殺し屋「ちげえよハゲ!」
ジジイ「ならばババアというのか!?」
殺し屋「それもちげえ!」
ジジイ「なんじゃと!」
殺し屋「あるだろレオンっつー映画とかよ!」
ジジイ「ほほーう。そういう趣味かロリコンか」
殺し屋「い、いやそういうわけじゃねえけど」
ジジイ「この年でロリ服はつらいんじゃが仕方ないのう」
殺し屋「やめろ着替えるな気色悪い! つーかなんでんなもん持ってやがんだよ! 殺すぞ!」
元スレ
殺し屋「殺し屋との良コンビっつったら」ジジイ「ジジイじゃな」
http://hayabusa.open2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1422854922/
……
路地裏
男「はぁっ、はぁっ……! 死にたくない……!」
男「誰か、誰か……! 助けてくれ……」
殺し屋「お前が騙して死なせた奴らも同じことを考えてたんだろうさ」
男「ひっ!」ズザ!
殺し屋「さんざ他人を踏みにじっておいて自分だけ無事でいられるわけがねえって、少し考えりゃわかんだろうが」
男「う……」
殺し屋「ま、俺も偉そうなこと言えた立場じゃねえけどな。いやマジで。それはいいか」
殺し屋「やっと追いついた。死んでもらうぜ」
男「……誰に頼まれた?」
殺し屋「アホか、お前に死んで欲しい奴にだよ。テメエで思い出せ」
男「消耗品の殺し屋風情が……」
殺し屋「ああ、超高級な鉄砲玉さ」
男「く、来るな!」
殺し屋「行かなきゃ殺せねえだろ馬鹿」
男「うわ、うわああ!」
「なんじゃ騒々しい」
殺し屋「!?」
ジジイ「人が気持ちよく寝ておる時にまったく」
殺し屋(しまった見られた!)
男(! 今だ!)ダッ!
殺し屋(チッ、クソが!)
ジジイ「なんじゃなんじゃ?」
殺し屋(早く追わなきゃなんねえけど……)
殺し屋「おいジジイ」
ジジイ「あん?」
殺し屋「今、何を見た?」
ジジイ「はあ? 何をって、何のことじゃ」
殺し屋「ならいい」
ジジイ「小僧が小僧のタマぁ取ったるなどと騒いどる現場しか見とらんぞ」
殺し屋「……よくねえな」
殺し屋「いいかジジイ、てめえには二つ選択肢がある」
ジジイ「ふむ?」
殺し屋「今ここで死んどくか、今ここで見たことを死ぬまで黙っとくかだ」
ジジイ「基本的にしゃべくってはならんということじゃな」
殺し屋「そうだ」
ジジイ「老い先短いが殺されるのは嫌じゃ。しかししゃべくるなと言われるとつらいものがあるのう」
殺し屋「俺は殺し屋だ。もしてめえが話を広めれば俺は必ず見つけ出して始末する。はったりと思うんじゃねえぞ」
ジジイ「ふむ、努力はしてみよう」
殺し屋「そうしとけ。じゃあな」
殺し屋「さて」
殺し屋(こっち……いやこっちだな)
殺し屋(そう遠くには逃げられねえだろ。お仲間のとこにでも潜られたら厄介だが)
殺し屋(まあ力づくで片付けることに変わりはねえし今考えるのも意味ねえか)
殺し屋「さっさと見つけて終わらせるに限るな」
ジジイ「うむ、そうじゃな」
殺し屋「!?」
ジジイ「なぜ殴った! ジジイは殴るなと教わらんかったのか!?」
