●あらすじ
過激派集団『光の恩恵派』により、その身体をライトブリンガーへと変貌させられたハル…
俺は…光と闇の核の力を借りる事でそれを撃破し、ハルを過去から蘇らせる事にも成功した。
しかし、そのハルは………俺と出会う前…魔法少女になる前のハルだった。
本当なら平穏に暮らしていた筈の、本来あるべきハル…
俺はそのハルの人生を、自分のエゴで捻じ曲げる事が出来なかった。
そして………俺は、ハルと交わる事の無い未来を選んだ。
関連
魔法少女ダークストーカー
http://ayamevip.com/archives/41905131.html
魔法少女ディヴァインシーカー
http://ayamevip.com/archives/41905179.html
魔法少女ダルマサンサーラ
http://ayamevip.com/archives/41905301.html
元スレ
魔法少女ダークストーカー
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1414330789/
=魔法少女ドゥンケルシュナイダー=
●そこには
俺「にしても………レミって、本当に面倒見が良いよな」
夕飯の豚カツを揚げる音に混じり、呟きを漏らす。
レミ「何、唐突に?今になって、やっとアタシの有り難さに気付いた?」
俺「あぁ、そうだな……正直、お前が居てくれなかったら酷い有様になってたと思う」
レミ「………何よもう、素直になられたら反論に困るじゃない」
ハルとは別の道を進み…また一人の生活に戻る事を覚悟していた俺。
だが、そこに現れてくれたのはレミだった。
元々面倒見の良いレミは、それはもう俺のために色々してくれている。
まぁそれは…それだけ俺がダメ人間であると言う事の裏返しなのだから、素直に喜んで良いのか迷う所だが………
それはそれ。レミに感謝している事に変わりは無い。
俺「そう言えば…学校の方はどうだ?何か変わり無いか?」
レミ「何その父親じみたセリフ…老けて見えるわよ?」
俺「るっせぇ、さすがにそこまでは歳食ってねぇよ。ってか、実際の所どうなんだ?」
レミ「そうね………進級が近いくらいで、特にこれと言って無し。あんまり話題になるような事は無いわね」
そして…これは暗黙のルールみたいな物だが。俺とレミの間では、ハルの話はしない。
話をしてもどうにかなる訳では無く、その場が暗くなるだけだ。
と言っても、レミとハルの仲に至っては至って良好…学校でもそれ以外でも、前と変わらず親友のようで何よりだ。
俺「で……そろそろ出来上がった頃か?」
レミ「そうね…あとはキャベツを……って…」
レミのツインテールを縛るリボンを解く俺…
俺の意図を察して赤くなるレミ。それなりに回数はこなした物の、それでも馴れない様子。
俺「まぁ………乗り気じゃないんだったら…」
レミ「………冷めても知らないわよ…」
俺「レミの料理は、冷めても美味いから問題無い」
レミ「………馬鹿…」
そうして俺を受け入れるレミ………
そう………これが俺の今の日常だ。
○そうしつ
私は………記憶喪失らしい。
記憶を失う前…最後に記憶に残っていたのは、いつものバス亭…それ以降の記憶は空白。
そして、その空白の期間を明けて一番最初に覚えたのは……見知らぬ建物の中。
冬休みを使ってレミちゃんと一緒に参加したイベントらしいけど………やっぱりそれも覚えて居なかった。
そう言えば、あの時一緒に居た男の人…あの人は結局誰だったんだろう?
変な事ばかりを言っていたのは覚えているけど、その言葉の意味が判らなかった。
レミちゃんはあの人の事を全然話さないし………何だろう、どうも気になって仕方が無い。
少なくともあの人は私の事を知っていた…でも、何かがおかしかった。
そう言えば………記憶を失って居た期間の私は、いつも通りちゃんと日記を付けていなかったのだろうか?
記憶を失う前には付けて居た筈の日記帳は、いつもの場所には無かった…と言うよりも、いくら探しても見付からない。
まだまだページは残っていた筈だから、捨てたとは思えないのだけど………
ハル「あ…もしかして」
何かを隠したい時に使っていた、屋根裏部屋の机………そこを探してみる事にした。
屋根裏部屋の机の引き出し…そこには確かに、私の日記があった。
しかし………そこには、とても信じられない内容が書き連ねられていた。
飛ばし飛ばしに…後ろから読んで居ても判る程、びっしりと敷き詰めて書かれた…『彼』の記録。
およそ普通の生活では知り得ない程の細かい情報まで、余す事無く……そう、これは日記などでは無く…これはまるで…
………ストーキングの記録
記憶を失っている間の自分が一体何をしていたのか…それを考えるだけで手が震え、視界が霞む。
しかし…それでも目を背ける事が出来ない。
私は、なけなしの勇気を振り絞り…ページを捲って行く。
そこから先は酷い物…彼のプライバシーという物を微塵を感じられない程の記録。
しかし、同時に………それを見て、気付く事があった。
ハル「私………こんなにも彼の事を好きで居たんだ」
でも…私の知る彼は、レミちゃんの彼氏。
レミちゃんは自身は否定してたけど、見ていれば判る。
レミちゃんは、間違い無くあの人の事が好き。
でも、だとしたら………この私は何?
レミちゃんに横恋慕するストーカー?そんな事あってはいけない。
でなければ、本当に私が彼の………いや、でも…だったらストーキングなんてする筈が無い。
希望的観測を加えて、そう考えを巡らせて居た…けれど、その考えは………あるページで打ち砕かれたのだった。
え………何…これ?
レイプをされた…魔法少女になった、彼に傘を貰った。彼を助けた、彼と恋人になった…彼と繋がった………
改めて日付の順に追って見返す日記…そして、そこに記された記憶の数々。
それはもう、現実とは呼べない代物…そう、紛れも無い妄想。
そして、その筆跡は間違い無く私の物。
つまり………
ハル「私は………心を病んでいた?うぅん?もしかしたら………今も病んでいる?」
達した結論がそれだった。
しかし………その結論で落ち着く事さえ私には出来なかった。
目に止まったのは、窓際に置かれた傘………自分では買わないような大きめの傘…つまり。
ハル「私………盗んだの?あの人の傘を………でも、もしかしたら…本当に………傘を…?」
嫌な感じに高鳴る鼓動…私は家を飛び出し、夜の道を走る。
立ち止まる事など出来ず……日記に記されていた『彼』の家へと向かって………
●それでも
重ねた身体の下…事を終え、荒げるた息を抑えるレミ…
俺はそんなレミの首筋に手を沿え、労うようにそっと撫でる。
俺「悪ぃな…少し無茶させ過ぎたか?」
レミ「うぅん……全然平気……」
そう言って俺の頭に手を回し、顔を近付けるレミ。
いつもの…そう、いつものように行い、終える筈だったそれ。
しかし、その日だけは違った。
ガチャリ…とドアノブを回す音がして、開かれるドア。
誰かが来た事に気付き、慌てて服を整えようとする俺。
だが…そんな事は無駄だった。
俺「な………ハル…?」
レミ「ぇ………?ハ……ル…な、何でこんな時間に………あ、違う…なんでこんな所に………」
ハル「……………」
傘を握ったまま黙すハル。
俺とレミはとりあえず着崩れた服を直し、お互いの身を離そうとするが…
レミ「――――っ……」
そこで小さく毀れるレミの嬌声。
ハル「………―――!!」
ハルの押し殺した声と共に落ちる傘。
そしてハルは次の言葉を紡ぐ事無く、踵を返して走り去って行ってしまった。
俺「………」
レミ「………」
そうしてその場に残されたのは……重苦しい沈黙だけだった
●そこには
お互いが入れ替わりでシャワーを浴び、身なりを整えた後…
レミは携帯でハルに連絡を取ろうとメッセージを送り続け………俺は、ハルが残して行った傘をただただ見詰めていた。
レミ「ねぇ……もしかして、ハルの記憶…」
