1 : ◆HovV1AwbQExg - 2015/02/27 00:06:17.85 KmRdaQxAO 1/9


※二次創作ではなくオリジナルです。(艦これSS等ではありません)

※数年前に某所に投稿したものです。万が一既読だった方はスルーでお願いします

2 : ◆HovV1AwbQExg - 2015/02/27 00:09:31.17 KmRdaQxAO 2/9


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ちいさな家の、ちいさな部屋。



「…ねえ、ママ。ゆき、ってなーに?」



母親の膝の上、少女は絵本から顔をあげると、振り返って、大好きな母親の顔を見上げた。


「…そっか、あなたはまだ、本物の雪を見たことなかったわね」


母親は、ほんの少し目を細めた。


「白くてね、ふわふわしててね、キラキラしてるの。小さなかけらが、お空からたくさん降ってくるのよ」

「ふーん、なんか美味しそう」

「うふふ、食べちゃダメ。とっても冷たいんだから。お腹こわすわよ~。」

母親は笑いながらふざけて、うりうりと小さな娘のお腹をつっついた。

くすぐったそうに身をよじる少女。

つんつんつんつん。

うりうりうりうり。

きゃっきゃっと笑い転げる少女。

楽しくふざけ合い、娘をくすぐる手を止めて。

母親はふと、遠い目をした。




「雪、かぁ…」





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3 : ◆HovV1AwbQExg - 2015/02/27 00:14:42.49 KmRdaQxAO 3/9

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また、あるマンションの前、車の中。



「…なあ、いい加減、うんって言ってくれよ。俺の気持ち、わかってるんだろ?」

…ばーか。
…だれが、あんたみたいなダサい男と。


必死な男の様子を横目で見ながら、女は小悪魔めいた笑みを浮かべた。

「…バッグでも香水でも、何でも欲しい物買ってやったじゃないか。一度くらい、部屋に入れてくれてもいいだろぉ?」

…うわ、ちっちゃ。
あれっぽっちの貢ぎ物くらいで、あたしを買えるつもりででもいるわけ?

サイッテー。

「…なあ、頼むよ。好きなんだ。惚れてんだよ。」

…あーやだやだ。

押し付けがましい物言いの次は、ひねりのない口説き文句。
これだから、ろくに女と付き合ったこともないボンボンは。


…でも、優しいんだよね。

お金持ちだし。

わがまま聞いてくれるし。

顔もまあまあだし。

キス、上手いし。


…やっぱ、切るには、惜しいかな。


「…また、今度ね♪」

「…今度こんどって、いつだよぉ」

「…そうねぇ…」

首をかしげる女。


「…雪が降ったら、かな♪」

「…え? それって…」





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4 : ◆HovV1AwbQExg - 2015/02/27 00:17:40.69 KmRdaQxAO 4/9

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そしてまた、別の家の重厚な和室。



「…どうだい、『雪中紅梅図』。見事な絵だろう。もちろん模写だがね。なかなか部屋の風情に合ってると思わんかね?」

「…はあ、すいません、美術には、とんとうとくて…」

…やれやれ、またか。

義父は決して悪い人ではないのだが、趣味の日本画の話になると、話が長いのが玉にキズだ。

「いかん、いかんなあ。人間、たまには、絵でも彫刻でも、時間にゆとりのある時には、芸術にひたるのも、悪くないぞ」

「…はあ、そうですね」

苦笑するしかない。

そういう義父こそ、若いときには芸術だの美術だのと無縁どころか、相当やんちゃな生活を送っていたと聞いている。

義父がプールやサウナ、温泉に行かないのは、人混みが嫌いというだけが理由ではないはずだが。

あのカラフルな背中の方が、よっぽど芸術的だと思う。

「…まあ、ムリもないか。日本画なんぞ地味なもんだし、それに…」

「はあ…」

「雪、といってもなぁ…」

「…ええ。 まあ、ねぇ…」





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5 : ◆HovV1AwbQExg - 2015/02/27 00:19:59.36 KmRdaQxAO 5/9

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また別の場所、若者たちの集うゲームセンター。



「……聞いたか?サトシの奴、あれからミユキと、しょっちゅう会ってんだってよ?」

「ふーん。それで?」

「……いまだに、手も握ってないらしい」

「……げーっ、マジで? あのヤリチ○大王が?」

「……も、完全ベタ惚れ。 なんか、クリスマスに告るんだって、プレゼント買うためにバイトはじめたらしい」

「……うっわ、マジ?」


「大マジ。こりゃ……雪でも降るんじゃね?」





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6 : ◆HovV1AwbQExg - 2015/02/27 00:24:07.00 KmRdaQxAO 6/9

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冬空の下、人々が自らを抱きかかえるようにして歩いていく。

行き交う人々の足取りは一様に早い。

うす暗い冬の街、場違いなほどに明るいクリスマスソングの音色だけが流れる。

信号待ちの横断歩道。

せかせかと足踏みを繰り返す若者。

携帯電話を眺める女子高生。

風邪でもひいたのか、ゴホゴホと小さくせき込んでいる、マスクをつけたサラリーマン。


信号が赤から青に変わり、人の波が動きはじめる。

クリスマスイヴの夜だというのに、電飾のイルミネーションも、明るいネオンも、そこにはない。


ふと、横断歩道を渡る一組のカップルのうち、女の方が、足を止めた。

何か信じられないものを見たかのように、愕然とした表情をして。

次いで、あわてたように宙を見上げ、一心不乱に空を見つめる。

男の方は、気付かずに数歩進んだ後、隣にいるはずの彼女がいないことに気が付いた。

何やってんだよ、と言いかけた声は、発せられることなく喉の奥で止まった。


彼女だけではない。

一人また一人と道行く人々が立ち止まり、皆、次々に空を見上げていく。

その上からひらひらと舞い落ちる、白い花弁に似た、きらめきのかけら。

7 : ◆HovV1AwbQExg - 2015/02/27 00:26:27.92 KmRdaQxAO 7/9




…気がつけば、異様な光景がひろがっていた。


信号はとっくに変わったというのに。

誰一人動きだそうとする気配すらない。

車に乗っていた者たちでさえ、窓を開けて空を見上げ、あるいは車を降りて、空から落ちてくる白い雪の花弁に見とれている。





一人の老紳士の目から、涙が一筋、こぼれ落ちた。






「雪、だ…」



8 : ◆HovV1AwbQExg - 2015/02/27 00:32:26.23 KmRdaQxAO 8/9





……西暦22XX年。





温暖化が急激に進み。



一時は22世紀を待たずして海に沈むのではと言われたこの島国で。



滅びを避けることは絶望的と言われながら、なお国を捨てきれず、しがみつき、あがき続けた人々。



その人々の上に、雪が降る。





50年ぶりの、初雪。





避けられぬ滅びへの道を、後戻りしはじめた最初のしるし。



母親は、はしゃぐ娘と手をつないで雪夜の散歩と洒落込み。


若者が小さくガッツポーズをした同じ頃、小悪魔は頭を抱え。


婿養子は義父と庭に降る雪を眺めながら、熱燗の日本酒を酌み交わし。


改心したナンパ師は宝物を手に入れた。




その全ての人々の上に、雪は優しく降りかかる。



誰かが、つぶやいた。




…そうとも。
俺たちが、そう簡単に、滅びてたまるかってんだ。





雪や こんこ

あられや こんこ

降っても 降っても

まだ降りやまぬ





fin.

9 : ◆HovV1AwbQExg - 2015/02/27 00:34:02.26 KmRdaQxAO 9/9

投下終了です。
お目汚し失礼しました。

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