1 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/02/11 15:45:36.07 A62X/NNO0 1/96






ーーーーー黒い海に浮かぶのは、記憶の断片。


白い少女。

紅い鮮血。

輝く魔法陣。

抉り取られる右半身。

吹き飛ばされる左足。

届いた右手。

舞い落ちる光の羽。

崩れ行く自分の意識。






はじけ飛ぶ、少女の身体。






その夜。


上条当麻は『死んだ』。

元スレ
上条「孤独な世界の観測者」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1423637135/

2 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/02/11 15:47:44.41 A62X/NNO0 2/96

・とあるSS
・シュタゲクロスとかではない。期待した人申し訳ない
・書き溜めあり。というか最後まで書き終わり済み
・ローマは土下座


3日くらいで終わらせる……予定

3 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/02/11 15:49:22.14 A62X/NNO0 3/96





そこは、漆黒の世界だった。


上条「あ………れ」


意識が朦朧としている。
記憶が混濁している。
頭が痛む。
いったいここはどこだ? いったいいまはいつだ? いったいそれはだれだ?
何もわからない。ただただ、頭に霞が掛かったまま。
彼は、困惑しながらも起き上がり、




ズキン。ひときわ大きな頭痛。



上条「あ、」



そうして、彼は『上条当麻』のことをすべて思い出した。




上条「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」



周りを見渡す。そこは、変わらず漆黒。
そこに白きシスターの姿も、黒い剣客の姿も、赤い魔術師の姿も無い。


彼が救えなかった人たちの姿は、どこにもない。


彼は、ただ絶叫した。
そうしないと、壊れてしまいそうだったから。
自らを傷つけながら、壊れないように壊す。



時間の無い世界で、彼はずっと叫んでいた。

4 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/02/11 15:49:53.61 A62X/NNO0 4/96




上条「………ああ」



長い時間が過ぎた。それは時間だった。紛れも無く、彼にとっては時間だった。
けれど、この世界ではそんなことはわからない。



上条「俺は、死んだんだな」

5 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/02/11 15:50:48.90 A62X/NNO0 5/96

あたりを落ち着いて、もう一度見渡した。

黒。黒一色。

ひたすらに平坦な、半導体のシリコンウェハーよりも狂いの無い黒い平面が広がっているだけ。
ミクロン単位の起伏も無い陸地が、地平線の向こうまでひたすらに続いていた。
自然物らしい自然物は無い。人工物らしい人工物は無い。
従来の表現をしたが、地平線、と言う概念についても微妙だった。陸地も空も全てが同じ黒で統一されているため、その区別が付けられない。
ぐるりと一周、360度を見回しても、景色に変化が無かった。自分が最終的に『戻った』と思っている場所が、本当に正しい位置なのか。目印になるものが何も内政で、その自信すらない。

まさに、黒。
まるで世界の終着点。


世界に必要な要素を、一つずつ抜いていったならば、最後に残るような、そんな場所。



そこで、彼はただ一人佇んでいた。

そばに、金髪碧眼の眼帯少女もいなければ、色抜けた銀髪をした魔術師もいない。



完全無欠、完璧無慈悲に、彼は一人でそこにいた。

17 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/02/11 22:20:06.28 A62X/NNO0 6/96



行間 一


その少年は不幸な少年だった。


きっと聞くほうが飽き飽きするぐらい不幸な体験をし、彼は特殊な場所に送られた。

そこは、魔法(オカルト)が排除された科学(ロジック)の世界。

彼は、そこで第二の人生を歩き出した。




その少年の名は、上条当麻といった。

18 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/02/11 22:21:31.96 A62X/NNO0 7/96

上条当麻は、暗闇の中で思考する。
幸か不幸か時間はたっぷりある。彼にはやはりこの世界に時間があるのかはわからなかったが。



上条(そう、俺は、失敗した)

上条(インデックスを、救えなかった)

上条(そして俺は死んで、目が覚めたらここにいた)



死んだと言うのに目が覚めるというのもおかしな話だが、実際にそうなのだから仕方が無い。
それらの状況を考えて吟味して、彼はその結論に思い至る。
彼は宗教などに興味は無かったし、世界の偉い学者たちがどんなことを考えていたのか毛ほども興味は無かったが、それでも、



上条(死後の世界)



天国か、地獄か。
ここは、人が死んだ末に送られる世界なのだと。

19 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/02/11 22:22:10.34 A62X/NNO0 8/96

学校で習う程度の、しかもその中でも留年ギリギリの低い成績だった自身の残念な頭から、無理やり引っ張り出す。

仏教は、たしか死後は無。輪廻転生なんたらかんたら。
十字教は、死後は天国か地獄。そのために最後の審判を待つとか。
イスラム教は、アッラーの下へ? よくわからない。
ヒンドゥー教、道教、自然信仰、さまざまな宗教が思い浮かび、それぞれの死後の考え方について思いを巡らすが、明確な答えを与えてくれるものは無い。


ある意味貴重な体験だ。長年数多の人間が論争してきた問題に、一度に終局をもたらせるほどの証拠たる体験なのだから。

20 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/02/11 22:22:58.79 A62X/NNO0 9/96




上条(ここは、『無』じゃない)


上条は確信していた。


根拠はわからないし、どうしてそう思うのか理由すらもハッキリしていないが、なんとなく本能のようなもので感じる。

ここには、『何か』がある。
それが何かはわからないが、とにかく『何か』がある。

そしてそれは、彼にとって大事なことであるに違いないのだ。



もっとも彼は、『それ』がなんなのか、当然知ることになるのだが。

21 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/02/11 22:26:21.83 A62X/NNO0 10/96


上条当麻は、この無限の闇の世界で、まず走ってみた。

何もないように見えても、何かあるかもしれない。
それこそ世界の果てまで走っていけば、何か見つかるかもしれない。



そんな儚くも淡い希望は、無残な現実に打ち砕かれた。




上条「………………はぁっ……………………………はぁっ」




何も、ない。


どこまで走っても、何も変わらない。そこに動くものも、止まっているものも、流れていくものも。
そこに時間は無く、そこに距離は無く、そこに意味は無く。


どれだけ足を動かしたかもわからないまま、ずっと、ずっと、ただ暗黒が広がるだけ。

最初に確認したはずだった『無ではない何か』の存在は薄れ、
最初に確認したはずだった『無』の存在感だけが残った。


さらに悪いことに、彼は疲労を感じていなかった。
足に溜まる乳酸も、高まる動悸も感じられない。
息を切らしてはいるものの、それは精神的疲労によるものだ。


つまり、本当にどれだけ走ったのかがわからない。

まるで、何日も掛けて作った壁の傷が、一夜で全て消えてしまうかのように。

22 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/02/11 22:29:22.75 A62X/NNO0 11/96




それでも彼は走る。

どこへともなく、ただ、走る。



走る。
走る。走る。走る。
走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走

23 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/02/11 22:31:30.56 A62X/NNO0 12/96






さらに、無限の時間が、彼に流れて。




彼は、膝をついた。




上条「…………あ、」




何も無かった。

もう駄目だった。

そう思い知らされては、最早どうすることも出来なかった。

力が抜け落ちる。頭が、心が虚脱していく。何も残らないし、何も感じない。

ただ、ぼんやりと、今までの人生を振り返って。

救えなかった人たちに思いを馳せ、救えた人たちに想いを抱き。

穏やかに、残酷に、消えていく。

24 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/02/11 22:31:58.07 A62X/NNO0 13/96



































ーーーーーがちゃん。

25 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/02/11 22:33:17.09 A62X/NNO0 14/96

それは、歯車だった。



何かが決定的にはまる音。




         。   、。     ・     !         …

……    /        // 。    、              ・       。   ?               !!