沈黙に耐え切れなくなったのか重苦しくも口を開くレミ
俺「いや………最初から無い物は戻りようが無いだろ。多分、何かしらの方法で外部から知り得たんだろうが…」
レミ「あ………」
俺「何か心当たりがあるのか?」
レミ「日記…確か、ハルは日記を付けてた筈」
俺「成る程…な。にしたって……どんな事が書かれてたのか判らない以上は、動きようが無いが…」
レミ「だったら…さ。私、ハルに直接聞いてみるわ」
俺「いや、でも………こんな」
レミ「良いから…ね?」
俺「…………じゃぁ、悪いが…頼む」
●そういう
俺「そう言えば…今は何の研究をしてるんだっけか?まだ並列世界の研究とかしてるのか?」
レミに事を任せ…手持ちぶたさからか、近所を散策していた俺。
そして偶然にもマイに遭遇し、多愛も無い雑談を展開していた
マイ「いつの話をしているのだね?今ではもう別の研究に取り掛かっているよ」
俺「へぇ…どんなのだ?」
マイ「それは…ちょっとした不死の研究だよ。とある出来事に立ち合う事で、インスピレーションを得てね」
俺「そりゃまた………」
あり得ない…と言いかけた所で口を噤む俺。
人を生き返らせた過去を持ち、限りなく不死に近い身体を持った俺はそれを否定する事が出来なかった。
俺「じゃ、また新聞に載ったら教えてくれよ」
マイ「多分それは無いと思うが…な」
と、意味深な笑みを返された
○あきらめ
放課後…私はハルを屋上に呼び出した。
二人っきりで話をするため…昨日の誤解を解くために。
レミ「あのさ………昨日の事なんだけど…」
ハル「あ………うん、その……ゴメンね。凄く…間が悪い時にお邪魔しちゃって………」
レミ「そ、そうじゃないの!その…何て言うか……ハルと話したいのはそこじゃなくて、彼の………」
ハル「うん、大丈夫…判ってる」
ダメ…これは判ってる時の声じゃない
ハル「大丈夫…思い出した訳じゃないけど、記憶を失ってる間に私が何をしてたのかは判ったから」
レミ「…それは…つまり」
胸がドクンと大きく高鳴る。期待半分、不安半分…だけど、その前半分は簡単に打ち砕かれた。
ハル「まずあの人は……レミちゃんの彼氏なんだよね?」
レミ「それは………」
そうでもあるけど、それ以前にハルの彼氏…私はあくまで2号。
内容は簡単な筈なのに、それを上手く伝える言葉が出て来ない。
ハル「それで…私まであの人を好きになっちゃって………ストーキング、してたんだよね?」
レミ「それは違うの!順番が!」
違う…好きになったのはハルの方が先。正式な恋人になったのもハルの方が先。
でも、その訂正を放つよりも前にハルの言葉が続く。
ハル「順番が違っても、やっぱり関係は間違い無いんだね」
レミ「ちがっ……だからそれは…」
ハル「じゃぁ…私の日記に書いてあった事…あの人をストーキングしてた記録は全部妄想だったのかな?記憶が無いのも、それに罪の意識を感じて―――」
レミ「それは…………そうじゃないけど…」
ハルが彼をストーキングしていたのは事実…けれど、その罪悪感から記憶を失ったわけでは無い。
言いたい事は山ほどある…けれど、それを言葉にする程私の頭が早く回らない。
ハル「やっぱり……」
レミ「でも、それは!!」
ハル「ありがとう………でも良いんだよ、私を庇ってくれなくても。ゴメンね…もう本当、何から何まで迷惑かけちゃって…」
レミ「だからそれは誤解なの!」
迷惑をかけてるのはハルの方じゃ無い…むしろ私の方。
ハル「じゃぁ、何が誤解なの?何が嘘で何が本当の事なの?今の私には、記憶の無い時の私の事が何一つ判らないの!!!」
レミ「それは………今の私からは……」
言えない………親友でも…ううん、親友だからこそ言う事が出来ない。
彼にはあれだけ真実を話すべきだと言っておきながら、いざ私の口から言うとなると…その言葉が出て来ない。
その言葉にかかった重みの責任を背負うだけの覚悟が出来ない。
ハル「そもそも……今の私って何なのかな?レミちゃんの他の人も…本当に必要としてるのは昔の記憶を持ってる私なんでしょ?」
レミ「―――――ッ!そんな事!!」
そんな事は無い、彼も私も今のハルを必要としている。でも………ハルを説得するに足るだけの言葉が出て来ない。
何を…どこからどう説明すれば良いんだろう。どこから説明しても誤解を解ける気がしない。
ハル「でも………一つだけ確かな事はあるから安心して?」
レミ「…何?」
ハルの目を見れば判る…それは安心できるような内容じゃ無い。
でも、今はそれを聞く事くらいしか出来ない。
ハル「もう判ったから…レミちゃんの彼氏に関わって、困らせるような事はしないから…っ」
そう言って、反論の言葉も待たずに走り去るハル。
そしてハルは…顔を見せなかったけれど、間違い無く泣いていた。
●けつべつ
レミ「………と言う訳で…ゴメン。話を付けるどころか、よけいこじらせたまま終わらせちゃった」
俺「いや…レミは悪く無い。むしろ、そんな状況でよく頑張ってくれたじゃないか」
レミ「でも………うぅん、いっそ…私があの子達を見せれば、せめて…」
俺「それは駄目だ!」
それをしたら、またハルをこちら側に引き込んでしまう。
それだけは避けなければいけない。
レミ「言いたい事は判るけど…でも!」
俺「今のハルは普通の女の子なんだ…もう二度とあんな事に巻き込んで…酷い目に遭うのだけは避けなくちゃいけない」
改めてそれをレミに言う。
レミ「それは判るけど………」
そう………その前提がある以上、これ以上の事をハルに知らせる事は出来ない。
そしてそれは…今ある唯一の解決策を封じると言う事でもあった。
●さいらい
マイ「それにしても…今日は一段と沈み込んでいるようだね。レミくんと何かあったのかね?」
俺「レミと?……あぁ、そうだな。うん、そんな所だ……」
マイ「いや、違うか……ハルくんと何かあったようだね」
お前はエスパーか
俺「その通りだ…しかし、どうりゃ良いのかすら見えて来ないからな…」
マイ「だったら、したい事をすれば良い。誰かのために譲歩するのでは無く、自分のしたい事を…」
俺「…それが出来てりゃ、こんな苦労はしてねぇよ」
マイ「確かに…な。しかしそれはそうと…例の噂話は覚えているかね?」
俺「何だよ藪から棒に…確か、女の子の通り魔にぬいぐるみ…羽の少女と………あとは、新興宗教だったか?」
マイ「あぁ…新興宗教の方はもう片付いたから良いのだが…残りの3つが最近頻発しているようなのだよ」
………ん?
俺「…………頻発?最近?いや、それはおかしいだろ。だってそれは…」
終わった事のはず…そう言いかけて、慌てて口篭る俺。
マイ「特に通り魔の方は深刻で…複数犯の可能性もあるらしい。キミも夜道には気を付けたまえよ?」
だが、それを意にも介さず話し続けるマイ。正直、突っ込まれなくて助かった。
俺「あぁ…そうする」
そして…とりあえずそう答えるも、腹の中は完全に真逆。
次々に起こる問題を前に、苛立ちを覚えるのだが……その反面
目の前の…ハルの問題から目を逸らす事が出来ると言う事実に、安堵してもいた。
●たんさく
レミ「言っておくけど…私でもこの子達でも無いわよ?ここ最近はずっとアンタと一緒に居たでしょ?」
そう…そのアリバイがある以上、真犯人は別に居る。
俺達はまず、黒い靴を履いた少女の通り魔………その事件の真相を探る事にした。
俺「それで……案の定、調べに来てみた結果がこれか」
街に繰り出し、魔力を探り始めた俺達。
そして、開始早々………いとも簡単に見つけ出す事が出来た、その存在…
瘴気を纏った真っ黒な靴を履き、虚ろな瞳で俺達を見据える女の子。
俺「こいつが例の、通り魔…って事になるんだろうが。なぁ、あの子が履いてる靴って、どう考えても…」
レミ「そうね………ダークチェイサーの一部で間違い無いわ」
一体何がどう………いや、どの可能性が出しゃばって居るのやら…