殺し屋「うるせえどっから湧きやがった!」
ジジイ「普通についてきただけじゃ! お主殺し屋のくせに気づいとらんかったのか!」
殺し屋「ぐ!」
ジジイ「失格じゃ失格じゃ殺し屋失格じゃ! おっかさんの子袋からやり直せい!」
殺し屋「こ、の、言わせておけば!」
ジジイ「お、殺すのか? 殺すんじゃな?」
殺し屋「ったりめえだ! ここで始末してやる!」
ジジイ「悲しいのう恐ろしいのう、ここで始末されれば死体が残って周りに迷惑が掛かってしまうしのう」
殺し屋「……」ピク
ジジイ「きっと人目につくのう厄介ごとになるのうそうならないための工作は時間がかかって本来の標的には逃げられてしまうのう」
殺し屋「うぐ……」
殺し屋「チッ……!」
ジジイ「おや殺さんのか?」
殺し屋「……」
ジジイ「ふむ」
殺し屋「……なんでついてくるんだよ」
ジジイ「目撃者は手元に置いといた方が都合がよかろ?」
殺し屋「なんで俺目線なんだ」
ジジイ「いやなんつーかわし、やっぱさっきのを言いふらさない自信がないし」
殺し屋「はあ?」
ジジイ「お主の姿が見えなくなれば緊張が薄れてうーっかり誰かに話してしまうかもしれん。だがついていけばノープロブレム。オーケー?」
殺し屋「むちゃくちゃだろおい」
ジジイ「いいからいいから、急がんと逃げられるぞ」
殺し屋「お、おう」
川岸
ジジイ「ここか? 間違いないか?」
殺し屋「ああ」
ジジイ「誰もおらんぞ」
殺し屋「逃げられたんだ」
ジジイ「ふむ、船かなんかでも使われたか」
殺し屋「くそ!」
ジジイ「己の未熟を悔やみ、殺し屋は足元の石を蹴り飛ばすのであった」
殺し屋「お前が邪魔してこなけりゃ全部うまくいってたんだ!」
ジジイ「不測の事態に対応できずに殺し屋稼業はできんぞ」
殺し屋「ああその通りだよ不測のジジイがあああ!」
ジジイ「これこれそんなに絞めてはぽっくり逝ってしまうじゃろうが」
殺し屋「うるせえそのまま逝っちまえええええ!」
街中 昼
殺し屋「……」
ジジイ「どうしたブスーっとした顔をして」
殺し屋「自覚がないなら本当に殺す。もう後先考えずに殺す」
ジジイ「自覚? あるに決まっとろうが馬鹿かお主は」
殺し屋「やべえうっかり殺すとこだった。いや殺せばよかった。なんでだよ俺の理性……」
ジジイ「理性は人類の宝じゃ落ち込むな」
殺し屋「ボスにどやされた。何としてでも見つけて殺せと」
ジジイ「手伝おう。元はと言えばわしのせいじゃ」
殺し屋「……」
ジジイ「なんじゃ? 遠慮はいらんぞ」
殺し屋「はあ……」
港 倉庫の一つ
殺し屋「この中だ」
ジジイ「特定がクソ早いのう」
殺し屋「匂いだ。分かる」
ジジイ「ふむ?」
殺し屋「俺は殺ししかできねんだよ。代わりに殺しのことならなんでもできる」
ジジイ「……」
殺し屋「入るぞ」
ドグシャアアアンッ!
男「な、なんだ?」
殺し屋「よう、しばらくぶりだな」
男「な、なぜここが!? こんなに早く!」
殺し屋「説明するのは実は好きだけどよ、別に聞きたくねえだろ」
男「く!」ジャキ!
ズキュウゥゥンッ!