   !                                    !!!!!





!!!!!







何かが。


起こる。

28 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/02/12 00:10:17.05 c41Wj7Ts0 15/96



行間 二


学園都市での生活は、彼にとってとても幸せなものだった。

不幸、なんていうオカルトを信じない住人たち。

それでも襲い掛かる彼の不幸に対し、疫病神、だなんて彼らは呼ばずに。

不幸なやつだなぁ、と笑いかけた。

離れることは無かった。攻撃することも無かった。



だから、上条当麻はこの街を、人を愛した。


だから、自らの不幸によって傷つくのを許したくないと思った。守りたいと思った。


だから、彼はその右拳を握り締めた。

29 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/02/12 00:11:37.26 c41Wj7Ts0 16/96



上条「………はぁ……不幸だ……」


上条当麻は、今日も不幸だった。

時刻は夕刻。夏が近づいてだんだんと長くなる日照時間も終わろうとする時間帯。
とぼとぼと、夕暮れの中を上条当麻は男三人で歩く。


削板「むむむ、上条が不幸と感じるならば、それは根性が足りないからだ!! お前はいい根性を持っているのだから、それをもっと普段の生活でも使うべきだな」


右を歩くのは、白い学ランに鉢巻、旭日旗Tシャツを着た、まるで昭和の間違った不良みたいなスタイルの少年。
暑苦しく両手を握りながら、上条当麻の方を向きうなづいている。


原谷「いやいや、上条の不幸をそれでなんとかするのは無茶があるだろ」


左を歩くは、メガネを掛けた真面目で努力家そうな少年。
いつものように根性万能の馬鹿理論を唱える削板をたしなめている。


削板「いーや! 例え根性の無い連中が不幸と感じる出来事が起こったとしても、それを不幸と感じなければどうということはない!」

上条「いやいや、それができるのは削板みたいな根性馬鹿か脳みそお花畑だけだと思うんですけど?」

削板「根性馬鹿とは照れるな!」

上条 原谷「「褒めてねーよ」」


息の合う二人。基本的に彼らは破天荒な削板への突っ込み役である。

30 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/02/12 00:13:05.60 c41Wj7Ts0 17/96

横須賀「奇遇だな!! 削板軍覇!! そして上条当麻!!」


そこに現れたのは、巨漢ムキムキの外国人傭兵部隊を渡り歩いていそうな少年(?)。


上条「……お前は……」

削板「モツ鍋!!」

原谷「いや横須賀っていってやれよ」

横須賀「そうだ!! モツ鍋だ!!」

原谷「お前もそれでいいのかよ」


彼はその昔、原谷をカツアゲしていたところ、偶然通りかかった上条当麻と削板軍覇に吹き飛ばされ、その後何故か発展した上条と削板のバトルに感銘を受けたのだ。


横須賀「俺と勝負しろ!! 二人とも!!」


それ以降、ちょくちょくこうやってリベンジをしかけてくる。
彼は一応武装無能力者集団(スキルアウト)に属するのだろうが、他のたちの悪い連中と違い、集団でのリンチや不意打ちに頼ることなく、自らを鍛え上げて挑んでくる。
こころなしか初めて会ったときよりも筋肉が膨張している気がする。


上条(……いや、だからって勝負を挑んで言い訳じゃないと思うんだが………)


そう、そう思うのだが。


削板「いいぞ!! いつものように素晴らしい根性だ!!!」

上条 原谷((コイツ馬鹿だからなぁ…………))



横須賀「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

削板「すごいパーンチ!!!!!」


衝撃波が削板の身体から放たれ、横須賀の身体を直撃する。
吹き飛ばされる横須賀。しかし、彼は気絶することなく、再び前に出る。


横須賀「こんなもんか………? 根性が足りないぞ第七位ィ!!!」

削板「良かろう!! 俺の渾身の一撃を食らってみろ!!!」



ばこーん。そんな擬音が似合いそうなギャグ戦闘をする二人から少しはなれたところで、上条と原谷はぼんやりと眺めていた。




上条「……毎度毎度よくやるよなぁ」

原谷「まあ二人とも楽しそうだしいいんじゃないか?」



そうして、不幸でも幸せな日常が、また過ぎていくのだった。

31 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/02/12 00:14:09.22 c41Wj7Ts0 18/96

上条「なんだ……これ」


『上条当麻』は、漆黒の世界でつぶやいた。


いや、そこはもう漆黒ではない。だからといって色合いがあるわけでも、無色なわけでもない。

ただそこには、『上条当麻』の姿が、人生が映し出されていた。

幼少期から始まり、少年に。
まるで自分が体験したことと同じように。
不幸を呼び、疫病神と呼ばれ、通り魔に刺され、学園都市に送られ、


けれど、自分とは決定的に違う。


削板軍覇と原谷矢文なんていう少年を、彼は生前知らなかった。


自分とは、同じ道をたどりながら、何かが決定的に違う。
そんな物語。

32 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/02/12 00:15:11.13 c41Wj7Ts0 19/96

削板「………上条、原谷。お前たちが暗部と木原に関わると言うのなら、俺はお前を止めるぞ。殴り倒してでもな」

上条「テメェは俺らの何を見てきた!? 俺らはテメェの何を見てきた!!」

原谷「削板一人が苦しんで終わるような出来事なら、お断りだね。勘違い野郎が」

削板「命の保障はないんだぞ、二人とも」

上条 原谷「「そんな程度で怖気づくのが、根性あるって言えんのか?」」

削板「………だがお前たちを通すつもりは無い!! 削板軍覇、推して参る!!!」




冥土帰し「毎度毎度君たちはよく入院するね? 原谷クンまでいるのは珍しいけど」

原谷「ハハ………こいつらの馬鹿が移りましたかね」

上条「まぁいいじゃないか。ハッピーエンドで終わったし。この根性バカは無事だったし。なあ俺らをまきこまいとした根性バカ?」

削板「んぐ………確かに感謝しているが………」



削板「ふむふむ、幻想御手事件か。根性の足りてないことだな」

上条「まあ強度を上げたいって気持ちもわからないくはないけどなぁ」

原谷「ほら、そんな子達の思いを無駄にしないためにもお前はもっと自分の能力を理解しろ」



テレスティーナ・木原・ライフライン「はあああああああっはあああああああああ!!!!! 第七位とそのお友達ちゃあああああああアン!!!!?? いつぞやの復讐に来たよおおおおおおォ!!!?」

上条「おお! 俺らもテメェをぶん殴りたいと思ってたところだ!!!」

原谷「いつぞやの削板に対する屈辱、しっかり落とし前つけてもらうぜ」

削板「根性を、入れなおしてやろう!!!!!」

33 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/02/12 00:15:38.99 c41Wj7Ts0 20/96



そこは、あったかも知れない可能性。


学園都市第七位、削板軍覇と上条当麻が出会い、メガネの少年原谷矢文を助け、学園都市の暗部に触れ、木原と邂逅し、三人でそれを乗り越え。
数多の苦難に打ち勝ち、日々生き、

そしてその夏休みに、



インデックス「わたしの名前は、インデックスって言うんだよ?」



運命の、分かれ道。

34 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/02/12 00:16:35.34 c41Wj7Ts0 21/96




上条(…………つまりこれは、平行世界とかそんな奴なのか?)