ダークチェイサー絡みとなれば、可能性は自然に狭まってくる…が、その中のどれが関わっているのかは判らない。
レミ「アンタの中の光の核と闇の核は何か知らないの?」
俺「それなんだが…こいつら、ちょっと前から停止状態なんだよな」
レミ「何それ?」
俺「何でも……アーカイブを再構築するために力の殆どを使うから…って事らしいんだ…がっ!」
レミと話している最中にも関わらず、それを意にも介さず襲い掛かって来る女の子。
その女の子は、当然のように黒い靴を履いた脚で蹴りを繰り出し…対する俺も、当然のようにその靴を掴んで止める。
女の子「―――!!」
そこからは物のついでだ…指の先から光の刃を形成し、蹴りに使われた方の黒い靴を解体。
更にその足を持ち上げ、女の子の体が宙に浮いた所でもう片方の靴も確保…そして解体。
物凄くはしたない恰好をさせてしまっては居るが、非常事態だ…許してくれ。
レミ「で……多分、こっちで倒れてる男が被害者なんだろうけど…」
俺「これは………魔力を抜き取られた…いや、奪い取られた形跡があるな」
例えるなら…チーズ蒸しパンの敷き紙に残ったカスのような物。
そこに何かがあって、残留物が元の形を示している…だが、肝心の物が無いのという事が見て取れた。
レミ「って事は、その奪った魔力は犯人であるこの子が持ってる筈なんだけど…」
俺「あぁ…それが無い。つまり………」
レミ「さしずめこの子は働き蟻…って事よね」
俺「あぁ……そうみたいだな。畜生」
黒幕に利用されていた…そう見て間違いは無いだろう。そして………
今俺達を取り囲んでいる、この子達も…同じ境遇と見て間違いは無い筈だ。
●おぼえは
レミ「で……貴方はどこから覚えてる?それか、どこまでの事を覚えてる?」
黒い靴に操られた女の子達を開放し、比較的意識のハッキリした女の子に事情を聞く俺とレミ
女の子「最後に覚えてるのは………何かを踏んだような感覚と、それが纏わり付いて来るような感覚だけです…それ以降は何も……」
他の子に聞いても、同じような証言ばかり…逆を言えば、皆が皆共通してその手順を踏まされている事が明らかになった。
レミ「成る程……つまりは、その何か…ダークチェイサーを仕掛けたヤツが黒幕で、アタシに濡れ衣を着せてくれた張本人って訳ね」
俺「今回の黒幕が一体何者なのかは判らねえが…とりあえず、闇の靴屋とでも呼んでおくか」
レミ「そうね…それじゃぁ次は、闇の靴屋…ダークシュナイダーを倒しに行こうじゃないの!待ってなさい、必ず見つけ出してやるんだから!!」
いや…それを言うならダークスナイダーかドゥンケルシュナイダーだろ。それじゃどこぞのミュージシャンだ。
と、意気込んだ所で…再び感じる魔力の気配。
それも二種類……片方はさっきまでと同じダークチェイサーの一部で、もう片方は………
いや、まさか……これは
●ざんしの
全速力で走り出した俺達。
レミよりも僅かに早く…辿り付いた先は、工事現場。そう、俺はここに見覚えがあった。
ダークチェイサーに初めて襲われたあの工事現場だ。
あの頃と比べればさすがに工事が進んでいて、鉄筋などと言った骨組みは殆ど組みあがっている。
そして…その骨組みの頂上にそれは居た。
鉄筋の隙間から覗く、光の羽…機能性を無視してフリルやリボンがふんだんにあしらわれた服。先端にハート型の装飾が付いた杖…
その後姿を見た俺は、胸が高鳴った。
期待からだろうか…
不安からだろうか…
あるいはその両方なのだろうか……
ドクドクと早鐘を打つ心臓を自分でも感じながら、俺は一歩だけ足を足を進める…が
それと同時に…俺が見据えていた存在は、夜空の中へと消えて消え去ってしまう。
そして気付けば、ダークチェイサーの気配も無く…
鉄筋の頂上には、黒い靴に操られていたであろう少女が残されていただけだった。
●かいこう
カライモン「理解した……そうして前日に続き、探索を行って居た最中と言う事か」
説明ありがとう。
そう…昨夜の出来事の後、遅れて到着したレミにも見た侭の事を話し
今度は二手に別れて、ハルと思わしき魔法少女と闇の靴屋の二者を探す事になったのだが…
その途中、偶然にもこの魔法少女…カライモンと再会する事となった。
そうして事の流れるまま、道ながらに事のあらましを話し…結果、彼女の方から助力を申し出てくれて今に到る。
俺「ちなみに…レミの方からハルに確認を取ろうとしたらしいんだが…学校にも来て居なくて、電話にも出ないらしい」
カライモン「泥沼は自業自得………そのせいで確認すらも難航しているのだろう?」
図星、痛い所を突いて来る
しかし………最初の頃に比べるとカライモンの口数が増えてきている気がする。
まだ喋り方にぎこちなさが残っては居る物の、多少は会話に馴れた…いや、心を開いて貰えたという事なのだろうか?
そんな事を考えている、まさに最中…感知範囲内に現れる、魔力の気配。
間違い無い……黒い靴と昨日の魔法少女だ!
俺とカライモンは、それを感じ取ると共に駆け出した。
距離はすぐ近く…ビルを5つ程飛び越えた先の路地裏。
そう…そこにそれは居た。黒い靴に操られていたであろう少女と………魔法少女。
俺「ハ―――」
考えるよりも早く紡がれる声…俺達に気付くその魔法少女。
ピンク色の髪をふわりと靡かせながら、振り返ったその顔は……
??「貴方達…何者ッスか」
ハルでは無かった
●なりゆき
俺「なっ………お前は一体何者だ!?」
ユズ「自分の名前はユズ…魔法少女ッス。そういう貴方達こそ一体何者っすか」
カライモン「何者だと言うお前こそ何者ッスかと言うお前こそ何者だというお前こそ何者………」
いや、何を言いたのか判らないが。これ以上引っ掻き回さないでくれ
俺「俺は………っと、色々巻き込まれてるだけのただの一般人で…こいつはカライモン。お前と同じで…」
カライモン「…魔法少女」
ユズ「って事は…同業者って事ッスよね? 自分以外の魔法少女が居るなんて驚きッス」
ハルでは無かった…その事に安堵も落胆も覚えながら、同時にこのユズという少女に敵対心が無い事も判って……一先ずは警戒心を解く俺達。
俺「それじゃぁ…いきなりで悪いんだけどさ、ちょっと聞きたい事があるんだ。良いか?」
ユズ「自分が知ってる事なら別に良いッスよ?あ…ちょっと待って下さい…………え?この人達が敵?」
途中からは噛み合ない会話…前触れも無く出た単語。
その状況に俺は既視感を覚えた。
そう……とてつもない嫌な感じのデジャヴュだ。
見えない『何か』と会話をしながら、杖をこちらに向けるユズ。
そして、此方を見据える瞳は―――
光を失って居た。
間違い無い。これはハルの時と同じ…テレパシーによる乗っ取りだ。
だが、それに気付いた時にはもう遅かった。
杖の先から形成された光が、今正に俺の頭部を貫くべく放たれ………
俺は何者かに突き飛ばされた
いや…何者なのかは考えるまでもない。今この場でそんな事を出来るのは一人しか居ない。
突き飛ばされたおかげで、俺は閃光の直撃を免れる…が、そうなれば当然、突き飛ばした相手がその位置に残るはずで……
そう………今この瞬間、振り向いた俺の目の前にあるのは………
上半身を失った、カライモンの身体だった。
●ぼうそう
俺「…………あぁぁぁあ゛あ゛あ゛!!!!??」
死…目の前にあるのは、死。またも俺に関わった女の子の死だった。
もう何度目だ?三度目?いや、レミの時は生きて居たんだから二度目か?
あぁもう、頭の中がグチャグチャだ。
どうすれば良い?ハルの時みたいに…いや、ダメだ。アーカイブが無い以上蘇らせる事は出来ない。
ではまず何をすべきか……
そうだ…危険性の排除が最優先じゃないだろうか?
そう…危険性……目の前の魔法少女…ユズの排除を優先しなければいけない。
全身をダークチェイサーで形成し、獣の姿を取って追撃に備える。
いや…まだ追撃は来ない。今の内に反撃を仕掛けるべきだ!
俺はユズに向かって飛び掛り、右前足の爪を繰り出す!