男「……」
殺し屋「ふん」
男「が……っ」ドサ……
ジジイ「ほほう、先を取られてなお余裕で撃ち殺せるとはのう」
殺し屋「言ったろ。殺しのことなら何でもできる」
ジジイ「若いもんの虚言妄言ではなかったっつーことか」
殺し屋「いやつーか動じねえなジジイ」
ジジイ「浮浪者なんぞをやっとるとな、荒事や死人は見飽きるほど見ることになるんじゃよ」
殺し屋「ふうん。そんなもんか? まあいいや、任務完了だ」
夕方 ファミレス
殺し屋(死体の始末はつけてボスへの報告は済んだ。さて……)
ジジイ「うひひひ、こんな分厚い肉は何年ぶりじゃろか! とんまな殺し屋様様じゃー」
殺し屋(こいつはどうすっかねえ……)
ジジイ「ハフッハフッ! うんまいのう! そこの姉ちゃんフライドポテト追加しとくれい!」
殺し屋「なあ」
ジジイ「お、姉ちゃんよく見たらすんごいべっぴんさんじゃのう。わしと一夜を誤ってみんか?」
殺し屋「なあおい」
ジジイ「駄目? いいじゃろ少しぐらい。ちょっと出し入れさせてもらうだけでいいから。何をとは言わん」
殺し屋「聞けや色ボケジジイ」
ジジイ「うるさいぞ小僧っ子! わしのパイルバンカーが久しぶりに仕事したいとわめいとるんじゃから黙っちょれ!」
殺し屋「うっわ引く。いいから聞けよジジイ」
ジジイ「ったく、なんじゃ?」
殺し屋「単刀直入に言うぞ。俺はてめえの扱いに困ってる」
ジジイ「わしってじゃじゃ馬?」
殺し屋「ちげ……くもないか?」
ジジイ「問題ないじゃろ、おなごはそれぐらいでないと」
殺し屋「女じゃねえのが問題だろ」
ジジイ「わしは男でも問題ないが」
殺し屋「え。うわ。寄るなどっか行け」
ジジイ「……」ジリ
殺し屋「それ以上近づいたら今度こそマジで余裕なく殺す」
ジジイ「つれないのう。わしの扱いに困るじゃと?」
殺し屋「てめえには見られたもんが多すぎんだよ。あー……どうしたもんかなあ」
ジジイ「殺せばよかろ。つーかなんで殺さんかった」
殺し屋「ひょうひょうと言いやがるな。いやちょうどいいタイミングがなかったんだって」
ジジイ「あったじゃろ。あの港の倉庫でターゲットと一緒に始末すりゃよかった」
殺し屋「……」
ジジイ「あれか? 殺し屋のくせに殺しは嫌いか? それとも無駄殺しはしないっつー無駄プライドか?」
殺し屋「殺し屋じゃねえ奴には分かんねえよ」
ジジイ「『殺し屋じゃねえ奴には分かんねえよ』」
ジジイ「聞いとりましたかそこの奥さん! こいつ患っとりますよ重篤ですよ!」
殺し屋「うるせえ!」
殺し屋「いいか、殺しってのは需要がある割にリスクがでけえんだよ。おいそれとできるもんじゃねえしするもんでもねえ」
殺し屋「だから無駄な殺しはボスが怒る。うちの会社つぶす気かって」
ジジイ「会社?」
殺し屋「殺しを請け負う裏会社」
ジジイ「はー、最近はそんなもんがあるんじゃのう」
殺し屋「世も末だろ」
ジジイ「いやむしろ始まっとるのかもしれん」
殺し屋「殺しを商売にするなら大勢で協力分担したほうが効率がいい。だが小さなミスで全員終わることもある」
殺し屋「だからミスの元になりやすい無駄な殺しはするなってことさ」
ジジイ「くそうわしは無駄か」
殺し屋「なんでそこで悔しがる」
ジジイ「話は分かった。しかしわしを生かしておいても厄介には違いあるまい」
殺し屋「正直すげえ際どい天秤具合なんだよな……殺すのもアレだけど生かしておくのもアレ」
ジジイ「だったらこうしよう。わしがお前の相棒になる」
殺し屋「……は?」
ジジイ「要はわしが見たことを口外することが不安要素なわけじゃ。ならば味方に引き入れればいい」
殺し屋「入社したいってことか? 無理だろ」
ジジイ「別に入社する必要はない。外注と思え。バイトでもいい。何なら下僕でも奴隷でも性欲処理道具でも」
殺し屋「最後は超絶いらねえが……何を企んでる?」
ジジイ「なんじゃとお・も・う?」
殺し屋「うわうっぜ」
ジジイ「別に何でもありゃせんよ。暇なんじゃ。老人の道楽の種になれい」
殺し屋「道楽で殺人幇助ってのはどうかと思うけどな……」
……
富豪「私を誰だと思ってる! 殺せばただでは済まんぞ!」
殺し屋「殺さねえほうが害なんじゃねえの? 知らねえけど」
ジジイ「世の中には死んだ方が都合のいい人間のなんと多いことよ」
殺し屋「てめえが言うか」
……ズキュウゥゥン!