その世界で、上条当麻は上条当麻を眺めながら考える。

彼らはあきらかに、自分とは違う道を進んでいる。

自分は削板軍覇や原谷矢文などと出会っておらず。また削板軍覇に関わる暗部と木原の陰謀に巻き込まれておらず。幻想御手事件なんて噂に聞く程度で。
だけど確かに、彼らはそれらを体験した。
そしてついに、あの白い少女とであった。



これに何の意味があるのかはわからない。けれど、もしかしたら何か変わるかもしれない。

自分が生前救えなかった人々が、救われるかもしれない。



その『世界』の場面が、ただ進んでいく。

35 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/02/12 00:17:18.95 c41Wj7Ts0 22/96



ステイル「うん? 僕たち『魔術師』だけど?」

原谷「え……なんで俺!?」



神裂「………貴方は、確か。この街に七人しかいないという超能力者では?」

削板「ふん……貴様なんぞに名乗る名は無い」

上条「削板、お前、どうしてこんなところに」

削板「よからぬ根性を感じたのでな。気になってきてみたら謎の女がお前を襲っているではないか」



原谷『記憶の容量がパンクして死ぬなんてありえない!!! そりゃ間違いなくでまかせだ!!!』

上条「だけど、インデックスは実際に苦しんで!!!」

原谷『じゃあ何か仕掛けがあるんだ。俺は知らないけど、そいつらの『魔術』とやらは能力と同じように、常識外れの力なんだろ!?』

上条「…………ッ!!!」

原谷『やばいぞ上条。そのことがわかったとして、リミットはもう数分しかないんだろ!? 削板も間に合わないかもしれない!!!』

上条「俺一人だとしても………何とかしてみせる………!!」

36 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/02/12 00:18:00.29 c41Wj7Ts0 23/96






削板「間に合ったか!! かみじょ…………」



神裂「超能力者、ですか」



削板「………なんだ、この惨状は。あの少女はどうなった。この穴だらけの部屋はなんだ。上条はいったいどこにいるんだ!!!!」



神裂「ああ。かれは、しにましたよ」



削板「………………………な、に」



神裂「あの娘にかけられた魔術をかいじょしようとして、防御魔術が起動して。肉片になりましたよ」



削板「……………………………………………………あ、」








                そして 物語は         終わってしまった。

38 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/02/12 00:18:53.04 c41Wj7Ts0 24/96





上条「、     はは」



それは、残酷な現実だった。

可能性が、あると思った。自分には、あの時超能力者なんて心強い味方はいなかったから。




けれど、結果は同じ。




白き少女は救われず、そして、『上条当麻』は、……………『死んだ』。

45 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/02/13 22:51:36.06 4RQdMEo30 25/96




行間 三



少年は、白き少女と出会う。


そこが、運命の分かれ道。


彼女を救うには、彼は不幸すぎた。


きっと、数千数万数億数兆分の一の偶然でもない限り、彼女が救われ上条当麻が生きる可能性など無いのだろう。


それは、まさに地獄の底だった。

46 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/02/13 22:52:25.88 4RQdMEo30 26/96



ほんの僅かな可能性を与えられ、それを奪われた。
そのときに人は、どんな表情をするのだろう?


絶望。まさしくそう呼ぶにふさわしい、闇の底。
そのまま、静かに消える。上条当麻が再びそんなことを考えたとき。

47 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/02/13 22:53:28.04 4RQdMEo30 27/96


















がちゃん。

48 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/02/13 22:55:14.11 4RQdMEo30 28/96




 、   、 、 、 



、   。 、  
・。 。。


    、

    。        
 、/
、 。      
・・ 
 !?   ?

   /
                      




   !  







          !!!!!

49 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/02/13 22:55:48.91 4RQdMEo30 29/96






再び歯車は、回り始める。


くるくる、くるくる。




何度でも、何度でも。

50 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/02/13 22:56:42.69 4RQdMEo30 30/96




査楽「………貴方とは、ただの親友でいたかったのですがね」

上条「テメェ、いつから『暗部』なんてところにいた」

査楽「最初から、ですよ。中学生になって貴方と親交を深め、青髪ピアス君と仲良くなる、ずっとずっと前から」

上条「なんでお前みたいな奴が!? 自ら望んで人を殺すわけないだろ!!!」

査楽「お仕事だからですよ」

上条「おしご………なんだって?」
査楽「ああ、この際白状してしまいましょうか。私はこの学園都市で育ったわけではありません。『イギリス清教』という組織を貴方は知らないでしょうが―――私はそこのスパイなのですよ」

上条「学園都市の、『外』ってことか」

査楽「ええ。もっとも私は魔術より超能力の方が適正があったようですがね」



そして   世界は   終わってしまった。

51 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/02/13 22:57:20.85 4RQdMEo30 31/96






フィアンマ「これからお前には、学園都市に行ってもらう」

上条「学園都市ィ? なんでローマ正教魔術師たる上条さんがあんな科学の総本山に」

フィアンマ「スパイ、という奴だな。まあ安心しろ。向こうのトップには話はつけてある」

上条「……それはスパイって言うのか?」





そして   世界は   終わってしまった。

52 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/02/13 22:58:09.02 4RQdMEo30 32/96






トール「かっみじょっうちゃーん! 次の目的地は学園都市だぜ!」

上条「学園都市……超能力の街だっけ。そこにお前のお眼鏡に叶う能力者がいたのか?」

トール「おう! 『超能力者』って呼ばれる七人しかいないすげー強い奴らがいるらしいぜ」

上条「良かった良かった。いい加減お前とばっか戦うのも飽きてきたところだしな」

トール「俺はあきねぇけどな。まあたまには関係ない連中と戦って広い視野を持つことも大事だと思うわけだ」

上条「おお……トールがまともなこと言ってるっぽい」

トール「なにおう。上条ちゃんだって俺と大差ないバトルジャンキーの癖に」

上条「俺は人助けがメインですぅー。お前と二人で世界を旅してるのも強敵にあいに行く為じゃありませんー」

トール「またまたぁ」





そして   世界は   終わってしまった。

53 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/02/13 22:58:35.88 4RQdMEo30 33/96







がちゃん。



がちゃん。



がちゃん。

54 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/02/13 22:59:31.97 4RQdMEo30 34/96