………が、杖を盾にする事で辛うじてそれを凌ぐユズ。
爪の先が太腿に傷を走らせるせる程度で、有効打には程遠い…が、流れは掴む事が出来た
このまま畳みかけるべく、身を低く落としてためを作る俺
……だが、そこから先は予想外の展開だった。
ユズ「ヒッ……!!」
小さく…怯えたような声と共に恐怖の表情を浮べ、文字通り脱兎の如く逃げ去るユズ。
何が起こったのか………
落ち着いて可能性を考えれば…テレパシーによる乗っ取りから開放され、戦闘から逃げ出したと言った所だろうが…
だったら、何故彼女を開放したのか…そもそも何を目的として乗っ取ったのかが判らない。
少なくとも、狙われた筈の俺はまだ生きている。
あるいは…俺では無くカライモンが目的だったのか?………そうだ、カライモンだ
彼女の遺体をあのままにしておく訳にはいかない。
手段は後で考える。とにかく、彼女の遺体を―――……そう考えた。だが、その考えを実行する事は出来なかった。
彼女の…カライモンの遺体は、その場から忽然と消えていた。
●こうさつ
マイ「どうしたのだね?今日は一段と落ち込んでいるでは無いか」
その理由は話せない……だが、俺一人でこの状況を把握し切れないのも事実。
事が事なだけに、レミには警戒を促す以上の事を伝えられず……今、頭脳を借りられる相手はマイしか居ない
俺「それは良いんだ。それで、今日…マイに相談したい事なんだが………」
マイ「今回は一体、どの分野での話だね?機械工学か生物学か…それとも超科学やオカルトの類かね?」
茶化すマイ…悪気は無いのだろうが、その態度に俺の腹は沸々と沸騰していく
俺「多分………生物学だ。その…例えばの話しなんだけどな…?」
マイ「何だね?」
俺「人を………女の子の死体を。下半身だけ残った人体を誰かが持って帰った奴が居たとしたら………どんな事をすると考えられる?」
マイ「…………」
真顔による一瞬の沈黙…そして、後ろを向くマイ。当然ながらその表情を読み取る事は出来ないが…不信感を露にしているであろう事は予想できる。
マイ「それはまぁ…状況や前提次第だが。下半身と言っても、どこまでが残っていたのだね?子宮だとか、腸がどこまでだとか…」
俺「多分…子宮は残って居たと思う。腸は…正直どこからどこまでがどうなんだか判らねえ…」
マイ「なら…普通に考えれば、性処理にでも使うのでは無いかね?あるいは…手段こそが目的、犯人が単純に証拠隠滅のために持ち去ったか…」
後者ならばまだ良いが……ハレルヤという前例がある以上、そこは楽観視出来ない。そして…
俺「前者はまず無い…犯人は女である事が前提だと思って進めてくれ」
マイ「女性だからと言って除外し切れんとは思うが…まぁ、だとしたら………食べるのでは無いかね?カニバリズムだ」
推理を巡らせ調子に乗ってきたのか、表情に笑みを浮かべ始めるマイ…だが、その不謹慎さは俺の神経を逆撫でる
俺「あぁ……あと、その下半身に特殊な物が付いていたとしたら?」
マイ「それは…男性器という事かね?」
明らかに不審そうで不機嫌そうな顔をするマイ
俺「いや、そうじゃなくてだな…特殊な機械とかだ」
マイ「それが目当てなのだとしたら、外して持って行ったのでは無いかね?身体ごとと言うのは非効率極まりないだろう」
それもそうだ
マイ「まぁ、それが身体から剥がす事が出来ない物だと言うのなら話は別なのだが……他に何か判断材料はあるのかね?」
俺「いや…今はそれ以上は無い」
実際はある…が話せない。そして、それは今の話し応用や延長線上で考える事が出来る。
俺「その…何だ。一方的で悪いんだが、大分参考になった。ありがとな」
マイ「いやいや、幼馴染のよしみだ。この程度の事で良いのならまた相談してくれたまえ」
何故か上機嫌でそう返すマイ。
その様子に複雑な物を感じざるを得ないが…何にせよ、力になってくれる存在がいるのは心強い…という事も同時に痛感させられる
俺「んじゃ…その時はまた頼むぜ」
マイに相談する事で見出した可能性…そして、あまり良く無い方向にばかり広がっていく其れ等。
恐らくは、その解決と共に……決着の時が近付いて居る。俺はそれを予感していた。
●さいせん
俺「さて………いきなりで悪いんだが、カライモンの遺体を返してくれないか?」
黒い靴との戦いを終え、一息ついていたユズ…そこで姿を現し、話しかける俺。
ユズ「―――ヒッ!?」
判り易い程顔に出ている恐怖の表情。
正気に戻った瞬間に見たのがあれなのだから、仕方が無いとは思うが…今はそれに気を遣っていられる状態では無い。
俺「知っている事を全部話して貰おうか…テレパシーの向こうに居るヤツに身体を明け渡して逃げるのもナシだ」
ユズ「な…何の事を言ってるのか判らないッスけど。あ………貴方達に喋る事なんか一つも無いッスよ!!」
どこから沸いて来ているのか判らないが、予想外にも威勢の良い返答。だが……
俺「そっか………君は話しの判る良い子だと思ってたんだが…俺の勘違いだったか」
正気の状態で、尚敵対意識を向けてくるとなれば……穏やかに事を進められる筈が無い。
ユズ「貴方達みたいな悪人に、良い子だなんて言われても嬉しく無いッス!知ってるッスよ、貴方達がダークチェイサーっていう悪者だって事!!」
………ん?
ユズ「他にも知ってるッス。あの黒い靴もダークチェイサーって言う悪者の一部だって事!貴方達が仲間だって事も判ったッスから!」
俺「いや、待て………誤解があるみたいだぞ。そもそも、その事を誰から聞いたんだ?」
ユズ「それは………え?言っちゃダメなんッスか?でも、戦ったら勝てないし……出来れば話し合いで………」
声に出さなければテレパシーを伝えられない子なのか……それが幸いして、事情は大分掴めて来た。
よし…まずはこの子の方から攻略出来そうだ。
●おはなし
俺「よし…じゃぁこうしよう。ユズ…君が戦いたくないなら、俺も戦わない。そいつに身体を明け渡さなければ、俺もダークチェイサーにならない。良いか?」
ユズ「そ……そんな事を信じる証拠はあるッスか!?」
俺「無い。信じられないなら、そう……ユズの方から攻撃してくれれば、それを戦闘開始の合図にしてくれても良いんだが…」
ユズ「ヒッ……!?そ、そんなの嫌ッスよ!」
俺「じゃぁ、話し合おうぜ。俺としては、とにかくそいつに身体を明け渡しさえしなければそれで良いんだ」
ユズ「…って言ってるッスけど……えぇ…でもそれだと………」
あぁ、そういう事か…
俺「成る程…今すぐにでもその身体を明け渡せてって言われてるんだな?」
ユズ「な…なんでそれを!?」
一目瞭然なんだが…それで驚いてくれるなら都合が良い
俺「そいつの手口を知っているからさ。そうだな…訂正しよう、身体を明け渡しても攻撃しない。したら、そいつの目論見通り…ユズが死んでしまうからね」
ユズ「………え?」
俺「ユズが身体を明け渡し、俺がユズを返り討ちにする…多分、そこまでもそいつにとって折り込み済みなんだ。そう…そうすれば口封じの手間が省けるからな」
ユズ「え……ほ…本当にあの人の言ってる事は出任せなッスよね?ねぇ!?」
足を震わせながらテレパシーの向こうの相手に話しかけるユズ…見ていて可哀想になるくらい痛々しい。だが…手は抜かない。
俺「じゃぁこうしよう…ユズは自由に攻撃をしても良い…勿論防御をしても良い……そして、危険を感じたらそいつに明け渡しても良い」
ユズ「ふへっ!?な、何でそんな事………そんな条件…貴方にとって何の得も無いじゃないッスか」
俺「あるさ、キミとちゃんとした形で話が出来る」
ユズ「っ……………じゃぁ、それなら良いんッスね?あの条件なら話をさせくれるんッスね?」
どうやらあちらはあちらで話がまとまったようだ…と言っても、向こうのヤツは俺を殺す機会を探っているんだろうが……
ユズ「判りましたッス………自分が知ってる範囲の事で良ければ話します。でも……代わりに自分が知りたい事も答えて欲しいッス」
俺「あぁ、その条件で良い。それじゃまず君…ユズの方から質問をしてくれ」
ユズ「じゃぁ一つ目…貴方達は一体何者ッスか?ダークチェイサーじゃ無いんッスか?」
俺「最初にも言ったが…俺は一般人だ。んでも、ダークチェイサーじゃ無いって訳でもない。」
ユズ「どういう事ッスか?」
俺「色々あって、ダークチェイサーと融合してんだよ。だからどっちでもある…ま、その辺りは見てて判るだろ?んじゃ、次は俺から質問して良いか?」
ユズ「…はいッス」
俺「ユズが魔法少女だって事は判ったんだが…どういう経緯で魔法少女になったんだ?誰と契約したんだ?」
ユズ「それは……え?言っちゃダメなんッスか!?でもそれだと…」
俺「いや、答えられないんならそれで良い」
答えられないって言うのは、裏を返せば正体を明かしているような物なんだがな…それは明らかな失策だ
と言っても、出鱈目を言ったら言ったで騙されはしないが。
俺「じゃぁ代わりの質問だ。ユズはダークチェイサーの事をどんな存在だと思ってるんだ?」
ユズ「それは…ダークチェイサーは無差別に人間を襲う、凶悪な殺戮兵器だって聞いたッス。実際人を襲っている所も見たっす」
俺「それは半分正解で半分間違いだな」
ユズ「…えっ?」
俺「ダークチェイサーは、確かに殺戮兵器としてディーティーという研究者に作られた…だが、彼等はそれが嫌で逃げ出したんだ」
ちょっと脚色はしてあるが、現状では間違っている訳でも無いから良いだろう
ユズ「ど……どういう事っすか?!…で、でも…嘘だって言うなら、何で他の人が知らない筈の―――」
ビンゴォ!!!よし、全てのピ-スが填ったぜ!