……
美女「み、見逃してちょうだい! 何でも言うこと聞くからお願い!」
ジジイ「なんでも……?」
殺し屋「あいにく死んでくれ以外の頼みはねえ」
ジジイ「ちっ」
……ズブシュッ
……
青年「ぼ、ぼくがなんで殺されるんでしょうか」
殺し屋「……」
青年「ぼくをそんなに恨んでる人間がいる? ぼくは死ななきゃならないようなことをした……?」
殺し屋「わりぃが俺にはわかんねえよ」
青年「……ですね。ごめんなさい」
殺し屋「チッ」
青年「一足先にあちら側に行ってます」
殺し屋「なんだそりゃ」
青年「あなたももうすぐ死にますよ」
殺し屋「予定にはねえな」
青年「さようなら」
殺し屋「じゃあな」
ジジイ「ふわぁあ……ねむ」
ファミレス
ジジイ「かーっ、一仕事終えた後の一杯はうめえのう」
殺し屋「てめえはなんもやってねえ」
ジジイ「なんかやった方が良かったかの?」
殺し屋「……確かにそれはそれで迷惑そうだな」
ジジイ「じゃろじゃろ。とにかくお主も飲むがよい」
殺し屋「未成年だ」
ジジイ「未成年でも殺し屋じゃろ」
殺し屋「殺し屋でも未成年だ」
ジジイ「かぁってえのう! そこは柔軟にいかんか!」
殺し屋「やわやわに脳みそ溶かしててめえみたいになるのはぜってえ嫌だ」
ジジイ「ちっ……小僧のくせに生意気じゃわい」
殺し屋「舐められるジジイが悪い」
ジジイ「なぜ殺し屋なんぞになった?」
殺し屋「んだよいきなり……」
ジジイ「小僧っ子がする仕事じゃないじゃろ。大人がするかっつーとまた別の話じゃが」
殺し屋「小僧っ子だからじゃねえの?」
ジジイ「ふむ?」
殺し屋「大人は無駄に考えすぎる。子供は考えない。単に殺す。そんなもんだろ」
ジジイ「ふうむ……」
殺し屋「察しはつくだろうが俺は実の親に面倒見てもらったことがない。死んだか捨てられたかで似たような奴らが集められるとこにいた」
ジジイ「孤児院的なあれじゃな」
殺し屋「なじめなくて逃げ出した。優しくするっつーか機嫌取るっつーか、なんかうまくやるのが苦手だった」
殺し屋「その後は浮浪者みたいな生活。だが腹が減って盗みに入ったとこで店の主を半殺し。逃げて、でも捕まった」
ジジイ「少年院行きか」
殺し屋「俺を捕まえた男は言ったよ。俺の作る会社に来いってな」
ジジイ「む?」
殺し屋「それがボスとの出会いだ」
ジジイ「なるほど。それからずっとこの稼業か」
殺し屋「そうだ」
ジジイ「つらくはないのか?」
殺し屋「殺しがつらいって? ずいぶんありきたりな考えだな」
ジジイ「患っとる。患っとるぞこいつ」
殺し屋「うるせえ。まあ確かに殺すのがつらい奴のが多いんだろうよ」
ジジイ「でもお主はそうじゃない」
殺し屋「かもしれない。よくわかんねんだ。殺すときにいちいち何かを考えたことなんて、ねえから」
ジジイ「ふうむ」
殺し屋「集団の中で仲良く上手くやっていくことはできない。代わりにこの能力がある。俺は殺しのことなら何でもできる」
ジジイ「だから楽しそうなんじゃな」
殺し屋「あ?」
ジジイ「殺すときのお前は楽しそうじゃ。殺すことそのものがではなかろ。きっと自分にも何かできると感じられる、つまり自己表現の場なんじゃよ、お前の殺しは」
殺し屋「……」
ジジイ「姉ちゃんもう一杯!」
殺し屋「……。なあ」
ジジイ「おう?」
殺し屋「あ……いや。なんだろう。よくわかんねえや」
ジジイ「そうか?」
殺し屋「俺も……一杯やってみようかな」
ジジイ「お。よしきた姉ちゃんも一つ追加じゃ!」
殺し屋「……?」
ジジイ「? どうした」
殺し屋「妙なのが入ってきた」
ジジイ「あの三人組か?」
黒服「少しよろしいでしょうか」