上条「ハッ……ハッ……!!」

乙姫「遅いよおにーちゃん! そんなんじゃ『竜神流』の名はシュウメーできないよ!!」

上条「んなもん継ぐ………つもりはなああああああああい!!」

乙姫「、あっ!」

上条「ハァ……ハァ……一本、だ。流石に木刀吹き飛ばされて首筋に刀添えられたらどうにもならないだろ」

乙姫「この体勢、おにーちゃんが私のこと押し倒してるみたいじゃない?」

上条「何言って……ッ!!」

乙姫「甘いよ、おにーちゃん。私を完全に抑えたかったら、全裸に剥いて手足を押さえて口付けするくらいじゃないと!」

上条「やかましい! 学園都市に行く前に、一度でもお前と母さんに勝つんだよ!」

乙姫「むりむりであります軍曹! 詩奈さんは私の五倍は強いよ?」

上条「やってみなきゃわかんないだろ!」





そして   世界は   終わってしまった。

55 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/02/13 23:00:25.90 4RQdMEo30 35/96






麦野「………よぉ」

上条「……こ、こんにちは」

麦野「…………」

上条「…………」

絹旗「え、なんなんですかこの空気。超不自然なんですけど。麦野が超珍しく気まずそうなんですけど」

麦野「………別に」

フレンダ「むむ……偶然ファミレスで出くわした二人が出す雰囲気じゃない訳よ。もしかして元カレ」

麦野「フレンダ減給な」

フレンダ「ノォーーーーーーーー!!!?」

絹旗(滝壺さん、どう思います?)

滝壺「あの人この前麦野と二人で街を歩いてるの見たことあるかも」

麦野「アァン!?」

絹旗「滝壺さぁああああああああああん!? 小声で話しかけた意味わかってますぅうう!?」
 



そして   世界は   終わってしまった。

56 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/02/13 23:01:24.05 4RQdMEo30 36/96






上条「………………」

砂皿「……精度が甘いな。肉で支えるな。骨でライフルは支えろ。お前は成長期なのだから日々変わっていく感覚に慣れろ」

上条「……了解」

ステファニー「はぁー、がんばってますね上条さん。わざわざあの砂皿さんが弟子と認めるだけはあります」

砂皿「……貴様はまだ認めた覚えは無いのだがな」

ステファニー「いやん手厳しい。認めてもらうためには親交を深めるしかありませんね、お茶しましょうよ」

砂皿「今は上条の狙撃を見ているところだ」

上条「いやホント……俺のことは一旦良いんで行ってください砂皿さん」

上条(こんなとこでイチャつかれても困る)

ステファニー「お、上条さんのそういうとこ私好きですよ。砂皿さんほどじゃないですけど」

砂皿「………何を言ってるのか貴様は」

上条(くそおおおおおおおリア銃焼けろおおおおおおおお)

ステファニー「お、ナイスショット」





そして   世界は   終わってしまった。

57 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/02/14 01:16:38.69 2SH1cajq0 37/96



幾千幾億無限の、流れる軌跡の中で。
本当の彼の姿は、見逃すことすら出来ずそこにあった。


どこの世界で、どんな行為をしたとしても、上条当麻は『上条当麻』であり、だからこそ、その運命をたどった。
不幸を呼び、学園都市に入り、白き少女に出会う。
そして、物語が終わる。


明けることの無い黒い空で、目覚めた世界の続きが。
例え違ったとしても、それぞれの歌が聞こえる。


例えば、真実を知るタイミングがずれて彼女の仕掛けに気付かなかったり。
例えば、歩く協会が壊れるのが早すぎて致命傷になってしまったり。
例えば、彼女を救う為の治癒術式が使える人がいなかったり。
ほんの少しのずれで、どんなに心強い人が味方にいても、どんなに自身が能力があっても、彼女を救えない。そんなことがいくらでもあった。
けど、それぞれの世界で上条当麻は、それぞれの違った人生を謳歌していた。

58 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/02/14 01:20:41.90 2SH1cajq0 38/96



一度きりの旅だから。自分だけの旅だから。
それぞれの世界で好きなことをして、好きなものを集めて。間違ってもよくて。


彼らは、それが唯一無二の人生で、例えどこで幕が下りたとしても、それはかけがえの無いものとなる。
それが間違っていても、それが狂っていても、どこまでも己の信じるがままに。





彼は、上条当麻は、ただ眺めていた。


無限の可能性にあふれた、『上条当麻』の未来。
例えそこに救いは無くとも、白き少女を救えなくても、ただただ静かに。

59 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/02/14 01:22:05.95 2SH1cajq0 39/96


インデックスが救えず物語が終わるたびに、彼は少し落胆する。

また、この世界でも駄目だったか。と。

けれどまた新たな世界が始まり、そこに希望を託す。

今度こそ、成功するかもしれない。

いろんなことを知った。
学園都市の暗部。統括理事会の裏側。平和そうに見えた街の真の姿。科学サイドという区切り。魔術師という生き物。十字教三大宗派という組織たち。それぞれに所属する魔術師。兵器と並び称される力。原石。聖人。超能力者。王族。衛星。天使。駆動鎧。儀式場。龍脈。AIM拡散力波。核兵器。グレムリン。原典。ファイブオーバー。天使の力。原罪。全体論の超能力。

数多の世界の中で、『上条当麻』が触れ、そして感じたものは全て上条当麻に集約されていった。



それでも、『上条当麻』がインデックスを救える世界はなかなか現れない。



それでも、上条当麻は『上条当麻』の観測を続ける。


忘れない、その世界を。
忘れない、その痛みを。
ああ、感じていたいんだ。
連なって輝く、止めても溢れる。
その、愛と奇跡に溢れた世界を。

60 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/02/14 01:29:09.00 2SH1cajq0 40/96



                   。    。   、 。
        、 ・・  。 、 。   !
 
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!

61 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/02/14 01:29:42.97 2SH1cajq0 41/96















「―――――ええい! くそっ! くそっ! あーもうちくしょー不幸すぎますーっ!!」


「オマエ、本当についてねーよ」


「空はこんなに青いのにお先は真っ暗♪」



これは。

62 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/02/14 01:30:32.75 2SH1cajq0 42/96



「誰がどう聞いても偽名じゃねーか!」


「この右手で触ると……それが異能の力なら、原爆級の火炎の塊だろうが戦略級の超電磁砲だろうが、神の奇跡だって打ち消せます、はい」


「おい! ……なんか困ったことがあったら、また来ていいからな」




この世界は。




「じゃあ、マジメにやっても良いんかよ?」


「……地獄の底から、引きずり上げてやるしかねーよなぁ」


「たった、それだけなんだろ?」


「テメェは、その手で誰を守りたかった!?」


「……どうして、たった一人―――――苦しんでる女の子を助けることもできねーのかな」




よく似ている。

63 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/02/14 01:31:14.07 2SH1cajq0 43/96



「……、ゴメン」


「俺、強くなるから。もう二度と、負けねぇから。お前をこんな風に扱う連中、全部残らず一人残らずぶっ飛ばせるくらい、強くなるから…、」


「……待ってろよ、今度は絶対、完璧に助け出してみせるから」




あの世界に。最初の世界に。まるで、寸分違わず。




「主人公気取り、じゃねぇ―――――」


「―――――主人公に、なるんだ」

けれどそれは。残酷な道標。

64 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/02/14 01:32:04.89 2SH1cajq0 44/96








「―――――手を伸ばせば届くんだ。いい加減にはじめようぜ、魔術師!」






違う。


違う。


自分は、魔術師を味方になど付けられなかった。

自分は、炎の巨人の加護を受けることは出来なかった。

自分は、黒い剣客の魔法名を引き出すことは出来なかった。



これは。まさか。




もしかして。

65 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/02/14 01:32:34.36 2SH1cajq0 45/96







(―――――――まずは、その幻想をぶち殺す!!)