俺「そして、それからがまた酷かったんだ……逃げ出したダークチェイサーを始末するべく、ディーティーがこっちの世界にまで追いかけて来て…」
ユズ「えっ…でもそれって、この世界の平和のためじゃ……」
俺「まさか?このダークチェイサー達は、あっちの世界じゃ違法な存在で…その証拠隠滅のためさ。それに、黒い靴以外が人を襲ってる所を見たのか?」
ユズ「え?え?え??」
レミが人間を襲わせている場面はあったが…もしそこを見られて居たら居たで何とか誤魔化せる。
少々賭けになるかも知れ無いが、俺はそこから追撃の道を切り開く。
俺「ちなみに…どんな感じに違法だったのかって言うと。世界のバランスを取ってる存在の一部を勝手に使って作る物だったからなんだ」
ユズ「そ……そんな大事な物を使ったら…」
俺「当然、その世界その物が危なくなった。他ならぬディーティーのせいでね…ま、それは何とかなったんだけど…ただ」
ユズ「どうしたんッスか?」
俺「そのせいで、俺の大事な人の記憶が無くなった。今じゃ俺の事を一切覚えて居ないんだ」
ユズ「そ…そんな……」
俺「とまぁ…そんな事があったせいで、ダークチェイサーの事で問題が起きてるのは見過ごせないんだよ。今だって黒い靴の事件が起きてるだろ?」
ユズ「そ…そうっすよ。じゃぁ、あの黒い靴がダークチェイサーじゃないって言うなら……え?聞いちゃダメ?何でッスか!?」
俺「あの黒い靴もダークチェイサーの一種だ…でも、それは俺達と同じ勢力のダークチェイサーじゃない」
ユズ「え…?な、何言ってるッスか!?明け渡す必要なんて……え?ダ、ダメッスよ!」
あぁ…向うは向こうで相当必死になって隠そうとしているな。だがまぁ、手遅れだろう。
俺「あの黒い靴の正体は………自らをダークチェイサーに作り変えたディーティーの一部だ!」
ユズ「…………え?………そん…な……え?」
俺「どうやって生き返ったのかは知らないが…あの靴を使って皆から魔力を奪っていた犯人、闇の靴屋の正体は……お前だ!ディーティー!!」
ユズを…正確にはユズの向こうに存在するディーティーを指差し、断言する俺。
と、そこまでは良かったのだが………またも不測の事態が起きた。
ディーティー「あぁもう……折角全部上手く行ってたのに…キミのせいでまた台無しじゃないか」
ユズ「え…く、口が勝手に……あ、何やってるッスか、ディーティー!?」
俺「意識があっても…明け渡さなくても身体を乗っ取る事が出来たのかよ」
ディーティー「正確には、出来るようになった…って所かな。まぁ、それもこれもキミがヒントをくれたお陰ではあるんだけどね」
俺「…どういう事だ?………なっ、まさか!?」
ディーティー「その通り…ユズの身体にボクの一部を忍び込ませておいたのさ。流石にこの方法だと身体を無理矢理動かす事になるから……」
俺「っ……ユズの身体の安否はお構い無しって事か」
ユズ「え…?ちょっ……痛…ディー…ティー……止め……!!!!」
身体を無理に動かされるだけでなく、神経に直接干渉してくる痛みを感じているであろうユズ。
その声は言葉になる事無く、悲痛な音として喉から漏れている。
その苦痛は、文字通り痛い程良く判る…あれは言葉に出来ない程の激痛だった。
ディーティー「あーあぁ…可哀想に…これも全部キミが悪いんだよ?ユズと僕を追い詰めるもんだから」
俺「っ……。ふざけんじゃねぇぇぇ!!!!」
怒りの叫びと共に獣の身体を形成する俺。
ディーティー「おっとストップ。何?そんな身体になってどうしたいの?ユズを殺すのかい?」
俺「っ……」
そう…俺はユズに手を出す事は出来ない。同じ被害者であるユズを犠牲にする事など出来ない
ディティー「でも…ここで犠牲を払わなければ、また新たな被害者が生まれちゃうんだけどねー?うふふふー」
あぁくそう…ここでディーティーだけを殺す事が出来ればどれだけ幸せか…
多分、ハルなら…いや、今居ないハルを宛にしても仕方が無い。それに、ハルが居てもあのディーティーが大人しく治療なんてさせるはずが無い。
だが、だからと言ってどうすれば良い?ここでディーティーを逃がす訳にも…ましてや、ユズの身体を持って行かれる訳にも…
ディーティー「あ、そうそう…ここでユズを逃がす事を懸念してるんだたらその心配は要らないよ?」
俺「……何?」
ディーティー「ここまで一気に侵食されちゃったら、もうユズは助からないからね。僕が反逆の可能性のある駒を残しておくと思うかい?」
ユズ「なっ……そ…んな………」
くそっ…前回痛い目を見せたのが災いしたか
ディティー「って事で……さぁ、残り時間でキミをどれだけ痛め付けられるか試してみよっかなー」
俺「俺がそんなに大人しく…って言いたい所なんだが…大人しくしてなければ、ユズを苦しめるつもりなんだろうなぁ…」
ディーティー「当☆然」
と言いながら、鼻歌混じりに光の刃を何度も何度も俺に突き刺して来るディーティー。
あぁくそう、こいつ今すぐ殺してぇ……
ディーティー「…と思ったんだけど、思ったよりも長くなさそうなんだよねぇ…この身体。期待はずれも良い所だよ」
俺「何様のつもりだよ…手前ぇ…!!!!」
ディーティー「俺様☆…と言いたい所だけど…僕様☆かな?」
と言って俺の頭に狙いを付け、光の円を発生させるディーティー…くそっ…思いっきり根に持ってやがる。
そして、したくもない死を直感したその瞬間……またも予測すらしていなかった不測の事態が起きた。
いや、予測してないから不測の事態なんだが…そこはまぁ流してくれ。
●さいたん
床を突き破り、その姿を地上に晒すドリル……そして、それに続くように現れる…
カライモン
俺「……はっ?」
ディーティー「な……!?」
俺もディーティーも、予期せぬその存在の登場に気を取られる。
そしてその隙に俺とディーティー…ユズの間に割って入るカライモン。何でそんなに男らしいんだよチクショウ。
俺「カライモン…お前、死んだ筈じゃ…」
ディーティー「そ、そうだよ!ユズの一撃で死んだ筈だろ!?」
カライモン「一つだけ教えておく……」
何だ?一体何を教えてくれるって言うんだ?
カライモン「死亡が確定せず、有耶無耶のまま消息不明になったキャラクターは大体生きている」
いやいやいやいやいや、お前明らかに死んでたじゃねーかよ!心の中では叫びつつも声には出さない
ディーティー「ふざけるな!?あの時確かに上半身を吹き飛ばされて死んでいたじゃないか!!」
そら見た事か…予想通りディーティーが突っ込んだ。
そして、その突っ込みを遮るかのように…左手の何だかゴツイパーツをユズに向け…
放った
どこから説明すれば良いか………
まず、左手のパーツ…ユズの胸部に向けて構えられられた…其れから発生したのは、弾薬の破裂音のような物。
そしてそれに続くように一瞬で姿を現した……巨大な杭。
名前だけは知っていた。パイルバンカー…目標に穴を開けるための機械。
パイルバンカーにより胸部の中心を貫かれ、文字通り風穴を空けられたユズ。
………と同時に展開される、黒い何かの魔方陣。
そして杭が引き抜かれると、風穴からは当然の如く血が溢れ出し………
ディーティー「信じ…られないね………でもまぁ…いいや。もう…この体は要らない…し………」
そうしてユズの身体から気配を消すディーティー。
辛うじて命拾いをした俺……
だが、そのために犠牲にした物は決して小さくは無かった。
ユズ「……ぇ………?…………」
当然ながら事態を飲み込む事が出来ないユズ。
自分から溢れ出る血…それに向けるべき感情を見せる事も出来ないまま…その場に崩れ落ち……
カライモンが展開した魔方陣が、真っ黒な立方体を作ってそれを取り囲む。
カライモン「大丈夫…この――――」
俺「大丈夫な訳があるか!!くそっ!いくら何でも…!幾ら自分の仇でも………」
カライモン「………」
俺「…………ここまで…ここまでする事は無かったんじゃないのか?」
カライモン「あの状態では、双方共助かりはしなかった………ただ死を待つのみだった」
俺「それで…俺を助けるため…最善の策だった………って言いたいのか?」
カライモン「その通り」
俺「………っ!!!」
悔しかった…悔しくて拳で床を打ち付けた。
ユズを助けられなかった事もそうだが…助けられた事もそうだが……何よりも、カライモンの言葉に反論する事が出来ない自分が悔しかった。
だが…ここでただ悔しがっている訳には行かない。
ディーティーを…今度こそディーティーを倒さなければいけない!