殺し屋「……なんだ」
黒服「いえ大したことではありません。あなたの会社と仕事について伺いたいのです」
殺し屋「てめえらは何だ? 警察か?」
黒服「そう見えますか?」
殺し屋「いや」
黒服「あなたの会社にお世話になっている者ですよ。いえ正確にはその使い走りです」
殺し屋「へえ」
黒服「ここではなんなので場所を移しませんか?」
殺し屋「いいじゃねえかここで」
黒服「お店や他のお客様の迷惑になるので」
殺し屋「へーへーわかりやしたよ」
ジジイ「ふむ」
外
殺し屋「……で? どこ行くんだ?」
黒服「あちらの車へどうぞ」
殺し屋「気が進まねえな」
黒服「部下は二人とも拳銃を忍ばせています」
殺し屋「……」
ジジイ「この挟まれ方では逃げるにも抵抗するにも不利、つーか無謀じゃな」
黒服「おまけにあなた方には武器はない。我々としても手荒なことはしたくありません。後ろの席にどうぞ」
殺し屋「……」
黒服「さあ」
殺し屋「自己表現か」
黒服「え?」
殺し屋「いや、俺は殺ししかできねえんだ。それだけが取り柄なんだよ」
黒服「何を言って……」
殺し屋「敵を追うための痕跡は見落とさない、人の急所は生まれたときから知っている、遊び道具よりも殺し道具の方が手になじんだ」
ジジイ「はあやれやれ患い小僧が」
黒服「!」
殺し屋「考えるのはめんどくせえ。殺すから死ね」ジャッ!
黒服「うぐッ!」
殺し屋「シッ――!」
・
・
・
ジジイ「よかったのか?」
殺し屋「何がだ?」
ジジイ「無駄な殺しは上司に叱られるんじゃろ」
殺し屋「殺せるところに殺せる奴がいたのが悪い」
ジジイ「殺せるっつっても素手で殺せるか普通」
殺し屋「いいんだよ。言いたい奴には言わせときゃいい。俺は会社の稼ぎ頭なんだ。どうもできはしねえさ」
ジジイ「ふうむ……まあ痛い目にあうのは嫌じゃったからいいが」
殺し屋「だろ。分かったらもう黙れ」
ジジイ「へいへい」
……
殺し屋「今回の仕事場はここだ」
ジジイ「ほえーでっけえビルじゃのう」
殺し屋「なんとかいう大企業らしい」
ジジイ「わしらとは遠い世界じゃのう。ここの人間を殺すのか?」
殺し屋「らしいな」
ジジイ「? なんじゃ曖昧な」
殺し屋「仕方ねえだろ。極秘情報がどうとかでまずは行ってこいみたいな感じだったし」
ジジイ「大丈夫かそれ」
殺し屋「とりあえず会社の方で手筈は整えられてるんだ。バックアップは完璧とか。俺は行って殺してくればいい」
ジジイ「死体は?」
殺し屋「さあ。なんとかするんじゃねえか?」
ジジイ「なんつーか、なんつーかじゃのう……」
エントランス
受付「ようこそ。どのようなご用向きでしょうか」
殺し屋「このカードを見せればいいって言われてるんだけど」
受付「!」
殺し屋「?」
受付「承っております。案内の者が参りますのでお待ちください」
殺し屋「ああ分かった」
殺し屋「おいジジイ」
ジジイ「なんじゃ小僧。わしはこっちの受付嬢を口説くのに忙しいんじゃが」
殺し屋「いや、ならいいや。俺の用事が済むまで適当に待っててくれ」
ジジイ「どっちが先に済むか勝負じゃよー」
殺し屋「はいはい」
ジジイ「さて行ったか」
ジジイ「ならばわしも動くとするかのう。なまっちょって自信はないが」
ジジイ「ああいや何でもないよお嬢ちゃん。それよりちょっとトイレの場所を聞きたいんじゃが」
……
殺し屋「……」
殺し屋(なんだここは……やけに広いし誰もいねえ)
「ようこそわが社へ」
殺し屋「……!」
中年「私はここの裏部門の長だ。見ての通り何もないところでね、ろくなもてなしもできないことを許してほしい」
殺し屋(こいつがターゲット?)