彼の右手は、魔方陣を貫いた。

だけど、そこまでは同じ。

降り注ぐのは、あの『悪夢』。



白く美しい、輝かんばかりの羽。

66 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/02/14 01:33:35.83 2SH1cajq0 46/96



『上条当麻』の右手を使えば、簡単に防ぐことができるだろう。
けれどそうすれば、インデックスに降り注ぐ。そんな位置。




また、物語が終わってしまう。



また、





また、







『上条当麻』は、避けなかった。

白き羽からインデックスを守るように、倒れこみ、そして、数十の翼をその身に受け。






この夜。
『上条当麻』は『死んだ』。






そして   物語は   終わってしま

67 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/02/14 01:34:10.59 2SH1cajq0 47/96











                                !







                                !!!








『終わっていない』。


その物語はまだ、終わっていなかった。

68 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/02/14 01:34:39.90 2SH1cajq0 48/96




上条「…………え、」


上条当麻は、歓喜より先にまず、困惑する。

どうして、なぜ、なんで。

世界が終わる条件は二つ。
『上条当麻』が死ぬ。もしくは、『インデックス』が死ぬ。
この世界では、『インデックス』は生きていた。けれど『上条当麻』は死んだはずだ。
なのに、何故世界が続く?

その疑問はすぐさま解決した。

69 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/02/14 01:35:17.01 2SH1cajq0 49/96






「君、本当は何も覚えていないんだろう?」




そう、『上条当麻』は紛れも無く『死んだ』のだ。
今までの人生を全て消去する。そういう手段を持って。

70 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/02/14 01:35:44.67 2SH1cajq0 50/96








「―――――心に、じゃないですか?」





だけど続く。
『上条当麻』は、まだ『生きて』いる。

71 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/02/14 01:36:11.00 2SH1cajq0 51/96





そこから先は、無限の世界を観測してきた上条当麻にとって、完全に未知の世界だった。

77 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/03/15 01:29:41.68 ViM3KRM00 52/96






そうしてまた、物語は進む。





その『血』を持つ少女と『上条当麻』は他の世界でともに戦ったことはなかったが、相手の錬金術師には見覚えがあった。
ローマ正教の深部にいながらも、『誰か』を救う為に本を書き続けていた青年。


そしてその『誰か』を、『上条当麻』は他の世界線で知っていた。


『彼女』を救う為に彼の手にした力は、あまりにも強大。
その力に『上条当麻』は成すすべも無く殺されかけた。

78 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/03/15 01:30:47.60 ViM3KRM00 53/96

そして、彼の、上条当麻の身体に不思議な現象が起きる。


歯車が回るような感覚。
歯車がはまるのではなく、はまった歯車が動き出す感覚。


どこか世界を超えるときと同じ、けれど世界を超えるときと違う。





気付けばその世界に顕現していたのは、『龍の顎』だった。

79 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/03/15 01:31:33.58 ViM3KRM00 54/96



―――――――――――――――


上条(…………あれは、幻想殺し………なのか?)


上条当麻は、その世界を観測しながら自問する。
あのとき現れた龍の顎は、間違いなく自分だ。あの感覚、既に世界から消えた今でも鮮明に思い出せる。
自分が闇から観測を続けながらも、自分が光の中で錬金術師を食い荒らす感覚。
つまり、この自分、上条当麻が世界に干渉したということ。

上条(ここから見るだけじゃない)

上条は、思う。

上条(ここから、向こうを助けることができる)

しかし思い返す。あの世界へ自分が顕現したときの自分を。
それはまるで、伝説に名を刻んだ悪龍のようであり、また、自分が自分でなくなるような。そんな感覚。

上条(今はまだその時じゃない)

けれど、いつか必ず役に立つことが、ある。




上条当麻は、再び観測を続ける。

80 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/03/15 01:32:06.27 ViM3KRM00 55/96

その物語は彼から見ても壮絶なものだった。
知り合いの『超能力者』を助ける為に、『上条当麻』は学園都市最強の怪物と戦っていた。
海の家で、世界を滅ぼしうる魔術のために、クラスメイトと死闘を演じていた。
八月三十一日に、敵を好いてしまった魔術師と殺し合いをして、誰かを救おうとした魔術師と協力していた。
『ともだち』を助ける為に、戦争を起こそうとした魔術師と戦っていた。
おっとりしたシスターを助ける為に200人と20億人を敵に回していた。
常盤台の知り合いの後輩を助けていた。
大覇星祭で、基準点を見失った魔術師を倒していた。
イタリアでかつての敵を助ける為に艦隊へ乗り込んでいた。
『ともだち』を助ける為に、弟を失った姉をぶっ飛ばしていた。
クラスのみんなとすき焼きを食べて、知り合いの母親を助ける為に下っ端面と殴り合って。
フランスでは20億を束ねるトップの魔術師達の一角の陰謀を砕いていた。
日本特有の魔術師たちとともに、二重聖人と激突していた。
イギリスでは未来を憂いた王女のクーデターを妨害していた。

そして、今。




『上条当麻』は、世界を救う男と敵対した。

81 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/03/15 01:32:47.19 ViM3KRM00 56/96

――――――――――――――――――――――――――――――――

「世界中の人間を救う、ね」

フィアンマの想像できる範囲のみの幸福で、世界中を覆ってしまう。
それ以外の価値観は一切認めない。
そういった世界。
ある意味においての理想郷。
幸福以外が絶滅した惑星。

「お前、『世界中』なんていうものを、本当にくまなく見て回ったことなんてあるのか? そこでどれだけの人が笑っているのか、見たことはあるのか?」

「なるほど、興味深い意見だ」

ニヤリ、とフィアンマは笑う。


「だが、そいつは世界を救ってから考えることにしよう」

82 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/03/15 01:33:25.29 ViM3KRM00 57/96



直後だった。


真下から真上へ巨大な剣が跳ね上がった。

それは上条の右の脇の下を潜る形で、一気に右肩へと向かって行った。

回避する時間も、受け流す余裕も無かった。

トン、と。

信じられないほど軽い音と共に、上条当麻の右腕が肩の所から切断された。

――――――――――――――――――――――――――――――――

83 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/03/15 01:33:56.92 ViM3KRM00 58/96

右方のフィアンマ。
十字教最大勢力『ローマ正教』の最終兵器『神の右席』のリーダーにして『聖なる右』を持つ男。

彼が目指したのは、『世界』の救済だった。

『上条当麻』が経験してきた世界線に、彼と共に過ごす世界があった。
彼はとても純粋で、真っ直ぐで、何色にも染まっていなくて。

だからこそこの世界で彼は、世界を変えようとしたのだろう。
それはもう、成ろうとしている。
世界を変えるのはかまわない。上条だって、結末を変えるために何度も世界を繰り返している。

だけど、その結果導かれるのは、『上条当麻』と『インデックス』の死。

上条「それは駄目だ」

なぜなら、それが彼という、上条当麻というモノの存在理由。

その少女を救えなかった。
その少年は救われなかった。
だから生まれた、亡霊のような、自縛霊のような存在。

なら、その使命を全うする。それが彼の生きる理由。彼が目指したモノ。

84 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/03/15 01:34:22.56 ViM3KRM00 59/96





ゾゾゾゾゾゾゾぞゾゾゾゾゾざザザザザザザザザザザザざザザザザザざザザザザザ!!