●せんめつ
俺「あぁ………黙ってて悪かった。そういう事だから、今度こそディーティーと決着をつけようと思う」
レミに連絡を行う俺…
俺「お前は…来るなって言ってもどうせ来るんだろう?あぁ、そうだよな…じゃぁ、先に言って待ってる」
事の顛末を話し…先に向かう事を伝え終える。
ディーティーの居場所は判っている。奴の考えそうな事などお見通しだ。
廃工場前………やっぱりな、思った通りディーティーの…ダークチェイサーの魔力が嫌と言う程感じられる。
そして……周囲には地雷原のようにばら撒かれた黒い水溜り。
成る程…多分こいつが黒い靴の正体だろう。
あと…付け加えると…こいつに取り付かれた女の子も待ち受けていた。
カライモン「ここは受け負う…」
俺「任せたい所なんだが……この子達はあくまで被害者だ。ユズの時みたいな手荒な真似は―――」
と言うか否や、地面に白い魔方陣を展開するカライモン。
それと当時に、地に接していた黒い靴は消滅し………操られていた女の子達は、糸が切れたようにその場に倒れ込む。
カライモン「…何か?」
俺「いや、何でも無い……任せた!」
そうしてその場はカライモンに任せ、廃工場の中を突き進む俺。
扉を蹴破り、奥へ…奥へと進み………前回の決戦の場、その扉の前へと辿り着いた。
小さく息を呑み、扉を開ける俺。
そこで俺を待ち構えていたのは………
俺「な……何で…」
初めて出会った時と同じく、マスコットの姿をしたディーティー……そして
魔法少女…狩猟者の姿をした………ハル……だった。
●せんりつ
いや……正確には微妙に違う。衣装こそあの時のままだが、靴だけは黒く染まっていた。
つまり………
俺「ディーティー…手前ぇ………ハルにもその黒い靴を…」
ディーティー「そう…何故か狩猟者としての力を失っていてくれていたお陰で、狩猟者にする前に履かせる事が出来たのさ」
俺「そんで……その靴で傀儡にした状態で、改めて無理矢理に魔法少女として契約した…って事か」
ハルの恰好を見てそれを予測…そして
ディーティー「その通りさ。ま、契約してからはハルの記憶からだけでも大体の状況を把握できたけどね」
その予想が当たっていた事に苛立ちを覚える。いや…苛立ちどころか激怒だな。
俺「ってかよぉ……そもそも、狩猟者になる以前でハルは闇に対して耐性がある筈だろ………何で操られてんだよ」
ディーティー「そうそう…気付いたようだね。大変だったんだよ…耐性があるハルを侵食するのは。まず耐性を薄めるために―――」
あぁいや…やっぱ聞かなくても良いわ。多分聞いたらブチ切れて理性が吹っ飛んじまう。
そうだな、とりあえず…ディーティーをぶっ殺すか。
左手にダークチェイサーのかぎ爪を形成する俺…そして、前置きも無しにディーティーへと斬りかかる。
が………それをハルに…ハルの靴に止められる。
俺「くっ……そぉ!」
ディーティー「おぉっと、危ない危ない…危うくまた肉片から再生しなくちゃいけなくなる所だったよ」
肉片?……あぁ、そうか…
ディーティーの言葉でフラッシュバックする俺の記憶。
そう…ハルが止めを刺す直前、俺はコイツの身体を切り刻んだ。
そして…俺が腹部を再生した時みたいに………ディーティーが再生したのだとしたら…
俺「そう言う事か…プラナリアみてーな生き返り方してんじゃねぇよ」
ディーティー「キミがそれを言うのかい?」
うるせぇよ
俺「まぁ、だったら……今度は肉片一つ残らねぇくれーに殺し尽くしゃぁ良いって事なんだよなぁ…」
ディーティー「キミに…それが出来るならね?」
ディーティーがそう言うか否や、俺の前に立ち塞がるハル。
そう…ディーティーを倒す前の問題としてハルが居る。記憶が無い今のハルでは、前回と同じ手は仕えない。
………どうする?
●けんせん
まず始めに思い付くのは、黒い靴の破壊…
操られている他の女の子同様に、靴を破壊すれば操作が解ける…という考えも出来る…が
それだけでハルが正気に戻る保障は無い。
いや、そもそも…ハルに至っては魔法少女としての契約が交わされているはずだ。
靴を壊したとしても、ディーティーを何とかしなければ意味が無い。
そして…ディーティーを倒すためには……くそっ、無限ループじゃないか。
ディーティー「ふふふのふー。どうだい?解決策は見付かったかい?見付かる訳無いよね?」
俺「っ…黙れ!」
ディーティー「答えを教えてあげようか?ハルを倒せば良いんだよ。そうすれば僕は無防備だよ?あれ?出来ないの?そうだよねー、できないよねぇ?」
あぁくそっ!図星なだけに100倍ウザい!!
だが…油断を持ってくれるのは良い事だ。勿論こっちにとってはだがな。
これなら………
ハルが大きく足を振り、ハイキックを放った瞬間…俺はそれを受け止め、軸足を払う。そして、ハルがバランスを崩した所で…
八匹の大蛇を背中から形成。
更に殆どためを行わず、一直線に…ディーティーへと向けてそれを放つ
が、ディーティー本人はそれを避ける事も無く………撃ち落とされる八つの首。
ディーティー「危ない危ない…ちょっと見ない内に中々多くの質量を扱えるようになってるじゃないか。正直驚いたよ」
ハルの形成した光の刃……それが大蛇の首を貫き…落とし、ディーティーを守り抜く。
ディティー「判ってないなぁ…ハルを倒さない限り、ボクに攻撃は…」
が、それも想定の内。
壁の向こう側から突如として現れた甲殻の足。今度はそれがディーティーに狙いを澄まし……刺し貫く。
ディーティー「え……?なっ……」
俺「ナイスタイミングだ。レミ」
レミ「でしょ?」
そう…決め手となったのはレミの存在だった
レミ「アタシが居ない事…不自然に思わなかったのかなー?」
ディーティー「くっ……」
多少は遅れるとしても、ダークチェイサーの機動力だ…到着にかかる時差は精々1、2分と言った所。
そして、この部屋で決着を行う事は予想していた。
そう……レミには予め奇襲要員として立ち回って貰って居た。
何かあった時のための予防策だったが、それどころか問題解決の決定打になってくれたようだ。
●あがきと
ディーティー「ふはっ……ふははははははは!!!」
レミの登場、及び奇襲により決着がついた…筈なんだが
突然、気が狂ったように笑い始めるディーティー。
俺「何だこいつ…いきなり」
レミ「……あの時のアンタみたいね」
俺「えっ?」
嘘…俺こんなにヤバい笑い方してたか?
ディーティー「成る程…想定していた内容とは言え中々やってくれるじゃないか。じゃぁボクも、そろそろ本気を出そうかなぁ!!!」
負け惜しみや悪足掻き…という感じでは無い。確かな自身を持った語調で言い切るディーティー
ディーティー「キミ達はボクの事をドゥルケンシュナイダーって呼んでたみたいだけど…うん、それはあながち間違いじゃないんだ」
レミ「ダークシュナイダーよ!」
俺「いや、それは誤用だから訂正するな」
ディティー「ただね…一つだけ間違ってる事があるんだ」
そら見た事か、ディーティーにまで訂正されてるぞ
ディティー「シュナイダーって言うのはね…何も靴屋って意味だけじゃなくて…」
あぁ、そっちか。
しかし、突っ込みをしていられる余裕は無さそうだ…嫌な予感が背筋を駆け巡っている。
ディーティー「そう…仕立屋全般の事を言うんだよ。こんな風にね!!」
そう言うか否か、ハルの服と同化を始めるディーティー…いや、違う
俺「ハルと…同化………した?」
ディーティー「その通り…ハルがボクであり、ボクがハルだ。そう………キミ達は絶対にボクを倒せない」
レミ「そ……んな……」
声が震えるレミ…その感覚は俺にも痛い程判る。
ハルを倒さない限りディーティーを倒す事は出来ない…ディーティーを倒すためには、ハルを……殺さなければいけない
さっきまでの、立ち位置的な意味では無く…物理的な意味で同一の意味を持ってしまったそれ
レミ「こんなの……まるっきりハレルヤの時と………」
そう…同じだ。
そして、あんな事を二度と繰り返す訳には行かない。
ディティー「ハレルヤ?……まぁ、よく判らないけど…これで形成逆転だよね?」
ハルの身体で口元を吊り上げて笑うディーティー
………止めろ。
●きずつき
ディーティー「ほらほら、どうしたのさ?反撃してこないのかい?出来ないよねぇ?」
ダークチェイサーにより形成された服と、その到る所から展開される光の刃…
ダークチェイサーの身体能力に狩猟者の攻撃力…そしてハルの魔力を持った相手…
それが今のディーティーだ。
そして、俺達はハルを攻撃する事が出来ない…となれば、出来る足掻きは…
ディーティー「おっと…成る程…ダークチェイサーで形成された部分だけを狙って無力化させようって魂胆かい?」
読まれている…だが、読まれているからと言って無意味では無い。
俺とレミは光の刃を避けながら、ダークチェイサーの部分を削ぎ落としにかかる
ディティー「でも…そんなザマじゃ、ボクを…ハルを無力化させる事なんて出来ないね。例えできたとしてもどうするんだい?」
黙れ
ディティー「ボクを殺すかい?ボクを閉じ込めるかい?そう……ハルごと…するのかい?」
だから黙れって言ってるんだよ!