中年「こいつが標的か」
殺し屋「!」
中年「と、まあそんなことでも考えているのではないかね殺し屋君」
殺し屋「な……」
殺し屋「なんで知っている!」
中年「そりゃあ知っているさ。私の部下を殺した人間だもの」
殺し屋「部下? ……あの黒服たちか」
中年「覚えててくれたかね。彼らも喜ぶよ」
殺し屋「だがなんで……」
中年「分からないだろうね、なぜこんな状況になっているのか」
殺し屋「いや、何でもいい。てめえを殺してさっさとここを出る」
中年「しかし帰る場所などないよ。君は切り捨てられたのだから」
殺し屋「なに?」
中年「君の会社は君を切り離すことに決めた。競合相手のわが社へ差し出すことにしたのだよ」
中年「今回の君の殺害対象は、君自身だ」
殺し屋「俺が……? 俺がなんで切り捨てられる」
中年「……自覚がないのかね? 君は殺すことしかできないじゃないか」
殺し屋「それがどうした。殺し屋にはそれだけでいい」
中年「よくない。危険すぎるんだよ。現に私の部下殺しの件で君の会社は相当不安定な状態になった」
中年「警察に嗅ぎまわられわが社に恨まれる事態にね」
殺し屋「……」
中年「さて。おそらく君はまだまだ聞きたいことがあると思うが時間切れだ」
殺し屋「……?」
中年「私がなぜわざわざ説明してやったと思っている? もちろん注意をひくためだよ」
殺し屋「……!」
中年「包囲は終わった。殺れ」
……ズブシャ!
ジジイ「そろそろか」
ジジイ「では始めるとしようか」
ジジイ「……もう小僧が死んどったら無駄骨じゃがの」
中年「死んだか?」
「おそらくは」
中年「おそらくは? 確認しろ馬鹿が!」
「……まだ息があるようです」
中年「ならば殺せ! もたもたするな!」
「は!」
――ズン! ミシリ……
中年「な、なんだ!?」
ジリリリリリ!
「火災のようです」
中年「そんなことは分かってる! 火元はどこだ! さっきの音は何だ!」
「それは……うぶッ!」
中年「!?」
殺し屋「はぁ……はぁ……」
中年「なぜ、動ける……?」
殺し屋「……俺だからだ」
中年「こ、殺せ! こいつを殺せええぇ!」
ジジイ「~♪」
ジジイ「お」
中年「あ、あの化け物めぇ……!」タッタッタ
中年「誰か! 誰かいないか!」
ジジイ「オッスオラジジイ。よろしくな」
中年「なんだ貴様は! ……ぐっ」
ジジイ「老人は敬えと教わらんかったか小僧」
中年(首が……折れる!)
ジジイ「お前がここの裏ボスじゃな」
中年「ぐ……まさかこの騒ぎは貴様が」
ジジイ「その通りじゃ。おかげで少しはホットな会社になったじゃろう? ちと火薬の量が多すぎたが」
中年「何者だ……?」
ジジイ「慌てるな、まずはこれを受け取れ」ブス!
