?……案外手強いのねぇ……」
魔女になった娘を殺そうとする母親。
それは絵画にすれば、題名に『地獄』と付けられるだろう。
そんな醜い風景。
ハンネ「――に、にげ」
上手く動かない足を無理矢理に働かせ徐々に後ずさるが、それに気付かれてしまう。
琴音母「逃げたら殺しちゃうわよぉ……」
と、そこで何か思いついた様な表情をした。
琴音母「そうだわぁ。ハンネちゃんも、あの化け物をブチ殺すの手伝ってくれないかなぁ?」
ハンネ「――――え?」
琴音母「そしたらぁ、見逃してあげてもいいかなぁ?」
優しい笑みで、外道の頼み。
ハンネはクヴァンツ家の最年少として、家族の愛を一身に受けて生きてきた。
だから、ようやく。
怒りが恐怖を上回った。
ハンネ「…………」
琴音母「なぁに?そのデカいばっかりの鉄屑でやろうってのぉ?」
低い姿勢で、反動を殺すようにライフルを構えた。
今なら、人でも覚悟を持って撃てる――
ベアト「ダメだよ、ハンネ」
そんな妹の前に、姉が降り立った――
――――舞台装置の魔法少女。
ハンネ「お姉ちゃん……」
ベアト「遅くなってしまったね。済まない」
歯車が、大切な妹を守るように噛み合っていた。
いつもは、どちらかと言うと非好戦的なベアトリクスも――今は仁王立ちで魔法少女の前に立っている。
琴音母「あらあらぁ、またソウルジェムが増えたわぁ」
ほむら「小悪党だわ」
ベアト「……なるほど。クズだね」
琴音母「止めてくれない?生きるか死ぬか、それにクズも何もないじゃない」
斧を高く構えて、振り下ろしてきた。
歯車が、一斉に舞台を止める。
ベアト「ヴァルプルギス・ナハト――」
琴音母「――動けない!?」
戦意のある者の動きを止めるソレが、魔法少女の浅ましい心を縛り付けた。
ベアトリクスはハンネを抱き抱え、そのまま静かに歩き出した。
ベアト「さようならだね。妹は、連れて帰ります」
ほむら「いい気味ね」
琴音母「ちょっとぉ――」
声を掛ける間も無く、ベアトリクスは視界から姿を消した。
琴音母「もう……これ、いつ解けるのよぉ……」
魔女「――――」
琴音母「え、やだ、うそ、やめ――」
続き: ほむら「キュゥべえをレイプしたらソウルジェムが浄化された」#07