そう……いくらハルを無力化できたとしても、肝心のディーティーの存在をどうにかしなければ意味が無い。
そして…その手段が見付かるまでは凌ぎ切るしか無い………分が悪い戦いなんて物じゃないな、これは。
だが……
俺「だが! そ れ が ど う し た !!」
ディーティー「ハハッ…またそれかい?無駄だよ無駄無駄。キミの声なんてハルの心に響いたりしないよ」
俺「やってみなけりゃ判んねぇだろぉがよぉ!!」
ディティー「判るさ…記憶を失ってからのハルの記憶は覗かせて貰ったからね。全く、酷い物じゃないか」
レミ「アンタが…アンタがハルを語るんじゃないわよ…」
ディーティー「語れるさ…少なくともキミ達よりはね?そう…ハルの気持ちを何も判って無い君達よりね?」
俺「黙れよ…俺達は絶対手前ぇからハルを取り戻してみせる…」
ディーティー「そんなボロボロの状態で?どう考えてもこのまま押し負けるような満身創痍の状態で?」
レミ「それが…どうしたぁぁぁ!!!」
今度はレミが叫ぶ
レミ「ハルは私の友達なのよ!親友なのよ!そりゃぁ心の内が判らない事だって沢山あるわよ!でも…」
ディティー「でも…何だい?」
レミ「だからこそ、判りたいと思ってるのよ!!ハルの事!もっと判りたいと思ってるの!!」
俺「俺だって……俺だってそうだ!!」
ディティー「はぁ?ハルを遠ざけておいて何を今更…」
俺「俺は馬鹿だった!臆病になってた!!ハルのせいにして自分の臆病さを隠してただけだったんだ!!でもな…」
俺「俺だって…ハルと判り合いたかった!一緒に居たかったんだよ!!」
○きおくの
記憶…
私では無い誰かの記憶…
そこには私が居て、その誰かが私を見ている記憶。
私の記憶…私が体験した事の無い私の記憶…
そして更にその記憶を内側から覗き込んでいる私。
私だけど私では無い存在…
好奇心…と言うよりも探究心が突き動かし、その私に触れる私。流れ込んでくる、その私の記憶…
私が私で無くなり、塗り潰されて行くような記憶。
ハル「貴方は誰?」
ハル「私は貴方」
ハル「貴方は…存在しない筈の記憶?うぅん…多分、本当は存在しない筈なのは私の方?」
ハル「………」
ハル「本当は貴方の方が本当の私で…私は不完全な代用品?」
ハル「それは違うわ」
ハル「じゃぁ何?皆が知っている事を私だけ知らない…今の私は必要とされてない。必要とされてるのは以前の貴方…」
ハル「それも違う………私はもう居ないけれど、貴方は必要とされてここに存在している」
ハル「でも…でも……私は、その期待には応えられない。私は皆に望まれる私になれない」
ハル「………大丈夫」
ハル「………………え?」
『だが! そ れ が ど う し た !!』
突然…私の中にその声が響いてきた
ハル「………」
ハル「だって…私は…貴方になれない…皆に…ううん、自分が望む自分にすらなれない」
『やってみなけりゃ判んねぇだろぉがよぉ!!』
まただ…
ハル「貴方は私にならなくても良い…なりたいのなら、なっても良いけど…無理をしてなる物じゃないから…貴方は…自分が望む姿を思い描いて」
ハル「でも……あの人も……レミちゃんも…私のせいで辛い思いをしてる…」
『それが…どうしたぁぁぁ!!!』
また…今度はレミちゃんの声だ
ハル「きっと…二人はこう言ってくれると思う…そして、許して…受け入れてくれると思う」
ハル「私…私………」
『ハルは私の友達なのよ!親友なのよ!そりゃぁ心の内が判らない事だって沢山あるわよ!でも…』
ハル「だから私も…私達も…ね?」
『だからこそ、判りたいと思ってるのよ!!ハルの事!もっと判りたいと思ってるの!!』
『俺だって……俺だってそうだ!!』
『俺は馬鹿だった!臆病になってた!!ハルのせいにして自分の臆病さを隠してただけだったんだ!!でもな…』
『俺だって…ハルと判り合いたかった!一緒に居たかったんだよ!!』
ハル「うん……私も…」
ハル「「うぅん…私達も…―――」」
●さんにん
ディーティー「あぁもう………本当君達の言葉には論理性の欠片も無いね…」
レミ「そんな物、別に要らないわよ!」
ディーティー「なっ……」
俺「そうさ…言葉に必要なのは、論理性でも正当性でも無ぇんだよ…」
ディーティー「何を言っているんだキミ達は…」
俺「相手に気持ちを伝える力…それだけありゃぁ十分なんだよ!御託はいらねぇ!!」
ディーティー「成る程…よぉく判ったよ…キミ達は予想以上にバカなんだね。そりゃぁかひわ…も…せひりっ………―――!?」
ハル「私も……―――」
ディーティー「っ―――!?」
ハル「私も一緒に居たい…判り合いたい……」
ディーティー「ばっ…!馬鹿な!!何で!?ボクを押し退けるだけの精神力なんて形成できる筈………」
ハルの身体から押し出され……引き剥がされるディーティー………
ハル「形成出来たんだよ……判り合えたから…判ったから」
ディーティー「誰と…誰とだよ!?」
ハル「私自身…そして……まだ判り合えては居ないけど、ディーティーの事も判ったから」
ディーティー「――――!!! 知った…知った風な口を効くなぁぁぁ!!!」
引き剥がされて尚、失せる事の無い敵意を向けるディーティー…
あぁ、成る程…今回あのマスコット姿だったのは……
マスコットの姿で復活して、ダークチェイサーと一体化したんじゃなくて…
ダークチェイサーであのマスコットの姿を形成していただけか。
本性…本来の姿を現すディーティー。
以前より禍々しく、強大な力を連想させるだけの姿…それを俺達に晒す……が、しかし
俺「まぁやっぱり…負ける気はしねぇよな…」
レミ「そうよね…何て言うか、地球外でのデータを取り忘れたせいであっさりやられちゃう科学者の立場って言うか…」
俺「って言ってたら…丁度アーカイブの修復が終わったみたいだ…」
光の核「うむ…すまない、大分待たせてしまったようだ」
闇の核「そのようですね…しかし、寸での所で間に合ったたようで…」
ディーティー「なっ………えっ!?そ…そんな…闇の核に光の核!?な……なんでそんな物がここに……っ!?」
あぁ、可哀想なくらい怯えている。
ハル「あ、えっと…初めまして?」
そして、ハルはハルでご丁寧に挨拶まで始めて居る。あぁ…何かもう、エンディングに向けて一直線だって言うのに緊張感ゼロだな。
ハル「それで…出てきて貰った所悪いんですけど…ここは私に任せて貰えませんか?」
闇の核「…何かお考えがあるようですね?」
光の核「…よかろう。その手並み見せて貰うとしよう」
ハル「ありがとうございます」
●かいけつ
ディーティー「ふ……ふふふふ……馬鹿だなぁ…本当に馬鹿だなぁ!!!ハル!キミ一人でボクに勝てる訳が………」
と、語り始めるディーティーを余所に………魔法少女の姿で更に光を纏うハル……
衣装を構成する光が新たに円を描いてハルを包み込む。
そして……
ディーティー「…………」
ディーティーを含む、その場の全員が絶句した。
そう……俺達は、ハルが二段変身したその姿に見覚えがあった。
レミ「えっ……ちょっと…嘘でしょ?その姿………」
俺「ライト…ブリンガー!?」
そう…俺達を散々苦しめたハレルヤの…ライトブリンガーを集めたような姿だった
いや、これこそがライトブリンガーの完全体と言う事なんだろうが…内包しているその力は、個々の時とは次元が違う。
ハル「ライトブリンガー…って言うんですか?これ」
そしてハル本人は無自覚のようだった。
俺「おい…どうなってんだよあれ…」
光の核「恐らくは…肉体の再構成の際に我等の一部を使用した事が原因」
闇の核「ダークチェイサーの組成方法を応用して、自らの力でライトブリンガーを作り上げたのでしょう」
あぁ、そうだよな…存在の記憶だけ持ってきても、肝心の肉体が…って、そんな大事な事を今更言うんじゃねぇよ!!