上条当麻が、顕現する。

85 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/03/15 01:35:11.02 ViM3KRM00 60/96

――――――――――――――――――――――――――――――――――


『上条当麻』の奪われた右手は、最早なんの価値も無い。

『幻想殺し』を飲み込み、世界を丸ごと救済できるだけの、右方のフィアンマの右手。それすら見劣りする、霞んで見える。


それほどの、『透明な、何か』。


上条(ここで終わらせるわけには行かない)


自らが変わっていく感覚。
薄く身体を切り取られていくような、消失感を伴う顕現。

それでも、上条当麻はためらわない。


上条(俺は、上条当麻だから、『上条当麻』の物語を終わらせるわけには行かない!!)


圧倒的な、存在しないはずの質量をともない。


空気を歪め、『それ』は顕現する。


それは、右方のフィアンマに危機感を抱かせるには十分すぎる力で。

86 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/03/15 01:35:49.99 ViM3KRM00 61/96











ボンッッッ!!!!!!!

『上条当麻 は、自らの力で、 上条当麻』を握りつぶす。

87 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/03/15 01:36:23.21 ViM3KRM00 62/96

棒立ちの上条の肩口に集約しつつあった莫大な力を、さらにその上から現れた別の力が巨大な口のように開き、丸ごと飲み込んでしまったのだ。

まるで、咀嚼するかのように。

肩口付近の空気は、砂糖水のように揺らいでいた。



あれだけの力が。
ほんの一瞬で。
粉々に。

88 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/03/15 01:37:32.78 ViM3KRM00 63/96




「……『テメェ』が」


ぼそり、と。
上条の唇が動いた。



「『テメェ』がどこの誰かなんて知らねぇ」



決して大きな言葉ではない。

にも拘らず、『上条』の耳の置くまで突き刺さった。



「『テメェ』が何をやろうとしていたのかも知ったことじゃねぇ」



上条は、『神の右席』でも最強の力を持つ、右方のフィアンマを見ていなかった。
彼が『何』に対して声を放っているのか、それすらも分からなかった。



「ただ」



それは、上条当麻にしか理解できなかったのかもしれない。

とにかく彼はこう告げた。





「……ここでは黙ってろ。こいつは俺が片付ける」



89 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/03/15 01:37:58.89 ViM3KRM00 64/96












『上条当麻』は、その身を再び闇へと舞い戻らせた。

90 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/03/15 01:39:04.56 ViM3KRM00 65/96

つまり、簡単なことだったのだ。


上条当麻は、『インデックス』と『上条当麻』を救う為に、その『世界』に生まれ。


そして、それらが一度救われ物語が続いた今、彼は存在理由をなくしていたのだ。


彼がいなくても、物語は進んでいく。


彼がいなくても、世界は続いていく。


最早巻き戻す必要はない。世界は、彼の望んだ『次の世界』に進んだのだ。


世界がしあわせになる条件を一つずつ試して、思いのままなんて行かなくて、完全に運任せで。


そうしてようやく辿り着いた、『しあわせな世界』に、それを永劫の時とともに生み出した彼の居場所なんて、どこにもなかったのだ。




「………なんだ」



そうして。

自分が何か、それすらわからなくなった元少年は。

無限の時間をかけて、悠久のときを超えて孤独に。


ただ二人の人間を救う世界を見届ける為に存在し続けた、孤独な世界の観測者は、そっと告げた。

91 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/03/15 01:39:31.21 ViM3KRM00 66/96

















「なら、もう、大丈夫だな」

92 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/03/15 01:39:56.37 ViM3KRM00 67/96




そう、物語は、進んでいく。

93 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/03/15 01:47:00.89 ViM3KRM00 68/96


行間 四


やることはやった。


もうやることはおわった。


もうやるべきことはなかった。


もう役割は既に終わってしまったのだ。


握り締めた拳を向ける先は、もうどこにも無い。


それは、いつかどこぞの魔神が体験したのと同じ。


孤独。疎外感。彼は、本当の虚無を手に入れた。

94 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/03/15 01:47:37.15 ViM3KRM00 69/96

何かやるべき事があるうちは、まだ、いいのだ。


例え楽しくなくても何かに向かって進めるから。


けどもう辿り着いてしまったというのなら。


なにもなくなってしまったのなら。


本当の『不幸』に他ならない。


だから、『上条当麻』は。


そして『上条当麻』は。


握った拳を―――

95 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/03/15 01:48:51.55 ViM3KRM00 70/96

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「俺はテメェと違って、人間の強さってヤツを信じてる」


「魔術結社だよ。『明け色の陽射し』」


(世界に住むものがその世界を守ることなど、考えてみれば当然のことであったか)


「守るべき者がいれば剣を取れ、ですね」


「みんなが思っているより、あの連中も腐ってはいないってことなのよん」


「まだ戦える。希望ある明日への道を開くためにも、ここで留まる訳にはいかん」


「それで構わない。その間にあの忌々しい男が方を付ければ、それで僕たちの勝ちだ」


「これで、俺様の勝ちだ」

96 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/03/15 01:49:28.58 ViM3KRM00 71/96




「ずっと一緒にいたいよ、ってミサカはミサカはお願いしてみる」



「俺も、ずっと一緒にいたかった」



(ふざ、けるな……)



「テメェが、そんな方法でなけりゃ誰一人救えねぇって思ってんなら」






「まずは、その幻想をぶち殺す!!」

97 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/03/15 01:50:24.87 ViM3KRM00 72/96

こうして。



「俺様は、『世界中』なんていうのが、どれだけ広い場所なのかも分からん人間だぞ」



「なら、これからたくさん確かめてみろよ」



(届け!!)



(まだ、やるべきことがある)






                                           」




『いいよ』



『……まさか、最後の最後で君と共闘する事になるとはね』




物語は、

98 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/03/15 01:51:03.89 ViM3KRM00 73/96




『何だこれは……』



だが足りない。



『何でいまさら、ミーシャ=クロイツェフが浮上しつつあるんだ!?』



完璧ではない。





―――――まだ、ハッピーエンドには届かない。

99 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/03/15 01:53:29.26 ViM3KRM00 74/96



「……おい、何をしている?」

順調に進んでいたはずの『ベツレヘムの星』軌道に変化があった。
明らかに、内部にいる上条当麻が大型上昇用礼装に手を加え、自らの意思で安全なルートから外れようとしている。


北極海へと向かってくるミーシャ=クロイツェフを阻むように。


落下速度は増していた。
そんな要塞の中を、上条当麻は全力で走っていた。
降下軌道を無理やりに捻じ曲げた上条は、大天使に立ち向かうため、ただひたすらに走り続ける。


大天使が、進む。
阻もうとする魔術師たちを見向きもせず、通過するだけでなぎ払いながら。


圧倒的な力を示しながら、積もりつつある雪や流れる氷を全て飲み込み、彼女は進む。

だが足りない。

完璧ではない。

自らを完璧にする為に何も省みず進む、白く青い大天使は、


やがて、


北極海へ到達し、


同時。



真上から、『ベツレヘムの星』がそのまま落下した。

100 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/03/15 01:54:19.94 ViM3KRM00 75/96