中年「がっ」
中年(注射器っ……一体何を……)
ジジイ「もちろん毒薬じゃよ」
中年「ひ……」
ジジイ「安心せい、遅効性じゃからの」
ジジイ「そして解毒剤もある」
中年「!」
ジジイ「欲しいか?」
中年「……」コクコク
ジジイ「ならば約束しろ。あの小僧を見逃すとな」
中年「小僧……? 殺し屋のことか?」
ジジイ「今後一切関わるな」
中年「しかし……」
ジジイ「まあお主がそんなに死にたいんなら構わんが」
中年「わ、わかった!」
ジジイ「では解毒剤はビルの外、右へ行って三番目の公衆電話の中じゃ」
中年「……なぜあの小童に肩入れする?」
ジジイ「さあて。まあ似とるからじゃないかの。殺すしか能のなかったころのわしとな」
中年「まさか……貴様『毒蛙』」
ジジイ「うっへえまだその名前知っとる奴がいるんかい。黒歴史って怖いのう」
中年「生きていたのか」
ジジイ「おうその通りじゃ。お主が約束を違えることでもあればその時は……」
中年「くっ」
ジジイ「では失せろクソガキが」
……
殺し屋「――う」
殺し屋「あれ、俺……」
ジジイ「お、目が覚めたか」
殺し屋「俺背負って……重くねえか……?」
ジジイ「生還後最初の言葉がそれか。なんだからしいようならしくないような」
殺し屋「生還……生きてる……」
ジジイ「実際期待はしとらんかったがの、それでも生き残るもんじゃから若さって素晴らしい」
殺し屋「殺すことしかできねえからな……」
ジジイ「まあ言うなや。今はとりあえず医者へ行こう」
殺し屋「その、後は……?」
ジジイ「……」
殺し屋「その、後は……」
ジジイ「まあ何とかなるじゃろって。たとえ見捨てられても裏切られても、人はそれなりに生きていける」
殺し屋「でも」
ジジイ「経験談じゃ黙って頷いとけ」
殺し屋「でもよ……」
ジジイ「うるさい、世の中って結構適当じゃぞ! なんたって殺し屋たちがファミレスで堂々と仕事の話をしててもスルーなんじゃからのう!」
殺し屋「なんだそれ……」
ジジイ「とにかく医者じゃ。全てはそれからじゃ」
殺し屋「分かった……分かったよ……」
ジジイ「ふん、また気を失いおったかヤワな奴め」
ジジイ「さて、うう、そろそろ腰がつらいのう……」
・
・
・
・
・
・
……
元殺し屋「ご注文どうぞ」
元殺し屋「ハンバーグ定食ひとつに照り焼きチキンAセット一つ、それからドリンクバーですね」
元殺し屋「ありがとうございます少々お待ちください」
元殺し屋「――だはぁ……!」
元殺し屋「やっぱ向いてねえ超絶向いてねえ違和感しかねえ」
元殺し屋「殺し屋やってたころの方が絶対よかったって」
ジジイ「こらあせっせと働かんか小僧! オーダーの呼び出しかかっとるぞ!」
元殺し屋「へいへーい。ってジジイつまみ食いしてんじゃねーよ!」
ジジイ「調理係の特権じゃ。まったくこのファミレスに入ってから一年、何を学んできたんだか」
元殺し屋「少なくともそういうセコい役得の取り方じゃえねえよ!」
ジジイ「ほれほれ客が待っとるぞ」
元殺し屋「あーちくしょう!」ダッ!
ジジイ「はは、なかなかどうしてああいうのも似合ってるではないか」
ジジイ「そうやって適当になじんでいけばいい。お前は真面目すぎるんじゃ」
ジジイ「少しはわしを見習えっつー話じゃな」
「あの新入りとお爺さんいいわよねー」
「でもなんつーか祖父と孫って感じとは違うんだよな」
「うーんなんだろ。良コンビ、みたいな?」
「あー。かもなー」
おわり