ともあれ…そこから先は語る必要もあまり無いくらい………まぁ、言うまでも無く一方的な戦いだった。
ハルを取り囲む光輪はディーティーのありとあらゆる攻撃を無効化し…
対するハルは、作り出した刃を舞う様に繰り出して…ディーティーが構成したダークチェイサーを次々に削ぎ落として行った。
こうなればもう………
ハル「すみません…光の核さん。やっぱり少しだけ力を借りても良いですか?」
と、何故かこのタイミングで光の核に助力を求めるハル。
光の核「良かろう。存分に使うがいい」
うわぁ…物凄く嬉しそうだコイツ。出番無かったのが相当堪えてたんだろうなぁ…
っと、脇道に逸れたので方向修正。
こうなればもう………ディーティーに残された手段はただ一つ。脳のダークチェイサー化によるリミッター解除……な訳だが
ディーティー「そ…………………」
それすらもマトモに実行させて貰う事は出来なかったようだ。
ハルは、停滞空間…闇の核の加速空間と対を成す、光の核の力を使ったようだ。
●ていあん
俺「で………このディーティーの処分…どーする?」
レミ「まぁ…順当に行けばアンタかハルの光の力で完全消滅って所なんでしょうけど……」
俺「ま、その辺りが…」
と言いかけた所で、思わぬ横槍
カライモン「と、済まない…一応の解決を見せたのならば、こちらの方を診てはくれないだろうか?」
と言って、ひょっこり姿を見せるカライモン…そして、その手の中にあるのは…黒い立方体
俺「おい…まさかそれって…」
カライモン「そのまさか………ユズく……ユズだ」
そして黒い立方体は、カライモンの手を離れると同時に元のサイズに戻り…
俺「どうにかって言っても…コイツはもう……」
カライモン「死んではいないぞ?」
俺「えっ」
カライモン「心臓を貫き、損傷させただけ………脳にダメージはまだ無いため、損傷部位さえ回復させれば生命活動に問題は無い」
あぁ……そうか…考えてみれば俺もディーティー戦で同じような事やってたよなぁ……
俺「それで死んだと思わせて、ディーティーに諦めさせた訳か……にしても、こんな方法よく…」
カライモン「ハルの復活にヒントを得た……」
成る程…納得の答えだ。
俺「でもって………いや………って事はあれか!?ユズに上半身吹き飛ばされた後って……」
カライモン「自力で蘇生を行い、帰還した。記憶の保持さえ可能ならば、肉体の修復後にそれを上書きする事で解決出来る」
俺「……………何だよそりゃ!あぁくそっ!!心配して損した!!」
言葉の通りの内心である。
俺「ってかよぉ…ユズが生きてるんなら生きてるって…」
カライモン「それを説明する暇すら与えて貰えなかった…そう記憶している」
俺「………そうでした。全部俺が悪かったです。ってー事はあれだよな?今の今まで黙ってたのも…」
カライモン「蘇生準備が整うまで待機をしていた。加えて言うのなら……他に手段が無かった場合、ハルの開放にもこの手段を使うつもりだった」
俺「ですよねー………何かもう、怖いくらい手回しが良いなぁオイ」
カライモン「褒め言葉と受け取っておく」
俺「あ、でもよ…ユズの心臓とか損傷部位をどうやって直すんだ?俺もハルもそんな技術は……」
カライモン「技術は無くともデータは確保してある。そして……停滞空間と加速空間を使えば、いくら不器用でも……」
俺「…え?マジ?俺がやるのか?」
カライモン「でなければ、ユズはこのまま」
一同「…………………」
俺「…あーくっそ!!やるよ!やってやりゃ良いんだろ!!」
そうして…どうにかしてユズの体を治した俺。
途中で休憩は挟みはした物の…体感時間にして360時間くらい。黒い医師も真っ青の長期間オペだった。
ちなみに…俺がユズを治療している間に、黒い靴に侵食された女の子はハルが治療したらしい。
俺「で…改めて…ディーティーの処遇はどうするんだ?」
ハル「それなんですけど……」
DT「それなんだけど……」
おいオリジナル。お前どこから沸いて出た
DT「出来れば殺処分は回避して欲しいんだよね…あくまでボクの希望なんだけど」
俺「いや、でも……こいつのせいで何人の人間が死……ん?」
こいつのせいで……前回と今回、どんな被害があった?
前回…俺やレミ…そしてハルの命の危険…そしてダークチェイサーの目減り…
今回……通り魔事件の加害者にされた女子や被害者。俺とレミとハルに命の危険…加えてユズとカライモンが瀕死な訳だが……
被害者は、無事では無い物の命に別状は無し、加害者の女の子も治療済み…となると………
俺「あれ?あー……一応だけど、死者は出て無い…?」
ハル「はい、そうなんです。一歩間違えれば危ない所でしたけど…」
レミ「………」
ああ…悪人とは言え人を殺しちゃってるレミがもの凄くバツ悪そうな顔してる
DT「しかも…それに至ってはボクへのコンプレックスが原因だからね…ボクも一緒に罪を償うから、許してあげてくれないかなぁ?」
一番の被害者…一度死んでしまったカライモンの方を見る
カライモン「オリジナルのDTには借りがある。それに、罪を償うと言っている以上…その言葉の通りに行動して貰えるのならば許す」
口元が物凄くマッドな笑いをしている……
そして次に…散々な目に遭ったハル
ハル「こういうのも変かも知れませんけど…またディーティーとリンクしたお陰で、そこから過去の自分の記憶を取り戻す事が出来たんです」
俺「あぁ………成る程、そういう事だったのか」
ダークチェイサー…もといライトブリンガーの組成方法もそこから引き出したって事か。
ハル「と言っても、完全にそれが溶け込んだ訳ではなくて…まだ自分とは違うと感じる部分もあるんですけど…」
まぁ…そのくらいは仕方ないだろう
ハル「だから……そこだけは感謝していて…ちょっと恩情を与えてあげて欲しいんです…」
最後に……瀕死の重傷を負ったユズ。
ユズ「…へ?自分ッスか?……えっと…状況がよく判らないんッスけど……とにかく、償える程度の悪い事だったら許して上げても良いんじゃないッスか?」
なんともまぁ…自分の事でもあると言うのに……って…そう言えば胸部の再生で手一杯で、服の方まで直すのを忘れてた。
俺は無言でユズの胸にジャケットをかける。そして、ユズもその時点でやっと気付いたようで……
ユズ「って、えぇぇぇ!?何ッスかこれ!?もしかして自分、ずっと胸晒してたんッスか!?」
その通りだが……誰も気にはしていなかった、安心してくれ。
●おさまり
そして………二度目のディーティー騒動も収まり、再び訪れた平穏な日々。
それに関わった面々は、今どうしているかと言うと………
まず、黒い靴に操られた女の子と被害者達。
女の子「あの…公式発表で聞いたとは思うんですけど…」
被害者「錯乱ガスだっけ? まぁ…それじゃぁ仕方無いよね」
どんなコネを使ったのは知らないが…
どこかで研究中のガスのが漏れ出して、そのせいで女の子達が一時的に精神に異常を来たして錯乱状態になった…
という公式発表を……政府に行わせる事で解決を見せたらしい。
ちなみに、この事件で少なくない数のカップルが誕生したらしいのだが…
俺「どんだけ吊り橋効果に弱い奴等なんだよ」
ユズとDT。
DT「と言う訳で、改めてボクがキミのパートナーになった訳だけど…」
ユズ「ディーティーのお姉さんッスよね?見た目だけじゃなくて名前も同じなんッスね」
DT「あぁ、じゃぁ02の方は今まで通りディーティーって呼んで貰って、ボクの事はディーティー01またはディーティーオリジナルとでも呼んで貰おうかな」
ユズ「おおー!ロボットみたいでカッコ良いッス!!」
何だかんだで良いコンビをしているっぽい。
ちなみに、イメージカラーをピンクからオレンジに変えてコスチュームも一新したとの事。
続いてカライモンとエディー。
エディー「あのぅ…今回当事者で無かった私が言うのも何ですが…その位で…」
カライモン「…………」
便利道具担当は、また何か怪しい物を開発しているらしい。
次にマイ。
俺「何だか最近やけに上機嫌じゃないか」
マイ「判るかね?いやぁ…久しぶりに楽しめる研究課題を見つけたのだよ」
こっちはこっちで充実しているようだ。
そして最後に俺達………俺と…レミと…ディーティー…そしてハル
ディーティー「いやさ………さすがにこういう恰好は、ボクとしても恥ずかしいんだけど…」
ハル「そんな事無いよ。うん、凄く似合ってて可愛い」
レミ「そうそう、可愛いわよー」
ディーティー「―――っ!」
ダークチェイサー部分の浄化、DTとカライモンの共同開発技術により、本来の姿…それもマスコットの方ではなく女の子の姿固定で元に戻ったディーティー。
贖罪という名目で、今では二人のおもちゃにされている。
まぁ…自業自得だな。
あぁ、そうそう…そう言えば毎度恒例となりつつある俺の受難だが………
ユズ「あ、センパーイ!お昼一緒にどうッスか?」
どこでどう勘違いをされたのか……ユズにまで懐かれてしまったらしい。
ちなみにセンパイと呼ばれる理由は、ユズの通う中学が俺の出身校だからだ。
ハル「ねぇ…ユズちゃんは彼のどんな所が好きになったの」
ユズ「えぇっ!?ちょっ…直球ッスね…!!じ、自分が…センパイの事を好きになった所は……男らしさッス!!」
ハル&レミ「「えっ!?」」
いや…地味に傷付くからその反応は止めてくれ。
こうして取り戻す事が出来た俺の日常………
レミが居て…
そしてハルが居て………
おまけにユズが居るこの日常………
ちょっと世間様の常識からは外れた所に在りはする物の…
まぁ、何だかんだで俺は満足している。
魔法少女ドゥルケンシュナイダー ―完―
362 : ◆TPk5R1h7Ng - 2014/12/29 09:49:53.77 WTxlT2KEo 41/41と言う訳で…今回のドゥンケルシュナイダーを持ちまして、第一部完とさせて頂きます。
長い間お付き合い頂いた皆様、ありがとうございました!
最後にヒロイン全員集合写真を一枚
http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=47834224