ズズン!! という轟音と共に、大天使ごと巨大な要塞が海へと落ちた。

沈み行く要塞の中を、上条はさらに下へ下へと全力で向かう。

莫大な重圧に耐えられず、要塞内部の壁や柱が次々とつぶれていった。

極寒の海水が流れ込んでくるが、上条は気にも留めない。ひたすらに下へ。底へ。海抜0メートル以下まで落ちていく。

もはや照明すらなかった。
広がる暗闇の中、一つだけ光点があった。
青く深い、月光をイメージさせる静かな光。


上条当麻は全力で右拳を握る。


向こうもこちらには気付いている。暗闇の中で両者の眼光だけが一足先に激突した。

莫大な殺意があふれ出す中、ただの人間の少年は最後まで足を止めずに突き進んだ。

101 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/03/15 01:55:29.31 ViM3KRM00 76/96

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「―――――さて」


自らの名を失くした少年は、そっと立ち上がった。
その右手を握って。周りに映し出される青い世界を眺めながら。


「行きますか」


なんのことは無しにつぶやく。
彼はもう全てを理解していた。


存在理由の消失。顕現時の感覚。押し潰された衝撃。
これら全ての要因が、彼に一つの未来を示していた。


けれど、彼はためらおうとはしない。


幸いなことに、そこには『天使の力』が溢れてる。顕現するのに、何の問題も無い。感覚はもう掴んでる。

漆黒の世界から、彼は一歩踏み出し、

102 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/03/15 01:55:57.26 ViM3KRM00 77/96







「まあそうあせることもあるまい。若人よ」

103 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/03/15 01:56:52.55 ViM3KRM00 78/96

そこに、突然でもなく。さも当然のようにいた。
その老人の名はわからない。ただ、彼は普段、自らを『僧正』と名乗る。


「………なんだ。誰かいたんだったら最初から声をかけてくれればよかったのに」


「いーや、ここで逢えたのは偶然じゃよ。ここは巡り合うのは運任せだからのぉ。ただでさえお主は特殊な魔神だというのに」


「……初めてこの世界で誰かに会えたのはいいけど、俺は今から行かなくちゃならないんだ」


「どうなるか理解しているのか?」


「何のことやら  さんにはさっぱりですね」


「お主は先程も述べたとおり特別な魔神じゃ。どこかの宗教に拠ったわけでも、特殊な儀式を積み重ねたわけでもない。それこそ那由多不可思議無量大数分の一のような可能性の『偶然』で成った、不完全でありながら完全な魔神。その分やれることも限られておるがね」


「だから?」


「お主は本来、実存世界への干渉は出来ない。出来るのは、定めた理に従い無限の世界を己の意思と関係なく生み出すのみ。それがお主の魔神としてのあり方。
 いうなれば、観測者の魔神といったところかのう」


「観測者……しっくりくるな」

104 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/03/15 01:58:08.68 ViM3KRM00 79/96


「だからこそ、お主が観測を止め、そのまま実存世界に干渉すればどうなるか、わからないことはあるまい」


「魔神としての存在価値の消滅」


「如何にも。その先にあるものは、そもそもの命の断絶じゃ。ただの魔神ならばそんなことはないのだがね。お主は違う」


「だからって、ここで行かなきゃ一生後悔する」


「一生、面白いことを言う。お主にとって最早『一生』など滑稽なものに過ぎんというのに」

「それでも」



「……」


「それが、『俺』の存在理由だから」


「……」





「じゃあ、また。いつか逢えたら」


そう言って、最期。

『上条当麻』は、漆黒の世界から姿を消した。

105 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/03/15 01:59:30.64 ViM3KRM00 80/96



「……ふぅ、やれやれじゃのう」


「「僧正」。どうやら引き止めには失敗したようね」


「うーむ、なかなか素質のありそうな男だったんじゃがのう。我々『グレムリン』の良いメンバーになってくれただろうに」


「……『上条当麻』。「僧正」がそこまで気にかけるものではないと、正直私は思うのだけど」


「そう思うならそう思ってもいいぞ。ありゃあある意味とても不完全じゃ。『上条当麻』も「上条当麻」ものう。それは我々にも言えることなのじゃが」


「だけど、仮にも魔神。現実世界に干渉して大丈夫だったのかしら?」


「そこらへんは……まあ彼じゃしなんとかなるじゃろう」


「楽天的ね」


「そうでもない。「ネフティス」よ。彼は最早『魔神』であることは無理じゃろう」


「けれど、だからといって影響が無いわけじゃない」


「微々たる物じゃ。むしろ、「上条当麻」を生かすという意味であれほど適した存在もおらぬよ」


「…………位相を好きに動かすことも、世界を動かすことすら出来ない。けれど完全な偶然でそこに至った魔神」




「そうとも。まさしく、我らの持つ『無限の可能性』だとは思わんかね?」



―――――彼はもう、魔神どころか何者でもなくなったというのに。

そういうと、二人の距離は、永遠に離れた。

106 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/03/15 02:00:22.09 ViM3KRM00 81/96

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ここに来るまで、色々な事があった。


そもそもの始まりが記憶を失ったところからのスタートだった。とある一人の少女を悲しませないように嘘をつく事から前へ進むことにした。特別な『血』を持つ少女を助ける為に錬金術師と戦った。第三位の超能力者や彼女の妹達を助けるために、最強の怪物とも戦った。海の家ではクラスメイトの裏切り者と死闘を繰り広げた。八月三十一日にはいろんな事があった。AIM拡散力場の集合体たる『ともだち』を助けるために本物のゴーレムに立ち向かった。『法の書』を解読できるという触れ込みのシスターを助けるために十字教最大宗派にケンカを売った。常盤台中学の少女の後輩と関わった事もあった。大覇星祭では運営委員やクラスメイトが巻き込まれる事態になりながらも『使徒十字』の脅威から学園都市を守った。イタリアのキオッジアではかつて敵だった少女を助けるために氷の艦隊に突撃した。九月三十日には変わり果てた『ともだち』を助けるため、『神の右席』の女と激突した。クラスのみんなと食べたすき焼きは美味しかったし、常盤台中学の少女の母親を助けるためにスキルアウトともぶつかった。フランスのアビニョンではC文章を巡って『神の右席』と戦った。学園都市の地下街では天草式十字凄教と一緒に強大な『聖人』と戦った。イギリスのロンドンでは第二王女が主導するクーデターを食い止めた。



そして今。



長かった、と思う。



ここまで来る間の出来事は、決して楽しいことばかりではなかった。
何度も何度も他人を傷つけ、他人に傷つけられ、そんな事を繰り返してきた。

だけど。

上条当麻はまだ走れる。

それらの行動が、決して少ないくない人達を助けてこれたのだという事を知っているから。

最大の敵、大天使に向かって真っ直ぐに突き進む事ができる。

107 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/03/15 02:01:16.37 ViM3KRM00 82/96





(……確かに、この世界はいつか滅んでしまうのかもしれない。惑星にだって寿命はあるし、その前に膨らんだ恒星に呑み込まれるって事も分かっている。
 そんな風になる前に、地球の表面から生き物がいなくなってしまう確率の方が高いのかもしれない)




でも、と拳を握って突っ込みながら、上条は思う。




何も、こんな悲劇的な結末じゃなくてもいいはずだ。
そいつを食い止めるために、戦ったっていいはずだ。

108 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/03/15 02:01:42.94 ViM3KRM00 83/96









―――――ああ、『俺』もそう思うよ。



歯車が、回る。

高速で、今にも壊れんばかりに。

109 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/03/15 02:02:40.33 ViM3KRM00 84/96



(テメ、ェ、は)



そうとも、良い『人生』だった。



―――――だけど『お前』じゃ流石に無理だ。敵は純粋な大天使。満身創痍なお前が戦って、殺されないような相手じゃない。



絶望へ叩き込まれた。孤独だった。虚無だった。心が壊れそうだった。



(フィアンマに右手を落とされたとき、出てこようとした)



けれど、最後の最期で、こんな、『最高の結末』に出会えるのなら。




―――――さっきはどうも。よくも握りつぶしてくれたよな?




『上条当麻』。意味をなくしても在りようを変えない魔神は、にやりと笑う。

上条当麻の肉体の所有権を、強引に奪い取りながら。

110 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/03/15 02:03:10.58 ViM3KRM00 85/96










―――――コイツはお返しだ。せいぜいお前は生きて物語を楽しむんだな。


孤独な世界の観測者は、最期はキチンと、全部残らず一人残さず救えたのだ。

111 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/03/15 02:03:46.50 ViM3KRM00 86/96



ドン!!!!!! と、二つの影が最短距離で激突した。
同時に、落下の衝撃を最大限に伝えた『ベツレヘムの星』の巨体がグシャグシャにひしゃげ、潰れていった。
そして。

112 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/03/15 02:05:41.78 ViM3KRM00 87/96




十月三十日。
学園都市とイギリス清教。
ローマ正教とロシア成教。
二つの勢力の争いが生み出した第三次大戦は終結した。

終戦間際、北極海に要塞『ベツレヘムの星』の落下を確認。
沿岸部の各都市で若干の水の被害が確認されたが、死者が出るには至らなかった。
着水時の衝撃で同要塞は完全に崩壊。

北極海に向かっていたミーシャ=クロイツェフの反応は消失。その存在を支えていた力を失い、ただのエネルギーとなって別の位相へ帰ったものと推測される。同海域で進行していた氷の融解の停止も確認された。



同海域において、生存者の反応はなし。



十字教三大勢力の連合による捜索隊が派遣されたが、水温二度の海水の中から生存者が発見されることはなかった。

113 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/03/15 02:06:08.17 ViM3KRM00 88/96








『上条当麻』。


彼は、二度目の『死』を迎える事となる。

114 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/03/15 02:06:39.11 ViM3KRM00 89/96












蛇足・エピローグ

115 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/03/15 02:11:08.14 ViM3KRM00 90/96



そこは、学園都市のどこかだった。


別に『彼』は他の『二人』とは違いAIM拡散力場を別に好むわけでもないし、どこでも良かったのだが、『彼女たち』はそこが落ち着くというのだから仕方ない。
二対一。民主主義の原則に乗っ取り、多数決の結果彼もそこにいる。


「君もほとほと化け物だな。実際に人間どころ魔神どころの騒ぎではないわけだが」


一人の名は、エイワス。彼の伝説の魔術師アレイスター・クロウリーに『法の書』を授けたとされる守護天使。


「だけど、生きていたなら、それで万々歳だと思います……よ?」


もう一人の名は、風斬氷華。AIM拡散力場の集合体であり、科学により生み出された、天使に近い『虚数学区』への鍵。

116 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/03/15 02:11:35.33 ViM3KRM00 91/96





「そんなこといわれましても、上条さんは何がどうなったのかわからないわけでしてー」




そして、『彼』は、『上条当麻』。元人間で、元幻想殺しで、元魔神の少年。

117 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/03/15 02:12:29.81 ViM3KRM00 92/96

「ミーシャ・クロイツェフと共に北極海の海に沈み死んだかと思われていた上条当麻は、『明け色の陽射し』という魔術結社に救出された。しかしまあそこから更に厄介な問題がやって競うではあるがね」

「波乱万丈だなぁ。大変だ、上条当麻も」

「いや、完全に偶然で魔神? になって、そこから更に大天使の力が溶け込んで私たちに近しい存在になった貴方も波乱万丈具合では大差ないと思うんですけど……」

「話を聞く分に、魔神としての存在が危うくなり不安定になったところにあれだけ純粋な『天使の力』と衝突したことで、不完全ながらも混ざり合ったというところか。君の意思の介在無しにそんな事が起こりえるのか疑問ではあるが」

「うーん……もしかしたらあの魔神世界の爺さんがなんかしてくれたのかもしれないなぁ。なんか俺の事を助けようとしてくれたみたいだし」

「だけどもう、私たちみたいにAIMの流れによって現実のほうに顕現できるってこともないんですよね?」

「多分俺は存在自体がイレギュラーだからな。なんかの手段によって、みたいな決まった方法じゃ無理だと思う」

「くっくっく。しかし人間魔神天使な幻想殺しか。アレイスターが聞いたら気絶しそうな話だ」

「話すのか?」

「見たところさっきも言っていた通りweoor……現実には不干渉の存在のようだし、隠しておこう。話したら『プラン』とやらの大仰な計画をひっくり返しかねないしな」

「そりゃありがたいな。いまさら何かされても更におかしなことになりそうだ」

「次混ざるとしたら、なんでしょうか?」

「今度は科学だろうな。AIMではありきたりだから、窓の無いビルあたりと合体なんてどうだろうか」

「やめてくれ、冗談でも笑えない!」

118 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/03/15 02:13:06.53 ViM3KRM00 93/96

そうして彼は、今日も観測を続ける。

不安定で、無秩序で、非論理的で、未解決で、混沌で、同列のものが何も無い、孤独な世界の観測者となって。



それでも彼は観測を続ける。

彼が生み出した世界を。彼の居場所がなくなった世界を。

119 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/03/15 02:13:55.85 ViM3KRM00 94/96




(まぁ、別にかまわない)



同列のものは無くても、近しい存在ならいる。

自らの居場所は無くても、居場所が出来た人々がいる。

だったら、それでいい。



幻想殺しで、不幸で、死んで、魔神になって、世界を作って、世界を繰り返して、孤独で、誰かに居場所を取って代わられて、存在理由が消失して、誰かの居場所を守る為に戦って、死んで、天使になって、最後は孤独な観測者だったとしても。

120 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/03/15 02:14:24.32 ViM3KRM00 95/96











彼は、最初から最後まで、上条当麻なのだから。

121 : つつ ◆zvA12.hrTE - 2015/03/15 02:16:12.12 ViM3KRM00 96/96

おしまい。



完全に心残りは放置したことと中盤の世界を転がしてるところですね。
歌詞を違和感なく入れるために変えたら、寧ろ違和感の塊に。
もっと文章力欲しいです………

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